循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガ イドライン(2012 年改訂版) Guidelines for Management of Acute Coronary Syndrome without Persistent ST Segment Elevation(JCS 2012) 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本冠疾患学会,日本胸部外科学会,日本集中治療医学会, 日本心血管インターベンション治療学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会 班 長 木 村 剛 班 員 一 色 高 明 大 野 貴 之 小 川 久 雄 石 原 正 治 国立循環器病研究センター心臓内科 海 北 幸 一 熊本大学大学院生命科学研究部循環 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 帝京大学医学部内科 器内科学 三井記念病院心臓血管外科 熊本大学大学院生命科学研究部循環 器内科学 門 田 一 繁 財団法人倉敷中央病院循環器内科 小 菅 雅 美 横浜市立大学附属市民総合医療セン ター心臓血管センター 榊 原 守 北海道大学大学院医学研究科循環器 ター心臓血管センター 木 村 一 雄 横浜市立大学附属市民総合医療セン 坂 田 隆 造 住 吉 徹 哉 高 梨 秀一郎 茅 野 眞 男 筒 井 裕 之 京都大学医学部心臓血管外科 病態内科学 北海道大学大学院医学研究科循環病 態内科学 上 妻 謙 小 林 俊 也 白 木 裕 人 高 山 守 正 寺 岡 邦 彦 循環器内科 七 里 守 名古屋第二赤十字病院循環器内科 持 田 泰 行 日本赤十字社東京都支部大森赤十字 器内科 山 口 敦 司 自治医科大学附属さいたま医療セン 榊原記念病院循環器内科 榊原記念病院心臓血管外科 国立病院機構東京病院循環器科 中 尾 浩 一 済生会熊本病院心臓血管センター 中 川 義 久 公益財団法人天理よろづ相談所病院 聖マリアンナ医科大学心臓血管外科 稲城市立病院循環器科 榊原記念病院循環器内科 東京医科大学八王子医療センター循 環器内科 病院循環器科 中 村 正 人 東邦大学医療センター大橋病院循環 野々木 宏 静岡県立総合病院 平 山 治 雄 名古屋第二赤十字病院循環器センタ 帝京大学医学部内科 ター心臓血管外科 外部評価委員 赤 阪 隆 史 川 副 浩 平 代 田 浩 之 平 山 篤 志 ー内科 幕 内 晴 朗 聖マリアンナ医科大学心臓血管外科 水 野 杏 一 日本医科大学内科学講座(循環器・ 肝臓・老年総合病態部門) 光 藤 和 明 財団法人倉敷中央病院循環器内科 夜 久 均 京都府立医科大学大学院医学研究科 和歌山県立医科大学医学部循環器内科 聖路加国際病院ハートセンター 順天堂大学医学部循環器内科学 日本大学医学部内科学講座循環器内 科部門 山 崎 力 東京大学医学部附属病院臨床疫学シ ステム講座 心臓血管外科学 山 科 章 東京医科大学第二内科 協力員 浅 野 竜 太 榊原記念病院循環器内科 石 井 克 尚 関西電力病院循環器内科 (構成員の所属は 2012 年 8 月現在) 目 次 改訂にあたって…………………………………………………… 2 3. 本ガイドラインで使用した略語 ……………………… 4 Ⅰ.総論…………………………………………………………… 3 Ⅱ.診断およびリスク評価……………………………………… 4 1. ガイドラインの背景と目的 …………………………… 3 2. ガイドラインの対象 …………………………………… 3 1. 病歴と身体所見 ………………………………………… 4 2. 鑑別すべき疾患 ………………………………………… 7 1 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 3. 非観血的検査 …………………………………………… 7 4. 血液生化学検査 ………………………………………… 18 5. 観血的検査 ……………………………………………… 19 6. リスク評価と院内および短期予後 …………………… 22 Ⅲ.治療…………………………………………………………… 27 1. リスク評価に基づいた治療指針 ……………………… 27 2. 緊急入院と転院 ………………………………………… 32 3. 初期治療 ………………………………………………… 33 4. 薬物治療 ………………………………………………… 34 5. 薬物治療抵抗性狭心症 ………………………………… 39 6. 補助循環 ………………………………………………… 40 7. 血行再建治療 …………………………………………… 40 8. 特殊な病態への対応 …………………………………… 48 Ⅳ.退院後管理…………………………………………………… 49 1. 退院準備 ………………………………………………… 49 2. 退院後のモニタリングと検査 ………………………… 50 3. 薬物治療と冠危険因子の管理 ………………………… 50 4. 治療後の長期予後 ……………………………………… 54 Ⅴ.医療費に関する考察………………………………………… 54 Ⅵ.今後の課題…………………………………………………… 54 文 献……………………………………………………………… 56 (無断転載を禁ずる) 改訂にあたって 「非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライ く,救急室に一定時間患者を留まらせることや緊急入院 ン」作成班は,非 ST 上昇型急性冠症候群の診断,治療 の閾値を低くすることの重要性を強調した. に関する指針作成のため,日本心臓病学会,日本心血管 インターベンション治療学会,日本冠疾患学会,日本胸 原則としてガイドラインは,1)クラス分けした指針 部外科学会,日本心臓血管外科学会,日本集中治療医学 およびそのエビデンスレベル,2)ガイドラインの根拠 会に協力を要請し,指名された内科医,外科医がガイド と解説,の順で記載した. ライン作成班に参加した. エビデンスと専門家の意見を集約した指針はクラス 英語,日本語で発表された 1990 年以降の研究論文に Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの形で呈示した. ついてコンピュータによる文献検索を 2000 年に行い, クラスⅠ:手技,治療が有効,有用であるというエビ 選択された論文を批判的に吟味し,エビデンスに基づい デンスがあるか,あるいは見解が広く一致 て指針を作成,クラス分けを行い 2002 年に最初のガイ している ドラインが作成された. 2005 年にガイドライン改定の要否が検討され,部分 改定を行うこととなり 2006 年に改訂版作成班が発足し た.改訂版作成班は新たに 2006 年 3 月末までの新たな 文献,エビデンスについて吟味し,必要に応じて改訂を 加えた.主な改訂点には,CT,MRI による診断,抗血 小板薬,スタチンなどの新たな薬剤に関する記載,薬剤 クラスⅡ:手技,治療の有効性,有用性に関するエビ デンスあるいは見解が一致していない クラスⅡ a:エビデンス,見解から有用,有効である 可能性が高い クラスⅡ a’:エ ビ デ ン ス は 不 十 分 で あ る が, 手 技, 治療が有効,有用であることに我が国 の専門医の見解が一致している 溶出型ステントに関する記載,早期侵襲的治療に関する クラスⅡ b:エビデンス,見解から有用性,有効性が 記載が含まれる.なお,作成班内における討議の結果で それほど確立されていない 意見の一致をみた点についても指針として加えた. 2010 年に再度,ガイドライン改定の要否が検討され, 部分改定を行うこととなり 2011 年に改訂版作成班が発 クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,ときに有 害であるというエビデンスがあるか,ある いは見解が広く一致している 足した.今回の改訂では 2011 年 8 月末までの新たな文献, 2 エビデンスについて吟味し,必要に応じて改訂を加えた. エビデンスとなる臨床試験成績は不十分であるが,我 この間の進歩が著しい非侵襲的診断法である冠動脈 CT, が国では広く専門家の意見が一致しているものは,クラ 抗血小板療法,薬剤溶出型ステントなどを主な改訂点と スⅡ a’ として指針に入れた.我が国で未だ使用できな した.また基本的な診断技術の重要性を強調し,最も重 い手技,治療法,治療薬で,有効性,有用性について十 要な診断法である心電図診断について詳細な記載を行っ 分なエビデンスがあるか,見解が広く一致しているもの た.急性冠症候群が疑われる患者の初期診療においては, については,指針解説の末尾に別途に記載した.また我 1 回の評価で急性冠症候群を否定してしまうのではな が国の保険医療で認められていない適応や用法,用量に 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン ついても解説の中で言及した. けた,日本循環器学会および合同研究班参加学会の承認 各ガイドラインについてはエビデンスのレベル(以下 を得て,日本循環器学会のインターネット版でホームペ レベル)も明示した.以下の 3 レベルに分類した. ージ上にのみ公表される.改訂版のダイジェスト版は作 成されない. レベル A:400 例以上の症例を対象とした複数の多施 本ガイドラインは多くの臨床試験のエビデンスに基づ 設無作為介入臨床試験で実証された,ある いているが,ほとんどの優れた臨床比較試験は欧米人を いはメタ解析で実証されたもの 対象として行われたものである.また特定の限定された レベル B:400 例以下の症例を対象とした多施設無作 患者群を対象としたものであり,我が国の日常診療で遭 為介入臨床試験,良くデザインされた比較 遇する臨床例と異なる可能性を否定できない.またこの 検討試験,大規模コホート試験などで実証 分野は新たな知見により病態,診断,治療に関する知識 されたもの が急速に変化しつつある点も忘れてはならない.したが レベル C:無作為介入試験はないが,専門医の意見が 一致したもの って,明らかに変更すべき点が生じた場合は年単位で改 訂してホームページ上に示し,原則として本ガイドライ ン発表 3 年毎に内容の全面的な見直し改訂が必要と考え 本ガイドライン改訂版は外部評価委員による評価を受 Ⅰ 総 論 る. が既に発表されている.したがって本合同研究班の対象 は,ST の持続的上昇を示さない非 ST 上昇型急性冠症候 群である.今回 2011 年の改訂にあたりガイドラインの 名称を「非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイ 1 ガイドラインの背景と目的 ドライン」に変更した.この病態における心筋虚血は, 破綻した粥腫と非閉塞性血栓による冠動脈狭窄が酸素供 給減少の主因であり,また冠動脈トーヌスの亢進も酸素 循環器疾患の病態解明は急速に進歩しており,それに 供給の減少の一因となり得る.急性期治療の主な目的は, 伴って治療法も大きく変化してきている.しかし最新の 急性心筋梗塞への移行防止と心筋虚血の軽減による短期 情報を主治医が逐次収集して自分の患者に速やかに適用 的な予後の改善である. していくことは容易ではない.そこで,疾患の診断,治 本ガイドラインの目指すところは,本疾患群の診断, 療,管理に関するデータを専門家が厳しく評価,分析し, 治療,管理に関して一般に容認された方法をまとめ,医 まとめた情報から指針を作成して公表することは,我が 師が臨床上の決定を行うのに役立つ診療指針を作成し, 国の医療レベルを向上させ,患者の治療成績,予後を改 根拠に基づく医療(EBM: Evidence-Based Medicine)を 善することに大きく寄与するものと考えられる. 推進することにある.本ガイドラインは多くの状況下で, 日本循環器学会は,1998 年から心臓血管系疾患の診 種々の患者に対応し得る普遍的な診療指針を作成するこ 断,治療に関するガイドライン作成のために研究班を編 とを目指している.しかし,個々の患者における最終判 成し,関連学会と合同でガイドライン作成に取り組んで 断は,当該患者の状況を最もよく知る担当医師と患者の きた.その一環として 2000 年に「急性冠症候群の診療 双方により総合的に下されるべきもので,本診療ガイド に関するガイドライン」作成班が発足した.急性冠症候 ラインはそれを支援するものである. 群は冠動脈粥腫破綻,血栓形成を基盤として急性心筋虚 血を呈する臨床症候群であるが,急性心筋梗塞,不安定 2 ガイドラインの対象 狭心症から心臓急死までを包括する広範な疾患概念であ る.急性心筋梗塞に関しては,平成 11 年度厚生科学研 本ガイドラインは,急性冠症候群のうち,心電図 ST 究費補助金による医療技術評価総合研究事業(主任研究 の持続的上昇を認めない非 ST 上昇型急性冠症候群の成 者:上松瀬勝男日本大学教授)として「急性心筋梗塞の 人患者,あるいはその疑いのある患者を対象とする.急 診療エビデンス集─ EBM より作成したガイドライン」 性期の診断,短期的ならびに長期的なリスク評価,急性 3 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 期不安定期の治療,安定後の亜急性期治療などが本ガイ ドラインの対象範囲であり,病態安定後の慢性期の患者 は本ガイドラインの対象ではない.急性冠症候群の疑い Ⅱ 診断およびリスク評価 がある患者も,評価の結果により虚血性心疾患である可 能性が低く,非心臓性の原因が考えられる場合はガイド ラインの対象外となる. 1 病歴と身体所見 1 病 歴 持続性の ST 上昇を示す急性心筋梗塞患者は対象外で ある. 前 述 の「 急性 心 筋 梗 塞の 診 療エ ビ デンス 集 ─ EBM より作成したガイドライン」を参照されたい(2006 年から高野照夫日本医科大学教授を班長とする「急性心 急性冠症候群を疑う患者においては詳細な病歴聴取が 筋梗塞の診療ガイドライン」作成班により改訂作業が始 非常に大切である.特に胸痛の部位,性質,誘因,持続 まっている).しかし,急性心筋梗塞後に狭心症発作を 時間,経時的変化,消失,随伴症状などに注意する.胸 有する患者は本ガイドラインの対象とする.安定労作狭 痛だけでなく,既往歴,冠危険因子や家族歴についても 心症は対象外であるが,急性冠症候群が疑われるが入院 聴取する. 治療の必要がないと考えられる低リスク例は,安定狭心 症との区別がしばしば困難であり,このような患者は本 ガイドラインの範囲に含めた. ①胸 痛 急性冠症候群における胸痛の性質は,重苦しい,圧迫 冠動脈血行再建法としての PCI と CABG の選択につい される,締め付けられる,息がつまる,焼けるようなと ては,別のガイドラインとして日本循環器学会「安定冠 いう表現が多く,痛みというより不快感として訴えるこ 動脈疾患における待機的 PCI のガイドライン」ならびに ともある.刺されるような痛みやチクチクする痛み,触 「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の って痛むものは狭心痛ではないことが多く,呼吸や咳, 選択ガイドライン」があり,本ガイドラインにおける取 体位変換の影響を受けない.しかしながら非定型的な症 り扱いは最小限にとどめた. 状や非常に軽微な症状が重篤な急性冠症候群の表現形で 3 本ガイドラインで使用した略語 あることもまれではなく,症状の性状のみからの判断で 急性冠症候群を除外してはならない. ①胸痛の部位は前胸部,胸骨後部が多く,放散痛は下顎, 本文中に用いられる略語は以下の通りである. 頸部,左肩ないし両肩,左腕,心窩部に出現する. ②胸痛の持続時間は数分程度が多く,長くても 15 ~ 20 ACC: American College of Cardiology 分である.30 分以上持続する場合は重症の急性冠症 AHA: American Heart Association 候群を考える.胸痛の持続が 20 秒以下のときは狭心 BMS: bare-metal stent 痛の可能性は低くなる. CABG: coronary artery bypass grafting ③胸痛の誘因としては急ぎ,昇段,重いものを持つなど CCU: coronary care unit の労作中のみでなく,安静時にも出現する.精神的興 CT: computer tomography 奮や食事でも起こる.早朝は胸痛の閾値が低く,発作 DES: drug-eluting stent が出現しやすい.安静狭心症では夜間睡眠中に起こる DAPT: dual anti-platelet therapy ことが多い. MACE: major adverse cardiac event MDCT: multi-detector computed tomography MRI: magnetic resonance imaging ④胸痛の経時的変化から安静時狭心症,新規発症型狭心 症,増悪型狭心症かを区別する. ⑤胸痛が安静およびニトログリセリンで 1 ~ 5 分で消失 PCI: percutaneous coronary intervention する場合は狭心症のことが多い.症状の消失に 10 分 QOL: quality of life 以上かかる場合には,非心臓性胸痛か,逆に重症の急 性冠症候群を考えなければならない. ⑥随伴症状として呼吸困難,めまい,意識消失,吐き気, 嘔吐,冷汗を伴うときは重症であり,心筋梗塞を考慮 しなければならない.発熱を伴うときは肺炎,胸膜炎, 4 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 心膜炎などを考慮する. 野のラ音などは発作中の左室収縮能の低下を反映する. ⑦虚血性心疾患の明らかな既往があり,その症状に類似 また消長する僧帽弁逆流雑音は乳頭筋機能不全を示唆し するか,より症状が強い場合は急性冠症候群の可能性 ている.高血圧,黄色腫,アキレス腱の肥厚などは冠動 が高い. 脈疾患の危険因子の存在を示しており,頸動脈や大腿動 ②既往歴 脈の雑音,足背動脈の脈拍減弱などは非冠動脈性ではあ るが粥状硬化症の存在を示唆している.大動脈弁狭窄症 同様の症状は過去にないか,心筋梗塞の既往や冠動脈 でも狭心症と同様の症状が見られることがあり,収縮期 造影を受けたことはないか,脳血管障害,末梢血管疾患 雑音も必ず確認する.虚血性心疾患を疑わせる胸部症状 はないか,他医の診断,治療は受けていないか,などを を有し,頻脈,収縮期血圧の低下,肺野の湿性ラ音のあ 聴取する. る患者は入院 72 時間以内の致死的合併症の発生率が高 ③家族歴 親,兄弟に心臓病はいないか.若年発症の冠動脈疾患 く,十分に注意する必要がある. 3 病歴と身体所見からみたリスク評価 の家族歴は重要である.家系内に突然死,急死はないか, 我が国では不安定狭心症の分類として旧来から新規労 その死因は何かなどを聴取する. 作,増悪型労作,新規安静の 3 型とする 1975 年の AHA ④冠危険因子 の分類(表 1)が使用されてきた 1).しかし,狭心症発 作の様式からのみでは予後判定は困難であり,1989 年 3 つ以上の危険因子(年齢,男性,喫煙,高脂血症, に,重症度,臨床像,治療の状況を加味して Braunwald 糖尿病,高血圧)がある場合は可能性が高くなる. が新しい分類(表 2)を提唱した 2).この分類は予後の 2 身体所見 予測に有用であり,治療戦略の決定に寄与するとの報告 が多数ある 3),4).さらに,Ahmed らはこの分類が冠動脈 急性冠症候群では身体所見が必ずしも診断確定に有用 造影所見ともよく一致していることを報告している 5). ではないが,注意深い診察が虚血性心疾患に伴う合併症 我が国でもこの分類を使用することが一般的になってい の発見,胸痛を起こす他疾患との鑑別に役立つ.以下の る.それを展開して,急性冠症候群の可能性を 3 段階に 項目は特に確認が必要. 評価する方法が AHA/ACC2002 年のガイドラインに示 ①顔色と意識:苦悶様かどうか,チアノーゼ,冷汗,質 されている.また,不安定狭心症患者の死亡あるいは非 問への応答,精神状態. ②血圧:ショック状態,血圧上昇,血圧の左右差. 致死的心筋梗塞発症の短期リスクの把握については, The Agency for Health Care Policy and Research ③脈拍:徐脈,頻脈,脈不整,脈の大きさ,緊張度,四 (AHCPR)による不安定狭心症の診断・治療に関するガ 肢の脈の触知(緊急カテーテルなど動脈アクセスの確 イ ド ラ イ ン 6)に 示 さ れ て い た が, こ ち ら も AHA/ 保のためにも重要). ACC2007 年のガイドラインで改定された(表 3)7). ④呼吸:呼吸数,呼吸の深さ,速さ,呼吸が楽な体位, 湿性ラ音,特に背側面の湿性ラ音. 非 ST 上昇急性冠症候群のリスク評価についていくつ かの報告がある.しばしば用いられている TIMI ⊖リスク ⑤心音,心雑音:Ⅲ音,Ⅳ音,Ⅱ音の奇異性分裂,Ⅱ p の亢進,収縮期雑音,拡張期雑音.特に乳頭筋不全症 候群を示す僧帽弁逆流雑音の有無は重要. ⑥頸部:頸静脈の怒張,頸動脈の血管雑音,甲状腺腫. ⑦末梢循環と皮膚:眼瞼結膜,上肢,下肢,手指の色, 温かさ,チアノーゼの有無,下肢,臀部の浮腫. ⑧腹部と鼠径部:拍動性腫瘤(大動脈瘤),血管雑音, 肝腫大の有無,腸蠕動音. 急性冠症候群の身体所見には,胸部所見,聴診所見, 脈拍数や血圧などを含めても特異的なものはない.胸痛 がおさまると消失するⅢ音・Ⅳ音または奔馬調律,両肺 表 1 不安定狭心症の分類(AHA,1975 年) Type Ⅰ 新規労作狭心症(new angina of effort) 新たに発生した労作狭心症,あるいは少なくとも 6 か月 以上発作のなかったものが再発したもの. Type Ⅱ 増悪型労作狭心症(angina of effort with changing pattern) 労作狭心症の発作の頻度の増加,持続時間の延長,疼痛 および放散痛の増強,軽度の労作でも生じやすく,ニト ログリセリン舌下錠の効果が悪くなったもの. Type Ⅲ 新規安静狭心症(new angina at rest) 安静時に発作を生じ,15 分以上持続しニトログリセリ ンに反応しにくい場合であり,ST 上昇ないし下降,T 波 の陰転を認めるもの. 5 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 表 2 不安定狭心症の分類(Braunwald,1989) スコアは,①年齢(65 歳以上),②三つ以上の冠危険因 〈重症度〉 Class Ⅰ:新規発症の重症または増悪型狭心症 ・最近 2 か月以内に発症した狭心症 ・1 日に 3 回以上発作が頻発するか,軽労作にても発 作が起きる増悪型労作狭心症.安静狭心症は認めな い. Class Ⅱ:亜急性安静狭心症 ・最近 1 か月以内に 1 回以上の安静狭心症があるが, 48 時間以内に発作を認めない. Class Ⅲ:急性安静狭心症 ・48 時間以内に 1 回以上の安静時発作を認める. 子(家族歴,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙),③既 〈臨床状況〉 Class A:2 次性不安定狭心症(貧血,発熱,低血圧,頻脈な どの心外因子により出現) Class B:1 次性不安定狭心症(Class A に示すような心外因 子のないもの) Class C:梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後 2 週間以内の 不安定狭心症) 〈治療状況〉 1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中 2)一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬,長時 間持続硝酸薬,Ca 拮抗薬) 3)ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による 治療中 知 の 冠 動 脈 有 意( > 50 %) 狭 窄, ④ 心 電 図 に お け る 0.5mm 以上の ST 偏位の存在,⑤ 24 時間以内に 2 回以上 の狭心症状の存在,⑥ 7 日間以内のアスピリンの服用, ⑦心筋障害マーカーの上昇,の要素によって算出される. 2 週間以内の主要心血管合併症発生頻度はスコアが増加 するごとに相乗的に高くなる 8).PURSUIT 試験 9)では 20 項目以上の予後予測因子が認められたが,最も重要 な因子は,①年齢,②心拍数,③過去 6 週間における狭 心症のうち最も重症の CCS 分類程度,④収縮期血圧, ⑤ ST 低下の存在,⑥心不全の所見であり 30 日間のイベ ント発症率はこれらの要因の有無から推定できると報告 している.このように急性冠症候群の診断あるいは重症 度評価,予後予測は,病歴,簡単な診察および検査から 得られるものであり,正確な病歴,身体所見の把握が重 要である. しかし,急性冠症候群においては非定型的な症状も稀 ではなく,無症状のこともある.43 万人あまりの急性 心筋梗塞を登録した米国の研究では,急性心筋梗塞の 表 3 急性冠症候群(非 ST 上昇型急性心筋梗塞,不安定狭心症)における短期リスク評価 評価項目 病歴 胸痛の特徴 臨床所見 心電図 心筋マーカー 高リスク 中等度リスク 低リスク (少なくとも下記項目のうち 1 つが存在 (高リスクの所見がなく,少なくとも下 (高あるいは中等度リスク する場合) 項目のうちどれか 1つが存在する場合) の所見がなく,下記項目の どれかが存在する場合) ■先行する 48 時間中に急激に進行し ■心筋梗塞,末梢血管疾患,脳血管障 ている 害,冠動脈バイパス手術の既往 ■アスピリン服用歴 ■安静時胸痛の遷延性持続(> 20 分) ■遷延性(> 20 分)安静時狭心症があ ■持続時間,頻度,強度が ったが現在は消退しており,冠動脈 増悪している狭心症 疾患の可能性が中等度~高度である ■より低い閾値で生じる狭 ■夜間狭心症 心症 ■安静時狭心症(<20 分または安静か ■過去 2 週間~ 2 か月以内 の新規発症の狭心症 ニトログリセリン舌下により寛解) ■安静時狭心症(>20 分)はなく過去 2 週間にCCSクラスⅢまたはⅣの狭心症 の新規発症または増悪があり,冠動脈 疾患の可能性が中等度~高度である ■おそらく虚血と関連する肺水腫 ■年齢> 70 歳 ■新規または増悪する僧帽弁逆流音 ■Ⅲ音または新規または増悪するラ音 ■低血圧,徐脈,頻脈 ■年齢> 75 歳 ■一過性の ST 変化(> 0.05mV)を伴 ■ T 波の変化 ■正常または変化なし う安静時狭心症 ■異常 Q 波または安静時心電図で多く ■新規または新規と思われる脚ブロック の誘導(前胸部,下壁,側壁誘導)に ■持続性心室頻拍 おける ST 下降(< 0.1mV) ■心筋トロポニン T(TnT) ,I(TnI)の上 ■ TnT,TnI の軽度上昇(0.01 ~ 0.1ng/ ■正常 昇(>0.1ng/mL) ,またはCK-MBの上昇 mL),CK-MB の上昇 ACC/AHA2007 ガイドラインより引用改変 ACC/AHA 2007 Guidelines for the management of patients with unstable angina/non-ST-segment elevation myocardial infarction. Circulation 2007; 116: e148-e304. 6 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 33 %は来院時に胸痛がなく,無胸痛群は胸痛群と比べ 患,2)酸素供給を減少させる疾患なども挙げられる. て,高齢(74 歳 vs 67 歳),女性(49 % vs 38 %),糖尿 冠動脈疾患がなくてもこれらの病態に陥ると,狭心症と 病(33% vs 25%),心不全の既往(26% vs 12%)のあ 同様の症状が出現するようになるので注意が必要であ る患者で多い 10).胸痛を伴わない急性心筋梗塞患者は病 る.また,安定狭心症もこれらの病態を合併すると発作 院受診までの時間も長く,診断も遅れやすく,適切な治 を生じやすくなり,不安定狭心症の状態となる. 療,再灌流療法の施行率も低いため院内死亡率も 2.21 ①酸素需要を増加させる疾患:高体温,甲状腺機能亢進 倍と高く,注意が必要である. 2 鑑別すべき疾患 症,管理不良の高血圧症,持続性頻拍(上室性,心室 性) ②酸素供給を減少させる疾患:貧血,肺疾患,血液粘度 の増加 病歴ならびに身体所見から急性冠症候群とその他の疾 患を鑑別しなければならない.特に注意が必要なものと 3 非観血的検査 1 胸部 X 線検査と心電図検査 して 1)胸痛発作を伴う例,2)心電図異常が見られる 例がある.また鑑別すべきものとして 3)胸痛に類似し た症状を呈する疾患,4)心筋虚血を誘発する病態があ る.問診により,胸痛が起こる状況や胸痛の放散部位を 詳細に聴取することは重要である.感冒様症状や発熱な どその他の臨床症状により鑑別診断が容易になることも ①胸部X線 クラスⅠ ある.心電図検査,胸部 X 線写真,血液生化学検査は鑑 1.心臓疾患(うっ血性心不全,心臓弁膜症,虚血性 別診断には必須である.また心エコー図検査は有用であ 心疾患)および心膜疾患,または大動脈疾患(解離 る.さらに確定診断には CT,MRI,肺血流シンチグラム, 性大動脈瘤)の徴候・症状のある患者で胸部 X 線検 冠動脈造影まで必要なことも多い. 急性冠症候群と鑑別する必要のある疾患(胸痛発作を 伴う患者あるいは心電図異常が見られる患者)には以下 が挙げられる. ①冠動脈疾患:労作狭心症 ②心筋疾患:急性心筋炎,肥大型心筋症,拡張型心筋症, 査を行う.(レベル B) クラスⅡ a 1.肺・胸膜疾患および縦隔疾患の徴候・症状のある 患者で胸部 X 線検査を行う.(レベル B) クラスⅡ b 1 .すべての胸痛患者で胸部 X 線検査を行う. (レベル C) たこつぼ型心筋症 ③心膜疾患:急性心膜炎 急性冠症候群の診断における胸部 X 線検査は,鑑別診 ④大動脈疾患:急性大動脈解離,大動脈瘤破裂(急性大 断と重症度評価の上で重要と考えられる.心拡大,肺う 動脈症候群) っ血,肺水腫,胸水の有無を客観的に評価する上で胸部 ⑤弁膜疾患:大動脈弁狭窄症 単純 X 線検査は重要である.心拡大は,心筋梗塞既往, ⑥肺疾患:肺血栓塞栓症,胸膜炎,気胸,肺炎 急性左心不全,心膜液貯留,大動脈弁または僧帽弁閉鎖 ⑦消化器疾患:急性腹症(急性膵炎,胆石症,胃十二指 不全に伴う左室容量負荷が存在することを示す.鑑別診 腸潰瘍穿孔など) 断の対象には胸痛を来たす疾患すべてが含まれる.