2016年6月 - 青い森クラウドベース

日本屈指のデータセンター研究専門家
東京大学大学院 情報理工学系研究科教授
江﨑浩が執筆!
データセンターのトレンドまるわかり
データセンターコラム
当資料は、月1回配信されている
「青い森クラウドベースメールマガジン」のうち、
2015年6月24日配信号から連載されている
データセンターコラムを抜粋し編集してしたものです。
青い森クラウドベースは
ASPIC クラウド・IoT アワード 2016
データセンター部門において
「ベスト環境貢献賞」
を受賞いたしました
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■ 2015年6月
はじめまして。2015年6月1日付で「青い森クラウドベース」の顧問に就任いたしました、東京大学大
学院情報理工学系研究科教授の江崎浩(えさきひろし)です。日本データセンター協会(JDCC)の理
事もつとめ、データセンター研究を通して、日本のデータセンター業界のレベル向上に尽力しており
ます。今号より、データセンターに関するあらゆる新技術、情報をお伝えするコラム形式の連載をス
タートいたします。どうぞ宜しくお願いいたします。
自治体業務を含むすべての組織の活動がIT化・ネットワーク化されたのが、21世紀の初頭に起こった
ことではないでしょうか。すなわち、これまで、揮発性の会話や、紙媒体によって成立していた組織
や個人の活動がデジタル化されオンライン化されたのです。1990年中盤のデータセンターブームは、
インターネットとワールド・ワイブ・ウェブ (WWW) による紙媒体に固定化されていた情報のオンラ
イン化でしたが、2000年頃からは、特に企業活動がデジタル化・オンライン化され、IT/ICTシステムが
すべての組織・産業の『神経系』として組み込まれ、基幹サーバーシステムが組織・産業の『脳』と
しての機能を担うようなイノベーションが進行しました。もはや、すべての組織・産業の活動は、
IT・ICTシステムの存在なしには成立しない状況へと進化し、このことは、2011年3月11日に発生した
東日本大震災によって証明されることとなりました。震災発生直後の広域停電などにも関わらず、ま
た、震災後の計画停電の実施にも関わらず、組織・企業活動の『脳』にあたるサーバーが稼働する
データセンターが、その運用を継続したことで、日本の経済活動は、壊滅的な打撃を受けることなく、
あの悲劇的で壊滅的な大震災を乗り切ることができたのです。すなわち、2011年の東日本大震災は、
21世紀の社会・産業基盤が、その『脳』と『神経系』として機能するIT/ICTシステムの存在なしには成
立せず、かつ、そのシステムの継続的なサービス提供は、堅牢な『データセンター』の運用によって
担保・維持されたことを証明したのです。
また、津波の被害を受けた被災地のある自治体では、「自治体の職員が、自治体の施設内に保存され
た住民の大切な情報を守るために、自身の避難行動を取りやめ、自治体の施設に戻ったために被災を
し、帰らぬ人となってしまった」ということが起こったことが発生しています。法律により、情報は
自治体の施設の外に持ち出すことが禁止されていたものが存在していたのです。もちろん、このよう
な法律は、震災後に改定されましたが、最も大切なのは「人の命」であるにも関わらず、「人への
サービスが最優先」と考える素晴らしい自治体職員や組織の構成員の命を救うことができなかった、
当時のシステムの構成が残念でなりません。もちろん、このような状況は、3.11以降、解決・改善さ
れつつあり、重要な情報はデジタル化・オンライン化され、さらに、地理的に離れた場所にある自治
体同士で、重要データ・情報の相互保存・蓄積を実施する形態が推進されています。責任感の強い企
業や自治体の職員の『命』を守るための、新しい21世紀型のIT・ICTシステムの構築です。すべての、
人が、災害発生時に、最重要情報の喪失の可能性を心配することなく、命を最優先に行動可能な環境
の提供です。
このように、我々は、21世紀を迎え、20世紀の社会・産業インフラの構造とは、本質的に異なる21世
紀型の社会・産業インフラを構築しなければなりません。この21世紀型の社会・産業インフラの最重
要な『核』の一つとなるのが、データセンターであるとの認識が一般化してきていると認識していま
す。この、データセンターが、それぞれの地域における社会・産業を支えるインフラとして機能し、
さらに、我が国の社会・産業活動を支えるインフラとしても機能するようなインフラが形成されなけ
ればなりません。東北地域および北海道地域が、我が国のインフラの中でどのような役割を担い、そ
の責任を果たすことができるのかということを、熟考し実装しなければならないのです。「青い森ク
ラウドベース」は、単に、青森県の社会・産業のために存在するのではなく、東北地区、さらに我が
国の社会・産業の継続的運用と発展のために存在するものであり、我が国と東北地域から期待されて
いる要求に答え、力強い貢献を果たす必要があるとともに、そのような機会を与えて頂いたのではな
いでしょうか。「青い森クラウドベース」の、青森県、東北地区、そして、我が国の社会・産業活動
の維持と成長・発展に寄与することに少しでも協力することができればと考えております。
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■ 2015年7月
データセンターが社会・産業活動の重要施設 (Critical Infrastructure) であることは、広く認識されるに
至っています。したがって、その運用継続に関する堅牢性の確保は、ある意味、その運用効率性やエ
ネルギー効率性以上に重要な社会的な責任であると考えなければなりません。そのために、データセ
ンターの「セキュリティー」に関して、入館管理や建築物の耐震性など、さまざまなインシデントや
攻撃に対する対策を行う必要があります。代表的な指標に、米国のUptime Instituteというデータセン
ターを運用する数十社があつまってつくった「Tier」という基準があります。Tierの基準は、4つのレ
ベルとなっており、Tier1から順に、数字が大きくなるに連れてより厳しい (すなわち堅牢性の高い) 基
準となっています。この基準は、筆者が理事・運営委員長を仰せつかっています日本データセンター
協会で、日本の状況・環境に即した基準となるように修正が加えられ、日本版のTier基準である「デー
タセンターファシリティースタンダード」を作成し、2010年10月に第1版をリリースしました。2012
年には東日本大震災の経験をもとに、その内容の見直しを行い、現在も、適宜その内容の検証と必要
に応じた修正を行っています。
さて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目途に、我が国における、重要インフラのサイ
バーセキュリティー対策の強化・確立を、2015年の我が国の重要な目標の一つとすることが政府にお
いて確認されました。内閣サイバーセキュリティーセンターを核にして、重要施設のサイバーセキュ
リティー機能の強化が推進されることになります。その中でも、データセンターは極めて重要度の高
い施設であると認識されています。米国においても、政府の重要施設に関するサイバーセキュリ
ティー対策は、DHS (Department of Homeland Security) および、GSA (General Service Administration) の責
任で遂行されなければならいということが米国財政の監督を行う重要な組織であるGAO (Government
Accountability Office) からアナウンスされ、その中では、特にデータセンターの重要性が指摘されてい
るとともに、データセンター内で稼働するコンピュータ機器のセキュリティーのみならず、データセ
ンターを構成する空調や電源設備などに関するサイバーセキュリティー対策の重要性が明言されてい
ます。このような状況の中、日本データセンター協会は、筆者が代表を仰せつかっています「東大グ
リーンICTプロジェクト」と共同で、データセンターのファシリティーに関するセキュリティーの確保
に向けた参照ドキュメント「建築設備システムレファレンスガイド」の作成のための分科会「ファシ
