4.環境共生の建築と都市-ドイツの事例で考える

環境共生の建築と都市−ドイツの事例で考える
滋賀県立大学 環境科学部
水原渉
1.環境問題の考え方
現在、ドイツでも「umweltfreundlich(環境に優しい)・・・・」、「menschenfreundlich(人間に優
しい)・・・・」などをスローガンにし、まちづくりが進められている。更に専門的な表現でもあるが、
「Okologie(エコロギー、エコロジー)」も、行政までもがキーワードとして用いて、「エコロジー
的都市建設」、「エコロジー的市街地」、「都市エコロジー」などと、その観点で環境問題の対応が
進められている。
エコロジーは生物学者のヘッケルが1866年につくり出した言葉で、生体と環境の相互作用を扱う学
1)
問を意味するものとして考え出された 。現在、生物学的には、個体、集団、エコロジーシステムな
どを対象とする広範な内容をもっている。
日本でもそうだが、現在の動きを見るとエコロジーという概念は、単なる「自然環境」に限定する
のでなく、もっと包括的なものとして受け止める必要があるように思う。上記の用法はその様な可能
性を示していると思う。
つまり、今、強く求められている点は、影響を与えるもの(環境)と受けるものとの関係の中で生
命体(人間を含む生物)を保護していくこと、相対的な「弱者」を護っていくことで、ここにエコロ
ジーの核心があると思う。最近よく言われる「人に優しいまちづくり」、「地球に優しい・・」、「環
境に優しい・・」などは統一的に「エコロジー」として理解する必要があるしこの観点での徹底が求
められていると考える。人間に対する社会・物的環境としての福祉や労働条件などもこの範疇に含め
られる。
環境は単なる自然環境だけでなく人間社会も含み、その中での 弱者 も保護される必要があると
いう様に、統一的に理解する必要がある。そして、新しい社会としてこれらの要件を充足する仕組み
を作っていく必要がある。
環境共生もエコロジー的にバランスのとれた(つまり持続可能な)、共生するに相応しい環境があ
って初めて可能である。そのために、現在の「負の環境」は改善して行かなくてはならない。確かに
自然条件を取り込んでいくことも共生であるが、「自然」自身が本来的な自然でなくなっていると言
える。身近なレベルと都市レベルでの自然も含む環境改善が行われて、初めて共生できる条件が生ま
れる。
2.ドイツの自然風土
ここでドイツの環境問題を考える上で、理解の前提となる、日本との気候上の差違について見てみ
たい。
ドイツは日本と比べると緯度がかなり高く、ほぼサハリンに一致する。北大西洋海流の影響で世界
の気候区分では同じ温帯に位置しているが、かなり異なりを見せる。気温は日本の東北地方に近いも
のの、年間雨量は圧倒的に日本の方が多。日照時間も日本の方が全体的に多い。
ドイツでは特に冬の天候が非常に悪い。冬の日照時間は非常に短く、例えば1988年の北部にあるエ
ムデンの12月の総日照時間は20時間、エッセンでは実に7時間しかなく、リューネシャイト、トリア
では10時間などと極端に少なく、多くてもシュレスヴィッヒの42時間などであった。緯度が高くて昼
時間が短い上に天候が悪いためで、一日中太陽が顔を出さない日は珍しくない。
しかし、冬が終わって5月ともなれば、それまで茶色だった辺り一面が緑に変わり、また気候も良
くなる。5月を称え喜ぶ歌は多い。日照時間は数百時間にもなり、その変化は著しいと言える。冬と
5月を知らずしてドイツ(あるいは西欧)は語れない。
自然条件では、気候上の差異に加えて、地震が殆どない点も大きな条件の違いである。ドイツでは
自然の猛威は日本ほどではない。
ドイツのLandschaft(自然地景観;アイフェル地方)
国土は日本と比べ平地部の割合が多く、ゆったりとしている。日本では水田が発達し、湿地であっ
ても水田として開発し、平地は殆ど利用し尽くされている。ドイツでは水田はなく、湿地は劣性の土
