平成19年度 欧米における 70MPa 水素ステーション

経済産業省
「燃料電池システム等実証研究費補助事業」
平成19年度
欧米における 70MPa 水素ステーション
技術動向調査報告書
平成20年3月
財団法人
エンジニアリング振興協会
1
1
は じ め に
水素社会の実現に向けての動きが着実に進められている。米国では水素燃料イニシアティ
ブが開始され実用化に向けた研究開発が強化されている。欧州でも水素・燃料電池技術プラ
ットフォーム会議を立ち上げ、官民が協同して水素エネルギー実現のための議論が進められ
ている。
わが国でも、経済産業省が実施する補助事業として 2002 年度から水素・燃料電池実証プ
ロジェクト(JHFC-1 プロジェクト)が開始され、現在第二期の活動(JHFC-2 プロジェク
ト)が進められている。
燃料電池自動車に水素を供給するためには、水素ステーションの整備・展開という社会全
体的な取り組みが必要となってくる。このためには水素の製造・供給技術の確立が必要であ
り、これらの技術に関する実証研究が進められている。JHFC-1 プロジェクトでは 35MPa
の充填圧力での実証試験が行われたが、JHFC-2 プロジェクトでは燃料電池自動車の航続距
離の伸長を図るためより高圧の 70MPa の充填圧力での実証試験が行われる。欧米ではすで
に 70 MPa 充填を採用したパブリックの水素ステーションが稼動し実証試験が進められてお
り、実証データ収集とノウハウの蓄積を始めている。
そこで、欧米の先進事例や主要企業・関係者の考え方を把握して、JHFC-2 プロジェクト
で 70MPa 充填設備の実証試験に活かすため、財団法人エンジニアリング振興協会では、経済
産業省主導のもと、JHFC-2 実証試験推進委員会の水素ステーション実証試験(WG1)及び
調査ワーキング(WG5)共同で、欧米における 70 MPa 充填ステーションと 70 MPa 充填技
術の技術開発動向の調査を実施した。具体的には、欧米の主な 70 MPa 充填ステーションを
訪問調査し、また 70 MPa 充填に係わる企業の専門家と意見交換を行った。本書はその調査
結果を取りまとめたものである。
本報告書が、わが国の水素エネルギーの普及のー助になれば幸いである。
平成 20 年 3 月
財団法人 エンジニアリング振興協会
1
2
目
次
[米国調査]
1
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)水素ステーション ............................... 1
2
カリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)................................... 10
3
ロサンゼルス空港 BP 水素ステーション .............................................................. 24
4
ワシントン DC Shell 水素ステーション(Shell Hydrogen) ................................. 28
5
Air Products & Chemicals (Allentown) .................................................................. 42
[欧州調査]
6
フランクフルト水素ステーション(Infraserv Höchst) .......................................... 49
7
Daimler (Sindelfingen) ................................................................................................... 64
8
Ludwig-Bölkow-Systemtechnik GmbH (LBST) .............................................. 72
9
Air Liquide DTA (Sassenage) .................................................................................... 79
10
まとめ................................................................................................................................... 92
調査の日程(米国調査)
日付
調査先・移動
宿泊地
移動: 東京/成田→ロサンゼルス
10月1日(月)
ロサンゼルス
① カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)水素ステーション
② カリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)
10月2日(火)
③ ロサンゼルス空港 BP 水素ステーション
ワシントン DC
移動: ロサンゼルス→ワシントン DC
④ ワシントン DC Shell 水素ステーション(Shell Hydrogen)
10月3日(水)
アレンタウン
移動: ワシントン DC→アレンタウン
⑤ Air Products & Chemicals (Allentown)
10月4日(木)
ニューヨーク
移動: アレンタウン→ニューヨーク
10月5日(金)
10月6日(土)
移動: ニューヨーク→
機内
→東京/成田(帰国)
-1-
―
訪問調査先の概要(米国調査)
訪問先
カリフォルニア大
学アーバイン校
(UCI)水素ステ
ーション
カリフォルニア州
南海岸大気保全
管理区
(SCAQMD)
訪問先の概要と調査項目
2007 年 3 月に 70MPa 充填設備が完成。
【調査項目】 ・ ステーションの設備仕様
・ 安全対策
・ 運用状況
ロスアンジェルス地区の大気質に関わる政策を実施。「Five Cities Program」で水
素ステーションを展開。
【調査項目】 ・ ステーションの設備仕様
・ 安全対策
BP が設置した水素ステーションション。ロサンゼルス空港が所有する FCV や、付近
ロサンゼルス空
の水素車両に水素を供給。
港BP水素ステー
ション
【調査項目】 ・ ステーションの設備仕様
・ 安全対策
・ 運用状況
ワシントン DC
Shell 水素ステー
ション(Shell
Hydrogen)
Washington の Shell ガソリンスタンドに併設されている 70MPa 水素ステーショ
ン。
【調査項目】 ・ ステーションの設備
・ 安全対策
・ 充填状況
世界最大の水素サプライヤー、アメリカを始め世界中で水素ステーションを建設。
Air Products &
Chemicals
(Allentown)
【調査項目】 ・
・
・
・
水素ステーションの戦略
CGH、LH に対する考え方
水素ステーションの設備の考え方
水素ステーションの安全の考え方
-2-
調査参加者(米国調査)
氏名
所属
岡崎 健
東京工業大学 大学院 理工学研究科
[団 長]
機械制御システム専攻 教授
門出 政則
萩野 卓朗
青田 太郎
野村 次生
吉永 知文
丸田 昭輝
久保山 孝治
佐賀大学 教授
海洋エネルギー研究センター長
東邦ガス株式会社 基盤技術研究部
水素エネルギー技術グループ 課長
昭和シェル石油株式会社 研究開発部
企画管理課
シナネン株式会社 営業本部 新エネルギー開発部
新エネルギー開発チーム 担当課長
日産自動車株式会社 技術開発本部
FCV 開発部 FCV・EV 車両開発グループ
株式会社テクノバ 調査・開発研究部
主査
財団法人 エンジニアリング振興協会 水素プロジェクト室
研究主幹
SCAQMD にて
UCI 水素ステーションにて
ワシントン DC Shell 水素ステーションにて
Air Products & Chemicals にて
-3-
調査の日程(欧州調査)
日付
1月7日(月)
調査先・移動
宿泊地
移動: 東京/成田→フランクフルト
フランクフルト
① フランクフルト水素ステーション(Infraserv Höchst)
1月8日(火)
シュツットガルト
移動: フランクフルト→シュツットガルト
② Daimler (Sindelfingen)
1月9日(水)
ミュンヘン
移動: シュツットガルト→ミュンヘン
③ Ludwig-Bölkow-Systemtechnik GmbH (LBST)
1月10日(木)
パリ
移動: ミュンヘン→パリ
移動: パリ→グルノーブル
1月11日(金)
④ Air Liquide DTA (Sassenage)
パリ
移動: グルノーブル→パリ
1月12日(土)
1月13日(日)
移動: パリ→フランクフルト
機内
→東京/成田(帰国)
-4-
―
訪問調査先の概要(欧州調査)
訪問先
フランクフルト水
素ステーション
(Infraserv
Höchst)
Daimler
(Sindelfingen)
Ludwig-Bölko
w-Systemtech
nik GmbH
(LBST)
Air Liquide
DTA,
(Sassenage)
訪問先の概要と調査項目
2006 年完成。35MPa 及び 70MPa の充填設備で運用。
【調査項目】 ・ ステーションの設備仕様
・ 安全対策
・ 運用状況
