MARKETING HORIZON January 2015 特集: ASEAN と 日本 CONTENTS イラスト 小田桐 昭 新春鼎談 これからの日本のマーケティングを読む 後藤卓也・嶋口充輝・石橋正明 ……3 ASEAN からの夢 ASEANと日本~私の夢~ ASEAN 10ヵ国の若者リーダーが夢を語る …… 10 ★MARKETING NEWSトピックス★ 大坪 檀 …・… 27 Mr. Muhammad Khairlil Hamidi Bin Haji Aminuddin (Brunei) Mr. Kem Borivath (Cambodia) Ms. Deansa Sonia Hefranessa (Indoenesia) Mr. Sakthavy XAOBOUDDAVONG (Laos) Mr. Hareez Haiqal Bin Shaari (Malaysia) Mr. Khaing Min Than (Myanmar) Ms. RACHEL MARY ANNE A. BASAS (Philippine) Ms. Angeline Marie-Therese Tan Wen Ping (Singapore) Mr. Kobchart Jaraswimol (Thailand) Mr. Nguyen Hoang Minh Dang (Vietnam) Asean Forum 2014 Special Report 片平秀貴、見山謙一郎、吉田就彦 …・… 30 協会トピックス 2014 …・… 34 BOOKS 『あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか?』 『ブランド戦略全書』 …・… 35 特集 ASEAN と日本 東京五輪の 2020 年まであと 5 年となった。 東京の銀座、渋谷、新宿の繁華街 ではアジアを中心とする外国人観光客が目立って増えていて、2014 年の訪日 客数は 11 月時点ですでに 1200 万人を超え、10 月、11 月は対前年比 37%と 39%と驚くべき伸びを示している。 一 方、 世 界 で の 日 本 の 存 在 感 は 年 々 薄 れ て“Japan Passing”,“Japan Nothing”と言われて久しい。 しかしながら今回、2014 年 12 月初頭にジャカル タで行われた“KINASEAN2014”というマーケティング国際会議で片平、吉 田、見山の本誌編集委員を中心に今号の第2特集にある4つのプレゼンを行っ たところ予想を大きく上回る反響があり、アジア各国の人たちが実は日本のよ り強い発信を心待ちにしていたことが確認できた。 2015 年の冒頭に立って心新たに今後のわが国マーケティング界の動向を展 望するのが毎年この号の役割だが、上述のようなことを勘案するにつけ今年 を「新開国元年」 と位置づけてみたい。 特に、今回 「開国」 と言うに当たっては、今 まで何かと付き合いのあった北米、欧州、東アジアを超えてそれ以外の地域、特 に、ASEAN 諸国にインド、バングラデッシュ、スリランカなどを加えた地域 と密な交流をすることの重要性を強調したい。 今までこれらの地域は工場とし て注目されたことはあるものの、お互いの密な交流によってアジア人でなくて はできない新しいイノベーションを生むパートナーとして「同じ目線で」交流 する機が熟してきたような気がしてならないからだ。 折しも 2015 年は ASEAN 経済共同体結成による ASEAN 統合の年でもあ る。ASEAN の若者たちの意見にもそれに臨む意欲が強く感じられるだけで なく、兄貴分としての日本のパートナーシップに期待するところも大きいこと が分かる。 本号は三つのパートからなっている。恒例の新年鼎談、ASEAN の若者リー ダーたちの「ASEAN からの夢」 、ASEAN マーケティング会議報告の三つだ。 新開国が掛け声だけで終わらないことを祈りたい。 2 MH January 2015 2015 新 春 鼎 談 これからの日本のマーケティングを読む Speaker 後藤 卓也 公益社団法人 日本マーケティング協会 会長、アジア・マーケティング連盟 会長 嶋口 充輝 公益社団法人 日本マーケティング協会 理事長 石橋 正明 公益社団法人 日本マーケティング協会 専務理事 日本マーケティング協会の 2014 年の活動は、9 月に開催されたワールドマーケティングサ ミットジャパン 2014 など、これからの日本のマーケティングを考える上で重要な活動を多 く行ってきた。アベノミクスで日本経済は活気づき、 ようやく明るい兆しも見えつつある。 一方で、企業を取り巻く環境は激変し、時代も顧客も技術もすべて変化し続けている。 企業は そのような変化を読み取り、 社会環境へ適応するしかその存在を継続することはできない。 そこで、今回の新春鼎談では、これからの日本のマーケティングにおいて何が必要なのかを 考えてみた。 これからの日本のマーケティングに ついての一考察 ができたと思います。そこで、このサミット等の意 司会 JMAは2014年もいろいろな事業活動を行っ ださい。 てきました。なかでも本年 9月 24、25日に開催し 後藤 今の日本は世界でも類をみないほど大変豊か ました日本初のワールドマーケティングサミットジ な国に成長しました。しかしその反面、豊かになっ ャパン 2014では、 「マーケティングで世界をより良 たことで、次に欲しいものがなかなか見つからない く」をスローガンに、世界各国のマーケティングの という状況になっています。また、一度ヒット商品 第一人者、日本を代表する経営者やマーケティング を開発したとしても、そこから収益を得られる期間 学者が一堂に会しこれからのマーケティングについ は短くなっており、以前にも増して先を見据えた製 て議論をする貴重な機会となりました。少子高齢化 品開発活動を行わなければならない状況にもなって の進む成熟市場の日本において、マーケティングを います。たとえば、いくら時間やコストをかけて市 よりよく活用していくことでビジネスのさらなる成 場を分析し、消費者のニーズに合致した製品開発を 長を実現し、さらにそのビジネスによって日本や世 行っても売れ行きが悪ければ、市場への導入初期に 界が抱える諸問題を打開するための示唆を得ること ある製品でもそのライフサイクルを終えてしまうケ 見を踏まえ、これからの日本のマーケティングはど うあるべきかについての皆様のお考えをお聞かせく MH January 2015 3 う大きな視点に立ってこのサイクルを回してい くことが、企業にとっての生命線になるのでは ないでしょうか。 嶋口 市場のスピードが速くなったのは常々実 感しています。さて、今の後藤会長のお話は、 鴨長明の『方丈記』の中の「行く川のながれは 絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに 浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しく とゞまることなし。 」というフレーズを彷彿と させます。 「かつ消えかつ結びて」 ということで、 定常状態がないと。ただ、ひょっとすると流れ そのものは変わらないわけで、そして最後に行 き着くところも海かどこか、あるいは水蒸気に なって天に昇っていくのかもしれません。これ 後藤卓也 JMA会長 は、大局観を持ち、あまり細かい流れには右往 左往してはいけないということを意味している のだと思います。細かい流ればかりを追いかけ ースもあります。つまり企業側にとっては、導入期 ていったらやはり疲れるし、むしろ、うまくいかな の製品といえども事前に大々的なプロモーションを い例の方が多くなる。マーケティングは、世の中全 展開するなどして市場への投入と同時に爆発的な売 体の動きをいつもウォッチしながらしっかり対応し 上を記録しなければ、商品ライフサイクルに乗らな ていくことが必要です。以前にもお話しましたが、 い時代となっています。そのような環境の中でマー 市場問題を扱うマーケティングは、未来環境予測に ケターとして最も大事なのは、世の中の変化を一歩 よる科学的、 計画的な適応方法を探る「バック・トゥ・ でも半歩でも先読みする洞察力、そして先行力でし ザ・フューチャー」型と、過去から現在に至る基本 ょう。データ、ノウハウや理論だけでヒット商品を 原則から未来を創造する「バック・トゥ・ザ・ベー 生み出すことができるのであれば、誰も苦労はしま シック」型に大別されます。前者は5年、10年先の せん。そのために洞察力を身に付けるために何が必 将来どうなっていくかというのを予測し、未来に立 要かと言うと、やはり大きな視点から顧客や市場を って今を考えるという近代的なアメリカ型マーケテ 読み解く力です。消費者や企業など顧客が何を求め ィングがずっとやってきたことです。それでもなか ているのかを探り出して、魅力ある商品やサービス なか掴まえられない場合は、企業理念と大局観のも の形で具現化していく。それを顧客が使って満足し と、ベーシックにしっかり戻って自ら未来を創って たら「次もまた使おう」と考える。大きな視点に立 いくというスタンスをとっていく必要があると思い って、様々な戦略を実行する必要があります。狭い ます。 範囲で考えてはいけない。 「とにかく新商品ができ 後藤 嶋口先生のおっしゃるとおりですね。上ばか たので、売らないといけない」 「販促費を出すので り見ても、何もつかむことはできません。自分を成 販売店さん売ってください」といった姿勢では、過 長させる種は、足もとにたくさん転がっているはず 当な価格競争に陥るだけです。ひいてはデフレ現象 ですよ。基本がしっかりしているかどうかで勝ち負 をむやみに加速させることになる。 顧客視点で、潜 けが決まる。時代は変わり、モノがない時代は十人 在的なニーズを考えて、革新的な商品を開発して販 一色の時代であり、それから、日本が著しい経済成 売し、利益を確保する。大変基本的なことですが、 長を遂げた時代は十人十色の時代に変わり、そして、 今一度「マーケティングとは経営そのものだ」とい 個性化や日替わり化した今は一人十色の時代になり 4 MH January 2015 2015 新 春 鼎 談 ました。これだけモノが溢れ返っていると、新 しいモノの開発は難しく、商品のライフサイク ルも短くなっているため、人々に驚きや感動を 与えるような商品を開発しなければならない。 そのためには、世の中の流れ、産業界の流れ、 流行りなどといったことに対して、よく周りを 見る、関心を示す、好奇心をもつことが大切だ と考えます。そういうことをしなくなったら良 いモノが生み出されない世の中になってしまう ので、一部の人だけが考えるのではなく、みん なで考えるような経営的マーケティングが必要 なのでしょう。 嶋口 マーケティングの進化はヨリ細かい動き から市場対応の在り方を考えていくことだった けれども、今はさらに経営的視点から全体を考 嶋口充輝 JMA理事長 えていく面が強く求められているという印象を 受けます。やはりもう少しトップマネジメント の視点から、経営そのものの未来をどう創るか 次々に登場する急速な技術変化の時代にあっては、 ということを考え、自らの思いや構想を描いて 昨日の強化は明日の弱体化をもたらすだけです。 対応していく力がこれからは強く求められるのでは 後藤 ダーウィンの言うように、強い者ではなく変 ないかと思います。現に世界の中でそのような傾向 化に対応できる者が生き残っていくということを今 が出ているというのも様々な識者の方々がおっしゃ 更ながらに感じています。 っている通りです。ですから、そういう意味でも日 本マーケティング協会は経営的なマーケティングを もっと強化する必要があるかもしれませんね。 経営理論の転換期 石橋 米国の『フォーチュン』誌は、毎年世界企業 石橋 以前に嶋口理事長から“サービス・ドミナン の売上高に基づく「FortuneGlobal500」というラン ト・ロジック”について伺って、最近になってよう キングを発表しています。 「フォーチュン 500」企 やく腑に落ちるようになりました。今の経営の考え 業の中の盛衰を見た場合、1970年にリストされて 方には、そういった概念が欠けているのかもしれま いた企業の60%以上が、消えてなくなっていると言 せん。 われています。近年さらに企業を取り巻く環境変化 嶋口 マーケティングの観点からは、この概念自体 は激しくなり、企業の平均寿命はますます短くなっ が決して目新しいものではありません。昔から言 ていると思います。かつてないスピードで色んなこ われるように、 「顧客はドリルが欲しいのではなく、 とが起こっているのは間違いないですね。 ねじ穴が欲しいのだ」という言葉がありますが、商 嶋口 ドラッカーが『断絶の時代』で述べていまし 品価値とはモノの機能や性能そのものではなく、そ たが、産業界も政府も、考え方、方針、組織のすべ の商品に顧客が求める価値の総体は何であるかとい てにおいて、明日を優先しなければならないわけで うことで、それがそのままサービス・ドミナント・ す。これまでの「継続の時代」においては、昨日の ロジックの考え方につながります。しかしながら、 継続の上に明日があることを期待することができま 一般的にメーカーというのは、 「モノ」を製造して、 した。昨日の強化が、明日の強化でありえたのです。 販売することが事業の根幹で、 「サービス」という しかし、 「変化の時代」 、とくに新産業が主役として のはどちらかというと周辺的なものというか付加的 MH January 2015 5 と少々不穏な感じもします。小売店でも、以前 はPOSシステムからデータを取り出して売れ筋 を把握していましたが、カード社会になってか らは、カードで購入すると店に何回来て何を買 ったなど全部分かるようになっている。だから、 現在押さえているデータの解析方法がこれから どんどん変わってくると思いますね。データで 全部つながっているから、例えばA社の努力が 成果に結びついたというよりも、データそのも のの解析能力が問われてくるでしょう。 素材技術の優位性で日本を変える 石橋 後藤会長は、これからは素材の時代だと 石橋正明 JMA専務理事 よくおっしゃっていますよね。