東宝株式会社と松竹株式会社

東宝株式会社と松竹株式会社
~映画関連業界の今~
国際地域学部
国際地域学科 3 年
1810070078
相馬
正聡
1.はじめに
私は大学に入学してから、しばしば映画館に足を運ぶようになった。映画は私にさまざ
まな知識や感動を与えてくれた。そのおかげで、私は以前より映画に興味を持つようにな
った。なので、今回、映画業界を代表する東宝株式会社と松竹株式会社を比較財務分析し
てみようと思った。
【映画関連業界の現状】
日本の映画関連業界は東宝株式会社、松竹株式会社、東映株式会社、日活株式会社、角
川映画株式会社の五大映画会社が大部分を占めている。売上高を見てみると、順に 2000 億
円、900 億円、1000 億円、120 億円となっている(数字は 2008 年度のものであり、角川映
画株式会社のデータは記載されていなかった)。このことから、映画関連業界は東宝株式会
社が半分近くを占め、松竹株式会社、東映株式会社などは売上高において遠く及ばないこ
とがわかる。
【東宝株式会社】
東宝株式会社は、1932 年に設立された。主な事業内容としては、映画の製作・演劇の企
画、製作・不動産経営などがある。日本だけでなく、ロサンゼルス・ニューヨーク・香港
にも事業所が設置されている。目標として全国の映画興行市場において、スクリーン数で
20%、興行収入で 30%のシェア確保を掲げている。映画作品の例としては、ゴジラシリー
ズ、スタジオジブリ作品、ポケットモンスターシリーズ、最近では『20 世紀少年』、『アマ
ルフィ』などがある。2008 年には東宝株式会社での特撮製作は年に 1~2 本程度にとどま
っている。
【松竹株式会社】
松竹株式会社は、1895 年に設立された。主な事業内容としては、映画の製作・演劇の企
画、製作・不動産経営などがある。松竹株式会社では、劇場用映画および演劇は予想と実
績の乖離が大きいため、特定の経営指標を持って目標とすることはせず、安定した収益基
盤を着実に強化していくことが第一と認識している。映画作品の例としては、男はつらい
よシリーズ、
『座頭市』、最近では『おくりびと』
、
『GOEMON』などがある。松竹株式会社
には松竹芸能という連結子会社があり、そこにはオセロ・ますだおかだ・TKO・よゐこな
どが所属している。
1
では、まず収益性から見ていくことにする。
※なお、会計年度は 2005 年度から 2009 年度までのものであり、両社とも 2 月決算企業で
ある。
2.ステップⅠ:収益性
企業の総合的収益性を測定する代表的指標のうち、最もポピュラーなものとして使用総
資本事業利益率をみていくことにする。
<図表 1>使用総資本事業利益率の推移
使用総資本事業利益率
(%)
10
8
6
4
2
<図表
0 2>東宝と松竹の使用総資本事業利益率
2005
2006
2007
2008
東宝
松竹
(単位:千円,%)
2009
年度
<図表 2>東宝と松竹の使用総資本事業利益率(単位:千円)
東宝
事業利益
使用総資本
2005
2006
2007
2008
2009
25,886,000
23,873,000
25,518,000
21,693,000
25,770,000
347,300,000 372,335,000 370,190,000 332,171,000 308,728,000
使用総資本
事業利益率
7.45
6.41
6.89
6.53
8.35
2005
2006
2007
2008
2009
5,019,574
3,125,145
1,279,724
1,266,951
732,573
松竹
事業利益
使用総資本
122,169,743 133,293,755 163,687,101 157,937,957 154,049,843
使用総資本
事業利益率
4.11
2.34
0.78
0.80
0.48
図表 1 を見てみると、一貫して東宝が松竹を上回っていることがわかる。そして、両社
とも目立った変化はないものの、東宝は少しずつ上昇していることがわかる。反対に松竹
はだんだん減少傾向にあることがわかる。理由としては、図表 2 を見るとわかる。
東宝は分母である使用総資本が減っているからである。松竹は逆に使用総資本が増え、
事業利益が減っているからである。ではなぜ、東宝の使用総資本は減少し、松竹の事業利
益は減少しているのだろうか。その答えを探るために、使用総資本と事業利益の構成要素
を分析していこう。
2
<図表 3>東宝の使用総資本の構成