リティー・インフラWG」を発足させました。今年の秋には、日本データセンター協会および、東大グ
リーンICTプロジェクトのメンバー組織に対して、リリースの予定です。
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■ 2015年8月
前々回のコラムで、東日本大震災で津波の被害を受けた被災地のある自治体で、自治体の職員が安心
して避難できるように、また、自治体や市民の大切な情報が大災害の発生に際しても、安全に保全さ
れるために分散したデータセンターの必要性を書きました。すなわち、「すべての人が、災害発生時
に、最重要情報の喪失の可能性を心配することなく、命を最優先に行動可能な環境の提供」でした。
今回は、東日本大震災をきっかけに、データセンターと「グリーン」がWin-Winの関係を構築した経
緯・経験を共有させていただきたいと思います。「グリーン」すなわち、地球環境の維持のための、
地球温暖化ガスの生成・発生の減少・抑制を行うことです。実際の話は、東日本大震災の発生以前に
さかのぼります。
私がリーダーで進めている「東大グリーンICTプロジェクト」は、2008年に、「グリーン東大工学部プ
ロジェクト」として、2008年6月に発足させました。IT/ICT技術を用いて、今で言うと、IoT (Internet of
Things) 技術を用いて、ビルやキャンパスの省エネ・節電を実現しようというものでした。この頃は、
東京都環境条例が施行され、ある程度以上の規模の事業所では、毎年6%の節電が義務化され、節電目
標を実現できない事業所には、ペナルティー (負担金) が課されることとなりました。
東京大学での取り組みを知って、日本電信電話会社 (NTT) 情報流通基盤総合研究所 三宅功所長 (当時)
とお話をする機会が2009年 (平成21年) の夏にあり、その際、クラウド技術に関する話題も出ました。
私が代表を務めているWIDEプロジェクトでも、クラウド技術に関する研究開発を行っていましたし、
武蔵野研究所でも大規模なクラウドシステムの研究開発が行われていました。
この頃の、三宅所長の大きな悩みの一つが、研究所での電力消費量の増加でした。NGN (Next
Generation Network) に関する研究やクラウドシステムに関する研究開発の加速に伴って、研究所が存
在する武蔵野キャンパスの電力消費量が、常に増加していたのです。そこで、クラウドシステムの利
用によって、かなりの節電が実現可能であること、さらに、サーバを東京都以外の場所に移動するこ
とで、「東京都の」環境条例への対応が可能になるのではないかという議論を行いました。実際、武
蔵野キャンパスのクラウドシステムの大規模化は、東京都にはないキャンパスに展開されましたし、
三宅所長からは、NTT殿の三鷹データセンターでの、クラウド技術を用いた場合のサーバ自身と空調
の節電効果の実データをご提供いただきました。
この議論とデータがその後の日本データセンター協会 (JDCC) と東京都環境局との、東京都環境条例に
関する交渉において大きな意味を持つものになりましたし、その後の、経済産業省による中小企業の
コンピュータのデータセンターへのマイグレーションに関する補助金制度につながることになったの
です。
一方、幣研究室では、2011年 (平成23年) 3月の東日本大震災の直後に、研究室と電気系学科群のサー
バ・コンピュータのクラウド化を行い、70%以上の節電に成功しました。これらの結果は、いろいろ
な機会を通じで、みなさんと共有することができ、「データセンターへのコンピュータの移設によっ
て事業所の節電・省エネが実現されること、さらに、これは、クラウド技術によって、さらにその効
果が大きくなること」が認識されるようになったと思います。「グリーン」にとって、『敵』であっ
たデータセンターが使い方によっては、力強い『味方』となることを示すことができたのです。これ
で、データセンターが、BCP (危機管理) だけではなく、「グリーン」にも、同時に貢献できることを
示すことができたのです。
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■ 2015年9月
人工知能は、ビッグデータの進展とインターネット・オブ・シングズ (IoT: Internet of Things) の進展
によって、莫大なデータが生成・蓄積されるようになった環境において、計算機・サーバの処理能力
と記憶能力そして保存能力の飛躍的な進歩によって、これまで、実現することが不可能であった、莫
大な計算量を必要とする深層学習 (ディープ・ラーニング) を可能にしました。
最近よく耳にする深層学習の実現の効果は、最初に、画像認識・画像分類の分野で、一般的には示さ
れ、第3次の人工知能ブームとなりました。IoTの進展によって、深層学習を用いたさまざまな可能性
が検討されていますし、さまざまな産業分野への深層学習の適用に向けた検討が行われています。こ
れまでは、発見することができなかった因果関係や特性が抽出され、効率化の向上や新サービスの発
掘などが期待されています。
一方では、これまで、相互関係が存在しなかった産業分野やサービス分野の連携の可能性を検証する、
あるいは掘り当てるような、言ってみれば宝探しにも似た夢のようなものを期待して、莫大なデータ
の解析が試みられています。このような、莫大なデータの収集、蓄積・保存、解析を行うには、大量
のコンピュータ・サーバが必要となりますし、そのデータが安全にかつ確実に保全されなければなり
ません。また、データには、プライバシー情報を含むものが少なくなく、データの漏洩に対する対策
も万全を期されていなければなりません。
このような観点から、深層学習やビッグデータ解析に挑戦する企業や組織においては、どこにデータ
を保存し、どこでデータの解析を行うのかということを、幅広い要求条件と制約条件の下で意思決定
しなければならない状況にあります。端的には、事業所の外に設備を設置するオフ・プレミスと、事
業所の中に設備を設置し、基本的には自営で運用するオン・プレミスです。
東日本大震災での経験や、電力単価の上昇、さらには、事業体における財務面での検討から、オフ・
プレミスを選択する組織が急増しているように見えます。データセンターを利用したオフ・プレミス
型のビッグデータや深層学習を用いたビジネスの構築です。すなわち、データセンターは、貴重で利
益の根源となる莫大なデータの保全とデータ処理のプラットフォームを提供することで、各社の先進
的な取り組み・挑戦を支援することになります。
このような、新しい取り組みに大量のデータを利用する企業においては、データが事業にとってのク
リティカルな資源であり、データセンターは、クリティカルな資源であるデータが、安全にしかし、
安価に保全可能な環境を提供することが、これらの企業のビジネスの成功に貢献することであること
を認識し、継続的で献身的な、効率化によるコストダウンと先端技術と優秀な人材を用いた高いセ
キュリティー品質を提供しなければなりません。
実は、深層学習やビッグデータ処理に代表される人工知能技術は、データセンターを利用するユーザ
企業・組織だけではなく、データセンター事業者自身にとっても、その事業の効率化と保全機能の向
上に貢献する可能性を持った重要な技術となります。
データセンターの運用に必要なさまざまな設備の効率的な利用によって、データセンターのエネル
ギー効率の向上が実現される可能性があります。これは、DCIM (データセンター・インフラストラク
チャー・マネージメント) と呼ばれる、データセンター施設の統合管理システムへの人工知能技術の導
入です。さらには、DCIMの中に、ユーザおよびデータセンター事業者のコンピュータ機器・サーバの
運用情報を統合化したシステムへの人工知能技術の導入も、検討の対象となっています。すなわち、
人工知能技術による、データセンターのさらなる効率化・コストダウンが、今後実現されるかもしれ
ません。
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■ 2015年10月
ISOC (Internet Society) のボードメンバー (BoT: Board of Trustee) を仰せつかっていますが、9月中旬に開
