「平成 22 年度 財団法人琵琶湖・淀川水質保全機構 「水質保全研究助成」 成果報告書 琵琶湖・淀川流域の水質・底質中の微量有害汚染物質の挙動、削減手法等に関する研究 京都大学大学院 工学研究科都市環境工学専攻 西村文武 1.はじめに 流域には種々の汚濁物排出源があり、点源として工場や廃水処理施設、面源として都市域、農地や廃棄物埋立地 等が主な排出源例である。近年、微量有害汚染物質(難分解性有機性汚濁物質 POPs や内分泌かく乱化学物質 (EDCs)等)が注目され、その対策、とりわけ元来自然中に存在しなかった人工化学物質の削減が健全な水環境創造 には不可欠であると考えられるようになってきた。POPs としては、PCB やダイオキシン類の他、DDT やアルドリ ン等の塩素系農薬などが挙げられ、それらはいずれも、長距離移動性や生体内での難分解性、高蓄積性など の特徴をもつ有害性の高い有機汚染物質である。このため環境中に放出されても分解されにくく長期間環境 中に残留し、また脂肪に溶けやすいために生物の体内に濃縮されやすい。しかし、通常、水・底質・大気な ど環境中においてはこれらの化学物質の濃度は低く、直接測定することは困難である場合が多い。限られた 条件(予算等)の中で、実現可能性があり、かつ効果的な対策が求められるが、そのためには、まず対象物質の動態 把握(モニタリング)が必要であり、その手法例として生物濃縮を利用した生物モニタリングを行うことも有効で ある。またその上で、削減手法として適用可能な要素技術開発と適応条件の検討が求められる。 本研究では、流域における残留性有機汚染物質(POPs)発生源とそれらの寄与率、ならびに流域での動態につい て、定期的な現地調査を基に明らかにするとともに、都市下水処理場内での POPs の動態把握ならびに、生物学的処 理技術等の要素技術による POPs 除去特性、モニタリングの可能性について明らかにすることを目指してきた。これら により、琵琶湖・淀川水系のような、巨大都市域を内包し、水資源の反復利用が求められる地域における、微量有害 物質の動態把握と低減のための適用可能な技術・手法と操作条件について提示することを最終的な目的として進め てきた。昨年度は、A)、流域での動態把握(調査結果)と土地利用との関連、B)、都市下水処理場での動態把握、C)、 バイオモニタリングの適用性について重点的に検討した。本年度は、流域の調査に加え、バイオモニタリングの可能 性を重点的に調査することとした。本概要では、とりわけバイオモニタリングの可能性について、シジミでの調査結果を 踏まえ、シジミの指標生物としての有用性の検討を行い、またそれによる測定結果をリスク評価につなげるために、食 べられる量の多い貝種の調査を行うとともに、環境中の動態を把握する上で必要となる貝類における摂取・排出の挙 動に関する数理モデルの構築ならびにその詳細化を目指した。食べられる量の多い貝としてアサリを選び、伊勢湾・ 三河湾の海域 10 地点において、アサリを採取し、アサリ中 POPs 濃度を測定し、アサリの濃縮特性の把握を 行うとともにシジミでの比較を行い、シジミによるモニタリングの有用性について検討を行った。また、シ ジミの濃縮特性を表現し得るモデルを作成するため、POPs 濃度が低い環境に生息するシジミを POPs 濃度が 高い環境に移植・飼育し、シジミ中 POPs 濃度の上昇を経時的に追った。その後、再度、POPs 濃度が低い環 境に移植・飼育し、シジミ中 POPs 濃度の減少を経時的に追った。得られたシジミ中 POPs 濃度の経時変化を 表現するモデルを構築した。 2.シジミの生物モニタリング指標としての検討 海域においては POPs モニタリングが活発に行われている一方で、淡水域における POPs モニタリングは、 早い段階での POPs 汚染状況の把握、局地的な汚染の把握、汚染負荷源の特定、管理の効果の早期の判定を 行う上で重要であり、また必須の事項である。淡水域においては、これまでに魚類を用いた POPs モニタリ ングが、魚類中汚染レベルの把握、汚染源の特定等を目的として行われてきたが、特定の地点で長期間にわ たるモニタリングを行う場合には、魚類は移動性があるために、指標生物としての欠点がある。二枚貝は移 動性が低くこの点では魚類を用いる場合と比較して優れている。中でもシジミは、底生の二枚貝であり、世 界中に生息しており、移動性が小さく、採取も容易であるため、指標生物としての有用性が期待できる。ま た、淡水域のみならず汽水域にも生息していることも、モニタリング対象として利点となる。 