宮崎作品における女性像 - 実践女子大学/実践女子大学短期大学部

宮崎作品における女性像
生活科学部・生活文化学科
生涯発達心理学研究室
0118082 藤田 香織
目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第1章
先行研究の検討と研究目的・・・・・・・・2
1-1
マスメディアにおける女性像
1-2
本論文の目的と仮説
第2章
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2-1
対象
2-2
手続き(1)
2-3
手続き(2)
第3章
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
3-1
宮崎作品における男女の主人公数比較
3-2
宮崎作品における男女の主要な登場人物数比較
3-3
宮崎作品における男女のリーダー数比較
3-4
宮崎作品とディズニー作品における女性のリーダー数比較
3-5
宮崎作品における女性像
(1)宮崎作品に登場する女性
(2)「ナウシカ」と「白雪姫」におけるヒロインの比較
第4章
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4-1
量的分析結果の考察
4-2
質的分析結果の考察
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
はじめに
2352 万人(報知新聞 2002.12.4)という観客動員日本新記録をつくった「千と千尋の神
隠し」(2001)では、国民の6人に1人が映画館へ足を運んだ。今年(2004)公開された
宮崎駿監督(63)の新作アニメ映画「ハウルの動く城」が、11 月 20 日の公開から 2 日間
で、邦画史上最高となる動員約 110 万人、興行収入約 15 億円を記録したことが 22 日、配
給の東宝から発表された。これは、興行収入 304 億円で日本新記録を樹立した 2001 年の
「千と千尋の神隠し」が持つ動員約 81 万人、興行収入約 10 億 5000 万円の記録を大きく
上回るスタートダッシュとなった(スポーツニッポン 2004.11.23)。
さまざまなマスメディアが溢れるこの時代において宮崎作品に対する支持は驚くばかり
である。子どもから大人まで男女を問わず感動を与え、多くの女性が活躍する点に魅力が
ある宮崎作品において女性の描かれ方に注目した。これまでマスメディアは、王子様とハ
ッピーエンドになる物語や、家庭や恋愛を中心とする物語などで女性を受動的で従順に描
く傾向があり、男性に主人公や指導的な役割を多く与えてきた。しかし、宮崎作品におい
ては女性の生き方が異なると思われる。
アニメーション研究家のおかだえみこ(1997)によれば、宮崎作品における愛らしく芯
の強い女性の系譜はテレビシリーズ「未来少年コナン」
(1978)のラナから始まる。少女・
ラナは、鳥の言葉を理解し、予知能力、テレパシー能力などを持ち、主人公の少年・コナ
ンが命をかけて守る美少女である。しかし、ただの想い姫でなく、お嬢様でなく、わがま
まは言わず、意志と行動力を備えた、宮崎駿に言わせれば<「これからどうするの?」と
聞かない少女>であることを指摘している。おかだ(1997)によると、宮崎駿は、かつて
「コナン」に取り組むときアニメージュの特集で以下のように語っている。
「窮地に陥った時、男を責め立てるようなヒロインは作りたくない。困難な状況を主体
的に受け止めるヒロインにしたい。お飾りヒロインや悲鳴をあげて助けてもらうだけの女
性、必然性もないのに水浴びに行ってさらわれるためだけの女性、そういうのは嫌いだ。
どれほど脅されようと、こればかりは譲らないというものをしっかり持ったヒロインであ
れば、彼女を守ることがより普遍的な人間の尊厳を守ることにつながり、主人公が全力を
あげて戦う理由が生まれる」
実際、このように意志と行動力を持った女性は宮崎作品に登場しているのであろうか。
宮崎駿監督が手がけた「風の谷のナウシカ(1984)」から「ハウルの動く城(2004)」まで
の 8 作品に注目し、宮崎作品における女性像を探っていきたい。
-1-
第1章
先行研究の検討と研究目的
ここでは、まずさまざまなマスメディアにおける女性像に関する先行研究を概観し、つ
づいて本論文の研究目的と宮崎作品における女性像を分析するための仮説を提示する。
1‐1
マスメディアにおける女性像
新聞・ラジオ・テレビにおける「ニュース」や「テレビ・番組」
「テレビ・コマーシャル」
「テレビ・アニメ番組」
「絵本」などのマスメディアにおいて、これまで女性がどのように
描かれてきたかについて、それぞれ以下に提示する。
まず「ニュース」についてである。1995 年 1 月のニュースについて考察した世界規模の
研究(新聞、ラジオ、テレビに及び、71 カ国を取り上げている)によれば、ニュースへの
登場人物(ニュースでインタビュ
(表 1)
ーされ、引用されたり、詳細に描
女性は世界のニュースの登場人物の中で明らかに少数派である
かれた者)のうち、女性は 17%に
新聞、テレビ、ラジオにおけるニュースの登場人物(1995 年 1 月)
過ぎなかったことを明らかにして
いる(表 1)。表 1 をみると、女性
のニュースへの登場人物の割合は、
アジアで最も低く(14%)、北アメ
リカで最も高い(27%)ことが示
地域
総数
女性の%
全世界
21037
17
アフリカ
720
19
940
24
3075
15
3538
14
998
14
ラテンアメリカ・カリブ海地域
中央アメリカとカリブ海地域
されている。この研究では、女性
南アメリカ
に対する暴力、女性の労働、女性
アジア
の健康などの問題に関するニュー
ス記事は 11%しかなかったことも
確認している(国際連合,2001)。
「テレビ・番組」については、
東アジア、東南アジア、南アジア
西アジア
先進地域
1997 年にテレビについて考察した
東ヨーロッパ
1018
15
ヨーロッパの研究(デンマーク、
西ヨーロッパ
4987
16
フィンランド、ドイツ、オランダ、
北アメリカ
4056
27
ノルウェー、スウェーデン)によ
オーストラリア
1273
22
れば、全種類のゴールデン・アワ
日本
132
30
ーの内容を考察した結果、全体と
ニュージーランド
147
13
して、テレビのプログラムの登場
(世界の女性 2000 より)
-2-
人物の 32%は女性であったことを明らかにしている。また、年配の女性は頻繁には現れず、
50 歳以上の登場人物中、女性は 20%に過ぎないことも確認している(国際連合,2001)。
斎藤(1998)は、子ども向けのテレビ番組に見られる女性においては、「ウルトラマン」
の科学特捜隊のフジアキコ隊員や「秘密戦隊ゴレンジャー」のモモレンジャーなどのよう
に、たくさんの男性の中に女性が 1 人しかいない「紅一点」で描かれる場合が多いことを
指摘している。また、企業、政党、議会、学会、報道機関など現実社会の上層部で見られ
るような「たくさんの男性と少しの女性」でできた構図が、子ども向けの番組にも見られ
ることについても指摘している。藤田(1996)によれば、森・湯地(1995)がテレビ番組
にあらわれた男女の行動パターンを分析し、男の子が能動的に行動し、女の子は受身的な
行動を行う役割分化が見られることを明らかにしている。
「テレビ・コマーシャル」については、1961 年から 1993 年の 33 年間における日本の
テレビ・コマーシャルにおける性ステレオタイプ的描写について考察した坂元・鬼頭・高
比良・足立(2003)によれば、コマーシャル 2727 個に登場した 2727 名の中心人物につ
いて分析した結果、性別においては女性よりも男性のほうが中心人物としてやや頻繁に登
場してきたことを明らかにしている。中心人物の職業においては、女性は男性よりも従属
者であることが多いのに対し(女性は 67%、男性は 33%)、男性は女性よりも有職者であ
ることが多かった(男性は 76%、女性は 24%)ことを明らかにしている。中心人物のい
る場所においては、女性のほうが男性よりも家の中にいるのに対し(女性は 51%、男性は
49%)、男性のほうが女性よりも家の外にいる(男性は 57%、女性は 43%)ことを明らか
