Untitled - 日本環境整備教育センター

本書をお読みいただくにあたって
浄化槽の表記:平成 13(2001)年の改正浄化槽法の施行に伴い、従来の合併処理浄化槽は浄化
槽、単独処理浄化槽はみなし浄化槽と称されるようになりました。しかしながら、両者を対
象とする場合や「汚水浄化槽」や「浄化槽法」のように過去に用いられた、あるいは過去か
ら用いられている表現である場合などに浄化槽の表記が常用されています。本書においては、
これらについて従来からの用法に従うとともに、合併処理浄化槽を指す場合も浄化槽と表記
していますが、歴史的記述などで両者の区別が必要なあるいは区別した方が理解しやすい場
合には合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の表記を用いています。
漢字の表記:「警視廳」など、時代性を表すなどの理由で旧漢字で表記することが適切と思わ
れる用語については、旧漢字を用いています。
法人名:本書において、本文中に出てくる法人名には、
「社団法人」
「財団法人」などの種別を
表記していません。法人の中には、設立以来、組織改革や国の制度改革などにより種別が変
遷しているものが少なくなく、これらを当時の状況に忠実に表記することはかえって読者の
混乱をまねくことを危惧したためです。ただし、参考文献においては、編集や発行に係わる
法人について、執筆時の種別を示しています。
Q & A とコラム:本書を読まれるにあたってより理解を深めていただけるように、本文に書き
込んではいないが、読者が疑問に思われるだろう内容を Q & A の形で、また、用語等の詳細
をコラムの形で提供しています。ご参考にしてください。
PDF 版の配信:本書を多くの方に手軽に読んでいただけるように、また、内容のコピー利用が
可能なように、PDF 版を http://www.jeces.or.jp/downroad/pdf/dokuhon.pdf において配信
しております。ご活用ください。
「浄化槽読本 ~変化する時代の生活排水処理の切り札~」
目
次
まえがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
第1章 生活排水と水環境の保全 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
1.1
生活排水 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
コラム【代表的な水質項目-その 1-(BOD、COD、SS、T-N、T-P)】 ・・・・・・・ 4
1.2
水環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
コラム【mg/L】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.3
生活排水の処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.4
生活排水の処理の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.5
水環境保全に向けた取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
コラム【代表的な水質項目-その 2-(DO)】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
1-1 台所周りの食品等の BOD で見た汚濁の程度はどれくらいですか。また、それ
らを 5 mg/L にするために浴槽何杯分の水が必要ですか。
1-2
下水道にはいくつかの種類があると聞いているのですが、どのような
ものがあるのですか。
1-3 川の水質が改善されてきていますが、浄化槽の普及が関係しているのですか。
1-4 浄化槽の整備によって鮎、鮭、白魚、蛍などの生物が川に戻ってきた事例は
ありますか。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
第2章
2.1
さまざまな浄化槽 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
浄化槽 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
コラム【浄化槽が受け入れることのできる生活排水以外の排水】 ・・・・・・・・ 12
2.2
合併処理浄化槽と単独処理浄化槽 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
コラム【雨水経路に流入する生活雑排水(洗濯排水、洗車排水等)の問題点】
・・・・ 14
2.3
浄化槽と下水道の違い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
2.4
家庭用小型浄化槽と大型浄化槽 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
コラム【高速道路のサービスエリアの浄化槽】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
コラム【最大規模といわれる関西国際空港の浄化槽】 ・・・・・・・・・・・・・ 18
i
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
2-1 浄化槽を設置する場合に単独処理浄化槽は廃止しなくてはいけませんか。
2-2 浄化槽の処理水を地下浸透放流することはできますか。
2-3 単独処理浄化槽の有効活用法にはどのようなものがありますか。
2-4 使わなくなった単独処理浄化槽はどのようにして処分されていますか。
2-5 コンパクト型浄化槽について教えてください。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
第3章
浄化槽の概略史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3.1
浄化槽の黎明期 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
3.2
市街地建築物法及び水槽便所取締規則の制定 ・・・・・・・・・・・・・ 23
3.3
臨時日本標準規格の制定-初めて「浄化槽」という表現が登場- ・・・・ 24
3.4
建築基準法の制定―「汚物処理槽」から「屎尿浄化槽」へ― ・・・・・・ 24
コラム【水槽便所取締規則(警視廳令第 13 号)
】 ・・・・・・・・・・・・・・・ 25
3.5
共同浄化槽の出現 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
3.6
清掃法の制定―単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の区分の明記― ・・・・ 25
3.7
FRP 製単独処理浄化槽の急増 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
3.8
合併処理浄化槽の構造基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27
コラム【指定水域】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
3.9
浄化槽法の制定に至る経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
コラム【浄化槽協会】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
コラム【全国浄化槽団体連合会(全浄連)
】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
コラム【浄化槽システム構築の貢献者・楠本正康氏と柴山大五郎氏】 ・・・・・・ 31
コラム【日本環境整備教育センター(教育センター)
】
・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3.10
浄化槽法制定後の行政のあゆみ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
コラム【浄化槽行政組織の整備】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
3.11
単独処理浄化槽廃止の動き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
3.12
浄化槽ビジョンの策定へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
第4章 浄化槽法の制定と浄化槽の費用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
4.1
浄化槽法の制定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
4.2
浄化槽法の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
4.3
浄化槽法の改正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
4.4
浄化槽の費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41
ii
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
4-1 浄化槽と下水道の整備について、棲み分けのルールは存在しますか。
4-2 既存の単独処理浄化槽から合併処理浄化槽に転換しようとする場合、単独処
理浄化槽の撤去費用の支援制度は、どのように定められていますか。
4-3 浄化槽の維持管理にはどのような補助がされていますか。
4-4 公共下水道の使用料金と汚水処理原価との差額が一般財源から補填されてい
るとすれば、浄化槽設置者に対し、維持管理費の助成を行うべきではないで
しょうか。
4-5 浄化槽が汚水処理施設全体に占める割合を都市規模別に見ると、どのような
傾向がありますか。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
第5章
浄化槽による汚水処理の仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
5.1
浄化槽で対象とする排水 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
5.2
浄化槽における汚水処理の基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・ 55
5.2.1
排水中に含まれる固形物の除去 ・・・・・・・・・・・・・・・ 57
5.2.2
有機物質の除去 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58
5.2.3
浄化槽内における微生物の棲み家 ・・・・・・・・・・・・・・ 59
5.3
浄化槽の機能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63
5-1 汚水処理に係る微生物の種類と働きを教えて下さい。
5-2 流入汚水の水量、水質で処理機能に影響する、あるいはトラブルを発生させ
るものはありますか。例えば、大きな浴槽の使用、洗剤の多使用、食用油の
廃棄などの影響はありますか。
5-3 接触材にはどのくらい微生物が付きますか。また、付き過ぎたらどうなりま
すか。
5-4 汚水の処理の善し悪しは、騒音、臭気の発生などによって判断できますか。
5-5 生ごみは通常三角コーナで除きますが、そうせずにそのまま排水口に流して
もいいですか。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
第6章 浄化槽の製造・設置と維持管理の仕組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
6.1
浄化槽の製造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
6.1.1
浄化槽の構造基準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
コラム【構造基準と構造方法】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
iii
6.1.2
国土交通大臣の型式認定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
コラム【型式】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
6.2
浄化槽の設置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
6.2.1
設置の手続 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68
6.2.2
工事に関する資格 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
6.2.3
浄化槽工事の手順 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
コラム【浄化槽の設備】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
6.3
浄化槽の維持管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
6.3.1
維持管理の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
6.3.2
浄化槽管理者の義務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
6.3.3
維持管理に関する資格 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
6.4
浄化槽の保守点検 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
6.4.1
保守点検と回数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
6.4.2
保守点検の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
コラム【代表的な水質項目-その 3-(透視度、pH)】 ・・・・・・・・・・・・・ 80
6.5
浄化槽の清掃 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
6.5.1
清掃とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
6.5.2
清掃の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81
6.6
浄化槽の法定検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
6.6.1
法定検査の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
6.6.2
法定検査の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
6-1 処理水の放流先がない場合に浄化槽の設置はできますか。
6-2 浄化槽の設置工事、維持管理、保守点検、清掃および法定検査に係る費用は
どのくらいですか。
6-3 浄化槽の保守点検や清掃にかかる時間について教えてください。
6-4 保守点検や清掃を頼みたいのですが、通常どこへ連絡すればいいのですか。
6-5 法定検査を受けた後、
「不適正」の通知を受けましたが、どうしたらいいでし
ょうか。
6-6 浄化槽の耐用年数は何年ですか。
6-7 法定検査の受検率について教えてください。
6-8 浄化槽工事に必要な知識や技能にはどのようなものがありますか。
また、浄化槽設備士は浄化槽工事にどのように関わるのですか。
6-9 浄化槽の機能維持において浄化槽管理士はどのような位置付けにあるのです
か。
iv
6-10浄化槽技術管理者は浄化槽管理士に対してどのような位置付けにあるのです
か。また、それとの関連でどのような知識や役割が求められているのですか。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88
第7章
汚泥の処理・処分の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89
7.1
汚泥の発生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89
7.2
汲み取りし尿と浄化槽汚泥の発生量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89
7.3
汲み取りし尿と浄化槽汚泥の収集・運搬 ・・・・・・・・・・・・・・・ 90
7.4
新しい汚泥収集車 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91
7.5
汲み取りし尿と浄化槽汚泥の処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92
7.5.1
汲み取りし尿と浄化槽汚泥の収集後の搬出先 ・・・・・・・・・ 92
7.5.2
し尿処理施設における処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92
7.6
汲み取りし尿と汚泥の有効利用(資源化) ・・・・・・・・・・・・・・ 93
7.7
汚泥の有効利用にあたっての注意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
7-1 浄化槽の利用が広がり始めた頃、浄化槽汚泥は農業利用されていなかったの
ですか。
7-2 バイオマスとは何ですか。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97
第8章
社会状況の変化と浄化槽の役割 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
98
8.1
激動化した社会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98
8.2
経済社会の激変 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98
8.3
気候変動と気象災害の頻発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102
8.4
浄化槽の役割 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 104
Q & A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108
8-1 災害時などを想定した場合に利用できる浄化槽を活用した社会インフ
ラにどのようなものがありますか。
8-2 最近、膜分離技術を用いた小型浄化槽が使われ始めていると聞きますが、そ
れはどのようなものですか。そして、それは従来型の合併処理浄化槽に比べ
てどのような特徴がありますか。
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111
第9章 地域の活性化と浄化槽 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
9.1
雇用への貢献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
v
9.2
民間活力の導入 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113
9.3
浄化槽の普及促進に係る行政と NPO などとの連携事例 ・・・・・・・・・ 114
9.4
PFI による浄化槽整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
コラム【特別目的会社】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121
9.5
水辺再生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
第10章 浄化槽の海外展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126
コラム【MDGs】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126
10.1 世界的に見た浄化槽の位置付け ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126
10.1.1 汚水処理技術の分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126
コラム【ODA】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 128
10.1.2 世界で使われている主な汚水処理技術 ・・・・・・・・・・・・・ 128
コラム【嫌気性処理】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 129
10.2 浄化槽の特質と適用可能性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 130
10.2.1 浄化槽の特質 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 130
10.2.2 コミュニティレベルにおける地域浄化槽の可能性と実際 ・・・・・・ 131
コラム【SANIMAS(Sanitasi Masyarakat)】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132
10.2.3 浄化槽とその機能
―公衆衛生、水環境保全、そして水循環システム― ・・・・・・ 133
10.3 浄化槽の海外展開をめぐって ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133
10.3.1 海外展開の実績について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133
コラム【国際協力機構(JICA)
】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
134
コラム【草の根無償事業】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 134
10.3.2 海外展開にみるビジネスモデルと技術移転 ・・・・・・・・・・・ 135
10.3.3 浄化槽の海外展開に関連した援助・協力の国際潮流 ・・・・・・・ 136
10.3.4 海外展開にあたってのハードル ・・・・・・・・・・・・・・・・ 137
10.3.5 浄化槽の普及戦略についての展望 ・・・・・・・・・・・・・・・ 138
10.4 浄化槽の海外展開に向けての提言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 139
10.4.1 浄化槽技術を世界に発信して、世界の水問題に貢献しよう ・・・・・ 139
10.4.2 海外展開に向かって将来展望と戦略を描こう ・・・・・・・・・・・ 139
10.4.3 官民一体で浄化槽の世界的普及を推進していこう ・・・・・・・・ 140
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 141
vi
コラム【浄化槽法の制定を語る―楠本正康、柴山大五郎両氏に仕えた全浄連元
事務局長大内善一氏の思い出―】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 142
コラム【福島県三春町での行政体験と浄化槽を語る―元福島県三春町企業局長
遠藤誠作氏の思い出と提言―】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 144
あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146
執筆者一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 147
vii
まえがき
いつの時代でも、変化は常にありますが、21 世紀に入ってからの十数年間のわが国では地殻
変化と言っていいような、呆然とするようなものが進行しています。これには、例えば人口構
造の大変化があります。日本全体の人口が減少し始め、その中で高齢者が増え、特に地方では
65 歳以上の高齢者が大半を占める限界集落などという、かつては想像すらしなかった集落が日
本列島に広がり、人々の生活に大きな影響を与え続けています。最近では大都市においても「限
界集落」が出現し始めています。
この十数年間の変化のもう一つの動きには、国や地方公共団体の財政の逼迫があります。こ
れは長年に及ぶ行政の借金体質と国民の経済的な活力が衰微していったことの反映として、国
の財政も地方の財政も大きく蝕まれています。私たちは長い間、右肩上がりの高度成長の中で
生活し、経済と言えば、成長することを当然のことと受け止める暮らしの中に身を置いていま
した。そのため、国も地方も今から見れば、財政は誠に潤沢でした。その潤沢の時代に道路、
下水道、廃棄物処理施設、公民館、図書館などをさほど苦労もなく、そして将来、これら施設
の維持管理という重い荷物を背負うことなど、ほとんど思いやることもないまま、作り続けて
きました。特に、公共下水道は、都市生活には欠かすことのできない施設ではありますが、人
口や経済の衰退期には、維持管理に大きな重荷となっている公共事業の象徴的な存在になりつ
つあります。
そのような中で、半世紀以上にわたって、下水道とは性格が異なる生活排水処理システムと
しての浄化槽が整備されてきました。21 世紀に入って、その利用価値は、環境対策面からも市
町村の財政面からも大きくなり、多くの人がその有効性に着目するようになってきています。
その一方で、浄化槽には、
未だに様々な苦情や批判などが寄せられています。
「浄化槽のような、
個人任せの単純な装置で、あの濃度の高い生活排水を衛生的に、そして環境上問題なく処理が
できるのか」
「やれ保守点検だ、清掃だ、検査だと何かにつけて業者がやってくるが、その対応
だけで手間をとられる上に、不透明な料金を取られている」
「家の近くにある浄化槽からの汚水
や悪臭に悩まされている」といった疑問や批判があります。このような疑問の中には、もっと
もなものもありますが、誤解や情報不足によるものが少なくありません。
浄化槽が人間が作ったシステムである以上、他のあらゆるシステムと同様、完全無欠という
ことはありません。しかしながら、この数十年の間に、主として民間の浄化槽関係者の努力に
よって、ハード面の向上はもとより、ソフト面を含め市民の理解を深める努力は強化されてい
ます。とは言いながら、浄化槽の多くは、公共下水道などの場合と違って、その維持管理は基
本的にはユーザーとしての個人、ないしはその個人が委託した民間業者が行っています(近年
は、市町村が設置・管理者となり、使用は個々の世帯が使用料を払って利用するタイプのもの
が増加傾向にあります)
。また、使われる言葉も保守点検、清掃、汚泥の引き抜き、法定検査な
どをはじめ、一般市民には分かりづらい用語が使われていることもあり、理解を得られにくく、
また、誤解も解けにくいものもあります。さらに、
「浄化槽」という言葉そのものにも異論が寄
1
せられることもあります。
地方行政の財務状況は、年を追うごとに厳しくなりつつありますが、だからといって住民の
生活から出てくる汚水を処理しないわけにはいきません。環境の面だけでなく、法的にも「廃
棄物の処理及び清掃に関する法律」によって、地方公共団体にその適正な処理は委ねられてい
るからです。そこで、地方公共団体の首長や議会の議員たちは、自分の町の生活排水処理シス
テムを立ち上げたり、拡張する場合に、どのようなシステムを採用するのが今日の経済状況や
社会状況の下で、最もふさわしいのかという選択を迫られ、思い悩むことも少なくないと推察
されます。このほか、生活排水の行方や、水系の環境状況に関心を持つ NPO や一般市民の方々
も少なくありません。
そこで本書は、いわゆる生活排水問題の専門家のためではなく、まさに自治体の首長、議員、
行政の担当者、NGO、一般市民といった方々が、それぞれの地域にとって最適な排水処理対策を
考える際の参考資料として使ってもらえるよう、浄化槽に関する最新の知見に基づき、できる
だけ客観的に書いてみました。執筆にあたっては、これまで環境省が主体となって実施してき
た浄化槽タウンミーティングなどの一般市民を交えた生活排水処理のシンポジウム、勉強会、
講演会などの折に寄せられた疑問や批判に率直にお応えしようという思いで取り組みました。
岡城孝雄
(公益財団法人日本環境整備教育センター 企画情報グループリーダー)
、加藤三郎
(株
式会社環境文明研究所 所長)
、河村清史(埼玉大学大学院理工学研究科 環境科学・社会基盤
部門 教授)
、村岡基(株式会社極東技工コンサルタント 代表取締役社長)を本書全体の編集
企画および執筆者としておりますが、このほか、いくつかの章にはそれぞれの章のテーマにふ
さわしい専門家が担当しています。また、加藤と河村が全体の調整や表現の統一などの監修を
担当しました。
執筆にあたっては、環境省の資料のほか、浄化槽に関係する研究者などの論文や、私たち執
筆者がインタビューした専門家のコメント、さらにこれまで浄化槽を支え、発展させてきた公
益財団法人日本環境整備教育センターや一般社団法人全国浄化槽団体連合会などの資料も適宜
参照し、あるいは引用しながら執筆しています。
本書がこのような形で刊行することができましたのは、一般社団法人全国浄化団体連合会の
初代会長として、浄化槽法の制定をはじめ浄化槽の普及と業界の発展に全力を傾注された柴山
大五郎氏の御遺族によって設立された「公益信託柴山大五郎記念合併処理浄化槽研究基金」か
らの資金によるものであり、柴山家並びに基金関係者に深く感謝し敬意を表します。また、執
筆者一同、本書の内容が柴山大五郎氏の御意志に少しでも叶うものであるよう願っています。
平成 25 年 8 月
技術ワーキンググループ座長
加藤 三郎
2
第1章 生活排水と水環境の保全
1.1 生活排水
われわれが日々の生活をしていく上で排出するものに、ごみとともにし尿や台所排水・風呂排水・
洗濯排水などがあります。このし尿あるいは水洗便所排水と雑排水または生活雑排水といわれる台所
排水・風呂排水・洗濯排水などを合わせて生活排水と総称しています。事業所や学校などでの人の生
活に由来する汚水や食堂などで発生する汚水は生活排水に含めることができます。
衛生的な生活ができる現在の日本ではあまり問題になることはありませんが、し尿には赤痢、コレ
ラ、ポリオなどの疾病をもたらす病原性細菌、病原性ウイルスや回虫、鉤虫などの寄生虫の卵などの
存在が想定され、し尿や生活雑排水には BOD、窒素、リンなどの汚濁成分が含まれています。また、
洗い流したシャンプー、衣服などの芳香剤、化粧品に加え、代謝されなかった服用薬などの人工的な
化学物質も含まれています。
1人が1日に排出する水量や汚濁成分量を排出量原単位といいます。化学薬品については十分な情
報がありませんが、水量と汚濁成分量については、多くの調査事例を基にして表1-1のように整理
されています。
表1-1 生活排水の排出量原単位 1)
水量
汚 BOD
濁 COD
成 SS
分 T-N
量 T-P
245 L/人・日
47 g/人・日
23 g/人・日
36 g/人・日
9 g/人・日
1 g/人・日
これら様々なものが含まれている生活排水
をそのまま家の周りの水路や河川などに放流
するといろいろな障害が起こることは、容易
に想像されます。発展途上の国や地域ではそ
のような状況があちこちでみられますが、わ
が国でもそんなに古くない過去においてめず
らしいことではありませんでしたし、今でも、
かつてほどではないにしても汚濁されている
河川や湖沼などの水環境があります。写真1
-1はベトナムのハノイ市内を流れる川です
写真1-1 ハノイ市内を流れる川
(平成 21(2009)年 11 月撮影)
が、水中の酸素がなくなって真っ黒になってい
ます。また、ごみの捨て場にもなっています。
3
コラム【代表的な水質項目 -その1(BOD、COD、SS、T-N、T-P)-】
<BOD>
Biochemical Oxygen Demand の頭文字を使った略語です。
水の汚濁状態を表す有機汚濁指標の一つで、生物化学的酸素
要求量といい、「ビーオーディ」と読みます。水中の有機物
質は微生物の呼吸作用によって分解・利用されますが、この
とき水中の酸素が消費されます。この消費酸素量は分解・利
用された有機物質量に対応すると考えて、これで有機物質量
を評価します。通常は、検水を図のようなフラン瓶に入れ、
20 ℃で 5 日間の放置の前後に水中の酸素濃度の差を計測し、
その差から消費酸素量を求めます。水中に窒素を酸化する硝
化菌という微生物が存在すると、窒素の酸化によっても水中
の酸素が消費されますので、有機物質による部分を C-BOD
フラン瓶
(C は有機物質中の炭素 Carbon を表します)、窒素による部
分を N-BOD(N は窒素 Nitrogen を表します)とし、BOD=(C-BOD)+(N-BOD)となります。
<COD>
Chemical Oxygen Demand の頭文字を使った略語です。水の汚濁状態を表す有機汚濁指標の一つ
で、化学的酸素要求量といい、
「シーオーディ」と読みます。水中の有機物質はある種の化学物質
(酸化剤という)によって加熱下で効率よく化学的に酸化分解されますが、この時に消費される
化学物質の量を相当する酸素量に置き換えたものです。BOD の場合と同様に、消費酸素量は酸化分
解された有機物質量に対応すると考えて、酸素量で有機物質量を評価します。酸化剤として過マ
ンガン酸カリウムや二クロム酸カリウムを用いますが、前者による COD を過マンガン酸カリウム
法 COD といい CODMn で表し、後者を二クロム酸カリウム法 COD といい CODCr で表します。わが国の
環境基準や排水基準では前者が用いられますが、ほとんどの国では後者が用いられています。後
者の方が酸化力が強いため、高い数値となります。
<SS>
Suspended Solids の頭文字を使った略語です。水の汚濁状態を表す指標の一つで、懸濁物質あ
るいは浮遊物質といい、
「エスエス」と読みます。対象物質の大きさは 1 μm(0.45 μm とする場
合もある)より大きく 2 mm より小さいものです。通常、予め乾燥重量(a)を測定したガラスフ
ァイバーろ紙で検水をろ過し、ろ紙とそのろ紙上に捕捉された懸濁物質の乾燥重量(b)を測定し、
両者の差(b-a)を求めて懸濁物質の重さとします。
4
<T-N>
Total Nitrogen の頭文字を使った略語です。水の汚濁状態を表す指標の一つで、全窒素あるい
は総窒素といい、
「ティエヌ」と読みます。水中にはアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒
素および有機性窒素と呼ばれる形態の窒素が含まれていますが、これらの全量をいいます。量が
多いと湖沼や河川を富栄養化させます。
<T-P>
Total Phosphorus の頭文字を使った略語です。水の汚濁状態を表す指標の一つで、全リンある
いは総リンといい、
「ティピー」と読みます。水中には無機性のリンや有機物質の成分となってい
るリンが含まれていますが、これらの全量をいいます。量が多いと湖沼や河川を富栄養化させま
す。水域における藻類の増殖に対して、もっとも制限因子となりやすいといわれています。
1.2 水環境
すぐ前にも記していますが、よく水環境という言葉を目にします。簡単に定義することは難しいの
ですが、河川や湖沼などの水空間とその周辺を一体として捉えた場と考えることができます。排出さ
れた生活排水がそのまま河川などに放流されると、まずは河川などの水が汚染されるわけですが、BOD
や COD で表される有機物質の影響で水中の酸素がなくなることや SS で表される懸濁物質が底に蓄積
することで、悪臭の発生や美観の喪失が生じたり、魚が住めなくなり、動物が近寄らなくなるという
ことが生じてきます。こうなりますと、ごみを水辺に投げ捨てるのに抵抗を感じなくなります。また、
水が停滞する湖沼などでは、窒素やリンなどの栄養塩が蓄積して富栄養化という現象が生じて、藻類
の異常発生、ホテイアオイなどの水生植物の異常発生や魚の斃死を招きます。
これまでにも使ってきましたが、水環境との係わりで生活排水の汚濁を表す尺度の一つとして BOD
がよく使われます。仮に、1 人 1 日分の生活排水を大きな容器に受け、均質にして測定しますと、表
1-1に示した数値から、BOD の濃度はほぼ 190 mg/L(=47 g/245 L=47,000 mg/245 L)になりま
す。もし、これを BOD が 0 mg/L の水例えば水道水 x L で希釈しますと、コイやフナが住めるといわ
れる 5 mg/L にするには、(190 mg/L×245 L+0 mg/L×x L)/(245 L+x L)=5 mg/L の計算で、x は 9,065
となり、約 37 倍の水道水が必要となります。
わが国の場合、河川や湖沼の水域の水について環境基準が設定されています。これは、これらの水
域の水をどのような用途に利用するかによって AA、A、B などで類型化し、それぞれに保持すべきあ
るいは達成すべき水質項目と基準値を示しているものですが、河川水では BOD について、AA:1 mg/L、
A:2 mg/L、B:3 mg/L、C:5 mg/L、D:8 mg/L、E:10 mg/L が定められています。
5
コラム【mg/L】
水中にある物質の濃度を示す単位です。
水環境を議論するとき、
しばしば用いられますが、
1 mg/L
は水 1 L 中に 1 mg の物質があることを示しています。1辺が 1 cm の角砂糖が仮に 1 g であると
すると、150 mL のコーヒーカップに1個の角砂糖を入れますと、6,700 mg/L (=1 g/150 mL=1,000
mg/0.15 L)となります。1 mg/L が非常に薄い濃度であることは分かりますが、1 mg/L や 5 mg/L
に比べると生活排水の BOD 濃度の 190 mg/L は濃い濃度といえます。
1.3 生活排水の処理
1.2で見ましたように、生活排水の BOD 濃度を下げるために水道水で希釈して排出したり、排出
した後に清澄な河川水で希釈したりすることは、多量の水を要しますので非現実的な対応となります。
「三尺流れて水清し」という言葉がありますが、実際の河川では、これは科学的には成り立ちません。
それではどういうことをすればいいのでしょうか。排出する前に処理をすることが必要となります。
それではどの程度まで処理をすればいいのでしょうか。理想的には、使った水のレベルにすることが
望まれるのですが、「三尺流れて水清し」は無理だとしても、幸いなことに自然にはある程度の汚染
であればそれを浄化する力が備わっています。いわゆる自浄能力というものです。これは、汚濁物質
自身の沈殿の効果や微生物の分解・利用による効果などに依存するものです。そのため、排出した後
はこの自浄能力に委ねることを期待して、排出(放流)水質が定められています。BOD 濃度では、浄
化槽も含めて、多くの場合 20 mg/L の値が採用されてきました。
1.4 生活排水の処理の方法
わが国の場合、生活排水を処理するためのシステムには多くのものがありますが、その代表的なも
のとして、規模の大きなものから順に、下水道、農業集落排水施設、浄化槽があげられます。図1-
1は、これらのシステムの設置の地域と家庭における浄化槽の設置のイメージを示したものです。こ
の他に重要なものとして、し尿処理施設があります。これは、汲み取り便所に溜められたし尿と浄化
槽や農業集落排水施設などから排出される汚泥(浄化槽汚泥という)を集めて処理するものです。
下水道は、主に市街地の生活排水を処理しますが、必要な処理を行った工場排水も受け入れて処理
をします。また、下水の定義にはこれら汚水とともに雨水も含まれますので、雨水の収集・排除も必
要となります。このため、下水の収集には、汚水と雨水とを分離しないで収集する合流式と、これら
を分離して収集する分流式とがあります。早くに下水道整備に着手した大都市では、一部分流式も含
めて合流式を採用した都市が多かったのですが、後発で整備された都市では分流式が主流になってい
ます。合流式の場合、理想的には雨水も含めた下水の全量を処理すべきなのですが、降雨量が多い時
には不可能で、終末処理場に到達する前に汚水混じりの雨水を河川に放出することになります。この
とき、初期には、管路内に蓄積された汚泥や汚物が一挙に放出されることになります。
6
浄化槽
農業集落排水施設
下水道
図1-1 代表的な生活排水処理システムの設置の地域と
家庭における浄化槽の設置のイメージ 2)
農業集落排水施設は、主として農業振興地域において集落単位で整備されるシステムです。計画人
口はおおむね 1,000 人以下としていますが、現実にはさらに大きな人口規模でも採用されています。
排除方式は分流式です。このシステムのうち、排水処理の施設は次に紹介する浄化槽とされています。
このため、農業集落排水施設は、排水の集水の点からは小規模の下水道であり、処理の点からは2.
4で説明する中・大型の浄化槽であるといえます。
浄化槽は、下水道の終末処理場を利用できない地域で便所を水洗化する場合に設置しなければなら
ない施設として定義されてきたシステムです。この意味で、農業集落排水施設の排水処理施設が浄化
槽とされているわけです。かつては、水洗便所排水のみを対象とする単独処理浄化槽とこれと合わせ
て生活雑排水も対象とする合併処理浄化槽とがありましたが、平成 13(2001)年の改正浄化槽法の施
行による単独処理浄化槽の新設の原則禁止に伴い、合併処理浄化槽のみを浄化槽と呼び、単独処理浄
化槽は「みなし浄化槽」といわれるようになっています。
1.5 水環境保全に向けた取り組み
生活排水と水環境の関係について、実際の河川ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
図1-2は、埼玉県を流れる綾瀬川の都県境地である内匠(たくみ)橋で測定された昭和 44(1969)
年度から平成 23(2011)
年度までのいくつかの水質項目の年度平均値を図示したものです。
この川は、
7
長年わが国で最も汚い川の一つに数えられてきた川です。
10
BOD(mg/L)
SS(mg/L)
DO(mg/L)
150
8
6
23
20
平
成
17
平
成
14
平
成
11
平
成
8
平
成
5
平
成
2
平
成
平
成
昭
和
昭
和
昭
和
昭
和
昭
和
昭
和
昭
和
62
0
59
0
56
2
53
50
50
4
47
100
DO(mg/L)
200
44
BOD、SS(mg/L)
250
年度
図1-2 綾瀬川の内匠橋における水質の経年変化 3)
BOD で見てみますと、昭和 40(1965)年度代では 100 mg/L 程度で、昭和 47(1972)年度では、202
mg/L に達していました。この値は、1.2で示しましたように、生活排水の濃度とほぼ同じです。DO
として表される河川水中の溶存酸素の濃度もこの時期低く、その後も 1 mg/L を下回る期間が相当長
く続きました。この間、地域住民と行政が協力して下水道や浄化槽の整備を進めたり浄化施設を設置