シジミの生物モニタリング指標の検討を行うため、琵琶湖・淀川水系を中心として、図 1 に示す地点でシ ジミならびに底質を採取し、POPs の濃度を測定した。採取したシジミはヤマトシジミ、マシジミ、セタシジ ミの 3 種であった。疎水性の有機物質の水生生物への濃縮において、脂肪が主たる蓄積部位を担うことが広 く知られており、数多くの水生生物において、脂肪含量ベースの濃縮係数(BAFL: Bioaccumulation factor on a lipid basis)が、濃縮機構の解析等に使用されている 1)2) 。そこで、各貝種について有機塩素系農薬(OCPs)の BAFL((pg/kg-lipid)/(pg/L))を算出した。各シジミ種における物質の BAFL について、最大値を最小値で除した 値は、ヤマトシジミ、マシジミ、セタシジミそれぞれにおいて、2.6~33、1.0~18 および 1.4~50 となり、本 調査で採取した各シジミ種の BAFL の変動は小さいことが明らかになった。オクタノール/水分配係数(Kow) の対数値(logKow)と log BAFL との関係を図 2 に示す。また各貝種それぞれにおいて、回帰分析を行った。得 られた回帰式は式(2-1)~(2-3)の通りとなった。 ヤマトシジミ: log BAFL=0.621×logKow+2.18 (R2=0.667) (2-1) マシジミ: log BAFL=0.716×logKow+1.67 (R2=0.848) (2-2) セタシジミ: log BAFL=0.652×logKow+1.87 (R2=0.757) (2-3) 各シジミ種の上記回帰直線を比較するために、共分散分析を行い、3 つの回帰直線の平行性について、有 意水準 0.10 として検定を行った。帰無仮説 H0:「3 つの回帰直線の回帰係数がそれそれ等しい」を仮定して 検定した結果、この帰無仮説 H0 は棄却されなかった(p=0.239)。このことから、3 つの回帰係数に有意な差は ないとし、3 つの回帰直線の平行性を仮定した上で、各々の回帰式を算出した。その結果を式(2-4)~(2-6)に 示す。 ヤマトシジミ: log BAFL=0.725×logKow+1.90 (2-4) マシジミ: log BAFL=0.725×logKow+1.92 (2-5) セタシジミ: log BAFL=0.725×logKow+1.77 (2-6) POPs を対象とした生物モニタリング調査におい ては、環境中濃度が低濃度であるため、濃度をオー ダー単位で把握することが重要と考えられ、3 式で の定数項の差は小さいと判断され、各シジミ種にお ける logKow と log BAFL の回帰直線の間に、有意 な差がないと判断された。これらの結果から、ヤマ トシジミ、マシジミおよびセタシジミという、シジ ミ種の違いおよび淡水域および汽水域という水域 の違いは、モニタリングを行う上で、シジミの BAFL に有意な差を生じさせないことが明らかに なった。この結果は、シジミを用いた OCPs モニタ リングを行う調査を行う際に、ヤマトシジミ、マシ ジミセタシジミ中 OCPs 濃度を等しく評価できる 図 1 調査地点(●、▲および◆はおのおのヤマトシジミ、 ことを示している。さらに、DO、SS および VSS マシジミおよびセタシジミの採取地点を示す) といった環境条件、また POPs の使用履歴の異なる 地域間においても、 二枚貝の物質濃縮特性に差が見 られるのかについて、中国・珠江での調査結果と比 較した。結果を図 3 に示す。上記西日本地域でのシ ジミにおける、logKow と log BAFL の関係式、環 境条件の異なる珠江での関係式、 そしてムラサキイ ガイにおける関係式においては、 同様に回帰直線間 には、有意水準 0.10 として、等しいと仮定した場 合の仮説が、共分散分析の結果棄却されず、有意な 差がないと判断された。シジミが生物モニタリング 指標として、広く活用できうることが示された。 3.アサリへの POPs 濃縮特性 伊勢湾・三河湾ではアサリを対象に、2010 年 6 月 11 日~16 日の初夏に、10 地点で調査を行った。 各調査地点において、アサリ、水および底質を採取 し、それぞれに試料中の POPs 濃度を測定した。な お、3 地点においては、底質を採取できなかった。 図 4 にアサリ、水および底質中 POPs 濃度の平均 値、最小値および最大値を示す。これらの値はいず れにも環境省調査結果と比較しても非常に低いレ ベルの範囲である。