イノベーション力の向上へ向けた タレント・マネジメント戦略: 日本の現状

イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:
日本の現状と展望
エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)報告書
協賛:カナダ オンタリオ州政府
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
目 次
本報告書について
3
エグゼクティブ・サマリー
4
はじめに
5
C-レベル役員とタレント・マネジメント
7
ケース・スタディ 1:キヤノン
日本におけるタレント・マネジメントの特徴
ケース・スタディ 2:電通
イノベーティブ人材の資質
ケース・スタディ 3:ナムコバンダイ
8
9
11
12
13
進化をとげるタレント・マネジメントという概念
14
おわりに
16
付録:調査結果
17
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
1
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
©2010 エコノミスト・インテリジェンス・ユニット
全ての著作権はエコノミスト・インテリジェンス・ユニットに帰属し、無断複写・転載を禁じます。
本報告書に含まれる全ての情報は、著者と出版元である同社によって可能な限り検証されています
が、本報告書に依拠することにより生じたいかなる損失にも著者・同社は責任を負わないものとし
ます。本報告書の全部または一部をエコノミスト・インテリジェンス・ユニットの事前承諾なしに
複製を行うこと、情報検索システムへ保存をすること、電子的・機械的記録・複写・その他いかな
る方法・形式をもっても、配信を行うことは禁じられています。
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
本報告書について
「イノベーション力の向上へ向けたタレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望」は、カナ
ダ オンタリオ州政府協賛の下、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が作成した報
告書である。本報告書の作成にあたって実施された聞き取り調査、アンケート調査、執筆・編集は
全て、EIU のエディトリアル・チームにより独立した立場で実施されており、報告書の見解・内容
は EIU 独自のものである。
本報告書はギャビン・ブレアが執筆し、デビッド・ラインによって編集が行われた。レイアウト
はガディ・タムが担当している。日本語版の編集は、森隆人・長野アミが担当した。
報告書の作成に際して行われたアンケートと聞き取り調査をつうじて貴重な意見を頂戴した皆様
に、この場を借りて御礼を申し上げます。
2010 年 9 月
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
エグゼクティブ・サマリー
「イノベーション力の向上へ向けたタレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望」は、日本
企業がイノベーションの推進に向けた有能な人材の発掘、育成、維持というチャレンジにどのよう
な対応をしているのかをまとめた調査報告書である。エコノミスト・インテリジェンス・ユニット
(EIU)は 2009 年中旬に、
世界各国の企業経営者・役員等 179 名を対象に同様のテーマで調査(以
下‘グローバルな調査’
)を実施した。今回の調査では、日本企業の経営者・役員等 50 名を対象
として新たに調査を行い、グローバルな調査結果との比較を行った。同調査の結果からは、日本企
業の‘タレント・マネジメント’
(人財マネジメント)戦略の遂行において、いくつかの特徴的な傾
向が明らかになるとともに、市場競争の激化とグローバリゼーションの進行により戦略の見直しを
迫られる企業の姿が浮き彫りになっている。本報告書の主要な論点は以下のとおりである:
グローバルな調査と比較すると、日本ではイノベーションの推進へ向けたタレント・マネジメン
トが重視されておらず、その策定や実施は、経営者・役員よりも組織の下部レベルで統括されてい
ることが多い。イノベーション力の確保に優れたタレント・マネジメントが果たす役割について、
56%の日本企業が‘きわめて重要’と答えたのに対して、2009 年に行われたグローバルな調査
では、その割合は日本の数値を大幅に上回る 75%を記録している。この結果を反映して、C レベ
ル役員(CEO や COO など)がタレント・マネジメント戦略の策定を統括している企業はグロー
バルな調査では全体の 65%だったのに対し、日本の調査ではその割合はわずか 38%だった。し
かし日本企業のアプローチには変化の兆しも見られる。5 年後には、タレント・マネジメント戦略
の策定に果たす C レベル役員の役割はより大きくなると予測する日本企業が 51%に上り、海外企
業の 38%を上回った。
日本企業は、より組織的で長期的なタレント・マネジメント戦略を実施し、社内での人材育成を
重視する傾向がある。会社に対する従業員の帰属意識が強く、労働市場の流動性が低い傾向にある
日本では、有能な人材確保の手段として新卒の採用と内部育成システムに重きを置く企業が多い。
しかしグローバル化にともなう競争激化などの影響でこういった状況は変化しつつあるようだ。今
回調査対象となった日本企業の 78%が、現在のタレント・マネジメント戦略として、将来的に重
要なポジションを担う人材を社内で育成・開発することを挙げているが、今後 5 年間に対する予測
では、その割合はわずか 24%だった。
日本企業では、クリエイティビティ(創造力)や起業家精神よりも、技術的な専門知識と学習能
力を重視する傾向がある。今回の調査では、有能な人材の発掘に際して、日本企業は海外企業とは
異なる資質を重視しているという見方を裏づける結果が出た。日本企業が最も重視する能力は、
‘迅
速に学習する能力’
(回答者の 78%が選択)と‘高度な技術的知識’
(60%)だ。この結果は、クリ
エイティビティとコラボレーション能力が重視されたグローバルな調査結果とは対照的なものとなっ
ている。だが日本企業の多くは、同質的な企業文化を重んじる反面、イノベーション力を維持するた
めに有能な人材獲得への取り組みや視野を拡大する必要性を認識しているという結果も出ている。
グローバル化の進行と市場競争の激化に直面し、日本企業は有能な人材の獲得のため既存の枠