するなどの取組みを行う 4)ことで水質の改善がなされ、BOD 濃度は平成 9(1997)年度になってやっと
10 mg/L を下回るようになり、
DO の濃度も 2 mg/L を超えるようになりました。
その結果、
平成 15(2003)
年にそれまで E 類型であった環境基準が C 類型に見直されました。
コラム【代表的な水質項目 -その2(DO)-】
Dissolved Oxygen の頭文字を使った略語です。水中に溶解している分子状の酸素のことで、溶
存酸素ともいい、
「ディーオー」と読みます。魚の観賞用水槽で気泡を供給するのは魚が消費する
水中の DO を補給するためですし、DO がゼロとなった水中では魚などの水生生物が生存できないた
め、死んだ水ということができます。
8
Q & A
1-1 台所周りの食品等の BOD で見た汚濁の程度はどれくらいですか。また、それらを 5 mg/L
にするために浴槽何杯分の水が必要ですか。
1 杯分のみそ汁や残したラーメンの汁など台所周りの食品などについて、水量と BOD のおおよその
値を示すと表1-2のようになります。
また、
これを BOD 濃度 0 mg/L の清水で希釈して BOD 濃度 5 mg/L
にするのに必要な水量を、容量が 300 L の浴槽で何杯分に相当するかで示してあります。
本文中にも記しましたが、単に希釈するだけでは膨大な量の水が必要となりますので、環境を保全
するためには処理によって汚濁物質を除去することが重要な手段となります。
表1-2 台所周りの食品等の水量、BOD のおおよその値、希釈に必要な水量 2)
台所周りの食品等
使用済み天ぷら油
ビール
牛乳
みそ汁
ラーメンの汁
水量
1回廃棄分(200 mL)
1杯分(200 mL)
1本分(200 mL)
1杯分(200 mL)
1杯分(200 mL)
BODの概略濃度
1,500,000 mg/L
81,000 mg/L
78,000 mg/L
35,000 mg/L
25,000 mg/L
BODの概略負荷量
300 g
16.2 g
15.6 g
7 g
5g
必要な水
浴槽200杯分
浴槽 11杯分
浴槽10.4杯分
浴槽 4.7杯分
浴槽 3.3杯分
1-2 下水道にはいくつかの種類があると聞いているのですが、どのようなものがあるのです
か。
下水道には図1-3に示す種類のものがあります。大きく分けて、市町村が管理する公共下水道、
原則として都道府県が管理し 2 以上の市町村の下水を受け入れる流域下水道、都市の雨水の排除を目
的とする都市下水路となります。都市下水路は終末処理場を持っていませんので、水洗便所排水は流
せません。公共下水道には終末処理場を持っている完結型のもの(単独公共下水道)、終末処理場を
持たないが、終末処理場を備えた流域下水道に接続する公共下水道(流域関連公共下水道)のほか、
特定環境保全公共下水道と特定公共下水道があります。特定環境保全公共下水道は、市街化区域以外
で設置されるもので、自然公園内の水域の水質を保全するために施行されるものや処理対象人口がお
おむね 1,000 人未満で水質保全上特に必要な地区において施行されるものなどがあります。また、特
定公共下水道は、計画汚水量のうち、事業者の事業活動に起因したり附随する計画汚水量がおおむね
3 分の 2 以上を占めるものです。
9
下水道
公共下水道
単独公共下水道
流域下水道
流域関連公共下水道
都市下水路
特定環境保全公共下水道
特定公共下水道
図 1 - 3 下水道の種類
1-3 川の水質が改善されてきていますが、浄化槽の普及が関係しているのですか。
川の水質が改善されるためには、流入する汚濁物質の負荷量を低減したり河川の自浄能力を高めた
りする必要があります。汚濁物質の負荷量を低減するためには、生活排水や工場排水を処理するシス
テムを整備する必要がありますが、浄化槽もその役割を担っています。浄化槽などの整備によりどの
ような効果が現れたかを環境省が整理していますが、その 1 例として、島根県の邑南(おおなん)町
での事例を引用します 5)(図1-4参照)
。
普及人口(人)
8,000
2.0
浄化槽(人)
農集(人)
BOD(mg/L)
1.5
6,000
1.0
4,000
BOD(mg/L)
10,000
0.5
2,000
0
0.0
年度
図1-4 出羽川の水質(mg/L)と浄化槽・農集普及人口(人)5)
邑南町を流れ江の川に注ぐ出羽川には、国の天然記念物であるオオサンショウウオや、しまねレッ
ドデータブック絶滅危惧Ⅰ類に指定されているオヤニラミが生息しています。
これらの種は、県内でもきれいな限られた河川にしか生息しておらず、産卵の際には特にきれいな
水を必要とします。出羽川では、平成 10(1998)年度まで水質が徐々に悪化する傾向にありましたが、
流域の浄化槽(年間約 40 基設置)や農業集落排水施設の整備により、近年 BOD 値が低下し水質が改
善されています。
10
1-4 浄化槽の整備によって鮎、鮭、白魚、蛍などの生物が川に戻ってきた事例はありますか。
浄化槽による場合だけではありませんが、Q & A の1-3で紹介しましたように、生活排水処理シ
ステムの整備は河川などの水質を改善し、清澄な水に住む生物の回帰をもたらします。環境省では、
いくつかの事例を紹介しています 5) ので、関係する部分を引用します。
青森県三沢市:三沢川では、水質の改善により、平成 10(1998)年頃から、一時は姿を消していた
鮭が遡上するまでになっています。
秋田県藤里村:水のきれいな小川で発生するオニヤンマが、小学校周辺で大量に見られました。
富山県砺波市:和田川周辺でホタルが年々多く見られるようになりました。
兵庫県多可町:町の南北を貫流する杉原川やその支流の水質も改善され、減少していたホタルも
年々増加し、今では阪神方面からも観光客がホタルの見学に訪れています。また、きれいな水に
しか生えないと言われる梅花藻(ばいかも)の花も見られるようになっています。
島根県雲南市:ホタルの数も徐々に増加し、たくさんのホタルが飛び交う赤川が蘇りつつあります。
赤川の水質は僅かな改善に留まっていますが、ホタルの生息する小河川では、浄化槽整備により
大きく水質改善が図られていると考えられます。
愛媛県八幡浜市:流田川流域の約 130 世帯中 109 基の整備を行った結果、未処理の生活雑排水の洗
剤などで白く泡立っていた水が、今ではきれいな処理水に変わり、ホタルの数も増えたと地域住
民から喜びの声があがっています。
佐賀県唐津市:玉島川にすむヤマメ、アユ、ツガニなどの淡水魚が少しずつ増え始めました。また、
昭和 30(1955)年代まで各地区に多数生息していたホタルも近年増加し始めました。
参考文献
1) 堀尾明宏、南部敏博:第 1 章第1節 生活排水の水量と水質、月刊浄化槽、No. 393、27-34、2010
2) 環境省浄化槽推進室:よりよい水環境のための浄化槽の自己管理マニュアル、平成21年3月、
http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/life/data/jokaso_manual.pdf
3) 埼玉県のホームページ(http://www.pref.saitama.lg.jp/page/901-20091203-49.html)掲載の公
共用水域の測定データより作成
4) 綾瀬川清流ルネッサンス:江戸川河川事務所ホームページ(http://www.ktr.mlit.go.jp/
edogawa/edogawa00360.html)
5) 浄化槽による地域の水環境改善の取組み:環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/
recycle/jokaso/basic/index.html)
11
第2章 さまざまな浄化槽
2.1 浄化槽
第1章でもふれましたが、浄化槽には法律上の定義があります。「浄化槽法」第 2 条第 1 号に「便
所と連結してし尿及びこれと併せて雑排水(工場廃水、雨水その他の特殊な排水を除く。以下同じ。)
を処理し、下水道法第二条第六号に規定する終末処理場を有する公共下水道(以下「終末処理下水道」
という。)以外に放流するための設備又は施設であって、同法に規定する公共下水道及び流域下水道
並びに廃棄物の処理及び清掃に関する法律第六条第一項の規定により定められた計画に従って市町
村が設置したし尿処理施設以外のものをいう。」とされています。
少し具体的に説明します。対象はし尿と雑排水(生活雑排水のこと)ですから、第1章で説明しま
した生活排水ということになります。また、生活排水を受け入れることができる施設には下水道があ
るということは第1章で紹介しましたが、ここでいう終末処理下水道は単独公共下水道、特定環境保
全公共下水道、特定公共下水道および最終的には流域下水道の終末処理場につながる流域関連公共下
水道のことです。すなわち、浄化槽は、これら 4 種類の公共下水道以外に処理水を放流するための設
備あるいは施設をいいます。また、同様なことが可能な設備あるいは施設には、公共下水道、流域下
水道ならびにし尿処理施設がありますが、これらではないものということになります。し尿処理施設
は汲み取りし尿や浄化槽汚泥を処理するが便所と連結していないではないかという疑問が湧きます
が、し尿処理施設の中には、コミュニティ・プラントというものがあります。
「1.4 生活排水の処理の方法」では、このコミュニティ・プラントにふれませんでしたが、こ
れはコミュニティ・プラントが法的には水洗便所排水を処理するためのし尿処理施設であるためでし
た。しかしながら、水洗便所排水と合わせて生活雑排水を受け入れることができますので、実質的に
は農業集落排水施設のような生活排水処理システムと同じです。
これらのことから、浄化槽は、終末処理場を有する下水道あるいはコミュニティ・プラントが利用
できないところで生活排水を処理したい場合に設置しなければならない設備あるいは施設というこ
とになります。このため、1.4でも述べましたが、農業集落排水施設の処理施設は浄化槽になりま
す。
すでにご了解のことと思いますが、ここでの浄化槽は合併処理浄化槽のことであります。改正前は
「便所と連結してし尿及びこれと併せて雑排水」の部分が「便所と連結してし尿を又はし尿と併せて
雑排水」となっており、単独処理浄化槽も合併処理浄化槽も浄化槽として認められていました。
コラム【浄化槽が受け入れることのできる生活排水以外の排水 1)】
本文に示しました浄化槽の定義から明らかなように、浄化槽は生活排水を処理するものですが、
厚生省課長通知「合併処理浄化槽により処理可能な雑排水の取扱いについて」が、また建設省課
長通達「屎尿と合併して処理することができる雑排水の取扱いについて」が、それぞれ平成 12
(2000)年 3 月 21 日付けで出されたことに伴い、表2-1に示します特定の業種の小規模事業場
12
排水の受け入れが可能となりました。なお、これらの排水は、従来の産業排水処理でも、活性汚
泥法などの生物処理法により処理されていたものです。
表2-1 浄化槽への事業場排水の受け入れ可能な業種
産業分類
123
業 種
野菜缶詰・果物缶詰・農産保存食料品製造業
1231 野菜缶詰・果物缶詰・農産保存食料品製造業
1232 野菜漬物製造業
127
パン・菓子製造業
1271 パン製造業
1272 生菓子製造業
1273 ビスケット類・干菓子製造業
1274 米菓製造業
129
その他の食料品製造業
1293 麺類製造業
1295 豆腐・油揚製造業
1296
あん類製造業
1298 惣菜製造業
産業分類:平成10(1998)年2月発行、日本標準産業分類
2.2 合併処理浄化槽と単独処理浄化槽
設置されている浄化槽には合併処理浄化槽と単独処理浄化槽がありますが、現在は、前者を「浄化
槽」といい、後者を「みなし浄化槽」ということは1.4で述べました。これは、わが国のし尿管理
の政策と大きく係わります。
わが国では、長い間汲み取りし尿を肥料として利用することが広く行われていたため、し尿を有価
物として生活雑排水から分けて取り扱う社会システムが成立してきました。そのため、第二次大戦後
に汲み取りし尿の農業利用が激減するにあたって、下水道整備の立ち後れの下で、わが国特有のし尿
処理技術が開発され進展してきました。また、便所を水洗化するにあたって、水洗便所排水(し尿)
だけを対象とする単独処理浄化槽が普及してきました。このようなことから、わが国においては、し
尿の大部分は下水道、し尿処理施設、単独処理浄化槽などで処理され、水道の普及、栄養状態の向上
と相まって、糞便由来の感染症や寄生虫症という衛生面での問題は減少してきました。
しかしながら、汲み取り便所や単独処理浄化槽を利用する人々の生活雑排水は垂れ流しのままだっ
たため、河川や湖沼などの公共用水域での公害問題や環境問題が大きな社会問題となる中で、生活雑
排水も処理すべきだという気運が高まり、家庭レベルでもこれを処理できる合併処理浄化槽の開発・
普及が進められてきました。
13
コラム【雨水経路に流入する生活雑排水(洗濯排水、洗車排水等)の問題点】
単独処理浄化槽では生活雑排水はいわゆる垂れ流し状態で家の周りの道路側溝などの雨水排水
路に排出されており、そこで泡立ちが生じたり懸濁物質が沈積したりするわけですが、浄化槽を
利用する場合には問題ないかといいますと、そうではありません。典型的なものが洗車排水です。
この排水は浄化槽には入れませんので、道路側溝などに流入します。特に、洗剤やワックスのよ
うな化学物質の混入がある場合、場合によれば河川などにまで到達し、河川水などを汚染するこ
とが考えられます。このほかにもベランダで洗濯機を使ったり、屋外の洗い場で洗濯をしたりす
る場合も、生活雑排水の一部を垂れ流すことになります。なお、浄化槽で見られる状況は、分流
式の下水道を利用する場合も同様です。
2.3 浄化槽と下水道の違い
浄化槽と下水道はともに生活排水を処理するシステムであり、微生物の働きを利用する点でも共通
しています。大きな違いは、浄化槽は基本的には個別処理システムであって、下水道は集合処理シス
テムであるということです。なお、排水処理施設は同様の規模であったとしても、排水の集水システ
ムの点から、1.4で紹介しました農業集落排水施設は集合処理システムに、また、2.1で紹介し
ましたコミュニティ・プラントは個別処理システムに分類されます。
個別処理システムは一所にある建築物あるいは建築物群ごとに設置され、それらの所有者あるいは
利用者が管理するシステムであり、それらを必要としなくなった時点で不必要となる排水処理システ
ムといえます。これに対し、集合処理システムは散在している複数の建築物の排水を対象とし、建設
および運転・維持管理を公共団体、民間ディベロッパーあるいは利用者による組織などが行っている
ものであり、対象地域内のいくつかの建築物を必要としなくなっても必要なシステムといえます。
表2-2は個別処理システムと集合処理システムの長所と短所を整理したものですが、そのまま家
庭単位などで設置する浄化槽と下水道との比較にもなります。例えば、個別処理システムの長所の(1)
が集合処理システムの短所の(1)に対応するという見方をしていただければ解りやすい形で整理し
ています。これらのことを踏まえ、家庭用の浄化槽を対象にして、個別処理システムについて簡単な
解説を加えます。
14
表2-2 個別処理システムと集合処理システムの長所と短所 2)
個別処理システム
集合処理システム
(1) 集水システムが不要であり、建設費用が安価になる。
(1) 各建築物に土地がないとか狭いとかの場合でも、パイプ輸送
により排水処理が可能である。
(2) 各施設所有者が処理に責任を持つことになり、また、日常生 (2) 処理施設は経験を積んだ運転者により集中的に運転、維持
活の中で環境保全効果を身近に体験できるので、環境に対
管理することが可能である。また、きめ細やかな検査による機
する意識が高揚する。
能把握も可能である。
長 (3) 個人等の管理する土地に設置するので、処理施設の設置場 (3) 処理施設は窒素やりんの除去のみならず、様々な要求に対
所の選定、取得等に関するトラブルがない。
応することが可能である。
(4) 共有施設がないので、住民間の意識の差異によるトラブルが (4) 建物レベルでの清掃はほとんどなく、それに伴う臭気問題は
ない。
少ない。
(5) 処理水の放流において、環境への影響が穏やかであり、ま (5) 建設費用は、直接には個々の利用者に負荷されない。
所
た、河川等に到達するまでに放流先の水路等での自浄作用
の効果が期待できる。
(6) 放流先の水路等の水量保持に有効である。
(6)
(7) 生成される汚泥は、重金属等の含有量が少なく、肥料等に
再利用しやすい性状である。
(8) 地震等の災害に対して被害があっても環境への影響は小さ
く、また修復も容易である場合が多い。
(9) 長期間使用後の施設のリハビリは、処理装置が主対象であ
り、柔軟に対応でき、また、安価である。
(10) 固定的な集水システムがないので、将来の開発に対して、
施設整備に柔軟性がある。
(1) 各建築物にスペースがないと設置が困難である。
高度処理をして処理水の再利用を実施している場合がある。
(7) 生成される汚泥の処理は施設内で完結される場合が多い。
(1) 集水システムが必要なため、管路工事等の経費が加算され
る。
(2) 建設、維持管理、処理機能把握のための検査等を各建築物 (2) 自らが処理しないため、環境保全の意識が低くくなりがちに
について実施しなければならない。
なる。
(3) 現在の技術では、窒素、りんの除去には対応できるが、その (3) 処理施設の設置場所の選定、取得等にトラブルを生じる場
他の物質には対応が困難である。
合がある。
(4) 年1回以上の清掃を必要とするが、住居が接近している場
合、臭気の問題が生じる。
(4) 利用時期や管理費用に関する住民間の意識の差異によっ
て、トラブルを生じる場合がある。
短 (5) 場所や地形により、流入管渠や放流管渠の長さが長くなり、 (5) 多量の処理水を1点で放流するため、放流先での希釈効果
また揚水のためのポンプを必要とするが、これらは建設費に
や自浄作用が期待できず、環境への影響が大きくなる場合
加算される。
がある。
(6) 現状の体制では、一般的には処理水の再利用は難しい。
(6) 処理水を下流で放流することにより、身近な水路や河川の保
持水量が減少するおそれがある。
所 (7) 生成される汚泥は、収集・運搬し、し尿処理施設等に処理を (7) 生成される汚泥には重金属等の含有量が多く、肥料等に再
委ねる必要がある。
利用し難い性状の場合もある。
(8) 地震等の災害に対して被害があると、環境への影響が大き
く、また修復は容易でない場合が多い。
(9) 長期間使用後の施設のリハビリは、集水システムが大きな比
重を占め、柔軟な対応が難しく、また費用がかかる。
(10) 将来の開発等を見込んだ施設整備が必要なため、初期には
施設が過大となる場合がある。また、人口の変化等に対応し
がたい。
長所の(1)~(4)は、浄化槽を自らが住む住宅の敷地に設置することによるものであり、当然の
ことと理解していただけると思います。(5)と(6)は、浄化槽から放流された処理水が河川に到達
するまでに水路などを経由することから生じます。(7)は、浄化槽は生活排水しか処理の対象とし
ないので、食品や商品に由来して生活排水に混入する重金属などが異常な量でない限り成立します。
(8)については、記憶に新しい平成 23(2011)年 3 月の東日本大震災の後の調査でも明らかにされ
15
ています。(9)は(1)と同じく集水システムが不要であることや浄化槽が小さな装置であることに
由来します。(10)は個々の浄化槽の設置が単独で行えることによっています。
短所の(1)については、例えば家庭用の浄化槽の場合でも、乗用車の駐車スペース程度の敷地が
なければ設置できません。(2)は、浄化槽 1 基ずつが建設、維持管理、検査などの対象となること
に由来します。(3)については、浄化槽はかつては窒素やリンも処理対象外でありましたが、現在
では処理対象としているものも開発されています。しかしながら、下水道で対応されているような色
度の除去や非常に低濃度の BOD、SS、窒素やリンなどの達成には対応できません。(4)は、ご理解い
ただけると思います。(5)については、国や自治体による補助もありますが、個人の負担は小さく
ありません。特に、場所や地形により流入管きょや放流管きょの長さが長くなったり、揚水のための
ポンプを必要としたりすることがありますが、これらについても個人の負担となります。(6)は、
衛生上の観点から許容されていません。(7)は、浄化槽の大きな特徴ですが、発生する汚泥はし尿
処理施設などで集合的に処理することを前提としています。反面、このことによって、汚泥の衛生処
理や処理汚泥の効率的な処分や再利用が行われることにつながっています。
個別処理システムまたは集合処理システムのいずれかだけを適用することは、難しいあるいは非効
率ですので、それぞれの長所を踏まえた適用が望まれるところです。
なお、国際的な分類では、農業集落排水施設を除く浄化槽は生活排水を発生源で処理するというこ
とからオンサイト処理システムに含まれ、下水道は発生源から離れた所で処理するということからオ
フサイト処理システムとなります。
2.4 家庭用小型浄化槽と大型浄化槽
これまでの説明では、家庭用の小型浄化槽を前提としてきたところがありますが、浄化槽には、規
模、処理方式、処理性能などにおいてさまざまなものがあります。処理方式については第 5 章で解説
しますが、規模と処理性能についてはここで解説します。
規模につきましては、最小は家庭用小型浄化槽で 5 人槽といわれるものです。また、最大は 38,500
人槽の関西国際空港の浄化槽といわれています 4)。農業集落排水施設などでは数千人槽のものがあり
ます。何人槽をもって大・中・小というのかはかならずしも明確に定められているわけではありませ
んが、5~50 人槽を小規模、51~500 人槽を中規模、501 人槽以上を大規模というのが一つの判断基準
になります。
ここで、人槽についてふれておく必要があります。これは浄化槽の受け入れ可能な負荷をその浄化
槽を利用する人の数で置き換えたものと考えてください。具体的にいいますと、対象とする建築物に
設置される浄化槽の処理対象人員が 5 人あるいは 10 人の場合、その浄化槽は 5 人槽あるいは 10 人槽
の大きさであるといいます。処理対象人員を求めるための算定基準は JIS(日本工業規格)A 3302-2000
「建築物の用途別による屎尿浄化槽の処理対象人員算定基準」で定められていますが、住宅における 1
人 1 日当たりの水洗便所排水あるいは生活排水の排水量ならびに BOD 負荷量(表2-3)が基準とさ
れています。すなわち、処理対象人員は、対象とする建築物から排出される排水量と BOD 負荷量をこ
16
れらの基準値で割った値から算定されますが、いずれか大きい方を採用することが基本となっていま
す。これは排水量や BOD 負荷量がデータとしてある場合や類似の施設からこれらを類推できる場合の
算出方法ですが、そうでない場合は、延べ床面積、便器数、利用定員などから定められた計算式によ
って求めることになります。なお、生活排水におけるこれらの値は1.1で紹介しました値に比べる
と少し異なっていますが、かなり古い情報に基づいているためだと理解してください。
表2-3 浄化槽の人槽算定に用いられる原単位 3)
排水量(L/人・日)
BOD濃度(mg/L)
BOD負荷量(g/人・日)
合併処理浄化槽
200
200
40
単独処理浄化槽
50
260
13
浄化槽の規模に係わる重要な話題として処理性能があります。現在のところ、維持管理の頻度の制
限もあって家庭用小型浄化槽では高度な処理をすることに限界がありますが、中・大規模の浄化槽で
は、多くの頻度で維持管理することが可能であり、高度処理をしやすい状況にあります。
浄化槽の処理性能については、国土交通省が例示を示していますが、それ以上の処理性能を発揮す
ることが国土交通大臣によって認定されればそのような浄化槽も適用できるため、稼働中の浄化槽に
は多様なものがあります。
国土交通省の例示につきましては、50 人槽以下では、処理水 BOD 濃度 20 mg/L 以下の性能と BOD
濃度 20 mg/L 以下および T-N 濃度 20 mg/L 以下の性能があります。これに対して、51 人槽以上では、
構造基準に係る告示(国土交通省告示第 1292 号)の区分に対応した性能が表2-4のように規定さ
れています。
表2-4 浄化槽の構造基準の告示に定められている処理性能
告示
区分
第 6
第 7
第 8
第 9
第10
第11
BOD
20
10
10
10
10
10
処理性能(mg/L以下)
COD
SS
T-N
(30)
―
―
(15)
―
―
10
―
(15)
―
20
(15)
―
15
(15)
―
10
T-P
―
―
1
1
1
なお、51 人槽以上には第 12 の告示区分がありますが、これは水質汚濁防止法の規定によって定め
られている水質項目の排水基準に対応するものであり、浄化槽の構造は第 6 から第 11 までのものが
適用されます。COD 欄の( )の値は、その水質項目に COD が含まれる場合に適用される処理性能で
す。
17
コラム【高速道路のサービスエリアの浄化槽】
本文中で紹介しました JIS(日本工業規格)A 3302-2000「建築物の用途別による屎尿浄化槽の処
理対象人員算定基準」にサービスエリアの人員算定基準が示されていますが、駐車ます数から求め
るようになっています。課題は流入汚濁物質の大半がし尿由来であるということで、BOD に対する
窒素やリンの割合が高く、BOD 除去を主体とする浄化槽ではこれらを高い濃度で排出せざるを得
ず、高度処理型の浄化槽の設置が望まれます。
コラム【最大規模といわれる関西国際空港の浄化槽 4), 5)】
関西国際空港では、発生する排水は空港内の浄化センターで処理されています。浄化センター
は空港島の南西にあり、約 30,000 m2 の敷地に設置されており、島内 15 ヵ所に分散するポンプ場
を経由して集められた生活排水と機内食工場や格納庫などから出る特殊排水が処理されていま
す。特殊排水は特殊排水系処理施設で処理され、監視槽を経て大阪湾に放流されています。
し尿や雑排水は生活排水系処理施設で処理されていますが、これは日本最大の浄化槽といわれ
38,500 人槽であり、最終的には 77,000 人槽が予定されています。処理方式は、
「活性汚泥循環硝
化脱窒法+凝集沈殿法+砂ろ過法」の組み合わせであり、窒素とリンへの対応がなされています。
処理水は特殊排水と同様に監視槽を経て大阪湾に放流されていますが、一部は中水としてトイレ
洗浄水、工事等の作業用水、植物栽培・道路撒水、消防用水などに再利用されています。また、
排水処理過程で発生する余剰汚泥、凝集沈殿汚泥などは、脱水汚泥の形で隣接の廃棄物処理施設
で一般可燃ごみと混焼されています。
Q & A
2-1 浄化槽を設置する場合に単独処理浄化槽は廃止しなくてはいけませんか。
本文では説明しませんでしたが、浄化槽と称されていたものには、合併処理浄化槽と単独処理浄化
槽以外に変則合併処理浄化槽というものがあります。これは、水洗便所排水を処理する単独処理浄化
槽に生活雑排水を処理する浄化槽を接続設置して、BOD 除去率 90 %以上、放流水の BOD 濃度 20 mg/L
以下の機能を有するようにしたものですが、このような形で単独処理浄化槽を活用することはできま
す。この場合以外では、原則廃止です。
2-2 浄化槽の処理水を地下浸透放流することはできますか。
本文中に示しました構造基準に係る告示には、第 5 の区分として「特定行政庁が地下浸透方式によ
18
り汚物を処理することとしても衛生上支障がないと認めて規則で指定する区域」で適用される構造が
示されています。これは、単独処理浄化槽であって、SS 除去率 55 %以上、流出水の SS 濃度 250 mg/L
以下の性能を持つ一次処理装置とこの流出水を地下浸透させる装置から構成されています。しかしな
がら、実態としては本方式を適用している地方自治体は存在していません 6)。
現在、東京都を初めとする一部の地方自治体では特例的に認めている場合がありますが、それらの
考え方から見ると、BOD 濃度 10 mg/L 以下、T-N 濃度 10 mg/L 以下の性能を有する高度処理型の浄化
槽の放流水を対象としているといえます 6)。
2-3 単独処理浄化槽の有効活用法にはどのようなものがありますか。
水槽として再利用できるものは、図のように「雨水貯留槽」
「防火水槽」などに改造して利用され
るケースがあります。これらにより、雨水利用による節水、災害時の非常用水としての利用、川の氾
濫や浸水防止、ごみの減量化などの効果が期待されています 7)。
図2-1 単独処理浄化槽を活用した雨水利用施設 7)
2-4 使わなくなった単独処理浄化槽はどのようにして処分されていますか。
処分方法については、掘り起こして撤去し廃棄物として処分することが原則ですが、現位置で内部
を清掃、消毒し、本体の底に穴を開け土砂などで埋め戻しをすることもあります。廃棄物として処分
する場合は、廃棄物処理法上の廃棄物になるため、法律に基づいた適切な処分をしなければなりませ
ん。
19
2-5 コンパクト型浄化槽について教えてください。
従来、家庭用浄化槽では、構造基準に係る告示に従ったもの(構造例示型浄化槽という)が製造さ
れていましたが、狭い敷地に設置できる、設置工事において掘削土砂量を低減できるなどから、より
小さな浄化槽が開発されてきました。具体的には、5 人槽の場合、構造例示型の嫌気ろ床接触ばっ気
方式の浄化槽において処理に係る部分の総容量が約 3 m3 であるのに対して、各メーカで開発されてき
たものでは総容量がその 70 %程度であり 8)、コンパクト型浄化槽と総称されています。現在では、
新設の浄化槽はほとんどがこのタイプのものです。
また、最近では、総容量が構造例示型浄化槽の 50 %程度の超コンパクト型浄化槽も開発・販売さ
れています。これはかつて製造・販売された分離接触ばっ気方式の単独処理浄化槽と同程度の大きさ
であり、同一場所での単独処理浄化槽の合併処理浄化槽への転換も視野に入れて開発されています。
浄化槽では、流入水中の有機物質を栄養源として増殖した微生物や流入水中の夾雑物が溜まり込み、
浄化槽を長期間使用した後にはこれらの一部が流入水によって貯留部から押し出され、最終的に処理
水質を悪化させないとも限りません。このため、特にこれら総容量の小さな浄化槽においては、専門
業者による適切な保守点検や清掃はもちろん重要ですが、使用者も一時に多量の排水を流入させない
などの配慮が要求されます。
参考文献
1)泉忠行:浄化槽による小規模事業場の排水処理における技術的課題、月刊浄化槽、No.378、8-13、
2007
2)公益財団法人日本環境整備教育センター:K村生活排水処理計画調査報告書、1992 に加筆・修正
を加えて作成
3)公益財団法人日本環境整備教育センター編集:浄化槽の維持管理、111、公益財団法人日本環境整
備教育センター、2010
4)関空探検隊が行く
8. ジョウカセンター:関西国際空港ホームページ(http://www.
kansai-airport.or.jp/otanoshimi/explor/ins/08/index.html)
5)柴﨑庄司:関西国際空港における浄化槽処理水の再利用について、月刊浄化槽、No. 380、15-19、
2007
6)
「屎尿浄化槽の構造基準・同解説―1996 年版―」講習会における質問と回答:一般財団法人日本建
築センターホームページ(http://www.bcj.or.jp/src/c15_course/qa/19981020-2.html)
7)単独処理浄化槽から合併処理浄化槽へ:環境省ホームページ(http://www.env.go.jp/
recycle/jokaso/pamph/pdf/jo_pamph201011-all.pdf)
8)中橋隆夫:コンパクト型浄化槽、APEC 環境技術交流バーチャルセンターホームページ
(http://www.apec-vc.or.jp/j/modules/tinyd00/index.php?id=41&kh_open_cid_00=43)
20
第3章
浄化槽の概略史
本章ならびに第4章に記載した事項のうち主なものを年表として章末にまとめております
ので、参照してください。
3.1 浄化槽の黎明期
浄化槽の原形は、汚水中の汚濁物質の沈殿除去と嫌気性細菌による分解を目的とした腐敗槽
ですが、これを開発した先人はフランスの J. L. Mouras だといわれ、万延元(1860)年に石
製のタンクを造っています。アメリカにおいては明治 13(1880)年に 2 室の円形立形のものが
E. S. Philbrick によって開発されています。浄化槽(当時はこの用語はなかった)は、大正
10(1921)年制定の水槽便所取締規則では、
「腐敗槽+酸化槽+消毒槽」の組み合わせとなる 3
槽からなっていましたが、歴史的に見ますとこの組み合わせは、後にできたもので当初は腐敗
槽に主力が置かれていたようでした。1),2)
浄化槽を処理装置化したのは明治 29(1896)年に至ってからで、Donald Cameron がイギリス
南西部のデボン州のエクゼターにあるセントレナード教会に水洗便所排水と生活雑排水を合わ
せて処理する装置を設置しました。これは「腐敗槽+接触濾床+灌漑法」の組み合わせであり、
かなり良い浄化成績でしたので、当時の人達はこの装置に期待をかけました。翌年には地方政
府に取り上げられ、この組み合わせが推奨されました。ドイツでは明治 40(1907)年に Karl
Imhoff が 2 階タンク形式のイムホフタンクを発明し、その後このタンクを応用したひとつにオ
ムス式浄化装置があり、これが後述する日本における特殊型浄化槽の原形となりました。1),2), 4)
日本における汚物処理装置は、明治 44(1911)年にアメリカ人の設計により神奈川県川崎町
の東京電気株式会社に設置されたのが最初のものであるといわれていますが、日本人によるも
のでは、須賀藤五郎が明治 45(1912)年に設計・施工した石鹸メーカーであるリバー・ブラザ
ース社の尼崎工場に設置したものが最初といわれています。すでに「水槽便所」も年々増加し、
また、洋風もしくは高層建築が建てられるようになった結果、水槽便所の設置工事を業とする
者がでてきました。3)その初期には、船医であり、伝染病研究所(現在の東京大学医科学研究
所)で細菌学を修めた後、城口汚物下水処理研究所(現在の株式会社城口研究所)を設立した
城口権三が関西方面において、内務省土木局や東京市下水課で勤務した後、民間企業に転じ、
西原環境衛生研究所(現在の株式会社西原環境)を設立した西原脩三が関東方面において、こ
の業界のパイオニアとして活躍していました。なお、水槽便所は、水洗便所と浄化装置を組み
合わせた便所とされています。1),4)-7)
住宅用では、大正 3(1914)年に西原脩三が考案・設計して、東京府豊多摩郡千駄ヶ谷町大
字原宿の外交官伊庭邸に設置したものが最初とされています。これは当時ドイツのフォーズン
市においてセプティックタンクと砕石濾床に潅注する酸化槽を組み合わせた方式が設置された
ことにならって考案されたといわれています。4)
21
その後、大正 6(1917)年には丸の内に最初の高層建築物として東京海上ビルディングの建
設が始まりました。このビルの汚物処理槽は、西原脩三が東京市技師であった米元晋一の指導
の下に設計・施工したものです。同じ頃、大阪においても三越の新築工事が始まり汚物処理槽
が設けられました。この東京海上ビルディングおよび大阪三越の汚物処理槽は、わが国で初め
ての大型汚物処理槽でした。その後、帝国ホテル、日本銀行、東京駅など丸の内界隈に多くの
ビルが建設されましたが、未処理の汚水が外堀などを汚染し、問題になったことが記録に残さ
れています。当時、明治 33(1900)年制定の日本最初の廃棄物に関する法律であった「汚物掃
除法」の規定により水洗便所は汚水溜を設けて貯え、随時全量汲み取って運搬・処分していま
した。しかし、汚水量が多量であるため運搬・処分は十分には行われず、かえって不衛生な状
況をもたらすこととなりました。4),5),9),10)そのため、大正 9(1920)年には「汚物掃除法施行規
則」の一部改正が行われ、地方長官が許可を与えた汚物処理槽によって処理した汚水は、公共
の水域に放流することが初めて可能となりました。大正 10(1921)年には水槽便所取締規則が
施行されますが、
「汚物処理装置の標準構造」に示された標準構造は先に示した東京海上ビルデ
ィングのものであり、それ以後の汚物処理槽の基準(前述の「腐敗槽+酸化槽+消毒槽」
)とな
りました。この頃の代表的な汚物処理槽の例を図3-1に示します。1),4),5)
城口式浄化装置(大正 10 年頃)
西原式浄化装置(大正 10 年頃)
図3-1 大正 10 年頃の代表的な汚物処理槽の例 1),4),5)
ところで、汚物処理槽や水槽便所の浄化装置は、あくまでも単独処理の装置であって、同時
期、わが国では合併処理の装置はないといわれていましたが、昭和 59(1984)年に発見された
旧横浜山手外国人居留地内に残る外国人住宅の遺構で、煉瓦造りの 3 槽からなる処理装置が合
併処理の装置であることが判明しました。設計者も建設時期も不明ですが、山手への給水が明
治 34(1901)年から始まりましたので、明治末年から大正初期に建築されたものと推測されま
す。10)横浜は近代下水道発祥の地といわれていますが、外国人居留地で合併処理の装置が使わ
れていたことは、浄化槽の歴史上注目に値します。
22
写真3-1 明治時代の合併処理装置の遺構 8)
3.2 市街地建築物法および水槽便所取締規則の制定
大正 9(1921)年、内務省は「建築基準法」の前身である「市街地建築物法」を制定し、翌
年「市街地建築物法施行規則」を制定しました。同施行規則では、都市下水道に便所を直接連
結するか、あるいは地方長官の承認する汚物処理槽を経由した屎尿を下水道に放流することを
許可する以外、便所は原則として汲取便所の構造とし、屎尿は法規上汲取運搬処理しなければ
ならないとされました。4),5),9),10)
一方、警視廳は、丸の内や日本橋など東京市街中心地に建ち並び始めた高層建築物の水槽便
所を調査した結果、汚水が浄化されずに排出されたため水質汚濁が年々進行し、悪臭を発散す
るに及んだと結論づけ、以後 2 年のうちに改築するよう求め、大正 10(1921)年 6 月、水槽便
所取締規則を公布し、同年 7 月から施行しました。わが国において、初めて汚物処理槽が法規
23
によって許可を受けて設置されることとなりました。水槽便所を設置して、屎尿を下水道に放
流することになった最大のきっかけは市街地建築物法施行規則が制定され、その厳しい条項に
対応して水槽便所取締規則が施行されたことでした。水槽便所の基準は、イギリス河川汚染防
止協会が推奨したという欧米の基準をそのまま採用し、イギリスやアメリカなどで使われてい
たものを応用したものでした。1),10)
水槽便所取締規則はコレラやチフス、赤痢などの伝染病の流行を防ぐことや都市衛生の確立
を図るものであったことから、水槽便所の設置工事が終わると警視廳が検査し、使用が許され
ました。その後も検査をしてその結果が悪ければ錠前をかけて使用禁止にしたというほど厳し
い措置が執られました。1)
3.3 臨時日本標準規格の制定 ―初めて「浄化槽」という表現が登場―5),8),10),12)
臨時日本標準規格は、昭和 14(1939)年から昭和 20(1945)年までの間に制定され、
「臨時
規格」または「戦時規格」と呼ばれていました。昭和 19(1944)年 9 月、技術院から「建築敷
地内衛生施設の臨時日本標準規格」が制定され、汚水浄化槽の規格が定められました。それま
では汚物処理槽と呼ばれていましたが、ここにきて初めて「浄化槽」という表現が使われ、そ
の定義として「汚水浄化槽ハ水ヲ使用シテ糞尿ヲ浄化放流スル施設ヲ謂フ」とされました。
規格の要点は次のとおりです。
①腐敗槽の機能を向上させるため、腐敗槽は沈殿分離槽と予備濾過槽で構成し、固形物を完
全に分離できる構造としたこと
②散水といと濾材の砕石面との距離、砕石受け下面と槽底との距離や排気管の寸法などにつ
いて、濾床構造の規格化を図ったこと
③適当な放流先のない場合に限り、土地の状況や土質などにより、衛生上支障のないと判断
されるときは、地下浸透処理としても差し支えないとしたこと
3.4 建築基準法の制定 ―「汚物処理槽」から「屎尿浄化槽」へ―
昭和 25(1950)年に建築基準法が制定され、便所、汚水浄化槽の構造基準が同法施行令で定
められました。その後、建築基準法の一部改正が行われ、汚物処理槽は「屎尿浄化槽」とされ、
その構造は、水槽便所取締規則の内容を受け継いだ形で建築基準法施行令の規定により「腐敗
槽+酸化槽+消毒槽」の組み合わせとなりました。慣例的に基準型浄化槽あるいは欧米式と呼
ばれました。これは、ヨーロッパにおいては二階式腐敗槽が使用されているのに対し、アメリ
カにおいては腐敗槽はセプティックタンクとして単槽混合式が家庭用として基準化されている
ためでした。また、これと同等以上の性能を有すると認められたものは特殊型浄化槽と呼ばれ
ました。10)そもそも、特殊型浄化槽はアメリカ・イギリス軍が使用していたもので、日本では
認められていない形式のものが作られ、韓国、中国で採用されていたものが再び日本国内に移
入されることになったようです 4)。建設費も低廉なため基準型浄化槽よりも多く普及し、その
24
種類も 200 以上となったものの、その認定や取扱方法は各都道府県によりまちまちでした 5)。
コラム【水槽便所取締規則(警視廳令第 13 号)
】11)
警視廳の衛生技官であった川畑秀太郎に
よると
「警視廳衛生檢査所長西崎薬學博士は
下水及水槽便所流出汚水試驗法並に放流適
否に関する標準を發表せらる、
之れ本邦に於
ける嚆矢にして該試驗に對し一大光明を與
へられたるものなり、
衛生當局者は博士の熱
心なる御努力に向て大に感謝の意を表せざ
るべからずや。
」と賞賛しています。
警視廳は、明治 14(1881)年に内務省の
地方官庁として設置され、
組織として衛生部
(獣医課、防疫課、医務課、衛生検査所、衛
生課)が設けられました。
3.5 共同浄化槽の出現 9),10),13)
昭和 20(1945)年当時、戦火による焼失分も含め、約 420 万戸の住宅が焼失しました。昭和
25(1950)年からは自治体による低所得者向け公営住宅の建設や住宅金融公庫による融資が始
まったものの、民間の住宅産業は十分には育っていないこともあり、住宅の供給不足が続き同
年半ばにしても約 270 万戸の住宅が不足していました。
そのような中で、大都市圏においては、
都道府県または保健所設置市に届出するだけで設置ができ水洗便所排水、
炊事排水、
風呂排水、
洗濯排水などを処理できる施設を「共同浄化槽」と称して独立的に取り扱われていました。
この共同浄化槽は、第二次世界大戦後、アメリカ軍その他の外国軍隊がわが国に進駐してそ
の駐屯兵舎や軍人軍属用住宅の設営に伴い、水洗便所の設置に係る汚水処理のために要求され
て施工したのが始まりといわれています。本格的には、昭和 30(1955)年代に日本住宅公団が
住宅供給不足を補うために行った住宅団地の造成により設置されるようになりました。
3.6 清掃法の制定 ―単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の区分の明記―
浄化槽は建築基準法および汚物掃除法によって規制されていましたが、昭和 29(1954)年に
汚物掃除法は廃止され、
「清掃法」が制定されました。これを機に水槽便所取締規則も廃止され、
25
新たに浄化槽の維持管理基準が定められました。その後、昭和 40(1965)年に清掃法は一部改
正され、これに伴い政省令の全面的な改正が行われました。特に浄化槽に関する部分は根本的
な改正でした。すなわち、水洗便所汚水と生活雑排水との合併処理を採り上げていること、地
下浸透による汚水の処理方法を採り入れていること、活性汚泥法など技術的に新しい処理方式
を見込んでいること、放流先の条件によって段階的に放流水の水質基準を設け、その基準値と
して新たに BOD を採用したこと、維持管理については専門技術者による委託管理を組織的に行
うことなどが示されました。
初めて「屎尿を単独で処理する施設」あるいは「屎尿および雑排水を
合併して処理する施設」という表現が使われ、「単独処理浄化槽」と「合併処理浄化槽」が明記され
ました。5),10),14)
さらに、昭和 41(1966)年、公害審議会から厚生大臣に対しし尿処理施設およびその管理に
関する基準が答申され、「し尿は西欧なみに水洗便所によって処理することを第一の目的とすべ