アサリおよび底質から DDTs および Chlordanes が、また水および底質から HCHs が、他の物質と比較して高い濃度で検出された。 図 2 各シジミ種における logKow と log BAFL の関係 図 3 西日本地域、珠江でのシジミにおける、logKow と log BAFL の関係 図 5 にアサリ、水および底質における DDTs 組成を示す。各媒体において、p,p’-DDE が高い割合を占めて おり、次いで p,p’-DDD の割合が高かった。DDT と DDD および DDE との和の比率 [(DDE + DDD)/DDT]は、 DDT が新たに負荷されているかを示す指標として使われており、早くから DDT の使用を禁止した先進国の 河川の底質および水中では、DDE が DDT および DDD に比べ高濃度であり、DDE と DDD の和が DDT の 10 倍以上となることが報告されている3)。水および底質中から DDT は検出されず、二枚貝においては、平均値 42 (8.1~73)となり、原体である DDT の割合が低いことが明らかとなった。日本では 1971 年に DDT の農薬登 録が失効し、少量がシロアリ防除に使われた以外に使用されていないため4)、長期間を経て、DDT が DDE お よび DDD に代謝され、DDT の割合が低くなったものと考えられる。 図 6 にアサリ、水および底質における HCHs 組成を示す。各媒体において、β-HCH が高い割合を占めてい ることが図 6 よりわかる。日本における Technical-HCH の組成は、α-HCH (65~70%)、β-HCH (7~10%)、γ-HCH (14~15%)、δ-HCH (約 7%)である一方で 4)、β-HCH は、HCH の中で最も残留しやすく、揮発しにくい物質で あり、土壌において、HCHs は散布終了後 2~3 年間で急速に減少し、その後は残留性の高い β-HCH の割合が 経時的に増加することが知られている5), 6), 7)。日本においては、1971 年に HCH の農薬登録が失効されており 4) 、β-HCH の残留性が高いことおよび農薬登録失効後、長期間が経過していることから、β-HCH が高い割合 で残留していると考えられる。 以上のことから、アサリへの POPs の濃縮特性について把握した。また、POPs が使用禁止されてから、長 期間が経過したことによって、DDTs および HCHs 組成は原体と異なることが明らかとなった。 水 50,000 500 40,000 400 30,000 300 20,000 200 10,000 100 0 0 伊勢湾・三河湾(底質) 割合 (%) 伊勢湾・三河湾(水) 600 pg / L pg / g-lipid 伊勢湾・三河湾(アサリ) 60,000 150 割合 (%) pg / g-dry 200 50 0 アサリ 底質 図 5 アサリ、水および底質中水 DDTs 組成 250 100 80 70 60 50 40 30 20 10 0 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 アサリ 底質 図 4 二枚貝、水および底質中 POPs 濃度 図 6 アサリ、水および底質中 HCHs 組成 log BAFL 4.POPs 濃縮特性のアサリとシジミとの比較とシジミの指標生物としての意義 アサリにおける水からの POPs の BAFL を表 1 に示す。濃縮係数は、平均値に着目すると、26,000~1,600,000 の範囲であった。物質の疎水性の指標として用いられる logKow と logBAFL の間には良い相関が得られるこ とが知られている8)。図 7 に logKow と logBAFL の関係を示す。アサリにおいても、logKow と logBAFL の間 で回帰分析を行った結果、R2=0.6865 と高い相関が得られること が明らかとなった。生物モニタリングにおいては、濃度をオー 8 ダー単位で把握することが重要であると考えられる。