チリワイン Seña セーニャ 全 16 ヴィンテージの垂直試飲会 満月の夜のセーニャ・ヴィンヤード 10 月末、チリを代表するワインの一つ、「セー ニャ Seña」の全 16 ヴィンテージ(ファースト リリース 1995 から直近のリリース 2010 まで) 肥と、バイオダイナミック調剤を土壌に与えるこ である。この時、エドゥアルドもワイナリー再興 とで、土中の微生物の棲息数が圧倒的に増え、 に加わっている。エドゥアルドは 1985 年にボ 窒素含有量が安定し、葡萄の根が健全になり、 ルドーに留学し、エミール・ペイノーに師事し を試飲するイベントが開かれた。これはセー 樹の免疫力が高まる。土壌が活性化することで た。新しい葡萄栽培とワイン造りの手法を実地 ニャの畑に新しくバイオダイナミック ・ センター 葡萄の根が土中深くまで伸び、そこからさまざ で体験して帰国したのである。 が竣工したのを機に、世界各地でセーニャを まなミネラルを掴んで葡萄果に蓄積させる。自 1991 年、カリフォルニアのロバート ・ モン 販売している人々を集めて開催されたもの。 然環境をきちんと保全することができて初めて、 ダヴィが初めてチリを訪れた。その時、エドゥ 品質の高い葡萄を後の世代まで収穫し続けるこ アルドはロバート ・ モンダヴィと親しくなり、そ エドゥアルド・チャドウィックとカリフォルニア とができることを、バイオダイナミック農法はわ れから「ナパに出むいてずいぶん勉強させても のロバート・モンダヴィが 1995 年に共同で造 れわれに教えてくれる」という。 らった」という。 り始めたセーニャ ・ ヴィンヤードに新しくバイ バイオダイナミック ・ センターの開設はセー 1995 年に両家のジョイント ・ ヴェンチャー オダイナミック ・ センターがオープンした。セー ニャの今後の進展を保証してくれる重要な出来 「セーニャ」がスタートする。セーニャはスペ ニャの敷地内に建設されたこの施設は、バイオ 事のようだ。 イン語でシグナル、シグネチャーを意味する。 この事業は二つのファミリーのシグネチャーに ダイナミック農法を実施するに当たって必要な 堆肥や各種の調剤(プレパレーション)類を エドゥアルド ・ チャドウィックは首都サンティ よって動き出した。「セーニャ」のファースト ・ 自前で作るためのもの。ここにはバイオダイナ アゴの北 100km に位置するアコンカグア・ヴァ ヴィンテージは 1995 年で、この年の葡萄はエ ミック調剤に使うハーヴ類の菜園が併設されて レーにエラスリス ・ ヴィンヤードを経営してい ラスリス・ヴィンヤードからていねいに選抜さ いる。 る。エラスリスの初まりは 1870 年。エドゥア れたものだった。 「伝統農法にビオディナミの考え方を併せた ルドの祖先が当時、不毛の地だったアコンカグ その後、 太 平 洋 岸から 41km 内 陸に入っ 耕作法とは、注意深く自然を観察しながら自然 ア ・ ヴァレーに葡萄畑を開拓したことに始まる。 たアコンカグアのオコアに 350ha の 北 向き のサイクルと宇宙のリズムについて学ぶことで その後、フィロキセラ禍のヨーロッパへ輸出す 斜面を購入し、これをセーニャ専用畑とした。 ある。とりわけ耕作地における植物相と動物相 ることでワイン産業は栄え、チリ国内のワイン 1999 年に葡萄樹を植栽。土壌は小石混じりの の相互作用に細心の注意を払いながら生物の 消費もピーク時には一人当たり 80 ℓに達した。 ローム層。少し表土をいじると中から大きな石 多様性と繁殖のサイクルをしっかり守ることが エラスリスも同時に繁栄の時を過ごした。しか がたくさん顔をだしたという。 大切だ」と、セーニャの栽培担当者は考えて し世界恐慌、二つの世界大戦、それに続くチ セーニャの畑は初めからサステイナブル農法 いる。だからバイオダイナミック ・ センターも リ国内の動乱でワイン産業はすっかり寂れてし を採用してきた。つまり周囲の自然をそのまま 畑の一角を割き、周囲に無理なく馴染むように まった。 維持し、畑を拓いた斜面にはナチュラル ・ コリ 建設されている。 エラスリスの再興を手掛けたのは、エドゥア ドーが設えてある。敷地面積 350ha のうち葡 「葡萄畑由来の有機物と動物の糞で作った堆 ルドの父・アルフォンソだった。