6号 - 畜産技術協会

● ニュース トピックス
単為生殖マウスの誕生
家畜伝染病予防法の一部改正について
● 畜産物あれこれ
肉の食べごろ(肉の熟成と味)
● 畜産面白ばなし
家畜の繁殖のいろいろ
● みなさまの声
常識としての「畜産技術に関する知識」を
学ぶ楽しみ
● 技術講座
(提供:家畜改良センター
奥羽牧場)
DNAによる親子判定
●Q&A
6
アニマルセラピーって何ですか?
● 現場紹介
公共牧場のはなし
2004年 7月
社団法人
畜産技術協会
ニュース
トピックス
●単為生殖マウスの誕生
東 京 農 業 大 学 の 河 野 友 宏 教 授 のグ ル ー プは 、
哺 乳 動 物 で は不 可 能と見 なされてい た 雌だけで
●家畜伝染病予防法の一部改正について
本 年1月 、我 が 国 で79年 ぶりに な る 高 病 原 性
鳥インフ ル エン ザ が 発 生して 非 常 に大 き な 問 題
子が生まれる単為生殖による個体発生に挑戦し、 となった 。京 都における発 生 の 時には、家 畜 の 所
単 為 生 殖 マウスを 誕 生 さ せ ることに世 界 で 初 め
有 者 から の 届 出 が 行 わ れ ず 、さらに 生 き た 鶏 が
て 成 功しまし た 。こ の マウス は 雌 で 、発 育 も 、妊
出 荷 さ れ 、出 荷 先 で 感 染 が 拡 大 す るといった 事
娠も、分娩も正常で、かぐや姫に由来する「かぐや」
態 が 生じ 、生 産 者 に 大 き な 打 撃 を 与 え た ば かり
と 言う名 前 が 付 けら れ て い ま す 。こ の 成 果 はイ
ではなく、日本中 の 消費者にも不安をあたえた 。
ギリスの科学雑誌「ネイチャー」に発表されました。
こうし た 情 勢 に 対 応 す る た め に 、家 畜 伝 染 病
単 為 生 殖とは 、一 般 的 な 生 物 種 で は 卵 子と精
予 防 法 の 一 部 を 改 正 す る法 律 が 、第159回 国 会
子が合体して新しい個体を生ずるのが普通ですが、 で 成 立し、平 成16年6月2日付けで 改 正 法 案や そ
未 受 精 の 卵 子が単 独で 個 体に発 生 する現 象 のこ
れに伴う規則が施行された 。
とを 言 い ます 。単 為 生 殖 はこれ まで 哺 乳 動 物 で
こ の 改 正 の 要 点 は 次 の ようで あ る。家 畜 に 伝
は 全く認 めら れ て い ま せ ん が 、河 野 教 授 た ち が
染 病 が 発 生し た 時 に 、届 出 義 務 に 違 反し た 所 有
マウスの 人 為 単 為 生 殖に成 功したポイントは、遺
者 に 対して 、家 畜 の 処 分 や 汚 染 物 品 の 消 却 に 対
伝 子を 改 変した マウス の 未 成 熟 な 卵 母 細 胞に精
する手 当 金を 交 付しないことや 罰 則が強 化(3年
子 の 役 割 を 担 わ せ 、核 移 植 技 術 によってこ れ を
以 下 の 懲 役 又 は100万 以 下 の 罰 金 )さ れ ること
卵 子 の 中 に入 れ て 発 生 さ せ たことで す 。遺 伝 子
が決まった 。また 、今 回 の 発 生 の 際に広 範 囲か つ
を 改 変し な い まま の 、正 常 な マウス の 卵 母 細 胞
長 期 間 の 移 動 制 限・出 荷 制 限 を 受 け た 農 家 の 経
で は 、精 子 の 役 割 を 果 た せ な いことを 証 明し た
営 に 大 き な 影 響 が 生じ た ことを 踏 ま え て 、家 畜
ことも 重 要 でした 。こ の 研 究 は 、哺 乳 動 物 で 、雄
