学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』現地 Portland で見たアメリカ大統領選挙近年は民主党が強くて、ユニークな制度が多く ―2012 年第三回米国模擬選挙視察報告― 持つ、ある意味アメリカでも特異な州である。 11 月から 3 月は雨が非常に多い季節である。 2004 年、2008 年に続いて米国模擬選挙の視今回の訪米視察は、知り合いの社会科教員で察に行った。2004 年はカリフォルニア州での高ある杉浦真理氏（立命館宇治高校勤務）と元埼校視察と全国集計事務所の訪問。2008 年はニュ玉県立教員の岡部栄氏と岡部夫人の四人で行っーヨークとワシントンで小中高の学校を視察した。運良く岡部夫婦は長女がポートランドに住た。2012 年は三回目の視察なので、模擬選挙のみ、年に何度も長女宅を訪問しているので、滞盛んな都市を訪れて、米国の選挙事情をも研究在時は岡部氏運転の車で移動できた。することとした。お世話になってきたＮＳＰＭＥ会長のキルシュナー夫人と相談して、オレゴ１）10 月 27 日（土）（米国日時）ン州ポートランドを訪問することとした。無事にポートランドに到着し、岡部宅を訪問 Portland は 1851 年成立の Oregon 州最大の都する。岡部宅では選挙事務所から長女宛に投票市。人口は 60 万人弱、Multnomah County に用紙などが送られていたので見ることができた。属す。Oregon 州は合衆国 33 番目の州で、人口左（表）と下（裏）の写真である。議員選挙以は 400 万人弱、カリフォルニア州の北にある。外にも、市民投票や州民投票で政策を決める直 - 78 - 学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』接民主制があり、裏表になるほど投票が多い。示してい政策に関する詳しい資料パンフレットも別途送る。られているらしい。州民投投票用紙は、表の左上から大統領、連邦下院票は私営議員、州務長官/州財務長官、州司法長官、州議のカジノ員、州最高裁裁判官、州高等裁判所裁判官/市長、を設立し市助役、郡水資源管理官 3 人を選ぶ。右下から、て一定率直接民主制的な州民投票が始まり、最初が 77 のを州財政州憲法改正案である。に入れる裏は、州民投票 78 の州憲法改正案（権力分立の表現の変更）、以下が住民署名によるイニシアという提案で、否決されたはず。ティブ提案が 7 本ある。同 79 州憲法案（不動産税の禁止）、同 80 マリファナ合法化、同 81 原住民以外の漁禁止、同 82 憲法改正カジノ認可、同 83 カジノ認可法、同 84 相続税撤廃、同 85 憲法改正（法人税返還分の教育支出化）。郡民投票 143 図書館区設定。市民投票 145 市憲章改正（消防官退職規定変更）、同 146 学校用芸術保存のための課税税。つまり、人を 13 名選び、政策決定を 13 件（憲法を含む！）行うのである。以下に大統領選挙の部分と、市憲章改正提案夕方、泊まったホテルの周辺を歩いた。大統の部分を拡大領選の雰囲気が全くなし。ショッピングモールして示す。の地下で「vote」の文字を二回見たことと、郊大統領選挙外でいくつかの家の庭に候補者の名前を示す小で特徴的なのさな看板が立っていただけ。2008 年に訪問したは候補者が 6 名ニューヨークでは、投票を呼びかける様々なポと非常に多いスターがいっぱいあったのに、こちらがないのことである。米はなぜなのかは分からない。国では大多数の州で立候補２）10 月 28 日（日）に厳しい規制今日は午前中があり、有権者少し晴れ、午後の多数の署名は雨。岡部車でが必要なためコロンビア峡谷に小政党候補の観光の後、都者が立候補で心の JC Penny きないが、オレショッピングモゴン州は規制ールを訪ねた。が緩いことをポートランド市内でよく見かけたのが、上の写 - 79 - 学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』真のような風景。障害者なのか高齢者なのか不師が受付をして投票用紙を渡しブースで生徒に明であるが、モールの中を堂々と車イスが走る。