特集 RANDOM FOCUS 日本に欠ける国際競争力は ﹁ビジネスモデル﹂だ 建設業の国際競争力 TOP INTERVIEW ディスピュート・ボードを活用して 建設業の契約紛争に対応 BEHIND PROJECT 日本の建設業の国際競争力 ZOOM UP 日本の港から海のスマートグリッドを 「食」で巡る北国便り 今さら聞けないIT講座 ISSN 1833−6917 54 2010 WINTER VOL. SERVICE CENTER OF PORT ENGINEERING SCOPE NET 54 2010 WINTER VOL. 特集:建設業の国際競争力 3 RANDOM FOCUS 日本に欠ける国際競争力は 「ビジネスモデル」だ 妹尾 堅一郎●東京大学 特任教授(知的資産経営) 8 TOP INTERVIEW ディスピュート・ボードを活用して 建設業の契約紛争に対応 京都大学経営管理大学院教授 大本 俊彦● × 広瀬 宗一● SCOPE 理事長 兼 建設マネジメント研究所所長 経営研究センター長 13 BEHIND PROJECT 日本の建設業の国際競争力 これまでの事例から強みと弱みを探る 18 ZOOM UP 日本の港から 海のスマートグリッドを 池上 康之● 佐賀大学 海洋エネルギー研究センター准教授 22 「食」で巡る北国便り 第 6 回 芯から温まる鍋壊し ●亀井 重信 23 今さら聞けない IT 講座 「地上デジタル放送って?」 RANDOM FOCUS 技術力で勝とうとする限界 COMPETITION IN THE INTERNATIONAL MARKET 日本に欠ける国際競争力は 「ビジネスモデル」 だ 国土交通省は日本の成長戦略の一つとして、建設業の国際競争力を向上・国際展開を支援することとし、 さまざまな検討を進めている。アジア、中近東地域では、中長期的には社会資本整備や都市開発への 大きな需要が見込まれる中で、日本の建設業の海外進出が十分になされているとは言い難いためである。 では、日本の産業界全体を俯瞰したとき、その国際競争力はどのような状況にあるのだろうか。 日本の産業は「技術を活用する知恵の開発を怠ってきた」と語る東京大学の妹尾特任教授にご寄稿いただいた。 体、液晶パネル、 DVDプレーヤー、 太陽光発電セル、 カーナビ等のシ 20 0 07 術を誇った、半導 05 道を進んでいるように見える。 日本がその 技 03 いる。しかし日本の産業は逆に崩壊の 40 01 て欲しい。 99 くも新興国を軸に景気回復が始まって 太陽光発電 セル DRAMメモリー 97 つくった表を見 95 混沌かつ先行き不透明ではあるが、早 カーナビ 液晶パネル 60 93 東大特任教授が 91 リーマンショック以降、世界経済は 80 DVD プレイヤー 89 である小川紘一 100 87 まず、私の同僚 世界市場のシェア︵%︶ 凋落を続ける 日本のエレクトロニクス産業 ※小川紘一東大特任教授の図を修正 日本製品の凋落(国際市場拡大→国際シェア低下) ェアが急速に落ち込んでいる状況が 一目でおわかりになるだろう。 実際、私は秋葉原の再開発プロ から急速に日本製品が消えていくのに 愕然としている。例外はデジカメくら いであろう。 デュースをしていたので、この10 ところで、この表には二つの注釈が 年近くマーケットを身近に観 必要である。第一は、この表の右肩下 察している が、市場 がりの線の背後に、 それとは対称的に、 それぞれの製品の国際普及率が右肩 上がりで存在しているということだ。 ●妹尾 堅一郎 東京大学 特任教授(知的資産経営) NPO法人産学連携推進機構 理事長 【略歴】 1976年慶應義塾大学経済学部卒業。富士 写真フィルム㈱入社。90年英国国立ラン カスター大学経営大学院博士課程修了。 92年産能大学経営情報学部助教授。99年 慶應義塾大学助教授・知的資産センター 副所長。2000年慶應学術事業会代表取締 役・丸の内キャンパス校長。01年慶應義 塾大学大学院政策・メディア研究科教授。 03年東京大学先端科学技術研究センター 特任教授。同大学国際・産学共同研究セン ター客員教授を経て、 08年より現職。 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 3 COMPETITION IN INTERNATIONAL つまり、日本企業が当初すべてを独占 ても、 それを使う知が遅れたために、 事 マンといった人をはじめとする画期的 していたが、市場の拡大と機を一にし 業で負けた、 と言っても過言ではない。 なアイデアを持った人々の努力が、あ て急速にシェアを落とすという構図な その根底にあるのが、日本の多くの る意味で直接的に世の中にイノベーシ のである。製品のインベンション (発 人々の頭の中の国際競争力モデルが ョンがもたらしたわけである。そして、 明) の時期は良いのだが、 その製品を本 30年前のモデルのままであるからに他 これらの大発明家の立ち上げた企業 格的に市場にディフュージョン (普及) ならない。70年代から80年代の日本 は大企業になっていった。大発明家 する時期になると、あるいは市場を拡 が世界で 「勝ち方」 についての思い込 エジソンによって創設された 「ジェネ 大形成していく時期になると、日本企 みが、せっかくの技術をつぶしている ラルエレクトリック (GE)」 、あるいは 業は急速にシェアを失ってしまうパタ のである。世界で競争力モデルが変 ジョージ・イーストマンが創ったコダ ーン、つまり市場の拡大に反比例して わっている。その自覚なくして事業で ックなどがその代表例だろう。 シェアを落とすパターンである。 勝てるはずはなのである。 「画期的発明駆 第2期 大企業による 動型」 イノベーションの時代 第二は、この右肩下がりの角度が近 リーマンショック以降の不安定な経 年になるほど急になってきているとい 済の中でも、実は、世界には 「勝ち組企 うことだ。すなわち、 海外の勝ち組は、 業」 が少なくない。その大部分は、新し 第一次世界大戦から第二次世界大 日本の産業の倒し方を学習している い 「ビジネスモデル」 (及び、それを可 戦後しばらくは、これらの大企業の時 のである。逆に言えば、日本は自分た 能にする標準化を含む知財マネジメ 代であった。例えば、エレクトロニク ちがなぜ負けたのか、それを学習しき ント) を果敢につくり出していった企 ス製品のGE、化学製品のデュポン、写 れていない、 ということを意味する。 業群なのである。 真のコダック、複写機のゼロックス、コ 残念ながら、日本企業はこのように 「負け組」 に入りつつある。反面、世界 そこで、競争力モデルの経緯を見て みることにしよう。 らフィリップス、 シーメンス、 チバガイギ ー等といった大企業が主役の時代であ では 「勝ち組企業」 が数多く出現してい る。つまり、日本企業は国際競争に取 り残されつつある。 第1期 個人発明家による イノベーションの時代 いわば大発明家トーマス・エジソン 競争力モデルが変わっている ことに気がついていない日本 ンピュータのIBM、 あるいは欧州だった の時代である。イノベ る。これらの大企業の中央研究所で生 まれた科学技術の大発明によって社会 に数々の新しい価値がもたらされた。 ーションという概念を 1 個人発明家によるイノベーション なぜ、このような状況になったのだ 最初に提唱した経済学 ろうか。一言で言えば、技術がなくな 者シュンペータが最初 ったからではなく、技術を活用する知 に言った 「起業家」 によ 2 垂直統合自前主義・抱え込み主義の単独一 社による「画期的発明駆動型」イノベーショ ン(技術力が勝負だ!) 恵の開発を怠ってきたからである。と る大発明のイノベーシ いうのも、これらの惨敗は、全て、日本 ョンに関する話は、 この の企業に技術がないのではなく、それ 時代の認識が基になっ を活かすビジネスモデルや (標準化を たものだった。あるい 含む) 知財マネジメントで遅れをとっ は、ヘンリー・フォード たからなのである。いわば、 技術で勝っ やジョージ・イースト 4 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 3 複数の垂直統合型企業の「切磋琢磨型」イ ノベーション(商品力が勝負だ!) 4 新しいビジネスモデルと知財マネジメント の開発と展開による「国際斜形分業型」イ ノベーション(ビジネスモデルが勝負だ!) 競争力モデルの変容 N THE MARKET RANDOM FOCUS これを大企業が単独一社で担う 「画 大企業を打ち壊したの 期的発明駆動型」 イノベーションの時 は70年代、 80年代の日本 代と呼ぶ。これらの大企業の特徴は の企業群だった。日本 「垂直統合型・自前主義・抱え込み主 では大企業、しかし、世 義」 である。これは、製品をつくり出す 界的には中型企業であ 全ての要素技術を自前で揃え、その研 る日本企業群、例えば、 究、開発から生産、販売、そしてアフタ 日立、東芝、三菱、松下、 ーサービスまで全てのプロセスを自社 ソニー、NEC、 富士通等、 で賄おうとすることだ。それに必要な あるいはトヨタ、 日産、マ 経営資源を一社で揃えるだけでなく、 ツダ、ホンダ等々が日本国内の市場で 出す一方で、質の高い現場の技能者・ 生まれた製品の普及についても全て 切磋琢磨したのである。これらの日本 工員たちがその生産工程を小集団活 抱え込んで自社で行うというものであ の企業群も垂直統合型・自前主義・抱 動によって磨き上げていく‥‥、この る。