Signa HDxの初期使用経験 北里大学病院 放射線部 秦 博文 先生 尾崎正則 先生 相澤 真 先生 北里大学病院では、平成 18 年 11 月から Signa HDx(Ver.14)が 間で撮像するためのアプリケーションです。シーケンス的には IR 稼動し始めました(図 1)。当院には他に Signa LX(Ver.9.1)、 prep 併用 3D FSPGR で、約 1 × 1 × 1mm サイズの isovoxel image Signa CV / i(Ver.9.1)、Signa Excite HD(Ver.12)の計 4 台の が約 3 分程度で得られます(0.5NEX と ASSET 併用)。特に、脳腫 MRI 装置が稼動しております。今回の HDx(Ver.14)の導入によ 瘍術前の検査では、様々な方向からの観察が可能で、腫瘍の正確 って、様々な受信コイル、アプリケーションが使用可能になりま な範囲、位置の確認が可能です(図 3)。また、全脳を撮像する際 した。それらを検査にどのように利用していくかは、現在も試行 に 1mm 程度のスライス厚の設定が可能ですので、微小病変(例え 錯誤を繰り返しておりますが、初期使用経験として実際に Ver.14 ば転移性脳腫瘍:昨年の SIGNA 甲子園で、札幌医大の鈴木先生が を用いてどのような検査を行っているかを紹介したいと思います。 発表された内容にもありました)の検出にも期待できます(図 4)。 最近では、脳神経外科領域では定位脳手術が行われることがあり ますが、そのシミュレーション用データとしての利用方法も可能 です。 Ver.14 では頭部血管撮像のスタンダードである方法の一つであ る 3D-TOF-MRA の改良もありました。3D-TOF-MRA において末梢 血管の描出能を向上する目的で、MT パルスを使用することがあり ます。MT パルスを併用することで、撮像時間の大幅な延長と脂肪 信号が増強されるというデメリットがあります。また、脂肪信号 撮影室と外観 操作コンソール 図 1 : Signa HDx 1.5T Ver.14 頭頚部領域 号の抑制のためにプリサチュレーションパルスを併用することで、 大幅に撮像時間が延長してしまいます。HDx の 3D-TOF-MRA では、 MT パルス、CHESS パルス、プリサチュレーションパルスを用い 頭頚部領域の検査には 8ch Brain Array コイルまたは 8ch NV ても大幅な撮像時間の延長はありません。どのような仕組みのシ Array コイルを用います。検査内容が頭部領域のみの場合は前者を、 ーケンスであるかは、図 5 をご参照ください。以前はこれらの RF 頚部領域が含まれるときは後者を用います。さて、HDx からの使 パルスがすべて毎 TR に印加されていたために大幅な撮像時間の延 用可能(仕様変更)となった点の中から PROPELLER、BRAVO、 長をきたしていましたが、HDx より CHESS パルスがスライスエン 3D-TOF-MRA について紹介します。 コード方向の最初に印加され、データ収集はセントリックオーダ PROPELLER は頭部検査において、動いてしまう患者様を撮像す リングになっているため、脂肪抑制効果は十分抑制されます。ま る目的で使用するアプリケーションです。HD までは、加算回数の た MT パルスとプリサチュレーションパルスは TR ごと交互に印加 設定が 1.5NEX 固定、また、感度補正法は SCIC のみの使用でした されているため、従来の方法より大幅な撮像時間短縮が可能にな が、HDx では加算回数はマルチ NEX、感度補正法として PURE が りました。当院では、single-Slab での撮像を行っておりますが、 使用可能になりました。加算回数 1NEX の設定可能により、より TR / TE / FA = 32ms / 3.4ms / 20 °、スライス厚 0.8mm(+ 短時間での撮像が可能になりました(当院のプロトコールで T2 強 ZIP2)、スラブ厚 8cm、マトリクス 320 × 192、ASSET 併用で約 5 調画像が 1 分 12 秒)。また、Body コイルリファレンスによる 分 14 秒の撮像を行っております(図 6) 。 PURE により、正確な感度補正が行われます。動いてしまう患者様 の多くは全身状態が良好でない場合が多く、一分一秒でも撮像時 間を短縮したい場合が多いわけですから、当院にとっては非常に 有用な改善であったと思います(図 2) 。 続いて BRAVO ですが、こちらは全脳の 3D T1 強調画像を短時 19 を抑制するために CHESS パルス(脂肪抑制法)の併用や、静脈信 GE today May 2007 腹部領域 腹部領域の検査には 12ch Body Array コイルを用います(図 7)。 また、アプリケーションでは HD システムでおなじみの LAVA に加 え LAVA-XV が登場しました。LAVA-XV は LAVA 同様、3D 脂肪 抑制 T1 強調画像で主に腹部 のダイナミック撮像を目的 としたアプリケーションで すが、parallel imaging の手法 として ASSET 法ではなく GEM 法を用います。GEM 法 は self-calibration であるた 図 7 : 12ch Body Array コイル め、calibration scan を必要 T2WI(320 × 320 : 1 分 12 秒) T2FLAIR(288 × 288 : 2 分 24 秒) 図 2 : T2WI と T2FLAIR(PROPELLER) としません。