テキスト - 日本商事仲裁協会

利用の手引
調停人養成教材作成委員会
1
目的及び特色
この「調停人養成プログラム」は、経済産業省・日本仲裁人協会及び日本商事仲裁協会
の協力のもとに設置された調停人養成教材作成委員会が作成したものであり、2つの目的
を有している。
1つは、主として中小企業間や労働者との間で生ずる紛争について、企業人 OB 等の法
律家でないものが、必要に応じて法律家の援助を受けながら調停手続を行うために最低限
必要な技法を修得する目的を持っている。
2つは、本プログラムを使って調停人を育成(トレーニング)する人にも配慮したこと
である。
前者の観点から、調停技法としては、調停手続実施者が法的な評価なしに 1 調停を進める
「自主交渉援助型調停」
(これは、Facilitative Mediationを指す。促進型調停と同義である。)
を中心としている。
また、後者の観点から、実施の手順書(プロトコール)が用意されている。
更に、トレーニングの方法論として、座学ではなく、講師が示し、また、参加者自ら試
し、お互いに意見を交換するという、参加・実践型を大きく取り入れている。
2
基礎編と中級編
自主交渉援助型調停は、両当事者の話し合いのプロセスを管理し、両当事者が充分納得
して自主的に解決を見つけるのを援助する手続である。
基礎編では、自主交渉援助型調停の概念の紹介、自主交渉援助型調停の基礎となる傾聴
のスキル、交渉理論、調停の冒頭のステージ(はじめての出会い)、調停人の倫理などを学
ぶ。
中級編では、より進んだ交渉理論、課題(イシュー)の特定、選択肢の創造、別席(コ
ーカス)、法律家との連携、合意文書の書き方などを学ぶ。
基礎編及び中級編では、グループ討議やロールプレイが多く用意されており、全体を通
じて、受講者全員が最低でも 1 度以上調停人の役割を演じることができるように配慮され
ている。
プログラムは、基礎編と中級編を併せて一体としての意味を持っているが、部分的に活
1
自主交渉援助型調停人は法的評価を行わない。ただし、教材中に解説されているように、自主
交渉援助型調停は、不公正な合意にならないよう、法律家との連携を含めて様々な配慮を行い、
公正な紛争解決を目指す手続である。
1
用することも差し支えない。たとえば、自主交渉援助型調停のイメージをつかむための研
修や、交渉、傾聴といった一部分に着目した研修などに活用することもできる。
3
利用方法と注意点
(1)利用方法
本プログラムの利用方法は大きく2つあることになる。
1つは、これから調停人としての技法を身につけたいという方は、本プログラム中の、
パワーポイント、配布資料等を参考に、現実にトレーニングを受けているつもりで、考え、
参加していくという使い方である。また、テキスト部分については、独立した読み物とし
ても完結できるように配慮している。
2つは、人材育成・トレーニングを考えている人は、主として手順書を中心として、本
プログラムを利用し、実際にトレーニングしていくという使い方である。
(2)注意点
注意していただきたい点は、本プログラムは我々が現時点でたどり着いた1つの教材で
あって、別のモデルや現実の調停の実務を否定するものではないことである。また、自主
交渉援助型調停が、評価型調停、妥協要請型調停(用語の趣旨については本プログラムを
参照)を否定するものでもない。ぜひ、本プログラムを実施し、その成果を現実の様々な
局面で利用することで、新しい工夫を生み出していただきたい。本プログラムは、そのた
めの1つのステップとして広く利用していただきたいと考えている。
なお、利用の許諾要件については、
「本教材の利用をご希望の方へ」を参照されたい。
4
2006年度版の編成
2006年度に委員会では、基礎編(2004年度)、中級編(2005年度版)の教材
を、岡山・山形で試行的に実施した。その際に、教材の若干の改訂箇所を洗い出した。主
な修正としては、①基礎編のテキストの体裁を中級編と同等のものに修正した、②配布資
料においていくつかの追加や改変を行った(改変状況は一覧表にまとめてある)
、③主にパ
ワーポイント中に見られるカタカナ表現を可能な範囲で日本語表記にした、④参考文献で
若干の追加を行った、などがある。しかしながら、これらはマイナーな修正であり、概ね
前年度までの成果物と同様なものであると受取っていただいてよい。
以
2
上
2006 年度版・調停人養成教材・基礎編
1. 調 停 への招 待 Ⅰ
この節 のねらい
調停は自由で柔軟なプロセスです。当事者がじっくり話し合って
満足のいく結果に至るのであれば、臨機応変に進めても OK で
す。ただし、自由で柔軟だからこそ、基本として最低限守らなけれ
ばならないものもあります。ここでは、調停人と当事者の責務を考
えましょう。
1. 調停への招待Ⅰ
1. 基本ルール:調停人と当事者が守るべきルール
○(当事者の自主性)調停は、当事者自身の自主的な話し合いによって両当事者
が納得できる解決を目指すものである。調停人の役割は、当事者が自主的な話
し合いを進めることができるように、そのプロセスを管理することにある。
○(割り込みの禁止)人が話しているときに割り込んではいけない。
○(個人攻撃の禁止)個人攻撃は避け、問題を解決しようと努力しなければなら
ない。
○(秘密保持)調停の過程で話された内容は、秘密にされる。たとえ裁判になっ
ても、調停人は証人として証言しない。
■解説■
(1)
当事者の自主性
調停は、当事者自身の自主的な話し合いによって両当事者が納得できる解決を目指
すものである。
調停には強制力がない。したがって、双方が納得して初めて合意に至る。両当事
者が自主的に努力することが重要である。例えば、片方ばかりが話し、片方が黙っ
ていては両当事者が納得する合意はできない。それぞれの当事者が相手の言い分を
よく聞き、自分の考えを正しく伝えることが重要である。
調停人は、当事者が自主的な話し合いを進めることができるように、そのプロセ
スを管理する。調停人が紛争を解決するのではない。
(2)
割り込みの禁止
話すことが得意ではない人でも、きちんと自分の考えや感情を表現できることが
重要である。そのためには、人が話しているときに割り込んではならない。
調停人は、このルールを破る当事者に対しては、ルールを守るよう、強力に介入
していく。
(3)
個人攻撃の禁止
調停人は、当事者が個人攻撃を避け問題を解決する努力をするように、配慮しな
ければならない。誰が悪いといった「人」のことでなく、どうすればよいのかとい
う「問題」を話し合うのが調停である。
〈1-1〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
(4)
秘密保持
調停の過程で話された内容は、秘密にされる。たとえ裁判になっても、調停人は
証人として証言しない。
但し、合意が成立すれば、調停の合意文書は、契約書となる。合意文書の内容も
秘密にされることが原則である。両当事者は、合意により、公開するか否か、どの
部分を公開するかを決めることができる。
〈1- 2〉
1. 調停への招待Ⅰ
2. 調停の中止等
(調停の中止について)
調停人は、以下の場合には調停を中止する。
・暴力が振るわれる可能性があると感じたとき
・一方当事者に相手方と合意をする権限がないと分かったとき
・一方または双方の当事者が時間の引き延ばしのために調停を利用していると分か
ったとき
・犯罪の存在が明らかになったとき
・調停人が一方当事者と利害関係を有していたとき
(注:「5.調停人の倫理」(p.5-3)参照)
〈1-3〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
3. 当事者の責務
○
当事者は基本ルールを守らなければならない。
○
当事者は自分の問題を解決するために努力しなければならない。
○
当事者は話し合いの進行において調停人の指示に従わなくてはならない。
■解説■
後述するように、調停(特にこの教材で、自主交渉援助型調停)は、当事者の自
主的な交渉を援助して紛争を解決する。当事者は、相対の交渉と同様に、「自分の
問題」として、「自分で解決する」姿勢が基本的に求められる。調停人の役割は、
解決案を提示することではなく、当事者による交渉の進行(プロセス)を管理する
ことにある。調停人にどちらの言い分が正しいか(勝ち負けを)判断してもらう姿
勢や、カウンセリングにより問題を解決してもらうといった受身の姿勢では問題は
解決しない。
設 問
話し合いは、まったく自由に行ってよいでしょうか?
もしルールがあるとすると、それはなぜ必要でしょうか。
〔ヒント 互いに自由に話の腰を折ってもよいでしょうか。〕
〈1- 4〉
2006 年度版・調停人養成教材・基礎編
2. 調 停 への招 待 Ⅱ
この節 のねらい
調停では、話し合いでの紛争解決を目指します。そもそも、紛争
解決にはどのような方法があるのでしょうか。また、話し合いでの解
決とは理論的に可能なのでしょうか。米国等では、紛争解決の理
論の発展が、調停の実務の発展に大きな影響を与えたといわれて
います。調停を可能にする理論を紹介します。
2. 調停への招待Ⅱ
(1) 様々な紛争の解決
回避
交渉
調停
仲裁
裁判
無視
自力
救済
×
1. 多様な紛争解決の連続性
■解説■
(1) 「回避・無視」の状態は、両当事者の話し合いが行われていない状態である。
一方が紛争だと考えていても、もう一方は紛争の存在を認めない場合が多い。
(2) 「交渉」の状態では、両当事者の話し合いが行われる。
(3) 「調停」になって初めて三者関係になる。調停(特に、本教材が対象とする
自主交渉援助型調停)では、調停人が両当事者の話し合いのプロセスに介入
することにより、よりよい交渉を可能にする。調停人とそれぞれの当事者の
話し合いも行われるが、両当事者間の話し合いも行われる。
(4) 「仲裁」「裁判」になると、それぞれの当事者が、仲裁人や裁判官という第
三者に向かって主張・立証していくプロセスに至る。
(5) さらに、「自力救済」では、両当事者が実力行使する紛争状態になり、ここ
では暴力が振るわれる場合もある。
〈2-1〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
(2) 自主交渉援助型調停の位置づけ
〈普通みんなが考える調停〉
交渉
自主交渉
援助型
妥協要請型
(話し合いによる解決)
評価型
仲裁
裁判
(第三者による解決)
(合意による解決)
(強制的解決)
(解決案の創造)
(法的権利の有無)
(友好的解決)
(敵対的解決)
(私は正しい)
(相手の利害も理解できる)
■解説■
本教材で対象としている自主交渉援助型調停(対話促進型調停、促進型調停)
では、調停人の役割は、当事者の自主的な交渉を援助し、対話を促進することに
ある。
自主交渉援助型調停が常に裁判よりも優れているというわけではなく、最終的
には仲裁や裁判で白黒をつける必要がある場合もある。
〈2- 2〉
2. 調停への招待Ⅱ
表 1
柔軟性
◎
調停・仲裁・裁判の比較(その1)
調停
ルールは当事者で決
めることができる。話
し合いの基本ルール
を踏まえれば、あとは
自由。
「基本ルール」
→ 3.3 「 調 停 開 始 の 挨
拶」
仲裁
×
裁判
民事訴訟法
(主張)
訴状、答弁書、準備書面
(立証)
書証、証拠説明書、証拠申出
書、交互尋問、検証
時間、場所は自由。
関係者、利害関係人
の出席自由。
何を解決するか。
→手続の過程でいかよ
うにも対応可能。
速さ
◎
当事者と調停人の合
意で、いつでも、どこ
でも、いつまでも。
合意ができればそれ
で最終解決。
×
秘密性
◎
手続は公開されな
い。
合意も公開しないの
が原則。
合意をどこまで公開
するかは当事者で決
められる。
×
〈2-3〉
裁判所の定める期日。当
事者代理人の都合。裁判
所のみで開廷。
出席は本人 or 代理人の
み。
訴状で特定された訴訟物
のみが課題。
訴えの変更は要式(民訴
法 143 条)
主張の交換
1 ヶ月に 1 回のペースで数回
~10 数回。
証人尋問。
長時間を要する。期日は更
に先へ。
判決
裁判所の起案時間を要する。
控訴→上告
手続、判決ともに公開が原則。
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
表 2
弁護士
の援助
必要?
◎
費用が
安い?
○
良い関
係を保
て る
か?
◎
手続の
主導権
者は
誰?