生まれた画期的な発明 (例えば、 ナ え込み主義の企業だが、それらが複数 全社一丸の努力によって日本の製造 イロンや複写原理) を基に画期的な商 で寄って集って競い合ったのだから、 業と 「ものづくり」 の力は世界に冠たる 品を生み出せれば、その技術力によっ その競争は尋常ではなかった。競争 ものになったのである。つまり、 「も て製品は直線的に市場の隅々まで押 は熾烈な切磋琢磨となり製品は見事 のづくりニッポン」 の面目躍如たる栄 し出されることになる (リニアー・モデ に磨き上げられ、強力な商品に昇華さ 光の時代であった。 ル) 。 れていった。それを根性のある営業マ 技術力は銃器の恐ろしいまでの発 ンががんばって輸出すれば、それが欧 射力に例えることができるだろう。製 米先進国の市場を席巻することにな 品は弾丸に例えられる。技術力とい ったのは当然であろう。 第4期 新しいビジネスモデルと 第4期 知財マネジメントの開発・ 「国際斜形分業型」 第4期 展開による 第4期 の時代 う力によって製品はそれだけで市場を 国内でライバル企業と切磋琢磨す 第4期は現在のモデルである。こ 席捲できたのだ。まさにテクノロジー れば、海外に敵はありえない。すなわ れはバブル崩壊と、ほぼ時を同じくし プッシュあるいは技術起点型としての ち、 「国内予選で勝てれば、 五輪でメダ て90年代から徐々に始まり、そして現 イノベーションである。つまり、 「技 ルは間違いない!」 「製品力=商品力」 在に至る。導入期を終え、成長期の渦 術力が勝負!」 「技術があれば、事業に の時代だったのである。 中にあるモデルといえよう。 勝てる」 時代であり、また 「インベンシ ただし、この時期は、プロダクトイノ この中で勝ち続ける世界の勝ち組 ョン (発明) =イノベーション (新価値 ベーション (画期的製品の創新普及) と 企業は、技術の圧倒的優位により事業 の創出)」 の時代だったのである。 いうよりは、むしろプロセスイノベー で勝っているのだろうか。答えは、半 ション (製造工程の画期的変革) の徹 分イエス・半分ノーである。例えば、 イ 底がこの時期の競争力の源泉であっ ンテル、 アップル等の成功は、 技術自体 た。すなわち生産プロセスを徹底して だけではなく、技術を確実に事業に活 競争力モデルの第3期は、複数の垂 改善することによって、日本は競争力 かす 「ビジネスモデル」 と、それを可能 直統合型自前主義の 「切磋琢磨型」 の をつけていったのである。素晴らしい ならしめる 「標準化を含む知財マネジ 時代である。第2期のモデルの欧米 技術者が画期的な生産工程をつくり メント」 によるものである。 第3期 複数企業による 「切磋琢磨型」 の時代 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 5 (かける)」 関係をつくるのがビジネス モデルと広義の知財マネジメントであ る) 第二は、従来のビジネスモデル、す なわち 「良い技術、強い製品、根性ある 営業」 というモデルは陳腐化している ということだ。標準化を含む知財マネ ジメントを織り込んだ、したたかなビ ジネスモデルを創出しなければやって いけない。日本では、ほとんど全ての 分野がビジネスモデル転換で遅れを そこで、 現在の第4期を私は 「新しい 例を表に示そう。ここで個々のモデル とっている。この 「ビジネスモデルの ビジネスモデルと知財マネジメントの については拙書 ( 『技術力で勝る日本 変容と多様化」 の時代に入ったことを 開発・展開による国際斜形分業型」 の が、なぜ事業で負けるのか』 ダイヤモン 真摯に認識することが第一歩である。 時代と呼んでいる。すなわち、 ビジネス ド社、 2009年) をお読みいただくことに 第三は、 ネットワーク社会が、 顧客価 モデルが競争力の源泉である時代だ。 して、ここで重要な点をいくつか申し 値のあり方を大きく変えていることが 上げよう。 重要である。スタンドアローン型製品 逆を言えば、技術という知を使う知 の開発を日本は怠っているのである。 は限界を迎え、全ての分野 第一は、ビジネスモデルの変容と多 (単体製品) 様化の背景に、競争力モデルが 「従来 でサービスレイヤーとの共同による相 モデルの錬磨」 から 「画期的なモデル 乗的価値提供へと移りつつある。例 創新」 の時代へと変わっていること、す えば、iPhoneとiTunes Storeとがお ビジネスモデルは、あっという間に なわち改善インプルーブメントの時代 互いに連動して相乗効果を生むよう 変容し、そして多様化している。代表 から、画期的な価値提供モデルの創出 なモデルである。あるいは、現在のパ イノベーションの ソコンの状況を考えてみれば良いだろ 時代へと移ったこ う。20年前にパソコンは 「計算機」 だっ ビジネスモデルの変容と 多様化が進む 「インサイド」モデル(基幹部品主導型) ● 「アウトサイド」モデル(完成品主導権) ● 「マルチメディア、ネッ とである。しかも、 た。10年前には 「古典的」モデル(一製品一市場形成型) ー脱「古典」化モデル イノベーション= トワークメディア」 だった。現在のパ インベンション (技 ソコンは 「サービスのインターフェイ 「プリンタビジネス」モデル(本体+消耗品) 術の発明・開発) で ス」 である。若い世代にとっては、パソ 「エレベータビジネス」モデル(本体×メインテナンス) はなく、 イノベーシ コンとTVと携帯電話の区別はないこ ョン=インベンシ とに気づかなければならない。 ● ● ● ー脱「エレベータ」ビジネス ・「ソリューション」モデル ・「オペレーション」モデル ー「ブルドーザー」モデル ビジネスモデルの変容と多様化 6 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER ョン×普及ディフ 建設関係でいえば、コマツのブルド ュージョンである ーザがGPSを介してネットワークとつ 点に注意が必要で ながることによって、機器だけでなく ある。 (ここで「× サービスという領域でも価値を提供す RANDOM FOCUS COMPETITION IN THE INTERNATIONAL MARKET るようになって、キャタピラとの競争 向」 の再編が必要となるし、 また他業界 なわちどうすれば勝てるかを考え抜い に打ち勝ったことを思い起こせば良い におけるビジネスモデルの成功・失敗 たところが勝つのだ。 だろう。 を学ばないといけなくなることも言う これらのことは、従来の 「製品=商 品」 から 「製品×サービス=商品サービ までもない。 いずれにせよ、技術力だけでは勝て ない。技術を活かすビジネスモデルと、 第六に、新興国市場が今後の世界舞 それを可能とする (標準化を含む) 知 スシステム」 への移行を意味している。 台になっていくということだ。欧米企 財マネジメントが勝負を左右する。す ハードウエアとしての 「製品」 だけでな 業と新興国企業の 「イノベーション共 なわち 「技術という知を使う知」 の時代 く、その価値を最大限引き上げるサー 闘」 が進展すれば日本ははじき飛ばさ が来ているのである。そのとき、技術 ビスが連動する。すなわちシステムと れるだろう。また、 「米国デファクト、 開発競争のみならず、 「ビジネスモデ しての 「商品サービス」 が構成され始め 欧州デジュール、中国と新興国の大ガ ル開発競争」 「知財マネジメント開発 たのだ。逆を言えば、製品というもの に注力すべきだ。技術を語るだ ラパゴス」 の中で 「日本小ガラパゴス」 競争」 が、スタンドアローンの完成品からネ のままで良いかということになる。 ットワークサービスにつながる全体の けでは勝てないのである。実践的・本 以上のように、ビジネスモデルは多 格的な 「三位一体」 経営が求められ、そ 一部品へと変化してきているのである。 様化、 複雑化している。世界では、 エレ れを司る 「事業軍師」 の育成が喫緊の だとすると、第五に、従来の業界・ クトロニクス産業を先導役として、あ 業種といった分野の区分が陳腐化 らゆる業界で 「ビジネスモデル」 の変容 していくのは 必 然 であるというこ と多様化が進んでいるのである。まだ とだ。 「イシュー志向」 「顧客価値志 まだ新しいビジネスモデルは出現する 課題である。 技術力だけでは勝てないこと の自覚から始める はずだ。それらを見る イノベーションについて世界を先導 につけ、技術が必要充分 するパルミサーノIBM会長は 「ゲーム 条件の時代は終わった のルールを変えた者だけが勝つ」 と言 ことが実感される。技 う。ビジネスの世界で勝ちたければ、 術開発競争だけではな (法的な制約の中であることはもちろ く、ビジネスモデル開発 んだが) 、 市場競争のゲームのルールは 競争にも突入したので 自ら 「イノベーション」 するものだとい ある。知が勝負の時代 うことだ。 ではない。 「知を使う知」 とすれば、当然イノベーションのル が競争力を決める時代 ールあるいは競争力モデルを具現化 になってきたのだ。と するビジネスモデルという 「仕組み、 いうことは、大企業でも 仕掛け、仕切り」 を、自ら変えていくこ その資源を使う知の開 とが重要となる。過去の競争力モデ 発が遅れたところは滅 ルに固執せず、現在世界で動いている を知るところから始めなけ 亡する。中小企業であ “からくり” っても、その資源を使う ればならないのである。 