1983 年のこと 萄畑はわずか 42ha。あとは手つかずの自然 22 を維持している。栽培品種はカベルネ ・ ソー ヴィニヨン、メルロ、カルメネール、カベルネ ・ フラン、プティ・ヴェルド、マルベック。ボル ドー品種のみ、しかも本家ボルドーの畑からな くなってしまったカルメネールを加えた 19 世紀 のボルドーの再現である。 2003 年はロバート ・ モンダヴィがセーニャ を訪れた最後の年になった。モンダヴィの倒産 で 2004 年にセーニャはエドゥアルド ・ チャド ウィックの単独所有へと切り替わった。 「あの時わたしはセーニャをボブへのオマー ジュのつもりで一人で経営しようと決めた」とエ ドゥアルドは振り返る。そして 2005 年、耕作 法にビオディナミ農法を採用した。 セーニャ・16 ヴィンテージ・ヴァーティカル・ テイスティングは醸造責任者のフランシスコ・ バエティグが指揮した。 16 ヴィンテージを試飲すると、ワインが幾つ かのエポックを語りかけてきた。ひとつは葡萄 の出所である。エラスリスが他のワイナリーに 先駆けてチリで初めて急峻な斜面に葡萄畑を拓 いたのは 1993 年のこと。私が初めてエラスリ スを訪ねた年でもある。ボデガの向かいの斜面 には植えたばかりの樹が並んでいた。チリでは それまで誰もがヴァレー ・ フロア(平地)の葡 萄でワインを造っていた。 だからセーニャ 「1995」 「1996」はエラスリスの平地の葡萄だけで造っ ている。「1997」から少しずつエラスリス ・ ヒ ルサイド ・ ヴィンヤードの葡萄がブレンドされて いった。そしてセーニャ自前の葡萄で造るのは 「2003」以降だと思われる。もしかしたら初め の頃はセーニャとエラスリスのブレンドかもしれ ない。試飲した感じでは「2007」以降はオコ アの畑の葡萄だけで造っていると思えた。 二つめはカルメネールの発見である。 「1995」 と「1996」を比べるとおもしろい。「1995」は メルロとカルメネールを 30%使っているが、ま セーニャ 16 ヴィンテージとエドゥアルド・チャドウィック セーニャ 16 ヴィンテージ・ヴァーティカル・テイスティング 1995 CS70% M&Car30% Alc13.0% 14 か月樽熟成 ドライハーヴ&フレッシュハーヴ、スモーキーでやや アニマル。フルーツが凝縮している。少し粗い感じ のタンニン、フレッシュでタバコのノート。 2004 CS51 M35 Car6 CF5 PV3 Alc14.5 18 か月 赤いフルーツ、スパイス、バルサミック。とてもやさ しいアタックで比較的おとなしい丸くなりつつあるタ ンニン。口中にアルコールを感じる。 1996 CS91 Car9 Alc12.7 15 か月 メントール、ドライ ・ ハーヴ。チョコレート、タバコ、 ドライ ・ フルーツ。この年はカベルネ ・ ソーヴィニ ヨンのブレンド割合が最も多い。やや軽めのボディ、 滑らかで丸いタンニン。複雑味。 2005 CS57 M25 Car9 CF6 PV3 Alc14.3 18 か月 フラワリーでバルサミック、スパイス、あとから熟し たフルーツの香り。穏やかで滑らかなアタック、力 強いワイン。後口に少し苦味がある。 1997 CS84 Car16 Alc14.7 16 か月 ペパリー、ドライ ・ フルーツ、スパイス、ドライ ・ ハー ヴ。厚みがあって複雑。後口にチョコレートのよう な甘さがあって少し乾く感じ。 1998 CS90 Car5 M5 Alc13.8 16 か月 熟成香、湿った下草の香り、ハーヴ、リコリス。滑 らかでシルクのような舌触り。きれいな酸味、余韻 が長くて心地よい。 1999 CS75 M16 Car9 Alc14.2 15 か月 ほんのりミント。ドライフルーツとドライハーヴ。や や粗いタンニン、パワフルで凝縮している。 て 30% になっている。しかし「1996」以降は、 2000 CS77 M17 Car6 Alc14.0 18 か月 フレッシュ ・ フルーツ、甘いスパイス、生のハーヴ。 やさしいアタック、舌ざわりは優しく丸い。口中にフ レッシュフルーツ、大きなポテンシャルを感じる。未 だ若い。非常に長い余韻。 カルメネールとメルロそれぞれのブレンド比率 2001 CS75 M15 CF6 Car4 Alc14.3 18 か月 だ両者は畑で分別されていなかったので 併せ を明記している。