地であり、そのまま放置している(保全している)場合も珍しくない。
自然は従順である。降雨量、日照時間が相対的に少なく、気温も低いために、植物の生育も日本と
比べると少し遅いようで、雑草も背丈が余りなく、多様性に劣っているようである。しかし、これが
ドイツの「Landschaft」の一つの特徴となっている。(上の写真)
3.ドイツ人と日本人の環境意識・思想
【ドイツロマン主義】
歴史的にはゲーテなどの全体論的自然観、ロマン主義的自然観の伝統がある。現在の「Natur-sch
utz und Landschftspflege(自然保護・自然地保全)」の制度のルーツは、この時代18世紀から19
2)
世紀への変わり目の時期に求められる 。
【都市問題・住宅問題としての環境問題】
ドイツでも前世紀の後半に進行した産業革命の中で、都市に集中した工場労働者などの深刻な住宅
問題を引き起こした。都市の高密居住もさることながら、建物の気密性が高く、冬には暖房される部
屋に多数が就寝するという状況や、交代制の勤務の場合一つのベッドを何人もで交代で使用するとい
うこともあったので、伝染性の病気が発生すれば容易に蔓延した。
下水処理も充分に行われずに河川に放流し、それが病原となったこともある(これらの問題は現在
では解決されているが、例えば、飲料水は70%を地下水に依存しており、地下水汚染にも非常に敏感
に対応している)。
その中で住宅の改善に関しては、住宅改良運動、協同組合運動などが起こった。
また、これらに並行して、当時、運動として起こったクラインガルテン(ライプチッヒの医師の名
前からとったシュレーバーガルテン運動;1864年)は、悪化した都市環境の中での子供達の健康を特
に意識して進められたものであった。また都市公園[Stadtpark]建設にも力が入れられていた。ワ
ンダーフォーゲルの運動は1896年に最初の「ドイツ青少年運動」の組織化として始まっている。これ
は「Jugendherberge(ユースホステル)」の設立へと結びついていく。
しかし、国の本格的な住宅政策は第2次世界大戦後を待たなければならなかった。特に第2次大戦
後の復興過程、その後の住宅政策的な取組みの結果、住宅事情は飛躍的に向上した。健康な住宅の条
件が規模性、機能性、安全性、衛生などを基本とすべきであることを考えると、大きく改善されたと
言える(下表)。
建築基準法(Bauordnung;州法)のみならず、住宅監視法(1918年のプロイセン住居法の中で定め
られたのが最初)が設けられているのは日本との大きな違いである。これは社会住宅の運用に加えて、
住宅配分の適正化に役立っていると考えられる。更に衛生状態の悪い住宅での居住を認めていない点
も衛生面での向上に役立っている(いた)と考えられる。
ドイツの住宅水準の変化
一人当たり居住面積(㎡) 出典:連邦建設省「Haus und Wohnung im Spiegel
年
借家
持家
der Statistik 1997/98」、11頁
1968
22.5
25.5
【住宅規模】
1972
24.7
28.4
日本:1993年で持家/122.8㎡、借家/45.08㎡、全体で91.92㎡
1978
29.3
33.8
(H.5住宅統計調査;延べ面積)、ドイツ:1987年で持家:112.7㎡、
1987
33.0
38.3
借家:69.2㎡、全体で86.3㎡(旧西独)(地下室部分の加算が必要)
【最近の動き】
ドイツは、環境に対する意識が社会的にかなり高い国である。
特に現在に結びつく環境問題との関わりでは、1973年、79年の第1次と2次のエネルギー危機(こ
のときの施策は現在も引き続き環境政策的位置づけで行われている)、チェルノブイリ原発事故(1
986年4月26日)、酸性雨による森林枯損、現在の地球環境問題などが環境意識を強める動機であった
と考えられる。
環境意識の度合いを知る意味で、環境保護団体の会員数を見ると、ドイツでは、旧西独地域について
