The Murata Science Foundation マイクロ波無線電力伝送のための 高次までの合成球面波を用いた小型高利得アンテナの基礎研究 Fundamental Study on Small-size High-gain Antenna for Microwave Power Transmission Using Synthesized Spherical Wave Up to High-order H24助自62 代表研究者 松 室 尭 之 京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 修士課程 Takayuki Matsumuro Master Course Student, Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Kyoto University 共同研究者 石 川 容 平 京都大学 生存圏研究所 特任教授 Yohei Ishikawa Professor, Research Institute for Sustainable Humanosphere, Kyoto University 共同研究者 篠 原 真 毅 京都大学 生存圏研究所 教授 Naoki Shinohara Professor, Research Institute for Sustainable Humanosphere, Kyoto University In this research, the design method of compact high-gain antenna based on the principle of spherical wave synthesis has been investigated for the efficient microwave power transmission. In the case of microwave power transmission system in living space, power density is restricted for human safety. Limited power density requires antennas with large directional gain to receive enough power for devices. This research focuses on spherical wave expansion of a plane wave as a new method of realizing compact high-gain antennas. First, we have analyzed the directivity of the synthesized spherical wave, which is obtained by synthesizing a set of spherical waves with the expansion coefficient of a plane wave. As a result, the directional gain of synthesize spherical waves with maximum order is quantitatively revealed. Next, we have investigated the structure of a radiation element of synthesized spherical wave. Since wave sources of the synthesized spherical wave are multi-poles, radiation elements with finite size are required in order to realize a practical antenna. For this problem, we have revealed that a spherical dielectric resonator can work as the accurate wave source of a spherical wave with any order mode. Then, we have proposed the multilayered spherical dielectric resonators as a radiation element of the synthesized spherical wave. Synthesized spherical waves are composed of the orthogonal set of the several modes of spherical wave. In order to synthesize these modes, the resonant frequencies of the corresponding modes of the radiation element should be degenerated. For this problem, a prospect of degeneracy is given by the multilayered spherical dielectric resonators. Finally, we have made a spherical dielectric resonator and have experimentally measured its resonance characteristics with a spherical cavity resonator. Thus, we have clarified a new principle of antennas and have prepared for the practical research. ─ 251 ─ Annual Report No.28 2014 互結合によるアンテナ効率の低下などの問題に 研究目的 よって、未だ広く実用化されるには至っていな 人類は21世紀に入り、環境問題やエネルギー い。本研究では、高次までの合成球面波が持 問題を始めとして、人口増加に伴う様々な根 つ指向性に着目する。高次までの合成球面波が 源的課題に直面しつつある。