5Gr 映画産業

5Gr 映画産業
柏木真紀子
長谷川稔
三戸瀬明子
芳澤正樹
吉田裕
-1-
第1章
まえがき
10351268
長谷川
稔
世界中の人々を夢と感動で包み込む映画の表向きの顔とは違った、映画公開における経
済効果という裏側を追求し、普段の生活では知ることは出来ない映画の姿に迫るため、マ
ーケティング戦略・劇場公開・ビデオと DVD・テレビ放送・テーマパーク・グッズ販売とい
う6つの分野に分けて考えている。まず、マーケティングでは映画だけではなく、様々な
関連分野に波及させ多くの観客を取り込み、変化してきたマーケティング戦略について考
えている。次に劇場公開とは、現在急速に発展し、たくさんのお金を動かしている映画業
界で、劇場で公開するという初めの段階にどのような役割があるのか、また興行収入につ
いて考えている。次に、ビデオと DVD・テレビ放送において、映画が DVD・ビデオとして販
売され、テレビで放映されることによって、どのような経済効果が起こるのか考えている。
そして、テーマパークに関しては、映画が生んだテーマパークと映画の経済効果について
の関連性を調べている。最後に、グッズ販売においては、映画公開において販売される関
連グッズについて、映画館等あらゆる業界に起こる経済効果を調べ考えている。
-2-
第2章
映画のプロモーション方法
10351393
芳澤
正樹
この章では、映画における宣伝方法を主に取り上げ、その戦略について考えていきたい。
映画とは、まず映画館にお客さんの足を運んでもらわなければいけない。そのためには、
映画を知ってもらう(認知してもらう)ことが必要になってくる。そのため各映画会社は
公開が予定されている映画の宣伝材料を作成し、より多くの人に宣伝していく。この宣伝
材料のことを 宣材(せんざい) と呼ぶ。では、この宣材とは何を指しているのだろうか?
またその宣材を使い映画の話題性を高めていき、よりインパクトのある映画にするために
取る手段はどういうものなのだろうか?
2−1(1)
宣伝材料
ポスター
まず映画を見てもらうためには、その映画の内容を知ってもらう必要がある。その一番
身近なものといえばポスターだ。このポスターが宣材の中で一番大事なもので、映画のタ
イトルや誰が出ているのか、どんな映画なのか、何が売りなのかということを明確に表現
するもので、ある意味ではその映画の顔とも言える。ポスターでその映画を表現する際、
作品やタイトルを強調 する“飾り”として宣伝文句を用います。たとえば、 全米 No,1大
ヒット や 新記録達成
〜週連続第 1 位 などを付け加えることにより、普段映画を見
ない人にも映画を選ぶ基準になっており、また、有名な芸能人の名前を出すだけでも差別
化につながりインパクトができてくる。
2−1(2)宣材
M)
全国的宣伝
TVスポット(C
新聞広告
最も効果的な宣伝方法は“TV スポット(CM)”や“新聞広告”だ。これらは全国的な宣伝と
なり、最も費用がかかるが、多数の人に、また番組などをしぼってCMをだせば狙ったタ
ーゲットに映画を知らしめるという意味では効果の高いものになってくる。やはりテレビ
で一日中スポットが流れたり、ドーンと新聞見開き全面広告などあればインパクトも大き
い、こういう映画がこれから公開されるんだということを手っ取り早く多くの人に理解し
てもらうことが出来る。良い映画(商品)が広く一般に知られた時、それが大ヒット映画
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(商品)となり得るわけだ。しかし問題はその費用だ。大量に投下する TV スポット(CM)
は数千万円規模から流すことが出来るが、多くの人に確実に見てもらうには数億円規模が
必要になるから大変だ。従って TV スポットとは別の形で、なるべくお金をかけないで TV
で映像を流してもらうことが重要になります。
2−1(3)宣材
その3 「パブリシティ」
(通称:
パブ)
TVスポットを使い大々的に宣伝すれば費用がかさみ、いくら映画自体が大ヒットを
記録したとしてもその宣伝費を回収できないことになれば意味のないことになる。宣伝費
を 1 億多く使うだけでその映画は赤字になり会社にとっては負債になってしまう。そこで
各社は力の入った(大ヒットの見込まれる)映画にお金をかけて宣伝していくと同時に、
お金をほとんどかけずにできる宣伝を展開していく。これが「パブリシティ」
(通称:パブ)
と呼ばれるものだ。ではパブとはどういったものなのだろうか。
・パブリシティ
雑誌
普段読む雑誌などに映画を紹介している記事やコーナーがあるが、こういったところに
映画を売り込んで紹介してもらうのがパブだ。パブを多く露出することができれば、それ
だけ大勢の人たちの目に作品を宣伝できるので非常に効果的になってくる。パブでは作品
の内容を伝えらるような写真をメインカットとして決定し、それを統一して使用・露出し
ていくことによって作品のイメージを決定づけていく。
・パブリシティ
TV
雑誌以上に重要になるのが「TV パブリシティ」だ。TV という媒体は雑誌以上に一度にた
くさんの人が観ている媒体なので、そこで作品の告知や映像を流すというのは非常に効果
的な宣伝となる。例えば映画に出ている主演俳優・女優や監督などが来日した際に、番組
のタレントとからませる、インタビューする、などの企画がうまく成立すれば、人気番組
で作品の宣伝をすることが可能になり、また作品に関して、何かしらの話題(来日記者会
見を行なったとか、イベントに参加した等)があればそれをスポーツ新聞等に掲載しても
