きょうのポイント 1.リーマンショックとは(1)

きょうのポイント
◆リーマンショックとは何か
リーマンブラザーズ破綻が引き金
世界的な金融・経済危機
◆なぜ起きたのか
主に米国の住宅バブルの崩壊
証券化されたサブプライムローン
◆どのような経過をたどったのか
世界金融危機へ波及
2012年度後期 国際金融
第12回
世界金融危機
Ⅰ
1
1.リーマンショックとは(1)
◆リーマンショックとは(1)
2008年9月15日 リーマン・ブラザーズ破綻
リーマン・ブラザーズ(米国の投資銀行=証券会社)の破綻が世界的な
金融危機の引き金を引いた
世界中で銀行や証券会社が破綻の危機 政府・中央銀行による救済
↓
世界の実体経済にも深刻な打撃を与えた 2009年の世界のGDPマイナスに
日本の輸出が半減 日本のGDPマイナス6.3% 再び就職氷河期に
アラン・グリースパン FRB議長 「100年に一度」の経済危機
↓
世界各国が一斉に積極的な財政支出・超金融緩和
その結果、大恐慌は免れる
↓
各国の財政赤字 国の信用力が低下
欧州諸国の財政危機 PIIGS問題 欧州経済の落ち込み
新興国(特に中国)経済の減速につながる
先進国での消極的な企業経営 バランスシート調整
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世界金融危機
Ⅰ
2
1.リーマンショックとは(2)
◆リーマンショックとは(2)
基本は米国の住宅バブルの崩壊
米国の住宅価格 2000年から2006年前半にかけて2倍以上に値上がり
信用の低い人への住宅融資=サブプライムローン
ティーザーレート(お誘い) 最初2.5% 将来10%で勧誘する
NINJAローン(収入なし、失業中、資産ゼロ)の人にも貸す
住宅価格が上がって、借り換えすればOK が前提
→住宅価格の上昇が止まると返済不能に
住宅の処分 値下がりの悪循環
それだけなら、日本のように銀行の不良債権問題
なぜ世界全体に拡大したのか
①ホームエクイティローンを通じて経済活動が縮小
住宅バブル→信用バブル
米国の家計は保有する住宅資産から7500億ドルの資金を引き出し、
その3分の2を個人消費、住宅リフォーム、クレジットカードでの
買い物に費やす=米国の消費ブーム→自動車などへの波及
アメリカではGM、クライスラーが倒産 トヨタも赤字に
②住宅債権の証券化
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Ⅰ
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S & P ケ ー ス= シラ ー住 宅 指 数
250
200
150
100
50
20
2 00 0年
0
2 0 0年 1 月
0
2 0 1年 7 月
0
2 0 1年 1 月
2 00 2年 7 月
0
2 0 2年 1 月
0
2 0 3年 7 月
0
2 0 3年 1 月
0
2 0 4年 7 月
0
2 0 4年 1 月
0
2 0 5年 7 月
2 00 5年 1 月
0
2 0 6年 7 月
0
2 0 6年 1 月
0
2 0 7年 7 月
2 00 7年 1 月
0
2 0 8年 7 月
0
2 0 8年 1 月
09 7
20 年 月
2 00 9年 1 月
10 7
年 月
1月
0
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世界金融危機
Ⅰ
4
2.証券化
◆証券化
事業から生み出されるキャッシュフロー(現金の流れ)を担保にして、資金を調達する。
売り上げや利払い、返済金などが購入者に支払われる。住宅ローンだけでなく、
消費者ローンや不動産の賃貸料なども対象になる。
米国で広まり、破綻の原因となったのは住宅ローンの証券化商品CDOだった。
CDO(Collateralized Debt Obligations)
CDOは通常、シニア、メザニン、ジュニア というトランシェ(階層)に分けられた
リスク、利回りの違いによってお客のほしいものを提供する
ジュニア 最初に支払い不能の影響を受ける 最も利回りが高い
メザニン 次に支払い不能の影響を受ける
利回りジュニアより低い
シニア 最後に支払い不能の影響を受ける 最も利回りが低い
実際にはどの程度のリスクを受けるかを投資家が判断することは難しい