◎
解決の
内容
◎
調停・仲裁・裁判の比較(その2)
調停
必ずしもいらない。
基本ルールを守り、
話し合いができれば
OK。
相手方と合意できる
権限があれば OK。
→弁護士に相談するこ
とは自由。
申立手数料
(期日手数料)
成立報酬
(弁護士費用)
保てる。
話し合いでの解決を
目指す。
合意の後の関係は維
持される。
仲裁
×
×
×
当事者。
当事者が任意に参加
することにより進める
手続。
途中でやめるのも自
由。
合意するかどうかも自
由。
当事者の合意。
合意の内容はいかようにも
決められる。
×
×
〈2- 4〉
裁判
必要。
手続の要式性
→弁護士が付かないと事実
上困難。
判断の対象
→法的権利の有無。
=勝ち、負け。
=弁護士の助力が必要。
貼用印紙
予納郵券
弁護士費用
保てない。
法的権利の有無。
=勝ち負けを争う。
=敵対関係。
訴訟終了後の関係性の維
持は困難。
裁判所。
法律に基づき手続が進め
られる。
参加を強制される。
取り下げも自由ではない。
判決に至るのが原則。
原告の請求に対する判断だ
け。
2. 調停への招待Ⅱ
表 3
調停の種類
評価型
妥協要請型
自主交渉援助型
当事者の本音を満足さ
せる。
法的判断による解決を
しない。
話し合いのプロセスへ
の介入。
話し合いのプロセスを
管理する知識、技術を
持った人
自主的解決による関係
性の維持
解決まで忍耐を要す
る。
結果として解決できな
い場合がある。
目指すもの
裁判と同様の結論
当事者の主張の中間的
解決
調停人の介
入
調停人のタ
イプ
結論への強い介入
介入は少ない
法律専門家
名士
長所
専門家の判断による判
決的解決
当事者は敵対関係のま
ま
威信による解決
短所
紛争の本質に踏み込め
ない
〈2-5〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
2. 紛争に対する当事者の姿勢
高
競争
協調
(Win/Win)
自己利益重視
妥協
相手に従う
回避
低
関係性重視
高
■解説■
(1) 「回避」とは、紛争から逃げる態度である。紛争がないものとして逃げ回
ることである。自分も相手も得られるものはないので望ましい状態ではない
が、争いは起きていない長所がある。現実には、一見平和に見えることも多
い。
(2) 「相手に従う」という態度でも、争いは起きない。相手には利益があるが、
自分の利益をあきらめる態度である。これも望ましいものでない。
(3) 「競争」は、自分の利益を重視するが、関係性を重視しない姿勢である。紛
争がおきるとき、通常は双方が競争的である。
(4) 「妥協」は、自分の利益も、相手の利益もほどほどにバランスする考え方で
ある。しかし、双方共に満足しない。
(5) 「協調」は、自分の利益も重視し、相手の利益も重視する考え方である。自
主交渉援助型調停では、協調的解決を目指す。
互譲の名の下に、「回避」「妥協」「相手に従うこと」に説得して向かわせるので
はなく、双方の当事者がそれぞれの利益を重視し、両方が満足できる解決策を見つ
けようとするのが、自主交渉援助型調停である。
〈2- 6〉
2. 調停への招待Ⅱ
3. 利害関係に基づく交渉の理論 1
(1)
ゼロサム交渉と Win-Win の交渉
ゼロサムの交渉
Win-Winの交渉
■解説■
裁判等の通常の紛争観では、ゼロサム(足してゼロになる)の交渉をイメージし
ている場合が多い。一方が取れば、相手方が失うという関係である。こうした紛争
では、両当事者は競争的にならざるをえない。
一方、Win-Winの交渉では、解決案を創造し、選択肢を開発することでパイの大
きさを拡げる。また、双方の価値観の違いを利用して、一種の取引を行い、双方が
納得する解決を見つけることができる。自主交渉援助型調停では、双方がWin-Win
の交渉をできるように力を引き出す(エンパワーメント)
。
1 利害に基づく交渉:Interest-based negotiation の訳。
「利益に基づく交渉」と訳される場合
もある。Interest とは、本音や背後にある利害を含めた言葉であり、ここでは、利害という
訳をあえてあてている。
〈2-7〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
(2)
利害に基づく交渉の理論(オレンジをめぐる姉妹の例)2
一個のオレンジをめぐって姉妹が喧嘩した。オレンジを半分に分けることでやっと
折り合いがついたが、姉はその半分の中身だけを食べて皮を捨てた。一方妹は残り
半分の中身を捨て、ケーキを作るのに皮だけ使った。
ケーキ作
りたい
妹の利害・本音
欲しい
妹の主張
ケーキを作りたい 一個のオレンジ
から(オレンジの が欲しい
皮がいる)
一個分のオレン
ジの皮が欲しい
欲しい
食べたい
課題
姉の主張
姉の利害・本音
オレンジの扱い
(所有・処分)
一個のオレンジ
が欲しい
食べたいから(オ
レンジの実がい
る)
一個分のオレン
ジの実が欲しい
■解説■
Win-Win の交渉とは何かを説明するのに、図式化した説明としてよく用いられる
のが、上記のオレンジをめぐる姉妹の例である。
裁判等では、当事者の主張が法的権利として認められるかを、法論理に照らして
議論する。しかし、オレンジを所有・処分する権利が両方にあったとき、半分ずつ
に分ける解決がせいぜいである。一方、背後にある利害・本音を探ると、姉は食べ
たいので実が欲しい、妹はケーキを作りたいので皮が欲しいということになる。オ
レンジを一個分欲しいという主張やその権利にばかり眼を奪われていると、本音の
部分が分からなくなってしまう。このケースでは、本音が分かれば紛争はほぼ自動
的に解決できる。
上図にあるように、双方の主張は、
「一個のオレンジが欲しい」から、
「皮が欲し
い」「実が欲しい」に変わっている。主張にとらわれず、背後の利害・本音を探る
ことが重要である。
2 ロジャー・フィッシャー/ウィリアム・ユーリー/ブルース・パットン、金山宣夫/浅井和子
訳[1998]『新版ハーバード流交流術』(TBSブリタニカ)p.88 を基にした。
〈2- 8〉
2. 調停への招待Ⅱ
もちろん、現実の紛争は、このような単純なものではない。しかし、例えば、本
音としては顔をつぶされたので謝って欲しいだけだが賠償金を要求するというもの
も少なくない。自主交渉援助型調停では、当事者双方の利害・本音を満足させる解
決を目指す。
〈2-9〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
(3)
自主交渉援助型手法(促進的手法)の価値
当事者の要求・
主張
背景にある利害
・本音の探索
越えられない!
自主交渉援助的(促進
的)な手法では、主張
から解決にまっすぐに
向かわない。当事者か
ら話をよく聞き、背後
にある利害・本音を探
索する。
ゆっくりいそげ!
解決
■解説■
自主交渉援助型手法(促進的手法)では、背後にある利害・本音を探りながらゆ
っくりと解決に向かう。このため、「効率的でない」と見られる場合もある紛争解
決手法である。
しかし、双方の要求や主張だけを見ていても、背後にある利害や本音が分からな
ければ、解決より前に「越えられない」谷間が出てくる。
したがって、調停人には何より忍耐強い態度が求められる。
→(参照:「4.1(1)傾聴が必要な理由」
(p.4-1))
〈2- 10〉
2. 調停への招待Ⅱ
1. 調停の他には、どのような紛争解決方法がありますか。
設 問
2. 自主交渉援助型調停以外にはどのような調停のスタイルがありますか。
3. 利害・本音と主張(要求)の違いを説明してください。
〔ヒント オレンジをめぐる姉妹の例では、それぞれの利害と主張は何ですか〕
〈2-11〉
2006 年度版・調停人養成教材・基礎編
3.調 停 を始 める
この節 のねらい
このテキストで対象にしている自主交渉援助型調停は、調停人
は事件の内容(コンテンツ)を評価するのではなく、話し合いの流
れ(プロセス)を管理するのが仕事です。では、具体的には紛争解
決の話し合いはどのような流れをたどるのでしょうか。ここでは、調
停のセッションが始まったときに調停人がどのような点に注意して、
どんなことをすべきかを学びましょう。
3. 調停を始める
1. 調停の流れの説明
① 申立て-主張
1.スタート
② 相手方への参加の呼びかけ
相手方の答弁-主張
2.話し合いの開始 ③
3.話し合い(利害・本音を探る)
4.利害に基づく課題の特定
5.課題解決の検討
傾聴スキル
<ひろげる>
ホワイトボード
コーカス
6.解決案の合意
<収束する>
傾聴スキル
7.終結
■解説■
調停には流れ(ステージ、プロセス、段階)がある。自主交渉援助型の調停人は
事案の内容ではなくこの話し合いの流れ・プロセスを管理する専門家として、意識
的にスキルを活用しながら、各段階ごとの目標に導いていく。
上図は、コミュニケーションを前半で<ひろげる>、後半で<収束する>という、
2つの段階があることを示している。
少し細かく見ると、上記の7つの段階がある。
「1.スタート」
(申立て)から始
まり「7.終結」までは、時間軸で考えても通常この順に進む。「別席での話し合
い(コーカス)」は、必要に応じて行われるが、行われない場合もある。なお、ほ
ぼ終結に向かっているときに、重要な課題が新たに見つかった場合など、順序が前
後する場合がある。調停で重要なのは柔軟性であり、この流れを当事者に無理に押
し付けるべきものではない。話し合いの各段階を意識し、調停を自然にコントロー
ルできることが目標である。
〈3-1〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
2. スタート
○
両当事者に話し合いのテーブルについてもらうのが、ここでの目標になる。
○
当事者に、調停のルール、メリット、留意事項等を説明する。
○
当事者と、調停の日時・場所を調整する。
○
事案が調停に向くかどうかを評価する。
■解説■
調停は一方の当事者による申立てから始まる。次に相手方に調停手続への参加を
呼びかけ、応諾があれば、相手方の主張を明らかにする。双方の主張を明らかにし
た上で、話し合い(調停のセッション)が開始される。
特に難しいのは、相手方の応諾である。当事者が話し合いのテーブルにつけば、
解決への道は大きく開かれる。
事案が調停に向くかどうかの評価はここで行う。
→(「1.2 調停の中止等」(p.1-3)参照)
〈3- 2〉
3. 調停を始める
3. 話し合いの開始
(1)調停人による調停開始の挨拶の意義
○
安心して希望を持って話ができる雰囲気を形成する。
○
当事者が自主交渉援助型調停に戸惑わないようにする。
■解説■
調停人による調停開始の挨拶は、自主交渉援助型調停の基盤を形成する非常に重
要な段階である。進め方に対して理解を得ると共に、信頼感を得ることが重要であ
る。また、リラックスして親密でありながら、公平で真剣な話し合いが行われる場
に引き込まなくてはならない。
したがって、文章の棒読みは望ましくない。しゃべり口調での開始の挨拶ができ
るように練習を積む必要がある。また、両方を公平に扱うため、視線の配り方、体
の向きにも注意が必要である。
〈3-3〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
(2)
調停開始の挨拶で話すべき内容
必須の事項
調停人の氏名の紹介
当事者の氏名の確認
自主交渉援助型調停の趣旨、当事者の役割、調停人の役割
基本ルール(当事者の自主性、割り込みの禁止、個人攻撃の禁止、秘密保持)
→(参照「1.1 基本ルール:調停人と当事者が守るべきルール」(p.1-1)
中立であること
手続の流れ(今日の予定時間)
コーカスの説明
裁判を受ける権利の保障(ただし、調停人が裁判では証言しないこと)
説明が望ましい事項
調停人の変更が可能であること
合意書の執行力がないこと
弁護士を含む専門家の支援を受けることが推奨されること
(必要なら)料金と支払方法
■解説■
これらに加えて最後に「なにかご質問はありませんか」と聞くこと。
その他、トイレの場所の説明、携帯電話の電源を切ること・・・等々、最初に話し
た方がよいと思われることは他にも多い。調停人自身がオリジナルの挨拶を作る
こと。
〈3- 4〉
3. 調停を始める
4. 話し合い
○
両方の当事者が、できるだけ率直に十分に話し合いができることが目標。
○
特に、話し合いをひろげるために、傾聴スキルを使って当事者に話をしてもらう
ことが重要。具体的には、開かれた質問、事実や感情に対するフィードバックな
どの単純な技法も有効。
○
両当事者がそれぞれ何を課題と考えているか、主張の背後にある利害・本音は何
であるかを調停人が探りつつ、両当事者に十分に話をしてもらう。
○
調停人が内心に芽生えた評価を口にしたり、態度で示すのは厳禁。
■解説■
自主交渉援助型調停の前半は、話し合いをひろげるために努力しなければならな
い。調停人が、評価めいた言葉を口にしたり態度で示したりすると、話し合いは広
がらない。傾聴スキルを使って、忍耐強く話し合いを続けていかなければならない。