らい、それを朝のワイドショー番組の「記事受け」のコーナーで紹介してもらうことも重
要になってくる。つまり、とにかく何とか少しでも自社の映画の宣伝を TV で行なってもら
おうというのが TV パブリシティのテーマだ。
-4-
・パブリシティ
新しい媒体
新しい媒体ときいて真っ先に思いつくのはやはり“インターネット”だろう。ネットにおけ
るパブリシティは、基本的には雑誌におけるパブリシティと非常に似ていると言える。そ
れぞれのサイトをひとつの雑誌と考えれば、映画専門サイトは映画誌、総合情報サイトは
情報誌、女性専用サイトは女性誌といったようにまさに雑誌に映画が取り上げられるのと
同じように、それぞれのサイトで写真付きで映画を紹介ことができる。
雑誌と大きく異なるのは(サイトにもよるが)
、そのまま予告編の映像を見ることができた
り、最新情報を新聞以上のスピードですぐにアップすることができることだ。また、中身
をもっと知りたければ、そのまま、その映画のオフィシャルサイトへジャンプして詳細を
知ることなども可能になるので、興味を持ったユーザーにうまく行けば更に興味を持たせ
ることが出来る拡張性があり、非常に奥行きが深いものになる。お金をかけないパブリシ
ティを実現できることがネットの素晴らしいところだ。
2−2
タイアップ
これら3つの代表的な宣材を利用する上で、いくら大ヒットが見込める映画だとしても
全ての宣材を使えば、非常にお金がかかり思った以上に利益があがらないことがなる。そ
こで各映画会社は自社のみの宣伝ではなく、他業種の会社と協力をすることで宣伝にかか
る費用を抑えつつ、映画の宣伝をするという方法をとっていく。これを通称“タイアップ”
と呼ぶ。タイアップとは“結び付く”という意味なので、当然、映画会社にとって効果がある
だけでなく、タイアップする側にとってもメリットがなければ成立しなくなる(ドラマと
主題歌の関係などはまさに理想のタイアップ関係)。つまり映画会社にとってはタイアップ
によって自社作品の露出の機会が増えて更にその幅も広げることができ、タイアップ先に
とってはその映画のイメージによって商品などが売れる、という図式が映画におけるタイ
アップの理想形になる。とにかくタイアップをうまく活用できれば、少ない宣伝予算でも
パブリシティや広告以外でも大きな展開となって露出を稼ぐことが出来るので、映画のヒ
ットの為にも非常に重要になってくる。
2−3
『ハウルの動く城』のプロモーション
2004年度
日本映画興行収入 1 位(200 億)スタジオジブリはどのように成功をしたの
だろう。今まで説明してきた宣材をすべて使うのではなく、お客の心理状況をうまく使っ
た戦略になっている。
8 月 3 日には作品が出来上がっているが、公開は 11 月 20 日にずらし、この間には作品内
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容を関係者にしか見せず、アフレコをしている木村拓哉の映像すら流さなかった。普通な
らば公開日初日をピークに持ってくるために、できるだけ多くのメディアにパブをだした
い時期だ。しかし何もしないことで飢餓感を煽り、もしかしたら出来が悪いのではないか
とファンには不安さえ与えているじょうたいだ。これら複数の要素でお客さんを悩ませて、
初日に「ドーン」と映画を大々的に公開する。すると今までの飢餓感や不安が大きい分だ
けお客を満足させる作品なので、同じようにプロモーションするよりも効果があり、口コ
ミなどで盛り上がって正月まで流行らすことができるのだ。これは「宮崎駿」作、スタジ
オジブリの「ハウルの動く城」というだけで中身を見せる必要もなく、アフレコに木村拓
哉を起用するということで、話題性と集客性に優れているという面があるからだ。
また、この時期にずらしたのは、ベネチア国際映画祭に参加して、ピクサー映画の「Mr
インクレディブル」と正面からぶつかる時期にしたこともある。ピクサーの戦略は見せる
という方向性でくるとおもわれたので、わざと見せないという戦略をとったともいえる。
スタジオジブリは、いずれ話題の中心がピクサーから「ハウルの動く城」に来ると思って
いるので「ピクサーVSジブリ」はピクサーが先に絵を見せて、それをマスコミが書くが、
主語は絶対にスタジオジブリになってくる。そしてうまく相乗効果がでて両方伸びるわけ
だ。
このように宮崎駿のスタジオジブリのもつイメージとお客が抱く心理状態や、話題性を集
めるためのプロモーションやキャストの設定などが絡み合って、その結果として興行成績 1
位になっているといえる。
-6-
第3章
映画の制作や劇場公開
10351338
三戸瀬明子
映画産業は、ヒット作品を作って少しでも多くの興行収益を獲得するという命題がある。
その一方で、制作コストや配給コスト、上映コスト、さらに制作日数を少しでも削減した
いというニーズがある。しかし、映画監督が「こんな映画を作りたい」「こんなシーンを撮
りたい」とイメージしても、制作コスト上の制約から実現できないケースもあるが、今で
は IT が強力な武器になりつつある。
3−1
映画の興行収入
2004 年アメリカでの映画の興行収入が、過去最高の94億ドルを記録した。
興行収入
1.
Meet the Fockers −−−−−−−−−−−−4280万ドル
2.
Lemony Snicket −−−−−−−−−−−−−1470万ドル
3.
アビエイター
−−−−−−−−−−−−−−1120万ドル
4.
Fat Albert −−−−−−−−−−−−−−−1070万ドル
5.
オーシャンズ12 −−−−−−−−−−−−− 920万ドル
6.