組みを越えた取り組みを行う必要性に迫られている。多くの日本企業は、より幅広い人材プールか
ら有能な人材を獲得する必要性を認識している。今回調査対象となった日本企業の 82%が、イノ
ベーション戦略を策定する際に、最も重要となる外的要因として、
‘有能な人材へのアクセス’を
挙げている。これは、世界各国の企業を対象とした調査の 55%という結果と比べてもきわめて高
い数字で、今後日本企業が有能な人材を確保するためには、海外にも目を向ける必要性があること
を示唆している。今後 5 年間の見通しとして、
‘有能な人材の確保が容易な国・地域にイノベーショ
ン拠点を置いている’と回答した日本企業の数は全体の 48%に上り、グローバルな調査の結果
(39%)を上回ったことは興味深い。
4
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
はじめに
「タレント・マネジメントは、日本企業が世界で引き続き成功をおさめるために必要不可欠な戦
略事項です。
」世界的なブランドとして成功をおさめる日本企業の 1 つ、キヤノンの人材開発セン
ターでセンター所長をつとめる本間道博氏はこう指摘する。同氏のコメントは、日本企業の進化を
象徴するものだ。戦後の‘奇跡的’といわれた経済復興をリードしてきた日本企業の多くは、低コ
ストを武器に発展するアジアの製造業や、テクノロジー・ソフトウェアといった分野でイノベーティ
ブな商品を産み出す欧米企業との厳しい市場競争にさらされ、かつてゆるぎないといわれた競争力
の低下に直面している。同時に、国内での市場の低迷と縮小にあえぐ日本企業は、強固な地位を獲
得している電化製品や自動車といった分野以外でも、国際的な競争の激化に立ち向かい海外展開を
進める必要に迫られているのだ。
世界の市場がかつてないスピードで変化をとげている現在、迅速にイノベーションを遂行する重
要性が高まっている。効果的なイノベーションを実現するために、有能な人材を確保し有効に活用
しない企業は、競争が激化する市場で勝ち残れない時代が到来しているといっても過言ではない。
2009 年にエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が世界各国で行った調査によると、
イノベーション力の確保において優れたタレント・マネジメントは‘重要’
、あるいは‘きわめて重
要’と回答した調査対象企業は、全体の 98%にも上っている。
カナダ オンタリオ州政府による協賛の下で
2009 年 に 作 成 さ れ た 報 告 書「Talent
図1
調査対象者の役職
(%)
Strategies for Innovation」では、グローバ
その他のCレベル役員
54
マネージャー
ルな調査を実施し、タレント・マネジメントと
イノベーションの関係について詳細にわたる検
20
CEO/代表取締役社長/マネージングディレクター
12
CFO/財務担当役員/管理担当役員
4
り調査とアンケート調査を実施し、日本におけ
上級副社長(SVP)/副社長(VP)/ディレクター
4
るタレント・マネジメントの現状と展望をまと
各部門責任者
2
CIO/技術担当ディレクター
2
めたものである。また今回の報告書では、日本
取締役
2
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
証を行った。今回その続編として作成された本
報告書は、日本企業 50 社を対象として聞き取
の調査結果をグローバルな調査結果と比較する
ことで、日本企業のタレント・マネジメントに
対する考え方とアプローチの特徴、内需型と輸
出型企業の間に存在する違いについても検証を
行った。
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
調査について
副社長(VP)
、ディレクター、マネージャーで構成
されている(図 1 を参照)
。また、調査対象者の約
40%は人事部門に所属していた。
本報告書の作成に際し、エコノミスト・インテリ
6
ジェンス・ユニットは、年間総売上高が 2 億 5 千万
調査対象者が属する業界は多岐にわたり、32%
が製造業、22%が小売業、16%が消費財産業だっ
米ドルから 100 億米ドルの日本企業で働く経営者・
た。
役員等 50 名を対象にオンラインアンケート調査を
行った。回答者の約 72%は C レベル役員(CEO、
調査結果の数値は、小数点以下の四捨五入や複数
回答により、合計値が必ずしも 100%になっていな
COO、CFO 等)で、その他は上級副社長(SVP)
、
い場合がある。
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
C レベル役員とタレント・マネジメント
‘タレント・マネジメント’
(人財マネジメント)の重要性は、多くの日本企業によって認識され
つつある。イノベーション力の確保にタレント・マネジメントが果たす役割について、今回の調査
対象者全員が‘重要’あるいは‘きわめて重要’と回答したことは、こうした傾向を反映するもの
だろう。しかしグローバルな調査結果と比べると、タレント・マネジメントの重要性に対する日本
企業の考え方には微妙な温度差がある。2009 年のグローバルな調査では、同質問に対して‘き
わめて重要’
と答えた回答者が 75%だったのに対し、
日本で実施された今回の調査ではその割合は、
56%に留まっている(図 2 参照)
。
日本企業ではタレント・マネジメントが企業組織のより下部レベルで統括されることが多いとい
う事実も、こういった傾向のあらわれだろう。今回調査対象となった日本企業の中で、C レベル役
員が人材マネジメント戦略の策定の統括に関わる企業はわずか 38%で、グローバルな調査結果の
65%という数字と比較すると大きな差がある。上級副社長(SVP)
、副社長(VP)
、あるいはディ
レクターといった C レベルに次ぐレベルの役員が統括すると回答した企業も同様に、グローバルな
調査の 49%に対し日本では 20%とかなりの開きがあった。また戦略の遂行に関しても似たよう
な結果が明らかになっている。上級副社長(SVP)
、副社長(VP)
、ディレクターなどの役員が戦
略の遂行を統括すると回答した日本企業は、グローバルな調査結果の 46%に対してわずか 18%
1 2009 年に世界各国の企業を対象に
1
だった 。
同調査結果によると、日本企業は比較的タレ
ント・マネジメントを重視しない傾向がある。
しかし先進的な日本企業の多くは、タレント・
マネジメントをビジネス戦略の中核にすえ、
図2
あなたの会社では、イノベーション力の確保において
優れた人材マネジメントが果たす役割は
どの程度重要だと考えていますか?
