振動絶縁分野で活用された メカトロニクス

振動絶縁分野で活用された
メカトロニクス
Hutchinson
Research Center
Pascal Audrain
仏の防振ゴムメーカー、 ETAS ツールを使用したクローズドループ制御により車体の
振動絶縁を改善
車の乗り心地や静粛性の向上を求めるユーザーが増えています。このニーズに対処するには、走行中に発生する騒音を制御して振動
音響を低減する新しい手法が必要となります。車に搭載されている革新的な技術の多くが電子制御によって実現されている今日、フ
ランスのHutchinson(ウッチンソン)社傘下のメーカーPaulstra(パウルストラ)社の開発チームは、エレクトロニクスの手法に
よりアクティブ騒音低減を実現しました。自動車業界向けにアクティブ振動音響制御の製品を提供するために、同社はETASの一連
のツールを採用しました。
ウルストラ社は、振動および音響絶縁
新しい課題に対処するための賢明な選択
INTECRIO統合プロトタイピング環境を使
装置(ゴムやメタル製のパッシブデバ
用してプロトタイピングハードウェア上でリ
振ゴムメーカーです。新製品の開発に向け
ETASの製品群とエンジニアリングサービス
が導入されたことで、自動車制御開発のV
モデル全体をカバーしているETASソリュー
て、開発チームは電子制御に関する専門知
ションのメリットが随所で発揮されました。
識を深め、新しい電動アクチュエータの開
開発の流れとして、まず始めに、制御アル
発に取組まねばなりませんでした。開発プ
ゴリズムをSimulink®モデルとして設計し、
パ
イス等)の分野で定評のあるフランスの防
アルタイムに実行しました。
ロジェクトにはクローズドループECU制御
の手法が導入されました。エンジンから生
じる実際の振動は加速度計によって計測さ
パウルストラ社の
れ、この信号はECUによって処理され、振
アクチュエータ
動を最小限に抑えるためにアクチュエータ
およびECU
をどのように動作させるかが判断されます。
このコマンドの結果が計測され、エンジン
の状態に応じてECUにより常時調整されま
す。
このコンセプトの実現に向けて、パウルス
トラは社内のノウハウをベースにアクチュ
エータの設計および特許取得に取り組みま
したが、ECU開発に関する新しいスキルを
取り込む必要が生じました。組込みソフト
ウェア開発の課題を解決するために、同社
が導入したのはETASのソリューションでし
た。
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次に、ASCET-MDを使用してこのモデルを
ECUソフトウェアに変換し、ASCET-SEを
ASCET-MDを用いたオフライン実験で各コ
ンポーネントの妥当性確認を、またINTECRIOを用いたオンライン実験で、統合され
用いて実行可能なソフトウェアを作成しま
した。またINCA測定・適合ツールを開発の
各工程で使用し、プロトタイピングハード
ストレーションや、後の量産用ハードウェ
Step 1―Simulink®モデルを用いた実験:
INTECRIO とES1000 プロトタイピング
ウェア上で動作するソフトウェアのデモン
た機能の妥当性確認をそれぞれ行いました。
ア上での適合作業にも活用しました。プロ
ハードウェアを使用
INTECRIOの実験環境ではSimulink®モデル
とASCETプロジェクトの両方を実行できる
トタイピングハードウェアには、ES1135シ
ここでの目標は、機能のレベルに焦点を当
ため、それぞれの結果を容易に比較するこ
ミュレーション/システムコントローラボー
て、振動の大幅な低減を可能にする制御ア
とができます。プロトタイピングハードウェ
ドを始め、最新のI/Oボード各種が搭載され
ルゴリズムを検討することです。制御機能
ア上で動作するASCETプロジェクトによっ
たモジュール構造のES1000 VMEシステム
の妥当性確認が主眼であり、実装の詳細は
て、ここでもクローズドループ制御の手法
を使用しました。
考慮されません。
で、指定した音波の相殺が行われました。
クローズドループ制御に
よるアクティブ騒音制御
クローズドループ制御
システムの原理図
振動源の波形
エンジンの振動
車両プライマリパスの
足し合わされた波形
伝達関数
制御音の波形
音波の相殺
センサ
アクティブ
制御
アクティブ型
マスダンパ
車両セカンダリパスの
伝達関数
制御アルゴリズムをSimulink®モデルとして
Step 3―固定小数点演算を用いたソフト
Vモデル全体をカバーするETASツールを用
設計し、INTECRIOを使用して、浮動小数
ウェア実装
いて段階的な手法で開発を展開
点の演算も扱える高速演算能力を備えた
Step 3では、新規に開発したECUソフト
ES1000ハードウェア上でリアルタイムに実
ウェアのインプリメンテーション(実装情
報)を定義します。目標は、浮動小数点値
パウルストラとETASエンジニアリングチー
行しました。この工程では、作成された制
ムの連携による今回のアクティブ騒音制御
御モデルと、操作性の良いINTECRIOによ
の代わりに固定小数点値を使ってアルゴリ
ソフトウェアの開発は、5つのステップを経
り、期待した結果を速やかに得ることがで
ズムを計算することです。
て進められ、各工程の完了毎に、主にスペ
きました。つまりクローズドループ制御の手
ASCET-MDのコード生成機能のオプション
クトル分析による外部のデータ収集システ
法で、指定した音波を相殺することができ
設定を変更して固定小数点バージョンのソ
ムを用いて、ソフトウェアの妥当性確認が
たのです。
フトウェアを作成し、プロトタイピングハー
行われました。
ドウェア上でその妥当性確認を行いました。
Step 2―物理レベル実験用のASCETモデ
先に記録されたデータ収集ファイルを使用
ルの開発
して、ECUソフトウェアの各変数およびパ
Step 2では、モデル化して妥当性確認を
行った制御機能に基づいて、ECU ソフト
ラメータの標準的な値の範囲と最適な精度
ウェアの定義を行います。ここでの目標は、
ト固有の制約下(マイクロコントローラの
モデル自体の変更は行わずに、柔軟性に富
データバス幅、RAMサイズ、ROMサイズ
みメンテナンスの容易なソフトウェアのアー
等)での要求精度の実現に向けたパラメー
キテクチャを定義することです。所望のリ
タ調整を行いました。
アルタイム条件を満たすため、ASCET-MD
が決定され、また適合によって、ターゲッ
➔
■
を使用してモデルをモジュールとクラスに分
割しました。
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J 2 0 0 8 .1 R T
Profile
Since its founding in 1853,
Hutchinson has developed its
know-how, skills, and technological expertise for improved
performance in safety, comfort,
and driving enjoyment.