催されたボード会議は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で開催されたこともあり、サン
ノゼ市シリコンバレー地区にあるComputer History Museumが企画されました。
(http://www.computerhistory.org/)
この博物館、以前は、1990年初頭にインターネットブームを起こしたクリントン政権の時のアル・ゴ
ア副大統領が推進したNational Super Highway構想の際に、目玉企業として注目されたシリコン・グラ
フィックス社 (SGI) の建屋で、バックヤードには、紫色の低いパーティションのオフィス空間が残って
いました。
シリコン・グラフィックス社のコーポレート・カラーは紫色で、オフィスは紫色を基調にコーディ
ネーションされていました。博物館には、コンピュータそのものを中心に、さらに、コンピュータ
ネットとしてのインターネットに関する展示が行われていました。歴史的な、我々が教科書の中で書
かれていたENIACなどが展示されていましたし、インターネットにとっては歴史的な最初のルータノー
ドや、BBN社が世に送り出したPDPシリーズがPDP-1から展示されていました。
一方で、最先端の展示物としては、グーグル社が進めている自動運転の自動車も展示されていました。
また、博物館の館長から個別に話を聞くことができましたが、この博物館は、現在、ハードウェアを
中心にした展示になっていることが不満点であるとのこと。コンピュータは、ソフトウェアがとても
重要なものですので、今後は、ソフトウェアの歴史とその価値を理解してもらうような展示を計画・
企画中とのことでした。企業と同様、箱 (データセンタのハード) よりも人 (管理して動かす人) 、そし
て人がどのように動くかが鍵ということで、これを展示したいということでした。
この博物館の周りのエリアは、サンノゼのシリコンバレーの中心となっていたところで、シリコン・
グラフィックス社やサン・マイクロシステムズ社など、当時の有力企業のキャンパスが集合していた
エリアでしたが、現在では、ほとんどが、グーグル社のオフィスとなっていました。。。。博物館の
館長が、グーグルマップは、このエリアでグーグルの社員が道に迷わずに目的のビルに到達するため
に、すなわち、自分たちのために開発したものだったという冗談を言っていたくらいに、まわりのた
くさんのビルがグーグル社に占領されているような状況になっていました。
さて、展示物で非常に興味深かったのは、グーグルの最初の検索サーバラックの展示であったかもし
れません。ラックとサーバの形態は、最近フェイスブック社を中心に活動しているOCP (Open
Computing Project) が検討をしている、ホワイトボード、ホワイトサーバ、ホワイトUPS、ホワイトス
イッチとほぼ同じで、自作のサーバ、自作のUPS、そして、自作のスイッチでサービス用のラックが
構成されていました。 (写真:http://aoimoricb.co.jp/share/images/img_mailmag/serverrack.jpg)
すなわち、ITベンチャー企業であるグーグルは、最初から必要なハードウェア・ソフトウェアプラッ
トフォームは、自分の仕様で自作して稼働させていたという展示でした。また、データの保存と検索
は、TCP/IPが登場するはるか以前から実装されており、サービスが提供されていたという展示もあり
ました。興味深いのは、このデータの検索にあたっては、複数のコンピュータのデータの情報がどこ
かのコンピュータに登録され、その登録されたデータベースを参照して、実際の情報をアクセスする
構造のシステムが実装されていたのです。
しかし、これらのシステムは、地球上のコンピュータをすべて接続して、サービスを提供するという
考え方には到達していませんでした。データの保存とアクセスが地球上で自由にできるようにするた
めには、TCP/IPを用いたインターネットの登場・普及と、これを用いたWEB技術・システムの登場・
普及を待つ必要があったことがよくわかるように展示してありました。
また、計算機の計算能力と記憶能力、通信能力の向上の様子が、ハードウェアを用いて展示されてお
り、常に技術スペックが速い速度で向上することを前提としたプラットフォームの設計・運用が必要
であることを再認識させてくれるのも、この博物館の特長かもしれません。
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■ 2015年11月
10月26日から11月6日の2週間は、インターネットに関する技術標準化に貢献している世界中のエンジ
ニアが日本に集結することになりました。10月26日の週には、札幌市で、ウェブ技術に関する技術標
準化を推進しているW3C(World Wide Web Consortium : http://www.w3.org/)の全体会合か開催され、
400名弱のエンジニアが集まりました。
10月30日、31日には、筆者が理事を拝命しているインターネット・ソサイエティー(ISOC;Internet
Society)の理事会、その後、11月1日から6日、6日間の日程でIETF(Internet Engineering Task Force :
http://www.ietf.org/)が、横浜で開催されました。
さらに、インターネットトラフィック解析に関する最高峰の学会(Internet Measurement Conference
2015 : http://conferences.sigcomm.org/imc/2015/)、次世代無線通信システムである第5世代無線システ
ム(5G)などの国際技術標準化の議論を行う国際会議(CSCN2015, Conference on Standards for Commu
nications and Networking : http://www.ieee-cscn.org/)の第1回会合、さらには、クラウドコンピューティ
ングシステムのプラットフォームを実現するコアソフトウェアの一つであるOpenStackに関する会合
(OpenStack Summit : https://www.openstack.org/summit/tokyo-2015/)が東京で開催されました。
まさに、今後のIoT時代を支えるインフラ・プラットフォームを実現するために必要となる技術標準化
の議論が、日本で行われたのです。特に、今回は、TCP/IPの技術に責任を持っているIETFと、TCP/IPを
用いたインターネット基盤を用いてウェブインターフェースを用いたサービスを展開するW3Cとが、
戦略的に、連続する週に小さな移動負荷で議論を行うことを目指すための、最初の試みとなりました。
これまで、ある意味「疎結合」で協調・連携していたIETFとW3Cとが、「密結合化」した記念的な会
合になるかもしれません。実際に、多数のキーパーソンが、お互いの会合に参加し、建設的で効果的
な議論が行われたとの報告が、W3Cの議長と、IETFの議長から報告されました。
これからのIT/ICTシステムは、コンピュータ・ハードウェアの相互接続(=これまでのインターネッ
ト)から、ソフトウェアモジュールとしてのコンピュータ(=仮想マシン)が、相互接続され、コン
ピュータはもの(=Things)に乗り移るようになり、これらが生成する莫大な量のデータが、データ
センターに収集され、解析・分析され、新しい価値を産むことになるとされています。
このような環境の構築に必要な、TCP/IP技術、WEB技術、クラウド技術の国際標準の活動が、いよい
よ連携・協調、そして融合しようとしているのではないでしょうか。このような、動きが、日本で開
催された会合から起動するのであれば、これは日本にとってとても光栄で名誉なことではないでしょ
うか。
今回のIETF会合とW3C会合において、2011年3月11日の東日本大震災の時の状況に関するいくつかのプ
レゼンテーションが日本人から行われました。日本品質の情報通信インフラとデータセンターインフ
ラの存在を、世界中のエンジニアに紹介する機会がありました。これから、我々は、日本の技術・品
質が、世界標準となるように、ますますの努力を行わなければならないことを再認識させられた2週間
だったのではないでしょうか。
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■ 2015年12月
