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群馬県立産業技術センター研究報告(2014)
高精度干渉計での曲率半径評価の高精度化
細谷
肇・小谷雄二 * ・横山
靖
Measurement accuracy improvement for radius of curvature by an interference
measurement
Hajime HOSOYA, Yuji KOTANI * , Yasushi YOKOYAMA
レンズの曲率半径の高精度な測定に干渉計を用いた方式がある。この測定には、レンズの
球面度測定結果も反映される。したがって、レンズの球面度の測定精度を向上させることは、
レンズの曲率半径の測定精度を向上させることにつながる。そこで、原器の誤差分を球面形
状の治具の表面の測定を繰り返すことで把握し、その誤差を測定結果から減算する方法に関
して昨年度 からの評 価 をすすめた 。また、 実 際の測定に その手法 を 応用した。
キーワード :レンズ 、 曲率半径、 球面度、 測 定精度
Interferometer is used for lens radius of curvature measurement. Because of the
shericity measurement result is used to calculate radius correction, accurate shericity
measurement is important. Therefore we kept on to investigate the error prediction
performance to use a spherical tool. And we also investigated the practicality of the tool.
Keywords : Lens, Radius of Curvature, Sphericity, Measurement Accuracy
1
はじめ に
形状精度に影響される。レンズの曲率半径
の測定の場合、原器の焦点位置と原器から
レンズは、大きいものでは天体観測、小
の光の波面と被測定物のレンズ表面形状が
さいものでは内視鏡やブルーレイレコーダ
一致した位置の間の距離をレーザ側長器で
ー等様々な分野で使用され、重要な役割を
測 定 し 、 更 に こ の 距 離 に 上 述 の 2か 所 で の 波
果たしている。レンズの性能を表す指標に
面測定結果を元に補正を掛けて算出してい
は様々あるが、その中でもレンズの形状や
る。したがって、曲率半径測定に於いても
波面の精度は、最も基本的で重要なパラメ
波面精度測定は重要であり、原器の持つ形
ータである。この基本的性能を測る為に使
状誤差を把握し、補正可能な状態にしてお
用される計測器に干渉計がある。この干渉
くことは重要である。この原器の形状誤差
計は、非常に高精度なレンズの表面形状の
を 把 握 す る 為 の ツ ー ル と し て CaliBall と い
測定が可能 であるが 、 基本的に原 器と被 測
う製品がある。昨年度までこのツールの特
定物の間での比較測定であるため、原器の
性を調査してきたが、今回その調査を進め
計測係、*企画管理係
る と 共 に 、 実 際 の 測 定 に 対 し て も CaliBall
を適用した ので、そ の 結果を報 告 する。
昨年度の 評価では 、 CaliBall で f3.3 以 上
の長焦点の 原器の誤 差 分を求める 場合、 図 6
に示す様に、原器の外縁部分に、原器内部
2
検討内 容
での迷光が原因と思われる干渉縞が出てし
まい、外縁部での結果に悪影響を及ぼして
当 セ ン タ ー で 使 用 し て い る 干 渉 計 は Zygo
いた。窒化ケイ素の場合、完全には不透明
社製のフィゾー式干渉計である。その外観
で無く、球表面から内部への透過も多少な
写真を図 1 に示す。また、本干渉計での測
定時の配置図を図 2 示す。前述の様に、干
渉計での原器の球面度の影響を受けるが、
測定値
その原器の持つ誤差分を把握し、その誤差
-
分を測定結 果から差 引 く方式があ る (図 3)。
原器の誤差分を把握するための治具として
は 、 CaliBall と い う 製 品 が あ る 。 こ れ は 、
原器誤差
図 3 測定値 からの原 器 誤差分の差 引き
図 4 に示す様な表面が磨かれた窒化ケイ素
のボールである。測定に使用する原器にて、
このボールを図 5 に示す様に測定毎に回転
させることにより、複数個所の面精度を測
定する。測定結果の平均を取ると、測定結
果はほぼ原器の波面精度、すなわち誤差分
となるとい うもので あ る。
図 4 CaliBall とそ の測 定時の配置
測定
回転 測定
回転
・・・
図 5 CaliBall での 測定 イメージ
図 1 干渉計 外観
比較
原器
被検物
図 2 干渉計 での測定 時 の配置
図 6 f3.3 原 器での CaliBall 測定 結果
りともあると考えられるため、この影響の
果でも原器の外縁部分の形状は、同心円状
有無を、鉄 球を用い て 確認した。
に波を打った形となってしまっており、本
ま た 、 CaliBall を 回 転 さ せ て 測 定 す る 場
来 の 形 状 と は 異 な っ て し ま っ て い る 。 f3.3
合の回転による位置決め誤差等が測定結果
の原器の場 合、直径 の 85%以下の範 囲であ れ
に及ぼす影響度の確認を行うと共に、
ば、形状データにこの影響は出ていない。
CaliBall に よ る 原 器 の 誤 差 分 の 把 握 を 実 際
し た が っ て 、 f3.3 の 原 器 の 中 心 か ら 85%以
の測定に適 用した。
内の領域で測定可能な被測定物の場合には、
CaliBall に よ る 測 定 精 度 向 上 を 図 る こ と が
