411KB - 独立行政法人水産総合研究センター さけますセンター

さけ・ますふ研報,
Sci . Rep
. HOkkaido
Salmon
Hatchery
, (44):
1‑9 (1990)
北日本におけるサケ 科魚類の幽門 垂数 "
帰山
Number
雅秀 " ・浦和 茂彦 "
Of Pyloric Caeca Of Salmonids ;n the NOrthern Japan*'
Masahide K.AERIYAMA*2 and Shigehiko URAWA*2
Abstract
Numbers
of pyloric
from
caeca
bro0k trout, rainbow trout,
Japanese huchens, dolly vardens, white spotted charr,
salmon, sockeye salmon, chum
masu
salmon, and pink salmon
collected fn I2 river, 1 lake, and 4 shore locations throughout
examined.
The chum
salmon started to form
hatching, increased the number
it until 120 days
The number
the SOviet Union
Among
Of pyloric
order.
as
(45‑201),
caeca
after the
more
of pyloric
genus
In the
genus
chum
and pink salmons,
Oncorhynchus,
are
mm
Of the fork length.
chum
among
salmon
There
derived from
were
no
the northern
Of "TOkishirazu" and "Keiji" chum salmon originating
caeca
extremely
was
salmonids, the number
Oncorhynchus
genus
such
Of pyloric
(>200)
since 20 days
caeca
were
of it with the development, and completed the formation of
after the hatching in about 80
differences tn the number
Japan.
the pyloric
the northern Japan
caeca
than
was
Salmo (51),and
more
that
originating the Japan
the most
fn
genus
(about 160).
Hucho
(203), while
[email protected] (23‑28) followed @n this
genus
abundant species that distribute widley fn the
emphasized to have
a
greater number
Of pyloric
sea,
caeca
than other species
魚類の幽門垂は,発生組織学的には腸 と同じ構造で粘膜,筋層および漿膜の 3 層からなり,機能的にはす
い臓の補助としてトリプシンなビの消化酵素の分泌 と腸の補助として栄養吸収に役立っている(梅津
1970
:
尾崎 1972 ; 松原他 1979).幽門垂数には,地理的変異の勾配が観察されており,カサゴ科魚類では寒海性
のものほど数が多く (松原他
1979) ,
(梅津 1970).―方, Bernard(1949W
シログチ,ホン二べ・マダラなビの幽門垂数 は南高北低の傾向にあ る
は,サケ科魚類の幽門垂数が緯度の変化に影響されないと報告してい
る.アムール@llに湖上するサケの幽門垂数は,夏サケの方が秋サケに比べて少ない (クリ コワ 1972) ,サケ
科魚類で低 イワナ属,ニジマス
属,そしてサケ
属の順に幽門垂数が多い(白石・高木 1955 : ROunsefell 1962).
このように,サケ科魚類の幽門垂数の変異については末だに系統的な研究が行われておらず,断片的な知見
しか得られていないようである.著者らは1985 年から1987 年にかけて北日本に生息するサケ科魚類 9 種の幽
322 号
北海道さけ・ますふ
化場研究業績第
総合研究(バイオ・コスモス
)」の ―部である
" 木研究は農林水産省「農林水産
系生態秩序の解明と
最適制御に関する
(BCP90‑1V‑ B‑1) .また,本報告の
―部は昭和fi2年度日本水産学会秋季大会で
口頭発表した
"2水産庁北海道さけ・ます
ふイヒ場
(HOkkaidoSalmonHatChery
, FiSherieSAgencyofJapan
,
2NakanoShlma
,
2
TOyohira‑ku, Sapporo 062, JAPAN)
さけ・ますふ
化場研究報告 第44 号 (1990)
ク
Fig. 1.
図 @
Sampling locations for examining the number Of pyloric caeca of salmonid throughout the northern
River, 5: Bibi River, 6
Japan.
1: Shari River, 2 : Ichani River, 3 : Nishibetsu River, 4 : TOkachi
Ishikari River, 7: Yurappu
River, 8 : Shiriuchi River, 9 : Gakko River, I0 : Kesennuma‑0h
River, t1
Shikotsu Lake, I2 : Rausu COast, I3 : Abashiri COast, I4 : MOnbetsu COast, I5 : Ishikari COast, I6 : SOya
Branch 0f the HOkkaido
Fish Hatchery
北日本の概略図と
標本採集地点
門垂を採集し,その数を計測し,若干の知見を得たのでここに報告する.