(回答者の割合 %)
日本
きわめて重要
75
は、早い時期から先進的なタレント・マネジメ
ある程度重要
ントに取り組んできた企業の 1 つだ。同社が正
23
まったく重要でない
0
1
は 2000 年のことで、その遂行には経営トッ
プが大きな役割を果たしてきた。
「弊社の CEO
(御手洗冨士夫氏)は、タレント・マネジメント
世界
56
様々な取り組みを行っている。例えばキヤノン
式にタレント・マネジメント戦略を策定したの
行われた調査、そして日本企業を対象と
した今回の調査では、いずれも上記の質
問に対し複数回答が可能。
44
わからない/あてはまらない
0
1
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
に全面的にコミットしていて、その向上に力を
注いでいます」と語るのは前出の本間道博氏。
タレント・マネジメントの重要性を真剣に受け止めているのは、キヤノンのような技術イノベー
ションで有名なメーカーだけではない。日本の広告市場で 20%以上のシェアをもつ電通で、経営
企画局次長をつとめる奥田陽太郎氏は、
「我々が重視するのは、日本が強みを持つとされる技術イ
ノベーションだけではなく、アイディアや仕事のやり方といった分野でイノベーションを遂行する
こと、そしてそういった能力をもつ人材を育成することです」と語る。2009 年度に 3785 億円
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
の売上高を記録したおもちゃ・電子ゲームメーカーのバンダイナムコでも、イノベーションの遂行
はビジネスの成功のために不可欠な要素として重視されている。
「ゲーム・おもちゃメーカーとい
う業種の性格上、優れた人材を育成し、彼らが楽しく仕事をすることができる環境を作り、イノベー
ティブな製品を開発しなければ、企業として生き残ることはできません」と語るのは、同社で人事
部ゼネラルマネージャーをつとめる林徳文氏。
「組織作りも大切ですが、従業員一人一人の能力開
発を図ることは、我々にとって最も重要な課題です。
」
年間約 20 名が参加する同プログラムは、外国人の上級管理職そ
ケース・スタディ 1:キヤノン
して海外で働く日本人管理職を対象としており、カリキュラムは全
て英語で行われる。さらに同社では、役員向けの経営塾を立ち上
合計約 19 万 4000 名の従業員のうち、日本で働く従業員の数
げて、経営と能力開発について学ぶ機会を提供しているという。
「現
は半数以下、そして約 370 億米ドルという年間売上(2009 年)
在のところ、このコースは日本人役員のみを対象としていますが、
のうち国内市場が占める割合は 5 分の 1 をわずかに上回る程度と
将来は外国人役員にも対象を広げる必要があるでしょう」と本間氏
いう経営体制をとるキヤノンは、数十年にわたりグローバルな視点
は語る。
で経営を行ってきた。同社の事業ドメインである映像機器の分野で
キヤノンは、最近の世界的な経済の低迷に直面しながらも赤字を
は、比較的短期間でデジタル化が進行した。
「最近は特に技術進歩
計上しなかった数少ないメーカーの 1 つだ。だが本間氏は、こうし
のスピードが加速しており、そのスピードに合わせてビジネスを展
た結果に対する、同社のタレント・マネジメント戦略の貢献度につ
開することは我々にとっても大きなチャレンジ」と、同社の人材開
いては慎重な評価をしている。
「たしかに我々が赤字を計上しなかっ
発センターでセンター所長をつとめる本間道博氏はいう。
たというのは事実ですし、それを可能にした経営者や管理職の中に
同社のタレント・マネジメントシステムは、新卒従業員から役員
は弊社のプログラムをつうじて育成された人材もいます。しかしこ
までを包括的にカバーする仕組みで、その中には海外の様々なロ
の業績を、人材プログラムの成果だと言い切るのは少々難しいと思
ケーションで実施される 3 段階の管理職向けプログラム
「キヤノン・
います。プログラムが正式に開始されたのは 2000 年ですので、
イノベーティブ・リーダー」コースも含まれている。また同社は、
今後目に見える成果が現れてくることを期待しています」と同氏は
スイスのローザンヌにある IMD ビジネススクールと共同で
「Canon
いう。
Corporate Executive Development Program」を開発した。
8
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
日本におけるタレント・マネジメントの特徴
日本企業は独特な文化を持つとされることが多く、ともすればそのユニークさが過度に強調され
る傾向にある。しかし、海外企業には見られないいくつかの特徴があることも事実だろう。その 1
つとしてあるのが、会社への帰属意識だ。電通の人事局で次長をつとめる宮島泉氏によると、
「日
本の企業社会では、転職を繰り返すことに対する抵抗感がいまだに根強く残っている」という。
日本における労働市場の流動性は、かつてと比べ向上しつつある。しかし特に大企業では、新卒
として 4 月 1 日に入社し、その後も同じ企業で数十年間勤めあげるケースはいまだに珍しくない。
今回の調査ではこうした傾向が反映され、特に優れた人材の確保へ向けた対策として、有能な新卒
を対象とした早期昇進(fast-track)プログラムの導入を挙げた日本企業の割合が 58%と、
グロー
バルな調査の 34%という数字を上回る結果となっている。また従業員が頻繁に転職を希望するこ
とを、有能な人材の確保のための課題として挙げた日本企業(20%)は、グローバルな調査結果
(43%)よりもかなり少なかった(図 3 を参照)
。電通の宮島氏も「会社を途中で辞める従業員は
それほど多くない」と述べている。
労働市場の流動性の低さは、社外から有能な人材を獲得することを難しくする一方で、企業にとっ
てはメリットがあるのも事実だ。例えば、従業員のキャリアを長いスパンで扱う長期的なタレント・
マネジメントプログラムを構築・導入することができることもその 1 つだろう。EIU の調査結果に