胸部 ⑧皮膚骨格疾患:帯状疱疹,肋間神経痛,肋骨骨折 X 線検査は,肋骨疾患,肺・胸膜疾患,縦隔疾患,心臓 ⑨脳血管障害:クモ膜下出血 および心膜疾患,肺・体血管疾患の形態的診断には有用 ⑩心因性:心臓神経症,パニック障害,そのほか である.特に,診断確定に急を要する重要な鑑別疾患と しては,『急性大動脈症候群』と『急性肺血栓塞栓症』 急性冠症候群の鑑別診断においては特に重篤な疾患を がある.上行大動脈解離では冠動脈を巻き込んで急性心 見逃さないことが重要であり,その意味で肺血栓塞栓症 筋梗塞を合併することもあり,診断に苦慮する場合も多 ならびに急性大動脈症候群が最も重要である. い.したがって,胸部X線検査で上縦隔陰影の拡大,二 重陰影,大動脈壁内膜石灰化の偏位を認める場合は『急 その他に急性冠症候群と鑑別する必要のある心筋虚血 性大動脈症候群』を疑い,超音波検査,造影 CT 検査, を誘発する病態としては,1)酸素需要を増加させる疾 造影 MRI 検査を施行して鑑別する必要がある.また, 7 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 肺動脈の途絶,遮断,区域性乏血が認められた場合は, 『急 疑われる場合は一回の心電図検査だけで判断せず,15 性肺血栓塞栓症』を疑い,超音波検査,造影 CT 検査な ~ 30 分程度の間隔で,時間を置いて繰り返し記録する どを行う必要がある.また呼吸困難や低酸素血症を認め こと,比較することが重要である.ニトログリセリン投 るにもかかわらず胸部 X 線写真で異常所見を認めない 与前後の心電図を比較するのも有用である.また,その 場合にも『急性肺塞栓症』を疑う. 患者の以前に記録された心電図が入手可能な場合,比較 胸部 X 線写真を評価する際には,常に撮影体位や撮影 することによって診断の精度は大きく上昇する.一見, 条件について確認する必要がある.救急患者や重症例で 心電図に異常がないようでも以前の心電図と比べると変 はポータブル撮影,特に臥位で撮影されることが多く, 化を認めたり,受診時の精神的緊張や検査室への歩行な 十分な吸気止めもできないことが多い.このような条件 ど軽度の負荷で陰転した T 波が陽転化し,正常と間違わ 下では胸部 X 線写真所見は過小あるいは過大評価され れることもある.またプレホスピタルでの 12 誘導心電 る可能性があることを念頭に置く. 図の記録は,現場および病院内でのより早い診断・治療 ②安静時心電図検査 クラス I 1.胸部症状を訴える患者や他の症状でも急性冠症候 を可能にする.また,病院到着時には既に症状が軽減あ るいは消失している例もあり,救急外来の心電図と比較 することで診断精度はより向上する. 実際には,急性冠症候群を疑わせる胸痛を有する患者 群が疑われる患者ではただちに(10 分以内に)12 が来院した場合は,ただちに 12 誘導心電図を記録し, 誘導心電図を記録する.(レベル B)また受診時に ST-T 変化,Q 波あるいは陰性 U 波の有無をチェックす 症状がない患者でも病歴から急性冠症候群が疑われ る.隣接する 2 誘導以上における 0.1mV 以上の ST 上昇 る場合には速やかに 12 誘導心電図を記録する.(レ は,通常 ST 上昇型心筋梗塞を示唆する所見であり,再 ベル C) 灌流療法の適応を検討する.ST 部分の低下が認められ 2.初回心電図で診断できない場合でも症状が持続し る患者では,不安定狭心症か,あるいは非 ST 上昇型心 急性冠症候群が強く疑われる患者には経時的に(15 筋梗塞の可能性が考えられるが,最終的に両者の鑑別は, ~ 30 分ごとに) 12 誘導心電図を記録する. (レベル B) 心筋障害の生化学的マーカーが検出されるか否かによ クラス IIa 1.胸部症状を認めるすべての患者で 12 誘導心電図を 記録する. (レベル C) 2.急性冠症候群が疑われる患者に病院収容前に救急 車内で 12 誘導心電図を記録する.(レベル B) 3.12 誘導心電図で診断できない場合に急性後壁梗塞 る.Ⅲ誘導における孤立性の Q 波や V1・V2 誘導におけ る QS パターンは正常例でも認められ,他の所見を参考 にする必要がある.ただし,胸痛を訴えている患者の心 電図所見が完全に正常であっても急性冠症候群の可能性 を否定はできない.そのような患者の 1 ~ 6%は急性心 筋梗塞(定義上,非 ST 上昇型心筋梗塞)であり,4%以 を除外するために背側部誘導(V7-9 誘導)を記録 上が不安定狭心症であることが報告されている. する.(レベル B) 2)心筋虚血の心電図所見 ① ST 変化 8 1)心電図検査の意義 ST 変化は心筋虚血の心電図変化の中で最も重要な所 急性冠症候群では発症早期の的確な診断が重要であ 見である.非貫璧性(心内膜下)虚血の場合は ST 下降を, る.各種画像診断が飛躍的に進歩した現在においても, 貫壁性虚血の場合は ST 上昇と対側の誘導で ST 下降(対 心電図は非侵襲的で普遍性のある簡便な検査法であり診 側性変化:reciprocal change)を認める. 断の基本であることに変わりはない.心電図は診断のみ ◆ ST 上昇 ならず重症度評価,治療方針の決定に中心的役割を担い, ST 上昇の存在は再灌流療法の施行を決定する重要な また予後予測に重要な情報を提供する 1).ただし,心電 所見である.12 誘導心電図で ST 上昇を認めない場合に 図に異常がないという理由で急性冠症候群の可能性を否 見逃してならないのが左回旋枝閉塞による純後壁梗塞で 定することはできない.1 枚の心電図診断には限界があ ある.12 誘導心電図では左室後壁に面する誘導がない る.診断には来院時の心電図所見とその推移が重要であ ため後壁梗塞の診断が難しい.12 誘導心電図に加え, る.発症から極めて早期の場合には,胸痛があっても心 背側部誘導(V7-9 誘導:V7-9 誘導は V4 誘導と同じ高 電図変化がまだ出現していない場合や,非発作時には心 さで,V7 誘導は後腋下線との交点,V8 誘導は左肩甲骨 電図が正常な場合も少なくない 10).したがって,本症が 中線との交点,V9 誘導は脊椎左縁との交点に付ける) 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン を記録することで左室後壁の虚血診断が可能となる 2) (図 1).正常では背側部誘導で 1mm 以上の ST 上昇を認 aVR 誘導の ST 上昇は他の誘導の ST 下降よりも強力な予 後不良の予測因子であることが報告されている 12)-18). めるのは 1%以下とされている .急性心筋梗塞患者の aVR 誘導は右肩の方向から左室内腔を覗き込む誘導で 約 3 ~ 4 %は背側部誘導でのみ ST 上昇を認めるとされ, ) あり,左室心内膜側の非貫壁性虚血を反映する 19(図 背側部誘導の ST 上昇を認めれば ST 上昇型急性心筋梗塞 2)20).左主幹部や多枝病変例では左室心内膜側に広範 3) 症として再灌流療法の適応となる .診断,治療を誤ら に虚血を生じ,これは 12 誘導心電図には広範な ST 下降 ないためにも背側部誘導の記録が推奨される. として反映される一方で,aVR 誘導には直接 ST 上昇と 4) ◆ ST 下降 して反映される(図 3).心電図は,aVR 誘導を除いた 入院時 ST 下降は,その程度がたとえ軽度(0.05mV) 11 誘導で診断されることが多いが,aVR 誘導も含めた であっても予後不良の強力な予測因子とされてい “12 誘導”で診断することにより,その有用性を最大限 る 5)-11) .一般的に,ST 下降は虚血責任冠動脈にかかわ に発揮できる. らず V4-6 誘導を中心に認めるため,ST 上昇とは異なり 前胸部誘導で ST 下降を認める場合に,それが対側性 ST 下降から虚血の部位診断をするのは難しい.しかし, 変化によるもので実際には ST 上昇型急性心筋梗塞症の ST 下降が高度なほど,ST 下降を認める誘導数が多いほ ことがあり注意を要する.急性下壁梗塞で肢誘導が低電 ど,高度な虚血を反映し予後は不良である.このような 位な例では,II,III,aVF 誘導の ST 上昇が軽微で見落 ハイリスク例では早期侵襲的治療を選択することによる とされやすく,むしろ対側性変化としての前胸部誘導で 予後改善効果が大きいことが示されている 7),8).また. の ST 下降が目立つことがある.また純後壁梗塞の場合 6 時間以上経過しても は 12 誘導心電図では ST 上昇は認めず,対側性変化とし ST 下降が遷延する例は重症冠動脈病変が高率で予後不 ての前胸部誘導の ST 下降しか認めない.心内膜下虚血 良であると報告されている.ST 下降の有無だけでなく, による ST 下降は前述のように V4-6 誘導を中心に認める その程度・範囲・時間的な変化も考慮することでさらな が,このような対側性変化としての ST 下降は V2-3 誘導 症状出現 9) や薬物治療開始後 10) るリスク評価が可能となる. を中心に認めるので,この ST 下降パターンの違いが両 “非 ST 上昇型”急性冠症候群の定義は,心電図で ST 者の鑑別に役立つ 21),22). 上昇を認めないことである.しかし,これには aVR 誘 ② T 波の変化 導が考慮されていない.左主幹部や多枝病変の重症冠動 T 波の変化は重要である.左右対称性の T 波の増高, 脈 病 変 例 の 診 断 に は,aVR 誘 導 の ST 上 昇 が 有 用 で, 尖鋭化(hyperacute T wave)は急性心筋梗塞の初期変化 図 1 背側部誘導(V7-9 誘導) V7-9 誘導は V4 誘導と同じ高さで,V7 誘導は後腋下線との交点,V8 誘導は左肩甲骨中線との交点,V9 誘導は脊椎左縁との 交点につける. (文献 2:Am J Cardiol 1999; 83: 323 より改変引用) 9 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 図 2 肢誘導と心臓の位置関係 (文献 20:Heart 2000; 83: 657 より改変引用) 肢誘導は,aVL 誘導,Ⅰ誘導,- aVR 誘導,Ⅱ誘導,aVF 誘導,Ⅲ誘導の順(Cabrera sequence)に配列し直すと心臓と の位置関係を反映し理解しやすくなる 19). aVL 誘導は上位側壁,Ⅰ誘導は下位側壁,Ⅱ誘導は左側寄りの下壁,Ⅲ誘導は右 側寄りの下壁に面する.aVR 誘導は上下反転させると,Ⅰ誘導とⅡ誘導との間,つまり左室心尖部領域に面する誘導 (- aVR 誘導)となる. aVR 誘導は心臓と特殊な位置関係にあり,非 ST 上昇型急性冠症候群の場合には右肩の方向から左室内腔を覗き込む誘導で あり,左室心内膜側の虚血を反映するとされている. でもあり,経時的に心電図を取りながら典型的心筋梗塞 り,気絶心筋や交感神経の除神経との関連が示唆されて の心電図へ変化して行くか否かを観察する.同様の変化 いる 28),29). は冠攣縮性狭心症でも認められる場合があり,鑑別を要 鑑別すべき疾患:前胸部誘導で陰性 T 波を認める場合 する.陰性 T 波は急性冠症候群においてはしばしば認め に,治療方針を決定する上でも鑑別すべき重要な疾患と られる所見であり,心筋虚血領域の再分極の異常を反映 して,急性肺塞栓症とたこつぼ型心筋症があげられる. していると考えられている.Hanies らは,不安定狭心症 下記に 3 者の代表例の心電図を提示し概説するが,陰性 において新たに陰性 T 波が出現した場合は,重症冠動脈 T 波 の 違 い を 明 ら か に す る た め に 肢 誘 導 を Cabrera 狭窄病変が存在すると報告している 23),24).陰性 T 波を sequence にした場合の心電図も示した 19),27).Cabrera 認める例の予後は ST 下降を認める例に比べ良好とされ sequence(図 2)にすると肢誘導は心臓に面する順に配 ているが 列し直され,陰性 T 波が各疾患の病態を反映し異なる分 予後不良であることが報告されている 11),26).一般的に 布を示していることが理解でき鑑別診断に役立つ. 貫壁性虚血発作では ST が上昇した誘導で陰性 T 波が出 ◇左前下行枝病変の急性冠症候群:陰性 T 波の分布は左 現するので 10 ,陰性 T 波を広範に 6 誘導以上で認める例は 25) 27) ,陰性 T 波からも虚血部位を診断できる. 前下行枝の灌流域を反映し,前胸部誘導では前壁中隔に 前胸部誘導の陰性 T 波:不安定狭心症患者で前胸部 面する V2-4 誘導を中心に,肢誘導では側壁誘導を中心 誘導に陰性 T 波を認める例は左前下行枝病変が高率で, ) に認める 30(図 4). 特に陰性 T 波が持続する例では冠インターベンション後 ◇急性肺塞栓症:右心負荷による心電図異常を示すのは に左室前壁の壁運動異常が改善することが報告されてお 重症例に限られ,その頻度は少ない.しかし心電図異常 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 図 3 重症 3 枝病変例の心電図 向に,肢誘導では III 誘導→ aVF 誘導→ II 誘導の方向へ と及ぶ 33).急性肺塞栓症では,陰性 T 波を右室下面に面 する III 誘導と右室前面に面する V1 誘導で高率に認める のが特徴である 34)(図 5). ◇たこつぼ型心筋症:心電図は,心尖部を中心とした壁 運動異常を反映し,心尖部領域に面する- aVR 誘導を 中心に変化する 30),35).急性前壁梗塞でも再灌流後には ST 上昇を認めた前胸部誘導を中心に陰性 T 波を認める. しかし,たこつぼ型心筋症のほうが QT 延長を伴った深 い陰性 T 波を,心尖部さらには前壁,下壁に面する誘導 で広範に認め,1 本の冠動脈の支配領域では説明できな いことが多い.- aVR 誘導の陰性 T 波は,12 誘導心電 図では対側性変化として aVR 誘導の陽性 T 波として反 映され,たこつぼ型心筋症の特徴的な所見である.また 一方で,心室中隔上部・右室前面に面する V1 誘導では ) 急性期に陰性 T 波を認めないことが多い 30(図 6). ③ QRS 波の変化 心筋虚血により Purkinje 線維,Purkinje・筋接合部, 心室筋線維の伝導速度は遅くなり,12 誘導心電図には QRS 幅の延長として反映される.QRS 幅の延長は,ST 偏位よりも鋭敏な心筋虚血の指標であり 36),37),左主幹 部や多枝病変の重症冠動脈病変例の診断にも有用である ) と報告されている 38(図 3). ④ U 波の変化 陰性 U 波は虚血発作時や運動負荷試験時にしばしば 認め,高度虚血の存在を示唆する 39).陰性 U 波は,実験 的には虚血部位に面した誘導で出現するとされ,虚血部 位の診断に有用である.しかし,U 波は T 波に続く小さ 入院時心電図では,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,aVF 誘導および V2-6 誘導 で広範に ST 下降を認め,aVR 誘導で ST 上昇を認める. また QRS 幅の延長を認める.冠動脈造影検査では,右冠動 脈近位部の完全閉塞,左前下行枝近位部の 90%狭窄,左回 旋枝近位部の 75%狭窄を認めた. な波であるために実際に認識できる頻度が高いのは前胸 部誘導であり,V3-5 誘導を中心に認める陰性 U 波は左 前下行枝病変による高度虚血を示唆する(図7).ただし, 陰性 U 波は高血圧,大動脈弁閉鎖不全症,心房中隔欠損 症,心筋症など様々な疾患でも認めるため,病歴や臨床 所見などを考慮し診断する必要がある.また後壁虚血に を示す場合には重症例であり,軽度の心電図異常でも見 よる陰性 U 波は,対側性変化として前胸部誘導(V2-4 落さないように注意する.急性肺塞栓症の心電図所見と 誘導)に陽性 U 波の増高として反映される 40). して,洞性頻脈,右脚ブロック,右軸偏位,肺性 P 波, S1Q3T3 パターン,低電位,時計方向回転などが知られて ■心電図で心筋虚血の診断が難しい場合 いるが 31),32),最も高率かつ長期間にわたり認める心電 心電図の ST-T 部分は心筋虚血だけでなく,心肥大, 図異常は前胸部誘導の陰性 T 波である.陰性 T 波は急激 心室内伝導障害,心筋疾患,電解質異常,ジギタリスな な右室圧負荷と体血圧低下による右室の貫壁性虚血後の どの薬剤使用,自律神経緊張など様々な病態で変化を認 変化と推測される.急激な右室圧負荷により右室は心尖 める.これらの変化と心筋虚血との鑑別はしばしば困難 部が挙上するような形で左方へと拡張し,陰性 T 波を認 であり,虚血に由来するかどうかの診断は病歴や臨床所 める誘導に反映される.右室拡張が高度になるほど,陰 見,他の検査結果等とあわせて評価する.また以前の心 性 T 波の分布は前胸部誘導では V1 誘導から V6 誘導の方 電図との比較や時間経過による変化をみることで診断精 11 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 図 4 急性冠症候群の心電図 左前下行枝近位部に 90%狭窄を認めた急性冠症候群の心電図.陰性 T 波は,前胸部誘導では V2-4 誘導を中心に,肢誘導で は上位側壁に面する aVL 誘導で認める.陰性 T 波の分布は,虚血責任血管である左前下行枝の灌流域を反映すると考えら れる. 図 5 急性肺塞栓症の心電図 右心不全を合併した重症急性肺塞栓症の心電図.陰性 T 波は,前胸部誘導では V1-3 誘導を中心に V4 誘導まで認める.肢誘 導の陰性 T 波は,通常の配列だと連続性がなく分かりにくいが,Cabrera sequence にするとⅢ誘導を中心に,aVF,Ⅱ誘 導の下壁誘導で認めることが分かる。陰性 T 波を広範に認めるほど,右室拡張が高度であったと考えられる. 12 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 図 6 たこつぼ型心筋症の心電図 発症 2 日後のたこつぼ型心筋症の心電図.QT 延長を伴った深い陰性 T 波を広範に認める.陰性 T 波は,前胸部誘導では V2-6 誘導で認めるが,V1 誘導には認めない.肢誘導では,通常の配列だと分かりにくいが,Cabrera sequence にすると aVL 誘導以外のすべての誘導で認めていることが分かる(aVR 誘導の陽性 T 波は,上下を反転させると- aVR 誘導の陰性 T 波になる) .陰性 T 波の分布と壁運動異常の拡がりとの関連が示唆される. 図 7 前胸部誘導の陰性 U 波 左前下行枝近位部に高度狭窄を有する例の発作時(左)と症状消失後(右)の心電図.発作時に V3-6 誘導で陰性 U 波(図 中矢印)を認める. 13 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 度は向上する. 適切に選択することは予後に影響を及ぼすと報告されて 急性心筋梗塞患者のうち,約 7%が新規左脚ブロック おり,急性冠症候群責任病変治療後の残存虚血評価は重 を呈すると言われている.しかし,もともと脚ブロック 要である.虚血評価に基づいて急性冠症候群責任病変以 を呈している例や心室ペーシング植込み患者が心筋梗塞 外の残存病変に対して,PCI あるいは CABG の適応を検 を併発した場合には,ST-T 変化を含めた心電図診断が 討することが重要である 45). 困難なことが多い.また左脚ブロックを呈する急性心筋 梗塞患者の約半数は,胸痛を認めないとの問題も報告さ れており,診断が困難な場合も少なくない 41).このため, このような心電図異常が認められる場合には,急性心筋 梗塞を念頭に置きつつ,臨床症状や心筋逸脱酵素の経時 的変化をあわせて総合的に診断することが必要である. ③運動負荷心電図検査 クラスⅠ 1.治療により症状が安定し運動負荷が可能な患者で, 2 心エコー図検査 クラスⅠ 1.急性冠症候群の患者に心エコー図検査を行う.(レ ベル B) 2.治療により安定した急性冠症候群の患者で,心電 図による評価が困難な患者に運動負荷あるいは薬剤 負荷心エコー図検査を行う.(レベル B) クラスⅡ a 1.胸部症状が存在するとき,心電図で異常が明らか 運動負荷心電図検査を行う(負荷前より ST 変化の でない急性冠症候群の疑いのある患者に心エコー図 あるもの,左脚ブロック,左室肥大,早期興奮症候 検査を行う.(レベル B) 群,ジギタリス投与時,ペーシング調律の患者を除 く).(レベル C) クラスⅢ 2.急性冠症候群が明らかで冠動脈造影と左室造影を 行う予定がない患者において左室機能を評価するた めに心エコー図検査を行う.(レベル B) 1.病状が安定していない時期に運動負荷心電図検査 を行う.(レベル A) 胸痛を訴え,救急外来を受診する患者の診断とリスク の層別化にベッドサイドの心エコー図検査は有用であ 運動負荷心電図検査の適応には制限があり,運動負荷 る.心エコー図検査は胸痛患者の診療において救急室で が可能で,検査により心筋虚血の判定が可能であること 繰り返し施行でき,しかもその場で診断できる利点があ を確認する必要がある.安静時心電図所見(0.1mV 以上 る.心エコー図検査を用いた急性冠症候群の診断として, の ST 下降,完全左脚ブロック,早期興奮(WPW)症候 1)責任冠動脈病変の診断,2)心筋虚血範囲と程度の 群,心室ペーシングなど)や投与中の薬剤(特にジギタ 同定,3)左室機能の評価が可能である.また,心筋虚 リス)の影響で判定が難しい場合には運動負荷心電図以 血以外の胸痛疾患,すなわち 1)急性解離性大動脈瘤,2) 外の検査法を考慮する.また,すべての運動負荷試験は 急性肺血栓塞栓症,3)心外膜炎,4)大動脈弁狭窄症,5) 急性冠症候群が安定した後に行われるべきである.検査 肥大型心筋症などの鑑別にも非常に有益である. を行う際には必ず病状が安定していて症状がないこと, また検査前の心電図に新たな虚血性変化がないこと(急 14 ①心エコー図法を用いた胸痛患者のトリアージ 性冠症候群では無症候性虚血発作を起こしている例もあ 急性冠症候群では冠動脈病変の著しい狭窄のため胸部 るため)を確認する必要がある.近年の AHA のガイド 症状(胸痛,胸部絞扼感など),心電図変化が出現する. ラインでは,低リスクあるいは中等度リスクの患者にお 注意深い病歴の聴取および心電図の経時的変化により診 いては,運動負荷試験が適応となる場合があるとされて 断がつけられることが多いが,病歴や心電図変化が明ら いるが,我が国では早期に冠動脈造影あるいは冠動脈 かでない場合には,胸部症状の出現時に心エコー図検査 CT を施行されることが多く,必ずしも実情にそぐわな により左室壁運動異常が観察され,かつ胸部症状が改善 いと考えられる.同症を疑う症例に対する運動負荷心電 した後に壁運動異常が消失するような可逆的変化をとら 図検査の適応については他の診断法の可否など施設の特 えられれば急性心筋虚血と診断できる.その壁運動異常 性も含めて検討した上で慎重に判断すべきである 42)-44). の出現部位や範囲から責任冠動脈の推察が可能であ 早期侵襲的治療が選択された場合の運動負荷心電図検査 る 46),50).Horowitz らの心エコー図検査を用いた胸痛患 の意義は主として,急性冠症候群責任病変治療後の残存 者の研究では,臨床的に心筋梗塞と診断し得た患者群に 虚血評価となる.多枝疾患において,PCI の標的病変を おいて左室局所壁運動異常から見た診断感度は 94 %, 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 特異度 84 %であったが,発症早期の心電図では 45 %, 血管床の減少による心筋血液量の低下によるものであ 血液マーカ(CK-MB)では 52%であったと報告してい り,心筋コントラストエコー法を用いることにより心筋 51) .また Sabia らは胸痛患者において明らかな壁運動 染影性の低下あるいはコントラスト欠損として描出され 異常を認めない群では入院率,入院期間および入院費を る 66).Kang らは心電図上,明らかな ST 上昇や異常 Q 波 る そ れ ぞ れ 32 %,23 %,24 % 減 少 さ せ た と 報 告 し て い を伴わない労作性もしくは安静時胸痛を訴える患者に心 る 52).さらに持続する胸痛を訴え心電図変化が典型的で 筋コントラストエコー法を用いた急性心筋梗塞の診断感 ない患者の鑑別として左室壁運動スコア(wall motion 度は 93 %,特異度 63 %であり,不安定狭心症の診断感 score index: WMSI)を算出して評価することができる. 度は 59 %特異度 96 %と報告している.彼らの検討では WMSI が 1.7 を超える症例では心筋灌流異常が 20%以 急性冠症候群の診断として心筋コントラスト法は心電 上であり,再還流療法後に左室収縮運動が改善しても心 図,トロポニンあるいは左室壁運動異常のみを用いた場 筋梗塞再発作,心不全,重篤な不整脈などの合併症が高 合よりすぐれていた 67).また Tong らは救急室での心筋 率であることが報告されている 53)-55).不安定狭心症で コントラストエコー法は,胸痛患者においてバイオマー 入院した患者に対する 72 時間以内の心エコー図検査に カーの異常が検出されるより早く,短期および長期予後 おいて,左室壁運動スコア(WMSI).駆出率.僧帽弁 の推定に有用であることを報告している 68). 逆流を指標に用い.この 3 指標が一定の基準を上回り正 常と判断されれば.入院中の心事故発症率は陰性予測値 が 100%と判断できると報告されている 56). ④虚 血メモリー(Diastolic stunning)を用いた胸 痛診断 近年,虚血発作後に心筋内に虚血メモリーが遷延する ②負荷心エコー図法 ことが報告されている.Dilsizian らは心筋脂肪酸代謝ト 胸痛患者の鑑別方法として救急室での数時間の観察期 間後に,運動負荷心エコー図法 46),57)-60) やドブタミン 61) 後に左室虚血部位の脂肪酸代謝異常が 30 時間以上にわ 負荷心エコー図法を用いたアル たり持続していることを報告し 69),Ishii らは冠攣縮性狭 ゴリズムの有用性が報告されている.Gibler らは運動負 心症患者において,胸痛発作回復後も拡張運動遅延が遷 荷心エコー図を用いたアルゴリズムにより救急室を受診 延することを報告している 70).このように一過性の心筋 し た 患 者 の 82.1 % が 安 全 に 帰 宅 し 得 た と 報 告 し て い 虚血後に収縮運動が回復後も持続する拡張機能障害が およびジピリダモール る 62) レーサである BMIPP 心筋シンチ検査を用い,運動負荷 57) .また Bholasingh らは救急室を受診した低リスク diastolic stunning であり,虚血メモリーの機序と考えら 胸痛患者で,心電図変化が典型的でなくトロポニン T 陰 れている.また心エコー技術の進歩により組織ドプラ 性患者を対象にドブタミン負荷心エコーの有用性を検討 法 71)や 2 次元および 3 次元スペックル・トラッキング法 し,ドブタミン負荷心エコー陰性症例では有意にその後 を用いた心筋局所のストレイン評価が可能となり,虚血 の心血管イベント発生率が低いことを報告している 61) . メモリーの検出がさらに容易になってきている 72)-75). いずれの報告においても救急室での負荷心エコー図法 Asanuma らは組織ドプラ法を用いた動物実験において の簡便さ,安全性そして非常に高い陰性適中率が示され 再灌流後に postsystolicthickening が遷延することを報告 ている 49),57)-65).さらに Conti らは救急室での負荷心エ し虚血メモリーの存在を証明した 76).Onishi らは虚血心 コー図検査は負荷心筋シンチグラフィーと同等の予後診 筋において等容拡張期に positive myocardial velocity が 断能であることを報告している 59) .救急室を受診する患 観察され,これを応用したパラメトリック・イメージが 者で,すでに冠動脈病変を有し負荷心エコー図検査陽性 胸痛患者の鑑別に有用であることを報告している 77),78). の場合は CCU に入院させることが必要である.この負 Liang らは 2 次元スペックル・トラッキング法を用い, 荷心エコー図法を用いたアルゴリズムに関しては,3 か 冠動脈に 70 %以上の高度狭窄を有する領域では安静時 国,6 施設で 500 名以上の患者を用いた SPEED トライア においても拡張早期の longitudinal strain rate が低下して ルにおいて,救急室における負荷心エコー図法の陰性適中 いることを報告している 79).また Ishii らは 2 次元スペッ 率は 99%でありその安全性と有用性が証明されている . 62) ③心筋コントラストエコー図法 クル・トラッキング法を用い 50 %以上の有意狭窄領域 に お い て ト レ ッ ド ミ ル 運 動 負 荷 10 分 後 に お い て も diastolic stunning が観察可能であることを報告し 80),さ 心筋梗塞に陥った領域は心筋細胞とともに冠微小循環 らに虚血が示された病変においては,PCI にて虚血が解 系も障害を受け,心筋血流が減少する.これは主に,冠 除された 24 時間後もその支配領域で diastolic stunning が 15 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 観察されることを報告している 81).このように急性冠症 ② Tc-99m 標識心筋血流イメージング 候 群 で は 責 任 冠 動 脈 領 域 に お い て 高 頻 度 に diastolic 急性期あるいは救急で Tc-99m 心筋血流製剤を投与し stunning が検出されることが考えられ,今後スペックル・ て施行されるリスク心筋のイメージングおよび後日の心 トラッキング法を用いた diastolic stunning の検出が急性 筋イメージング再検による救済心筋評価はその有用性が 冠症候群の非侵襲的診断に有用となる可能性が考えられ 報告されているが,救急外来での利用については実施で る. きる施設の点で限界がある 83),92),93).また,心筋血流イ 3 メージングで評価された急性心筋梗塞後の最終的な梗塞 核医学検査 サイズは,左室駆出分画や壁運動とともに,患者の予後 と相関する点でも重要である.Tc-99m 製剤は心電図同 クラスⅠ 1.胸痛で受診した患者で冠動脈疾患の診断がつかな 期法(SPECT)に適しており,その併用により診断能 い場合に Tl-201,Tc-99m 安静時心筋血流シンチグ が向上すると報告されている 94),95).微小心筋梗塞の診 ラフィにより ACS の診断を行う.(レベル B) 断に際してもトロポニン I と同等以上の診断結果が得ら 2.Tl-201,Tc-99m 安静時心筋血流シンチグラフィに より梗塞範囲を推定する.