東宝
2005
(単位:千円)
2006
2007
2008
2009
使用総資本
347,300,000 372,335,000 370,190,000 332,171,000 308,728,000
流動資産
104,904,000
74,332,000
74,709,000
69,273,000
53,657,000
現金及び預金
26,084,000
24,814,000
22,938,000
14,659,000
10,057,000
受取手形及び売掛金
16,804,000
16,933,000
16,545,000
18,910,000
17,459,000
有価証券
7,211,000
4,821,000
4,357,000
13,811,000
2,442,000
棚卸資産
11,533,000
12,468,000
11,218,000
9,196,000
7,872,000
現先短期貸付金
36,997,000
8,999,000
12,631,000
4,197,000
7,497,000
貸倒引当金
-1,658,000
-536,000
-390,000
-125,000
-148,000
242,395,000
295,480,000
295,480,000
262,898,000
255,071,000
固定資産
<図表 4>松竹の事業利益の構成
(単位:%)
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
売上高
100
100
100
100
100
売上原価
52.5
56.2
56.3
58.4
60.0
売上総利益
47.5
43.8
43.7
41.6
40.0
販売費及び一般管理費
40.5
39.7
41.3
39.5
38.4
人件費
10.9
10.3
10.7
11.2
11.2
宣伝費
6.9
6.6
5.8
5.2
4.2
減価償却費
2.6
2.6
3.2
2.5
2.7
地代家賃
5.9
5.9
5.7
5.9
5.7
その他
13.1
13.2
14.7
13.7
13.5
営業利益
7.0
4.1
2.3
2.0
1.7
受取利息
0.0
0.0
0.1
0.1
0.1
受取配当金
0.1
0.2
0.2
0.3
0.3
事業利益
5.6
3.2
1.3
1.4
0.8
図表 3 を見ると、東宝は流動資産である現金及び預金、有価証券、棚卸資産が減少して
きていることがわかる。
有価証券が 2007 年度~2008 年度にかけて増加し、
2008 年度~2009
年度にかけて大幅に減少しているのは、2008 年度に 1 年以内償還予定社債が生じたためで
ある。これは現金及び預金と現先短期貸付金の減少にも影響している。棚卸資産が減少し
てきているのは、邦画「復活」に伴う大量製作・供給の状況下、消費者による作品の選別
が厳しくなってきていることや世界的な経済危機による景気低迷によって映画制作が減少
してきているからではないだろうか。そのため使用総資本は減少してきているものと考え
られる。
図表 4 は、松竹の事業利益の算出過程を百分比で示したものである。これを見てみると、
東宝の事業利益が増加してきている要因として、売上原価の割合が増加してきていること
があげられる。売上原価の中でも、映画制作原価、他社映画料などが上がっている。
3
次に、株主資本利益率(ROE)についてもみていくことにしよう。この指標は株主が最終的
に得られるリターンの収益性を示しているといえる。
<図表 5>ROE の推移
ROEの推移
(%)
6
5
4
3
2
1
0
-1
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
<図表 6>東宝と松竹の自己資本と当期純利益
東宝
自己資本
当期純利益
年度
(単位:千円)
2005
2006
2007
2008
2009
201,076,000
219,595,000
247,560,000
229,698,000
219,802,000
7,464,000
10,034,000
10,537,000
10,158,000
3,721,000
44,456,081
55,305,518
65,262,455
60,880,468
57,487,768
1,166,745
750,033
943,680
682,542
189,505
松竹
自己資本
当期純利益