よると、社内での人材発掘・育成がイノベーションの遂行に向けた人材確保の手段として‘きわめ
て有効’と回答した調査対象者は、グローバルな調査で 46%だったのに対し、日本の調査では
66%にも上った(図 4 参照)
。キヤノンで人事部長をつとめる原一郎氏によると、同社では社外か
ら有能な人材を積極的に採用することに加え、全社規模で包括的な「人材育成システム」を導入し、
新卒から役員レベルまでのタレント・マネジメ
ントに熱心に取り組んでいる。
電通もまた、従業員のキャリアを体系的にカ
バーするキャリアパス・人材育成プログラムを
図3
有能な人材の雇用・確保という面で、あなたの会社が
直面している課題を挙げてください。
(あてはまるものを全て選択)
(回答者の割合 %)
取り入れている企業の 1 つだ。
「弊社では、従
人件費の増大
業員が頻繁に転職することはまれで、通常 20
従業員の定年退職
∼ 30 年は働くことが多い。そのため、我々の
基本的な人事システムは欧米企業のものとは異
なります」というのは、同社の宮島氏。
「我々の
人材開発・キャリアプログラムは、そのこと(従
業員の多くが同社で長年働くこと)を念頭にお
いて作られています。
」
日本
世界
44
42
36
27
適切なスキルをそなえた新卒社員候補の不足
34
36
頻繁に転職することを望む従業員
20
43
グローバル化による人材獲得競争の激化
20
45
雇用規制環境に由来する制限
16
16
移民関連法に由来する制限
4
11
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
図4
下記の方法は、イノベーションの遂行に向けた人材確保の手段としてどの程度有効だと思いますか?
3段階評価でお答えください:1=きわめて有効、3=まったく有効でない
2
日本:
きわめて有効 1
まったく有効でない 3
わからない/あてはまらない
(回答者の割合 %)
世界:
社内での人材発掘・育成
きわめて有効 1
2
まったく有効でない 3
わからない/あてはまらない
66
46
28
4
49 3
2
2
12
2
7
一般公募
44
42
22
54
既存の公式ネットワーク
(例:ビジネス団体)
をつうじた人材発掘
37
19
18
53
56
非公式ネットワーク
(例:知人)
をつうじた紹介
20
21
52
36
43
競合企業・団体からのスカウト
18
20
18
58
10
3
26 2
5
22
52
2
7
20
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
図5
あなたの会社のタレント・マネジメント戦略として現在・今後5年間において、あてはまるものを挙げてください。
(あてはまるものを全て選択)
(回答者の割合 % ※一部の項目のみ掲載)
現在
有能な人材を求めて国外にも目を向けている
今後5年間
42
40
重要な役割を果たす人材を育成するために、社内で教育・能力開発を行っている
78
24
人材ギャップを補うため、国境を越えた従業員の異動を行っている
40
38
有能な人材が豊富な国・地域にイノベーション拠点を置いている
38
48
ビジネス全体の戦略を策定するにあたり、有能な人材の確保を考慮に入れていない
48
36
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
10
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タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
バンダイナムコグループは、今回聞き取り調査を行った 3 企業の中でも伝統的な日本企業とい
うイメージが薄く、
キャリアプランという分野でも最も柔軟なアプローチをとる企業だ。
「弊社では、
年功に基づいた昇進制度ではなく、従業員が成果に見合った報酬を受け取るような仕組みにしてい
ます」と語るのは、バンダイナムコホールディングスでバンダイ、バンダイナムコゲームス、ナムコ、
バンダイビジュアルなど、主要会社の人事部ゼネラルマネージャーを兼務する林徳文氏。同氏によ
ると「人事から参加を義務づけられた研修プログラムは少ない」のが現状で、社内外で行われる研
修や能力開発の機会の活用は、会社と各従業員の意思と会社の判断に委ねられているという。同社
では従業員が中途採用で入社することが珍しくなく、林氏自身もいくつかの企業で人事や異なる職
種を経験したあとバンダイに加わった。
日本の移民関連法制は比較的厳格なことで知られているが、これを有能な人材の獲得・確保に際
して障害となっていると考える日本企業の回答者は 4%と、グローバルな調査結果の 11%よりも
やや少ない割合となっている。電通の宮島氏は、多くの日本企業が「職場の多様性、とくに男女の
機会均等や外国人の受け入れという意味で後れをとっている」との認識を示している。だが、状況
は改善しつつあるという。
今回の調査で明らかになった点の 1 つは、重要なポジションを担う従業員を社内で育成するとい
う日本企業のアプローチが今後大きく変わる可能性があることだ。調査対象者の 78%が現在こう
いった手法が重要な役割を果たしていると回答する一方で、今後 5 年先も同じ状態が続いている
と考える回答者はわずか 24%だった(図 5 参照)
。しかし、これから 5 年間に関して、有能な人
材を求めて国外にも目を向けていると回答した日本企業の割合は全体の 40%にすぎず、現在の割
合(42%)とほとんど変わらない。このことからも、宮島氏が指摘する多様性の欠如という問題
への取り組みが、遅々として進んでいないという現状が浮き彫りになっている。
広告業界から招かれた講師たちによって実施されていたが、現在で
ケース・スタディ 2:電通
は自ら同コースを経験した電通の従業員がレクチャーを行う体制へ
と徐々に移行している。
国内の広告市場で、海外の競合企業の羨望の的になるような大き
今年の 4 月には、一橋大学大学院国際企業戦略研究科と共同で
な影響力を持つ電通は、1 世紀以上の歴史をもつ企業だ。2009
