戦略的基盤技術高度化支援事業 研究開発成果事例集

戦略的基盤技術高度化支援事業
研究開発成果事例集
平成21年度∼平成23年度採択事業
関東経済産業局
− 製 造 産 業 課 −
Contents
分野
戦略的基盤技術高度化支援事業
研究開発成果事例集
研究開発プロジェクト名
事業管理機関名
採択年度
ページ
●
組込み
ソフトウェア
状態遷移モデルベース車載LAN検証ツール開発
イーソル株式会社
21年度
10_11
●
組込み
ソフトウェア
Ultra-Android:マルチコア対応
組込みソフトウェア・プラットフォームの研究開発
株式会社つくば研究支援センター
22年度
12_13
●
組込み
ソフトウェア
直感的操作性と機能拡張性を有する
ロボット用組込みソフトウェアの開発
財団法人理工学振興会
22年度
14_15
●
組込み
ソフトウェア
自動化/共通化されたフォトマスク検査装置の開発
株式会社アジャイル・パッチ・ソリュー
ションズ
22年度
16_17
●
組込み
ソフトウェア
準天頂衛星L1-SAIF信号を用いる
高精度測位GPS-LSIの開発
株式会社コア
22年度
18_19
●
組込み
ソフトウェア
ハードウエアRTOSを使った高性能・低消費電力型
マルチプロセッサ・プラットフォームの研究開発
テセラ・テクノロジー株式会社
22年度
20_21
●
組込み
ソフトウェア
忠実色再現手法による画像色管理システムの開発
国立大学法人静岡大学
22年度
22_23
●
組込み
ソフトウェア
情報家電等に応用する
医療健康統合化プラットフォームの開発
財団法人日立地区産業支援センター
22年度
24_25
●
組込み
ソフトウェア
有害物質の特定と含有量を瞬時に検知分析できる
持ち運び可能な蛍光X線分析装置の開発
株式会社イーアンドエム
22年度
26_27
●
組込み
ソフトウェア
超並列集積回路上の画像処理組み込みミドルウェア
開発による高度計測システムの実証
財団法人埼玉県産業振興公社
22年度
28_29
●
組込み
ソフトウェア
昇華型染色における人工物メトリクスを利用した
偽造防止システムの研究開発
楽プリ株式会社
22年度
30_31
●
組込み
ソフトウェア
全自動3D映像プラットフォームBinoQシリーズの開発
国立大学法人東京工業大学
22年度
32_33
●
組込み
ソフトウェア
HEV・EV・FCV向けモータ・ジェネレータ・トラン
スミッション開発用試験機統合制御システムの開発
株式会社スペースクリエイション
22年度
34_35
●
組込み
ソフトウェア
血液診断バイオマーカーのための定量比較
LC-MSロボットにおける組込みソフトウェアの開発
株式会社MCBI
22年度
36_37
●
金型
微細構造・高硬度金型の超精密微細加工技術と
成形技術の開発
株式会社長津製作所
21年度
38_39
●
金型
角隅を有する金型の磨きレス鏡面加工技術の開発
財団法人理工学振興会
21年度
40_41
●
金型
バックライト導光板の低コスト化・薄型化を実現する
金型とプレス機の開発
株式会社蔵持
22年度
42_43
1
Contents
分野
研究開発プロジェクト名
●
金型
食品包装機械のフィルムに傷をつけない
衛生的な袋成形型の最適設計と製造法
●
金型
採択年度
ページ
株式会社キャンパスクリエイト
22年度
44_45
成形サイクルの短縮に係わる型技術の開発
池上金型工業株式会社
22年度
46_47
●
金型
ドライプレス加工用のボロンドープダイヤモンド
コーテッド高靭性超硬合金工具の開発
地方独立行政法人東京都立産業技術
研究センター
22年度
48_49
●
金型
成形金型の短納期化とデザイン高度化を実現する
低投資な超精密微細切削システムの研究
財団法人理工学振興会
22年度
50_51
●
金型
ガラスエポキシ基板成形の高効率・低コスト化に資する
革新的な打抜き加工技術の開発
財団法人日立地区産業支援センター
22年度
52_53
●
金型
自動車構造部材用CFRP−金属ハイブリット部品の
プレス成形加工技術に関する研究
矢島工業株式会社
22年度
54_55
●
金型
微細加工技術を用いた、樹脂製注射針の開発
財団法人群馬県産業支援機構
22年度
56_57
●
金型
金型へのしぼ加工(模様付け)に使用される
大判フィルム一貫作成技術の開発
一般財団法人金属系材料研究開発センター
22年度
58_59
●
電子部品・
デバイスの実装
三次元実装技術を使った車載用イメージセンサ用
CSPの開発
よこはまティーエルオー株式会社
21年度
60_61
●
電子部品・
デバイスの実装
電子部品・デバイスの実装評価に必須な局所領域・空間
における漏れ磁界磁化の動的挙動を可視化する技術の
開発
ネオアーク株式会社
22年度
62_63
●
電子部品・
デバイスの実装
長寿命、高効率かつ高付加機能を持つ
次世代LED照明の技術開発
株式会社タキオン
22年度
64_65
●
電子部品・
デバイスの実装
広角視野ディスポーザブル多機能内視鏡デバイスの開発
株式会社菊池製作所
22年度
66_67
●
電子部品・
デバイスの実装
コンパクト、高効率、高出力の車両用永久磁石式
発電機と制御装置の開発
PMジェネテック株式会社
22年度
68_69
●
電子部品・
デバイスの実装
耐熱導電性接着剤の開発
MEFS株式会社
22年度
70_71
●
電子部品・
デバイスの実装
ナノメカニカルセンサー技術を用いた
褥瘡管理用評価装置の開発
アルケア株式会社
22年度
72_73
●
電子部品・
デバイスの実装
画像・音声探査機とマイクロ波センサの融合による
災害救助用探査装置の新分野開拓
新菱工業株式会社
22年度
74_75
炭素繊維複合材料を用いた軽量化部材製造に適した
高速複合プレス成形技術の開発
株式会社チャレンヂ
22年度
76_77
●
プラスチック
成形加工
2
事業管理機関名
分野
研究開発プロジェクト名
事業管理機関名
採択年度
ページ
●
プラスチック
成形加工
カプサイシンとインターカレーション技術による循環環境
適応型生物忌避剤のプラスチック成形技術の研究開発
公益財団法人千葉県産業振興センター
22年度
78_79
●
プラスチック
成形加工
腹腔内手術後に用いる
感染レス閉鎖式吸引ドレナージシステム開発
アルケア株式会社
22年度
80_81
●
プラスチック
成形加工
自動車配管部品の樹脂化技術の開発
株式会社ジュンコーポレイション
22年度
82_83
●
プラスチック
成形加工
空圧による均一加圧を実現する
大面積ナノインプリント装置の開発
株式会社キャンパスクリエイト
22年度
84_85
●
粉末冶金
ナノフェライト粒子の量産製造技術の開発と応用展開
財団法人さいたま市産業創造財団
22年度
86_87
●
溶射
次世代コーティングプロセス(ウォームスプレー技術)
の開発
財団法人埼玉県産業振興公社
22年度
88_89
●
鍛造
環境対応の高熱効率鍛造加熱法の開発と実用化
社団法人日本鍛造協会
21年度
90_91
●
鍛造
加工速度制御鍛造による高精度ヘリカルギアの開発
鍛造技術開発協同組合
21年度
92_93
●
鍛造
Ni基合金鍛造の高度量産プロセスの開発
鍛造技術開発協同組合
22年度
94_95
●
鍛造
輸送用機器等の軽量化向け
新規耐熱性マグネシウム合金鍛造部品の開発
株式会社新技術研究所
22年度
96_97
●
鍛造
高炭素クロム軸受鋼の冷間鍛造技術開発
千曲精密工業株式会社
22年度
98_99
●
鍛造
アルミ鍛造の生産工程削減を可能とする潤滑油の開発
財団法人埼玉県産業振興公社
22年度
100_101
●
動力伝達
高効率伝達システムによる
極小径先端外科手術ロボットハンド実用化の研究開発
鹿沼商工会議所
22年度
102_103
●
動力伝達
3次元内部構造顕微鏡を用いた高精度形状測定及び
内部観察技術の開発
高島産業株式会社
22年度
104_105
●
鋳造
高灰分コークス使用時における高生産性操業技術の開発
社団法人日本鋳造協会
21年度
106_107
●
鋳造
アルミダイカスト用ホットチャンバ法の鋳造技術開発
グンダイ株式会社
22年度
108_109
●
鋳造
高熱伝導性アルミニウム合金用
大型ホットチャンバー式鋳造装置の開発
株式会社菊池製作所
23年度
110_111
3
Contents
分野
●
鋳造
4
研究開発プロジェクト名
事業管理機関名
採択年度
ページ
重電機器用鋳鋼品の高品質化のための技術開発
日本鋳造株式会社
22年度
112_113
●
金属プレス加工
革新的デジタルプレス加工技術による
精密厚鋼板成形システムの開発
社団法人日本金属プレス工業協会
21年度
114_115
●
金属プレス加工
アルミダイカスト品の高強度・高精度塑性結合の研究開発
財団法人理工学振興会
21年度
116_117
●
金属プレス加工
シール用金属部品の省資材化・低コスト化を実現する
板金プレス加工技術の研究開発
株式会社井口一世
21年度
118_119
●
金属プレス加工
三次元マイクロ構造加工用金型およびプレス技術の開発
財団法人日立地区産業支援センター
22年度
120_121
●
金属プレス加工
高出力産業用燃料電池スタック実現のための
金型技術、金属プレス技術、実装技術及び
めっき技術の高度化研究開発
財団法人長野県テクノ財団
22年度
122_123
●
クラウドコンピューティング仮想試作基盤ものづくり
金属プレス加工 (金属プレス)プラットフォーム構築
社団法人日本金属プレス工業協会
22年度
124_125
●
金属プレス加工
リチウムイオン電池用金属缶のドライプレス技術開発
地方独立行政法人東京都立産業技術
研究センター
22年度
126_127
●
位置決め
不特定形状のワークを把持可能なフレキシブル構造を
有する低コストなエンドエフェクタの開発
ダブル技研株式会社
22年度
128_129
●
位置決め
インテリジェント・ロータリエンコーダの
製品化に関する研究開発
株式会社キャンパスクリエイト
22年度
130_131
●
位置決め
自律航行型水中多目的ロボット(AUV)の開発
株式会社キュー・アイ
22年度
132_133
●
位置決め
超視覚蛍光検査法による高速高精度ギョウチュウ卵
自動検査システムの開発
株式会社電興社
22年度
134_135
●
切削加工
航空機エンジン等難削材大径薄肉部品の
無人化加工技術の開発
財団法人長野県テクノ財団
21年度
136_137
●
切削加工
航空機主翼等CFRPに対応した切削加工技術の開発
財団法人浜松地域テクノポリス推進機構
21年度
138_139
●
切削加工
PE摩耗ゼロを目指すTi-13Nb-13Zr(F1713)製
人工股関節骨頭コンポーネントの開発
財団法人さいたま市産業創造財団
22年度
140_141
●
切削加工
微細部品の搬送・組立てのための実用的な
マイクロ・パーツ・ハンドリングシステムの試作開発
株式会社森精機製作所
22年度
142_143
●
切削加工
超音波切削加工技術を用いた
航空機機体用複合材穴あけ加工技術の開発
平和産業株式会社
22年度
144_145
分野
研究開発プロジェクト名
事業管理機関名
採択年度
ページ
●
切削加工
高出力ファイバーレーザ加工実現を目指した
高性能光部品の製品開発
公益財団法人やまなし産業支援機構
22年度
146_147
●
切削加工
大口径シリコンウエハの極薄化に対応した
高精度切削加工技術の研究開発
ミクロ技研株式会社
22年度
148_149
●
切削加工
環境対応型先進無人飛行機(UAV)用
ジェットエンジンの開発
財団法人にいがた産業創造機構
22年度
150_151
●
切削加工
高速レーザードライエッチング法の開発
株式会社メガオプト
22年度
152_153
●
切削加工
難削材における次世代ベアステントの製作に係る研究開発
タマチ工業株式会社
22年度
154_155
●
切削加工
ピコ秒レーザーによる多次元微細パターン加工技術の開発
財団法人理工学振興会
22年度
156_157
●
切削加工
高品質シリコンウエハの安定供給のための
加工技術と検査技術の開発
公益財団法人やまなし産業支援機構
22年度
158_159
●
高機能
化学合成
色素増感太陽電池用色素の化学合成プロセスの開発
綜研化学株式会社
22年度
160_161
●
熱処理
難圧延自動車鋼板等高級鋼材用生産技術に係る
熱間圧延油の混合状態高機能制御技術の開発
公益財団法人千葉県産業振興センター
22年度
162_163
●
熱処理
軽金属材料及びプラスチックへの
水素フリー DLC低温成膜技術の開発
JFEテクノリサーチ株式会社
22年度
164_165
●
熱処理
低温プラズマ窒素イオン注入法による
低摩擦高耐摩耗駆動系部材表面の開発
地方独立行政法人東京都立産業技術
研究センター
22年度
166_167
●
熱処理
アルミ合金自動車部品耐久性向上のための
高密度プラズマ窒化技術開発
公益財団法人やまなし産業支援機構
22年度
168_169
●
熱処理
マイクロ波励起ラジカルによる
選択的高速アニール処理技術の開発
特定非営利活動法人ものづくり支援機構
22年度
170_171
●
熱処理
金型の熱処理における歪みの極小化技術の研究開発
株式会社信州TLO
22年度
172_173
●
溶接
鋼材の摩擦攪拌接合を実現する
革新的高安定・高効率装置の開発
国立大学法人大阪大学接合科学研究所
22年度
174_175
●
溶接
車載固定抵抗器の高性能・高生産性化に資する
テーラードストリップ製造技術の開発
株式会社特殊金属エクセル
22年度
176_177
●
溶接
レーザ溶接数値化アルゴリズムでの
インライン判定システムの開発
公益財団法人千葉県産業振興センター
22年度
178_179
5
Contents
分野
6
研究開発プロジェクト名
事業管理機関名
採択年度
ページ
●
溶接
温度場制御技術による薄板構造物の
極低歪レーザ溶接方法の開発
公益財団法人千葉県産業振興センター
22年度
180_181
●
溶接
拡散接合技術による
微細構造物の接合技術と信頼性の確立
財団法人にいがた産業創造機構
22年度
182_183
●
溶接
次世代太陽電池パネルに対応した
セル配線技術の研究開発
財団法人長野県テクノ財団
22年度
184_185
●
溶接
電気自動車の走行モータ用超軽量シャフトを実現する
超精密摩擦圧接システムの開発
財団法人埼玉県産業振興公社
22年度
186_187
●
溶接
難接合材の固相拡散溶接による高機能部品製造技術・
部品の開発
財団法人長野県テクノ財団
22年度
188_189
●
めっき
アモルファス合金めっきによる
燃料電池供給用水電解装置の開発
財団法人栃木県産業振興センター
22年度
190_191
●
めっき
電子部品の超微細化に対応できる
多層・複合めっき技術及び量産技術の開発
株式会社エルグ
22年度
192_193
●
めっき
環境規制に対応した電解クロムめっき法の開発
一般社団法人首都圏産業活性化協会
22年度
194_195
●
発酵
低コスト小型メタン発酵及び
脱臭機能付バイオガス発電装置の開発
京葉瓦斯株式会社
22年度
196_197
●
発酵
廃水産資源および食品加工残渣を原料とする
高機能性発酵飼料製造技術の開発
国立大学法人千葉大学
22年度
198_199
●
真空の維持
CNX冷陰極X線管」特有真空環境の最適化
及びX線発生装置の開発
社団法人研究産業・産業技術振興協会
22年度
200_201
●
真空の維持
太陽電池製造装置用シランー水素濃度計の開発
バキュームプロダクツ株式会社
22年度
202_203
●
真空の維持
新原理による高信頼・高精度の全圧/分圧真空計の開発
キヤノンアネルバ株式会社
22年度
204_205
●
真空の維持
ナノ構造と硬質ガラス薄膜を用いた
機能性タッチパネル製造技術の開発
財団法人埼玉県産業振興公社
22年度
206_207
中小ものづくり高度化法の体系
自動車、情報家電、
ロボット、燃料電池など我が国を牽引する製造業の競争力を支える中小企業の持つ基盤技術を支援する
「中
小企業ものづくり高度化法」
が平成18年に策定された。
この法律は、国が策定した20の特定ものづくり基盤技術における
「特定ものづくり基盤技術高度化指針」
に沿って、中小企業が
作成した特定研究開発等計画を国が認定し、
研究開発委託費、政府系金融機関の低利融資などの支援策を展開する。
特定基盤技術の指定、技術高度化指針の策定︵国︶
認定を受けた中小企業への支援
研究開発計画の認定︵国︶
研究開発計画の作成・申請︵中小企業︶
研究開発支援
戦略的基盤技術高度化支援事業(研究開発支援事業)
資金面の支援
中小企業信用保険法の特例
中小企業投資育成株式会社法の特例
特許料等の特例
(株)日本政策金融公庫の低利融資
モノ作り基盤技術高度化のための環境整備
事業者の
「出会い」
促進
川上・川下ネットワーク構築支援事業
人材育成の支援
高専等を活用した中小企業の人材育成を支援
知的財産の活用支援
計量標準供給基盤の強化
技術継承の円滑化支援 ほか
特定モノ作り基盤技術高度化指針とは
組込ソフトウェア、
金型、
電子部品・デバイスの実装、
プラスチック成形加工、
粉末冶金、
溶射、
鍛造、
動力伝達、
部材の結合、
鋳造、
金属プレス加工、
位置決め、
切削加工、
織染加工、
高機能化学合成、
熱処理、
溶接、
めっき、
発酵、
真空の維持
上記20の基盤技術を活用し、
今後中小企業が目指すべき技術開発の方向と将来ビジョン
戦略的基盤技術高度化支援事業のスキーム
戦略的基盤技術高度化支援事業
モノ作り基盤技術の高度化に向けて、
中小企業が川下発注企業、研究機関等と協力して行う研究開発を支援。
中小企業は
「中小企業ものづくり高度化法」
に基づく認定を受けた研究開発計画について、
プロジェクトの公募に提案し、研究開発
の支援を受けることができる。
経済産業局
③委託
②提案
①公募
共同研究体
(コンソーシアム)
事業管理機関
中小企業
中小企業
認定を受けた
中小企業
大企業
研究機関
(大学・公設機関)
事 業 名
21、
22、
23年度採択事業
22年度採択経済危機対応・地域活性化予備費事業
委託金額
4,500万円以内
1億円以内
研究機関
2年度または3年度
1年以内
応募資格
事業管理機関、研究実施期間、総括研究代表者(プロジェクトリーダー)
、副総括研究代表者(サブプロジェクトリー
ダー)
によって構成される共同体(コンソーシアム)
を基本とし、
認定を受けた中小企業者を全て含む必要がある。
対象となる研究開発計画は法第4条第1項に基づき認定を受けた特定研究開発等計画とする。
お問合せ
関東経済産業局 製造産業課
7
Category
組込みソフトウェア
溶射
自動車、携帯電話、情報家電、ロボット等の機器の機能を実
基材に対して溶射原料としての、粉体若しくは棒・ワイヤー
現するソフトウェアであり、製品の製造段階で当該製品の製
にエネルギーを加えて溶融又は半溶融の状態にしながら高速
造業者によってROMなどに実装(内蔵)されている。原則、
で噴射し、基材上で衝突凝固させて密着・積層することによ
当該製品のユーザーによって追加・変更・削除が行えない。
り皮膜を形成する技術。
金型
鍛造
同一形状の製品(部品)を大量に生産する際に使用するツー
可鍛性(高温に加熱すると軟化して弾性を失い延性が大きく
ルであり、主として金属材料を加工して作る型の総称をいう。
なる性質)のある金属材料を高温に加熱して、ハンマやプレ
主な金型の種類として、プレス用、鍛造用、ダイカスト用、
スなどで大きな力を加えて所要の寸法形状に成形すると同時
プラスチック用、ガラス用、ゴム用、粉末冶金用等がある。
に、組織や性質を改良する加工方法。
電子部品・デバイスの実装
動力伝達
回路設計に基づいて部品間を接続するために必要な導体パ
輸送機械、産業技術等の各種機械・装置において、動力の伝達、
ターンを絶縁基板の表面又は表面とその内部に形成し、電子
回転軸の変換、回転速度の加・減速等に不可欠な基盤技術。
部品などの搭載やベアチップの接続などを行う装着技術。
プラスチック成形加工
部材の結合
成形機に金型を取りつけ、熱溶融又は計量したプラスチック
輸送機械・産業機械をはじめ、橋梁・時計・めがね等の各種
を金型内に圧入し、化学反応や冷却により固化することによ
の機械・設備・製品において2個以上の部材を結合する技術。
り所定の形状に成形する加工技術。
粉末冶金
8
鋳造
原料として金属粉末を用い、添加物と混合させ、金型中に充
鋳鉄・アルミニウム合金・銅合金等の材料を溶解し、砂型・
填し、圧縮成形(圧粉体)の後に焼結する技術。プレス成形
金型・プラスチック型等の各種鋳型に注湯・凝固させること
法と金属粉末射出成形法に二分される。
で、目的の形状に成形する加工方法。
金属プレス加工
熱処理
プレス機械に金型を取りつけ、金型を介して材料に力を加え
金属材料・製品に加熱、冷却の熱的操作を加え、金属組織を
て打ち抜き、曲げ、絞り等を行うことによって金属を成型す
変化させることにより、耐久性、耐摩耗性、耐疲労性さらに
る加工技術。
は耐食性、耐熱性を与える技術。
位置決め
溶接
工作物や加工工具等の位置を正確に定めて保持するととも
組み立てようとする部材の一部に、熱(摩擦熱を含む)、
に、連続した瞬間ごとにそれらの位置を正確に運転制御する
圧力若しくはその両者を加え(必要があれば溶接棒等も)、
ために必要となる工作機械等の部分品・付属品等によって実
その接合部が連続性を持つように部材を一体化する技術。
現する技術。
切削加工
めっき
工作機械と切削工具を使用して、被加工物の不要な部分を切
表面処理の一種で、鉄・真鍮・樹脂等の素材を、金・銀・銅・
屑として除去し、所要の形状や寸法に加工する除去加工技術
クロム・ニッケル等の金属で被覆することにより、耐腐食性、
の一種。
耐摩耗性、電気的特性、磁性等の機能や性質を付加する技術。
織染加工
発酵
糸加工、織編物製造、不織布、染色・機能性加工等における
酵母・細菌などの微生物が有機化合物を分解してアルコール、
繊維の高度な加工技術。
有機酸などを生ずる過程で、酒・醤油・味噌・ビタミン・抗
生物質等を製造する技術。
高機能化学合成
真空の維持
さまざまな有機化合物を原料とし、化学反応により、ディス
半導体、液晶パネル、光学部品、食品、医療品等の製造工程
プレイ、光記録、プリンタ、エネルギー変換等の分野で必要
等において、大気圧よりも低い圧力の気体で満たされている
不可欠な有機材料を化学合成する製造方法。
特定の空間状態(真空状態)を作りだし、その状態を維持す
る技術。
9
状態遷移モデルベース車載 LAN 検証ツール開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
安全性の確保
高度化目標
信頼性の向上/利用品質の向上
図 1 プロジェクト概要
研究開発の背景及び経緯
イーソル(株)がこれまでに自動車業界において取り組
んできた事業として、イーソル(株)にて製品化した車載
LANのECU(電子制御ユニット)診断プロトコル(製品
名:Dr.CAN)及びリコール等が発生した時にECUのソフ
トウェアの書き換えを行う車載LANプロトコル(製品名:
Dr.Repro)がある。この製品はECU側に組み込まれるソ
フトウェアであり、イーソル(株)の販売先としてはステ
アリングやエンジン・ブレーキ等を製造するTier1と呼ば
れるECUサプライヤである。この事業は自動車メーカー
が自車に載せる電子制御ユニットの標準ソフトウェアを
イーソル(株)からTier1が購入することにより車載LAN
の安全性・信頼性を確保することを目的して開始した事業
であり、自動車メーカー・Tier1・イーソル(株)にとっ
て大きなメリットをもたらした。しかしながらイーソル
(株)の車載LANプロトコルを採用しているにもかかわら
ず、数社のTier1が自動車メーカーの受け入れ検査に合格
しない事例が発生した。この要因を探ってみると全てが
Tier1側の検証不足によるものと判明した。その反省を踏
まえ、ソフトウェアを標準化(モデル化)するだけでなく
検証も標準化(モデル化)が必要だと痛感し、本研究開発
のテーマに至った。
研究開発の概要及び成果
2年目は、状態遷移モデルの編集および実行機能の作成
を中心に実施し、これらの機能を完成させた(図2 ∼図3)
。
図 2 状態遷移モデル編集画面
図 3 状態遷移モデル実行画面
3年目は、シグナル値・周期の解析機能およびテスト報
告書の自動作成機能の作成を中心に実施し、これらの機能
を完成させた(図4 ∼図7)。
本研究開発では、①車載LANプロトコルのモデル化に
よる高品質検証の確保 ②車載LANに流れるデータ(シ
グナル)の問題箇所の見える化 ③車載ネットワーク設計
の妥当性を検証する仕組み作り を目標とし、その手法と
して状態遷移モデルを取り入れた検証ツールを開発するこ
ととした(図1)
。
1年目は、機器側とPC側の通信インタフェース部の作
成および各機能のプロトタイプを作成し、必要な機能の実
現可能性を確認した。
図 4 シグナル値解析グラフ
10
21年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
組込みソフトウェア
図 5 シグナル周期解析グラフとログ画面
①ハードウェア
CANチャンネル数:2
CAN規格:CAN2.0B対応
CANビットレート(Kbps):125,250,500,1000
タイムスタンプ:1μsec
PC間インタフェース:USB2.0(USB1.1互換)
表示:7セグメントLED×3, LED×3
入力:操作用スイッチ×2
メモリ:内蔵2MBフラッシュメモリ
図 8 機器外観
図 6 シグナル解析結果ファイル
②ソフトウェア
・CANバスのモニタリング機能
・シグナル値のトレース表示、グラフ表示機能
・シグナル値・シグナル周期の解析および統計機能
・状態遷移モデルによる通信シミュレーション機能
・ログに記録したCANデータのリプレイ機能
・テスト報告書の自動作成機能
図 7 テスト報告書
本研究開発で開発したツールを使用して車種ごとの検証
用モデルを作成し、検証を実施することによって、短期間
で漏れの無い高品質な検証が可能になると考える。
図 9 機器 -PC 接続図
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
イーソル株式会社
◎所在地 : 〒 164-8721 東京都中野区本町 1-32-2 ハーモニータワー
◎担当者 : 土屋 大介
◎ TEL:03-5365-1280 ◎ FAX:03-5365-1281 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): イーソル(株)
◎主たる研究実施場所 : イーソル(株)
11
Ultra-Android:マルチコア対応
組込みソフトウェア・プラットフォームの研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
研究開発の概要及び成果
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電及び携帯電話に関する事項
使い勝手の良さ
高度化目標
利用品質の向上
研究開発の背景及び経緯
■スマートフォン向けに普及が進むAndroidTM
次世代携帯電話であるスマートフォンは、2015年には
約10億台とPCの約3倍の市場に成長し、その約48%が
AndroidTMになると予測されている。
携帯端末の性能を左右するプロセッサ(アプリケーション・プ
ロセッサ)は、ARMが主流であり、半導体ベンダ各社がこのプ
ロセッサをSoC
(System on Chip)
に搭載する限り、
プロセッ
サがマルチコアになっても大きな性能差はでない。その結果、
半導体も携帯端末も、
世界的なコスト競争に陥っている。今後、
携帯端末ハードウェアで利益を追求するために、ユーザの要求
に応える高速化や低消費電力化で、大幅に差別化することが
できる携帯端末用プロセッサと、
ソフトウェア・プラットフォー
ムに関するイノベーティブな技術の開発が期待されている。
■共同研究開発の経緯
2007 年 12 月より、
(株)トプスシステムズは(独)産総
研情報技術研究部門と「ヘテロジニアス・マルチコア・プロ
セッサ上のオブジェクト分散処理」の研究開発を行ってき
た。2009 年 9 月より当事業にて研究開発をさらに進めて
おり、2012 年末に事業化を目指す。
12
■Ultra-Android で1桁以上性能を向上
本研究開発では、AndroidTM 用のアプリケーション・ソ
フトウェアを変更せずに、処理能力が高く、消費電力を大
幅に抑えられるヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサの利
用を可能とする、
「Ultra-Android」ソフトウェア・プラッ
トフォームを開発する。そして、Ultra-Android を、
( 株)
トプスシステムズのヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサ
(開発中)上で動作さ
「TOPSTREAMTM Ultra-Android」
せた場合に、従来のプロセッサを用いる携帯端末に対し、以
下に示す大幅な性能向上を達成することを目標とした
(図1)
。
① 10 倍以上の高速化(アプリの処理時間が 1/10 以下)
② 1/10 以下の低消費電力化(処理に必要な電力)
③リアルタイム化(キー入力等に対する応答時間の短縮)
■Ultra-Androidソフトウェア・プラットフォームの開発
Android TM に対する詳細分析を行った結果に基づいて、
アプリケーション・プログラムのソースコードを変更せず
に、マルチコア上でソフトウェアを並列実行する方式を検
討し、
「Ultra-Android の仕様(Rev.3.0)
」を策定した。
また、ソフトウェア・プラットフォームの基本構成要素であ
る、Linux カーネルと gcc コンパイラ、及び基本ライブラ
リを、
「TOPSTREAM™ Ultra-Android」
(開発中)向け
に移植し、その基本性能を評価した。
■性能・消費電力シミュレーション
ヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサのシミュレー
ション・モデルを作成し、Ultra-Android ソフトウェア・
プラットフォームの上でテキスト入力アプリケーションを実
行した際の性能と、消費電力のシミュレーションを行った。
図 1 従来技術の課題と本研究開発の特長
22年度採択
[一般枠]
その結果、①高性能化:基準プロセッサの 10 倍高速 ( 消
費電力:1/5)
、②消費電力:基準プロセッサの 1/25(処理
速度:同等)
と、目標を上回る性能向上が可能な見通しを得
た(図 2)
。
■ソフトウェアIP のライセンス販売とサービスの提供
本研究開発を平成 23 年度に完了し、
(株)
トプスシステム
ズは、平成 24 年初頭に子会社として( 株)Cool Soft を設
立し、平成 24 年度より次のように展開していく(図 3)
。
組込みソフトウェア
■評価システムの開発
基本的なスマートフォンの機能を実現し、Android TM
アプリケーション実行時の性能評価が可能な評価システム
を開発した。評価システムは、TOPSTREAM TM ヘテロジ
ニアス・マルチコア・プロセッサを実装する FPGA、UltraAndroid ソフトウェア・プラットフォームと Android TM ア
プリケーションを搭載するメモリ、そしてタッチスクリー
ンとカメラを接続するインターフェイスを持つ。評価システ
ムで動作させる前に、ハードウェア・エミュレータを用いて、
マルチコア上で、プラットフォームを動作させハードウェ
アとソフトウェアの協調機能検証を行った。
開発された製品・技術のスペック
(1)Ultra-Android ソフトウェア・プラットフォーム(ソ
フトウェア IP)
販売形態: ライセンス販売
用 途: マルチコア対応の Android TM 端末等に搭載
特 徴: Android TM バージョン sdk-2.2 r1,Linux
バージョン 2.62.7 に対応
(2)Ultra-Android カスタム開発サービス
販売形態: 開発サービス
用 途: デバイス・ドライバ等のお客様のニーズに合わ
せたソフトウェア開発
図 3 製品販売とサービス提供スキーム
図 2 性能・消費電力シミュレーション結果
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社つくば研究支援センター
◎所在地 : 〒 305-0047 茨城県つくば市千現 2-1-6
◎担当者 : 高田 青史
◎ TEL:029-858-6061 ◎ FAX:029-858-6014 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)トプスシステムズ
◎主たる研究実施場所 :(株)トプスシステムズ
13
直感的操作性と機能拡張性を有する
ロボット用組込みソフトウェアの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
サービスロボットに関する事項
安全性の確保
高度化目標
信頼性の向上(機能安全確保を含む)/高性能化・機能の向上
/柔軟性、適応性の確保
研究開発の概要及び成果
本研究開発では、クラウド上の各種分散サーバーと開発
者PC用Webアプリケーションや各種サービスの開発(開
発項目1)
、通信制御駆動部の試作とWebアプリケーショ
ンへの対応化(開発項目2)、評価用ロボットの構成と評
価(開発項目3)を行った(図1)。
研究開発の背景及び経緯
これまで、非産業用の次世代ロボット、いわゆるサー
ビスロボットの市場を創出し拡大させるためのプロジェ
クトがいくつか行われている。たとえば、ロボット要
素部品の接続の共通化を目指したRTミドルウエア(RTMiddleware: RTM)プロジェクトでは、OMG(ソフト
ウェア技術の国際標準化団体)から2007 年12 月に標準
仕様(OpenRTM-aist)となった高性能なロボット制御
用組込みソフトウェアを開発している。RTミドルウェア
では、単体のロボットだけでなく、さまざまなロボット技
術に基づく機能要素(センサ、
アクチュエータ、制御スキー
ム、アルゴリズム等)をも含む、人々の間で共有される機
器を統合する共通ソフトウエアモデルとして、オープンな
仕様を提供する目的で開発が進められ、現在でも諸機能の
開発が推進されている。
しかし、RTミドルウェアを十分に使いこなすには、開
発言語(C++, Python, Java, C#など)
、分散オブジェ
クト技術(IDL等)の基本概念、
OSや開発環境のインストー
ルや設定、プログラミング、デバッギング等のソフトウェ
ア開発に関する多くの知識が前提として必要である。ま
た、ライブラリやツールをインストールすることも必要で
あり、この手間や時間だけでも、一般のユーザーにとって
は大変な手間と感じられる。日本は世界に誇るロボット大
国であると広く認識されているが、それは主としてロボッ
トハードウェアの分野であり、ソフトウェア分野の整備を
進めないと、将来的にはIT教育を集中的に受けている諸外
国の技術者(プログラマー)が、
付加価値の高いソフトウェ
ア部分(アプリケーション)を独占してしまい、ロボット
大国としての日本の地位も確保できなくなることが懸念さ
れていた。そのため、特に中小企業が、高度なプログラミ
ング技術を有するエンジニアを確保せずとも、機械系の技
術者が高度なサービスロボットを開発できるようなロボッ
ト制御用組込みソフトウェアの開発基盤の開発が望まれて
いた。
14
図 1 本事業の概要
開発項目1ではGUI(Graphical User Interface)を
駆使したWebアプリケーションを開発し、機械的構成要
素の3D表示、ソフトウェア・アルゴリズム機能要素(アー
ムのIK制御,脚軌道やセンサ入力等)の「ドラッグ・アン
ド・ドロップ」方式による全体駆動制御系の構成が行える
ようなインターフェースを実現した(図2)
。特に、ユー
ザーが使うコンピュータの演算性能、OS、ウェブブラウ
ザの種類による制限をできるだけ受けないようにするため
に、Webアプリケーションは仮想コンピュータ技術によっ
てクラウド上のサーバーから実行する環境を構築した。
図 2 Web アプリケーションの開発画面の例
開発項目2では、実際のロボットに搭載される制御基板
を試作し、サービスロボットの高性能化に適した通信イン
ターフェース(IEEE1394、USB3.0、EthernetやCAN)
を介してWebアプリケーションからファームウェアのダウ
ンロードや諸設定の変更を簡単に行える環境を構築して汎
用性を高めた。これにより、
ユーザーはマイコン等のファー
22年度採択
[一般枠]
ムウェア開発に伴うインストール、コンパイル、デバッグ
などの作業からも解放させる方法を確立した(図3)
。
表 2 本研究開発品の主な評価
Webアプリケーションは3D機械CADの操作性に似てい
るため機械設計技術者のほうが組込み系プログラマより
開発フローの習得時間が短い
2
すべての開発フローが統一した3D GUI上で行えるため
一般の技術者に取り入れやすい
3
GUI上に事前に提供される構成要素を使えば、ロボット
技術を全く知らない人でも短時間にロボットを操作する
制御系を組める
組込みソフトウェア
1
インターネット接続とWebブラウザーを備えているPC
(タブレットPCや携帯端末等を含む)以外にインストー
4
ル作業は発生しないので、PCのハードウェアと他にイ
ンストールされたソフトとの相性問題が少ない
図 3 制御系構成要素の表示例
開発項目3では、従来手法、RTミドルウェア、本研究で
開発した手法により、
ロボット制御系を実際に構成させ(図
4)
、
作業時間の比較によって本開発品の有効性を検証し(表
1)
、現場の機械設計技術者からも高く評価された(表2)
。
(a)
(b)
図 4 (a)
ユーザー開発環境の例 (b)評価試験の様子
なお、製造業者の評価により開発品の信頼性が高いこと
は確認済みだが、今後はさらにサービス業者によって全体
の信頼性と安全性評価の実施を予定しているため、表1で
は信頼性の向上の高度化指標は約3倍と評価した。
開発された製品・技術のスペック
サービスロボット市場における川中企業である製造業者
の優秀な機械設計技術者が、高度なプログラミング知識が
なくても短期間で信頼性の高いサービスロボットを開発で
きる総合的なソフトウェアソリューションを開発した(図
5)。本開発品が川中企業(製造業者)と川下企業(ロボッ
トサービス提供業者)の発展に貢献できることを期待し、
今後の製品化を目指す。
表 1 最終的な目標と成果
手 法
本開発の成果
RTMに対して(目標)
従来
RTM
使用性の向上
×
△
12倍(2倍)
高度化指標
信頼性の向上
×
△
3倍(2倍)
高性能化・
機能の向上
△
◎
同等(同等)
柔軟性、
適応性の確保
△
◎
同等(同等)
生産性の向上
×
△
11倍(5倍)
図 5 サービスロボット開発ソリューション
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人理工学振興会
◎所在地 : 〒 226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 東京工業大学内 S2-10
◎担当者 : 泉 洋一郎
◎ TEL:045-921-4391 ◎ FAX:045-921-4395 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京工業大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)ハイボット、(株)小野電機製作所
◎主たる研究実施場所 :(株)ハイボット
15
自動化/共通化されたフォトマスク検査装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
産業機械及び産業用ロボットに関する事項
高品質・短納期・低コスト
高度化目標
信頼性の向上(機能安全確保を含む)
研究開発の背景及び経緯
かねてから地球温暖化防止のためのCO2削減が提唱され
て来たおりに、加えて、昨年発生した3.11大震災と津浪
による原子力発電所の事故により、よりいっそうの再生可
能エネルギーの利用拡大と電気エネルギーの効率的な利用
の必要性が増したことは疑う余地がない。
この二つの重大な課題の解決に欠かせないのがパワーデ
バイスの研究開発である。
それと時期を同じくして、電気エネルギーのより効率的
な利用において、Siに比較して10倍以上の性能を発揮する、
SiCやGaN等の化合物半導体が実用化段階に入ってきている。
今後は化合物半導体の製品開発競争が加速されるのは必
然であるが、
その際にはフォトマスクが多量に発注される。
ところがフォトマスク検査装置は微細化が進んだシグナ
ルデバイス用装置に集中しており、パワーデバイスの生産
に適した装置は退役化が進んでいる。特にその傾向は日本
で著しい。これを放置しておくとやがては重要なサプライ
チェーンの破断が起こり、日本のパワーデバイスの生産に
重大な障害が発生する恐れがある。
そこで本研究によって、新世代パワーデバイスの生産に
適した検査装置を開発し、日本のパワー半導体の安定した
研究開発、生産に寄与することを目的とする。
研究開発の概要及び成果
本研究では組み込みソフトウエアの高度化によって、新
世代のパワーデバイスの生産に最適化したフォトマスク検
査装置の開発を目指すものである。
フォトマスクの主な検査装置は①CD(線幅)測定装置、
②データ比較及びダイ比較の欠陥検査装置、③位置精度検
査装置であるが、本研究では当初これらの3つの検査装置
を一つのプラットフォームで実施できる装置の開発を目指
した。しかし、ユーザーを交えた研究開発推進委員会の討
議の中で、位置精度測定装置を同じプラットフォームで作
成することはコスト高を招くとの意見があり、とりあえず
CD測定装置と欠陥検査装置の開発を目指すことになった。
16
当研究開発では
1.半導体デバイス上の設計ルール1.0μm ∼ 0.25μmの
デバイス用フォトマスクの検査対象とする。
2.斜めパターンや曲線パターンなど、パワーデバイスに特
徴的なパターンの検査に最適化する。
3.ソフトウエアの高度化により、高度な自動化並びに高ス
ループットな装置の開発を目指す。
4.先端シグナルデバイス用欠陥検査装置と比較して10分
の1以下の価格で且つ省スペース、省エネルギー、低ラ
ンニングコストの装置の開発を目指す。
という目標を掲げた
開発された製品・技術のスペック
1.高度な自動化を達成するために、パターンビューワ上に検
査仕様を入力すると、semiP10規格に準拠した検査レシ
ピファイルを生成するプログラムを開発した。これにより、
設計会社で作成したレシピファイルを使ってマスク製作会
社でマスクの検査セットアップが自動で行えるようになる。
図 1 レシピファイル生成システム
2.データ比較検査用にOASISやGDSIIなどの設計データや
MEBES等のマスクの描画データからビットマップデー
タを変換生成するプログラムを開発した。
表 1 データ変換ソフトの試験結果
22年度採択
[一般枠]
3.斜めパターンや曲線パターンへの対応力を高めると共
に、装置全体のコストを抑える目的で、検査画像を一検
査分全て蓄えることができる大容量メモリバッファシス
テムの研究を行った。
6.波長375nmの半導体レーザーを使った光源の可能性の
研究を行い、一定のめどを付けた。
7.3DCADを使用してステージの設計を行い、完成イメー
ジをまとめた。
組込みソフトウェア
図 4 X-Y ステージ
8.以上結果当を踏まえて。装置全体のスペックを定めた。
図 2 大容量メモリバッファシステム
表 2 検査装置全体のスペック
4.検査装置本体のオペレーションプログラムを作成した。
5.検査画像処理(検査画像の位置合わせと、欠陥検出)の
プログラムを開発した。
図 3 画像処理プログラム
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社アジャイル・パッチ・ソリューションズ
◎所在地 : 〒 231-0015 神奈川県横浜市中区尾上町 5-80 神奈川中小企業センタービル
◎担当者 : 山本 敏
◎ TEL:045-664-4430 ◎ FAX:045-664-4430 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)アークステーション
◎主たる研究実施場所 :(株)アジャイル・パッチ・ソリューションズ
17
準天頂衛星 L1-SAIF 信号を用いる
高精度測位 GPS-LSI の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電及び携帯電話に関する事項
利用者の理解、利用度の促進
高度化目標
機能の向上及び新機能の実現
研究開発の背景及び経緯
平成22年9月11日に打ち上げられた準天頂衛星(QZS:
Quasi-Zenith Satellite) 初 号 機「 み ち び き 」
(QZS-1)
は仕様書において「QZSSおよびQZS信号は、米国GPS
をはじめとする他の衛星測位システムとの共存性に配慮
し、米国GPSとの相互運用性を最大化するように開発さ
れたものである。
」と明記されており、GPS衛星の補完と
補強の2つをサービスの柱としている。
QZSSは図1のような非対称8の字の地上軌跡を形成す
るような衛星軌道で地球を周回しており、3機体制であれ
ば日本の天頂付近に1機以上が可視状態になるように設計
されている。
SAIF(Submeter-class Augmentation with
Integrity Function)は日本国全域限定ではあるが、高精
度の測距補正情報の提供、GPS衛星のヘルス情報の通知、
故障判定による高信頼性化およびGPS衛星捕捉支援情報
の放送を行い、利用者の利便性を高める事へ寄与する。こ
れをGPS補強サービスと位置づけている。
QZSSの補完及び補強信号を受信することが出来れば、
都市部での測位率の向上や、測位精度の向上といった、受
信機の性能向上が期待できる。
受信機の性能向上は、利用者にとって非常に有益であり、
今後増加すると予想される測位サービスの品質向上に繋が
る。よって社会インフラの整備という観点から見て意義の
あることである。
いち早くQZS対応GPS受信機を開発することで、社会
インフラの活用とGPS市場の活性化を目指した。
図 2 都市部での電波受信イメージ
研究開発の概要及び成果
図3のFPGAプラットフォーム上でGPS+QZS受信機の
開発を行った。実環境下でQZSのL1C/Aを使った測位の
確認と、L1-SAIF信号のデータ復調と高精度補正情報を
使った測位結果の改善を確認した。
図 1 準天頂地上軌跡
都市部および山間部では図2の様に仰角の低い衛星は高
層ビルや山などの構造物によって信号が遮断されるか反射
波の影響を受けることになるが、仰角60度以上に位置す
るQZSではそれらの影響を受けにくい。
そのため都市部および山間部での可視衛星数の向上と
反射波の影響を最小限にすることが期待できる。これを
GPS補完サービスと位置づけている。
18
図 3 FPGA プラットフォーム
22年度採択
[一般枠]
受信機がモバイル端末に組み込まれることをイメージし
て、アンドロイド端末および評価用アンドロイドアプリ
ケーションの開発も行った。
組込みソフトウェア
図 4 鎌倉での測位試験結果
開発された製品・技術のスペック
開発した受信機の基本スペックを表1に示す。
表 1 受信機スペック
メッセージ出力
NMEA0183, オリジナルバイナリ
測地系
WGS84
測位精度
1m未満(L1-SAIF使用時)
GPS感度
アクイジション -146dBm
トラッキング -160dBm
初期測位時間
(TTFF)
衛星再補足時間
図 5 アンドロイド端末外観
アンドロイド端末用アプリケーションはSkyChartと
GPS時計、地図画面を同時に表示することが出来る。
SkyChartは衛星電波の受信状況と衛星位置を表示し現
在位置の測位環境を確認することが出来る。
GPS時計は測位結果から得られる現在のGPS時刻を表
示する。地図画面ではGoogleMap上に測位結果をプロッ
トし、測位軌跡を閲覧することが出来る。
このアプリケーションを基礎にして、スマートフォンま
たはタブレット端末向けのアプリケーション作成や評価用
アプリケーションの開発を行う事が容易になる。
コールドスタート 38秒
ウォームスタート 36秒
ホットスタート 1秒
1秒未満
基本スペックは一般的な海外メーカーの受信機と比較し
て、優位性があることを確認している。
また、放送されているSAIFメッセージのバイナリ出力
に対応し、SAIFメッセージの評価及び検証に利用できる。
このような機能は一般の受信機には無く、受信機をフルス
クラッチで開発しているメリットを生かした機能である。
図 6 アンドロイドアプリ
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社コア
◎所在地 : 〒 154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋 1 丁目 22 番地 3 号 コアビル
◎担当者 : 西出 隆広
◎ TEL:044-989-5115 ◎ FAX:044-989-5147 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)コア、(株)ナノテック
◎主たる研究実施場所 :(株)コア コア R&D センター
19
ハードウエアRTOSを使った高性能・低消費電力型
マルチプロセッサ・プラットフォームの研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
川下分野横断的な共通の課題・ニーズに関する事項
省エネルギー・省資源化
高度化目標
ソフトウェア技術による省エネルギー・省資源化
研究開発の背景及び経緯
インターネットの普及と共にパソコンのみならず情報家
電のネットワーク化が進んでいる。こうした中、
ネットワー
クは高速化が加速しており、数年前100Mbpsが主流で
あったパソコンのEthernetは現在ではほとんど1Gbpsに
移行している。また2014年以降10Gbps Ethernetがパ
ソコンにも普及する。このように足回りであるEthernetの
高速化される一方、その上でネットワーク機能を実現する
TCP/IPの高速化は遅れている。TCP/IPソフトウエアは
CPUへの負荷が極めて大きい。組込系のCPU程度の性能
では100Mbps程度のスループットしかでない(図1 A社)
。
一方、ネットワーク専用のプロセッサを利用することに
より高速なTCP/IPを実現するというアプローチがある。
ネットワークプロセッサは動作クロックを上げ、さらにマ
ルチプロセッサ化をすることにより数Gbps ∼ 10Gbps
程度のTCP/IP性能を実現している(図1 B社)
。しかし
10Gbps TCP/IPの実現時の消費電力は100Wにも達し、
また高価なプロセッサであることから組込み系、
コンシュー
マー系のアプリケーションに使用することは難しい。
図 1 TCP/IP 消費電力
20
カーネロンシリコン
(株)では低消費電力かつ高速な
TCP/IP処理を実現するためにハードウェアRTOSを開発
した。このハードウェアRTOSを使用し、かつTCP/IP処
理の一部をハードウェア化することにより従来の10倍の
TCP/IP性能、1/10の消費電力を実現している(図1 本
技術シングルプロセッサ)。
本研究開発では従来のハードエウアRTOSの機能を大幅
に拡張し、マルチプロセッサに対応できるハードウェア化
RTOSを実現することにより、10GbpsのTCP/IPを実現
し、さらに従来問題であった消費電力を大幅に削減し、か
つ安価なプロセッサを実現することにより組込み系やコン
シューマー系のアプリケーションにも適用できるような基
板技術の獲得を目指した(図1 本技術マルチプロセッサ)
。
研究開発の概要及び成果
本研究開発の目的はハードウェアRTOSを使用したマル
チプロセッシング基盤技術の確立である。この基盤技術は
ネットワーク以外の組込システムにおいても新たなプラッ
トフォームとし広く活用が期待できる。マルチプロセッサ
方式を使った場合、アムダールの法則で示される性能劣化
が生じる(図2)
。この法則は、並列化できない処理の割
合が多いほどマルチプロセッサ化の効果が薄れるという理
論である。RTOSはプロセッサ間でデータを共有しながら
動作するため、並列化出来ない処理が多く存在する。ハー
ドウェアRTOSは処理が高速化されるため、並列化出来な
い処理の割合が極端に小さくなり、マルチプロセッサ環境
の性能を大幅に向上させることができる。このため本技術
を組込みマルチプロセッサ記述の新たな基盤技術として期
待することができる。
図 2 アムダールの法則の影響
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
評価結果を以下に示す。図5は評価ボードを20MHzで
動作させたときのTCP/IPスループットを示している。マ
ルチプロセッサとハードウェアRTOSの性能が有効に作用
し、わずか20MHzのクロックであるにもかかわらず、送
信で184Mbps、受信で243Mbpsのスループットを達成
した。図6はCPUの使用率を示している。受信時全体で
63%であった。したがってCPUを有効に使用するように
ファームウェアを改造することによりさらなるスループッ
トの向上が期待できる。
組込みソフトウェア
図3は本研究開発の主要ブロック図である。図のように
8個のCPUを配置し、これらをハードウェア化RTOSでコ
ントロールしている。図4は評価用に開発したFPGAボー
ドである。この中に図3の回路を実装し評価を行った。動
作 周 波 数 は20MHzで あ る。 商 品 化 時 はASICで 実 現 し、
動作周波数300MHz、CPU16個実装により、TCP/IPス
ループット10Gbpsを目指す。
TCP/IPスループット
Mbps
図 3 マルチプロセッサ対応ハードウェア RTOS
動作周波数20MHz
CPU個数
図 5 マルチプロセッサによる TCP/IP スループット
(%)
全体
CPU7
CPU6
CPU5
CPU4
CPU3
CPU2
CPU1
CPU0
図 4 FPGA 評価ボード
図 6 受信時 CPU 使用率
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
テセラ・テクノロジー株式会社
◎所在地 : 〒 214-0014 神奈川県川崎市多摩区登戸 2710‒1 第 6 井出ビル 4 階
◎担当者 : 佐藤 有希子
◎ TEL:044-271-7533 ◎ FAX:044-271-7534
◎ E-mail:[email protected][email protected],
◎プロジェクト参画研究機関(企業): カーネロンシリコン(株)、テセラ・テクノロジー(株)
◎主たる研究実施場所 : テセラ・テクノロジー(株)
21
忠実色再現手法による画像色管理システムの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
産業機械及び産業用ロボットに関する事項
高品質・短納期・低コスト
高度化目標
高性能化及び機能の向上
研究開発の背景及び経緯
業務用プリンターやプロジェクターにより印刷あるいは
表示される色は、重要な品質管理対象である。したがって
それら製品のものづくり現場においては、色についての品
質管理(以下色管理)に常に少なからぬ努力が払われてき
ている。
しかしながら多くの色管理の現場では、熟練技能者の主
観的判断にたよる官能検査が行われている。この方式の欠
点は、判断が個人に依存していることと、数値による管理
が困難であることである。もちろん色管理の装置化を目指
して様々な装置が製品化されてきた。検査が平面上の1点
の計測で充分であれば、装置化は測色計を用いて以前より
実現され使われてきている。しかし測色計では測定径内に
複数の色が存在する場合、あるいは立体的形状の場合正確
な測色ができないという問題がある。そこでカラーカメラ
を測色センサーとして使う装置が製品化されているが、既
存のカラーカメラでは、本来正確な測色は不可能であり、
用途は非常に限定されたものとなっている。
静岡大学の下平教授によって確立された忠実色再現技術
のひとつは、忠実な色取得を可能とする撮像技術である。
本研究開発は、この色高忠実撮像技術を用いて熟練技能者
の代替となる画像色管理システムを開発することを目的と
している。
研究開発の概要及び成果
画像色管理システムが熟練技能者の代替装置となるため
には、人間が色を見ているようにそのまま忠実に色を撮像
できるカメラが必要である。次に検査対象を見て評価する
ときの熟練技能者の判断と強い相関を持つ量を、そのカメ
ラの出力画像から得る必要がある。
既存のカラーカメラでは、図1に示すように色を忠実に
撮像できない。そこで図2に示すような優れた色取得精度
を持つ色忠実カメラを開発した。このカメラの分光感度
はCIEXYZ等色関数と等価つまり人間の目と同じ色感度を
持っている。
22
図 1 既存カラーカメラの色取得精度
図 2 色忠実カメラの色取得精度
本システムがディスプレイの色評価に使われることを想
定して熟練技能の数値化を行った。このために、彩度と
色相を変えた多数の画像を用意して、15名の被験者に液
晶ディスプレイに提示したそれら画像を5段階評価しても
らった。一方同じ画像を、色忠実カメラで撮像した後、画
像演算を行いL*a*b*色空間で彩度と色相を求めた。この
ときの被験者による主観評価結果と、撮像データから得ら
れた彩度と色相の変化率の関係を図3と図4に示す。どち
らの図でも縦軸が評点、つまり主観的な評価に対応してい
て、横軸は撮像装置から得た色相(図3)と彩度(図4)の
変化率に対応している。いずれの図も、主観的な評価と色
忠実カメラの画像データの間に、明確な相関が認められる。
これより例えば図3にあるように、黄色の色相については
22年度採択
[一般枠]
評点3.5以上を良品とするのであれば、変化率−6%から
+4%を合格範囲とすればいいことがわかる。比較のため
に通常のデジタルカメラで得られたデータを、赤いシンボ
ルで示している。図4から主観との相関は得られていない。
項目
色忠実カメラ
色取得色域
物体色を100%カバー
画素数
1100万
ダイナミックレンジ 65dB以上
PC I/F
3.5
小型高精度測色計 測色精度
合格範囲
仕様
色取得精度(ΔE) 1.0以下
組込みソフトウェア
色相(Yellow)
表 1 画像色管理システムのスペック
USB2.0
±0.005以内(色度x, y)
測色再現性
±0.0015以内(色度x, y)
受光素子
シリコンフォトダイオード×3
画像色管理ソフト 制御機器
色忠実撮像装置
小型高精度測色計
解析機能
a*b*分布、
L*ヒストグラム他
判定機能
数値化された技能を参照して
判定
データベース機能
L*, a*, b*にょる検索が可能
図 3 色相(Yellow)に対する主観評価と画像演算値
彩度(Blue)
図4 彩度(Blue)に対する主観評価と画像演算値
図 5 色忠実カメラと小型高精度測色計
開発された製品・技術のスペック
画像色管理システムの色取得精度を維持するための小型
高精度測色計を含むスペックを表1に示す。図5は画像色
管理システムを構成する色忠実カメラと小型高精度測色計
である。
色に関する熟練技能者の代替となる画像色管理システム
は、製造業のみならずアパレル、印刷、美術品・伝統工芸
品などの分野でも使える。これからは感性を扱う技術が重
要となる。本システムは、色という感性を事業化するため
のひとつの有力な手段となるはずである。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
国立大学法人静岡大学
◎所在地 : 〒 422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷 836
◎担当者 : 牧澤 久光
◎ TEL:053-478-1757 ◎ FAX:053-478-1005 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 静岡大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): ノブオ電子(株)
◎主たる研究実施場所 : ノブオ電子(株)
23
情報家電等に応用する
医療健康統合化プラットフォームの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
取り違え」を防ぐことが出来ない。このような状況を考慮
し研究課題の第二テーマとして生体情報によるセキュリ
ティ向上を掲げた(図2)。
情報家電及び携帯電話に関する事項
ネットワークサービスの多様化(情報家電間のネットワーク化を
含む)/信頼性の確保(機能安全殻を含む)
高度化目標
信頼性の向上(機能安全確保を含む)/利用品質の向上
研究開発の背景及び経緯
(1)医療や健康づくりの分野において、医療健康機器(体
重計、血圧計、歩数計他)から取得した測定データを情報
家電等を介してインターネット等に接続、蓄積、一元化管
理し、遠隔健康指導を始めとする多種多様なネットワーク
サービスに活用することが求められている。
他方、
「ISO/IEEE 11073」の制定に見られるように、
ハード/ソフトの標準化が広がりつつある。しかし、まだ
大部分は従来の各社独自の規格による機器が多数使用され
ており、規格ごとに専用システムが構築されている現状で
は再構築には多大なコストが必要である。
このような状況を打開するためには、メーカー独自の
ハード/ソフトのインターフェィスを吸収してこれらを統
一的に取り扱うシステムの構築が急がれている。
このような背景のもと、課題の第一テーマとして、異な
る規格の医療機器データの一元化管理、その為の医療健康
統合化プラットフォームの開発を掲げた(図1)
。
図 2 生体認証情報利用によるデータ取り違え防止
研究開発の概要及び成果
(1)医療健康統合化プラットフォームの開発
各種医療健康機器ごとの異なるプロトコル、データ内容、
データ形式に対応してバイタルデータおよび付随する個人
や組織の情報を一元化管理するシステムを開発した。開発
の要点は、下記の点である。
各種医療健康機器を検知し、機器ごとに異なるプロトコ
ルやデータ格納手段を組み込んだプラグイン機構を開発
(図3)。
医療健康機器
ゲートウェイ端末
プラットフォーム
健康機器固有情報
デバイス識別
メーカー
/モデル番号
通信プログラム
作成
通信
健康機器固有情報を含ん
だ測定データ
バージョン
/シリアル番号
その他
参照
プラグインマネージャ
健康機器固有情報とプラ
グインの対応情報
プラグ
イン
プラグ
イン
プラグ
イン
図 3 医療健康機器検知関連ソフトウェアの機能
図 1 医療健康機器データの一元化管理
(2)従来のネットワークセキュリティは、一つの機器を
複数人で使用する場合に起こりうる、操作ミスなどによる
計測データの取り違いは考慮されていない。例えば、テレ
ビ等情報家電に接続された体重計を複数人が共有して測定
する場合に、測定するユーザーの順番の誤りや操作ミスな
どにより他人のデータとして登録されてしまう「データの
24
異なる規格のデータの一元化管理を実現(図4)
。
各家庭等ユーザー側に配置し、健康機器、生体認証付デー
タセキュリティ装置、サーバー装置と情報の授受を行い、
TVにユーザー向けの情報を表示するゲートウェイ端末
を開発(図7左側中央部)。
サーバー装置、ゲートウェイ端末に上記仕組を実装。
(2)生体情報によるキュリティ向上
下記課題を設定し、開発を実施した。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
通信オブ
ㅢାࠝࡉ
ࠫࠚࠢ࠻
ジェクト
૞ᚑ
作成
通信オブ
ㅢାࠝࡉ
ࠫࠚࠢ࠻
ジェクト
図 6 測定・認証の例(体重計の場合)
健康機器
ஜᐽᯏེ
࿕᦭࠺࡯
固有デー
࠲
タ
開発された製品・技術のスペック
㧔ࠨ࡯ࡃ࡯஥ߢߩ᷹ቯ࠺࡯࠲ᩰ⚊㧕
(サーバー側での測定データ格納)
ゲートウェイから送
られた測定データ
通信オブ
ㅢାࠝࡉ
ࠫࠚࠢ࠻
ジェクト
(1)医療健康統合化プラットフォームの機能(表1)
サーバーDB
サーバー
ࠨ࡯ࡃ࡯
஥ࡊ࡜ࠣ
側プラグ
ࠗࡦ
᷹ቯ
測定
࠺࡯࠲
データ
ᩰ⚊
格納
表1 医療健康統合化プラットフォームの機能
IEEE11073
+'''
Ḱ᜚᷹ቯ
準拠測定
࠺࡯࠲
データ
健康機器固
ஜᐽᯏེ࿕
᦭࠺࡯࠲
有データ
図 4 異なる規格のデータの一元化管理
生体情報、ユーザー情報、バイタルデータを含む情報を
一体化するオブジェクト構造の開発。
認証データ登録、バイタルデータ取得、認証、生体認証
付バイタルデータ登録等一連の機能を開発し、ライブラ
リー化(バイタルデータ取得・認証部分の関連を図5に
示す)
。
↢૕⹺⸽ઃ
生体認証付
データセキュリティ装置
࠺࡯࠲࠮ࠠࡘ࡝࠹ࠖⵝ⟎
ANTή✢
ANT無線
モジュール
ࡕࠫࡘ࡯࡞
ANTή✢
ANT無線
プロトコル
ࡊࡠ࠻ࠦ࡞
組込みソフトウェア
(ゲートウェイ端末側での測定データ取得
̆通信オブジェクト作成)
―
ローカル
通信ソフトが作成した
DB
ࠥ࡯࠻࠙ࠚࠗ
ゲートウェイ
ファイル
┵ᧃࡊ࡜ࠣࠗ
端末プラグイ
ஜᐽᯏེ߆
健康機器か
ࡦ
ン
+'''
IEEE1107
ࠄขᓧߒߚ
ら取得した
᷹ቯ࠺࡯
測定デー
Ḱ᜚᷹
3準拠測
᷹ቯ࠺࡯࠲
測定データ
࠲ࡊࡠ࠻
タプロト
ቯ࠺࡯࠲
定データ
ࠦ࡞ᄌ឵
コル変換
ゲートウェイ端末側
生体情報データ管理
医療健康機器接続管理
ユーザー管理
プラグイン管理およびプラグイン
測定データ取り込み
測定データアップロード
サーバー間通信機能
ローカルDB
サーバー側
生体情報データ管理
医療健康機器接続管理
ユーザー管理
プラグイン管理およびプラグイン
認証
測定データ格納
ゲートウェイ端末間通信機能
サーバー DB
(2)システム構成
ࠥ࡯࠻࠙ࠚࠗ┵ᧃ
ゲートウェイ端末
᷹ቯ࠺࡯࠲ขᓧᖱႎ
測定データ取得情報
ANTή✢
ANT無線
プロトコル
ࡊࡠ࠻ࠦ࡞
ANTή✢
ANT無線
モジュール
ࡕࠫࡘ࡯࡞
୘ੱID+↢૕ᖱႎ
個人ID+生体情報
CPU
CPU
⁛⥄
独自
プロトコル
ࡊࡠ࠻ࠦ࡞
ஜᐽᯏེA
健康機器A
測ቯ
定࠺
デ䏚
ー࠲
タ
᷹
測ቯ
定࠺
デ䏚
ー࠲
タ
᷹
ᜰ㕒⣂࠮ࡦࠨ࡯
指静脈センサー
IEEE11073
IEEE11073
ࡊࡠ࠻ࠦ࡞
プロトコル
ஜᐽᯏེB
健康機器B
図 5 健康機器での測定・認証の関連
生体認証付データセキュリティ装置の開発(装置概観は
図7左下部分。測定の例は図6参照)
。
図 7 本研究開発システムの構成
(3)プラットフォーム操作用のアプリケーション群
サーバー装置アプリケーション(PC等で利用)
システム管理者用/サービス管理者用/健康指導者用/一
般ユーザー用
TV用一般ユーザー向けアプリケーション
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人日立地区産業支援センター
◎所在地 : 〒 316-0032 茨城県日立市西成沢町 2-20-1
◎担当者 : 中山 桂司
◎ TEL:0294-25-6121 ◎ FAX:0294-25-6125 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 横浜市立大学、岩手県立大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)オフィスエムアンドエム、(株)イーアールアイ
◎主たる研究実施場所 :(株)オフィスエムアンドエム新ビジネス開発室(財団法人日立地区産業支援センター内)
25
有害物質の特定と含有量を瞬時に検知分析できる
持ち運び可能な蛍光 X 線分析装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
産業機械及び産業用ロボットに関する事項
高品質・短納期・低コスト
高度化目標
高機能化及び機能の向上
研究開発の背景及び経緯
世界の環境破壊と汚染が進む中、動植物系に拡散し汚染
や破壊に繋がる化学物質や重金属類(鉛、
カドミウムなど)
が有害物質として指定され、
様々な法律の下で使用や保存、
廃棄などが規定されている。しかし、欧州・中国へ輸出す
る製品への重金属類の使用規制(RoHS指令)や国内外に
おける化学物質データの情報提示(MSDSなど)
、輸入食
品に対する含有金属類検査、土地開発における土壌汚染検
査など、有害物質の検査・分析の重要性がますます高まっ
てきており、特に高精度な定量分析、検査時間短縮が危急
の課題となっている。
輸入食料に依存する日本では、食品に含まれる有害物質
の検知分析の精度向上と検査体制の確立が危急の課題と
なっている。また、環境・資源制約に対応するため、平
成12年の環境型社会形成推進基本法の制定を始めとして、
容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、グリーン購入
法等の各種リサイクル法が制定されている。また、EUの
WEEE・RoHS指令に相当する法律「資源有効利用促進法」
が改正され、RoHS指令と同じく、平成18年(2006年)
7月に施行されている。
国内の大手電気・精密機械メーカー 88社は、平成17年
秋に、有害物質を排除するための統一基準を作成して、調
達する部品、部材にRoHS指令指定6物質、アスベスト等
を含む24物質が混入しないよう、すべての取引先にもと
めている。
特に特定有害物質については、これまでも蛍光X線分析
により短時間に分析が可能となっているものの、高精度に
定量分析まで実施しようとすると特定の研究機関等への持
込検査が必要で、検査品の運搬に時間や費用がかかること
や、また土壌汚染検査や近頃増加傾向にある輸入食品検査
等では現地で分析ができず、緊急対応が出来ないことが問
題となっている。
そのため、現場における高精度、定量分析が可能、コン
パクトで安価な蛍光X線分析装置の要望が現場から強く上
がっている。
これは、単に小麦粉(単一品)に鉄粉(一種類)が混入
しているのを検知するような単純な検査ニーズではなく、
26
複数の元素から成り立つ物質(商品等)から特定有害物質
を正確に判定する技術が求められている。
本研究では、発明特許として出願中の画期的な計算アル
ゴリズムを従来のFP法に組み入れることで、エンドユー
ザーのニーズに対応可能な検査装置を開発する。これによ
り、土壌汚染調査や輸入食品の税関での検査場で複雑な物
質判定が即時可能となり、社会的な貢献度の高いビジネス
を世界に向けて展開が可能となる。
当社は、蛍光X線分析装置に定量解析が可能なソフト
ウェアを搭載させ、小型軽量化を実現させることを目指し
た。これにより、従来は特定の研究機関等で持込対応となっ
ていた安全検査が、税関での検疫からスーパーの食品加工
場に至るまで、すべて現場で正確に実施できる。
研究開発の概要及び成果
据置型検出器とハンディ型検出器のメリットを取込み、
開発仕様とした。
(図1)
大型据置型
メリットのみ
ハンディータイプ
検出器
を持込む
小型検出器
正確な分析が可能
放射線に対して安全
素早い分析
ポータブル
低価格
XEMA2000
図 1 開発仕様
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
パソコンと併置して測定し、測定結果を記録する卓上作
業も想定し、コンパクトさを追求した。隣に併置したパソ
コンは、A4横型のノートパソコンになる。
(図2)
開発製品のスペックを表1に示す。
表 1 開発製品のスペック
項 目
開発された製品・技術のスペック
開発された製品は様々な用途への使用を想定している
(図3)
。
エネルギー分散型
測定対象
固形・液体・粒状物質
測定元素範囲
CI ∼ U 大気中
検出下限
Cd:3ppm Pb 個別測定
測定時間
50秒
試料室サイズ
193×184×58(mm)
本体重量
20kg
X線管
タングステン(W)ターゲット
検出方式 Super SDD(シリコンドリフト)
冷却方式
ペルチェ(電子冷却)方式
安全機構
二重安全機構(メカニカルロック、
インターロック)
管理試料 手置き・標準付属品
測定面積
10mmΦ
周囲温度
5 ∼ 35°C
アース
第3種アース
電源
AC100V/220V ±10%
50/60hz 200W
ソフトウエア
組込みソフトウェア
図 2 A4 型パソコンと分析装置
内 容
測定原理
全自動設定
MS WORD EXCEL
作表データベースソフト
制御
装置制御 条件設定 分析条件設定
測定
自動測定モード マニュアル測定
パソコン
ノート型パソコン標準付属
試料観察
専用カメラ標準搭載
消耗品
マイラーフィルム プラスチック試料
セル
また、カスタマイズを行う事で更なるニーズに対応が可
能であり、今後の可能性も考えられる。
図 3 開発された製品の用途
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社イーアンドエム
◎所在地 : 〒 329-0512 栃木県下野市下石橋 246-15
◎担当者 : 村田 栄司
◎ TEL:0285-51-1731 ◎ FAX:0285-51-1739 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)イーアンドエム、北伸電機(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)イーアンドエム本社研究室
27
超並列集積回路上の画像処理組み込みミドルウェア
開発による高度計測システムの実証
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
産業機械及び産業用ロボットに関する事項
高品質・短納期・低コスト
高度化目標
高性能化及び機能の向上
研究開発の背景及び経緯
デジタルイメージング機器
(デジカメやデジタルビデオ)
において、アジア諸国による追い上げが急であるなか、埼
玉県の光学部品企業は、積極的な海外展開を行ってきたこ
とから、国際的な主要サプライヤに成長した企業もあり、
小型光学部品の国際的なサプライチェーンで大きな役割を
果たしている。今後のデジタルイメージング分野の更なる
発展には、部品レベルでの高度化だけでなく、画像処理シ
ステムレベルでの高度化も必要となる。
画像処理システムに関しては、これまでハードウェアに
よる制約が大きいことから、個別にカスタマイズされた高
価な画像処理システムが用いられてきたが、CPU、GPU
の高性能化や、米国インテル社から供給されている Open
CV、米国スタンフォード大学によるFranken Camera等
のオープンソースによる画像処理プラットフォームの提供
により、活発な研究開発が行われている。
また、2010年にルネサスエレクトロニクス㈱より、大
容量画像データ処理用に搭載したマトリックス型プログラ
マブルプロセッサ「MXコア」という、高画素化が進む画
像データを高速・低消費電力で、かつ柔軟に処理可能な高
度な画像処理集積回路が開発され、ミドルウェアでの各種
高度な画像処理の実証が可能となった。今後の技術開発に
おいては、多数の技術者の連携出来るプラットフォームの
構築が必要であるが、知財の取り扱い、ビジネスへの展開
による開発費の回収など、事業化に向けた取り組みが必要
な状況にある。
本研究開発では、高度な技術プラットフォームとして
MXコアを用いた組込向け画像処理ボードを使用し、画像
処理システムとして超解像技術をミドルウェアとして実装
し、その性能評価を行った。また、超解像技術のビジネス
展開として内視鏡手術装置への応用とナノ構造評価装置へ
の応用、
レーザ走査イメージャへの応用を行った。今後は、
MXコアを用いた高度な技術でオープンかつ知財、ビジネ
ス対応を考慮したプラットフォームが整備されることで、
ソフトウェアとしての画像処理技術ともの作りとしての光
学機器を結びつけ、事業への応用展開へと発展することが
期待される。
28
研究開発の概要及び成果
超並列画像処理用ミドルウェアの性能評価
MXコアを用いた超並列画像処理用のミドルウェア開発
環境を構築し、ミドルウェアによる各種処理時間の評価を
行った。消費電力は100mW以下である。最新のCPUと
比較しても、主要なエッジ検出フィルタや超解像(焦点補
正)応用において、100 ∼ 1000倍の処理能力を示した(図
1、図2)。これにより低消費電力で組込可能な、高度な画
像処理技術プラットフォームとして十分実用に耐えると考
えられる。
図 1 フィルタ処理時間 (上)PC(下)MX コア
画像サイズ 1024×1024 ピクセルの処理時間(ミリ秒)
7171
焦点補正
73.9
0
1000
2000
MXコア
3000
4000
5000
6000
7000
8000
PC([email protected])
図 2 超解像(焦点補正)処理時間 (上)PC(下)MX コア
内視鏡およびナノ構造での焦点補正技術の実証
図3は焦点補正技術をFPGAにより実装した超解像装置
である。九州大学において、この超解像装置を用いて行っ
た内視鏡下での手術を録画した画像が図4である。左側が
元の画像で、右側が焦点補正技術を用いて補整した画像で
ある。「開発した焦点補正技術では、(旧機器を用いても最
新機器と比較して)安価な投資でHigh Definitionに近い
画像が得られること、焦点が合わせやすく細部の再現性が
よく、焦点深度が深くなること、が挙げられる。そのため、
危険部位や乳頭腫などの進展範囲がより理解しやすくなっ
た。」との評価を得ている。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
組込みソフトウェア
図 3 超解像装置 :Repure-L
レーザ走査イメージャの開発と超解像技術の適応
専用設計のレンズを用い従来の100倍以上の広範囲
(200mm×200mm)でかつ高解像度のレーザ走査イメー
ジャを開発した(図6)。走査幅と解像度チャートで高性
能であることを確認した(表1)。さらに本イメージャで