Daimler, Sindelfingen に 35MPa 及び 70Mpa の水素充填設備を保有。
【調査項目】 ・ ステーションの設備仕様
・ 安全対策
・
ドイツのシンクタンク。EU の水素関連プロジェクトの coordinator としてプロジェクト
を推進。
【調査項目】 ・ 欧州の水素プロジェクトの状況
・ 欧州の規格基準、ドイツの規格基準の考え方
SASSENAGE の研究所内にモバイル 70MPa 充填設備を保有。
【調査項目】 ・
・
・
・
水素ステーションの戦略
CGH、LH に対する考え方
水素ステーションの設備の考え方
水素ステーションの安全の考え方
-5-
調査参加者(欧州調査)
氏名
所属
門出 政則
[団 長]
佐賀大学 教授
海洋エネルギー研究センター長
古田 博貴
東京ガス株式会社 技術戦略部 水素ビジネスプロジェクトグループ
技術チームリーダー
東馬 英治
東邦ガス株式会社 基盤技術研究部
水素エネルギー技術グループ 次長
田中 琢実
大阪ガス株式会社 エンジニアリング部 ECO エネルギーチーム
係長
渡辺 昇
大陽日酸株式会社 技術本部
水素ステーション技術課
平瀬 育生
日本エア・リキード エンジニアリング社
アドバンスガスアプリケーション部 部長
吉永 知文
日産自動車株式会社 技術開発本部
FCV 開発部 FCV・EV 車両開発グループ
田島 正喜
燃料電池実用化推進協議会
町井 謙二
燃料電池実用化推進協議会
岸 克明
日本産業・医療ガス協会
戸室 仁一
財団法人 エンジニアリング振興協会 水素プロジェクト室
室長代理
井関 英治
日本自動車研究所 FC・EV センター
主任研究員
丸田 昭輝
株式会社テクノバ 調査・開発研究部
主査
久保山 孝治
財団法人 エンジニアリング振興協会 水素プロジェクト室
研究主幹
LBSTにて
-6-
図表の出所
特に断りがない限り、訪問調査時でのプレゼンテーション資料や現地で撮
影した写真を用いた(プレゼンテーション資料は、翻訳・サイズを修正し
ている場合がある)。
それ以外の場合は、出所を明記した。
-1-
本
編
-2-
-3-
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)水素ステーション
1
訪問先
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)水素ステーション
住所:19172 Jamboree Rd, Irvine, CA 92612, USA
訪問日時
対応者
2007 年 10 月 1 日(月)13:45∼15:15
Lorin Humphries
Special Projects Administrator,
Advanced Power and Energy Program, University of California, Irvine
Richard L. Hack – P.E., CEM
Senior research Engineer, Facilities Management,
Advanced Power and Energy Program, University of California, Irvine
(1) 水素ステーションの概要
•
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)水素ステーションは、米国エネルギ
ー省(DOE)やカリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)1などの
資金で運用されている水素ステーションである(図 1-1)。
-
2006 年 8 月末に 35 MPa 充填装置が設置され、2007 年 2 月に 70 MPa 充填
装置が設置された。まもなく液体水素充填システムも導入される。
-
システムは Air Products が開発・設置し、管理運営は UCI が行っている。
プロジェクトに資金を提供しているのは UCI、DOE、SCAQMD、自動車会
社 4 社(トヨタ、ホンダ、BMW、日産)。
-
本プロジェクトは DOE の Learnig Demonstoration の一環であり、また
CaFCP、California Hydrogen Highway にも参加している。
上段:UCI、Air Products、DOE、SCAQMD
下段:Toyota、Honda、BMW、Nissan
図 1-1.カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)水素ステーション全景と
参加企業・組織
1
P.10 参照。
1
(2) システム構成
•
水素ステーションのシステム構成を図 1-2 に示す。
35 MPa 用水素タンク 液体水素
タ ンク
液液体体水水素素
輸輸 送送トトララッックク
駐駐 車車位位置置
ベベーーパパラライイザザ
コ ン プ レッ サ
ディスペンサ
図 1-2.水素ステーションのシステム構成
① 液体水素タンク
•
ステーションにトレーラ輸送されてきた液体水素は、ステーション背後に設置
された液体水素タンクに貯蔵される(図 1-3)。タンク容量は 1500 ガロン(5.7
kL)で、ボイルオフガスの量は 1 日当たり 1%以下である。
図 1-3.液体水素タンク(左:正面、右:背面)
2
② 35 MPa 充填システム(コンプレッサ、水素タンク)
•
液体水素タンクに貯蔵された水素は、ベーパライザにて気化され、コンプレッ
サにて 40 MPa に昇圧される。昇圧された水素は、水素タンク(3 本、合計の
容量 25 kg)に貯蔵される(図 1-4)。水素タンクに貯蔵された 40 MPa 水素は、
35 MPa 充填に使用される。
-
液体水素から高圧水素(40 MPa)の製造能力は 25 kg/日。水素タンク貯蔵分
25 kg と、新規製造分 25 kg をあわせて、1 日最大で 50 kg の 35 MPa 充填が
できる。
-
40 MPa 用コンプレッサには、Air Products 製の標準的な装置を採用してい
る(3 ステージ式)。
図 1-4.水素タンク(3 本)
③ 70 MPa 充填システム(コンプレッサ)
•
70 MPa 充填は、まず 35 MPa 充填を先に行い、その後コンプレッサで 80 MPa
昇圧された水素での充填を開始し、70 MPa まで充填を行う。
•
70 MPa 充填では、まず 35MPa での充填で 3 分程度、その後の 70 MPa までの
昇圧が完了するまで 6 分程度かかる。よって 70 MPa 充填には全工程で 10 分程
度の時間が必要。
•
70 MPa 充填のための昇圧には Hydro-pac 製コンプレッサ(2 段ピストン式)
を採用している。
3
(3) ディスペンサ
•
UCI 水素ステーションのディスペンサの概要を図 1-5 に示す。
-
ディスペンサ背後の地面には、70 MPa 充填プレクール用の冷却装置が埋設
されている。
制御パネル
側面は 70 MPa 充填用コ
ミュ ニケーションケーブル
が接続されている。その下
は緊急時のシステムシャッ
トダウンボタン
ディスペンサ正面
左:30 MPa 充填用ノズル
右:70 MPa 充填用ノズル
中央:コミュ ニケーション
ケーブル
ディスペンサ背面
非常用シャトダウンレバー
図 1-5.UCI 水素ステーションのディスペンサ
4
•
35 MPa 充填ノズルと 70 MPa 充填ノズルを図 1-6 に示す。
-
35 MPa 充填ノズルは WEH 製、70 MPa 充填ノズルは Walther 製。
-
35 MPa 充填ノズルにはホースが 2 本あり、1 本は脱圧用である。70 MPa 充
填用ホースは 1 本だけだが、これはディスペンサ側で充填・脱圧を切り替え
ているためである。
-
35 MPa 充填ホースと 70 MPa 充填ホースは SPIR STAR 製。
-
70 MPa 充填では、ホース温度自体は 100 度くらいになるが、手で扱えない
程度でない(第一プレクールは、ホースのためではなく、車両タンクのため
に行うものである)。
-
70 MPa 充填の場合には、車両とのコミュニケーションが必要であると考え
ている(システムに 70 MPa 充填であることを知らせるため)。
WEH 製 35 MPa 充填ノズル
Walther 製 70 MPa 充填ノズル
図 1-6.充填用ノズル(35 MPa、70 MPa)
•
車両への充填方法は以下のとおり。
(i)
利用者は、登録時に割り与えられた PIN 番号を制御パネルに入力する。
(ii) アース確認のメッセージが表示されるが、特にアースは不要である(35 MPa 充填
に関しては Air Products は不要と判断した。また 70 MPa 充填では、コミュニケ
ーションケーブルがアース線を兼ねている)。
(iii) 充填ノズルのリークテストが自動で行われるので、完了するのを待つ。
(iv) その後、利用者が充填ノズルを車両に注入する。
•
現状では、70 MPa 充填は連続充填できず、ある程度のインターバルが必要で
ある。
•
充填のコントロールや終了タイミングに関しては、システムは圧力をモニター
して判断している(現状では、精度のよい充填用マスフローメーターが無い)。
5
•
車両の誤発進時の危険防止のために、緊急離脱カプラがディスペンサに設置さ
れている。
•
水素センサーやガスセンサーはステーションには設置されていない。
•
-
Air Products は、センサーの設置は不要と判断した。ただし、Air Products
はリモートでシステムを監視している。
-
水素の漏れは、システム各部の圧力モニターとマスフローのモニターで判断
