一括[pdf 14.8M Byte ] - 人間発達科学研究実践総合センター

富山大学人間発達科学部・附属学校園
共同研究プロジェクト 平成27年度報告書
富山大学スクラムプラン
―学校バリアフリーへの挑戦―
2015
富山大学人間発達科学部
富山大学人間発達科学部附属幼稚園
富山大学人間発達科学部附属小学校
富山大学人間発達科学部附属中学校
富山大学人間発達科学部附属特別支援学校
富山大学人間発達科学部附属
人間発達科学研究実践総合センター
はじめに
附属学校園と学部とが連携して進めるこの共同研究プロジェクトは,教育学部時代の平
成12年度にスタートしました。附属学校園の教員も学部の教員も自主参加を原則として,
協力してプロジェクトを継続してきました。そこで目指したものは,教育実践の向上につ
ながる共同研究,子どもたちの成長につながる共同研究でした。
平成27年度の共同研究プロジェクトは,16の研究グループ,延べ 118名のメンバ
ーによって進められました。前年度より研究グループは 3 グループ増加し,今まで以上に
多くの教科・領域等に関わる実践的な研究が,子どもたちのよりよい学びや育ちのために
展開されました。附属学校園の教員と学部の教員とが力を合わせて進めた研究は,学術研
究的な知見と,附属学校園で日々行われ,蓄積されている授業実践における知見の両方を
十分に活用して進められた研究であり,その意義は大きく,価値あるものと考えます。
附属学校園にも学部にも構成員の入れ替わりがある中で,このような自主的な研究活動
が多くの参加者により継続しています。研究グループも固定されたものではなく,そのと
きの教育現場のニーズやメンバーの課題意識等によって,新たにグループが作られ研究が
進められています。このようなプロジェクトが継続されているのは,研究を進める中で得
られる成果が,子どもたちの学びや育ちに確実に貢献しているという実感があるからと考
えます。
現在,学習指導要領改訂に向けての作業が本格的に進められています。本報告書にまと
められている授業実践等の内容は,児童・生徒が主体的・協働的に学ぶ姿であり,これか
らの学習の在り方を考える上で参考にしていただけるものと考えております。そして,本
報告や共同プロジェクトへの忌憚のないご意見やご指導ご鞭撻を賜ることできましたら大
変ありがたく存じます。今後とも附属学校園と学部の連携にさらなるご理解、ご協力を賜
りますよう、心よりお願い申し上げます。
平成 28年7月
共同研究プロジェクト WG 委員長
人間発達科学研究実践総合センター
長谷川春生
目
今年度の活動の概要
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
国語科教育
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
社会科教育
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
理科教育
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30
造形教育
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
75
英語科教育
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
95
生活・総合
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
107
グループ研究
家庭科教育
健康教育
ムーブメント教育
障害理解教育
ICT の教育利用
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
118
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
138
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 143
キャリア発達を促す授業づくり
・・・・・・・・・・・・
気になる子供のソーシャルスキルトレーニング
特別支援教育コーディネーターの連携
154
・・・・・
163
・・・・・・・・・
170
平成27年度のプロジェクトの概要
(1)プロジェクトの実施体制
富山大学人間発達科学部と同附属学校園の共同研究プロジェクトは、平成27年で16
年目を迎えた。本年度のプロジェクトは、昨年と同様、学部に設置されている附属学校運
営委員会の所管事業として実施された。同委員会のもとにプロジェクト推進のためのワー
キング・グループが設置され、企画・運営に当たった。プロジェクト実施にかかる経費は
学部共通経費から措置された。
(2)プロジェクトの内容
本年度の共同研究プロジェクトは、ここ数年来と同様、グループ研究を中心に進めた。
グループ研究は、学部および附属学校園の教員が、研究したいテーマを出し合い、そのテ
ーマへの参加者を相互に募ってグループを作り、グループごとに研究活動を進めるもので
ある。本年度は以下のような16のグループが作られた。なお,諸般の事情により報告書
が掲載されていないグループもある。
グループ名
国語科教育
研究内容
研究発表会や教育実習などの機会を通して、よりよ
代表者
米田猛(学部)
い国語科の授業のあり方を探る。
社会科教育
楽しくわかる社会科の授業づくりについて考える。
岡﨑誠司(学部)
算数・数学教育
小・中学校での授業実践や協議会を通して、数学的
岸本忠之(学部)
な見方や考え方を育てる指導の在り方について追究
する。
理科教育
実際の授業を通した授業実践の検証、および実践内
片岡弘(学部)
容を踏まえた理科教育における教授法・学習論の研
究を行う。
造形教育
幼小中のつながりを意識しながら、造形教育で身に
隅敦(学部)
つける力について研究する。
家庭科教育
家庭科の授業実践の開発と検討を行う。
磯﨑尚子(学部)
健康教育
児童・生徒の生活習慣について実態を捉え、心身と
藤本孝子(学部)
もに健康な生活を送るための支援のあり方を探る
1
グループ名
英語科教育
研究内容
代表者
小学校における英語活動を含め、楽しくわかる英語
岡崎浩幸(学部)
科の授業づくりを考える。
生活・総合
幼稚園(生活単元学習)、小学校(生活・総合)の
松本謙一(学部)
授業を分析・検討し、よりよい支援のあり方を探る。
ムーブメント
幼児の運動遊び、小学校低学年の体ほぐしの運動、
越村早貴子(特別
教育
特別支援学校の自立活動や体育で実践するムーブメ
支援学校)
ント教育を取り入れた授業づくりについて考える。
障害理解教育
障害理解教育のあり方やその効果について、実践を
西館有沙(学部)
通して探究する。
ICT の教育利用
教育における ICT 活用の在り方を考え、授業実践等
長谷川春生(学
を通して ICT 活用の効果を明らかにする。
部)
支援ツールと
児童生徒の自立的、主体的な姿を実現するための「支
山西潤一(学部)
ICT
援ツール」のデジタル化を試みる。
キャリア発達を
キャリア発達を促す授業づくりを指導方法面から追
促す授業づくり
究する
気になる子供の
電子版 SST 教材を用いたソーシャルスキルの習得
ソーシャルスキ
と維持、般化について検討する。
水内豊和(学部)
水内豊和(学部)
ルトレーニング
特別支援教育コ
事例検討を通して、コーディネーターの役割や校内
ーディネーター
での協力体制の在り方、特別な支援を要する児童生
の連携
徒への適切な対応について考える。
(3)ワーキング・グループ会議
第1回
平成27年4月13日(月)
・今年度の企画・参加者募集について
第2回
平成27年5月26日(火)
・今年度のグループの確定
第3回
(持ち回り)
平成27年6月2日(火)
・今年度のグループ予算の確定
第4回
(持ち回り)
(持ち回り)
平成27年12月10日(木)(於:附属中学校)
・来年度のプロジェクトについて
2
和田充紀(学部)
(4)グループ研究代表者懇談会
平成 27年10月5日(月)グループ研究を実施する上での情報交換
(5)運営組織
①附属学校運営委員会
・学部:鳥海清司(学部長)、山西潤一(附属人間発達科学研究実践総合センター長)、
隅敦(教務委員長)、岸本忠之(発達教育学科長)、黒田卓(人間環境システム学科
長)、米田猛
・附属幼稚園:
徳橋曜(園長)、廣田仁美(副園長)
・附属小学校:
根岸秀行(校長)、原野克憲(副校長)
・附属中学校:
堀田朋基(校長)、藤井克弘(副校長)
・附属特別支援学校:
竹村哲(校長)、野原秀年(副校長)
②ワーキング・グループ
・学部:
山西潤一、小川亮、岡崎浩幸、長谷川春生(長)
・附属幼稚園:
高島浩美
・附属小学校:
福田慎一郎
・附属中学校:
龍瀧治宏
・附属特別支援学校:
柳川公三子
3
グループ研究
4
国語科教育グループ
国語科授業の研究
代
表 : 米田 猛、宮城 信、西田谷洋
附属小学校 : 北岡 明、松井智史
附属中学校 : 萩中奈穂美、長澤信行、上不理恵、山田範子
1.
活動の方針
附属小学校・附属中学校の日常的な研究活動に即した研究実践内容にする。具体的には、
(1) 研究発表会で公開する授業や校内研究授業などの学習指導案検討を行う。
(2) 日常的な授業において、お互いに観察を行う。
(3) 教育実習の指導の在り方について、検討を行う。
したがって、特別に研究主題を設けてする研究ではない。また、上記(1)~(3)の研究は
附属教員にも学部教員にも喫緊かつ重要な課題であり、この研究を行うことは、そのまま
附属校園の使命を果たすものでもある。
2.
活動の実際
2015.5.12(於附属小学校)
(1) 附属小学校「春の教育研究発表会」における公開授業の学習指導案検討会を行う。
「なにが分かりにくいの?-順序立てて話そうとする-」
(小学校第1学年)
【授業者・北岡
明】
「筆者の発見を捉え、自分の考えを発表しよう-生き物は円柱形-」
(小学校第5学年
【授業者・松井智史】
(2) 附属中学校「教育研究協議会」における公開授業の学習指導案検討会を行う。
「聞かれてうれしい
聞いてうれしい
インタビュー-「質問力」を高める-」
(中学校第2学年)
【授業者・萩中奈穂美】
2015.9.28(於附属中学校)
(1) 附属中学校校内研修会における授業についての検討
「少年の日の想い出」(中学校第1学年)
3.
【授業者・長澤信行】
活動の成果と課題
(1) 附属校園の重要な使命であり、かつ日常的に常に問題意識のある「教育研究発表
会」の授業検討(事前・事後)について論議できたことはよかった。特に、小学校
・中学校の授業について(本年度は特に中学校が小学校のことを)知ることができ
たのは、小学校・中学校の連携の観点から収穫である。
(2) 附属小学校・附属中学校の校内研修における学習指導案を検討する試みも、今後
継続していく必要がある。国語科の立場で学習指導案を検討することができるから
である。
(文責・米田
5
猛)
社会科教育グループ
「おもしろい社会科授業」の創造2015
学
部
根岸秀行・岡﨑誠司・笹田茂樹
附属小学校
岩滝修二・阿久津理
附属中学校
北岡
聡・龍瀧治宏・坂田元丈
1.研究の目的
これまで本研究プロジェクトでは、評価問題の作成・検討を通して、あるべき社会科授
業の具体像を探求してきた。その際、実践した授業との関わりの元で、評価問題とその背
景となる理念を明らかにしてきた。
さて、新しい学習指導要領の改訂に向けて、求められる資質・能力が各種教育誌にて論
じられている。これまでの本研究においては、思考・判断・表現の能力に焦点を当ててき
たが、今一度検討し直す必要があるだろう。そこで、以下の目的のもと、研究の結果を報
告したい。
授業実践の事実を確定し、実践後実施した評価問題を検討することを通して、求められ
る資質・能力を探求する。
2.研究の方法
以下の過程で研究を進めた。
第1回共同研究プロジェクト(8月)研究の目的と方法・研究計画の検討
評価問題の検討
第2回共同研究プロジェクト(11月)評価問題の検討
第3回共同研究プロジェクト(12月)評価問題の検討
各回では、実際の評価問題と児童生徒の解答を吟味した。その際、「評価範囲」(教科
書の該当ページの明示)「評価問題作成の意図」(評価問題作成者の学力観・学習指導要
領の解釈の明示)「評価基準」(発達段階に応じた学力観の明示)を各提案者は明らかに
するよう努めた。
(文責
6
岡﨑誠司)
2.小学校第5学年「思考・判断能力」を育成する授業概要と評価
-小単元「わたしたちの生活と自然災害」の検討を通して-
(1)小単元「わたしたちの生活と自然災害」の実践概要
①
○
単元のねらい
日本の自然災害やその防止の取り組みの様子に関心をもち、意欲的に調べることが
できる。
○
【社会的事象への関心・意欲・態度】
自然災害の防止を国民生活や自分自身と関連づけて思考・判断し、国、都道府県な
どの取り組みや、国民生活一人一人の協力、防災意識の向上などが重要であることを
適切に表現することができる。
○
【社会的な思考・判断・表現】
日本の自然災害やその防止の取り組みの様子について、各種資料を活用したり、調
査したりして、必要な情報を集めることができる。
○
【観察・資料活用の技能】
日本は自然災害が起こりやすく、国や県が被害を防止するための対策や事業を進め
ていることや、自然災害の被害の防止には、国民一人一人の協力や防災意識の向上が
必要であることを理解している。
②
【社会的事象への知識・理解】
単元について
本小単元(内容(1)は7つの小単元で構成)は学習指導要領解説の以下の内容に当て
はまる。
第5学年の内容
(1)我が国の国土の自然などの様子について、次のことを地図や地球儀、資料などを活用して調
べ、国土の環境が人々の生活や産業と密接な関連をもっていることを考えるようにする。
取り上げること
・自然災害の防止と国民生活とのかかわり
・風水害など様々な自然災害が起こりやすいこと
・被害を防止するために国や県などが様々な対策や事業を進めていること
・被害の様子、国や県などが進めてきた砂防ダムや堤防などの整備、ハザードマップの作成など
の対策や事業
〇 自然災害が起こりやすい我が国においては、日頃から防災に関する情報などに関心をもつな
ど、国民一人一人が防災意識を高めることが大切であることについても気付くようにすること
学習指導要領解説から、本単元の本質を考察する。我が国の国土や自然などの様子につ
いて考える内容であり、国土の様子と関連づけながら自然災害についての基礎的・基本的
な知識を学ぶことが分かる。そして、「国や県などの対策」の記述から、公助の知識を身
に付けることも分かる。また、「ハザードマップ」や「国民一人一人の防災意識」という
7
記述から、共助や自助の知識を身につける構成になっていることが分かる。しかし、気付
くべきこととして示された「防災意識」は、知識ではなく、自然災害という対象への関心
・意識・態度の観点である。この態度面の高まりを子供が身につけるには、公助・共助・
自助の関係を理解するだけでなく、具体的な防災の情報をもとに共助や自助の在り方を考
え、問題意識を高めることが必要であると考える。そこで、問題意識を高めることのでき
る自分の生活に関する「自然災害への備え」を本質とおき、単元を構想する。
③
単元の展開
全10時間
次
時間
主な学習活動 □具体的事実
子どもの様相
事実認識
一 ①② 日本ではどのような自然災害が起こっ 認識①…事象への理解、自然災害の恐ろしさ
についての捉え
③④ ているのだろう。
□過去の自然災害
・日本は、地形や気候の様子から災害が多い
□自然災害の種類
□災害の数
国だと分かった。災害は、いつ起きるか分
□災害が多い理由(国土や気候の様子)
からない。起きてほしくないけど、起きた
□風水害数の年次変化
ときにはどうすればよいか考えてみたい。
□自然災害の被害の様子
(H27.9 鬼怒川の洪水)(H26.7 魚津の土砂災害)
社会認識
二 ⑤ 自然災害にはどのような備えが必要なの 認識②…目的・手段の関係の理解(災害の防
止・公助)
だろう。
□富山県地域防災計画 □総合防災訓練
・国や県、市がわたしたちの生活を守ったり、
□防災情報システム □ハザードマップ
助けたりするための仕組みがあることが分
□富山県広域消防防災センターの備蓄
かった。情報が確実に届いたり、救助を迅
□消防防砂ヘリコプター、ドクターヘリ
速にする準備をしくれている。
【はじめの認識】
⑥⑦ 公助がこれだけあるのに、なぜ共助が 認識③…社会的な意味の理解(共助の意味)
必要なのだろう。
【思考の活性化】 ・共助のもとになる自主防災組織は、組織が
□富山市自主防災組織率
あるだけではだめで、災害のことを考えて
□五艘自主防災組織の様子
計画をしておかなければならない。わたし
たちも洪水に備えることで、地域の人たち
とうまく避難できるはずだ。
8
社会認識
三 ⑧⑨⑩
認識④…開かれた社会認識(事実に基づいた判断)
災害があったときには、公助・共助を生か ・避難しているときには、みんなで助け合って
し、どのように避難すればよいのだろう。
□防災士のお話
問題を解決していくことが必要だ。災害に遭
□非常時の生活
(想定) ったときのことを考えると公助に加えて自助
□避難所運営(想定)
や共助で備えることが大切だと感じた。
【深まった認識】
(3)評価問題
①
評価問題
・
わたしたちの生活と自然災害について、次の問いに答えましょう。
(1)①
【資料1】
富山県射水市では、資料1のように災害発生
時の連絡体制を整えています。「住民のみなさん」
へは、何通りの方法で情報が伝えられていますか。
通り
②
なぜ、①のように多くの方法で情報を伝えてい
るのでしょうか。理由を答えましょう。
③
資料2のように救助のときの公助の割合が低い場合があります。その理由を答え
ましょう。
【資料2】
自助で助かった人
災害のときの助かり方
共助で助かった人
公助で助かった人
その他
0%
④
20%
40%
60%
80%
100%
神通川の堤防が決壊する災害が起きたときに、自助・共助・公助をどのように組み
合わせると命を守ることにつながるでしょうか。次の言葉「自助・共助・公助・情報
9
・防災意識」を使って160字以内で説明しましょう。
救助までの流れ「豪雨
②
→
堤防決壊
→
逃げる
→
避難場所ですごす
→
救助」
評価問題作成の意図
学習指導要領での該当箇所
・
被害を防止するために国や県などが様々な対策や事業を進めていること
問題(1)①②について
対策や事業の1つである連絡体制の整備事業がどのような目的のもと行われて
いるかを理解しているかをみる。
①…資料活用
②…知識・理解
予想される解答
住民に情報を確実に伝えることが重要→住民の状況に応じて伝えることが重要
○
住民に確実に伝えるため
○
防災行政無線が聞こえなかった人にもメールなどを使って、伝えるため
○
災害でどれかがこわれても、他の方法で伝えることができるから
○
多くの人に避難をしてもらうため
×
命に関わる重要な情報だから
×
もし、聞こえなかったらこまるから
×
何度も伝えると、逃げる気持ちが強くなるから
×
避難に時間がかかる人もいるから、避難準備情報などを早く伝える必要が
あるから
問題(1)③④について
学習指導要領での該当箇所
・
自然災害が起こりやすい我が国においては、日ごろから防災に関する情報などに
関心をもつなど、国民一人一人の防災意識を高めることが大切であることについて
も気付くように配慮すること
予想される解答
10
③…知識・理解
※
公助の限界
○
その時の様子によって道がふさがれていたり、ヘリコプターがとべなかった
りするから
○
大きな災害だったら、助ける人が多いので助けられる前に自分たちで協力
して助かる場合があるから
④…思考・判断・表現
※
公助・共助・自助の役割
○
公助でひ難情報を発信しているので、その情報をきいて逃げることが大切で
す。また防災意識を高くして持出袋を準備しておくと安全なひ難につながりま
す。これが自助です。避難場所では、みんなで助け合い、食事をしたり、寒さ
をしのいだりすることが共助になります。このように公助と自助や共助と組み
合わせると命を守ることにつながります。159字
(4)成果と課題
問題(1)②では、「確実に伝える」という表現よりも「多くの人に伝える」という解
答が多く見られた。意味は似ているが、「方法を多く用いているのは、より多くの人に
伝えるためである」ではなく、「方法を多く用いているのは、確実に伝えるため」であ
り「公助による備えであること」を解答できる形に問題を改善していく必要があると感
じた。
問題(1)③では、授業で理解した公助の限界を用いた解答が多かった。問題(1)④
においても公助や共助、自助の役割を用いた解答が多く、授業で獲得した知識を活用で
きていることが分かった。
今回の評価問題においても、知識の構造図を用いた授業づくりを生かして評価問題を作
成することにより、児童の学習の状況を把握することができた。今後も、児童の獲得し
た知識を用いて説明を行う形の評価問題の改善を図っていきたい。
(阿久津
11
理)
3.小学校6学年「社会的な思考・判断・表現力」を育成する授業概要と評価問題
ー単元「長く続いた戦争と人々のくらし-富山大空襲-」の評価問題の検討を通してー
(1)単元「長く続いた戦争と人々のくらし-富山大空襲-」の実践概要
①
単元の目標
・
満州事変から終戦までの我が国の歩みに関心をもち、進んで調べようとする。
【社会的事象への関心・意欲・態度】
・
資料から読み取った情報を比較・関連付け・総合して、当時の戦時体制や空襲に
よって国民生活が影響を受けたことや我が国が諸国に大きな被害を与えたことを考
え、適切に表現することができる。
・
【社会的な思考・判断・表現】
満州事変から終戦までの我が国の歩みや国民生活について、地図や年表、戦争
を体験した人の話、その他の資料を活用して必要な情報を読み取り、簡潔にまと
めることができる。
・
【観察・資料活用の技能】
戦時体制の強化や空襲によって国民が大きな被害を受けたこと、我が国が諸国
に大きな損害を与えたことを理解することができる。
【社会的事象についての知識・理解】
②
単元について
本単元は、第6学年(1)ケ「日華事変、我が国にかかわる第2次世界大戦、日本国憲法
の制定、オリンピックの開催などについて調べ、戦後我が国は民主的な国家として出発し、
国民生活が向上し、国際社会の中で重要な役割を果たしたことが分かること」に関する学
習内容を指導する。子供たちが、国際社会における日本の役割を考えるには、過去に起き
た戦争の経緯や広がりについて理解し、現在に残された課題について考えていくことが大
切である。そのためには、戦争のきっかけや当時の社会状況、国民生活を具体的に捉えて
いく必要がある。本単元の本質を「戦時体制という概念を新たに獲得すること」とし、国
民だけでなく、政府や軍部などの様々な立場から社会的事象を捉えることで、平和で民主
的な国家を築くために、これから進むべき方向を多面的に考えることができるようしたい。
戦争について具体的に考える事例として、米軍のB29爆撃機約180機によって焼夷弾
を投下され、約3000人の尊い市民の命が犠牲となった富山大空襲を取りあげる。子供た
ちは、「富山市がどうして標的となったのか」「空襲によってどのような影響を受けたの
か」と、問題意識をもって社会的事象と関わろうとするだろう。空襲や原爆の被害が大き
かったにもかかわらず、富山県や長崎県の地元新聞では、どちらも「被害は僅少」と報道
されている。子供たちは戦時体制という視点から、「政府」と「事実を隠された国民」の
関係について捉え直していくと考える。
12
(2)全体計画(10時間)
主な学習活動と予想される反応
第
①
一
次
平和について、考えをまとめる。
・
②
③
こ
り
「はじめの認識」を形成する。
中国に勢力を伸ばして、不景気を回復し ○
え、日本軍が外国に行った行為の責任につ
戦争の広がりを調べる。
いて考えようとする。
太平洋を戦場としてアメリカやイギリス ○
と戦い、多くの犠牲者を出したんだな。
④
地図や年表から戦場が広がった様子を捉
ようとしたんだな。
・
お
戦争はたくさんの人を傷つけるから、絶
対にしてはいけないという、単元における
戦争のおこりを調べる。
戦
の
○
原 爆 は 恐 い 。な ぜ 戦 争 が 起 こ っ た の か な 。
・
争
子供の様相と認識の深まり
太平洋戦争の国内での影響を調べる。
・
東京などの大都市で空襲が起きた事実か
ら 、国 内 で も 犠 牲 者 が 出 た こ と を 理 解 す る 。
○
大都市に空襲があり、子供たちが地方都
市に避難したんだな。富山でも学童疎開が
学童疎開の資料をもとに、子供たちにも
不自由な生活が及んでいたことをつかみ、
戦中の人々のくらしを想像しようとする。
行われ、不自由な生活を送ったんだな。
⑤
富山大空襲を知り、学習問題をつくる。
○
富山大空襲の被害状況や富山大空襲が起
第
・
神通川花火は空襲が関係があるんだな。
こるまでの経緯を知り、他都市と比べて大
二
・
他の都市と比べて破壊率が高く、死者
きな被害になった理由を予想する。
次
が多いな。どうしてだろう。
⑥+課外
○
学 習 問 題 に つ い て 予 想 し 、調 べ る 。
なぜ、富山大空襲の被害は大きくなっ
富
たのだろう。
山
・
大
・
空
襲
⑦
○
空襲警報が解除された後に空襲があっ
うように避難できなかったんだな。
⑧
ら
・
アメリカ軍は、軍需工場がある産業都
市を壊滅状態にして、日本に大打撃を与
日
えたかったのだな。
資 料 か ら 、情 報 操 作 が あ っ た 事 実 を 捉 え 、
考えようとする。
●深まった認識
深夜の大規模な攻撃をアメリカ軍が行っ
戦時体制のために、国民は正しい判断
たことに加え、国民は政府や報道を信じ、
すらできなかったのだな。日本全体が戦
戦争に協力するという戦時体制だったから
争に向かったから被害が大きくなったな。
⑨
○
被害が大きくなった原因を違う視点からも
の
・
アメリカ軍が航空写真をもとに富山を分
析し、人々が寝静まった夜に攻撃したから
富山大空襲の被害は大きくなった。
学習問題について、調べて考えたことを
話 し 合 う 。( 本 時 )
本
ろうとする。
●はじめの認識
サイレンが鳴り響き、町は混乱して思
か
大空襲を体験した方の話を参考にして、
根拠をもった自分なりの確かな考えをつく
富山大空襲を体験した方から話を聞く。
・
こ
れ
ら、アメリカ軍のねらいを捉える。
他とは違う攻撃をされたのかな。
たから、油断をしていたのかな。
と
富山大空襲の写真や空襲を受けた地図、
アメリカ軍の低空飛行に関する資料などか
どのようにしたら悲劇を最小限に食い止
富山大空襲の被害が大きくなった。
○
満 州 事 変 か ら の 15年 間 を 振 り 返 り 、 ど
めることができたかついて考える。
のようなタイミングで何をしたら悲劇が防
・
げたか考えようとする。
満州事変の前に、軍が政府の命令を無
視したときに止められたかもしれない。
⑩
○
平 和 に つ い て の 考 え を ま と め 、話 し 合 う 。
・
は絶対にしてはいけないという単元におけ
いかなる理由があろうと戦争をしては
いけない。過去から学んだ教訓を忘れな
いことが私たちにとって大切なことだ。
13
戦争が与える影響について理解し、戦争
る「深まった認識」を形成する。
○
単元始めと単元後に書いた自分の考えを
比べ、認識の深まりを自覚する。
(3)評価問題の一部抜粋
~問題の作成意図と解答例~
次の文は戦時の様子やくらしについて述べた文です。あてはまらないものを全
問題1
て選び、記号で答えなさい。
【知識・理解】
正答率83.1%
ア
沖縄県や鹿児島県では住民の多くが戦争に巻き込まれ、集団で自決した人もいた。
イ
男性の多くが、兵士として戦争に動員された。
ウ
労働力が不足したために、女子生徒も工場などで働いた。
エ
国民学校(小学校)運動会では「砲弾運び」の種目があった。
オ
食料不足のために、学校のグラウンドでイモを育てていた。
カ
地方に住んでいる子供は、空襲をさけるために大都市に移り住んだ。
問題2 15年にわたる戦争のきっかけとなった満州事変は、どのような経緯で起きたで
しょう。(
(
)の中から3つ選んで説明しなさい。 【知識・理解】
アメリカ
・
不景気
・
満州
・
正答率69.2%
国民の生活)
寺の鐘や仏具をはじめ、家庭の鍋や釜が回収されたのは、なぜですか。下の二
問題3
つの資料と関連させて、答えなさい。
問題4
【思考・判断・表現】
正答率53.8%
次の資料は、戦時での駅弁の包装紙です。駅弁の包装紙に「敵は我が本土をね
らっている。備えはよいか」と書かれているのは、なぜですか。次の言葉を使っ
て説明しなさい。
問題1
解答
問題2
解答例
(国民、政府や軍部) 【思考・判断・表現】
正答率61.5%
戦時のくらしを理解しているかをみる
ア
満州事変が起きた理由を説明できるかをみる
世界的な不景気により、日本の国民の生活が苦しくなった。資源の豊かな
満州を攻めて、日本の不景気を克服しようと考えたから。
14
問題3
解答例
鍋や釜、鉄などが回収された理由を考えることができるかをみる
アメリカに比べて資源が少ない上、戦況の悪化に伴って軍事費の費用も増
大していった。戦争に関連する物資の不足を補おうとしたため。
問題4
解答例
戦時体制が強化され、国が国民を統制したことを説明できるかをみる
国民の戦争に対する士気を高めるために、政府や軍部が駅弁の包装紙に
記すように指示したから。
(4)成果と課題
・
問題1の正答率は83.1%、問題2の正答率は69.2%であった。どちらも知識・
理解の観点であるが、問題2の正答率は高くなかった。しかし、問題2の誤答の中には、
学習内容を理解していると思われるものも多くあった。キーワードをつなぎ合わせて表
現することは、子供たちにとって難易度が高いと考えられる。
・
問題3の正答率は76.3%であった。二つの資料を関連付けて必要な情報を読み取
り、自分の考えを表現する力が徐々に育ってきていると考えられる。授業では、立場を
限定したり、解決策を考えたりするなど、焦点を絞って表現する場をつくり、子供たち
の力をさらに伸ばしていく必要がある。
・
問題4の正答率は61.5%と、正答率は低かった。
「当時の戦時体制によって国民生
活が影響を受けたことを理解しているか」をみる問題で、概念的知識を理解しているか
を問う問題ともいえる。学んだことを他の事象に転移して考えられるように、実践の終
末の在り方について工夫していく必要がある。
・
本実践の終末には、学習したことをレポートにまとめる場を設けた。単元の最初に書
いた考えと比べたり、作成したものを用いて考えを述べ合ったりすることで、子供は社
会的事象の特徴や意味を捉え直し、認識の深まりを実感していた。今後、評価問題にレ
ポート作成を加えるなど、有効な評価の在り方について考えていきたい。
(岩滝
修二)
【参考】単元終了後 美優のレポートより抜粋
平和とはとても難しいことだと思います。この考えは、しっかりと戦争について学ん
だからいえることです。今思うと、戦争を知る前は、本当に何も分かっていなかったの
だと思います。「日本は戦争の被害者であり、加害者でもある」この言葉のように日本
が受けた被害と加えた被害を理解して二度と戦争が起こらないようにしたいです。学習
を終え、平和とはお互いを思いやる人がたくさんいることだと思いました。
15
4.中学校1年生
「思考力・判断力・表現力を育成する授業概要と評価問題
―単元「世界各地の人々の生活と環境」の評価問題の検討を通して―
(1)単元「世界各地の人々の生活と環境」の実践概要
1) 単元の目標
・世界各地の人々の生活と環境の多様性に対する関心を高め、それを意欲的に追究し、捉えよ
うとしている。
【社会的事象への関心・意欲・態度】
・世界各地の人々の生活と環境の多様性を、自然及び社会的条件と関連付けた人々の生活の様
子とその変容を基に多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に表現している。
【社会的な思考・判断・表現】
・世界各地の人々の生活と環境の多様性に関する様々な資料を正確に読み取り、有用な情報を
適切に選択して、活用することができる。
【資料活用の技能】
・世界各地の人々の生活と環境の多様性について、自然及び社会的条件と関連付けた人々の生
活の様子とその変容を理解し、その知識を身に付けることができる。
【社会的事象についての知識・理解】
2) 全体計画
第1次:世界にはどのような地域があるのだろうか。
・・・・・・・・・・・・・1時間
第2次:暑い地域のくらしには、どのような特徴があるのだろうか。
・・・・・・1時間
第3次:寒い地域のくらしには、どのような特徴があるのだろうか。
・・・・・・1時間
第4次:乾燥した地域のくらしには、どのような特徴があるのだろうか。
・・・・1時間
第5次:温暖な地域のくらしには、どのような特徴があるのだろうか。・・・・・1時間
第6次:高地のくらしには、どのような特徴があるのだろうか。
・・・・・・・・1時間
第7次:ケッペンは何に注目して気候を区分したのだろうか。・・・・・・・・・2時間
(本時2/2時間)
第8次:地球温暖化は私たちの生活にどのような影響を及ぼすだろうか。
・・・・1時間
3) 本時の学習
ア 本時の目標
・ 世界各地の雨温図と植生の図を互いに比較したり分類したり関連付けたりすることを通
して、ケッペンの気候区分は、植生で区分されていることを理解することができる。
イ 本時の展開
学 習 内 容
指導上の留意点
○本時の学習課題を確認する。
ケッペンは、何に注目して気候を区分したのだろうか。
○仮説を検証する。
・仮説検証は、容易だと思われる順番
気温【比較】
から始め、本時は気温→降水量→植物
・「暑い」地域や「寒い」地域で分けられているくら
のように検証していくこととする。
いだから、気温が大きく関係しているはずだ。
・仮説検証は、ほぼ例外がなければ正
・それぞれで生活に違いがあったから、気温が区分に
しく、例外があれば正しくないと補足
大きく影響しているはずだ。
説明をする。
16
・雨温図Aと雨温図Bをみると、どちらも気温が高く
・検証している内容についての位置や
なっているよ。
範囲をいつでも確認することができる
・雨温図Cと雨温図Dを比較すると、同じ乾燥帯なの
ように、世界地図と気候区分図を掲示
に気温が異なる。
しておく。
・雨温図Dと雨温図Fをみると、1 年の変化が似てい
るのに、同じ区分じゃないね。
・気温と降水量の検証については、各
・雨温図Eと雨温図Hと雨温図Iを比較すると、同じ
気候帯の雨温図を比較・分類させるよ
温帯なのに気温が異なる。
うにすることで、確かな根拠を基に説
・雨温図Eと雨温図H・雨温図Iを比較すると、同じ 明することができるようにする。
温帯なのに気温が一定の地域と、変化している地域が
ある。
→仮説は、正しいとは言えなさそうだ×
・各雨温図に番号を付けることで、検
証の比較を行いやすくする。
降水量【比較】
・「乾燥している」「雨が多い」「雪が降っている」な
どは、その様子が降水量に表れるはずだ。
・雨温図Aと雨温図Bを比較すると、同じ熱帯なのに
・植生については、各気候帯の雨温図
降水量が異なる。
に対応する地域の写真を準備し、それ
・雨温図Eと雨温図Hと雨温図Iを比較すると同じ温 ぞれの植生の特徴をつかみやすいよう
帯でも、降水量はそれぞれに異なっている。
にする。
・雨温図Fと雨温図Gを比較すると、冷帯と寒帯で気
・前時までに見てきた各地域で見付け
候が違うのに降水量は変わらない。
→仮説は、正しいとは言えなさそうだ×
た植生に関する特徴にも目を向けさせ
るようにする。
植物【比較】
【関連付け】
【分類】
・サウジアラビア(乾燥帯)とイカルイト(寒帯)の
・樹木に気付かず、植生という仮説が
写真には、植物の緑が全くないね。
・熱帯、温帯、冷帯、モンゴルの写真には、それぞれ 否定された場合は、いったん受け入れ
た上で、もう一度注意深く写真を観察
植物が見られるね。
・同じ乾燥帯でも、サウジアラビアは砂漠でモンゴル するように声かけを行い、樹木に着目
には緑があるよ。正しいとは言えないのかな。
させるようにする。前時までに調べた
・樹木がある、ないでわけると、
「熱帯・温帯・冷帯」 町内の特色や他地域の会則との比較を
と「乾燥帯・寒帯」に分けられるよ。これに、気温と しながら考えの根拠をはっきりとさせ
るよう助言する。
降水量を関連させると説明できないかな。
・熱帯、温帯、冷帯の木は、種類が違うぞ。樹木の種
類が気候帯を分けているのではないかな。
→仮説は、正しいと言えそうだ○
・植物で区分されるが、細分化は気温
○課題についてまとめる。
・ケッペンの気候区分の方法をワークシートにま
で区分されていることに触れる。
とめる。
・気候区分の方法をまとめることで、
今日の学びをおさえる。
17
(2)評価問題
①
評価問題
次の会話文を読んで、あとの問いに答えなさい。
さとし:最近の夏はやけに暑いけど、やっぱり温暖化って進んでいるのかな。
あきこ:新聞やテレビでも、温暖化っていうことが盛んに言われているよね。でも、温暖化どころか、
最近は「地球は温暖化はなく氷河期に向かっている」という学説を唱える人もいるそうよ。
さとし:ひえー。今の気温がどんどん下がっていったら、どうなっちゃうんだろう。
あきこ: そうねえ、環境だけでなく、衣食住にも変化が出てくるかもしれないわね。
さとし:そうなる前に、今できることを考えなくてはいけないね。
この会話のすぐあと、あなたはあきこさんに「あなたなら、今の気温がどんどん下がっ
ていったら、私たちの環境や生活はどんなふうになっていくと考えるの?」と聞かれまし
た。その時、あなたはどのように答えますか。自然環境や衣食住の様子にふれて、その変
化について答えなさい。
②
評価問題作成の意図
この単元は、学習指導要領解説では、「世界各地の人々の生活の様子を考察するに当たっ
て、衣食住や宗教とのかかわりを中心に、自然及び社会的条件と関連付けて考察させ、世界
の人々の生活や環境の多様性を理解させる」ことをねらいとしている。
本問題は、中学校第1年の思考・判断・表現の能力を評価しようとしている。授業では、
「ケッペンは何に注目して気候を区分したのか」という課題について仮説を立て、その仮説
が正しいのかどうかを5つの気候帯の雨温図や植生の図等の複数の資料を手がかりに検証
する。生徒たちは、単元前半で学習した各地域の生活や環境の特徴を振り返り、それらを根
拠として仮説を立てたり検証の手がかりにしていく。こうすることで、それぞれの気候の違
いや生活の違いを大観することができ、世界の人々の生活や環境の多様性を再確認すること
ができる。また、検証を通して、気候帯ごとに見られる特徴を「比較する」、分かったこと
を「分類する」共通点や相違点を「関係付ける」等の思考法を用いるようにした。検証や説
明の際にこれらの思考法を意識させるようにすることで、世界の人々の生活や環境に対する
社会的な思考力・判断力・表現力を高めさせるようにした。本問題では、授業を通して身に
ついた思考・判断・表現の力を応用する問題とするためにも、第8時において考え話し合っ
たこと取り上げた。評価基準は以下のようにした。
③
評価基準
(あ) 自然環境や衣食住の様子の変化について具体的に表現されていること
(い) 変化についてどのように対応しようとしているかがあらわれていること
正答例
「着るものが厚手のもの中心に変わっていくかもしれないね。2重窓が増えたり、暖房器
具が大活躍したりそうだね。コメが育ちにくくなって、イモや麦なんかが主食になるこ
とも考えられるよ。
」
18
④
評価結果(生徒の回答例と正答率)
○ 熱いところで育つ植物がなくなり、衣服は長袖や防寒着、食事は寒い気候でしか育たな
い食物だけ、住居も温かくする工夫をしなければいけないから大変になる。
○
寒いところでもよく育つジャガイモなどが主食となり、気温が低いので厚手の材質を用
いた保温性の高いものを着用することが多くなる。
○
寒い期間が長くなり、植物が育たなくなるため、動植物の肉や乳製品などが中心の食事
が多く見られるようになる。分厚い壁の家で、暖房が完備され、中では半袖で暮らすよう
になる。
○
寒さに負けないようにするための商品が多く出回るようになる。温かさを保つ材質の服
や、寒さから人を守る断熱技術の優れた住居が多く見られるようになる。
×
自然環境が大きく変わって衣食住も大きく変わると思います。
×
ほぼ毎日長袖を着て、家は気温に合わせた工夫をしないといけないし、食べ物も寒さと
ともに変化していくと思う。
× 世界中が氷に閉ざされ、氷河期が訪れる。
正答 62,3%
誤答 32,4%
無答 5,3%
(3)成果と課題
① 成果
気温の変化と周りの環境や人々の生活が深くつながっていることをしっかりととらえ、他
の地域の生活をもとにしてどのような変化が起こりうるかについてよく考えながら記述さ
れている回答が多く見られた。また、環境の変化に対して人々の生活が具体的にどのように
変化していくかが記述できている回答がよくみられた。6割という正答率ではあるが、提示
された課題について、授業を通して身に付けた力を応用して考え思考を整理して考えを深め
ることができたかどうかを評価することができる問題となっていたと考える。
② 課題
しかし、問題で取り上げた設定があまりにも現実離れしたものになったことは否めないこ
とであり、深く考えている生徒ほど現実の生活とつなげて考えることができず、ねらいとし
た回答ができないということも見られた。設定があいまいなため、どのような状況を想定し
てよいのかわからないということも、誤答となった誘因であると考えられる。場所や状況を
しっかりと設定し、そこからの変化を考えさせるようにするなど、取り上げる設定の工夫が
必要である。
(文責 北岡 聡)
19
5.中学校第2学年「思考・判断・表現力」を育成する授業概要と評価問題
—
単元
近世の日本~安土桃山時代から江戸時代~
—
(1)単元「近世の日本~安土桃山時代から江戸時代~」の実践概要
日本の近世の定義は未だ確立していない。一般に"Later medieval"とか"Early Modern"と
英訳される。つまり,「中世の後」か「近代の前」といった具合である。時代を大きく区
分することが難しいのは,日本の社会が地域によって多様性をもっていたことや異民族に
よる征服などが起こらなかったためであり,近年では中世から近世への転換を「移行期」
と,やや幅のある表現をすることが多い。その「移行期」の中ではあるが,徐々に変化は
起きた。例を挙げるとすれば,1つ目には「兵農分離」がある。信長による常備軍として
の武士身分の確立,秀吉による太閤検地と刀狩,それらを引き継いだ家康の幕藩体制確立
などである。2つ目は自力救済が認められる「戦乱の世」から「泰平の世」への転換があ
る。戦国時代から安土桃山時代にかけて「武威」という論理が用いられることで戦乱は大
規模化していくが,やがて武家の戦乱は大坂の役により,民衆の戦乱は島原天草一揆によ
って終わりを告げる。武士の主従関係も「乱世の忠」つまり主君の馬前で討死することが
最大の忠義であったものが,「無事の忠」つまり「徳」を備え,領民の統治を滞りなく行
うことが武士としての忠義として位置付けられていくようになり,やがて藩政というしく
みが整えられていくことになる。3つ目は「鎖国」である。近年の研究では「国を鎖(と
ざ)す」という意味合いは否定されており,例えば鎖国以降はそれ以前に比べても貿易量
は多くなっている。しかし,信長の時代にキリスト教の布教やアジアやヨーロッパとの南
蛮貿易が認められていた時代から,秀吉によるバテレン追放令,家康の朱印船貿易公認か
らキリスト教禁教やオランダを除くヨーロッパ諸国との海禁政策など,外国の物資や文化
・情報が大きく制限されたことは中世との大きな差である。このような中世から近世への
「移行期」を生きた人物として,高山右近がいる。
高山右近は織田信長・豊臣秀吉・徳川家康と同じ時代を生き,彼らとの関わりも深い。
また,安土桃山時代のヨーロッパとの交流の中で,キリスト教を信仰し,黒田孝高(官兵
衛)をはじめとする多くのキリシタン大名の嚆矢でもあった。一方で,千利休の弟子の「利
休七哲」として当時大成された茶道(茶の湯・佗び茶)の名人として全国的な名声も誇って
いた。また,金沢城や高岡城の築城を推進したと伝わる人物であり,1588年から1614
年の約26年に亘り,加賀前田家の客将として生きた人物である。今年,西暦2015(平成
27)年は高山右近没後400年の年であり,ローマカトリック教会により,聖者につぐ称
号の「福者」に認定されることになるなど,今年は隣県の石川県をはじめ,彼に関連ある
地では各種催しが行われている。近世「移行期」を生きた高山右近の生い立ちをモデルに
した仮想の人物を扱うことで,中世から近世,安土桃山時代から江戸時代の時代の転換の
ようすや,それぞれの時代の特色をとらえることができるように単元を構成した。
20
(2)本時の展開
学習活動と予想される生徒の反応
指導上の留意点
1 本時の学習課題を確認する。
(仮想武士)高佐源丞右衛門はどうすればよいだろうか。
・A案は赤,B案は青,C案は緑のカードを胸
2 課題について,意見交換する。
A案:キリシタン大名と共に家康に武力抵抗
ポケットに入れておき,立場が変わった場合
【理由付け】…信仰を維持するために抵抗
はカードを変更する。また,意見の追加・質
・幕府はまだ盤石ではない。
団結して戦えば,
問・反論については,ハンドシグナルを用い
させる。
言い分を通すことができるかもしれない。
・キリスト教を捨てるぐらいなら,団結して ・判断する際の『選択の基準』が,仮想武士の
モデルである「高山右近の生い立ちから解釈
殉教するつもりで武士として戦えばよい。
した見方・考え方」であることを想起させ,
B案:キリシタンとして海外の日本町に移住
判断の妥当性の検証を行うための話合いであ
【理由付け】…信仰を維持するが抵抗せず
ることを助言しながら,論点がずれないよう
に意見を板書などでも整理する。
・キリスト教を信じることができないのであ
れば,日本町で信仰を続ける方がよい。
※「生い立ち」から考えられる『選択の基準』
・幕府に反逆しても,家を滅亡に招くことに
①主君への忠義に篤く,武功を挙げている。
なり,忠義を果たしたことにはならない。
②キリスト教を信仰し,布教に熱心である。
③父母や妻子などの家族を大切にしている。
C案:棄教して徳川幕府の大名として生きる
④高山家という家の維持を大切にしている。
【理由付け】…信仰を維持せずに臣従する