畑できちんと選り分けて収穫 し始めたからだ。 発見当時のカルメネールには未熟果が多 スパイシー、ドライハーヴ、ドライフルーツ、リコリス、 シーダー。パワフルでヴィヴィッド。がっちりした構 成と厚み。余韻長い。 2002 CS70.4 M19.8 Car9.8 Alc14.0 18 か月 晩熟品種なのだが、当時はまだ正確な収穫の 黒いフルーツ、カシスが中心のアロマ。アタックは 果物の熟した甘さ。しっかり凝縮しているがまだ収 斂するタンニンが残る。歯茎に纏わりつく感じ。ま だ固い印象。 タイミングを掴んでおらず、どのワイナリーでも 2003 CS52 M40 Car6 CF2 Alc14.5 18 か月 かった。カルメネールはボルドー品種の中で最 「このミントのような青さがカルメネールの特 徴だ」と言って憚らなかった。「1996」のアロ フラワリー、フレッシュハーヴ、リコリスなどの甘い スパイス。アタックは甘く、熟した甘さが口中に広が る。インテンス。アルコールの甘さと強さを感じる。 2006 CS55 M16 PV13 Car10 CF6 Alc14.5 18 か月 フラワリー、ドライハーヴ、赤いフルーツ、黒いフルー ツ、とてもエレガントで複雑なアロマ。アタックはと ても優しく、フレッシュでラブリー、ミッドパレットに 強さがあって滑らかなタンニンと酸のバランスがす ばらしい。余韻も長く、このワインが最も印象的だっ た。 2007 CS57 Car20 M12 CF6 PV5 Alc14.5 22 か月 花の香り、赤いフルーツ、スパイス。口中は凝縮し ていてややバルサミック。後口にまだ少し粗さが残っ ている。 2008 CS57 Car20 M10 PV8 CF5 Alc14.5 22 か月 フレッシュなハーヴ、若々しいフルーツのアロマが 中心。穏やかで滑らかなタンニン、少し控えめな感 じがする。造りのせいかヴィンテージのせいか。酸 味がとてもきれいだ。 2009 CS54 Car21 M16 PV6 CF3 Alc14.5 22 か月 フレッシュ ・ フルーツ(赤いもの、黒いもの)少し バルサミック。まだタンニンが若くて角が立っている 感じが残るがポテンシャルは大きい。後口に少し甘 苦さ。 2010 CS59 Car21 M12 CF4 PV4 Alc14.0 22 か月 甘いスパイスの香り、フレッシュフルーツとほんのり 生のハーヴの香り。しっかり凝縮している。口中に もフレッシュフルーツが感じられるほど若い。ミドル パレットに力があって、樽のタンニンがまだ統合さ れていない感じではあるが潜在力は極めて大きい。 2007 年から始まった新しいスタイルが確立された感 じがする。 CS =カベルネ ・ ソーヴィニヨン、M =メルロ、Car =カルメネール、 CF =カベルネ・フラン、PV =プティ ・ ヴェルド、Alc =アルコール分、 熟成はすべてフレンチオーク樽 マに青いニュアンスがあるのはそのせいだ。そ 23 アコンカグア ・ コスタのアルボレダ・ヴィンヤード の後、徐々にカルメネールの的確な収穫タイミ らわずか 12km、年間平均気温 14℃、年間降 醸造実験でテラスより斜面に垂直に畝を作った ングが捕まえられるようになり、今では胡椒の 雨量 350mm、つねに海からの風が吹いてい ほうがよりよい葡萄ができることが分かったの アロマのよく熟したカルメネールが使われてい る。1,000ha にも及ぶ土地は海岸山脈の一部 で、テラスは初期植栽の一部の区画に留まっ る。 なので、いくつかの丘陵が入り組んでいる。平 ているのだという。植樹密度は畝幅 1.8 m× 三つめはワインメーカーの個性だ。16 ヴィ 均標高は 200 m。ここをアルボレダ・ヴィンヤー 樹間 1 m。 ンテージは終始一貫してエドゥアルド ・ チャド ドと名付け、2005 年にソーヴィニヨン・ブラン、 アコンカグア・コスタは冷涼地ではあるがカ ウィックが関与している。しかし、実際に造る シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーを植えた。 サブランカのような遅霜の被害はない。涼しさ のはワインメーカーだ。2003 年まではロバー 最近、 この地域は DO アコンカグアのサブ・リー はレイダとカサブランカの中間にあたるという。 