図表 5 によれば、全体的に松竹に比べて東宝のほうが高い水準にあることがわかる。2005
年度の途中まで、松竹のほうが東宝よりも高い水準にあるがその後、逆転されている。ま
た松竹は 2007 年度にマイナスに転落しているが、2008 年度にはプラスに回復している。
しかし、両社とも 2004 年度に比べれば減少してきていることは否めない。両社とも減少し
てきている理由としては、分子の当期純利益が減少してきていることが原因である(図表 6)。
次に ROE を売上高当期純利益率(当期純利益/売上高)、総資本回転率(売上高/総資本)、
財務レバレッジ(総資産/株主資本)の 3 要素に分解してみていくことにしよう。
<図表 7>売上高当期純利益率の推移
売上高当期純利益率の推移
(%)
6
5
4
3
2
1
0
-1
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 7 をみると東宝が松竹を一貫して上回っていることがわかる。この理由としては、
4
支払利息の負担の差があげられる。2004 年度から 2008 年度までの 5 期間において、売上
高に占める支払利息の割合の平均は東宝が 0.13%、松竹が 0.96%と開きがある。両社の落
ち込みの原因は当期純利益の減少によるものである。
<図表 8>総資本回転率の推移
総資本回転率の推移
(回)
0.8
0.7
東宝
松竹
0.6
0.5
0.4
2005
2006
2007
2008
2009
<図表 9>東宝の売上高と使用総資本
年度
(単位:千円)
2005
2006
2007
2008
2009
売上高
202,191,000
202,990,000
201,026,000
205,037,000
213,493,000
使用総資本
347,300,000
372,335,000
370,190,000
332,171,000
308,728,000
図表 8 をみると、総資本回転率においては 2004 年度から 2006 年度まで松竹のほうが高
いことがわかる。松竹はその後、東宝に逆転をゆるしているものの両社とも 2006 年度以降、
上昇傾向にあることがわかる。東宝が 2007 年度から順調に総資本回転率を上げているのは、
図表 9 をみると使用総資本が減ってきているからである。松竹が 2007 年度に大きく減少し
ているのは、前年度に比べて使用総資本が 23%増加していることによる。
最後に、財務レバレッジ効果についてみていくことにしよう。
<図表 10>財務レバレッジの推移
財務レバレッ ジの推移
(倍)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 10 をみると、一貫して松竹は東宝よりも高い水準にある。松竹はほぼ一定であるが、
東宝は減少傾向にあることがわかる。財務レバレッジは負債への依存度を測るものである。
したがって、その負債を利用して利益が出ていないといけないわけである。しかし、松竹
の財務レバレッジは 2007 年度から上昇しているのにもかかわらず、図表 6 を見ると利益が
減少していることがわかる。つまり、上手くテコが発揮されていないことになる。
5
収益性分析をまとめると、両社とも売上高当期純利益率が ROE に一番、影響を与えてい
るものと思われる。結果としては東宝のほうが松竹よりも収益性では上回っているのでは
ないかと思われる。
3.ステップ 2:安全性
ここからは、安全性の分析をしていこう。
<図表 11>連結キャッシュ・フロー計算書
(単位:千円)
東宝
2008 年度
Ⅰ 営業活動によるキャッシュ・フロー
松竹
2009 年度
2008 年度
2009 年度
11,786,000
27,369,000
3,052,679
4,082,095
-20,490,000
-14,958,000
-9,184,883
-8,761,523
95,000
70,000
0
3,207,404
-15,332,000
-1,127,000
-87,400
-839,008
13,527,000
13,543,000
0
1,762,481
-20,292,000
-8,962,000
-9,412,338
-4,257,556
60,000
915,000
11,860,000
12,470,000
-1,765,000
-1,061,000
-5,697,900
-7,905,608
社債の発行による収入
24,000
0
209,449
337,666