きである。この目標を合理的・効果的に達成するためには公共下水道を軸とし、さらにこれを
補足するコミュニティプラント(注:当時はこの表記が使われた)および浄化槽を将来の地域
開発を展望し長期総合開発に基づいて促進しなければならない。」と記されました。答申内容は
閣議決定となり、ここに初めて浄化槽の位置づけが国の施策として確立されました。14),15)
3.7 FRP 製単独処理浄化槽の急増
昭和 30(1955)年代中頃までの浄化槽は現場打ちやコンクリート管組み立てのものがほとん
どでしたが、その後、成型が容易かつ軽量である生産効率の高いガラス繊維強化プラスチック
(FRP、Fiberglass Reinforced Plastics)を素材としたばっ気型浄化槽が工場で大量生産され
るに伴い、
「設置工事が簡便で維持管理も簡単」という謳い文句で住宅ブームに乗って、FRP 製
単独処理浄化槽の普及には目覚ましいものがありました。図3-2に水洗化率、非水洗化率の
推移とともに水洗化人口の推移を示しますが、昭和 44(1969)年において浄化槽利用人口と下
水道利用人口はほぼ同数であり、この状態は昭和 58(1983)年まで拮抗した形で進みました。
単独処理浄化槽は下水道とともに人々の便所の水洗化への要望をかなえる有力な手段となって
いたのです。10)
26
水洗化人口 浄化槽 (千人)
非水洗化率 (%)
100,000
100
90,000
90
80,000
80
70,000
70
60,000
60
50,000
50
40,000
40
30,000
30
20,000
20
10,000
10
0
昭
和
昭 36
和
昭 38
和
昭 40
和
昭 42
和
昭 44
和
昭 46
和
昭 48
和
昭 50
和
昭 52
和
昭 54
和
昭 56
和
昭 58
和
昭 60
和
平 62
成
平 1
成
平 3
成
平 5
成
平 7
成
平 9
成
平 11
成
平 13
成
平 15
成
平 17
成
平 19
成
平 21
成
23
0
年 度
図3-2 水洗化人口、水洗化率、非水洗化率の推移
昭和 44(1969)年 1 月、建築基準法施行令が改正され屎尿浄化槽の性能基準が示され、これ
に基づいて同年 5 月には「浄化槽の構造基準」が告示されました。この改正により、屎尿浄化
槽の性能基準と構造基準、放流水の水質基準が整合し、性能、構造基準と維持管理基準の一体
化が図られたわけです。
3.8 合併処理浄化槽の構造基準
従来の構造基準は単独処理浄化槽が対象でしたが、昭和 44(1969)年の建設省告示において
初めて合併処理浄化槽の構造基準が定められました。合併処理浄化槽の構造基準は、昭和 43
(1968)年に作成された日本下水道協会の小規模下水道施設基準によるものでした。4)
このことによって、浄化槽に対する考え方も根本的に変わり、合併処理浄化槽の採用、生活
排水処理システムとしての位置付け、浄化槽とコミュニティ・プラントのそれぞれの性能に見
合う構造基準の確立がなされました。昭和 41(1966)年 6 月以来、日本建築センター衛生設備
委員会の委員長として原案をまとめた楠本正康日本浄化槽教育センター理事長は「誠に画期的
な前進で、いうならば浄化槽が単なるし尿の衛生的処理という目的から、環境計画の一環とし
ての性格へ大きく飛躍したのである。経済社会の発展に伴う時代の要請、目覚ましい技術の進
歩からみて当然であるが、しかし、それだけに浄化槽の管理にも高度な技術が要求されること
となった。
」と指摘されています。
27
水洗化率・非水洗化率(%)
人口(千人)
水洗化人口 公共下水道 (千人)
水洗化率 (%)
昭和 45(1970)年建築基準法施行令第 32 条に第 3 項が追加されました。公共用水域の水質
保全のため、指定水域に浄化槽の放流水を放流しようとするときは、その水域において建築基
準法施行令第 32 条第 1 項に規定する放流水の BOD の基準より厳しい基準が定められ、
あるいは
BOD 以外の項目について基準が定められている場合には、浄化槽の放流水は同項の規定にかか
わらず、当該水質に適合するようし尿を処理する性能を有する構造のもので処理されなければ
ならないこととされたのです。10)
昭和 55(1980)年には浄化槽の構造基準が全面改正となり、単独処理浄化槽の平面酸化床方
式や全ばっ気方式が廃止され、
処理対象人員 51 人以上の浄化槽は合併処理浄化槽にすることと
されました。単独処理浄化槽については新たに分離接触ばっ気方式が追加され、合併処理浄化
槽についても従来の活性汚泥法偏重から回転板接触法や接触ばっ気法などの生物膜法による方
式が大幅に取り入れられました。特に、わが国独自の研究開発による小型合併処理浄化槽の登
場は従来の浄化槽の世界を大きく変えることとなりました。9),10)
一方、農林水産省は農村集落排水事業として農林水産業の地域における生産基盤と生活環境
の一体的な整備を図るため、生活排水を処理する農業集落排水処理施設の整備を昭和 48(1973)
年から開始し、公共用水域の水質保全に寄与しています。農業集落排水事業は、
「農業振興地域
の整備に関する法律」に基づく農業振興地域内の農業集落を対象とするもので、対象人口はお
おむね 1,000 人以下とされています。16)
同様のものとして、漁業集落排水事業は「漁港漁場整備法」により指定された漁港の背後集
落を対象とするもので、対象人口はおおむね 5,000 人以下とされています。また、林業集落排
水事業は、
「森林法」により指定された林業振興地域または森林整備市町村の区域内を対象とす
るもので、対象人口はおおむね 1,000 人以下とされています。17)
これら集落排水事業の処理施設は、農林水産地域における生活水準の向上と公共用水域水質
保全に重要な役割を果たす社会資本として、浄化槽法に基づく合併処理浄化槽として位置付け
られています。
コラム【指定水域】
水質汚濁防止法第 4 条の 2 第 1 項に基づき、環境大臣は、
「人口や産業の集中などにより生
活又は事業活動に伴い排出された水が大量に流入する広域の公共用水域であって、かつ、環
境基本法の規定による水質環境基準の確保が困難であると認められる水域」を指定水域とし
ています。具体的には、化学的酸素要求量および窒素またはリンの含有量の項目ごとに水域
を水質汚濁防止法施行令で指定しています。
浄化槽のうち処理対象人員が 501 人槽以上のものは「特定施設」となり、都道府県知事への
設置届出、排出水の水質測定などの規制を受けることとなりますが、指定水域の指定地域に
おける処理対象人員が 201 人槽以上 500 人槽以下の浄化槽は、水質汚濁防止法により、「指定
地域特定施設」となり、同様の規制を受けます。
28
3.9 浄化槽法の制定に至る経緯
前述しましたが、FRP を素材とした単独処理浄化槽が開発され、
「軽量・コンパクトで設置面
積も少なく、設置工事期間も短く、維持管理も簡単ですぐ快適生活が楽しめます」という謳い
文句と住宅ブームに乗って設置基数は大幅に伸びました。
しかしながら、普及だけが先行して、
法的、行政的に対応できず、しかも関係業界自体も自主的な対応力が欠けていたため、公共用
水域の水質汚濁源となり、また、悪臭、騒音などの問題を引き起こすなど地域住民間でのトラ
ブルの原因ともなり、社会問題を生むに至りました。当時は、あたかも浄化槽が諸悪の根源で
あるかのような言い方さえされるような状況でした。9),10)
この頃は、多くの場合、設置者は設置した浄化槽が無届けであることさえも知らないまま日
常的に便所を使用し、設置後の保守点検も清掃も未実施のため、無管理浄化槽となってしまっ
たのです。寸法さえ基準に合っていれば、誰が、どこに、これを設置しても構わないというの
が当時の状況であり、その結果、浄化槽の機能が維持されず近隣に迷惑をかけ、水質汚濁の源
となっていました。18)
これら浄化槽を巡る諸問題への対応については、昭和 51(1976)年 9 月に浄化槽関係団体で
構成された「浄化槽中央連絡協議会」から要望書が関係省庁に提出されました。翌月、構成メ
ンバーのひとつである一般廃棄物処理業者の全国団体の全国環境整備事業協同組合連合会(環
整連)が初めて浄化槽法の制定をスローガンとして掲げ、提唱しました。19),20)
各省庁は、従来の法律を活用して浄化槽の機能の確保に対応していたわけですが、下水道に
ついては下水道法があり、国において十分な予算措置などがなされていることと比較すると、
浄化槽については法体系も未整備であり、ましてや国の予算措置なども皆無に近い状況でした。
このような状況を改善し、国民の生活環境の保全を図るため、浄化槽行政の一元的運営と浄化
槽工事・保守点検業者などの浄化槽関係者の責任を明確にするための資格付与を目的に、42 都
道府県の浄化槽協会が結集し、昭和 52(1977)年 5 月に「全国浄化槽団体連合会(全浄連)」
が結成されました。21),22)
翌年 2 月には、環整連は浄化槽法案の第一次案ともいえる「小規模生活系廃水処理施設整備
法案要綱」をまとめました。その後、全浄連ではこの要綱を参考として昭和 54(1979)年1月
に「浄化槽法案要綱試案」をまとめ、立法化を進めました。当初、浄化槽対策議員連盟の意見で
は議員立法ではなく、政府提案にする予定でしたが、浄化槽行政においては厚生・建設両省を
はじめ関係省庁の権限が多岐にわたり複雑に関わっているため、国会議員による立法化が検討
されました。23)
浄化槽法案は昭和 57(1982)年 8 月に議員立法として提出され、昭和 58(1983)年 5 月に浄
化槽法が成立、公布され、昭和 60(1985)年 10 月より全面施行となりました。浄化槽法では、
浄化槽の製造、設置、保守点検および清掃について規制が強化され、浄化槽の設置などに関す
る者の責任と義務が明らかにされるとともに、浄化槽設備士や浄化槽管理士の身分資格が確立
され、生活環境の保全と公衆衛生の向上を図る一元的な法制度が築かれました。
29
浄化槽法制定にあたって、柴山大五郎全浄連会長(当時)は「振り返ってみると、海のもの
とも、山のものともわからぬ混沌たる状況の中で、浄化槽法に大きな希望を託して突っ走った
全浄連の強い団結があったからこそ、浄化槽法ができたものと痛感している。」と述懐されてお
り、浄化槽法施行記念式典における中曽根康弘総理大臣の祝辞において「下水道とともに、浄
化槽がようやく陽の当たる場所に躍進の一歩を踏み出したことを痛感している。
」と述べられて
います 24) 。
コラム【浄化槽協会】
全浄連を構成する正会員で、各都道府県に 1 団体ずつ計 47 団体あり、傘下会員は平成 25
(2013)年 2 月現在 12,362 社を数え、浄化槽に関わる製造、施工、保守点検、清掃および
検査の 5 業種をそれぞれ網羅しています 25) 。
コラム【全国浄化槽団体連合会(全浄連)】
全浄連は、浄化槽に関する技術の向上や知識の普及を図るとともに、浄化槽業界の健全
な発展を図ることなどを目的として昭和 52(1977)年 5 月に設立された業界団体です。当
初、その目的を達成するため、柴山大五郎初代会長を初め全国の会員は浄化槽行政の一元
化と浄化槽施工士および浄化槽管理技術者の身分資格の法制化の実現に向け、浄化槽法制
定を目指した運動を展開しました。
この動きに呼応して浄化槽対策議員連盟が設立されたことにより、全浄連を母体とした
全国浄化槽対策推進政治連盟を発足させ、運動を継続した結果、昭和 58(1983)年 5 月に
浄化槽法が制定されました。これにより、浄化槽の設置、維持管理および製造について規
制されるとともに浄化槽工事業者の登録制度や浄化槽清掃業者の許可制度が整備され、浄
化槽設備士や浄化槽管理士の制度が創設されました。
昭和 62(1987)年には、小型合併処理浄化槽を普及させるため、厚生省(当時)は国庫
補助金制度を創設し、その後、融資制度も取り入れたことから、全浄連は毎年度予算獲得
運動を続け、成果をあげています。また、その結果として小型合併処理浄化槽の設置基数
が増加したため、適正な機能維持を保証すべく「浄化槽機能保証制度」を創設し、浄化槽の
社会的信用を確保しています。この制度は、全浄連に保証登録された浄化槽に機能異常が
発生した場合には、その原因者を明らかにして原因者による修補等の措置を確保するとと
もに、原因者が特定できない、または原因者により措置を講ずることが著しく困難である
場合には、全浄連に設けられた保証基金によりその修補に要する費用を支払うものです。
近年では、平成 19(2007)年度からは、水環境の保全を図るため浄化槽の普及啓発や地
域の水環境保全活動などを積極的に実践している団体および個人の活動に対し「水環境保
全助成事業」を行い、活動の輪を拡大・継続することを支援しています。また、平成 23(2011)
年 3 月 11 日の東日本大震災の経験を基に、会員の安全確保を支援し、被災した浄化槽の状
30
況確認と早急な復旧への道筋をつけるための「大規模災害緊急対応マニュアル」を作成し、
会員はもとより国、地方自治体などに対する働きかけを積極的に行っています。
現在、正会員は 47 団体、特別会員は 19 団体です。25)
コラム【浄化槽システム構築の貢献者・楠本正康氏と柴山大五郎氏】
今日の浄化槽を語る上で忘れてならない方が二人おられます。一人目は楠本正康・日本
環境整備教育センター初代理事長です。新潟医科大学の医学生であった頃に、昭和 4(1929)
年に始まった世界恐慌と昭和 6(1931)年、昭和 9(1934)年の東北大凶作により疲弊した
東北地方の農村社会の惨状を見られ、
「公衆衛生」を終生のテーマとすることを決意されま
した。そして、簡易水道の普及や昭和 32(1957)年 5 月の水道法制定など、戦中から戦後
にかけての激動期に公衆衛生行政に数々の足跡を遺さ
れ、退官後は浄化槽の普及に情熱を注がれました。26)
厚生省退官後、経済審議会、公害審議会などの委員
を歴任され、重要かつ緊急を要する政策決定に参加さ
れました。昭和 41(1966)年に浄化槽関係技術者の養
成と調査研究を行うために、日本環境整備教育センタ
《柴山大五郎氏と楠本正康氏》
ーの前身である日本浄化槽教育センターを創設され、
初代理事長に就任されました。わが国における浄化槽の
人材育成とともに浄化槽の調査研究および開発研究を強力に牽引され、特に、小型合併処
理浄化槽の研究開発の取り組みは昭和 58(1983)年の浄化槽法の制定に大きく貢献しまし
た 26)。コミュニティプラント(コミプラ)の名付け親でもあります 13) 。
二人目は柴山大五郎・全浄連初代会長です。群馬県浄化槽協会の会長でもあり、全国に
先駆けて地元における浄化槽関係技術者の養成や普及啓発を県行政に強く働きかけるなど
積極的に浄化槽の推進に取り組まれました。特に、全浄連の初代会長として 47 都道府県の
浄化槽協会を先導し、会員からの絶大な信頼の下、団結力を強固なものとして浄化槽法制
定に尽力されました。昭和 57(1982)年 1 月に「浄化槽法が国民生活の向上と水環境保全
に必要不可欠な法律であると認識し、水道法、下水道法とともにわが国の 3 大法律になる
と信じて、成立に努力してまいります。
」と決意を新たにされ、
「愛される浄化槽」
、「信頼
される浄化槽」を目指して業界の願いの達成に全力をもって貢献されました
24)
。平成 3
(1991)年 10 月には氏のご遺志を汲んで、合併処理浄化槽の技術向上と普及がより一層推
進されることを期待して、公益信託「柴山大五郎記念合併処理浄化槽研究基金」が創設さ
れました。
31
コラム【日本環境整備教育センター(教育センター)
】
昭和 30(1955)年代中頃からの高度経済成長に伴う国民の生活水準の向上は、生活意識
の変革を促し、特に、便所の水洗化への要望は目覚ましいものがありました。その結果、
単独処理浄化槽が急速に普及しました。
しかし、浄化槽は制度的には必ずしも十分な指導体制がないままでしたので、昭和 41
(1966)年 8 月に浄化槽の維持管理技術者の養成と浄化槽の調査研究を目的として、日本
浄化槽教育センター(楠本正康理事長)が創立されました。当初より浄化槽に関する実態
調査、構造と機能に関する研究および技術開発、機能診断の具体的な方法に関する調査研
究などを積極的に行う一方、その成果を浄化槽維持管理技術者講習の内容に充実させ、技
術者の養成に取り組んでいました。その後、昭和 44(1969)年には浄化槽の構造基準が建
設省より告示され、ばっ気型浄化槽が急速に普及し続けたことから、浄化槽の施工に関す
る専門技術者である浄化槽施工士の養成も行うようになりました。
昭和 50(1975)年 2 月に多角的な観点から浄化槽も含めた環境問題に対処するため、名
称を日本環境整備教育センターに改めました。この頃から接触ばっ気法を応用した処理方
式の技術開発に取り組み、「分離接触ばっ気方式」の実用化を促し、その後、昭和 56(1981)
年からはよりコンパクト化する目的で「嫌気ろ床接触ばっ気方式」の実用化を進めた結果、
「小型合併処理浄化槽の構造基準」の原形が作られました。
昭和 55(1980)年 2 月には、財団法人となり、昭和 58(1983)年 5 月の浄化槽法の制定
を機に、浄化槽管理士の国家試験および講習の実施機関として指定されたほか、全国浄化
槽技術研究集会の開催、研究助成・楠本賞の設置など普及啓発事業も積極的に推進してい
ます。
最近では、平成 23(2011)年 3 月 1 日に浄化槽設備士の国家試験および講習の実施機関
として国土交通大臣および環境大臣から指定されました。また、同年 3 月 11 日の東日本大
震災に際し、浄化槽の被害状況を被災地の浄化槽協会と協力して実地調査するとともに、
適切な生活排水処理体制の早急な回復のための提案など復旧に際しての技術的な協力を積
極的に行っています。また、公益法人制度がスタートしたことにより、平成 24(2012)年
4 月から公益財団法人として新たな出発をしました。
3.10 浄化槽法制定後の行政のあゆみ
浄化槽法の制定後、昭和 61(1986)年に厚生省の浄化槽の担当課は、浄化槽行政の基盤を強
固なものにするため、2 回にわたり浄化槽問題懇談会を開催しました。第 1 回目の懇談会は厚
生省が準備した「浄化槽いきいきプラン」を基に進められ、第 2 回目の懇談会では「浄化槽い
きいきプランのその後について」と「今後の課題について」意見交換がなされました。27)
この懇談会で話し合われたことが契機となって浄化槽事業を支える具体策が実施されました。
32
浄化槽対策室の設置、合併処理浄化槽設置整備事業の創設、生活排水処理計画の策定に関する
調査の実施、生活環境審議会に浄化槽専門委員会の設置、月刊浄化槽の創刊、全国浄化槽技術
研究集会の開催、浄化槽技術研究会の発足、浄化槽行政研究会の設置、浄化槽相談員制度の発
足などでした。27)また、このころ、朝日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞が社説に「合
併処理浄化槽の効用」を掲載し、暮らしの手帖や政府広報紙、厚生省広報誌にも取り上げられ
たほか、NHK の「くらしの経済セミナー」において「どうする生活排水」のテーマで合併処理
浄化槽が紹介されたときの反響は目覚ましいものがありました。
当時、浄化槽法の施行に奔走していた厚生省の担当課長は、浄化槽を巡る環境を「四有一無
の世界」と表現しました。それは、
「浄化槽には、一つ目にはニーズが有り、二つ目には浄化槽
法が有り、三つ目には浄化槽の技術が有る。しかし、浄化槽に対する偏見も有る。そして、浄
化槽には公的資金の援助が無い。こういう世界であるので、偏見を無くし、公的資金の援助が
有る世界にし、未来と夢の有る『五有の世界』を創造したい。」というものでした。28)
昭和 62(1987)年 5 月には浄化槽の名前を冠した初めての中央行政組織として厚生省生活衛
生局水道環境部環境整備課浄化槽対策室が誕生し、それに伴い厚生省では昭和 62(1987)年度
から合併処理浄化槽の普及を図るため国庫補助事業を実施しました。
コラム【浄化槽行政組織の整備 29)-32)】
昭和 60(1985)年 10 月の浄化槽法の全面施行に伴い、浄化槽に関する行政ニーズが増
加することを見据えて、厚生省環境整備課は、昭和 62(1987)年 5 月から「浄化槽対策室」
を設置しました。当時、課あるいは室を新設するどころかスクラップする時代でしたので、
厚生省の浄化槽に対する熱意が伝わってきます。
その後、中央省庁改革の一環として省庁再編が行われ、平成 13(2001)年1月新たな中
央省庁体制で国家行政が実施されることとなり、廃棄物関連部局は環境庁に移管され環境
省として拡充強化されることとなり、浄化槽対策室は環境省大臣官房廃棄物・リサイクル
対策部に設置されました。その後、今後は合併処理浄化槽の整備推進や合併処理浄化槽へ
の転換推進に重点がおかれることから、平成 14(2002)年 4 月に「浄化槽対策室」から「浄
化槽推進室」に名称を変更しました。
今日、浄化槽の設置主体によって「個人設置型」と「市町村設置型」との国庫補助事業があ
ります。個人設置型は当初、個人が合併処理浄化槽を設置する場合において、単独処理浄化槽
を設置する場合との差額を補助対象とする考え方から、「合併処理浄化槽設置整備事業(平成
15(2003)年度から「浄化槽設置整備事業」と変更)
」として補助事業を行っており、市町村が
個人に対して補助を行っている場合に国がその市町村に補助する間接補助の形で行ってきまし
た。ところが、下水道その他の施設には地方財政措置が講じられているにもかかわらず合併処
理浄化槽にはなく、地方財政措置がきちんと組み込まれてないことから、平成 2(1990)年1
33
月からは特別地方交付税が導入され、都道府県、市町村の地方財政負担が大幅に軽減されまし
た。さらに、
自治省が合併処理浄化槽の良さを認めたことは地方財政上大きなメリットとなり、
このことが弾みとなって国庫補助金額は大きく伸びました。その後、差額補助の考え方が市況
に左右されるという脆弱さがあること、単独処理浄化槽の新設が急速に減少する状況から、平
成 10(1998)年度からは生活雑排水処理による汚濁負荷のうち削減負荷の寄与分を基に、合併
処理浄化槽の設置費用の約 4 割を補助対象の基準とすることとされました。33),34)
一方、市町村設置型は、平成 6(1994)年度から市町村が設置主体となる場合には「特定地
域生活排水処理事業(平成 15(2003)年度から「浄化槽市町村整備推進事業」と変更)
」とし
て創設しました。この事業では、補助対象を合併処理浄化槽設置費用の全体とし、下水道事業
債の適用、事業施行事務費に対する補助なども加え、下水道の公共事業と同様な財政措置を行
っています。適用地域も順次拡大し、水質汚濁防止法に基づく生活排水対策重点地域や過疎地
域自立促進特別措置法に基づく過疎地域などの追加のほか、高度処理型浄化槽への補助対象な
ど、助成要件が緩和されてきました。そのほか、自治省は平成 6(1994)年度から市町村が地
方単独事業として市町村設置を行う場合、下水道事業債の適用が行われる「個別排水処理施設
事業」および「小規模集合排水処理施設整備事業」を創設しました。33),34)
この背景には、
下水道に関する行政監察により、
下水道の建設が見込まれない地域において、
下水道事業計画を見直し、水質保全の強化へ対応することが求められたこと、湖沼の環境保全
に関する行政監察により、合併処理浄化槽の整備をきちんとやるべきではないかという水質保
全施策の強化を求める動きがあったことなどから、恒久施設としての合併処理浄化槽の評価が
受け入れられたのです 10)。
なお、平成 18(2006)年度以降は、地域再生の観点から市町村の自主性・裁量性を高めるた
め、浄化槽、公共下水道、農業集落排水施設の効率的な整備をするため「地域再生基盤強化交
付金」が創設されました。また、同年度には国と地方が共同して広域かつ総合的に廃棄物リサ
イクル施設の整備を推進するため「循環型社会形成推進交付金」が創設され、この交付金によ
る浄化槽の整備も同時に進められています。33)-35)
3.11 単独処理浄化槽廃止の動き
いまだに利用人口の多い単独処理浄化槽は、平成 22(2010)年度末で 488 万基が設置されて
おり、総設置基数の 61.5%にあたります。10 年前の平成 12(2000)年度末では 722 万基が設
置されており、総設置基数の 82.3%にあたっていたことから比べると 234 万基、20.8%減少し
ていますが、この傾向が続くとすれば、なくなるまでにはあと 20 年はかかるということでしょ
うか。合併処理浄化槽を利用している家庭と比較すると、処理性能が劣り、生活雑排水の未処
理放流などから BOD の総量でも約 8 倍の汚濁物質を水環境中に排出しており、単独処理浄化槽
の廃止や合併処理浄化槽への転換は生活排水対策のなかでも重要な課題となっています。昭和
40(1965)年代後半から単独処理浄化槽については公共用水域の汚濁源としての指摘があり、
34
その廃止と合併処理浄化槽への転換も含めた取り組みが早くからいわれていました。36)
平成 7(1995)年に厚生省水道環境部に設置された「単独処理浄化槽に関する検討会」では、
単独処理浄化槽の歴史的役割は終えつつあり、合併処理浄化槽に代替させ、その設置・使用は
禁止されるべき時期に至っているとの評価を下し、国・地方公共団体・関係業界などの関係者
が一体となって具体的な取り組みを推進すべきであるとの基本的な考えを示し、単独処理浄化
槽の廃止に向けた報告書がとりまとめられました。単独処理浄化槽に関し「おおむね 3 年後に
は単独処理浄化槽の新設を廃止し、
さらに 21 世紀初頭には既設の単独処理浄化槽もすべて合併
処理浄化槽などに転換すること」が目標として示されました。厚生省は提言を受けて、翌年 5
月に浄化槽工業会に対して単独処理浄化槽の製造廃止について協力依頼を行い、平成 9(1997)
年 6 月に「単独処理浄化槽の新設廃止対策の推進について」を厚生省から各都道府県浄化槽行
政主管部局宛てに通知しました。一方、浄化槽工業会は単独処理浄化槽の製造廃止に向け動き
出し、同年 9 月に「単独処理浄化槽廃止自主活動推進プロジェクトスタート・未処理生活雑排
水放流ストップ宣言」を発表しました。国土交通省も、平成 12(2000)年 12 月以降は改正前
の例示仕様に示されていた単独処理浄化槽の設置を禁止し、この単独処理浄化槽の型式認定を
取り消しました。そして、平成 13(2001)年に「浄化槽法の一部を改正する法律」が施行され、
単独処理浄化槽の新設を原則廃止とする法的措置が講じられました。10)
その結果、
改正法の施行を前に、
同年 2 月に単独処理浄化槽の出荷台数はゼロとなりました。
環境省では、平成 18(2006)年度予算において初めて単独処理浄化槽の撤去費用を助成対象と
し、補助対象となる単独処理浄化槽は水質汚濁対策が必要な地域で使用開始後 10 年以内(平成
19(2007)年度からは使用開始後 20 年以内とされる)のものとしました。また、合併処理浄化
槽の工事費用と単独処理浄化槽の撤去費用が現行の基準額を超える場合は、最大 9 万円を加算
した額を基準額として助成しています。33)
3.12 浄化槽ビジョンの策定へ 37),38)
平成 17(2005)年の浄化槽法改正において、新たに創設される放流水の水質に係る基準、7
条検査の実施時期など、維持管理に係る技術的事項については省令において定めるよう委ねら
れていることから、省令事項を検討するため、中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会の下に
浄化槽の技術に係る専門的知見を有する者を中心とする「浄化槽専門委員会(委員長:加藤三郎
環境文明研究所代表取締役所長)」が平成 17(2005)年 4 月に設置され、同年 8 月末に「中間
とりまとめ」が公表されました。この「中間とりまとめ」を踏まえ、環境省関係浄化槽法施行
規則の一部を改正する省令が同年 9 月 26 日に公布されました。引き続き、浄化槽専門委員会は
6 回にわたり、浄化槽の維持管理に係る業務のあり方、国民への普及啓発および単独処理浄化
槽対策について審議を重ね、第 14 回委員会において「議論の整理」としてまとめました。
その後 8 回にわたる審議の中、地方自治体の職員や首長をはじめ、地域において環境保全活
動を行っているボランティア、NPO 法人の代表者から意見を聞くなどして平成 19(2007)年 1
35
月 15 日に審議の内容を「今後の浄化槽の在り方に関する『浄化槽ビジョン』について」として
まとめました。
このビジョンはおおよそ平成 32(2020)年ぐらいを念頭に置いた中長期的な計画として、浄
化槽行政を支える羅針盤といえるものです。
36
付表 第3章、第4章に記載した主な事項に係る年表
和暦
西歴
事項
万延元年
1860年
J. L. モーラス(フランス)が腐敗槽(石製のタンク)を開発
明治13年
1880年
E. S. フィルブリック(アメリカ)が腐敗槽(2室の円形立形)を開発
明治29年
1896年
明治33年
1990年
D. キャメロン(イギリス)が水洗便所排水と生活雑排水を処理するための、腐敗槽+接触濾床+灌漑法の組み合
わせによる処理装置を設置
汚物掃除法の制定
明治40年
1907年
K. イムホフ(ドイツ)が2階タンク形式の腐敗槽を発明:これを応用したオムス式浄化装置が特殊型浄化槽の原形
明治44年
1911年
アメリカ人の設計による日本で最初の汚物処理装置を神奈川県川崎町の東京電気株式会社に設置
明治45年
1912年
大正3年
1914年
須賀藤五郎の設計・施工による汚物処理装置をリバー・ブラザース社の尼崎工場に設置:日本人による最初の
汚物処理装置
西原修三が考案・設計した日本で最初の住宅用の水槽便所を原宿の外交官伊庭邸に設置
大正6年
1917年
日本で最初の大型汚物処理槽を東京海上ビルディングと大阪三越に設置
大正9年
1920年
汚物掃除法施行規則の一部改正で、地方長官が許可した汚物処理槽で処理した汚水の公共用水域への放流
を認める
建築基準法の前身である市街地建築物法の制定
大正10年
1921年
水槽便所取締規則を制定
昭和19年
1944年
建築敷地内衛生施設の臨時日本標準規格を制定:汚水浄化槽の規格を規定
昭和20年
1945年
共同浄化槽の出現
昭和29年
1954年
汚物掃除法の廃止、水槽便所取締規則の廃止、清掃法を制定:浄化槽の維持管理基準を規定
昭和30年
1955年
昭和30年代中頃:FRP製単独処理浄化槽の急増
昭和40年
1965年
清掃法の一部改正:浄化槽関連規定の根本的改正、単独処理浄化槽と合併処理浄化槽の区分の明記
昭和41年
1966年
日本浄化槽教育センター(現・公益社団法人日本環境整備教育センター)を創設
公害審議会がし尿処理施設およびその管理に関する基準を答申
昭和43年
1968年
日本下水道協会が合併処理浄化槽の構造基準の基になる小規模下水道施設基準の作成
昭和44年
1969年
建築基準法施行令の改正:し尿浄化槽の性能基準の明示、浄化槽の構造基準を告示
昭和45年
1970年
いわゆる「公害国会」の開催、公害関係14法の改正・制定
建築基準法施行令の改正:指定水域に放流水を放流する浄化槽の構造要件の設定
昭和48年
1973年
農業集落排水施設の整備を開始
昭和51年
1976年
浄化槽を巡る諸問題に対して、浄化槽中央連絡協議会が要望書を関係省庁に提出
全国環境整備事業協同組合連合会(環整連)が浄化槽法の制定をスローガンとして提唱
昭和52年
1977年
全国浄化槽団体連合会(全浄連)を結成
昭和53年
1978年
環整連が小規模生活系廃水処理施設整備法案要綱をまとめる
昭和54年
1979年
全浄連が小規模生活系廃水処理施設整備法案要綱を参考にして浄化槽法案要綱試案をまとめる
昭和55年
1980年
浄化槽の構造基準の全面改正
昭和57年
1982年
浄化槽対策議員連盟が浄化槽法案を議員立法として提出
昭和58年
1983年
浄化槽法の制定
昭和60年
1985年
浄化槽法の全面施行
昭和62年
1972年
厚生省環境整備課に浄化槽対策室を設置
小型合併処理浄化槽の設置に対する国庫補助金制度である合併処理浄化槽設置整備事業(現:浄化槽設置
整備事業)を創設
平成 2年
1990年
合併処理浄化槽設置整備事業に特別地方交付税を導入
平成 6年
1994年
市町村が浄化槽の設置主体となる特定地域生活排水処理事業(現:浄化槽市町村整備推進事業)を創設
平成 9年
1997年
厚生省が「単独処理浄化槽の新設廃止対策の推進について」を各都道府県浄化槽行政主管部局宛てに通知
平成12年
2000年
平成13年
2001年
国土交通省が単独処理浄化槽の設置を禁止
浄化槽法の一部改正:単独処理浄化槽の新設を原則廃止
省庁再編で、浄化槽行政は旧厚生省から環境省に移管
平成14年
2002年
浄化槽対策室の名称を浄化槽推進室に変更
平成17年
2005年
浄化槽法の改正:放流水の水質に係る基準、7条検査の実施時期などを省令において定めるよう委ねる
平成18年
2006年
条件付きながら、単独処理浄化槽の撤去費用を助成対象
平成19年
2007年
中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会浄化槽専門委員会による「浄化槽ビジョン」を取りまとめ
平成21年
2009年
モデル事業「単独処理浄化槽集中転換事業」が開始され、ほとんどの単独処理浄化槽が撤去費用の補助対象
37
参考文献
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10)小川浩、佐々木裕信、石原光倫、岩堀恵祐:わが国おける浄化槽の普及とその史的背景、
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17)水産庁漁業集落環境整備事業、http://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko-gyozyo/antei/
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18)佐々木裕信:浄化槽技術者養成のあゆみ7、月刊浄化槽、No273、1999
19) 財団法人日本環境整備教育センター:30 年のあゆみ、399、1997
20) 社団法人全国浄化槽団体連合会:全浄連法人認可 10 周年記念誌、140、1990
21)社団法人全国浄化槽団体連合会:全浄連法人認可 10 周年記念誌、38-40、1990
22) 社団法人全国浄化槽団体連合会: 10年の歩み、5、1987
23)社団法人全国浄化槽団体連合会:全浄連法人認可 10 周年記念誌、47、67-69、1990
24) 社団法人全国浄化槽団体連合会: 全浄連法人認可 10 周年記念誌、103、1990
25) 社団法人全国浄化槽団体連合会:平成 24 年度全浄連会員団体事務局長会議における全浄連
参考資料、6、2012
38
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27)佐々木裕信:浄化槽技術者養成のあゆみ23、月刊浄化槽、No294、2000
28)佐々木裕信:浄化槽技術者要請のあゆみ22、月刊浄化槽、No293、2000
29)森一晃:浄化槽対策室(訓令室)発足する、月刊浄化槽、№127、29-30、1986
30)鏑木儀郎:浄化槽対策室がスタート、月刊浄化槽、№134、36-37、1987
31)熊谷和哉:中央省庁改編について、月刊浄化槽、№297、5-6、2001
32)環境省浄化槽推進室:4 月から浄化槽対策室を浄化槽推進室に名称変更、月刊浄化槽、№310、
71、2002
33)財団法人日本環境整備教育センター:第 2 章 浄化槽に対する助成制度、浄化槽の維持管理
上巻、64-66、2010
34)財団法人日本環境整備教育センター:第 4 章 浄化槽整備事業と国庫助成および第 5 章 浄
化槽整備事業における国庫補助指針、浄化槽整備事業の手引き(2011 年版)
、
2011
35)坂井美穂子:平成 23 年度地域再生基盤強化交付金予算について、月刊浄化槽、№420、11-13、
2011
36)佐々木裕信:単独処理浄化槽廃止に向けた取り組み経緯と現状、月刊浄化槽、No327、2003
37)加藤三郎:今後の浄化槽の在り方に関する「浄化槽ビジョン」をまとめる、月刊浄化槽、№
371、28-31、2007
38)中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会浄化槽専門委員会(第 24 回):今後の浄化槽の在
り方に関する「浄化槽ビジョン」について(案)
、環境省浄化槽推進室、2007
39
第4章 浄化槽法の制定と浄化槽の費用
4.1 浄化槽法の制定
第3章 3.9でも触れましたが、浄化槽に関する法律は、その名のとおり浄化槽法として昭
和 58(1983)年に定められました。
浄化槽法が定められる以前、わが国に浄化槽は既に存在していましたが、浄化槽を直接の対
象にした包括的な法律はありませんでした。その当時、浄化槽については、構造は建築基準法
から、保守点検や清掃といった維持管理は廃棄物処理法から、それぞれ規制を受けていたに過
ぎませんでした。そのため、浄化槽の設置や維持管理が必ずしも正しく行われていなかったこ
とに起因して、浄化槽に流入した生活排水が十分に浄化されずに放流され、放流先の側溝や小
河川だけでなく、その先にある「公共用水域」と呼ばれている川や湖、海などの汚濁を引き起
こしていました。
昭和 30(1955)年代から約 20 年間(おおむね昭和 30(1955)年~昭和 48(1973)年の間)
続いた高度経済成長時代にあったわが国は、飛躍的な成長を遂げ、米国に次ぐ世界第 2 位の経
済大国になりました。これに伴う産業の進展も著しいものがありましたが、その代償として水
質汚濁、大気汚染、騒音などが全国で相次いで発生し、これらは「公害」として大きな社会問
題になりました。この公害に対して、国民が関心を持ち始め、その対策を求める機運の高まり
を受けて開かれた昭和 45(1970)年のいわゆる「公害国会」では、昭和 33(1958)年に制定さ
れた「水質保全法」と「工場排水規制法」の水質二法が廃止され、新たに「水質汚濁防止法」
が制定され、清掃法を踏襲した「廃棄物処理法」の制定をはじめ、
「下水道法」の改正なども行
われました。その翌年、昭和 46(1971)年には環境庁が設置されました。1)
浄化槽に関しては、昭和 52(1977)年に浄化槽関係業界の全国組織として全浄連が設立され、
同年には国会議員有志による「浄化槽対策議員連盟」が発足し、浄化槽行政の一元化とともに
浄化槽法の制定に向けた動きが活発化しました。
その後、
浄化槽対策議員連盟が中心となって、
全浄連との協調の下、関係する行政と業界の調整を図り、昭和 58(1983)年 5 月に浄化槽法が
制定・公布され、昭和 60(1985)年 10 月から同法が全面施行されました。2)
4.2 浄化槽法の目的
浄化槽法は、浄化槽によるし尿あるいはし尿と雑排水の適正な処理を図り、生活環境の保全
および公衆衛生の向上を図ることを目的に制定されました。そのために必要な浄化槽の製造、
設置、保守点検および清掃にわたる一連の過程において規制を強化し、浄化槽に関する包括的
な制度を整備したものです。具体的には、浄化槽の設置および管理に関係する者の義務を明確
にするとともに、浄化槽に関する資格制度を定めています。2)
浄 化槽 法の 公 布時 は、その 目 的と して 、不適切な設置または維持管理が十分でない浄化
槽からの放流水が公共用水域などの汚濁源とならないようにすることに主眼を置いていました。
つまり、当初の浄化槽法は、し尿などを適正に処理し、生活環境の保全および公衆衛生の向上
40
を図るためのものであって、公共用水域などの水質保全については、理念は有していたかもし
れませんが、直接、言及されるに至っていませんでした。
4.3 浄化槽法の改正
浄化槽法は、その公布後、改正を重ねていますが、その中で特に重要なものを次に紹介しま
す。
(1)平成 12(2000)年の改正
この年の改正では、単独処理浄化槽の新設を原則禁止しました。すなわち、浄化槽の定義か
ら単独処理浄化槽に該当する文言を削除したのです。また、既設の単独処理浄化槽は、合併処
理浄化槽へ転換するよう努力義務を課しました。ただし、既設の単独処理浄化槽は合併処理浄
化槽とみなすことにより、維持管理などに係る規定は合併処理浄化槽と同様に適用するよう措
置しました。この意味で、単独処理浄化槽は「みなし浄化槽」と呼ばれるようになりました。
(2)平成 17(2005)年の改正
この年の改正では、浄化槽法の目的に「公共用水域等の水質の保全」が追記されました。こ
のことによって、浄化槽の水処理性能としては、
「下水道と同等の効果を有するものである」と
宣言したとも理解されます。また、浄化槽からの放流水に対する水質基準を設け、浄化槽設置
後の水質検査について、その検査時期を浄化槽の使用開始後 3 か月を経過した日から 5 か月間
とすることで適正化を図りました。さらに、浄化槽の維持管理に対する都道府県の監督の強化
を目指して、浄化槽の水質検査について勧告や命令などができるように権限を強化し、指定検
査機関に対し都道府県への検査結果の報告を義務付け、浄化槽の使用廃止は都道府県知事に届
け出なければならないこととしました。
4.4 浄化槽の費用
(1)設置に対する費用負担
浄化槽については、元来、設置者が設置に係る費用と維持管理に係る費用のすべてを負担す
ることとなっていました。しかしながら、公的資金で補助を受けている公共下水道の利用者と
の公平性の確保、また、汚濁負荷を大幅に低減できる合併処理浄化槽の出現といったことを受
けて、浄化槽の費用負担問題に変化が出てきました。各種の費用負担に関する制度の詳細は、
第3章 3.10に記しています。
(2)地方公共団体の取組み事例
地方公共団体によっては、浄化槽の整備・普及を推進するため自ら設置と維持管理を行って
いるところがあります。これらのうち、市街地では下水道整備を進めながらも、市民へのサー
ビスの公平性を図る観点から、郊外地域において市町村設置型の浄化槽整備に一早く着手した
政令指定都市である仙台市と広島市の事例を紹介します。
1)仙台市の事例 3)
仙台市では公設浄化槽の整備事業として、市が個人の住宅に対する浄化槽設置と維持管理を
41
行う公設・公管理型の手法を採用しています。ただし、公設浄化槽の設置は、設置対象地域で
あるかなどの条件を満たさなければなりません。
なお、家屋の新築の際に公設浄化槽を設置するなど建築確認申請を要する場合にあっては、
同申請に必要な浄化槽の書類作成を仙台市が行うこととしています。
①対象区域
公共下水道の事業認可区域、農業集落排水事業および流域関連公共下水道の処理区域を
除いた全市域
②対象住宅など
戸建住宅・共同住宅および延べ床面積の 2 分の 1 以上が住宅である併用住宅を対象とし
ているが、浄化槽は 100 人槽以下のものが対象
設置後の浄化槽の維持管理は市が実施
③費用
分担金(本体設置時)と維持管理の費用として使用料が必要
トイレの改造や浄化槽の排水設備工事などは個人が負担
④分担金
5~10 人槽で 12 万円(11 人槽以上については市へ問い合わせのこと)
⑤月額使用料
5 人槽:月額 1,680 円
6 人槽:月額 2,100 円
7 人槽:月額 2,730 円
8 人槽:月額 3,255 円
10 人槽:月額 4,305 円
※生活保護を受けている世帯や市民税が非課税の世帯については、使用料を減免する制度
あり
⑥保守点検業者の登録
仙台市内で浄化槽の保守点検を事業として行う場合には、事前の登録が必要
2)広島市の事例 4)
広島市では、平成 20(2008)年 4 月より、市民からの申請に基づき、一定の要件を満たす住
宅などに市が合併処理浄化槽を設置し、その後の維持管理も併せて市が市営浄化槽事業を行っ
ています。また、既設の合併処理浄化槽についても、所有者からの申請に基づき、一定の要件
を満たすことを市が確認できれば、これを無償で引き取り、市営浄化槽として維持管理を行っ
ています。
ただし、本事業の開始に伴い、それまで実施されていた浄化槽の設置者に対し市が補助金を
交付する事業は、廃止されました。
①対象区域
公共下水道、農業集落排水処理施設、小規模下水道(団地浄化槽)の計画区域を除く全
42
市域
②対象建築物
「建築物の延べ床面積に対する居住の用に供する部分の床面積の割合が 2 分の 1 以上」
かつ「建築物に係る処理対象人員に対する居住の用に供する部分に係る処理対象人員の割
合が 2 分の 1 以上」である建築物
※処理対象人員は、日本工業規格(JIS A 3302)に基づき算定
住居専用住宅(集合住宅を含む)
、居住を主とする店舗など併用住宅も対象