(レベル B) 3.123I-BMIPP シンチグラフィにより不安定狭心症 ②心筋血流イメージング以外の検査方法 ①T c-99mピロリン酸を用いた急性心筋梗塞イメージング の診断を行う.(レベル B) クラスⅡ a 本法は心筋細胞膜の破綻による Ca の過負荷とミトコ 1.Tl-201,Tc-99m 安静時心筋血流シンチグラフィに より予後予測を行う.(レベル B) ンドリア内 Ca 沈着の増大の結果ピロリン酸(PYP)が 集積して急性心筋梗塞巣を陽性描出する.PYP の集積 2.I-123-BMIPP シンチグラフィにより予後予測を行 は梗塞発症後 12 ~ 16 時間から観察され,48 ~ 72 時間 でピークとなり,1 ~ 2 週後陰性化する.画像で検出で う.(レベル C) クラスⅢ きるまで時間がかかること,感度,特異度に問題がある 1.運動負荷心筋シンチグラフィを急性冠症候群の急 こと,画像の空間分解能も悪いことなどから今日,行わ れることはほとんどなく,心臓 MRI にとって代わられ 性期に行う.(レベル C) ている. ①胸痛症例の診断について ② I-123-BMIPP イメージングを用いた脂肪酸代謝イメ 外来を受診した胸痛を呈する症例を CCU に入院させ ージング るべきか否かを決定する際,院内で用時調整が可能で再 急性冠症候群の診断 分布がなく投与後 30 ~ 60 分で撮影が可能な Tc-99m 標 不安定狭心症や急性心筋梗塞急性期では,心筋の生存 識の血流製剤を用いた安静時心筋血流イメージングの有 性や脂肪酸代謝障害の程度により様々な BMIPP 集積異 用性が報告されている 82)-96). 常を示す.壊死心筋では代謝活性,生存性ともに消失す 1)リスク層別化について る.このため,安静時心筋血流と BMIPP 集積の一致し 急性心筋梗塞あるいは急性冠症候群の早期に施行され た高度な欠損や壁運動低下を認める.一方,一定以上の る心筋イメージングの異常は,他の冠動脈疾患の危険因 重症な虚血心筋(冬眠心筋)や急性冠症候群の心筋血流 子とあわせて,リスク層別化の重要な因子である.血行 の再開通などによる重症虚血解除後の生存心筋(気絶心 再建や再灌流前後のイメージングにおいても,リスク評 筋)では安静時心筋血流が維持されるが脂肪酸代謝障害 価と効果判定の価値が認識されている 16 れたと報告されている 96). 87)-91) . を示すため血流/ BMIPP 集積乖離を呈する 97)-102).血 ① Tl-201 心筋血流イメージング 流/ BMIPP 集積乖離の程度は心筋壊死を規定する心筋 Tl-201 による心筋血流イメージングは歴史的にも意義 虚血の程度と持続時間,残存狭窄,冠側副血行路,治療 が確立された重要な心筋血流検査法であるが,その放射 などの修飾因子により様々である. 物理学的な特性(核種のエネルギーの低さ,長い半減期 BMIPP イメージングによる梗塞心筋の診断精度は心 による被曝とそのための投与量の制限)などから,画質 筋血流イメージングと同等であるが,非 ST 上昇型心筋 の問題,心電図同期 SPECT に不向きなどの欠点があり, 梗塞や不安定狭心症の診断では優っている 103)-107).こ 我が国でも次第に Tc-99m 心筋血流製剤にとって代わっ れは,自然再開通や冠攣縮の寛解,治療などにより早期 てきている. の再灌流を得た場合,壊死は免れるも虚血性心筋脂肪酸 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 代謝障害が残存しているためである 97)-102).したがって, 脈狭窄はほぼ否定される. 急性冠症候群の早期の障害心筋の評価,急性冠症候群回 このような冠動脈 CT の狭窄診断の精度の向上を背景 復期の負荷検査困難例,負荷による診断が困難ないし診 として,最近,胸痛患者において冠動脈 CT が ACS の診 断精度が低いと予想される際,安静時心筋 BMIPP イメ 断や除外診断に有用と報告されている.The ROMICAT 108),109) study では 125),冠動脈疾患の病歴がなく,心電図変化を 一過性の壁運動低下を呈している気絶心筋において 示さず,トロポニン陰性の低―中等度リスク症例 368 例 BMIPP イメージングの診断的価値は高い.心筋バイア (ACS は 8%)を対象に 64 列 MDCT の診断精度が検討さ ージングの有用性は高い . ビリティーを認めるが,虚血性心筋脂肪酸代謝障害のた れ,プラークの有無による感度は 100%,特異度は 54%, め血流─代謝(BMIPP)乖離領域として同定される. 50 %以上の冠動脈狭窄の診断について感度 77 %,特異 脂肪酸集積は数週間から数か月の経過で壁運動とともに 度 87%であった.また,急性の胸痛を示した 58 例を対 回復し,壁運動の改善は血流─代謝乖離所見の改善とよ 象とした Rubinstein らの検討では 126),冠動脈 CT による く 相 関 す る た め, 心 機 能 の 改 善 予 測 も 可 能 で あ ACS 診断の感度は 100 %,特異度は 92 %,15 か月間の .しかし,心筋虚血重症度に 経過観察における MACE に対する感度は 92 %,特異度 よって心筋 BMIPP 集積(心筋脂肪酸代謝)は完全には は 76%と報告されている.さらに,197 例の急性の胸痛 る 97),100)-104),106),108),118)-114) 正常化しないこともある 115),116) .急性心筋梗塞後の予後 を訴える,ACS 疑いの患者を対象とした Goldstein らの 研究では,血流─ BMIPP 集積乖離や BMIPP 欠損の大き 冠動脈 CT と負荷心筋シンチグラムの無作為比較検討で さは心臓死を含む心事故の有意な独立した予後規定因子 は,冠動脈 CT 群は診断に要した時間が有意に短く,冠 とされ,心筋梗塞の既往,左室駆出率,女性,加齢,左 動脈造影検査施行頻度が高かったものの総経費は低値で 前下行枝病変とともに相加的にも予後評価上の意義を有 あった.ただし,冠動脈 CT 群では,中等度狭窄の所見 している 115)-120). や診断に足る画像が得られないために,その 24 %の患 4 者に追加の負荷心筋シンチグラムを要している 127). 冠動脈 CT ACS において冠動脈 CT の最も良い適応となるのは, 冠動脈疾患や心筋梗塞の既往がなく,心電図変化や血液 クラス IIa 1.中リスク群(心電図変化なし,血液生化学検査陰性) において冠動脈 CT を施行する.(レベル B) 2.低リスク群(心電図変化なし,血液生化学検査陰性) において冠動脈 CT を施行する.(レベル B) クラス IIb 学的陽性所見のない低―中等度リスク群の患者である. 洞調律で腎機能が保たれていれば,冠動脈 CT を受ける ことにより,より侵襲性の高い冠動脈造影検査を回避で き,その恩恵は最も大きい.一方,高リスク群では,冠 動脈造影検査を避けられず,冠動脈 CT の良い適応とは 1.胸痛患者において“triple rule out”として冠動脈 CT を施行する.(レベル C) 2.高リスク群(心電図変化あり,あるいは血液生化 ならない 128),129). 胸痛を訴える低―中等度リスク群の患者においては, ACS を含めた冠動脈疾患,大動脈解離,肺血栓塞栓症 学検査陽性)において冠動脈造影が予定されていな の 3 疾患を同時に評価する“triple rule out”の有用性が い場合に,冠動脈 CT を施行する.(レベル C) 議論されている 130).しかし,現在,最も普及している 64 列の装置では,“triple rule out”のための撮影プロト クラス III 1.高リスク群(心電図変化あり,あるいは血液生化 コールは,撮影範囲の拡大,時相をずらしての複数回の 学検査陽性)において冠動脈造影が予定されている 撮影による被曝線量の増加が問題となる 131).低線量被 場合に冠動脈 CT を施行する.(レベル C) 曝を可能とする dual source CT 装置を用いても,冠動脈 近年の MDCT の進歩により,64 列に代表される MDCT 撮影に特化したプロトコールと比較して, 病院滞在時間, を用いた冠動脈狭窄の検出能は,著しく向上し,冠動脈 他の検査の併用なしでの退院率,および急性イベント否 造影に匹敵する形態情報が得られるようになっ 定までの時間に差がないとする報告もあり 132),さらな た .冠動脈造影での 50 %以上の狭窄を有意狭窄 121 -124) る検討が必要である. とすると,冠動脈 CT による冠動脈狭窄の検出における ただし,冠動脈 CT は冠動脈狭窄に関する情報ばかり 陽性的中率は 91 ~ 93% ,陰性的中率は 95 ~ 100%と でなく,プラークの大きさや性状についての重要な情報 報告されている 121)-123).特に陰性的中率の高さが特徴 を提供することに特徴がある.Motoyama らは,ACS 症 であり,冠動脈 CT で有意狭窄が認められなければ冠動 例に見られる冠動脈プラークの特徴として,positive 121) 17 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) remodeling(陽性リモデリング),non-calcified plaques(非 MRI の急性冠症候群における有用性の可能性を示す報 石灰化プラーク),ならびに spotty calcification(微小石 告も認められている 139). 灰化)を挙げている 133) .さらに,彼らは冠動脈 CT を施 現状では,急性の重症疾患の可能性のある患者を制約 行した 1,059 例の検討から,low-attenuation プラークを の多い MRI 検査室で検査を行うことへの心理的な躊躇 伴う positive remodeling を示す冠動脈病変を有する症例 が,この領域での心臓 MRI 検査が今なお進展しない最 が,ACS 発症の高リスク症例であることを示した 134). 大の足かせになっていると思われるが,その潜在的な可 冠動脈 CT が,その後の ACS 発症を予測し得る可能性を 能性の高さを考えると,心臓 MRI を迅速かつ安全に施 示したもので,冠動脈 CT の ACS における,さらなる有 行するために十分な物的および人的環境の整備ができれ 用性が期待される. ば,心臓 MRI が急性冠症候群の診断・管理において, 核磁気共鳴イメージング(MRI) 5 心臓 MRI クラス IIb 有用な検査となる可能性は高い. 4 血液生化学検査 クラスⅠ 1.急性冠症候群(心電図変化あり,あるいは血液生 1.胸痛または胸部不快感を示す患者の早期リスクの 化学検査陽性)の診断において心臓 MRI を施行す 層別化に心筋障害の生化学的マーカーを用いる. (レ る.(レベル C) ベル B) 2.急性冠症候群を疑う全患者で,生化学的マーカー 心臓 MRI は,近年,急速な発展を遂げ,壁運動評価, であるクレアチニンキナーゼ(CK および CK-MB) 心筋灌流,および心筋性状の評価において極めて高い有 および心筋特異度が高い心筋トロポニン(トロポニ 用性を示してきたが,急性冠症候群の診断における十分 ン T,トロポニン I)を測定する.(レベル C) なエビデンスの蓄積はない. これまでの急性冠症候群における心臓 MRI による診 断の報告を見ると,いずれも極めて高い感度(84 ~ 100 %)と特異度(83 ~ 96%)を示し 135)-138),シネ MRI に よる壁運動異常の検出,パーフュージョン MRI による 安静時の心筋灌流の異常,遅延造影 MRI による梗塞巣 の有無,T2 強調画像を用いた心筋浮腫の有無などの所 見を総合的に組み合わせて評価した報告が多い. 心電図変化を伴わない急性冠症候群を疑わせる胸痛で 3.胸痛発症後 6 時間以内の測定で生化学的マーカー が陰性の場合も,発症 6 ~ 12 時間後に再度測定する. (レベル C) クラスⅡ a 1.胸部症状発症後 6 時間以内の患者に,心筋トロポ ニンに加えてミオグロビンも測定する.(レベル C) クラスⅡ b 1.C 反応性蛋白(CRP)および他の炎症マーカーを 診断の補助とする .(レベル B) 救急外来を受診した 161 例を対象に心臓 MRI による急 性冠症候群の診断能を検討した Plein らの報告では,壁 生化学的マーカーについては従来から急性心筋梗塞で 運動異常,灌流欠損および梗塞の有無の評価より,心臓 は CK(CK-MB),ミオグロビン,GOT,LDH などの心 MRI は 感 度 84 %, 特 異 度 85 % と 高 い 診 断 能 を 示 し 筋逸脱酵素や心筋構造蛋白が血中に流出することが知ら た 18 137) .また,Cury らの報告では,壁運動異常,灌流欠 れ,広く診断と重症度判定に用いられてきた.一方,不 損および梗塞の有無を診断基準に用いる従来の解析に, 安定狭心症で心筋逸脱酵素の軽度上昇を示す患者は,急 T2 強調画像による心筋浮腫所見を加えた解析を行うと, 性心筋梗塞発症の危険度が高い病態にあると推測されて 特異度は 84%から 96%へ,陽性的中率は 55%から 85% きたが,心筋特異性の低いこれらのマーカーによる重症 へ,正診率は 84%から 93%へと著しく改善する 138).さ 度評価はしばしば困難であった.近年,モノクローナル らに, Raman らの報告では,T2 強調画像で心筋浮腫(Area 抗体を用いた免疫測定法により心筋組織に特異的なトロ at Risk を表す)が認められる症例は,認められない症 ポニン T,トロポニン I の微量レベルでの測定ができる 例に比して,予後が不良で,発症早期の intervention を ようになり,健常人との鑑別が可能となった 140)-142). 必要とする指標となることが示されている.心臓 MRI 非 ST 上昇型急性冠症候群における心筋トロポニン測定 以外の検査では評価できない指標が治療や予後において の有用性は多施設共同研究で広く検証され,急性冠症候 重要な意味を有することが明らかになるなど,心臓 群の診療に関する 2000 年の「ACC/AHA ガイドライン」 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン においても重要な位置を与えられている.心筋トロポニ れ未満に比べ早期心事故を 3 倍高率に生じると報告され ンの正常上限値の設定により CK-MB が上昇しない程度 ている.CRP は冠動脈硬化の粥腫不安定化のマーカー の微小心筋障害も検出でき,このような病態は不安定狭 として着目されていて 157),不安定狭心症で急性炎症反 心症の中の 30 %を占めるとされる.CK-MB は総 CK 値 応の指標が上昇している場合は,無症状であっても不安 との比を考慮すれば心筋障害評価の意義は高く,従来と 定性が持続している,あるいは再発しやすいことを示し 同様に用いることが可能である.ショック,直流通電な ている可能性がある 158). どにより骨格筋損傷があると総 CK 値とともに CK-MB も上昇するが,骨格筋損傷では両者の比は 5%を超えな 5 観血的検査 1 冠動脈造影と左室造影 い点で鑑別可能である.同様に血中ミオグロビンも骨格 筋損傷で増加し心臓特異性は低いが,これが否定できれ ば,血中ミオグロビンは心筋障害発現後にもっとも迅速 に,1 時間で上昇を始める.生化学的マーカーを用いた 急性冠症候群の評価では,測定が簡便で,かつ迅速に(で きれば 30 分以内)結果が得られることが重要である. ① 冠動脈造影 クラスⅠ この点から,トロポニン T の迅速定性ならびに定量測定 1.薬物治療に抵抗し心筋虚血発作を繰り返す患者, 法は有用であると考えられ,市販されているキットでは あるいは初期治療により一旦安定が得られた後に症 ベッドサイドで採血後 10 ~ 12 分後に測定結果を得るこ 状が再燃した患者では緊急に冠動脈造影を行う. (レ とができる 143) ベル B) . これらの生化学的マーカーによるリスク評価について は,心筋トロポニン T および I の上昇と患者の予後との 関係が広く検討されていて 144)-147) ,死亡および心筋梗 塞の予測因子として有用であり,治療指針の決定にも有 効であることが示されている 148).胸痛のため救急部門 2.短期リスクの高い不安定狭心症患者では準緊急に 冠動脈造影を行う.(レベル B) 3.短期リスクが高度~中等度の不安定狭心症患者に 初期治療を行い,安定した後に冠動脈造影を行う. (レベル A) を受診した患者で心電図が ST 上昇を示さず CK-MB 値 4.各種非侵襲的検査により高度な虚血所見や左室機 も正常な患者においても,トロポニン I の上昇が認めら 能低下が認められる不安定狭心症患者に冠動脈造影 れればその上昇の程度に応じ早期死亡率は 1.0%から 7.5 を行う.(レベル B) %まで直線的に増加し 147) ,また胸痛に加えて心電図で ST-T 変化を認め血清 CK-MB の上昇を示す患者でも,ト ロポニン T の上昇が 30 日予後を予測させる最良の因子 であると報告されている 149) .最近高感度トロポニンT, トロポニンIが測定可能となった 150),151).高感度トロポ ニンの測定は ST 上昇型心筋梗塞のみならず,非 ST 上昇 型心筋梗塞の早期診断にも有用であることが報告されて いる 152) .安定狭心症や不安定狭心症において,通常の 5.6 か月以内に PCI を施行している不安定狭心症患 者に冠動脈造影を行う.(レベル B) 6.冠動脈バイパス術の既往がある不安定狭心症患者 に冠動脈造影を行う.(レベル B) クラスⅡ a 1.冠攣縮性狭心症が疑われる患者に冠動脈造影を行 う.(レベル C) クラスⅡ b トロポニン測定が測定感度以下であっても,高感度トロ 1.短期リスクの低い不安定狭心症で,各種非侵襲的 ポ ニ ン 高 値 例 は 予 後 が 悪 く, 心 筋 梗 塞 や 死 亡 も 多 検査でも高度な心筋虚血所見や左室機能低下が認め い 153),154) .ただし,高感度トロポニンは様々な病態で上 昇することが知られている 155) .今後,急性冠症候群の られない患者に冠動脈造影を行う.(レベル C) クラスⅢ 診断のカットポイントや連続測定の基準値の確立が望ま 1.反復する胸部不快感があるが心筋虚血の客観的所 れる.CK-MB も非 ST 上昇型急性冠症候群の 30 日およ 見に乏しく,過去 5 年以内の冠動脈造影所見が正常 び 6 か月後の死亡率と強い相関が認められている 156) . 新しい心筋マーカーのヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク である患者に冠動脈造影を行う.(レベル C) 2.冠血行再建の適応がない不安定狭心症患者,ある 質(H-FABP)は発症 2 時間以内の心筋障害が診断可能 いは冠血行再建により QOL,生存期間の向上が見 である.一方,血中 CRP 値は急性炎症をあらわすマー 込めない患者に冠動脈造影を行う.(レベル C) カーであり,不安定狭心症にて CRP 0.3mg/dL 以上はそ 3.合併疾患のため冠動脈造影の危険性がその利点を 19 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 上回る患者に冠動脈造影を行う.(レベル C) を行うことも有用な方法である. 我が国で侵襲的治療と保存的治療を無作為に比較した 冠動脈造影の適応を判断するときには,冠動脈造影に 報告はないが,胸痛や心筋虚血が遷延している患者では 伴うリスクとその利点を勘案することが重要で,患者の 早期に冠動脈造影を実施する施設が多い.特に広範な 短期リスクの評価が欠かせない(表 3).冠動脈造影を ST 低下所見を呈する患者には,重症多枝病変で早期の 施行することの利点としては, (1)冠動脈病変の重症度 CABG を要する症例が含まれており,その適応の確認に に基づき予後を推測し,適切な治療を選択するための重 冠動脈造影は必須である 179). 要な情報が得られる, (2)血行再建の実施により予後の 一般に不安定狭心症の冠動脈造影所見では有意狭窄の 改善,抗狭心症薬の減量や入院期間短縮が期待できるな ないものが 10 ~ 20%占めるとされている 44).また我が どが挙げられる 159).一般的に急性冠症候群が疑われる 国では,欧米に比べて冠攣縮の関与した安静時狭心症が 場合は可能な限り冠動脈造影施行可能な施設に収容すべ 多いといわれているが 180),181),冠攣縮は造影上正常に近 きである.急性冠症候群において緊急冠動脈造影の適応 い部位に生じる場合や器質的狭窄部位に一致して起こる とされるのは,十分な薬物治療下においても発作を繰り 場合があり,造影によってそれを明らかにすることは治 返す患者,新規または増悪した僧帽弁逆流や心不全所見 療方針決定に役立つ. (湿性ラ音,Ⅲ音)を認める患者,不安定な血行動態を 冠血行再建術後の患者に狭心症が再発した場合には, 呈 す る 患 者, 危 険 な 不 整 脈 の 認 め ら れ る 患 者 で あ 早期に積極的に冠動脈造影を施行して再血行再建の要否 る 160)-163).また非侵襲的検査で左心機能低下がある場 を確認する必要がある.高リスク患者の生命予後改善の 合や,灌流域の大きな前下行枝病変や多枝病変例などの ためや,広範囲な虚血心筋を救済するために血行再建術 高リスクが疑われた場合も,早期に冠動脈造影を施行し, が必要となることが多いためである.CABG 後のグラフ 血行再建の適応を判断することが重要と考えられ ト疾患は PCI により良好な拡張が得られることが多く, る 44),47),164). 積極的に冠動脈造影を行うことに意義がある.またバル 急性冠症候群に対する治療戦略は冠動脈造影および血 ーン拡張のみによる PCI 直後には 2 ~ 11%で急性冠閉塞 行再建の施行時期によって早期侵襲的治療戦略と早期保 が発生し 182)-185),ステント留置術後には約 1%に亜急性 存的治療戦略(もしくは選択的侵襲的治療戦略)の 2 通 血栓性閉塞が発生するので 186),187),このような場合にも りに分けられる.早期侵襲的戦略では,禁忌がなければ PCI を再施行するために緊急冠動脈造影が必要となる. 入院した全患者に早期に待機的冠動脈造影を施行し,適 また PCI 後 9 か月以内の狭心症再発は再狭窄の可能性が 応があれば血行再建治療を行う.早期保存的戦略では, 高く 188),189),やはり血行再建術再施行を前提とした冠動 臨床的に高リスクと判断されるか,十分な薬物治療によ 脈造影の適応となる.なお,不安定狭心症で初回インタ っても心筋虚血発作を繰り返す患者に対してのみ冠動脈 ーベンション治療を施行した場合には,再狭窄時にも不 造影を施行する.したがって,冠動脈造影施行時期はど 安定狭心症の病態を呈することが多いと言われてい のような治療戦略をとるかによって大きく異なる.この る 188). 治療戦略の優劣については 1994 年以来 15 年以上にわた 冠動脈造影の不利益 り議論されてきたが 165)-174),ステントが積極的に使用 冠動脈造影の不利益としては,侵襲的手技による合併 される時代となり,早期侵襲的治療群の遠隔期心事故は 症発生,不必要な PCI の増加,それに伴う医療費の増大 早期保存的治療群と比べ有意に低率であり,特に重症例 などが挙げられる.一般に冠動脈造影の合併症としての ほどその効果が大きいことがほぼ確立された 170)-174). 死亡率は 0.2%以下で,脳血管障害,心筋梗塞,出血な また,複数のメタ解析でも早期侵襲的治療の有効性が証 どの合併症は 0.5%以下とされている 190).我が国での心 明されているが,この戦略をとる場合,初期には血行再 筋梗塞患者を対象としたカテーテル関連合併症に関する 建術に伴う心筋梗塞などのリスクが伴うことには注意が 厚生省長寿科学研究事業研究班の調査では,冠動脈造影 .さらに,生化学的マーカー陰性 検査に伴う合併症は 60 歳未満では 5.4%,70 歳以上では の女性においては,統計的に有意ではないもののむしろ 9.1%に出現している 191).特に脳塞栓,脳出血といった 心血管事故が多いという報告もあり,治療選択決定にお 重篤な合併症は老年者に認められ,また血栓溶解療法に 必要である 24),175)-178) けるリスク層別化の重要性が強調されている 20 178) .一方, よる出血性合併症も明らかに高齢者で多かったとしてい 低リスク症例や急性冠症候群を否定すべき症例について る.したがって事前に脳血管障害あるいは重症高血圧の は,冠動脈造影ではなく陰性的中率に優れる冠動脈 CT 既往の有無を確認することが重要である.また,高齢者 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン では皮膚や皮下組織が脆弱であり,カテーテル検査を行 急性冠症候群の発生機序とされる粥腫の亀裂や解離等の うときには,穿刺部血腫や仮性動脈瘤などの血管損傷を 形態的評価や PCI 後の血管壁,内腔拡張状態の評価には 生じやすいので注意を要する.十分な病歴の把握と身体 役立つと思われる.また,急性冠症候群患者の治療戦略 所見からカテーテル手技を安全に行い得るかを判断し, や PCI の終止点の決定にも冠動脈造影以上に有益な情報 慎重に冠動脈造影の適応を決定する.その他,熱性疾患 が得られる.しかし,大規模試験の成績では,IVUS の の合併,血液凝固線溶系の異常,重篤な造影剤アレルギ 併用により PCI 後再狭窄が減少したとする報告ばかりで ー,高度の腎機能障害,高度の閉塞性動脈硬化症などは なく,非併用群と差がないとする報告も認められ,意見 一般にカテーテル検査の禁忌であり,このような患者に は原則として緊急冠動脈造影は避けるべきである. ②左室造影 クラスⅡ a 1.非観血的検査により左室機能が評価できない患者 に左室造影を行う.(レベル C) 2.左室収縮能の評価が必要な患者に,冠動脈造影と ともに左室造影を行う.(レベル C) クラスⅢ の一致が見られていなかったが,ベアメタルステント (BMS)時代におけるルチーンでの IVUS 併用群と非併 用群の PCI を比較した大規模試験のメタ解析が近年発表 され,IVUS 併用群では,6 か月間の造影上の再狭窄や 12 か月間の再血行再建術および主要心血管事故の発症 率は減少させるものの,長期的な死亡率や心筋梗塞の発 症に有意差を認めなかった 196)-198).現在,薬剤溶出性 ステント(DES)時代に入り,待機的な PCI においては, IVUS 併用にてステントの密着や適切なデバイスの選択 および拡張ができるようなり,短期的な再狭窄や再血行 1.腎機能低下などの合併疾患があり,左室造影によ 再建術の必要性は減少傾向にあり,特に分岐部病変にお り得られる情報よりも危険性の方が上回ると考えら いては,長期的な予後改善の報告もある 199),200).また れる患者に左室造影を行う.(レベル C) IVUS の使用により PCI 手技中の No Reflow 現象を余地 することができるとの報告もある 201).一方で,ルーチ 虚血性心疾患においては冠動脈病変枝数と左室機能は ンでの IVUS 併用にいまだ意見の一致が見られておら 長期予後に影響する重要な要因である 192),193).左室造影 ず,特に急性冠症候群に対してルーチンでの IVUS 併用 では左室容積,駆出率,左室局所壁運動などの情報を得 による PCI は,DES 時代においても,長期的な死亡率や ることができる.局所壁運動の定量的解析手段としては 心臓血管イベントを減少させたという報告はなく 202), センターライン法が普及しており 194),195),壁運動が残存 さらに IUVS を急性冠症候群の診断目的だけに施行する していることは生存心筋の証明となる. ことの有用性は証明されていない.急性冠症候群におけ 従来より左室造影は左室収縮能評価法の標準的検査法 る IVUS の有用性について今後の検討が必要である. として施行されてきた.左室造影の利点としては,心エ コー図検査と異なり,ほとんどすべての患者で再現性の ②血管内視鏡 高い良好な画像を記録できることが挙げられる.明らか 冠動脈内腔壁の形態や色調を直接観察することは,急 な根拠はないが,左室造影による合併症の危険性が低い 性冠症候群の病態解明や治療戦略の選択に有益な情報が と予想される場合には,冠動脈造影に伴って左室造影を 得られ,治療成績の向上が図れると期待される 203).特 施行してもよいと思われる.不明瞭な心エコー図画像し に血栓や粥腫の診断においては,本法による色調からの か得られない患者においては左室造影が有用である. 分類が有用である.血栓は赤血球主体の赤色血栓,血小 2 血管内エコー法,血管内視鏡,光 干渉断層法 ①血管内エコー法(IVUS) 板主体の白色血栓,その混合である混合血栓に分類され, 治療戦略をたてる上での有力な情報がもたらされる 204). 一方粥腫(プラーク)は,線維性被膜が薄く脂質コアの 多い黄色プラークと線維性被膜が厚く脂質コアの少ない 白色プラークに分類され,冠動脈硬化の進行程度や破裂 血管内エコー法(IVUS)は,従来の冠動脈造影法に しやすいプラーク(不安定プラーク)の推測がある程度 よる形態的評価と異なり,血管内腔面積,血管総断面積 可能とされる 205).しかし現時点では,冠動脈内視鏡を や粥腫面積の定量的評価が可能な唯一の検査法である. 急性冠症候群の診断目的に施行することの有用性は証明 また,冠動脈造影では評価できない石灰化病変の描出や されていない. 血管リモデリングの検出にも優れている.したがって, 21 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) ③光干渉断層法(OCT) ることが報告されている 45),212).近年,我が国でも虚血 性心疾患も重症化が進み,ACS においても多枝に複数 急性冠症候群の責任病変となり得るプラークは,一般 にわたる病変を有する患者が多く,冠動脈造影時に責任 的に不安定プラーク(vulnerable plaque)と呼ばれるが, 血管の同定や,非責任血管の機能的狭窄度の判断に苦慮 その診断には内腔の狭窄度やプラークのサイズのみなら することもまれでない.ACS の冠動脈造影時の責任血 ず,組織の性状や線維性被膜の厚さなどの詳細な検討が 管/責任病変の同定あるいは非責任血管に存在する病変 必要である.また,DES 時代に入り,ステントの晩期 の機能的重症度評価は ACS の管理において極めて重要 ステント血栓症が懸念されるため,ステントと内膜との である.ACS 急性期の非侵襲的負荷検査による虚血評 適切な圧着(apposition)やステント留置時の解離など 価は過小評価する傾向にあり,精度の高い虚血評価が必 の評価も適切に行わなければならない.近年,近赤外線 要とされる.