にしており、さらに「女性は家の中、男性は家の外」という描写(性別におけるステレオ
タイプ的な描写)は時代とともに増加していたことも確認している。中心人物の年齢にお
いては、「年少者」は女性のほうが男性よりも割合が高いのに対し(女性は 79%、男性は
21%)、「年長者」は男性のほうが女性よりも割合が高い(男性は 76%、女性は 24%)こ
とを明らかにしている。
「テレビ・アニメ番組」については、1960 年代から 1980 年代に放送された日本のテレ
ビ・アニメ番組の女性像・男性像を分析した藤田(1996)によれば、
「ドラえもん」
「ちび
まる子ちゃん」「美少女戦士セーラームーン SS」「キテレツ大百科」「アンパンマン」「ひ
みつのアッコちゃん」
「魔法使いサリー」などの子ども向けの番組を 13 番組分析した結果、
登場人物数はおよそ 6 対 4 で女性より男性のほうが多く登場する傾向にあったことを明ら
かにしている。また、大人の登場人物において、職業や家庭での役割を男女別に比較した
-3-
結果、男性ではほとんどの登場人物が教師をはじめとするさまざまな職業についている一
方、女性では職業についている者は少なく主婦または母親として家庭場面に多く登場して
いることを確認している。発達心理学の文献の伊藤(2000)によれば、子ども向けの番組
における主人公の男女比率は約 2 対1で、男性優位になっていることを確認している。主
要な登場人物の性格特性と行動特性を分析した藤田(1996)によれば、女性の性格特性に
ついては、1960 年代の番組では「やさしい」
「まじめ」
「しっかりしている」女の子が登場
することが多いが、1990 年代の番組では、「気が強い」
「明るい」「元気」な性格の女の子
が登場してくることを明らかにしている。また、女性の行動特性については、主人公の男
の子を陰で助けたりかばったりするもの(例「キテレツ大百科」の「みよ子」)が多く、魔
法の使える主人公の女の子についても男の子を陰で助けたりかばったりしていたことを明
らかにしている(例「魔法使いサリー」の「サリー」
)。1980 年代および 1990 年代の番組
では、自ら闘う女の子が(例「セーラームーン SS」の「うさぎ」)、または男の子より強
い女の子(例「うる星やつら」の「ラム」)が登場しており、彼女たちは、力は男の子より
も強い一方、好きな男の子のために何かをしてあげるなど、彼の前では「かわいい」女の
子でいることや、そうありたいと考えていることなどを明らかにしている。斎藤(1998)
は、男装して戦うヒロインが主役の「リボンの騎士」(1960~68)をはじめ、鉄腕アトム
のようなアンドロイドの女性が主役の「キューティーハニー」
(1973~74)、90 年代の「セ
ーラームーン」など戦う強い女性が活躍するアニメ・番組があらわれたことについて注目
している。それぞれにおいて、男装して戦う女性、アンドロイドで強力な体を持つ女性、
武器として魔法が使える女性など、戦う女性には何らかの仕掛けがされていることについ
て指摘している。このように、一見、女性が活躍的に描かれているように見えるアニメ・
番組からは、魔法や強力な体を備えていなければ女性は戦うことができない、また何かの
強みがなければ本来女性は無力であると表現されているようかのようにも思われる。
最後に「絵本」についてである。伊藤(2000)によれば、藤枝が日本と世界の絵本をそ
れぞれ 100 選ずつ調べた結果、主人公の過半数が男子であることを明らかにしている。ま
た、伊藤(2000)によれば、武内は子どもが好んで見る絵本(また、テレビ・アニメ番組
においても)における主人公は 80%が男の子であることを報告している。また、絵本の主
人公において、女性は静的で、特に個性のないロボットのように描かれていることが多い
のに対し、男性は個性的、活動的に描かれていることが多いことも明らかにしている。斎
藤(1998)は、男の子の主人公は、桃太郎や一寸法師などに見られるように、敵と戦い
-4-
平和をもたらす正義の味方のヒーローとして描かれることが多い一方、女の子の主人公は、
最終的には王子様と結婚するお姫様で描かれているものが多いことを指摘している。女性
が主人公の絵本は、洋ものでは、グリム童話のシンデレラ、白雪姫などやアンデルセン童
話の親指姫や人魚姫などがあり、日本の昔話では、かぐや姫、鉢かつぎ姫などが挙げられ
る。斎藤(1998)は、洋ものの姫が優勢な要因として、ディズニー映画と絵本の影響が挙
げられるといっている。若桑(2003)によれば、シンデレラ物語とは、女性が自分で幸福
をつかみ取る努力を全くしなくても人の言いつけをきいて「すなおに」さえしていれば(そ
してキレイであれば)、誰かが、例えば白馬に乗った王子様が幸せをもたらしてくれる、と
いう物語であることを指摘している。また、こうした物語のパターンは女の子向けの童話
には共通する構造であることも指摘している。さらに、女の子向けの物語は、男の子向け
のおとぎ話にある桃太郎のように、自分で何らかの行動を起こし苦難を乗り越えて成功す
るような物語であるのとは対照的であることも指摘している。
以上のマスメディアにおける女性像に関する先行研究について、中心的な人物数、登場
人物数、役割、性格・行動パターンに注目し、要約すると以下のようになる。
第 1 に、マスメディアに登場する中心的な人物(ニュースにおいては、ニュースの登場
人物。テレビ・アニメ番組や絵本などにおいては主人公にあたる人物)については、女性
より男性が圧倒的に中心的な人物になることが多く、女性が中心的な人物になる率が低い
ことが明らかにされてきた。
第 2 に、マスメディアにおける登場人物については、女性より男性のほうが多く登場し、
女性の描写は男性より少ない傾向があることが明らかにされてきた(テレビ、テレビ・ア
ニメ番組)。
第 3 に、マスメディアにおける女性の役割については、有識者より従属者であることが
多く、社会的地位が低く描かれる傾向が多いことが明らかにされてきた。また、家庭の外
より中で主婦・母親の役割として描かれる傾向が多いことも明らかにされてきた(テレビ・
コマーシャル、テレビ・アニメ番組)。
第 4 に、マスメディアにおける女性の性格・行動パターンについては、おとなしい、従
順、気が強い、明るいなどさまざまな性格で描かれる一方、相手をリードしていくような
積極的な行動での描写は少なく、受動的な性格・行動パターンでの描写が多い傾向にある
ことが明らかにされてきた。(アニメ・番組、絵本)。
-5-
以上の先行研究の結果から、マスメディアにおける女性(また男性)の描かれ方は、
時代を経て変化があったものと変化がなかったものの両方がみられる。前者については、
Bretl and Cantor(1988)(藤田(1996)の紹介より)が、最近では男性が家事を担当し
たり職業を持つ女性が登場する場面がみられることを指摘している。
また後者については、
Allen et al(1993)(藤田(1996)の紹介より)が、行動のパターンに関しては時代を通
じてそれほど大きな変化はないことを指摘している。
これまでマスメディアは、王子様とハッピーエンドになる物語や、家庭や恋愛を中心と
する物語などで女性を受動的で従順に描く傾向があり、男性に主人公や指導的な役割を多
く与えてきた。また主導権を握り能動的に生きる女性の姿は、あまり描かれてこなかった。
そこで、多くの女性が活躍する点が特徴的な宮崎作品においては、これまでマスメディ
アが描いてきた女性の生き方とは異なるのではないかと思われ、宮崎作品における女性像
を調べることにした。
1-2
本論文の目的と仮説
本論文では、以下に示した 4 つの仮説の検証を通して、宮崎作品における女性像を明ら
かにすることを目的とする。
宮崎作品に登場する女性は、先行研究の結果とは対照的に、従順で受動的な女性という
ような性別による固定的な描写は少ないと予測され、以下のような 4 つの仮説を立てた。
仮説 1.宮崎作品において主人公は、男性より女性が多い。
仮説 2.宮崎作品において主要な登場人物は、男性より女性が多い。
仮説 3.宮崎作品においてリーダーは、男性より女性が多い。
仮説 4.女性のリーダーはディズニー作品より宮崎作品のほうが多い。
-6-
第2章
方法
本研究では、宮崎作品における女性像の分析を行うにあたり、
「テレビ・コマーシャルに