投票させた。ブースは黒のカーテンで仕切れる市内電車の中でも多く見かけた。大きなものが 10。高 2 と高 3 が全員政治や憲法また、書店で大統の授業の間に参加する形だった。政治の授業を領選挙関連の本を参観したが、ちょうど選挙や政治参加の章を扱探したが、見つけたっていて模擬選挙に関連づけていた。プロジェのは左の棚のみでクターで字を映しながらの説明。大統領や州務ある。子ども向けの長官、州財務長官、州司法長官、州最高裁裁判本が全くない。2004 官を選ぶ。州民投票は、生徒の関心のありそう年と 2008 年の訪問なテーマだけを若干選んで投票させていた。教地では小さな書店科書は、非常に有名な Magruder's American も含めて多くの本 Government Textbook であると思われる。翌日があったのに、他のがテストで、80 ページくらい、一ヶ月分の範囲所も含めてポートで出題するすそうだ。ランドでは選挙の昼休みに、日本語クラスの生徒たち十数人が関連本を見ることがほとんどなかった。３）10 月 29 日（月）視察の一日目で一日中晴。と言っても、我々が太陽をしっかり拝めたのは 3 時頃だけである。朝 7 時 20 分、私立の中央カトリック Central Catholic HS に高校到着。学校は早くから生徒も校内見学をしてくれた。日本語がとても上手。教師も来ていて、政治を教えているジェフ・ス日本語教師 Mariko Yokote は米国生まれの日本タッカート Geoff Stuckart と、女性有権者同盟人で二校目の学校勤務である。投票会場の部屋のエバ・シュウェーバーEva Schweber と会っての奥では、昼食時間に生徒会役員が集まって寄教室や地下の投票会場（アクティビティ・セン付の相談をしていた。私立であるので学校全体への寄付を生徒会が中心になって呼びかけて集めるそうである。午後は憲法の時間で、ジェフが最近のニューター）を見学した。生徒を廊下で待たせて、教スと関連付けて、班毎に 3 分くらいで発表させ - 80 - 学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』ていた。場所は昼食をとったカフェテリアであで 9 種、下院選挙に州の長官で 6 種、その他にる（写真は前ページ）。国際問題が多かったし、郡や市の住民投票、市長などの選挙があり 20 以原稿なしで結構長く話していた。上になる。これをマークシートに書き込み郵便模擬投票は、住民投票まで含んだ、本物とほで送る。投票日までに選挙登録の署名と封筒のとんど同じ投票用紙を使っていた。マリファナ署名を照合して、問題ないものが当日 8 時からの合法化を取りあげて、生徒の結果は、１クラ開票される。政党関係者などが監視する中でマスだけだが、合法化が少し多かったそうである。ークを確認、不確かなものは委員会が判断、そ模擬選挙については、今回が初めての参加であの後にシートリーダーに入れて読み取る。全米るが、社会科全員で取り組んでいるようなのででもっとも正確で信頼性がある機械だと自信を結構熱心と考えられる。なお、マリファナの合もって言っていた。この郵便投票の方式の良さ法化は、北のワシントン州で合法化が成立し、が投票率に表れている。なお、この方式は州民オレゴン州では否決されたと聞いている。投票できめられた。事務所には、立候補者や州ジェフは、2004 年に授業を見せていただいカ民投票の政策説明などのパンフレットが各種あリフォルニアの高校教師と非常によく似ていて、ったが、選挙事務所作成のものとは別に、分か穏やかで真面目な白人教師である。公民教師のりやすいものを女性有権者同盟が補助金を得て典型的な方なのだろう作成していて、あわせて事務所に置いてある。４）10 月 30 日（火）視察二日目。ほとんどが雨の一日。ボートランド市が属する郡 county の選挙事務所を訪問して、オレゴン州の投票集計システムについて見学し説明を聞いた。ポートランド市女性有権者同盟 League of Women Voters 会長メアリー・マクウィリアムズ Mary その後、メアリー・マクウィリアムズ会長と McWilliams と玄関で会って事務所に入った。