設置した 1 年間のカリキュラム「電通マネジメント・インスティ
年にはメディア・広告業界が経済危機の大きな影響をうけたが、同
テュート」と、3 ヶ月のカリキュラム「電通マネジメント塾」とい
社は 1 兆 6786 億円の売上を計上し、黒字決算を達成している。
う 2 つの人材育成プログラムを新たに立ち上げた。同社の経営企
従業員の多くが定年退職までのキャリアを転職することなく同社で
画局で次長をつとめる奥本陽太郎氏によると、これらのプログラム
終えるなど、電通は様々な面で伝統的な日本企業がもつ特徴をそな
を設置した背景には 2 つの大きな理由があるという。
「1 つめの理
えた企業だ。だがクリエイティブなイノベーションの遂行や、海外
由は、我々が顧客に提供する広告ビジネスを取り巻く環境がデジタ
市場へのビジネス拡大の必要性から、同社でも、タレント・マネジ
ルメディアの登場によって大きく変化し、メディアの状況がきわめ
メント戦略は重要視されている。同社は 2006 年に、バージニア・
て複雑になっていることです。そして 2 つめは、顧客のニーズに
コモンウェルス大学のブランドセンターと協力し、従業員向けの研
応えるために、彼らのビジネスや経営戦略を熟知する必要があるか
修コースを開設している。開始当初は、カリキュラムの多くが米国
らです」と同氏は語る。
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
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イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
イノベーティブ人材の資質
イノベーション推進のために必要な従業員(イノベーティブ人材)の資質として、日本企業が最
も重要視するのは、
‘迅速に学習する能力’
(回答者の 78%が選択)と‘高度な技術的知識’
(60%)
で、
それぞれの割合はグローバルな調査結果の 2 倍以上となっている。一方で、
‘クリエイティビティ
(創造力)
’を最も重要な資質として挙げた日本企業の調査対象者は 34%と、グローバルな調査結
果(51%)に比べても少ない。また‘起業家的スキル’という選択肢については、グローバルな調
査の 22%に対し日本企業はわずか 4%と、さらに対照的な結果が出ている(図 6 参照)
。この調査
結果は、創造性よりも技術的知識と協調性を重視するという日本企業の一般的なイメージに沿った
ものだが、先進的な日本企業のアプローチを必ずしも反映しているとはいえないだろう。また個人
の自発的な活動よりも集団としての責任と協力を重んじるという傾向が日本企業特有のものだとい
うイメージがある一方で、イノベーション推進のために最も重要な資質として‘コラボレーション
能力’を挙げた調査対象者が、日本企業・海外企業の両方で 40%という結果になった点は興味深い。
図6
有効なイノベーションを実現させるために、あなたの会社が人材に求める資質として最も重要だと考えるものを挙げて
ください。
(3つまで選択可)
(回答者の割合 %)
日本
世界
迅速に学習する能力
78
36
高度な技術的知識
60
23
コラボレーション能力
40
40
クリエイティビティ
(創造力)
34
51
問題解決能力
34
30
自発性
6
25
研究開発マネジメント・スキル
4
7
起業家的スキル
4
22
知識・ノウハウを共有する能力
2
17
ネットワーキングのスキル
2
11
部署・部門の枠組みを超えて働く能力
2
23
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
12
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
今回聞き取り調査の対象となった 3 つの企業はいずれも、組織全体のニーズを理解することの
できるイノベーティブな人材を育成する上で、業務をつうじた実地研修やジョブ・ローテーション
を経験することがきわめて重要だと指摘している。
「優れた人材を育成する上で、会社のビジネス
の様々な側面を経験させることはとても重要です。でもそれを実践することは容易ではありません。
これは、弊社のタレント・マネジメントにおいて最大の課題でしょう」と語るのはキヤノンの原氏。
バンダイナムコの林氏も、この点について似たような見方を明らかにしている。同氏によると「各
部署の管理職が、有能なスタッフを他の部署へ異動させたがらない」ことは、効果的なタレント・
マネジメントを実現する上で大きな障害の 1 つになっているという。
電通が直面する問題は、時間的な制約だ。
「各部署が膨大な仕事を抱えているために、職務上の
実習に力を注いだり、スタッフをトレーニングコースへ行かせたりする時間的な余裕がないことが
多い」と同社の宮島氏は語る。電通は、その解決策として短期間集中型の研修プログラムを導入し
ているという。またキヤノンと電通では、明確に定義された企業哲学を掲げており、その理念に沿っ
た従業員の教育を行うことがタレント・マネジメント戦略の重要な柱となっている。たとえば、キ
ヤノンの企業哲学の柱となっているのは‘三自の精神(自発・自治・自覚)
’だ。また、電通の人事
局採用育成部でプロジェクト・マネージャーをつとめる安藤洋次氏によると、
同社は「価値を創造し、
従業員の能力を高め、
‘電通の企業哲学’を次世代へと継承する」ことを研修プログラムの大きな
目標として掲げているという。バンダイナムコグループでも、
「
‘夢・遊び・感動’というミッショ
ンを掲げ、グループ内のそれぞれの企業がミッションやビジョンを個別に掲げています」と語るの
は林氏。一方、同社では「現場レベルでの仕事のやり方について細かい規定を設けたりすることは
していない」という。
ケース・スタディ 3:バンダイナムコ
その対応策として同社が今年立ち上げたのが、
‘スピードあるグルー
プへの変革’などを柱とした‘バンダイナムコグループ・リスター
トプラン’だ。同社の林氏によると、
「我々の業界では商品サイク
CEO、COO、CTO など、頭に C の文字がつく C レベル役員の