市営浄化槽の設置に係る土地を無償で市に貸与願う場合あり
③市営浄化槽の設置工事
浄化槽を設置するためには乗用車約 1 台分のスペースが必要であり、工事の際にはバッ
クホウなどの重機械が作業できるスペースも別途必要
浄化槽本体および放流管の設置は市が行うが、市が定める標準的な工事以外については
申請者の負担(浄化槽設置のための土地造成工事、浄化槽設置に支障となる物件の撤去・
移転・復旧などの工事、送風機へ電気を供給するための屋外コンセントの設置工事、水洗
トイレへの改造のほか、宅内の排水設備工事など)
排水設備工事が不完全だと下水管の詰まりや悪臭の発生を導くことから、市では工事が
適正に行われるように「指定工事店制度」を定めており、工事依頼は必ず指定工事店であ
ることを確認することが必要
④貸付金制度について
汲み取り便所を水洗便所に改造するための工事や既存の単独処理浄化槽を廃止する工事
について、市が必要な資金を無利子で貸し出す制度あり
⑤分担金
設置事業費の一部に充てるための費用として、
浄化槽 1 基につき 30万円の分担金があり、
20 回
(年 4 回×5 カ年)
に分割して排水設備の工事の検査をした日の翌年度から納めるか、
一括納付する必要あり(全額一括納付に限り分担金額の 8 %を報奨金として交付)
既設浄化槽を無償で広島市に帰属する場合は、分担金不要
⑥使用料
水道の使用水量を下水の排出量とし、この排出量に応じた使用料を負担(井戸水を利用
する場合は、別途調査して算出)
⑦電気および水道料金
市営浄化槽の使用や保守点検・清掃時に必要となる電気料金および水道料金は、使用者
の負担
(3)浄化槽と下水道の建設コスト比較
筆者は、一般論として「浄化槽の建設コストは、下水道と比較して有利であると言われてい
ますが、維持管理を含めて安価なのですか?」という質問を受けることがありますが、ここで、
これへの回答を示す前に、浄化槽と下水道の根拠法や法的な位置付けをはじめとした特徴的な
43
事項をまとめて表4-1に示します。
表4-1
1.根拠法
2.立法形式
3.公布年
4.法目的(抜粋)
・生活環境の保全
・公衆衛生の向上
・都市の健全な発達
・公共用水域の水質の保全
5.設置者
6.整備対象区域
7.排除方式
8.排除対象
・し尿
・雑排水
・雨水
・工場排水
9.廃棄物処理施設としての位置付け
・一般廃棄物処理施設
・産業廃棄物処理施設
10.都市計画施設としての位置付け
11.交付金事業の所管省
浄化槽と下水道の比較
浄化槽
浄化槽法
議員立法
昭和58(1983)年
下 水 道
下水道法
行政立法
昭和33(1958)年
(旧法は明治33(1900)年)
○
○
-○
市町村または個人
人口が疎な区域
個別型
-○
○
○
都道府県または市町村
人口が密な区域
集合型
○
○
---
○
○
○
○
○
--環境省 ※1、※2 -○
○
国土交通省
※1:交付金事業の所管が農林水産省である農業集落排水施設は、法的には浄化槽に含まれる。
※2:市町村が地方単独事業として市町村設置による浄化槽整備を行う場合、個別排水処理施
設整備事業であれば、下水道事業債の適用による総務省からの交付税措置が受けられる。
昭和 40(1965)年代から 50(1975)年代にかけてのわが国の高度経済成長時代の後期には、
新たな住宅団地の開発が全国各地で盛んに行われました。当時は、管きょによる集合型の排除
を行いながらも、大型浄化槽や一般廃棄物処理施設の一つであるコミュニティ・プラントへ接
続して処理しているものも多くありました。ただし、中にはトイレ排水だけを処理して、雑排
水は未処理のまま道路側溝に垂れ流しをしていた団地も存在していました。
現時点では、新たに団地開発が行われるとした場合、発生するし尿や雑排水を処理するシス
テムとして、浄化槽を採用するのか、または下水道を採用するのか、この判断を行うのは市町
村です。市町村設置型の浄化槽整備事業への取り組みを行っていたり、浄化槽からの引き出し
汚泥を処理するし尿処理場の能力に余裕がある市町村であれば、浄化槽を選択するでしょう。
また、雨水事業を同時期に展開したいと考えている市町村や、隣接して開発が予定されてい
る工業団地の排水も取り込みたいと考えている市町村であれば、下水道を選択するでしょう。
中には、浄化槽からの処理水が放流されることで水路などの維持水量の確保に期待する反面、
道路側溝の断面が小さ過ぎやしないかと心配する市町村や、管きょの布設替えの際に道路舗装
も下水道事業の一部として交付金対象であることを期待している市町村があるかもしれません。
44
市町村設置型の浄化槽整備事業によって整備する際には、廃棄物処理法の定めにより、市町
村が立案する一般廃棄物処理基本計画を構成する生活排水処理基本計画に則って、当該区域の
面積と人口を対象にした汚泥処理を含む計画を立てなければなりません。ただし、生活排水処
理基本計画は、立案時から 10~15 年後程度の将来を目標年次として策定するものであるため、
立案後に民間企業による住宅団地の開発が追加されても、直ちに見直しが図られるものではあ
りません。
下水道についても、生活排水処理基本計画において整備を見込む区域の面積と人口を定める
必要があります。また、浄化槽にはありませんが、下水道は都市計画法による計画決定と事業
認可の取得ならびに下水道法による事業認可を得ることで、法的にその区域を確定させていま
す。ただし、特定環境保全公共下水道事業のように、一部の事業には都市計画法による手続き
が不要のものもあります。しかし、全体計画区域に含まれていない区域であっても、その下水
道事業を実施する区域拡大を目的とした事業認可の変更により、生活排水処理基本計画の見直
しを待たずに下水道の整備に着手することは可能です。認可変更の際、生活排水処理基本計画
で下水道を行うと定めた区域よりも、下水道事業の認可を取得した区域を広く設定したとして
も、これに対しては、行政の判断が容認されています。
結果的に、浄化槽なのか下水道なのかという事業選択は、下流の水域への水質影響やし尿処
理施設の有無および稼動状況、市町村の財政状況や所管省からの交付金の補助対象率などとい
ったことを総合的に勘案して、市町村が行います。
よって、一人当たりや一軒当たりという建設コストだけで、浄化槽と下水道の事業としての
優劣をつけることはできないと考えます。
Q & A
4-1 浄化槽と下水道の整備について、棲み分けのルールは存在しますか。
浄化槽、下水道、農業集落排水施設といった汚水処理施設の整備エリアを定める「都道府県
構想」が全国すべての都道府県において策定されています。また、これらの施設がまったく整
備されていないエリアでは、社会情勢などの変化も踏まえながら、将来的に整備される施設の
見直しも図られています。
この見直しについては、都道府県構想に関係する農林水産省、国土交通省、環境省からの共
同の通知が都道府県に出されています。また、環境省からは、浄化槽の整備計画を立てる市町
村向けに「生活排水処理施設整備計画策定マニュアル」がまとめられ、これの活用が周知され
ています。
さらには、これら 3 省により、異なる汚水処理施設の建設費や維持管理費の経済比較が行え
るように統一した考え方が示されています。
しかしながら、従前から市街地を形成していた区域では、浄化槽と下水道の両者が混在して
45
いる場合があります。これには、次に示すようなケースなどがあります。
①浄化槽を個人で整備してきた区域にあって、
後年になって下水道事業の認可区域に編入され、
最近になって下水道の管きょが整備されたものの、各戸の下水道への接続が途上の場合
②開発団地において、現在は、各戸から発生するし尿と雑排水をまとめて管きょで集約的に排
除し、これを流末において大型浄化槽で処理しているものの、施設の老朽化や管きょの劣化
による維持管理費の高騰を考えると、将来的には大型浄化槽を廃止し、近傍に布設されてい
る下水道の幹線へ接続を図ることを前提にして、既に下水道事業認可区域に編入され、各戸
の下水道への接続が途上の場合
行政レベルでの浄化槽と下水道の事業としての調整に関しては、平成 3(1991)年になりま
すが、当時の厚生省と建設省が協議結果を踏まえ、両省から同日に同じ内容で出された次の通
知によるとされています。
この通知からも、浄化槽と下水道が整備される区域は、棲み分けが図られていくことが前提
とされ、同じ区域を対象に建設コストや維持管理を含むコストだけで整備する施設の選択を行
うものでないことが見込まれます。
46
【 合併処理浄化槽設置整備事業と下水道事業との調整について 】
平成 3 年 6 月 12 日、衛浄 32 号、各都道府県知事あて厚生省生活衛生局水道環境部長通知
合併処理浄化槽設置整備事業の実施に当たっては、下水道事業と相互調整の上、生活排
水処理基本計画を策定し、これに基づき実施することとしてきたところであるが、さらに
下記事項に留意して、市町村の浄化槽担当部局と下水道部局との間で十分調整を行い、合
併処理浄化槽設置整備事業の一層の推進を図るよう、貴管下市町村への周知をよろしくお
願いする。
記
1 合併処理浄化槽及び下水道は、それぞれの特性に応じ、公共用水域の水質保全並びに生
活環境の改善及び保全を図る上で有効な施設であること。
2 合併処理浄化槽設置整備事業により設置される合併処理浄化槽は、下水道の整備が見込
まれない区域及び下水道整備に相当の期間を要する区域において設置されるものである
こと。
3 下水道は、全体計画に基づいて計画的に整備されるものであること。
4 下水道の処理区域においては、合併処理浄化槽は遅滞なく下水道に接続されるものであ
ること。
また、上記通知と同日に厚生省からは次の運用通知も発出されています。
(建設省からも上記
通知と同一内容のものと運用通知が同日に出されています。
)
47
【 合併処理浄化槽設置整備事業と下水道事業との調整について 】
平成 3 年 6 月 12 日、衛浄 33 号、各都道府県浄化槽行政主管部(局)長あて厚生省生活衛生
局水道環境部環境整備課浄化槽対策室長通知
標記については、平成 3 年 6 月 12 日付け衛浄第 32 号厚生省生活衛生局水道環境部長通
知(以下「部長通知」という。
)により示されたところであるが、さらに下記の点に留意の
上、その趣旨の徹底に遺漏のないよう貴管下市町村に対し周知願いたい。
記
1 合併処理浄化槽設置整備事業の推進区域等について
(1) <略>
(2) <略>
(3) 下水道事業計画区域外においては、従来どおり下水道事業との相互調整を行い、地域
の実情に応じた生活排水処理基本計画を策定した上で、合併処理浄化槽設置整備事業
を引き続き推進すること。
(4) 合併処理浄化槽は生活排水対策の柱の一つとして下水道と並ぶものであり、合併処理
浄化槽設置整備事業により設置整備された合併処理浄化槽は、その所定の機能を維持
しつつ、長くその効用を発揮すべきものであること。
したがって、合併処理浄化槽設置整備事業を実施するに際して、地域ぐるみでの計画
的整備に努める等、合併処理浄化槽が長くその効用を発揮できるよう十分配慮するこ
と。
2 下水道担当部局との相互調整時期について
下水道担当部局とは、生活排水処理基本計画の策定及び見直しの時期に相互調整する
ことを基本とするが、合併処理浄化槽設置整備事業及び下水道整備のスケジュールは
様々な条件によって変化するので、同部局とは毎年度、国への予算要望時期等に連絡調
整すること。
4-2
既存の単独処理浄化槽から合併処理浄化槽に転換しようとする場合、単独処理浄化
槽の撤去費用の支援制度は、どのように定められていますか。
既に設置されている単独処理浄化槽を廃止して、新たに浄化槽を設置しようとする際、その
設置の支障になる単独処理浄化槽の撤去費用の一部を助成する制度があります。
48
これは、平成 18(2006)年度に創設された制度であり、対象となる地域および単独処理浄化槽
については、その後、順次拡大が図られてきました。平成 21(2009)年度からは、環境省により
「単独処理浄化槽集中転換事業」とするモデル事業が開始され、事実上、ほとんどの単独処理
浄化槽が撤去費用の補助対象となり、おおむね 9 万円の助成が加えられました。このモデル事
業が終了した後も、単独処理浄化槽からいわゆる合併処理浄化槽への転換を促す取り組みとし
て、次の助成が環境省により行われています。5 )
単独処理浄化槽の撤去費の助成について
<概要>
既存の単独処理浄化槽から合併処理浄化槽へ転換を推進するため、既存の単
独処理浄化槽に膜処理装置等を付加することにより単独処理浄化槽を合併処理浄
化槽の機能を持たせるための改築事業ができない場合で、かつ合併処理浄化槽の
設置に伴い単独処理浄化槽の撤去が必要となる場合において、次の要件を満たす
ものについては基準額の特例を適用する。
対象地域
市町村が定める浄化槽整備区域
対象単独処理浄化槽
使用開始後30年以内の単独処理浄化槽
ただし、旧構造基準の単独処理浄化槽については使用年数の制限を撤廃
基準額の特例の内容
合併処理浄化槽とこれに伴い必要となる単独処理浄化槽等の撤去に要す
る費用が現行の基準額を超える場合においては、環境大臣が必要と認めら額
を基準額とする。(現行の基準額に最大9万円を加えた額を基準額とする)
浄化槽の助成制度
助成率 1/3、助成対象 市町村
(参考)単独処理浄化槽撤去費用(平均)
清掃費(洗浄、消毒等)
29,900円
撤去工事費(掘削等)
24,000円
処分費(産業廃棄物処分) 39,400円
合
計
93,300円
5人槽の場合(設置費用約90万円、撤去費用9万円)
浄化槽設置整備事業(個人設置型)
国庫助成対象(4割)
個人負担(6割)
54万円
地方負担
2/3
24万円
国助成 地方負担 国助成
1/3
2/3
1/3
12万円
6万円
3万円
浄化槽市町村整備推進事業(市町村設置型)
単独浄化槽撤去分
9万円まで
国庫助成対象(10割)
個人負担
(1割)
9万円
地方負担
17/30
51万円
※地方債充当可能
単独浄化槽撤去分
9万円まで
国助成
1/3
30万円
地方負担 国助成
2/3
1/3
6万円
3万円
※地方債充当可能
(※地方債の元利償還費の50%は地方交付税措置)
49
4-3 浄化槽の維持管理にはどのような補助がされていますか。
環境省浄化槽推進室が平成 24(2011)年 3 月に公表した「平成 23(2011)年度 浄化槽行政
に関する調査等結果」6)によると、浄化槽の維持管理費用に対する補助を行っている地方自治
体は、平成 23(2011)年 12 月末時点で全国 34 都道府県の 174 市町村(東京都区部は、1 市町
村としてカウント)とされています。この補助に関し、合併処理浄化槽だけを対象としている
地方自治体が 128 市町村、合併処理浄化槽も単独処理浄化槽も対象にしている地方自治体が 45
市町村、単独処理浄化槽だけを対象としている地方自治体が 1 市(東京都国立市)となってい
ます。
合併処理浄化槽だけを対象としている 128 市町には、対象地区を限定している 6 市町(群馬
きりゅうし
たかちょう
県高崎市と桐生市、兵庫県多可町、広島県北広島町、佐賀県佐賀市、長崎県雲仙市)を含んで
います。
また、
全国 174 市町村のうち、
保守点検費用への補助を行っている地方自治体が 115 市町村、
清掃費用については 145 市町村、法定検査費用については 112 市町村、電気代については 17
かんらまち
みつけし
ねばむら
やまのうちまち
市町村となっています。
これらのうち、
群馬県甘楽町、
新潟県見附市、長野県根羽村と山ノ内町、
さんだし
や ぶ し
しそうし
いちかわちょう
さようちょう
三重県いなべ市、兵庫県の三田市と養父市と宍粟市と 市 川 町 と佐 用 町 、奈良県の大和郡山市
へぐりちょう
こうふちょう
しょうおうちょう
よ しの がりち ょう
と平 群 町 、鳥取県江 府 町 、岡山県 勝 央 町 、佐賀県吉野ヶ里町、長崎県大村市の 16 市町村
は、当該市町村内のすべての合併処理浄化槽を対象に保守点検、清掃、法定検査の各費用と電
気代への補助を行っています。
ただし、ここに挙げた市町村による地域住民が所有する浄化槽の維持管理費用に対する補助
に関し、国からは交付金などによる支援はされていません。
4-4
公共下水道の使用料金と汚水処理原価との差額が一般財源から補填されているとす
れば、浄化槽設置者に対し、維持管理費の助成を行うべきではないでしょうか。
現状を先に述べれば、下水道事業において、個人の維持管理費用に対して助成を行っている
という事例は存在しません。また、浄化槽設置者に対する維持管理費の助成は、市町村が必要
に応じてこれを制度化しているものであって、国からの交付金などは手当てされていません。
下水道に関し、特別会計でこれを実施している場合、一般会計からの繰り入れが認められて
おり、加えて、下水道の維持管理に要した費用の一部に対する地方交付税交付金の措置も行わ
れていますが、これらは総務省が定めたルールに従っているところです。
しかし、総務省も総合的な観点から、課題を認識していますが、これについては、この回答
の最後に記してあります。
ところで、下水道財政のあり方については、下水道財政研究委員会から、昭和 35(1960)年の
50
第 1 次提言に始まり、昭和 41(1966)年、昭和 48(1973)年、昭和 54(1979)年、昭和 60(1985)年
の 5 次にわたって提言がされてきました 7)。
このうち、第 5 次提言によれば、
「下水道の維持管理に係る費用負担のあり方については、下
水道の基本的性格などを踏まえ、その公共的役割と私的役割を総合的に考慮し、基本的には、
雨水に係るものは公費で、汚水に係るものは、公費で負担するべき分を除き、私費で負担する
こととしており、この私費負担分については、市町村の下水道条例で定めるところにより使用
料として徴収すること。
」とされています。すなわち、下水道の維持管理費は、公費負担が原則
にあり、とりわけ汚水に関しては、排出者に使用料対象費用として相応の私費負担を求めるル
ールが確立しています。また、市町村が下水道事業を特別会計で実施している場合、一般会計
からの繰り入れが可能であり、これにより特別会計が黒字決算となっていることもあります。
また、平成 24(2012)年 3 月に総務省準公営企業室が公表した資料 8)によると、
「公共下水
道、農業集落排水施設等、市町村設置浄化槽等の地方公営企業としての『下水道事業』は、全
国 1,771 団体中、1,646 団体が実施し、平成 22(2010)年度決算においては、地方公営企業の総
額 17 兆 6,519 億円のうち、5 兆 8,223 億円、33.0%を占め最大です。この 5.8 兆円というのは、
決算規模として全国の市町村の普通会計の総額 94.8 兆円の 6.1%に相当します。また、下水道
事業における他の会計からの繰入金は、平成 18(2006)年度の 1 兆 9,609 億円から減少している
ものの、1 兆 7,911 億円に達し、下水道事業債の残高は、同じく平成 18(2006)年度の 32 兆 6,910
億円から 5 年で 2 兆円以上減少しているものの、全地方債 195.4 兆円の 15.6%に相当する 30
兆 5,474 億円あります。
」と記されています。
なお、この資料公表とともに総務省が示している「今後の『下水道事業』経営に求められる
課題」として、次の 5 点が挙げられています。
①地域の特性に合った効率的な汚水処理施設(公共下水道、集落排水、浄化槽等の選択)
②水洗化率の向上
③使用料の適正化
④経費節減
⑤地方公営企業法の適用
4-5
浄化槽が汚水処理施設全体に占める割合を都市規模別に見ると、どのような傾向が
ありますか。
人口規模が比較的小さい市町村には、人口密度が割とまばらな場合が多いという特徴があり
ます。このことから、浄化槽が汚水処理施設全体に占める割合の特徴としては、人口規模が小
さくなるほど浄化槽による整備率が増加する傾向にあります。また、
下水道事業による場合は、
多額の初期投資を必要としますが、人口規模が比較的小さい市町村の場合は、これへの対応も
難しいことから、浄化槽の整備に適する傾向があると思われます。なお、浄化槽の普及人口お
51
よび普及率はともに、平成 20(2008)年度末の 1,127 万人、8.87%を最高に減少に転じていま
す。
しかし、図4-1~図4-3に示した人口規模別の市町村の浄化槽普及率を見てみますと、
平成 20(2008)年度末以降も平成 21(2009)年度末、平成 22(2010)年度末と人口規模が 5~10
万人と 5 万人未満の自治体では、浄化槽普及人口は減りながらも、その普及率は増加していま
す。この傾向の特徴としては、浄化槽普及人口の減少以上に汲み取り便所や単独処理浄化槽の
利用人口の減少が多く、総人口の減少と比較しても浄化槽普及人口の減少が少なかったことか
ら、相対的にその普及率が増加しました。なお、平成 22(2010)年度末と平成 23(2011)年度末
は、東日本大震災の影響で岩手県、宮城県および福島県の一部の市町村において調査ができず、
調査対象外としています。
また、これらのデータは、毎年 8 月に環境省浄化槽推進室から、
「前年度末の浄化槽の普及状
況について」として、また、浄化槽推進室と国土交通省下水道事業課、農林水産省農村整備官
との 3 省同時発表で「前年度末の汚水処理人口普及状況について」として公表されています 9)。
(※注)平成 22(2010)年度末と平成 23(2011)年度末は、東日本大震災の影響により、岩手県、
宮城県および福島県の一部の市町村において調査ができず、対象外としている。
図4-1 人口規模 5 万人未満の市町村における浄化槽普及率(年度末)
52
14,000
総人口
50.0%
12,648 12,669 12,682 12,687 12,706 12,705 12,707 12,708 12,706
5~10万人都市人口
浄化槽普及人口
12,123 12,335
12,000
浄化槽普及率
40.0%
10,000
8,000
万
人
6,000
(
人
口
30.0%
普
及
率
)
14.8%
13.5% 13.7% 13.5% 13.9% 14.2%
12.2% 13.0%
4,000
10.3% 10.8% 11.2%
2,000
1,962 1,955 1,941 1,892 1,891 1,777 1,842
1,562 1,567 1,602 1,751
161
0
169
180
256
213
263
265
256
263
252
総人口
5~10万人都市人口
1,562 1,567 1,602 1,751 1,962 1,955 1,941 1,892 1,891 1,777 1,842
161
169
180
213
256
263
265
256
263
252
10.0%
272
平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
12,648 12,669 12,682 12,687 12,706 12,705 12,707 12,708 12,706 12,123 12,335
浄化槽普及人口
20.0%
0.0%
272
10.3% 10.8% 11.2% 12.2% 13.0% 13.5% 13.7% 13.5% 13.9% 14.2% 14.8%
浄化槽普及率
(※注)平成 22(2010)年度末と平成 23(2011)年度末は、東日本大震災の影響により、岩手県、
宮城県および福島県の一部の市町村において調査ができず、対象外としている。
図4-2 人口規模 5~10 万人の市町村における浄化槽普及率(年度末)
14,000
総人口
50.0%
12,648 12,669 12,682 12,687 12,706 12,705 12,707 12,708 12,706
10万人以上都市人口
浄化槽普及人口
12,123 12,335
12,000
40.0%
浄化槽普及率
10,000
8,000
万
人
6,000
7,997
8,519 8,551 8,581 8,631 8,741 8,446 8,557
30.0%
普
及
率
(
人
口
7,624 7,660 7,684
)
20.0%
4,000
2,000
0
4.8%
4.7%
4.7%
5.0%
5.8%
5.8%
5.8%
5.8%
5.8%
5.7%
5.5%
363
357
360
399
490
499
497
501
510
478
469
平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成 平成
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
総人口
12,648 12,669 12,682 12,687 12,706 12,705 12,707 12,708 12,706 12,123 12,335
10万人以上都市人口
7,624 7,660 7,684 7,997 8,519 8,551 8,581 8,631 8,741 8,446 8,557
浄化槽普及人口
363
357
360
399
490
499
497
501
510
478
469
浄化槽普及率
4.8%
4.7%
4.7%
5.0%
5.8%
5.8%
5.8%
5.8%
5.8%
5.7%
5.5%
10.0%
0.0%
(※注)平成 22(2010)年度末と平成 23(2011)年度末は、東日本大震災の影響により、岩手県、
宮城県および福島県の一部の市町村において調査ができず、対象外としている。
図4-3 人口規模 10 万人以上の市町村における浄化槽普及率(年度末)
53
参考文献
1)八木美雄:浄化槽関連法・入門、財団法人日本環境整備教育センター、6、2004
2)公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、69、2012
3)浄化槽事業等について:仙台市役所のホームページ(http://www.city.sendai.jp/
gesui/1192492_2478.htm1)
4)市営浄化槽事業の概要:広島市役所のホームページ(http://www.city.hiroshima.lg.
jp/www/contents/0000000000000/1209707519912/index.html
5)環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課浄化槽推進室:平成 21 年度
全国浄化槽行政担当係長会議資料(平成 21 年 5 月 12 日)、資料 3、2009
6)平成 23 年度 浄化槽行政に関する調査等結果、11.維持管理費用に対する補助を行ってい
る市町村の現状(平成 23 年 12 月末現在)
:環境省ホームページ
(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/gyousei_chousa/h23/11gyousei_chousa.x
ls)
7)公益社団法人日本下水道協会:平成 24 年度 下水道白書 日本の下水道、129、2012
8)平成 22 年度 地方公営企業決算の概要(確報):総務省ホームページ
(http://www.soumu.go.jp/main_content/000142145.pdf)
9)平成 23 年度末の浄化槽の普及状況について(他、各年度末同データ)
:環境省ホームペー
ジ(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/spread/pdf/gappei-h23.pdf)
54
第5章 浄化槽による汚水処理の仕組み
浄化槽で処理が行われる排水は、家庭からの排水が大部分になります。その排水には台所排
水、水洗便所排水、洗濯排水、風呂場からの排水などが含まれます。排水処理は極論すれば、
排水をきれいな水とそれ以外の物とに分けることです。
捨てる排水から使える水を回収する場合であれば、大きな費用をかけることができますが、
処理した水を河川などへ放流する場合では、効率的に行う必要があります。そのための技術を
理解するためには、排水の中身を理解し、汚水処理の基本的な仕組みを理解しましょう。
5.1 浄化槽で対象とする排水
水洗便所排水にはトレットペーパー、大便、小便など、台所排水には調理屑、食べ残しや飲
み残し、食器の汚れなど、洗濯排水には洗剤や衣類の汚れ、繊維など、風呂場からの排水には
せっけん、シャンプーなどの洗剤と体の汚れなどが含まれます。
なお、浄化槽の設置場所については建築用途として多様なもの、例えば集会場、ホテル、医
療施設、店舗・マーケット、学校施設などが含まれますが、有害物質や特殊な排水は受け入れ
ることができません。このようなものは別途処理することになります。
これから、通常の生活排水をどのように処理するかをみていきます。
5.2 浄化槽における汚水処理の基本的な考え方
汚水の処理においては、汚水に含まれる固形物を分離・貯留し、その後に残る汚濁物質(BOD
成分など)を微生物によって分解・除去し、最終的な処理水は消毒して放流します。その概要
を図5-1に示します。
汚濁物質は微生物にとっては栄養源であり、それを基に成長して増え、その集合体である汚
泥として浄化槽内に蓄積されていきます。そのため、日数の経過に伴い浄化槽内には汚水中か
ら分離・貯留された固形物とともにこれが徐々に増加していきますので、これらを貯留する能
力が重要です。
しかし、この貯留能力の限界に達すると、汚泥が流出して処理水質が悪化することになるた
め、余剰の汚泥(固形物と微生物汚泥を合わせて汚泥という)を系外へ搬出することは、流入
汚水の処理が安定して行われるために、きわめて重要です。
55
図5-1 浄化槽における汚水処理の基本的なしくみ1)
56
5.2.1 排水中に含まれる固形物の除去
排水中には目に見える大きな固形物、小さな固形物(微粒子)
、水中に溶けている汚濁物があ
りますが、大きな物であればすぐにでも取り除けそうです。図5-2の左図に示すような簡単
な水槽を用意して入口と出口を設け、汚水を流入させたりさせなかったりすると、汚水が流れ
る中で、あるいは静止している間に、沈殿したり浮上したりして、その槽内に溜まっていきま
す。
しかし、浮いた固形物(浮上物)は出口から出ていってしまいます。また、沈んだ固形物(沈
殿物)も、しばらくすると、腐敗してガスが発生し、ガスが付着して軽くなり、浮いて出口の
方へ移動し出てしまいます。そのため、装置の構造として、図5-2の右図に示すように、入
口と出口の水槽側の先端を水面下に設けることにします。全体の容量は、徐々に溜まる固形物
(これを汚泥といいます)をどの程度の期間貯留するかによって設定します。家庭用の浄化槽
では、通常は 1 年間貯留できる容量とします。
排水入口
排水入口
出口
出口
浮上物
浮上物
沈殿物
沈殿物
汚水中の固形物を沈殿除去する槽
入口と出口を工夫した槽
図5-2 排水中の固形物を取り除くための槽(沈殿分離槽)
このように、沈殿や浮上によって固形物を水から分離し貯留するこの操作を沈殿分離といい、
図5-2の右図を 2 槽直列で設置されたものを沈殿分離槽といいます。
これに対し、槽内にプラスチック製の空洞が多い球状骨格体など(ろ材といいます。5.2.
3で解説します。)を設置して、固形物が通過する時に捕まえてしまうことを目的にしたものが
図5-3になります。このような構造の槽を嫌気ろ床槽といい、ろ材に付着する微生物による
分解も期待しています。
このような装置で排水中に含まれる固形物を可能な限り除去しますが、沈殿しにくい浮遊物
質や水に溶けている溶解性物質は、除去が困難です。そのため、次の段階の処理が必要となり
ます。
57
図5-3 固形物を捕捉する設備(ろ材)を加えた槽(嫌気ろ床槽)
5.2.2 有機物質の除去
残った物質は大部分が有機物質です。
1.3で述べましたように、ある程度の
汚染に対しては、川には水をきれいにす
る自浄能力があります。そのため、有機
性排水(汚れた水)が川に流入すると、
その地点の水質は悪くなりますが、下流
にいくにつれてきれいになり、ある一定
の距離を流れると、また元のきれいな水
に戻ります。この現象を水の自浄作用と
いいます。高度成長期においては、工場
写真5-1 腐敗した川のどぶさらいの状況
排水、家庭排水が垂れ流し状態で、川の
(底部は黒色化したヘドロで一杯です)
自浄作用が及ぶ範囲を超えてしまい、川
は腐敗し、どぶ川のようになってしまい
ました。現在でもこのような例がありま
す(写真5-1参照)。
生活排水に含まれる有機物質も微生物により分解が可能なため、川の中に住む微生物を沢山
凝縮して保持し、それを分解してもらう装置が浄化槽です。微生物は大きな固形物を直接栄養
源とすることができないので、前述の沈殿分離槽や嫌気ろ床槽で予め大きな固形物を取り除き
ます。微生物が有機物質を分解するときに酸素を必要としますが、水の中の溶存酸素の濃度は
高くはならないので、浄化槽ではエアポンプ(ブロワという)で空気を供給する必要がありま
す。
58
身近なところで同じような働き
で水を浄化しているものに、写真
5-2のような金魚の水槽に設置
されたろ過装置と空気を送るエア
ポンプとの組み合わせがあります。
白く濁った水槽にろ過装置を設置
して運転してみても、期待した翌
写真5-2 金魚の水槽に設置されたろ過装置 2)
日には白い濁りは取れません。白
い濁りの正体は大部分が細菌であり、1 μm(1,000 分の 1 mm)程度の大きさしかありません。
そのため、新しいろ過装置では除去することができません。この細菌を原生動物が捕食します
が、原生動物は細菌の数 10 倍から数 100 倍の大きさがあり、体が大きい分だけ成長に時間がか
かります。それらが成長し、ろ過装置に付着してくるヌルヌルとした感触を与える微生物の集
合体(生物膜という)が認められ始める頃、通常では 3 日から 5 日程度経た後で水槽は透明に
なります。
目に見えない有機物質が微生物の栄養源となり、微生物が生物膜状に成長していきます。成
長した生物膜は適切に管理をすることによって、安定した処理を行うことができます。しかし
ながら、ろ過装置に付着した生物膜は放置すると目詰まりを生じます。そのため、定期的に剥
がして排除しますが、この時の固形物も汚泥といい、汚水処理をするとこのように汚泥が必然
的に発生してきます。
5.2.3 浄化槽内における微生物の棲み家
装置内にたくさんの微生物の棲家を設けるために、写真5-3のように微生物が付着し成長
できる場所を多く持つ、プラスチック製の構造物(接触材、担体(中下と右下)という)を装
置内に設置します。
59
写真5-3 微生物が付着する接触材、担体 3)
有機物質を摂取させるためには、その有機物質を微生物の棲家まで運ぶ必要があります。そ
のために装置内には水流を生じさせ、構造物の隙間の中を水が流れるようにします。有機物質
は微生物にとって栄養源となり、それを微生物の体内で消費していくためには、前述しました
ように酸素が必要となります。その方法にはポンプや撹拌機がありますが、酸素の供給を考慮
して最も多く用いられているのは、装置内にエアポンプ(ブロワ)を用いて、空気を供給し装
置内を空気が上昇する力を利用して撹拌する方法です。
なお、生物膜が過剰に付き過ぎた場合には、金魚のろ過装置でするように洗わなければなり
ません。しかし、浄化槽では取り出して洗うことが簡単にできませんので、効率的に洗浄でき
る装置(逆洗装置。空気を勢いよく吹き出してろ材に蓄積した汚濁物質を排出する装置。
)を設
けて、生物膜の付着量を調整します。また、成長した生物膜は自然に脱落することもあります。
これらの剥がれた生物膜が浄化槽から外に出ることは、水質汚濁につながるため、流出させ
ないために沈殿させる装置を後段に設置し、沈殿した後の上澄みが処理水になります。この処
理水を衛生面での安全を確保するために、消毒(通常は塩素剤による)してから放流します。
5.3 浄化槽の機能
戸建住宅用の浄化槽の概要を以下に示します。浄化槽の放流水質は BOD20 mg/L 以下を基準と
していますが、その処理方式にはいくつかの種類があります。さらに、処理水質を良好なもの
とするための高度処理(BOD 10 mg/L 以下、T-N 20 mg/L 以下、T-P 1 mg/L 以下など)を行う
浄化槽が求められる地域もあります。
ここでは、代表的な戸建住宅用の浄化槽の 3 例を示します。
60
①
嫌気ろ床接触ばっ気方式(放流水 BOD20 mg/L 以下)(図5-4参照)
本方式は、小型浄化槽が開発された当初の基本となる、嫌気ろ床槽と接触ばっ気槽を組み合
わせた方式であり、浄化槽の構造基準に昭和 63(1988)年に追加されたものです。嫌気ろ床槽
は 2 室に区分され、生活排水に含まれる固形物を分離・貯留し、嫌気性微生物によって有機物
質を分解します。次に、接触ばっ気槽において好気性微生物により有機物質を分解します。そ
の有機物質を栄養源として成長した生物膜が脱落して、処理水に混入しないように次の沈殿槽
において沈殿させ、その上澄水が流出する際に固形塩素剤で消毒して放流する仕組みです。
嫌気性微生物により、汚れ(有機物質)
図5-4 嫌気ろ床接触ばっ気方式の浄化槽1)
この方式を採用した浄化槽の大きさを知るために乗用車と比較したものを写真5-4に示し
ます。近年では、第2章のQ & Aの2-5で示しましたように、さらにコンパクト化が進んだ方
式が開発され、設置面積が小さいところでも対応できるようになってきています。
61
写真5-4 浄化槽の大きさ1)
②生物ろ過方式(放流水 BOD20 mg/L 以下)
(図5-5参照)
メーカーが独自に開発し、国土交通大臣の認定を受けた方式であり、嫌気ろ床接触ばっ気方
式に比べ、容量が 50~80 %とコンパクトになっています。既存の単独処理浄化槽の改造には
設置面積が少なくて済むことから、単独処理浄化槽の浄化槽への転換に大きく貢献できるもの
と期待されています。ただし、よりコンパクト化が進むことは技術の進歩によるものですが、
新しく導入された技術の周知と正しい理解および性能を維持するための維持管理も必須である
ことを知っておかなければなりません。
図5-5 生物ろ過方式の構造例 1)
62
③高度処理型浄化槽
富栄養化の進んだ湖や沼などを抱えた都道府県や市町村では、その原因である窒素・リンを
できるだけ低減させることが求められています。窒素・リンの流入が継続された湖では、プラ
ンクトンが異常に増加し、上水における異臭味被害や底泥のヘドロ化が進んでしまいます。浄
化槽でもそれに対応するための技術開発が進み、戸建住宅でも下水道の終末処理場と同等以上
の性能が得られるものが開発されています。それを受け、茨城県の霞ケ浦周辺や福島県の猪苗
代湖周辺には、窒素・リン除去型浄化槽の設置が義務付けられています。
Q & A
5-1 汚水処理に係る微生物の種類と働きを教えて下さい。
汚水中に含まれる有機物質の除去には、細菌(バクテリアともいいます)が直接関与します。
細菌の大きさは 1 μm(1,000 分の 1 mm)程度ですので光学顕微鏡で存在は確認できます。こ
れらの細菌群が固体表面でたくさん増えると、パンや餅に見られるカビのように斑点(コロニ
ーといいます)ができます。これが水中で生じると水は徐々に濁ってきます(例えば、コップ
に入れた砂糖水を放置すると 2~3 日後には白く濁ってきますが、これは砂糖を栄養源にして細
菌が増えるためです)。
50μm
汚水処理過程では、初期段階においてこの
濁った水が処理水として放流されてしまいま
す。しかし、その細菌を捕食して濁りを抑え
てくれる原生動物が出現すると処理水質は良
好になります。
原生動物は 1 個の細胞からなる単細胞動物
であり、その多くは細菌を捕食して増殖しま
す。その大きさは 30~100 μm のものが多い
ですが、大きさの範囲は幅広いです。その代
表的なものを図5-6に示します。体が大き
い分、増殖して自分の仲間を増やすのに半日
50μm
から 1 日以上かかってしまいます。細菌の増
える速度が 30分から 1 時間程度であることと
比べると大きな違いがあります。原生動物が
図5-6 代表的な原生動物
増えるためには、増殖する過程で装置内から
63
流されないことが必要です。そのためには装置の大きさを大きくするか、あるいはどこかに留
まる(付着する)ようにする必要があります。その代表的なものは写真5-2に示した金魚の
水槽のろ過装置です。浄化槽内では微生物の棲家になる場所として写真5-3に示したプラス
チック製などの接触材、担体が多く用いられます。
浄化槽における処理がうまくいっているかどうかは、100 倍程度の顕微鏡で観察される原生
動物の種類で判断することができます。
後生動物は多細胞生物であり、原生動物より進化の程度が高いといえます。特に多く観察さ
れるものはワムシの仲間で体長 100~500 μm ほどです。その役割は、細菌や原生動物を捕食
することによる処理水質の透明化や汚泥の減量化などといわれています。そのほかには、さら
に大きなミジンコや巻貝などが出現する場合があります。
なお、図 5-1 に示した 生活排水(有機物質)→細菌→原生動物→後生動物の流れは食物連鎖
とよばれ、これが成立していると安定した処理が期待されます。生活排水が通常どおりには流
入しなくなったりして、バランスが崩れて後生動物が異常に増加すると、生物膜が脱落したり
捕食されたりして、処理水質が悪化する場合があります。
5-2
流入汚水の水量、水質で処理機能に影響する、あるいはトラブルを発生させるも
のはありますか。
例えば、大きな浴槽の使用、洗剤の多使用、食用油の廃棄な
どの影響はありますか。
浄化槽における汚水処理の仕組みがわかってきましたので、その仕組みに悪影響を及ぼすも
のは流しては良くないことが想像されます。浄化槽は、計画された汚水量、汚水濃度に対して
所定の容量、構造を持った装置です。
固形物の分離を行っている槽においては、汚水の大量流入は処理を困難にします。そのため、
単独処理浄化槽では 1 人 1 日当たり 40~60 L、浄化槽では 200 L 程度を標準としています。そ
の関連で、浴槽が大きくなった場合には、全体としてどの程度の水量増加になるかという点と
浴槽から一時に排水が流れることによるピーク流入の影響が懸念されます。
微生物による処理を行っている槽では、生きている微生物へ阻害作用のあるものは流入させ
てはなりません。
一般家庭では通常に使用している量の洗剤、
入浴剤などは問題ありませんが、
大量に使用すると悪影響が生じます。
なお、
装置の閉塞を含めて影響が生じるおそれがあるものには、次のようなものがあります。
新聞紙、紙おむつ、生理用品、ペットの糞、タバコ、不要になった殺虫剤・農薬・灯油、食用
油などは典型的なものです。この中で食用油については、BOD 濃度 100 万 mg/L 以上になります
が、市販されている油処理剤には、単に乳化して流れやすくする程度のものもあり、このよう
な場合、負荷そのものが減少するものではないことに注意する必要があります。
以上のような内容については、浄化槽を使う人が守らなければ事項として、使用に関する準
64
則として浄化槽法施行規則に示されています。
5-3 接触材にはどのくらい微生物が付きますか。また、付き過ぎたらどうなりますか。
金魚の水槽のろ過装置では、生物が成長して徐々に水が通りにくくなります。さらに成長す
ると目詰まりを生じ、水がろ過されずにあふれ出してしまうことがあります。身近なところで
は、台所の三角コーナや道路側溝の壁などを見ても、たくさんのヌルヌルしたものが付着して
いることがわかります。
浄化槽内でも、微生物が活発に活動し生物膜として成長していきます。接触材には当初はう
っすらとですが、次第に数 mm 程度に成長し、さらには接触材と接触材の間隙を水が通りにくく
なるほどに成長します。いずれ接触材が閉塞してしまうことが予測されます。閉塞の前段階で
も処理水質の悪化が生じますし、閉塞箇所の解消にはかなり大変な作業を伴います。
そのため、
接触材間に水流があるうち(閉塞する前)に肥厚化した生物膜を排除すること(洗浄または逆
洗)が必要となります。
5-4 汚水の処理の善し悪しは、騒音、臭気の発生などによって判断できますか。
汚水の性状や量によって浄化槽の処理に影響が生じた場合、浄化槽または放流口から臭気が
発生することでキャッチすることができます。臭気の発生原因には、流入汚水のほかに、装置
上の問題の発生がありますので、その場合には速やかに保守点検業者へ連絡してください。
浄化槽からの異音は、一般的にブロワが原因であることが多いようです。この場合、駆動部
におけるオイルの不足、ベルトの摩耗、エアフィルタの目詰まり、防音カバーの外れなどが考
えられます。その際、空気量に影響する場合には、臭気の発生にもつながります。
また、臭気発生の原因として糖尿病や拒食症などによる影響がある場合があります。通常の
尿の BOD(4,000~5,000 mg/L)に比べ糖尿の BOD 濃度は 3~10 倍程度の高濃度になります。そ