ナショナル・トレジャー
−−−−−−−−− 700万ドル
7. Spanglish −−−−−−−−−−−−−−−−−630万ドル
8.
9.
10.
ポーラー・エクスプレス−−−−−−−−−−−570万ドル
オペラ座の怪人−−−−−−−−−−−−−−−480万ドル
Darkness −−−−−−−−−−−−−−−−− 450万ドル
日本では「千と千尋の神隠し」の興行収入が2001年11月で236億円になったこと
に関連し、「もののけ姫」の頃は配給収入が使われていたのが、2000年頃までに興行収
入で表示するようになったという。
参考:「もののけ姫」の配給収入は113億円、興行収入は193億円
・興行収入・・・お客が払った入場料金の合計
・配給収入・・・お客が払った入場料金の合計から映画館の取り分を差し引き、配給会社
の取り分となるお金
このように現在、急速に発展し変化し続けている映画業界で、劇場公開という段階にお
いてこれだけのお金を動かしている。
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最近は、チケットの購入が携帯電話やパソコンによって、インターネットで簡単にでき
るというようなサービスもいろんな会社が行っており、映画の劇場公開のときのチケット
購入という、かつては映画館でしか行えなかったことを、IT企業やチケット販売会社が
することによって新たな経済効果を生み出している。
3−2
興行会社と配給会社
映画館を経営する会社を興行会社、そこに映画作品を提供する会社を配給会社という。
製作会社は映画を製作し、配給会社を通じて映画館で上映してもらう。興行会社は映画料
として興行収入のうちの一定割合を配給会社に対して支払う仕組みになっている。この支
払割合はロードショーの場合、通常40%〜70%であり、オールナイト興行は経費を差
し引いて(トップオフという)支払うなどのオプショナルな条件もある。また、旧作など
は定額でフィルムを借りて上映するフラット興行となる場合が多い。
・
興行会社…公演や映画上映などが行われる劇場を持つ会社のこと。
・
配給会社…製作会社から映画の上映権などの権利を買い付けて、興行会社に作品を卸す
(配給する)会社のこと。買い付けとともに番組の宣伝も重要な仕事となる。
・
製作会社…映画作品の製作元。自社スタジオを持ち、自社のプロデューサーや契約監督
を多数抱える会社から、NDFなどプロデュース業のみに携わる会社もある。
・
映画料…興行会社が作品ごとの興行成績に基づいて配給会社に支払う仕入代金のよう
なもの。興行成績に映画料率(アジャストがある場合はアジャスト後の率)を乗じた金
額。
・
オールナイト興行…夜通しで行う興行のこと。最近では、チェーン作品の初日に行われ
ることが多く、作品の評判が良ければ毎土曜日に引き続き行われる。もちろん、客層が
ある程度限定されるため、作品によって向き不向きがあるが、興行者としては映画料が
低く旨味のある興行形態といえる。興行関係者は単に「ナイト」と呼ぶ。
・
トップオフ…映画料契約の際に配給会社と興行会社との間で、予め必要経費(宣伝費な
ど)を算出しておいて興収からその金額を差し引き、残りを両者で分配する場合の経費
天引き分を指す。こうした契約は主に単館系で行われている。
ちなみにインディペンデントの配給作品の場合、オールナイト興行における劇場の必
要経費負担(トップオフ)は、全額配給会社持ちとなるのが通例である。
・
フラット興行…映画料を興収歩合ではなく、定額で支払う興行のこと。ある作品を上映
するに当たって、配給会社から一定期間フィルムを借り、その間にいくら興行収入を上
げても、予め契約した映画料のみの支払いとなる場合などをいう。
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3−3
映画館
東京ではミニシアター型に、地方ではシネコン型中心に映画館は増加している。これに
観客が追いつかない状態であり、当面の打開策として入場料金のディスカウント方法(各
種割引サービス強化)がそろそろ検討されなければならない状況である。
シネコンとは、シネマコンプレックスの略である。1 つの建物に複数のスクリーンの映画
館、またショッピングセンターなどが併設されている商業複合施設。日本では、1993 年に
海老名に登場したワーナー・マイカル・シネマズがその先駆け。観客動員数が減少するば
かりの映画産業に現れた救世主でもあった
図表3−1
関西のシネコン
大阪府
シネコン
兵庫県
京都府ほか
HEP NAVIO
神戸国際会館
MOVIX 京都
E〜ma
モザイク
大津パルコ
フェスティバルゲート
センタープラザ
浜大津アーカス
アポロ/ルシアス
神戸ファッションプラザ ダイヤモンドシティ・アル
マイカル茨木
ダイヤモンドシティテラ ル
ヴィソラ
ス
クロスモール
岸和田カンカンベイサイ
ドモール
イオンりんくう泉南ショ
ッピングセンター
映画館の入場料金は都市部など多くの地域で一般料金 1,800円となっているが、価格
協定が結ばれているわけではない。
現在では多様な割引制度の導入が図られており、シニア割引、学生割引などの常時割引
制度から、12月1日の映画の日や映画サービスデー、レディース・デーなどがある。
3−4
フィルム・コミッション
映画の制作段階においてあらゆるジャンルのロケーション撮影を誘致し、実際のロケを
スムーズに進めるためのフィルム・コミッションという非営利公的機関がある。現在、
AFCI(国際 FC 協会)に加盟しているだけでも、世界31カ国に約300の団体がある。それ
らの多くが国や州・市など自治体等に組織されており、国内ばかりでなく国際的なロケー
