****JCIF Country Report**** EU 総合レポート 2004年上半期 登録日2004年10月7日 本レポートは、アップトゥデートな EU の動きを、機構・制度および経済面を中心に紹介すること を目的としている。 Part.I EU の概要と現状 ....................................................................................................................... 2 1. EU 発展の経緯 ....................................................................................................................... 2 2. 最近の EU の動向 .................................................................................................................. 5 (1) 制度・機構面 .................................................................................................................. 5 (2) EU 拡大と EU 憲法...................................................................................................... 16 (3) 予算 ............................................................................................................................... 19 3. 主要政策の動向 .................................................................................................................... 21 (1) 共通外交・安全保障政策および司法・内務協力 ....................................................... 21 (2) 主要経済関連政策......................................................................................................... 24 Part.II ユーロ圏経済の動向 ................................................................................................................ 38 1. EU 経済とユーロ圏経済...................................................................................................... 38 2. 経済成長................................................................................................................................ 38 3. 物価・賃金............................................................................................................................ 40 4. 雇用 ....................................................................................................................................... 40 5. 金利・為替............................................................................................................................ 41 (1) ユーロ紙幣・硬貨の導入 ............................................................................................. 41 (2) 金利 ・株価 ................................................................................................................... 41 (3) 為替 ............................................................................................................................... 42 6. 国際収支................................................................................................................................ 43 (1) ユーロ圏の状況 ............................................................................................................ 43 (2) 日本との経済関係......................................................................................................... 43 1 財団法人 国際金融情報センター Part Ⅰ.EU の概要と現状 1. EU 発展の経緯 EU の起源は、1951 年のパリ条約にてベルギー、西ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブル グ、オランダの 6 カ国によって設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)、57 年のローマ条約により 設立された欧州原子力共同体(EURATOM)および欧州経済共同体(EEC)に溯る。65 年にはブリュッ セル条約が調印され、3 共同体の運営機関の統合により、67 年に欧州共同体(EC)が誕生した。翌 68 年に、EC はそれまでの自由貿易圏から関税同盟へと発展し、共通通商政策および共通農業政策が開 始された。 73 年の第一次拡大でイギリス、アイルランド、デンマーク、81 年の第二次拡大でギリシャ、86 年の第三次拡大でスペイン、ポルトガルがそれぞれ EC に加盟した。同じく 86 年には、単一欧州議 定書が調印され、欧州政治協力(EPC)も開始された。 92 年には、マーストリヒト条約(EU 設立条約)により、欧州共同体と EPC から発展した共通外交・ 安全保障政策(CFSP)、司法・内務協力(CJHA)の 3 本柱からなる欧州連合(EU)が誕生した。さらに、 同年末には市場統合がなされ、欧州単一市場が発足した。 95 年の第四次拡大により、オーストリア、スウェーデン、フィンランドが加盟し、EU は 15 カ国 体制となった。その後、97 年のアムステルダム条約では、EU 設立条約および EC 各共同体の設立 条約等(これらを総称して EU 基本条約と呼ぶ)の改正が行われ、CFSP の強化等が図られた。 2000 年末のニース・サミットでは、 将来の EU の統合深化ならびに中東欧諸国等への拡大を控え、 EU 諸機関の意思決定ルールの見直しを主眼とした EU 基本条約改正のためのニース条約が合意さ れた。同条約は 2001 年 2 月の調印後、各加盟国で批准手続きが開始された。アイルランドは 2001 年 6 月の国民投票でこれを否決、 その動向が注目されたが 2002 年 10 月の二度目の国民投票で可決、 2002 年 12 月に批准したことで全加盟国での批准が終了した。同条約は 2003 年 2 月 1 日に発効し た。 2002 年 12 月のコペンハーゲン・サミットにおいて、キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリ ー、ポーランド、スロベニア、ラトビア、リトアニア、マルタ、スロバキアの東欧諸国等 10 カ国の EU 加盟が承認され、2003 年 4 月ギリシャのアテネで加盟条約が調印された。そして 2004 年 5 月 1 日、これら 10 カ国は EU に加盟し、EU は 25 カ国体制になった。これにより EU はかつての鉄の カーテンを越え、東欧、地中海を含む欧州全域に拡大、人口 4.5 億人にのぼる単一市場が誕生した。 2004 年 6 月のブラッセル・サミットで、EU 憲法案が採択された。EU 憲法は、正式には EU 憲 法条約として加盟国により批准、締結されることとなっている。EU 憲法は、従来の条約や EU 基 本憲章に代わるものであり、2009 年 11 月からの適用開始を目指している。 通貨統合に関しては、99 年 1 月 1 日にベルギー、ドイツ、アイルランド、スペイン、フランス、 イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、オーストリア、ポルトガル、フィンランドの 11 カ国が単一 通貨ユーロを導入し、同時にこれらのユーロ参加国で欧州中央銀行(ECB)による単一金融政策が開 始された。ユーロ参加国は 2001 年 1 月 1 日にギリシャが加わった結果、現在 12 カ国体制となって いる。2002 年 1 月 1 日から、ユーロ硬貨・紙幣が導入され、通貨統合は完成した。2004 年 5 月に EU に新規加盟した 10 カ国もユーロ導入を目指しているが、そのためには新為替相場メカニズム (ERMⅡ)に最低 2 年間加盟する必要がある。2004 年 6 月 27 日から、まずエストニア、リトアニ アおよびスロベニアの 3 カ国が ERMⅡに参加した。 このように確実に EU はその統合の深化と拡大を進めてきているが、逆にそれが進展することに より、EU の運営、意思形成に難しさが現れてきているのも事実である。2004 年 11 月に欧州委員 会の新体制がバロゾ次期委員長の下に発足し、ニース条約による意思決定システムが適用されるこ ととなる(詳細は本レポート 12 ページ以下参照) 。今後の EU 内での加盟国間の力関係の変化、こ れに伴う経済政策、外交政策等の変化に注目していく必要がある。 2 財団法人 国際金融情報センター [図1]EU 発展の経緯 統合深化 条約 拡大 経済 安保・政治 1951 パリ条約 ・欧州石炭鉄鋼共同体 原加盟国 (2002 年 7 月に期限満了) ・ベルギー ・西ドイツ ・フランス 1957 ローマ条約 ・イタリア ・欧州原子力共同体 ・オランダ 1957 ローマ条約 1958 ・欧州経済共同体 ・自由貿易圏 1965 ブリュッセル条約 ・欧州共同体 ・ルクセンブルグ 欧州経済共同体発足 1968 欧州共同体発足 1973 第 1 次拡大 ・関税同盟 ・デンマーク ・共通通商政策 ・アイルランド ・共通農業政策 ・英国 1981 第 2 次拡大 ・ギリシア 1986 1986 ・単一欧州議定書 ・欧州政治協力 1986 第 3 次拡大 ・スペイン ・ポルトガル 1992 マーストリヒト条約 ・EU 設立 1992 単一市場発足 ・市場統合 1992 ・共通外交安全保障政策 ・司法・内務協力 1995 第 4 次拡大 ・オーストリア ・フィンランド ・スウェーデン 1997 アムステルダム条約 1999 経済通貨同盟 2004 第 5 次拡大 ・通貨統合 ・キプロス ・チェコ ・エストニア 2001 ・ハンガリー ニース条約(2003 年 2002 通貨統合完成 ・ポーランド 2 月 1 日発効) ・ユーロ・チェンジオーバー ・スロベニア ・ラトビア ・マルタ ・リトアニア 2004 ・スロバキア EU 憲法案(2009 年 11 月 1 日発効予定) (出所) EU ホームページ等より JCIF にて作成 財団法人 3 国際金融情報センター [表 1]EU 加盟国基礎データ 加盟国 加盟年 政体 国土面積 首都 (万平方 km) 1951 1951 1951 1951 1951 1951 1973 1973 1973 1981 1986 1986 1995 1995 1995 − 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2004 2004 − − ベルギー フランス ドイツ イタリア ルクセンブルグ オランダ デンマーク アイルランド 英国 ギリシャ ポルトガル スペイン フィンランド オーストリア スウェーデン 合計 キプロス チェコ エストニア ハンガリー ポーランド スロベニア ラトビア リトアニア マルタ スロバキア 新規加盟国合計 EU 合計 3.1 54.4 35.7 30.1 0.3 4.8 4.3 7.0 24.2 13.2 9.2 50.5 33.8 8.9 45.0 319.1 0.9 7.9 4.5 9.3 31.3 2.0 6.5 6.5 0.03 4.9 73.8 392.9 立憲君主制 共和制 連邦共和制 共和制 立憲君主制 立憲君主制 立憲君主制 共和制 立憲君主制 共和制 共和制 立憲君主制 共和制 共和制 立憲君主制 − 共和制 共和制 共和制 共和制 共和制 共和制 共和制 共和制 共和制 共和制 − − ブラッセル パリ ベルリン ローマ ルクセンブルグ アムステルダム コペンハーゲン ダブリン ロンドン アテネ リスボン マドリッド ヘルシンキ ウィーン ストックホルム − ニコシア プラハ タリン ブダペスト ワルシャワ リュブリャナ リガ ヴィリニュス ヴァレッタ ブラチスラバ − − 人口 名目 GDP (百万人) (十億ユーロ) 10.2 59.7 82.6 57.6 0.4 16.2 5.4 3.9 59.3 10.7 10.2 41.1 5.2 8.1 9.0 379.7 0.8 10.2 1.4 10.1 38.2 2.0 2.3 3.5 0.4 5.4 74.1 453.9 一人当たり GDP (ユーロ) 267 1,546 2,123 1,296 23 452 188 132 1,587 153 132 739 143 222 266 9,269 10 76 7 73 185 23 9 16 4 28 431 9,700 25,840 25,190 25,800 22,380 51,670 27,940 34,730 33,620 26,750 13,850 12,540 18,210 27,510 27,760 29,850 24,300 15,850 7,844 5,477 7,073 4,849 12,150 3,840 4,571 10,410 5,364 5,300 21,310 (出所)人口と GDP は世銀の「World Development Indicators July 2004」。ユーロ/ドルは 2003 年平均値である 1 ユーロ 1.131 ドルで換算(ECB)。一人あたり GDP データは 欧州委員会経済財政総局ホームページ、2003 年数値。 [図2]EU の構造 第 2 の柱 第 1 の柱 第 3 の柱 司法 内務協力 共通外交・ 安全保障政策 欧州共同体 経済通貨同盟 共通通商政策 域内市場政策 共通農業政策 ・ ・ ・ ・ ・ etc. EU (出所) EU ホームページより JCIF にて作成 4 財団法人 国際金融情報センター EU原加盟国(1 5カ国) フランス、ドイツ、 イタリア、オラン ダ、ベルギー、 ルクセンブルグ、 イギリス、アイ ルランド、デン マーク、ギリシャ、 スペイン、ポル トガル、オースト リア、スウェー デン、フィンラン ド 2004年EU新 規加盟国(10 カ国) エストニア、 ポーランド、 チェコ、スロ ヴェニア、ハン ガリー、キプロ ス、ラトビア、リ トアニア、スロ ヴァキア、マル タ EU加盟交渉 国 EU拡大の状況 EU拡大の状況 [図3] スウェーデン フィンランド エストニア アイルランド デンマーク イギリス ラトヴィア リトアニア オランダ ポーランド ベルギー ドイツ ルクセンブルグ チェコ スロヴァキア フランス オーストリア ハンガリー スロヴェニア ポルトガル クロアチア スペイン ルーマニア ルーマニア、ブ ルガリア、クロ アチア ブルガリア ト ル コ イタリア EU加盟候補 国 トルコ ギリシャ マルタ キプロス -5- 2.最近の EU の動向 (1)制度・機構面 EU は、加盟国の主権の一部を共同体に移譲した超国家連合としての性格を持つ。EU における意思 決定は、加盟各国のほか欧州委員会、欧州議会等が関与し、各国の首脳や閣僚のみならず、大使や官 僚等が密接に連携を取り合う、重層的かつ複雑な構造を通じて意思決定が行われている。 個別政策の中には、各国の利害の対立により長期にわたり意見がまとまらないものもある。しかし ながら、定期的な議論の場を設定するとともに、期限を付した的確な進捗管理等を行うことによって、 加盟国間の相互理解を高め、問題解決に自らを追い込んでいく手法は特筆すべきである。また、政策 形成に当たっては、各国および EU レベルの関連業界団体や労働組合、消費者団体、NGO 等がロビー 活動を通じて積極的に関与している。 こうしてなされた決定事項は、例えば財政健全化や「リスボン戦略(P29 参照) 」 、 「金融サービス行 動計画(P26 参照) 」等に見られるように、スケジュールに従って、各加盟国がその目標実現に努めて いくこととなる。その際、各加盟国および EU 諸機関が相互に監視し合うピアー(仲間内の) ・プレッ シャーが、一国だけでは安きに流れがちな構造改革等の厳しい政策の採用を可能にし、的確に遂行す ることを担保していることにも留意する必要がある。 5 財団法人 国際金融情報センター [図4]EU の機構 欧州委員会 (行政機関) 欧州委員任命 法案提出・ 諮問 法案提出 行政の委任・ 法案採択 方針決定 欧州理事会 (方針決定機関) 欧州委員承認・法案採択・答申 欧州議会 (諮問・共同立法機関) 閣僚理事会 (立法機関) 議長国 欧州裁判所 (司法機関) 各国政府・議会への説明責任 加盟国政府 各国での政策遂行 の政策への反映 選 挙 等 による 世 論 欧州中央銀行 (ユーロ圏 単一金融政策) 直接選挙による議員選出 理事会を構成 EU 市民 共同体の利益を代弁 各国の利益を代弁 市民の利益を代弁 (出所) EU ホームページより JCIF にて作成 (イ)欧州理事会(European Council)および閣僚理事会(Council of the European Union) A. 欧州理事会と各国政治概況 EU では、加盟 25 カ国首脳および欧州委員会委員長から構成される欧州理事会(EU 首脳会議< サミット>とも呼ばれる)において、EU の全体的な政策に関する方針の決定や、閣僚理事会で解 決しなかった問題の政治決着が行われる。 加盟国は半年毎に持ち回りで議長国を担当している。 なお、2001 年までは、EU 加盟国ではいわゆる左派政権が多数派を占めていた。ところが、2001 年のイタリア、デンマークに続き、2002 年に入ってポルトガル、オランダ、フランスで左派から右 派への政権交代があった。2002 年 9 月のドイツ、スウェーデンの総選挙では左派の、2002 年 11 月のオーストリア、2003 年1月のオランダの選挙では右派の、現政権が勝っている。この結果、現 在ではいわゆる右派政権がEU内では多数派となっている。近年、オーストリアやイタリア、オラ ンダ等で、移民排斥や EU 統合・拡大の推進に異を唱える極右政党が連立の一角に参加するケース も見られたが、2002 年 11 月のオーストリア、2003 年 1 月のオランダの選挙では、党内の混乱を原 因に、いわゆる極右政党はいずれも大敗した。もっとも、オーストリアでの極右政党は連立与党に 踏みとどまっている。また 2004 年 6 月のベルギーの選挙では、移民排斥を訴える極右政党フラー 6 財団法人 国際金融情報センター ムスブロックがフランダース地方で第二党に躍進しているが、政権の一角を占めるには至っていな い。またフィンランドでは、2003 年 3 月の総選挙で中道右派の中央党が社民党より政権を奪回した ほか、2004 年 3 月に実施されたギリシャでの総選挙では、与党であった中道左派の全ギリシャ社会 主義運動(PASOK)が敗北、中道右派である新民主主義党(ND)が政権を奪取、ND 党首のカラ マンリス氏が首相に就任した。一方でスペインでは、総選挙を間近に控えた 3 月 11 日に首都マド リードで同時無差別テロが発生、アズナール政権の対応のまずさも手伝い総選挙では予想に反し与 党国民党は敗北、中道左派の社会労働党が政権を奪取した。ポルトガルでは、バロゾ首相が欧州委 員会次期委員長に指名されたことに伴い、リスボン市長であったサンタナロベス氏が後継首相に任 命され、7 月 17 日に就任した。 [表 2]各国首脳一覧(2004 年 8 月現在) 加盟国 ベルギー デンマーク ドイツ ギリシャ スペイン フランス アイルランド イタリア ルクセンブルグ オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド スウェーデン 英国 キプロス チェコ エストニア ハンガリー ポーランド スロベニア ラトビア リトアニア マルタ スロバキア 欧州理事会出席首脳 ギー・フェルホフシュタット首相 アンドレ・フォー・ラスムーセン首相 ゲルハルト・シュレーダー首相 コスタス・カラマンリス首相 ホセ・ルイス・ロドリゲス・サバテロ首相 ジャック・シラク大統領 バーティ・アハーン首相 シルビオ・ベルルスコーニ首相 ジャンクロード・ユンカー首相 ヤン・ペーター・バルケネンデ首相 ヴォルフガング・シュッセル首相 ペドロ・サンタナロベス首相 マッティ・ヴァンハネン首相 ヨーラン・ペーション首相 トニー・ブレア首相 タソス・パパドプロス大統領 スタニスラフ・グロス首相 ユハン・パルツ首相 フェレンツェ・ジュルチャーニ首相 マレク・ベレカ首相 アントン・ロップ首相 インドゥリス・エムシス首相 アルギルダス・ニコライ・ブラザウスカス首相 ローレンス・ゴンズィ首相 ミラクーシュ・ズリンダ首相 出身政党 自由民主党 自由党 社会民主党 新民主主義党 社会労働党 共和国連合 共和党 フォルツァ・イタリア キリスト教社会党 キリスト教民主同盟 国民党 社会民主党 中央党 社会民主党 労働党 民主党 社会民主党 レスプブリカ党 社会党 民主左翼同盟 自由民主党 緑と農民連合 社民党 国民党 スロバキア民主同盟 (出所) 外務省ホームページ、各種ニュース等より JCIF にて作成 [表 3]2006 年までの EU 議長国ローテーション 2004 2005 2006 前半 アイルランド ルクセンブルク オーストリア 後半 オランダ イギリス フィンランド (注)2007 年以降の EU 議長国ローテーションは新規加盟国を受け見直し予定で、2005 年 5 月 1 日までに決定予定 (出所) 閣僚理事会事務局ホームページ等 ( a ) 2002 年後半 2002 年 7 月からは、デンマークが議長国を引き継いだ。その重点課題は以下のとおりであった。 i. 加盟候補国 10 カ国との EU 拡大交渉完了 ii. クロスボーダーでの治安対策の強化 iii. 経済統合の推進 iv. 食料の安全性確保 v. 国際社会における EU の影響力強化 10 月のブラッセル・サミットでは、欧州委員会より勧告されていた加盟候補国 10 カ国の一括 EU 7 財団法人 国際金融情報センター 加盟方針が承認されたほか、EU 拡大後、EU 諸国内におけるロシア連邦の飛び地となるカリーニ ングラード問題が協議された。この問題は 2002 年 11 月にブラッセルで開催された EU・ロシアサ ミットにおいてビザより取得の容易な通行証を発効することで妥結した。 12 月のコペンハーゲン・サミットでは、この 10 カ国の加盟が最終承認されたほか、トルコに対 する交渉開始日を 2004 年末にあらためて検討することとされた。またバルカン半島において EU が NATO 軍を承継、その平和維持活動に主体的に取組することも定められた。 ( b) 2003 年前半 2003 年 1 月からは、ギリシャが議長国を引き継いだ。ギリシャは議長国として、以下のような 重点事項を掲げ、取り組んだ。 i. EU 拡大 ii. 競争政策、環境問題等への取組み iii. 不法移民対策を含む移民問題 iv. 外交政策、対外関係への取組み v. EU 機構改革 2003 年 3 月のブラッセル・サミットでは、エネルギー関係税、ECB 政策理事会改革等について 同意を見たほか、リスボン戦略の遂行状況と今後の取組みについて協議された。しかしサミット直 前に始まった米英軍によるイラク攻撃に関しては、EU 加盟国間の姿勢にばらつきが見られ踏み込 んだ対応を行うことが出来なかった。また常任の EU 首脳会議議長(いわゆる EU 大統領)や外相 の創設等を提案する EU 憲法草案が 2003 年 6 月のテサロニキ・サミットで基本承認された。なお、 中東欧諸国等 10 カ国の EU 加盟条約は 2003 年4月 16 日、アテネで最終的に調印されている。 ( c ) 2003 年後半 2003 年 7 月からは、イタリアが議長国を引き継いだ。イタリアは議長国として、以下のような 重点事項を掲げ、取り組んだ。 i. EU 憲法草案にかかる政府間会合(IGC)への取組 ii. EU 内政―EU 議会に関する制度改正等 iii. 外交―EU 拡大、中東問題、バルカン諸国対応、対米関係等 iv. 共通安全保障政策 テサロニキ・サミットでの EU 憲法草案の基本合意を受け、2003 年末までを目標に憲法草案につ いて最終合意を得るよう、10 月より政府間会合(IGC)が開始された。しかし、協議は難航し、特 にスペイン、ポーランドが欧州理事会または閣僚理事会における合意方法について、ニース条約で 認めらた持ち票数に比較し憲法草案の特定多数決は両国にとって相対的に不利になることに強く 反発したことにより、年内に合意を見ることは出来なかった。他方、欧州防衛力強化に向けた軍指 令組織の創設や EU 経済活性化に向けたインフラ投資計画等について合意を見た。 ( d ) 2004 年前半 2004 年 1 月からは、アイルランドが議長国を引き継いだ。アイルランドは議長国として、以下 の 4 つの重点項目を掲げ、取組んだ。 i. 新規 EU 加盟 10 カ国を迎えることによる成功裏での EU 拡大 ii. リスボン戦略の重点的な遂行による、世界で最も競争力を持つ地域としての欧州の 確立による経済成長の達成 iii. 安全保障、司法分野における一層の協力体制の構築による、より安全な EU の確立 iv. より公正、平和、安全な世界の構築を目指した EU 域外との広範な連携 2004 年 5 月 1 日、東欧、地中海諸国 10 カ国が EU に加盟、EU はかつての鉄のカーテンを越え る歴史的な拡大に成功した。5 月 1 日にアイルランドの大統領官邸で行われた記念式典には、25 カ 国の首脳が参加して EU 拡大の成功を祝った。6 月のブラッセル・サミットでは前議長国イタリア のもとで合意を見ることが出来なかった EU 憲法草案について、 精力的な調整の結果、 合意に達し、 憲法草案の基本的な枠組みを維持しつつ、中小加盟国等の利害に配慮した修正を行い、特に対立し ていた閣僚理事会の意思決定方式について見直しを行ったほか、クロアチアと EU 加盟交渉を開始 8 財団法人 国際金融情報センター することを承認した。また、同サミットで合意を見ることが出来なかった次期欧州委員会委員長に ついては、6 月 28 日の臨時首脳会議でポルトガルのバロゾ首相(当時)を選出した。アイルランド は、EU 拡大、EU 憲法案の合意、欧州委員会委員長人事の決定、EU・米国首脳会議による対米関 係修復等、主要課題をほぼ完遂したとして高い評価を受けている。 ( e ) 2004 年後半 2004 年 7 月からは、オランダが議長国を引き継いでいる。オランダは議長国として、以下の 5 つの重点事項を掲げている。 i. EU 拡大の成功(ブルガリア、ルーマニア、トルコ等) ii. 欧州経済の強化と行政負担の軽減 iii.自由、治安、法務面での加盟国間での協力体制の強化 iv.新しい EU 財政・予算枠組みの策定(アジェンダ 2007) v.世界の中の EU(域外諸国との関係、共通外交安全保障政策等) EU 拡大に関しては、ブルガリアとルーマニアの改革の進捗状況評価のほか、12 月にはトルコが コペンハーゲン基準の政治的基準に達しているかどうかの評価を下すことになっている。また欧州 経済の強化に向け、10 月に出される予定であるリスボン戦略の中間評価と構造改革の一層の取組み に努めるとしている。財政・予算枠組みに関しては、現在のアジェンダ 2000 と呼ばれる財政計画 が 2006 年度末で終了することから、新たな枠組みについて検討を開始するとしている。対外関係 では、拡大後の EU が一層そのリーダーシップを発揮出来るよう、対アジアや中近東と言った個別 の関係はもちろん、国連や WTO、ASEM などへの対応にも注力するとしている。また安全保障面 では、ボスニアヘルツェゴビナにおける危機管理対応等に見られる安全保障問題への関わりが、軍 事・文民の両面でさらに深まるものとしている。 [表 4]最近の定期欧州理事会 議長国 2002 年後半 デンマーク 2003 年前半 ギリシャ 2003 年後半 イタリア 2004 年前半 アイルランド 2004 年後半 オランダ 開催時 10 月 12 月 3月 6月 10 月 12 月 3月 6月 11 月 12 月 開催地 ブラッセル コペンハーゲン ブラッセル テサロニキ ブラッセル ブラッセル ブラッセル ブラッセル ブラッセル ブラッセル (出所) 閣僚理事会事務局ホームページより JCIF にて作成 B. 閣僚理事会 加盟国政府の閣僚級による閣僚理事会は、EU における立法機関および行政機関の役割を兼ねる。 議長は議長国が担当する。2002 年 6 月のセビリア・サミットでは、閣僚理事会の数をそれまでの 16 から現行の 9 に減らすことが決定された。 <新しい閣僚理事会の分野> ・ 一般問題および対外関係 ・ 経済・財務 ・ 司法・内務 ・ 雇用・社会政策・保健・消費者問題 ・ 競争(域内政策、産業・研究) ・ 運輸・通信・エネルギー ・ 農業・漁業 ・ 環境 ・ 教育・文化 閣僚理事会は、通常、欧州理事会で合意された方針に基づいて個別政策の決定を行う。閣僚理事 9 財団法人 国際金融情報センター 会メンバーは、各国を代表する立場にあり、各国議会に対する説明責任を負っている。 閣僚理事会における議決方式は、こ議題によって全会一致、単純多数決、各国に割り当てられた 持ち票による特定多数決のいずれかによって決定されることとなっている。特定多数決については、 これまでは EU15 カ国の持ち票数を合計を 87 票とし、特定多数を原則として 26 票の反対で議案を 否決できることとしていたが、EU 拡大後の暫定措置を経て、2004 年 11 月 1 日より、ニース条約 に定められた票数となる。 [表5]特定多数決の国別持ち票数 ドイツ 英国 特定多数決持票数 10月末まで 11月以降 10 29 10 29 29 ポーランド チェコ フランス 10 イタリア 10 29 スロバキア スペイン 8 27 リトアニア オランダ 5 13 ラトビア ギリシャ 5 12 スロベニア ベルギー 5 12 エストニア ポルトガル 5 12 キプロス スウェーデン 4 10 マルタ オーストリア デンマーク フィンランド アイルランド ルクセンブルグ 4 3 3 3 2 10 7 7 7 4 合計 特定多数 特定多数決持票数 10月末まで 11 月以降 8 27 12 5 ハンガリー 5 3 3 3 3 3 2 2 12 124 88 321 232 7 7 4 4 4 4 3 (出所) ニース条約を元に、JCIFにて作成 なお、閣僚理事会の準備や事前調整は、理事会事務局や各加盟国の EU 大使(常駐代表) および公 使(常駐次席代表)による常駐代表委員会(COREPER) が行う。COREPER では、権限を委任された 範囲での法案等の採択も行われる。COREPER には駐 EU 大使(常駐代表)で構成する「COREPER Ⅱ」と駐 EU 公使(常駐代表次席)で構成する「COREPERⅠ」がある。 (ロ)欧州委員会(European Commission) A. 総論 [表 6]欧州委員会の組織 農業総局 競争総局 経済金融総局 教育文化総局 雇用・社会問題総局 エネルギー・運輸総局 開発総局 拡大総局 事務総局 欧州不正対策局 統計局 広報・通信局 域内政策 企業総局 環境総局 漁業総局 保健・消費者保護総局 情報社会総局 域内市場総局 対外政策 欧州援助・協力局 対外関係総局 総務その他 出版局 予算総局 財務管理局 政策顧問グループ 共同研究所 司法・内務総局 地域政策総局 研究総局 税制・関税同盟総局 人道援助局 通商総局 合同通訳・会議局 法務局 人事総務総局 翻訳局 (出所) 欧州委員会ホームページ 欧州委員会は、EU の第1の柱である共同体分野における行政府の役割を果たす。本部はベルギ 10 財団法人 国際金融情報センター ーのブラッセルに置かれている。欧州委員会の主な役割・任務は以下のとおりである。 ・法案提出(EU 諸機関の中で唯一の法案提出権) ・閣僚理事会の委任の範囲内での法案採択 ・共同体法の遵守状況の監視(場合によっては欧州裁判所への提訴も可能) ・共同体予算の執行 ・閣僚理事会からの委任の範囲内での第三国との交渉および条約・協定の締結 欧州委員長は各国首脳の全会一致により選出され、欧州委員は委員長候補者と各国との合意の下 で選出されている。欧州委員長と欧州委員は欧州議会の信任決議を得て任命される。現在の欧州委 員会の体制は、プロディ委員長をはじめ、政策分野毎に閣僚に相当する 20 名の委員と、EU 拡大に より 2004 年 5 月 1 日より新たに加わった新規加盟国 10 カ国出身の 10 名の委員の計 30 名である。 新規加盟国選出の欧州委員は既存委員の下に配置された。欧州委員は各加盟国に割り当てられてお り、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、英国が各 2 名、他は各 1 名となっている。欧州委員 の任期は 5 年であり、 現体制の任期は 2004 年 10 月末までとなっている。 欧州委員会の組織は現在、 分野毎に 36 の総局・局(24 総局、12 局)に分かれており、各総局・局毎に担当欧州委員が管轄して いる。また、各総局・局の下には、政策分野毎に専門委員会が設けられており、欧州委員会と各加 盟国の政策担当者による協議および他の EU 諸機関、利害関係者との調整等を行っている。 [表 7]欧州委員リスト(∼2004/10) 担 当 委員長 副委員長(行政改革) 副委員長(欧州議会対策・運輸エネルギー) 競争政策 農業・漁業 企業・情報社会 域内市場 研究 経済通貨 開発・人道援助 拡大 対外関係 通商 保健・消費者保護 地域政策・結束基金・政府間会議 教育・文化 予算 環境 司法・内務 雇用・社会政策 (地域政策・結束基金・政府間会議) (通商) (経済通貨) (開発・人道援助) (農業・漁業) (教育・文化) (拡大) (企業・情報社会) (予算) (保健・消費者保護) 氏 名 ロマノ・プロディ ニール・キノック ロヨラ・デ・パラチオ マリオ・モンティ フランツ・フィシュラー オリー・レーン フレデリック・ボルケスタイン フィリップ・ビュスカン ホアキン・アルムニア ポール・ニールソン グンター・フェアホイゲン クリス・パッテン パスカル・ラミー デビット・バーン ジャック・バロット ビビアン・レディング ミヒァエレ・シュライアー マルゴット・ヴァルストレム アントニオ・ビトリーノ スタブロス・ディマス ペテル・バラージュ ダヌタ・ヒュブネル シーム・カラス ジョセフ・ボージ サンドラ・カルニエテ ダリア・クリバウスカイテ ジャネス・ポドブニク ジャン・フィーゲル マルコス・キプリアヌ パベル・テリチュカ 出身国 イタリア イギリス スペイン イタリア オーストリア フィンランド オランダ ベルギー スペイン デンマーク ドイツ イギリス フランス アイルランド フランス ルクセンブルグ ドイツ スウェーデン ポルトガル ギリシャ ハンガリー ポーランド エストニア マルタ ラトビア リトアニア スロベニア スロバキア キプロス チェコ (出所) 欧州委員会ホームページより JCIF にて作成 欧州委員会は、EU 諸機関の中で唯一法案提出権を有している。EU の共同体における法令には、 表8のとおりの種類がある。 11 財団法人 国際金融情報センター [表 8]共同体の法令等の種類 種類 規則(Regulation) 指令(Directive) 決定(Decision) 勧告(Recommendation)・意見(Opinion) 概要 直接適用され、加盟国による立法措置は不要 加盟国による立法措置が必要 特定の加盟国・企業・個人に対し適用 拘束力なし B. 新欧州委員長と欧州委員会新体制 2004 年 6 月 28 日に開催された EU 臨時首脳会議で、プロディ欧州委員長の後任としてポルトガ ルのバロゾ首相(当時)が選出された。6 月 17 日∼18 日のブラッセル・サミットでは、ベルギー のフェルホフスタット首相を推す独仏と、フェルホフスタット首相の安全保障政策を始めとする欧 州統合深化への姿勢やイラク政策への言動に反感を持つ英国とイタリアが対立した。ブラッセル・ サミットでは結論に達せず、協議は持ち越しとなったが、6 月 28 日の臨時首脳会議での双方の妥協 の結果、バロゾ氏が選出されたものである。同氏は EU 独自の軍事力の強化等の欧州統合に熱心で ある一方、イラク政策では一貫して米国支持の姿勢を取っている中道右派として知られ、また英仏 両言語にも堪能である。中道左派として知られたプロディ現委員長からバロゾ新委員長への交代の 結果、EU は親米英色を強めつつ、引き続き欧州統合に向け独仏とも融和していくと観測されてい る。 [表 9]新欧州委員リスト(2004/11∼) 担 当 委員長 副委員長(機構関係・広報戦略) 副委員長(企業・産業) 副委員長(運輸) 副委員長(司法・自由・安全保障) 副委員長(総務・監査) 競争政策 通商 域内市場 経済・通貨政策 情報、社会、マスメディア 漁業・水産 教育・文化 開発・人道援助 対外関係 環境 予算・財政計画 保健・消費者保護 エネルギー 雇用・社会問題 地域政策 科学・研究 拡大 農業・地域開発 税制・関税同盟 氏 名 ホセ・マニュエル・バロゾ マルゴット・バルストロム グンター・フェアホイゲン ジャック・バロット ロコ・ブティリヨネ シーム・カラス ニール・クルス ピーター・マンデルソン チャーリー・マクリービー ホアキン・アルムニア ビビアン・レディング ジョセフ・ボージ ジャン・フィゲル ルイ・ミシェル ベニータ・フェレロワルトナー スタブロス・ディマス ダリア・クリバウスカイテ マルコス・キプリアヌ ラスズロ・コバーチ ウラジミール・シュピドラ ダヌタ・ヒュブネル ジャネス・ポドブニク オリー・レーン マリアン・フィッシャー・ボエル イングリダ・ウドレ 出身国 ポルトガル スウェーデン ドイツ フランス イタリア エストニア オランダ イギリス アイルランド スペイン ルクセンブルク マルタ スロバキア ベルギー オーストリア ギリシャ リトアニア キプロス ハンガリー チェコ ポーランド スロベニア フィンランド デンマーク ラトビア (出所) 各報道記事により JCIF にて作成 欧州委員は、2004 年 11 月からスタートする新体制よりニース条約に基づき 1 国 1 委員制となり、 25 委員体制となる。なお委員数の上限については、ニース条約によれば、加盟国数が 27 カ国とな った時点で、委員数の上限を 27 名未満に固定するための決定を行い、平等の輪番制を採用すると している。バロゾ氏は 8 月 12 日、次期欧州委員会委員ポストを発表した。経済関係の枢要ポスト はオランダのクルス氏が競争政策担当、イギリスのマンデルソン氏が通商担当、アイルランドのマ クリービー氏が域内市場担当、スペインのアルムニア氏が経済・通貨担当となった。独仏両国はそ 12 財団法人 国際金融情報センター れぞれの委員が重要な経済ポストを得ることを希望していたが、ドイツのフェアフォイゲン氏が副 委員長兼企業・産業担当、フランスのバロー氏は副委員長兼運輸担当となり、両国の思惑とは裏腹 に、やや軽量級のポストをあてがわれることになった。また、新委員 25 名のうち 8 名が女性であ る。 なお、欧州委員会は欧州議会と異なり民主主義的選出の方法を持たない官僚機構であり、組織の肥 大化や、職員人事に縁故採用や情実人事といった腐敗があるのではないかとの批判も寄せられている。 しかしながら、こうした汎欧州的な機構を創設し、それが自律的・自発的に活動していることが共同 体の求心力の維持に寄与していることは事実であり、共同体の利益を代弁する第1の機関として、そ の果たす役割は大きい。 (ハ)欧州議会(European Parliament)およびその他の諮問機関 A. 総論 欧州議会は、EU の共同体分野における諮問機関および閣僚理事会との共同立法機関である。現 在、欧州議会には、外交、農業、予算、経済金融等、分野毎に 17 の常設委員会が設置されている。 本会議は主にストラスブールで開かれるが、本会議の一部および委員会は欧州委員会、理事会との 連絡の便宜を図るためブラッセルで開催される。欧州議会の事務局はルクセンブルグにあり、欧州 議会議員の任期は 5 年である。議員は直接選挙で選ばれ、政党は各国の同系統の政党から横断的に 組織されている。議員定数は 2004 年 6 月の選挙より、これまでの 626 名から、ニース条約に定め る 732 名に拡大された。 欧州議会の権限は、立法権、予算審議権、行政監督権である。 欧州議会における立法手続きは、政策分野毎に大きく分けて、「諮問手続き」、「協力手続き」、 「共同決定手続き」の 3 種類がある。 「諮問手続き」では単に法案に対して拘束力のない意見を述 べるに留まり、 「協力手続き」でも閣僚理事会に比べ限定的な立法権限しか持たないが、 「共同決定 手続き」では、閣僚理事会と同等の立法権限を有する。現在、 「共同決定手続き」は、労働者の自 由移動、開業の自由、域内市場、環境、消費者保護、税関協力、運輸政策、雇用政策、社会政策、 開発政策等 38 の分野で適用されている。 