のため浄化槽内の微生物による分解が追い付かず、酸素不足にもなって臭気が発生してきます。
拒食症(嘔吐症)の場合にも未消化の食べ物が浄化槽へ流入してくることから負荷が高くなる
ことは同様です。
5-5 生ごみは通常三角コーナで除きますが、そうせずにそのまま排水口に流してもい
いですか。
生ごみについては、三角コーナなどの利用により汚水への混入を少なくすることで、浄化槽
の運転が楽になります。一方、生ごみの臭気、集積場所までの運搬、ごみ集積場での動物によ
65
る飛散などの改善として、生ごみを粉砕して汚水として流してしまう装置(生ゴミ粉砕機:デ
ィスポーザー)が普及しつつあります。この場合、浄化槽への負荷が増大することから、図5
-7に示したディスポーザー対応型の浄化槽の設置が要請されています。
図5-7 生ゴミ粉砕機(ディスポーザー)と対応する浄化槽(構成図)4)
参考文献
1)環境省浄化槽推進室:よりよい水環境のための浄化槽の自己管理マニュアル、2008 を一部
修正
2)公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理、上巻、43、2012
3) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理、上巻、173、356 より抜粋、
2012
4)日立ディスポーザー排水処理システム、パンフレット
66
第6章 浄化槽の製造・設置と維持管理の仕組み
6.1 浄化槽の製造
6.1.1 浄化槽の構造基準
浄化槽の構造基準は、浄化槽法で「建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例」で定めら
れるとされています。ただし、構造基準の内容によっては、設置後の管理に大きく影響を与え
ることから、国土交通大臣が構造基準を制定または変更する場合には、あらかじめ浄化槽を所
管する環境大臣に協議することとされています。なお、平成 17(2005)年の浄化槽法の改正に
より、環境大臣は浄化槽からの放流水の水質について、環境省令で技術上の基準を定めること
となり、浄化槽の構造基準はこの技術上の基準を確保するものとして定められなければならな
いとされました。
建築基準法では、下水道による場合を除いて、便所を水洗化する場合には浄化槽の設置を義
務付けていますが、設置するべき浄化槽の性能基準が定められ、国土交通省により浄化槽の具
体的な「構造方法」も示されています。
コラム【構造基準と構造方法】
建築基準法施行令第 32 条に示されている処理性能別に、浄化槽の各単位装置の構造・容
量や単位装置の組み合わせを定めた基準を「構造基準」といいます。昭和 44(1969)年 5
月に全国一律の基準が初めて制定され(建設省告示第 1726 号)、昭和 55(1980)年 7 月に
大幅に改正されました(建設省告示第 1292 号)
。
その後、平成 10(1998)年の建築基準法の改正により浄化槽の性能規定化が行われたこ
とを受けて、浄化槽の構造基準は平成 12(2000)年 5 月に改正され、併せて建築基準法第
31 条に基づく建設大臣が定める「構造方法」と位置付けられました。
6.1.2 国土交通大臣の型式認定
浄化槽には、現場で型枠を組んでコンクリートを流し込んで作る現場打ちのものと、工場で
生産してから現場に運び込んで設置する工場生産のものとがあります。これらのうち、工場で
生産される浄化槽については、浄化槽の構造面での適正化を図るため、製造業者は製造しよう
とする浄化槽の型式について、国土交通大臣の認定を受けなければなりません(法第 13 条第 1
項)
。なお、この認定は地方整備局長に事務委任されており、また、試験的に工場で製造する場
合は、この手続きは不要となっています。
ところで、型式認定については、次のようなことが定められています。
① 認定の有効期間は 5 年間であり、更新を受けなければその効力を失う。
② 製造業者は、認定を受けた浄化槽を販売するときまでに、浄化槽の名称、
「浄化槽法に基
67
づく型式認定浄化槽」の文字、認定の番号、認定の年月日、処理方式、処理能力、浄化槽
製造業者の氏名または名称の表示を付しておかなければならない。
③ 国土交通大臣が型式を認定し、または、認定を取り消したときは、環境大臣に通知すると
ともに、官報に公示して一般への周知を図らなければならない。
なお、外国においてわが国へ輸出される浄化槽の製造業者も、わが国における製造業者と同
様に型式認定を受けることができるとされています。
コラム【型式】
型式とは、その構造、設備、外形などの違いによって他の製品と区別される独自の型の
ことをいいます。浄化槽の場合、浄化槽の構造面での適正化や届出事務等の円滑化のため、
同一機種(型式)を工場で大量に製造しようとする者は、型式適合認定を取得する必要が
あります。これは、対象の浄化槽が国土交通大臣が定めたあるいは認めた構造方法に適合
しているかを審査し認定するものです。認定の申請は、代表者の氏名、工場の所在地等を
記載した申請書に浄化槽の構造図・仕様書・計算書等の書類を添付して、国土交通大臣宛
に行います。
6.2 浄化槽の設置
6.2.1 設置の手続き
浄化槽を設置する場合の手続きは、図6-1に示すようになっています。すなわち、家屋な
どの新築に伴い浄化槽を設置する場合と、既存の汲み取り便所を改造して新たに浄化槽を設置
する場合があり、それぞれ手続きが異なっています。
図6-1 浄化槽の設置に関する手続き 1)
68
家屋などの新築に伴い浄化槽を設置する場合は、建築基準法の規定に基づき、工事開始前に
建築確認の申請書に浄化槽についても記載し、建築主事(工事開始前に建築計画が法律などに
適合しているかについて確認を行う者)に確認申請を行います。建築主事は、建築確認申請の
受理後 21 日以内に、審査結果を申請者宛に通知することになっています。
これに対し、既存の汲み取り便所を改造して浄化槽を設置する場合や、既存の浄化槽の構造
もしくは規模を変更しようとする場合は、浄化槽法の規定に基づき、都道府県知事または保健
所設置市(政令市)の市長に届け出るとともに、当該の知事あるいは政令市長を経由して特定
行政庁(建築主事を置く市長など)に届出を行います。届出を受けた知事あるいは政令市長は、
受理の日から 21 日(型式認定を受けた浄化槽にあっては 10 日)以内に、届出者に対し、生活
環境の保全や公衆衛生上の観点から必要な改善勧告を行うことができ、特定行政庁は、同期間
内に、構造基準に照らして必要な変更、廃止命令を発することができます。
6.2.2 工事に関する資格
浄化槽が所期の性能を発揮するためには、認められた構造にかなっていることのほか、設置
の工事に留意することが重要であり、以下のような工事に関する資格があります。
(1)浄化槽設備士
工事を実地に監督する者として「浄化槽設備士」制度が設けられています。この資格は、国
土交通大臣の行う国家試験に合格するか、または建設業法に基づく管工事施工管理に係る技術
検定に合格したのち、環境・国土交通両大臣が指定した機関が行う講習の課程を修了すること
により取得できます。
(2)浄化槽工事業
浄化槽工事業を営もうとする者は、都道府県知事の登録を受けなければならないとされてお
り、浄化槽工事業者は、営業所ごとに浄化槽設備士を置かなければならないとされています。
6.2.3 浄化槽工事の手順
浄化槽には工場生産のものと現場打ちのものがあると紹介しましたが、それぞれ以下のよう
な要領で設置の工事を行っています。
(1)工場生産浄化槽
小規模の浄化槽の工事は、あらかじめ工場で作られた FRP(Fiberglass Reinforced Plastics)
製などの浄化槽本体を据え付ける場合がほとんどです。据え付けにあたっては、水平に保つこ
とが重要です。浄化槽が水平でない場合、散気管から空気が均等に出なくなり、ばっ気や撹拌
が十分に行われなかったり、越流せきの一部から処理水が早い速度で流出し、汚泥の流出が起
こったりします。また、FRP 製浄化槽を埋め戻す時には、外壁に接して鋭角の石があると槽の
壁に穴があいて漏水したり、土圧や水圧が大きいと槽本体が変形したりすることがあります。
このように、浄化槽の機能を十分に発揮させるためには、適切な施工が行われなければなりま
せん。
工場生産浄化槽の一般的な工事の手順を図6-2に示します。配管工事や電気工事は、これ
69
らの作業と並行して行われます。戸建住宅用の浄化槽の場合、工事開始から 10 日~2 週間程度
で使用可能となります。
②
仮
設
工
事
→
④
基
礎
工
事
→
⑤
底
版
コ
ン
ク
→ リ →
⑥
据
え
付
け
ー
→
③
掘
削
工
事
⑦
水
張
り
→
⑧
埋
め
戻
し
工
→ 事 →
ト
工
事
⑨
配
管
の
接
続
⑩
コ
ン
ク
リ
⑪
機
器
類
の
据
→ ト → 付 →
ス
け
ラ
ブ
工
事
⑫
試
運
転
⑬
後
片
付
け
ー
①
事
前
調
査
→
⑭
引
き
渡
し
→
図6-2 工場生産浄化槽の一般的な工事の手順 2)
浄化槽の工事は、浄化槽法で求められている浄化槽工事の技術上の基準に従って行うことに
なっており、以下の工程で行われます。主な工程は写真6-1に示すとおりです。
① 事前調査
事前に浄化槽の図面などの確認を行った上で、実際に浄化槽の設置予定現場の状況を調
査し、地盤高や放流先の状況などを確認します。
② 仮設工事
整地を行い、浄化槽の位置を決めるために縄を張り、基準点からのレベル、位置、方向
を決定します。また、必要な電源や工事用水の確保も行います。
③ 掘削工事
浄化槽本体を設置するために必要な大きさの穴を掘ります。設置場所の土質や地盤によ
っては、山留め(まわりの地盤が崩れないように矢板で土を押さえること)や水替え工事
(湧水を排水すること)を行います。
④ 基礎工事
浄化槽の水平を保持し、さらに沈下や浮上が生じないように割り栗石(建築物の基礎な
どに使う 12~15 cm ほどの砕石)を敷き、十分に突き固めます。次に、捨てコンクリート
(槽本体の位置や固定金具などの取り付け位置をマークするために捨て打ちするコンクリ
ート)を打設します。
⑤ 底版コンクリート工事
浄化槽本体を水平に設置しやすいように、さらに本体や上部の荷重を地盤に伝えるため
底版コンクリートを打設します。
⑥ 据え付け
70
浄化槽本体を所定の位置に水平に据え付けます。
⑦ 水張り
浄化槽本体を安定させ、
埋め戻し工事における本体の移動、
変形および破損を防ぐため、
水道水などを用いて槽内に水を張り、水平の確認を行います。併せて、漏水の有無を確認
します。
⑧ 埋め戻し工事
初めに下半分を突き固めながら埋め、水締め(水をまいて地盤を締め固めること)を行
います。次に上部を同様に突き固めながら、流入管および放流管の管底のレベルまで埋め
戻します。
⑨ 配管の接続
流入管、放流管、空気配管などを浄化槽本体に接続します。なお、流入管および放流管
は、勾配に注意しながら管および升を所定の位置に据え付け、埋め戻します。
⑩ コンクリートスラブ工事
保守点検作業の容易性、雨水の浸入防止、浄化槽本体の浮上防止対策などのため、埋め
戻しあるいは管の接続の後に、槽本体上部にコンクリートスラブを打設します。
⑪ 機器類の据え付け
ブロワやポンプなどの付属機器類を所定の位置に据え付けます。ブロワなどは騒音や振
動の発生源になりやすいので、その取り付け位置には十分に留意するとともに、基礎を設
けて据え付ける必要があります。また、電源は防水型の浄化槽専用のものを設け、接地工
事(アースの取り付け)も行います。
⑫ 試運転
工事完了後、各単位装置および付属機器類が正常に稼働するかを確認します。この際、
再度、水平、漏水の有無、水の流れ方などについても十分に確認します。
⑬ 後片付け(残土処分)
必要な土砂以外は、所定の場所へ運搬し、適切な処分を行います。
⑭ 引き渡し
試運転で各項目について確認した後、所定の検査を受け、浄化槽管理者に必要な書類と
ともに引き渡します。この際、浄化槽管理者に対して浄化槽の使用上の注意および保守点
検や清掃について説明します。
71
②仮設工事
③掘削工事
⑤底版コンクリート工事
⑥据え付け
⑦水張り
⑧埋め戻し工事
72
⑨配管の接続
⑩コンクリートスラブ工事
写真6-1 工場生産浄化槽の工事の手順 3)
コラム【浄化槽の設備】
<散気管>
圧縮した空気を気泡にする装置で、ばっ気槽や接触ばっ気槽などの槽底部近くに設置され
ています。これによって微生物に酸素を供給するとともに、槽内を撹拌します。一般に小規
模な浄化槽では、合成樹脂製の多孔管が多く用いられています。
<越流せき>
上澄水を均等に流出させるためのせき板で、せき板の頂部に連続した V 字形の開口部分を
持った三角せきが多く用いられています。沈殿槽などの水面部分に設置され、V 字形の開口
部分から上澄水が越流します。
(2)現場打ち浄化槽
現場打ち浄化槽とは、現場で施工する鉄筋コンクリート製の浄化槽をいいます。FRP 製浄化
槽に比べて槽本体の強度が強く、設置場所に合わせた槽の形状や水深がとれるため設置スペー
スが比較的少なくてすむ利点がありますが、設置工事費用が高いことや工期が長くなるなどの
欠点があります。このため、通常、501 人槽以上の浄化槽で採用されます。
現場打ち浄化槽の工事は、基本的には工場生産浄化槽と同様な手順で行われます。現場打ち
浄化槽は、浄化槽本体を現場で作らなければならず、また、装置が大型で掘削する深さも深く
73
なるため、次の手順で工事が行われます。なお、工場生産浄化槽と同様に、配管工事および電
気工事は、これらの作業と並行して行われます。
① 事前調査、② 仮設工事、③ 掘削工事、④ 基礎工事、⑤ 躯体工事、⑥ 内部設備工事、
⑦ 水張り、⑧ 埋め戻し工事、⑨ 試運転、⑩ 後片付け、⑪ 引き渡し
このうち、⑤の「躯体工事」は、配筋、型枠組立、コンクリート打ち、養生、モルタル塗り
の順に行われ、一般土木、建築工事と同様の注意が必要となります。また、⑥の「内部設備工
事」は、処理装置の機器類を設置するなど浄化槽に特有の技術も多く、その適否によって処理
機能は大きく影響されるため、図面どおり施工すること、躯体完成後あらためて設備本体の寸
法を確認すること、支持金具などの取り付けに用いるモルタルの養生を十分に行うこと、機器
の取り付けが完了後に不要なモルタルを取り除き、清掃を行うこと、などの留意事項がありま
す。
6.3 浄化槽の維持管理
6.3.1 維持管理の必要性
「維持管理」とは、一定の機能と目的をもった装置や施設について、その仕様に基づき正し
く使用するとともに、異常の早期発見に努め、異常を認めた場合はその原因を突き止め、ただ
ちに適切な措置を講ずるなど、絶えずその装置のもつ機能を十分に発揮させるための一連の業
務をいいます。いかなる装置や施設でも、それぞれの機能を確保するためには、適切な維持管
理が不可欠であり、特に、装置が複雑で技術的に高度な仕組みになればなるほどその重要性は
増加します。
浄化槽においては、最終的には、放流水質が所定の性能を満足することが必要です。そのた
めには、計画、設計、製造、施工が適正に行われるとともに、定期的な維持管理が必須条件と
なります。
維持管理は、
「保守点検」と「清掃」に分けられ、浄化槽法ではそれぞれ次のように定義され
ています。
① 保守点検とは、浄化槽の点検、調整またはこれらに伴う修理をする作業をいう。
② 清掃とは、浄化槽内に生じた汚泥、スカムなどの引き出し、その引き出し後の槽内の汚泥
などの調整並びにこれらに伴う単位装置および附属機器類の洗浄、
掃除などを行う作業を
いう。
「保守点検」と「清掃」が適正な頻度、内容で実施されて初めて、浄化槽の放流水質が所定
の値を満足することになります。
6.3.2 浄化槽管理者の義務
浄化槽の管理については、浄化槽管理者が基本的に責任を負う構成になっています。浄化槽
管理者には、次の義務が課せられています。
① 保守点検および清掃の実施
74
② 法定検査の受検(設置後の水質検査および定期検査)
③ 技術管理者の設置(処理対象人員 501 人以上の浄化槽)
しかし、維持管理にあたっては、浄化槽の維持管理についての専門的な知識や実施に際して
器具・機材が必要であり、通常、自ら実施することは困難であるため、保守点検については浄
化槽保守点検業者または浄化槽管理士に、清掃については浄化槽清掃業者に、それぞれ委託す
ることができるとされています(図6-3)
。
図6-3 一般的な維持管理体制 4)
6.3.3 維持管理に関する資格
適正に設置された浄化槽が適正に機能するかどうかは維持管理に関わってくる部分が大きく、
これを保証するために、次のような資格があります。
(1)浄化槽管理士
浄化槽の保守点検業務に従事するものとして「浄化槽管理士」制度が設けられており、浄化
槽管理者の委託を受けて保守点検を行うときは、浄化槽管理士の資格を有する者が従事しなけ
ればならないとされています。この資格は、環境大臣が行う国家試験に合格するか、または環
境大臣が指定する機関が行う講習の課程を修了することにより取得できます。
(2)浄化槽保守点検業
浄化槽保守点検業者については、都道府県知事の登録を受けなければ保守点検を業としては
ならないとする制度が条例により設けられています。条例には、登録の要件、登録の取り消し
などの登録制度を設ける上で必要とされる事項が定められています。
(3)浄化槽清掃業
浄化槽清掃業については、市町村長の許可を受ける制度になっています。清掃の際に引き出
された汚泥は、一般廃棄物(産業廃棄物以外の廃棄物をいい、主に一般家庭から排出されるご
75
み、し尿、浄化槽汚泥など)に該当し、その処理は廃棄物処理法に基づいて行わなければなら
ないことから、この汚泥を引き続き当該清掃業者が収集、運搬または処分する場合には廃棄物
処理法が規定する一般廃棄物処理業の許可が必要となります。
(4)浄化槽技術管理者
浄化槽技術管理者とは、原則として処理対象人員 501 人以上の規模の浄化槽における保守点
検および清掃に関する技術上の業務を担当するために置かなければならないとされている資格
者です。浄化槽技術管理者は、保守点検や清掃作業の直接の実施者というより、むしろ両業務
を統括するものとしての性格を有し、担当する浄化槽の維持管理計画の立案などの業務を行う
立場の者です。
6.4 浄化槽の保守点検
6.4.1 保守点検と回数
先に示したとおり、浄化槽の保守点検とは、浄化槽法において、
「浄化槽の点検、調整または
これらに伴う修理をする作業をいう。
」と定められています。内容としては、各単位装置の稼働
状況、
固形物の蓄積状況や流出水質などを点検して、機能低下や機器類の故障を未然に防止し、
適正な放流水質を維持するとともに、清掃をいつ実施するか、すなわち、清掃時期を判断する
ことです。
新たに設置した浄化槽の場合、第 1 回目の保守点検は、浄化槽を使用する直前に行うことと
されています。
これは、設置されている浄化槽の処理対象人員や処理方式などが適正なものか、
工事が適切に行われているか、また、汚水が流入してから直ちに処理が行われる状態にあるか
などを保守点検により確認した上で、使用を開始しなければならないからです。
通常の使用状態における保守点検の回数は、単独処理浄化槽の場合は表6-1、浄化槽の場
合は表6-2に掲げる期間ごとに 1 回以上となっています。また、駆動装置またはポンプ設備
の作動状況の点検や消毒剤の補給は、保守点検回数の規定にかかわらず、必要に応じて行うこ
とになっています。
なお、保守点検を実施した場合には、その結果を記録しておかなければなりません。浄化槽
管理者が自ら保守点検を行った場合は、
その記録を作成して 3 年間保存することになっており、
委託をした場合は、委託を受けた者(浄化槽管理士または保守点検業者)が記録を作成して、
浄化槽管理者に交付し、また自ら 3 年間保存することとなっています。この場合も、交付を受
けた浄化槽管理者はその記録を 3 年間保存することになっています。
76
表6-1 単独処理浄化槽の保守点検回数 5)
表6-2 浄化槽の保守点検回数 6)
77
6.4.2 保守点検の内容
(1)使用開始直前の保守点検
使用開始直前の保守点検とは、前述のように浄化槽を使用する直前に行う点検のことで、新
たに設置した浄化槽の場合、第 1 回目の保守点検がこれにあたり、浄化槽が使用可能な状態に
あるかを確認するために行います。
すなわち、書類と実施設との照合、ごみ(建築廃材、土砂など)の除去、管路、便器その他
の排水設備との接続状況、機器の運転調整、使用者に対する注意など、維持管理の作業上の問
題が生じていないか、あるいは生じる可能性がないかを確認します。まだ汚水が流入しないた
め、直接浄化槽の機能を調べることはできませんが、計画どおりの工事内容となっているかを
確認し、
使用開始後の運転に支障がないかどうかを点検することが主要な作業内容となります。
(2)通常の使用状態における保守点検
浄化槽の処理機能に異常が認められた場合、必ずその原因を明らかにして対策を講じ、処理
機能の回復を図るとともに、再び同じ異常が生じないようにする必要があります。特に生物処
理では、早期に的確な処置を行わないと、機能が正常に戻るまでに長期間を要することになり
ます。そこで、浄化槽法施行規則に「保守点検の技術上の基準」として、単位装置や附属機器
類ごとに、
保守点検時に行うべき点検項目、調整または修理に関する項目が定められています。
「保守点検の技術上の基準」の第 1 号には、浄化槽の正常な機能を維持するために必要な点
検事項が規定されています。第 2 号以降には、点検結果に基づいて行う調整または修理に関す
る事項が示されています。また、浄化槽の機能の低下を未然に防止するため、点検の際、単位
装置ごとに清掃時期の判断の目安が示され、これらの状況が認められた場合には、清掃の手配
を速やかに行うこととされています。
(3)水質管理
浄化槽が所定の性能を確実に発揮しているかを判断するために、流入水、放流水、活性汚泥、
生物膜あるいは余剰汚泥などの性状について、外観の観察や各種の分析を行って、維持管理の
内容を評価することが必要となります。また、その結果を活用することにより、使用条件や水
温などの周期的な変動に対し、機能の変化を予測し異常を未然に防止することが可能となりま
す。
(4)保守点検内容の例
戸建住宅用の嫌気ろ床接触ばっ気方式の主な保守点検項目を以下に示します。作業内容は写
真6-2に示すとおりです。
78
透視度の測定
塩素錠剤の残量確認
汚泥堆積状況の確認
ブロワの点検
写真6-2 保守点検作業の内容
① 嫌気ろ床槽
流出水の透視度、pH の測定、汚泥の蓄積状況の確認などを行います。その結果に基づき、
蓄積汚泥量が貯留能力の限界に近づいていると判断された場合、浄化槽管理者あるいは浄
化槽管理者が委託契約している浄化槽清掃業者に清掃が必要なことを連絡します。
② 接触ばっ気槽
槽内水の水温、透視度、pH および溶存酸素濃度などを測定し、接触材に付着した生物膜
の量や色などを確認します。この結果に基づき、生物膜が肥厚化していると判断された場
合、逆洗を実施し生物膜の強制的にはく離させ、ポンプなどを用いて、はく離した汚泥を
嫌気ろ床槽へ移送します。
③ 沈殿槽
流出水の透視度、pH の測定および汚泥の蓄積状況の確認などを行います。この結果、沈
79
殿槽内にスカムや堆積汚泥が認められた場合、それらを嫌気ろ床槽へ移送します。
④ 消毒槽
薬剤筒内の塩素剤の残留量を確認するとともに、
放流水の残留塩素を測定します。
また、
塩素錠剤を薬剤筒内に補給します。
⑤ ブロワ
エアフィルターの点検・掃除など、
その仕様に基づいて各部分の点検や修理を行います。
コラム【主な水質項目-その3(透視度、pH)-】
<透視度>
水の透明の程度を示すもので、透視度が高いほど水質は良好です。測定は、目盛のつい
た平底のガラス円筒の透視度計を用いて行います。試料水を透視度計に満たし、上部から
底部を透視しながら下部の流出口から試料水をすみやかに流出させ、底部の置かれた二重
十字が初めて明らかに識別できるときの水面の高さを cm または度で表します。
<pH>
水の酸性あるいはアルカリ性の程度を表す指標で、
「ピーエイチ」または「ペーハー」と
読みます。水素イオン濃度指数ともいい、水中に存在する水素イオン濃度によって変化し
ます。pH が 7 の場合を中性といい、pH が小さくなればなるほど酸性が強く、逆に pH が大
きくなればなるほどアルカリ性が強いことを表します。
6.5 浄化槽の清掃
6.5.1 清掃とは
適正な放流水質を長年にわたり維持するためには、定期的に、あるいは保守点検の結果、各
単位装置の正常な機能が阻害されるような汚泥の過剰蓄積が認められた場合、それらを引き出
すとともに、内部設備の洗浄を行い、各単位装置の汚水の流れ、汚泥や生物膜の正常化を図ら
なければなりません。すなわち清掃とは浄化槽内に生じた汚泥などの引き出しや、槽内の微生
物の濃度を調整する作業です。
なお、汚泥などを単位装置から他の単位装置へ移す行為は清掃には該当しません。また、引
き出しを伴わない槽内の汚泥の調整や単位装置・付属機器類の洗浄・掃除などは、清掃に含ま
れません。
また、清掃時には引き出し汚泥などの減量化を図り、かつ十分な清掃効果が得られるような
作業を行う必要があります。そのため、保守点検時に蓄積汚泥の移送などを行うとともに、汚
80
泥などの蓄積状況に合わせてそれらの引き出し作業の内容を決定するなど、浄化槽清掃業者と
保守点検業者、あるいは浄化槽管理士との間には、緊密な連携体制の確立が必要です。
清掃の回数は、通常の使用状態において、単独処理浄化槽である全ばっ気型浄化槽について
は年 2 回以上、その他の処理方式の浄化槽については年 1 回以上と定められています。
清掃を実施した場合、清掃記録の作成と作成した記録の保存が必要であり、保守点検の場合
と同様に定められています。すなわち、浄化槽管理者が自ら清掃を行った場合は、その記録を
作成して 3 年間保存しなければならず、また、委託をした場合は、委託を受けた者(浄化槽清
掃業者)が記録を作成して浄化槽管理者に交付し、また自ら 3 年間保存しなければならないこ
とになっています。この場合も、浄化槽管理者は 3 年間保存しなければなりません。
6.5.2 清掃の内容
浄化槽の清掃は、浄化槽法施行規則に規定されている清掃の技術上の基準に従って行うこと
とされており、浄化槽の規模や各単位装置について、以下の事項が定められています。これら
の作業内容を写真6-3に示します。
嫌気ろ床槽第 1 室の汚泥などの引き抜き
嫌気ろ床槽第 2 室の汚泥の引き抜き
引き出し後の槽内の状況
水張り作業
写真6-3 清掃作業の内容
81
① 汚泥などの引き出し量
各単位装置の機能や特性に応じて、汚泥などの引き出し量を「全量」や「適正量」とす
ることが示されています。
② 洗浄方法
付属機器や単位装置の付着物(スカムや汚泥以外)の引き出し、洗浄に関する規定が示
されています。
③ 水張り
単位装置の洗浄に使用した水は原則として引き出すこととされていますが、
例外として、
一次処理装置の機能に支障を与えない洗浄水は張り水として使用してよいとされています。
なお、単位装置によっては、張り水に水道水などを用いる必要があることなどが示されて
います。
④ 引き出し後の汚泥などの措置
引き出し後の汚泥などが適正に処理され、機能が維持されるよう必要な措置を講じるた
めの規定が示されています。
6.6 浄化槽の法定検査
6.6.1 法定検査の必要性
浄化槽が正常に機能を発揮し、適正な放流水質を維持するためには、設置工事や維持管理が
適正に行われていることが必須条件となります。すなわち、設置工事や維持管理の実施状況を
確認するとともに、適正に行われていない場合には、速やかに改善を行う必要があります。
浄化槽は定期的な保守点検や清掃が実施されていますが、これは、浄化槽にとって日常の健
康管理に当たるものであり、一方、定期検査は、これらの健康管理が十分に行われて、浄化槽
が正常な状態に維持されているかどうかを第三者である指定検査機関が公正中立に検査するも
ので、浄化槽の健康診断に相当するものです。
したがって、保守点検や清掃と定期検査とでは、趣旨も内容も異なり、別の観点から行われ
るものであって、
いずれも浄化槽の正常な機能を維持する上で欠かせないものとなっています。
このため浄化槽法では、浄化槽管理者は都道府県知事の指定した検査機関(指定検査機関)の
行う水質に関する検査を受けなければならないとされています。
6.6.2 法定検査の内容
法定検査には、
浄化槽法第 7 条に規定する設置後等の水質検査と浄化槽法第 11 条に規定する
定期検査があります。いずれの検査も、外観検査、水質検査、書類検査で構成されており、各
検査の内容はそれぞれ小項目に分類され、さらに各項目はチェック項目に細分化されています。
7 条検査は、主に浄化槽の設置工事の適否および浄化槽の機能状況を設置後の早い時期に確
認するために行うものであり、浄化槽管理者は、浄化槽の使用開始後 3 カ月を経過した日から
82
5 カ月間に、指定検査機関の行う水質に関する検査を受けなければならないとされています。
受検の依頼は、浄化槽管理者が自ら行うことが原則ですが、受検手続きを速やかに行うため、
浄化槽工事業者に委託できるものとされています。
一方、11 条検査は、主に保守点検および清掃が適正に実施されているか否かを判断するため
に行うものであり、浄化槽管理者は毎年 1 回、指定検査機関の行う水質に関する検査を受けな
ければならないとされています。11 条検査の依頼は、7 条検査と同様に浄化槽管理者が自ら行
うことが原則ですが、受検手続きを速やかに行うため、浄化槽の保守点検業者または清掃業者
に委託できるものとされています。
実際の法定検査においては、図 6-4 に示すように、外観検査、水質検査、書類検査の各チェ
ック項目について、
「良」、
「可」
、
「不可」の判断を行った後、放流水の水質悪化、公衆衛生上の
観点などから各チェック項目の重要度を総合的に勘案し総合判定を行います。総合判定は、
「適
正」
、「おおむね適正」
、「不適正」に区分され、法定検査判定ガイドラインでは、次のように規
定されています。
①「適正」とは、浄化槽の設置および維持管理に問題があると認められない場合
②「おおむね適正」とは、浄化槽の設置および維持管理に関し、一部改善することが望まし
いと認められる場合、
または今後の経過を注意して観察する必要があると認められる場合
であって「不適正」以外の場合
③「不適正」とは、浄化槽の設置および維持管理に関し、法に基づく浄化槽の構造、工事、
保守点検および清掃に係る諸基準に違反しているおそれがあると考えられ、
改善を要する
と認められる場合
検査結果が、
「おおむね適正」
、
「不適正」の場合には、検査票に示された、各チェック項目の
判断結果や所見および留意事項に従って、改善する必要があります。
図6-4 検査の手順 7)
83
Q & A
6-1 処理水の放流先がない場合に浄化槽の設置はできますか。
浄化槽の放流水を公共用水域(これに流入する水路などを含む)に放流することが著しく困
難な場合は、蒸発拡散方式や地下浸透方式などの方法により、浄化槽を設置しようとする敷地
内で放流水を適切に処理する必要があります。
これらの方式を採用するにあたっては、都道府県や市町村において指導要綱などにより、浄
化槽の性能、放流水を処理する装置の構造・設置する場所(土地)や維持管理の条件などが定
められている場合がありますので、
居住の都道府県の環境部局や保健所にお問い合わせ下さい。
6-2 浄化槽の設置工事、維持管理、保守点検、清掃および法定検査に係る費用はどの
くらいですか。
平成 19(2007)年 9 月 14 日付、環廃対発第 070914001 号によると、建設費および維持管理
費調査結果の平均的な値は以下のとおりとなっています。
建設費
BOD除去型合併処理浄化槽
5人槽: 83.7万円
7人槽:104.3万円
○本体費用(55%)
○付属機器設備類費用(5%)
○設置工事費用(40%)
維持管理費
BOD除去型合併処理浄化槽
5人槽:6.5万円/(基・年)
7人槽:8.1万円/(基・年)
○保守点検費用(薬品代を含む)
○清掃費用(汚泥濃縮を行う場合も含む)
○法定検査費用
○電気代
なお、上記の維持管理費用の内訳は、生活排
水処理施設整備計画策定マニュアル(平成 14
(2002)年 3 月、環境省大臣官房廃棄物・リサ
イクル対策部廃棄物対策課浄化槽推進室)8)に
右の表のとおり示されています。
保守点検費用
清掃費用
法定検査費用
電気代
計
5人槽
2.1万円
2.6万円
0.5万円
1.3万円
6.5万円
7人槽
2.2万円
3.5万円
0.5万円
1.9万円
8.1万円
また、平成 19(2007)年度浄化槽の維持管理費用に関する調査報告書(日本環境整備教育セ
ンター)によると、年間の保守点検費用の平均値は、BOD 除去型の場合、5 人槽が 17,300 円、7
人槽が 18,100 円、10 人槽が 19,400 円であり、窒素除去型の場合、5 人槽が 17,800 円、7 人槽
が 18,600 円、10 人槽が 19,900 円となっています。
同様に、年間の清掃費用の平均値は、汚泥 1 m3 当たりでは 10,000 円で、各人槽の平均値は、
5 人槽が 24,200 円、7 人槽が 31,000 円、10 人槽が 41,900 円となっています。
84
6-3 浄化槽の保守点検や清掃にかかる時間について教えてください。
浄化槽の規模(処理対象人員)によって大きく異なりますが、戸建住宅用浄化槽の場合、保
守点検が 30~40 分程度、清掃(水張りの時間を除く)が 20~30 分程度となります。ただし、
浄化槽の処理機能の良否によって、必要とする時間が異なる場合があります。
6-4 保守点検や清掃を頼みたいのですが、通常どこへ連絡すればいいのですか。9)
保守点検については浄化槽保守点検業者または浄化槽管理士に、清掃については浄化槽清掃
業者に、それぞれ委託することになります。浄化槽保守点検業者については、条例により都道
府県知事の登録を受けなければ保守点検を業としてはならないとする制度が設けられており、
浄化槽清掃業については、市町村長の許可を受ける制度になっていますので、役所や保健所に
お問い合わせ下さい。
6-5 法定検査を受けた後、
「不適正」の通知を受けましたが、どうしたらいいでしょう
か。9)
指定検査機関から浄化槽管理者へ提出される検査結果書には、
「適正」
、
「おおむね適正」
、
「不
適正」の 3 段階の判定が記載され、各チェック項目の判断結果や所見および留意事項が記載さ
れています。「不適正」の判定が記載されている場合には、工事業者や維持管理業者と相談し、
検査結果書に記載されている内容に従って、適切な措置を行う必要があります。また、役所や
保健所からの指導がありますからそれに従って改善を行ってください。
6-6 浄化槽の耐用年数は何年ですか。
浄化槽本体は主に FRP が使用されており、半永久的に使用できるともいわれています。FRP
製の浄化槽が最初に設置されたのは昭和 40(1965)年代前半であり、その浄化槽が現在でも正
常に稼動していますので、稼動実績は 45 年程度となります。ただし、ブロワやポンプなどの駆
動装置は消耗品であり、定期的な交換が必要となります。
生活排水処理施設の経済比較の参考となるものとして、生活排水処理施設整備計画策定マニ
ュアル(平成 14(2002)年 3 月、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課浄化
槽推進室)では、
「躯体:30 年~、機器設備類:7~15 年程度」と示されています。躯体の耐用
年数は平成 10(1998)年度末の浄化槽の使用実績から算出されましたが、その浄化槽が現在で
も稼動していますので、
浄化槽本体は少なくとも 45~50 年程度は使用できるものと考えられま
す。
85
6-7 法定検査の受検率について教えてください。10)
平成 22(2010)年度における法定検査の受検率は、7 条検査が全国平均で 92.9%(都道
府県別で 70.9~100%)と高く、そのうち 29 道府県が 95%以上となっています。
一方、11 条検査の受検率は、全国平均で 30.4%(都道府県別で 5.1~92.4%)と低く、
受検率のばらつきも大きくなっています。浄化槽に限定した場合の受検率は、全国平均で
50.5%(都道府県別で 14.7~93.6%)となっています。
受検率の上昇には、検査依頼数を増加させることが前提であり、例えば次のような対策
が取られています。
①行政からの啓発・勧奨
②指定検査機関からの啓発・勧奨
③保守点検・清掃業者からの勧奨(一括契約などによる検査依頼の代行)
具体的にはパンフレットの作成・配布、広報誌・ホームページへの掲載、TV・ラジオによ
る啓発、設置者講習会の開催、市長や保健所長名の督促はがきの送付、設置届時に受検申し
込みを行う指導などがあります。
6-8 浄化槽工事に必要な知識や技能にはどのようなものがありますか。また、浄化槽
設備士は浄化槽工事にどのように関わるのですか。
現場打ちの浄化槽については、土木工学・建築学の知識や配管工事の知識だけでは浄化槽と
しての機能を発揮させることは困難であることから、従来より工事の不備、不手際から正し
く機能を発揮できない浄化槽も少なからずありました。また、工場生産の浄化槽による工事
は、配管工事とは異なった特殊な専門知識が必要なだけでなく、近年の技術革新により、浄
化槽の小型化、高機能化が図られており、生物学的機能も十分発揮できるように配慮した工
事を行う必要があります。
浄化槽の工事は、技術的に高度の工学的知識を備え、これを現場施工に活かせる技能も併
せて必要としていることから、浄化槽工事を実地に監督する者として、浄化槽設備士の国家
資格が浄化槽法に規定されています。
浄化槽工事業者は、営業所ごとに浄化槽設備士を配置するとともに、浄化槽工事の施工時
には、浄化槽設備士が自ら浄化槽工事を行う場合を除いて、浄化槽設備士に実地に工事の監
督をさせ、またはその資格を有する浄化槽工事業者が自ら実地に監督しなければならないこ
ととされています。
86
6-9 浄化槽の機能維持において浄化槽管理士はどのような位置付けにあるのですか。
浄化槽の管理、特に保守点検については、浄化槽の機能維持のために重要な作業であると
の認識の高まりから、浄化槽法において、保守点検を専門に行う者として浄化槽管理士の国
家資格を定めています。
浄化槽管理士は、浄化槽管理者から委託を受けて浄化槽管理者に代わって保守点検を行う
者であることから、浄化槽法における位置付けや立場を十分に認識しておかなければなりま
せん。
また、浄化槽の適正な機能維持のためには、浄化槽管理士をはじめとした関係者が各々の
立場で業務を完遂し、また、関係者間で十分な連携が行われなければなりません。
6-10 浄化槽技術管理者は浄化槽管理士に対してどのような位置付けにあるのですか。
また、それとの関連でどのような知識や役割が求められているのですか。
浄化槽技術管理者は、浄化槽管理士の上位資格と位置付けられます。施設ごとの専従を原
則として、浄化槽管理者により任命され、浄化槽管理者の果たすべき義務を代行します。そ
のため、従事する浄化槽について、構造並びに流入する汚水の性質および量を理解し、運転
状況および処理状況を常時把握していなければなりません。また、浄化槽法のみならず関係
法令を熟知し、当該浄化槽の運転に支障が生じないよう、必要な手続などを理解していなけ
ればなりません。
よって、技術管理者は、浄化槽の維持管理について技術的に高い知見を有し、専門的判断
に基づき業務を行うものであることから、浄化槽の維持管理に関し必要な改善措置を講ずる
などといった一定の決定権限を有し、建築物の所有者などもその判断に従うべきものとされ
ています。すなわち、技術管理者は、保守点検および清掃の実施者というよりも、両業務を
統括する者としての性格を有するものといえます。
87
参考文献
1) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、74、2012
2) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、436、2012
3) 公益財団法人日本環境整備教育センター:生活排水処理施設としての浄化槽、29、1999
4) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、78、2012
5) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、86、2012
6) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、87、2012
7) 公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽検査員講習会テキスト、38、2007
8) 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課浄化槽推進室:生活排水処理施設整
備計画策定マニュアル、3-4、2002
9) 浄 化 槽 Q & A : 環 境 省 ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/life/
answer.html#a01)
10) 環境省大臣官房廃棄物・リサクル対策部廃棄物対策課浄化槽推進室:浄化槽の法定検査の
受検率向上に向けた取り組み事例、12、16、2010
88
第7章 汚泥の処理・処分の方法
7.1 汚泥の発生
浄化槽において汚水をどのように処理しているのかを第5章で解説しましたが、簡単に復習
します。
まず初めに流入汚水に含まれる固形物が分離除去されることで蓄積していきます。そこで除
去されなかった物質は微生物に栄養源として除去してもらいますが、微生物は成長して微生物
の固まりが生じます。この微生物の集合体が放流する水に混入しないように分離除去します。
極論しますと、汚水の処理とは汚水の汚れを汚泥として浄化槽内に溜めることをさします。
それぞれの装置内では分離された固形物、付着し成長した生物膜、脱落したはく離汚泥が装
置内に蓄積することによって、装置内の有効な容量が減少して分離効果が低減したり、生物膜
が過剰に付着することによって酸素不足や閉塞といったトラブルが発生します。
したがって、浄化槽内に蓄積した汚泥の影響で、処理機能が維持できなくなる前に浄化槽か
ら汚泥を引き出すことが必要になります。なお、この汚泥を浄化槽汚泥といいますが、多くの
場合、汲み取りし尿とあわせて処理されています。
本章では、資源循環が望まれている中、その汚泥がどのように処理されているのか、また、
どのように有効利用されているのかをみていくことにします。
7.2 汲み取りし尿と浄化槽汚泥の発生量
平均的な汲み取りし尿および浄化槽汚泥の発生量の推移を 1 人 1 日当りに換算し表7-1に
示します。
表7-1 汲み取りし尿および浄化槽汚泥の排出量 1)
(単位:L/人・日)
年度
平成 2
平成 7
平成 12
平成 17
平成 23
(1990)
(1995)
(2000)
(2005)
(2011)
汲み取りし尿
1.61
1.84
2.16
2.21
2.34
浄化槽汚泥
0.94
1.06
1.19
1.31
1.46
種類
汲み取りし尿量は経年的に増加していますが、人間が排泄する量そのものが増加しているも
のではありません。
汲み取り便所に、
少量の水で流す簡易水洗トイレが普及している影響です。
トイレが水洗トイレに近いものになるため、利用者にとってのトイレ環境は良くなりますが、
雑排水は垂れ流しのままとなり、水環境にとっては好ましいことではありません。
浄化槽汚泥の量も増加傾向にあります。これは浄化槽の構造・容量の変更や単独処理浄化槽
89
から合併処理浄化槽への転換、普及が影響しているものと考えられます。
汲み取り便所の場合には、槽が一杯になった時点で引抜きを行う必要があります。浄化槽の
場合には、家庭用の小型の場合では年 1 回を基本として清掃を行いますが、大型の場合には搬
出量が多くなるため、2 週間あるいは 1 か月に 1 回程度引抜きを行います。
7.3 汲み取りし尿と浄化槽汚泥の収集・運搬
汲み取りし尿および浄化槽汚泥は、いずれも廃棄物処理法上の一般廃棄物であるため、その
処理責任は市町村長が負うことになります。一市町村で処理が困難な場合には、複数の市町村
が一部事務組合を組織して処理している場合も多く見られます。
汲み取りし尿と浄化槽汚泥は別々のバキューム車で収集され、これらを処理する施設(大部
分はし尿処理施設ですが、汚泥再生処理センターもし尿処理施設に含まれます。)へ運搬されま
す。性状が異なるため汲み取りし尿と浄化槽汚泥は、別々の槽へ搬入され、その後、夾雑物を
取り除いた後に、両者の量の比率を調整して処理が行われます。