おける性ステレオタイプ的描写の内容分析研究」(坂元・鬼頭・高比良・足立,2003)と
「テレビ・アニメ番組に描かれた女性像・男性像の分析」(藤田,1996)の方法を参考に
分析を行った。藤田(1996)によれば、これまでのマスメディアにおける内容分析でもっ
とも多く用いられてきた方法は、登場人物の男女比や職業、行動のパターンを計量的に分
析することであった。そこで、本分析では、先行研究の方法と同様に、主役や主要な登場
人物の男女別人数比較や、他作品との女性像の比較を試みた。
2‐1
対象
本分析の対象としたマスメディアは、宮崎駿監督の作品「風の谷のナウシカ」(1984)、
「天空の城ラピュタ」
(1986)、
「となりのトトロ」
(1988)、
「魔女の宅急便」
(1989)、
「紅
の豚」
(1992)、
「もののけ姫」
(1998)、
「千と千尋の神隠し」
(2001)のビデオと「ハウル
の動く城」(2004)の映画の 8 作品を選んだ。
仮説 4 の「女性のリーダー、ディズニー作品より宮崎作品のほうが多い」の比較のため
のマスメディアにおいては、ディズニー作品「白雪姫」(1937)、「シンデレラ」(1950)、
「美女と野獣」
(1991)、
「アラジン」
(1992)、
「ポカホンタス」
(1995)、
「ノートルダムの
「ムーラン」
(1998)、
「ターザン」
(1999)のビデオの 8 作品を選んだ。ディ
鐘」
(1996)、
ズニー作品の選び方については、宮崎映画の公開年に近い作品と代表的なディズニー作品
を組み合わせ、さらに女性が主人公の作品と男性が主人公の作品の数が宮崎作品と等しく
なるように選んだ。
本分析の対象として、宮崎作品とディズニー作品を選んだ理由においては以下の通りで
ある。前者については、多くの女性が活躍する点が特徴的だからである。後者については、
2002 年に「千と千尋の神隠し」でアカデミー賞を受賞し、世界的に認められた宮崎作品の
比較の対象として、長編アニメーション映画の歴史が長いディズニー作品がふさわしいと
考えた。また、両作品は、幼児期の子ども達(日本人)の発達に影響を与えている可能性
があるからである。NHK放送文化研究所世論調査(2002)によれば、両作品とも 2 歳か
ら 6 歳までの子どものお気に入りのビデオとして人気が高いことが明らかになっている
(表 2)。
-7-
(表 2)お気に入りのビデオ(自由記述をまとめたもの)
(
)は人数
男2歳
しまじろう(10)機関車トーマス(6)アンパンマン(5)おかあさんといっしょ・ドラえもん・ウルトラマン(4)
男3歳
しまじろう(24)
男4歳
男 5・6 歳
アンパンマン(16)
しまじろう(15)
機関車トーマス(14)
ウルトラマン(14)
機関車トーマス(13)
ウルトラマン(11)
ディズニー(8)
ディズニー(8)
ウルトラマン(19)となりのトトロ(10)ドラえもん(10)仮面ライダー(8)しまじろう(8)
女2歳
しまじろう(20)
アンパンマン(16)
おかあさんといっしょ・ディズニー・となりのトトロ(7)
女3歳
しまじろう(23)
アンパンマン(10)
とっとこハム太郎(10)
女4歳
しまじろう(14)
ディズニー(10)
女 5・6 歳
となりのトトロ(14)
ハム太郎(10)
ディズニー(11)
ディズニー(9)
ドラえもん(8)
となりのトトロ(6)
しまじろう(9)
アンパンマン(9)
ドラえもん(8)
(NHK放送文化研究所世論調査より)
2‐2
手続き(1)
まず、手続き(1)として、スタジオジブリ作品関連資料集やビデオなどから物語の特徴、
主要な登場人物、役柄、行動、せりふをもとに女性の特徴を書き出した。その記録をもと
に、手続き(2)として、量的分析と質的分析を行った。
記録は、それぞれ以下のように行った。
<物語>
「風の谷のナウシカ」
(1984)から「紅の豚」
(1992)までの作品は「スタジオジブリ作
品関連資料集Ⅰ~Ⅳ」
(スタジオジブリ責任編集,1996)を参考に記録した。
「もののけ姫」
(1997)は「宮崎駿の世界」
(切通,2001)を参考に記録した。
「千と千尋の神隠し」
(2001)
は「ロマンアルバム千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」(2004)は映画のパンフレッ
トを参考に記録した。
<主要な登場人物>
本分析で扱う主要な登場人物については、人間や擬人化されたキャラクターのすべての
中から、言葉を話す者のみ主要な登場人物として選んだ。
「風の谷のナウシカ」(1984)から「紅の豚」(1992)までの作品については、「スタジ
オジブリ作品関連資料集Ⅰ~Ⅳ」に載せてあるパンフレットとプレス・シート(マスコミ
向けに配布される資料で映画の内容や見所が書かれている)に紹介されているキャラクタ
ーを主要な登場人物として記録した。
「もののけ姫」
(1997)と「千と千尋の神隠し」
(2001)
については、
(スタジオジブリ作品関連資料集というものがないため)ビデオより、映画の
エンディングの「声の出演」に紹介されているキャラクターを主要な登場人物として記録
-8-
した。
「ハウルの動く城」
(2004)については、映画のパンフレットの「声の出演」に紹介
されている者を主要な登場人物として記録した。
さらに、主要な登場人物の中で言葉を話す者のみ対象とするため、言葉を話さない登場
人物をビデオや映画で確認し、記録から取り除いた。
<主人公>
「風の谷のナウシカ」
(1984)から「紅の豚」
(1992)までの作品は「スタジオジブリ作
品関連資料集」に載せてあるパンフレットとプレス・シートより主人公と役柄を確認し、
記録した。
「もののけ姫」
(1997)は「宮崎駿の世界」
、
「千と千尋の神隠し」
(2001)は「ロ
マンアルバム千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」(2004)は映画のパンフレットより
主人公と役柄を確認し、記録した。
<行動とせりふ>
主にリーダーシップをとって行動している女性に注目し、その人物の行動とせりふを記
録した。本分析におけるリーダーシップの概念は「行く先や行動などの判断または決断を
する指導的な役割で描かれている者」とした。2 人以上(フォロワーは主要な登場人物以
外でもよいこととした)で行動する場面において、主要な登場人物が物語のなかで 1 回以
上でも相手をリードしている描写があれば、リーダーシップのある人物と判断した。
<ディズニー作品>
ディズニー8 作品のビデオから、リーダーシップのある登場人物を探し出し、記録した。
質的分析において「風の谷のナウシカ」との比較のための「白雪姫」においては、ビデオ
より物語の特徴、役柄の特徴、行動特性などを記録した。
2-3
手続き(2)
2-2 で行った記録をもとに、量的分析と質的分析を行った。
はじめに、量的分析を行った。手続きとして、宮崎作品8作品における主人公、主要な
登場人物、リーダーそれぞれについて男女別人数を比較した。
つづいて、リーダーシップをとって行動する女性はどれくらい登場しているかを調べた。
そこで、宮崎作品との比較のために
(もし宮崎作品における女性のリーダー数が多ければ、
他の映画においても女性のリーダーは多いといえるかを調べるために)、ディズニー作品の
8作品において女性のリーダー数を調べた。以下に示したとおり、仮説ごとに比較を行っ
た。
-9-
仮説 1 では、8 作品それぞれにおける主役(8 人)を男女別人数で比較した。
仮説 2 では、宮崎作品における主要な登場人物を、男女別人数で比較した。
仮説 3 では、宮崎作品におけるリーダー数を男女別に比較した。
仮説 4 では、宮崎作品とディズニー作品の女性のリーダー数を比較した。
次に、質的分析を行った。手続きとして、第 1 に、宮崎作品における女性の役柄の特徴
と行動特性に注目し、その傾向を書き出した。第 2 に、宮崎作品「風の谷のナウシカ」と
ディズニー作品「白雪姫」におけるヒロインの比較を行った。
以上の分析から宮崎作品における女性像を考察した。
- 10 -
第3章
3‐1
結果
宮崎作品における男女の主人公数比較
宮崎作品の 8 作品において、女性の主人公と男性の主人公はどのくらい登場しているか