各物質に おける BAFL は概ね 7 表 1 アサリにおける濃縮係数 同オーダーにあり、 平均値 中央値 最大値 最小値 6 ま た 、 logKow と 物質 190,000 140,000 430,000 77,000 Dieldrin 390,000 350,000 710,000 160,000 logBAFL の間で高い HCB 150,000 150,000 210,000 92,000 o,p'-DDE 5 相関が得られたこと p,p'-DDE 1,600,000 1,200,000 4,300,000 280,000 210,000 240,000 270,000 93,000 o,p'-DDD y = 0.4471x + 2.9035 から、アサリ中 POPs p,p'-DDD 560,000 630,000 960,000 140,000 R = 0.6865 cis-Chlordane 560,000 540,000 990,000 330,000 4 濃度は、生息する水 trans-Chlordane 290,000 270,000 590,000 140,000 cis-Nonachlor 1,100,000 780,000 2,600,000 410,000 環境での水中 POPs trans-Nonachlor 920,000 850,000 1,900,000 390,000 3 320,000 260,000 660,000 72,000 cis-Heptachlor-epoxide 濃度を反映している α-HCH 26,000 27,000 34,000 16,000 3 4 5 6 7 8 log Kow 35,000 33,000 62,000 15,000 β-HCH ことが提示された。 γ-HCH 40,000 38,000 90,000 20,000 56,000 56,000 56,000 56,000 図 7 logKow と logBAFL の相関関係 他の二枚貝における δ-HCH 2 logKOW と logBAFL の相関関係を図 8 に示す。アサリをはじめ、他の貝種における logKOW と logBAFL の相関 直線とシジミの相関直線は同様で統計的にも差がないとみなすことが示されている。 また上記第 2 章において、アサリを用いたモニタリング結果は、長期間が経過したことによって、DDTs および HCHs 組成は原体と異なることを明らかにしたが、同様の結果は、シジミにおいても観察されている。 例として、Chlordane の結果について示す。日本では Chlordane の農薬登録が失効された 1968 年以降、1981 年に全面禁止となるまで、シロアリ防除の用途で使用された。使用された Technical- Chlordane の組成は、 cis-Chlordane: trans-Chlordane: cis-Nonaclor: trans- Nonaclor=16:18:4.5:14 であることが知られている。琵琶湖・ 淀川水系での cis-Nonaclor: trans- Nonaclor 比の累積密度を図 9 に示す。Technical- Chlordane の組成比(0.32)よ りも、シジミ、水、底質においてはその比が高くなっていることが示されているが、長期間が経過したこと によって、組成が原体と異なることが示され、かつその比は各種媒体で同様の傾向を示すことが明らかとな っている。これらの結果を総合的に判断すると、POPs の濃縮特性は各貝種において同様の傾向を示すもので あり、シジミを指標生物として環境モニタリングに活用できることが示されるとともに、シジミのデータを 用いることで、貝の摂取によるリスク評価を行いうる可能性が示されている。 図 8 各種二枚貝における logKOW と logBAFL の相関関係 図 9 5. 二枚貝(シジミ)の濃縮モデルの構築 シジミ中 POPs 濃度が環境中 POPs 濃度と平衡に達する までの経時的な変化を測定することを目的に、環境中 およびシジミ中 POPs 濃度が低い地点に生息するシジ ミを、濃度が高い地点に移植し、2008 年 10 月から 1 ヶ月に渡り飼育し、定期的にサンプリングを行い、POPs の濃度を測定した。調査地点として、琵琶湖の湖北の 大浦をシジミの採取地点に、桂川をシジミの飼育地点 に選定した。また、濃度が高い地点に生息するシジミ を、濃度が低い地域に移植し、経時変化を測定する実 験を 2010 年 9 月から行った。この際、水中濃度が高い 地点に住むシジミを大量に採取することが不可能であ ったため、大浦でシジミを採取し、桂川で 1 ヶ月間飼 育を行い、シジミ中 POPs 濃度を上昇させ、その後犬飼 川で飼育、サンプリングを行った。 図 10 にシジミへの POPs 濃縮モデルの概念図を示す。 シジミ中には浮遊物質に付着した POPs と水中に溶解 した POPs が各々Cp (pg/L)および Cd (pg/L)の濃度で、摂 取・吸収され、また体内濃度 Cb (pg/g-wet)に比例して、 体内において分解あるいは排出されるとした。