芝川第一調節池

芝川第一調節池
10月初旬、見沼たんぼ南部に位置している「芝川第一調節池」をウォーキングする。こ
のあたりといえば昭和33年9月27日未明、百年に一度といわれる
“超”
大型台風が関東地方
を襲った所でもある。この台風によって芝川上流「下山口新田(見沼たんぼ南部)」全域が
湛水、さらに下流の川口市街では23,800戸の家が浸水した。台風が去った後、下山口新
田の風景は一変し、海のようになった水面に鏡のごとく青空を映し出した。まさに天地創造
級の台風であった。世に言う「狩野川台風」である。後に、この狩野川台風が発端となり、
さいたま市は第一〜七までの調節池建設計画を打ち出すこととなる。
「芝川第一調節池」は、全調節池容量(1,100万m3)のうち約半分(550万m3)の容量を
持つ、調節池群の中で最大のものである。周囲約4km、広さ約73.3ha。広大だ。百年
に一度の台風襲来を想定しただけのことはある。
さて、数値の羅列はさておき実際に「芝川第一調節池」を歩いてみた。まず目に飛び来
んできたのはデータ通りの広大な風景だ。73.3haという数値はダテではない。周りを見渡し
てみた。視界をさえぎるものが無く、夏草が生い茂っている。人工的なものは感じられず、
昔から自然に存在していた地形に思える。すり鉢状の調節池を遊歩道がぐるりと囲んでおり、
対岸の遊歩道が霞んで見えた。遊歩道と調節池には高低差があって、調節池の底を見
下ろす形になる。なんとなく山に登っている感覚だ。気分がいい。「煙となんとかは高いと
ころが好き」
といわれるが、今日に限り否定しないでおこう。
のんびりと遊歩道を歩いていると、秋口のひんやりとした風が首筋をかすめていく。ほん
のり枯れ草の香りがする。思わず深呼吸。冷たい空気が肺を満たす。もう一度深呼吸。
体が透き通るようだ。耳を澄ますとモズの声が聞こえてきた。なんとも懐かしいような、何か
を思い出させるような。遠い昔、こんな風景を見たような気がする…。これを「おセンチ」と
いうのだろうか。おセンチなオヤジが一人。絵にはならない
(笑)。
冒頭で「天地創造級の台風」と書いたが、「狩野川台風」は下山口新田を
“海”
にしただ
けではおさまらず、時を越えて
“調節池”
まで創造した
(させられたと言うべきか)。おそらく
「狩
野川台風」が来なければこの第一調節池は存在しなかったであろう。そう思いながら今一
度調節池を眺めてみた。ススキの穂が夕日にたなびき、キラキラと金色に輝いている。この
平和な風景を見ながら調節池本来の“使命”を考えると複雑な気持ちになった。願わくばこ
の調節池がその使命を達する事の無いよう…。
いつの間にか夕闇がせまって来た。澄んだ宵の空に冷たいお月さま。少し寒くなってきた。
さて、
そろそろ家に帰って一杯やろうか。芝川第一調節池。いずれまたここを訪れてみよう。
(木野内 宏行記)
その時には違った表情を見せてくれるだろうか。
普段見慣れたイヌタデも
よく見ると味がある
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とりあえず、広い…
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この後夕日が沈み、空にきれいな満月が浮かんだ
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