現状では十分なエビデンスはそろっていな を用いて冠動脈内を観察することができる光干渉断層法 いが,責任冠動脈病変への再灌流治療に引き続いて行う (Optical coherence tomography: OCT)が臨床応用され, 非責任血管・病変の FFR による虚血評価の有用性が報 約 10 μ m という高解像度を有し(IVUS の約 10 倍),不 安定プラークの組織学的診断や,適切なステント留置の 評価に有用性を認めている.65 μ m 未満の薄い線維性被 告されている 213). 6 膜を有し,内部に豊富な脂質成分を含んだ動脈硬化巣は, リスク評価と院内および短期 予後 不安定プラークの中でも破裂しやすく急性冠症候群に移 行しやすいと言われている.そのような危険性の高い薄 病歴,身体所見や種々の検査所見から,リスクを評価 い 線 維 性 被 膜 で 覆 わ れ た 動 脈 硬 化 巣 は Thin-cap し,院内および短期の予後を推測することができる.院 fibroatheroma(TCFA)と呼ばれている 206).また,急性 内および短期予後のリスク評価を考える場合に,共通す 冠症候群における不安定プラークは,責任病変に局在す る部分も少なくないが,原則として,予後ハイリスク患 るものではなく,その他の冠動脈にも多数認められるこ 者の評価に関しては,院内予後を対象とし,短期予後に とが OCT で確認されている 207),208).さらに,高解像度 ついては退院時から,1 年後までの予後とした. を有する OCT では,薄い線維性被膜の計測や脂質プラ ークの評価も可能であり,TCFA を確認することにより 急性冠症候群発症の予測ならびに,スタチンを含む治療 効果の判定にも有用であることが報告されている 209). 院内予後ハイリスク患者 ①病歴と身体所見 しかし,近赤外線の深部到達度が低いことや,病変の観 病歴や身体所見は非特異的な指標ではあるが,重要な 察のために赤血球を除去する必要性があることなど,多 情報を提供する.病歴では,高齢者(65 歳以上)214), くの問題点もかかえており,急性冠症候群の組織学的診 糖尿病の既往 215),216),腎機能障害 217),心筋梗塞後狭心症, 断には優れるものの,臨床上の問題点がまだ多く存在す 末梢動脈疾患の既往 218),脳血管疾患の既往 193),心筋梗 る.また,現在のところ PCI 時に,OCT のルーチン使 塞の既往,冠動脈バイパス術歴,アスピリン服用歴など 用で長期的な予後や心血管イベントの減少を証明した報 がハイリスク要因として挙げられる.アスピリン服用歴 告はない. がハイリスクとされるのは,抗血小板療法を行っていて 次世代の OCT では,近赤外線の到達度が改善され, も,なお急性冠症候群を発症するという点で,より重症 また,赤血球排除のためのバルーン閉塞も必要でなくな 化した症例として,捉えているためである.症状につい るなど利便性や空間分解能も向上するため,今後さらな ては,不安定狭心症の Braunwald 分類がリスク評価に有 る臨床応用が期待される. 用である 160).クラスⅡおよびⅢ(急性あるいは亜急性), ④冠血流予備量比(Fractional Flow Reserve: FFR) クラス B(一次性不安定狭心症),クラス C(梗塞後狭 心症)などが,中等度~高リスクである.身体所見とし FFR は冠動脈狭窄の機能的重症度指標としてその有用 て,血圧低下 219),220)や頻脈,徐脈などの所見や心不全症 性が認められている 210),211).冠動脈造影時にリアルタイ 状 220),221)も高リスクである.一過性のギャロップ音,心 ムに冠動脈の各枝・病変ごとの機能的重症度の判定がで 不全を示唆する湿性ラ音,新規出現の僧帽弁逆流音は虚 きることに最大のメリットがある.最近の前向き試験で 血に伴う心機能低下を示唆し,予後不良である 219). は FFR の結果に基づく治療方針の決定が予後を改善す 22 1 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 予測因子として,有用である.ただ,測定のタイミング ②心電図変化 が重要であり,入院時よりも,数日後の値の方が予後予 心電図で,ハイリスクとされる所見として,以下の所 測に有用であり,入院時のリスク評価には,限界があ 見が挙げられる. る 232). 新たな ST 偏位(0.05mV 以上) その他,高血糖は非糖尿病患者でも,死亡と心不全の 0.3mV 以上の T 波の陰転 強力な予測因子である 233).腎機能障害も短期および長 左脚ブロックの出現 期予後に影響を与える因子である 234).血清クレアチニ 持続性心室頻拍 ンそのものは,年齢や性別の影響を受け,腎機能の指標 さらに,aVR 誘導での ST 上昇や QRS 幅の延長も,予 として,限界があり,クレアチニンクラランスや eGFR 後不良とされる左主幹部病変や 3 枝疾患と関連している (estimated glomerular filtration rate)の方が用いられる. と報告されており,注意する必要がある 17),222) .また, 上記,生化学マーカーの中で,心筋障害あるいは心筋 受診時の心電図だけでなく,入院患者での心電図連続モ 壊死のマーカーは,ベッドサイドで,早期に測定する ニターでの,1 分以上持続する 1mm を超える ST 低下も (point of care)ことで,より早期より,リスクの層別化 心血管死を含む再発性の虚血と関連すると報告されてい る 223),224) . を行うことが可能となる. ④冠動脈造影および血管内画像診断 ③血液生化学検査 リスク評価および予後評価に冠動脈造影所見は重要で 急性冠症候群のリスク評価と予後予測のための血液生 ある.急性冠症候群に対する治療戦略には早期侵襲的戦 化学マーカーとして,心筋障害あるいは心筋壊死のマー 略と早期保存的治療戦略があるが,冠動脈造影は早期侵 カー,炎症のマーカー,心筋ストレスのマーカー,さら 襲的戦略でのその後の治療方針を決める上で,重要な情 に,血糖値,腎機能などがある. 報を与える.リスク評価に重要な冠動脈所見としては, 心筋障害あるいは心筋壊死のマーカーとしては,従来 まず病変枝数が挙げられる.左主幹部病変は血行再建を から,トロポニン T やトロポニン I が用いられてきてお 行わなければ,予後は不良である.さらに,また,多枝 り,30 日時点での心筋梗塞や死亡の予測因子とされ, 疾患は,1 枝疾患に比べてハイリスクであり,予後も悪 また 1 年以後の予後とも関連している.トロポニンの上 い 235).病変所見として,血栓が存在する場合は血栓が 昇を認めれば,心筋壊死のマーカーである CKMB の上 存在しない場合よりも,予後は不良である 236).さらに, 昇を認めなくても,予後は不良である.最近,より感度 偏心性病変や壁不整病変などの複雑病変の方が予後不良 の高い検査(高感度トロポニン T や高感度トロポニン I である 236). も開発され,急性冠症候群の早期診断に加え,予後予測 冠動脈造影以外の冠動脈内画像診断として,血管内超 150),154) .高感度ト 音 波(IVUS), 血 管 内 視 鏡,Optical Coherence ロポニン T については,従来のトロポニン T に比べ,予 Tomography(OCT)などを用いて,不安定プラークの 因子としての有用性も報告されている 後の予測因子として,良好であることが報告されてお 直 接 的 な 検 出 が 試 み ら れ て い る. 実 際 に,OCT や り 150),また,高感度トロポニン I については,その値が radiofrequency IVUS を用いることで,不安定プラーク 0.04 μ g 以上であれば,30 日時点での死亡あるいは心筋 の病態として,重要とされる薄い線維性被膜(TCFA, 梗塞のハイリスクとなるとされている 154) .その他の心 Thin cap fibroatheroma)などの描出が可能とされる.ま 筋障害マーカーとして,心臓型脂肪酸結合タンパク た,血管内視鏡検査では,血栓の観察や黄色プラークの (H-FABP)がある.H-FABP は急性冠症候群の診断に使 検出なども可能である.ただ,これらがリスク評価に役 用されることが多いが 225) ,予後規定因子としての有用 性も報告されている 226).炎症のマーカーは不安定プラ ークを反映するマーカーでもあり,高感度 CRP があ 立つという明確な証拠はまだない. ⑤その他 る 227),228).CRP が陽性であれば,トロポニンが陰性でも, 1)リスクスコア 短期および長期予後が不良である 229).心筋ストレスの 上述のように,予後予測因子として,単独の因子とし マ ー カ ー と し て は BNP や NT-pro BNP が 有 用 で あ て,様々なものが報告されているが,リスクファクター る 227),228),230),231).心筋虚血や併存する左心機能低下が を複数組み合わせたものがリスクスコアとして,報告さ BNP あるいは NT-Pro BNP の上昇をもたらし,生命予後 れている.主なものとして,以下の 3 つのリスクスコア 23 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 表 4 リスクスコア 24 がある. 2 回以上の狭心症症状の存在,⑥ 7 日間以内のアスピリ TIMI リスクスコアは 7 個の因子として,①年齢(65 ンの服用,⑦心筋障害マーカーの上昇が挙げられており, 歳以上),② 3 つ以上の冠危険因子(家族歴,高血圧症, それぞれの因子の有無によって,それぞれ 1 点ずつ,加 糖尿病,喫煙)③既知の冠動脈有意狭窄(> 50 %)④ 算するしくみとなっており(表 4),14 日以後の死亡率 心電図における 0.5mm 以上の ST 変化,⑤ 24 時間以内に あるいは非致死性心筋梗塞発症率はリスクファクターが 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 表 5 CRUSADE 出血性リスクスコア 増加するにつれ,相乗的に悪化することが報告されてい これらの因子に重み付けを行い(表 4)238),入院時およ る.また,退院後のイベント発生予測の上でも,有用と び 6 か月後の予測される死亡率と死亡あるいは心筋梗塞 されている 237) . 発症率が算出される仕組みとなっている. GRACE スコアは 8 個のリスクファクターとして,① PURSUIT リスクスコアは 5 個のリスクファクターと 年齢,②心拍数,③収縮期血圧,④初期血清クレアチニ して,①年齢,②性別,③過去 6 週間の最悪の CCS 分類, ン,⑤ Killip 分類,⑥心停止による入院,⑦心筋マーカ ④心不全徴候,⑤心電図における ST 変化に重み付けを ーの上昇,⑧ ST 部分の偏位が挙げられており,実際に 行って,予後を予測するしくみとしている(表 4)239). 25 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) これらのリスクスコアはそれぞれ単独で,リスク評価 チニンクレアランス,③心拍数,④女性,⑤心不全の徴 に使用されるが,各種血液生化学マーカーなどと関連さ 候,⑥血管疾患の既往,⑦糖尿病,⑧収縮期血圧から, せて,より正確にリスクを評価する試みも行われてい スコアを算出する仕組みとなっている 244). る 240),241).ただ,これらのリスクスコアは欧米での多数 通常,高齢者では,出血を来たしやすいものと思われ 例から,導き出されたものであるが,冠攣縮性狭心症の るが,因子として含まれていない.図 8 に CRUSADE 出 頻度が高いとされる我が国では,そのまま,当てはめる 血性リスクスコアに応じた出血のリスクの頻度を示す. には限界がある可能性もあり,我が国独自のリスクスコ 以上,不安定狭心症あるいは非 ST 上昇型急性心筋梗 アが必要なのかもしれない. 塞の院内予後のハイリスク症例について,記載した.こ 2)出血のリスク れらの評価から,ハイリスクとされた症例では,早期に 出血は急性冠症候群の病態として,安定型の冠動脈疾 侵襲的治療を考慮すべきと思われる.ただ,このような 患に比べ併発しやすく,また,抗血栓薬の投与に伴い問 リスク評価の多くは,侵襲的治療の成績をもとにしたも 題となる頻度が高い 242).また,今後,抗血小板薬として, のではなく,入院時の多数例での侵襲的治療を行う前の より強力なものが使用できるようになると,副作用とし 検討から,得られたものであり,治療選択の際のリスク ての出血の問題が現在よりも,大きくなる可能性がある. 評価としての限界もあるものと思われる. 実際に出血性の合併症を来たすと入院期間の延長に繋が り,頻度は低いものの生命予後に関連する場合もあり, 2 短期予後 出血は非 ST 上昇型心筋梗塞の予後予測因子として重要 急性冠症候群の長期予後は院内での治療戦略に大きく である.出血に関連する因子として,患者背景において 依存するので,ここでは短期予後について述べる.一部 は,女性,高齢,血清クレアチニン,白血球数,貧血, は前項に記載している部分もあるので,重複した部分は ST 上昇あるいは非 ST 上昇急性心筋梗塞が,治療関連因 割愛している. 子においては,ヘパリンの投与,我が国では使用できな いが血小板糖蛋白 II b /IIIa 拮抗薬の投与が報告されて ①病歴と身体所見 いる 243).また,最近,出血のリスクをスコア化したも 急性冠症候群の患者が 1 年以内に死亡するリスクは臨 のとして,CRUSADE 出血性リスクスコアが報告されて 床的指標および心電図から予測可能である.Diltiazem いる(表 5).①入院時のヘマトクリット値,②クレア Reinfraction Study Research Group245)に よ れ ば, 非 Q 波 図 8 CRUSADE 出血性リスクスコアに応じた出血のリスクの頻度 26 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 梗塞患者における予後不良の高リスク因子は入院から退 上の plaque burden がイベント発症と関連し,これらの 院までの持続する ST の低下,鬱血性心不全,高齢およ 因子が重責するとイベント発生率がより,高くなるとさ び退院時の ST 上昇である,これらのリスク因子をすべ れている 252). て有する患者の 1 年間の死亡リスクはリスク因子のない 患者の約 14 倍となる.また,入院時の血清トロポニン ⑤核医学検査 T の上昇は短期のみならず,1 ~ 2 年後の予後を予測す 安静時の心筋灌流異常は短期予後不良を示唆する指標 る上でも独立したリスク指標となることが示されてい となる.救急外来で,心電図変化がなくても,安静時の .Braunwald らは 20 分以上持続する安静狭心症, 灌流異常を認められれば,死亡,非致死的心筋梗塞,血 虚血に合併した肺水腫,III 音またはラ音を伴う狭心症, 行再建の心事故が’71 %に発生したが,灌流異常がな 低血圧を伴う狭心症の短期予後は不良であることを指摘 ければ心事故は 1.4%であったと報告されている 253). る 246),247) している. ⑥ MRI 検査 ②心電図検査 MRI を用いて,急性冠症候群の予後を予測する検討 来院時の安静時心電図変化が 1 年間の心事故(死亡あ が行われている.救急室で,急性の胸痛を認めた患者で, るいは非致死性心筋梗塞)の発症と関連することを示し アデノシンストレス灌流心臓 MR を行い,1 年後の冠動 .それによると 1 年間の死亡あるいは 脈疾患の進行を 100%の感度と 93%の特異度で,予測で 非致死的心筋梗塞の予測因子は左脚ブロックと ST 変化 きるとする報告 254)や,急性冠症候群の症例で,心筋浮 (>= 0.5mm)であり,リスク比はそれぞれ 2.80,2.45 腫の有無でその後の血行再建率が異なるとする報告があ た報告がある 248) であった.一方,T 波の変化は死亡や非致死的心筋梗塞 る 139). の危険率を増加させなかった.また GUSTO IIb 試験で は,T 波の変化より,ST の 0.5mm 以上の変化の方が 30 日間の心事故と関連していた 249). Ⅲ 治 療 ③冠動脈造影所見 安静型の冠動脈疾患を対象に,左主幹部疾患あるいは 3 枝疾患を対象に冠動脈バイパス術と TAXUS ステント を用いた無作為比較試験(SYNTAX 試験)が行われ, 1 リスク評価に基づいた治療指 針 その長期成績が報告されている 250).その中で,用いら れている冠動脈全体での病変の進行度を示すものとして クラスⅠ SYNTAX スコアが提唱され,リスクの層別化に有用と 1.急性冠症候群が疑われるすべての患者に対して閉 報告されている 250).この SYNTAX スコアが急性冠症候 塞性冠動脈疾患の確からしさを迅速に評価し,その 群のリスクの層別化にも有用とする報告がある 251) が, 今後の更なる検討が必要と思われる. ④血管内超音波検査 最近,PCI 施行急性冠症候群を対象に,冠動脈 3 枝を, 血 管 造 影, 血 管 内 超 音 波(Gray scale IVUS お よ び radiofrequency IVUS)で,評価を行い,その後,3 ~ 4 年追跡し,責任病変と非責任病変ごとの心血管イベント 結果を患者管理に反映させる. (エビデンスレベル C) 2.すべての患者において臨床像,生化学的マーカー に基づいたリスク評価を行う.(レベル B) 3.短期リスクの層別化に基づいて初期の治療方針を 決定する.(レベル B) 4.高リスク患者は救急治療室でリスク評価を行い, 入院後は CCU 管理とする.(レベル B) 5.以下の高リスク患者では早期侵襲的治療を選択す を追跡した成績が報告されている 252).その結果,責任 る.(レベル B) 病変と非責任病変で,3 年時点で,12%前後とほぼ同様 a.十分な薬物療法下でも安静時狭心症を再燃させ の心血管イベント(心臓死,心停止,心筋梗塞,不安定 る,あるいは低レベル負荷でも狭心症を生ずる患 狭心症あるいは進行する狭心症による再入院)を来たす 者. ことが報告され,radiofrequency IVUS での TCFA (Thin b.心不全の徴候を有し,狭心症を生ずる患者. cap fibroatheroma),4 mm2 以下の最小血管内腔,70%以 c.非侵襲的な検査で高リスクと判断された患者. 27 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) d.低左心機能の患者. e.血行動態が不安定な患者. 1 リスク評価と治療戦略 f.持続性心室頻拍を有する患者. 本疾患に対する治療の最大の目標は患者の短期的,長 g.6 か月以内に PCI を施行した患者. 期的な予後改善であることから,有害事象発症リスクを h.冠動脈バイパス術の既往がある患者. 推測することは治療戦略を考慮する上で基本的重要事項 i.心筋バイオマーカー上昇を認める患者. である. j.新たな ST 低下,または新たに出現したと考えら 病歴,身体所見,心電図検査,血液生化学検査から急 れる ST 低下を認める患者. 6.急性冠症候群の可能性が高い症例に反復して心電 性冠症候群の疑いが高いか否かをまず判断する.本疾患 である可能性によって,非心臓性疾患,慢性安定狭心症, 図検査,心筋バイオマーカー検査を実施し,短期リ 急性冠症候群の可能性あり,急性冠症候群確実の 4 つの スクを再評価する.(レベル B) カテゴリーに大きく分類できる.急性冠症候群,あるい 7.当初安定していた患者において臨床イベントのリ はその疑いが高いと判断した場合,次いで短期的な生命 スクレベルが上昇した場合,早期侵襲的治療戦略の 予後(心臓死,非致死的な心事故の発生)に関するリス 適応とする.(レベル C) ク層別化を行う(図 9).初期診断における重要ポイン 8.急性冠症候群の安定化後は,長期予後に関するリ スク評価を行い,そのリスクに応じた治療法を選択 する.(レベル B) クラスⅡ a トはここに集約される. ①リスク評価 病歴,身体所見,心電図検査,心筋バイオマーカーか 1.高リスク患者ではないが,薬物療法下で狭心症の らなる Braunwald の分類による短期リスク評価は短期生 コントロールが不十分である患者に早期侵襲的治療 命 予 後 255),256), 冠 動 脈 造 影 に お け る 冠 動 脈 病 変 重 症 を行う.(レベル C) 度 170),257),PCI 施行時の合併症との相関が示されており, 2.高リスク患者ではないが,65 歳以上の高齢者,ST リスク評価に基づき有害な臨床転帰の可能性を推定する 低下,生化学的マーカー上昇の患者に早期侵襲的治 ことができる.初期ケアを行う管理すべき場所(CCU, 療を行う.(レベル C) 一般病棟,外来の別),治療方針,特に血行再建の必要 3.TIMI,PURSUIT,GRACE 試験におけるリスクス コア評価を治療戦略決定の一助とする.(エビデン ス B) 4.高リスク症例に早期侵襲的治療戦略を選択した場 合,冠動脈造影は 24 時間以内に実施する.(エビデ 性などの決定に有益である.実際,リスク評価に基づい た治療戦略決定の臨床的有効性が証明されており 214), 初診時から少なくとも 12 時間以内にこの判断が行われ る べ き で あ る. リ ス ク が 高 い と 判 断 さ れ た 場 合 は, CCU での管理が必須であり,中等度リスクの症例も高 ンス B) クラスⅡ b 1.初期安定化した臨床イベントの高リスク患者にお 図 9 非 ST 上昇型急性冠症候群の診断フローチャート いて,侵襲的検査のリスクは高くない場合に保存的 急性冠症候群を示唆する症状 非 ST 上昇 治療を治療戦略として考慮する. (レベル B) クラスⅢ 1.冠動脈造影が禁忌の患者に早期侵襲的治療を行う. 急性冠症候群否定的 急性冠症候群確定的 (レベル C) 理学的所見 心電図変化 2.重度の合併症を有し(呼吸不全,癌など),血行再 建のメリットが小さいと想定される症例に早期侵襲 的治療戦略を選択する(レベル C) 生化学的マーカー測定 3.急性冠症候群の確からしさが極めて低い患者に, 早期侵襲的治療を推奨する.(レベル C) 4.同意の得られない患者に対し,早期侵襲的治療戦 略を選択する.(レベル C) 28 観察 4∼8時間後に再検 低リスク 中等度リスク 高リスク 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン リスクに準じた管理が求められる.低リスクの症例は外 建の施行時期によって初期保存的治療戦略と早期侵襲的 来管理も可能である.リスク評価は初診時の一点のみで 治療戦略の 2 通りに大別される(図 10)265).前者は, なく連続した心電図検査,心筋バイオマーカー評価によ 治療抵抗性,症状の再燃,血行動態不安定などを認めな って方針が決定されるべきであり,再評価時にリスクが い限り保存的な治療を優先し侵襲的治療のルーチンでの 高くなっている場合には治療戦略の変更が考慮される. 実施を回避する手法である.スタチン,強力な抗血小板 来院時に心筋虚血を示唆する所見がない急性冠症候群患 薬などによって不安定粥腫の安定化を得たのちの血行再 者を見逃さないことが大切である.欧米ではこのような 健は手技リスクの低下につながり,血行再建は恩恵が得 患者は外来ユニットで繰り返しリスク評価が行われる. られると想定される患者群に限定することで不必要な検 我が国ではこのような診療ユニットがないことを考慮し 査を回避できるといった利点が考えられる.後者は,禁 て,心筋虚血のサインがなくとも疑わしい場合は入院観 忌患者以外はルーチンで冠動脈造影を実施し必要に応じ 察とすることを推奨する.受診時一時点のみの評価では て血行再建を実施する手法である.冠動脈造影は予後リ 隠れたハイリスク症例を見逃すリスクがあることを銘記 スクの決定に有用であり,この治療戦略では血行再健が することが重要である. 有益である潜在的虚血患者を見落とすことがないという GRACE,TIMI,および PURSUIT リスクスコアは, 利点がある.また,責任病変の血行再建はその後の心事 本疾患の長期予後リスク判定のために開発されたスコア 故発生のリスクを軽減し,入院期間の短縮,使用薬剤な であるが,初診時のリスク判断にも有益であることが報 ど投薬量を減ずることが可能である. 告されている 239),258),259).これら 3 つのリスク判定方法 この二つの治療戦略の優劣を比較した多施設臨床比較 の中では GRACE リスクスコアの有効性が最もよく検証 試験の成績は,時代とともに変化してきている. ,入院時ならびに 1 年後の予後判定に バルーン PCI の時代に施行された不安定狭心症と非 Q おいて感度,特異度ともに TIMI リスクスコアが他の 2 波心筋梗塞を対象とした TIMI Ⅲ B 試験では,6 週間の されており 260),261) つのリスクスコアに劣ることが報告されている 262) . 心事故発生率は早期侵襲的戦略群と早期保存的戦略群に GRACE リスクスコアが高くなればなるほど積極的な治 有意差はなかったが,ハイリスク例(心電図変化例,心 療のメリットは増加すると報告されている 263),264). 筋逸脱酵素上昇,女性,65 歳以上)では早期侵襲的治 療群は入院日数,再入院率,再入院日数が有意に少なか ②治療戦略について った 266).心筋梗塞後に心筋虚血のある患者を対象とし 高リスク例に対する治療戦略は,冠動脈造影,血行再 た DANAMI 試験では,1 ~ 3 年後のいずれの時点でも侵 図 10 短期リスク評価に基づいた治療戦略 中等度リスク 高リスク アスピリン ヘパリン 抗狭心症薬 モニタリング 早期保存的治療 症状再燃 心不全 虚血の出現など 安定化 早期侵襲的治療 即時冠動脈 造影 12∼24 時間以内 負荷試験 低リスク 低リスク以外 29 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 表 6 治療戦略に関する比較検討試験の比較 Trials TIMI Ⅲ B (n=1473) VANQWISH (n=920) FRISC Ⅱ (n=2457) TACTICS-TIME (n=2220) RITA3 (n=1810) Strategy 早期侵襲的 保存的 早期侵襲的 保存的 早期侵襲的 保存的 早期侵襲的 保存的 早期侵襲的 保存的 初回入院時 血行再建率 61 49 N/A N/A 71 9 60 36 44 10 Study 終了時 決行再建率 64 58 44 33 77 37 61 44 57 28 GP Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬使用 0 0 - - 10 10 94 59 25 25 CAG 時期(日) 1.5 7.1 2 14 4 16.5 0.9 3.3 2 N/A 襲的治療群の心事故(死亡,心筋梗塞,不安定狭心症に テントが登場する以前の成績であり 268)-270),血行再建 よる再入院)発生率が保存的治療群より良好であっ 施行率,ステントの使用率,外科手術の死亡率,PCI 時 た 257) . し か し 同 じ 非Q波 心 筋 梗 塞 を 対 象 と し た の血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬の使用率などが臨床試 VANQWISH 試験では,院内および 1 年後の心事故発生 験によって大きく異なる(表 6).ステント時代に行わ 率は侵襲的治療群で不良であった 169).侵襲的治療群に れた臨床試験では侵襲的治療戦略の優位性が示された おいて実際に施行された血行再建率は低率であり遠隔期 が,CK 上昇などの初期合併症は有意でないものの侵襲 の血行再建率に両群で有意差がなかったこと,侵襲的治 的治療戦略群でやや高率であった 160),172),267),271),272). 療群の冠動脈バイパス術例の死亡率が 11.6%と高かった なお,適切な抗血小板療法の実施で早期の血行再建の 点が大きく影響した.ステントによる PCI がインターベ メリットが明らかとなる.CURRENT-OASIS 試験では, ンションの主体となったその後の FRISC- Ⅱ,TACTICS- 2009 年我が国で承認されたクロピドグレルの経口負荷 TIMI18,RITA3 では侵襲的治療群の有効性が示されて 用量について 25,086 例の急性冠症候群を対象に検討が いる.FRISC- Ⅱ試験では,6 か月後の心事故発生率は侵 行われた.PCI 施行例においてクロピドグレル 600mg 経 襲的治療群 9.4%,保存的治療群 12.1%と有意差を認め, 口負荷が 300mg 経口負荷よりステント血栓症(0.7 %対 狭心症症状,再入院も侵襲的治療群で少なかった 30 ステント 使用率 - - - - 61 70 83 83 88 90 170) . 1.3%,p=0.0001),30 日の心血管事故(心血管死,非致 低分子ヘパリン ダルテパリン併用の有無は影響しなか 死的心筋梗塞,脳卒中;3.9 %対 4.5 %,p=0.035)が有 った.血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬チロフィバンを併 意に低率であった.しかし,クロピドグレル 600mg 経 用した TACTICS-TMII18 試験では,早期侵襲的治療群 口負荷群では出血性合併症が有意に高率であった(1.6 では無作為化後平均 22 時間後に冠動脈造影,血行再建 % 対 1.1 %,p=0.009)273),274).TRITON-TIMI38 試 験 で 治療を行ったが,6 か月後心事故発生率は 15.9%で保存 は中等度―高リスクの急性冠症候群 13,608 例を対象に 的 治 療 群 19.4 % よ り 有 意 に 良 好 で あ っ た 新たな抗血小板薬プラスグレルとクロピドグレルが比較 171) . 一 方, ICTUS 試験ではトロポニン T 高値の非 ST 上昇急性心筋 された.プラスグレルの臨床における有効性が示唆され 梗塞において早期侵襲的治療は再入院を少なくするもの たが,それに伴う出血性合併症も問題視された 275).血 の,至適内科的治療下の選択的侵襲的治療群と死亡率の 小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬は血行再建の初期成績の改 差は認められなかった 267). 善に有用であることが示されているが狭心症の長期的な このように最近の臨床試験では早期侵襲的治療戦略の 安定化効果はなく 276),クロピドグレル投与後 3 番目の 有効性が示唆されているが,早期侵襲的治療のメリット 抗 血 小 板 薬 と し て の 便 益 性 が 問 題 と な っ て い る. は TIMI リ ス ク ス コ ア で intermediate risk 例(16.1 % vs EARLY ACS,ACUITY 試験の結果は依然として高リス 20.3%),high risk 例(19.5% vs 30.6%),トロポニン T ク PCI 施行例に限った選択的な使用の有効性を示唆して 上昇例(16.4% vs 24.5%),ST 変化例(16.4% vs 26.3%) いる 277),278).