ネットワーク仮想化とクラウドネットワーキング サブワーキンググループ

資料7(付属資料)
新世代ネットワーク推進フォーラム
アセスメントワーキンググループ
ネットワーク仮想化とクラウドネットワーキング
サブワーキンググループ
平成22年度∼平成23年
中間報告
(抜粋版)
平成23年12月
リーダー 中尾 彰宏
本資料は、SWG 中間報告書(約 130 ページ)から要点を抜
粋し、活動の概要をご報告するための資料である。
I. ネットワーク仮想化とクラウドネットワーキング SWG の活動概要
1.検討の目的
現在のネットワークが持つモビリティ、セキュリティ等の課題を解決する技術を確立す
るために、新世代ネットワークの研究開発が進められている。新世代ネットワークにより、
これまでネットワークの制約により実現できなかったビジネスモデルや公共サービス、生
活スタイルを実現できることが期待される。そのような新たな社会の実現により、社会経
済への影響(新規産業の創出、安心安全な社会活動の実現、障害者・高齢者の補助、災害
に強い社会基盤構築、CO2 排出量削減等)が考えられる。新世代ネットワークの有効性や必
要性を見極めるためには、これらの社会経済への影響がどの程度の規模となるかを定量的
に判断するための検討が重要である。
そこで、新世代ネットワークによる社会経済の影響を定量的に判断するために、以下の
点についてアセスメントする(表 1)。
表 1.アセスメント項目
■
現在のネットワークがもたらした便益と問題
■
新世代ネットワークの活用像
■
新世代ネットワークの実現に向けた課題
2.実施体制
本SWGは、社会経済的視点、技術的視点の双方からアセスメントを行うために、社会
経済学の専門家と技術の専門家の両者から構成した。社会経済学と技術の双方向の検討を
行うことにより、技術的な実現可能性の裏付けのあるアセスメントを目指した。
3.平成 22 年度∼23 年の活動報告書の構成
上記のプロセスで検討した内容は、活動報告書として以下の構成でとりまとめた。
表 2.平成 22 年度∼23 年活動報告書の構成





サブワーキンググループの活動概要
社会経済的背景
ネットワーク仮想化とは
ネットワーク仮想化のビジネス的側面
ビジネス事例の検討
・ 情報家電+NWGN
・ 新世代行政ネットワーク
・ アド・ターゲティング
・ クラウド連携
 新世代ネットワーク導入効果の定量化
 ネットワーク仮想化の課題
- 1 -
II. 社会経済的背景
新世代ネットワークが求められる社会経済的背景を明確にするために、現在のネットワ
ークを利用した場合の課題や新世代ネットワークに対する期待について述べる。
1.社会的背景
ブロードバンドを活用したサービスの利用に関して、年齢等の違いによる情報格差(デ
ジタル・デバイド)や、ネットワークを利用したサービスの安全性等の問題により、国民
全体に広く普及するまでには至っていない。
1-1. 安心・安全に利用できるネットワーク
ASP・SaaS、テレワーク・SOHO、電子政府の普及に向けて、安定性やセキュリティ等の課
題を克服する必要がある。
1-2. 簡単に利用できるネットワーク
ブロードバンドの利用者や接続する機器のすそ野をさらに広げ、情報格差を解消してい
くためには、だれでもどのような機器を使っても簡単にネットワークを利用できるような
技術が期待される。
1-3. 安心・安全な社会活動
1-3-1.高齢化社会を支えるサービスの創出
高齢者を、家族、地域、行政サービス、企業サービス等で見守るサービスが期待される。
1-3-2.防犯
不在時の住居見守りサービスを実現して安心・安全な社会を形成するためには、ネット
ワークを介して迅速に、安全に通信できる技術が期待される。
1-4. 耐災害社会
東日本大震災では、携帯電話や固定電話が切断され、安否確認や被災者による最新情報
の収集等、生死にかかわるサービスが利用できなくなった。各ネットワークは被災後迅速
に復旧されたが、被災直後の状況においても利用できるようなネットワークが必要である。
2.経済的背景
2-1. ネットワーク基盤
現在のインターネットは米国主導で確立された技術が多く用いられているため、ネット
ワーク機器市場における日本のシェアは 5%以下に留まっている。今後の生活基盤となりう
る新世代ネットワークにおいては、ゲーム機器市場同様に世界に先駆けて技術を確立する
ことで、わが国の産業を活性化することが期待される。
2-2. 広告市場
今後普及するとみられる、行動履歴に基づき適した広告を配信する行動ターゲティング
広告技術をいち早く対応していくことで、国内にとどまらず国外においても市場のシェア
を獲得することが期待される。
- 2 -
III. ネットワーク仮想化とは
まず、「仮想化」の概念について既存ビジネスの事例をもとに説明を行う。その後、「ネ
ットワーク仮想化」技術の概要を紹介する。
1.「仮想化」の概念
現在、限られた設備やサービスを多くの利用者で共有する形態が多数存在する。例えば
生活の身近なところでは、車と駐車スペースをサービス事業者が提供し、それを複数の利
用者で利用し合うカーシェアリングがある。また、会場設備とその運用を会場運営事業者
が提供し、それをイベント事業者などが日毎に利用する形態などもある。
本報告では、これらのような形態を、利用者が設備やサービスを一時的に(仮想的に)
所有しているように見えることから「仮想化」と呼ぶこととする。
2.既存ビジネスにおける「仮想化」の概念が実装された事例
仮想化を活用したビジネスは、インフラサービスと付加価値サービスを提供する事業者
の違いにより、図 1に示すような複数のビジネス形態が考えられる。
表 3.インフラサービスと付加価値サービスの定義
区 分
定 義
インフラサービス
物理機材(ネットワーク機器、線路、航空機、アンテナ等)を提供する。
物理機材の運用(運行)サービスや保守サービスを提供する。
付加価値サービス
インフラサービス提供者が提供する機材、サービス上に、新たな価値を持ったサービス(独
自ブランド、マーケティング、他サービスとの共通特典、ソフトウェアアプリケーション等)
を提供する。
新たなサービスを提供するために、インフラサービス提供者が提供していない物理機材が必
要な場合、物理機材やその運用管理サービスも含む。
形態1
形態2
形態3
事業者A
付加価値サービス
付加価値
サービス
インフラサービス
インフラ
サービス
事業者B
事業者A
付加価値
サービス
付加価値
サービス
インフラ
サービス
インフラサービス
インフラサービス
事業者B
事業者A
事業者B
インフラサービス提供者と付加価値サー インフラサービス提供者が、付加価値サ インフラサービス提供者が、付加価値サ
ビス提供者とが、それぞれ異なる形態
ービス提供者も兼ね、かつ、他の事業者 ービス提供者も兼ね、かつ、互いの付加
のインフラサービスも利用する形態