できると考えている。
システムの緊急停止装置のボタンが、制御パネル側面と、駐車場横の標識に設
置されている。ボタンを押すと全システムが停止する。
図 1-7.緊急離脱カプラ
(ディスペンサ上部に格納)
(4) プレクール用冷却装置
2
•
プレクールは、通常の電気式冷却装置(フロン式)を使用している2。
•
冷却装置には高圧水素の配管が 2 本引き込まれており、当初は 35 MPa 充填用
水素と 70 MPa 充填用水素がそれぞれプレクールされていた。しかし Air
Products は 35 MPa 充填にはプレクールは不要と判断したため、現在は 2 本の
配管とも 70 MPa 充填用水素に使用している。
•
冷却装置のサイズは約 50 cm×50 cm×50 cm。
Shell Hydrogen によると、UCI 水素ステーションの冷却温度は−20 度程度ではないかとのこと。
P.35 参照。
6
(5) 利用者と水素ステーション利用状況
•
開所(35 MPa 充填装置で 2006 年 8 月末に開所)以来の充填回数は累計で 370
回(2007 年 10 月現在)。うち 70 MPa 充填は 30 回である。
-
•
最近 2 週間の 35 MPa 充填は 60 回で、利用率は急増している。
充填した水素量に基づいて、ユーザー(自動車会社)に月ごとに請求書を発行
している(ユーザーは PIN 番号で管理している)。
-
価格は Air Products が決めている(注:訪問時の表示価格は 4.999 ドル/kg)。
-
水素価格は一般的な市場価格であると考えている。また利用者は各種の補助
を受けることができるので、請求額をそのまま払っているわけではない。
•
現在、ステーションを利用している車両は、GM、トヨタ、日産、ホンダなど。
-
利用者は、各自動車会社のデモンストレーション担当のスタッフのほかに、
自動車会社が一般の人に貸し出しているケースもある(例.GM は付近に住
む企業 CEO に 1 台を貸し出している)。
-
UCI 水素ステーション付近にある水素利用自動車の数は、現状でおそらく 9
∼10 台程度(図 1-8)。
-
まもなく GM の 70 MPa 対応車「Equinox」3が導入される予定。
•
35 MPa 充填は利用者自身が完全にセルフ充填を行っている。70 MPa 充填では、
現状では管理者が立ち会っている。
-
利用者には充填トレーニングを行った。トレーニング内容は、カリフォルニ
ア燃料電池パートナーシップ(CaFCP)に準じている。
図 1-8.訪問時にステーションに訪れたトヨタ FCHV
3
GM は 70 MPa 対応車である「Equinox Fuel Cell」を、2007 年より 100 台程度のデモンストレー
ションをカリフォルニア、ニューヨーク、ワシントン DC で行なう予定である(Project Driveway)。
Equinox Fuel Cell は水素 4.2 kg を 70 MPa タンクに貯蔵し、航続距離は 300km。詳細は
< http://media.gm.com/us/chevrolet/en/news/press_kits/07%20sequel-equinox%20fc/equinox%20specs.htm >参照。
7
(6) 今後の予定
•
今後、液体水素充填用ディスペンサを設置する。
-
液体水素充填ディスペンサは、BMW の水素内燃自動車用である。
-
液体水素充填ディスペンサの設置場所は液体水素タンクに近い位置。ノズル
は Linde 製を採用する。
•
現在の DOE との契約は 2008 年 8 月にいったん終了するが、その後も延長され
る可能性が大(Air Products の意向にもよる)。
(7) パブリックアクセプタンス
•
水素ステーション設置に関して、住民向けにさまざまな PR イベントを実施し
た。
•
ステーションと道路を挟んで、一般住宅用マンションが 2 棟建っている(うち
1 棟は建設中で、もう 1 棟はまだ販売中で 1/3 程度しかうまっていない)。
-
ここに入っている人は、おそらくこれが「水素」ステーションであることも
知らないのではないか(ステーションの明かりが夜にまぶしいとの苦情があ
った程度)。
-
なによりも、水素ステーションは、これらのマンションの先に建設されてい
たので、問題はなかったと考える。
図 1-9.ステーション横の一般住宅用マンション(左は建設中)
8
(8) その他
4
•
本プロジェクトの主な目的は、水素が次世代燃料として使用可能であることの
実証と、パブリックアクセプタンス。よって、一般の人への認知度を高める努
力もしている。
•
大きなトラブルはこれまでは報告されていない。ただしシステム的には、Air
Products によって随時変更・アップデートされていると思う。
•
システムのメンテナンスは月 1 回程度。ただしシステム自体は、リモートで Air
Products が監視している。
•
設置の許認可で特に問題になったことはない。大学は州政府のものであり、ま
た水素ステーションの用地も州のものである。よって、アーバイン市の直接管
轄には無い。
•
Air Products 製 70 MPa 充填設備としては、本ステーションは全米で 3 番目で
あるが、一般利用可能なステーションはここのみである4。
Air Products によると、これまでに同社は 4 ヶ所の 70 MPa 充填設備を設置し、うち 3 ヶ所は米国、
1 ヶ所は韓国とのこと。米国の 3 ヶ所のうちの 2 ヶ所は一般開放されていない。P. 47 参照。
9
カリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)
2
訪問先
カリフォルニア州南海岸大気保全管理区
(South Coast Air Quality Management District:SCAQMD)
住所:21865 Copley Dr., Diamond Bar, CA 91765, USA
訪問日時
対応者
2007 年 10 月 2 日(火)10:00∼12:00
Matt Miyasato
Technology Demonstration Manager, Science & Technology Advancement,
South Coast Air Quality Management District
Larry Watkins
Program Supervisor,
South Coast Air Quality Management District
Lisa Mirisola
Air Quality Specialist,
South Coast Air Quality Management District
Russell Vare
South California Coordinator,
California Fuel Cell Partnership (CaFCP), Diamond Bar Office
Roy O. Kim
Communications Specialist / Media,
California Fuel Cell Partnership (CaFCP), Diamond Bar Office
(1) カリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)の概要
•
カリフォルニア州南海岸大気保全管理区(SCAQMD)は、州の法律によって設
立された準州政府組織であり、大気汚染物質に関する管理・規制、将来技術の
研究を行う組織である(図 2-1)。
-
カリフォルニア州は、35 の大気保全管理区(Air Quolity Management
District:AQMD)と大気汚染規制区(Air Pollution Control District:APCD)
がある(図 2-2)。SCAQMD はその中でも最大の組織である。
- 法律によって、汚染物質発生源(発電所・
工場などの産業や、自動車などの移動体)
に課金をする権限を有しており、これが収
入の大部分となっている。連邦政府や州政
府からの財源は 4%程度に過ぎない。
-
収入は、大気質に関するモニタリングやプ
ログラム、情報提供などに使用している。
図 2-1.SCAQMD ヘッドオフィス
10
South Coast AQMD
(SCAQMD)管轄地域
Amador APCD
Lake County AQMD
San Diego APCD
Antelope Valley AQMD
Lassen APCD
San Joaquin APCD
Bay Area AQMD
Mariposa APCD
San Luis Obispo APCD
Butte AQMD
Mendocino County AQMD
Santa Barbara APCD
Calaveras APCD
Modoc APCD
Shasta County AQMD
Colusa APCD
Mojave Desert AQMD
Siskiyou APCD
South Coast AQMD
El Dorado County AQMD
Monterey Bay APCD
Tehama APCD
Feather River AQMD
North Coast AQMD
Tuolumne APCD
Glenn APCD
Northern Sierra AQMD
Ventura APCD
Great Basin APCD
Northern Sonoma APCD
Yolo-Solano AQMD
Imperial APCD
Placer APCD
Kern APCD