⑤心静かな茶の湯の精神を大切にしている。
・信長や秀吉に従ってきたが,家康は関ヶ原 ・反論の場面を適宜設けることで,生徒の思考や
で勝利し,強大であるので逆らえない。
判断がより深まるようにする。
・茶人や築城技術者としての地位を築いてい ・ワークシートには選択内容やその理由を便益・
るので,文化人として生きていけばよい。
機会費用の視点から記述できるようにする。
3 意見交換から時代の特色について論述する。・ポストテストを実施し思考・判断を評価する。
21
(3)評価問題
①
評価問題の実際
<問題Ⅰ>社会認識形成に重点が置かれた評価問題
さ な だ
とうしゅ
真田氏は豊臣政権の下で領地を維持することができた。資料1・2を見て、真田氏の当主
がこの頃に行ったと推測できるものを、ア~カから3つ選び、記号で答えなさい。
資料1
北条氏と真田氏の関係
な ぐ る み
秀吉の上洛命令を拒否していた北条氏は惣無事令を無視。真田氏の名胡桃城を攻撃す
る。秀吉はこれに怒り、1590年小田原城を攻撃して北条氏を倒し、全国を統一。
資料2
豊臣政権による全国統一事業
(備考)上洛:京都に行くこと
上坂:大阪に行くこと
秀吉は全国統一をめざす中で、次の場合において軍勢を派遣し、大名を討伐した。
じょうらく じょうはん
・秀吉のもとに 上 洛( 上 坂)せず、朝廷を後ろ盾とする自らの政権に敵対したとき。
・惣無事令を出して、秀吉の承認なく勝手な自力救済を禁止。これに違反したとき。
また、大名の妻子を京・大阪などに住まわせ、大名は京・大阪と領国間を往復した。
ア 秀吉のもとに訴えを出して判断を仰いだ。 イ 領地や城を取り戻すために戦った。
のぶしげ
ウ 同盟を結ぶ上杉氏に北条氏を攻撃させた。エ 当主の次男信繁を人質として大阪に送った。
オ 一揆勢力を味方にして秀吉に屈服した。
カ 秀吉がいる大阪に当主自らが赴いた。
<問題Ⅱ>市民的資質育成に重点を置いた評価問題
「(仮想武士)高佐源丞右衛門」の授業を想起しながら資料3・4を見て、あとの問いに答えなさい。
資料3 時代の流れにどう対応するかの行動パターン
A:自分の考えを貫けるよう現状を打開していく。うまくいけば譲歩を得られるし、逆にリスクもある。
B:自分の考えを貫けるよう適切な体制がある場所に移る。住み慣れた所や人から離れないといけない。
C:時代の流れに対応して考えを行動に出しすぎない。中枢には入れないがそれなりに生き延びられる。
資料4 「家康の禁教政策」と「3人のキリスト教徒の生い立ち」
家康は統一政権の樹立、いわゆる幕藩体制確立のために禁教が有効な政策であると認識していた。徳川
政権つまり幕藩体制の確立・維持発展のために、全国一斉に厳しい禁教令が発せられることになった。
高山右近はキリスト教徒であ
X 黒田官兵衛は領地をもち、多
Y 天草四郎時貞はキリスト教徒
り、軍略をもった武将であった。 くの家臣を従えるキリシタン大名 であり、若くして3万7000人の
利休七哲に入る有名な茶人で、国 で、秀吉も恐れた軍略家である。 キリシタンを含む百姓など一揆軍
内外に広く人脈をもっていた。
選
択
また、家族を大切にしていた。
選
択
から大将として信頼を集めていた。
選
択
禁教に従わず追放処分を受ける。 徳川政権の命令に従って棄教する。キリスト教信仰を守るために戦う。
【問い】・資料4中の下線XまたはYの人物のいずれかについて解答しなさい。Xもしく
はYの人物が選択した行動パターンは資料3中のどれにあてはまるか、A~C
から1つ選び、記号で答えなさい。
・また、その人物がその行動を選んだ「理由」を簡潔に説明しなさい。
22
②
評価問題作成の意図
本問題は、中学校第2学年の思考・判断・表現力等を評価しようとしている。「どうす
ればよいだろうか」という問いに対して、A:キリシタン大名と共に家康に武力抵抗する、
B:キリシタンとして海外の日本町に移住する、C:棄教して徳川幕府の大名として生き
るという3つの立場に分かれ、それぞれ理由付けについて話合うという授業が展開された。
高山右近の生い立ちから解釈した「選択の基準」を明確にして、中世から近世移行期の時
代の特色(社会認識形成)を捉えることで、判断する場(市民的資質育成)ができると考
えた。そして、評価問題では、授業では扱っていない以下の資料と問いを用意して、社会
認識形成および市民的資質育成に関わる思考・判断・表現力等を評価しようとした。
③
評価基準
問題Ⅰについての正答と基準
【正答】ア・エ・カ <完答>
「中世は、社会問題は各自の実力・判断で解決する自力救済の時代であった」という時
代の特色にあてはまるものは、選択肢のイ・ウ・オとなり、
「近世は、社会問題は第三者
(その多くは上位の権力者)の判断で解決する他力救済の時代であった」という時代の特色
にあてはまるものは、選択肢のア・エ・カとなり、ここでは後者が正答となる。なお、一
つでも選択を誤れば真田氏は生き残れなかったと思われるので、記号は3つの選択肢すべ
て正解で正答とする完答問題とした。
問題Ⅱについての正答と基準
(選んだ人物が「X」の場合)
(選んだ人物が「Y」の場合)
①行動パターンは基本「C」となり、
①行動パターンは基本「A」となり、
②理由は「家族や家臣の生命や生活を守っ ②理由は「キリスト教を守るためには、生命
ていきたいから」や「後々、キリスト教 をかけて打開することができるかもしれない
が許させる世に軍略で変えていくことが から」や「たくさんのキリスト教徒の信頼を
できるかもしれないから」となる。
裏切るわけにはいかないから」となる。
・資料の内容を用いて、説明していること。
・それぞれの人物に関わる価値にふれて説明していること。例えば、
「軍略を用いること
に長けていた」
「熱心なキリスト教徒で信仰を守ろうとしていた」
「家族や家臣の生命や
生活を大切にしようとしていた」などの基準が説明に入っていること。
23
④ 評価結果
n=119
問題Ⅰ結果
問題Ⅱ結果
問題Ⅰの記号選択の分布状況
正答
40人(33.6%)
92人(77.3%)
選択肢
誤答
71人(59.7%)
18人(15.1%)
人 数 69 29 38 72 25 96
無答
8人( 6.7%)
9人( 7.6%)
順 位
ア
③
イ
6
ウ
4
エ
オ
②
5
カ
①
(4)成果と課題
①
成果
問題Ⅰについて、昨年度まで課題としていた思考・判断・表現力等を問う評価問題と
して、記述式だけではなく、記号選択式の問題を作成することができた。
問題Ⅱについては、他に応用して考え、自ら解決方法を見つけ、取捨選択したことを
評価するという点から、授業で扱っていない資料を用いたので、生徒の思考・判断・表
現力等について、授業で行った判断を転用して検討できる問題であったと考えられる。
また、トゥールミン・モデルを活用した「便益と機会費用」について検討しながら「選
択(トレードオフ)」について理由を書かせるワークシートを授業で扱ったこともあり、本
評価問題においても理由付けの内容について的確に説明できていた。
②
課題
問題Ⅰについては、(3)④の評価結果を見て分かるとおり、誤答の割合が高い。これ
は、一つでも選択肢を誤ったら真田氏は滅んでいたかもしれないという出題の意図から
完答問題としたこともあるが、本時の学習において、時代の特色を捉えるという社会認
識形成が弱かったということが分かる。一方で、記号選択の分布状況を見ると、正答の
3つの選択肢にまとまっていることからそれなりに社会認識形成に成果があったとも捉
えられるので、出題方法についての検討が必要であろう。総じて、時代の特色に対する
概念形成の手立てや市民的資質育成を統合的に説く社会科としての単元構成や資料の提
示、学習形態において、今後も検討が必要である。
歴史的分野における価値判断型の授業を行うに際し、今回は実在の人物をモデルにし
た仮想の人物を想定した教材を取り扱ったが、歴史的分野においての価値認識の形成に
ついて、知識にとらわれない評価問題の在り方について、検討が必要である。
本時の学習を通して、学習前と学習後の社会認識形成や市民的資質育成についての変
容のようす、知識の構造化を意識した授業構成など行うことなど、学習者・授業者双方
への分析が必要であった。
(文責
24
坂田元丈)
6.中学校第3学年「思考力・判断力・表現力」を育成する授業概要と評価問題
ー単元「現代社会の見方・考え方~竹島問題を通して~」の評価問題の検討を通してー
(1)
単元「現代社会の見方・考え方~竹島問題を通して~」の実践概要
この単元は、中学校学習指導要領の公民的分野の大項目「(1)私たちと現代社会」の中
項目「イ 現代社会をとらえる見方や考え方」に基づいて設定・開発したものである。中
項目では「現代社会をとらえる見方や考え方の基礎として、対立と合意、効率と公正など
について理解させる」ことをねらいとしている。その「対立」「合意」「効率」「公正」な
どは、現代社会をとらえる概念的な枠組みの基礎となるものとして挙げている。「対立」
とは、人は、一人一人個性があり多様な考え方や価値観、また利害の違いから生じた問題
や紛争としてとらえる。このような「対立」が生じた場合、多様な考え方を持つ人が社会
集団の中で共に成り立ちうるように、また、互いの利益が得られるように、何らかの決定
を行い、「合意」に至る努力がなされている。その「合意」の妥当性の判断基準が、「効
率」と「公正」である。「効率」は、「合意」された内容は、無駄を省く最善のものにな
っているか、という考え方である。「公正」については、「みんなが参加して決めている
か」という手続きの公正さや、「不当に不利益を被っている人をなくす」という機会の公
正さや結果の公正さという視点で考えることである。
また、中学校学習指導要領の公民的分野における領土問題については、「国家間の問題
として、領土(領海、領空を含む)については我が国においても、固有の領土である北方
領土や竹島に関し未解決の問題が残されていることや、現状に至る経緯、我が国が正当に
主張している立場、我が国が平和的な手段による解決に向けて努力していることを理解さ
せる。 なお、我が国の固有の領土である尖閣諸島をめぐる情勢については、現状に至る
経緯、我が国の正当な立場を理解させ、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存
在していないことを理解させる 」ことをねらいとしている(平成20年度版中学校学習指
導要領解説社会編平成26年1月改訂)ことから、現代社会をとらえる見方や考え方を養
う教材として領土問題を取り上げていきたい。
日本には北方領土問題だけでなく、竹島問題、尖閣諸島に関する不安定な情勢が見られ、
そのどれもが解決どころか、こじれ対立感情が高まっている。これらのことが影響して、
我が国の領土に関する教育の一層の充実を図るため、2014年1月に「中学校学習指導要
領解説社会編」地理・歴史・公民の各分野で領土に関する部分が一部改訂された。平成2
7年4月7日の朝刊全国紙では、「中学社会
全教科書に竹島・尖閣諸島」「固有の領土明
記」と見出しがあり、領土に関する教育を通して我が国の領土について理解を深めていか
なければいけないことは、待ったなしの状態である。
北方領土問題、竹島問題、尖閣諸島に関する情勢の3つのうち特に竹島問題について見
25
ていきたい。竹島は、無人島で、日本も朝鮮も早くからこの島の存在を知っており、漁民
らが漁労を営んでいた。竹島は、江戸時代の地図に「松島」という名称でしばしば登場し
ている。江戸幕府の数々の対応に見られるように、竹島は日本の島であるという意識が幕
府や山陰諸藩に少なからずあった。そこで、日本の主張は、以下の通りである。どの国の
ものでもなかった竹島を日露戦争中の1905年に閣議で、竹島が島根県に属することを再
確認した。第二次世界大戦後は、GHQの占領下に置かれたが、そもそも日本固有の領土
であるため独立後は日本に返還されるものであり日本に領有権があり、韓国によって不法
に占拠されている、というものである。しかし、韓国の場合も同様で、日本よりも古い文
献に独島の話が登場するし、地図にも描かれている。さらに、1898年に大韓帝国が発行
した地図にも「独島」は韓国領としている。そこで、韓国の主張は、以下の通りである。
1905年以前に既に韓国の領土として認識していた。1905年に、日本の領土として組み
入れられたが、そもそも韓国の土地であり、韓国に領有権があるので日本の敗戦後は韓国
領となるべきものである、というものである。このように日本と韓国双方の強い主張、歴
史観の相違が衝突して、解決困難な状態に陥っている。
対立と合意、効率と公正の現代社会をとらえる見方や考え方を生かして、この領土の
対立のような国際問題をどのように解決していくべきなのかを合理的に判断する主権者を
育成する授業が求められていると考える。また、教科書の領土に関する記述、外務省HP
の記述を理解させるだけでは、特定の主張を押しつけることになる。未来の国家・社会の
形成者として、また、18歳投票をひかえている主権者として、様々な資料を多面的・多
角的に考察した上で生徒に多様な見方・考え方を育成したい。
そこで、先行実践である「領土問題から日本の外交を考える」、
「竹島問題を考える」
(桑
原俊典岡山大学大学院教育学研究科)を参考にして、2つの指導を取り入れたい。1つ目
は、日本の一つの主張の理解に偏らず、韓国側の主張も吟味して、多面的・多角的に竹島
領土問題の争点を考察し、説明させる場面を設けていきたい。2つ目は、政策選択学習を
取り入れていきたい。政策選択学習とは、複数の価値に基づく政策を比較・吟味し、自ら
の価値観を反省・再形成していく学習である。本時で取り上げる政策としては、国際政治
学に基づき、A「断固とした姿勢」(強制外交)、B「2か国での話し合い」(当時者間交
渉)、C「当事者国以外も含めた話し合い」(交渉・仲介)、D「国際司法裁判所に委任」
(調停)の4つの政策を生徒の意見で設定したい。これら4つの選択肢を設定し、利点と
懸念を説明し合うことで、政策の価値を吟味し、自らの価値観の形成につながる。その形
成された価値をもとに領土問題の解決策を決定し、その根拠を論述することを通して、合
理的判断能力が育成されると考えられる。その際、合理的判断の基準について考えさせる
ことを通して、効率と公平の判断基準を概念として身に付けさせたい。
26
(2)展開
学習活動と予想される生徒の反応
1 前時までの内容を確認する。
指導上の留意点
・ICTを使用して、前時まで
2 課題を把握する。
の内容を振り返りやすくする。
竹島問題の解決策として、どの方法が望ましいだろうか。
3 前時に判断した解決策ごとのグループになり移動する。
4 各解決策のグループ毎に利点を説明する。
・前時に個人が判断した解決策
毎にネームプレートでグルー
プ分けをし、提示する。
○A「断固とした姿勢」
・前時のうちに自分が選んだ解
【利点】
・日本の主張を押し通すことができる。
決策に対する懸念の反論を考
・短時間で決まる。
(効率○)
えておくようにし、自信をも
って説明、反論できるように
【懸念事項】
する。
・一方的に決まる。
(公正な手続き×)
・一方が不利な結果になる。
(結果の公正×)
・武力衝突が起きることも考えられる。
(効率×)
○B「2か国での話し合い」
・4つの解決策の利点をまとめ
たものを掲示する。
【利点】
・両国が参加し納得でき、その後の対立がなくなり、武力 ・各解決策についての利点や懸念
衝突が避けられる。
(結果の公正○、手続きの公正○)
【懸念事項】
事項で、気付いて欲しい内容が
出ない場合は、特に効率と公正
・時間がかかり、平行線をたどる可能性が高い。
(効率×)
の視点の内容を発言させるよう
・大幅な妥協も受け入れることも考えられる。
補足発問する。
○C「当事者国以外も含めた話し合い」
・論点がずれた場合は、効率と公
【利点】
正の視点の内容に戻すよう切り
・他国との関係をもとに優位に進めることができる可
返しの発問をする。
能性がある。
・第三国が参加することで利害関係が薄まる。
(公正な手
続き○)
・自分の考えを深める機会である
・武力衝突が避けられる。
ことを伝え、互いの考えを比較
【懸念事項】
しながら聴いたり、意見を述べ
・不本意な決定にも従う必要が出る。
たりするよう声掛けを行う。
○D「国際司法裁判所に委任」
【利点】
27
・第三者機関に委任するので、公正な手続きであり、多く
の人が納得する公平な解決になる。
(結果の公正○、手
続きの公正○)
・国際的に認められている機関の決定により、確実に決着
がつく。
【懸念事項】
・実際に国際政治学では、
Aは
「強
・より多くの時間がかかる。
(効率×)
制外交」
、Bは「当時者間交渉」
、
・相手国の同意が必要なので、応じない場合、解決に至ら
Cは「交渉・仲介」
、Dは「調
ない。
(効率×)
停」という内容であることをお
・日本の主張が認められるとは限らない。
さえる。
5 今日の話し合いを振り返って、望ましい解決策について再 ・ネームプレートで解決策の判断
度合理的判断を行い、ワークシートに記入する。
6 次時の予告
の変化を分かるようにする。
・解決策の変化があった生徒に
は、理由を聴くようにする。
(3)評価問題
①評価問題
合
意(解決策)
解決策Z案
X
Y
日本と韓国の2カ国間で、島の歴史
や所有権を話し合う。漁業権や領有権
対
1
立(領土問題)
を半分ずつになるよう交渉していく。
竹島問題の解決策Z案が、授業で話した X 、 Y の基準でみると、どのように
分析できるか、 X 、 Y の基準の視点からそれぞれ説明しなさい。その際、 X 、
Y を明らかにしなさい。( X 、 Y 順不同)
②評価問題作成の意図
本評価問題は、中学校第3学年の思考力・判断力・表現力を評価しようとしている。授
業では、「竹島問題の解決策として、どの方法が望ましいか」について、討論を行った。
生徒側で解決策を立て、それぞれの解決策の利点と懸念事項を検証していく授業を展開し
た。資料を根拠に解決策を検証しながら、「対立と合意、効率と公正」の判断基準の概念
を理解していくように 行った。解決策を 「対立と合意、効率と公正」の視点で考察する
ことで 、思考力・判断力・表現力が育成されると考えた。そして、評価問題では、授業
28
で用いられた解決策の内容を修正したものを用意し、③の評価基準を設定して出題した。
③評価基準
・
X 、 Y を「効率」「公正」(順不同)と明らかにしていること。
・「効率」の視点として、解決にかかる時間が述べられている。
・「手続きの公正」の視点として、話し合いが行われているかが述べられている。
・「結果の公正」の視点として、納得できる結果が得られているかが述べられている。
(4)成果と課題
1
完答率
19.3%(
31/160)
2
半正答率
25.0%(
40/160)
3
誤答率
42.5%(
68/160)
3
無答率
13.1%(
21/160)
①成果
少数ではあるが、この題材により思考力・判断力・表現力を高められたと言える。
「島の歴史の話し合いにより交渉が非常に長い時間がかかると予想され、効率は悪い。」
「話し合いなので互いにゆずらず長期化することが見込まれるので効率とは言えない」
「両国がしっかり話し合いに参加できており、漁業権・領有権も半々なので公正である。」
「二国間で話し合って半々に分けるのだから、二国の利益に差が出にくく納得した上で行
っているので公正である。」
②課題
誤答率・無答率が高い 原因としてあげられるのは、効率と公正の概念は理解している
が、 X 、 Y を「効率」「公正」と明らかにしていない、又はこの用語を正確に覚えて
いないという理由で誤答になっている者が多くいたことである。
「交渉のため、意見のくいちがう可能性もあり、時間がかかる。」←効率を入れていない。
「どちらの意見も合わせるし、半分ずつに分けるので公平である。」←用語間違い
よって、一概に思考力・判断力・表現力を高められていないとは言い切れない。「効率」
「公正」の概念を理解しているかどうかを問いたいのであれば、問題文で「効率」
「公正」
を明らかにしておかなければいけなかったことであった。この問題で、「効率」「公正」
の知識も問うなど、2つ以上を組み合わせると正確な成果がわからなくなるので、気をつ
けていかなければいけない。
また、この「現代社会の見方・考え方」をもう少し身近な例で、概念を獲得してからが
順序として大切であると考える。
(文責
29
龍瀧治宏)
理科教育グループ
理科の問題解決学習におけるタブレットの効果的な活用と課題
—3年「きらきらクリスマスツリーをつくろう」
4年「ものの温まり方」に着目して—
附属小学校 : 橋本大一郎、○鼎 裕憲、○福田慎一郎、有島智美
附属中学校 : 堀 篤史、大門知代、玉生貴大
大
学 : 椚座圭太郎、松本謙一、林 衛、◎片岡 弘
(◎代表、○実践)
1. 今年度の目的と成果
ICT などを活用した教育の情報化は、協働型・双方向型の学習を推進することが期待され
ている。文部科学省の実証研究報告書[1]では、理科における ICT 活用の効果として、自然
事象への関心・意欲・態度、科学的な思考・表現、観察・実験の技能、自然事象についての
知識・理解の向上が挙げられる一方、留意点として、学習場面に応じたコンテンツの使い分
け、学習内容に応じた提示方法の変更が指摘されている。
理科の問題解決学習において、ICT 活用が効果を上げる場面と、反って効果を低下させる
場面が存在するならば、その見極めと使用法が重要となってくる。附属小学校では 2014
年 9 月よりタブレット 40 台が導入され、授業での ICT 活用の実証研究が進められている
[2]。これらを踏まえて、理科の授業におけるタブレットの効果的な活用法および課題の探
索を今年度の研究目的とした。実践の結果、生徒が主体となる問題解決学習を中核に据え、
ICT の補完的な使用の重要性が浮き彫りとなった。
2. 活動経過
部会会議を 4 回開催し、方針と授業実践者(3 年生・鼎、4 年生・福田)の決定(5 月
27 日)
、指導案の検討(11 月 8 日、1 月 27 日)
、総括(3 月 24 日)を行った。タブレ
ット活用の有無による違いを比較するため、タブレット操作に習熟している ICT 活用群(3
年 1 組、4 年 2 組)と、タブレット未使用の ITC 未活用群(3 年 2 組、4 年 1 組)を対
象とした。題材として、3年生「きらきらクリスマスツリーをつくろう」および 4 年生「も
のの温まり方」の単元を取り上げた。年度の前半は ICT 活用群児童のタブレット習熟期間
に充て、年度後半に 6 回の実践授業を公開して検討材料とした[3]。詳細を次ページ以降、
授業実践者から報告する。
(文責:片岡 弘)
文献 [1]文部科学省「学びのイノベーション事業実証研究報告書」
(2014) [2]鼎裕憲, 富山大学人間発
達科学部・附属学校園共同研究プロジェクト平成 26 年度報告書, 145–150p(2015) [3]日時クラスは、
2015 年 12 月 15 日(火)
(1 限)3 年1組(2 限)3 年 2 組、12 月 16 日(水)
(1 限)3 年1組(2
限)3 年 2 組、2016 年 2 月 25 日(木)
(5 限)4 年1組、3 月 2 日(水)
(4 限)4 年 2 組
30
第3学年
理科
学習指導案
授業者
3年2組担任
(男子17名
1
単元名
2
単元のねらい
女子17名
鼎
裕
憲
計34名)
きらきらクリスマスツリーをつくろう
○ 豆電球を使った明かりのつけ方に興味をもち、進んで電気を通す物を調べたり、乾電池や豆電球、導線等
を使って明かりをつけたりしようとする。
(自然現象への関心・意欲・態度)
○ 銅線を長くしたり折り曲げたりしたりしても電気がつくことを水の流れと比較し、電気のイメージ図を書くこ
とを通して、電気の特徴について考えることができる。
○
(科学的な思考・表現)
乾電池と豆電球と導線を使って、回路を作ったり、電気を通すものや通さないものを使ってスイ
ッチを作ったりすることができる。また、実験の方法や結果を記録することができる。
(観察・実験の技能)
○
電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方があることや、電気を通す物と通さない物があることを
理解することができる。
3
(自然現象についての知識・理解)
単元について
(1)学習指導要領と本単元のかかわり
本単元は区分「エネルギー」の「エネルギーの変換と保存」の内容であり、第4学年「A(3)
電気のはたらき」の学習につながるものである。ここでは、①「電気の通り道について興味・関心
をもって追究する活動」を通して、②「電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方」③「電気を通す
物と通さない物を比較する能力」を育てるとともに、それらについての理解を図り、④「電気の回
路について見方や考え方」を持つように指導すること目標としている。
①については、12月にクリスマスツリーを作ろうと意欲を高め、たくさんの豆電球を使って光
を付ける。②については、豆電球と電池のつなぎ方によって電球がつく回路とつかない回路を調べ、
獲得した知識を基にクリスマスツリーに豆電球を灯す。また、クリスマスツリーから電池を遠ざけ
て理想的なツリーを作りたいという願いから、導線をねじったり、長くしても光が付くことを実験
を通して理解する。③については、クリスマスツリーを点滅させたいという願いから、スイッチづ
くりを通して電気を通すものと通さないものについて理解する。④については、自分のクラスのク
リスマスツリーを輝かせたいという願いを持ちながら、対象と何度も関わりながら電気について知
識を構築していく。それによって子供たちの電気に対する見方や考え方が深まると考える。
(2)単元について
①
電気についての見方や考え方を養うイメージ図
子供たちは10月に磁石の学習を行っている。磁石の学習では磁石の周りにある力についてイ
メージ図をかいている。本単元も電気に対する見方や考え方を深めていく単元であるため、電気
についてのイメージ図を何度も書くことになる。まずは、電池、ソケット、豆電球で光がついた
とき「電気くん」がどのように流れているかを想像する。実験結果から電気について考える第1
段階である。次に、導線が長くてもねじってあっても光がつくという実験結果から電気について
考えることが第2段階である。さらに、スイッチづくりを通して電気を流す物の共通点から金属
31
の中を電気が流れる様子について考えることが第3段階である。このように、子供たちは実験を
繰り返すごとにイメージ図を書き加えることで、徐々に電気についての見方や考え方を養うこと
ができると考える。
②
知識を獲得しながら、目標に近づいていく喜びを実感できる単元構想
クラスのクリスマスツリーを自分たちで作った電飾で輝かせようという単元のゴールを示し
た学習は、3年生の発達段階において楽しみながら意欲的に活動できる手立てとなると考える。
豆電球に光が付けられるようになったらツリーに飾る。次に、導線を長くして電気が流れること
が分かったからツリーに豆電球を飾る。さらに、スイッチを使って点滅させることができたから
再び豆電球をツリーに飾る。このように、一つ一つ身に付けた知識や技能を活かしてツリーを飾
ることで、できあがった満足と理想とのズレに気付き、子供たちの中から新た課題をつくり上げ
ることができる。そして、一つ一つ課題を解決していくことで諦めずに何度もチャレンジした喜
びや達成感を感じることができる。
③
物作りを通して実感を伴った理解へと導く
本単元は、子供たちが実際に手を動かし、結果を自分の目で確認できる単元である。また、子
供たちが疑問を感じ試してみたいと考えた実験を安全に行えるのもこの単元の特徴である。その
ため、長い導線を使ったり、身近な物を使いスイッチを作ったりしながら、子供たちが納得いく
まで対象に関わること、さらに得た知識を体系化することで実感を伴った理解へと繋がると考え
る。
(3)ICTの活用と検証
理科の問題解決学習は次のように構成される。
ICT が利用できる場面は、事象との出合いを大きく提示する、実験結果を写真に撮る、その写真を
見ながら考察する、写真を基に集団で根拠を持って話し合う、自分のイメージ図を大きく提示して説
明するであると考える。
3年2組は4月よりタブレットを使って授業を行っており、子供たちも高い技能が身に付いている。
また、機材もそろっている。そこで、3年2組を ICT 活用クラス、3年1組を ICT を使わないクラ
スとして、ICT が効果的に使える場面はどこか、逆に ICT を使うことで授業を遅延させたり混乱させ
たりする場面はどこかについ検証し、理科の問題解決学習における ICT の効果的な利用方法を考える。
32
4
全体計画(全10時間)
時
一
次
①
②
主な学習活動
子供の様相
ICTの利用(機器)
キラキラクリスマスツリーをつくろう
〇
提示した一つだけ豆電球がついたクリスマスツリーを見て、
もっと家を作り、光らせたいという意欲をもつ。
〇
豆電球、ソケット、電池を使い、豆電球が光るつなぎ方とつ
かないつなぎ方を調べる。
電気がつく回路とつかな
い回路を写真に撮る。写真を
基にモデル図を作ることで、
証拠のあるモデル図で話し
合いを行うことができる。
③
・
電池の+と‐のところにソケットの導線を付けるとつくよ。
(タブレット・らくらく支
・
電池の側面に導線をつないでも電気がつかないよ。
援・一括印刷・ファイルサー
どうして、豆電球に光が付くのだろうか。
〇豆電球を虫眼鏡で観察し、光が付く仕組みを考える。
・
豆電球の中のくるくるしている部分が光っているよ。
・ きっと、+と‐からでた電気くんがぶつかり合って、光ってい
るんだよ。
・
バー)
ワークシートに書いたイ
メージ図を実物投影機で写
して説明することで、実験結
果と照らし合わせながら妥
びりびりとした電気が豆電球のフィラメントで渋滞して光っ
ているんだよ。
当な考えかを吟味すること
ができる。(実物投影機)
〇
クリスマスツリーに飾り付ける。
・
クリスマスツリーの中に電池がたくさんあってかっこわるい
よ。
・
導線を長くして、豆電球だけをクリスマスツリーにつなげば
いいのではないかな。
・
あまり導線を長くしすぎると電気が豆電球まで届かなくなる
のではないかな。
④
電池はツリーから離して、豆電球だけをツリーで輝かせよう
導線を長くしても豆電球は光るのだろうか。
ワークシートに書いたイ
メージ図を実物投影機で写
・
1m くらいならつくと思う。
して説明することで、実験結
〇
1,2,3m の導線を使い、豆電球がつくか確かめる。
果と照らし合わせながら妥
〇
30m の導線では豆電球がつくかどうか考える。
当な考えかを吟味すること
・
さすがに 30m は無理だよ。水と同じで電気の勢いが足りな
ができる。(実物投影機)
いと思うよ。
・
導線の長さは関係ないと思うよ。だって、電気はすごい速さ
で動いていると思うから。
⑤
遠くにある豆電球がつい
〇
30m の導線で豆電球がつくことを確かめる。
たかどうかを全員が判断で
・
すごい。豆電球がついた。電気はすごい勢いで動いているん
きるように拡大提示する。
だ。それから、電池につなげたら一瞬で光が付いたから、電気
(プロジェクター、実物投影
はとても速く動いていると思うよ。
機)
33
時
⑥
主な学習活動
子供の様相
〇
クリスマスツリーに豆電球だけを飾り付けする。
・
前よりもクリスマスツリーらしくなった。でも、クリスマス
ICTの利用(機器)
ツリーはちかちかと点滅しているものだよ。点滅させたいな。
・
電池のテープを毎回はがすのは大変だから、スイッチを作ろ
う。
⑦
〇
先生がアルミホイルと銀の工作用紙で作ったスイッチ(常時
通電)を観察する。
・
これならうまくいきそうだ。あれ?電気がついたままになっ
てしまった。
・
アルミや銀の画用紙は全部が銀色だから電気を通すのではな
いかな。電気を通さないものを使わないと行けないのではない
かな。
どのようなものが電気を通し、どのようなものが電気を通さ
ないのだろう。
⑧
〇
身の回りにある電気を通すものと電気を通さないものを手作
りテスターを使って探す。
電気を通すものと通さな
いものを手作りテスターで
・
金属は電気を通すんだね。
チェックしている様子を写
・
紙などの金属ではないものは電気を通さないんだね。
真に撮る。写真を見て話し合
うことで知識の共有化がで
⑨
〇
スイッチを作ろう
きる。
・
電気を通すものと通さないものをうまく使ってスイッチがで
きたよ。
・
でも、点滅させるためには、スイッチを付けたり消したりし
続けなくてはならないな。自動的に点滅するスイッチができな
いかな。
・
音楽室にあるメトロノームで点滅するスイッチができないか
な。
⑩
〇
点滅スイッチを付けて、クリスマスツリーを飾ろう
・
きらきらクリスマスツリーが完成したよ。
34
5
本時案①(7/10時間)
(1)本時のねらい
アラザンが電気を通すかどうかを考えることを通して、物の性質を捉え、金属とは何かについて考え
ることができる。
(科学的な思考・表現)
(2)展開
学習活動
指導上の留意点及び評価
アラザンは電気を通すのだろうか
1 課題について予想を話し合う。
<電気を通すと考える児童>
・ 銀色だから通すのではないかな。
<電気を遠さないと考える児童>
・ 電気を通す物は金属である。金属は鉄や銅のよう
に堅いか、アルミ箔のように堅いアルミを延ばした
もので、もともとは堅いものだ。アラザンはもとも
と堅い物ではないから金属ではない。金属ではない
から電気は通さない。
・ そもそも、アラザンは食べることができるから金
属ではないので電気を通さない。
・ 空き缶のように銀色の塗料が、砂糖に振りかけら
れているだけだから、空き缶同様に電気を通さない。
・ もしアラザンが電気を通したら金属ということに
なるが、友達の考えも聞いてアラザンは金属ではな
いだろう。
ICT機器の活用の工夫
話し合いの前に自
分の考えをタブレッ
トで集計する。
既習を活かしなが
ら説明させることで、
アラザンや金属サ
そ れ ぞ れ の 意 見 に 説 ンプルを拡大表示す
得 力 が 増 す よ う に す る。
る。
<はじめの認識>
電気を通す物は金属である。金属と
は、堅いかたまりで、かがやきを持っ
ているものである。(電気観、金属観)
金属の特徴を表に
まとめることで、児童
の金属観が板書に位
置付くようにする。
話し合いの末、自分
の考えがどうなった
からをタブレットで
集計する。タブレット
での集計によって機
械的に考えの変化を
掴むことができる。
アラザンは金属ではないのか?
2
手作りテスターでアラザンに電気が通るか実
験で確かめる。
・ 電気が通った。アラザンも金属だと言うことが分
かった。
・ 金属にも食べることができるものがあることが分
かった。
・ アラザンはどんな金属なのだろう。パッケージを
見ると「銀」と書いてある。きっと銀の粉がかけて
あるのだと思う。
・ 今まで考えていた金属のイメージが変った。もし
かしたら、銀紙も電気が通るのだろうか。
・ 銀が金属なら銀も金属だろうか。金も電気が通る
のだろか。金が通れば金紙も電気を通すかもしれな
い。
3
手 作 り テ ス タ ー で 銀 紙 、金 、金 紙 に 電 気 が 通 る
か実験で確かめる。
・ 銀紙、金、金紙も電気が通った。全て金属だと言
うことが分かった。
・ 金属とは、堅い物だけではなく、金や銀のように
薄くのばしていたり、食べられたりするものもある
ことが分かった。金属といっても、身の回りにある
だけでも多様な性質を持っているものだと思う。も
っと金属について調べてみたいと思った。
35
実験中の様子をタ
通電したこと、パッ ブレットで撮影し、実
ケージに「銀」と書い 験結果として映像を
てあることから、銀も 残す。
鉄の一種であると考
察できるようにする。
銀が金属であると
いう実感を伴った理
解をすることで、金に
ついてもその知識を
活用できるようにす
る。
<深まった認識を実感する姿>
アラザンに電気が通る事実から、金
属が形を変えた物についても調べたく
なる姿(発言・ノート)
<深まった認識>
電気を通す物は金属である。金属と
は、堅いかたまりで、かがやきを持っ
ているだけではなく、食べることもで
きるような物である。金属は身近に多
く、それぞれに特徴的な性質を持って
いる。 (電気観、金属観)
本時案②(8/10時間)
(1)本時のねらい
液体にも電気が流れること、特に純水ではなく水溶液に電気が通ることから、イメージ図を使って
電気の流れる様子について考えることができる。
(科学的な思考・表現)
(2)展開
学習活動
指導上の留意点及び評価
ICT機器の活用の工夫
レモン水は電気を通すだろうか。
1 課題について予想を話し合う。
<電気を通すと考える児童>
・ レモン電池というのを夏休みの自由研究でしたこ
とがある。そのときは豆電球が光ったから、レモン
水も電気を通すと思うよ。
・ 雷は高いところに落ちると言うけど、木などにも
落ちる。木の中は水が流れているから、その水に伝
わって電気が流れるのかもしれない。
<電気を遠さないと考える児童>
・ 電気を通すのは金属だから、レモンが通すわけは
ない。食べられた金や銀が電気を通すと行っても、
本当の食べ物のレモンは電気を通さない。
・ 金属は形を変えても形のあるもの(固体)だった。
しかし、レモン水は水のような形のないもの(液体)
だから、通さない。
2
手作りテスターでレモン水に電気が通るか実
験で確かめる。
・ 液体でも金属と同じように電気を通すことが分か
った。
・ 電気くんは固体の中を走っているのではなく、水
の中を泳ぐこともできる。
・ どんな水の中も流れるのだろうか。
電気はどんな水の中も流れるのだろうか。
3
手作りテスターで様々な水に電気が通るか実
験 で 確 か め る 。(蒸留水、食塩水、お酢、スポーツドリン
ク:いずれも水に薄めたもの)
・ 水は電気を通さなかった。でもそのほかの液体は
電気が通った。水の中に、何かを入れれば電気が通
るようになることが分かった。
・ もしかしたら、電気は自分で泳ぐことはできない
のかもしれない。電気は、水に入ると向こう岸まで
連れて行ってくれる船の役割をする物があれば異動
することができるのかもしれない。
・ 電気は金属の中を流れるだけだと思っていたけど、
液体の中を通るときは、流れる仕組みが変るのかも
しれない。電気って奥が深いな。もっと勉強してみ
たくなった。
36
<はじめの認識>
電気を通す物は、形は多様であって
も金属である。(電気観)
レモン水に電気が
通る理由や通らない
理由を既習事項や生
活経験から話すよう
にすることで、根拠を
もって仮説を立てら
れるようにする。
実験方法を実物投
影機で見せながら説
明することで、実験内
容を理解しやすいよ
うにする。
イメージ図を実物
投影機に写して説明
することで、全員に考
えが伝わるようにす
る。
全員が事実を観察
できるように、班に1
セットずつ用意する。
<深まった認識>
電気を通す物は、金属だけではなく、
液体も含まれる。但し、液体は純粋な
水ではなく何かふくまれていなくては
ならない。電気が液体の中を通るとき
は、金属の中を通るときとは違った仕
組みで通るようだ。電気の流れについ
てまだまだ知りたいことがたくさん出
てきた。(電気観)
<深まった認識を実感する姿>
電気を通す物は金属だけでなく液体
もあること、液体の中でも純水に何か
をまぜた物でなくてはならいことを理
解し、電気にはまだまだ知らないこと
がたくさんあり、もっと知りたくなっ
た姿(発言・ノート)
6
授業の実際
(1)問題解決の各場面における ICT の長所と短所
第 2 時では、「どのようにつなげば、豆電球は付くのだろうか」という問題を全員で考えた。一人に
【電池、ソケット、乾電池】をわたし個人で実験を始めた。以下は、ICT を活用したクラスと、活用し
なかったクラスの比較である。ここで、ICT とは実物投影機、電子黒板、タブレット PC を指す。
ICT 活用あり
ICT 活用なし
共通問題:どのようにつなげば、豆電球は光るのだろうか。
共通問題の解決のため、個人で探求する活動場面
写真1
写真2
子供たちは、豆電球が光るつなぎ方を見付ける
写真4
写真3
子供たちは、写真3のように豆電球が光るつな
と、タブレットコンピュータ(以下 TPC)で写真
ぎ方を探した。光ったつなぎ方は写真4のように
を撮った。写真1は豆電球等を机において導線と
ワークシートに記録した。
電池をセロテープで貼り付けて写真を撮ってい
る。写真2は豆電球等を手で持って光らせて撮っ
ている。
○短時間で撮影できるため、多数のつなぎ方を
○自分の手で回路をワークシートに書くことが
試みることができる。 でき、光るつなぎ方について整理する手立て
○光っているか光っていないかが明確で、ICT
になる。 無しの場合のワークシートへの転記ミスが起
▲回路を書いている間に、本当は光らないつな
こらない。 ぎ方をワークシートに書いてしまう。 ▲ワークシートに書くという作業がないので、
▲書くのに時間がかかり、45分の間に数個し
現象を整理していない。
か試すことができない。
結果を持ち寄る場面
写真5
写真7
写真6
写真8
写真5のように子供たちは撮影した写真をもと
写真7のように、みんなの前で実際に実験をし
にどのようにつなげば光るかを説明した。また、
て結果を見せながら発表した。写真8のように、
友達の意見を聞いて、新たに考えたことを説明す
光るつなぎ方を板書して紹介した。
るために、写真6のように実物投影機で操作を拡
大して映しながら説明した。
37
○写真を使うことで、正しい結果を根拠に友達
▲実験道具が小さすぎて、後部の子供たちには
に伝えることができる。 見えない。 ○実際の物を操作するときも拡大して提示でき
▲ノートと同じことを板書に書くのに時間がか
るため、現象を子供同士で共有できる。 かり、授業のリズムが崩れる。
結果から考察する場面
写真9
写真 10
写真 11
一本の輪になれば豆電球が光ると理解した子供
子供たちは、豆電球が光る仕組みを板書を使っ
たちは、その理由を考えた。子供たちは TPC に書
て説明した。
き込み、それを提示しながら自分の考えを説明し
た。
○多様な図形や色を使って分かりやすくイメー
○子供が板書を映しやすく、ノートづくりをし
ジ図を書くことができる。 やすい。 ▲画面を消すと、その子供の考えが残らないの
▲ノートに書いたイメージ図をもう一度黒板に
で、教師は子供の考えの要点を板書する必要
書き直すため時間がかかる。 がある。 ▲ノートのように細かく書けない。 □他の子供は、映像を見て友達の発表を聞き、
▲チョークの色は限られており、ノートのよう
教師の書いた板書を見てノートを書く。ノー
に多様な色が使えず表現しきれない。 トを書く力の低い 3 年生段階では効果的だが、
高学年になるにつれて同時に考えながら書く
力も必要となるため、逆効果になる可能性が
ある。 □今回は TPC でイメージ図を書いたが、子供の
ノートを実物投影機で映す方が短時間でで
き、詳しいイメージ図を使って説明できる。
TPC を使うか実物投影機を使うかの吟味が必
要である。 上記のような授業の流れで、子供たちは次のような知識を獲得した。
○電池と豆電球を一つの輪(回路)にすれば電気が流れて豆電球が光る
○電池には+極と‐極があり、それぞれに導線をつなげる
○豆電球とソケットはきっちりと締めていないといけない。
38
(2)体験を通して初めの認識を形成する
第8時では、子供たちが「どのような物が電気を通すのだろうか」という問題をもち、手作りテスタ
ーを使って調べた。
ICT 活用あり
ICT 活用なし
どのような物が電気を通すのだろうか
共通問題の解決のため、個人で探求する活動場面
写真 12
写真 13
写真 14
身の回りで電気を通す物を見付けると、TPC で
写真 15
身の回りで電気を通す物を見付けると、ノート
写真を写した。
に「電気のスイッチ」「水道」などと記録した。
結果を持ち寄る場面
子供たちは電気の通ったところを発表し、教師
はそれらを板書にまとめた。
写真14の子供は、「電気のスイッチ」、写真1
写真 16
5の子供は「トイレの水道」と話した。しかし、
写真 17
他の子供たちからは、
「電気のスイッチは通らなか
子供たちは撮影した写真を提示して発表した。
った」
「水道ってどこ?」といったように、その名
写真16では、テープカッターの刃の銀色の部分
称だけでは、混乱を招いた。そこで、もう一度全
が電気を通し、周りのプラスチックの部分は電気
員でその場へ行き、本当に電気が流れるかどうか
を通さなかったことを話した。写真17では、ス
を確かめた。すると、
「電気のスイッチじゃなくて、
イッチの周りの銀色のところが電気を通し、白色
スイッチの周りじゃないか。それならぼくも流れ
のスイッチ自体は電気を通さなかったことを話し
た。」と話す子供もいた。
た。
○テスターが反応している写真を見せるだけ
○個人の活動では、電気を落とすかどうかを短
で、他の子供たちと事実の共有ができた。 時間でチェックすることができ、たくさんの
○写真を見せることで、物のどの部分かもすぐ
物を調べられる。
に全員が把握でき、スムーズに授業が流れ
▲結果の共有が難しく、もう一度全員で事実を
た。 確認する必要があり、時間がかかる。
□テスターを操作する子供と写真を撮る子供
に分かれる必要があり、ペアで学習した。 どちらのクラスも、実験を通して、事実を確認して納得のいく知識(はじめの認識)を獲得した。
○電気を通す物は、銀色の堅い金属である。
○金属であっても、表面に塗料がぬってあれは、電気を通さない。
39
(3)
既習概念とのズレを生かした授業(思考の活性化)
本時では、アラザン(ケーキなどの装飾に使われる銀色の粒)を教材とし、アラザンに電気が通るか
どうかを考えた。
右図のように、前時までに
学習した「電気が通るのは金
属である」「金属は銀色」と
実態把握
知識の整理
電気が通るのは金属
金属は銀色
電気が通るのは金属
金属は銀色
金属は食べられない
金属は食べられない
いう知識と、生活経験から
「金属は食べられない」とい
課題の提示
う知識を子供たちはもって
いた。これらの知識の思考に
与える影響力は、子供によっ
て異なっていた。
A 児は「金属は銀色」とい
う知識が強く影響し、そのた
既習や経
験を生か
して予想
を立てる
検証
考察
ろうか」という課題に対して
見方の更新
新たな問題
アラザンは電気を通すだろうか
銀色だから通す
よ。
金属の銀箔が貼
ってあるのかも。
通った!