事実を法的解釈にあてはめる評価型調停や仲裁などとは異なり、自主交渉援助型
調停では、感情も一つの重要な本音の構成要素として扱う。
事実や感情に対するフィードバックを行うことで、当事者を勇気づけ、力を引き
出す(エンパワーメント)ことが重要であるが、一方の当事者に共感することで相
手方から片方に肩入れしていると思われてはならない。調停人のスキルは、当事者
の感情を「理解」することであって、「共感」することではない。
(話題をひろげるための質問例)
「もう少し・・のことについて話していただけませんか」
「何か付け加えたいことはありませんか」
「・・のとき、あなたはどのように感じたのですか」
「・・が起きる前は、あなたたちの関係は良かったのですね」
〈3-5〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
5. 利害に基づく課題の特定
○
話し合いによって解決すべき「課題」を特定することが目的。
○ 「課題」
「それぞれの主張」
「それぞれの利害・本音」に分析しながら「課題の特
定」を行うこと。
■解説■
当事者から、主張とその背後にある利害や本音を十分に探り出したら「課題の特
定」を行う。
「課題」
「それぞれの主張」
「それぞれの利害・本音」に分析すること。
(→参照:「4.5 紛争の分析」(p.4-6))
「課題」は、
「何を?」
「どうすれば?」という問いの形で立てること。また、両
当事者が受け入れられる中立的な表現で課題を設定すること。
「課題」をホワイトボードやフリップチャートのような両当事者が見える場所に
大きく書き出すことも、①話し合うべき対象が明白になる、②当事者にとって、自
分の関心ある「課題」が書き出されることで安心できる、③過去指向・権利指向の
話し合いでなく、未来志向の問題解決型話し合いに誘導できる、というメリットが
ある。
(→参照:「ホワイトボード(フリップチャート)の活用」(p.4-4))
〈3- 6〉
3. 調停を始める
6. 課題解決の検討
○
課題を解決する柔軟で創造的な選択肢を開発する。
○
ゆさぶり(リフレイム)により、利害や本音を満足させる解決がないのかを探っ
ていく。
○
「もし合意できなかったらどうなるか」を検討する。
■解説■
選択肢の開発
選択肢の開発には、ブレインストーミング(どんなつまらない解決策でも
よいのでどんどん出すことで多数のアイデアを作り出す話し合い技法)を行
う場合がある。
選択肢の開発には、調停人も参加してよい。ただし、
「○○についても考え
てみたらどうか」という選択肢を追加する方向で行い、唯一の解決策として
提示しない。
課題の検討順序
リストアップした課題のうち、容易なものから順に解決案を見つけていく
方法と、一気に全部の解決案を見つける方法がある。前者は、簡単な課題を
解決することで、成功体験を共有できるメリットがある。一方、すべての課
題について背後にある利害・本音の部分でつながっているような場合には、
一気に全部の解決案を見つけるような話し合いになる。
主張内容でなく、背後にある利害・本音の重視
最大限○○円までしか出せないといった「主張」の内容でなく、背後にあ
る利害・本音を重視しながら、課題を解決する方法を考える。
何を提供できるかを聞く
何が欲しいということでなく、今及びこれから何ができるかを聞く。
(質問の例)
「この問題を解決するために、今あなたができることは何ですか」
「あなたがこの問題が今後起こらないように何ができますか」
「・・までは合意できたのですね。もう少し進めるために、どちらかの方が
何かできませんか」
「もし、ここで解決できなかったら今後どうなりますか」
〈3-7〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
7. 解決案の合意
○
当事者に少しでも不安があるときには、合意をあせらないこと。十分に情報を
得た上での合意であることを確認すること。特に、調停人の価値観から見て納
得ができない合意案には、各当事者に十分確かめ、次回の期日まで持ち越すこ
とも検討すること。
○
合意された内容が現実的なものか、もし何かがうまくいかなかったときにすぐ
に紛争にならないように次善策が規定されているかを確認すること。
○
合意文書は、契約書となる。合意文書の作成には、弁護士等の関与・協力が望
ましい。
■解説■
合意文書には、合意の日付、当事者の氏名と住所、調停人の氏名、合意する事項、
合意内容を記載する。
時には、振り出しに戻って話し合う必要が出てくることもある。
合意内容そのものには満足しているのに、組織等を後ろに背負っている等の事情
で、和解することは自分の弱さにつながるとして最終合意をためらう当事者がいる。
調停人は、「解決」という商品を売るセールスマンのように振舞うのがよい。合意
は決断であり、弱さではなく強さを意味すると説明するのもよい。
(合意内容として最低限確認すべき事項例)
「誰が実施するか」
「何を行うのか」
「いつ行わなければならないか」
「どのように行うか」
「いくらか」
「何か一部でも約束が守られなかったらどうなるか」
「関係訴訟をどうするのか」
〈3- 8〉
3. 調停を始める
8. 別席での話し合い(コーカス)
別席での話し合い(コーカス)の目的
❍ 情報を得ること。特に、主張の背後にある利害・本音(インタレスト)を探るこ
と。また、合意に至る前に、合意内容が現実的に守られるかを確かめ、また、十
分情報を得た上で合意しようとしているかを確かめること。
❍ 緊張度を下げること(まじめに話し合われない雰囲気の時には、逆に緊張度を上
げること)。
❍ 堂々巡りの議論になってしまったときに、当事者に自覚させ、議論のやり方を見
直させること。
■解説■
(1)
(2)
(3)
別席のメリット
・
相手方に話したくない利害・本音を聞くことができる。
・
同席でのこう着状態を脱することができる。
別席のデメリット
・
調停人のコントロールが強くなってしまう。
・
別席での話をしていない側に、猜疑心が生まれる。
別席の注意点
・
相手方に予測所要時間を告げておく。告知した時間を超える場合には、相手
方に会い、新たな予測時間を告げる。
・
時間はなるべく短くし、別席での話をしていない側に、猜疑心が生まれない
ようにする。
・
待っている相手方に宿題を与えるとよい。
・
別席で話された内容は、調停人からは発言しない。
・
ノートは、通常のセッションと違う色の紙を使うと間違い・混乱を避けられ
る。
・ 調停人が考える「落としどころ」に、当事者を説得して誘導してはならない。
〈3-9〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
9. 終結
合意が成立したとき
○
当事者の努力を賞讃する。
○
アンケートに答えてもらう等の必要な手続を依頼する。
合意が成立しなかったとき
○
当事者の努力に敬意を表する。
○
充分手伝えなくて残念であったと言う。
○
それぞれの今後のアクションのためのアドバイスなどを行う。例えば、相談
機関の連絡先リストの提供など。
■解説■
(1)
明白な終結
合意の成立、不成立に係らず、「終結」したことははっきりとさせる。
(2)
合意が成立しなかったときの注意
特に、合意が成立しなかったときにも、最後まで当事者本位の支援を惜しま
ない姿勢を示す。
合意が成立しないことそのものは調停人にとって恥ではない。調停人が問題
から逃げたり、問題を投げ出してはならない。
再度の調停申立ての扉を開けておく。
1. はじめの挨拶ではどんなことを話すべきでしょうか。
設 問
2. 話し合いの序盤に気をつけるべきことにはどのようなことがありますか
〔ヒント 解決を急いでいると十分に広がらないものとは・・〕
〈3- 10〉
2006 年度版・調停人養成教材・基礎編
4.調 停 の技 法
この節 のねらい
自主交渉援助型調停の模擬調停の実演を見て、まず、目を引く
のはその丁寧な応対の仕方でしょう。話し方、聴き方について、具
体的に身に付けるべき技法を定義し、学習すべき内容を明らかに
しています。
よく聴く技術を身に付けることは、調停人としてだけでなく、仕
事、友人、家族関係でさえ効果があると言えるでしょう。この節で
は、調停の中で使える技法を学びましょう。
4. 調停の技法
1. 傾聴
(1)傾聴が必要な理由
立場
要求
解決
主張
立場
要求
解決
氷山
背後にある利害・本音
(インタレスト)
■解説■
上図に示すように、口に出され、表現される主張や要求は「氷山の一角」であり、
その背後には表現されない利害や本音がある。これらは、単に秘密にされる場合も
あれば、当事者自身がはっきり自覚できていない場合すらある。
このような話し合い・コミュニケーションの特質を理解した上で、調停人は背後
にある利害・本音を探らなければならない。
このときに有力なツールになるのが、傾聴(アクティブリスニング)のスキルで
ある。
〈4-1〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
(2) 傾聴
○
臨む姿勢
- 無知の知(Not knowing)
- なおかつ(Yes, and..)
○
ボディランゲージ
- 顔の向き、視線、体の向き、開かれた姿勢、ゆったりとした雰囲気
(FELOR: face, eye, lean, open, relax) 1
○
質問技法
- 開かれた質問、繰り返し、要約、言い換える、枠組みをゆさぶる
■解説■
(1)
臨む姿勢
傾聴は、質問技法と狭く考えるのではなく、まず臨む姿勢を必要とする。「知ら
ない」という白紙の状態で、当事者のことをいまここで理解したいという態度が必
要となる。また、当事者の主張を受け入れ、ある主張があり、「なおかつ」別の主
張があるという形で受け入れていく肯定的な姿勢が重要である。
(2)
ボディランゲージ
当事者は、調停人から話される質問の中身だけでなく、顔の向き、視線、体の向
き、姿勢、雰囲気などすべてを見ている。ノートばかりを見ていたり、腕組みなど
の堅い姿勢をとったり、一方当事者を見る表情と相手方の当事者を見る表情が違っ
たりすると問題である。
(3)質問技法
・開かれた質問
・繰り返し
・要約
・言い換える
・枠組みをゆさぶる
1
トレーバー・コール[2002]『ピア・サポート実践マニュアル』
(川島書店)
〈4- 2〉
4. 調停の技法
2. ノートの取り方
各当事者の主張
調停人のノート
当事者A
当事者B
•主張
•主張
共通基盤
■解説■
調停人は、当事者の発言をよく聞くためにノートを取る。一言一句書き写すよう
な聞き方では、傾聴にはならない。固有名詞、数値等ポイントのみを書き写すよう
にする。また、ノートの量を両当事者でバランスをとるようにも注意しなければな
らない。
共通基盤(事件が起きる前は仲がよかったことなど)になる事項は、別に書き出
すと便利である。
〈4-3〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
3.ホワイトボード(フリップチャート)の活用
各当事者の主張
調停人のノート
当事者A
当事者B
•主張
1.○○の・・方法は?
2.何を○○するの・?
•主張
双方の主張
を、共通の
課題に変換
する
共通基盤
課題は、How・・?,
What・・?
の形で文章化する
■解説■
ホワイトボードやフリップチャートに、話し合うべき課題を列挙するのは有効な
手段である。メリットは以下の通りである。
①
話し合うべき対象が明白になる。
②
当事者にとって、自分の関心ある「課題」が書き出されることで安心できる。
③
過去指向・権利指向の話し合いでなく、未来志向の問題解決型話し合いに誘
導できる。
さらに、当事者同士が正面を向き合うのでなく、やや斜めを向くことで心理的に
も敵対感情を和らげる効果があるとも言われている。
〈4- 4〉
4. 調停の技法
4.調停室の準備
○
自主交渉援助型調停では、同席での話し合いが原則であるから、同席の場の「しつら
え」は極めて重要である。
○
四角いテーブルに比べて、丸テーブルの利用が望ましいと言われる場合があるが、む
しろ位置関係(距離、向き等)に注意を払わなければならない。
○
当事者が帰ろうとしたり、つかみかかろうとしたりする危険があることを前提に席を
セッティングすること。
○
電話など話し合いを中断する要因に注意すること。
○
ホワイトボードやフリップチャート等の備品、ノートや筆記具等の予備を含めた準備
を確認すること。
○
調停室だけでなく、待合時・別席(コーカス)時に当事者が待つ部屋にも気を配り、
彼らの動きや感情も予想すること。
■解説■
調停は柔軟な手続であり、海外では、レストランや喫茶店で行われることもある。
しかし、柔軟であることは、無頓着であってよいことを意味しない。むしろ、細心
の注意を払って、椅子やテーブルをセッティングしなければならない。
当事者が不快でないかどうかを確認することも重要である。
〈4-5〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
5. 紛争の分析
___の
___の
利害・本音
主張
課題
・どうやって?
・何を?