一方,初期保存的治療戦略例,中等度リス で認められるが,low risk 例では認められないことが ク例における便益は明らかでない.このように,治療戦 (12.8 % vs 11.8 %)TACTICS-TIMI18,FRISC Ⅱで報告 略,リスク評価に基づいて併用する抗血小板薬は多くの されている 170),171). 選択肢を有する.しかし,これらの臨床試験では我が国 侵襲的治療戦略に利点がないとする報告はいずれもス で使用不可能な薬剤や投薬量が使用されており,成績す 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン べてをただちに我が国の現状に適用することは適当でな は 11.6 %対 5.9 %で早期造影のメリットが示された.両 いと考えられる.また施設,術者の経験を無視して一般 者間のイベント発生率の差は冠動脈造影施行までの期間 化することも難しい点である.しかし,治療成績は補完 に生じており,造影後のイベントには両群差がなかっ する抗血小板療法などの進歩によって改善しており,早 た 281).問題点としては規模が小規模であること,造影 期侵襲的治療の優位性を示唆する結果が増えていると認 までの時間が遅すぎる点が指摘された.TIMACS 試験 識すべきである.逆に,強力な抗血小板療法などに伴う は,非 ST 上昇型急性冠症候群を対象として施行され, 出血性合併症のリスクも指摘されており,我が国におけ 割り付け後 24 時間以内(中央 14 時間)と 36 時間以降(中 る功罪両面の検証が必要である. 央 50 時間)の施行で比較された.アスピリン,ヘパリ ンまたはフォンダパリヌクス,80 %以上の症例にクロ いずれの治療戦略をとるにしても共通の原則がある. ピドグレル,23%に血小板膜Ⅱ b/ Ⅲ a 受容体阻害薬が投 ①安静時に心筋虚血発作が再燃した患者,心不全合併例, 与された.登録に時間を要し途中で本試験は中断され, 重篤な不整脈例に対しては緊急に冠動脈造影を行い, 血行再建を考慮する. ②心機能は心エコー図検査,核医学検査などで入院時に 評価されるべきである. ③急性冠症候群の短期リスクの評価は一時点のみでは不 十分で,経時的に連続して行うべきものである. ④薬物に対する反応,初期数日の経過は予後推測に有用 な情報を提供する. 1 次エンドポイント(死亡,非致死的心筋梗塞,脳卒中 事故)は 9.6%対 11.3%(HR 0.85;95% CI 0.68 ~ 1.06, p=0.15)で早期血行再建群の優位性は実証されなかった が,2 次エンドポイントは(死亡,心筋梗塞,虚血の再燃) は有意に早期血行再建の優位性が示された(9.5 %対 12.9%,HR 0.72; 95% CI 0.58 ~ 0.89,p=0.003).これ は主として,虚血の再燃の合併率における差であった. 虚血の再燃はその後心筋梗塞合併リスクを 4 倍以上に高 ⑤非侵襲的な負荷試験は急性冠症候群の有無の判断,リ めた 264).また,GRACE リスクスコアによって,1 次エ スク評価に有用であるが,冠動脈造影検査は予後,適 ンドポイント発生率は大きく異なることも明らかにされ 切な治療選択に関する最も重要な情報を提供する. た. 登 録 例 を 3 分 割 し た 場 合, 最 も 高 値 で あ っ た GRACE score > 140 では一次エンドポイントにおいて 短期リスクが低いと判断されれば,負荷試験により長 有意な差を認めた(13.9 %対 21.0 %,HR 0.65 95 % CI 期予後に関するリスク評価を行い,必要に応じて血行再 0.48 ~ 0.89,P=0.006). 一 方 GRACE score ≦ 140 の 2 群 建を施行する.血行再建成功例における長期的予後は, では有意な差異は認められなかった 264). 安定狭心症に対する血行再建例と遜色なく 279),2 次予防 ABORD(Angioplasty to Blunt the Rise of Troponin in を目的として冠危険因子の管理,心機能に応じた治療管 Acute Coronary Syndromes)試験では発症後ただちに血 理を行う. 行再建を実施する戦略(中央値 70 分)と翌日に実施す 2 侵襲的治療施行時期について る戦略(中央値 21 時間)の比較を行っている.ASA, clopidogrel,PCI 時アブシキシマが投与され,他の抗凝 早期侵襲的治療戦略において,冠動脈造影施行のタイ 固薬は術者の選択とした.1 次エンドポイントである入 ミングに関する基本的考え方には即時血管造影と後期血 院中のトロポニンI中央値,2 次エンドポイントである 管造影の二通りある.侵襲的治療を可及的早期に実施す 死亡,心筋梗塞,1 か月以内の緊急血行再建の頻度にお ると,経過中に生じる虚血イベントのリスクを減ずるこ いて両者に有意な差は認められなかった 282). とができる可能性がある.一方,一定期間の抗血小板薬 以上の結果は,GRACE score>140 の症例では 24 時間 療法を先行させると血栓が関与した不安定粥腫に対する 以内の血行再建の意義が明らかで,冠動脈造影ならびに 血行再建合併症リスクを減ずることができる可能性があ 血行再建の遅延は望ましくない.数時間以内に実施する る.これまでにいくつかの臨床試験が実施されている. 必要性は明らかでないが,虚血に伴う心不全例,虚血サ CRUSADE 試 験 で は 週 日 と 週 末 入 院 の 成 績 を 比 較 し インが持続する症例,心電図変化などから主幹部病変が (PCI 施行までの時間がそれぞれ 22.6 時間と 44.5 時間) 疑われる症例,血行動態が不安定な患者,持続性心室頻 院 内 転 帰 に 差 は な か っ た 280).ISAR-COOL 試 験 で は 拍を有する患者などに対しては血行再建を前提とした緊 ASA,クロピドグレル,未分化ヘパリン,チロフィバ 急冠動脈造影の施行は妥当な戦略と考えられる.一方, ンの投与後 6 時間以内と 3 ~ 5 日後に実施を比較し(中 GRACE score ≦ 140 ではそのメリットは明らかでない. 央 86 時間),primary end point(死亡または大きな梗塞) 31 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 2 緊急入院と転院 院の閾値を低くすることは極めて重要である.救急室で の診断で入院の必要なしとされた患者が,病院から出た 後の急変で,死亡に至ることもまれではない.急性冠症 クラスⅠ 1.患者の短期リスクの評価に基づいて入院の適応を 決定する.(レベル B) 2.高リスク患者は心電図監視が可能な CCU,あるい はこれに準ずる病室に収容する.(レベル C). 候群が疑われる患者の初期診療に当たる医師はこのよう なリスクが存在することをしっかりと認識すべきであ る. 2 短期リスクの評価と入院 3.中等度以上のリスクを有する患者については, 入院は心臓死,心筋梗塞発症を回避し,短期的な予後 CCU およびそれに準ずる病室がない施設や循環器 改善を得るための措置であるから,短期リスクの評価に 専門医のいない施設は,CCU があり緊急で冠動脈 基づいて入院の適応が決定されるべきである.これにも 血行再建のできる循環器専門施設,またはそれに準 Braunawald の分類が役立つ(表 2).高リスク患者は短 ずる施設へ可及的速やかに転送する.(レベル C) 期予後が不良であると推測されるので,入院の上,心電 クラスⅡ a 1.中等度リスク患者の入院は高リスク患者に準じる. (レベル C) 図モニタ,集中管理が可能な病室へ収容されるべきであ る.特に,収縮期血圧が低下している患者,肺野に湿性 ラ音が聴取される患者,収縮期雑音が新たに出現した患 2.急性冠症候群と診断できるがリスクの判断ができ 者,左脚ブロックが出現した患者などは緊急入院の絶対 ない患者は入院させて経過観察する. (レベル C) 的な適応である.また,高リスク患者では緊急で冠動脈 クラスⅡ a’ 1.低リスク患者と判断されても,入院が可能であれ ば入院させ経過を観察する.(レベル C) 2.急性冠症候群が疑わしい患者を入院させる.(レベ ル C) クラスⅢ 造影,血行再建が必要となる可能性があるので,これら の検査,治療が可能な施設に入院,転院することが望ま しい.中等度リスク患者に対する対応には定まったもの はないが,予後を考慮すれば高リスク患者に準じて入院 加療とすることが望ましい.したがって,安静時胸痛を 有する患者,心筋虚血を示唆する心電図変化が残存する 1.鑑別すべき他の重症疾患を否定でき,かつ急性冠 患者も入院の適応となる.近年,急性冠症候群の短期お 症候群が疑わしくない患者を緊急入院させる.(レ よび長期のリスク判定に各種リスクスコアが提唱されて ベル C) いる 239),259),283)-285).リスクスコアは,病歴および救急 外来での身体所見と検査結果により算出できることか 入院の決定で重要な点は,急性冠症候群である疑いの ら,急性冠症候群が疑われるすべての症例において,適 強さと急性冠症候群としての短期リスクの評価である. 応されるべきである.TIMI リスクスコアは最初に提唱 特に,その患者が冠動脈疾患であるか否かという問題と, され,最も検証されてきたリスクスコアである.リスク さらに急性冠症候群であるか否かとは分けて考える必要 スコアの各項目は,いずれも病歴と救急外来での検査に がある. より容易に判定できることから,救急外来において使い 1 32 急性冠症候群の疑いの強さ やすい.しかし,GRACE リスクスコア,PURSUIT リ スクスコアと比較して,その予測精度が劣るとする報告 冠動脈疾患である疑いが低い患者は,外来で経過観察 もある 262).GRACE リスクスコアの算出はやや複雑であ することが妥当であるが,確定診断が得られるまで反復 る が 260),261), 臨 床 的 有 用 性 に 関 す る 検 証 も 多 い. した診療が行われるべきである.冠動脈疾患であること GRACE リスクスコアはインターネット上でも算出する は確実であるが,急性冠症候群である疑いが低い患者も, ことができ(www.outcomes.org/grace),救急診療でも 外来での観察が可能である.しかし,急性冠症候群であ 利用しやすくなっている. る疑いが高ければ,心電図監視が可能な病室へ入院させ さらに,リスク評価は初診時の一点のみでなく連続的 ることが望ましい.症状が典型的でない,心電図変化が に行われるべきものである.入院時は低リスクであって 明確でない,血中心筋バイオマーカーが陰性であるなど も,経過中に高リスク,中等度リスクと転ずる可能性が の理由で,急性冠症候群を否定してしまうことは危険で あり,注意深い経過観察が不可欠である.なお,低リス ある.救急室に一定時間患者を留まらせることや緊急入 ク患者の入院については,我が国での対応は欧米と異な 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン っている.急性冠症候群と診断されてもただちに低リス 1.心電図上明らかな ST 上昇を認めない,急性後壁心 クと判断できない場合もしばしばあり,短期観察のため 筋梗塞でもない,また新たに生じた左脚ブロックも の外来ユニットがない場合は,入院させて経過観察する ない不安定狭心症患者に経静脈的に血栓溶解薬を投 ことが勧められる.短期リスクが低いという意味は,冠 与する.(レベル B) 動脈疾患ではあるが緊急性が低いということであり,長 期予後が良好であるという意味ではないからである.し 初期治療の目標は病態の安定化である.虚血発作の安 たがって,低リスクと評価された例はただちに冠動脈造 定化を図る処置を行い,心事故発生を検出するためのモ 影の対象というわけではないが,早期に冠動脈疾患の有 ニタリングを行う.入院後の対応が短期リスクによって 無,重症度評価が行われるべきである. 異なるのは当然であるが,いくつかの基本がある. 3 初期治療 急性冠症候群は粥腫(lipid rich atheroma)内の炎症反 応の亢進により菲薄化した繊維性被膜が破裂して血栓が 形成される機序であることから,安定化の第一目標は血 クラスⅠ 栓増大の抑制である. 1.ベッド上安静とし,心電図にて不整脈を監視し, 少量のアスピリンならびにクロピドグレルは死亡およ 動脈血酸素飽和度が 94 %未満になったら酸素供給 び致死的心筋梗塞の発症を有意に低下させる 286).した を行う.(レベル C) がって,短期リスクには関係なく,すべての患者にアス 2.出血性合併症などの禁忌のない限り,アスピリン ピリン 100 ~ 325mg を咀嚼服用させるべきであり,アス 162 ~ 325mg を速やかに咀嚼服用させる.アスピリ ピリン禁忌例にはクロピドグレルの投与を行う.クロピ ン禁忌患者ではクロピドグレルを投与する.(レベ ドグレルは PCI に移行することを考慮して 300mg ロー ル B) ディング量を投与し,その後 75mg 維持容量を継続すべ 3.出血性合併症などの禁忌のない限りアスピリン投 きである.急性冠症候群患者に対するアスピリンとクロ 与下でヘパリンの静脈内投与を行う. (レベル C) ピドグレルの併用療法は,侵襲的治療の有無にかかわら 4.冠動脈ステント留置術を考慮する患者では,アス ず,アスピリン単独投与よりも短期および中期の心血管 ピリンに加えクロピドグレル(300 ~ 600mg ローデ 事故を減少させる 287),288).急性冠症候群に対する PCI 施 ィング投与および 75mg 維持投与)を併用する. 行症例のみを対象とした PCI-CURE でも,PCI 前の投与 5.ステント留置が計画されている患者に対し,クロ に よ り,PCI 後 の 心 血 管 事 故 の 減 少 が 報 告 さ れ て い ピド グレ ル が投 与 でき な い場 合 に チ ク ロ ピ ジ ン る 289).冠血行再建術の適応となる症例では,アスピリ (200mg)を投与する.(レベル A) ンとクロピドグレルの併用療法により出血性合併症は増 6.硝酸薬,β遮断薬を投与する.β遮断薬が投与で 加しない 290).冠血行再建術施行が予測される中リスク きない場合はカルシウム拮抗薬を投与する.(レベ 以上の患者では,アスピリンに加えてクロピドグレルが ル B) 投与されるべきである.より強力な抗血小板効果と心血 7.安静時の心拍数 70/ 分未満,収縮期血圧 140mmHg 未満を目標として管理する.(レベル C) 8.心筋虚血の増悪因子を検出し,これに対する加療 を行う.(レベル C) 9.粥腫の安定化と長期的な心血管イベントの抑制を 目的にスタチン強化療法を行う. (レベル A) クラスⅡ a 1.十分な薬物療法下で冠動脈血行再建を行っても心 筋虚血を繰り返すか,循環動態が不安定な患者に, 管事故の減少を期待して,PCI 予定症例に対するクロピ ドグレル 600mg ローディング投与と,それに引き続く 6 日間の 150mg 投与が検討された.しかし,本検討では 全対象患者の評価では投与 30 日後の心血管事故を減少 させることができなかった.逆に重篤な出血性合併症が 増 加 し た. 一 方,PCI 施 行 症 例 で は ク ロ ピ ド グ レ ル 600mg ローディング投与と,それに引き続く 6 日間の 150mg 投与で 30 日の心血管事故が有意に抑制された. 欧米ではクロピドグレル 600mg ローディング投与が一 大動脈内バルーンパンピングを使用する.(レベル 般的であるが,我が国における,急性冠症候群に対して B) クロピドグレルの倍量投与の意義は確立していない 273). 2.胸痛が寛解しないか不安が強い場合は塩酸モルヒ ネを静注する.(レベル B) クラスⅢ ただし,我が国におけるクロピドグレルの適応が,冠動 脈ステント留置を行う急性冠症候群の症例であることに 留意する必要がある.これまでの解析より,PCI6 時間 33 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 以上前からの投与が推奨される 291). 少させることが示されている 300). リスクが中等度以上の患者では,ベッド上安静,心電 低分子ヘパリンや血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬の有 図モニターによる不整脈の監視を行い,ヘパリンの投与 用性も多数報告されている 301)-304).特に,血小板膜糖 を開始すべきである.なお,ヘパリン単独投与では心筋 蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬は,従来の抗狭心症薬では胸痛を抑 梗塞および死亡率の低下は認められず,アスピリンとヘ 制できない患者や,高リスク例で PCI が予定されている パリンの併用投与が必須である 292).血栓溶解療法が有 患者に使用されるべきとされている.低分子ヘパリンに 効とする報告は少なく,むしろ出血合併症が増加すると 関しては,1 日 2 回のエノキサパリン皮下注の心事故防 報告されているため一般的には禁忌である 293),294) . 止効果が示されている.これらは海外における臨床試験 急性冠症候群の病態生理から導かれる第二の治療目標 の結果であり,ただちに我が国において同様の臨床効果 は,粥腫の安定化である.粥腫内の炎症反応の抑制にス が挙げられるかどうかは不明である.これまでにも,血 タチンの強化療法は有効であり,標準治療よりも急性冠 小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬であるアブシキシマは,我 症候群の死亡率を有意に減らすことが報告された295)-297). が国では臨床試験で有効性を示すことができず認可され また,安定狭心症においては PCI を行う 7 日前からスタ なかった 305).急性冠症候群の治療成績向上のため,ド チンの強化療法を行うことにより,PCI による心筋障害 ラッグラグは最小にされるべきであるが,今後,個々の が有意に減少することが報告されており 298) ,不安定狭 心症においても同様の効果が期待できる可能性があると 思われる. 急性冠症候群の胸部症状の安定化を図るためには,心 薬剤について我が国での有用性について検証が行われる べきである. 4 薬物治療 筋酸素消費量を減らす治療も重要である.立証された治 療目標値はないが,SaO2 が 94 %未満になったら酸素吸 不安定狭心症の薬物治療は,冠動脈狭窄による心筋虚 入を行うべきである.安静時の心拍数を 70/ 分未満,収 血に対する治療と冠動脈血栓に対する治療に分けられ 縮期血圧を 140mmHg 未満にコントロールする. る.前者には抗狭心症薬であるβ遮断薬,硝酸薬,カ 血圧,脈拍が十分にコントロールされても胸痛を生じ ルシウム拮抗薬などが使用され,後者にはアスピリンや る患者は薬物抵抗性と判断される.胸痛が寛解しないか ヘパリンなどの抗血栓薬が用いられる.血栓が関与する 不安が強い患者には塩酸モルヒネを静注し,血行再建を にもかかわらず血栓溶解療法は推奨されない. 念頭に入れた治療戦略を考慮する.血行動態が不安定な 患者,血液生化学検査にて心筋マーカーの上昇を認めた 患者なども,血行再建を主体とした治療戦略を考慮する. 虚血発作のコントロールが困難,血行再建が困難な場合 には大動脈内バルーンパンピングの使用も考える.入院 時に貧血などの狭心症増悪因子があればその治療も並行 して行うべきである. 1 抗狭心症薬 ①β遮断薬 クラスⅠ 1.使用禁忌のない症例に対して,可及的早期に β 遮 断薬の経口投与を開始する .(レベル B) 我が国では保険適応となっていないが,新しいチエノ クラスⅢ ピリジン系抗血小板薬であるプラスグレルは,より投与 1.房室伝導に障害のある患者,最近喘息発作を起こ 開始早期から抗血小板作用を発揮することが示されてい した既往のある患者,急性の左室機能不全のある患 る.急性冠症候群患者を対象としたアスピリンとの併用 者にβ遮断薬を投与する.(レベル C) 療法によりアスピリンとクロピドグレルの併用療法より も心血管事故を減少させることが報告されている 275). 不安定狭心症患者におけるβ遮断薬の有用性は,主 プラスグレルは日本人に多いとされるクロピドグレル不 にβ 1 受容体を遮断することで心筋酸素消費量を減少さ 応性の遺伝子多型により抗血小板効果が変化しないこと せ,虚血状態を寛解させることにある.急性冠症候群に から,その有効性が期待される 34 299) .チカグレロールは, 対するβ遮断薬の有効性については,大規模臨床試験 これまでのチエノピリジン系抗血小板薬とは異なり,可 は少なく小規模臨床試験のみであるが 306)-310),Yusuf ら 逆的抗血小板作用を有する薬剤である.チカグレロール のメタ解析では心筋梗塞への移行が 13 %減少したと報 は,急性冠症候群患者を対象とした前向き介入試験によ 告されている 311).胸痛が持続する患者では,脈拍と血 り出血事象を増加させることなく,心血管関連死亡を減 圧を頻回に測定し心電図を持続的に観察しながらの β 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 遮断薬の静脈内投与が有効である.ただし,冠攣縮性狭 心症に対するβ遮断薬の投与には注意を要する. ④カルシウム拮抗薬 クラスⅠ ②硝酸薬 1.冠攣縮性狭心症の患者にカルシウム拮抗薬を投与 する.(レベル C) クラスⅠ 1.狭心症発作時に硝酸薬を舌下または噴霧投与する. クラスⅡ a 1.硝酸薬とβ遮断薬が禁忌,または硝酸薬とβ遮断 (レベル B) 2.硝酸薬の舌下または噴霧でも症状の改善が見られ 薬を十分量投与しているにもかかわらず心筋虚血が ない患者に,硝酸薬を 24 時間以内で静脈内投与す 持続あるいは頻回に繰り返す患者に,非ジヒドロピ る.(レベル B) リジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミルやジルチア ゼム)を投与する.(レベル B) クラスⅡ b 1.胸痛が持続している患者に硝酸薬を 24 時間以上静 脈内投与し,その後に経口投与する.(レベル C) クラスⅢ クラスⅡ b 1.β遮断薬投与下にジヒドロピリジン系カルシウム 拮抗薬を投与する.(レベル B) 1.シルデナフィル(バイアグラ)やバルデナフィル(レ ピトラ)使用 24 時間以内の患者に硝酸薬を投与す る.(レベル C) クラスⅢ 1.短時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗 薬を投与する.(レベル B) 2.収縮期血圧 90mmHg 未満の患者に硝酸薬を投与す る.(レベル C) 2.左心機能不全を有する患者,および房室伝導障害 を有する患者に心機能あるいは房室伝導を抑制する カルシウム拮抗薬を投与する.(レベル C) 硝酸薬は狭心症発作時に舌下または噴霧(スプレー) 投与する薬剤である.それでも症状の寛解が得られなけ カルシウム拮抗薬にはジヒドロピリジン系,ベンゾジ れば,硝酸薬を静脈内投与するべきであり,その有効性 アゼピン系,フェニルアラニン系の 3 つの異なった種類 .しかし,24 時間以上持続投与 があるが,不安定狭心症患者にβ遮断薬の併用なしに する場合には,血行動態効果に対する耐性出現が問題と ニフェジピンを投与した場合,48 時間以内の虚血発作 なる.24 時間を超えて静脈内持続投与が必要な患者で の再発,心筋梗塞の発症といった心事故の相対危険率は は認められている 312),313) は,効果を維持するためには投与量を定期的に増量する 1.51(95%信頼限界 0.87 ~ 2.74)となり,ニフェジピン 必要がある.一方,経口投与については間欠投与により は状態を悪化させる可能性があることを HINT 試験は報 耐性を作らないよう努力をすべきである. 告している 317).したがって短時間作用型ジヒドロピリ シルデナフィル(バイアグラ)やバルデナフィルは, ジン系カルシウム拮抗薬の不安定狭心症に対する単独投 硝酸薬の舌下あるいは経口投与との併用により,血圧低 与は避けなければならない.しかし,十分量の硝酸薬と 下作用を著しく増強するため,これらの薬剤服用例にお β遮断薬をすでに投与しているにもかかわらず虚血症状 ける硝酸薬投与は禁忌である 314).投与にあたってはこ が持続する患者や,硝酸薬とβ遮断薬を十分量投与で れらの薬剤服用の有無を確認しておく必要がある. きない患者に対しては,β遮断薬の代用薬としてベン ③ニコランジル クラスⅡ a’ 1.硝酸薬の代替薬としてニコランジルを静脈内投与 する.(レベル B) ゾジアゼピン系またはフェニルアラニン系のカルシウム 拮抗薬を用いてもよい 318),319).また,冠攣縮型狭心症の 中には,短時間作用型カルシウム拮抗薬が狭心症症状コ ントロールに著効を示すこともある.一方,我が国で多 く観察される異型狭心症の患者に対しては,虚血発作予 防にカルシウム拮抗薬が有効である 320).我が国におけ 我が国では,不安定狭心症患者に対して,硝酸薬の静 る急性心筋梗塞後の心血管系イベント抑制効果を β 遮 脈内投与と同様にニコランジルを点滴静注することがあ 断薬と長時間作用型カルシウム拮抗薬にて比較検討した り,大規模臨床試験の成績はないが,少数例の臨床試験 JBCMI 研究では,対象は主として STEMI であるが急性 で硝酸薬と同等の効果を示すとの報告がある 315),316). 心筋梗塞後の予後はカルシウム拮抗薬投与群とβ遮断 薬群とで同等であり,冠攣縮による不安定狭心症や心不 35 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 全の発症はカルシウム拮抗薬群で有意に少なかった 321). サン A2 の産生を迅速に阻害することが必要である.我 これらの結果より,特に我が国の急性冠症候群患者にお が 国 で は, 初 期 投 与 量 162 ~ 330mg/ 日, 維 持 量 81 ~ けるカルシウム拮抗薬の使用は,急性冠症候群の 2 次予 162mg/ 日を推奨している,ただ,2007 年の AHA/ACC 防に有用であると考えられる. ガイドラインでは,急性期の冠動脈ステント治療後には, 2 冠動脈血栓閉塞抑制のため,アスピリン初期投与量をベ 抗血栓薬 アメタルステントでは少なくとも 1 か月間,シロリムス 溶出性ステントでは 3 か月間,パクリタクセル溶出性ス ①抗血小板薬 テントでは 6 か月間使用後,維持用量に移行することが 推奨されている 323). クラスⅠ 1.アスピリン 162 ~ 325mg を速やかに咀嚼服用させ, チクロピジンに関する臨床試験である STAI 試験で その後に 81 ~ 162mg を長期投与する.(レベル A) は,不安定狭心症が疑われる 652 例を通常の治療のコン 2.アスピリン使用が困難な患者にクロピドグレルを トロール群とチクロピジンを追加したチクロピジン群で 投与する.クロピドグレルが投与できない場合にチ 比較し,心事故(心血管性死亡および致死性心筋梗塞) クロピジンを投与する .(レベル B) 発生率がチクロピジン群で有意に少なかったとしてい 3.ステント留置が計画されている患者に対し,アス る 286).したがって,チクロピジンは少なくともアスピ ピリンに加えクロピドグレル(300 ~ 600mg)を投 リンと同程度に 2 次予防に有用な抗血小板薬と考えら 与(ローディング)したのち,75mg を継続する.(レ れ,アスピリンに過敏性がある場合や,アスピリンが投 ベル A) 与できない不安定狭心症患者には適応がある.我が国で 4.ステント留置が計画されている患者に対し,クロ は,急性冠症候群に対するチクロピジンの保険適用は認 ピ ド グ レル が 投与 できな い場合 にチ クロ ピ ジン 可されていないが,冠動脈ステント留置後のステント血 (200mg)を投与する(レベル A) 栓症予防のため,アスピリンとチクロピジン 200mg/ 日 の併用療法が推奨され,ベアメタルステントで 2 ~ 4 週 クラスⅡ b 1.アスピリン,チクロピジン,クロピドグレルを投 間,薬剤溶出性ステントの場合は,3 ~ 6 か月間,さら 与できない患者にシロスタゾールを投与する.(レ に遅発性ステント血栓症防止目的のため,1 年以上の使 ベル C) 用も勧告されている 324),325).しかし,チクロピジン使用 クラスⅢ の際,低率ではあるが,白血球減少,肝機能障害,血栓 1.アスピリン喘息の患者にアスピリンを投与する. 性血小板減少性紫斑病等の副作用も報告されており,特 に投与開始 2 ~ 3 か月間は 2 週ごとの血液検査による経 (レベル C) 2.活動性の出血性疾患を有する患者に抗血小板薬を 投与する.(レベル C) 過観察が必要となる. 欧米でのガイドラインでは,このようなチクロピジン 服薬による合併症回避のため,チクロピジンの代替薬と アスピリンはシクロオキシゲナーゼを阻害し,トロン してクロピドグレルの使用を推奨している287),323),326),327). ボキサン A2 の生成を遮断することで血小板凝集を抑制 急性期血行再建を予定しない場合,アスピリンとクロピ し,不安定狭心症に対して有効とされる薬物で,162 ~ ドグレル 75mg/ 日を少なくとも 1 か月間以上併用するこ 325mg のアスピリン咀嚼服用で敏速かつほぼ完全にト とが推奨され 323),328),冠動脈ステント留置が予定されて ロンボキサン A2 の生成を阻害することが知られている. いる場合は治療前より,初期投与量 300 ~ 600mg/ 日の後, 不安定狭心症患者 1,266 例をアスピリン投与群と偽薬投 75mg/ 日の維持量へ移行するものとしている.ステント 与群に分けて 12 週間観察した比較試験の結果では,死 後の投与期間は,ベアメタルステントで 1 か月間,薬剤 亡または心筋梗塞の発症率はアスピリン群が偽薬群に比 溶出性ステントでは少なくとも 1 年間の投与が勧告され べて 51 %減少し,かつ消化器症状の出現や出血性合併 ているが,我が国におけるエビデンスは十分ではない. .しかし,アスピリンには少な クロピドグレル内服の合併症の頻度は,チクロピジンよ いながら禁忌があり,アスピリンアレルギーである喘息 り低率であるが,まれに血栓性血小板減少性紫斑病が発 や活動性の出血性疾患を有する患者への投与は避けるべ 生するため,投与初期には定期的な血液検査が必要であ きである.初回の緊急投与時には吸収促進のため咀嚼投 る. 