ルがとても早いため、意思決定、商品の開発・市場化をスピーディー
役 職 名 の 数 は 増 加 の 一 途 を た ど っ て い る が、CGO(Chief
に行うことが重要です。スピーディーなビジネスの遂行には若者の
Gundam Officer =最高‘ガンダム’責任者)という役職名が存在
方が向いているため、弊社ではキャリアの早い段階から若い従業員
するのはバンダイナムコだけだろう。CGO は、日本で依然として
にも大きな責任を与えています。後になって大きな失敗をしないよ
根強い人気を誇るアニメ「ガンダム」のキャラクターを使用したビ
うに、今のうちに小さな失敗を経験させておくわけです。
」
デオゲームや、おもちゃ、プラモデルなどのブランド管理を統括し
また同社では、一般的な日本企業より多くの従業員を中途採用で
ている。ファンタジーあふれるゲームやおもちゃのメーカーとして
雇用している。林氏によると、その理由は「同質的な企業文化には
知られる同社は、タレント・マネジメントでもユニークなアプロー
限界があり、外部の刺激を取り入れることは、優れたイノベーショ
チを用いている。もちろん同社が人材戦略の重要性を軽視している
ンと商品開発に不可欠だから」だ。また同社は、退社を希望する従
わけではなく、常識にとらわれないクリエイティビティがものをい
業員に対しては寛容な姿勢をとっているという。
「弊社には、スタッ
う業界でビジネスを展開しているゆえに、ビジネス戦略もそれに見
フの引き留めを目的としたリテンションボーナスなどの施策はあり
合ったものにする必要があるのだ。
ません。たとえ非常に優れたスタッフだったとしても、当社での仕
エンターテイメント産業は景気後退に強い業界として知られてい
事に対する情熱がないのであれば、会社に引き留めても仕方がない
るが、世界経済の失速の影響から免れたわけではない。バンダイナ
からです」と同氏はいう。
「
(有能な人材の確保のために)ベストな
ムコも、昨年度は売上の落ち込みに直面し記録的な赤字を計上した。
方法は、
従業員が働きたくなるような会社を創ることだと思います。
」
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
13
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
進化をとげるタレント・マネジメントという概念
日本企業は、今後ますますタレント・マネジメント戦略の重要性を認識し、その遂行に力を注ぐ
可能性が高い。今回の調査で、C レベル役員が人材戦略の策定に関わっていないことが、イノベー
ション遂行の障害になっていると回答した日本企業の調査対象者は 56%と、グローバルな調査の
31%よりも大きな割合となっている。同時に、5 年後には人材戦略の策定において C レベル役員
がより大きな役割を果たすようになると考える日本企業の調査対象者は、約 51%とグローバルな
調査の 39%を大幅に上回った(図 7a・b 参照)
。
電通の宮島氏は、
「
(同社の役員は)今後 5 年の間に、イノベーション遂行のための人材マネジ
メントにより深く関わるようになるでしょう。そのことで、人材育成部の仕事はやりやすくなると
思います」と語っている。
図7a
5年前と比較して、あなたの会社のCレベル役員が人材戦略の策定に果たす役割はどのように変化していますか?
また5年後には、
どのように変化していると思いますか?
(回答者の割合 %)
同じ
日本:
拡大
減少
わからない/あてはまらない
世界:
現在
拡大
同じ
減少
わからない/あてはまらない
38
46
6
41
51
6
10
3
5年後
51
39
39
44
4
12
6
5
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
海外企業と同様に、グローバル化の進行は、
日本企業にとって最も大きなチャレンジをもた
らしている。グローバル化がもたらすチャレン
ジは様々で、例えば電通の宮島氏は「今までと
図7b
イノベーションの遂行へ向けたタレント・マネジメントを
実施する上で、社内で障害となる要因を挙げてください。
(回答者の割合 %)
日本
世界
Cレベル役員が人材戦略の策定に十分関与していない
56
は異なった地域や国でビジネス機会が生じてい
る」と指摘している。バンダイナムコの林氏が、
31
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
可能な対応策の 1 つとして挙げるのは「将来的に、外国人をトップや‘ナンバー 2’に配置する」
ことだ。グローバル化がさらに進行する将来に向けて、外国人スタッフと円滑に仕事を進めること
や、海外の子会社を効率的に運営することは、日本企業の多くが直面する課題だろう。キヤノンの
原氏も、
「海外企業の買収、そしてその経営を担うことのできる人材を確保することが、最大の課題」
と述べている。
国内を中心にビジネスを展開し、伝統的な日本企業と見られることの多い電通でさえ、東京本社
に勤務する 6500 名を超える数の従業員を海外でかかえている。同社の奥田氏によると、海外を
拠点とする従業員の数は今後も拡大する見込みだという。
「電通グループは、M & A などをつうじ
て拡大しています。海外企業を買収すれば、当然その経営を支える人材を育成する必要が生じてく
る」と同氏はいう。日本での調査・グローバルな調査ではともに、イノベーション戦略を策定する
14
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
際に最も重要となる外的要因として、
‘有能
な人材へのアクセス’が挙げられる結果と
なった。この項目を選んだ日本の調査対象
企業は 82%にも上り、これはグローバルな
図8
イノベーション戦略を策定する際に、最も重要となる
外的要因を挙げてください。
(3つまで選択可)
(回答者の割合 %)
日本
有能な人材へのアクセス
82
調査結果の 55%と比べても高い数値だ(図
8 参照)
。同時に、
5 年後の見通しとして‘有
能な人材が豊富な国・地域にイノベーショ