知を開発したところ、す SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 7 ディスピュート・ボードを活用して建設 優秀な熟練エンジニアが学び直せば強い戦力 欧米の建設契約は 紛争が起こることを前提に ディスピュート・ボード(DB: 紛争裁定委員会)を設置する ●建設業の現状と日本の技術力 広瀬 今日は京都大学経営研究センターの大本先生に、「建設業の国際展 開と課題」というテーマでお話を伺いたいのですが、その前に、日本の建設業 の現状や技術力について、どのようにお考えでしょうか。 大本 日本は公共投資がどんどん減っていますから、ゼネコン(総合請負 者)やコンサルタントが技術力を保ちながら仕事をしていこうと思ったら、海 外へ行かざるを得ません。国内においては、アセットマネジメント、つまりイ ンフラストラクチャーの維持管理がほとんどになってきます。 ゼネコンといっても、受注した工事で、実際に土を掘り、海で杭打ちし ている人たちはサブコン(下請業者)です。ゼネコンは、マネジメントの能力 のウエイトが大きくなってきています。日本文化の中で、サブコンを使う技 術とまとめていく技術、発注者側と交渉する力を結集して仕事を行っている ●大本 俊彦 京都大学経営管理大学院教授 経営研究センター長 京都大学大学院修士課程土木工学専攻 修了、大成建設(株)に勤務後、休職し、 ロンドン大学建設法及び仲裁修士課 程修了(工学修士)。その後、大成建設 (株)国際事業本部土木部部長を経て、 平成13年9月「大本俊彦建設プロジェ クト・コンサルタント」設立。京都大 学博士(工学)。2005年京都大学特命教 授、2006年より現職。FIDIC公認アジュ ディケーター、CIArb国際仲裁人とし ても活躍。専門分野は仲裁人、調停人、 建設プロジェクト・マネジメント、紛 争防止/解決。 わけです。それがいったん国外に出ると、サブコンや発注者の文化が我が国 と違いますから、なかなか力が発揮できないというのが現状だと思います。 広瀬 以前、海外視察に行ったとき、特にオランダでは建設会社もコンサル タントもインターナショナルに活躍していました。また、20 年ぐらい前にフ ランスに行ったとき、ちょうどユーロトンネルをつくっているときで、現地で は青函トンネルをものすごく褒めていました。 大本 ヨーロッパのコンサルタントやコントラクターにとっては世界が市 場です。技術の発展の段階は各国で違いますから、少し探せば日本の企業が 活躍できる海外の仕事は無尽蔵にあります。それにどう取り組むか。特にコ ンサルタントはエポックメイキングな仕事をすることが重要です。私はそれ がコンサルタントの技術力だと思います。 ●日本の建設契約と国際建設契約との違い (ディスピュート・ボード(DB:紛争裁定委員会)の設置) 広瀬 先生は国際仲裁人としてご活躍ですが、国際建設契約はどのように 進められているのでしょうか。 大本 日本では、紛争があまり表に出てきませんが、欧米、特にアメリカ、イ ギリスの建設契約になると紛争が絶えません。入札時、契約時に想定してい ない条件がたくさん出てきたり、雨で工事が遅れたり、政治的な原因で契約の 条件が変わる場合もあります。これまでの紛争は、工事が終わる頃に問題を 一挙に解決していました、と言うよりも問題を先送りにしてきました。時間 のプレッシャーのもとで和解が得られずに、最悪の場合は仲裁という法的手 続きに訴えなければなりませんでした。そういうことがあるため、建設契約 では紛争があることを前提に、ディスピュート・ボードをそのプロジェクト ごとに設置するようになってきています。 ディスピュート・ボードとは、一定程度以上の大きさ(例えば 50 億円 以上)のプロジェクトを想定して、インターナショナルな工事の経験が豊富 8 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 業の契約紛争に対応 TOP INTERVIEW となる で、契約解釈能力が高く、紛争解決の経験が豊かである3人の技術・法律専門 家による委員会(ボード)を設定し、紛争を予防し、紛争が発生しても早期に解 決することを目的とします。そのために工事開始時にボードを設置し、契約 書、図面、仕様書、工程表など全部渡しておきます。また3、4カ月に1回現場 日本人の契約概念は未成熟 個人との契約など契約の仕方、 建設契約の見直しを 訪問を行い、発注者、請負者、コンサルタントのヒヤリングをします。3人は 経験が豊富ですから、現場を見たらこのあたりで紛争が起こりそうだという ことが見えてくるわけです。大事なことは、紛争の芽の小さい間に摘んでし まうこと、それが一番大きな役目です。どうしても合意できないという問題 は、紛争裁定委員会に正式に提出して裁定を出してもらうという流れになり ます。 広瀬 東アジア、東南アジアではインフラ整備が急速に進んでいます。日 本が東アジアなどに国際進出するためには、企業としてどのような対応が必 要なのでしょうか。 大本 日本の企業はクレームの仕方や交渉の仕方が弱いから、最終的にお 金に結びつかないところがあります。そこで、ディスピュート・ボードが一 つの柱になるのではないかと私は思っています。交渉力やクレーム力が弱く ●広瀬 宗一 SCOPE 理事長 兼 建設マネジメント研究所所長 ても、ディスピュート・ボードがいろいろなことを公平に判断することによっ て、救われる部分も出てくるのではないでしょうか。 ●マルチパーティー・ディスピュート・ボードが果たす役割 広瀬 契約については、問題発生時の対応など今後の大きな課題というこ とですね。例えば、FIDIC約款と日本の約款との違いは、どのようなもので しょうか。 大本 ディスピュート・ボードは、1970 年代中頃から普及し始めて、現在 アメリカでディスピュート・ボードを設置したプロジェクトが 1300くらい 動いています。このシステムを 1995 年頃に世界銀行が融資する国際プロ ジェクトで使い始めました。その後、FIDIC(国際コンサルティング・エン ジニア協会)がそれを契約条項に取り込むようになりました。今では、ヨー ロッパ開発銀行や世界銀行がFIDICと協力して共通の契約条件書をつくり、 その中でディスピュート・ボードの設置が規定されています。これをFIDIC Harmonised Edition(MDB版)と呼んでいます。JICAの融資プロジェクト の入札書類の中にも、 このMDB版の契約条件書が含まれるようになりました。 ところで、大きいプロジェクト−例えば水力発電のプロジェクトの場 合、発注者と請負者はダムの工事についてはロット1、ダイバージョントンネ ルについてはロット2、地下発電所についてはロット3と、契約を分けたりし ますね。これを全部ディスピュート・ボードを共通にしたら、ボード・メンバー にはプロジェクトの全体像がよく見えて、トータルとして効率的であり、コス トセーブになるだろうというわけです。それから、元請と発注者の間で出る クレームというのは、基本的には下請から元請に来ているクレームといえま SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 9 す。実際に仕事をしている人たちは下請ですから、契約がそれぞれに独立し ていて違うけれども、これらの契約トータルでディスピュート・ボードを組 織できれば、一貫した結論が出ますし、コストセーブになります。 ちなみによく言われる日本の建設契約の片務性については、公共工事 標準請負契約約款を見る限り片務契約でもなんでもないです。実行するとき の運用で、片務になっているわけです。デザインビルドやターンキーのプロ 技術的に優れたエンジニアや 建設業の退職者が学び直して ディスピュート・ボード・メンバーに ジェクトでは、ジ・エンジニアという中立者を多くの場合置いていません。 マネジング・コントラクターなどを間に置いて、完全に発注者の代理人とし て仕事をしていますから日本の契約と同様、いわゆる三者構造になっていま せん。しかしそのような約款でもクレーム処理や紛争解決手続きは詳細に書 かれています。日本の契約書には、このような詳細手続きがどこにも書かれ ていません。クレームや紛争解決手続きが具体的ではないから、1回発注者 側が決めたら、請負者はこれを飲まざるを得ないということになり、片務だと いわれるわけです。 広瀬 次にDBの中で、個人との契約の考え方についてお聞きしたいのです が、成果に対する報酬か、対価か、個人の能力を買うという契約なのか、それと も過去の経歴を元にして、契約の単価を決めるのでしょうか。 大本 支払う対象は何かというと、働いていることそのものです。だから、 成果に対して払うのではなく、ディスピュート・ボード・メンバーである期間、 ずっとボード・メンバーとしての責務を果たすことに対してリテイナを払う わけです。ディスピュート・ボードを置く意味は、予防にあります。紛争が 一切なくてもいいわけです。日本の場合、会計検査が入ったときに、この契約 は紛争も何もなくてスムーズに終わっているけれど、3人に何でお金を払わ なければいけないのかといわれるかもしれませんが、何もなかったことが最 大の成果なのです。例えば 20 億円のクレームのために仲裁に行ったら、両当 事者それぞれがあっという間に2、3億円使います。これよりずっと小さい ディスピュート・ボードのコストは、保険というふうに考えればわかりやす いのです。 FIDICが非常に厳しい試験をして、国際的にこの人たちは大きく複雑 な仕事でもアジュディケーターとしてやっていけるという人たちのリストを 発表しています。ちなみに、私はこのリストに載っていますが、この試験の審 査委員(3 人)の 1 人でもあります。