ECB(欧州中央銀行)との関係では、欧州議会は ECB から金融政策に関する報告を受ける権利 を持つ。例えば、ECB は、欧州議会に対しアニュアル・レポートを提出することが求められ、総裁 および他の理事は、定期的に経済金融委員会に出席する必要がある。 とかく、一般市民との距離が遠いと言われる共同体機関の中で、欧州議会は一般市民の利益を直 接代表するものとみなされている。ただし、欧州議会は閣僚理事会に比べ立法府としての権限は相 対的に弱いものと見られており、EU 基本条約の改正の度に欧州議会の権限強化が図られている。 しかしながら、一般的に人々の理解度は低く、また、権限強化により共同立法手続の対象となる政 策分野が増えれば、それだけ欧州委員会や閣僚理事会との調整や意見対立により、法案採択に一層 時間がかかることも懸念されている。 また、欧州議会とは別に、産業界や各種団体の利害に関する問題については「経済社会評議会」 、 加盟国内の地域の利害に関する問題については「地域評議会」が諮問機関として存在し、欧州委員 会や閣僚理事会に対して意見具申や勧告を行う。 B. 欧州議会選挙結果 2004 年 6 月、欧州議会議員選挙が新規加盟国を含む EU25 カ国で実施された。この選挙の結果 は、①低投票率(25 カ国平均で 45.7%、前回 1999 年は 49.8%) 、②主要国での政権与党の敗北、 ③欧州統合懐疑派の躍進、の 3 点が特徴として挙げられる。投票率は 45.3%に留まり、過去最低を 記録した。特に新規加盟国での低投票率が目立った。またドイツでは与党の社会民主党(SPD)派で ある欧州社会党はわずか 23 議席に留まったほか、フランスでも大統領派である欧州人民党は 17 議 席に留まり、野党派に大差を付けられた。政権与党が敗退する傾向はイギリスやイタリアでも同様 であった。また統合懐疑派はイギリスやポーランドで議席を伸ばした。ただし獲得議席総数で見た 場合、中道右派である欧州人民党・欧州民主党連合が最大会派を維持、これに中道左派である欧州 社会党が続き、主要会派の構成に大きな変化はなかった。2004 年 7 月 20 日、新欧州議会が開催さ れ、欧州社会党所属でスペイン出身のボレル議員が議長に選出された。同氏はスペイン政府で運輸 13 財団法人 国際金融情報センター 大臣等を歴任したほか、コンベンションにおけるスペイン代表も務めていた。ボレル氏は任期 5 年 のうち、2 年半について議長を務める見込みである。 [表 10]欧州議会の構成(2004 年 8 月 20 日現在) オラ ギリシ 独 仏 伊 英 スペ イン ンダ ャ ポルト ガル ベル ギー スウェ ーデン オース トリア デンマ ーク フィン ランド アイル ランド ルクセン ブルグ 欧州人民党 +欧州民主党 49 17 24 28 24 7 11 9 6 5 6 1 4 5 3 欧州社会党 23 7 13 31 11 6 16 12 2 19 12 5 24 2 3 7 5 4 8 - 12 - 5 6 2 5 3 1 7 2 5 4 1 3 5 1 1 1 - 1 1 1 7 3 7 1 1 2 4 3 - 2 - 1 1 1 - 99 3 7 78 4 9 4 78 11 2 78 54 2 27 1 24 24 3 22 3 19 3 18 1 1 19 1 4 13 6 ポーラ ンド チェコ ハンガ リー スロバ キア リトア ニア ラトビ ア スロベ ニア エスト ニア キプロ ス マルタ 合計 19 14 13 8 2 3 4 1 3 2 268 8 4 - 2 - 9 2 - 3 - 2. 7 - 1 1 1 2 - 3 2 - 1 - 3 - 198 88 42 - 6 - - - - - - 2 - 41 10 7 6 54 1 1 24 24 3 14 2 13 4 9 7 6 6 5 37 27 29 730 欧州自由民主改革党 緑の党 +欧州自由同盟 欧州統一左派 +左派北欧緑の党 独立と民主グループ 欧州国民連合 無所属 合計 欧州人民党 +欧州民主党 欧州社会党 欧州自由民主改革党 緑の党 +欧州自由同盟 欧州統一左派 +左派北欧緑の党 独立と民主グループ 欧州国民連合 無所属 合計 14 (出所) 欧州議会ホームページ (ニ)欧州裁判所(Court of Justice) 欧州裁判所は、EU の共同体法の最終的な解釈権を有する。共同体法が適用される分野では、共同 体法が各国法に優先し、その多くが加盟国に直接適用される。 欧州裁判所は 15 人の裁判官と 8 人の法務官からなり、加盟国政府の全会一致により任命される。司 法機能強化のために、これとは別に 89 年に設立された第一審裁判所は 15 人の裁判官からなり、同様 に加盟国政府の全会一致により任命される。任期は欧州裁判所、第一審裁判所いずれも 6 年である。 なお、これらはともに、ルクセンブルグに置かれている。 欧州裁判所大法廷は、加盟国または共同体諸機関が提訴した訴訟案件等を審理し、それ以外の案件 は 6 つある小法廷にて審理される。他方、4 つの小法廷からなる第一審裁判所は、加盟国の個人や企業 等が共同体諸機関に対して提訴する場合や競争法に関する案件等を取り扱う。なお、第一審裁判所の 判決を不服とする場合には、欧州裁判所に上訴することが可能である。 欧州裁判所は、欧州委員会と同様に、共同体の観点から法令解釈を行い、各国に履行を強制する存 在である。法律家の視点に留まるとの批判もあるが、ヒトやモノの移動の自由等の趣旨を踏まえ、経 済問題においても積極的に判断を加えている。 (ホ)欧州中央銀行(European Central Bank, ECB) A. 機構等 1999 年 1 月の経済通貨同盟(EMU)第三段階移行を控えた 1998 年 6 月に、マーストリヒト条 約に基づき ECB が設立された。ECB と EU 加盟 25 カ国の中央銀行の総体が欧州中央銀行制度 (ESCB)であり、ESCB から通貨統合に参加していない英国、デンマーク、スウェーデンと新規 加盟 10 カ国の中央銀行を除いたものは便宜的にユーロシステムと呼ばれている。 ユーロシステムの最高意思決定機関は ECB の政策理事会であり、ECB 総裁、同副総裁、同理事 14 財団法人 国際金融情報センター 4 人およびユーロに参加している各国中央銀行総裁 12 人の合計 18 人で構成されている。初代総裁 であったドイセンベルグ氏は任期途中の 2003 年 10 月末に退任し、フランスのトリシェ前フランス 銀行総裁が 2003 年 11 月 1 日、第 2 代 ECB 総裁に就任した。また 2004 年 5 月に退任したソラン ス理事(スペイン)の後任には、同じスペイン出身のホセ・マニュエル・ゴンザレス・パラモ氏が 就任した。パラモ氏の選出に当たっては、2005 年以降の理事改選に対する思惑から、独、仏、伊が パラモ氏を推したものである。 [図5]欧州中央銀行制度(ESCB) ユーロシステム 通貨統合未参加国 ECB 通貨統合参加国中央銀行 ベルギー 政策理事会 ドイツ ECB 常任理事(6 名) フランス + ギリシア 通貨統合参加 12 カ国 スペイン 中央銀行総裁 アイルランド イタリア 一般理事会 ルクセンブルグ ECB 役員 オーストリア + オランダ EU25 カ国中央銀行総裁 ポルトガル フィンランド 中央銀行 デンマーク スウェーデン イギリス キプロス チェコ エストニア ハンガリー ラトビア リトアニア マルタ ポーランド スロバキア スロベニア 政策理事会の議事は、 資本金や利益処分に関する事項等を除き、 原則として定足数 3 分の 2 以上、 1 人 1 票の多数決で諮られる。政策理事会の議事録は公表されていないものの、これまでの政策金 利変更はすべてコンセンサスで決定したと説明されている。 政策理事会の会合は毎月 2 回であるが、2001 年 12 月から、政策金利の変更は原則として各月前 半の会合でのみ協議されることとなった。ただし、2001 年 9 月の米国同時多発テロ事件直後のケー スで見られたように、場合によっては定例会合以外でも政策金利は変更されうる。 [表11]欧州中央銀行理事会メンバー 役員 ジャン・クロード・トリシェ ルカス・パパデモス オトマール・イッシング トマソ・パドア・スキオッパ ホセ・マニュエル・ゴンザレス・パラモ ゲルトルーデ・トゥンペルグゲレル 役職 総裁 副総裁 理事 理事 理事 理事 担当 広報、顧問、内部監査、総務 管理、法務、企画 経済、調査 ワシントン事務所、国際関係、金融監 督 紙幣、IT システム、統計 事務、決済システム、リスク管理 任期 2011 年 11 月 2010 年 5 月 2006 年 5 月 2005 年 5 月 出身国 フランス ギリシャ ドイツ イタリア 2012 年 5 月 2011 年 5 月 スペイン オーストリア (出所)ECB なお、ECB は定款変更を盛り込んだニース条約の発効を控え、将来的なユーロ参加国の増加に 備えた政策理事会改革案を 2002 年 12 月に公表した。この改革案では、将来的にユーロ参加国が 15 カ国超となった場合、同理事会における投票権の上限が設けられ、常任理事 6 票およびユーロ 参加各国の中銀総裁 15 票の計 21 票(1人 1 票)となる。このうち各国中銀総裁については、1 年 毎の輪番制で大国 5 カ国による第1グループに対し 4 票、それ以外の国による第 2 グループには 11 票が付与される。 さらに、ユーロ参加国が 22 カ国超となった場合、大国 5 カ国による第1グループに対し 4 票、 15 財団法人 国際金融情報センター 中規模国による第 2 グループに 8 票、 それ以外の国による第 3 グループには 3 票が割り当てられる。 2003 年 3 月のブラッセル・サミットで、この ECB 政策理事会改革は了承された。 B. 金融政策 ECB にはマーストリヒト条約により、金融政策の遂行にあたり独立した権限が与えられている。 ECB の金融政策のフレームワークは、基本的にドイツのブンデスバンクを踏襲したものとなってお り、中期的な物価安定の実現を最終目標として予防的に金融政策を実施することとされている。具 体的には、消費者物価指数(HICP)上昇率を前年比 2.0%以下とすることを目標とし、インフレリ スク判断の第一基準をマネーサプライ(M3)増加率(参照値は 3 ヵ月移動平均で前年比 4.5%) 、 第二基準を将来のインフレリスクに関する諸指標(GDP 等の経済指標群)とされていた。 ただし、物価安定を 2%以下と定義することがデフレ容認的ではないかといった批判が見られた。 また M3 増加率は、2002 年に入ってから 7%を超す高い数値となり、金融政策を判断する上での指 標性としての位置付けに対する疑問が出てきた。こうした状況を踏まえた 2002 年 12 月 6 日の理事 会での議論の結果、これまでどおり M3 参照値を 4.5%とすることが確認されたが、2003 年前半に ECB は現行の 2 本の柱による金融政策のフレームワークの実効性につき検証を行うこととされた。 これを受けて 2003 年 5 月 8 日、ECB が発表した金融政策戦略において、金融政策の見直しが行 われた。すなわち前述の第一基準と第二基準の順番を入れ替え、将来のインフレリスクに関する諸 指標を第一基準とし、マネーサプライ(M3)増加率は第二基準に格下げされた。また前述の M3 参照値についても、毎年末の見直しを取り止め、M3 伸び率の分析は中長期的な視点から物価見通 しをチェックするものであるとする位置付けが明らかにされた。また、ECB は 5 月のプレスリリー スにおいて、物価安定定義をこれまで通り「2%以下」であるとしながらも「2%近辺」を目指すも のであるという方針を明らかにし、インフレ目標値について変更を加えた。 ECB の主要な金融調節手段は、市場を通じた流動性供給としてのメイン・リファイナンシング・ オペ(条件付債券売買) 、翌日物市場金利の上限と下限を設定する限界貸出ファシリティと預金フ ァシリティ、および、資産の一定割合について中央銀行預け入れを課す支払準備制度である。 為替政策は、物価の安定を損なわないものであることを条件に、財務相理事会が定める方針に基づき、 実施することとされているが、具体的な方針は未だに定められていない。 (実際の金融政策については、 Part Ⅱの 5.参照) [図6]ECB 金融政策のフレームワーク 中期的な物価安定(HICP 上昇率 2%以内) 政策金利の変更 1.将来のインフレリスクに関する諸指標 2.マネーサプライ(M3)伸び率 (2)EU 拡大と EU 憲法 (イ)EU 拡大 A. 10 カ国の新規加盟国 EU に新規加盟するための基準は 1993 年のコペンハーゲン欧州理事会で決定され、「コペンハーゲ ン基準」と呼ばれているが、EU 加盟のための要件として、加盟申請国が次の諸条件を満たすことを 要求している。①民主主義、法の支配、人権および少数民族の尊重と保護を保証する安定した諸制度 を有すること(政治的基準)、②市場経済が機能しており EU 域内での競争力と市場力に対応するだけの 能力を有すること(経済的基準)、③政治的目標ならびに経済通貨同盟を含む、加盟国としての義務 を負う能力を有すること(EU 法の総体の受容)。 ブルガリア、チェコ、キプロス、エストニア、ハンガリー、ラトビア、マルタ、ポーランド、リ 16 財団法人 国際金融情報センター トアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、トルコの 13 カ国が EU 加盟申請していたが、 加盟候補国はコペンハーゲン基準のほか、31 章にわたる EU の法体系(アキ・コミュノテール)導 入に関する基準を満たす必要がある。このうち政治基準を満たしていないトルコを除く 12 カ国が 加盟交渉を行ってきた。この結果、2002 年 12 月 12 日夜よりコペンハーゲンで開催された首脳会 議で、加盟候補国のうちチェコ、キプロス、エストニア、ハンガリー、ラトビア、マルタ、ポーラ ンド、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニアの 10 カ国について、EU 加盟が承認され、 2003 年 4 月 16 日にギリシア・アテネにて加盟条約が調印された。新規加盟各国での批准はキプロ スを除き国民投票により行われたが、10 カ国全てで批准作業は問題なく終了し、これら 10 カ国は 2004 年 5 月 1 日に EU に加盟した。 なお交渉加速の観点から、アキ・コミュノテールに関連して、今後の履行約束を条件に一部の分 野で経過措置を認めてきているものがある。そのため、約束事項の履行状況を引き続きモニタリン グする必要があり、欧州委員会は欧州理事会と欧州議会に対し、これを報告することになっている。 仮に履行の遅れが見られる場合には、制裁措置が取られる可能性もある。 B.ブルガリアとルーマニア 加盟候補国であるブルガリアとルーマニアについては、引き続き 2007 年の加盟を目指し交渉が 継続されており、着実に進展している。2004 年 6 月のブラッセル・サミットの議長総括では、両国 と EU の加盟交渉につき相当の進捗が見られていると評価したうえで、 2003 年 12 月のブラッセル・ サミットで明記した「2007 年 1 月」の加盟時期について、両国の準備が整えば EU に受け入れるこ とを改めて確認し、具体的な加盟条約調印についても、早ければ 2005 年中にも行うとの方針を示 している。アキ・コミュノテールの履行状況について、ブルガリアについては条件付ながら 31 章 の全てについて終了したことが宣言されたほか、ルーマニアについても顕著な進歩がみられる(6 章について交渉中) 。但し、この両国については、特に行政・司法面で十分な能力を有するには至 っておらず、なお改善が必要であると指摘されており、同様に経済・構造改革についても継続して いく必要があるとされている。こうした点については、引き続き準備状況・履行状況について EU はモニタリングをしていくとしている。 [表 12]アキ・コミュノテール導入に関する交渉の進展状況(2004 年 6 月 30 日時点) 1 中小企業 ○ ○ 31 16 ○ ○ その他 ○ ○ 15 産業 ○ ○ 30 機関 ○ ○ 14 エネルギー ○ ○ ○ ○ 29 財政・ 予算規定 ○ ○ ○ ○ 28 会計監査 ○ ○ 共通外交・ 安保 対外関係 ○ ○ ○ ○ 27 13 社会政策・ 雇用 ○ ○ 26 12 統計 ○ ○ 25 11 EMU 税制 ○ ● 10 関税同盟 司法・ 内務 ○ ○ ○ ○ 24 9 運輸 ○ ○ 23 漁業 ○ ● 8 消費者保護 環境 ○ ● ○ ● 22 7 農業 ○ ○ 21 競争政策 ―:交渉未開始 6 地域政策 ●:交渉中 ○ ○ 5 会社法 ○:交渉終了 ○ ○ ○ ○ 20 文化・ 映像 ○ ○ ○ ● 19 情報通信 ブルガリア ルーマニア 教育・ 訓練 ○ ○ 化学・ 研究 17 ○ ○ 18 資本の自由移動 ○ ○ 4 サービスの移動 31 25 3 人の自由移動 ブルガリア ルーマニア 財の自由移動 章 2 ○ ● 網掛け:2004 年前半の進捗部分 (出所) 欧州委員会拡大総局ホームページを元に、JCIF にて作成 C.クロアチア 2003 年 2 月 21 日にクロアチアのラチャン首相は EU 議長国ギリシャのシミティス首相とアテネ で会談し、その席上、EU への加盟を申請した。2004 年 6 月のブラッセル・サミットでは、クロア 17 財団法人 国際金融情報センター チアがコペンハーゲン基準の政治的基準を満たしていることを確認、欧州委員会の勧告に基づき、 2005 年初よりクロアチアとの二国間交渉を開始するよう欧州委員会に求めた。なおクロアチアに対 しては、少数民族の権利の尊重、旧ユーゴ内戦で発生した難民の帰還、法制度の改革、汚職の追放、 旧ユーゴ内戦における戦争犯罪人処罰のための国際刑事裁判所への完全な協力などを要請してい る。クロアチアは 2007 年にブルガリア・ルーマニアと同時加盟することを目指しているが、今の ところ EU はクロアチアの加盟時期については目安等示していない。 D.トルコ トルコについては、1987 年から EU に対し加盟申請をし、99 年末のヘルシンキ・サミットで加 盟候補国として正式に認められたものの、クルド人問題を始めとする人権問題や国内における民主 主義の問題、経済的問題を理由として依然として EU との交渉開始に至っていない。2002 年 12 月 のコペンハーゲン・サミットでは、事前の独仏共同提案に則り、「欧州委員会の報告と推薦に基づ き、2004 年 12 月の欧州理事会においてトルコがコペンハーゲン基準のうち、その政治基準を全て 満たしたものと判断された場合、EU はトルコとの加盟交渉を遅滞なく開始する」とされ、2004 年 12 月までにトルコとの交渉を開始するかどうか決められることとなっている。トルコの EU 加盟に は欧州内でなお異論が多いが、2004 年 6 月のブラッセル・サミットの議長総括では、コペンハーゲ ン・サミットの決定を踏襲し、トルコがコペンハーゲン基準の政治的基準を満たした場合は、その 加盟交渉を遅滞無く開始することが改めて確認された。トルコでは 2004 年 6 月 9 日よりクルド語 でのテレビ・ラジオ放送も開始され、少数民族の権利拡大に向けた改革姿勢をアピールしているほ か、トルコ国会は姦通罪を削除した刑法改正案を可決(9 月 26 日) 、EU の批判に対処している。 E.その他 旧ユーゴスラビア南部に位置するマケドニアは、1991 年の独立後、民主化・市場経済化を開始し た。目下の最大の外交目標は EU および NATO への加盟であり、2001 年 4 月には EU と安定化・ 連合協定を締結、将来の EU 加盟に向けた布石を打った。その後 EU への加盟申請方針を正式に明 らかにし、2004 年 2 月に加盟申請を行う方針であったが、トライコフスキ大統領の航空事故死によ り一旦延期され、2004 年 3 月 22 日に正式に加盟申請した。同国の政治状況はマケドニア人(全人 口の約 64%)とアルバニア系住民(同 25%)との対立等なお不安定であり、経済状況も失業率が 36%に達し事実上破綻状態にあるなど厳しいものがある。加盟への道のりは長いと予想される。 (ロ)EU 憲法 EU 統合の推進および拡大を進めていくに当たり、欧州の将来像をどう構想していくか幅広い意 見を集約する場として、 「欧州の将来像に関するコンベンション」がラーケン宣言(2001 年 12 月) を踏まえ設置された。コンベンションは、2002 年 3 月から意見聴取を開始し、その後、秋からテー マごとの議論を進めた結果、2003 年 6 月 13 日に EU 憲法の最終草案を採択し、その活動を終了し た。このコンベンションでの草案は、2003 年 6 月 19 日、20 日にテサロニキで開催された EU 首脳 会議にて基本承認され、2003 年 10 月 4 日以降、議論は政府間会議(IGC)に引き継がれた。この IGC では、特に欧州理事会及び閣僚理事会の特定多数決のあり方を巡る問題で、一部加盟国による 特定多数決のブロックを困難にすることにより意思決定の効率化を目指すフランス及びドイツを 中心とした加盟国と、ニース条約により大きな既得権を有しているスペイン及びポーランドが大き く対立し、 当初目標としていた 2003 年内には合意に達することが出来ず、 2004 年に持ち越された。 その後議長国アイルランドの精力的な調整と、2004 年 3 月のスペイン総選挙で国民党が敗北、サバ テロ社会労働党政権が誕生したことが追い風となり、憲法草案の内容を若干修正した上で、2004 年 6 月 17 日、18 日に開催されたブラッセル・サミットで合意を見た。