や 卵 等 の 生 産 物 の 移 動 制 限を 受け た 農 家に対し
なしで個体を発生させることが出来たと同時に、 て 、対 象と なった 家 畜 や 卵 等 の 生 産 物 の 売り上
個 体 の 発 生 にお け る雄 の 役 割 を はっきりさ せ た
げ の 減 少 額や 飼 料 費 、保 管 費 、輸 送 費 、焼( 埋 )却
ことにも 重 要 な 意 味 が あります 。
「 かぐや 」の 持
費 等 を 都 道 府 県 が 助 成 する場 合 に国 も そ の2分
つ 生物学的意義は、
7年前 のクローン羊「ドリー 」
の1を 負 担 す ることにし た 。さらに 、家 畜 伝 染 病
に匹敵するという研究者もいるくらい です。
のまん 延 防 止 の た めに都 道 府 県 が 行う措 置に必
畜 産 の 立 場 から は 、すぐに 活 用 で き る 技 術 と
言うわ け で は ありませ ん が 新しい 個 体 生 産 技 術
要 な 費 用( 衛 生 資 材 費 、焼( 埋 )却 等 )につ い て 、
国が2分 の1を負担することも決まった 。
として 、家 畜 の 育 種 や 雌 雄 産 み 分 け 技 術 に 貢 献
これらの 対 策 強 化により、より的 確 な 家 畜 伝 染
する可 能 性 が あり、また 、体 細 胞クロ ーン などで
病 まん 延 防 止 措 置 が 図られ るようにし た も の で
時として みられ る発 生 異 常 の 原 因 解 明 に貢 献 で
ある。
きることなど、畜 産 バイオテクノロジー の 発 展に
も大きく寄与すると期待されています。
あれこ
れ
産物
畜
肉の食べごろ
(肉の熟成と味)
私たちは、
と畜した動物の骨格筋から牛肉、
豚肉、
鶏肉
筋肉では筋原線維は、その原料である20種類ほど
などの肉を得ています。と畜直後の肉は軟らかいですが、
のアミノ酸の溶液中に存在します。各アミノ酸は固有
近代社会では調理用に入手するまでに数時間の時間経
の味をもっています。肉は食品の中で最もうま味が強
過が避けられません。この時間経過の過程で肉は死後
いですが、そのうま味は主に、アミノ酸の1つであるグ
硬直の状態に入ります。加熱調理したとき、死後硬直期
ルタミン酸によるものです。これが、その他の苦味や
の肉はと畜直後の肉よりも著しく硬くなりおいしさに欠
甘味をもつアミノ酸と合わさって、肉様の味をつくって
けます。ところが、硬直した肉を放置しておくと、硬直が
います。死後硬直で消失したATPは、熟成中にイノシン
解けて軟らかくなります。この現象を解硬といいます。
酸といううま味物質になります。イノシン酸とグルタミ
完全に解硬すれば、
と畜直後の軟らかさまで戻るため、
ン酸が共存すると、
うま味は各々の分を足したよりも数
通常はこの状態になった肉が食べ頃として市販されて
倍強くなります。熟成中にグルタミン酸などのアミノ酸
います。このように肉を食べ頃になるまで寝かせておく
もタンパク質分解酵素の作用で増えていきます。この
ことを熟成といいます。熟成は解硬を第1の目的として
ようにして、熟成で肉のうま味と肉様の味が強くなって
いますが、同時に味や香りも向上することが明らかにな
いきます。
り、
おいしい肉を得るための食文化として定着しています。
肉の香りには、生肉が示す生鮮香気と加熱調理した
と畜から最大硬直期に要する時間は、
0〜4℃にと畜
肉の示す加熱香気があります。生鮮香気は生で食べる
体を放置したとき、通常、牛で24時間、豚で12時間、
肉料理で重要です。熟成前の肉の生鮮香気は、乳酸様
鶏で2時間ほどです。1℃での熟成で、硬直の80%が
の酸臭や血液・体液臭ですが、熟成によってこれらは消
解けるのは、
と畜後、牛10日、豚で5日、鶏で半日です。