社債の償還による支出
0
-10,000,000
-1,100,000
-300,000
-65,000
-1,065,000
-67,073
-64,156
配当金の支払額
-3,773,000
-4,724,000
-371,553
372,021
財務活動によるキャッシュ・フロー
-6,305,000
-21,007,000
2,624,722
2,355,879
-45,000
-16,000
-28
-14
-14,857,000
-2,617,000
-3,734,964
2,180,403
Ⅱ 投資活動によるキャッシュ・フロー
有形・無形固定資産の取得による支出
有形固定資産の売却による収入
有価証券・投資有価証券の取得による支出
有価証券・投資有価証券の売却・償還による収入
投資活動によるキャッシュ・フロー
Ⅲ 財務活動によるキャッシュ・フロー
長期借入れによる収入
長期借入金の返済による支出
自己株式の取得による支出
現金及び現金同等物に係る換算差額
現金及び現金同等物の増減額
図表の 11 は、両社の連結キャッシュ・フロー計算書における主要項目を抜粋したもので
ある。まず、営業活動によるキャッシュ・フローをみると、2009 年度において東宝は 270
億円、松竹は 41 億円の収入(正味)があったことがわかる。
次に投資活動によるキャッシュ・フローに目を移すと、東宝が 2009 年度の正味で 90 億
円の投資支出を行っている。この大部分は有形・無形固定資産の取得による支出であるが、
2008 年度に比べ、有価証券・投資有価証券の取得による支出が大幅に減少したことにも注
目したい。これは 2008 年度に連結子会社が 47 社あったのに対し、2009 年度は合併などに
より 44 社に減少したからではないか。一方の松竹は、2009 年度の正味で 43 億円の投資支
出を行っている。ここで注目したいのは、有形固定資産の売却による収入と有価証券・投
資有価証券の売却・償還による収入が前年度に比べ大幅に増加していることである。有形
6
固定資産の売却による収入は大阪市中央区の土地、建物の売却によるものである。また、
有価証券・投資有価証券の取得による支出も大幅に増加している。
最後に、財務活動によるキャッシュ・フローをみると、東宝は 2009 年度の正味で 210 億
円の財務投資を行っている。これは長期借入金の返済による支出、社債の償還による支出、
自己株式の取得による支出、配当金の支払いによるものであることがわかる。社債の償還
による支出は 1 年以内償還予定社債が生じたためである。
一方、松竹は 24 億円の財務収入があることがわかる。これは長期借入れによる収入と社
債の発行による収入によるところが大きい。
ここからは、流動比率、当座比率、自己資本比率、固定長期適合率、インタレスト・カ
バレッジ・レシオの各指標をみていくことにしよう。
<図表 12>流動比率の推移
流動比率の推移
(%)
250
200
150
東宝
松竹
100
50
0
2005
2006
2007
2008
2009
年度
<図表 13>当座比率の推移
当座比率の推移
(%)
200
150
100
50
0
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
年度
<図表 14>東宝の流動資産、棚卸資産、流動資産(単位:千円)
2005
流動資産
2006
2007
2008
2009
104,904,000 74,332,000 74,709,000 69,273,000 53,657,000
棚卸資産
11,533,000 12,468,000 11,218,000
9,196,000
7,872,000
流動負債
51,268,000 49,876,000 46,817,000 52,881,000 37,685,000
まず、短期弁済能力を判断する指標として図表 12・13 の流動比率と当座比率をみると、
ともに東宝のほうが松竹より高い水準にある。このことから、短期弁済能力は東宝のほう
が高いと判断できる。流動比率は 200%以上が好ましいとされているが両社ともそれには及
ばない。東宝の流動比率と当座比率が減少してきているのは、流動負債の減りよりも流動
7
資産の減りが大きいからである。流動資産の中でも有価証券が大きく減っていた。
<図表 15>自己資本比率の推移
自己資本比率の推移
(%)
80
60
東宝
松竹
40
20
0
2005