3
実験結 果
可能である 。
な お 、 f3.3 よ り も 焦 点 距 離 が 短 い f0.75
3.1
鉄 球による 測 定結果
評価対象の f3.3 原 器は 、直径 102 mm、曲
率半径 298.03 mm の 凹 レンズであ る。
測定に使用した鉄球を図 7 に示す。この
や f1.5 の 原器の場 合 は、 外縁部 分への影 響
は な く 、 CaliBall に よ る 全 面 の エ ラ ー 把 握
が可能であ る。
3.2
CaliBall の 回 転の影響の 確認
鉄球は、大型ベアリング用であり、材質は
CaliBall を 使 用 し て 原 器 の 誤 差 を 測 定 す
SUJ2、 等 級 は 10 で あ り 、 直 径 は CaliBall
る 場 合 、 CaliBall を 複 数 回 回 転 さ せ る が 、
と同じく 1 inch で あ る。測定結 果を図 8 に
この回転による測定結果への影響度がどの
示す。鉄球の測定は 1 回のみであり、回転
程度である か確認し た 。
はさせていない。測定を行った結果、やは
CaliBall の 回転有り と 無しでの f3.3 原器
り外縁部分に原器内部での迷光によると思
の 10 回繰り返し測 定 結果を表 1 に示す。 10
われる干渉縞が表れていた。図 8 に示す結
回の測定は 、国内 の ISO17025 での 不確か さ
算出時の自由度無限大として扱っても良い
繰り返し測定数の下限回数である。表 1 の
右半分に記 載の CaliBall 回転時の データ に
は、左側に 記載しあ る CaliBall 固 定時の 再
現性も重畳している。したがって、CaliBall
回転時の標準偏差と固定時の二乗差を取れ
表 1 CaliBall の 回 転 有 り と 無 し で の f3.3
図 7 鉄球
図 8 鉄球に よる測定 結 果
原器の 10 回 繰り返 し測 定結果
CaliBall
Steady
n
PV [wave] RMS [wave]
1
0.0422
0.0030
2
0.0421
0.0027
3
0.0410
0.0027
4
0.0424
0.0026
5
0.0406
0.0027
6
0.0422
0.0027
7
0.0367
0.0027
8
0.0424
0.0028
9
0.0400
0.0027
10
0.0430
0.0028
Average 0.0413
0.0027
Stdev 0.0018
0.0001
Rotation
PV [wave] RMS [wave]
0.0387
0.0407
0.0376
0.0414
0.0381
0.0343
0.0361
0.0328
0.0367
0.0388
0.0375
0.0027
0.0027
0.0029
0.0030
0.0029
0.0028
0.0033
0.0035
0.0031
0.0030
0.0032
0.0031
0.0002
ば 、 CaliBall の 回 転 の み の 再 現 性 が 推 定 で
き る 。 そ の 推 定 結 果 は 、 PV 値 が 0.0019
wave、RMS 値が 0.0002 wave となっ た。被測
定物として予想される高精度なレンズの精
度が、PV 値 で 0.05 wave 程度であ ること を
考 え る と 、 CaliBall の 回 転 に よ る 繰 り 返 し
性は無視できるバラツキであると判断され
る。
3.3
実 測定への CaliBall 適用
図 10 求ま った f15 発 散レンズの 誤差
CaliBall で の 原 器 の 誤 差 把 握 を 行 い 、 被
測定物の測定結果から把握した原器の誤差
図 10 は、上述の手 順 で求まった f15 発散 レ
分を減算することにより測定結果の精度向
ンズの誤差 分である 。 この誤差分 は、 f15 発
上を図る方式を実際の測定に適用した。適
散レンズの 全体では な く、 IRIS mirror の 測
用した対象物は、国立天文台が開発に参画
定に必要な 中心部分 の 60%程度の範 囲の値 で
している、 ハワイに 建 設中の直径 30 m の 望
あ る 。 こ の 誤 差 分 を f15 発 散 レ ン ズ に よ る
遠鏡に組み込まれる近赤外線撮像分光装置
IRIS mirror の測定 結 果から減算 し、最終 的
(IRIS) の 撮 像 系 に 使 用 さ れ る 反 射 ミ ラ ー
な IRIS mirror の測 定 結果とした 。
(IRIS mirror)の 試 作 品 で あ る 。 国 立 天 文 台
で行った測定時のセットアップを図 9 に示
4
まとめ
す。この測定では、当センターで所有して
い る f15 の 発 散 原 器 を 使 用 し た 。 こ の 発 散
原器の誤差 把握は以 下 の手順 で実 施した。
干渉計に よるレン ズ の反射波面 精度を、 原
器の誤差分 を差し引 く ことで、向 上させる
CaliBall を 用いた方 式 について評 価を実施
① CaliBall による f3.3 原器の誤 差把握
した結果、 以下のこ と が分かった 。
② f3.3 原 器による f15 収束原器 の測定
③ 測定結果 からの f3.3 原器の誤 差減算
(1) CaliBall での f3.3 原 器の迷光に よると
④ f15 収束 原器によ る f15 発散原 器の測定
思われる誤差が発生は、透過率が無い球
⑤ 測定結果 からの f15 収束原器の 誤差減算
でも発生す る。
(2) CaliBall の回転 の影響 は無視でき る程度
である。
F15 発散レンズ
(3) 実 際 の 測 定 に 対 し CaliBall で 原 器 誤 差
参照球面
把握する手 法は有効 で ある 。
IRIS mirror
図 9 IRIS mirror の 測 定 時 の 国 立 天 文 台
のセットア ップ