京都大学防災研究所水資源セミナー「流域一貫の総合流木管理に向けて」を開催 2014 年 10 月 3 日(金)に,宇治キャンパス黄檗プラザきはだホールにて,上記タイトルの研究集会 が行われました.近年の局地的な豪雨の発生に関連して,河川における流木の管理のあり方への関心が 高まっています.本研究集会では,流木に関して河川管理や研究者の立場から計 11 名の方にご発表い ただき(うち 3 名は海外からの参加),流木管理の議論を行いました.朝 10 時半から午後 6 時過ぎまで 発表と議論が行われ,大学,省庁,法人,企業の各方面から約 130 名の参加がありました. 近年,豪雨を起因とする流木災害が数多く発 生しています.水源や洪水調節を行うダム貯水 池に大量に流木が流入すると,施設の機能に損 傷が生じます.一方で,ダムで流木が捕捉され れば,下流の街の橋梁に集積して災害を引き起 こすリスクを未然に防ぐことになります.河川 から流木を除去する様々な工夫が取り組まれ, ダムによっては倒木の除去に多大な費用が使 われている現状がある一方で,河川に堆積した 流木が河床地形や物質循環を良好な状態に保 ち,河川生態系に不可欠な存在であることを示 す証拠も積み重なっています.ダム貯水池や河 川における流木の発生や動態を把握し災害防 止の策を検討する調査や検討会が行われてき ましたが,上流から下流までの問題を総合的に 捉え,また利水・治水と生態・環境の両観点を 踏まえた議論は行われてきませんでした.本セ ミナーは,流木について流出・貯留,災害リス ク,生態機能などの各観点から,現状の課題整 理を行い,学際的な議論をもとに今後の総合管 理に向けた方向性を明らかにすることを目的 に行われました. 第一部の 3 つの発表では,流木の発生からダ ム貯水池への流入・捕捉・流下までに関わる問 題について示されました.全国ダムの流域面 積・流量と流木発生量の関係,近年の流木発生の傾向,流木によるダムの閉塞問題とその対策技術,ダ ムでの流木捕捉による下流災害の軽減の事実とその効果の試算,ダムや下流河川における流木除去の費 用などについて紹介がありました.第二部の 2 つの発表では,中下流河川における流木の流下・堆積過 程と災害リスクについて示されました.流木による橋梁での流水阻害の事例,流木発生ポテンシャルや 橋梁の特性に応じた流木リスク評価の試み,増水中に流木を集中的に捕捉する施設についての水理実験 や実河川での効果について紹介がありました.第三部の 4 つの発表では,河川における流木の分布や水 理・生態的機能について示されました.河道特性・河床地形と流木堆積の関係,出水の規模や流木の形 態的な特性と流木堆積の関係,河川生物の生息場や生物多様性に対する倒木の重要性について紹介があ りました.いずれの発表に対しても活発な質問・意見が会場から寄せられました. 最後の総合討論では,3 名のコメンテーター,河川管理,森林管理,河川生態系管理のそれぞれの立 場から研究集会に対する感想と今後の課題が示されました.流木災害のリスク評価やダム効果の評価の 必要性,近年の気象変化や森林発達が流木発生に及ぼす影響,流木の移動や寿命のサイクルや,河川に おいて生態系のバランスを保つために必要な倒木の分布や状態などについて意見が述べられました.現 在,さまざまな形で河川の自然再生が進められていますが,今後は,流量(流況(Flow Regime)),土 砂(Sediment Regime),流木(Large Wood)の三位一体の総合管理が重要との指摘がなされ,新しい視 座が提示されたと考えます.これを実現するためには,林野(治山) ,砂防,ダム,河川,農水(環境) などの分野が単独ではなく共同して取り組くむことが重要であるとして研究集会は閉じられました.終 了後の意見交換会にも 60 名を超える方の参加がありました.なお,本集会は,京都大学防災研究所拠 点研究(一般推進)「流域一貫の総合流木管理の体系化のための学際的研究拠点の形成,代表者:角哲 也」のもと開催されたものです.ご参加いただいた,発表者および参加者の皆様にお礼申し上げます. きはだホールにおける研究集会の様子 平成26年度 京都大学防災研究所水資源セミナー 最近の総括研究(Latest review report) • (A)ダム貯水池における流木流入災害の防止対策検討調査 (林野庁森林整備部,国土交通省河川局,H19.3) 流木の生産 Production of WD 「流域一貫の総合流木管理」に向けて • (B)流木災害軽減対策と河川樹木管理に関する総合的研究 ((財)河川環境管理財団,H20.11) Towards the basin and total management of woody debris 流木生産域(主に山地・渓流) 京都大学防災研究所水資源環境研究センター ダム貯水池域 流木に関する種々の観点 角 哲也 流木の流入・捕捉 Inflow and trapping of WD 流木の堆積と生息場の形成 Depositing of