食べ物だから通さない。
アラザンを
食べてみる
甘いから砂糖に絵の具
が塗ってあるだけ。
電気を通してみる
触ると銀色が取れて
中が白いよ。
結果
め「アラザンは電気を通すだ
は「通す。なぜならば、アラ
アラザン:
ケーキ等の装
飾に使われる
銀色の玉
銀色が付いていると
きだけ電気が通る。
アラザンの中を電気が通っているのでは
なくて、周りの銀色を通っていると思う。
金属の中には食べられたり、絵の具のように塗ってあっ
たりする物もあるようだ。同じような金属はあるのかな。
ザンは銀色だから金属のは
ずだ」と考えたからである。
図1
一方、B 児は「金属は食べら
れない」という知己が強く影響し、そのため「アラザンは食べられるから金属ではない。だから電気を
通す」と考えた。
A 児と B 児のように、子供たちの考えが2つに分かれた。A 児の考えに近い子供たちは、「アラザン
に鉄分が入っているのではないか」
「銀箔が貼ってあるのではないか」
「金属が貼ってあるのではないか」
と考えた。B 児の考えに近い子供たちは、
「アラザンはそもそも甘い砂糖のような食べ物だ」
「砂糖に単
に色づけしてあるだけだ」と根拠を話した。
そこで、教師は子供たちをさらに揺さぶるために、子供たちに
アラザンを食べさせた。すると、A 児の考えに近かった子供たち
の多くが B 児の考えに傾いた。子供たちの中で「食べられるもの
は金属ではない」という意識が強くなったと考えられる。
子供たちの早く確かめたいという重いが強まったところで、検
証実験を行った。これまで使ってきたテスターを使って、アラザ
ンに電気が通るかどうかを調べた。すると、電気が通った。子供
写真 18
たちは、事実を確認するとすぐに電気が通る理由を考え始めた。
アラザンを触っていると、表面の銀色が解けてはがれて、中の
白い砂糖だけが残った子供が出てきた。
(写真18)その発見から、
子供たちは銀色の金属が周りに貼り付けてあると考えた。
(写真1
9)そして、これまで図2(左図)のようにアラザンの内部を電
気が通っていると考えていた子供たちが、アラザンの周りを電気
40
写真 19
が通っている(右図)と考えるようになった。
このように、電気観と金属観について「電気は
表面の金属部分をだけを通る」「金属の中にも食
べられるものがある」と深まった認識に至った。
この授業で ICT が効果的に働いた場面は写真
図2
1
8の、銀をはがしたアラザンに電気が通るかどうかを試した子供の発表である。ここでは、事実を共有
することで、子供たちから新しい電気の流れ方の概念が生まれた。イメージ図を TPC を使って書こう
とする子供はいなかった。
7
成果と課題
○
TPC は短時間で実験結果を撮影できるため、45分の間に多くの実験をすることができる。
○
写真を使うことで、正しい実験結果を記録できる。
○
写真や実物を提示して自分の考えを伝えることで、実験結果に基づいた発表になる。
○
写真や実物の提示など事実の共有は TPC が効果的であるが、イメージ図の提示には TPC より
もノートで書いたものを実物投影機で映した方が効果的である。単に ICT といえど、どの機械を
いつ使うかはしっかりと考えていかなくてはいけない。
▲
実験結果の冊絵だけに終わらず、ワークシートやノートに書くという時間をしっかりと確保する
ことで、子供たちは実験結果を整理することができる。
▲
電子黒板の画面が変ると子供の考えが消えてしまうため、板書と併用する必要がある。
◎
ICT ありきではなく、子供が主体となる問題解決学習をしっかりと行った上で、補完的に ICT を
使うことが重要である。その点から、本校で行ってきた矛盾を入れ、思考の活性化場面を授業の
中核に置く授業づくりが今後一層大切になってくると考える。
41
H27 共同プロ(理科)
理科の授業とICTの活用
―4年生「ものの温まり方」の実践より―
4年2組
福田 慎一郎
1
単元名 ものの温まり方
2
単元の目標
○
金属は熱せられた部分から順に温まり、水や空気は熱せられた部分が上に移動し動くことによって
全体が温まることを捉え、物質の状態によって温まり方が異なるという見方や考え方を育てる。
・ 金属、水、空気を温めたときに見られる現象に興味・関心をもち、金属、水、空気の温まり方
を調べようとする。
(関心・意欲・態度)
・ 金属、水、空気の温まり方と温度変化を関係付けて考えることができる。
(科学的な思考・表現)
・ 金属、水、空気の温まり方の特徴を調べたり、変化の過程や結果を記録したりすることができ
る。
(観察・実験の技能)
・ 金属は熱せられた部分から順に温まるが、水や空気は熱せられた部分が移動して全体が温まる
ことを理解している。
(自然事象についての知識・理解)
3
単元について
(1)単元の本質について
理科の本質は、「子供が再現性や実証性、及び客観性を保証する実験を行いながら、自然事象に対し
て働きかける方法とその結果としての知的体系を構築していくこと」
(
『今、なぜ教科教育なのか』日本
教科教育学会 p.56)である。つまり、理科という教科は、科学的な理解と処理する基礎的な能力、科学
的な能力や、科学的な見方や考え方の育成を目指しているといえる。
本単元は、
「粒子」についての基本的な見方や概念を柱とした内容のうちの「粒子のもつエネルギー」
にかかわるものであり、中学校第1分野「(2)ウ状態変化」の学習につながるものである。本単元の内容
について、学習指導要領では以下のように述べている。
(2)金属、水、空気と温度
イ 金属は熱せられた部分から順に温まるが、水や空気は熱せられた部分が移動して全体が温まる
こと。
このことから、本単元で大切なことは物質の温まり方を「熱伝導(物質の移動を伴わずに高温側から低
温側へ熱が伝わる移動現象)
」と「対流(流体の流れによって熱が伝えられる現象)
」という視点から捉
えることだと読み取ることができる。そのためには、固体(金属)と液体・気体(水や空気)の温まり
方の違いを調べ、ものの温まり方の違いを理解することを通して、熱の性質を「物質」ではなく「エネ
ルギー」の一つとして熱の性質と働きに目を向けることが大切である。つまり、
「ものの温まり方は熱の
動きであるととらえ、温まり方の特徴は、温められる物が動かない(固体)か、動く(液体、気体)か
で決まる」という見方や考え方ができるようになることが重要である。
これらのことをふまえ、本単元の本質を「エネルギーとして熱の性質と働きに目を向け、ものの温ま
り方を捉えること」とおき、本単元の構想を試みたい。
42
(2)アクティブ・ラーニングの3つの視点を踏まえた、資質・能力の育成
教育課程部会理科ワーキンググループでは、配付資料『理科教育のイメージ』で、小学校での問題解
決能力を以下のように設定している。
【思考力・判断力・表現力等
教科等の本質に根ざした見方や考え方等】
3年… 比較を通して、自然の事物・現象の差違点や共通点に気付き、問題を見いだす力
4年… 見いだした問題点について、既習事項や生活経験をもとに根拠のある予想や仮説を発
想する力
5年… 予想や仮説などをもとに質的変化や量的変化、時間的変化に着目して解決の方法を発
送する力
6年… 自然の事物・現象の変化や働きについてその要因や規則性、関係を多面的に分析し考
察して、より妥当な考えを作りだす力
『平成28年1月14日教育課程部会理科ワーキンググループ
資料5』文部科学省
本単元における当該学年では、「既習事項や生活経験をもとに根拠のある予想や仮説を発想する力」
に重点が置かれている。このことを踏まえ、本単元では、
「予想や仮説を発想する力」に重点を置き、子
供の主体的な問題解決学習となるよう単元を構想する。
「熱の伝導」と「熱による対流」を追究する ~課題別「○○研究所」~
本単元では、子供の追究課題に合わせて「熱の伝導」と「熱によ
る対流」を同時に扱う。スプーンでの事象提示後、各自の追究課題
(右表)を選択・設定する。
子供たちは、各自が追究したい教材を選択し、予想・仮説→実験
計画の立案→実験→考察→仮説→・・・と問題解決を行っていく。
この問題解決の過程の中で、子供たちは、以下のように既習事項や
1
金属グループ
① アルミ ②銅 ③真鍮
2 ガラスグループ
3 木グループ
4 水グループ
5 空気グループ
生活経験をもとに根拠のある予想や仮説を発想するだろう。
例)アルミグループ
【既習】
金属スプ
ーンは温
めた所か
ら順番に
熱が伝わ
った。
アルミも金
属の仲間だ
から、温め
た所から順
番に熱が伝
わる。
【実験計画】
アルミ板に
ロウソクを
ぬろう。温め
た所からロ
ウが溶ける
だろう。
【実験】
温めた所
からロウ
が 溶 け
た。
43
【考察】
アルミは、
温めた所
から熱が
伝わる可
能性が高
い。
アルミを
変形して
も、温めた
所から順
番に熱が
伝わる。
アルミ板や
アルミ棒の
形を変え
て、ロウソ
クをぬる。
(3)教材について
熱の伝わり方を体感する様々なスプーン
金属の温まり方を調べる際、物の温まり方を、物質の特徴と熱伝
導とを関係付けながら調べることが大切になる。そこで、導入では、
子供たちにとって、身近で、生活の中にある物を温めるところから
金属製
金属+木製
木製
ガラス製
スタートする。様々な材質のスプーンをお湯で温める活動からはじ
める。子供は、「金属は一番温まりやすいし、他のものよりもすご
く熱い」
「
『金属+○○』のスプーンだと、先の金属までは温まるが、
持ち手には熱が伝わらない」など、スプーンの材質の違いによって、
温まり方や熱の伝わり方が違うことに気付くだろう。
そして、金属の棒やガラス棒を温める実験を通して、物の質による熱の伝わり方を見る。金属棒もガ
ラス棒も、温めた所から温まることは共通しているが、熱の伝わる速さが違うことに気付くだろう。
これらの活動を通して、
「物が固体の場合は、高温側から低温側へ熱が伝わる」という熱伝導につながる
見方や考え方をもてるようにする。
「熱による水の対流」を追究する、簡易対流装置
子供は、水の温まり方を追究すると、温めた場所と違う所から温まるこ
とに問題意識をもち、解決したいと願う。そのとき、「左上の方を温める
と?」「真ん中の方を温めると?」「右下を温めると?」など、温める場所
を変えても同じ結果になるのか疑問に思うだろう。
そこで、右写真のように、上下左右可動式の電熱線を水中に入れ、温め
る場所を幾通りにも変えて調べられるようにする。また、温度計、示温テ
ープ、示温インク、おがくず等、色々な実験を試すことも可能である。
これらの活動をとおして、ものの温まり方は熱の動きであるととらえ、温まり方の特徴は、温められる
物が動かない(固体)か、動く(液体、気体)かで決まる」という見方や考え方をもてるようにする。
5
ICT の活用
(1)教科指導と ICT の活用
ICT 活用について、東北大学の堀田龍也氏は以下のように述べている。
「教科指導におけるICT活用」は、各教科の目標を達成するための効果的な学習指導を目指し
て、ICTを活用することを指す。
(中略)
したがった、ICT活用を行う場合に想定している学力は、各教科で求める学力である。ICTは
教育方法の改善として活用するものであり、ICT活用そのものを目的としてはいけない。
『授業の研究Fnet+』No.192
堀田龍也氏 論文
「課題の発見・解決」と ICT 活用
本質はこれらの機材を使って「何を映すか」にある。どの写真をその部分をどのぐらいクローズアッ
プするか、そして何と発問するかが重要である。
『授業力&学級経営力 No.70』明治図書
堀田氏の主張の通りである。これまでの研究授業、拙実践を通して実感したことと重なる。
ICT機器(実物投影機、一人一台の情報端末など)を活用しようと考えたとき、最優先に考えること
44
は、各教科の目標の達成であることは明確である。
そして、何を提示するのか、そして何と発問するのかを教師は吟味する必要がある。
さらに、これらの授業づくりを進め、子供たちが問いをもてるようにするには、すべての子供にとって
有効な「視覚情報」を提示することが ICT の活用場面となるだろう。
また、主体的・協同的な学びとなるために、以下のように堀田氏は述べている。
「主体的・協働的」と ICT 活用
児童生徒が主体的に学ぼうとするためには、学び手の側で課題が明確になり、自分ごとになっている必要
がある。(中略)
ノートを超えるタブレットの可能性としては、考えを記録する際に写真等を活用した表現が簡単にで
きること、グラフ等を簡単に作成できること、過去の学習成果を参照できることなどだろう。場合によ
っては、インターネット上にある資料を参照することも可能である。無線 LAN が整備されていれば、
複数の児童生徒の画面を比較することが可能となるし、いちいち前に出て行く必要もなくなり効率がよ
くなる。
このようなことが教室で繰り返されて初めて、児童生徒が主体的・協働的に学ぶ習慣ができあがってい
く。
『授業力&学級経営力 No.70』明治図書
理科の授業でいうならば、焦点化された問い、子供が解決したくてしょうがない状態となり実験をす
る。そして考察へと進む。
「実験 → 考察 → 結論」へと学習が進む中で ICT を活用することで、堀田
氏の主張にもあるように、効率良く進めることができるようになった。
また、これ以外にも、これまでの実践から、タブレット端末を用いると、以下のような様相が子供に
見られるようになった。
① 自分の問いを解決するために自ら動き出した子供は、
「証拠として写真や動画」に記録を残そう
とする。
②
記録した写真や動画を何度も見直し、納得がいかなければ再実験へと動きだす。
③
全体で話し合う際には、証拠となる写真や動画を見せながら、自分の説を述べようとする。
④
全体での話し合いでは、写真や動画があることで、より客観的に事象を捉えようとする。
⑤ 写真や動画があることで、子供たちは関係付けたり、比較したりしやすくなる。
(2)単元における ICT の活用
「より客観的に事象を捉える」ための ICT の活用
何度も繰り返し事象と関わることは、新たな気付きをもったり、新たな問いをもったりすることに
つながる。TPC で撮影した記録を基に話し合うことは、事象をより客観的に捉えることにつながると
考える。
本単元の中心は、熱の伝わり方の変化の記録である。これまで「観察」したことを記録する方法とし
て、ノートやカードへのスケッチが主流であった。カードへの記録は簡単であり、誰もが取り組める方
法である。しかしながら、描写する力が問われるため、事象を正確に記録しているかといえば、必ずし
45
もそうではなかった。また、観察する視点が不十分な場合、事象を細部にわたって記録することは容易
ではない。さらに、1枚のカードに絵を描くことに時間がかかるなどの問題点も見られる。
タブレット端末(以下、TPC)のカメラ機能を用いると、誰でも、正確に、ありのままの事象を記録
することができる。また、アップやルーズなどを用いることで、記録したい部分を限定して保存するこ
とも可能である。そして、撮影したものを繰り返し見たり、細部を拡大したりしながら、何度も消え去
った事象を確認し、これまでよりも、より客観的に事象を捉えることが可能となると考える。
事実を基に「より比較・関係付けしやすくなる」ための ICT の活用
解決せずにはいられない問いをもった子供は、TPC で記録した証拠を基に自分の説を積極的に説明
しようとする。その際、
「らくらく支援」で証拠の写真を提示したり、写真に書き込んだ証拠を提示
したりすることは、考えの共通点や差違点をより明確にしたり、理解したりすることにつながると考
える。
「らくらく支援」を用いることで、2枚の写真を比較して提示したり、写真に変化の様子を書き込ん
だりすることで、事実を基に変化の前後を説明することができる。これは、より事実に即して説明した
り、説得力を増したりすることにもつながると考える。また、聞き手にとっても自分が調べた結果と比
較したり、関係付けて考えたりしやすくなり、自らの考えを広げ、深めることにつながると考える。
46
6
全体計画(全11時間)
学
習 活 動
子供の様相
【第1・2時】
第
種類の違うスプーンの温まり方は、同じ? 違う?
一
次
○ 色々なスプーンやフォークをお湯で温め、温まり方
の様子を調べる。
材
質
と
金属製
も
木製
金属+木製
ガラス製
の
○ 上下逆さまにしても、温まり方は同じになるのか調
の
べる。
温
【第3・4・5・6時】・・・材質別個人追究
ま
ものの温まり方の秘密を探ろう ~○○研究所~
り
方
個
人
追
究
○ 追究する材を選択し、ものの温まり方を追究する。
【アルミ】
金属の仲間
だから、金属
スプーンと同
じように、順
番に温まると
思う。
【銅】
金属の仲間
だから、金属
スプーンと同
じように、順
番に温まると
思う。
【真鍮】
金属の仲間
だから、金属
スプーンと同
じように、順
番に温まると
思う。
【ガラス】
ガラスのスプ
ーンと同じよ
うに 、順 番 に
温まると思う。
【木】
木のスプーン
の時 と同 じよ
うに順番に温
まると思う。で
も、温まるの
は時間がか
かりそう。
【実験計画・実験】
・各材質の板にロウをぬる。 温めた所から順番にロウが溶けるか調べる。
・各材質の板に氷をおく。 温めた所から順番に氷が溶けるか調べる。
・各材質の板に、示温テープや、フリクション色鉛筆をぬり、色の変化を調べる。
・各材質の板の温度の違いを、温度計で調べる。
・温める位置を変えても、同じように順番に温まるのか調べる。
・各材質を、板ではなく、棒状でも同じように順番に温まるのか調べる。
・各材質の形を変えても(コの字、Yの字、螺旋など)、同じように順番に温まるの
か調べる。
温めた所から、順番に熱が伝わり、全体が温まる。
【第7・8時】
・・・全体追究
○
各自が調べたことをもとに、「○○の温まり方」の
報告をする。
47
【水】
金属などと同
じで、温めた
所から順番に
温まると思う。
【実験計画・実験】
・温度計で水温を
測る。
・示温テープで、
温度変化を調べ
る。
・おがくず等をい
れ、水の動きを調
べる。
・示温インクで、温
度変化と水の動き
を調べる。
温めた所とは違う所から温ま
る。温まった水が動いて、全体
が温まっている。
第
なぜ、温められた水は上へ動くのだろう?
二
次
○ 温めた所と違う所が温まった理由を考える。
○ 水が温まると重さは軽くなるのか、実験方法を考え
熱
る。
伝
・水の中にお湯
の入った風船
を入れる。
・お湯の中に水
の入った風船
を入れる。
導
と
対
・水100mlとお
湯100mlを測
りとり、電子ば
かりで重さを比
べる。
・100mLの水
をあたため、加
熱前後の重さ
を比べる。
・容器の右側に色
の付いたお湯を、
左側に水をいれ、
しきりで分ける。
しきりをそっとと
る。
流
○ 実験で確かめ、水が温められるとぐるぐる動く理由
を考える。
【第9・10時】
・・・全体追究
空気を温めると、どのように全体が温まるの?
○ 水の既習経験を基に、気体の温まり方を予想する。
○ 実験方法を考え、実験で確かめる。
・教室に閉じ込
めた空気を温
め、温度計で
温度を測る。
・容器の中で、空
気を温める所と
冷やす所をつく
り、空気が移動
するか線香の煙
で確かめる。
・大きな段ボー
ルをつなげた
空間の上下左
右で温度が違
うのかを調べ
る。
○ 気体の温まり方を考察する。
【第11時】
・・・個人研究
○ これまで調べてきた、ものの温まり方をまとめる。
※伝導と対流を比べて整理する。
【課外+2時間】
・・・熱気球作り
参考文献
・
『学習指導要領解説 理科編』文部科学省
・
『自由な試行活動による 発想を育てる理科の授業』初教出版
・
『自然読解力をはぐくむ授業と教材提示』学校図書
・
『今、なぜ教科教育なのか』文溪堂
・
『授業の研究Fnet+』No.192 新潟大学教育学部附属新潟小学校
・
『授業力&学級経営力』NO.70 明治図書
・
『平成28年1月14日 教育課程部会理科ワーキンググループ 資料5』文部科学省
・
『平成28年2月5日 教育課程部会理科ワーキンググループ 資料5』文部科学省
48
7
本時案(7/11時間)
(1)ねらい
○
熱せられた水の動き方の観察を通して、水の温まり方について予想することができる。
【科学的な思考・判断】
(2)展開
学
習 活 動
指導上の留意点
金属、木、ガラス、水はどのように温まるのだろう?
1
各自が追究してきて分かったことを話し合う。
・熱伝導と熱による対流の違いが
・アルミは、板でも、棒でも、熱したところから順番に温まっ 分かるように、比較して板書に位置
た。
づける。
・真鍮は、板でも、棒でも、変形させても熱したところから順
・どんな実験結果から得た考えか
番に温まった。
を発表させることで、客観的にもの
・銅は、板でも、コの字、Yの字、Aの字型でも、温めたとこ の温まり方を捉えられるようにす
ろから順番に温まった。
る。
・木も、温めた所から順番に温まった。
・考えを発表する際には、実物を提
・ガラスも、板にしても、ビンにしても、温めた所から順番に 示するように促すことで、イメージ
温まった。
を共有できるようにする。
・どれも、温めた所から順番に熱が伝わっている。たぶん、熱 ・各材質の温まり方を図示させる
君が温めた所から順々に移動していっているのだと思う。
ことで、実験結果を共有できるよう
・でも、水は違ったよ。水は、下から温めたのに、上から温ま にする。
った。
・水の温まり方とその他の材質の
たぶん、水は、温めるとぐるぐる回っているんだと思う。
・え?本当に水は、ぐるぐる回って温まるの?
温まり方を比較することで、水だけ
温まり方が違うことに問題意識を
もてるようにする。
2
本当に水はぐるぐる回って温まるのか、観察する。
・水の対流の現象を見ていない児
・下から温めたのに、上から水が温まっている。
童が多いので、全員が対流の様子を
・時間がたつと、だんだんと温かい水が下がってくる。
観察できるようにする。
水を温めると、ぐるぐる回るのはどうしてだろう?
3
温められた水がぐるぐる回る理由を予想する。
・金属とかと違って、水はやわらかい。だから、温めると、動 ・温まった物が移動するという現
きながら全体が温まっていく。
象を生活経験から想起させること
・温められた水が上へいくと、上の部分にいた水の行き場がな で、予想を考える際の根拠となるよ
くなる。すると、冷たかった水をおしている。それが繰り返 うにする。
されてぐるぐる回るのだと思う。
・水は、温められると軽くなるから上に行くんだと思う。そし
て、上に行くと、そこにあった冷たい水は行く場所がなくな
り、おされて下に沈むんだと思う。
【評価】
・水の温まり方について予想し、
考えを表現することができるか。
(発言、ノート)
49
8
授業の実際
第1・2時 種類の違うスプーンの温まり方は、同じ? 違う?
◆ 単元の導入では、材質の異なるスプーンを温め、熱の伝わる様子を調べた。
子供たちは、それぞれのスプーンをお湯で温め、手で触りながら温度の違いを調べた。実験を通して、
①金属②陶器③金属+木④プラスチック⑤木という順に熱が伝わりやすいことに気付いた。また、同じ
温度で温めても、材質によって熱くなる速さが違うこと、熱くなる程度が違うことにも気付いた。特に、
金属+木製のスプーンでは、金属部分はすぐに温まるが、持ち手の木の部分には熱が伝わっていないこ
とに疑問をもつ子供が多かった。
そこで、金属+木製のスプーンが、持ち手に熱が伝わりにくいのはどうしてか話し合った。
◆
話合いでは、
「木は、他の物に比べて、なかがスカスカになっている。だから、金属部分から伝わった熱が木の中の
隙間で止まってしまう」
「金属って、金属君同士がぎゅっとくっついているから、熱が伝わりやすい。でも、木の中には隙間が
あって、その隙間を熱が通るとき、空気にふれて熱パワーが弱くなってしまうのだと思う」
など、金属と木の材質の違いから「熱の伝わり方」についてイメージを膨らませていった。
話合いが進むにつれて、子供たちは、
「きっと、逆さまにして、木の部分を温めても熱は伝わりにくいか
ら、先の金属まで温まらないはずだ」と考えを深めていった。
そこで教師は、
「温める部分を上下逆さまにすると、熱は伝わるの?」と投げかけ、板書に位置付けた。
子供たちは、これまでの既習経験から「少しは伝わる」と考えている子供が多かった。理由を聞くと、
「木の部分は隙間があるから、熱が伝わりにくい。だから、金属に熱がたどり着いたとしても、熱パワ
ーが弱くなっている」
「木と金属の熱の伝わり方は違うから、木の部分で、熱パワーが弱くなって、消えてしまう。だから上
の金属部分まではたどり着けない」などと予想した。
◆
実験で調べてみると、予想通り金属部分に熱はほとんど
伝わっていなかった。この結果から、子供たちは、以下の
ように材質と熱の伝わり方についての認識を深めた。
○ 物は、温めた所から順番に熱が伝わっていく
ことで、全体が温まる。
○ 物の材質によって、熱の伝わる程度や時間は
異なる。
50
第3~6時 各自のテーマ別に「ものの温まり方」を調べる
◆ 材質の違いによってものの温まり方に違いがあることに気付いた子供たちに、以下の素材を提示し、
「○○のあたたまりかた研究のスペシャリストになろう」と投げかけ、追究テーマ別にグループを編
成し、グループ追究を始めた。
子供たちに提示した「素材」
○アルミ ○真鍮 ○銅 ○ガラス
○木 ○水 ○空気
※「空気」については、子供から調べたいという意見が出たので、単元計画を入れ替えて扱うこととな
った。
◆
グループ別追究では、次のような流れで、取り組んだ。
温
ま
り
方
の
予
想
実
験
計
画
を
立
て
る
実
験
で
調
べ
る
づ
く 実
り 験
結
果
か
ら
仮
説
実
験
計
画
を
立
て
る
仮
説
検
証
の
た
め
の
実
験
で
確
か
め
る
仮
説
の
検
証
結
論
を
出
す
※TPC・・・タブレット端末を活用
実験中は、仮説を証明するための根拠として、タブレット端末(TPC)をもちいて、写真や動画で
記録を撮るように伝えた。
◆
アルミ、真鍮、銅、ガラス、木を選択した子供たちは、以下のように追究する姿が見られた。
【予想】
(スプーンでの既習を生かして)
温めた所から順番に熱が伝わって、温まっていく
正方形の板状の材の端から温める
【仮説】
温めた所から順番に熱が伝わり、全体が温まってい
く。
それならば、物の形を変えても、温める場所を変えて
も、温めた所から順番に熱が伝わって全体が温まるはず
【検証実験】
【検証実験】
形や大きさを変えて調べる
温める場所を変えて調べる
【結論】
温めた所から順番に熱が伝わり、全体に広がって温まる
51
◆
水、空気を選択した子供たちは、以下のように追究していった。
【予想】
(スプーンでの既習を生かして)
温めた所から順番に熱が伝わって、温まっていく
閉じ込めた空気や水を、端から温める
温める場所を変えて調べる(何度も)
【仮説】
温められた水や空気が上へ動いているのかも知れな
い。
【検証実験】水や空気の動き方を調べる
【結論】
温められた水や空気派上へ上がり、ぐるぐる周りながら全
体が温まる。
◆
子供たちは、各自が追究した材質の温まり方について結論を出せたことに満足している様子であっ
た。そこで教師は、子供たちが追究してきたものの温まり方について、全体で共有する場を設けた。
第7時
◆
金属、ガラス、木、水、空気はどのように温まるの?
本時では、ICT 機器(TPC)を活用したクラスと、未活用のクラスでどのように授業が異なるのか
を検証した。そこで、両クラスを比較しながら授業の考察を行う。
導入場面での比較(各班の証拠を基に、温まり方を話し合う)
TPC 機器
T
未活用のクラス
TPC 機器
調べたことから、どのように温まると言え
そうですか?
C1
T
活用したクラス
調べたことから、どのように温まると言え
そうですか?
真鍮の温まり
C1
方だけど、ロウを塗
真鍮は、こんな
風
って調べたんだけ
に、火を当てた場所
ど、火の近い所から
から順番に温まっ
温まったんだけ
た。ほら、これが証拠。
ど・・・
(TPC の写真を見
(黒板に来て絵を描く)
せる)
C2 そうそう。真鍮ってそんな風に、火の近く
52
から温まった。
C2 あ!!
C3 真鍮の板の形を変えてみたけど、やっぱり、
ガラスも同じ!!
火の近くから順番に広がって温まっていった。 C3 木も同じだ!!
C4
銅を温めたんだけど、真鍮と同じように火
の近くから順に温まった。
C4
銅も、同じ温ま
り方をしている。
(黒板に書きにくる)
C5
銅を輪っかにして、
T
リングを作ったんだけ
何?何?ちょっとまって。
どうしたの?
ど、(身振り手振りを交
C2
材質は違うんだけど、温まり方が同じなん
えて、何とか説明しよう
だよ。私はガラスを
と試みる)
温めたんだけど、真
C6
銅を輪っかにして、
鍮の温まり方と同
たくさんつなげた。
C5
じで、ガラスも火の
そして、輪っかの一番上にロウソクを立て
てみたら、
近くから順に温ま
った。ほら。
(証拠を
C (板書を見て)あ~そういうことか。
見せる)
C7 ガラスも、真鍮や銅と同じで、火に近い所か
ら順に温まっていった。
C お~本当だ。一緒だ。
C3 アルミも一緒だったよ。(証拠を見せる)
C8 ガラスの板を傾けて調べたんだけど、
C4
銅も同じだっ
C 傾けるって何?どんな実験なの?
た。他の班と同じよ
C8
うに、火の近くから
だから、こんな風
に傾けて、左下から火を
順に温まる。
当てた。すると、真鍮と
それに、形をこんな
か 銅と 同じよ うに 火の
風に変えても、火の
近くから順に温まった。
近くから順に温ま
った。
C5
固いものって、同じ温まり方をしているみ
たい。
<<考察>>
TPC 未活用のクラス
各自がもっている情報を伝えようと試みる。しかしながら、発言者のイメージが全体で共有できない
ため、意見を聞いていても理解が難しい。その状況を感じ取った発言者は、伝えたい内容を板書して説
明したり、身振り手振りを交えて説明したりする。
TPC を活用したクラス
各自がもっている情報を写真や動画を用いて伝えようと試みる。そして、発言者のイメージをすぐに
全体で共有できるため、理解しやすいといえる。また、TPC を活用したクラスでは、第一発言者の C1
児(真鍮グループ)の発言を聞いて、ガラス班、木班、銅班、アルミ班の子供たちもすぐに同調してい
る。さらに、C5 児の「固い物って、同じ温まり方をしているみたい」という発言から、C5 児は写真や
動画で提示された証拠を関係付け、共通点を見いだしていると捉えることができる。
53
このように TPC の活用の有無によって授業に違いが現れたのは、次の3点が関係しているように考
えられる。
①
TPC で撮影した証拠の映像が根拠として明確であること。
② 写真や動画があることにより、自分の調べた情報と比較して考えやすくなっていること。
③ 写真や動画があることにより、自分の調べた情報と関係付けて考えやすくなったこと。
問題を焦点化する場面での比較
(流体と固体の温まり方の違い)
TPC 機器 未活用のクラス
TPC 機器
C9 僕たちは違う。
活用したクラス
C6 水なんだけど、火の近くからではなくて、火
水なんだけど、火
から遠いところから温まった。水面から。
の近くからでは
C え? どういうこと?
なくて、日から遠
C8 こんな風に。(証拠を提示する)
い、一番上から温
上に上がって、そして下に下がっていく。ぐる
まった。(板書す
ぐるみたいに。
る)
C
あ~、そういうことか。でも、上から温まる
の?
C はぁ?どういうこと?
C9 空気もなんだよ。空気も、上から温まるの。
C ・・・
水とすごく似ていて、空気なんだけど、水みた
C9
いに上から順に温まるの。温まった空気が上に
木のくずを入れてみたんだけど、こんな風
にぐるぐる回っていた。
上がっていったと
C ぐるぐる?どういうこと?
いうか。
C10 最初に、温度計で上
ほら、こんな風に
と真ん中と下の温度を
なるんだよ。
比べたら、一番上が先に
(証拠を見せる)
熱くなって、次に真ん中
温まった空気が、
が熱くなった。それが不
上がっていく道があるの。
思議で木のくずを入れ
C10 そうそう、水にも上がっていく道があるん
て調べてみた。
だよ。ほら、これ。
(証拠を見せる)
すると、木のくずがぐるぐると回り始めた。
C9
C あ、動いている。本当だ、上に動いている。
だから、水ってぐるぐる回りながら温まっ
C2
ているのかなって考えた。
C2
でも、これっ
て、木のくずが動
そんなん分からんよ。木の重さで上がった
いているだけであ
り沈んだりすることもあると思うし。ぐるぐる
って、水自体が動
回るって、そんなことあるの?
いているかは分か
そもそも、温めていない所から温まるってあり
らない。それに、下
うるの?信じられないんだけど・・・
に下がるのは、木
C3
そうだよ。火の近くから温まっていたんじ
ゃないの?
のくずの重さだってあるわけだし。
C
C 水って、本当に上から温まるの?
確かに。水って、温めると本当に上に上がっ
ていくの?
C 確かめたい・・・
C 本当に上に上がる道があるのかな?