___の
___の
主張
利害・本音
■解説■
紛争を分析するにあたって、上記のように両当事者が話し合うべき「課題」を設
定し、それぞれの「主張」を把握し、その背後にある「利害・本音」をさぐる。
重要なことは、
「主張」にとらわれすぎないことである。
「主張」の背後にある「利
害・本音」を探るために、コミュニケーションをひろげる段階に充分に時間を取り、
忍耐強く進めなければならない。
→(「2.3(2)利害に基づく交渉の理論(オレンジをめぐる姉妹の例)
(p.2-8)参照)
〈4- 6〉
4. 調停の技法
設 問
傾聴のスキルとはどのようなものでしょうか。
〔ヒント 言葉以外のスキルは? 質問・応答のスキルには何がありますか?〕
〈4-7〉
2006 年度版・調停人養成教材・基礎編
5. 調 停 人 の倫 理
この節 のねらい
あなたの友人があなたに調停人になってほしいと事件を持ち込
んできました。さて、あなたは調停人を引き受けるべきでしょうか。
あるいは、調停成立後、一方の当事者から、顧問になってほしいと
依頼されたとき引き受けてもよいでしょうか。このように、現実の調
停において、具体的に直面することが考えられる微妙な状況で、
どのような判断を行うべきでしょうか。調停人の倫理や行動規範を
定めた法律はありません。しかし、調停の実務を行ううえでは最初
から必要になってくる大切な部分です。
1. 調停への招待Ⅰ
1. 序論
○
調停人の倫理の問題は、調停人にとって出発点でもあり、終着点でもある。
○
現在、調停人の倫理について直接に規定する法律はない。
○
今後、調停が活発に利用されるにつれて、調停人の倫理の明確化に向けた議論
が盛んになっていくものと予想される。
■解説■
調停人の倫理の問題は、調停人となろうとする者が予め身に付けておかなければ
ならないという意味では、調停人にとって出発点の問題であるといえる。しかしな
がら、調停人の倫理のあり方については、当初から正解があるのではなく、長年の
調停制度(手続)の運用の中から、あるいは多くの調停事件を経験することによっ
て導き出されるものであるという意味では、調停人にとって終着点の問題であると
もいえる。
我が国において、民間での調停(裁判外紛争解決手続)は、司法制度改革の一環
として論じられるようになって初めて注目されるようになったといっても過言で
はない状況であり、現在のところ、調停人の倫理について直接に規定する法律はな
い。
今後、民間での調停が国民に信頼されて活発に利用されるようになるためには、
調停人の倫理を明らかにしていくことは避けて通ることのできない問題である。
以下は、民間での調停の先進国である欧米の調停人の倫理に関する文献を参考と
して、調停人の倫理に関する事項をまとめたものである。なお、あくまでも今後の
議論のたたき台としての試案であることをご理解いただきたい。以下の試案を基礎
として、今後の調停実務の中でさらに議論され、より深まっていくことを期待する。
〈5-1〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
2. 調停人の姿勢
○
調停人は、話し合いによって当事者の紛争を解決するという調停人の役割を越える
行為をしてはならない。
○
調停人は、調停事件の処理に当たって公明正大でなければならない。公明正大とは、
言行共に偏見や私心がないことをいう。
■解説■
調停人は、当事者の合意による紛争解決を促進するために当事者が選任した「第
三者」であることを忘れてはならない。したがって、当事者が選任した目的を越え
て当事者に関わることは望まれていない。
また、紛争解決に向けた当事者の合意を得るために、調停人は当事者が納得でき
るような振る舞いが求められている。したがって、調停人が自らの利害に照らして
調停事件の処理に当たることが許されないのはもちろん、当事者からの信頼を失わ
ないよう、偏見や差別に基づいた手続の進行や処理を行ってはならない。
〈5- 2〉
1. 調停への招待Ⅰ
3. 調停人の立場
1
独立性・公正性
調停人は、当事者との間に調停人の独立性・公正性を疑わしめる事情がある場合
には、すべての当事者に対し、その事情を遅滞なく開示しなければならない。
2
合意内容の公正性
①
調停人は、当事者に対し、当事者が合意する前に、弁護士その他の専門職に
ある人から専門的な知見についてアドバイスを受ける機会を与え、かつ、アドバ
イスを受けるよう勧めなければならない。
②
調停人は、当事者の合意内容が、違法である場合、一方当事者にとって著し
く不利益である場合、誤った情報に基づく場合、または執行不可能である場合に
は、以下の手続を取ることができる。
a
当事者に対し、調停人が懸念する問題点を通知する。
b
当事者に対し、調停人が懸念する問題点を通知し、調停人の修正案を提
示する。
c
調停人を辞任し、当事者にその理由を書面で通知する。
■解説■
(1)
独立性・公正性
調停人は、紛争の当事者から独立した第三者たる地位にあることが求められる
(これは調停人に限らず、裁判官、仲裁人その他紛争解決手続を実施する者にも同
様に当てはまる)。これは、調停人が一方の当事者と密接な関係または利害関係を
有する等当事者から独立した地位にない場合には、当該当事者に偏って調停手続を
進めるおそれが高く、他の当事者が納得できる紛争解決を期待できないからである。
また、調停人が紛争自体やその結果に何らかの利害関係を有している場合、また
は過去に紛争に何らかの形で関与したことがある場合には、紛争についての主観や
偏見、または自己や第三者の利害に基づいて調停手続を進めるおそれがあり、公正
な紛争解決を期待できないため、調停人に公正性を疑わせる事情がないことが望ま
れる。
〈5-3〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
もっとも、調停人に上記のような独立性・公正性を疑わせる事情が存在した場合
であっても、他の当事者が調停手続に当該調停人を関与させることを承諾する場合
には、必ずしも当該調停人を当該調停手続から排除しなければならないものではな
い。
したがって、調停人は、一方当事者との間に独立性・公正性を疑わせる事情が存
在した場合、あるいは調停手続開始後に独立性・公正性を疑わせる事情が生じた場
合には、他のすべての当事者にその旨を遅滞なく開示し、調停人が当該調停手続に
関与し続けてよいか、あるいは辞退すべきか、全当事者に確認することが望まれる
(なお、独立性・公正性が強く疑われる場合には仮に当事者の納得が得られても、
調停人としては当該調停手続に関与すべきではないであろう)。
《調停人の独立性・公正性が強く疑われる例》
○
調停人が当事者と同一である場合、または当事者である法人の代表者であ
る場合
○
調停人が当事者の役員もしくは管財人である場合、または当事者に支配力
を及ぼし得る株主その他資本関係を有する者である場合
○
調停人が当事者の配偶者、親族、後見人、保佐人または補助人等である場
合
○
調停人が当事者の代理人である場合
《調停人の独立性・公正性が疑われる可能性がある例》
○
調停人が当事者の関連会社の代表者である場合、または当事者の関連会社
の役員もしくは管財人である場合
○
調停人が当事者またはその関連会社の株主その他資本関係を有する者であ
る場合
○
調停人が当事者またはその代理人と同一の組織に属する場合
○
調停人が当事者またはその代理人と親密な関係にある場合
○
調停人と当事者またはその関連会社との間に取引関係または金銭関係があ
る場合
○
(2)
調停人が過去に当該紛争に何らかの形で関与したことがある場合
合意内容の公正性
当事者は、自己が有するあらゆる情報を基礎として、紛争解決の合意が自己の利
害や本音を満たすか、あるいは自己その他にいかなる影響が生じるか等を総合的に
考えた上で、紛争解決に合意するか否かを自己決定する。
〈5- 4〉
1. 調停への招待Ⅰ
しかし、第一に、当事者間に情報の格差がある場合、または当事者が有する情報
が不十分または誤りである場合には、真の自己決定は達成できない。
この場合、調停人は、当事者がかかる情報を十分に得るために、当事者に対し専
門的な知見について専門家からアドバイスを受けるよう勧めなければならない(な
お、調停人は、当事者の紛争解決を促進する役割にとどまるべきであり、公正性が
疑われないためにも自ら当事者に対して専門的なアドバイスをするべきではない)。
第二に、紛争解決の合意内容が違法である場合には法的知識の欠如、一方当事者
にとって著しく不利益である場合には当該当事者が物事を判断する能力を欠いて
いるか、外的圧力を受けた可能性、誤った情報に基づく場合には当事者の利害や本
音を満たしていない可能性等が認められ、当事者の自己決定の過程に瑕疵があると
言わざるを得ない。
また、合意内容が誤った情報に基づく場合には新たな紛争の発生、執行不可能で
ある場合には合意内容の不履行等が見込まれ、紛争が実効的に解決されていないと
言わざるを得ない。
これらの場合、調停人は、懸念する問題点を当事者に通知し、場合によっては修
正案を提示するか、あるいは調停人を辞任する等の対応を取るべきであり、当事者
に上記のような問題点を孕んだままの合意をさせてはならない。
〈5-5〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
4. 調停人の役割
○
調停人は、当事者に対し、いかなる場合でも手段・方法の如何を問わず決断、
和解または合意を強制してはならない。
○
調停人は、当事者に対し、当事者の合意は自発的なものでなければならないこ
とを自覚させなければならない。
○
調停人は、当事者が合意により紛争を解決できるよう援助する役割を積極的に
果たさなければならない。その目的のため、調停人は、当事者に対し、諾否の
自由が当事者にあることを示した上で、紛争解決に向けた提案をすることがで
きる。
○
調停人には、当事者に対し、法的なアドバイスを与える役割はない。
■解説■
調停(特に自主交渉援助型調停)は、当事者の自主的な交渉を援助して紛争を解
決するものである。そして、調停人は、当事者の自主的な交渉を援助して対話を促
進する役割を担うことはこれまで述べてきたところである。
したがって、当事者の自主的な交渉のためには、調停人が当事者に意思の強制を
行うことは許されない。また、紛争解決の合意に際して、調停人は、当事者が自ら
の意思で合意しているのかを確認すべきである。
もっとも、調停人が当事者に意思の強制を行わない限り、当事者の紛争解決を援
助するため、一定の提案を行うことができる。その際には、当事者が納得しないの
に調停人からの提案に応ずることのないよう、当事者に受諾または拒否の自由があ
ることを明示することが求められる。
調停人は当事者の自主的交渉を援助するため、当事者に選任されたのであり、当
事者に対して法的なアドバイスを与える目的で選任されたわけではない。特に法的
なアドバイスは概して一方の当事者に有利に働く場合が多く、他方の当事者の目に
は、調停人が相手方に偏っているように映りかねない。当事者の信頼の基礎にある
調停人の公正性が疑われると、調停が進行せず、紛争解決に至らなくなるおそれが
ある。したがって、調停人としては、当事者に対し、弁護士その他の法律専門家に
法的なアドバイスを受けるよう勧めるべきである。
〈5- 6〉
1. 調停への招待Ⅰ
5. 調停人の義務
1
誠実義務調停人は誠実に調停を遂行しなければならない。
2
研鑽義務調停人は自らの技術と理解力を磨く責任があり、改善のための批判と
提案に絶えず耳を傾けなければならない。
3
秘密保持義務調停人は、調停事件に関する事実または調停事件を通じて知り得
た事実を他に漏らしてはならない。
■解説■
(1)
誠実義務
どのような職業であるかにかかわらず、与えられた職務を誠実に遂行することは
当然の義務であるが、殊に当事者の合意により選任された調停人は、当事者からの
信頼や紛争解決に寄せる期待を裏切ることのないよう、誠実に調停を遂行すべきで
ある。
(2)
研鑽義務
紛争は、1つとして容易なものはなく、また千差万別であり、過去に取り扱った
紛争での解決手法がそのまま単純に持ち込めることはおよそないものである。調停
人は過去の経験に満足することなく、自らの調停技法やスキルを常に向上させると
ともに、当事者の主張やその背景にある利害・本音を理解するために必要な知識と
能力を身に付けることが求められる。
(3)
秘密保持義務
秘密保持は調停の基本ルールである。調停人が秘密保持義務を遵守するとの信頼
があればこそ、当事者は利害・本音を打ち明けるということを忘れてはならない。
→(参照:「1.1(4) 秘密保持(p.1-2)」
〈5-7〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
1. 利害関係を開示しても、調停を引き受けるべきでないときは、どのような場
設 問
合ですか?
〔ヒント 肉親が一方当事者だったら調停できますか〕
2. 一方が法的権利について無知で合意が成立しそうな場合に、調停人はそ
のまま合意させるべきでしょうか?