東レがボーイン グと1兆円で契約したとか、岩谷産業の水素や 東芝の人工光合成だとか、現時点では水面下で なものという認識が強かったと思います。しかし、 すが日本の未来にとって素晴らしい話がいっぱいあ 今や「モノ」の製造や販売だけでは、なかなか十分 る。 な利益を上げることも難しくなってきています。グ 後藤 B to Bの発展がこれからの日本成長のキーワ ローバル化の波での価格の低下や、新興国からの安 ードでもありますからね。 価な製品の登場など、 「モノ」にだけ主眼を置いて 嶋口 それを社会に有用な財にするためのつなぎの いてはビジネスが成り立たなくなってきたという背 役目を果たしたり、提案をしていくというのは、ま 景があるのでしょう。サービス・ドミナント・ロジ さにマーケティングのテーマそのものです。私は、 ックにおいては、まず、その製品の利用場面や活用 「エジソンはマーケティングの天才だ」といわれる シーンなどを前提として、製品そのものの機能や性 ゆえんでもある訳です。エジソンは偉大な発明家で 能ではなく、 「サービス」全体の中で位置づけ、商 すが、彼の非凡さは発明品を社会で使えるようにす 品化していきます。つまり、 「サービス」という言 べて価値の仕組み化をした点にあるわけで、まさに 葉の意味合いが昔と違ってきているのです。モノと それこそがマーケティングなのです。ただ良いもの サービスを分けずに経営論理を組み立て直そうとい を作れというのは、マーケティングではなく技術の う大きな動きが生まれてきています。 問題になってしまうかもしれませんが、そういう優 後藤 なるほど。例えば、これまでの機器メーカー れた素材を誘導しながら社会に有用な価値に転化 はコピーマシンを比較的安価で入れて紙などの消耗 し、社会全体を大きく発展させるB to Bの世界はマ 品で利益をあげるシステムでしたが、その時代が終 ーケティングのコアの一つだと言えると思います。 わり、オフィスのトータルソリューションとしてい 石橋 盛んに構造改革とかグローバリゼーションだ かにサービスを展開していくかというビジネスにシ とか言うけれども、アメリカ流のプロの経営者を雇 フトしていますね。しかし、一方でサービス対応の ってきて短期間で内部留保を吐き出し、株主に還元 ために企業や個人がもつ課題がデータ化され、可視 する手法を取る人々はマイオピア(近視眼的)じゃ 化できるようになっています。これをどう活用して ないですか。そういうところでは素材産業は育ちに ビジネスをするのか、という時代になってしまって くいと思います。目先の利益を追わず、将来的な価 いて、他の誰かに情報を管理されているのかと思う 値を見極めるという点が日本企業の強さだと思うの 6 MH January 2015 2015 新 春 鼎 談 で、あまり構造改革、構造改革と言ってほしくない らに深化、発展していく中で、日本がいかにしてア なという気はします。 ジア、ひいては世界経済との共存共栄を図っていく 後藤 私も同感です。この前の日経ビジネスの記事 のかが重要となります。アジア経済との連携を深め で、炭素繊維を40年あきらめずにやってきたという ることで日本経済の活力を高める、日本やアジアに 東レの記事は素晴らしいものでした。ユニクロのヒ どのような貢献ができるのか。2007年 8月に東南ア ートテックの件も、柳井社長は「世界に冠たる共同 ジアのマーケティング団体が中心となって組織され 作業の事例」とコメントしていました。メーカーに ましたアジア・マーケティング連盟(AMF)の会 いた私としては、本当に感銘を受けました。素材技 長団体でもある日本マーケティング協会が今後どの 術は世の中を変えると思っています。デジカメも液 ような役割を果たしていくべきか、お考えをお聞か 晶も、素材がなければ絶対にできません。航空機や せください。 自動車の軽量化からも分かるように、素材が変われ 後藤 現在 AMF加盟国は13か国にまで増えまし ば世の中が変わる。水素は完全に日本がリードする た。石橋専務をはじめ皆の努力で増えてきたことは だろうと言われていますね。まさにこのような取り 非常にありがたいことです。アジア地域における人 組みは、先ほどからお話しています、足元をしっか 的往来と経済交流は活発となり、アジアの市場にお りみて、ベーシックとなる自分の強みを認識して取 ける相互間の結びつきは一層深まってきています。 り組んできた好事例といえると思います。 このような背景のもと、アジアの市場や消費者とと もにアジアの中で企業を成長させるアジア視点を重 健全なる危機意識 視した新しい事業戦略が求められています。21世紀 嶋口 先ほど株主優先がマイオピア(近視眼)と言 ングが大切です。マーケティングを通じて、アジア う話が出ましたが、つい先日技術系かつグローバル の顧客を理解し、求める価値を届けることなしに、 である企業の社長とお話しした際に、IRで海外投資 事業の成功はありません。そういう意味でも21世紀 家から、今は新製品を出していないけれども、配当 のアジア戦略には、マーケティングが最も重要にな だけは高く維持してくれと言われた、と嘆いていま ります。そのための最良の方法をアジア各国の協会 した。もし配当を下げ株を手離されたら、我々には が加盟するAMFで協議し、日本マーケティング協 先がないとも言っていました。既存事業を一生懸命 会は日本の先端事例を紹介しつつ、アジアの発展の やって相当な投資努力をしているけれども、配当を ために寄与し、アジアの特徴や特色を汲んだアジア 高く維持していかなければならないというのは非常 独自のマーケティングを開発していくことが肝要だ に難しいですよね。 と思います。 後藤 企業にとって大切なことは、 「健全なる危機 嶋口 従来、マーケティングは歴史的に見ても、欧 意識の持続」と「基本の徹底」であると思います。 米中心、特にアメリカ中心に進化してきました。従 健全なる危機意識とは、現状不満足意識と言い換え って、日本もアメリカ型マーケティングを積極的に られます。今の状態に不満をもち改善しようと考え 取り入れることで高度成長を遂げてきました。だか ている社員が大勢いる企業は、非常に強くて良い会 ら、Far East Japan(極東の日本)ではなくFar 社になります。逆に、現状に満足している企業は急 West Japan(極西の日本)と揶揄されたことも 速に坂道を転げ落ちていきます。 あるぐらいです。しかし、それをアジアでまた再現 のアジアで事業を伸ばすには、何よりもマーケティ しようとしても上手くいかない気がします。おっし 日本、そしてアジアにおける JMAの役割 ゃる通り、アジアのオリジンをどうやって発揮させ 司会 これからの時代、アジア域内の経済統合がさ 3.0と言っていますが、それに近い発想は元々日本 るかというのがAMFの役割なのではないかと思い ますね。例えば、コトラー教授達がマーケティング MH January 2015 7 にあったわけです。300年前の近江商人の理念であ アメリカの両方を知っていることは非常に意味があ る「三方よし(=売り手よし、買い手よし、世間よ ります。議長国をやるうえで、アメリカ的なことを し) 」などはまさにそうです。 「売り手よし」はマー やる以上にアジア的なことを実践できたら、より素 ケティング 1.0、 「買い手よし」は2.0、 「世間よし」 晴らしいと思います。 は3.0です。今、 日本に昔からあるものが出てきたり、 最近は仏教思想が改めて見直されてきているよう に、アジアの中にはもっと深いものがたくさんあり 2015年にむけて一言 ます。そういうものをどうやって取り出しながらや 司会 2015年に向けて、日本マーケティング協会 っていくか。そういうものがアジアの中で出来上が の活動に対する抱負をお願いします。 った時に本物のアジア的マーケティング、さらにヨ 後藤 とにかく、皆さんから期待されるような、時 リ普遍的なマーケティングが開花すると思います。 流に即したセミナーをいかにできるかだと思いま 石橋 9月のワールドマーケティングサミットジャ す。最近他団体でもマーケティング関係の似たよう パン 2014で、タイのダブル A社長のユシン氏の話 なセミナーがずいぶん増えてきたそうです。そのよ を聞いて、大変感銘を受けました。同社では、紙を うな中、我々は企画力で勝っていかなければならな 作るための木作りを研究し、タイの余っている農地 い。もちろんベーシックコース・マスターコース・ に苗木を植えて、EU等海外に販売するビジネスを エグゼクティブコースは基本にありますが、プラス 行っていますが、紙にする過程ですべてを無駄にし アルファのセミナーでいかに時流に即したことをや ないようにし、木チップやクズ等からバイオマス発 れるかどうかで変わってくると思います。 電で電力を抽出したり、貧しい地域に一連の施設を 嶋口 私は、多くの経済・経営団体の中で、最もバ 建設して地元に還元し雇用を生んだり、ビジネスを ランスが良く特色がある団体の一つがいまの日本マ 支え継続性を担保するエコシステムを確立していま ーケティング協会だと思っています。日本マーケテ す。見事な取り組みですよね。これはまさに「三方 ィング協会は、マーケティングが経営の世界の中核 よし」だと思います。アジアは成長を目指すだけで を成すために様々な活動を活発に行い、それを会員 なく、次のステージに向けて躍進をしていることを とスタッフがよく支えているので、なかなか良い組 感じました。 織だなと感じています。そういう意味では、さらに 嶋口 ツールとしてマーケティングを取り込むけれ 柔軟かつ革新的に、社会、経済、政治を動かせるリ ども、コアの部分にアジアらしさがあるのはいい ーダー組織になってもよいのではないかと期待して ですね。 「経営」という言葉はもともと「経(きょ います。後藤会長と石橋専務を筆頭に今後も気を引 う)を営む」という仏教用語から来たという説があ き締めて活動してほしいと思っています。 ります。仏教の教えをしっかりと営むことが経営で 石橋 日本マーケティング学会も無事に設立できま ある、ということです。また、 「儲」と言う字も“信 したし、AMFも活発化しています。またワールド 者”と書きますよね。今でこそ金銭上の利益を得る マーケティングサミット 2014を無事に開催終了で という意味ですが、もとは信者の活動の結果を指す きましたので、大変貴重な経験を積んでこられたと とも言われます。日本は敗戦国ということもありア 思います。しかし、これで安心することなく、むし メリカ流を取り入れることによってここまで成長し ろこれまでのことを踏み台にしてさらに飛躍してい ましたが、アジアにはもう少しそのようなアジアら きたいと思います。 しさ、自発性があってもよいのではないかと思いま 後藤 日本マーケティング協会は、これからもマー す。私は、しなやかで柔らかい関係性というものが ケティング先鋭団体として、まさに洞察力を深め変 アジアの中では非常に重要な意味合いを持つのでは 化の動向を把握し続けていく必要がありますね。 ないかと考えています。日本マーケティング協会は AMFの議長国でありなかなか大変ですが、極東・ 8 MH January 2015 インテージ ASEAN と ~私の夢~ ASEAN 10 ヵ国の若者リーダーが夢を語る Mr. Muhammad Khairlil Hamidi Bin Haji Aminuddin (Brunei) Mr. Kem Borivath (Cambodia) Ms. Deansa Sonia Hefranessa (Indoenesia) Mr. Sakthavy XAOBOUDDAVONG (Laos) Mr. Hareez Haiqal Bin Shaari (Malaysia) Mr. Khaing Min Than (Myanmar) Ms. RACHEL MARY ANNE A. BASAS (Philippine) Ms. Angeline Marie-Therese Tan Wen Ping (Singapore) Mr. Kobchart Jaraswimol (Thailand) Mr. Nguyen Hoang Minh Dang (Vietnam) 日本 2015 年は ASEAN10 ヵ国が経済的に一つになる ASEAN 経済統合の年だ。こ れに向かって各国の人々は大いに燃えている。この特集では ASEAN10 ヵ国の若 者代表に彼らの夢を語ってもらった。 ASEAN Community と 聞 い て ピ ン と く る 読 者 は 少 な い と 思 う。こ れ は ASEAN10 ヵ国の若者がオンラインで集う自発的組織だ。そのフェイスブックペー ジに行くといいね!が 25 万を超えていて度肝を抜かれる。今回 2014 年 12 月初 旬に以下の「はじめに」にあるように 10 ヵ国のリーダーたちが東京に集結した。こ れはまさに願ってもないすばらしい機会なので、12 月 12 日マーケティング協会 で彼らを招いて「ASEAN 交流会」を開催するとともに、併せて彼らの思いを本誌に 投降するよう依頼した。テーマは「ASEAN 共同体」、「ASEAN と日本」、「私の夢」 の3つだ。 本誌編集委員の片平と見山が最後で感想を述べ、同じく吉田(就彦)が各人 の記事にコメントを加えた。 (本誌編集委員長、本号編集担当 片平秀貴) はじめに 「ASEAN と日本」私たちの夢 ASEAN の若者リーダーたちに聞いた 2014 年 12 月 10 日、NPO 法人アセアンコミュニティージャパン ( 日 ASEAN 若者文化交流推進団体 ) は、ASEAN 各国の若者代表を東京に 招聘した。今回の招聘は ASEAN 諸国の若者に東京の魅力を母国に PR すること、そして、ASEAN の若者と日本の若者交流においてのプロ ジェクトを考えることを目的としている。今後日本にとって ASEAN は 最重要地域になっていくが、まだまだ日本と ASEAN の若者の文化交流 はうまくいっていない。日本の若者の ASEAN への認知の低さはさるこ とながら、親日国と言われている ASEAN 諸国の若者も日本に対して関 心が低いケースも見受けられるのが現状だ。日本が ASEAN について理 解を深め、 積極的に PR しなければならない段階に来ているのを感じる。 