第2回 コモンズ論の系譜

エコロジー科目
通算第22回
(コモンズ論)
第2回 コモンズ論の系譜
(2014.10.11)
担当
茂木愛一郎
エコロジー
1
日本のコモンズ論
の系譜図
海外のコモンズ研究(1960年代~)
G.ハーディン(コモンズの悲劇)
F.ベルケス(クロス・スケール・リンケージ)
D.ブロムリー(環境資源の所有権アプローチ)
M.マッキーン(入会とコモンズ)
E.オストロム(コモンズの設計原理)
1990年代以降の
学際的コモンズ研究
環境社会学
宮内泰介(レジティマシー)
鳥越皓之・嘉田由紀子
(弱者救済機能・重層的所有観)
家中 茂(生成するコモンズ)
林政学
井上 真(タイト・ルース論/協治論)
山本信次(森林ボランティア論)
関 良基(コモンズの生成条件)
三井昭二(新たなコモンズ)
北尾邦伸(市民社会とコモンズ)
半田良一(広域コモンズ)
人類学/民俗学
秋道智彌(エコ・コモンズ)
菅 豊(コモンズの生成論)
池谷和信(テリトリー論)
エントロピー学派
(1970年代~)
玉野井芳郎(地域主義)
室田 武(共的世界)
多辺田政弘(コモンズの経済学)
丸山真人(コモンズと貨幣)
中村尚司・熊本一規ほか
入会研究
(1920年代~)
(戦前)中田薫・石田文次郎ほか
(戦後)川島武宜・戒能通孝・
福島正夫・古島敏雄・渡辺洋三・
北条浩・中尾英俊ほか
経済学(環境経済・政策学)
宇沢弘文(社会的共通資本)
間宮陽介(市場とコモンズ)
諸富 徹(社会関係資本とコモンズ)
薮田雅弘(CPRの経済分析)
三俣 学(伝統的コモンズの再評価・
開閉論)
法社会学
平松 紘(自然共用制)
楜澤能生(入会再評価)
鈴木龍也(私権の社会的規制)
高村学人(都市のコモンズ)
エコロジー
2
北米を中心とした海外のコモンズ論(1)
北米を中心とするコモンズ研究か 主要論者とその主張内容
ら得られた知見の展開
(Ⅰ)理論に基づく演繹的主張、(Ⅱ)実証による帰納的主張、(Ⅲ)理論と実証の双方の議論を組み合わ
せた主張
共有地などコモンズは悲劇の結 (Ⅰ) ウイリアム・フォスター・ロイド(William Foster Lloyd)、ギャレット・ハーディン(Garret Hardin)は、コ
末に陥りやすい。いわゆる『コモン
モンズ一般ではなく、オープンアクセスに問題があることを認識できなかった。ハーディンによる問
ズの悲劇』の主張。
題の解決方法は、資源利用者に対して個々の私的所有権を付与する、もしくは、公有として政府の
意思によってか規制をかけることによって資源の過剰利用を抑制し、悲劇を回避することを主張し
た。
所有権の発生に関する論考。共
有制度維持のための取引費用・
交渉費用が見合わないことを理
由に否定的な見解。
(Ⅰ) ハロルド・デムゼッツ(Harold Demsetz)、アーメン・アル この主張を唱える論者は、明白なる権利と
シアン(Armen Alchian)、
義務を伴う共用資源システムのことを
"communal property"と呼ぶのだが、彼ら
は悲劇を招来する非所有に対しても依然
として"common property"という言葉を用
漁業資源に関し、生物学的知見も (Ⅲ) スコット・ゴードン(Scott Gordon)、アントニー・スコット い続けている。このオープンアクセスを共
加味して資源枯渇の問題を取り
(Anthony Scott)
有とみなす不可思議な語彙は、とりわけ漁
上げている。
業研究において頻繁に使用され続けてい
る。
公共財に関する議論の整理を行 (Ⅰ) ジェームズ・ブキャナン(James Buchanan)は、純粋公共財と純粋私的財の中間に様々な様相があ
う。
ることを指摘。
集団が小さい場合、あるいは強制 (Ⅲ) マンサー・オルソン(Mancur Olson)は、集合行為(集合財の供給)にはフリーライダーを発生させ困
もしくは他の特別な工夫(求めら
難な問題を抱えるが、集合財の便益を得やすい(大規模ではなく)小さな集団の場合や、選択的誘
れる集合財とは別種の副産物の
因を引き出す副産物(組合の会員のみに限定した保険、労働組合の組合員のみに反映される賃金
提供など)無くして、集合行為の
上昇の利益、学会員(医療過誤を抱える医師など)のみが享受できる専門誌の提供などを例示)を
形成は困難である。
提供できる集団の場合には解決がしやすいことも導き出した。また追加の集合財の単位あたりの
便益と等しい限界費用を支払えば、結果はより効率的になるという状況を見出すことのできる政治