ション誘致・支援活動の窓口として、地域の経済・観光振興、文化振興に大きな効果を上
げている。
-9-
フィルム・コミッションを組織するメリットとして
(1)当該地域の情報発信のルートが増える。
(2)撮影隊が支払う「直接的経済効果」が見込まれる。
(3)作品(映画・ドラマ)を通じて観光客が増え、観光客が支払う「間接的経済効果」が見
込まれる。
(4)映像制作に関わることを通じて、地域文化の創造や向上につながる。
直接的(短期的)経済効果とは,撮影のロケ隊が地元に滞在する間に消費する直接的費用
効果のことをいい,宿泊や飲食などの消費がこれにあたる。間接的(長期的)経済効果とは,
ロケ地を訪れる観光客の増加により,地元で消費される間接的な経済効果が増加すること
である。
具体的な例として、映画「釣りバカ日誌14」の舞台となった高知県のロケ支援委員会
は、上映による観光客増加や宣伝などがもたらす経済効果は約28億円とする試算をまと
めた。
同委員会は、映画入場者約60万人のうち、高知県を訪れる観光客が年間約6万人増加
すると想定。経済効果は約22億円に上ると試算した。
さらに上映時間の約2時間はテレビCMに換算すると、約5億円の宣伝効果。ロケによ
る宿泊費などの経済効果も約5000万円になるとしている。
こういったことから、映画を公開することでさまざまな宣伝効果があるということがわ
かる。また、その宣伝の効果でロケ地に観光客が集まり、その地域の宿泊施設やレジャー
施設などに経済効果があらわれる。
3−5
業務提携
全国の地方自治体では、新たな観光客の誘致に向けた取組みを模索している所が多く、
その手法として注目されているのが映画を使ったプロモーションである。前に述べたフィ
ルム・コミッションの設置と、その積極的な活動によって映画製作会社のロケ誘致に成功
したとしても、作品に自治体の思惑が十分に描かれることは少なく、映画の背景として扱
われるケースが多い。しかし、自治体独自での映画製作となると、最低 1 億円はするとい
う製作費や、製作ノウハウ、上映する劇場の問題等、数々の問題を抱えることになる。
こういったことから『東京テアトル』は「シネマーケティング事業」と銘打ち、全国の
自治体とのパイプを持つJTBとの業務提携により、各地方自治体に対して、映画を使っ
た地域活性化プロモーションの提案を開始し、映画公開に際して劇場への鑑賞者動員を図
るための様々な宣伝活動や、東京都内を中心とする直営映画館での上映と、全国の映画館
への配給等を行い、JTBは映画完成試写会に伴い地元で実施するイベントの企画・運営、
特注図書「るるぶ」
(JTB 出版)によるプロモーション展開等をすることにより、地方自治
- 10 -
体は観光誘致が促進されると共に、作品に因んだ各種商品開発がなされ、映画との相乗効
果による様々な経済効果が期待できるので、こういった業務提携も盛んになってきている。
図表3−2
東京テアトルとJTBの業務提携
このように映画の制作や、劇場での公開には様々な企業・会社が関わっている。近年で
は映像のデジタル化が進み、それに関連して新たに映画産業に関わる企業も増えてきてい
る。
- 11 -
第4章
ビデオ・DVD
10351092
4−1
柏木
真紀子
映画の収入源
映画は、スクリーンでの上映のみによってビジネスとして成り立っているのではない。
テレビでの放送や、ビデオ、DVDとしての出版によって、映画制作者は収入を得ること
ができ、これによって多くの映画作品がビジネスとして採算を保つことができている。
図表4−1
4−2
映画ビジネスの収入源
映画ソフトの出版
最近はウィンドウの多様化によって、直接的な収入面では興行収入の重要性は徐々に薄
れつつあるのが実態である。多様化の代表的例はパッケージソフト市場(当時はビデオ)
の出現であり、ビデオセル・レンタル市場は映画にとって無視できないものに成長したと
言える。さらに最近では DVD 再生機の普及は映画にとってのパッケージソフト市場の重要
性を拡大させた。
下記のように、この約二年間の間に売上げの90%が計上される。価値の低下が激しく
賞味期限2年の賞品に、実に数億円から数百億円という投資がなされる。にも関わらず映
画ソフトに対するリピート率は極めて低く、いい商品が必ずヒットするとは限らない。こ
のように映画ソフトは扱いにくい商品である。
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図表4−2
上映から販売までの期間
劇場講演終了
6 ヶ月
1年
2〜3年
パッケージソフト(DVD・カセット)レンタル→セル
米国内
ブローソバンド
劇場上映
PPV
有料放送(プレ
VOD
ミアム)
地上波
BS/有料放送
国外ウインドウ
映画のビデオ、DVDとしてのソフトの出版は、出版社が映画制作者に出版の権利を払
い、プリントしてパッケージソフトを出版し、小売店がレンタルしたり販売することで成
り立っている。映画館で公開されていない作品を含め、現在多くの作品が出版されている。
図表4−3 映画のソフト出版(2002 年)
ビデオ・DVD化された映画タイトル数――約4600タイトル
レンタル用出荷数――――――――――――約770億円
販売用出荷数――――――――――――――約780億円
4−3
米国のホームビデオ市場
米調査会社デジタル・エンターテインメント・グループによると、2003年の米国内
でのDVD販売額は前年比33%増の116億ドル(約1兆2600億円)で、劇場での
興行収入92億ドルを上回った。DVDやビデオのレンタルを含めた「ホームビデオ」全
体の年間市場規模は225億ドルと、劇場収入の2倍を上回る。全世界中のビデオ市場は、