C 確かめたい・・・
54
<<考察>>
TPC 未活用のクラス
C9 児が水の温まり方を説明しようとしても、全体でイメージの共有が難しいため、聞いている側は
理解に苦しんでいる。C9児、C10 児と調べたデータをもとに説明を試みるが、他の子ども達は信じら
れないという言葉を繰り返しつぶやいている。話合いの終盤でも子供たちは水が最初に温まる場所にこ
だわりを持ち、批判的に C9・C10 児の発言を聞いている。他の班の子供たちにとって、自分の目で確
かめていないものは信じられないと考えているのではないかと捉える。
それ故に、TPC 未活用のクラスでは、子供たちが話合いを通して焦点化した問いが「水は本当に上から
温まるの?」となった。
TPC を活用したクラス
初めのうちは、TPC 未活用のクラスと同様に、
「水は上から温まるの?」と疑問をもっている子ども
が多かった。しかし、C9 児の動画や C10 児の動画で「上から温まる」ということを確認したことに
より、当初抱いていた「上から温まるの?」という疑問は下火になっていった。
同時に、動画を見ながら、空気や水は温めると「上に上がる道があるのでは?」という仮説が生まれて
きている。この要因は以下の2つだと考える。
① C9児と C10 児の動画を見たことによって、水(空気)の温まり方について、上から順に温まる
ということが共有できた。
②
最初に温まる場所について共有できたことによって、その理由を考えるという共通の土台ができ
た。
◆
その後の授業では、両クラスとも「水が上に上がった理由」について考えた。子供たちは、空気を
温めると上にあがるという熱気球の性質を水にあてはめたり、冷気が下に下がるという生活経験をも
とに水の温まり方の考察をしたりした。
成果と課題 ~理科の授業において、ICT 機器を活用する効果~
◆ 本単元では、理科の授業においてそもそも ICT 機器が必要かどうかを検証することから始まった。
また、本単元で重視した「予想や仮説を発想する力」の育成にどの程度 ICT 機器が役立つのかを検証
した。
<成果>
○ 理科の授業において、ICT 機器があることにより、各自が調べた結果を容易に共有することができ
た。
(本時、授業冒頭の話合い場面)
○ ICT 機器を活用して写真や動画を「根拠」として提示したことにより、比較して考えたり関係付け
て考えたりする思考を手助けすることにつながった。(本時、授業冒頭での話合い)
○ ICT 機器を活用して写真や動画を「根拠」として提示したことにより、証拠が明確になり、相手の
意見を納得して捉える姿につながった。
(本時、授業冒頭での話合い、問題の焦点化場面)
○ ICT 機器を活用したことによって、未経験の事象でも、事実を共有することができる。そのため、
より深い話合いにつながる可能性がある。(問題の焦点化場面)
<課題>
タブレット端末を用いて証拠を記録しようとした場合、目の前の事象を実際に観察するよりも、タ
ブレットの画面のみを見て満足している姿も見られた。実験の際には、まずは自分の目で確かめ、そ
の事象の何を記録するのかを判断するなど、段階的に指導していく必要がある。
55
造形教育研究グループ
-幼小中のつながりを意識しながら、
造形教育で身につける力について研究する-
代
表 :
隅
敦
附属幼稚園
:
米崎瑛美
附属小学校
:
江田希
附属中学校
:
萩原至道
人間発達科学部:
鼓みどり、上山 輝、若山育代
本研究グループは、本年度も校種間の造形教育における連携を念頭において、可能な限
り集まって、共通の視点を持ちながら意見交換を行うことを心がけてきた。これまで、継
続して行っているデカルコマニーを用いての実践を、校種を超えて行うことで、子供の材
料体験における多様な反応をビデオで撮影し詳細な分析を行うことで、明らかにしようと
してきた。
本年度は、これまでの研究成果を、人間発達科学部紀要にまとめ、さらに、 3 月末の美
術科教育学会で発表することを目的に活動を行い無事目的を果たすことができた。
1
平成 27 年度本研究グループの活動の足跡
本年度は、以下にあげるように 1 年間を通して、月に 1 度の会合や各自職場に持ち帰っ
てこれまでの成果を原稿にまとめる活動を行った。その結果の分析を中心に月 1 回の会合
を持ちながら成果をまとめ、学会発表へとつないでいった。
4 月 9 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*本年度の活動計画立案。
5 月 9 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*高専デカルコマニー実践の動画データの検討
6 月 13 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*人間発達科学部紀要原稿タイトル及び章立て検討
7 月 4 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*人間発達科学部紀要原稿編集の方針再検討
9 月 12 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
56
*人間発達科学部紀要原稿編集
10 月 10 日(土)10:00〜12:00(於:附属中研修室)
*人間発達科学部紀要原稿検討
10 月 20 日(火)
人間発達科学部紀要原稿提出
「造形教育におけるデカルコマニーの意義」
http://ci.nii.ac.jp/naid/120005746269
11 月 14 日(土) 9:00〜11:00(於:隅研究室)
*美術科教育学会発表口頭発表タイトルについて
12 月 12 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*美術科教育学会発表口頭発表概要集原稿検討
1 月 9 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*美術科教育学会発表口頭発表概要集原稿検討
2 月 6 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)
*美術科教育学会大阪大会
発表プレゼンおよび原稿検討
3 月 12 日(土)9:00〜11:00(於:附属幼稚園)
*美術科教育学会大阪大会
発表プレゼンおよび原稿検討
3月 19 日(土)10:25〜10:55(於:大阪成蹊大学)
*第 38 回美術科教育学会大阪大会(於:大阪成蹊大学 会場 B)
「造形教育におけるデカルコマニーの意義」発表 発表代表者 附属小
2
江田教諭
第 38 回美術科教育学会大阪大会における発表内容
造形教育におけるデカルコマニーの意義
1.研究の目的
これまで「多校種にわたるデカルコマニー実践の試み」として、幼児から高校生まで、
同じ条件でデカルコマニーを実践し、それぞ れの発達段階における表現活動の特徴を明
らかにしようと継続研究を行ってきました。2014年は幼児と小学生の描画行為の比較、
2015年は小学生と中学生の描画行為の比較を行い、これまでの研究で、描画行為におけ
る身体的・技能的な発達の様相や、デ カルコマニーの表現で子供が感じる楽しさや喜び
が分かりました。
57
そこで、今回はこれまでのまとめとして、幼児から高校生を対象 に行ったデカルコマニ
ーの描画行為の比較分析と、デカルコマニー を基にした題材の展開について考察を加え、
教育的意義についても考えてみたいと思います。
2.研究の概要
①研究の実施時期と研究の手法
本研究は、年中児、小学校1年生と3年生
と6年生、中学校1年生、高校1年生を対象
に行いました。その実施時期は、2013年 か
ら2015年です。活動条件をそろえるため
に、どの学年も統一 した材料や用具を
用いることとし、支持体はB4ケント紙を
使用し ました。絵の具はポスターカラ
ーの赤、青、黄、緑、オレンジ、紫、 白
の7色に限定し、梅鉢皿に入れて共同で
使いました。着色する際 の個人差をでき
るだけなくそうと、筆ではなく、プラス
チックスプ ーンで絵の具をすくって使
用しました。
子供の描画行為は、折って開いたケン
ト紙の上にスプーンですく ったポスター
カラーで着色し、それを畳んで開くまでと
しました。 活動は4、5人程度のグループで
行い、そのグループごとにビデオカメラを
設置し、描画行為と発話を記録しました。
一人一人の描画 行為の様子は、ビデオカ
メラの映像から抽出して分析しました。
②描画行為のカテゴリについて
それでは、次の映像をご覧ください。こ
れは、小学校3年生で実 施した活動の様子
の一部です。(ビデオ上映)
ご覧のとおり、左手前の児童はオレンジ
色で円を描いています。 右手前の児童は黄
色で点々を打っています。子供は思い思い
の色を 選びながら活動し、一人一人の描
画行為には様々なものがありまし た。私
たちは、記録を重ねて分類集計を進めてい
く中で、描画行為 が8つのカテゴリに分類できると判断し、次のように定義しまし た。
1「直線」紙の表面にスプーンを付けて、まっすぐ描きます。
58
2「曲線」紙の表面にスプーンを付けて、曲がって描きます。
3「置く(点)」スプーンを紙に置くだけで、移動させません。
4「点々」点の連続です。
5「こすりつけ」スプーンを紙に押しつけて拭うようにします。
6 「面」スプーンを紙に置いて隙間がないように塗ります。
7「投下」紙の表面にスプーンを付けず、空中から絵の具を落とします。
8「投下線」紙の表面にスプーンを付けず、空中から絵の具を落として、線を描きます。
3.研究の実際と考察
(1)描画行為についての分析
①学年別の分析 〜「投下線」を基に
して〜
私たちはまず、描画行為について
分析を行いました。8 つの描画 行為
をカテゴリ別に分類集計した結果、
学年ごとに顕著な様子が現れてきま
した。それぞれの学年の行為カテゴ
リの割合は次のように なっていま
す 。 (グラフ)さらに、この行為カテ
ゴリの傾向をまと めると、次のよう
になりました。(表 1)
グラフと表 1 を合わせた分析の結
果から、幼児では「面」、小学 校 1
年生では「直線」
「置く(点)」
「面」といった、紙の表面にス プーンを付けて描く行為が多
かったです。これに対し、「投下」や 「投下線」など、紙の表面にスプーンを付けず、空
中から絵の具を 落とす行為は少ない傾向がありました。そして、このスプーンを付 けず
に描く行為が始まるのは小学校 3 年生以降だということが分かりました。特に、
「投下線」
の行為に注目して小学生と中学生を 比べると、小学生は腕を使いゆっくりと手を動かし
ているのに対し、中学生は手首のスナップを使ってスピード感のある線を描いている姿が
見られました。一方、高校 1 年生では「投下線」はやや少 なくなり、多様な技法が出現
していました。
②技法の出現数と期待度数との相対比
較の分析
これらの結果を全体で相対的に比較
することを目的として、さら に、技法
の出現数と期待度数との相対比較にし
て割合をまとめました。(表 2)
これを見ると、幼児と小学校 1 年生
は多寡の双方において、技法 の出現が
偏っている傾向が見られます。小学校
3 年生、6 年生頃に は全ての技法に対
して、相対的にバランスのとれた出現
数となり、期待度数と近似するものが
多くなっています。中学校 1 年生では
再び全体での偏りが生じています。
59
③描画行為についての結果と考察
学年別の分析と相対比較の分析に、
実際の様子を合わせてさらに分析しま
した。すると、幼稚園から小学校低学
年までは、技法的な部分で困難さが見
られました。筋力的な問題や、絵の具な
どの画材に対する知識や経験がまだ少
ないことが影響していると考えられま
す。幼児については総合した結果から
多様な技法の出現が見られましたが、
実際には個人ごとに偏った技法の出現
が見られました。それらが技法的・
技術的に克服された小学校中学年か
ら高学年においては、ほぼ全ての技
法が出現しました。しかし、中学生
では再び 技法的な偏りが始まりまし
た。実は、高校生では多様な技法が
出現しているように見えて、個人ご
とには技法の偏りが大きくなってい
ました。中学生や高校生では、個人
の好みが影響していると考えられま
す。
これらの結果から、技法を習得して知
識や経験を積む段階、表現 意図に応じ
て習得した技法を実践・活用する段
階、個人の好みで技 法を選択して表現
を深める段階へと進んでいくことが見
えてきました。教師は各発達段階に応
じてねらいを定め、適切に助言や支援
を行うことで、子供の創造性を引き出
すことが可能になると考えます。
(2)周囲との関係性
①発達段階での特徴
共同絵の具を使用したことで、周囲との関係性にも発達段階での 特徴が見られました。
幼児の場合は、教師に成果を見てもらいたがる傾向が見られまし た。小学生は、成果の意
外性に驚き、教師に加えて周りの友達にも 見せようとする場面が増え、個人ごとの製作か
ら集団を意識した製 作へと変わりました。中学生や高校生では、周りを見てから製作を
開始する生徒が目立つようになり、完成後は周囲の友達に作品を見 せる傾向が顕著になり
ました。また、高校生では同じグループの友 達の様子に影響を受ける場合があり、班ご
60
とに偏った技法が出現する傾向が見ら
れましたが、これが製作環境によるも
のかどうかは明確になりませんでした。
②周囲との関係性についての結果と考
察
以上の点から、成果を見せて「でき
た」と認められたい段階、「すごい」
と驚きや喜びを伝えたい段階、成果だ
けでなく表現の始まりでも周囲を気に
する段階へと進んでいくことが見えて
きました。デカルコマニーのような偶
発的な表現では、表現を始める自由さ
とは 対照的に、思わぬ成果を受ける
意外性に、楽しさや喜びを感じること
ができます。成長した子供は予想した
り、コントロールしたりしようとしま
すが、成果はやはり思い通りにならな
いことが多いのです。中学生や高校生
の時期は他人との違いを意識する傾向
が強まります。そんな時期こそ、気軽に表現を始め、表現の多様性を感じることができる
モダンテクニックは有効であると考えます。
(3)デカルコマニーを基にした題材の展開
①取り組んだ題材と作品の紹介
本研究では、デカルコマニーでの偶発的な表現を生かそうと、発 想を膨らませる題材の
展開も考えて取り組みました。小学校では、 できた模様や形のイメージから主題を見付け、
余白部分等に描き足して絵に表しました。中学校ではデカルコマニーをモダンテクニッ
クの一つとして位置付け、様々な技法で作成した紙と共にコラージュして絵や詩に表しま
した。高校では、デカルコマニーでつくったものをコラージュすることを事前に伝えてか
ら、描画を行いました。どの実践も、できた形や色の面白さに興味をもち、何かの形を 見
立てることから表現が始まりました。そして、無作為の模様にも自分なりの意味や価値を
見いだし、自分らしく表現を追究しようとする姿が見られました。
②デカルコマニーを基にした題材の展開についての考察
このことから、造形教育における絵画指導では、モダンテクニックを活用することで、
形や色のよさや面白さを純粋に味わって表現 することができると分かりました。筆を用
いて描く時とは異なる感性を磨くことができると考えます。また、発達段階に応じて主題
を発見する段階・創出する段階・追求する段階があると分かりました。このことを認識し
て題材の展開を工夫することで、発想力や構想力を高めていけると考えます。
61
一方で、教員を志す大学生にも同様な実践を行いました。すると、大学生までにこのよ
うな技法を経験せずにいる実態がありました。美術教育において取得されるべき資質能力
に積み残しが生じ、教員になった際の指導に懸念が生じる可能性があることも分かりまし
た。単に描く力を問われる絵画指導だけでなく、モダンテクニック等の様々な造形体験を
積み重ねることで、創造的な造形活動の基礎的な能力を高めていきたいものです。そのた
めに、技能を系統的に習得する重要性について、教員養成の段階でも指導する必要があるの
です。
私たちは、何を描くかをそれほど意識することのない、偶発的な 描画表現に着目して研
究を進めてきました。子供は、技法を学び、実践・活用し、選択して表現を広げたり、深
めたりしていました。また、周囲に見せたり見たりして、表現と鑑賞を一体化させながら
活動に取り組み、表現の多様性に喜びや楽しさを見いだしました。そして、偶発的な表現
を生かす題材の展開を工夫することで、表現の可能性を膨らませることができました。今
後も、子供が自分らしい表現を追究する喜びを感じる指導や支援について、さらに明らか
にしていきたいと考えています。
3
平成 28 年度の研究に向けて
本共同研究においては、一貫してデカルコマニーという造形行為を発達段階ごとに分析
することによって、その良さを再認識してきた。幼稚園と大学における実践においても、
行為を行う幼児や学生には共通の表情を見取ることができる。絵画表現におけるこの技法
の意義を否定することはできないということを念頭におき、今後も新たな研究を行ってい
きたい。
62
家庭科教育グループ
よりよい生活を目指した実践的な意欲と態度を育む
教材開発と授業実践
-弁当調理の工夫を考える学習を通して-
: 磯﨑 尚子、姜 信善
附属小学校 : 池田 美貴
学部
附属中学校
:
吉田
附属特別支援学校
1 本実践の主旨
:
みづき
高附
真梨子
(1)実践の対象とした題材
日常食の献立と調理
B(2)イウ、B(3)アウ
題材を貫く学習課題・・・「MY BEST 弁当を作ろう」
(2)題材設定の趣旨
本題材は『中学校学習指導要領解説
技術・家庭編』
(文部科学省,2008)の家庭分
野、内容Bの「栄養を考えた食事の計画と食品の選択についての基礎的・基本的な知識
及び技術を習得するとともに、これからの健康的な食生活を工夫しようとする能力を育
てること」と「調理についての基礎的・基本的な知識及び技術を習得するとともに、地
域の食文化についての関心と理解を深め、課題をもって日常食又は地域の食材などを生
かした調理を工夫し、実践しようとする意欲と態度を育てること」をねらいとしている。
中学生は、将来、生活の主体者となり、健康な生活を送るために、習得した日常食の
調理に関する基礎的・基本的な知識や技術を活用し、課題をもって日常食がよりよくなる
ように考えて計画し、工夫できる力を身に付けなければならない。また、子どもの頃に
身に付いた生活習慣は生涯の健康に大きく関わるため、中学生の時期に「栄養バランス
を考えた食事を整える」など、望ましい食習慣を身に付けることは重要である。そのた
めには、中学生に必要な栄養量を理解し、身近な食品を選択するために必要な情報を活
用するなどして、用途に応じて食品の選択や組み合わせを工夫できる力を身に付けなけ
ればならない。今回、自分の願いを叶えたよりよい弁当を計画し調理する学習を通して、
それらの工夫創造する力を身に付けさせたいと考えた。この自分の願いを叶えたよりよ
い弁当については、(4)②a~hの8視点に絞って考えさせることとした。
外食産業やコンビニエンスストアが発展し、いつでも食べたいものを購入し食べられ
るようになった。しかも、購入後すぐ食べることができ、安価であるために、学校や勤
め先での昼食の購入にも利用する人が増えた。しかし、塩分や油脂類の過剰摂取による
生活習慣病への不安視や、食品添加物に対する懸念など、出来合い品に対する健康への
悪影響について語られることも多い。生活習慣病と食生活の関連に関心をもつ人も増え、
63
欧米化、簡便化の食生活を見直さなければならないとの考えも多くなってきている。
学校や勤め先での昼食については、日本の不景気も関係してか、最近は手作りがよい
とされ、「弁当男子」という言葉も生まれるほど、家庭で作って持っていく弁当が見直
されてきている。また、フランスでは、日本食である弁当がそのヘルシーさや栄養バラ
ンスなどから近年では”Bento”として販売されている。弁当は、一般的な食事とは違
い、制約条件が多い。限られた面積の容器に盛り付けたり、持ち運びしたりするなどの
特殊な条件がついてまわる。
健康的な生活を営むための大切な食事であるという大前提の他に、一般的な食事とは
違う制約条件の多い弁当について、よりよいものにするためにその献立や調理について
工夫を考えるためには、積極的に既習事項を活用する必要がある。そして、弁当の調理
実習において、
「○○な弁当にするために△△という工夫をする」といった明確な根拠を
もって工夫を考え実践する経験を繰り返すことによって、日常生活の食生活に関心を高
め、食生活をよりよくしようとする実践的な意欲と態度を育むことができると考えた。
(3)生徒の実態
生徒の食に対する興味・関心は高い。本校は給食ではないため、昼食は食堂を利用す
るか家庭で用意しなければならない。弁当を持参する生徒が一番多く、弁当は大変身近
な存在であり、関心も高い。また、弁当作りにおける工夫については、見聞きする機会
が豊富なため、どんな工夫がよりよいお弁当に効果を及ぼすのか、興味をもっている生
徒も多い。
一般的な食事作りに関しては、「バランスよく」「彩りよく」という意識をもってい
る生徒は多く、食品の6群分類や、献立の作成、「家庭調理レポート」などの課題にも
意欲的に取り組んできている。小学校では、家庭科の時間に、切ったり、ゆでたり、炒
めたりする簡単なおかず、米飯、みそ汁などの調理実習を経験し、多くの生徒は料理を
することが好きである。
弁当に関心は高いものの、事前調査の結果では「自分や家族の弁当を作ったことがあ
る」との回答した生徒は10%もいなかった。また、「バランスよく」「彩りよく」と
は思っていても、家庭における調理実践や食生活の改善などに、学習したことが生かさ
れているとはいえない状況であった。具体的に言うと、自分たちの健康のために必要な
栄養素を摂取できる献立になっているのか、きちんと献立を見直したり、よりよい献立
を目指して工夫を考え、実践していったりするには至っていない様子もあった。
(4)本実践における指導の構え
昼食1食分の弁当作りの計画と調理を通して、中学生に必要な1日分の栄養量を満た
すことにつながる1食分の献立を考え、基礎的な日常食の調理ができるようにすること
と、課題をもって日常食の調理を工夫し実践しようとする意欲と態度を育てていきたい
と考えた。その指導の方針は以下の通りとした。
①
「弁当作りに対して課題意識を高めさせる」
弁当は食事をとる手段の1つであるので、味がよいことや、食欲を増進させるような
見た目のよさがあることや、栄養バランスがよいことなどは、弁当作りにおいて大切に
64
しなければならないことであることは当たり前である。しかし、弁当にはその他の食事
とは違う点がいくつかある。持ち運ぶということや調理にかけられる時間が短いという
ことや、小さな容器の中に納めなければならないということ、調理してから長時間経過
してから食べることといった点が、弁当独自の制約条件である。それらの制約条件があ
るために、汁が漏れたりお弁当箱の形によってはすき間が生まれてしまったり、食べよ
うとしたら傷んでいたりといった、お弁当であるがために発生する問題がある。自分が
思っているよい弁当とは、それらの問題が生じないよう工夫されたものであることを確
認するところから学習を始めた。
②
「制約条件の多い弁当作りにおいて、自分にとってよりよい弁当にすることを目指
させ、一貫して、視点を絞って工夫を考えさせる」
目指すよりよい弁当の条件は a 栄養バランスのとれたものであること、b 味も美味し
く見た目にもおいしそうであること、c 容器の中でおかずや食品が動かないこと、d 短
時間で完了できること、e おかず(食品)が容器の形に合っていること、f 安全な状態で
食べられること、g 時間が経っても食べにくい状態に変化しないこと、h 自分の嗜好や
活動量に合っていることとした。そして、このようなお弁当にするための工夫には「食
品の選択」「食品の形・大きさ」「調理方法」「調味」「盛り付け方法」の視点をもつこと
とした。例えば、短時間で調理を終えられるようにするために、
「食品の選択」や「調理
方法」などについて工夫することができる。制約条件の多い弁当作りは、よりよいもの
にするには同時に様々な工夫をすることが求められる。工夫の視点を明確にすることで、
よりよい弁当を目指して、整理しながら工夫を考えることができるようになると考えた。
③
「課題をもって、よりよい弁当作りの計画と実践をし、新たに課題を見付け、最適
な工夫を再検討し、さらによりよい弁当作りを計画し実践するという学習の流れを踏
む」
上記のような学習の流れを踏むことによって、実際の自分の生活の中での実践に向け
て関心や意欲を高めながら学習を進めることができると考えた。また、再検討して工夫
を考えるところでは、よりよい弁当を目指したグループの課題を解決できる工夫となっ
ているか、それぞれの工夫に対する相互評価やアドバイスをもとに、最適な工夫である
かを十分に考えさせることにした。
2
授業実践内容
(1)題材の目標
○
弁当作りを通して、日常食の献立や調理、食品の選び方について関心をもち、食
生活をよりよくしようと意欲的に学習活動に取り組む
○
弁当作りを通して、日常食の献立や調理、食品の選び方について課題を見付け、
その解決を目指して工夫する。
○
弁当作りを通して、日常食の調理や食品の選び方に関する基礎的・基本的な技術
を身に付けることができる。
○
弁当作りを通して、日常食の献立や調理、食品の選び方に関する必要不可欠な食
品や調理に関する認識ができる。
65
(2)弁当作りを通して到達させたい具体的目標と本時の目標
生活や技術への関
生活を工夫し創造す
心・意欲・態度
る能力
(題材
中学生の 1 日分の食
中学生の 1 日分の献
調理の目的や
中学生に必要な栄
全体
事のとり方に関心を
立について課題を見
食材にあった
養量を満たす 1 日
にお
もち、必要な栄養量
付け、必要な栄養量
基本的な調理
分の献立の立て方
ける
を満たす食事のとり
を満たすために料理
操作ができ
について理解して
具体
方をしようとしてい
や食品の組み合わせ
る。
いる。
的目
る。
について考え、工夫
・切り方
・目的
している。
・加熱調理
・栄養
・調味
・調理の能率
標)
生活の技能
生活や技術につい
ての知識・理解
日常食の調理に関心
・盛り付け
をもち、調理技術を
用途に応じた食品の
習得しようとしてい
選択について、収
る。
集・整理した情報を
安全と衛生に
質について理解し
活用して考え、工夫
留意し、食品
ている。
している。
や調理用具等
食品や調理用具等の
安全と衛生に配慮
食品の調理上の性
の適切な管理
加熱調理と調味の
ができる。
要点について理解
し、調理実習で実践
基礎的な日常食の調
しようとしている。
理について、調理に
・魚や肉な
必要な手順や時間を
どの生の
自分の食生活をより
考えて計画したり、
食品
よくすることに関心
食品の調理上の性質
・ふきん、
安全と衛生に留意
をもち、課題を主体
を生かした調理を工
まな板、
した扱い方につい
的に捉え、日常食の
夫したりしている。
包丁など
て理解している。
の調理用
調理の計画と実践に
取り組もうとしてい
自分の食生活につい
る。
て課題を見付け、そ
の解決を目指して日
常食の調理の計画を
自分なりに工夫して
いる。
日常食の調理の実践
の成果と課題につい
てまとめたり発表し
たりしている。
本時
弁当の調理に関心
弁当作りについて
にお
をもって、課題を解
課題を見付け、その
66
具
・調理用熱
源
している。
食品や調理用具の
ける
決しよりよい弁当作
解決を目指して調理
具体
りをしようとしてい
の計画を自分なりに
的目
る。
工夫している。
標
(6時~10 時にか
けて)
(3)授業の実際(全10時間)
時
1
主な学習内容
○
よりよい弁当とはどのような弁当なのか
・日頃食べている弁当を思い出し、弁当ならではの特徴や、これまでの経験
を基に問題点をまとめた。
・他の食事にはない弁当の制約条件を理解し、目指す弁当とはどんな弁当な
のかを考え、その目指す弁当を作るためにできる工夫の視点を整理し、学
習の見通しをもった。
2
○
栄養バランスのよい弁当にするにはどうしたらよいのだろう
・モデルの弁当について使われている食材を、6 つの基礎食品群に分け、食
品群別摂取量の目安のおよそ 3 分の1と比較した。
・モデルの弁当が栄養バランスの面でよい状態になるよう「食材の選択」と
「調味・調理方法」を工夫する方法を考えた。
3
○
試し調理の計画を立てよう
・教師から提示された調理実習での献立を見て、栄養バランスのよい弁当に
なるよう、使用する食品や調理の仕方についての変更を考えた。
・30分で調理を完了できるよう、作業場所(調理台、コンロ、流し台)ご
67
との調理作業計画を立てた。
4
○
5
調理実習
(実際に作ったのは★)
主食:「ごはん」
主菜:「豚肉のしょうが焼き★」
副菜:「卵焼き」「きゅうりとわかめの酢の物★」
「野菜炒め★」
小学校での既習事項・・・米の炊飯、卵の加熱による凝固、褐変防止
この時間の習得事項・・・肉の調理上の特徴、野菜の放水
・自分の弁当箱に盛り付け、試食した。
6
○
試し調理の「献立」についての振り返り
・中学生の自分たちにとって栄養バランスのよい弁当になったか、調理実習
について振り返りをした。
・献立の工夫としてやってみたことがよかったのか、改善が必要なのかを書
いてまとめ、グループで話し合って2回目の弁当作りの献立、使用する食
品について検討をした。
○
試し調理の「調理」についての振り返り
・調理実習の調理について、改善が必要だと思ったことをグループで話し合
い、共有化を図った。
〈改善が必要だと思ったことの例〉
・見た目が悪かった。野菜炒めの色が悪かった。
・野菜炒めは汁が出て大変だった。味も薄く感じた。
・しょうが焼きがかたく感じた。食べにくかった。
・実際はこんなに時間をかけられない。もう少し短時間でできないか。
・お昼に食べたら、作りたてより味が薄く感じた。時間が経っても美味し
い味付けはできないか。
○
次の調理実習(再調理)に向けてグループ課題の設定しよう
・栄養バランスのよい弁当作りの2回目について、1回目の弁当作りの調理
について改善したいと思う事柄から、よりよい弁当を目指して、グループ
の課題を設定した。
・グループ課題
1班 「(見た目・味・食感について)満足度をアップさせるにはどうしたら
よいか」
○
2班
「弁当に合う野菜炒めにするにはどうしたらよいか」
3班
「麺類の弁当をお昼まで美味しく保つにはどうしたらよいか」
4班
「弁当に合うしょうが焼きにするにはどうしたらよいか」
5班
「食べやすい弁当にするにはどうしたらよいか」
6班
「見た目のよい弁当にするにはどうしたらよいか」
7班
「調理の時間を短縮させるにはどうしたらよいか」
8班
「野菜の調理について時間を短縮させるにはどうしたらよいか」
グループ課題を解決するためにはどうすればよいのか、工夫を考えよう
68
7
○
調理をどのように工夫したら、目指す弁当になるのだろう
(本時)
~調理計画を立て直し、もう一度挑戦しよう!~
・グループの課題とその解決を目指して行う工夫について、ポスターセッシ
ョンを互いに聞き合った。
・その工夫について相互評価しアドバイスをし合った。
・他のグループから聞いた工夫の仕方や、家庭で聞き取り調査したお弁当作
りのコツについての情報等も活用しながら、自分たちの工夫について再検
討を行った。
8
○
2回目の弁当作りの調理計画を練り直そう
○
調理実習(実際に作ったのは★)
9
主食:「ごはん」
主菜:「豚肉のしょうが焼き★」
副菜:「卵焼き」「きゅうりとわかめの酢の物★」
「野菜炒め★」
以下【生活の課題と実践】扱い
10
○
前時の調理実習の振り返りと自分のための弁当作りの計画
・
よりよい弁当の条件に自分の願いを叶えられる弁当になるように献立を
考え、調理の計画を立てた。
・ クラス内でアドバイス交換を行い、計画を練り直して計画を充実させた。
○
家庭実践を行いレポートにまとめよう
(4)具体的な授業の指導計画(7時間目/
①
10時間)
指導目標(授業者の目標)
各グループの課題を解決するための弁当作りの調理の工夫を聞いたり、互いに評価
しアドバイスを受けたりして、よりよい弁当作りについて考えることを通して、調理
69
の工夫について再検討させる。
②
この時間に身に付けさせたい力
習得した調理に関する基礎的・基本的な知識や技術を活用し、課題をもって弁当の調
理について考えて計画し、工夫できる力
③
展開
学習活動
課
1
指導上の留意点(○評価)
本時の課題を確認する。
・生徒に、
「弁当作りの調理について再
題
検討し、もう一度挑戦する調理実習
の
において、よりよい弁当が作れるよ
設
う、どんな工夫をしたらよいのかを
定
考えていく」という意識を明確にも
・
たせる。
把
調理をどのように工夫したら、目指す弁当になるのだろう
握
~調理計画を立て直し、もう一度挑戦しよう!~
よりよい弁当にするためのグループ課
・1回目の弁当作りにはどんな問題点
課
題とその課題を解決するための工夫を発
があり、グループの課題をどのよう
題
表し合う。
に設定したかと、そのための工夫を
2
の
4グループずつ、同時に発表会を行う。
どのように考えているかを整理して
追
事前に画用紙にまとめ、それを提示しな
発表できるよう事前に指導してお
究
がら説明する。聞き手グループは、それ
く。
・
ぞれ4つのグループに散らばって発表を
・どんな課題に対して、どん
解
聞いてくる。発表を聞いたら、評価しア
な工夫をしようとしている
決
ドバイスを付箋に書いて貼る。
のかを明確にして発表させ
たい。工夫を説明するとき
には、これまでの学習で使
ってきた「工夫の視点」を
明らかにしながら話すよう
に指示する。
・聞く側の生徒には、ワーク
シートに記入しながら発表
を聞かせ、何のためにどの
ようにする工夫なのかを整
理させることで、よい工夫
は自分たちの調理にも積極
的に取り入れさせたい。
・ワークシートには、自分たちの課題
と工夫(改善点)、他のグループの発
表を聞いて自分たちのグループにい
かせる工夫の項目を作り、思考が変
70
化した様子が分かるようにする。
課
(グループ課題)
題
1班…「(見た目・味・食感について)満足度
の
をアップさせるにはどうしたらよい
定
か」
着
2班…「弁当に合う野菜炒めにするにはど
・
発
うしたらよいか」
3班…「麺類の弁当をお昼まで美味しく保
展
つにはどうしたらよいか」
4班…「弁当に合うしょうが焼きにするに
はどうしたらよいか」
付けさせたい力の定着の見取り
おおむね満足
5班…「食べやすい弁当にするにはどうし
たらよいか」
発表者は、何のためにどのようにす
る工夫なのかが明確に発表でき、聞
6班…「見た目のよい弁当にするにはどう
したらよいか」
く生徒は、発表者の意図を理解し自
分の課題の解決ために必要な情報
7班…「調理の時間を短縮させるにはどう
したらよいか」
(工夫点)についてワークシートに
まとめることができる。
8班…「野菜の調理について時間を短縮さ
せるにはどうしたらよいか」
3
次回の調理実習について調理の工夫を
再検討する。
・よりよい弁当にするために、自分た
ちの作る弁当の食品や切り方、加熱
他のグループから聞いた工夫の仕方
や、もらったアドバイスをもとに、あら
の仕方、盛り付け方等の工夫を再検
討させる。
ためて、自分たちの調理の工夫について
・家庭で聞き取り調査したお弁当作り
自分の考えをもち、ワークシートに記入
のコツについての情報等も活用させ
する。
る。
自分の考えをあきらかにしてから、グ
・再検討の余地があることに気付いて
ループで話し合い、調理の工夫について
いないグループには、意図的に投げ
再検討する。
かけ、考え直す方向に誘導する。
話し合ったことをもとに、調理の計画 ・グループの話し合いを巡視しながら、
を立て直し、調理計画書の調理手順をま
なぜ、その手段をとることにするの
とめる。
か根拠を問いかける。意味のある工
(生徒の考え)
夫であることを確認させる。
・
・安易な話し合いにならないように、
やすくて弁当箱に入りやすい大きさに
本題材の学習で使用している工夫の
切ってから盛り付けよう。
視点の言葉を意識して使い、どの場
・
できあがったしょうが焼きは、食べ
使用するフライパンの中で炒めたい
物が動くように、野菜炒めは炒める量
を考え直そう。できれば野菜炒めの野
71
面で活用できるどのような工夫なの
かを整理して掴ませたい。
菜の量を減らしたい。そうすれば、炒
める時間も短時間で済むので、色が悪
付けさせたい力の定着の見取り
くならない。歯ごたえもよくなるだろ
〈おおむね満足〉
うし、汁の出方も減る。
・
よりよい弁当を目指して、課題を解
赤、黄、緑、白、茶、黒をそろえて
決するために考えた工夫を、再検討
彩りよくさせたいから、ミニトマトを
し、何のためにどのような工夫をす
加えよう。
るのかを明確にしながら、グループ
・
野菜炒めは、にんじんを先に炒め始
め、その他のものも短時間で炒めよう。
・
野菜炒めの材料の切り方をもう一度
検討しよう。大きさも、もう少し小さ
く薄くしよう。
・
味付けは少し濃くし、冷めても美味
しいものにしよう。
での話し合いで意見を言ったり、ワ
ークシートにまとめたりできる。
学習評価の観点
よりよい弁当を目指して、それぞ
れの課題を解決するために考えた
工夫を、根拠を明らかにして記述し
たり、話したりしている。
【生活を工夫し創造する能力】
(発言やワークシートの記述内容)
4
再検討した工夫を全体で共有し、次時
・他の班の発表を聞いて、調理の工夫
につなげる。
を練り直し、よい工夫へと変化した
(生徒の考え)
グループの考えをいくつか意図的に
・
指名し、発表させる。
野菜炒めは汁が出るので、カップに
入れるなどして汁漏れや味うつりを防
・本題材で習得させたい基礎的な日常
ごうと思っていたが、野菜の切り方や、
食の調理に関する事柄を意識しなが
順序や、分量を調節することでも短時
ら板書してまとめる。
間での加熱が可能になり、汁の量を少 ・前回よりもより BEST な弁当になる
よう、次回の実習計画への意欲が喚
なくできることが分かった。
・
できあがったしょうが焼きを、弁当
箱の形に合わせて切ることにしよう。
72
起されるよう話をする。
3
成果と課題
(1)成果
本実践研究では、課題について生徒自らが主体的に考え、班単位での学習を通して協働
的に学習していく、つまり、アクティブ・ラーニングを実施することができた。このこと
が第一の成果である。また、以下のような具体的な成果も得られた。
・
日常食の調理についての基礎的・基本的な知識や技術を学ぶ学習の教材として「弁
当」を取り上げたことにより、ほぼ毎日弁当を食べる機会がある本校の生徒にとって
は、誰もが直面している問題と向き合う学習となったと思われる。「よりよい弁当と
は?」
「よりよい弁当を目指すためにはどうしたらよいのか?」という「問い」によっ
て、題材全体を通して、最初から最後まで課題意識が持続した。
・
題材全体の中に、体験的な学習活動を入れやすい題材である。基礎的・基本的な知
識や技術の習得の場面を、課題設定の前に設けるのではなく、課題設定の後、解決の
ための追究段階で、実際に調理させてみることで、単なる技術の習得で終わらず、
「○
○にするために○○する」といった、深い理解につながったのではないだろうか。こ
れこそ実感を伴った理解であり、場面や対象が変わっても応用可能な力の定着に効果
があったと思われる。
・
今回は1回目の調理実習は試し調理とした。試し調理を行い試食をすることによっ
て、自分たちの考えた「食材の選択」や「調理の工夫」は、課題の解決のために適切
だったのか、評価がしやすかったと思われる。そして、より自分自身の解決すべき課
題として捉え、2回目の調理実習に向けて「食材の選択」や「調理の工夫」を検討し
た。そこでそれぞれの課題を解決するための工夫を発表し合い、付箋による相互評価
をという言語活動によって、違った課題を解決するために選択した調理の工夫を聞い
たりアドバイスをもらったりすることができた。
・
教師から与えられた課題に対し、受け身姿勢で取り組むものとは違い、目的に合わ
せた最適な工夫を創造することや、よりよい食生活を整えようとする自信と実践力の
向上に効果が得られたと思われる。
(2)課題
・
課題を解決していく中に体験的な学習によって実感を伴った理解による基礎的・基
本的な知識及び技術の習得を位置付け、成果はあったものの、題材の中で身に付けさ
せなければならない知識や技術が全て網羅されたわけではない。
・
生徒が様々な視点で思考し、それを発表することを通して共有することができた一
方で、生徒の多様な視点や思考を収束させることの重要性が明らかとなった。
・
批判的思考力を育むために、2回目の調理実習に向けて「食材の選択」や「調理の
工夫」を検討し、その考えを発表し合い、相互評価しアドバイスし合う場面を取り入
れた。しかし、机間指導やその後の全体でのまとめの際に、生徒に聞き返す「問い」
への工夫が必要である。
73
[主な引用・参考文献]
・文部科学省(2008)
『中学校学習指導要領解説 技術・家庭編』,教育図書.
・ホットライン教育広島
「言語活動の充実」に関する指導資料
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/kotoba/kotoba-22gengokatudo-22gengojirei.ht
ml
・文部科学省国立教育政策研究所(2011)
『評価基準の作成、評価方法等の工夫改善の
ための参考資料(中学校 技術・家庭)』,pp.21-41,教育出版.
・教育課程
企画特別部会(平成 27 年 8 月 20 日)論点整理 補足資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/sonota/1361117.htm
74
健康教育グループ
児童・生徒及び大学生の生活習慣の定着をめざして
代
表
:
藤本
孝子
附属小学校
:
松森
由香里
附属中学校
:
大場
真紀子
池田
優香
附属特別支援学校
学部
Ⅰ
1
:
:
澤
聡美 、神川
康子
学部での取り組み― 生活習慣調査(平成 24 年度~平成 27 年度報告書のつづき)
はじめに
健康教育グループ(以下,生活習慣研究会)では平成 24 年度より子どもたちの成長・発
達を支える生活習慣を睡眠・食事・運動習慣から検討し,将来を担う子どもたちが元気で健
やかに育つための家庭や学校における教育プログラムを提案することを目的とし,大規模
アンケート調査とその分析を継続している.現在まで 7472 票を回収して分析中である.今
年度は計 6 回の生活習慣研究会を開催し,進捗状況や分析結果,各学校における健康教育の
実態などについて意見交換を行った.本研究では,本年度行った分析のうち,大学生を対象
とした 528 票を研究対象とし,大学生が体調良く過ごすためにはどのような生活習慣であ
ることが望ましいのか示唆を得ることを目的とした.
2
研究の方法
本研究で対象としたアンケート項目(①~㉟)及び得点化は表 1 のとおりである.①~㉟
は項目番号、1~4は得点化を示している.睡眠項目はアンケート上のものをすべて抽出し
た.食事項目は平成 24 年度と平成 26 年度に報告した結果(1)(2)を参考に 10 項目抽出し
た.運動項目は大学生に関係のあるものを抽出した.体調項目は先行研究(1)を参考に 10
項目抽出した.抽出した睡眠・食事・運動の 25 項目を生活習慣項目とした.採用した生活
習慣項目と体調項目を用い,2つの分析を行った.分析には「IBM SPSS Statistics 21」を
使用し,危険率はいずれも 5%未満とした.
(分析1)体調項目と生活習慣項目の関連
体調項目 10 項目と睡眠・食事・運動の 25 項目についてそれぞれカイ二乗検定を行った.
有意差が認められたもののうち,有意差があると断言できないものは除外した.
(分析2)体調を良くするための生活習慣とは
睡眠・食事・運動それぞれの項目で顕著に関連がみられた体調項目は「②何かするとすぐ
疲れる」であったが,その中でも特にどの項目が影響しているのかを知ることを目的とした.
75
「②何かするとすぐ疲れる」を従属変数,
「⑪昼眠くなることありますか」
「⑬睡眠途中で目
が覚めることありますか」
「⑭3 年前に比べ寝る時刻が遅くなりましたか」
「⑯朝気持ちよく
起きますか」
「⑰学校で居眠りすることありますか」「⑱甘いものは好きですか」「㉒食事は
しっかり噛んで食べますか」
「㉓ご飯を食べる時間に食欲がありますか」
「㉙外へ出て遊んで
いますか」
「㉜1 日にどのくらい運動やスポーツをしますか」
「㉝休み時間や放課後に汗をか
くほど運動することありますか」
「㉞1 日にどれくらい歩きますか」
「㉟走ることが好きです
か」の 13 項目を独立変数とし,重回帰分析を行った.
表 1 アンケート項目と得点化
表1 アンケート項目
体調項目 ①めまいや立ちくらみ 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
②何かするとすぐ疲れる 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
③腹痛 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
④気持ち悪い 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
⑤朝からあくび 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
⑥肩こり 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
⑦腰痛 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
⑧いつも元気 4.とてもあてはまる 3.ややあてはまる 2.あまりあてはまらない 1.全くあてはまらない
⑨風邪 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
⑩大便 1.4日以上に1回 2.3日に1回 3.2日に1回 4.毎日 睡眠項目 ⑪昼眠くなることありますか 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
⑫布団に入るとすぐ眠れますか 4.大抵眠れる 3.ときどき 2.あまり眠れない 1.眠れない
⑬睡眠途中で目が覚めることありますか 1.よくある 2.ややある 3.あまりない 4.ない
⑭3年前に比べ寝る時刻が遅くなりましたか 1.とても遅くなった 2.やや遅くなった 3.あまり変わらない 4.変わらない・早くなった
⑮夜ぐっすり眠れますか 4.ぐっすり眠れる 3.やや眠れる 2.あまり眠れない 1.眠れない
⑯朝気持ちよく起きますか 4.とても気持ちよい 3.やや気持ちよい 2.あまり気持ちよくない 1.気持ちよくない
⑰学校で居眠りすることありますか 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
食事項目 ⑱甘いものは好きですか 4.とても好き 3.やや好き 2.やや嫌い 1.嫌い
⑲お肉は好きですか 4.とても好き 3.やや好き 2.やや嫌い 1.嫌い
⑳野菜は好きですか 4.とても好き 3.やや好き 2.やや嫌い 1.嫌い
㉑昼食の時間は楽しいですか 4.とても楽しい 3.やや楽しい 2.あまり楽しくない 1.楽しくない
㉒食事はしっかり噛んで食べますか 4.しっかり噛んでいる 3.やや噛んでいる 2.あまり噛んでいない 1.ほとんど噛んでいない
㉓ご飯を食べる時間に食欲がありますか 4.とてもある 3.ややある 2.あまりない 1.ない
㉔家族と食事についての話をしますか 4.よくする 3.時々する 2.あまりしない 1.しない
㉕家族との食事は楽しいですか 4.とても楽しい 3.やや楽しい 2.あまり楽しくない 1.楽しくない
㉖食事の準備・片付けを手伝いますか 4.よく手伝う 3.時々手伝う 2.あまり手伝わない 1.手伝わない
㉗普段朝食を食べますか 4.毎日食べる 3.時々食べる 2.あまり食べない 1.食べない 運動項目 ㉘転倒時手が付けず顔や頭にけがをしたことありますか 1.よくある 2.時々ある 3.あまりない 4.ない
㉙外へ出て遊んでいますか 4.よく遊んでいる 3.時々遊んでいる 2.あまり遊ばない 1.遊ばない
㉚運動部やスポーツクラブに入っていますか 2.入っている 1.入っていない
㉛運動やスポーツをどのくらいしていますか 4.週に3日以上 3.週に1~2日くらい 2.月に1~3日くらい 1.しない
㉜1日にどのくらい運動やスポーツをしますか 1.30分未満 2.30分~1時間未満 3.1時間~2時間未満 4.2時間以上
㉝休み時間や放課後に汗をかくほど運動することありますか 4.よくある 3.時々ある 2.あまりない 1.ない
㉞1日にどれくらい歩きますか 4.よく歩く 3.やや歩く 2.あまり歩かない 1.ほとんど歩かない
㉟走ることが好きですか 4.とても好き 3.やや好き 2.あまり好きではない 1.嫌い
3
結果と考察
(1) 体調項目と生活習慣項目の分析から分かる大学生の特徴
分析1の結果,睡眠・食事・運動それぞれの生活習慣項目と顕著に関連がみられた体調項
目は「②何かするとすぐ疲れる」であった.「子どものこころと身体の白書」(3)において
も,保育所・幼稚園から高等学校の各段階で,教諭・養護教諭が“最近増えている”と感じ
る子どものからだのおかしさとして,
「すぐ“疲れた”と言う」が 1990 年の調査以降,一貫
して実感されているとある.本研究の対象となった大学生においても,「②何かするとすぐ
疲れる」の問いに約 75%が「よくある」
「時々ある」と答えていることから,この問題は大学
生にも及んでいると考えられる.
(2) 体調を良くするための生活習慣とは
76
分析2より,体調項目「②何かするとすぐ疲れる」に特に影響していた生活習慣項目は,
順に「⑯朝気持ちよく起きますか」
「⑪昼眠くなることありますか」
「㉒食事はしっかり噛ん
で食べますか」
「⑬睡眠途中で目が覚めることありますか」
「㉜1 日にどのくらい運動やスポ
ーツをしますか」「⑱甘いものは好きですか」であった(表2).
表2
「何かするとすぐ疲れる」に影響している生活習慣項目
⑯朝気持ちよく起きますか
β
0.213
**
⑪昼眠くなることありますか
0.219
**
㉒ご飯はしっかり噛んで食べますか
0.15
**
⑬睡眠途中で目が覚めることありますか
0.14
**
㉜1日にどのくらい運動やスポーツをしますか
0.132
**
⑱甘いものは好きですか
‐0.107 *
*p<0.05
**p<0.01
β:標準化係数
⑯朝気持ちよく起きられない人や⑪昼眠くなる人は,前日の疲れが次の日まで続いてし
まい,それが積み重なった結果,疲れやすい身体になってしまうと推測できる.さらに大学
生は,毎日同じ時間から学校が始まる高校生までと違い,次の日の時間割によって起きる時
刻を変えられるため生活リズムが一定にならず,身体が余計に疲れてしまうと考えられる.
光井ら(4)は,体調と就寝時刻の関連について睡眠が不規則になっている可能性が高いと
き,生体リズムから考えると体調を整えることが難しいと推察していることからも,睡眠に
関しては睡眠習慣を一定に保つことで大学生の身体を疲れにくくするのではないかと考え
られる.
「㉒食事はしっかり噛んで食べますか」については栄養面において「②何かするとすぐ疲
れる」と関連があった.よく噛まずに食べ物を飲み込んでもその栄養はエネルギーとして体
に上手く取り込まれないため,すぐに身体が疲れてしまうと考えられる.井上(5)によると,
食べ物をよく噛んで食べることで,私たちは身体に必要な栄養を得るばかりでなく,五感を
通した味わいや食の満足,くつろぎや楽しみなど心の栄養も得ていることから,よく噛んで
食べることは身体を疲れにくくするだけでなく,心も和やかにすると考えられる.一方で,
「⑱甘いものは好きですか」については,「②何かするとすぐ疲れる」とマイナスの関連が
みられた.つまり,甘いものが好きな人ほど疲れやすいという結果であった.ストレスを感
じると食べすぎてしまうことはよくあることだが,林(6)によると,甘いものが食べたいと
いう気持ちはストレスレベルが上がるごとに強くなると報告されている.ここで注目した
いのは,疲れとストレスの関係である.ストレスが溜まれば,心に余裕がなくなり精神的に
疲れてしまうということは容易に推察できる.したがって間接的ではあるが,甘いものと疲
れの関係が説明できると考えられる.以上から,食事に関してはよく噛んで食べることと甘
いものを取りすぎないことが,大学生の身体を疲れにくくすると考えられる.
「㉜1 日にどのくらい運動やスポーツをしますか」については,健康づくりのための身体
77
活動基準 2013(7)によると,18 歳以上の身体活動基準として日常生活における労働,
家事,
通勤・通学などの身体活動を毎日 60 分,スポーツ等の,特に体力の維持・向上を目的とし
て計画的・意図的に実施する 3 メッツ以上の強度の運動(息が弾み汗をかく程度の運動)を
毎週 60 分することが健康づくりのための基準となっているため,毎日の生活で身体活動を
心がけ,最低でも週に 1 時間程度の運動やスポーツをすることが,大学生の体調を疲れにく
くするのではないかと考えられる.一方で,「㉜1 日にどのくらい運動やスポーツをします
か」の運動項目は,体調項目「⑦腰痛」とはマイナスの関連となっている.高橋ら(8)によ
ると,運動習慣のない人よりも運動習慣のある人の方が腰痛ではないと報告されているが 1
時間を超える自分自身の力量を超えた無理のある運動習慣をもつことは,腰痛を引き起こ
してしまうことが考えられる.
4
総括
睡眠・食事・運動と最も関連がみられた体調項目は②疲れであった.大学生が体調良く過
ごすためには,⑯朝気持ちよく起きること,⑪昼に眠くならないようにすること,㉒食事は
しっかり噛んで食べること,⑬睡眠途中に目が覚めないようにすること,㉜1 日に 1 時間程
度の運動をすること,⑱甘いものを取りすぎないことが大切である.以上の結果を踏まえて
大学生の効果的な指導を検討していきたい.
5
平成 28 年度への展開
平成 24 年度~平成 27 年度の調査結果をふまえ,生活習慣を記録することで健康的な生
活習慣行動の変化を促すことを目的として「生活習慣記録シート」を作成した.平成 28 年
度はこのシートを活用し,家庭や学校における健康教育プログラムを実施し,それぞれの学
年に効果的な健康教育の実践を試みたい.