修正内容は小国や欧州統合 の急速な深化への警戒感を示すイギリスなどへの配慮がなされたものとなっている。EU 憲法は、 今後署名批准を経て、2009 年 11 月からの適用開始を目指すこととなる。なお、フランス、ベルギ ー、チェコ、デンマーク、アイルランド、スペイン、イギリス、ポルトガル、オランダ、ルクセン ブルク、ポーランドの 11 カ国で国民投票が実施される可能性が高く、またスロバキア、エストニ アでも国民投票が実施される可能性がある。なお EU 憲法調印式は 2004 年 10 月 29 日にローマで 開催される予定である。 18 財団法人 国際金融情報センター (参考) EU 憲法案の概要 EU 首脳会議議長(EU 大統領)の設置 現行の6ヶ月ごとの議長国交代制は、特に対外関係で指導性と継続性が欠如し混乱を招くとの反省から、EU大統 領を設置することとされた。欧州理事会の特定多数決で選出され、任期は2年6ヶ月、再任は1回のみ可能である。 EU 外相の設置 共通外交安全保障政策上級代表及び対外関係担当欧州委員のポストを統合し、対外関係を明確にするため EU 外相 を設置することとされた。欧州理事会の特定多数決で選出される。外相は、欧州理事会の設定する政策ガイドライン に拘束されることから、欧州委員会との関係では、欧州理事会の権限が拡大している。初代 EU 外相にはソラナ共通 外交・安全保障政策上級代表が内定している。 欧州議会の権限強化 特定多数決による決定分野拡大等 ニース条約においては、特定多数決は過半数の加盟国の賛成かつ加盟国ごとに与えられた持票の一定数以上の賛成 で成立することとなっているが、今回合意内容では加盟国の 55%の賛成かつ賛成国の人口が EU 人口の 65%以上と された。また棄権した場合は、その国は計算に含めないことも明記された。新たに拡大された特定多数決の対象とな る分野としては、外交領事保護、犯罪・テロ行為に対する資本移動規制、知的財産権、ECB 関係、構造基金、共通 運輸政策の執行、エネルギー関係、市民保護に関する行政協力、国境管理、亡命、移民、犯罪司法協力、犯罪防止協 力、人道支援等がある。 欧州連合への法人格の付与 従来の欧州連合の三つのピラー(欧州共同体、共通外交安全保障政策及び司法内務協力;このうち欧州共同体にの み法人格がある。 )を統合し、欧州連合に法人格を付与する。 欧州委員会の構成 EU 憲法発効後、2014 年までは各国 1 名選出となるが、2014 年以降、時期を見てこの人数を減少させ、委員長、 外相を含め加盟国の 2/3 の人数とする。 委員は加盟国からそれぞれ3人の推薦を受け、欧州議会の承認を得た上で委員長が選任する。 欧州連合と加盟国の権限配分の明確化 授権原則(Principle of conferral;EU は授権された権限のみ行使)、補完原則(Principle of subsidiarity;EU の専 管事項でない限り、EU は加盟国の補完的役割を果たす。)及び比例原則(Principle of proportionality;EU の行為は 憲法の目的達成の必要範囲内とする。)を明記した。また、EU と加盟国の権限配分をEU専管事項、共菅事項及びE U支援事項に明確化した。 法制度の簡略化 現在 16 ある法形式を立法形式として EU 法(現行の規則)及び EU 枠組法(現行の EU 指令) 、拘束力を伴う行政 立法として規則及び決定並びに拘束力を伴わない行政行為として勧告及び意見の6に簡略化する。 憲法改正 加盟各国の憲法の規定に従い、全ての加盟国政府の合意と批准が必要。 人権憲章の憲法への取込み (3)予算 (イ) EU 予算の概要 EU 予算の財源は、農産物輸入課徴金、共通関税、VAT 収入の一部、加盟国の GDP 規模に基づ く加盟国からの分担金等による。予算規模は加盟 15 カ国の GDP 合計額の 1%程度と小さい。加盟 国による分担金拠出額は、2003 年実績ではドイツの割合が約 23.0%と最も高く、以下、フランス、 イタリア、英国と続く。歳出面では、農業関連費用が全体の 5 割弱、地域政策等のための構造関連 費用が約 3 分の 1 を占める。各加盟国の受取額は、2003 年実績ではスペイン、フランス、イタリア、 ドイツの順となる。域外への支出も約 9.1%を占める。なお、2003 年の場合、下記に示す各国分担 金のほか、その他収入として 9,836.1 百万ユーロの収入(前年度繰越金、EU 諸機関職員からの所 得税、分担金の支払い遅延に対する遅延利息等)があり、トータルでの収入は 93,468.6 百万ユーロ となっている。 EU 予算に対するネットの負担額はドイツが圧倒的に大きく、以下、英国、オランダ、フランス と続く。他方、スペイン、ギリシャ、ポルトガル、アイルランド等の農業国は受取額が支払額に比 19 財団法人 国際金融情報センター べ大きく、ネットでは受領国となっている。なおイギリスに関しては、イギリスが共通農業政策 (CAP)による補助金の受取額が比較的低く、かつ付加価値税(VAT)に基づく負担金額が比較的 高いため、1984 年のフォンテンブロー欧州理事会において、同国のネット分担金負担額の 66%を 払い戻すこととされている。イギリスに対するリベート分は、基本的には他の加盟国がその分担金 比率に応じて負担することになっている(2003 年の場合、イギリスのリベート相当額は 5,184.9 百 万ユーロ) 。 イギリスへのリベート制度については、欧州委員会が、2007 年-2013 年における中期財政計画の 中でその廃止を提案している。これは、イギリスのみに対するリベート制度を廃止し、より一般的 なリベート制度を導入するものであり、具体的にはネット拠出額が GDP の 0.35%を超えた加盟国に ついてのみ払戻しを認め、かつ払戻しの上限額を 71 億ユーロに設定するというものである。この提 案が仮に実施されれば、英国のネット拠出額は国民総所得(GNI)対比で 0.51%に跳ね上がり、ド イツやオランダよりも高くなることが予想され、欧州統合懐疑派の多いイギリス世論の反発を招く ことは必至と見込まれる。 [表 14]EU 予算の加盟国別割当て 2003 年実績 分担金拠出額 割合 受取額 割合 ネット負担額 百万ユーロ % 百万ユーロ % 百万ユーロ ドイツ 19,202.6 23.0 10,637.1 11.7 8,565.5 フランス 15,137.7 18.1 13,428.5 14.8 1,709.2 イタリア 11,758.5 14.1 10,665.6 11.8 1,092.9 英国 9,971.2 11.9 6,216.3 6.9 3,754.9 スペイン 7,429.4 8.9 15,884.1 17.5 ▲ 8,454.7 オランダ 4,919.5 5.9 1,996.2 2.2 2,923.3 ベルギー 3,486.0 4.2 4,230.6 4.7 ▲ 744.6 スウェーデン 2,501.3 3.0 1,454.4 1.6 1,046.9 オーストリア 1,935.9 2.3 1,576.7 1.7 359.2 デンマーク 1,777.7 2.1 1,494.3 1.7 283.4 ギリシャ 1,533.7 1.8 4,855.8 5.4 ▲ 3,322.1 ポルトガル 1,292.9 1.5 4,769.3 5.3 ▲ 3,476.4 フィンランド 1,337.9 1.6 1,346.6 1.5 ▲ 8.7 アイルランド 1,127.5 1.3 2,690.8 3.0 ▲ 1,563.3 ルクセンブルグ 204.5 0.2 1,061.6 1.2 ▲ 857.1 域外 0.0 0.0 8,249.7 9.1 ▲ 8,249.7 合計 83,632.5 100.0 90,557.5 100.0 ▲ 6,925.0 (出所)欧州委員会 Allocation of 2003EU operating expenditure by Member State(2004年9月) (ロ)アジェンダ 2000 と、次期中期財政計画 1999 年 3 月にベルリンで開催された特別欧州理事会において承認された「アジェンダ 2000」と 呼ばれる 2000∼2006 年の 7 ヵ年中期財政計画では、EU 予算の上限の設定、CAP の見直し、第 5 次 EU 拡大のための予算確保等を含む包括的な財政改革プログラムが示されている。他方、2004 年 5 月に新たに加盟した 10 カ国は旧来からの EU 加盟 15 カ国より所得水準が低く、また、その大半 が農業国であることから、CAP(共通農業政策)や各種構造基金の配分方法見直しを中心とする EU の財政改革が不可避の課題となっている。欧州委員会は 2004 年 7 月、次期中期財政計画(2007 年 ―2013 年)の草案を採択した。これによれば、地域政策や競争力強化、安全対策・司法、域外関係 等の予算を中心に増額、2007 年から 2013 年までの平均で EU 全体の GNI 対比で 1.14%の規模と なっている。これに対しネット拠出国であるドイツ、フランス、イギリス、オーストリア、オラン ダ、スウェーデンの各国は EU 全体の GNI の 1%以内にこれを抑制すべきであると主張しており、 この原案に対して不満を表明している。この中期財政計画は 2007 年までに閣僚理事会と欧州議会で 採択される必要があり、今後議論を呼ぶものと考えられる。 (ハ) 2005 年予算案 財務相理事会(ECOFIN)は 2004 年 7 月、2005 年予算案を承認した。新しい内容としては、イ ラク復興に 2 億ユーロが、また北キプロスの復興に向けた調査活動費として向こう 3 年間で 2 億 20 財団法人 国際金融情報センター 5,900 万ユーロが計上された。支払ベースでの予算総額は 2004 年対比で 5.4%増の 1,052 億ユーロ であり、2004 年度予算と比較した場合、農業で 34 億 2,100 万ユーロ、構造基金では 15 億 7,400 万ユーロの増加となっているが、これは新規加盟国の加入による支出の増加である。欧州委員会の 2005 年度予算草案と比較した場合では、構造基金で 30 億ユーロ、農業で 10 億ユーロ、加盟前支 援で 2 億ユーロなど、合計で 43 億ユーロ削減されている。このため EU 全体の国民総所得(GNI) 対比では 0.99%となった。予算のうち、農業関連支出が約 46.7%、構造基金関連支出が 30.8%と、 この二つで EU 予算の約 8 割を占めている。今後この予算案は欧州議会で審議されることとなる。 [表 15]2005 年予算(支払いベース)(百万ユーロ) 農業 構造関連 域内政策 対外政策 行政関連 準備金 加盟候補国支援 その他 合計 EU GNI比 2004 45,693 30,822 7,511 4,951 6,121 442 2,856 1,410 99,806 0.98% 2005 49,114 32,396 7,686 4,986 6,308 446 2,980 1,305 105,221 0.98% 増加率 7.5% 5.1% 2.3% 0.7% 3.1% 0.9% 4.3% -7.4% 5.4% - (出所)欧州議会 Budgetary procedure 2004 3.主要政策の動向 (1)共通外交・安全保障政策および司法・内務協力 (イ) 共通外交・安全保障政策 EU 第2の柱として共通外交・安全保障政策(CFSP)がある。 CFSP は政府間協力であり、 欧州共同体法には含まれていない。そのため CFSP の事務局は欧州委員会ではなく閣僚理事会事務 局が担当している。ただし、対外経済関係や人道支援、開発援助等については、欧州委員会も協力 している。99 年に閣僚理事会を代表して第三国との安全保障問題等に関する交渉にあたる CFSP 上級代表が設けられ、前北大西洋条約機構(NATO)事務局長のジャンビエ・ソラナ氏が初代上級 代表に就任している。 A.安全保障政策 東西冷戦の終結により安全保障上の脅威が無くなったことと、EU には、NATO 加盟国と中立国 が含まれていたことなどにより、これまで安全保障問題に関する共通のスタンスを醸成するのに時 間がかかっていた。しかしながら、コソボ危機の際に米国を中心とする NATO 軍に欧州の安全保障 を依存せざるを得ないことが明らかになったことから、EU 独自の安全保障対策を整備すべく、欧 州安全保障防衛政策(ESDP)が推進されている 2003 年 12 月のブラッセル・サミットでは、平和維持や人道救援活動を一層充実するため、EU 独自の恒久的な作戦立案・遂行機能を強化することとし、EU 軍指令組織を NATO 本部内と EU 本 部内双方に設立することで合意を見た。活動内容としては、紛争発生の兆候や停戦交渉、難民動向 等を監視し、NATO 軍と共同または単独で、EU 軍や警察部隊を派遣出来るほか、選挙管理等の文 民の派遣も可能となっている。この同意に当たっては、 「司令部(HQ) 」との表現は用いず、 「部署 (CELL) 」との言い回しを行っており、EU が米国と NATO との良好な関係の維持に腐心している ことが窺えるものとなった。 NATO は 2004 年 6 月 28 日、9 年に及んだボスニアにおける平和維持活動を 2004 年末で終結さ せ、EU に引き継ぐことを明らかにした。引き継がれる人員の規模はおよそ 7,500 名で、EU 最大の 海外での軍事活動となることが見込まれている。 なお EU 拡大と NATO に関しては、2004 年 5 月に新たに EU に加盟した 10 カ国のうち、キプ ロスとマルタを除く 8 カ国が NATO にも加盟している。このうちチェコ・ハンガリー・ポーランド は 1999 年 3 月に加盟、残る 5 カ国は 2004 年 3 月に加盟している。 2004 年 3 月 11 日にスペインのマドリードで発生したアルカイダと見られる組織による列車爆破 21 財団法人 国際金融情報センター テロでは、死者 190 名、負傷者 1,400 名以上に達する大きな被害を出した。これを受け、2004 年 3 月のブラッセル・サミットでは、特定の加盟国がテロ攻撃を受けた場合に、他の加盟国が軍事力を 含む全ての手段で被害国の支援、テロの拡大防止のために行動する「連帯条項」を含む対テロ宣言 が採択された。この連帯条項は EU 憲法案にも盛り込まれている。 [表 16]EU 加盟国の NATO 加盟有無 ベルギー デンマーク ドイツ ギリシャ スペイン フランス アイルランド イタリア ルクセンブルク NATO NATO NATO NATO NATO NATO 中立 NATO NATO オランダ オーストリア ポルトガル フィンランド スウェーデン 英国 チェコ エストニア ハンガリー NATO 中立 NATO 中立 中立 NATO NATO NATO NATO ラトビア リトアニア ポーランド スロバキア スロベニア キプロス マルタ NATO NATO NATO NATO NATO 中立 中立 (出所)NATO ホームページ等を元に JCIF にて作成 B.外交政策 (a)総論 EU は米国やロシア、日本等と定期的に首脳会談を実施している。EU 側は通常、議長国首脳お よび欧州委員会委員長が EU を代表して出席する。 EU の外交の基本方針は、人権尊重、民主主義、人道支援を柱とする。2000 年 3 月には、議長国 スウェーデンの下で戦後初の EU 首脳による北朝鮮訪問および首脳会談が実現し、朝鮮半島情勢安 定化に向けた協議が行われた。また、2001 年 9 月の米国同時多発テロを受けてのアフガニスタンに 対する軍事行動に関連しては、EU 主要各国は中東諸国等において積極的な外交を展開した。さら に、パレスチナその他の紛争地域においても、EU は積極的に仲裁活動を行っている。 なお、EU は欧州委員会と各加盟国の合計で、二国間ベースの世界の開発援助および人道援助資 金の半分以上を拠出し、中東、ロシア・CIS、バルカン、アフリカ諸国等に対する主要拠出国とな っている。EU 各国は 2006 年までに ODA の対 GDP 比を少なくとも 0.33%とすることに同意して いる。 (b)対米関係 米国との関係では、WTO における農業交渉や遺伝子組換え作物を始めとした農業問題、米国の 地球温暖化防止に関する京都議定書からの離脱問題、米国本土ミサイル防衛問題等で EU と米国と の意見の相違があり、議論が続いていた。特に対イラク戦争では、米国の武力行使に強く反対した フランス、ドイツ、ベルギー等が親米的なイギリス、イタリア、スペイン等と EU 内で対立、対米 関係でしこりを残した。こうした関係を修復するため、2003 年 12 月のブラッセル・サミットでは、 議長総括に付随して、大西洋を挟んだ米国、カナダと欧州との関係に関する宣言が別途採択され、 欧州が対米関係を重要視していることを改めて示した。さらに 2004 年 6 月のブラッセル・サミッ トでは初めてイラク情勢に対する EU の共通見解を議長総括に盛り込んだ上、イラク支援策につい ても具体的に言及した。7 月の EU 外相理事会では、経済復興、選挙支援、警察や行政機構の訓練 等につき検討すると表明している。また G8 での会合のほか、2004 年 6 月 6 日に開催されたノルマ ンディー上陸作戦 60 周年記念式典では、ドイツのシュレーダー首相がドイツ首脳として初めて参 加するなど、米国と独仏の間には対話の機会が多く設けられている。6 月 26 日にアイルランドで開 催された EU と米国の首脳会議では、米欧の衛星測位システムである GPS とガリレオの共用に関 する合意を始め、イラク問題やイランの核問題に関する共通姿勢を強調、関係改善が図られている。 またオランダ政府は 2004 年 6 月に同国軍のイラク駐留期間を 2005 年 3 月まで延長することを決定 している。ただしブッシュ大統領がトルコの EU 加盟を後押しする発言をしている点は内政干渉だ との批判があるほか、スペインのサバテロ新政権はイラクから撤兵するなど、なお微妙な緊張もあ る。 22 財団法人 国際金融情報センター (c)対露関係 ロシアとの関係は、プーチン大統領就任以来、大きく改善している。EU 拡大に関係して、2002 年 11 月にはカリーニングラード問題で妥結を見たほか、2004 年 5 月 20 日にモスクワで開催され た EU・ロシアサミットでは、6 年にわたる EU とロシア間における世界貿易機関(WTO)加盟交 渉が妥結した。ロシアは G8 を同国が主催する 2006 年までに WTO に加盟することを希望している が、日本、米国、中国といった主要国との交渉は妥結しておらず、こうした中でロシアの最大の貿 易相手国である EU との交渉妥結はロシアにとり外交的に大きな意味を持つと見られている。あわ せて、ロシアは農産物、水産物、工業製品の関税額に上限を設けることに同意したほか、電気通信、 交通、金融、郵便・運輸、建設、観光、環境の各分野の市場を開放することにも同意した。またロ シア産天然ガスに関しても合意が見られた。ロシアは欧州が消費するほぼ 4 分の 1 を供給している が、ロシア国営企業であるガスプロム社がロシア国内市場および輸出を独占している上、国内では 輸出価格より遥かに安い値段で天然ガスを供給している。EU はこの価格差をロシア政府によるガ ルプロム社への補助金であると判断、是正を求めていた。今回の妥結では、国内での販売価格を現 在の 1 千立方メートルあたり 27∼28 ドルから、2010 年までに同 49∼57 ドルに引き上げることで 同意した。またロシアからの天然ガス輸出に関し、EU は同社の独占を排除するよう要請したもの の、ロシア政府は明確にこれを拒否した。 (d)対日関係 日本との関係では、2004 年 6 月に小泉首相と議長国アイルランドのアハーン首相およびプロデ ィ委員長と第 13 回日・EU 定期首脳会談が行われた。今回の首脳会議では軍縮・不拡散に関する日 本・EU 共同宣言、日本・EU 双方向投資促進のための協力の枠組み、アジアにおける知的財産権 の執行に関する日本・EU 共同イニシアティブ、情報通信技術に関する協力についての共同ステー トメントの 4 つの文章を発表した。その上で、今後重点を置く項目として①イラク、アフガニスタ ン等の戦後復興、バルカン半島における経済協力等、 「平和と安全の促進に向けた取組」②日本会 計基準の国際会計基準との同等性の確立や税関相互支援協定の早期締結に向けた協議の促進、政府 調達に関する問題等に関する協議等の「経済・貿易関係の強化」③民間航空分野での協力の拡大や 他国の京都議定書への批准奨励等の「地球規模の問題及び社会的課題への取組」④2005 年日本・ EU 市民交流年の機会等の活用による「人的・文化的交流の促進」を掲げている。なお、日本と EU 間で争点となっている国際熱核融合実験炉(ITER)建設地を巡る話し合いでは目立った進展はな かった。このほか、2003 年 7 月、競争政策に関する日・EU 協定が締結されたが、これは EU にと っては米国、カナダに次いで三番目となるもので、これにより EU と日本は、競争政策において、 緊密な協力体制の構築が可能となった。具体的な内容としては、EU は日本に対し定期的に企業合 併の審査ならびに日本企業に関わるその他の手続きや、日本で行われている反競争的活動に関する 情報を通知することになる一方、日本側も EU に対し同様の措置を取ることとなる。 また、EU は 2007 年より域外企業に対しても国際会計基準を適用する方針であるが、日本の会 計基準が欧州で通用しなくなると日本企業の資金調達に悪影響が出ることも見込まれることから、 EU に対し企業会計基準の相互承認を要請している。 (e)対アジア諸国関係 EU はアジア諸国との関係強化のため、アジア欧州会合(ASEM)の枠組みにおいて、首脳会談や 財務相、外相、経済相会合等も、それぞれ定期的に開催している。