このリストには 50 人くらい載っているの ですが、アジア人では私しかいません。アジアでもっと増やしたいと思って います。国際級の大きな仕事でなくても主要な工事を見られるくらいの人を 国ごとに置くことをFIDICが提言しているのですが、日本でそれに似たこと やろうと思っています。 10 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER TOP INTERVIEW ●日本企業が失敗するクレーム処理 広瀬 国際契約の成功事例や失敗事例には、具体的にどのようなものがあ るのでしょうか。日本では、契約書をよく読まない、総価契約の規定に甘んじ ている問題などがあります。契約概念が進んでいるヨーロッパは、どのよう に対応しているのでしょうか。 大本 とにかく、契約書のクレーム手続きに従い、くじけずクレームを出す ことです。例えば、同じ発注者でロットAがイタリア業者、ロットBがフラン ス業者、ロットCが日本業者だとしたら、同じようなもめ方をしているのに、 A、Bの2社は仲裁に行かないでいい結果を出して交渉が終わっている。ロッ トCの日本業者だけが憂き目に会う。契約書の中には、追加の費用が発生し たり、工期が遅れるかもしれないときに、追加費用請求や工期延長クレームの 建設業が国際進出するには マネジメント能力や 技術能力を高めること 通知を出さなければなりません。クレーム通知はその事態がわかってから何 日以内に出さなければならないという手続きがしっかり書いてあります。そ の手続き規則から外れたら、その日数以内にやっていないがために、権利を失 うことがあります。また、どれだけの追加費用が発生しているのかというレ コードを随時出していかなければなりませんが、ビジネスライクにそういう ことをやり続けなければいけないのです。 契約では、クレームを査定してはじめて発注者が支払うことになって いるので、クレームを出さない限り、不服でも従わなければいけません。また クレーム査定に不服を表明しても、その後満足のいく解決がない場合は、仲裁 に行くことになります。仲裁に行くのはエネルギーがかなり必要です。時間 とお金もかかります。95%以上我々の方が正しいと思っていても結果はわか りませんからね。その間、支払ってももらえない。というわけで、仲裁にも行 かないというのが、ほとんどの失敗例です。成功に持っていくには、クレーム を契約条件書に書いてある規定通りに行い、追加費用のレコードも適宜提出 し、支払われなければ仲裁に行くことです。 ●建設業が国際進出するための国の役割や支援 広瀬 日本の建設業は、契約のあり方を含めた数々の課題をクリアして国 際進出を進めていきたいところですが、その際に必要となる国の役割や支援 について、何かご意見はありますか。 大本 JICAのようにディスピュート・ボードを導入することによって、日 本のコントラクターが安心して働けるようになるのが、一つのサポートだと 思います。それから、現地でお金を払ってもらえないときに、ゼネコンやコン サルタントがJICAや大使館に行ったら一緒に動いてくれるということも重 要なことです。この例は最近増えてきているようです。日本は、顔の見えな い援助をするのがモットーだったのですが、もう少し顔の見える援助に少し ずつ変わってきているようです。 広瀬 人材育成も重要だと思いますが、人材育成では、例えばスコットラン SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 11 ドでは、責任技術者にはマネジメント能力と技術能力が求められます。マネ ジメント能力を高めるには、どのような方法がありますか。 大本 京都大学大学院経営管理研究部(MBA)の下に経営研究センターが でき、外部資金を持ってきて研究するプロジェクトを一括して管理していま すが、このような機関を活用して教育をするということが考えられます。若 い人はもちろんですが、技術的に優れたエンジニアの再教育が非常に大事だ と思っています。今まで経験した人だったらマネジメント教育の意味もよく わかるはずですし、吸収も早いと思います。そういう「学び直し 」の予算を文 科省がつけるようになってきていますから、講座もつくるべきだという気が しています。 それからもう一つは、ディスピュート・ボードのメンバーは、相当な経 験が必要だということ。その業界で尊敬されている人には 80 歳の方もいて、 まだ現役です。私は還暦ですけれども、それでもまだ若造と思われるくらい です。日本のゼネコンやコンサルタントを退職された方、海外をよく経験し ていて言葉も堪能な方は学び直すことによって、ディスピュート・ボード・ メンバーになり得るのです。 広瀬 最後に、国の人も民間の人も元気がなくなっているように思われま すので、何か元気が出るようなメッセージをいただけますか。 大本 仕事を取って、そして契約書通りに運営して、そして相手が払わな かったら法的な手段に訴えても戦うという元気がなかったら、やっていけま せん。ゼネコンやコンサルタントは、専門家を外から雇うことができるわけ ですが、彼らをどうマネジメントするかも重要です。雇った甲斐があったと 思われるようにマネジメントすることが大切です。 広瀬 どうも長時間、貴重なお話をありがとうございました。 12 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER BEHIND PROJECT 日本の建設業の 国際競争力 これまでの事例から強みと弱みを探る 成 長戦略会議 日本の建設業は、これまで主に国内の社 ら、各分野の有識者で構成する国土交通省成長戦略会議を設 会資本の整備等を通じて、我が国の経済社会全体の発 置し、検討を行うこととしている。その検討課題の一つが、 「建 展に大きく貢献してきた。また、依然としてGDPや全就業者 設・運輸産業の更なる国際化」である。日本の建設業の積極 数の約 1 割を占める基幹産業でもある。一方、国内の公共投 的な国際展開に向けて業界自身に必要な取り組みや、そのた 資は、ピーク時の約 5 割まで減少している。 めに必要となる国が行う支援の枠組みなどの、様々な検討が 海外の建設市場を見ると、中・長期的に見て、アジアや中東 進められる予定だ。 地域では、社会資本整備や都市開発への大きな需要が見込ま では、これまで日本の建設業では、どのように海外事業に取 れている。このような中で、欧米の建設業は言うに及ばず、中 り組んできたのであろうか。受注段階、実施段階での日本と 国や韓国の建設業も、海外の建設市場において活発な活動を の相違点はあるのか。経験した海外事業を通して感じる日本 行っているが、日本の建設業は優れた技術を有してはいるも の建設業の強み弱みはあるのか。また今後、国際展開してい のの、欧米等と比べて海外市場への進出が十分になされてい く上で企業が行うべき方策はあるのか。あるいは、国等に期 るとは言い難い。 待する支援方策はあるのか。各建設業の担当者にそれぞれ手 国土交通省では、このような状況の中で、国際競争力を向上 懸けたプロジェクト等を基に話をお聞きした。 させるための成長戦略の確立が焦眉の急となっていることか CASE 1 フィリピン・バタンガス港開発工事 清水建設㈱ 札であった。同社は受注戦略として地元企業と共同企業体 国際支店土木部部長土屋紋一郎氏が入社した (JV)を組み、彼らの船舶、機材、人材を有効に活用することで 1982年当時は、オイルショック後の国内景気の低迷を受けて、 価格競争力を出すこととした。 各建設業が海外を目指した時期であった。土屋氏自身も海外 しかし、予想外の出来事があった。 「実は入札から受注まで 本部に配属され、2カ月の研修後にはインドネシア に赴任。以来、東南アジアを中心に海外事業に従事 している。 港湾関連では 2002 年のフィリピン・バタンガス 港開発工事を担当。作業所長(現場代理人)を務めた。 同社が受注したのは、飽和状態にあるマニラ港を補 完するためのコンテナバース、ジェネラルカーゴバ ース等を整備する2期工事である。工事は国際協力 銀行(JBIC)の一般ローン、アンタイドの国際競争入 ■バタンガス港開発2期工事概要 建 設 地:フィリピン共和国バタンガス州 発 注 者:フィリピン港湾局 受 注 者:清水建設− F.F.CRUZ JV 工 期:2002 年 3 月〜 2005 年 8 月(36 カ月) 工事内容:コンテナバース、ジェネラルカーゴバース及び 付帯施設整備、浚渫・埋立・用地造成 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 13 清水建設株式会社●土屋 紋一郎 国際支店 土木部長 予想外の着工の遅れ コストを抑えて工期を短縮 約2年かかりました。入札後の評価は、通常で半年、長くても 海外における日本企業の強みは「やはり品質を確保して工 1年未満ですが、これはフィリピンの政権交代が関係してい 期を守ることです。発注者やコンサルタントとの調整、設備 たと思います。また、工事区域に不法滞在者がいたために着 業者などとの調整といった場面で、日本の建設業者が工事を 工できず、工事は約8カ月遅れでスタートせざるを得ません リードする形になります。そういう面では他国の建設業者に でした 」。ようやく着工ができたと思った矢先、発注者から 比べて大きな信頼を得ていると思います。その反面、契約上、 一般カーゴバースを早期に供用したいという強い要望が出さ 調整できない、解決できないことが出てきたときのクレーム れた。 