6
参考・引用文献
(1) 人間発達科学部・附属学校園共同研究プロジェクト平成 24 年度報告書. 児童・生徒
の発達段階と生活習慣の実態
(2) 人間発達科学部・附属学校園共同研究プロジェクト平成 26 年度報告書.児童・生徒の
生活習慣と生活行動の関連
(3) 子どものからだと心白書.2015; 58-59
(4) 光井瞳,上田真寿美.入学半年後の大学 1 年生における睡眠習慣と体重及び体調の関
連.大学教育 2015;12:65-71
(5) 井上美津子.歯科からの食育支援.Dental Medicine Research,2009;29(3):273-281
(6) 林有希子.食文化学部生のストレスと食生活についての調査.梅花女子大学食文化学
部紀要 2015;3:23-32
(7) 厚生労働省.健康づくりのための身体活動基準 2013
(8) 高橋達夫,潤井尚子,山本瑞枝,堀田直子,成田真紀子,木下隆,吉川潤一郎,大道
78
重夫,山下直二郎.生活習慣と健康測定からみた腰痛(症)について.日本人間ドック
学会誌 1999;14 (1):74-77
79
80
Ⅱ小学校での取り組み
― 「附属っ子
チャレンジファイブ!」の結果より
―
1
はじめに
本校では、健康な生活に進んで取り組む子供を育てようと、「附属っ子 チャレンジフ
ァイブ!」という附属小独自の調査を昨年(平成26年)度から実施している。下記のよ
うな「起床、姿勢、食事、歯みがき、睡眠」の5項目について、できたかどうかを本人だ
けでなく、学校と家庭で確認することで、健康への意識をさらに高めていくことをねらい
としている。
資料1
「附属っ子 チャレンジファイブ!」の調査項目
〈子供〉
①
朝、すっきり目が覚めた。
②
授業中の姿勢に気をつけた。
③
給食は残さず食べた。
④
給食後に歯をみがいた。
⑤
夜(
時
分)までに寝た。
〈保護者〉
①
朝、自分で起きていた。
②
食事の時の姿勢に気をつけていた。
③
食事は残さず食べていた。
④
夕食の後、歯みがきをしていた。
⑤
夜(
時
⑤の就寝時刻は自分の
生活に合わせて設定する。
分)には寝ていた。
2 「附属っ子 チャレンジファイブ!」誕生までの経緯
(1)平成24年度(着任1年目、「とやまゲンキッズ作戦」)
富山県教育委員会は、平成15年度から「とやまゲンキッズ作戦」と題する「けんこ
うづくりノート」を配付し、児童が普段の生活を振り返ることで、健康への意識を高
める取り組みを10年以上にわたって実施している。調査項目は全部で35(平成2
7年度現在)、年3回の実施、調査対象は子供となっている。
公立校から来た私は、子供たちとの毎日のふれあいの中で、
「とやまゲンキッズ作戦」
の調査をもとに附属小の子供にふさわしい調査を作成し、ねらいを達成したいと強く
思うようになった。将来社会に大きく貢献する附属の子供たちは誰もがきらきら輝い
ていた。そんな子供たちに毎日会える附属小学校に通えることが楽しくてしようがな
かった。かけがえのない大切な存在の子供たちのために、小学校時代によい生活習慣
を身につけさせることが、附属小学校に勤務する養護教諭の絶対忘れてはいけない使
命だと思うようになった。しかし、よい調査はなかなか思い浮かばず、あっという間
に1年が過ぎようとしていた。
そんなとき、元本校校長で当時富山大学教授の神川康子先生から、調査項目が25に
絞られた「チャレンジ25」という調査を紹介された。私はこれをヒントに、附属小
の子供にふさわしい調査を作ろうと考えた。
(2)平成25年度(着任2年目、「附属っ子 チャレンジ20」)
「チャレンジ25」は、調査項目が35から25に絞られているだけでなく、調査回
数が年3回から4回実施することになっていることも、私には魅力的だった。しかし、
ここで私は、さらに自分なりの工夫を取り入れることにした。
81
①調査項目を、さらに20に絞る。「チャレンジ25」は公立校の子供が対象のため、
附属小の子供には一部すでに定着している項目があった。
②調査を年5回に増やし、健康への意識をさらに高める機会を増やす。
③保健便りを通じて、調査結果を知らせる。
こうして、「附属っ子 チャレンジ20」が生まれ、1年間取り組んだ。しかし、結
果を分析すると、調査項目をもっと絞ること、調査回数は2か月に1度実施する現在
の年5回でよいが1回の調査日数を1日ではなく複数日にすること、調査対象を子供
だけでなく保護者全員に広げること、の3つが大切であるという結論に至った。
(3)平成26年度(着任3年目、「附属っ子 チャレンジファイブ!」)
昨年度末の反省から、
①調査項目を20から5までに、さらに大きく絞り込む。
②調査1回に実施する日数を1日から平日5日間(強化週間)にして、より正確な生活
週間を把握する。
③調査対象を子供から保護者まで広げ、保健便りを通じて調査結果を知らせるが、数値
だけでなく子供や保護者の生の声も知らせる。
こうして、現在の「附属っ子 チャレンジファイブ!」が生まれ、1年間取り組んだ。
結果は、基本的な生活習慣5項目に絞り、1回5日間連続で実施することで、ねらい
である子供たちの健康への意識が高まり、年度当初の調査結果より最終結果の方がよ
くなり、一定の成果が出た。そこで 3 月の職員会議で、次年度もこの調査を継続する
こととした。
3 平成27年度
(着任4年目、「附属っ子 チャレンジファイブ!」2年目)
(1)調査の重点
今年度の実施に当たり、私は5項目の調査内容の中で、どうしても習慣化させたいも
のがあった。それは、よい「姿勢」である。
公立学校の時と比べると、子供たちの授業中や給食時等での姿勢を見る機会が格段に
増えた。正しい姿勢で授業を受けている子供たちの姿を見ると、意欲や集中力が持続
していることが分かり、「さすが附属」とうれしくなった。しかし、猫背や船こぎ、
足組み等気にかかる姿勢の子が少なくなく、周囲から注目を浴びる立場に立つ附属の
子にとってよいことではないこともはっきり分かった。これが、1つめの理由である。
2つ目の理由は、下記に示した本年度「春の視力測定結果」である。
資料2:春の視力測定結果(裸眼視力0.9以下の児童の割合)
80
%
70
60
本校 男子
50
本校 女子
40
県 男子
30
県 女子
20
10
0
1年
2年
3年
4年
5年
6年
(※県の平均は平成26年度の値)
82
本校の裸眼視力0.9以下の子供たちは、1年女子を除き、県の平均よりも高い。そ
して、実際メガネを使用している子供もとても多い。
子供の眼球は18歳まで成長期にあり、特に12歳までの眼球の成長は大きく、近視
が進行しやすい時期でもある。そこで、視力低下を防ぐためには、学習や読書の時の
姿勢に十分気を付け、目が近くならないようにすることが大切である。
視力の低下は遺伝要因と環境要因の2つが関係していると言われている。
したがって、
環境要因については学校が責任をもって指導していく必要がある。つまり、視力低下
を防ぐためにも正しい姿勢の意識を高めていく必要があると思った。
(2)年間計画
まず、4・6.9月の調査を前期分とする。そして、3つの調査結果を児童保健委員
会で十分検討し、11月に学校保健委員会を実施する。
次に、
学校保健委員会は全校児童が参加するとともに保護者も参加するという附属小
でなければできない会とし、健康への意識を高める。その際、現富山大学副学長 神
川康子先生の講演を親子で聴くことで、一層健康への意識を高める。
さらに、学校保健委員会実施後すぐに11月調査を実施し、成果や課題を明確にする。
そして、3学期の中頃に最後の調査を実施するという計画で進めることにした。
(3)「姿勢」に関する前期の取り組み結果
今年度、重点を置いた「姿勢」について前期の結果は以下のようになった。
資料3:前期の調査結果(姿勢)
9月
6月
4月
69.2
67
67.2
保護者:食事の時の姿勢に気をつけた。
74.3
75.8
74.8
子 供:授業中の姿勢に気をつけた。
0
10
20
30
40
50
60
70
80
%
数値を見ると、子供たちは4人中3人が姿勢に気をつけているという高い結果が出た。
これは、自分に対して甘い評価をしているわけではなく、自分が実際よい姿勢でいる
と確信している自己評価であることも分かった。一方保護者は、子供の姿勢に対して
冷静な他者評価をしていることが分かった。
(4)学校保健委員会
11月26日(木)に学校保健委員会を開催し、まず、児童保健委員会の子供が、
「附
属っ子 チャレンジファイブ!」の取り組み結果を報告した。その際、結果だけでな
く、姿勢を正しくする利点についても発表した。
食事中に猫背になる、足を組む、肘をつく、椅子にもたれる
という姿勢は見た目がわるいだけでなく、体の中の内蔵が圧迫
されて負担がかかり、食べ物の消化も悪くなります。
83
授業中の姿勢を正しくすることで、長時間、勉強を続けても疲れ
を感じにくくなります。また、目の疲れが減ります。そして、集中
力が持続し、記憶力もUPします。
次に、神川康子先生の「生活習慣を見直し、心と身体のブレ(動揺)を改善!」とい
う演題の講演を聴いた。「規則正しい生活を送るために自分でできること、親子でで
きることに取り組んでいこう」と話をされた。30分という短い講演だったが、子供
も保護者も真剣に聞くことができた。
【子供の感想】
睡眠不足で集中力や記憶力がなくなることが分かりました。姿勢が悪いために大人に
なって恥ずかしい思いをしたくないので、今から気を付けたいです。これから友達や家
族と注意しあって気持ちよく生活したいです。 (4年 女児)
【保護者の感想】
正しい生活習慣が親から子への大切なプレゼントであることに大変心
が響きました。きっと、大人になってからも人としてとても重要なこと
につながっていくと思うので、早速、今日から実践していきたいです。
(4年 保護者)
親としての姿勢(心、身体とも)について大いに反省させられ、考えさせられま
した。本日、聴いた話を少しでも日常生活に取り入れ、子供の生活スキルの向上を
目指したいと思います。 (1年 保護者)
(5)学校保健委員会後の「附属っ子 チャレンジファイブ!」の結果
学校保健委員会が終わってから、すぐ「附属っ子 チャレンジファイブ!」を実施し
た。結果は、次の通りである。
資料4:11月までの調査結果(姿勢)
11月
9月
6月
4月
71.9
69.2
67
67.2
保護者:食事の時の姿勢に気をつけた。
子
73.9
74.3
75.4
74.8
供:授業中の姿勢に気をつけた。
0
10
20
30
40
50
60
70
80
%
84
数値に大きな変化はないものの学校保健委員会の成果が表れ、
子供たちは自分を以前
より冷静に評価するようになり、保護者は家庭教育の成果を実感していると見て取れ
る。
(6)3学期の「附属っ子 チャレンジファイブ!」
2月に実施しようとしていたとき、思いがけない出来事が起こった。インフルエンザ
の大流行である。全く調査ができなくなり、中途半端な取り組みとなったことが、た
だただ残念だった。
4
終わりに
「姿勢」に重点をおいた取り組みの結果、次のような課題が見つかった。
まず、よい姿勢とはどんな姿勢なのか、また、よい姿勢を保つとどんなよいことがある
のかなどについて、学年の発達段階に応じた保健指導が不足していることである。よい資
料を準備し、子供たちが十分納得できる指導をしていく必要がある。
次に、質問項目の文言見直しである。「姿勢に気をつける」ではなく、例えば「姿勢を
正しくしている」に変える必要がある。
最後に、年間計画をしっかり練り、子供たちも本校教官も保護者も、皆明確な目標やゴ
ールに立った姿を思い描きながら取り組むことが大切であると考える。
健康な生活を送り続けることは、子供たちにとって将来の夢に近づくために欠かせない
ことである。子供たち、保護者、先生方と連携を深めながら子供たちによい生活習慣が身
につくよう、養護教諭としての責務を果たしていきたい。
85
Ⅲ
附属中学校での取り組み
1
-健康行動の継続を目指して-
はじめに
昨年度は、生活習慣病予防講演会で高まった意識を生徒の行動に反映させる目的
でワークシート「自分の生活改善プラン!」を作成し、講演後の1週間に、生活習
慣を改善するためのチャレンジ週間を実施した。そこで、今年度は、このチャレン
ジ週間を6月・7月・1月の3回に増やし、実践を積み重ねることにより、生徒が
思考を深め、よりよい健康行動を選択し、行動を継続できることを目指して、指導
の工夫を試みた。
2
生徒の実態
(1)放課後の時間の使い方
中学生になると、部活動が始まり、家庭学習の時間も増え、放課後から就寝時刻
までに行う活動が増える。そのため、多くの生徒が睡眠不足を実感しており、睡眠
時間を確保するために、就寝までの時間の使い方の工夫が課題となっている。また、
ここ数年のSNSの普及により、一部には、友達とのメールのやりとりやユーチュ
ーブなどの動画の閲覧などが就寝時刻に影響している生徒も見られ始めている。
(2)就寝時刻と携帯電話の使用率の経年変化
本校生徒の就寝時刻と携帯電話での通話やメールの使用率を過去3年間で比較
すると、中学校入学以降の2・3年生には大きな変化は見られないが、入学したて
の1年生の就寝時刻が改善し、携帯電話の使用率が減少している。小学校での保健
指導などにより、保護者や生徒に睡眠を大切にする意識が育ってきているのではな
いかと思われる。
何時に寝ていますか
ア.10時半前
3年(H27)
13.9
3年(H26)
15.6
3年(H25)
13
イ.10時半~11時半
47.5
38.6
37.5
46.9
46.1
40.9
22.8
2年(H27)
ウ.11時半以降
2年(H26)
18.8
2年(H25)
19.5
44.9
32.3
50
31.3
22.3
57.2
0%
20%
22.3
48.4
29.3
1年(H25)
13.8
50.6
35.6
1年(H26)
10.6
42.5
46.9
1年(H27)
40%
86
60%
80%
100%
携帯電話で通話やメールをしていますか
ア.しない
19.6
3年(H27)
イ.時々
33.5
3年(H26)
29.4
3年(H25)
29.9
46.8
37.5
33.5
40.6
36
2年(H25)
30.5
33.5
25.6
2年(H26)
33.1
36.9
32.9
2年(H27)
ウ.毎日
33.8
38
26
56.3
1年(H27)
27.5
46.3
1年(H26)
35
31.8
1年(H25)
0%
16.3
18.8
43.3
20%
40%
60%
24.8
80%
100%
富山県健康づくりノート(ゲンキッズ作戦)の結果より
3
実践
(1)生活習慣病予防講演会
講師
富山大学人間発達科学部
学部長
対象
1年生
日時
平成27年6月10日(水)
演題
子供の生活習慣と健康
神川 康子先生
160名
10:50~12:40
(2)事後の取り組み
「健康づくりノート」とワークシート「自分の生活改善プラン!」を使い(6
月・7月・1月実施)、定期的に自分の生活習慣を見直し、自分の行動目標を設定
し、生活習慣の改善を1週間実践する。
P 計画
<手順>
① 健康づくりノートを活用し、自分の生活習慣を見つめる
・自分の健康課題に気付く
A 改善
② 生活改善プランを活用し、健康行動を自己決定する
・問題の原因を考える
C 評価
・問題の解決策を考える
・実践可能な目標を選択する
D 実行
・実践する
・実践を評価する
P 計画
・目標を修正して再び実践する
87
(3)保護者への働きかけ
9月の学校保健委員会で、生徒の睡眠時間やSNSの問題を話題にし、10月の保
健便りの裏面にその様子を掲載した。
88
4
結果
実践を積み重ねることで、生徒が自分の課題と向き合い、生徒自身が健康行動に向
けたP計画・D実行・C評価・A改善を繰り返すことで、思考が深まり、対策や行動
目標がより具体的で実践可能なものに進化していった。
生徒Aの実践を例に挙げると、健康課題は3回の実践を通して「朝、すっきり起き
られない」と記入されており、Aの課題は継続していたと思われるが、解決策は、6
月・7月の実践時には1つだったものが、1月には3つ提案されており、内容も具体
的なものに変化していた。また、行動目標は6月時「寝る1時間前には携帯電話を使
わない」、7月時「スマホ・テレビ・ゲーム あわせて10分だけ」、1月時「就寝3
0分前には携帯をさわらず、親に預けること」と、より具体的で実践可能な目標へと
進化し、達成度の評価もBやAが増えていった。
健康課題は実践1~
生徒Aの変化
3ともに、「朝、すっき
り起きられない」だっ
た。
課題解決に向けて実践を積み重ねると、初回の実践では、
解決策が1つであったが、3回目の実践では、解決策を3つ
提案できるようになり、内容も具体的になった。
89
実践1(6月実施)
実践2(7月実施)
実践を積み重ねるうちに、
行動目標がだんだん具体的で
実践3(1月実施)
実践可能なレベルに変化して
いった。
実践後の評価には、次回の目標につながる言葉が記され、生徒の中で、計画→実
行→評価→改善の思考の流れが定着し、次回の行動目標につながっていった。
90
5
考察
生徒が、「健康づくりノート」で生活習慣を見直し、「生活改善プラン!」で行動目標
を自己決定し、定期的に生活改善に取り組む実践を積み重ねることで、生徒は、自分の
課題に向き合い、思考を深め、追求し、より実践可能な目標を設定し、生活習慣の改善
に向けた計画を実践し、よりよい健康行動の継続につながった。しかし、学年の多忙な
カリキュラムの中で、この実践を行うための時間の確保が難しい。また、中学生にとっ
て、睡眠時間の確保やSNSの使用制限は、自分の欲求と戦わなければならない難しい
課題である。今後も、生徒が、生活習慣の改善の効果を実感し、健康行動を継続したい
と思えるような指導の工夫を行っていきたい。
91
Ⅳ
附属特別支援学校での取り組み
―かむ指導の実践から―
1
はじめに
本校では昨年度より、本校独自の「生活習慣に関するアンケート」を実施してい
る。今回のアンケートでは、保護者の自由記述欄に「かむ指導」を行ってもらいた
いとの意見が多かったため、講話や保健指導を実施した。内容は以下のとおりであ
る。
2
内容
〇給食試食会における講話(6 月)
保護者が参加する給食試食会では、養護教諭より、「かむことの大切さ」につ
いて話をした。内容は主に、①生活習慣アンケートの結果について、②よくか
むことの利点について、③よくかんで食べるための工夫について、である。ま
た、このことについては、7月の「ほけんだより」裏面で伝えた。【資料1】
〇虫歯予防週間における指導(12月)
虫歯予防週間に合わせて、希望するクラスでかむ指導を行った。
小学部から高等部まで年齢差があり理解度も異なるため、各クラス担任と事
前に十分な打ち合わせを行い、クラスに合った授業の準備を行う必要があった。
そのため、保健室側から指導内容、教材に関する案をまとめ【資料2】、それを
基にどのような内容が適切か、どのような流れで行うかなど担任との打ち合わ
せをし、授業を行った。授業後は保護者より、
「よくかんで食べる。」
「よくかま
ないとお腹が痛くなるから。」と言いながら食べる姿が見られた、との報告があ
った。また、担任からの事後のアンケートでは、
「かむ指導を継続して行いたい。」
との意見もあったため、今後も実施していきたいと考える。
〇3分間のミニ保健指導(3 月)
卒業前の高等部 3 年生を対象に、給食時を利用して、
「かむことの大切さ」に
ついて振り返りを行った。12月に行った授業を覚えていた生徒は、消化の仕
組みや、よくかむことの利点について答えることができた。
3
まとめ
今年度より 4 月にアンケートを実施し、年度初めに生活習慣の実態や保護者の要
望、困り感などを把握したことにより、保健指導を計画的に行うことができた。ま
た、今回より裏面に自由記述欄を設け、食や健康に関して困っていること、指導し
てもらいたいことなどを記述してもらったことにより、より詳しく実態を把握する
ことができた。しかしながら、反省点として、個々の記述に対して、十分に対応を
92
することができなかったことが挙げられる。来年度以降は、早期に担任と話し合い
を行い、一人一人に十分な対応をしていきたいと考える。
【資料1】
93
【資料2】
よくかむ指導(案)-教材など―
・紙芝居
(小学部対象)
「ゆっくりよくかみおおかみくん」
「もぐもぐごっくん」
・内臓Tシャツ
(全学部対象)
食べ物が、口から入って、食道、胃、小腸、大腸を通
って便として出ること視覚で伝える。
・かむ練習
(全学部対象)
するめは、かみにくく嫌なイメージが残る。
普段食べているものでかむ練習を行う。
(皮付きりんごなど)
・牛乳パックで工作
(小学部対象)
自分たちでカムカムカエルを作成する。
(形づくりなど途中まで準備しておく。)
食事の際、机に置きよくかむことを意識させることな
どに活用。
・動画 (全学部対象)
ぬいぐるみや人やかんでいる様子を流す。
(小)
ぬいぐるみ(カエル君パペット)
(中・高)
教員がかんでいる様子を流す。
・そしゃく力判定ガム
(全学部対象)
よくかめているか色の変化で確認。
94
英語科教育グループ
代
表 : 岡崎 浩幸
附属小学校 : 横山 恵
附属中学校 : 吉崎 理香、太田昌宏、飯島悠一
学 部
: 荻原 洋、岡崎 浩幸
今年度は以下のテーマについての研究報告をする。
I 附属中学校における CAN-DO リスト(学習到達目標)の活用とその達成状況の把握(吉崎 理香、太田昌宏、
飯島悠一、岡崎浩幸)
II 附属小学校における CAN-DO リスト(学習到達目標)の設定(横山 恵)
I 附属中学校における CAN-DO リスト(学習到達目標)の活用とその達成状況の把握
1.本研究の目的
附属中学校英語科では、平成 26 年度から、学習到達目標(以下 CAN-DO リスト)を設定し、授業改善、生
徒の表現力向上のための研究を進めてきた。27年度は1,2,3学年において、前期、中期、後期と3回にわ
たって生徒による自己評価表(学習到達度チェックシート)を用いて達成状況を把握した。
その結果をもとに、CAN-DO リストを用いた学習到達目標の設定、活用(授業実践)
、達成状況の把握の一連
の取組の成果と課題を整理したい。その際、自己評価の結果と一連の取組に携わった附属中英語教師 3 名の考察
をもとに、成果と課題について分析を行った。
2. 3年間を見通した CAN-DO リストと学年別学習到達度チェックシート
表1は各学年の技能別 CAN-DO リストである。このリストは中・長期的な CAN-DO リストであり、後述の
「学習到達度チュックシート」に掲載されているものは学年ごとの生徒用 CAN-DO リストである。
表1.各学年の CAN-DO リスト
話すこと
書くこと
聞くこと
読むこと
3 年 ○自分の意見・思いにつ ○身近なテーマについ ○まとまりのある英 ○書かれた内容(説明
後期
いて、文章構成を考え
て、立場を表明し、理
語を聞いて、概要を
文や意見文など)に
ながら理由付けや説
由を述べる、一貫性の
理解し、自分にとっ
ついて、理由をつけ
明ができる。
高い文章を書くこと
て必要な情報を聞
て自分の考えや意
(準備して行う発話)
ができる。
(意見文)
き取ることができ
見を伝えることが
る。
できるように読む
○相手の意見を聞いて ○聞いた内容について、
理解し、それを受け
(メモを取ったりし
て、適切な理由を付け
て内容を正確に理解
て意見を伝え合うこ
した上で)
、理由を添
とができる。
えて、自分の感想や意
(即興的に話す力)
見・賛否を書くことが
できる。
(コメント)
95
ことができる。
3 年 ○聞き手を意識しなが ○読み手を意識し、文章 ○指示、質問、依頼、 ○まとまりのある英
前期
ら、日本や身近な場所
構成を考えながら身
提案などを聞き、場
文(物語文など)に
などについて、自分の
近な事物について、自
面や状況に応じて
ついて、場面や登場
経験や意見を加えて
分の経験や感想を加
言葉や行動で適切
人物の心情を理解
話すことができる。
えて書くことができ
に応じることがで
して、正確かつ適切
(準備して行う発話)
る。
(紹介文、説明文)
きる。
な音量や表現方法
○身近な場面で、相手を ○身近なテーマについ
で音読することが
誘ったり、勧めたり、
て、他の意見を理解
できる。
応じたり、断ったりす
し、それに対する自分
○図や表、グラフなど
るときの表現を正し
の考えや意見を、理由
を含む英文を読ん
く用いて話し、意向を
を添えて書くことが
で、概要を理解する
伝えることができる。
できる。
(紙上ディベ
とともに、必要な情
(即興的に話す力)
ート)
報を読み取ること
ができる。
○書かれた内容(説明
文や意見文など)に
ついて、理由をつけ
て賛否を伝えるこ
とができるように
読むことができる。
2 年 ○身近なテーマについ ○身近なテーマについ ○まとまりのある英 ○まとまりのある英
後期
て、教科書のモデル文
て、賛成・反対や自分
語を聞き、具体的な
文(短い意見文や物
や既習の表現を活用
の意見を述べる表現
内容や大切な情報
語文など)を読ん
して、自分の意見に理
を用い、理由とともに
を理解することが
で、内容にふさわし
由を付けて 4 文程度
簡潔に書くことがで
できる。
く音読することが
の英文で話すことが
きる。
(意見文)
できる。
できる。
○指示、質問、依頼を
(準備をして行う発話) ○身近なテーマについ
聞き、簡単な言葉 ○まとまりのある英
て、読み手の立場を考
(OK, Sure などの
文(物語文や手紙、
○与えられたテーマに
えて情報を整理し、客
短い返答)や動作で
意見文など)を読ん
ついて、意見の根拠と
観的な説明を加えた
応じることができ
で、その概要や書き
なる 1 文程度の英文
簡潔な文章を書くこ
る。
手の意向を読み取
を付けて、自分の意見
とができる。
(ポスタ
り、要点を把握する
を述べることができ
ー文)
ことができる。
るとともに、相手の意
○書かれた内容(説明
見を受けて相づちや
文や意見文、メール
短いコメントを伝え
など)について、自
ることができる。
分の考えを持つこ
(即興的に話す力)
とができるように
読むことができる。
96
2 年 ○身近な人・ものについ ○自分の体験したこと ○まとまりのある英 ○メモやメール、手紙
前期
て、写真や絵、地図な
について、1,2 文程
語を聞いて、メモを
などの身近な英文
どの視覚的補助を利
度の英文で、自分の考
とりながら、自分に
を読んで、書き手の
用しながら、初歩的な
えや気持ちを書くこ
とって必要な情報
意向を読み取るこ
英語(中1教科書レベ
と が で き る 。
を聞き取ることが
とができる。
ル)を用いて説明した
(コメント、日記)
できる。
り、描写したりするこ
とができる。
○簡単な物語文や説
○自分が体験したこと
明文について、場面
や、未来の予定につい
ごとに日本語で要
て時制の表現を適切
約しながら、話の展
○過去の出来事や未来
に用いて、8 文程度の
開を読み取ること
の予定について、ウェ
まとまりのある英文
ができる。
ビングを補助としな
を書くことができる。
(準備して行う発話)
がら、時制の表現を正 (体験談、旅行記など)
しく用いて、聞き手に
正しく伝えたり、聞き ○メールなどで、日常生
手からの質問に適切
活での出来事などに
に応じたりすること
ついて、読み手を意識
ができる。
しながら、既習の表現
(即興的に話す力)
やメール・手紙に特有
の表現を用いて、自分
の感想や、関連する情
報を書くことができ
る。
(メール)
1 年 ○伝えようとすること ○絵や実物を補助とし ○身近な場面(駅、空 ○身近な話題につい
後期
を簡潔にまとめ、内容
ながら、身近な人・も
港、CMなど)で話
ての短い対話文な
につながりのある文
のについて描写した
される英語を聞い
どを、内容にふさわ
章で自分や身近な人・
り、文と文のつながり
て、要点を理解でき
しく音読すること
ものを紹介すること
を意識したりして書
る。
ができる。
ができる。
くことができる。
(紹
(準備して行う発話)
介文)
○与えられたテーマに ○自分の経験したこと
ついて、ペアで協力し
について、時間の流れ
ながら1分間以上対
に沿って書くことが
話を続けることがで
できる。
(日記)
きる。
(即興的に話す
力)
1 年 ○内容面のつながりを ○自己紹介で必要とな ○指示を聞いて、適切 ○強勢、イントネーシ
前期
意識して、自己紹介が
る基本的な英文や、日
に行動することが
ョン、区切りなどに
できる。
常生活の身近な単語
できる。
留意して、簡単な英
(準備して行う発話)
を正しく書くことが
97
文を正しく音読す
○自分のことや身の回
ることができる。
できる。
りのものについて、簡 ○アルファベットの大
○身近な英単語を正
単な対話ができる。
文字と小文字、符号や
しい発音で読むこ
(即興的に話す力)
語と語の区切りなど
とができる。
の書き方のルールを
理解し、正しく使うこ
とができる。
26年度は1,2年生を対象に、10月と3月に CAN-DO リストに基づいて生徒に自己評価をさせた。27
年度は全学年の生徒を対象に「学習到達度チェックシート」を用いて、表2の基準(4、3,2,1)に従って3
回自己評価を実施した。
表2.
「学習到達度チェックシート」における自己評価基準
4:ほぼできる
3:何回かつまずくがなんとかできる (友達、先生の助けがあればできる)
2:ほとんどできない
1:まったくできない
3.結果と考察
3.1 1学年の結果と考察 (太田昌宏)
・1年間を通して、4技能の中でも、特にスピーキングに力を入れてきたので、スピーキングにおいて、でき
るようになったと実感できるようになった生徒が多くなったと思われる。逆に、ライティングへ(まとまっ
た文を書く)の指導の意識があまり高くなかったため、予想していたよりできるようになったと実感した生
徒が多くなかった。2学年では、話せるようになったことを書く活動につなげたり、文章構成を意識して書
く指導を始めたりして改善を目指したい。また、
「聞く」と「読む」は具体として数値化しにくい内容である
ので、来年度の CAN-DO の項目内容も踏まえて検討したい。
・6に関しては、1~2月に即興的に描写したり説明したりすることに特に力を入れていて、質問することへ
の指導が少し足りなかったと思われる(表3、図1)
。
・9に関しては、過去形を習っていない時点で既に数字が高かったのですが、過去形を習い、過去のことにつ
いてのやりとりを経験した上で、自分には難しいと感じた生徒がいたと思われる(表3、図1)
。
・12に関しても、1~2月はスピーキングに力を入れていたため、ライティングへの指導がやや指導不足で
あったと思われる(表3、図1)
。
・各項目に10%程度、できていないと答えている生徒がいるので、それらの生徒への授業中の手立てや、個
別指導に関しても改善を行う必要がある。
・教師にとって、目指したいゴール(明確な生徒につけさせたい力)があるので、それに向けて、見通しをも
って計画し、実践しやすい。また、セルフチェックシートのアンケートをとることで、取り組みや指導につ
いて振り返り、次の指導に生かすことができる。
・生徒にとってのメリットとして、次の3つを上げる。教員がつけたい力を意識して指導するので、その分、身に
付けさせたい力がつく。自分に何ができるようになったのか感じやすい。自分ができないことを課題として課題を
克服しようとできる。
・生徒が4月にはできなかったことが「ここまでできるようになった」とより実感できるようにするための1
98
表3. 1学年 CAN-DO リスト別平均値と百分率
CAN-DOリスト
1(L)
2(L)
3(S)
4(S)
5(S)
6(S)
7(S)
8(S)
9(S)
10(S)
11(R)
12(W)
13(W)
14(W)
15(W)
月 平均 4(%) 3(%) 2(%) 1(%)
相手からの質問や依頼、指示を聞き取り、それらに返答したり(OK. / I got it. / 7月
11月
Sure. )、動作で応じたりすることができる。
2月
簡単な自己紹介のスピーチや空港・機内・駅での対話、ラジオ番組を聞いて、要 7月
11月
点を理解することができる。【教科書のリスニング】
2月
人前で7文以上の英文で自己紹介することができる。
7月
(話のつながりは意識しなくてもよい)
11月
2月
相手の質問に対して、2文以上付け足して、つながりのある内容で答えることが 7月
11月
できる。
2月
7月
自分の好きなことをきっかけに相手と対話を1分間つなぐことができる。
11月
2月
7月
相手の話を聞いて、内容に関連した質問することができる。
11月
2月
7月
自分のおすすめの観光地について、相手が行きたくなるように4文以上の英文
11月
で説明することができる。
2月
7月
絵や写真(教科書の内容)を見て、物語や対話の内容を自分の言葉で説明(リ
11月
テリング)することができる。
2月
7月
自分が経験したことについて、プラス1文の情報を付け足して相手に伝えること
11月
ができる。
2月
7月
昨日したことについて、ペアで1分間対話をつなぐことができる。
11月
2月
7月
130語以上の英文を読んで、その概要を理解することができる。
11月
2月
7文以上の英文で話のつながりを意識した自己紹介レポートを書くことができ
7月
る。
11月
2月
7月
7文以上の英文で話のつながりを意識して、自分の先生を紹介するレポートを
11月
作成することができる。
2月
7月
7文以上の英文で自分の学校を紹介するレポートを作成することができる。
11月
2月
7月
7文以上の英文で1日の生活についてレポートを書くことができる。
11月
2月
図1 1 学年 CAN-DO リスト別平均値の変化
99
3.27
3.41
3.47
3.08
3.14
3.20
3.24
3.51
3.73
3.11
3.46
3.55
2.65
3.06
3.18
3.09
3.39
3.37
2.39
2.85
3.27
2.78
3.12
3.32
3.11
3.49
3.44
2.51
2.93
3.16
2.34
2.96
3.20
2.58
3.32
3.34
2.29
3.03
3.09
2.23
2.90
2.96
2.26
2.94
3.37
36
47
54
28
33
37
42
62
78
34
54
63
16
25
33
31
48
47
9
16
44
21
36
47
38
47
54
13
21
36
14
28
41
14
48
47
6
31
30
7
21
22
11
25
54
53
47
39
51
51
48
41
29
17
43
39
30
40
59
54
49
44
43
32
57
41
43
44
39
38
44
36
36
54
46
26
48
43
41
39
41
34
44
52
31
53
53
28
53
32
9
6
5
18
14
11
13
6
3
20
7
6
36
13
12
15
7
9
44
23
15
27
16
9
21
6
9
37
22
15
39
19
13
31
10
11
42
21
16
38
21
25
38
14
11
1
1
1
1
3
3
3
3
1
2
1
1
8
3
1
4
1
1
14
4
1
8
4
1
3
2
1
13
3
3
20
6
4
13
3
1
17
4
2
23
5
1
23
8
3
つの方法(スピーキング)として、ICレコーダー等の機器の活用があると思う。自分で自分の英語を聞い
て実感させたい。
3.2 2学年の結果と考察 (飯島悠一)
・生徒自身の「できる」という感覚がのびていないことから、生徒が目指すべきゴール(モデル)をこちらが
明確に示していなかったと考えられる。また、今後は授業で行った活動がよりダイレクトに反映されるよう
なパフォーマンステストや考査問題の作成に取り組んでいきたい。
・実際の英語力が下がっていることはないと思うが、セルフチェックシートに書かれている項目がどの程度で
きれば「できた」と見なすのかに関して説明が不足していたと思われる。また、項目4などは、授業で取り
扱う際にややハードルの高い例を示して進めていた感がある。評価規準を明確に生徒に示す必要があると思
った。項目8については6月の研究協議会で行った授業のものであるが、1回目の調査が7月だったため、
すでに高い数値を示していたと考えられる(表4、図2)
。
表4.2学年 CAN-DO リスト別平均値と百分率
CAN-DOリスト
1
相手からの質問や依頼、指示を聞きとり、簡単な言葉(OK, Sure. など
の短い返答)や動作で応じることができる。
2
教科書やリスニングプリントレベルのニュースや校内放送を聞いて、お
おまかな内容と大切な情報を聞き取ることができる。
3
Show and Tellで、6~8文程度で、自分のお気に入りのものを紹介する
ことができる。
4
Explanation Gameにおいて、カードに描かれているものを3文(または1
文)程度の英文でペアに説明し、答えを導くことができる。
(即興的な発話/説明)
5
身近なテーマについて、賛成・反対をあらわす1文に、その理由となる1
文程度の英文をつけて相手に話すことができる。
6
Picture Describingにおいて、しめされた絵(英検準2級程度)に描かれ
ている状況を6割程度描写することができる。
7
3文トークにおいて、グループのメンバーに英文3文で選んだテーマにつ
いての説明や自分の意見を述べることができる。
8
“My favorite thing”というテーマで、ウェビングを用いて4~6文程度で
自分のお気に入りのものをALTに紹介することができる。
9
“My favorite thing”というテーマで、話している途中や話し終えた後に
ALTから受けた質問によって、紹介文の内容を1~2文程度増やすこと
ができる。
10
身近なテーマについて、ペアで意見を言い合い、相手の意見に対してコ
メントを述べることができる(1.5~2往復程度で)。
11
2つのものを比較して、自分の意見を理由とともに4文程度の英文で述
べることができる。
12
初めて読む教科書程度の文章で、内容の要点を5W1Hの観点から相
手に伝えることができる(日本語可)。
13
1日の中のある話題に絞って、自分の感想を含む4文以上の日記を書く
ことができる。
富山紹介ポスターにのせる3文の英文を、読み手を意識して(富山の魅
14 力を具体で説明する1~2文、富山でできること1~2文、誘う文1文な
ど)書くことができる。
15
教科書のモデル文を参考にすれば、自分の夏休みの思い出について紹
介する原稿を8文以上の英文で書くことができる。
100
月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
7月
11月
3月
平均 4(%) 3(%) 2(%) 1(%)
3.86 88
10
2
0
3.79 81
16
3
0
3.76 79
18
2
1
3.51 54
43
3
0
3.37 41
56
3
0
3.47 54
40
5
1
3.54 58
38
3
1
3.42 49
44
6
1
3.32 39
55
5
1
3.39 47
46
6
1
3.29 39
52
8
1
3.24 36
54
10
1
3.11 36
42
21
2
3.50
56
39
4
1
3.46 52
42
12
0
2.77 23
39
28
10
3.03 31
46
19
4
3.27 39
49
12
0
3.27 42
46
10
3
3.21 35
54
8
3
3.17 29
61
9
2
3.57 66
25
8
1
3.49 59
31
8
1
3.42 49
45
5
1
3.41 50
43
5
2
3.29 40
51
8
2
3.22 34
57
7
3
3.36 53
31
14
2
3.29 40
51
8
2
3.26 40
47
12
1
2.97 26
48
23
3
2.97 26
50
19
5
3.31 44
44
10
2
3.47 58
33
6
3
3.47 53
42
4
1
3.30
46
38
15
1
3.58 66
28
4
2
3.61 68
27
3
2
3.37 50
39
10
1
3.29 43
45
10
2
3.33 44
47
6
3
3.42 52
38
9
1
3.37 49
42
7
3
3.60
66
29
4
1
3.36 48
41
10
1
・生徒に付けたい力が、条件や場面設定とともに示されているので、どのような活動を仕組んで授業を行うか
のイメージをもちやすい。また、3年間の見通しをもって作成されているので、生徒がどの時期にどのよう
な力を付けていくのかという過程がわかりやすく、教科書の内容理解においてもどこに重点を置くべきかが
見えやすい。
・生徒自身が付けるべき力を把握することによって、学習に対する見通しがもてる。年度の初めに配布したセ
ルフチェックシートは回収しているが、保存用に1枚持たせておくことでより頻繁に振り返らせることがで
きるかもしれない。
・CAN-DO リストに示されている付けるべき力は統一されているが、どのような活動を行い、どのような評
価をするかは担当者によって違いが生じる。それにより、セルフチェックシートの項目の一部が変わること
があり(文の数や紹介するものの種類など)
、経年変化が見えにくくなるおそれがある。担当者間で、CANDO リストおよびセルフチェックシートの見直しを年度末に共有する必要がある。
図2 2学年 CAN-DO リスト別平均値の変化
3.3 3学年の結果と考察 (吉崎理香)
・項目2は、2学年時も同じ項目で指導を行っていたが、セルフチェックシート上で生徒の自己評価が低かった
ものである。そこで、今年度も引き続き指導を行った経緯がある。昨年度に比べて、生徒の自己評価に伸びが
見られ、生徒にとっては難易度が高いと捉えられている項目であるが、継続的な指導の成果を感じることがで
きた(表5、図3)
。
・すべての項目において伸びが見られたが、項目によっては、2(ほとんどできない)
、1(まったくできない)
を選んだ生徒が比較的多いものもあり(リスト14、15番3月)
、それらの生徒にむけた指導の在り方を考え
させられた(表5)
。
・全項目順調に伸びた理由として、セルフチェックシート上のそれぞれの項目について重点的に指導する期間が
あるが、年間を通してそのあともくりかえし授業の中で指導を行ったり、復習をしたりしているからではない
かと考えられる。また、3年生の12月には実質的に16項目すべての指導は終了しており、そのあとはこれ
までやったことの復習や入試にむけての準備を進めている。その中で、とくに聞く能力、書く能力、読む能力
については生徒自身が自信を付けていくのではないかと考えられる。
・付けたい力を明確に意識した授業を展開でき、3年間を通して見通しをもって指導できる点がメリットとし非
101
常に大きい。
・CAN-DO リストがあることで、形成的評価を進める際も今後の指導を十分意識した評価を行うことができる。
また、生徒自身によるセルフチェックシートを指導者が年間の指導過程で把握していくことは、その後の指導
に反映していくことができ、意義深い。
・英語科の教員同士で生徒に付けたい力を共有することができるので、学年間における生徒の英語力に大きな差
ができることが少ないと思われる。
表5.3学年 CAN-DO リスト別平均値と百分率
CAN-DOリスト
1
日本文化紹介で選んだものの説明、それを選んだ理由、具体的な使い
方などを含めて5~7文程度で書くことができる。(書く能力・紹介文)
2
絵(英検準2級2次試験)に示された状況の前後を含めて8割程度説明
できる(即興的な発話、説明)
3
4
5
6
説明文や意見文(Unit3 Fair Trade Chocolateや他社の教科書の英文
など)を読み、関連する内容について自分の意見を理由とともに伝える
ことができる。 (読む能力、話す能力)
身近な場面(友人同士の会話、食事中の会話、道案内など)で、相手を
誘ったり、提案したりするときの表現を正しく用いて話すことができる。
(即興的な発話)
身近な場面(友人同士の会話、食事中の会話、道案内など)で、相手を
誘ったり、提案したりするときの表現を正しく用いて話すことができる。
(即興的な発話)
物語文(A Mother’s Lullaby)を、場面や登場人物の心情を理解して、
適切な音量や発音で気持ちをこめて、ALTが理解できるようにレシテー
ションすることができる。 (読む能力)
7
身近なテーマについて、他の意見を理解し、それに対する自分の考え
や意見を、理由を添えて書くことができる。 (紙上ディベート/書く能力)
8
自分の行ったことのある場所や身近な場所について、自分の経験や意
見を加えて7文程度で話すことができる。(準備して行う発話)
9
図や表、グラフなどを含む英文を読んで、必要な情報を読み取ることが
できる。 (説明文/読む能力)
10
好きな場所や人、有名人について自分の意見や思いを入れながら8文
程度の紹介文を書くことができる。 (書く能力)
11
レポート文や簡単な説明文などのまとまりのある英語を聞いて、ほぼ概
要を理解できる。 (聞く能力)
与えられたテーマについて、賛成や反対などの自分の立場を明らかに
12 し、理由を述べながら一貫性の高い文章を8文程度で書くことができる。
(意見文/書く能力)
13
自分の選んだテーマ(将来の夢、中学校生活の思い出など)について、
7文程度で構成を考えたスピーチ文を作ることができる。 (書く能力)
14
友達のスピーチを聞いて、内容に関するコメントや質問を行うことで、ス
ピーカーからさらに内容を引き出すことができる。(即興的に話す能力)
身近なテーマについて、相手の意見を聞いて理解し、それを受けて、適
15 切な理由をつけて自分の意見を伝えることができる。(相手の発言に関
連づける表現を使って話し始める) (即興的に話す能力)
16
聞いた内容について、理由をつけて自分の感想や意見、賛否を5文程
度で書くことができる。 (書く能力)
102
月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
4月
10月
3月
平均 4(%) 3(%) 2(%) 1(%)
3.30 37
56
6
1
3.47 53
42
5
1
3.60 64
32
2
1
2.80 16
52
27
5
3.21 36
52
10
3
3.43 53
40
6
2
2.71 11
53
32
4
3.18 34
53
11
3
3.53 61
33
4
2
2.80 17
51
27
5
3.28 44
44
9
3
3.53 61
32
5
2
2.79 15
54
26
5
3.25 41
44
14
1
3.45 55
38
6
2
2.68 17
44
29
10
3.12 32
50
14
3
3.31 45
44
8
3
2.86 18
56
22
5
3.34 45
47
6
3
3.61 64
29
5
1
3.04 30
49
16
5
3.31 42
47
10
1
3.64 69
27
3
1
2.94 29
41
24
6
3.32 46
40
13
1
3.63 68
27
4
1
2.95 21
58
16
5
3.20 35
51
12
1
3.51 59
34
6
1
2.67 17
41
34
8
2.99 27
48
23
2
3.44 53
39
6
1
2.55
8
46
38
8
3.04 25
55
19
1
3.37 47
44
8
1
2.86 19
52
23
5
3.16 34
47
18
1
3.58 64
32
4
1
2.45
9
39
40
12
2.64 11
48
34
6
3.15 30
56
12
1
2.52
7
47
36
10
2.86 19
53
24
5
2.68 12
52
27
9
2.68 12
52
27
9
3.15 34
49
14
3
3.55 60
36
4
1
・生徒自身は CAN-DO リストをセルフチェックシートという形で目にすることになるが、年度の初めに生徒自
身がセルフチェックシートを実施することで2つのメリットがあると実感した。1つは、生徒自身が今後1年
間かけてつけていく英語力を見通すことができる。実際、3年生の生徒たちは4月当初セルフチェックシート
を見たとき、
「先生、これを1年間でやっていくのですね。え~、難しくないですか?」と言っていた。2つめ
は、生徒自身がその時点での自分の英語力を自覚する絶好の機会になることである。生徒が、これから力をい
れていかなくてはいけない技能や、現状のままがんばっていこうと思える技能を自己理解することができる。
・セルフチェックシートは CAN-DO リストそのものより具体的に到達目標が示されているので、生徒にとって
は評価がどのように行われるかの目安となり、授業を受ける際にもあらかじめ単元ごとの目ざす姿を予知する
ことができる。これまでは、集計のために毎回セルフチェックシートを回収していたが、年間を通して生徒の
手元にあるようにしてもいいと感じた。
・評価に関して課題が残る。パフォーマンス評価が各学年で大きな比重を占めるが、評価基準についてはそれぞ
れの担当者によるところが大きい。評価についても指導者間の共通理解がなければ CAN-DO リストの効果は
不十分であると考えられる。
図3 3学年 CAN-DO リスト別平均値の変化
II 附属小学校における CAN-DO リスト(学習到達目標)の設定(横山 恵)
1 はじめに
2014年から、附属小学校では3~6年生で週1回の外国語活動を実施している。また、どの学年でも授
業後に振り返りカードによる自己評価を行い、単元ごとに到達度をチェックしてきた。2020年の小学校英
語の教科化に向けて、小学校での CAN-DO リスト(学習到達目標)の在り方について見通しをもち、児童の
実態を加味したリストの作成を試みたいと考えた。
103
2 児童の実態
英語を習っている子供が5割!
右のグラフからも分かるように、2年生以上で約半数の子供が英
語を習っている現状である。
英検に合格した子供もいる!
右のグラフから、英語検定(児童英検等も含む)の資格をもつ子供
も学年が上がる毎に増え、各学年に2~8人程度見られる。英検3
級を、今は小学生が受検する時代である。
半数が、外国に行ったことがある!
学年が上がるにつれて、外国を訪れた経験のある子供の割合が増
え、6年生では半数以上の子供が外国に行っている。予想以上に多
くの子供たちが海外に行き、現地で滞在したり異文化に直接ふれた
りする体験をしている。
英語学習への意欲が高い!