現在の ASEM 加盟国は新規加 盟 10 カ国を除く EU15 カ国、ミャンマー、カンボジア、ラオスを除く ASEAN7 カ国、日本、中国、 韓国の計 25 カ国で構成されている。2003 年 7 月にインドネシアのバリ島で第 5 回 ASEM 財務相 会談が開催され、欧州とアジアとの間で経済成長に向けた協力体制の強化や、国際的犯罪行為(マ ネーロンダリングやテロへの資金提供)に対する取組みについて協議された。2004 年 4 月 17 日、 18 日にはアイルランドのダブリン郊外キルデアで第 6 回 ASEM 外相会合が開催され、多国間主義 について協議されたほか、ミャンマー、カンボジア、ラオスの ASEM 新規参加の問題が協議され、 アジア側はその参加を求めたが、欧州側はミャンマーでの民主化勢力への弾圧を理由にこれに反対、 両者の対立は解けなかった。 EU 側はアジア側のこうした姿勢に反発しており、 2004 年 7 月の ASEM 財務相会合と 2004 年 9 月中旬の ASEM 経済相会合の中止を決定した。日本は 2004 年 10 月にヴェ 23 財団法人 国際金融情報センター トナムのハノイで開催予定の第 5 回 ASEM 首脳会談まで、ヴェトナムとともにアジア側調整国を 務めることになっているが、流会になる懸念も出ていた。こうした自体を受け ASEAN はミャンマ ーからは首相ではなく、外相等の閣僚クラスが代理出席することを EU に提案、妥協が図られた。 またその後の事務レベル協議で、EU 新規加盟 10 カ国とミャンマー、カンボジア、ラオスの ASEM 新規加盟も認める方向で一致し、10 月の首脳会議で正式に加盟を承認する運びとなった。なお第 7 回 ASEM 外相会合は 2005 年 5 月に京都で開催される予定である。 (ロ) 司法・内務分野(JHA) EU 第3の柱である司法・内務協力も CFSP 同様、政府間協力である。ただし、司法・内務協力 は民事と刑事に大きく分かれるが、アムステルダム条約により民事に関連する事項が共同体分野に 移行したため、現在、政府間協力として取り扱われているのは、刑事に関連する事項のみとなって いる。司法・内務協力では、主に加盟国間の司法、警察当局、税関、移民管理当局の対話や相互支 援が行われ、EU 域内での組織犯罪、不法移民、人の自由移動に関する協力等が進められている。 特に 2001 年 9 月の米国同時多発テロを受け、2001 年 12 月の司法・内務理事会では、テロ行為 の定義とそれに対する罰則が合意された。その後、テロ以外の犯罪も対象とした欧州共通逮捕状の 導入も採択され、刑事分野の司法・内務協力も大きく前進した。この欧州共通逮捕状は 2004 年 1 月 1 日からスペイン、ポルトガル、アイルランド、ベルギー、デンマーク、フィンランド、スウェ ーデン、イギリスの 8 カ国によりまずスタートした。新規加盟国についても準備が整いしだい漸次 導入が見込まれる。欧州共通逮捕状は遅くとも 6 月末までに新規加盟国を除く EU 諸国の国内法整 備が終了することとされていたが、イタリア等なお一部の諸国で国内法の整備がなされていない。 この欧州共通逮捕状の導入により、容疑者の引き渡し手続きが簡素化され、加盟国の要請があれば 裁判所の許可だけで容疑者を拘束、相手国に移送することが可能になった。また、テロや人身売買 等の 32 の罪については、その国の法令に明確な刑罰規定がない場合でも逮捕、移送出来るとして いる。2002 年 6 月のセビリア・サミットでは、不法移民や難民対策が協議され、EU 域外との国境 警備の強化等が進められることとされたが、2003 年 10 月のブラッセル・サミットで、国境管理を より強固かつ効果的に行うための EU の国境管理に関する欧州レベルでの機関の創設が決められた。 また、 不法移民対策として 2004年から 2006年までに 1億 4千万ユーロを投じることも決められた。 マドリードの列車爆破テロを受け、 2004 年 3 月 19 日に開催された緊急司法・内務相理事会では、 テロ対策を調整する高官ポストの新設が決議され、3 月 25 日、26 日に開催されたブラッセル・サ ミットで初代調整官にヒェイス・デ・フリース元オランダ内務副大臣が任命された。調整官は、加 盟国間の協力やテロ取締りに向けた情報の相互利用の円滑化等を担うとされている。 統一特許制度となる共同体特許(コミュニティ・パテント)創設も検討されている。特許出願手 続の簡素化や費用軽減により EU 内で開発された新製品・技術の保護強化を目的としている。共同 体特許創設後は、出願手続は英・仏・独語のいずれかで行った上、中核部分のみを全公用語に翻訳 さえすれば、EU 全体で有効な特許となる見通しである。また特許侵害訴訟を一手に引き受ける欧 州特許裁判所の新設も予定している。しかし最終合意を目指した 2004 年 5 月の競争政策に関する 閣僚理事会では特許申請窓口や翻訳文書の法的拘束力を巡る問題でドイツ、フランス、スペイン、 ポルトガルが指令案の修正を要求、合意に達しなかった。翻訳ミスにより特許権が侵害された場合 について、善意のユーザーは法的な嫌疑を受けないものとする点などが要求されている。 (2)主要経済関連政策 EU 第1の柱である共同体分野における政策の中では、経済関連政策が重要な位置を占める。以下 では、そのうち主なものについて紹介する。 (イ)マクロ経済政策 A. マクロ経済政策の枠組み EU のマクロ経済政策では、加盟国の経済、通貨統合を推進する経済通貨同盟(EMU)が根幹を なしている。1999 年 1 月の EMU 第三段階への移行に伴いユーロを導入した国では、欧州中央銀行 (ECB)による単一金融政策が実施されている。また、その一方、EU 加盟国のマクロ経済安定化の 観点から、財政政策についても「安定成長協定」の下で財政の健全化が進められており、さらに、 24 財団法人 国際金融情報センター ポリシーミックスおよび加盟国間の政策協調の必要性から「包括経済政策ガイドライン」が毎年策 定されている。 EU 加盟国によるマクロ経済政策協調や為替政策、金融サービス、税制調和等に関する協議、決 定を行う場としては、財務相理事会(ECOFIN)が原則として毎月開催されている。 ユーロ参加国については、ECOFIN とは別途、ユーログループ会合が原則として ECOFIN の前 日に開催されている。ユーログループ会合は非公式なものであり、ECOFIN と違い EU 基本条約に おける法的権限は持たないが、ECB 総裁も参加しており、為替政策への対応やユーロ圏経済として の一層の政策協調の必要性から、その役割が重視されてきた。2004 年 6 月に合意された EU 憲法案 では、ユーログループ会合にはユーロ圏の経済政策方針に係る決定権が付されるとともに、IMF や G8 などの経済・財政面における重要な国際会議に、ユーロ圏諸国を代表する共同代表を送ること が出来ることが明記され、現在の非公式なものから公式会合に格上げされている。 B.ユーロ参加のための経済収斂基準(Convergence Criterea) ユーロに参加するためには、マーストリヒト条約で定められた以下の経済収斂基準を満たすこと に加え、新為替相場メカニズム(ERMⅡ)に原則として最低 2 年間参加する必要がある。 1979 年に創設された欧州通貨制度(EMS)は、通貨や経済の統合を目標として、欧州通貨単位 (ECU)を創設し、為替相場メカニズム(ERM)を導入した。また加盟国の為替相場を一定の変 動幅に抑えるため、加盟各国の中央銀行に無制限の市場介入を義務付けた。変動幅は中心レートか ら上下 2.25%とし、後に 15%に拡大された。 [表 17]ユーロ参加のための経済収斂基準 項目 財政赤字 政府債務残高 インフレ率 長期金利 基準 一般政府部門の財政赤字が GDP 比 3%以内※ 一般政府部門の債務残高が GDP 比 60%以内※※ CPI 上昇率が加盟国の中で最も低い 3 カ国の平均上昇率から過去 1 年以上にわたり 1.5%以内にあること。 名目長期金利が加盟国の中でインフレ率の最も低い 3 カ国の長期金利の平均から過去 1 年以上にわたり 2%以内にあること。 ※財政赤字は、顕著かつ継続的に低下し、基準値近くに達しているか、あるいは基準を超過していても、一時的で超過幅が僅 かな場合は、例外的に認められる。 ※※基準を超過していても、その比率が十分低下し、満足のいくペースで基準に近づいている場合は、例外的に認められる。 (出所)欧州委員会 その後 1999 年 1 月 1 日に欧州単一通貨であるユーロが発足したことを受け、これまでの ERM に代わり、ユーロ非参加国にユーロ加盟を促進させることを目的とした ERMⅡが発足した。ERM Ⅱでは、EU 加盟国のうちユーロ非参加国の通貨とユーロ間の為替相場を上下 15%以内の変動幅に 抑えることとしており、デンマークが参加しているほか、2004 年 6 月 27 日から、エストニア、リ トアニアおよびスロベニアの EU 新規加盟 3 カ国が加盟した。デンマークの場合、為替変動幅は上 下 2.25%となっているが、新たに加盟した 3 カ国の為替変動幅は上下 15%となっている。このうち エストニアおよびリトアニアはカレンシーボード制を採用しており、エストニア・クローンとリト アニア・リタスを事実上ユーロに固定している。またスロベニア・トラールも管理フロート制によ り、変動幅は小幅なものに留まると見込まれている。 [表 18]ユーロ参加国旧通貨対ユーロ交換レート 通貨 ベルギー・フラン ドイツ・マルク ギリシア・ドラクマ スペイン・ペセタ フランス・フラン アイルランド・ポンド 対ユーロ交換レート 40.3399 1.95583 340.750 166.386 6.55957 0.787564 通貨 イタリア・リラ ルクセンブルグ・フラン オランダ・ギルダー オーストリア・シリング ポルトガル・エスクード フィンランド・マルカ 対ユーロ交換レート 1936.27 40.3399 2.20371 13.7603 200.482 5.94573 (出所) ECB 25 財団法人 国際金融情報センター 一方、ユーロに参加していないスウェーデンおよび英国は、これまでユーロ参加に国民の大半が 否定的であったため、ERMⅡにも参加していない。スウェーデンは、2003 年 9 月 14 日にユーロ参 加の是非を問う国民投票を実施、反対 56%賛成 42%の大差でユーロ参加を否決した(投票率 81%) 。 スウェーデンはイギリス、デンマークと異なり、マーストリヒト条約調印に当たり欧州経済・通貨 同盟(EMU)参加に関する「適用除外(オプトアウト) 」条項を含めておらず、国際法的にはいず れは EMU に加盟、 ユーロを導入しなければならないが、 この否決で今後数年はないと見込まれる。 デンマークは、スウェーデンでの国民投票後も、世論調査ではユーロ賛成派が過半数を占めている が、2000 年 9 月の国民投票でユーロ参加を一旦否決しているため、政府は慎重な態度を変えておら ず、当面はユーロ参加に動かないとの見方が支配的である。英国は 2003 年 6 月、ユーロ参加は時 期尚早であるとするブラウン蔵相のコメントを発表、早期加盟の可能性は小さい。 C. 「安定成長協定」 (Stability and Growth Pact) (a)制度の概要 経済通貨統合を実施するにあたり、マクロ経済を安定化させる必要性から、EU 加盟国の財政健 全化と政策協調を目的に、 「安定成長協定」が結ばれている。 「安定成長協定」では、一般政府の財 政赤字を名目 GDPの 3%以内、 政府債務残高を名目 GDPの 60%以内とする基準が設けられている。 毎年、ユーロ参加国は「安定成長協定」の下で「安定計画」(Stability Program)、未加盟国は「収 斂計画」(Convergence Program)を策定し、EU 加盟国間相互に財政政策の監視を行っている。具体 的には、通常、年末までに決定される各国の翌年の予算計画に基づく「安定計画」または「収斂計 画」を毎年 1 月頃、欧州委員会が審査した上で ECOFIN にて審議し、必要に応じ修正を行うよう 加盟国に対し勧告を行う。名目 GDP の 3%を超える過度の財政赤字が発生する場合については、欧 州委員会による提案を元に ECOFIN が勧告を行い、その勧告が遵守されなかった場合には、 ECOFIN は当該国に対し制裁金を課すことができる。 欧州委員会は、2002 年 11 月 27 日に安定成長協定の運用・解釈のあり方に関する委員会通知を 発出した。GDP 比 3%と定められている一般政府財政赤字限度の厳守、財政均衡又は黒字の達成と いう同協定の基本方針に変更はないが、①財政赤字の削減ペースを評価するに当たっては、景気循 環要因を除いた数値を用いるものとする。ただし GDP 比 3%の財政赤字限度は従来同様に対 GDP 比財政赤字で評価する、②景気循環要因を除いても構造的な財政赤字が存在する国は、毎年少なく ともこれを 0.5%削減していく、③債務残高が 60%を切る国について柔軟な取扱いを行う、ことの 検討を求めるものであり、加盟国からは概ね賛同が得られた。 (b)安定成長協定の執行状況 ⅰ ドイツ ドイツはその 2002 年の財政赤字見込みが対 GDP 比で 3.5%に達したことから、 、欧州委員会は 過度の赤字に関する意見書及び是正勧告書を採択、ECOFIN でも是正勧告案が採択された。その後 欧州委員会はドイツ政府が財政健全化のための効果的措置を取ったと認定、手続きの中止を決定し たが、ドイツが過度の財政赤字縮減のための効果的措置を実行していないとして、2003 年 11 月 18 日、欧州委員会はドイツに対する過度の赤字手続きの再開とともに、更なる財政赤字縮減策等を実 施し、遅くとも 2005 年には過度の財政赤字を解消すること(財政赤字が対 GDP 比で 3%以内)を 求めるべきとの勧告を ECOFIN に対し行った。 ⅱ フランス フランスも財政赤字が対 GDP 比で 2002 年度で 3.1%に達し、2003 年度も 4.1%となり、更に 2004 年についても 3%突破が予測されたことから、2003 年 6 月 3 日の ECOFIN はフランスの財政政策 に関する勧告を採択し、財政赤字の削減に対する効果的措置を 10 月 3 日までに提出するよう求め た。しかし、その後フランスは何ら効果的措置を取らなかったと判断されたことから、欧州委員会 は 10 月 8 日、2004 年にその構造的財政赤字を 1.0%削減、遅くとも 2005 年までにその過度の財政 赤字を解消すること等を求めるべきとの勧告を行った。 26 財団法人 国際金融情報センター ⅲ ドイツ、フランスに関する欧州裁判所判決 この独仏両国に対する欧州委員会の勧告に対し、 2003年 11月 25日に開催された ECOFINでは、 独仏両国に対し、①2004 年における更なる財政赤字縮減策を実施し、2005 年に過度の財政赤字を 終了させるよう求めたものの、②両国から ECOFIN がその財政に関する報告を受けるまで、過度 の赤字手続きを一時中断することも決議した。この ECOFIN の結論に欧州委員会は強く反発、2004 年 1 月 28 日、欧州委員会は ECOFIN の決定の取消を求め、欧州裁判所へ訴訟を提起した。これに 対し、欧州裁判所は 7 月 13 日、ECOFIN が加盟各国に適用されるべき措置や財政赤字縮減の期間 に関し、欧州委員会の勧告の内容を修正することが出来るとしたものの、一旦 ECOFIN において 勧告を採択した場合は、欧州委員会の再度の発議なしに従前の勧告を改変する勧告を改めて ECOFIN は採択することが出来ない等と判断した。そして 03 年 11 月の勧告は従前の勧告を改変す るものであるとして 03 年 11 月 25 日の ECOFIN の判断を取り消した。この判決により、従前に採 択された 04 年までに過度の財政赤字を解消するべきとの ECOFIN 勧告が有効である状況に論理上 は戻った形となった。 ⅳ イタリア イタリアに対しては、 その 2004 年における財政赤字が対 GDP 比で 3.2%と予測されたことから、 欧州委員会は過度の財政赤字に陥ることを回避するための早期警告措置を行うよう勧告していた が、2004 年 7 月の ECOFIN では、イタリアは総額 75 億ユーロに上る財政赤字縮減策を実施する ことを表明、早期警告措置の発動は見送られた。イタリア政府の計画に従えば、2005 年には同国の 財政赤字は対 GDP 比で 2.7%になる見込みである。 ⅴ その他 欧州委員会は 2004 年 6 月 5 日、ギリシャ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、キプロス、 マルタに対する過度の財政赤字手続きを 6月 24日より開始すると発表した。 これらの加盟国は 2003 年度の財政赤字が対 GDP 比で 3%を超過していた。このうちユーロに参加しているギリシャに対 しては、2005 年よりの財政健全化が求められている。この欧州委員会の勧告に従い、2004 年 7 月 5 日の ECOFIN では、これら 7 カ国に対する過度の財政赤字手続きの開始を承認した。ただしギリ シャを除く 6 カ国については、新規加盟国の特殊性が考慮され、赤字是正のための調整期間が認め られた。具体的には、財政赤字の対 GDP 比で 3%以内とする時期を、キプロスは 2005 年、マルタ は 2006 年、ポーランドとスロバキアは 2007 年、チェコとハンガリーは 2008 年とした。ギリシャ に対しては、その 2003 年の財政赤字の対 GDP 比が 3.2%に達したとして、2004 年 11 月 5 日まで に効果的な対応措置を示すよう求めた。なおユーロスタットは 2004 年 9 月 23 日、2000 年以降の ギリシャの財政赤字を大幅に修正し、2000 年以降同国の財政赤字の対 GDP 比が 3%を突破してい たことが明らかになった。 (c) 安定成長協定の見直し 欧州委員会は 6 月 24 日、 「2004 年における EMU の財政状況」を公表、この中で安定成長協定 の見直しに言及した。この内容は、政府債務残高や潜在成長力などにも着目し、政府債務残高が小 さい国や潜在成長力の大きい国に対しては、一定の財政赤字を容認することや、過度の財政赤字の 手続きの実施手続きを見直しし、加盟国の状況に応じて財政赤字是正のための期間の適用に幅を持 たせることなどを提案している。ただし欧州委員会が加盟国に正式な改革案を提示するのは 11 月 の新体制発足以後になると見込まれる。 27 財団法人 国際金融情報センター [図7]「過度の赤字手続き」フローチャート 期限 加盟国 欧州委員会 報告 経済金融委員会 財務相理事会 監視 通常年 2 回 規則 3605/93、4751/00 報告 104(3) 2 週間 意見書 104(4) 意見書 104(5) 勧告 104(6) 過度の赤字の存在 有無に関する判定 3 ヶ月 104(6) 加盟国に対する勧告 勧告 -効果的措置 :最大 4 ヶ月以内 104(7) -過度の赤字の修正 :1 年以内 無 有 効果的措置はと 7 ヶ月 勧告 勧告の公表 勧告 必要な措置を られたか? 1 ヵ月 有 8 ヶ月 無 効果的措置はと とるよう通知 られたか? 104(9) 2 ヶ月 有 10 ヶ月 無 通知への 勧告 準拠有無 有 制裁判定 104(11) 年次評価 : 無 効果的措置は 勧告 制裁強化 104(11) とられたか? 過度の赤字解消の進捗 制裁解除 勧告 104(12) 過度の赤字に関する判定 過度の赤字解消 勧告 および全ての制裁解除 104(12) (出所)欧州委員会 Euro Papers No. 45 28 財団法人 国際金融情報センター D. 「 包括経済政策ガイドライン(BEPG) 」 [図8]包括経済政策ガイドライン 財政政策 マクロ経済安定化のための経済改革 労働市場改革 ・労働市場 ・ 就業能力の向上 ・生産市場(財・サービス) ・ 起業家育成 ・資本市場 ・ 適応性の向上 マクロ経済政策対話 ・ 雇用機会均等 安定成長協定 カーディフ・プロセス ルクセンブルグ・プロセス コローニュ・プロセス 経済安定/収斂 カーディフ・サミット決議 ・ 雇用ガイドライン コローニュ・サミット決議 EU 基本条約第 104 条 ・ 国別行動計画 EU 基本条約第 128 条 包括経済政策ガイドライン EU 基本条約第 99 条 (出所) 欧州委員会 BEPG は「安定成長協定」に基づく財政政策のほか、雇用や経済構造改革、マクロ経済政策対話 といったポリシー・ミックスと加盟国間の政策協調を目的に、EU 全体および各国毎に毎年策定さ れる。3 月の欧州理事会で BEPG の方針が決められ、ECOFIN が関連する他の閣僚理事会とも連携 をはかりつつ策定される。 BEPG は欧州委員会案を下にユーログループや ECOFIN にて協議され、 6 月の欧州理事会での承認を得て正式に採択される。 2004 年の BEPG の最大の目的は新規加盟 10 カ国の経済政策の調和を図り、現在の枠組みに統合 することにある。そのための対応として、既存の加盟国と比較してより長い調整期間を設けること が提言されている。このほかに安定的な成長のためのマクロ経済政策、欧州の潜在成長率を高める ための経済改革、高齢者への適切な対処による経済の安定やエネルギーや運輸等における環境破壊 のない資源の持続的利用などが言及されているほか、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ギ リシャ、ポルトガル、イギリスの各国の財政政策について見直しが必要だとしている。 (ロ)域内市場政策 EU では、92 年末に単一市場が創設され、域内での人、モノ、サービス、資本の自由移動が可能 となっている。