「発注者に強く望まれたことから、コストを抑える方向 対応・交渉力などの面では、弱いと思います。契約知識に通 で設計変更を行い、早期の供用にこたえる提案をしました」。 じた技術者の育成が急務です 」。 この事業では日本のコンサルタントが、設計及び工事の管理 今まで経験した国々での、大使館、JICAなどからの支援は、 を担当していた。コンサルタントと協力して設計変更を発注 大変心強いものがあったという。今後さらに国に期待するこ 者に説明して承認を得た。結果、工事は順調に進み、発注者の ととして「例えば、ODAの工事では、相手国の対応が不十分 要望通り早期供用を実現できた。 で、工事代金の支払いが遅れるというケースもあり、今後、こ 実施段階では、JVを組んだ地元企業との考え方の違いに れがスムーズに行われるよう、相手国へ働きかける仕組みを 苦労した。 「初めて組む相手でしたので、例えば1日の作業の 国の支援として組み込んでいただくとありがたいですね 」。 進め方にしても、最初は我々が組み立てたプランが、なかなか 今後の海外進出について土屋氏は、「当社は 30 年来、東南 受け入れられませんでした。そのため、しばらくは相手の意 アジアを中心に活動してきましたので、やはりこの地域で 見を取り入れた折衷案で進め、徐々に理解を得て信頼関係を 我々の得意分野が活かせるプロジェクトを一つずつ確実にや 築いていくことができました 」。 っていきたいと思います 」と語る。 トルコ・ボスポラス海峡横断鉄道プロジェクト 一 長)小山文男氏は、国内で培った沈埋トンネル工事の経験が求 方、大成建設㈱元国際支店トルコ・ボスポラス海 められ、初めての海外・トルコに約 5 年間赴任した。 「アジア 峡横断鉄道トンネル建設工事作業所長(現横浜支店土木部部 側とヨーロッパ側を結ぶトンネルの建設はトルコの 150 年前 CASE 2 からの夢の国家プロジェクトでした 」。 事業はJBICの環境円借款によるもの。入札は日本企業数 社での競争となった。 「工事の対象となるボスポラス海峡は 急潮流の海域で、かつ水深も最大 60 mあります。入札前の技 ■ボスポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事概要 建 設 地:トルコ共和国イスタンブール市 発 注 者:トルコ共和国 運輸通信省・鉄道・港湾・空港建設総局 受 注 者:大成建設− Gama − Nurol JV 工 期:2004 年 8 月〜 2009 年 4 月(56 カ月) 工事内容:沈埋トンネル部(1,387 m) 、シールドトンネ ル(総延長 18,720 m:9,360 m× 2(複線) ) 、 山岳駅舎1、開削駅舎2、地上駅舎1 ボスポラス海峡全景。写真左に工事の一部が見える 14 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 術的な施工計 画の段階でこ の潮流のデー タを調べたの ですが、短期 間のデータし かなく判断が BEHIND PROJECT 難しかったです 」。地元企業 2 社とのJVを組んだが、「混成 日本の建設業の強みは技術力にあるとのこと。 「特にさま チームというわけではありません。3 社で工区分けをして、 ざまな状況に適応できるように改良したり、技術開発といっ お互いの仕事の接点の調整を行う形で工事を行いました 」。 た創意工夫が得意だと思います。」一方、課題としてはマネジ 大成建設の担当工区のうち、小山氏が担当した工区は海峡 メント力の強化が挙がった。 「個人的意見ですが、交渉力があ 部分の沈埋トンネル、延長 1387 m。 「この海峡は年間6万隻が り、契約の知識を有したPM(プロジェクトマネジャー)を質・ 輻輳する過密航路です。そのような場所で工事を行う場合、 量ともに育成する必要を感じています。また、事業遂行過程 日本では入札前に航行安全委員会等をつくって安全計画を立 で発生するリスクへの対応・回避能力を磨く必要もあります。 てるものですが、この工事では事前の詳細検討がされておら 特に海外事業では契約約款や技術基準に苦労します。知識・ ず、我々が地元政府の担当部局や船会社と協議を行いながら 経験不足から内容が十分に把握できずにリスクに陥る危険性 計画を立てました 」。 が常にあるのです 」。 実施体制については、トルコのエンジニアや労働者を現地 この事業では国土交通省や外務省を始め、多くの支援、協力 採用した。 「コンクリート打設などについては現地の会社を が得られた。 「何しろトルコにとって一大国家プロジェクト 使いましたが、沈埋トンネルについては経験がありませんか ですから、さまざまな場面で政府が出てきます。そのような ら、日本から熟練の技術者を連れて行き、彼らに現地労働者の ときに日本の関係機関の支援は非常に心強いものでした。事 訓練をして技能をつけてもらう方法を採りました。急潮流で 業の規模等にもよると思いますが、今後もこのような支援・ の操船や沈埋函の沈設作業についても同様です 」。 協力体制をお願いしたいと思います 」。 大成建設株式会社●小山 文男 横浜支店 土木部部長(工事部長) ■元 国際支店 トルコ・ボルポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事 作業所長 大水深、 急潮流、 過密航路 心強かった日本の支援・協力 サハリン・LNGプロジェクト 「技術的には既存の にLNGプラントとLNG・原油出荷基地を建設する事業であ 日本の技術で対応できる工事でした 」と語る東亜 る。現場は冬季には− 30℃になる何も無い原野だ。事業は 建設工業㈱国際事業部工事部長石井誠一郎氏が従事したサハ BOT(ビルド・オペレート・トランスファー)によって行われ リンLNGプロジェクトは、サハリン島のプリゴロドノエ地区 た。 「非常に特色ある地域での難しい条件の工事となるため、 CASE 3 発注者もその施工条件に耐えられる業者を選ぶと予想されま した。入札段階での事前審査で我々はその条件に適っていた。 次に価格競争となるわけです 」。東亜建設工業が受注したの は、LNG積出桟橋、OET(オイル・エクスポート・ターミナル)、 工事用のコンクリートサプライの3つの工事。単独での受注 である。 入札前の事前調 ■サハリン LNG プロジェクト概要 建 設 地:ロシア共和国サハリン州 コルサコフ市プリゴロドノ地区 発 注 者:サハリンエナジー社 (Gazprom、Shell、三井物産、三菱商事) 受 注 者:東亜建設工業 工事内容:LNG 出荷設備、石油輸出基地(OET) 土木工事、生コンクリート生産・供給工 (写真提供:SEIC) 査では、自然条件の データ収集・分析 と同時に、現地の下 請業者や機材等の 調達の『アタリ』を つける。そのため、 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 15 東亜建設工業株式会社●石井 誠一郎 国際事業部 工事部長 人的要因で苦労したプロジェクト 現地業者の最後の一言に喜びが ロシア国内の大手建設会社に出向いたが、海洋土木工事の経 回、我々はイギリス人の契約管理者を横につけて仕事をする 験者が少ないということが判明した。そして「根本的にもの とともにクレームもしました。日本人の弱い業務と言われて の考え方が違うことがわかりました。彼らは独自の公式−例 いますが、工事における我々の成果も評価され、最悪の事態は えば、掘削の場合、重機、人、土質条件等のファクターを入れ 避けることができました 」。では、逆に強みは何か。 「やはり て、単価で1m3いくらと出す。それがとんでもなく高い。日 資金力。苦しい中でも下請にきちんと支払うこと。そして品 本的な積み上げで、数量×単価で集計して合計金額を出すと 質と工期を守ることだと思います 」。 いう発想がない。そのため話がかみ合わないわけです。最終 今後は「地理的に離れるとどうしてもトラブルの芽が大き 的に使った業者は日本人の考え方がある程度理解でき、常識 くなってからでないと見つかりません。ですから東南アジア 的な数字(基礎単価)が出てきましたので、そこで競争力がつ を中心に考えています。重要拠点としてはシンガポール、ベ きました 」。 トナム、インドネシア。地元だけではなく、各国から優秀な人 工事とともに自分たちの住む場所も確保しなければならな 材が集中していますので彼らを雇う。またフィリピンでは人 かった。 「現地で古い工場を購入し、宿舎につくり変えること 材派遣の機能があり、主にエンジニアを各国に送り出すとい にしたのですが、 当初より発注者のHSE (ヘルス・セーフティ・ うことも行っています 」。 エンバイロメント)の基準が厳しく、ここでもいろいろな指摘 国の支援について石井氏は「日本の建設業はODA関係の 事項が出てきました 」。また、現地の労働者に長時間働く習 仕事に依存している部分が多いのですが、場合によっては現 慣がなく、残業代を受け取るまでなかなか信用しないなど、文 地政府対日本の建設業という図式になるケースもあります。 化の違いもあり慣れるまでに時間がかかった。それでも「仕 そのようなケースも想定してプロジェクトを捉えていただき 事に対してきちんと対価を支払うことで、信頼関係が生まれ たい。例えば、ODAでも場合によっては契約的な問題が起 相手の心を掴むことができた。石材を調達した石屋の社長の こるケースも考えられます。そのような場面で動いていただ 『身内の血は濃い 』の一言は本当にうれしかったですね 」。 く。そういうことを希望します 」と語る。 