そこで、格付け機関がよく調査して、デフォルト・リスクを格付けする
実際にはここがいい加減 基本は分散投資をすればリスクは下がる
しかし、十分なデータがなく、どのような相関があるかが不確かだった
実際には高い相関があることが明らかに
一つが破綻すれば、他の住宅ローンの価値も下がってしまう
実態は「紙くず」と同じ DDDの債権がAAAに化けていた(ルビーニNY大教授)
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世界金融危機
サブプライムローンの証券化
5
Ⅰ
モノライン
(保証会社)
売れ残りを自社で保有
CDSでカバー
サブプライム
ローン
サブプライム
ローン
スーパーシニア
シニア
CDO
(Collateralized
Debt
Obligations)
メザニン
ジュニア
サブプライム
ローン
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Ⅰ
リスク低い
低利回り
Ex.AAA
ト
ラ
ン
シ
ェ
リスク高い
高利回り
Ex.BBB
売りやすい
世界中で売却
6
3.リーマンショックへの道(1)
2006年春
住宅価格が徐々に下がり始める=バブルが逆回転
一部で倒産する不動産会社もでたが、強気な金融機関も多かった
金融当局は楽観 下落は金融イノベーションによって吸収される
信用リスクの分散で金融システム全体の耐性が高まった
(ポールソン財務長官やバーナンキFRB議長)
サブプライムセクターの住宅市場全般に対する影響は限定的
2007年6月12日 WSJ紙報道 ベア・スターンズ系のヘッジファンドが危機に直面
CDOは取引対象にならず、価格が存在しなかった 評価損の拡大報告
6月15日 ムーディーズがトリプルBのサブプライムローンにリンクする債権の
格下げを発表
ベア・スターンズがファンドに32億ドルの緊急融資
2007年7月下旬 もう一つのショック CP市場での銀行取り付けのような状況
投資家が短期資金の提供をやめる 何を信じればよいか分からなくなる
7月18日 サブプライムローン関連の損失が「500億ドルから1000億ドルの範囲」
に達する可能性(バーナンキFRB議長の議会証言)
2007年夏 CP市場のパニックが深刻化 8月には短期市場の流動性が枯渇
BNPパリバ傘下のMMFが破綻
カントリーワイド銀行に取り付け騒ぎ
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世界金融危機
Ⅰ
7
3.リーマンショックへの道(2)
2007年9月13日 英ノーザン・ロック銀行がイングランド銀行に緊急融資を要請
短期金融市場からの資金源が断たれる
危機が新たな局面に突入した! 表の銀行システム全体に波及
全部で500億ドル以上の格下げ
分散化が効いていないことが明らかに 全米でのデフォルト率上昇
10月半ば ABX指数(信用デリバティブの指数) トリプルBは額面の30%に
トリプルAは90%
ダブルAは80%に
金融機関の損失が雪だるま式に膨らむ
シティの評価損失が80億ドルから110億ドルに膨らむ 後に400億ドルに
資産1000億ドルのSIVを7社保有していた
CEOチャック・プリンスが辞任表明
メリル 評価損55億ドル→84億ドルに引き上げ
モノラインでの保証が揺らぎ始める モノライン危機
UBS 34億ドル 12月 さらに100億ドルの損失発生(500億ドルのSS債抱える)
11月下旬 銀行業界は本格的な危機に突入 損失が自己資本を食いつぶす
11月下旬 シティグループ、UBS,メリルリンチなどが中東やアジアから資金提供を受ける
世界的な株価の低迷
2008年3月 世界の銀行の評価損が2600億ドルに
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Ⅰ
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3.リーマンショックへの道(3)
2008年3月 ベア・スターンズの行き詰まり
JPモルガンに救済求める 300億ドルの緊急融資(FRBが資金を提供)
NY連銀 プライマリー・ディーラー20社にセーフティネットを供給 大恐慌以来の措置
3月18日(火)
9月以降6回目の利下げ 金利 2.25%に
NY連銀は銀行が十分な資本を持っていると判断していた。ところが銀行、