この時、 シジミ内での POPs 濃度の変化速度は式(5-1)のように 表せる。 cis-Nonaclor: trans- Nonaclor 比の累積密度 流入 懸濁態POPs 濃度(CP) 湿重;M R 吸収 溶存態POPs 濃度(CD) シジミ中 POPs濃度(CM) 流出 濾水速度 F 図 10 貝中への POPSs 濃縮モデル概念図 表 2 各物質の k1、k2 の値 k2 (g-wet/L) k1 (-) 物質 Dieldrin 0.134 0.062 4,4-DDE 0.426 0.024 1,4-DDD 0.219 0.033 4,4-DDD 0.260 0.039 cis-Chlordane 0.401 0.046 trans-Chlordane 0.325 0.042 oxy-Chlordane 0.199 0.031 cis-Nonachlor 0.300 0.026 trans-Nonachlor 0.389 0.031 dCb = FR × {k1 × (Cd + C p ) − k2 × Cb } dt (5-1) なお,FR: シジミのろ過速度 (L/g-wet/h)、k1: 吸収速度係数 (-)、k2: 排出速度係数 (g-wet/L)である。既報の 研究を参照し、ろ過速度は 0.2 L/g-wet/h とした 7)。また、Cd および Cp は、測定値を直線的に変動するとし、 Cb は測定値を用いた。さらに、k1 および k2 は、上昇実験の結果を用いて、エクセルのソルバー機能によるパ ラメータフィッティングにより算出した。算出した k1 および k2 を表 2 に示す。また、上昇実験および減少実 験におけるシジミ中 POPs 濃度の変化の実測値および計算値を図 11 に示す。移植後、両実験ともにシジミ中 濃度は変化し、約 200 時間で平衡に達した。また、上昇実験の結果を用いて得られた k1、k2 を用いて計算し た減少実験における計算値は、実測値をよく表現していた。このことから、式(1)のモデルは、環境中濃度が 変化した際の、シジミ中濃度の変化について、上昇および減少の両ケースを表現できることが示された。前 年度では、濃度上昇現象について報告したが、同様の簡易モデルにおいて、濃度上昇現象時と同様のパラメ ータ値を設定することにより、濃度下降(減少)現象についても表示・再現することが明らかとなった。 上昇実験 1000 Dieldrin Dieldrin 800 pg/g-w et 800 pg/g-w et 減少実験 1000 600 400 200 600 400 200 0 0 0 100 200 300 400 500 600 700 800 0 100 200 300 時間(h) 400 500 600 700 800 時間(h) 図 11 上昇実験および減少実験での POPs 濃度変化の計算値と実測値 6. 削減手法 1)淀川での汚染状況と下水処理場の寄与 淀川水系では非意図的に再利用されている典型的な水系である。その水系の 19 箇所での内分泌かく乱化学 物質(EDCs)の調査結果を表 3 に示す。また、下水処理場の放流先に及ぼす下水処理水の負荷の影響を表 4 に 示す。人為的由来の内分泌かく乱化学物質の濃度が高く、下水処理場由来の負荷も多いことが示されている。 同様のことが、生活に伴い排出される他の環境微量汚染物質についても考えられる。このため、下水処理場 で、これらの物質を除去することは、健全な水域と生態系の保全の観点や、非意図的な水の再利用において は重要である。 表3 淀川水系内での 内分泌かく乱化学物質濃度 (ng/L) 対象 物質 E1 E2 E3 NP BPA 平均 最小 最大 2.17 1.67 0.37 180 32 0.43 0.33 n.d 130 2.3 10 3.76 1.4 350 140 重点調査 濃度* 0.5 0.5 -304 400 *を超えた 地点 17/19 14/18 -2/19 0/19 表4 下水処理場放流水の上下流調査地点 での増加量と下水処理場からの負荷量 *国土交通省が重点的な調査を実施する際の目安濃度 対象物質 E1 E2 E3 NP BPA 負荷量mg/s 91 38 23 5,200 1,100 増加量mg/s 60 47 13 2,900 280 2)オゾンによる除去特性 半回分式の実験で得られる基礎情報を連続式操作に適用する場合、オゾン消費量で表すと利用しやすい。 