日本企業の弱みと言われるマネジメント力については「今 CASE 4 日本の建設業の海外事業 1961 年のスエズ運河 半ばからは香港もコンスタントな受注を継続している。直轄 改修工事を契機に海外事業を展開する 五洋建設㈱は、展開を大きく4期に分けて捉えて きた。事業の中身と展開マーケットは、第1期(60・ 70 年代)は埋立浚渫事業が中心で中近東から東南 アジアへ、第2期(80 年代)は埋立浚渫に加えて建 築工事にも注力し中東・東南アジア、第3期(90 年 代)は埋立、建築とも大型化し、東南アジア中心、そ して第4期(03 年以降)は利益重視でアジアを中心 としている。エリア別の受注構成も 60 〜 70 年代 の中近東・アフリカがメインであったが、70 年代 からシンガポールでの受注比率が増え、80 年初め からは常に 50%以上を占めるようになり、80 年代 16 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 図−1 五洋建設の主な施工実績の一つ、シンガポールの埋立エリア。図中、黄色、桃色の部分が五洋建設によるエリア BEHIND PROJECT 五洋建設株式会社●柿本 泰二 国際事業本部 執行役員本部長 経験を重ねて情報の蓄積を 身の丈に合った事業を選択 の営業所を東南アジア中心に配置し、特に香港、ベトナム、シ も勉強しなければいけない大切なポイントです」 。 ンガポールをその中核と位置づけて活動している。 国に期待する支援については「貿易保険」や「海外経歴を国 50 年以上にわたる海外経験から、日本の建設業の海外進出 内への反映」があるという。 「現在、輸出代金の回収に関する についてどのような意見があるか。五洋建設㈱国際事業本部 保険はあります。しかし、建設業にとって工事代金の回収を 本部長柿本泰二氏は「海外展開の重要なポイントは利益重視 担保するという意味で、貿易保険はまだ十分ではないような を考え、量は追わないこと。その工事をやり遂げるだけの人 気がします。また、すでに国で御検討いただいている様です 材が集まるかということ。そして、その工事が我々の技術が が、海外で長期間勤務すると、帰国後、国内公共事業工事の経 活かせるものかだと思います 」と語る。営業拠点を中心に広 歴にそれが反映されなく、評価の対象で不利になる問題が出 げていく方針をとっているのもそのためだ。 「やはり経験は ています。海外工事の経験が各個人のキャリアのプラスにな 重要です。発注者であれ、協力業者であれ、専門業者であれ、 れば、海外赴任者の人選も楽になります。海外経験を積む大 海外では人の能力に負うところは非常に大きいです。入札前 切さを考慮していただければと思います 」。 の段階から、どんな発注者か、どことJVを組むことが有利か、 海外工事の受注取組み方針については、「国内収益減を理 どこに下請を依頼するか等を考えるわけですから、それまで 由に海外へ、という考え方は違うと思います。我々は量を追 に培ってきた信頼できる人とのつながりがとても重要になり ってはいません。過度な入札競争は極力避けて、身の丈にあ ます 」。 ったボリューム、そして我々の技術力が活かせる難易度の高 また、「契約書も各国によって条件が違います。ときには い工事を選んでチャレンジしています 」。 国によって『請け負け 』することもあり 得ますが、これも現地の状況がどれだけ わかっているかによって程度が異なり ます 」。 工事の成否に影響し、一般的に日本企 業の弱点とされるクレーム力について は、「これは欧米企業に学ぶところは大 きいです。彼らは問題解決のためには 何年かかっても交渉し、目標の数字に持 っていく粘り強さがあります。正統な 理由であれば要所でクレームして相手 を納得させて交渉を成立させます。我々 五洋建設が海外へと展開するきっかけになったスエズ運河改修工事。NHKの『プロジェクトX』で取り上 げられ話題にもなった 「人」 と「国の支援」がキーワード 今回4社に海外事 と同じ状況にして国内で練習を兼ねるようなボーダーレス化 業についてお聞きしたが、共通の課題としては を図っていくことも検討すべきであろう。建設業の海外展開 マネジメント力のある人材育成と国の強力な支援を挙げてい では、官民一体となった行動や貿易保険の拡充などもかかせ る。いわゆる団塊の世代の活用という声もあれば、早く若い ない。各国でマネジメントができるグローバルな人材をどう 世代に移行する方がよいという声もあった。いずれにしても、 育成するか、国がどのような支援ができるか。今後の海外事 急には対応できる事柄ではない。また、国内調達も国際調達 業進出の鍵だといえる。 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 17 ■池上 康之 佐賀大学 海洋エネルギー研究センター 准教授 日本の港から 海のスマートグリッドを ZOOM UP 広大な海から 豊潤なエネルギーを取り出す れています。液体のアンモニアは、ポ ンプにより蒸発器に送られます。アン モニアは蒸発器の中で表層の温かい海 海には、豊富なエネルギーが様々な 水で暖められ蒸気になります。その蒸 形で蓄えられています。これらを有効 気でタービンを回して発電機で発電し に取り出し、化石燃料などに代わる環 ます。タービンを出たアンモニア蒸気 境にやさしいエネルギーとしてその利 は凝縮器に入り、深層から汲み上げら 用の推進が期待されています。海洋エ れた冷たい海水で冷やされ液体に戻り ネルギーには、 海洋温度差発電、 波力発 ます。これを繰り返すことで発電する 電、 潮流発電、 海洋濃度差発電などの利 ことができます(図−1) 。 用例があり、それぞれの分野で研究が また、OTECを通して、 海洋深層水、 海水淡水化、水素製造、稀金属 (リチウ 進められています。 佐賀大学では、これらの海洋エネル ギーの中でも、特に海洋温度差発電に 着目し、 研究を続けています。 その研究拠点となるのが、伊万里市 にある佐賀大学海洋エネルギー研究セ ムなど) 回収、冷房利用などの複合的 利用も可能です。 オイルショックの経験から 海洋エネルギーの研究へ ンターです。同センターでは、海洋温 佐賀大学海洋エネルギー研究センタ 度差発電システムを中心に、海洋の有 ー准教授の池上先生がOTECの研究 する膨大な種々のエネルギー及びエネ に関わるようになったきっかけは、ま ルギー物質の回収とその有効利用のた だ小学生だった1970年代に経験した めの基礎的応用的及び実証的な研究を オイルショックでした。 「石油が来な 行っています。 くなる。紙が無くなるとパニック状態 海洋温度差発電 (Ocean Thermal になった大人たちの姿を見て、エネル Energy Conversion:OTEC)とは、 ギーの重要性に気づき、将来はエネル 表層と深層の海水の温度差を利用して ギーに関する職業に就きたいと思いま 発電するシステムです。OTECは、蒸 した」 。進学先を模索していた高校生 発器、 凝縮器、 タービン、 発電機、 ポンプ のときに、偶然にも佐賀大学でOTEC で構成されており、構成機器はパイプ の実験に成功とのテレビのニュースを で連結され、 作動流体 (伝動の媒体とな 目にし、この研究では佐賀大学が世界 る流体) として、 アンモニア等が封入さ でもトップクラスであり、非常にユニ 図−1 海洋温度差発電 (OTEC) の原理 18 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER この人の仕事場 Vol.12 海洋温度差発電装置及び海水淡水化実験室にて ークな研究を行っているという話を聞 いて、佐賀大学への進学を決意。当時 研究の中心を担っていた上原春男教授 (現在:NPO法人海洋温度差発電推進 機構理事長) に師事して、以来20年以 上、OTECの研究に従事しています。 OTECの原理が考案されたのは最近 のことではありません。その歴史は 1881年にフランスのダンゾンバール が熱帯地方の海水の表層と深層で温度 差があることに注目し、この温度差を 利用して熱機関を作動させることを考 え出し、OTECの原理を発表したこ とが始まりです。世界中で本格的な研 【海洋温度差発電及びその複合的利用としての海水淡水化実験室全景】 海洋温度差発電装置は30kW の出力。海洋淡水化装置は毎量10トンの性能を有する。海水淡水化は、OTECの蒸発器で熱交換 された表層の海水を 「フラッシュ式蒸発器」に入れて瞬時に蒸発させて、この蒸気のみを回収して、 OTECの凝縮器を出た深層の海水で凝縮して 「純水」 を得る。この方法で海水から容易に真水を得る ことができる 究が始まるのは、やはり石油の代替エ のため、発表当時からそんな小さい温 は、過去に海外で発表されたOTECサ ネルギーの模索が始まったオイルショ 度差では発電できないのではないか。 イクルの理論的研究に基づいて、明ら ック後です。 仮に発電できたとしても採算が取れな かになった課題を解決すべく発明され OTECの特徴は利用する温度差にあ いのではないかと否定的にいわれてい た佐賀大学方式の新しいサイクルで ります。 「化石燃料やウランを利用し ました。しかし、 1979年、アメリカが す。この発明は、佐賀大学の国有特許 た発電では、通常500 〜 600℃、あるい ハワイで行った世界で最初に成功した として日本国内はもとより、アメリカ は1500℃という大きな温度差で発電 プロジェクトでは、 きちんと発電し、 か 及びヨーロッパに出願し特許取得しま します。