Sacramento Metro AQMD
APCD = Air Pollution Control Districts
AQMD = Air Quality Management Districts
図 2-2.カリフォルニア州の大気保全管理区(AQMD)
・大気汚染規制区(APCD)
出所:CARB ホームページ < http://www.arb.ca.gov/capcoa/roster.htm >
11
(2) カリフォルニア州南海岸地域の特徴
•
SCAQMD は、ロサンゼルス市を中心と
する 4 つの郡(ロサンゼルス郡、オレン
ジ郡、リバーサイド郡、サンベルナルド
郡)を管轄する。全面積は 11,000 平方
マイル(28,500 km2)で、1600 万人が
住んでいる。
図 2-3.SCAQMD 管轄地域
•
南海岸地域は海と山に囲まれており、地形的に汚染された大気が滞留しやすい
(これは自動車が普及する前の時代でも、家庭からの排気が滞留する問題があ
った)。
•
自動車が主たる原因である PM2.55による汚染では、全米のワーストランキング
10 位以内に 4 つの地域が入っている(表 2-1)。PM2.5 は年間で 5400 件の乳
幼児の死亡の原因になっていると考えられている(表 2-2)。
表 2-1.年平均 PM2.5 濃度が高い地域(網掛けは SCAQMD 管轄地域)
Riverside, CA
San Bernardino, CA
Los Angeles, CA
Kern, CA
Tulare, CA
Allegheny, PA
Fresno, CA
Wayne, MI
Orange, CA
Kings, CA
出所:American Lung Association, “State of the Air 2005”
表 2-2.南海岸地域における、PM2.5 による疾病(年間)
乳幼児の死亡
5,400 ケース
入院
2,400 ケース
喘息、下部呼吸器疾患
140,000 ケース
稼働日のロス(総計)
980,000 ケース
活動制限日数(総計)
5,000,000 ケース
出所:CARB(1999∼2000 年データより)
5
PM2.5 は、直径が 2.5μm 以下の微粒子で、ディーゼル車の排ガスなどから発生する。肺がん、喘
息などを引き起こすとされる。
12
•
SCAQMD 管轄地域内には、二つの大きな港(ロサンゼルス港とロングビーチ
港)があり、2 つの貨物取扱量をあわせると、全米では 5 番目の規模である。
貨物船からの排気も無視できず、また陸揚げされた貨物の 75%はトラックで輸
送されるため、さらに排気が増加することになる。
陸揚げされたあとでトラック
輸送される貨物
貨物船
図 2-4.SCAQMD 地域に陸揚げされるコンテナ
(3) SCAQMD の水素プログラム
•
SCAQMD では、車両技術のプライオリティを図 2-5 のように考えている。
-
SCAQMD が研究開発に使用できる資金は限られている(年間 1000 万ドル程
度)ため、水素・燃料電池関連のプログラムの予算は年間 100 万ドル程度。
また実施できる技術も 2∼3 に限られてしまう。
-
そのため車両技術を短期的(Near-term)から長期的(Long-term)にまでマ
ップし、研究開発のプライオリティを設定している。短期的にはプラグイン
ハイブリッドや GTL、再生可能エネルギー由来燃料/バイオ燃料に期待してい
る。長期的にはゼロエミッションである燃料電池自動車に期待している。
-
GM が導入する 70 MPa 充填対応の Equinox6や、トヨタの 70 MPa 充填対応
FCV に期待している。
図 2-5.SCAQMD における車両技術のプライオリティ
6
P.7(脚注)参照。
13
(4) Five Cities Program
•
SCAQMD は独自の資金により「Five Cities Program」を実施している7。
-
この数年で、FCV の実用化にはまだ時間がかかることがわかってきた。よっ
て FCV ではなく、30 台の水素内燃自動車(改造トヨタ プリウス)を用いて、
水素ステーションのデモンストレーションを行っている。
-
ロサンゼルス近郊の 5 つの市(Santa Ana、Burbank、Ontario、Riverside、
Santa Monica)に水素ステーションを設置した(図 2-6)。なお、SCAQMD
の管轄区域には 10 ヶ所の水素ステーションがある。
-
改造トヨタ プリウスは、各水素ステーションに 5 台ずつ、SCAQMD ヘッド
オフィスに 5 台を配置した。
-
SCAQMD ではこのプロジェクトを、水素の自動車利用における「技術の証
明(Proof of Technology)」と考えている。
Five Cities Program ステーション
(開所日)
Santa Ana(2006 年1月 11 日)
Ontario(2006 年1月 11 日)
Riverside(2006 年1月 17 日)
Burbank(2006 年1月 31 日)
Santa Monica(2006 年 6 月 15 日)
水素製造技術
移動型
移動型
水電気分解
水電気分解
水電気分解
移動型
Air Products 製 HF-150
150 kg @ 6600 psi
水電気分解
製造能力:0.5 kg/時
52 kg @ 6250 psi
図 2-6.Five Cities Program の水素ステーション
7 Five Cities Program は 2006 年から 2010 年までの 5 年プロジェクトで、総額 700 万ドル(約 8 億
円)。水素ステーションの建設・運用は Air Products and Chemicals が実施(契約額は 216 万ドル
=2 億 5000 万円)。プリウスの改造とテストは Quantum Fuel Systems Technologies Worldwide が
実施(契約額は 390 万ドル=4 億 6000 万円)。
14
•
トヨタ プリウスの水素内燃自動車への改造は Quantum が行った8(図 2-7)。
-
Quantum は、トヨタ プリウスのガソリン供給系を取り外し、水素供給系、
ターボシステム、排気系、マルチプルコントローラーを取り付けた。
-
Quantum は水素タンクメーカーであるが、GM とも協力関係にあり、同社の
CNG 車両開発などの車両改造の経験も有している。
-
プリウスの改造に当たっては、特に米国トヨタに了解を得ているわけではな
いが、事前に改造の意向は伝えている。また現在も情報交換を行っている。
•
燃費では、改造プリウスは現状の FCV に匹敵している(図 2-8)。
-
現状の FCV はまだプロトタイプなので、これは FCV には不公平な比較かも
しれないが、それでもある程度の知見を与えていると思われる。
-
すでに確立したクリーン技術であるプリウスを、非効率な水素利用自動車に
改造することに反対意見はあるが、SCAQMD は将来のクリーン技術の開発
促進のためのデモンストレーションとして理解している。
図 2-7.改造プリウス(Quantum による改造)
(AQMD 5 Prius Average)
Prius H2ICE
Fuel Cell A
Fuel Cell B
0
10
20
30
40
50
[Miles per Kg]
図 2-8.改造プリウスと現状 FCV(ホンダ製、DaimlerChrysler 製)の比較
8
改造プリウスは、高圧水素タンク 2 基を後部座席の下に設置。水素車載量は 1.6 kg で、燃費は 56∼
58 mile/kg(FTP City Test)、40∼60 mile/kg(Real World)。
< http://www.hydrogenhighway.ca.gov/sb76/workshop/quantum_nov3.pdf >参照。
15
(5) SCAQMD の水素製造システム
•
SCAQMD は、Stuart Enrgy 製水素製造システム(Stuart Enrgy Station:SES)
を 5 年前に導入した。
-
SES は以下の 5 つのモジュールから構成されている。
・水素製造装置(水素製造能力:0.5 kg/時)
・コンプレッサ(40 MPa、水素製造装置とパッケージ化)
・水素タンク(水素貯蔵能力:25000 scf9 @ 5700 psi×3 本)
・パワーモジュール(水素内燃エンジン)
・ディスペンサ
-
5 年前の技術なので、新型の導入を検討している。70 MPa 充填への対応も検
討している。
システムの全体構成
Stuart 製水素製造装置
(コンプレッサもパッケージ化)
パワーモジュール
(内燃エンジン)
水素タンク
(3 本)
図 2-9.Stuart Enrgy 製水素製造システムの概要
9
scf = standard cubic foot
16
(6) ディスペンサ
•
SCAQMD には、水素ディスペンサが 1 台設置されている(図 2-10)。
-
ディスペンサは Stuart Energy 製。充填は 35 MPa のみ。
-
充填ノズルは WEH 製。
-
現状では充填する水素には課金していない。将来的には登録カードも発行し
て、課金する予定(図 2-11)。
35 MPa 充填ノズル
ノズルは WEH 製。コミュニ
ケーションケーブルが見え
るが、ディスペンサには接
続されていない。
制御パネル
カードリーダーと
PIN 入力パネルが
設置されている。
図 2-10.SCAQMD の水素ディスペンサ
図 2-11 . 導 入 を 予 定 し て い る 「 水 素 充 填 確 認