2006
2007
2008
2009
年度
<図表 16>固定長期適合率の推移
固定長期適合率の推移
(%)
110
105
100
95
90
85
80
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
年度
次に、比較的長期の安全性を測る指標として図表 15・16 の自己資本比率と固定長期適合
率をみると、やはり東宝のほうが松竹に比べて安全性は高いと判断される。東宝の自己資
本比率は約 60~70%で安定しており、近年も上昇傾向にある。さらに、固定長期適合率の
理想とされる 100%以下に保たれている。松竹も固定長期適合率は 2008 年度を除けば
100%以下をキープしている。
東宝の自己資本比率が上がっているのは、図表 6・9 を見ると自己資本が微増していて、
総資本が減少していることによる。
東宝の固定長期適合率が 2006 年度に増加しているのは、
固定資産が約 500 億円増加したことによる。松竹の固定長期適合率が 2009 年度に増加して
いるのは固定負債が約 100 億円減少しているからである。
<図表 17>インタレスト・カバレッジ・レシオの推移
インタレス ト・ カバレッジ・ レシオの推移
(倍)
120
100
80
60
40
20
0
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
8
2009
年度
<図表 18>支払利息の推移
(単位:千円)
2004
2005
2006
2007
2008
東宝
358,000
290,000
247,000
250,000
226,000
松竹
758,718
681,372
845,006
1,048,818
1,150,047
有利子負債金利の支払能力はどうだろうか。図表 17・18 をみると、東宝は支払利息の削
減によりインタレスト・カバレッジ・レシオが上昇していることがわかる。松竹の同比率
が減少しているのはやはり支払利息が上昇しているからである。東宝はさらに、受取配当
金も 2005 年度では約 4 億円だったものが、2009 年度には約 12 億円に増加している。
ここまで両社の安全性をみてきたが、全体的にみて東宝が松竹よりも優れているという
結果だった。それでは、格付け機関は両社の安全性についてどのような評価を行っている
のだろうか。格付投資情報センターによると東宝は「AA-」という評価で、信用は極め
て高く、優れた要素があるということであった(2009/09/30 現在)。松竹は記載されていな
かった。
4.ステップ 3:効率性・生産性
ここからは、効率性と生産性についてみていくことにする。資産活用の効率性の総合的
な指標である総資本回転率については、先に ROE を分解して分析した際にすでにみている。
そこでは、松竹は 2008 年度に、東宝に逆転をゆるしているものの両社ともその後は上昇傾
向にあるということであった。さらに松竹は 2007 年度に大幅に減少していた(図表 8)。
そこで、ここではそうした動きを各資産ごとの回転率に分けて分析していくことにしよ
う。さしあたり、棚卸資産回転率、有形固定資産回転率、売上債権回転率、投資その他の
資産回転率の 4 つを取り上げる。
<図表 19>棚卸資産回転率の推移
棚卸資産回転率の推移
(回)
30
25
20
15
10
5
0
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 19 の棚卸資産回転率の推移をみてみると、2006 年度以外は東宝が松竹を上回って
いて、さらに両社とも上昇していることがわかる。松竹が 2007 年度に大きく上昇している
のは棚卸資産が約 70 億円から約 40 億円に減少したからである。ここでの棚卸資産とは製
作品のうち未封切作品、製造途中にある製品などのことである。
9
<図表 20>有形固定資産回転率の推移
有形固定資産回転率の推移
(回)
2.0
1.5
東宝
松竹
1.0
0.5
0.0
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 20 の有形固定資産回転率の推移をみると、2007 年度に東宝が松竹を逆転している
ことがわかる。時系列でみると、両社とも低下してきていることがわかる。2007 年度に松
竹が減少しているのは、有形固定資産が約 400 億円増加したからである。ここでの有形固