2015年12月7日 (月) 、青い森クラウドベースのデータセンターの竣工式が執り行われ、いよいよ実際
のデータセンタービジネスがスタートします。データセンター設備に関する設計・構築・運用は、
グーグルやフェイスブックあるいはアリババなどの新しいビジネスプレーヤ・ビジネスモデルの登場
によって、大きな変革期を迎えつつあるようです。
具体的には、 (1) 急激に変化する技術環境・ビジネス環境に対応可能なアジャイル (Agile) なビジネス
展開環境を提供可能なコンテナ型のデータセンター運営と、 (2) 最先端技術の導入、に集約されるので
はないでしょうか。このような動きは、北米と中国を中心に起動されつつありますが、これらの地域
での動向を把握しつつ、我が国におけるデータセンター戦略を策定し実現し、日本をデータセンター
ビジネスに関する世界の重要な中心拠点にしなければなりません。
このような観点から現状のデータセンタービジネスの方向性を俯瞰すると、 (1) ユーザ主導型の開発環
境 (これは、DevOpsとも呼ばれる構造になります) 、 (2) ソフトウェア定義型システム (ホワイトシステ
ム) の2つに集約することができるのではないでしょうか。
(1) ユーザ主導型の開発環境
フェイスブックは2010年2月にOCP (Open Compute Project) を創設し、データセンターを構成するサー
バーやラックなどほとんどすべての装置・設備の仕様をオープン化・標準化することを推進していま
す。一方、グーグルは、2013年8月にIBM、Mellanox、NVIDIA、Tyanとともに、OpenPOWER Foundation
を創設し、同様の活動を推進しています。これまでの、ベンダーが提供する製品を導入してデータセ
ンターを構成するのではなく、データセンターの運用者がデータセンターに導入する装置の仕様をベ
ンダーと協力・連携して作り上げ、その技術仕様にしたがってベンダーが装置をデータセンターの運
用者に供給する構造です。
(2) ソフトウェア定義型システム
データセンターで稼働するサーバーがまさにソフトウェア定義型システムの典型例になります。コン
ピュータは、ソフトウェアを用いて希望するサービスを提供します。ソフトウェアを変えれば、異な
るサービスを提供するようになります。このようなシステム構造の、コンピュータ以外の機器に適用
する方向性をソフトウェア定義型システムと呼びます。ネットワーク関連機器では、SDN (Software
Defined Network) やNFV (Network Functions Virtualization) という言葉をよく聞くようになりました。ネッ
トワークの構造をソフトウェアで変更可能にするものです。さらに、ホワイトサーバーやホワイトス
イッチ、ホワイトルータのような、特定のハードウェア構造に縛られずに、自由にシステムの構造を
変化させることが可能になりつつあります。
我々は、このような技術革新の方向性を正確に評価しながら、最新技術を用いた効率的で高品質の
サービス基盤をユーザに提供しなければなりません。そのために、東大グリーンICTプロジェクトでは、
日本データセンター協会と連携しながら、データセンターに関する最新動向を議論するための勉強会
を2016年1月からスタートすることになりました。データセンターに関するすべての構成要素に関する
最新技術の共有を行います。
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■ 2016年1月
2016年1月7日 (木) 東大グリーンICTプロジェクト (GUTP; www.gutp.jp) と、日本データセンタ協
会 (JDCC; www.jdcc.or.jp) の連携による「次世代データセンター技術勉強会」の第1回会合を東
京大学本郷キャンパスで開催しました。
勉強会には100名以上の方が参加し、さらに、その後に開催された懇談会にも70名以上の方が参加さ
れました。データセンターの事業者からデータセンターを構成する設備機器やIT機器のベンダーまで、
すなわち、データセンター事業に関係する川上から川下の関係者が参加されました。
前回の投稿でも書きましたように、データセンターは、『 (1) ユーザ主導型の設計・構築・運用』と
『 (2) ソフトウェア定義型システム』へと、大きな変革期を迎えています。このような動向は、特に、
北米と中国で急展開しており、その情報の収集と共有、そして、整理が必要であると考えたからです。
この勉強会では、単なる省エネ型のグリーンなデータセンターを実現する技術ではなく、これからの
ビジネス環境で勝ち抜き・勝ち残り、社会に貢献可能なデータセンターを実現するために必要な最新
技術の動向を把握し、参加企業が実践することを手助けすることが目的なのです。省エネを実現する
ことで、データセンターの本来の目的である大量のデータ処理能力が低下することがあっては本末転
倒になってしまいます最大の計算パフォーマンスを実現しつつ、『効率的な』データ処理が実現され
なければならないのです。したがって、この研究会では、データセンターの施設 (空調や電源系) だけ
ではなく、サーバなどのIT機器の最新の動向も取り上げることにしています。
第1回目の会合では、理化学研究所と連携しながら液冷による超高性能なサーバプラットフォームの
研究開発とビジネスを展開しているExaScaler Computing社の齊藤社長に、最新技術のプレゼン
テーションをしていただきました。単なるPUEの議論ではなく、計算パフォーマンス (単位電力量で
どのくらいのコンピューティングを実現できるのか?) を問題にしています。
最大の計算パフォーマンスを実現するためには、超高密度でのコンピューティング・コンポーネント
の集約実装とケーブルレスでの実装が必要となり、その結果、空冷では不可能な密度での熱の発生へ
の対処が必要となり、結果的に、空冷ではなく、液冷となっているのです。当然ながら、このような
実装方法は、空冷でも可能な取り組みも行われています。
こちらの実例は、グーグル、IBM、NVIDEAが核となって進めているOpen Power Foundationにな
るでしょう。すなわち、データセンターの性能は、単純にPUEで評価するものではなく、計算パ
フォーマンスで評価され、結果的にPUE値が向上するという方向性が見えてきているのではないで
しょうか。
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■ 2016年2月
前回の報告しましたように、筆者が代表を務めるGUTP「東大グリーンICTプロジェクト」が主催、日本
データセンター協会が共催の形態で、今後のデータセンターの設計・構築・運用に関する最先端技術
やビジネス動向を議論する『次世代データセンター勉強会』を2016年1月7日にキックオフしました。
毎月1回、約2時間の会合で、各回3件程度の発表を行っていくことになります。
最初の会合は、データセンター事業者としてIDCフロンティアさん、データセンター用の空調設備の動
向に関して三機工業さん、最先端のハイパフォーマンスコンピューティング (HPC:High Performance
Computing) の研究開発を支える、超省電力・超高性能サーバを実現するための液冷却技術と高密度
サーバ実装の実状に関してExaScaler Computingさんからプレゼンテーションをしていただきました。も
のすごい速度で進化を続けるデータセンターに関して、さまざまな技術的な問題点と、データセン
ター事業者の問題意識の共有に向けた第1歩を踏み出すことができたのではないかと考えています。初
会合の後の懇談会では、今後、取り上げてほしいテーマや、最新の動向・心配事などをお伺いするこ
とができました。
本会合への参加資格は、GUTPメンバー組織あるいは、日本データセンター協会の正会員のみに限定さ
せていただいているのですが、初回の会合でもすでに、120名を超える参加者となっています (初回は
利用可能な開場の大きさが当初の予想をはるかに超えた結果、各社からの参加者の数に上限をもうけ
ざるを得ませんでした) 。第2回以降は、収容人数が大きな会場を確保することができましたし、第1回
会合の開催が日本経済新聞本誌で記事となって取り上げられましたので、さらに多数の参加者となる