さて、以下は来日した、ASEAN 各国で ASEAN 共同体についての認 識を高める活動を行っている、「ASEANCommunity」の各国若者代表 の声である。6 億人を超える ASEAN マーケットは、2015 年 ASEAN 経済共同体の結成を機に ASEAN 域内のヒト・モノ・情報が活発になり、 ますます盛りあがりを見せるだろう。そして、そのマーケットの中核を 担うのは若者である。現場のエネルギッシュな若者の声が少しでも伝わ れば幸いである。 田上竜也 田上 達也(たがみ たつや)2013 年 10 月「若者の若者による若者 のための」日 ASEAN 文化交流組織「ASEAN Community ‒ Japan」 を創設し、代表理事に就任。 2014 年 11 月に NPO 法人格を入手。日本の若者を ASEAN 留学 生との交流、株式会社 VACS International と連携した ASEAN 留学 生と日系企業とのマッチング、ASEAN からの訪日観光客・留学生増 加のための日本 PR の 3 つの事業を柱とし、日 ASEAN の将来を確固 たるものとすべく活動を行っている。 NPO 法人アセアンコミュニティージャパン : www.jp.aseancommunity.org 株式会社 VACS International : www.vacs.asia 12 MH January 2015 Brunei メディア産業で自国と ASEAN を発展させたい ミディ(ブルネイ代表) Muhammad Khairlil Hamidi Bin Haji Aminuddin ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN 共同体が出来ることで関係するすべての国にビジネスチャンスが広がり、さらに友情の絆が深 まるだろう。 そして各国で失業の問題に対処できるようになるだろう。 It would create more business opportunities for all the countries invloved, further deepening friendshiptiessaswellascounteringtheproblemofunemploymentineachrespectedcountry. ② ASEAN と日本について 個人ベースのコミュニティを活発にして異なった腕や経験を持った人たちが互いに学びあうようにし てゆきたい。ASEAN と日本の結びつきをより強固なものにして交流を活発化してゆきたい。それぞれの 国をよくするために若者たちがもっと力を合わせるべきだと思う。 Personal community growth and development that would increase amount of sharing human resourceswithdifferentskillsandexperiencesamongtheASEANcountries.Encouragestrengthening the ties between ASEAN and Japan, bringing out a strong sense of social cohesion with each other. Moreyouthparticipationwithexploringandbetteringtheirrespectedcountries. ③将来の夢 自国の発展において、パイオニアと呼ばれるくらいの大きな貢献をしたい。まだまだどういった分野か は定まっていないが、メディア産業に貢献出来ればと思っている。また、家族や兄弟に対しては常に優しく ありたいと思う。 Tomakeacontributionbigenoughtopioneerthefutureofmycountry,inwhatfielditremainsto beunclearbutIhavehopesforthemediaindustry.Tobeagoodbrothertomysiblingandsontomy parents. メディア産業いいですね。ソーシャルメディ ア活用も含めてこれからの時代の新しいメ ディアの在り方を考えてください。キイワー ドは国を超えたコネクトとネットワークで しょう。 吉田 就彦(本誌編集委員) MH January 2015 13 Cambodia いま外務省に勤務しているが、将 来は旅行関係のビジネスを起業 したい ボリ(カンボジア代表) Borivath Kem ① ASEAN 共同体と母国 カンボジアはガバナンス強化、インフラ整備、人材育成、研究開発などを通じ経済発展のスピードアップが必 須である。ASEAN 共同体形成が形成されることで、官民の連携が取れて政府が民間に資金や技術を提供出来 る関係が築けると思う。また、教育も改善され、将来のリーダーが生まれる環境が出来るのではないか。また、訪 問客も増え、観光業もより盛んになるだろう。 Cambodia needs to speed up the economic reforms through strengthening good governance, infrastructure development, human resource development and research and development. Enhance the development of public-private partnership. More government support to the private sector in developing capacity, financing, technology, etc. Focus on a knowledge-based economy through an educational system focusedoninnovation,creativity,andentrepreneurshipdevelopment.Increasethenumberofinternational arrival(Tourism) ② ASEAN と日本について ASEAN 共同体は全ての ASEAN 諸国とりわけ発展途上の CLMV(カンボジア・ラオス・ミャンマー・ ヴェトナム) 諸国にメリットがあると思う。 日本には、CLMV 諸国に対し、積極的な人材育成・教育への投 資をおこなってもらいたい。 例えば、 ローカルの若者を日本に招待し短期・長期のスタディーツアーを企画 し、将来の母国でのリーダー教育を施すなどをしてもらえればと思う。また、カンボジア人元留学生の母国 への帰国後のフォローアップなども行ってもらえればと思う。 In order to make all ASEAN members states especially CLMV countries, who need to improve manythings,togettheequitablebenefitfromASEANintegration,Iwouldsuggest:Japantoinvestin humanresourcesandeducationsectorinCLMVcountries.Invitesthestudentstogetthetrainingfor ashortorlongperiodwiththelongtermvisionintheneededfieldinJapan.Sotheycangobackto developandspreadtheirknowledgetheirownpeople.InvestinTechnologyinCLMVcountries.Make theactionplansafterthereturntoCambodianforthosestudents. ③将来の夢 自分の時間は仲間のコミュニティのために使いたい。何をやるか絞るのは難しいがベストを尽くしたい と思う。人々のために尽くしたいという私の夢の一部としてカンボジアの外務省で働き始めたが、同時に ASEAN コミュニティの若者ネットワークでボランティアもしている。 私のもう一つの夢は多くの国へ旅をして、 自分たちと違うものを知り学びたいということだ。 Iwouldliketocontributemytimeforthecommunity.It'sdiffi culttofocusonwhichpartIwilldo, butaslongasIcan,Iwilltrymybest.IjuststartedmyworkattheMinistryofForeignAffairs(which isnotrelatedtomybackgroundbutit'spartofmydreamtoworkforpeopleaswell)inCambodiaand IworkasavolunteerinASEANCommunityyouthNetwork. Myseconddreamistotraveltomanycountriesasmanyaspossible,andtodiscoverthedifferences andlearnfromthat. 外務省 ( 政府 ) の仕事と若者ネットワークのボラ ンティアを両方やっているのが凄い。現在の大き な問題点は両方に垣根が存在すること。それを双 方向に突き破ることにトライしてください。 14 MH January 2015 ディアンサ(インドネシア代表) Deansa Sonia Hefranessa ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN 共同体の設立によってインドネシアの学生が他のASEAN諸国へのアクセスが容易になるだろう。また ASEAN 経済共同体によって、自国の商品のクオリティ向上、そして他国との協力体制を築くことができ、それがイン ドネシアの発展につながるに違いない。 IntegrationofASEANCommunitywillmakestudentinIndonesiacouldexploremoreASEANcountrieseasily The economic integration in ASEAN itself, will make a chance for Indonesia to increase the quality of IndonesianproductandtolearnfromanotherASEANmembercountriestodeveloptheeconomicinIndonesia especially,andinASEANcommonly. ② ASEAN と日本について 日本は先進国であり、教育水準が高い。教育は将来のベースを作るにあたり重要であるが、ASEAN の一部の国・地 域では教育を受ける機会を与えられていない人々もいる。インドネシアでは、田舎の地域ではきわめて原始的な生活 を送っている。教育の普及・改善により彼らのライフスタイルを改善させることが出来るのではないかと思う。日本に は ASEAN 地域と密接に連携し、ASEAN 諸国の教育水準の底上げを期待している。 Japanisadevelopedcountry.Japanalsohasagoodeducationway.InASEANCommunityitself,Japancancontribute inmakingcooperationwithASEANmembercountriesespeciallyineducationfield.Educationisanimportantpathtothe future.Peoplewhohavewelleducation,candevelopthecountry.Sotheeducationusthefirstimportantsmallthing.In mostofcountriesinASEAN,therearesomeruralareasthatcannotbereachbyschool,sopeoplecannothavetheright education.InIndonesiaitself,intheplaceofveryruralarea,peoplearestilllifeinverytraditionalway.Becauseofthelack oftheeducationitalsoaffecttotheirhabitinlife.JapancangivethegoodexamplewaysofeducationinASEANCountries. JapancanhavethecooperationprojectineducationfieldswithASEANmembercountries. ③将来の夢 私は日本へのインドネシアの「大使」にもなりたいのです。日本は私にとって夢の国です。前回の訪問の時に、ずっと この国にいたいと思い、今度来るときは長く滞在できればと思いました。 もう一つの大きな夢は世界中を旅することです。異なる文化の人からは多くのものを学びます。私が東京に来た時 にも本当にたくさんのことを学びました。世界の人々がどのように生きているのか、もっともっと知りたいのです。た くさんのことを学んだあとでインドネシアに戻り、その経験を後輩たちに伝えたいです。そうすることにより彼らは 私たち以上に母国をよくするために働いてくれると思います。 IwanttobeanambassadorforIndonesiainJapan.WhyitshouldbeJapan?BecauseJapanisalwaystobemy dreamcountry.EvenIhavebeeninJapanlasttime,IwishIcouldstaylongerinthenextvisitinJapan.Beside beinganambassadorforIndonesiainJapan. AnotherdreamofmeisIwanttoexploretheworld.ItmeansthatIwanttotravelallaroundtheworldand meeting new people from different culture background and learning everything that I see from all over the world.IalsodiditinthetimeIjoinASEANCommunityTokyo Tour.IlearnedalotfromJapanesepeoplehabitandbusiness. And I think I still need to learn more and more about how 日本のムスリム対応は 2020 年のオリンピック peopleinthisworldlive.Afterdonewiththeexplorationfrom に向けてまったなしです。