予昼食をとりながら、同盟の歴史や実状を聞いた。定とは違う、より地位の高い人が説明に現れた。最近、男性会員も認めたので男性が１割いるそ前回大統領選の投票率が 84％という結果。分うで、市では同盟員が二百数十人。しかし、州母が有権者全体か、登録者かは不明（後者なのか、民投票についての易しい政策比較や候補者の政ネットの数値も違う）けれども非常に高い。その理策紹介などを担っている。その後、彼女が招かれた老人向けの有料学習会に行って、州民投票の政策についてメアリーが説明するのを見学した。十人ほどの老人がいた。男性が多くて活発に意見を言っていた。私の隣の男性はベトナム戦争で空軍に従事し、日本を訪れ、退役後に仕事でも行ったそうである。この講座は正確には以下である。 Portland Community College Campus, Senior Studies Institute on Politics 由は郵便投票にある。投票すべき項目数が異常に多い。ポートランドで言うと、州民投票項目夕方、岡部夫人のお孫さんが参加する、Youth Candidate Forum を急遽見学することになっ - 81 - 学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』た。技術系のベンソン高校のカフェテリアに集く全米ではかなり参加数が減ったのではないだまって、市長（現職、今回も立候補）と助役の候補ろうか。ＮＳＰＭＥのサイトで、各州ごとの候者が高校生百人以上の前で質問に答える 2 時間補者別の得票率が示されたものの、例年出ていの集会だった。集会の後半にたくさんの高校生た全米の参加数が今回は全く示されていなかっがやってきたのには驚いた。最後に候補者の目たから、そう考えている。その後、市立デビッド・ダグラス高校 David の前で模擬投票までした。オレゴン州が特殊な Douglas HS へ行って、社会科棟で二つの授業をのか。日本とのあまりの違いに愕然とした。視察した。住民投票分析プレゼンをした後に模擬選挙をする、女性教師トレーシー・リンド Tracy Lind の授業である。住民投票は、マリファナよりも「キッカー」という、会社に財政の黒字を返す政策について議論が盛り上がっていた。生徒は 4-5 人の班で、メモを見ながら発表し、その発表メモと投票用紙を教室の前に置いてある投票箱に入れていた。時間をかけて投票する者が多かった。投票後は行政権について教科書を見ながら記述する自習。教科書は Civics、セントラル高校とは異なるもの。クラスは二つ共 37 名、机がコの字に並べられ上の写真が候補者の演説風景。マイクを持っていた。奥行があるものの特に大きな教室ではない。プロジェクターがあるのは当たり前のよているのが現市長。女性が現助役と候補(右)。次の写真が改めて多くの高校生が参加した中での意見交換。大きな会場にぎっしり生徒が集うだ。投票箱は紙で作った簡単なもので、生徒の説明はセントラル高校の方がレベルは高かったように見えた。まっている様子がわかる。最後に、Trick or Vote の会場、Bossanova Ballroom へ移動した。舞台での演奏後に司会二５）10 月 31 日（水）視察三日目。オレゴン州の女性有権者同盟で模擬選挙の事務局をしていて、我々のツアー予定を組んでくれたレベッカ・スミス Rebecca 人がやり方の説明し、地図と住民リストを持たされて決められた街区に出た。ハロウィンの形式で投票を訴えようという全米の取組である。 Smith と 2003-2007 年のオレゴン州会長だったマーガレット・ノエル Margaret Noel と一緒に昼食をしながらいろいろな話を聞く。連邦の財政支援が、前回 4000 ドルほどあったものが今回は全くなくなって、女性有権者同盟の会員から集めた 200 ドルの資金でやっている。今年の参加校数は州で 180 校くらい、前回と少し減っただけだそうだ。これは伝統のあるオレゴン州だからここまで参加があったと思われる。おそら - 82 - 学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』ホストはクラッパー夫婦 Hayden Clapper で、びかけながらオバマ支持を訴えるやり方である。