OTECが利用する海水の温度 つ採算も取れることを証明しました」 。 した。このサイクルを実験的に立証す 差は約20 〜 25℃と非常に小さい。そ 同センターのOTEC実証プラント るために 「海洋温度差発電新システム」 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 19 ZOOM UP を96年3月に増設。94年3月イギリ スで開催された国際海洋温度差発電会 議でこの方式を佐賀大学方式として発 表すると、 各国の研究者から注目され、 それ以来この方式は「ウエハラサイク ル」と呼ばれるようになりました(図 −2) 。同センターでは、 この方式の基 礎的実証研究を行っています。30年 以上に及ぶその研究実績は、世界でも 最先端を進んでいるとも言われてお り、国内のみならず海外との国際交流 も盛んに行われています。 図−2 海洋エネルギー研究センターのOTECサイクル 【水素実験室】海水淡水化 で得た真水をOTECで得 た電力で電気分解して水 素を発生させる。センター では海洋エネルギーの複 合 的 利 用 を 目 指 し て、次 世代エネルギーといわれ る水素エネルギーの製造、 貯蔵、 利用を含めた研究を 行っている。センター内 の各施設を案内してくれ たのはセンター技術専門 職員の浦田氏 【リチウム回収実験室】稀 金属を多量に含む海水か ら、 センターで開発した吸 着剤を利用してリチウム の回収を行っている。リ チウムは電気自動車や携 帯用電子機器の充電池の 原料として使われている。 【海洋深層水環境実験室】 長 さ10m、幅 1 m、深 さ 1.6m (水深1.2m)の水槽 内は、6つの層別に温度、 流速をコントロールでき るすぐれもの。この装置 を用いて、海洋肥沃化、海 洋温度差発電の排水及び 吸水モデルの構築、 波浪エ ネルギーの利用及び海水 と環境の相互影響等に関 する研究を行っている 【総合監視室】センター内 の海洋温度差エネルギー の複合的利用の全装置を 一度に運転、 監視できる。 現在インターネットを 使って、 センター外でも制 御可能になるようにシス テムも開発中 【教育用OTEC模擬 装 置 】海 洋 エ ネ ル ギーに関する教育 を目的に、海洋温度 差発電や海水淡水 化の装置をわかり やすく模擬した体 験型の教材。実際 には見ることがで きない装置内での さまざまな現象を 見ることができる 20 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 【センター外観】重要港湾 伊万里港内埋立地 「伊万里 サスティナブル・フロン ティア知的特区」 に立地。 2003年 に 現 在 の セ ン ターが完成した。2005 年よりセンターが所有す る設備を全国の大学・研 究機関に幅広く利用して もらうため 「全国共同利用 施設」 として運用を開始。 毎年20 〜 30件の応募が 集まる。ちなみに見学者 は年間3000 〜 4000人 この人の仕事場 Vol.12 で2020年までに25%削減という目標 れを実証するためには1000kW、1万 を国が掲げた今、既存エネルギーとさ kWの大規模な整備が必要になりま まざまな自然エネルギーが連携を図っ す。初期投資は高くなりますが、高い 現在、海洋エネルギー利用の分野で ていく中で、海洋エネルギーはかなり 稼働率から考えると、大きくつくった はイギリスが世界をリードしており、 のポテンシャルを持っていると思いま 方が結果として安く電力を供給するこ イギリスを中心に、欧米でMW級の実 す」 。 とができます」 。 海外で進む OTEC 実用化への動き 証研究が産学官の連携により積極的に 海外では実用化に向けた動きが活 推進されています。日本では研究室レ 発化しています。アメリカは早けれ ベルでは世界の最先端ともいわれ、多 ば2013年 に ハ ワ イ で1万kW出 力 の くの関連技術を有してはいますが、実 OTEC整備計画が進められおり、同セ 現在、海洋エネルギーを巡る世界の 証研究では世界から10年以上遅れて ンターへも情報交換のために何度も訪 動きは、 実証研究の進展とともに、 「国 いるといわれています。 「特に日本で れているそうです。また、海洋エネル 際標準化」 に関する議論も活発です。 は海洋エネルギーが『新エネルギー』 ギーに関するベンチャー企業や関連企 これらはすべてイギリスが先導してお と定義されていないため、国からの支 業が100社以上と新しい雇用の創出に り、日本は大きく水を開けられていま 援が得られない状況にあります。日本 もつながるなど、海外における海洋エ す。 以外の国では『新エネルギー』と位置 ネルギーの裾野は大きな広がりをみせ づけ、国を挙げて実証段階で確実に研 ています。 海のスマートグリッド を目指して 「今は海外から協力要請もあり、海外 プロジェクトに積極的に参加していま 究を進めています」 。そのような中、 同センターとの共同研究や研究支援 すが、早く日本で実証実験がやりたい 日本でも2007年の「海洋基本法」 施行 の問い合わせもインド、 スリランカ、 韓 と思っています。深層の海水は水深 以来、少しずつ機運が熟しつつあり、 国、台湾、フィリピンなどから多数あ 600 〜 1000mから汲み上げる必要が 2009年に初めてNEDOが海洋エネル り、中でもインド政府による1000kW ありますが、日本には小笠原や太平洋 ギーに予算をつけるといった動きも出 のOTEC建設計画では同センターの の離島などその条件に合うところがた てきました。 協力の下、 2001年にバージ型OTEC実 くさんあります。港湾関係のみなさん OTECのもう一つの特徴に稼働率 験船 「サガ・シャクティー」 が完成。現 には、ぜひスマートグリッドの中でも の高さがあります。 「同じ自然エネル 在海水温度差エネルギーを利用した海 『海のスマートグリッド』 、 いわゆる 『ブ ギーを利用した太陽光発電が10 〜 15 水淡水化が実用化され大型化が検討さ ルー・スマートグリッド』 の窓口ある %、風力発電が30 〜 40%に対して、 れています。このように同センターは いは基幹としてのリーダー的役割を担 OTECは80 〜 90%にもなります。太 海洋エネルギーに関する日本代表とし って、海を積極的に利用した持続可能 陽光や風力は非常に変動しますので て、国際的にも貢献しています。 「佐賀 な発展のためにイニシアティブを発揮 稼動率はどうしても低くなりますが、 大学は1973年以来あらゆる課題に取 していただければ、佐賀大学海洋エネ 海洋エネルギーは他に比べてエネル り組み、現在までに11基の実験プラン ルギー研究センターとしても積極的な ギー密度が高く、非常に質の良い電力 トを建設しています。すでに実用化の 貢献ができると思っています」 。 ができます。温暖化ガスを1990年比 目処をつけたといえます。ただし、そ 【センター内にある伊万里 市 の 紹 介 コ ー ナ ー】セ ン ターの前身となる実験施 設が伊万里市内にできた の が1980年。 セ ン タ ー と伊万里市はそれ以来連 携している 【伊万里湾大橋】伊万里湾 のシンボル的存在になっ ている。東西両岸に分散 された伊万里港の一体化 を 図 る た め、2003年 に 暫定2車線で供用を開始 した。写真左側埋立地奥 に海洋エネルギー研究セ ンターは立地 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 21 S C O P E ● C O L U M N 「食」で巡る北国便り 第6回 ●亀井 重信 SCOPE 仙台支部 仙台男子厨房に入ろう会 副会長 芯から温まる 鍋壊し 今 回は、テレビ番組のお話から始めたいと思います。 実は今年2010年1月3日に放送された『人生の楽 園 新春スペシャル2010』 (テレビ朝日系) という番組で、 我が「仙台男子厨房に入ろう会」 の会長である佐藤鉄次郎 さんが紹介されました。佐藤会長は定年退職後、 09年3 月に塩釜市の隣接する利府町の駅前にある屋台村に「海 鮮料理ひこばえ」をオープンしました。私も有志ととも に暖簾を贈呈したのですが、マグロの脳天、ノド肉、ホホ 肉といった珍しい部位を使ったメニューが人気で、私も 何度も足を運んでいます。 番組ではそんな会長の日常と仕事ぶりが紹介されまし たが、ほんの数分、男厨会会長としての顔も紹介されまし た。取材当日は仲間とともに料理を用意し、会長を囲ん で3、 4時間の撮影となりました。私自身の名前は出ませ んでしたが、 「もしかしたら」 と思った知人、友人から電 話をもらい、さすがは全国放送と感心しました。この会 に入会してからというもの、本当に新たな経験をしてお り、 楽しい日々を過ごしています。 さて、番組でも一瞬大写しになった当日の料理 「カジカ 汁」 を紹介したいと思います。 「カジカ (鰍、杜父魚)」 という魚は、なかなか店頭に並ぶ ことが少ない魚です。地元北海道ではそろそろ雪の頼り が聞こえる頃にこの魚が水揚げされて本当によく食べた ものでした。見た目は非常にグロテスクで、例えれば南 方で獲れる「オコゼ」 の大型と思ってください。同じ仲間 は河川に棲むものもいますが、 海で水揚げされるものは、 大きいもので70cm 以上10kgにもなります。 これが 「カジカ」 。見た目で判断してはいけません。味です、 味 22 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 故郷の同級生たちと。地元のほとんどの友人は漁師、 酪農家としてたくまし く生きています。