これは、オゾン消費量は反応に関与したオゾン量を反映することと、以下のように、実施設での設計でよく 使われるオゾン注入率に結びつけることができるからである。 半回分式 オゾン消費量(回分)=Qg・Cin・t - {(Qg・Cout)の時間積分} - V・DO3 (6-1) 連続式 オゾン消費量(連続)=Qg・Cin・α - Qw・DO3 (6-2) ここで、Qg と Cin はそれぞれ送入オゾン化ガスの流量(LG/min)とオゾン濃度(mgO3/LG)、t は処理時間(min)、Cout は排出ガス中のオゾン濃度(mgO3/LG)、V は反応器容積(L)、Qw は液流量(Lw/min)、DO3 は処理水中の溶存オゾ ン濃度(mgO3/Lw)、α はオゾン吸収効率である。連続式でのオゾン注入率は以下の式となる。 (Qg・Cin/Qw)=オゾン消費量(連続)/(Qw・α) + DO3/α 1 4 mgC/L of FA 6 mgC/L of FA 10 mgC/L of FA 0.1 C/C0 ここで、必要な反応でのオゾン消費量は、連続式 でも半回分式でも同じであると考えられるので、半 回分式のオゾン消費量の値と連続式反応器のオゾ ン吸収効率 α を用いてオゾン注入率を決定するこ とができる。 超純水にリン酸緩衝液と所定の濃度の EDCs なら びにフルボ酸を添加した試水での半回分式オゾン 処理結果では、E2、BPA は、初期オゾン消費量 (1mgO3/mgC)までに 90%以上が除去され、また NP は若干遅いが十分に除去しうることが示された(図 12~図 14)。 (6-3) 0.01 (0) 0 ( ) 0.5 100 10 1 0 3 6 9 0.1 ozone consumption/TOC (mgO3/mgC) 図 13 NP のオゾン処理での分解特性 12 1.5 2 2.5 3 E2濃度の初期単位TOC当たりの オゾン消費量に対する変化 Consumed ozone / TOC (mgO3/mgC) E2 equivalent concentration (nM) E2 equivalent concentration (nM) 5mgO3/L (14.8μM of NP) 15mgO3/L (1.8μM of NP) 15mgO3/L (32.6μM of NP) 15mgO3/L with 4FA (2.4μM of NP) 15mgO3/L with 4FA (17.1μM of NP) 15mgO3/L with 8FA (19.3μM of NP) 1 Consumed ozone/TOC (mgO3/mgC) 図12 1000 ( ) not detected ( ) 10000 0 1000 100 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 5mgO3/L (50μM) 15mgO3/L (50μM) 15mgO3/L (100μM) (100μ 15mgO3/L (50μM with FA) 15mgO3/L (100μM with FA) 1 10 5 m g O M ) 1 0.1 0.01 (0) ( )( () () ) ( ) ( ) () 図 14 BPA のオゾン処理での分解特性 送気中のオゾン濃度を種々変えて、二次処理水を半回分式オゾン処理した結果を図 15 に示す。初期単位 TOC 当たりのオゾン消費量が 1.0mgO3/mgC を越えたあたりで EDCs や UV254 は除去が完了し、溶存オゾン濃 度が 0.5mg/L 以上となり、そしてその後に臭素酸や有機臭素化合物が生成されることが示されている。この ことから、溶存オゾン濃度が 0.5mg/L 以上出現するまでのオゾン処理(初期オゾン消費量までのオゾン処理) により、EDCs の除去を達成し、かつ副生成物を制御しうるオゾン処理が可能なことが示されている。 一次処理水を対象としたオゾン処理でも、初期オゾン消費量までのオゾン処理により、内分泌かく乱化学 物質(EDCs)の除去を達成し、かつ副生成物を制御しうるオゾン処理が可能なことが示されている。その例を 図 16 に示す。 連続式のオゾン処理においても、初期オゾン消費量までのオゾン処理により、EDCs の除去を達成し、かつ 副生成物を制御しうるオゾン処理が可能なことが示されている。図 17 にその結果例を示す。そして、式(3) で示されるように、オゾン注入率と吸収効率が、オゾン消費量に変わり重要となることも示されている。図 18 にその結果例を示す。 