数えた結果、女性が主人公の作品は 5 作品、男性が主人公の作品は 3 作品で、男性より女
性が主人公の作品のほうが多かった(表 3)。このことから「主人公は男性より女性が多い」
という仮説 1 については、宮崎作品において主人公は男性より女性が多い傾向にあること
が確認された。以下に、各作品における主人公について示した。
女性が主人公の作品は、「風の谷のナウシカ(ナウシカ)」「となりのトトロ(サツキ)」
「魔女の宅急便(キキ)
」「千と千尋の神隠し(千尋)
」「ハウルの動く城(ソフィー)」で、
宮崎作品における主人公 8 人中、5 人が女性の主人公であった。
男性が主人公の作品は、
「天空の城ラピュタ(パズー)
」
「紅の豚(ポルコ・ロッソ)」
「も
ののけ姫(アシタカ)」で、宮崎作品における主人公 8 人中、3 人が男性の主人公であった。
(表3)宮崎作品における男女別主人公数
6
(
人5
数4
男性
女性
)
作3
品
数2
1
0
男性
女性
(表 4)男女別主人公数
た場合の男女 4 人ずつ(8 人いる主人公を平等に 2 つに分け
計
かどうかについて調べるために、男女の主人公数が等しかっ
等しい場合
数えた結果
この結果において、主人公における男女の比率に差がある
た)と比較をする形でχ2検定を行った(表 4)。その結果、
男
3
4
7
以下の表 4 のようになり、χ2(1)=0(p>.05)で有意で
女
5
4
9
はなかった。このことから、「宮崎作品において主人公は男
計
8
8
16
性より女性が多い」という仮説1は成り立たなかった。
(χ2=0,p>.05 有意でない)
- 11 -
3-2
宮崎作品における男女の主要な登場人物数比較
宮崎作品に登場する主要な登場人物において、女性と男性はどのくらい登場しているか
数えた結果、8 作品における主要な登場人物は、男性が 52 人(58%)、女性が 37 人(42%)
であった。おおよそ 6 対 4 で、男性より女性のほうが少なかった(表 5)。
(表5)宮崎作品における男女別主要な登場人物数
60
50
40
男性
女性
人
30
数
20
10
0
男性
女性
この結果において、主要な登場人物における男女の比率に差があるかどうかについて調
べるために、男女の主要な登場人物数が等しかった場合の男女 44.5 人ずつ(89 人いる登
場人物を平等に 2 つに分けた)と比較をする形でχ2検定を行った(表 6)。その結果、以
「主要な登場人物
下の表 6 のようになり、χ2(1)=1.276(p>.05)で有意でなかった。
は男性より女性が多い」という仮説2については、主要な
(表 6)男女別主要な登場人物数
計
において主要な登場人物は男女の人数において差がないこと
男
52
44.5
96.5
が明らかになった。
女
37
44.5
81.5
計
89
89
178
数えた結果
等しい場合
登場人物が男性より女性のほうが少ないことがわかり、宮崎
作品において主要な登場人物は女性より男性が多く登場する
傾向にあることがわかった。しかし、検定により、宮崎作品
また、各作品において、男女の主要な登場人物数は、以下
のようになった。
(χ2=1.276,p>.05 有意でない)
- 12 -
「風の谷のナウシカ」については、女性が 5 人(ナウシカ、大ババ、トエト、ラステル、
クシャナ)、男性が 9 人(ジル、ユパ、アスベル、ミト、ゴル、ギックリ、ニガ、ナムズ、
クロトワ)で、男性より女性のほうが少なかった。
「天空の城ラピュタ」については、女性が 4 人(シータ、ドーラ、おかみ、マッジ)、
男性が 9 人(パズー、ムスカ、ポムじい、将軍、親方、シャルル、ルイ、アンリ、老技師)
で、男性より女性が少なかった。
「となりのトトロ」については、女性が 7 人(サツキ、メイ、かあさん、ばあちゃん、
カンタの母、先生)、男性が 4 人(とうさん、カンタの父、カンタ、草刈り男)で、男性
より女性が多かった。
「魔女の宅急便」については、女性が 6 人(キキ、コキリ、おソノ、老婦人、バーサ、
ウルスラ)、男性が 4 人(トンボ、オキノ、ジジ、パン屋の亭主)で、男性より女性が多
かった。
「紅の豚」については、女性が 3 人(マダム・ジーナ、フィオ・ピッコロ、バアちゃん)、
男性が 4 人(ポルコ・ロッソ、ピッコロおやじ、マンマユート・ボス、ミスター・カーチ
ス)で、男性より女性が少なかった。
「もののけ姫」については、女性が 5 人(サン、エボシ御前、トキ、モロの君、ヒイ様)、
男性が 7 人(アシタカ、ジコ坊、甲六、ゴンザ、山犬、牛飼い、乙事主)で、男性より女
性が少なかった。
「千と千尋の神隠し」については、女性が 5 人(千尋、湯婆婆、銭婆、母、リン)、男
性が 9 人(ハク、父、青蛙、坊、番台蛙、父役、兄役、釜爺、カオナシ)で、男性より女
性が少なかった。
「ハウルの動く城」については、女性が 3 人(ソフィー、荒地の魔女、サリマン)、男
性が 6 人(ハウル、マルクル、カルシファー、かかしのカブ、国王、小姓)で、男性より
女性が少なかった。
以上の結果より、主要な登場人物が男性より女性のほうが多く登場している作品は「魔
女の宅急便」と「となりのトトロ」の 2 作品しかなかった。
- 13 -
3‐3
宮崎作品における男女のリーダー数比較
宮崎作品において、リーダーは女性と男性でどのくらい登場しているかを数えた結果、
女性が 30 人、男性が 23 人であった(表 7)。女性については女性の登場人物数の約 81%
がリーダーであり、男性については男性の登場人物数の約 44%がリーダーであった。また、
リーダーシップをとって行動している男女の合計人数(53 人)からみると、約 57%が女
性のリーダーであり、約 43%が男性のリーダーであった。このことから、宮崎作品におい
て、リーダーシップで行動する登場人物は男性より女性のほうが多い傾向にあることが明
らかになった。
(表7)宮崎作品における男女別リーダー数
35
30
25
人 20
数 15
男性
女性
10
5
0
男性
女性
この結果において、宮崎作品における男女のリーダー数に差があるかどうかについて調
べるために、男女のリーダー数が等しかった場合の男女
(表 8)宮崎作品の男女別リーダー数
計
このことから「宮崎作品においてリーダーは男性より女性が
男
23
26.5
49.5
多い」という仮説 3 は成り立たなかった。
女
30
26.5
49.5
計
53
53
106
数えた結果
等しい場合
26.5 人ずつ(53 人いるリーダー数を 2 つに分けた)と比較
する形でχ2検定を行った(表 8)。その結果、表 8 のように
なりχ2(1)=0.462(p>.05)で有意でなかった(表 8)。
また、各作品において、男女のリーダー数は以下のように
なった。
(χ2=0.462,p>.05 有意でない)
- 14 -
宮崎作品における女性のリーダーは、
「風の谷のナウシカ」はナウシカ、大ババ、クシャ
ナの 3 人。
「天空の城ラピュタ」はシータ、ドーラ、おかみの 3 人。
「となりのトトロ」は
サツキ、かあさん、カンタの母、先生、ばあちゃんの 5 人。「魔女の宅急便」はキキ、コ
キリ、おソノ、老婦人、ウルスラの 5 人。
「紅の豚」はフィオ・ピッコロの 1 人。
「ものの
け姫」はサン、エボシ御前、トキ、モロの君、ヒイ様の 5 人。「千と千尋の神隠し」は千
尋、湯婆婆、銭婆、母、リンの 5 人。「ハウルの動く城」はソフィー、荒地の魔女、サリ
マンの 3 人であった。
宮崎作品における男性のリーダーは、
「風の谷のナウシカ」はジル、ユパ、クロトワの 3
人。
「天空の城ラピュタ」はパズー、ムスカ、将軍、親方、老技師の 5 人。
「となりのトト
ロ」はとうさん、カンタの 2 人。「魔女の宅急便」はトンボの 1 人。「紅の豚」はポルコ・
ロッソ、マンマユート・ボス、ピッコロおやじの 3 人。「もののけ姫」はアシタカ、ゴン
ザ、乙事主の 3 人。
「千と千尋の神隠し」はハク、父、父役、兄役、釜爺の 5 人。
「ハウル
の動く城」はハウルの 1 人であった。
3‐4
宮崎作品とディズニー作品における女性のリーダー数比較
3‐3 より、宮崎作品においてリーダーは、男性より女性のほうが多いことが明らかにな
った。そこで、他の映画においても、リーダーは男性より女性のほうが多いといえるかど
うかを調べるために、ディズニー8 作品との比較を行った(表 9)。