得られた画像を超解像補正およびエッジ検出フィルタによ
り微少な基板の傷等の検出し、本イメージャと画像処理技
術の有効性を実証した。
図 6 高解像度レーザ走査イメージャ
図 4 内視鏡画像(左)元画像、(右)超解像画像
また、超解像技術を用いてフォトマスクの検査を行った
結果を図5に示す。左側は光学顕微鏡写真で、右側は超解
像技術により補正した画像である。線幅は一番細いところ
が200ナノメートルであり、光学顕微鏡では解像限界を
超えているため解像されていないが、超解像した画像では
一番細い線まで解像されている。
開発された製品・技術のスペック
超解像装置:RePure-L
フルハイビジョンサイズ(1,920×1,080)をリアルタ
イムに超解像補正することが可能である。接続は入力およ
び出力ともにHDMI端子であり容易に接続できる。
レーザ走査イメージャの解像度
超解像補正前のレーザ走査イメージャの各レンズ毎の視
野範囲と解像度を表1に示す。
表 1 走査レンズのスペック
26mm
走査レンズ
視野範囲[mm]
26.4
解像度[c/mm]
40.32
10mm
走査レンズ
2.6mm
走査レンズ
10.25
2.64
101.59
645.54
図 5 フォトマスク検査(左)元画像(右)超解像画像
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事業管理機関名
財団法人埼玉県産業振興公社
◎所在地 : 〒 338-8669 埼玉県さいたま市大宮区桜木町 1 丁目 7 番地 5
◎担当者 : 村上 征信
◎ TEL:048-647-4085 ◎ FAX:048-645-3286 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 産業技術総合研究所、埼玉大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)ライトロン、(株)オプセル
◎主たる研究実施場所 :(株)ライトロン
29
昇華型染色における人工物メトリクスを利用した
偽造防止システムの研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
川下分野横断的な共通の課題・ニーズに関する事項
国際規格への対応
高度化目標
情報システムとの連携をサポートする技術の構築
研究開発の背景及び経緯
模倣品・海賊版による被害は世界で年間80兆円に上ると
言われている。低価格が売りの偽装品は安全性に問題を抱
えるだけでなく、我が国の経済成長に対する脅威となって
いる。特に国内衣料品メーカーはその影響を大きく受けて
おり、偽造品防止が重要課題となっている。
一方で近年、人工物メトリクスを用いた認証技術が注目
されている。人工物メトリクスとは、指紋認証などのバイオ
メトリクスを、工業製品に応用する技術であり、染色部分
一つ一つの微細な特徴を利用し個体識別を行う技術である。
研究開発の概要及び成果
本研究開発のテーマは以下の3つに分けられる。
昇華型染色生地におけるランダム性の研究
真贋判定測定デバイスと情報システムの構築
認証システムの提案と安全性検証
テーマ1:昇華型染色生地におけるランダム性の研究
昇華染色を用いた認証システムでは製品一つひとつが巨
視的視点では均一に一定の品質を保ちつつも、微視的視点
では全てが異なるという染色特有の性質を利用して個別の
認証を行う。従って、製品の一つひとつに十分な個別的特
徴が存在し、かつその特徴は安定的に測定できるものでな
ければならないという前提条件がある。
これらの条件をクリアするため、図3右に示すような昇
華染色のサンプルを多数製造した。染色は複数回に分けて
行い一度作ったサンプルを解析し、結果をフィードバック
することによって、次の染色方法を変えての製造を繰り返
し行った。それにより最適な昇華染色タグの染色手法を確
立した。
図 3 昇華染色によるサンプルの製造
図 1 バイオメトリクスと人工物メトリクス
本研究は、国内衣料品メーカーからの偽装品対策ニーズ
に基づき、人工物メトリクス技術を昇華染色に応用するこ
とで、
画期的な真贋判定システムを開発することによって、
商品購入時に真贋判定を行い本物であることを確認(真贋
判定)したうえで、商品を安全に購入できる新たなサービ
スの事業化を目的とする(図1、図2)
。
昇華染色タグは読み取りやすいように、マーカーとして
2次元コードを印字した。また、印字した箇所に個別性の
ため特殊な工夫を施した。図4に昇華染色タグのイメージ
を示す。実際には、製品の内側等の見えない場所に取り付
けることを想定している。
図 4 昇華染色タグのイメージ
図 2 人工物メトリクスによる真贋判定
30
テーマ2:真贋判定測定デバイスと情報システムの構築
真贋判定の情報システムは、普及を考慮してスマート
フォンを利用した認証システムとして開発した。システム
にはデータ登録機能と認証機能がある。登録機能ではス
キャナを利用し昇華染色部を高精細な画像として読み込
み、ひずみ補正を行った後、図5に示すような画像処理を
行い特徴抽出した結果の情報をデータベースに登録する。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
組込みソフトウェア
図 5 登録機能における画像処理
認証機能では、スマートフォンのカメラ機能を利用して
昇華染色タグ(二次元コード)を読み取り、昇華染色に
よってできる特徴情報が予め登録されているデータベース
のデータと一致することを確認し、判定結果を表示するシ
ステムとなっている(図6)
。
図 7 認証方式の FAR および FRR
開発された製品・技術のスペック
以上の研究によって、真贋判定のもとになる昇華染色タ
グとその真贋判定システムを開発した。製品に取り付けた
タグの特徴情報を抽出してデータベースに登録し、商品が
流通し購入する際、消費者がスマートフォンを利用して簡
単に本物かどうかを判定することが可能である。真贋判定
システムの全体像を図8に示す。
図 6 測定デバイスと情報システムの概念図
テーマ3:人工物を用いた認証システムの提案と安全性検証
システムを安全に利用するためには、個体識別に利用す
る情報が十分な個別性を有するかの評価が必要で、これを
情報エントロピ(ランダム性尺度)の計算により定量的に
評価した。また、暗号技術の最新動向などを踏まえ安全な
認証方式を構成し、認証システムにおける誤受入率(FAR)
および誤拒否率(FRR)を測定し、本システムの精度の評
価を実施した。実施結果の FAR および FRR を図7に示す。
図 8 真贋判定システム
今後は国内衣料、小物ブランドメーカーを中心に実証実
験等を経て実用化の取り組みを実施していくとともに、シ
ステムの精度や適用範囲をより向上させるべく研究開発を
継続する予定である。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
楽プリ株式会社
◎所在地 : 〒 103-0004 東京都中央区東日本橋 1-3-9 大内ビル
◎担当者 : 天野 康朋
◎ TEL:03-5913-8774 ◎ FAX:03-3866-4727 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 楽プリ(株)、(株)ブルーリンクシステムズ
◎主たる研究実施場所 :(株)ブルーリンクシステムズ
31
全自動3D映像プラットフォーム BinoQ シリーズの
開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
表 1 BinoQ-P シリーズの概要
川下の抱える課題及びニーズ
サービスロボットに関する事項
安全性の確保
高度化目標
信頼性の向上(機能安全確保を含む)/利用品質の向上/高
性能化・機能の向上/柔軟性、適応性の確保
研究開発の背景及び経緯
メディア業界では、3D映画や3Dテレビの撮影は盛んに
なっているが、眼の疲れや頭痛といった3D映像特有の問
題も注目され始めた。3D映像に関する安全基準が最近続々
と制定されている。人間の眼に優しい安全な3D映像を撮
影するためには、3D撮影装置は非常に高価になり、カメ
ラの設置や調整に非常に手間が掛っている。また、遠距離
のシーンの3D撮影は立体感を出すために、カメラ間距離
を離さなければならない。例えば100m先のシーンの3D
撮影にはカメラ間を3m以上離す必要がある。カメラ間距
離が長くなるとカメラ同士の相対位置・姿勢の正確な設定
が困難になり、人間の眼に優しい安全な3D撮影ができ難
くなる。従って、サッカーや野球のような近距離撮影の
できないスポーツの生中継では、遠距離からの立体感のあ
る3D映像の撮影は未だ実現できない状況である。この状
況を変革し、より安全でより良質な3D映像を得るために、
人間の眼球運動に基づいた“全自動3D映像撮影システム”
は有効であり、3D撮影の自動化は撮影現場の面倒な作業
をなくすというニーズになっている。
研究開発の概要及び成果
人間の眼球運動と両眼相対関係を実現する両眼視覚制御
システムの原理を3Dカメラ制御システムに応用し、人間
の眼に優しい安全な全自動3D映像を撮影できるプラット
フォームを構築した。両眼視覚制御原理を用いて、これま
でにない遠距離被写体の3D映像を撮影できる3D撮影リグ
を開発し、サッカーなど近距離撮影のできないスポーツテ
スト撮影に成功した。具体的には、P1のハードウェァ化
BinoQ-P1-RT-EB, マスター・スレーブ・スレーブ式3D
カメラリグBinoQ-P2, 基線長自動調節可能な全自動3D
撮影リグBinoQ-P3の3つの全自動3D映像プラットフォー
ムBinoQ-Pシリーズである(表1)
。
32
開発された製品・技術のスペック
開発したBinoQ-P1-RT-EBはリアルタイム画像処理と
3Dキャリブレーション用FPGA +DSP搭載ボードで、セ
キュリティ性の高い組み込みユニットとして、ライブ3D
撮影用プロセッサとし利用できる(図1)
。特に既存の3D
リグやシステムをデュアルHD-SDI入出力で接続し、3D自
動補正が可能である。
図 1 P1 の FPGA_DSP 搭載ボード
BinoQ-P2超遠距離3D撮影システムは、カメラ分離型
で基線長1mから100mまで自由に調整でき、カメラ同士
の相対位置・姿勢を自動補正する独自制御アルゴリズムを
持つ。カメラマンのマスターの動きに追従し、カメラ間
の位置を合わせてくれる(図3:P2システム)
。例えば、
3Km先の被写体でも書き割り現象はなく、3D効果は保ち、
はっきりした位置関係が表現できる(図2:P2テスト撮
影構成)
。
全自動3D撮影カメラリグBinoQ-P3は、初期調整が必
要なく、左右のカメラは被写体に追従しながら、カメラの
ズームに合わせて最適な基線長を自動的に調節することが
できる(図4:P3システム, 図5:P3制御 GUI(グラフィ
カルユーザインターフェース)
)
。基線長700mmまで調整
可能で、歪みない最適な3Dシーンを自動的に合わせてく
れる平行式3Dシステムである。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
組込みソフトウェア
図 2 P2 テスト撮影構成
図 4 P3 システム
図 3 P2 システム
図 5 P3 制御 GUI
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
国立大学法人東京工業大学
◎所在地 : 〒 226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259
◎担当者 : 張 暁林
◎ TEL:045-924-5083 ◎ FAX:045-924-5083 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): Bi2-Vision(株)
◎主たる研究実施場所 : 東工大横浜ベンチャープラザ
33
HEV・EV・FCV 向けモータ・ジェネレータ・トラン
スミッション開発用試験機統合制御システムの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
安全性の確保(機能安全確保を含む)
高度化目標
信頼性の向上(機能安全確保を含む)
研究開発の背景及び経緯
<研究開発背景>
近年、乗用車を中心として自動車・輸送機器の開発・製
造においては、CO2削減や、石油をはじめとする化石燃料
からより環境負荷の低い代替燃料への置き換えを目的とし
て、HEV/EV/FCV化が活発化してきている。
しかし、これら次世代自動車の開発・製造完了は、まだ
技術的に十分な成熟段階に達しておらず、昨年米国におい
てマスコミに大きく取り上げられた、トヨタ社製ハイブ
リッド自動車問題に代表されるように、運転操作時の過度
応答特性の改善や、誤操作や緊急操作時の自動安全回路作
動(フェールセーフ思想)の完全な折込が強く求められて
いるような状況にある。
HEV/EV/FCVにおける、重要機能部品であるモータ・
ジェネレータ・トランスミッションの開発・製造に焦点を
絞れば、それらの重要機能部品を瞬時に円滑に運転状況に
あわせた運転制御を可能とする電子基板や組込みソフト、
さらにそれらを組み合わせた統合システム開発は時代の要
求に沿うものである。
<研究目的>
自動車の開発分野では環境問題解決のため急激にHEV/
EV化が進んでいるが、未だ評価技術は発展途上段階であり、
安全性確保・信頼性向上のためには、実際の運転状況を簡
単に再現できるテスト・検証システムが求められている。
このような状況を鑑み、本研究開発事業は駆動系重要機
能部品を実験室内台上試験で、運転状況を忠実に再現し、
細部にわたるデータを取得解析して製品開発にフィード
バックできる開発試験機の統合制御システムの開発を目的
としている。
本研究の高度化目標は、実車の実走行状態と同様の環境
を再現でき、かつ重要機能部品について詳細な運転状態を
計測・解析できるテスト・検証環境を提供することを目指
している。
研究開発の概要及び成果
EV系モータ評価ベンチは、多分野技術の結集であり、
それぞれの専門メーカの寄り集まりによる開発が普通で、
プロジェクト規模も大きくなりがちである。
そのためもあり、各社の完結されたシステムを継ぎ足し
た操作性の悪い装置として完成される傾向にあり、ユーザ
からは、そのメンテナンス性含めた統合化の要望を聞くこ
とが多くなってきている。これは、従来型のモータベンチ
が、機能的にも、価格的にも、冗長な装置として提供さ
れることになり、総合的に無駄なコストを発生することに
なっている。
よって、新技術として統合制御装置を提案、集約的なメー
カで、モータベンチの製造と制御を完結することで操作性
の向上した装置を提供することができた(図1)。
図 1 統合制御装置
統合制御装置は、上位PCが充実したGUI(Graphical
User Interface)を持って操作担当者とのインターフェー
スを持つことは勿論であるが、その動作を忠実に実行させ
るためにも、モータ駆動インバータ(コンバータ)にも上
位PCとの柔軟なインターフェースを持つことが必要であ
る。
これは、大手モータメーカから供給される汎用インバー
タでは達成できなく、新たにインバータ・回生コンバータ
を開発した(図2、図3)。
図 2 インバータ
34
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
インバータについては、検証段階において指令値通りの
駆動波形発生を確認している。
コンバータについても、回生電力の変動に対しても十分
な応答速度を持つことを確認、回生の能力を確認済みであ
る(図4)
。
<インバータ仕様>
回路方式 三相フルブリッジコンバータ
定格出力容量 50kW
定格入力電圧 650V
定格入力電流 77A
定格出力電圧 AC 200V±10%
定格出力電流 AC 145Arms
<コンバータ仕様>
回路方式 三相フルブリッジコンバータ
定格出力容量 50kW
定格入力電圧 AC 200V±10%
定格入力電流 AC 145Arms
定格出力電圧 650V
定格出力電流 77A
ともに、RS485によるインターフェース
組込みソフトウェア
図 3 コンバータ
開発された製品・技術のスペック
<統合制御装置ソフト>
基本 LabVIEW
構成 cRIOあるいはRealtime
HILS ControlDesk
図 4 コンバータの応答波形
本装置の構成例ブロック図を示す(図5)
。
図 6 統合制御装置画面例
図 5 統合制御装置構成例
本研究により、上位PCでモータベンチを統合的に操作
することが可能となり、モータの制御特性観察からデータ
取得、効率の評価や進角マップの測定ができた。
今後は、ECU(Electronic Control Unit)の適合まで
の一連のモータ評価をさらにインテグレートさせたHILS
(Hardcare In the Loop Simulation)環境提供予定である。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社スペースクリエイション
◎所在地 : 〒 432-8062 静岡県浜松市南区増楽町 1341 番地の 1
◎担当者 : 細田 真理子
◎ TEL:053-447-2755 ◎ FAX:053-447-2833 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 長岡技術科学大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)スペースクリエイション、ポニー電機(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)スペースクリエイション
35
血液診断バイオマーカーのための定量比較
LC-MS ロボットにおける組込みソフトウェアの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
組込みソフトウェア
川下の抱える課題及びニーズ
産業機械及び産業用ロボットに関する事項
新たな適合分野への対応
川下分野横断的な共通の課題・ニーズに関する事項
品質の向上/国際規格への対応
高度化目標
信頼性の向上/高性能化及び機能の向上
検証・品質保証体系の構築/情報システムとの連携をサポート
する技術の構築
研究開発の背景及び経緯
医療分野においては、近年「医療用ロボット」が実用化
されつつある。本研究開発の目的は、血清中の疾病診断バ
イオマーカーであるペプチドを液体クロマトグラフィー
(LC)および質量分析(MS)により定量・比較する完全
自動化LC-MSロボットのための組込みソフトウェアの開
発である。LC-MSによる血清中のペプチド測定は、現状
ではマニュアル操作に頼っているために、信頼性を欠き、
サンプル処理速度も低い。この状況を組込みソフトウェア
の開発によって解決しようとするものである。
本研究開発で取り組む課題として、計測のためのLC装
置とMS装置が正しく稼働しているかどうかをテスト・検
証する技術、質量分析データから計測対象物を定量する技
術、ヒトの健常と病気の状態における検査データを比較・
評価する技術があげられる。これらの技術を充足するソフ
トウェアが組込まれたLC-MS装置が求められる血液検査
ロボットであり、これを「定量比較LC-MSロボット」と
呼ぶ。本研究開発の課題は、高度化目標に対応して「定量
比較LC-MSロボットの高性能化および機能の向上」、「定
量比較LC-MSロボットの情報を利用する機関の情報シス
テムとの連携をサポートする技術の構築」とした。
図 1 本研究開発の技術目標
本研究開発の成果
(1)組み込みソフトウェアによるデータ処理時間の短縮
分析において繁用されるパラメータの調査から、①複数
の繁用メニューを作成しパラメータ設定時間を短縮するこ
と、②質量分析に調和したLC分画溶出速度の制御により
分析時間を短縮すること、③分析時間の短縮を可能にする
質量分析加速システムの導入、④平成21年に構築した信
頼性向上策を活用した分析の効率化により達成した。
(2)サンプルから得られる情報の可視化とこれによる比較
解析機能の構築
組み込みソフトウェアによって対象となるサンプルの属
性(臨床情報等)を蓄積し必要に応じて引き出しできるも
のとし、情報の理解に便利なように可視化するものとした。
比較解析は可視化によって容易に結果が確認できるものと
することで達成した(図2)。
研究開発の概要及び成果
本研究開発の概要
本研究開発の目標を図1に示す。
本研究開発では、血液診断バイオマーカーのための定量
比較LC-MSロボットの高性能化および機能の向上のため
に、
(1)組み込みソフトウェアによるデータ処理時間の
短縮、(2)サンプルから得られる情報の可視化とこれに
よる比較解析機能の構築、定量比較LC-MSロボットの情
報を利用する機関の情報システムとの連携をサポートする
技術の構築のために(3)医療機関への情報開示方法の構
築、
(4)患者の臨床情報を記録した電子カルテとの連携
のための技術開発とした。
36
図 2 情報の可視化
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
組込みソフトウェア
(3)医療機関への情報開示方法の構築
定量比較LC-MSロボットからの情報提示により、医療
機関における診断の支援を目的として、診断可能なリスト
から診断の可能性(推定される確率)を与えられる情報出
力を行うためのアルゴリズムを認知症および肝疾患をモデ
ルとして構築し、実データを用いて検証することでソフト
ウェアの有用性を明らかにした(図3、表1)
。
図 4 電子カルテとの連携
事業化、製品化の見通し
平成23年度に特許出願、26年度に特許権設定およびラ
イセンス付与を予定し、26年度にライセンス先からの製
品生産、販売を開始する。ライセンス先としては、川下企
業であるLC-MS装置産業を想定している(図5)。
図 3 データ収集と情報の分析
表 1 LC-MS ロボットによる診断結果の検証
臨床診断
LC-MSロボットの
診断
健常者
認知症
健常判定
38
15
71.7%
認知症判定
18
50
73.5%
平均一致率
一致率
72.7%
(4)患者の臨床情報を記録した電子カルテとの連携のため
の技術開発
電子カルテ情報と定量比較LC-MSロボットからの情報
の組み合わせにより診断の可能性(推定される確率)を与
えられる情報出力を行うために、認知症および肝疾患をモ
デルとしてアルゴリズムを構築し、実データを用いて検証
することでソフトウェアの有用性を明らかにした(図4)。
図 5 実現化後のイメージ
開発された製品・技術のスペック
本研究開発によって開発された製品は、疾病診断のため
に血液中ペプチド測定を行う定量比較LC-MSロボットの
組込みソフトウェアである。本研究開発の成果として開発
された組込みソフトウェアは、データ処理時間を短縮し、
サンプルから得られる情報の蓄積と可視化、比較解析機能
を有し、定量比較LC-MSロボットの情報ならびに電子カ
ルテ等との情報の組み合わせにより診断の可能性(推定さ
れる確率)を与えられるアルゴリズムを実装できる。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社 MCBI
◎所在地 : 〒 305-8577 茨城県つくば市天王台 1-1-1 筑波大学産学リエゾン共同研究センター 303
◎担当者 : 内田 和彦
◎ TEL:029-855-5279 ◎ FAX:029-855-5271 ◎ E-mail:[email protected][email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 筑波大学、産業技術総合研究所幹細胞工学研究センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)MCBI
◎主たる研究実施場所 :(独)産業技術総合研究所 臨床インフォマティクス研究施設
37
微細構造・高硬度金型の超精密微細加工技術と
成形技術の開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
その他
高精度化・微細化/大型化・小型化/複雑形状化/環境配慮
タやボイスコイル・圧電アクチュエータを利用し、微細構
造の溝の方向に沿って研磨可能な研磨システムを開発し
た。これにより、熟練した技能者が行うようなシャープエッ
ジを残した研磨を自動化して実現することが可能となる。
高度化目標
高精度化・微細化に対応した金型及び成形技術の向上/複雑
3次元形状等を創成する金型及び成形技術の向上/工程短縮
等を可能とする金型技術の開発/金型の仕上げ工程の削減/
高度な計測技術の確立/環境配慮に対応した技術の開発
研究開発の背景及び経緯
デジタル情報家電に加えて集光型太陽電池デバイス、医
療診断用マイクロチャンネル、半導体検査用プローブ等で
必要な階段状・ノコ歯状の微細構造を有する微細成形品の
ニーズが増大している。そこで、1. マイクロエンドミル
工具、2. 圧電研磨ヘッド、3. 多自由度方向制御可能な振
動式研磨システム、4. 非接触機上測定装置の開発を行い、
これらの技術を用いた試作を通じて5. 超微細金型の加工
技術と微細部品の転写技術の実証を行う。
研究開発の概要及び成果
1. マイクロエンドミル工具と微細形状の精密かつ高能率
な微細切削技術の開発
研磨加工の前段階として、微細形状を持つ形状を高精度
加工する必要がある。軟質金属を単結晶ダイヤモンド工具
で切削する場合と異なり、プラスチックあるいはガラス成
型金型に適したセラミック材料や焼入れ鋼を精密加工する
ため、超微粒PCD・超微粒cBN切削工具等(図1)の開
発を行い、研磨の前段階まで達成可能な加工を行った。
図 2 圧電アクチュエータを利用した研磨システム
3. 多自由度方向制御可能な研磨システムの開発
前記の目的を達成するために、振動の方向を多自由度に
制御可能な研磨ヘッドの開発を行う。振動の制御は圧電ア
クチュエータ等を使用し、高速かつフレキシブルな研磨方
向の制御が可能となるようにする。また、リニアモータと
圧電アクチュエータで振動させて研磨するが、その振動パ
ターンを解析し、最も良好な表面粗さと形状が得られるよ
うに最適化させた。併せて、微細な形状を研磨するための
軟質のゴムを結合材とし、微小なダイヤモンド砥粒を含有
させた微細研磨ポリシャの開発も行った。
2 自由度以上の振動制御が可能なヘッドを開発し、微細
構造を持つ金型表面にシャープエッジを維持しつつ研磨で
きるヘッドの開発を行った。微細な研磨パッドの開発も同時
に実施した。
図 3 研磨ヘッド研磨実験装置
半月形状
1枚刃形状
多刃スクエア形状
図 1 各種開発したマイクロエンドミル
2. リニアモータ・ボイスコイル・圧電アクチュエータ応
用研磨ヘッドの開発
従来の微小金型の超精密研磨は回転型研磨工具を用いる
ものが主流であった。しかし微細構造を有する金型は、従
来の回転型研磨工具や方向性を制御されない揺動型研磨工
具では、(a)形状が微細すぎる、
(b)金型エッジ部の研磨
が困難などの理由で適応できない。このため、リニアモー
38
4. 非接触機上測定装置の開発
微細金型の形状の加工精度を検証するため、非接触ある
いは接触式で微細な形状を測定可能な計測プローブの開発
を行った。プローブは精密加工装置上或いは測定装置上に
て加工された形状を測定し、形状の評価を行う。
成形金型は、超精密加工(切削、研削、研磨)によって
加工され、その加工精度を保障するだけでなく、形状計測
データを基に補正加工を行うことにより加工精度の向上が
図られている。レーザプローブ走査式の測定ヘッドを精密
微細加工機に搭載し、加工後の微細金型の形状を機上で計
測し、補正加工を行い、加工精度と能率を向上させる。
測定可能な微細形状の空間周波数(微細溝のピッチ)は
50μm程度を目標とした。
21年度採択
[一般枠]
5. 微細形状の成形転写技術の開発
前記1から4の技術を利用して加工された金型等を使用
し、シリコーン樹脂・プラスチックやガラスを使用して成
型品を形成する実験を行い、成型品の精度、性能を評価し
た。適応分野としては、光ディスク等の光学素子、太陽電
池のための集光レンズ、医療診断用バイオチップに使用さ
れるマイクロチャンネル等を対象とした。
また、次世代のLSIの検査用プローブにも微細化が要求
されており、材料として高弾性・導電性・微細構造の金属
ガラス製プローブが有効であると考えられている。機械加
工、放電加工、蒸着など、電気加工、物理加工、マイクロ
転写成形を複合させて、実用的な微細形状の成形転写技術
を開発した。
開発された製品・技術のスペック
1. マイクロエンドミル工具と微細形状の精密かつ高能率
な微細切削技術
PCD(多結晶ダイヤモンド)フライス工具、
cBN(多結晶・
単結晶窒化ボロン)フライス工具
形状:円筒形状、ナイフエッジ形状(フレネル用)
工具径:φ50μm ∼ 2mm
刃数:5 ∼ 40
同軸度:0.5μm以下
すくい角:−20°
加工形状精度:0.1μmP-V、表面粗さ:10nmRy(超
硬合金金型、SiC金型)
金型
図 4 機上測定システム
2. リニアモータ・ボイスコイル・圧電アクチュエータ応
用研磨ヘッド
X, Y, Z軸制御
形状精度:1μmP-V、表面粗さ:10 ∼ 50nmRz(超
硬合金金型、SiC金型)
3. 多自由度方向制御可能な研磨システム
ポリシャ径:φ100μm ∼ 2mm
金型溝幅:φ100μm ∼ 2mm・アスペクト比:1 ∼ 3
4. 非接触機上測定装置
レーザ非接触プローブ(スポットサイズ約0.4μm)
10nmリニアスケール計測採用
分解能:1nm(縦)、0.4μm(横)
測定形状精度:0.05μmP-V以下
5. 微細形状の成形転写技術
5-1 ソーラ用フレネルレンズ
金型材:超硬合金
成形材:白板ガラスなど
成形形状精度:20μmP-V
表面粗さ:10nmRz
5-2 医療用マイクロチャンネル
・金型材:焼入れ鋼など高硬度材
・成形材:シリコーン樹脂など
・成形形状精度:10μmP-V
・表面粗さ:10nmRz
5-3 半導体検査用プローブ
金型材:超硬合金
成形材:金属ガラス
成形形状精度:5μmP-V
表面粗さ:100nmRz
5-4 WLCレンズ
金型材:超硬合金
成形材:ガラス、エポキシなど
成形形状精度:10μmP-V
表面粗さ:10nmRz
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事業管理機関名
株式会社長津製作所
◎所在地 : 〒 211-0012 神奈川県川崎市中原区中丸子 57
◎担当者 : 上原 純一
◎ TEL:044-433-8371 ◎ FAX:044-433-8374 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 中部大学、東京大学、(独)理化学研究所、群馬大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)長津製作所、マイクロ ・ ダイヤモンド(株)、(有)メカノトランスフォーマ、三鷹光器(株)
◎主たる研究実施場所 : かわさき新産業創造センター(KBIC)
39
角隅を有する金型の磨きレス鏡面加工技術の開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化/複雑形状化・一体成形化/短納期化
高度化目標
金型の低コスト化や短期間製造等を可能とする新素材・新製
造技術の構築/複雑3次元形状等を創成する金型及び成形技
術の構築/金型の仕上げ工程の削減/工程短縮等を可能とす
る金型技術の開発/金型製造技術の向上
金型を鏡面加工する必要がある。現在は矢型を鏡面研磨し
た後、矢型を結束し、電鋳メッキで転写してRR金型を製
作している(図2)。
この工法では修正や手直しを含めRR金型製作に90から
120日を要し、RRを含む車載用ランプ設計製造工程が
自動車開発製造期間全体のボトルネックとなっている。ま
た、矢型利用を基本としているため、矢型面の大きさや形、
自由曲面に適応することができず、自動車デザインの自由
度を著しく制限している。
研究開発の概要及び成果
研究開発の背景及び経緯
角隅部を含む金型の鏡面加工は、従来、放電加工と磨き
の長時間工程によって行われている(図1)
。この磨き工
程を省略する『角隅部を含む磨きレス鏡面加工』は、金型
加工における長年の課題であり、これを実現した例は世界
的にも報告されていない。過去に、一方向動切削を適用し
て角隅部の加工を行なう試みがあったが、一方向の振動切
削では振動方向と切削方向の関係を一定に保つ必要性か
ら、原理的に切削方向の変化は許されないため、実用的な
角隅部の磨きレス鏡面加工は困難であり、これを実現した
例は報告されていない。
具体例として、車載用光学部品、特に後部反射器(RR:
リフレックスリフレクタ)の金型は、世界各国で定められ
た反射率規格の配光試験をクリアするため、角隅を有する
図 1 放電加工と磨きによる従来の角隅鏡面加工
本研究開発では、
研究実施者らが開発してきた新技術『楕
円振動切削』を適用し、ミクロンオーダで楕円振動する非
回転工具を用いることで、
『角隅を有する金型の磨きレス
鏡面加工技術』を生み出す(図3)
。本開発技術は、角隅部
のために複数金型を精密に組み合わせる工程、それを転写
するメッキ工程、さらに磨き工程を削減し、直接高精度な
機械加工を行なうことで修正加工の工程も削減する。これ
らの大幅な工程削減は、大幅な製造期間短縮をもたらすだ
けでなく、精度向上や設計の自由度を向上し、メッキレス
製造は環境に対する負
荷をも低減する。
以上の新技術を、現
在の自動車製造におい
てボトルネックになっ
ている車載用後部反射
器(RR:リフレックス
リフレクタ)の金型製
造に応用し、図4に示
すように,直彫りの磨
きレス加工によって、 図 3 楕円振動切削による磨きレス角隅鏡
面加工
工程削減、納期短縮、
図 2 矢型を用いる従来の RR 金型設計・製造
図 4 楕円振動切削による新しい RR 金型設計・製造
40
21年度採択
[一般枠]
コスト削減、シャープな角隅加工、金型寿命延長、設計自
由度の向上等を達成する。
金型の磨きレス角隅加工を目的として開発した楕円振動
切削装置を図5に示す。本装置は41.4kHzで6μm以上の
高振幅(長軸方向)を実現している。さらに、目的の楕円
振動以外の誤差振動成分を1nm以下に抑制することで超
精密レベルの鏡面加工が可能であり,高硬度材のミリメー
トルオーダの切削を行い得る剛性とパワーを有している。
従来技術では不可能であった金型鋼の磨きレス角隅加工を
達成するのみならず、図6に示すように超硬合金の鏡面加
工をも実現している。
上記の超音波楕円振動切削装置には、振動系の一部とし
て専用に設計されたインサート工具が必須となる。図7は、
その一例であるが、本研究では、さらに角隅加工を達成す
るため、極めて小さな刃物角(例えば40度)の単結晶ダ
イヤモンド工具でありながら、高硬度材に対しても欠損し
にくい刃先強度を実現した。
図 5 開発した高振幅超音波楕円振動装置
(a)
振幅制御加工法
図 6 超硬合金の鏡面加工を実現
金型
開発された製品・技術のスペック
基本的な加工技術としては、角隅加工をさらに発展させ
たマイクロテクスチャ加工技術を開発した。本技術では、
図8
(a)に示すように楕円振動の振幅を高速に制御するこ
とで、微細な表面形状を比較的高能率に創製する。図8(b)
は、本技術によって超硬合金に対して三角波状の角隅を有
するテクスチャ溝を加工した例であり、従来技術では実現
困難な複雑微細形状デバイスの金型加工を可能とする新し
い基盤技術として期待できる。
3次元的な角隅形状を有するRR金型の磨きレス楕円振
動切削加工を実現した例を図9に示す。この金型では、数
千平方ミリの曲面上に、数ミリサイズの再帰反射ミラーが
無数に形成されている。写真に示されるように、高精度な
鏡面が得られている。数値的な加工精度と表面粗さについ
ては、未計測であるが、光学素子として要求仕様を満たす
ものと期待している。
以上のように、本研究では、金型加工における長年の課
題であった『角隅部を含む磨きレス鏡面加工』を実現する加
工技術ならびに加工装置、工具を開発することに成功した。
今後、
さらに装置と加工技術を高度化する研究開発を継続し、
さらなる高能率化と高精度化、適用範囲の拡大等を目指す。
図 7 開発した超音波楕円振動切削用ダイヤモンド工具
(b)超硬合金加工例
図 8 振幅制御楕円振動切削技術と超硬合金の角隅テクスチャ加工
図 9 楕円振動切削による金型の磨きレス角隅加工例
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事業管理機関名
財団法人理工学振興会
◎所在地 : 〒 226-8503 神奈川横浜市緑区長津田町 4259 番地 東京工業大学内 S2-10
◎担当者 : 泉 洋一郎
◎ TEL:045-921-4391 ◎ FAX:045-921-4395 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 名古屋大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(有)菅造型工業、多賀電気(株)、(株)アライドダイヤモンド
◎主たる研究実施場所 :(有)菅造型工業
41
バックライト導光板の低コスト化・薄型化を実現する
金型とプレス機の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する事項
軽量化・薄型化/低コスト化/環境配慮
高度化目標
難加工材に対応した金型及び成形技術の向上/工程短縮等を
可能とする金型技術の開発
研究開発の背景及び経緯
端面から入射する光を面発光させるエッジライト導光板
は液晶ディスプレイやキーボードなど多くの電子機器の背
面照明として使われているが、市場価格の下落に伴う大幅
なコスト低減と市場のニーズによる薄型化が強く求められて
いる。従来の製造方法は射出成形加工機での一体成形や反
射ドットをスクリーン印刷し外形を切削加工する方法である
が、高いイニシャルコストや加工時間が長いことから製造コ
スト低減が難しい。また、射出成形加工は板厚0.5mm以下の
導光板では金型内への樹脂の充填が難しく、生産できる導
光板は比較的小さいものに限られてしまう。本研究は加工
時間が速く、薄い基材に対しても有効に塑性加工を行うこと
ができるプレス加工方式で、導光板の低コスト加工を実現す
る金型とプレス機の開発及びプレス技術の研究開発である。
○入光部プレス加工技術の開発
本研究開発では入光部の要求仕様を透明且つ平滑である
こととした。導光板の主な基材のPMMA(アクリル)は
伸びがなく衝撃に弱いのでプレス加工で塑性加工を行うこ
とができないとされているが、金型の刃の仕様と品質、金
型温度、プレス加工モーションを研究した結果、透明且つ
平坦な入光面をプレス加工で実現する金型と加工ノウハウ
が開発できた(図4)。
工程能力の検証としてプレス20万ショットの耐久試験
を実施したが、断面品質(図5)及び導光板の輝度性能(図
6)に目立った変化はなかった。
図 4 加工した導光板の入光部
図 5 加工した入光面 SEM 画像
研究開発の概要及び成果
研究開発の対象を当初はキーボード(図1)や操作パネ
ルなどの設定された文字等を背面発光させるバックリット
用導光板とし、次に携帯電話(図2)などの液晶ディスプ
レイ(以後LCDと云う)用導光板とした。
図 6 入光部加工耐久試験での輝度変化グラフ
図 1 PC 用キーボード
図 2 携帯電話の液晶表示部
導光板をプレス加工する技術要素にはLEDからの照射
光を有効に取込む入光部の加工技術と入射光を面発光させ
る反射ドットの加工の技術がある(図3)
。
①入光部
LED
②反射ドット
図 3 入光部と反射ドットの概要図
42
○反射ドットプレス加工技術の開発
【反射ドット形状の開発】
プレス加工での成形に適したドット形状とドットスタン
パーを開発した。特徴は次のとおり。
①ドットスタンパーの凸部切削加工時間が従来の輪郭加工
方式に比べ約1/10になる(従来比)。
②成形形状に凹状曲面と円錐曲線を有し、光の指向性と拡
散性を共有する形状である。
本研究ではこのドット形状を「CSドット」と命名し、
CSドットを用いた導光板の試作開発を行った。
図7が試作した導光板のドット面の写真であり、図8が
その拡大写真である。また導光板の輝度均一性を調整する
技術も開発した。
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
金型
図 7 プレス成形した CS ドット(ドットピッチ 0.4㎜ )
○開発した製品
①入光部加工用プレス金型
②反射ドット加工用プレス金型
③導光板加工用専用サーボプレス機
○試作した導光板とそのスペック
【キーボード用導光板の試作】
図10は試作した基材厚0.25mm導光板の写真である。
図11は導光板単体での面発光輝度分布表である。
十分実用性のある性能となっており、実プレス加工時間
は開発したサーボプレス使用で4秒/pcsであり、従来方式
に比べ大幅なコスト低減が実現できている。
図 8 成形した CS ドットの拡大写真
【反射ドットをプレス加工するための金型の開発】
プレス加工する反射ドットの深さは30 ∼ 100μmであ
るが、プレス成形加工はドットスタンパーを適正な温度に
加熱するので、金型が熱膨張し反りが発生し成形深さにバ
ラツキがでる。本研究開発では熱膨張による反りを抑制し
反射ドットを高精度にプレス成形できるプレス金型を開発
した(図9)
。
図 10 試作したキーボード用導光板(発光状態)
図 11 キーボード用導光板の輝度分布表
【LCD用導光板の試作】
図12が3.7イ ン チLCD用 導 光 板 試 作 品 の 発 光 時 の 輝
度分布図である。未だ輝度にムラがあるが平均輝度は
。
5743cd/m2になっている(電圧3.4V、電流0.27A)
図 9 キーボード用反射ドット加工金型
【導光板加工専用サーボプレス機の開発】
反射ドットや入光部をプレス加工するために必要な動的
精度・動作モーション・荷重管理ができるプレス機を設計
開発し製作した。
図 12 試作した LCD3.7 インチ用導光板の輝度分布図
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事業管理機関名
株式会社蔵持
◎所在地 : 〒 307-0017 茨城県結城市若宮 9-20
◎担当者 : 岡田 春美
◎ TEL:0296-32-5454 ◎ FAX:0296-32-5470 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 茨城県工業技術センター、茨城大学、(独)東京都立産業技術研究センター
◎主たる研究実施場所 :(株)蔵持
43
食品包装機械のフィルムに傷をつけない
衛生的な袋成形型の最適設計と製造法
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
その他
高精度化・微細化/軽量化/大型化・小型化/短納期化/低
コスト化
高度化目標
高精度化・微細化に対応した金型及び成形技術の向上/金型の低
コスト化や短期間製造等を可能とする新素材・新製造技術の構築
研究開発の背景及び経緯
包装機械はシート状のフィルムを円筒状の袋に折曲げ袋
とし、 中にお菓子などの食品を詰める装置である。この技
術面の課題は包装フィルムを折曲げ成形する型の形状であ
る。包装機械は、フィルムを内側と外側の型でガイドして
折り曲げ円筒状の袋に成形するが、製品である袋の精度は
殆ど型で決定される。このため、高精度の型が必要である
が、型の作製は技術者のノウハウと熟練者の技能を頼りに
試行錯誤で何度も試作して作製しているのが現状である。
ここでは試作しないで高精度の型を解析計算により求める
技術が必要になっている。
●高精度化・微細化
昨今、中国における、食品への異物混入事件などにより、
食品の安全・衛生に注目が集まっている。このため包装業
界は、包装フィルムに傷を発生させない更に高品質な包装
機が要求されている。ここで鍵となるのは型の高精度化で
ある。
●軽量化
包装機の型は包装する食品毎に取替えが必要となる。大
型で重い型の取替えは、女性作業者には困難である。この
ため、生産性向上の観点から軽量な型が望まれている。
●短納期化、低コスト化
型は試行錯誤で、実機で確認と修正を繰り返して作製し
ており、納期は1 ヶ月以上必要である。また食品毎に数多
く必要となるために、コスト低減が重要である。さらに新
たな袋形状など市場ニーズは変化しているため、型製造の
短納期の合理的プロセスの確立が望まれている。
に手造りしている現在の作製法に変わり、解析による高精
度の型形状設計を行う作製技術を開発する。これにより、
包装型の成形技術向上と低コスト・短納期を可能にする製
造法を実現する。
●従来技術と新技術との比較
包装袋はフィルムを型でガイドして折り曲げ、円筒状の
袋に成形して作られている。そのため成形型の精度が求め
られるが、技術者のノウハウと熟練者の技能を頼りに作製
する現状では試作・修正を何度も繰り返さなければならず、
精度面で限界がある。
一部に折曲り線を仮定して計算する技術があり、これを
図1に示す。ただしこの計算は限られた範囲に限定される。
図 1 従来技術
この研究開発ではエネルギ最小原理に基づく有限要素法
をベースに特有の境界条件などを組み入れ、試作しないで
高精度の型設計を可能にする手法を新たに開発する。この
手法を用いると図2に示すように全ての型に対し自動的に
最適な型形状を得る事ができる。
研究開発の概要及び成果
●本プロジェクト概要
食品は、フィルムに傷をつけずに精密に包装されること
が、安全および衛生上で必要不可欠であり、フィルムを袋
状に成形するための型の精度が注目されている。また、型
は食品毎に交換するため、軽量化や低コスト化および短納
期化が要求されている。本事業では、熟練者の技能を頼り
44
図 2 新技術
22年度採択
[一般枠]
金型
●新技術の用途
本研究の手法で型を解析で求めることが実用化すると、
高精度な型を作製することが可能となる。これにより包装
の自由度が増し、応用範囲を拡大することが期待できる。
また、現在は手造りのため、安定した生産が困難になって
いる。これに対して本手法は解析から生産までの一貫した
型作製方法に展開させることができる。また設計の自由度
が高く、顧客毎の要求に合わせた型形状が作製できる利点
がある。
ここではNC加工やRP(Rapid Prototypingの略)に
より高精度の型が試作可能なことを確認している。これ
を発展させCAD-CAM-CAEの設計製造体制を得られれば、
高精度で短納期の型の製造が期待できる。
図 3 RP による樹脂型
開発された製品・技術のスペック
●高精度の型の設計製造
新しい解析手法による型の解析の検討
本解析手法により、図2に示すような型全体の形状が
得られることを確認している。この解析は有限要素法を
ベースにしており、型形状を要素の節点で表現すること
ができる。またこの形状はCADデータに変換して高精
度のSTL(Stereo Lithographyの略)データに変換し、
RPによる試作(図3)やNCによる試作(図4)に使用
できることを確認している。
製造方法の検討
本解析手法による型形状のSTLデータを用いれば、直
接製造することが可能となる。ここではNCやRPによ
る試作を確認しているので、今後CAD-CAM-CAEによ
る、解析から製造までの合理的な一貫したプロセスを検
討する。
軽量型
ここではRPによる樹脂型を試作し軽量化を検討して
いる。今後、樹脂型の品質等の課題を検討して、軽量型
の実用化を実現する。図3はRPにより試作した型の一
例を示す。
図 4 NC による試作型
図 5 包装機搭載による性能試験
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社キャンパスクリエイト
◎所在地 : 〒 182-8585 東京都調布市調布ヶ丘 1-5-1 電気通信大学産学官連携センター
◎担当者 : 野﨑 絢子
◎ TEL:042-490-5734 ◎ FAX:042-490-5727 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京工業大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)インターローカス
◎主たる研究実施場所 :(株)川島製作所
45
成形サイクルの短縮に係わる型技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する事項
製品面の高品位化
高度化目標
難加工材に対応した金型及び成形技術の向上
図 1 通常の金型構造では未冷却構造が多い
研究開発の背景及び経緯
今日、地球温暖化問題が世界的な取組み課題となってい
るが、地球温暖化の最大の要因はCO2排出量の増加であり、
地球温暖化対策としてCO2の削減が急務と叫ばれている。
政府も2020年迄に1990年度比の25%のCO2削減を発
表している。その最大目標は化石燃料利用のエネルギー削
減である。
この問題に金型製造業も経営課題と技術的問題として取
組んでいる。しかし、これらの削減化・効率化は日常の管
理活動として実施している事であり、新技術としての手法
に至っていない。
我々が製造した金型を使用し日々生産している川下ユー
ザーである成形加工業界に眼を向けると、製品を生み出す
射出成形機の動力源は電力利用であり、成形業界は電力使
用量の大きな産業となっている。
量産設備である射出成形機は高熱ヒーターで樹脂を溶融
し、製品細部の隙間まで瞬時に溶融樹脂を充填する高圧力
のエネルギーが必要となる。
樹脂充填時、金型開閉面に開く応力が働き製品の高品位
を保つ為、金型開閉面には膨大な型締め力の高圧力エネル
ギーが必要となる。
射出成形工程中の「樹脂冷却サイクルタイム」は、成形
工程全体の約70%を占め、樹脂を充填固化するまでの工
程時間が電力消費の最大要因となっていて、これら全てが
動力源に電気エネルギーを使用している。
例えば製品のボス穴形状等を構成する部品には、通常細
径ピンが多用され、金型に組込まれた細径ピン先端が成形
時溶融樹脂熱の影響を受けるが、金型構造上細径ピン先端
部分等に冷却機能を組込む事は難しく、未冷却による自然
放熱冷却状態で製品成形する事が多く、成形作業工程の冷
却時間短縮が出来ない大きな要因の一つとなっているのが
現状である。
本研究開発では、
「成形サイクルの短縮に係わる型技術の
開発」により、川下ユーザーの射出成形作業工程に於ける時
間短縮化の型技術開発により、電力使用量削減化、即ち地球
温暖化対策のCO2排出量削減に寄与することが可能となる。
研究開発の概要及び成果
本開発の主テーマである「成形サイクルの短縮に係わる
型技術の開発」を実現するため、①「細径深穴加工の技術
開発」への取組。
図 2 細穴放電加工機による細径深穴加工
①細径ピンに深穴加工を付加する技術では,細穴放電に特
殊なワークホルダーを取付け、材質硬度HRC62以上の
ピンにφ1mm以下で、深さ300mmの加工を施し、ま
た、ガンドリルマシンによるプリハードン材にφ3mm
で、深さ500mmの加工を施す。
②「局部冷却装置の技術開発」への取組。
水・エアー・ミストの冷却媒体を供給する局部冷却装置
開発を行い、概念構想から図面化、装置の試作品製作組
立を実施。製作金型の成形作業による冷却効果確認と成
形作業に於ける「冷却サイクルタイム短縮化」の実験検
証作業を行うことで、装置の実用化の方向性を確認する
事ができた。
図 3 局部冷却装置試作品
46
22年度採択
[一般枠]
③「成形加工冷却サイクル時間短縮の検証」への取組。
加する技術。材質高度HRC63ピン材へ加工径φ2mm、
長さ300mmの細穴を放電加工により加工した。
金型
図 6 細径ピンに深穴加工を付加した技術
図7は深穴加工先端部分の切断面形状。放電加工による
穴の偏芯は殆ど見られない。
図 4 成形時間短縮化の検証
③成形作業の冷却サイクルタイム20%短縮の検証確認で
は、医療用製品金型と家電外装品金型の2種類による製
品成形に細径深穴加工ピン、局部冷却装置を用いて検証
作業を実施した。
図 7 細穴放電加による細径深穴加工技術
②図8左は水・エアー・ミスト媒体を供給する局部冷却装
置。図8右は細径製品形状専用W形局部冷却装置。
図 5 冷却改造前後の部品表面温度の変化を確認
従来の金型構成部品である細径ピンに、①細径深穴加工
を付加する技術により、製品先端部まで②局部冷却装置に
て冷却媒体が供給可能となり、金型部品の冷却効果が向上
し、成形樹脂の固化時間が短縮され、成形作業のサイクル
タイムの短縮化を図る事が可能となった。
開発された製品・技術のスペック
①従来加工が難しかった金型構成部品に細径深穴加工を付
図 8 実用化用に試作製作された局部冷却装置
③成形に於ける「冷却サイクルタイム20%削減」達成。
本開発技術で取組んだ「成形サイクルの短縮に係わる型
技術の開発」成果を現在稼働中の成形金型の改良にも適応
して、ユーザーに開示してより省エネ、省コスト金型の設
計技術として活用と普及をめざす。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
池上金型工業株式会社
◎所在地 : 〒 349-1148 埼玉県加須市豊野台 2-664-8
◎担当者 : 斉藤 多喜男
◎ TEL:0480-44-8686 ◎ FAX:0480-72-8160 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 埼玉県産業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)サン精密化工研究所
◎主たる研究実施場所 : 池上金型工業(株) 中曽根事業所
47
ドライプレス加工用のボロンドープダイヤモンド
コーテッド高靭性超硬合金工具の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化/環境配慮
情報家電に関する事項
低コスト化/環境配慮
高度化目標
環境配慮に対応した技術の開発
研究開発の背景及び経緯
地球温暖化対策としての温室効果ガスの低減のみなら
ず、EU(欧州連合)を中心としたRoHs指令、REACH規則
などの環境に悪影響を与える恐れのある化学物質への規制
が世界的に強まっている。製造業の現場において、機械加
工時に用いられる切削油、
潤滑油の使用量の削減ならびに、
添加剤としての有害物質を低減するための技術開発が急務
となっている。切削加工については、ドライあるいはセミ
ドライ切削への移行が進みつつある。しかし、プレス加工
におけるドライ化は、試験段階であり、ドライプレス加工
技術の必要性が高まっている。
特に難加工材であるステンレスの深絞り加工では、粘度
の高い潤滑油の使用が不可欠であり、極圧添加剤としての
塩素や硫黄系物質などの環境に悪影響を与える化学物質が
添加されている。さらに粘度の高い油の除去に用いられる
洗浄剤の環境負荷も問題となる。
このような状況に鑑みて、
我が国のプレス加工関連企業において、潤滑油や洗浄剤を
全く使用しないプレス加工や、環境負荷の小さい植物系(西
洋アブラナ等)油の少量使用などを前提としたドライプレ
ス加工技術の開発が急務となっている。
本研究開発チームの一部は、早くからドライプレス加工
の可能性に着目して先駆的な研究を進めている。既に経済
産業省の補助金を得た研究開発事業において、DLC(ダ
イヤモンドライクカーボン)膜を金型にコーティングする
ことでアルミ材のドライ浅絞り加工を実現し、商品化に結
びつけている。さらに、難加工材であるステンレス鋼板
のドライプレス加工を実現すべく、摩擦係数が最も低く抜
群の耐摩耗性を有するダイヤモンド膜の利用を検討してき
た。最も困難と予想されたステンレス鋼板(板厚:1.0mm)
の絞り加工において1万回の加工を達成した。しかしなが
ら、ステンレス鋼板のドライ打抜き加工においてダイヤモ
ンド膜コーティング基材である超硬パンチの靭性が不十分
で、チッピングが生じることが判明した。
本研究開発では、前述した先駆的な取組で得られた知見
に基づき、難加工材のドライプレス加工を実用化するため
の課題解決に取組んだ。すなわち、チッピングを起こすこ
となくダイヤモンド膜の付着力を確保できる①高靱性超硬
48
合金の開発、②耐摩耗性を向上させたボロンドープダイヤ
モンド膜合成の最適化、コストパーフォーマンス向上のた
めの③ダイヤモンド膜の研磨効率の向上を図る。最終的に
ドライプレス加工の信頼性を評価するための④ダイヤモン
ド金型の製作と耐久性評価までを実施することを目指した。
研究開発の概要及び成果
①高靱性超硬合金の開発
ダイヤモンド膜の付着力を低下させることなく靭性(抵
折力・破壊靭性値(K1C)
)を向上させた超硬合金を開発
した。従来品と対比させて特性値を示す(表1)
。なお、本
開発品は、プレス金型のみならずダイヤモンドコーティン
グ基材としてドリル、エンドミル等への適用も可能である。
表 1 開発した超硬合金の特性
名称
WC粒径
従来品
中粒
Co
破壊靭性値
硬さHRA 抵折MPa
バインダー量
K1C
<6 wt%
92.0
2940
4.5
開発品A 中粗粒
<7 wt%
90.9
3140
6.5
開発品B
<8 wt%
90.3
3080
6.6
粗粒
従来品
開発品 A
開発品 B
②耐摩耗性を向上させたボロンドープダイヤモンド膜
ステンレス鋼板の絞り加工は極めて過酷な摺動環境であ
り、ダイヤモンドの耐摩耗性を向上させる必要がある。合
成雰囲気中にボロンを含むガスを添加することでボロン
ドープダイヤモンド膜を合成し、耐摩耗性が3倍程度向上
する(図1)最適合成条件を見いだした。
図 1 ダイヤモンド合成時のボロン添加量と耐摩耗性の関係
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
大量生産を目的としたプレス加工金型は、所有するプレ
ス機に対応したオーダー品となる。実用的なドライプレス
順送型として試作した金型とボロンドープダイヤモンド
コーティングしたパンチとダイの概略を示す(図3)
。
金型
③ダイヤモンド膜の研磨効率の向上
気相合成によりコーティングされたダイヤモンド膜は特有
の凹凸面を有しており研磨加工が不可欠である。メカノケ
ミカル反応を利用した砥粒レス超音波研磨法のパラメータ
の最適化を図ることで3次元形状の金型を効率的に研磨で
きる条件を確立した(図2)
。
図 2 ダイヤモンド膜の研磨状況
④ダイヤモンド金型の製作と耐久性評価
最終年度は今まで構築した周辺技術を集大成してドライ
プレス加工のためのダイヤモンド金型を製作し実機評価を
実施した。位置決め用の小径打抜き焼結ダイヤモンドパン
チ、試作した高靱性超硬合金にボロンドープダイヤモンド
膜をコーティングして研磨加工を施した打抜きパンチ、ダ
イ、絞りダイス、しわ押さえ等ドライプレス加工に対応
した金型要素パーツを製作し、耐久評価を行った。板厚
1mmのステンレス鋼板(SUS304)のドライプレス加工
において、位置決め用抜きパンチは42万回、ブランク打
抜きパンチで5.7万回、絞りダイスにおいて3万回以上の
加工が可能であることを確認した。
図 3 ボロンドープダイヤモンド膜をコーディングしたパ
ンチとダイスならびに成形品
板厚1mmまでのステンレス鋼板を対象に位置決め用の
小径・異形穴の打抜き、ブランクの打抜きと絞り加工を「ド
ライプレス加工」できる順送型の製造、販売コンサルティ
ングが可能である。
なお、平成20年に
(社)東京都金属プレス工業会内に本
研究参加メンバーを中心に日本ドライ加工振興会を設立
し、ドライ加工金型製作に関するコンサルタント事業を既
に始めている。
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事業管理機関名
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
◎所在地 : 〒 135-0064 東京都江東区青海 2 丁目 4 番 10 号
◎担当者 : 小林 英二
◎ TEL:03-5530-2528 ◎ FAX:03-5530-2458 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 湘南工科大学、日本工業大学、山梨大学、(地独)東京都立産業技術研究センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 山陽プレス工業(株)、日進精機(株)、冨士ダイス(株)
◎主たる研究実施場所 : 冨士ダイス(株)
49
成形金型の短納期化とデザイン高度化を実現する
低投資な超精密微細切削システムの研究
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する事項
高精度化・微細化/短納期化/低コスト化
高度化目標
高精度化・微細化に対応した金型及び成形技術の向上/モデ
リング技術の高度化/環境配慮に対応した技術の開発
目標-1:精密かつ軽薄短小・高機能・高付加価値成形部品
を実現する表面テクスチャーの開発
目標-2:目標-1を実現する超精密・微細切削技術の開発と
金型設計・加工/試作成形統合システムの構築
各目標に対する成果は、以下のとおりである。
目標-1 表面テクスチャーの開発
1)微細パターンのデジタル設計技術により任意の微細シ
ボのサイズ、シボパターンの傾斜角制御・面分布配置・
大面積化の設計アルゴリズムを開発した(図2)
。
研究開発の背景及び経緯
デジカメ用・AFカメラ用レンズモジュールおよびその
周辺の樹脂成形部品は、複雑高精度形状かつ軽薄短小・高
強度とセットメーカー毎の樹脂材料仕様の違いから、機種
毎に異なる収縮変形に対応した高度金型技術・成形技術が
必要となる。更に、レンズ周辺やCCD素子周辺は光の反
射光による悪影響を避けるためシボ加工処置がなされる
が、離型性の悪化と金型工期の増大につながる。
この様な成形性の課題を解決するため、樹脂流動解析シ
ミュレーションの活用や樹脂の収縮特性を考慮した金型形
状の設計と金型加工が実施されているが、シボ加工の工法
が砥粒噴射(図1)やエッチングのため再現性ある精密な
形状制御ができずほとんどが試行錯誤的な逐次改善となる
ため、時間のロスを現状以上に短縮するには限界があり、
川下製造業者の更なる高精度・短納期要請に対応できない
状況にある。
図 1 シボ製作の従来技術の例
本研究開発は、シボを切削で加工し、再現性ある精密な
シボ形状を実現することにより試行錯誤を排除して、金型
納期の短縮化を目指すものである。
なお、表題にある「低投資な切削システム」の開発につ
いては、平成21年度補正予算案件として終了し成果を既
に報告済みである。
図 2 シボ画像と傾斜角制御シボ
2)シボパターンにおいて離型力制御パターンと溶融樹脂
の流動性制御パターンをデジタル設計し、2種の開発金
型(インプロセス離型力計測金型、樹脂流動性可視化
金型)を用いてその効果を検証した。その結果、離型
方向のシボ面傾斜角をより緩やかにして切削シボで実
現させることにより離型力低減効果を確認した。
3)また、微細表面テクスチャーにより樹脂流動性が制御
できることを確認した。図3の左はキャビティ内での溶
融樹脂の流動性を制御する機能性テクスチャーのデザ
イン例、右は溶融樹脂の可視化金型と超高速VTRを用
いて樹脂流動性をインプロセス観察している状況であ
る。さらに、接触熱抵抗の解析原理を応用して金型温
度の制御による離型力低減の可能性を確認した。
研究開発の概要及び成果
シボ付き金型の短納期化を目指した切削シボ加工技術の開
発として、次の2つの目標を設定した。
50
図 3 樹脂流動性制御テクスチャーと可視化金型
22年度採択
[一般枠]
し成形機制御にフィードバックさせる専用成形機を導
入し、CAEシミュレーションのインプロセス検証環境
を改善させ、金型設計・加工/試作成形を統合化したシ
ステムを構築した(図6)。
金型
目標2 超精密・微細切削技術の開発と金型設計・加工/
試作成形統合システムの構築
1)従来工法のシボ面と同等の切削シボを実現させるため、
極微小径工具φ50μmの刃先位置の自動検知技術(図
4)と100μm相当の微細切削シボ技術を開発した(図
5)
。
図 6 金型設計・加工/試作成形統合システム
図 4 極微小径工具φ 50 μ m の刃先位置検知技術
図7は、3個のインプロセス圧力センサを搭載した成形
機を用いて開発した樹脂流路形状と本システムで成形され
た円筒成形品の収縮変形の関係データである。
図 7 樹脂経路・成形条件と収縮変形の関係
開発された製品・技術のスペック
図 5 切削シボ加工
2)真円度測定器とCAD/CAMおよび構造解析、樹脂流動
解析とCAD/CAMを同一金型設計に反映できるようそ
れぞれ独自ソフトを開発し、5軸MC用CAMシステムと
連結させた。更に、金型内樹脂圧力と射出圧力を計測
開発された技術スペックは次の内容である。これらの技
術により、表面機能を持つシボ付き成形品の金型設計製作
に短納期で対応できる。
1)表面機能を有す高精度切削シボ付き金型の設計・製作
技術
2)金型設計・加工/試作成形統合システム
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事業管理機関名
財団法人理工学振興会
◎所在地 : 〒 226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 番地 東京工業大学内 S2-10
◎担当者 : 泉 洋一郎
◎ TEL:045-921-4391 ◎ FAX:045-921-4395 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 上智大学、日本大学工学部
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 稲田技術士事務所
◎主たる研究実施場所 :(株)クライム・ワークスあきる野ファクトリー
51
ガラスエポキシ基板成形の高効率・低コスト化に資する
革新的な打抜き加工技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する項目
低コスト化
これらの問題に対応するため、加工効率の良い高品質の
打抜き加工技術確立が強く求められている。
本研究開発では、難加工材の高精度打抜き金型の開発、及
び、打抜き加工技術を確立し大幅な加工時間短縮とガラス
繊維を含む切粉削減を達成した。
その他
低コスト化
高度化目標
難加工材に対応した金型及び成形技術の向上
研究開発の背景及び経緯
ガラスエポキシ基板は絶縁性、機械的強度、長寿命に優
れているため高精度基板に広く用いられている。
本基板はガラス繊維とエポキシ樹脂から構成されている
為打抜き加工時に白化、バリ、傷、せん断カス、破壊等の
不具合が発生する難加工材である(図1)
。コネクタ引出
端子部のような高精度を要求する部分にはルーターによる
切削加工が行われている(図2)
。
しかし、加工時間が長く、切粉除去のため洗浄等の後処
理工程が必要で生産効率が悪くコスト高となっている。
研究開発の概要及び成果
(1)高精度打抜き金型の高度化技術の開発
本研究では以下の設備・金型を製作し、高圧押え可変式
機構に金型を載せ打抜き実験を行った。
(1)高圧押え可変式機構
ストリッパプレートとパンチをサーボ機構で各々独立制
御し、また制御モニタのタッチパネルからパンチ速度や押
え力の変更が直接数値変更可能である(図3)。
サーボ機構
制御モニタ
金型取付け部
制御機構部
図 1 ガラスエポキシ基板打抜き加工の不具合事例
図 3 開発設備
一般的な打抜き加工断面
切断加工断面
図 2 打抜き及び切削加工断面状態
また製品の小型・軽量化、薄型化のニーズが高まり基板
の板厚は益々薄くなる傾向にある。
この為ルーター加工時、
基板中央部に浮き上がりが生じ加工不良が発生している。
その対策としてステ板等で押さえる付随作業が必要となり
更なるコスト高の要因となって新興国へ生産が流出する一
因となっている。
52
(2)局部加熱金型
パンチの直接、及び間接的加熱方式(図4)を検討した
結果温度依存性が見られなかった。
(3)高精度交換式ユニット精密金型
ダイ・パンチ・ストリッパが組み込まれた状態で
クリアランスを維持し、高精度を保った状態で金型への取
付・取外しを可能とする高精度交換式ユニット精密金型を
開発した(図4)。
(4)打抜き速度試験用金型
ガラスエポキシ基板の打抜き加工における打抜き
速度と成形品質の相関の確認を行う。また本金型は小型打
抜き装置に組み合わせて使用した。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
間接加熱金型
金型
直接加熱金型
図2の断面と比較すると、打抜き最適条件はルーター加
工には劣るが、一般金型と比較すると、ガラス繊維・エポ
キシ樹脂共に明らかな改善が見られる。
また凹凸量の比較(表1)では、打抜き最適条件での凹
凸量はルーター加工には劣るが一般金型と比較すると約
1/7と大幅に改善し、目標であった「凹凸量20μm以下」
を達成した。
表 1 打ち抜き条件と凹凸量
金型本体
交換式ユニット
図 4 開発金型
(2)打抜き加工技術の開発
クリアランス・押え形状・押え力・打抜き速度・多段モー
ション抜き・加熱抜きの条件取り実験を行い、打抜き加工
技術の開発を行った。また各実験の評価方法は「高倍率に
よる目視観察」「断面の凹凸量比較」で行い、最終的な評
価は上記の評価方法に加え、
「せん断カス(コンタミ)量
の比較」で行った。
開発された製品・技術のスペック
各条件取り実験を行い、導き出した最適条件でFR4基板
を打抜いた断面を図5に示す。
条件
一般金型での打ち抜き
打ち抜き最適条件
ルーター加工断面
凹凸量(μm)
44.0
6.6
2.4
また、コンタミ量を比較すると、打ち抜き最適条件では
ルーター加工とほぼ同等であり,一般金型に比べ約1/6に
低減できた。またルーター加工とコンタミ量がほぼ同等に
なったことは本開発の大きな成果である。
表 2 各種条件と打ち抜き結果比較
条件
コンタミ画像
コンタミの割合
一般金型
1.13%
打ち抜き
最適条件
0.19%
ルーター加工
0.22%
図 5 最適条件での打抜き断面
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事業管理機関名
財団法人日立地区産業支援センター
◎所在地 : 〒 316-0032 茨城県日立市西成沢町 2-20-1
◎担当者 : 相馬 洋
◎ TEL:0294-25-6121 ◎ FAX:0294-25-6125 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)野上技研
◎主たる研究実施場所 :(株)野上技研
53
自動車構造部材用 CFRP −金属ハイブリット部品の
プレス成形加工技術に関する研究
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
軽量化
高度化目標
高張力鋼板、アルミニウム合金等の難加工材に対応した金型
及び成形技術の構築
研究開発の背景及び経緯
近年、地球温暖化対策のためにCO2の削減や省エネル
ギーのための燃費の向上など、自動車の軽量化による対策
は、社会的に急を要し、軽量化に対する価値観が高まって
いる。特に経産省と国交省は2020年の燃費基準を2009
年比24.1%、現行基準(2015年)比19.6%向上する基
準案を発表した。車両の軽量化はHV車や高効率な電気自
動車の航続距離を伸ばすための必須条件であるばかりでな
く、車両質量が約10%軽減されると燃料消費量は約7%向
上し、CO2削減量も約3.5%削減される試算がある。この
ような背景のなかで川下製造業者が抱える軽量化に対する
研究開発のニーズは、軽量化材料としてCFRPの優れた特
徴を生かした構造部品の開発が焦点となっており、車体骨
格構造のBピラー部品等のCFRP−金属ハイブリッド化の
研究開発を期待している。同時にCFRP−金属ハイブリッ
ド部品等の生産性の向上とコスト低減に期待がかかる。車
両の骨格構造部品のCFRP−金属ハイブリッド部品は、軽
量・高強度・高剛性を有するばかりでなく、エネルギー吸
収特性に優れ、リサイクルが可能な部品であるため、他分
野産業の商品に適用され、地域の新規産業と雇用の創出に
貢献できる背景がある。
一方海外では、ヨーロッパの高級車にボディ外装部品な
ど2次構造部品にCFRP材料が採用され、2000年頃より
車体の構造部品などの1次構造部品にCFRP材料は使用さ
れている。
平成21年度は自動車のCFRPエンジンフードのプレス
成形加工技術に関する研究開発を実施し、CF-PCM法や
CF-SMC法によるCFRP材料特性や金型仕様及びプレス成
形技術を適応して1/4分割エンジンフード部品の成形加工
に成功した。また川下製造業者が抱える課題はCFRP価格
の低減と安定的供給である。これが実現されれば自動車分
野だけでなく航空宇宙分野・輸送機器分野等の市場の活性
化が図れる。
54
研究開発の概要及び成果
従来技術と新開発技術との比較
車両の骨格構造部品のBピラーは側面衝突対応として一
般に鋼板製補強部品が接合されている。本研究開発では、
この補強部品をCFRP化して鋼板製アウター部品と成形接
合させることにより軽量化を図った。
具体的には①CFRP材料と金属の接合に関する研究、②
CFRP−金属ハイブリッド部品のプレス金型技術に関する
研究、③CFRP−金属ハイブリッド部品の成形加工に関す
る研究、の3テーマについて取り組んだ。
<研究成果>
①エポキシ樹脂をマトリックスとしたCFRP材料と金属表
面との接合は、金属表面の有機物を除去する条件を確立
し検証した結果、目標通りの強度が得られた。
②金型構造設計の的確なシミュレーション解析と経験的ノ
ウハウを融合する技術を確立した。
③高精密なプレス機と高精度なプリフォームにより、的確
なプレス成形条件を確立出来た。成形サイクルは約12
分の成果が得られた。
図1に示したように、CFRP−鋼板接合3点曲げ試験で
は、強度特性は安定的である結果が得られ、接合効果があ
ることがわかった。
図1 CFRP −鋼板接合 3 点曲げ試験
上記試験では鋼板(1.0t)表面にCFRP(1.0t)を接合
し試験片を両端自由端の条件におけるCFRP−鋼板強度特
性を計測した。金属表面の処理条件を変えることにより接
合強度の変化が見られる。
図2、図3は、構造解析や表面温度解析等と経験的ノウ
ハウを融合させて製作したCFRP−鋼板ハイブリッド成形
部品金型である。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
金型
図 4 ハイブリッド B ピラー成形部品
図 2 CFRP ハイブリッド B ピラー部品成形金型
図5に示したCFRPハイブリッドブレース部品はハイテ
ン鋼板にCFRP補強部品1.3tをプレス成形で接合した部品
である。曲げ強度特性はかなり高く目標通りの成果を得た。
図 3 CFRP ハイブリッドブレース部品成形金型
図 5 ハイブリッドブレース成形部品
開発された製品・技術のスペック
本研究開発は川下自動車メーカーの協力を得て実施した
ものであるが、部品のスペックは変更の可能性がある。
図4に示したCFRPハイブリッドBピラー部品はハイテ
ン鋼板のプレス成形部品にCFRP補修部品をプレス成形で
接合した部品である。このハイブリッドBピラー部品の衝
撃特性は試験の結果鋼板製Bピラーとほぼ同等の強度を有
する事が判明した。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
矢島工業株式会社
◎所在地 : 〒 373-0032 群馬県太田市新野町 944
◎担当者 : 小野寺 成悦
◎ TEL:0276-31-1311 ◎ FAX:0276-31-1315 ◎ E-mail:[email protected], [email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 群馬大学、群馬県立群馬産業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 矢島工業(株)、三菱レイヨン(株)、(株)先端力学シミュレーション研究所
◎主たる研究実施場所 : 矢島工業(株)
55
微細加工技術を用いた、樹脂製注射針の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
研究開発の概要及び成果
川下の抱える課題及びニーズ
その他
高精度化・微細化/低コスト化
高度化目標
高精度化・微細化に対応した金型及び成形技術の開発
研究開発の背景及び経緯
医療機器のうち、
注射針(特に皮下注射用)については、
コスト低減や機能性向上(小径化による無痛化)のため、
川下産業から現状の金属針から樹脂製針への転換が強く求
められている。樹脂製注射針には、極細の先端針先部分の
中に液体が通るための中空形状を設ける必要があり、従来
技術の金型では針先の中空形状を形成するための極微細加
工や金型材質など、注射針として満足できる機能(小径化
による無痛化)を満たすことが出来なかった。
これまで注射針の樹脂化は各種研究がなされているもの
の、高精度化・微細化の製造技術が追い付かず、特に中空
極微細形状の製造技術が未確立で製品化されたものはな
く、実用化が切望されている。
本研究開発の目的は、従来針先部が金属製であった注射
針を樹脂製の注射針にするため、微細形状加工が可能な金
型と成形技術を開発するものである。
微細化技術(金型)を高度化させた極微細中空構造の製
造技術の確立を目指す(図1)
。
従来の注射針
(針先が金属)
オール樹脂製
注射針
樹脂による一発成形
金 属 樹 脂
横から
56
針先形状を成形するための成形技術の確立
金型内部の微細な針先に樹脂を充填させるためには、成
形機の射出速度を高速化する必要があるため、高速射出成
形機を導入し、成形条件の検証を行った。同時に、流動解
析シミュレーションで事前に検討を行い、実際の成形条件
との検証を行った。
この取り組みの結果、外径φ0.4mmで内径φ0.2mm、
全長10mmの先端部まで樹脂を充填できる成形条件が確