「英語をもっと話せるようになりたい」と願っている子供が、ど
の学年でも9割近くいる。
上記のアンケート結果から、本校の児童の外国語活動への興味・関
心の高さ、授業改善の必要性、成長を自覚できる振り返りの大切さを
感じた。こうした実態を加味しつつ、小学校での CAN-DO リスト(学
習到達目標)の在り方について考えてみたい。
3 小学校版 CAN-DO リスト作成で見えたこと
この度、下記のような小学校版の CAN-DO リストの作成を試み
た。下記の通り、5、6年生用の2種類に分けて作成し、単元ごとに到達度を4段階で自己評価できるように
した。また、4月、9月、3月の年3回実施し、自分の成長の伸びが見えるように作成した。
今年の4月、外国語活動開始時に、5、6年生にこのリストを配布してチェックをした。未習の内容につい
ても到達度「4」レベルを記入する姿が見られたものの、子供たちは自分の英語への到達状況を真剣に記入し
ていた。単元ごとのチェック欄であるため、
「単元の具体的な活動の様子を振り返りやすい」
「年間の活動につ
いて見通しをもちやすい」ことが、このリストの特徴であると考える。
反面、今回の CAN-DO リストの作成で、授業内容について再考の必要性が見えてきた。例えば、リストの
項目が“話す”ことが中心であることだ。小学校の外国語活動では、
“話す”
“聞く”の2つの観点を大切にし
たコミュニケーション活動を実施している。しかし、これまでの実践を振り返ると、
“話す”方に焦点を当て
た授業が多かったことが、今回のリスト作成で判明した。
104
4月、9月、3
月の年3回実
施する。
単元ごとに項目を
分ける。
4段階評価で
実施する。
4 小学校版 CAN-DO リストの今後の展望
英語を“聞く”場面が不足していた実態を改善するため、導入時の 10 分間を「リスニングタイム」とし、
ALTの英語を聞き取って日本語でメモする取り組みを、今年の2月から実施した。
〈ALTの英語を聞く3年生の児童と リスニングのメモ〉
105
初めは5、6年生での「リスニングタイム」だけを考えていたが、試しに3年生でも実施してみた。3年生
のリスニングの内容は、授業で慣れ親しんだ“I like”や“I don’t like”の英語表現が中心だったが、3年生
でもALTの英語を聞いて、日本語でメモをとることができた。また、5、6年生になると、
「どんな英語が
聞こえましたか?」という教師の問いに対し、聞こえた英語を想起してすぐに発音する姿が見られたのである。
そうした子供の実態から、
“話す力”と同様に“聞く力”も育っていることが分かった。しかし、
“聞く力”を
評価する場面が授業の中に不足していたのではないかと振り返る。
5 終わりに
今回のリスト作成により、英語を“話す”だけでなく“聞く”観点からも自己評価し、活動意欲の向上や自
信につなげていく必要性を感じた。児童の実態を把握しながら、ALTとの「リスニングタイム」の他にも英
語を“聞く”力を伸ばす新たな取り組みを実践していきたい。そして、
“話す”と“聞く”の2観点の到達度
をバランスよくチェックできるリストの作成について、今後も実践を重ねたい。
106
生活・総合グループ
(部員)
附属幼稚園
:
廣田仁美
高島浩美
米﨑瑛美
岩田郁代
稲垣恵美子
神川瑞子
加藤ちえみ
附属小学校
:
有島智美
大
:
○松本謙一
学
(計9名)
【研究主題】
幼小の連携を考える
附属幼・小の取り組みと海外視察から
【研究の方法】
・
附属幼稚園と附属小学校(生活科)を中核に据え、それぞれの研究会の単元を通し
て、上記テーマについて考える。
・
シンガポールの幼小連携視察を手がかりに、これまでの取り組みを見直す契機とす
る。
・
附属幼・小教員
並びに
大学教員は、議論に参加するとともに、実践後、考えさ
せられたことを各自がまとめる(分担)。
【研究の経過】
第1回
研究部会
5月22日
今年度の研究の見通し
第2回
研究部会
6月12日
附属小における実践の考察
第3回
研究部会
6月15日
附属幼における実践の考察
第4回
研究部会
6月18日
附属幼における実践の考察
第5回
研究部会
11月27日
子どもの見取りの仕方
第6回
研究部会
12月25日
シンガポール事前研修
第7回
研究部会
1月7日~12日
シンガポール研修
第8回
研究部会
3月18日
附属幼での保護者への報告
第9回
研究部会
3月24日
研究のまとめ
107
シンガポールの教育視察から
富山大学人間発達科学部附属小学校 教諭 有 島 智 美
2度目の海外教育視察
10 年前、富山大学大学院に在籍中に、富山大学と提携しているケンタッキー・マーレイ州立大学
への訪問研修を兼ねて、マーレイの小学校や中学校での授業の様子を視察するという研修に参加させ
ていただいた。
アメリカ視察では、学校教育の目標は「よい市民をつくること」であり、納税し、よりよい国をつ
くるのだという考えにまず驚き、善い行いには、教師からポイントを与えられるという制度の学校が
あったことにも驚いた。休み時間には、先生はしっかりと休憩をとり、ガードマンが校庭を警備する、
給食を見守る職員がいて、担任の先生は関わらないという学校のシステムにも驚いた。
そして、アメリカの、というより英語の褒め言葉の多さに驚いた。とにかく先生方は、子供たちを
大 い に 褒 め て い た 。 Good!
Perfect!
Nice!
Great!
Wonderful! Marvelous! Cool! …
Amazing!
Fantastic!
Super!
Brilliant
本当に表情豊かに子供を誉める。それが、アメ
リカでの研修の一番の収穫だった。
今回、富山大学の山西純一教授と松本謙一教授、附属幼稚園の米﨑瑛美教諭と共に、OCED の学習
到達度に関する調査学力調査(PISA)の上位国であるシンガポールの教育現場を視察する機会をいた
だいた。今回は、主に、幼稚園や小学校低学年の教育事情、幼・小連携について視察する計画である。
シンガポールは、教育水準が高く、ICTの活用も盛んであると、ニュース等で見聞きはしてるもの
の、実際はどうなのだろうと、この目で確かめてくることを目的に、シンガポールへと旅立った
右記の日程で、幼・小の連携及びそれぞれの教育の 1月 8日(金) Nan Chiau Primary school
(南侨小学校)
現状について、聞き取り調査及び現状視察を行ってき
た。しかし、さすが赤道に近い国・・・日本を出発し 1月 9日(土) Sim University
1月10日(日) Ministry of Education
たとき、富山は3℃と真冬の寒さだったのに、シンガ 1月11日(月) Temasek Preschool
ポールは30℃を超す暑さ。こんな暑さが、一年中続
Fuhua Primary school
(福華小学校)
く中で、子供たちは、どのように勉強しているのだろ
うか。2校の小学校の訪問を中心に、今回の視察についてまとめていく。
Nan Chiau Primary school(南侨小学校)
ま ず 、 最 初 に 訪 れ た 学 校 は 、「Nan Chiau
Primary school」である。シンガポールでは、
"FutureSchool@Singapore"(フューチャース
クール)に指定された学校がいくつかあり、訪れ
た Nan Chiau Primary school は、そのうちの
1校である。
そこに通う子供たちは、どんな子供たちなのか
を校長先生に質問すると、
「学校に通える範囲のと
ころに住んでいる子供で、
本校を希望する子ども」
108
だそうで、試験がないそうである。定員をオーバーすると、いくつかの先行条件に当てはめて選抜す
るそうだが、学力によるのではないそうである。フューチャースクールなのに、選抜試験がないとは
意外だった。
Nan Chiau Primary school に着いて、一番びっくりしたことは、その規模の大きさだ。全校児童
1861人で、1学年300人以上、1学年に10クラスもあることだ。スタッフは、なんと113
人。シンガポールは、新しい学年が1月から始まるので、子供たちは進級したばかりだった。入学し
たばかりの1年生の教室を見学させていただいた。
日本と違い、玄関で靴を脱ぎ履きしないため、教室の外は、廊下と言うよりも通路と言った方がよ
いのかもしれない。教室の左右の壁は、一面が窓になっており、風邪が通るようになっている。一年
の平均気温が26℃~27℃と言われている熱帯のシンガポールならではの作りなのかと考える。こ
の暑さでも、学校にはエアコンが設置されていなかった。
多民族国家であるだけあり、このクラスの担任の先生は、イスラム教の方だった。黒板の右上には、
シンガポールの国旗が飾ってあり、毎朝、授業前には、シンガポール国歌を全校で歌うのだそうだ。
そして、ごく当たり前に、ICTを使った授業が行われている。1年生のこの教室は、新学期が始ま
って、まだ2日目だったが、先生が学校の一日の生活について、ICTを用いながら説明していた。
この教材は、先生が作るのではなく、教材を作るスタッフがいるそうである。
机やいすの高さは、日本のように個人に合わせて調整しない。1800人以上の机椅子の調整をす
るとしたら、途方もない労力である。それもあるかもしれないが、授業によってクラス編成が変わる
からという理由もある。この小学校での主要教科は、英語、算数、そして Mother Tongue(母国語)
の3つで、中学年になると、これに理科が加わる。Mother Tongue 以外の授業は、全て英語で行わ
れる。では、英語ができない児童は入学できないのか、と言ったらそうではなく、全員が就学可能で、
学校生活を通して英語を身につけていくそうである。このあとに訪問した Temasek Preschool で
も、幼稚園の先生たちは、英語で保育を行っていた。Mother Tongue は、中国語、マレー語、タミ
ル語から選択する。この Mother Tongue の授業では、選択する言語によって、教室編成が変わるの
だという。英語、算数は、学級担任が授業を行うが、Mother Tongue は、専科の先生が授業をする
そうだ。主要教科は、毎日、時間割の中に組み込まれており、社会、体育、図工、音楽、道徳、保健、
そして Applied Learning(応用問題)という授業を週に数時間ずつ学習していくという。カリキュ
ラムの時間は、朝7時半から午後1時半まで。給食はなく、かわりに、とても広い、フードコートの
ような食堂があった。さまざまな宗教、人種に対応するため、いろんなメニューがあり、朝7時から
午後2時まで開いているそうだ。そして、保護者にも開放されているそうだ。
109
フューチャースクールに指定されている学校なので、
さぞかし特別授業があるのかと思いきや、校長先生いわ
く、
「普通の公立の学校です」とのこと。1年生の英語の
授業は、アルファベットの練習から始めるし、算数は
「1・2・3…」から始まる。全く日本と変わらないよ
うである。しかし、NCPCプログラム(Nan Chiau
Primary school program)という独自のカリキュラ
ムを制定しており、特に、ICT機器を授業の中で自然
と児童自身が活用できるカリキュラムを編成していると
いう。今回は、児童がICT機器を活用する授業を見せていただくことはできなかったが、1年生か
ら6年生までの間に、自然と情報活用能力がつくようになっているそうである。また、情報化が進ん
でいるシンガポールなだけに、情報モラルやセキュリティに関する授業もしっかりと行っているとの
ことであった。
この Nan Chiau Primary school で伺ったお話の中で、驚いたことがもう一つある。それは、学
校運営のこと、特に保護者への対応のことである。まず、児童の成績に関しては、懇談会などで通知
表を渡すのではなく、保護者が学校のHPからログインし、自分の子供の成績を閲覧するのだそうで
ある。学校からのお知らせも、メールが主で、
「宿題を出していませんよ」という連絡も、メールで行
っているそうである。また、学校専属の弁護士がいて、何かトラブルがあった際は、担任は事実を報
告し、管理職と弁護士とで保護者に対応するそうである。
Fuhua Primary school(福華小学校)
Fuhua Primary school(福華小学校)も Nan Chiau Primary school 同様、大変規模の大きな
学校である。校内に入って、まずびっくりしたことは、観光バスのようなバスが10台近く停まって
おり、スクールバスだそうだ。徒歩通学の児童がほとんどであるが、徒歩で通学できない児童のため
に、スクールバスを運用しているそうである。この Fuhua Primary school は、SMART SCHOOL O
F FUTURE に指定されており、ICT教育の中核校、拠点校である。この学校では、小学校低学年
でICTスキルとして、ワード入力を学習する。中学年では、パワーポイントとエクセル入力を学習
し、高学年では簡単なアニメーションを作るといったICTスキルを学習するカリキュラムが作られ
ている。それらは、普段の学習で、また、情報の授業の中で行われるそうだが、ICTサポート教員
が8名、また、大学との連携で学生サポートが協力してくれるため、一人一人の学習に細かく、丁寧
に対応できるそうである。確かに、低学年の子供たちに入力を教えるというのは、一斉授業では大変
難しい。このようなバックアップ体制ができているのは、大変うらやましい限りである。
まず、2年生のICTの授業の一つを見学した。英語
の時間に学習した物語を、劇で表現する活動である。ま
ず、この物語の背景を、画用紙にイラストで描く。クロ
マキールームでテレビ画面にイラストを映し出しながら、
ビデオカメラで子供たちを撮ると、その絵の中に自分た
ちが入り込んだかのような画面になる。その中で、演技
をし、録画することで、物語を映像作品としてまとめる
学習を行っていた。出来上がった作品を見ながら、自分
たちで、
よかったところ、
改善点などを話し合うという。
110
日本で、
「劇にしてまとめる」というと学習発表会などで行う、または、紙芝居で表現、ペープサート
で人形劇のように・・・というイメージしかなかったので、この方法には、大変驚いた。
また、3年生の中国語の時間では、一人一人がノートパソコンを用いて授業を行っていた。まず、
パソコン室に入って驚いたことは、壁3面がホワイトボードになっていて、3面とも違った内容の画
面が映し出されていることである。先生には定位置がな
く、内容に合わせてこっちのホワイトボードの前で、あ
っちのホワイトボードの前で授業を進めていくのである。
これらのホワイトボードは、タッチ機能があり、図を動
かしたり線で囲んだりできるので、自分の考えを説明し
やすくなっていた。また、一人一人のパソコンの画面に
は、今日の学習の流れが映し出されていて、課題が終わ
った児童から補充問題をしたり、発展問題に取り組んだ
りできるよう、プログラムされていた。
中心発問についての話し合いの場面で、日本だと、
「この問題について、どう思うかノートに書きま
しょう」と指示するところ、パソコンに入力するのである。子供たちが入力した自分の考えは、即座
に、ホワイトボードに映し出される。誰がどんな考えなのか、誰がまだ入力を終えていないかも把握
できる。入力し終わった子は、友達の考えを見ながら、似ている、似ていないと話し合ったり、誰の
意見を詳しく聞いてみたかを考えたりするよう指示されていた。
また、日本でよく「Aの意見に賛成の人、Bの意見に
賛成の人」などと質問し、手を上げさせるが、この授業
では、ABCをQRコードの書かれたボードをあげさせ
ていた。このQRコードは、誰が選んだ分かるようにな
っていて、先生がスマートフォンのカメラで教室を映す
ことによって読み取ることができる。そして、Aの意見
が何人…と読み取ったり、読み取ったデータをグラフに
して提示したり、出席番号で色分けして提示したりと、
その時の目的に合った方法で子供たちに提示していた。
とにかく、先生方が、自然にICT機器を使いこなしていることに驚いた。これらの教材は、先生
一人一人が作るのではなく(もちろん作られる方もおられるが)学校の中に、サポートスタッフと教
材開発スタッフが配置され、
実際に授業を行う先生方の意見を聞きながら教材を作るのだそうである。
シンガポールでの教育視察を振り返って
今回の研修で、一番感じたことは、シンガポールでは、ICT機器の活用を普通のこととして行ってい
ることである。
「使いやすいから使う」
「効率がいいから使う」という考えのほかに、土台には「未来を
担う子供たちにとって、英語とICTは必要不可欠なもの」という考えがあり、国も大学もそれらを金銭
面、人材面で最大限バックアップしている。また、学校の管理職も「本校では、こんな子供たちを育て
たいのです!」とPRして、実績を示しながら、企業から寄付を募って、教育に役立てている。山西教
授とも話していたことだが、国の制度や教育環境は違うけれども、もっと気楽にICTを使おうとする姿
勢が私には必要なのだと痛感させられた今回の視察であった。
111
2016.1/7~1/12 シンガポール研修を終えて~幼児教育の視点から~
富山大学人間発達科学部附属幼稚園 教諭 米﨑 瑛美
シンガポールの幼児教育に関連する機関として、2施設を視察した。
【PLAY(Preschool Learning AcademY) @ Temasek Polytechnic】
教員を養成する学校に併設されたプリスクールである。
「Tenacity、Empathy、Marvel、
Accountability、Self-Regulation、Enterprise、Kindness」の力の育成を掲げている。
子どもたちの生活する環境づくりに、様々な工夫が見られた。
・ 園内に自然物を置いたり、空間を飾ったりし、子どもの感性に働きかける環境がつく
られている。
当園に園庭はないが、ふれること
のできる場に自然物が置いてある
壁に付いている額縁には、
洗面所の前に使用済み CD。
好きな物を入れることができる
きらきら光ってきれい
・ いつでも手にとれるように楽器が並べられていたり、自由遊びの部屋にはモーターや
豆電球等の電子部品が置いてあったりして、“本物”にふれることができる。
・ 展示されている子どもの作品の横に製作時の写真が添えら
れており、活動の様子を知ったり振り返ったりすることが
できる。(右図)
・ 掲示物には中国語のものと英語のものが混在しており、子
どもたちは日常的に2つの言語にふれることができる。
【Ministry of Education】
2013 年、就学前の全ての子どもにホリスティックな発達を保証することを目的に
ECDA(Early
Childhood
and
Development
Agency)が活動を始めた。Kindergarten と Child
Perseverance
Care Centre を一元化しようとする動きは日本の現状
Reflectiveness
と似ている。ECDA は、幼児教育で育てたい態度とし
Appreciation
て、右の6つの観点を挙げている。
Inventiveness
( 参 照 :「 NURTURING EARLY LEANERS ( A
Sense of wonder and curiosity
Curriculum Framework for Kindergartens in
Engagement
Singapore)
」※HP でダウンロード可
112
研究のまとめ
附属小学校
1
有島 智美
主な協議内容
・ 「どんなファミリーパークにしようと思っているの?」の課題から、今のお世話の仕方を見直す
視点が出てきていた。(たとえば、きれいな観察池にしたいけれど、餌の食べ残しで水が汚れてし
まう。→でも、たくさんあげないと共食いが心配。
)個人、またはグループの中の矛盾がある。
・
「土日のエサをどうするか」の問題で、「いつもどおり」or「ちょっと多め」、「?」に分けて位
置づけさせたことで、その根拠が多様に出てきた。(生き物によって餌の回数が違う、食べ残した
ら水が汚れる、少なかったら共食いする、日曜日に様子を見に来る等)ただ、どれを選ぶか、グル
ープで決定する時間が取れなかった。結局、時間がなく、話し合ったことを活動に生かせなかった
のではないか。また、今日やりたかったこともできなかった。
・ 「ぼくは○○しいくいん」という副題の価値がある。飼育員としてどんな活動をしたいか、活動
に広がりがある。ただ育てるのではなく、考えながら楽しみながら活動できる。生き物を扱うとき、
どうしても死んでしまう。
「死んでしまって悲しい」と発言した酒井児の発言から、飼育員として、
どうして死んでしまったか、自分たちの世話の仕方を振り返り、どう取り組んでいくかを考える。
生き物が違ってもクラスのみんなが関われる。話し合いが、各自の活動に生かされる。
2
研究の成果と課題
○ 今回の単元における矛盾の顕在化のための手立て
・生き物への思いを高める単元名の提示→1
・生き物への気付きが生まれる継続的な飼育活動と表現活動→毎日の世話、振り返りカード
・
「違い」を核にした言語活動による交流の工夫
→生き物によって世話の仕方、棲みかや好みの違いがあることが、話し合いの中に出てきた。
土日の世話の意思表示
・思い通りにいかない場面が自分の活動を見直すチャンス→6月8日(月)のカラス事件
・互いの思いや気付きを可視化する
→プレートによる土日の世話の意思表示、
話合い後
単元を通しての自己評価の一覧、グループごとの自己評価
活動後、これをいかした振り返り方をくふう。
113
▲切実感のある課題の提示とそのタイミング
○
はじめの認識について
生活科の場合、初めの認識は、個人個人で違っている。本時で言えば、
「今日はこれをやりたい」
という思いである。前時の終わりに、次時への見通しとして持っており、一人一人それで安定して
いる。それが、
「今日はこれをするつもり」というやりたいことであったり、
「○○をしたいのだけ
れど、まだはっきり決めきれない」
「○○をしたいのだけれど、どのようにしたらうまくいくのだ
ろう」等困っていることであったりする。
○
思考の活性化・矛盾の場面
本時の場合、授業の中盤で、伊東児の「ぼく、今日、ホウレンソウこんなにたくさん持ってきた。
だって、明日、土日でしょう。だから、土日の分もあげようと思って」という発言を、クラスの思
考を活性化させる、はじめの認識にゆさぶりをかける発言として取り上げた。
伊東児の発言を、ゆさぶりとして持ち出す場合、
「どんな池にしたいと思って今日の活動をする
か」を語らせずに、最初から伊東児を意図的指名し、「土日のえさやり、どうする?」という課題
を投げ込んだ方がよいのではないか。
「土日」という新しい視点をもってくることで、子供たちは、
今日するつもりだったことを見直し始めるのではないか。なぜなら、生き物の命に関わることだか
らである。
「どんなファミリーパークにしたいか」の話し合いでは、
「生きものが長生きする」
「生きものが幸
せになる」
「生きものが喜ぶ」と、生き物に寄り添った意見がたくさんあった。
「きれいな」に関し
ても、
「汚いと生き物が病気になる」
「水が濁っていたら生き物がかわいそう」と生き物に心を寄せ
いている。生き物のことを考えている児童の様子があると考えられるので、「土日、どのようにす
るのが、生き物のためによいのか」を考えさえる時間を取ってあげないといけない。話し合いの後、
活動を取り入れるのであればなおのとこ、はじめの認識をすでにもっているものとして、授業の始
まりから課題を投げかけてもよいのではないか。
114
『共感的理解』から『支援』へ
学部
松本謙一
1 本当の『支援』とは
初めて小学校1年生の担任をした時のことである。私も、一人一鉢で朝
顔を育てさせました。自分の鉢にもすきな絵を描いて、朝顔さんへのお手
紙も付けて、一生懸命育てさせた(つもりだった)。
一人一鉢なので、もし、その子どもの朝顔が枯れてしまったら学習が成
立しなくなる。私は、一生懸命、子どもが下校した後、土日も水やりを忘
れられた朝顔が枯れないようにこまめに水やりをしていた。
6月下旬、きれいな紫色の花が一輪咲いた。子どもたちが笑顔になる瞬
間だ。初めて咲いたのは、Aさんという女の子。
「先生、私、毎日ね、『早く咲いてね。きれいに咲いてね。』ってお話しし
ながら、お世話したの。そしたらね、一番にこんなにきれいに咲いたんだ
よ。」とみんなに話す。
教師も、「ああ、それはよかったね。」と受け止め、すてきな時間が流れ
ていく。
それもつかの間、隣のB君が
「俺なんか、一回も水やりせんけど、明日咲きそうや。」とつぶやいた。
私が、子どもが帰ってから水やりしていたことがこんな発言を生むことに
なるなんて・・・。
一体、私は何の先生だったのだろうか。朝顔の医師?。朝顔が死なない
ように処方箋を作ってやっていた。でも、その結果、育てるべき子どもは、
世話しなくても花が咲くということを学んでしまっていた。
子どものためにと思って行った私の支援は、支援ではなかった。「世話
をしなかったら枯れる。」このことを体験を通して学んでいくことこそ大
切なのに、ついつい失敗しないようにと先回りばかりしていたのだ。
本当の支援とは、「どれだけ失敗しても這い上がってくる子ども」を育
てるためにある。
2
何より大切にしたい『共感的理解』
「子どもの『心持ち』を受け止める」とは。
この事例も、小学校1年の担任をしたときのこと。ぼくは、入学した直
後から、毎日毎日子どもたちに「絵日記」を書くことを宿題にしていた。
まだ゙文字も習っていないので、絵だけでも1行だけでも、とにかく書い
たものを朝の会で集め、給食後に赤ペンを入れて帰りに返す・・このこと
を繰り返していた。
ある日、朝「おはよう!」と教室へ行くと、一人のわんぱく坊主が、
「先
生、今日、いつ宿題を集めるの?」と聞いてきた。私はその問いに、「宿
115
題、朝の会に集めるよ。」と、さわやかに(?)対応しました。
私は子どもの質問にきちんと答えたつもりだった。しかし、この対応が
問題だった。
そのことがはっきりしたのは、日記を読んだときだった。いつもはあま
り宿題をしてこない、日記も鉛筆だけでほとんど絵しか描いてこないその
子が、色鉛筆で丁寧に絵を描き、文字まで3行も書いていたのだ。
「先生、今日、いつ宿題集める?」って聞いてきたのは、実は「今日、
僕がんばって書いてきたから、早く読んでよ!」だったのだ。
あとで考えてみると、その子のサインは出ていた。いつもの日記を集め
るより前に、「いつ集めるの?」って聞いてきたこと自体意味があったの
だ。
『言った内容』ではなく、『なぜ今言いたくなっているのか』を受け止
める。こここそ、『子どもが喜ぶ教師の対応の鍵』なのだ。
3
基盤となる『あたたかい集団』づくり
『学力』重視の授業が展開されている中、以下のような心が温まる算数
の授業場面を目の当たりにした。
教師:Bさんは、みんなと違う答えになったのね。どんな風に考え進めたのか、
みんなで聞いてあげようよ。(子どもたち:うん)
B:(説明を始める)
ある子どものつぶやき:Bさん、そこのところ、もう一回説明して!
B:(説明の途中で)僕、ここで間違えたんだ!ありがとう
(周りの子どもたちもにこにこと満足気)
答えがはっきり決まっている学習では、ともすると間違えた子どもがみ
じめな気持ちになることもある。しかしこの授業では、仲間理解を中心に
扱われ、間違えていた子どもも周りのみんなも温かい雰囲気に包まれてい
た。いつも一人一人の存在を互いに認め合い、高め合っているからこそ、
Bさんは、胸を張って自分の考えを述べることができ、教師も決して、子
どもを「正解を求める部品」として扱っていないのである。
この先生は、どんな構えで学級をつくっているのだろうか。すると、そ
の根幹を垣間見ることができる以下の場面に遭遇した。
教師:Aだと思う人(挙手を求める)
児童:(何人か挙手する)
教師:(挙手している児童に対して)この中で、理由を話してくれる人はいません
か?
(□□はじめ数人が挙手)
教師:□□さん。
□□:(理由を説明する)
116
教師:ありがとう。次、Bだと思う人
(挙手を求めると△△さんだけ挙手)
教師:△△さん、訳が言えるかな?
△△:(首を横に振る)
教師:分かったよ。じゃあ、どう考えたらBの予想になるか、みんなで考えてみ
よう。
子どもたちは、安心して、自分の立場を挙手で表明し、授業に参加して
いる姿に、この先生の平生の授業への構えが見え隠れする。あくまで、一
人一人を人格在る人間として捉え、支えていこうとする真摯な姿を実感で
きたのである。決して『立場を表現させておきながら、教師の権利とばか
りに、挙手した子どもに理由を求める』ことはしないのである。
学校の授業って、子どもにとって何なのだろうか。信頼できる先生がい
る、違いを認め合い高め合える仲間がいる、願いに向かって失敗が許され
る時間と空間がある・・・・。これらが満たされたくらしを過ごすことで、
学校は明日も来たくなる、一人一人の居場所なる。そんな学校なしに、
『確
かな学力』も『生きる力』がついていくはずがない。
求めているものは、あくまで、目の前の授業における伸びようとする子
どもの姿、そして温かい集団としての高まりなのである。
これは手段ではなく、教育の目的そのものなのだ。
117
ムーブメントグループ
学
部
附属特別支援学校
大川信行
和田充紀
越村早貴子(代表)
・栗林睦美・野﨑美保・稲垣恭子
安田若菜
附 属 幼 稚 園
1
高島浩美
目的
・ムーブメント教育について理解を深め、教育活動に生かす。
2
方法
・ムーブメント教室やムーブメント研修会に参加することで、ムーブメント教育の理解
を深める。
・ムーブメントを取り入れた授業実践や事例検討を行うことで、ムーブメントの教育活
動への生かし方について考える。
3
研修の経過
実施日
平成27年
8月21日(金)
研修会
研修会『研修計画と実践について』
助言:阿部美穂子先生
(北海道教育大学教授)
場所:附属特別支援学校
視聴覚室
研修会『親子ムーブメント教室』
8月22日(土)
場所:しらとり支援学校
体育館
研究『小学部 遊びの指導(低学年グループ)』
9 月11日(金)
場所:附属特別支援学校
体育館
研修会『親子ムーブメント教室』
12月23日(水)
場所:高志支援学校
平成28年
授業研究『高等部
1月28日(木)
5日(金)
自立活動』
場所:附属特別支援学校
授業研究『高等部
2月
体育館授業
体育館
体育』
場所:附属特別支援学校
体育館
授業研究『みんなの時間』
2 月10日(水)
場所:附属幼稚園
遊戯室
体育館授業研究『小学部
音楽科』
2月19日(木)
場所:附属特別支援学校
音楽室
2月22日(月)
授業研究『高等部
24日(水)
音楽科』
場所:附属特別支援学校
118
音楽室
ムーブメント教育研修会(しらとり支援学校会場)
12月23日(水)
(1)幼児グループのプログラムについて
プログラムの概要
活動の様子より
1)あつまろう
・手を叩くという簡単な活動は、子ども達
①指示を聞いて拍手をする。
(大きく小さ
が活動に参加するきっかけとして取り組
く)
みやすく、スムーズに参加しはじめる子
②指示を聞いて動く、止まる。
ども達が多かった。
・全員で動いたり止まったり同じ活動をす
ることで、指示をさらによく聞いたり周
りの大人を見てまねたりすることを楽し
んで行う様子が見られた。
2)ロープであそぼう
・ロープの中に入る、出る活動は、同じこ
①ロープをまとめる。
との繰り返しで単調になりつまらなくな
②ロープを投げる、伸ばす。
ってしまう可能性がある。しかし、元の
場所と違う場所に出ようという指示によ
って、次はどこに出ようかと自分で考え
たり、指示のテンポが変わることによっ
て、よく聞いて合わせようとしたりする
③ロープを結ぶ。
様子が見られた。活動に集中し、楽しん
④ロープの中に入る、出る。
でいる姿が見られた。
⑤ロープに身体の一部を入れる、出す。
3)ペットボトルであそぼう
・活動に使用するペットボトルを子ども達
①使用している
が大人のところにもらいに行くことする
ロープの色と
ことで「ください」「どうぞ」「ありがと
同じ色のペッ
う」というやりとりの活動となっていた。
・ペットボトルにビーズを入れて音が鳴る
トボトルを2
ようになったことにより、簡単なおもち
本ずつ受け取る。
②ペットボトルを使って音を鳴らす。
ゃを自分で作る楽しさを感じる様子が見
③指示を聞いて、ペットボトルを立てる、
られた。
寝かせる。
④ペットボトルを振って音を聞く。
⑤ペットボトルにビーズを入れて音を聞
く。
119
⑥ペットボトルを持って自由に歩き回
・導入で行った「動く、止まる」の活動を
り、指示を聞い
生かした活動であるので、子ども達は要
て止まったら
領を得て動くことができていた。指示を
同じ色のロー
聞いて止まるだけでなく、持っているペ
プの中に入る。
ットボトルと同じ色のロープに入る活動
⑦ロープを大人の腕や身体にかけてクリ
とすることで周りをよく見て楽しんで活
スマスツリーを作る。
動に取り組んでいた。
4)パラシュートであそぼう
・紙吹雪の舞い上がる様子を見たり手で触
①大人が持っているパラシュートの下に
れたりすることは、子ども達にとっても
座り、パラシュートの動きを見たり風
保護者にとってもとても面白い活動とな
を感じたりする。
った様子が見られた。
②パラシュートの上に座り、引っ張った
りパタパタ動かされたりする。送風機
によって舞い上がる紙吹雪を見たり触
ったりする。
③再びパラシュートの下に座り、飛んで
いくパラシュートと紙吹雪を見る。
(2)小学生以降グループのプログラムについて
プログラムの概要
活動の様子より
1)スペースマットで遊ぼう
・スペースマットを自分で引っ張るだけで
①スペースマットを自分で引っ張る。
なく、引っ張り合う活動をすることで、
周りの人と協
自然に人と力を合わせ協力する活動とな
力して引っ張
っていた。
る。
・スペースマットの周りを回り、指示を聞
いて他のスペースマットに急いで移動す
②スペースマットに乗る。
ることで、ゲームのように楽しんで取り
③指示を聞いて、スペースマットに乗る、
組む様子が見られた。
降りる。
④指示を聞いて他のスペースマットに移
動する。
120
2)ペットボトルで遊ぼう
・ペットボトルに貼ってある色シールを見
①指示を聞いてペットボトルの上げ下げ
て、「赤上げて」「青上げて」の指示をよ
をする。
く聞き活動していた。
・ペットボトルにビーズを少しずつ入れて
音の変化を聞き比べることで、違いに気
付いたり、次はどのビーズを入れようか
②音を鳴らす、止める。
と考えたりし
③ペットボトルの中にビーズを入れ、音
て活動の面白
を聞き比べる。
さを感じてい
る様子が見ら
れた。
3)風船とペットボトルで遊ぼう
・ペットボトルを使って風船をキャッチし
①ペットボトルで風船をキャッチする。
合う活動は、タイミングを合わせたり力
②風船を挟んだまま上げたり回ったりす
の加減をしたりして頭や身体を使って子
る。
ども達が生き生きと参加する姿が見られ
た。
4)パラシュートであそぼう
・紙吹雪が舞い上がる様子に強い興味を示
①風船と一緒にパラシュートの上に乗
し、紙吹雪を舞い上がらせることを自ら
る。
やりたがる子どももいた。動きの多い活
動ではなかったが、盛り上がっていた。
②紙吹雪が舞い上がる様子を見たり紙吹
雪に触ったりする。
③パラシュートを飛ばす。
121
(3)プログラムの解説
講師
鎌倉女子大学
教授 飯村
敦子
先生
①幼児グループのプログラムについて
「動きの言葉」は動きながら身体を使うことで学ぶことができる。今回は、ペッ
トボトルを立てたり、身体をロープに入れたりということを行った。子ども達にと
って興味のある動きを行うことが大切になる。また、言葉を聞いて遊びをすること
の繰り返しの中で、運動し、聴覚や視覚など多様な感覚を使っていくことが重要で
ある。プログラムは、動と静の短いスパンで行うことで子ども達の集中力が継続で
きる。参加できない子どもがいたとしても、無理はさせなくていい。みんなと同じ
空間にいることが大切。周りが楽しく動いている様子を見ていることで、同じこと
をしているかのように脳神経が働いている。
②小学生以降グループのプログラムについて
いつものリーダーと違う環境であり、子ども達にとっては難しいはずであるが、
それぞれ力を発揮しているのが素晴らしい。プログラムの中で行った引っ張る動き
や握る動きの活動は、筋緊張が高まったり、二人で行うことで時間やタイミングや
息を合わせたりするために他者を意識する活動であった。これはコミュニケーショ
ンの初歩となる大切な力である。ペットボトル以外にもうちわを使うこともできる。
また、ペットボトルは、テープを巻いたり、中に何かを入れたり、立てたり、倒し
たり、並べたり、いろいろな使い方ができる。紙吹雪を使うプログラムを行ったが、
「何が降ってきた?」
「どんな風に?」と問い掛けることで記憶の再生を促すことも
できる。遊びの中で、楽しみながらいろいろな活動を行うことが大切である。
(4)参加を終えて
プログラムを考えるとき、動く活動ばかりが大事なのではなく「静」と「動」の
バランスが大切であることを改めて学ぶ機会となった。動いた活動の後で、ペット
ボトルの中にビーズを入れるような「静」の活動にどれだけ取り組めるだろうかと
思ったが、集中して取り組んでいる子ども達の姿が印象的だった。プログラムの中
で、飯村先生が声の大きさを効果的に変えていることも勉強になった。最初の導入
から子ども達をうまく引き込んでいることにより、小さい声でお話しされるときに
はより静かに真剣に聞こうとしている子ども達の姿が見られた。プログラムの中に
はたくさんの課題が盛り込まれていた。飯村先生がこれまで積み上げてきた知識と
経験の賜物だと思う。これからも研修を積み重ねていきたいと思う研修会だった。
(越村
122
早貴子)
<遊びの指導>
キャスターボードで遊ぼう ~メダルゲットだぜ!
附属特別支援
1.対象児童
小学部 1、2、3年生
小学部教諭
稲垣
恭子
計8名
2.目標
・ 「いっぱい走ろう!」では、いろいろな乗り方でキャスターボードに乗って進むことが
できる。
・ 「いっぱい集めよう!」では、友達と協力してたくさん、得点を得ることができる。
・ 進み方の決まりや友達との順番を守ってキャスターボードに乗って遊ぶことができる。
・ 早く、たくさん進むために、身体の動かし方を工夫しながら、キャスターボードに乗
ることが
できる。
3.活動内容
学習活動
ねらい
➀挨拶・先生の話
・本時の流れを知る。
・見通しをもって学習に取り
組むことができる。
②いっぱい走ろう!(サーキット)
・自分のキャスターボードに乗ってコースを回る。
(5分) ・座位、腹ばいなど、いろいろな
姿勢でキャスターボードに乗る
・平均台の下をくぐったり、ロープを引っ張って進んだ
ことができる。
り、いろいろな乗り方をしながら周回する。
・一周回る毎に自分のホワイトボードにマグネットを貼 ・たくさん周回するためにはどう
いう風にキャスターボードを扱
る。
えばよいか、身体をどのように
・回ることができた回数を発表する。
使えばよいか考えることができ
る。
<配置図>
・回った数を友達の前で発表し、
褒められることで達成感を味わ
うことができる。
123
③いっぱい集めよう!(チーム対抗、リレー式ゲーム)
・自分が一番得意な乗り方でキャ
・赤、青、二つのグループに分かれ、順番を決める。
スターボードに乗り、目的地点
・1点、2点、3点と異なる点数のボールがある目的地
まで行くことができる。
を見て
・ロープをしっかりと握り、友達
どの地点までボールを取りに行くか考える。
・キャスターボードに乗って自分で決めた地点まで行き、 にキャスターボードを引っ張っ
てもらって進むことができる。
ボ
・友達と協力してたくさんボール
ールを一つ取ってくる。
(乗り方自由)
を集めることができる。
帰りはロープにつかまり、友達に引っ張ってもらう。
・どうすればたくさんポイントが
入るか考えて目標地点を決める
ことができる。
・メダルをもらうことで達成感を
味わい、次回へと意欲をつなげ
・タイマーが鳴ったら終了する。
ることができる。
・勝ったチームはメダルをもらう。
<配置図>
④挨拶・片付け
4.成果
・始めは一人でキャスターボードに乗ることを怖がった児童もいたが、活動を繰り返
すことで全員が自分から、笑顔でキャスターボードに乗って遊ぶことができるよう
になった。
・「いっぱい走ろう!」でいろいろな乗り方を経験したことで、自分がキャスターボ
ードに乗って一番早く進むことができる乗り方に気付くことができた。
「いっぱい
集めよう!」のゲームで、得点を稼ぐために、自分の得意な乗り方でキャスターボ
ードに乗り、素早く目的地点まで行く姿が見られるようになった。
・「いっぱい集めよう!」では、メダルを用意したことで、教師にたくさんの点を得
るにはどうすればよいかと質問したり、
「こうしたら良いよ。」と自分の考えを話し
たりする児童がでてきた。
・友達の前で成果を発表して褒められる時間を設けたことで、「またしたい。
」「もっ
としたい。」
「次はあの友達のようにこういうふうにしたい。
」と児童が次回へ向け
たの意欲をもつことができた。
124
<自立活動>
「体を意識して動かそう!」
~工夫しよう、考えて動こう、合わせよう~
附属特別支援学校 高等部
1
教諭
栗林
睦美
対象生徒
(1) 高等部
1 年5名、2 年5名、3 年2名
計 12名
(2)実態
1)体の使い方にぎこちなさがある。
2)友達と一緒に動きを合わせて活動する経験が乏しく、難しい。
2
場所
附属特別支援学校
3
体育館
目標
(1)単元の目標
1)自分の体を意識し、いろいろな体の部位を調整しながら運動したり、姿勢を保持
したりできる。
2)周りとコミュニケーションを取りながら動きを工夫する、タイミングを合わせる
など楽しくいろいろな縄を使った運動をすることができる。
3)遊具の扱いに気を付け、友達と協力して活動の準備や片付けができる。
4
活動内容
(1) ストレッチ・ラジオ体操
・一つ一つの動き、体の位置、方向を意識して
(2) 体を意識して移動しよう…いろいろな体の部位を使って移動しよう。
・動きの指示を聞いて
・体を協調させて
(3)ポーズをしよう…静止ポーズを考えて10秒間やってみよう。
・オリジナルな姿勢を考えて
・友達の姿勢を真似て
(4)縄跳びパフォーマンス…単縄や長縄を使って友達と一緒にいろいろな飛び方に挑戦
しよう。
・縄の特性を感じて
・友達とタイミングを合わせて
・オリジナルな跳び方を工夫して
125
学習活動
ストレッチ・ラジオ体操
ねらい
〇ラジオ体操の動きを一つずつ行う。
・自分の体を知る。
・手の方向、位置、体の向きなどを確認 ・自分の体と向き合
しながら自分の体を意識して動かす。
〇音楽に合わせてラジオ体操を行う。
・音楽に合わせて、リズムよく体操する。
い、体の部位の位
置や方向を意識し
て動かす。
(教師の支援)
・自分の体がどうなっているのか意識で
きるような言葉掛けをしたり、動きを
誘導したりする。
体を意識して移動しよう
○一列に並んで教師の言った動きを行う。 ・移動する基礎運動
・歩く、早歩き、忍者歩き、大股歩き、
を体験する。
走る、スキップ、熊歩き、お尻歩き、
背中で移動、ほふく前進、など
(教師の支援)
・体の軸を意識した基本の姿勢(気を付
け)から始める。
・立った姿勢から徐々に低い姿勢へと変
化するようにする。
・速さ、リズムなど動きに変化をもたせ
る。
例:忍者です、見つからないようにそっと歩こう
・手をたたきながら歩くなど違う部位を
協調させて動かせるよう動きの広が
り を工夫する。
ポーズをしよう
○静止ポーズを考えて発表する。
・自分の体を工夫して表現する。
★友達に認定されたら、
「新技」となり、
・自分の体を使って
いろいろな姿勢を
表現する。
技に自分の名前を付けることができ ・友達の考えた姿勢
る。例
クリバヤシ
○友達が考えた新技を10秒間、模倣して
を模倣し、体験す
る。
・経験したことのな
保持する。
・姿勢をよく見て、正しく模倣し、その
姿勢を保つ。
い姿勢に挑戦し、
自分の体を再確認
する。
(教師の支援)
・認定された新技をカードにして毎回追
加していく。
・姿勢を意識できる言葉掛けをする。
126
縄跳びパフォーマンス
○単縄で駆け足とびをする。
・単縄を操作し、リ
・一人で
ズムよく駆け足跳
・教師や友達とペアで
びをする。
・ペアの友達、教師
(教師の支援)
・一人でできない場合は、教師が一緒に
とタイミングを合
ペアになって縄をゆっくり回転させ、
わせて縄を操作し
またぐタイミングを合わせる。
たり、跳んだりす
○全員で長縄の動きを見てタイミングを
合わせて跳ぶ。
る。
・長縄の動き(速さ、
・ゆっくり、速く、横揺れ、縦揺れなど
揺れ、高さ)をよ
の縄の動きを見ながら移動してくる縄
く見てタイミング
を跳び越す。
を図って跳ぶ。
〇長縄跳びでパフォーマンスをする。
<横揺れ・回転>
・一人~四人で跳ぶ。
★友達と一緒にタイミングを合わせて
跳ぶ。(掛け声を掛けるなど)
<横揺れ>
・長縄の揺れや回転
を見て、縄に飛び
込むタイミングを
図る。
・一人~三人で跳ぶ。
・友達とタイミング
・縄を跳び越すときにオリジナルなパフ
を図りながら飛び
ォーマンスをする。(ポージィング、
込む。飛び込む方
回転、跳ぶ回数など自由に表現)
法(掛け声を掛け
る、手をつなぐな
(教師の支援)
・全員が参加し、かっこいいパフォーマ
ンスをすることを告げる。
ど)を友達と工夫
する。
・軽快な音楽を使って、パフォーマンス ・オリジナルな跳び
を盛り上げる。
・次々と生徒が工夫し、挑戦できるよう、
方を考えて挑戦す
る。
タイミングよく課題を提示し、生徒の ・友達と一緒に動き
挑戦を称賛する。
を考えてパフォー
マンスする。
5
成果
<実践の成果:生徒の様子から>
・「ストレッチ・ラジオ体操」では、最初は、両腕上げが肩の位置にまでしか上がらなかっ
た生徒が、両手を耳にくっつけて腕を伸ばすことができるようになるなど、自分の体を意
識して体操ができるようになってきた。
・「体を意識して移動しよう」では、体の軸を意識した基本の姿勢(気を付け)から、基礎
となる移動の動きを繰り返し行うことで、今までできなかったお尻歩き、ほふく前進がで
きるようになった。同じ動きをスピードを変えて行ったり、二つの動きを組み合わせて行
ったりすることで自分の体のどこを使っているのかを意識したり、どう動かせばいいのか
を考えて活動したりする姿が見られた。
127
・「ポーズをしよう」では、片足立ち、膝立ち、片膝立ち、ブリッジなどいろいろな姿勢の
保持ができるようになった。自分の考えたポーズに自分の名前が付き、新技として認定さ
れることで、生徒が楽しんで次々と新技を考案し、紹介し、意欲的に活動に取り組めた。
難易度が高い技に、回を重ねるごとに挑戦する生徒が増え、自分の技に挑戦してくれたこ
とを喜び、できるようになった友達に称賛の言葉を掛けたり、意欲的に手本を見せたりす
るなどの様子が見られた。
・「縄跳びパフォーマンス」では、縄という遊具を媒介に、一人で跳ぶ、友達とタイミング
を合わせて跳ぶ、技を考えて跳ぶ、友達とかっこいいパフォーマンスをするなどの活動か
らいろいろな動きの広がりが見られた。単縄での駆け足跳びでは、縄を回転させ、リズム
よく跳びながら走っていくことができた。ペアでの駆け足跳びでは、友達とタイミングを
合わせて縄を回転させ、跳びながら前進していくことができた。長繩での縄跳びパフォー
マンスでは、集団パフォーマンスという設定で、「心を一つにしてみんなで跳ぼう!」を
合言葉に軽快な音楽と縄の横揺れ、回転に合わせていろいろなジャンプを行った。一人跳
びから四人跳びと人数が増えるにつれ、友達と言葉を掛け合ったり、手をつないだりして
タイミングを図って、跳ぶことができた。横揺れでの長縄跳びでは、オリジナルな跳び方
でパフォーマンスしようと、跳び方をだんだん工夫し始め、体を回転させたり、手や足の
動きを付けたポージングをしたりするようになった。友達と相談して逆方向に回転して跳
び、縄の外に出ていくなど様々なパフォーマンスを工夫して楽しむ姿が見られた。
<生徒のアンケート結果(一部抜粋):自立活動の授業を振り返って>
1年間の自立活動の最後の授業に「自立活動の授業を振り返って」というアンケートを
12名に行った。その結果、1、運動が好きですか?苦手ですか?という項目に12名中
3名が苦手と答えた。その理由として、難しい(2名)、体をうまく動かせない(1名)、
2、自立活動の授業は好きですか?の項目に12名全員が好きと答えた。理由を三つ選び
ましょうという項目に①楽しい(11) ②元気がでる(6) ③すっきりする(5) ④
友達と一緒に活動(9)
⑤先生と一緒に活動(3)
⑥その他(0)という回答を得た。
「自立活動での思い出を書きましょう」という自由記述には「縄跳びがもっともっとうま
くなりたい」、「友達と一緒に縄を跳べたことが楽しかった」、「友達と一緒に楽しく運動で
きてよかったです。特にキャスターボードです」、「縄跳びでくるっと回るところが楽しか
った」、「苦手だったことがちょっとでもできてうれしい。友達とできて楽しかったです」、
「一緒にダンスして楽しかった」、「私は○○でしょう(体の動き)が少し難しかった」な
どが挙げられた。
6
考察
本実践における生徒の変容とアンケートの結果から、いろいろな遊具、発達段階に応じ
た音楽を使い、友達と一緒に創造的な活動を行うことで、体を動かすことに対しての嫌悪
感が軽減し、友達と一緒に活動することが楽しい、運動が楽しい、元気になる、すっきり
するなど気持ちの変容や移動、姿勢、縄跳びなど体の動きが向上したと考えられる。この
ことから、自立活動の時間を通して生徒自身が主体的に身体運動スキルや対人スキルを向
上させ、運動を楽しみ、前向きに取り組もうという態度が育成されと考えられる。
128
<体育>
物語創作ダンスを創ってみんなで踊ろう!