そのバキューム車の変遷としては、写真7-1の三輪バキューム車から写真7-2の四輪バ
写真7-1 三輪バキューム車 2)
写真7-2 ホースリール付バキューム車 2)
キューム車になりましたが、昭和 40(1965)
年代の前半に車載型ホース巻取り装置(ホー
スリール)が開発されるまでは、 50 m 前後
のホースを人力で取り扱っていました。
これは大変な労力の掛かる仕事でしたので、
ホースリースが開発されたことによって、作
業者の負担を軽減することができるようにな
写真7-3 パネル架装バキューム車 2)
りました。
一方、住民にとっては臭いものというイメージが強く、バキューム車を見かけただけでクレ
ームが出ることもあったことから、写真7-3に示すようなバキューム車とはわからないよう
にパネル架装したものが製作されています。
この収集・運搬の実施者は、環境省の平成 23(2011)年度の「日本の廃棄物処理」によれば、
90
量ベースで見て直営が 3.3 %、委託が 12.4 %、許可が 84.3 %であり、大部分が民間企業に依存
しています。本来、市町村の自治事務でありますが、し尿の汲み取りの時代から浄化槽による
水洗便所排水の処理の時代に変化しても、民間の清掃業者の役割が大きいのが現状です。
汲み取り便所や単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換と汲み取り便所の簡易水洗化が
進みますと、し尿処理施設の能力が間に合わなくなってしまいます。汲み取り便所や簡易水洗
トイレは槽が一杯になれば汲み取らなければなりませんので、その分浄化槽にしわ寄せが来て
しまいます。年間全体を通して見ますと、慣習的に人の集まる盆・正月前や年度末に住民から
清掃して欲しいという要望がありますが、これも影響します。この点については汲み取りし尿・
浄化槽汚泥の計画収集が行われることが有効です。なお、し尿処理施設を増強するための改築
も徐々に進んでいます。
7.4 新しい汚泥収集車
表 7-1 に示した浄化槽汚泥量の増加は、合併処理浄化槽の比率が大きくなっていることほか
に、浄化槽汚泥濃度が希薄になっていることを示しています。し尿処理施設における浄化槽汚
泥量の増加は処理の困難さを助長します。そのため、従来のバキューム車を改良し、濃縮機構
を備えた浄化槽汚泥濃縮車(濃縮車)が開発されました。
一般的な小型合併処理浄化槽に対し、3~4 t のバキューム車では 1 軒か 2 軒清掃するとし尿
処理施設へ運搬しなければなりません。また、浄化槽内部の汚泥を引き出した後に掛かる水張
り時間も長く必要でした。清掃では、この水張りを行い、通常の運転状態に戻して、再調整を
することが必要です。しかしながら、困ったことに、水張り用のホースを挿入して、満水にな
ったら設置者に止めることをお願いして帰ってしまい、水道を閉め忘れた結果、水道局から高
額な費用を請求されたことが報告された例もあります。
その対策としては、清掃業者が水張りの最終確認を行うこと、水張り用の給水車を活用する
ことのほか、水張り用に引き抜き量の 7 割程度の水を戻すことができる濃縮車を活用すること
が可能です。
濃縮車の全体を写真7-4に示します。荷台
に積載したタンク内を 2 槽に区分し、後段にス
クリーンを設置しています。これまでのバキュ
ーム車と比べるとかなり機械的に複雑化し、ま
さに機械装置というイメージです。
濃縮車の概略および処理フローを図7-1に
示します。浄化槽内の濃い汚泥(上部のスカム
と底部の堆積汚泥)を汚泥タンクへ吸引し、そ
写真7-4 浄化槽汚泥濃縮車の例
の残りの薄い汚泥はもう一方の反応タンクへ吸
引して凝集剤(汚泥を固める薬剤)を添加し大きな粒子に変化させます。これを分離し汚泥タ
91
3)
ンクへ移します。残った清澄な水は浄化槽の張り水に使うことができます 。
一般的に汚泥量は濃縮の効果で 3
分の 1 程度になり、張り水の確保、
収集運搬時の燃料の削減が図られ、
結果的に二酸化炭素排出量の削減に
も大きく貢献しています。
この結果、図7-2に示しますよ
うに 1 台の濃縮車で数軒の浄化槽の
清掃が可能であるとともに、水張り
図7-1 濃縮車における処理フロー図 2)
作業が改善できます。
汚泥濃縮車
濃
濃
し尿処理施設
数軒分をまとめて搬出
図7-2 浄化槽汚泥濃縮車の活用の概念図
7.5 汲み取りし尿と浄化槽汚泥の処理
7.5.1 汲み取りし尿と浄化槽汚泥の収集後の搬出先
平成 22(2010)年度の「日本の廃棄物処理」によれば、汲み取りし尿および浄化槽汚泥の
処理は、し尿処理施設への搬入 93.4 %、下水道投入 5.8 %、農地還元 0.31 %、ごみ堆肥化施設
0.07 %、メタン化施設 0.06 %、その他 0.3 %となっています。これ以外に自家処理が 0.36 %あ
ります。なお、し尿処理施設の建設が始まる昭和 28(1953)年以前は、農地還元が最も多く海
洋投棄(海洋投入)も多くの割合を占めていました。
昭和 47(1972)年に「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(ロンド
ン条約)」が締結され、し尿などの投棄は海洋汚染を引き起こすことから廃止すべきとありまし
たが、その代替案としての陸上処理が容易ではありませんでした。徐々に海洋への投入量は減
少していきましたが、 平成 14(2002)年から 5 か年間の猶予期間をもって平成 19(2007)年
には全面的に禁止されました。
7.5.2 し尿処理施設における処理
大部分の浄化槽汚泥を処理しているし尿処理施設では、汚泥を安全化、安定化を図る処理を
92
行っています。その技術は表7-2に示す処理方式で、①~⑧の大きい番号ほど新しい技術と
なります。最先端の技術を導入した場合、地域の水環境に対して影響が極めて小さい施設とな
っています。なお、
住民にとって自分たちの排泄物などを処理してくれる施設ではありますが、
迷惑施設として民家から遠い場所に設置されることが多いのも現実です。実際にし尿処理施設
に行ってみると外部への臭気の流出はほとんどありません。住民にとって最も必要な施設の一
つでありますが、まだまだ啓発不足といえるでしょう。
なお、先に示しましたように昭和 28(1953)年頃から設置され始めた施設は、30 年以上経過
した施設が半分を占めていることから、
施設の更新や増強が必要になっています。その中には、
後述する資源化設備を付加して汚泥再生処理センターとして生まれ変わっている施設が増えて
きています。
表7-2 し尿処理施設で用いられている処理方式 4)、5)
処理方式
①
嫌気性消化処理方式
⑤ 標準脱窒素処理方式
②
好気性消化処理方式
⑥ 浄化槽汚泥専用処理方式
③
低希釈二段活性汚泥処理方式
⑦ 高負荷脱窒素処理方式
④
湿式酸化処理方式
⑧ 膜分離高負荷脱窒素処理方式
汲み取りし尿・浄化槽汚泥の安全化、安定化を図りながらも最終的に処理後の汚泥が発生し
ます。この汚泥はし尿処理汚泥といいますが、これについては従来焼却処理が多くありました
が、有効利用のためし尿処理施設内に堆肥化施設を有しているところや肥料会社へ引き取って
もらう例も多くみられます。また、近年では、次に述べるように別の有効利用の方法も導入さ
れつつあります。
7.6 汲み取りし尿と汚泥の有効利用(資源化)6)
表7-2に示しました①「嫌気性消化処理方式」は、汚泥を嫌気性発酵を行うもので、汚泥
からメタンガスを回収することができるものです。回収したメタンは施設内で使う重油などの
化石燃料の代替として加温に使うことができます。汲み取りし尿・浄化槽汚泥に含まれる炭素
量が少ないこともあり、生ごみなどと混合処理することで効率を高めることができます。
し尿処理施設では、汲み取りし尿および浄化槽汚泥の処理を行い、分解や安全化が図られま
す。最終的に発生した処理汚泥の水分を減らす脱水や乾燥を行って残ったものを処理残渣とい
います。
「日本の廃棄物処理」の平成 23(2011)年度版では、施設内での堆肥化・メタン発酵
が 5.9 %、堆肥化施設への搬入が 4.6 %、農地還元などでの再生利用が 2.1 %を占め、処理残渣
の 12.6 %が資源化されています。
汲み取りし尿と浄化槽汚泥やし尿処理汚泥などの汚泥の資源化に用いられる技術としては、
93
先に示したメタン回収のほかに、汚泥助燃剤化、リン回収、堆肥化、乾燥、炭化および液肥化
などがあります。
(1)メタン回収
メタン回収は、有機性廃棄物に対して嫌気性細菌の働きによりメタン発酵を行うことで、そ
の減量化・安定化・無害化(病原性微生物などの不活化)を図りつつ、エネルギー資源のメタ
ンを回収するものです。
(2)汚泥助燃剤化
汚泥助燃剤化は、高効率な脱水機を用いて含水率が 70 %以下の脱水汚泥を得て、生成物を混
焼率 15%以下でごみ焼却炉に投入することによって、補助燃料を用いずに安定した燃焼を行っ
たり、従来のし尿処理施設での焼却処理より電気・燃料の使用量を低減したりすることを目的
とするものです。
(3)リン回収
汲み取りし尿・浄化槽汚泥中にはリンが多く含まれることから、し尿処理施設における放流
水質への対応としてリン除去が必要であり、除去された汚泥中にリンが濃縮されています。リ
ンは肥料の三要素の一つであり生体内反応においても不可欠な物質です。しかし、石油よりも
早くなくなるといわれるほどの枯渇資源でありますが、日本では消費量の大半を輸入していま
す。リンを含有するリン鉱石の高騰もあり、し尿および生活雑排水に含まれるリンの回収が望
まれ、期待されています。
その方法は、汲み取りし尿および浄化槽汚泥の処理段階で、リン酸をリン酸化合物として結
晶化させるものです。結晶化を促進するためにカルシウムまたはマグネシウムを添加し、pH 調
整を行います。カルシウムの場合にはヒドロキシアパタイト(HAP)が、マグネシウムの場合に
はリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)が結晶として回収されます。また、その他の方法と
しては、汚泥を焼いた焼却灰からリンを回収する方法も実用段階にあります。
(4)堆肥化
し尿・生ごみなどの堆肥化の歴史は古く、資源化の方法として有効な方法です。生産された
堆肥は農業利用されてきましたが、化学肥料との競合やハンドリングなどの問題が指摘されて
きました。近年、農業生産現場では、自然農法や有機肥料という考え方も根付き、堆肥化が再
び注目されています。
(5)乾燥・炭化
汚泥の乾燥は、脱水汚泥中の水分を蒸発させて減容化するとともに、環境衛生上の安定性・
安全性の点においても重要です。乾燥汚泥は農地還元できる肥料として用いられます。
資源化に汚泥の炭化があります。脱水汚泥を直接炭化する場合もありますが、通常は乾燥工
程を経てから炭化工程に入り、無菌状態で臭気がほとんど無い炭化物が得られます。炭化物は
肥料として登録される例があり、土壌の構造改善、透水性の確保などの土壌改良効果が極めて
高い性質を持ちます。また、近年では、下水汚泥の炭化物を火力発電所の燃料として活用して
94
いる例もあります。
(6)液肥化
メタン化施設においては、その残液に肥料成分が多く含まれることから、近年液肥として用
いられる例が多くなってきています。この液肥は汚泥の消化を行っていることから工業汚泥肥
料に分類されます。
他方、し尿、浄化槽汚泥、家畜尿などを混ぜて、液状のまま好気性発酵を行って液肥とする
例もあります。液肥を製造するために酵素剤を 0.03 %添加し、24~48 時間反応させて調整後、
夾雑物を除去し、成熟槽において発酵させることで、衛生学的安全性が確保されます。この液
肥は緑農地へ利用されるまで貯留槽に貯留され、必要に応じて散布車により圃場へ散布されま
す。この液肥を用いている地域では、作物によって使用量、施用基準を設けて効果を発揮して
います。
(7)エコセメント化
普通セメントの原料は、石灰石、粘土、けい石、鉄などですが、エコセメントは石灰石、粘
土、けい石の代替として、都市ごみ焼却灰、汚泥などを使用するものをエコセメントといいま
す。都市ごみ焼却灰には、セメント製造に必要な成分が全て含まれていて、それらを有効活用
することによって、廃棄物を再資源化しています。なお、汚泥やその乾燥物、炭化物を混ぜて
エコセメントにすることは可能です。しかし、エコセメントの品質確保のためには、安定した
性状のものを大量に供給できる体制が必要になります。
7.7 汚泥の有効利用にあたっての注意点 7)
肥料は特殊肥料(農林水産大臣の指定する米ぬか、堆肥、その他の肥料)と普通肥料(特殊
肥料以外の肥料)に区分されます。特殊肥料の場合、生産、輸入する前に都道府県知事にその
旨の届け出を提出する必要があり、普通肥料の場合、生産、輸入する前に農林水産大臣又は都
道府県知事に銘柄ごとに登録が義務付けられています。
以前は、浄化槽汚泥および下水汚泥を含む肥料は特殊肥料扱いでありましたが、現在では普
通肥料扱いとなっています。
浄化槽汚泥は、自家処理、農地還元などとして直接散布される例もありましたが、汚泥肥料
は普通肥料扱いとなったことから、表 7-3 に示すように肥料取締法に基づくし尿汚泥肥料とし
て登録される例が多くなっています。
普通肥料は、種類ごとに含有すべき主成分(窒素、リン酸、カリなど)の最小量、含有が許
される植物にとっての有害成分の最大値などが設定されています。含有が許される有害成分の
最大値が表7-4のように示されています。
将来的にも汚泥の資源化は極めて重要な課題であります。排水や汚泥について、大規模に集
中して処理することのメリットがよくいわれますが、東日本大震災の教訓として、これらの集
中処理は被災した場合には回復までにかなりの期間が必要となり、分散型の汚水処理に加え、
95
分散型の汚泥処理や地域内での処理が有効ではないかと考えられます。
表7-3 汚泥肥料の種類と登録数 6)
汚泥肥料
表7-4 汚泥肥料の有害物の規制値 6)
登録数
下水汚泥肥料
94
し尿汚泥肥料
有害成分
規制値(%)
ヒ素
0.005
322
カドミウム
0.0005
工業汚泥肥料
143
水銀
0.0002
混合汚泥肥料
20
ニッケル
0.03
焼成汚泥肥料
60
クロム
0.05
汚泥発酵肥料
924
鉛
0.01
平成 21(2009)年 3 月 25 日現在
Q & A
7-1 浄化槽の利用が広がり始めた頃、浄化槽汚泥は農業利用されていなかったのですか。
し尿は農業の肥料として利用されていましたが、化学肥料の台頭により、廃棄物として処理
する必要が生じ、各戸から汲み取られたし尿を適正に処理するためにし尿処理施設が整備され
てきました。
汲み取り便所が浄化槽に代わる時期に、浄化槽汚泥が有効利用される状況ではなく、また、
各浄化槽で浄化槽汚泥の処理を行うことは、技術的にも経済的にも困難な状況であり、し尿処
理施設を有効に活用することの方が衛生的で効率的であったのが実状でした。
7-2 バイオマスとは何ですか。
バイオマスとは、生物(bio)の量(mass)を意味しますが、政府が定めたバイオマス・ニッ
ポン総合戦略では「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」とされてい
ます。
バイオマスは、地球に降り注ぐ太陽のエネルギーを使って、無機物質である水と二酸化炭素
(CO2)から、植物が光合成によって生成したグルコースに由来する有機物質、あるいは動物に
よってその有機物質が食べられて生成した糞など、私たちのライフサイクルの中で、生命と太
陽エネルギーがある限り持続的に再生可能な資源であります。
主なバイオマス資源には、次のようなものがあります。
96
①廃棄物系バイオマス:古紙、家畜糞尿、食品廃材、建設廃材、黒液(パルプ廃液)
、下水汚
泥、生ごみ、動物の遺体など
②未利用バイオマス:稲藁、麦藁、籾殻、林地残材(間伐材・被害木など)、資源作物、飼料
作物、デンプン系作物など
廃棄物であるし尿、浄化槽汚泥は、し尿処理施設や汚泥再生処理センターでは、バイオマス・
ニッポン総合戦略が謳われる以前からメタンガス回収や堆肥化が進められ、その利活用を先駆
的に進めてきました。
なお、バイオマスを燃焼することなどにより放出される CO2 は、生物の成長過程で光合成に
より大気中から吸収した CO2 であることから、私たちのライフサイクルの中では大気中の CO2
を増加させないので「カーボンニュートラル」と呼ばれる特性を有しています。このため、化
石資源由来のエネルギー製品をバイオマスで代替することにより、地球温暖化を引き起こす温
室効果ガスの一つである CO2 の排出削減に貢献することができるものです。
参考文献
1) 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課:日本の廃棄物処理(平成 23 年度
版)、38、2013
2) 小林修、里見秦一郎:浄化槽の清掃に用いられる作業車、月刊浄化槽、№344、9-17、2004
3) 平成 15 年度浄化槽維持管理基準等検討委員会報告書、月刊浄化槽、№341、66-78、2004
4)(社)全国都市清掃会議、し尿処理施設構造指針解説―1988 版―、1990
5)(社)全国都市清掃会議、汚泥再生処理センター等施設整備の計画・設計要領、2001
6)(社)全国都市清掃会議、汚泥再生処理センター等施設整備の計画・設計要領 2006 改訂版、
271-354、2007
7) 農林水産省:汚泥肥料の規制の在り方に関する懇談会報告書、6、2009
97
第8章 社会状況の激変と浄化槽の役割
8.1 激動化した社会
現代社会は、あらゆる意味で激動しています。特に、東西の冷戦が終結した後の 20 年は、世
界中が金、物、人そして情報のグローバリゼーションの道を突き進み、経済も社会も政治もさ
まざまな意味で先行きに不透明感が一層増してきています。このような現象は、日本社会だけ
の特有な問題ではなく、ヨーロッパも、アメリカも、またアジアにおいても若干の時差を伴い
ながら、同じく、社会が激しく揺れ動いているのはご承知のとおりです。
例えば、貧富の差が拡大したことによって平成 23(2011)年の 9 月から始まったニューヨー
クのウォール街でのデモ行進の中で、「ウォール街を占拠せよ。」また「我々は取り残された
99%」などを掲げる運動が長期にわたって続いたことです。世界の富の中心地と思われていたウ
ォール街で、このような激しいデモが、長期にわたって続いたこと自体が、激動の現代社会を
象徴しています。しかも、その激動の結果、将来がどのようになるのか、見通しにくい形で社
会を揺さぶり続けているのが特徴です。
社会を動かしている主要な変化の内容を見ますと、一つは、人口構造の変化、そして、日本
を含む多くの国で経済の停滞に伴う財政逼迫が起こっているなどの経済社会面の激動です。さ
らに、変化はそれにとどまらず、豪雨、洪水、干ばつなどの気象災害が、日本はもとより世界
各地で頻発し、自然環境面においても、気候変動や生物多様性の喪失を含む激しい変化が及ん
でいることです。
しかも、これらの諸変化は他人事ではありません。私共にとっての重大な関心事である公共
下水道や浄化槽といった生活排水処理システムの施設整備、そして、これら施設の維持管理の
在り方について数年ほど前までは、ほとんど考えられなかった程度と規模で悪影響を与え続け
ることです。
つまり、今、世界中で起こっている激動は、生活排水処理システムや水環境の保全に関心を
持つ私たちにも無縁でないどころか、直接的にも間接的にも影響を与え続けておりますので、
変化の概要と浄化槽の今後との関連を簡単に記述してみましょう。
8.2 経済社会の激変
(1)人口構造の変化(平成 42(2030)年に向けて)
日本において、少子高齢化といった言葉や人口減少などの言葉は、人口問題の専門家によっ
てずいぶん早くから指摘され、また、警告も発せられていました。しかし、政治家を含め多く
の人が、その警告に真剣に耳を傾けず、その恐るべきインパクトに思いを馳せることもなく、
単なる統計数字ないしは遠くの出来事のように聞き流していたというのが実態ではなかったで
しょうか。
最近になるとさすがに現実の問題として、多くの人に実感されるようになりました。
そして、この人口構造の大変化にどう取り組むか、政策も立てられるようになりましたが、あ
98
えて言えば、ここに至るまでに数十年の時間を浪費した感は拭えません。(このことは、後に
触れる温暖化対策などにも言えることですが。)
まず、日本の総人口は、平成 22(2010)年の国勢調査の結果によりますと、日本人が約 1 億
2,500 万人、それに日本に在住する外国人を含めると、1 億 2,800 万人ということです。この数
字は 5 年前の国勢調査の結果と比較すると、日本人が 37 万人の減少ですが、外国人を含めた総
数で見ると 29 万人ほどの増加となっています。
国勢調査史上、
日本人人口の初めての減少です。
今回の調査結果によりますと、47 都府県のうち、この 5 年間で総人口が上昇した数は、9 都府
県(東京、神奈川、千葉、愛知、埼玉、大阪、沖縄、滋賀、福岡)だけで、そのほかの道府県
では軒並み減少局面に入っています。さらに、市町村数でみますと、全国 1,728 市町村のうち、
約 8 割の 1,321 市町村で既に減少局面に入っています。
65 歳を超える高齢者は、全人口の 23%となり、絶対数では、2,930 万人となっています。図
8-1に示しますように、この割合は増加し、これからわずか 20 年後の平成 42(2030)年に
は 32%程度となると見込まれています。さらに、この時には、日本の総人口は 1 億 1,500 万人
程度、つまり、1,300 万人前後の人が減ることになります。しかも、人口が減る中で働き手が
少なくなり、保護を要する高齢者が激増することが懸念されます。この頃になりますと一人暮
らしの世帯が 1,800 万ほどになり、うち高齢者世帯は 720 万程度と推測されています。
図8-1 日本の総人口の推移 1)
これらのことは、生活排水処理システムだけでなく、上水道、廃棄物処理、道路、公民館等々
の維持管理やその費用を誰が担えるのか、それは可能なのかという、これまでにはなかった新
しい課題を人々に突き付けています。
99
(2)経済の停滞と財政の逼迫
日本経済は、平成 24(2012)年末に成立した安倍晋三政権による「アベノミクス」と呼ば
れる一連の経済政策により再生の兆しは見えるようになりましたが、バブルがはじけた平成 2
(1990)年からおおむね不況ないしは停滞していたことは広く知られています。かつては、
「ジ
ャパンアズナンバーワン(Japan as No.1)」と称賛され、世界経済で第 2 位の地位を長いこと
保ってきた日本ですが、平成 22(2010)年には中国にその座を奪われ、デフレ経済も影響し、
名目経済は落ち込むばかりです。かつて、日本の経済の実力を GDP で 5 百数十兆円と表現して
いましたが、現在の名目 GDP は、デフレ効果か、500 兆円にも届かず、470~480 兆円に止まっ
ています。
なぜそうなったかについての分析はさまざまなされていますが、一つにはグローバル経済の
中で価格面での日本製品の競争力が低下したこと、そして、技術、質の面でも、韓国やヨーロ
ッパ、アメリカに追いつかれ、凌駕される場面が多くなり、価格と質の双方で世界との競争で
ずるずると地位を下げているというのが実態です。
経済界は労働人件費や税金の安さ、
また土地代の安さなどを求めて、
競って海外に出ていき、
日本経済のいわゆる空洞化が平成 22(2010)年以降の超円高によって加速しているのも、日本
の経済活力低下の要因の一つでしょう。
しかしながら、そのような現象もさることながら、筆者はここでも人口構造の原理が働いて
いることを指摘せざるを得ません。すなわち、日本の産業を支えてきた生産年齢人口(15~64
歳)は、平成 22(2010)年から平成 42(2030)年の 20 年の間に、1,400 万人近く減って 6,700
万人台になると見込まれています。かつての日本の高度経済成長を支えたのは、豊富にいたこ
の若い年代だということを思い起こすと、日本経済の力が次第に衰えていくのもやむを得ない
のかも知れません。日本が将来、経済的にある程度立ち直るためには、このような生産年齢人
口の減少を可能な限り食い止め、65 歳以上の元気な高齢者と女性をいかに労働戦線に組み込ん
だ産業を作っていくかにかかっていると思われます。
このような日本の経済状況を反映し、国の財政、そしてひいては地方財政が追い込まれ、逼
迫していったこともよく知られています。平成 25(2013)年度末には、国の借金(国債、借入
金など)が 1,000 兆円を突破すると報じられています。バブル経済がはじけた平成 2(1990)
年を境に税収よりも歳出が明らかに上回るようになってきています。表8-1に平成 24(2012)
年度の一般会計・歳入歳出の(当初予算)状況を示しますが、これを見ると、国の歳入が全体
で、90 兆 3,339 億円、そのうち、国債が 44 兆 2,440 億円、税収が 42 兆 3,460 億円であり、税
収は国債よりも下回っています。国債償還費が約 22 兆円ありますので、政策経費に充てられる
分は、わずか 68 兆円余であるに過ぎません。そのうち、社会保障に 26 兆 4,000 億円近く、そ
して、我々に関心の深い公共事業費はわずかに 4 兆 5,700 億円余で、前年度比は、マイナス 8.1%
で非常に厳しい状況になっています。
100
表8-1 平成 24(2012)年度の一般会計歳入歳出概算 2)
2012年度概算額(億円)
2011年度比(%、▼は減)
44兆2440
▼0.1
42兆3460
3.5
3兆7439
47.9
合計
90兆3339
▼2.2
政策向け経費
68兆3897
▼3.5
地方交付税交付金等
16兆5940
▼1.1
社会保障
26兆3901
▼8.1
公共事業
4兆5734
▼8.1
文教・科学振興
5兆4057
▼1.9
防衛
4兆7138
▼1.3
国債発行
歳 税収
入 その他収入
歳
出
国債費
21兆9442
合計
90兆3339
東日本大震災復興特別会計
1.8
▼2.2
3兆7754
地方財政も、同じような傾向をたどっていますが、ここで言えることは、もはや、国も地方
も借金にまみれ、国に至ってはついに 1,000 兆円を超えてしまいますので、借金返済と年金、
医療、生活保護などの社会保障の優先順位がどうしても上で、公共事業は後回しでごく少なく
せざるを得ないという事実です。しかも、その公共事業は、上下水道にしても、道路・橋、学
校などにしても、施設の老朽化は進んでおり、東洋大学の根本祐二教授は、この更新だけでも
今後 50 年に亘り、毎年、8 兆円程度の費用が必要であると指摘しています 3)。すなわち、国の
公共事業のかなりの部分を今後老朽化していく社会インフラ施設の維持管理費に充てるだけで
精いっぱいという時代が長期間続き、さらにもっと高齢化が進んで、社会保障費用の必要性が
一層高まれば、下水道を含む社会インフラの補修すら十分にできなくなり、最終的には放置さ
れる施設が増えていくことが十分に予想されます。
さらに、憂慮すべき事態は、人口の高齢化と高齢世帯とりわけ独居世帯の増加です。独居世
帯が増えてくると、もはや、下水道であれ、農村集落排水施設や浄化槽であれ、新しい施設を
導入しようとしたり、補修を十分には行えなくなる可能性が高くなります。それに加えて最近
地方でみられる現象は、農村部に一人住まいでいた人が、農村部を逃げ出し、近隣の都市部に
移り住む現象です。なぜなら、買い物もままならず、特に医療機関への足が遠くになり、そこ
に通うためには車がなくては通いきれず、その車すらも公的なものであれ、
私的なものであれ、
経済事情によって維持できなくなれば、もはや、人は病院の近く、介護施設の近くに住まざる
101
を得ない状況に追い込まれるからです。つまり、いわゆる「限界集落」どころか、人間が居住
していた地域が崩壊し、施設も生活排水処理施設など生活に不可欠な都市のインフラに必要な
維持管理がきわめて困難になり、最終的には放棄せざるを得ない状況が迫っているということ
です。
8.3 気候変動と気象災害の頻発
止まることなく増大する化石燃料の使用量と、熱帯雨林を中心とする森林地帯の減少などに
より、大気中の CO2 濃度が増え、それに伴い、気温が上昇し、いわゆる地球の温暖化現象が顕
著になってきたことが、科学者たちの注目を引くようになったのは、昭和 50(1970)年代半ば
からです。昭和 60(1985)年には、フィラファというオーストリアの都市に気候問題の科学者
が集まり、このまま CO2 の濃度が上昇し続けた場合、そしてまた、熱帯雨林の減少が続く場合、
どのような事態が起こり得るかを検討しました。それが大きなきっかけとなって、昭和 63
(1988)年に UNEP(国連環境計画)と WMO(世界気象機関)が共同して国連に IPCC(気候変動
に関する政府間パネル)という組織を作りました。その IPCC による気候変動問題に対する当時
の最新知見の集積と解析、今後の見通しが初めて発表されたのが平成 2(1990)年のことです。
それ以来、IPCC は活動を続け、これまでに 4 回の総合的な知見の発表をしていますが、平成
25~26(2013~14)年には、第 5 次のレポートが発表される予定です。その中で、地球温暖化
の科学、あるいは地球温暖化によるさまざまな影響、そして地球温暖化を防止したり、適応し
たりする方策や技術についての議論が広がっていますが、我々浄化槽関係者にとって特に関係
が深いのは、雨の降り方です。
IPCC によると、地球温暖化が進むにつれて、降雨の頻度や強度が増す予測が立てられており、
実際、日本での実測でも、表8-2が示すように、前線や台風などが近づいて降る非常に強い
雨は、すでに多くの場所で確認されています。このような降雨の大きな変化は、浄化槽に直接
的な影響は小さいですが、内水排除も使命としている下水道においては、極めて大きな影響を
受けています。下水道の場合、通常、最大降雨一時間当たり 50 ㎜を想定して設計されていま
すが、最近、都市部においては、ゲリラ豪雨の名が示すとおり、これを超える強い雨が降り(図
8-2参照)、その都度、都市内の排水が滞り、マンホールから汚水があふれ出したり、近隣
一帯が浸水するといった事態が頻発しています。
102
表8-2 平成 23(2011)年夏の豪雨と 72 時間雨量のランキング
4)
平成23(2011)年夏の豪雨
行方不明者 全壊した住 床上浸水し
死者(人)
(人)
宅(棟)
た住宅(棟)
総雨量(ミリ)
新潟・福島豪雨
711.5
(7月27日~30日)
福島県只見町
4
2
53
1159
68
25
141
6673
13
3
9
1306
(気象庁調べ)
台風12号
2439
(8月30日~9月6日)
奈良県上北山村
(国土交通省調べ)
台風15号
1128
(9月15日~22日)
宮崎県美郷町
(気象庁調べ)
※被害状況は総務省消防庁調べ。
72時間雨量のランキング(2011年まで)
観測地点
雨量(ミリ)
台風
1
上北山(奈良県)
1651
2011年12号
2
宮川(三重県)
1517
2011年12号
3
神門(宮崎県)
1322
2005年14号
4
えびの(宮崎県)
1303
2011年12号
5
風屋(奈良県)
1303
2011年12号
6
旭丸(徳島県)
1241
2004年10号
7
内海(香川県)
1231
1976年17号
8
日出岳(奈良県)
1229
1992年11号
9
漁梁瀬(高知県)
1199
2011年12号
10
見立(宮崎県)
1197
2005年14号
年
図8-2 1 時間降水量 50 ㎜以上の年間発生回数(1,000 地点当たり)5)
このように、地球温暖化という極めて大きな気候システムの変動の中で、気象災害の頻発に
対応することも維持管理の一つとして、
特に下水道関係者には大きな負担となりつつあります。
103
8.4 浄化槽の役割
(1)諸変化に柔軟に対応しうる生活排水処理システム
浄化槽には、これまでにもおおむね次のような特長があると考えられてきました。
① 処理性能が良い。
・生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率 90%以上
・放流水の BOD が 20 mg/L 以下
② 設置費用は、通常 5 人槽で 84 万円程度(ただし、住民負担は個人が設置する場合にはそ
の 60%、市町村が設置する場合にはその 10%)と安価である。
③ 設置に要する期間は 1 週間から 10 日程度であり、投資効果の発現が極めて早い。
④ 地形の影響を受けることなく、ほとんどどこにでも設置できる。
⑤ オンサイトの処理システムであるため、河川の水量確保とともに、水循環に支えられて多
様な生態系を維持することが可能であり、環境保全上健全な水循環に資する。
⑥ 小河川の自然浄化能力を活用できる。
このような特長を持つ浄化槽が、前に述べたような社会の大変動の中にあって、公共下水道
のような他の集合処理システムと比較して、
どのような特長をさらに発揮するかが注目点です。
ここで最も注目すべきなのは、やはり日本社会における人口の減少でしょう。国立社会保
障・人口問題研究所が平成 20(2008)年 12 月に発表した「日本の市区町村別将来推計人口」
によると、平成 17(2005)年時点で 8 分の 1 の自治体が、平成 47(2035)年では 5 分の 1 以
上が人口規模 5,000 人未満になり、平成 17(2005)年に比べ平成 47(2035)年には、人口が 2
割以上減少する自治体は 6 割を超え、さらに同期間内で、65 歳以上の高齢人口が 5 割以上増加
する自治体は、ほぼ 4 分の 1 に達するとされています。これほど人口の総数が減っていき、高
齢者や単身世帯が増えていくことを考え、しかも、財政状況の逼迫を考慮すると、長い管路を
伴う公共下水道の建設や維持管理が可能であるとは到底思えません。公共下水道の総建設費の
約 8 割を管路の施設が担っていますので、これから人口の過疎化集落で公共下水道を引こうと
思うと、人口当たりの管路の長さはより大きくなり、建設費はもとより維持管理に要する費用
も増加します。
しかも、人が過疎集落から都市部に移動せざるを得ないような単身高齢化社会を考えると公
共下水道を長期に維持管理していくことは資金面で不可能に近いということになります。浄化
槽ももちろん、このような人口構造の変化を受けますが、人が農村部に住まなくなって、都市
部に移動し、浄化槽が遊休施設になろうとも、地方自治体の負担は実質ほとんどありません。
公共下水道のように、人が住んでいようがいまいが、一定以上の維持管理や運転に費用が掛か
ることとは決定的に違うのです。従って、浄化槽は、人口の変動により追随しやすいシステム
といえます。
さらに、浄化槽は災害に強いという特長も持っています。これまで、地震や洪水などにおい
104
て、浄化槽、下水道ともに大きな影響を受けてきましたが、浄化槽については、全浄連などに
よる詳しい調査がなされています。結果を表8-3に示しますが、大規模地震によって損傷を
受けたものは、全調査基数の数%に止まっています。
表8-3 大規模地震における浄化槽破損基数のまとめ 6)
年月
H15(2003).5
地震名
調査基数 破損基数
宮城県沖地震
1,034
5
震度6弱、M7.1
H15(2003).9
十勝沖地震
615
11
震度6弱、M8.0
H16(2004).10 新潟県中越地震
1,428
51
震度7、M6.8
H19(2007).3
能登半島地震
971
39
震度6強、M6.8
H19(2007).7 新潟県中越沖地震
1,393
60
震度6強、M6.8
H20(2008).6 岩手・宮城内陸地震 2,626
14
震度6強、M7.2
破損率
0.5%
調査者
(社)宮城県生活環境事業協会
2.0%
(社)北海道浄化槽協会
3.6%
(社)新潟県浄化槽整備協会
4.0%
(社)石川県浄化槽協会
4.3%
(社)新潟県浄化槽整備協会
0.5%
(社)宮城県生活環境事業協会
平成 23(2011)年 3 月 11 日の東日本大震災の地震・津波の場合も、浄化槽関係者による詳
しい調査がなされていますが、甚大な被害を受けた下水道に比べておおむね軽微であったこと
が明らかになっています。環境省が岩手・宮城・福島の各県の協会に委託し、平成 23(2011)
年 4 月~6 月に浄化槽被害の緊急調査を実施したデータ(1,099 件)の中から被害が想定され
る事例を抽出し、日本環境整備教育センターが個々の浄化槽の被害の程度と使用可能性の関係
性などについて調査した報告書によると、表8-4のとおりです。
表8-4 東日本大震災における浄化槽破損基数 7)
地震名
調査数
破損基数
破損率
東日本大震災
1,099
42
3.8 %
震度 7,M9.0
調査者
日本環境整備教育センター
岩手県浄化槽協会
宮城県生活環境事業協会
福島県浄化槽協会
このように、浄化槽という生活排水処理システムは、さまざまな環境変化に対応し得る柔軟
なシステムということができます。
(2)対応力を高める浄化槽技術の革新
このように激動する社会の中で、浄化槽に期待される役割を果たそうとするためには、浄化
105
槽自身も社会の変化に適応していくものでなければなりません。人口が高齢化し、単身世帯が
増えるとすれば、浄化槽のサイズそのものもよりコンパクトなものが開発されるようになるで
しょう(第2章の Q&A の2-5参照)。現在は、家庭用の最小サイズは、いわゆる 5 人槽です
が、今後新しく設置する浄化槽の場合、人口構成の変化などを考え、容量を縮小し、しかも性
能を維持するものでなければなりません。
また、地球温暖化への対応が、今後厳しくなり規制が強化されるであろうことを考えると、
今からできる限り省エネ化を進める必要があります。現在、浄化槽関連で出てくる温室効果ガ
スの一つである CO2 の発生源の分析が始まっています(図8-3参照)8)。すなわち、ブロワに
関わる CO2 排出が 59.2%、汚泥処理に関わる CO2 排出が 33.4%と合わせて 92.6%となり、この 2
項目が浄化槽に関わる CO2 排出の大部分を占めていることから、浄化槽における CO2 排出量を低
減するためには、浄化槽の運転に必要とする空気量の低減およびブロワ本体の省エネ化を組み
合わせて浄化槽で使用する電力の低減を図ることと、浄化槽から発生する汚泥発生量の抑制が
重要になると指摘されています 8)。データの精度を上げ、浄化槽全体として、どう貢献できる
かを厳しく検討していく必要があります。
さらに言えば、浄化槽自身に太陽光発電装置を取り付ける、小風力装置を取り付けるなど工
夫することによって、小なりとはいえ、自らもエネルギーを発生出来るタイプの浄化槽を既設
のものの改修を含めて普及させる必要があります。
図8-3 浄化槽のライフサイクルにおけるエネルギー消費による CO2 排出工程 8)
106
現に、平成 23(2011)年度において、環境省の環境研究総合推進費補助金により、研究事業
において、「高度省エネ低炭素社会型浄化槽の新技術・管理システム開発(K2403)」プロジェ
クトが実施されています 9)。図8-4に示しますのは、写真8-1の小型風車からの電力、写
真8-2のソーラーパネルからの電力を利用して浄化槽の運転に活用するモデルです。温暖化
対策がさらに進められるようになれば、この写真の風景は多くの浄化槽で見られるようになる
でしょう。
図8-4 自然再生可能エネルギーを活用した浄化槽導入ハードシステム 9)
写真8-1 風車(3 枚翼)9)
写真8-2 ソーラーパネル 9)
これらのほか、地震・洪水などの自然災害を考えると、これまでの経験を基に、どこに弱点
があるのかを見極めながら、その弱点を克服する努力を重ねることが必要です。
これらにより、これから先、激しく変動する時代のなかにあって、浄化槽システムが日本に
なくてはならないシステムとして、日本社会に貢献していくことになると思います。
107
Q & A
8-1
災害時などを想定した場合に利用できる浄化槽を活用した社会インフラにどのよ
うなものがありますか。
例えば、大規模な地震や浸水による被害が生じた場合などで、地域の住民が広域避難所に指
定されている地元の小学校や中学校に避難した際、ここで必要なトイレシステムを浄化槽と自
然エネルギーなどを組み合わせて構築することで、「くらい・くさい・きたない・こわい」と
いった負のトイレ環境を払拭することができます。
図8-5は、学校に設置された避難所をイメージして、プールは冬場も水を張った状態にし
てあるものが多いことを受けて、浄化槽に直結したマンホールトイレを設置し、これと学校の
屋根に付けた太陽光パネル、蓄電池、発電機を組み合わせ、ポンプを動かし、フラッシュウォ
ーターを送り、電気を灯し、換気扇を回し、ブロワも回し、浄化槽も稼働させるものにしてみ
ました。このシステムは、下水道本管が震災で破断して使えない場合にあっても、掘り下げ式
のマンホールを設けておいて、ここを溜め槽にして、取水ポンプで水を送り、この水をフラッ
シュウォーターとして流し、さらに現場処理しながら処理水を放流することにより、未処理の
し尿が公共用水域に垂れ流しにならないシステムとしています。
非常時に仮設トイレを既
太陽光パネルを設置
設浄化槽上に設置
プール等の水も活用
図8-5 避難所でのエネルギー等自立型浄化槽の提案
さらに図8-6は、同じく復興住宅において、太陽光パネルを組み合わせて、避難生活が長
期化した場合においても、浄化槽を活用して「安心・安全なくらし」を確保できるよう考案し
たものです。
108
図8-6 復興住宅において太陽光発電パネルを活用した浄化槽の提案
いずれにしても、オンサイト処理の特性を活かした浄化槽の活用が、平時だけではなく非常
時であても今後拡大することが見込まれています。
8-2 最近、膜分離技術を用いた小型浄化槽が使われ始めていると聞きますが、それはど
のようなものですか。そして、それは従来型の浄化槽に比べてどのような特徴があ
りますか。
「膜」にはいろいろなものが開発されていますが、小型浄化槽で使用されているのは高分子
-5
のプラスチック材料から成形される有機膜で、膜の細孔径は、0.4 μm(4×10
cm)のメンブ
ランフィルターが多いです。この膜では、1 μm 以上の浮遊物質(SS)を分離除去できます。
日本環境整備教育センターが編集した実務セミナーの資料「膜分離型浄化槽の構造と維持管理
上の留意事項(平成 24(2012)年 1 月)」によるとおおむね次のように記述されています 10)。
膜分離型小型浄化槽は、コンパクトな装置で高度な処理水質が安定して得られる。また、大
腸菌やクリプトスポリジウムなどもほぼ 100%除去され、処理水の衛生学的安全性も高く、処
理水を家庭内でトイレなどに再利用することが可能な水創造型の装置である。
さらに、現在、浄化槽の大部分を占める単独処理浄化槽の改善方法として、既設の単独処理
浄化槽を流量調整槽と貯留槽に改造し、膜分離装置を内蔵したばっ気槽を付加することにより
合併化を図ることも可能である。
このように、膜分離型小型浄化槽は生活排水の高度処理を推進する上で大いに期待される装
置であるが、現状では、あまり普及しているとは言い難い。この理由として、
109
① 各種制御機器や膜モジュールなどの設備が多く、装置の価格が上昇する。
② 膜の交換費用や電気代などの維持管理費が高い。
③ 従来型の小型浄化槽と異なる維持管理技術が必要である。
④ 高度な処理水質が要求されない場合も多い。
などが考えられる。
費用の問題に対しては、膜部分のコストダウンやできるだけ長期間使用できる膜の開発など
が必要となろう。また、膜の交換頻度や費用を明確に示すとともに、膜の供給体制を確立する
ことや膜をリース扱いにするなど、設置者に対して負担をかけない対応が必要である。
維持管理については、他の小型浄化槽とは異なる新たな維持管理技術が必要となるため、維
持管理技術の確立をさらに進めていくとともに、維持管理業者に対する技術の伝達を十分に行
っていく必要がある。
なお、集中して設置されている地区においては、シーディング(稼働後すぐに正常な水処理
機能が発揮できるようにあらかじめ活性汚泥を加えること)における活性汚泥の確保や膜の薬
品洗浄などの作業が効率よく行えるという利点もあり、技術的な問題だけでなく、膜分離型浄
化槽を面的に整備していくといった対応も有効となろう。
膜分離型小型浄化槽は非常に良好な処理水質が得られることに加え、それがほぼ 100%安定
して達成できるという、他の型式にはない優位性があることから、今後さらに普及することを
期待したい。
110
参考文献
1)
厚生労働省編集:平成 23 年版厚生労働白書、p.24 を基に作成、2011
2)
財務省ホームページ
(http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2012/seifuan24/yosan003.
