SSKA頸損 No.114 2014 年 12 月 9 日発行 イギリス旅行 ~ Travel to United Kingdom 篠田 義人(頸髄損傷者連絡会・岐阜) 9月上旬に、妻と二人でイギリス旅行へ行って来ました。旅行の前 半はレンタカーでコッツウォルズの村を周り、後半はロンドンの街 歩きをしました。 コッツウォルズ(Cotswolds) コッツウォルズ地方は、ロンドンから東へ車で1時間半ほどの、イ ングランド中央部に広がる標高 300m 以上の丘陵地帯で、13〜15 世紀の中世期には、羊毛製品がヨーロッパ全域にかけて交易される など栄え、黄色いライムストーンと呼ばれる石灰岩で出来た石積み ハリーポッターの撮影も行われたレイコック寺院 の建物が当時のまま残る小さな村が点在しています。 レンタカーでの移動 外国でのレンタカーの運転は少し緊張しますが、時間を気にせず自由に好きなところ へ行けるし、 荷物の運搬なども楽で田舎での滞在にはとても便利です。以前のグアム、 ハワイ、ニュージーランドの旅行でも、私でも運転できる改造したレンタカーを借り た経験があり、コッツウォルズも公共交通機関の少ない田舎なので、今回も車を借り ることにしました。日本に代理店のある大手のレンタカー会社をいくつか確認してみ たところ、アメリカでは対応車種も多く使いやすいのですが、その他の国では都市に よって改造車を取り扱っていなかったり、 運転装置の形式が限定されてしまったりと、 使いづらいので、昨年のニュージーランドに続き、今回も現地のレンタカー会社をイ ンターネットで探し直接メールで交渉して車を借りました。 イギリスでの車の運転 イギリスは、日本と同じ左側通行で車も右ハンドル、交通ルールもほぼ同じで、距離 と速度がマイル表示なのと、最近日本でも採用されるようになった「ラウンドアバウ ト」というロータリー式の交差点が多くある点が日本と違うくらいです。ニュージー ランドでもラウンドアバウトが沢山あったので体験済ですが、イギリスは車がない時 代からの道が多いためか、道が複雑なのでラウンドアバウトも大きなものや形が変則 的なもの、信号がついているものもあり、走りながら標識を見て理解する余裕がなく ロータリーを余分に回ってしまうこともありましたが、とりあえず事故もなく大丈夫 でした。道案内はスマートフォンの「Google マップ」がカーナビとして活躍してくれ ましたが、電波の届かない山間部を走るときは役に立たないので、道に迷いそうでス 1835 年から残る保存鉄道車イス席 リリングでした。 モーターウェイ(70マイル毎時の高速道路)も走りましたが、イギリス人は車の運転が結構荒っぽくて車間距離も短いし 車線変更も素早く慣れるまで少し恐かったのですが、流れに乗って走ると皆運転が上手くてスムーズで「さすがロータスや マクラーレンの国だわ」と感心しました。 ロンドンからオックスフォードへのモー レンタルした車 ディーゼル車のフォー -15- 17世紀頃の大地主の邸宅 SSKA頸損 No.114 2014 年 12 月 9 日発行 宿泊はB&B コッツウォルズでの宿泊はチェルトナム(Cheltenham)という街で、ホテルではなく 日本でいう民宿に近い「B&B(Bed and Breakfast:ベッド・アンド・ブレックファ スト) 」という、民家で寝室と朝食を提供してくれる宿に3泊ホームステイしました。 インターネットで車イスの利用可能なB&Bを探してメールで交渉しました。B&B はニュージーランドでも利用しましたが、個人宅なので庭を見たり、ペットや羊など の家畜とのふれあいも、ホストファミリーとの交流も楽しく、B&B宿泊も旅行の楽 宿泊した B&B しみになっています、料金もホテルよりも安価です。 