「環境保護連邦協会」の傘下の団体(105団体)の会員数は260万人であった(1993年)。これを日本
の人口で換算してみると約400万人に当たる。これに対して、日本では、自然保護協会の会員数は約
2万人、日本リサイクル運動「市民の会」は20万人となっている(1994年)。日本では全体で100万
3)
人いるかどうか 。
体制批判としてのディー-グリューネン(緑の党)の動きはドイツから始まったが(70年代の末期)、
この様な動きもドイツの特徴と言える。
廃棄物回集への参加の市民
参加の割合の変化(%)
収集
左表は素材毎の家庭廃棄物の回集状況の変化を示す。少し古いデーター
1978 1982 1985
だが、70年代末から80年代前半にかけて、意識的に回収に参加する市民が
古紙
58
69
87
急速に増したことが分かる。これには80年代初頭に市街地各地に分別回集
繊維・古着 62
67
84
の街頭コンテナが常設されたことも関わっていると考えられる。
ガラス
27
48
79
出典:Der Fischer Oko-Almanach 91/92、95頁
アルミニウム
23
22
37
(Emnid, 1985 )
くず鉄
−
−
26
【日本人の環境意識】
日本では最近まで自然の循環にうまく組み込まれた生活をしていた。人糞を農業に使用する点は、
江戸時代末期にヨーロッパに紹介され一部の人たちに評価されていた。数十年前までは、「資源が乏
しい国」という意識は国民の間に強く、物は大切にしていたと思う。
しかし、反面、「過度の包装」文化があり、自然の中にゴミを捨てるようなことを平気でする人が
多かったし、今も結構いる(ドイツでは見たことがない;まち中で平気でゴミを捨てる人はいる)。
現在は「資源の豊かな国」であるかの様に、ものを大切にしない。
社会的行為に個人的な抜駆けが多い。環境問題でもこの様な行為は絶えず起こり、それが社会的意
識の進展を遅らせることになるかも知れない。ドイツの学者が日本の都市を見て「エコロジー」なら
ぬ「エゴロジー」と評したとか・・・。しかし、当然ながら、どこの国でも生活に密着した領域では「も
ったいない」と言う意識はあり、エコロジー的な意味でも評価できるものである。これは大切にした
い。
【日本でも生活密着の部分ではエコロジー的なものが多い】
・日本の水洗便器の手洗いつきの水槽はドイツにはない。
・風呂の残り湯の洗濯利用もドイツでは行われていない(シャワーが多いということもあるが)。
【日本の清潔さ−環境に対する意識の一つ】
衛生面では日本は意識が高く、習慣にもそれが現れている。
・日本の住宅内の履き物を脱ぐ習慣も清潔といえる。但し、スリッパは不潔(特に不特定多数の利用
の施設の場合)。
・日光に洗濯物を晒して干す習慣も衛生的(ドイツでは、田舎は別として、地下室や小屋裏で干すの
が一般的だが、電気洗濯機は自動的に熱湯で洗うのでこれも衛生的で汚れが非常に良くとれる)。
【その他】
・日本でも環境意識は低くないが、土地利用に関わる自然環境保護ということでは非常に弱い。
・資源に乏しい日本にとって、分別収集による「資源の獲得」が大切。
4. 健康とまちづくり・住まいづくり
健康とまちづくり、住まいづくりはどの様な関係があるのか。確かに都市の環境、住宅の状況は、
人間の健康に対して影響を及ぼすが、病気に対する病原菌あるいは逆に予防注射のような直接的影響
は持っていない。総合的、長期的にみた場合には大きな影響を持つし、場合によれば人間の成長や精
神、人格に関わる(都市では幅広い)影響も持ちえるという意味では病気などより深刻なものとも言
える。
かつてはドイツでもコレラ、ペストなど疫病の蔓延などにより都市・住宅問題の大きな課題であっ
た衛生面も、現在は一応解決している。しかし、最近の新しい問題として建材に含まれる有害物質な
どの問題が表に現れてきている。これらのことは日本と似ている。
住宅内の有害物質などの問題に対し、ドイツの連邦建設省は、以前に「健康な建築と住まい」と題