立できた。CT撮影した針先部分を図3に示す。
横から
樹脂製注射針の利点
・針先形状が任意の形状に加工できる
・射出成形のみで針先と土台が一体として完了するため、
コストが安い
・多数個取りによる大量生産可能
・オール樹脂製のため焼却処分ができ、廃棄コストが低い。
図 2 完成した試作品
上から
図 1 研究開発のイメージ
高精度微細形状金型の設計・製作
本研究開発では微細中空構造の製造技術の確立を目指
し、
「樹脂製注射針」をモデルとした製品形状の金型設計
及び検討を行った。外径φ0.4mmで内径φ0.2mm、全長
5mmと10mmの先端が金属製注射針と同様の形状を持つ
中空構造の樹脂製注射針を設計した(図2)。
設計した形状を実際に生産を行うために、精密かつ高精
度の金型が必要である。中空構造を確保するための金型構
造はこれまでの取り組みを高度化させ、より微細な形状を
成形するための金型を設計・製作した。また、中空部分を
構成する極細ピンなど主要部品の材質や性能(強度や靭性)
についてもこれまでの知見を高度化させて、金型の製作に
取り組んだ。この取り組みの結果、設計した「樹脂製注射
針」のモデル形状の成形に成功した。
図 3 CT 撮影した針先部分(中空穴の偏心はない)
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
開発された微細中空構造成形用金型と成形加工品
微細中空構造を成形するための金型は図5のとおりであ
る。この金型仕様を以下に示す。
・量産性を見極めるために8個取り
・高強度・高靱性を持つ極細ピンの使用
・高速射出に対応した金型構造
金型
製品の性能と機能の検証
製品の薄肉部の強度と製品表面の表面粗さについて検討
を行い、試作品の表面状態を確認するとともに、製品強度
と成形条件との関連性について検討を行った。
試作品の注射針としての評価については、アドバイザー
から評価方法についての助言を得て、引張・圧縮試験機を
用いて注射モデル(シリコン製の模擬的な人口皮膚)に刺
さったときの穿刺抵抗荷重と、注射時の液体の吐出性につ
いて確認を行った。試作品と同等の針先径寸法の金属針と
の比較の結果、穿孔抵抗は従来の金属針よりも高い値と
なった。吐出性は樹脂針が金属針に比べて20%程度良好
との結果が得られた。
注射シリンジに取り付け可能の形状とした試作品を図4
に示す。
また、生産性については、試作による成形条件の最適化
や金型構造の検討により、8個取りの金型の設計製作と試
作品の成形に成功した。
図 5 極微細中空構造成形用金型
また、本金型を用いた成形加工品のサイズは、外径φ
0.4mmで内径φ0.2mm、全長5㎜と10mmの先端が金属
製注射針と同様の形状を持つ中空構造の樹脂製注射針を実
現した。今後は、針強度の向上や穿刺抵抗の低減、さらな
る微細化に取り組んでいく。
図 4 注射シリンジに取り付け可能の形状とした試作品
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人群馬県産業支援機構
◎所在地 : 〒 371-0854 群馬県前橋市大渡町 1-10-7
◎担当者 : 藤村 聡
◎ TEL:027-255-6500 ◎ FAX:027-255-6161 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 群馬県立群馬産業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)一倉製作所
◎主たる研究実施場所 :(株)一倉製作所
57
金型へのしぼ加工(模様付け)
に使用される
大判フィルム一貫作成技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金型
して耐食性や作業性は維持され、ラテックス以外のメディア
に対しても同様な性能が発揮されることも確認された。
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化/複雑形状化・一体成形化/短納期化
情報家電に関する事項
大型化/製品面の高品位化/複雑形状化/短納期化/低コスト化
高度化目標
金型の低コスト化や短期間製造を可能とする新素材・新製造
技術の構築/複雑3次元形状等を創成する金型及び成形技術
の構築/工程短縮等を可能とする金型技術の開発
従来インク
左写真の拡大
開発インク
左写真の拡大
複雑3次元形状等を創成する金型及び成形技術の向上/工程
短縮等を可能とする金型技術の開発/金型の低コスト化や短
期間製造等を可能とする新素材、新製造法の構築
研究開発の背景及び経緯
自動車内装等のプラスチック製品の模様付けはその成形
金型へのしぼ加工を行うことでなされる。現在は小さな
フィルムを何枚もつなぎ合せてインクを転写することで、
エッチングのための模様付けが行われているが、金型への
模様付けに大判のしぼ転写用フィルムが使用できれば、し
ぼ性能は大きく向上する。さらに近年、自動車内装に使用
する塩化ビニール(以下「塩ビ」と言う)表皮を、
転写ロー
ルを用いた成形にて作製するケースが出てきており、周方
向長さが2.5mに及ぶものもある。このロールへのしぼ加
工に複数枚のしぼ転写フィルムを使用した場合、そのフィ
ルムの繋ぎがしぼ柄の繋ぎとなって現れ、塩ビ表皮のしぼ
性能を低下させるため、さらに大判のフィルム(1枚でカ
バーできるフィルム)が望まれる。
以上のニーズに対応するため、本研究開発では、3次元複
雑形状金型に適用される超伸縮性ラテックスフィルムに対応
可能なインクとプリンター技術を開発することを目的とした。
また2.5m長の塩ビ表皮用作製ロール金型へのしぼ転写
大判フィルムの作成を可能とし、複数柄が同時印刷可能な
プリンター技術を確立することを目的とした。
研究開発の概要及び成果
本研究開発は、以下に示す3つの主要な研究開発テーマか
ら成り立っており、それぞれの概要と成果を説明する。
①高伸縮性素材(ラテックス)に適用可能なインクの開発
平成21年度の研究において開発したインクを用いてラ
テックスの伸びに追随でき、常温での粘性の高いインクの開
発を行った。従来インクに変性ワックスを加えて常温での粘
性を高めた。また特殊添加剤を加えて、金型転写時のインク
の潰れを防止した。その結果、図1に示すように、金型への
転写後も鮮明な模様の保持が確認された。従来インクと比較
58
図 1 金型への転写
②ラテックスに対応できるプリンターの開発
プリンターのドラム孔径とピッチを、図2に示すように
φ1.5mm、35mmに設定した。さらにドラム吸引圧レギュ
レーター(図3)を設けた。この結果、ラテックスのよう
な柔らかな素材を、むらなくドラムに巻きつけ、保持する
ことに成功した。
図 2 開発ドラム
図 3 ドラム吸引力調整機構
ヘッドには、しぼ柄の大きさとラテックスの伸縮性を考
慮したインクの厚さ設定のためヘッド電圧調整可能なイン
クジェットヘッドユニットを採用した。
図4にラテックスへの印刷の一例を示すが、実用レベル
の印刷が確認された。
図 4 ラテックスへの印刷例
③塩ビ表皮作製用大型ロール金型の長さに対応できるプリ
ンターの開発
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
来は一枚ずつ印刷終了を待つ必要があったが、それは必要
なくなり、大幅な効率改善を図ることが出来た。
開発された製品・技術のスペック
今回開発されたプリンターの印刷面積は、従来法である
凹版と比べて、高伸縮性素材に対応できるプリンターで約
25倍、塩ビ表皮作製用大型ロール金型の長さに対応でき
るプリンターで約32倍にも及ぶ(凹版の印刷面積をB4サ
イズとして計算:表1)。
これはしぼ柄の繋ぎ模様が大幅に低減されることを意味
している。
また作成した画像データが直接印刷出来るため、フィル
ムや凹版をまったく必要としない。
人件費や資材費の削減に大きく貢献することになる。
表 1 プリンターおよび制御ソフト仕様
図 5 2.5 m長フィルム例
複数画像印刷におい
ても、当初の目標の印
刷速度を満足するた
め、複数画像同時印刷
を可能とするソフト
(アプリケーション)
を作成し、プリンター
機 能 に 付 加 し た。 図
6にその一例を示すが、
全く柄の異なったパ
ターンの複数配置(図
7)はもちろん、複雑
任意形状の印刷も可能
とした。
このように同時に複
数枚の画像を貼り付け
ることが可能となり、
小さな画像を複数印刷
したい場合などに、従
項目
図 6 複数画像レイアウト画面
図 7 複数画像フィルム例
金型
周長2.5mで真円度99.99%(0.1mm誤さ精度)のドラム
を実現した。このドラムの大きさで、サーマルヘッドから
印刷物までの距離を一定に保つことができ、サーマルヘッ
ドから安定したインクの吐出が確保されたため、長尺フィ
ルムの作成が可能となった。
複数の柄(大柄、中柄、微細柄)で、2.5mの印刷試験
を実施した。どの柄も2.5m×1.2mの印刷において安定し
た印刷ができた。図5に2.5m長のフィルム例を示す。
プリンター本体
仕様
ドロップオンデマンド方式インクジェット
1200dpi相当
約151mm/s
1200x2000mm/1200x2500mm
1∼10mm 0.01m単位
全ノズル吐出及び加圧パージ
専用コントローラによる内圧管理
300ml
制御ソフト
項目
仕様
レイアウト領域
1200x2000mm/1200x2500mm
読み込み可能ファイルサイズ A3横(ただし読み込み規制なし)
読み込みデータ形式
BMP、TIFF
最大読み込みデータ数
30
位置指定精度
mm単位、ピクセル単位
その他
ファイアパルス設定
LOIS電圧設定
ヘッド移動幅調整機構
ノズルの吐出タイミング調整
印刷方式
解像度
ドラム回転速度
最大描画サイズ
ドラム―ヘッド間調整
クリーニング方式
インク背圧制御
メインタンク容量
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
一般財団法人金属系材料研究開発センター
◎所在地 : 〒 105-0003 東京都港区西新橋 1-5-11 第 11 東洋海事ビル 6 階
◎担当者 : 箕浦 忠行
◎ TEL:03-3592-1284 ◎ FAX:03-3592-1285 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(財)金属系材料研究開発センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)モールドテック、(株)戸谷染料商店
◎主たる研究実施場所 :(株)モールドテック横浜工場
59
三次元実装技術を使った車載用イメージセンサ用
CSP の開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
電話用CSP品はワイヤーボンディングを使っていないため
振動に強く、小型化・低コスト化が可能という特徴がある。
川下の抱える課題及びニーズ
高度化目標
耐振動性に優れた能動素子・受動素子部品の基板内蔵化/耐熱・
高信頼性解析技術、電波雑音制御のための電磁妨害放射(EMI:
Electro Magnetic Interference)・電磁環境適合性(EMC:
Electro Magnetic Compatibility)実装技術の確立
研究開発の背景及び経緯
2M
5M
図 1 携帯電話用チップサイズパッケージ
本研究開発は、三次元LSI技術を使い、既に商品化した
イメージセンサ用チップサイズパッケージ(以下CSPと
呼ぶ)をベースに耐候性を高め、車載等の高信頼性が要求
されるアプリケーションにも適用できる技術の開発を目的
としている。
車載用カメラの需要として、日本国内では駐車用のアラ
ウンドビューモニタを含め、少ないものでも3個から多い
ものは10個以上のイメージセンサを使っている。車両周
囲モニタは安全・安心な運転支援システムとして今後一層
需要が高まると考えられる。一方、カメラの設置場所は限
定されており、特にフロントビュー用のカメラやフロント
パネル面ではセンサのサイズも問題になり、ゼロコンマ数
mm単位で小型化への要求が強い。
三次元LSI技術を利用して携帯電話用CSPを実用化した
が、特に信頼性に関する要求仕様は車載用イメージセン
サでは大きく異なっている。表1に携帯電話と自動車のイ
メージセンサへの要求仕様を比較して示した。
また、表面実装ができるため、実装コストも下げること
ができる。一方欠点として、耐水性と熱衝撃耐性が車載用
規格を満足していない。耐水性については携帯電話用途で
はほとんど問題にならないが、車載用信頼性試験ではカバー
ガラスとセンサチップの界面の樹脂接着剤を通して水分(こ
こでは水分と記すが実際には分子レベルのH2O 又はOH基)が浸入し、ひどい場合には曇りが発生し、光学的特性
が劣化する。また、熱衝撃耐性も問題になる。図2に現行の
携帯電話用CSPのプリント基板への実装部分の断面を示す。
表 1 携帯電話と自動車のイメージセンサへの要求仕様
温度サイクル試験(−55 ∼ 125℃、500サイクル)後
で、半田バンプのセンサチップ側の付け根部分に応力集中
によるクラックが入っており、車載の熱衝撃に対する信頼
性基準を満足してない。
本研究開発では、三次元LSI技術を使って開発した携帯
電話用CSPの構造を改良して耐湿性および耐温度サイク
ル性を持たせ、車載用のイメージセンサとして使えるよう
にすることが目標である。
携帯電話
自動車
撮像素子の方式
CMOSセンサが主流
CCDセンサ、CMOSセンサ
画素数
31万∼ 320万
数万∼ 31万
撮像
光学サイズ(撮像部の対角長) 1/7(2.6mm)∼ 1/4(4.5mm)
1/4(4.5mm)∼ 1/3(6.0mm)
画素ピッチ
2 ∼ 4μm
5 ∼ 6μm
ダイナミックレンジ
60dB程度
60dB以上
低照度撮影時の雑音
多い
少ない
色フィルター
あり
画像認識用途ではなし
赤外線カットフィルター
あり
画像認識用途ではなし
55度程度
25度∼ 135度
−20℃∼ +65℃
−40℃∼ +85℃
水平画角(光学系)
動作保証温度
信頼性
熱衝撃耐性
耐水性
*1)
−40℃∼ +105℃を数百サイクル経て
も動作すること
*1)
−40℃∼ +105℃を1000サイクル近く
経ても動作すること
ほぼ求められない
必須
センサ用チップサイズパッケージ
センサ用チップサイズパッケージ
カバーガラス
カバーガラス
プリント基板
プリント基板
半田クラック
銅配線(PCB)
PCB
図 2 温度サイクル試験後の CSP /プリント
基板実装部の断面(試験条件:− 55 ∼ 125℃、500 回)
多様な振動モードを経ても動作すること
1.5mの高さから20回近く落下させた後も
動作すること
*2)
外形寸法
1cm角前後
3cm角前後
重さ(ケーブルを除く)
5g未満
50g未満
筐体の材料
樹脂
多くがAl合金
出力形式
各種デジタル信号
NTSC
市場規模
5億個/年
200万個/年
価格
数百∼ 1000円少々
数千円(ECU含まず)
耐衝撃・振動性
*1)サイクルは次の通り。−40℃で2時間放置した後、1分以内に+105℃にし、その環境下に2時間放置する。
*2)乗用車では4.4g、バスやトラックでは6.8gの振動を長時間与え続けるほか、50gを1000回(ドアの開閉を想定)、10g
を30回(縁石への接触を想定)といった振動試験をクリアしなければならない。
センサLSIのチップ設計を別として、大きく異なる点は
熱衝撃耐性、耐水性、耐衝撃・振動性である。これを満足
するために外形寸法が大きくなり重量も増え、一個当たり
のコストが増加しているのが現状である。図1に示す携帯
60
︵ ︶
b backside ︵ ︶
a Top
1.3M
自動車に関する事項
安全性能・快適性の向上
研究開発の概要及び成果
現 状 のCSP構 造 で 高 温 高 湿 バ イ ア ス 試 験(85 ℃
/85%、電圧印加)を行うと、168時間以上で水分の浸
入により画面が曇る。また温度サイクル試験(−55℃∼
125℃)では500回で、CSPとプリント基板とを接続す
る半田バンプに亀裂が入り、導通不良が発生する。これら
の不具合を対策して、別途策定中の車載用センサデバイス
21年度採択
[一般枠]
電子部品・デバイスの実装
の信頼性基準(後述)をクリアする耐振・耐候型センサ用
CSPの開発を行った。
耐湿性改善のためには、CSPのカバーガラスを接着剤
で固定する接続面の隙間を、図3で示すようにメタルシー
ルで覆うことが有効と考えられる。
図 5 温度サイクルでバンプ接合部に加わるストレス
図 3 メタルシール構造
メタルシール材料選定、側面の接着強度確保、カバーガ
ラス及びLSIチップのオーバラップ量等を最適化し、接着
剤の選定を行いつつプロセスコストが増加しないように既
存CSP製造プロセスの改良を計った。図4にチップ側面に
メタルシールを設けたCSPを示す。
図6にストレス緩和層を設けたCSPテストウェーハの裏
面の写真を示す。ストレス緩和層パターンは、裏面全面と
バンプパッド部のみに置く2つのパターンを検討し、プロ
セスとの整合性から前者を選んだ。裏面のバンプ配置配線
パターンを変えて構造の最適化を図り、熱衝撃耐性の高い
バンプ配置を見出し、バンプ部構造の改良と合わせて目標
達成を図った。
図 6 ストレス緩和構造
開発された製品・技術のスペック
図 4 側面メタルシール付チップサイズパッケージ
プリント基板に実装されたCSPは、温度変化によりLSIの
基板であるシリコンとプリント基板の樹脂との間の熱膨張率
差によって、バンプ接続部に図5に示す横方向のストレスが
加わる。温度サイクルの耐性を上げるには、バンプとチップ
界面にストレス吸収構造を設けるか、最も切断しやすいバン
プ根元を覆う構造が考えられる。本研究ではストレス緩和
層を再配線層とシリコンチップの間に入れる方法を採った。
従来型のCSPに二つの新構造を追加することにより、
既存のCOB(チップオンボード)タイプの車載用カメラ
の試験結果を含めて策定した信頼性基準は、川下メーカー
やカメラモジュールメーカーへのヒアリングで、車載用カ
メラの信頼性基準を十分に満足するとの見通しを得た。今
回開発した車載用イメージセンサCSPは、小型でかつ耐
湿性を持つため、屋外で使われる監視センサ等、車載用以
外にも応用範囲が広がると考えられる。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
よこはまティーエルオー株式会社
◎所在地 : 〒 240-8501 神奈川県横浜市保土ヶ谷区常盤台 79 番 5 号(横浜国立大学共同研究推進センター内)
◎担当者 : 穂苅 泰明
◎ TEL:045-339-4441 ◎ FAX:045-340-3541 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)ザイキューブ、ジェコー(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)ザイキューブ
61
電子部品・デバイスの実装評価に必須な局所領域・空間
における漏れ磁界磁化の動的挙動を可視化する技術の
開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
という問題が存在する。
このためこれら問題を解決した測定機の開発が、川下業
者より強く要望されている。
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
省エネルギー・環境対策
高度化目標
耐熱・高信頼性解析技術、電波雑音制御のための電磁妨害放射
(EMI:Electro Magnetic Interference)・ 電 磁 環 境 適 合 性
(EMC:Electro Magnetic Compatibility)実装技術の確立
研究開発の背景及び経緯
近年、自動車産業においてはエレクトロニクス部品の普
及が急速に進められており、車載用電子部品・デバイスに
は強磁性材料が多数使用されるようになってきた。上記デ
バイスを車載し、省エネルギー動作を行うためには、自動
車の各所に高性能磁気センサが必要である(図1)
。
Door mirror
Electric Power Staring
Power window
Wiper
Rear wiper
Window
washer
Electric
cooling
fan
Dorr lock actuator
EV(Motor)
Speed sensor
Electric power seat
Anti lock brake
図 1 自動車の中の電磁デバイス
これらのセンサには高感度・高耐久性、実装の際の電磁
環境適性が求められている。電子デバイスの実装において
は、誤動作防止等の観点から、実装部品周辺の電磁界分
布の計測が必要となる。たとえば高密度に実装されたプ
リント配線板内のICやLSIにおいては回路周辺でのマイク
ロメートルオーダーの高周波電磁界分布の計測が必要であ
る。特に遮蔽が困難な事から高周波の磁界分布測定が重要
である。
一方、化石燃料の枯渇、環境問題から自動車産業におい
ては電動機(モーター)を動力とするハイブリッドカーや電
気自動車の普及が進んでいる。さらに、日本の産業界全体
としては東日本大震災による電力供給不足に伴い、総発電
量の57%を消費する電動機の効率改善が急務となっている。
磁界分布の計測法としてはホールプローブ法、アンテナ
アレイ法等が現在開発されてきているが、
これらの方法は、
1)空間分解能が低い
2)動的な磁化変化が観測できない
3)走査型の計測方法であるため測定には長い時間を要する
62
研究開発の概要及び成果
完成形状のデバイスの、実動周波数での局所領域・空間
における漏れ磁界・磁化の動的挙動を可視化する技術を確
立することを目標とし、要素技術である下記テーマの技術
開発を行い、以下の成果を得た。
1. 平行光学系と集光光学系との両立
光学系切替機構開発と、レンズ系の最適化を行うことに
より専用光学系を設計、試作した。
2. 半導体レーザの短パルス光発振技術開発
汎用半導体レーザを用いた短パルス光源を設計、
試作し、
パルス幅500p秒を実現した。
3. レーザ光インコヒーレント化による平行光学系の確立
実際の計測エリア内のスペックルノイズ抑制状態を検
証・評価し、インコヒレント化装置を試作した。
4. 電磁環境・磁化過程可視装置の試作
上記開発テーマを融合させた、実動周波数での局所領域・
空間における漏れ磁界・磁化の動的挙動を可視化する装置
を試作した。
用途に合わせ、センサーデバイスに対応したマイクロ
メートルオーダーの空間分解能を有する微小領域電磁環
境・磁化過程可視装置(図2)と、電動機等に対応したミ
リメートルオーダーの空間分解能を有する広視野電磁環
境・磁化過程可視装置(図3)を試作した。両者は拡大光
学系と縮小光学系という全くコンセプトの異なる設計思想
で実現している。
図 2 微小領域電磁環境・磁化過程可視装置
22年度採択
[一般枠]
図5に広視野電磁環境・磁化過程可視化試作装置による
積層電磁鋼板の空間磁場検出例を示す。磁極からの距離が
離れることにより急速に磁場分布が広がっていることがわ
かる。
高さ0(密着)
高さ0.2mm
電子部品・デバイスの実装
計測面
高さ0.5mm
図 5 空間磁場検出例 高さ方向の分布
図 3 広視野電磁環境・磁化過程可視装置
開発された製品・技術のスペック
図6は広視野電磁環境・磁化過程可視化試作装置による
空間磁場の時間変化の検出例である。
50Hz駆動時の磁場の時間変化を検出できている。
試作した微小領域電磁環境・磁化過程可視装置および広
視野電磁環境・磁化過程可視装置の性能を表1に示す。
表 1 試作装置の性能
微小領域試作装置
広視野試作装置
空間分解能
1μm
0.1mm
時間分解能
500psec
10μsec
計測範囲
100×70μm
14×10.5mm
最大検出磁場
1000 Oe
1000 Oe
図4に微小領域電磁環境・磁化過程可視化試作装置によ
る空間磁場検出例を示す。検出結果はシミュレーション結
果とよく一致している。
集光光学系計測結果
図 6 空間磁場検出例 時間分解計測
このように試作装置により空間電磁場の一括検出および
時間分解検出を実現した。また、三次元の一括磁場検出の
研究を行っており今後の補完研究で実用化を進めて行く予
定である。
シミュレーション結果
図 4 微小領域の空間磁場分布検出例
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
ネオアーク株式会社
◎所在地 : 〒 192-0015 東京都八王子市中野町 2073-1
◎担当者 : 寺原 俊昭
◎ TEL:042-627-7425 ◎ FAX:042-627-7427 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東北大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): ネオアーク(株)
◎主たる研究実施場所 : ネオアーク(株)
63
長寿命、高効率かつ高付加機能を持つ
次世代 LED 照明の技術開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
川下の抱える課題及びニーズ
情報通信機器に関する事項
小型・高密度集積化/多機能化・高機能・大容量高速情報処理化
高度化目標
複数LSIチップのワンパッケージ化に伴う半導体パッケージ
基板の高機能化(3次元実装技術、エンベッディド実装技術(部品
内蔵基板技術)
)の開発/電気特性、デジタルノイズ対策の向上
研究開発の背景及び経緯
省エネ社会に向け、小型長寿命、低消費電力かつ光量制
御が容易なLED照明が普及しつつある。たとえば1件の
ビルが消費するエネルギーにおいて、照明が占める割合は
20%である。これをLEDに置き換えることにより、照明
器具が消費するエネルギーの70%を削減することが出来
ると見積もられている。
通常使用されているLED照明器具における駆動回路に
おいては、いわゆる電解コンデンサ(ケミコン)が使わ
れている。しかし、LED素子の発熱により照明器具内温
度は60度以上の高温になることが多く、これにより同一
筐体内にある駆動回路が搭載する電解コンデンサの寿命
が10,000時間程度に短くなる。これはLED素子の寿命
40,000時間以上に比較して短いため、照明器具の寿命を
決定づける主要因となっている。
かねてより株式会社タキオンは、電解コンデンサを駆動
回路に使用しないことで長寿命化を実現したケミコンレス
技術と知財を保有している。
一方、LANケーブルを用いず、電力線に変調信号を重
畳することにより通信を行い、宅内LANを実現するPLC
(電力線搬送通信)の普及が進みつつある。PLCでは親機
1と個別IDを持った子機多数を対応させ、リモコンでは不
可能な一斉制御と個別制御が出来るので、一般家庭のみな
らず大規模施設照明に対して強力な制御ソリューションを
提供する。
照明の光出力に変調を加えることにより通信を行う可視
光通信は、次世代照明が持つべき高次機能として有望であ
る。PLCとの組み合わせで情報を可視光通信によりスポッ
ト空間に送出することも可能である。
本開発はケミコンレス技術をベースに、PLC、調光調色、
可視光通信を視野に入れた変調機能などの高付加機能を持
つ次世代LED照明と、半透明キャビティ内部に実像光源
から生じる虚像を映し出す虚像光学系照明を新たに実現し
ようとするものである
研究開発の概要及び成果
新規駆動ICの開発
株式会社タキオンはケミコンレス方式の LED 駆動を 1
チップで実現する IC を既に販売しており、市場の評価を得
ている。本プロジェクトにおいて、さらにブラッシュアッ
プ、シンプルかつ小型ローコスト化した駆動 IC の TEG( 評
価チップ)を試作した。これにより使用する照明器具のコス
ト、デザイン制約を少なくした新規駆動 IC サンプルを開発
することができた(図 1)。
図 1 新規 LED 駆動 IC(TEG)と SO-8 製品
新規LED駆動回路とPLCの組み合わせ
ケミコンレス駆動回路をPLC回路と組み合わせるに当
たって、R、G、Bの3チャンネルLED混色による調色制
御をPLC経由で行う構成とした。各チャンネルは256階
調とすることで、理論上は24ビットカラーとなる。前年
度は大きさの制限がないブレッドボードを製作して動作試
験を行い、問題がないことを確認した。本年度はこれを1
つの電球型LEDに組み込んだ客先デモ可能なサンプルを
製作した(図2)。
図 2 PLC 制御 3 チャンネル調色電球と基板
64
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
通常のケミコンを有する方式とケミコンレス方式を比較
するため、設計寿命と実使用寿命に着目する。ケミコンを
有する製品ではLEDの寿命を設計寿命としているが、こ
れよりも短いケミコンの寿命が実使用寿命を律する(図
5)
。ケミコンレス製品ではLED素子の寿命がほぼ実使用
寿命となる。静電容量の大きいケミコンを使わないことで、
急激な電流の充放電がなくなり、力率改善と高効率化を実
現している。
電子部品・デバイスの実装
新規LED駆動回路と光変調、センサとの組み合わせ
3チャンネル調色電球サンプルとは別に、可視光通信の
送信用変調や周辺調光などのセンサ機能とを融合したシス
テムを試作して高機能化の検討を行った。LEDと回路動
作に対し数MHzの高速応答性を要求するが、駆動回路に
数100MHz動 作 のFPGA(Field Programmable Gate
Away)を採用することで解決した。ケミコンレス電源回
路と組み合わせ可能なFPGAによる駆動試験回路を製作
し、動作を確認した(図3)
。
図 3 可視光通信システム(送信機)
新規虚像光学系照明の製作
面光源となるLEDマトリックスをFPGAでデジタル制御
駆動し、面発光パターンを変化させることで表情を変える
虚像光学系照明を試作した
(図4)
。タキオンはハーフミラー
による半透明キャビティ内部に実像となる光源を設置し、
その虚像を映し出す光学系の特許を保有している。虚像光
学系の光源をLEDマトリックスにすることで、動きや変化
のある立体像が現れている様に見せている。自由度の高い
VHDL(ハードウェア記述言語)記述で動きを表現するた
め、光変調をかけて可視光通信に対応させることができる。
図 4 新規虚像光学系証明サンプル
図 5 設計寿命と実使用寿命
完成したケミコンレスLED駆動回路サンプルの電源仕
様は下記である
電源:AC100V、5W
効率:80%
力率:75%
E26型口金
ケミコンレス化による利点を保持しながら、PLC制御
可能な3チャンネル調色電球サンプルを製作した。新規虚
像光学系照明サンプルでは光源虚像を1FPS(フレーム/
秒)で動かしているが、LED面発光パターン書き換え周
波数としては数kFPSにすることも可能である。
照明器具としてデモンストレーション可能なPLC制御
サンプルを製作したことが本開発の重要な点である。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社タキオン
◎所在地 : 〒 141-0021 東京都品川区上大崎 4-5-18
◎担当者 : 山本 ちずる
◎ TEL:03-3495-4801 ◎ FAX:03-3495-6040 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 慶應義塾大学大学院
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)タキオン、(株)TM リンク
◎主たる研究実施場所 :(株)タキオン
65
広角視野ディスポーザブル多機能内視鏡デバイスの
開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
川下の抱える課題及びニーズ
指向性プリズム技術とマイクロ視覚デバイス開発技術を応
用した機構を、精密微細加工技術を持つ
(株)菊池製作所が、
小型・低コストで実現するものである(図2)。
バイオテクノロジー・医療に関する事項
耐環境性対応
高度化目標
滅菌処理対応・生体親和性等に資する実装技術の開発/大量・
低コスト生産化、オーダメード医療開発
研究開発の背景及び経緯
現在の硬性内視鏡はパイプの内部に鏡を付けた物で、自
分の目の間隔はなく器具を操作する感覚のデバイスであ
り、使い勝手をさらに良くすることが望まれている(図1)
。
目に相当するCCD部は通常先端中心部に設けられている
ので中心部を観察するには適しているが側面を見ることは
できない。側面を見たい場合は斜面部にCCDを配置し、基
準面を認識しつつ回転させる必要があり経験が必要となる。
したがって人間の目のように球体中心に対してCCD部が上
下左右に稼働することが出来れば、違和感がなく自分の目
のように患部を観察することが可能になりその恩恵は大き
い。また同時に、これらのデバイスは高価であるため、高温・
多湿状態での洗浄・消毒を行い再利用されており、感染症
対策としてディスポーザブルの使用を求められている。
図 1 硬性内視鏡
これまで、大手医療・光学機器メーカは、多機能内視鏡
デバイスの開発に取り組んできており、進化を続けてきて
いるといえるが、簡易な構造を提案できず、低価格化、小
型化について決定的な解決方法は見出せていない。
本研究において、小型で、且つ低コストで生産可能な広
範囲視野を確保できる多機能内視鏡デバイスを開発するこ
とで、術時間の短縮、術者の減員等の効果を発揮して、現
状の医療現場が抱える医師不足解消に大きく寄与する。
研究開発の概要及び成果
本デバイスは、東京農工大学遠山研究室が十年来研究を
続けてきた球体を小型の超音波モータで駆動させる技術と
SERENDIPITY
(株)の球体に小型レンズを構成させる内
66
図 2 開発内視鏡概要図
本デバイスの実現により、従来技術では実現できなかっ
た術時間の短縮、術者の減員、患者負担の軽減、衛生面の
向上等が図れ、日本の医療デバイスの実装技術において、
多大な成長を促し、国際的な競争力を高め、かつ医師の求
める現状の医療現場が抱える問題解決に大きく寄与するこ
とが出来る。
従来技術と新技術との比較
従来技術では側面を見る際は図1のような可動式を用い
ており、手術中の操作が非効率的である。また、従来の内
視鏡を用いたシステムは、操作が複雑であり、内視鏡専用
の操縦者を必要とする。
新技術では広範囲視野の確保が可能で体内への出し入れ
回数を減少させ、手術時間短縮に寄与する。また、簡便な
構造のため、低コストで生産できる。ディスポーザブルに
使用することが可能なので、衛生面で信頼性が高い。さら
に内視鏡専用の操縦者の必要性がなくなり、手術の省人化
に寄与する。
成果
はじめに、全体的な構造、要素検討、プログラムなど、
基本機能の確認、問題の洗い出しをするために最終目標に
対しての3倍モデルを開発した。人間の目のように球体中
心に対してCCD部が上下左右に稼働することが出来る構
造として、3倍モデル3次元球面超音波モータを開発した
(図3)
。CCDユニットについては、高密度3次元実装マイ
クロCCDユニットを搭載した3倍モデルプリズム球体を開
発しズームでの撮像が出来た(図4)。多機能デバイス化
として視線追従デバイスを考案し、制御アルゴリズム、プ
ログラムを開発、3倍モデルに適用し評価を行った。
次に前項の検証結果から小型化への製造コスト等に伴う
問題から、
新たな構造としてジンバル式(図5)とマリオネッ
ト式(図6)を考案し小型化に成功した。またCCDユニッ
トの小型化にも成功した(図7)
。
22年度採択
[一般枠]
電子部品・デバイスの実装
図 7 CCD ユニット
図 3 3 次元球面超音波モータ
図 4 3 倍モデルプリズム球体
図 5 ジンバル構造
開発された製品・技術のスペック
開発出来た技術は、人間の目のように球体中心に対して
CCD部が上下左右に稼働することが出来るジンバル構造
と駆動用のテグスを引っ張ることでCCD部が上下左右に
稼働することが出来るマリオネット構造が開発出来た。
また、直径4mmの鏡筒に収納することが出来るCCDユ
ニットとレンズを開発することが出来た(図7)。
本事業での開発したジンバル構造とCCDユニットの結
合状態を図8に示し、開発実績を表1に示す。
図 8 ジンバル構造と CCD ユニットの結合
表 1 開発実績値一覧表
図 6 マリオネット構造
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社菊池製作所
◎所在地 : 〒 192-0152 東京都八王子市美山町 2161-21
◎担当者 : 小笠原 伸浩
◎ TEL:042-651-5065 ◎ FAX:042-650-5070 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京農工大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)菊池製作所、SERENDIPITY(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)菊池製作所 ものづくりメカトロ研究所
67
コンパクト、高効率、高出力の車両用永久磁石式発電
機と制御装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
省エネルギー・環境対策
高度化目標
耐振動性に優れた能動素子・受動素子部品の基板内蔵化
研究開発の背景及び経緯
冷凍車、機械装置付き車両(PTO車)では、機械駆動
式コンプレッサー、油圧ポンプがエンジンに取り付けら
れ、アイドリング時や低速域で用いられているため、コン
プレッサー等の効率がひじょうに悪い。冷凍車では機械駆
動式コンプレッサーをエンジンに取り付け冷凍車へ供給す
る圧縮冷媒を作っているが、エンジンアイドリング時、低
速域では50%以下の効率しか得られず、十分な冷凍性能
が得られていない(図1)
。
表 1 機械駆動式コンプレッサーのデメリット
1. 低速運転が主で冷却効率が極めて悪い
2. 長いラバー配管が必要で、応答性が悪く、また、熱効率が悪い
3. 振動等による故障率が高くメンテナンスコスト負担が大きい
4. 故障率が高く冷凍性能が充分でないため補助冷却材(ドライア
イス等)を積載しなければならず、冷却材の高いコスト負担、
積荷重量の減少という問題がある
5. エンジン直結式冷蔵冷凍装置では「過負荷対策」が必要であり、
①オイルセパレーター、②気液熱交換器、③サブコンデンサー、
④吸入圧力調整弁(副合弁)を設けなければならず、複雑な冷
媒回路となっている
6. エンジン回転数が高くないアイドリング∼常用回転数領域にお
けるコンプレッサー運転効率が低く、燃費が悪い
7. コンプレッサー、エバポレーター、コンデンサー等が別々に稼働
しており、一体制御による最適運転プログラムの構築ができない
れば、高速運転時に発電された余剰電力をバックアップ
バッテリーに充電して車両停止時に電動コンプレッサーを
駆動するというアイドリング・ストップを実現させること
ができる。
本事業は、車両用永久磁石式発電機と制御装置の開発を
行い、冷凍車等の装置を電動化し、能力向上及び燃費改善
することを目的とするものである。
研究開発の概要及び成果
図 1 冷凍機用圧縮機(コンプレッサー)の運転効率
また、コンプレッサーから冷凍機までの冷媒輸送に使わ
れる配管が長く接続箇所も多いため、循環量が低下し冷却
性能が悪く、冷媒輸送中に温度上昇する等の問題があった
(表1)
。
電気駆動式コンプレッサーも試行されてきたが、電磁石
式発電機は回転子の磁力密度が小さく必要な大電力を供給
できなかった。また、低速域での出力が大きく、発電効率、
電圧の安定性に優れた永久磁石式発電機とその制御装置の
研究開発もされてきたが、発電機の制御装置を簡潔、安価
にできず、これが装置電動化を阻むネックとなっており、
現在も機械駆動式装置が主流となっている。回転数、負荷
の変動により大幅に電圧変動する永久磁石式発電機の電圧
一定化を、いかに簡易な回路・制御装置で実現するかが装
置電動化の実現の鍵を握っている。装置電動化が実現され
68
永久磁石式発電機の電圧一定化回路として、当社は、発
電機の「無負荷時に電圧が高く、発電電流が大きくなる
と電圧が減少し、やがて0ボルトに垂下する」という出力
特性を利用し、異なる2つのタイプの巻き線を直列に接続
し、
「出力」と「制御」の役割をそれぞれの巻き線に分け
て担わせることとした。これらの両巻き線を直列に接続
し、FET(Field Effect Transistor)で「制御」用巻き
線に流れる微小電流量をコントロールすることにより、出
力電流の発電電圧を一定化するという考え方である。出力
用の高電圧電流を直接スイッチングするのではなく微小電
図 2 6kw 発電機の出力特性
22年度採択
[一般枠]
ジンアイドリング時の発電機回転数1500RPMで3.7kw、
2000RPMで4.5kwもの出力が得られる(図2)。
開発された製品・技術のスペック
電子部品・デバイスの実装
流で大きな電圧垂下特性を有する制御巻き線側の電流量だ
けをコントロールするため、スイッチング素子を小型、安
価なものとすることができると考えたものである。但し、
当初計画のこの制御回路では、高速運転時の高電圧電流の
制御の際に発熱し効率向上に限界があると考えられた。そ
こで、制御回路を工夫し、より小型化、簡略化された発
電機、回路を設計することとした。これにより、ターン数
の少ない主巻き線をステーターに組み込むことができ、発
熱を大幅に抑えることに成功した。また、発電機の構造設
計の見直しを行うことにより、永久磁石の量を当初設計よ
り35%削減しコストダウンに成功した(図3、図4)。な
お、FETではなく安価なIGBT(Insulated Gate Bipolar
Transistor)を使用することのできる回路とした。エン
冷凍車、PTO車両の装置電動化に必要となる高出力・
高効率・低コスト永久磁石式発電機の実用化に目処がつい
た。なお、開発した永久磁石式発電機のスペックは表2の
通りである。本製品の実用化開発を完了させ製品を市場に
展開するため、図5の通り、冷凍庫に開発した発電機およ
び制御装置を搭載し、引き続き、走行評価試験、ノイズ試
験、モニター実走行試験、アイドリング・ストップ試験を
実施する計画である。
表 2 発電機・制御装置のスペック
発電機外寸
Φ170mm x 265mm
発電機重量
18kg
制御装置外寸
W160 x L210 x H40mm
電圧一定化装置外寸
W230 x L200 x H30mm
制御装置・電圧一定化装置
2kg
重量
3.7kw / 1500rpm
4.5kw / 2000rpm
出力
図 3 永久磁石式発電機のステーターとローター
図 5 発電機車載事例
図 4 完成した永久磁石式発電機
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
PM ジェネテック株式会社
◎所在地 : 〒 105-0004 東京都港区新橋 2-11-10 いせ源ビル3階
◎担当者 : 佐々木 勝惠
◎ TEL:03-3519-2216 ◎ FAX:03-3595-0031 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): PM ジェネテック(株)
◎主たる研究実施場所 : PM ジェネテック(株) 橋本実験室((株)鈴吉製作所内)
69
耐熱導電性接着剤の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
現状では十分な導電性が得られていない。しかし、カーボ
ン系フィラーとして、理論的に銀同等以上の高導電に到達
すると言われているカーボンナノチューブ(以下CNT)を
用いることでこの課題をクリアできる可能性がある(図3)
。
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
省エネルギー・環境対策
1016
リペア実装技術、材料リサイクル、鉛フリー実装等の環境負荷
物質低減化技術、低温はんだ実装技術の開発
1012
研究開発の背景及び経緯
[単一材料]
PE、PVC
フェノール、エポキシ
Sn(OH)4
[複合材料]
ガラス
108
104
ケイ素
ゲルマニウム
カーボンブラック複合材
カーボンブラック、
炭素繊維
CNT複合材(現状)
炭素繊維複合材
100
10-4
近年の太陽電池や電気自動車に代表される省エネル
ギー、環境対応の需要により、パワーデバイスの市場規模
は急速に拡大している。現在、こうしたパワーデバイスの
実装接合には、RoHS・ELV指令により、鉛はんだの使用
が制限され、外部実装においては鉛フリーはんだやろう付
け、導電性接着剤である銀ペーストの利用が進められてい
る。特に銀ペーストは、これまで採用実績の多かった鉛フ
リーはんだと比較して、耐熱性、フレキシブル性(部品間
の熱膨張率の差を吸収できる)
、低温実装性などが高く、利
用が拡大している。その一方で新たな課題としてマイグレー
ションやガルバニック腐食の問題が浮上している(図1)
。
Sn4+
体積抵抗率(Ω・cm)
高度化目標
10-6
10-7
黒鉛、現状CNT
銀ペースト
金属(銅、銀)
CNT(理論値)
CNT複合材
レベルアップ
図 3 種々の材料の導電性比較
研究開発の概要及び成果
本プロジェクトでは、従来のCNTとは異なる高導電化
CNTと耐熱性の高い熱硬化性樹脂を開発し、それらを最
適複合化した。これにより高導電性かつ高耐熱性で、マイ
グレーションやガルバニック腐食などの金属由来の課題を
解決する耐熱導電性接着剤を開発した。開発項目は下記4
項目である(表1)。
表 1 開発項目
OH-
開発項目
+
-
マイグレーション
ガルバニック腐食
図 1 銀ペーストの課題
また内部実装では、信頼性(ヒートサイクル、耐熱温度)
の観点からRoHS指令適用除外を受け、鉛はんだが使用さ
れているが、近い将来全ての実装で、鉛が使用できなくな
るとみられ、代替材料への要求が高まっている。
つまり内部、外部両実装を可能にする信頼性の高い(耐
マイグレーション性、耐腐食性、耐熱性)接合技術の開発
が必要不可欠である(図2)
。
<従来技術>
封止樹脂
検討内容
1. 高導電化CNTの開発
e-
触媒添加黒鉛化
2. 耐熱樹脂の開発
モノマーからの合成
3. 複合化、分散技術開発
添加剤と最適配合
4. 製品評価
デバイス実装試験
高導電化CNTの開発では、抵抗加熱型黒鉛化炉(図4)
を用いて、樹脂材料への導電性付与に最適な繊維径の異な
るCNTを2種試作した(図5)。
従来のCNTと比較して、いずれのタイプも炭素骨格面間
、結果とし
距離(d002)が大幅に低減し結晶性が向上(表2)
てフィラーとしての導電性を向上することに成功した(図6)
。
<新技術>
アルミワイヤ
導電性接着剤
<内部実装>
鉛はんだ
<外部実装>
鉛代替接合
素子
素子
基板
リード
リードフレーム
基板
パッケージ
図 2 従来技術と新技術の模式図
マイグレーションを防止する接合技術として、金属以外の
カーボン系フィラーを用いた導電性接着剤が考えられるが、
70
図 4 抵抗加熱型黒鉛化炉
22年度採択
[一般枠]
∞
試作品(測定上限)
40
電子部品・デバイスの実装
銀ペースト
20
図 5 試作カーボンナノチューブ
表 2 試作カーボンナノチューブの物性
CNTタイプ
タイプ1
タイプ2
触媒
無
有
無*1
有
圧密比抵抗*2
6.7
2.4
8.9
3.9
(x10−3Ω・cm)
0.3381 0.3362 0.3471 0.3359
d002(nm)
BET比表面積(m2/g) 15
10
250
143
*1 従来品(黒鉛化処理なし)、*2 密度1.0g/cm3のとき
-1
タイプ1 無
タイプ1 有
タイプ2 無
タイプ2 有
-2
0
* ウォータードロップ法:電圧5V
図 7 マイグレーション評価
開発された製品・技術のスペック
導電性接着剤試作品(図8)と試作品のスペックを示す
(表3)。高導電性と高耐熱性を示し、マイグレーションを
起こさない1液型の導電性接着剤である。
今後はサンプルワークを進めながら事業化に向けた量産
技術の確立を行うとともに、追加研究を実施し、さらなる
特性向上を目指す。
-3
図 6 圧密比抵抗
耐熱樹脂の開発では、基材樹脂として必要とされる耐熱
性、CNTの分散能を有する、比較的高分子量のレゾール
型フェノール樹脂を開発した。
複合化、分散技術開発では、CNTの良分散、少量添加
での最適導電ネットワーク構築が課題である。これに対し
て、①繊維径の異なるCNTの最適配合、②分散助剤の配合、
③最適配合条件の検討を実施した。
製品評価においては、マイグレーション性(図7)、印
刷塗布性、実際のチップデバイスの接合を行い接合強度や
導通性を評価し、既存銀ペーストとの比較を行った。導電
性については銀ペーストに迫り、また接合強度はCNTの
少量添加により樹脂の特性を最大限引き出すことにより、
銀ペーストを上回る強度となった。
図 8 導電性接着剤試作品
表 3 試作品の物性
項目
体積抵抗率
熱伝導性
ヒートサイクル性
耐熱温度(使用時)
その他
スペック
10−3 ∼ 10−4Ω・cm
5W/m・K以上
−55℃∼ +125℃
200℃以上
耐マイグレーション性
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
MEFS 株式会社
◎所在地 : 〒 380-0921 長野県長野市栗田源田窪 1000 番地 1
◎担当者 : 飯生 悟史
◎ TEL:026-225-7891 ◎ FAX:026-225-7896 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 信州大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): MEFS(株)、昭和電工(株)、(株)村田製作所
◎主たる研究実施場所 : MEFS(株) 研究室
71
ナノメカニカルセンサー技術を用いた
褥瘡管理用評価装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
川下の抱える課題及びニーズ
バイオテクノロジー・医療に関する事項
実装プロセス技術の多様化
高度化目標
滅菌処理対応・生体親和性等に資する実装技術の開発
○○.○N
危険度
△△.△MPa
F:40kPa
高度
P:30kPa 圧力
S:15kPa ズレ力 中程度
皮膚
研究開発の背景及び経緯
本研究開発のキッカケとなったニーズは、
「人体とは、
硬い組織となる骨格に、軟部組織としての筋肉・血管・脂
肪・皮膚で包まれた構造である。そのため、人体は、外力
にとり褥瘡や圧迫性潰瘍、血流阻害等を引き起こす。」。
すでに人体をモデルとして外力と血流阻害の関係がある
ことは、示されているが、医療現場においてその成果を活
用できる褥瘡評価する計測装置はない。この問題を解決す
るためには、皮膚表面に作用する複合的な力、つまり、圧
力に加え剪断力を現場において容易に計測する手段を実現
することが必要である。
既存のセンサで圧力については、面分布評価等の技術が
提供されているが、剪断力(ズレ力)については、局所的
であり、さらに柔軟で曲面である身体表面にフィットしつ
つ、同じ点で3次元的に力を計測し、また面分布を評価す
ることが困難である。この問題を解決するには、皮膚組
織の変形を引き起こす皮膚表面に作用する圧力と剪断力
を、現場で容易に使用でき、生体の柔軟組織と曲面に対し
てフィットするセンサとデバイスを実現させることが課題
である。これらの課題を解決することにより、本研究開発
は、前述の問題に対して、ロボットの触覚・制御で検討
が 進 め ら れ て き たMEMS(Micro Electro Mechanical
Systems)技術を応用した触覚センサ素子を用いること
で、過去に類のない生体用ナノメカニカルセンサーを実現
することが期待できる。
本研究開発では、この触覚センサ素子を生体用にさらに
小型・薄型で1つのセンサで3次元の力を計測することが
可能であることから、柔軟なフィルム状のフレキシブル基
板に複数実装することで人体表面に作用する複合的な力を
正確に計測可能とする。
これにより生体表面のメカニカルストレスをマッピング
として可視化(図1)するとで皮膚のひきつれや皺を計測・
評価することが可能となるために医療における褥瘡評価・
診断に対して新しい視点を提供することができると考えら
れる。
本研究開発では、褥瘡をはじめとする圧・ズレ計測でき
る小型・薄型の面分布評価とそれを生体にフィットさせる
72
引き攣れ
図 1 製品イメージ
フレキシブル基板、またそれらの計測から得られる数値
データを可視化するツールを提供することで、靴内、義足
等のソケット等の生体装着にかかわるセンサ技術としての
応用も考えられ、他のセンサと組み合わせることで、ウェ
アラブルのバイタルセンシングとして広く医療・福祉全体
への広がる技術となると考える。
研究開発の概要及び成果
既存技術と新開発技術との比較
現在の医療現場で用いられる圧力・剪断力を計測できる
技術は、個別の圧力センサと剪断力センサの複合の形態で
あり、センサ部が大きく、双方のセンサの計測部位がずれ
ており、剪断力の計測は、1点である。
本研究開発で実現させるセンサは、単一センサで変形の
要因となる圧力と剪断力を同時に計測し、図2に示すよう
に厚さ3mm以下、5mm四方(1センサ)を複数配置して、
身体表面の変形を可視化させる。
図 2 集積多軸触覚センサモジュール
触覚センサ素子に対する基本技術については、株式会社
国際電気通信基礎技術研究所と大阪大学にて検討を進めて
おり、本研究開発については、さらなる小型化・薄型、生
体からの温度、フレキシブル触覚センサシートの曲げ等に
よる信号ノイズ等の対策を行うために省電力・高感度の増
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
本研究開発においては、褥瘡用測定装置を想定した仕様
においてもっとも重要となるフレキシブル触覚センサシー
トとして3点配置したものである。
図 5 フレキシブル触覚センサシート
カンチレバー立体形状
エラストマ厚 : 1mm
反り量: 10 mm 程度
図 3 試作した触覚センサチップ
圧縮・剪断に対する特性については、図4に示す通り、
圧縮
(垂直力)
と剪断力において安定した応答性を確認した。
x
センサチップ
z
y
a
3 mm
c
カンチレバー
b
今後の継続研究にて、本センサシートを用いて臨床的評
価を実施し測定・評価アルゴリズムを構築することで、新
しい測定手法の提案を行うことが可能となった。
Resistance change rate (ppm/K)
エラストマ塗布後
開発された製品・技術のスペック
エラストマ
100
剪断力(Y方向)に対する応答
901 ppm/kgf
50
0
3.78 ppm/kgf
-50
-100
1180 ppm/kgf
-150
-0.12 -0.1 -0.08 -0.06 -0.04 -0.02
Y-Shear Force (kgf)
0
0.02
垂直力に対する応答
100
0
106 ppm/kgf
-100
-200
118 ppm/kgf
-300
246 ppm/kgf
-400
-500
-2
150
Resistance Change Rate (ppm)
Resistance Change Rate (ppm)
150
電子部品・デバイスの実装
幅アンプLSIを開発し、さらにシリコン基板上にリバース
マウントで設置させる貫通配線(TSV)を持つCr/Si3N4/
Si構造の触覚センサチップを試作(図3)した。さらに変位・
ストレス特性において、線型性の高いシリコーンエラスト
マーを選定し、触覚センサチップ上に均一に塗布ができた
(図3)
。
-1.5
-1
-0.5
0
Normal Force (kgf)
0.5
剪断力(X方向)に対する応答
100
992 ppm/kgf
50
0
-50
-100
-0.02 0
322 ppm/kgf
-560 ppm/kgf
0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12
X-Shear Force (kgf)
図 4 触覚センサチップの力学的応答性
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
アルケア株式会社
◎所在地 : 〒 131-0046 東京都墨田区京島 1-21-10
◎担当者 : 縄田 厚
◎ TEL:03-3611-1101 ◎ FAX:03-3613-6894 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 大阪大学大学院基礎工学研究科
◎プロジェクト参画研究機関(企業):アルケア(株)、(株)国際電気通信基礎技術研究所、ニッタ(株)
◎主たる研究実施場所 : アルケア(株)
73
画像・音声探査機とマイクロ波センサの融合による
災害救助用探査装置の新分野開拓
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
電子部品・デバイスの実装
川下の抱える課題及びニーズ
情報通信機器に関する事項
多機能化・高機能・大容量高速情報処理化
高度化目標
材料からシステムまでの統合設計、信頼性向上のためのシ
ミュレーション技術の開発
研究開発の背景及び経緯
大規模地震などの災害現場では、様々な探査装置をそ
の特性に応じて使い分けているが、運搬が煩雑になるこ
とや、混乱した災害現場でそれぞれの機能を効率よく使
い分けることが難しいため、災害救助に従事する多くの
隊員から、複数の機能をもつ探査装置の開発が求められ
ている。例えば、確実に探査できるため需要が高く、普
及も進んでいる画像・音声探査機は、探査範囲がカメラ
で見える範囲又は要救助者の発する音声が聞き取れる範
囲に限られてしまう欠点がある。一方、電磁波探査機は、
呼吸による微小な動きを探知することができるため、要
救助者が瀕死の状態でも発見することができ、広い領域
を探査できるが、装置が複雑化し高価格となるため、一
部のレスキュー部隊に配備されるのみであった。
また、従来の探査装置は、リアルタイムに探査するこ
とを目的としていたため、記録再生機能などを搭載して
いなかった。しかし、混乱した災害現場では、要救助者
をカメラで捕らえられても見過ごされてしまう可能性も
考えられるため、記録再生・解析機能も要求されている。
そこで、本研究開発では、上記のような現場からの要求
に合わせ、狭い領域しか探査できなかった画像・音声探
査機と、より広い領域を探査できる電磁波探査機を融合
した新たな災害救助用探査装置の開発を行うこととした。
開発に当たっては、装置を小型・多機能・高機能化すると
ともに、情報処理制御部を大容量高速処理化することに
より、画像の記録再生・解析機能、電磁波探査・解析機
能の強化を実現し、探査効率を高めることを目指した。
研究開発の概要及び成果
本研究開発では、画像・音声による生存者確認用セン
サ、および呼吸の有無を探査するマイクロ波ドップラー
センサを内蔵した融合型センサヘッド部と、画像解析や
信号処理機能を内蔵した本体部の開発を実施した。
まず第1に、瓦礫内部に挿入するセンサヘッド部を従
来の画像・音声探査機サイズに納めるため、従来より波
74
長の短い10GHz帯のマイクロ波を利用し、実装が容易
で、カメラ等他のセンサ類の実装を妨げないような構造
の新たなマイクロ波ドップラーセンサモジュールを開発
した。次に、開発したモジュールを利用して、円筒状の
金属ケース内にマイクロ波ドップラーセンサ、送受信ア
ンテナ基板、マイク、スピーカ、前面および側面用カメラ、
照明用LED、電子基板を内蔵するセンサヘッドの設計を
行った。一般的には、このようなセンサヘッド中にアン
テナ基板を設置する場合、レドーム、金属ケース、内装
部品(LED、マイク等)の影響により、アンテナ特性が
基板単体での設計値(指向性、リターン・ロス、送受信
アンテナ間クロストーク)から劣化する。そのため、金
属ケース内におけるアンテナ基板位置を最適化する必要
があり、電磁界シミュレーションによる最適化を実施し
た(図1)。その後、結果を反映した試作品を用いて、電
波暗室を利用した測定により、性能の確認を行った。
図 1 電磁界シミュレーション解析モデル
また、電磁界シミュレーションによる最適化と同時に、
従来の画像・音声探査機並みの堅牢さと小型化を実現する
ため、構造設計を実施した。さらに、画像の記録再生・解
析機能の付加とマイクロ波センサの信号処理方法における
高度化をめざし、最新の信号処理手法を取り入れた最適な
手法の検討を実施した。まず、画像処理に関してはDSP
(Digital Signal Processer)の選定、実験基板の実装と
画像処理実験を行った。しかし、オンラインでの使用まで
は至らず、今後、実験結果から最適なソフトウエアを設計
し実装する必要がある。次に、信号処理手法については、
WAVELET 信号処理と同様の自己相関演算を自由な時間
幅で行うことができるソフトウエアを開発した。
これらの研究開発の結果、ほぼ目標通りとなる直径
48mm× 長 さ128mmの 円 筒 内 部 に マ イ ク ロ 波 ド ッ プ
ラーセンサと画像・音声による生存者確認用センサを統
合したセンサヘッドを開発し、新たな災害救助用探査装
置を作製した(図2、図3)。本装置の表示画面上部には
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
電子部品・デバイスの実装
図 2 試作機全体写真
探査画像、下部にレーダー波形が表示され(図4)、画像
及びレーダーデータの記録・再生機能を備えると共に、
一度の充電で4時間の連続運転が可能である。また、電
波出力0.01W以下、ARIB-STD-T73 準拠の特定小電力
機器として無線局免許なしに使用可能となっている。
さらに、模擬倒壊住宅を利用した実証実験を行ったと
ころ、呼吸検知距離3m以上という目標についても達成
が確認できた。
最後に、以下のような性能確認試験を行い、問題のな
いことを確認した。
振動試験:JIS Z 0232準拠
熱サイクル試験:−10 ∼ 60℃の運転状態及び
−20 ∼ 60℃の保管状態
静電気放電イミュニティ試験:IEC6000-4-2規格試験
ヘッド部荷重試験:圧縮・せん断試験(2tまで)
開発された製品・技術のスペック
今回開発した災害救助用探査装置の諸元を以下に示す。
図 3 開発したセンサヘッド
図 4 操作画面
本体
寸法
質量
電源
モニタ
信号処理基板
360×500×200(縦、横、高さ)mm
11.2 kg
12VDC Ni-MH バッテリー
10.4インチTFTカラー
アナログおよびデジタル専用基板内蔵(デジ
タル未実装)
センサ
ドップラー
10GHz帯 ドップラーセンサ
レーダー
ARIB STD-T73準拠
カメラ
正面および側面 1/ 4インチCCD
マイク
エレクトレットコンデンサマイク
スピーカ
40×20mm惰円形スピーカ
伸縮竿
材質
非導電性グラスファイバー
長さ
収納時1060mm 伸長時 3600mm
質量
センサ部込 2.3kg
付属品
ヘッドセット、専用ソフトウェア
専用充電器(AC100V仕様 充電時間約3時間)
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
新菱工業株式会社
◎所在地 : 〒 101-0046 東京都千代田区神田多町 2-9-2
◎担当者 : 辛島 祐一郎
◎ TEL:03-5289-0007 ◎ FAX:03-5289-0014 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 神奈川県産業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)タウ技研、新菱工業(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)タウ技研
75
炭素繊維複合材料を用いた軽量化部材製造に適した
高速複合プレス成形技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
プラスチック成形加工
川下の抱える課題及びニーズ
間かかった時間を10分以下に短縮できる材料を用い、量
産性に優れ、その上後加工を省略できる成形一体加工でき
る高速成形技術が必要不可欠である(図1)。
情報家電に関する事項
高付加価値化
自動車に関する事項
価格
高度化目標
マグネシウム合金、アルミニウム合金等に対抗するプラスチッ
ク材料技術
製品設計に対応した金型設計を行う技術、これに付随するシ
ミュレーション技術
研究開発の背景及び経緯
○社会的背景
我が国では、京都議定書により地球温暖化対策推進大綱
が策定されており、温室効果ガス排出量の増加が目立つ運
輸部門において「革新的技術開発」として「自動車軽量化
用素料開発」を進めることが明記されている。
これまでエンジン・駆動系の効率は一貫して改善されて
きたが、ボディー重量は衝突安全性確保などによるサイズ
の拡大傾向にあり、
横ばいから増加で推移してきた。また、
コストを極力抑制する必要があることから、軽量化を目的
とした素材開発は容易ではない状況であった。
このような状況下において、鉄鋼メーカーは高張力鋼板
で薄型・軽量化を目指すが、樹脂やアルミ等を製造する素
材メーカーがこれを脅かすべく自動車メーカーへの提案を
強めている。これまで個別部品の樹脂化は進んでいたが、
最近では全体の7割を占める構造材の素材を変える提案が
みられ、自動車メーカーも注目している。特に精力的に進
められている素材開発の一つが、単一素材では得られない
高強度・高弾性を確保し、軽量化を可能とした炭素繊維複
合材料の外板・構造部材である。
○研究開発の必要性
従来、炭素繊維複合材料をオートクレーブ(AC)成形
加工法で金属等の素材に比べ格段の軽量高剛性とともに、
極めて優れた衝撃吸収性を実現できるため、広く航空宇宙
分野、自動車レース車両等に使われている。
しかしながら、この加工法は部品精度や品質には優れて
いるものの、①最終製品形状の型に沿わせ、炭素繊維複合
材料を積み重ねるプリフォーム工程、②炭素繊維複合材料
を積層した型をシート(バッグ)で覆い、AC内で内包され
た空気や揮発物を真空除去し、加熱・加圧して硬化時間に4
時間をかけるAC硬化工程といった製作工数が多くかかって
しまい、高価格な製品になることが大きな弱点である。
そこで、コスト低減を図る為、炭素繊維材料メーカーで
開発が進んでいる、物性を保ちつつ今まで加熱硬化に4時
76
図 1 従来技術と新開発技術の比較
研究開発の概要及び成果
本研究開発を進めるにあたり、いくつかの観点より取り
組み、その主なものの成果を以下に記す。
○金型設計技術
高速複合プレス成形に対応すべく、クリップ座の同時成
形や金属インサートを実現するための異種材料の同時成形
や、より一層の軽量化のための軽量コア材との同時成形が
でき、さらに高賦形な成形品を得るためのスライド機構を
付加した金型の設計技術を確立した(図2)。
図 2 高速複合プレス成形用金型の一例
22年度採択
[一般枠]
○高速プリフォーム技術
自動プリフォーム装置の原理試作が完成し、
通常の工数・
工程時間の50%まで自動化により短縮の目処が付いた(図
3)
。
○製品評価
製品の評価は、光学式三次元測定器による成形品の形状
測定結果と製品のCADデータを比較して、成形品の変形
状態を検証した(図5)。
プラスチック成形加工
図 5 製品評価の一例
開発された製品・技術のスペック
図 3 自動プリフォーム装置の原理試作機
○高速複合プレス成形技術
異種材を同時成形し、最適な複合材料の開発に目処が付
いた。成形性、表面意匠性に優れ、更に高速で材料を硬化
させる開発を三菱レイヨン
(株)
と進め、材料開発にも目処
が付いた。
特に、樹脂流動を考慮したSMC材の投入の仕方が意匠
面に大きく影響を与えることがわかった(図4)
。
図 4 高速複合プレス成形品の一例
高速複合プレス成形技術は、材料裁断・プリフォーム・
プレス成形・冷却&バリ取りの4工程であり、成形サイク
ルは約10分程度で、従来技術に比べ成形プロセスの短縮
と製造コストの50%低減目標を達成する見込み。
また、特殊な技能を必要とする手作業での工程もないた
め、製品の性能についてバラツキが少なく、安定した製品
が得られる(図6)。
図 6 製品の一例
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社チャレンヂ
◎所在地 : 〒 350-1325 埼玉県狭山市根岸 679 番地 1
◎担当者 : 赤石 武郎
◎ TEL:04-2900-2111 ◎ FAX:04-2954-0303
◎ E-mail:[email protected][email protected][email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)チャレンヂ、三菱レイヨン(株)豊橋技術研究所
◎主たる研究実施場所 :(株)チャレンヂ
77
カプサイシンとインターカレーション技術による循環環境
適応型生物忌避剤のプラスチック成形技術の研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
プラスチック成形加工
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する事項
環境対応
高度化目標
環境に有害物質を放出しない加工システム技術、エネルギー消
費の少ないプラスチックの成形法の開発
研究開発の背景及び経緯
情報家電では、配線が鼠にかじられたり、様々な昆虫が
機器内へ入り込むと大きな障害を及ぼす。そのため、家電
製品の筐体や電線被覆には、防鼠・防虫性の付与が望まれ
ている。現状では薬物を家電部品・製品の樹脂に配合して
成形加工することにより、防鼠・防虫効果を付与している。
しかし、成形加工段階や使用中における有害化学薬物の環
境への放出、廃棄処分時の含有化学薬物の溶出など、土壌
汚染や海洋・河川汚染等が大きな問題となっている。強力
な防鼠・防虫・防水生生物効果を持ち、しかも、環境汚染
のない素材と成形加工技術を開発することが望まれている
が、いまだ実用化された製品はない。
本研究では、強力な生物忌避性を持つカプサイシンに着
目し、環境にやさしく、かつ耐久性の高い防鼠・防虫・防
水生生物効果を有する環境対応プラスチックの開発と、成
形加工方法を検討した。
研究開発の概要及び成果
本プロジェクトの概要
カプサイシンは、自然由来の環境対応物質であり、強力
な生物忌避性を持ち、また、自然還元しやすい特徴を持つ。
本研究では、
カプサイシン(Cap)をグリーンケミストリー
の層状複水酸化物(LDH)へインターカレートすること
により、カプサイシンの揮発性の制御と樹脂中への均一分
散を可能にする環境対応プラスチックを開発し、その成形
加工方法の確立を検討する。また、インターカレーション
により、樹脂中からのカプサイシンの放出を任意に制御す
ることも併せて目指す。
これにより、
環境適応型プラスチッ
ク製品の高度化を図ることを目的とする。
研究開発の成果
(1)LDHへのカプサイシンのインターカレーション
LDHは粘土鉱物の一種で、陰イオン交換能を有する層
状化合物である。層間に原子・分子等が入り込むインター
カレーション特性を持ち、医薬品、プラスチック用添加剤、
78
吸着剤など、幅広い工業分野に応用されている。医薬品の
場合には、LDHの層間から薬剤が徐々に体内に放出する
ことが知られている。
本研究ではLDHを用いたカプサイシンのインターカ
レーションについて検討を行った。その結果、カプサイ
シンをLDHの層間へインターカレートすることが可能で
あ り、LDHへ の カ プ サ イ シ ン の 固 定 化 量 は、 共 沈 法 で
LDH1.0g当たり、最大0.63gであることがわかった。
樹脂への成形加工
小型押出成形機を使用して、PP及びPSへLDH-Capを
混練した成形加工品を試作した。顕微鏡での微細観察で
LDH-Capが均一に分散されていること(図1)
、熱分析装
置で母体樹脂品質(融点、熱膨張率など)への影響がない
ことを確認した。
図 1 LDH-Cap を混練した PP 成形加工品と顕微鏡写真
従来技術と新開発技術の比較
従来技術との比較を図2に示す。これまでカプサイシン
の樹脂中への分散は不可能であり、カプサイシン溶出によ
る耐久性と、混練による材料物性の低下などの問題があっ
た。新技術「カプサイシンをインターカレートした層状複
水酸化物」を用いることにより、上記の問題を解決できた。
図 2 従来技術と新技術の比較
22年度採択
[一般枠]
図 3 事業化規模合成装置
生物への忌避性試験
合成したLDH-Capの忌避性試験を3種類の生物(①フ
ジツボ、②シロアリ、③マウス)を対象に実施した。
(1)フジツボに対する忌避性
キプリス幼生の試験では、素材から溶出するカプサイシ
ンで付着が阻害された。効果は樹脂の種類や添加濃度、海
水への暴露期間などで異なることが分かった。
実際の海での浸漬試験によると、浸漬初期の2週間では
忌避性が確認できた(図4)
。1 ヶ月以上の長期になると
明らかな効果は認められず、樹脂素材や塗料の種類、添加
濃度、徐放性の制御などが課題となった。
図 4 実海水への浸漬試験結果
素材:シリコーン系船底塗料
浸漬期間:2 週間
(2)シロアリに対する忌避性
LDH-Capを混練したEVA(エチレン酢酸ビニル共重合
樹脂)シートを中間に挟むように改良した試験装置により
防蟻効果を検討したが効果は低かった。シロアリに対して
明確な忌避性と殺蟻性が観察されなかった結果から、カプ
サイシンは節足動物門昆虫網に対しては忌避性が低いと考
えられる。一方、LDH-Cap懸濁液にシロアリを浸漬する
と全数が死亡した結果などから、LDH-Capはシロアリの
活性や行動に何らかの影響を与えていると考察された。
(3)マウスに対する忌避性(かじり試験)
市販の塩ビ電線ケーブルに
LDH-Cap 30%を 混 練 し た
シリコーン塗料を塗布した
ケーブルを試作して比較試験
を実施した。図5に示すよう
に明確な効果があることが分
かった。
プラスチック成形加工
事業化規模の合成
事業化規模のLDH-Cap合成装
置(図3)を導入し、
スケールアッ
プ合成について検討した。その
結 果、1バ ッ チ 当 た り1.5kgの
LDH-Capの合成に成功した。
図 5 マウスの電線ケーブル
かじり試験結果
開発された製品・技術のスペック
LDH-Capの特性
LDHへのカプサイシンのイン
ターカレート量は、0.20g/gか
ら最高0.63 g/gまで調製可能
であり、水、PP、PS、シリコー
ンゴムへの分散性は非常に良好
である。作業性向上(カプサイ
シン飛散防止目的など)の観点
から図6に示す顆粒状に加工した。
図 6 顆粒状 LDH-Cap
LDH-Capの耐熱性
耐熱性試験によると、LDH-Capは、100℃付近での重
量減少は殆どなく、200-300℃から減少が認められた。カ
プサイシンの熱分解温度は約170℃であることから、200300℃における重量減少は、LDHの層間にインターカレー
トされたカプサイシンの分解によるものと考えられる。
LDH-Capの安全性
ウサギ眼球への点眼試験では危険性が確認されたが、直
ちに洗眼すれば安全であることが確かめられた。また、
ラッ
ト経口試験や皮膚付着試験では、安全性に問題ないことが
確かめられた。LDH-Capは、カプサイシン粉末と比較し、
製造・使用上で安全面に大きな問題がないことが明らかと
なった。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
公益財団法人千葉県産業振興センター
◎所在地 : 〒 261-7123 千葉県千葉市美浜区中瀬 2-6-1 WBG マリブイースト 23 階
◎担当者 : 中島 まどか
◎ TEL:043-299-2653 ◎ FAX:043-299-3411 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 新潟大学、東京海洋大学、東京農業大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)ナフタック、(株)双葉テクニカ、(株)ドリームス
◎主たる研究実施場所 :(株)ドリームス
79
腹腔内手術後に用いる
感染レス閉鎖式吸引ドレナージシステム開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
プラスチック成形加工
川下の抱える課題及びニーズ
医療機器に関する事項
高機能化
高度化目標
医療用部品に使用する高純度な樹脂の、成形による劣化を防止
する技術
研究開発の背景及び経緯
近年、腹腔内術後の体内に貯留した排液を排出する方式
としては、
感染予防効果の高い閉鎖式が主流となっている。
この閉鎖式ドレナージを行う際には、市販されている尿用
バックを用いることもあるが吸引機能はなく、排液が体内
に貯留する懸念や、容量が2リットル程度と大きいため患
者の早期離床を妨げる。他方、市販の携帯型吸引器は首か
ら吊り下げることができ、携帯性は向上しているものの、
患者外観変化やチューブの露出により引っ掛り、転倒の危
険もある(図1)
。
図 2 携帯型吸引バックの位置づけ
研究開発の概要及び成果
バネ特性を持つ高剛性プラスチックを用いた薄肉射出成
形を実現するための方策として、6方向同時圧縮成型が可
能な金型を作製した。バネのヒンジとなる部分の肉厚は
0.3mm ∼ 1.0mmまで成形機の設定条件にて任意に精度
良くコントロールすることが可能であり、これによってバ
ネの反発力制御が可能である(図3)。
図 3 6 方向同時圧縮成型金型
図 1 患者自由度と感染予防効果
80
ヒンジ0.3mm
厚み
1.0mm
120
吸引圧力(mmHg)
また、市販されている携帯型吸引器の吸引圧力は約−
60mmHgと強いため、柔軟な臓器に対して損傷の恐れが
あり、特に腹腔においては−20mmHg程度で、排液が逆
流しない閉鎖式ドレナージバックが求められている(図2)
。
更に競合品の携帯型吸引器内部には金属性のバネが内包
