記事全文 - 洛北義肢

表● 手足皮膚症候群のGrade分類
4 支持療法
京大皮膚科医が
がん患者に靴を処方
手足症候群への最終手段
一部の分子標的治療薬では皮膚障害である手足症候群が発生し、重症化すると休薬や減量を余儀なく
されている。京都大学医学部附属病院の皮膚科医らが手足症候群に悩むがん患者らに靴や靴の中敷き
を処方して成果を挙げている。同病院では、靴を処方するようになってから治療を中断するケースが少な
くなったという。
Grade1
手足の皮膚の感覚障害、刺激、痛みを伴わない
腫脹や紅斑、日常生活に支障をきたさない程度
の不快な症状
Grade2
手足の皮膚の痛みを伴う紅斑や腫脹、日常生活
に支障をきたす不快な症状
Grade3
手足の皮膚の湿性落屑、潰瘍形成、水泡形成、
激しい痛み、仕事や日常生活が不可能になる重
度の不快な症状
シタビン、スニチニブ、そしてソラフェニブな
する(写真 4)
。とくにソラフェニブの手足症候
どが知られている」という。
群では、荷重部のタコ、魚の目(べんち、鶏眼)
HCC や腎細胞がんの治療薬であるソラフェ
が出現(写真 5)
、削り取る処置が取られること
ニブでは 5 ∼ 6 割の患者で手足症候群が出現
もある。つまり症状を悪化させる原因は圧力な
し、それが治療中止の理由の 1 つになってい
どの外的刺激であることが分かる。そこでこう
る。ソラフェニブを販売するバイエル薬品がま
した外的要因を取り除くことで症状を緩和で
とめた特定使用成績調査(2010/9/13)による
きる可能性がある。
と、服用開始 76%が服用中止となり、そのうち
足底の荷重分散で症状を改善
毎週水曜日の午前中、京都大学医学部附属
真 1)
。
39%が有害事象によるもの。有害事象の最も
病院はフットケア外来を行っている。患者の多
従来、糖尿病による足病変対策手段であっ
頻度が高かったのが手足症候群だった。
皮膚科では糖尿病性足病変をよく経験する。
くは糖尿病による足潰瘍を罹患しており、フッ
た靴や靴の中敷きを、がん患者にも処方するよ
京大病院がソラフェニブの国内治験に参加
この病変と手足症候群との共通点は、いずれも
トケアの一環として靴の作成にも応じているの
うになったのはここ 3 年ほど。がん化学療に分
した際には、手足症候群で治療を中止する患
靴擦れによって生じ、わずかな外力で容易に水
だ。しかし、最近になってそのような患者の中
子標的治療薬の使用が増大するとともに、靴や
者が出た。実薬群で手足症候群が頻発するた
疱を形成してしまうことだ。糖尿病性足病変に
にがん患者が加わるようになってきた。
中敷きのオーダーメードによるフットケアを必
めに、医師にも患者自身にも実薬群に入った
対しては、対策として足に合う靴を作成するこ
がん患者の多くは、分子標的治療薬のソラ
要とする患者が出てきたのだという。
ことが察知できてしまうほどだったという。症
とが行われ、保険も利く。
状が現れる場合は服薬開始後 2 ∼ 3 週間のう
そこで松村氏は濱口氏と協力して、がん患
ちに起こることが多く、治療を開始して早期
者のための靴や中敷きの作成に乗り出した。ち
フェニブによる治療を受けている肝細胞が
ん(HCC)の患者たちで、いずれもソラフェ
がん化学療法の継続を妨げる手足症候群
ニブの副作用である手 足症 候群(hand-foot
手足症候群は、抗がん剤投与開始 2 ∼ 4 週間
に脱落してしまうことになる。松村氏は「ソラ
なみに糖尿病性足病変とがん患者の手足症候
syndrome; HFS)に悩んでいる人々だ。フッ
後に手掌や足底に発症し、水疱やびらん、亀裂
フェニブは HCC に対する治療効果の高い薬剤
群には相違点もある。糖尿病の患者では末梢
トケア外来に常駐している義肢装具メーカー
を生じることがある皮膚疾患。足底部で重症
であり、そのためには治療を継続することが
の感覚が麻痺していることから、ケアの必要性
(株)洛北義肢の
化すると歩くこともままならなくなり、患者の
必要。HFS で脱落する患者が多くなれば、薬
を感じていないことが多い。一方の手足症候群
社員、濵口洋光
QOL を著しく損なう(表)
。
の評価に大きな影響を及ぼしかねない」と指
患者では「痛くて歩けない」という強い疼痛を
氏はそうした患
同病院准教授の松村由美氏(皮膚科医、医療
摘する。
恒常的に感じている点だ。
者一人ひとりの
安全管理室長)によると、
「手足症候群は以前
足型を取り、自
から高用量のシタラビンやメトトレキサート投
社工場に持ち帰
与の 2 ∼ 3 週間後に出現することが知られてい
手足症候群の症状は足底では荷重部に出現
多いが、がん患者さんの場合は、 一刻も早く
り、それぞれの
たが、症状は一過性で自然に軽快するため大
する(26 ページ写真 2)
。手掌では指関節屈曲部
作ってくれ と応諾することが多い」
(松村氏)
足に合った靴や
きな問題になることがなかった。しかし、分子
や母指丘・小指丘などいずれも外力が加わっ
という。
靴の中敷きを作
標的治療薬の登場とともに患者が急増してき
たり、屈曲伸展したりする部位に症状が強い
費用は中敷きが約 30,000 円、靴まで作ると
成している(写
た。症状が発症する代表的な抗がん剤はカペ
(写真 3)
。靴が擦れる部分に紅斑や水疱が出現
京都大学医学部附属病院准教授で医療安全管理室長
の松村由美氏。
