酔っぱ らい の話

酔っぱらいの話
うまい酒を飲もうと山に登る人は多い。
山に登る時は荷物は軽い方が当然楽であ
る。 に も か か わ ら ず、 酒 と い う 重 た い
液体をザックに入れて、「山はエライー」
とか「もう二度と山なんか登らねー」と
かぶつぶつ文句を言いながら山に上がっ
てくる。
とある猛暑の夏、小屋のビールの在庫
がなくなり、そのことを知ったお客さん
の落胆ぶりはひどかった。まるで大学受
験の合格発表で自分の番号がなかったか
のような、そんな落胆ぶりであった。全
く何をしに山に来ているのか。困ったも
のである。
小屋の中の棚の上にはお客さんから
差し入れで頂いた酒がずらり何十本と
並んでいる。まるでボトルキープでも出
来そうな量である。そして今年から新メ
ニューとして始めた自家製で作った薫製
のアマゴやソーセージ、チーズなどが壁
からぶら下がっている。酒のつまみには
本当に最高。
ある日それらを食べやすいサイズに
ナ イ フ で 切 っ て い る と、 ス タ ッ フ の 一
人が「小屋番!ここは山小屋ですよ。居
酒 屋 で も や る つ も り で す か ー」 な ど と
ち ょ っ と し か め 面 で 聞 い て き た。
「そう
かもなー」と酔っぱらいながら答えた僕。
どうしようもない酔っぱらいの話である。
とほほ。
(写真・文 市川典司)