(Hydrogen Fueling Verification)カード」
(CaFCP で発行)
17
(7) カリフォルニア燃料電池パートナーシップ(California Fuel Cell Partnership:CaFCP)
•
カ リ フ ォ ル ニ ア 燃 料 電 池 パ ー ト ナ ー シ ッ プ ( California Fuel Cell
Partnership:CaFCP)のサウスカリフォルニアオフィスが、SCAQMD と同じ
ビル内にある。
•
日本の JHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)と違い、CaFCP は官民パート
ナーシップ(PPP)であり、自動車会社を含む民間企業は参加費を支払った上
で参画している。またエネルギー関連会社は大手 3 社(Chevron、Shell、BP)
のみが参画している。
•
現状で、CaFCP に参画している水素ステーションは 25 ヶ所で、さらに 10 ヶ
所が追加される予定である(図 2-12)。
•
登録されている燃料電池車両は 170 台、燃料電池バスは 9 台である。
•
CaFCP では、水素ステーションや FCV のエネルギー効率の測定、システム最
適化を主目的としているわけではない。
-
CaFCP は、地域に導入される車両(水素需要)に合わせて水素ステーション
(水素供給)を設置するためのコーディネーションを行なっている。また、
すべての水素ステーションは、必ずしも CaFCP で設置・管理しているわけ
でない。
-
多くの水素ステーションは、水素需要が少ないために運用自体が最適化され
ておらず、エネルギー効率を測定できる段階にはない。
-
CaFCP では、エネルギー効率に関して、これまでの世界各国のデータと
CaFCP で独自に集計したデータを比較した研究を 2007 年内に発表する予定
である。
-
全米レベルでステーション・FCV のエネルギー効率(Well-to-Wheel 効率)
の 測 定 を 行 っ て い る の は 、 お そ ら く DOE だ け で あ ろ う ( Learning
Demonstration の一環として)。
18
図 2-12.CaFCP の水素ステーション
出所:CaFCP ホームページ < http://www.cafcp.org/fuel-vehl_map.html >
19
(8) その他のクリーン燃料・エネルギーに関するプロジェクト
① ソーラーシステム
•
SCAQMD ヘッドオフィスの屋外には、ソーラーパネル(定格 80 kW、実質 40
∼50 kW)が設置されている(図 2-13)。
-
•
ソーラーパネルで発電した電力はそのまま建屋に供給され、配電網には接続
されていない。またソーラーパネルの下には EV の充電スタンドが設置され
ているが、特に EV 充電スタンドに接続しているわけでもはない。SCAQMD
全体としての電力使用量を削減するためである。
SCAQMD のロビーには、ソーラーパネルによる発電量をリアルタイムで表示
するパネルが設置されている(図 2-14)。
ソーラーパネル
ソーラーパネル下の EV 用充電スタンド
図 2-13.SCAQMD ヘッドオフィス屋外に設置されたソーラーパネル
図 2-14.SCAQMD のロビーに設置されたリアルタイム発電量表示パネル
20
② 電気自動車プログラム
•
SCAQMD では、過去に電気自動車プログラムを実施し、EV を多数導入した。
-
現在でもヘッドオフィスの駐車場に、充電スタンド(非接触型充電装置と接
触型充電装置)が設置されている(図 2-15)。
-
現状では EV 関連プログラムは終了しており、SCAQMD が所有していた EV
の大半を売却した。現在 SCAQMD が所有する EV(Toyota RAV-4 EV)は 2
台のみ。
SCAQMD 駐車場の充電スタンド
充電中の Toyota RAV-4 EV
非接触型充電装置「MagneCharge」
接触型充電装置
コントロールパネル・課金装置
図 2-15.SCAQMD の充電スタンド
21
③ CNG ディスペンサ
•
SCAQMD 構内には、一般車両が利用できる CNG ディスペンサが設置されてい
る。
-
CNG 充填方式は、3000 psi(=20 MPa)と 3600 psi(=25 MPa)の二種類。
-
CNG ディスペンサはセルフ式で、クレジットカードで支払いが可能。
CNG ディスペンサ
3000 psi 充填ノズル
CNG 車両
3600 psi 充填ノズル
コントロールパネル(クレジッドカードリーダー)
図 2-16.CNG ディスペンサ
22
(9) その他
•
SCAQMD は全部で 50 台の業務用車両を所有しているが、その大部分は CNG
車である。
-
•
クリーン燃料を用いた自動車の後部には、使用している燃料を表示する共通マ
ークが取り付けられている。
-
•
11
水素に関しては、まだ公式のマークが決まっていない。
パブリックアウトリーチ(社会受容性)は重要である。
-
一般市民への教育とともに、政策策定者への教育も重要である。カリフォル
ニ ア 州 に は 、 積 極 的 に ロ ビ ー 活 動 を 行 っ て い る 「 California Hydrogen
Business Council」という組織がある11。
-
SCAQMD も独自にロビー活動を行っているが、その規模は小さい。
•
基準・標準の活動は重要である。SCAQMD も基準・標準に関わる研究を始め
たところである。
•
CARB(カリフォルニア環境保全局傘下にある州政府の組織)とは時に対立す
ることがある。
-
10
CNG 車の航続距離は約 200 マイル程度だが、業務上問題はない10。
本来 AQMD は工場などの固定排出源に対する課金が中心であったが、現在は
自動車などの移動体に対する課金が増えており、これが自動車からの排気ガ
スの規制を行っている CARB と意見が対立する原因のひとつとなっている。
SCAQMD からロサンゼルス市内までは約 30 マイル程度の距離。
California Hydrogen Business Council は、Air Products and Chemicals、American Honda、
Ballard Power Systems、Boeing、BMW、Hydrogenics、Shell Hydrogen、SCAQMD、Linde な
どをメンバーとする組織。< http://www.californiahydrogen.org/ >参照。
23
ロサンゼルス空港 BP 水素ステーション
3
ロサンゼルス空港 BP 水素ステーション
訪問先
住所:7450 World Way W, Los Angeles, CA 90045, USA
訪問日時
対応者
2007 年 10 月 2 日(火)13:15∼14:00
John Clanton
Praxair Technician
(1) 水素ステーションの概要
•
ロサンゼルス空港 BP 水素ステーションは 2004 年 10 月に開所されたステーシ
ョンで、ロサンゼルス空港が所有する FCV や、付近の水素車両に水素を充填し
ている。
-
現在ロサンゼルス空港は、5 台の FCV を所有している。
-
システムの設置は Praxair が担当し、運用は BP が担当している(ただし充
填スタッフは Praxair より派遣されている)。
LA 空港(滑走路)側
仮設事務所
(オペレータ用)
水電気分解
装置
コンプ
レッサ
建屋
(高圧タンク)
ディスペンサ
カードリーダー
「bp hydrogen」と表示され
た建屋(屋上には高圧タンク
を設置。ただし内部は空で、
一般の GS に似せるための
工夫)とのこと。
図 3-1.ロサンゼルス空港 BP 水素ステーションの概要
24
FCV 台数が少ないため、充填ステーションがオープンしているのは、現状で 1
週間に 1∼2 回(各回 2 時間程度)である。
•
注:訪問時には、「水素充填 10 月 2 日 14:00∼16:00、 10 月 3 日 12:30∼14:30」と手書きで
表示されていた(図 3-2)。
図 3-2.手書きの充填時間の案内
(2) 水素製造システム
•
•
水電気分解装置にて、オンサイトで水素を製造している。
-
水電気分解装置は Stuart Energy(現 Hydrogenics)製。
-
水素製造能力は 1 kg/時間。ただし、夜間電力を使って製造することが多いた
め、稼動時間は夜 10 時∼朝 8 時である。
-
現状で利用車両が 5 台しかなく、充填回数も 3∼4 回/週程度であり、製造能
力的には余っている状態である。
現状では 35 MPa 充填のみで、70 MPa 充填に対応するためには、70 MPa 用水
素タンク、配管、ディスペンサなどを改良する必要がある。
コンプレッサ
Stuart 製水電気分解装置
図 3-3.コンプレッサと水電気分解装置
25
(3) ディスペンサ
① ディスペンサ
•
現状では、35 MPa での充填のみが可能である(図 3-4)。
-
ディスペンサの右側側面に 35 MPa 充填ノズルが取り付けられている。70
MPa 充填ノズルを設置する場合は、左側面に取り付けられることになる。
-
35 MPa 充填ノズルは、カプラを介してディスペンサに設置されている。こ
のカプラは、圧力異常上昇時には上下方向に外れることになっている。
緊急離脱
カプラ
35 MPa 充填ノズル
35 MPa 充填のみ対応
図 3-4.ロサンゼルス空港 BP 水素ステーションのディスペンサ