ロンドン街歩き 後半は、ロンドンに戻り車を返却して、ダブルデッカー(Double Decker:2階建て の赤いバス)や、チューブ(Tube:世界初のロンドン地下鉄)や、ブラックキャブ(Black cab:ロンドンの黒いタクシー) 、テムズ川のリバーバス、テムズ川を跨いでロンドン 市街を一望できるエミレーツ航空のゴンドラ、 オーバーグラウンド (地上を走る電車) など、色々な交通機関を「オイスターカード(Oyster Card :Suica みたいなチャー ジ式のカード) 」を使ったりしながら、バッキンガム宮殿、大英博物館、ウェストミン バッキンガム宮殿 スター寺院、ビッグベン、ロンドン・ブリッジ、ロンドン塔、セントポール大聖堂な ど、ロンドンの有名なところを見たり、買い物をしたりと、市内の ホテルに宿泊して4日間街歩きをしてきました。 ドイツ、オーストリア、イタリアの街でもそうでしたが、旧市街は 中世の雰囲気がそのまま残っていて歴史的な建造物がいっぱいで荘 厳な景観に圧倒され、その場所にいるだけで感動的です。ただ、道 が石畳で傾斜も多いので車イスの走行は結構厳しく、事前に色々と 調べては行くものの現場へ行かないと石畳や傾斜の状態はわからな いので、臨機応変にバスやタクシーなどを使って移動しました。 ロンドン交通局(Transport for London)のサイトはスマートフォン 二階建てバス スロープは運転席から操 対応で、現在地(GPSで自動的に入力される)と目的地を入力す ると、車イスでの利用も含めた公共交通機関の経路(バス停や駅から現地までの徒歩の道順も)と時間と段差や昇降設備の 情報まで教えてくれるので、とても便利でした。 ヨーロッパのトイレの便座は高い イギリスのトイレは便座の腰掛け位置が高いです。私は背が高いので、どちらかと言えば快適 に利用できましたが、たぶん標準的な日本人には、あの便座は高すぎると思います。ドイツ・ オーストリアでもイタリアでもそうでしたが、欧州の便座は高いです、それと国によって流す ボタンやレバーが違っていてどうやって流すか悩むこともあります。 イギリスのバリアフリー 2012 年にロンドンでオリンピック・パラリンピックが開催された事もあってか、今回の旅行で 利用した公共交通機関や宿泊施設、観光施設などで、すごく不便なことはなかったように思い TAXI も全車スロープ付 ます。ただ車イスマークのトイレで鍵がかかっているところがいくつかあって、障害のある市 民はトイレの共通の「鍵(RADAR Key) 」を持って利用することが出来るのですが、旅行者は 基本的に使えません。場所によっては「近くの売店(事務所)で鍵を借りるように」と書いて あったところもありました、これは不便でした。 外国へ行って感じるのは、いつも使っている日本のトイレやスロープ、エレベーターなどのハ ード(設備)は出来がよいのだということ。エレベーターの静かさやドアの開閉など機械は、 自分が行った国で日本のものよりも高品質で繊細なものは殆どないと感じました。ただし、利 用できる施設の数、わかりやすさ、利用しやすさ、人の対応や考え方なども含め、日本のバリ アフリーも昔に比べれば飛躍的に改善されて来ましたが、公共的なモノやサービスに対する思 想も含めて、まだまだ使いやすく出来る余地があるのかなと思います。 -16- トイレの鍵 SSKA頸損 No.114 2014 年 12 月 9 日発行 旅行は楽しい サッカーを観るのが好きで、2006 年の FIFA ワールドカップドイツ大会へ現地観戦に行って以 来、旅行にはまってしまい、お金を貯めて色々なところへ妻と二人で旅行へ行っています。 