フラッシュメモリ起動ネットブック c

フラッシュメモリ起動ネットブック c-Learning 環境の運用事例
鳥羽商船高等専門学校 ○桐山和彦,香川高等専門学校
白石 啓一,松江工業高等専門学校 原 元司,奈良工
業高等専門学校 本間 啓道,北九州工業高等専門学校 白濱 成希,津山工業高等専門学校 岡田 正
1
はじめに
フラッシュメモリの低価格化により大容量の USB メ
モリや SD メモリカードが容易に入手できるようになっ
てきた.現在,USB メモリおよび SD カードの容量は
それぞれ 256 GB,128GB に達し,ビット単価は 52.8
円/GB,43.7 円/GB となっている注 1) .これは HDD
ビット単価注 2) に比べ約 2.2 倍であるが,物理メディ
アのサイズを考慮すれば十分な価格対投資効果がある.
また,性能に関しても仕様上の転送速度は HDD に及
ばないものの,ランダムアクセスを多用するプロセス
においては却ってアクセス性能が良いこともあり実際
の業務においては十分な速度を確保できる.
一方,近年ノート PC はミニノート化かつ低価格化
の傾向が進み,3 万円台で入手できるようになってき
た.最新のネットブックは Intel Atom プロセッサを載
せたものが標準となり,OS およびアプリケーションを
インストール・設定する作業も機種毎に変更する手間
がなくなった.また,これらのネットブックに共通し
ているのはデフォルトで SD カードスロットが付いて
おり,さらに BIOS でフラッシュメモリからのブート
が選択できるようになっている.SD カードに,必要な
OS およびアプリケーションを全て詰め込んでブータ
ブルなシステムを構築し,ネットブックに挿入して立
ち上げれば即座に必要な環境を入手することができる.
これはユーザが HDD に OS やアプリケーションをイ
ンストールする手間を省くだけでなく,オプショナル
な環境に対応した SD カードを複数用意すればユーザ
は非常に簡単に所望の環境に変更できるという大きな
メリットを持つことになる.筆者等は教材開発システ
ムとして c-Learning システム 1) を利用しているが,こ
れは OSS なアプリケーションを組み合わせた環境であ
り,エンドユーザが構築するにはかなりの Unix の知
識を必要とする.そこで,c-Learning 環境を構築した
SD カードを予め作成し,それを配布すれば教材開発
者の開発環境を容易に確保できる.今回,c-Learning
作業環境用のブータブル SD カードを作成し,複数機
種のネットブック上で実際に教育現場において利用し
たのでその結果について報告する.
注 1) 3,000
円 近 辺 の 最 も 最 安 値 の も の (USB,SD そ れ ぞ れ
64GB/3380 円,64GB/2,799 円) について 平成 24 年 6 月 6 日
価格.com 調べ
注 2) 160GB の SATA ディスク (SEAGATE ST3160215ACE,
3.480 円) について 平成 24 年 6 月 6 日 価格.com 調べ
2
オープンソースリムーバブルデスクトップ環境
(ORDE) について
オ ー プ ン ソ ー ス リ ム ー バ ブ ル デ ス ク トップ 環 境
(ORDE) とは,OS からアプリケーションに至るまで
全てオープンソースソフトウェア (OSS) で構成され
た Unix ベースな環境をフラッシュメモリ上に構築し
たものである.実際に構築した環境は,教材作成支援
システム (c-Learning システム) として構築されてい
る.システムは SmarDoc コンテンツ作成用のエディタ
(XEmacs),コンテンツ作成支援環境 (sdoc-mode.el),
PDF, HTML 変換トランスレータ (sdoc) およびこれ
らが必要とするツール類 (pLaTeX, xdvi, dvipdfmx,
JDK) から成る.この他,一般的なデスクトップ環境で
必要なターミナル (KTerm),ブラウザ (FireFox),オ
フィスツール (OpenOffice) などを含む.利用した OS
およびアプリケーションは全て OSS で構築されたもの
であり,総ソフトウェア本数 436 本,総容量 4.5 GB と
なっている (表 1 参照). 今回 SD 環境作成には 32 ビッ
表 1 c-Learning 環境の構成
区分
名前
FreeBSD
9.0-STABLE,
10.0-CURRENT
コンテンツ作成 XEmacs
SmartDoc
pLaTeX
xdvi
dvipdfmx
jdk
インターネット FireFox
Wget
オフィスツール OpenOffice
その他
R
OS
種類
i386, amd64
エディタ
XML トランスレータ
文書作成
TeX プレビュア
PDF トランスレータ
Java
ブラウザ
FTP クライアント
ワードプロセッサ等
統計処理
ト (i386) 用に EeePC 1002HA,64 ビット (amd64) 用
に EeePC X101H を使用した. インストールした SD
カードは i386,amd648 共に 32 GB の SDHC を利用
した.これらの PC ではデフォルトでは Windows 起動
の設定になっているため適当なブートローダーをイン
ストールする必要がある.ここでは MBM2) を利用し
た.ファイルシステムは UFS2 でソフトアップデートを
有効にして高速化チューニングを行なっている.一方,
SD へのインストールについてはインストールメディア
の取得から SD へのインストールまでを自動的に行な
う mkmemfbsd.sh スクリプト 3) を用いた.メディアの
フェッチを除き約 1 時間 でインストールできる (EeePC
X101H 2GB メモリ,32 GB SDHC).mkmemfbsd.sh
は FreeBSD 9.0-*および FreeBSD 10.0-CURRENT 上
で動作し,インターネットの接続の設定さえ行なえば
追加アプリケーションのインストール等は一切行なう
表 2 ORDE ネットブック種別一覧
機種
BIOS
CPU
Dell Inspiron 910
Phoenix A03 Atom N270
HP Mini 1009TU
AMI 2.61
Atom N270
EeePC 1002HA
AMI 0403
Atom N270
EeePC 1001HA
AMI 2.58
Atom N270
EeePC 1001PXD
AMI 2.58
Atom N455
EeePC X101H
AMI 0503
Atom N570
EeePC X101CH
AMI 2.13.1215 Atom N2600
HP Mini 110-4100 Insyde F.01 Atom N2600
メモリ 有線 無線 SD USB mslot Xdrv MBM kbd 発売年 定価 (円)
1 GB re NA ×
○
○
intel
○
○ 2008.9
57,980
1 GB msk NA ○
○
○
intel
○
○ 2009.1
49,980
1 GB ale ath ○
○
○
intel
○
○ 2009.1
52,800
1 GB alc ath ○
○
○
intel
○
○ 2010.2
33,143
2 GB alc NA ○
○
○
intel
○
○ 2011.1
28,381
2 GB alc ath ○
○
○
intel
○
○ 2011.10
29,373
1 GB alc ath ○
○
×
?