して市民向けのパンフレットを発行した。これは、健康・環境に配慮した視点と同時に、根拠のない
有害効果の噂の広がりに対しての啓蒙的な意図から作成されたものである。論点は、マイナスイオン
効果、電場・磁場効果、 大地の放射線 、 壁の呼吸 、有害物質などについてであった。多くの
ものは根拠が無いものとして退けている。有害物質に関しては基準により低く押さえられているが、
それでも換気が重要と強調している。
伝統的に「住まい医学」(Wohnmedizin)の分野が出来ている。
4−1 ドイツの住宅建築と健康など
1)構造の気密性
地震は基本的になく(全くないことはないが)、一般に組積造で、窓は開き戸となっており構造的
にも気密性は高い。冬の気候を考えると気密性が高い方が好ましい。住まいは冬を旨としている。
耐用年数は大きい。その分、原理的には建て替えは少なくなる。
2)計画
・採光・開口部:建築基準法の窓面積/床面積の率は日本よりも小さい。しかし、実際には大きく開
口を設けている。
・西日の取り込みは好まれる。
・バルコニーは少し奥行きがある(集合住宅での半戸外生活の確保;社会住宅140cm以上;日本公営
住宅内法90cm以上)、
・横断換気は建築基準法で求められている(通風という概念はないようだ)。
・地下室の設置による整理のしやすさ。地下室は殆どの住宅にあって物が収納でき、居住部分はゆっ
たりし、すっきりしている。
・一人当たり面積は大きくゆとりがあり、空間性が与えるゆとりという精神面・心理面での影響は大
きい。
・住棟形式:パッシブの太陽光利用のために東西軸の評価の高まりが見られる。
3)建築材料
・建築材料は壁は組積造であり、石灰質のブロック、レンガブロックなどを用いている。
勾配屋根は一般的で、その小屋組は合掌などの木を使用している。
・有害物質の問題:建材からの有害物質の発生(建材自身、木材防腐処理剤、塗料など)、アス ベ
スト、ラドン、フォルムアルデヒドなどがあるようだ。先のパンフレットでは換気の重要性 が強調
されている。
・塩化ビニール使用は抑制している(例えば、ベルリンの社会住宅規則)。
4)衛生
・浴室、水洗トイレは、ほぼ完備(浴室はシャワーだけの住宅も多い)。
・高い気密性のために換気の可能性が強調されている(建築基準法の換気規定)
5)周辺環境
・自然・戸外生活を重視している(子供の遊
び場:建築基準法の規定)。クラインガルテ
ン、市民公園なども相対的に整っている。
・騒音には厳しい(住宅地によっては防音土
手を設けていることもある。多くはテンポ30
地域:時速30km以下規制;図1)。
・大気汚染:都心からの自動車の排除、公共
交通の促進などの努力を行っている。
・余暇時間:通勤時間は比較的短い(少し古
いが1978年の1%住宅抽出調査の結果では30
分以 内が70数%であった)。有給休暇は充
分にとっている:夏には1ヶ月程度の休暇(U
図 1 ケルン市のテンポ 30 推進パンフレット
rlaub)での 求暑 旅行が好まれる。
4−2 健康な都市
都市の環境の弊害を除去し、エコロジー的に改善していく必要があるが、この点を見てみたい。
1)都市騒音の低減
テンポ30、自動車の都心からの排除(ハンブルク図面、図1)
2)都市部の自然の回復
・都市気候の改善、自然の回復、戸外生活の確保(クラインガルテン)
・工業化の過程で環境を大きく破壊した。ルール工業地帯。IBAエムシャーパークの試み。かつての下水 溝
の再整備(近自然化)。ルール炭田市街地連盟時代の緑地帯計画の推進。魅力的な都市づく りの推
進。(IBAエムシャーパーク:図面;内容)
3)都市の健康施設
都市部でのスポーツの機会も市民にとっての健康維持に大きく貢献すると言える。例えばハンブル
ク市での公営水泳プールは、44ヶ所(1980年現在)あり、内21ヶ所が室内プールを備えるもので
ある。
この様なことを反映して、同市では60歳以上の高齢者の内で定期的に水泳を行っている割合は20%