(表9)宮崎作品とディズニー作品における男女別リーダー数
35
30
25
人 20
数 15
男性
女性
10
5
0
宮崎作品
ディズニー作品
- 15 -
宮崎作品とディズニー作品の 8 作品ずつについて女性のリーダーを比較した結果、表 10
のようになり、宮崎作品における女性のリーダーは 30 人(約 57%)、ディズニー作品にお
ける女性のリーダーは 16 人(約 33%)で、ディズニー作品より宮崎作品のほうが女性の
リーダーが多かった(表 10)。表 10 について、χ2検定を行った結果、χ2(1)=5.71(p
<.05)で有意であった。よって、
「女性のリーダーはディズニー作品より、宮崎作品のほ
うが多い」という仮説 4 は成り立った。
また、ディズニー作品において、男女のリーダー数は以下のようになった。
ディズニー作品における女性のリーダーシップは、
「白雪姫」は白雪姫、継母の 2 人。
「シ
ンデレラ」はアナスタシア、ドリゼラ、継母の 3 人。「美女と野獣」はベル、ポットのお
母さんの 2 人。
「アラジン」は 0 人。
「ポカホンタス」はポカホンタス、柳の木のおばあち
ゃんの 2 人。
「ノートルダムの鐘」はエスメラルダの 1 人。
「ムーラン」はムーラン、祖母、
しつけの先生の 3 人。「ターザン」はカーラ、ターク、ジェーンの 3 人であった。
また、ディズニー作品における男性のリーダーは、
「白雪姫」は王子様、白雪姫を逃がし
た兵士、先生という名前の小人の 3 人。「シンデレラ」は王子様、国王陛下、ねずみの
3 人。「美女と野獣」は王子様、ガストン、時計の男、ろうそくの男の 4 人。「アラジン」
は王様、アラジン、ジャファー、ジーニーの 4 人。「ポカホンタス」は父、ココアム、ジ
ョン、総督の4人。
「ノートルダムの鐘」はフロロー、フィーバス、カジモドの 3 人。
「ム
ーラン」はシャン、シャンの父、皇帝陛下、ご先祖様、小さな赤い竜、シャンスー、ムー
ランの父の 7 人。「ターザン」はターザン、クレイトン、カーチャック、ポーター教授、
船長の 5 人であった。
ディズニー作品におけるリーダーは女性 16 人(33%)、男性 33 人(67%)で、女性よ
り男性のほうがリーダーシップをとって行動していることが
(表 10)男女別リーダー数
とって活躍していることが証明された。
男
23
33
56
女
30
16
46
計
53
49
102
(χ2=5.71,p<.05
- 16 -
計
較からは、宮崎作品において多くの女性がリーダーシップを
ディズニー
宮崎作品
多かった。ディズニー作品における女性のリーダー数との比
有意)
3‐5
宮崎作品における女性像
宮崎作品に登場する女性は、どのような特徴を持っているか、役柄の特徴、行動特性に
注目し、その傾向を述べた(1)。つづいて、
「風の谷のナウシカ」のヒロイン「ナウシカ」
と「白雪姫(邦題)」のヒロイン「白雪姫」の女性像を比較した(2)。両作品それぞれに
おいて女性の描かれ方に一定のパターンがみられ、それぞれ女性の生き方が異なっていた。
(1)宮崎作品に登場する女性
主人公や準主役の役柄については、お姫様、普通の女の子、おばあちゃん、魔女、もの
のけ姫など多様であった。お姫様はナウシカとシータ(2 人)、一般家庭に育った普通の女
の子はサツキ、フィオ、千尋、ソフィー、キキ(5 人)、もののけ姫は山犬に育てられた(も
ののけ姫と呼ばれる)サン(1 人)であった。なお、おばあちゃんのヒロインについては
「ハウルの動く城」の主人公ソフィーは魔女に呪いをかけられおばあちゃんとして生きる
ことになるが、もともとは下町にある父の帽子屋を継ぐ 18 歳の普通の女の子である。ま
た、魔女のヒロインについても「魔女の宅急便」の主人公キキは魔女の母と民俗学者の父
のもとで育った普通の女の子である。以上から、宮崎作品における主人公や準主役は、普
通の女の子として描かれることが多い傾向にあった。
主要な脇役の役柄については、お姫様、母親、経営者、魔女などでリーダー的に活躍す
る女性として描かれる傾向があった。例としては、
「風の谷のナウシカ」の敵・トルメキア
軍のお姫様であるクシャナは、よろいかぶとに身をかため、侵略戦争の先頭に立って参謀
や軍を従え、自らも銃を持つリーダーであった。
「天空の城ラピュタ」の 3 人息子の母親・
ドーラが飛行石を持つシータを追いかける場面では、ドーラ率いる息子や空中海賊達(皆
男性)の誰よりもすばやく動き、行動的であった。また、主人公パズーが軍にとらわれた
シータを炎に囲まれた塔から救出する場面では、パズーを自分(ドーラ)のフラップター
(乗り物)に乗せて「(救出の)最後のチャンスだ!すり抜けながらかっさらえー!」と操
縦を援護するドーラは、明らかにパズーをリードしていた。経営者としてリーダーシップ
をとっていた女性は、タタラバを営むエボシ御前(もののけ姫)と油屋を営む湯婆婆(千
と千尋の神隠し)が挙げられる。魔女については、ソフィーを 90 歳にする荒地の魔女と
王室付き魔法使いのサリマン(ハウルの動く城)が挙げられる。以上に挙げた主要な脇役
は、リーダーシップをとって行動することが多い上に、物語の中で必ず一度は主役や準主
役と敵対関係になることが多かった。また、そのような脇役の女性は、主人公や準主役と
同じくらい活躍的に描かれる傾向にあった。
- 17 -
役柄の特徴として、さまざまな年齢の女性が描かれていた。4 歳から 100 歳までの女性
が登場し、描かれる女性の年齢層が幅広かった。主な登場人物の年齢においては、メイ(4
歳)、千尋(10 歳)、サツキ(11 歳)、シータ(12~13 歳)、キキ(13 歳)、ナウシカ(16
歳)、フィオ(17 歳)、ソフィー(18 歳)、クシャナ(25 歳)、ドーラ(50 歳)、ソフィー
おばあちゃん(90 歳)、大ババ(100 歳)であった。なお、人間の登場人物では最高 100
歳の女性が登場していたが、人間以外の登場人物では「もののけ姫」のサンの母親(山犬)
が 300 歳で登場しており最年長であった。
行動については、リーダーシップをとって行動する女性が多くみられた。量的分析より、
宮崎作品において女性の主要な登場人物中(37 人)、30 人の女性にリーダーシップを与え
ていたことが明らかになった。そこで、リーダーシップをとって活躍している女性を挙げ、
以下に述べていくことにする。まず、ナウシカやクシャナのように姫でありながら自国の
運命を背負って戦うリーダーや、エボシ御前や湯婆婆のように経営者として働くリーダー
などのように、地位が伴っているリーダーと、特別な地位を持たない普通の女の子のリー
ダーの 2 通りがみられた。また、物語全体を通してリーダーシップをとって行動していた
者と、物語の前半と後半のどちらか一方でリーダーシップをとって行動していた者の 3 つ
のパターンに分けられた。まず、物語を通してリーダーシップをとって行動していた者は、
以上で挙げた特別な地位を備えている 4 人(ナウシカ、クシャナ、エボシ御前、湯婆婆)
と、シータ、ドーラ(天空の城ラピュタ)、キキ(魔女の宅急便)、サツキ、ばあちゃん(と
なりのトトロ)、サン、トキ(もののけ姫)などである。次に、物語の前半でリーダーシッ
プをとって行動していた者は、おかみ(天空の城ラピュタ)、キキの母、おソノ(魔女の宅
急便)、フィオ(紅の豚)、サンの母、ヒイさま(もののけ姫)、千尋の母、リン(千と千尋
の神隠し)、荒地の魔女(ハウルの動く城)などである。物語の後半でリーダーシップをと
って行動していた者は、ウルスラ、老婦人、(魔女の宅急便)、千尋、銭婆、ソフィーなど
である。最後に、リーダーシップをとって行動していた描写が非常に少なかった者につい
ては、大ババ(風の谷のナウシカ)
、かあさん、カンタの母、先生(となりのトトロ)、サ
リマン(ハウルの動く城)などがいた。
物語の後半にリーダーシップを発揮していた者として例を挙げると、普通の女の子でリ
ーダーシップをとっていた「千と千尋の神隠し」の主人公千尋が挙げられる。物語の前半、
不思議の町に迷いこんだ少女・千尋は、豚にされた両親をたすけるために、また自分自身
がその世界で生きるために、そこで出会った少年・ハクの言うとおり湯婆婆のもとで働き
- 18 -
はじめる。弱虫で言われたとおりにしか動けなかった少女が、ハクや世話役のリンなどと