390億ドルといわれ、前年度比10%アップであった。
図表4−4
2002年にもっとも売れたビデオ・タイトル
順位
タイトル
配給会社
ビデオ収入
1
モンスターズインク
ブエナビスタ
$384.8M
- 13 -
興行収入
$255.9M
2
ロード・オブ・ザ・リング
ニューライン WB
$380.2M
$313.4M
3
スパイダーマン
コロンビア
$347.7M
$403.7M
4
ハリーポッター
WB
$343.9M
$317.6M
ビデオ市場も劇場同様、フォックス、ユニバーサル、ワ−ナ−ブラザースなどメジャー・
スタジオとよばれる映画会社が圧倒的に強い。インディ系の映画会社は、14%にすぎない。
ヒット作を生み出すメジャーのほとんど独占状態といえる。
4−4
日本のビデオ・DVD市場
日本でも、1987年に劇場興行からの収益が41%、ビデオ、DVD等の収益が 51%だ
ったのに対し、2002年には、劇場興行の収益は、わずか24%であり、ビデオ、DVD 収
益は、64%にまで昇っている。つまり、現在の日本の映画産業の収益は、劇場興行から
のものではなく、二次使用であるビデオ、DVD等の二次使用が中心になっているのであ
る。中でも、市場が拡大傾向にあるDVDソフトへの依存度は高まっている。
4−5
新しい収益モデル
最近では映画公開やビデオ販売(レンタルを含む)の前にネット配信を一次利用として
ある程度制作費を回収し、映画公開、DVD 販売などを二次利用として収益を上げるモデル
が目立ってきている。
このモデルが注目される一番のポイントは、ユーザの目が肥えてきているということであ
る。上記にしるしたように、多くの作品が映画、ビデオと言う形で流通しているだけに「良
いもの」「悪いもの」がユーザにとって判断しやすい状況となってきている。これからは、
ユーザは絶対に見たい映画は映画館へ、ちょっと気になる映画はネット配信でチェックし、
気に入ったら DVD の購入やレンタルを考えるといった、新しいスタイルへとかわっていく
可能性がある。
- 14 -
図表4−5
映画ソフト市場の構造と規模
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第5章 映画とテレビ
10351092
5−1
柏木
真紀子
テレビの映画放送
現在、劇場用映画のテレビ放映回数は急激に増加している。これは、テレビの多チャン
ネル化に伴い、コンテンツが不足し、それを映画作品が補っていると考えることが出来る。
BS・CSチャンネルの開設、地上波テレビのデジタル化により、これから先も邦画・
洋画を問わず、映画館で公開されなかった作品を含め、数多くの映画をテレビで放送する
機会はますます増えてくると考えられている。
図表5−1
映画ソフトの市場規模・流通量数値
延べ放送本数
市場規模(億円)
流通量(億時)
邦 155 洋 944
邦 7.2 洋 43.9
衛星放送
邦 80
洋 477
邦 0.3 洋 2.0
CATV放送
邦 46
洋 278
邦 0.3 洋 1.8
テレビ放送
5−2
邦203
洋 1,238
映画放送権
テレビでの映画放映は、テレビ局が映画制作者や権利者に放送の権利を払い、番組プロ
グラムとすることで可能となる。テレビで放送する映画は、まず映画の放送権の購入から
始まる。映画には劇場で放映する権利とは別にテレビで放送するための権利というのがあ
る。特に洋画というのは放送権を購入してから実際にオンエアされるまでの期間が長い作
品では 3 年とかになる。最初にロードショーとして劇場公開され、次にビデオ化され、さ
らに衛星放送などで放送され、それから地上波での放送といった順番になる。つまり 3 年
先に放送する権利といった“先物買い”である。だからその読みがむずかしい。今はものすご
くヒットしていても、それが 2 年後 3 年後にも果たして受けるのか分からない。2 年先、3
年先の時流、社会風潮を予想しながら、放送するタイミングやラインアップを計画してい
かなければならない。
テレビ局が映画に関わっているのはこれだけではない。制作費の高騰、テレビ放映での
知名度の活用を背景として、テレビ番組を映画化するケースが増えてきている。
「踊る大走
査線
THE
MOVIE」や「劇場版ポケットモンスター」がその例である。こうした
場合はテレビ局も映画に出資している。最近の傾向として、地上波放送局が非常に強い力
を持っていて、テレビ局の出資・関与がヒット作を生み出すのに欠かせなくなってきてい
る。気オレは地上波テレビ局のメディア展開が成果を出していることの現れであると言え
る半面、映画会社にとっては、企画・制作力の弱体化を招く問題であるかもしれない。
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第6章
テーマパーク
10351397 吉田 裕
映画によって誕生したテーマパークとして東京ディズニーランド(TDL)とユニバーサ
ル・スタジオ・ジャパン(USJ)があるが、主に USJ について調べ、USJ のこれまでの歩みを
調べる。
6−1
スタートは大成功!
2001年3月31日に映画俳優のアーノルド・シュワルツネッガーによるテープカッ
トでグランドオープン。予定より20分早い午前7時40分に開園、前売り券購入者約3
万人のみの入場だった。
5月初旬、入場者数が100万人を突破。USJ は達成日を公表していないが39日だったデ
ィズニーランドを上回るペースで達成した。そして、その勢いは衰えず、初年度の目標入
場者数800万人を大きく上回る約1100万人が来場した。ディズニーランドの初年度
の入場者数は約933万人だった。
6−2
2年目のジンクス!?