されていることから、X線やMRIなどの検査時に支障がで
ることとなる。
そこで本研究においてはプラスチック成形加工技術の高
度化により、オールプラスチックによる軽量化と着衣内に
しまえる携帯性、さらに臓器損傷の可能性を低減した閉鎖
式低圧持続吸引ドレナージバックを作製する。
140
ヒンジ0.4mm
ヒンジ0.5mm
ヒンジ0.7mm
B社金属バネ式
吸引バック
100
ヒンジ1.0mm
80
A社金属バネ式
吸引バック
60
40
20
0
0
開発品
厚み
0.3mm
10
20
30
40
バネの厚み(mm)
図 4 プラスチックバネの吸引圧力
50
60
22年度採択
[一般枠]
プラスチック成形加工
ヒンジ部肉厚の異なるプラスチックバネを用いてサンプ
ルを作製し、発生する吸引圧力を測定した(図4)
。
競合製品が−60 ∼−50mmHgであるのに対し、開発
品はおよそ−20mmHgの低吸引圧力を達成した。
排液の逆流を防止するための逆流防止弁については、一
般的にシリコーン樹脂が用いられ、製造上の課題としては専
用設備が必要であり、またオレフィン系材料との溶着が難し
く、組み立て工程に手間がかかることなどが挙げられる。こ
れら問題を解決するために、オレフィン系材料と熱溶着可能
な熱可塑性エラストマーを用い、薄肉射出成形技術の高度
化にチャレンジした。逆流防止弁は、肉厚約5mmの溶着部
と肉厚0.35mmの弁先端を有しており、通常の射出成形では
弁先端まで樹脂を充填することが難しい。そこでこの課題を
解決するため、金型内部にヒーターを設けて高温状態で樹
脂を充填する一方、取り出し時には冷却管により素早く冷却
させるヒートアンドクール成形により実現化を図った(図5)
。
図 6 開発品の外観
開発品はオールプラスチックを実現したことで競合品重
量の1/3 ∼ 1/5程度まで軽量化することが可能となった。
また製品厚みを1/2に抑え、皮膚貼付可能とすることで患
者の早期離床を妨げない携帯性の高い閉鎖式低圧持続ドレ
ナージバックを作製した(表1)。
今後、プラスチックバネの更なる薄肉化と事業化に向け
た生産体制の構築を進め、より良い機器の提供によって医
療に貢献したい。
表 1 開発品と競合品のスペック比較
アルケア株式会社
A社
B社
開発品
金属バネ式吸引バック
金属バネ式吸引バック
図 5 逆流防止弁のヒートアンドクール成形
開発された製品・技術のスペック
開発品はオレフィン系フィルムを用いた袋状になってお
り、プラスチックバネが内包された上部と排液を貯留する
ための下部より構成され、逆流防止弁を介して結合されて
いる。皮膚貼付剤を用いて患者体表面に貼付可能であり、
着衣内に収納することで外観を気にすることなく離床する
ことが可能となっている(図6)
。
工程数
7
12
12
使用材料
の種類
プラスチックバネ
オレフィン系フィルム
熱可塑性エラストマー
金属バネ
PP、塩ビ
シリコーン
金属バネ
PP2種、塩ビ
シリコーン
重量
30g
150g
110g
厚さ
30mm
60mm
60mm
陰圧力
-20mmHg
-50mmHg
-50mmHg
最大容量
約300ml
300ml
200ml
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
アルケア株式会社
◎所在地 : 〒 131-0046 東京都墨田区京島 1-21-10
◎担当者 : 関根 隆幸
◎ TEL:03-3611-1101 ◎ FAX:03-3613-6894 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):アルケア(株)
◎主たる研究実施場所 : アルケア(株)
81
自動車配管部品の樹脂化技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
プラスチック成形加工
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
軽量化
高度化目標
薄肉化技術、ケース類(ハイブリッド車の 2 次電池等)、ボビン・スプール類(電磁 SW
性能向上)、複合部品・インサート成形品の表層部分の薄肉化、軽量化、低価格化
研究開発の概要及び成果
強度・剛性を維持するために最低肉厚の維持と軽量化効
果の維持のため最大肉厚の管理が必須となる。ガスアシス
ト製法における課題は①入口側と出口側の肉厚差改善②薄
肉化③サイクル時間の短縮であり、弊社が得意とするガス
アシスト成形技術にヒートアンドクール技術を融合させ、
この解決に挑んだ(図1)。
಴ญ
出口
㽲⡺ෘᏅᡷༀ
①肉厚差改善
㽳⭯⡺ൻ
②薄肉化
③サイクル短縮
⡺ෘ䈏
肉厚が厚い
⡺ෘ䈏⭯䈇
肉厚が薄い
図 1 課題と目的
①ヒートアンドクールによる金型温度加熱及び樹脂充填
速度・ガス注入速度を瞬間的に行うことで入口側と出口側
の肉厚差の改善を目指したが効果は得られなかった。しか
しながら、樹脂の流動末端側からガスを注入することで肉
厚差は改善された(図2)。
౉ญ஥ 2.4mm
಴ญ஥ 6.3mm
GAS
౉ญ஥ 5.5mm
಴ญ஥6.2mm
図 2 入口側と出口側の肉厚差
②薄肉化もヒートアンドクールで金型温度を高温にし樹
脂の冷却固化を遅らせて瞬間的にガスを注入することで
薄肉化する計画であったが、図3の様に効果は見られたも
のの、現在のボイラー仕様のヒートアンドクール(H&C)
では昇温能力が不足と判断せざるを得なかった。
H&C無 肉厚6.5mm
H&C有 肉厚5.5mm
図 3 H&C による薄肉化
82
᮸⢽
᮸⢽
自動車産業における軽量化は燃費性能の向上につなが
る重要なニーズであり、小型乗用車の場合10%の軽量化
により燃費性能が4%向上すると言われており、消費燃
料が少なくて済むことで枯渇資源の保護、さらに排出ガ
ス量が減少するため地球温暖化防止にも貢献する。
30年以上前から鉄や銅などの金属から比重の軽いプラ
スチックへの変更がされてきた。プラスチックには軽量
化だけでなくデザインの自由度、二次加工性、衝撃エネ
ルギー吸収性、耐摩耗性、低コスト性、リサイクル性な
どのメリットがあり、時代のニーズに応じて急速に普及
してきた。
自動車のプラスチック構成比は、日本車で約8wt%で
あるが、欧州車は15wt%を超える。欧州車が高いプラ
スチック採用レベルにあるのは、内外装部品にとどまら
ず、エンジンルーム内の部品や機能部品にもプラスチッ
クを積極的に採用してきた歴史がある。
しかしながら、エンジンルーム内の冷却水等の流体の
輸送系配管部品は−40℃∼ 150℃の耐熱性能やエンジ
ンの耐振動、雪道の耐塩カル性など過酷な条件に対する
高度なニーズがあり、確立された成形方法がなかった。
欧 州 で 配 管 部 品 の 樹 脂 化 は す で に ガ ス( ま た は 水 )
ア シ ス ト 成 形 に よ る 製 法 で 事 業 化 が 開 始 さ れ て お り、
BMWやVWをはじめアウディ、ポルシェなどのドイツ
車で採用され、フィアットも開発を開始している。しか
し、わが国での採用実績はまだ無い。こうしたなか当社
は2008年以降、国内自動車メーカーや自動車部品メー
カーへの提案活動を継続的に行なう中、国内メーカーの
品質基準は欧州メーカーよりも数段高く、高いニーズへ
の対応を緊急で行う必要があることが見えてきた。
಴ญ
出口
౉ญ
入口
GAS
研究開発の背景及び経緯
౉ญ
入口
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
しかしながら、品質工学手法(図4)による実験の結果、
薄肉化に有効と判断できる条件因子が見つかった。
18
14
12
10
㪈㪉㪇
120
8
A1 A2 B1 B2 B3 C1 C2 C3 D1 D2 D3 E1 E2 E3 F1 F2 F3 G1 G2 G3 H1 H2 H3
22
䋨㷄䋩
(℃)
㪈㪇㪇
100
㪏㪇
80
21
感度 (db)
プラスチック成形加工
SN (db)
16
ことで冷却がはじまる。そこで、ガスの注入・保持・放出
のサイクルを3回程度繰り返すことが出来るような設備を
作成し、製品内部の熱といっしょに放出を繰り返し、内部
からの冷却支援でサイクル短縮を狙った。
その結果は図7の様に、金型取出し後40℃まで冷却さ
れる時間は、1回の注入の時よりも3回の注入の時の方が
2/3の時間で冷却出来ることが分かった。
䍔䍼䍛ᵈ౉࿁ᢙ㩷㩷㩷㩷㩷㩷㪈࿁
ガス注入回数
1回
㪍㪇
60
20
䍔䍼䍛ᵈ౉࿁ᢙ㩷㩷㩷㩷㩷㩷㪉࿁
ガス注入回数
2回
䍔䍼䍛ᵈ౉࿁ᢙ㩷㩷㩷㩷㩷㩷㪊࿁
ガス注入回数
3回
㪋㪇
40
19
㪉㪇
20
18
17
㪇
0
A1 A2 B1 B2 B3 C1 C2 C3 D1 D2 D3 E1 E2 E3 F1 F2 F3 G1 G2 G3 H1 H2 H3
図 4 品質工学 要因効果図
また品質工学から得られた最適条件で作成したサンプル
の断面は安定した空洞を形成した(図5、図6)
。
㪉 4
2
㪋 6
㪍 8
㪏 10
㪈㪇 12
㪈㪉 14
㪈㪋 16
㪈㪍 18
㪈㪏 20
㪉㪇 22
㪉㪉 24
㪉㪋 26
㪉㪍 28
㪉㪏 30
㪊㪇
䋨ಽ䋩
(分)
図 7 ガス注入回数による冷却時間
開発された製品・技術のスペック
試作品の形状は、自動車メーカーからのニーズを考慮し
てステアリングを模した形状を作成した(図8)。
図 5 初期条件による断面(入口・中央・出口)
⥄േゞ䊜䊷䉦䊷䈱䊆䊷䉵
1. ㆡᐲ䈭䉦䊷䊑
2. ⋥ᓘ㱂30 ⒟ᐲ
3. 㐳䈘1m ⒟ᐲ
4. ᢿ㕙ᒻ⁁ᄌൻ
5. 䊥䊑᭴ㅧ⸳⟎
ᑷ␠䈱⁓䈇
6. 䉟䊮䊌䉪䊃䈱䈅䉎ᒻ⁁
図 8 ニーズと試作品
図 6 最適条件による断面(入口・中央・出口)
③ガスアシスト及び水アシスト製法において、媒体を注
入しても内部では樹脂温度と同等まで上昇し、放出される
原材料においても、図8はポリカーボネート(PC)、図
2はガラス入りナイロン(PA66-GF33)、図3はポリアセ
タール(POM)など数種類の確認を行った。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社ジュンコーポレイション
◎所在地 : 〒 379-0211 群馬県安中市松井田町上増田 53-1
◎担当者 : 小板橋 義和
◎ TEL:027-393-1375 ◎ FAX:027-393-4331 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 群馬県立群馬産業技術センター
◎主たる研究実施場所 :(株)ジュンコーポレイション
83
空圧による均一加圧を実現する
大面積ナノインプリント装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
プラスチック成形加工
川下の抱える課題及びニーズ
光学機器に関する事項
高付加価値化
高度化目標
情報通信分野や医療分野向けの機能性マイクロ機器部品に係る微細プラスチック成形加工、
超高精度プラスチック成形加工技術/より簡易で低価格の製造技術や製造プロセスの開発
研究開発の背景及び経緯
図 2 サイズ別微細加工技術
ナノインプリント技術は、歴史的にはまだ浅く、1995
年にプリンストン大学のDr. Chouにより提唱されてから、
16年しか経過していない。しかし、ナノインプリントに
おける技術開発は、
各企業及び研究開発機関において、年々
活発に取り組みが行われており、近年では、より具体的な
アプリケーション開発に取り組む企業も増えてきている
(図1)
。
図 3 各微細加工技術の各加工パターン領域
図 1 ナノインプリントのアプリケーション開発
微細加工技術としては様々な手法があるが、生産として
の事業化を考慮すると、
「要求仕様に合致した商品」とそ
の商品特性に見合った「低コスト」を両立している微細加
工技術は少ない。
これは、パターンサイズに着目した場合、特にサブミク
ロン以下では顕著で、高コスト(装置、マスク)な半導体
リソグラフィ技術しかなく、高付加価値の半導体用途にし
か適用できないのが実情であるが、ナノインプリント技術
では、装置コストを抑える事が可能であり、多様なアプリ
ケーションに適用可能である(図2)
。
また、パターン領域に着目すると小面積サイズにおいて
は、従来型の平行平板型ナノインプリント装置で、サブミ
クロン以下の微細加工を低コストで実現してきた。
しかし、
そのままパターン加工領域をスケールアップして、超微細
パターンを大面積に加工する微細加工技術というものは、
世の中に存在しない(図3)
。
84
ナノインプリントにおける成形技術は、主にフィルム成
形とレジスト成形がある。フィルム成形の場合は、射出成
形では実現不可能な0.3mm以下のフィルムが一般的であ
る。また、レジスト成形の場合は、ナノインプリント・リ
ソグラフィプロセスの一部であり、エッチングのためのマ
スク形成に使用されるため、数百nm以下のレジスト薄膜
に対して成形を行い、シビアな残膜(押しきれずに残って
しまう膜)制御が求められる。このように、射出成形やホッ
トエンボス法と比較すると、被転写物が非常に薄いもので
あり、加圧時は剛体接触に近い状態となり、弾性接触論に
おける「エッジ効果」や「中抜け現象」による荷重分布が
発生し、均一な加圧を困難なものにしている。
従来の平行平板型ナノインプリント装置では、剛体ス
テージを用いており、ステージ位置の精密な制御と金型の
追従性を向上させることで、均一なナノインプリントを実
現してきたが、小面積に留まり、スケールアップの限界ま
で来ている。
以上のような背景から、大面積における微細加工技術が
求められており、ガス圧ナノインプリント装置を開発する
ことで、実現し得なかった加工領域を実現するとともに、
小面積において原理確認されている高付加価値機能を大面
積に適用することで、新たなアプリケーション創出も期待
されている。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
研究開発の概要及び成果
プラスチック成形加工
現在、ナノインプリント技術では、数十∼数百nmレベ
ルの加工を小面積では実現している。しかし、高い再現性
を確保しつつ大面積に成形する技術は存在しない。本開発
では、大面積に対し高い再現性で成形ができるナノインプ
リント技術を、ガス圧式により実現することを目的として
いる。
装置技術開発では、各要素技術の開発として、急速加熱
冷却機構の開発、加圧制御機構の開発、減圧機構の開発を
行い、低コストかつ高い再現性を有するガス圧ナノインプ
リント装置を開発した。
<急速加熱冷却機構の開発>
熱伝導の方法を工夫することにより目標を達成し、急速
加熱冷却機構を開発することに成功した。
<加圧制御及び関連機構の開発>
目標圧力3MPaに対して、加圧反力約40トンを支える
構造/機構の開発に成功し、目標を達成した。
<ガス圧ナノインプリント(β機)の試作及び成形評価>
図4、図5に示すとおり、試作した装置による成形評価
で良好な結果が得られ、今回開発した機構の有効性が確認
された。
本開発装置を用いた一連のテストで、それぞれの機構が
有効に機能し、大面積(A4サイズ)で全面に均一に成形
ができることが確認でき、本開発の目的を達成することが
出来た。
図 5 フィルム成形品:SEM による形状評価
開発された製品技術のスペック
今回開発した装置は研究開発を目的としており完全マ
ニュアルの装置となっている。しかしながら、A4サイズ
の一括ナノインプリントを実現した革新的な装置である。
今後、具体的な用途においてカスタマイズすることにより
完成度を高めていく。
項目
仕様
ステージ寸法
A4サイズ
転写方式
一括転写
熱可塑性樹脂
被転写材料
UV硬化樹脂
熱硬化樹脂
最高使用温度
250℃
UV出力
30mW/cm2
最大加圧力
5MPa
図 4 A4 サイズフィルム成形概観
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社キャンパスクリエイト
◎所在地 : 〒 182-8585 東京都調布市調布ヶ丘 1-5-1 電気通信大学産学官連携センター
◎担当者 : 阿部 則晴
◎ TEL:042-490-5735 ◎ FAX:042-490-5727 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): SCIVAX(株)
◎主たる研究実施場所 : SCIVAX(株) 研究所
85
ナノフェライト粒子の量産製造技術の開発と応用展開
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
粉末冶金
川下の抱える課題及びニーズ
情報機器・家電に関する事項
高機能化
高度化目標
小型高機能化に対応するマイクロ部品の製造技術の開発
研究開発の背景及び経緯
ナノフェライト粒子の必要性
携帯電話に代表されるモバイル機器内部の電磁干渉対策
用のノイズ抑制シート及び電磁波吸収やRFID(電波を利
用した認証)に利用されるフレキシブル電磁波吸収シート
は、需要が急速に高まると予測されているが、高周波帯の
電磁波ノイズを吸収できるものは少ない。
この状況の中で、ナノサイズの粒径を有する磁性(フェ
ライト)粒子を用いると、高周波ノイズの抑制機能が向上す
るのでナノフェライト粒子への期待が高まっている(図1)
。
しかしながら、量産可能なナノフェライト粒子の製造技
術、及びこの粒子を用いたフレキシブル電磁波吸収シート
の基盤技術は開発されていない。また、同様にナノフェラ
イト粒子を用いたチップインダクタ及び高周波用アンテナ
材も開発が進んでいない。
【
研究開発の概要及び成果
本研究開発が対象としている表面実装可能なデバイスと
して①フレキシブル電磁波吸収シート、②チップインダクタ
及び③高周波用アンテナ材がある。これらの磁気デバイス
に要求される小型化・高性能化を実現するためには、出発
原料のフェライト粒子をナノサイズ化する必要がある。こ
のナノサイズ化できる製造装置を設計・製作するとともに、
その製造技術を開発することを主要な目標として推進した。
超音波噴霧マイクロ波・抵抗加熱複合法による製造
埼玉大学においては、すでにニッケルフェライト粒子の
ナノサイズ化技術を研究室レベルで確立し、特許も出願し
ている。この方法は、磁性イオンを含む原料溶液を霧状に
し、電気炉中に噴霧し、熱分解させてナノ粒子を作製する。
上空の霧状の水滴が凍って雪になって降ってくる様子に似
ているが、ぼたん(牡丹)雪ではなくサラサラしたパウダー
スノーを目指している。
A
B
C
D
E
F
A:超音波噴霧部
B:送液部
C:抵抗加熱部
D:マイクロ波加熱部
E:回収部
F:溶液貯蔵部
※炉心:石英管
図 2 ナノフェライト粒子製造装置
図 1 電磁波吸収シートのイメージ図
86
「超音波噴霧マイクロ波・抵抗加熱複合装置」を設計・
製作した(図2)。設計に当たってはナノサイズで生成し
た粒子どうしが再反応して粗大化しないようにすること、
及び量産性を確保することを留意した。噴霧した粒子を瞬
時に加熱・分解させてナノフェライト化することが必須で
あるため、抵抗加熱部にマイクロ波エネルギーを局所的に
集中できる装置を付加して20 ∼ 30nm径の粒子の作製に
成功した。
22年度採択
[一般枠]
粉末冶金
図 4 作製した磁性シートの外観
図 3 ナノフェライト粒子の電子顕微鏡写真
ナノフェライト粒子の量産効率化
上述の装置によって製造したところ、30kg/月のナノ
フェライト粒子(図3)の量産化に成功した。これにより
各種デバイス用の原料として供給できるようになった。
磁性シートの電磁波吸収特性に大きな影響を与える比透
磁率の虚数部は約2GHzから増大した。一方、比透磁率の
実数部は、周波数の上昇とともにほぼ直線的に減衰してい
ることから、5GHz付近で電磁波の吸収が最大になり、減
衰率は−20dBに達した。また、サブミクロン粒子を用い
た場合よりもナノサイズ粒子で作製した方が最大減衰ピー
クは高周波側にシフトし、より高い周波数で使用できるこ
とが分かった(図5)
。以上のことより、ナノフェライト
粒子を用いた磁性シートの電磁波吸収特性は良好であり、
実用化が可能であることが確認された。
開発された製品・技術のスペック
ナノフェライト粒子を用いた電磁波吸収シート
フレキシブル電磁波吸収シートでは、初めにペースト化
のための分散技術の検討を行った。ナノサイズのフェライ
ト粒子の性能評価を行ったところ、分散性が良いことが確
認できた。
得られたナノフェライト粒子分散ペーストをPET 支持
フィルム上に塗布して磁性シートを作製した(図4)
。
フレキシブルナノフェライトシートの電磁波吸収特性評価
磁性シートの磁気特性及び電磁波吸収特性の評価を行っ
た。磁性シートの飽和磁化値及び保磁力はバルク材とほぼ
同等の磁気特性を示しており、シート作製の前段階におけ
る磁性ペーストの均一性が十分に高いと判断された。
ナノNiZnフェライト粉使用
サブミクロンNiZn
フェライト粉使用
図 5 ナノ粒子及びサブミクロン粒子で作製したシートの電磁波吸収特性
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人さいたま市産業創造財団
◎所在地 : 〒 338-0002 埼玉県さいたま市中央区下落合 5-4-3
◎担当者 : 福田 裕子
◎ TEL:048-857-3901 ◎ FAX:048-857-3921 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 埼玉大学、埼玉県産業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)高純度化学研究所、リンテック(株)、浮間合成(株)、FDK(株)、アンテナ技研(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)高純度化学研究所
87
次世代コーティングプロセス( ウォームスプレー技術)
の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶射
川下の抱える課題及びニーズ
鉄鋼に関する事項
長寿命化、維持管理の軽減/高付加価値鋼板の安定生産
製紙機械・印刷機械に関する事項
環境配慮の推進/品質の向上
産業機械(エネルギー、化学プラント、焼却炉等)に関する事項
生産性の向上/長寿命化、維持管理の軽減
高度化目標
皮膜の耐熱性、耐食性、耐摩耗性、耐ビルドアップ性等の向上
使用薬品や不純物に対する皮膜の耐腐食性、基材環境遮断性、汚れ防
止性の向上
皮膜の耐熱性、耐高温腐食特性、耐エロージョン特性の向上
韓国等から共同研究の申し込みを多数受けている。
しかし、
この装置は市販溶射装置を改造したものであるため形状が
最適化されていない。また、付属の燃料供給ポンプの特性
により燃焼室の圧力を1.0MPa以上に上げることができな
いという問題もあり、飛行粒子速度をコールドスプレー以
上の速度に加速することが出来ていない。
本研究のプロセスにより高圧燃焼を可能とした、ウォー
ムスプレー装置を新規開発することにより現行コールドス
プレー装置では、困難である高融点金属の個体衝突成膜が
可能となり、新たな産業分野での利用が期待されている。
研究開発の背景及び経緯
現在溶射技術は、多種多様なニーズに対応できる成膜方
法としてあらゆる産業分野で用いられている。特に、金属、
サーメットを緻密に成膜することが出来る高速フレーム溶
射法(HVOF:Hight Velocity Oxygen Fuel)が発明さ
れてからは、耐摩耗、耐高温酸化などメッキの代替技術と
して広く使用されるようになっている。高速フレーム溶射
は、燃料と酸素を燃焼室内で燃焼させ、その燃焼ジェット
炎を利用し材料粒子を溶融又は半溶融状態に加熱し、また
高速に加速し、基材にたたき付けることにより成膜を行な
う溶射法である。
成膜条件のパラメーターとしてガス流量、
ガス流量比により燃焼ジェットの速度、温度を調整するこ
とが可能であるが、酸化炎または還元炎となる為に皮膜中
に酸化物・炭化物の混入が発生する恐れが有る。
近年、溶射の業界では、コールドスプレー法という今まで
の溶射原理とは異なる成膜(成形)法が注目を浴びている。
溶射は、字のごとく材料を溶かして吹き付けることにより成
膜する技術であるが、コールドスプレー法は、材料を溶融温
度まで加熱しないで、固体のまま高速に加速し基材にたたき
付けることにより材料を塑性変形させ、
成膜する技術である。
コールドスプレー法は、高圧不活性ガスをヒーターで加熱す
る為に温度コントロールが容易で、皮膜中に酸化物が少ない、
また、成膜効率が極めて高いなど多くの利点を有する反面、
ガス温度が1000℃以上では、ヒーター材料の強度が限界と
なり、高融点金属の成膜に課題を有している。
独立財団法人物質・材料研究機構(NIMS)では、高速
フレーム溶射トーチを改造し、燃焼生成ガスに不活性ガス
を噴入することにより燃焼炎の温度をコントロールするこ
との出来るウォームスプレー法を試作し、研究を行ってい
る。ウォームスプレー法は、材料粒子温度が、高速フレー
ム溶射法とコールドスプレー法の間に位置する溶射技術で
あり、材料粒子の飛行速度は、高速フレーム溶射と同等の
速度を有する。
この試作ウォームスプレー法の研究成果は、
世界的に注目されており、米国の航空宇宙のトップ企業や
88
図 1 本研究の概要図
研究開発の概要及び成果
研究体制
本研究は、鹿児島大学、物質・材料研究機構、プラズマ
技研工業の3者によって研究を進め装置を開発した。鹿児
島大学では、シミュレーション法を用いトーチの基本設計
を担当し、プラズマ技研工業にてトーチの設計製作、制御
装置の設計製作を実施した。物資・材料研究機構では、試
作ウォームスプレー装置との性能比較など装置の評価を担
当した。
図 2 研究体制図
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
開発された製品・技術のスペック
溶射
本研究で開発した新ウォームスプレー装置は、完成形
ではなくまだ改良の余地を残したものでは有るが、試作
ウォームスプレー装置に比較し、飛行粒子速度を200m/s
以上上げることに成功した。以下図5にコールドスプレー、
試作ウォームスプレー、新ウォームスプレーでTi膜を成膜
した際の断面観察写真を添付する。写真から分かる様に新
ウォームスプレーで成膜した断面組織は、酸化がなく緻密
に成膜出来ていることが分かる。
図 3 トーチ運転中写真
研究成果
本研究で製作したウォームスプレートーチの運転中の
状態を図3に示す。また、ウォームスプレートーチにてバ
レル長さを変え、Ti-45μmの粉末の飛行速度を測定した
測定データーを図4に示す。図よりスプレー距離が100 ∼
150mmの距離で飛行粒子の速度が1300m/secにまで加
速していることが分かる。
図 5 ColdSpray、試作 WarmSpray と新 WarmSpray で成膜した
Ti 皮膜との断面組織
本研究範囲内では、皮膜データーの数は多くないが、新
ウォームスプレー装置のポテンシャルの高さを確認するこ
とが出来た。今後、装置の改良とともに様々な材料を成膜
し、基本特性を測定することにより新ウォームスプレー装
置の性能を評価することが出来る。
図 4 Ti 飛行粒子速度
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人埼玉県産業振興公社
◎所在地 : 〒 330-8669 埼玉県さいたま市大宮区桜木町 1 丁目 7 番地 5
◎担当者 : 関根 一宣
◎ TEL:048-857-3901 ◎ FAX:048-857-3921 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)物質・材料研究機構、鹿児島大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):プラズマ技研工業(株)
◎主たる研究実施場所 :プラズマ技研工業(株) 埼玉工場
89
環境対応の高熱効率鍛造加熱法の開発と実用化
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
鍛造
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
コスト削減/品質を具備しながら生産量変動に迅速かつフレ
キシブルに対応できる供給体制
高度化目標
鍛造部品の小型化や複合一体化のような機能向上/量産品質の
確保及び需要変動に対応できるフレキシブルな供給体制を確立
するための生産技術の開発
研究開発の背景及び経緯
■背景
我が国の熱間鍛造加工の材料加熱には、
燃焼式加熱炉(重
油炉やガス加熱炉)と誘導(IH)加熱炉、直接通電加熱
炉の3種類が使用されている。
熱間鍛造品のエネルギー原単位は約0.6トン-CO2/ト
ンであり、250万トン/年の生産を行っている鍛造業界
のCO2排出量は95万トン-CO2/年である。これは、我が
国の中小製造業の排出量8100万トン-CO2(総排出量の
6.9%、製造業の17%:出展・経済産業省資料)の1.85%
にあたる。CO2排出量の削減は地球環境上重要課題であり、
鍛造業界においては緊急の課題である。
本研究開発においては、鍛造加熱によるコスト低減及び
生産性の向上を図るため、鍛造加熱時の熱効率を上げる加
熱システムを具現化する。
■経緯
自動車部品の鍛造加工においては、生産性の高い高速加熱
が可能な誘導加熱炉[熱効率50 ∼ 55%]が最も多く使用
されている。誘導加熱炉は大量生産・高速加工に有効である
が、加熱温度の均一制御や周波数変換効率に限界があり、加
熱効率の向上に課題がある。また、直接通電する抵抗加熱の
加熱効率[70 ∼ 80%]は高いが、加熱温度均一性や外径
面性状の悪い鍛造用切断材料には適用が難しい課題がある。
本研究開発は、加熱効率の高い、高放射率・遠赤外線(IR)
加熱[熱効率60% ∼ 70%]を有効に鍛造加熱に活用する加
熱技術の開発、新しい誘導加熱と遠赤外線加熱の複合炉の
開発、そして鍛造加熱システムの開発を行う。これは、鍛
造加熱はもとより、あらゆる加熱炉として初めての複合炉
(ハイブリッド加熱炉)である。
開発する複合炉は、遠赤外線加熱の加熱効率向上に加え
て、鍛造材料(鉄鋼)のキューリー点(770℃)以上の
誘導加熱効率低下(約50%)を改善できる。また、遠赤
外線加熱は熱源温度を容易に制御可能なため、温度の均一
性の向上や鍛造プレスの一時停止時における加熱材料の廃
棄及びムダの削減にも効果が期待できる。
本開発は鍛造業界のコスト低減や生産性の向上が目的で
あるので、研究開発成果は鍛造業界各社への水平展開の可
90
能性を検証し、
(社)日本鍛造協会は本開発成果に基づいて、
新しい鍛造加熱システムを業界各社に技術指導を含めて普
及する事業に繋げる。
研究開発の概要及び成果
■概要
本研究開発では、鍛造加工の前工程である「材料加熱」
と「鍛造金型の予熱」に着目し、
“エネルギー効率”や“製
品歩留まり”の改善によってコスト低減及び生産性の向上
を追求するものである。
具体的には次の通り。
①素材全体加熱では、IH+IRハイブリッド加熱の開発。
既 存 IH加 熱 (誘 導 )炉 全 長 以 内 で 開 発
I H(誘導)加熱
I H+I Rハイブリッ ド加熱
遠赤外線加熱
IH(誘 導 )加 熱
素材(ビレット)
変換ゾーン
図 1 IH 加熱から IH+IR ハイブリッド加熱へ
「誘導加熱装置に、 これまで鍛造では不可能とされてい
た1250℃という高温加熱に対応できる遠赤外線加熱装
置を新たに開発し組み合わせることにより、 設備停止時
に材料を炉外に出す必要がなく、 再稼働時に直ぐ対応が
可能(保温効果)
。更に、 材料の均熱化が向上する。材料
径の許容範囲も広がりその分コイル交換が不要となる。
②素材部分加熱では、遠赤外線加熱装置の開発。
重油・ガス加熱装置
遠赤外線(IR)加熱装置
図 2 重油 ・ ガス加熱から遠赤外線(IR)加熱へ
新規開発の遠赤外線加熱装置を部分加熱用に改良する
ことにより、 作業環境の大幅な向上と材料温度の均熱化
が図れ、 製品の品質が安定し、 歩留りも向上する。
③加熱しにくい金型の遠赤外線予熱器の開発。
軽量金型加熱カ ゙ス ハ ゙ー ナ ー
上金型
カ ゙ス 火炎
バーナー搬送治具
軽量金型遠赤外線ヒー ター
下金型
上金型
電磁波
ヒーター搬送治具
下金型
図 3 ガス予熱から遠赤外線(IR)予熱へ
21年度採択
[一般枠]
新規開発の遠赤外線加熱装置を金型の予熱用に改良す
ることにより、 金型温度の均一化が図れ、 安定した製品
が鍛造できる。また、 予熱時間が短縮できる。
■成果
項 目
現 状
目 標
a)鍛造加熱エネルギー
効率
20%効率アップ =(A1-B1)/A1
50~55%
(IH鍛造加熱炉) CO2 排出削減値[京都議定書ベース]
b)鍛造ラインの一時停止
(チョコ停)時と操業
開始時のムダ削減
1)IH運転効率:8.2%向上 =(A2-B2)/A2
15%
2)焼ざましムダ合計:2%以下 =(B3+B4)
(IH鍛造加熱炉) ・チョコ 停時ロス(A3⇒B3)
・操業開始時ロス(A4⇒B4)
運転開始時ロス( k WH )
A4 チョコ停時ロス( k WH )
A3 IH加熱炉効率ロス(kWH)
現 状
[5% ]
[10%]
投入電力量
(kWH)
[26%]
素材加熱有効電力(kWH)
[100%]
A1
素材加熱電力合計(kWH)
A2
[46%]
鍛造加熱
エネルギー効率
[13%]
IH 運転効率
[8.2%効率UP]
従来技術⇒新技術
従来技術⇒新技術
(定温化・均熱化・保温化)
A1-B1
A1
A2-B2
A2
運転開始時ロス( k WH )
チョコ停時ロス( k WH )
B4
B3
IH加熱炉効率ロス(kWH)
[0%] [2%]
目 標
[19%]
投入電力量
(kWH)
[80%]
B1
素材加熱電力合計(kWH)
素材加熱有効電力(kWH)
B2
* ビレットφ 38 ∼ 65mm 対応
* 少量多品種(7 種)対応
* 急速昇温 + 省エネコンセプト
* 高温 ・IR ユニットヒータ使用
* 使用温度:常用 1250℃
* プレス機振動対応装置
ワンウエイクラッチ
図 5 小ロット対応ハイブリッド加熱装置
* ビレットφ 55 ∼ 83mm 対応
* 多量少品種対応
* 急速昇温 + 省エネコンセプト
* 高温 ・IR ユニットヒータ使用
* 使用温度:常用 1250℃
* プレス機振動対応装置
歩留ロス(kWH)
[59%]
[20%効率UP]
①素材全体加熱用複合(IH+IR)加熱装置
[46%]
歩留ロス(kWH)
[59%]
[13%]
図 4 エネルギー効率「ND フロー図」
①素材全体加熱:
a)鍛造加熱エネルギー効率:20%以上効率向上達成
鍛造加熱によるCO2排出削減値
:36,200トン-CO2/年
b)鍛造ラインのチョコ停止と操業開始時ムダ削減:
b-1)IH運転効率:8.2%以上効率向上達成
b-2)焼ざましムダ合計:2%以下達成
c)素材温度精度:<±10℃達成
②素材部分加熱:
a)鍛造加熱エネルギー効率:20%以上効率向上達成
c)素材温度精度:<±30℃達成
③金型予熱:
d)金型温度精度:<±50℃達成
e)金型予熱時間:<30min達成
鍛造
表 1 エネルギー効率技術的数値目標値
開発された製品・技術のスペック
図 6 大ロット対応ハイブリッド加熱装置
センターデフケース
②特殊素材部分(IR)加熱装置
* ビレットφ 20 ∼ 50mm 対応
* 急速昇温 + 省エネコンセプト
* 使用温度:常用 1250℃
* 材質 ( 鋼 ・SUS 系 ・ 黄銅 )、
材料径、加熱長さに対応
アプセット鍛造サンプル
* プレス機振動対応装置
* 作業環境 ・ 地球環境に 優しい加熱炉
図 7 アプセット鍛造用部分加熱装置
③金型予熱用遠赤外線(IR)装置
* 角形金型予熱(白色 ・ 黒色潤滑剤)対応
* 高温 ・IR ユニットヒータ使用
* 使用温度:常用 900℃
* プレス機振動対応装置
* 酸化スケール落下防止対応
* 作業環境 ・ 地球環境に優しい
予熱炉
クランクシャフト
図 8 角形金型予熱器
* 丸形金型予熱(白色 ・ 黒色潤滑剤)対応
* 高温 ・IR ユニットヒータ使用
* 使用温度:常用 900℃
* プレス機振動対応装置
* 酸化スケール落下防止対応
* 作 業 環 境 ・ 地 球 環 境に優しい
予熱炉
ツバ付シャフト
図 9 丸形金型予熱器
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
社団法人日本鍛造協会
◎所在地 : 〒 103-0023 東京都中央区日本橋本町 4-9-2
◎担当者 : 常務理事 村島 善樹
◎ TEL:03-5643-5321 ◎ FAX:03-3664-6470 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 八木工業(株)、(株)デンコー、(株)黒松電機製作所、(株)ミヤジマ、(株)角田鉄工所、(株)ゴーシュー
◎主たる研究実施場所 : 八木工業(株)
91
加工速度制御鍛造による高精度ヘリカルギアの開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
鍛造
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
高機能化/コスト削減
高度化目標
低燃費を可能とする新エンジン開発のための新素材・新構造鍛
造技術の開発
圧制御装置及び、テーパーウエッジ機構を量産仕様設備と
した場合は、試算上、約15個/分と高い生産が可能である。
また、歯車精度に関しては、従来技術の歯切り加工は、新
JIS8 ∼ 9級に対し、新開発技術による歯車精度は、7 ∼
8級が可能である(図1)。
項目
従来の加工技術
仕様
歯切り加工
従来の鍛造技術
新開発技術
サーボプレス+
多軸制御油圧プレス
油圧制御装置+
テーパーウエッジ機構
イメージ
研究開発の背景及び経緯
自動車産業は地球環境問題(排ガス規制)から車体軽量
化・燃費向上が求められ、様々な技術開発が進行しており、
そのため新たな形態の部品、また、更に高機能化への要求
が具体的になっている。そのことにより、鍛造品について
も新たな需要を期待することができる。一方グローバル化
の中で、国内鍛造業は、現状よりさらに品質の優位性確保
とともにコスト削減が大きな課題となってきている。
ヘリカルギヤは自動車の重要な機械要素部品であるが、
多くが依然として切削加工で、多品種への安価な対応およ
び高機能への対応が困難である。ヘリカルギヤは平歯車に
比較して、鍛造による歯形成形が難しく、従来のプレスを
使用する冷間鍛造で試みられているが大きな成形荷重を必
要とし、かつ生産性が悪く、大幅なコスト削減が期待できな
いことから、
その鍛造化は広く進まない状況があった。近年、
多軸制御油圧プレスによる冷間鍛造法が出現しているが、
複雑で、高価な制御・駆動システム等の巨額設備が必要で
あり、かつ生産性が悪く、鍛造品の拡大に適合していない。
本開発はサーボプレスのもつ特異な機能を活用し、加工
速度制御、複合加工を行う新たな鍛造プロセスであり、高
生産性と製品の高品質および高機能化への対応を可能にす
るものである。
本研究はプロセス開発研究であり、広くヘリカルギヤ部
品への適用展開を考慮しており、この開発研究の中で代表
的なヘリカルギヤ部品について鍛造試作研究、その評価を
実施した。同時に本プロセスを効果的に機能させる金型材
料の開発、設備の開発研究、後加工法の研究を並行して行
い、最終的に、高精度ヘリカルギヤのトータル量産プロセ
スの基盤を確立した。
研究開発の概要及び成果
従来技術と新開発技術との比較
従来技術の歯切り加工は、1分間に約5から10個程度で
あり、多軸制御油圧プレスによる鍛造技術も同等の生産性
である。新開発技術のサーボプレスに閉塞ダイセットと油
92
素材重量
設備投資額
生産タクト
歯車精度
製品コスト
100%
100%
10
JIS8 ∼ 9級
100%
85%
400%
5
JIS8級
110%
85%
200%
15
JIS7 ∼ 8級
80%
図 1 従来技術と新開発技術の比較
この新開発技術は、プレスの加工速度を制御し、材料の
合理的な塑性流動を与え、また、油圧制御装置とテーパー
ウエッジ機構で分流状態を作ることで、工具への成形面圧
を大幅に軽減し、高精度なヘリカルギヤの量産技術の基盤
を確立した。その技術の特徴を下記に示す。
1)技術開発した油圧制御装置
一般的な閉塞ダイセットの油圧回路と異なり、スライド
の位置信号を取込み、圧力を抜く制御が可能となる。歯先
へ完全充満すると高面圧となる為、その段階で、閉塞され
た型が開き、圧力が低減できるシステムである(図2)
。
項目
初期圧力
戻り圧力
圧力可変量
成形力
発生熱量
ユニットサイズ
エネルギー消費量
一般的な
圧力可変回路
低い
低い
30%程度の可変
高い
高い
大きい
小さい
独自に研究開発した
圧力可変回路
低い
低い
0 ∼ 80%の可変
中
高い
大きい
大きい
図 2 従来の油圧回路と開発圧力可変回路
2)ダイセットのテーパーウエッジ機構
ダイセットのテーパーウエッジ機構を油圧シリンダーで
作動させ、成形する工具の位置を変えられることができる
(図3)。この機構により、成形途中で工具と製品に隙間を
設けることが出来る。
21年度採択
[一般枠]
䍙䍎䍬䍼䍪䍽䍸䍛630ton
㐽Ⴇᴤ࿶䍚䍶䍻䍞䍼䍎䈫
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䍙䍎䍬䍼䍱䍎䍞䍎
研究開発した製品は、自動車の重要な機能部品に注目し、
自動車の進行方向を変える(舵取り装置)ステアリングシ
ステムのラック&ピニオンのピニオンギヤ部品を選定し開
発した(図5)。
鍛造
ᴤ࿶೙ᓮ⋚
開発された製品・技術のスペック
ᴤ࿶䍳䍤䍍䍢
図 5 PS ピニオン冷鍛品
図 3 複合鍛造用油圧制御装置
3)サーボプレスによるスライド位置制御
サーボプレスの特徴であるスライド位置を制御し、油
圧制御装置とテーパーウエッジ機構の工具動作とプレ
スを連動させることで、2段階の独自の成形モーション
を 開 発 し た。 こ れ に よ り、 歯 部 が8割 程 度 充 満 し た 段
階で、スライドが一旦上昇し、テーパーウエッジ機構
で、カウンターパンチが降下する。製品との隙間ができ
た状態で、歯部を積極的に成形することで、低い面圧
で歯先まで充満させることができ、且つプレスエネル
ギーを省力化した成形プロセスの基盤を確立した(図4)。
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䍛䍵䍐䍢䍼
䍱䍎䍚䍌䍻
又、保有するサーボプレスの能力630ton以下で成形で
きる、ミッションギヤとして、2輪車スクーターの部品を
選定し、油圧制御装置、特殊ダイセット並びにテーパーウ
エッジ機構により試作研究を実施した(図6)。
また、浸炭焼入れ品の歯面をサイジング成形する実験を
行い、その可能性を導き出せた。今後、補完研究により、
歯面のサイジング量やメデアの条件を最適化することで、
鍛造工法における、歯面研磨品に匹敵する高精度なヘリカ
ルギヤ部品のプロセスを確立する。
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1.5mmਅ㒠
図 6 スクーター部品ミッションギヤ
図 4 開発装置成形モーション
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
鍛造技術開発協同組合
◎所在地 : 〒 184-0005 東京都小金井市桜町 1-15-11-210
◎担当者 : 岩田 健二
◎ TEL:042-384-3540 ◎ FAX:042-385-3520 ◎E-mail:[email protected][email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 上板塑性(株)、(株)ヤマナカゴーキン、(株)栗林製作所、(株)エイ・エム・シィ
◎主たる研究実施場所 : 上板塑性(株)
93
Ni 基合金鍛造の高度量産プロセスの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
鍛造
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
コスト削減/高機能化
航空機に関する事項
高機能化(高剛性、高比強度)/軽量化、ニアネット化
高度化目標
低燃費を可能とする新エンジン開発のための新素材・新構造鍛
造技術の開発
エンジン部品に使用する超耐熱鋼等難加工材の鍛造製品開発
研究開発の背景及び経緯
近年、自動車、航空機共にエンジンの高性能化が求めら
れ、部品の高強度化、高耐熱性、軽量化を目的として高機
能材料の適用が図られている。
自動車向けエンジンバルブやターボチャージャー用ウェ
ストゲートバルブ等の排気系部品は高性能化、環境への
対応により耐熱性能が要求されており、従来のFe基から、
Ni基へ変わりつつある。
これらのNi基合金鍛造品を実現するには、金型寿命、
製品寸法精度、生産性などの技術課題を解決する新たな鍛
造プロセス開発を必要としている。
また、航空機用エンジン部品に使われているNi基合金
の鍛造は従来、大型鍛造設備、多工程および特殊な恒温鍛
造等の方法により熱間鍛造で行われてきている。しかしこ
れらの技術をベースにした製法ではコスト削減、さらに高
機能化への対応は不可能である。
本開発は自動車エンジンバルブおよび航空機エンジン用
コンプレッサーブレードを開発対象品として選定し、材料
の超塑性とひずみ速度制御鍛造を連携させた高度生産プロ
セス開発を推進した。
これにより成形荷重を低減、工程数を短縮、製品精度の
向上を実現することが可能で、従来のNi基高機能鍛造品
のコスト削減だけではなく、従来鍛造化不可能であった高
機能部品への展開も期待できるものである。
度が遅いほど、変形抵抗が低減するという性質)を有効に
活用し、鍛造荷重の低減を図るというもので、プレスのス
ライドモーションを必要な部分のみ遅くし、低荷重かつ生
産速度の低下抑制を図った。
通常、部分的にとはいえプレスモーションを低下させた
場合、製品温度が金型に奪われ、変形抵抗がむしろ上昇し
てしまう為、製品と同等温度まで金型を加熱するシステム
と、高温下での鍛造を可能とする耐熱、耐磨耗を追及した
新たな新素材金型を開発し、温度の低下を抑制した。
さらには鍛造用材料をHPT(High-Pressure Torsion)
加工(図1)により、ナノオーダーまで結晶粒を微細化し、
超塑性を発現させることが可能な材料に改質した。
図 1 HPT 加工説明図
これらの技術を組み合わせることで、従来成形荷重の
50 ∼ 70%削減を目標とした。
2)本研究の成果
a)組織微細化
代 表 的Ni基 材 料 で あ る イ ン コ ネ ル718をHPT処 理 し
(室温)、そのHPT加工材の引張試験を実施したところ、
800℃以下の比較的低い温度で、しかも幅広いひずみ速
度範囲で、超塑性現象が発現することを確認した(400%
以上の伸び)。引張試験の結果を図2に示す。
研究開発の概要及び成果
1)本プロジェクトの概要
本計画では、サーボプレスによるひずみ速度制御鍛造プ
ロセスと、本プロセスを有効に機能させるための金型加熱
システム及び専用金型材料、さらには鍛造用材料自体の改
質(結晶粒微細化)を行うことで高効率な高度量産プロセ
スの実現を目指した。
ひずみ速度制御鍛造プロセスとは成形途中で鍛造速度を
変化させることにより、材料の持つひずみ速度依存性(速
94
図 2 HPT 試料の引張試験結果
b)鍛造試作
この技術によって微細化した材料を開発した高度量産
プロセスで鍛造試作したところ、鍛造荷重が33.1%低減
した(図3)
。この結果から、開発プロセス実用化の技術
的可能性の把握ができた。なお、グラフのHPT025等は
22年度採択
[一般枠]
HPT処理時の回転数(ひずみ量)0.25回転を示すもので、
ひずみ量によって成形荷重が低減していることがわかる。
開発された製品・技術のスペック
鍛造
本開発は材料、設備、金型等の周辺技術領域を含めた鍛
造プロセス開発であり、その技術を適用しての対象製品と
して、自動車用エンジンバルブおよび航空機エンジンコン
プレッサーブレードを取り上げた。(図6、図7 非微細化
処理材によるもの)。
図 3 鍛造試験結果
c)高度量産プロセスについて
Ni基合金のHPT加工組織微細化処理材を鍛造試料とし
て用いることにより、鍛造時に超塑性が発現する条件を見
出した。このことから、比較的複雑形状の鍛造品の低荷重、
少工程での鍛造成形が実現でき
る。鍛造試験で使用したサーボ
プレス(図4)の特長である加
工速度、ストロークの自由な設
定・制御が超塑性領域での鍛造
を可能にし、しかも生産性の低
下を抑えることができる(図5)
。
これらの研究成果により、難
加 工 材 料(Ni基 合 金 ) の 量 産
鍛造プロセスの実現可能性を
図 4 試験用サーボプレス外観
見出すことができた。
図 6 試作形状 1(エンジンバルブ傘部)
図 7 試作形状 2(ブレード)
図 5 プレスモーション比較図
本開発研究の中でNi基合金鍛造素材の強加工組織微細
化とその超塑性現象を利用する鍛造プロセスの実用化への
技術的な見通しを確保することが出来た。
しかしながら、本プロジェクトの中では、Ni基合金の
組織微細化処理材は基礎研究で得られたモデル材であり、
今後、実体での組織微細化と鍛造連携によるプロセスの評
価等の補完研究を行い、事業化への確固たる基盤を確保し
たい。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
鍛造技術開発協同組合
◎所在地 : 〒 184-0005 東京都小金井市桜町 1-15-11-210
◎担当者 : 岩田 健二
◎ TEL:042-384-3540 ◎ FAX:042-385-3520 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 鍛造技術開発(協組)、九州大学(国立大学法人)
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 長野鍛工(株)、(株)エイ・エム・シィ
◎主たる研究実施場所 : 長野鍛工(株)
95
輸送用機器等の軽量化向け
新規耐熱性マグネシウム合金鍛造部品の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
鍛造
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
軽量化/高機能化/コスト削減
その他伸長が期待できる産業に関する事項
軽量化/高機能化/コスト削減/耐久性信頼性向上
高度化目標
低燃費を可能とする新エンジン開発のための新素材・新構造鍛
造技術の開発
比強度が高いアルミニウム−リチウム合金、チタン合金、マグ
ネシウム合金等に代表される高強度で小型化した鍛造部品開発
研究開発の背景及び経緯
比強度に優れるマグネシウム材による軽量化において、室
温および高温における強度特性の絶対値が、アルミニウム材
に比較して劣ることが、設計上の制約となっており、室温お
よび高温強度特性を同時に向上することが求められている。
一方、輸送用機器においては、過酷な条件下で長期間安
定した稼働が要求されるので、部品の耐久性、信頼性の向
上が求められている。製造過程で生じる内部欠陥が重大な
問題を引き起こす恐れがある部品には、鍛造加工品の使用
が要請される。しかし、既存の耐熱性マグネシウム合金の
素形材は、添加元素の影響で、加工性が低いので、鍛造加
工技術の確立が急務となっている。
我々は、広く利用されているAZ(Mg-Al-Zn)系マグネ
シウム合金を基本組成とし、広く存在する元素であるCa
とSrを添加した耐熱性合金の検討を行い、優れた耐熱性
を示すMg-Al-Ca-Sr系マグネシウム合金を開発した。この
合金系を展開し、要請される課題の解決に取り組んだ。
押出しまま材
均質化熱処理後
図 1 押出材の組織
この材料の平均粒径は、鍛造加工性により設定した平均
粒径目標値の10μm以下を達成した。
顧客の要請のある自動車用実用部品の鍛造を行うため、
金型を設計・製作した。製作したマグネシウム合金の丸棒
を使用し、この金型で、鍛造試験を行った。
試作を行った実用部品が、複雑形状であったので、鍛造
試験に先立ち、図2に示すように、シミュレーションによ
り、鍛造方式の比較を行った。
研究開発の概要及び成果
鍛造用素形材として適するMg-Al-Ca-Sr系マグネシウム
合金を開発した。従来試みられてこなかった計算科学の活
用と実験による実証を併用することで、新たな組成の合金
を開発した。押出し比270で押出すことにより、結晶を
微細化し、更に均質化熱処理により、組織を制御すること
で、室温および高温における強度特性の目標値を超える物
性を得た。表1に、得られた物性を示す。
表 1 押出材の物物
96
環境
引張り強さ
MPa
MPa
伸び
%%
室温
345
12.4
高温(150℃)
295
29.6
図 2 鍛造方法の比較
タイプ 1は、ダブルスライド方式で、パンチ 02 で押した
後にパンチ 01で外周を押し切る方式であるが、シミュレー
ションで、大きなバリを生じて、ネットシェープ成形出来な
いことが示された。一方、パンチ 02 のみで鍛造するタイプ
2 では、大きなバリを生じることなく成形できることが示さ
れたので、本実用部品の成形性に対して、こちらの鍛造方
式が適していることが判明したので、タイプ 2 を採用した。
22年度採択
[一般枠]
タイプ2の方式で、実用部品の鍛造試験を行ったところ、
図3に示すように、突起部の底部に亀裂を生じた。
鍛造により、突起部充填後に材料が左右に流動すること
を防ぐ対策として、ワークの長さを長くすることが効果的
と推定し、同様にシミュレーションを行った。その結果を、
図5に示した。
鍛造
図3
この問題の原因を解明するため、シミュレーションによ
り、鍛造における材料の流動解析を行った。図4に示すよ
うに、材料が、突起を充填後に左右に流動することにより、
突起部の底部に亀裂を生じることが判明した。
図 5 鍛造の流動解析
ワークの長さを調整することで、突起部の底部に生じる
亀裂を避けることが可能と確認できたので、ワーク寸法を
調整して鍛造試験を行った。この結果、図面通りの形状の
実用部品を鍛造成形することができた。
開発された製品・技術のスペック
引張り強さ>210MPa
耐力>121MPa
図 4 鍛造の流動解析
実用鍛造部品から引張り試験片を切り出し、物性を測定し
たところ、引張り強さが 360MPa、耐力が 251MPa、伸
びが 13.7% となり、要求スペックよりも高い物性を有する
ことを確認した。以上により、本開発合金を使用した押出し
材を使用し、鍛造条件を最適化することで、複雑形状の自
動車用実用部品を鍛造により製造できることを実証した。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社新技術研究所
◎所在地 : 〒 412-0047 静岡県御殿場市神場 616-3
◎担当者 : 勝亦 かおり
◎ TEL:0550-80-1000 ◎ FAX:0550-88-3022 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 大阪府立大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)新技術研究所
◎主たる研究実施場所 :(株)新技術研究所
97
高炭素クロム軸受鋼の冷間鍛造技術開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
鍛造
開発を大学や金型メーカーと協力して行い、高精度で低価
格な製品を実現させる。
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
コスト削減
高度化目標
低燃費を可能とする新エンジン開発のための新素材・新構造鍛
造技術の開発
研究開発の背景及び経緯
現在、自動車業界は、円の対ドル為替レートの高値安定
は続き、また、燃料、資材価格の急激な変動で製造・販売
に大きな変化が見られる。従来市場の中心は欧米、日本と
いう先進国であったが、中国、インド、タイなどのアジア
諸国、ブラジル、ロシアなど新興国の台頭で、グローバル
化の加速等、その事業環境は目まぐるしく変化している。
そのような状況の下でも、燃費規制や排気ガス規制への対
応は依然として重要であり、車体の合理化などが求められ
続けている。
本研究開発は、前述のニーズに基づき、さまざまなベア
リングで用いられている高炭素クロム軸受鋼の中でも、切
削加工で対応している部品を主に選定し、千曲精密工業株
式会社の強みで有る、冷間鍛造∼切削の一貫生産技術を生
かし、国際競争力のある高精度低価格製品を国内において
作ることを目標とした。
2. 研究開発の成果
成果1 <焼鈍>
高炭素クロム軸受鋼(ベアリング鋼)は、炭素含有量が
1%程度あり、炭化物であるセメンタイト(Fe3C)が多い。
セメンタイトは非常に強度が高くてもろいため、延性が低
下し、変形抵抗値が高くなる。
冷間鍛造の場合、一般的に焼鈍(焼きなまし)を行いセ
メンタイトを板状から球状化にして、延性を高めて変形抵
抗値を下げる。
高炭素クロム軸受鋼の適切な焼鈍条件を見つけること
は、今回の高炭素クロム軸受鋼の冷間鍛造技術開発の成立
の鍵の一つであった。全20回に及ぶ焼鈍テストにて、冷
間鍛造が出来得る値までに安定して下げる事に成功し成果
を得た。下記図1は20回目の焼鈍テスト結果の組織写真で
球状化率は極めて良好であった。
図 1 焼鈍後の組織(焼鈍)
研究開発の概要及び成果
高炭素クロム軸受鋼部品(ベアリング)は、材質特有の
硬さや形状から現在は切削加工により、製品化しているも
のがある。本研究では今まで培った技術と新たなチャレン
ジを行うことで、高炭素クロム軸受鋼部品を冷間鍛造で製
作する技術を開発しコスト削減を図る。
1. 従来技術と新開発技術との比較
従来技術の切削加工技術とは、工具と呼ばれる刃物で除
去することにより、部品を要求の形状、精度に加工するこ
とで、切削加工に使用される機械を工作機械と呼ぶ。切削
は大量の切削くずが発生したり、切削油を必要とし、いず
れも、大量の金属クズ処理、廃油処理など環境問題が発生
する。
新技術の高炭素クロム軸受鋼を材料とした冷間鍛造は文
献などにほとんど掲載されておらず、開発行為は未知の領
域であった。本事業では、冷間鍛造技術を最大限に生かし
た高炭素クロム軸受鋼のニアネットシェイプ冷間鍛造品の
98
成果2 <解析>
冷間鍛造にて変形させることに対して、材料の延性が高
ければトラブルは少ないが、今回の材料は延性が低い為、
特に製品欠陥や金型破損が懸念される。その方策として
CAE(解析シミュレーション)ソフトを活用して最適な工
程間形状を導き出すことや下記図2で示す金型最大主応力
解析結果に配慮した金型を設計し短期間に開発を進めた。
実施に当たっては静岡大学のアドバイスでDEFORMに
よる解析を行い、無事製品化出来た。
また、製品化したものとシミュレーション結果が一致し
た収穫は大きいと考える。
図 2 各種金型最大主応力解析結果(解析)
22年度採択
[一般枠]
成果3 <サンプル製作>
成果1、成果2を踏まえて、冷間鍛造にて5アイテムの
形状開発実施し成功した。
鍛造
開発された製品・技術のスペック
4. リング形状
この製品は鍛造2工程にて開発(図6)。
ニアネットシェイプ鍛造を試みた。
CAE解析を実施し、解析結果に基づいた工程間形状で
開発を進め、解析どおりの成形が出来た。
1. 外径段付き、内径ストレート形状
この製品は鍛造2工程にて開発(図3)
。
内径切削レス化などの改善を行った。
図 6(サイズ:外径φ 80、φ 73 内径φ 67、φ 58 全長 32)
単位 mm
図 3(サイズ:外径φ 31、φ 25 内径φ 10.5 全長 32)単位 mm
5. コップ形状2
この製品は鍛造1工程にて開発(図7)。
外径に対する内径の同軸度φ0.1以下の製品。
2. コップ形状1
この製品は鍛造1工程にて開発(図4)
。
後方押出し工法による断面減少率が78%の製品。
図 7(サイズ:外径φ 18 内径φ 13 全長 32)単位 mm
図 4(サイズ:外径φ 34 内径φ 30 全長 24)単位 mm
3. 筒形状
この製品は鍛造1工程にて開発(図5)
。
全長と内径のL/Dは5倍の製品。
それぞれ将来、量産を想定し開発したものであるが、さ
らなる金型の材質、表面処理の選定など研究を重ね、同時
に当社におけるCAE技術向上を図り、量産化・事業化に
繋げていく。
図 5(サイズ:外径φ 18 内径φ 8.5 全長 42)単位 mm
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事業管理機関名
千曲精密工業株式会社
◎所在地 : 〒 434-0002 静岡県浜松市浜北区尾野 2481
◎担当者 : 松下 努
◎ TEL:053-582-2332 ◎ FAX:053-582-2335 ◎URL:http://www.chikuma-s.co.jp/
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 静岡大学工学部
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 千曲精密工業(株)
◎主たる研究実施場所 : 千曲精密工業(株)
99
アルミ鍛造の生産工程削減を可能とする潤滑油の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
鍛造
研究開発の概要及び成果
川下の抱える課題及びニーズ
圧縮
下金型
下金型
図 1 鍛造工程概要
従来技術は水溶性潤滑剤を使うため、金型温度を170℃
に設定している。170℃以上では、潤滑剤が熱い金型で
沸騰し潤滑剤成分が金型に付着し難く、潤滑成分膜が薄く
なり、金型とアルミ素材が焼き付くため金型をそれ以上の
温度にできない。また、金型を水溶性潤滑剤で冷却するの
で加工中のアルミ素材の冷却も起こり、アルミ素材が硬化
するため、高い圧縮圧力が必要となる。従って、水溶性潤
滑剤によるハイサイクル化・ダウンサイジング化は困難な
のが現状である。
これらの課題を解決するため、高温で金型に潤滑成分が
付着し易く、
かつ冷却の少ない「少量塗布型の油性潤滑剤」
の開発を3年前に着手した。更なる冷却性低減のため、第
三回「ものづくり大賞・経済産業大臣賞」を受賞した静電
塗布可能なダイカスト用配合技術を鍛造分野に活用しよう
としたが、少量塗布条件下での高温時の潤滑性が不足して
おり、より一層の改善が必要となっていた。
100
後
前
縮
縮
2
2
後
圧
圧
熱
この装置側のニーズである「アルミ素材の冷却性低減」
を達成するため、次の4手法の潤滑油技術を組み込み、新
潤滑油を開発した。
①素材が接触する金型温度を170℃⇒300℃へ。
170℃で沸騰する水溶性潤滑剤に代え、沸騰(LF)温
度が310℃の油性溶媒(図3)に添加剤を加え、潤滑油
の沸騰温度を400℃以上まで高めた。その結果、金型が
300℃でも厚い油膜が形成した。
沸騰(LF)温度、 ℃
上金型
前
図 2 アルミ素材温度:新技術の効果
上金型
潤
滑
剤
加
縮
圧
圧
縮
圧縮
再
製品取り出し
熱
2段目圧縮
前
再加熱
従来技術
新技術
1
1段目圧縮
430
410
390
370
350
330
310
290
270
250
加
自動車業界は、燃費規制・CO2削減等の対応が急務であり、
鉄部品からアルミ部品へ軽量化を進めている。事実、アルミ
鍛造部品としてアルミホイールや大型部品を生産するように
なってきている。大型鍛造部品の生産工程は、通常「荒地成
型」と「本成型」の二段工程から構成されている。一段目の
荒地成型でアルミ素材が冷え硬化するので、再加熱工程が必
要となり、その後二段目の本成型となっている(図1)
。
再
研究開発の背景及び経緯
後
量産品質の確保及び需要変動に対応できるフレキシブルな供給
体制を確立するための生産技術の開発
1
高度化目標
前記の水溶性潤滑剤の課題を解消できる静電塗布型・油
性鍛造油の開発を通し、製造工程の20%ハイサイクル・
30%ダウンサイジングの達成を目指した。
従来の水溶性潤滑剤の場合、金型温度が170℃のため
一段目圧縮後のアルミ素材温度は300℃まで低下するの
で再加熱工程で330℃まで加温している。新技術の目標
は、金型温度を170℃から300℃に高め、一段目圧縮後
を330℃とすることで、再加熱工程を削除し、二段目工
程へ移ることであった(図2)。
アルミ素材温度、 ℃
自動車に関する事項
コスト削減/品質を具備しながら生産量変動に迅速かつフレ
キシブルに対応できる供給体制
500
450
400
350
300
250
200
0
50
100
150
200
炭化水素の引火点、℃
図 3 石油系炭化水素の沸騰温度
250
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
②気化熱539cal/gの水に代えて、約90cal/gの石油溶媒
とし、気化熱を1/6とした。
新潤滑油は、鍛造工程中のアルミ素材の冷却を大幅に低
減することで、アルミ素材温度を高く保つことができる。
その結果、再加熱工程が不要となり、圧縮荷重も低減で
きる。この製品の特長を表1にまとめる。なお、引火点は
93℃であるが、極少量塗布のため火災の危険はない(ダ
イカスト用離型剤で6年に亘る実績あり)。
④少量塗布に耐えるよう潤滑油の単位重量当たりの潤滑性
能を高め、拡大するアルミ圧縮面の潤滑を補強した。
付着量 ,mg
塗布条件:水溶性=10cc, 油性=0.3cc、250℃
30
25
20
15
10
5
0
水溶性
油性
油性・静電
鉄板温度、 ℃
図 4 油性・静電塗布の効果
260
240
220
200
180
160
140
120
100
水溶性,10cc
鍛造
③1/10の少量塗布化
300℃では沸騰しない油性潤滑油とすることで付着効
率を高め、更に静電塗布可能な潤滑油組成とすることで付
着効率を高めた(図4)
。付着効率向上の結果、少量塗布
が可能となり、アルミ素材の冷却を防いだ(図5)
。
開発された製品・技術のスペック
表 1 新潤滑油の特長
新潤滑油
従来潤滑剤
タイプ
油性
水溶性
粉体
なし
時にあり
金型適用温度
400℃以下
170℃以下
気化熱
1/6
基準
塗布量
1/10
基準
冷却性
1/60
基準
静電塗布
可
基準
潤滑性
強化
基準
サイクルタイム
2 割短縮
基準
ダウンサイジング
4 割小型化
基準
油性,0.6cc
0
10
20
塗布後秒数
30
40
図 5 油性潤滑油(新技術)の低冷却性
これらの4手法を組み合わせた結果、潤滑油による冷却
が大幅に低減し、アルミ素材は高温に保たれ、低荷重で押
し潰しが可能となった(図6)
。
潰し荷重、 kN
条件: 79%潰し
1000
800
600
400
200
0
新技術
従来技術
図 6 新技術の押し潰し効果
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人埼玉県産業振興公社
◎所在地 : 〒 330-8669 埼玉県さいたま市大宮区桜木町 1 丁目 7 番地 5
◎担当者 : 井上 崇
◎ TEL:048-857-3901 ◎ FAX:048-857-3921 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 静岡大学、小山工業高等専門学校、埼玉県産業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)青木科学研究所
◎主たる研究実施場所 :(株)青木科学研究所
101
高効率伝達システムによる
極小径先端外科手術ロボットハンド実用化の研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
動力伝達
川下の抱える課題及びニーズ
その他に関する事項
歯車等の高精度化/強度・耐久性の向上
高度化目標
高精度化/高強度化又は長寿命化
通常の腹腔鏡下手術では複
数の開口が必要。
研究開発の背景及び経緯
近年、我が国における医療機器市場はおおよそ増加傾向
にあり、新たな産業として医療機器産業は注目を浴び始め
ている。しかし、
世界における日本製品のシェアは低く(約
10%)
、医療機器の貿易収支でも毎年大きな赤字を抱えて
いる。国内ニーズは高いが、海外製品が市場の大部分を占
めるのが現実である。
しかしながら、医療機器自体は部品の微細加工や極小部
品の組立てによる動力伝達など、我が国に優位性がある多
様な基盤技術のコラボレーションから成る。技術的に決し
て諸外国に比べて劣位にあるものではない。しかし、現状
では高い事業コスト・不十分な市場環境・高い規制関連の
コスト・低い診療報酬等の各経済的理由にて、日本では製
品の承認申請を控える傾向が強い。そのため、日本では欧
米諸外国と比較して2 ∼ 3世代遅れと言うデバイスラグが
発生している。
一方で、近年の医療サービスの方向性として、患者に対
してより「低侵襲」な外科手術に注目が集まっている。中
でも、20年前から開始された内視鏡による腹腔鏡下手術
は、開腹手術のようにメスで体を切ることなく、より患者
の負担を軽減し、術後の早期回復・早期退院につながり、
医療費も抑えることができる。特に近年は、開口部を1つ
にした「単孔式腹腔鏡下手術(以下、SPS)
」が登場し、
さらには口腔等を利用することで腹部を開口しない「経
管腔的内視鏡手術(以下、NOTES)
」へと進化している。
このように有望な外科手術方法であるが、活用するデバイ
ス(鉗子、ロボットハンド)は海外製品が多く、①使い捨
て(ディスポーザブル)製品が台頭し、それによる医療廃
棄物の増大、②海外製品は形状が大きく、③日本人にとっ
て扱い難いため高度な訓練が不可欠、④基本的に高額であ
る等の問題がある。低侵襲な外科手術の普及と国民生活の
質向上(Quality of Life)のためにも、それらの解決が求
められている。特に、現在の鉗子はSPSやNOTESを前提
としていないため、直径が10mmで鉗子同士の接触の恐
れがあり、操作性の観点からも屈折・把持・回転の3軸制
御によって、十分な駆動域の確保が必要である。
102
単孔式小切開
0(約20mm)。
図 1 腹腔鏡下手術の発展
研究開発の概要及び成果
前述のような背景とニーズから、
(株)スズキプレシオ
ンでは以前、試作品として小径3mmの手術用デバイスを
開発したが実用化には問題があった。
現状の手術デバイスは海外製品が多い。
①使い捨て(ディスポーザブル)製品の台頭
による医療廃棄物の増大。
②形状(鉗子直径)が大型(φ10㎜)。
③操作性が悪く、高度な訓練が必要。
④高額
(リユーザブル製品の場合1個350万円)
このままでは最新の腹腔鏡下手術(SPSや
NOTES)が安全・効率的に普及できない。
課題から導かれるニーズ
①再利用可能な製品
②鉗子の直径小型化(5㎜以下を目指す)
③操作性の向上
④低価格化
図 2 海外製品の課題とそこから導かれるニーズ
22年度採択
[一般枠]
図4の歯車部品の基準内径寸法はφ1.45、基準外径寸法
はφ2.16である。外径内径とも誤差の平均は3μm以内、
外径内径とも誤差の最大値は6μmである。
溶け込み深さ
動力伝達
具体的には、開発済みの試作品はすでに小径と3軸駆動
を実現していたが、A.把持力が弱い、B.部品結合技術が未
確立のため動力ロスが多い、C.術者が操作するハンドル部
分が未開発等の実用化への課題があった。
そこで本研究開発では、小径でも十分な把持力と操作性
を有するデバイスとするため、微細歯車部品を利用した動
力伝達機構を開発した。そのためにも、効率的に動力を伝
達する機構設計、CNC自動旋盤を用いた高精度な微細歯
車部品等の切削加工技術の確立、要素部品アッセンブリの
ためのレーザー溶接技術の確立について研究を行なった。
溶接部断面
溶接部外観
図 5 レーザー溶接技術
特殊仕様のレーザー溶接機による溶接技術の研究によ
り、溶け込み深さ500μm以上の溶接と微小薄肉部の強固
な溶接という、相反する溶接条件の確立に成功し、ロボッ
トハンドの組立に必要な適切な溶接技術を開発した。
開発された製品・技術のスペック
図 3 伝達機構全体の 3D モデリング
開発された外科手術用デバイスは、目標どおり小径3
mmで3軸駆動(80°屈曲、360°回転、200g以上の十分
な力を持つ把持)が可能である。また、操作性向上として
ハンドル部分を改良し、再利用可能な金属製品かつ販売価
格も既製品の半額以下(約100万円)である。
図 4 切削加工した微細歯車部品(一例)
先端部分
図 6 完成した外科手術用デバイス
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
鹿沼商工会議所
◎所在地 : 〒 322-0031 栃木県鹿沼市睦町 287-16
◎担当者 : 入江 史朗
◎ TEL:0289-65-1111 ◎ FAX:0289-65-1114 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 栃木県産業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)スズキプレシオン、(株)橋本精機
◎主たる研究実施場所 :(株)スズキプレシオン
103
3 次元内部構造顕微鏡を用いた高精度形状測定及び
内部観察技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
動力伝達
川下の抱える課題及びニーズ
自動車分野に関する事項
歯車等の形状精度の測定技術の向上
高度化目標
自動車分野に関する事項
測定技術又は品質管理技術の向上
研究開発の背景及び経緯
自動車産業では省エネルギー・省資源の要求から動力伝
達装置の小型・軽量化及び長寿命化の要請傾向が強まって
いる。従ってその構成部材に於いても自体の信頼性・耐久
性の向上と共に小型・軽量化が求められている。この為、
形状・精度や表面状態の他に信頼性・耐久性及び寿命の致
命的な欠点となる部材の内部構造、すなわち巣・異物の存
在・形状・分布等を正確に観察・評価・解析して、品質管
理や改良を行う必要がある。部材内部の信頼性・耐久性及
び寿命に関わる観察・評価を行う為にはマイクロクラック
等に匹敵する0.1μmオーダーの解像度が必要である。しか
し従来技術であるCTや超音波などを使用した測定の解像
度(0.1mmのオーダー)では全く不十分である。そこで
従来の測定方法に変わる0.1μmオーダーの解像度を持ち、
巣・異物の識別が可能な高精度で信頼性のある内部構造の
観察方法と短時間で観察・測定が出来、実用価格の製造現
場で活用できる小型卓上型測定装置が求められている。
測定技術の開発、シミュレーション技術の開発を行う。
3次元内部構造顕微鏡の開発では、取得した画像データ
を元に、刃先の欠けや摩耗などの工具破損を検出する機能
を研究開発し搭載する。測定技術の開発では、取得された
連続断面測定データを元に加工不良、巣・異物などの3次
元表現方法と、組織観察機能を向上させ、より高精度な組
織観察を可能とする。更に、蓄積した加工条件をデータベー
ス化し、インターフェイスに反映させ、連続断面測定デー
タや観察結果から、3次元モデル内の計測ツールの研究開
発を行う。超微粒子cBN焼結体の開発では、実用化領域
での合成方法の技術確立と鏡面切削加工対応の特殊cBN
工具の開発を行う。
成果概要
切削加工面の輝度値の変化を取得して正常な切削面との
差に対して閾値を設定し、刃先の欠けや磨耗を検出する工
具破損検出機能を開発し搭載した。切削表面の組織観察は、
偏光フィルターとその回転機構を開発し、組織観察専用カ
メラと統合して搭載し、操作システムの開発も行い組織観
察を可能にした。3次元モデルの計測は、取得した画像デー
タからユーザーが指定した領域内で、ユーザーが指定した
閾値を元にデータの抽出を可能にし、体積や表面積の算出
を可能にした。 また、素材内部の材質によって色分けを
行い物性のモデル化を可能にした。これらの機能を搭載し、
簡単に操作が行えるユーザーインターフェイスを持った3
次元内部構造顕微鏡を開発した(図2)。
図 2 装置全体
図 1 従来の技術
研究開発の概要及び成果
プロジェクトの概要
本研究開発では、昨年までのサポイン事業において開発
した成果をベースに、高精度の解像度を持ち、巣・異物の
識別が可能な信頼性のある内部構造の観察方法と、短時間
で観察・測定ができ、実用価格の製造現場で活用できる小
型卓上型測定装置として、3次元内部構造顕微鏡の開発、
104
切 削 工 具 は、 実 用 的 な 装 置 で2段 階 焼 結 法 を 用 い、
8GPa領域で超微粒子cBN焼結体を合成する目処がつい
た(図3、図4)。
図 3 cBN 焼結体
図 4 cBN 工具
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
動力伝達
開発した装置の切削用工具の破損検出機能は、工具の欠
けや破損によって生じる切削面の変化を画像処理によって判
定するもので、組織観察を行ったり3Dモデル化をするうえ
で必要な切削面を確保するために効果を発揮する(図5)
。
S45C
純鉄
図 7 表面組織
判定する
正常な面
工具破損のある面
図 5 表面比較
図 8 組織観察 3D
切削表面の画像上に計測ラインを設定し、ライン上の輝
度値の差によって工具破損の自動検出が可能で、判定の閾
値はユーザー設定できる(図6)
。
金属内部に介在する異物や巣の体積や表面積は画像処理
データを元に容易に算出でき(図9)
、表示範囲や判定範囲
の設定はユーザーによって必要範囲のみを設定することが
可能(図10)で、
従来の観察技術・測定技術では得られなかっ
た金属材料内部の高精度な情報を効率良く取得することが
可能になり金属材料製造の品質向上に期待できる。
図9
図 6 工具破損検出指示画面
組織観察は3Dモデルでも表現でき、ユーザによる範囲
設定でXYZの3方向からの確認が可能である(図8)。金
属内部の巣や異物だけでなく、金属組織の観察も可能にな
り(図7)金属材料製造工程だけでなく多岐にわたった活
用が期待できる。
図 10
