電池のしくみ

電池のしくみ
山王
□
対象学年(関連教科)
中学校第3学年(理科
□
憲雄(広島学院中学・高等学校)
③第一分野の化学的内容)
課題の設定理由
現在の中学校学習指導要領理科編では,第一分野の学習内容に「(6)化学変化とイオ
ン」がある。この中の「ア
水溶液とイオン」の項目中に「(ウ)化学変化と電池」の学習内
容が,「(ア)水溶液の電気伝導性」「(イ)原子の成り立ちとイオン」に続いて取り上げら
れている。
この「化学変化とイオン」全般の学習内容の目標は,化学変化についての観察・実験を通
して,水溶液の電気伝導性や中和反応について理解させるとともに,これらの事物・現象をイ
オンのモデルと関連付けてみる見方や考え方を養うとされている。そして,「化学変化と電
池」の学習目標は,電解質水溶液と2種類の金属などを用いた実験を行い,電流が取り出せる
ことを見い出すとともに,化学エネルギーが電気エネルギーに変換されていることを知ること
とされている。
中学校学習指導要領解説理科編では学習目標として,実験から,電池では物質がもってい
る化学エネルギーが化学変化によって電気エネルギーに変換されていることを理解させること
や,電池の電極での電子の授受をイオンのモデルで表し,電極で生じた電子が外部の回路に電
流として流れることを理解させることと指摘している。そして,日常生活や社会において,乾
電池,鉛蓄電池,燃料電池など様々な電池が使われていることに触れることとしている。
□
重視する学習活動
(1)日常生活などにおいて,懐中電灯や携帯電話,ゲーム機器などのコードレスの電気機器
用の直流電源として,マンガン乾電池のほかに様々な電池が用いられていることを知る。
(2)電解質水溶液と2種類の金属などを用いて電池を作り,電池の基本的な仕組みを理解す
る。電池において,各電極における化学変化によって物質の化学エネルギーが電気エネル
ギーに変換されていることを理解する。
(3)実用電池には,マンガン乾電池のほかに様々な電池があり,一次電池や二次電池に分類
されることを知る。二次電池は充電できる電池であり,エネルギーの有効利用の一つであ
ることを理解する。これ以外に燃料電池があることを知る。
□
エネルギー・環境教育の視点
電池は,化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置である。
電池の開発の歴史からは,単位体積や単位質量あたりの取り出せる電気エネルギーが大きい
電池や,環境に負荷を与えない電池が開発されてきている。
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現在,廃棄された実用電池は分別され,一次電池は一般廃棄物(不燃ゴミ)に,小型二次電
池や自動車の鉛蓄電池はリサイクル廃棄物とされている。
□
時間数
2時間程度
□
学習活動のステップ
時
小単元名
1
電池の基本的な仕組み
2
色々な実用電池
□
学習内容・活動・教師の支援など
学習指導案
1時間目
展開
導入
電池の基本的な仕組み
学習内容・活動
学習方法・教材
教師の支援・留意点
・どんな電池をどこで使 生 徒 に 質問を し て 答えさ 同じ種類の電池でも,形の
ったか
せる。
異なるものがある。
・電池の種類を意識した 実 物 を 提示し て 興 味を抱
ことがあるか
かせる。
展開1 ・マンガン乾電池の構成 マンガン乾電池の構成図や ア ル カ リ マ ン ガ ン 乾 電 池
を知る
材料物質を提示し,各部の は,外形が同じでも構成や
名 称 と 使 用 方 法 を 知 る 。 性能が異なる。
展開2 ・電池の基本的な仕組み
ボルタ電池の作成
演 示 実 験に示 し た ボルタ ボルタ電池は,初めて発明
電 池 , 果物電 池 , アルミ された電池である。ボルタ
身近な材料を使った電 箔 ・ 炭 素電池 を 観 察し, 電池とアルミ箔・炭素電池
池の作成
各 電 極 の 反 応 を 理 解 す の違いを考えさせる。
電池は化学エネルギー る。
を電気エネルギーに変
換する装置である
2時間目
展開
色々な実用電池
学習内容・活動
学習方法・教材
教師の支援・留意点
展開1 ・電池の開発の歴史と実 プ リ ン トを利 用 し て,電 電池の負極では電子を失う
用電池