失します。加熱香気には、牛、豚、鶏に共通である加熱
牛ではと畜10〜14日後に市販されます。豚と鶏では
肉臭と、畜種を識別する根拠となる動物種特異臭があ
元来牛ほど硬くはないので、大部分は解硬のための熟
ります。加熱肉臭はアミノ酸や糖類の加熱反応によっ
成は意図されておらず、最大硬直期を過ぎてからの4℃
て生成します。アミノ酸は熟成によって増えるので、食
以下での流通と販売の時間が熟成期間となっています。
べ頃の肉はと畜直後の肉よりは、香ばしさを伴った肉
死後硬直は、
と畜後に筋肉中のATPが消失するため
に起ります。ATPは筋肉が収縮するためのエネルギー
特有のおいしい香りが強いといえます。
動物種特異臭は、通常の肉の熟成では変化しません。
物質で、
これが充分に存在する状態で、筋肉は収縮と弛
しかし脂肪が赤身に分散した状態、つまり脂肪交雑の
緩を行なっています。しかしATPがなくなると、収縮と
ある牛肉では、空気中で熟成すると、酸素との反応でコ
弛緩を行なっている筋細胞中の構造体(筋原線維)の
クのある甘い加熱香気がでるようになります。この香り
主成分で、
しかも互いに離れて存在するタンパク質の
は、
これを豊かに生成する霜降り黒毛和牛肉の、おいし
ミオシンとアクチンが強く結合してしまい、筋原線維自
さ の き め 手となっ
体も硬くなります。これが死後硬直です。
ています。
硬直した肉を寝かせておくと、
ミオシンとアクチンの
結合は再び離れることはありませんが、
これら以外の筋
原線維構成成分が、タンパク質分解酵素やカルシウム
イオンの作用で壊れていき、筋原線維がもろくなります。
これが解硬です。
沖谷 明紘
(おきたに あきひろ)
日本獣医畜産大学
畜
産
面白ばな
し
家 畜 の 繁 殖 のいろいろ
牛 乳 は 文 字 通り牛 の 乳 で す 。お 産 をした 後 で な
で 恵まれ た 季 節で ある春に出 産 するた め の 戦 略と
い と 乳 が 出 な い 点 で は 、牛 も 人 も 同じで す 。お 産
見 な すことが で きま す 。ニワトリも 自 然 の 日 照 環
を す る、子 を 産 むことが 牛 乳 生 産 には 不 可 欠 なこ
境 で 飼 育しますと、秋 から 冬 にか け て は 産 卵 率 が
とな の で す 。豚 や 肉 牛 の ような 肉 生 産 の た め の 家
急 激に低 下し、春から夏にかけて 回 復してきます。
畜 で も 、子 を 産 むことは き わ め て 大 切 で す 。次 々
冬に雛に孵 化 するの を 避 ける仕 組 みと考 えられま
と子が産まれないことには、肉生産のもとがなくなっ
す。
てしまうからで す 。卵 の 生 産 も 、ニワトリにとって
こ れら の 家 畜とは 異 なり、ウサ ギ や ネコ で は 発
は子を産む行為に他なりません。ニワトリに限らず 、
情は不 鮮 明で 、交 尾 刺 激によって 排 卵します。この
アヒル や ダ チョウなど 、鳥 類 は い ず れ も 雛 を 生 む
繁 殖 形 式 は 、精 子と卵 子 の 会 合 を より確 実 に す る
わけではなく、卵を産んでから雛にしています。
方 法とい えるでしょう。交 尾 刺 激 による 排 卵 の 仕
ニワトリ等 の 鳥 類 の 場 合 は雌 は性 成 熟 すれ ば卵
組 みは、ウサ ギにつ い て 詳しく調 べられました 。交
は産 みますが そ れは無 精 卵 で あり雄と交 尾がなけ
尾 によって 子 宮 頚 管( 膣と 子 宮 の 間 に あ る 器 官 )
れ ば雛 には なりませ ん 。我 々 が日 頃 食 べ て い る鶏
に加 えられ た 感 覚 刺 激 の 情 報 は 、神 経 系 を 通って