価値サービスが互いのインフラサービス
を利用する形態
形態4
形態5
形態6
事業者A
事業者A
事業者B
付加価値サービス
付加価値サービス
付加価値サービス
インフラサービス
インフラサービス
事業者B
事業者C
インフラサービス提供者と付加価値サー
ビス提供者が別の事業者として存在し、
付加価値サービス提供者は複数のインフ
ラサービス提供者を利用する形態
付加価値サービス
インフラサービス
付加価値サービス
インフラサービス
事業者A
事業者C
インフラサービス提供者と付加価値サー 単一事業者が、複数の付加価値サービス
ビス提供者がそれぞれ別に存在し、複数 をひとつのインフラサービス上で提供す
の付加価値サービス提供者がひとつのイ る形態
ンフラサービス提供者を利用する形態
図 1.仮想化を活用したビジネスの形態
- 3 -
既存ビジネスにおける「仮想化」の概念が社会インフラなどに適用された事例を表 4∼
表 5に示す。
表 4.仮想化の事例およびビジネスの形態(通信分野以外における事例)
事 例
ビジネスの形態
事例概要
形態
図
利用者
形態1
自動車を借りる
―
自動車、駐車スペース
保険、メンテナンス
カーシェアリングサービス事業者
会場設備とその運用やメンテナンスを会
場運営事業者が提供し、それをイベント事
業者などが日毎に利用する。イベント事業
者はイベントで提供する様々な催し物な
どのイベントコンテンツや、来場者応対や
説明を行うイベント運用員を提供する。
形態5
イベント会場
レンタル・リース
カーシェアリング
自動車と駐車スペースをサービス事業者
が提供し、それを複数の利用者で利用し合
う。サービス事業者は、自動車保険や自動
車や駐車スペースのメンテナンスなども
行う。
事例
詳細
イベント事業者A
イベント事業者B
イベントコンテンツ
イベント運用員
イベントコンテンツ
イベント運用員
―
会場設備
会場設備運用およびメンテナンス
会場運営事業者
車両
車掌
ダイヤ編成
乗車券販売
拾得物取扱い
- 4 -
車両
車掌
ダイヤ編成
乗車券販売
拾得物取扱い
線路配線
信号設備
車両基地
駅
ホーム
案内表示
線路配線
信号設備
車両基地
駅
ホーム
案内表示
鉄道会社A
鉄道会社B
21頁
マーケティング&
セールス(チケット販売)
運行サービス
機上サービス
整備サービス
航空機材
整備機材
航空会社A
形態5
提携カード
金 融
提携会社がカード発行会社と提携して発
行するクレジットカード。カード発行会社
のサービスに加えて独自の特典、サービス
を提供する。カードの発行や会員管理、支
払決済処理等はカード発行会社が行ない、
提携会社はカード発行会社に経費を支払
う。5つの国際ブランドが世界中で利用可
能なクレジットカードの決済システムを
提供している。
形態2
コードシェア便
一つの定期航空便に複数の航空会社の便
名を付与して運航される便。
航空機材や機上サービスなどのインフラ
提供サービスはそれぞれの航空会社によ
って提供される。一方、チケット販売など
の付加価値サービスも航空会社が行うが、
他社のインフラ提供サービスを利用する
便のチケットの販売も行う。
形態3
相互直通運転
運輸・物流
複数の鉄道会社間が相互に相手の路線へ
乗り入れる仕組み。同一の車両が異なる事
業者の路線にまたがって運行される。
線路配線、信号設備、駅などのインフラが
提供される。一方、車両、乗務員、ダイヤ
編成、乗車券販売、案内、拾得物取扱いな
どの付加価値サービスを相互に提供しあ
う。乗入れ先の車両の走行距離がほぼ等し
くなるよう運用するのが慣例である(走行
距離の相殺)。
運行サービス
機上サービス
整備サービス
航空機材
整備機材
21頁
航空会社B
提携会社A
提携会社B
独自サービス
独自サービス
21頁
カード発行、会員管理、支払決済処理
カード発行会社C
表 5.仮想化の事例およびビジネスの形態(通信分野における事例)
事 例
ビジネスの形態
事例概要
形態
MVNO事業者A
MVNO事業者B
サービス提供
サービス提供
21頁
設備提供
移動体通信事業者C
データセンタ利用者A データセンタ利用者B
形態5
データセンター
インターネット用のサーバやデータ通信、
固定・携帯・IP電話等の装置を設置、運
用することに特化した建物(=データセン
ター)で行うサービス。利用者に提供する
範囲(サーバ/ストレージ/ネットワーク
から OS/ミドルウェア/アプリケーショ
ン)に応じて様々なサービス形態がある。
形態5
MVNO
通 信
移動体通信事業者等の無線通信インフラ
を他社から借り受けてサービスを提供し
ている事業者である。MVNO 事業者のサービ
スは、基本的には移動体通信事業者の音
声・データ通信と変わりないが、その通信
サービス上に付加価値を提供している。付
加価値は多岐にわたり、NVNO 事業者の既存
のサービスやビジネスとの連携や特定業
種向けの通信サービスの高度化などがあ
る。現在の MVNO 事業者は、インターネッ
トサービスプロバイダの他、様々な業種・
業界の企業が展開を行っている。
事例
詳細
図
アプリケーション
アプリケーション
ミドルウェア/OS
仮想サーバ/仮想ストレージ
サーバ、ストレージ
ネットワーク、ファシリティ
データセンタ事業者(PaaS)
- 5 -
21頁
3.ネットワーク仮想化の定義
3-1. 定義
新世代ネットワークにおける「ネットワーク仮想化」とは、前章で述べた「仮想化」の
概念をネットワークに適用したもので、ネットワーク全体の資源を多くの利用者で共有す
る形態やそれを実現する技術を指す。ここでいう資源とは、リンクの資源だけではなくノ
ード上の計算資源、ストレージ資源も含むインフラストラクチャ全体の物理資源の仮想化
を意味する1。
新世代ネットワーク仮想化を実現する情報通信基盤は以下の技術的要件を必須とする
(表 6)。
表 6.ネットワーク仮想化の技術的要件
■
ネットワークを構成する資源を体系的に記述し、ユーザやサービスの要求を形式的に指
定し割り当て可能とする、資源の「抽象性(Abstraction)」を実現する。
■
ネットワークを構成する資源を、ネットワークの任意の範囲に対し、独立分離してスラ
イスに割り当て、パフォーマンス、セキュリティ、名前空間などがスライス間で相互に
干渉しない、資源の「独立分離性(Isolation)」を実現する。
■
ネットワークを構成する資源を必要に応じて動的に確保・解放する、資源の「柔軟性
(Elasticity))を実現する。
■ ネットワークにおける計算資源やストレージ資源を駆使し、新しいプロトコルの解釈やデ
ータ加工処理などの「プログラム性(Programmability)」を実現する。
■ 各種資源の利用を行うための認証・認可・管理 の仕組みを備える。
(Authentication, Authorization and Accounting).