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
高島産業株式会社
◎所在地 : 〒 391-0012 長野県茅野市金沢 5695-6
◎担当者 : 遠藤 千昭
◎ TEL:0266-72-8825 ◎ FAX:0266-72-1286 ◎E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)理化学研究所、(独)物質・材料研究機構
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 高島産業(株)
◎主たる研究実施場所 : 高島産業(株) 御狩野工場
105
高灰分コークス使用時における高生産性操業技術の
開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
鋳造
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化
高度化目標
コスト低減に資する鋳造技術の開発
研究開発の背景及び経緯
キュポラに使用されるコークスは、熱効率を上げるため
高価格の低灰分鋳物用コークスが使用されている。これを
低価格である高灰分高炉用コークスに置き換えることがで
きれば大幅に溶銑コストは低減されることになる。しか
し、現在一般的に鋳物工場で使用されている小型キュポラ
でそのまま鋳物用コークスを高炉用コークスに置き換えた
場合、図1に示すように出湯温度低下、炉内圧力上昇、未
燃焼ガスの大気放散などの様々な問題が発生する。そのた
め高炉用コークスの使用は、いまだ実現されていない。
そこで、高炉用コークスを使用できる小型キュポラとそ
の操業技術を開発し、鋳造基盤技術の高度化を図る。これ
により溶銑コストを下げ、川下産業の低コスト化ニーズに
応える。
研究開発の概要及び成果
小型キュポラで高炉用コークスを使用するための技術と
して図1の高効率熱交換器の開発、高燃焼率2段羽口の開
発およびこれらの最新設備を使用した操業技術の開発を研
究の目標とした。
○熱風操業の効果と高効率熱交換器の開発
本研究開発では、小型冷風キュポラに、開発した高効率
熱交換器を付加することにより、高炉用コークスを使用し
て操業することに成功した。
表1は、実験に使用した鋳物用コークスと高炉用コーク
スの性状である。図2は、
それぞれのコークスの外観である。
表 1 研究に使用したコークスの性状
鋳物用コークス
高炉用コークス
図 2 コークスの外観
表 2 熱風操業の実証実験結果
図 1 研究開発概念図
106
表2は既設1.5t/h冷風キュポラに、開発した熱交換器を
付加して実施した冷風操業と熱風操業の実証実験結果であ
る。この実験結果より、次のような成果を得た。
①鋳物用コークスを使用した場合、熱風操業は冷風操業と
比較して、4.1%のコークス比削減となった。
②鋳物用コークスでの冷風操業に対し、高炉用コークスで
の熱風操業では、2.3%コークス比が削減された。出湯
温度も高く、さらなるコークス削減が可能である。
③鋳物用コークスと高炉用コークスでは、溶湯品質に違い
は見られない。
図3は、開発した高効率熱交換器の構造図である。
実証実験の結果、次のような成果を得た。
①省スペースで、目標温度400℃以上の熱風を得ること
ができた。
②約2年間経過しても、伝熱面にダストの付着はなく
メンテナンスフリーで継続使用可能であった。
21年度採択
[一般枠]
鋳造
図 5 2 段羽口の効果
図 3 開発した高効率熱交換器の構造
○2段羽口の効果と炉内圧力解析
既設2t/h熱風キュポラに2段羽口を設置し、2段羽口の
効果を確認した。図4は、2段羽口を設置したキュポラの
構造図である。
図 6 1 段羽口と 2 段羽口の炉内圧比較
開発された製品・技術のスペック
図 4 2 段羽口の構造図
実験の結果、次のような2段羽口の効果を確認した。
①1段羽口に対し、出湯温度が約16℃上昇した。
②1段羽口に対し、溶解効率が約2%向上した。
2段羽口の効果については、炉内圧力解析実験からも確
認できた。コークス粒度の小さい高炉用コークスを使用し
た場合、2段羽口は炉内圧の上昇を低減し、燃焼領域を拡
大する効果がある(図5、図6)
。
本研究で開発された製品・技術は以下の通りである。
○高効率熱交換器
従来型より省スペース、低コストで設置が可能である。
メンテナンス性にも優れている。
○高燃焼効率2段羽口
粒度の小さい高炉用コークスを使用する場合には有効な
手段である。炉内圧が低減され、燃焼効率、溶解効率が向
上する。
○高灰分コークス使用操業技術
高効率熱交換器、高燃焼率2段羽口を用い、高炉用コー
クスの使用を可能とした小型キュポラ操業技術である。
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事業管理機関名
社団法人日本鋳造協会
◎所在地 : 〒 105-0011 東京都港区芝公園 3-5-8 機械振興会館 501 号室
◎担当者 : 竹田 功
◎ TEL:03-3431-1375 ◎ FAX:03-3433-7498 ◎E-mail:[email protected][email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 伊藤鉄工(株)、(株)及精鋳造所、(株)ナニワ炉機研究所
◎主たる研究実施場所 : 伊藤鉄工(株)
107
アルミダイカスト用ホットチャンバ法の鋳造技術開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
鋳造
川下の抱える課題及びニーズ
研究開発の概要及び成果
○従来技術と新開発技術の比較
自動車に関する事項
低コスト化
高度化目標
コスト低減に資する鋳造技術の開発
研究開発の背景及び経緯
自動車部品には軽量高強度、高品質で低コストという相
反する要求が求められる。コストダウン要求に対し既存技
術による生産性向上だけでは限界がある。アルミダイカス
ト業界は自動車関連企業のグローバル展開により、ここ数
年で約30%強の事業所が倒産・廃業している厳しい現実
があり、日本発の鋳造技術開発による技術革新が必要不可
欠である。
軽量高強度、高品質の鋳造技術としては、
「高真空ダイ
カスト法」をベースにしたものがある。しかし、鋳造設備
が高額で、複雑かつ大型な金型構造による高コストのため
採用は大企業に限られ、製品対象も高付加価値品に限定さ
れている。こうした状況の中、当社は平成18、19年度の
2年間にわたって経済産業省の研究開発補助事業「地域新
規産業創造技術開発費補助事業」により、アルミダイカス
ト用ホットチャンバ法を応用した「ノンフロンガス対応型
カーエアコン用高耐圧部品の鋳造・金型技術開発に取組ん
だ。
上記事業では、製品(プロダクト)と工法(プロセス)
の大きく2つの目標を設定し研究開発した。プロダクト技
術ではダイカスト製品に含まれる、①ガス量・②介在物・
③凝固層・④引け巣の防止・⑤耐圧性能という5つの指標
を設定し①∼③については達成することができた。プロセ
ス技術については、①ホットチャンバ技術用金型の開発・
②ホットチャンバ用鋳造技術の開発・③塑性流動技術の応
用・④ホットチャンバ技術と材料のマッチングをテーマに
研究開発し①および③④について初期の目標を達成した。
事業化に向けた課題は、プロダクト技術では上記の④と
⑤、すなわち引け巣の発生と耐圧性能である。これまでの
技術開発により引け巣の大きさを直径2mmまで追い込む
ことができたが、目標の直径0.5mmのレベルには至って
いない。耐圧性能は現状20MPaで、目標の35MPaまで
あと1歩である。こうした製品面の目標スペックを実現す
るにはプロセス面の技術開発が必要で、具体的には①射出
シリンダ・②プランジャ・③溶解保持炉を柱とするホット
チャンバ用射出機構及び周辺装置の高度化が求められてい
る。
108
図 1 射出機構の従来技術と問題点
図1に示すように従来技術では、射出機構に①酸化皮膜
の形成;②クリアランス欠陥;③空気流入といった問題点
があり、前述した平成18、19年度の補助事業では生産性
及び安全性に重大な問題を抱えており、射出シリンダにク
ラックが発生するに至った。
図 2 保持炉の従来技術と問題点
また、図2に示すように保持炉において④エネルギロス・
⑤溶湯品質低下・⑥溶解作業性低下といった問題点があっ
た。
22年度採択
[一般枠]
保持炉においては、④⑤エネルギロス・溶湯品質の低下
を解消するために、従来の浸漬ヒーター式保持炉から高周
波誘導加熱炉を採用し問題を解消した。⑥溶解性能に関し
ては、繰返し溶解性能を測定し問題点を解決した。
鋳造
開発された製品・技術のスペック
開発した射出機構を図5に示す。
図 3 研究開発による新技術
今試作開発で開発した射出機構及び保持炉の概要を図3
に示す。従来技術の問題点を解決すべく、射出シリンダ・
プランジャ及び保持炉に新技術を採用した。
射出機構においては、①溶湯表面をシリンダ上部に設定
することで酸化皮膜のシリンダ内への流入を防いだ。②機
能性評価を行い、最適材質の選定及び最適クリアランスを
設定した。③空気の流入を防ぐ為に、シリンダ下部にバル
ブを設けた。機能性評価を行い、最適なバルブシール形状
を設計した。機能性評価用実験冶具を図4に示す。
図 5 射出機構
開発した保持炉を図6に示す。保持炉の溶解能力は
25kg/hである。上記した①②③に対する最適設計をして
ある。
図 4 機能性評価用実験冶具
図 6 高周波誘導加熱炉
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事業管理機関名
グンダイ株式会社
◎所在地 : 〒 372-0854 群馬県伊勢崎市飯島町 540 番地 2
◎担当者 : 高柳 和弘
◎ TEL:0270-32-7111 ◎ FAX:0270-32-6530 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 室蘭工業大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): グンダイ(株)
◎主たる研究実施場所 : グンダイ(株)
109
高熱伝導性アルミニウム合金用
大型ホットチャンバー式鋳造装置の開発
契約期間
平成 23 年度
分 野
鋳造
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
複雑形状化/低コスト化
家電に関する事項
微細加工化/軽量化/低コスト化
高度化目標
熱伝導性の向上に資する鋳造技術の開発/複雑形状を実現する
ための鋳造技術の開発/コスト低減に資する鋳造技術の開発
放熱特性に優れた合金を使用した鋳造技術の開発/微細加工に
資する鋳造技術の開発/複雑形状を実現するための鋳造技術の
開発/コスト低減に資する鋳造技術の開発
研究開発の背景及び経緯
図 2 15 トンホットチャンバー式アルミ鋳造装置
近年、
自動車、
情報家電分野においては、
益々部品の小型・
高性能化が進んでいる。アルミ鋳造製品は、自動車、家電
分野における電子機器、照明の放熱部品ヒートシンクとし
て多く使用され、最終製品の高度化が進むのと同様に、構
成部品である放熱部品の複雑・微細化、低コスト化が求め
られている。
鋳造における川下製造業者は、従来のコールドチャン
バー式アルミ鋳造での対応に苦慮しており、これらの要求
を解決する鋳造技術を求めている(図1)
。
しかしながら、従来のホットチャンバー式アルミ鋳造装
置(図2)は、セラミックス部品の寿命の問題から、安定
的な大量生産を行うことが困難で、従来のコールドチャン
バー式アルミ鋳造に比べ、機能面、品質面で大きな優位性
を持つにもかかわらず、実用化が進んでいないのが実情で
ある。
研究開発の概要及び成果
ホットチャンバー式の問題点は、高温アルミ溶湯の金属
に対する潰食性がきわめて高い為、射出ポンプ部に高価で
脆いセラミックスを使わざるを得ないことにあり、15-25
トンクラスの小型機の開発でさえ非常に困難であった。当
社はセラミックス部品耐久性の問題を、独自の射出ポンプ
構造により解決し、15-25トンクラスのホットチャンバー
式アルミ鋳造装置の実用を達成した(海外8カ国特許取得
済み)。
しかし、現在の市場のニーズは小型部品から大型部品へ
と変化し、電気自動車、大型情報家電分野の伸長に伴い、
大型ヒートシンクの高熱伝導性アルミニウム合金鋳造が求
められている。
図 1 従来技術と新技術の比較
110
23年度採択
[一般枠]
■成果
平成23年度は以下の内容に注力した。
1)射出制御の高度化及び電動サーボ化
射出制御の電動サーボ化に向けた構造検討・制御アルゴ
リズムを検討し装置仕様を決定した。
2)新規マシンの設計・製作
セラミック部品の寿命が延びるよう、主筒の固定方法、
枝筒の接続方法等を見直し、射出ポンプの設計を行った
(図3)
。
3)主筒ホルダ(外筒)のセラミックレス化
材料表面改質試験を行い、基礎データを取得した。
図 3 アルミ鋳造装置概略構成図
開発された製品・技術のスペック
今回、設計した50トンアルミホットチャンバーの仕様
を表1にまとめた。また主筒内へのエアーの侵入防止と除
去の対策として以下の方法を行う。
●プランジャーの戻り速度もサーボ化で制御する。
●射出が終了しプランジャーが上昇限に戻る際に、途中で
一度停止し再スタートさせ上昇限に戻る。
●主筒の上部にエアーの排出口を設け、主筒内に入ってし
まったエアーをプランジャーの射出開始から10mm区
間を低速にして追い出す。
鋳造
装置の大型化に伴い、さらに高価で、壊れやすくなる
オールセラミックス製の射出ポンプ構成部品の中で、最も
壊れやすい主筒ホルダ構造を見直し、金属パイプ表面をセ
ラミックスで保護するハイブリッド主筒ホルダを開発する
(図3)。これにより現在の射出ポンプの価格が約1/2にな
ると予想され、将来的にはさらに主筒部のセラミックスレ
ス化を進め、オールセラミックスレスの射出ポンプ構造を
開発し、アルミ溶湯接触部を除いて、限りなくセラミック
スレスを目指す。これらにより従来のコールドチャンバー
式アルミ鋳造装置並みの耐久性を実現し、製品価格の低下
も行う。
本開発には高度な複合技術が必要である。このためアル
ミ鋳造技術やセラミックスに関する知識を導入する。また、
電気自動車・大型情報家電分野に求められる熱伝導率の良
い高熱伝導性アルミニウム合金(従来材料比2倍)を用い
る。その結果、可鋳面積250cm2、鋳造量600gの鋳造が
可能な50トン級のホットチャンバー式アルミ鋳造装置を
開発する。
表1 50 トンアルミホットチャンバーの仕様
ホットチャンバーを用いて生産される成形品の参考例と
して、15トンアルミホットチャンバーの成形品を掲載す
る(図4)。
図 4 15 トンアルミホットチャンバーの成形品
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事業管理機関名
株式会社菊池製作所
◎所在地 : 〒 192-0152 東京都八王子市美山町 2161-21
◎担当者 : 一柳 健
◎ TEL:042-650-5065 ◎ FAX:042-650-5070 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 岐阜大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)菊池製作所
◎主たる研究実施場所 :(株)菊池製作所
111
重電機器用鋳鋼品の高品質化のための技術開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
鋳造
川下の抱える課題及びニーズ
重電機器、環境機器に関する事項
高靱性化
高度化目標
りガス欠陥領域に達し、ミクロポロシティーが発生する。
結果として、この欠陥補修に多くの労力と時間を要して
おり、コスト、納期を圧迫しているのが実情である。一方、
二次精錬を適用した場合は、水素ガス濃度が低減し、製品
でもガス欠陥発生領域まで水素ガス濃度は到達せず、欠陥
は発生しない。
剛性・靱性及び品質向上に資する鋳造技術の開発
研究開発の概要及び成果
研究開発の背景及び経緯
我が国は世界の中で有数の重電機器製造技術を持ち発電
所・発電機の製造を担っている。
それら重電機器に多く使われている鋳鋼品(表1)は当
社を始め国内の中小企業である鋳鋼メーカーが製造してい
る。近年、資源の節約と二酸化炭素による地球温暖化等の
環境への負荷低減の観点から発電機の効率向上を目的とし
たタービンの高温・高圧化が進んでいる。そのため、我々
鋳鋼メーカーへも高温強度の高い合金材質で形状の複雑な
重電機器用鋳鋼品の高品質化ニーズが高まっている。
表 1 重電機器用鋳鋼品の例
本事業では中型(25トン規模)で低投資額・低ランニ
ングコストで操業できる“ハイブリッド二次精錬炉”
(ハ
イブリッド/既存保持炉に真空精錬機能を付加する)の開
発を行い、当該炉を用いて重電機器用鋳鋼品の高品質化の
ための技術開発を行う。
高品質鋳鋼品をつくり込むための重要なプロセスに溶鋼
中不純物を除去する二次精錬技術がある。
大手鉄鋼メーカーや特殊鋼メーカーではアーク炉や転炉
の一次精錬に加え、二次精錬炉(RH法やタンク式脱ガス
法)を使用し鋼の清浄化を図っているが、それらの設備は
莫大な投資や巨大なスペースが必要で中小の鋳鋼メーカー
では設置出来ていない。
又、高温強度の高い合金材質で複雑な形状の重電機器用
鋳鋼品を製造する場合、溶鋼に含まれる不純物に起因する
欠陥が発生する。
そこで、当社では平成11年より溶解・精錬に関する技
術開発を進めている。当社の8トン規模の実績では、二次
精錬を適用しなかった場合は、溶解で5 ∼ 6ppmであった
水素ガス濃度が取鍋への出鋼や製品凝固時の濃化作用によ
112
本研究の目的は中小企業でも設置可能である保持炉に真
空精錬機能を付加するハイブリッド二次精錬炉の開発を行
い、重電機器用鋳鋼品の製造に適用することで、低コスト
化と短納期化を達成することである。
具体的な研究の数値目標は、ハイブリッド二次精錬技術
適用後の鋳鋼材中の有害元素の硫黄(S)30ppm以下、
トー
タル酸素(T.O)40ppm以下、水素(H)4ppm以下とする。
加えて、衝撃特性の20%の向上及び高温強度の10%の
向上、欠陥発生量△30%を目標値として研究開発を進め
た。
●ハイブリッド二次精錬炉の製作
次の3つを特徴とするハイブリッド二次精錬炉を設計・
製作した。装置構成概念図を図1に示す。
①真空排気体積の大幅な縮小
⇒直接真空蓋を取鍋へ載せる。
②真空脱ガス処理前の水素量を極力低減
⇒アーク炉酸素吹精後の水素レベルをキープ
⇒電気炉還元スラグの全量使用
●真空下における不純物の除去試験結果
真空下における不純物除去試験結果を表2に示す。全て
の元素で目標値を達成した。
表 2 不純物分析結果
●重電機用鋳鋼品の製造及び品質評価
ハイブリッド二次精錬炉及び従来法により実規模の重電
機用鋳鋼品を製造し、両者の品質を比較した。
非破壊検査(UT,MT,PT)により、各種欠陥の削減が確
認できた(表3)。この品質改善による補修時間の短縮率は、
目標の30%を上回る38%であった。
表 3 非破壊検査結果
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
鋳造
図 1 ハイブリッド二次精錬炉の概要
解体調査では鋳鋼品本体の高温強度と常温衝撃値を測定
し、いずれも目標値を達成した(図2)
。
●鋳造コスト削減予想
本技術の適用によって、総コストの11%、工期の13%
削減が確認できた。
開発された製品・技術のスペック
図 2 試作品の解体調査結果
中小企業でも設置可能な二次精錬炉を開発した。既存の
保持炉に真空精錬機能を付加する開発を行い、当該炉を用
いて重電機器用鋳鋼品の高品質化のための技術開発を行っ
た結果、不純物レベルが大幅に低減した。本技術を重電機
器用鋳鋼品へ適用した場合、欠陥発生率を38%低減でき、
総コスト11%、工期13%削減が達成できる。その結果、
重電機器用鋳鋼品のみならず一般鋳鋼品の品質向上を図る
ことができ、競争力が確保できる。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
日本鋳造株式会社
◎所在地 : 〒 210-9567 神奈川県川崎市川崎区白石町 2-1
◎担当者 : 古野 好克
◎ TEL:044-322-3753 ◎ FAX:044-322-3769
◎ E-mail:[email protected][email protected]
◎主たる研究実施場所 : 日本鋳造(株)
113
革新的デジタルプレス加工技術による
精密厚鋼板成形システムの開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化/短納期化/軽量化
高度化目標
研究開発の背景及び経緯
プレス加工は、機械加工等他の工法と比較して生産性が
高く自動化が実現しやすいことから自動車部品製造等多く
の部品製造に盛んに採用されて今日に至っている。
特に、プレス加工と冷間鍛造を複合した加工法(精密厚
板プレス成形)は、主に切削、焼結、接合、ダイキャスト
等からの工法転換による加工コストの大幅な削減と高精度
化を実現でき、地球環境にやさしい製造法としても注目さ
れている。しかし、この加工法は、通常のプレス加工と異
なり、
材料変形度の大きい新しいプレス加工法であるため、
従来のKKD(経験・勘・度胸)が活用できないだけではなく、
従来の金型修正による成形不具合対応が難しく金型造り直
しが発生する等、金型設計より部品生産までの全工程で頻
発する失敗の繰り返しをミニマム化できる精密厚板プレス
加工システムの新たな構築が喫緊の課題となっている。
本研究開発では、プレス加工実験をもとに成形技術の高
度化を行い、従来は鍛造・切削加工していた歯車形状を有
する厚板状鋼部品の汎用プレス機械による精密厚板プレス
加工を実現させる。また、従来成形予測が難しかった精密
抜き加工シミュレーションソフトウェアを開発する。
研究開発の概要及び成果
プレス加工実験では、単純せん断(シャ−)実験により
ダイ刃先形状とクリアランスの適正化後、実際に実部品形
状を仮定した歯車形状を有する部品の精密抜き実験を行な
い、図1及び図2に示すように歯車部位では破断が発生し
たが、その他の一般部位では高いせん断面の保有と抜きだ
れの占有を小さくすることができた(図3、図4)
。
図 3 一般部せん断面
5
0.000
0.005-
4
114
図 2 歯車部だれ
3
2
1
0.00
5
0.00
8
0.01
5
0.0100.0150.0200.025-
0.02
7
0.0300.0350.040
11
1
22
2
33
3
0.03
8
44
4
55
5
変位計の計測位置
図5 金型変形量測定結果
図 6 歯車部せん断
図 1 歯車部せん断
図 4 一般部せん断面
さらに、プレス加工時に発生するプレス機械及び金型各
位置での変形量を定量的に可視化する装置の新たな開発に
より、汎用プレス機械の変形が成形加工精度に与える影響
を最小限に抑制する条件(図5)を設定し、歯車部位の破
断と抜きだれを改善するために切り口面をわずかに削り
きれいな面に仕上げるシェービング工法の条件適正化を行
なった。その結果、歯車部位の破断を無くすことができた
と同時に、高いせん断面の保有と抜きだれの占有を小さく
することができた(図6、図7)。
変位(mm)
複雑3次元形状等を創成する金型及び一体成形技術の構築/シ
ミュレーション技術を融合させた高度知能化プレス生産システム
の構築/プレス機械の精度・剛性・運転性能・知能化の高機能化
図 7 歯車部だれ
精密抜き加工シミュレーションの開発では、破壊発生時
に生じる急激な剛性変化に伴う極度の非線形性に起因す
21年度採択
[一般枠]
金属プレス加工
る急激な不釣り合い力発生の問題に対処するために、“rミニマム法”及び不釣り合い力消去アルゴリズムを備え
た“TP-MFORM” を 採 用 し た。 さ ら に、Cockcroftと
Lathamによる延性破壊条件式を用いて破壊の発生を予測
し、破壊要素を消滅させることにより破壊の進展を表現す
ることで、鋼板せん断時の破断面及びせん断面形成に関す
るシミュレーション技術を構築した。
CockcroftとLathamによる延性破壊条件式のパラメー
タは、単軸引張試験における試験片破断時の荷重 ‐ 伸び
挙動に対して解析対実物の比較により同定し、多点プロッ
トによる応力 ‐ ひずみ曲線近似でC=500の条件にて実
際の荷重‐伸び挙動に最も近似できることがわかった。
(図
8)
。
図 9 せん断解析結果
図 10 ダレ量の比較
図8 単軸引っ張り試験結果(実線)及び単軸引っ張りシミュ
レーション結果(破線:多点プロット、点線:Swift近似)
開発された製品・技術のスペック
単純せん断シミュレーション解析結果(図9)では、ダ
イ ‐ パンチ間クリアランス0.6mm及び0.06mmの条件
に対して実験と同様のダレの発生が定性的に再現されて
いる。また、ダレ量に関する実験対解析結果の比較(図
10)では実験結果とほぼ一致することから、成形シミュ
レーションにより精密抜き加工条件の予測が可能である。
図 11
自動車用シート部品を仮定した歯車の形状を有する部品
による汎用のプレス機械を使用した成形実験では、だれ占
有率が板厚の15%程度、せん断面の保有率は95%以上を
確保できた(図11)。
本研究成果は、工法転換を担う新たな技術としてエンジ
ン系部品等形状精度を必要とする他の機械部品に適用可能
であると考えられる。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
社団法人日本金属プレス工業協会
◎所在地 : 〒 105-0011 東京都東京都港区芝公園 3-5-8 機械振興会館 212 号室
◎担当者 : 濱中 豊
◎ TEL:03-3433-3730 ◎ FAX:03-3433-7505 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(社)日本金属プレス工業協会、日本大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)昭芝製作所、(株)トライアルパーク
◎主たる研究実施場所 :(株)昭芝製作所 玉戸工場
115
アルミダイカスト品の
高強度・高精度塑性結合の研究開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
現状の構造から、鋼製のスプラインリングを塑性流動結合
する構造に転換する。結合部の寸法を表1に、また開発に
よる予想効果を表2に示す。
自動車に関する事項
低コスト化/複雑形状化・一体化成形/軽量化
高度化目標
高張力鋼板、アルミニウム合金等の難加工材に対応した金型及び
成形技術の構築/複合加工、部品組立て及び工程短縮等を可能
とする技術の向上/材料歩留まりの向上に寄与する技術の開発
研究開発の背景及び経緯
自動車をはじめとする運輸機、産業機器において機器の
低コスト化、軽量化及び一体化成形のために、異なる材質
の複雑な形状の部品を高精度、コンパクトかつ高効率に結
合する要求が高まっている。東京工業大学では、焼入れ部
材などの高強度部材の塑性変形を利用して、異なる材料を
高精度、高強度に結合する塑性流動結合技術研究を推進し
ている。塑性流動結合は,硬質な材料の部品に予め溝を加
工しておき、パンチで軟質な材料の部品を加圧して溝部に
その部材を流動させることにより、そのアンカー効果と部
材間の締付圧力による摩擦力によって部材間を結合する方
法である(図1)。異材間の接合が可能、高精度、高効率
など多くの特長を持っている。
図 2 バルブリフトコントロール機構
表 1 結合部寸法
部品
材質
寸法(mm)
ハウジング
アルミダイカスト
ADC12
外径32
スプラインリング
鋼S45C
内径26
外径26
厚さ6
表 2 予想効果
項 目
予 想 効 果
質量
34%低減(830g⇒550g)
コスト
40%低減
CO2排出量
96,000kg/年
この技術開発の第一の課題、引張り破断伸び約1%と延
性の乏しいアルミダイカスト材料ADC12を鋼の結合溝に
塑性流動させることに関しては、塑性流動結合が圧縮応力
場であるために、ADC12も圧縮ひずみ15%程度の流動性
図 1 塑性流動結合の概念図
今回、その技術を塑性変形能の乏しいアルミニウムダイ
カスト構成部品と鉄系機能部品の塑性結合に利用する技術
を開発した。
研究開発の概要及び成果
図2に研究開発の対象としたエンジンのバルブリフトコ
ントロール機構用ハウジングの現状と開発する塑性流動結
合技術による製品との比較を示す。アルミダイカスト製の
ハウジングに鋼製のベアリングフォルダをボルト結合する
116
図 3 塑性流動結合のプロセス
21年度採択
[一般枠]
この材料の下段の溝への流動状態(充填率)と軸方向の
接合強度との関係を図5に示す。接合強度は溝内し進入し
た材料のせん断変形抵抗に依存する特性があり、下段への
進入量がある程度確保されることが必要と考えられるが、
下段の充填率が50%程度あれば強度はほぼ一定になると
考えられる(図5)。
図6は回転方向の負荷による温間耐久試験の結果であ
る。目標値よりも右側にあるので製品の目標強度はクリア
できる。
金属プレス加工
を示し塑性流動結合が可能であることを確認した。第二の
課題、ハウジングが薄肉であること、第三の課題、製品の
使用環境が110℃の高温環境で所用強度を確保できるこ
となどの課題の解決策については以下のように開発を進め
た。塑性流動結合用に開発した金型と加工プロセスを図3
に示す。実際にパンチがADC12のリングを塑性流動させ
て結合する時間は2秒程度であり、生産性は非常に高い。
この、結合によって鋼製のスプラインリングに塑性流動
で流入したADC12をX線装置によってモニタリングした。
その結果を図4に示す。
X線により円周溝への材料の塑性流動状態がオンライン
でモニタリングできること、また円周溝の上段よりは下段
への材料流動が少ないことが確認された。
図 6 トルク耐久試験結果
図 4 X 線による結合溝への ADC12 材料の塑性流動
開発された製品・技術のスペック
図 5 円周溝下段の充填率と軸抜き強度の関係
塑性流動結合技術は鍛造技術の1種であり、基本原理
は高剛性な部材間を延性の高い材料の塑性流動を利用し
て結合する方法である。本技術開発の対象としたものは
ADC12製ハウジングの延性が低く、厚さが薄く、しかも
環境温度が108℃と高い条件で軸方向と回転方向の強度
が要求されるという厳しいものであった。
そこで、先ずADC12の塑性流動性を確認し、薄肉材に
対応させた金型構造を考案した。また、鋼軸には軸方向の
強度確保のための円周溝の形状、回転強度確保のための
ローレット溝の形状を詳細な実験をもとに決定した。これ
により、温間の軸方向強度、また温間の耐久回転強度を確
保できることを確認した。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人理工学振興会
◎所在地 : 〒 226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 番地
◎担当者 : 泉 洋一郎
◎ TEL:045-921-4391 ◎ FAX:045-921-4395 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京工業大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 京浜精密工業(株)
◎主たる研究実施場所 : 京浜精密工業(株)
117
シール用金属部品の省資材化・低コスト化を実現する
板金プレス加工技術の研究開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化/短納期化/環境配慮
高度化目標
材料歩留りの向上に寄与する技術の開発
される外形100mm以下の中・小口径のものがある。通
常、このシール用金属部品はバス、トラック、乗用車など
には1台で4∼8個、搭載される。我が国の全車種生産数
は1210万台であり、本部品の使用数は国内だけでも年間
5000万個以上となる。従って、本部品の材料節減、低コ
スト化が出来れば、大きな改善効果が期待できる。図2に
シール用金属部品の従来の加工工程と材料歩留りを示す。
研究開発の背景及び経緯
自動車部品業界における金属プレス板金部品には、すで
に技術・コスト・生産性などの面で成熟段階とみなされる
ものが多い。しかし、昨今の時代的要請である地球環境対
策(省資源・省エネルギーなど)に対応し、かつ世界的不
況下でも国際競争力を維持・向上させていくには、各種部
品類の省資材化・低コスト化・短納期化、更には軽量化な
どに関して、より一段の技術革新が求められている。
本研究で対象とするシール用金属部品が使われている
ショックアブゾーバーは、振動・衝撃を緩和・収束するた
めに使用される機能要素で、特に自動車では路面からの衝
撃による振動をコントロールし安定走行を実現する機能
を持つ。図1に自動車に搭載されているショックアブゾー
バー(含むダンパー )製品群とその断面構造例、シール用
金属部品の断面写真の例を示す。
図2 シール用金属部品の従来工程
研究開発の概要及び成果
本研究開発ではシール用金属部品を対象として、新しい
発想による板金加工技術で①汎用プレスと汎用レーザ加工
機を使用した板金プレス加工プロセスのより一層の高度化
を図る(切削レス化等)
。②カシメ、嵌めあいなどの塑性
結合手法(メカニカルクリンチング、メカニカルロッキン
グ等)を板金プレス加工の工程に導入し、素材を極限的に
有効利用する省資材化技術(スクラップレス化)を確立す
る。③シミュレーション技術と従来の暗黙知を連動させる
ことで、ムダ・ロスが発生せず高精度で信頼性に富むブラ
ンクの形状設計と板金プレスの工程技術を確立するなど
を狙いとして開発を進めた。図3に開発を進めた各口径の
シール用金属部品の加工工程と歩留り目標を示す。
また、図4はシミュレーション解析に用いた成形金型の
モデルを示す。
図1 ショックアブソーバー製品群と断面構造例、等
このショックアブゾーバに使用されるシール用金属部品
では、バスやトラックに使用される外径100mm以上の
大口径と、小型トラックや普通・軽乗用車・2輪車に使用
118
図3 シール用金属部品の新規の加工工程
21年度採択
[一般枠]
金属プレス加工
図6 シミュレーション解析(ドーナツ形ブランク)
図4 シミュレーション解析の金型モデル例
[1]大口径については、21年度に従来の中実丸棒を切削
する方法から、板材をレーザカットし絞り加工で製作
する方法を開発、材料歩留りを従来の3∼6%から
19 ∼ 30%に改善し、かつ加工コストも1/2とした。
更に、円板ブランクをドーナツ形ブランクの複数取り
の採用で目標の40%に到達できる方法を確立した。
[2]中口径については、帯状板材からの作製に成功し、
材料歩留りをほぼ100%に出来た。また、川下企業
などからのアドバイスを受け、本工法を大口径部品
や他産業分野の部品加工に適用する検討も実施した。
[3]小口径については、成形に成功するも従来の工法と
の経済効果が小さく更なる研究開発の必要性を認識。
[4]シミュレーション解析では、実際の試作品との比較
検証を行い、絞り圧力、製品各部で発生する応力や
ひずみ、板厚の分布、製品形状に与える影響などを
把握できた。図5、図6はシミュレーション解析の
一部である。
開発された製品・技術のスペック
[1]大口径:切削レス化で歩留り3 ∼ 6%を40%以上。
加工コスト1/2以下。
[2]中口径・大口径:帯状ブランク形成で歩留り40%を
ほぼ100%に到達。
[3]小口径:絞り成形から帯状ブランク形成で歩留り
40%をほぼ100%に到達。
[4]シミュレーション解析:円板・ドーナツブランク絞
りの理論解析
事業化の状況
・大口径:数件の引き合いに対応中
・中口径:シール成形部品の評価中
・小口径:今後のニーズに合わせ対応中
図7に大口径中口径の開発品、図8に小口径の開発品を
示す。
図 7 大口径中口径開発品
図 8 小口径開発品
図5 シミュレーション解析(円板ブランク)
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社井口一世
◎所在地 : 〒 359-0006 埼玉県所沢市所沢新町 2553 番地 3 号
◎担当者 : 齊藤 聡子
◎ TEL:04-2990-5400 ◎ FAX:04-2990-5402 ◎ E-mail:[email protected][email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京農工大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)井口一世、(有)池場製作所
◎主たる研究実施場所 :(株)井口一世 所沢事業所
119
三次元マイクロ構造加工用金型
およびプレス技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
軽量化
情報家電に関する事項
軽量化・小型化・静音化・高放熱化
研究開発の概要及び成果
○三次元マイクロ構造加工の概要
三次元マイクロ構造加工技術の概要を図1に示す。
高度化目標
環境配慮に対応した技術の開発/精密微細加工技術等の向上
研究開発の背景及び経緯
現在情報家電業界では、小型PCやスマートフォンなど
の小型化高機能化が急速に進んでいるが、これら電子機器
を正常に機能させる小型半導体パッケージや小型電子モ
ジュールの信頼性確保が大きな問題となっている。それ
は半導体パッケージを小型化した場合、半導体デバイス
やMEMSを封止する樹脂と基板との接着面積が極小化し、
耐湿性や耐熱性の低下を招くためである。また民生用では
LEDテレビやLEDランプが急速に普及している。さらに
産業用の高出力LEDライトも小型化が進んでおり、信頼
性確保の課題を抱えている。
一方自動車業界では、国策としてのCO2削減を目指し
たエコ社会の実現から、電気自動車(EV)やハイブリッ
ド自動車(HEV)の普及を加速させている。これらEVや
HEVには小型軽量高出力のリチウムイオン電池モジュー
ルが用いられる。この小型軽量高出力のリチウムイオン電
池の外装部は、アルミニウムのプレス深絞り加工による電
池ケース、電池キャップ、電極からなっている。電池には
発熱による高い内圧が加わるため、金属との接着強度の高
い接着剤や封止樹脂の選定が課題となっている。
また最近、
EV、HEVのエアコンやモーターの省エネ化が可能な電力
制御半導体(IGBT)の自動車への実用化が急速に進んで
いる。従来までIGBTは鉄道車両に多く用いられてきたが、
EVやHEV向けに半導体パッケージの小型化が急務となっ
ている。このIGBTもまた、基板と封止樹脂の接着強度の
向上が信頼性確保の点から強く求められるようになった。
このような状況の中、プレス技術の高度化によってこ
れら課題を乗り越えるべく、本研究開発を提案した。こ
れは、順送プレス加工によって、金属材料の表面に樹脂
との密着性に優れた三次元マイクロ構造加工(3DM加工
/3DimensionMicro fabrication) を 施 す、 ま っ た く 新
しいプレス技術の開発である。本技術の完成によって、
LEDパッケージやリチウムイオン電池のみならず、IGBT
などを含めた、多くの高機能半導体デバイスの飛躍的な信
頼性向上が期待される。
図 1 三次元マイクロ構造加工の概要
3DM加工技術は、順送金型のパンチおよびダイの表面
に三次元微細凹凸加工を施し、パンチ、ダイの微細な凹凸
を金属表面にプレスにより転写形成する技術である。
○三次元マイクロ構造加工用金型
高信頼性リチウムイオン電池の開発を目的とした、電極
およびキャップの三次元マイクロ構造加工用順送プレス加
工金型の外観を図2に示す。
図 2 リチウムイオン電池キャップ 3DM 加工用順送プレス金型
型構造は、通常の順送プレス用金型同様、ストリッパ、
パンチ、ダイの3つの主要部品で構成されるが、パンチの
底面と側面およびダイの表面には、3DM加工が可能なマ
イクロレベルの微細加工を施す。パンチおよびダイには、
ダイス鋼、粉末ダイス鋼、窒素添加粉末ダイス鋼などの材
料を用い、この材料の表面にマシニングセンターやブラス
ト処理によって微細凹凸を形成する。このようにして製作
した3DM加工パンチの表面を図3に示す。
図 3 3 DM 加工用パンチの表面
120
22年度採択
[一般枠]
パンチ表面は平均粗さRa1 ∼ 3μmの範囲に管理する。
○3DM加工技術応用製品事例
三次元マイクロ構造加工技術の応用製品の一つとして、
照明用LEDパッケージの試作を行った。試作した照明用
LEDパッケージは、高反射率のアルミニウムリフレクタ
と、高反射率高耐久性銀めっき膜を有する銅合金製基板か
らなっている。これらリフレクタと基板は、高反射率ポリ
マーにより樹脂成形し、隙間を絶縁封止した。試作した
LEDパッケージを図4に示す。
金属プレス加工
○三次元マイクロ構造加工プレス条件
三次元マイクロ構造加工には、通常の高速クランクプ
レスや高速サーボプレスの使用が可能である。プレスの
ショット数はクランクプレスでは50spm、高速電動サー
ボプレスでは100 ∼ 200spmが可能である。高速電動サー
ボプレスの場合、製品構造の3DM加工に適したプレスモー
ションを選定することができる。
池用電池キャップ、電極の樹脂成形モジュールを試作した。
試作したリチウムイオン電池キャップ樹脂成形モジュール
を図5に示す。
図 5 リチウムイオン電池キャップ樹脂成型モジュール
図5に示すモジュールは、銅およびアルミニウム電極と、
アルミニウムキャップおよびこれらを複合化するPPS成
形樹脂からなっている。PPS成形樹脂と接触する電極お
よびキャップ双方の表面には、金属と樹脂の密着性向上の
ための3DM加工を施している。
開発された製品・技術のスペック
3DM加工プレス部品およびそれを応用した製品のス
ペックを下表に示す。
表 3DM 加工および 3DM 加工製品のスペック
項目
図 4 照明用 LED パッケージ
(サイズ /1.2 mmt× 5.0 mm× 5.0 mm)
試作した照明用LEDパッケージは、リフレクタ、基板
共に金属製であるため放熱性が高く、0.5W以上のハイパ
ワー LEDチップを搭載することができる。
もう一つの3DM加工の応用として、リチウムイオン電
スペック
備考
1. 溝加工部
溝幅 :100 ∼ 500μm
溝深さ :50 ∼ 100μm
―
2. 表面粗さ 1 ∼ 3μm
平均粗さ Ra
3. 樹脂密着性
耐ガスリーク臨界
圧力 ; 0.6Pa(Air)
PPS 樹脂形成時の
耐ガスリーク性能
4. めっき性
電気ニッケル
電気銀めっき他
3DM 加工部の
めっき性
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人日立地区産業支援センター
◎所在地 : 〒 316-0032 茨城県日立市西成沢町 2-20-1
◎担当者 : 中山 桂司
◎ TEL:0294-25-6121 ◎ FAX:0294-25-6125 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 茨城大学、茨城県工業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)大貫工業所、茨城プレイティング工業(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)大貫工業所
121
高出力産業用燃料電池スタック実現のための
金型技術、金属プレス技術、実装技術及び
めっき技術の高度化研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
燃料電池に関する事項
小型化・高出力化/低コスト化/耐久性の向上/エネルギー
効率の向上
その他
低コスト化
高度化目標
チタンや硬質ステンレス等の難加工材の成形技術の向上/プレ
ス機械及び金型技術の向上、環境配慮に対応した技術の開発
型技術と金属プレス技術、電子部品の実装技術及びめっき
技術の高度化により解決し、超高集積スタックの運転信頼
性、耐久性確立を図ることで、産業用高出力燃料電池スタッ
クの実現と事業化の目処を付ける。
○セパレータの最適化、加工精度・平坦度向上
0.1mmチタン板に高さ0.45mm、2mmピッチのガス流
路を形成し、かつ発電面積120cm2のセパレータの積層時
点での平坦度0.05mm以下の目標をほぼ達成し、積層誤
差障害を解決できた。
研究開発の背景及び経緯
地球環境対策(炭酸ガス低減)が可能な燃料電池が注
目されている。現在、定置型家庭用燃料電池や自動車用
燃料電池等が開発されている。家庭用燃料電池は、80℃、
1kW以下を主体に、カーボン系樹脂成形セパレータが利
用され、脆性材料で再利用が困難であるが市場へ出始め
ている。自動車用の燃料電池は、金属セパレータ主体に
100℃程度、耐久4000時間を目標に開発されつつある。
リン酸塩型やSOFC等、高温1000kW級等の大出力燃料
電池も実施されているが温度が900℃と一般的ではない。
この中で数kW級から100kW級産業用燃料電池は熱を
蒸気で利用できる他、利用可能範囲が製造ライン、作業・
移動体と非常に広い。しかし従来のカーボン系セパレータ
は振動に弱く、高温水蒸気による酸化燃焼等開発が進まな
い現状にあった。
一方、開発されたチタン製部分貴金属めっきプレスセパ
レータは、振動や高温にも耐えるので産業用燃料電池を見
通せる状況となった。しかし、
産業用燃料電池の実現には、
300セルスタック等超高集積スタックの長期運転信頼性
と高温運転が要求されるが、
現状のチタンセパレータでは、
プレス加工精度や流路形状の最適化が不十分なこともあ
り、超高集積スタックが困難で、スタックの長期耐久信頼
性が低い状況にある。従来のメタルセパレータの平坦度で
は、高積層で成形誤差が増幅され、300セルスタック時点
では累積誤差が非常に大きくシールで吸収できない問題が
あった。
金属セパレータ専用のシール技術の開発、
セパレー
タの弾性変形による流路閉塞防止設計と形状の適正化、高
温水蒸気環境における大電流耐食劣化促進試験方法の確立
によるフィードバック、更に80℃運転耐久40000時間達
成に厚さが約0.3μm以上の貴金属めっきが必要で、めっ
き価格が高価となる課題があった。
研究開発の概要及び成果
産業用高出力燃料電池の実現におけるこれらの課題を金
122
図 1 メタルセパレータ平坦度の状況
図 2 メタルセパレータ断面形状
○薄膜めっきと耐久性両立
パルスめっき技術と高度な前処理等で初析・析出の分散
と超微細めっき粒子の細密充填析出を達成し高精度な貴金
属めっき薄膜形成法を確立し、0.1μmの薄膜で、電気特
性、耐久性を両立し低コスト化を果たした。
また、高温水蒸気環境・大電流耐食劣化促進試験法を確
立し、耐久試験結果をフィードバックすることで、めっき
膜開発を支援した。
a ) 研究開始時
粒子径 0.82 μm
b) 最終年度
粒子径 0.18 μm
図 3 薄膜微粒子充填貴金属めっき
○1kW級産業用燃料電池システム
高度化されたメタルセパレータ、シール実装技術を用い、
発電した電気は工場へ、熱はライン湯洗浄槽へ24時間提
供する実証試験を行い、発電効率45 ∼ 51%、熱効率40
22年度採択
[一般枠]
∼ 35%、総合効率85%等、産業用燃料電池システムの実
現と事業化に大きな可能性を見いだした。
○100セル高出力燃料電池スタック構築実証。
金属プレス加工
図 5 100 セル高集積スタック
開発された製品・技術のスペック
図 4 1kW 級産業用燃料電池実証システム
出力に比較して、容積、重量を従来の1/2以下と小型化
することができた。
○高温燃料電池
120時間の耐久連続試験を実施、問題点を抽出、対策
後再度連続耐久試験を行った。開発したメタルセパレータ
は耐久試験で全く問題がなかった等、産業用高出力燃料電
池スタック事業化に大きな可能性を見いだした。
○チタンプレス貴金属薄膜めっきセパレータ
及び高精度プレス技術、薄膜貴金属めっき技術
チタン製200mm×350mm×0.1mm 発電面積120cm2
高さ0.55mm、幅1mm、ピッチ2mmのガス流路形成。
発電面積120cm2の積層時の平坦度0.05mm程度。
0.2μm厚薄膜部分微細粒子貴金属めっき膜形成。
耐久推定寿命40000時間。電気特性良好。
開発したチタンプレス薄膜貴金属めっきセパレータによ
る燃料電池発電電圧は、H18−20開発チタンメタルセ
パレータに比較し30%も向上し発電効率も高い。
○100セルスタック燃料電池
重量、容積共、従来の1/2。現行の燃料電池と比較し、
最もコンパクトで移動体や作業車用に適する。
○1kW級産業用燃料電池実証システム
発電効率45 ∼ 51%、総合効率85%以上。
システムサイズ 320×370×845mm。熱と電気を工
場へ提供した実証試験を長野県伊那市標高810mにて氷
点下10℃前後の厳寒期約2 ヶ月実施、順調に稼働。
○高温型燃料電池
開発セパレータ:高温燃料電池連続耐久試験に耐え特性
を発揮。高温型燃料電池スタック:160℃純水素発電:
電圧0.63V/0.2A/cm2の運転が可能で、セル間のバラ
ツキも少なかった。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人長野県テクノ財団
◎所在地 : 〒 390-0852 長野県松本市大字島立 1020
◎担当者 : 須山 聰
◎ TEL:0263-40-1780 ◎ FAX:0263-47-8904 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 長野県工業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)サイベックコーポレーション、サン工業(株)、(株)IHI シバウラ
◎主たる研究実施場所 :(株)サイベックコーポレーション
123
クラウドコンピューティング仮想試作基盤ものづくり
(金属プレス)
プラットフォーム構築
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
低コスト化/複雑形状化・一体化成形/短納期化/軽量化
高度化目標
技術開発項目としては以下の9項目を設定・実施した。
①シミュレーションデータ入力・出力システムの改良
解析専門家でなくても簡単にデータ入力設定が行えるこ
とを前提に、既存の入出力システムの改良を行った。ま
た、詳細な成形検証が行えるよう解析結果表示機能の強化
を図った(図3)。
ITを活用した生産技術の向上
研究開発の背景及び経緯
経済産業省による平成18年の「素形材技術戦略」及び「金
属プレス産業ビジョン」策定以来、国際競争力強化の一環
としてシミュレーションによるものづくり支援の重要性は
ますます高まっている。本研究開発はその実現を目指すも
のである。
図1に示す様に平成21年度サポイン事業「シミュレー
ション支援室の構築」の成果とクラウドコンピューティン
グ技術との結合によって、中小企業の更なるIT技術活用支
援の為の基盤構築を図るべく研究開発に至った(図1)。
板厚歪コンター図
応力コンター図
図 3 解析結果表示
②要求の異なる複数ユーザーによる高度化検証
4つの異なる製品について解析を実施し、結果を形状に
反映させることにより、試作金型の製作を行った。項目④
の実験結果とあわせて検証を行い、実用性・適用性を確認
した。
また、高張力鋼板によるスプリングバック解析ではリス
ト形状を工夫して、適切な形状を設定できた。
③材料データベースの構築
精密測定システムを用い材料試験を行い、材料データの
取得とデータベースへの登録を行った(図4)。
図 1 研究開発の背景
研究開発の概要及び成果
中小企業のユーザーがクラウド環境の下でプレス成形シ
ミュレーションを含む関連ソフトを連携して利用できるプ
ラットフォームの技術開発を目指し、プロトタイプを完成
した。図2にイメージ図を示す。
図 4 計測器と計測データ
④成形実験
項目②で作成した試作金型を用いて成形実験を実施し、
項目②の解析結果と形状測定結果を比較、成形性評価を
行った(図5)。
図 2 クラウドプラットフォームイメージ図
図 5 試作製品
124
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
金属プレス加工
⑤部品測定と解析精度検証
成形実験で得られた各部品の形状、
板厚を測定し、
シミュ
レーション結果との比較検証を行った。スプリングバック
については30%以内、板厚増減については20%以内の解
析精度目標を達成できた(図6)
。
赤:測定値
青:シミュレーション結果
図 7 強度解析+プレス成形解析
図 6 成形品測定値とシミュレーション結果比較
⑥ユーザー認証システム、課金システムの構築
クラウドプラットフォームで利用する基本的な認証シス
テムを構築し、セキュリティを確保した。課金システムと
併せて、複数ユーザーの機密を保持しながら同時にクラウ
ド環境を利用できるシステムを実現した。
⑦クラウドプラットフォームの構築
サービス提供プラットフォームの構築により、解析サー
ビスを出店することが可能になり、ユーザーの利便性を拡
張できる基礎ができあがった。
⑧複数のアプリケーションによる実証実験
構築した受託解析サービスについて、外部評価者により
個々のアプリケーションについて評価を行った。
⑨サービスマッシュアップ試験及び事業化に関する検討
部品メーカーの部品設計者及び金型設計者により(シス
テム利用者の立場で評価)
“成形性を考慮し、部品の強度
を向上する”といった設計変更を行うストーリーのもと、
強度解析とプレス成形解析にてサービスマッシュアップ試
験を実施した(図7)
。
開発された製品・技術のスペック
1.クラウドプラットフォーム上で、プレス成形シミュレー
ションサービスを提供可能とした。実行可能なシミュ
レーション規模は、10万節点程度(大規模モデル)
、ス
プリングバック精度、板厚減精度共に実用レベルに到達
した。
2.クラウドプラットフォーム上で、プレス設計に必要な多
種類の解析を実行する環境を構築した。金属プレス成形
関連事業者が出店形式でサービスの提供が可能な環境を
開発した。
3.セキュリティ機能の開発により、ユーザーの企業情報・
利用情報の機密性を確保できる。
図 8 クラウドプラットフォーム機能図
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
社団法人日本金属プレス工業協会
◎所在地 : 〒 105-0011 東京都港区芝公園 3-5-8 機械振興会館 212 号
◎担当者 : 濱中 豊
◎ TEL:03-3433-3730 ◎ FAX:03-3433-7505 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(社)日本金属プレス工業協会、群馬県立群馬産業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)アイエムアイ、(株)マッキンリー、(株)先端力学シミュレーション研究所
◎主たる研究実施場所 :(株)先端力学シミュレーション研究所
125
リチウムイオン電池用金属缶のドライプレス技術開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
金属プレス加工
川下の抱える課題及びニーズ
その他
低コスト化/短納期化/環境配慮
高度化目標
洗浄工程の削減及び潤滑油使用の低減/環境配慮に対応した
技術の開発
研究開発の背景及び経緯
リチウムイオン電池用金属缶の金属プレス加工におい
て、潤滑油使用量低減及び洗浄工程削減に向けた、低コス
ト化、短納期化、環境に配慮したドライ加工技術が不可欠
である。本事業では、プレス工具・金型のプラズマ表面清
浄化処理+ナノ積層コーテイングに磁界を援用し、複雑形
状へ超耐久性コーテイング技術の実現とプラズマ被膜除去
プロセスによる金型リサイクル技術を開発する。
さて、リチウムイオン電池を中心とする二次電池の市場
が急拡大している中で、電池用金属缶の需要数も増え、川
下製造業者自身の競争力強化の一環としてのコストダウン
の要求もさらに高まっている。しかしながら、製缶に不可
欠な深絞り加工技術には、大量の潤滑油を使用し、その後
の脱脂作業が当然のものと受け止められていたが、その二
つの主要プロセスを除くことができる技術を実現できれ
ば、潤滑油経費及び廃油廃棄処理費を含め、生産コストが
20%以上改善することができ、格段の競争力増強が可能
となる。また、川下製造業者は環境改善と事業の社会性を
意識し、世界的環境基準ISO14001に従った生産活動を
行っている。部品納入事業に携わる部品納入事業者におい
ても独自に同等の環境改善活動を行うことを期待され、そ
の成果と活動実態が発注先選定の評価基準の一つになって
いる。また、潤滑油及び脱脂剤の使用削減は、排出炭素量
の大きな削減が可能となり、工程短縮により、エネルギー
消費量の削減にもなる。更に、従来大量に使用する強アル
カリ性脱脂剤の廃液処理と水洗用の水道水も不要となり、
同時に経済性と環境配慮に大きく貢献することが分かって
おり、その実現に向けて、技術開発を行う。
研究開発の概要及び成果
[1-1] コーティング前処理の最適化
高耐久性被膜を作るためには、金型表面の脱脂・清浄を
徹底する必要がある。潤滑油及び酸化膜や汚れなども除去
し、清浄な金型の金属表面の上に被膜を作ることが被膜の密
着性向上には欠かせない。その為に、電解脱脂、超音波洗
126
浄、湿式活性化処理及びプラズマ活性化処理の最適化によ
り、被膜密着性の高度化を図かり、清浄化レベルで3倍、脱
脂洗浄時間は従来方式に比べて、十分の一にまで短縮した。
[1-2] コーティングレシピの選択
金型は加工物の形状に合わせ、幾つかのプロセスに分割
し作っていく。従って、一般的には形状が複雑になり、凹
凸も激しい形状となる。その形状に合わせた均一な被膜作
りは容易ではなく、特に円筒形内部への健全な膜作りは成
膜事業者や研究者が抱える課題となっている。更に、我々
は、被膜硬度の制御をするために、図1のようなナノ積載
被膜構造を採用しており、凹凸部や円筒形内部への成膜を
磁界援用方式スパッタリングで解決をはかった。
最上層DLC膜
高密度DLC膜
低密度DLC膜
高密度DLC膜
低密度DLC膜
中間層
基材
図 1 ナノ積層 DLC 被膜構造図
[1-3] 再生コーティング手法の開発
図2のような金型リサイクルシステム(
「湿式前処理-」
プラズマ活性化処理-DLC成膜-プレス加工-プラズマ脱膜プラズマ活性化処理)を進める上で、均一な脱膜は欠かせ
ない。物理的手法や化学薬品による被膜除去はもとの金型
表面を傷め、肝心な寸法精度を狂わせてしまう可能性が大
きい。そこで、化学的プラズマ被膜除去プロセスにより、
金型形状に影響されず、DLC被膜を均一に安定した除去
方法を開発した。
図 2 ドライ加工による金型リサイクルシステム
図3の 左 半 分 は1μmの
DLC被 膜 を 作 っ た 後、 ポ リ
イミドテープにより被覆し、
その後にプラズマによる脱膜
を行う。
右半分は被膜が取れ金属色
が見えている。
図 3 脱膜処理能力比較
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
開発された製品・技術のスペック
金属プレス加工
このように成膜したナノ積層DLCは、図4のように摩
擦摩耗試験で高耐久性を実現した。実験方法は、直径約
5mmのSUJボールを10Nの負荷で被膜表面に押しつけ、
秒速15cmの速度で1000秒回転させ中断したのち、さら
に2600秒を継続回転させて摩擦試験を行った。その結果、
摩擦係数は全時間内で0.15以下を示し、安定した高耐久
膜質を得た。
実機プレス試験は、黄銅材を使用し、深絞りプレス加工
をセミドライ方式(30ストロークに一滴2時間以内に乾
燥する低粘度潤滑油0.1CCを供給)で180SPMの連続加
工を行い、合計10万回まで作業を行う。
図6の左は従来プロセスで、加工熱を放散させるために、
大量の潤滑油をかけ流し状態で使用している。また、プレ
ス機械の周辺は潤滑油が飛散し、工場内の作業環境もよい
ものとは言えなかった。セミドライプロセスでは、乾燥型
低粘度潤滑油を極少量供給するだけなので、プレス作業環
境も劇的に改善され、潤滑油の消費量も激減した。
図 6 従来プロセス(左)とセミドライプロセス(右)の作業環境の比較
図 4 耐摩耗・摩擦試験 10N-3600sec
試験片では、被膜耐久性につき、よい結果が出たが、図
5のように、
パンチ(棒状の外周部)及びダイ(円筒形内部)
への成膜は新たな工夫が必要となる。そこで、我々は磁気
を援用し、パンチ外周部及びダイ内筒部に被膜が安定して
付くようにし、実機試験用の金型に成膜することに成功し
た。尚、このような磁気援用によるスパッタリングのプロ
セスを特許として申請済みである。
表1では、実機試験から得られたデータから、潤滑油削
減コストを試算したところ、二桁低い試算結果となり、原
価低減による経済的利益が得られ、作業環境及び地球環境
への負荷も軽減でき、脱脂工程の削除による工程短縮もか
なえられることが判明した。更に、金型リサイクルシステ
ムでは、自然摩耗による金型部品の交換費用と被膜の成膜
及び脱膜の費用の合計の比較において、DLC被膜が10万
回の耐久性があれば、経済的にほぼ等しいことがわかった。
表 1 潤滑油削減コスト試算 (試験対象会社の場合)
項目
対象のプレス回数
潤滑油種別
単位
従来プロセス
セミドライ
回
96,000
100,000
-
高粘度油
低粘度油
L/日/台
30
0.333
Lあたりの潤滑油費
L/円
350
350
1台あたりの潤滑油
使用コスト
円/台
10,500
117
全装置台数
台
100
100
年間稼動日数
日
220
220
百万円
231
3
潤滑油使用量 年間潤滑油コスト
図 5 トランスファープレス金型への成膜
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事業管理機関名
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
◎所在地 : 〒 135-0064 東京都東京都江東区青海 2 丁目 4 番 10 号
◎担当者 : 小林 英二
◎ TEL:03-5530-2528 ◎ FAX:03-5530-2458 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 芝浦工業大学、(独)東京都立産業技術研究センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)パワー精密、島村金属工業(株)、表面機能デザイン研究所(同)
◎主たる研究実施場所 : 表面機能デザイン研究所合同会社(大田区新産業創造支援施設)
127
不特定形状のワークを把持可能なフレキシブル構造を
有する低コストなエンドエフェクタの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
位置決め
川下の抱える課題及びニーズ
ロボットに関する事項
コンパクト化・軽量化/安全性・信頼性の向上/高速化
高度化目標
コンパクト化又は軽量化/高速化/安全性又は信頼性の向上
研究開発の背景及び経緯
生産ラインの現場はもとより、極限環境下から日常生活
の場まで、“様々な形状の物”を“つかむ”ことのできる
エンドエフェクタが必要とされる。例えば、生産の現場で
は、ワークの加工や仕分けのために把持する必要があるが、
現状ではこれを自動化するにはワークに合わせて専用のエ
ンドエフェクタを用意せねばならないケースが多く、その
都度、設備費用を要することになる。また、我が国の新規
産業として期待されている生活支援ロボットの実用化につ
いても“つかむ”物に合わせての都度の変更の不要なエン
ドエフェクタが必要となる。更には、
海洋、
宇宙、
原発施設、
災害対応等の極限・過酷環境下においても“様々な形状の
物”を把持することのできるエンドエフェクタが必要とさ
れる。“様々な形状の物”を把持するための一つの手段と
しては複数のエンドエフェクタが用意され、オートチェン
ジャー等の機構により、それらを切り換えて対応する装置
が存在する。
しかしながら、この手段はコスト、重量、設備規模の増
大、利便性等の要因により実用に至らない場合が多々ある。
本研究開発では、この様な問題を解決するため、
「一つ
のエンドエフェクタ」にて“様々な形状の物”を把持可能
なエンドエフェクタを開発した。上記のエンドエフェクタ
を開発する際、多数のアクチュエータを使用したのではそ
の目的を達することは困難であると考えた。そこで、一つ
のアクチュータにより複数の“指”を把持対象物に馴染む
ように駆動させることにより、
“様々な形状の物”を把持
することのできるエンドエフェクタの開発を目指し、これ
を実現した。
本開発のエンドエフェクタにより、これまでにできな
かった把持を可能とする機構の実現に加え、従来の類似目
的の装置に対し、アクチュエータやセンサを大幅に削減す
ることにより低コスト且つ装置規模の縮小が可能となる。
更に一つのアクチュエータによる駆動の方式を採用してい
ることから比較的その制御が容易であり、従来の技術と比
較し、利便性をも向上させている。
研究開発の概要及び成果
前述のエンドエフェクタの実現のため、ダブル技研株式
会社が保有している一つのアクチュエータにて馴染み把持
を行うことのできる「協調リンク機構」を用いた「フレキ
シブルハンド」の技術に基づき、その改良を進めた。
本研究開発の1年目では主にこの「フレキシブルハンド」
に対して、人体の“手のひらの機構”を確立し、これを
追加することにより、その把持の安定性の向上を試みた。
“様々な形状の物”の把持対象物を把持する際、その把持
形態は一様ではなく、把持の形態に合わせてその「初期姿
勢をとる」ことが必要となる。これの開発・実現には複数
のアプローチが考えられるが、本研究開発では実用化を念
頭に、以下の三種のアプローチにより開発を行い、試作評
価し、その課題を顕在化させた。ここでは想定されるエン
ドエフェクタの形態として5指の仕様として確立すれば大
凡必要な仕様を網羅できると考え、各々 5指の仕様にて開
発を進めた。
①把持のための「初期姿勢をとる」動作と「把持する」動
作を一つのアクチュエータによって行う開閉の一連の動
作内にて行う機構の開発。(図1:①)
②「初期姿勢をとる」動作として人体での第1指、第4指、
第5指の動作に重きを置き、その動作用として三つ、
「把
持する」ためのメイン用として一つの計四つのアクチュ
エータにて把持する機構の開発。(図1:②)
③把持のための「初期姿勢をとる」動作の多様性に重きを
置き、その動作用として第1指に二つ、他の指に各一つ
ずつ、
「把持する」ためのメイン用として一つの計七つ
のアクチュエータにて把持する機構の開発。(図1:③)
図 1 初年度にて開発の試作・評価エンドエフェクタ
128
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
開発したFA仕様ハンドの“スペックの概要は以下の様
に当初の開発目標をクリアするものである。
●不特定形状の対象物を把持可能。
●アクチュエータを含む重量:2kg以下(リスト部分を除く)
●最大可搬重量:5kg
●サイズ:W140×H220×D45 以内(義手用途ハンド)
開発したエンドエフェクタの内、FA用途の3指仕様に
ついては実用化の段階にあり、既に数社より受注実績のあ
ることからも上記スペックは市場における需要に応え得る
ものと考える。
位置決め
本開発のエンドエフェクタは前述の様に多種多様の用
途・目的への適合が期待できるが、現在の需要としては
FA用途のものが多く、また、将来的には生活支援ロボッ
トへの適用の期待が高い。そこで、最終年度となる2年目
では前年度までの開発成果を反映し、FA用途(図2)及
び生活支援ロボット用途(図3)の仕様に絞り、その実用
化開発を行った。最終年度に開発のエンドエフェクタは
“様々な形状の物”を“一つのアクチュータ”の駆動にて
把持可能なことを大きな特徴としている。
図 2 開発した FA 仕様のエンドエフェクタ
FA 仕様にての適用例
図 3 開発した生活支援ロボット仕様のエンドエフェクタ
生活支援ロボット仕様にての適用例
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事業管理機関名
ダブル技研株式会社
◎所在地 : 〒 252-0013 神奈川県藤沢市長後 903 番地の 3
◎担当者 : 山田 賢
◎ TEL:046-206-5611 ◎ FAX:046-253-7711 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 都立産業技術高等専門学校
◎プロジェクト参画研究機関(企業): ダブル技研(株)
◎主たる研究実施場所 : ダブル技研(株)
129
インテリジェント・ロータリエンコーダの
製品化に関する研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
位置決め
川下の抱える課題及びニーズ
ロボットに関する事項
安全性・信頼性の向上/高精度化/高速化
高度化目標
高機能化/高速化/安全性・信頼性の向上
研究開発の背景及び経緯
モータなどの回転機械の角度や角速度を検出するための
ロータリエンコーダ(以下、
「RE」という。
)は、デジタ
ル制御に欠かすことのできない位置検出センサとして、近
年、工作機械、半導体製造装置、産業用ロボットなどの産
業機器分野において重用されている。
REは、これらの分野からの位置決めや運動制御の高精
度化の要求に対して、高分解能化で応えてきた。
しかし高分解能化が進むことが、制御システム全体で単
位時間当りの情報処理量が増加することに繋がり、それが
処理速度の低下や、コストの増大を招いている(図1)。
図 2 IRE による制御システム構成図
この製品化により、生活支援ロボットや医療用機器、情
報機器、工作機械や半導体製造装置など、メカトロニクス
機器の広範な分野への需要の拡大を図り、それらの安全性・
信頼性の向上に大きな役割を果たすことを目指している。
研究開発の概要及び成果
IREの製品化に当っては、
①必要とされる知能化機能の仕様策定
②知能化機能の実装技術開発
③IREの製造技術開発
が必要となる。
1年目は、システム構成と仕様作成及び要素技術(デバ
イス、処理方式)の開発を行った。システム全体を将来の
実装技術の進歩に合わせて柔軟に組み換えできるように、
エンコーダ部+シリアル通信部+知能化処理部に分離し、
信号処理の大部分をFPGA実装とした(図3)。
図 1 現在の技術の問題点
このような問題を解決するために、本研究開発ではRE
が持つ本来の検出機能と同時に備えている演算・制御機能
を利用して、上位の制御系に頼らずにREに自ら分析・判
断する機能を付加(インテリジェント化)した知能化エン
コーダ(以下、「IRE」という)の製品化に関する研究を
行うこととした(図2)
。
図 3 知能化システム実装構成図
130
22年度採択
[一般枠]
表1 基本物理量の計測精度及び反応速度
角速度
< 5%
反応速度
<3μs
角加速度
< 15%
反応速度
< 10 μ s
振動
< 20%
反応速度
< 10 μ s
衝突
< 20%
反応速度
< 10 μ s
また、ロボットアーム、ロボットフィンガによる実証研
究を行った。この2つのロボットには、外部との衝突や力
の相互作用を含む複雑な動作を行わせた(図4、図5)。
IREを導入することにより、従来技術では難しい制御を
安定して高精度に行うことができた。評価には、IRE実証
研究のための試験評価システムを使用し、ロボット制御に
おけるIREの有用性を実証した。
位置決め
2年目は、前年開発した要素技術の検証、及び量産化を
踏まえた製造工程の構築、
顧客利用方式の調査等を行った。
今回開発された知能化処理ICにおける、基本物理量の計
測精度や状態検知反応速度は表1の通りで、ほぼ想定した
結果が得られた。
開発された製品・技術のスペック
本研究ではIREの製品化に向けた様々な要素技術の開発
を行い、それが想定通り機能することが確認できた。
しかし制御システム全体における位置付けとして、更な
る小型化と利用方法の簡便化を図らなければ、顧客側の導
入要求に応じられないことも、様々な顧客の調査で判明し
た。
機能のモジュール化設計が功を奏し、エンコーダ+シリ
アル送受信FPGAの組み合わせを用いて、FPGA部分に必
要な知能化機能を組み合わせた製品が、顧客要求にマッチ
しやすいと言うことが明らかになった(図6)。
図 4 ロボットアームによる実証実験
図 6 高速シリアルエンコーダと知能化ボックス
図 5 ロボットフィンガによる実証実験
■今後の製品化・事業化に向けて
今後は、フル機能の同一知能化システムを大量に提供す
る形式ではなく、機能の組み合わせによる多品種製造を容
易に行えるシステムを構築することにより、顧客毎の要求
に迅速に応じられる製品の開発が必要である。
具体的には、1年以内に顧客とのパイロットプロジェク
トを立ち上げ、2年以内の製品化・事業化を目指している。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社キャンパスクリエイト
◎所在地 : 〒 182-8585 東京都調布市調布ヶ丘 1-5-1 電気通信大学産学官連携センター
◎担当者 : 伊藤 正昭
◎ TEL:042-490-5732、042-490-5734 ◎ FAX:042-490-5727 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 電気通信大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): マイクロテック・ラボラトリー(株)
◎主たる研究実施場所 : マイクロテック・ラボラトリー(株)
131
自律航行型水中多目的ロボット(AUV)
の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
位置決め
川下の抱える課題及びニーズ
ロボットに関する事項
コンパクト化・軽量化/高精度化/高速化
高度化目標
高速化
研究開発の背景及び経緯
原子炉の点検業務は、長い支持棒の先端に取付けた水中
テレビカメラを使用し、オペレータがプール上部から操作
して行なう。
原子炉内部の構造は複雑に入り組んでいる為、
カメラを安定的に操作するのが難しい。その他の方法とし
て、有線の水中ロボット(ROV)を使用する方法もあるが、
ケーブルが構造物に絡まる危険が常に伴う。
を行なった。さらに、各モジュールを組み合わせ、全体シ
ステムを組み立てた。
システムはAUV本体、ドッキングステーション部、コ
ントロールサポートシステム部で構成される。
自律航行型水中多目的ロボット(AUV)本体
高精度で高速な位置決め等を行なうために、慣性航法
ジャイロモジュール・水中音響障害物センサモジュール・
超音波球面モータ駆動 超小型カメラモジュール・MCスラ
スタモジュール・画像センシングモジュール・インテリジェ
ントコンピュータモジュール・TRマニピュレータ・光通
信コミュニケーションモジュールを開発し搭載した。
光ファイバーケーブル
無線通信用アンテナ
下方カメラ
光通信
コミュニケーション
モジュール
ケーブルカッター
メカニズム
超音波球面モータ駆動
超小型カメラモジュール
MCスラスタモジュール
水平位置制御用
スラスタユニット
図 1 従来技術
この状況を解決するのに、自律航行型水中多目的ロボッ
ト(AUV)の利用を提案する。AUVは海洋分野で発展し
徐々に実用化の域に達しつつある。しかし、我々が知る限
りこの装置を原子力やその他のプール施設で使用した前例
は無い。これを原子力発電所や工場などの大型貯水設備向
けに開発する事により安全設備として以下のメリットが生
まれると考えられる。
・ 検査の全自動化が可能。オペレータのスキルに左右され
ない。
(時
・ 定期的な検査。長時間の検査。長期間の検査が行える。
間的な制約が無い)
・ カメラ検査だけでなく、超音波・X線・電磁波等の検査
も可能である。
・ 瞬時に結果が分かり、長期の経過診断が行える。
垂直位置制御用
スラスタユニット
インテリジェント
コンピュータ
モジュール
TRマニピュレータ
モジュール
水中音響障害物
センサモジュール
慣性航法ジャイロモジュール
急速充電
チャージャー
研究開発の概要及び成果
本プロジェクトの概要
自律航行型水中多目的ロボット(AUV)システムを構
成する各部モジュールを開発し、モジュール毎の動作検証
132
水中 LED
照明ユニット
給電
コネクタ
超小型軽量
電池パック
慣性航法ジャイロ
センサ
精密
温度計
図 2 AUV 本体ブロック図
精密
深度計
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
無線通信用アンテナ
垂直位置制御用
スラスタユニット
位置決め
コントロールサポートシステム
システム全体の操作を担うもので、中核となるコント
ロールPCにて、開発した制御ソフトをインストールし、
AUV本体及び、ドッキングステーションの制御を行って
いる。また、実用性と可搬性の面を考慮し、全て専用キャ
リーケースに収納した形態とした。
水中音響障害物
センサモジュール
水中LED
照明ユニット
超音波球面モータ駆動
超小型カメラモジュール
水平位置制御用
スラスタユニット
水中音響障害物
センサモジュール
下方カメラ
開発された製品・技術のスペック
開発された製品の利用法としては、次のようになる。
ドッ
キングステーションは大型貯水設備の水面付近の側壁に
固定され、AUV本体を固定し、電池の充電作業を行なう。
コントロールサポートシステムにてスタートを指示する
と、ドッキングステーションのフックが外れ、ロボットは
自動操縦で所定の水深・方位に進み、録画と計測を開始す
る。その後、所定のミッションが終了するとロボットはドッ
キングステーションに自動帰還し、次のミッションに備え
充電を開始する。
図 3 AUV 本体
ドッキングステーション