〔ヒント 合意内容の公正性とはどのようなものですか〕
〈5- 8〉
2006 年度版・調停人養成教材・基礎編
資 料 編
資
資
資
資
資
料
料
料
料
料
1
2
3
4
5
用語集
文献案
調停人
裁判外
(社 )日
内
の倫 理 (2004 年 調 停 人 養 成 教 材 作 成 委 員 会 試 案 )
紛 争 解 決 手 続 の利 用 の促 進 に関 する法 律
本 商 事 仲 裁 協 会 「国 内 調 停 規 則 」
資料編
■資料1 用語集
調停(メディエーション)
・
当事者間の紛争を、当事者自身が合意により解決することができるように、
第三者(調停人)が支援するプロセスをいう。
仲裁(アービトレーション)
・ 紛争当事者が第三者(仲裁人)に紛争の解決を委ね、仲裁人の判断に従うこ
とで解決する方法。仲裁判断は、原則として拘束的である。
・
日本では、2003 年仲裁法が全面的に改正され、2004 年に施行された。
交渉(ネゴシエーション)
・
紛争当事者間における議論、駆け引き、譲り合い等により、紛争を解決す
るプロセスをいう。
・
代理人による交渉もある。
裁判外紛争解決(ADR, Alternative Dispute Resolution)
・
裁判以外ないし裁判所外で紛争解決をする手続の総称で、調停や仲裁のほ
か、様々な解決方法が含まれる。
・ 日本では、2004 年に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」
(い
わゆる ADR 法)が制定された。なお、ADR 法では仲裁を除外し、仲裁手続に
は、別途「仲裁法」が制定されている。
自主交渉援助型調停(facilitative mediation;対話促進型調停、促進型調停)
・
両当事者の話し合いのプロセスを管理し、両当事者が充分納得して自主的
に解決を見つけるのを援助する手続。
評価型調停(evaluative mediation)
・
第三者(調停人)の専門的知識を背景にして、(法的)評価を背景に合意に
導くプロセスを言う。事実上、仲裁と似たものとなる。
非公開性(機密性)
・
調停の特徴として、調停で話される内容が公開されないという点がある。
また、合意結果についても原則として公開されない(当事者合意があれば、
公開される)。過程、結果ともに公開される裁判とは著しく対照をなしてい
る。
〈資料-1〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
傾聴(アクティブリスニング)
・
「聴く」ための重要な手法の総称である。相手が言っていることに耳を傾
け、そのメッセージの内容とその背後にある感情の両方を適切に理解する
ように努める。
・
具体的には、効果的なコミュニケーションを実現するため「相づち」「繰り
返し」「開かれた質問」「言い換え」などの手法を意識的に使うことを意味
する。
背後にある利害・本音(インタレスト)
・
人々の主張の背景にある、潜在的な真意、欲求や懸念をいう。
主張(ポジション・立場)
・
相手に対して行う表面的な要求内容を意味する。
・
調停理論及び交渉学では、主張と本音を区別する。
課題(イシュー)
・
「何を話し合うべきか」ということ。討論または話し合いの議題を指す。
・
課題を特定すれば、半分は解決されたと言われ、課題の特定は調停の中の
解決への焦点である。
・
調停理論及び交渉学では、1つの事案につき複数の課題を特定した上で、
それぞれの課題への解決案(オプション)を複数検討し、解決に至る道を探
る。
力を引き出す(エンパワー/エンパワーメント)
・
当事者の本来持つ能力が十分引き出されること。
・
エンパワーメントの原意は、個人またはグループ(集団)によりパワーを
与えることであるが、最近では教育・コミュニティの組織化、創造的作業で
の協調等の様々な場面で用いられるようになり、当事者が本来有する能力を
引き出すことを意味するようになっている。
・
調停におけるエンパワーメントとは、調停過程を通じて、当事者が十分情
報を得て、十分に言いたいことを言い、感情的にも納得した上で合意に至る
ことを意味する。
〈資料- 2〉
資料編
■資料2 文献案内
【米国の調停】
・
レビン小林久子[1999]『調停ガイドブック-アメリカのADR事情-』(信山社)
→
・
米国のADR事情概況を知るには最適
レビン小林久子[1998]『調停ハンドブック-調停の理念と技法-』
(信山社)
→
米国の調停トレーニングの内容について理解できる
【ハーバード流交渉術】
・ ロジャー・フィッシャー/ウィリアム・ユーリー/ブルース・パットン、金山宣夫/
浅井和子訳[1998]『新版ハーバード流交流術』(TBSブリタニカ)
→
米国では基本書(必読)の扱いを受けている。BATNAなどの必須概念が
ここで提案された
・
ウィリアム・ユーリー、斎藤精一郎訳[2000]『決定版ハーバード流“NO”と言わせ
ない交渉術』三笠書房
→
『ハーバード流交渉術』の続編的位置づけで、具体的戦略について詳しく書
かれている
【その他】
・
廣田尚久[2002]『紛争解決学』
(信山社)
→
ADR 検討会委員でもある廣田教授の著作で体系的に書かれたもの
・ 和田仁孝 他[2002]『交渉と紛争処理』(日本評論社)
→
和田仁孝教授(早稲田大学)、和田安弘教授(大阪女子大)、山田文助教授(京
大)ら法社会学者による
・
井上治典・佐藤彰一[1999]『現代調停の技法~司法の未来~』(判例タイムズ社)
→
「同席調停」技法に着目したシンポジウムをもとにまとめた本
・ レビン小林久子[2004]『紛争管理学』(日本加除出版)
→
トランスフォーマティブ調停の紹介がある
〈資料-3〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
・ レビン小林久子[2004]『調停への誘い』(日本加除出版)
→
レビン助教授の最新作。九州大学紛争管理センターで用いているトレーニン
グマニュアル
・
名古屋ロイヤリング研究会編[2004]『実務ロイヤリング講義』(民事法研究会)
→
ロースクール向けテキスト。
「ADR を含めた紛争解決手段の選択」
「交渉総論」
などの章がある
・ Kathleen M. Scanlon 著、東京地方裁判所 ADR 実務研究会訳[2003]『メディエーターズ・
デスクブック』(三協法規出版)
→
米国の ADR 専門シンクタンク CPR Institute for Dispute Resolution がまと
めたマニュアルを翻訳したもの
・
トレーバー・コール[2002]『ピア・サポート実践マニュアル』(川島書店)
→
学校の中でのピア・メディエーションを教え、実践するためのマニュアル。
トレーニング素材が豊富
・ Ellen Raider/Susan W. Coleman
野沢聡子訳[1999]『国際紛争から家庭問題まで
協
調的交渉術のすすめ』(株式会社アルク)
・
野沢聡子[2004]『問題解決の交渉学』(PHP 新書)
・ 内堀宏達[2005]『別冊NBL 101 ADR法概説とQ&A(裁判外紛争解決の利用の促
進に関する法律)』(商事法務)
・ 内堀宏達 [2006]『ADR 認証制度 Q&A』(商事法務)
・ 早川吉尚、山田文[2004]『ADR の基本的視座』(信山社)
【URL】
・
(社)日本商事仲裁協会
http://www.jcaa.or.jp/
・
(社)日本仲裁人協会(JAA)
http://arbitrators.jp/
〈資料- 4〉
資料編
・
内閣府司法制度改革推進本部 ADR 検討会
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/03adr.html
・
ADR Japan
http://www.adr.gr.jp/
・
NPO法人日本メディエーションセンター
http://www.npo-jmc.jp/
・
NPO法人シヴィルプロネット関西
http://www.civilpro.net/
〈資料-5〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
■資料3 調停人の倫理(調停人養成教材作成委員会試案)
調停人の倫理の問題は、調停人となろうとする者が予め身に付けておかなければならな
いという意味では、調停人にとって出発点の問題であるといえる。しかしながら、調停人
の倫理のあり方については、当初から正解があるのではなく、長年の調停制度(手続)の
運用の中から、あるいは多くの調停事件を経験することによって導き出されるものである
という意味では、調停人にとって終着点の問題であるともいえる。
我が国において、民間での調停(裁判外紛争解決手続)は、司法改革の一環として論じ
られるようになって初めて注目されるようになったといっても過言ではない状況であり、
現在のところ、調停人の倫理について直接に規定する法律はない。
今後、民間での調停が国民に信頼されて活発に利用されるようになるためには、調停人
の倫理の明確化は避けて通ることのできない問題となって行くものと予想される。
以下に、民間での調停の先進国である欧米の調停人の倫理に関する文献を参考として、
調停人の倫理に関する事項をまとめてみた。もとより当委員会の委員も調停人としての十
分な経験を有するものではなく、主に文献上の検討に拠っているため、実情にそぐわなか
ったり、誤りも多々あるものと思われる。以下は、あくまでも試案程度のものに過ぎない
ことをご理解いただきたい。当委員会としては、今後も調停人の倫理について検討を続け
て行きたいと考えている。
〈資料- 6〉
資料編
Ⅰ
調停人の姿勢
①
調停人は、話し合いによって当事者の紛争を解決するという調停人の役割を越える
行為をしてはならない。
②
調停人は、調停事件の処理に当たって公明正大でなければならない。公明正大とは、
言行共に偏見や私心がないことをいう。
Ⅱ
調停人の立場
1
独立性・公正性
調停人は、当事者との間に調停人の独立性・公正性を疑わしめる事情がある場合
には、すべての当事者に対し、その事情を遅滞なく開示しなければならない。
2
合意内容の公正性
①
調停人は、当事者に対し、当事者が合意する前に、弁護士その他の専門職にある
人から専門的な知見についてアドバイスを受ける機会を与え、かつ、アドバイスを
受けるよう勧めなければならない。
②
調停人は、当事者の合意内容が、違法である場合、一方当事者にとって著しく不
利益である場合、誤った情報に基づく場合、または執行不可能である場合には、以
下の手続を取ることができる。
a
当事者に対し、調停人が懸念する問題点を通知する。
b
当事者に対し、調停人が懸念する問題点を通知し、調停人の修正案を提示す
る。
c
Ⅲ
調停人を辞任し、当事者にその理由を書面で通知する。
調停人の役割
①
調停人は、当事者に対し、いかなる場合でも手段・方法の如何を問わず決断、和解
または合意を強制してはならない。
②
調停人は、当事者に対し、当事者の合意は自発的なものでなければならないことを
自覚させなければならない。
③
調停人は、当事者が合意により紛争を解決できるよう援助する役割を積極的に果た
さなければならない。その目的のため、調停人は、当事者に対し、諾否の自由が当事
者にあることを示した上で、紛争解決に向けた提案をすることができる。
④
Ⅳ
調停人は、当事者に対し、法的なアドバイスを与える役割はない。
調停人の義務
1
誠実義務
調停人は誠実に調停を遂行しなければならない。
〈資料-7〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
2
研鑽義務
調停人は自らの技術と理解力を磨く責任があり、改善のための批判と提案に絶えず
耳を傾けなければならない。
3
秘密保持義務
調停人は、調停事件に関する事実または調停事件を通じて知り得た事実を他に漏ら
してはならない。
〈資料- 8〉
資料編
■資料4 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律
(平成十六年法律第百五十一号)
目次
第一章
総則(第一条―第四条)
第二章
認証紛争解決手続の業務
第一節
民間紛争解決手続の業務の認証(第五条―第十三条)
第二節
認証紛争解決事業者の業務(第十四条―第十九条)
第三節
報告等(第二十条―第二十四条)
第三章
認証紛争解決手続の利用に係る特例(第二十五条―第二十七条)
第四章
雑則(第二十八条―第三十一条)
第五章
罰則(第三十二条―第三十四条)
附則
第一章
総則
(目的)
第一条
この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、裁判外紛争解決手続(訴訟手続によらずに民事上
の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続をいう
。以下同じ。
)が、第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図る手続として重
要なものとなっていることにかんがみ、
裁判外紛争解決手続についての基本理念及び国等の責務を定める
とともに、民間紛争解決手続の業務に関し、認証の制度を設け、併せて時効の中断等に係る特例を定めて
その利便の向上を図ること等により、紛争の当事者がその解決を図るのにふさわしい手続を選択すること
を容易にし、もって国民の権利利益の適切な実現に資することを目的とする。
(定義)
第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 民間紛争解決手続
民間事業者が、紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について、
紛争の当事者双方からの依頼を受け、当該紛争の当事者との間の契約に基づき、和解の仲介を行う裁判
外紛争解決手続をいう。ただし、法律の規定により指定を受けた者が当該法律の規定による紛争の解決の
業務として行う裁判外紛争解決手続で政令で定めるものを除く。
二 手続実施者
民間紛争解決手続において和解の仲介を実施する者をいう。
三 認証紛争解決手続
四 認証紛争解決事業者
第五条の認証を受けた業務として行う民間紛争解決手続をいう。
第五条の認証を受け、認証紛争解決手続の業務を行う者をいう。
(基本理念等)
第三条
裁判外紛争解決手続は、法による紛争の解決のための手続として、紛争の当事者の自主的な紛争解
決の努力を尊重しつつ、公正かつ適正に実施され、かつ、専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅
速な解決を図るものでなければならない。
2
裁判外紛争解決手続を行う者は、前項の基本理念にのっとり、相互に連携を図りながら協力するように
〈資料-9〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
努めなければならない。
(国等の責務)
第四条
国は、裁判外紛争解決手続の利用の促進を図るため、裁判外紛争解決手続に関する内外の動向、そ