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写真1● 手足症候群患者のために作成された靴
日経メディカル Cancer Review 2011.9
足底の症状は圧力分散で緩和する
「糖尿病の患者さんに靴を奨めても費用が
かかるなどを理由に処方をためらうケースが
100,000 円で、医療保険が利く。
日経メディカル Cancer Review 2011.9
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4 支持療法
れてきた。その後体重分散寝具が開発され、普
足症候群の治療や悪化防止策として厚生労働
る支持療法の質を上
及して、体位変換も頻繁に行わなくて済むよう
省の『重篤副作用疾患別対応マニュアル』の解
げることは皮膚科医
足底の荷重分散のポイントは、アーチサポー
になった」
説には「安静や、柔らかい材質の足に合った
に こ そ 可 能 で あ り、
トにある(図)
。アーチとは土踏まずのことで、
洛北義肢の濵口氏は月 1 回、院内で開催され
靴」と記載されているだけで、具体的には説明
皮膚科医は皮膚の悪
写真 1 のように圧力がかからないアーチには病
る院内の糖尿病カンファレンスにも出席する
されていない。加工法や素材の選択には独自
性腫瘍に限らず、が
変ができない。靴や中敷きによって、ここに圧
足底装具の専門家だ。手足症候群に合う靴や
に工夫を続ける必要があったという。
ん全般の医療にかか
力がかかるようにする。体重を足底全体で支
中敷きの作成にあたって「足底全体に圧力が
えるようにして、特定の部位に集中する荷重を
かかるように トータルコンタクト を目指し
分散することが基本的な方針だ。松村氏は、こ
ている。足型の採型は立位で行い、微調整は
現在までに靴や中敷きを処方された手足症
師も積極的に皮膚科医に相談するようになっ
の考えは褥瘡対策と共通すると語る。
「寝たき
CAD/CAM システムで行っている。中敷きな
候群のがん患者は 8 例。カペシタビンとタキ
てほしい」と語る。
り患者の褥瘡は仙骨などの突出部に集中する。
らば 1 週間、靴まで作る場合は 1 カ月ほどかか
ソールを使っていた患者が 1 例ずつで、6 例は
京大病院のように積極的に靴まで処方する
荷重が集中し血管が圧迫されて壊疽を起こし
る」と説明する。
ソラフェニブを使用していた患者だ。治験中は
ためには、濵口氏のような熱心な靴のスペシャ
ていた。そのために頻繁な体位変換が推奨さ
細かなポイントには試行錯誤が必要だ。手
脱落が相次いだが、靴を処方するようになって
リストとの連携が欠かせない。がん化学療法の
から脱落する HCC 患者は激減した。
副作用対策でここまで対応するのはまだまれ
ある 40 歳代の男性 HCC 患者は多発性骨転
な例かもしれない。しかし、糖尿病潰瘍では靴
移や多発性肺転移を来していた。手足症候群
の作成が日常化しており、身近な専門家に相談
が重症化したことから中敷きを作成した。ソラ
することも無駄ではないかもしれない。松村氏
フェニブによる治療を 1 年半ほど続けることが
は「がん化学療法にかかわる副作用対策はチー
でき、骨転移病変が消失、肺病変も転移巣 1 つ
ム医療を実践するよい機会と捉えるべき」と
となったことから摘出手術を受け、現在、腫瘍
語っている。
中敷きに1週間、靴なら1カ月
写真2● 手足症候群の足底の症状
写真3●手掌に現れた症状
がん患者の日常生活をサポート
(株)洛北義肢・製造部
(靴)の濵口洋光氏。
わりを持つべき。同
時に皮膚科以外の医
のない状態で生存している。
また、カペシタビンによる治療を受けていた
転移性乳がんの女性患者も、処方された中敷
きを使いながら通院を続けている。この患者は
手足症候群の症状は足底では荷重部に出現する。
写真4● 足首部の症状
手掌では指関節屈曲部や母指丘・小指丘などいずれも外力が加わった
り、屈曲伸展したりする部位に症状が強い。家事に従事する女性に多く
出現する。
写真5●別の足底の症状
「ただ延命されるのではなく日常生活を続けて
いきたい」と担当看護師に語っている。
図● 手足症候群の足病変対策のポイント
足が靴の中でずれないように足背は
紐かマジックテープで靴にフィットす
るように適切に締める
松村氏は「外来で化学療法を行う機会が増
足趾を
締め付けない
えている。以前のように生活のすべてをがん治
療に注ぐという方針ではなく、患者の QOL を
重視し、仕事をこなし日常生活を送りながら抗
がん剤治療を継続することが可能になってき
たと指摘する。
荷重部のタコ、魚の目(べんち、鶏眼)が出現することもある。
靴が擦れる部分に紅斑や水疱が出現する。
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日経メディカル Cancer Review 2011.9
求められる皮膚科医の有効活用
皮膚に有害事象を発症することが多い分子
標的治療薬の登場以降、皮膚有害事象に対す
足底圧の分散化のため
靴の中敷きが足の形にフィットすること
(図提供:松村氏)
日経メディカル Cancer Review 2011.9
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