4)
になっている。男性では60歳から64歳で33%、65歳から69歳で30%となっている 。またスポーツ連
盟にも60歳以上の高齢者の7.9%が参加している。
既述クラインガルテンも、健康的な都市生活を、ある程度、保障するものとして機能していると言
える。
5.環境共生の建築
5−1 環境共生住宅の動向
数は少ないが全国各地で団地の一角や再開発地などで見受けられると言える。集合住宅の場合には
大体は日本のコーポラティブ住宅と同様の形式で建設されている。同好の士が集まり建設していると
いうわけである(図2)。これらの中でとられている手法は:
①屋上緑化:雨水の浄化、自然破壊の代替対
策として(これは地区詳細計画でも指定する
事がで きる)、
②雨水の地下浸透・透水性舗装、
③雨水の利用、
④自然材の利用、
⑤太陽エネルギーの利用、
⑥南向きの住棟、
(右写真:右手方向が南)
⑦堆肥の利用など、
⑧壁面緑化、
図 2:ケルンのエコロジー住宅地
などが行われている。
まだ現在の処は大きな動きになっていない。
エネルギー節約は石油危機以来の大きな課題で、特に断熱性能を高めることが求められており、助
成も行われている。
後で述べる形で、例えば屋上緑化などは都市計画的に、自然地の消失に対する代替対策として、指
定しようという動きなどもあり、徐々に環境共生の(エコロジー的)まちづくりは進行していると言
える。
5−2 負荷の少ない建材や環境適合業者の奨励
1) 青い天使 マークなど環境的合材料の承認証
例えば上記マーク(右)が承認証として使用されている。
2)環境派業者の紹介
環境に重点を置いた建築業者も現れてきている。例えばケルン市では、そのような業者を専門別に
収録したパンフレットを作成し、市民情報センターに備えつけて配布する形で、環境適合の建築を進
5)
めようとしている 。分野としては、自然建材・塗料(小売店)、建築・内装、断熱、塗装工事、屋
上緑化、自然造園−壁面緑化、土塗り壁、太陽光利用技術が扱われている。
5−3 建築現場に対する規制
現場での廃材分別が例えばヘッセン州の建築基準法で定められている。レンガなどは本来的に再利
用が出来る(戦後の再建時の再利用)。1500万tの建築廃材と1000万tの廃棄物(これらの
300万tしか再利用がされていないとのことである)。
6.環境共生の都市づくりの動き
環境共生はエコロジー的都市づくりとして連邦政府、州政府なども力を入れている。
1)エコロジー都市の育成
例えばノルトライン-ヴェストファーレン州では、モデル都市の育成を図っている。
2)都市計画的なエコロジー的動き
①自然地計画(Landschaftsplanung)
1976年にそれまでの帝国自然保護法を改正して連邦自然保護法が制定された。この中では旧来の狭
い意味での自然保護を拡大し、①市街地の中の自然まで保護、保全の対象とし、②代替対策、③自然
地計画も定められた。
この自然地計画は州計画、州内広域計画、基礎自治体のレベルでの建設を中心とした旧来の都市計
画に加えて自然の保護の観点より行われるもので、それぞれのレベルで進められている。これらの内、
都市では「土地利用計画」(F-Plan)をもって都市計画が進められているが、これに対しては「自然
地計画図」(L-Plan)が対応し、更に、日本の地区計画制度のモデルになった「地区詳細計画」(B
-Plan)に当たるものとして「緑地整備計画」(G-Plan)が地区レベルで行われている。
これらの計画は自然の保護の観点も含む「自然のデザイン」として、あるいは「国土の公園化」の
手段と理解できる。都市の多様な自然の保全や気候の改善の手段としても位置づけられている。
最近、都市計画の中で「代替対策」の土地を位置づけるようになってきている。計画自体は自然を
破壊しないが、それを準備するものとして事前に予定地を確保しようというものである。
②既成市街地の土地利用の促進