の利用の状況その他の事項についての調査及び分析並びに情報の提供その他の必要な措置を講じ、裁判外
紛争解決手続についての国民の理解を増進させるように努めなければならない。
2
地方公共団体は、裁判外紛争解決手続の普及が住民福祉の向上に寄与することにかんがみ、国との適切
な役割分担を踏まえつつ、裁判外紛争解決手続に関する情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努
めなければならない。
第二章
第一節
認証紛争解決手続の業務
民間紛争解決手続の業務の認証
(民間紛争解決手続の業務の認証)
第五条
民間紛争解決手続を業として行う者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む
。
)は、その業務について、法務大臣の認証を受けることができる。
(認証の基準)
第六条
法務大臣は、前条の認証の申請をした者(以下「申請者」という。)が行う当該申請に係る民間紛
争解決手続の業務が次に掲げる基準に適合し、かつ、申請者が当該業務を行うのに必要な知識及び能力並
びに経理的基礎を有するものであると認めるときは、当該業務について認証をするものとする。
一 その専門的な知見を活用して和解の仲介を行う紛争の範囲を定めていること。
二 前号の紛争の範囲に対応して、個々の民間紛争解決手続において和解の仲介を行うのにふさわしい者
を手続実施者として選任することができること。
三 手続実施者の選任の方法及び手続実施者が紛争の当事者と利害関係を有することその他の民間紛争解
決手続の公正な実施を妨げるおそれがある事由がある場合において、当該手続実施者を排除するための
方法を定めていること。
四 申請者の実質的支配者等(申請者の株式の所有、申請者に対する融資その他の事由を通じて申請者の
事業を実質的に支配し、又はその事業に重要な影響を与える関係にあるものとして法務省令で定める者
をいう。以下この号において同じ。
)又は申請者の子会社等(申請者が株式の所有その他の事由を通じ
てその事業を実質的に支配する関係にあるものとして法務省令で定める者をいう。
)を紛争の当事者と
する紛争について民間紛争解決手続の業務を行うこととしている申請者にあっては、当該実質的支配者
等又は申請者が手続実施者に対して不当な影響を及ぼすことを排除するための措置が講じられているこ
と。
五 手続実施者が弁護士でない場合(司法書士法(昭和二十五年法律第百九十七号)第三条第一項第七号
に規定する紛争について行う民間紛争解決手続において、手続実施者が同条第二項に規定する司法書士
である場合を除く。
)において、民間紛争解決手続の実施に当たり法令の解釈適用に関し専門的知識を
必要とするときに、弁護士の助言を受けることができるようにするための措置を定めていること。
六 民間紛争解決手続の実施に際して行う通知について相当な方法を定めていること。
七 民間紛争解決手続の開始から終了に至るまでの標準的な手続の進行について定めていること。
〈資料- 10〉
資料編
八 紛争の当事者が申請者に対し民間紛争解決手続の実施の依頼をする場合の要件及び方式を定めている
こと。
九 申請者が紛争の一方の当事者から前号の依頼を受けた場合において、紛争の他方の当事者に対し、速
やかにその旨を通知するとともに、当該紛争の他方の当事者がこれに応じて民間紛争解決手続の実施を
依頼するか否かを確認するための手続を定めていること。
十 民間紛争解決手続において提出された資料の保管、返還その他の取扱いの方法を定めていること。
十一
民間紛争解決手続において陳述される意見又は提出され、若しくは提示される資料に含まれる紛争
の当事者又は第三者の秘密について
、当該秘密の性質に応じてこれを適切に保持するための取扱いの方
法を定めていること。第十六条に規定する手続実施記録に記載されているこれらの秘密についても、同
様とする。
十二
紛争の当事者が民間紛争解決手続を終了させるための要件及び方式を定めていること。
十三
手続実施者が民間紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないと判断し
たときは、速やかに当該民間紛争解決手続を終了し、その旨を紛争の当事者に通知することを定めてい
ること。
十四
申請者(法人にあってはその役員、法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあって
はその代表者又は管理人)
、その代理人、使用人その他の従業者及び手続実施者について、これらの者
が民間紛争解決手続の業務に関し知り得た秘密を確実に保持するための措置を定めていること。
十五
申請者(手続実施者を含む。)が支払を受ける報酬又は費用がある場合には、その額又は算定方法、
支払方法その他必要な事項を定めており、これが著しく不当なものでないこと。
十六
申請者が行う民間紛争解決手続の業務に関する苦情の取扱いについて定めていること。
(欠格事由)
第七条
前条の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する者は、第五条の認証を受けることができ
ない。
一 成年被後見人又は被保佐人
二 民間紛争解決手続の業務に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者
三 破産者で復権を得ないもの
四 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から五
年を経過しない者
五 この法律又は弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)の規定に違反し、罰金の刑に処せられ、その
執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
六 第二十三条第一項又は第二項の規定により認証を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない
者
七 認証紛争解決事業者で法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。第九号、
次条第二項第一号、第十三条第一項第三号及び第十七条第三項において同じ。
)であるものが第二十三
条第一項又は第二項の規定により認証を取り消された場合において、その取消しの日前六十日以内にそ
の役員(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人。第
〈資料-11〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
九号において同じ。
)であった者でその取消しの日から五年を経過しないもの
八 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定す
る暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過
しない者(以下「暴力団員等」という。)
九 法人でその役員又は政令で定める使用人のうちに前各号のいずれかに該当する者のあるもの
十 個人でその政令で定める使用人のうちに第一号から第八号までのいずれかに該当する者のあるもの
十一
暴力団員等をその民間紛争解決手続の業務に従事させ、又は当該業務の補助者として使用するおそ
れのある者
十二
暴力団員等がその事業活動を支配する者
(認証の申請)
第八条
第五条の認証の申請は、法務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を法務
大臣に提出してしなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあってはその代表者(法人でない団体で代表者又は管理人の定め
のあるものにあっては、その代表者又は管理人)の氏名
二 民間紛争解決手続の業務を行う事務所の所在地
三 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
2
前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 法人にあっては、定款、寄付行為その他の基本約款を記載した書類
二 その申請に係る民間紛争解決手続の業務の内容及びその実施方法を記載した書類
三 その申請に係る民間紛争解決手続の業務に関する事業報告書又は事業計画書
四 申請者の財産目録、貸借対照表、収支計算書又は損益計算書その他の当該申請に係る民間紛争解決手
続の業務を行うのに必要な経理的基礎を有することを明らかにする書類であって法務省令で定めるもの
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める書類
3
第五条の認証の申請をする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。
(認証に関する意見聴取)
第九条
法務大臣は、第五条の認証の申請に対する処分をしようとする場合又は当該申請に対する処分につ
いての異議申立てに対する決定をしようとする場合には、あらかじめ、申請者が法律により直接に設立さ
れた法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であるときはこれらの法人を所管
する大臣に、申請者が設立に関し許可又は認可を受けている法人であるときはその許可又は認可をした大
臣又は国家公安委員会に、それぞれ協議しなければならない。
2
法務大臣は、第五条の認証をしようとするときは、第七条第八号から第十二号までに該当する事由(同
条第九号及び第十号に該当する事由にあっては、同条第八号に係るものに限る。
)の有無について、警察
庁長官の意見を聴かなければならない。
3
法務大臣は、第一項に規定する処分又は決定をしようとする場合には、法務省令で定めるところにより
、次条第一項に規定する認証審査参与員の意見を聴かなければならない。
(認証審査参与員)
〈資料- 12〉
資料編
第十条
法務省に、第五条の認証の申請及び当該申請に対する処分についての異議申立て、第十二条第一項
の変更の認証の申請及び当該申請に対する処分についての異議申立て並びに第二十三条第二項の規定によ
る認証の取消し及び当該取消しについての異議申立てに関し、法務大臣に対し、専門的な知識経験に基づ
く意見を述べさせるため、認証審査参与員若干人を置く。
2
認証審査参与員は、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)第四十八条において準用する同法
第二十五条第一項ただし書の規定による異議申立人又は参加人の意見の陳述に係る手続に立ち会い、及び
これらの者に直接問いを発することができる。
3
認証審査参与員は、民間紛争解決手続に関する専門的な知識経験を有する者のうちから、法務大臣が任
命する。
4
認証審査参与員の任期は、二年とする。ただし、再任を妨げない。
5
認証審査参与員は、非常勤とする。
(認証の公示等)
第十一条
法務大臣は、第五条の認証をしたときは、認証紛争解決事業者の氏名又は名称及び住所を官報で
公示しなければならない。
2
認証紛争解決事業者は、認証紛争解決手続を利用し、又は利用しようとする者に適正な情報を提供する
ため、法務省令で定めるところにより、認証紛争解決事業者である旨並びにその認証紛争解決手続の業務
の内容及びその実施方法に係る事項であって法務省令で定めるものを、認証紛争解決手続の業務を行う事
務所において見やすいように掲示しなければならない。
3
認証紛争解決事業者でない者は、その名称中に認証紛争解決事業者であると誤認されるおそれのある文
字を用い、又はその業務に関し、認証紛争解決事業者であると誤認されるおそれのある表示をしてはなら
ない。
(変更の認証)
第十二条
認証紛争解決事業者は、その認証紛争解決手続の業務の内容又はその実施方法を変更しようとす
るときは、法務大臣の変更の認証を受けなければならない。ただし、法務省令で定める軽微な変更につい
ては、この限りでない。
2
前項の変更の認証を受けようとする者は、法務省令で定めるところにより、変更に係る事項を記載した
申請書を法務大臣に提出しなければならない。
3
前項の申請書には、変更後の業務の内容及びその実施方法を記載した書類その他法務省令で定める書類
を添付しなければならない。
4
第六条、第八条第三項及び前条第一項の規定は第一項の変更の認証について、第九条第一項及び第三項
の規定は第一項の変更の認証の申請に対する処分をしようとする場合及び当該処分についての異議申立て
に対する決定をしようとする場合について、それぞれ準用する。
(変更の届出)
第十三条
認証紛争解決事業者は、次に掲げる変更があったときは、法務省令で定めるところにより、遅滞
なく、その旨を法務大臣に届け出なければならない。
一 氏名若しくは名称又は住所の変更
〈資料-13〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
二 認証紛争解決手続の業務の内容又はその実施方法についての前条第一項ただし書の法務省令で定める
軽微な変更
三 法人にあっては、定款、寄付行為その他の基本約款(前二号に掲げる変更に係るものを除く。)の変
更
四 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項の変更
2
法務大臣は、前項第一号に掲げる変更について同項の規定による届出があったときは、その旨を官報で
公示しなければならない。
第二節
認証紛争解決事業者の業務
(説明義務)
第十四条
認証紛争解決事業者は、認証紛争解決手続を実施する契約の締結に先立ち、紛争の当事者に対し
、法務省令で定めるところにより、次に掲げる事項について、これを記載した書面を交付し、又はこれを
記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で
作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。
)を提供して説明をしな
ければならない。
一 手続実施者の選任に関する事項
二 紛争の当事者が支払う報酬又は費用に関する事項
三 第六条第七号に規定する認証紛争解決手続の開始から終了に至るまでの標準的な手続の進行
四 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
(暴力団員等の使用の禁止)
第十五条
認証紛争解決事業者は、暴力団員等を業務に従事させ、又は業務の補助者として使用してはなら
ない。
(手続実施記録の作成及び保存)
第十六条
認証紛争解決事業者は、法務省令で定めるところにより、その実施した認証紛争解決手続に関し
、次に掲げる事項を記載した手続実施記録を作成し、保存しなければならない。
一 紛争の当事者との間で認証紛争解決手続を実施する契約を締結した年月日
二 紛争の当事者及びその代理人の氏名又は名称