域内市場政策には、金融サービス、運輸、情報通信、政府調達、会社法や消費者保 護、税制等、様々な分野が含まれる。欧州委員会は 2003 年 1 月に分析結果を公表し、市場統合に よる EU 全体の経済効果として少なく見積もっても GDP を 1.8%押し上げ、250 万人の雇用創出効 果があったとしている。しかしながら、一部の分野では規制等に関して、依然として各国毎にばら つきがある。 なお、以下では金融サービスを中心に取り上げる。 先ず、銀行業務については、93 年施行の第 2 次銀行指令により、ユニバーサル・バンキング、 単一免許制、母国監督主義を原則とするルールが確立されている。同指令により、EU 域内のある 国で銀行免許を取得すれば、その国の金融当局の監督の下で、他の EU 加盟国でもユニバーサル・ バンキング業務を展開することが可能となっている。 証券分野でも 96 年施行の投資サービス指令、 保険分野でも 94 年施行の第 3 次保険指令により、銀行業務同様、単一免許制、母国監督主義が導 入されている。 これらの制度改革により、EU 域内でのクロスボーダーあるいはクロスセクターでの金融再編の 動きが活発化し、巨大金融グループが誕生するに至っている。しかしながら、依然として、個別の 金融サービス提供の観点では国毎に市場が分断されている状態にあることから、単一通貨導入を踏 29 財団法人 国際金融情報センター まえ金融・証券市場の統合を完成させるべく、2005 年を目標に「金融サービス行動計画」 (FSAP) が現在進められている。FSAP では、銀行、証券、保険、年金運用、金融 e コマース、規制・監督 その他に関する包括的な行動計画が盛り込まれている。 [表19]2004年上期に採択された指令と第10次プログレス・レポートにて2004年内の採択を目標とされた 指令 企業買収(TOB)指令 透明性に関する指令 金融商品市場に関する指令 法令監査における第8次欧州会社法指令 第3次マネーロンダリング指令 銀行、証券会社に対する資本枠組みの見直し(CADⅢ) 2004年4月21日 2004年5月11日 2004年4月21日 未採択 未採択 未採択 (出所)欧州委員会 金融サービス行動計画第10次プログレス・レポート 全体的な FSAP の進捗としては、2004 年 6 月 2 日時点で、当初の 42 項目のうち、93%に相当 する 39 項目が実現、未採択の指令は前回第 9 次レポートと比較し 3 項目減少している。2004 年上 半期に新たに採択された指令は①金融商品市場に関する指令(旧投資サービスに関する指令、2004 年 4 月 21 日採択) ②透明性に関する指令 (2004 年 5 月 11 日閣僚理事会にて承認) ③企業買収 (TOB) 指令(2004 年 4 月 21 日採択)である。このうち透明性に関する指令の採択により、証券発行者に よる決算書の発行、特に中間決算書に関して改善が図られる。また、今後 EU 域内で証券の発行を 行う域外業者に対し、国際会計基準(IAS)及び国際財務報告基準(IFRS)または同等の第三国の 会計基準による財務諸表の発行が求められることとなったほか、2005 年 1 月 1 日より、EU 域内で 上場する全ての会社は IAS 及び IFRS に従った連結決算が義務付けられる。 こうした企業開示分野での改革を受け、ユーロネクスト(パリ・ブラッセル・アムステルダム・ リスボン・LIFFE 統合市場)は 2005 年初頭にパリ市場の一部・二部・新興株市場を統合すること を明らかにした(2004 年 6 月) 。この改革は市場の単純化により金融情報の透明性と目論見書に関 する EU 指令に適合することを目的としたもので、他のユーロネクスト市場も順次統合がなされる 見込みである。パリ市場に関しては、統合後は「ユーロリスト」と名づけられる統合株式市場の下 で、情報開示基準等が同一となる。また株式指数として CAC40、SBF120 は維持されるが、より市 場の透明性を高めるための新しい指数も 2005 年 1 月より導入される見通しである。なおハイテク 株の指数である ITCAC20 は ITCAC50 に置き換わる見込みである。 欧州委員会では、金融市場統合により EU 全体で 1.1%の GDP 押し上げ効果および 0.5%の雇用 創出効果があると分析しており、欧州議会や閣僚理事会での法案審議迅速化を訴えている。これに 対応し、閣僚理事会はラムファラッシー手続き(ファーストトラック手続き)の適用分野の拡大に 合意した。これは元々証券分野の法案審議の迅速化を図る為 2002 年 2 月に採択された手続きであ るが、今回の合意により、銀行、保険、投資信託に関する金融サービスの審議にも適用されること となった。本手続きは、法案審査に関し、技術的・専門的な点を検討するための専門委員会を設け、 その勧告を受けることにより、これらの分野における法案の採択の迅速化を図るものである。 (ハ)競争政策 EU の競争政策は、現在、欧州委員会に一元的な権限が与えられている。競争政策は共同体法に定 められた競争法に基づき、EU 域内市場での企業活動における公平な競争条件を確保し、消費者利益を 最大にすることを目的としている。EU の競争法はアンチ・トラスト、M&A 審査だけでなく、加盟国 政府による自由化の実施、規制導入、政府補助金も対象としており、競争法を逸脱する規制や行為に 対しては、政府であっても制裁の対象となることが特徴である。 なお 2004 年 5 月より競争法が改正された。この改正では、独占的販売契約のような競争制限的な取 り決めを事前に欧州委員会に届出する義務が廃止されたほか、欧州委員会から EU 加盟各国への分権 化が図られた。これにより、欧州委員会は繁忙な事前認可業務から解放されることとなった。 アンチ・トラスト関連では、これまで EU 域内の事案は全て欧州委員会が審査を行ってきたが、案 件の増加に伴う審議迅速化のため、2004 年以降、各加盟国レベルでも実施すべく規則が改正された。 2004 年 3 月 24 日、欧州委員会は米マイクロソフト社に対し、OS と抱き合わせて応用ソフトである「ウ 30 財団法人 国際金融情報センター ィンドウズ・メディア・プレーヤー」を出荷している点につき独占禁止法違反であると認定し是正命 令を出すとともに、合わせて 4 億 9,700 万ユーロの課徴金の支払いを命じた。これに対しマイクロソ フト社は反発、制裁無効を求めて欧州司法裁判所に提訴したため、欧州委員会は 6 月 28 日、司法判断 が下されるまでは是正命令を強要出来ないとの判断から、是正命令を一時保留することを発表した。 今後、本件の判断は司法に委ねられるが、裁判の長期化を予想する声もある。M&A 関連では、米国と のルールの相違が摩擦となっていることを踏まえ、M&A 審査の際、米国同様、M&A の結果として価 格低下が消費者にもたらす恩恵を考慮すべく、ルールの見直しが行われる見込みである。 政府補助金に関連しては、2002 年 3 月には、欧州委員会とドイツ政府が州政府による銀行融資の保 証を制限することで合意 2005 年 7 月に維持・保証制度と呼ばれる州政府の州立銀行に対する保証措置 は原則廃止されることになった。また 2004 年 5 月 27 日には、フランス政府と欧州委員会は仏重電・ 造船大手アルストムの再建計画について、 「アルストムが 4 年以内に産業パートナーを受け入れる」 「資産の一部を売却する」等を条件に、仏政府による同社への支援 32 億ユーロを認めるとの内容で合 意した。但し産業パートナーに関しては原則として民間企業であるべき旨が明記され、仏政府が希望 していた仏国営企業アレバによる提携は否定された。2004 年 8 月には、欧州委員会はイタリア政府の アリタリア航空に対する 4 億ユーロのつなぎ融資への政府保証を承認している。 なお、特にアンチ・トラスト関連では、EU の競争法に対する認識が薄いために日本企業が罰金・制 裁の対象となるケースも増えており、十分な注意が必要である。ちなみに、欧州委員会による判定に 不服な場合は、欧州裁判所の第一審裁判所に申し立てを行うことができる。 (ニ)税制調和 A. 総論 域内市場統合を完成するためには、加盟国間の税制調和が望ましい。しかしながら、税制は各国 の主権にかかわる分野であり、意思決定において全会一致を要することからも、必ずしもはかばか しい進展は見られていない。しかしながら、1997 年から議論が進められてきた「税制パッケージ」 については、当初の期限であった 2002 年末を過ぎて、2003 年 6 月の ECOFIN でようやく最終合 意が得られた。 同パッケージは、 「有害な租税競争抑制のための行動指針策定」 、 「個人非居住者(EU 加盟国籍を 有する者で、EU 内の非居住国にて貯蓄等を行う者)に対する利子所得課税」 、 「異なる国に存在する 親子会社間の利子・ロイヤルティの源泉徴収免除問題」の 3 項目からなる。2003 年 6 月の ECOFIN では法人税制に関する加盟国間の不当競争是正を目的とする「行動規則」を採択したほか、2002 年 11 月に合意した配当・ロイヤリティー課税に関する EU 指令を採択、加盟各国の税務当局が他 の加盟国籍企業の配当・利子・ロイヤリティーに源泉課税を行うことが原則として禁止された。 B. 利子所得課税 最後まで揉めていた「利子所得課税」については、原則として情報交換制度に一本化する方向で議 論が進められてきた。また、EU 域外への資金流出懸念を踏まえ、第三国にも同様の制度を導入す るよう交渉が続けられてきた。しかし、銀行の守秘義務にこだわるスイスが源泉徴収制度に固執し たため、オーストリア、ルクセンブルク、ベルギーが最終合意に抵抗。結局、政治的妥協の結果、 これら三ヶ国については、情報交換制度に関する上記第三国の交渉について ECOFIN があらため て合意する時まで、源泉徴収制度の存続が認められることとなった。スイスとの利子所得課税に関 する交渉は 2004 年 6 月 25 日に妥結した。この合意においてスイスの銀行秘密制度の維持を認めた ことから、オーストリア、ルクセンブルク、ベルギーの三国についても銀行秘密制度の維持が認め られ、情報交換による総合課税を回避出来ることとなった。この新貯蓄税制指令は、2004 年 7 月 19 日の閣僚理事会で、2005 年 7 月 1 日より発効されることが決定した。 (なお三国の源泉徴収税率 は、2005 年 7 月から 15%、2008 年 7 月から 20%、そして 2011 年 7 月以降は 35%) 。同様の源泉 徴収税率は、スイスのほかリヒテンシュタイン、モナコ、アンドラ、サンマリノでも 2005 年 7 月 1 日より導入され、源泉徴収を行う国では、非居住者の利子所得への源泉課税について、その税収の 75%を口座保有者の居住国政府に支払うこととなる。また英領チャネル諸島やカリブ海諸国・地域 もこれら第三国と同様の扱いを受ける見込みである。但しスイス政府は、その国内法により 5 万人 以上の国民の要求がある場合は国民投票を実施せねばならないため、なお採択について確約出来な 31 財団法人 国際金融情報センター いとしている。 C. 法人税 法人税については、アイルランドなどは税率を抑え外国からの投資を促進してきたが、新規加盟 国でも同様の傾向が強く、例えばスロバキアやポーランドの法人税率は 19%、キプロスは 10%で ある。2003 年の EU15 カ国の法人税率の平均は 32%であるが、新規加盟国の法人税率平均は 24% であり、今後 EU 拡大を機に EU 各国間で法人税率引き下げ競争が起きることも懸念されている。 こうしたことから、フランスとドイツは 2004 年 5 月、EU における法人税率の調和について議論を 進めることを求め、具体的には法人税率の最低税率を設定することを提案した。ただし欧州委員会 は 5 月 13 日、法人税率の調和に関し検討する予定はないとする声明を発表、独仏の提案を支持す る考えのないことを明らかにした。域内市場担当の欧州委員であるボルケスタイン氏のスポークス マンは合わせて「EU は不公正な租税を取り除くことは出来るが、各国が地理的な不利等を埋め合 わせるために税率等を(一定程度安く)定めることは補完性の原則に照らし合わせても認められる」 ともコメントしている。また経済通貨担当の欧州委員であるアルムニア氏は法人税率の調和に対し 個人的意見と断った上で支持を表明している。 D. 間接税 間接税については、付加価値税等に関して一定の調和が進展してきている。エネルギー関係税に ついては、2002年末の合意期限を目指して最低税率の設定が議論されてきたが、例外規定のあり方 のほか、対象物資の範囲などをめぐって意見がまとまらなかった。しかし2003年3月のブラッセル・ サミットで決着した。争点となっていたのはディーゼル燃料の取扱いで、減税措置や業者への支援 継続を求めるイタリア・フランスと、環境面への配慮からこれに反対するオーストリア・ドイツが 対立していた。サミットではイタリア等の主張を部分的に取り入れる一方、この妥協に反対したオ ーストリアに配慮して大手業者に燃料消費量の削減を誓約させることで環境面への配慮も図ること とし、合意に達したものである。 なお、EU 域外企業が提供する電子商取引に係る付加価値税(VAT)課税については、米国政府 のもっと時間を掛けて協議すべきだとの申し入れにも関わらず 2002 年 5 月に合意・採択されてい る。具体的には、①EU 域外企業が EU 域内の個人消費者にテレビ放送サービスやデジタル財の販 売を行う際に、供給地課税ではなく、消費地課税とすること、②事業者は、EU 内の一つの加盟国 で事業者登録を行い、消費者が複数国に存在する場合、各消費者の消費地国を確認した上で各消費 地国の税率で税額徴収を行うこととされた。オンラインで販売される全ての物質的な品物のほか、 ダウンロード販売されるソフトウェアや音楽も対象に含まれ、2003 年 7 月 1 日より実施された。こ れにより、特に EU 域外の事業者が課税を逃れることが出来なくなった一方で、EU 企業が域外に 販売する場合は、課税義務を必ずしも負わなくなった。欧州委員会は「EU 企業の競争力を阻害す る要因を除去出来た」と評価している。なお加盟国における現在の VAT 率は、ルクセンブルクの 15%からデンマーク、スウェーデンの 25%まで幅がある。 (ホ)共通通商政策 EU は、対内的には単一市場として加盟国間の貿易が自由化されている一方、対外的には、共通 通商政策により共通の関税率を適用している。また、欧州委員会が一元的に域外の国との通商協定 や関税協定の交渉にあたり、閣僚理事会の承認の下、協定を締結する権限を有している。 A. WTO (a) 総論 WTO 協定上、EU は「関税同盟」として位置づけられ、EU の国際法上の主体である欧州共同体 が独立の「関税地域」として原加盟国資格を有する。共通通商政策に従い、欧州委員会が EU 加盟 国を代表して WTO 交渉を行っている。 EU は、モノ、サービスの輸出、輸入いずれにおいても世界全体のシェアの約 2 割を有する世界 最大の貿易主体であり、WTO 体制における中心的存在の一つとして大きな影響力を持つ。EU は、 WTO 体制支持、多国間主義、紛争解決における多国間ルールを尊重する姿勢を明確にしており、 32 財団法人 国際金融情報センター 新ラウンドについては、途上国の立場や環境面にも配慮しつつ、包括的な幅広い分野を交渉対象と すべきとの立場をとってきた。 新ラウンドに関しては、2003 年 9 月、メキシコのカンクンで WTO 第 5 回閣僚会議が開催され、 シンガポール・イシューと呼ばれる貿易円滑化、政府調達の透明性、投資及び競争の 4 つの新しい 競争分野について、4 分野全てについて交渉入りを主張する EU や日本などに対し、一部途上国は これらの分野よりも先進国の農業市場開放を優先すべきだとして対立、交渉は決裂した。欧州委員 会のラミー委員とフィシュラー委員は 2004 年 5 月 10 日、①途上国の反発が強かった農業産品の輸 出補助金の撤廃、②投資及び競争については交渉分野にしない、③G−90 グループ(貧困諸国で構 成)に現状以上の市場開放要求はしない、の三点を WTO 加盟国に提案したことを明らかにした。 こうした流れを背景に、2004 年 8 月 1 日にジュネーブで開催された WTO 一般理事会では、新ラウ ンド再開、農業補助金削減、工業製品の市場開放の方針を確認、次期貿易自由化交渉(新ラウンド) の枠組み合意文書を採択した。 また次回閣僚会議は 2005 年 12 月に香港で開催されることになった。 ラミー委員は今回の枠組み採択を歓迎しているが、EU 内でもフランスのシラク大統領は今回の枠 組みに不満を示すなど、不協和音も見られる。 なお、金融関連では、EU は域外の金融機関に対しても単一免許制による域内でのユニバーサル・ バンキングを可能としていることから、 「サービスの貿易に関する一般協定(GATS)」の金融サービ ス交渉では、金融サービスの海外からの購入、海外拠点開設の自由化等を提案している。日本に対 しても、2003 年 10 月の「日本の規制改革に関する EU 優先提案」では、ユニバーサルバンクを認 めるべく、証券取引法の改訂や規制の簡素化等を提案している。 (b) 個別国との関係 米国が自国企業の輸出に適用する税制優遇措置について WTO 協定違反であるとした EU の主張 を、WTO の上級委員会は 2002 年 1 月に全面的に認め、2003 年 5 月 7 日には EU が申し立てた報 復関税品目リストを承認した。EU はその結果、総額 40 億ドルにも及ぶ報復措置の適用が可能とな り、2003 年 12 月 8 日、EU 外相理事会で、米国が改善措置を取らない場合、2004 年 3 月より、農 産物や製紙、原子力発電部品等の米国製品に 5%の上乗せ関税を課し、改善措置が見られなければ、 以後 1 年間にわたって関税率を毎月 1%引き上げるとの決定を行った。しかし 3 月 1 日までにこの 優遇措置は廃止されなかったことから、EU は報復関税を発動した。WTO 発足以来、EU が米国に 対し報復関税を発動したのはこれが初めてであったが、米上院は 5 月 11 日、この優遇税制措置を 廃止する法案を採択し、次いで 6 月 17 日には下院でも採択され、撤廃されることが確実となった。 ラミー委員はこの決定を歓迎し、米大統領の署名により新法が発効次第、EU は報復措置を直ちに 撤廃することを表明した。 しかしこの一方で、反ダンピング課税収入を国内業界に分配する米国のバード修正法への対抗措 置として、EU 等が報復関税措置を求めていた件につき、WTO 仲裁委員会は 8 月 31 日、対抗措置 発動を認める決定を行った。このバード修正法は 2000 年 10 月に成立、EU や日本が米国内産業を 二重に保護する措置として米国を提訴したもので、2002 年 9 月に WTO 紛争処理小委員会が WTO 協定違反と認定、同上級委員会も 2003 年 1 月に同様に認定していた。今回の WTO の決定により、 EU、日本、カナダ、ブラジル、メキシコ、チリ、インド、韓国の 7 カ国はバード修正法に基づい て米企業に分配された金額相当の報復関税を課すことが可能になった。うち EU に認められる報復 関税額は年間約 4,000 万ドルと計算されている。なお日本に認められる報復関税額は年間約 7,800 万ドルと計算されている。 また、中国が実施しているコークス輸出規制措置について、EU は WTO に提訴することを検討 していたが、中国側に改善に向けた取組みが見られたとして、提訴を見送り、協議による解決を目 指すことにした。 B.二国(地域)間協定 EU は自らが世界初の自由貿易圏、関税同盟として発展してきたのみならず、域外の国、地域と も積極的に関税同盟、自由貿易協定を締結している。自由貿易協定は現在、欧州自由貿易連合 33 財団法人 国際金融情報センター (EFTA)1や、地中海沿岸諸国、EU 加盟候補国、南アフリカ、メキシコ等との間に締結されてい る。さらに、南部南米共同市場(メルコスール)2や、EU 各加盟国の旧植民地を中心とするアフリ カ・カリブ・太平洋諸国(ACP)77 カ国等とも貿易自由化を視野に入れた政治・経済関係の強化を 進めている。2004 年 6 月 26 日、EU とスイスは税制や難民問題等 9 つの分野での相互協定に合意 し、スイスのシェンゲン協定(加盟国間での国境での旅券審査の廃止、航空機の国内線扱い等を定 めており、現在イギリス・アイルランドと新規加盟 10 カ国を除く EU13 カ国と、ノルウェー、ア イスランドが加盟)加盟についても同意した。EU 市民とスイス国民は、2004 年 6 月以降それぞれ の労働市場で自由に働くことが出来ることも盛り込まれた(但し新規加盟国に対しては制限あり) 。 ただしスイスでは右派を中心に慎重論も根強く、国民投票に持ち込まれる可能性もあり、実現する かはなお不透明である。 (ヘ)共通農業政策(CAP) CAP は、EU の共通通商政策とともに共通政策の中でも最も長い歴史を持ち、EU 財政に占める 割合は、年々低下してきているとはいえ、依然としてその 5 割近くに上る。 CAP は大きく分けて、共通市場政策と構造政策からなっている。共通市場政策は、単一市場の原 則の下、介入価格の設定による農産物の価格支持および EU 域外への輸出補助金、EU 域内への輸 入に対する課徴金を通じた価格安定化と農家の所得確保等を目的としたものである。一方、構造政 策は、農業の近代化、大規模化とともに、過疎対策や地域格差是正を目的としている。 CAP については、財政負担の大きいドイツや英国等が予算規模縮小を求めている上、農業国中心 である中東欧への EU 拡大や WTO 農業自由化交渉、環境、食品安全性の観点からもその見直しが 不可避となっている。