でしょう。
4月あるいは5月の開催で、「青い森クラウドベース」での雪を用いた冷却システムに関する発表を企
画しようとしています。外気を用いた直接と間接での空調システムだけではなく、地下水や地熱の利
用など、さまざまな、ユニークな冷却システムが展開されようしています。これらのシステムを取り
上げ、みなさんで議論を行い、さらなる進化を誘導することができればと考えています。さらに、こ
れらの最先端・最新技術が、順次適切な時期に導入可能なモジュール型でのデータセンターの設計・
構築・運用は、ますます常識化しつつあり、「青い森クラウドベース」における設計思想の検証と確
認も行うことができることになるのではないでしょうか。
2月5日 (金) に開催された第2回では、東亜工業さんから「扉冷却ユニット」、ラリタンさんから「高
密度ラック」、日本IBMさんから「OpenPOWER Foundation関連の動向」のプレゼンがありました。第3
回は3月7日 (月) で、さくらインターネットさんから事業者としてのプレゼン、東大ゲノムセンターさ
んから「高密度スパコンデータセンター」に関するプレゼンを予定しています。「次世代データセン
ター勉強会」への皆さまの参加をお待ちしています。
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■ 2016年3月
アップル社とFBIとの間での、i-phoneのデータプロテクションに関するやり取 りが、専門のメディア
ではなく一般のメディアで広く取り上げられています。 これは、単なるエンドユーザが持ち歩く・利
用する情報端末に関する話だけで はありません。むしろ、政府による個人や (事業) 法人のプライバ
シー保護と検 閲、さらには情報の秘匿性に関する議論なのです。
情報の「機密性」は、情報セキュリティーにおける3つの機能の中の重要な一つです (他の2つは「完全
性」と「可用性」) 。今回、政府が「テロ事件への対応」という理由で、データの機密性をエンドユー
ザに提供する機能を無効化することを要請しています。これは、定常的に可能にすることは要求して
はいませんが、技術的には、定常的ではないがこのような要求に対応可能にするためには、定常的に
ユーザデータの機密性を解除可能なシステム構造にしなければならなくなってしまいます。
このようなことが起これば、政府機関は「国家安全保障 (National Security) 」を盾に、この機能を「必
要に応じて」政府が利用可能にするように要請をしてくることが考えられます。このようなことが起
こらないように、アップル社は、その他のインターネット関連企業・組織と連携して、今回の米国政
府の要請を拒否しているのです。
日本は、世界で最も「情報・通信の秘匿性」を堅持してきた国の一つでしょう。これは、第2次世界大
戦の時の経験に基づいています。特に、日本の情報通信事業者は、常に「情報・通信の秘匿性」の堅
持を考えています。「情報の秘匿性」の概念が少し広がると「表現の自由」につながります。「表現
の自由」の実現には、「情報・通信の秘匿性」に加えて「匿名性の提供」も必要になります。
この2つは、政府にとっては「社会秩序の維持」、テロ対策などの「国家安全保障」の観点から、必要
に応じて解除可能にしたいものになりますし、可能であれば、その必要性をできるだけ広げておきた
いものです。これが、第2次世界大戦からの教訓になります。
そのように考えると、最近の総務大臣による「放送法」と「報道内容への干渉」の問題は、「表現の
自由」「報道の自由」に関係するもので、奥深いところでは、今回の米国でのアップルとFBIの間での
議論に共通することであると考えなければならないでしょう。
データセンターは、個人や法人の大切なデータ・情報が格納される場所であり、しっかりとした「情
報・通信の秘匿性」を提供し、「表現の自由」を維持することに貢献する社会インフラであることが、
その運用ポリシーと運用品質の両方で要求されるのではないでしょうか。
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■ 2016年4月
内閣府が、内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣に対して、各省よりも一段高い立場から、総合的・
基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案および総合調整を行うことを目的とした「重要政
策に関する会議」の一つである『総合科学技術・イノベーション会議』の「システム基盤技術検討
会」の委員として (平成27年度) 、「ICTワーキンググループ」の委員として (平成26年度) 、『科学技術
イノベーション総合戦略2015』の議論に参加させていただきました。
現在、2016年版の作成作業が平成27年度での議論をもとに行われています。日本は、『超スマート社
会』の実現を目指すというシナリオとなっており、ICTの役割の必須性と重要性が強く認識されていま
す。超スマート社会の実現に向かっては、「IT総合戦略本部」および「サイバーセキュリティー戦略
本部」との連携を強化しながら、日本が強みを有する研究や技術を伸ばしながら推進すべきと記述さ
れました。また、IoT (Internet of Things) の推進と、それらの「シ ステム化」の必然性と必要性が強調
されています。
これは、データセンターで展開されるクラウドシステムの研究開発とその社会実装が必須であり、し
かも、この動きは、従来の情報通信産業に閉じるものではなく、すべての産業領域に適用され、すべ
ての産業が、規模の違いはあれ、データセンターの顧客となることを意味しています。
「超スマート社会」とは、単に便利で快適な社会・産業活動ではなく、さらに、安心・安全が付加さ
れていることが要求されます。すなわち、快適性と安全性が同時に実現されなければなりません。
データセンターは、ICTを用いたサービスが、安全にかつ安価に実現されることに貢献することになり
ますし、人々の活動空間に、大量の電力を消費し、空調負荷を増大させ、しかも、活動空間を狭くし
てしまうサーバーを、オフィス空間から退去させることに貢献することになります。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、特に、クリティカル・インフラストラク
チャーのスマート化が推進されることになります。その際、十分なサイバーセキュリティー対策が適
用されたサービス提供が行われなければならないとされました。すなわち、システム全体の企画・設
計段階からセキュリティーの確保に取り組むセキュリティー・バイ・デザインの考え方に基づき推進
すべきとされます。
このセキュリティー・バイ・デザインが適用されるべき粒度は、個別の機器やセンサーばかりではな
く、システム全体でもありますし、十分で適切なセキュリティーを実現するために、データセンター
を戦略的に全体システムの構成の中に取り込むという方向性が出てくることになるでしょう。また、
2020年に向かって、特に、通信・放送、電力、交通の重要インフラについて、省庁連携によるシステ
ムの構築がおこなわれなければならないとしています。
さらに、業種毎のセキュリティーオペレーションセンター (SOC: Security Ope ration Center) の整備の必
要性も記述されています。 すなわち、これまで以上 に、データセンターを用いた、SOCの需要が増加
することが期待されます。
このように、我が国の産業政策の方向性を示す『科学技術イノベーション総合戦略』を読み解くと、
データセンターの必要性が引き出されるとともに、サイバーセキュリティーだけではない「総合的
な」堅牢性を持ったデータセンターの戦略的な整備が必要であることが分かります。
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■ 2016年5月
4月14日 (木) と15日 (金) 熊本で発生した震災で被災された方々にお見舞いを申し上げます。2011年3月
11日の東日本大震災とは異なる災害の形態ではありましたが、今回は、ICT基盤を用いた対応が、もち
ろん十分とは言えませんが、これまで以上に災害対応に貢献をしたように思えますし、これまでの経
験が生かされた対応が少なくなかったように思えます。