1.2 40 0.8 0.6 E2 (ng/L) DO3 (mg/L) 1.0 A 0.4 0.2 2000 0.015 B 150 E3 (ng/L) 0.010 0.005 0.000 100 50 10000 1000 1000 800 100 600 10 400 0 C 1 400 BPA (ng/L) SUVA (L/mg.cm) 20 10 0.0 EEQC (ng/L) 30 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 200 0 300 200 100 Ozone Consumed (mgO3/mgDOC0) 1000 0 80 D 60 800 NP (ng/L) Ozone Consumed (mgO3/mgDOC0) TOBr (μgBr/L) 100 40 20 0 10 400 200 8 BrO3- (μg/L) 600 0 6 0.0 E 4 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Consumed O3/TOC0 (mgO3/mgC) 2 Run7 Run8 Run5 Run6 0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Consumed O3/TOC0 (mgO3/mgC) RUN1 RUN2 RUN3 RUN4 RUN5 RUN6 RUN7 RUN8 0 B2-1 B2-2-1 B2-2-2 B2-2-3 B2-2-4 5 10 20 50 100 ng/L 100 μg/L 白抜き; 半回分式処理 小 0.8 中 ; 連続式処理 (RunB1) 0.4 大 ; 連続式処理 (RunB2) 溶 存 オ ゾ ン 濃 度 (m gO 3 /L) 1.2 0.6 10 0.5 8 0.4 6 0.3 4 0.2 2 0.1 0 0 0 4 6 オゾン消費量 (mgO3/L) 8 10 E2残存率 (RunB1) BrO3- 1.2 B rO 3 - 生 成 量 ( μ g/ L) 60 C /C 0 ( - ) 1 40 0.8 0.6 0.4 20 0.2 0 0 0 0 2 4 6 オゾン消費量 (mgO3/L) 8 2 10 4 6 8 10 オゾン消費量 (mgO 3/L) E2残存率 (RunB2) ΔUV254 0.08 1.2 Δ U V 2 5 4 ( - ) C / C 0 (- ) 0.6 0.4 0.2 4 6 オゾン消費量 (mgO3/L) 8 10 5 7 0.7 6 0.6 5 0.5 4 0.4 NP, BPA 0.3 0.2 3 2 E2 1 0.1 0 1 2 3 4 5 注入率×吸収効率 (mgO3 /L) 0.06 0.04 0.02 2 4 0.8 0 0 0 3 0 1 0.8 エストロゲン性物質残存率 (%) 2 2 注入率×吸収効率 (mgO3/L) オゾン消費量(mgO3/L) 0 0 1 0 0 2 4 6 オゾン消費量 (mgO3/L) 図17 オゾン消費量による評価 8 10 臭素酸イオン (μg/L) B2-b 送入オゾンガス濃度 (mgO3/L) E2添加濃度 凡例 E2残存率 (%) 凡例 B1-b- B1-1- B1-20 10 100 E2添加濃度 (μg/L) 送入オゾンガス濃度 5 mgO3/L 20 mgO3/L 1 2 溶存オゾン濃度 図16 一次処理水のオゾン処理特性 臭素酸イオン (μg/L) 図15 二次処理水のオゾン処理特性 図18 注入率×吸収効率とEDCs残存率 および臭素酸イオンの関係 7. まとめ シジミは、その種類や生息環境の相違にかかわらず、POPs の濃縮特性が同様として取り扱えることを実測 データに基づく統計解析により明らかにし、生物モニタリング指標として、広く活用できうることが示され た。また、シジミを指標生物として環境モニタリングに活用できることが示されるとともに、シジミのデー タを用いることで、貝の摂取によるリスク評価を行いうる可能性についても明らかにした。 シジミ中 POPs 濃度は、上昇実験および減少実験ともに、貝を移植してから約 200 時間程度で対象水域の 水中 POPs 濃度と平衡に達することが分かった。また、濃縮モデルを構築し、上昇実験の結果から算出した 諸係数を用いて、減少実験での貝中 POPs 濃度を表現し得ることが明らかとなった。このことから、本モデ ルは、環境中濃度が変化した際の、シジミ中濃度の変化について、上昇および減少の両ケースを表現できる ことが明らかとなった。 