与が推奨されており,162 ~ 325mg の用量でトロンボキ また,クロピドグレルには反応性に個体差があり, 症には差はなかった 36 322) 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン ADP 惹起血小板凝集能抑制効果が十分に認められず治 血行再建の初期成績改善に有効であることが示され 療抵抗性を示す症例が存在することが明らかとなった. た 301),341),342).また,最近のメタ解析の結果でも,特に プロドラッグであるクロピドグレルの活性体産生には, トロポニン陽性の急性冠症候群患者において発症 30 日 肝酸化型代謝に関与するチトクローム P450 が関与する 以内の心血管イベント抑制における本薬の有効性が示さ が,その 1 つである CYP2C19 に活性体産生能力の低い れている 343).しかしながら血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻 遺伝子多型を有する症例では,クロピドグレルによる 害薬であるアブシキシマは,我が国では臨床試験で有効 ADP 惹起血小板凝集抑制の減弱が観察されており 329) , FDA,厚生労働省などの規制当局からの警告文書も発 表されている.また同多型を有する頻度は欧米人に比較 して日本人などアジア人では高いため 330)-333)注意が必 要である.海外では,CYP2C19*2 アレルを少なくとも 一つ有する患者(*1/*2 または *2/*2)はクロピドグレル 内服中の残存血小板凝集能が高く,ステント血栓症をは じめ心血管イベントの発生と関連があると報告されてい る 334),335) .しかし,ACS が対象の CURE トライアル 心房細動が対象の ACTIVE A 試験 287) , 336) をあわせたサブ解 析では,アスピリンとクロピドグレルの 2 剤併用療法は 性を示すことができず認可されなかった 305). ②抗凝固療法 クラスⅠ 1.アスピリン投与下でヘパリンを静脈内投与する. (レベル A) クラスⅡ a 1.心房細動,人工弁,深部静脈血栓症など抗凝固療 法の適応があるとき,アスピリン投与下で中等度用 量(INR2.0 ~ 2.5)のワルファリンを投与する.(レ ベル B) CYP2C19 遺伝子多型に無関係に心血管イベント抑制に 対し有効であると報告されている 337).これらのクロピ 不安定狭心症の安定化に対するヘパリンの効果は多く ドグレルの低反応性を補う薬剤として我が国において開 の研究が認めている.しかし,不安定狭心症と非 Q 波梗 発されたプラスグレル 338),339) ,および可逆性の P2Y12 受 塞の 796 例を対象とし,アスピリン単独,ヘパリン単独, に関しては,欧米で アスピリンとヘパリンの併用投与の 3 治療法を比較した 大規模臨床試験が施行され,急性冠症候群患者に対する RISC 試験では,アスピリン単独とアスピリンとヘパリ 有効性が示されている.我が国でもプラスグレル,チカ ンの併用投与では心筋梗塞および死亡を減少させたが, グレロールに関しては現在臨床治験が進行中であり,今 ヘパリン単独投与では心筋梗塞および死亡の低下は認め 後の動向に期待したい . られなかった 292).一方,不安定狭心症例を対象とし, シロスタゾールは我が国で多く用いられている抗血小 アスピリン単独とアスピリンとヘパリンの併用を比較し 板薬であり,PDE Ⅲを阻害し血小板内の cAMP 濃度を た 6 つの無作為試験のメタ解析の成績は,アスピリン単 増加させることにより抗血小板作用を発揮するが,国内 独に比べアスピリンとヘパリンの併用が心筋梗塞と死亡 外において不安定狭心症患者に対する大規模臨床試験は の危険度を 33%減少するものであった 344).これらの結 ない.また,シロスタゾールは心拍数を上昇させ心筋虚 果は,ヘパリン中止後の凝血学的リバウンド現象の存在 血を誘発する可能性があるため,冠動脈に有意な残存狭 を示唆し,この病態の悪化がアスピリンを併用すること 窄がある症例では使用に際して注意を要する.最近, で回避されると考えられる.したがって,不安定狭心症 Korea Acute Myocardial Infarction Registry(KAMIR)で 患者では原則としてアスピリンとヘパリンの併用療法を 容体拮抗薬であるチカグレロル 300) は,ST 上昇型心筋梗塞患者に対し薬剤溶出性ステント 行うべきである.なお,ヘパリンは抗凝固効果に個人差 留置後,アスピリンとクロピドグレルの 2 剤併用療法に が大きいため,ACT,部分活性トロンボプラスチン時 シロスタゾールを追加した 3 剤併用抗血小板療法の有効 間をモニターすることが望ましい. 性が報告されている 340) . 不安定狭心症患者におけるワルファリンの投与に関し 我が国では有効性を証明できず使用できない抗血小板 ては,アスピリン投与下におけるワルファリンの効果が 薬に,血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬がある.血小板膜 OASIS 試験により示されている 345).ワルファリンの心 糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬は強力な血小板凝集阻害薬で,フ 事故減少効果は抗凝固効果を INR2.0 ~ 2.5 に維持した症 ィブリノーゲンの結合を阻止して血小板凝集を阻害す 例でのみ認められ,INR1.5 と抗凝固効果の低い症例で る.不安定狭心症患者におけるアスピリン,ヘパリン投 はむしろ心事故発生を増加させた.ワルファリン投与は, 与下で血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬の有効性を検討し アスピリン投与によっても虚血イベントが抑制できない た大規模臨床試験では,本薬が狭心症の短期的安定化と ときのみに留めるべきで,投与にあたっては INR をモ 37 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) ニターする必要がある. 低分子ヘパリンは,通常の未分画ヘパリンに比して, 半減期が長く皮下投与が可能である,抗凝固効果に個人 差が少ない,血小板減少といった副作用のリスクが低い といった利点がある.低分子ヘパリンのエノキサパリン は心事故発生抑制効果でヘパリンに勝ることが示されて いる その他の薬物治療 3 ①心不全に対する薬物治療 クラスⅠ 1.血圧が維持され肺うっ血を合併するときにループ 304),346) 利尿薬,硝酸薬あるいはモルヒネを静脈内投与する. .二つの臨床試験のメタ解析は,エノキサパ リンがヘパリンに比し 20 %の心事故抑制効果があり, (レベル C) この効果は数日内で明らかとなり,43 日まで持続する 2.うっ血性心不全や左室収縮障害を有した患者にア ことを明らかにした 347).また,最近の大規模臨床試験 ンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与する.(レベ でも,エノキサパリンが未分画ヘパリンと同等の心事故 ル B) 抑制効果を有することが示された 348),349).一方,低分子 ヘパリンのダルテパリン,ナドロパリンを用いた比較試 不安定狭心症を対象とした心不全薬の多施設無作為介 験では,ヘパリンに勝る短期的な心事故抑制効果が証明 入試験はない.急性冠症候群の患者で心不全合併例は高 されなかった 303) .このように低分子ヘパリンを用いた リスク例に含まれ,早期侵襲的治療を考慮する必要があ 臨床試験の成績は一定せず,低分子ヘパリンの種類によ る.虚血に起因する心不全であれば,抗狭心症薬や血行 って半減期,効果が一律でないことを反映していると推 再建により虚血を改善することが重要であり,心不全の 測される.なお低分子ヘパリンの急性冠症候群への使用 治療はこれに並行して行う.なお,心不全の治療に関し は我が国では保険適用とされていない. てはすでに報告されている心不全ガイドラインに準拠す 直接的トロンビン阻害薬としてはヒルディン,アルガ る. トロバン,バイバリルディンなどがあり,ヒルディンの 効果は GUSTO Ⅱ b 試験で検討されている.ヘパリン投 与群と比較し,ヒルディン投与群では死亡または心筋梗 ②不整脈に関する治療 クラスⅠ 塞への進展リスクは有意に減少したが,30 日予後には 1.高頻度心室応答により左室機能低下を伴う心房細 両群間で差がなく,出血性合併症はヒルディン投与群で 動患者にジギタリスを急速投与する. (レベル C) 有意に多かった 304) .ヒルディンにはヘパリンを上回る 2.高頻度心室応答により左室機能低下を伴う心房細 効果は証明されていない.一方,バイバリルディンに関 動患者にβ遮断薬を静脈内投与する. (レベル C) しては,少なくともヘパリンと同等の効果が期待でき, 3. 高頻度心室応答を伴う心房細動患者において,β 出血性の合併症が低率であることが示されている 350). 遮断薬が禁忌または無効の場合にベラパミルを投与 最近の報告ではバイバリルディンの使用がヘパリンと血 する.(レベル C) 小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬の併用に比べ,出血性合併 4.狭心症,肺うっ血または低血圧を伴わない持続性 症を有意に抑制し,虚血性イベント発生率に差がないこ 単源性心室頻拍患者にアミオダロンを投与する. (レ とが示されている 351),352).急性冠症候群に対する直接的 ベル C) トロンビン阻害薬の使用も我が国では未認可である. 欧米では,急性冠症候群に対する抗活性化第 10 因子 (Xa)薬の効果も検討されている . その中の一つとして, 我が国では深部静脈血栓症予防薬としての適応があるフ ォンダパリヌクスが挙げられる.OASIS-5 では,急性冠 症候群患者の PCI 施行時のエノキサパリンとフォンダパ リヌクス静注の比較試験が施行されており 353),その有 5.以下の患者にアトロピンを投与する.(レベル C) 1)心筋虚血発作時に低心拍出と末梢循環不全を伴 うか頻回の心室性期外収縮を伴う洞性徐脈患者. 2)ニトログリセン投与後に持続する徐脈と低血圧 を示す患者. 3)モルヒネ投与による悪心と嘔吐を伴う患者. クラスⅡ a 用性が示されている.このほかにも急性冠症候群に対し 1.高頻度心室応答を伴う心房細動患者において,β て,いくつかの経口抗 Xa 薬や血小板トロンビン受容体 遮断薬が禁忌または無効の場合にジルチアゼムを投 拮抗薬の有効性が検討されている. 与する.(レベル C) 2.心室頻拍または心室細動出現後に抗不整脈薬を投 与するが,6 ~ 24 時間後には中止してそれ以後の抗 38 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 不整脈投与の必要性を評価する.(レベル C) イベントの発生が減少することを示した 295).急性冠症 候群に対するアトロバスタチン(80mg/ 日)による積極 クラスⅡ b 1.難治性の多源性心室頻拍に対し心筋虚血軽減のた めにβ遮断薬あるいはアミオダロンを投与する. (レベル C) 2.洞性徐脈時にモルヒネと併用してアトロピンを投 与する.(レベル C) 的脂質低下療法の有効性は,PROVEIT-TIMI22trial にお いても証明されている 296).ただし,アドロバスタチン の投与量は我が国での標準的投与量の 8 倍という高用量 であるなどの問題もある. A to Z 試験では,シンバスタチンの急性冠症候群発症 後の早期積極治療効果が検討されており,早期積極治療 クラスⅢ 1.孤立性心室期外収縮,2 連発,頻拍性固有心室調 律に対して抗不整脈薬を投与する.(レベル C) 2.循環不全や頻発する心室性期外収縮を有さない心 拍数 49/ 分以下の洞性徐脈に対してアトロピンを投 与する.(レベル C) 群にて 2 年間の観察期間における心血管死の有意な低下 を認めている 358).また,我が国でも,最近,MUSASHI 試験にて急性冠症候群患者に対してスタチン早期導入に よ る 心 血 管 イ ベ ン ト の 2 次 予 防 効 果 が 示 さ れ 297), ESTABLISH 試験ではスタチンによる急性冠症候群患者 の粥腫退縮が示された 359).最近の JAPAN-ACS 試験で 急性冠症候群では,虚血発作時に様々な不整脈が出現 は,急性冠症候群患者に対し,ピタバスタチン,アトル する.心筋虚血の程度,部位により出現する不整脈の種 バスタチン治療前後の冠動脈プラーク量の変化を血管内 類も異なる.持続する心室頻拍が出現する例は高リスク 超音波にて比較検討しており,両スタチンともに,冠動 例に含まれる.重篤な不整脈出現時には早期に冠動脈造 脈プラークの有意な退縮をもたらすことが示された 360). 影を施行し,責任冠動脈の血行再建を考慮すべきである. 以上のように我が国でもスタチンによる不安定粥腫の安 不安定狭心症を対象とした抗不整脈薬の多施設無作為臨 定化効果に関する臨床成績が集まりつつある. 床介入試験はなく,急性心筋梗塞の管理に順ずるべきと 欧米のガイドラインにおけるスタチンによる LDL コ 考えられる. レステロール管理目標値は,冠動脈疾患の危険因子の有 ③ HMG-CoA 還元酵素阻害薬 無で値が異なるが,急性冠症候群患者の場合,70mg/dl 未満を目標にコントロールすることが推奨されてい クラスⅠ る 361),362).我が国における急性冠症候群患者の LDL コ 急性冠症候群発症早期から LDL レベルにかかわらず レステロール管理目標値に関しては,独自の検討がない HMG-CoA 還元酵素阻害薬を投与する.(レベル A) のが現状であるが,概ね欧米の指針に準ずる管理を考慮 する. HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)は,欧米の大 規模臨床試験で虚血性心疾患の 1 次予防 354),2 次予防に 有効 5 薬物治療抵抗性狭心症 355) であることが報告されている.また,我が国に お い て も シ ン バ ス タ チ ン を 用 い た J-LIT(Japan Lipid 不安定狭心症は多彩な病態を包括する疾患概念である Intervention Trial)で,心血管疾患の 1 次予防,2 次予防 ため,薬物で容易に安定化する軽症例から強力な治療に におけるスタチン服用例の心血管イベント発生率が評価 抵抗する重症例まで種々の病態が含まれており,個々の された 356) 病態を十分に認識し,薬物治療の限界を見極めることは . スタチンは総コレステロールと低比重リポ蛋白コレス 非常に重要なことである. テロール(LDL-C)を強力に低下させる作用を持つば Braunwald は,不安定狭心症を重症度,臨床状況,治 かりでなく,血管内皮機能の改善,血小板凝集能と血栓 療強度別にそれぞれ 3 段階で評価した 255),363).その中で 付着の抑制,血管の炎症反応の低下などの効果も報告さ 治療強度別の狭心症症状出現状況を,1)未治療あるい れている 357) . は少量の抗狭心症薬投与下で出現した不安定狭心症,2) 急性冠症候群に対する早期からのスタチン投与の有用 慢性安定狭心症に使用されるβ遮断薬,長時間作用型 性に関しては多くのエビデンスが報告されており,確立 硝酸薬,カルシウム拮抗薬という一般的な経口抗狭心症 された治療となった.MIRACL 試験では,急性冠症候 薬投与下で出現した不安定狭心症,3)最大限の抗狭心 群発症後24~96時間以内にアトロバスタチン(80mg/ 日) 症治療,すなわちニトログリセリンの静脈内投与を含め の投与を開始することにより,死亡および非致死的虚血 たすべての種類の抗狭心症薬の最大限の投与下でも出現 39 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) する狭心症の 3 群に分けている.したがって,Braunwald 前からの大動脈内バルーンパンピングが有効で,人工心 の定義に基づけば薬物抵抗性不安定狭心症とは,β 遮 肺使用時間・挿管時間・ICU 滞在時間・入院期間が短く, 断薬,硝酸薬,カルシウム拮抗薬の 3 種類の薬剤を最大 心機能改善率が高く,術後の低心拍出症候群の発生が低 限度容量まで併用し,さらに硝酸薬の静脈内投与を行っ 率であったと報告されている 366).大動脈内バルーンパ ても狭心症状が出現するものといえよう. ンピングの心筋虚血に対する効果は大動脈拡張期圧上昇 Morrison らは,薬物抵抗性不安定狭心症をアスピリン と左室拡張末期圧の低下が関与した冠動脈血流量の増加 の経口投与やヘパリンの静脈内投与を行い,β遮断薬, によるとされる.重症多枝病変では冠動脈血流量の増加 カルシウム拮抗薬,硝酸薬などの投与で,安静時の心拍 はなく,収縮期後負荷減少による心筋酸素消費量の減少 数が 70/ 分未満,収縮期血圧が 140mmHg 未満にコント が虚血改善の主要なメカニズムと考えらている.したが ロールされた状況下でも安静時に可逆的心筋虚血が起こ って,大動脈内バルーンパンピングにより虚血と血行動 る症例と定義した 364) .我が国においても野々木らは, 態をコントロールした上で安全に冠動脈造影を行い,冠 薬物治療の終点をアスピリン,ヘパリン,経口抗狭心症 動脈バイパス術や PCI による根本的治療を行うことは有 薬 3 種類に加え,安静時に 15 分以上の発作がある場合 効な治療戦略と考えられる.なお,従来から大動脈内バ としている 365).これらの報告から,薬物抵抗性不安定 ルーンパンピング挿入に伴う下肢血管系の合併症が報告 狭心症はアスピリンの経口投与,ヘパリンの静脈内投与, されており,最近バルンカテーテルは 7F と細くなった β遮断薬,硝酸薬,カルシウム拮抗薬を限界用量まで投 が,高齢者や長期間留置例では注意を要する.外科手術 与しているにもかかわらず狭心症発作がコントロールで 例での検討では,女性,末梢血管疾患,糖尿病,心係数 きないものと定義できる.薬物抵抗性不安定狭心症は, < 2.2L/min/m2,体表面積< 1.8m2 のいずれかを有する 大動脈内バルーンパンピングを施行し,可及的速やかに 例は大動脈内バルーンパンピングに伴う合併症発生率が 冠動脈造影を行い,PCI や冠動脈バイパス術などの血行 高いため注意を要すると報告されている 367). 再建治療を選択しなければならない. 6 補助循環 ②経皮的心肺補助(PCPS) 血圧低下・ショックに進行する左主幹部病変への緊急 PCI に経皮的心肺補助が使用されることがあるが有用性 1 経皮的治療 ①大動脈内バルーンパンピング(IABP) クラスⅡ a は証明されていない. 2 外科的治療 薬物治療・大動脈内バルーンなどの治療にもかかわら ず,低心拍出状態が続く場合には,左心(両心)補助装 1.β遮断薬,カルシウム拮抗薬,硝酸薬ならびに抗 置の装着を考慮する 368).特に若年で将来的に心臓移植 血小板薬,抗凝固薬による徹底した薬物療法および 治療の対象となり得る場合には積極的に考慮する.(レ 冠動脈血行再建術の施行にもかかわらず重症な心筋 ベルC) 虚血が持続または再発する場合に大動脈内バルーン パンピングを用いる.(レベル B) 7 血行再建治療 1 冠動脈血行再建法の選択 2.重症な心筋虚血の診断のために冠動脈造影を施行 する前後での不安定な血行動態に対して大動脈内バ ルーンパンピングを用いる.(レベル C) 急性冠症候群の治療における大動脈内バルーンパンピ ングの役割については,最近の米国のガイドラインにて クラスⅠ も言及されていない.重症冠動脈狭窄を有する不安定狭 1.十分な薬物治療にもかかわらず心筋虚血が原因と 心症の再発性心筋虚血に対する大動脈内バルーンパンピ 考えられる不安定な血行動態あるいは胸痛持続の原 ングの効果については,少数例を対象とした比較試験に 因となっていると考えられる病変に緊急 PCI を行 限られるが一定の効果が示されている.また低心機能を う.(レベル A) 含めた高リスク例の冠動脈バイパス術においても 2 時間 40 ①緊急および早期冠動脈血行再建術の選択 2.血行動態不安定な左主幹部病変を持つ患者に緊急 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン クラスⅢ PCI を行う.(レベル B) 3.PCI が困難あるいは不成功例で心筋虚血が持続し, 1.肝不全,呼吸不全,悪性疾患など重度の病的状態で, 心筋虚血範囲の大きな患者,あるいは血行動態が不 血行再建のメリットよりもリスクが上回ると考えら 安定な患者に緊急 CABG を行う.(レベル B) れる患者に緊急あるいは早期 PCI を行う.(レベル 4.虚血が原因と考えられる胸痛発作があり,心電図 にて新たに ST 降下が出現した患者やトロポニン T/ Iが上昇している患者に,早期 PCI あるいは早期 C) 2.同意しない患者に緊急あるいは早期血行再建術を 選択する.(レベル C) 3.薬物治療で予後が良いと考えられる患者に緊急あ CABG を行う.(レベル A) 5.十分な薬物治療にもかかわらず心筋虚血が原因と るいは早期 CABG を行う.(レベル C) 考えられる胸痛発作が頻発し,胸痛の原因となって い る と 考 え ら れ る 病 変 に 早 期 PCI あ る い は 早 期 非 ST 上昇型急性冠症候群患者に対する冠血行再建術 (PCI,CABG)施行時期の定義については研究によっ CABG を行う.(レベル A) 6.薬物治療,PCI が無効で,持続する胸痛あるいは て幅があるが,発症数時間以内の血行再建術を緊急,入 心筋虚血を有する患者に緊急あるいは早期 CABG 院後数日以内に施行する血行再建を早期と定義する.緊 42,43) 急および早期冠動脈血行再建術施行を前提とした治療方 を行う.(レベル B) 7. 左 主 幹 部 の 高 度 狭 窄 病 変 を 有 す る 患 者 に 早 期 CABG を行う.(レベル A)161),283),369),370) 8.左主幹部相当の病変(左前下行枝と左回旋枝入口 部の高度狭窄)を有する患者に早期 CABG を行う. (レベル A)23),161),239),371) 針を,急性冠症候群に対する早期侵襲的治療と定義する. したがって,薬物治療により既に胸痛発作や血行動態な どが安定化した患者に対して行う冠血行再建術も早期侵 襲的治療に含める. 冠動脈血行再建術選択において,まず評価すべき点は 9.左前下行枝近位部の高度狭窄を有する患者に早期 46),371) CABG を行う.(レベル A) クラスⅡ a 1.左主幹部,左前下行枝入口部以外の高度狭窄病変 緊急冠動脈血行再建術を必要とするかどうかである.緊 急冠動脈血行再建術を必要とする患者としては,血行動 態の破綻(虚血に起因すると思われる低血圧や心不全) した患者および薬物治療にもかかわらず胸痛が持続する を有し,心筋虚血範囲の大きな患者に早期 PCI を行 患者が挙げられる.血行動態の破綻した患者においては, う.(レベル C) 虚血の責任病変に対する緊急 PCI 施行が基本である.ま 2. 重 篤 な 心 不 全 を 有 す る CABG 適 応 患 者 に 早 期 CABG を行う.(レベル B)47) クラスⅡ b た薬物治療にもかかわらず胸痛が持続する患者において も,虚血の責任病変に対する緊急 PCI 施行が基本である. PCI 困難な責任病変が左主幹部あるいは左前下行枝近位 1.出血性素因や出血性合併症のため,ステント留置 部の場合には緊急 CABG も考慮する必要がある.この 後の抗血小板薬使用に制限のある患者に PCI を行 ような場合には虚血の改善を目的とした IABP の使用も う.(レベル C) 考慮する必要がある. 2.左主幹部(入口部,体部,分岐部で回旋枝入口部 胸痛発作が頻発する患者や心筋虚血範囲の大きな患者 病変のないもの)あるいは左前下行枝入口部の高度 に対しては早期冠血行再建術 (PCI,CABG) の適応を検 狭窄病変で形態的に PCI に適した冠動脈病変で,か 討する.非 ST 上昇型急性冠症候群患者に対する早期血 つ胸痛や血行動態が薬物治療によって安定化が可能 行再建術としての PCI,CABG が生命予後を改善し,心 と思われる患者に早期あるいは緊急 PCI を行う. (レ 筋梗塞を予防することが報告されている.また早期 ベル C) CABG・ 不 安 定 狭 心 症 に 対 す る CABG の 成 績 は 待 機 3.高度腎機能低下の患者に早期 PCI を選択する.(レ ベル C) CABG とほぼ同等である.したがって早期冠血行再建に おける PCI,CABG の選択は基本的には安定冠動脈疾患 4.左前下行枝近位部に高度狭窄を有しない 1 枝また に 準 ず る.CABG の 適 応 が 考 え ら れ る 場 合 に は 早 期 は 2 枝病変の患者に緊急あるいは早期 CABG を行 CABG が行える体制が整っているが可能か否かも含め う.(レベル C) 5.PCI 不成功例で心筋虚血範囲が小さい患者に緊急 あるいは早期 CABG 行う.(レベル C) てハートチームで討議する.したがって早期 CABG を 行う施設は迅速な対応および,待機手術と同程度の安全 性を保つ体制を整えておくことが重要である. 41 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 実際には非 ST 上昇型急性冠症候群患者の多くは虚血 ても予後の改善には結びつかず,出血性合併症や心筋梗 や血行動態が薬物治療によって安定化できると考えられ 塞発症が多いという結果であった.ST 上昇型の急性心 る患者であり,これらの患者に対する PCI,CABG の選 筋梗塞を除けば,急性冠症候群に対する初期治療として 択は安定冠動脈疾患と同じである.PCI と CABG の選択 血栓溶解療法を単独で施行する治療戦略は推奨されな に関しては日本循環器学会「安定冠動脈疾患における待 い.血行再建を目指す場合には PCI あるいは冠動脈バイ 機的 PCI のガイドライン」ならびに「虚血性心疾患に対 パス術を考慮することが妥当である.なお,PCI に血栓 するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン」 溶解薬を併用することについては「4 冠動脈バイパス術 を参照していただきたいが,重症冠動脈疾患(左主幹部 病変,左前下行枝近位部病変を含む多枝病変,特に,低 心機能,糖尿病を合併した多枝病変など)ではハートチ ームにおける議論が必要である. 緊急あるいは早期 PCI を施行する際,虚血の責任病変 (CABG)」を参照されたい. 3 冠動脈インターベンション治療(PCI) ①緊急および早期冠動脈インターベンション が明らかでない場合や複数の病変が虚血の責任病変とな 非 ST 上昇型急性冠症候群患者に対する冠血行再建術 っている可能性のある場合には,複数の病変に対して (PCI,CABG)施行時期の定義については研究によっ PCI 施行を必要とするケースもあるが,多くの場合には て幅があるが,発症数時間以内の血行再建術を緊急,入 単一の責任病変を同定することが可能であり,緊急ある 院後数日以内に施行する血行再建を早期と定義する.緊 いは早期 PCI の標的は原則として単一の責任病変のみと 急および早期冠動脈血行再建術施行を前提とした治療方 すべきである.急性冠症候群の急性期に虚血の責任病変 針を,急性冠症候群に対する早期侵襲的治療と定義する. に対し PCI を施行し,慢性期に残存狭窄に対して冠動脈 したがって,薬物治療により既に胸痛発作や血行動態な 血行再建を考慮する場合も多い.この場合に重要なこと どが安定化した患者に対して行う冠血行再建術も早期侵 は,残存病変の虚血評価をしっかりと行って冠動脈血行 襲的治療に含める. 45) .慢性期に左主幹部 急性冠症候群に対する PCI は,心筋虚血を改善,心収 や左前下行枝に狭窄を認める場合の PCI と CABG の選 縮力を温存,心筋梗塞への移行を防止するための根本的 択は安定冠動脈疾患と同様と考えられる.このような症 な治療戦略である.急性冠症候群において致死的不整脈 例に対して急性期血行再建後残存病変に対する再血行再 に対する最良の防止策としても,血行再建は有意義であ 建を行う判断は,内科医,心臓外科医を加えたハートチ る.十分な薬物療法下で安静時狭心症の再燃した患者, ームによる判断が重要である. 低レベル負荷で狭心症を生ずる患者,心不全の徴候があ 再建の適応を決定することである ②待機的冠動脈血行再建術(PCI,CABG) る狭心症患者,非侵襲的な検査で高リスクと判断された 患者,低左心機能例,血行動態不安定例,持続する心室 薬物治療によって病態が安定してからの待機的冠動脈 頻拍を有する患者,6 か月以内の PCI 施行例,冠動脈バ 血行再建術(PCI,CABG)の適応については,安定冠 イパス術の既往のある患者では緊急冠動脈造影を考慮す 動脈疾患と同様である(日本循環器学会「安定冠動脈疾 べきである 237),373),374).近年では,心筋特異性が高く, 患における待機的 PCI のガイドライン」ならびに「虚血 感度が鋭敏な心筋壊死の指標であるトロポニン T あるい 性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガ は I が異常値を示す症例のリスクが高いことが報告され イドライン」を参照). ている 375),376).緊急冠動脈造影により冠動脈病変の解剖 2 学的検討を行い,予想される余命,左室機能,他臓器の 血栓溶解療法 合併症,灌流域の心筋生存能など,個々の患者の臨床背 景を個別に評価した上で,PCI の適応を決定する.PCI クラスⅢ 1.血行再建を目的として血栓溶解薬を投与する.(レ ベル A) の施行にあたっては書面によるインフォームド・コンセ ントが必要である.また,PCI 施行施設は厚生労働大臣 の定める施設基準を満たし,熟練した術者が経験豊富な ST 上昇を伴わない急性冠症候群に対して血栓溶解薬 が有効とする報告もある 42 372) スタッフの援助を得て適切な環境下で PCI を実施すべき が,多施設共同研究の結果 である.急性冠症候群における PCI は,責任冠動脈病変 からはその有用性は否定的である.t-PA による血栓溶解 に限ることを原則とする.責任冠動脈病変は,冠動脈造 療法は UNASEM294),TIMI Ⅲ B 試験 266)のいずれにおい 影所見,心電図所見などから総合的に判断する.緊急 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン PCI の施行時期に関しては一定の見解がない.大規模臨 少ないことが示されている 44),264).この優位性について 床試験である FRISC Ⅱ試験では,早期侵襲的治療群に は,特にリスク層別化を行うと急性冠症候群におけるリ おける PCI は入院から平均 4 日で,TACTICS 試験では 4 スクスコアが高いあるいは中等度の患者でメリットが明 ~ 48 時 間( 平 均 25 時 間 ) で 施 行 さ れ て い る 170),171). 