ン拠点を置いている’
と回答した日本企業は、
グローバルな調査の 39%よりも 10%高い
48%に上った(図 5 参照)
。
会社側のニーズ
(勤務時間や異動など)
に
柔軟に応じる人材へのアクセス
38
同業種の企業/機関がクラスター内に存在すること
30
世界
有能な人材へのアクセス
55
ビジネス環境(リスク許容度など)
41
会社側のニーズ
(勤務時間や異動など)
に
柔軟に応じる人材へのアクセス
29
出典:エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによる調査
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
15
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
おわりに
タレント・マネジメントプログラムの導入に遅れを取る企業が存在する一方で、日本を代表する
先進的企業の多くは、世界的にみても優れたタレント・マネジメントシステムの構築へ向け、長年
努力を行ってきた。だがこういった先進的企業でさえ、目標達成に向けた課題を抱えている。
数十年の間、世界各国でビジネスを展開し成功をおさめてきたキヤノンのような企業も、現状に
満足してはいられないことを認識している。同社の本間氏は「弊社にとっての大きなチャレンジは、
真の意味でグローバルなタレント・マネジメントの仕組みを構築することです。我々はまだその段
階に達していません」と語る。
「我々は、アジアをはじめとする様々な地域の新興市場のニーズに
対応できるようなタレント・マネジメント戦略を打ち出さなければなりません。しかしながら、こ
ういった地域で今後何が起こるかを予測するのは容易なことではありません」と同氏はいう。
人口の減少による国内需要の低下が予想される中、海外へ市場機会を求める日本企業の数は今
後増加する。今回の調査とケース・スタディが示すように、イノベーション遂行へ向けたタレント・
マネジメントの重要性は今後ますます高まっていくことが予想される。
16
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
付録
調査結果
付録:調査結果
あなたが拠点とする国は?
(回答者の割合 %)
あなたの会社の本社がある国は?
(回答者の割合 %)
日本
日本
100
100
1.あなたの会社では、イノベーション力の確保において、
優れた
‘タレント・マネジメント’
(人財戦略)が果たす
役割はどの程度重要だと考えますか?
(回答者の割合 %)
2.あなたの会社におけるタレント・マネジメント戦略の
策定・実施を統括する、役職上最も上級な従業員を
挙げてください。
(複数回答可)
(回答者の割合 %)
きわめて重要
Cレベル役員(CEO、CFO、COOなど)
戦略の策定
戦略の遂行
38
56
28
上級副社長(SVP)/副社長(VP)/ディレクター
20
18
事業部門責任者(Head of business unit)
30
30
ある程度重要
44
まったく重要でない 0
わからない/あてはまらない 0
各部門責任者(Head of department)
22
10
マネージャー
16
12
3.5年前と比較して、あなたの会社のCレベル役員がタレント・マネジメント戦略の策定に果たす役割はどのように
変化していますか?また5年後には、どのように変化していると思いますか?
(回答者の割合 %)
拡大
同じ
減少
わからない/どれもあてはまらない
現在
38
46
6
10
5年後
51
39
4
6
4.あなたの会社がイノベーションを遂行する上で、次の要素はどの程度重要となりますか?
3段階評価でお答えください:1=きわめて重要 ∼ 3=重要でない
(回答者の割合 %)
2
きわめて重要1
重要でない3
わからない/どれもあてはまらない
有能な専門的人材を惹きつけ、
確保するための方策
70
28 2
クラスター内における地理的ロケーション (クラスター=特定の分野で事業・研究などを行う企業・機関などが地理的に集中し、競争・協力を行っている集まりのこと)
33
42
17
8
研究開発投資
53
33
14
顧客とのコミュニケーションを図る有効なチャンネル
84
16
サプライヤーとの密接な関係
74
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
24 2
17
付録
調査結果
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
5.有効なイノベーションを実現させるために、あなたの会社が人材に求める資質として最も重要だと考えるものを
挙げてください。
(3つまで選択可)
(回答者の割合 %)
迅速に学習する能力
78
高度な技術的知識
60
コラボレーション能力
40
クリエイティビティ
(創造力)
34
問題解決力
34
自発性
6
研究開発マネジメント・スキル
4
起業家的スキル
4
知識・ノウハウを共有する能力
2
ネットワーキングのスキル
2
部署・部門の枠組みを超えて働く能力
2
その他:具体的にお答えください
2
6.イノベーション戦略を策定する際に、最も重要となる外的要因を挙げてください。
(3つまで選択可)
(回答者の割合 %)
有能な人材へのアクセス
82
会社側のニーズ
(勤務時間や異動など)
に柔軟に応じる人材へのアクセス
38
同業種の企業・機関からなるクラスターの存在
30
奨励金、あるいは政府による助成金などのインセンティブ
26
資本へのアクセス・コスト
26
知的財産権の保護
14
教育システムの質
14
基礎研究を行う大学や他の機関との地理的な近接
4
ビジネス環境(例:リスクの許容度)
4
多様な人材へのアクセス
4
柔軟な労働法制(例:雇用・人員整理が容易に行える)
2
18
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
付録
調査結果
7.下記の方法は、イノベーションの遂行に向けた人材確保の手段としてどの程度有効だと思いますか?