的企業家あるいはリーダーの役割にも注目しており、その後の理論的発展の基礎を作った。
エコロジー
3
北米を中心とした海外のコモンズ論(2)
コモンズの悲劇とただ乗り問題を (Ⅰ) ロバート・アクセルロッド(Robert Axelrod)は、条件付き戦略ゲーム(しっぺ返し、ただし最初は協調
解消する協力の過程は、繰り返し
的行動)が安定的協力をもたらすことを明らかにした。
ゲームによって、徐々に発展し得
ラッセル・ハーディン(Russell Hardin)は、反復プレーにおける条件つき協力による契約を期待す
ることが、ゲーム理論によって明
る。また、さまざまな利益を共有する潜在的集団内における利害の非対称性は、協力が囚人のジレ
らかにされた。
ンマとならない行動をする人たちの部分集合を生み出し、またこの部分集合は動的に変化する傾
向をもつと指摘した。
(Ⅲ) エリノア・オストロム(Elinor Ostrom)は、集団は「剣無し」で協力を実施することができると論じた。
実証的な事例研究や歴史研究か (Ⅱ) フィーニー(David Feeny)・ベルケス(Fikret Berkes)、マッケイ(Bonnie J. McCay)・アチスン
ら、コモンズが存立し、資源管理
(James M. Acheson)の、いわゆる「22年後」論文での主張。
にも有効であることが、判明して
カール・ダールマン(Carl Dahlman)は、中世英国の開放耕地は、共同利用権者のリスクを分散す
きた。
る効率的な制度であったとする。ハーディンが想定したコモンズはオープンアクセスであり、中世か
ら続く英国のコモンズの実態とはかけ離れたものであった。入会集団の共有地(民法第263条の共
有の性格を有する入会権)が多い日本の入会に対し、英国のコモンズはほとんどすべてが地役入
会(日本の民法第294条の共有の性格を有さない入会権)であるという点には少々注意が必要で
ある。
テリー・アンダーソン(Terry Anderson)とピーター・ヒル(Peter Hill)は、境界を画定しそれを遵守す
るための利用可能な諸技術に要する費用よりも、当該資源が価値を有する場合にのみ、資源に対
する所有権が発生するとの指摘。
ダニエル・ブロムリー(Daniel Bromley)を中心にしたアナポリス会議での議論:世界中のコモンズを
仔細にみることで、共用権のあり方を工夫することで、人々は共用資源をうまく管理していることが
わかった。
(Ⅲ) ダニエル・ブロムリー(Daniel Bromley)は、資源に対する人々の主張は、より多くの他の人(最終的
には政府)がその主張を正当なものと認識するにつれ、やがて権利へと進化すると指摘。
ゲイリー・リーブキャップ(Gary Libecap)は、本来的には請求しえない天然資源システムの上に人々
が作り出す所有権形態は、所有権の生成のごく初期段階においては、政治的要因やインセンティ
ブ(中には悪いものもある)に依存し、それらのインセンティブの構造ゆえ、長期に亘って耐えうる取
り決めではなく、第二次解を生み出し得ると指摘。
エコロジー
4
北米を中心とした海外のコモンズ論(3)
コモンズの悲劇は、資源に対する (Ⅱ) ロナルド・オーカーソン(Ronald Oakerson)のコモンズ研究の手法の枠組み(IAD: Institutional
すべての権利を分割し個人に割り
Analysis and Development )を提示。
当てる方法でなく、また政府によ
ロバート・ウエイド(Robert Wade)、アルーン・アグラワル(Arun Agrawal)、バーランド/プラトー
る奪取による方法でもなく、境界
(Jean-Marie Baland and Jean-Philippe Platteau)は、環境資源管理の戦略としてコモンズに効率
状態を明瞭化し、資源利用を相互
性があることを指摘し、長期的持続性を有するコモンズの設計原理としてリーダーシップの重要性を
に管理できる諸ルールを作るこ
喚起した。
と、さらにその履行やモニタリング
エリノア・オストロム(Elinor Ostrom)は、コモンズをガバナンスする際、成功するための設計原理と
を付与することによって、解決でき
して8条件を提示した。
る。
マーガレット・マッキーン(Margaret McKean)によれば、投票権、資源に対する権利、共同体によっ
て売却が行われた後に生じる収穫(収益)の分配に対する権利は、それぞれ異なってコモンズのな