左端がいつもカジカを送ってくれる松川雄一君。60歳で 町会議員に立候補して、 いまでは 「先生」 です 「カジカ汁」 の作り方は、いたって簡単。カジカを適当 な大きさに切り分け、卵や肝臓なども一緒に大根、豆腐等 と煮込んで味噌で味付けします。最後にネギも入れて完 成です。カジカから美味しいダシが出るので、他のダシ は必要ありません。冬のしばれる時期には体の芯から温 まります。 以前、仙台でもなかなか手に入らないため、地元の友人 に食べたいと伝えると、 「いつでも捕れるわけではない ので、網に迷い込んできたら送る」 との返事。しばらくし て「送った」 との連絡を受け、急いで友人を集めて「カジ カパーティ」を開催。ほとんどの友人は初めてみる魚で したが、料理自慢が大半を刺身にしてしまいました。刺 身もいいですが、この魚は絶対鍋が旨い。再度送っても らい北海道の味を堪能してもらいました。その後、パー ティに参加できなかった仲間からの突き上げが強烈でし たが‥‥。 カジカは、あまりの旨さに鍋をつついて壊すところか ら「鍋壊し」 の異名もあるとのこと。そんな呼び方がある とは知りませんでしたが、どうも市場に回すほど数が揚 がらないので地元で消費するようです、ほとんどタダ同 然の価格で。地元の友人も「カジカより送料の方が高い」 と一言。北海道でなければわからない味の一つです。 S C O P E ● C O L U M N 今さら聞けない IT 講座 地上デジタル 放送って? そもそも、地上デジタル放送って? アナログ放送のみ デジタル放送開始(現在) VHF 帯 アナログ アナログ 2011 年(完全移行後) (周波数帯を空け 有効利用へ) ナー内蔵録画機器) 、③ケーブルテレビ加入による受信 (ケ デジタル&アナログ UHF 帯 デジタル 総務省の調べ(2009年3月) では、地上デジタル放送 (以 ーブルテレビ専用受信機等) です。またテレビはプラズマ アナログ 下、地デジ) 対応受信機の普及は6割を超えました。デジタ 有効利用へ) と液晶の2種類あり、映画派には黒の再現力に優れたプラズ ル放送への完全移行がいよいよ来年7月 (予定) に迫る中、今 マ、品揃えでは液晶といわれていますが、各々特色がありま 回はそもそもの導入のねらいや多種揃っている地デジ対応 すので、 実際に見て確認するのがよいでしょう。 テレビの動向をご紹介し、地デジの楽しみ方や2台目をお考 えの方も含め、 選択ポイントを見ていきたいと思います。 地上デジタル放送は、テレビ放送のデジタル化でIT戦 略の一環として行われてきました。 世界的な動向も受けて、 ①テレビを総合情報端末とし、誰もが多様な情報を入手で きる(家庭内の情報化) 環境を構築する。②現在、余裕のな い電波状況のもとデジタル化でチャンネルを減らし、空い た周波数を他の用途に有効利用する、 等がねらいです。 アナログ放送のみ デジタル放送開始(現在) (周波数帯を空け 図̶1 デジタル放送における周波数の有効利用イメージ 特 色 プラズマ TV 液晶 TV 黒の再現力 ◎ ○ 画面の明るさ ○ ◎ 残像感の少なさ ◎ ○ 映り込み ○ ◎ パネルの強度 ◎ ○ ※特色:一般的な傾向です 品揃えの豊富さ ○ ◎ ( ◎最適 ○やや適当) 図̶2 プラズマ TV と液晶 TV の特色 地デジ対応テレビの動向は? エコポイント制度導入の追い風を受け、一機に拡大した テレビ市場。下記は主な動向です。①大画面化:40型以 アナログ (周波数帯を空け 有効利用へ) デジタル&アナログ デジタル ていましたが価格の下落等、現在は一般層向け1台目とし アナログ (周波数帯を空け 有効利用へ) て推奨。②録画機能:テレビ単体で録画や再生ができます VHF 帯 アナログ UHF 帯 アナログ 2011 年(完全移行後) アナログ 図̶1 デジタル放送における周波数の有効利用イメージ アナログ放送と、どう変わるの? 特 色 プラズマ TV 液晶 TV 黒の再現力 ◎ ○ 残像感の少なさ ◎ ○ パネルの強度 ◎ ○ ch 1 3 4 上の大画面テレビ。当初映画を楽しみたい層等が想定され 12 13 62 (録画機器、不要) 。③ネット接続機能:直接ネットを接続 しテレビでネットを見るという新しい視聴スタイルです。 ④低価格化:昨年大手スーパーが32型を3万9800円で発売。 22型では2万円台での発売等、単身者向けや2台目として ◎ ○ 画面の明るさ きめ細かく鮮やかなハイビジョン映像の美しさは誰もが も注目されています。今後は駆け込み需要を見込んだ低価 ◎ ○ 映り込み 納得するところです。ニュースや天気予報等が見られるデ 格、高機能テレビや低消費電力タイプが更に台頭してくる ータ放送。字幕放送 (文字テロップの表示) は高齢者や障害 ◎ ○ 品揃えの豊富さ ( ◎最適 ○やや適当) でしょう。 図̶2 プラズマ TV と液晶 TV の特色 のある方にも便利な機能です。また電子番組表は一週間先 アナログ放送の停波に備え、全テレビ (家庭内含め) の対 までの閲覧や予約等、 能動的な視聴が可能です。 応が必要です。地デジは“見るだけのテレビから利用する ※特色:一般的な傾向です 地上デジタル放送の視聴は? テレビ” へとスタイルの変化でもあります。将来の先行投 資にと“利用するテレビ” を前提にするか、当分は“見るだ けのテレビ” (チューナー設置等) にするか、用途や選択ポ 大きく3つの方法があります。①地デジ対応テレビの設 イントの絞り込みが鍵となるでしょう。自分たちに合った 置、②地デジ対応テレビチューナーの設置 (またはチュー 地デジ生活を考えて、 選択されるのをおすすめします。 SCOPE NET VOL.54 2010 WINTER 23 本部 〒100−0013 東京都千代田区霞が関3−3−1 尚友会館3F TEL 03−3503−2081(代表) /FAX 03−5512−7515 (代表) ○企 画 部 TEL 03−3503−2081 ○調査第一部 TEL 03−3503−2804 ○調査第二部 TEL 03−3503−2280 ○調査第三部 TEL 03−3503−2801 ○認定登録部 TEL 03−3503−2939 ○建設マネジメント研究所 TEL 03−3503−2803 北海道支部 〒060−0003 札幌市中央区北3条西3−1−47 ヒューリック札幌NORTH33ビル4F TEL 011−206−1271/FAX 011−233−1281 仙台支部 〒980−0021 仙台市青葉区中央2−10−12 仙台マルセンビル3F TEL 022−722−8231/FAX 022−722−8232 新潟支部 〒950−0965 新潟市中央区新光町11−7 新潟光ビル8F TEL 025−281−8315/FAX 025−281−8316 横浜支部 〒231−0006 横浜市中区南仲通3−32−1みなとファンタジアビル6F TEL 045−640−1391/FAX 045−651−2298 羽田空港支部 〒144−0041 東京都大田区羽田空港3丁目5番7号 メンテナンスセンター アネックスビル4F TEL 03−5756−6036/FAX 03−5756−0053 名古屋支部 〒460−0008 名古屋市中区栄1−6−14 御園座会館4F TEL 052−204−6122/FAX 052−204−6123 神戸支部 〒650−0024 神戸市中央区海岸通6 建隆ビル㈼ 6F TEL 078−334−2535/FAX 078−334−2536 関西空港支部 〒549−0021 大阪府泉南市泉州空港南1番地 給油センター車輌整備場内事務室2F TEL 072−455−4780/FAX 072−455−4780 広島支部 〒730−0051 広島市中区大手町1−1−20 相生橋ビル6F TEL 082−545−7815/FAX 082−545−7816 高松支部 〒760−0019 香川県高松市サンポート1−1 高松港旅客ターミナルビル6F TEL 087−811−3111/FAX 087−811−3112 福岡支部 〒812−0011 福岡市博多区博多駅前2−3−23 安田三井不動産ビル2F TEL 092−441−2802/FAX 092−441−2803 沖縄支部 〒900−0016 那覇市前島2−21−13 ふそうビル12F TEL 098−868−2251/FAX 098−868−2252 編集後記 建設は、そもそも国内・海外の区別なく、ボーダレスで、そこの調達条件や現場条件に合わせて構造物をつくるものであり、海外勤 務経験で日本の建設技術力が国際的に遜色ないのに、なぜ日本企業がもっと活躍できないのか疑問に感じていました。今後、400 兆円市場と言われる世界インフラ争奪戦(日経ビジネス)の中で、国土交通省では4成長戦略の一つとして “運輸・建設産業の更なる 国際化” を掲げており、 この疑問が少しでも明らかになればと思い、今回の特集といたしました。皆様の参考になれば幸いです。 SCOPE SERVICE CENTER OF PORT ENGINEERING 発行 財団法人 港湾空港建設技術サービスセンター 〒100−0013 東京都千代田区霞が関3−3−1 尚友会館3階 TEL 03−3503−2081 FAX 03−5512−7515 URL http://www.scopenet.or.jp 制作協力:バス・コーポレーション 本誌は環境にやさしい植物性大豆油 インクを使用しています。
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