日本のホラー映画をアメリカでリメイクしたときの音楽の違い

人文学部卒業論文
題
目
指導教授
提出年月日
学籍番号
氏
名
日本のホラー映画をアメリカで
リメイクしたときの音楽の違い
柳谷
啓子
2015 年
12 月 21 日
HI12075
森
絵実子
印
日本のホラー映画をアメリカでリメイクしたときの音楽の違い
HI12075 森 絵実子
要旨
本研究では、日本で制作されたホラー映画がアメリカ合衆国でリメイクされた時の映画音楽の違い
を分析し、両国における映画音楽の文化的差異を読み取れるかを検討する。映像作品の音楽の違いが
聴取者に与える影響の違いや、北米と日本の音楽に関する好みの傾向の違いについてはすでに研究さ
れている。本研究では、こうした先行研究を踏まえ、日本の作品がアメリカにおいてリメイクされる
際に、どれだけアメリカ的な音響表現に置き換えられるのかを分析する。
研究対象とする映画は、
『リング』と『ザ・リング』
、
『仄暗い水の底から』と『ダーク・ウォーター』
、
『呪怨』と『THE JUON/呪怨』
、
『着信アリ』と『ワン・ミス・コール』の 4 組、計 8 作品である。
分析方法は、映画内でどのような音楽がついているか、映画内の登場人物が聞こえていないとされる
音である「非ディエゲーシス的音楽」を日本版と共通の動作をしているシーンを中心に、使用される
楽曲の特徴を調整・テンポ・リズム・ピッチ・ハーモニー・メロディなどに関して分析し、比較する。
また、日本版をなぞったシーンのみではなく、本編中に非ディエゲーシス的音楽が流れている時間を
計測し、比較する。さらに、日本版とリメイク版それぞれに、どのような「ディエゲーシス的音楽」(登
場人物に聞こえているとされている音楽)が付与されているか、その要素と登場人物がどのような状態
のときに聞こえている音なのかの傾向などを見る。
分析の結果、非ディエゲーシス的音楽が流れている時間は、日本版よりもリメイク版の方が平均で
1.34 倍(1.10~1.62 倍)長く、後者では音楽が継続的に流れているシーンが多かった。ハリウッド・リメ
イクではあるものの監督が日本版と同じである『THE JUON/呪怨』とその日本版の非ディエゲーシ
ス的音楽の使用率の差は、他のペアに比べて顕著に低かった。ディエゲーシス的音楽の違いでは、舞
台設定が日本であるかアメリカであるかで、聞こえる音の種類が違っていた。特に、製作国の違いに
関わらず、日本が舞台であれば、昼間の場面なのか夜の場面なのかを画面の明暗だけでなく、虫や鳥
の鳴き声を使って効果的に伝えていた。エンドロール曲に関しては、日本版では、すべてがボーカル
入りの楽曲で、著名なアーティストや映画に出演している女優が歌っているのに対し、リメイク版で
は、映画内での非ディエゲーシス的音楽をメドレー形式で使用していた。
結論として、映画音楽における以下のような文化的特徴が見出された。非ディエゲーシス的音楽の
使用率の違いから、恐らくは、沈黙や間合いを大切にする伝統的日本文化に対し、無音状態をつまら
ない無駄な時間と感じる北米文化の傾向の違いがあるものと考えられる。また、虫の鳴き声や風鈴の
音などの環境音による季節や時間の表現は、日本的場面(『THE JUON/呪怨』だけでなく、
『ワン・ミ
ス・コール』でも)に用いられていることから、こうした環境音が日本文化を象徴するものとして意味
を持ちつつあることが推察される。さらに、エンドロール曲などの違いは、日本社会では、有名なア
ーティストが主題歌を担当したという話題作りで映画の宣伝を行い、かつ CD の収益も得るというメ
ディアミックス商法が盛んであることの反映であると考えられる。
キーワード
映画音楽 ホラー映画 日米比較 リメイク作品 音響表現
目次
1.研究目的 ..................................................................................................................1
2.先行研究の検討........................................................................................................4
2.1 ミール,ドロシー他「第 15 章映画における音楽によるコミュニケーションの役
割」の検討 ................................................................................................................5
2.2 越川靖子「TVCM における BGM の特徴に関する一考察:CM ソングよびタイ
アップ曲の実証研究」 (2011)の検討 ........................................................................6
2.3 吉田雅子「音楽の視点から見た映画史:サイレント映画の時代」(1992)............7
2.4 長門洋平「映画音響論:溝口健二映画を聴く」(2014)の検討 ................................8
2.5 岩宮眞一郎「音が映像作品の『でき』をきめる」(2008)の検討..........................9
3.研究方法 ..................................................................................................................9
3.1 分析映画の選出 ...................................................................................................9
3.2 分析方法 ............................................................................................................10
3.3 分析映画の概要 ................................................................................................. 11
3.3.1『リング』と『ザ・リング』 ...................................................................... 11
3.3.2『仄暗い水の底から』と『ダーク・ウォーター』 .......................................12
3.3.3『呪怨』と『THE JUON/呪怨』 ................................................................12
3.3.4『着信アリ』と『ワン・ミス・コール』.....................................................12
4.分析結果 ................................................................................................................13
4.1 非ディエゲーシス的音楽の違い.........................................................................14
4.1.1『リング』と『ザ・リング』から見た違い .................................................14
4.1.2『仄暗い水の底から』と『ダーク・ウォーター』から見た違い .................18
4.1.3『呪怨』と『THE JUON/呪怨』から見た違い ...........................................21
4.1.4『着信アリ』と『ワン・ミス・コール』から見た違い................................23
4.1.5 非ディエゲーシス的音楽の考察 ..................................................................26
4.2 ディエゲーシス的音楽の違い ............................................................................26
4.2.1 ディエゲーシス的音楽の分析結果 ..............................................................26
4.2.2 ディエゲーシス的音楽の考察 .....................................................................28
4.3 エンドロール曲の違い .......................................................................................29
5.終論 .......................................................................................................................31
6.参考文献 ................................................................................................................32
7.参考 Web ページ ....................................................................................................34
8.用例出典一覧............................................................................................................35
付録1
映画と作曲者一覧 ........................................................................................... i
付録2
非ディエゲーシス的音楽が流れている時間..................................................... i