出典:ネットワーク仮想化勉強会「ネットワーク仮想化:定義・利便性・適用と技術チャレンジ」
1ネットワークの構成要素は、データを伝搬する「リンク」とプロトコルを解釈しリンクを選択するプログ
ラムを実行する「ノード」である。「仮想化」は、単一の物理資源を複数の物理資源に見せかけたり、複
数の物理資源を単一の物理資源に見せかけたりする技術である。見せかけられた物理資源を「仮想資源」
という。
- 6 -
IV. ネットワーク仮想化のビジネス的側面
本章では、第Ⅲ章で示したネットワーク仮想化における技術的要件をもとに、その適用
効果・利便性と商用化のための要素事例を示し、ビジネス要求条件を整理する。図 2にネ
ットワーク仮想化の技術的側面とビジネス的側面の関係図を示す。
ネットワーク仮想化の技術的要件は、インフラストラクチャ全体において資源の「抽象
性」、「独立分離性」、「柔軟性」、「プログラム性」、「認証性」を実現できること、に整理で
きる。
ネットワーク仮想化技術の適用効果として、「創造性」、「カスタマイズ性」、「効率性」、
「安心・安全性」
、
「持続性」という 5 つの利便性が挙げられる。
上記の利便性をもとに、ネットワーク仮想化の応用例を、「商用化のための要素事例」と
いう観点で展開すると、図 2に示す「自由は発想で想像されたネットワークの新機能の提
供」、「ネットワーク内での高度な処理による新サービスの提供」
、といった事例が想定でき
る。また、ネットワーク仮想化技術により実現されるサービスやアプリケーションには、
これらの要素事例が盛り込まれることが想定される。
ネットワーク仮想化により実現されるサービス・アプリケーションを経済・社会的観点
からアセスメントするにあたっては、「事業者視点」および「利用者視点」の両方から検討
を行う必要がある。アセスメントの観点として、事業者・利用者におけるメリット・デメ
リットを、便益やコストなどの観点から評価することが考えられる。
ネットワーク仮想化がビジネスモデルに与える効果の定量化にあたっては、上記の流れ
で、評価項目を検討し、評価を行うことを目指す。
ネットワーク仮想化
の技術的要件
(必要となる条件)
ネットワーク仮想化
の適用効果・利便性
(できるようになること)
ネットワーク仮想化
の応用例
(商用化のための要素事例)
ビジネス要求条件
[=Max(B-C)]
(事業者視点、利用者視点)
自由な発想で創造された
ネットワークの新機能の提供
抽象性
(Abstraction)
独立分離性
(Isolation)
柔軟性
(Elasticity)
プログラム性
(Programmability)
認証性
(Authentication
Authorization
Accounting)
創造性
(Creativity)
従前にとらわれない
ゼロからの自由な設計
カスタマイズ性
(Customizability)
様々な要望に応じた
即時の柔軟な更新
効率性
(Efficiency)
極めて無駄の少ない
設備の運用・管理
安心・安全性
(Security)
障害の封じ込めと
安全性の個別設定
持続性
(Sustainability)
設備とサービスの
継続的発展と円滑更新
ネットワーク内での高度な処理
による新サービスの提供
いつでもすぐに更新の注文
に応えられる環境の提供
短期間でも貸出できる
専用線と同等な環境の提供
設備を共用した多様な
サービスの複数同時提供
迅速な障害検出や復旧ができる
シンプルな運用管理環境の提供
サービス内容やユーザ要望
に合わせたセキュリティの提供
ア
セ
ス
メ
ン
ト
セキュリティ攻撃や突発的事故
に対処できる頑強な環境の提供
情勢や優先度に応じて
適応し続けられる環境の提供
将来にわたってサービスを
使い続けられる環境の提供
図 2.ネットワーク仮想化の技術的側面とビジネス的側面との関係図
- 7 -
V. ビジネスモデルの検討
1.検討したビジネスモデル
新世代ネットワークを活用するビジネスモデルについて検討を行い、平成 22 年度は1∼
4に示すビジネスモデルに焦点をあて、さらに検討を行った。
また、平成 23 年に5番目に「スマートグリッド」を追加し、平成 24 年にかけて計5種
類のビジネスモデルについて検討を行うこととした。
表 7.検討したビジネスモデルの概要
区 分
ビジネスモデル
1 情報家電+NWGN
平成22年度からの検討対象
2
平成23年追加分
5
現在の情報家電ビジネスでは、インターネットを共通ネットワークインフラと
して利用しているため、接続性などの利点がある一方で、TCP/IP プロトコル利
用、NAPT、ファイアーウォールによるセッション制限、不正アクセス等のセキ
ュリティ問題など課題も多い。新世代ネットワークでは、ネットワーク仮想化
により提供される仮想網(スライス)を機器ベンダ、サービスプロバイダ、ユ
ーザがそれぞれ活用することにより、独自の魅力あるアプリケーションを、開
発・導入・運用コストを抑え、安全かつ安心、安価に利用できるようになる。
現在のLGWAN(総合行政ネットワーク)は専用線を足回りにした自営のク
ローズド・ネットワーク。新世代ネットワークを基盤とすることによって、帯
新世代行政ネットワーク
域幅・セキュリティ・信頼性を高いレベルで確保した上で、低価格を実現でき
る。運営形態もMVNOなどが可能。
3 アド・ターゲティング
4
概 要
既存のICTサービスでは、ユーザ自らが利用目的や利用環境に応じて、使い
分けてサービスを利用せざるを得ない。また、そのための環境を、定常的に維
持するコストとスキルを必要としている。新世代ネットワークでは、大多数の
履歴に基づく分析だけでなく、人のTPOの情報や環境情報などの「現在」と
組合わせてリアルタイムに分析し、利用者判断のもとで、サービスをカスタマ
イズできたり、一方的に提供されるのではなく選択的なサービス利用が、安全
かつ安心、安価にできるようになる。
クラウド連携
現行のクラウド連携のビジネスイメージでは、各クラウドが連携に必要な処理
を提供することが前提となっている。そのため、クラウド連携を実現するため
には連携先に応じて個別に調整が必要となり、迅速なクラウド連携の実現が困
難である。新世代ネットワークでは、連携に必要な処理をネットワーク側で提
供することにより、各クラウドが個別に調整する時間やコストを削減し、新し
いサービスを迅速に提供することができるようになる。
スマートグリッド
(検討中)
スマートグリッドの実現には、各家庭や企業拠点へのスマートメーターの導入
が必要となる。これらスマートメーターを広範囲に配置してネットワークに接
続するには、光回線や無線通信など多様なアクセス手段を利用する必要がある。
また、収集される情報の秘匿性を確保するためのセキュリティや、タイムラグ
を許容数値内に収めるために十分な通信品質が重要となる。
一方、スマートグリッド実現のためにこれらの要件を満たす独自の広域ネット
ワークを全世帯/拠点に設置するには、ネットワーク構築コストが膨大となる。