確であるとされている 178).6 時間以内に CAG を行う超 TIMACS 試験では 24 時間以内のものを早期侵襲的治療, 積 極 的 介 入 研 究(ISAR-COOL)385)や 48 時 間 以 内 に 36 時間以後のものを遅延侵襲的治療と位置づけ評価し CAG を行った超高齢者 386),にても示されている.また, ている 264). 短期予後に差がなくても,4 ~ 5 年後の時点で死亡や心 粥腫破綻と血栓形成を共通の基盤として発症すると考 えられている 377) 筋梗塞の発症に差が検出されている 174).急性冠症候群 急性冠症候群において,ST 上昇型急性 に対する抗トロンビン剤の効果を検証した ACUITY 試 冠症候群では冠動脈の開存と障害された心筋量が予後規 験のサブ解析では,石灰化,病変長,プラークの量など 定因子であるが,非 ST 上昇型急性冠症候群では粥腫の 冠動脈造影上の病変背景や左室造影も ACS に対する早 破綻の程度と血栓量が予後を左右する.Ambrose タイプ 期侵襲的治療の予後予測因子であることを示してい Ⅱの偏心性複雑病変を有する症例では,たとえ狭心症が る 387).またこの ACUITY 試験では最後の症状から血行 薬物でコントロールされていても,短期予後は不良であ 再建が 24 時間以降となると予後が不良となることも示 ることが示されている 378) .機械的に冠動脈狭窄を解除 されている 388). する治療手技である PCI の問題点は,急性冠症候群では 近年,再狭窄対策として急性冠症候群に対する薬剤溶 複雑病変の頻度が高く,血栓が関与した病態であること 出型ステントの使用例が増加している 389),390).急性冠症 に集約される.PCI による血管損傷は血小板凝集の亢進, 候群に対する薬剤溶出型ステント(DES)の使用に際し 凝固系の活性化を生じ,血栓形成を促進させる可能性が ては,STEMI を中心にステント血栓症のリスクが危惧 あり,急性冠閉塞を合併する危険性が高く,緊急バイパ されていたが,多くの無作為臨床試験が行われ,いずれ ス術,心筋梗塞,死亡といった主要心合併症が高率とな の臨床試験やそのメタ解析でも一貫して DES のステン ると考えられるからである.初期の NHLBI の報告では, ト血栓症の発症リスクはベアメタルステント(BMS) 不安定狭心症に対する PCI の成功率は 63 %で,心筋梗 と比べて差がなく,再血行再建率(TLR)を明瞭に減少 塞 9.6%,緊急バイパス術 29%と合併症発生率は極めて させた 390)-396).さらにこれらの試験において長期成績 .1990 年代初頭までは,急性冠症候群 が明らかにされてきており,DES の利点は 3 年以上経過 高率であった 379) に対する緊急 PCI の成績は待機的 PCI に比較し不良であ し て も 保 た れ て い る こ と も 示 さ れ て い る 397)-400). った 380),381)が,冠動脈内ステント留置術により破綻した STEMI を主とした急性冠症候群における高い早期ステ 粥腫を機械的に安定化させることが可能となり,緊急 ント血栓症の発症率はステントの種類によらないことも PCI の成績は著しく向上した.1996 年の TIMI Ⅲ B 試験 示されている 401).STEMI 以外の急性冠症候群を対象と では病変成功率は 97%で,心筋梗塞 4.3%,緊急バイパ したデータは少ないが,Kanzari らは CRUSADE レジス ス術 1.4%であった 270).現在では,安定労作性狭心症に トリーにおいて,ハイリスクの不安定狭心症と NSTEMI 対する待機的 PCI に近い治療成績で施行可能と考えられ を対象として,DES 使用による死亡・心筋梗塞のリス ている 268),279),382),383). クはベアメタルステントに対してむしろ低下しているこ 急性冠症候群に対する早期侵襲的治療群の優位性に関 とを示している 402).DES 使用における大きな問題は 1 し て は, 以 前 は こ れ を 疑 問 視 す る 報 告 が 散 見 さ れ, 年以降に発症する超遅発性ステント血栓症(very late FRISC Ⅱ試験では早期侵襲的治療群における入院早期 stent thrombosis = VLST)であり,VLST の発症原因が の梗塞発症率が保存的治療群に比し高いことが示されて 急性冠症候群に起因するという臨床データは病理の検討 いる.また,PCI までの時間が長い週末入院者と短い平 を含め観察研究のみである 403)-406).我が国で 10,778 症 日入院者の短期予後に差がない 384) との報告や,トロポ 例をエントリーして行われた J-Cypher レジストリーの ニン T 高値の急性冠症候群を対象にした ICTUS 試験の データにおいても,2,308 症例の急性冠症候群患者の予 も 後は 1 年以降,非急性冠症候群の患者と死亡・心筋梗塞・ ある.しかしながら,近年の多くの研究は,PCI の施行 ように 1 年後の予後に差がないとする結果の報告 ステント血栓症のリスクは変わらなかった 407).したが 177) 時期が 6 時間という早いものから,1 週間以内というか って急性冠症候群に関しての DES 使用は,利点が多く, なり遅いものまで,治療時期の幅が広く存在しているも エビデンスからは推奨されるデータの方が多いと言え のの,その大半が早期侵襲的治療群で死亡や心筋梗塞が る.しかし,PCI 後遠隔期に非心臓手術等の必要な場面 43 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) に直面することもあり,DES 植込みに際しては十分な 導入された当初の成績では,初期成功率に差はなかった インフォームド・コンセントとスクリーニングが必要で が,主要心合併症発生率は不安定狭心症において高率で ある. あった 426).不安定狭心症を薬物治療で安定させた後に 急性冠症候群に対する PCI としてはバルーン形成術と PCI を施行した成績では,成功率,死亡率さらに 6 か月 ステント留置術が一般的で,アテレクトミーや血栓吸引 間の心事故の発生率,すべてにおいて安定狭心症に対す 療 法 な ど の PCI デ バ イ ス に 関 し て は 不 安 定 狭 心 症 / る成績と同等であった 421).したがって急性冠症候群に NSTEMI においての十分なデータがない.アテレクトミ 対するバルーンによる PCI は薬物によって病状を安定さ ーについては,現在使用されているデバイスで急性冠症 せた後に待機的に行うことが推奨されてきた.我が国に 候群に対する有用性を示しているものはない.現在 おいても無作為比較試験の結果はないが,まず薬物によ STEMI に対しては血栓吸引療法が有用と認められてい る安定化を図ることを勧めた意見がかつては主流であっ るが,NSTEMI に対する有用性を示すデータはごく少数 た 427). 例のものしかなく 408)-410),末梢保護デバイスを含め有 しかし,器具の改良,技術の向上に加え,ステントの 411)-412) .しかし大きな血 使用が普及して急性冠閉塞の頻度が著しく減少し,PCI 栓塊を有する冠動脈病変であれば血栓吸引療法や末梢保 がより安全に施行されるようになり適応は変化してきて 護デバイスが有用であることは臨床的に症例ベースでは いる 266),383).侵襲的治療を早期に施行しても保存的に治 示されており 413)-415),エビデンスやガイドラインとは 療を行った場合と比較して心事故の発生率に差がなく, 別の水準で考慮すべきことである.また血栓だけでなく かつ入院期間が短く医療効率上の利益があることが示さ 血管内超音波などで認められるプラークの減衰像やプラ れた 266).またステントを用いることの安全性,有効性 ークの破綻像などの所見を有する冠動脈病変が責任病変 も示されている 383).これらによって発症早期に侵襲的 の NSTEMI において,PCI 時の冠動脈血流を低下させる な検査と治療を行うことの利点が大きくなってきてい 効性がないとする報告もある ことが示されており 416)-417) ,こういった病変を含む急 る.患者の短期リスクを分類し,高リスク患者には,早 性冠症候群に対する PCI 成績の向上は課題の一つであ 期侵襲的治療の方が早期保存的治療よりも有効であるこ り,末梢保護デバイスについても今後検討を要する. とが示された 170),171). 合併症なく冠動脈内ステント留置に成功すれば,アス このように非 ST 上昇型急性冠症候群における PCI は ピリンとチエノピリジンを併用した上で早期退院が可能 急性期の緊急処置としても有用とされるようになり,病 である 187) .FRISC Ⅱ試験や TACTICS 試験では早期侵襲 態が安定してからの待機的 PCI は,高リスクの患者の責 的治療によって自覚症状の改善と入院期間の短縮が得ら 任病変を除く病変が対象となることが多く,一層安全に れ,6 か月までの心事故発生も低下した.ただし,近年 施行できるようになった.虚血性心疾患の血行再建の治 の欧米における緊急 PCI の成績には,血小板膜糖蛋白Ⅱ 療戦略において,初期の臨床的な表現形の影響は小さい b/ Ⅲ a 阻 害 薬 が 寄 与 し て い る 点 を 考 慮 す る 必 要 が あ とされる 428).臨床表現が,安定狭心症または不安定狭 る 301),302),418),419). 心症であったものでも生命予後には血行再建の方法によ る差はなかった 429,430).これからも,慢性期の待機的な クラスⅠ PCI を含む血行再建については,冠動脈疾患の一般的な 1.非 ST 上昇型急性冠症候群患者の緊急あるいは早期 PCI に薬剤溶出型ステント(DES)を用いる.(レ ベアメタルステントは,急性冠症候群の治療において ベル A) は急性期の PCI,慢性期の待機的な PCI ともに広く使用 2.非 ST 上昇型急性冠症候群患者の緊急あるいは早期 されている.一方で,薬剤溶出型ステントが,急性冠症 PCI にベアメタルステント(BMS)を用いる.(レ 候群の治療においても有用であるとの確証は得られては ベル A) いない 431).海外の報告では有効性を報告するものもあ る 432).我が国でも薬剤溶出型ステントの急性冠症候群 ②待機的冠動脈インターベンション への有効性の報告もある 433)-435).我が国では心筋梗塞 非 ST 上昇型急性冠症候群に対する待機的 PCI の適応 の急性期での薬剤溶出型ステントの使用は,1 年以降の を考えるとき,安定狭心症に対する治療成績との比較検 遅発性ステント血栓症も認められていることから,添付 討が必要である.不安定狭心症と安定狭心症に対するバ 文書では,警告欄に記載され注意喚起されている.安定 ルーン PCI の成績を比較した研究は多い 44 適応を準用できると考えられる. 420)-426) .PCI が 期における待機的 PCI 症例では,再狭窄予防効果のメリ 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン を必要とする症例での緊急冠動脈バイパス術,特に急性 ットも期待できるものと思われる. 4 冠症候群の発症 24 時間以内の手術成績は不良で,長期 冠動脈バイパス術(CABG) 予後改善も期待できない場合がある 368),446),457)-459). 血液透析患者では,冠動脈石灰化が高度で PCI が困難 ①緊急および早期冠動脈バイパス術(CABG) なため手術治療を選択することが多いが,肺炎・感染症・ 非 ST 上昇型急性冠症候群に対する早期侵襲的治療方 脳梗塞・腸管壊死など術後の心外合併症により手術リス 針としての CABG は生命予後を改善し,心筋梗塞を予 クは高く,適応決定には慎重を要する.また高齢者でも 防するという複数のランダム化試験,メタ解析によるレ 大動脈や冠動脈の石灰化が高度なため緊急手術を選択す ベル A のエビデンスが存在する 250),436)-445).早期 CABG・ ることが多いが,手術リスクが高い点を考慮して慎重に 不安定狭心症に対する成績は待機 CABG と同等である. 適応を決定する必要がある 446). しかし救命あるいは緊急手術が必要な患者では手術死亡 人工心肺を使用せずに心拍動下に冠動脈バイパス術を リスクが高く 446)-451),血行動態の不安定な患者におい 行う方法(off pump CABG)が,安全性および確実性を ては,緊急 PCI が選択される機会が多くなっている.特 増し我が国でも普及しつつある 460).off pump CABG に に左冠動脈主幹部が責任病変と考えられる患者について よって,低侵襲で術後合併症の発生が少なく手術死亡率 は虚血領域が広範であり血行動態が不安定な状態に陥り を低く抑えられると判断できれば,これらの患者におけ やすく,再灌流までに要する時間を短縮できるという点 る手術適応を拡大してもよい 456),461). から緊急 PCI が選択される 452),453) .したがって発症数時 内胸動脈グラフトは長期開存が期待できる 462),463). 間以内の緊急 CABG は,PCI 不成功例や技術的に PCI 困 なお,緊急手術でも血行動態が安定していれば,内胸動 難な症例で進行性変化を伴う症例が対象となる. 脈の剥離によって手術危険率は増加しない 464). 十分な薬物治療にもかかわらず胸痛発作が頻発する患 者や心筋虚血範囲の大きな患者において,左主幹部ある ②待機的冠動脈バイパス術(CABG) いは左前下行枝近位部の高度狭窄病変の場合には早期 最大限の薬物治療に抵抗性で PCI 不適応の心筋虚血は CABG の適応について,CABG の治療効果と早期手術 緊急あるいは早期冠動脈バイパス術の適応となり,症状 の安全性,各施設の体制などをハートチームで十分に検 の安定した症例も病変に応じて待機的冠動脈バイパス術 討し決定する必要がある.その場合でも術前検査を十分 の適応となる 465)-469).待機的冠動脈バイパス術の適応 行い,初期治療から数日経過し血行動態の安定した時点 は基本的に安定狭心症に準じ,薬物治療に比して症状の で CABG を施行するのが望ましい 453),454) .早期 CABG 改善あるいは良好な遠隔期生存が期待される症例群であ の適応となるのは,冠動脈病変の複雑性の観点からは る.近年ベアメタルステント(BMS)や薬剤溶出性ス CABG の適応と考えられ,かつ症状や血行動態が安定し テント(DES)の使用により PCI 後の再狭窄率の低下が た状態で手術に臨むことのできる症例となる(冠動脈病 示され, PCI の適応が拡大されてきている470),471).しかし, 変の複雑性の観点からの CABG の適応の判断は,安定 デバイスの進化により再狭窄率こそ格段に低下したもの 冠動脈疾患における適応の判断と同様であり,日本循環 の,慢性冠動脈疾患の長期予後に関しては必ずしも改善 器学会「安定冠動脈疾患における待機的 PCI のガイドラ していない.一方 CABG においても技術革新が進んで イン」ならびに「虚血性心疾患に対するバイパスグラフ おり,両側内胸動脈を中心とした動脈グラフトの多用, トと手術術式の選択ガイドライン」を参照されたい). 人工心肺を使用しない off-pump CABG(OPCAB)が導 循環動態の安定した状態であれば,手術適応は待機的 入されてきた.動脈グラフトの多用は遠隔期グラフト開 冠動脈バイパス術とほぼ同等であると考えてよい 452),455). 存 率 の 向 上 に よ る 遠 隔 成 績 の 改 善 が 期 待 さ れ る が, 急性冠症候群に対する緊急手術の手術リスクを高くす OPCAB に関しては吻合操作の難易度がやや上がるため る要因としては,進行する広範な心筋虚血や左室心機能 on-pump CABG と比較してグラフト開存率を含めた遠 低下による心不全のみならず,腎機能障害,高齢者,脳 隔成績が低下するという報告と 472),両者に有意差はな 合併症など多岐にわたる要因が挙げられる 448),456),457) . いという報告があり 473),今後さらなる検討が必要であ 繰り返す心筋梗塞の既往や重症の心筋虚血によって る.PCI と CABG の比較試験も繰り返し行われている 左室機能が低下している症例は,手術治療の適応となる が 459),DES を用いた場合でも,3 枝疾患患者など冠動 ことが多い.しかしながら,心筋梗塞のために左室機能 脈の解剖学的条件の複雑な患者においては PCI よりも が著しく低下し,周術期に強心剤や補助循環装置の使用 CABG のほうが遠隔成績で優れていることが示されて 45 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) いる 250),474),475).近年欧米において使用可能となった, の薬剤は,いずれも我が国の保険診療では認められてお より強力な抗血栓または抗血小板療法は,CABG 術後の らず,未だに未分画ヘパリンのみが使用可能の状況にあ 475)-479) ,特 る.なお,PCI の術中や術後に時に発症するヘパリン起 にクロピドグレルを使用している場合には術前 5 日間は 因性血小板減少症(HIT)に対しては直接トロンビン阻 出血のリスクを高めることが示されており 中止することが推奨されている 5 479) . 血行再建治療に併用する薬物治療 害薬が有効であり,我が国ではアルガトロバンが認可さ れている. ステント留置患者の血栓性閉塞予防には,歴史的には 急性冠症候群では病変部位に不安定プラークと血栓が 当初ワルファリンが用いられたが,抗血小板薬の 2 剤併 存在しており,全身の血栓形成性の亢進も認められるこ 用療法(後述)が有効であることが証明され,心房細動 とから,急性冠症候群に対する PCI を早期に行う場合に や人工弁,深部静脈血栓症などのワルファリンの投与を は特に強力な抗血栓対策が必要である.PCI を施行する 必要とする基礎疾患の合併がある場合以外には用いられ 際に使用される薬剤には,抗凝固薬,抗血小板薬,冠拡 ない 187).抗血小板薬の 2 剤併用療法施行患者で心房細 張薬,血栓溶解薬,などが挙げられる. 動等の理由により抗凝固薬を投与する場合には出血性合 併症についての注意が必要である. ①抗凝固薬 近年,直接トロンビン阻害薬や Xa 阻害薬の経口薬が 開発中で急性冠症候群への治験が行われているが,その クラスⅠ 1.PCI 術中に ACT250 秒以上を目標にヘパリンを投 与する.(レベル C) 2.ヘパリン起因性血小板減少症(強く疑われる場合 を含む)に対してアルガトロバンを投与する.(レ 評価は未だ明確ではない 486),487). ②抗血小板薬 クラスⅠ 1.PCI が計画されている患者(禁忌例を除く)に対し, ベル A) アスピリン(162 ~ 325mg)を投与したのち,低用 十分な抗凝固薬の使用は緊急性の有無によらず PCI 施 量(81 ~ 162mg)を継続する.(レベル A) 行時の合併症防止のために必須である.ヘパリンはその 2. ステント留置が計画されている患者に対し,アス 基幹的な薬剤である.急性冠症候群に対してはより慎重 ピリンに加えクロピドグレル(300 ~ 600mg)を投 な抗凝固療法が求められ,特にステントを用いなかった 与(ローディング)したのち,75mg を継続する.(レ 場合や,血栓量の多い場合,血行動態の不安定な場合な ベル A) どでは ACT や部分活性トロンボプラスチン時間をモニ 3. ステント留置が計画されている患者に対し,クロ タしつつ通常よりも長時間のヘパリン管理が推奨され ピドグ レル が投与 でき ない場合 にチ クロ ピ ジン (200mg)を投与する(レベル A) る. 海外では,通常のヘパリン(未分画)よりも作用のバ クラスⅡ b ラツキが少なく,抗凝固作用が確実かつ強力とされる低 1.ステント留置患者でアスピリン,チクロピジン, 分子ヘパリンや直接トロンビン阻害薬の急性冠症候群に クロピドグレルを投与できない場合にシロスタゾー おける有用性が示されており,すでに欧米のガイドライ ルを投与する(レベル C) ンで推奨されている.トロンビン阻害薬や Xa 阻害薬は 2. ステント留置患者にアスピリンとクロピドグレル 効果の発現が安定しており,出血傾向のモニターが不要 に併用してシロスタゾールを投与する(レベル C) であることや,出血性合併症を軽減させることなどの利 点が挙げられて,ヘパリン(未分画)の代替薬としての 我が国においては急性冠症候群に対する PCI ではその 地位を確立させた 304),480)-482).低分子ヘパリンを PCI の ほとんどにステントが留置されている. 術中に使用した場合には不飽和ヘパリンと同等との成績 ステント留置後にはチエノピリジン系抗血小板薬(ク が示されている が,出血性合併症のリスクが ロピドグレル,チクロピジン)をアスピリンと一定期間 高まる可能性が示唆されており注意を要する.一方,そ 併用投与することにより血栓性閉塞が強力に阻止される の他の薬剤については直接トロンビン阻害薬バイバリル ことが証明されている 187).チクロピジンはクロピドグ ディンや Xa 阻害薬フォンダパリヌクスの有用性が示さ レルが使用可能になるまでの間長期にわたり,標準薬と れている 46 348),483),484) 481),485) .低分子ヘパリンをはじめとするこれら して使用されてきた 488),489)が,無顆粒球症,血栓性血小 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 板減少性紫斑病や重篤な肝障害などの副作用がまれなが 米においては急性冠症候群に対する早期侵襲治療には不 ら認められることから,比較的速効性でかつ副作用が少 可欠の薬剤と位置付けられている.我が国におけるアブ ない第二世代のクロピドグレルにほぼ置き換えられ シキシマの治験ではその有効性を証明することができ た 326),490),491). ず 305),チロフィバン,エプティフィバティドなどの短 クロピドグレルは可及的速やかに血中濃度を増加させ 時間型血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬は治験すら行われ ることを目的として,PCI の前に 300 ~ 600mg をローデ なかったことから,現時点で使用可能な血小板膜糖蛋白 し,引き続き 75mg をアスピリンとともに GP Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬はない.ただし最近の試験では急性 連日投与する.クロピドグレルのローディングについて 冠症候群の PCI に際して,ローリスクの患者では効果が は当初の予想よりも効果発現までに時間がかかることが なく,トロポニン陽性等のハイリスク患者においてのみ, 明らかにされており,非投与例との間の差を検出するま その有効性が示されている 501). ィング 289),492) でに約 15 時間を要する 493) ことから,血小板機能をより 早期にかつ強力に抑制することを目的に,海外では 600mg をローディングの用量として用いることが推奨 されている.なお,我が国におけるローディングの適応 用量は 300mg である. ③冠拡張薬 クラスⅠ 1.PCI 施行中にニトログリセリンあるいは硝酸イソ ソルビドを適宜冠動脈内に注入する.(レベル C) 血小板の ADP 凝集の主座である P2Y12 受容体を抑制 クラスⅡ a する新しい薬剤として,チエノピリジン系のプラスグレ 1.PCI 施行中に冠血流の低下(slow flow あるいは no ルや P2Y12 受容体に直接作用するチカグレロール,エ reflow)を来たした場合にニコランジルあるいはベ リノグレルなどが開発され,うち前 2 者はすでに海外で ラパミルを冠動脈内に注入する(レベル C) は使用可能である 300),338),339).クロピドグレルには個体 間で効果に大きなバラツキがあるとの欠点が指摘されて PCI 施行中に硝酸薬を適宜冠動脈内注入することによ いるが,これらの新しい薬剤はいずれもバラツキが少な り,高度の虚血や持続的な血流低下に伴う冠動脈収縮を く効果の発現も早いことが利点であるが,その反面で出 回復させ,また PCI 手技による機械的刺激に伴う冠動脈 血性合併症の発生が懸念されている 300),338),339) .我が国 攣縮を寛解させる.またニトロ化合物の注入により冠動 ではこれらの薬剤はいずれも治験中の段階にある. 脈径を適切に評価でき,PCI の最終バルーン(ステント) シロスタゾールは,効果発現が早くかつ重篤な副作用 径を決定するのに役立つ. は少ないこと,出血性合併症のリスクが低いことを背景 ニコランジルはニトロ化合物に匹敵する冠拡張作用を に,チクロピジンの副作用発生例にその代替薬として使 示し,かつ虚血心筋の保護作用を有することから,PCI 用されてきたが,本薬剤を用いた多施設無作為介入研究 施行中に冠血流の低下を認めた場合に冠動脈内注入され はなされておらず有用性は確立していない 494) .また, 近年ではクロピドグレルの低反応例に本剤を併用(すな ている 315)が,心室性不整脈を誘発する可能性に留意す べきである.なお,ニコランジルおよびベラパミルの冠 わちアスピリン,クロピドグレル,シロスタゾールの 3 動脈内注入の有用性に関するエビデンスは十分ではな 者を併用)することによって抗血小板作用が増強すると い 502)-504). の報告 495)を背景に,これらの 3 者併用療法を投与する ことが試みられている.しかしながら,近年行われた多 施設共同研究においては MACE に有意差を証明できず, これらの 3 者併用療法の有用性については確立していな い 496) . ④血栓溶解薬 クラスⅡ b 1.冠動脈内に明らかな血栓を認める患者に対し PCI 施行時に t-PA を投与する.(レベル C) 急性冠症候群に対する PCI においては強力な抗血小板 療法が必須である.その意味において,血小板凝集の最 終経路を阻害する薬理作用から究極の抗血小板薬と位置 クラスⅢ 1.PCI 施行時にアスピリン,ヘパリンに加え,血栓 溶解薬を投与する.(レベル A) 付けられる血小板膜糖蛋白 GP Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬は理にか なった薬剤である.急性冠症候群の PCI に際して発生し 急性冠症候群に対する治療薬としての血栓溶解薬の意 やすいとされる心事故(死亡,非 Q 波梗塞,再血行再建) 義については 7-1 を参照されたい.PCI 施行時に血栓溶 の発生を有意に抑制する 301),302),418),497)-500) ことから,欧 解薬を併用する戦略については,その妥当性を支持する 47 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) ようなエビデンスはなく,ウロキナーゼ(TAUSA 試験) あり,そのため予後が不良である.PCI の初期成功率に や t-PA(TIMI Ⅲ B 試験)の併用はむしろ予後に悪影響 関しては,若年者と同等とする報告が多いが 512)-515), .冠動脈内に明瞭な 80 歳以上で成功率が低いと指摘する報告 516),ステント 血栓像を認めた患者を対象として t-PA の併用治療が有 挿入の成功率が低いとする報告 512)もある.しかし,不 を及ぼすことが示されている 266),505) 用とする報告があるが,小規模研究でエビデンスレベル 安定狭心症に対する PCI 成功例では 80 歳以上であって は低い 506).なお,このような症例に対しては諸外国で も長期予後は良好であると報告されている. は血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬の使用が推奨されてい 近年に実施された非 ST 上昇型 ACS に対する早期侵襲 る. 的治療に関する無作為比較試験のメタ分析では,高齢者 8 における転帰の改善には,カテーテル治療実施によると 特殊な病態への対応 ころが大きいと指摘されている 175).また,早期侵襲的 治療の方が 75 歳以上の高齢者群においても死亡と心筋 1 梗塞発症率が有意に低いと報告された 517).しかし,そ 高齢者 の場合にも出血合併症が若年者に比べ多いことには留意 高齢者のみを対象とした急性冠症候群に対する無作為 すべきである.また,冠動脈バイパスも同様に,合併症 比較試験はないが,急性冠症候群の治療内容を検討した のない高齢者の手術死亡は 90 歳以上でも低率であると TIMI Ⅲ B 試験の解析では 193) ,ST 低下,ヘパリンあるい はアスピリンの使用にもかかわらず生じる狭心症の既 で侵襲的な治療の除外とはならず,暦年齢だけではなく, 往,65 歳以上の高齢者,あるいは家族歴(55 歳以下で 身体能力や認知機能や個人の考え方を尊重して適応を検 発症)を有する安静時狭心発作が心事故の予知因子であ 討する必要がある. り,これらの因子がない場合には心事故発生が 8%であ ったが,すべての因子を有する場合の心事故発生率は 2 腎機能障害 63 % で あ っ た. ま た,GRACE(Global Registry of 腎障害は急性冠症候群の死亡予知因子の一つであ Acute Coronary Events)リスクモデル(収縮期血圧,血 る 507). 虚血性心疾患では動脈硬化性腎障害あるいは糖尿 清クレアチニン値,心拍数,心筋酵素,Killip 分類,ST 病性腎症を合併していることがあり,PCI あるいは冠動 変化,心停止の有無)による解析では,急性冠症候群に 脈バイパス術の危険率を高くする要因の一つとなってい おいて高齢になるにつれ転帰不良になるとされた 507) . る.また,血行動態の悪化がさらに腎機能を悪化させる このため高齢者(65 歳以上)であるということにより ことも多い.緊急で侵襲的治療が施行されることが多く, 急性冠症候群においては中等度リスク群に分類される. 腎機能評価の余裕がない場合が多いのも問題となる.特 ただ,高齢者の定義は 75 歳以上とする報告もあり,一 に高齢者では潜在的に腎機能が低下していることが多い 定でないため注意を要する. 点を留意すべきである.血液透析患者に対する PCI の初 薬物治療の適応は高齢者においても若年者と同様であ 期成功率は非腎不全患者と大きな差はないが,再狭窄率 るが,副作用が生じやすいため低用量から開始するなど は高率である 519).手技成功例での遠隔期成績は PCI よ 使用量に注意を要する.高齢者に対する抗凝固療法につ り冠動脈バイパス術が良好である 520),521).また多くの薬 いては,脳出血を避けるため低用量のヘパリン使用を 物が腎排泄であり,腎機能低下により効果が過剰となる 1999 年 ACC/AHA ガイドラインは勧告している(体重 ことに注意を要する.