しかもプロは少ない aroundtheworld,IwanttocomebacktoIndonesiaandbea です。大チャンス!ですよ。 motivator to the students and youth in Indonesia. I want to sharemyexperiencestostudentsinIndonesiasotheywouldbe motivatedandcandomoreforourcountry,morethanIdid. Indoenesia 世界中を旅してその経験を後輩 たちに伝えたい Laos 私の夢は、ASEAN の人々が平 和に融和しながら暮らせること サム (ラオス代表) Sakthavy Xaobouddavong ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN 共同体によって、ラオスの産業の取引拡大、そして世界的に母国の製品が流通することになる だろう。 さらに、海外からの直接投資が拡大し、技術援助やノウハウの共有がASEAN内で可能となる。 また観光客も増加し、 ますます母国が発展することだろう。 Biggermarkettrade,integratetotheregionandglobalmarket. Promoteeconomicsector. Attractmoreforeigndirectinvestments. Receiveandshareexperiencessuchastechnology,ideasandknowledgewithASEANmembers. Increasevisitorwhichleadsmoreincome. Strengthentheinternationalcooperationandrelations. ② ASEAN と日本について 日本には、ASEAN 諸国への教育や福祉のサポートを期待している。また CLMV 諸国に対してはイン フラの整備、 人材育成、 技術協力なども期待。 Educationandhealthsupport. GrantsupportforimprovinginfrastructureespeciallyinCLMVcountries. Humanresourcedevelopmenttrainingsupport. Technologysupport. Exemptvisatopromotetourism. ③将来の夢 私の夢は、ASEAN の人々が平和にそして協力し、ASEAN 諸国が安定と繁栄を手に入れること、それ を見てみたい。 My dream is I would like to see the successful of ASEAN Community which is the member countriesarestableandprosperity,thepeopleofASEANlivingtogetherinpeaceandharmony. 私の奥さんは 30 年に渡ってラオスの支援を JVC を通じて行っています。急激に発展し ていくラオスだと思いますが、急激すぎるリ スクもあるものです。焦らずしっかりいきま しょう。 16 MH January 2015 ㈱資生堂 Malaysia 教育学を勉強中。いい先生になっ て ASEAN 各国で後輩を育てたい ハリス (マレーシア代表) Hareez Haiqal Bin Shaari ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN はマレーシアの外交政策において重要になっている。 マレーシア、そして ASEAN 諸国は常 に東西諸国との要所となることを願っている。 世界的に近代化が進んでいる今日、経済・財政・教育の面で の安定をはかるため、我々 ASEAN は団結し、そしてより良い未来、そしてマレーシアの更なる発展を願っ ている。 ASEANisthecornerstoneofMalaysianforeignpolicy.WeastheASEANcountriesarealwaysbeen dreamingtobethecrossroadbetweeneastandwestcountries.Nowadaystheglobalmodernization hadcometoourworld,soinorderforustobeeconomically,financiallyandeducationallystable,we needtouniteandstandtogetherandwillgiveapositivetowardsMalaysia. ② ASEAN と日本について 日本が最もテクノロジーの発展した国ということで、ASEAN 諸国の教育・医療・マネジメントなどに おける技術向上のための援助を期待している。 Wehavebeenknownthatjapanisthemostadvancedwiththeirhightechnologysystem,sothat it'scrucialforjapantohelpaseancountriesinupgradingourtechnologysystemforabetterwayand betteruse.Thistechnologysystemrefereedtoeducation,medical,andmanagement. ③将来の夢 私の夢は、ASEAN 諸国がより平和・安定・繁栄的な地域になり、政治的、経済的、安全保障と文化の面 からも、成功する姿を見てみたい。そのためにも 2015 年の ASEAN 経済共同体設立を心待ちにしている。 ASEAN 諸国の統合は痛みを伴うかもしれないがチャンスとメリットはたくさんある。われわれも 2015 年のマレーシアで行われる ASEAN サミットの横で集まりたい。また、いま教育学を専攻中なのでいい先 生になって ASEAN 各国で後輩を育てたい。 MydreamistoseethesuccessofASEANcountriesintermsofpolitics,economics, security,socioculturalandmanyotheraspectsachievedby2015anditisahopeAseanwillbemorepeaceful,stable and prosperous. The creation of ASEAN community in 2015 is definitely one thing to look forward to. Integration may have birth pains in the beginning but at the end of the day, there are many opportunitiesandbenefitsawait.I’mhopingthatwecangatherinMalaysiain2015,inconjunction withASEANSummit2015,Langkawi,Malaysia.Furthermore,nowIstudyinthemajorofeducation. I'mhopingthatIcanbeagoodteacherandworkingatASEANcountries. 「ASEAN 諸国の政治的、経済的、安全保障と文化 の面からも、成功する姿を見てみたい。 」同感で す。特にこれからは文化の時代です。文化力が世 界を変える。 18 MH January 2015 Myanmar 母国と ASEAN のリーダーになる カーン (ミャンマー代表) Khaing Min Than ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN 共同体によってミャンマーのビジネスが拡大。先進国のノウハウを共有することで、ミャンマーが学 生が十分な教育を受けられる、魅力的な国となってほしい。 1.helpingtoincreaseourcountrybusinessandhumanresources 2.helpingtoincreaseinternationalrelationship 3.gettingexperiencefromthedevelopedcountries 4.gettingachancetoparticipateinoneofabigmarketintheworld 5.gettingeducationalsupporttothestudents ② ASEAN と日本について 日本には教育と人材育成の支援、ビジネスにおけるノウハウ・技術における協力。災害対策や被災地への援助 などを期待し、ASEAN 共同体の設立に大いに貢献して欲しい。 1.educationalsupportandhumanresourcetraining 2.businesstrainingandmanagementtraining 3.supportingmoderntechnologiesforthedevelopmentofASEANCountries 4.supportingfundforthedisasterareasandviolentplaces,disastermanagementtraining,violentcontrol training, 5.humantraffi ckingtraining IwouldliketoseerealASEANCommunityandthebestassociationintheworld. ③将来の夢 私は、母国そして ASEAN のために働くことに誇りを感じており、現在運営している ASEANCommunity の Facebook ページに積極的に関わっている。しかしオンラインだけでは ASEAN 共同体設立における問題点は 解決せず、ミャンマーに数百人レベルのボランティアグループを設立。もっと次世代の若者のため、母国のため、 ASEAN のために働き、そして、母国と ASEAN のリーダーとなっていきたいと思う。 IlovetoworkforourcountryandASEAN.That'swhyI’malwayslookingforthewaytoworkforthe countryandASEAN.AssoonasIknowaboutASEANCommunityFacebookpage,Ijoinedandworkedfor ASEANCommunity.ReallyIwouldliketoworkforASEANandourcountrynotonlyonFacebook,soi triedtoformASEANCommunity-Myanmarvolunteers'group.IhopeIcouldworkmoreandmoreforour youth,ourcountryandASEAN.IamwillingtobecomealeaderofourCountryandASEANtoworkfor ourcitizensandASEANers. 「ASEAN 諸国の政治的、経済的、安全保障と文化 の面からも、成功する姿を見てみたい。」同感です。 特にこれからは文化の時代です。文化力が世界を 変える。 MH January 2015 19 Philippines 大学で外交を教えて次世代の リーダーを育てたい レイチェル (フィリピン代表) Rachel Mary Anne A. Basas ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN 共同体によって、ASEAN 諸国同士の協力体制が確立され、ノウハウ・文化・伝統・価値観等の共有により相 互理解をはかることで、ローカルの人々とりわけ若者の様々な可能性を広げられると思う。 Stronger ties, deeper friendship and trust among the peoples of ASEAN, especially the youth. Increased collaboration and mutual assistance on matters of common interest. Increased sharing of best practices and experiences,culture,traditions,andvalues.IncreasedawarenessontheimpendingAECby2015andACby2020. IncreasedvisibilityoftheASEANasanorganization.Philipinoscangetholdofopportunitiespresentedbythe ASEANCommunity ② ASEAN と日本について 日本の若者が ASEAN 諸国の若者と協同して社会参加ができる機会を提供してほしい。またそのような活動におい て、日本政府の積極的な資金提供を望んでいる。例えば草の根レベルの活動の一例として、例えば1泊2日のホームス テイプログラムを企画したりすることにより、ASEAN 若者の日本に対する理解が深まると思う。 HelporganizesocialimmersionopportunitiesamongtheyouthofASEANmemberstatesandJapan Hostcountriescanbeinrotatingorder,withfundingfromJapaneseorganizations Aone-to-two-dayshomestayportioncanbeintroducedsothatthedelegateswillbeimmersedinthedailylives oftheirhosts,andthereforebeexposedtothecultureofthehostcountryfromthegrassroots. Alternatively,roomarrangementsinhotelscanbemadesuchthatroommatesareofdifferentnationalitiesfor optimuminterculturalawareness. ③将来の夢 私の夢は私たちの国の仲間たちが ASEAN の他の国の兄弟たちと明日の世界を作り上げていくのを見ることです。 