② 充填方法
•
車両への充填方法は以下のとおり(図 3-5)。
(i)
FCV のドア部分にアースを接続する。
(ii) カードリーダに配布されているカードを通し、PIN 番号を入力する。
(iii) 鍵を使って、充填ノズルのキーロックを外す(一般の人が、ガソリンと間違えて給油
を試みて、そのままノズルを地面に放置したケースがあったため)。
(iv) 充填ノズルを車両に接続する。
(v) ディスペンサの充填スイッチを「ON」側に回し、充填を開始する。
•
ステーションには水素充填量が表示されるが、その集計と記録は充填スタッフ
が手書きでメモに記録している。
26
(i) 車両にアースを接続する
(ii) パネルに必要情報を入力
(iii) 鍵でノズルのロックを外す
(iv) ノズルを車両に接続する
(v) 充填を開始する
図 3-5.ロサンゼルス空港 BP 水素ステーションの充填方法
その他(天然ガス)
•
ロサンゼルス空港には CNG バスが利用されており、その充填用ディスペンサ
と CNG タンクも、同じ敷地に設置されている。
図 3-6.(左)CNG 用ディスペンサとタンク、(右)CNG バス
27
ワシントン DC Shell 水素ステーション(Shell Hydrogen)
4
訪問先
ワシントン DC Shell 水素ステーション
住所:3355 Benning Rd NE, Washington, DC 20019, USA
訪問日時
対応者
2007 年 10 月 3 日(水)10:00∼12:00
Nicholas W. Burkhead
Project Manager Transportation, Shell Hydrogen
Bradly J. Smith
Asset Development and Operations Manager, Shell Hydrogen
(1) ワシントン DC Shell 水素ステーションの概要
•
ワシントン DC Shell 水素ステーションの全景を図 4-1 に示す。
高圧水素ディスペンサ
一般道
Shell の看板
水素用ディ
スペンサ
一般のガソリン用
ディスペンサ
ビジター
センター
CVS
ステーション全景
レンタ
カー
ビジターセンター
液体水素ディスペンサ
水素貯蔵・供給設備
図 4-1.ワシントン DC Shell 水素ステーションの全景
28
•
本ステーションは、2003 年より企画され、当初から 70 MPa 充填システムの導
入が予定されていた。
-
水素は、圧縮水素(35 MPa 充填)と液体水素充填を行っている。まもなく
70 MPa 充填システムを設置する予定。
-
水素充填関連システムの設置は Air Products が担当し、運用は Shell(Shell
Hydrogen)が担当している。
•
この場所は一般道路や鉄道駅に近く、一般の人の目に触れやすい。またコンビ
ニやレンタカー店があるのも、PR の点で有利である。
① 圧縮水素用ディスペンサ
•
圧縮水素用ディスペンサの概要を図 4-2 に示す。
-
本ディスペンサは、一般のガソリン用ディスペンサを取り除いて設置した。
-
現状で 35 MPa 充填ノズルのみが設置されている。35 MPa 充填ノズルは
WEH 製。ノズルにはホースが 2 本あり、1 本は脱圧用である。
-
ステーション正面には、一般車両の進入を禁止するための赤色のポールが設
置されている(間違って進入する一般車両があるため)。
-
70 MPa 用充填ノズルは今後設置する。また 1 年後くらいをめどに、ディス
ペンサ自体を新規に取り替える。
緊急離脱カプラー
水素滞留防止用ホール
火炎検知センサー
35 MPa 充填ノズル
図 4-2.圧縮水素用ディスペンサ
29
•
車両への充填方法は以下のとおり。
(i)
制御パネルに PIN 番号を入力する。
(ii) 安全のために設置されているノズルカバーのロックが外れる。
(iii) 35 MPa ノズルを車両に差込み、充填を行う。なお、アースは不要である。
(i) PIN を入力
(ii) ノズルのカバーを開ける
図 4-3.車両への充填方法
•
35 MPa 充填ホースは、緊急離脱カプラを介してディスペンサに接続されてい
る(図 4-4)。
•
ディスペンサ上部に火炎検知センサーが設置されているほか、キャノピー部に
水素が滞留するのを防止するために、小さな穴を開けている(図 4-4)。
緊急離脱カプラー
火炎検知センサーと水素滞留防止用のホール
図 4-4.安全機構
30
② 液体水素ディスペンサ
•
•
液体水素用ディスペンサの概要を図 4-5 に示す。
-
液体水素充填ノズルは Linde 製で、JHFC の有明ステーションと同じである。
-
充填ホースには、緊急離脱カプラが取り付けられている。
液体水素充填の一番の問題は、適切なマスフローメーターが無いことである。
緊急離脱カプラ
液体水素充填ノズル
アース
図 4-5.液体水素用ディスペンサの概要
31
③ 水素貯蔵・供給システム
•
ワシントン DC Shell 水素ステーションの水素貯蔵・供給システムの概要を図
4-6、図 4-7 に示す。
-
水素は、Air Products が液体水素トレーラにて供給される。供給された水素
は、世界で始めてとなる地下液体タンク(1500 ガロン = 5.7 kL)に貯蔵さ
れる。液体水素を充填する場合は、この液体タンクから直接充填される。
-
液体水素は、3 段式コンプレッサにて 5,500 psig(=38 MPa)に昇圧され、
水素タンク(24 本)にて貯蔵される。35 MPa 充填をする場合は、この水素
タンクから供給される。
-
70 MPa 充填を行う場合は、さらにブースタにて 11,000 psig(76 MPa)に
昇圧され、水素タンク(3 本)にて貯蔵される。なお、ブースタコンプレッ
サ自体は 12,000 psig(83 MPa)まで対応可能だが、米国国内の規格(ASME12)
のために、高圧タンクの圧力は 11,000 psig(76 MPa)に制限されている。
3 段階コンプレッサ
5,500 psig
出口圧力 17 scfm
Air Products
液体水素トレーラ
13,000∼15,000 ガロン
地下液体水素タンク
5,500 psig 水素タンク
1,500 ガロン
運用圧力 60 psig
最大許容使用圧力 90 psig
ASME シリンダー24 本
最大許容使用圧力 7,000 psig
体積 27.6 kg
ブースタ
11,000 psig
出口圧力 200 scfm
70MPa 直充填
(カスケード充填後)
10,000 psig 水素タンク
ASME シリンダー3 本
最大許容使用圧力 11,000 psig
体積 33.3 kg
液体水素
ディスペンサ
図 4-6.水素貯蔵・供給システムの概要
出所:Shell Hydrogen 提供資料より作成
12
ASME=American Society of Mechanical Engineers(米国機械学会)
。
32
圧縮水素
ディスペンサ
デュアル式
(35 MPa/70 MPa)
70 MPa 用コンプレッサ
(Hydro-Pac 製)
高圧タンク
上段:35 MPa 用タンク
下段:70 MPa 用タンク
コンプレッサ
液体水素
ディスペンサ
ベーパライザ 地下液体水素タンク
液体水素トレーラ
出入口
ベーパライザ
地下液体水素タンク
火炎検知センサー
地下液体
水素タンク
(60 cm)
図 4-7.水素貯蔵・供給システムの概要
出所:サイト見学より
•
まだ水素充填量が少ないので、大型になるクライオポンプを使用するよりも、
ベーパライザとコンプレッサを用いるのがよいと考えている。もちろん、効率
的貴には、クライオポンプのほうがエネルギー効率はよい。
•
BOG は単に放出しており、利用はしていない。
•
メンテナンス的には、多用する 35MPa 用コンプレッサ(レシプロ式)が問題
である。
•
高圧水素タンクはスチール製である。
33
④ ビジターセンターとパブリックアクセプタンス
•
•
一般からの質問を受けるために、敷地内にビジターセンターを設置した。
-
平日に 4 時間オープンしている。内部には、水素に関する説明資料・パネル
が準備され、説明員が質問に答えるようにしている。
-
付近の住民やワシントン DC のパブリックスクールの生徒を対象に、水素や
燃料電池について教育を行っている。これまでに約 400 人が参加した。また、
ステーション目の前の一般道(Benning Road)を車両通行禁止とし、燃料電
池ミニカーのレースを行った。
政治家や政策立案者向けの PR も積極的に行っている。2005 年 5 月にはブッシ
ュ大統領が水素ステーションを訪問した(図 4-9)。
一般向け
ビジター
センター
センター内部の説明用パネル
水素教育用教材
図 4-8.ビジターセンター
図 4-9.水素ステーションを訪問するブッシュ大統領
出所:Whitehouse ホームページ < http://www.whitehouse.gov/news/releases/2005/05/20050525-1.html >
34
⑤ その他:水素ステーションに関して
•
本ステーションは、基本的に GM の FCV(高圧水素用 3 台、液体水素用 3 台)
を対象としているが、その他の車両にも水素を充填することができる。
•
70 MPa 充填でのプレクールには、電気的な冷却装置を使用している。
-
UCI ステーションのデザインでは、充填時間 10 分であり、−20 度程度の冷
却を行っている。本ステーションでは充填時間を 3 分に設定しており、その