私は、握力も少しありますので車イスを自分でこぐことも出来、身の回りのことも日常生活で は、ほぼ自立していて頸髄損傷者として重度ではないのですが、それでも海外旅行となると自 分のなかでも色々な困難を乗り越える必要があり気軽に行けるという感覚でもなく、 やはり 「面 倒だし疲れるし、 お金も時間も必要だから旅行なんて行かなくてもいい」 と考えていましたが、 いざ異国へ行ってみると日常なかなか味わえないような体験の中に、特別な楽しさが沢山あっ て、行くたびに新しい発見もあって、どんどんはまり今では旅行が一番の趣味になりました。 車イスでの海外旅行について 車イス利用者が海外旅行へ行く場合 (1) 一般向け旅行代理店のツアーに参加 (2) 障害のある人の旅行を企画している代理店のツアーに参加 (3) 代理店などに個別に企画してもらい、航空機やホテル等を手配してもらう (4) 自分で企画して自分で手配する のいずれかになると思います。 (1)が安くて選択肢も多く手っ取り早いし添乗員などもいて 騎馬に頭を舐められた 安心なのですが、広告やカタログで見る「中欧周遊7日間」などというツアーは、移動や宿 泊施設、スケジュールなどが車イス利用者の参加を前提として企画されていないので、 (対応 可能なツアーもあるようですが、歩行が可能な高齢の車イス利用者とか)で、まず難しいこ とが多いようです。 必然的に(2)か(3)か(4)になるのですが、最近は(2)の障害のある方のツアーも、 大手の旅行会社も参入して選択肢が増えていて、添乗員も同行して移動や宿泊などの対応も 細やかなようですので、随分条件が良くなってきていると思います。 (3)や(4)は、自分だけで行動しなければならないので言葉の問題などもあり大変です ストーンヘンジ が、いろいろな面で自由なので、ツアーとは違った楽しさもあると思います。最近は日系や 欧米の航空会社も車イス利用者への対応がかなり良くなってきているようですし、どこの空港でも車イスの旅行者をよく見 かけます。行きたい所や日程、予算、目的、障害の状態、付き添い、経験度などによって、自分に合った旅行を選んで行く のが良いのではと思います。 自分で考えてやる辛さと楽しさ 私の場合は、ほとんどが(4)で、ガイドブックやインターネットから情報収集しながら旅行のルートを考え、航空券や宿 泊先も手配します。最近は、公共交通機関や観光施設、ホテルなどは、ウェブサイトで障害のある方のアクセス情報を掲載 することも増えてきましたが、特に宿泊施設の場合は規模や地域によって様々なので、メールや電話で自分の状態を伝えて 利用可能か確認します。 今は計画段階から色々と考えることも楽しいのですが、最初の頃は「道路に傾斜や段差があったらどうしよう」とか「トイ レはどこに?」とか「パンクしたらどうしよう」など、旅行へ行く前にあれこれ考えて不安になって疲れてしまうこともあ りました。しかし、実際に行ってみると、想定通りの事もあれば、心配していたのがアホらしくなるような事もあれば、全 く想定外のハプニングが起きてしまったりと様々ですが、終わってみればすべてが良い想い出として残っているし、自分の 価値観が変わるような出来事もあったりして有意義な体験ばかりです。 人それぞれ色々な状況があるので一概には言えませんが、私が思うに、やってみたい・行ってみたいと思ったら、あれこれ 悩んでいるより勇気を出して行動してみると、結果が思ったとおりでなくても、その時の経験はその後の自分にとってプラ スになっていると思います。 私の旅の楽しみは「達成感」かも 長くなりましたが、今回のイギリスも皆が知っているような場所に行って来ただけで、これといった目玉もないのですが、 やはり自分で企画・手配した旅は、ひとつひとつに愛着もあるし、色々な不安と新しい体験への期待を抱えながら「冒険し ているような気分」で、知らない場所へ行き見聞きして、想像出来ない事が毎回あって、無事家まで戻ってくると「達成感」 のようなものがあります、今回のイギリスも自分にとっては楽しく思い出に残る旅となりました。 -17-
© Copyright 2024 Paperzz