池 の 歴 史を学 習 す る。鉛 変化が起こり,正極では電
放電と充電
蓄 電 池 の演示 実 験 を例に 子 を 受 け 取 る 反 応 が 起 こ
一次電池と二次電池
し て , 充電の 操 作 と意味 る。
燃料電池
を 理 解 する。 一 次 電池と
二 次 電 池の例 を 知 り,燃
料電池の仕組みを知る。
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展開
学習内容・活動
学習方法・教材
教師の支援・留意点
展開2 ・廃棄物が環境に負荷を 水銀電池の生産中止や,水 水銀や水銀化合物は有害物
与える電池の生産中止
銀 ゼ ロ 使用の 乾 電 池類が 質である。
使 用 さ れてい る こ とを知
る。
展開3 ・電池の廃棄とリサイク 一次電池は一般廃棄物(不
ル
燃ゴミ)とされるが,小型
二 次 電 池や鉛 蓄 電 池は回
収 さ れ ,含ま れ る 金属が
再 資 源 化され る こ とを知
る。
まとめ
□
解説と留意点
(1)現在使用されている電池類
身近では,懐中電灯などにマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池が使用されており,
それらの形は主に円筒形で,単1から単4の大きさがある。
家電量販店などの電池コーナーでは,マンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池のほか,
リチウム電池,酸化銀電池,空気亜鉛電池,ニッケル・水素電池,リチウムイオン電池が
販売されており,その形には円筒形のほか,ボタン形,コイン形,角形,平形などがある。
これらの電池は懐中電灯のほかに小型ラジオ,
ラジカセ,リモコン,デジカメ,デジタルビ
デオカメラ,補聴器,ノートパソコン,携帯
電話,時計,電卓,ゲーム機などに使用され
ている。これ以外に自動車のバッテリーとし
て鉛蓄電池が,ハイブリッドカーにはニッケ
ル・水素電池やリチウムイオン電池が使用さ
れている。家庭用の一部電源に燃料電池が使
用されている。
市販している電池類
(2)マンガン乾電池の構成
身近にある最も安価な乾電池はマンガン乾電池である。1個のマンガン乾電池の電圧
(正確には起電力,公称電圧)は 1.5V であり,懐中電灯などの断続的な使用に適すると
言われる。マンガン乾電池は歴史が古く,これまで構造や構成物質に改良が加えられて現
在に至っている。
マンガン乾電池の構成は下図のようになっている。一般に実用電池(使用されている電
池)の構成は,表面に正極端子と負極端子をもったケースの中に,次のものが入れられて
いる。
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①正極活物質(正極になる,電子を受け取る物質)
②負極活物質(負極になる,電子を失う物質)
③電解質(水溶液やのり状水溶液,イオン伝導性の媒質)
④セパレータ(正極活物質と負極活物質が混ざらないようにする膜で,中に電解質溶
液を含む)
⑤集電体(電子を供給する,あるいは受領する電子伝導体で,電極端子に接続され
る)
(注)現在の販売数は,マンガン乾電池よりもアルカリマンガン乾電池の方が多くなって
いる。その名称はよく似ているが,構造や構成物質が異なっていることに注意したい。
(3)ボルタ電池と電池の基本的な仕組み
1800 年,ボルタは塩化ナトリウム水溶液や希硫酸のような電解質溶液に亜鉛板と銅板
を入れると電池になることを見い出した。その電池はボルタ電池と呼ばれている。
・演示実験・・・ボルタ電池の作成
希硫酸に亜鉛板と銅板を接触しないように入れ,
導線で太陽電池用のモーターに接続すると,モー
ターの羽根が回転する。このことから,電池が形
成されることが分かる。
この時,導線に電流が流れ出す銅板を「正極」
と言い,導線から電流が入り込む亜鉛板を「負
極」と言う。電流の流れる向きは電子が流れる向
きと逆であるので,負極の亜鉛板表面では亜鉛イ
ボルタ電池
オンが電解質溶液に溶け出して,その結果生じた
電子が正極に向かって流れ出す。この電子の流れがモーターを回す。正極では,水溶液中の水
素イオンが電子を受け取って水素原子となり,銅板上で水素分子となる。各電極の変化によっ
て,それらの付近の水溶液中に亜鉛イオンが増えたり,水素イオンが減少したりするので,生