若いころから我が国の人たちは才能がありながらそれを発揮する機会に恵まれていないというフィリピンの現実に 直面してきています。このような状況から私は草の根レベルの運動に関心を持ってきました。16 歳の時からボラン ティアで学校にいけない生徒や子供が能力を磨く機会を与える草の根組織に関わってきました。今でもそれは続けて います。3年前に、外交、政府、開発の学生たちを教え始めたとき、この道こそが若者たちにどんな困難にも打ち勝って 国を愛し、国のために働くリーダーになることを教える早道だと知りました。 My dream is to see my fellow countrymen leading and shaping tomorrow’s world along with my fellow ASEAN brothers and sisters. Since I was very young, I was already exposed to the realities of the Philippine society – that a lot of my fellow countrymen have so much talent and skills to offer, but have very limited opportunitiestodevelopandshowcasethem.Thissituationspurredmyinterestingrassroots-leveldevelopment. SinceIwas16yearsold,I’vebeenvolunteeringandrenderingmyservicestovariousgrassrootsorganisations with the aim of helping my fellow countrymen, especially the out-of-school children and youth, cultivate their talents and skills, and eventually find opportunities for them to thrive and develop. Until today, I continue to affiliatewithorganisationswithsuchcauses. When I started teaching students of diplomacy, 草の根運動と政府やビジネスがうまくシームレ governance, and development three years ago, I was スにつながることがこれからの社会では重要で cognisantthatthispathwouldletmedirectlyinfluence す。その先駆けとなって頑張ってください。 the youth to do their best in their endeavours, and to never lose hope despite the myriad of obstacles facing them. Singapore 対外国のPRの仕事をしたい アンジェリン(シンガポール代表) Angeline Marie-Therese Tan Wen Ping ① ASEAN 共同体と母国 シンガポールは小国であり、天然資源がないゆえ、ASEAN 諸国との協力の重要性を感じでいる。社会・ 文化における交流だけではなく、特に輸出産業において、経済的連携が必要だと思うし、数年後にはそれが 実現することを期待している。 ThebenefitofASEANCommunitytoyourmothercountry.Beingasmallcountrywithlittleorno natural resources, Singapore realizes the importance of multilateral ties alongside regional countries in the ASEAN bloc. Trade alongside ASEAN countries based on comparative advantages, economic cooperation, as well as the mutual exchange of social and cultural ideas shall benefit export-oriented Singaporetremendouslyintheyearstocome. ② ASEAN と日本について ASEAN 統合における各国家における問題解決を促し、現地の人材を上手く活用し積極的に社会活動に参 加させる、 重要な仲介国としての役割を日本に期待している。 ThingsthatyouexpectfromJapantoachieveASEANCommunityIntegration.]Japancanbean important“middleman” countrytofosterbetterrelationshipsamongASEANcountriesbyfacilitating opportunities for ASEAN peoples to gather, participate in meaningful activities to discuss important regionalissues. ③将来の夢 民間や公共部門といった枠にとらわれず、外国関係の PR やコミュニケーションの分野で活躍し、会社 や国を発展させて行きたい。 そして、すべてにおいて Win-Win の関係を構築出来る様ベストをつくしてい きたい。 Be it in the private or public sector, as a future employee or working in foreign relations, I hope to do my best to in public relations and communicating the best interests of my company and my countrytoothersandforgingawin-winsituationforall. 本当に Win - Win は難しいものです。しか し、これだけ単独では国が成り立たなくなっ て来るとその難しい解を見つけなければな りません。 期待しています。 MH January 2015 21 Thailand ASEAN を 世 界 中 の 人 た ち に 知ってもらいたい ブーン (タイ代表) Kobchart Jaraswimol ① ASEAN 共同体と母国 タイでは中間層が急拡大し、世界的に生産国だけではなく、魅力的な消費国となっている。2015 年の ASEAN 経済共同体を機に、ASEAN 域内での自由貿易化が進み、さらに域内での取引が活発になり、タイ 経済に大きな成長をもたらすだろう。そのためにも他の ASEAN 諸国との連携が不可欠であるし、これか らの将来を担う若者に対して、ASEAN についての認知を文化交流活動を通じて高めて行ければと思う。 TheintermediatelayerisrapidlyexpandinginThailand,isnotonlytheworld-producingcountries, has become an attractive consuming countries. In 2015 of the ASEAN Economic Community the opportunity, free trade of the ASEAN region has progressed, become more actively trading in the region,itwillbringalargegrowthintheThaieconomy.Toforitsisalsoessentialtocooperatewith otherASEANcountries,andIthinkfortheyoungpeopleresponsibleforthefutureofthefuture,if couldgobyincreasingthroughculturalexchangeactivitiescognitiveaboutASEAN. ② ASEAN と日本について これから日本の将来を担うエネルギッシュな若者との活発な交流を行うことで、ASEAN 諸国は日本 の発展の歴史を勉強し相互理解を深め、 これからの ASEAN 共同体の発展に大いにいかしてもらいたい。 By performing the now active exchanges with energetic young people responsible for the future of Japan, ASEAN countries to deepen the study and mutual understanding of the history of Japan's development,IwanttoutilizeagreatdealtothedevelopmentofthefutureofASEANCommunity. ③将来の夢 現在はタイの大学からオーストラリアの大学に編入し、オーストラリアで ASEAN についての認知を広 める活動を行っている。ASEAN を世界中の若者に知ってもらうこと、そしてそれが母国タイの永続的な 繁栄をもたらすこと。 私がその一翼を担えればと思っている。 Currently,totransfertotheUniversityofAustraliafromThailanduniversity,youarecarryingout activities to spread awareness about the ASEAN in Australia. It get to know the ASEAN to young peoplearoundtheworld,anditcanleadtopermanentprosperityofnativeThailand.IbelieveifIplay arole. 国際派ですね。たのもしいです。わが日本の 若者もガンガン引っ張ってくださいね。 22 MH January 2015 UBM ジャパン㈱ Vietnam 先生になって子供たちに地理を 教えたい ダン (ベトナム代表) Nguyen Hoang Minh Dang ① ASEAN 共同体と母国 ASEAN 共同体はベトナムの発展において重要な役割と果たすだろう。ベトナムが他国そして世界と繋 がるチャンスであり、それが国民の生活水準をあげることに繋がる。そしてベトナムがより自国の経済発 展および世界的問題解決に貢献出来る様、世界中と協力できるようにより一層努力する姿勢を強めていけ ればと思う。 ASEAN plays an important role in the development of Vietnam. It gives Vietnam a chance to integratewithothercountriesandtheworld,whichhelpstoimprovethelifeofVietnamesecitizens.It motivatesVietnamtotryhardertodevelopeconomyandjoinhandswiththeinternationalcommunity insolvingglobalproblems. ② ASEAN と日本 日本には ASEAN の学生への交換留学制度・奨学金制度の充実、技術的協力、対 ASEAN への ODA の拡 充、ASEAN 諸国と協力し問題解決を行ってもらうことを期待している。 SupportASEANstudents(scholarship,exchangeprograms,…). Supportmoderntechnologies. SupportODAforprojectsinASEAN. Join hands with ASEAN in solving international problems (disasters, climate change, peace maintenance,…). ③将来の夢 将来は地理の先生になりたい。地理学は非常に面白い科目であるが、ベトナムの学生間では退屈で人気 のない科目になっている。そこで私は知識や経験を通じて、地理学を生活に密接に関連した実用的な学問 とし、 学生に伝えて行きたい。 学校の地理の先生になりたいと人に言うと、給料が安いからやめなさいと言う。私は自分が正しいと 思ったことをやり抜くつもりだ。 誰も私を変えることはできない。 I want to be a Geography teacher. Geography is an interesting subject but many Vietnamese students feel bored with it. Therefore, I want to use my knowledge and experience to inspire the studentsandmakethemloveGeography,whichisverypracticalfortheirlife. Manypeoplearoundmedon'tsupportmydreambecauseteacherisnotajobwithgoodsalaryin Vietnam,theyadvisemetochoosebusinessorsomethingthathelpsmeearnmuchmoney.Whatever, IbelieveinwhatmyhearttellsmeandIdecidetofollowmydream,noonecanchangeit. 