ネットワーク仮想化を活用することによって、他の通信サービスとインフラを
共有しつつ、上記要件を満たすネットワークを構築することが可能となる。
- 8 -
2.調査手法の検討
2-1. 仮説の構築
1.で検討したビジネスモデルについて、背景、ネットワーク仮想化がビジネスモデルに
与える効果(仮説)について検討を行い、とりまとめた。
2-2. インタビュー調査先候補の選定
「仮想化とクラウドネットワーキング」SWGのメンバーを中心に、2-1.で検討した仮
説の検証に適したインタビュー調査先の候補を選定した。
2-3. 調査項目の検討
2-1.で検討した仮説の検証に向けて、調査項目の検討を行った。
本調査は、現在実現されていない「新世代ネットワーク」に対するビジネスサイドのコ
メントを入手することを目的としているが、調査項目の構成を工夫し、取材の依頼先にと
ってのハードルを極力下げるよう配慮した。具体的には、現行のビジネスを基点にした調
査項目で導入を図りつつ、終盤で新世代ネットワーク(特にネットワーク仮想化)につい
ての説明を行い、「意見交換」を行う形式とした。
表 8.インタビュー項目
(1)(製品・サービス名)の概要
・(製品・サービス名)の特徴、機能、開発の経緯 /など
・現在の主要ユーザ、ユーザ数、市場規模
(2)貴社の(製品・サービス名)の今後の展開とネットワークに関する課題
・今後実現したい(製品・サービス名)の機能、サービス /など
・今後期待する主要ユーザ、ユーザ数、市場規模
・ネットワークに関して課題と感じておられる点
(3)意見交換:(製品・サービス名)におけるネットワーク仮想化の貢献の可能性について
- 9 -
VI. 新世代ネットワーク導入効果の評価
1.ビジネスモデルの評価
平成 22 年度に取り上げた4種類のビジネスモデルについては、平成 23 年にかけて特徴
を抽出し、その結果を基にそれぞれの領域に該当する公共機関、企業等にヒアリングを行
うことにより新世代ネットワークの導入効果について検討を行った。インタビュー調査の
評価はそれぞれの公共機関や企業が想定している市場やその規模に応じて評価は異なる。
また,ヒアリング調査では、時間的な制約のため調査対象の数に限界があり、大規模調査
には不向きである。これらの問題に対応するためには、統一的な指標に基づいて尺度を用
意し、調査の結果から定量化を行い、定量的な評価が重要になる。平成 24 年にかけて平成
23 年に追加した「スマートグリッド」をあわせた5種類のビジネスモデルについて、1)経
済的な側面、2)社会的な側面の定量化手法の構築に向けた基礎的な検討を行う。
1-1. ヒアリング調査の対象
ヒアリング調査の対象は以下のとおりである。平成 24 年にかけて、定量化に資するため
各ビジネスモデルで事例を追加する予定である。
表 9.「ネットワーク仮想化の貢献の可能性」に基づく分析イメージ
分野
事例名称
ホームセキュリティ
情報家電+NWGN
健康管理サービスおよび対応機器
ネットワーク対応ゲーム機およびネットワークサービス
家電等ネットワークサービスの研究開発
新世代行政ネットワーク
総合行政ネットワーク
アド・ターゲティング
次世代自販機
クラウド連携
ライフサイエンスデータベースの統合データベース
スマートグリッド
(平成 24 年実施予定)
(注)技:技術的改良面(現行サービスの延長)での貢献
コ:コスト面(初期投資、運用)の貢献
サ:新規サービスを実現する上での貢献
利:利用者(顧客等)側への貢献
1-2. 評価の観点
各ビジネス事例の評価の観点は表 10のとおりである。
表 10.ビジネス事例の評価の観点(平成 22 年度)
区 分
評価内容
ビジネス事例の概要
各ビジネスの特徴、重要性の高いキーワードの把握
今後の展開
ビジネスの将来性(市場の拡大・縮小、分野を超えた広がり等)の把握
ネットワークに関する課題
ビジネス展開上のネットワークの課題(=新世代ネットワークの
貢献可能性)の把握
定量的指標
ネットワーク仮想化の貢献の可能性 ネットワーク仮想化によるビジネス展開可能性実現とイメージの把握
現在の主要ユーザ、ユーザ数、
ビジネスの現状に係る定量的指標
市場規模等
今後期待される主要ユーザ、ユ
各ビジネスの短期、中長期的な姿に係る定量的指標
ーザ数、市場規模等
- 10 -
1-3. 評価結果
本抜粋版では、特に「ネットワークに関する課題」、「今後の展開」、「ネットワーク仮想
化の貢献の可能性」、
「定量的指標」の3つの評価項目の調査結果を紹介する。
(1)ネットワークに関する課題
各事例におけるネットワークに関する課題についてのコメントは、表 11のとおりである。
分野
表 11.各事例におけるネットワークに関する課題
事例名称
コメント
ホームセキュリテ ・ 信号を確実に送受信できるリアルタイム性と冗長性を低コストで実現したい。インターネ
ィ
ットは利用していない。セキュリティや遅延といった課題があるため。
情報家電+NWGN
・ カスタマーサービスに相当の時間(平均 20 分間程度)を要している。
・ 低消費電力かつ低コストで利用できるネットワークを求めている。現行の情報家電では、
個別の機器ごとに通信モジュールが搭載されている。
健康管理サービス ・ Wi-Fi はつながらないリスクが高く、リテラシーも要求されるため(特にシニア層の)サポ
および対応機器
ートが難しい。
・ 家庭内の機器をつなぐネットワークが無線LAN以外にあるとよい。
・ 普及率が 20%を越えれば、家庭内に通信回線を持っていないユーザへの対応も検討する必要
がある。
・ 海賊版(違法コピー)のアップロードを阻止することが最大の課題。流通しているパッケ
ージの約3分の1が海賊版である。
ネットワーク対応
・ ネットワークのセキュリティ確保(なりすまし対策等)も課題。パスワードとIDの組み
ゲーム機およびネ
合わせによる認証には限界がある。
ットワークサービ
・ ネットワーク上の金銭的・性的な犯罪から青少年を守るための仕組み(本人認証等)が必
ス
要ではないか。
・ ネットワークにかなりのコストがかかっている。
新世代行政 ネットワーク アド・ターゲティング
・ 事業者視点からは、様々なプロトコルやネットワークへの要求条件をいかに収容するかが
課題である。また、サービスプロバイダが一番懸念しているのはユーザからのクレームで
家電等ネットワー
ある。不具合の発生箇所や原因を明確にするため、サービスの切り分けをしたがる。
クサービスの研究 ・ ユーザ視点からは、コスト、セキュリティ、サービス提供環境の3点が最も大きな課題。
開発
・ OSGi 上でサービスを実装・運用する際の課題として、ハードウェアの面では、OSGi に載せ
られるバンドルに制約があるためアップデートや機能の追加が難しい。ソフトウェアの面
では、バンドル相互の Isolation が確実に保証されていない。
・ コストが課題となっている。コストの大半はネットワーク基盤のハードウェアにかかって