のかかわりや仕事を通して、次第に意志を持って行動するようになる。それは物語の後半
にみられ、ハクの命を助けるために千尋は帰りの電車がないことを覚悟で、坊ねずみとハ
エにされた湯バードとカオナシを率いて銭婆(湯婆婆の姉)の家を訪ねに行った。前半で
はハクが千尋を助けリードしていたが、後半にハクを助けるためにカオナシたちを率いて
リーダーシップをとって電車で銭婆を訪ねに行く場面においては、たくましく成長した千
尋の積極的な行動がみられた。
さらに、行動に関して、ヒロインが男性や仲間を助ける描写が多くみられた。男性を助
けるヒロインについて例を挙げると
(括弧は助けられる男性である)
、ナウシカ(アスベル)、
シータ(パズー)
、サツキ(父さん)
、キキ(トンボ)、フィオ(ポルコ)
、サン(アシタカ)、
千尋(ハク)
、ソフィー(ハウル)の 8 作品のすべてのヒロインにおいて男性をたすける
描写がみられた。しっかりしていない父親のめんどうをみるサツキ以外は、主役と準主役
の組み合わせであった。
女性が男性を助ける行動の例として、
「ハウルの動く城」が挙げられる。主人公ソフィー
が妹に会いに行く途中、2 人の男にナンパされたところを美青年・ハウルに助けられるが、
荒地の魔女に 90 歳のおばあちゃんに変えられてからは、逆にハウルを助ける描写が多く
みられた。物語の前半では、18 歳のソフィーが「美人じゃないから」をよく口にし、自分
に自信がなく地味な色の服ばかりを身につけ、妹から「自分のことはちゃんと自分で決め
なきゃダメよ」と言われているような女の子であった。長女だからという理由で亡き父親
の帽子屋を継いで真面目に働いていたソフィーは一体自分が何をしたいのかわからず、自
発的に何か行動を起こす様子もなかった。しかし、90 歳のおばあちゃんとなった途端に「年
寄りって大変ねぇ」と体の重さに苦労しながらも、年寄りになった自分をすんなりと受け
入れ、以前より元気になって能動的に生きるようになった。自らを掃除婦と名乗りハウル
の城に住み始めてからは、自分が中心となって掃除、洗濯、料理、買い物などを行い、生
き生きと暮らすようになり、さまざまな場面でハウルを助けていく。まず、ハウルが上手
に髪の毛を染められなくて「美しくなかったら生きていても仕方がない」と言って癇癪を
起こす場面では、闇の精霊を呼び出して体が動かなくなってしまった彼をソフィーが介抱
し、助ける。また、師匠のサリマンのところへ怖くて行けないと言うハウルに代わって、
ソフィーはハウルの母親になりすましてサリマンに会いに出かけるなど、弱虫で意気地の
ないハウルを助けていた。物語の後半では、ソフィーや仲間を守るために戦争を食い止め
- 19 -
に出かけたハウルを助けるために、ソフィーがカルシファー、マルクル、荒地の魔女、ヒ
ンを率いてハウルを探しに出かける。心を失って鳥の姿に変えられてしまったハウルを見
つけ、ソフィーの手でハウルに心臓が返され無事に心を取り戻すことができたハウルと、
行動を共にした仲間と幸せに暮らしている場面で映画は終わる。ハウルを助けたいという
ソフィーの願いは、ソフィー自身の意志と行動力で叶えられ、男性を助ける女性の強く頼
もしい生き方がみられた。
(2)「ナウシカ」と「白雪姫」におけるヒロインの比較
宮崎駿監督作品、映画版「風の谷のナウシカ」(1984)とウォルト・ディズニー映像化
作品「白雪姫」(1937)には、いくつかの共通点がある。両作品とも、それぞれの監督の
長編アニメーション映画第 1 作品目(「白雪姫」は世界初)であること、またヒロインの
役柄が共にお姫様であることが挙げられる。ここでは、宮崎作品における女性像を探るに
あたり、ディズニーの代表的な作品「白雪姫」との比較を行った。
まず、「風の谷のナウシカ」と「白雪姫」の物語の内容について以下に示し、つづいて、
比較した結果を述べた。
「風の谷のナウシカ」
火の 7 日間と呼ばれる戦争によって巨大産業文明が崩壊してから 1000 年後の世界を描
いている。有毒を振りまく「腐海」の近くに、海から吹く風のせいでかろうじて瘴気から
守られている「風の谷」があった。その族長の娘・ナウシカが主人公である。ナウシカは
腐海に住む蟲たちと心を交わせる不思議な力を持ち、村の人々から慕われていた。ある日、
旧世界を滅ぼした最終兵器・巨神兵を甦らせ、それを使って世界を征服しようとする軍事
国家トルメキアが風の谷を占領する。巨神兵が兵器として使われることを阻止しようとす
るペジテ軍が、王蟲の群れを誘導して風の谷を襲わせトルメキア軍を倒そうとしていた。
風の谷を救うために、それを自分 1 人で阻止しようとするナウシカの活躍が描かれた作品。
「白雪姫」
白雪姫というとても美しい少女がいた。彼女の継母は、自分が世界で一番美しいと信じ
ていた。ある日、彼女の持つ魔法の鏡に「世界で一番美しい女性は」と聞くと、白雪姫だ
という答えが返ってきた。継母は怒りのあまり、猟師に白雪姫を森に連れて行って殺し、
殺した証拠に白雪姫の内臓を箱に入れて持ってくるように命じる。白雪姫を不憫に思った
- 20 -
猟師は白雪姫を森へ逃がす。白雪姫は森へ迷い込むが、まもなく小屋を見つけ、先生、照
れすけ、ねぼすけ、くしゃみさん、ごきげん、ダンマリ、おこりんぼの 7 人の小人達とし
ばらく楽しく暮らしていた。継母がまた「世界で一番美しいのは」と聞いたことにより白
雪姫がまだ生きていることがわかってしまう。継母は白雪姫を殺そうと毒リンゴを作り、
リンゴ売りの老婆に化けて白雪姫に食べさせた。白雪姫はリンゴを食べて倒れ、小人はガ
ラスと金でできた棺に白雪姫をおさめ見守っていた。まもなく白馬に乗った王子様がやっ
てきて白雪姫にキスをし、白雪姫は目を覚まし王子様と幸せに暮らしましたで物語が終わ
る。原作のグリム童話をディズニー版に夢のある感動的な物語にリメイクした作品で、
「白
雪姫と 7 人の小人」という題名がつけられている(有馬,2003)。
「ナウシカ」と「白雪姫」の女性像を比較した結果、以下のようになった。
まず、両作品について、ヒロインにおける「お姫様」という役柄に注目する。小谷(1997)
によると、
「お姫様」は、姫という職業そのものが退屈なもので、多くの童話で姫の役割は
昏々と眠り続けたり毒リンゴを食べたり王子様を待ったり、育ちのよさから人を疑うこと
をしないという少し、無神経で愚鈍なものであった。また、これは姫の退屈な日常が醸成
した原罪であると推測している。
ここで、まず「ナウシカ」においては、防毒マスクを被り、メーヴェと呼ばれるグライ
ダー状の乗り物で空を飛び、飛行機を操縦するなど運動神経が抜群のお姫様であった。敵
の軍隊トルメキアが風の谷に侵攻し、ナウシカの父ジル(族長)が殺されたことを知った
途端、感情的になり「おのれー!」と言って剣を振り回し敵の兵士を次々と倒していく場
面では、お姫様であることを忘れてしまうくらい男性的に描かれていた。このような活発
に動き回る描写の他においても、能動的に行動する姿がみられた。まず、毒を放つ腐海の
森の調査に出かけ、その生態系を観察したり、地下で腐海の研究を行うなど熱心に勉強を
している姿もみられた。蟲に襲われている少年アスベルを助けたり、村人や蟲達を守るた
めに自ら体を張って王蟲の子どもを王蟲の群れに返しに行くなど、これまで描かれてきた
お姫様の受身的な生き方とは異なり、積極的な生き方をしているお姫様であった。
「ナウシ
カ」においては、自らの意志と判断で行動する女性の積極的な生き方がみられた。
つづいて、
「白雪姫」についてである。物語の前半、継母に白雪姫を殺すように命令され
た猟師が、白雪姫を不憫に思って森へ逃し、生き延びることができている。森へ迷い込ん
だ白雪姫をかわいらしい動物達が小人の家へ導くかのように森を案内し、出会った小人達
の小屋に泊めてもらうことになる。しばらく小人たちと楽しい生活を送り、最後に王子様
- 21 -
が迎えに来てくれる。以上より、白雪姫は、猟師、動物、小人、王子様などさまざまな人
(または動物)に助けられており、受身的な姿勢で行動していることが多かった。一方、
白雪姫が能動的に行動している場面においては、白雪姫が迷い込んだ森で見つけた小屋に
泊めてもらうために小屋の掃除をする場面が挙げられる。しかし、ナウシカのように誰か
を守ろうとするために積極的に行動していたのとは異なり、自分が小屋に泊めてもらうた