かで配分されうる。すなわち、意思決定の投票権は平等に配分されるが、コモンズ以外の産物の
分配は自由取引で行われ、ストックとフローに関する権利配分は不平等であることが多い。これら
の配分ルールは、裕福な者と貧しい者の双方が、コモンズの持続可能性を第一に考えており、彼ら
自身がコモンズへの貢献を維持し続けるのに十分満足のいく状態を保っていけるように設計されて
いるように思われる。平等な分配だけでは収穫に向けてのインセンティブを弱めてしまうが、持続性
の観点も当然に斟酌される。
またマッキーンは、分割して個人に分けるのではなく、資源を共同で管理するという点は、企業とい
う形態がもつ正当性と類似性がある。というのは、コモンズの場合であれば調整的な管理と外部性
(分割して個人有とする場合と比べて)の内部化による効率性の上昇による利得が、実施費用や交
渉ルールに要する費用、それ以外にも残存するコモンズ内部の集合行為の問題から生ずる損失を
上回ることによっているからである。
財と所有(制度)を区別しなくては (Ⅰ) エリノア・オストロム(Elinor Ostrom)は、資源や財が固有にもつ特質と人間が創造するルールとは
ならない。また資源に付与するこ
区別されるべきものである。コモン・プール資源(財)は排除性がないが、控除性をある程度持って
とのできる所有権の束がなすそ
いる。それゆえ供給上の問題(純粋公共財のごとく)があるとともに、枯渇問題(純粋公共財とは異
れぞれの意味の違いを認識する
なり)を抱える。共有体制は、必要性があって社会的に生み出されたものである。CPRsには一般に
必要がある。
所有権が付与されてはおらず、一方、共有制のすべてがCPRs上に存在するわけではない(私的財
の上にもまた形成されうるものである)。
エドゥラ・シュレーガー(Edella Schlager)は、ある資源に対する権利というのは、それを見つけだし、
資源として引出し、管理し、あるいは破壊・保全する権利などで構成されうるものであると論じてい
る。これらの権利はさまざまな主体に帰属する可能性をもち、またこれらの権利それぞれは、移転
(売却)可能なものもあれば、そうでないものもある。
マーガレット・マッキーン(Margaret McKean)によれば、「公的」と「私的」とは三つの異なる言葉か
ら成り立っている。すなわち、所有主体のアイデンティティ(政府は公的所有主体、非政府は私的所
有主体)、所有権の排除性(私的な権利は排除的で、公的な権利は浸透性(porous)を有する)、そ
して所有者によってなされる表象的な主張(私的な権利は唯一の所有者によって保持される。公的
な権利はより大きな主体ゆえにとらえどころのない「公」への信託によって保たれている)である。
エコロジー
5
北米を中心とした海外のコモンズ論(4)
集合行為と共有制は、健全なる (Ⅲ) ロバート・パットナム(Robert Putnam)によれば、社会関係資本の存在は集団を互いに結びつけ、
社会関係資本を基盤とすること
信頼をベースに知識や強い信条を共有できるようにする。社会関係資本の蓄積した社会では、集
で、その機能を向上させることが
合行為を作り出しやすく、社会関係資本の蓄積の少ない集団よりも、より大きな社会的効率性を達
できる。
成できる。
リベラルコモンズというあり方
(Ⅲ) ハノク・ダガン(Hanoch Dagan)とマイケル・ヘラー(Michael Heller)によれば、自由な民主主義と正
当な共有制度の組み合わせの下で成立するリベラルコモンズは、法制度が共有財産の分割などで
阻害しないかぎり、実現可能である。リベラルコモンズは、資源の過剰利用(ハーディンの悲劇)、
過少利用(ヘラーの「アンチコモンズ」)のいずれをも回避し得るものになり得るという。
共有制度の持続性を強め、また (Ⅱ) アルーン・アグラワル(Arun Agrawal)とアシュウィニー・チャトレイ(Ashwini Chhatre)は、世界にリ
所得を増やす諸条件は何かを理
サーチ拠点をもつIFRI (International Forestry Resources and Institutions: 本部は米国・ミシガン大
解するために、単なる事例研究の
学、1992年設立)を、その設立者であるオストロムから継承し、森林コモンズを中心に定量的なデー
蓄積だけでなく、多くの事例に基
タベースを構築、コモンズによる環境資源管理の有効性を実証しようとしている。
づく統計分析へと研究を転換する