じた電荷の変化が打ち消されるように電解質溶液中のイオンが移動する。
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(注)電池の負極・正極は,接続した電圧計の針の向きによって判断できる。
ボルタ電池の亜鉛板や銅板上の変化を化学反応式で表すと,次のように表される。
(負極,亜鉛板)
(正極,銅板)
Zn
2H
+
→
Zn2+
+
2e-
+
2e-
→
H2
電池の反応は,負極で電子を失う反応(酸化反応)が起きて,その電子を導線に流し,正極
で電子を受け取る反応(還元反応)が起こる。ボルタ電池の反応は,亜鉛が水素分子よりも電
子を失いやすいから起こると言えるし,また,銅極の電位が亜鉛極よりも高いので,電子が亜
鉛極から導線を通って銅極に移動すると言える。電解質溶液の希硫酸中のイオンが移動するこ
とによって,一つの電気回路を閉じさせる役目をもっている。しかし,これらの説明は中学校
3年生の段階では理解が難しいと思われるので,原子,イオン,分子をモデルで表す工夫が必
要である。
ボルタ電池の構造や反応(化学反応式)が簡単で分かりやすいようだが,実際は簡単ではな
い。亜鉛板や硫酸はまだ残っているのに,モーターは回転速度を落とし,ついには回らなくな
る。この理由は次のように説明される。導線を電子(あるいは電流)が流れると,銅板上で生
成した水素分子が銅板の表面に密に付着して,溶液中の水素イオンが直接銅板から電子を受け
取る反応が起こりにくくなる。その結果,導線を流れる電流の強さが減少し,また,亜鉛板と
銅板との間の電圧も低くなってしまうためである。具体的には,ボルタ電池の電圧は約1V で
あるが,電流が流れると約 0.4V に低下する。
亜鉛と銅の組み合わせでなく,反応性の異なる二種の金属を希硫酸のような電解質水溶液に
浸しても電池となる。
(4)演示実験・・・身近な材料を使った電池の作成
①果物電池,野菜電池
レモン,グレープフルーツ,トマトなどをカットして,亜鉛板と銅板を接触しないよう
に差し込み,亜鉛板と銅板を導線で太陽電池用のモーターに接続すると,モーターの羽根
が回転する。モーターの羽根を回転しやすくするためには,浸している極板の面積をなる
べく大きくし,極間距離をなるべく短くする。また,電池を何個か直列に接続すると,電
果物電池
アルミ箔・炭素電池
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圧が増加してモーターの羽根は回転しやすくなる。これとは別に,レモンなどの果汁を
ビーカーなどの容器に取り,亜鉛板と銅板を浸しても電池が形成される。
レモンなどの果汁には,クエン酸などの弱電解質の有機酸が含まれており,電解質溶液
として機能している。したがって,上の果物電池や野菜電池はボルタ電池の一種と言える。
②アルミ箔・炭素電池
木炭の中で堅くて電気伝導性がよいものに「備長炭」がある。棒状の備長炭に,飽和食
塩水で湿らせたキッチンタオルを巻き付け,その上にアルミ箔を巻き付ける。この備長炭
とアルミ箔を導線で太陽電池用のモーターに接続すると,モーターの羽根が回転する。羽
根が回転しにくい場合には,何個かのアルミ箔・炭素電池を直列に接続する。
この電池の電極反応は,次のように推定される。
(負極,アルミ箔)
Al
(正極,備長炭)
O2
→
+
Al3+
2H2O
+
+
3e-
4e- →
4OH-
このアルミ箔・炭素電池では,ボルタ電池と異なって負極のアルミニウムが電子を失い,
正極にある酸素(空気中の酸素)が電子を受け取る。この電池をしばらく使用すると,負
極のアルミ箔に小さな穴がたくさんできて,腐食されたようになるので,確かにアルミニ
ウムが反応したことが分かる。飽和食塩水で湿らせたキッチンタオルは,実用電池におけ
る電解質溶液を含んだセパレータに相当する。厳密な比較ではないが,アルミ箔・炭素電
池はボルタ電池よりもモーターの羽根を長く回転させる。アルミ箔・炭素電池は,負極の
金属や電解質が異なるが,正極で酸素が電子を受け取っているので,実用電池の空気亜鉛
電池に似ている。
(5)電池の開発の歴史と実用電池
①電池開発の歴史
電池開発の歴史は,1800 年にボルタがボルタ電池を発明した時から始まる。ボルタ電池