私は魔法使いの衣装を着て夫のジェシーと一緒に家を回った。ジェシーは子供をあやしながら黙々とドアを叩く。いない家が多い。姓が違う家も多い。段々暗くなりリストが読みにくくなり、階段を上がり下りするので脚が疲れた。次に、かなり離れた所、ゴルフ店の二階にある共和党郡事務所 Oregon Republican Office を訪れた。こちらはほとんどが高齢男性の方が多い。オレゴン州の郵便投票制を厳しく批判していた。すでに 30%以上郵送されていることや、よく分からないまま、アメリカでボランティア活動に参加する結果になったわけだ。ミドル・スクール以上の生徒や学生、大人数十名のボランティアが参加していたのには驚かされた。一軒一軒回って投票に行く呼びかけをするのは、とても大変な作業だ。戻ってくると、仮装しながら音楽を聞きながらコンテストをやっていて、楽しみながら活動するスタイルが徹底していることがよく分かった。この間、ハリケーンのために東海岸で活動ができなかったようである。日曜日にサイトを見ると参加者が 1500 人にミスだとして投票日以降に捨てられる票が多いなっていた。そんなに大規模な活動ではないのと。州民投票の政策に関して賛否を聞くと、税か。ポートランドでは 40-50 人いたように思う金に徹底反対の立場を強調した。特に、ここはので、この地域が活動に熱心なことが分かる。民主党が強すぎて無駄遣いがあり、チェック・アンド・バランスを働かせることが必要で、今回の選挙では州務長官を取りたいとジョン John ６）11 月 1 日（木）最終日の第 4 日目。朝から雨が強い。メアリ Paine が熱弁をふるった。州務長官が州の選挙事ー・マクウィリアムズ会長と合流して、まず民務の最高責任者なのである。電話かけの自動シ主党の州選挙事務所 Organizing for America ステムがあるとも言っていた。事務所も含めて (OFA) Campaign Office を訪れた。高齢の女性それなりに資金を持っているかに見えた。ここボランティアが多く、ダイアン・グッドウィンでメアリー会長と別れた。 Diane Goodwin という男っぽい女性のみが雇われているそうだ。電話かけの決まった文章があったが、テキストはもらえなかった。投票を呼 - 83 - 学校法人芝浦工業大学『高校・中学教育研究報告書＜2012 年度版＞』 eb/id=24270）最後にダウンタウンに戻って、岡部車から下りて市内を回ってから、郡裁判所を一時間ほど見学した。家庭裁判で手錠と足枷をはめられた少年が何か決定を受ける場面と、児童ポルノの罪に関して大学生の罪状認否が行われる場面を見た。関係者が退廷した後、公判の日程が決めたのだと書記が説明してくれて、裁判所の室内 Elmers で昼食（アメリカで初の美味しいパンにハの撮影を許してくれた。日本のような窓のないムの料理を食べる）をとった後に、二日目に行った部屋と違って、二面の窓があり、二重の意味で選挙事務所を再度訪れて臨時職員のトレーニンオープンであった。日本との違いに愕然とした。グと署名確認作業が始まったのを見た。閉めら被告と検察がほとんど隣り合わせに座り、12 人れた室内での訓練が始まっていた。の陪審員席のある広い裁判所の室内と、裁判官さらに、メトロ評議会 Metro Council センタの後ろにオレゴン州の印を下の写真で見ることができる。学校の都合があわずに、活動の盛んな高校を訪問することができなかったのは残念であるが、代わりにアメリカの選挙や民主政治の良い部分を見られたのは大きな成果であったかと考えている。ーに行き、会議が始まるのを待つ。選挙で選ばれた会長と５人の評議員が出席し、動物園が表彰されたのをプレゼンで聞いて記念撮影をしていた。その後、市民がメトロ憲章の改訂に関する質問を始めた。これは全て放送されている。メトロはポートランド周辺の三つの郡の広域地区で、直接選挙の評議会で運営されるのは全米唯一。1940 年代に運動が始まり、今のものができたのが 30 年以上前（これらはネットで調べた、 http://www.oregonmetro.gov/index.cfm/go/by.w - 84 -