いる。アプリケーション層の機能を省き、ネットワーク層の強化を図っている。
総合行政ネットワ ・ 現行サービスの帯域について、平常時には問題ないがピーク時(災害時、確定申告期等)
には負荷がかかる。ネットワークの帯域によって新規アプリケーションの導入が阻まれて
ーク
いる面もある。例えば、オンライン会議等が普及して動画像が頻繁にやり取りされるよう
になれば、現行の帯域では限界があると考える。
次世代自販機
・ 現行では低コストで大容量高速通信が可能な WiMAX を採用しているが、通信が途絶えたり
設置場所によって速度が異なったりすることが課題。自販機の設置場所に依存することな
く、全台一括の双方向通信が理想である。
・ アプリケーションを自販機端末にダウンロードしてマーケティング情報の収集やコンテン
ツ配信を行っているため、タイムリーなコミュニケーションに制限がある。
・ ネットワークにかなりのコスト(イニシャルコスト+ランニングコスト)がかかっている。
しかし、中長期的視点から投資を行っている。
クラウド連携
・ ネットワークの速さは必要。スパコンが統合データベースのサーバにアクセスする際はレ
スポンスの遅さが課題になっている。また、スパコンにはイメージデータが増えており、
データの移動だけでも大変。
ライフサイエンス ・ 海外のサイトのデータについては、リンクでサイトを直接参照するのではなく、ミラーし
ている。誰が見るかわからないデータも含めミラーしているため、膨大な量になる。ミラ
データベースの統
合データベース
ーするための人員を抱えており、コスト削減の観点から、省力化を図れると良い。
・ ネットワーク要件の前に、データの受け渡しの規格の統一化が非常に重要。
・ ライフサイエンスが大量の情報を扱う分野に発展した関係で「コンテンツそのもの」や「ネ
ットワーク」等、さまざまな専門知識が必要。この専門知識がつながらないことが問題。
- 11 -
(2)今後の展開
各事例における今後の展開についてのコメントは、表 12のとおりである。
分野
表 12.各事例における今後の展開
事例名称
コメント
ホームセキュリティ
・ 高齢化・核家族化に伴い、単身者・若年者を含む幅広い層への多様なサービス展開
が必要。
ホーム IT システム
・ スマートハウス(HEMS)の枠組みにおいて普及を促進する。他社製品との相乗効果
を重視。
・ 既存のマンションや戸建てへの普及は今後の課題。
情報家電+NWGN
・ 健康管理サービスを日常生活に根づかせたい。たとえば外出先ではGPSと連動し
てレストランでのメニュー選択についてアドバイスするサービスや、家庭内では血
健康管理サービスおよ
圧計や歩数計が自動的に同期され、計測・解析されたデータがデジタルフォトフレ
び対応機器
ームに表示されるようなサービス。
・ レシーバーを活用した緊急通報サービスを提供したい。
ネットワーク対応ゲー ・ ネットワークという媒体によってどのような付加価値をユーザに提供できるか模索
している段階。ネットワークの特徴を生かしたビジネスモデルを確立したい。
ム機およびネットワー
クサービス
新世代行政 ネットワーク
・ ネットワークに接続される端末やOSが増えてくるだろう。端末については設備系
機器、OSについては Android 等に注目している。開発環境・プラットフォームに
家電等ネットワークサ
ついては、OSGi のようなアプローチを試みている。
ービスの研究開発
・ 端末に対して直接的に提供される家庭内機器の操作・制御サービスやモニタリング
サービス等。現行ネットワークでは、新しいサービスを家庭内に入れていくのが難
しい。
アド・ターゲティング
総合行政ネットワーク
・ 最近の動向および今後の展開として、ASP・SaaS 型サービスへの移行、国税連携
(所得税の確定申告データ送信)、各種証明書のコンビニ交付、新たな在留管理に伴
う法務省と市区町村の情報連携等が挙げられる。
・ 平成 24 年4月から、バージョンアップされたサービスが稼動予定。地方公共団体に
おける昨今の財政事情を踏まえ、コストパフォーマンスの向上を重視。必要なセキ
ュリティを確保しつつ、都道府県NOCに設置されているファイアウォール、侵入
検知システム(IDS)等を集約することで、大幅なコスト削減を目指す。
次世代自販機
・ 現行機能・サービスを拡充するとともに新たな展開を検討している。
・ コンビニとの競合を意識している。たとえば、ブランドミックス機ではコンビニと
同じように様々なメーカーから商品を購入できる仕組みを実現し、Suica 対応機で
はコンビニよりスピーディーな商品の購入を実現した。今後も自販機の強みを生か
したビジネスを展開したい。
・ エキナカ以外で次世代自販機を展開する場合は、他社(自販機業以外も含む)にビ
ジネスモデルを提供することも考えられる。
・ 海外からの要望もあるが、ネットワークや電子マネーが阻害要因である。
クラウド連携
・ 将来的には、現行の統合データベースをラボノートのような形で発展させたい。研
究の進捗として普段のデータを書き込めるものである。
・ 現行の統合データベースを活用した、合理的なゲノムの設計の研究への活用。ゲノ
ライフサイエンスデー
ム等の生命情報のデータベースは、新しいタイプの生命進化を生み出す場と捉えら
タベースの統合データ
れている。
ベース
・ ゲノムデータを使ったコンテストなどを実務面で運用しようとすると、アクセス権
をオープンにする必要がある。それが可能になれば、在宅での業務や、インド等地
球の反対側への作業依頼など、場所を選ばない社会システムが構築できる。
- 12 -
(3)ネットワーク仮想化の貢献の可能性
各事例におけるネットワーク仮想化の貢献の可能性についてのコメントは、以下のとお
りである。
分野
表 13.各事例におけるネットワーク仮想化の貢献の可能性(1/2)
事例名称
ホーム IT システム
コメント
・ 帯域が小さくても品質が保証されるネットワークがあれば、サービス効率の向上につ
ながるだろう。
・ ホームゲートウェイの共通化について、セキュリティ確保とユーザビリティを両立で
きるという点で非常に効果的。サービスの自由度も飛躍的に向上する。
・ 一方で、他社との連携が難しくなる可能性もある。トラブル発生時の責任分解店を明
らかにする必要があるだろう。
・ ネットワーク内処理について、たとえば大阪に東京のミラーサーバを設置し、状況に
応じて適したサーバをネットワークが判断することができれば、大規模災害発生時の
リスク回避に役立つ。
・ 無線 LAN の仮想化について、Wi-Fi の物理的な帯域を確保する技術は非常に効果的。
家庭内のすべての機器を有線で接続するのは不可能であるため無線への期待は大きい
が、Wi-Fi はつながらないリスクが高いため採用していない。
情報家電+NWGN
・ 他社とゲートウェイを共有することで、必要最低限の帯域を低コスト(150∼200 円/