WD and creating habitats 河川域(主に河道) 流木による閉塞と 洪水リスク増大 Clogging of WD and increasing flood risks 流木災害軽減対策と河川樹木管理に関する総合的研究 ((財)河川環境管理財団,H20.11) • • • • 第1章 第2章 第3章 第4章 序論 近年の流木災害の実態 河畔林・渓畔林の水理学的機能と樹木の更新 流木の発生機構と堆積・再移動 (B) ○ ○ 対策(発生・流下抑制) ○ 本セミナー 動態解明 ○ ○ ○ 対策(捕捉) ○ ○ ○ ○ 動態解明 ○ 対策(閉塞防止) ○ ○ 動態解明・対策 ○ ○ 海岸域 動態解明・対策 流木処理・資源利用 対策 ○ 環境(主に生息場形成) 機能解明 ○ 環境(主に物質循環) 動態解明 ○ ○ ○ 流木管理に関する3つの課題 Three questions for woody debris management • ダム形態(多目的/利水,網場の有無など)により流木捕捉率は 変化するか? ダム排砂・通砂時に流木対策は可能か? • WD trapping ratio would change depending on the dam types ? (Flood control/water use only, with/without of log boom etc.) Is it possible to WD countermeasures in case of drawdown sediment flushing or sediment sluicing ? • 山地・渓流部,沖積河道部,海岸・沿岸部 • 第5章 流木の堆積による被災現象と被害 ‐そのメカニズム‐ • 山地・渓流部・土石流扇状地・谷底平野,ダム貯水池,橋梁,海岸・沿岸部 • 第6章 流木にどう対処してきたか • 第7章 流木被害の軽減対策 • 山地・渓流部,貯水ダム,河道ダム,橋梁,河川,河畔樹林,海岸,ソフト対策 • 第8章 堆積流木の処理 • 第9章 提言 • 水系一貫・総合化・流域経営の視点へ • 河畔林・渓畔林の機能,生育場の差異による機能の違いを認知しよう • 流木の発生・流下・堆積機構について,場と攪乱規模の差異が及ぼす違いを把握・ 認知しよう • 流木被害発生機構の解明を図ろう • 洪水被害の軽減対応策の実体化を図ろう • 堆積流木の処理は協働で,そして資源化へ • ダムに流木捕捉は,洪水災害リスクをどれだけ低下しているか? 洪水調節により下流河道からの発生も抑制されていないか? • How WD trapping is reducing flood risks below dams? • Is flood control itself also reducing WD additional production? • 河道や沿岸域にとって流木流出・堆積はマイナス影響のみか? • Discharge and deposition of WD are only functioning negatively in the river channel or the coastal area? 2013年台風18号時の桂川上流日吉ダム湖内の流木捕捉 ダム形態と流木捕捉特性 Woody debris trapping at Hiyoshi dam upstream of Katsura River at Typhoon Man-yi Dam types and WD trapping ratio 分類 河川域(主に橋梁) (A) 発生メカニズム 通常の洪水時 ゲート操作 網場など 流木捕捉 貯水ダム (多目的,発電) ○ コンジットゲート 網場 ほぼ全量 捕捉 河道ダム (主に調整池式 発電) ○ クレストゲート なし 通過 通砂(スルーシ ング) ○ クレストゲート なし 通過 フラッシング 排砂 ○ クレストゲート 排砂ゲート 一時期あり 通過 流水型ダム なし 河床位コンジット ゲート 流木捕捉工 スクリーン 一部通過 サーチャージ水位 世木ダム天端標高 日吉ダム Hiyoshi dam 常時満水位 世木ダム 洪水期制限水位 最低水位 ダム基礎岩盤標高 世木ダム Seki dam 日吉ダム 常時 湛水 流域面積と流木量の関係 流木発生原因と割合(足羽川2004) 出展:福井県山間集落豪雨災害 対策検討委員会報告書 Causes of woody debris production and their percentages (Asuwa river 2004) Catchment area and woody debris volume Vg(流木量(m3))woody debris volume 100,000 出し平ダム1995 美和ダム1982 10,000 Vg=100A パラニエドラダム(スイス)1978 御所ダム2013 日吉ダム2013 部子川2004(福井豪雨) 1,000 矢作ダム2000 二風谷ダム2003 Vg=10A 日吉(Hiyoshi)ダム