今回の大震災でも、携帯電話や有線電話よりも、SNSなどのインターネットを用いた情報サービスを用
いた状況の把握や対策の実施が行われました。被災地で 避難所生活を経験された方の報告によれば、
避難者の皆様方の主な情報源は、掲示板とスマートフォンだったようです。パソコンを利用したイン
ターネット接続ではなく、ほとんどの方がスマートフォンを用いて、情報収集や関係者の方々との連
絡を取られていたようです。すなわち、モバイル環境を前提にしたインターネット環境が非常に重要
であり、かつ有用であるということになります。
3.11の際には、日本経済がグローバルな経済と連結しており、日本のデータセンターの堅牢性が、日
本の経済活動の維持に貢献したことが認識されました。データセンターが運用を継続したことで、日
本の金融・証券市場は厳しい環境であったにも関わらず事業を継続することができたことは、世界か
ら驚嘆され、また称賛・尊敬されました。その結果、多くの事業者がデータセンターを用いたITシス
テムのOff-The-Premise化に着手されました。
さらに、3.11東日本大震災の後、北海道を除く東日本の事業者は、電力周波数の異なる西日本にある
データセンターと東日本にあるデータセンターを用いたシステムの2重化を行われた事業者は少なくあ
りません。しかし、災害対策は、なかなか実際に災害を経験していない方には、当事者意識が低く、
西日本、特に、九州での大震災を想定したITシステムのOff-The-Premise化は残念ながら推進されていな
かったようです。
今回の熊本での大震災は、日本のどこでも大地震の発生を考慮しなければならないことを我々に、特
に西日本の方々に認識させました。これまでは、大震災は、なんとなく自分とは関係のないものだと
思っていた方々の意識を変えることになりましたし、変えることになるでしょう。すなわち、これま
で、あまり、データセンターを用いたITシステムの堅牢性の向上に意識が低かった西日本の事業者の
方々が、大震災への対応を意識するようになり、東日本に存在するデータセンターと西日本に存在す
るデータセンターの利用をお考えになるようになるのではないでしょうか。
また、東日本に目を転じますと、首都圏の直下型地震の可能性は、これまで以上に強く認識されるこ
とになっているようです。すなわち、企業活動の危機管理の観点からは、データセンターの首都圏一
極集中は、やはり、リスクが大きく、地方への分散が必要となるとの認識がさらに大きくなると予想
されます。改めて、データセンター事業に関わっている我々は、データセンターの堅牢性の確認を維
持、さらなる品質の向上によって、我が国の経済・社会活動の危機管理と品質向上に貢献しなければ
ならないと考えます。
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■ 2016年6月
インターネット・ガバナンス・カンファレンス・ジャパン、通称ICGJ(http://igcj.jp/)という会合にお
いて、現在、今後のインターネットにおけるセキュリティ対策を考えるための参照・参考ドキュメン
トとして利用していただくことを目的としたドキュメントの作成を行っています。昨年の夏に、議論
を開始して、5月25日の会合で、ほぼ、内容に関する参加者の皆さまの間でのラフ・コンセンサスを形
成するに至りました。
このドキュメントは、現在その研究開発やビジネス化の取り組みが加速しているIoT(Internet of
Things)、ビッグデータ、FinTechあるいは人工知能などに関する状況を鑑み、これまでのインター
ネット産業を形成してきたプレイヤーとは異なる、これからインターネットに接続されることになる
新しいプレイヤーの方々と、インターネットが成功し・成功を持続させるために必要な条件を整理し、
これを共有して、新しい時代が誤った方向に行かないようにするためのコンセンサスを形成するため
の議論を起動することを目的に作成したものです。
特に、例えば、IoTの分野においては、Internetという言葉が使われているにも関わらず、インターネッ
トとの接続を前提としない閉域網を前提とした技術検討が行われている場合が少なくないようです。
また、多くの企業において、セキュリティポリシーが厳しすぎて、イノベーティブな活動が阻害され
ていたり、あるいは、単に「閉じていれば安全だ」と考え、適切で十分なセキュリティ対策を怠って
いる場合が少ないようなのです。このような「不適切な」「不都合な」状況を改善することが、今後
のインターネットを前提にした、グローバルなデジタル・エコノミーの発展にとって、必須のものに
なると考えられるからです。
また、セキュリティにとって、重要な考え方に、 (1) 「セキュリティは『誰かが 解決してくれるも
の』ではなく、『関係するすべてのステークホルダー間による協調・協働』によって実現されるもの
である」、 (2) 「まずは自助、次に共助、最後に公助」があります。「共助」においては、機器・ソフ
トウェア提供者、サービス提供者、サービス利用者にまたがる垂直方向の関係者と、提供者間および
利用者間での水平方向の関係者の両軸での協調・協働を実現することが重要ですし、その前に、すべ
てのインターネットの利用者・事業者が、自身の努力で自身のシステムのセキュリティ対策の品質・
レベルを高める必要があるのです。
このような、考え方と、筆者が理事を仰せつかっていますISOC(Internet So ciety)*においては、
「Collaborative Security」と呼んでいます。インターネットに関係するすべての関係者 (ステークホル
ダ) が協力・協調・連携・協働して、問題の解決に当たらなければならないという考え方です。
このような、Collaborative Securityの実現のための、すべてのエンドユーザ(事業者を含む)、イン
ターネットサービスプロバイダ、アプリケーションプロバイダなど、すべてのプレイヤーにとって、
データセンタやクラウドプラットフォームの利用は、セキュリティ・レベルの向上に大きな貢献をす
ることが、共通の認識になっているのではないでしょうか。
すなわち、我々は、適切なセキュリティ品質を提供可能なプラットフォームを提供しながら、かつ、
各プレイヤーのシステムのインターネットへの接続を前提としたシステム設計・構築・運用を支援す
る必要があるのではないでしょうか。
(*) Collaborative Security by ISOC (Internet Society)
http://www.internetsociety.org/collaborativesecurity
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■ 2016年7月
インターネットは国境を超え人々や組織・コミュニティーをデジタル技術でつなぎました。最近のISIS
を中心にした世界各地で行われるテロ攻撃は、インターネットを駆使したプロパガンダが行われると
ともに、その活動の基盤となる財務活動や情報活動などがインターネットを駆使したものになってい
ることは、残念でなりませんし、犠牲になられたすべての方々に哀悼の意を表させていた だきます。
週末に時間ができて、ゆっくりケーブルテレビの番組表を見ていたら、History Channelで、ユダヤ教と
イスラム教の歴史が合計4時間に渡って放送されていて、ゆっくりと視聴・勉強することができました。
イスラム教は、 (1) もともと他 の宗教と共存することが可能な非常に寛容で許容度の高い宗教であっ
たこと、 (2) 政治と宗教が一体となっていたこと。まぁ、2つ目の政治と宗教が一体となっていること
はイスラム教に限ったことではありませんが、イスラム教は宗教が先にあって、預言者ムハンマドが
政治を行わざるをえなかった状況・環境から宗教と政治が一体となったという起源を教えてもらいま
した。
この番組を観ると、民族、文化、宗教、経済、そして政治が、複雑に混じり合って、社会を構成して
いることを改めて考えさせられました。日本にいると、民族と文化と政治 (国家) と経済がほぼ一致し
ていて、宗教がある意味で社会構成要件になっていない、とても特殊なコミュニティーであることを
再認識させられました。
インターネットは、情報流通の速度と量を桁違いに向上させた結果、これまで、共有されることのな