AUV本体とドッキング、ロボットへの充電、光ファイ
バーケーブルの出し入れ、AUV本体及びコントロールサ
ポートシステムとの通信を行なう装置である。
図 6 動作イメージ
図 4 ドッキングステーション
図 5 コントロールサポートシステム
本開発の自律航行型水中多目的ロボット(AUV)シス
テムは、原子力発電所や工場などの大型貯水設備において、
各種点検作業を行い設備の安全安心と検査の高速化・省力
化に貢献するものと確信している。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社キュー・アイ
◎所在地 : 〒 236-0004 神奈川県横浜市金沢区福浦 2-4-7
◎担当者 : 松原 修
◎ TEL:045-783-1035 ◎ FAX:045-785-0120 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京農工大学、東京大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)キュー ・ アイ
◎主たる研究実施場所 :(株)キュー ・ アイ
133
超視覚蛍光検査法による高速高精度ギョウチュウ卵
自動検査システムの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
位置決め
川下の抱える課題及びニーズ
その他に関する事項
高精度化/高速化
高度化目標
高精度化/高速化
研究開発の背景及び経緯
ギョウチュウ卵の寄生虫検査は、主に小学校低学年を対
象に地域の保健所を中心に年間600万件行われているが、
人手に頼った極めて生産性の悪い作業である。
本事業では、
新開発の超視覚蛍光検査法によるギョウチュウ卵の検査技
術を応用し、弊社の高精度、高速の位置決め技術、トレー
サビリティの高い管理技術を付加し、今後のバイオディ
フェンス体制の構築に不可欠な、高性能寄生虫卵自動検査
装置を開発する。
1)開発の背景
保健所等の検査機関、健康管理施設、ならびに食品安全
管理施設において、ギョウチュウ卵の検査等、寄生虫卵の
検査工程における作業効率は極めて悪く以下のような状況
である。 ①検査のための作業は、主に顕微鏡にて人間が全て手作業
で行うが、寄生虫の卵と、その他のゴミの判別に資格と
経験を要し、作業効率が悪い。 ②観察検査対象は薄いフィルムに付着させた生体付着物で
あり、このフィルムを顕微鏡のテーブルにセットしてか
ら、直径約3センチの被検部位を検鏡する作業に手間と
時間がかかるだけでなく、
検鏡した検査データが乏しい。
③観察検査対象は、薄いフィルムで、ID管理用の薄型の小
袋に入っており、取り出して検査し、検査結果を記録し
た後に再び袋へ戻す作業を行っており、作業には手間が
かかり、検査工程やIDの管理に時間が掛かっている。
2)開発の経緯
問題解決の取り組みを以下のシーズにより行った。
①ギョウチュウを含む寄生虫卵が自家蛍光を有すること
(図1)を発見し、2010年6月に特許出願した。卵を励
起する波長と蛍光スペクトル特性の関連技術である。
②蛍光発光技術を検査装置として実用化するためのその他
の重要な技術は各社が保有している光学装置構築技術、
高精度高速位置決め技術、画像処理技術、ID管理技術、
システム構築技術を持ち寄りシステム化した。
134
図 1 ギョウチュウ卵拡大図
研究開発の概要及び成果
超視覚蛍光検査法を使い従来の目視型と異なり、蛍光画
像をコンピュータが自動で認識・輝度の解析を行い、検査
フィルムにおけるギョウチュウ卵の有無を判定するための
最適な光学処理法を研究開発し、ギョウチュウ卵検査フィ
ルム検査用光学装置(カメラ1およびカメラ2)を製作し
た(図2)。
カメラ1は検査フィルムが規定位置内に存在しているか
どうかを判定する画像の取得装置であり、検査フィルムの
中央部目印(十字マーク)を検出し、そのコントラスト比
が所定以上なら検査可能、所定以下なら検査不可能(検体
トラブル)と判定する。
カメラ2は検査フィルムの規定位置内に卵が存在してい
るかどうかを判定する画像の取得装置であり、フィルムの
被検領域において存在する蛍光性粒子の総数、総蛍光輝度
値を検出し、そのいずれかが所定以下の数値なら陰性、所
定以上なら陽性と判定する。
図 2 ギョウチュウ卵検査フィルム検査用光学装置
右側が規定位置内位置決め確認用のカメラ 1
左側が卵の存在確認用のカメラ 2
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
蛍光励起装置にはレーザーを用い2波長を混合し効果的
な励起光とした(図3)
。
図5に超視覚蛍光検査法による高連高精度ギョウチュウ
卵自動検査システム装置外観を示す。
供給電源
単相 AC100V 50/60Hz
装置概略寸法
W910 B1000 H1750mm
(エアコンプレッサー 560×275.4×578mmを除く)
概略重量
本体250㎏
対象検体
フィルムカセット
対象検体サイズ W58×L72×T1 ∼ 2mm
検査処理速度
10秒/個
検体ストック量 150個/最大
(カセットの厚さにより増減あり)
検査対象 ギョウチュウ卵
サイズ、個数のパラメータ変更により他の寄生虫、生物
の確認も可能
位置決め
図 3 蛍光励起装置の構造
開発された製品・技術のスペック
励起レーザー光の照射方法についても改良を行い、画像の
コントラストを向上させ検査精度を向上した(図4)
。
図 4 左が励起レーザー照射改善前 右が改善後(矢印の卵の判定が容易)
以上の超視覚蛍光検査の技術を用い、超視覚蛍光検査法
による高連高精度ギョウチュウ卵自動検査システムを構築
した。
システム化のために、サーボモータで駆動するターン
テーブルの高速高精度位置決め技術、高精度で1枚送りを
実現するバキュームによる搬送技術、検体のID管理を確実
に行うためのID付与、読み取り技術、微弱な蛍光発光を正
確に捉え、判定するための画像処理技術を開発した。
図 5 超視覚蛍光検査法による高連高精度ギョウチュウ卵
自動検査システム装置外観
本装置の応用:超視覚蛍光検査法は、寄生虫卵のみならず、
農産物、海産物、一般食料品の検査、及び品質評価に応用
が可能である。今後、システムの搬送形態及び装置の小型
化等のバリエーションを製作し、ユーザーの要望に答えて
いく。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社電興社
◎所在地 : 〒 432-8055 静岡県浜松市南区卸本町 98 番地
◎担当者 : 夏目 三男
◎ TEL:053-441-5441 ◎ FAX:053-442-3421 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 浜松医科大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)上島電興社、TAC(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)電興社
135
航空機エンジン等難削材大径薄肉部品の
無人化加工技術の開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
航空機に関する事項
信頼性向上
高度化目標
薄肉形状・中空形状加工対応
研究開発の背景及び経緯
航空機産業においては、機体の大型化や航続距離延長に
向けた流れを受けて、機体の軽量化が求められ、例えば構
造の一体化、中空化、薄肉化等が進んでいる。この流れを
受け、本研究開発事業である航空機エンジン部分について
も、エンジンの燃費向上と軽量化の要請から、タービン部
の高温化に伴った超耐熱合金インコネル材を大径薄肉部品
に加工することが主流となっている。具体的には、ジェッ
トエンジンは高効率化(燃費向上)のため、4基から2基
のエンジンに採用をシフトしており、基数削減しながら推
力を得るため、大型化を進めている。現在の国内企業のエ
ンジンの部品加工では画期的な工法合理化、無人自動化が
遅れており、人的技術・技能に頼った加工で対応している。
本事業は高難度の燃焼器ケース、燃焼室リング部品の無人
化に至る障害を抽出し、その解決を図るものである。
研究開発の概要及び成果
本研究開発の目的は、超耐熱合金インコネル材の大径薄
肉部品(円筒形状・リング形状品)に対して、①加工歪、
クランプ歪に対応する装置②薄肉リング形状品の最終仕上
げ加工に対応する無負荷クランプ法③素材の楕円形状に対
する非断続切削加工法、④加工監視・最適加工条件システ
ムの4つのテーマを開発し、加工の無人自動化を実現させ
ることである。
①加工歪の発生課題への対応{円筒形状品に対する新加工法}
加工歪みに対応したクランプの自動化を図るため、歪自
動調整クランプ装置を開発した。ワークの基盤部分を多点
(6点)受けし、加工前、仕上げ加工前に機械側から信号
を受け、
自動で芯出し及びシム調整を行う方法を確立した。
加工精度は従来と同等以上で、加工工程を7工程→2工程
に短縮できることを確認した。今後は製造現場での作業者
による調整、段取り等をなくし加工時間の50%削減を目
標とした無人化自動運転の実用化を進める。
136
➡
図 1 従来加工法と新加工法の比較
②クランプ歪の発生課題への対応
{リング形状品に対する新加工法}
大径薄肉部品であるリング形状品の仕上げ加工を対象と
し、クランプ歪みのない製品精度の安定した加工法を確立
する。従来の複数点クランプ法を見直し、クランプ歪を発
生させない無負荷クランプ装置を開発した。この装置は
ワークの内径及び外径部を樹脂によるクランプ、アンクラ
ンプ方法を確立し、全周無負荷状態での加工法を実現でき
た。
図 2 従来の加工法と新加工法樹脂無負荷クランプ装置
③素材の楕円形状による黒皮断続加工課題への対応
{素材の楕円形状に対する新加工法}
素材は表面が黒皮状態で、円筒品・リング形状品は楕円
形状である。その形状を切削加工すると工具は断続切削加
工となり、工具に致命的な破損等をもたらす。この課題対
応とし, 品物が回転中心から芯ふれした値または楕円の値
を自動計測し,刃先がワーク表面に追随する揺動加工法を
開発し、楕円形状に対する非断続切削加工を実現した。
工具切削寿命が2倍程度の延長が見込める。
図 3 揺動加工ユニット制御装置
④加工監視・加工適正条件についての対応
加工状態監視システムおよび工具寿命管理システムの開
発を進め、システムのハード、ソフトは確立できた。今後
は実機でのデータを蓄積することで、工具寿命を推定し、
21年度採択
[一般枠]
20%の工具利用延長を目指す。加工情報収集システムの
開発を進めデータベースを構築した。今後センシングバイ
トからの加工情報を蓄積しながら、工具状態や製品表面性
状など加工ノウハウと技術高度化・最適化をおしすすめる。
●難削材加工では30%が工具費→工具の寿命推定による
工具費のコストダウン
●難削材の加工条件は熟練者の経験→加工状態監視システ
ムのデータから加工情報収集システム内の加工情報デー
タベースを構築し、
最適加工条件のノウハウを蓄積する。
切削加工
図 4 加工監視システム
③揺動加工ユニット制御装置、揺動加工装置の開発
サンプル加工で素材形状の測定、機械テーブル回転と揺
動加工ユニットを同期させ楕円形状から真円形状へ旋削に
よる非断続切削加工を実現した。
④−1加工状態監視システムの開発
センサ類と処理回路を内蔵
し加工情報を収集するセンシ
ングバイトを開発した。サー
ミスタ温度センサ3個(0∼
図 7 センシングバイト
200℃)、歪ゲージ8個(温度
補償ハーフブリッジ4組、分解能1N)を24bitADCを
内蔵した32bitマイコンにて信号処理し、切削3分力、切
削力の振動成分、バイト先端の温度分布、隣接温度セン
サの温度差を一括して、0.3秒毎にデジタル出力できた。
④―2工具寿命管理システムの開発
開発したニューラルネットワークは、入力層6セル、
中間層12、中間層5、出力層3の4層構造。加工監視
システムからの情報により、バックプロパゲーション法
で学習し、実験でセンシングバイトからの信号によりリ
アルタイムに工具寿命を判定する確認。ニューラルネッ
トワーククソフトは、今後の応用・普及のため、小規模
なワンチップマイコンにも搭載できるように配慮して開
発した。
開発された製品・技術のスペック
本プロジェクトで開発された内容を以下に整理する。
①歪自動調整クランプ装置の開発
ダミー材によるサンプル加工を行
い、工程短縮7工程→2工程。平行度
0.05mm以下の加工精度を実現した。
図 5 サンプル加工品
②樹脂無負荷クランプ装置の開発
難削材インコネル材でサンプル加工
を行い、真円度0.1mm以内の加工精度
を実現した。
図 6 サンプル加工品
図 8 ニューラルネットワーク
④―3加工情報収集システムの開発
開発した加工情報データベースはセンシングバイトか
らの加工情報を逐次記録することができる。加工プログ
ラムの情報は、LAN経由で参照可能とした。また単に
記録するだけでなく、Webブラウザにより加工情報を
グラフィカルに表示することが可能である。
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事業管理機関名
財団法人長野県テクノ財団
◎所在地 : 〒 386-8567 長野県上田市常田 3-15-1(信州大学繊維学部内)
◎担当者 : 浅間テクノポリス地域センター 小野 正明
◎ TEL:0268-23-6788 ◎ FAX:0268-23-6673 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 長野県工業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)タジマ、(株)ナサダ
◎主たる研究実施場所 :(株)タジマ
137
航空機主翼等 CFRP に対応した切削加工技術の開発
契約期間
平成 21 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
初年度は、主に工具及び台金の材料材質・強度、及び装
置の構想設計主体に研究開発を行った。
丸鋸台金の材質による湾曲特性、強度データを収集して
材質を決定し(図1)湾曲特性調査解析(図2)を行って
試作品を製作した。試作した丸鋸を用いて、擬似的に強制
湾曲させた回転試験(図3)、簡易実験機による切削試験(図
4)を行った。
川下の抱える課題及びニーズ
航空機に関する事項
燃費向上
高度化目標
新材料加工対応
研究開発の背景及び経緯
近年、航空機産業はCFRPの利用率が急増しており、主
翼等CFRP成型品のトリミング工程は、現状エンドミルや
ウォータージェットによる加工が主流である。
しかし、いずれも生産性が低く、その上、ウォーター
ジェットは設備が高価で、エンドミル加工は工具寿命が短
くそれに伴う加工品質の劣化など生産能率、生産コストが
大きな課題である。
研究開発の概要及び成果
表1に従来のCFRP加工法である、ウォータージェット
及びエンドミルの加工実態をまとめる。
新開発技術は、第1工程で、主翼等の大きな曲線形状を
湾曲可能な丸鋸(以下曲線切り丸鋸と呼ぶ)を搭載した装
置(以下丸鋸曲線切断装置と呼ぶ)で高速に曲線切断加工
を行い、次いで第2工程では並走2軸エンドミル(以下タ
ンデムトリムヘッドと呼ぶ)で粗・仕上げを高速に切削加
工することにより高効率と高精度を達成する。表2に本研
究開発の目標値を示す。また、本研究で製作する工具及び
装置は下記4項目である。
①曲線切り丸鋸の開発
②丸鋸曲線切断装置の開発
③タンデムトリムヘッドの開発
④タンデムトリムヘッド用エンドミルの開発
表 1 従来の CFRP 加工技術
ウォータージェット
ダイヤコートエンドミル
送り速度
(mm/min)
480
480
加工コスト
(¥/m)
415
1,250
図 1 丸鋸台金湾曲試験
図 2 湾曲の有限要素解析
図 3 強制湾曲丸鋸
図 4 湾曲切断試験
タンデムトリムヘッド用エンドミルは、刃先材質の耐久
データからエンドミルの設計(図5)を行い、テスト品を
製作して切削試験(図6)を行った。
図 5 タンデムトリムヘッド用
エンドミル図面
図 6 新作エンドミル切削試験
装置の要素技術開発については、簡易実験機試作及び切
削試験により構造及び機構を決定し、丸鋸曲線切断装置、
両端支持タンデムトリムヘッドの設計及び構想図を完成さ
せた(図7)。
表 2 本研究開発の目標値
工 具
送り速度
従来技術比
(mm/min)
加工コスト
(¥/m)
従来技術比
丸鋸曲線
切断装置
3,000
6倍
260
67%
タンデムト
リムヘッド
1,000
2倍
350
23%
図 7 丸鋸曲線切断装置、タンデムトリムヘッドの構想図
138
21年度採択
[一般枠]
図 8 曲線切り丸鋸
図 9 試作加工機
開発された製品・技術のスペック
本研究開発により表2に示す目標値を達成することがで
き、高い生産能率、生産コストの削減が可能となった。
航空機産業はCFRPの利用率が急増しているが、未だエ
ンドミルやウォータージェットによる加工が主流である。
ウォータージェットは設備が高価で、エンドミル加工は工
具寿命が短く、それにともなう加工品質の劣化など、生産
能率、生産コストが大きな課題であった。今後、中小企業
でも少ない投資で新規にCFRP加工導入及びCFRP製品の
普及に寄与するものと思われる。本研究の湾曲させた丸鋸
とタンデム式両端支持エンドミルを組み合わせた加工方法
の類似技術は皆無である。(図12)
切削加工
2年度目は曲線切り丸鋸をより理想的な湾曲形状を得ら
れるよう、台金構造の試作研究を行い、切削試験で理論的
に合致する台金が完成した(図8)
。また、製作された丸
鋸曲線切断装置、タンデムトリムヘッドを搭載した試作加
工機(図9)を完成することができた。
最終年度は、試作加工機を使用して当初の目標値を目指
す研究開発を行った。
曲線切り丸鋸は、5mRの連続加工による耐久性及び寿
命試験を行い、目標切削長80mに対し、100mまで切削
が可能であることがわかった(図10)
。
タンデムトリムヘッドは、連続加工による耐久試験を
行い、目標切削長80mに対し、100mを達成できた(図
11)。
以上の試験加工の結果より研究開発の目標値を達成でき
た。
また、効率的な集塵方法の検討などの試作加工機の実用
化に向けた取り組みを行っている。
図 12 製作した工具及び装置
図 10 曲線切り丸鋸耐久試験
図 11 タンデムトリムヘッド耐久試験
近年、CFRPは航空機産業だけでなく、あらゆる産業分
野で採用される傾向にあり、自動車、エコ関連、風力発電・
ソーラー発電、スポーツ関連設備事業分野へ「超高能率・
高速CFRP加工装置」として実用化を目指していく。
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事業管理機関名
財団法人浜松地域テクノポリス推進機構
◎所在地 : 〒 432-8036 静岡県浜松市中区東伊場 2-7-1 浜松商工会議所会館 8 階
◎担当者 : 砂川 扶美子
◎ TEL:053-489-8111 ◎ FAX:053-450-2100 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京農工大学大学院工学研究院、静岡県工業技術研究所浜松工業技術支援センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)オリオン工具製作所、庄田鉄工(株)、(株)山之内製作所、(株)ナサダ
◎主たる研究実施場所 :(株)オリオン工具製作所
139
PE 摩耗ゼロを目指す Ti-13Nb-13Zr(F1713)
製
人工股関節骨頭コンポーネントの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
医療機器に関する事項
生体適合性向上/寿命向上
高度化目標
難削材(チタン等)加工対応/高精度化
研究開発の背景及び経緯
1960年代から本格的に人工関節置換術が普及し始めて
以来、現代では世界で年間50万件、国内でも5万件を数
える。人工股関節摺動部コンポーネントは金属(主にCoCr-Mo合金)またはセラミック球対超高分子量ポリエチ
レン(UHMWPE、以下単にPE)臼蓋の組合せが一般的
であるが、現在もPEの摩耗が原因で起こる骨吸収および
その結果、高頻度に発生するステムのルースニングは未
解決のままである。臨床報告によると、PE臼蓋は1年間
に平均0.1mm摩耗する。摩耗したPEは体外に排除される
ことなく周辺組織に蓄積され、炎症性骨吸収を誘発する。
そのために、人工股関節置換術の平均寿命は15 ∼ 20年
とされ、適応年齢が60歳以上の患者に制限される。この
PE摩耗の問題が解消できれば、若年層患者まで人工関節
を提供することが可能となり、股関節疾患に悩む患者の
ADL(Activities of Daily Living日常生活動作)やQOL
(Quality of Life クオリティ・オブ・ライフ)の向上に
寄与できる。
本 研 究 開 発 は 低 剛 性 で か つ 生 体 適 合 性 に 優 れ たTi13Nb-13Zr(F1713)製人工骨頭とPE臼蓋コンポーネ
ントの組み合わせによって摺動面に流体潤滑膜の形成維持
を容易にし、PE臼蓋が直接摩擦されることを避けること
でPEの摩耗ゼロを目指した。
研究開発の概要及び成果
摺動面で良好な潤滑膜を維持するために必要な骨頭と
PE臼蓋の半径隙間を設定し、直接接触が一時的に発生し
たときの備えとして骨頭表面にICF(Intrinsic Carbon
Film真性カーボン膜:DLCを含む高機能性を持つカーボ
ン膜の呼称)被覆とPE表面の親水性処理を施した。また、
設計通りの機能を発揮するかを確認するために、股関節シ
ミュレータを用いて、潤滑膜維持能を評価した(図1)。
140
図 1 研究開発の概要
1. Ti-13Nb-13Zr製人工骨頭球の加工
骨頭球面真球度はφ28に対して0.5µm 、同球の表面粗
さは0.1µmの目標値とし、本条件を満足する骨頭球の加
工を次のとおり実施した。①Ti-13Nb-13Zrロッド材を旋
盤で荒切削加工方法の改善により、研削・研磨加工精度が
向上した。②型彫放電加工による骨頭原型を作成した。③
骨頭原型の研削・研磨加工においてELID研削で仕上げを
行い、骨頭球の表面粗さ0.02µm・真球度0.35µm以下を
達成し、目標値をクリアできた(図2)。また、ステム頚
部の穴開けにおいて放電加工を行い、チャッキングによる
骨頭の変形が無いことを確認した。
図 2 試作開発した骨頭球
2. Ti-13Nb-13Zr製人工骨頭表面のICF被膜
ICF成膜条件を検討し、Ti合金試験片にICFを被覆、PE
試験片に親水化処理後、Pin-on-Flatトライボメータ/ポテ
ンショスタットによる往復摩擦試験を実施した。本試験に
より、摩擦環境におけるTi合金の耐食性とPE焼き付き防
止効果を確認した。
3. 潤滑膜保持を可能とするPE臼蓋の作製とPE摺動面の
親水化処理
潤滑膜維持には、骨頭球とPE臼蓋の半径隙間を20µm
以下とすることが必要であることを、FEM解析(Finite
Element Method有限要素法)・引き抜き試験で明らかに
した。この結果を踏まえてPE最適形状の臼蓋を作製した。
PE摺動面には、PVPを用いたPE表面の親水化処理技術を
開発し、長期間親水性が維持されることを確認した(図3)。
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
切削加工
開発にこぎつけた製品(図5)は、PE摩耗ゼロを目指
すもので、以下のスペックを保有するものである(表1)
。
図 3 PEの接触角の経時変化の測定結果
4.人工股関節シミュレータ作成とPE摩耗低減効果の評価
人工股関節シミュレータを作成し、摩擦トルク、回転角
の計測を可能にした。通常歩行速度(60rpm)では摩擦
トルクは顕著に減少したため、潤滑膜が維持可能であるこ
とが確認された(図4)
。
図 5 人工股関節骨頭コンポーネント
表 1 開発された製品・技術のスペック
図 4 歩行に伴い発生する人工股関節摺動面の屈曲・伸展トルク
また、ICF被覆による摺動面の耐食性向上効果をアノー
ド分極試験により確認した。PEの親水化処理およびICF
の被覆によりPEのICF表面への移着発生が抑制され、PE
摩耗粉の発生を防止できることを確認した。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人さいたま市産業創造財団
◎所在地 : 〒 338-0001 埼玉県さいたま市中央区上落合 2-3-2 新都心ビジネス交流プラザ 3F
◎担当者 : 小沼 正幸
◎ TEL:048-857-3901 ◎ FAX:048-857-3921 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 埼玉大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)東京チタニウム、(株)ティー・アンド・アイ、ナノテック(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)東京チタニウム
141
微細部品の搬送・組立てのための実用的な
マイクロ・パーツ・ハンドリングシステムの試作開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
医療機器に関する事項
低コスト化/納期短縮
USBカメラを活用してコストを抑え、上位の駆動軸は手
で触れたときの振動を発生させないようにステッピング
モータによる遠隔操作を採用する。
以上に基づいた構造図を図2に示す。
高度化目標
高精度化/複雑形状加工対応
研究開発の背景及び経緯
図1に示すような0.3mm角のサイコロを切削加工で製
作する工程は、最初に固定面を除く5面を加工し、その後、
固定面を加工するために加工物を治具部から切り離し、反
転させて、2工程目の治具に固定する。しかし、このよう
な微細な部品はピンセットで掴むことも難しく、作業は困
難を極める。
図 2 マイクロパーツハンドリングシステム構想図
2)詳細設計と製作
図2に示した構想図に基づいて試作(詳細設計、製作、
評価)を行った。
試作は合計2回実施し、改良点を洗い出し、完成度を高
めて行った。また、試作機を国際展示会に参考出品し、広
く意見、ニーズを集め反映した。再委託先である東京大学
生産技術研究所のオープンキャンパスにも参考展示し、学
生や一般の方々の意見も集めた。
図3にマイクロパーツハンドリングシステム2次試作機
の外観を示す。
図 1 0.3mm のサイコロ
このような微細な部品を、あたかも自分自身の手で扱う
かのように自然な感覚で操作ができ、中小企業でも導入で
きる価格の微細部品ハンドリングシステムを開発すること
によって、微細加工技術の汎用化と市場の拡大につなげる
ことが本研究開発の目的である。
研究開発の概要及び成果
1)構想設計と仕様の明確化
中小企業が導入し易いように総重量10kg程度の卓上型
とし、あたかも自身の手で扱うかのように自然な感覚で操
作ができるように円弧状の案内面を用いて、片手あたり8
軸構造の自由度を持つ構造とする。また、安価な市販の
142
図 3 マイクパーツハンドリングシステム外観
(2 次試作機)
22年度採択
[一般枠]
切削加工
3)評価と今後の展開
このシステムを用いることで、ピンセットで掴むことさ
えも困難な微細な部品を、モニタ画面に映し出された拡大
画像を見ながら、あたかも自身の手で扱うかのように自然
な感覚で操作が出来るようになった。
図4に米粒の上に0.3mm角のサイコロを3個積み上げる
作業途中の画像を示す。
図 5 工業デザインを採用した場合の外観図
以上の様に、当初の目的であったピンセットで掴むこと
さえも困難な微細な部品を自在にハンドリングできる装置
の開発には目処が立った。更に微細加工、組立の汎用性を
拡大し、市場を切り開くためには微細加工を行うための
トータルな支援システムが必要と考えており、微細部品加
工用のCAMシステムや治具システムの開発を行い微細部
品製造システムの完成へとつなげて行く計画である。
図 4 米粒の上に 0.3mm 角のサイコロを積み上げる作業
評価は操作性、耐久性、コストなどの観点から実施し、
カメラ解像度、照明の個数/配置、ハンドル操作量と軸移
動量の関係、テーブル姿勢の微調整機構追加、カメラ焦点
指示用レーザーポインタの追加、グリップ部材質/硬度の
変更などの様々な改良点が上がり、量産設計にフィード
バックされた。コスト面では1次試作機から2号試作機で
およそ2/3にコストダウンが図られ、更に量産設計では量
産効果も含めて2次試作機の1/2へのコストダウンを計画
している。
また、商品価値を上げ、利用者に好まれるような外観に
するために、工業デザインを取り入れた。図5に工業デザ
インを取り入れたときの外観図を示す。
開発された製品・技術のスペック
グリップ総移動量 水平左右移動軸 40mm
前後移動軸 40mm
上下移動軸 14mm
水平旋回軸 90度
垂直旋回軸 60度
前後出退軸 15mm
旋回軸 360度
300万画素CMOSカラー、CCTVレンズ
カメラ
標準視野範囲 8.3×6.2mm
拡大・縮小倍率
モニタ倍率69倍(100%)
キャプチャー倍率10%∼ 1600%
パソコン
Windows7、23インチモニタ
本体の重さ
14kg
巾536mm奥行き425mm高さ545mm
本体の大きさ
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社森精機製作所
◎所在地 : 〒 000-0000 愛知県名古屋市中村区名駅 2 丁目 35-16
◎担当者 : 中南 成光
◎ TEL:0743-53-2572 ◎ FAX:0743-53-2582 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)森精機製作所ナノマシン研究所、(株)入曽精密、(株)微細工房
◎主たる研究実施場所 :(株)入曽精密
143
超音波切削加工技術を用いた
航空機機体用複合材穴あけ加工技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
航空機に関する事項
燃費向上/耐熱性向上/信頼性向上
高度化目標
新材料加工対応
研究開発の背景及び経緯
現在の航空機産業において、運行コストを抑制するため
に、燃費を向上することが最重要課題となっている。その
ため機体を軽量化することが求められ、CFRP等の複合材
の適用が急速に進んでいる。CFRPは非常に軽量であり、
強度及び剛性が優れている材料であるため、アルミ部品か
らの置換えが進みつつある。しかし、強靭であるがゆえに
成型後の加工が困難であり、加工コストがかかる点が大き
な課題となっている。超音波振動切削技術を用いて加工を
すると、工具寿命が高まるという報告があるので、超音波
振動を付加したCFRPの加工において、各種のドリル形状
を試験して、最適ドリル形状及び最適加工条件の調査選定
を行う。また、振動加工時に発生する微細粉塵を収集し、
作業環境を悪化させないようにするため、有効な集塵装置
を開発することとした。
2.CFRP-Ti重ね板ドリル加工
機体部品を接合させる箇所には、材質の異なるCFRPと
Tiを重ねた板材が用いられているため、通常のチタン加工、
アルミ加工の能力を維持しながら同時に加工されるCFRP
へも高効率加工(CFRP単体加工で得られた成果)が行え
る工具形状、加工条件を調査した。
先端角と加工条件を変化させ最適ドリル形状及び最適加
工条件の選定を行った。
(1)試験条件
工具形状:図2に示す 工具径:φ8 工具材質:超硬
試験材料:CFRP(T=7.6mm40ply)+Ti(T=4.85mm)
切削速度:25、50、75 mm/min
送り :0.01、0.05、0.1 mm/rev
図 2 製作ドリル先端形状
(2)試験評価項目と結果
スラスト力:切削条件、形状共にTi側にて支配的であった。
切削条件は切削速度25mm/min、送り0.01mm/rev、先
端角150°が最小を示した。
穿孔評価:先端角150°で切削速度25mm/min、送り0.01
mm/revが穴径、穴径差共に良好な結果であった。
(図3)
研究開発の概要及び成果
1.CFRP板ドリル加工
超音波振動装置を取り付けた加工機械に、各種形状のド
リルを取り付け、各種加工条件でCFRP板に穴あけ加工を
実施した。
(1)2段角ドリルが有効であることが確認できた。
(2)超音波振動を付加しなくても、高速回転ドリルで有効
に加工できることが確認できた。
(3)2段角ドリル(85°-270°
)の形状において、高速で
試験実施の結果、工具寿命が飛躍的に伸びる結果が得
られた。切削速度300mm/min、送り0.1mm/revの
条件であった。寿命到達加工穴数は100穴以上で目標
(60穴)を大きく上回った。
図 1 実験使用ドリル
144
図 3 穴品位
穴面粗度:どの切削条件・先端角度でも目標値の「Ra4.8
μm以内」を達成することができた。
工具磨耗:切削速度25mm/min、送り0.01mm/revが最
小磨耗であった(図4)
図 4 工具摩耗状況
22年度採択
[一般枠]
超音波振動:最適加工条件(切削速度25mm/min、送り
0.01mm/rev、先端角150°
)で、加振有無を比較の結果、
加振によりTi側でのスラスト力の低減と工具磨耗量の低下
が確認され有効と判断された。
開発された製品・技術のスペック
切削加工
技術スペック
CFRP単体加工及びCFRP-Ti重ね板加工の技術スペック
を表1に示す。
表 1 技術スペック
図 5 超音波振動切削装置
3.集塵システムの検討・評価
(1)集塵部を比較検討のため試験を実施。
良好な集塵部
(吸
気口)形状を確立できた。
(2)試作した2段式サイクロン集塵装置により集塵効率
99%以上、HEPAフィルタ無しで排気の室内環境基
準の「0.15mg/㎥」を達成することができた。
図 6 2 段式サイクロン集塵装置
上記に示すようにCFRP単体加工に於いては、超音波振
動切削装置を使用せずとも先端形状と切削速度の高速化
で、工具寿命が高まる事を確認することができた。
CFRP-Ti重ね板加工に於いては、超音波振動切削装置
を用いることで、「磨耗の抑制、スラスト力低減」を確認。
加工穴数も目標に対して倍以上の長寿命を満足させる結果
となった。
CFRP素材に関する技術革新や要求変化の速度は相当に
速い。その中で基礎的なドリル形状の追求から素材構成の
違いを含む、振動技術、加工条件追求技術、環境技術を繋
ぎ合わせた研究は、個別案件の実用化に有意義なもので
あった。新素材採用の度に多くの実験が行われる中、最適
な組み合わせを探る基礎データーとして本経験が活用され
る事を期待し、未達成である集塵分別機構のさらなる追求
で再資源化の一助につながるよう努力する。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
平和産業株式会社
◎所在地 : 〒 273-0024 千葉県船橋市海神町南 1-1544-10
◎担当者 : 鈴木 捨男
◎ TEL:047-435-2430 ◎ FAX:047-432-0787 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京農工大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 平和産業(株)
◎主たる研究実施場所 : 平和産業(株) 船橋工場
145
高出力ファイバーレーザ加工実現を目指した
高性能光部品の製品開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
電機機器に関する事項
機能の確保・高度化/性能・寸法の再現性向上
高度化目標
高精度・超精密加工対応/高効率化
研究開発の背景及び経緯
情報通信機器の小型・高性能化を支える新しい加工技術
として、ファイバーレーザを用いたレーザ加工技術が注目
され、
近年著しい成長を遂げている。
しかしこのファイバー
レーザでは、被加工物からの反射戻り光があると動作が不
安定になり、場合によってはレーザの破損に至るという問
題があるため、反射光をカットする光アイソレータの使用
が不可欠である。
光アイソレータは、光の偏光方向が磁場によって回転す
るファラデー効果を利用した素子である。偏光の回転方向
は磁場の方向で決まり、回転角度は材料特性であるベルデ
定数、磁場強度、および光路長の積となる。ファラデー回
転角度が45度になるように長さもしくは磁界を調整した
ファラデー回転材料を、偏光方向を45度傾けた2枚の偏
光板で挟むことで、順方向には光を通すが、逆方向の光は
遮断する素子となる。
(図1)
本研究は上記課題の抜本的な解決のため、TGGに比べ
てファラデー回転特性やレーザ耐性に優れた新材料を開発
し、これを用いる事で小型・高性能の光アイソレータを実
現しようとするものである。
研究開発の概要及び成果
ファラデー回転特性改善のため、Tb濃度が高い材料系
を探索し、ベルデ定数がTGG対比1.25倍の材料を2種(結
晶A, 結晶B)と、1.5倍の材料を2種(結晶C, 結晶D)
、計
4種類の新材料を開発した。育成した結晶の外観写真を図
2に示す。
このうち結晶Bは既にφ50x80mmLの大型化を達成し、
PCI(Photothermal Common-path Interferometry)
法で評価したレーザ耐性も、TGG対比で20 ∼ 25%優れ
ていることがわかった。ハイパワー用途のファラデー回転
材料として有望である。
図 1 光アイソレータの構造と動作原理
現在、ファイバーレーザ用ファラデー回転材料として、
可視から近赤外で透明なTb3Ga5O12(TGG)が広く用い
られているが、この材料はベルデ定数が小さく、光アイソ
レータとして必要な結晶サイズや磁石が大きくなってしま
う問題がある。またハイパワー用途では発熱が大きく、大
掛かりな水冷機構が必要となるなどの問題もあった。レー
ザ加工機では、光アイソレータはロボットアームや加工ス
テージのガントリーなど可動部に設置されるため、これら
の問題は高速かつ高精細なレーザ加工を実現する上で大き
な障害となっている。
146
図 2 開発した新ファラデー回転材料
開発したファラデー回転材料を用いて、小型光アイソ
レータを試作した。図3に偏波依存型光アイソレータを、
ファラデー回転材料としてTGGを用いたものと、ベルデ
定数がTGGの1.25倍である結晶Bを用いたものとで比較
して示す。材料特性の向上により、φ26x86mm(46ml)
からφ22x71mm(27ml)への小型化が達成された。
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
切削加工
①光アイソレータ用新規ファラデー回転材料
ベルデ定数が従来のTGGに比べて1.25 ∼ 1.5倍と大き
く、光アイソレータの大幅な小型軽量化を可能とする新し
いファラデー回転材料4種類を開発した。現時点で得られ
ている諸特性は表1の通りである。なおベルデ定数は波長
1064nmにおける値であり、単位はrad/T/mである。
表 1 開発した新ファラデー回転材料
図 3 開発した小型光アイソレータ(Type-A)
さらにユーザーの使い勝手を考慮して、ファイバ結合型
の偏波無依存光アイソレータを開発した。外観写真を図4
に示す。本製品は、不要光の処理を筐体内部で行なうため
に、全体がφ40x125mmの放熱ケースに収納された形態
となる。偏波無依存で光源の制約が無いこと、またファイ
バーで光を入出力させるためレイアウトの自由度が高いこ
とが特徴である。
ベルデ定数
(@1064nm)
消光比
結晶サイズ
(現時点)
結晶A
∼ 50
>30dB
φ13×15mm
結晶B
∼ 50
>35dB
φ50×80mm
結晶C
∼ 60
>30dB
φ12×30mm
結晶D
∼ 60
>30dB
∼ 10×20mm□
TGG(参考値)
∼ 40
>35dB
φ40×60mm
②小型・高性能光アイソレータ
ファラデー回転材料として、ベルデ定数がTGGの1.25
倍である結晶Bを用いた光アイソレータ2種を開発した。
開発品の緒元は表2の通りである。
表 2 開発した小型 ・ 高性能光アイソレータ
種類
Type-A
Type-B
光入力 / 光出力
空間伝播型
ファイバー結合型
偏波依存性
偏波依存型
偏波無依存型
サイズ
φ 22 × 71mm
φ 40 × 125mm
挿入損失
<0.2dB
<0.2dB
アイソレーション
>40dB
>40dB
図 4 ファイバ結合型光アイソレータ(Type-B)
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事業管理機関名
公益財団法人やまなし産業支援機構
◎所在地 : 〒 400-0055 山梨県甲府市大津町 2192-8
◎担当者 : 野本 大貴
◎ TEL:055-243-1888 ◎ FAX:055-243-1890 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)オキサイド、(株)大田光学研究所
◎主たる研究実施場所 :(株)オキサイド
147
大口径シリコンウエハの極薄化に対応した
高精度切削加工技術の研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
その他の産業に関する事項
切削加工技術の応用拡大
高度化目標
新材料(ガラス等)加工対応
研究開発の背景及び経緯
半導体業界では、情報通信機器の小型化、高性能化、多
機能化等の進展により、半導体パッケージの3次元実装技
術の開発が進み、ウェーハを数十μmのレベルまで極薄化
して実装されている。また、生産効率の観点から大口径化
が進み、現在の300mmより、更に大型の450mmのウェー
ハの実用化に向けての研究が進められている。極薄化する
ほどウェーハは破損しやすいので、研削加工ダメージの除
去を目的としたストレスフリープロセスの導入が求められ
ている。現在、ウェーハの裏面の鏡面加工では、スラリー
研磨による高加圧方式が採用されている。しかしながら、
ウェーハ破損や配線へのスラリー染み込みなどの課題があ
る。更に、極薄ウェーハを研磨加工すると鏡面(10nm)
になりチップ強度は向上するが,ゲッタリング効果が失わ
れる課題が現れた。今後は、30μm以下の極薄ウェーハ
は、裏面の表面粗さを粗くしてゲッタリング効果を保ちな
がら、チップ強度を向上させる事が課題となる。
半導体業界が要望している大口径シリコンウェーハの極
薄化に切削加工技術を適用することによって、高精度で歩
留まり良い加工を可能とし、低コストを達成する。このこ
とが、日本の半導体業界の復活に結びついていくと確信し
ている。
研究開発の概要及び成果
本研究開発は、
前述の課題を解決するために、
極薄ウェー
ハの問題点であるウェーハの破損につながる衝撃を、衝撃
防止と低速・低加圧による研削により防止することを目的
としている。更にスラリーを使用しない純水加工による廃
液処理の削減でクリーン環境に貢献することも可能となっ
ている。
<従来技術の課題>
①ウェーハへのチッピングの発生
②ゲッタリング効果が失われる
148
③ウェーハ中心部に熱が集中するためチップ強度が低下
④スラリーの半導体パターンへの浸透
⑤高加圧によりウェーハに破砕層が発生
<課題解決の手段>
①衝撃防止砥石の開発
発砲樹脂砥石とビトリファイド砥石の配列化による研
削効率の向上を図る。
⇒課題①③の解決
②低速・低加圧用のポーラス樹脂砥石の開発
現在のスラリー研磨に代わる方法として、低速・低加
圧の研削・研磨を可能とするチップ強度の高いウェーハ
を実現するポーラス樹脂砥石を開発する。
⇒課題②④⑤の解決
③低速・低加圧用装置の開発
①②で開発した砥石での研削を可能にする、研削初動
面圧1kpa、砥石周速300m/minの制御を実現する。
⇒課題⑤の解決
研究開発の成果
砥石の開発に関しては、メゾテクダイヤ(株)がすでに
かなりの技術レベルを保有しており、ミクロ技研(株)が
中心に開発された砥石の実装実験を行い、目標として掲げ
た改善目標の大部分を完成させた(表1)。
表 1 開発テーマと目標、成果
開発された製品・技術のスペック
1.衝撃防止砥石の開発
セラミック系ビトリファイド砥石の開発
本砥石はセラミック系であり、従来は大気中で1300℃
にて焼成されていたが、ダイヤモンド砥粒の耐熱温度を下
回る1000℃以下の焼成技術を確立し、セラミック系ビト
リファイド砥石の開発に成功した(図1)。
新型砥石は、現在、市場で使用されているポリビニール
樹脂(PVA)砥石では実現できなかった高い研削効率を
実現しており(図2)、今後の製品化が期待される。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
3.低速・低加圧装置の開発
低速・低加圧用装置の開発では、新型機構の開発に成功
し、衝突防止技術、超低加圧制御技術を確立した(図5)
。
切削加工
図1 セラミック系ビトリファイド砥石
研削比比較
35
30
30
図 5 低速・低加圧機構
25
20
15
10
5
0
0.4
PVA砥石
ビトリファイド砥石
(注)
研削比:被削物の除去量を砥石の脱落量で割ったもの
図 2 研削効率比較
4.開発装置の評価
Si-ウェーハの薄板化技術
セラミック系ビトリファイド砥石と低速・低加圧機構で
ウェーハの薄板化実験を実施した。結果は、ウェーハ研削
量30μmに対して砥石摩耗量は0.7 ∼ 1μmであった。こ
の値は研削比:γ=30 に相当し、現状市場での最高レベ
ルと認識でき、従来のγ=0.3より大幅な改善を達成でき、
研究開発の有効性を確認できた(図6)。
2.低速・低加圧用ポーラス樹脂砥石の開発
メラミン砥石の開発
ポーラス樹脂砥石の開発においては、メラミン砥石の空
孔率:Br=10%の研削効率において最良であった(図3)。
破砕層の研削において良好な結果を得ている。
また、砥石の形状では円柱型の砥石(図4)の研削効率
が高いという結果が得られた。
図 6 外観写真
図 3 メラミン砥石
図 4 メラミン砥石(円柱型)
今回の研究開発において、スラリーレスの研削工程によ
る裏面研削加工の要素技術が確立できたと確信している。
事業化のためには多枚数での研削実績やダイシング後の歩
留まり評価を実施する必要があり、これらの実施にはユー
ザーとの共同歩調が必要になり、ユーザーの理解が今後の
カギとなる。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
ミクロ技研株式会社
◎所在地 : 〒 103-0015 東京都中央区日本橋箱崎町 18-11 MOC ビル
◎担当者 : 山川 昌則
◎ TEL:03-3668-8132 ◎ FAX:03-3668-8134 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 五島育英会東京都市大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): メゾテクダイヤ(株)
◎主たる研究実施場所 : ミクロ技研(株) 東京工場
149
環境対応型先進無人飛行機(UAV)
用
ジェットエンジンの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
航空機に関する事項
燃費向上/耐熱性向上/信頼性向上
高度化目標
高精度化/難削材(耐熱合金等)加工対応/新材料加工対応
図 5 切削高度化技術
研究開発の背景及び経緯
21世紀に入り10年間で2倍以上の成長を見せている無
人飛行機(UAV)用の、世界トップレベルの環境対応型
特性を持つジェットエンジン部品及びエンジンを開発する
ことを目的とし、高速高精度切削加工技術を用いて加工し
た新素材等の部品により、燃費、耐熱性、精度を向上させ
たエンジン部品を開発し、無人飛行機の完全国産開発に貢
献するとともに、最新技術の蓄積を行い、将来のエンジン
関連の産業集積に繋げる(図1 ∼図4)
。
図 1 無人空中輸送機
図 2 無人機飛行実験
図 3 圧縮タービン
図 4 排気タービン
研究開発の概要及び成果
各部品の精度、組合せ精度の向上には、小径工具を用い
て、①主軸の回転数を上げ、②切り込み量を浅くし、③送
り速度の高速化を図るための条件を研究し、工具に掛かる
負荷、熱を低減させて工具寿命アップさせることにより、
高速かつ高精度な部品の切削加工技術を実現させた(図
5)
。また、専用工具研磨機を開発し、それぞれの材質に
適した工具の開発を行い(図6 ∼図8)
、その技術を用い
て新素材や難削材の部品製作を行った(図9)
。
150
図 6 工具 3D1
図 7 工具 3D2
図 8 工具
図 9 インコネル部品
また、信頼性の向上のために、部品ごとの高精度化と同
時に、その部品がアセンブルしたときの性能や信頼性をエン
ジン試験装置により正確に評価し、加工技術にフィードバッ
クを行った。特にジェットエンジンのように組み込まれた部
品が動作してはじめて信頼性が評価できる製品では、アセ
ンブルの高精度化と評価技術、評価装置の確立が重要であ
り、今回その開発ループの構築を達成した(図10 ∼図12)
。
図 10 燃焼器
図 11 アセンブル
図 12 エンジン設計アセンブル
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
ジェットエンジンのコンピュータ制御を行う電子制御回
路、制御基板の信頼性向上のために、信号の電気的アイソ
レーションのための最新デバイスを用い、パワーデバイス
系素子の高効率冷却基板の採用を行った(図13 ∼図15)。
切削加工
図 18 評価装置
図 13 制御回路設計
図 14 制御基板
以上のようにジェットエンジンという高度な技術を集積
したシステムの製造に不可欠な基盤技術として特に切削技
術を中心に高度化を行い、パリエアショーにおいても海外
から高い評価が得られた。また、ジェットエンジンシステ
ムとして電子制御を含め世界最高性能を引き出す川下技術
においても、最高到達回転数の向上などの成果が得られた。
今後、ジェットエンジンのようなプロダクトの場合、中小
企業でもシステム化技術、川下技術の高度化は要求される
ことから、中小企業が川下技術の高度化まで挑戦し、我が
国の弱点となっている川下技術の高度化に挑むことが課題
となる。
図 15 高効率冷却基板
静音化技術についても、振動破壊や共振を防止しエンジ
ンの信頼性向上に大きく寄与するため、難溶接材のマグネ
シウム合金の溶接技術を多用する静音構造加工技術を開発
し(図16、図17)、切削加工・溶接加工等で加工された部
品の高精度アセンブル工程の開発と共に、エンジンを動作
させるための補機類・試験装置の開発と評価工程の確立を
行った(図18、図
119)
。
図 16 静音装置
図 19 評価試験
図 17 Mg 合金製静音装置エンジンマウント
開発された製品・技術のスペック
製品:NSPジェットエンジン
特徴的スペック:マグネシウム合金製タービン、
静音装置(30dB低減)(図20)
図 20 NSP ジェットエンジン
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人にいがた産業創造機構
◎所在地 : 〒 950-0078 新潟県新潟市中央区万代島 5 番 1 号 万代島ビル 10F
◎担当者 : 天城 和哉 ◎ TEL:025-246-0068 ◎ FAX:025-246-0033 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 国立大学法人新潟大学、(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業): YSEC(株)、(有)小林製作所、佐渡精密(株)、(株)ジェイシーエム
◎主たる研究実施場所 : YSEC(株)
151
高速レーザードライエッチング法の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
電機機器に関する事項
納期短縮/性能・寸法の再現性向上/面粗さ・精度の再現性向上/小型化
医療機器に関する事項
手術手技の簡素化(操作性向上)
高度化目標
電機機器に関する事項
微細加工対応/高精度・超精密加工対応/高効率化/非金属(ガラ
ス、樹脂等)加工対応
医療機器に関する事項
新材料(樹脂材料等)加工対応/高精度化/ドライ加工化
研究開発の背景及び経緯
微細切削加工は高密度、高精度な製品群やサービスのみ
ならず、ナノテクノロジーなど先端的研究分野を支える
バックグラウンドを形成し、今後とも世界のものづくり産
業をリードするのに絶対必要な要素技術である。難加工性
材料、複合材料などの先端材料は従来の機械的な方法では
精度の高い微細加工は難しい。また、大量の水やケミカル
による洗浄が必要なウェットプロセスは環境への配慮を要
求される時流とマッチしない上、
コスト面でも不利である。
物質の結合を直接切断するレーザー加工を用いると、熱的
な影響なく物質が昇華し、削面は精度の高い平滑面とな
り、切削くずも残らないため洗浄不要のドライプロセスと
なる。また複合材料においても、機械的加工と異なり、材
料境界面での加工条件の変化がなく、スムーズな加工を実
現できる。
フッ素樹脂は、医療用のカテーテルや次世代モバイル
機器の大容量内部配線に用いられる先端材料であるが微
細加工が難しい。高機能デバイスの性能を担保する上で
高精度なマイクロマーキングや微細導波路の描画が不可
欠であるが、この材料の結合エネルギーを切断するため
には波長300nm以下の光源が必要になる。さらに、ガラ
ス材料をターゲットにする場合、260nm以下の波長が必
要になり、従来の近赤外及び可視光の固体レーザーによ
る加工では到底実現できない。一方、エキシマなどの紫
外レーザーを用いたドライ加工は可能だが、装置が巨大
で運用コストも高い。
産業への適用性の高い光源としてファイバレーザーが登
場し、すでに金属加工などのパワーソースとして用いられ
ている。このファイバをベースにした紫外線レーザーの開
発により、安定な小型光源と高精度な加工が実現でき、医
療や通信に限らず、セキュリティ、マイクロエレクトロニ
クス等に大きな可能性を与える。
研究開発の概要及び成果
(1)概要と目標
ファイバレーザーをベースとした微細加工システムの
構築を目的とし、最終目標を「平均出力2W以上、波長
260nm以下のファイバベースのパルスレーザーを開発
し、これを搭載した微細加工システムを用いてフッ素樹脂
に対する加工性能を評価して結果を得る」とした。本研
究ではナノ秒ファイバパルスレーザーの波長を1030nm
にし、その第四高調波発生により、当初目標である波長
260nm以下の紫外線を得ることを主な目的とした。さら
に、ナノ秒パルス同様、ピコ秒パルスを平均出力20W以
上に増幅させたファイバレーザーを完成させ、パラメー
ターの自由度も大きく拡張させる。光源単体の完成度を実
用レベルまで高めることが重要な課題となる。
(2)成果
波長1060nm或いは1030nm帯の半導体レーザー(以
下、LD)を直接変調させる、或いは連続発振させて外部
変調したナノ秒及びピコ秒パルス・シード光源を新たに
構築した。前者の方式によりパルス幅5 ∼ 100ns、繰り
返し周波数50kHz ∼ 1MHzでチューニング可変な光パ
ルス出力を取得。また同方式のLD利得スイッチング動作
により、固定周波数にてパルス幅150psを取得した。一
方、後者の方式により、周波数可変にてパルス幅115ps
を実現した。次に、シード光源のパルス出力を2段のシン
グルモード及び1段のラージモードエリアファイバ増幅器
を構築し、波長1030nm帯(1025nm ∼ 1034nm可変)
の最大平均出力24Wのナノ秒及びピコ秒パルスファイバ
レーザーを実現した(図1)。比較的良好なビームプロファ
イルが得られている(図2)。
図 1 波長 1030nm 帯ファイバ増幅器の(a)ナノ秒及び(b)ピコ秒光パルス増
幅特性(典型例:D.C. 0.5%)
152
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
開発された製品・技術のスペック
ファイバパルスレーザーからの波長1032nmの出力を
アイソレーターに通した後、非線形光学結晶LiB3O5に集
光し、波長516nmの第二高調波光を得た(図3)
。発振器
パラメーターの微調整により、基本波平均出力19Wに対
して平均出力9.2W、変換効率48%を記録した。
図 3 波長 1032nm 基本波入力に対する 516nm 第二高調波光出力と変換効
率(1MHz,2ns)
次 に、 第 二 高 調 波 光 を β-BaB2O4に 集 光 し、 波 長
258nmの第四高調波光を得た。集光条件及び発振器パ
ラメーターの条件は開発期間内において最適化ができな
かったため、測定された平均出力は0.1Wとなったが、当
初の目標であった波長260nm以下の出力を得ることに成
功した。
切削加工
図 2 平均出力 20W 以上時の波長 1030nm 帯ファイバレーザーのビームプ
ロファイル(自社製ソフト Laser Eye Ver.3.0 使用)
(1)ファイバパルスレーザー
本 研 究 よ り、1030nmの 波 長 帯 に お い て、 平 均 出 力
20W以上の光パルス出力を得ることに成功した。一般的
な1060nm帯から30nm以上の短波長化に成功すると共
に、ファイバ増幅器の簡略化、及びパルスパラメーター可
変性拡張等の大幅なシステム改良を行い、実用化に大きく
近づいた。
今回新たに開発されたファイバレーザーの仕様は、
・波長:1025-1034nm可変/1032nm固定(狭線モード)
・パルス幅:5-100ns可変/120ps固定
・周波数:50kHz-1MHz可変/50MHz(ピコ秒モード)
・平均出力:>20W(100kHz以上にて)
安定性及びビーム品質をさらに向上させ、モジュールか
ら部品単位でのコスト検討より製品化が見込まれる。
(2)波長変換システム
ファイバレーザーシステムにおける波長1060nm帯か
ら1030nm帯 へ の ア ッ プ グ レ ー ド に 対 応 し、 波 長 変 換
ステージでは第二高調波及び第四高調波ステージの再検
証を行った。結果、第二高調波ステージでは最大平均出
力9W以上を記録した。第四高調波ステージにおいては、
260nm以下の目標波長を得ることができたが、出力にお
いては期間内に数値目標を達成することはできなかった。
第二高調波/第四高調波ステージで得られた仕様は、
・波長: 516nm/258nm
・パルス幅:2ns
・周波数:1MHz
・平均出力:>9W @516nm/0.1W @258nm
部品調達の関係より、一部1064nm専用の光学素子を
用いているが、今後はさらに1030nm用に部品を厳選し、
集光条件及び発振器パラメーターの最適化により、波長
260nm以下において目標出力2Wを取得する。本研究で
設計したレーザーヘッドにて搭載・実証試験を行い、光源
単体の最終的な評価を行う。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社メガオプト
◎所在地 : 〒 351-0104 埼玉県和光市南 2-3-13 和光理研インキュベーションプラザ 301
◎担当者 : 藤丸 達彦 ◎ TEL:048-469-3377 ◎ FAX:048-469-3332 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)メガオプト、日星電気(株)
◎主たる研究実施場所 :(独)理化学研究所 研究交流棟
153
難削材における次世代ベアステントの
製作に係る研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
医療機器に関する事項
生体適合性向上/低コスト化/カスタムメイド化
高度化目標
難削材(チタン等)加工対応/高精度化/複雑形状加工対応/
研削・手仕上げ工程の削減
研究開発の背景及び経緯
本事業の研究目的は難削材での小型複雑形状ベアステン
トの加工技術を確立し、日本の医療機器メーカーに最先端
素材で高品質なベアステントを安価でしかも迅速に提供す
る事である。ベアステントの確立によって、日本の医療機
器メーカーは海外製品を凌駕する生体適合性を高めたコー
ティングや、再狭窄防止薬剤を湿布した安全かつ高性能ス
テントの供給が可能になる。また、NiTiの超弾性を活用し
た世界初の新機構を組みこんだ全く新しいステント開発に
も寄与できる。
最近のニュースとして、A社が過去圧倒的シェアを誇っ
ていた薬剤コーティングステント(DES)を留置してい
た患者に、
致命的なトラブルが起き問題となり、
一気にシェ
アを失った。一方、競合他社のB社はフルオポリマーと徐
放性の薬剤コンビネーションでシェアを広げ、他社と異な
り円形ワイヤーを屈曲させ、一部溶接によって構成したス
テントで、好成績を挙げている。
当社グループの川下企業ではフッ素を含んだ極薄DLC
のコーティングを主体に研究を進め、動物実験においてそ
の2社に負けない好成績を上げている。
先ず、第一の目標であるSUS316L冠動脈ベアステント
(図1)量産技術の確立の背景としては、過去の研究成果
による精度と表面の仕上がりが川下業者から評価され、現
在、動物実験を経て臨床実験に向けた量産化へのプランを
進めている事がある。
第二の目標であるCoCrベアステント技術確立に関して
は電解研磨までの基礎技術は今までの研究で確立している
が、より繊細な設計のステントに対しても、レーザー加工
で実用化レベルの形状公差±5μmまでの安定した精度確
立を目指した。また、電解研磨後の面粗度もRa0.05以下
(SUS316Lと同じレベル)まで高める事を目指した。
第三の目標、NiTiベアステント技術確立(図2)に関し
てはレーザー加工と熱処理(拡張)までは研究が進んでい
たが、安定供給に対応できる技術確立までは至らず、研究
途中であった為、
今回の研究ではその技術確立を目指した。
154
研究開発の概要及び成果
第一目標のSUS316Lベアステント量産化の技術確立で
は、上市に向けた量産計画に対応する研究として、レー
ザー加工精度安定化と、加工時間短縮の低コスト化、ドロ
ス除去方法の等の品質安定化、電解研磨処理での面粗度の
安定化を行い、満足できる結果を得た。図1は量産試作で
のSUS316L冠動脈ステントの拡大写真である。レーザー
加工から電解研磨まで、高効率、高品質の下、量産が可能
となった。
12mm 長 外形φ 1.5t = 0.1
拡大写真
図 1 量産試作でのステントの仕上がり
第二の目標、CoCrベアステント加工技術も、電解の均
一性において問題が生じたが、解決法も見つかり、同軸複
合型ステントの開発に寄与した。
第三の目標、NiTiベアステントの加工技術は、本研究で、
アシストガスの選定と、ドロス除去、熱処理、電解研磨の
技術確立を行い、川下業者から依頼があるNiTiを使用した
全く新しい発想での胆管ステントをターゲットとし、プロ
トタイプを製作した。
同時に別の川上業者からもより繊細なNiTi抹消血管用
ステントの検討依頼も有り、より高度な物での加工条件と
仕上げ方法を詰め、ほぼ世界水準と並んだ。
図2は胆管ステントのNiTiの骨格であり、電解研磨も問
題がなく各素材のステント製造の確立とその評価試験機を
作成し品質保証を強化、信頼できる物とした。図3はNiTi
胆管ステント設計で、CAEを用い、集中応力の分散化の
図である。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
電解研磨仕上げ後、
骨格完成
拡大写真
顕微鏡の改良と応用に注力し成果を得た。図4から図6は
ステントの各種機械的強度と効率の良い目視検査が出来る
自社製ヘッドが付加されたデジタル顕微鏡である。
切削加工
熱処理拡張後 外形φ 11
コントローラー
加圧チャンバー
図 4 半径方向剛性加圧試験機
レーザー加工後 外形φ 3.5
図 2 胆管ステント骨格の各工程
図 5 半径方向潰れ
加重測定器
図 6 目視検査用顕微鏡
(ワーク回転ヘッド付き)
開発された製品・技術のスペック
図 3 応力解析 集中応力の分散設計
日本のステント開発は、
大きく欧米から遅れているため、
物理的評価をする機関が少ない。幸い東北大学由来のベン
チャーである、(株)クリノ社は、米国では標準とされる
拍動耐久試験機や、中心方向剛性測定器などを有し、ご協
力を得ながら標準規格に沿った評価を進めた。一方全ての
評価を委託する事は、費用と時間が掛かるため、自社内で
ある程度の評価が出来るよう、簡易的測定器の開発も行い
実用化した。
特に量産性と品質の安定性その評価の方法の確立を目指
し、同時に機械強度測定機や高効率目視検査のための光学
1)冠動脈用SUS316L STENT
面粗度:Ra0.05以下、寸法精度:±5μ以下
2)同軸複合型CoCr STENT
面粗度:Ra0.05以下、寸法精度:±5μ以下
3)胆管用NiTi STENT,末梢用NiTi STENT
レーザー加工、拡張、表面処理技術確立
4)STENT応力解析方法確立
5)STENT物理的評価装置開発
①半径方向剛性加圧試験機
②半径方向潰れ加重測定機
③目視検査用顕微鏡
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事業管理機関名
タマチ工業株式会社
◎所在地 : 〒 140-0013 東京都品川区南大井 4-10-2
◎担当者 : 高松 賢介
◎ TEL:03-3762-5591 ◎ FAX:03-3766-6731 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京工業大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)エミック
◎主たる研究実施場所 : タマチ工業(株)
155
ピコ秒レーザーによる
多次元微細パターン加工技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
電機機器に関する事項
納期短縮/性能・寸法の再現性向上
高度化目標
微細加工対応/高硬度材加工対応/付加加工及び除去加工の複
合化(レーザー加工及び切削加工の複合化等)
研究開発の背景及び経緯
情報家電機器の高度化に伴い、特に電子制御系を内蔵し
た部品、パーツが増加しつつある。また、高解像度デジタ
ルカメラ、携帯用カメラあるいは測定・分析機器の分野に
おいても、種々の光学素子における高精度化が要請されて
おり、例えばDOE(Diffractive Optical Element)のよ
うに、
光学設計した微細パターンを転写できる金型
(マザー
ツール)も必須となっている。これらの微細加工では、要
請される形状寸法精度がきわめて高いことに加え、2次元
的な周期構造テクスチュア・高アスペクト比加工を求める
3次元パターンの加工が不可欠となる。これまでの機械加
工や化学的処理では、これらの要件には対応できず、レー
ザー加工での対応が期待されている。
上記に呼応して、最近では多くのレーザー媒質の発見、
波長変換技術・短パルス化技術の発展により、
微細加工(超
微細加工)を含めたマイクロ加工法の可能性が見出されて
来た。しかし、図1に示すように、短波長レーザーでは、
熱影響による形状不整が生じ、材料によっては加工不能と
なるなど技術的課題も多い。短パルスレーザーとしてピコ
秒レーザー、フェムト秒レーザーが発表されているが、そ
れらの発表事例は、生産レベルの精度と加工特性を実証で
きる産業界向け量産化技術には未だ達していない。
低アスペクトなどの課題を明らかにし、そのための解決
策を検討してきた。その中で、ピコ秒レーザーの位置制
御機能と光学系最適設計を進めることで、単なる1次元加
工のみならず、周期的構造をもつ多孔パターン加工およ
び3次元的なパターン加工の可能性をも見出した。その過
程で、産業技術総合研究所が有する極短パルスレーザー
加工用の光学系設計法ならびに芝浦工業大学が有する2次
元・3次元パターン形成技術とその転写技術(特願2009
−094693「光学素子用成形型及びその製造方法」
)が重
要であることがわかった。そこで、本研究開発において、
LPS社・芝浦工大学・産総研がコンソーシアムを組織し、
当該研究開発を開始した。
研究開発の概要及び成果
1)微細ピンホール加工、高アスペクト(孔径に比較して
深い貫通孔)孔加工などの1次元加工
レーザー光のエネルギー分布の結果として、半ば必然的
に生じるレーザー入射側の形状不整も、犠牲コーティン
グを用いることで、図2のように解消できた。加えて回
転切断面の入射側不整も解決できた。
図 2 窒化珪素における改善事例
さらに、プローブに不可欠なマイクロバネもこの技術を
援用することで、図3のように実現できる。
図 1 従来の孔加工例
株式会社リプス・ワークス(以下、LPS社)は、主と
してラボスケールで利用されている極短パルスレーザーの
中で、生産加工に応用可能なピコ秒レーザーを選択し、独
自の光学系・位置制御系を整備した。極短パルスレーザー
による生産レベルでの加工特性評価を開始し、ピコ秒レー
ザー単一孔加工(1次元加工)における、表面形状不整・
156
図 3 螺旋形状加工品の外観写真
2)電子回路の直接加工描画、周期溝パターン、周期孔パ
ターンなどの2次元加工
多数孔の高精度・高速加工の確立を目指し、顧客から
サンプル指定されたマシナブルセラミックス(t=
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
0.25mm)にΦ0.035mmの周期的孔構造を施し、1μ
m以下の精度を実現した。測定結果を図4に示す。
開発された製品・技術のスペック
1)ピコ秒レーザー位置制御装置の開発
切削加工
図 4 周期的孔構造測定結果
3)フレネルパターンなどの回折格子パターン、DOEなど
の3次元加工
機械的な除去加工では扱えない脆性なグラッシー・カー
ボン基材へ、深さ10μm、ピッチ35μmのV字マイク
ログルーブを形成した(図5)
。
2)1次元加工高精度化の目標値と達成値
(μm)
0
(μm)
−2
−4
−6
−8
−10
−12
図 7 ピコ秒レーザー位置制御装置
25 50 75 100 125 150 175 200 225 250 275
項 目
研究着手前
研究の目標値
達成値
レーザー入射側の
ダレ
10 ∼ 15μm
5μm以内
3μm以内
材料により多少の
差異が生じている
孔精度
真円精度2μm
1μm
1μm
1μm以下
1μm
回転切断面の平滑 らせん溝のダレ、
度
欠け2μm
図 5 グラッシーカーボンへのマイクログルーブ
4)2次元ならびに3次元パターン形成した型から素材へ
のモールド成形転写
3)で形成した型を用い、CNC制御マイクロプレスにて光
学プラスチック材に転写成形することに成功した(図6)。
3)1次元加工高速化と2次元孔配置の高再現性の確立
項 目
研究着手前
研究の目標値
達 成 値
孔加工速度
12秒/孔
5秒/孔
6秒/孔
多孔加工の
位置誤差
100孔加工時
孔ピッチ誤差
±5μm
最大ピッチ誤差
±7μm
孔ピッチ誤差
±2μm
最大ピッチ誤差
±5μm
孔ピッチ誤差
X=2.2μm
Y=2.2μm
最大ピッチ誤差
X=2.7μm
Y=3μm 図 6 マイクログルーブへの転写成形
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事業管理機関名
財団法人理工学振興会
◎所在地 : 〒 226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 番地
◎担当者 : 泉 洋一郎 ◎ TEL:045-921-4391 ◎ FAX:045-921-4395 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 芝浦工業大学、(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)リプス・ワークス
◎主たる研究実施場所 :(株)リプス・ワークス
157
高品質シリコンウエハの安定供給のための
加工技術と検査技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
切削加工
川下の抱える課題及びニーズ
その他の産業に関する事項
切削加工技術の応用拡大
高度化目標
新材料(ガラス等)加工対応/高精度化
研究開発の背景及び経緯
シリコンウエハの薄型化は大容量の半導体開発を優位に
し、その加工技術は今後ますます重要になると考えられる。
しかし、現在のシリコンウエハの薄型化の加工にはいまだ
課題があるのも事実であり、この課題解決を図ることによ
り、世界をリードする加工技術を生み出すことができる。
現状の加工過程の課題として、第一に硬質のダイヤモン
ド砥石による加工であるため、シリコンに割れや傷が発生
し易いということがある。また、最終加工をエッチングに
よる化学研磨に依存しているという点も解決しなければな
らない課題である。劇毒物を使用してのエッチングは人命
に関わる危険な作業であり、無害化設備や薬液処理などで
莫大な費用も必要となっている。現在は、要求されている
ウエハ厚さがそれほど高くないので、現状の製造技術で何
とか対応できているが、今後は更なるウエハの薄さが要求
されることは必至である。しかし、現行の加工法ではウエ
ハの薄膜化への対応が難しく、更に生産コストの低減にも
限界がある。本研究ではこうした課題解決の方法として、
最終工程のダイヤモンド砥石(#2000)に置き換えられ
る研磨工具の開発を目的とした。更にこの工具は、劇物・
毒物を使用するエッチング工程の鏡面加工を代替すること
も必要となる。
また従来からの課題としてウエハの検査があった。川下
企業への高い信頼性を得る上でも、出荷時の検査体制を充
実しなければならない。そのためには少なくともサブミク
ロンレベル(目視では不可能)での欠陥チェックを行う必
要がある。
このようにウエハ薄型加工の新技術と検査技術の開発は
高精度、高品質を保証する重要課題である。本研究におい
てこれら課題を解決することにより、シリコンウエハの薄
膜化に対して次世代の加工技術を生み出すことができる。
158
研究開発の概要及び成果
半導体シリコンウエハの加工において良品を安定して提
供するため1.「シリコンウエハ研磨用『炭』砥石の開発」
と2.「ウエハ表面検査装置の開発」を行い、以下の成果が
得られた。
1.『炭』砥石の開発
(1)シリコンウエハ研磨用『炭』砥石の開発の成果
①砥石開発では炭の研磨材(砥粒)としての可能性を発見
し、炭砥石を開発した(図1)(表1)。
②炭は粉砕で粒径は小さくなるが、やがて寸法効果により
一定値に近づく傾向を示す。これが砥粒としての粒度
(粒
径)と考える。
③炭は破砕を繰り返して、粒径が小さくなっても、その
シャープさが保持される。そのため切れ味は期待できる。
④研磨材としての加工範囲は狭く、今回用いた木炭では普
通砥粒の粒度2000番以上の仕上げ加工用に適する。
(2)「炭」砥石を用いた研磨実験の成果(図2)
①最適な加工条件により表面粗さRa=2nm程度までの面
に仕上げることができた。これは鏡面に仕上げられて市
販されているシリコンウエハに近い値である(図3)
。
②スピンドル回転数が2000rpm以上であれば鏡面に仕上
げることが出来る。
(3)ウエハダメージの分析結果の成果
①斜め研磨法を用いた評価方法」と「ラマン分光分析を用
いた評価方法」の評価結果はどちらも従来加工品と比較
してほとんど差異がなく高品位の仕上げ面が得られた。
②3点曲げによる抗折強度試験からも従来のエッチング後
のウエハと比較してほとんど差異はなく、同等の抗折強
度があり、ダメージは深く入ることは無い。
2. ウエハ自動診断装置の開発(図4)
①傷平均値幅50μmの傷において周速300mm/sまでは
100%の傷検出率が得られた。(図5)
②半 径 約30μmの ポ イ ン ト ス ク ラ ッ チ に お い て 周 速
50mm/sで100%の検出が可能。(図6)
(図7)
③非接触で触針式表面粗さ計と同等の測定ができた。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
開発された製品・技術のスペック
4)ウエハ診断装置(図4)
1)炭砥石(図1)
切削加工
表 1 炭砥石各種データ
図 4 診断装置
5)傷サンプルとオシロ波形例 周速と傷検出率の関係(図5)
図 1 多刃炭砥石
2)使用した平面研削盤とシリコンウエハ研磨の様子(図2)
図 5-1 傷サンプルとオシロ波形例
図 5-2 周速と傷検出率の関係
6)ポイントスクラッチとオシロ波形例
周速とポイントスクラッチ検出率の関係(図6)
図 2-1 平面研削盤
図 2-2 研磨の様子
3)炭砥石を用いて研磨前後のシリコンウエハ表面形状(図3)
図6-1 ポイントスクラッチとオシロ波形
図 6-2 ウエハ周速とポイントスクラッチ
検出率の関係
7)粗さ波形例と粗さと出力電圧の関係(図7)
図 7-1 粗さ出力電圧関係
図 3 表面形状
図 7-2 粗さ波形
今後は、レンズ、ガラス研磨等の応用可能性検討を進め、
研磨業界の進展に献見する。
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事業管理機関名
公益財団法人やまなし産業支援機構
◎所在地 : 〒 400-0055 山梨県甲府市大津町 2192-8
◎担当者 : 丹沢 竜介
◎ TEL:055-243-1888 ◎ FAX:055-243-1890 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 山梨大学、山梨県工業技術センター
◎主たる研究実施場所 : アポロ電子(株)
159
色素増感太陽電池用色素の化学合成プロセスの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
高機能化学合成
川下の抱える課題及びニーズ
太陽電池に関する事項
色素増感太陽電池の高性能化、集積化、薄膜化、生産要素技
術開発
高度化目標
高変換効率性、高内部量子効率性、長波長領域の光吸収選択性、
金属配位能、耐熱性、耐久性の向上(主に増感色素を対象とする。)
研究開発の背景及び経緯
色素増感太陽電池は、シリコン太陽電池に比べて、製造