2002 年 10 月のブラッセル・サミットでは独仏主導により、農家への直接補 償は継続するものの、2007 年以降、2006 年の(直接補償を含む)農業補助金額に毎年 1%を乗じ た金額を上回ることがないように総額を抑制することが定められた。これは実質的に 2006 年の支 出を農業補助金額の上限とするもので、EU 拡大に伴う農業補助金の膨張に歯止めを掛けるもので ある。 2003 年 6 月 26 日の農相理事会では CAP 改革案が承認された。この改革で①果実・野菜、砂糖 等を除いた品目にデカップリング(生産規模と補助金額との連関性の切り離し)を導入②環境・食 品安全・動物保護・農業者安全基準の強化③農場に対する新指導システムの導入④長期休耕制度の 導入⑤大規模経営農家に対する直接補助金の段階的削減と、その節減分の農村開発への振替(モジ ュレーション)⑥牛乳生産割当ての改定、脱脂粉乳・バター価格を今後 5 年間で段階的に引き下げ ること、等が決められた。ただ、議論の過程で、改革の中心とされていたデカップリングに関して は従来の生産関連補助も一部含めた部分的デカップリングに修正され、特に牛肉部門のデカップリ ングは大幅に後退したほか、穀物部門のデカップリングも限定的なものとなった。しかしながら、 部分的とは言え農家への補助金の支給額を生産水準と切り離し過去の実績(2000 年から 2002 年支 給額)に基づいて固定することで、補助金獲得のために市場動向を無視して生産を拡大する動きに 一定の歯止めが掛けられることが期待されている。 砂糖に関しては、CAP 改革でも対象外とされ、EU 域内の砂糖価格は国際価格の 3 倍に達してい るが、補助金制度の存在もありビート等の生産がなお盛んである。これに対し、ブラジル・オース トラリア・タイが EU の砂糖援助制度は違法であると WTO に提訴、WTO の紛争処理小委員会(パ ネル)は 8 月 4 日、EU の砂糖援助制度は違法であるとする中間報告をまとめた。このため欧州委 員会は砂糖補助金制度の改革を検討しており、報道されているところによれば、砂糖の保証価格を 2005 年-2007 年のうちに 1/3 に引き下げ、域内砂糖生産農家に課す年間生産割当量を現在の 1,740 万トンから 1,460 万トンに引き下げることを計画している。また補助金付き輸出量も現在の 240 万 トンから 40 万トンに削減する。砂糖農家への救済は直接補助金により対応するが、補助金額は改 革による所得減少分の 5 割程度に留まるものと見込まれる。また、生産割当量の売買を認めること により、生産を比較的競争力のあるイギリスやドイツ北部、パリ盆地等に集約することを想定して いる。ただしフィンランドや南欧、東欧等からの反発は必至で、今後の議論が注目される。 1 スイス、リヒテンシュタイン、ノルウェー、アイスランドの 4 カ国が加盟。 2 アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの 4 カ国が加盟。 34 財団法人 国際金融情報センター 2003 年 7 月、EU 新 GMO(遺伝子組み換え作物)指令が閣僚理事会により採択され、2004 年 4 月 18 日より発効した。偶発的な、または技術的に不可避な GMO の混入の場合の表示について、 その混入が 0.9%以下であれば表示が要求されないこととなった一方で、これまで表示義務のなかっ た遺伝子組み換え大豆やトウモロコシを成分に含む配合飼料に対する GM 飼料の表示の義務化、同 様にこれまで表示義務のなかった一部食品(遺伝子組み換え大豆等から高度に精製された食用油を 使ったビスケット等)に対する GM 食品の表示の義務化が図られたほか、GMO を含む製品を取扱 う事業者は、販売の各段階で、製品の GMO 存在の情報を明らかに、かつ 5 年間保存することが義 務付けられた。また、GMO と通常作物の共存を確保するため、EU 加盟各国は GMO が通常作物や 製品に偶然に混入することを回避する適切な措置を取る事が出来る旨定められた。GMO に関して は、EU は 1998 年よりその販売新規承認・輸入を事実上禁止してきたが、新指令の発効に伴い、リ スク評価と国民への情報提供が強化されたとして、欧州委員会は 2004 年 5 月 19 日、スイス・シン ジェンタ社が申請していた遺伝子組み換えトウモロコシの輸入・販売を許可する決定を出し、GMO の輸入が 6 年ぶりに再開されることになった。 (ト)雇用・社会政策 欧州が抱える人口高齢化や失業問題、世界的な IT 技術の発展、将来の EU 拡大等に対応すべく、 2000 年 3 月のリスボン・サミットでは、2010 年を目標に EU を「世界で最も競争力のあるダイナ ミックな知識基盤型経済にする」ことを掲げた「リスボン戦略」が合意された。これまでの主な進 捗状況は、次のとおりである。 A.1999 年以降、600 万以上の雇用を創出。長期失業率は 1999 年の 4%から 2002 年は 3%に減少 した。 B.複数の枢要な市場が完全に、または一部競争原理のもとに市場開放された。具体的には通信、 鉄道、航空、郵便事業、電気及びガスが市場開放された。 C.知識基盤型経済は現実のものになりつつある。学校でのインターネット普及率は 93%に達し、 事業所、官公庁、家庭での普及率も向上した。 D.持続的開発に向けた取組みは政策決定に斟酌されるようになっている。複数の加盟国で年金制 度改革や高齢化問題への対応が着手された。 E.リスボン戦略開始から 4 年で、約 100 の規則、指令およびプログラムが採択された。 「リスボン戦略」では、2010 年までに EU 全体で就業率を 70%、女性は 60%、高齢者 50%にそ れぞれ増加させることが目標に掲げられている。また、IT 政策と研究開発の推進や雇用政策、社会 政策、経済政策のポリシーミックスによる包括的な方針が打ち出されている。IT 政策に関しては、 これまで対応が遅れていた IT の普及、推進を盛り込んだ「eヨーロッパ行動計画」が承認された。 「リスボン戦略」は、毎年 3 月のサミットでフォローアップしていくこととされている。2004 年 3 月のブラッセル・サミットでは、高齢者や女性の就労率の引き上げ、年金、健康保険制度の改革、 技術革新等の分野で改革が遅れていることを指摘し、また研究投資に関しても官民ともに伸び悩ん でいることを明らかにした。このため、リスボン戦略達成のためには、法制度面の一層の改善、よ り効率的な域内市場の創設、研究開発への投資の拡充、環境対策に繋がる効率的なエネルギー利用 の推進、女性・高齢者を始めとした一層の雇用創出に向けた必要な対策を講じるよう、各国および 関係機関に求めた。特に雇用創出については最優先課題として各国政府のほか企業の労使双方への 協力を呼びかけた。リスボン戦略の中期的な見直しに向け、ウィム・コック元オランダ首相を座長 にした高級レベルの独立作業部会による報告書が取りまとめられる予定であり、これを基に欧州委 員会は 2005 年春の EU サミットで状況を報告する見通しである。 「ダボス会議」の主催者として知られる世界経済フォーラム(スイス・ジュネーブ)は、2004 年 5 月に EU と米国の競争力の比較調査をまとめたが、情報社会の先進度や技術革新の速さなどで 米国を上回ったのは、EU25 カ国中でフィンランド、デンマーク、スウェーデンの北欧 3 カ国だけ であるとし、EU 全体では米国に遅れを取っていると指摘している。同会議は EU は情報社会、技 術革新、起業といった分野に特に注力し、米国にキャッチアップすべきだと提唱している。 35 財団法人 国際金融情報センター [表 20]リスボン戦略進展状況 2003 年 3 月 サミット前 経済 一人当たり GDP(米国=100) 実質 GDP 成長率 雇用 就業率 2004 年 3 月 サミット前 上位三カ国 数値 目標値 71.2 1.1 72.2 0.8 101.3 2.9 64.1 64.3 74.6 女性就業率 55.6 56.0 69.3 高齢者就業率 研究開発 研究開発費支出 GDP 比 教育 学校中退者割合 終身学習参加者割合 インターネット普及率 家庭用 事業用 政府調達 EU 官報掲載入札割合(GDP 比) ベンチャーキャピタル 設立支援(GDP 比) 事業拡張支援(GDP 比) 政府補助金 政府補助金 GDP 比 社会参加 貧困者層割合(社会保障分配後) 38.8 40.1 59.8 1.9 2.0 3.4 18.5 8.5 18.1 9.7 9.3 24.8 38.9 79.7 45.1 84.2 58.2 96.9 2.48 2.67 4.53 ‐ 0.029 0.081 0.021 0.088 0.058 0.162 ‐ ‐ 0.73 0.75 0.55 ‐ 15 15 11 2010 年 2005 年 2010 年 2005 年 70 67 60 57 2010 年 9.4 ‐ (出所)ユーロスタット (チ)環境政策 A.総論 環境政策は、アムステルダム条約により EU の政策分野として採り入れられ、現在では、EU の 全ての政策で環境への配慮がなされることとされている。EU 加盟国には環境政党が連立与党に参 加している国もあり、市民の環境に対する関心も高い。 2001 年 6 月のイェーテボリ・サミットでは、 「持続的な成長」に関する協議が行われ、2001~2010 年を対象とする「第 6 次環境行動計画」が採択されたほか、環境政策が「リスボン戦略」に加えら れた。同行動計画では、気候変化、自然保護と生物多様性、環境と健康、天然資源と廃棄物の 4 つ の分野に重点が置かれている。 B.京都議定書と温暖化ガス 地球温暖化防止に関する京都議定書については、EU は離脱を表明した米国抜きでも発効させる ことに積極的であり、EU は 2002 年 5 月末に京都議定書批准を終えている。EU は、京都議定書の 枠組みにおいて、2008∼2012 年までに地球温暖化ガスの放出を 1990 年の水準を基準に 8%削減す ることを求められており、これを達成するためのプログラム(ECCP)を実施しているほか、2002 年 12 月の環境相理事会で、EU 域内の企業を対象とした地球温暖化ガスの排出量取引市場を設立す ることで合意した。当面の対象は二酸化炭素(CO2)に限定されており、対象は製鉄所やセメン ト工場、発電所等 CO2 の排出量が多い事業所で、これら事業所の排出量に上限を設けることとし、 超過企業には罰金を課す。2005 年より試行的に実施し、2008 年の本格運用を目指している。 2004 年 7 月 7 日に欧州委員会は、オーストリア、ドイツ、イギリス、デンマーク、アイルラン ド、オランダ、スロベニア、スウェーデンの 8 カ国に関する排出権枠の割当計画を承認した。今回 36 財団法人 国際金融情報センター 承認された割当計画は 2005−2007 年に関するもので、関係企業の施設への排出枠が割当されてい る。該当施設は 8 カ国合計で 5,137、排出権の CO2 総量は 28 億 7,960 万トンとなっている。国別 ではドイツが最大で施設数は 2,419、CO2 総量は 14 億 9,700 万トンとなっており、これにイギリス の施設数 1,078、CO2 総量 7 億 3,600 万トンが続いている。一方で、欧州委員会は同日、ギリシャ とイタリアに対して、未だに計画が提出されていないとして第一回目の文書による警告を発したこ とを明らかにした。また合わせて、オーストリア、ドイツ、フランス、スウェーデンと新規加盟 10 カ国を除く EU 加盟国に対し、排出権取引が国内法に完全に反映されていないとして最終の警告文 書を発したことも明らかにした。この排出量取引市場の創設により、EU 各国で地球温暖化ガスの 削減余力の大きい国の分を域内他国に回し、EU 全体の数値を調整することも可能になる。なお、 2004 年 7 月 15 日に EU 環境庁(EEA)が発表した内容によると、新規加盟国を除く EU15 カ国に おける温室効果ガスの排出量は、2000 年、2001 年と連続して前年対比で増加していたが、2002 年 は EU 平均で見た場合前年対比で 0.5%の減少に転じた。なお京都議定書に定める基準年である 1990 年と比較した場合は、EU15 カ国全体で 2.9%の減少となっている。 C.その他 欧州委員会は 2003 年 10 月 29 日、化学製品の規制を強化する新規則案を公表した。同案は既存 の指令・規則に取って代わるもので、今後欧州議会と閣僚理事会に送付、議論される予定であり、 2006 年の採択を目指している。新規制案の柱は欧州内で製造・販売される化学製品を対象に登録・ 評価・認可を行うリーチ(Reach)と呼ばれるシステムの導入で、年間 1 トン以上の化学製品を製 造、もしくは輸入する企業は、このデータベースへの登録が義務付けられる。これにより化学製品 のリスクの評価改善、有害物質管理の厳格化が期待されるとしている。産業界の負担増加への反発 に対処するため、草案と比較して手が加えられており、化学産業が本規制案に対応するための直接 的な費用は今後 11 年間で 23 億ユーロ程度と、当初試算の 2 割程度に抑えられている。 また、家電リサイクルと有害物質規制についても導入を決定している。家電リサイクルに関する 指令(WEEE 指令)では、廃家電・電子機器を製品群にわけ、再生率(70%、80%)とリサイク ル率(50%、75%)の目標を定めた。また有害物質規制(RoHS 指令)では、家電・電気製品への 鉛や水銀などの重金属など 6 物質の使用を禁止する内容となっており、それぞれ 2005 年 8 月、2006 年 7 月より施行される予定である。ただし、これらの指令の各国国内法への導入期限は 2004 年 8 月 13 日であったが、期限までに国内法への導入を済ませ、その旨欧州委員会に通知したのはギリ シャ 1 カ国のみとなっている。 37 財団法人 国際金融情報センター Part Ⅱ.ユーロ圏経済の動向 1. EU 経済とユーロ圏経済 単一通貨ユーロを採用する 12 カ国は、一つの経済圏として「ユーロ圏」を形成している。ユーロ 圏では、ECB による単一金融政策が実施され、各構成国の指標を総合した全体指標が用いられてい る。 以下の本セクションでは、ユーロ圏全体指標をもとにユーロ圏経済を概観する。ギリシャの EMU 参加が 2001 年 1 月であったことから、原則的に、2000 年末までの全体指標は同国を除く 11 カ国に ついてのものである(2000 年末以前の指標であってもギリシャを含んでいる場合は注記する) 。な お、全体指標は大国の状況をより強く反映するものとなっており、例えば、ユーロ圏全体に対する 各国 GDP の割合は[表 22]のとおりである。 [表 21]EU 及びユーロ圏の経済規模 EU 人口(百万人) GDP(十億ユーロ) 1 人あたり GDP(ユーロ) 454 9,700 21,310 ユーロ圏 306 7,228 23,490 (参考)米国 291 9,621 33,120 (参考)日本 127 3,825 29,860 (出所)人口と GDP は世銀の「World Development Indicators July 2004」。ユーロ/ドルは 2003 年平均値である 1 ユーロ 1.131 ドルで換 算。一人あたり GDP は欧州委員会経済財政総局ホームページ、2003 年。 [表 22]ユーロ圏及び各構成国の名目 GDP(2003 年) (単位:十億ユーロ、%) ドイツ フランス イタリア スペイン オランダ ベルギー オーストリア ギリシャ フィンランド ポルトガル アイルランド ルクセンブルグ ユーロ圏計 2,123 (29.4) 1,546(21.4) 1,296(17.9) 739 (10.2) 452 (6.3) 267 (3.7) 222 (3.1) 153 (2.1) 143 (2.0) 132 (1.8) 132 (1.8) 23 (0..3) 7,228 (100.0) 参 考 英国 スウェーデン デンマーク ポーランド チェコ ハンガリー スロバキア スロベニア リトアニア キプロス ラトビア エストニア マルタ 1,587 266 188 185 76 73 28 23 16 10 9 7 4 (出所)世銀「World Development Indicators July 2004」。ユーロ/ドルは 2003 年平均値である 1 ユーロ 1.131 ドルで換算。 ( )内は、ユーロ圏全体の GDP に対する各国のシェア 2.経済成長 ユーロ圏経済は、1998∼2000 年に平均 3%弱の経済成長を遂げた。これは 92∼97 年の平均成長 率と比べて約 2 倍のペースに相当する。雇用拡大にともなう所得の増加や規制緩和等による低イン フレを背景に個人消費が堅調であり、また、企業経営者の楽観ムードや 90 年代初頭以来の高水準に 達した設備稼働率等を背景に活発な設備投資が行われた。アジア等で起きた金融危機の影響により 98 年後半からは一時的に輸出の伸びが鈍化したものの、その間も内需が一貫して経済成長を支えた。 2000 年は、世界的な需要拡大とユーロ安によって輸出が非常に好調となった。年後半は、インフレ昂 進を主因として個人消費が減速したものの、 同年の実質 GDP 成長率は 10 年ぶりの高水準である 3.4% を記録した。しかし、2001 年は、2000 年末からの米国をはじめとした世界的な景気減速の影響で、輸 出の伸びが頭打ちとなったことなどから設備投資にブレーキがかかり、年後半にかけて個人消費の伸 び悩みも鮮明になったことから、ユーロ圏の実質 GDP 成長率は 1.5%に低下した。 2002 年は米国経済の回復が遅れ、当初は年後半に向けて拡大していくと見込まれていたユーロ圏 経済の回復も弱いものとなった。賃金の伸びの鈍化や高失業率の結果民間消費に回復が見られず、 インフレ率も下がらなかったことから購買力を減退させ、内需は弱いものに留まった。輸出は内需 に比較すれば成長に貢献したものの、世界経済の低迷とユーロ高の昂進を受け 2001 年度に比較して 低調に推移、特に 2002 年第 4 四半期は 0 成長に留まった。この結果 2002 年後半に入り経済回復は 失速、2002 年のユーロ圏の実質 GDP 成長率は 0.9%に留まった。 38 財団法人 国際金融情報センター 2003 年は、為替相場におけるユーロ高が進んだことなどにより、特に上期は輸出が低迷したほか、 先行き不透明な環境の中、内需も低迷、企業の投資や個人消費も低い水準に留まり、第 1 四半期は ゼロ成長、第 2 四半期はマイナス成長となった。ただし米国と始めとする世界経済の回復を受け、 下期は輸出セクターを中心に回復の兆しを見せ、経済は底打ちした。この結果ユーロ圏の実質 GDP 成長率は 0.4%、EU 全体の実質 GDP 成長率は 0.8%となった。ユーロ圏ではドイツ、オランダ、ポ ルトガルで通年でマイナス成長となったが、スペインやギリシャでは堅調な経済成長を達成した。 [表 23]実質 GDP 成長率の推移(前年(前期比) (注 1) 2000 GDP 成長率 民間消費支出 政府消費支出 総固定資本形成 在庫変動 内需計 輸出(注 2) 輸入(注 2) 2001 3.5 2.7 2.1 5.0 0.2 2.9 12.3 11.0 1.6 1.8 2.5 0.0 -0.3 1.0 3.4 1.7 2002 2003 0.9 0.5 3.0 -2.8 -0.2 0.4 1.5 0.3 03Q2 0.5 1.0 2.0 -0.8 0.1 1.2 0.1 1.9 03Q3 -0.1 0.0 0.5 -0.1 0.1 0.0 -0.8 -0.3 03Q4 0.4 0.2 0.7 0.1 -0.3 -0.1 2.3 1.0 (単位: %) 04Q1 2004 0.4 0.2 0.4 0.8 0.2 0.8 0.3 1.4 2005 (予測) (予測) 1.7 1.6 1.2 2.4 0.1 na 4.9 5.0 2.3 2.3 1.3 3.6 0.2 na 5.9 6.6 0.6 0.6 -0.2 0.2 0.2 0.4 1.5 0.9 (注 1)四半期指標は季節調整済み。 (注 2)財およびサービスの取引。ユーロ圏構成国間の取引も含む。 (出所)EUROSTAT、欧州中銀、欧州委員会秋季経済見通し 景気回復が遅れていたドイツやフランスでは、輸出の伸び等に支えられ企業投資にも改善が見ら れており景気は回復しているほか、2003 年度堅調な経済成長を見せたギリシャやスペイン等では引 き続き内需が旺盛に推移したことから、ユーロ圏経済の回復基調は 2004 年に入りより鮮明なものと なっている。2004 年第 1 四半期の GDP 成長率は 0.6%、第 2 四半期は速報ベースで 0.5%の成長率 となった。2004 年下期もユーロ圏を取り巻く外需を始めとする環境に大きな変化はなく、景気は引 き続き緩やかに回復すると見られている。ただし各国で進む社会保障制度改革等を受け個人消費は ドイツを中心になお弱いほか、急騰する原油価格はユーロ圏はもちろん、主要貿易相手国である米 国や中国におけるインフレ率を引き上げる可能性もあり、景気が下ぶれするリスクは残っている点 に留意が必要である。 [表 24]景気関連指標(月毎および四半期毎指標は季節調整済み) 景況感指数(注 1) 鉱工業生産指数(注 2) 小売売上高指数(注 2) 経営者景況感指数(注 3) 消費者景況感指数(注 3) 設備稼働率(注 4) 8 9 10 11 12 04/1 2 3 94.3 96.2 97.0 98.9 97.2 98.5 98.9 98.8 1.4 -0.6 -0.3 1.4 0.0 0.2 -0.3 0.4 0.2 0.3 0.7 na 0.7 -0.7 0.4 0.9 -1.9 0.6 2.2 -1.3 -0.6 1.4 -2.2 1.8 2002 2003 03/7 99.5 95.1 94.7 -0.6 0.4 0.1 0.2 -12 -10 -14 -11 -9 -8 -6 -8 -6 -7 -7 -4 -5 -4 -11 -18 -18 -17 -17 -17 -15 -16 -15 -14 -14 -14 -16 -14 2002 2003 81.2 80.7 03Q3 80.3 Q4 80.9 04Q1 80.5 4 100.2 5 6 100.3 99.7 Q2 80.6 (注 1) 1995=100。