めに能動的に掃除を行っていた。また、その時も動物達が白雪姫の掃除の手助けをしてい
た。この後、無事に小屋に泊めてもらえた白雪姫は、手を洗ったことのない小人たちに手
を洗わせたり、寝る時間になったら寝るように指示するなど小人の家ではリーダー的に働
く様子もみられた。このことより、白雪姫が能動的に行動する場面も多少みられたが、誰
かに助けられ依存している姿のほうが多くみられた。また、王子様が自分を迎えにきてお
城に連れて行ってもらうことを願っている場面がみられた。「いつか王子様が迎えに来る
わ」
「私を見つけてお城に連れてって」など願いを歌い、恋の話を小人達に聞かせる場面が
しばしばみられた。
「白雪姫」においては、明らかに助けられる側でいるほうが多く、王子
様が迎えに来るのを待っているような女性の受動的な生き方がみられた。
- 22 -
第4章
考察
本分析の結果の要約は、以下のとおりである。
(1) 宮崎作品における主人公の男女別人数については、χ2検定より有意な差はみられな
かったが、主人公は男性より女性が多い傾向にあった。(仮説 1)
(2) 宮崎作品における主要な登場人物の男女別人数については、χ2検定より有意な差は
みられなかったが、登場人物は男性より女性が少ない傾向にあった。
(仮説 2)
(3) 宮崎作品における男女別リーダー数については、χ2検定より有意な差はみられなか
ったが、男性より女性が多い傾向にあった。(仮説 3)
(4) 宮崎作品とディズニー作品の 8 作品ずつについて女性のリーダー数を比較した結果、
χ2検定より有意な差がみられ、女性のリーダーは、ディズニー作品より宮崎作品の
ほうが多いことが証明された。(仮説 4)
量的分析からは、宮崎作品において、リーダーシップをとって行動する女性が多いこと
が明らかになった。また質的分析からは、第 1 として宮崎作品において、女性は登場人物
の役柄、年齢、生き方が多様に描かれていることが明らかになった。第 2 として「ナウシ
カ」と「白雪姫」のヒロインの比較を行った結果、女性の生き方に違いがみられた。
「ナウ
シカ」については、女性の積極的な生き方がみられ、
「白雪姫」については、女性の受動的
な生き方がみられた。以上の分析結果より、宮崎作品は映画を通して女性の積極的な生き
方を発信していることが証明された。
上記の結果を踏まえ、先行研究結果と比較しながら考察していくことにする。
4-1
量的分析結果の考察
まず、宮崎作品の主人公における男女別人数の比較については、先行研究結果とは異な
り、主人公は男性より女性が多く登場していた。子ども向けのアニメ番組や絵本などでは、
女性より男性が主人公である作品が圧倒的に多いのに対し、宮崎作品においては男性が主
人公(3 作品)の作品より女性が主人公の(5 作品)の作品のほうが多く、男性より女性
が中心的に描かれる傾向にあることが考えられる。このことから、宮崎作品において主人
公は、女性より男性の主人公が多く登場するような性別によるステレオタイプに沿って描
かれていないと予測される。仮説 1 において、主人公は男性より女性のほうが多い傾向に
あることにより、男性と同等かそれ以上に活躍する女性が登場する特徴がみいだされたと
考える。
- 23 -
宮崎作品の主要な登場人物における男女別人数の比較については、先行研究と同じよう
な傾向がみられ、主要な登場人物は男性(52 人)より女性(37 人)のほうが少なかった。
仮説 2 において、宮崎作品における主要な登場人物は男性より女性のほうが多いという予
測とは逆の結果があらわれたが、χ2検定により有意な差がないことが確認された。このこ
とから、宮崎作品における主要な登場人物は、女性より男性のほうが多く登場する傾向に
あるとは言い切れない。女性より男性が多く登場している結果については、性別によるス
テレオタイプに沿って描かれた先行研究の結果と対応している。しかし、質的分析の結果
より、宮崎作品において女性はさまざまな役柄と幅広い年齢層で描かれる傾向があったこ
とから、宮崎作品における女性は男性より活躍的に描かれる傾向があると考えられる。一
見、男性より女性のほうが量的に少なく男性のほうが中心的に描かれる傾向が強いと考え
られるが、質的分析結果において男性より女性のほうが活躍的に描かれる傾向にあること
から、宮崎作品における主要な登場人物は性別によるステレオタイプに沿って描かれてい
るとは言い切れない。
宮崎作品においてリーダーシップをとって行動している登場人物は、男性(23 人)より
女性(30 人)のほうが多い傾向にあった。坂元(2003)は、1961 年から 1993 年までの
33 年間のコマーシャル 2727 個(2727 人)を分析した結果、登場する男性は有識者であ
ることが多いのに対し女性は従属者であることが多く、伝統的な性別のステレオタイプに
沿って描写されていたことを確認している。この先行研究の結果とは異なり、宮崎作品に
おいて、男女の役割は性別によるステレオタイプに沿って描かれていないことが考えられ
る。宮崎作品において、男性は女性を助けリードし、女性は男性に助けられリードされる
というようなステレオタイプ的な描写は少なく、逆に女性が男性を助けリードする描写が
多くみられた。このことから、宮崎作品において女性が能動的に行動し、積極的に生きる
姿が多く描かれていることが考えられる。
宮崎作品と同じように、他の映画においてもリーダー的に活躍する女性は多く登場して
いるかについて調べるために、宮崎作品とディズニー作品の 8 作品ずつについて、女性の
リーダー数の比較を行った。その結果、宮崎作品における女性のリーダーは 30 人、ディ
ズニー作品における女性のリーダーは 16 人であったことから、多くの女性がリーダーシ
ップで活躍する描写は、宮崎作品において特徴的であることが考えられる。例として、デ
ィズニーに登場するお姫様(白雪姫、シンデレラ、ジャスミンなど)は王子様や恋人に助
けられリードされるばかりで、自らリーダーシップをとって行動することは少なかった。
- 24 -
しかし、宮崎作品に登場するお姫様(ナウシカ、シータ、もののけ姫)は男性を助けリー
ダーシップをとって行動する描写が多くみられた。30 人もの女性がリーダーシップを発揮
して活躍する宮崎作品において、多くの女性が中心的な役割を与えられていると考えられ
る。
4-2
質的分析結果の考察
まず、宮崎作品の女性において役柄の特徴と行動特性に注目し、その傾向について考察
する。つづいて、「ナウシカ」と「白雪姫」のヒロインの比較を行った結果を考察する。
まず、宮崎作品に登場する女性において、役柄の特徴については、主人公や準主役は一
般家庭で育った普通の女の子で描かれることが多かった。また、年齢においては 10 代の
若い女性が主人公や準主役になることが多い傾向にあったが、脇役は 50 代から 100 歳ま
での年配の女性が多く登場し、活躍的に描かれていた。このことは「テレビ・番組」
「テレ
ビ・コマーシャル」に登場する女性において、年配が頻繁には現れず中心人物は年長者よ
り年少者のほうが多いという先行研究の結果とは異なっている。宮崎作品に登場する女性
においては、さまざまな年齢の女性が登場することから女性の年齢層は幅広い傾向にある
と考えられる。また女性の脇役においては主人公や準主役と同じくらい活躍的に描かれる
傾向があり、このことは宮崎作品において特徴的であると考えられる。例として、まず「風
の谷のナウシカ」に登場する 100 歳の大ババが挙げられる。登場シーンは少ないが物語の
最後で「その者青き衣をまといて金色の野におりたつべし」というせりふとともに存在感
があり、自らの命と引き換えに村人達を敵から守ろうとする強い超高齢の女性の活躍が描
かれていた。
「天空の城ラピュタ」においては、船長兼 3 人の息子の母親であるドーラは、
前半ではパズーやシータの敵であったが、軍にとらわれたシータの救出にパズーに協力し
たり、後半では崩壊したラピュタに残る 2 人を母親のように心配したり、物語全般におい
て弱い男性達を紅一点で率いるなど、元気のよい中年の女性がリーダーシップをとって活
躍している。また、
「魔女の宅急便」のパン屋のおソノ、後にキキの友人となる絵描きのウ
ルスラや、
「千と千尋の神隠し」の千尋の世話役リンなどさっぱりとして威勢のいい男っぽ
い女性達は、いずれも主人公を助けリードし活躍している。