定資産とは映画館、映画機械及び装置、土地などである。
<図表 21>売上債権回転率の推移
売上債権回転率の推移
(回)
20.0
15.0
東宝
松竹
10.0
5.0
0.0
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 21 の売上債権回転率の推移をみると、これは松竹のほうが東宝を上回っていること
がわかる。松竹の 2007 年度の上昇は、売上債権の伸びが小さかったために起こったもので
ある。東宝が 2008 年度に減少しているのは売上債権が微増したからである。
<図表 22>投資その他の資産回転率の推移
投資その他の資産回転率の推移
(回)
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
東宝
松竹
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 22 の投資その他の資産回転率の推移をみると、松竹が東宝を上回っていて、両社と
10
も上昇していることがわかる。この原因としては、投資有価証券や出資金の減少が考えら
れる。
こうしてみてくると、棚卸資産回転率と有形固定資産回転率では東宝が優勢であるが、
売上債権回転率と投資その他の資産回転率では松竹が優勢であった。なので、効率性・生
産性での甲乙を付けるのは難しいという結果になった。また、東宝の総資本回転率の推移
は棚卸資産回転率と投資その他の資産回転率が主に影響を及ぼしていると考えられる。松
竹は有形固定資産回転率が主に影響を与えているものと思われる。
5.ステップ 4:成長性
ここからは、成長性の分析を行っていく。ここでの分析に有効なのが趨勢分析である。
<図表 23>東宝の成長性の推移(2005 年度=1)
東宝の成長性( 2 0 0 5 年を1 として )
1.3
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
総資産
売上高
営業利益
株主資本
2005
2006
2007
2008
2009
年度
<図表 24>松竹の成長性の推移(2005 年度=1)
松竹の成長性( 2 0 0 5 年を1 として )
2.0
1.5
総資産
売上高
営業利益
株主資本
1.0
0.5
0.0
2005
2006
2007
2008
2009
年度
図表 23 をみると、東宝は売上高と株主資本を成長させてきていることがわかる。しかし、
総資産と営業利益は下がってきている。
図表 24 をみると、松竹の売上高は伸び悩んでいるものの、総資産と株主資本は成長して
きていることがわかる。しかし、営業利益は大幅に下がってきていることがわかる。
ここでは成長性をみてきたが、どちらが優勢かは甲乙付け難い。
6.ステップ 5:グループ経営分析
東宝と松竹のグループ連結経営を分析していくにあたり、まずは両社のグループ経営に
11
対する姿勢をみていくことにしよう。有価証券報告書の「第 2 事業の概況」には「3.対処
すべき課題」という項目がある。これの 2009 年 2 月期には以下のような記載があった。
東宝
映画業界においては、興行マーケットの再編を通して、スケールメリットを生かした
コストの最小化とオペレーション効率の最大化を図っていく。映画の製作・営業におい
ては、企画の強化と、優れたパートナーとの連携を一段と深めてタイムリーなコンテン
ツの獲得に努めていく。演劇興行事業においては、帝劇の高稼働を図る一方、一層の観
客動員に努力し、さらに外部公演の実施も積極的に展開していく。不動産事業において
は、映画の仕上げ部門の施設の充実を図るべく「第 2 次改造計画」を実行していく。
松竹
当企業グループの中核事業である映像・演劇事業は、予想と実績の乖離が大きいとい
う特性を踏まえ、安定した収益基盤を着実に強化し、事業を展開する。映像関連事業は、
企画の選別化を強化し、優れたパートナーとの連携も深めていく。演劇事業は、歌舞伎
などの多彩な事業展開を行い、増収増益を図るとともにコスト削減にも取り組んでいく。
不動産事業は、歌舞伎座再開発について、144 期上期末を目処に再開発計画概要を発表
する予定である。この開発は、将来の当企業グループの中心となる事業である。
これをみていくと東宝の方がグループ全体で収益を向上させていくという姿勢がみられ
る。松竹は、不動産事業を中心に行っていくということであった。
それでは、両社の連単倍率分析をしていこう。連単倍率は、1 を超えれば超えるほど、親