附属特別支援学校
1
対象生徒
2
場所
高等部
附属特別支援学校
3
高等部
臨任講師
安田
若菜
計 24 名
体育館
物語創作ダンスとは・・・ただ曲に合わせてダンスの振り付けを考えるのではなく、
曲の中に自分達で考えた物語を組み合わせ、それに振り付けをしていくというダンス
である。
4
目標
<基本ステップ編>
(1)仲間と一緒にリズムにのって踊ることができる。
(2)手や足を大きく動かし、指先や足先まで意識して表現することができる。
<物語創作ダンス編>
(1)仲間と一緒に物語や物語にあったダンスの振り付けを考え、楽しく踊ることが
できる。
(2)その場面に応じた動きの強弱や、表情の変化に気をつけ、なりきって踊ること
ができる。
5
活動内容
<ステップ基本編>
①挨拶
②ラジオ体操
③勇気100%
④今日の活動の説明
⑤なりきってみよう
「冬」にちなんだ行事や食べ物を体で表現して踊ろう。
(例:フィギアスケート、クリスマス、もちつき、ぶり、バレンタイン、節分など)
⑥ステップを使ってなりきってみよう!
足はステップを踏み、手は⑤でやったものまねをする。
129
(例
腕はうさぎのまねをして、足ではサイドステップを踏む)
ステップは7種類あり、その中からステップとものまねを組み合わせる。
※
⑤、⑥のときに発表タイムをいれて友達が考えたものまねやものまねステッ
プを見ていろんなステップを見つけることができる。
●大きく表現し、指先まで表現する。
⑦曲に合わせてものまねステップを使って踊ってみよう
⑥で創ったものまねステップを使い、曲のリズムに合わせて踊る。
●リズムにのって踊る、自分のオリジナルのものまねステップを表現する。
⑧挨拶
活動
様子
教師の支援
・ポイントとして確認した
⑤なりきってみよう
「フィギアスケート」
体を大きく表現しような
「クリスマス」
どの言葉かけをした。
「うさぎ」
・A3サイズに「うさぎ」
「雪合戦」など
のカードを作り、何のも
のまねをしなくてはいけ
ないのかを分かりやすく
した。
⑥ステップを使ってなりき
・A3サイズにステップカ
ってみよう!
ードを作り、そのカード
を提示してどのステップ
サイドステップ
と組み合わせるか分かり
やすくした。
⑦ものまねステップをつか
・ポイントに気をつけるこ
って曲に合わせてみんな
とを促す。オリジナルも
で踊ろう!
のまねステップを入れる
ことにチャレンジさせ
る。
6
活動内容(創作ダンス編)
①~④までは基本編と同じ。
⑤物語創作ダンスを考えて練習しよう
130
24人を4班に分け、班ごとに1分間の曲でリーダーを中心にしてテーマプリントを
手掛かりに、ミニホワイトボードに物語とものまねを書き、そしてステップカードを
貼り、構成を考える。
発表タイムの始める時間を決めておき、その時間までに構成と振り付けの練習をして
おく。
●動きの強弱やその場面に応じての顔の表情、動きをするように気をつける。
●友達の意見を取り入れみんなで考えていくようにする。
⑥発表タイム
どういう物語のダンスにしたのか、という説明をリーダーにしてもらってから、ダ
ンスを1班ずつ披露する。見ていた人は感想も言ってもらう。
●踊っている人は楽しみながらなりきって踊る。
●見ている人は手拍子をして場を盛り上げる。
●感想を言う人は班全体のコメントをいってから個人の感想を言うようにする。
活動
様子
教師の支援
・行き詰まっているチー
⑤物語創作ダンスを考
ムがいたら少しアド
えて練習しよう。
バイスをする。
・効率的に時間を使う
めに時間の使い方に
ついて促しながら見
回る。
131
⑥発表タイム
・リーダーの説明が分か
りにくかった場合に
少し付け加えて説明
したり、見ている人の
見る姿勢などについ
て注意や、盛り上げる
ように指示する。
7
まとめ
今回の実践をして感じたことは、積み重ねることがとても大事であることが分かっ
た。なぜなら、最初はどういうふうにものまねステップを考えたらいいのかも迷って
いた生徒たちが、繰り返し挑戦していくことによって友達のものまねステップを参考
にしたり、前回の授業を振り返ったりして自分のオリジナルステップを作れるように
なったからである。物語創作ダンスの物語を考えるときも最初はとまどいながらテー
マカードを参考しなければできなかった生徒たちが、最後はテーマカードなしで全部
をオリジナルで考えたチームが4班中3班あった。これは積み重ね経験していくうち
に身についてきている証拠である。そして目標であった「(1)仲間と一緒に物語や物
語にあったダンスの振り付けを考え、楽しく踊ることができる」、「
(2)その場面に応
じた動きの強弱や、表情の変化に気をつけ、なりきって踊ることができる」では、楽
しく踊りながら仲間と一緒に考える姿があり、話し合いをしながらみんなで作り上げ
ることができた。その場面に応じて強弱やがっかりした表情、楽しい表情を演じるこ
ともできており、見ている人も楽しませるようなダンスをすることもできた。
教師の支援としては、カードを使って分かりやすく提示すること、目標を毎回確認
することなどを重点的にした。課題点としては、説明する力が自分に乏しかったため
生徒が分かりにくい場面がいくつかあったこと。分かりやすく説明できるように学ぶ
ことが必要であると感じた。
最後に楽しく笑顔がたくさんみられる授業ができ、このような授業をこれからも自
分で研究し、生徒が楽しみながら学んでいけるように支援ツールや説明する力、自分
で考えさせるような環境設定に力を注いでいきたい。
132
<みんなと一緒の時間>
「友達と心を合わせよう~パラシュートを使って」
附属幼稚園
教諭
1
日時
平成28年2月10日(水)10:40~11:20
2
対象幼児
年中児
3
場所
附属幼稚園遊戯室
4
ねらい・内容
高島
浩美
19名
パラシュートを通して友達とかかわりながら、心を合わせて遊ぶ心地よさを味わう。
・
友達と一緒に歌ったり、パラシュートを動かしたりする。
・
パラシュートが空気をはらんで動くおもしろさを感じながら遊ぶ。
5
○
活動内容
幼児の活動
援助のポイント
○パラシュートで遊ぶことを知る。
「『アートプラザ』で作ったみたいに、パラシュートで大きな
お城を作ったり、恐竜が歩いたときみたいにのっしのっしっ
て揺らしたりして、遊ぼうね。」
・『アートプラザ』を思
い起こして、子どもた
ちが共通のイメージ
で遊べるように声を
かける。
♪「小さな世界」
○「あるところに素敵なお城がありました。
・パラシュートの揺れ方
お城は、きれいなまあるい形をしていました。
」
・音楽に合わせて、小さく振る。
の楽しさが感じられ
大きく振る。
るよう、始めは保育者
・時計回り、反対回り
が声をかけて、揺らし
方が揃うようにする。
「壁はまっ白でした。大きな屋根は青色でした。小さな屋根 ・保育者の言葉に集中で
は赤色でした。」
きるよう、持っている
・白いところを持った子どもだけ振る。
箇所の色を聞き分け
・青い
〃
るような言葉をかけ
・赤い
〃
る。
「さあ、大きなお城を作りましょう」
・ドームを作る。
「雨が降ってきました。お城に入って休みましょう」
・みんなでドームに入る。
133
・大きなお城を作りたい
思いをもつことで、保
育者や友達と合わせ
たいと思えるよう、声
をかける。
♪「星に願いを」
・静かにお城の中の雰囲
・パラシュートを布団のようにかぶって寝る。
気を味わえるように
する。
○「あれ!大きな足音が聞こえてきたよ!恐竜だ!起きろ!」
・起き上がる。
・音楽に合わせて、大きく振る。
・合図で止まる。また、振る。
タンバリン
♪「ゆめをかなえてドラ
えもん」
・音楽に合わせて動かす
楽しさを感じられる
ように声をかけたり、
大きく振って見せた
りする。
・ボールを転がすイメー
○「恐竜はおなかがすいているよ。お肉をあげよう。
ジを子どもたちみん
うまく口までお肉を運べるかな」
・青グループの当番の子どもへボールを転がす。
ながもてるよう、「こ
・○ ○ の子どもへボールを転がす。
ろころ…」
「そうっと」
などの言葉をかける。
○「恐竜はおなかがいっぱいになったよ。恐竜の世界へ帰る時 ・パラシュートが飛ぶ楽
間だよ。大きな羽根が生えてきた。恐竜のおうちまで届くよ
しさを味わえるよう、
うに空へ飛ばそう」
雰囲気が盛り上げる
ように声をかける。ま
た、動かすタイミング
や大きさが分かりや
すいよう、大きくパラ
シュートを動かしな
がら、はっきり声をか
ける。
○みんなできれいに袋に片付けよう。
・楽しかった気持ちに共
感しながら、片付けも
楽しめるようにする。
6
成果
・パラシュートの遊びが2回目だったこともあり、子どもたちは、みんなで揃えてパラ
シュートを振ると楽しいということに気付き、進んで揃えようとしたり、揃うように
声をかけたりする姿が見られた。
・パラシュートをみんなで揃えて大きく振ったり、小さく振ったりすると、子どもたち
は、風の変化を感じて歓声をあげたり、笑顔になったりした。パラシュートの動きや
風の面白さや、みんなで力を合わせる心地よさを感じることができた。
・パラシュートをみんなで動かす楽しさを感じ、保育者の声や合図にすぐに集中して反
応しようとする姿が見られた。
134
<音楽>曲に合わせてパフォーマンスをしよう
~「くるみ割り人形」より行進曲、葦笛の踊り、花のワルツ~
附属特別支援学校
1
2
高等部教諭
野﨑
美保
対象生徒
Aグループ
高等部
1年4名、2年4名、3年4名
計12名
Bグループ
高等部
1年4名、2年4名、3年4名
計12名
目標
・音楽を聴いて、グループの友達と一緒にどのような雰囲気の場面を表しているかを話し
合ったり、その場面で自分たちがどのような表現をしたいかを考えたりすることができ
る。
・曲に合わせて楽器演奏やダンス、ボディパーカッションなどで表現することができる。
3
全体計画
第1次…どのような雰囲気の場面かを考えよう。
第2次…どんな表現にしたいかを考えよう。
第3次…曲に合わせてパフォーマンスをしよう。
活
動
使
・場面毎に区切りながら
第1次
曲を聴き、その部分が
どのような雰囲気を表
しているかをグループ
の友達と話し合い、プ
リントに記入する。
・場面毎に、どんな表現
第2次
にするかをグループの
友達と話し合い、プリ
ントに記入する。
・楽器を使う場合は、記
入する。
・実際に曲に合わせて動
第3次
いたり、演奏したりし
て、自分たちのパフォ
ーマンスを完成させ、
発表し合う。
135
用
し
た
プ
リ
ン
ト
4
パフォーマンスの実際
①「行進曲」(3年Bグループ
曲の構成
マラカス、クラベス、木魚、ハンドフォンを使った演奏)
曲の感じ
時
場
(※生徒の
間
面
書いたメモ)
0:01
A
・明るい行進
どんな表現にするか
(※グループで
話し合った内容)
・歩きながら演奏
・王様が登場する場
面
・騎士の勇ましい雰
囲気の行進
・ダンスをしている
気分
0:29
B
・民に敬われている
感じ
・手を振りながら演
奏
・面白い
0:43
A
・再び騎士たちの行
・歩きながら演奏
進が始まった
・面白い
1:13
C
・行進が加速した
・行進や何者かの襲
撃にあった。
・不思議な世界に迷
い込んだ感じ
1:57
A
・楽器を素早く鳴ら
す
・好きなダンス(動
き)をしながら演
奏をする。
・またいつも通りの ・歩いて、回って演
行進が始まった。
奏。
136
パフォーマンスの様子
②「花のワルツ」
(3年Aグループ
曲の構成
トーンチャイム、メロディ―フォンと動きによるパフォーマンス)
曲の感じ
時
場
(※生徒の
間
面
書いたメモ)
0:01 前奏 ・妖精たちのダン
ス
どんな表現にするか
(※グループで
パフォーマンスの様子
話し合った内容)
・回ったり手を振る。
<ハープの旋律の場面>
・ジャンプ
グループの4人がトーンチャ
・風船
イムを両手に持ち、ゆっくり
と鳴らす。
1:04
A
・ラッパの音
・アルプスの感じ
・バイオリン
・スキップでジャンプ
曲に合わせてメロディーフォ
・社交ダンスで回って
ンを鳴らす。
ポーズ
<ホルンの旋律の場面>
<クラリネットの旋律の場面>
楽器を吹かずに、その場で回
転する。
1:37
B
・舞踏会
・まわる
・バイオリン
・スケート(走って回
って走る)
<バイオリンの旋律の場面>
スケートをするように足で滑
りながら、ときどき回転もす
る。
5
成果
・これまでに、曲を聴いて感じたイメージを自分の体の動きで表現したり、ボディパーカッ
ションを考えたりする活動に取り組んできたことから、見通しをもって活動に取り組み、
友達と話し合って曲を選んだり、積極的に意見を出し合いながら、楽器を選んだり動きを
決めたりする姿が多く見られた。動きなどを自分で考えるのが苦手な生徒も、グループの
友達の様子を参考にして、楽器の鳴らし方や体の動きなどを工夫する様子がみられた。
・部分ごとに区切りながら雰囲気や表現の方法などを考えたことで、場面ごとの音楽の速度、
強弱、旋律の雰囲気の変化などを感じ取りながら、グループの友達と動きや楽器の鳴らし
方などを工夫する様子が見られた。
137
障害理解教育グループ
肢体不自由理解教育の内容と方法を考える
-児童生徒へのアンケートを基に-
代
表 :
西館有沙
附属幼稚園
:
岩田郁代
附属小学校
:
秋盛勇
1.はじめに
西館・徳田・水野(2005)の調査によれば、小学校でも中学校でも、障害やバリアフリーについて
教育する際に最も多く取り上げられるのが、車いす使用者に関する話題である。扱われる内容としては、
障害者が感じているバリアやバリアフリー設備、援助の方法が多い(西館ら,2005)。水野・西館・石
上・富樫(2006)は、検定済教科書の分析を行い、生活科や社会科の教科書の挿絵や掲載写真には車
いす使用者やそれ以外の肢体不自由者、身障者用トイレなどのバリアフリー設備が多く登場すること、
国語科や英語科などの教科書にも障害に関する内容が掲載されていることを明らかにしている。
西館(2007)は、小学生、中学生、高校生を対象にして、車いす使用者の介助方法を知っている子
どもがどのくらいいるのか、車いす使用者が困っている状況を示して、その理由を正しく説明できるか
を調べている。その結果、たとえば段差のある場所で車いす使用者を前と後ろのどちらから介助すれば
よいかについて正しく答えることのできた子どもは、中学生で 75%、高校生で 90%であった(本項目
は中学生以降に尋ねている)。また、グレーチングに車いすのキャスターが挟まっている写真を見せて、
車いす使用者が困っている理由を尋ねると、小学 3,4 年生の 87%、小学5,6年生の 91%、中学生
の 85%、高校生の 90%が正しく説明できることが確認された。このように、車いすの介助方法につい
ては学年が上がるほど正答率は高まり、高校生では 9 割が正しい方法を答えている。また、車いす使用
者が困っていることを先に伝えれば、何がバリアとなっているかを正しく答えられる子どもが多いこと
がわかる。
しかし、車いす使用者について子どもたちがどのような認識をもっているかについて明らかにしてい
る文献は見あたらない。車いす使用者にはどの程度のことができ、何ができないのかについて、子ども
たちのとらえを把握することで、車いす使用者への理解を深めるために扱うべき内容や、説明の仕方を、
より詳しく検討することができる。
2.今年度の研究の目的
そこで、今後の肢体不自由理解教育の内容や方法を検討するための基礎資料を得ることを目的とし、
学校教育において話題に上がることの多い車いす使用者について、子どもたちがどのような認識をもっ
ているかを調べた。本稿では、その結果について報告する。
138
3.方法
(1)対象者
小学校第 5 学年 1 クラスの児童および第 6 学年 2 クラスの児童、中学校第 2 学年 4 クラスの生徒を
対象とした。回答済質問紙は、小学 5,6 年生分を 116 部、中学生分を 137 部回収した。小学 5,6
年生については、女児 59 名、男児 57 名であった。中学生は女児 72 名、男児 65 名であった。
(2)手続き
2016 年 2 月に、無記名式・自記式の質問紙調査を実施した。質問紙は担任により配布、回収された。
(3)調査項目
回答者の属性を問う 2 項目(学年および性別)、車いす使用者に関する認識を問う 11 項目、車いす体
験の内容等に関する 4 項目の計 17 項目であった。
4.結果と考察
(1)車いす使用者に関する認識
車いす使用者の状態や思いについて書かれた 11 項目のそれぞれについて、
「全く思わない」から「と
ても思う」までの 5 件法で尋ね、その結果を表 1 に示した。表 1 は、平均値が高いほど「そう思う」と
答える傾向にあったことを示しており、小学 5,6 年生の平均値が高かった項目順に並べている。
表 1 より、小学生も中学生も、①「(車いす使用者は)間違った方法であっても、手伝ってくれればう
れしい」の平均値が最も高かった。実際には誤った介助や不必要な援助を受けることで、車いす使用者
が恐怖を感じることや困惑することが少なくない。このように、援助しようとする側は、相手が援助し
てもらえることや援助者の気持ちに喜ぶと思っている一方で、援助される側は不適切な援助や不必要な
援助に不安や困惑をもっているというギャップは、援助関係を築く際の妨げとなることがある。西館
(2004)は一般市民を対象とした質問紙調査を行い、障害者介助の失敗体験が 130 名中 66 名から
70 件挙げられたこと、その内容は「不適切な介助をした」
「ネガティブな接触をもった」
「介助の申し出
の方法を誤った」に分けられたことを報告している。このうち、ネガティブな接触としては「援助を申
し出たのに感謝もされず、がっかりした」「介助しようとしたら、自分でできると怒られた」「手を貸そ
うとしたら断られ、それ以来、頼まれもしないことは一切しないと思った」などが挙げられていた。援
助を断られたり、喜んでもらえなかったりする体験がネガティブにとらえられたのは、援助する側に「障
害者は援助してもらえることを喜ぶ」という認識があったためであると考えられる。この認識をもって
援助に臨み、障害者に喜んでもらえるという期待が裏切られた場合には、援助した側が落胆や恥ずかし
さ、怒りなどをもつことになる。その結果として、障害に関する認識にゆがみが生じたり、次の援助に
消極的になったりする可能性がある。
援助関係に②と③については、バリアフリー対応のドアは横に引いて開けるスライド式が多いこと、
『歩道の一般的構造に関する基準』には、横断歩道前の歩道と車道の段差は 2 ㎝を標準とするとされて
いることから、説明内容が適切であると言える。しかし、②の平均値は小学生 2.70、中学生 3.28、③
の平均値は小学生 2.60、中学生 2.73 とそれほど高くなかった。車いす使用者は 2 ㎝程度の段差も一人
で超えることができないと考える者が多いことから、車いす使用者の能力は実際よりも低く評価される
傾向にあることがうかがえる。
139
表1.車いす使用者に関する認識(各学年の平均値と標準偏差 SD)
小学 5,6 年
中学 2 年
N=116
N=137
2.87
3.36
(1.52)
(1.34)
2.70
3.28
(1.33)
(1.33)
2.60
2.73
(1.31)
(1.37)
2.50
2.92
(1.36)
(1.33)
2.42
2.90
(1.28)
(1.42)
⑥店までの道がバリアフリーであれば、障害者用駐車
2.13
2.76
スペースではなく、一般の駐車スペースを使える
(1.21)
(1.25)
2.11
2.20
(1.21)
(1.30)
1.91
2.09
(1.14)
(1.05)
1.83
1.64
(1.08)
(0.85)
1.81
1.71
(1.12)
(1.02)
1.72
1.85
(1.05)
(0.99)
①間違った方法であっても、手伝ってくれればうれしい
②ドアを横に引いて開けることは、むずかしくない
③2 ㎝程度の段差であれば超えられる
④歩道で歩行者とすれ違っても、こわくない
⑤ドアを押して開けることは、むずかしくない
⑦雨の日に傘を使うことができる
⑧階段にスロープがあれば、その勾配が急であっても
一人で移動できる
⑨グレーチングにタイヤがはさまっても、自分で抜け出せる
⑩歩道で自転車とすれ違っても、こわくない
⑪ドアを手前に引いて開けることは、むずかしくない
t値
2.75**
3.44**
0.75
2.48*
2.77**
4.08**
0.56
1.32
1.62
0.76
1.08
** p<0.01, * p<0.05
小学生と中学生の回答に差があるかを確認するため、対応のないt検定を行った(表1)。その結果、
①、②、⑤、⑥の項目に 1%水準で、④の項目に 5%水準で有意差が認められた。つまり、小学生より中
学生の方が、車いす使用者の能力を高く評価する傾向にあった。また、小学生より中学生の方が、誤っ
た介助であっても車いす使用者は喜ぶと考える傾向にあった。しかし、先に述べたように誤った介助で
は車いす使用者が喜ぶどころか、恐怖を感じることすらある。また、②、④、⑤、⑥のうち、⑤や⑥は
実際には困難が伴う。このように、学年が高いほど、車いす使用者について適切な知識が身についてい
るとは言えない状況にあることが確認された。
(2)車いす体験の有無による認識の違い
学校教育において車いす体験をしたことのある者は小学 5,6 年生では 116 名中 22 名、中学生では
137 名中 27 名、車いす体験ではないがケガなどをして車いすに乗った経験のある者は小学 5,6 年生
で 10 名、中学生で 14 名であった。車いす体験の種類は、車いすの自操(小学生 18 名,中学生 20
140
名)、車いすの介助(小学生 16 名、中学生 26 名)、車いすの被介助(小学生 15 名,中学生 23 名)
であり、多くの子どもが複数種の体験をしていた。体験の内容については、段差・階段およびスロープ
(坂道)が小学生 7 名、中学生 7 名、段差・階段のみが小学生 2 名、中学生 1 名、スロープ(坂道)
のみが小学生 8 名、中学生 17 名であった。つまり、段差やスロープなどの起伏のある場所を通行する
体験をもった者は小学生 17 名、中学生 25 名であり、平地のみを通行する体験をもった子どもを大き
く上回っていた。
車いす体験(ケガなどで車いすに乗った経験を含む)をしたことのある者とない者で、車いす使用者
に関する認識に違いはあるかを調べたところ、
小学生では③(体験群 2.20,非体験群 1.67;t(111)=2.45,
p<0.05)と⑤(体験群 2.13,非体験群 2.90;t(111)=2.85, p<0.01)に有意差が認められた。この
ことから、車いす体験をしたことのある子どもの方が、車いす使用者は 2 ㎝程度の段差を超えられるが、
ドアを押して開けることはむずかしいと考える傾向にあった。一方、中学生については、両群間におい
て有意差の認められた項目はなかった。
車いす体験の内容によって、どのような知識を得るかは異なる。また、車いす体験以外に、子どもた
ちが授業等で身につけていた知識によっても、結果は変わってくる。そのため、小学生の体験群と非体
験群の間に認められた差が、体験を受けてのものであるとは言い切れない。むしろ、多くの項目におい
て体験群と非体験群の間に有意な差は認められず、特に段の高さやスロープの傾斜といった車いす体験
でよく試される内容についても有意差が認められないケースが多かった。この結果から、車いす体験を
するだけで、車いす使用者の感じているバリアについて適切な知識が身に付くというわけではないこと
がうかがえる。
5.まとめと今後の課題
児童生徒は、車いす使用者の能力を実際よりも低く評価する傾向にあった。また、小学生よりも中学
生の方が、車いす使用者の能力を高く評価していたものの、実際には車いす使用者一人では難しいこと
も「できる」と答えるなど、小学生より適切な知識が身に付いているというわけではなかった。さらに、
小学生も中学生も、「障害者は誤った援助であっても、援助を受ければ喜ぶ」と考える者が多かった。
現在の生活科や社会科の教科書は共生社会を意識したものとなっており、挿絵には車いす使用者やバ
リアフリー設備が多く描かれている(水野ら,2006)。教科書や授業(西館ら,2005)を通して、障
害に関する内容にふれる機会は、決して少なくない。しかし、扱われている内容は、段差がバリアにな
ること、段差を解消するためにスロープなどのバリアフリー設備が整備されていることに偏っているこ
とが推察される。そのために、どの程度の段差ならば車いすでも通行が可能であるのか、車いす使用者
が一人でも楽に通行できるスロープの勾配はどの程度であるのかといった具体的な知識が子どもに身に
付いていない状態にあると考えられる。また、ドアのある場所の通行で困ることは何か、自転車とのす
れ違いにおいて恐怖を感じるかなどについても、教育の中で扱われることは少ないことがうかがえる。
西館・水野・徳田(2006)は、車いす使用者や肢体不自由特別支援学校の教員を対象に調査を行っ
ており、彼らの 8 割以上が一般市民に理解してほしい内容とは、一般ドライバーは障害者用駐車スペー
スに駐車しないこと、肢体不自由者が不必要な援助や誤った援助に困惑することがあること、グレーチ
ングに車いすのキャスターがはまると自力で抜け出せないことであった。また、車いす使用者は歩道上
を走る自転車とのすれ違いに危険を感じること、人ごみで混雑した場所では車いす使用者が周囲の人に
141
気づかれにくいことについても、8 割近くの者が理解してほしいと答えていた。
車いす使用者の安全かつ円滑な移動環境を実現するために、子どもたちには、車いす使用者の通行を
妨げないための知識、車いす使用者に恐怖や困惑を与えないための知識、車いす使用者が困る状況にお
いて自分たちにできる援助に関する知識を身につけることが求められる。したがって、教育においては、
まず扱うべき内容を整理し、子どもたちの発達段階に合わせて教育を進めていくことが必要であろう。
水野・徳田(2014)は、身体障害に関する理解を促すために教育すべき内容について、
「自分とは違
う特徴のある人が存在することを知る」
「障害の永続性を知る」段階から「障害者が使用するアイテムと
その使用者に関する理解」段階、
「障害があっても工夫をすれば障害のない人と同じように生活できるこ
とを知る」段階、
「障害者が日常生活で困ることを知る」段階、
「障害者の生活上の工夫を知る」段階、
「同
じ社会の一員として尊重し合う」
「障害者に対する援助方法を知る」段階へと積み上げていく必要性を指
摘している。本調査では、小学生も中学生も、車いす使用者の能力を低く評価する傾向にあったことか
ら、
「何ができて、何を一人ですることに困難が伴うか」に関する情報を、水野・徳田(2014)の示す
段階に則って伝えていくことを検討する必要があると言える。
なお、今回の対象者のうち、学校等で車いすに乗ったり介助したりした経験のある者は小学生で 3 割
弱、中学生で約 3 割いることが確認された。西館・宮田・徳田(2011)の調査では、授業において車
いす体験活動を行った経験のある小学校教員は 51%である。体験の種類(自操、介助、被介助)は 2
種か 3 種を組み合わせ、段差やスロープ、凹凸のいずれか、あるいはすべてを含んだコースを1種につ
き10分以内の時間で体験させているケースが多い。このような短時間の体験をもつ場合は、体験した
事柄を必要な知識に結びつけるために事後指導に力を入れる必要があるが、車いす使用者が困ることや
車いす使用者の援助の仕方などについて、事後に説明を行っていない教員がいた。車いす体験について
は今後、体験の内容によってどの程度の教育効果が得られるのか、体験によって子どもの認識にゆがみ
が生じる可能性はどの程度あるのかについて検証を進め、その結果に基づいて事後指導を含む十分な実
施計画を立てて臨む必要があると言えよう。
引用文献
水野智美・西館有沙・石上智美・富樫美奈子(2006)小学校・中学校の検定済教科書における障害の
扱われ方-交通バリアフリーに関する内容を中心に-,障害理解研究,8,23-35.
水野智美・徳田克己(2014)身体障害、発達障害の理解教育の段階モデルの提案,障害理解研究,15,
1-8.
西館有沙(2007)肢体不自由者の交通バリアフリーに関する子どもの認識とその発達的変化,障害理
解研究,9,71-81.
西館有沙・水野智美・徳田克己(2006)肢体不自由者の交通バリアフリー教育のための教育ニーズに
関する調査研究-交通バリアフリー教育と交通サバイバル教育について-,障害理解研究,8,1-10.
西館有沙・徳田克己・水野智美(2005)小学校及び中学校において実践されている交通バリアフリー
教育,障害理解研究,7,27-34.
142
ICTの教育利用グループ
代
表
:
長谷川春生
附属小学校
:
橋本大一郎,岩滝修二,阿久津理,鼎裕憲
福田慎一郎,細江孝太郎
学部
: 山西潤一,高橋純,水内豊和
1.活動の目的
教育における ICT 活用の在り方を考え,授業実践等を通して ICT 活用の効果を明らか
にする。
2.本年度の活動内容
平成 27 年 10 月開催の全日本教育工学研究協議会全国大会の公開授業校である附属
小学校と学部教員が共同で ICT の教育利用について研修を行い,授業実践を通してその
有効性を明らかにすることを目標に活動を進めた。
(1)研修会等への参加
研修会に参加し,小中学校等における ICT 活用の現状や効果的な活用方法について
研修を深めた。
① 第4回 富山 ICT 活用授業研究会
・日時:平成27年6月6日(土)13:30-17:00
・場所:富山大学人間発達科学部第 3 棟 331 教室
② 第5回 富山 ICT 活用授業研究会
・日時:平成27年8月 29 日(土)13:30-17:00
・場所:富山大学人間発達科学部第 3 棟 331 教室
③ 人間発達科学研究実践総合センター講演会
「アクティブ・ラーニングのためのタブレット PC の活用はどうあればよいか」
・日時:平成 27年12月 5 日(土)14:00~16:50
・場所:富山大学人間発達科学部第2棟211 教室
(2)全日本教育工学研究協議会全国大会公開授業
① 日時:平成27年 10 月 9 日(金)
② 場所:富山大学人間発達科学部附属小学校
③ 公開授業
・3 学年理科「じしゃくのひみつ」 授業者 鼎裕憲
・4 学年理科「水の3つのすがた」 授業者 福田慎一郎
・6 学年算数「拡大図・縮図」 授業者 細江孝太郎
(3)授業実践等を通した ICT 活用の有効性について検討
附属小学校の福田慎一郎教諭による取組において,ICT を授業等で活用することの
成果と課題について検討を行った。
143
ICT を活用し、「自ら問題を解決する子供」を育てる理科授業
〜事象の提示と ICT を組み合わせることで
「あれ?」「もっと調べたい!」「わかった!」を引き出す〜
富山大学人間発達科学部附属小学校
福田慎一郎
はじめに
昨今、学校では ICT 機器の整備が進められ、一人一台タブレットパソコン(以下 TPC)
を使った授業実践が取り組まれている。ICTをうまく取り入れることで、今まで以上に、
子供の「分かった!」を引き出すことができる。ICT機器(実物投影機、TPC など)は
あくまでも子供の理解と思考を支援する道具であり、それらを活用しようと考えたとき、
最優先に考えることは、各教科の目標の達成であることは明確である。
ICT 機器の効果を活用し、子供たちの「分かった!」を引き出すためには、
「あれ?どう
なっているんだ?」「不思議だな」「ここが、よく分からないぞ」と子供自身が問題を自覚
し、
「本当に解決したいと願う問い」が生じる場面を作らなければならないと考え、理科に
おける ICT 機器の活用の授業づくりについての本研究をスタートした。
1
主題設定の理由
今日、将来の変化を予測することが困難な時代の到来が叫ばれている。このようなめま
ぐるしく変化する社会に対して適切に対応していく力が求められている。つまり、自ら問
題をもち、その解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくための必
要な資質・能力を身に付けることが重要になってくる。
上記の資質・能力を身に付けるためには、学びを通して、子供たちの真の理解、深い理
解を促す必要がある。そのためには、対象に出合い、興味関心を喚起し、目の前の問題に
対してこれまでの概念では解決できないという問題意識(矛盾)を生じさせるようにする。
そして、必要となる新たな概念を獲得し、試行錯誤しながら問題解決をしていく子供を育
てる必要があると考える。また、情報化が進展する社会の中で、情報や情報手段を主体的
に選択し活用していくために必要な能力を、段階を通して育んでいくことの重要性も高ま
っている。
このようなことから、理科における問題解決学習と ICT 機器の活用を組み合わせること
で、自ら問題をもち、意欲的に取り組む子供を育てることができるのではないかと考えた。
そこで、
「問いが生じる場」と「ICT 機器の活用」に重点をおいて実践を行うことにした。
以上から、本研究主題を設定し、以下のように構想した。
研究主題
具体的な子供の姿
自然や友達の考えから「あれ?」
「おや?」と問題意識をもつ子供
自ら何度も事象と関わり、問題を解
決しようと試行錯誤する子供
144
【視点】
「問いが生じる場」と
「ICT 機器の活用」を組み
合わせる
2
研究の概要
※研究の視点・研究内容と実践の一覧
年度
学年
単元名
H
26
年
度
第
3
学
年
実践1
・ ICT の活用で「大きく映すと分かる」を実感させる
「チョウを育てよう」
教師による ICT の活用
実践2
「昆虫の体のつくり」
H
27
年
度
3
第
4
学
年
実践3
「水の3つの姿」
・
「あれ?」を生む事象の提示で「調べたい」を生み出す
・生活経験と事象の比較で「あれ?」を生み出す
子供が自ら使う ICT
・
・
・
・
・
TPC の活用で決定的な証拠を撮影する
TPC と事象の往還で「分かった!!」につなげる
TPC の活用で科学的な見方や考え方を養う
子供の考えのズレから「あれ?」を生む
TPC の活用で事象をより客観的に捉え、根拠を明確
にして話し合う
研究の実践と考察
理科の学習は右図のように子供の問題
解決学習が進んでいく。ICT 機器は、ど
の場面でも活用することができる。
本研究では、枠で囲んである「予想・
仮説の設定」から「結果の処理」までに
重点をおいて実践に取り組んだ。
実践1
第3学年「チョウを育てよう」の実践より
(平成26年6月)
本単元では、モンシロチョウと同時にスズムシも卵から飼育した。モンシロチョウとス
ズムシのからだのつくりや成長の仕方の比較を通して、
「生命の巧みさ」に迫ろうと取り組
んだ。教材として扱うモンシロチョウとスズムシの卵、幼虫、体のつくりはいずれも小さ
く肉眼では観察しにくい。そこで ICT 機器を使って大きく写しだすことで子供の「分かっ
た」につながるのではないかと考えた。
(1)ICT の活用で「大きく映すと、分かる」を実感させる
①
顕微鏡カメラと TV で拡大提示する
モンシロチョウの卵を一人一個用意し、配った。子供たちからは、
「こんなに小さいの!?」
という驚きの声があがった。卵の観察をしていると、
「先生、分かんないけれど、何か卵か
らでてきたような気がするよ…」と興奮して報告しに来てくれた。その声を聞いて、周り
の子供たちも一斉に集まってきた。
そこで、顕微鏡カメラを使って大型テレビに映し出し、卵の様子を観察した。
145
赤ちゃんの色は透明だ!!
それに、殻を食べているよ。
あれ?動かなくなったよ…
どうしたんだろう…
子供たちは、大きく映し出された卵や生まれたばかりの幼虫の様子を見て、満足した様
子だった。
②
「はっきりと様子が分かる」を実感する場の工夫
飼育を続け、アオムシが脱皮し、2齢虫となった段階で、体のつくりを観察した。しか
し、2齢虫といえども、体色が緑色であることは見て分かるが、その他の部分はどのよう
なつくりとなっているかは分からなかった。子供たちは虫眼鏡を使って観察を始めた。
「足の数は・・・8本かな」
「いや、もっと足があるよ!」
「え?どこに?」など、観察結
果にズレが生じた。すると子供たちは、「調べたいのに小さくて分からないよ・・・」と
不平を言い始めた。そこで、双眼実態顕微鏡を用意して観察させた。
「あ!足は16本あるよ!!それに、体の色が
半分で違う!」
「体には透明な毛がいっぱいはえている!先っ
ぽに丸いものもついている!!」など、
全体の話し合いでは、実物投影機を用いて大きく
映し出し、足の数を子供たちと一緒に数えたり、
子供たちが観察を通して発見したことを共有した
りした。
この観察を通して、虫眼鏡で見えなくても、ICT 機器で大きく映すと「はっきりと様子
が分かる」ということを、実感を伴って理解したようであった。
(2)「『あれ?』を生む事象の提示」で「調べたい」を生み出す
アオムシとスズムシの「幼虫の足のつくり」を比
較した。(資料1)子供たちは両者の飼育・観察を
通して、足の色や形状、
本数などの違いを見出した。
そこで教師は「足の役割」について問うた。子供た
ちは観察を通して、
「アオムシの足には吸盤があるか
ら葉の裏側につかまることができる。吸盤のおかげ
で落ちない」と捉えた。次に、スズムシはどのよう
につかまるのかを考えた。スズムシの体よりも細い
枝を提示した。すると、
「足で細い枝を抱きかかえるのではないか」と予想した。ここで、
146
教師実験を行い、実物投影機で大きく映し出した。「スズムシは抱きかかえるようにつか
まるので、裏返しても落ちない」と、観察を通して捉えた。
【資料1
アオムシとスズムシの足のつくりの比較の様子】
次に、教師は、スズムシが抱きかかえられない
幅広の板を提示し、スズムシを乗せて裏返すとど
うなるかを問うた。
「足で挟めないし、吸盤がないから落ちる」
「足でしがみつくから落ちない」などと意見が分
かれ、「スズムシは本当に落ちないの?吸盤がな
いのに…」という問題について解決したいと願う
ようになった。これまでの子供たちの「幼虫の足
のつくりについての捉え」では解決できなくなっ
たのである。
そこで、スズムシを幅広の板にのせて裏返した。すると、スズムシが落ちないという事
実に驚き、「きっと足先に秘密があるはずだ」と再び観察したいと気持ちを強くしていっ
た。
子供たちは、これまでの観察・話合いから、
「足先を木に刺しているのではないか」と新
たな予想をもった。しかし、肉眼でも、虫眼鏡を使ってもはっきりとは見えなかった。そ
んな時、N 児は「顕微鏡で大きくして見たい。先生、テレビにスズムシの足を映してよ」
と発言した。そこで、双眼実態顕微鏡を大型テレビに映し出し、学級全員で観察した。
「足先の爪だけではなく、足全体にトゲがある。しかも、左右同じ形で、同じ数ずつある」
「この爪と足全体のトゲみたいなものがあるから落ちないのだ」
「だから手に持ったとき、足がひっかかるのだ」などと、科学的な手法を用いて問題解決
をしていった。
【実践1の考察】
○ 子供たちが「知りたい」「詳しく観察したい」と願う事象と出合わせたことで、問題意識を明確
にもって観察する姿につながった。また、顕微鏡カメラで TV に大きく映し出したり、実物投影機
を用いて観察・話合いを行ったりしたことで、子供たちは、「大きく映すと分かりやすい」という
ことを実感を伴って理解することができた。
△
実践1では、ICT 機器の活用は教師であった。子供自らが ICT 機器を活用した授業の在り方は
どうあればよいかが課題として残った。
147
実践2
第3学年「昆虫の体のつくり」の実践より
(平成26年10月)
本単元では、昆虫を飼育し、体のつくりの観察を通して、
「昆虫の体のつくり」の規則性
について学習をする。しかし、単に「規則性を見出す学習」だけでは、虫嫌いな子供はこ
の学習への意欲を発揮しない。それでは、自然愛護という理科の目標にはたどり着けない。
そこで、子供たちが昆虫の体のつくりについて調べる中で、
「あれ?どうなっているの?」
やワクワク・ドキドキを感じたり、じっと真剣に昆虫を観察したりする場面を設定した。
その中で子供自身が ICT 機器(TPC)を活用することで、より本単元の本質である「生命
の巧みさを感じること」に迫ることができるのではないかと考えた。
(1)生活経験と事象の比較で「あれ?」を生み出す
昆虫の羽は何のためにあるのか大型テレビで写真を提示しながら確認した。同時に、ICT
での提示資料は消えてしまうので、同じ資料を板書にも位置付けた。子供たちは、これま
での飼育経験より、昆虫の羽は「敵から逃げるため」
「移動するため」など「空を飛ぶため
に羽がある」と捉えた。
次に、飼育していたコオロギに羽があることを確認し、コオロギも飛ぶのかを問うた。
「え…?飛んだのを見たことない…」
「捕まえたとき、飛ばなかった。ジャンプしたり、
素早く走って逃げたりした。」
「でも、敵から逃げる、どうしようもなくてという
時は飛ぶんだと思う。
」など生活経験を基に発言した。
ここで、実際にコオロギをそっと落として飛ぶかど
うかを確かめた。コオロギは羽を広げて飛ぶことはな
く、ポトンッと落ちた。高低を変えて、何度も確かめ
たが、コオロギは飛ばなかった。
観察を通して、子供たちは「コオロギは飛ばないのに、羽があるのはどうして?」と問
いをもち、コオロギの羽について考え始めた。子供たちは生活経験から、コオロギの羽は
「鳴くため」に特化した羽になっているのではないかと予想した。教室中のカーテンが閉
められ、電気も消され、教室の中で、コオロギが鳴く瞬間を待つこととなった。
いくつかの班から鳴き声が聞こえた。子供たちはその班に集まって観察した。しかし、
コオロギの羽の動きは素早かった。何度も何度もコオロギを観察する中で、以下のように
話合いを行った。
T:どうやってコオロギは、音を鳴らしているのだろう?
C:羽と羽を擦り合わせているみたいだよ。しかも、とっても速く!
C: よく見ると、羽の内側を擦っているのかな・・・
C: 違うよ!羽の先っぽ同士を擦り合わせているよ!!
C:羽の動きが速すぎて、虫眼鏡では見えないよ。
C: 先生、タブレットのカメラで撮影してみてもいい?カメラだったら、繰り返し見られるから。
そこで、各班に2台 TPC を配布し、決定的な瞬間を撮影することとなった。
148
(2)TPC の活用で決定的な証拠を撮影する
各班で動画撮影が始まった。動画を撮りながらも、
子供たちは目の前のコオロギをじっと観察していた。
また、撮影した動画を何度も繰り返し再生し、確認
している班がほとんどであった。
この場面での子供たちは、
「動画撮影」→「動画確
認」→「動画撮影」という流れと同時に、目の前の
「本物のコオロギ」も観察していた。
動画と実物のコオロギの両者を確認・観察する中で、子供たちは「コオロギは羽の中か
ら先にかけた部分を擦り合わせていること」
「羽を擦る際は羽を縦に伸ばしていること」
「羽
の先には膨らみのようなものがあること」に気付いた。
(3)TPC と事象の往還で「分かった!!」につなげる
「どこで擦っているのか」の解を見いだした子供たちは「どうしてあんなにきれいな音
が出るの?」と新たな問いをもち、羽の秘密を探り
始めた。
コオロギが羽を擦っている様子を何度も観察する
子供、班で撮影した動画を何度も再生し確認する子
供、インターネットを使って調べ学習を始める子供
もいた。調べ学習をしている子供は、インターネッ
ト上の情報が目の前のコオロギに本当にあてはまる
のかを観察していた。(右図)
TPC だけでなく、目の前に本物の事象が存在することで、子供は繰り返し、何度も事象
を詳しく観察したり、インターネットのページと比較したりしながら学習を進めた。
その後、各自の考えを聞いたり、調べたりしたことを聞いたりした。
T:どうしてあんなきれいな音が出るんだろう?