月程度)で確保できれば、是非利用したい。中価格帯以上の機器すべてに通信モジュ
ールを搭載することも考えられる。
健康管理サービスお ・ 双方向通信によって同社の技術者が家庭外から設定やメンテナンスを行うことが可能
よび対応機器
になれば、ユーザフレンドリーなサービスが実現する。カスタマーサービスに要する
コストも大幅に下がるだろう。
・ 健康管理サービスでは数バイトのデータを1日2回送受信できればよいため、大容
量・高速のネットワークは必要ない。
・ ネットワーク仮想化によってプッシュ型など多様なサービスが可能となることで、プ
ロバイダの参入障壁が下がり、参入障壁が下がることでプロバイダの数が増え、プロ
バイダの数が増えることでコストが下がり、コストが下がることでユーザが増える、
といった正のスパイラルが生まれることを期待している。
・ 一般的に、端末におけるハードウェアリソースの制約、及び安全性・利便性の観点か
ら、従来端末側にあった機能をネットワークやセンター側に移していくというのが不
家電等ネットワーク
可逆的なトレンドである。潜在的な需要は非常に大きい。端末の機能の一部がセンタ
サービスの研究開発
ー側に移った場合にサービスレベルを維持できるかがポイントだろう。
・ サービスプラットフォームをオープンにするかクローズドにするかについて、Android
のようなオープンなモデルでは、プロバイダの参入障壁が下がってサービスメニュー
が豊富になる一方で、サービスの品質・信頼性は不安定になるといったトレードオフ
が生じる。家電コントロールサービスやホームセキュリティサービスではセキュリテ
ィの確保の優先順位が高いと考えられるため、リソースを含めた Isolation が可能な
ネットワーク仮想化には期待している。
新世代行政ネットワーク
・ 専用線を用いた現行システムと同水準のセキュリティが確保され、低コストで利用で
きるのであれば、導入の可能性は否定できない。
・ ネットワークインフラを共用するにあたっては、ユーザ同士が相互に信頼し合える仕
組みを作ることが重要である。現行システムでは閉域網を使用しているため、現行サ
ービスに接続されるすべてのユーザに対して同水準のセキュリティレベルが確保され
総合行政ネットワー
ているという前提がある。
ク
・ 現行サービスと共用できる可能性のあるネットワークについて、官民にまたがる分野
(例えば学校、病院、労働行政等)においては、ネットワークの相互乗り入れが難し
いといった問題がある。この場合は、現行システムで稼動する ASP サービスが仲介す
る仕組みとなる。
・ アクセス回線を共用できるかどうかも論点の一つだろう。現行では都道府県単位によ
り共同で WAN 整備されている例が多い。
- 13 -
分野 新
世
代
行
政 ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
表 14.各事例におけるネットワーク仮想化の貢献の可能性(2/2)
事例名称
コメント
・ ネットワーク内処理について、現在やり取りしているデータ量ではあまり必要性を感
じないが、将来的に扱うデータの種類や量を見極めながら判断したい。
総合行政ネットワー ・ 究極的にはインターネットに移行しても構わないのではないかという意見もあるが、
ク
インターネット利用におけるセキュリティ上の問題等の状況を考慮すると現状では難
しい。新技術の導入にあたっては、技術的な裏づけだけでなく実績が必要ではないか
と考える。
アド・ターゲティング
次世代自販機
・ ネットワークにかかるコストについて、特にランニングコストが下がるのであれば導
入効果は高い。IC カードのリーダライタが数万台に導入されるだろう。
・ データ連携について、現行システムでは IC カード、自販機、サイネージのサーバは個
別に存在する。同社のグループ各社が保有する他の情報(たとえば改札の出入場記録
など)も活用されていない。一方で、一元化するためには大規模な設備投資が必要と
なる。また、一元化されたデータの種類や量が膨大となるため、有効に使いまわせる
か疑問である。
・ ユーザとの双方向通信を強化するうえで、サーバへの問い合わせやコンテンツ配信の
スピードが課題となる。ユーザのアクションに対するレスポンスが向上すれば、コン
ビニとの競合において大きく優越できる。
クラウド連携
・ 特定のスライスを使って、利用頻度の高い海外データを学習させ、ネットワークの通
り道にキャッシュを置き、これを統合データベースが参照できるようになれば、現在
海外データのミラーにあてている人員・コストが削減できる。
・ 情報管理については、物理的に遮断することでセキュリティを担保している。しかし
ライフサイエンスデ
結局は人のコンプライアンスに頼ることになる。たとえばスライスをアクセス権限の
ータベースの統合デ
代わりに使い、ゲスト用は公開用のスライスにつなぎ、データ登録者はセキュリティ
ータベース
管理されたスライスにつなぐ等、「便利だが遮断されている」といった環境が提供でき
ると興味深い。
・ データベースのデータを複数個所で仮想的に分散して管理する必要性を感じる。こう
した部分で仮想化が役立つかもしれない。
- 14 -
(4)定量的指標
1)現在の主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等
各ビジネス事例の現在の主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等は、表 15のとおりである。
表 15.「現在の主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等」
分野
表 16.各事例における現在の主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等についてのコメント
事例名称
コメント
情報家電+NWGN
ホームセキュリティ
・ 主要ユーザは 50 代以降の富裕層。近年は 30∼40 代のユーザも増加
・ ユーザ数(契約件数)は 729,000 世帯
・ 利用料は 7,000∼8,000 円/月程度
ホーム IT システム
・ 主要ユーザは一般家庭の主婦
・ ユーザ数は 4,000∼5,000 世帯
・ 同社の健康情報を記録するサービスの主要ユーザは 30∼60 代の男性。夫婦で
利用するケースも増加している。ユーザの男女比は7:3。ユーザ数は約 20
健康管理サービスおよび対
万名。
応機器
・ 健康管理サービスのユーザ数は1万名
・ 体重計の市場規模は約 250 億円
新
世
代
行
政 ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
・ 主要ユーザは 20∼30 代の男性
・ ネットワークサービスの累計アカウント登録数は 7,500 万(ハードウェア一台
ネットワーク対応ゲーム機
あたり2アカウント程度)
およびネットワークサービ