卵 の ほとんどは 無 精 卵 で 、養 鶏 場 によって は 雌 の
脳 の 視 床 下 部 に伝 達 され 、ここから黄 体 形 成 ホ ル
群 の 中に雄を 入れて 有 精 卵を 作りそ れを 販 売して
モン 放 出ホ ル モン が 分 泌 されます 。次 い でこ の ホ
いるところもあります。
ル モ ン は 脳 下 垂 体 から の 黄 体 形 成 ホ ル モ ン の 分
このように、畜 産では子を 産ませることがもっと
泌 を 促し 、分 泌 さ れ た ホ ル モン は 血 流 によって 卵
も 大 切 な 基 本 技 術 で す 。そして 畜 産 で は 、子 を 産
巣 に 達し 、排 卵 が 行 わ れ ると いう仕 組 み で す 。交
ませることを、繁殖させる、と言います。
尾から排卵までは約10時間かかります。
この 繁 殖 の 方 法 は実 は家 畜によってか なり大き
で は 、な ぜ 精 子 は 交 尾 後 1 0 時 間 も 子 宮 や 卵 管
く異 なっています。ここでは、家 畜 の 繁 殖につ い て
という雌 の 生 殖 器 官 の 中 で 待 機しな け れ ばならな
述 べ て み ます 。一 般 に 、ほ 乳 類 の 家 畜 の 雌 で は 発
い の でしょうか 。こ の 点 に 注 目し た 研 究 者 が い ま
情とい わ れる現 象 が あり、このときに排 卵し、また
した 。当 時 米 国ウー スター 実 験 生 物 学 研 究 所にい
こ の 時 に の み 雄 を 許 容します 。そ の た め 発 情 は 、
た M.
C.
チャン 博 士 で す 。多くの 実 験 の 結 果 、精 子
卵 子と精 子 が 効 率 よく会 合して 融 合( 受 精 )し、妊
はこ の 間 に受 精 能 獲 得という変 化 を 行うことが 明
娠 す る た め の 手 段と なって い ま す 。牛 や 豚 で は 、
妊 娠して い な いときには 、一 年 中 周 期 的 に発 情 を
繰り返します。つまり、牛や 豚は年 中い つ でも妊 娠
す ることが 可 能 な 家 畜 で す 。 一 方 、特 定 の 季 節
に の み 発 情 を 繰り返 す 家 畜 も い ます 。馬 は日 長 が
長くな る春 分 以 降 に繁 殖 期 を 迎 え、羊 や 山 羊 は日
長 が 短くな る秋 分 以 降 に繁 殖 期 を 迎 え、周 期 的 に
発 情を 繰り返します。妊 娠 期 間は、馬で 約 3 4 0日、
羊 や 山 羊 で 約 1 5 0日と違 い が ありますが 、い ず れ
も 生まれ てくる子 の 生 育 環 境 が 、飼 料 や 気 温 の 面
M.C.チャン博士(1971年撮影)
らか にされました 。こ の 変 化 が な け れ ば精 子 は 卵
子と会 合して も 融 合 す ることが 出 来 ませ ん 。こ の
発 見 は 1 9 5 1 年 のことでし た 。こ の 後 、こ の 現 象
は各 種 の 哺 乳 動 物 精 子 でも 確 認されました 。そ の
後 の 研 究 で 、雌 の 生 殖 器 官 の 中 だ け で は なく、体
外 でも 精 子に受 精 能を 獲 得させることに成 功しま
し た 。これら の 研 究 成 果 は 、家 畜 や 人 の 体 外 受 精
技術 の 開発に道を開きました 。
今 日 で は 牛 の 精 子と卵 子 を 体 外 で 融 合( 受 精 )
さ せ 、こ の 受 精 卵 を 、受 精 後 7 〜 8 日くらい 体 外 で
育て 、育った 胚を 子 宮に手 術 せ ずに移 植し、子 牛を
世界で初めて体外受精で生まれた三つ子牛