必要がある。
情報は、排除性をもつコモン・プー (Ⅲ) オープンソース(ソフトウェアの著作者の権利を守る一方、ソースコードを公開することを可能にする
ル財ではなく、オープンアクセス
ライセンスのあり方)の動きが進むなかで、ジェイムズ・ボイル(James Boyle)、ラリー・レシッグ
体制として管理されるのが望まし
(Larry Lessig)、ヨカイ・ベンクラー(Yochai Benkler)、デイビッド・ヴォゲル(David Vogel)、シャー
い公共財である。
ロット・ヘス(Charlotte Hess)をはじめとする論者たちは、長期にわたって存続してきた特許・著作
権の法制に対し、情報の配分を複雑にしまた阻害してきたこと、また、革新をなす真の創造者に対
してではなく、既存の(そして多数を有する)著作権の所有者に優先した所得分配を行っていること
に等しいことから、異議を唱えた。彼らは、著作権と特許法は表面上は、革新的なアイディアの創造
を推し進めることを意図したが、実際は、正当性のない所得の不均衡な分配に貢献しているだけ
で、その革新も広範な普及を阻害するものであったと主張する。
(注)この表は、三俣・菅・井上編『ローカル・コモンズの可能性』ミネルヴァ書房、2010年をベースにして加筆。
エコロジー
6
エリノア・オスロムの「設計原理」
(オストロムは2009年、ノーベル経済学賞受賞)
ローカル・コモンズの長期的な存立条件として帰納的
に確認してきたもの
1.コモンズの境界がはっきりしていること
2.利用ルール、用役ルール等が地域的条件と調和し
ていること
3.構成員がルールの決定や修正に参加できること
4.構成員同志がその行動をモニタリングすること
5.制裁、罰則が存在するが、厳しさには段階あり
6.利用者間の利害不一致の調整機関をもっている
7.正当性を有していること=自治できること
8.組織の階層は入れ子状態になっていること
7
エリノア・オスロムの分析上の特色
コモン・プール資源をフローの側面である単位資源
(resource unit)とストックの側面である資源システム
(resource system)に峻別したこと 。
単位資源とは、収穫・利用の対象であり、牧草地であ
れば牧草、林野であれば薪や山菜、灌漑施設であれ
ば水といった単体としての資源を指している。
資源システムとは、この資源単位の産出や再生を支え
るシステム的な条件を意味し、牧草地であれば良質な
土壌や牧草地へのアクセス、林野であれば手入れの
された状態や林道、灌漑施設であれば施設そのものを
指し、ストックとして良好な状態を保つ仕組み・体制=
システムの設定が必要となる 。
8
コモンズの資源が2種類の構成要素から成り立ってい
ることに対応して、資源の持続的な利用のために必要
なガバナンスも2つに分類されることになる 。
単位資源に関しては、その資源の希少性ゆえに過剰
利用を抑制するルールが必要となる。
資源システムに関しては、そのシステムの設置、修復、
維持管理のための役務の供給が重要となり、この役務
供給の責任を各自に分担させるルールが必要になる。
これは集落総出の各種普請や植林作業や輪番制で灌
漑施設の手入れを行うことを意味し、それらの役務を
割り当て、必要な作業を安定的に供給するためのルー
ルの存在が資源の存続や再生のために不可欠となる。
9
Ostrom のモデル
第1期
第2期
Resource System
Resource System
(資源システム)
(資源システム)
Provider
Producer(資源システム設置・管理者)
(資源システム提供者)
Appropriator(資源利用者)
Provision(システム設置準備活動)
Resource Unit(単位資源)の取得
Maintenace(維持管理活動)
(注)飯國芳明(「コモンズの類型と現代的課題」)の作図を参考
10
Hardin のモデル
第1期
第2期
減耗分
Resource System
Resource System
(資源システム)
(資源システム)
Appropriator(資源利用者)
Resource Unit(単位資源)の取得
(注)飯國芳明(「コモンズの類型と現代的課題」)の作図を参考
11
オストロムが強調すること:
ジレンマ解決に果たすcommon property regime/commons
という仕組みのもつ優位性
対象資源への近接性(proximity)
地域コミュニティによる共同の所有・管理