「紅の豚」では、設計士の少女・
フィオがリーダーシップをとり、出稼ぎに行っている男たちの妻や老婦人など多くの脇役
の女性達だけで飛行機をつくる場面では、男性が主人公であることを忘れてしまうくらい
女性が活躍している。「もののけ姫」に登場するタタラバのリーダー・エボシ御前や、「風
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の谷のナウシカ」に登場する敵のリーダー・クシャナも、主人公や準主役と敵対関係にあ
りながらも活躍している。先行研究の結果にみられるような受身的な女性とは異なり、女
性の活躍する姿が多く描かれている宮崎作品は、現実社会で多様な生き方をしたり、積極
的に働く女性の姿を映画を通して発信していると考えられる。
行動特性については、多くの女性がリーダーシップを持って能動的に行動する描写がみ
られ、8 作品すべてにおいて、ヒロインが主人公・準主役の男の子や仲間を助けていた。
例として、ヒロインがお姫様で描かれていた作品として「風の谷のナウシカ」
「天空の城ラ
ピュタ」「もののけ姫」の 3 作品が挙げられるが、いずれのヒロインにおいても、王子様
を待ち続けているような古典的なお姫様ではなく、リーダーシップをとって能動的に行動
するお姫様として描かれていた。このことは、宮崎作品におけるお姫様の生き方として特
徴的であると考えられる。また、ヒロインが普通の女の子として描かれていた作品として
「となりのトトロ」「魔女の宅急便」「紅の豚」「千と千尋の神隠し」「ハウルの動く城」の
5 作品が挙げられるが、いずれの女の子においても男の子や仲間を助けていた。これは、
「テレビ・コマーシャル」において中心人物の女性が有識者より従属者で描かれる傾向の
多かった先行研究の結果とは大きく異なり、宮崎作品において女性は主導権を握り中心的
に活躍する機会が多く与えられていると考えられる。
つづいて、
「ナウシカ」と「白雪姫」のヒロインを比較した結果、お姫様としての生き方
が対照的であった。ナウシカは村人や蟲達を守るために、地上では空を駆けまわり地下で
は研究するなど休む間もなく働いているお姫様であった。それに対し、白雪姫は暇があれ
ば王子様への想いを歌い、小人や自分が幸せになることを願っているが、どんなに時間が
あっても願いを叶えるために自ら行動を起こすことはなかった。自分が小屋に泊めてもら
うために小屋を積極的に掃除することはあったが、自分以外の人のために能動的に動く様
子はみられず受動的なお姫様であった。誰かを助けるほうが多いナウシカと誰かに助けら
れるほうが多い白雪姫は生き方が対照的である。両作品ともヒロインのパートナーとなり
得る男性が登場するが、白雪姫においては最終的に王子様が迎えに来てくれて幸せになる
が、ナウシカにおいては少年アスベルと恋愛関係になることもなく、人間や蟲を守ること
を第 1 に考えて生きていた。白雪姫においては、女性の主人公に多いとされる受身的なお
姫様である点で、先行研究の結果と対応していると考えられる。一方、ナウシカにおいて
は、桃太郎や一寸法師にみられるように、敵と戦い平和をもたらす正義の味方のヒーロー
のような女性であったため、絵本の主人公に多い静的で個性のないロボットのような女性
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で描かれる傾向があるという先行研究の結果とは大きく異なる。
以上の考察から、宮崎作品における女性像は、性別によるステレオタイプ的な女性で描
かれることが少ないと考えられる。リーダーシップをとって行動し積極的に生きる女性の
姿を宮崎作品は映画を通して発信していることが本研究で証明され、現代を生きる女性を
励まし応援してくれているように思われる。
最後に、今後の課題については、本分析より、宮崎作品における女性像を考察したが、
宮崎作品の女性像は実際に人々に影響を与えているかどうかを調べる必要があるであろう。
宮崎作品の映画を観に行った人たちの男女の比率、年齢層、職業などを調べ考察する必要
があると考えられる。とくに若い女性たちも対象に、宮崎作品の女性像に対する反応を考
察してみたい。また、宮崎駿監督がどのように考えて女性像をつくりあげているのか実際
に確かめてもみたい。
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おわりに
本研究で立てた 4 つの仮説の検証と、
「ナウシカ」と「白雪姫」のヒロインの特徴の比較
により、リーダーシップをとって行動し活躍する女性の積極的な生き方を宮崎作品は映画
を通して発信していることが本研究で証明された。
まず、量的分析の仮説の検証について要約を以下に述べる。仮説 1 について「宮崎作品
において主人公は男性より女性が多い」傾向にあることが確認され、宮崎作品において女
性は中心的に描かれていることが考えられる。
「宮崎作品において主要な登場人物は男性よ
り女性が多い」という仮説 2 については逆の結果が得られ、男性より女性が登場する率は
低い傾向にあった。しかし、質的分析より主役や準主役と同じくらい活躍的に描かれる脇
役の女性の多くがリーダー的に行動していたことから、量的には男性より女性のほうが少
ないが質的には女性が中心的に描かれる傾向があると考えられる。仮説 3 について「宮崎
作品においてリーダーは男性より女性のほうが多い」傾向にあった。宮崎作品において男
性より女性のほうがリーダー的に描かれる傾向にあることから、積極的に生きる女性が多
く登場していると考えられる。最後に、宮崎作品以外の作品においても女性のリーダーは
多いかどうかを調べるためにディズニー作品 8 作品との比較を行った「女性のリーダーは
ディズニー作品より宮崎作品のほうが多い」という仮説 4 は支持され、宮崎作品において
多くの女性がリーダーシップをとって活躍する傾向にあることが確認された。
つづいて、宮崎作品とディズニー作品においてそれぞれの代表的な作品に描かれた女性
を質的分析した。「ナウシカ」と「白雪姫」のヒロインの行動特性に注目し比較した結果、
前者については積極的な生き方で描かれており、後者については受動的な生き方で描かれ
ていた。量的分析結果よりリーダーシップをとって行動する女性が多く登場する宮崎作品
は、たとえ役柄がお姫様であったとしても男性や仲間を助けたり、リーダー的に行動する
女性像で描かれていた。
「はじめに」で提示した、宮崎監督が「コナン」の制作当時に思い描いていた女性像は、
本分析の対象とした 8 作品すべてにおいて確認された。お飾りヒロインや悲鳴をあげて助
けてもらうだけの女性の受動的な生き方ではなく、リーダーシップをとって行動する女性
の積極的な生き方が多くみられた。このような女性像を宮崎作品は映画を通して発信して
いることから、現実社会に生きる多くの人々に元気と活力を与えてくれるのではないだろ
うか。積極的な生き方をする宮崎作品の女性像に少しでも近づけたらと思う。
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参考文献
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12 月 4 日
ビデオ
宮崎駿監督作品
1984 年「風の谷のナウシカ」
1986 年「天空の城ラピュタ」
1988 年「となりのトトロ」
1989 年「魔女の宅急便」
1992 年「紅の豚」
1997 年「もののけ姫」
2001 年「千と千尋の神隠し」
2004 年「ハウルの動く城」(映画)
ディズニー作品
1937 年「白雪姫」
1950 年「シンデレラ」
1991 年「美女と野獣」
1992 年「アラジン」
1995 年「ポカホンタス」
1996 年「ノートルダムの鐘」
1998 年「ムーラン」
1999 年「ターザン」
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謝辞
卒業論文を書くにあたり、常に温かく親身にご指導をしてくださいました須賀恭子先生、
水野いずみ先生には心から感謝の気持ちをこめて御礼を申し上げたいと思います。
本当にありがとうございました。
2005 年 1 月 20 日
藤田
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香織