(農水省畜産試験場)
生 産 する技 術も 我 が 国 で は定 着して います 。体 外
受精技術は人の不妊治療でも重要な治療手段となっ
ています。
この 技 術 開 発 が 、ウサ ギ の 交 尾 排 卵 の 生 理 的 意
義に着 目した 天 才 的 研 究 者 の ひらめきに端を 発し
て い るわ け で 、新 技 術 開 発 には 学 問 的 研 究 がきわ
めて重要であることのよい 例とい えましょう。
花田
みなさまの
章 ( はなだ あきら)
( 社 )畜産技術協会
常識としての「畜産技術に関する知識」を学ぶ楽しみ
終戦から今日までの日本人の体位向上のテンポの速さには目を見張るものがある。これは、戦後、
日本
VOICES
人の衣、食、住全般について生活改善向上を目指して、昼夜を問わない真摯な努力を重ねられた先人、先
輩の汗の賜物であることは言うまでもない。
今、食について見ると、
日本の食料の自給率は、
おおよそ40%程度と言われながらも、私ども消費者は、近くのスーパーに
足を運べば好きな食料を必要なだけ容易に手に入れることができ、
ともかく一家がひもじい思いをしないで暮らすことがで
きる。
しかし、たとえばスーパーで牛肉を買い、さらに牛乳を買うこととした場合、その牛肉、チーズおよび牛乳がどのような過
程を経て生産され、
どのような経路を経てスーパーの店頭に並べられ、われわれ消費者の手に渡るのかと言うことになると、
消費者の多くは、そこまでの知識は乏しいのではなかろうか。
私は、ニュースやトピックスなど、時の話題を互いに持ち寄り、話し合って楽しむ同好の会に入っている。たまたま会員から
「生産と消費をつなぐ身近な畜産技術」というリーフレットの提供があった。これを読んでいると、先に述べた「乏しい知識」
が「豊富な知識」に成長してきたような楽しい気分になり、今後の楽しみが一つ増えたような気分である。
今後、
このリーフレットでスーパーカウの話、肉用牛の区分による価格の取り扱い及び初生雛の雄雛の取り扱い等につい
て取り上げて頂ければ幸いです。
坂井三美(さかい
神奈川県
みつみ)
伊勢原市
技
術講座
D N A による 親 子 判 定
皆 さ ん の 家 で 生 ま れ た 赤 ちゃん は 、役 所 の 戸
テ ム が 、家 畜 の 登 録 制 度 で す 。登 録 で は 、名 前 、
籍 係 に 出 生 届 を 出 す こ と で 、初 め て 日 本 人 とし
番 号 、から だ の 特 徴 あ る い は 標 識 器 具 な ど に よ
て 認 めら れ 、ま た 様 々 な 法 的 保 護 の 対 象 と なり
って 個 体 識 別 を 行う ほ か 、従 来 は 血 液 型 で 個 体
ます。
識 別 や 親 子 判 定 を 行って き まし た 。し かし 、近 年
牛 、馬 、犬 な ど の 家 畜 も 、人 と は 違った 理 由 で
個 体 や 血 統 の 登 録 を 行って い る の をご 存 知 で す
か。
牛 で は 全 個 体 の 両 耳 に番 号 札( 耳 標 )を つ け て 、
の 技 術 の 発 展 を 受 け て 、こ れ が D N A 型 検 査 に
置 き 換 わって き まし た 。
あ る 個 体 が 持って い る D N A は 、そ の 両 親 の 精
子 と 卵 子 が 結 合し て1つ の 細 胞( 受 精 卵 )が 作ら
全 て の 個 体 を 区 別 で き る ような 仕 組 み が 作ら れ
れ た とき に 決 定 さ れ 、一 生 どころか 、そ の 個 体 の
まし た 。こ の 番 号 を 手 が かりに 、ど の 牛 も 、そ の
死 後 も 変 わ ること が ありま せ ん 。一 個 体 で は 、頭