また、位相方向に加えてスライス方向にも reduction が可能であり、撮像時間の大幅な短縮が期待される手法です。 我々の施設では肝臓 dynamic 検査において 5 相撮像(造影前、動脈 前期相、動脈後期相、門脈相、平衡相)を行っております。その うち、門脈相に LAVA-XV を使用しております。検査プロトコー ルを図 8 に示します。 矢状断 MPR 単純 早期相 (LAVA) 冠状断 MPR 平衡相 (LAVA) 図 3 : BRAVO(MPR)転移性脳腫瘍症例 門脈相(LAVA-XV) 静脈瘤等を検索するため より広範囲を撮像 門脈相用の calibration scan は不要 図 8 :当院の肝臓 dynamic 検査プロトコール(造影) 門脈相にだけ LAVA-XV を使用する理由は、肝臓疾患の多くの 患者様が肝機能障害(例えば肝硬変など)を有しており、その場 1mm 原画像 2mmMPR 合に腹腔内のシャント血管、静脈瘤等を広範囲で検索する目的が あるからです。その他の撮像(LAVA、T1 強調画像、T2 強調画像 図 4 : BRAVO(thinslice)転移性脳腫瘍症例 等)は ASSET を併用しますので、calibration scan は肝臓を中心と した範囲を撮像します。calibration scan を腹部全体で設定します 最適化 PulseSequence “e3d TOF 従来の TOF : CHESS Pulse Segment : MT Pulse Segment : SAT Pulse Segment : Imaging Pulse Segment と ( 横 隔 膜 か ら 恥 骨 結 合 )、 後 か ら 肝 臓 の み を 撮 像 す る 際 に 、 ASSET の展開不良が見られる場合があります。LAVA-XV は calibration scan を必要としませんので、実際の検査における calibration scan は肝臓のみを考慮すれば良いことになります。但し、感 “e3d TOF” TR,ScanTime → 延長 SAR → 増大 度補正法の PURE を使用する場合は calibration scan が撮像範囲に 対して必要となりますので、注意が必要となります。実際の画像 は図 9 のようになります。 ※ K-space → CentricOrder TR,ScanTime → 短縮 SAR → 減少 また、LAVA-XV は肝臓領域の他に、悪性リンパ腫など腹部の広 範囲を観察したいときにも使用します。それにより、すべての造 図 5 :最適化 Pulse Sequence 影時相における MPR(MIP)像の作成が可能であるため、周囲血 管との位置関係など把握することが容易にできます。空間分解能 は現在の MDCT の空間分解能には及びませんが、十分診断に用い ることができる画像であると考えています(図 10)。 骨盤領域 骨盤領域の検査には 12ch Body Array コイルまたは 8ch Cardiac Array コイルを用います。特に前立腺検査など撮像範囲が限局され ている部位に関しては 8ch Cardiac Array コイルを用います。8ch 頭部 3D-TOF(A-P) 頭部 3D-TOF(I-S) Cardiac Array コイルは非常に高い SNR が得られやすく、前立腺の 図 6 : Single-Slab 3D-TOF-MRA 20 T2 強調画像では当院の撮像条件で FOV24cm、288 × 256、スラ イス厚 4mm、TR / TE=4000ms / 90ms の条件で 2NEX、2 分 32 後 期 動 脈 相 (LAVA) 秒で十分な SNR の画像が得られています(図 11)。また、拡散強 冠状断 Partial-MIP 像 調画像では b 値を 1500s / mm2 に設定して FOV40cm、128 × 門脈相 224、TR / TE=6000ms / minTE、8NEX、スライス厚 5mm (ASSET 併用)で 3 分 12 秒の撮像しています(図 12)。拡散強調 (LAVA-XV) 画像は撮像した画像を用いてオペレーターコンソール上で ADC (eADC)マップを作成しております。造影剤を用いた Dynamic 検 平衡相(LAVA) 査もダイナプラン機能とオートボイス機能を併用して行っている ため、非常に簡便に行っています。 (注:ダイナプラン機能、オートボイス機能の詳細については割愛 図 9 :肝臓 Dynamic 検査の画像(HCC 症例) いたします) また、当院は前立腺用の MRS のアプリケーションはありません が、頭部用のアプリケーション(PROBE)を用いて Single Voxel ではありますが MRS 検査を積極的に行っております(図 13)。 乳腺領域 乳腺領域の検査には 8ch Breast Array コイルを用い 冠状断 Partial MIP ます(図 14)。当院では以 DWI-MIP 原画像 前 、 single channel の 図 10 :腹部 LAVA-XV 画像(悪性リンパ腫症例) Breast コイルを使用して 患側のみの検査を行って おりました(4ch オープン 図 14 : 8ch Breast Array コイル ブレストコイルの使用経験はありません)。今回の HDx および 8ch Breast Array コイルの導入によって、VIBRANT、BREASE(MRS) が可能になりました。