A=290km2 裾花・奥裾花ダム1995 3 Vg=13,500m ① ② Vg=47A ③ ④ (a)渓流縦侵食(9%) Longitudinal erosion of mountain stream (b)渓流横侵食(32%) Lateral erosion of mountain stream 真名川ダム, 2004(福井豪雨) ⑤ ⑥ 一乗川2004(福井豪雨) 100 蔵作川2004(福井豪雨) 三ツ俣川2004(福井豪雨) ⑦ ⑨ ⑪ ⑧ ⑩ 10 1 10 100 1,000 御所(Gosho)ダム A=635km2 Vg=23,500m3 Vg=37A 10,000 (c)河岸横侵食(55%) Side bank erosion of river channel A(流域面積(km2))catchment area (d)山腹崩壊(4%) Land slide 総合土砂管理と総合流木管理 (Integrated sediment management and woody debris management) 日吉ダム(Hiyoshi dam) ・河川管理の課題(土砂問題) ・河川管理の課題(流木問題) 流木捕捉 (WD trapping) 洪水流量低減による河道からの 流木 発生予防 (Prevention of WD production from downstream river channel by flood control) ? 世木ダム(Seki dam) ? 橋梁被害の防止 (prevention of flood damage on downstream bridges) 9 河道における流木管理の考え方 (Concept of woody debris management in the river channel) 流木の生産 1 1 Headwaterof WD) Basin (Production 1 segment 1 TP AP BH BT PC SC • 河道における流木の動態(流下・停止・再移動)はどこまで明らかにされ ているか? How mechanism of woody debris transport has been studied in the river channel ? • 河道にとって流木はマイナス影響のみか? ハビタット形成は? Woody debris are only functioning negatively in the river channel? How about creating habitats ? 1 2 1 1 Mountain 2 Subbasin 1 1 2 1 3 2 2 ダムにおける流木の流入・捕捉・流下 (Inflow, trapping and outflow of WD in dams) ダム貯水池への流木流入実態と課題 若林 伸幸 (国土交通省) 流水型ダムにおける流木閉塞対策 Alluvial 1 櫻井 寿之 (国総研) plane Flood plane 黒部川ダム連携排砂と流木の実態 segment Delta segement 石川 伸 (北陸・黒部河川事務所) Main 2 Watershed Mountain segment 2 Valley Lake 1 Reservoir 3 segment 2 1 Alluvial fun 1 3 1 Dam Tributary segment 2 4 Grand water 2 Branch Alluvial fun channel river Spring 4 river Oxbow 4 Spring-fed river lake Flood plane Delta Natural levee Rivermouth Back marsh Sandy flat Sandy (Takemon) 河道における流木の水理と生態的機能 beach (Hydraulics and ecological functions of WD in river channels) 大河川における流木捕捉と動態 Walter Bertoldi (Torent Univ. Italy) タリアメント川における流木の動態と生態的機能 竹門 康弘 (京大防災研) 流木がもたらす生物多様性への影響 渡辺 幸三 (愛媛大学) カリフォルニア・トリニティ川における河川地形およ び生息場再生のための流木管理 玉 基英(韓国・漢陽大学ソウル校) 河道における流木の流下・堆積過程と 災害リスク (Transport and depositing mechanism of WD in river channels) 九州北部豪雨での流木災害と流域内 の流木リスク評価の試み 矢野 真一郎 (九州大学) スイス・チューリヒの治水安全度向上の ための流木捕捉対策 Volker Weitbrecht (ETH-Zurich,Swiss)
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