また微量有害汚染物質として、EDCs の琵琶湖・淀川水系での調査結果を示すとともに、その有効な処理手 法の例としてオゾン処理を取り上げた。反応副生成物の発生を抑制し、処理する手法として、溶存オゾン濃 度が 0.5mg/L 以上出現するまでのオゾン処理(初期オゾン消費量までのオゾン処理)により、EDCs の除去を達 成し、かつ副生成物を制御しうるオゾン処理が可能なことを示し、その有効性を示した。 8.引用・参考文献 1) H. Loonen1, D. C. G. Muir, J.R. Parsons, H. A. J. Govers: Bioaccumulation of polychlorinated dibenzo-p-dioxins in sediment by oligochaetes: Influence of exposure pathway and contact time, Environmental Toxicology and Chemistry, Vol. 16, Issue 7, pp.1518–1525, 1997. 2) J. W. Nichols, P. N. Fitzsimmons, L. P. Burkhard: In vitro-in vivo extrapolation of quantitative hepatic biotransformation data for fish. II. Modeled effects on chemical bioaccumulation, Environmental Toxicology and Chemistry, Vol. 26, Issue 6, pp. 1304–1319, 2007. 3) W.E. Pereira, J.L. Domagalski, F.D. Hostettler, L.R. Brown, J.B. Rapp: Occurrence and accumulation of pesticides and organic contaminants in river sediment, water and clam tissues from the San Joaquin river and tributaries, California, Environmental Toxicology and Chemistry, Vol.15, pp.172-180, 1996. 4) 昆野信也,斎藤茂雄,杉崎三男,倉田泰人,細野繁雄,渡辺洋一,高橋基之,長森正尚,唐牛聖文: 有機 塩素剤の環境残留状況, 埼玉県環境科学国際センター報, Vol.1, pp.82-92, 2000. 5) H.R. Buser, M.D. Mueller: Isomer and enantioselective degradation of hexachlorocyclohexane isomers in sewage sludge under anaerobic conditions, Environmental Science and Technology, Vol.29, pp.664-672, 1995. 6) K.L. Willett, E.M. Ulrich, R.A. Hites: Differential toxicity and environmental fates of hexachlorocyclohexane isomers. Environmental Science and Technology, Vol.32, pp.2197-2207, 1998 7) 飯塚宏栄, 金沢純, 宮原和夫: 水田における BHC の残留に関する研究, 日本応用動物昆虫学会誌, Vol.16, pp.139-147, 1972 8) J.C. Colombo, C. Bilos, M. Campanaro, M.J. R. Presa, J.A. Catoggio: Bioaccumulation of polychlorinated biphenyls and chlorinated pesticides by the Asiatic clam Corbicula fluminea: its use as sentinel organism in the Rio de La Plata Estuary, Argentina. Environmental Science and Technology, Vol.29, pp.914-927, 1995.
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