時のエネルギー消費量が低く、プラスチックシート材料に
よる変形可能なフレキシブルなセルを製造することができ
る。そのため、シートロールを材料とした連続生産プロセ
スでは大幅なコストダウンが見込まれており、次世代太陽
電池として実用化に向けた研究開発が活発となっている。
従来、増感色素は国外の技術であるグレッツェル研究所
のルテニウム錯体を光吸収材料としたルテニウム系色素が
一般的であるが、希少金属である点や国外の特許による制
約等から普及に耐えるだけ十分に安価ではなく、輸入材料
(資源)であるため供給量も限られるのが現状である。ま
た、この色素は電解液として低沸点の有機溶媒を用いてお
り、揮発性の問題から現状では耐久性の低いものとなって
いる。一方、産業技術総合研究所では、その問題を解決す
るため、電解液として難揮発性のイオン液体、イオンゲル
を用いることに着目し、新規の分子設計技術から高効率を
維持したまま高耐久性を有するカルバゾール骨格の有機増
感色素MK-2を提案した。しかし、この有機増感色素は高
耐久性かつ低コスト生産の可能性があるにもかかわらず、
現在の化学合成プロセスでは市場の要求に十分応えるだけ
の高品質化、
低コスト化が実現していないのが現状である。
そこで、本事業では、こうした色素合成の課題を解決す
る有力な手段として高温高圧水マイクロリアクター合成法
を実用化し、高選択率・高収率かつ迅速反応、低排出物が
期待される製造プロセスを開発することとした。
すなわち、
高性能の有機増感色素を低コストで安定に供給できる生産
要素技術の確立を目指した。
(低コスト→原価を90%低
減、安定供給→1kg /月以上の生産技術を開発)
高温高圧水マイクロリアクターは産総研東北センターの
高効率コンパクト化学プロセスの開発(NEDO「ナノテ
ク・部材イノベーションプログラム/エネルギーイノベー
ションプログラム(革新的マイクロ反応場利用部材技術開
発)」)で得られた技術で、高温高圧水マイクロリアクター
のモジュール化、高精度な時空間制御、多段階反応制御な
どに係わる基盤技術が開発されている。
研究開発の概要及び成果
本事業では、工業化ベースの合成に関しては、目的生成
物を高選択率・高収率かつ迅速に得られる高温高圧水マイ
クロリアクターを中心として鈴木カップリング反応に適用
するとともに、原料のボロン酸エステルも連続合成と精製
ができる化学合成プロセスを完成させて、高純度の有機増
感色素MK-2(図1)を合成した。
高温高圧水マイクロリアクターは高温高圧技術とマイ
クロリアクター技術との融合から生まれた連続式の化学
合 成 技 術 で あ り、 水 が 高 温 高 圧 状 態(150 ∼ 300 ℃、
15MPa以上)で有機化合物を溶解する、反応を加速する
という性質を利用して水を反応溶媒(図2)として用い、
マイクロ空間で化学合成を行う技術である。従来の有機溶
媒を用いるクロスカップリング反応と比較して高温高圧水
では2秒以内と高速に反応は完了する。
図 1 MK-2 の構造式
図 2 高温高圧水マイクロリアクターの特徴
図 3 化学合成プロセスのプロセスフロー
160
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
高機能化学合成
開発した化学合成プロセスの仕様(表1)とそれを用い
て合成した有機増感色素(MK-2)
(表2)のスペックを
示す。
プロセスの生産量は1kg/月であるが、高温高圧水マ
イクロリアクターのナンバリングアップ(リアクターの
チューブ本数の増加)により生産量の増加が可能である。
表 1 化学合成プロセスの仕様
図 4 高温高圧水マイクロリアクター装置
図 5 ボロン酸エステル連続合成・精製装置
本事業で開発した化学合成プロセス(図3)は、アリー
ルをハロゲン化して高温高圧水マイクロリアクターにより
クロスカップリングするプロセスと、原料であるボロン酸
エステルを連続的に合成して精製するプロセスにより構成
している。
高温高圧水マイクロリアクター装置(図4)は、主にハ
ロゲン化アリールとボロン酸エステルである基質と触媒、
高温高圧水を供給するポンプとオーブン内に設置したマイ
クロリアクターからなり、基質と触媒を高温高圧水にて迅
速に混合、
昇温させクロスカップリングさせる。
従来のバッ
チ合成で6∼8時間かかる反応を2秒以内で完了させるこ
とができ、反応率も98%以上となる。
ボロン酸エステル連続合成・精製装置(図5)は、連続
的にリチオ化、ホウ素化、エステル化反応を行うことがで
き、反応液の不純物の連続抽出、溶媒回収、濃縮と原料の
回収が連続自動で行うことができる。原料を回収して再利
用することによりボロン酸エステルの収率は90%以上に
なるプロセスとなっている。
合成した有機増感色素MK-2(図6)はモル吸光度が
高く、分子設計の自由度が高い、染色が速い(トルエンに可
溶)などの特徴を有し、変換効率はルテニウム系の色素
(N719)と同等の性能を示す。
表 2 有機増感色素(MK-2)のスペック
図 6 MK-2,MK-75,MK-1 の写真
図6のMK-75、MK-1もカルバゾールとチオフェンの誘
導体であり、同化学合成プロセスにて生産できる。
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事業管理機関名
綜研化学株式会社
◎所在地 : 〒 171-8531 東京都豊島区高田 3-29-5
◎担当者 : 山本 一己
◎ TEL:04-2954-3206 ◎ FAX:04-2954-3272 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業):綜研化学(株)
◎主たる研究実施場所 : 綜研化学(株) 狭山事業所
161
難圧延自動車鋼板等高級鋼材用生産技術に係る
熱間圧延油の混合状態高機能制御技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
熱処理
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
軽量化/高強度化/環境配慮
高度化目標
新材料に対応した熱処理技術の向上/熱処理時間の短縮及び省
エネルギーに資する技術の開発
研究開発の背景及び経緯
油圧延は、主として鋼板の熱間圧延時、板の入側から上
下ワークロールに、ワンスタンド約80L/minの水と油のエ
マルジョンを、ロール巾方向に5 ∼ 10 ヶのノズルからス
プレーし、圧延時の摩擦係数(μ)を下げ、ロールの寿命
延長・鋼板表面の品質向上・電力原単位の削減に不可欠の
ものとなっている。また最近の研究では、油圧延によって
高圧下圧延が可能となり、結晶粒の微細粒化が可能となり、
自動車鋼板など、高級鋼材の薄くて軽く、且つ、成形性に
富み、靭性のある鋼板が圧延出来るようになった。今や、
日本国内はほぼ100%、海外でも60 ∼ 70%の普及化が進
んでいる。しかし普及化に伴って、板噛み込み不良や、圧
延中のスリップ・ノズル詰り・水温変化による油付着量の
変化など様々なトラブルが発生している。油圧延は主とし
て、経験と勘に頼って行われており、トラブルが続発して
も、その解決に試行錯誤して多くの時間が費やされている。
トラブルは一旦発生すると、板の破断などライン停止に
発展する。頻発するノズル詰りは、鋼板の品質に影響を与
える。トラブルの大半は、現場要員が発見している。ロー
ルの摩耗は、油圧延の問題に大きく関係しており、システ
ムの定量的な管理は行われていない。日本の鉄鋼技術は、
世界の最先端を走っていると言われているが、油圧延の分
野においては、人海戦術が主流である。現在、油圧延をコ
ントロールするのは濃度のみで、これの高低は、メータリ
ングポンプの回転数を変えることで行われている。鋼種に
よって、頻繁に濃度は変更されているが、濃度管理の限界
が問われている。即ち、油は水温によって混合の具合が変
化し、水温が高くなると良く混ざり、低いと混ざりが悪く
なりロールに対する付着が変化する。混ざり過ぎると油の
粒子が小さく、付着は少なく、混ざりが悪いと各ノズルか
らアンバランスな濃度のスプレーが行われ、ロールの偏磨
耗が発生する。水温を一定にすることは、一部で行われて
いるが、莫大なコストがかかる。
本研究開発は、前述の如く解決されるべき課題が数多く
あることから、豊産マシナリー(株)はラボでの研究を重
ねた結果、濃度及びミキサー内での水と油の混ざり具合と
オリフィスサイズ、
付着量の関係グラフを作成した(図1)。
従来、濃度管理のみで行われて来た油圧延を、混合度で管
理すると、油の使用量が画期的に削減出来る可能のあるこ
とを、このグラフは示唆している。
162
図 1 濃度別付着量とミキサーオリフィスの関係グラフ
図1テスト条件:1.水量40L/min 2.水の硬度30(水
道水) 3.水温25℃ 4.油の濃度0.1% ∼ 0.4% 5.油合
成エステル+鉱油 6.気温18℃ 7.サンプル採取回数5回
8.ノズルピッチ200㎜ 9.ノズル数9 ヶ
油の削減量についてグラフから一例をあげると、濃度
0.1%、オリフィスφ7mmで、100mm角の鉄板への油の
付着量は16mgである。これをφ10mmのオリフィスを使
うと25.3mg付着する。従って、1.58倍に付着量は増加
する。25.3mgも付着量があるとスリップすると言うこと
であれば、0.1%の濃度は0.063%ですみ、その分、油の
使用量は少なくてすむ。また濃度0.3%、オリフィス径φ
7で圧延しているユーザーが、濃度0.2 %でオリフィスφ
10を使用することによって、付着量が35mgから38mg
となり、コストは、2/3に削減可能である。通常、年間5,000
万円程度の油を使用している会社は、1,650万円のコスト
ダウンが見込まれる。この値は、従来の油圧延の常識から
言うと、画期的な削減量である。
研究開発の概要及び成果
従来技術と新開発技術の比較
スプレーするエマルジョンを、水と油の比率、即ち濃度
の高低のみで管理する従来技術は、各ノズルからスプレー
されたエマルジョンのサンプルをセルで採取し、オフライ
ンで濃度計にかけて測定する方法で行われて来た。オンラ
インで、濃度を測定する技術も確立されていなかった為、
水の流量計と油の流量計が頼りであった。効果は、画面に
現れるロードセルの荷重低減のオシログラフによってのみ
検証される。これに対し、新開発技術は、ロールに対する
油の付着に密接に関係する水と油の混ざり具合(混合度)
を重視した技術で、光技術を利用して、混合度を数値化・
画像化するシステム(NEVIシステム)である。
新開発技術の目玉は、①油圧延の定量的管理と、②油消費
量の25 ∼ 37%の大幅な削減が期待出来る点である。
※ NEVI は、N= ナビゲーション ,E= エバリュエーション ,V= ビジュアラ
イゼーション ,I= インデックス、即ち、油圧延システムが正常に作動して
いることを画像で示し、且つ、阻害する要因を表示するシステムを表し
ている。
22年度採択
[一般枠]
表 1 濃度別混合度表
開発された製品・技術のスペック
熱処理
表1は、濃度別混合度表で、横方向はノズルの番号を表
している。混合度は、全て数値化されている。要素機器は、
バリアブルミキサー・ダイレクトセンサー・NEVIシステ
ムの3点である。これらの機器を荷重低減装置(図2)に
組込み、図3に示す混合度と摩擦係数の関係を得た。また、
下記関係データより最適混合度を見つけ出し、NEVIのデー
タベースを作成し、NEVIシステム(図4)を完成した。
図 2 荷重低減装置全景
図 3 混合度と摩擦係数の関係
図 5 ダイレクトセンサー
図 6 メカニカルミキサー
図 7 バリアブルミキサー
図 8 NEVI システムレコーダー
1.共通仕様
①最高使用圧力:1.0MPa,②常用圧力:0.7MPa at ミ
キサー入口,③流量:ワンヘッダー Max40L/min,④濃度:
0.1・0.2・0.3・0.4%,⑤水:水道水 ⑥油:SH-1M ⑦水温:25±3℃
2.パイロット
メカニカルミキサー(図6)/0.05 ∼ 0.3MPa(エアー)
バリアブルミキサー(図7)/DC1 ∼ 5V
3.ダイレクトセンサー(図5)の濃度別検出混合度範囲
0.1%: 3240 ∼ 7370,0.2%: 1620 ∼ 4430
0.3%: 1100 ∼ 2940,0.4%: 840 ∼ 2140
4.NEVIシステムレコーダー(図8)
a.各種パラメータを取込み、システム全体を画像処理する。
b.あるべき正常なシステムを画像化し、同時にエラー波
形も表示、原因究明の参考データを表示する。
図 4 NEVI システム
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事業管理機関名
公益財団法人千葉県産業振興センター
◎所在地 : 〒 261-7123 千葉県千葉市美浜区中瀬 2-6-1 WBG マリブイースト 23 階
◎担当者 : 大久保 雅一
◎ TEL:043-299-2653 ◎ FAX:043-299-3411 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業):豊産マシナリー(株)
◎主たる研究実施場所 : 豊産マシナリー(株)
163
軽金属材料及びプラスチックへの
水素フリー DLC 低温成膜技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
熱処理
川下の抱える課題及びニーズ
その他
環境配慮
高度化目標
新材料に対応した熱処理技術の向上
を強化した機能性水素フリー DLCを開発した。
最終年度である2年目には、パルス電圧に加えてパルス
幅や繰り返し周波数を最適化することで最大600nm/min
の高速成膜を可能にし、想定される実製品と同材料である
PET、CPP等のプラスチックフィルムへの成膜を行った。
さらに、事業化を目標に金属箔やプラスチックフィル
ムに連続成膜可能なフィルム巻取り式スパッタリング装
置を設計し、幅200mmのフィルムへの成膜に成功した
(図1)
。
研究開発の背景及び経緯
軽金属材料やプラスチックは、地球環境保全の観点から
各種部材の軽量化のために積極的な活用が期待されている
ものの、従来技術では熱による変形・劣化等の問題から耐
久性を向上させることが困難で用途が限られていた。
耐 久 性 の 向 上 に 効 果 が あ るDLC(Diamond-like
Carbon)も、高硬度のDLCは、高温で成膜する必要があ
るため基材との密着性が十分でなく、高硬度のDLC低温
成膜技術の開発が望まれていた。
本研究開発では、高密度プラズマを用いたパルススパッ
タリング法により耐久性能を飛躍的に向上させることがで
きる水素を含有しないDLCを低温プロセスにより形成す
る技術を確立した。新たに開発した技術では、処理温度が
低いことから、耐熱性に劣る軽金属材料やプラスチックへ
の成膜が可能である。成膜されたDLCについて各種特性
を評価し、その特長を活かした新たなアプリケーションの
探索も行った。
研究開発の概要及び成果
従来技術と新開発技術との比較
従来のDLC成膜技術では、低温処理、高硬度、表面の
平滑性の全てを満足する成膜法はなく、軽金属材料やプラ
スチックの変形・劣化のない高機能化処理は困難であっ
た。プラスチック表面に、熱変形なくDLCを成膜する技
術としては、例えばプラズマCVD法による水素を含有し
たDLCが挙げられるが、低硬度で耐久性向上には向かな
いという問題点があった。
本開発技術では新しい大電力パルス電源技術により、
カーボン表面に安定した超高密度プラズマ生成が可能と
なった。この大電力パルススパッタ法を用いた成膜装置で
は、低温で、表面が滑らかな高硬度水素フリー DLCが成
膜でき、軽金属材料やプラスチックに対しても変形・劣化
のない高機能化処理を施すことができる。
初年度にはパルス電圧の制御により成膜技術を確立する
とともに、ドーピングにより耐熱性、親水性、油中潤滑性
164
図 1 フィルム巻取り式スパッタリング装置
開発された製品・技術のスペック
本開発技術では図2に示す通りドロップレットのない高
品質なDLCが成膜可能である。また、パルス電圧等の成
膜条件の制御やドーピングによって機能性を付与でき、導
電 性 の 高 いDLC( 表1) や、 耐 熱 性 の 高 いDLC( 図3)
、
従来DLCと比較して酸素に対するガスバリア性に優れた
DLC(図4)を成膜することが可能になった。
22年度採択
[一般枠]
熱処理
図 2 新技術 DLC 断面の TEM 像
表 1 新技術 DLC の導電性比較
図 4 新技術 DLC のガスバリア性比較
図 3 新技術 DLC の耐熱性比較
本開発技術の市場としては、高硬度を活かした金型保護
膜や油中潤滑性が良いことを活かした機械系摺動部品の用
途の他、プラスチックへも成膜可能である点を活かし高機
能フィルムとしての利用や、レアメタルの代替材料として
の電極膜への利用が期待される。
特に今後世界規模での電気自動車や携帯電話の普及に伴
い需要の増加が見込まれるリチウムイオン電池の分野で
は、充放電時の発熱によるセパレータの劣化や、負極側で
析出した金属リチウムによるセパレータの損傷という問題
があり、セパレータ材料の開発や負極材料の改良が進めら
れている。本開発技術の高い導電性、耐熱性、高硬度を活
かし、耐熱性を維持したままセパレータ材料の高強度化を
行うことができ、セパレータ材料の損傷防止に効果がある
と考えられる。
今後の発展としては、更なるガスバリア性の向上により
有機ELなどフレキシブル電子デバイスの保護膜としても
応用可能であると考えている。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
JFEテクノリサーチ株式会社
◎所在地 : 〒 103-0027 東京都中央区日本橋二丁目 1 番 10 号
◎担当者 : 小川 厚
◎ TEL:03-3510-3438 ◎ FAX:03-3510-3475 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): ナノテック(株)、トーカロ(株)
◎主たる研究実施場所 : ナノテック(株)
165
低温プラズマ窒素イオン注入法による
低摩擦高耐摩耗駆動系部材表面の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
熱処理
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
環境配慮/低フリクション化
建設機械、工作機械に関する事項
環境配慮/低フリクション化
高度化目標
自動車に関する事項
工程短縮や高機能化を可能とする高度熱処理技術の開発/熱処理時
間の短縮及び省エネルギーに資する技術の開発
建設機械、工作機械に関する事項
工程短縮や高機能化を可能とする高度熱処理技術の開発/熱処理時
間の短縮及び省エネルギーに資する技術の開発
研究開発の背景及び経緯
近年の世界的環境負荷低減施策に伴い、輸送機械や建設
機械、産業機械、一般機械などの高効率化・省エネルギー
化・CO2削減は避けて通ることのできない課題となってい
る。例えば日本の自動車産業では、改正省エネ法に基づ
き、2015年までに自動車の燃費を23.5%改善すること
が義務付けられている。そのため、自動車メーカではエン
ジン車の性能向上に加えて、ハイブリッド車や電気自動車
の開発が進められている。中でも動力伝達機構の低フリク
ション化は、自動車の高性能性を損なうことなく省エネル
ギー化を図ることができるため、率先して取り組むべき重
要な課題である。自動車の場合、使用する燃料の約2/3は
摩擦や熱として損失している。もし、摩擦や熱の損失を抑
えることで、世界中で稼動している約5億台の自動車の燃
料消費を5%低減できた場合、その省エネルギー量は日本
全世帯の電気量の約半年分に相当する。したがって、高効
率化・省エネルギー化・CO2削減に対する部材間の摩擦摩
耗特性向上、すなわち低フリクション化の寄与は極めて大
きい。建設機械、工作機械においても、自動車と同様にエ
ンジン、動力伝達機構などを持つことから、高効率化・省
エネルギー・CO2削減におよぼす低フリクション化の影響
は非常に大きい。
ところで駆動系鉄鋼部材は、高強度、高耐摩耗などの高
機能化を目的とした浸炭、窒化、高周波焼入れなどの表面
硬化処理が適用されるケースが非常に多い。浸炭処理は高
強度を付与する一般的方法として、自動車の歯車、シャフ
トをはじめとする多くの構造部材に対して適用されてき
た。浸炭処理により、疲労強度、面疲労などは向上する
が、低摩擦、高耐摩耗については低フリクション化の観点
からさらなる特性向上が求められている。一方、窒化処理
により、摩擦特性、耐摩耗性は向上するが、材料や部材が
限定されること、強度が不十分であることなどにより、そ
の適用は限定されている。したがって、浸炭処理、窒化処
理それぞれの利点を共有できれば、部材の更なる高機能化
166
が達成できる。しかし、浸炭・窒化の連続処理は、焼き戻
し軟化による部材の性能低下を引き起こすという問題点が
ある。
このような背景を踏まえて、本研究開発では、川下の抱
える課題及びニーズである、
「環境配慮」
、
「低フリクショ
ン化」、の2点に着目し、「低温かつ熱拡散処理が不要」な
窒化処理について検討した。本研究開発の目標は、浸炭処
理材の性能を低下させることなく、窒化処理を行うことで
ある。
研究開発の概要及び成果
本研究開発では、
「低温かつ熱拡散処理が不要」な窒化
処理を行うために、低温プラズマ窒素イオン注入法を用い
た窒化処理技術の適用を行う。低温プラズマ窒素イオン注
入法の概略を図1に示す。
図 1 低温プラズマ窒素イオン注入法の概略
低温プラズマ窒素イオン注入法の特徴は以下の通りであ
る。
①工程の短縮
処理部材表面に直接窒素イオンを打ち込むことができる
ため、処理部材の前処理などが不要である。
②環境負荷が小さい
真空熱処理技術であるため、従来の熱処理手法と比べて
省エネルギー、低エミッション効果が非常に高い。加えて、
排出ガスは窒素のみであるため、環境負荷物質の排出がな
い。
③150℃以下の低温処理が可能
150℃以下の低温処理が可能であるため、処理部材の
焼き戻し軟化が起こらない。
22年度採択
[一般枠]
本研究開発は、いくつかの製品に対する実証試験段階に
ある。今後は、あらゆる対象実用品の用途、目的に応じた
処理条件の決定を行い、順次製品化を行う予定である。
熱処理
④複雑形状品の処理が可能
処理部材をプラズマアンテナとして処理材周囲に窒素プ
ラズマを発生させ、続いて処理材に高パルス電圧を付与す
ることにより、処理材表面に窒素プラズマイオンを注入す
るため、処理部材の形状に左右されない。加えて、材料組
成などの影響を受けない。
本研究開発では、以下の項目について検討した。
①低フリクション化
②耐摩耗性の向上
③環境負荷の低減
④量産処理
本研究開発において窒化処理した部材の摩擦特性評価結
果を図2に示す。浸炭焼入れのみと比較して、本研究開発
は摩擦特性が向上していることがわかる。窒化処理による
焼戻し軟化はほとんど起こっていないことから、浸炭処理
材の性能をほとんど低下することなく、摩擦特性の向上を
達成できることがわかる。また、摩擦試験後の摩耗痕を調
べたところ、30%以上の耐摩耗性向上(摩耗量比較)を確認
した。
歯車などの動力伝達部材に必要とされる耐ピッチング性
について、ローラーピッチング試験結果を図3に示す。接
触面圧の増加に伴い、浸炭焼入れのみは摩耗率の急激な増
加を示すが、本研究開発は摩耗率の増加が緩やかであるこ
とがわかる。これは本研究開発が高接触面圧化であっても
十分な疲労強度を有することを意味する。
図 2 摩擦特性評価結果
図 3 ローラーピッチング試験結果
開発された製品・技術のスペック
プラズマイオン注入法はその特性を活かしてDLCの成
膜なども行うことができる。本研究開発では、窒化処理だ
けでなく、DLC膜による各種摺動部品の表面特性向上も
行っている。DLCを成膜した金属繊維編成用編針の、編
成試験後の表面観察像を図4に示す。図より、編針表面に
ほとんど傷はなく、DLC成膜により表面特性が劇的に向
上することを確認した。プラズマイオン注入法は、編針の
ような複雑形状物に対しても均一に成膜できることから、
編針だけでなく他の摺動部品などの表面処理手法として、
あらゆる可能性を模索する予定である。
図 4 DLC 膜を適用した編針の表面観察像(編成試験後)
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
◎所在地 : 〒 135-0064 東京都江東区青海 2 丁目 4 番 10 号
◎担当者 : 小林 英二
◎ TEL:03-5530-2528 ◎ FAX:03-5530-2458 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(地独)東京都立産業技術研究センター、仙台高等専門学校
◎プロジェクト参画研究機関(企業): パーカー熱処理工業(株)
◎主たる研究実施場所 : パーカー熱処理工業(株)技術研究所
167
アルミ合金自動車部品耐久性向上のための
高密度プラズマ窒化技術開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
熱処理
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
高強度化
高度化目標
工程短縮や高機能化を可能とする高度熱処理技術の開発
研究開発の背景及び経緯
◆アルミ合金自動車部品の耐久性向上の要請
アルミ合金は、軽量化によって、車などの燃費やCO2排
出の大幅低減に大きく貢献をしている。
しかし、大きな課題として従来の鉄鋼材料部品に比較し
て、強度不足ならびに耐久性不足が認識され、広範なアル
ミ合金部品への高強度・高耐久性の獲得にむけての熱処理・
表面処理手法の確立が求められている。
その中で、アルミ合金の耐久性向上には、セラミックス
の中でも高硬度で熱伝導性の高い窒化アルミ(AlN)を利
用したプラズマ窒化によるAlN層形成が有効であるとの見
解が、表面処理の先進国ドイツにおいても共通化し、我が
国においても、多くの研究開発が1990年後半から鉄鋼の
プラズマ窒化とともに、アルミ窒化の研究開発がなされて
きたが、いまだ実用に至っていない。
◆プラズマによるアルミ窒化の課題
アルミ合金のプラズマ窒化は、素材自体が持つ窒化阻害
要因と装置や処理法から来る阻害要因の両方に対処しなけ
ればならない。
表面の酸化膜や処理雰囲気内に残る酸素や水分のため
AlN相の核生成速度は遅く、またAlN層中の窒素拡散係数
はきわめて低いため、窒化層形成速度は低く、既存のDC
プラズマ窒化装置で2μmのAlN層を得るには、
250ks(約
70時間)を超える長時間処理が必要となる。これらがプ
ラズマによるアルミ窒化の実用化を阻んでいる第一の課題
である。
これを解決するには、アルミ合金表面の清浄化(湿式前
処理+プレスパッター)に加え、AlN核生成促進・AlN層
成長促進に適したラディカル核種をプラズマシースから供
給する一連の技術が必要である。プレスパッター時の圧力
状態(20 ∼ 50Pa)からプラズマ窒化時の圧力状態(100
∼ 300Pa)まで、ワークを大気に晒すことなく一貫して、
安定に動作するプラズマ装置が求められる。ここに、従来
のプラズマ窒化装置から新しい原理に基づくプラズマ窒化
装置への変革の必要性がある。さらに開発するプラズマ窒
化プロセスには、高生産性・低コスト・高強度を目指した
アルミ窒化設計が必須である。
168
研究開発の概要及び成果
本事業の基礎技術は、アルミ合金中の析出相である
Al2Cuを窒化反応促進用のヘルパーとして利用し、比較的
低温でも従来のプラズマ窒化速度を飛躍的に向上させるこ
とにある。これを実現させるためには、広範囲の気圧で、
安定に作動し、しかもラディカル核種を維持できるような
精密制御のプラズマ装置が必要となる。
◆新開発の高周波プラズマ装置
従来のプラズマ装置は不要輻射電波(ノイズ)が多いた
め、ISMバンドでの固定周波数使用を余儀なくされている。
ノイズの出ない高周波装置では、使用周波数に制限はな
い。そこで、プラズマ発生に高周波自励発振器を用い、周
波数による整合と、プラズマ密度(高周波電力)とイオン
加速電圧(バイアス)とを個別に制御し、融合させる新し
い原理のプラズマ発生装置を開発した(図1)。
図 1 開発したプラズマ装置
比較のため、この装置による鉄鋼(SKD61)の窒化例
を示す(図2)
。従来のプラズマ窒化処理と同等、あるい
はそれ以上の処理結果を得ているばかりでなく、
高速応答、
精密、安定制御の確認ができている。
●材料 SKD61
●プレスパッター N2 30Paで約3分 ●窒化処理 N2/H2=7/3比率 100Pa 500℃ 4H
(プレスパッター、窒化処理は一連で行う。)
●化合物層の生成なし、 ●表面硬度 1300Hv 窒化拡散層60μm以上
図 2 開発装置による鉄鋼の窒化処理例
22年度採択
[一般枠]
図 3 A2011 材のプラズマ窒化
開発された製品・技術のスペック
開発にこぎつけたアルミ合金製品は、評価用サンプル
(φ
30、厚さ5mm)の平面形状であるが、すでに部品形状へ
の展開を行っている。条件によっては、まだ窒化された層
も一様でなく、より広範囲なプラズマ条件で実用化を進め
るには、さらなる補完研究が必要と考えている。現時点で、
アルミの耐久性向上の手法に大きな一歩を踏み出したと考
える。
熱処理
◆アルミ合金の窒化
研究論文あるいは先行特許では、特殊なアルミ合金に限
定した研究がなされているが、市販のアルミ合金種(たと
えばジュラルミン合金)に対して、プラズマ窒化を行い、
特にA2000級の高強度アルミ合金へのプラズマ窒化に世
界に先駆けて成功した(図3 ∼図5)
。
●処理条件 温度 450℃ 75Pa 4H N2/H2=
◆適用可能なアルミ合金のスペック
Mgを全く含まないアルミ合金に関しては、保持温度を
450℃とし、窒素 ‐ 水素比を10:4以上の高窒素条件で、
4時間保持により、表面硬度が900Hvとなる窒化層を作
成できる(図4)。図5にサンプル表面のXRD分析結果を
示す。
Mgを微少量含むアルミ合金に関しては、Mgの表面濃化
が生じないプロセス条件(低温、低DCバイアス条件など)
を最適化することで、400℃以下でのプラズマ窒化が可
能となる。
◆開発した装置の全スペック
図 4 A2011 の窒化処理後の硬さ試験
図 6 開発した装置のシステム図
図 5 A2011 合金の XRD
・チャンバー φ 500 x 560L 到達真空度 0.1Pa
・プラズマ 自励発振 2MHz 300W
・バイアス DC/AC 可 ・IH による微量蒸発機構 搭載(可)
・レシピによる全自動運転と記録
・ワーク台 200X200 MAX550℃
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
公益財団法人やまなし産業支援機構
◎所在地 : 〒 400-0055 山梨県甲府市大津町 2192-8
◎担当者 : 青木 秀明
◎ TEL:055-243-1888 ◎ FAX:055-243-1890 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 芝浦工業大学、山梨県工業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業): ワイエス電子工業(株)
◎主たる研究実施場所 : ワイエス電子工業(株)
169
マイクロ波励起ラジカルによる
選択的高速アニール処理技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
熱処理
川下の抱える課題及びニーズ
その他
高耐久性/高精度化/環境配慮
高度化目標
工程短縮や高機能化を可能とする高度熱処理技術の開発/新材
料に対応した熱処理技術の向上
研究開発の背景及び経緯
電気電子製造分野及びマイクロマシン等の精密金属部品
製造分野における製品の高機能・高付加価値化には、3次
元方向全てにわたるダウンサイジング化と材料限界をクリ
アするための材料及び加工に関するイノベーションがキー
となっており、これらを低コストで実現し国際競争力を維
持する必要に迫られている。
これらの分野では、製造工程において材料・部品の変性、
保護、加工工程にわたり熱処理工程が多岐に用いられてい
る。特にマイクロサイズを扱う電気電子製造分野における
配線形成工程、半導体製造工程、結晶化工程、精密金属部
品製造分野における材料変性工程、耐食化工程、表面処理
工程等においては、熱処理過程による熱歪、熱処理負荷は
製品の信頼性と生産性に大きく作用する重要因子である。
ここで用いられている従来の熱処理技術においての最大の
課題と限界は、熱処理をすべき場所を選択的に処理できず
雰囲気制御にて全体加熱するという手法をとる以外に方法
の無いことである。特に薄膜を表面にもつ技術分野でかつ
表面膜と下地材料が異種材料であり、特に下地基材に熱処
理負荷をかけられない複合素材分野への熱処理分野(例:
高機能フレキシブル樹脂基板表面薄膜への処理、マイクロ
マシン用超精密小型部品類表面への処理、樹脂表面めっき
への処理等。)において、薄膜には高い温度処理(400℃
以上)による保護膜形成、安定化処理、結晶化処理等が必
要であるが、基材や他の構造材料の耐熱性がないために工
程における熱処理条件の制限が生じてしまい、単純な製造
プロセスや製品設計では処理を実現できていない現状があ
る。また、
処理実現のための複雑な構造設計や高価な材料・
装置の使用は、生産性を上げられない大きな要因となって
いる。よって、熱処理すべき箇所や処理すべき表面のみが
加熱でき(=部位や表層のみの選択的な加熱)
、かつ秒単
位の高速昇温と秒単位の高速冷却ができる(=熱歪が生じ
ない)
、技術の実現とこの処理技術が多大なエネルギーや
複雑な装置や特殊な材料を使用せず、さらに環境負荷の無
い処理の実現が上記の分野において切望されている。
一方、我々は薄膜結晶化処理の研究において、マイクロ
波励起プラズマラジカルを用いた加熱方法に関して基礎研
170
究を行ってきた。その研究過程において金属薄膜表面に対
して秒単位の高速(秒単位)で高温処理(数百℃から千℃
近傍/材料依存性あり)が行え、かつこの現象は下地基材
の昇温がない表面のみの選択的なもので、材料存在箇所の
みへの選択的な加熱が実現できることを見出した。これら
の現象を研究・応用することにより従来は存在しなかった
「選択的な部分加熱プロセス」「母材への熱歪みや処理負荷
が少ない不動態形成プロセス」の実現が可能となり、上記
イノベーションとなり得ると我々は考えている。
研究開発の概要及び成果
従来技術との比較
本研究開発で達成しようとしている新規プロセス技術と
従来技術の比較を表1に示す。
表 1 開発技術と従来技術の比較
表1のような特徴を持つプロセスを実現するために、ラ
ジカル処理条件の最適化研究用装置及び実用化研究用試作
装置を開発し、種々の知見を得た。
図 1 不働態化タングステンの断面 SEM 像
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
熱処理
図1は本研究開発で開発した不働態化プロセス(処理時
間120秒)によるタングステンの断面STEM観察像である。
僅か120秒の処理で30nmもの厚さの不動態膜が形成され
た事が分かる。
図2は選択的加熱処理による温度プロファイルである。
図 2 Pt, Ge, Zn の選択的加熱処理プロファイル
このように金属(Pt)
、半導体(Ge)で異なる温度プ
ロファイルを示す事が分かる。また、Znにおいては自身
の融点を超えてしまっているため、プロファイルは意味を
なさないものとなった。
開発された製品・技術のスペック
今後さらなる改良を行うものの、上記成果を応用し暫定
的に今回得られた新規製造プロセスは、①金属の超高速不
働態化処理、②選択的加熱による半導体結晶化である。①
はφ150mm対応、10nm/分以上の高速不導体形成であ
り、②は半導体結晶化及びドープしたイオンの活性化を同
時に行うという特徴を持つプロセスである。②においては
下図1のようにn型で移動度μ= 22cm2/V・s p型で移
動度μ= 24 cm2/V・sと良好な結果を示している。
図 3 n 型半導体の特性
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事業管理機関名
特定非営利活動法人ものづくり支援機構
◎所在地 : 〒 403-0004 山梨県富士吉田市下吉田 4-15-10
◎担当者 : 羽田 功一
◎ TEL:0555-23-4780 ◎ FAX:0555-28-6003 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 山梨大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): フジ・エレック(株)、
(株)エス・エス・ティ
◎主たる研究実施場所 : 国立大学法人 山梨大学クリスタル科学研究センター
171
金型の熱処理における歪みの極小化技術の研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
熱処理
川下の抱える課題及びニーズ
その他
高精度化/短納期化
高度化目標
歪み予測、歪みばらつき抑制技術、歪みばらつき抑制予測技術の
向上/熱処理時間の短縮及び省エネルギーに資する技術の開発/
熱処理関連装置技術の向上
研究開発の背景及び経緯
自動車産業をはじめ電気機械、輸送機械、精密機械等の
我が国の製造業において、金属プレス加工品は主要部品と
なっている。
この金属プレス加工品は、
プレス用金型
(以下、
金型)
を用いて加工されており、
金型には高硬度、
耐久性(長
寿命)、高精度を具備することが必要である。このため金
型の硬度を制御する熱処理は必須な工程であるが、熱処理
された金型には、現状では最高レベルでもA3サイズで0.3
∼ 0.4mmの歪みが発生している。このため所望の金型精
度を得るために、熱処理後、平面出し研磨や加工部の微調
整を約2日要して行なう必要がある。
熱処理後は金型の硬度が高いため、平面出し研磨や加工
部の微調整の作業は困難を極める。高価で特殊な切削工具
を用いねばならず、また切削工具の消耗も激しく、製造コ
ストも上昇してしまう。また、産業廃棄物となる多量の使
用済み切削液を排出するため、環境への負荷も大きい。こ
の解決のため、工具メーカーは高硬度材加工に最適化した
工具の開発を行っているが、安価・高寿命な工具の実用化
には至っていない。このため熱処理後の工程(研磨・微調
整)を大幅に軽減できる技術開発が待ち望まれている。
本研究開発では、金型の熱処理工程において発生する歪
みを極小化させることで、後工程での加工(研磨・微調整)
を削減し、金型製造工程の納期短縮、低コスト化に寄与す
る。これにより、川下製造業者では、金型を使って生産す
る製品の精度が向上し、また納期の短縮が実現できる。
研究開発の概要及び成果
本研究開発では、プレス用金型の熱処理において生じる
歪みを極小化(0.01mmレベル)する技術の開発を行な
うものである。具体的には、最適な熱処理プロセスの開発
を行い、さらには歪み修正用の治具及び歪み修正炉の開発
と実用化の検証を行う。
(a) 全体
図 2 三次元測定機
(b) 正面
図 1 歪み修正炉
172
図 3 三次元測定機測定結果の例
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
焼入れ
温度
焼戻し
処理時間
従来の70∼73%
熱処理
従来方法:480∼510分
焼入れ
温度
うに従来は480 ∼ 510分であったのに対し、歪み修正炉
を使用した熱処理では350 ∼ 360分にすることができた。
歪み極小化の熱処理を行った金型の残留オーステナイ
ト、残留応力、形状の経年変化も調べている。残留オース
テナイト量と残留応力については、X線応力測定装置(図5)
により測定した。現在のところ大きな変化は発生しておら
ず、経年変化は小さいものとみられる。
焼戻し
開発手法:350∼360分
処理時間
図 4 熱処理所要時間の比較
(a) 測定部
(b) 解析部
開発された製品・技術のスペック
歪み修正では、0.03mmレベルまで歪みを安定して極
小化できた。本来の目標である0.01mmレベルには至っ
ていないが、かなり近いところまで極小化しており、表1
に示すように、熱処理後の工程での修正加工の削減や経年
変化の抑制に非常に有効である。そこで、この熱処理をⒼ
syoriと命名し、岡谷熱処理工業(株)にて、熱処理サー
ビスの提供を開始した。歪み修正後の歪みの量については、
SKD11鋼においてA3版サイズで歪み0.03mm以下を保
証している。
なお、今回開発した歪み修正炉は実験用であり、量産に
は適していない。今後、この装置についても量産タイプを
開発し、商品化することを計画している。
図 5 X 線応力測定装置
成果としては、まず歪みの極小化を実現した。歪み修正
治具を使用することで歪み0.01mmレベルを達成したが、
安定的ではなく、ばらつきがあった。今回開発した歪み修
正炉(図1)を用いた歪み修正では、歪を0.03mmレベル
(A3版サイズ)まで安定して修正することができた。ただ
し、金型の鋼の種類や大きさにより修正に差が出ている。
しかし、総じてその値は従来に比べてはるかに小さいもの
で、歪み修正の効果は大きい。なお、歪みは三次元測定機
(図2)
で測定しており、
高い精度で歪み修正を行っている。
図3は歪みの測定結果であり、歪み発生の状況を目で確認
することができる。
次に熱処理時間(焼入れ、歪修正、
(必要に応じて)サ
ブゼロ処理、焼戻し)の短縮が達成された。図4にあるよ
表 1 開発技術と従来技術の比較
今回の開発技術
従来技術
◎仕上げ加工(平面出し研磨及び微調整加工)
作業時間
数分∼ 2時間
半日∼ 2日
機械損
消耗 小
消耗 大
切削工具
消耗 小
消耗 大
電気量
使用量 少
使用量 多
切削油(産業廃棄物)
使用量 少
使用量 多
◎金型の研磨しろ(余裕肉しろ)
研磨しろ(A3サイズ)
0.03mm
0.3mm ∼
◎仕上げ加工に伴う残留応力の影響
残留応力
小
大
経年変化
可能性 小
可能性 大
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事業管理機関名
株式会社信州 TLO
◎所在地 : 〒 386-8567 長野県上田市常田三丁目 15 番 1 号
◎担当者 : 勝野 進一
◎ TEL:0268-25-5181 ◎ FAX:0268-25-5188 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 長野県工業技術総合センター、信州大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 岡谷熱処理工業(株)
◎主たる研究実施場所 : 岡谷熱処理工業(株)
173
鋼材の摩擦攪拌接合を実現する
革新的高安定 ・ 高効率装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
回転ツール
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
衝突安全性の向上/溶接品質及び信頼性の向上/製造コスト削減及
び短納期化/低ヒューム化等作業環境の向上
建設機械に関する事項
溶接品質及び信頼性の向上/製造コスト削減及び短納期化/自動溶
接化の推進/低ヒューム化等作業環境改善
発電、工業用等プラントに関する事項
製品の使用条件の高温化、極低温化、高圧化等高性能化ニーズへの
対応/安全性及び信頼性の確保/低ヒューム化等作業環境の向上
鉄道・船舶・鉄鋼構造物・橋梁等に関する事項
長期供用性の確保及び向上/製造プロセスの効率化等による製造コ
スト削減及び短納期化/低ヒューム化等作業環境の向上
航空・宇宙に関する事項
アルミニウム、チタン等の特殊合金溶接部の信頼性の向上/薄板化
に伴う薄板構造部材の溶接部の信頼性の向上/新材料(複合材採用
等)の接合技術開発と接合部の信頼性の向上
高度化目標
自動車に関する事項
機械的特性の向上(高強度化、長寿命化等)/難接合材(極薄板、
高張力鋼、高合金鋼、異種材料、差厚材料等)の溶接技術の向上/
溶接精度の向上(溶接歪低減)
建設機械に関する事項
機械的特性の向上(高強度化、高疲労強度化等)/溶接精度の向上(溶
接歪低減)/部品加工工数削減のための溶接技術の向上(低スパッ
タ化、補修レス化、高溶着溶接化、狭開先化、高エネルギー密度熱
源活用溶接利用化等)/低ヒューム化等作業環境の向上
発電、工業用等プラントに関する事項
機械的特性の向上(高強度化、高靱性化、耐クリープ特性向上等)
/溶接補修及び施工技術の向上
鉄道・船舶・鉄鋼構造物・橋梁等に関する事項
長期供用性の確保及び向上/製造プロセスの効率化等による製造コ
スト削減及び短納期化/低ヒューム化等作業環境の向上
航空・宇宙に関する事項
特殊合金溶接部に対する高信頼性溶接方法・溶材・非破壊検査技術
の確立/薄板構造部材の溶接部に対する高信頼性溶接方法・非破壊
検査技術の確立/新材料に対する高信頼性溶接・接合技術・非破壊
検査技術の確立
研究開発の背景及び経緯
摩擦攪拌接合は、図1に示すように、高速で回転するツー
ルと呼ばれる棒状の工具を被接合材に押し当て、その際に
発生する摩擦熱によって接合する方法である。被接合材が
溶けることなく、固体の状態で接合が行われるため、接合
部の強度が母材の強度を超えるなど、従来の溶接法と比べ
て種々の優れた手法を有し、1991年に開発されて以降、
種々の産業分野で急速に実用化されてきた。
しかしながら、実用化はほとんどがアルミニウム合金に
対するものであり、鉄鋼材料の摩擦攪拌接合に関しては、
主にツールの耐久性、寿命がネックとなり、いくつかの材
料で接合可能と報告されてきた程度である。
そこで本研究開発では、これまで困難とされた鉄鋼材料
の摩擦攪拌接合を実用化するために、高安定で高効率の摩
擦攪拌接合技術の確立を行った。
部
合
動
移
接
接合材
突合せ部
図1 摩擦攪拌接合
研究開発の概要及び成果
図2に示すように、回転ツールの加熱を抑制し、被接合
材の軟化のみを誘発する高周波誘導加熱を併用することに
より回転ツールに対する負荷を低減し、厚さ15mmまで
の鋼材を接合可能する摩擦攪拌接合法を確立した。
当初は、板厚に応じて周波数を20 ∼ 300kHzの範囲で
周波数を変更していたため、マッチングボックスを切り替
える必要があったが、最終的には、加熱効率を最適化させ
ることにより、1電源1マッチングボックスで2 ∼ 20mm
のすべての板厚に対応可能な100kW、100kHz高周波誘
導加熱システムを完成させた。本システムを用いると、上
述のすべて板厚に対して2秒程度で鋼材を赤熱させること
が可能である。
一方、スポット摩擦攪拌接合では、構造上、ツールを囲
うようなコイルを用いる必要がある。マッチングボックス
やコイル形状の最適化を行った結果、このよな形状のツー
ルにおいても、2mmの鋼材を4秒間で赤熱(約800℃)
させることが可能となった。
また、さらなる赤熱速度の向上のため、
「渦巻きコイル
+粉末コア」の開発し、2mm厚のSS400鋼材を2秒程度
で約800℃に赤熱させることに成功した。しかし、この
コイルには中央に穴がなく、回転ツールを挿入スペースが
ないため、図3に示すような、コイル駆動システムも同時
に開発し、赤熱後にコイルを移動させ、スポット摩擦攪拌
接合ができるシステムを構築した。
高周波加熱電源
加熱コイル
回転ツール
図2 高効率摩擦攪拌接合法
174
22年度採択
[一般枠]
①
擦攪拌接合用のツールは、渦巻きコイル+粉末コアのタイ
プである。
開発した高周波電源、マッチングボックス、コイルを用
いることによって、以下の仕様を満たすことが可能である。
②
③
コイルを移動
④
ツールの挿入
接合完了
図3 渦巻きコイル+粉末コアを用いた場合のスポット摩擦攪拌接合の流れ
溶接
コイルによる加熱
(1)マッチングボックスおよび電源を変更することなく2
∼ 20mmすべての板厚に対応でき、およそ2秒以内で
鋼材を赤熱させることが可能である。これにより、厚
板鋼材の接合や、従来の1.5 ∼ 2倍の高速化が可能で
ある。
(2)「渦巻きコイル+粉末コア」とマッチングボックス移
動機構を併用することにより、高効率なスポット摩擦
攪拌接合を実現した。厚さ2mm鋼材に対して、約2秒
間で赤熱が可能である。これにより、必要な荷重を大
幅に低減できる。
図4 渦巻きコイル+粉末コアを用いた場合の被接合材の加熱状況
図4は、「渦巻きコイル+粉末コア」を用いて、実際に
鋼材を赤熱させた状態であるが、2秒程度で十分に赤熱す
る様子が分かる。
また、摩擦攪拌接合およびスポット摩擦攪拌接合のいず
れにおいても、高周波を用いることによって継手の機械的
特性が低下することはなく、
母材破断する継手が得られる。
図5 (移動)摩擦攪拌接合用加熱コイル
開発された製品・技術のスペック
(1)摩擦攪拌接合用高周波誘導加熱装置(日新技研㈱)、
(2)加熱コイル(日新技研㈱)
図5および図6に、それぞれ摩擦攪拌接合用およびス
ポット摩擦攪拌接合用のコイルの外観を示す。スポット摩
図6 スポット摩擦攪拌接合用加熱コイル(渦巻きコイル+粉末コア)
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事業管理機関名
国立大学法人大阪大学接合科学研究所
◎所在地 : 〒 567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘 11-1
◎担当者 : 塩谷 崇
◎ TEL:06-6879-8679 ◎ FAX:06-6879-8689 ◎ E-mail:shiotani-ta@offi ce.osaka-u.ac.jp
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 大阪大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 日新技研(株)
◎主たる研究実施場所 : 日新技研(株)
175
車載固定抵抗器の高性能・高生産性化に資する
テーラードストリップ製造技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
溶接品質及び信頼性の向上/製造コスト削減及び短納期化
高度化目標
機械的特性の向上(高強度化、長寿命化等)/難接合材(極薄
板、高張力鋼、高合金鋼、異種材料、差厚材料等)の溶接技術
の向上/溶接加工品質安定化のための溶接条件等の最適化及び
溶接工程の高度化(溶接条件最適化、最適溶接条件探索の効率
化、溶接機器・装置の最適化、溶接治具レス化・溶接治具の知
能化等による溶接工程の高度化、補修レス化等)
研究開発の背景及び経緯
研究開発の背景
近年、自動車は電装化され、特に、ハイブリッドカーや
電気自動車および燃料電池自動車などにおいては、電装モ
ジュールの重要性が増している。モータ用等のモジュール
にあっては、固定抵抗器の構成要素である抵抗体と電極の
間の接合信頼性が問題となる(図1)
。
図 1 固定抵抗器概要図
金属抵抗材であるCu-Ni合金やNi-Cr合金などと、電極
材であるCuとの異種難接合材料同士の溶接には、電子ビー
ムを用いて突合せ溶接する方法が一部で採用されている。
しかし、電子ビーム溶接は高真空を要するため生産性が悪
く、溶融プロセスであるので材料の組み合わせによっては
接合品質の信頼性も低い。その上、連続帯板形状の接合材
料を得ることは、
設備コストの観点から実際上困難であり、
切り板の形状では順送プレス加工によって所定形状の固定
抵抗器を高能率に製造することができない。
上記の理由より、部品の信頼性および製造コストを低減
するため、固相接合法の一種である摩擦攪拌接合に着目し
た。
摩擦攪拌接合とは、回転しているツールをその軸が材料
面と垂直に(あるいは、数度の角度に)なるように押し込
み、ツールと材料の摩擦発熱で材料を軟化させ、ツールの
回転によって材料を攪拌(塑性流動)しつつ突合せ接合線
上を移動させることによって接合する手法である。摩擦攪
拌接合によれば、大気中で材料を加熱することなく接合が
できる。しかも、異種金属の溶融に伴う合金層や金属間化
176
合物層がほとんどできないので、幅広く各種の異種金属接
合に適用できる。従って、帯状の抵抗材料と電極材料を連
続的に突合せ接合して固定抵抗器用のテーラードストリッ
プを得る方法として、摩擦攪拌接合は最適である。
研究開発の目的と目標
本研究開発では、固定抵抗器用のテーラードストリップ
材を得る為に、摩擦攪拌接合法を用い、純銅およびマン
ガニンの3条接合材を得
ることを目的とした。ま
た、製作した3条接合材
は抵抗器としての性能を
満足するために、継手効
率75 % か つ、 内 部 欠 陥
のない健全な継手を得る
ことを目標とした。
図 2 摩擦攪拌接合法概要
研究開発の概要及び成果
最適ツール材質の開発
摩擦攪拌接合により、抵抗材料と電極材料を連続的か
つ高品位に接合できる技術を確立するためには、摩擦攪
拌ツール形状、材質、接合条件等の最適化が重要な開発
課題となる。ツール材質には、共同で研究開発を進めて
いる大阪府立大学で開発された、Ni基金属間化合物合
金を採用した。本材料は高い高温強度と耐摩耗性を示す
ため、摩擦攪拌接合ツールとして適正である(図3)
。
図 3 ツール材質およびツール形状
最適摩擦攪拌接合条件の開発
摩擦攪拌接合法は、既存の溶接法と比較して接合品質を
左右する要因が非常に多い。従って、それらの要因から最
適接合条件を決定することが、摩擦攪拌接合においては必
須となる。
最適接合条件の検討は、共同研究メンバーである大阪府
22年度採択
[一般枠]
立産業技術総合研究所と共同で接合試験を重ね、種々の接
合因子から最適接合条件を決定した(図4)
。
溶接
また得られたテーラードストリップ材より試作した、固
定抵抗器のサンプルを図6に示す。作製したサンプルのス
ペックは下記の通りである。
材質:純銅 2.0t × 37w
マンガニン 2.0t × 10w
継手強度: 209 [MPa]
継手効率:91 [%]
得られた試作材は、継手効率75%を十分に満足し、接
合界面に欠陥のない健全な接合材を得ることができた。
図 4 最適接合条件図
開発された製品・技術のスペック
本研究により開発された接合ツールおよび最適条件を用
いて作製された、テーラードストリップ材の外観および断
面観察図を図5に示す。
図 6 製品試作サンプル外観
また、川下企業において、特性評価を実施した結果、電
気特性においては電子ビーム溶接材と遜色の無い性能の継
手を得ることに成功した(図7)。
図 7 電気特性評価結果
図 5 試作品外観および接合断面図
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社特殊金属エクセル
◎所在地 : 〒 171-0031 東京都豊島区目白 1-4-25
◎担当者 : 田中 光之
◎ TEL:0493-65-4030 ◎ FAX:0493-65-3578 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 大阪府立産業技術総合研究所、大阪府立大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)特殊金属エクセル
◎主たる研究実施場所 :(株)特殊金属エクセル埼玉事業所
177
レーザ溶接数値化アルゴリズムでの
インライン判定システムの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
溶接品質及び信頼性の向上
高度化目標
溶接加工品質安定化のための溶接条件等の最適化及び溶接工程
の高度化(溶接条件最適化、最適溶接条件探索の効率化、溶接
機器・装置の最適化、溶接治具レス化・溶接治具の知能化等に
よる溶接工程の高度化、補修レス化等)/製造プロセスにおけ
る品質保証検査技術の高度化
図 2 モニタリング装置
研究開発の背景及び経緯
近年、精密加工が可能で周囲への熱影響が少ないレーザ
加工が産業界で利用されるようになり、板金・鋼管等の加
工をはじめ、精密微細加工分野へも適用されている。
特に、レーザ装置の大出力、高品質化に伴いエレクトロ
ニクス産業、自動車産業など様々な産業で普及が進んでい
る。
レーザ溶接は製造工程において重要な接合方法である
が、一方で溶接時には、材料の表面状態、溶接中の溶融部
の挙動、光学部品の劣化(汚れ)など複数の要素が溶接結
果に影響を及ぼし、溶接不具合が発生することがある。こ
のような不具合を検知するため、現状では目視による外観
検査や抜取りによる破壊検査などを行っている。このよう
な現状から、全数自動検査が可能な技術を確立することが
できれば大幅なコスト削減、
製品の信頼性向上につながる。
研究開発の概要及び成果
平成22年度は、溶接時の溶融現象に起因するレーザ反
射光、赤外光等の光を集光ユニット(図1)にて検出し、
予め設定した判定アルゴリズムにて良否判定を行うための
装置を開発した(図2)
。本装置を用いることによりイン
ラインで全数検査し、自動的に溶接ワークの溶接不具合を
検出することができる。ライン上流で不具合を検出するこ
と で ロ ス を 抑 え、
不具合要因を瞬時
に解析し、迅速な
溶接条件の再設定
が可能となるな
ど、高い生産性を
確保しながら、信
頼性の向上、低コ
スト化を提供する
図 1 集光ユニット
ことができる。
178
図 3 システム概略図
ここでは成果の一例として、図3のような装置構成によ
り、チタン材突合せ時の適応制御による溶接不具合の改善
について示す。
突合せ溶接時に微小な隙間が発生してしまった場合、隙
間の中心からレーザ光が通り抜けてしまうため入熱がサン
プル毎に不安定になり、溶込み深さが安定せず、また、入
熱が不十分なため、アンダーフィルが発生してしまう(図
4)
。そこで、隙間が埋まった瞬間に溶融部面積の急激な
図 4 試料断面写真
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
表1に装置の仕様を示す。本装置は溶接良否判定機能と
適応制御機能を併せ持った装置である。各種設定、波形表
示画面はiPad専用アプリ上で行うことができ、さらに無
線LANで装置本体との通信が可能であるため、設置場所
を取らず、使用者は容易に装置を扱うことができる。最
大4CHで測定できるため、反射光、赤外光(1300nm、
1550nmの2波長)、可視光の4種類の光を測定すること
が可能であり、あらゆる組み合わせで複雑な溶融現象をモ
ニタリングすることができる。サンプリング速度は最高1
μsで測定することができ、また、AD-DA処理時間(測定
から制御信号出力まで)が50μsと非常に高速で波形を処
理することが可能であるため、数ms程度の短いレーザパ
ルス幅であっても、プロセス中にパワーフィードバック制
御を行い、欠陥を未然に防ぐ、もしくは欠陥を修復するこ
とが可能である。
図 5 適応制御の有無と溶け込み深さ
溶接
増加に伴い赤外光強度が上昇することを利用し、レーザ初
期は低出力で照射し、隙間が埋まった段階で赤外光の上昇
を基に通常の溶接出力に上昇させることで、安定した溶け
込みが得られアンダーフィルの低減が可能であるか試み
た。実験の結果より、適応制御を行った場合、図5のよう
に溶け込みが安定し(標準偏差で半分程度のばらつき)、
図6のようにアンダーフィルも半分程度に低減することが
できた。
表1 装置仕様
図 6 適応制御の有無とアンダーフィル深さ
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
公益財団法人千葉県産業振興センター
◎所在地 : 〒 277-0882 千葉県柏市柏の葉 5-4-6
◎担当者 : 加藤 重良
◎ TEL:04-7133-0139 ◎ FAX:04-7133-0162 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 大阪大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(有)西原電子、(株)シャルマン
◎主たる研究実施場所 :(有)西原電子東葛テクノプラザ開発室
179
温度場制御技術による薄板構造物の
極低歪レーザ溶接方法の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
鉄道・船舶・鉄鋼構造物・橋梁等に関する事項
製造プロセスの効率化等による製造コスト削減及び短納期化
航空・宇宙に関する事項
アルミニウム、チタン等の特殊合金溶接部の信頼性向上/薄板化に
伴う薄板構造部材の溶接部の信頼性の向上
高度化目標
鉄道・船舶・鉄鋼構造物・橋梁等に関する事項
溶接精度の向上(溶接歪低減)
航空・宇宙に関する事項
特殊合金溶接部に対する高信頼性溶接方法・溶材・非破壊検査技術の
確立/薄板構造部材の溶接部に対する高信頼性溶接方法・非破壊検
査技術の確立
の薄板では溶接変形が過大となり高価な拘束機構や歪取り
工程が不可欠であった。その為産業界の薄板化要求にも関
わらず、板厚5.0mm以上のステンレス鋼板を使用してき
た経緯がある。
そこで、高エネルギービーム溶接法の中でも近年急速に
開発が進められているシングルモードファイバーレーザ溶
接技術(図2)を採用し、これによる薄板溶接技術の確立
と加熱・吸熱複数熱源による温度場制御技術の実用化に
よって、アーク溶接法では実現し得ることの無い極低歪な
薄板レーザ溶接技術の開発・高度化を目的としている。
研究開発の背景及び経緯
溶接技術は造船をはじめ、建築、自動車、航空宇宙など
さまざまな分野で活用されており、また現在も日々研究が
続けられている。数ある溶接方法の中でも今日最も広く使
われている溶接法としてアーク溶接法(図1)が挙げられ
るが、ステンレス建材や航空機用Ni基耐熱合金等の高付
加価値・低熱伝導度材料の薄板溶接においては、その入熱
量の大きさを原因とする著しい溶接変形のために産業界の
薄板化要求に応えることが難しく、溶接変形の矯正作業を
余儀なくされている。その結果、基盤技術である溶接の利
点が阻害されていた。
図 2 シングルモードファイバーレーザ溶接
研究開発の概要及び成果
本研究では、建材用薄板ステンレスH形鋼やジェットエ
ンジン部材用薄板円筒形Ni基耐熱合金の極低歪溶接技術
の開発を、図3の技術を用いて進めた。
従来技術
新技術
マルチモードレーザ
溶接/アーク溶接
溶接方向
シングルモード
ファイバーレーザ溶接
溶融池
溶接方向
溶融池
距離
加熱・吸熱複数熱源
図 1 アーク溶接法
建築業界の具体例として、肉厚5.0mm以下の薄板建築
用ステンレス形鋼については専ら溶接にて製造されてい
る。これは材料であるSUS304鋼は高価なこともあり注
文当りの使用量が少なく典型的な少量多品種生産が必要と
されている為、限られた種類の圧延形鋼を在庫して、注文
毎に必要に応じて溶接にて生産する方法が最も合理的であ
るからである。現在、溶接方法としてアーク溶接が採用さ
れているが、形鋼の長さが5Mにも及ぶ為板厚5.0mm以下
180
課
特
題
・溶接変形量大かつ薄肉不可⇒重厚、高価、外観劣
・歪取り拘束治具が複雑かつ高価
徴
・高エネルギー密度により溶接変形量極小で薄肉可能
→ 軽量、低価格、外観優秀
・歪取り拘束治具が不要or簡単で低価格
図 3 従来技術と新技術の概要
研究①:複数熱源溶接の数値解析とシミュレーション技術
の確立
溶接時の溶接変形シミュレーション技術を開発すると共
に溶接時の変形挙動及び温度分布を測定・解析することで、
22年度採択
[一般枠]
薄板構造物のシングルモードファイバーレーザ溶接の数値
シミュレーション技術を確立する事ができた(図4)
。
通常溶接シミュレーション結果
な加工方法を検討すると共にその溶接適用性を研究する事
で、ジェットエンジン部材へ適用する為の一知見を得るこ
とが出来た(図6)。
複数熱源溶接シミュレーション結果
溶接
通常溶接実験結果
複数熱源溶接実験結果
10
10
8
8
6
6
4
8-10
6-8
4-6
2-4
0-2
-2-0
-4--2
2
0
-2
-4
4
2
0
-2
1
2
3
-4
4
5
6
7
8
9 10 11
12 13 14
S4
15 16 17
18 19 20
21 22 23
24 25 S1
S7
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11
12 13 14
S4
15 16 17
18 19 20
21 22 23
24 25 S1
S7
図 6 Ni 基耐熱合金円筒形部材の溶接
図 4 シミュレーション結果と実験結果の比較
開発された製品・技術のスペック
研究②:ステンレスH形鋼の溶接方法の検討
高精度・高強度な作業用テーブルを導入し、更に適切か
つ簡単な製品拘束を行なう事で、薄板ステンレスH形鋼の
要求を満足できる溶接方法を開発する事ができた(図5)。
図 5 ステンレス H 形鋼の溶接
研究③:Ni基耐熱合金円筒形部材の溶接方法の検討
Ni基耐熱合金による円筒形部材の製作性を確認し最適
表 1 導入設備
設備名
スペック
シングルモードファイバーレーザ
溶接装置
定格出力 3kW
高精度作業用テーブル
1200mm × 6000mm
レーザ・アークハイブリッド
溶接トーチ
定格出力 350A/36V
複数熱源溶接装置
L=5000mm
以上の研究開発により、建材用薄板ステンレスH形鋼は
縦歪3.0mm以下/5Mかつ角変形量0.05rad以下を達成す
ると共に、ジェットエンジン部材用薄板円筒形Ni基耐熱
合金の円筒形突合せ部歪1.0mm以下という非常に高精度
な製品を製作可能な技術を得る事ができた。これらの溶接
継手部の品質も満足できる結果が得られている。
この他にレーザ・アークハイブリッド溶接技術を用いた
研究を行っており、その有用性を見出すことができた。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
公益財団法人千葉県産業振興センター
◎所在地 : 〒 277-0882 千葉県柏市柏の葉 5-4-6
◎担当者 : 長谷川 利之
◎ TEL:04-7133-0139 ◎ FAX:04-7133-0162 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 日本大学、大阪大学、千葉県産業支援技術研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 菊川工業(株)、愛知製鋼(株)、(株)最新レーザ技術研究センター
◎主たる研究実施場所 : 菊川工業(株)
181
拡散接合技術による
微細構造物の接合技術と信頼性の確立
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
発電、工業用等プラントに関する事項
製品の使用条件の高温化、極低温化、高圧化等高性能化ニーズへの
対応/安全性および高信頼性の確保
電子機器に関する事項
微細加工における接合技術の向上
高度化目標
発電、工業用等プラントに関する事項
機械的特性の向上(高強度化、高靱性化、耐クリープ特性向上等)
/部品製作コスト削減のための溶接技術の適用(部品の小型化、鋳
鍛造限界克服等)/溶接部診断技術の向上
電子機器に関する事項
微細溶接技術の向上
研究開発の背景及び経緯
■エネルギー消費量削減と温暖化対策
(1)地球環境とヒートポンプ
近年豊かさとともにエネルギー消費量が増大し、環境を
脅かすまでになっている。そのため一層の省エネルギー技
術が求められており、
ヒートポンプもその一つである。ヒー
トポンプは、気体を圧縮すると温度が上昇し、膨張すると
低下する原理を利用している。化石燃料や電気ヒータは投
入したエネルギーの使用が上限であるが、ヒートポンプは
投入した電力の4倍程度のエネルギーを利用することがで
きる(図1)
。
図 1 ヒートポンプ概念図
(2)ヒートポンプのメリットと普及に向けて
ヒートポンプを利用した機器に、家庭用自然冷媒(CO2)
ヒートポンプ給湯器(エコキュート)がある。ヒートポン
プ給湯機の特徴として①CO2排出の抑制、②夜間運転によ
る電力平準化、③ランニングコストが燃焼式給湯器と比べ
て安いというメリットがある。
ヒートポンプ給湯機は新築戸建住宅で普及が進んでいる
が、既存住宅や、集合住宅への設置は遅れている。
その理由として①イニシャルコストが高く、ランニング
182
コストの回収に時間がかかる、②容積が大きく、狭小、集
合住宅への取り付けが困難、が挙げられる。今後システム
の小型化による設置場所の自由度の拡大、低価格化、一層
の効率化によるランニングコストの低減が必要である。
(3)マイクロチャンネル熱交換器
システムの中で熱交換器の占める容積は大きい。そのた
め小型で高効率な熱交換器の開発は、設置場所の制約、価
格低減、高効率化の課題の解決に必要である。小型高効率
熱交換器の手法として、直交流型マイクロチャンネル熱交
換器がある。試作品は、従来の熱交換器と比較し1/100
の大きさで同等の性能が得られた。これはシステムを
1/100に小型化できる可能性を示している。
研究開発の概要及び成果
■本プロジェクトが開発を目指す製品
前述したマイクロチャンネル熱交換器は拡散接合技術を
利用して製作している。拡散接合は金属の面と面を接触さ
せ、加圧と加熱を行うことにより生じる、金属間の原子の
拡散を利用して、金属を一体化させる技術である。パター
ンが形成された金属薄板を積層させて拡散接合を行うこと
により、内部に複雑な形状を持ちながら、母材と同等の強
度を有するデバイスを製作することができる。
しかし、複数層からなるマイクロチャンネル熱交換器の
実用化には、多数の接合界面の安定した反応、部品の加工
上の限界と接合上の制限、製品の検査手法、使用条件下に
おける接合界面の耐久性及び寿命の評価、汚れの付着、詰
まり、錆といった経時変化の評価を適切に行なう必要があ
る。これらの課題を解決することで、マイクロチャンネル
熱交換器を実用化できる。
■ 本プロジェクトの概要と成果
(1)非破壊試験による接合界面の評価手法
拡散接合により製作した製品を非破壊で評価する手法は
確立していない。そこで、拡散接合の条件を変えた場合の
界面状態の変化を、断面観察や引張試験の破壊試験と超音
波探傷による非破壊試験を比較し、一定の相関関係を得る
ことができた。
さらに、通常の超音波探傷では透過して検出が困難な密
着した亀裂を超音波の横波を利用して捉えることができ
た。拡散接合の接合界面の不良部はこのような閉じた亀裂
を有する可能性があるが、この検査技術により品質の評価
が可能であると考える。これらにより、拡散接合の界面の
状態を非破壊で推定できるようになり、製作した製品を破
壊することなく評価することが可能となった。
(2)材料、形状による設計指針の確立
CO2冷媒を使用する場合、マイクロチャンネル熱交換器
は10 ∼ 20MPaの圧力下で使用される。拡散接合部の耐
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
■マイクロチャンネル対向流型熱交換器
本プロジェクトでは、幾つかのマイクロチャンネル熱交
換器(図2)を試作した。流路径0.25 ∼ 0.5mm、対向流
路長さ0 ∼ 40mm、流路本数155 ∼ 620本である。熱交
換器本体の容積はほぼ100ml以下である。流路径が小さ
いため短い距離で熱交換が行われるため流路長を短くする
ことが可能になる。評価したマイクロチャンネル熱交換器
では水3L/min流したときの圧力損失は18kPa以下に抑え
ることができた。
この熱交換器で凝縮を伴う熱交換を実施した場合、蒸気
流量を4.9g/sec、冷却水流量を3L/minにおいて、最大
12kWの交換熱量を達成(図3)した。これは既存のヒー
トポンプ用熱交換器と比べて単位体積あたり100倍の交
換熱量であり、小型化、高効率化の可能性を示している。
溶接
圧強度を板厚と開口寸法をパラメータにテストピースによ
る耐圧試験やシミュレーション解析を行い、材料、形状に
よる設計指針を得ることができた。
(3)マイクロチャンネル構造への設計指針の適用
従来の直交流型マイクロチャンネル熱交換器よりも高性
能な対向流型マイクロチャンネル熱交換器を、流路径、流
路長、積層数をパラメータとして試作し、性能に対する影
響を評価することができた。また、単一微細管内を可視化
し、凝縮の流動現象を高速度カメラで観察した。凝縮の流
動現象からメカニズムを明らかにし、流路径や流路長の設
計指針を得ることができた。
(4)マイクロチャンネル熱交換器の経時変化の測定
マイクロチャンネルで懸念される耐久性、析出物や異物
による詰まり等の問題について、長期間の運用実験を実施
して経時変化を観察し、性能および圧力損失に変化が無い
ことを確認した。異物に関しても適切なメッシュをフィル
ターとして用いることにより、圧力損失を大幅に増大させ
ることなく運用可能なことを確認できた。
図 3 性能グラフ(二相流)
■小型ヒートポンプ
マイクロチャンネル熱交換器を用いて、主要サイクル部
がA4サイズの小型ヒートポンプシステムを試作(図4)し、
冷却システムへの応用を図った。
図 4 ヒートポンプシステム
図 2 マイクロチャンネル熱交換器
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人にいがた産業創造機構
◎所在地 : 〒 950-0078 新潟県新潟市中央区万代島 5 番 1 号
◎担当者 : 平賀 恵一
◎ TEL:025-246-0068 ◎ FAX:025-246-0033 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 筑波大学、富山大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)WELCON
◎主たる研究実施場所 :(株)WELCON
183
次世代太陽電池パネルに対応した
セル配線技術の研究開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
発電、工業用等プラントに関する事項
製造コスト削減及び短納期化/安全性及び信頼性の確保
電子機器に関する事項
全自動ソルダリング機器の適用範囲の拡大/微細加工における接合
技術の向上
高度化目標
発電、工業用等プラントに関する事項
部品製作コスト削減のための溶接技術の適用(部品の小型化、鋳鍛
造限界克服等)/溶接部診断技術の向上
電子機器に関する事項
ソルダリングに代わるレーザ等細密接合技術の開発
しかし、太陽光発電の方法(セル)については、急速
に研究開発が進んでいる一方で、セルを組み合わせてモ
ジュール化するセル配線技術の開発は遅れている。従来の
結晶型太陽電池モジュールの主な製造方法は次の通りであ
る。太陽電池セル上の数か所の電極に、半田メッキされた
帯状のインターコネクタ(インコネ)を切断し、セルの片
面または両面に複数本位置合わせを行い、コテや、加熱炉、
ホットエアー等により加熱して溶着する。その後インコネ
で接続されたセルを組み合わせて太陽電池モジュールとな
る(図2)。
研究開発の背景及び経緯
地球温暖化や化石燃料の高騰などのさまざまな理由か
ら、太陽電池や風力発電などクリーンエネルギーへの期待
が高まっている。中でも太陽光発電は、近年もっとも注目
を集めているエネルギー源であり全世界的に注目されてい
る。さらに東日本大震災の影響で今後の需要が期待されて
いる。
太陽電池の需要は世界規模で急速に増加しおり、今後
10年で10倍以上の規模になる見込みである(図1)
。最近
では、太陽電池セルの母材となるSi(シリコン)の不足・
高騰により、薄型化や薄膜型、ハイブリッド型、それ以外
のCIS/CIGS系薄膜型、有機薄膜型、色素増感型など新し
い太陽電池方式が研究開発されている。2010年の太陽光
発電方式別の比率では、結晶系が81%と太陽電池の主力
技術である。太陽電池メーカー各社とも原材料となるSiの
使用量の低減のため、セルの薄型化や、薄膜系太陽電池、
化合物太陽電池の開発を盛んに行っている。また、フィル
ム形状の太陽電池、高効率太陽電池、低コストの太陽電池
など用途が多様化していることに伴い、目的に応じた太陽
光発電方法が重要となる。その他需要の拡大により新規参
入メーカーは製造設備のライン一式を装置メーカーから購
入するターンキーシステムも導入され始めている。
図 1 太陽電池の世界需要(当社調査)
184
図 2 太陽電池製造工程
研究開発の概要及び成果
研究開発項目
結晶型太陽電池の厚みは現状200 ∼ 300μmであるが、
次世代の結晶型太陽電池には100μmまで薄くなる見込み
である。現状200μmのセルでも溶着時にセルの変形、割
れ、カケ、ボイドが問題となっているため更なる溶着技術
の開発が求められている。今回の研究開発では、セルとイ
ンコネの供給から、溶着工程搬送工程、溶着後の評価まで
含めた製造装置及び評価方法の構築を行った。製造工程で
の課題及び研究開発項目は表1の通りである。
表 1 課題及び研究開発項目
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
本研究開発で製作した実験機のスペックは表2の通りで
ある。この実験機のスペックは現状多結晶型シリコン太陽
電池の一般的なものであり、今後更なる改良がされると思
われる。今回の実験機では多少の調整を行うことで次世代
の太陽電池にも対応することが可能である。
溶接
研究開発の実施内容
1年目では、インコネとセルの供給から溶着までの工程
についての配線ユニットを開発した(図3)
。溶着ユニッ
トについては、レーザー方式とプレート方式について試作
し溶着実験を行った。
2年目は、洗浄機能付きプレート方式・誘導加熱(IH)
方式の溶着方法を試作し実験を行った。溶着したサンプル
の評価を行うために、評価用のラミネータとシミュレータ
の開発を実施した。
表 2 開発スペック
図 3 配線ユニット
最終年度は、誘導加熱(IH)方式を中心に装置の改造
を実施し川下企業の要求するスペックを満足するための評
価実験を実施した。重点目標である、
「割れ・カケ・ボイド」