生 産 地 、移 動 履 歴 、与 えら れ た エ サ の 種 類 、病 歴
の 先 か ら つ ま 先 ま で 、全 身 の ありと あ ら ゆ る 細
な ど が 追 跡 で き ま す 。こ れ が 牛 のトレ ー サ ビリ
胞 が 同じ D N A を 持って い ま す 。
ティの シ ス テ ム で す 。犬 の 場 合 は 、狂 犬 病 予 防
哺 乳 類 で は1細 胞 中 に約 1 0 億 も の 塩 基( D N A
の た め に 保 健 所 へ の 登 録 が 義 務 付 けら れ て い ま
の 構 成 要 素 )が 含 ま れ 、こ れ が 染 色 体 上 に 並 ん
す 。こ れ ら は 、社 会 全 体 の 食 品 衛 生 や 公 衆 衛 生
で生命 の 機能や 形 の 設計図である遺伝子を形
を 目 的とした 安 全 、安 心 の 個 体 識 別システム で す 。
作って い ま す 。し かし 、実 際 に 個 体 識 別 や 親 子 判
一 方 、家 畜 に は 特 色 の あ る 多くの 品 種 が あり、
品 種 の 特 性 が 人 と の 関 わりで 重 要 な 意 味 を 持っ
て い ま す 。た と え ば 、ホ ル ス タイン 牛 は 年 間 平 均
8 千 キ ロ も の 牛 乳 を 生 産し 、サ ラブレッド は 他 の
ど ん な 種 類 の 馬 よりも 速く走り、チ ワワ は 最 も 小
柄 な 犬 種 で す が 大 きくつ ぶら な 瞳 を もって い る 、
と いう具 合 で す 。こ の ような 場 合 、血 統 の 証 明 が
品 種 の 証 明 に も なって い ま す 。
同じ 品 種 の 中 で も 、個 体 に より大 き な 能 力 の
差 が ありま す 。畜 産 業 で は 牛 乳 生 産 量 や 牛 肉 の
霜 降り度 な ど に よって 雄 牛 が 厳しく選 抜 さ れ て
い ま す 。高 額 賞 金 を 獲 得し た 競 走 馬 、あ る い は
ショー で の チャン ピ オ ン 犬 へ 人 気 が 集 中 す るこ
母
子
父
と は 当 然 と い え ましょう。そ の た め 、個 々 の 家 畜
DNAによる親子判定の方法
が ど の 親 の 子 で あ る か を 知り、ど ん な 子 を 残し
(あるDNAマーカーの泳動図。子は父および母
た か を 記 録し て おくこと が 必 要 で す 。
こ の ような 品 種 特 性 の 保 存 や 親 子 の 証 明 、家
畜 改 良 な ど を 目 的 とし た 個 体 識 別 と 登 録 の シ ス
から1つづつを受けとっているから、親子関係に
矛盾はない。10個くらいのDNAマーカーを調べ
てすべてに矛盾がなければ親子と判定する。)
定 で 検 査 す る D N A は 、マ イク ロ サ テ ラ イト と 呼
正しくな い 親 子 で あ れ ば そ の 9 9 . 9 9 % 以 上 が
ばれ る、遺 伝 子として の 機 能 を 持 た な い 部 分 で す 。
見 つ か っ て し まう ほ ど D N A 型 検 査 の 正 確 度 は
こ の よう な D N A で は 、配 列 に 変 異 が 起 き て も 、
高いのです。
生物の機能には悪影響がないため変異が残さ
D N A に よ る 個 体 識 別 技 術 は 、こ の ほ か 、家 畜
れ ま す 。マ イクロ サ テ ライト は 多くの 個 体 変 異 が
取 引 で の 個 体 の 証 明 、親 子 の 取り違 い 防 止 、迷
あ る た め 、個 体 の 区 別 や 親 子 関 係 を 調 べ る の に