8ch Breast Array コイルは片側 4ch、両側で 8ch となっており、非常に高い SNR と均一性が得られます。また、 MRI ガイド下 biopsy が可能な構造になっています(専用キットが 必要、薬事未承認だそうです)。VIBRANT では両側乳腺それぞれ にシミング(Dual shim)が可能で、左右均一な脂肪抑制が得られ T2WI T2WI(STIR) 図 11 :前立腺 T2 強調画像(前立腺癌症例) ます。当院の検査プロトコールは、拡散強調画像、脂肪抑制 T2 強 調画像、脂肪抑制 T1 強調画像(Dynamic Study)をルーチンとし ています(図 15)。そのうち、拡散強調画像、造影後の遅延像に 関しては両側乳腺の撮像を行っております。脂肪抑制 T2 強調画像、 Dynamic Study は空間分解能の関係で患側のみを対象としており ます。検査の流れですが、最初に VIBRANT の Dual shim を用いて プリスキャンのみを行います。その次に、拡散強調画像の Auto shim を off にして両側乳腺の撮像を行います(横断像)。そうする ことで、拡散強調画像の脂肪抑制をより左右差無く行えることが できます(図 16)。その後、患側乳腺の脂肪抑制 T2 強調画像を撮 DWI(b=1500) 図 12 :前立腺拡散強調画像(b=1500s / mm 2) 像し、関心領域が十分に設定できる場合は MRS(BREASE)検査 を し ま す ( 図 1 7 )。 さ ら に 患 側 乳 腺 を 空 間 分 解 能 が 高 い 造 影 Dynamic 検査(3 相:矢状断)を行い、最後に VIBRANT で両側乳 腺(横断像)の撮像を行っています(図 18)。このシステムの導 入により、患側乳腺の高分解能画像+両側乳腺のスクリーニング を一回の検査で行えることが可能となりました。また、BREASE を用いて MRS の情報(choline のピーク)がプラスされ、さらなる 診断能の向上が期待できます。両側乳腺の Dynamic 検査も考えて おりますが、現時点では上記プロトコールの元で検査を施行して おります。 MRS(single voxel) 図 13 :前立腺 MRS(single voxel) 21 GE today May 2007 T2WI DWI(b=1500) (VIBRANT の dualshim 使用) 脂肪抑制 T2 強調画像 BREASE(MRS) 造影後 VIBRANT 造影 dynamic 両側乳腺 患側乳腺 T2 * WI(MERGE) PDWI(FSE) T2 * WI(MERGE) 図 21 :膝関節ルーチン画像 図 15 :当院の乳腺 MRI 検査プロトコール DWI(b=1500) VIBRANT 図 16 :乳腺拡散強調画像(左乳癌: b=1500s / mm 2) 関節軟骨の T2 値 Color map 図 22 : T2Map(CartiGram とも呼ばれている) 四肢、 関節領域 四肢関節領域の高頻度検査で ある膝関節検査には、8ch Knee Array コイルを使用しま す(図 19)。このコイルは受信 専用ではなく送受信コイルにな っています。よって対側信号の BREASE T2WI(fatsat) 折り返しのない、非常に高い SNR を得ることができます。 図 17 : BREASE(乳腺 MRS) 図 19 : 8ch Knee Array コイル また、MERGE という新しいパルスシーケンスが使用可能となりま した。MERGE は multi echo タイプの Gradient Echo 法です。以前 より T2 * 強調画像を得るために用いてきた GRASS 法より高い SNR が得られることが期待されます(図 20)。膝関節の検査プロトコ ールは靭帯断裂、半月板損傷などの外傷性疾患の場合、プロトン 密度強調画像、T2 * 強調画像、脂肪抑制 T2 強調画像を撮像してお りますが、我々は、この新しいコイル、撮像シーケンスの特徴を できるだけ活かすために高空間分解能画像を撮像しております。 撮像条件はプロトン密度強調画像がスライス厚 3mm、FOV16cm、 VIBRAN 患側造影 Dynamic 384 × 256、TR / TE=1800 / 30ms、NEX=2、撮像時間 3 分 54 秒、 MERGE はスライス厚 3mm、FOV16cm、384 × 224、TR / 図 18 : VIBRANT(両側乳腺造影 MRI) TE=640 / 17ms、NEX=2、撮像時間 4 分 45 秒です。画像は図 21 の通りです。通常、検査時間がかかる関節領域の検査も、十分に MERGE と GRE の比較 検査枠時間内でかつ高分解能画像が期待できるシステムだと考え ています。また、軟骨の評価に用いる T2Map も使用可能であり、 変形性膝関節症などの軟骨疾患の診断に大きな期待ができ、今後 当院でも臨床評価を進めていきたいと考えております(図 22)。 今回ご紹介したのは HDx の一部分ですが、他にもいろいろな機 能が搭載されています。まだまだ初期経験ですので、すべての機 能を活かしきれていないのも現実だと思います。我々の施設でも 今後、さらに臨床に役立てる使い方を考えていきたいと思ってい MERGE GRASS ます。 GE today 図 20 : MERGE(膝関節 T2 * WI) 22
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