C:自分の手を擦ったけれど、きれいな音が鳴らない。人間の手とは違う仕組みがあるみたい。
C:筆箱と鉛筆で擦ったけれど、ギコギコと音はする。だから、ギザギザがついているのかな。
C: でも、コオロギみたいに響く音はしないんだ。
C: 調べたことは、コオロギの羽の先には丸い部分がある。そこを擦り合わせるとあの音がでる
らしい。
C:羽には膨らみがあって、そこで音が広がって響きわたるみたいだよ。
話合いを通して、子供たちは「コオロギの羽を見てみたいな・・・」と願いをもった。
そこで、教師は、事前に用意して置いたコオロギの羽を提示し、顕微鏡カメラで写しだし
た。羽が見えた瞬間、「あ~ここだ!!この丸い部分!!」「細かい所はギザギザになって
いる」などと、コオロギの羽の秘密を発見した。
このように、TPC の活用と事象の往還を図ったことは、子供が繰り返し事象にはたらき
かけ、主体的に問題解決する姿につながったと考える。
149
【実践2の考察】
○ 子供の生活経験とズレが生じる事象を提示したことで、子供は問題意識をもって観察に取り組
むことができた。その際に、TPC を活用して動画撮影をしたり、TPC と事象を往還させたりし
たことで、子供は事象に繰り返しはたらきかけ、問題解決する姿につながった。
△
TPC の台数を制限したことは、事象に繰り返しはたらきかけるために有効であった。
今後は一人一台 TPC を活用し、科学的な見方や考え方を高める指導の在り方が課題として残っ
た。
実践3
第4学年「水の3つの姿」の実践より
(平成27年10月)
本単元では、水を熱して沸き立つまでの様子、温度や体積の変化、湯気や泡の正体を詳
しく調べることで「水の熱による変化」という本質に迫っていく。これまでは、水が沸き
立つまでの様子を、温度変化の様子をグラフ化したり経過図を描かせたりして記録してき
た。しかし、刻々と変化する水の状態の細部を記録することは、子供たちにとっては容易
ではない。
そこで、本単元では記録の際に一人一台 TPC を活用し、水の変化の様子を撮影し、温
度変化のグラフに重ねて記録していく。また、TPC を活用することで、消え去った情報を
映像として残したり、画像や動画を繰り返し見ることで事象を再現したりすることにつな
がる。また、水を熱した時に見られる「くもる一瞬」、「泡が出る一瞬」、「泡がはじけて湯
気になる瞬間」なども映像として残り、繰り返し再生することで、より事実に即して客観
的に事象を捉え、科学的に考える根拠となると考える。
(1)TPC の活用で科学的な見方や考え方を養う
①
効果的な記録方法を意識した TPC の活用
導入では、ビーカーで水を沸騰させ、水が完全に無くなるまでの様子を観察した。
次に、
「水を熱し続けたとき、水はどのようになくなったのか」を問うた。子供たちは、前
時の観察を基に以下のように、水がなくなるまでの様子を述べた。
小さい泡が出る
泡?湯気?が激しくなる
水がなくなる
子供たちは、記憶を基に約10分間の水の変化の様子を経過図で記録し、以下のように
話し合った。
T:水はどのようになくなっていった?
C:水が熱されることで、湯気が出て、蒸発して水が無くなった。
C:それに、途中から泡がたくさん出てきて、はじけていた。
C: 泡が激しくなって、水がどんどん減っていって、あっという間に水が無くなってしまった。
C: 途中で、泡がはじけて、水が飛び散っていたような気もするな。
C:いや、湯気が出たのが先だよ!!泡はその後だよ!!
C: そうだったかな?湯気と泡は同時だったと思うけど。分からない!!
子供たちは沸騰した時に「泡」が出たことに驚いていたため、細部の様子が分からないと
いった状況だった。話合いを通して、子供たちはもう一度観察したいと願うようになった。
150
そこで教師は、
「水の変化をどのように記録すればよいか」を問うた。子供たちは、TPC
のカメラを使って記録すればよいと考え始めた。しかしながら、これまでにカメラを使っ
て実験結果を記録したが、写真を撮りすぎて整理するのに困ったという経験から、「カメ
ラを効果的に使うには、どのように記録すればよいか?」と記録方法について話合いが焦
点化された。子供たちは、以下のように話し合った。
【時間ごとに記録する】
30秒ごとに記録すれば、時間による水
の変化の様子を記録することができる。
【水の様子の変化ごとに記録する】
水の様子が変わった瞬間に撮影すれ
ばよい。
時間だけで記録していくと、水の変化を見逃す。水の様子の変化だけだと、経過時間
も分からないし、枚数の処理が大変になる。変化といっても、人によって変化の「基準」
が違う。よりよい記録の仕方とは何だろう・・・?
話合いを通して、子供たちは以下の方法で取り組んだ。
【グループ内で役割分担を決めて記録する】
①
30秒ごとにカメラで撮影する。
②
変化があった瞬間にカメラで撮影する。
③
動画をカメラで撮影する。
④
動画撮影時に水の状態を細かく実況中継する。
子供たちは、これまでの自分の取り組みを客観的に捉えているからこそ、TPCを活用
する際の効果と留意点を意識しているといえる。また、理科で大切な「記録(データ)を
正確にとる」「客観的に判断する」という処理方法も意識していると考えられる。
②
繰り返し再生から「事象をより正確に」捉える
「水はどのようになくなったのか?」を考察する際、子供たちは撮影した写真を拡大し
たり、何度も動画を再生したりしながら、水がどのようになくなっていったのか、変化の
様子を細かく確認した。
C:ほら、最初に一瞬ビーカーがくもる。それから、水がゆらゆ
らとする。
C:本当だ。水がゆらゆらしてから小さい泡が出るんだ。
C: ほら、ここ大きくすると、泡がはじけて、水が飛び散ってい
る!!
C:うわ。飛び散った水がビーカーの内側に付いている。
C: もう1回、飛び散ったところ見せて。
C: よく見ると、ほら、外側にも飛び散った。蒸発だけじゃなく
て、飛び散った水もあるんだ。
C: でも、飛び散った水よりも、湯気の方がたくさんでてない?
子供たちは、TPC を活用することで、消え去った情報を何度も確認した。同じ事象を何
度も観察することによって、これまで以上に事象を細部まで正確に捉えることにつながっ
た。
151
また、子供たちは、
「水の温度変化」と「水
の行方」は関係していると考えていたので、
温度変化を記録したグラフに、TPC で撮影
した写真を貼り付けて右のような水の変化
と温度の関係をまとめた。
子供たちは、うまく言葉で表現すること
ができない箇所に、TPC で撮影した写真を
貼り付けた。事象をより正確に捉えて表現
しようとしている姿だと考える。
(2)子供の考えのズレから「あれ?」を生む
「水の中ではどのようなこ
とが起こっているのか?」と
投げかけた。
話合いでは教師は子供の考
えのズレを明確にするために
板書で比較したり、話合いで
泡の正体が何か焦点化したり
した。
C:泡は空気である。空気は温められると上に上がる。これが水の中でも起きている。
C:最初に出てくる小さい泡は、しばらく水面に浮かんでいた。水が水面に浮かぶわけがない。
だから、泡は空気だ。
C:水しか入っていないのだから、空気がでるはずはない。泡がはじける瞬間、泡の中から水みたいな
ものが飛び出ていた。だから、あれは空気と水が混ざったものだ。
C:蒸発しているときの水面を観察しても、湯気と水面の間は透明だった。そこには水蒸気があるから、
泡は水蒸気の基みたいなものだ。
T:泡の正体は何? 空気?空気&水蒸気?水? どれなんだろう?
(
「絶対空気だ!!」
「水だよ!!」「空気&水蒸気だ!!」という声が連呼している)
子供たちは水が熱されるときに出てくる「泡の正体が何か」が気になってしょうがない
状態となった。そこで、予想別に実験計画をたて、TPC を使って自分の仮説を証明するた
めの証拠を集めることにした。その際には、見通しをもたせることが大切だと考え、次の
ように取り組んだ。
(3)TPC の活用で事象をより客観的に捉え、根拠を明確にして話し合う
子供たちは仮説を証明するために、以下のように見
通しをもたせ、撮影する場所を考えさせた。
【泡=水説】
ガラス管の中に水が通るはず。そこを撮影しよう。
【泡=空気&水蒸気説】
袋の中に空気と水蒸気がたまるはず。そこを撮影しよう。
152
子供たちはこの段階を取り入れたことで、こだわり
をもって実験・観察に取り組んだ。また、TPC で証拠
を集めながらも、食い入るように事象を観察し、情報
交換する姿が多く見られた。
考察では、右のように、記録した事実を基に話し合
った。証拠となる写真を提示しながら話し合ったこと
で、子供たちは実験結果を共有しやすくなり、友達の
考えと関係付けて事象を捉えたり、比較して事象を捉
えたりする姿につながった。また、子供たちの発言を
見ると、イメージ図やスケッチを基にした話合いよりも、より正確に事象を捉え、根拠を
明確にして発言しているといえる。
C:泡は空気&水蒸気だと思う。だって、袋はこんな風にパンパンにふくらんだし、袋の周りには水滴
がたくさんついていた。袋の上から下までびっしりと付いていた。これは水蒸気だ。
C:あ~、僕たちの結果と同じだ。僕たちも袋の上から下までびっしりと水滴が付いていた。それに、
この写真を見て。ガラス管の中に水が通っている。ということは、やっぱり泡は空気&水蒸気だ。
C:でも、この後、袋はしぼんでいった。ほら、この写真。しかも、中に入っていた空気がなくなって、
ぺちゃんこになった。水しか残っていない。だから、泡は水だったんだ。
C:私たちもそう。袋はぺちゃんこ。それに、袋の中に最初に出てきたのは、空気ではなく水が垂れて
きた。ほら。(写真を見せる)
空気だったら、最初からふくらむはず。水が垂れたということは、泡は水だ。
一方、実験結果に納得のいかなかった子供たちは、繰り返し再実験を行い、証拠写真を
集めた。そして、その写真をもとに反論を繰り返した。試行錯誤を繰り返しながら、問題
を解決しようとする姿といえる。
このように、自分の仮説を証明するために見通しをもって TPC を活用したことは、事
象をより客観的に捉え、根拠を明確にして伝えることにつながった。また、自ら問題を解
決しようと取り組む姿にもつながったと考える。
【実践3の考察】
○ 子供の考えのズレを明確にしたことで、子供は問題意識をもって実験に取り組むことができた。
仮説を証明するための証拠を TPC で集める場合、見通しをもたせたことで、こだわりをもって問
題を追究する姿につながった。また、事象をより正確に、客観的に捉える姿につながった。
△
一人一台 TPC を活用して、見通しをもって取り組んだのはよいが、一人一人が記録した細かい
証拠をグループでもちより、グループとしてどのような結果がいえるのかを考察するなど、学習
過程の工夫があることで、より多面的に事象をとらえることができるのではないか。
4 研究のまとめ
○ 「問いが生じる場」を意図的に仕組むことで、子供は本当に解決したいと願う「問題」
をもち、問題意識をもって実験・観察に取り組む。
○ ICT機器の効果を子供に体験させ、環境を整備することで、子供は自らICT機器
を使って問題を解決しようと動き出す。その際には、ICT機器だけではなく、問題意
識が明確であり、本物の事象が目の前にあることで、子供たちは繰り返し事象に関わり、
問題を解決しようと追究する。
△ 一人一台 TPC を活用する場合、より多面的に事象を捉えられるように学習過程の工
夫をする必要がある。
おわりに
「自ら問題を解決する子供」を育てるには、子供が「本当に解決したいと願う問い」が
必要である。その上で、ICT 機器を取り入れることで子供の「分かった」につながると実
感した。今後も子供たちが本気になって考え、夢中になって追究する理科授業の在り方を
探っていきたい。
153
「キャリア発達を促す授業づくり」グループ
代
表:
水内 豊和
学
部:
竹村 哲・和田 充紀
附属特別支援学校:
中江 麻由美・柳川 公三子・青山 真紀・高附 真梨子、
本田 智寛・松原 健・山崎 智仁
Ⅰ.目的
附属特別支援学校における平成 27 年度の研究主題は「キャリア発達を促す授業づくり~
家庭や地域で主体的に活動・参加する姿を目指して~」である。本主題を受けて授業実践
や事例検討を通して研修を行い、附属特別支援学校が作成した「キャリア発達を促す授業
づくりの観点」の充実を図り、教育活動に生かす。
Ⅱ.方法
1.次の授業実践と事例検討を通して研修を行う。
①日常生活の指導 小学部・中学部・高等部
②音楽科の指導 小学部・中学部
③遊びの指導 小学部
④算数科の指導 小学部
2.「キャリア発達を促す授業づくりの観点」の充実を図るために、次の流れで観点別の成
果と課題を検討する。
①対象授業における、キャリア発達を促す授業づくりの観点の具体例
②キャリア発達を促す授業づくりの観点を取り入れた対象授業における成果と課題
③対象授業が児童生徒の家庭や地域生活での変容につながった事例
④対象授業以外の授業における「キャリア発達を促す授業づくりの観点」を意識した授
業のエピソード
⑤「キャリア発達を促す授業づくりの観点」の検討
Ⅲ.結果と考察
1.「キャリア発達を促す授業づくりの観点」について
本校では、平成20~26年度の研究において、本校が考える「参加を高める授業
づくりの観点」に基づいて「参加を高める授業づくり」に取り組み、学校及び家庭や
地域でも主体的に活動する児童生徒の姿を実現してきた。
平成27年度からはそれまでの研究の成果を基に、さらにキャリア教育の視点で授
業づくりを見直し、「より質の高い主体性」を育むための「キャリア発達を促授業づく
り」に取り組むこととした。そこで、前研究の成果である「参加を高める授業づくり
の観点」をキャリア教育の視点で見直し、「キャリア発達を促す授業づくりの観点」を
作成した(次ページ表)
。
154
<「キャリア発達を促す授業づくり」の観点>
A
豊かな学びができるように、ねらいに沿った学習機会をできるだけ多く設定する。
①学習することの意味や機能を理解できるように、知識・技能の習得と活用の両
方の視点から学習活動を設定する。
②考えたり、判断したり、表現したりできるように、学習課題を解決するための
効果的な学習活動を設定したり、授業展開にしたりする。
③授業の見通しをもったり、他の授業や家庭、地域においても自立的に活動した
りできるように、学習の準備から段取り、片付けまでの一連の活動を、子ども
自身が行う授業展開にする。
B
集団の一員として、家庭や地域で生活する力が育まれるように、社会的役割をも
って活動する協同的な活動機会を設定する。
C
自立的・主体的に家庭や地域で生活することに価値を見出せるように、自分で目
標を見出し、その達成を目指すことへの意欲・態度及び価値観を育み高めるため
の多様で多重な自己・相互・他者評価の機会を設定する。
155
2.「キャリア発達を促す授業づくりの観点」に基づく授業づくりの成果と課題について
(1)小学部
音楽科の実践
①対象授業における「キャリア発達を促す授業づくりの観点」の具体例について
○授業の実際
学習活動
手立て・配慮点
1 身体表現「ピーターと狼」(15分)
①進行役は iPad を見ながら進行をする。 ・進行役の児童は、進行の役割が果たせるよう
(5c)
に全体の様子が見やすい前に出て手元の iPad
を見ながら進行できるようにする。
【A-③、
②挨拶係(4b)は、全
B】
員が姿勢を正したこ
とを確認し挨拶をす
る。
③曲を聴いて場面のカードを選ぶクイズ ・曲調のイメージをつかむことができるように
クイズを行う。クイズを間違えた児童も曲の
に答える。
イメージをつかんで動くことができるよう
④全員で「ピーターと
に、友達と一緒に身体表現をする。
【A-②】
狼」を聴いて身体を動
かして表現する。
⑤教師が撮影した活動している様子の動 ・児童が友達の良いところに気付けるように、
児童の動きの特徴を捉えて撮影をする。
【A-
画を見る。
②、C】
⑥指名された児童は、感想を伝える。
2 器楽「聖者の行進」(30分)
①準備をし、前回の動画を見る。
②目標を選んで決め、グループごとに練
習する。
③教師と相談しながら目標の達成度の振
り返りをしてシールを貼る。
④グループの発表をする。
⑤聴いていた児童は、感想を伝える。
⑥全員で合奏をする。
⑦片付けをする。
⑧号令係(6c)は、全員が姿勢を正した
ことを確認し挨拶をする。
・児童が協力して準備から片付けまで行うこと
ができるように、使用する机や iPad やキーボ
ードを準備する担当表を提示する。
【A-③、
B】
・前回の演奏の動画を見て、良かったところや
気を付けるところを確認する。【A-②、C】
・児童の実態に応じて使用できるように、絵譜
は曲全体を表したものや1小節だけを示した
もの、フレーズごとに提示し鍵盤を押すタイ
ミングに合わせて矢印が動く iPad の絵譜を
作成する。【A-②】
・音の長さの違いが分かって弾くことができる
ように、長く伸ばす音は長丸で表記する。拍
数が分かるように絵譜の音譜の下に小さな黒
丸を付ける。
【A-②】
・目標を達成することへの意欲や喜びを感じら
れるように、個人で教師との振り返りをする
場面と発表者の演奏を聴いて友達に判定して
もらって評価する場面を設定する。
【C】
156
②キャリア発達を促す授業づくりの観点を取り入れた対象授業における成果と課題
○児童の学習における成果
観点A-①について
・「生活単元学習でカフェを行う際に、音楽で取り組んだ器楽を生演奏して、お客さ
んに楽しんでもらう」「学習発表会で発表する」「卒業を祝う会で発表する」など
の発表の場面を設定することで、「上手に演奏できるように頑張ろう」「喜んでも
らえるように頑張ろう」などの励み、意欲につながった。
観点A-②について
・クイズ形式で曲のイメージを答えたり、正しいリズムで演奏したり、曲を聴いて
身体で表現したりなど、考えたり、判断したり、表現したりする場面を設定する
ことで、曲調とイメージのつながりや正しいリズムの理解、自分なりに工夫して
表現する姿が見られ、学習の理解や解決に効果的だった。
観点A-③について
・iPad やモニターなどを用いてスケジュールを表示したり、友達と協力して楽器を
準備、片付けしたりすることで、見通しをもって活動に取り組んだり、友達と声
を掛け合って活動したり刷る姿が見られた。
観点Bについて
・進行、挨拶、準備物などを役割分担することで、自分の役割を自覚し、進んで取
り組む姿や、友達同士で声を掛け合い、協力して取り組む姿が見られるようにな
った。
観点Cについて
・教師がいくつかのポイントを提示し、その中から自分で目標を選んで決めること
で、目標を意識して活動に取り組むことができ、課題の解決に効果的だった。
○教師の授業づくりにおける成果
・小学部の児童には、自分で目標を設定し、自己評価、他者評価することが難しいと
懸念していたが、観点に基づき、手立てを工夫して授業づくりを行った結果、小学
部の児童にも自分で目標を設定し、自己評価することができるようになること、学
習課題解決においても効果的だったことが分かった。
○課題
・学習の意味付けや価値付けを行ったり、自分で目標設定、自己評価を行ったりする
ことで、音楽科のねらい達成に向けた学習のための時間が少なくなってしまうこと
がある。
③対象授業が児童生徒の家庭や地域生活での変容につながった事例
観点A-③について
・家庭のニーズや家庭環境を把握して楽器や曲を精選し、学習に使用した絵譜を家
庭に持ち帰ることで、家庭でも楽器を演奏して楽しむ姿が見られた。
157
(2)中学部
音楽科の実践
①対象授業における「キャリア発達を促す授業づくりの観点」の具体例について
〇中学部音楽科でめざす生徒の姿
・音楽を聴いたり、歌ったり、踊ったり、楽器で演奏したりすることが「楽しい」「おも
しろい」と感じることができ、曲を聴いたら思わず歌ったり、踊ったりしたくなる姿。
→生活の中に音楽がある暮らしになるように。
〇授業づくりで気を付けたこと
①授業の見通しをもてるようにする。(観点A―③)
・スケジュールを固定し、主とする学習課題は
4番と5番の2つ程度にした。
・3番は4番につながる内容で構成した。
(例えば、リズム→合奏、発声練習→歌唱)
・4番、5番それぞれに学習内容が発展していく
ようにした。
・学習課題が変わるときは、事前に知らせた。
『スケジュールの例』
②係を分担し、自分たちで進行できるようにする。
(観点A―③、観点B)
・係は前期と後期で変更し、意欲的に活動できる
ようにそれぞれ自分がやりたい係を担当した。
③活動や曲についての理解を深めるようにする。
(観点A―①、観点C)
・手話ソング「世界中の子どもたちが」「ビリーブ」では、手話カードを用意し、クイ
ズ形式で手話を復習してから歌うようにした。また、歌詞の意味について学習し、
どんな気持ちで歌うのかを考えた。
・外国民謡「カントリーロード」では、曲が作られた国や州の名前や場所、歌詞に出
てくる山脈や河の名前などをクイズ形式で覚えたり、英語の歌詞の意味や作者の気
持ちについて学習したりし、どんな気持ちでどんな風に歌うのかを考えた。
・器楽合奏「エーデルワイス」では、手本の曲を聴き、どんな風に演奏しているか感
想を言い、「きれいな音で演奏しよう」を目標にした。自分が担当する楽器をきれい
な音で演奏するためには、何に気を付ければよいか毎回確認し、パートごとに演奏
したり、録音して聴いたりして自分の音を意識するようにした。
・発声練習では、発声のポイントについて「どうしてそうした方がきれいな声が出る
のか」を、例えば胸を開いた状態と胸を狭めた状態で同じように発声し、どちらの
ほうが発声しやすかったか考えるなど、体験を通して理解できるようにした。
④目標を分かりやすく伝え、意欲をもって活動できるようにする。
(観点A―①、観点C)
・2番「先生のはなし」で、主な学習課題の目標を知らせ、各学習課題の終わりに評
価するようにした。
・
「がんばりたいことシート」
(その日一番頑張りたい授業名と目標を記入したシート)
をもってきた生徒には、2番「先生のはなし」の中でその生徒の授業での目標をみ
んなに伝え、6番「終わりのあいさつ」の前に一人ずつどうだったかについて話し
た。また、「がんばりたいことシート」のコメント欄に、次にがんばってほしい目標
をなるべく分かりやすく記入するようにした。
・各学習課題の目標だけでなく、「宿泊学習でみんなで楽しく踊ったり歌ったりしたい
158
ね。」「キャンプファイアーは夜で真っ暗だから歌詞カードが見えないね。覚えて歌
えるようにしよう。」「上手に歌ったり踊ったりできるようになったから、全校集会
で他学部の人にも見てもらおう。」「学習発表会(卒業を祝う会)で家の人にも見て
もらおう。」など、少し先の行事を目標にすることで、意欲をもちやすいようにした。
②キャリア発達を促す授業づくりの観点を取り入れた対象授業における成果と課題
〇生徒の学習における成果
観点Aについて
・スケジュールを固定することで、授業に見通しをもち学習に落ち着いて取り組めた。
・クイズ形式にすることで、楽しみながら覚えることができ、手話や英語の歌詞など
予想以上に覚えて歌うことができた。
・どうしてそうした方がよいのか、そうするためには何に気を付ければよいのかなど
について、考えたり理解を深めたりすることで、活動に目標や意欲をもって取り組
む姿が見られるようになった。
観点Bについて
・自分が担当する係に進んで取り組んだり、忘れている友達に声を掛けたりする様子
がよく見られた。
観点Cについて
・「がんばりたいことシート」に伝えた目標をあげてくる生徒が増えた。また、少し先
の行事を目標にすることで、
「みんなの前で上手に発表できるように~をがんばりた
い。」と意欲をもって授業に取り組む様子が見られた。
〇教師の授業づくりにおける成果
・取り組む曲の背景や意味や込められた気持ちなどを理解すること(観点A)で、目標
をより意識して取り組めた(観点C)のではないかと思う。
・今年度学習した曲数は多くはないが、どの曲も曲を聴けばすぐに歌ったり踊ったりで
きるようになり、全校集会や学習発表会、祝う会など、人前で発表することを楽しみ
にし、発表が近づくと「がんばりたいことシート」を持ってくる生徒が増えた。また、
発表して認められることで自己肯定感が高まり、少し難しいかなと思う課題にも前向
きに取り組む様子が見られたと思う。
〇課題
・歌詞の内容や曲調などの理解については、能力差が大きくさらに工夫が必要である。
・授業の中では全体に対する大きな目標について簡単な評価(授業担当者の感想)で終
わっている。
「がんばりたいことシート」を持ってくる生徒には、個に応じた評価や目
標のアドバイスができるが、それ以外の生徒には難しい。また、時間がなかったり感
想を言うのが難しかったりして、生徒同士で感想や意見を言う場面がなかなか設定で
きていない。
・音楽科として目標にあげる「きれいな声」
「きれいな音」など感覚的なものを生徒に分
かりやすく伝えるためにはどうすればよいか、さらにそれを自己評価や他者評価する
にはどうすればよいか、検討していきたい。
③対象授業が児童生徒の家庭や地域生活での変容につながった事例
・保護者とカラオケに行き、
「カントリーロード」の一題目を英語で歌ったとうれしそう
に報告する生徒がいた。一曲全部を覚えるのは難しいが、一題目だけをしっかり覚え
ることは可能であり、自信をもって歌ったり踊ったりすることが大事だと思った。
159
(3)対象授業以外の授業における「キャリア発達を促す授業づくりの観点」を意識した授
業のエピソードから
〇観点A―①
高等部1年(チャレンジタイム)
・仕事チャレンジの委託作業について、依頼主や納期、納品数、製品が納品後どのよ
うに使われるかなどを、ポスターにして教室内に掲示しておいた。また、実際に依
頼を受けたり、納品したりする機会を設けて、生徒が依頼主から直接作業について
話を聞けるようにした。
→不良品を出さないよう材料等を丁寧に扱ったり、納期や数を意識したりと、意欲
的に作業に取り組む姿が見られるようになった。仕事を頼まれることに対して、
「ありがとうございます」などと前向きな態度が見られるようになった。
小学部5・6年(算数科)
・算数で重さの学習で量り(アナログ、デジタル)での計量の学習をした後、生単の
調理学習「さくらもちを作ろう」において量りで小麦粉を計量する活動、学部の豆
まき集会に向けて落花生を20gずつ量る活動など算数科で学習したことを他の授
業で活用する機会を設定した。
→実際の活用の場面の前に、量りの使い方、目盛りの読み方を算数科で学習してお
くことで教師に頼らず、自信をもって実際の場面で活動を進める姿が見られた。
小学部1・2年(チャレンジタイム)
・棚の上のハンディワイパー掃除を児童にお願いした際に、掃除の仕方を伝えるだけ
はなく、棚の上をよく見ると小さな埃が溜まっていること、棚の上に置いてある物
を乱暴に動かすと落としたり壊したりしてしまう可能性があること、掃除が終わっ
たら後から使う人のことを考えて使いやすいように手順表の写真のように物を置い
てもらうと助かることなどを児童に伝えた。
→掃除をした後に埃が溜まっていないかを実際に手で何回も触って確認をしたり、
両手で丁寧に物を近くの机まで運んでから掃除をしたり、手順表の写真と現在の
物の位置を比べて、写真のとおりに物を並べたりする姿が見られた。
(観点A―②
にも関連)
〇観点A―②
高等部1年(チャレンジタイム・朝の会)
・その日の日課の変更や連絡事項などを、単に朝の会等で連絡するのではなく、「連絡
ボード」に書いて教室内に掲示しておき、生徒が各自確認するようにした。
→連絡されたことを漏らさないよう、自分からボードを確認しに行く姿が見られる
ようになった。
・仕事チャレンジにおいて、作業の手順や気を付けるポイントなどが描かれた手掛か
りシートを、全員の手帳に常に入れておくのではなく、決まられた場所に置いてあ
る物を生徒が必要に応じて持って行き、使うようにした。
→出した不良品や教師のアドバイスなどに応じて、自分から手掛かりシートを持っ
て行き、次の作業に生かそうとする姿が見られるようになった。
・朝の会の生活講座において、
「マナー講座」で扱うテーマを、その日の担当になった
生徒が教科書を参考にしたり、普段の生活から考えたりして決め、教師と一緒に準
備をすることにした。
→クラスのみんなで学習したいテーマを自分から考え、教師に相談しにくる姿が見
られるようになった。
160
高等部2年(チャレンジタイム)
・学年全体で依頼を受けた仕事、グループまたはペアで分担した場所を掃除するとい
う活動を設定した。
→同じ場所を担当する友達の仕事の進み具合を見ながら、自分のできそうな仕事を
考えたり、友達に手伝ってもらう仕事の範囲や場所について考えて依頼したりす
ることができていた。(観点Bとも関連)
中学部2年(朝の会)
・朝の会のお楽しみタイムで行う活動を、生徒たちが話し合いで決めるようにした。
→毎日のお楽しみタイムの活動を、多数決で決めたり、多数決で決まらないときは
なぜそう思うのかなど意見を出し合って自分たちで活動を決めたりできるように
なった。実態差はあるが、6人全員の意見が出るようになり、全員が文句を言う
ことなく楽しく活動する姿が見られた。
小学部高学年(遊びの指導)
・高学年の遊びの授業では、ペアやグループで行う活動を設定した。始めは学年ごと
など決まったグループのメンバーで活動を行ったが、グループ活動に慣れてきた年
度の途中からグループは毎回くじ引きで決めることにした。
→毎回違うメンバーで活動することにより、友達同士の関わり方、準備や片付けの
ときの役割分担の仕方も違い、子供自身が考えなければならないことが多くなっ
たり、くじで決まるわくわく感があり、進行役の話を聞き、今日は誰と一緒に活
動するのか注目する必要性が出てきたりするようになった。関わる友達によって
ペースを合わせたり、言葉掛けの仕方を変えたりする姿や授業の進行に注目する
姿(ぼうっとしたり、違うことを考えたりせずに)が見られた。
〇観点A-③
高等部2年(チャレンジタイム)
・生徒に合わせた手順表を準備した。
→分からなくなったときは自分で手順表を見て確認し、自信をもって活動に取り組
む姿が見られた。また、家庭でも学校で行っていたトイレ掃除をしたいという生
徒もいた。
〇観点B
小学部高学年(遊びの指導)
・高学年の遊びの授業では、準備、片付けで大きいものを運ぶ、組み立てるなど友達
と協力しなければできないことや個人に役割を当てるのではなくグループに役割を
当てるように設定した。
→友達同士、言葉掛けする姿が見られた。
小学部1・2年(朝の会)
・朝の会のお楽しみ活動では、ゲームをクリアするためには全員で協力しないといけ
ない内容にした。
→自身の活動だけに集中するのではなく、友達の活動にも注目をして友達を応援し
たり、アドバイスをしたりする姿が見られた。
〇観点C
高等部2年(チャレンジタイム)
161
・毎回の自己チェック、友達チェック、教師への報告を繰り返した。
→アドバイスされたことやチェックが入ったところを次の活動の目標にあげ、取り
組もうとする姿が見られた。
小学部5・6年(チャレンジタイム)
・本棚の整理が終わった際に、毎回教師と一緒に手順表の写真のように奇麗にできて
いるかのチェックを行い、上手くできたところと上手くできていないところを確認
した。
→うまくできなかったところを次回の目標にあげ、取り組もうとする姿が見られた。
また、教師に報告する前に写真と見比べて奇麗にできているかの自己チェックを
する姿が見られた。
4.おわりに:「キャリア発達を促す授業づくりの観点」の検討から
各実践事例の成果から、「キャリア発達を促す授業づくりの観点」に基づいて授業づ
くりを行ったことで、教師が「できた」「できなかった」といった結果だけに目を向け
たり、「できればよい」という捉えをしたりするのではなく、「どのように取り組んだ
か」といった過程を大切にするようになった。その結果、児童生徒が目的意識をもっ
て意欲的に活動する姿や自分で考えたり、判断したり、困ったときには自分から支援
を求めたりして主体的に活動する姿、自分で決めた目標を意識して活動に取り組み、
自分で振り返ったり、友達からの評価やアドバイスを受けて前向きに次の目標を決め
たりする姿、集団の場面において、自分の役割を意識しながら、最後まで果たそうと
したり、友達同士声を掛け合ったり、友達の姿を参考にして自分から行動したりする
姿など、「より質の高い主体的」な姿が多く見られた。
また各実践事例の課題から、知的障害や自閉症等の認知特性に起因する「目標設定
-自己評価・他者評価」の難しさや「キャリア発達」を目指すことと、各教科の目標
達成を目指すこととのバランスや活動の工夫などが課題として挙げられる。自分で目
標を設定することが難しい場合、教師が提示したいくつかの妥当な選択肢の中から、
自分で選んで目標を決定するという工夫が見られた。こういった「自己選択」「自己決
定」する力は、将来の自立に向けて、重要な力であると考えられる。キャリア教育が
目指す「自立と社会参加」に必要な育てたい力を育むという視点で、
「キャリア発達を
促す授業づくりの観点」を見直す必要があるのではないかと考える。
162
気になる子供のソーシャルスキルトレーニンググループ
代
表 :
水内豊和
人間発達科学部
:
和田充紀
附属特別支援学校
:
池田弘紀、廣島幸子、山﨑安由子、山﨑智仁
竹脇里織、野﨑美保
1
研究内容
(1)気になる児童生徒のソーシャルスキルの習得について
(2)電子版SST教材を用いたソーシャルスキルの習得と維持、般化について
2
実践事例
(1)気になる児童生徒のソーシャルスキルの習得について
公共交通機関利用時のマナーについて
~ソーシャルストーリーブック活用した、生徒の安全な自主通学に向けた支援~
実 践 者
附属特別支援学校
池田
(池﨑
弘紀
理恵子、松原
香織)
対象生徒
高等部
目
・バス停でバスを待つ際のマナーや、安全に通学するために大切な事柄
についての生徒の理解を深め、自主通学をする際に望ましい行動を取
れるように支援する。
的
女子生徒
高等部教諭
1名
使用教材
※1「ソーシャルストーリーブック
※2「ソーシャルストーリーブック
※印は次項参照
・ 「自主通学チェック表」
支援の流
れ
・支援の方針や流れについて保護者と相談する。
・ソーシャルストーリーブックを提示しながら、バス停での待ち方や安
全な通学についてや、チェック表を使って毎日の通学について学校と
家庭とで確認を行うことを本人へ伝える。
・登校時
出発前(家庭)…チェック表の項目を保護者と一緒に確認する。
学校到着後…チェック表を使用して教師と一緒に自己評価や振り
返りを行う。守れた際に称賛し、必要な際は、ソーシ
ャルストーリーブックを参照し、望ましい行動につい
て確認を行う。
・帰宅時
下校前(学校)…チェック表の項目を教師と一緒に確認する。
自宅到着後…チェック表に自己評価し、保護者と一緒に下校時の様
子について振り返りを行う。
成
・望ましい具体的な行動について本人の理解を深めやすく、家庭におい
ても、自分から何度も繰り返して読む姿が見られた。
果
163
~バス停でのバスの待ち方~」
~通学の安全について~」
※1
「ソーシャルストーリーブック
~バス停でのバスの待ち方~」
164
165
※2
「ソーシャルストーリーブック
~通学の安全について~」
166
167
(2)電子版SST教材を用いたソーシャルスキルの習得と維持、般化について
・NHK for schoolについて
Web サイトから活用できる教材のご紹介(水内先生より)
(例)レッツスマイル「気持ちチェック」
(例)レッツスマイル「ハルト君になろう」
168
人と関わるときのマナーについての学習
~高等部 朝の会「生活講座」での取り組み~
実 践 者
附属特別支援学校
対象生徒
高等部2年生
目
友達と話し合ったり、意見を交換することで、社会人としてふさわしい態度や
マナーについて考えたり、互いの意見や感想を認め合ったりすることができ
る。
標
高等部教諭
竹脇里織
(松原
健)
8名
朝の会(生活講座)での取り組み
・その日のテーマを聞
く。
・テーマに関する三つの
『マナー動画』を視聴
する。
・ふさわしいと思う行
動を選択肢から選ぶ。
・自分の考えや選んだ理
由などについて発表
する。
・記録係が意見を聞いて
『意見ボード』へ内容
を記入する。
・
『意見ボード』を基に教
師と振り返る。
『マナー動画』(一部分)
※休み時間に『マナー動
画』と『意見ボード』
の画像を『生活お助け
ブック(働く編)』にと
じる。
成
果
・動画を視聴することで各場面について考えが深まり、普段の自分の姿と結び
付けて、
「自分だったら○○です。」と発表したり、友達の意見を聞いて「やっ
ぱり、○○の方がいいと思いました。
」と意見を変更したりする姿が見られた。
・校外就業体験において、仕事中の報告、連絡、相談の際、姿勢や声の大きさな
どに気を付けることができた。
(報告者
169
野﨑美保)
「特別支援教育コーディネーターの連携」グループ
~
附属学校園における、特別な配慮を要する
幼児児童生徒への支援体制構築に関する研究
代
表
:
和田充紀
附属特別支援学校
:
堀ひろみ、栗林睦美、遠藤安由子
~
1.活動の方針と内容
2012 年の文部科学省による調査結果では、「通常学級に通う公立小中学生の6.5%
に発達障害の可能性がある」と公表された。この結果を受けて、大学附属学校においても
特別支援教育の必要性が指摘され、様々な実践がすすめられている。
このような状況を受け、本大学人間発達科学部附属学校園における現状を把握するとと
もに、附属学校園と学部とが連携して特別な配慮を要する幼児児童生徒への対応を充実す
る体制を構築していく必要があると考えた。
具体的な活動内容は次のとおりである。
(1)全国の附属学校園における特別支援教育の動向および、特別支援学校コーディネーター
との連携の実態について資料収集を行う
(2)本大学附属学校園における、特別な配慮を要する幼児児童生徒に対する支援の現状、お
よび必要と考えられる支援体制や連携について把握する
2. 活動の成果と今後の予定
(1)について
全国の動向について、収集した資料をもとに情報交換と検討を行った。
(2) について
「学校園における特別支援教育の必要性と連携に関するアンケート」を作成し、本大学人
間発達科学部附属幼稚園・小学校・中学校・特別支援学校に対して調査を依頼・実施した。
◯調査時期:2016 年 2 月~3 月
◯調査内容:資料 1、資料 2 参照
今後は、調査結果について分析を行い、今後の対応についての検討をすすめていく予定
である。
170
資料 1:附属幼稚園・附属小学校・附属中学校用アンケート
学校園における特別支援教育の必要性と連携に関するアンケート
学部と附属学校園の共同研究プロジェクト
「特別支援教育コーディネーターの連携」部会
和田 充紀・堀ひろみ・栗林睦美・山崎安由子
本アンケートは、特別支援を要するお子さんとそのご家族が安心して学校生活を送ることができるように、またそ
のために支援者が適切な支援をすることができるようにするための基礎資料を得るために実施するものです。
支援者である幼稚園や学校の先生方が、特別支援教育に対してどの程度の必要性を感じているのか、どのような支
援体制や連携が行なわれる必要があるのかについて検討することを目的としています。
ご多用の折大変恐縮ですが、なにとぞよろしくお願いします。
以下、当てはまる文字や数字に◯をつけてください。
記述欄が数ヶ所あります。該当の方のみ、ご記入をお願いします。
1.回答している方についておたずねします。
Q1.性別について
A:男
B:女
Q2.年齢について
A:20代
B:30代
C:40代
D:50代
E:60代
Q3.勤務先について
A:幼稚園
B:小学校
C:中学校
D:特別支援学校
Q4.職種について
A:園長・校長・管理職
B:クラス担任
C:学年・学部所属など
D:その他(
)
171
2.特別支援教育の必要性や支援体制などについておたずねします。
Q5.それぞれの項目について該当する番号を選んでください。
とても
少し
どちらとも
ややあては
全くあては
あてはまる
あてはまる
いえない
まらない
まらない
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
項 目
1
これまでに発達障害あるいは発達の気になる幼児児童
生徒を支援したことがある
2
発達障害あるいは発達の気になる幼児児童生徒への関
わりや指導支援を行う中で困った経験がある
3
勤務校園に、幼児児童生徒への指導や支援に関して困
った時に相談できる人がいる
4
勤務校園に、幼児児童生徒への指導や支援に関して困
った時に相談できる支援体制がある
5
勤務校園に、特別支援教育に組織的に取り組むための
校内委員会がある
6
勤務校園での支援体制は充分である
5
4
3
2
1
7
勤務校園あるいは学級で特別支援教育の必要性を感じ
5
4
3
2
1
ている
8
特別支援教育に関する知識がある
5
4
3
2
1
9
特別支援教育に関する知識や情報を積極的に入手して
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
いる
10
特別支援教育に関して学ぶ機会がある
(5 または 4 を選ばれた方)どこで、学びましたか。(
)
11
特別支援教育について学ぶ機会が必要である
5
4
3
2
1
12
保護者への対応を行う中で困った経験がある
5
4
3
2
1
13
保護者への対応に関して、学校内に困った時に相談で
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
きる人がいる
14
保護者への対応に関して、学校内に困った時に相談で
きる支援体制がある
15
特別支援学校の教員や医師、心理学の専門家など、外
部の専門家と連携をしている
(5 または 4 を選ばれた方)誰と連携していますか。(
)
16
特別支援教育コーディネーターとの連携は必要である
5
4
3
2
1
17
医師、心理学の専門家など外部の専門家との連携は必
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
要である
18
特別支援学校との連携は必要である
3.その他
Q6.特別支援学校に対するご要望があれば、ご自由にご記入ください.
172
資料 2:附属特別支援学校用アンケート
学校園における特別支援教育の必要性と連携に関するアンケート
(特別支援学校用)
学部と附属学校園の共同研究プロジェクト
「特別支援教育コーディネーターの連携」部会
和田 充紀・堀ひろみ・栗林睦美・山崎安由子
本アンケートは、特別支援を要するお子さんとそのご家族が安心して学校生活を送ることができるように、またそ
のために支援者が適切な支援をすることができるようにするための基礎資料を得るために実施するものです。
支援者である幼稚園や学校の先生方が、特別支援教育に対してどの程度の必要性を感じているのか、どのような支
援体制や連携が行なわれる必要があるのか、また特別支援学校はどのような役割を果たしていく必要があるのかにつ
いて検討することを目的としています。
ご多用の折大変恐縮ですが、なにとぞよろしくお願いします。
以下、当てはまる文字や数字に◯をつけてください。
記述欄が数ヶ所あります。該当の方のみ、ご記入をお願いします。
1.回答している方についておたずねします。
Q1.性別について
A:男
B:女
Q2.年齢について
A:20代
B:30代
C:40代
D:50代
E:60代
Q3.職種について
A:園長・校長・管理職
B:クラス担任
C:学年・学部所属など
D:その他(
)
173
2.特別支援教育の必要性や支援体制などについておたずねします。
Q4.それぞれの項目について該当する番号を選んでください。
とても
少し
どちらとも
ややあては
全くあて
あてはまる
あてはまる
いえない
まらない
はまらない
項 目
1
児童生徒への指導や支援を行う中で困った経験がある
5
4
3
2
1
2
児童生徒への指導や支援に関して、学校内に困った時
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
に相談できる人がいる
3
児童生徒への指導や支援に関して、学校内に困った時
に相談できる支援体制がある
4
知的障害教育に関する知識がある
5
4
3
2
1
5
知的障害幼児児童生徒への支援方法に関する知識がある
5
4
3
2
1
6
通常の学級に在籍する発達障害の児童生徒に関する知
5
4
3
2
1
識がある
7
発達障害に関する知識や情報を積極的に入手している
5
4
3
2
1
8
発達障害に関して学ぶ機会がある
5
4
3
2
1
(5 または 4 を選ばれた方)どこで、学びましたか。(
)
9
発達障害について学ぶ機会が必要である
5
4
3
2
1
10
これまでに発達障害あるいは発達の気になる幼児児童
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
生徒を支援したことがある
11
これまでに発達障害あるいは発達の気になる幼児児童
生徒に関して助言を求められたことがある
12
保護者への対応を行う中で困った経験がある
5
4
3
2
1
13
保護者への対応に関して、学校内に困った時に相談で
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
5
4
3
2
1
きる人がいる
14
保護者への対応に関して、学校内に困った時に相談で
きる支援体制がある
15
医師、心理学の専門家など、外部の専門家と連携をし
ている
(5 または 4 を選ばれた方)誰と連携していますか。(
16
特別支援学校において外部の専門家との連携は必要で
)
5
4
3
2
1
ある
17
通常の学校において外部の専門家との連携は必要である
5
4
3
2
1
18
通常の学校において特別支援学校との連携は必要である
5
4
3
2
1
19
特別支援学校において通常学校との連携は必要である
5
4
3
2
1
3.その他
Q5.附属学校園における特別支援学校の役割について、ご意見をご自由にご記入ください。
174
富山大学人間発達科学部・附属学校園
共同研究プロジェクト
平成27年度報告書
富山大学スクラムプラン
―学校バリアフリーへの挑戦―
発行日
平成28年7月29日
発行者
富山大学人間発達科学部
〒930-8555
2015
富山市五福3190
TEL 076-445-6251(総務)
FAX
076-445-6264
富山大学人間発達科学部附属学校園
〒930-8555
富山市五艘1300
TEL 076-445-2800(事務室)
FAX
076-445-2802
175