かった情報が共有され、新しい社会・経済構造を形成しつつあると考えていましたし、その時に、そ
れまでの国家 (政治) の境界と経済・文化の境界がほぼ一致していた状況から、経済・文化を国境を超
えたもの変革にしてしまったので、国家 (政治) との難しい関係や軋轢が発生しているのだと、6月27
日に他界したアルビン・トフラー氏の「第3の波」など、欧米から発信された20世紀終盤の経済関係の
本から考えていました (これは、筆者が、政教分離を当然の前提と考えてしまっていたからのようで
す) 。
しかし、もっと、長い歴史観点からみれば、国民族や宗教は、昔から国家よりも地理的に大きな領域
を形成しており、その結果、本当にたくさんの国家との軋轢を経験してきていることを学ぶことがで
きました。ちゃんと、「世界史」を勉強しておかないといけないですね。
このようなことを考えても、21世紀の経済・文化の活動基盤となるインターネットとその重要インフ
ラであるデータセンターの責任は非常に大きいことを再確認することができます。どのような運用ポ
リシーでデータセンターが運用されるのか、どのような影響力をデータセンターが経済と文化に及ぼ
すことになるのか、我々は、しっかりと考えなければならないのではないでしょうか。本コラムの冒
頭に書きました、テロ攻撃やこのような行為が発生する根本的な 原因を、インターネットを用いて解
決できるような施策を考えなければなりません。
データセンターとインターネットを利用して、今後本格的に展開されるであろう人工知能やIoTなどは、
文化、経済、政治だけではなく、民族や宗教にも大きな影響を与えることになるでしょう。偏った情
報ではなく、正確で透明な情報が、すべての人に提供され、いろいろな考え方が共有・議論可能な環
境が作られることがとても重要な条件と考えられますので、今年6月に開催されたG7サミットおよび
OECD大臣会合では、デジタルエコノミーの健全な発展には、データがグローバルにトランスペアレン
トに流通可能なインフラの整備と維持が必要との宣言が出されたと理解しています。
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■ 2016年8月
『青森ねぶた』を満喫することができました。青い森クラウドベースの長内社長のアレンジに大感謝
です。いつも、この時期はWIDEプロジェクトのボード合宿と研究室の夏合宿があって、ほぼ不可能な
スケジュールになっていましたが、今回は、たまたま、2つの合宿 (両方とも札幌で開催) の合間で、青
森に行くことができました。
名人が監修作成された巨大ねぶたから、可愛い小さなねぶたまで、いろいろなねぶたと、素晴らしい
ねぶた囃子 (太鼓、笛、鉦) の行進でした。自治体関係・学校関係・企業関係・非営利団体など、青森
の街を構成する「マルチステークホルダー」から、老若男女のみなさんが楽しく踊り・謡い・奏で・
操舵をされていました。まさに、今、インターネットの世界とそれを前提にしたデジタルエコノミー
のガバナンスの見本のようだなとも思いながら、各ねぶたについたロゴなどもエンジョイさせていた
だきました。
また、一方で、ねぶたの企業スポンサーは、ねぶたの歴史のなかで、どう変化してきたのかなぁとい
うことも気になりました。ねぶたに参加してた中高生が、働き盛りになるときには、どのような企業
が、ねぶたの企業スポンサーになっているのでしょうか。内閣府が進めている総合科学技術イノベー
ション戦略では、すべての産業が、IT/ICT技術によって融合と破壊的イノベーション (Disruptive
Innovation) を経験するとしています。
2020年そして2030年のビジョン (これを、Society 5.0 と定義しています) に向 かって、IT/ICTの進化と深
化を進めることで、少子高齢化や環境問題など、日本が「課題先進国」として世界に先駆けて経験し
ている問題を解決することで「課題解決先進国」として、世界に貢献するとともに国際的な競争力の
向上を目指そうというものです。
このSociety 5.0の実現には、ますます進化することが期待されている・使命とされている人工知能、全
産業が共有・利用可能なデータ貯蔵庫、そして、それを高いセキュリティーと効率的でハイパフォー
マンスなコンピュータネットワークプラットフォームの整備が必須のものになりますし、データセン
ターの需要がますます増加しますし、社会と次世代のとってのクリティカルなインフラストラク
チャーとの認識がますます高まってきています。
ねぶたの構造・構成物もその歴史の中で大きく変化しているのだろうなと思い ながらながめさせてい
ただきました。昔は、明かりは火だったことでしょう。これは、電球になり、たぶん、今はLEDが導入
されているのではないでしょうか。このような構成要素の変革は、ねぶたの安全性確保のためのオー
バーヘッドの大削減に貢献したはずです。多くのねぶたにはガソリン系の発電機が載せられていまし
た。これは、じきにバッテリーや水素系の燃料電池に置き換わるのではないでしょうか。
しかし、最後は、ねぶた・楽器とねぶた・楽器を動かす「人」との連携が必須となります。「青い森
クラウドベース」が、Socirty5.0の普及と展開に貢献することを期待し、その結果、「ねぶた」の主要
な企業スポンサーになることを願いつつ、たのしい青森でのねぶたを堪能させていただきました。長
内社長のアレンジに感謝です。
ねぶたが終わると、青森は何もありません (長内社長談) 。ねぶたが終わると、青い森クラウドベース
の貴重な資源である雪の季節に向かっていくのだそうです。
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■ 2016年9月
中国深せん視察ツアー
日本データセンター協会 (www.jdcc.or.jp) と東大グリーンICTプロジェクト (www.gutp.jp) による共催で
開催している「次世代データセンター勉強会」の活動の一環で、中国深せんにあるAlibaba社 (阿里巴
巴) と華為 (Huawei Technologies) 社の本社と工場、広州市にあるChinaUnicom社 (中国聯合通信) のデー
タセンタ (DC) の視察を行いました。参加者は、合計で22名と大人数の視察 ツアーでした。
現在、中国国内には、40万ケ所以上のDCが存在していると言われており、現在でも精力的に大規模な
データセンターの建設が行われているとのことです。Alibaba社は60MW、ChinaUnicom社は20MWクラ
スというもので、両社にとっては、比較的小規模なものでした。両社の大規模なデータセンターは、
600MWクラスとのことでした (驚き!) 。日本のデータセンターの品質と比べれば工事の品質などは明
白に劣りますが、その規模の大きさとビジネスの活況ぶりは、まったく異次元との印象でした。
さらに、オープンな技術仕様に基づいた最先端のモジュール型データセンターや直流給電技術など、
新しい技術への挑戦を多数行っており、グローバルな観点では、既にキャッチアップの段階ではなく、
競争の段階にあることを認識することを確認することができました。
また、華為技術の研究開発は世界最先端レベルにあることを確認することができましたし、工場は日
本や欧米の生産技術の導入とその改善によって、すでに日本の最先端工場と肩を並べるか、それ以上
の清潔さ・効率性・品質管理・行程管理・自動化 (ロボット化) が実現されていることを確認すること
ができました。本社キャンパスに到着する時に、高速道路を出る際には、左側がFoxcon (富士康) 、右
側がHuawei (華為) という高速道路の公式の標識を見ることになります。
もう一つ、今回の視察への参加者の方々が驚嘆されたのは、深せんのダウンタウンにある電気街で
あったようです。昔の秋葉原、台北市や香港の電気街と比べてもはるかに大規模な電気街を形成して
いるのです。スマートフォンや電気自転車、IoT機器ばかりではなく、これらの製品を構成する部品群
や、製品の修理やアップグレードなど、実にさまざまな店が、そのビジネス領域ごとに集まっていて、
大量購入された製品や部品は、電気街内に存在する物流会社の拠点から、中国国内ばかりではなく海
外にも出荷されているのです。訪問した8月中旬は、アップル社のiPhoneの最新版 (iPhone7&8) の生産