2年目の目標入場者数は900万人で、初年度の勢いのままであれば達成できる数字だ
ったが、実際は約763万人と大きく減少した。その原因として USJ はディズニーランド
に比べてアトラクションの数が少なく、一日あれば全てのアトラクションを体験すること
が可能なため、リピーター獲得が難しいというのが挙げられるが、大きな原因は相次ぐ不
祥事の発覚によるものだった。
2001年3月〜11月
TV プロダクションツアー北側にある水飲み器に殺菌していない工業用水を使用していた
ことが発覚。
2001年6月〜2002年2月まで
牛もも肉角切りやキャビアの瓶詰、冷凍ボイルエビなど、賞味期限切れの44品目を調理
して使用、園内のレストランで客に提供していたことが発覚。
2002年7月8日
同保健所などによると、レストラン「パークサイドグリル」で8日夕、地下室の天井裏
- 17 -
にある汚水管(直径約10センチ)が破裂、床に落下した汚物が約3センチの厚さでたま
っているのが見つかった。
2001年3月〜2002年7月
「ハリウッド・マジック」で昨年3月の開業当初から大阪市の許可量を超える火薬を使用
していたことが発覚
このような不祥事が相次いだため、2年目の USJ 来場者は大きく減少した。
6−3
起死回生の奇策
ハリウッド・フレンド・パ
ス
2002年の一連の不祥事で落込んだ入園者数と売上を早期に戻すために、2003年
3月から5月までの期間限定でハリウッド・フレンド・パスと言う超格安年間パスを69
00円で販売した。
ハリウッド・フレンド・パスは、購入日から12月15日まで何度でも入園できる特別ス
タジオパスで格安ということで、約80万枚売り上げた。その効果もあって、3年目の2
003年の入場者は目標の850万人を上回る約988万人となった。
しかしその内訳は、一般入場者約715万人、ハリウッド・フレンド・パス利用入場者約
273万人なので、まだまだ人気が回復したとは言えない。
さらに、当初USJはハリウッド・フレンド・パスのリピーターによる一人あたりの売上
高を商品部門で1500円、飲食部門で1500円、合計3000円の一人あたりの売上
高を見込んでいた。
この戦略は、ハリウッド・フレンド・パスのリピーターには、USJでランチを食べても
らう、ランチゲストの獲得を目指した戦略であると思われる。しかし、関西人のケチ度は
予想以上で、実際のハリウッド・フレンド・パスのリピーターによる一人あたりの売上高
は、商品部門で658円、飲食部門で417円、合計1075円の一人あたりの売上高だ
った。
これでは、ランチゲストではなく、ワンドリンクゲストである。USJの原材料費、人件
費、運営費等の必要経費を考えれば、一人あたりの売上高が1075円では赤字である。
最低、一人あたりの売上高が2000円ないとビジネスとして採算が取れないため、専門
家によるとこのハリウッド・フレンド・パスはビジネスとしては失敗だといえるようだ。
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6−4
救世主
スパイダーマン!!
4年目となる2004年1月、2002年8月から144億円をかけて建設が始まった
大型アトラクションの『アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン ・ザ・ラ
イド』 がついにオープンした。映画が大ヒットした効果が大きく USJ の客寄せアトラク
ションとなり USJ の救世主なった。このスパイダーマン効果により2004年の入場者数
は、ハリウッド・フレンド・パスなしで約920万人となり、人気がある程度回復したと
いえる。やはりテーマパークは新アトラクションができないとリピーター獲得が難しいこ
とがわかる。そして、USJ の場合はアトラクションと映画のヒットとが密接な関係である
ことがいえると思う。
図表6−1
新アトラクションの経過
新アトラクション(設備投資)の経過
年度
オープン日
アトラクション名
2002 2002年4月27日 ハリウッド・プレミア・パレード
2003
2004
2003年4月26日
セサミストリート・4‑D・
ムービーマジック
2003年6月20日
シュレック 4‑D アドベンチャー
2004年1月
スパイダーマン
金額
21億
円
31億
円
144
億円
工事開始日
2002年1月頃
2002年12月頃
2002年8月頃
1. スパイダーマンの当初のオープン日は、ゴールドパスの除外日が2004年3月末に集中して
いることから、2004年3月末のプレオープンで4月1日の正式オープンだったものと思われる。
2. スパイダーマンの当初の経理上の処理は、2002年度から2004年度に分散して費用を計
上していたものと推定される。
3. スパイダーマンのオープン日は、入場者の早期回復とリピーター元年のイベントを早期に仕掛
けるために、USJ新社長の佐々木社長が2003年10月に決断したものと、大阪市議会での答弁
内容から推測される。
4. スパイダーマンのオープン日を当初予定より早めた為に、2004年度での約60億円の設備
投資の処理を2003年度にしなくてはいけなくなった為に、大阪市への30億円の短期設備投資融
資と、米ユニバーサル社に支払う新アトラクションの製造費用のうち、約10億円の支払いを繰り延
べをしたものと推測される。
注)
新アトラクションの金額は、大阪市議会の情報である。
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6−5
これからの USJ
2004年度スパイダーマン人気で売上高は上がったと思われたが、決算内容は想像以
上に厳しい内容であった。売上高の悪かった原因は、商品部門の一人あたりの売上高の急
激な落ち込みである。チケット部門と飲食部門は前年の同程度の売上額を達成したが、商