材料と方法
1985 年 5 月から1987 年12 月まで,北海道および本州北部において採集したサケ科魚類のうち,イトウ属 I
種 {Hucho ク er ,yi) 17 個体,イワナ属 (GenusSalvelinus) 3 種3n 個体,ニジマス属 I 種 (Salmoeairdner")
10 個体およびサケ属苗類 (Genusonco
所@.yn
乃 chiis) 4 種 864 個体,合計921 個体の幽門垂数を計測した (表 I ,
図□ . また,同時に左側第 I 鰯弓 を採取し,その外側の鯛杷数も計測した.各標本は,イトウを除いて,尾
又長と体重の測定および採鱗後,採取して10% ホルマリン溶液に固定し,後日その数を計測した, イトウの
幽門垂数と鰯記数は北海道立水産僻化場宗谷支場より提供された固定標本から直接計測した
"1989 年上戸I 日より,アメリカ
水産学会では
学名を (Incn 所川杣硲 m ノをなと変更している
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(mm)
Changes Of the number Of pyloric caeca (open circle)
and the rate Of alimentary canal length to fork length
(solid circle) with the development tn chum salmon
Fig. 2.
(modified by Kaeriyama, 1986).
図2
サケの発育に
伴う幽門垂数と消化管長比の
変化
結果と考
集
サケの発育に伴う山門垂の形成 サケ科魚類の幽門重の形成過程をサケ (a . 如幼 において観察すると,
幽門重の原基は膀化後20 日頃より形成されはじめ,発育に伴ってその
数を増し,
牌化後120日頃, 尾又長 80mm
までにはほほ定数に達することが知られた (図 2) .また,この
時期までに尾又長に対する消化管長比も―定
となり,サケは尾又長 80mm までに消化管の基本形の形成を完了する (帰山 1986).幽門垂の形成が完了
するサケの発育段階は 沿岸生活から 沖合生活へ移行する 後期幼魚 期 (小林
1977 ; Mayama
1985 :帰山
1986) に相当することから,サケの幽門垂数の決定には初期の海洋生活期の生育環境が大きく関与している
可能性の高いことが示唆される.
サケの山門垂数 サケ成魚 (adult)の幽門垂数を成熟度別,湖上時期別・年齢別および系統群別に比較検
性および大きさの違
討した・その結果,同―河川群における成魚の幽門垂数に,成熟度,年齢,湖上時期,
いによる差は認められなかった (図 3 ,
4)
・
また,北海道の斜里川,十勝山,石狩川,知内
川および遊楽部
山,本州北部の宮城県気仙沼大川および山形県月光川に湖上した成熟魚の幽門垂数 は約160本で,河川群間に
有意な差は認められなかった (P
二
0. 3) .本州日本海沿岸に湖上するとみられ,成熟の比較的進んでいない網
走沿岸で採集された " メジがの幽門 垂数 は約150 本と若干少なかったが,他の河川群間と差が認められるほ
ビ ではなかった (P
れる " トキシラズ"
ノ
と
0. 2) .
しかし,1985 年春期に門別沿岸で採集した,その年の秋までには産卵するとみら
1985 年秋期に羅日沿岸 と 網走沿岸で採集した,翌年以降に産卵する未成執な "ケイグ
の幽門垂数の平均値とその標準偏差は, それぞれ,209 土 19 本および 195+22 本と,本邦系のそれらより明ら
かに多かった (P<10‑4
ソ
: 表 2)
・
連邦に湖上するサケ親魚の幽門垂数 は夏サケがi59 本から245 本まで,秋サケが167 本から220 本まで変異
する(クリ コフ 1972) .従って,トキシラズとケイジはわが国より北方の ソ 連邦起源のサケ個体群と推定さ
れ,それらの幽門垂数 は本邦系サケより明らかに多いと見なされる.このことは, トキシラズとケイジが こ
帰山・浦和: 北日本におけるサケ
科魚類の幽門垂数
CHITOSE
れまでの標識放流試験の 結果 (平野
RIVER
16
160
SEP. ]3
1979)
と
1953 ; OkaZaki
アイソザイムによる集団遺伝学的研究 (OkaZaki
1979 , 1986) から ソ 連邦のアムール川あ
るいは・アムチャツ
カ半島の系統群であ る可能性が高いことからも示唆され
る.このようにサケの幽門垂数の地理的変動は,沖合移
SEP. 25
動期までの生息環境と深く関連し,幼魚期まで北方の寒
海において生活する個体群ほビ多い傾向にあ ることを暗
示しており,寒海 ほど消化酵素の活性が弱いために幽門
OCT.