pdf)を基に作成
3)
根本祐二:朽ちるインフラ-忍び寄るもう一つの危機、73、日本経済新聞社、2011
4)
平成23(2011)年夏の豪雨(2011年9月29日付読売新聞)と72時間雨量ランキング(2011
年9月18日付日本経済新聞)
5)
一時間降水量50mm以上の年間発生回数(1,000地点当たり)(2011年9月29日付読売新聞)
6)
社団法人全国浄化槽団体連合会:「東日本大震災の復興に向けての提言書」、全浄連NEWS、
№132、25、2011
7)
財団法人日本環境整備教育センター:東日本大震災浄化槽被害状況解析調査、17、2011
8)
手塚圭治:浄化槽におけるエネルギー消費に伴うCO2排出、月刊浄化槽、№423、32-35、2011
9)
代表研究者稲森悠平:高度省エネ低炭素社会型浄化槽の新技術・管理システム開発(K2403)、
平成24年度環境研究総合推進費補助金研究事業 研究報告書、14、2012
10) 財団法人日本環境整備教育センター:第 53 回実務セミナー「膜分離型浄化槽の構造と維
持管理上の留意事項」
、50-55、2012
111
第9章 地域の活性化と浄化槽
9.1 雇用への貢献
浄化槽を所期の目的にかなうようにするためには、さまざまな局面で多くの機関や人の関与
が必要です。その関与を浄化槽に関わる仕事として見たとき、大きくは公的なものと民間が行
う業に分けられます。
これを製造・設置から順に追って記すと、次のとおりになります 1)。
①(工場生産の場合)浄化槽の製造・保管・販売・運搬【民間】
(現場打ちの場合)鉄筋、セメント、砂利などの製造・保管・販売・運搬【民間】
②浄化槽設置の届出受理【地方自治体:保健所職員】
③浄化槽設置に係る建築確認【地方自治体:建築主事】
④浄化槽工事業の登録申請受理【地方自治体】
⑤浄化槽設備士試験および講習【公益法人:日本環境整備教育センター】
⑥浄化槽工事の施工【民間】
⑦浄化槽使用開始の届出受理【地方自治体:保健所職員】
⑧浄化槽の法定検査【公益法人:都道府県ごとの財団法人/社団法人の指定検査機関】
⑨浄化槽保守点検業の登録申請受理【地方自治体】
⑩浄化槽管理士試験および講習【公益法人:日本環境整備教育センター】
⑪浄化槽保守点検業の登録申請受理【地方自治体】
⑫浄化槽保守点検の実施【民間】
⑬浄化槽清掃業の許可申請受理【地方自治体:市町村職員】
⑭浄化槽清掃の実施【民間】
⑮浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請受理【地方自治体:市町村職員】
⑯浄化槽汚泥収集運搬の実施【民間】
⑰(原則 501 人槽以上の浄化槽の場合)技術管理者の配置【民間】
平成 23(2011)年 4 月現在での浄化槽行政担当職員数は、都道府県 1,722 人、政令市(保
健所設置市)744 人、特別区(東京 23 区)118 人の合計 2,584 人となっています 2)。
また、全国で浄化槽工事業者数は 33,593 者(社)、浄化槽保守点検業者数は 12,871 者
(社)、浄化槽清掃業者数は 5,375 者(社)、浄化槽汚泥収集運搬業者数は 5,659 者(社)
(ただし、浄化槽清掃業者と浄化槽汚泥収集運搬業者には重複あり)、技術管理者を置いてい
る浄化槽基数は 12,768 基となっています 3)。
平成 22(2010)年度に全国で新設された浄化槽基数は 134,807 基であり
4)
、平成 23
(2011)年 3 月末時点で全国には合併処理浄化槽が 3,056,648 基、単独処理浄化槽が
4,883,467 基、合計 7,940,115 基設置されています 5)。
平成 22(2010)年度には全国で設置後などの水質検査である 7 条検査の検査対象 135,806
112
基のうち、126,216 基が受検し、実施率は 92.9%6)、また、同じく定期検査である 11 条検査
の検査対象 8,113,708 基のうち、2,464,684 基が受検し、実施率は 30.4%となっています 7)。
ただし、7 条検査においては、前年度に設置された浄化槽が平成 22(2010)年度に検査時期
を迎えて対象となったり、また、逆に翌年度に送られたものもあり、設置基数と検査対象基数
は一致しません。
なお、7 条検査の受検依頼は浄化槽工事業者に委託できるとされ、浄化槽工事業者に対する
7 条検査受検依頼は全国で浸透しています。一方、11 条検査の受検依頼も浄化槽の保守点検業
者もしくは清掃業者に委託できるとされていますが、毎年の検査費用の支出負担やこれに関す
る手間から受検しない浄化槽管理者の存在もあって、7 条検査と比較して 11 条検査の受検率
は低位となっています。
以上から、浄化槽には民業の雇用を生み出す余地は大きくあります。また、11 条検査の受
検率の低さから考慮すると、その向上を見込むならば指定検査機関にも検査員の雇用拡大を見
込むことができます。
9.2 民間活力の導入
昭和 58(1983)年に浄化槽法が制定されるまでの間、浄化槽に対する法規制は、構造(建築
基準法)、設置(建築基準法と廃棄物処理法の両法)、清掃および保守点検(廃棄物処理法)、
処理対象人員 501 人以上の浄化槽からの放流水(水質汚濁防止法)に限られていました。その
一方で、多くの浄化槽は、戸建住宅を中心に個人が設置を行い、管理していました。しかしな
がら、関係法令の体系が複雑であったことに加え、浄化槽の流入と流出を逆にして設置するな
どのずさんな工事があったり、届けが出されないまま設置される浄化槽が存在したり、清掃や
保守点検を正しく実施されないまま料金を請求する業者がいたりするなど、本来、水環境を守
り、これを良くするための浄化槽が汚濁源になりかねない状況を招いていました。
浄化槽は元来、民間が主導して設置、管理されてきましたが、浄化槽を取り巻く問題の抜本
的な解決を図るため、浄化槽を定義し、これに係る者の責任と業務を明確にし、身分資格を確
立することを目的に浄化槽法が制定されました。浄化槽法の制定後は、浄化槽の設置・使用開
始・廃止の各手続き、工事、保守点検、清掃、法定検査といった管理者が自ら実施もしくは委
託する事項が一連の過程として整理され、規制が強化されました。また、民間が行う業務とし
て、都道府県知事による浄化槽工事業および浄化槽保守点検業の各登録制度、市町村長による
浄化槽清掃業の許可制度が整備され、浄化槽工事を実地に監督する浄化槽設備士と浄化槽保守
点検業務に従事する浄化槽管理士の資格が定められました。
このように、浄化槽法の制定の前と後では、浄化槽に関与する業は拡大しています。許可・
登録・届出の各申請受理、浄化槽設置時の建築確認は地方自治体が、法定検査、浄化槽設備士
および浄化槽管理士の試験・講習の実施は公益法人職員が従事しているものの、これら以外は
すべて民業として行われています。すなわち、浄化槽は従前より民間活力が導入され、成り立
113
ってきた事業といえます。
昨今、新たな動きとして、環境省の予算による浄化槽整備推進事業により、浄化槽整備のさ
らなる効率的な推進を目指し、地元の行政機関と NPO が連携して開催している浄化槽フォーラ
ムを通じて、関係者や地域住民の理解を得るための活動も始まっています。
全浄連は、平成 12(2000)年の段階で「『生活排水対策の将来のあり方』に関する今後の取
り組みについて(提案)」を公表し、「浄化槽のさらなる発展の基盤整備」の第 1 として「適
切な維持管理の確保」を挙げています。ここでは、浄化槽の保守点検・清掃の実施率の向上と
質の高いサービスの提供を目指して、自治体や地域住民に対する情報提供などを積極的に行い、
使用開始時からの保守点検・清掃の契約率の向上を図るとともに、業務に従事する社員の技能
や資質の向上や研鑽に努めることが急務としました。8)
また、平成 19(2007)年に中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会浄化槽専門委員会が取り
まとめた「今後の浄化槽の在り方に関する『浄化槽ビジョン』について」では、浄化槽に関す
る課題の一つとして、水環境の保全を求める地域住民の意識の高揚がありながらも、浄化槽に
関する知見が一般の住民や NPO などに対して十分に行きわたっていないとの指摘があることを
紹介しています。その解決策として、インターネットなどの多様化している現在の情報媒体を
使って、浄化槽に関するさまざまな情報を発信していくことが課題であり、併せて、地域での
取り組みとして、環境保全や環境教育といった活動を行っている NPO などとの連携を強化して
行うことが重要としています。9)
以上のとおり、浄化槽に対する民間の関わり方も、これまでの業を通じたものから、地域の
水環境の保全を担うなど、幅広い内容へと移行してきています。浄化槽については、これらか
も民間の活力に支えられて発展していくことに変わりはありません。
9.3 浄化槽の普及促進に係る行政と NPO などとの連携事例
わが国において、国民の環境に対する意識の向上は、近年、特に顕著であるといえます。
とりわけ、ごみの分別やリサイクルの促進は、行政と地域住民が一体となった運動として各
地で見られ、子供会や自治会が中心となった取り組みや啓蒙活動が盛んです。また、日々の
生活においては、地球温暖化防止を意識した生活行動として、節電や節水、クールビズやウ
ォームビズへの取り組みがスマート(賢い)やクール(格好良い)という言葉と連動して、
ごく当たり前のものとして社会に浸透しています。
しかし一方で、一部の河川や湖沼、海域では、その流域において浄化槽や下水道による生
活排水の処理が進まず、水質汚濁が解消しない状況にあります。子から孫の世代に向けて、
より良い水環境に接する場を設けてあげたいとか、昔の状況に戻していきたいとする願いか
ら、各地で浄化槽の普及促進を通じて、これらを達成していこうとする動きが多くあります。
特に、地域の NPO などと連携した取り組みがなされています。
こういった事例の中から、小学生による「身近な環境の研究」活動を通じた環境教育の実
114
くまがやし
践を図っている埼玉県北部の熊谷市における取り組みを紹介します。
熊谷市は、都心部への通勤圏内にあり、住宅地開発が進展する中、生活排水処理率が平成
22(2010)年度末で 70%に留まり、未処理の生活雑排水の流入による河川などの公共用水
域での水質汚濁が課題となっています。現在、市は、国や埼玉県の補助制度を活用し、単独
処理浄化槽や汲み取り便槽を合併処理浄化槽へ積極的に転換を促進するなど、水環境の保全
に努めています。
昭和 49(1974)年に設立された熊谷市環境衛生協議会は、平成 12(2000)~21(2009)
年度までの 10 年間にわたり、環境啓発事業の一環である「身近な環境の研究委託事業」を
立ち上げ、熊谷市内にある 30 すべての小学校を対象に、身近にある環境をテーマに研究委
託してきました。また、研究委託されたテーマについては、地域の課題を生かした研究や実
践活動として取り組まれ、これらの成果は、地域の公民館などで発表されました。
この研究委託では、児童が自らの研究を通じて課題を認識し、その解決の仕方を考えると
ともに、児童と地域住民とが世代を越えた交流を通じて、地域ぐるみの環境保全に係る意識
啓発に展開することを目的としました。結果的に、各小学校の取り組みは、身近に存在する
環境問題に気付き、地域も一体となった研究または実践活動を行ったもので、その成果を発
表会を通じて地域住民にも知ってもらったことから、地域の環境は地域で創ることを実感す
ることができるものとなりました。
身近な環境を守るため、誰かが取り組むのではなく、自らが当事者であるという意識を持
ち、環境に対する理解を深め、環境保全に向けた活動を主体的に実践していく人づくりが重
要であることが認識されたすばらしい取り組みであったといえます。10)
9.4 PFI による浄化槽整備
(1)PFI(Private Finance Initiative)とは 11)
わが国では、平成 11(1999)年 7 月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促
進に関する法律」(いわゆる「PFI 法」)が制定され、同年 9 月の施行を経て、平成 12(2000)
年 3 月に PFI の理念とその実現のための方法を示す「基本方針」が内閣総理大臣によって策定
されました。さらに、平成 13(2001)年 1 月には「PFI 事業実施プロセスに関するガイドライ
ン」および「PFI 事業におけるリスク分担などに関するガイドライン」が各々内閣府から示さ
れ、同年 7 月には「VFM(Value For Money)に関するガイドライン」が同じく内閣府から公表
され、PFI 事業の枠組みが整いました。
PFI とは、公共施設などの建設、維持管理、運営などについて、民間の資金、経営能力およ
び技術的能力を活用して行おうとする手法です。この手法の特徴は、次に示すとおりです。
① 民間の資金、経営能力、技術的能力の活用により、国や地方公共団体などが直接実施す
るよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供できる事業が対象となります。
115
② PFI の導入により、国や地方公共団体などが要する事業コストの削減が可能となり、よ
り質の高い公共サービスの提供を目指せます。具体的なメリットとして、発注者側では、
運営などの簡素化、財政の弾力性向上、施設建設の工期短縮、施設建設資金の平滑化が
挙げられ、受注者側である民間企業などでは、事業機会の増加および事業範囲の拡大、
長期的な事業権の確保、事業運営におけるリスク分担が挙げられます。
英国をはじめとした海外では、既に PFI 方式による公共サービスの提供が実施されており、
有料橋、鉄道、病院、学校といった公共施設などの整備や再開発といった分野で成果を挙げて
います。
ただし、デメリットも存在するとされており、発注者側においては、契約手続きに手間と
時間を要すること、複数年契約と単年度予算との整合を図る必要があること、比較的大型物件
にその対象が絞られることなどがあり、受注者側においては、発注者側と同様に、契約手続き
に手間と時間を要することおよび比較的大型物件にその対象が絞られることに加え、発注者側
からのリスク分担に係る要請が強まることなどが挙げられます。
わが国においても、既に自治体が所有する病院の PFI 事業が頓挫し、公立病院に戻った事
例も発生しています。
(2)PFI 事業による効果
PFI 事業に期待される効果は、次に示すとおりです。
① 低廉かつ良質な公共サービスの提供
PFI 事業では、民間事業者の経営上のノウハウや技術的能力を活用できます。また、事
業全体の「リスク管理」が効率的に行われることだけでなく、設計・建設・維持管理・運
営の全部または一部を一体的に扱うことによる事業コストの削減から、コストの削減、質
の高い公共サービスの提供が期待されます。
なお、ここで言う「リスク管理」とは、事業を進めていく際の事故、需要の変動、物価
や金利の変動などの経済状況変化、計画の変更、天災などといった予測できない事態によ
る損失などが発生するおそれを「リスク」と捉え、PFI では、これらのリスクを最も適切
に管理できる者が負担することになります。
② 公共サービスの提供における行政の関わり方の改革
従来、国や地方公共団体などが行ってきた事業を民間事業者が行うようになることから、
官と民の適切な役割分担に基づく新たなパートナーシップが形成されることが可能となり
ます。
③ 民間の事業機会創出を通じた経済の活性化
従来、国や地方公共団体などが行ってきた事業を民間事業者に委ねることから、民間に
対して新たな事業機会をもたらします。また、他の収益事業と組み合わせることによって
も、新たな事業機会を生み出すことにもなります。さらには、PFI 事業のための資金調達
方法として、プロジェクト・ファイナンスなどの新たな手法を取り入れることで、金融環
116
境が整備されるとともに、新しいファイナンス・マーケットの創設につながることも予想
されます。このようにして、新規産業を創出し、経済構造改革を推進する効果が期待され
ます。
(3)PFI 事業に求められること
PFI の基本理念や期待される成果を実現するため、PFI 事業は次に示す性格を有することが
求められます。
① 公共性のある事業であること。(公共性原則)
② 民間の資金、経営能力および技術的能力を活用すること。(民間経営資源活用原則)
③ 民間事業者の自主性と創意工夫を尊重することにより、効率的かつ効果的に実施するこ
と。(効率性原則)
④ 特定事業の選定、民間事業者の選定において公平性が担保されること。(公平性原則)
⑤ 特定事業の発案から終結に至る全過程を通じて透明性が確保されること。(透明性原
則)
⑥ 各段階での評価決定について客観性があること。(客観主義)
⑦ 公共施設などの管理者などと選定事業者との間の合意について、明文化されることで当
事者の役割および責任分担などの契約内容を明確にすること。(契約主義)
⑧ 事業を担う企業体の法人格上の独立性または事業部門の区分経理上の独立性が確保され
ること。(独立主義)
(4)浄化槽の維持管理と PFI 事業
浄化槽は、従来、住民の希望により個人の負担によって設置されてきましたが、平成 6
(1994)年度に厚生省(当時。現在の所管は環境省)は、市町村が主体になって設置する浄化
槽設置事業に対して国庫補助制度を創設し、自治省(当時:現在は総務省)も市町村が自ら公
営企業として浄化槽を設置する地方単独事業に対して交付税措置を創設したことにより、浄化
槽の整備事業は、市町村による公共事業として認知されることとなりました。
このような国による推進措置にもかかわらず、市町村の事務負担の大きさや国民の浄化槽に
対する理解が十分でないなどの理由からか、市町村事業としての浄化槽整備は順調に進んでい
るとは言えない状況にあります。
全浄連は、市町村による浄化槽の整備事業を PFI 法の枠組みを利用して行う場合の留意事項
とともに、応募する民間事業者側の事業計画立案の基本的考え方およびその手法などを整理し、
平成 14(2002)年に「浄化槽整備事業への PFI 手法導入ガイドライン」を発刊しました。
平成 16(2004)年度には、浄化槽 PFI 事業に着手する地方公共団体が現れ、浄化槽の整備
推進策として PFI 手法の導入検討を行っている地方公共団体は増加しています。これらのこと
を受けて全浄連は、「浄化槽整備事業への PFI 手法導入ガイドライン」に基づいて実施された
事業の実例を踏まえて、浄化槽整備に対する PFI 手法導入に係る検討事項および留意事項など
を実務者向きに解説した手引書に当たる「浄化槽整備事業への PFI 手法導入ガイドライン解
117
説」を平成 18(2006)年度に発刊しました 12)。
平成 23(2011)年 12 月末現在、浄化槽 PFI 事業に着手している地方公共団体は、10 道府県
の 12 自治体となっています 13)。
(5)維持管理に対する費用負担
浄化槽の管理者に対しては、浄化槽法によって、維持管理に分類される保守点検および清掃
の実施、法定検査の受検が義務付けられており、これらに要する費用は、原則として設置者負
担となります。ただし、地方公共団体によっては、公共下水道利用者との公平性を図る観点か
ら、合併処理浄化槽に限って、もしくは単独処理浄化槽も含めたすべての浄化槽に対し、保守
点検、清掃、法定検査の各費用だけでなく、ブロワー稼動用の電気代に至るまで、その一部の
費用またはすべてについて、上限を設けるか一定の割合もしくは全額を補助している事例が多
く存在しています。
さらには、保守点検、清掃、法定検査のすべてまたはその一部に対し、場合によっては設置
工事や補修までも加えた形で、地方公共団体の主導もしくは仲介により、浄化槽管理者が一括
契約を結ぶ事例が増加しています。
その一方で、浄化槽の維持管理に対する新たな動きとして、時には設置工事なども含めた
PFI 事業を導入する動きがあります。この場合のメリットとしては、次の点が挙げられます。
① 浄化槽の良好な維持管理が可能になる。
② コストの削減が可能になる。
③ 地方公共団体が関与することで、正しい維持管理が行える。
④ 保守点検と清掃の時期を適切なものに調整できる。
⑤ 地方公共団体が保守点検、清掃、法定検査の実施状況とその結果について、即時性をも
って把握できる。
⑥ 11 条検査の受検率引き上げを図ることができる。
⑦ 契約をまとめることで、浄化槽設置者の負担軽減につながる。
⑧ 問題発生時の責任所在が明確であり、対応と解決を迅速に行うことができる。
⑨ 保守点検と清掃の両業者は、費用請求を地方公共団体に行うことから、浄化槽設置者の
未払いなどのトラブルが回避でき、安定した企業経営が可能となる。
とんだばやしし
(6)大阪府富田林市における PFI 手法を活用した浄化槽整備の取り組み 14),15)
大阪府南部に位置する富田林市は、奈良盆地を源として大阪湾に注ぐ一級河川・大和川の支
流・石川が南北に縦貫しています。この石川が合流する大和川は、埼玉県の綾瀬川、神奈川県
の鶴見川とともに全国の河川の中でも年間の平均水質のワースト3の座を占めています。
富田林市は、大阪府に働きかけ、水質汚濁防止法に基づく「生活排水対策重点地域」の指定
を平成 8(1996)年に受けるとともに、個人設置型の浄化槽整備に対する補助事業にも同年度
から取り組んできました。
また、浄化槽と下水道の合理的な棲み分けを図りつつ、平成 22(2010)年度には人口普及
118
率 100%を目指した大阪府の立案による生活排水処理実施計画が平成 15(2003)年に公表され
たことを受け、翌平成 16(2004)年には「新・富田林市生活排水対策基本計画」(以下、
「新生排計画」という。)を策定しました。この新生排計画では、既に大阪府の流域下水道の
事業認可区域にありながら、富田林市の流域関連公共下水道の事業認可区域ではない地区を対
象にして、改めて下水道の整備の可否を建設費と維持管理費を合わせた総コストから検討し、
実際に見込まれる水洗化率も含めた総合的な検討を行いました。
その結果、富田林市の南部に広がる市街化調整区域に指定されている複数の地区では、下水
道では水洗化が大幅に遅れることが見込まれることが分かりました。
このことを受けて、富田林市は大阪府に願い出て、流域下水道の事業認可区域を縮小変更し
てもらった上で、市の公共下水道の全体計画からこれらの地区を削除し、浄化槽による整備を
図ることとしました。
しかしながら、対象地区は、下水道による整備が周知されていたこともあり、富田林市とし
ては初めてとなる市町村整備推進事業を導入することとし、かつ、PFI 方式の導入も併せて検
討することとしました。
平成 21(2009)年度末における対象地区の人口と面積は、次のとおりです。
① 対象人口:2,683 人(市の総人口 122,500 人の 2.2%に相当)
② 対象面積:9.1km2(市の総面積 39.7km2 の 22.9%に相当)
PFI による富田林市の事業方針、事業方式および事業概要を次に示します。
1)事業方針
① 流域下水道認可区域を縮小し、市設置型による浄化槽整備区域を設定する。
② 市の責任により浄化槽を設置し、併せて保守点検を行う。(清掃は含まない)
③ 使用料金は、下水道と同じ料金体系を適用する。
2)事業方針
① 事業方式:PFI 方式
② 事業範囲:浄化槽の設置および保守管理
③ 事業者選定:公募型総合評価一般競争入札
3)事業概要
① 事業開始:平成 18(2006)年 1 月
② 事業期間:10 年(設置は 6 年)
③ 対象施設:個人住宅(専用・兼用)、集会所など
④ 目標基数:450 基(対象面積内にある全建築物の 90%)
また、富田林市における PFI の導入効果として、次の事項が挙げられています。
① PFI 事業者選定において、個人負担の軽減につながるサービスを審査項目に加えたこと
119
から、結果的には個人負担に対する複数のサービス効果が表れている。
② 大規模一括契約の効果として、浄化槽本体の建設価格の低廉化により、受益者分担金も
他市の事例に比べて安価に設定できた。
③ PFI 事業者が浄化槽設置を促し、所期の設置計画を上回る実績を達成していくことで、
利益率が比較的高い保守管理へと早期に移行するという企業戦略で事業の推進が図られ
ている。
④ 浄化槽使用料を下水道使用料と同じ従量制の料金体系とし、使用料単価自体も下水道使
用料に準じていることから、高齢の独居生活者に対しても使用料が大きな負担にならず、
結果として地域住民の支持を得るに至っている。
⑤ PFI の導入に関する行政としての事務量は多かったが、事業者確定以降は、人件費や事
務経費の削減に大きな効果が発揮されたため、事業期間を通しては、浄化槽の PFI は費
用対効果を十分に発揮させることが可能な手法である。
き ほうちょう
(7)三重県紀 宝 町 における PFI 手法を活用した町営浄化槽整備推進事業の取り組み 16)
紀伊半島の南東部、三重県の最南端に位置する紀宝町は、熊野川を挟んで和歌山県新宮市と
接し、地域の一部は、世界遺産である「紀伊山地の霊場と参詣道」に指定されています。また、
熊野灘に面した井田海岸には、毎年 6~7 月にかけてアカウミガメが産卵に上陸することから、
ウミガメの保護活動にも町ぐるみで取り組んできた経緯があります。
紀宝町は、平成 4(1992)年から合併処理浄化槽の設置普及の促進を目的に、補助金制度を
創設し、その整備を進めてきました。また、平成 18(2006)年 1 月の旧紀宝町と旧鵜殿村の
合併前に両町村とも、それぞれの生活排水処理計画において、その全域を合併処理浄化槽で整
備するように見直していました。ちなみに、合併後の平成 18(2006)年度末では、新紀宝町
において 1,060 基の合併処理浄化槽が設置されていましたが、汚水処理人口普及率としては
24.1%に過ぎず、三重県の 71.5%と比較しても低位にありました。
紀宝町としては、維持管理の徹底を図っていくことも目的に、個人設置型から市町村設置型
の合併処理浄化槽の整備への移行を検討し、併せて PFI 手法の導入可能性調査も平成 18
(2006)年度から行い、これらの結果を踏まえて、平成 19(2007)年 10 月に「紀宝町営浄化
槽整備推進事業」としての実施方針を公表し、同年 11 月には特定事業としての選定を行い、
民間事業者の募集を開始しました。
現在、事業は、特別目的会社(Special Purpose Company、SPC)として設立された紀宝町下
水道サービス株式会社が平成 20(2008)年 4 月 1 日から設置工事、保守点検などの維持管理、
使用料徴収業務を行っています。事業期間としては、平成 31(2019)年 3 月 31 日までですが、
浄化槽の設置期間は、事業開始から 10 年後となる平成 30(2018)年 3 月 31 日までとされて
います。
事業内容は、町内の住宅(店舗兼用住宅を含む)を対象に 10 年間で 1,500 基の窒素除去型
合併処理浄化槽を整備し、併せて維持管理と使用料徴収業務を行うものです。また、住宅に設
120
置されている既設の合併処理浄化槽のうち、保守点検、清掃、法定検査といった維持管理が正
しく行われているものについては、寄付採納の形で希望者のものを町が管理を行っています。
特に、寄付の促進を得るため、事業開始から 3 年間に寄付を希望した住民については、使用料
を軽減する措置を図りました。
加えて、単独処理浄化槽の合併処理浄化槽への設置替えを促進するため、町としての特別建
設補助金制度を創設し、単独処理浄化槽の撤去に要する費用のうち、9 万円を限度にした交付
も行っています。
町としては、今後も住民に対する事業の周知を図りながら、水環境の保全と浄化槽の維持管
理の徹底を目標に、事業の円滑な実施に努めていくとしています。
コラム【特別目的会社】17)
事業会社などが債権や不動産といった資産を事業本体から切り離し、有価証券を発行し
て資金を調達することを目的として設立する会社です。特別目的会社は、事業本体のため
に資産を証券化し、資金調達に協力します。わが国では、これに関して、平成 10(1998)
年に「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」が施行され、平成 12(2000)
年には「資産の流動化に関する法律」として利便性を増した形で施行され、現在に至って
います。
9.5 水辺再生
人口減少や少子高齢化などの社会経済情勢の変化によって、成長型社会から成熟型社会への
移行が進展する中、環境負荷の軽減を図り、安全で美しい持続可能な国土の構築を図ることが
ますます必要となっています。
河川は、地域の風土を育んできた貴重な自然空間ですが、流域の都市化が急速に進む中で、
社会資本を守り、国民生活の安定を図るという治水の視点での河川整備が重視されてきました。
かつては、環境や景観を社会資本および地域の共有資産として位置付ける考え方は希薄でした
が、近年、環境保全やゆとりを求める国民のニーズが高まってきました。これに応えて、例え
ば、国土交通省では平成 18(2006)年 10 月に「多自然川づくり」基本方針を定め、河川全体
の自然の営みを視野に入れ、地域の暮らしや歴史、文化との調和にも配慮した河川管理を行う
こととしています。また、農業用水などに関しても、同様の方針が示されています。
水辺の再生にあたっては、水辺を単に自然空間として再生することにとどまらず、人との関
わりを通して水や生き物の豊かさが育まれる水辺、すなわち、里山に対する概念としての里川
の再生への取り組みが必要です。そして、水辺を地域の共有資産と位置付け、その積極的な利
活用を図ることが重要です。
人々が失いつつあるゆとりと安らぎを現代に即して新たに構築する上で、水辺の持つ可能性
121
は計り知れません。この水辺が持つ社会的・文化的価値を認識し、地域の中で再生して新たな
意味や役割を与えることで人々の日常の暮らしはずっと豊かになります。水辺は人々のゆとり
ある生活の舞台となり、都市や地域の再生の基軸となりうる可能性を秘めています。水辺を活
かしたまちづくりは、地域住民にゆとりを創出するとともに、地域の価値向上につながるでし
ょう。
水辺の再生の意義は、地域の魅力を創造し、ゆとりとチャンスにあふれた国土を実現するこ
とです。環境省浄化槽推進室のホームページでは、浄化槽の整備により水辺が再生された事例
や町が活性化した事例は、青森県から沖縄県にかけて全国 26 の自治体での様子が報告されて
います。いくつかの事例については、第 1 章で紹介しています。
■青森県:三沢市
ふじさとまち
■秋田県:藤 里 町
ち よ だまち
■群馬県:千代田町
まち
■埼玉県:埼玉県庁、ときがわ町
さかえまち
いけ だ ま ち
■長野県: 栄 町 、池田町
となみし
お や べ し
■富山県:砺波市、小矢部市
■静岡県:牧ノ原市
ひがしおうみし
■滋賀県:東近江市
たかちょう
■兵庫県:多可町
つ わのちょう
おおなんちょう
■島根県:雲南市、津和野町、巴 南 町
やわたはまし
さいよし
かみじまちょう
■愛媛県:八幡浜市、四国中央市、松山市、西予市、 上 島 町
よしのがわし
■徳島県:吉野川市
ぶぜんし
■福岡県:豊前市
からつし
■佐賀県:唐津市
あしきたまち
■熊本県:芦 北 町
あいらし
■鹿児島県:姶良市
■沖縄県:那覇市
また、これらの事例のほかにも、水環境保全への取り組みを行っている自治体や団体全国に
しもじょうむら
たくさんあります。ここで、これらの中から長野県下 條 村 の水環境保全への取り組みについ
て紹介します。
下條村は、昭和 62(1987)年度から 5 ヵ年計画で簡易水道工事が進められましたが、起伏
が多く住民が散在している地域性から総額 29 億 8 千万円の事業費を要し、借入額が 12 億
2,450 万円ほどになりました。そのような経済的な面と水環境保全などの観点から、村の生活
排水対策として浄化槽を採用することに決め、現在では 96%の世帯に普及しています。19)
村を通る河川は 7 本ありますが、住民から汚れていた川がきれいになったとの声が数多く聞
122
かれます。ホタルの出るところもあり、浄化槽の水環境保全への効果を実感しています。浄化
槽を導入するメリットは、次のとおり記載されています。19)
① 起伏が多く、下水道の管路を通すのが難しいところでも設置できる。
② それぞれの地域で水量が確保される。
③ 経済的にも時期的にも設置者の事情に合わせて推進できる。
④ 河川の自然浄化能力が活用できる。
⑤ 井戸水や河川などの浄化対策として大いに期待できる。
⑥ 設置にかかる期間が短く、投資効果の発現が極めて早い。
⑦ 恒久的な生活排水処理施設として評価が得られている。
⑧ 設置者個人の自己管理・自己責任が徹底され、地元業者の育成ができる。
⑨ 事業が単年度ごとに処理され、繰り越すことがなく、財務体質を健全な形で維持できる。
⑩ 地震などの災害に対し、復旧が迅速でコストも少なくて済む。
⑪ 下水道・農業集落排水施設・浄化槽の 3 つを使い分けることにより、維持管理費の不公
平感がない。
123
参考文献
1)
公益財団法人日本環境整備教育センター:浄化槽の維持管理 上巻、71、2012
2)
平成23年度 浄化槽行政組織等調査結果、第2章 浄化槽行政担当職員数:環境省ホーム
ページ
(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/soshikitou_chousa/h23/02soshiki_chou
sa2011.xls)
3)
平成 23 年度 浄化槽行政組織等調査結果、第 7 章 浄化槽関係業者数:環境省ホームペ
ージ
( http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/soshikitou_chousa/h23/07soshiki_chou
sa2011.xls)
4)
平成 23 年度 浄化槽行政組織等調査結果、第 3 章 浄化槽新設基数:環境省ホームペー
ジ
(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/soshikitou_chousa/h23/03soshiki_chou
sa2011.xls)
5)
平成 23 年度 浄化槽行政組織等調査結果、第 4 章 浄化槽設置基数:環境省ホームペー
ジ
( http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/soshikitou_chousa/h23/04soshiki_chou
sa2011.xls)
6)
平成 23 年度 浄化槽行政組織等調査結果、第 8 章 浄化槽法第 7 条検査関係:環境省ホ
ームページ
( http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/soshikitou_chousa/h23/08soshiki_chou
sa2011.xls)
7)
平成 23 年度 浄化槽行政組織等調査結果、第 9 章 浄化槽法第 11 条検査関係:環境省
ホームページ
( http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/soshikitou_chousa/h23/09soshiki_chou
sa2011.xls)
8)
一般社団法人全国浄化槽団体連合会:法人許可 30 周年記念誌、21-28、2009
9)
中央環境審議会
廃棄物・リサイクル部会
浄化槽専門委員会:今後の浄化槽の在り方
に関する「浄化槽ビジョン」について(平成 19 年 1 月 15 日)、2007
10) 馬場仁:小学生による「身近な環境の研究」活動を通じた環境教育の実践、月刊浄化槽、
No.435、11-14、2012
11) 内閣府 民間資金等活用事業推進室(PFI 推進室)ホームページ
(http://www8.cao.go.jp/pfi/index.html)
12) 一般社団法人全国浄化槽団体連合会:浄化槽整備事業への PFI 手法導入ガイドライン解
説、2006
124
13) 平成 23 年度 浄化槽行政に関する調査等結果、3.浄化槽市町村整備推進事業の実施状
況(平成 23 年 12 月末現在):環境省ホームページ
(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/data/gyousei_chousa/h23/03gyousei_chousa.
xls)
14) 浅野和仁:大阪府富田林市における PFI 手法を活用した浄化槽整備の取り組みと課題、
月刊浄化槽、No.425、15-19、2011
15) 市設置浄化槽:富田林市ホームページ
(http://www.city.tondabayashi.osaka.jp/public/section/gesuidou/sisettijouka.htm
l)
16) 紀宝町下水道サービス株式会社ホームページ
( http://www.city.tondabayashi.osaka.jp/public/section/gesuidou/sisettijouka.ht
ml)
17) SPE(特別目的会社):あずさ監査法人ホームページ
(http://www.azsa.or.jp/knowledge/glossary/spc.html)
18) 浄化槽の整備効果:環境省ホームページ
(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/case/seibikouka.html#03)
19) 環境保全活動 浄化槽普及 96%の村:環境省ホームページ
(http://www.env.go.jp/recycle/jokaso/eco/03.html)
125
第10章 浄化槽の海外展開
合併処理浄化槽は、日本で独自に開発された戸別もしくは地域規模の汚水処理装置であり、
その性能の良さや維持管理の容易さから日本国内では広く普及しています。しかし、海外では
単発的な装置の設置はありますが、制度的な下での面的な普及を広くみるにはまだ至っていま
せん。
一方、世界的に見て、し尿や生活雑排水を処理することのできる汚水処理技術には、下水道、
浄化槽のほか、多種多様に存在します。その中でとりわけ、合併処理浄化槽は、下水道などの
集合処理施設と比較して、地域の特性に対応させながら短い工期で安価に設置でき、適切な維
持管理の下で、下水道などと同程度の処理性能が発揮される生活排水処理技術です。
他方、平成 12(2000)年 9 月に採択された国連のミレニアム開発目標(MDGs)は、基本的な
衛生施設の利用がなされていない 24 億人(当時)にも達する人口の半減を目標に掲げています
1)
。
コラム【MDGs】
国連のミレニアム開発目標のことであり、平成 12(2000)年 9 月に採択された「国連ミレ
ニアム宣言」を具体化するために設定されました。世界の貧困削減に関する 8 つの目標群を
掲げ、平成 27(2015)年までに貧困人口の削減、教育の普及、男女格差の是正、医療保険改
革、環境保全などの分野で達成すべき目標を定めています。環境関連では、国連機関の発表
によりますと、平成 20(2008)年に世界で約 8 億 8400 万人が安全な飲料水を利用できず、
約 26 億人が基本的な衛生施設を利用できない状況です。平成 27(2015)年までに安全な飲
料水および衛生施設を利用できない人々の割合を半減することを目標としています。
その機能や性能の面から世界に冠たるといってもよい優れた合併処理浄化槽が、このような
世界的な需要に応えることができるか、先進国や財政的および技術的な制約のある途上国にお
いて、有効な処理装置としてその適用の可能性はあるか、またどのような要件の下で可能とな
るかなど、浄化槽の国際的な普遍性について最近の国際的な協力・援助動向などを踏まえなが
ら述べることとします。
10.1 世界的に見た浄化槽の位置付け
世界にはし尿や生活排水などの汚水を取り扱う技術(施設)は多種多様に存在します。
10.1.1 汚水処理技術の分類
世界の汚水処理・処分技術を概括的に分類すれば、①トイレ形式が湿式(Wet)
(2~3 L の注
水により排泄物を流し込む注水式水洗トイレまたは通常の水量で流し込む水流式水洗トイレを
指します)か乾式(Dry)
(湿式以外のものを指します)か、②処理方式が集合処理(オフサイ
126
ト、Off-site)か個別処理(オンサイト、On-site)かの組み合わせで 4 通りに大別できます(図
10-1)
。2)
すなわち、図10-1に照らしていえば、乾式の(ⅰ)ピットラトリンタイプと(ⅱ)汲み取り
タイプ、湿式の(ⅲ)腐敗槽タイプと(ⅳ)下水道タイプの 4 通りの類型になります。
(ⅰ)ピットラトリンタイプ
水洗を行わずに素掘りの穴にし尿をそのまま落とし込む穴式便所の方式です。
(ⅱ)汲み取りタイプ
水洗を行わずに貯留したし尿を運搬し、他の場所で処理または処分する方式です。わが国
の汲み取り便所はこれに相当しますが、発展途上国ではバケツに貯めたし尿を収集人が集め
て運ぶ便所(Bucket latrine)もあります。
(ⅲ)腐敗槽タイプ
水洗したし尿を発生場所で処理する方式です。わが国では浄化槽がこれに相当しますが、
途上国では腐敗槽を用いて処理をしています。
(ⅳ)下水道タイプ
下水道や農業集落排水施設などがこれに相当します。
湿式か乾式かの選択は歴史的、文化的なものです。このため、その地域が湿式の文化か乾式
の文化かを理解することが必要です。それに則った汚水処理技術を選定することが望ましいで
あろうと考えられます。
また、集合処理か個別処理かのいずれかの選択は、その地区の汚水処理の基本計画に基づい
てなされるのが一般的です。政府開発援助(Official Development Assistance、 ODA)での供
与を考える場合には、一般的には個別処理を選択することは難しく、集合処理の選択が概して
可能性として高いと考えられます。
127
図10-1 汚水処理技術の分類 2)
コラム【ODA】
発展途上国の社会・経済の開発を支援するため、政府をはじめ、国際機関、NGO、民間企業
などさまざまな組織や団体が経済協力を行っています。これらの経済協力のうち、政府が行
う資金や技術の協力を政府開発援助(Official Development Assistance、ODA)といいます。
ODA は、二国間援助と多国間援助(国際機関への出資・拠出)に分けられます。二国間援助
は「技術協力」
「有償資金協力」
「無償資金協力」の 3 つの手法と、ボランテイア派遣など「そ
の他」の方法で実施されます。
10.1.2 世界で使われている主な汚水処理技術
日本では一般的に使われてはいませんが、世界で利用されている個別処理あるいは小集落で
の集合処理で適用されている主な技術には次のようなものがあります 2)。
(1)ピットラトリン
ピットラトリンの構造は、前述しました。アフリカなど途上国で一般的に普及しているもの
は建屋付きで、WHO 基準では改善された(improved)サニテーションとされています。臭気の
流出とハエなどの昆虫の捕集を目的として頂上部に金網を付けた換気用パイプを地中の穴に取
り付けた換気式の改良されたものもあります。
(2)腐敗槽 2)
腐敗槽は、東南アジア、中近東をはじめ、トイレ形式が湿式の地域で最も普及している簡易
な処理装置です(図10-2)
。
2 室程度を連結し、沈殿分離とある程度の微生物処理を行います。この場合の微生物処理は
嫌気性処理といい、水中に酸素がない状態で行います。腐敗槽へのし尿の流し込みを行うため
128
の便器については、ポアフラッシュトイレットと呼ばれる簡易水洗便器が利用される場合が多
いです。BOD 除去率が約 5 割程度であり3)、排水基準が 20 mg/L レベルの日本においては適用
できませんが、50~100 mg/L レベルの国・地域では、条件によっては排水基準内の処理水が得
られます。腐敗槽は、し尿の単独処理
あるいはし尿と雑排水の合併処理にも
使用されますが、雑排水を加えた方が
BOD 除去率の向上があるという報告が
なされています4)。
これらの性能は、定期的な汚泥の引
き抜きが行われれば達成が可能ですが、
世界的に見て、多くの地域で適切な維
持管理がなされておらず、環境汚染の面
図10-2 腐敗槽の例 2)
から支障があるという実態が見られます。
コラム【嫌気性処理】
溶存酸素がない嫌気性下で、嫌気性の微生物を用いて行う汚水や汚泥の処理法の総称で
す。通常、嫌気性消化法、嫌気性ろ床法、嫌気性接触法、嫌気性ラグーン法など有機物質
のメタン発酵に基づく処理プロセスを指します。
(3)酸化池
酸化池は、
ラグーンともいわれ、
気候の温暖な途上国で広く用いられている汚水処理方式で、
直列に連なった水深の異なる複数の池に水を流すことにより汚水を浄化します。広い敷地面積
を必要としますが、
曝気のための動力が不要なため、維持管理費を低く抑えることができます。
(4)ウエットランド(人工湿地)
ウエットランド(人工湿地)は、土壌接触や水生植物(アシ、ホテイアオイなど)の成長に
より汚濁物質を水中から除去する技術で、成長した植物の定期的な刈り入れ(ハーベスト)を
行うことが必要です。
(5)屎尿分離コンポストトイレ
屎尿分離コンポストトイレ(欧州型)は、北欧で実施例があるトイレ形態で、底面にこう配
のある単槽のコンポスト化槽を屎尿のうち屎の部分が少しずつ滑り落ち、一番下に到達した時
点で熟成された堆肥になる方式です。屎尿の資源回収、有効利用の観念が強く、また水質保全
の観点から窒素、リンの回収が求められることもある場合に効果的です。
屎尿分離コンポストトイレ(ベトナム型)は、2 つのコンポスト槽を交互に使用して、一方
129
を使用している間にもう一方の屎尿のうち屎の部分の熟成を行うものです。
(6)土壌浄化法
汚濁物質の土壌吸収や吸着並びに吸収や吸着された汚濁物質の微生物分解によって処理を行
うものであり、土壌の適性や地下水からの距離を考慮しなければならない方式です。
(7)新たな開発が進んでいる施設
腐敗槽を改良し、処理性能を向上させた ABR(Anaerobic Baffled Reactor)が南アフリカや
ブラジルにおいて開発が進められています(図10-3)
。
構造は、処理槽の内部を細かく区切り、汚水を上下方向に迂流させ、汚水と汚泥との接触を
増しています。このような嫌気性処理は、電気代が不要という大きな利点があります。南アフ
リカでは、コミュニティに設置し、処理水を利用した果樹栽培を行う地域開発のデモンストレ
ーションも行われています。
タイやマレーシアでは、日本の単
独処理浄化槽ならびに合併処理浄化
槽とほぼ同じスペックの装置が商品
名 SATS(Sewage Aerated Treatment
System)として売られています。
北欧やドイツでは、エコロジカル
サニテーション(エコサン)という
運動が広まっていますが、JICA の草
の根技術協力事業においてもバング
ラデシュでピットラトリンの改善方
図10-3 ABR の例(4 コンパートメント)2)
策として研究開発が進められていま
す。これは、先に述べた分離コンポストトイレを活用したし尿中の栄養塩類を資源として積極
的に利用しようという動きです5)。エコサンでは、屎と尿の分離、土壌浄化など浄化槽とは大
きく異なるコンセプトの汚水処理の方式となっています。
世界的に見て、オンサイトの汚水処理技術については、企業、大学、国際機関などがそれぞ
れの国や地域に適応したシステムを求めて、今もなお技術開発や研究開発を進めている状況に
あります。
日本の浄化槽の国際展開には、このような浄化槽類似施設や諸技術の存在を前提にして、コ
スト競争力のある欧米の大規模多国籍企業や技術力を有した新興国企業と競争あるいは協調し
ながら、浄化槽の比較優位性をアピールし、新規参入者として、既存シエアに割り込んでいく