3段階評価でお答えください:1=きわめて有効 ∼ 3=まったく有効でない
(回答者の割合 %)
きわめて有効1
2
まったく有効でない3
わからない/どれもあてはまらない
社内での人材発掘・育成
66
28
4 2
一般公募
44
42
既存の公式ネットワーク
(例:ビジネス団体)
をつうじた人材発掘
37
12 2
53
非公式ネットワークをつうじた紹介
20
10
52
競合企業・団体からのスカウト
18
26 2
58
22 2
8.イノベーションの遂行へ向けたタレント・マネジメントを実行する上で、社内で障害となる要因を挙げてください。
(あてはまるものを全て選択)
(回答者の割合 %)
Cレベル役員が人材戦略の策定に十分関与していない
56
人材戦略とビジネス戦略が効果的にリンクしていない
56
組織内(部署間)
におけるコラボレーションやリソースの共有が不十分
48
外部の人材を発掘することへの抵抗感
28
社内の人材を育成する適切な研修等の機会の欠如
26
仕事上の能力開発を支援するリソースの社会全体での欠如
24
適切なスキルをそなえた人材プールの欠如
22
その他:具体的にお答えください
2
9.有能な人材の雇用・確保という面で、あなたの会社が直面している課題を挙げてください。
(あてはまるものを全て選択)
(回答者の割合 %)
人件費の増大
44
従業員の定年退職
36
適切なスキルをそなえた新卒社員候補の不足
34
頻繁に転職することを望む従業員
20
グローバル化による人材獲得競争の激化
20
雇用規制環境に由来する制限
16
移民関連法に由来する制限
4
その他:具体的にお答えください
2
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
19
付録
調査結果
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
10.特に優れた人材を惹きつけ、確保するために、あなたの会社が実施している対策を挙げてください。
(あてはまるものを全て選択)
(回答者の割合 %)
有能な新卒社員向けの早期昇進(fast-track)
プログラム
58
社内での個人指導教育プログラム
52
資格取得へ向けたトレーニング機会の提供
44
柔軟な勤務体制
24
実績に対する報償金・インセンティブ制度
24
従業員向けの特典(例:フィットネスクラブのメンバーシップ)
22
競合企業から入社した人材に対するボーナス
(例:ゴールデンハロー
[Golden Hellos])
20
海外勤務の機会を提供
18
社内に託児施設を設置
10
勤務年数に応じた報酬制度
10
その他:具体的にお答えください
2
11.あなたの会社のタレント・マネジメント戦略として現在・今後5年間において、あてはまるものを挙げてください。
(あてはまるものを全て選択)私の会社は:
(回答者の割合 %)
現在
有能な人材を求めて国外にも目を向けている
今後5年間
42
40
重要な役割を果たす人材を育成するために、社内で教育・能力開発を行っている
78
24
Cレベル役員が人材マネジメントにおいて中心的な役割を担っている
74
26
人材ギャップを補うため、国境を越えた従業員の異動を行っている
40
38
有能な人材が豊富な国・地域にイノベーション拠点を置いている
38
48
イノベーション促進へ向けた環境の整備を行っている
54
46
ビジネス全体の戦略を策定するにあたり、有能な人材の確保を考慮に入れていない
48
36
20
Ⓒ エコノミスト・インテリジェンス・ユニット 2010
イノベーション力の向上へ向けた
タレント・マネジメント戦略:日本の現状と展望
付録
調査結果
14.あなたの役職名として最もあてはまるものを
選択してください。
(回答者の割合 %)
12.あなたの会社の主要な産業分野は?
(回答者の割合 %)
製造
32
取締役
2
小売
CEO/代表取締役社長/マネージングディレクター
12
CFO/財務担当役員/管理担当役員
4
CIO/技術担当ディレクター
2
その他のCレベル役員
22
消費財
16
建設/不動産
4
エンターテイメント、
メディア、
出版
4
54
IT、
テクノロジー
4
上席副社長(SVP)/副社長(VP)/ディレクター
4
物流
4
各部門責任者
2
電気通信
4
マネージャー
20
化学
2
エネルギー/天然資源
2
15.あなたの会社の年間総売上高(海外市場を含む)
としてあてはまるものを選択してください。
(回答者の割合 %)
金融サービス
2
プロフェッショナル・サービス
2
2億5000万∼5億米ドル(約233億円∼465億円 $1=93円* *為替レートは調査実施当時のもの)
54
運輸、旅行、観光
2
5億∼10億米ドル
(約930億円)
28
10億∼50億米ドル
(約4650億円)
14
50億∼100億米ドル
(約9300億円)
4
13.あなたの主な担当分野は?
(3つまで選択可)
(回答者の割合 %)
人事
40
総務
32
顧客サービス
16
財務
10
情報管理・研究開発
8
法務
8
マーケティング・セールス
8
リスク管理
8
戦略・営業開発
4
IT
2
その他
2
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21
EIU IO Report main text - printing_insidecover.pdf
9/8/2010
4:12:17 PM
エコノミスト・インテリジェンス・ユニットとカナダ
オンタリオ州政府は、本報告書に記載された情報の
正確を期すためにあらゆる努力を行っていますが、
第三者が本報告書の情報、見解、調査結果に依拠す
ることによって生じる損害に関して一切の責任を負
わないものとします。
C
M
Y
CM
MY
CY
CMY
K
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