地理学ですか。しっかりした考え方を持って いるあなたの目で地球と人間の生活の良い 関係を見つけてください。 24 MH January 2015 感 ASA の若者 雑 EN Writer 片平秀貴 ASEAN コミュニティのリーダーたちと話をし、上述の彼らの文章を 読んで強く感じるのはつぎの3点だ。 まず、10 ヵ国がそれぞれ独自に「違っている」 。食べ物も価値観も文化も みな独自なものがある。会合ではみなそれぞれの国の民族衣装で発表を 行ったのだが、その独自性と独特の美しさには目を奪われた。「違う」と 言うことは互いに交流し学びあう価値があるということに他ならない。 2番目は、その彼らがみな仲がいいところだ。若者たちが国を超えて仲 がいいのは珍しいことではないが、彼らはとりわけ仲がいい。文章でも peace とか harmony といった言葉が目立つのはその表れだろう。若者た ちがこの時期から仲良くつながっていることの底力は計り知れない。互 いに異なっている者同士が仲がいいのだからこれからどんなことが起こるのかは大いに楽しみだ。 最後に印象深いのは、みなの夢が国とか ASEAN 全体に向けられていることだ。国をよくしたい、 地域を変えたいというのだから、 その夢の規模は半端じゃない。その彼らがアジアの先輩として日本 に期待をしているのは上の文章からも明らかだ。 日本もASEAN各国とは明確に「違って」いて、彼 らと仲もいい。若者の夢の規模はかなり見劣りするものの、ASEAN 各国と相互学習に基づく親密 な交流をすることによって新しいアジアの力が生まれるかもしれないと強く感じる。今回のような ASEAN との交流がさらに盛んになることを祈りたい。 ㈱電通 MH January 2015 25 感 ASA の若者 雑 EN Writer 見山謙一郎 ASEAN 諸国の若者からは、未来に対する「夢」や「希望」を強く感じとる ことが出来る。 これと比較して「日本の若者は・・・」としか読み解けない のが、 今の日本の問題点であることを我々は認識すべきだろう。 我々は今の若者たちに 「夢」や「希望」を与えられているだろうか? リスクを恐れずに、何かに挑戦する姿を見せることが出来ているだろ うか? もし、日本の若者の現状を憂うのなら、その前に我々自身が不都合な現 状としっかり向き合うべきだ。今の日本の若者の姿は、鏡に映った我々の 自身の姿であり、 今の日本の姿そのものである。 ASEAN の若者は、アジアの先進国である日本を尊敬し、多くのことを 学ぼうとしている。 しかし、このままでは ASEAEN の成長とともに、日本の賞味期限は切れてしまう だろう。 でもまだ遅くない。ASEAN の兄貴分としての自覚を持ち、ともに切磋琢磨していくことで、 伸びしろのある ASEAN 諸国とともに、 我々はまだまだ進化していけるはずだ。 日本マーケティング協会にて、12 月 12 日に ASEAN9 カ国の代表者を招いた 『ASEAN 最新事情とネットワーク交流会』の模様 26 MH January 2015 G NEWS MARKETIN ★ TOPICS ★ アメリカマーケティング協会(AMA)の機関誌マーケテ ている。進歩発展する統計数値や各種の定量的な数 ィングニューズ誌の2014年9月号の特集記事はアメリカ 値、分析、モデル化手法、 アルゴノミックスなどの解析技術 のサッカー市場の動向とマーケティング。アメリカはアメフ をベースにする手法で生み出されるチャンスにはまり込ん ットがマーケターにとってマーケティングの重要なプラットホ で、マーケターはテクノクラート化しているが、非常に複雑 ーム。サッカーはスポーツとしては一般化していたがマー な存在である人間と取り組んでいるということを忘れない ケターが注視するような状態に到っていなかった。それが ことだと強調している。中小企業の経営者にもみられるが 今変化し始めているとリポート。最近の定量的、分析的な 大企業の経営者の大半は自分たちの顧客に実際に接触 マーケティングのアプローチに対し人間中心の視点を取 することが希薄で顧客の実態を知らず、データで判断し り戻すことを主張する記事も登場。いつものように独断と て顧客を理解しているようなつもりでいると指摘している。 偏見で参考になりそうな記事、論文を選んで紹介する。 今日の経営者こそは現物現場の認識が必要で人として 特集記事 アメリカではサッカーは強力なニッチ市場化 の顧客を見つめることが重要だと強調。ビジネスとブランド するのではないか、アメリカ市場だけでなくグローバル市 に人間を注入せよという。ビッグデータは人間科学とともに 場でもアメリカのブランド商品と顧客をリンクさせる強いリン 利用されるべきであるとビッグデータ時代に警鐘を鳴らし クとなりうるとアメリカのマーケターが注目し始めたとリポー ている。アメリカでは科学的合理主義の高まりとともに人 ト。現代の重要な顧客層であるヒスパニック系アメリカ人 間主義、人間重視の議論が高まってきているようだ。 と最近の若者世代の間では、サッカーに対する関心が高 注目記事 アメリカらしい表彰記事。カリフォルニアの いだけでなくブランドロイヤルティも高く、 スポンサー会社の NPO団体のK・グラントさんがアメリカマーケティング協会 商品に対する購入意欲は87%と極めて高いこと、そして より2014年のNPOマーケターに選ばれたと報じている。 この層の所得は平均の4倍もあるという調査結果もある。 アメリカはNPO先進国。NPOでは積極的にマーケティン 2014年のサッカーのワールドカップでアメリカ対ポルトガル グ手法を活用する。日本でもNPOやNGOでマーケティン 戦を視聴した人は2470万人に上り、他のスポーツの視聴 グの手法が活用されるような取り組みが必要では。 者を上回ったと指摘。子供たちでサッカーに関心を持った ①デジタル時代の消費者の購買に至る過程は線形型 者は大人になってもサッカーに対する興味は失わず、関 から循環型に変化するとマーケンジーのリポートを紹介し 心は高まるという傾向に注視し、若手世代だけでなく12 ている。デジタル時代の消費者はどのような過程を経て ~ 17歳の層に対するマーケティング活動に活用すること 購買に至るのかを改めて調査、把握する必要があると強 を考えているマーケターもいるようだ。ヒスパニック系アメリ 調。②アメリカの団塊の世代の一番若い層は今や50歳 カ人の54%はサッカーに関心があるとされ、 ヒスパニック 代。この層の消費者行動は外食、住宅、アルコール、健 系アメリカ人に結びつく最善の方法はサッカーだと強調 康に対する支出は他の年代層より大きく、働いている層も する。サッカーがマーケティングで大きな役割を果たすよう 大きい。50歳代及び60歳以上の団塊の世代の裁量消 になるためにはサッカーの露出がもっと増加することが必 費支出は310億ドル、健康関連は16億ドルに達すると推 要でアメリカ人はサッカーゲームのドラマにもっと酔い痺れ 定されている。この層は経験も豊か、品質、価値に対す る必要があるというコメントも。 る鑑識眼も高い。マーケターはこの層を暗いイメージの高 特別記事 人間的であることの意味と題する警告的な 齢者層と捉える前に活発に生活を楽しむ新しい生活者層 マーケターの発言。コペンハーゲンとニューヨークで活躍 として捉え直し、団塊の世代の生活向上に役立つような するイノベーションと戦略のコンサルタント会社のマヅジャ マーケティング活動をする必要があるとしている。 ーグの社長とのインタービュー記事を本誌では大きく扱っ (大坪 檀 静岡産業大学総合研究所教授・所長) MH January 2015 27 AseanForumSpecialReport ① ASEAN FORUM 2014 @ JAKARTA Writer 片平秀貴 吉田就彦、見山謙一郎と私の三人の本誌編集委 目になる。この集まりの特徴は、普段知り合うのが 員と巻頭鼎談に登場した JMA 専務理事石橋正明 難しい ASEAN 各国のマーケティングリーダーた は 2014 年 12 月 10 日と 11 日の 2 日間インドネシ ちに加えてインドネシアとマレーシアを中心とし アのジャカルタにいた。 コトラー教授と共に「マー た政界、ビジネス界の要人たちといながらにして ケティング 3.0」の主唱者として著名なヘルマワ 知り合いになれるところにある。今回も、インドネ ン・カルタジャヤ氏(MarkPlus 社 CEO)の主催す シア、アストラ・グループの総帥プリヨノ・スギア る一連のマーケティング会議に出席するためだ。 ルト氏を筆頭に多くの要人たちが出席していた。 これは、数十人のASEAN各国のマーケティン わ れ わ れ 4 人 が 発 表 し た の は、KIN ASEAN グ専門家が出席した KIN ASEAN 2014 とヘルマ 2014の方なのだが、これは、世界中で展開してい ワン氏のクライアント関係者 5000 人ほどが出席 るノースウェスタン大学ケロッグ校の Kellogg した MarkPlus Conference 2014 の二つからなる Innovation Network の ASEAN 版 に 当 た る。主 が、これらがジャカルタ・リッツカールトンを会場 催者に同校のロバート・ウォルコット教授が名を として混然一体となって運営されているので、こ 連ねている以外ケロッグ色は薄く、みなヘルマワ こではそれらを総称して仮に「ASEAN FORUM ン氏を慕って集まったヘルマワン集会の色彩が濃 2014@JAKARTA」 と呼ぶことにしたい。 い。この集まりでは必ずアジア各国のマーケティ この集まりは毎年 12 月 10 日前後にジャカルタ ング協会代表が集まるセッションがあり、石橋正 で行われるもので、私自身は 2012 年に続いて2回 明専務理事が発表を行った。また、5000 人の大会 ハピネスをどうストックして永遠の愛に つなげるか Greater Investment on R&D,etc. HAPPINESS, stocked Hermawan’s 13 C Development of unique and better technologies and designs Character Conversation Codification Better products delivered with care Care Collaboration Vision and philosophy delivered & realized by users Codification Clarification Confirmation Community Communal-enhancement Fans increase More WOM born Conversation Co-creation Users’ stronger ties with the brand Dream or die 28 MH January 2015 1 ハピネスを永遠の愛につなげるための スパイラル Greater reputation Connectivity The price approaching the “premium” level Currency Commercialization Happier CFO Greater investments on R&D etc. HAPPINESS, stocked and INNOVATION, Continued Round 2,3,4,・・・ 場では、 アジア・マーケティング連盟会長でもある ン代表の YayuE.Javier 氏が重い教科書をすべて JMA の後藤卓也会長が基調講演をされた。 電子化し小学生に喜ばれていること、カンボジア Dream or die 2 私はそのマーケティング協会代表のセッション 代表の NangKinal 氏が、若手起業家たち 50 人ほ の冒頭の発表と全体の司会を担当した。私の発表 どが横につながって Win-Win な関係を作り上げ の詳細は紙幅の都合で省略するが、イノベーショ ていることなどが報告された。日本からは上述の ンの議論にともすれば忘れられがちな「そもそも 石橋氏が日本マーケティング大賞の紹介を行いな なぜイノベーションが必要とされているのか」を がら、近大マグロや田んぼアートによる村おこし 正面から問いかけた。「どんなイノベーションで など身近でより人間中心的な活動も表彰されてい もその底に人々のハピネスへの強い思いがなけれ ることを発表し会場の共感を得た。 ば意味がない」と述べたところ女性の参加者を中 以下にご紹介する吉田氏と見山氏に加えて、博 心に会場中から「そのとおり!」という強い頷きと 報堂の嶋田仁氏からも発表があり大会場での電通 笑顔を得たのは忘れられない。 山本氏の講演とも相まって、この2日間で日本の さらに、ハピネスは一瞬、それをどうストックし 存在感は大いに高まった感がある。そこでも感じ て永遠の愛につなげるかという問題提起を行っ たのは、ASEAN と日本の親近性と彼らの日本へ た。R&D 投資から⇒イノベーション⇒《作り手の の期待の大きさだ。人間中心を基軸にアジアのイ 「思い」の実感とハピネス体験の記憶⇒ファンの増 ノベーションをともに創っていく方向性に間違い 大⇒評判の形成》⇒高い収益⇒さらなる R&D 投 がないことを強く実感した次第だ。 資、というスパイラルを提示し、 《》部分が肝要で あることに加えて、その部分が近年ヘルマワンが 唱えている 13C にぴったりと対応していること を指摘した(図参照;発表スライド全体は、www. mbforum.jp) 。ASEAN のマーケターたちが「ハピ ネス」というキーワードに予想以上に反応したの は驚きで、人間中心のイノベーションを指向する 新しいアジアの空気を実感することができた。 各国の発表もユニークなものが続き、フィリピ 片平 秀貴 (かたひら ほたか) 丸の内ブランドフォーラム代表。本誌編集委員長。 国際基督教大学卒業。東京大学大学院経済学研究科 博士課程で学び、大阪大学経済学部助教授、東京大 学経済学部助教授を経て、1989 年∼ 2004 年東 京大学大学院経済学研究科教授。