い 犬 の 解 決 、家 畜 の 盗 難 事 件 、人 工 授 精 や 受 精
都 合 の 良 い 遺 伝 標 識 と なって い ま す 。
卵 移 植 な ど 人 工 繁 殖 の 証 明 と 誤りの 防 止 、あ る
親 子 判 定 で は 、血 液 や 毛 根 な ど の 細 胞 の 核 か
ら D N A を 抽 出 し ま す 。そ し て 、特 定 部 位 の
D N A を 試 験 管 内 で の 生 化 学 反 応 を 利 用し て 、
い は 牛 肉 の 流 通 で の 個 体 確 認 な ど 、様 々 な 分 野
で 利 用されています。
1 9 4 0 年 代 から 行 わ れ て き た 血 液 型 検 査 に
抽 出し た 時 の 量 の 数 十 万 倍 に も 増 やし ま す 。そ
よ る 家 畜 の 親 子 判 定 は 、2 1 世 紀 に 入 り 、D N A
の 後 マ イクロ サ テ ライト D N A の 並 び 方 を 機 械 で
型 検 査 と いう新 技 術 の 力 を 得 て 大 き な 飛 躍 の 時
読 み 取り、親 子 関 係 を 調 査しま す 。あ る 子 ども の
代 へ と 移 行し て き まし た 。
D N A 型 は 、必 ず そ の 両 親 の ど ちら か 一 方 が もっ
て い ま す 。こ の 原 理 に よって 親 子 判 定 を 行うと 、
Q
A
印牧
美 佐 生(かねまき みさお)
(社)家畜改良事業団
アニマルセラピーって何ですか?
セラピーは英語のTherapy(「療法」という意味)のことでアニマルセラピーを強いて日本語化す
れば動物(介在)療法ということです。動物による癒し効果については、ギリシャ・ローマ時代から負
傷兵のリハビリに乗馬が使用され、1960年代に入ってから小動物による効用が医療的実験や心理検査を
用いるなどして科学的に検証されるようになりました。これまでにそれぞれの分野で効果的な報告がなさ
れていますが、効果の起因などに解明されにくい部分も多く、さらに究明の余地があるようです。
これに用いられる動物の種類は多様であり、ペット類のほか家畜(馬や中小家畜)があります。アニマルセ
ラピーの内容について米国では、動物介在治療(セラピストが介在し、目標が明確になっていること)
、動物
介在活動(ふれあい活動が中心)
、動物介在教育(中心的目標に教育的配慮がなされていること)に分類さ
れ、その従事者や手法および目的などによって明確に定義・分類され、それら活動の総称として「アニマル
セラピー」を用いることが提唱されています。
わが国における実践例として、千葉県木更津市にある知的障害児通園施設の のぞみ牧場学園 があり、
言語聴覚士や作業療法士などの子どもの発達の専門家による直接療法指導と共にサイド療法としてアニ
マルセラピーを位置付けています。ここでの家畜は、新奇性の高さ、落ち着いた行動様式、視覚的スキャニ
ングとサイズの関係から羊、山羊、ミニブタが選ばれ、子どもの全体的発達を改善する効果が認められてい
ます。
(詳しくは畜産技術協会の機関誌「畜産技術」平成16年7月号をご覧下さい。)
津田 望(つだ のぞみ)
社会福祉法人 ゆりの会
現
場紹介
公共牧場のはなし
2.公共牧場の事例
1.公共牧場とは
「公共牧場」あるいは「公共育成牧場」という言葉を聞
岩手県大東町にある「室根高原牧場」の例で公共牧場の
いたことがありますか。公共牧場とは酪農及び肉用牛経
状況を紹介します。室根高原牧場は岩手県と宮城県の県
営におけるわが国特有の形態で、
市町村等地方公共団体、
境にある室根山の中腹に位置し牧場の標高は550mか
農業協同組合及び畜産公社等が地域の畜産振興を図る