特に抗血栓薬では出血助長となる 70kg 以下の患者には,最大 4,000U のボーラス投与と ことに留意する必要がある 522). 1,000U/ 時の注入).特に収縮期血圧が 180mmHg 以上, 女性,低体重者ではヘパリン使用中の出血の危険性に注 3 脳血管障害 意する必要がある 508).高齢者は,重症であるにもかか 急性心筋梗塞後の脳血管障害発症の予知因子として, わらず,抗血栓薬やβ遮断薬などの薬物使用率や早期 高齢,頻脈,脳血管障害,TIA の既往,糖尿病,狭心症 の侵襲的治療適用率が低い 48 報告されている 518).したがって,高齢という理由だけ 171),509),507) .その理由として 既往,高血圧が指摘され,これらの因子を有する場合に 非典型的症状 510),腎機能や肝機能低下から薬物による は予防的な抗凝血療法の適用が考えられる 438).不安定 副作用が生じやすい,高率に合併する他臓器合併症 511), 狭心症を中心とした急性冠症候群においても同様な危険 輸血や血管修復などを含めたカテーテル合併症の頻度が 因子が指摘されているが,脳血管障害発生率は 1%以下 高いことなどが挙げられる.また,治療の遅れが高率で と低い 523).侵襲的治療手段により治療抵抗性狭心症の 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 頻度は低下したが,脳卒中と出血性合併症は保存的治療 524) 左主幹部病変に対する冠動脈バイパス術と薬物溶出性ス .脳梗塞発生は,待機手術と緊急 テント(パクリタクセル)とを比較した SYNTAX 試験 手術では後者で高率となり,85 %が低血圧や低心機能 では,糖尿病群で 1 年後のイベント発生(全死亡,心筋 など血行動態に関する要因で,残りが周術期血栓塞栓症 梗塞,脳卒中,再血行再建)で,バイパス術が優れると と推定されている.厚生労働省循環器委託研究班による, の結果であった 250).また,冠動脈疾患に糖尿病を有す に比べ高率となる 「冠血行再建術における脳血管疾患合併の診療に関する ガイドライン」を参照されたい 4 525) る症例に対するカテーテル治療と薬物治療,あるいは冠 動脈バイパス術と薬物治療を比較した前向き試験である . BARI-2D では,カテーテル治療と薬物治療で複合心血 低心機能 管イベント発生率に差はないが,冠動脈バイパス術と薬 低心機能を伴った急性冠症候群では,虚血により心不 物治療では,有意にバイパス術施行例で低率であっ 全やショックを生じやすいため,虚血の治療とともに補 た 536).今後,糖尿病を有する非 ST 上昇型 ACS 症例に 助循環の使用を含めた心機能の改善処置が必要である. 対する薬物溶出性ステントと冠動脈バイパス術との長期 冠動脈造影や血行再建術時には大動脈内バルーンパンピ 予後の検討が必要である . ングを併用する.低心機能例では,ワルファリンの使用 により非使用例に比べ有意に死亡や心不全死・心不全入 その他 7 院が少なく,これは心房細動や左室駆出率,NYHA,年 腎不全や消化管出血に伴う貧血では,狭心症が増悪し 齢に関係しない独立した因子である 526). て 2 次性に不安定狭心症を生じるため 160),原疾患の治 5 療とともに Hb10g/dl を維持する必要がある.また,消 冠動脈バイパス術後 化管出血がある場合には抗凝固薬や抗血小板薬の使用が 静脈グラフトに起因した急性冠症候群は,血栓量,変 性した粥腫量が多い病変であることが特徴である 制限されるため,原疾患の治療が優先される. 527) . このため,静脈グラフト病変に対する PCI は末梢塞栓, 冠合併症の頻度が高い 528).前拡張のないステント留置 が有効であるとの報告もあるが,PCI の成績を改善する Ⅳ 退院後管理 には,血栓を除去するデバイス,末梢塞栓を防止するデ バイス,血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬の使用など,新 急性冠症候群の病態は通常発症後 2 ~ 3 か月以内に安 たな手法の確立が待たれる.なお,冠動脈バイパス術の 定化し,大多数の患者は安定狭心症または安定した無症 既往例に対する PCI では,病変が複雑であること以外に, 候性冠動脈疾患の臨床経過を辿ることになる 346).我が 高齢者が多く,冠動脈病変も高度で,心機能不良例が多 国では早期侵襲的治療を選択することが多いこともあ く,他に多くの合併疾患を有することも問題となる. り,退院後の長期管理は原則として安定した狭心症や無 6 症候性冠動脈疾患の管理とほぼ同様となる. 糖尿病 非 ST 上昇型急性冠症候群のうち 20 ~ 25%で糖尿病を 併発している 1 退院準備 529) .また糖尿病は,不安定狭心症の長期 予後悪化の予知因子の一つである 530).糖尿病を有する 患者の退院準備のために医師,看護師,薬剤師,理学 症例は症状が非典型的であることがしばしばで,呼吸困 療法士,作業療法士らが協力して患者指導にあたる.そ 難を主訴とすることも多い.糖尿病患者で無症候である の目標は,1)患者の活動を可能な限り元通りのレベル 頻度が高いのは感覚神経障害のためといわれている.症 にまで戻すための準備をすること,2)今回の入院を生 状が非典型的であることは来院遅延と予後悪化の原因と 活習慣と冠危険因子を是正するための機会と捉えるこ なる.冠動脈病変は多枝病変,びまん性病変,石灰化病 と,の 2 つである. 変,不安定プラークや血栓が多く,PCI で良好な拡張が 得にくい場合も多い 531)-533).また,遠隔期の心事故や 再血行再建率の実施率も高いとされる 534) .糖尿病症例 においてもバルーン単独に比べステント使用による再狭 窄軽減は明らかである .近年実施された 3 枝病変, 538) クラスⅠ 1.投薬の目的,内容,用量,用法,副作用等について, 患者および介護者に文書を用いて説明する.(レベ ル C) 49 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 2.毎日の適度な運動を勧めるとともに,職場復帰, 5)心臓突然死からの生還者 性生活の再開,車の運転,旅行等に関する具体的な 指示を行う.(レベル C) 3.心筋虚血症状の特徴と対処法を,患者および介護 者に説明する.(レベル C) ACS 患者 17,142 名の退院 6 か月後の予後を調査した GRACE registry によると,死亡率は平均 4.8%で死亡予 測因子は,1)高齢,2)心筋梗塞の既往,3)心不全の 4.介護者に自動体外式除細動器(AED)を含む 1 次 既往,4)発症時の頻脈,5)発症時の低血圧,6)発症 救命処置(BLS)について学習するよう助言し,訓 時の血清クレアチニン値上昇,7)発症時の心臓バイオ 練プログラムを紹介する.(レベル C) 5.狭心症の頻度が増えるか,程度が増強するか,よ り軽度の労作で誘発されるか,または新たに安静時 に起こる場合など症状に変化のある場合は,ただち マーカーの上昇,8)発症時の ST 低下,9)PCI を行わ なかったこと,の 9 項目であった 261). 3 薬物治療と冠危険因子の管理 に受診するよう患者および介護者に指示する.(レ ベル C) 原則として退院直前の抗狭心症薬と抗血栓薬投与(抗 血小板薬と抗凝固薬)は退院後も継続する.薬物治療は AHA のガイドラインによれば,低リスクの患者では 長期予後改善を目的とした抗血小板薬,β遮断薬,脂 職場復帰は退院 2 週間後が推奨されている.日常歩行は 質異常症治療薬と ACE 阻害薬またはアンジオテンシン 退院後ただちに,性生活は退院 7 ~ 10 日後に,車の運 Ⅱ受容体拮抗薬(ARB)と,虚血症状の軽減を目的に 転は退院 1 週間後が目安である 537). した硝酸薬,β遮断薬と Ca 拮抗薬である.さらに冠危 2 退院後のモニタリングと検査 クラスⅠ 1.退院時に一定期間後の再診予約が必要であること 険因子である高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙,肥満 等の管理,治療を行う. 薬物治療 1 クラスⅠ を説明する.低リスクの薬物治療患者および血行再 1.血行再建治療を受けなかった患者,血行再建が不 建に成功した患者は 2 ~ 4 週間後に,高リスク患者 成功だった患者,血行再建後に心筋虚血が再発した は 1 ~ 2 週間後に外来を受診させる.(レベル C) 患者に入院中に要した抗狭心症薬を退院後も継続投 2.最初に保存的治療を受け退院した患者が,薬物治 与する.(レベル C) 療にもかかわらず不安定狭心症を再発するか,また 2.すべての退院患者に,狭心症発作が 2 ~ 3 分以上 は重症(CCS 分類クラスⅢ以上)の慢性狭心症を 持続するときは安静にし,狭心痛が治まらないとき 呈し,しかも血行再建術の適応がある場合は,入院 は硝酸薬の舌下投与かスプレー吸入を行うよう指示 させて冠動脈造影を施行する.(レベル B) する.5 分以内に軽快しないときは,119 番通報を 行いながら,臥位または座位で 2 度目,3 度目の投 保存的治療を受け退院した患者については再診時に狭 心症の重症度を評価し,冠動脈造影および血行再建術の 3.胸痛が頻回になる,強くなる,軽い労作で起きる 要否を再検討する必要がある.2011 年の「ACC/AHA ようになる,安静時に起きるようになるといった変 不安定狭心症と非 ST 上昇型心筋梗塞患者管理ガイドラ 化が生じた場合は病院に連絡するように患者指導を イン 537) 」では,以下のいずれかの場合に冠動脈造影を 含む心臓カテーテル検査を行うことを勧告している. 1)不安定狭心症の再発および狭心症発作の有意な増 加 2)運動負荷検査における高リスク指標(2mm 以上の ST 低下,10mmHg 以上の収縮期血圧低下など) 行う.(レベル C) ①抗血小板療法 クラス I 1.ステント留置を行わない患者にはアスピリン 81 ~ 162mg を無期限に投与する(レベル A).クロピド 3)うっ血性心不全 グレル 1 日 75mg は最低 1 か月(レベル A),できれ 4)軽労作での狭心症出現(狭心症のため Bruce プロ ば 1 年間投与する(レベル B). トコールのステージ 2 を完了できない) 50 与を 5 分ごとに行う.(レベル C) 2.ベアメタルステントを留置した患者にはアスピリ 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン ン 81 ~ 162mg を無期限に投与する(レベル A).ク は,心機能低下例においてエビデンスのあるβ遮 ロピドグレル 1 日 75mg は最低 1 か月(出血性リス 断薬を漸増させて使用する.(レベル B) クの高い場合は最低 2 週間),できれば 1 年間投与 急性心筋梗塞におけるβ遮断薬の有効性を確立した する(レベル B). 3.薬剤溶出性ステントを留置した患者にはアスピリ 多くの報告は,再灌流治療の開始以前になされたもので ン 81 ~ 162mg を無期限に投与する(レベル B).ク ある 541)-545).その後の ACE 阻害薬や急性心筋梗塞の再 ロピドグレル 1 日 75mg は最低 1 年間投与する(レ 灌流療法の有効性が確立し,普及した時代における ベル B). CAPRICORN 試験 546)でも,カルベジロールが左心機能 4.アスピリン禁忌患者ではクロピドグレル 1 日 75mg 障害を伴った心筋梗塞患者の予後を改善している.ただ し,血行再建術が成功した低リスク患者全例にβ遮断 を投与する(レベル A). 薬を投与すべきか否かについては十分検討されていな クラス IIb 1.心房細動,人工弁,深部静脈血栓症など抗凝固療 法の適応があるとき,アスピリン投与下で中等度用 量(INR2.0 ~ 2.5)のワルファリンを投与する.(レ ベル B).(アスピリンとクロピドグレル併用下で, ワルファリンを追加投与する場合の至適 INR は確 立していない.) い.日本人ではβ遮断薬の投与にあたり心不全と冠動 脈スパスムの発生に留意すべきである 547). ③レ ニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 阻害薬 クラス I 2.アスピリン,クロピドグレル,チクロピジンが使 1.ACE 阻害薬は急性冠症候群患者の心不全合併例, 用できない場合,シロスタゾール,トラピジル,サ LVEF 40%以下,高血圧や糖尿病合併例において禁 ルポグレラートを使用する. 忌のない限り無期限に投与する.(レベル A) 2.ARB は心不全合併例や LVEF 40%以下の例で ACE クラス III 抗血小板療法薬としてジピリダモールを投与する. (レベル A) 阻害薬に忍容性のない患者において投与する.(レ ベル A) 3.アルドステロン受容体拮抗薬は,クレアチニンク 急性冠症候群に対してステント留置後に用いる抗血小 リアランス 30mL/ 分以下の腎機能障害や 5.0mEq/L 板剤の種類,使用量,期間については,我が国での臨床 以上の高カリウム血症がなく,LVEF 40%以下また 成績は限られているため,2011 年の「ACC/AHA 不安 は心不全症状や糖尿病を持つ患者で,すでに十分な 定狭心症と非 ST 上昇型心筋梗塞患者管理ガイドライ 量の ACE 阻害薬を投与されている患者に投与する. ン 」を参考に記した.日本人ではアスピリン 50 ~ 537) 100mg 前後で効果を発揮し得ると思われるが 538),539) ,至 (レベル A) クラス IIa 適量についてはなお検討を要する.我が国におけるアス ACE 阻害薬は左室収縮不全や高血圧,糖尿病のな ピリン使用の実態を考慮すれば,ステント留置後におい い患者においても禁忌のない限り投与する.(レベル てもアスピリン初期投与量を 1 日 81 ~ 162mg とするこ A) とは妥当と思われる.薬剤溶出性ステント留置後のアス クラス IIb ピリンとチエノピリジン併用の期間は,現在進行中の大 ACE 阻害薬と ARB の併用は,急性冠症候群後に急 規模試験の結果を受けて,あるいはステントの改良の都 性期が過ぎても心不全症状が持続する LVEF 40%以下 度,再考されるべき課題であるが,我が国におけるステ の患者において,ACE 阻害薬または ARB 単独の投与 ント血栓症の頻度は欧米に比して低く,出血リスクを有 が奏功しない場合に考慮する.(レベル B) する症例では,その短縮が考慮される 540). ②β遮断薬 クラス I 1.β遮断薬は禁忌のない限りすべての急性冠症候群 急性心筋梗塞症例に対する ACE 阻害薬の投与は,左 室の remodeling を抑制することにより,死亡や心不全を 予防しうる 548),549).ARB については,ACE 阻害薬とほぼ 同等の成績を認めた大規模臨床試験が複数ある 550),551). 患者において投与する(レベル B). 2.中等度から重度の左室収縮不全を合併する患者で 51 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) ④硝酸薬 我が国で行われた無作為化比較試験において,急性冠症 候群患者に早期からスタチンを投与することにより,心 血 管 イ ベ ン ト が 抑 制 さ れ(MUSASHI-AMI 試 験 554), クラス I 虚血症状の改善目的において投与する.(レベル C) クラス IIa ニコランジルを安定狭心症を伴う陳旧性心筋梗塞患 者に対して長期間投与する.(レベル B) クラス III 虚血発作や心不全のない心筋梗塞の慢性期患者に対 IVUS 上 の 冠 動 脈 プ ラ ー ク 退 縮 が 認 め ら れ る こ と (ESTABLISH 試験 359),JAPAN-ACS 試験 555))が示され ている. ②血圧管理 クラス I して長時間作用型硝酸薬を長期間投与する.(レベル JSH2009 ガイドライン 556)に準拠した血圧コントロ C) ールを行う.(レベル A) クラス IIa,III の記載は我が国の心筋梗塞 2 次予防に関 これによると心筋梗塞後,CKD,糖尿病合併患者の するガイドライン(2006 年改訂版)に従った 552).IONA 降圧目標は 130/80mmHg 未満であり,65 歳以上の高齢 Study のサブグループ解析 553)によれば,陳旧性心筋梗 者では 140/90mmHg 未満である(レベル A).体重コン 塞患者を対象にニコランジル投与群とプラセボ投与群で トロール,運動量の増加,飲酒の節制,塩分摂取量減少, イベント発生率を比較すると,ニコランジル群でイベン 果物や野菜摂取の増加,脂質摂取量低下といった生活習 トの頻度が低値であった. 慣改善とともにβ遮断薬あるいは ACE 阻害薬を第一選 ⑤カルシウム拮抗薬 択とした投薬を開始し,降圧不十分であればサイアザイ ドを加える.ただし,冠動脈血行再建が成功した低リス ク患者において,β遮断薬の Ca 拮抗薬に対する優位性 クラス I 虚血症状の改善がβ遮断薬では不十分な場合や, を示すデータは十分ではない.日本人では冠スパスムの β遮断薬が禁忌の場合,冠攣縮の関与が疑われる場合 発生頻度が高いことに留意し,Ca 拮抗薬も考慮する必 に投与する.(レベル B) 要がある. ⑥ワルファリン ③糖尿病管理 クラス I クラス I アスピリンやクロピドグレルと併用する場合は出血 性リスクが増加するため,モニターを頻回に行う.(レ ベル A) 冠危険因子の是正 2 ①脂質管理 クラス I 1. 入院後 24 時間以内に全患者の空腹時の脂質評価を 行う.(レベル C) 2. 急性冠症候群の全患者に,LDL 値や栄養管理にか かわらず,禁忌のない限りスタチンを投与する.(レ ベル A) 3. LDL 値の目標は 100mg/dL 未満,HDL 値の目標は 40mg/dL 以上,中性脂肪の目標は 150mg/dL 未満と する.(レベル B) HbA1c 6.5%未満を維持する.(レベル B) ④禁煙 クラス I 禁煙,そして受動喫煙を避けることを,職場および 自宅で実行する.禁煙プログラムへの参加と薬物治療 も利用する.(レベル B) ⑤体重管理 クラス I 外 来 受 診 時 毎 の 体 重 を 測 定 し Body Mass Index (BMI,kg/m2)を適正に維持する.(レベル A) ⑥運動 クラス I 急性冠症候群の患者は入院中にリスク評価を行い, これまでの身体活動歴と運動負荷テストを参考にして ST 上昇型心筋梗塞を主たる対象とする試験であるが, 52 退院後の運動量を決定する.通常 1 日 30 ~ 60 分,週 5 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 回(できれば毎日),歩行や庭仕事,家事などの有酸 素運動を行う.(レベル B)557) ⑨非ステロイド性抗炎症薬 クラス I ⑦心臓リハビリテーション 退院前に筋骨格系の慢性疼痛に対する評価を行い, 鎮痛薬が必要な場合はまずアセトアミノフェンから開 クラス I 1.急性冠症候群治療後安定期の心臓リハビリテーシ ョン(レベルB) 始する.(レベル C) クラス IIa 2.中等度から高リスクの患者における監視下の運動 トレーニング(レベルB). アセトアミノフェンや非アセチル化系サリチル酸で は効果不十分な場合に非選択的非ステロイド性抗炎症 3.危険因子を複数持つ患者における 2 次予防プログ ラム(レベルB) 薬を使用する.(レベル C) クラス IIb アセトアミノフェンや非アセチル化系サリチル酸, 虚血性心疾患患者に対する心臓リハビリテーションは 非選択的非ステロイド性抗炎症薬で効果不十分な場合 長期生命予後を改善させることが示されており 558),PCI においてのみ COX-2 選択的非ステロイド性抗炎症薬 後患者を対象とした複数の研究においてもその安全性と を使用する.(レベル C) 有効性が示されている 559)-561) .STEMI,NSTEMI を問 わず急性冠症候群の回復期に,栄養,薬,カウンセリン 選択的 COX-2 阻害薬およびその他の非選択的非ステ グなどの患者教育や退院後の生活を含めて指導すること ロイド性抗炎症薬は心血管系リスクを上昇させることが が QOL および予後の向上に有効である.再灌流成功・ 報告されており,特に冠動脈疾患の既往のある患者では 心機能良好で心不全合併がなく予後に関して低リスクと 顕著である.デンマークにおける初回心筋梗塞後患者 考えられる若年 AMI 患者であっても冠危険因子多重(3 58,432 人の大規模観察研究の結果,ハザード比と 95 % 個以上)保有者が約半数(49 %)を占めており,低リ 信頼区間はロフェコクシブ 2.80(2.41 ~ 3.25),セレコ スク AMI 患者であっても,退院後の心臓リハビリへの クシブ(商品名セレコックス)2.57(2.15 ~ 3.08),イブ 積極的参加により不参加群に比べ,運動耐容能と冠危険 プロフェン(商品名ブルフェン,その他)1.50(1.36 ~ 因子プロフィールの有意な改善が得られることも示され 1.67),ディクロフェナ(商品名ボルタレン,その他) ている 562).TIMI risk score や CADILLAC risk score など 2.40(2.09 ~ 2.80),その他の非ステロイド性抗炎症薬で が低く短期予後が良好な患者群でも冠危険因子の多重保 1.29(1.16 ~ 1.43)であった 565). 有者が高頻度であり,Lloyd-Jones ら 563) の提唱する「生 涯リスク(Lifetimerisk)」が高い可能性を示すものであ り,患者の生涯リスクを改善する目的としての心臓リハ ⑩ホルモン療法 クラス III ビリへの積極的参加が勧められる.さらに,虚血性心疾 1.急性冠症候群後の 2 次予防目的で,閉経後の患者 患患者の退院後マネジメントに関する新しい潮流とし にエストロゲン+プロゲステロン,あるいはエスト て, 疾 病 管 理 プ ロ グ ラ ム(Disease management ロゲン単独のホルモン療法を行う.(レベル A) .疾病管理プログラムとは, 2.エストロゲン+プロゲステロン,あるいはエスト 慢性心不全や糖尿病などの慢性疾患患者に対して,医師・ ロゲン単独のホルモン療法を施行中の閉経後の患者 看護師・薬剤師・栄養士・理学療法士・訪問看護師など が急性冠症候群になった場合,ホルモン療法を継続 の多職種チームが退院前から退院後にわたり医学的評 する. program)の考え方がある 564) 価・患者教育・生活指導を包括的かつ計画的に実施して 再入院抑制を含む予後改善を目指す中期~長期プログラ ただしホルモン療法開始後 1 ~ 2 年が経過し,急性冠 ムであり,急性冠症候群にも応用できる. 症候群回復後に患者が他の必要性からホルモン療法の継 ⑧インフルエンザ クラス I 心疾患のある患者すべてにインフルエンザワクチン 続を希望する場合は,心血管イベントが増加するリスク, エストロゲン+プロゲステロンで乳癌が増加するリス ク,エストロゲン単独で脳卒中が増加するリスクと患者 利益を勘案して継続を決定すべきである. 接種を勧める.(レベル B) 53 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 4 治療後の長期予後 治療に関しては,DES の登場により再狭窄率の著し い改善が得られたが,遅延性再閉塞の問題があり,抗血 小板薬の投与期間や長期予後に対する費用対効果につい 治療後の長期予後(1 年以後)に関しては,PCI や てはまだ十分な議論がなされたとはいえない.非 ST 上 CABG による冠血行再建術の有無や各種薬物療法の影 昇型急性冠症候群においては,保存的治療の方が急性期 響を受ける.PCI の場合,通常,ステントが留置される. 侵襲的治療に比べるとコストが低いと考えられるため, 非 ST 上昇型心筋梗塞あるいは不安定狭心症を対象とし 急性期侵襲的治療の適応は慎重に判断する必要があ て,ベアメタルステントと薬剤溶出性ステントの長期成 る 569). 績を比較した検討はないが,ベアメタルステントと薬剤 急性冠症候群低リスク群のスクリーニングにおいて 溶出性ステントを比較した無作為比較試験では,非 ST は,依然として病状経過・身体所見・心電図所見が有効 上昇型心筋梗塞あるいは不安定狭心症を含めた試験が多 であり,基本的な診療技術が最先端技術よりも費用対効 く 566),その長期予後の検討で,薬剤溶出性ステントの 果の面でも優れている 570). 有用性が確認されているものが多い.実際に,急性冠症 候群で,安定型狭心症に比べ,薬剤溶出性ステントの問 題点とされる遅発性の再狭窄や超遅発性ステント血栓症 が高くなるとの報告はないが,今後,我が国での第 2 世 Ⅵ 今後の課題 代の薬剤溶出性ステントでのこれらの問題点についての 検討が必要と思われる. 近年,ST 上昇型急性心筋梗塞が減少傾向にあるのに 急性冠症候群の長期予後改善には,上述の治療に伴う 対して,非 ST 上昇型急性冠症候群は増加しており,そ 適切な対応に加え,2 次予防も重要である.冠危険因子 の予後を改善することは国民医療全体においても今後の のコントロールとともに,再発の早期発見を含めた経過 重要な課題である.非定型的な症状や非常に軽微な症状 観察を行う必要がある. が重篤な急性冠症候群の表現形であることもまれではな いため,特に冠危険因子を有する一般人に急性冠症候群 Ⅴ 医療費に関する考察 についての啓発を行い,疑わしい症状を有する場合の早 期受診を促すことは重要である. 急性冠症候群は,急性期治療の如何により予後が大き く変わり得る疾患群であり,このため有効性が示された Radenski らは,狭心症として典型的な胸痛を訴え,胸 最近の診断法,治療法を個々の患者の病態に応じて実践 痛時心電図で虚血性変化を認めない患者を対象とし,胸 していくことが望まれる.急性冠症候群の診断やリスク 痛時にテクネシウム -99m セスタミビ SPECT 心筋シンチ 層別化においては,依然として病状経過・身体所見・心 グラムを施行し,未施行例を対照とし比較検討した 567), 電図所見の適切な把握が重要であり,基本的な診療技術 心死亡,非致死的心筋梗塞,血行再建を心事故とした検 が最先端技術よりも優先されることをしっかりと認識す 討 で は, 心 筋 シ ン チ グ ラ ム の 心 事 故 発 症 に 対 す る る必要がある. sensitivity 解析の結果,費用の増加は認められなかった. 急性冠症候群の病像は幅広いスペクトラムを呈するた したがって,心筋シンチグラムにより心筋虚血を同定す め,早期のリスク層別が重要である.高感度トロポニン, ることは,急性冠症候群の診断において安全で感受性が 高感度 C 反応性蛋白(hs-CRP)などのバイオマーカー 高く,かつ費用対効果のよい手法であると結論された. が臨床応用されて来てはいるものの十分に満足できるレ 近年冠動脈 CT は急速な技術進歩により,臨床の場で ベルではなく病因や病態を反映した新たなバイオマーカ の重要性が高まって来ている. ーの開発が望まれる.欧米では病歴,心電図,バイオマ 冠動脈 CT による急性期冠動脈診断は入院期間短縮の ーカー等から総合的にリスクを評価する TIMI リスクス 効果が期待される.また,運動負荷試験に比べ安全であ コアや GRACE スコアが広く用いられている.しかし, る.長期予後における費用対効果に対する検討が今後望 我が国においてはそれほど普及していないのが現状かと まれる 54 568) .一方で,我が国に多い冠攣縮の関与した急 思われ,その有用性を検証し活用していくことで,リス 性冠症候群は.冠動脈 CT では捕捉されない可能性があ ク評価法を向上することが重要である. る. 治療では,個々の症例のリスクに基づき薬物による抗 非 ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン 血栓,抗虚血療法を行った上で侵襲的治療を選択するか 心房細動の合併例が増加している現状において,従来の 否かを決定する.病態の中心となる血栓形成をより強力 ワルファリンに加え,今後さらに直接的トロンビン阻害 に抑制する目的で新たな抗凝固薬や抗血小板薬が開発さ 薬や第 Xa 因子阻害薬が登場した状況において,抗血小 れており,欧米では多くの薬剤の臨床使用が可能となっ 板薬と抗凝固薬の併用のあり方について検討が必要であ ている.しかし中でも,欧米のガイドラインで推奨され る. ている血小板膜糖蛋白Ⅱ b/ Ⅲ a 阻害薬は我が国では使用 さらに,より有効な PCI を目指すうえで,PCI 時の末 できず,低分子ヘパリンも同様である.また最近のトレ 梢塞栓や微小心筋障害は予後不良と関連する重要な課題 ンドは,心血管イベント減少を目指した強力な抗血栓効 である.血管内イメージング法のみならず冠動脈 CT や 果に目を向けるだけでなく,予後悪化の強力な因子であ MRI なども含めた画像診断法によるその予測と予防・ ることが明らかとなった出血性合併症をいかに減らすか 治療法が望まれる.また,新たな distal protection device に焦点を当て,その薬剤の net benefit を評価するという の開発や適応患者を含めたその有用性についての検討も 考え方が一般的となっている. 必要と思われる.スタチンによる脂質低下療法について 侵襲的治療では主に冠インターベンション(PCI)が は,我が国からのエビデンスもあり,その有用性はすで 選択されるが,来院後ただちに行うべきか,一定の時間 に確立されているが,PCI 直前の高用量スタチン投与に をおいて行った方がよいのか,病状を安定化させること よる有効性も報告されており,急性期におけるスタチン の必要性や有効性および併用薬剤投与の時期などについ の多面的効果も期待される. ては一定した見解は得られていない.ステント留置例で 近年,我が国からも大規模な臨床研究の成果が報告さ の抗血小板療法では,アスピリンとチエノピリジン系薬 れるようになったが,依然として本ガイドラインの作成 剤 で あ る ク ロ ピ ド グ レ ル の 2 剤 併 用 療 法(dual anti- に使用したエビデンスの多くは欧米からの臨床成績であ platelet therapy; DAPT)が行われるが,特に早期ステン る.しかしながら我が国においても大規模臨床試験のた ト血栓症を予防する目的でのクロピドグレルの投与量 めの環境が整備されつつあり,その結果,より多くのエ や,現在臨床治験が進行中のプラスグレル,チカグレロ ビデンスが蓄積され,日本人のデータに基づいたガイド ールなどの薬剤の我が国における有用性については今後 ライン作成が可能となることが期待される. の検討課題の一つと思われる.さらに,高齢化に伴い, 55 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011 年度合同研究班報告) 文 献 1. 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