は正極に水素が発生して電圧が減少するので,現在使用する実用電池には適さない。その
後,正極に水素が発生しない正極活物質,負極活物質,電解質溶液の新しい組み合わせが
考案されて実用電池の開発が進んだ。ダニエル電池は,亜鉛板と銅板を素焼きで仕切られ
た硫酸亜鉛水溶液と硫酸銅(Ⅱ)水溶液にそれぞれ浸したものである。ペルリが 1854 年に
和親条約締結のために来日した時,将軍家に献上したものの中にダニエル電池を使った通
信機があったと言われる。このダニエル電池も実用電池としては使用されていない。
表 5-1 に初期の電池の発明時期と現在の実用電池の国内生産開始時期をまとめた。
表 5-1
年代
電池開発の歴史
人物など
内
容
1791 ガルバーニ(伊)
カエルの足の筋肉の動きから電池の原理を発見
1800 ボルタ(伊)
ボルタ電池の発明
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年代
人物など
内
容
1836 ダニエル(英)
ダニエル電池の発明
1839 グローブ(英)
燃料電池の発明
1859 ブランテ(仏)
鉛蓄電池の発明
1868 ルクランシェ(仏)
ルクランシェ電池の発明,現在の乾電池の原型
1885 屋井先蔵(日)
乾電池の発明
1888 ガスナー(独)
乾電池の発明
ヘレセンス(デンマーク)
乾電池の発明
1899 ユングナー(スウエーデン)
ニッケル・カドミウム蓄電池の発明
1900 エジソン(米)
ニッケル・鉄蓄電池の発明
1904 島津製作所
国産の鉛蓄電池を販売
1955 日本
水銀電池の国内生産開始
1961 日本
空気亜鉛電池の国内生産開始
1964 日本
アルカリマンガン乾電池の国内生産開始
ニッケル・カドミウム電池の国内生産開始
高性能マンガン乾電池の国内生産開始
1969 日本
超高性能マンガン乾電池の国内生産開始
1976 日本
酸化銀電池,リチウム一次電池の国内生産開始
1990 日本
ニッケル・水素電池の国内生産開始
1991 日本
リチウムイオン電池の国内生産開始
②一次電池と二次電池
実用電池から電流を長時間取り出すと,電池内の物質が化学変化によって消費され,電
圧が低下する。電池の中には,この状態の電池に直流電源を接続して逆の化学変化を起こ
させ,元の電池に戻すことができるものがある。この操作を「充電」と言う。電池は,充
電できない電池である「一次電池」と,充電できる電池である「二次電池」
(蓄電池)に分
けられる。
現在使用されている主な一次電池と二次電池を,それぞれ表 5-2,表 5-3 に示した。表
5-1 に示された水銀電池は 1995 年に生産が中止されており,ニッケル・カドミウム電池は
2011 年暮れには家電量販店で販売されていなかったので,それらを除いている。
1980 年代までマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池には,負極の亜鉛の自己放電を
防ぐために水銀が使用されていたが,1991 年に水銀ゼロ使用のマンガン乾電池が開発され,
1992 年には水銀ゼロ使用のアルカリマンガン乾電池となった。現在日本国内で製造されて
いる乾電池類には水銀は使用されていない。
・演示実験・・・鉛蓄電池の充電と放電
鉛蓄電池は自動車の電源として,放電と充電を繰り返している。希硫酸に2枚の鉛板を浸し
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て直流電源により数ボルトの電圧で電気分解する
と,陽極の鉛表面に酸化鉛(Ⅳ)ができる。この
状態から直流電源を取り外すと,実用性はないが,
電極が酸化鉛(Ⅳ)と鉛である鉛蓄電池ができる。
この電極に豆電球を接続すると,鉛蓄電池が放電
して点灯するが,しばらくすると消灯する。豆電
球を取り外してしばらく電気分解(充電)した後,
直流電源を取り外して豆電球を接続すると,再び
点灯する。
鉛蓄電池
この充電では,直流電源の+極を電池の正極に,
直流電源の-極を電池の負極に接続する。
表 5-2 一次電池
電池
負極活物質
電解質溶液
正極活物質 公称電圧
マンガン乾電池
Zn
ZnCl2aq
MnO2
1.5V
懐中電灯,玩具
アルカリ
Zn
KOHaq
MnO2
1.5V
懐中電灯,玩具
マンガン乾電池