(注 2)単位:前年(月)比%。 (注 3)景気に関する質問について「良い」とする回答のパーセンテージから「悪い」とする回答のパー センテージを差し引いた指数。 (注 4)単位:%。 (出所)欧州委員会経済財政総局 主要機関による 2004 年の成長率予測は、多少のばらつきがあるものの、概ね 1.7%内外となって おり、この半年で大きな修正はなされていない。力強い外需を背景に輸出セクターを中心に企業投 資も順調に推移しており、銀行セクターの構造改革もあって企業融資に積極的な姿勢を示している ことも、企業の投資活動の促進に繋がっている。欧州委員会秋季経済予測では 0.1∼0.2%程度の実 質 GDP 成長率の上方修正もあり得るとの見解も聞かれる。2005 年はユーロ圏における景気牽引の 主役は徐々に内需にシフトしていくものと予想されている。しかし原油や鉄鋼等の価格上昇、構造 改革に起因する消費者の将来への不透明感、ユーロ高、企業のリストラによる高止まりする失業率 等は景気回復を遅らせる要因と認識されており、2005 年の実質 GDP 成長率は 2.3%程度に留まるも のと予想されている。 39 財団法人 国際金融情報センター [表25]実質 GDP 成長率予測 2004 欧州委員会 IMF OECD ECB (単位:%) 2005 1.7 1.7 1.6 1.8 2.3 2.3 2.4 2.1 出所 欧州委経済見通し(2004/4) IMF 世界経済見通し(2004/4) OECD 経済見通し(2004/6) ユーロシステムのスタッフによるマクロ経済予測(2004/8) (出所)ECB8 月月報、および各機関ホームページ 3.物価・賃金 2000 年 6 月以降、消費者物価指数(HICP)上昇率は一貫して前年同月比 2%を上回って推移、石 油価格の上昇やユーロ安の進行に加え天候不順や狂牛病等の流行による食品価格の上昇も物価押上 要因に加わり、2001 年 5 月のピーク時には、1993 年の統計開始以来最も高い前年同月比 3.4%に達 した。2002 年に入ってからも、年初に厳冬の影響や間接税引上げ、およびユーロ導入に伴う便乗値 上げ等があったことにより、HICP 上昇率は高止まりし、2%を上回る水準が続いた。2003 年は年初 イラク戦争を受け石油価格が高騰、2∼3 月は 2.4%と高い水準で推移したが、イラク戦争の早期終 結、ユーロ高の昂進から輸入物価が低下したことから、5 月には 1.9%と、2002 年の 6 月以来ほぼ 1 年ぶりに ECB がターゲットとしていた 2%を下回った。その後夏場に欧州を襲った熱波の影響によ る食料品値上がり、ベネズエラやナイジェリアといった産油国の政情不安、一部諸国で間接税の見 直しがあったことを受け、2003 年 8 月以降再び 2%を超える伸びとなった。2003 年後半からは個人 消費の低迷によりサービス分野での価格上昇が鈍化したこともあり、2004 年に入り再び 2%台を割 り込み、3 月までこの水準が続いた。しかし 4 月以降石油価格が徐々に昂進し、これに伴いインフ レ率は 4 月に再び 2.0%に、5 月は一気に 2.5%にまで達した。石油価格の上昇による交通費の値上 がりの要因が大きいが、その他一部諸国でのタバコ税の引き上げ、社会保障制度改革による医療費 等の支出の増加も物価上昇要因に繋がった。石油価格が依然高い水準にあることから、今後数ヶ月 間のユーロ圏におけるインフレ率は 2%を上回る水準で推移するものと見込まれている。 景気の低迷から賃金の上昇は抑制的なものに留まっている。ドイツでは労使合意により賃上げを 抑制する一方で、雇用時間を延長する動きが相次ぐなど、賃上げより雇用を重視する傾向が強まっ ており、名目賃金上昇率は低下が鮮明になっている。2004 年における賃金の上昇率は前年度を下回 る水準になると予想されている。 2001 2.3 2002 2.3 2003 2.1 03/8 2.1 9 2.2 10 2.0 11 2.2 12 2.0 04/1 1.9 2 1.6 3 1.7 4 2.0 ( 単位:%) 5 6 7 2.5 2.4 2.4 2.1 0.0 1.4 1.3 1.1 0.9 1.4 1.0 0.3 0.0 0.4 1.4 2.4 2001 2.6 2002 2.2 2003 2.0 [表26]物価関連指標(前年同期比) HICP 上昇率 生産者価格指数 上昇率 名目賃金上昇率 03Q2 2.5 Q3 2.3 03Q4 1.6 2.4 04Q1 0.9 (出所)EUROSTAT、ECB Monthly Bulletin 4.雇用 1997 年に 11%を超えていたユーロ圏の失業率は、2000 年末までに 8.5%へ大きく低下した。その 間に約 1 千万人の雇用が生み出された計算で、80∼90 年代を通じて最もめざましい雇用の改善であ った。特に 99 年からの景気拡大局面では、多数の新規雇用が生み出された。しかしながら 2002 年 以降はユーロ圏経済の低迷により雇用情勢は低迷、2003 年後半以降景気は回復局面を迎えているも のの、企業は雇用の拡大には慎重であり、ドイツを中心に従業員の労働時間を柔軟にすることで対 応を図っている。被雇用者数増加率は 2004 年第 1 四半期は前年同期比 0.1%に留まっている。内訳 では製造業、建設業ではマイナスとなった一方、サービスセクターではプラスとなった。2004 年第 2 四半期も改善は望めないと見込まれるが、企業マインドは徐々に好転しており、2004 年下半期は 雇用情勢の改善が期待できるとされている。なお、欧州委員会春季予測ではユーロ圏全体の失業率 を 2004 年は 8.8%、2005 年は 8.6%と予想している。 40 財団法人 国際金融情報センター na [表27]雇用関連指標 失業者数 失業率(注 1) 被雇用者数 増加率(注2) 2001 2002 2003 03/7 8 9 10 11 12 04/1 2 11.09 8.0 2001 11.81 8.4 2002 12.53 8.9 2003 12.30 8.8 12.30 8.8 12.32 8.8 12.34 8.8 12.34 8.8 12.32 8.8 12.60 8.9 12.63 8.9 1.4 0.5 0.1 (単位:百万人、%) 3 4 5 12.68 8.9 12.72 9.0 12.72 9.0 03Q2 Q3 Q4 04Q1 0.2 0.1 0.2 0.1 6 12.74 9.0 (注 1)四半期指標は季節調節済み (注 2)前年(同期)比 (出所)ECB Monthly Bulletin 5.金利・為替 (1)ユーロ紙幣・硬貨の導入 ユーロ導入の最終段階として、2002 年 1 月 1 日より各国通貨に代わり、ユーロ紙幣・硬貨の流通 が開始された。新旧通貨の併用期間(国によって 6∼8 週間)終了後に、旧通貨の法貨としての性格 が失われた。一部諸国では旧自国通貨のうち硬貨の両替のサービスの最終期限を迎えつつあり、ベ ルギーでは 2004 年 12 月末、フランスでは 2005 年 12 月末に、硬貨のユーロへの両替を終了する。 ユーロはその導入から 3 年目を迎えているが、確実にその地位を固めつつある。2004 年上半期の 市中でのユーロ流通量は、前年同期と比較し金額で 20.3%、紙幣の枚数でも 10.5%の増加となって おり、景気の回復によるもののほか、ユーロの認知が高まるに従い、紙幣での貯蔵や、ロシア等の 域外諸国での流通が増加していることも理由の一つとして指摘されている。 最近、少額硬貨(1 セント、2 セント)の取扱いが各国で話題となっている。フィンランドでは少 額硬貨は、既にユーロ流通開始の段階から使用されていない。また、オランダでも小売業者連盟が その売上代金集計の煩雑さを避けるため、その小売価格を極力 5 セント単位にするとの方針を明ら かにしていたが(2003 年 10 月 31 日) 、オランダ国内の銀行、小売店、消費者の代表からなる合同 協議会(MOB)では、2004 年 9 月 1 日より、店頭での支払いの際、代金を 5 セント単位で四捨五 入してもよいとの合意が成立した。同国のスーパーマーケット連合も 9 月 1 日より同方式を導入す ることを決定しており、今後オランダでも少額硬貨は流通の場から姿を消すことが見込まれる。ベ ルギーでもレンデルス財務相が 1 セント、2 セント硬貨の製造を 2005 年より中止する意向を表明し たほか、ドイツでも議論が起こっている。実際原料費の値上がり等により、1 セント硬貨の鋳造費 は額面の 2 倍近いとされており、各国中銀にも少額硬貨廃止のメリットは大きい。なおオランダや ベルギーでは、現在流通している 1 セント、2 セント硬貨は引き続き受け取ることとしている。 (2)金利 ・株価 ユーロ圏では、短期金利については、ECB による単一金融政策の下で、同一の金利に基づく一方、 長期金利については、ユーロ圏各国毎に長期国債市場が存在するという特殊な金利構造を持つ。 先ず短期金利については、M3 の増加とともに輸入品価格の上昇等でインフレ懸念が強まるなか、 ECB は 99 年 11 月から 2000 年 10 月にかけて政策金利を合計 225bp 引き上げた。2000 年末頃から は、景気の翳りが指摘されるようになり、2001 年 5 月に 25bp の利下げを行ったのを始め、2001 年 11 月 5 日までに政策金利を合計 150bp 引き下げた。 2002 年に入ってインフレ率は徐々に低下する一方、年後半にはドイツを初めユーロ圏各国の景気 回復の遅れが鮮明となったことから、12 月 6 日に 50bp の利下げが行われ、ついで 2003 年 3 月に 25 bp、6 月に 50 bp の利下げが行われた。2003 年下半期は景気が回復に向かっているとの判断に加 え、英中銀の利上げ(2003 年 11 月 6 日)もあり、一時は ECB の利上げを予想する向きもあったが、 ユーロ高が昂進したこともあり、利上げは見送られた。2004 年に入ると、ユーロ高が年初急速に進 んだことから、ドイツやフランスの政財界から競争力維持のため利下げを求める声も上がったもの の、3 月以降は為替相場は落ち着く一方、ユーロ圏経済の回復が見られたことから ECB は金利を据 え置いた。原油価格の高騰や一部加盟国におけるタバコ税の引き上げ等から 4 月以降インフレ率が ジリジリと上昇、ECB がターゲットとしている 2%を上回ったが、こうした特定要因を取り除いた 実勢ベースでの物価はなお落ち着いており、当面は政策金利の変更はないとする意見が支配的であ る。現行の金利水準は、メイン・リファイナンシング・オペ(条件付債券売買)最低入札金利が 2.00%、 限界貸出ファシリティと預金ファシリティがそれぞれ 3.00%、1.00%となっている。 41 財団法人 国際金融情報センター [表28]M3 増加率(前年同期比、3 カ月移動平均) 03/3 8.2 4 8.4 5 8.5 6 8.5 7 8.3 8 8.6 9 8.0 10 7.7 11 7.5 12 7.0 04/1 6.6 2 6.3 3 5.9 (単位:%) 4 5 5.5 5.2 (出所)ECB Monthly Bulletin 長期金利(事実上、ドイツ国債が指標銘柄となっているが、ここではユーロ圏各国の 10 年国債金 利の GDP 加重平均による数値を用いる。 )についても、安定した値動きになっている。2003 年夏以 降、景気の回復見通しが強まる中、長期金利は米国マーケットを追う形で上昇に転じ、2003 年 12 月初旬には 4.5%程度にまで上昇したが、その後 3 月までは米長期金利の低下に引きづられる形で低 下、さらにユーロ高による欧州債人気や利上げ観測の後退もこうした動きを後押しした。ただ 3 月 中旬以降、堅調な経済指標が続く中、米国長期金利は再び上昇に転じたことから、ユーロ圏の長期 金利も再び上昇に転じた。ただしドイツを中心に個人消費をはじめ内需の回復は緩やかなものに止 まっているほか、原油高による景気下ぶれリスクも懸念され、その上昇は米国長期金利に比べ緩や かなものになった。その後は、ユーロ圏の景気が引き続き回復する一方で、利上げも当面ないとの 観測から、長期金利は安定した動きになっている。 [表29]金融指標(期中平均) オーバーナイト金利 (注 1,4) 3 カ月物金利(注 2,4) 10 年国債利回り (注 3,4) 株価指数(注 5) 2001 2002 2003 03/10 11 12 4.39 3.29 2.32 2.01 1.97 2.06 4.26 3.32 2.33 2.14 2.16 5.03 4.92 4.16 4.31 336.3 259.9 213.3 225.5 04/1 2 3 4 5 6 7 2.02 2.03 2.01 2.08 2.02 2.03 2.07 2.15 2.09 2.07 2.03 2.05 2.09 2.11 2.12 4.44 4.36 4.26 4.18 4.02 4.24 4.39 4.44 4.34 233.9 239.4 250.6 253.9 250.2 254.9 244.4 249.8 245.2 5 1.201 134.5 6 1.214 132.9 (注 1)EONIA (注 2)EURIBOR (注 3) ユーロ圏 GDP 加重平均 (注 4)単位:% (注 5)EURO STOXX (出所)ECB Monthly Bulletin (3)為替 [表30]為替相場(期中平均) ユーロ/ドル相場 ユーロ/円相場 03/1 04/1 1.062 1.261 126.1 134.1 2002 2003 0.946 1.131 118.1 131.0 04/Q1 1.250 134.0 Q2 1.205 132.2 04/3 1.226 133.1 4 1.120 129.1 7 1.227 134.1 (出所)ECB Monthly Bulletin ユーロの為替相場は、通貨統合の実現に対する期待感から当初高めに評価されたこともあって、 99 年のユーロ導入以降、主要通貨に対して低下傾向が続いた。2000 年 9 月には日米欧通貨当局の 協調介入が実施されたものの、10 月末には 1 ユーロ/0.83 ドルの最安値をつけた。その後も 1 ユー ロ/0.90 ドル前後で安定的に推移してきたが、2002 年1月下旬以降は、ドルに対して強含みで推移 し、対円でも、2000 年秋に最安値をつけた後に反転した。2002 年 6 月後半からは対ドルで急ピッ チでユーロ高が進み、2002 年 7 月半ばにはユーロ/ドルが一時的にパリティ(等価)を回復、その 後若干弱含んだが、2002 年 11 月には再びパリティを越え、2003 年に入ってもそのまま上昇した。 2003 年 6 月の ECB 利下げや米国経済回復に対する期待感等からユーロの騰勢は一服したが、その 後米国の巨額な経常収支赤字への懸念や、頻発するテロ等の不透明な国際情勢を受け、ユーロは再 び緩やかに上昇し、12 月 1 日に 1 ユーロ=1.20 ドルを突破したあとは上昇の度合いを速め、2004 年 1 月 12 日には欧州市場で 1 ユーロ=1.2899 ドルを記録した。こうした中 ECB が一層のユーロ高 への警戒姿勢を強めたこともありやや反落、2 月に再び上昇したものの、その後はユーロ圏経済の 回復が米国経済の回復に比べ遅れているとの認識もあってユーロは対ドルで急速に調整が進み、4 月には一時 1 ユーロ 1.2 ドルを割り込んだ。ユーロ圏経済は引き続き回復しているが、なお米国経 済が好調さを維持していること、米国が 6 月末と 8 月 10 日に政策金利をそれぞれ 25bp 引き上げた ことにより、ユーロ圏との短期金利の差が縮小していることもドルを底堅いものとしており、現状 42 財団法人 国際金融情報センター 対ドル為替レートは落ち着いた値動きとなっている。 6.国際収支 (1)ユーロ圏の状況 2001 年、2002 年は、輸入の伸び悩みによる貿易黒字の拡大やサービス収支の黒字化等により、経 常収支は改善した。2003 年も、この傾向に大きな変化はなく、内需の低迷により輸入は伸び悩んだ ことから、1,000 億ユーロを超える貿易黒字を確保、経常収支は黒字となった。 直接投資は 99 年代後半より、米国企業部門の好調さに吸引される形で欧州からの旺盛な投資がみ られたが、2002 年以降はユーロ圏経済が振るわず、域内企業はリストラに努め大規模な対外投資を 控えたこともあり小幅な出超に留まった。2004 年第 1 四半期において、直接投資の出超が若干増え ているが、主な理由は、域外企業がそのユーロ圏に持つ子会社と行った資金の貸借によるものであ る。 証券投資についても、ユーロ圏の投資家は 2000 年まで IT 関連を始めとした株式や米国債・社債 向け投資を積極的に行っていたため、出超が続いていたが、2001 年は域外からの資金引上げの動き が鮮明となり入超となった。これは米国経済の減速、9 月に発生した同時多発テロ事件の影響等に より、同国を中心とした外国証券が売却されたものである。2002 年もこの傾向は続き大幅な入超と なった。2003 年は、第 3 四半期に出超に転じているが、これは 7 月と 8 月に非居住者による債券の 売り越しが見られたことによるものである。ただ米国経済を中心に世界経済の回復が鮮明になるに 従い、域外への投資は徐々に活発化しつつあり、2004 年 1 月∼5 月では、2 月を除きいずれも出超 になっている。 [表31]国際収支 経常収支 貿易収支 輸出 輸入 サービス収支 所得収支 経常移転収支 資本収支 うち直接投資 うち証券投資 2001 -16.7 73.6 1,033.9 960.2 -0.4 -38.6 -51.4 -34.2 -112.4 67.9 2002 54.5 133.6 1,063.2 929.7 13.1 -44.1 -48.1 -65.8 -4.7 114.6 2003 24.9 108.5 1,036.2 927.7 15.6 -43.4 -55.9 -50.5 -13.1 17.6 (単位:十億ユーロ) 03Q3 03Q4 04Q1 11.5 17.3 13.3 36.8 30.7 28.1 257.1 271.4 265.1 220.2 240.7 237.1 3.7 4.3 -2.6 -9.4 -5.0 -5.2 -19.6 -12.7 -7.0 -0.6 -3.6 -14.0 -19.1 -9.6 -28.9 -59.1 10.5 5.2 (出所)ECB Monthly Bulletin (2)日本との経済関係 70 年代から 90 年代前半にかけては日本と EU の間には貿易紛争が見られたが、94 年以降、両当 局間で行われている規制改革対話等の影響により、現在の経済関係は比較的良好である。 ユーロ圏から見て、日本は主要な貿易相手国であるが、近年アジア諸国では中国が台頭、輸入先 としては 2002 年に日本を抜いており、輸出先としても 2003 年に日本を抜いた。ユーロ圏から見た 日本は、2003 年で、輸入先としては英国、米国、中国に次いで第 4 位、輸出先としては英国、米国、 スイス、中国に次ぎ第 5 位となっている。日本からの主な輸入品目は事務用機器、映像機器、自動 車、化学光学機器などで、日本への主な輸出品目は医薬品、有機化合物、事務用・医療用機器や自 動車(特にベンツや BMW 等の高級自動車等)となっている。食料品もおよそ1割を占めている。 ユーロ圏から日本への投資は、平成 13 年度を除き日本企業による対ユーロ圏投資がユーロ圏企業 による対日投資を上回っている。平成 15 年度には、オランダ向けの投資が英国向け投資を上回り、 欧州向けとしては最大となった。これはその立地条件や外資誘致策によるものである。平成 15 年度 の対ユーロ圏向け直接投資では、オランダの 7,764 億円を筆頭に、フランス 1,765 億円、ドイツ 784 億円、ベルギー500 億円と続く。ユーロ圏による対日直接投資では、やはりオランダの 3,164 億円 を筆頭に、ドイツ 1,326 億円、アイルランド 1,018 億円、ルクセンブルク 469 億円と続いている。 なお 2004 年 5 月 26 日には、英ボーダーフォンが、その日本における子会社であるボーダーフォン ㈱(旧 J-フォン㈱)への出資比率の引き上げを検討していることが報道されている。 43 財団法人 国際金融情報センター [表32]日本との貿易取引 2000 34.5 67.3 -32.8 日本への輸出 日本からの輸入 対日貿易収支 2001 34.5 58.5 -24.0 2002 33.0 52.7 -19.7 2003 31.2 52.1 -20.9 (単位:十億ユーロ) 2004Q1 2003Q1 8.4 7.7 13.3 13.3 -4.9 -5.6 (出所))ECB Monthly Bulletin [表33]日本との直接投資 対日投資 対ユーロ圏投資 (単位:十億円) 平成 11 年度 平成 12 年度 平成 13 年度 平成 14 年度 平成 15 年度 1,284 410 919 606 654 1,499 435 784 1,251 1,147 (出所)日本国財務省 以 上 44 財団法人 国際金融情報センター
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