7
垂数が多いという松原他 (1979) の仮説を支持している
ことを表している,
サケ科魚頽の出門垂数 北日本におけるサケ科魚類の
OCT. ]4
幽門垂数は,明らかに,イフナ属,ニジマス属,サケ属
およびイトウ属の順に増古口した
(図 5 , 表 3) ・種別の平
均幽門垂数は,イワナ 属ではオショロコマとアメマスが
23 本,カワマスが38 本,ニジマス属の二ジマスが51 本,
3yr
サケ属ではサクラマスが45 本,べ二ザケが79本,カラフ
― 口
トマスが137 本,サケのうち,本邦系が160 本, トキシラ
ズとケイジが201 本,そしてイトウ属のイトウが203 本で
あ った.サケ属魚類では,分布域が広く,資源量の多い
4 yr
種 (帰山
1985)
ほど幽門垂数が多い傾向を示すが,中
でもサクラマスの幽門垂数 は著しく少なく,ニジマスの
それに近かった.全体的に,サケ科魚類の幽門垂数がそ
5yr
の系統発生学的な流れの方向に沿って増加する傾向にあ
る中で,イトウの幽門垂数が著しく多いのは注目に値す
る. ROunSef 川は 962) は,サクラマスを除くサケ属 5 種
ISHIKARI COAST
と
Q
lake
け Out の幽門垂数がイワナ属と二ジマス属 より明
らかに多いことを示した上で,幽門垂数と鰯条軟骨数か
ら, lake
お
trout がサケ属 に近いとし,その属名に C バ 5‑
叩2%cr (JOrdan and Gilbert 1883) を当てている.イト
ウはサケ科魚類の中でも原始的な形態を持つと言われて
いる(益田他
120
140
NUMBER
Fig .
図 3
160
180
200
oF PYLORIC
3.
Freauencv
220
CAECA
distributions
1984) .サケ科魚類の系統発生とその幽門
垂数との間にどのような関係があるのか現在のところ明
らかでないが,今後更に資料を収集し検討して行く価値
Of num‑
ber Of pyloric caeca
for chum
salmon Of the Ishikani River popu‑
lation in 1985 and 1986.
1985‑1986 年,石狩川系サケ
個体群の
幽門垂数の頻度分布.
はあるものと考えられる・
山門垂数とん升巴 打の山係
サケ科魚類の幽門垂数と鰯
杷数との関係を図 6 に示した.生活史のほとんビ を淡水
域で生息する イワナ属,ニジマス属とサケ属の中でも淡
水生活期間の長いサクラマスは幽門垂数 および鯉耗数と
もに少ない傾向にある・サケ属の中でも動物プランクトンを優占的に摂餌するべ二ザケ と カラフトマスは鯛
杷数が多いものの幽門垂数 は中間的な位置を占める傾向を示した. 較的雑食性のサケは幽門垂数が多く,
上ヒ
鰯把数も比較的多い傾向にあ る . そして,生活史の大半を淡水域で生活し,完全な肉食性であるイトウは鯛
杷数が少ないものの,幽門垂数が著しく多い傾向を示した, 図から明らかなように,両者の関係は個体の分
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さけ・ますふ
化場研究報告 第44 号 (1990)
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Ofpyl0riC
ciLClC:
CaeCa
female
forchum
.
サケの体長と
幽門垂数との関係・
北日本で採集されたサケ
親魚の幽門垂数
・
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4
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Developmental
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OfChumSalmonCapturedin
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160(15)
160(18)
160(19)
134‑2200
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Mature
Mature
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117‑221
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157(22)
159(18)
209(19)
195(22)
152(14)
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Mature
127‑
2200
97
Pre‑maturing
20
Immature
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I2f‑2213
118‑99
184‑2240
169‑5248
上
37
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帰山・浦和: 北日本におけるサケ
科魚類の幽門垂数
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Fig. 5.