ト ・ モンダヴィとのジョイント ・ ヴェンチャーだ ジョン、DO アコンカグア・コスタに認証された。 アルボレダの醸造責任者カロリーナ・エレラ から、カリフォルニアからブレンドの決定に大 ちなみに DO アコンカグアのサブ・リージョン と 3 本のボトルを試飲した。 きく関与する人が来ていたのだろう。それと確 には他にカサブランカ、レイダがある。 ① 2012 ソーヴィニヨン ・ ブラン この年は平 か 2006 年まではカリフォルニア生まれのエド 今回、アルボレダの畑に出かけて懐かしい 年より少し暖かかった。トマトの葉、アスパ ワード・フラハティがワインメーカーを務めて 人と出くわした。栽培担当のカルロス・カラス ラガス、柑橘類などのアロマ。スキンコンタ いた。だから カリフォルニア風 だったといえる。 コだ。カルロスとはかつて彼がコルポラのビオ クトはしていない。5か月間のシュール・リー。 一方、現ワインメーカーのフランシスコ・バ ビオ・ヴァレーでピノ・ノワールを栽培してい アロマのヴォリュームがとても多い。ほんの エティグはチリ大学を卒業しボルドー大学で修 た時に会って話を聞いた。今年の 5 月からヴィ り甘さのセンセーション。金属的ではないき 士課程を終えた。その後、ボルドーやラングドッ ンヤード・マネジャーとしてアルボレダに赴任 りっとした酸味。複雑な味わい。 ② 2011 シャルドネ まず樽香。バター・スコッ クなどフランスでのワイン造りの経験が長い。 したのだという。 しかも夫人はフランス人だ。「2007」以降、殊 カルロスはアコンカグア ・ コスタがビオビオ チ。とてもクリスピーな口当たり。ホールバ 「2009」 「2010」の三つのヴィンテー に「2008」 にとてもよく似ているという。 ンチ・プレス、フレンチオークで熟成、新樽 ジからはフランシスコが大きく関与していただ 「チャドウィックは葡萄樹を植栽する前にこの は使っていない。味わいは果実の要素と樽 ろうことが見てとれる。近くで試飲していた人が 地の土壌分析をした。すると粘土が多く砂が混 の要素が統合されている。根はシストの層 「なんだか地中海のニュアンスがある」とつぶ じっていて心土を構成する岩石は変成岩で火 まで達しているが、今後さらに深くまで入る やいていた。ボルドー品種を飲んで地中海のよ 山岩はない。新植した樹の半分は接木をした とワインには徐々にミネラル・キャラクター うだというのも如何なものかと思うが、それで ものだ。接ぎ木をしたのはフィロキセラ対策で が増えてくるという。2010 年は平年より少し も言いたいことはよく分かった。つまりそれまで はない。台木に接いだ方が根が土中深くまで のヴィンテージが力強く厳格なスタイルである 食い込むからだ。 のに対して、この三つは比較的やさしく丸くバ 最も暖かい北向きの斜面にはシラーを、午 ランスがとれているからだ。試飲ワインの詳細 後の日差しの当たる西向き斜面にはシャルドネ 涼しく、2011 年は冷涼でパーフェクトな年。 2012 年は比較的暖かかった。ワイン全体の 60%をワイルド・ファーメント。 ③ 2011 ピノ ・ ノワール ウイルスフリーのク は別掲した。 を、南西斜面にはピノ ・ ノワールを、そして南 ローン。パーセル毎に仕込み、オープントッ 面する区画にはソーヴィニヨン・ブランを植え プのタンクでパンチダウン。30 %ワイルド・ アルボレダ・ヴィンヤード た。土地の総面積 1000ha の 25%にだけ植樹 ファーメント、30 %新樽。フルーツ、ミネ エドゥアルド・チャドウィックは冷涼な栽培地 して、残りは手つかずの自然を維持している」。 ラル、花の香り。口中はフルーティでクリス を探していた。そして彼が白羽の矢を立てたの アルボレダの畑を見回っていると、斜面の一 ピー。ややスモーキーな印象。やさしいタン はアコンカグア・ヴァレーの中で最も海に近い 部にテラス(段々畑)の区画がある。ここには ニン。少しアルコールを感じる(アルコール 手つかずの土地チルウエだった。太平洋岸か ピノ ・ ノワールが植えられているが、その後の 分 14%)。 24 ◆
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