ために−40 度程度の冷却を採用する予定。
•
高圧水素の価格は 6.0 ドル/kg、液体水素の価格は 6.5 ドル/kg と表示されてい
るが、特にその差に意味は無い(本来的には一緒であるべきであり、また現状
では、価格設定は任意である)。
•
他のステーションは、設置に当たって DOE の資金(半額補助)を利用する場
合が多いが、Shell は独自の資金で行っている。
-
DOE の資金を申請する場合には、ステーションや設備のコストデータの提供
などを求められる。
-
DOE の資金は得ていないが、Shell は密に DOE と情報交換をしている。
•
Shell は本水素ステーションにて、エネルギー効率はじめハードウエアの評価を
行っている。
-
•
ハードウエアの評価は重要で、現状では十分な水素センサーも無く、また液
体水素を測量する技術も確立していない。
水素ステーションの設置に関しては、ガソリンスタンドに一般に求められてい
る規制・基準・標準をすべてクリアすることにした。現状で、水素に関する規
制は無い(第一、本ステーションは、規制・基準・標準の成立前に設置されて
いる)。
35
(2) Shell の 70 MPa 充填の方針
① 70 MPa 充填のロードマップ
•
70 MPa 充填の実現のための必要項目を表 4-1 に、またそのために共有すべき
情報・データを表 4-2 に示す。
-
Shell は 70 MPa 充填の実験をしているわけではなく、実際に実現したいと考
えており、そのためのデータ・情報を入手したいと考えている(表 4-2)
-
70 MPa 充填の確立のためには、コラボレーションが必要で、そのためには
共通のテスト機関(PowerTech)によるテストが必要である。
-
35 MPa 充填は基準・標準が決定する前に、各社がばらばらでシステム開発
を進めてしまった。70 MPa に関しては、関係者(特に自動車メーカー)の
事前合意が必要である。
表 4-1.70 MPa 充填の実現のロードマップ:必要事項
(i) 70 MPa 充填に関して、十分な情報・データが入手できること(表 4-2)。
(ii) 自動車各社の 70 MPa 充填システム、タンク、コンポネントに関して、第三者機
関(PowerTech)によるテストが実施されること。
(iii) 第三者機関(PowerTech)によるテストに基づき、70 MPa 充填に関する基準・
標準が SAE によって作成されること。
注:2007 年初旬までは、自動車メーカーは 3 分以内の充填を要望しており、ステーションで
850 気圧水素タンクを使うように求めた(ASME は 850 気圧タンクを認めていない)。しか
し現在では、充填時間の要望を 10 分以内に緩和したため、直充填(水素タンクを介さな
い)や 475 気圧充填の可能性が出てきた。
表 4-2.70 MPa 充填の実現のロードマップ:共有すべき情報・データ
(i) 各ステーションにおける充填回数、システム改良後の充填回数
(ii) 各ステーションにおける問題、事故、課題の情報
(iii) 充填温度、圧力、時間(グラフ化)、性能の一貫性
(iv) コミュニケーションの有無やプレクール温度による充填性能への影響
(v) 各ステーションのメーカー・サプライヤ、ハードウエアの緒元
(vi) 自動車各社の 70 MPa 充填の手順(NextEnergy13がとりまとめ中)
(vii) システム、ノズル・レセプタクルの共通化、コンパチビリティ
13
NextEnergy は、2003 年にミシガン州が設立された、代替エネルギー技術促進のための NPO であ
り、DOE や自動車メーカーと協力して、様々な実証研究、基準策定・提案活動を行っている。これ
までに、バイオ燃料規格も策定している。< http://www.nextenergy.org/ >参照。
36
•
Shell では、70 MPa 充填を実現させるためには、表 4-3 に示すことが実施され
る必要があると考えている。
表 4-3.70 MPa 充填の実現のロードマップ:実施されるべき仮定
(i)
自動車メーカーは、充填システムメーカーが提案する充填プロトトコルを採用
すること。
(ii) NextEnergy が取りまとめている 70 MPa 充填システムの緒元が、充填システ
ムメーカーの提案する緒元と大きな違いが無いこと。
(iii) 70 MPa 充填システムが米国認証機関による認証を受けていないとしても、規
制当局がこれを認可すること。
(iv) 70 MPa 充填では、まだ確実なマスフロー測定方法がないので、自動車メー
カーは算定結果に同意すること。
(v)
自動車メーカーは、テスト運用中にドライバーに充填に関する安全教育を行う
こと。
(vi) PowerTech が報告している充填関連の事故・問題を、解決あるいは解明する
こと。
(vii) PowerTech のテストや基準・標準の実施・完了を待つのではなく、ステーショ
ン運営会社は充填システムの試運転のために、安全テスト・レビューを実施す
ること。
37
② 70 MPa 充填の実現に関する主な活動
•
70 MPa 充填の実現のために行われている活動を表 4-4 に、また得られつつあ
る知見を表 4-5 に示す。
組織
表 4-4.70 MPa 充填の実現に関する主な活動
努力分野 スコープ
目標
SAE
基準・
標準
・
充填手順の 2008 年
決定
中旬
PowerTech
充填手順 ・
テスト
自 動 車 メ ー 2007 年
カーのシス 末
テムの確認
プレクール
・
自動車メー
カー
ステーション
運営会社
車両への ・
充填
・
充填シス ・
テム
・
Shell
安全に関 ・
する研究
フリートテスト
充填
デモンストレ
ーション
ステーション
運営
システムの
反応
PowerTech による自動
車各社のタンクテストの
完了を待っている。
・ NextEnergy(2007 年)
を参考にする。
・ 装置の問題のためにテ
ストが遅れている。
・ 性能に関する知見を集
まりつつある。
・
進行中
・
進行中
・
・
2008 年
初旬
・
・
その他
その他の
研究
・
・
Sandia
究所
DOE
研 進行中
・
・
38
各社で独自に活動。情
報のシェア少ない。
自動車各社が運用中。
Linde 、 APCI 、 Air
Liquide、Quantum が
リード。
様々な運用シナリオに
応じたシステム反応、水
素リークの情報集約。
PowerTech のテストに
参加。
Sandia はリーク・燃焼
について研究中。
DOE はステーションを
展開中。
分野
表 4-5.70 MPa 充填の実現における知見の集約
知見・課題
許認可
米国認証機関
水素貯蔵
基準・標準
ベストプラクティス
その他
規制当局は、35 MPa 充填と 70 MPa 充填に関する要求の
差について十分理解していない。
・ 現状の規制(ICC14、NFPA15)は充填圧力について規定し
ていない。
・ 35 MPa 充填システムと同様に、70 MPa 充填システムのハ
ードウエアに関する認証(例.UL)が整備されていない。
・ 欧州と違い、米国の ASME は 85 MPa での水素貯蔵容器
を認めていない。
・ NextEnergy によると、SAE による基準・標準策定作業は
進んでいるが、文書化前に PowerTech によるテストが実施
される必要がある。
・
現状では、70 MPa 充填は成功を収めているが、それでも
ノズル凍結、ノズルからのリーク、ホースの破損、異常高圧、
不完全コネクションによるもれ、流量測定の困難などが報
告・指摘されている。
・ コンポネントサプライヤの不足。
・
③ 規制・基準に関して
14
15
•
ステーション設置に関わる規制に関しては、まだ水素ステーションに関わる時
期性自体が無いため、Shell では、ガソリンスタントに一般に求められている規
制はすべてクリアすることにした。
•
米国では、インダストリーが中心となって規制を策定している。
-
その策定には関係機関の合意が必要で時間がかかる(約 18 ヶ月∼3 年間程度)。
-
ただし、規制が策定されても、それが地域の規制当局者(消防局)によって
採用されるとは限らない(問題が生じた場合に承認した責任が問われること
を嫌って)。
ICC=International Code Council(全国基準審議会)
NFPA=National Fire Protection Association(全国防火協会)
39
④ Shell の 70 MPa 充填ステーションの計画
•
Shell では 2007∼2008 年において、合計で 6 ヶ所の 70 MPa 充填ステーション
を開設する予定である(表 4-6)16。
場所
表 4-6.Shell の 70 MPa ステーション(2007 年/2008 年)
タイプ
スコープ
時期
ステイタス
ワシントン
DC
ニューヨーク
(1)
ニューヨーク
(2)
一般利用可 常 設 ( 既 存
( ガ ソ リ ン と GS に設置)
併用)
非公開
常設(既存
GS に設置)
非公開
ニューヨーク 非公開
(3)
ロサンゼルス 一般利用可
(1)
(ガソリンと
併用)
ロサンゼルス 一般利用可
(2)
(水素のみ)
16
2007 年
末
2007 年
末
消防局とディスカッション
中
設計最終段階
規制当局から承認済み
設計最終段階
ポ ー タ ブ ル 2008 年
(新設)
中旬
設計中
ポータブル
(新設)
常設(既存
GS に設置)
2008 年
中旬
2008 年
末
設計中
常設(新設)
2008 年
末
設計中
35 MPa 建設中