×
? 2012.3
25,342
1 GB re NA ×
○
×
?
×
? 2012.4
22,994
必要はない.
3
ORDE 利用の実際
c-Learning SD カードは卒業研究の学生用 PC およ
び専攻科実験用に利用している.それぞれの主な利用用
途と利用アプリケーションについて表 3 に示す.本研
表 3 c-Learning SD カードの利用
講義名
卒業研究
専攻科実験
おわりに
ネットブック利用して SD ブート可能な Unix 作業
環境 c-Learning SD システムを作成した.c-Learning
SD カードは mkmemfbsd.sh スクリプトで簡単に作成
することができる.実際に利用した結果,HDD と比べ
遜色ない作業環境であることを確認できた.本環境は
HDD での作業環境を基本的にそのまま SD にコピー
したものであり,HDD 上での環境を完全に SD カー
ド上で実現できたことになる.
一方,初期動作が遅いこと,BIOS の変更および
ブートローダーのインストールが必要であること,
mkmemfbsd.sh を実行するには FreeBSD な環境が必
要なことなどはエンドユーザにとって少々敷居が高い
条件である.前者の SD メディアおよび BIOS/ブート
ローダーに関する条件は今後の技術革新により解決さ
れる可能性が見込めるが,後者の mkmemfbsd.sh の実
行環境については Windows や Mac OS X 上での対応
するアプリケーションの開発が必要になる.この件に
関しては今後の開発者に期待したい.
4
人数
用途
6 論文作成・発
表,各種実験・
テスト,その
他
6
主要アプリ
KTerm,
XEmacs,
SmartDoc,
FireFox,
OpenOffice
仮 想 ネット KTerm
ワ ー ク 実 (Vimage
験 (Vimage カーネル)
Jail)
備考
EeePC
HP
Mini,
EeePC
究室では全ての学生に EeePC を購入させ,c-Learning
用 SD を SD カードスロットに常時挿入させた状態で
使用させている.基本的に全ての作業は FreeBSD 上で
行なっているため,SD の使用頻度はかなり多い.専攻
科実験では FreeBSD 8.0-RELEASE で実装された仮
想ネットワークインターフェース (Vimage Jail)4) を用
いてネットワーク構築の実習を行なった.Vimage jail
はデフォルトではサポートされていないため VIMAGE
オプションを追加して再構築したカーネルを使用した.
SD での使用状況は HDD に比べほぼ遜色ないパフ
ォーマンスであるが 5) ,最初に実行するアプリケーショ
ンの起動時間が極端にかかることがある.これは SD
固有の問題 6) および SD ではハードウェア上のディス
クキャッシュが無いという要因から起因するもので主
記憶の容量を増やせばかなり改善する.また,IPSJ の
報告 7) において,ルートファイルマウント時の誤認識
および BIOS の SD 認識の不備を指摘したが,これら
は OS のブートローダーの改善によって解消された.
表 2 に 7 種類のネットブックについて今回作成した
c-Learning 用 SD で起動した結果を示す.市販されて
いるほとんどのネットブックについて ORDE が利用で
きる.ただし,内蔵無線 LAN が利用可能な機種が限
定される.また最新の機種 (N2600 以降) ではメーカー
独自の BIOS を利用するメーカーが多く,ブートドラ
イブが選択できなかったりブートマネージャーをイン
ストールできない場合がある.なお,CPU が N450 以
降で 64 ビットモードで動作可能なので amd64 版が利
用可能である.
参考文献
1) 桐山 和彦 他:オープンソースコンテンツによる教
育環境の整備, 第 72 回全国大会講演論文集,Vol.1,
pp.923–924, 情報処理学会 (2010).
2) ChaN: マルチ・ブート・マネージャ(MBM),
http://elm-chan.org/fsw/mbm/mbm.html.
3)
Make memory image FreeBSD in SD card or
USB card, CVSROOT=
:pserver:[email protected]:/home/tcvs,
mkmemfbsd.sh.
4) 後藤 大地:FreeBSD 8.0 最新機能 実践編−ネット
ワークスタック仮想化 Vimage の構築−. Software
Design 2009.12, pp.122–133, 技術評論社 (2009).
5) 桐山 和彦 他:SD 起動ネットブック c-Learning 環
境の構築とその利用, 高等専門学校情報処理教育研
究発表会論文集第 30 号,pp.183-185(2010).
6) Flash SSD,
http://ja.wikipedia.org/wiki/Flash SSD.
7) 桐山 和彦 他:オープンソースリムーバブルデスク
トップ環境の構築システム, 情報処理学会第 73 回
全国大会講演論文集,Vol.1,pp.215-216(2011).