品部門の1人あたりの売上高は2500円で前年対比−17%となった。この商品部門の
急激な落ち込みは、テーマパーク運営において黄信号が点灯したと言って良いだろう。商
品部門の売上げは、パーク運営にとって大事な柱である。
USJが目指す数値目標は、年間入園者数で毎年2%〜5%増で、一人あたりの売上高で
は、チケット部門で4500円、商品部門で3100円、飲食部門で1900円、合計9
500円です。
そのためにUSJは2005年度から、『キャラクター・ワンダー・イヤー 』
として、
大人のテーマパークから、家族で楽しめるテーマパークへと運営方針を大変更します。
『キャラクター・ワンダー・イヤー 』
とは、売れ筋キャラクターをメインとした新アト
ラクションやイベントの導入。これにより、売れ筋キャラクター商品のさらなる購買意欲
をゲストに与えるというもの。さらに2005年度から、新キャラクターとしてハローキ
ティを正式に導入する。これにより新キャラクターの商品を開発して、リピーターゲスト
に新キャラクター商品への購買意欲を与える。売れ筋キャラクターとして、スパイダーマ
ン、スヌーピー、セサミストリートが挙げられるが、それに加えて海外では人気のない ET
が日本では人気があるらしく、とても驚いた。
5年目となる2005年度は、スパイダーマン人気と『キャラクター・ワンダー・イヤー 』
によって、ある程度売上高は回復すると思われるがまだまだ初年度の勢いを回復すること
は難しいと思う。その勢いを取り戻しリピーター率を上げるためには、次の新アトラクシ
ョンが選びとても大切だと思う。
リピーター率90%以上のディズニーランドを見習って、関西のテーマパークの代表とし
て USJ の飛躍を望みたい。
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第7章
グッズ販売
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7−1
長谷川稔
具体例(踊る大捜査線)
グッズ販売という分野を調べ考えていくにあたって、分かりやすい事例がある。それは、
織田裕二が主演したフジテレビ系列の人気刑事ドラマが映画化された「踊る大捜査線
THE
MOVIE」である。封切わずか10日で400万人を動員し、1999年春までに600万人
までその数を伸ばし、配給収入52億円を突破した日本の歴史に残る、まさに大ヒット映
画である。その一方で、マーチャンタイズでも注目すべき数字を挙げており、それはイン
ターネットでのグッズ販売である。これをフジテレビでは、映画の舞台になっている「湾
岸署」の欧文ロゴ「WPS」のはいったウィンドブレーカーとキャップのセット・スウェット
と T シャツのセットというファッションアイテムを、インターネットの同作品ホームペー
ジとフジテレビ内のショップで販売した。最近の映画やテレビドラマでは、ファンがホー
ムページをチェックすることが多いため、元より潜在的に購買意欲のあるユーザーが商品
販売の情報に接することになる。そして、告知をした上でオンライン通販の受付を開始し
たところ、初日に400件の申し込みがあり、セット価格は1万4800円と決して安く
はないが、それでも6000セットを超える売れ行きで、約1億円の売上を記録し、これ
はフジテレビ関連グッズでは過去最高の売れ行きとなった。その理由には、フジテレビの
ような大企業が相手で手に入りにくい(プレミア度の高い)商品なら、アクセスしたユー
ザーは気楽にネット通販を利用しやすい上、トラブルがあった場合の善処も販売元に期待
できるからである。もとより、メディアミックス戦略でひとつのソフトをマルチに展開し
てきたフジテレビだが、この「踊る大捜査線」ではテレビからスタートして映画、そして
インターネットを利用した情報提供と商品販売・関連書籍販売、その後はスカイパーフェ
クト TV での PPV 放映、ビデオ販売などで利益を追求している。その大半が関連会社を利用
しているあたりはメディア系と呼ばれるフジサンケイグループのメリットをフルに活かし
たといえるのではないだろうか。
7−2
具体例(スターウォーズ)
次に、1999年に公開されたスターウォーズ「ファントム・メナス」は映画以上にキ
ャラクター商品が爆発的にヒットした。すでに市場はプレミアアイテムを広く認知してい
21
たため、その人気を商品の売上に利用したアイテムも見られた。その代表的な成功例がペ
プシコーラのスターウォーズキャンペーンである。映画登場キャラクターのボトルキャッ
プから始まり、スクラッチで当たりが出れば特製キャラクターアイテムがプレゼントにな
るキャンペーンを2弾・3弾と展開し、大きな売上を残したのである。国内でペプシコー
ラの販売を行っているサントリーの発表では、1999年7月上旬には年間販売計画を当
初の2100万ケース(前年比141%)に上方修正、最終的には2250万ケース(前
年比138%)を達成したため、ペプシコーラが売り切れになっているコンビニやスーパ
ーもあった。このキャンペーンは2000年4月に発売された「ファントム・メナス」の
ビデオ化に合わせて、3月から4月末にかけ第4弾を展開し、映像との相乗効果を狙った
のである。その結果、スターワォーズ関連商品の売上は、予想を上回る40%増だったと
いう。さらに、1980年代では映画「スターウォーズ」の成功が刺激となって、それま
でライセンスビジネスとは無関係にあった企業の参入が目立ち始めたのである。同時にア
メリカでは、それまで小規模オフィスで副業扱いだったライセンスビジネスそのものも大
きく変容した。宣伝で認知を高め、製品開発、パッケージデザインやディスプレイ方法、
そしてマーケティング結果もライセンシーに提供するという、より企業的なサービスビジ
ネスへと変わっていったのである。この影響を受け成功した映画は「E.T.」や「バットマ