利用例
家庭用品
空気亜鉛電池
Zn
KOHaq
O2
1.3V
補聴器
酸化銀電池
Zn
KOHaq
Ag2O
1.55V
時計,電卓
リチウム電池
Li
LiBF4
MnO2
3.0V
時計,電卓
Li
LiBF4
(CF)n
3.0V
電気浮き
(注)リチウム電池の電解質は有機溶媒に溶かされている。
(注)(CF)n はフッ化黒鉛とよばれ,炭素粉末とフッ素を反応させて作られる。
表 5-3 二次電池
電池
負極活物質
電解質溶液
正極活物質 公称電圧
鉛蓄電池
Pb
H2SO4aq
PbO2
2.0V
自動車
ニッケル・水素
MH
KOHaq
NiOOH
1.2V
パソコン,携帯電話
電池
利用例
ハイブリッド車の電源
リチウムイオン
C6Li
LiBF4 など
LixCoO2
3.6V
パソコン,携帯電話
電池
C6Li
LiBF4 など
LixMn2O4
3.7V
電気自動車の電源
(注)ニッケル・水素電池の負極活物質は水素吸蔵合金 MH である。
(注)リチウムイオン電池の電解質は有機溶媒に溶かされている。
これらの実用電池における各電極の反応には詳しく触れる必要がないと思われるが,電流が
流れる(放電する)と負極では負極活物質が電子を失い,正極では正極活物質が電子を受け取
る反応が起こり,その反応には電解質が関係する。同じ負極活物質や同じ正極活物質であって
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も,電解質によって詳細な反応が異なる。
ニッケル・水素電池は,性能が同じような二次電池のニッケル・カドミウム電池の販売中止
に伴って販売数が増えている電池である。ニッケル・水素電池の負極活物質は水素吸蔵合金で
あり,放電すると水素吸蔵合金中の水素原子は電子を失って電解質溶液中に出ていき,水酸化
物イオンと結合して水になる。
リチウム電池とリチウムイオン電池は,他の電池と比べて公称電圧が高いということは似て
いるが,リチウム電池,リチウムイオン電池はそれぞれ一次電池,二次電池であり,電池内の
反応が異なる。リチウム電池の名称は,リチウム金属が負極活物質として用いられていること
に由来している。一方,リチウムイオン電池の名称は,層状構造をもつ固体電極の層間にリチ
ウムイオンがあり,負極ではリチウムイオンを電解質溶液に放出し,逆に正極では受け取るこ
とによって,電子が導線を負極から正極に移動して電池を形成していることに由来している。
③燃料電池
燃料電池は一次電池や二次電池には分類されないが,それらと同じように考えることが
できる。燃料電池の名称は,負極活物質に水素や一酸化炭素などの燃料を,正極活物質に
酸素を用いることに由来している。電極は集電体であり,触媒作用を持つニッケルなどの
多孔質金属である。燃料電池は使用する電解質の種類によっていくつかに分類され,それ
らは動作温度が異なっている。そのうちの2例を次に示す。
種類
アルカリ水溶液形
リン酸形
電解質
電極
動作温度
用途
KOHaq
Ni・Ag 系
常温~150℃
宇宙開発用
H3PO4aq
Pt 系
150~200℃
工業用熱電併給システム
・演示実験・・・燃料電池のイメージ
水酸化カリウム水溶液を2本の炭素電極で電気
分解し,酸素と水素を発生させる。電源を取り外
して太陽電池用のモーターを2本の炭素電極に接
続すると,モーターの羽根が回る。陽極の炭素電
極には発生した酸素がわずかに吸着し,陰極の炭
素電極には発生した水素がわずかに吸着する。こ
れらは水酸化カリウム水溶液に浸されているので,
アルカリ水溶液形の燃料電池になる。
燃料電池
この時,水素を含む炭素電極が負極に,酸素を
含む炭素電極が正極になり,次のように反応する。
(負極)
H2
+
2OH-
(正極)
O2
+
2H2O
→
+
2H2O
+
2e-
4e-
→
4OH-
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(6)エネルギー変換装置としての電池と電池のリサイクル
①エネルギー変換装置としての電池
マンガン乾電池(電解質が塩化亜鉛の場合)が放電すると,各電極は次のように変化す
る。
Zn2+
(負極,亜鉛板) Zn →
4Zn2+
+
ZnCl2
H+
MnO2 +
(正極)
+
+
2e+ 8H2O