一方での大いなる課題:
コモンズにはその資源の範囲に関しスケールの相違、コモ
ンズを取り巻く社会的環境(制度)との階層性、多層性、複
雑性がある。
1.スケール(規模)の相違に基づく差異
2.ローカル・コモンズの閉鎖性、禁止則の問題
3.階層性(入れ子状態)の課題
4.クロス・スケールリンケージや多層性に基づく課題
相互性、指揮命令(リーダーシップ)と自治
12
北米コモンズ論の応用
・北米、沿岸漁業での応用
メーン州、ロブスター漁
・途上国における資源管理
CBRM(Community‐based Resource Management)
USAID, 世銀などを通じたTA、プロジェクト金融
オストロムのコモンズの存立条件の適用だけでは成功しない
ケース(伐採フロンティア)もある。コモンズの生成条件の探索
と適用が必要になってきている。
反論:TAにあたっては、IAD(Institutional Analysis and Development)による準備を踏まえている。今日、IADを発展さ
せたSES(Social‐Ecological Systems)において、種々の不均一性
(heterogeneity)への対応も図ってきている。
13
日本の入会(1)
(A)法制面、学説
明治以降の消滅策(官民有区分)に影響を受けながらも存続
民法の規定としては、2条あるのみ
第263条「共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、本節
の規定を適用する。」(共有入会権)
第294条「共有の性質を有せざる入会権については、各地方の慣習に従うほか、本
節の規定を準用する。」(地役入会権)
学説的な理解
「村落共同体もしくはこれに準ずる地域共同体が土地-従来は主として山林原野(た
だしこれに限らない)-に対して総有的に支配するところの・慣習上の物権」
(川島武宜「入会権の基礎理論」)
エコロジー
14
日本の入会(2)
(B)入会のもつ多面的な機能:
(1)自給的機能
歴史的にはこの機能が大きい
入会林野、萱場など
山菜,キノコ類,柴草,薪炭,建材,萱(かや),秣(まぐさ)のなどの供給源
(2)地域財源的機能
得られる収益(入会稼ぎ)は「共益」を増進する方向で使用
森林整備、道路整備、教育用途
(3)地域固有の文化保存・形成・維持機能
地域内諸組織(消防団、講など)の基礎、山祭り、学校林
(4)弱者救済的機能
古くは落穂拾い、ヤマアガリの制度; 現在 財産区内での無利子融資制度など
(5)環境保全的機能
村々入会:緩衝地、生態系・生物多様性維持
入会権者全員一致の原則
入会裁判、訴訟
原発立地、住宅開発、採石、産廃処理施設、遊戯施設
エコロジー
15
北米のコモンズ論とは何か
日本のコモンズ論の独創性、特異性、その意義
1.今日的なコモンズ論のはじまり
ハーディンの立論 公さもなくば私
一方で、実態としての共有、共同管理制に有効性がある場合の例示
そのロジックの解明
2.北米を中心としたコモンズ論の特色
方法論的個人主義、「合理性」を導きの手、功利主義
集合行為の困難性の克服、社会的ジレンマ論に吸収か
ポリティカルサイエンス派:ゲーム論、実験手法への傾斜
人類学生態学派、社会学派も存在
対象の中心は、途上国の資源管理 普遍性への志向
在来社会を消し去ってきた歴史、一方で都市問題もでてきている。
(cf. 地域通貨が実態として流通していること)
(比較)欧州・途上国:資源制約、コンパクト化
エコロジー
16
3.日本のコモンズ論の展開と特色
伝統的共同体の仕組みや入会にエコロジー機能、環境メリットを見出し、
本来のこれからの時代の要請に合致という主張。
入会に関すれば、個人でも法人でもない集団(入会団体、実在的総合人)を
中心に据えていること。
4.相互作用は起こりうるか
公共性をめぐる議論
コモンズ財の供給問題
社会にとってかけがえのないものは、必ず存在。
フリーライダーにどう対処していくか
5.論点の相違や課題
北米:市民社会の形成原理が参照点
日本:都市と農山漁村に再生(固有の課題と相互性の回復)
共通する課題:ローカル・コモンズの「排除の論理」を超えられるか
エコロジー
17
本日のまとめ
(1)コモンズ論の出発点
(2)北米のコモンズ論
社会的ジレンマ論
アンチ・コモンズの悲劇
(3)日本のコモンズ論
環境を前提にした人間のあり方
入会研究
(4)北米と日本のコモンズ論の比較
(5)これからのコモンズ論
エコロジー
18