三 手続実施者の氏名
四 認証紛争解決手続の実施の経緯
五 認証紛争解決手続の結果(認証紛争解決手続の終了の理由及びその年月日を含む。
)
六 前各号に掲げるもののほか、実施した認証紛争解決手続の内容を明らかにするため必要な事項であっ
て法務省令で定める
もの
(合併の届出等)
第十七条
認証紛争解決事業者は、次に掲げる行為をしようとするときは、法務省令で定めるところにより
、あらかじめ、その旨を法務大臣に届け出なければならない。
一 当該認証紛争解決事業者が消滅することとなる合併(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあ
るものにあっては、合併に相当する行為。第三項において同じ。)
〈資料- 14〉
資料編
二 認証紛争解決手続の業務に係る営業又は事業の全部又は一部の譲渡
三 当該認証紛争解決事業者を分割をする法人とする分割でその認証紛争解決手続の業務に係る営業又は
事業の全部又は一部を承継させるもの
四 認証紛争解決手続の業務の廃止
2
法務大臣は、前項の規定による届出があったときは、その旨を官報で公示しなければならない。
3
第一項各号に掲げる行為をした者(同項第一号に掲げる行為にあっては、合併後存続する法人又は合併
により設立される法人)は、その行為をした日に認証紛争解決手続が実施されていたときは、当該行為を
した日から二週間以内に、当該認証紛争解決手続の当事者に対し、当該行為をした旨及び第十九条の規定
により認証がその効力を失った旨を通知しなければならない。
(解散の届出等)
第十八条
認証紛争解決事業者が破産及び合併以外の理由により解散(法人でない団体で代表者又は管理人
の定めのあるものにあっては、解散に相当する行為。以下同じ。
)をした場合には、その清算人(法人で
ない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人であった者。次項にお
いて同じ。)は、当該解散の日から一月以内に、その旨を法務大臣に届け出なければならない。
2
前項の清算人は、当該解散の日に認証紛争解決手続が実施されていたときは、その日から二週間以内に
、当該認証紛争解決手続の当事者に対し、当該解散をした旨及び次条の規定により認証がその効力を失っ
た旨を通知しなければならない。
3
前条第二項の規定は、第一項の規定による届出があった場合について準用する。
(認証の失効)
第十九条
次に掲げる場合においては、第五条の認証は、その効力を失う。
一 認証紛争解決事業者が第十七条第一項各号に掲げる行為をしたとき。
二 認証紛争解決事業者が前条第一項の解散をしたとき。
三 認証紛争解決事業者が死亡したとき。
第三節
報告等
(事業報告書等の提出)
第二十条
認証紛争解決事業者は、その認証紛争解決手続の業務に関し、毎事業年度の経過後三月以内に、
法務省令で定めるところにより、その事業年度の事業報告書、財産目録、貸借対照表及び収支計算書又は
損益計算書を作成し、これを法務大臣に提出しなければならない。
(報告及び検査)
第二十一条
法務大臣は、認証紛争解決事業者について、第二十三条第一項各号又は第二項各号のいずれか
に該当する事由があると疑うに足りる相当な理由がある場合には、その認証紛争解決手続の業務の適正な
運営を確保するために必要な限度において、法務省令で定めるところにより、認証紛争解決事業者に対し
、当該業務の実施の状況に関し必要な報告を求め、又はその職員に、当該認証紛争解決事業者の事務所に
立ち入り、当該業務の実施の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問さ
せることができる。
2
前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったとき
〈資料-15〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
は、これを提示しなければならない。
3
第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(勧告等)
第二十二条
法務大臣は、認証紛争解決事業者について、次条第二項各号のいずれかに該当する事由がある
と疑うに足りる相当な理由がある場合において、その認証紛争解決手続の業務の適正な運営を確保するた
めに必要があると認めるときは、当該認証紛争解決事業者に対し、期限を定めて、当該業務に関し必要な
措置をとるべき旨の勧告をすることができる。
2
法務大臣は、前項の勧告を受けた認証紛争解決事業者が、正当な理由がなく、その勧告に係る措置をと
らなかったときは、当該認証紛争解決事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることが
できる。
(認証の取消し)
第二十三条
法務大臣は、認証紛争解決事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その認証を取り消
さなければならない。
一 第七条各号(第六号を除く。
)のいずれかに該当するに至ったとき。
二 偽りその他不正の手段により第五条の認証又は第十二条第一項の変更の認証を受けたとき。
三 正当な理由がなく、前条第二項の規定による命令に従わないとき。
2
法務大臣は、認証紛争解決事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、その認証を取り消すことが
できる。
一 その行う認証紛争解決手続の業務の内容及びその実施方法が第六条各号に掲げる基準のいずれかに
合しなくなったとき。
二 認証紛争解決手続の業務を行うのに必要な知識若しくは能力又は経理的基礎を有するものでなくな
たとき。
三 この法律の規定に違反したとき。
3
法務大臣は、前二項の規定による認証の取消しをしようとするときは、第七条第八号から第十二号まで
に該当する事由(同条第九号及び第十号に該当する事由にあっては、同条第八号に係るものに限る。
)又
は第十五条の規定に違反する事実の有無について、警察庁長官の意見を聴くことができる。
4
法務大臣は、第一項又は第二項の規定により認証を取り消したときは、その旨を官報で公示しなければ
ならない。
5
第一項又は第二項の規定により認証の取消しの処分を受けた者は、当該処分の日から二週間以内に、当
該処分の日に認証紛争解決手続が実施されていた紛争の当事者に対し、当該処分があった旨を通知しなけ
ればならない。
6
第九条第一項及び第三項の規定は、第二項の規定により認証の取消しの処分をしようとする場合及び当
該処分についての異議申立てに対する決定をしようとする場合について準用する。
(民間紛争解決手続の業務の特性への配慮)
第二十四条
法務大臣は、第二十一条第一項の規定により報告を求め、若しくはその職員に検査若しくは質
問をさせ、又は第二十二条の規定により勧告をし、若しくは命令をするに当たっては、民間紛争解決手続
〈資料- 16〉
資料編
が紛争の当事者と民間紛争解決手続の業務を行う者との間の信頼関係に基づいて成り立つものであり、か
つ、紛争の当事者の自主的な紛争解決の努力が尊重されるべきものであることその他の民間紛争解決手続
の業務の特性に配慮しなければならない。
第三章
認証紛争解決手続の利用に係る特例
(時効の中断)
第二十五条
認証紛争解決手続によっては紛争の当事者間に和解が成立する見込みがないことを理由に手続
実施者が当該認証紛争解決手続を終了した場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該
紛争の当事者がその旨の通知を受けた日から一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求につい
て訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、当該認証紛争解決手続における請求の時に、訴えの提
起があったものとみなす。
2
第十九条の規定により第五条の認証がその効力を失い、かつ、当該認証がその効力を失った日に認証紛
争解決手続が実施されていた紛争がある場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした当該紛
争の当事者が第十七条第三項若しくは第十八条第二項の規定による通知を受けた日又は第十九条各号に規
定する事由があったことを知った日のいずれか早い日(認証紛争解決事業者の死亡により第五条の認証が
その効力を失った場合にあっては、その死亡の事実を知った日)から一月以内に当該認証紛争解決手続の
目的となった請求について訴えを提起したときも、前項と同様とする。
3
第五条の認証が第二十三条第一項又は第二項の規定により取り消され、かつ、その取消しの処分の日に
認証紛争解決手続が実施されていた紛争がある場合において、当該認証紛争解決手続の実施の依頼をした
当該紛争の当事者が同条第五項の規定による通知を受けた日又は当該処分を知った日のいずれか早い日か
ら一月以内に当該認証紛争解決手続の目的となった請求について訴えを提起したときも、第一項と同様と
する。
(訴訟手続の中止)
第二十六条
紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について当該紛争の当事者間に訴訟が係
属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、当該紛争の当事者の共同の申立て
があるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一 当該紛争について、当該紛争の当事者間において認証紛争解決手続が実施されていること。
二 前号に規定する場合のほか、当該紛争の当事者間に認証紛争解決手続によって当該紛争の解決を図る
旨の合意があること。
2
受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3
第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を
申し立てることができない。
(調停の前置に関する特則)
第二十七条
民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第二十四条の二第一項の事件又は家事審判法
(昭和二十二年法律第百五十二号)第十八条第一項の事件(同法第二十三条の事件を除く。
)について訴
えを提起した当事者が当該訴えの提起前に当該事件について認証紛争解決手続の実施の依頼をし、かつ、
当該依頼に基づいて実施された認証紛争解決手続によっては当事者間に和解が成立する見込みがないこと
〈資料-17〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
を理由に当該認証紛争解決手続が終了した場合においては、民事調停法第二十四条の二又は家事審判法第
十八条の規定は、適用しない。この場合において、受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、
事件を調停に付することができる。
第四章
雑則
(報酬)
第二十八条
認証紛争解決事業者(認証紛争解決手続における手続実施者を含む。
)は、紛争の当事者又は
紛争の当事者以外の者との契約で定めるところにより、認証紛争解決手続の業務を行うことに関し、報酬
を受けることができる。
(協力依頼)
第二十九条
法務大臣は、この法律の施行のため必要があると認めるときは、官庁、公共団体その他の者に
照会し、又は協力を求めることができる。
(法務大臣への意見)
第三十条
警察庁長官は、認証紛争解決事業者について、第七条第八号から第十二号までに該当する事由(
同条第九号及び第十号に該当する事由にあっては、同条第八号に係るものに限る。)又は第十五条の規定
に違反する事実があると疑うに足りる相当な理由があるため、法務大臣が当該認証紛争解決事業者に対し
て適当な措置をとることが必要であると認める場合には、法務大臣に対し、その旨の意見を述べることが
できる。
(認証紛争解決手続の業務に関する情報の公表)
第三十一条
法務大臣は、認証紛争解決手続の業務に関する情報を広く国民に提供するため、法務省令で定
めるところにより、認証紛争解決事業者の氏名又は名称及び住所、当該業務を行う事務所の所在地並びに
当該業務の内容及びその実施方法に係る事項であって法務省令で定めるものについて、インターネットの
利用その他の方法により公表することができる。
第五章
第三十二条
罰則
偽りその他不正の手段により第五条の認証又は第十二条第一項の変更の認証を受けた者は、二
年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2
第十五条の規定に違反して暴力団員等をその認証紛争解決手続の業務に従事させ、又は当該業務の補助
者として使用した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
3
次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一 第八条第一項の申請書若しくは同条第二項各号に掲げる書類又は第十二条第二項の申請書若しくは
条第三項の書類に虚偽の記載をして提出した者
二 第十一条第三項の規定に違反した者
第三十三条
法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ
。
)の代表者若しくは管理人又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の
業務に関して、前条各項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当
該各項の罰金刑を科する。
2
法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人が、その訴訟行為に
〈資料- 18〉
資料編
つき法人でない団体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定
を準用する。
第三十四条
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の過料に処する。
一 第十一条第二項の規定による掲示をせず、又は虚偽の掲示をした者
二 第十三条第一項、第十七条第一項又は第十八条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をし
た者
三 第十六条の規定に違反して手続実施記録を作成せず、若しくは虚偽の手続実施記録を作成し、又は手
続実施記録を保存しなかった者
四 第十七条第三項、第十八条第二項又は第二十三条第五項の規定による通知をせず、又は虚偽の通知を
した者
五 第二十条の規定に違反して事業報告書、財産目録、貸借対照表若しくは収支計算書若しくは損益計算