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PYLORIC
160
200
CAECA
Average numbers Of pyloric caeca with standard deviations in salmonids throughout the northern
Japan. KI: pre‑maturing
chum salmon ("TOkishirazu") captured in the MOnbetsu
COast, K2: fm
mature chum
salmon ("Keiji") captured in Abashiri and Rausu coasts, K3 : mature chum salmon
captured in the northern Japan, K4 : maturing chum salmon ("Mejika") captured in the Abashiri COast,
GI and G2: mature pink salmon captured in the Abashiri and Rausu coasts, MI and M2 : adult masu
salmon ("Kuchiguro") captured in the Abashiri and Rausu coasts, M3 : smolt masu salmon captured in
the Ichani and Nishibetsu rivers.
北日本産サケ
科魚類の幽門
垂数
安 s
北日本で採集されたサケ
科魚類の幽門
垂数の種間比較
Table 3.
COmparison of number 0f pyloric
northern HOnshu,
NO
Species
Genus
Genus
5
salmonids captured in the HOkkaido and
Developmental
No
stage
sample
Number
0f pyloric
Average (SD*)
caeca
Range
pwr り i
203(24)
Immature
163‑
22g
Salvehnus
2 S.
3 sS
4 s.
Genus
caeca among
Japan.
Hucho
1 H.
・
図 5
120
80
NUMBER
l
20‑30
Immature
23(4)
23(3)
38(II)
Juvenile & Immature
51(8)
41‑G5
川幻 川り川ノ ai 川口
Immature
ね mco すぬaf れな
Immatute
fo0ntinaris
20
1@
@@
―
2g
4g
Salmo
5. eazrdneri
Genus Oncorhynchus
6 0 . れれ
a@sau
7 0 . HりYRn.
8 0. keta
9 0. keta
10 0 . 比ぬ
11
*SD:
0. gorbuscha
Standard deviation
Smolt & Immature
39
Mature
45(5)
41‑
79(8)
69‑85
4@
690
160(18)
110‑224
"TOkishirazu"
20
184‑
Z40
"Keiji"
26
209(19)
195(22)
137(14)
16@
248
Mature
Mature
103‑172
さけ・ます
ふイヒ 場研究報告 第44 号 (1990)
T
on
山
ヒ
... ,0g2
30
圭
0g*'
」
」
Ok4
O
一
@ @Ok3 ,..‑@ @Ok1
20
T
".... Ok2
o
Hp
DSf
山
=
夫
コ
z
1
80
40
NUMBER
Fig. 6.
図 6
160
200
PYLORIC
CAECA
120
oF
Relationship between the number 0f pyloric caeca and the number Of gill
raker. Okl: pre‑maturing
chum salmon ("TOkishirazu") captured in the
MOnbetsu
COast, Ok2 : immature
chum salmon ("Keiji") captured in the
Abashiri and Rausu coasts, Ok3: mature chum salmon captured in the
northern Japan, Ok4 : maturing chum salmon ("Mejika") captured in the
Abashiri COast, Ogl and Og2 : mature
pink salmon captured fn the Rausu
and Abashiri coasts, Oml and Om2 : adult masu salmon ("Kuchiguro")
captutred in the Abashiri and Rausu coasts, Om3 : smolt masu salmon
captured in the Ichani and Nishibetsu rivers. Sg: rainbow trout captured
in the Nishibetsu River and the Shikotsu Lake, Sf : bro0k trout captured in
theNishibetsu
River, SI: whitespottedcharrcaptutedintheIchani
River,
theNishibetsuRiver,andtheShikotsuLake,sm
: dollyvardencapturedin
the Ichani River, Hp: Japanese huchen he@d in the SOya Branch Of HOk‑
kaido Fish Hatchery.
北日本産サケ
科魚類の幽門
垂数と鰯記数との関係
布域の広さと食性との木目 互関係により決まり,―般的に幽門垂数は,イトウを除いて,分布域の広い種ほど
多く,鯛耗数はプランクトン食性の種 ほど多い傾向を示す.
辞
謝
標本の採集に当り,種々 ご配慮を頂いた北海道さけ・ますふ化場の職員各位,北海道立水産僻化場宗谷支
場長河村博氏
(現在,北海道止水産僻化場真狩支場長),宮城県水産試験場熊谷正典氏および
産普及員
裕& に深く感謝する.
笠原
Bernard, F. (1949): Anatomie
Hydrob.
平野義見口953)
comparee
引
用
des
caecums
文
献
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