e-
→
ZnCl2・4Zn(OH)2
+ 8H+
→ MnOOH
全体の反応は,上の2つの式から電子を消去して,次のようになる。
4Zn
+
ZnCl2
+
8H2O
+
8MnO2 →
ZnCl2・4Zn(OH)2
+ 8MnOOH
上式の左辺は反応物を表し,右辺は生成物を表す。亜鉛の単体は,鉱石に大量のエネル
ギーを費やして製錬されたものであるから,反応物の化学エネルギーは生成物の化学エネ
ルギーより大きい。このことから,マンガン乾電池が放電すると電池が持つ化学エネル
ギーが減少し,その減少分の化学エネルギー差が電流を流す電気エネルギーに変換される。
水素を燃料とする燃料電池が放電した時の両電極の反応を一つにまとめると,次のよう
になる。
2H2
+
O2
→
2H2O
この反応は水素の燃焼であるか
ら,熱が発生する。これは反応物
の持つ化学エネルギーが生成物の
持つ化学エネルギーよりも大きく,
その差が熱エネルギーとして現れ
たものである。燃料電池が放電す
ると,この化学エネルギー差が電
気エネルギーに変換される。
一般に電池が放電すると,電池
の持つ化学エネルギーが電気エネ
ルギーに変換される。放電後の二
エネルギー密度による電池の比較
次電池では,充電によって電気エ
ネルギーを注入すると,電気エネルギーが化学エネルギーに変換されて元の電池に回復す
る。一次電池は1回の使用で廃棄されるが,二次電池は充電を繰り返して何回も使用され
る。したがって,二次電池は一次電池と比べると,エネルギーを有効に利用していると言
える。
最近の新しい電池は,一つの電池から単位体積あるいは単位質量あたりいくらの電気エ
ネルギーが取り出せるかという視点から開発されている。
(注)電気エネルギーに変換される化学エネルギー差は,厳密には反応熱から求められる
エンタルピー差ではなく,反応物と生成物の間の自由エネルギー差である。電極の反
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応で移動する電子の量が分かれば,電池の電圧(起電力)が自由エネルギー差から見
積もられる。
②電池の廃棄とリサイクル
現在の国内メーカーが販売するマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池は,水銀ゼロ
使用となっている。使用済みのこれらの乾電池とリチウム一次電池は,一般廃棄物の不燃
ゴミとして廃棄されている(地域によっては取り扱いが異なる場合がある)。これらをリ
サイクルして再資源化することは,経費の面からされていない。ボタン形電池には銀など
の貴重な資源が含まれているので,回収されて再資源化されている。
ニッケル,コバルトはレアメタルであり,カドミウムとその化合物は有害物質であるの
で,ニッケル・カドミウム電池,ニッケル・水素電池,リチウムイオン電池の小型二次電
池は,回収されて再資源化されている。また,自動車のバッテリーとして使用されている
鉛蓄電池は,下取り方式のリサイクルによって回収され,鉛が再資源化されている。
□
評価の観点
(1)電池の基本的な仕組みが理解できたか。
(2)電池では化学エネルギーが電気エネルギーに変換されることが理解できたか。
(3)日常で使用されている電池には一次電池や二次電池があることを知ることができたか。
(4)電池の開発の歴史や開発の視点を理解できたか。
(5)電池の廃棄とリサイクルについて理解できたか。
□
参考・引用文献等
1)文部科学省,中学校学習指導要領,平成 20 年
2)文部科学省,中学校学習指導要領解説,平成 20 年
3)山極隆編,中学校新学習指導要領の展開,2009
4)塚田捷,山極隆,森一夫,大矢禎一ほか,「未来へひろがるサイエンス3」,啓林館,
平成 24 年
5)渡辺正,金村聖志,益田秀樹,渡辺正義,「電気化学」,丸善,平成 22 年
6)河村正行,「よくわかる電池の基本と活用」,電波新聞社,2010
7)平井竹次,高橋祥夫,「電池の話」,裳華房,1991
8)日本化学会,「夢・化学―21 キーテクノロジー電池」,丸善,平成9年
9)松原顕,瓜生正蔵,大塚隆,「化学 Study & Why ?」,第一学習社,平成2年
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