会社以外のグループ会社の貢献が大きいことを示す。
<図表 25>連単倍率の推移
(単位:倍)
東宝
2005
2006
2007
2008
2009
総資産
1.52
1.50
1.41
1.40
1.43
売上高
1.91
1.96
2.10
2.34
2.17
営業利益
1.65
1.51
1.47
1.50
1.52
当期純利益
0.79
1.07
0.74
0.72
0.62
総資産
1.16
1.17
1.37
1.40
1.35
売上高
1.42
1.47
1.56
1.60
1.53
営業利益
1.73
1.86
2.98
1.54
3.52
当期純利益
1.59
3.45
1.19
-0.50
0.91
松竹
図表 25 によれば、東宝は 2005 年度に比べれば、売上高以外、連単倍率が下がってきて
いる。また、東宝は当期純利益が 1 を割ってしまっている。松竹は、営業利益は上がって
いるが、当期純利益は下がっている。さらに松竹の近年の当期純利益は 1 を割ってしまっ
ている。すなわち、両社ともそれほど親会社以外の貢献は大きくないものと思われる。た
12
だ、どちらかと言えば営業利益が高いところをみると、松竹のほうがグループ会社の貢献
が大きいと思われる。
次にセグメント分析を行っていこう。
<図表 26>東宝と松竹のセグメント別の売上(2009 年度のもの)
東宝のセグメ ン ト別の売上高
2%
松竹のセグメント別の売上高
14%
映画事業
29%
映像関連事業
7%
演劇事業
62%
7%
演劇事業
53%
不動産事
業
その他事業
26%
不動産事業
その他の事業
<図表 27>東宝と松竹のセグメント別の営業利益(2009 年度のもの)
東宝のセグメント別の営業利益
松竹のセグメント別の営業利益
0%
0%
21%
映画事業
42%
50%
24%
映像関連事業
演劇事業
演劇事業
不動産事業
不動産事業
その他事業
その他の事業
8%
55%
図表 26 から、東宝は映画事業の他に、不動産事業の売上高が多く、不動産事業はグルー
プの営業利益にも貢献していることがわかる。
図表 27 から、松竹は映像関連事業の他に、演劇事業の売上高が多いのだが、営業利益に
貢献しているのは不動産事業が一番大きいということがわかる。ここで松竹の一番の問題
点は、売上高では映像関連事業が 53%を占めているのにもかかわらず、営業利益では映像
関連事業は 0%であることである。これは効率よく利益を生み出していないことがわかる。
ここでの、その他の事業とは、劇場売店・貸衣装・清掃事業・舞台大道具製作などである。
13
<図表 28>セグメント別の売上高成長の推移(2005 年度=100)
東宝
2005
2006
2007
2008
2009
映画事業
100
99
100
101
106
演劇事業
100
97
88
90
108
不動産事業
100
104
103
110
108
その他事業
100
94
70
38
32
合計
100
100
99
99
103
2005
2006
2007
2008
2009
映像関連事業
100
111
109
107
107
演劇事業
100
106
102
101
106
不動産事業
100
100
102
98
108
その他の事業
100
100
102
99
96
合計
100
107
106
103
105
松竹
<図表 29>セグメント別の営業利益成長の推移(2005 年度=100)
東宝
2005
2006
2007
2008
2009
映画事業
100
89
97
70
92
演劇事業
100
110
121
87
80
不動産事業
100
86
89
98
102
その他事業
100
16
114
57
27
合計
100
89
96
82
94
2005
2006
2007
2008
2009
映像関連事業
100
32
25
12
-4
演劇事業
100
266
112
102
109
不動産事業
100
94
120
119
138
その他の事業
100
46
39
54
62
合計
100
80
61
57
57
松竹
図表 28・29 をみると、東宝は映画事業と演劇事業の売上高は成長しているが、この 2
つの営業利益は減少してきていることがわかる。また、不動産事業の営業利益は近年、成
長してきていることがわかる。
松竹は、その他の事業以外の売上高は成長してきている。しかし、映像関連事業の営業