なしを実現することができた。ボイドについては図4の通
りボイドの発生なく溶着が可能となった。また、タクトタ
イムも3秒台を実現することができた。
太陽電池業界においては、発電効率の向上のための改良
が常に行われており、仕様の変更が短期間のサイクルで行
われている。また、製品に求められる耐久性も20年以上
と非常に長期間の保証が求められている。補完研究では、
川下企業の最新情報を入手し実験機にフィードバックし改
良を進めていく。また評価装置を用いて製品寿命について
も研究を進める予定である。
今後、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が平成
24年7月から開始されることに伴い太陽光発電の普及が
見込まれる。また、原子力発電所の安全性の問題もあり太
陽光発電の需要は増えていくと予測される。
図 4 半田付け状況
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人長野県テクノ財団
◎所在地 : 〒 392-0861 長野県諏訪市上川 1-1644-10
◎担当者 : 今井 敏夫
◎ TEL:0266-53-6000 ◎ FAX:0266-57-0281 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 信州大学、東洋大学、長野県工業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 野村ユニソン(株)
◎主たる研究実施場所 : 野村ユニソン(株)
185
電気自動車の走行モータ用超軽量シャフトを実現する
超精密摩擦圧接システムの開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
燃費向上及び省資源化のための軽量化/製造コスト削減及び短納期化
高度化目標
機械的特性の向上(高強度化、長寿命化等)/溶接精度の向上(溶接
歪低減)/溶接加工品質安定化のための溶接条件等の最適化及び溶接
工程の高度化(溶接条件最適化、最適溶接条件探索の効率化、溶接機
器・装置の最適化、溶接治具レス化・溶接治具の知能化等による溶接
工程の高度化、補修レス化等)
研究開発の背景及び経緯
近年の地球環境への問題意識から世界中で電気自動車等
のエコカーへの関心が高まっている。我が国でも経済産業
省が公表した「次世代自動車戦略2010」のなかで2020
年には新車の約15 ∼ 20%を電気自動車・プラグインハ
イブリッド車とする目標設定がされている。電気自動車は
究極のエコカーの位置づけにあるが、電池寿命と価格の2
つの課題に対するブレークスルーが求められており、車体
の軽量化が進んでいるが、走行性能に直結するモータ回転
部品の軽量化が未着手の状態にあった。
本研究開発では、前述のニーズに基づき、電気自動車の
走行モータ用シャフトを中空構造として超軽量化を実現さ
せるため、摩擦圧接技術を高めるとともに、接合歪みを発
生させない機械構造に改造し超精密摩擦圧接システムを確
立することを目的とする。このシステムの確立により、軽
量化を実現しながら高速で回転させても振動を発生させな
い優れた動バランスを維持することが可能となり、しかも
安価に製作することができるようになる。これにより出力
増のために重量が重くなるばかりのモータの軽量化が可能
になるとともに回転部の慣性力が低減され応答性の向上が
容易に実現できるようになる。優れたコストパフォーマン
スを有する電気自動車用超軽量モータシャフトの実現によ
り世界市場で卓越した競争力のあるデファクトスタンダー
ドの事業化を目指した。
重量が重く切削代が多いためコスト低減にも限界があっ
た。しかし、電気自動車の走行モータに要求される出力は
高性能化に拍車がかかる傾向にあるとともに電気自動車の
走行距離延長の解決策として各部品の軽量化を求める声も
次第に大きくなってきている。モータの出力を上げるため
には、大きなモータコアが必要とされ、大きなモータコア
を支えるためには、太く長いシャフトが要求されるが、こ
のように出力向上と軽量化の要求は相反する矛盾した状態
を作り出しているといえる。そこで、この2つの要求を解
決させる手段としてシャフトを中空構造とし軽量化させる
方策に至った。中空構造を作り出す工法として摩擦圧接は
最適な工法であるが、従来の技術では接合歪みにより曲が
りが発生し、接合部品の同軸度が悪く、高回転での使用を
前提としたモータ用シャフトでは採用できない工法であっ
たともいえる。
摩擦圧接においては、汎用性を無視し、主軸を改造し推
力を吸収させることのできる構造にするとともに、押す側
の構造も推力により倒れたり位置ズレしたりしないような
構造へと改造した。ワークの把握部も専用設計とし摩擦ト
ルクにより微小緩みを発生させない構造とした。
その上で、
最も適した圧接条件の開発を行い、圧接後の同軸度も目標
を達成していることを確認した。
キー溝加工においては、摩擦圧接による熱影響での硬度
分布が正確に管理できないことから従来は硬度に応じた加
工が適切にできていなかったが、切削抵抗を連続的に管理
することにより、その加工負荷に応じた切削条件を選択で
きるようプログラム開発を行なった。
従来技術と新技術との比較
従来技術と本研究開発にて取り組んだ新技術との比較を
表1及び図1に示す。
表 1 従来技術と新技術との比較
従来技術
形状
中空
中空
構造
一体
摩擦圧接
摩擦圧接
重量
重い
軽い
軽い
摩擦圧接位置精度
研究開発の概要及び成果
本研究開発では、電気自動車の走行モータに必要とされ
る小型・軽量・高出力を実現させるために、走行モータに
用いられるシャフトを中空構造とし軽量化させるとともに
高回転での使用を可能とすべく動バランス精度を維持でき
る摩擦圧接システムの開発を行った。また、超軽量シャフ
トを製造するための周辺加工技術についても高度化研究を
行い特にキー溝加工については新技術を確立した。
従来のシャフトは、鋼材よりの削り出しとなっており、
186
新技術
中実
−
悪い
良い
良い
悪い
良い
モータ振動
少ない
大きい
少ない
キー溝加工
容易
困難
容易
重心精度
従来技術の摩擦圧接による中空構造では、重心精度が悪
いため高回転時の振動が大きくなるためモータシャフトと
して使用できなかったが、新技術の摩擦圧接による中空構
造は、重心精度に優れているため高回転時の振動も無く、
実用化が可能となった。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
☆重心精度良い → モータ振動少ない
開発した製品は、あくまでも将来を想定した部品である
が、電気自動車用モータの出力30kWから180kWまでの
仕様に対応できるスペックとした。図2、図3に超軽量シャ
フトの概略図を示す。
溶接
☆重心精度悪い → モータ振動大きい
開発された製品・技術のスペック
図 1 重心精度の影響
研究開発の実施事項
研究用摩擦圧接機の設備仕様の研究
研究用摩擦圧接機の導入
接合部品端面状態と圧接プロセスの精密解析
研究用摩擦圧接機での圧接プロセスの検証
摩擦圧接品の基礎的品質評価
周辺加工技術の高度化研究
超軽量モータシャフトの試作開発
摩擦圧接要素技術の研究
周辺加工技術の高度化と最適化
モータシャフト評価法の研究と評価
超精密摩擦圧接技術の量産技術の開発
モータシャフト生産の全工程設計の高度化
摩擦圧接部位①
摩擦圧接部位②
図 2 超軽量シャフト概略図
今回開発した超軽量シャフトは、従来と同じ材質、同じ
精度、同等の強度を維持していながら1kgを超える軽量化
を実現できるもので、自動車の単一部品で1kgを超える技
術は画期的なものである。
研究目標と研究成果
研究目標と研究成果を表2に示す。
表 2 研究目標と研究成果
摩擦圧接後の同軸度
軽量化
工程の効率化
研究目標
研究成果
0.1 以下
0.045 ∼ 0.09
30%
30.20%
25%短縮
20%短縮
図 3 超軽量シャフト
今回の研究開発では、概ね目標とおりの成果が出せたと
思う。今後の補完研究では、コスト20%削減を目標とし、
塑性加工も視野に入れながら継続研究したい。軽くて安く
て高精度な製品をつくることにより電気自動車用モータ
シャフトのデファクトスタンダードを目指す。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人埼玉県産業振興公社
◎所在地 : 〒 330-8669 埼玉県さいたま市大宮区桜木町 1 丁目 7 番地 5
◎担当者 : 小高 博文
◎ TEL:048-857-3901 ◎ FAX:048-857-3921 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 日本大学、埼玉県産業技術総合センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)秋山製作所
◎主たる研究実施場所 :(株)秋山製作所
187
難接合材の固相拡散溶接による高機能部品製造技術・
部品の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
溶接
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
燃費向上及び省資源化のための軽量化/溶接品質及び信頼性
の向上/製造コスト削減及び短納期化
高度化目標
機械的特性の向上(高強度化、長寿命化等)/難接合材(極薄
板、高張力鋼、高合金鋼、異種材料、差厚材料等)の溶接技術
の向上/溶接加工品質安定化のための溶接条件等の最適化及び
溶接工程の高度化(溶接条件最適化、
最適溶接条件探索の効率化、
溶接機器・装置の最適化、溶接治具レス化・溶接治具の知能化
等による溶接工程の高度化、補修レス化等)
ある。今回この手法を難接合材で、かつ異種材料(チタン
合金-鉄やアルミニウム合金同士)の接合に適用する新た
な技術開発を実施した。
(1)固相拡散接合技術とは
固相拡散接合技術(圧入プ
ロジェクション接合)は、図
2のプロセスで完成される。
①圧 入 代( シ ャ フ ト 径 が プ
レート穴径より0.1mm ∼
0.7mm大きい)を設けた
接合部品をセット。
②加圧・通電により発生した
抵抗発熱により、部材が軟
化し、圧入が始まる。
研究開発の背景及び経緯
自動車メーカー各社は、環境対策のために車両の低燃費
化とエンジンの効率化を目指し徹底した部品軽量化と国際
競争力を維持するため、継続的な部品のコストダウンを要
求している。これ等の実現のための手段として、異種材料
接合の部品(チタン合金と鉄等)やアルミニウム合金同士
の接合部品のニーズも非常に強いものがある。
しかしながら、これらのニーズ
を満たす接合法は、チタン合金と
鋼の場合を例にとると、現在良く
用いられている接合法は電子ビー
ム溶接、摩擦圧接法(図1)であ
る。前者は生産設備費が高く、結
果として製品も高コストになって
いる。後者は、生産設備は安価で
あるが、生産能率が低く、後加工
の費用が高いため製品は同様に高
図 1 摩擦圧接による接合
コストになっている。
自動車エンジンの吸排気バルブを軽量化するニーズは非
常に高く、製品の中空化(中空化+Na充填)による軽量
化も検討されるほどであるが、軽量化すればするほど製品
化が難しくなる。しかしながら固相拡散接合技術の採用に
よって、鋼製品をチタン合金と鋼の接合品に置き換えるこ
とにより約42%の軽量化が可能である。
マツダの「Sky active」に見られるように、今まで軽
視されてきた内燃機関の省エネの重要性が大きく注目を浴
びつつあり、今までのレース車両だけでなく、今後は一般
車両への採用にも期待が高まっている。
研究開発の概要及び成果
(株)テーケー、
(株)オーハシテクニカが特許を保有す
る「固相拡散接合技術」
(圧入プロジェクション接合)は、
鋼材の接合には画期的で、低コストで生産性の良い手法で
188
③圧入時のしごき作用により
接合面の酸化被膜などの不
純物層が除去される。
図 2 圧入プロジェクションプロセス
④清浄面の生成、加圧力、電
気抵抗加熱により固相拡散
接合が完成する。
(2)固相拡散接合機の開発
このステップを実現するため、チタン合金-耐熱鋼、ア
ルミニウム合金同士を接合するための固相拡散接合機-1
(チタン合金-耐熱鋼接合用:図3)、固相拡散接合機-2(ア
ルミニウム合金接合用:図5)を開発した。
表1は、チタン合金Ti-6Al4Vと耐熱鋼SUH3の特性値
を示したもので、抵抗溶接と圧入を組み合わせた接合から、
同種の材料の接合と異なり電気抵抗の違いから接合品の形
状、圧入速度、通電サイクル、電極形状等接合のための適
切な条件探査が鍵となった。
表 1 チタン合金と耐熱鋼の特性値
線膨張
係数
熱伝導率
電気抵抗
融点
(×10−6/℃)(W/m℃)(μΩ・cm) (℃)
SUH3
Ti-6Al-4V
12.2
8.8
22.7
7.5
密度
引張強さ
伸び
(g/cm3)(kgf/mm2) (%)
84
1470
7.6
100
20
171
1540 ∼
1650
4.5
96
10
図4は、接合機-1の上電極部を示す。位置制御用エアシ
リンダー、加圧用スプリングを装備している。
開発固相拡散溶接機-2の基本構造は固相拡散溶接機-1に
同様であるが、アルミニウム合金は電気抵抗値が小さく、
発熱のための大電流が必要であるため、蓄電のためのコン
デンサー、交流―直流変換のためのインバーターを装備し
ている(図5)。
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
Ti-6Al4Vで、キャップが耐熱鋼SUH3である。またアルミ
ニウム合金同士は、図6右に示す形状で接続試験を行った。
溶接
図 6 接合試験形状
図 3 開発接合機 -1
図 4 電極
アルミニウム合金の接合の場合、MAX50kAの電流を流す
ことができるため、電極と部品との接続が不十分であると異
常放電による爆飛を起こし、材料の一部が飛び散るため、材
料と電極の密着を良くするための新たな工夫が必要であった。
図 5 開発接合機 -2
(3)接合試験と評価
チタン合金と耐熱鋼については、図6左に示すエンジン
バルブの軸を模した形状で実験を行った。軸がチタン合金
評価の結果(電子顕微鏡による接合断面観察、強度試験)
、
開発した接合機により両難接合材ともに固相拡散接合が可
能であることが確認でき、接合強度においても満足できる
数値が得られた。
開発された製品・技術のスペック
(1)チタン合金Ti-6Al4Vと耐熱
鋼SUH3の接合品としてエ
ンジンバルブを試作した。
引張接合強度は、
2.5kN以上、
ま た 圧 縮 疲 労 強 度 は、1.5kN
で1,000万回以上の疲労強度が
あった(図7)。
(2)アルミニウム合金同士(超
ジュラルミン)の接合品と
しては、図6右の改良品を
試作した(図8)。
両試作品ともに(株)テーケー
等が特許を持つ圧入プロジェク
ション溶接を難接合材の接合に
適応できる固相拡散接合機-1、
-2を開発し、試作した。
接合部
図 7 試作エンジンバルブ
図 8 試作アル合金接合品
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人長野県テクノ財団
◎所在地 : 〒 380-0928 長野県長野市若里 1-18-1
◎担当者 : 林 正樹
◎ TEL:0265-76-5668 ◎ FAX:0265-73-9023 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 信州大学、長野県工業技術総合センター
◎主たる研究実施場所 :(株)テーケー
189
アモルファス合金めっきによる
燃料電池供給用水電解装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
めっき
川下の抱える課題及びニーズ
燃料電池に関する事項
低コスト化/長寿命化
高度化目標
耐食性の付与及び向上/エネルギー効率及び信頼性の向上
本研究では、めっき法によるアモルファス合金を活用し、
アルカリ型水電解に最適な電極材料の研究開発を行った。
アモルファス合金は高耐食性材料であり、様々な元素を
組み合わせる事により、アルカリ型水電解に最適な高耐食
性かつ高触媒能材料が期待できる。更に、商用機規模であ
る10Nm3/h装置に、本事業で開発した合金を採用し、そ
の性能を計測すると共に、水素製造単価の算出を行った。
研究開発の概要及び成果
研究開発の背景及び経緯
CO2排出量が年々増加し異常気象が世界各地で多発する
中、地球温暖化対策は国際社会全体でとらえる大きな課題
の一つである。このような中、2011年3月11日に発生し
た東日本大震災を発端とした原発事故により、原子力政策
が立ち行かなくなった。これにより、日本のエネルギー政
策は抜本的に見直しが必要となっている。これらの事を背
景とし、再生可能エネルギーの有効利用を始めとして、水
素エネルギーの活用も具体的に検討されており、2015年
より燃料電池自動車(FCV)が大手自動車各社からリリー
スされる予定である。
燃料電池自動車(FCV)を含めその他の燃料電池ディ
バイスの普及に向けて、水素製造単価の低減は非常に重要
な課題である。現在のところ一般に水素供給単価は約200
∼ 300円/Nm3となっているが、NEDOのロードマップに
よると2015年には、90円/Nm3に低減する必要があると
されている。
更に、近年の円高問題は、国内製造業へ大きな打撃を与
え、製造コストを低減させなければ、国際社会での競争力
は保つことは出来ない。産業用水素ガスは約2000億円市
場といわれており、
半導体、
自動車産業、
化学工業など、様々
な用途に於いて水素が消費されている。
本研究では、アルカリ型水電解装置により、水素供給単
価を80円/Nm3に低減することを目的としている。
水素製造コストは以下の式で示される。
……………………………………………………………………
Cp
(水素製造単価)
=
イニシャル費
償却期間
+
図 1 Ni-W-S 合金
ランニング費
イニシャル費:水素発生装置設備費
ランニング費:メンテナンス費・電気費・水道費
……………………………………………………………………
現在、アルカリ型水電解装置は、4年程度の運用で電極
が腐食し、定期的にイニシャル費の約半分を占める電解セ
ルを交換する必要があり、メンテナンス費が大きくなるた
め、水素製造単価が上昇する。そこで、電極等の高性能化
により、水素製造に必要な電力を低減することによりラン
ニング費を低減する。
190
最適なアルカリ水電解用アモルファス合金を得るため
に、Niを始めとする遷移金属種とPやS等の非金属を合金
化させた。最適なめっき条件を選定する為に、品質工学に
基づく実験として、L18直交表を用いて、効率的かつ的確
にアルカリ水電解用電極として適切なめっき条件を決定し
た。
その結果、図1にあるようなNi-W-Sを作製した。この
Ni-W-S合金は、図2にあるように、NiやNi-S等の既存電
極材料と比較して、非常に大きなカソード電流を流すこと
が確認され、電解試験に於いても高効率であることが確認
された。
図 2 Ni-W-S 合金のカソード特性
22年度採択
[一般枠]
開発された製品・技術のスペック
表 1 商用機のスペック
めっき
Ni-W-S合金を量産に向け改良し、商用機規模である
10Nm3/h装置(図3、表1)に搭載し、運転試験を行っ
た時の結果を縦軸に電気消費量(kWh/Nm3)と水素発生
流量(Nm3/h)として図4に示す。この結果より、水素
発生に伴う電気消費量が5.0kWh/Nm3となり、国内外の
水電解メーカー機と比較しても十分競争力のある性能と
なった。更に、イニシャルコストは約2000万円/10Nm3
となり、電極の耐久性は5.2年と算定し、その結果、水
素製造単価は123.7円/Nm3となった。図5に水素ボンベ
と本水素発生装置とのコストメリット試算を積算水素購
入コストにより示した。その結果、年間水素利用量:約
56,000Nm3/year、水素ボンベ単価:200円/Nm3、電
気費:11.25円/kWh(深夜料金含む)という条件に於いて、
約3年で水素発生装置の設備償却を終え、その後大きなコ
ストメリットがある。
図 4 運転試験結果
図 3 商用機
図 5 コストメリット試算
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人栃木県産業振興センター
◎所在地 : 〒 321-3224 栃木県宇都宮市刈沼町 369 番地 1 とちぎ産業創造プラザ内
◎担当者 : 吉原 正臣
◎ TEL:028-670-2602 ◎ FAX:028-670-2611 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 宇都宮大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)バンテック、日本プレーテック(株)
◎主たる研究実施場所 :(株)バンテック
191
電子部品の超微細化に対応できる
多層・複合めっき技術及び量産技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
めっき
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する事項
ダウンサイジングに資するめっき技術の向上及び開発
高度化目標
その他性能(膜厚精度、膜硬度、高集積化、高積層化、高平滑化)
の向上
研究開発の概要及び成果
本研究開発では、コンタクトプローブを構成する部品の
ひとつである「プランジャー」に的を絞り、ふたつのメイ
ンテーマ(表1)を設け、開発に取組み、目標とする技術
の確立に成功した。
表 1 開発テーマと成果
研究開発の背景及び経緯
現在、家電等の最終製品のダウンサイジングに伴いプリ
ント基板などにおいても、小型化、狭ピッチ化が進行し、
それらの電気的な検査であるプロービング(図1)に用い
られるコンタクトプローブに対しても、同様に、ダウンサ
イジングが進んできている。本技術は、そのコンタクトプ
ローブの先端に用いられる部材、プランジャーの表面の
めっき技術に関するものである。
図 1 プロービング(半導体検査の例)
このダウンサイジングの流れの中で、プランジャー表面
のめっきに対する技術課題として、下記のような事がク
ローズアップされてきている。
まず、部材の微細化が進み、一般的にめっきの難易度が
増している状況においても、めっき膜厚の均一化は当然に
求められ、且つ、耐摩耗性、低接触抵抗などの特性も要求
される。
また、このめっきは貴金属を用いるが、継続的なコスト
ダウン要請により、めっき皮膜そのものの薄膜化も、微細
化と同時に進めて行かなければならない。しかしながら一
般に、めっき膜厚が薄くなるとピンホールも発生しやすく
なる。ピンホールは、めっき層間の金属の拡散や酸化など
の原因となり接触抵抗の不安定を誘発する。従って、その
発生を抑える技術が必要になる。
更に、繰り返しプロービングを行うと、接触抵抗が徐々
に上昇し、遂には使用不能になるという問題が有る。これ
は、プランジャー表面にはんだなどの何らかの異物が付着
した事によると考えられている。現状は、数十万回毎にコ
ンタクトプローブの交換やプランジャー先端のクリーニン
グを行って対処しているが、コストアップ要因となってい
る。この頻度を低減する技術が望まれている。
192
開発された製品・技術のスペック
「極細プランジャー用めっきの開発」には、実装品を模
した大きさや形状のプランジャーを使用した。また、
「は
んだ非付着性めっき技術の確立」には、接触抵抗を測定す
るために特別な大きさや形状のプランジャーを使用し、実
使用を模した図8に示す「耐久性試験」では良好な結果が
得られた。
めっき膜厚均一性:0.5μm程の狭小なめっき厚幅に対し
て工程能力指数(Cpk)1.67>Cpk>1.33を達成した。
図 2 各めっき毎の膜厚規格に対する工程能力指数
微細品の難形状維持性:先端SR30μm ∼ 50μmのプラ
ンジャーの形状を損ねない前処理技術を確立した。
図 3 めっき後のプランジャー先端
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
薄膜金めっきピンホールフリー:金めっきを薄膜化しても
耐食性が劣らない技術を開発した。
めっき
図 8 耐久試験方法(1サイクル)
図 4 耐食性試験後のプランジャー(硝酸ばっ気試験)
量産の安定性:量産試作品の不適合発生率を極端に低く抑
えることに成功した。
図 9 現行品と金カーボンめっきの接触抵抗値推移
図 5 量産試作品の膜厚規格に対する工程能力指数
本研究開発では、微細品に表面処理を施す際の様々な問
題を解決する為の技術開発に成功し、実際の量産を見据え
た量産試作品においては、めっき皮膜としての評価項目に
おいて全ての基準を満たす良好な結果となった。
表2 量産試作品の不具合発生率
図 6 密着試験後の反射電子像
低接触抵抗の維持:金めっき皮膜にカーボン粒子を複合さ
せることで低接触抵抗を維持する技術を開発した。
図 10 耐久試験における不具合発生率
図 7 金カーボンめっきの皮膜中のカーボン粒子(SEM 像)
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
株式会社エルグ
◎所在地 : 〒 370-2451 群馬県富岡市宇田 250-6
◎担当者 : 桐原 正明
◎ TEL:0274-62-2421 ◎ FAX:0274-64-2379 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 群馬県立群馬産業技術センター
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)エルグ
◎主たる研究実施場所 :(株)エルグ
193
環境規制に対応した電解クロムめっき法の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
めっき
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
環境配慮に資するめっき技術の開発
高度化目標
耐食性、防錆性、耐摩耗性及び装飾性の付与及び向上(主に車
体部品及び車体用品を対象とする。)
研究開発の背景及び経緯
欧州連合(EU)が戦略的な取り組みとして、環境と人
の健康を高水準に保持すること、世界経済の持続的な活動
を掲げて、有害物質の排除もしくは使用量の削減を目的に
産業分野に強い規制を求めている。
具体的な法制化として、
WEEE指令(廃電気電子機器指令)とRoHS(有害物質使
用制限指令)がある。これらの指令に示された有害物質材
料として、鉛、水銀、カドミニウム、六価クロム、PBB、
PBDEがある。このような背景から、めっき業界はめっき
に広く利用されている六価クロムの完全排除の取り組みが
火急の課題となっている。
六価クロム代替技術として三価クロムを用いためっき方
法が徐々に使用され始めてきた。一方、三価クロムめっき
皮膜から六価クロムが検出される事例が起こっている。こ
れは三価クロムめっき中に残留している三価クロムイオン
がある条件下で六価クロムへ価数変化しているためである
ことが報告されている。しかし、六価への価数変化に対す
る技術的な課題は解決していない。今後三価クロムめっき
が広まっていくに従い、電機、自動車部品メーカー等の多
くの産業に影響が出ることが予想される。
【成果:電解抽出プロセス条件の確立】
クロムめっき後の最終水洗槽中で被めっき物を電解する
ための電解クロムめっき膜生成装置を設計・製作した。本
装置は、被めっき物を電解するための整流器、抽出性能を
アップするための超音波装置及び電極で構成されている。
本装置で、実験パラメータとして抽出槽中の液温度、超音
波条件、電解条件、電解時間を種々変化させてデータを採
取し、六価クロムイオンが残留しない電解クロムめっき皮
膜のプロセス条件を確立した。クロムめっき皮膜中に残留
した六価クロムイオンを除去できる電解抽出条件は、電流
2
密度2A/dm 抽出時間1分である(図1)。
図 1 電解抽出条件の選定
【成果:皮膜性能の確保】
電解抽出前後でめっき析出の粒状形状に差が認められ、
電解抽出後では、めっき皮膜の粒状形状がより顕著にはっ
きりしている。また粒状間の隙間深さも深くなっており
(図
2)
、電界抽出によるクロムイオンのめっき皮膜からの抽
出が推定できる。
研究開発の概要及び成果
【概要】
環境規制に対応する電解クロムめっき皮膜を安定して施
工できる条件が求められている。電解クロム皮膜中に含ま
れるクロムイオンを安価に抽出・除去する方法として電解
抽出法を選定し、クロムめっき後の水洗槽中で被めっき物
を電解抽出する電解クロムめっき膜生成装置を設計・製
作した。本装置でクロムイオンを完全に抽出できる電解抽
出条件を見出した。その結果、クロムイオンが残留せず金
属クロム化できる電解クロムめっきプロセス条件を確定し
た。同時に、電解抽出後のめっき皮膜を超微細分解能の表
面分析機器で分析し、そのクロムイオン抽出メカニズムを
推定した。
194
図 2 クロムめっき皮膜の原子間力顕微鏡観察
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
クロム除去を可能にした。これによって生産時間の短縮と
コスト削減が図れる(図4)。
前処理
前処理
電解クロムめっき槽
電解クロムめっき槽
水洗槽
水洗槽
水洗槽
電解抽出槽
水洗槽
水洗槽
純水洗槽
乾燥
めっき
電解抽出によるめっき皮膜中の残留六価クロムイオンの
除去メカニズメムを図3に示す。クロムめっき皮膜はポー
ラスな析出構造となっている。そのため、めっき析出粒子
間の空隙あるいは析出粒子表面にはクロムイオンが残留す
る。電解抽出によって、皮膜中に残留したクロムイオンを
電解液中に電気誘導させることでめっき皮膜中から除去で
きると推察する(図3)
。
純水洗槽
純水洗槽
乾燥
【従来めっきライン】
【本研究開発めっきライン】
図 4 本研究開発ラインと従来めっきラインの比較
図 3 電解抽出法によるクロムイオン抽出メカニズム
【コスト低減】
本件研究開発の成果から、安価な六価クロムめっき液使
用で、環境規制に対応したクロムめっきを達成できるとと
もに、本件研究開発成果で、電解抽出設備を既存の六価ク
ロムめっきラインの改修工事のみで目標を達成できる。ラ
イン設備投資の削減に寄与する(表1)。
表 1 コスト比較
本研究開発ライン
三価クロムめっき液
(三価クロムめっき、
適用ライン
電解抽出ライン)
開発された製品・技術のスペック
【電解抽出プロセス条件の確立】
クロムめっき皮膜に残留している六価クロムイオンを完
全に除去できる電解抽出条件を見出した。
クロムめっき皮膜中の残留クロムイオンを除去できる電
解抽出条件は、電流密度1A/dm2以上、時間1min以上で
ある(図1)
。
【生産技術の効率化】
クロムめっきライン水洗槽中に電解抽出装置を組み込む
ことによって純粋水槽ラインの削減を達成した。さらに電
解抽出設備に超音波撹拌装置を付帯させ、より確実な六価
めっき液
建浴
100
3000
ライニング
100
8000
電極
100
4000
めっき槽
100
110
水洗
100
150
廃液コスト
100
120
合計
100
4000
【応用展開】
本研究開発の成果は土壌中に残留している六価クロムの
抽出・除去(ブラウンフィールド)問題やコンクリート中
に残留している六価クロムの抽出除去にも応用できる。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
一般社団法人首都圏産業活性化協会
◎所在地 : 〒 192-0083 東京都八王子市旭町 9-1
◎担当者 : 松本 浩造
◎ TEL:042-631-1140 ◎ FAX:042-631-1124 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 秋田大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)ワイピーシステム、(株)テック
◎主たる研究実施場所 :(株)ワイピーシステム
195
低コスト小型メタン発酵及び
脱臭機能付バイオガス発電装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
発酵
川下の抱える課題及びニーズ
環境対応に関する事項
低コスト化
高度化目標
未利用バイオマス等の高度利用に係る技術の高度化
研究開発の背景及び経緯
バイオマスガスプラントは、これまで国内でも数多くの
事例が見られるが、普及の条件である経済的合理性をもっ
たシステムが無く、補助金またはフィードインタリフを
もってしか成立しないモデルであった。NEDOの「バイ
オマスエネルギーガイドブック」
(2010年1月)によれば、
メタン発酵・発電ありのイニシャルコストと計画処理量(t/
日)の相関では、
1,000万円/t・日とされており、
イニシャ
ルコスト・ランニングコストが少なくとも現状の50%程
度でないと採算性が低いとしている。一方、外燃機関であ
るスターリングエンジンについては、以前よりバイオマス
燃料との相性が良いことが指摘されてきたが、高額である
ために研究用として使用されているに過ぎない。本課題を
解決するためには、システムを簡素化し徹底した低コスト
化と量産化されている機器を使うことが拠り所となる。ま
た、畜産分野においては、農場に隣接する住宅からの悪臭
クレームが後を絶たず、周辺の都市化の進展と共に、各地
で根強い課題として残っている。
我々は、こうした課題を解決すべく、徹底したコストダ
ウンによる発酵装置の開発、量産化小型スターリングエン
ジン発電装置の応用、発生するバイオガスによる燃焼脱臭
を基本とする畜産現場への導入を容易にするシステムの構
築を目指した。
研究開発の概要及び成果
試験サイトとしては、原料の入手が容易で、首都圏の市
街化が進む地区にある悪臭問題を抱える畜産農家(22年
度養鶏場、23年度酪農場)を選定した。開発した低コス
ト小型メタン発酵及び脱臭機能付バイオガス発電装置のバ
イオガスプラントシステムフローを示す(図1)
。
発酵装置の特徴は、場所を選ばない全天候型のリサイク
ル部材の利用可能なコンテナ型を採用し、極力シンプルな
構造にし、低コスト化に努めた点である。なお、初年度に
現場レベル副資材の適用やメタンガスの収量を予想するた
め、簡易な発酵槽を開発し養鶏場に導入した。これは、必
要に応じて本システムの導入を希望する顧客へのデモンス
196
図 1 バイオガスプラントシステムフロー
トレーションに役立てるため、サイホン方式による自動攪
拌原理を応用したもので、導入のための予備試験を簡易に
行える手法として想定している。
スターリングエンジンは、1kWのマイクロジェン社製
を使用した。これは、市場動向を考慮した上で、最も普及
している量産化製品を採用したためである。これを3台連
結することにより最大3kWの発電出力を確保した。これ
は組合せに応じて台数制御運転を可能として今後の需要に
対応できるようにするためである(図2、図3)。
図 2 発電装置外観
技術的に特筆すべき点
は、スターリングエンジン
用の管状火炎バーナーを開
発したことである(特許化
検討中)
。バイオガス組成
でも通常性能を確認すると
共に、部品点数も少なく、
鋳造により大幅なコスト低
減が見込めるものである
(図4)。
また、スターリングエン
ジン受熱部の耐食性を高め
るため、初年度に受熱部の
コーティング試験を実施し
た。これは、硫化水素等の
腐食物質からの耐食性を高
めるためで、最終年度に完
成したスターリングエンジ
ンに応用している。
図 3 スターリングエンジン発電装置
図 4 管状火炎バーナー
22年度採択
[一般枠]
悪臭対策として、原料の入手が容易で管状火炎バーナー
の吸引空気として悪臭を燃焼し脱臭すると共にメンテナン
スフリーで再生利用可能なセラミック脱臭フィルターを開
発した。燃焼脱臭と併用した性能を以下に示す(図5)。
同定も可能なところまできており、現在実施中の鶏、牛の
他豚などへの適用も含め各種培養条件の設定と共に効率の
よい菌の検索を実施中である(図7)。
発酵
図 7 中温菌試験
開発された製品・技術のスペック
図 5 セラミック脱臭フィルター _
また、メタン発酵消化液の利用方法として、栽培試験を
実施すると共に、周年でも利用可能な養液栽培への応用を
検討し良好な結果が得られている(図6)
。
開発したプラントの主要部材として様々な容量のリサイ
クル品が流通しており、顧客の規模に応じた組合せ及び低
コスト化が期待できる。又今回設置した製品は今後1年間
のフィールドテストを通してブラッシュアップを図る。今
回のプラントの外観及び主要スペックを以下に示す(図
8)
。
主要スペック:発酵部 20ft コンテナ利用(気相部:11.2m3、液相部:16.9m3),
3
原料投入量 300kg/d、バイオガス量 10Nm(メタン
60%)/d, スターリング
エンジン発電機 1kW × 3 基
図 6 栽培試験状況
更に、中温(37℃)によるメタン収率の向上を目的とした
試験を実施中である。これは、メタン収率は一般に高温
(55℃)時の方が優れているものの、培養条件の設定によ
り少しでも省エネルギー化を図ることを目的としている。
現在のところ、メタン発生量とメタン菌の相関解析で菌の
図8 プラント外観
今回は、原料が比較的均一であり、悪臭問題を契機とし
て導入のし易い畜産をテーマとしている。設置サイトは交
通利便性がよく、見学に適しているのでフィールドテスト
の他、デモンストレーション場所としても活用する。将来
的には、畜産以外の食品廃棄物、温泉ガスの利用などの多
用途での利用や海外市場を踏まえて普及拡大に努めてゆく。
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事業管理機関名
京葉瓦斯株式会社
◎所在地 : 〒 272-8580 千葉県市川市市川南 2-8-8
◎担当者 : 松本 二郎
◎ TEL:047-325-4500 ◎ FAX:047-323-0692 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 千葉工業大学工学部、茨城大学農学部
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 京葉瓦斯(株)、(株)田辺房吉商店、(株)プロマテリアル、佐久間牧場
◎主たる研究実施場所 : 佐久間牧場
197
廃水産資源および食品加工残渣を原料とする
高機能性発酵飼料製造技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
発酵
菌群の一つには、難分解性の糖アルコールの分解能が高い
B acillus ther m oa m ylovorans の近縁種が見出され、独
川下の抱える課題及びニーズ
食料品製造業に関する事項
高品質化/環境対応
高度化目標
立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)に国際寄託し
た(国際寄託番号BP-863)
。また、当該菌種を含む発酵
飼料の溶液をマウスに添加すると内臓脂肪の蓄積が減少
し、筋肉重量が変化する可能性が示唆されていた。
発酵生産物等の有効利用に係る技術の高度化/未利用バイオ
マス等の高度利用に係る技術の高度化
研究開発の概要及び成果
研究開発の背景及び経緯
世界的な情勢として、天候不順により農作物の生産環境
が悪化しており、その一方で新興国における食肉消費量の
急激な増加や投機マネーの影響などに伴って、特に穀物の
需要が逼迫している。そのため、トウモロコシをはじめと
した飼料原料となる穀物類の価格は高騰し続けている。
このような中で、畜産分野の潜在的ニーズとして、食品
廃棄物を活用した、いわゆるエコフィードへの期待は大き
い。エコフィードの取り組みには大きくわけて二通りのタ
イプ、すなわち、乾燥飼料化と発酵飼料化の取り組みがあ
るが、前者では多大な燃料が必要であることが問題となっ
ている。後者では燃料費が必要なく、微生物の発酵を利用
しているため、
環境に優しい技術と言える。しかしながら、
従来型の発酵飼料を生産者に導入する上での問題点は、生
産者側の経済的な側面としては、畜舎全体の改造を伴う発
酵飼料特有の給餌機器が必要となる点であった。また、技
術的な側面としては、発酵物の不安定さゆえ、安定した品
質の飼料が得られにくく、併せて学術的な根拠にも乏し
かった点が挙げられる。そのため、生産者は発酵飼料自体
に興味は持ちつつも飼料として利用する上での信頼感を獲
得するまでには至っていなかった。先進的な畜産家では発
酵飼料の導入の動きも見受けられるものの、発酵物の不安
定さから一定の効果が得られず、逆に多大なコストをかけ
た割には病気の蔓延を招く例もあり、発酵飼料の全国的な
普及は難しかったと言える。したがって、
多くの生産者は、
既存の施設を使用しつつ、栄養学的な見地で充分な実績を
有する従来型の飼料に固執せざるを得ず、結果として消化
しやすい飼料原料を現場に利用していた。
これらの既存方式の課題・問題点を解決すべく、本開発
においては、常温微生物の乳酸菌とは異なる「好気性高温
発酵微生物群」による高温・高速発酵プロセスを導入し
た、新規飼料化手法の実用化を目指している。平成21年
度の研究では、焼酎粕を主体とした高温発酵飼料の開発
を実施し、現場レベルでの畜産動物(豚)について、有効
性の高いデータが得られた。また、日環科学と千葉大学と
の共同で実施していた独自の研究成果として、ほ乳動物の
盲腸に生着する好熱菌群を単離することに成功した。単離
198
本研究開発では、図1に示すように、1)糖アルコール分
解能の高い好熱性Bacillus sp.BP-863の培養条件を確立
し、消化力の向上をもたらす発酵飼料を製造する技術を開
発し、2)BP-863、並びに発酵飼料中の有効微生物群の
生化学的・遺伝学的性状を評価した。次に、3)BP-863
混合飼料・発酵飼料の影響をマウス、並びに豚を対象とし
て解析し、内臓脂肪の蓄積が減少しつつ成長促進する効果、
併せて免疫賦活化効果を有する可能性が示唆された。
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図 1 本研究開発成果の概念図
内臓脂肪の蓄積低減効果については、マウスにおいて確
認された(図2)。図中AとBは、各CT画像を画像処理し、
脂質沈着の度合を識別可能にしている(黄色の部位が皮下
脂肪、紫色の部位が内臓脂肪)。
このような条件下で、腸内菌相を16SrDNAによって網
羅的に解析すると、高脂肪食群では、Bacteroidetes門が減
少するというメタボリックシンドロームに特徴的な変化を
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[研究加速枠]
表1 BP-863 配合飼料における離乳豚の増体重に与える影響(S 農場)
区分
期間
図 2 高脂肪食下で飼育したマウスの CT スキャンによる体幹部の画像
示したが、高温発酵飼料溶液を投与すると逆に増加し、正
常食群と同等の割合になるとともに、菌相のバラつきが
少なくなった。また、体重の増加については、BP-863の
最適濃度があることが判明した。さらに、糞中の免疫賦活
化の指標となる分泌型IgA濃度も増加した。このような傾
向を確認した後、仔豚の体重に合わせて、BP-863の添加
試験を実施したところ、図3に示したようにpC(対照群)
に対して、
pBP(BP-863添加群)でIgAの増加が確認され、
pGF(γ線滅菌発酵飼料添加群)に対して、
pTF(BP-863
混合発酵飼料添加群)のIgA濃度も増加した。飼料効率に
ついても、BP-863を添加することによって、少なくとも
8%程度の効率化が認められた。そこで、現場レベルの離
乳直後の仔豚に対して飼育試験をした結果、表1に示すよ
うに、増体効果として、131%(対照区100%)の効果が
確認された。
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終了時
体重
(kg)
増体率
8.2
13.7
1.67
5.5
100
8.4
15.6
1.86
7.2
131
増体重/ 試験/対
匹(kg) 照(%)
発酵
対照区 7/14 ∼
試験区 8/12
開始
体重
(kg)
この結果を受け、肥育豚の試験を実施し、採取された肉
質を官能評価したところ、良好な結果が得られ、化学分析
の結果、
アンモニア濃度の少ない肉質となることも判明した。
以上の結果から、脂質蓄積の減少をともなういわゆるメ
タボリックでない豚(肉)を生産できる可能性があること
がわかった。
開発された製品・技術のスペック
BP-863は、発酵飼料中の有用菌種の一つであった。こ
の遺伝学的背景を調べた結果、新菌種の候補であった(図
4)
。また、当該菌種を発酵飼料中で増量するシステムを
開発した(図5)。
図 4 BP-863 株の電子顕微鏡写真
図 3 BP-863 並びに発酵飼料が豚糞中の IgA 濃度に与える影響
図 5 BP-863 発酵飼料混合システム
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事業管理機関名
国立大学法人千葉大学
◎所在地 : 〒 271-8510 千葉県松戸市松戸 648 番地
◎担当者 : 橋本 拓也
◎ TEL:047-308-8739 ◎ FAX:047-308-8720 ◎ E-mail:zad8739@offi ce.chiba-u.jp
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 東京大学大学院、麻布大学、千葉大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業): 京葉プラントエンジニアリング(株)、日環科学(株)、(株)三六九
◎主たる研究実施場所 : 京葉プラントエンジニアリング(株)
199
「CNX冷陰極X線管」特有真空環境の最適化
及びX線発生装置の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
真空の維持
川下の抱える課題及びニーズ
自動車に関する事項
生産性の向上/生産コストの低減
高度化目標
歩留まりの改善、故障率の低減、メンテナンス容易性の向上、
排気時間の短縮等の生産性の向上/高品質化、高機能化、高性
能化、信頼性の向上、操作容易性の向上(安全性の向上を含む。)、
用途の拡大、最適化、故障診断機能の付与、耐食性の向上、新
素材の使用、加工技術の高度化等の生産装置の最適化
研究開発の背景及び経緯
自動車への電子部品の搭載率は年ごとに多くなってお
り、最近では普通乗用車では総コストの28%、ハイブリッ
ドカーでは47%が電子部品で占められている。その多く
がパワーデバイス、ECU(電子制御ユニット)対応の半
導体、フラットパネルディスプレイ、センサー等である。
これらの部品に加え、ランプ、反射板、ミラー、外装部品
等も真空装置により製造されるが、全てにおいて高品質・
高信頼性が求められ、一般の家電製品に比べて厳しい規格
及び管理に基づいて生産されている。また、自動車も情報
家電と同様に、価格低減が要求されており、これに伴って
以下の課題が具体化してきている。
●生産性の向上
自動車搭載電子部品の目視検査から非破壊検査(透視検
査)が重要となっている。すなわち、自動車用エンジン制
御用電子回路の微細欠陥(例;ハンダ内部空隙欠陥)を工
場インラインで発見するためには、出力安定度に優れた
CNX新冷陰極による高性能X線電子顕微鏡が必要である。
また、検査工程の時間は、自動車の生産工程のスループッ
トを規定してしまうので、検査工程の時間短縮と効率化が
求められる(図1)
。
図 1 車載用電子回路の検査状況
●生産コストの低減
厳しいコスト管理において、検査工程設備も例外ではな
く、低コスト化が求められている。
200
●その他の産業に関する事項
ナノテクノロジー産業においても、最先端の技術を駆使
して製品、部品、材料等の開発・改良が行われている。カー
ボンナノチューブを中心とした新材料が新しい電子部品材
料として注目され、新しい用途開発等が進められている。
特に、カーボンナノ構造材料観察用に高精細度なX線電子
顕微鏡が必要になっている。また真空装置の省スペース、
省エネルギー、長寿命化、高信頼化が必要である。
研究開発の概要及び成果
●本プロジェクトの概要
従来の熱陰極X線源による非破壊検査システムは出力変
動等の課題があり、厳しい検査を要求される自動車産業用
(例;電子回路のハンダ内部空隙欠陥検査)には導入が進
まなかった。本研究開発では、優れた出力安定性を有する
「CNXによる新しい冷陰極」をX線源として実用化すべく、
課題であった 「長寿命化(15,000時間)
」 を、①真空X
線フラッシング及びセラミックスX線管技術等により、冷
陰極特有の真空環境の維持・最適化を図ることで達成し、
さらに低コスト化を②真空内一体成型技術により実現し、
工場内インラインX線非破壊検査システムに適用する事を
目指した。この過程で真空装置技術に関しても、特有環境
下での真空維持を達成した。
●従来技術と新技術との比較
(1)従来技術と課題
自動車搭載電子部品の検査では目視検査より非破壊検査
(透視検査)が重要となる。このためには出力安定度に優
れたX線源による高性能X線透視検査システムが必要であ
る。また、検査工程の時間短縮と効率化が求められ、さら
に低コスト化も求められている。
(2)新技術の特長
熱フィラメントからの熱電子を加速しX線を発生させる
手法は安定した技術であるが、エネルギー・ロスが大きく、
熱雑音を拾うためX線の焦点が絞りにくい。一方、株式
会社ライフ技術研究所が独自開発したCNX型電子源では、
陰極面にナノレベルのグラフェン・シートを基板から順次
成長させているので基板に固定されており、真空中で高電
界をかけても安定しているのが特徴である。本研究グルー
プは「CNXによる新しい冷陰極」の利用に関して既に多
くのノウハウを有しており、当該事業の推進によりX線管
の 「長寿命化(15,000時間)
」 実現に目途がたち、実用
製品として市場に提供する期待が高まった。
●事業化、製品化の見通し
既に、CNX冷陰極X線管については、サンプル提供を
開始している。ユーザからの要望を取り入れ、低価格化を
図りつつ2年程度で市場への投入を進めたい。
CNX冷陰極は独自の真空CVD技術を用い製作している
22年度採択
[一般枠]
■X線管真空中一体成型炉
新 た に 提 案 し た 真 空 内 一 体 成 型 装 置 に よ り、 高 温
(900℃)真空(10-6Pa)下で、部品内蔵不純物を除去し
つつ、一体組立X線管を製作する技術を確立した(図3、
成型炉内部、左:部材実装前、右:平型X線管部材実装)。
また、これを実施するのに適した構造設計を行い、X線管
及びそれを用いた全固体絶縁型X線発生装置を試作した。
これまでの直管型X線管とは異なり、より小型・軽量の円
盤型構造を提案し(図4)、直管型と同等の性能を確認した。
真空の維持
が、
「物と製造方法にかんする特許」は(株)ライフ技術
研究所が、特許を使用したCVD装置の製作及びCNXの成
膜は真空装置メーカである(株)サンバックが行ってきた。
X線管及び発生装置については、設計と組立・評価に関し
て、
(独)産業技術総合研究所計測フロンティア研究部門
が加わり、基本設計・X線発生管の試作等を実施し、冷陰
極の特徴が発現できるX線発生装置が出来上がった。X線
管についての特許は、共同出願している。
開発された製品・技術のスペック
■CNX冷陰極X線管
まず、シミュレーションソフトを用い、X線発生管の構
造(数条件)について計算し解析を行った。その結果を試
作で検証し、X線管の定格仕様を満足するように、再度の
繰返し解析から限界設計の基準を構築した。次に、様々な
タイプのX線管数十台の試作を行い、寿命試験に供した。
また真空を維持するための構成部材の判定を行うとともに
陽・陰極部のみ作製し、定格耐電圧にたいするマージン
1.25を把握した。(株)ライフ技術研究所による製品化が
行われた(図2、表1)
。
図 3 真空中一体成型炉
図 4 新型 X 線管
図 2 160kV 用 X 線管
表 1 X 線管性能比較
■X線発生装置の全固体化、ポータブル化
陽極部側の傾斜機能付セラミック絶縁筒の製作法を検討
した。陰極部側には高分子固体モールドを用い、寿命は
15,000時間以上の保証が期待される。実装は電源と制御
系を内蔵させた全固体絶縁X線筐体とした。従来の絶縁油
や、環境に問題となるSF6を用いたガス絶縁構成を使用せ
ず、陽極X線出射窓部に傾斜機能セラミックを使用し、陰
極部は高分子型のハイブリット全固体絶縁装置を開発す
る。この装置は高電圧電源を搭載しており、単三電池を外
部接続することで動作できるので、
(独)産業技術総合研
究所との共同開発でこういった技術を統合してポータブル
型X線発生装置の試作に成功している。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
社団法人研究産業・産業技術振興協会
◎所在地 : 〒 113-0033 東京都東京都文京区本郷 3 丁目 23 番 1 号
◎担当者 : 守谷 哲郎
◎ TEL:03-3868-0826 ◎ FAX:03-5684-6340 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)サンバック、(株)ライフ技術研究所
◎主たる研究実施場所 :(株)ライフ技研 新潟工場
201
太陽電池製造装置用シランー水素濃度計の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
真空の維持
川下の抱える課題及びニーズ
その他の産業に関する事項
生産性の向上/生産コストの削減/生産装置の最適化
高度化目標
歩留まりの改善、故障率の低減、メンテナンス容易性の向上、
排気時間の短縮等の生産性の向上
研究開発の背景及び経緯
■太陽電池製造企業が抱える課題および要請
現在普及しているシリコン系太陽電池の発電コストは、
家庭用電力の約3倍、業務用電力の約6倍と以前割高であ
る。今後、太陽電池のさらなる普及を目指すには、 太陽電
池の低コスト化が不可欠であり、その実現には、 川下太陽
電池メーカーが抱える品質・生産性の向上、生産装置の最
適化が強く望まれている。真空装置を用いた製造法である
プラズマ化学気相堆積法(PECVD)によって製造される
薄膜シリコン太陽電池材料製造において、
「歩留まりの改
善、故障率の低減、メンテナンス容易性の向上」を図るた
め、その製造材料の原料となる混合ガスの混合比、すなわ
ち、ガス濃度比を、製造プロセスにおいて簡便・安全に、
かつ正確に測定することのできる濃度計の製品プロトタイ
プを作製する。太陽電池製造装置において、シラン−水素
混合ガスのガス濃度比は薄膜の特性及び製造速度に大きな
影響を与える条件であるため、この濃度比を測定すること
は極めて重要である。本濃度計の事業化によって特に大面
積の薄膜製造における歩留まりの向上及び均一性の向上に
資することができる。
現状、この製造装置内のシラン−水素濃度比は、シラン
−水素の流量比で試行錯誤的に調節して製造しているが、
シランと水素の排気速度が異なるため、設定したシラン−
水素流量比と必ずしも一致しない。そのため、例えば大面
積の製造において、膜厚の不均一が生じ歩留まりが悪い。
さらに、プラズマの有無、装置内温度、装置内壁への膜堆
積状態によってシラン−水素濃度比は変化するため、これ
を常時監視することは、プロセス管理上極めて有効である
ことは経験上知られている。
研究開発の概要及び成果
■本プロジェクトの概略
現在、測定不能なシラン−水素混合気体中のシラン濃度
を簡便かつ安全に測定できる小型シラン−水素濃度計の開
発を行い、太陽電池製造装置製膜室内のシラン濃度を均一
202
図 1 開発したシラン−水素濃度計
に制御し、太陽電池の品質・生産性の向上を図る。
試作したプロトタイプ濃度計によって、測定濃度の高精
度化、耐久性、測定安定性等の評価を行い、最終目標であ
る小型シラン−水素濃度計を事業化するための技術データ
を獲得する。また、濃度計の小型化によって開発した超小
型水晶隔膜圧力計及び濃度計の高信頼化によって開発した
耐久性の高い水晶摩擦圧力計についても濃度計の事業化と
ともに検討する。
■従来技術と新開発技術との比較
現在、薄膜シリコン作製プロセスに応用できるシラン−
水素濃度測定法は存在しない。類似技術として、強いて挙
げるとガス検知器や質量分析器がある。ガス検知器は、微
量のシランガスの漏洩検知を目的としているため、ppm
オーダーの極めて低濃度のシランガスは鋭敏に検出できる
が、薄膜シリコン製造プロセスにおいて利用されるシラン
−水素混合ガスにおける、シラン濃度1 ∼ 100%には対
応できず、この濃度範囲の測定を行うことは不可能である。
また、質量分析器を用いたガス分析では、製造装置からの
ガスサンプリングを必要とするため、測定時に製造装置内
の圧力が低下する。さらに、製造条件である100Pa以上
の高い製造装置内圧力において測定を行うためには、分析
器毎に多段の真空排気を行うための多数の真空排気ポンプ
が必要となり現実的ではない。
新開発技術は、バキュームプロダクツ社で開発した水晶
摩擦圧力計でシラン−水素混合気体を測定すると、一定圧
力においてその出力がシラン濃度(分圧)比に依存して変
化することを利用し、シラン−水素混合気体のシラン濃度
比を測定するものである。
■本プロジェクトの成果
本プロジェクトで開発されたシラン−水素濃度計のセン
サーヘッド部(プリアンプ含む)とコントローラ部の外観
を図1 に示し、センサー部は水晶摩擦圧力計と隔膜圧力計
22年度採択
[一般枠]
体の性質によるもので、粘性流領域である667Pa以上で
は濃度圧力比とシラン濃度比との相関関係がほぼ一意であ
るが、667Pa以下の中間流では圧力によってそれぞれ任
意曲線となるためである。
測定誤差の改善は、検量線のデータの蓄積と中間流領域
における各圧力での依存性を表す線形式中の係数のフィッ
ティング式を分別することで測定精度の精度向上が可能で
ある。
濃度計の小型化で開発した水晶隔膜圧力計は、水晶材の
一体型で5.0×2.5×0.75tサイズであり、プロトタイプで
使用している市販の隔膜圧力計(Φ65× 50L)と比較す
ると、容積比で1:5000と超小型であるが同等の性能を
示す。
また、濃度計の高信頼化で開発した水晶摩擦圧力計は最
大の弱点であった耐蝕性・耐久性を解消できるもので最も
酸化力の高いオゾン(O3)雰囲気でも十分使用が可能で
ある。
開発された製品・技術のスペック
図 2 基準シラン濃度と表示濃度の比較
図3は、開発したシラン−水素濃度計の測定誤差を表
し た も の で あ る。 圧 力667Pa以 上、 シ ラ ン 濃 度20 ∼
90vol.%ではほぼ±2%以内の誤差で測定できている。
圧力667Pa以下での誤差の大きくなる要因は被測定気
真空の維持
及び水晶温度センサーで構成し、コントローラ部はそれぞ
れの圧力計の出力から濃度を算出し、表示する制御系から
構成されている。本濃度計はシラン濃度と両圧力計出力の
比の相関を表す検量線に測定値を代入して計算することに
よりシラン濃度を求めている。実際に隔膜圧力計を基準と
した既知シラン濃度の混合気体に対して測定すると、図2
のようにほぼ基準のシラン濃度と一致した値を表示した。
現状での仕様の一覧を表1に示す。薄膜シリコン太陽電
池の製造条件においてその原料であるシラン−水素混合気
体中のシラン濃度を十分な精度で簡便に計測できる濃度計
を開発できた。
表 1 シラン−水素濃度計の仕様
項目
濃 度 測 定 範 囲
シラン:0 ∼ 100vol.%
圧
133 ∼ 1,333Pa
力
範
囲
測 定 可 能 温 度
室温∼ 75℃(温度補正可能域)
測定シラン濃度分解能
0.01vol.%
測定シラン濃度精度
±2vol.%( シ ラ ン 濃 度20 ∼ 90vol.%,
圧力≧667Pa)
耐
性
8,400時間以上(1,333Pa換算)
間
0.5秒以下
表
示
3桁デジタル
寸
法
測定子 200×150×70(mm)
コントローラ 200×90×330(mm)
重
量
1kg以下
応
図 3 濃度測定精度
開発値
久
答
時
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
バキュームプロダクツ株式会社
◎所在地 : 〒 187-0012 東京都小平市御幸町 16 番地 2
◎担当者 : 北條 久男
◎ TEL:042-320-2552 ◎ FAX:042-329-4625 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等):(独)産業技術総合研究所
◎プロジェクト参画研究機関(企業): バキュームプロダクツ(株)
◎主たる研究実施場所 : バキュームプロダクツ(株)
203
新原理による高信頼・高精度の全圧 / 分圧真空計の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
真空の維持
川下の抱える課題及びニーズ
情報家電に関する事項
生産性の向上/生産コストの低減/生産装置の最適化
高度化目標
歩留まりの改善、故障率の低減、メンテナンス容易性の向上、
排気時間の短縮等の生産性の向上/高品質化、高機能化、高性
能化、信頼性の向上、操作容易性の向上(安全性の向上を含む。)、
用途の拡大、最適化、故障診断機能の付与、耐食性の向上、新
素材の使用、加工技術の高度化等の生産装置の最適化
図 2 汎用型ラムダ真空計の特性
研究開発の背景及び経緯
薄型TVに使われるフラットパネルやコンピュータの基
本となっている半導体素子、あるいは情報家電に搭載され
る高密度ストレージ素子・媒体を製造する先端技術の多く
は、そのキープロセスをスパッタ法やCVD法などの真空
中での薄膜形成プロセスに負っており、歩留まりなどの
生産性を上げるためには雰囲気ガスの全圧(ガス全体の圧
力: 真空度)と分圧(成分ごとの圧力)を高精度に制御す
ることが求められている。しかしながら、従来の全圧/分
圧真空計がそのニーズに充分に応えることができていると
は言いがたい。なぜならば、圧力に比例する量を計測し換
算係数を用いることで圧力を算出しているため、薄膜形成
プロセスに付随する汚れにより算出値の変動が避けられな
いからである。
これらの問題を解決するために、キヤノンアネルバは飛
行経路上の2点における粒子量の比から求められるラムダ
(λ、平均自由行程)に注目し、その利用を提唱・検証し
てきた。本研究開発は、この新原理を用いることで高い信
頼性と精度を持つ全圧/分圧真空計を実用化することにあ
る。
1-2 汎用型ラムダ真空計の開発
<制御電源、ソフトウェア>
圧力測定範囲は10-8 ∼1Pa(ラムダ/B-A併用)で、圧力
の他に平均自由行程、イオン電流の表示もできる。性能面
では、イオン電流の擬似入力からの計算値と実測値の相
違が10- 3Paにおいても±0.05%以内であることを確認し
た。
図 3 量産試作した制御電源
研究開発の概要及び成果
1-1 汎用型ラムダ真空計の開発 <センサ>
こ の 真 空 計 は10-2 ∼ 1Pa
の間でラムダ方式とそのイオ
ン源を兼ねたB-Aゲージの同
時圧力測定を行いB-Aゲージ
の 感 度 補 正 を 行 う。10-3Pa
以下では毎回感度補正された
B-Aゲージで10-8Paまでの正
確な計測が可能である。
図1
試作した汎用型ラムダ真空計のセンサ
204
図 4 ラムダ計測アンプにおける計算値と実測値の相対差
2 プラズマ用ラムダ真空計への展開
プラズマ中のλを測定するために既存のイオンを利用
するラムダ真空計を開発し(図5)実測定を行ったところ、
フィラメントを用いる汎用型と同等の計測特性を得ること
ができた(図6)。
22年度採択
[一般枠]
図 8 コンピュータシミュレーション結果の例
真空の維持
図 5 開発したプラズマ用ラムダ真空計
図 9 透過イオン量の圧力依存性
開発された製品・技術のスペック
図 6 プラズマ中のイオンを用いたλ計測の特性
3 分圧用ラムダ真空計への展開
透過イオン量の圧力依存性を検証するとともに(図7)、
SIMIONソフトウェアで四重極質量分析のコンピュータシ
ミュレーションを行い(図8)比較したところ概ね近い値
を得ることができた(図9)
。
図 7 マススペクトル測定結果の一例
ラムダ真空計に対するニーズがそのまま製品スペックに
なることは論を待たない。すなわち、スパッタ法による真
空中での薄膜形成プロセスの管理に必要な仕様から、各方
式での製品スペックは下記のようになる。ただし、ニーズ
は変わって当然のものあり、その際にはスペックも適宜合
わせていくことになる。
1 汎用型ラムダ真空計
スパッタ法のプロセス圧力である1×10-7 ∼ 1Paの範
囲の全圧を常に(真空計の電極の汚れが進んでも)高精度
(相対誤差5%以下)で測定することができること。取り付
け部分の規格はICF70を基準とする。
2 プラズマ用ラムダ真空計
スパッタ装置のプラズマ領域(シールド電極内)の全圧
を常に高精度(相対誤差20%以下)で測定することができ
ること。
3 分圧用ラムダ真空計
汎用型と同様、スパッタ装置のプロセス圧力である
1×10-7 ∼ 1Paの範囲の分圧を常に高精度(相対誤差5%
以下)で測定することができること。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
キヤノンアネルバ株式会社
◎所在地 : 〒 215-8550 神奈川県川崎市麻生区栗木 2 丁目 5-1
◎担当者 : 中村 恵
◎ TEL:044-980-3501 ◎ FAX:044-986-4038 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(企業): キヤノンアネルバ(株)、東京電子(株)、VISTA(株)、(株)ホリゾン
◎主たる研究実施場所 : キヤノンアネルバ(株) 本社
205
ナノ構造と硬質ガラス薄膜を用いた
機能性タッチパネル製造技術の開発
契約期間
平成 22 年度∼平成 23 年度
分 野
真空の維持
川下の抱える課題及びニーズ
術を組合することにより、高スループットで、耐摩耗性と
汚染防止機能を有する機能性薄膜(図3)の量産製造が可
能となる。
情報家電に関する事項
生産性の向上/生産コストの低減
高度化目標
省スペース化、省エネルギー化、低価格化、メンテナンスコストの
低減、ランニングコストの低減、長寿命化等の生産コストの低減
研究開発の背景及び経緯
タッチパネルは、スマートフォンやタブレットPCに代
表される民生用モバイル端末の標準構成部品として搭載さ
れている。2009年度における市場規模は1,962億円、前
年比49.4%増と急拡大しており、2015年には5,692億円
まで拡大すると予想されている。この大きな波を逃さぬよ
うに、供給拡大と低価格化を両立する高スループットかつ
低コスト、更には将来の高機能化に対応出来る生産装置と
技術が渇望されている。
しかし、既存の「バッチ式」装置では供給能力拡大と
いう要求に応えられない。なぜなら、成膜毎に真空装置
を開閉して試料を設置・調整する手間がある上に、大型基
板に対応できないためである。またタッチパネルの機能面
では周囲からの映りこみを無くす無反射機能が要求されて
おり、対応としてはナノ構造を有する樹脂製品が有力で
あるが、タッチ操作による磨耗・衝撃で簡単に変形してし
まうという致命的な欠点がある。別機能としては撥水・撥
油性が求められており、対応としては原子層堆積(ALD:
Atomic Layer Deposition)法が挙げられるが、基板樹脂
起因のアウトガスが問題となり有効に適応出来なかった。
そこで、市場ニーズを満足するソリューションとして㈱
オプトランの持つ光学薄膜量産技術、㈱ナノテックの持つ
ナノインプリント技術、
(独)産業技術総合研究所のALD
技術を更に洗練強化し、これらを効果的に組合せた「多機
能性積層コーティング量産製造技術」
(図1)を考え、実
現すべく検討を重ねてきた。
ナノインプリント技術
(無反射特性)
硬質ガラス技術
(耐摩耗性)
図 2 インライン対応硬質・汚染防止成膜装置
図 3 硬質ガラス薄膜と汚染防止薄膜
次に、量産対応可能なナノインプリント技術の実用化に
は、真空排気を必要としない大気雰囲気中のプロセスで、
気泡の残留しない均一なナノ構造の形成を、高いスルー
プットで実現することが必須となる。これらを実現するた
め にSOFT(Sample on Flexible Thruster) ス テ ー ジ
を搭載したナノインプリントシステム(図4)を開発した。
原子層堆積技術
(撥水性・防汚機能)
図 1 高度機能実現のための技術統合
研究開発の概要及び成果
高スループットを実現するため、大型基板に対応した連
続成膜が可能な「インライン対応」硬質ガラス薄膜製造装
置(図2)と、汚染防止膜の堆積用の「インライン対応」
リニア蒸着ユニット(図2)を開発した。これらの開発技
206
図 4 ナノインプリントシステム
22年度採択
経済危機対応・
地域活性化予備費事業
[一般枠]
真空の維持
本システムを用いてプロセスを最適化することで、紫外
線硬化樹脂上に1μm以下のライン・ドットパターン構造
を実現(図5)した。このパターンの厚みは1μm以下で、
加工面積は50mm×80mm以上であり、スループットは
100枚/h以上である。
図 7 親水性膜と撥水性膜
図 5 ナノインプリントパターン
更に、ナノ構造に機能性を付加するために、近年急速に
技術開発が進んでいる原子層堆積法を適応し、酸化チタン
による光触媒機能とフッ素系の撥水機能を有するナノ構造
に対する堆積プロセスを最適化した。原子層堆積法は、複
数の異なる原料を段階的に化学反応させて単分子膜を形
成・積層(図6)していくため、各反応での成膜条件を最
適化することが重要となる。
これらの技術を統合し、ナノ構造を有する機能性薄膜を
製造した。具体的には、①ナノインプリント法による無反
射ナノ構造を形成し、②耐摩耗性のある硬質ガラス薄膜を
形成、③原子層堆積法による親水性・光触媒機能を有する
TiO2膜とフッ素系の撥水性を持つ超薄膜の統合形成
(図7)
を行った。これらの統合プロセスの最適化により、ナノ構
造の形状欠陥も無く、硬質ガラス薄膜のクラックも無く、
撥水機能と光触媒機能を有する複合膜の機能を確認した。
図 8 統合プロセスフロー
開発された製品・技術のスペック
図 6 原子層堆積システム
成膜温度、ガス流量などを精密に制御できるよう装置改
良を加え、プロセス条件の最適化を図ることで、高撥水性
や、逆に超親水性・光触媒機能を有する機能性ナノ薄膜を
実現した。
開発されたインライン式薄膜製造装置は、今後、タッチ
パネル表面への硬質・汚染防止機能を付加できる量産装置
として、同市場に広く展開されることが期待される。また、
同技術にナノインプリント加工技術、原子層堆積技術を統合
した複合プロセスによるナノ構造を有する高機能積層膜の
試作が行われた。量産性と機能統合が実証されたことによ
り、無機薄膜・有機薄膜・ナノ構造形成技術の融合による
機能高度化が可能となる。本技術は、タッチパネルのみな
らず、幅広い光学応用製品に対する応用展開が期待される。
この研究へのお問い合わせ
事業管理機関名
財団法人埼玉県産業振興公社
◎所在地 : 〒 338-0001 埼玉県さいたま市大宮区桜木町 1 丁目 7 番地 5
◎担当者 : 岡 将彦
◎ TEL:048-647-4085 ◎ FAX:048-857-3921 ◎ E-mail:[email protected]
◎プロジェクト参画研究機関(大学、公設試等): 産業技術総合研究所、東京農工大学
◎プロジェクト参画研究機関(企業):(株)オプトラン、(株)ナノテック
◎主たる研究実施場所 :(株)オプトラン
207
索 引
(事業管理機関名)
ア
株式会社アジャイル・パッチ・ソリューションズ ………… 16_17
ツ
株式会社つくば研究支援センター …………………………… 12_13
テ
テセラ・テクノロジー株式会社 ……………………………… 20_21
アルケア株式会社 ………………………………… 72_73、80_81
イ
株式会社イーアンドエム ……………………………………… 26_27
株式会社電興社 …………………………………………… 134_135
イーソル株式会社 ……………………………………………… 10_11
株式会社井口一世 ………………………………………… 118_119
ト
国立大学法人東京工業大学 …………………………………… 32_33
池上金型工業株式会社 ………………………………………… 46_47
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター ………… 48_49
MEFS株式会社 ………………………………………………… 70_71
株式会社特殊金属エクセル ……………………………… 176_177
株式会社MCBI …………………………………………………… 36_37
財団法人栃木県産業振興センター ……………………… 190_191
126_127、166_167
エ
株式会社エルグ …………………………………………… 192_193
ナ
株式会社長津製作所 …………………………………………… 38_39
オ
国立大学法人大阪大学接合科学研究所 ………………… 174_175
カ
鹿沼商工会議所 …………………………………………… 102_103
キ
株式会社菊池製作所 …………………………… 66_67、110_111
社団法人日本金属プレス工業協会 ………… 114_115、124_125
キヤノンアネルバ株式会社 ……………………………… 204_205
社団法人日本鍛造協会 ………………………………………… 90_91
株式会社キャンパスクリエイト …… 44_45、84_85、130_131
日本鋳造株式会社 ………………………………………… 112_113
株式会社キュー・アイ …………………………………… 132_133
社団法人日本鋳造協会 …………………………………… 106_107
財団法人長野県テクノ財団 ………………… 122_123、136_137
184_185、188_189
ニ
財団法人にいがた産業創造機構 …………… 150_151、182_183
一般財団法人金属系材料研究開発センター ………………… 58_59
ク
ネ
ネオアーク株式会社 …………………………………………… 62_63
ハ
財団法人浜松地域テクノポリス推進機構 ……………… 138_139
株式会社蔵持 …………………………………………………… 42_43
グンダイ株式会社 ………………………………………… 108_109
バキュームプロダクツ株式会社 ………………………… 202_203
財団法人群馬県産業支援機構 ………………………………… 56_57
ケ
京葉瓦斯株式会社 ………………………………………… 196_197
ヒ
財団法人日立地区産業支援センター … 24_25、52_53、120_121
PMジェネテック株式会社 ……………………………………… 68_69
社団法人研究産業・産業技術振興協会 ………………… 200_201
コ
株式会社コア …………………………………………………… 18_19
ヘ
平和産業株式会社 ………………………………………… 144_145
サ
財団法人埼玉県産業振興公社 ……… 28_29、88_89、100_101
ミ
ミクロ技研株式会社 ……………………………………… 148_149
財団法人さいたま市産業創造財団 …………… 86_87、140_141
メ
株式会社メガオプト ……………………………………… 152_153
国立大学法人静岡大学 ………………………………………… 22_23
モ
特定非営利活動法人ものづくり支援機構 ……………… 170_171
186_187、206_207
シ
株式会社森精機製作所 …………………………………… 142_143
一般社団法人首都圏産業活性化協会 …………………… 194_195
株式会社新技術研究所 ………………………………………… 96_97
株式会社信州TLO ………………………………………… 172_173
ヤ
矢島工業株式会社 ……………………………………………… 54_55
新菱工業株式会社 ……………………………………………… 74_75
公益財団法人やまなし産業支援機構 ……… 146_147、158_159
JFEテクノリサーチ株式会社 …………………………… 164_165
168_169
株式会社ジュンコーポレイション …………………………… 82_83
ス
株式会社スペースクリエイション …………………………… 34_35
ソ
綜研化学株式会社 ………………………………………… 160_161
タ
高島産業株式会社 ………………………………………… 104_105
株式会社タキオン ……………………………………………… 64_65
タマチ工業株式会社 ……………………………………… 154_155
鍛造技術開発協同組合 …………………………… 92_93、94_95
ダブル技研株式会社 ……………………………………… 128_129
チ
千曲精密工業株式会社 ………………………………………… 98_99
公益財団法人千葉県産業振興センター ……… 78_79、162_163
178_179、180_181
国立大学法人千葉大学 …………………………………… 198_199
株式会社チャレンヂ …………………………………………… 76_77
208
ヨ
よこはまティーエルオー株式会社 …………………………… 60_61
ラ
楽プリ株式会社 ………………………………………………… 30_31
リ
財団法人理工学振興会 ………………… 14_15、40_41、50_51
116_117、156_157
戦略的基盤技術高度化支援事業
研究開発成果事例集
発行日 2012年3月
発行
関東経済産業局 産業部 製造産業課
〒330-9715 埼玉県さいたま市中央区新都心1番地1
TEL:048-600-0307 FAX:048-601-1293
URL:http://www.kanto.meti.go.jp