シャドウ・バンク、証券会社が恐怖によって結ばれ、一様に危険な罠に陥っていた。
4月
住宅ローン関連のCDOなどの評価損失は4000億ドルに
IMF 1兆ドルの損失を予想
トリプルA債券の買い手が全くいない
価格はモデルにない「投資家の恐怖心」で動かされる
9月7日
FRBがファニーメイとフレディーマックを保護管理下に置く 実質的国有化
9月14日(日) リーマン・ブラザーズ破産を発表
ロンドンのヘッジファンド数十社が資産を凍結された
MMF(3兆ドル規模)の損失 リーマンの社債保有 取り付け騒ぎの危険
AIGの危機 5600億ドルのスーパーシニア・リスク保有 備えが全くなかった
2008年初までに430億ドルの評価損失計上
36時間で6000億ドル(60兆円)の市場価値が吹き飛んだ
市場からの資金の引き上げ 債券市場での流動性が枯渇
世界中の銀行・証券が資金調達不能に 金融システム全体での取り付け騒ぎ
2012年度後期 国際金融
第12回
世界金融危機
Ⅰ
9
世界の株式時価総額
兆ドル
70.0
65.0
60.0
55.0
50.0
45.0
40.0
35.0
30.0
25.0
2007年
2012年度後期 国際金融
第12回
世界金融危機
Ⅰ
7月
4月
1月
7月
2011年
10月
4月
1月
7月
2010年
10月
4月
1月
7月
2009年
10月
4月
1月
7月
2008年
10月
4月
1月
7月
10月
4月
1月
20.0
2012年
10
4.世界金融危機へ
2008年9月15日(月) バンカメリカがメリル・リンチを買収
9月16日(火) FRBはAIGに850億ドルの融資を実行 株式の79.9%を取得
MMFのセーフティネット 不良資産救済プログラム(TARP)
ゴールドマン、モルガン・スタンレーは銀行持ち株会社に移行=FRBの救済可能に
英国、欧州でも銀行の国有化 アイスランドはすべての銀行の国有化
9月29日
米下院が金融安定化法案否決 NYダウ777㌦安
(過去最大) 各国からの批判強まる
10月3日
金融安定化法案成立
2008年10月8日
英国政府が銀行に250億ポンドの資本注入
10月13日(日) 米国政府が大手9銀行の株式を取得
2009年までに時価評価による信用損失は約3兆ドル
銀行や保険会社の評価損失は1兆ドル
各社は3000億ドル以上の公的資金を受け入れていた。
2009年11月
UAEドバイ首長国 政府系持ち株会社の債務返済を延期
2010年4月16日 米証券取引委員会、ゴールドマン・サックスを訴追
証券詐欺罪の疑い
2012年度後期 国際金融
第12回
世界金融危機
Ⅰ
11
(補足)リーマンショックの関連本
★ジリアン・テット「愚者の黄金 大暴走を生んだ金融技術」日本経済新聞出版社
2000円+税
☆アンドリュー・ロス・ソーキン「リーマンショック・コンフィデンシャル(上・下)」
早川書房 各2100円
★ヘンリー・ポールソン「ポールソン回顧録」日本経済新聞出版社 3200円+税
★ヌリエル・ルービニ、スティーブン・ミーム「大いなる不安定」 ダイヤモンド社
2100円
★チャールズ・R・モリス「世界の三賢人」日本経済出版社 1800円+税
2012年度後期 国際金融
第12回
世界金融危機
Ⅰ
12
世界の経済成長率
2009年
2010年
米国
-3.5
3.0
EU
-4.3
2.0
ユーロエリア
-4.3
1.9
うちドイツ
-5.1
3.6
フランス
-2.7
1.7
英国
-4.4
2.1
日本
-5.5
4.4
新興国
2.8
7.5
ASEAN 1.7
7.0
中国
9.2
10.4
インド
6.8
10.8
ブラジル
-0.6
7.5
ロシア
-7.8
4.3
世界計
-0.7
5.3
(注)IMF 世界経済報告 2012年7月
国際金融
第13回
2011年
見込み
1.7
1.6
1.5
3.1
1.7
0.7
-0.7
6.2
4.5
9.2
7.1
2.7
4.3
3.9
世界金融危機Ⅱ
2012年
予測
2.0
0.0
-0.3
1.0
0.3
0.2
2.4
5.6
5.4
8.0
6.1
2.5
4.0
3.5
2013年
予測
2.3
1.0
0.7
1.4
0.8
2.0
1.5
5.9
6.1
8.5
6.5
4.6
3.9
3.9
5年平均
1.1
0.1
-0.1
0.8
0.4
0.1
0.4
5.6
4.9
9.1
7.5
3.3
1.7
3.2
13