の最盛期にあたり、Foxconnの工場は24時間体制とのことでしたし、電気街の活気も活発だった気がし
ました。
また、深せん市の市街地では、電気自転車の数が非常に多く、音を出さずに高速に交通ルールを無視
した動きをする自転車が夕方から夜にかけて街中や道路を走りまくっています。さらに、自転車の形
をしていない、セグウェイのようなものやサーフボードのような電気乗り物も街中を行きかっている
状況なのです。これらの、電気移動機器群は、夜間に充電し、Working Timeに、系統エネ ルギー供給
システムを利用せずに稼働をしているわけで、結果的に、エネルギ ー消費のタイムシフト・平滑化に
貢献しているようにも見えます。
中国全体でみれば、減速感があるとの報道が少なくありませんが、、、、少な くとも深せんに関して
は、変調状況になっていると多くの報道で言われている不動産ですら、極めて活況な市場環境である
ことを実感することができました。ともかく、元気に溢れた、さらに、先端技術の導入・利用がます
ます加速していることを実感する中国深せんの活況ぶりなのです。
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■ 2016年10月
<Collocation再考>
データセンター業界では、Collocationとは、多数の事業者が一つのデータセンターの中にIT/ICT機器を
設置して、共存しながら、相互接続しながらシステムの運用を行う運用・ビジネス形態を意味してい
ます。Collocationによって、事業者間でのデータのやり取りのコストと遅延が改善されることになりま
すし、複数あるいは多数の関係する事業者との相互接続が可能となります。
インターネットは、地球上のすべてのコンピュータシステム・ネットワークを“透明に”相互接続す
ることによって、事業者間での連携や協業による新しいサービスを提供してきました。したがって、
この相互接続を効率的に実現するためにCollocationサービスを提供するデータセンターの役割は非常に
重要なものになるわけです。
さてデータセンターは今後、インターネットビジネスの事業者のIT/ICT機器やサービスをクラウドプ
ラットフォームに収容し“Collocation“するミッショ ン加えて、エネルギーシステムを核にした、各種
設備のCollocationサイトの核となる施設になる可能性があるように思えます。しかも、先端技術を用い
た、エネルギー・エコシステムの核となる可能性を持っているのではないでしょうか。
データセンターは、大量の電力を消費し、同時に大量の熱を発生させます。中国や米国のデータセン
ターでは、数百MW以上の電力を消費するデータセンターの存在します。まさに、データセンターの
稼働のために、専用の発電設備が必要となるような電力容量になります。
米国のハイバージャイアント (最近では、自身でデータセンターやネットワークなどの物理インフラも
自身で構築するようになってきているので、ハイバー・スケーラとも呼ばれるようになってきていま
す。) では、自身のデータセンターのために発電所を構築したり、あるいはM&Aしたりというケース
も見られるようになってきています。
効率的な電力供給を受けることができるように、多くのデータセンターが、発電所の近傍に設置され
ています。さらに近年のデータセンターでは、電力会社が提供する通常の系統電力だけではなく、太
陽光発電や風力発電、あるいは水素燃料畜発電など、新しいエネルギー源の利用も精力的に取り組ま
れており、エネルギー調達の多系統化・多様化により、エネルギーセキュリティーの向上とエネル
ギー調達コストの削減を目指しているケースも少なくありません。
このような動きの延長戦上には、データセンター事業者あるいは、データセンター事業者とエネル
ギー提供事業者の協業事業による外部へのエネルギー供給事業の可能性も考えられます。データセン
ターは、災害時の対応機能を持っている堅牢な設備であり、副産物としての熱の供給が可能な施設と
とらえることができます。熱を必要とする施設としては、病院や介護施設などがあげられます。
また、データセンターは、電力のみならず水の確保も大きな要求条件であり、災害時に必要な電力、
熱、水、堅牢な建屋を提供可能な施設であるととらえることができるのです。データセンターの運用
を通じで、発生する余剰な電力・熱・水などを利用する施設をCollocationした、エコ・パークを作るこ
とが可能かもしれません。
ちなみに、このような考え方は、少子高齢化に向けて国土交通省が掲げた「コ ンパクトシティー&
ネットワーキング」の考え方にも合致するものでもあります。さらなる、データセンターの社会にお
ける戦略的役割や利用の可能性を考察し、その実現を目指したいものです。
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■ 2016年11月
インターネットは、現在「第3の波」を経験しようとしているようです。第1の波は「ウェブ」、第2の
波は「ソーシャル情報検索」、そして、第3の波は「IoT・ビッグデータ」と言われていますが、これ
は、「サーバーファースト」と捉えることができるような気がします。これは、「デジタル・フォー
スの覚 醒」と言ってもいいかもしれません。具体的には、以下の3つの変革・進化が起こりつつある
のではないでしょうか。
(1) サイバー空間が、実空間に「染み出す」
当初は、サイバー空間が物理空間の神経系として、実空間の管理・制御、あるいは最適化を担います。
これを、我々は「スマート化」と呼んでいます。現在の「物理空間のスマート化」に続いて、サイ
バー空間の計算能力の向上は、実空間の設計を、ほぼすべてサイバー空間で行うようになるでしょう。
既に、このような現象は、我々のまわりで発生しています。言わば、「Cyber First, Physical Second」で
す。
(2) 物理法則を「超越する」&「定義する」
サイバー空間は、実空間の法則、特に時間と空間に関する法則を超越します。人は、実空間の物理法
則に縛られない「超能力」を手にすることができるようになってきています。その結果、「サイバー
空間が実空間を設計する」のです。さらに、サイバー空間において、実空間をほぼ完全に再現するこ
とが可能になりつつあります。このような、サイバー空間による実空間の完全なシミュレー ションが
可能になってきているので、Cyber Firstの状況が登場してきているのです。このようなシステムは、
「ソフトウェア・デファイン (Software Defined) 」のシステムと呼んでもいいでしょう。実空間の設計
を、すべてソフトウェアで行うからです。Software Definedのシステムにすることで、迅速な設計や修
正が可能になり、Agility (迅速性) と Flexibility (柔軟性) が向上することになります。
(3) 人間の知識と「交じり・混じり合う」
人工知能によって、人間の知識や経験がオンライン化され、収集・集約され莫大なデジタルデータと
なって、解析可能となりました。この莫大なデータを解析し、インフラのスマート化とイノベーティ
ブなサービスを創生することを、「ビッグデータ」と呼んでいます。すなわち、人間の知識・経験が
デジタル化・オンライン化・ネットワーク化さえることで、「交じり合い・混じり合う」ことになり
ます。人間は、物理空間で、その知識・経験を共有し、それを分析することが可能ですが、その共有
には、物理法則の制限があります。しかし、デジタル化された知識・経験は、物理法則を超えて共有
可能であり、さらに分析可能になるのです。その結果、サイバー空間は、「人・脳」を超える存在に
なります。このようなサイバー空間が、人・脳の能力を超える現象は、少なからず発生しています。
これを、人工知能の領域における Singular Pointと呼ぶ人も少なくありません。したがって、近年、ア
シモフが提唱した「ロボット3原則」が、頻繁に参照されているのです。
このようなインターネットの「第3の波」において、ますます、計算能力を安 全に・効率的に提供す
るデータセンターの社会・産業の成長に対する責任は、ますます大きくなると考えなければならない
のではないでしょうか。
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