ン」である。「E.T.」は、ライセンス分野でも映画本体の興行成績を上回る収益をあげ、
「バットマン」においては、ワナーブラザーズがライセンスビジネスと映画興行のシナジ
ー効果を狙った大掛かりな宣伝を展開し、成功を収めた。また当初、ヒットには懐疑的だ
ったといわれていた「スターワォーズ」の監督・総指揮であるジョージ・ルーカスは第1
作から映画に登場するキャラクターの版権を獲得しており、映画が予想外にヒットし、キ
ャラクター商品からもクラッシクキャラクター登場する結果になったことで、莫大な版権
使用料を得ているのである。しかし、同じようにたくさんのクリーチャーが登場する SF 映
画は星の数ほどあるが、そのどれもがヒットするわけではなく、そこに映像から派生する
キャラクタービジネスの難しさがある。その一方で、ヒットすれば、その儲けは世界規模
で上げることができる。だからこそ、映画業界は絶えず「第2のスターワォーズ」を生み
出すべく戦略を練りに練っているのである。
7−3
映画館販売
そして、映画館におけるグッズ販売について東映では、「映画館を玩具屋にする」とい
う画期的な方針で、キャラクター商品を玩具店等だけではなく劇場でも売り出したのであ
る。「ポケットモンスター」や「ドラえもん」など、低年齢層に向けたアニメが好調なだ
けに、すでに小学生たちを中心に人気を得ているこの作品は、成功が見込めるといってい
いだろう。また、映画界の巨匠スピルバーグ率いるドリーム・ワークスによって製作され
22
た、戦争用人工知能チップが誤って埋め込められたフィギュアたちの対立が人間にも及ぶ
という「スモール・ソルジャーズ」でも子供たちの興味を引こうと、劇場公開に先駆け、
小学館の児童向けコミック誌である「コロコロコミック」3回に渡って連載を行ったので
ある。これに対抗して小学生を中心に人気の東映で公開された「映画版
ビーストウォー
ズ・超生命体トランスフォーマー」においては、玩具メーカータカラが1985年に変形・
合体ロボットを製作し、さらに1995年には世界最大規模を誇る玩具メーカーである、
ハスブロー社と提携し、新しい変身・合体ロボット玩具を開発したのである。それは、変
身・合体ロボットでは「超テクニカルフィギュア」と呼ばれる独特の稼動方式を取り入れ、
動物や昆虫の形態からロボットに変化するという画期的なロボット玩具なのである。この
ように、映像だけではなく、雑誌を利用し、商品開発を行うことによって、子供たちの目
に留める戦略が、キャラクター商品のブレイクを招くのである。
7−4
これまでと違う販売方法
一方で、これまでの視点とは違った、グッズが爆発的に売れ映画公開へと至った実例が
ある。それは「バイオハザード」である。通常、話題作は CD やビデオと同じように、発売
日当日から1週間ほどの短期間に、総売上枚数のほとんどを売り切ってしまう。ところが、
「バイオハザード」の場合は、発売日当日で16万本、それ以降は売上ランキング30位
以内をキープし、購入ユーザーによる口コミ効果もあって、ジワジワと売れ続いたのであ
る。ホラー好きの女性ユーザーにも好評で、国内プレイステーション版だけで115万本、
セガサターン版、ディレクターズカット版、デュアルショック対応版も合わせると218
万本、さらに海外でも257万本の大ヒットとなった。そして「バイオハザード2」では、
およそ2年を開発にかけ、その製作費は開発期間が長ければ長いほどかさんでいくため5
〜6億円であった。また、ゲームの売上はテレビ広告での認知に負うため、専門誌を読ま
ないライトユーザーにアピールする作戦をとった。話題づくりと女性ユーザーをもターゲ
ットの入れたうえでマニアにも唸らせるという方向で、テレビ CF が製作されたのである。
それが、ゾンビ映画の第一人者、サム・ライミ監督に撮影を依頼したハリウッド制作のテ
レビ CF で、製作費は1億5000万円以上という破格の値段である。その結果、初回出荷
140万本と前作を上回る売れ行きとなり200万本達成まで1ヶ月という爆発的な売れ
方であった。このゲームにおける輝かしい成功に伴い、「映画版
バイオハザード」が製
作され公開されたことについて、みなさんもご存知であるだろう。「バイオハザード」の
ような人気ゲームや「あずみ」や「ワンピース」といった人気単行本などを映画版として
別に製作し、公開されるにあたって新しい顧客を手に入れ映画関連グッズを購入してもら
うという戦略が現在数多く映画に取り入れられているといえる。
23
これらの例を踏まえたうえで、映画とグッズ販売は密接な関係であり、映画の売れ行き
がグッズ販売の売上にも大きく左右されるということがわかるだろう。また、グッズ販売
を展開していくうえで、インターネット上での販売、スーパーやコンビニでの販売、映画
館での販売など、それぞれにおいて工夫が必要であり、グッズ自体にも工夫を施さなけれ
ば、映画業界には生き残れないということがいえるのである。
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第8章
あとがき
10351268
長谷川稔
世の中に解き放たれた映画というものを、マーケティング戦略や劇場公開によって、成
功への軌道へと走り乗せる。また、映画のもたらす経済効果すなわちビデオと DVD・テレビ
放送・テーマパーク・グッズ販売という各分野は成功への立役者となっている。そして、
他の映画との差をつけるために必要不可欠であり、またそれぞれ各分野において工夫が必
要不可欠でもある。成功した者は巨額の富を得る一方で、失敗した者は消えていくという
厳しい世界が現実である。これは映画界に生き残りをかけ、絶対に負けられない戦いがこ
こにはある。
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