人間の目に見えない磁気/赤外線/超音波を検出する 第2章 非接触で物体の接近や距離を検出するセンサ 磁石の接近を検出するセンサ 10 開閉スイッチの替わりになるセンサ ホール素子と,ホール素子を駆動して信号を得るた めの回路を 1 パッケージにまとめた IC がホール IC で ● 触れない/見えないスイッチになる 水のかかる可能性がある洗濯機のふた,食品にスイ (旭化成エレクトロニクス)の外観を写 す.EW − 750B 真 1 に示します.基本的には 3 端子の素子で,感度や ッチが触れると困る冷蔵庫のドアなどで非接触のスイ ッチとして使われています.デザイン重視のノート型 出力などによって多くの種類があります. パソコンや折りたたみ型携帯電話などでは見えないス イッチとして,開閉を検出する用途に使われています. ● 携帯電話での使用 図 1 は本体側メイン基板にホール IC を,液晶画面 側に磁石を配置させた折りたたみ携帯電話の例です. ● 磁石とホール IC で非接触のスイッチが作れる 開閉検出の基本構成を図 2 に示します.一般的にド 液晶画面を閉じた状態では,ホール IC は磁石から アやふたなど,動くほうに磁石を配置することが多い の強い磁束密度により「閉」を検出します.液晶画面 を開いていくと磁石が遠ざかり,ホール IC を通過す ようです. る磁束密度が小さくなります.その結果,一定値 (Brp )を下回ると「開」を検出します. ● 磁石は主に 3 種類あるので用途に応じて選ぶ このような用途に使われる磁石には,大別すると 3 開いた状態から閉じていくと,磁石がホール IC に 近づくことで,ホール IC を通過する磁束密度が大き 種類の材質があります.表 1 にそれぞれの特徴をごく 簡単にまとめました. くなり一定値(Bop )を上回ると「閉」を検出します. 詳しい解説および磁石の磁極面中心軸上における磁 折りたたみだけでなく,回転やスライド機構など, さまざまな動きに対する開閉の検出ができます. B 引用文献 B (1)旭化成ホール IC カタログ 2007,旭化成エレクトロニクス, 2007 年 4 月. 表 1 磁石の材質と特徴 残留磁束密度 Br [mT] 温度係数 k t [% /℃] 特徴 フェライト系 (Ba 系,Sr 系) 300 〜 500 − 0.18 〜− 0.20 安価 ネオジウム (Ne − Fe − B) 系 1050 〜 1500 − 0.10 〜− 0.13 強力 900 〜 1200 − 0.03 〜− 0.05 温度特性 良好 材 質 束密度の算出は,旭化成エレクトロニクスのホームペ ージに計算用シートが用意されています.〈松本 治〉 VCC サマリウム・コバ ルト (Sm − Co) 系 GND OUT 写真 1 ホール IC EW − 750B (旭化成エレクトロニクス) 磁石 ホール I C表面と磁石表面の距離 閉→開:14.5mm 閉←開:13.0mm 磁石の動き 磁石:4 × 4 × 2mm (ネオジウム磁石を厚み 方向に着磁) N S ホール I C S N B B 磁束密度 図 1 折りたたみ携帯電話 での応用例 磁束密度 磁石:4 × 4 × 12mm (ネオジウム磁石を長さ EW-750B 方向に着磁) (a)長さ方向に着磁 磁石がホール IC に接近すると 図 2 磁石とホール IC の基本的な配置 閉じたと検出する ホール素子の感度と磁石の大きさによって,出力が切り替わる距離は変わる 2007 年 7 月号 磁 石 の 動 き ホール I C表面と磁石表面の距離 閉→開:12.5mm 閉←開:11.0mm EM-1781 (b)厚み方向に着磁 119 磁気抵抗効果を使った磁界の検出 11 消費電流が3μAと小さい磁石接近センサ 写 真 1 に磁気センサ・スイッチ A S − MRX1518HNA/HUA (アナセム) の外観を示します. HUA 内部構成を図 1 に,仕様を図 2 に示します.基本的 にはブリッジの不平衡を検出しており,図示したタイ プでは磁界方向は問題にしていません.リード・スイ ッチと同じ動作と考えればわかりやすいでしょう. ● 磁気抵抗効果を使っている 磁気抵抗効果とは,導体に磁界をかけると抵抗値が HNA 変化する現象です.直感的には,図 3 のように電子の 経路が磁界で曲げられるため,電界方向の平均自由行 程が減少すると説明できます. 写真 1 磁気センサ・スイッチ AS − MRX1518HUA/HNA (アナセム) この効果自体は古くから知られており,これを利用 したセンサも以前からあったのですが,磁界(磁束密 化・高精度化され,用途が広がってきました. 度)と発生電圧とが比例するホール効果に比べて,非 線形で磁界方向の判別ができない磁気抵抗効果はやや ● いろいろな用途が考えられる 検出感度は数 mT で,リード・スイッチより高感度 分が悪かったように思えます.しかし,ホール素子と です.永久磁石を接近させた場合に相当し,機械装置 違ってオフセット電圧の問題がなく,効果自体が安定 しています.最近になって半導体チップとともに小型 の近接センサとして便利に使えます.応答速度はリー ド・スイッチに比べて十分に速く,また消費電流が少 スイッチ 磁 気 抵 抗 素 子 VDD げられています.それだけでなく,非常に小型である サンプリング 用タイマ アンプ ラッチおよび バッファ ない(3 μA 以下) 点でも使いやすいセンサといえます. メーカの資料では携帯電話などの蓋の開閉検出があ 出力 ことから,高信頼性の無接点キーボード(リード・ス イッチ式キーボードの高性能化)や,多数使っても消 費電力が少ないことを利用したリニア位置センサ(図 4)など,幅広い用途が考えられます. 〈畔津 明仁〉 VSS 図 1 磁気センサ・スイッチの内部構成 磁気抵抗素子でブリッジが構成されている B 参考文献 B (1)AS − MRX1518HUA,AS − MRX1518HNA データシート, アナセム. 電子 項 目 値 1.6〜3.5V 動作電圧 − 3μA 最大 消費電流(平均) (VDD =1.8V時) 出力反転 磁束密度 H→L ±2.2mT 最大 L→H ±0.8mT 最小 + 位置情報 (a)磁界なし 電子が円運動するので電界方向の 走行距離が見かけ上,短くなる 処理回路 (デコーダ) 出力電圧 … H→L L→H L→H H→L − + …… 小型磁気 センサを 多数並べ る N S 0 磁束密度 図 2 AS − MRX1518HUA/HNA の電気的特性 120 (b)磁界あり 図 3 磁気抵抗効果の考え方 可動部分 図 4 応用例 2007 年 7 月号
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