・ 累計コンテンツダウンロード数は 9 億 8,000 万
ス
・ ハードウェア売上台数(年間)は、PS3 が 1,300 万台、PSP が 990 万台
・ ソフトウェア売上本数(年間)は、PS3 が 11,560 万台、PSP が 4,440 万台
ア
ド・タ
ー
ゲ
テ
ィ
ン
グ
総合行政ネットワーク
・ 主要ユーザは地方公共団体
・ ユーザ数は 1,814 団体。参加団体の庁内ネットワークを利用する地方公共団体
職員数は約 100 万人
・ ネットワークサービスへの登録数は 813 件
・ ネットワークサービスの利用料は約 300∼400 万円/月
次世代自販機
・ 自動販売機全体について、普及台数は約 250 万台。市場規模は約2兆円。
・ 同社の自販機全体について、主要ユーザは通勤・通学客。年齢別では 20∼40
代が中心。男女別では7:3で男性ユーザの方が多い。市場規模は約 263 億円
(2010 年度見込)。
・ 次世代自販機について、男女別では 55:45 で通常の自販機と比べると女性ユ
ーザが多い。普及台数は 49 台(2011 年 4 月 11 日時点)
。
クラウド連携
・ ユーザは、統合データベースへのデータ登録を担当する、バーチャルラボのメ
ンバー。バーチャルラボの数は、公開済みが 200、未公開が 200、全部で 400
ライフサイエンスデータベ
程度。
ースの統合データベース
・ 統合データベースの閲覧者は国内外のライフサイエンス系研究者が中心で、計
測は不可能。
・ 統合データベースに登録されているファイル数は非公開も含めると約 1.5 億件
- 15 -
2)今後期待される主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等
各事例において今後期待される主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等は、表 17のとおりで
ある。なお、新世代ネットワーク実現の想定時期に対応する、中長期的な時間軸での市場
予測については、各事例の当事者によっても難しいものであった。定量的な観点での予測
が難しい場合には、定性的な観点で極力、コメントを得られるよう配慮した。
分野
表 17.各事例における今後期待される主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等についてのコメント
事例名称
コメント
情報家電+NWGN
ホームセキュリティ
・ 高齢化・核家族化に伴い、単身者、若年者世帯の増加を期待。幅広い層への多
様なサービス展開が必要。
・ 核家族化により世帯数は増えているため、近い将来 100 万件を見込む。現状の
サービスの延長で 200∼300 万は到達可能か。
ホーム IT システム
・ ホームITシステムの市場は黎明期にあり、競合相手がほとんどいない状態。
1社だけで対応できず、参入障壁が高い。誰でもシステム構築できる仕組みが
できれば、参入メーカーが増え、コスト競争が起こり、市場が拡大するだろう。
市場形成企業数が2倍になれば市場規模は 10 倍以上に拡大するだろう。
・ 2012 年までに健康管理サービスのユーザ数 100 万人突破が当面の目標。このう
ち数%が機器購入者となることを見込む。
健康管理サービスおよび対
・ 国内の体重計・体脂肪計・体組成計の世帯普及率が 95%を超えているため、急
応機器
激なユーザ数増加は期待できない。
・ 海外は普及率が低く、韓国、中国、米国が直近のターゲット市場。
新
世
代
行
政 ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
ネットワーク対応ゲーム機
およびネットワークサービ
ス
・ カジュアルゲームやネットワークサービスの拡大により、コアゲーマー以外に
も裾野を広げたい。
・ 今後、地方公共団体以外の関連団体にユーザを拡大することは想定していない。
ただし、現行のサービスに係る事業者の増加、住民サービスの拡大により、間
接的な利用者の増加は想定している。
総合行政ネットワーク
ア
ド・タ
ー
ゲ
テ
ィ
ン
グ
・ 今後も女性ユーザの支持を拡大したい。
次世代自販機
ク
ラ
ウ
ド連
携
ライフサイエンスデータベ
ースの統合データベース
・ 在宅ワーク、海外への作業依頼等によるユーザ数の増加、利用環境の変化は想
定している。
2.調査結果のまとめ
これまでの調査結果より、それぞれの事例で想定されている今後の事業展開や、現行の
ネットワークにおける課題・限界などを把握した。また、それらの課題に対し、仮想化技
術が貢献できる可能性や、主要ユーザ、ユーザ数、市場規模等の定量的な指標を確認でき
た。
今後さらに、ネットワーク仮想化技術の導入効果を、経済的、社会的な観点から深度化
する。
- 16 -
3.平成 24 年の検討の方向性
平成 22 年度∼平成 23 年は、平成 23 年度の定量化手法の検討の深度化に向けて、事例調
査結果に基づき、現状・直近の市場やユーザ等に関する定量的情報、各事例の特徴等に関
する定性的情報の抽出・整理等を行った。
なお、平成 24 年に向けた予備的調査として、取材先のコメント等の定性的な情報につい
ては、頻出するキーワード、事例横断的に出現するキーワード等の分析、ネットワーク要
求条件との突合等を検討することを想定している。当該調査の目的は、各事例領域におけ
る専門的知見の保有者としてのヒアリング客体の事実認識/予想に関して、その言説中に
あるキーワードの頻度からその重要性を予測し、同種のキーワードが他の事例領域と横断
的に出現するのか、当該事例に固有なものなのか、その汎用性/特殊性を予測することで
ある。
平成 24 年度は、平成 22 年度∼23 年に行った調査結果を踏まえ、新世代ネットワーク(特
に、仮想化とクラウドネットワーキング)の経済・社会的効果の定量化手法の確立に向け
て、以下の観点で検討を進める。
(1)新世代ネットワークの経済的な効果
平成 22 年度は、現在および近い将来に関するビジネスの動向を中心に調査・分析を行っ
た。平成 23 年∼24 年は「新世代ネットワーク」実現のめどとされている 2015 年以降に可
能な限り焦点をあて、中長期的な視点で各ビジネスの市場等の予測、評価を目指す。
このため、平成 22 年度の調査結果について中長期的な視点でのコメントの精査・分析を
行うとともに、追加的なインタビュー調査を実施し、当該ビジネスに対するビジョン、実
現可能性、市場への期待等に関する情報の収集に努める。また現サービスおよび将来のサ
ービスに関して、他の企業/業種との競合性、補完性に関しての見通し/予測をヒアリン
グし、市場の(現時点のサービスを超えた)広がりを予測することを検討する。
(2)新世代ネットワークの社会的な効果
新世代ネットワークの社会的な効果については、インタビュー調査結果の非定量的な項
目のキーワード抽出に重点をおき、検討を進める。