ら750mのところにあります。総面積は313ヘクタール
ために放牧を中心とした乳用牛あるいは肉用牛の集団
でうち牧草地が245ヘクタールとなっています。牧場は
的な飼養を行う牧場をいいます。
大東町、
千厩町及び室根村からなる「室根高原牧場組合」
これらの公共牧場は、
わが国の酪農等の早急な振興を
が管理しており、主にこの3町村の農家の乳牛及び肉牛
図るため、
主に昭和30年代後半から50年代にかけ設置
が放牧されています。平成16年の放牧頭数は乳牛が
され、
最も多い時期には全国で1,200を越える牧場が運
220頭、
肉牛が60頭でこのうち一部は冬期間も牧場に
営されていました。現在は地域により利用農家の減少な
預託されています。牧場の利用料金は1日1頭当たり
どによって休止又は廃止される牧場があり、全国で約
250円で冬期は400円となっています。
放牧地で健康に飼育された牛は放牧終了とともにそ
1,000の牧場が運営されています。
春に牧草が萌芽し放牧できるようになると農家から牛
れぞれの農家に帰り牛乳の生産等に供されます。
の搬入が始まります。乳用牛の場合は主に育成牛が放牧
また、牧場は周辺を県立自然公園等に囲まれ、牧場の
されます。肉用牛の場合は繁殖牛及び育成牛が放牧さ
草地には赤松が点在し、
室根山山頂からは遠く太平洋が
れます。牛を健康に飼育するためには広い草地に放牧し
望まれるなど景観に優れています。このため春から秋ま
適度な運動をさせるのが望ましいことですが、
農地等の
で牧場を訪れる人は多く、
牧場ではこれらの来訪者のため、
土地面積が少ないわが国にあっては個々の農家がそれ
牧場クラブハウス、
バーベキューハウス、
馬場、
キャンプ場、
ぞれ放牧地を持つことは北海道など一部の地域を除い
バンガローなどを整備するとともに、
ふれあい家畜とし
ては困難な状況にあります。そこで、市町村や農業協同
て乗用馬、
ひつじ、山羊、
ウサギなどを飼育しています。
組合などが牧場を設置し農家の牛を集団で放牧するこ
牧場までの道路は整備されていて、
駐車場も広いのでぜ
とが行われるようになりました。現在、
全国の公共牧場を
ひ一度訪問されてはいかがでしょうか。
利用している牛は、乳用牛が約10万頭、肉用牛が5万4
丹野 務(たんの つとむ)
千頭で、
放牧可能な頭数に対してそれぞれ17%、
6%が
(社)日本草地畜産種子協会
公共牧場を利用していることになります。
お 知ら せ コ ー ナ ー
・みんなで紙面を作る Q andA 欄をご用意。皆様からのご質問を募集して います。
乳や肉、卵の生産に役立っている畜産の技術について、常日頃より「どうしてなのか?」と疑問に感じていたり、
「もっと詳しく」知っておきたい
と思う事柄が多いと思われます。
質問の主旨を簡略にまとめていただき「Q and A」欄までお寄せ下さい。リーフレットの紙面上でできる限り分かりやすくお答えしてまいりま
す。それと同時に、消費者の皆様の関心事がどのようなところにあるのかを教えていただくことにもなりますので、それらをもとに今後の紙面作
りにも役立ててゆきます。
質問状の宛先:〒113-0034 東京都文京区湯島3-20-9(社)畜産技術協会
消費者向けリーフレット「生産と消費をつなぐ 身近な畜産技術 Q and A」欄
Fax. 03-(3836)2302 e-mail:[email protected]
・このリーフレットをご希望の方は下記までお申し込み下さい。
社団法人
畜産技術協会
〒113-0034 東 京 都 文 京 区 湯 島 3 - 2 0 - 9
TEL 03-3836-2301 FAX 03-3836-2302
ホームページ http://group.lin.go.jp./jlta/