多様性に富み安 持つ指向性とは、球面波を平面波の展開係数 心で安全な人類社会の持続可能な発展にとっ を用いて合成することで得られる指向性である。 て、エネルギー問題は重要な課題の一つであ 高次までの合成球面波が持つ指向性は、アン ると言える。特に我が国においては、福島原子 テナの物理的断面積と指向性利得の関係によっ 力発電所の事故により1次エネルギー確保が一 て説明することが出来ない。このため、新たな 層重要な課題となっている。このような状況の 超指向性アンテナへの応用が期待される。本研 中で、それまで温暖化対策として導入が進め 究の目的は、新たな原理に基づいた高効率マイ られてきた再生可能エネルギーが、火力発電、 クロ波電力伝送用小型アンテナの開発である。 水力発電とともに基幹エネルギーの主役として 概 要 注目されるようになった。 化石燃料を使用しない持続可能な次世代の 本研究では、新しい原理に基づいた高効率 基幹電力源の一つとして、宇宙太陽発電所が マイクロ波電力伝送用小型アンテナの開発を目 ある。宇宙太陽発電所とは、静止衛星軌道上 的として、合成球面波の基本的な性質を明ら の太陽発電衛星から無線電力伝送を行い、地 かにし、その性質を利用したアンテナ放射素子 上でその電力を利用するという構想である。地 として多層球形誘電体共振器構造を提案する 上の太陽光発電とは異なり、昼夜天候を問わ とともに、実際にその基本構造である球形誘電 ず安定した発電を行うことが出来る再生可能 体共振器の試作評価を行った。 エネルギーである。本研究は、宇宙太陽発電 本研究ではまず、小型なハードウェアと高い 所において不可欠な技術であるマイクロ波無線 指向性利得を合わせ持つアンテナの基本的な 電力伝送技術に関するものである。 原理について検討を行った。電磁気学の分野 無線電力伝送には、大きく分けて磁界結合 において、物体と電磁波との散乱問題を考える 型、共鳴結合型、マイクロ波伝送型の3種類が 際に、 「平面波の球面波展開」という手法が良 存在する。その中でもマイクロ波送電は宇宙 く用いられる。これは、物体に入射する平面波 太陽発電所を始めとする遠距離の送電を目的 を、物体の中心を原点とする球面波で展開す としている。マイクロ波送電の伝送効率向上の るものである。このことは、一方向に伝搬する ためには、送受電アンテナの指向性利得の高 平面波が一点の多重極から放射または吸収す さが重要な要素である。一般には、アンテナの る球面波の合成によって表されることを意味す 物理的断面積と指向性利得は比例関係にある。 る。この事実は、アンテナの指向性利得と開口 すなわち、高い指向性利得を持ったアンテナの 面積の比例関係を示した開口面アンテナの理 小型化が問題となる。 論と一見矛盾する。そこで本研究では、球面 高い指向性利得を持つアンテナの小型化は 波を平面波の展開係数を用いて合成した電磁 超指向性アンテナとして研究が進められてきた。 界について解析を行った。まず、球面放射波 しかし小型化に伴うジュール損失の増加や相 を平面波の展開係数を用いて合成すると、指 ─ 252 ─ The Murata Science Foundation 向性を持った合成球面波が得られることを明 せる必要がある。この問題に対し、同一の原 らかにした。さらに、最大次数 ℓmax の合成球 点を持つ多層状の球形誘電体共振器を用いる 面波の指向性利得G d は、G d =ℓ max(ℓ max +2)で表 ことにより各モードが縮退する見通しを得た。 されることを示した。また、この合成球面波の 最後に、本研究で試作した球形誘電体共振 指向性と開口面アンテナの指向性は、それぞれ 器の共振特性の測定実験を行った。球形誘電 異なる不確定性関係と対応することを明らかに 体共振器アンテナの実用化研究を進めるため し、合成球面波の有効開口面積は、最大次数 には、試作した誘電体共振器の比誘電率を実 の球面波の遮断領域と一致することを示した。 験的に評価する測定手法の開発が重要である。 このことは、一点の多重極から放射する球面波 そこで本研究では、空洞球共振器を用いた測 においては、遮断領域の表面から伝搬が始ま 定手法の開発を行った。空洞球共振器を用い ることを意味している。すなわち、大きな遮断 た球形誘電体共振器の評価治具は、測定対象 領域からの放射を用いることで、小さなハード の球形誘電体共振器と同心状に空洞球共振器 ウェアと高い指向性利得を合わせ持つアンテナ が配置され、空洞球共振器の壁面に測定用入 が実現可能であることが明らかとなった。 出力プローブが接続されている。入出力プロー 次に本研究では、新しい原理に基づいたア ブの反射係数及び透過係数の周波数特性から ンテナの放射素子に関する検討を行った。高 共振器特性を測定し、誘電率と誘電損失を評 次までの合成球面波は無限小の多重極を波源 価する。この治具を用いることにより、アンテ とする。よって、設計可能なアンテナを実現す ナとして用いる球面波のモードを崩さずに測定 るためには有限な大きさを持つ放射素子を考 可能である。球対称性が保たれているため、誘 える必要がある。この問題に対し本研究では、 電率と誘電損失の算出に解析解を用いることが 球形誘電体共振器が正確な球面波の波源とし 出来る。さらに、空間中における測定と異なり て機能することを明らかにした。誘電体共振器 放射損失がないため、球形誘電体共振器の誘 より外側の電磁界は、同じ電力を放射すると 電損失を精密に測定することが可能である。ま き、多重極を波源とする球面波と完全に一致 た、空洞球共振器内部の電磁界を調べることに することを示した。また、多重極の電磁界の強 より、球形誘電体共振器の固有放射パターン 度は原点で無限大に発散するのに対し、誘電 を等価的に測定することが出来る。実際に、開 体共振器の内側の電磁界は原点で0に収束する 発した測定装置を用いて、試作した球形誘電 ことを明らかにした。これらの結果から、球形 体共振器のTE11モードに由来する共振特性か 誘電体共振器は、現実的な放射素子構造とし ら比誘電率の値を実験的に得ることが出来た。 て多重極と正確に置き換えることが可能である −以下割愛− ことが明らかとなった。さらに、本研究では高 次までの合成球面波の波源として、多層球形 誘電体共振器を提案した。合成球面波は、同 一の原点を持ち互いに直交する複数の球面波 から構成される。球形誘電体共振器を用いて 合成球面波を実現するには、球形誘電体共振 器が持つ各直交モードの共振周波数を縮退さ ─ 253 ─
© Copyright 2024 Paperzz