A technology company that
listens
Hutchinson provides its clients
with its strong capacity for innovation, its understanding of
complex phenomena as well
as a wealth of knowledge from
vast scientific pursuits.
State-of-the-art-technology
implemented on various production sites are the fruit of active,
concentrated R&D.
Established worldwide
Hutchinson is established the
world over. Its development and
production centers cover Europe,
the Americas, and Asia, allowing
its clients to reap the benefits
of a worldwide network with
local service.
Skill and a will to overcome even
the greatest challenges
Hutchinson relies on a professional
staff of over 26,000. They practice
their skills in 119 operational
units spread over 27 countries.
Hutchinson teams rally around
three fundamental values: a will
to overcome even the greatest
challenges, an open mind, and
trust.
A major league partner
Through its multiple specialties
of vibration, acoustic and thermal
insulation, sealing systems, fluid
transfer systems, transmission and
mobility systems, and protection
and care, Hutchinson is the preferred partner of the major air,
land, and marine transport groups
as well as for the major hypermarket concerns for its Consumer
Goods Division.
Paulstra is a Hutchinson brand.
Paulstra designs and develops
vibration and acoustic insulation
systems, dynamic sealing, and
magnetic encoding for the automotive and other markets.
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実装されたソフトウェアをINTECRIO上でオ
ンライン実験することにより、予想範囲内
のばらつきが示されましたが、これらの差異
は無視できる程度の小さなものでした。
Step 4―ECUソフトウェア生成のための
ASCET-SEとRTA-OSEKのコンフィギュ
レーション設定
Step 4では、いよいよ量産用ハードウェア
用のECUソフトウェアを作成します。目標
は、先に実装したソフトウェアが正しく動
作するように、下位レベルのハードウェア
をすべて適切に扱えるようにすることです。
付加価値
このためにはASCET-SEで、下位レベルのソ
以上の5工程を通じて、パウルストラの開発
フトウェアを特定のマイクロコントローラの
者の間ではさまざまなETAS製品が使用さ
アプリケーションレイヤに統合し、実行可
れ、ツールチェーンのもたらすメリットが顕
能なプログラムがマウスクリック1回の操作
著に示されました。ツールチェーンの一貫
で得られるようにビルドプロセスを設定し
性は開発プロセスの効率化につながり、最
ました。
小限のトレーニングを行うことで高度な制
ビルド処理においては、まずASCETによっ
御ルールを開発することができます。デー
てCコードが生成され、それがサードパー
タ変換が容易なため、開発中の機能に専念
ティ製のコンパイラによってコンパイルされ
して重点的に取組むことができます。
ます。オブジェクトファイルはRTA-OSEK
ツールチェーンの多彩な特長のおかげで、各
オペレーティングシステムにリンク付けされ
工程ともに開発は円滑に進展しました。工
ます。最終的に実行ファイルは、量産用
程毎に信頼性の高い妥当性確認を行うこと
ECUにフラッシュ書込み可能な.hexファイ
ルへ変換されます。この工程ではASAM
MCD-2MCデータディスクリプションファ
イル(.a2l)も生成され、INCAを用いたパ
で、コスト削減および開発期間の短縮を可
ラメータのファインチューニング(測定・適
ETASのエンジニアリングサービス部門はパ
合)に使用されます。
ウルストラ社と緊密な連携を図りながら、
能にし、高品質のソフトウェア開発を実現
することができます。
高度なツールチェーンを活用する過程で、
ツールを初めて使うユーザーのために各種
Step 5―ECUソフトウェアの最終適合:
INCAを使用
最終工程Step 5では、最終製品に合わせた
のトレーニングを実施しました。これによ
データ最適化を行います。目標は、具体的
熟練ユーザーに成長しました。
り、同社の開発者は今では外部のサポート
なしでもECUソフトウェアの開発を行える
なプロジェクトのための制御アルゴリズムの
最適な性能を実現するパラメータ値の決定
まとめ
です。ECUソフトウェアにCCPプロトコル
パウルストラの開発者は、新しいアクティ
ドライバを組み込み、INCAとES590イン
ブ振動絶縁アルゴリズムの量産化を目指し
ターフェースモジュールを用いて測定・適
ていました。この実現に向けて、ETASが提
合を行いました。最適化の基準すべてを満
供した統合型のツールチェーンとエンジニ
たすため、ECU外部データとECU内部変数
アリングサービスは大きな貢献を果たしま
が同時に測定されました。
した。パウルストラは現在、振動絶縁の分
野で最も要求の厳しいアプリケーションに
最適な量産用ECUを自動車メーカーに提供
することができます。