具体的な方法としては、社会的な効果の分析を行うために、各ビジネスの特徴や課題等
の定性的情報から仮想化やクラウドに関するキーワードの抽出・整理を行い、各事例での
キーワードの出現頻度分析を行う。また、抽出されたキーワードを基にヒアリング客体(ヒ
アリング先の担当者)の発話/ニュアンスに基づく5段階程度の数量化分析を行い、分野横
断的な仮想化やクラウドのサービスイメージ抽出・分析を行う。
インタビュー調査結果から、技術の方向性や市場の動向に関するキーワードがある程度
集積されれば、応用技術に関する専門誌をデータベースとして、これら集積されたキーワ
ードが、いずれの領域(業界)に属する研究者/技術者が執筆したものか、またどのような
領域で共同執筆されているか、執筆者はベンダー企業に属するのか、ユーザ企業に属する
のか、対象となっている技術領域が既存のサービスとどのような関係にあるのか、どのよ
うな延長上に想定されているのか、など、今後の追加調査に向けた予備的な分析が期待で
きる。今後、必要に応じて追加ヒアリング調査を実施し、調査結果を整理・分析、評価手
- 17 -
法の確立を目指す。
また、ユーザの便益(効用等非定量的な指標)の評価や、本SWGで検討している「ネッ
トワーク仮想化のビジネス的側面(Ⅳ章)」であげられた観点を基に、「仮想化とクラウド
ネットワーキングの社会的な効果」の指標として精査し、追加ヒアリング調査を実施し、
調査結果を整理・分析、評価手法の確立を目指す必要がある。手法等の詳細については、
平成 23 年∼24 年の検討課題とする。
- 18 -
VII. ネットワーク仮想化の課題
1.コスト的課題
ビジネスとして成立しうるためには、設備投資コストとサービス開発コスト等およびそ
れらのオペレーションコストに対し、サービス利用収入のバランスが取れ、利益となる必
要がある。
1-1. 導入・運用コストの負担
ネットワーク仮想化では、インフラ設備投資、サービス開発、これらのオペレーション
に関与するステークホルダ(ビジネス実行主体)が複数、様々考え得る。
ネットワーク仮想化を用いた新たなビジネスにおいて必要となる仮想ネットワーク上に
インプリメントすべき機能(サービス)の開発コストおよびこの機能のオペレーション(運
用およびメンテナンス)コストの全体コストに加え、これらを機能させるためのインフラ
としての設備投資およびオペレーションのコストの増加分を、新たに得られるサービス利
用収入全体がこれを補う必要がある。
1-2. システムコストの増加
ネットワーク仮想化では、基本的には、従来のネットワーク機能部分(主に、ルータや
スイッチ等)においても機能追加が必要であり、その分コストは増加するものの既存レベ
ルと思われる。一方、サーバ機能分の設備投資増、仮想化機能分の運用オペレーションコ
スト増、サービス開発コストの増減が考えられる。また、従来に比べ相対的にサーバ機能
分増加するノードの設置スペースも課題になり得る。
従い、従来のネットワーク利用のサービス拡充に加え、現状ではネットワーク利用がで
きていない分野等へのサービスの実現とそのサービス利用者の拡大が重要になると思われ
る。
2.環境側面の課題
2-1. 使用エネルギー問題
ネットワーク仮想化では、従来の光ネットワークや単純なフォワーディング機能を持つ
既存ルータなどと比較して通信装置が利用する電力量が増加する可能性がある。ただし一
方では、①従来は物理的に個別網として運用していた通信サービスを単一のネットワーク
仮想化網に収容すること、②ネットワーク仮想化の機能により使用するときのみネットワ
ークを構成するオンデマンド利用によって、ネットワークサービス総体でのエネルギーの
削減効果が得られる可能性もある。
3.既存ネットワークとの共存、将来的移行に伴う課題
3-1. 既存ネットワークとの共存
新世代ネットワークの基盤として仮想化ネットワークを利用する場合、①仮想化ネット
ワーク導入初期(主に既存ネットワークを利用し仮想網を限定的に利用する時期)
、②平行
利用期(両ネットワークを同レベルで利用する時期)、③移行後期(仮想網の利用が主であ
- 19 -
るが、既存網が残存する時期)の3段階の共存形態がある。
これら共存時期においては、従来のネットワークを用いたサービス/アプリケーション利
用に支障が無いことを維持しつつ、新たな仮想化ネットワークの利用の双方を実現する必
要がある。全ての形態共通の課題は、表 18に示すとおりである。
表 18.既存ネットワークとの共存における課題
・ ユーザからの相互のネットワークへのアクセス性の確保
・ 既存ネットワークと新世代ネットワーク(スライス)間の接続/分離制御性の確保
・ 相互接続時のポリシ、セキュリティ制御
・ 仮想ネットワークが既存方式と異なる通信プロトコルを利用する場合、アプライアンスが
複数のプロトコルを実装する必要性
3-2. 既存ネットワークからの移行
上記の課題を解決しつつ新世代ネットワークに移行する事が困難である一つの理由は上
記の課題に加えて既存ネットワークを構成する装置、リンク等と新ネットワークを構成す
るそれらが物理的に分離されている事にある。しかし、ネットワーク仮想化では「一つの
スライス上で既存ネットワークをエミュレートする」ことにより、段階的なインフラの移
行や既存サービスの共存がより容易になる可能性が高く、この特徴はネットワーク仮想化
の大きな利点の一つと考えられる。
4.制度、サービス契約上の課題
ネットワーク仮想化でネットワークの分離性、高セキュリティ性の特徴を活用してスラ
イスを医療、健康、自治体、金融などの用途への利用が検討されている。しかし、これら
の用途には仮に高度なセキュリティと独立性を確保した後でも、関連法律、プライバシな
ど実現上の課題は多く、それらはネットワーク仮想化技術のみで解決することは困難であ
る。
更に、ネットワーク仮想化ではネットワーク内に計算資源を配置する事により例えば、
利用者動向調査や広告を目的とした通信内容へのアクセスや加工、意図的廃棄などを実行
する事が技術的には可能になる(禁止する事も可能)。計算資源を用いたこのような制御に
関しては、法的な正当性及び世論の同意が必須であり、慎重に進める必要があるだろう。
- 20 -
本資料は、SWG 中間報告書(約 130 ページ)から要点を抜粋
し、活動の概要をご報告するための資料である。
資料編は抜粋版では目次のみが示してある。
第2部 資料編
I. 既存ビジネスにおける仮想化の概念が実装された事例(詳細)
1.相互直通運転
2.コードシェア便
3.提携カード
4.MVNO
5.データセンター
II. 新世代ネットワーク導入効果の定量化手法
1.マクロ的視点からの定量化の検討
2.ミクロ的視点からの定量化の検討
III. 新世代ネットワークのアセスメントに関する海外動向(欧州)
IV. 海外における研究開発動向
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