自然地の消失、都市施設の有効利用、都市内部の活性化、住宅確保などの観点から、都市部の未利
用地、低利用地の活用に力が入れられている。
③都市建設法典の「土地条項」
考量の対象として環境視点が強化されているが、建設法典に「土地条項」として、土地の節約利用、
土壌保護などの観点が盛り込まれた。
3)太陽エネルギー利用
①風力発電
公的助成で建設が進められつつある。雛形は風車としてあり全く異質であるというわけではない。
アウトバーンからでも都市に入る直前などで見かけるようになってきている。風力発電の市民向け書
籍も書店でよく見かける。
②太陽光利用発電
アーヘン方式の様に、市民が太陽光発電のコスト高の面を負担を始めたがこれは法律化された。
4)自動車の排除と抑制
①歩行者専用地帯
これは70年代から例えばミュンヒェンなどで始まったが、その後、各地に急速に広まった。都心部
商店街の交通問題と魅力の創出が目的とされたが、同時に都心部の環境を改善するものでもあった。
現在、アーヘン市では環境改善の目的で土曜日の都心部の一定の範囲の車締め出しを行っている。
②テンポ30地域の指定
1982年の試行研究で6都市が選定され、1985年に制度化された(6都市の一つであるハン
ブルク市では既に1983年に導入してい
る)。現在、全国で導入されている。これ
は交通安全、排気ガス・騒音の減少などに
役立てられている。
広域交通道路など主な道路以外は30km制
限が掛かっている。
③公共交通の促進・自転車の優先
・土曜日の鉄道利用に対する補助(アーヘ
ン市など)。
・P+R(ドイツ鉄道の余裕地を利用;鉄
道と自動車だけでなくアウトバーンとバス
テンポ 30 の地域(黒い線以外の道路;ハンブルク市)
利用もある)
・都市内鉄道の整備(デュッセウルドルフ市など)
・自転車道の整備(雨は日本の方が多いし場所によれば風もきつい)
④道路交通法の環境条項
道路交通法で、環境保護のために日曜日のトラック運行は禁止されている。
⑤クラインガルテン
既出のシュレーバーガルテンは現在クラインガルテンとして全国で設けられており、特に集合住宅
で生活する多くの市民の戸外生活の場として利用されている。 面積は大体は300㎡から400㎡である
が住宅は建築できない。自然的な土地として、エコロジー的な観点から重視されているし、無農薬の
果物の供給源としても利用者にとって重要視されているとのことである。
⑥その他
都市部に緑を回復するために、幅の広い道路の車道を狭め、緑地を設ける(Ruckbau)などの対策
もとっている。
6.おわりに
冒頭部で述べたように、今後の地球環境時代、あるいは持続可能な社会の建設に向けては、大きな
意識改革、社会改革が必要となっていると思われるが、冒頭で理解したエコロジーの考え方はそれに
向けての鍵となる様に思える。ドイツで現在いわれている都市エコロジーは、単に植生、動物、土壌、
水質などだけでなく、都市気候、人間の感覚器官に対する騒音、あで含めて考えられている。更に、
例えば、エコロジー無関係である様に見える福祉も、エコロジーに含めて考えようとするのは、人間
の自然に対する関係は、究極的には、自然存在である人間に対する関係、引いては社会集団が政治制
度などの形を取って個々の人間対する関係と同一であるし、我々の行為が必然的に自ずから「弱い」
存在も大切にしていることになる社会を必要としているからである。
注:
1)H. Sukopp、R. Wittig(Hrsg.):Stadtokologie、Stuttagart・Jena・NewYork、1993年1頁
2)水原渉:「環境共生時代の都市計画」、1996年、技法堂出版、7頁(翻訳の解説)
3)2)と同書、16頁
4)水原渉「ドイツの住宅政策における高齢者の位置とその生活環境」(海外社会保障情報、19
96年秋号、11、12頁)
5)Okologisches Bauen in Koln−wer bietet was,Stadt Koln,1993