この間ペンシルベ ニア大学ウォートン・スクール、カリフォルニア大学 バークレー校、ストックホルム・スクール・オブ・エコ ノミクス等で客員教授を歴任する。 MH January 2015 29 AseanForumSpecialReport ② ASEAN FORUM 2014 @ JAKARTA Writer 見山謙一郎 2014 年 12 月 10 日 か ら 11 日 の 2 日 間 に 渡 在のバングラデシュ(アジアの開発途上国)との り、 イ ン ド ネ シ ア の ジ ャ カ ル タ で KELLOGG 連携事例」を紹介することで、フォーラムに参加し INNOVATION NETWORK 主 催 の ASEAN た ASEAN の人々が、同じアジアの国同士の「文化 FORUM 2014 が開催された。このフォーラムの 的価値観の類似性」を意識するきっかけがつくれ テーマは、未来志向の「Change@Scale,THINK るのではないか、と考えていた。ウォルコット教授 NEWASEAN !」 であったが、私は敢えて違った には、「私のプレゼンは日本とバングラデシュの 角度からスピーチを行った。キーワードは「温故 話だが、この話を日本とインドネシア、インドネシ 知新」。過去には原点があり、そこにアイデンティ アと ASEAN との関係に置き換えてイメージして ティの源が存在するはずであり、それゆえ変化や 欲しい」とだけ伝え、プレゼンの変更に応じること 新しさを追求する為には、まずは過去を理解し、過 はしなかった。 去から学ぶことが必要と考えた為だ。マーケティ ング的観点から「温故知新」を捉えると、過去から バングラデシュにおける、 学ぶことは、思考や行動の源である“Why”の探求 わらじの技術伝承プロジェクト へと繋がっていく。今回のフォーラムの主催者で 私がバングラデシュで学生と進めている「わら あるヘルマワン・カルタジャヤとフィリップ・コト じの技術伝承プロジェクト」とは、「日本の技術」、 ラー等の共著である「マーケティング 3.0」を私な 「地方の叡智」、「日本の経験」の 3 つを融合させた りに解釈すると、 マーケティング 1.0 は 「製品」 すな ユニークな挑戦である。まず「日本の技術」とは、最 わち“What”の探求、マーケティング 2.0 は「手法」 先端の技術ではなく、日本の農村部に残る伝統的 すなわち“How”や“Where”の探求、そしてマーケ な「わらじづくりの技術」。 「地方の叡智」の象徴は、 ティング 3.0 は“Why”の探求となり、私の狙いと 学生がわらじづくりを学んだ秋田県にかほ市に在 合致すると考えた。 住する御年 86 歳のわらじの師匠。そして「日本の 私 が 参 加 し た セ ッ シ ョ ン の テ ー マ は、 経験」とは、経済発展の果てに訪れた、人としての “InternationalViewonIndonesia” であったが、こ 在り方をもう一度見直そうとする「温故知新」の価 こでも私は意図的に、敢えてインドネシアの話は 値観である。ではなぜ、バングラデシュでわらじな せず、バングラデシュで学生と進めている 「日本の のだろうか? 伝統技術である“わらじづくり”をバングラデシュ このプロジェクトは、工業機械に頼らないハン に伝承し、現地の雇用を創出するプロジェクト」 に ドメイドのわらじづくりの技術を三毛作の稲作文 ついて話をした。 実は、インドネシアについて触れ 化を有するバングラデシュに伝承することで、現 ていない発表資料を送ったところ、コーディネー 地に新たな雇用をつくることを目的としたプロ ターを務めたウォルコット教授(ノースウェスタ ジェクトである。もしバングラデシュの農村部の ン大学ケロッグ経営大学院)から、 「テーマとの関 人々がわらじをつくれたら、彼ら自身がそれを履 連性が薄いのではないか」との指摘をいただいた。 くこともできるし、販売することで収入も得られ しかしながら、私はインドネシアの状況を無責任 る。そう考え 2010 年にスタートした。しかしなが に伝えるよりも、 「日本の過去 (伝統的技術) と、現 ら、物事はそう簡単に進まない。実は、バングラデ 30 MH January 2015 わらじのファッション性を伝える Facebook「わらじ美女図鑑」 シュでは、藁は肥料や飼料として使われる為、とて も貴重なものだったのだ。 藁がダメとなれば、別の マーケティング 3.0 とわらじプロジェクト との関係図 素材を探さなければならない。そこで着目したの が、バングラデシュは、世界第二の縫製大国である という事実であり、私たちは藁ではなく、布からわ らじをつくることにした。 そして今、このプロジェクトはバングラデシュ にある世界最大の NGO・BRAC のアパレル部門で あるアーロンと提携し粛々と進められている。私 たちは、このバングラデシュで作られた布わらじ を、日本で CSR やフェアトレード商品としてでは なく、ファッションアクセサリーとして販売しよ うと考えている。 実はこれこそが、私たちにとって 最大の挑戦なのである。 マーケティング 3.0 とは、 アジア的な価値観 インドネシアなどアジア諸国が日本から学ぼう と対談した際、「よりより社会をつくろうとする マーケティング 3.0 的な思考は、実はアジア的な価 値観である」 、ということに気づかされた。アジア 的な価値観は、今、世界から注目されており、この とする時、ついつい最先端の技術や製品に目を奪 価値観を日本から世界へと発信することが求めら われがちである。 しかし、日本が新しいものを生み れている。今回、フォーラムに参加し、ASEAN 各 出す力をもっているのは、先人の知恵や経験、日本 国の人々のスピーチを聞く中で、そんな日本の役 的な価値観であることを忘れてはならない。バン 割をあらためて実感した。 グラデシュや ASEAN 諸国を訪れ、現地の企業経 営者や大学教授と交わる中でいつも議論になるの は、「これまでの欧米型の経済発展、キャピタリズ ムとは違う、アジア独自の発展の仕方があるので ないか」ということである。 その議論の根底にある のが、 「自然と調和して生きようとするアジア的 な価値観と向き合う」ということではないだろう か。バングラデシュのダッカ大学ビジネススクー 見山 謙一郎 (みやま けんいちろう) 株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役、次世代人財塾・適十塾塾長 多摩大学経営情報学部非常勤講師、ノーザン大学(バ ングラデシュ)客員教授 環境省 中央環境審議会委員 ルでマーケティングを担当するファーハット教授 MH January 2015 31 AseanForumSpecialReport ③ AKB48 Approach for Japanese pop-music innovation Writer 吉田就彦 KIN で私がパネリストとして担当したセッショ ループとの間のファンを含めた交流は、まさにス ンは、シンガポールの南洋理工大学の副教授で、 トーリーの源泉となっていることを示した。 Nanyang Technopreneurship Center デ ィ レ ク 三 つ 目 は、「Long-tail marketing and“free” ターの HOOI DEN HUAN 氏がオーガナイザー marketing」で、特に“free”marketing についての を務めた CHANGE@SCALE:ASEAN ということ ユニークな AKB48 の戦略を披露した。このプレ で、ASEAN をテーマに様々な CHANGE のメッ ゼンテーションの前段で私が示した AKB48 のビ セージが交わされたセッションだった。 ジネスモデルは、コンテンツ・フリー時代への経過 パネルのトップバッターの私がこの日のため モデルというものだった。本来のようにコンテン に用意したテーマは、 「AKB48」 。その成功へのイ ツである音楽をタダにして、それに付帯するビジ ノベーション・モデルをフィリップ・コトラーが ネスで稼ぐモデルではなく、AKB48 では CD 自 WMSJ2014 で示した 10 の新しいマーケティング 体も売り、それに様々なイベントの参加権やメン 戦略を使って説明した。 バーに対する投票権が付帯するというモデルであ 何故この KIN カンファレンスで AKB48 なのかと ると説明し、経過モデルという意味を解説した。 いうと、翌日に行われた一般向けのフォーラムで AKB48 のフランチャイズグループであるジャカ consumption」 。このマーケティング戦略では、メ ルタの JKT48 が、ゲストとしてパフォーマンスす ンバー間の競争とそれを応援するファンの関係 る予定であり、最近ヘルマワンさんが JKT48 に肩 を共創的な商品開発行為と見なして、その成果と 入れしているとの情報が事前にあり、それならば して CD やコンサートチケットが売れていくとい と選んだテーマだったのだ。 う、まさにファンを巻き込んでのマーケティング コトラーが提示した 10 の戦略のうちで私が 活動を説明し、SNS を使ってメンバーがファンの 選 ん だ の は、 ま ず 始 め に「Rise of experience- 声や意見を聞き、それに答えていくことでファン centered marketing」 。ファンたちが AKB48 劇場 との関係性を構築していくメンバーのスタンスを に毎日のように集まり、彼女らの成長を見守り応 示した。 援することで、その体験により AKB48 の世界観 これらコトラーの 10 の戦略のうちの四つが に触れて楽しんでいるという事を「会いに行ける AKB48 のビジネスモデルに当てはまり、その上で アイドル」という AKB48 のコンセプトとともに AKB48 ならではの二つのユニークなマーケティ 紹介した。 ング戦略を次に示した。 二 つ 目 は、 「Rise of content marketing and その 1 は、日本のアイドルという存在そのもの story telling」。ファン投票などで決まっていく彼 がユニークなマーケティング戦略を内包してお 女たちのポジション争いや、まるで企業の人事異 り、さらに AKB48 では都市名を示すネーミング 動を思わせるような出向やリストラなどの組織改 等ユニークなフランチャイズ化に成功した点であ 革は、 コンテンツ・マーケティングで扱う消費者の る。コトラーの 2 番目の戦略のように、人事異動を 関心事コンテンツそのものであり、それにまつわ 繰り返すメンバリングでその地方のメンバーのモ る本体 AKB48 と SKE48 や NMB48 などの派生グ チベーションもキープするという様なユニークさ 32 MH January 2015 四 つ 目 は、「Rise of collaborative AKB48 とはどのようなものか Summary What is AKB48 ? They perform everyday. (Fans can meet them in person at the theater.) “The IDOLS, who we can interact at any time.” They have won the Japan Gold-disc award consecutively for 4 years from 2011 to 2014 and have been No.1 in Japanese pop music sector for many years. Unique experience that fans can usually enjoy only at smaller theaters and halls where they watch live plays and music bands. [AKB48 Theater] in Akihabara, home of sub-culture . Fans form a family and nurture the idols by spending a lot of time and effort. Japanese No.1 female pop group as national idol. The business model of AKB48 is Opening for the age of CONTENT FREE in Japan. It is just like Tokyo Disneyland. Disney’s world with characters at Disneyland. Competition Story with AKB48 Members at AKB48 Theater. 1 2 を、「Uniquewaytolocalize」 として説明した。 また、これらの説明の中でコトラーの 10 のマー その 2 として、現在の日本の音楽シーンにおけ ケティング戦略は Marketing4.0 に向けて行われ るプロの作家の復活を挙げた。海外の人間にはな る こ と か ら、AKB48 の フ ァ ン た ち の 応 援 や メ かなか理解できない事かも知れないが、私小説的 ンバーたちの頑張って勝ち行く姿勢は、先日コト なことを歌詞にするシンガーソングライター系の ラーが WMSJ2014 で示した「self-realization」(自 音楽が近年日本の音楽シーンにあまりにも多く溢 己実現)そのものであり、ある意味で AKB48 は れ、往年のアイドル曲のように、応援したいファン Marketing4.0 を先取りしたビジネスモデルである の期待に応え、かゆい所に手が届くような楽曲を とした。 求めるファンに対し、これまで劣性だったプロ作 そのため、プレゼンが終わった後の HUAN 氏 家がここぞとばかりに活躍する現象が起こってい からの質問で、「Marketing5.0 はなにか?」と質 るとの指摘だ。 問を受け、私が現在イメージしている姿として、 そんなプロ作家によって AKB48 の音楽の中 Marketing5.0 は「ARTSPIRIT」であるとの持論を に取り込まれている要素は、そのメインコンセプ 示してセッションは終了した。次回また機会があ トに合致する LIVE で盛り上がる音楽であるこ ればその中身について論を展開したい。 