書を提出せず、又はこれらの書類に虚偽の記載をして提出した者
六 第二十一条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
七 第二十二条第二項の規定による命令に違反した者
2
認証紛争解決事業者(法人にあってはその代表者、法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるも
のにあってはその代表者又は管理人)
、その代理人、使用人その他の従業者が第二十一条第一項の規定に
よる検査を拒み、妨げ、又は忌避したときは、五十万円以下の過料に処する。
附
則
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行す
る。
(検討)
第二条
政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加
え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(総合法律支援法の一部改正)
第三条
総合法律支援法(平成十六年法律第七十四号)の一部を次のように改正する。
第七条中「裁判外における法による紛争の解決」を「裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用
の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。第三
十条第一項第六号及び第三十二条第三項において同じ。)
」に改める。
第三十条第一項第六号及び第三十二条第三項中「裁判外における法による紛争の解決」を「裁判外紛争
解決手続」に改める。
(法務省設置法の一部改正)
第四条
法務省設置法(平成十一年法律第九十三号)の一部を次のように改正する。
第四条第二十五号の次に次の一号を加える。
二十五の二
裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)の規定に
よる民間紛争解決手続の業務の認証に関すること。
〈資料-19〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
〈資料- 20〉
資料編
■資料5 (社)日本商事仲裁協会 「国内調停規則」
第1章
総則
第1条(目的)
この規則は、日本商事仲裁協会(以下「協会」という)が行う国内商事紛争の解決のた
めの調停に関して必要な事項を定めることを目的とする。
第2条(事務局)
この規則による調停に関する事務は、協会の事務局(以下「事務局」という)が行う。
第3条(調停人名簿)
調停人選定の便宜を図るため、協会は調停人名簿を作成し、これを常備する。
第4条(通信手段)
(1) 当事者、調停人または協会は、文書の通信手段として、郵便のほか、ファックスま
たは電子メールを利用することができる。
(2) この規則に定める通知は、文書によりなされなければならない。
第2章
調停の申立て
第5条(調停の申立て)
1 この規則による調停を申し立てるには、申立人は、次に掲げる事項を記載した調停申立
書を協会に提出しなければならない。
(1) 当事者の氏名または名称ならびに住所および連絡先(電話番号、ファックス番号、
電子メールアドレス)
(2) 代理人を定めた場合には、その氏名ならびに住所および連絡先(電話番号、ファッ
クス番号、電子メールアドレス)
(3) 申立ての内容および紛争の概要
〈資料-21〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
2 当事者間に紛争をこの規則による調停に付する旨の合意(以下「調停合意」という)が
あるときは、申立人は、調停申立ての際、調停合意を証する書面の写しを協会に提出しな
ければならない。
3 代理人によって調停手続を行うときは、代理人は、調停申立書とともに、委任状を提出
しなければならない。
4 申立人は、調停申立ての際、別表第1に定める調停料金を納付しなければならない。協
会は、申立人が調停料金を納付しないときは、調停申立てがなかったものとみなし、その
旨を付記して調停申立書を申立人に差し戻すことができる。
5 協会は、この規則により調停手続を行うことが適当でないと認めるときには、調停申立
てを受理しないことができる。この場合には、協会は、遅滞なく、その旨を申立人に通知
する。
第6条(調停の申立ておよび通知)
1 協会は、前条の規定に適合した調停申立てがなされたことを確認後、当事者間に調停合
意があるときは、遅滞なく、申立人および相手方に調停の申立ての受理を通知する。相手
方に対する受理の通知には、調停申立書の写しを添付する。
2 協会は、前項の調停申立ての受理の通知を行うときは、その調停に関する管理業務を担
当する事務局として協会のいずれかの事務所を指定し、これを当事者に通知する。
第7条(調停の応諾)
1 協会は、第5条の規定に適合した調停申立てがなされたことを確認後、当事者間に調停
合意がないときは、遅滞なく、相手方に対し、調停申立書の写しを添えて、この規則によ
る調停の申立てがあった旨を通知し、その通知の受領後15日以内に、この規則による調
停手続に参加することに応諾するよう要請する。
2 相手方が、前項に定める期間内に調停手続に参加することに応諾する旨を協会に通知し
たときは、協会は、遅滞なく、その旨を申立人に通知する。
3 協会は、前項の通知を行うときは、その調停に関する管理業務を担当する事務局として
協会のいずれかの事務所を指定し、これを当事者に通知する。
4 相手方が、第1項に定める協会の通知を受領後15日以内に調停手続に参加することに
応諾する旨を協会に通知しないときは、協会は、相手方が調停手続に参加することに応諾
しなかったものとみなし、遅滞なくその旨を申立人に通知し、調停料金を返還する。この
場合には、調停申立てはなかったものとみなす。
第3章
調停人の選定
〈資料- 22〉
資料編
第8条(調停人の数・選定方法)
1 調停は、1人の調停人によって行う。ただし、協会が適当と認めるときは、複数の調停
人によって行うことができる。
2 当事者が調停人の選定方法について合意をしていないときは、協会は、第3項および第
4項の規定に従い調停人を選定する。
3 協会は、各当事者に対し複数の候補者から成る調停人候補者リストを作成し送付する。
各当事者は、そのリストを受領後15日以内に協会に対し、異議のある候補者については
その旨を、その他の各候補者については調停人への就任を希望する順位をそれぞれ付して
そのリストを協会に返送しなければならない。
4 協会は、前項の規定により当事者から返送された調停人候補者リストを受領後遅滞なく、
当事者が共通に希望する候補者から、その順位を考慮し、調停人を選定する。ただし、当
事者に共通の候補者がいないときは、協会が調停人を選定する。
第9条(調停人の選定通知)
1 当事者は、調停人の選定方法について合意をしているときは、その合意に従い調停人を
選定し、調停人の受諾書を添えて、遅滞なく協会にその氏名、連絡先および職業を記載し
た調停人選定通知書を提出しなければならない。
2 前条の規定により協会が調停人を選定したときは、当事者にその者の氏名、連絡先およ
び職業を通知する。
第10条(調停人の開示義務)
調停人は、調停の公正を妨げるおそれのある事情があるときは、直ちにその事情を協会
に開示しなければならない。協会は、直ちにその事情を当事者に通知する。
第11条(調停人の交替)
1 当事者は、協会による調停人の選定に異議があるときは、理由を添えて、協会の調停人
選定通知の受領後15日以内に協会にその旨を通知しなければならない。
2 前項の規定により当事者が異議を通知したときは、協会は、遅滞なく調停人を交替し、
新たな調停人を選定する。
第4章
調停手続
〈資料-23〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
第12条(手続の原則)
1 調停手続は、第8条から第11条までの規定により選定された調停人によって行う。
2 調停人は、紛争の友好的解決に努め、公正かつ迅速に手続を進めなければならない。
3 調停人は、必要に応じて、口頭または書面により当事者の一方と個別に協議することが
できる。ただし、調停人は、その当事者の明示の意思に反して、協議の内容を他の当事者
に伝えてはならない。
4 この章の規定に反しない限り、調停人は、適当と認める方法により調停手続を進めるこ
とができる。
第13条(主張・資料の提出)
当事者は、調停人が定めた期間内に他の当事者および調停人に対し、主張を記載した文
書または主張を基礎づける資料を提出しなければならない。調停人は、当事者に主張また
は資料の補充を求めることができる。
第14条(調停期日)
1 調停人は、調停期日を適宜開くことができる。
2 前項の調停期日および場所は、調停人が当事者の意見を聴いたうえで決定し、当事者に
通知する。
3 調停人は、いずれかの当事者の要請があるときは、当事者に解決案または見解を提示し
なければならない。
4 調停人は、調停期日の概要を記載した調書を作成しなければならない。
第15条(調停手続の終了)
1 調停手続は、調停人選定後、3カ月以内に終了しなければならない。ただし、調停人は、
当事者間に別段の合意があるときまたは協会が必要と認めたときは、その期間を延長する
ことができる。
2 調停は次の事由により終了する。
(1) 和解が成立したとき
(2) 前項に定める期間が経過したとき
(3) いずれかの当事者が調停人(調停人が選定される以前においては協会)に対し調停
手続の終了を書面により要請したとき
〈資料- 24〉
資料編
3 調停人は、当事者間において和解が成立した場合において、相当と認めるときは、当事
者に和解契約書を作成させたうえで、和解契約成立の立会人としてこれに署名押印するも
のとする。
4 協会は、和解契約書の原本を調停手続が終了した日から10年を経過する日まで保管し、
当事者の要請があるときは、その写しを交付する。
5 調停手続が終了したときは、調停人は遅滞なく当事者および協会にその旨を通知しなけ
ればならない。
第16条(非公開と守秘義務)
1 調停手続は、非公開とする。
2 調停人、協会の職員、当事者および代理人その他調停手続に関与する者は、当事者間に
別段の合意がある場合を除き、調停手続に関する情報を他に漏らしてはならない。
3 いずれの当事者も、調停手続において相手方当事者が提出した主張または表明した見解
および調停人の示した提案を、訴訟手続または仲裁手続において証拠として提出すること
はできない。
第17条(調停人の報酬)
協会は、調停手続の終了後、遅滞なく、別表第2に定める報酬を調停人に支払う。
第18条(調停人の費用)
1 調停人は、調停手続の遂行に必要な範囲内で、交通費、宿泊費その他の実費の支払いを
協会から受けることができる。
2 交通費には、電車賃、航空運賃およびタクシー代が含まれる。
3 第1項の費用は、調停人から協会に対し証明書類の提出があったときに、協会から支払
われる。
第19条
(費用の納付義務)
1 前条に定める調停人の費用は、各当事者が等額負担しなければならない。
2 当事者は、調停人の費用に充当するため、協会の定める金額をその定める方法に従い、
その定める期間内に協会に納付しなければならない。
3 当事者が前項の納付をしないときは、協会は調停手続を停止することができる。
〈資料-25〉
2006 年度版 調停人養成教材・基礎編
4 調停手続が終了した場合において、第2項の規定により納付された金額の合計額が、調
停人の費用の合計額を超えるときは、協会は、その差額を各当事者に返還する。
第20条(調停料金の返還)
調停手続が、調停人がひとりも選定されていないときに終了した場合には、協会は、調
停料金の全額を申立人に返還する。
〈資料- 26〉
資料編
附則
この規則は平成15年1月1日から施行する。
別表第1(第5条関係)
請求金額または請求の経済的価値
調停料金の額
500 万円以下の場合
5 万 2,500 円
500 万円を超え 1000 万円以下の場合
7 万 3,500 円
1000 万円以下の場合 1000 万円を超え
7 万 3,500 円に 1000 万円を超える額の 1.05%に
1 億円以下の場合
相当する額を加えた額
1 億円を超え 10 億円以下の場合
101 万 8,500 円に 1 億円を超える額の 0.525%に
相当する額を加えた額
10 億円を超え 50 億円以下の場合
574 万 3,500 円に 10 億円を超える額の 0.2625%
に相当する額を加えた額
50 億円を超える場合
1,624 万 3,500 円
経済的価値の算定ができない、または極
協会が事案を考慮して決定する
めて困難である請求
別表第2(第 17 条関係)
請求金額または請求の経済的価値
調停人の報酬の額
500 万円以下の場合
4 万 2,000 円
500 万円を超え 1000 万円以下の場合
5 万 2,500 円
1000 万円を超え 1 億円以下の場合
5 万円に 1000 万円を超える額の 0.525%に相当す
る額を加えた額
1 億円を超え 10 億円以下の場合
52 万 5,000 円に 1 億円を超える額の 0.2625%に相
当する額を加えた額
10 億円を超え 50 億円以下の場合
288 万 7,500 円に 10 億円を超える額の 0.13125%
に相当する額を加えた額
50 億円を超える場合
813 万 7,500 円
経済的価値の算定ができない、または
協会が事案を考慮して決定する
極めて困難である請求
調停人の数が複数の場合、各調停人の報酬額は、上の額をその人数によって等分した額と
する。
〈資料-27〉
本教材の利用をご希望の方へ
(社)日本商事仲裁協会、日本仲裁人協会
「調停人養成教材作成委員会」
本教材は、ADR を担う人材を育成するための取り組みがさまざまな場で行われることを期待し
て、作成したものです。従いまして、本教材の資料等は、このような人材育成やその普及啓発を
目的とするものである限り、シンポジウム、大学の講義、NPO 主宰の研修講座等で、ご自由にご
利用(複製・配布・引用)いただいて結構です。(これに対して、本教材の資料等を単に有償で販
売すること等は認められません。)
ただし、ご利用にあたっては、以下の事項につき明示してください。
1) 利用される資料等が本委員会で作成されたものであること
2) 無償で利用できる教材であること
3) 各教材の作成者名
また、教材に改良を加えられる際には、下記宛てご連絡いただいた上、改良版についても広く利
用を認めていただくことを条件として許諾させていただきます。
上記条件に従ったご利用であれば事前の承諾は不要です。利用の可否等につきご不明の場合
は下記宛てお問い合わせください。
(社)日本商事仲裁協会 調停センター
(東京事務所)
〒100-0006 東京都千代田区有楽町 1-9-1 日比谷サンケイビル 4 階
TEL:03-3287-3061 FAX:03-3287-3064 e-mail: [email protected]