70 MPa 設計中
GM は 70 MPa 対応 FCV「Equinox Fuel Cell」100 台程度を、カリフォルニア、ニューヨーク、
ワシントン DC でデモンストレーションすることを計画している。P.7(脚注)参照。
40
(3) その他
•
70 MPa 充填技術を有しているのは、Air Products のほかに、
Linde、Air Liquide、
QuestAir など。
•
充填圧力では、70 MPa は最終的な解決ではなく、35 MPa と 70 MPa の中間に
落ち着くかもしれない。
•
見学においては、静電気防止用ジャケットと保護メガネの着用を求められた(図
4-10)。
このラインより内側は
カメラ使用禁止
図 4-10.水素供給設備の見学の様子
41
5
Air Products & Chemicals (Allentown)
Air Products & Chemicals
訪問先
住所:7201 Hamilton Boulevard, Allentown, PA 18195-1501, USA
訪問日時
対応者
2007 年 10 月 4 日(木)9:00∼12:00
Edward F. Kiczek
Senior Business Development Manager, Hydrogen Energy Systems,
Air Products & Chemicals
Brian B. Bonner
Product Manager, Global Products Chemicals,
Air Products & Chemicals
(1) Air Products & Chemicals の概要
① 企業概要
•
Air Products & Chemicals は、米国の工業ガスメーカー大手である17。
-
年間売上は約 90 億ドル。
-
本社はペンシルバニア州アレンタウン。欧州販売拠点がロンドン郊外にある
が、その他の地域の国際業務は本社が担当する。
-
従業員数は全世界で 20,000 人。本社勤務の人数は 4,000 人。
② 水素ステーションにおける実績
•
水素世界における水素供給でのシェアは 50%以上でトップ。
第二位の QuestAir
は Air Products の半分に過ぎない。
•
1993 年以降、世界で 70 の水素ステーションプロジェクトに参画している。こ
れまでの累積での水素充填回数は 40,000 回以上になる(まもなく 45,000 回に
達する)。
•
ペンシルバニア州立大学に設置した水素ステーションでは、直充填技術をテス
トしている。
•
水素製造では、主にメタン改質技術を用いているが、石炭ガス化、電気分解、
再生可能エネルギー・地熱利用、バイオマスからの製造、原子力による水分解、
などの技術を試している。
-
17
将来のために、さまざまな水素源について研究を進めている。ただし、あく
までも改質技術が水素製造の中心的な手段であることは変わりない。
世界的には、Linde(BOC を 2006 年に買収)、Air Liquide、Praxair についで第 4 位。
42
(2) 主な水素関連製品
① APCI の水素関連製品
•
APCI の水素関連製品を表 5-1 に示す。
製品
移動式水素供給装置
(Mobile Fueler)
表 5-1.APCI の水素関連製品
充填能力
特徴
・ デモンストレーション用
60 kg
(1 週間∼6 ヶ月)
・ 充填能力:15 台/日
・ 屋外充填用
水素製造装置「Series 100」
12 kg
・
水素製造装置「Series 200」
30 kg
・ 技術評価用、運用用
(6 ヶ月∼)
・ 充填能力:7∼10 台/日
・ 屋内充填、屋外充填用
・ 水素は高圧水素トレーラや液体水
素タンクトレーラで供給
水素製造装置「Series 300」
100 kg/時
・ 本格運用用
・ 充填能力:50 ユニット/日以上
・ 屋内充填用
技術評価用
(6 ヶ月∼)
・ 充填能力:3∼4 台/日
・ 屋外充填用
・ 水素は高圧水素トレーラで供給
43
製品
水素純化
装置
18
表 5-2.APCI の水素関連製品
充填能力
特徴
―
・ PSA
・ SAE J 2719 に適合
・ 様々な原料からの水素の純化が可
能(バイオマス由来水素を含む)
HBU18
(Hydrogen Based Units)
90 kg/日
・
CHC 7000
100 kg/時
・ 本格運用用
・ 屋内充填用
スタンドアロン式ディスペンサ
―
・
・
・
・
屋内用ディスペンサ
―
・
新規の水素充填コンセプト(NDC)
技術評価用、運用用
屋外充填用
水素は高圧水素トレーラで供給
充填時間 3∼5 分(35 MPa)
技術評価用、運用用
(6 ヶ月∼)
・ フォーリフト、工場内作業車用(4∼
20 台規模)
・ 屋内充填用(壁掛け式)
・ 水素は高圧水素トレーラや液体水
素タンクトレーラで供給
・ 充填時間 3∼5 分(35 MPa)
Air Products が DOE の資金で開発している水素供給・充填システム。NDC
(New Delivery Concept)
と HBU(Hydrogen Based Unit)からなる。NDC は、8000 psi(=55 MPa)タンクを搭載したト
レーラで、HBU に 7000 psi(= 48 MPa)で水素を補充する。そのため HBU からの充填にはコン
プレッサは不要となる。< http://hydrogen.energy.gov/pdfs/progress06/vi_a_5_heydorn.pdf >参照
44
製品
TT-200
開発中
チューブトレーラ
表 5-3.APCI の水素関連製品
特徴
・ 圧縮水素
・ 6000 psi(= 41 MPa)、200 kg
・ スタンドアロン型ディスペンサ
・ 圧縮水素
・ 3200 psi(= 22 MPa)、300 kg
・ スタンドアロン型ディスペンサ
New Delivery Concept(NDC)
・
・
液体水素、高圧水素
4000 kg
② APCI が現在関わっている水素ステーション
•
ワシントン DC の Shell 水素ステーションでは、液体水素貯蔵タンクを、世界
で始めて地中に埋設した(図 5-1)。
地下液体
水素タンク
(60 cm)
図 5-1.ワシントン DC Shell 水素ステーション
45
•
ペンシルバニア州立大学の水素ステーションは、水素充填スタンドと水素・
CNG 混合ガス(HCNG)を供給している(図 5-2)。
HCNG 用ディ
スペンサ
水素充填用デ
ィスペンサ
図 5-2.ペンシルバニア州立大学の水素ステーション
(水素と HCNG の充填装置)
③ 水素パイプライン
•
水素の輸送においては、水素パイプラインでの輸送が最も効率的である。現在
世界 80 カ国に水素パイプラインが設置されている。
•
現在 APCI では、カリフォルニア州トーランスに水素パイプラインを設置中で
ある(一時期は建設作業が中断していたが、最近になって再開した)。
④ 自動車以外の水素利用車両
•
APCI は Plug Power と協力して、燃料電池フォークリフト用や工場内車両用の
水素供給装置を開発している。
•
屋内での水素充填システムでは、安全確保が重要である。
46
(3) 水素充填に関する APCI の意見
① 70 MPa 充填に関する意見
•
APCI がこれまでに世界に設置した 70 MPa 水素ステーションは 4 ヵ所である
(米国 3 ヶ所、韓国 1 ヶ所)。
•
70MPa 充填のプレクールは、液体窒素冷却よりも電気冷却のほうがコスト的に
優れている。
-
液体窒素による冷却はコスト高である。あくまでもオプションのひとつとし
て考えたい。
-
APCI の方針で、UCI とワシントン DC では違うプレクールシステムを採用
している(だたし両方とも電気的冷却)。システムの詳細は機密。
•
APCI では、70 MPa での高圧水素貯蔵が最終的な解決策とは考えていない。
-
将来的には、車載高圧タンク技術よりも水素吸蔵合金などの技術に期待した
い。
② 水素製造・輸送に関する意見
•
オンサイトでの水素製造は好ましくないと考えている。
-
オンサイトでの水素製造はコスト高であり、トラック輸送やパイプライン輸
送がコスト的には優れている。
-
水素需要が少ない現状では、需要がばらつくため、オンサイトでの水素製造
は最適化も難しい。
-
オンサイト水素製造装置は設備設置の面積が大きく、ステーションの土地効
率的にも好ましくない。
•
原子力による水素製造は、水電気分解と水の熱分解(SI プロセス)が考えられ
るが、どちらの技術がよいかはまだわからない。
•
ステーションでの水素貯蔵は、体積の点で液体水素がよい。
-
BOG もあるが、全体的なロスは小さい。また水素需要が大きくなれば、ロス
も相対的に小さくなる。
-
現状で液体水素をトラックでステーションに輸送する場合、タンクに供給す
る際のロスは 2%程度である。
47
③ その他
19
•
液体水素からの高圧水素を製造するには、クライオポンプによる直接加圧が効
率的によいと考えている。
•
水素タンクは基本的にはスチールであるが、詳細は機密である。
•
APCI では、独自のシミュレーションで、水素の充填挙動を分析している。
•
APCI は 70 MPa 充填システムでの日本市場での展開を検討している。
•
水素タンクの設置に関する規制(NFPA19)は、まだ策定されていない。
National Fire Protection Association。< http://www.nfpa.org/ >参照。
48