との「コンセプト性」と、大きなトレンドとなっ ている元気な女子を歌の中に盛り込んでいる「時 代性」の 2 つであり、それぞれを「Musicforlive performance」 と 「GirlPower」 と説明した。 さらにまとめとして、以前ある TV でも解説し たことのあるディズニーランドと AKB48 との類 似性を指摘して、コンテンツフリー時代への成功 事例として AKB48 のビジネスモデルをまとめた。 「 D i s n e y ’ s w o r l d w i t h c h a r a c t e r s a t Disneyland.」 は、「Competition Story with AKB48MembersatAKB48Theater.」というわ 吉田 就彦 (よしだ なりひこ) デジタルハリウッド大学大学院教授。(株)ヒットコ ンテンツ研究所代表取締役社長。自ら「チェッカー ズ」 「だんご 3 兄弟」などのヒット作りに関わり、ネッ トベンチャー経営者を経て現職。「ヒット学」を提 唱しヒットの研究を行っている。木の文化がこれか らの日本の再生には必要との観点から、「一般社団 法人木暮人倶楽部」の理事長にも就任。著書に「ヒッ ト学∼コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法 則」、共著で「大ヒットの方程式∼ソーシャルメディ アのクチコミ効果を数式化する」などがある。 けである。 MH January 2015 33 協会トピックス 2014 ●東京本部 今年のトピックスはワールドマーケティングサミッ トジャパン 2014の開催が挙げられる。9月 24・25日の 2日間に渡り、東京・グランドプリンスホテル新高輪で 延べ2500名を集め盛会裏に終了した。 「21世紀型マー ケティングが生む、新ビジネスパラダイム」をテーマ に、世界各国を代表する経営者、マーケティングの第 一人者 30名超の講師陣によりスピーチが行われ、冒頭 では安倍総理大臣のビデオメッセージも流された。ま た過去の国際会議に比べ、今回の特徴は非会員社の人 の参加が多かった点が挙げられる。最後にフィリップ・ コトラー教授が「2日間のサミットで学んだことを会社 の皆さんに伝えて下さい。来年の10月にまた会いまし ょう」と締めくくった。 第 6回日本マーケティング大賞は5月 26日、アルカ ディア市ヶ谷で定時総会、講演会に引き続き開催され、 「ネスカフェ アンバサダーによるオフィス市場の開拓」 が選出され(選考委員長:㈱朝日新聞社 常務取締役 広 告・出版担当 和気靖氏 )、JMA後藤卓也会長よりネス レ日本㈱ 代表取締役社長兼CEО 高岡浩三氏に賞状と クリスタルカップが贈呈された。また、奨励賞の『日 本初のクルーズトレイン「ななつ星 in九州」の開業に よる新たな「旅」の提案』 (九州旅客鉄道㈱) 、 『近大 流 マーケティング戦略』 (学校法人近畿大学) 、 『田んぼ アートを活用した村おこし』 (田舎館村おこし推進協議 会) 、 『 「速達生」導入プロモーション』 (㈱マルト水谷) と地域賞 3社に賞状とトロフィーを授与した。 マスターコースの最優秀論文として、サントリー㈱ の西本正三氏に鳥井道夫賞を授与した。 テーマ委員会はコンベンションで3委員会の報告がな された。 ●関西支部 USJの新しいアトラクション“ウィザーディング ・ワ ールド ・オブ ・ハリー ・ポッター”がヒットして開業 以来の入場者数を記録し、またミナミの道頓堀や心斎 橋筋などを歩くと聞こえてくるのは中国語と韓国語と、 インバウンド消費が活況を呈しているが、関西経済全 体としてはまだまだ点にとどまっており、面的な広が りが乏しい景況感の1年ではなかったか。 そのような中で、第 6回日本マーケティング大賞に ネスレ日本㈱様、同奨励賞に学校法人近畿大学様、関 西地域賞に(一社)グランフロント大阪 TMO様と、関 西から初めて3案件が受賞され、大変喜ばしい結果とな った。 関西支部の事業ではマスターコースに22名、ベーシ ックコースに36名の参加をはじめ、様々な研究会や例 会、セミナーに多くの方の参加をいただいた。 34 MH January 2015 また関西支部は本年、創立 35周年を迎えた。改めて 会員各社のご協力、ご支援に御礼申し上げたい。 ●九州支部 前年に続き持ち直しの動きが続くかに見えた九州経 済だったが、増税後は駆込み需要の反動が予想以上に 大きく、9月には経済成長率見通しが0.9%から0.4%に 下方修正された。一方好調な業種もあり、例えば観光 業では激減していた海外観光客が復活し、官兵衛効果 で国内客も順調に推移した。また、ホークスの日本一、 サガン鳥栖の活躍、熊本に続いて北九州・福岡でも大 規模市民マラソンが始まるなど、明るい話題も多かっ た都市であった。2015年は、東九州自動車道の開通が 間近に迫り、 東九州に注目が集まる年になりそうだ。 「ア カデミー・ベーシックコース」は、例年通りの内容で 9月に実施した。セミナーは、新春セミナー「消費潮流 2014」デジタルセミナー「ライオンがテレビ×デジタ ルに想うこと」春季セミナー「宅内メディア行動の変 化と今後の展望」秋季セミナー「考え方と行動を変え るダイレクトマーケティング」の4本を実施した。季刊 誌「マーケティング eyes」は、それぞれ「農産物流通」 「ハラルビジネス」 「産業観光」 「海」の特集テーマで年 4回発行した。 来年に目を向けると、東九州自動車道が全線開通に あとわずかに迫っており(完成は2015年度中) 、既に 開通している区間の交通量は順調に増加しているが、 全面開通に向け東九州の発展の起爆剤になることが期 待されている。 ●北海道支部 北海道支部では「地域活性化とマーケティング」を 大きなテーマのひとつと捉え、活動を進めている。ア ジア圏観光客の増加など、道内が活気を取り戻してき た実感のある1年であった。 東京からの講師をお招きすると共に、道内の講師起 用にも注力し幅広いテーマでセミナーを実施した。函 館観光を牽引するプロデューサーによる「キャラクタ ーマーケティングと地域活性化」を始め、道内外の風 をバランスよく取り入れた。また、旭川を中心に展開 する「君の椅子プロジェクト」が第 6回マーケティン グ大賞地域賞を受賞。エリアマーケティングの意義を PRする良い機会となったと感じている。 またアカデミーでは、これまでのアドバンスコース を「プロジェクトリーダー養成講座」としてリニュア ルを図った結果、多数の新規企業様に受講参加をいた だいた。来期もベーシックコースと併せて、アカデミ ーの更なる充実を図るべく取り組んで行きたい。 BOOKS Editor's Choice Professor's Choice 『あの夏、サバ缶はなぜ売れたのか?』 仮説を行動、成果につなげるビジネスビッグデータ分析 大木真吾 著、日経BP社 『ブランド戦略全書』 田中洋 編、有斐閣 「あの夏」 というタイトルから東日本大震災が起きた2011 ブランド論の各分野における最新の研究成果が「全書」として 年のことを勝手に想起してしまったが、2013年の夏に巷 まとられている。全12章がそれぞれ個別の執筆者の手になる本 では突如としてサバ缶が売れていたらしい(全然知らなかっ 書の内容を、限られた字数ですべて紹介することはむずかしいが、 た!) 。きっかけはよくあるように、テレビの健康番組に取り上 第1章(青木、以下敬称略)では最新の価値共創・意味ベースの げられたことのようだが、その後をきちんと分析してみると、ツ ブランド観まで古今のブランド研究を概観し、第2章(阿久津)で イッターの投稿数が増加したり、ウェブのニュースサイトで取 は特に近年のソーシャルエコノミーの時代背景におけるブランドの り上げられたりする事象と、POSデータによる販売実数が 役割までを視野に入れたブランド経営を論じている。第3章(久保 明らかに相関していることがわかったのだ。 本書は、博報堂グループでデータ解析をベースとしたマー ケティング業務に携わる著者が、 「ビッグデータ」や「統計 学」などと聞いて及び腰になるような人に向けて記した「ビッ グデータに関する超入門書」である。そんな位置づけゆえ に、数式や難解な統計に関する話は一切登場しない。「居 酒屋」 「シュークリーム」 「雪見だいふく」など、身近でわかり やすいケースをもとに、データ活用の意義を紐解いている。 中でも、日本航空のプロジェクトで、各種データから「海外 女子旅」というユーザーのシーンをあぶり出し、その潜在層 へアプローチしたという事例は興味深い。 小規模のリサーチ業務であっても、 その設計の前に「まず は仮説が大切」ということは昔からしばしば言われることだ。 そして著者もこう言う。「最初はデータから完全に離れ、生 活者の行動について想像を巡らせ、仮説を出し合うことか ら」。あるいは、 「データありきで取り組み始めた場合、既に 分かっているような仮説しか見いだせない」。 田)では著者のこれまでの多様な実証研究にもとづきブランド ・リ レーションシップを論じるが、特に後半の「絆−購買マトリクス」 「絆 −バランスマップ」はきわめてユニークである。第4章(荻原・上田) では、ブランド認知やブランドパワーを測定する上で「反応時間」 を測定することの有用性を論じているが、強く納得させられる報告 である。第5章(余田)ではB to Bブランドを専門とする著者によ る最新の研究成果が報告されており、B to Bサービス・ブランド のマネジメントまでをカバーしている。なお第12章(本庄)では、B to Bブランドのケースとして、横河電機の示唆に富む事例が報告 されている。第6章(松下)ではセールス ・プロモーションがブラン ド知識に及ぼす影響というユニークな着眼点にもとづく研究が報 告されている。第7章(小林)では日本および海外における地域ブ ランド論の統合が試みられており、興味深い。第8章(陶山)では 流通チェーンにおけるプライベート・ブランドが取り上げられ、第9章 (足立)では、法律の専門家により法的側面からブランドが論じら れる。第10章(田中)では、本書の編者である田中により、石器 マーケティングの世界では「ビッグデータ」という言葉が飛 時代にさかのぼってブランドの歴史が論じられるが、本書は現在執 び交い、 「21世紀のセクシーな職業はデータアナリスト」の 筆中の書籍からの引用と述べられており、今からその刊行が待た ような、大げさで不思議な表現を耳にすることもある。もちろ れる。第11章と第12章はケースであり、第11章ではサムスン電 ん、緻密なマーケティング戦略を立案していくためにはITと 子のブランド構築、第12章(上述)では横河電機によるブランド・ 統計学に関する十分な知識がチームとしては欠かせないの マネジメントのケースが報告されている。 は間違いない。 しかしどんなに膨大な情報が揃ったところで、 以上に見たように、本書がカバーする範囲はビジネスから研究、 生身の人間による仮説や思考なくして、有用なデータが勝 B to BとB to C、地域からグローバル、経営から法的側面まで、 手に浮かび上がってくるわけではないという事実を、改めて 石器時代から21世紀までと広範にわたるが、これだけの内容がた 思い起こさせてくれた。 いへんコンパクトにまとめられており、まさに必携の書である。 (株式会社カゲン 子安大輔) (東北大学大学院 経済学研究科 教授 澁谷 覚) MH January 2015 35 「マーケティングホライズン」編集委員 広告掲載会社 編集委員長 片平秀貴丸の内ブランドフォーラム ㈱朝日新聞社 表4 ㈱明治 表3 ㈱読売広告社 編集委員(五十音順) 子安大輔㈱カゲン 松風里栄子SensingAsiaInterliteracyInc. ㈱インテージ 9 UBMジャパン㈱ 23 ㈱資生堂 ツノダフミコ㈱ウエーブプラネット 中島聡㈱明治 中塚千恵東京ガス㈱ ㈱電通 本荘修二本荘事務所 見山謙一郎多摩大学経営情報学部非常勤講師 表2 17 25 吉田けえな㈱RBK 吉田就彦㈱ヒットコンテンツ研究所 エチエンヌ・バラールジャーナリスト 編集後記 2015 年を迎えてすぐ ここ数年、縁あって ASEAN の方々とは親しく に 頭 に 浮 か ん だ の は、 させていただいている。東京でも現地でも付き合 2020 年の東京五輪(ラ いを深めるごとに彼らの明るさと知性、そして国 グビーファンとしては と地域をよくしたいという壮大な夢に大いに感銘 2019 年のラグビー・ワー を受け、和魂洋才ならぬ亜魂和才が勝利に方程式 ルドカップ東京大会も なのではと思ってしまうのだ。それにしても、彼ら 外せないが)に向けて の期待に反して日本側の ASEAN への認識不足に 日本の存在感が国際的に高まる動きの元年になる は救いがたいものがある。2015 年を機に日本の のではという予感だ。ただそれは 20 余年まえの日 大勢の心あるマーケターたちが本気で ASEAN に 本だけが突出した 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」 目を向けてほしいという思いで今号の特集となっ ではなく、アジアの仲間と共に輝く絵柄だ。特に、 た。今までの「マーケティング」からははみ出した 2015 年は ASEAN 統合が実現する年で、東アジア 内容も多いが、熱い論稿をお楽しみいただき熱い がまとまりを欠く現状を考えると、まず ASEAN コメントを寄せていただけるとそれに勝る喜びは と日本がつながって「JASEAN」として新しいうね ない。 りをつくっていくのが現実的かもしれない。 (片平秀貴) マーケティングホライズン 1号/ NO.678 2015年2月1日発行© 発行者:都丸幸弘 発行所:公益社団法人日本マーケティング協会 〒106 -0032東京都港区六本木3 -5 -27六本木YAMADAビル 9 F TEL.03 -5575 -2101 FAX.03 -5575 -0626 http://www.jma-jp.org 定価:1部200円(送料別) (購読料は会員費に含まれています) 印刷所:大日本印刷㈱ 表紙デザイン・編集/松熊慎一郎 無断複写・転載を禁ず。 36 MH January 2015
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