利益は大幅に減少してきている。また、不動産事業の営業利益は大きく成長していること
がわかる。
14
7.総合評価に代えて
最後に、締めくくりとして PBR(株価純資産倍率)、PER(株主収益率)、株価を紹介して分
析を終わりにしたい。
<図表 30>PBR、PER、株価(2009/10/06 現在)
PBR
PER
株価
東宝
1.35 倍 117.24 倍
1,428
松竹
1.63 倍 532.86 倍
746
図表 30 をみると、株価は東宝のほうが上回っているものの、PBR、PER では松竹が優
勢であるということであった。特に PER では大きく松竹が東宝を上回っている。また、PBR
では両社とも 1 を割っていないため良好だといえる。
最後にこれまで行ってきた分析をまとめてみようと思う。まず、収益性では、東宝が松
竹よりも優勢であるという結果であった。安全性では、圧倒的に東宝が優勢であった。特
にインタレスト・カバレッジ・レシオでは両社の間に大きな差があった。効率性・生産性
では、甲乙を付けるのは難しいという結果であった。成長性でも、甲乙付けがたいという
結果であった。しかし、成長性で松竹は営業利益が大きく減少してきているのが気になる
ところである。グループ経営分析では、どちらかと言えば松竹の方が親会社以外のグルー
プ会社の貢献が大きいということであった。例えば、不動産事業や芸能活動である。
全ての分析の結果、東宝のほうが松竹よりも優れているのではないだろうか。
【今後の動向】
東宝は、これから映画事業の収益性をどれだけ伸ばせていけるかが、成長の鍵であるの
ではないかと思う。松竹は、これから不動産事業を中心に行っていくということである。
しかし、それよりも、もっとたくさんの消費者が観てくれるような質の高い映画を製作し、
収益性を伸ばしていったほうがいいのではないかと思った。
これからも、両社が私に質の高い映画をよりたくさん提供してくれることを期待したい。
【おまけ】
おまけとして、両社のその年の売上高に、流行した映画がどれほど関係しているかみて
いこうと思う。
<図表 31>その年の流行映画と興行収入
東宝
公開年
作品名
2004「世界の中心で愛をさけぶ」
興行収入
85 億円
「海猿」
71 億円
「スウィングガールズ」
22 億円
2005「NANA」
40 億円
15
「ALWAYS 三丁目の夕日」
32 億円
「戦国自衛隊 1549」
12 億円
2006「日本沈没」
53 億円
「県庁の星」
21 億円
「ゲド戦記」
76 億円
2007「どろろ」
34 億円
「名探偵コナン 紺碧の棺」
25 億円
2008「花より男子 F」
77 億円
「崖の上のポニョ」
松竹
155 億円
2004「CASSHERN」
15 億円
2005「妖怪大戦争」
記載なし
2006「子ぎつねヘレン」
18 億円
「タイヨウのうた」
10 億円
「武士の一分」
40 億円
2007「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」
18 億円
「ゲゲゲの鬼太郎」
23 億円
「大日本人」
11 億円
2008「ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌」
14 億円
「おくりびと」
60 億円
<図表 32>売上高の推移
東宝
売上高
2005
2006
2007
2008
2009
105,717,000
103,475,000
95,619,000
87,449,000
98,419,000
63,221,802
65,789,867
61,355,646
58,616,819
61,918,582
松竹
売上高
図表 31・32 をみると、東宝の方が多少は、とても人気のあった映画と売上高との間に関
係性があるものと思われる。松竹は、ほとんど関係性はないものと思われる。例えば、「お
くりびと」がヒットした 2009 年度の売上高はそれほど増加しているように思えない。
<参考>
・伊藤邦雄「ゼミナール現代会計入門(第 7 版)」日本経済新聞社(2007)
・東宝株式会社ホームページ http://www.toho.co.jp/
・松竹株式会社ホームページ http://www.shochiku.co.jp/index.html
16
・Yahoo!ファイナンス http://finance.yahoo.co.jp
・格付投資情報センター
http://www.r-i.co.jp/jp
17