マーケット戦略が求められています。
10.2 浄化槽の特質と適用可能性
10.2.1 浄化槽の特質
130
浄化槽が、10.1.2で紹介しましたさまざまな汚水処理技術と競い、海外の国々や地域
で利用され、広く普及するためには、どのような要件を備えている必要があるでしょうか。浄
化槽を下水道、あるいは各国で使われている他のオンサイトの処理施設との比較の上で特徴づ
けられることは、その総合的なシステムにあります。
すなわち、浄化槽は、それを取り巻くさまざまな関係者の責任と役割により、適切な維持管
理を達成することができ、本来の機能を発揮することができます。
(図10-4)
行 政
規制、助成、資格、
認証、登録、他
浄化槽
住 民
装置の購入、維持
管理契約、検査、他
企 業
製造、設置、維持
管理、清掃、他
図10-4 浄化槽システムの概念図
行政は、規制、助成、資格付与、認証、認可などのさまざまな行政手続きにより、浄化槽の
普及を推進しています。浄化槽メーカ、維持管理業者、検査機関は、行政の意向に従ってシス
テマチックに事業の展開を行っています。また、住民は、浄化槽の購入、維持管理の費用を負
担し、水環境保全に寄与しています。
このように、浄化槽の特性は、住民の意識とは別な次元での事業推進が可能な下水道整備と
は異なり、その整備においては住民の参加が不可欠です。
総じていえば、浄化槽の特質は、異分野による職能横断的な連携と統合によって支えられて
いるといえます。最近よくいわれますように、この職能横断的な連携と統合は、創造的な新製
品を開発する上で極めて重要な鍵となっています。
また、この浄化槽を支える住民の役割は、国際協力や開発援助の分野でいいますと、その重
要性が認識されている参加型開発の典型的な事例に相当するものといえます。
さらに、最近の国際的な環境協力のあり方として、政府・企業・市民の 3 者による役割分担
と連携を重要視する社会的環境管理能力の形成の必要性が謳われていますが6)、浄化槽の海外
展開の検討においても、そのような枠組みと相似した関係者間の社会的連携の必要性を念頭に
置くことが必要です。
10.2.2 コミュニティレベルにおける地域浄化槽の可能性と実際
上下水道ともに、適正な処理規模は図10-5のような建設費用に関する概念から想定され
ます。処理人口が、増大するに伴って、処理装置の一人当たりコストは減少します。一方、管
131
路については、施設から距離が離れる
ため、
一人当たりコストは増加します。
したがってその総和は、どこかに鞍点
(B 点)をもち、その鞍点が適正な規
模となります。
しかし、従来はこのような検討が行
われることがなく、下水道(C 点)と
浄化槽(A 点)のコスト比較が行われ
てきました。その理由は、B 点に該当
する施設の所有形態がなかったからと
いえるでしょう。公的所有の下水道
図10-5 適正コストの概念図
と個人所有の浄化槽に対して、コミ
ュニティレベルで住民が共同所有す
る地浄化槽とも言うべき汚水処理施設が地域の中で社会的に受け入れられるのであれば、もっ
とも安価に汚水処理を行うことが可能となるでしょう。この鞍点がどのような地域規模の単位
で成立するかは国や地域の事情によってさまざまであり、それぞれ個別に検討をすることが必
要です。
この観点から、トイレ排水や生活雑排水の不適正処理によって河川汚濁が進んでいるインド
ネシアでは SANIMAS(インドネシア語で Sanitasi Masyarakat の略)と呼ばれるコミュニティ
単位の分散型汚水処理施設が急速に広がっていく流れにある状況は注目されてよいでしょう。
現在、BAPPENA(インドネシア政府国家開発企画庁)がその普及に力を入れています。大規模集
合処理としての下水道はコスト負担が大きく、一方、個別処理(腐敗槽)では限界があるため、
コミュニティ単位の集合処理を推進しようとするものです。これに関しては、日本の NPO 法人
APEX の活動が注目されます7)。APEX は、JICA の草の根技術協力事業としてジョクジャカルタ
市内を流れるウイノゴ川沿いに位置する住宅密集地区で立体格子状接触体回転円板を用いたコ
ンパクトな処理施設を設置し、稼働実績を有しています。運転管理は、住民の自己負担と自主
管理により行われています。
コラム【SANIMAS(Sanitasi Masyarakat)
】
Sanitation by community(コミュニテイ衛生)のこと。コミュニテイ単位の汚水処理施設
(腐敗槽が多い)を主体とし、これに共同便所、共同のシャワールームや炊事場などが加わ
ることもあります。自治体が建設を行い、国から補助金が交付されます。この事業は住民参
加が前提で、施設の維持管理は住民の自己負担と自主管理に任されているところが特徴的で
す。
132
日本の NPO が、現地においてこのような分散型汚水処理施設の技術の開発・設置・運営など
において献身的な、活発な活動を行っていることは心強い限りです。
10.2.3 浄化槽とその機能―公衆衛生、水環境保全、そして水循環システム―
生活排水処理は、
わが国では当初は公衆衛生の観点から取り組みがなされましたが、
その後、
水環境保全の視点からも行われるようになりました。合併処理浄化槽は、その後者の目的に合
致するべく開発されたものです。
途上国においても公衆衛生の面の改善に引き続き、身の回りの環境を好ましい状態に改善、
維持しようとする住民の意欲が起こって、その達成手段としての浄化槽への理解と認識が進む
ものと思われます。このために、コミュニティ住民の水環境保全への意識の醸成、行動への奨
励に向けての教育システムなど適切な取り組みが行われることが不可欠です。10.2.2で
述べましたインドネシアにおける取り組みはそのよい範例です。
また、
タイの首都バンコックから約 300 km 離れたナコンラチャシマ県のマハチャイ集落には、
日本の団体の支援により建設された現場打ちコンクリート製の合併処理型の浄化槽が各戸の庭
先に埋め込まれています。これは、かつてその排水先の集落内河川の汚染が著しかったため、
地域内の住民参加を促し、軍隊も参加してその河川の汚泥のクリーンナップ活動が行われ、そ
の一環として浄化槽の設置が行なわれたもので、そのような事例もあります8)。
さらに、地球規模的には、浄化槽処理水の再利用を考えた地域水利用システムすなわち水循
環の地域的な強化に果たす役割の可能性については、
いくら PR をしてもし過ぎることはないと
考えられます。水資源腑存量の乏しい乾燥地域において、浄化槽によって生活排水の適切な処
理を行い、農業用水として再利用し、併せて劣化土壌の改良のための有機資材を供給します。
特に農業用水源の確保に困難な地区、あるいは牧畜を主とするコミュニティで放牧地の土地劣
化が進んでいる地域などで地域的な中規模浄化槽は有用であろうと思われます。
浄化槽は、持続可能な農業経営と適切な汚水処理の実現に貢献ができると考えられます。
10.3 浄化槽の海外展開をめぐって
10.3.1 海外展開の実績について
これまでになされた浄化槽の海外展開にはどのようなものがあったか見てみましょう。
(1)ODA による海外展開の実績
ODA による海外展開は、環境省(旧厚生省)
、国土交通省(旧建設省)
、外務省、国際協力
機構(JICA)によって平成に入ってから行われてきました。
国土交通省は、平成 3(1991)年から 3 年間、途上国建築衛生設備技術開発事業として、
インドネシアを対象にして試験浄化槽の設計・設置および技術調査を行っています。
環境省は、タイとインドネシアで、国際厚生事業団、浄化槽工業会(現在の浄化槽システム
協会)
、海外環境協力センターに委託した浄化槽移転事業調査のほか、アフリカのベナン共和
国、ルーマニア、サモアにおいて浄化槽普及の可能性調査を行っています。その成果として、
133
浄化槽整備手法や維持管理に関するマニュアルが作成されています。最近では、平成 23(2011)
年から中国における水質汚染対策協力推進事業が開始され、
分散型排水処理モデル施設の建設
など実証事業が始まっています。
また、外務省は草の根無償事業として、平成 14(2002)年にインドネシア・チレボン市で
低所得者向けの浄化槽に対する資金援助などを行っています。
JICA では、
「中東和平支援」の一環としてパレスチナ農業学校への浄化槽設置を行うととも
に、浄化槽に関して集団研修を平成 12(2000)年に行っています。中国江蘇省の太湖では、
高度処理型の浄化槽を設置しての実験、専門家の養成などが行われたこともあります。最近で
は、10.2.2で述べたような JICA 草の根技術協力事業が行われています。
コラム【国際協力機構(JICA)
】
独立行政法人国際協力機構法に基づいて、平成 15(2003)年 10 月 1 日に設立された外務
省所管の独立法人です。ODA(政府開発援助)の実施機関のひとつであり、発展途上国の経
済および社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的としています。前身は、
昭和 49(1974)年 8 月に設立された国際協力事業団です。
コラム【草の根無償事業】
発展途上国の多様なニーズに応えるために平成元(1989)年に導入された制度に基づく事
業です。発展途上国の地方公共団体、発展途上国で活動している国際およびローカルの NGO
(非政府団体)などが現地において実施する比較的小規模なプロジェクト(原則 1,000 万円
以下の案件)に対して資金協力を行うものです。
(2)民間ベースによる海外展開の実績
浄化槽メーカによる海外展開には、①工場進出、②合併会社設立、③営業所・事務所開設、
④技術導入・供与、⑤製品販売(輸出)
、⑥資材・部品調達、⑦技術者養成などのパターンが
あります。昭和 60(1980)年代半頃から、日本企業はこのようないろいろのパターンで、あ
るいはパターンの組み合わせによって中国、タイ、マレーシア、インドネシア、ルーマニアな
どに進出した実績があります。これら進出の契機になったのは、商社などの仲介を受けて行わ
れた事例が多いと思われます。また、製品の販売実績は、アメリカや中近東を含む広範な地域
に及んでおり、さらに海外からの引き合いを受けた事例まで含めれば、浄化槽への関心は世界
的に広まったといえます。
韓国については、海外では唯一の浄化槽の業界のある国であり、型式浄化槽協会(現在の浄
化槽システム協会)は、日韓交流会議を開催しています 9)。
このような海外展開の経過がありましたが、
普及の実績という点では当該国の経済的事情な
134
どから順調といえるものではありませんでした。しかし、最近になってその状況は変わりつつ
あります。現在、数社の浄化槽メーカがアメリカ、オーストラリア、タイ、ベトナムに進出し
て活躍しています。
これらのなかでタイにおける浄化槽の普及事例の一面は次のようなもので
す。平成 5(1993)年に厚生省の委託を受けた国際厚生事業団がタイにおける浄化槽の普及性
に関する調査を行いました。当時、現地の浄化槽メーカである Premier Product 社(以下、PP
社)は、日本のメーカによる単独処理浄化槽の技術供与を受け、販売実績を既に上げていまし
た。その後、平成 21(2009)年に PP 社では、大型 FRP 製の活性汚泥法式浄化槽の生産を行っ
ており、依然トップメーカであることが判明しました。このことから、タイは、法規制に加え、
購買力、技術力の 3 点を具備していることで浄化槽メーカが育っていると分析されています
10)
。
このタイの事例は、浄化槽の普及という観点からみれば現地の浄化槽メーカによって「浄化
槽が現地に根付いた」といえましょう。浄化槽の海外展開は、必ずしも日本の立場や視点のみ
で見るべきものではないでしょう。
10.3.2 海外展開にみるビジネスモデルと技術移転
日本の企業が海外に進出するにあたっては、業界毎にビジネスモデルがあり、その推進力も
異なっています。
家電メーカのように、マーケットの拡大を目指して海外の販売網を拡充していくパターン、
繊維メーカのように、日本の価格競争力の低下による空洞化に対応した生産拠点の海外移転の
パターン、あるいは建設業界のように、日本の ODA を足がかりとして、現地に根付いていくパ
ターンなどがあるでしょう。
ODA についていえば、リスクのない推進力として期待されがちですが、永続的な ODA はあり
得ませんので、持続可能な現地化を図ることが必須です。日本からの資金投入がなくなる時点
で、ローカルマーケットでの競争力を維持できる状況にならなければなりません。
このように海外進出は、基本的には新市場開拓というパイオニア型か、国内市場の飽和によ
る押し出し型か、ということになりますが、いずれにしてもリスクを伴います。今、浄化槽業
界は、特にメーカにおいては過去の経験に照らしてビジネスモデルの構築にあたって逡巡して
いる状況です。
もう一つは、技術移転についての問題です。日本企業の技術力は高いが、新興国で製品が売
れないといわれています。新興国ではそこまでの品質が要求されず、また低価格が好まれるた
めです。さらに、簡単で使いやすいといった現地のニーズが満たされないということがありま
す 11)。
技術移転において、それが適性技術と評価され、ビジネスとして成立するための要件は、環
境領域についていえば、次のようなものです 12)。
(ⅰ)文化的に受け入れられること(Culturally acceptable)
技術が、相手国の文化、宗教、習慣などの面から受け入れられるものであること。高度
135
処理水の再利用や食品廃棄物の肥料化などが宗教面で拒否される場合があるようです。科
学的な説得によって根拠のない誤解を解くことが求められます。
(ⅱ)経済的に受け入れられること(Economically feasible)
これは当然のことですが、技術が、相手国で費用負担の可能なものであることです。ま
た、人々が支払えるコストで実現できることです。円滑な利用普及のためには施設整備の
際の初期投資だけでなく、運転・維持管理の費用について十分に対応が可能でなければな
りません。
(ⅲ)技術的に受け入れられること(Technically viable)
技術が、相手国の運転・維持管理できる水準のものであることです。運転や維持管理に
高度な技術を要し、その人材の確保が困難な場合、短期間で運転がされなくなる懸念があ
ります。また維持・補修部品などの現地調達が可能であることです。
(ⅳ)環境保全的であること(Environmentally sound)
技術が、相手国の環境保全に資するものであることです。
(ⅴ)制度に合致したものであること(Institutionally acceptable)
環境機器がいくら優れていても相手国の技術基準に満たすものでなければなりません。
日本の環境機器は優れていますが、アジアでは EU(European Union、欧州連合)方式が主
流であり、受け入れられないことがあります。現地の制度に合致した技術で対応しなけれ
ばなりません。
10.3.3 浄化槽の海外展開に関連した援助・協力の国際潮流
平成 12(2000)年 9 月に採択された国連のミレニアム開発目標は、世界の貧困層の 24 億人
にも達する基本的な衛生施設の利用がなされていない人の割合を半減させることを掲げまし
た 1)。
この開発目標を達成していくためには、途上国における衛生設備や汚水処理施設についての
膨大なインフラ整備が必要であり、
そのためには所要の資金と体制の確保が求められています。
このような将来にわたる国際的な社会需要に対応していくためには、従来型の公共関与の下
で進めていくこともさることながら、最近の国際的な援助潮流として欧米先進国や国際機関に
みられるような官民連携による戦略的な推進という考え方は極めて有用です。
すなわち、
従来、
公共事業として建設、運営・維持管理が行われてきたインフラ事業について、官民の適切な役
割 分 担 の 下 、 事 業 の 一 部 に 民 間 活 力 を 導 入 し 、 効 率 性 と 持 続 性 の 実 現 を 目 指 す PPP
(Public-Private Partnership、官民連携)形態での実施の動きが広がっています。発展途上
国や援助機関もこの動きを反映し、さまざまなツールを駆使して、民間部門の活動を補完して
います。
このような PPP インフラに関しましては、JICA が平成 20(2008)年 10 月、民間連携室を発
足させました。その一環で中小企業の海外事業展開をオールジャパンで支援しようとする動き
も立ち上がりました。ODA 事業に中小企業の技術・製品を活用して、相手国政府・政府機関な
136
どを支援するとともに、中小企業の海外事業展開にも貢献することを目標としています 13)。ま
た、平成 22(2010)年 6 月に閣議決定しました「新成長戦略」において、アジア経済戦略の一
環として、新幹線・都市交通、エネルギーと並んで水のインフラ整備支援に対して官民あげて
取り組む方針を打ち出しました。水のパッケージ型インフラ輸出政策も提唱されています。施
設の設計、建設、設備・機器の供給、運営管理などをパッケージ化して、インフラ輸出を加速
するという政策です。
このような情勢の中で、
日本サニテーションコンソーシアム
(Japan Sanitation Consortium、
JSC)が平成 21(2009)年 10 月に発足しました。アジア・太平洋地域の各国における基礎的な
衛生施設の普及、浄化槽やし尿処理などの技術の開発と普及、都市の汚水・雨水対策としての
下水道の整備の支援、各国のニーズに応じた最適技術やシステムの選定、またはそれら技術の
組み合わせにより、各国の衛生に係る政策・能力・投資の促進、国際援助機関と連携し、各国
関係機関とのネットワークを構築し、衛生に関する知識・情報を集約し、普及・共有すること
を役割としています。今後の活躍が期待されます。さらに BOP(Base of the Pyramid、貧困層)
ビジネスが世界的にすでに胎動しています。世界人口の 7 割を占める貧困層を対象に衛生的な
水供給などのサービスや製品供給を民間ビジネスの原理を生かして持続的に届けるビジネスで
あり、社会問題解決型の新しいビジネスモデルとして注目されています。JICA も BOP ビジネス
連携促進制度を始めています。これは民間のみではリスクの高いと認識される国・セクターに
おいて、パイロット性の高い(事業収益性の低い)事業を支援することで、徐々に民間ビジネ
スの拡大を行っていこうとするものです。浄化槽の海外展開も、このような協力・援助の国際
的、国内的な潮流において、長期的、地球規模的な視点を持って検討することの可能性が広ま
ってきたといえます。
10.3.4 海外展開にあたってのハードル
日本国内において、浄化槽が急速に普及してきた背景には、国民の生活レベルの向上ととも
に汲み取り便所の水洗化への欲求が原動力となってきたことが挙げられます。
一方、諸外国では事情を異にしていて、例えばインドネシアでは、トイレは基本的に水洗で、
都市部では 8 割が腐敗槽中心となっていて、一定程度の処理が行われています。ここで腐敗槽
を単独処理浄化槽とみなせば、住民はそれを合併処理浄化槽に付け替えることについて、ほと
んど便益を感じないと考えられます。
このようなことから、それぞれの国の汚水処理の事情が、浄化槽の国際展開において考慮さ
れなければならない側面です。
また、浄化槽の海外展開を進めるにあたっては、工期と費用などについて十分な検討が必要
です。工期については、例えば日本から製品輸出をするとすれば、海上輸送、通関、国内輸送
と多くの手続きを経なければならず、日本での状況と大きく異なります。
費用については、それぞれの国の経済レベルによって受け止め方が異なります。欧米諸国で
は、日本と物価感覚は同程度ですが、経済レベルが日本の数十分の一という貧困国では、
「日本
137
の浄化槽 1 基の値段が貧困国の家 1 軒分に相当する」ことにもなりかねません。わが国の浄化
槽設置は、
補助制度による設置費用のコスト低減によって推進されてきていることもあります。
また、維持管理を支える技術者に関していえば、技術者養成に関する費用についても、浄化
槽の普及には欠かせません。
もちろん工期と費用については、現地製作・製造ということになれば状況が異なることはい
うまでもありません。
浄化槽の海外展開に当たっては、このようなハードルについて勘案をした上でどのような国
や地域に進出することが適切か、その戦略を構想しなければなりません。この点からいえば、
購買力のある高所得の国・地域、あるいは富裕層への進出、地域的な中規模合併処理浄化槽は
ビジネスとしては有望と考えられます。
10.3.5 浄化槽の普及戦略についての展望
高所得国と低所得国に分けて、普及戦略を展望してみますと次のようになるでしょう。
日本と同程度のレベルの高所得国においては、浄化槽コストの問題が普及の妨げになること
はないでしょう。住民がニーズを感じれば購買力はあります。すでに下水道が普及している国
を除けば現地で使用されている汚水処理施設を調査することにより、選択するべきビジネス戦
略を把握することができます。もちろん、日本の浄化槽法の下での諸制度は存在しないので、
進出に当たっては企業の自助努力が必要となります。
欧米には、浄化槽型式の認証と同様の性能ラベリング制度を持つ国があり、当該国への進出
への鍵は、良い提携・連携相手を見つけ、現地法人を作り現地での制度を踏まえた組立生産、
施工、維持管理体制の形成を目途にして普及に取り組むことが有効であろうと思われます。
低所得国においては、日本と同じ形でのビジネスモデル(個人住宅中心)は多くの場合成立
はしないでしょう。経済力が絶対的に不足している状況では、個人単位の設置はほとんど期待
できません。しかし、アジアにおける経済成長や経済水準の高まりともに今後出現してくるで
あろう、また既に出現している中国、タイ、ベトナム、インドネシアなどの富裕層や中間層、
あるいは水環境が資産である観光地や日系企業関連施設など、ニッチの部分を探していく戦略
は十分に成立すると思われます。
さらに、民間部門の海外での企業活動にとっては、インフラが整備されているか、質の高い
労働者が確保できるか、CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)を含め
た地域コミュニテイとの共生、といった観点は極めて高い関心事です。なかでも、保健衛生の
取り組みは、企業経営の上での一つの大きな課題となっています。この観点から、日本企業が
南アジア・アフリカなど新たな地点への拠点展開をするにあたり、企業のみならず周辺の地域
社会にも裨益する周辺環境の整備ニーズは高まっています 14)。10.3.3で述べました PPP
によるインフラ整備は、このようなニーズの一環として必要視されており、浄化槽の海外進出
もそれとの関連から検討されてよいと考えられます。
さらに10.2.2でふれましたようにコミニュティレベルの地域浄化槽の展開は、今後、
138
途上国においても公衆衛生、そして水環境保全への動きが強まっていく中でその広がりが期待
されるところです。
10.4 浄化槽の海外展開に向けての提言
10.4.1 浄化槽技術を世界に発信して、世界の水問題に貢献しよう
日本独自で開発された単独処理浄化槽や合併処理浄化槽の今日までの普及の進展の中で、わ
が国にはその長所や欠点などに関連して浄化槽の機能や性能に関する研究レベル、実務レベル
における膨大なデータや情報が蓄積されています。生物膜法としての浸漬ろ床法の研究から始
まり 15)、その実用化を目指して、関係する行政、企業、大学、関係団体などによる血のにじむ
努力が払われてきました。その結果、今日では、それらの関係機関において、例えば処理規模、
負荷変動、要求水質などのニーズに適合した浄化槽を選定・設計するためのノウハウや、維持
管理の技術的情報が多く蓄積されています。これらの情報は、今日、汚水処理技術の開発につ
いて懸命の取り組みを行っている世界中の企業、研究者など関係者にとっては、誠に貴重な垂
涎の的になるものといってもよいでしょう。このように、日本は極めて優位な位置にありなが
ら、世界に向かって浄化槽技術についての情報発信が決定的に不足しています。情報の発信機
能の強化に努めなければなりません。
スマート、コンパクト、アキュレートといわれる日本のブランド商品と並んで、浄化槽技術
について世界への一層の情報の発信力を高めて、今後、益々深刻になってくる世界の水問題に
貢献していくことが求められています。
“leapfrogging”(リープフロッギング、蛙とび)という言葉があります
16)
。一周遅れであ
ることの便益を使って、先進国が辿った成功や失敗の道筋をそのまま追いかけるのではなく、
一気に最先端の技術の導入を成し遂げることをいいます。途上国における携帯電話などの IT
(Information Technology、情報技術)の普及がこの例としてよく引用されます。浄化槽は、
世界的な“leapfrogging”技術であることについて誇りと自信を持って、世界に発信して行き
ましょう。情報の発信は、普及戦略の第一歩です。
10.4.2 海外展開に向かって将来展望と戦略を描こう
浄化槽は、海外展開を図る場合にも生産、設置、管理などにまたがる総合システムとして普
及を図ることが重要です。1 基や 2 基の販売ではビジネスとして成立しません。面的にまとま
った数の装置が整備されるような枠組みを考えることが必要です。海外においては、浄化槽ビ
ジネスは、設備・装置を売るだけでなく、設備のリース、あるいは民間企業が資金を調達し、
施設を建設した後、一定期間(数 10 年間)管理・運営を行う BOO 方式(Build Own Operate)
のようなさまざまな事業形態が考えられ 17)、投資面も含めて事業化して安定した収益を上げて
いるケースもあります。技術面と合わせてわが国では馴染みのない国際的に広く存在している
ビジネス形態を理解し、多角的な構想力をもって関係者全体で今後の展望と戦略を描くことが
求められます。
139
技術面での今後のハードルの克服上の課題は少なくありません。さらなる技術開発、特に現
地の諸事情(水道、電気、気温、降水量、経済レベルなど)に適合した浄化槽の開発、とりわ
け低コスト化、節水型、低炭素社会に向けての省エネ化は重要な課題です。それと共に、浄化
槽関連の技術者の養成、汚泥処理の構築といったトータルシステムの整備やアジアにおける浄
化槽認証制度の構築をも目標においてこれからの海外展開の方途を探っていきましょう。
10.4.3 官民一体で浄化槽の世界的普及を推進していこう
浄化槽は総合的なシステムであり、制度、技術、人材、住民参加など多方面からのアプロー
チが求められます。官は官として、民(企業、NPO、NGO など)は民としてそれぞれの役割、関
心事、貢献の可能性を探りながら、相互に協力して海外展開を推進していくことが望ましい姿
でしょう。水のインフラ輸出政策や PPP といった途上国におけるインフラ整備に関する官民連
携プログラムが、今や国際的な協力・援助の潮流になってきた今日、浄化槽の世界的普及につ
いてその時代的な流れの中で英知を絞って推進していきましょう。
140
参考文献
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2)イラクに対する環境協力検討会調査業務報告書、(社)海外環境協力センター、A-16-17、 2006
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urban communities, ITN-Bangladesh, Dhaka, Bangladesh, 444, 2000
4) Rahman, M. M., Shahidulla, A. H. M. and Ali, M. A. : An evaluation of septic tank
performance,25th WEDC Conference, Addis Ababa, Ethiopia,61-64, 1999
5)高橋邦夫、高村哲:農村地域におけるエコサン・トイレの普及活動-現状と今後の展開-、
OECC 会報、第 64 号、9-11、2011
6) 国際開発学会環境 ODA 評価研究会:環境センター・アプローチ-途上国における社会的環境
能力の形成と環境協力、xxⅲ-xxⅳ、2003
7)田中直:適正技術と代替社会―インドネシアでの実践から、岩波新書、65-68、2012
8)小野川和延:水の供給と衛生施設整備に向けての国際社会の取り組み、月刊浄化槽、
No.339、4-9、2004
9)浄化槽長期ビジョン研究委員会:生命の水の維持と豊かな人間生活のために-21 世紀の
浄化槽ビジョン-、型式浄化槽協会、109-134、1996
10)北井良人:浄化槽の海外ビジネス展開について、月刊浄化槽、No.424、25-30、2011
11)恩蔵直人:経済教室 閉鎖打破―企業経営の条件 上、日本経済新聞、2011.9.27
12)平成 16 年度 ASEAN 新加盟国における環境ビジネス創出に関する調査-カンボジア、
ラオス、
ミヤンマー、ベトナムにおける環境ビジネス創出にむけて-、
(社)日本産業機械工業会、Ⅰ
-Ⅱ、2005
13)柏谷 亮:JICA の民間連携の紹介、2011, http://www.jica.go.jp/investor/ir/pdf/
110729_02.pdf
14)外務省・FASID 国際シンポジウム 国際開発における民間企業の可能性-開発途上国におけ
る成長と貧困削減のための企業、援助機関、NGO・NPO のための協働-、70-71、
2008.9.17
15)岩井重久、楠本正康:生物膜法、産業用水調査会、5、1980
16)森秀行:途上国の持続可能な開発と気候変動-アジアを中心として-、浜中裕徳編
低炭素社会をデザインする-炭素集約型経済システムの転換のために-、慶応義塾大学出版
会、27-29、2010
17)宝月彰彦:水ビジネスの再構築-基本技術から海外進出のノウハウまで-、環境新聞社、
136、2012
141
コラム【浄化槽法の制定を語る―楠本正康、柴山大五郎両氏に仕えた全浄連元事務局長
大内善一氏の思い出―】
昭和 40(1965)年代後半、不適切な施工や維持管理による不良浄化槽が問題となり、浄
化槽管理士や浄化槽施工士などの専門技術者の資格制度を確立すべきとの意識が高まりま
した。都道府県の浄化槽団体などが任意で講習会を開催したり、法整備に向けた政治家へ
の働きかけを行っていましたが、各団体がバラバラに動いていた時期でもありました。
このような状況を鑑みて、楠本正康氏は、
「業界団体が一丸となって政治に働きかけなけ
ればだめだ」と呼びかけ、楠本氏と複数の協会が発起人となって全浄連を設立しました。
これらの動きに対し、当時の厚生省および建設省は、浄化槽法は不要との立場でした。
その理由として、建設省は建築基準法により、厚生省は廃棄物処理法により、各々規制は
十分できると考えていたことに加え、当時、単独処理浄化槽しか存在しなかったため、浄
化槽は下水道のつなぎ施設との位置付けに過ぎないと思われていたことがあります。
政治家の反応としては、自民党の小渕恵三氏を座長とする浄化槽問題議員懇談会におい
て、辻英雄氏、戸沢政方氏、橋本龍太郎氏などが加わり、議論されるようになりました。
行政側からも情報を収集していましたが、行政側はさほど熱心ではなかったため、昭和 54
(1979)年には浄化槽対策議員連盟が発足し、建設相、厚生相および環境庁長官を歴任し
た小沢辰男氏が会長となりました。
一方、全浄連の初代会長となった柴山大五郎氏は、自ら浄化槽について勉強され、楠本
氏とともに浄化槽法制定に向けた資料作りを行われていました。その中で、浄化槽問題議
員懇談会に説明に出向いたこともありました。
その後、福岡県浄化槽協会会長の経験のある辻代議士が、楠本氏と柴山氏の草案を引き
継ぎ、労働六法の制定に携わった経験を生かし、浄化槽法の要綱を作成し、衆議院法制局
に持ち込んだのです。
昭和 57(1982)年、国会に浄化槽法案が提出されましたが、会期中に成立せず継続審議
となり、昭和 58(1983)年の国会において成立しました。ただし、浄化槽法が成立するま
でには、各方面からの反対もありました。業界団体からは、保守点検と清掃を分離される
と困るとの理由で、反対運動が起こりました。また、下水道工事業者の団体である全国管
工事業協同組合連合会と下水道の維持管理業者の共同での反対もありました。
浄化槽法制定以前は、下水道の処理人口普及率もまだ十数%であり、単独処理浄化槽し
かなかったことから、浄化槽の機能不全と雑排水の未処理放流により河川湖沼の水質汚濁
が深刻化しつつありました。また、都心部では、生活排水由来の臭気が社会問題となって
いました。さらに、浄化槽の製造業者、施工業者、保守点検業者および清掃業者がそれぞ
れ事業活動を行っていたため、適切な管理がされていないことが課題となっていました。
142
加えて、地域による対応の違いもありました。
浄化槽法の制定は、生活環境の保全と公衆衛生の向上を最終目的としつつ、直接的に
は浄化槽に関わるそれぞれの業態の統一的な管理を目的としたものでした。
その一方で、建設省と厚生省の権限の範囲は従来どおりとされました。その背景には、
一元化にはなお調整が必要であり、それにこだわると却って法整備が遅れると考えられた
ことがありました。
143
コラム【福島県三春町での行政体験と浄化槽を語る―元福島県三春町企業局長 遠藤誠作氏
の思い出と提言―】
三春町は、平成 4(1992)年~5(1993)年にかけて、公共下水道と農業集落排水施設の
整備に着手した。当時の建設コストは 1 戸当たり 500~600 万円もかかる計画だったため、
水道事業の経験からすると高すぎて見えた。この時に下水道・農業集落排水事業の採算性
に疑問を持っていたので、上下水道一元化の際、他の整備手法を検討したのが浄化槽と出
合ったきっかけである。
コンサルタントが作成した町の下水道事業基本計画を検証してみると、当時、8,000 人程
度の居住人口が将来は 13,000 人に増加するので経営収支は合うという計画を立てていた。
終末処理場を最下流に配置し、流域が異なる地域はポンプアップして幹線に入れるよう計
画され、DID もない町でも採算がとれると言う。また、終末処理場は職員を常駐させるよう
管理棟に広い事務室を確保していたので、事業の採算性に疑問が残った。
同じインフラでも、
「道路」は 100 年経ってもその役割はそれほど変化しないと思う。一
方、下水道は全体事業費の 6~7 割を管渠整備にかけるが、技術革新によって究極の「汚泥
処理技術(汚泥消滅)
」が開発されたりすると、整備した管路が無駄になってしまう。すな
わち、1 戸当たり 500 万円もの建設コストをかけても 100 年間使用すれば回収できるという
論理は、技術革新によって覆される可能性があるし、その前に人口が減少して使用者がい
なくなれば、管渠は「無用の長物」になってしまう。
そこで、整備費が格段に安くて済む合併処理浄化槽を下水道施設として公設で整備し、
きちんと管理すれば下水道と同様の効果が得られるのではないかと考えた。
平成 10(1998)年、町の行財政改革で、下水道事業改革と公営企業の管理経費削減のた
め、水道と下水道事業を統合し上下水道課に組織替えをした。その際に農業集落排水施設
や浄化槽も所管したので、各事業の運営から改善策について沢山のヒントを得た。たとえ
ば、農業集落排水施設の管理は 1 ヵ月に 3~4 回程度の巡回点検管理であった。これに対し
公共下水道の終末処理場は常駐管理方式で計画されていたので、これを改め上水道・簡易
水道・公共下水道および農業集落排水施設 17 施設を一括して、複数年契約により第三者委
託をした。その結果、24 時間常駐の浄水場を基地にして他は巡回管理することにより、従
来の 2 分の 1 近いコスト削減を実現した。
公共下水道は平成 12(2000)年に供用開始したが、下水道 3 事業を一つの会計に統合し、
地方公営企業法を全部適用して公営企業会計で管理することとした。平成 13(2001)年に
は宅造事業も統合し組織名称を「企業局」に改め、公営企業管理者を置くようにした。そ
れにより会計管理はもちろん、公営企業が決裁権まで持って事業を行えるようになった。
また、その機会に、上下水道・浄化槽の技術職員を集約して、計画から設計・施工管理
144
まで一元化する体制を整備した。全事業への地方公営企業法適用、全施設の運転管理の一
括委託と職員の大幅削減、下水道 3 事業の料金統一などの改革は、日本経済新聞 1 面に取
り上げられ、全国各地から年間 30~50 団体もの視察者があり、当時、日本の中小上下水道
をリードする先進事業者と言われた。
今後の汚水処理技術の革新を考えれば、汚水処理施設は家の耐用年数に合った設備で十
分である。例えば、30 年後に新しく家を建て替える場合、既設の下水道管に制約されない
で自由に設計ができるし、その時点で最新の設備を利用することができる。
特に、農村部は高齢化が急速に進んでおり、人口が減る一方、地域では人の繋がりが希
薄になっている。そのような中、浄化槽の保守点検、清掃、法定検査等の技術員が日常管
理業務で定期的に地域を回るので、一人暮らしや高齢者世帯に声をかけることができる。
また、市町村設置型の管理を受託する維持管理業者は公の業務を担うことになるので、地
域に安定した雇用も創出される。
さらに高度な技術を身につけた技術者を計画的に育成し、情報機器を利用して最適管理
システムを構築すれば、浄化槽の設置から保守点検、清掃業務は、地域に根付いた安定的
な産業として成り立つ可能性がある。
例えば、GIS(Geographic Information System、地理情報システム)を利用して個々の
浄化槽の設置情報、維持管理・修繕履歴や水質データ等、浄化槽に関する全ての情報をデ
ータベース化すれば、設置自治体や維持管理業者がペーパーレスで管理できる。さらに、
保守点検、清掃、検査の 3 業種が連携し、浄化槽の管理データを端末機器で確認しながら
管理するようになれば、下水道並みの管理ができる。
浄化槽の機能そのものは、現状でも十分高いレベルに達している。問題は維持管理と自
治体の推進体制である。市町村の職員は 3~4 年間隔で異動するため、そのわずかな期間に
担当者が浄化槽のことを勉強し理解して事業を採択してくれることを期待するのは難し
い。
そうであるならば、市町村側が採択したくなる商品を業界が用意すべきではないか。す
なわち、行政が労力とコストをかけずに浄化槽を設置でき、技術的な知識を持った専門機
関が適切に管理する仕組みを構築すれば、浄化槽は採用しやすくなる。例えば、PFI 方式で
設置して浄化槽管理まで行い、使用状況など浄化槽に係るデータはペーパーレスで一元管
理運営する仕組みがあれば、民間主体で推進できる。
このようなことは市町村がバラバラでは非効率なので、情報処理技術を採り入れ全国規
模で一元化すべきと思う。そのため、浄化槽業界が協調して全国統一の保守点検システム
を整備し、それを担う業者や技術者を育成できれば完壁である。浄化槽は個人の設備では
ない、公共浄化槽である。
145
あとがき
浄化槽は、生活排水に係わる専門家や行政担当者などの方々からは、その性能や経済性など
で高い評価を受けておりますが、いまだに多くの方々、自治体の首長、議員、他分野の行政担
当者や NGO のメンバー、一般市民といった方々には必ずしも正当な評価を受けていない状況に
あります。
「はじめに」に記しましたように、本書はこのような方々に生活排水問題やそこで有
用な役割を担っている浄化槽、特にその技術的側面について客観的にかつ適切に紹介すること
を目的としました。
この目的を具体化するために、
本書の構成について種々議論しました結果、
目次のようなテーマを選定し、各テーマについて通読のための解説を記述し、その理解を深め
るために必要な情報をコラムとして記述することとしまた。また、読者が疑問を感じておられ
ると思われる事項の解説を Q & A という形で整理しました。
現在、国際連合では、平成 27(2015)年をターゲットイヤーとするミレニアム開発目標を掲げ、
その達成に向けた努力がなされています。その前提として、世界にはさまざまな局面で劣悪な
状況があることが指摘されていますが、衛生問題については、最新の情報では、世界の 70 億の
人々のうち、26 億の人々は、第 10 章で紹介していますピットラトリンすら利用できていない
という状況にあります。多くの家庭で水洗便所が使え、70 %以上の家庭に温水洗浄便座が普及
している今日の日本では、多くの人にとって、このような世界の現状は思いもよらないことで
あるでしょう。
本書を読まれた皆様は、排泄物が水で洗い流され、用便後は温水で洗浄するという贅沢なト
イレ生活が成り立っている状況の一つに浄化槽の普及とそれを支えるさまざまな制度・体制が
あることを理解していただけたものと思います。今後とも、本書で紹介しました浄化槽に係わ
る種々の約束事に従ったトイレ生活を送っていただきたいと思います。なお、浄化槽は水洗便
所の排水だけを処理するものでなく、風呂や台所の排水などの生活雑排水も処理するものであ
ることを思い起こしていただき、読者の皆様の中で単独処理浄化槽を利用しておられる方々に
は、早急に浄化槽への転換をしていただきたいと願っております。
最後に、本書の企画・執筆につきましては、
「はじめに」に記しました 4 名が担当しましたが、
いくつかの章ではそれにふさわしい専門家の方々に執筆をお願いしました。
また、会議の設営、
原稿の整理やとりまとめなどにつきましては株式会社極東技工コンサルタントの今西浩和氏と
東中美保氏の貢献がありました。さらに、より客観的またより適切な記述にするため、浄化槽
に造詣の深い何人かの専門家の方々に原稿を読んでいただき、さまざまなご意見をいただきま
した。ご協力に対して、記して感謝いたします。
平成 25 年 8 月
技術ワーキンググループ副座長
河村 清史
146
執筆者一覧(肩書きは執筆当時)
<監修主査>
加藤 三郎(かとう さぶろう)
NPO 法人環境文明21共同代表、(株)環境文明研究所 所長
昭和 41(1966)年 4 月、厚生省入省。環境庁設立に伴い、公害・環境行政を担当。この間、
厚生省の環境整備課長として浄化槽行政を担当。平成 2(1990)年、地球環境部初代部長就
任。地球温暖化対策、「地球サミット」参加、環境基本法案の作成等を経て、平成 5(1993)
年、退官。株式会社環境文明研究所を設立するとともに NPO 法人環境文明21を主宰。主な
著書に、
『環境の思想―足るを知る生き方のススメ』
(プレジデント社、2010 年)
、
『日本を元
気にする温暖化対策-加藤三郎の主張(2009~1993)』
(環境文明 21、2010 年)
、
『環境力』
(ご
ま書房、2003 年)など多数。
(まえがき、第8章担当)
<監修副主査>
河村 清史(かわむら きよし)
埼玉大学大学院理工学研究科 教授
昭和 51(1976)年 4 月、京都大学工学部助手任官。その後、厚生省国立公衆衛生院衛生工学
部、廃棄物工学部を経て、平成 12(2000)年に埼玉県環境科学国際センターの初代研究所長
に就任。平成 20(2008)年 4 月から現職。この間、昭和 61(1986)年から 2 年間、JICA の
長期専門家として、
タイ国チェンマイ大学に赴任し、発展途上国の水関連の調査研究に従事。
公益法人日本環境整備教育センターにおける浄化槽に係わる各種委員会活動に参画。
著書に、
『浄化槽技術者の生活排水処理工学』
((財)日本環境整備教育センター、1995 年)、
『生活排
水処理システム』
(共編著、技報堂出版(株)、1998 年)など多数。他に、生活排水処理・管
理に係わる論文・解説文多数。工学博士。
(第1章、第2章、あとがき担当)
岡城 孝雄(おかしろ たかお)
公益財団法人日本環境整備教育センター 企画情報グループリーダー
昭和 55(1980)年 4 月、(財)日本環境整備教育センターに入り、小型合併処理浄化槽の開発
研究に従事。その間に浄化槽内で生じる多様な現象に対する調査研究を行い、数多くの学会
報告、論文を発表。これらの知見を踏まえ、同教育センターが養成する浄化槽管理士、浄化
槽清掃技術者等のテキストの編纂と各種講習会の講師に従事。また、バキューム車の革命と
なる浄化槽汚泥濃縮車の開発研究にも従事。著書に『生活排水処理システム』
(共著)
、教育
センターテキスト、月刊浄化槽記事、学会論文など多数。博士(工学)
。技術士(衛生工学部
門)。
(第5章、第7章担当)
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片山 徹(かたやま とおる)
一般社団法人海外環境協力センター 専務理事
昭和 40(1965)年、厚生省入省。公害・廃棄物行政を担当。浄化槽行政にも係わった。昭和
49(1974)年、環境庁に出向、環境庁環境研修センター所長を経て平成 4(1992)年、退官。
在職中、
「名水百選」を提唱した。その後、(財)日本環境整備教育センターで 9 年間常任理
事を務めた。現在は、主に開発途上国における地球温暖化対策や環境改善・保全などの協力
支援業務に従事。水環境学会誌、廃棄物学会誌、月刊浄化槽等に論文・記事を発表。技術士
(衛生工学部門)
。
(第10章担当)
佐々木 裕信(ささき ひろのぶ)
公益財団法人日本環境整備教育センター 業務執行理事
昭和 50(1975)年、
(社)日本環境整備教育センターに入り、浄化槽施工士(当時)、浄化槽
管理技術者などの人材養成に従事。浄化槽法が制定された後は、国家資格者の教育事業、全
国浄化槽技術研究集会の開催に携わる一方、平成 4(1992)年には全国合併処理浄化槽普及
促進市町村協議会の設立運営に関与し、平成 24(2012)年より現職。著書に『浄化槽の普及
とその史的背景』
(共著)
、
『ごみの文化・屎尿の文化』
(共著)のほか、月刊浄化槽に多くの
記事を掲載。
(第3章担当)
村岡 基(むらおか もとい)
(株)極東技工コンサルタント代表取締役、一般社団法人管路診断コンサルタント協会会長
(代
表理事)
、関西大学非常勤講師(環境都市工学部)
平成 3(1991)年、日本下水道事業団採用。平成 4(1992)年、国際協力事業団。平成 8(1996)年、
建設省下水道部。平成 10(1998)年、厚生省水道環境部浄化槽対策室。平成 12(2000)年、(株)
極東技工コンサルタントに入社。平成 17(2005)年、同社代表取締役。厚生省では、単独処理
浄化槽の定義を廃止した平成 12(2000)年浄化槽法改正の実務を担当したほか、11 条検査の
効率化、汚水処理施設の統一的な経済比較に係る関係省庁間の調整などにも従事。博士(工
学)。技術士(総合技術監理部門、上下水道部門)
。
(第4章、第9章担当)
矢橋 毅(やはし たけし)
公益財団法人日本環境整備教育センター 国家試験事業グループリーダー
昭和 55(1980)年 4 月、(財)日本環境整備教育センターに入り、浄化槽の性能調査や膜分離
型小型浄化槽の開発業務など浄化槽関連の調査研究に従事するとともに、浄化槽管理士の講
習会や講演会の講師および試験委員などを務める。平成 23(2011)年 4 月から浄化槽管理士
および浄化槽設備士の試験業務を担当。博士(工学)
。技術士(衛生工学部門)
。
(第6章担当)
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浄化槽読本 ~変化する時代の生活排水処理の切り札~
編集・発行
公益信託柴山大五郎記念合併処理浄化槽研究基金・技術ワーキンググループ
発行責任者
加藤 三郎
印
所
大志印刷株式会社
行
平成 25 年 9 月
発
刷
お問い合わせ
公益財団法人日本環境整備教育センター 企画情報グループ
〒130-0024 東京都墨田区菊川 2-23-3
TEL 03-3635-4884