PDFファイル - Tohoku University

第 7 回 日本進化学会大会
プログラム・講演要旨集
Society of Evolutionary Studies, Japan
The 7th Annual Meeting in Sendai
Program and Abstracts
2005 年 8 月 26 日(金)∼29 日(月)
仙台国際センター 26 日(金)
東北大学川内キャンパス 27 日(土)∼29 日(月)
August 26 – 29, 2005
Sendai International Center 26th
TOHOKU University, Kawauchi campus 27th – 29th
大会本部
東北大学大学院生命科学研究科
第 7 回日本進化学会大会実行委員会
(共催:東北大学大学院生命科学研究科)
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
目次 大会日程・時間割
P3
会場案内
P4
注意事項とお知らせ
P8
国際シンポジウム一覧
P10
シンポジウム・ワークショップ・英語口頭発表・自由集会一覧
P11
ポスター発表一覧 P13
国際シンポジウム要旨 P25
シンポジウム・ワークショップ・英語口頭発表・自由集会要旨
P28
ポスター発表要旨 P93
進化学夏の学校案内および要旨
特別企画:種分化講義
P146
P147
参加者名簿 P148
For foreign participants
P157
2
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
大会日程・時間割
(S):企画シンポジウム (K):公募シンポジウム (W):ワークショップ
会場
会場
A
10:30-12-30
評議委員会
D
13:15-13:45
授賞式
8:50-10:50
1−A1:(S)
環境微生物ゲノム
の多様性と進化
11:00-13:00
1−C1:(K)
蛋白質間相互作用
による細胞内シグ
ナル伝達系の進化
18:00-19:00
受賞講演
総会
F
1−F1:(K)
Vertical space
structure (E)
13:50-15:50
16:00-18:00
1−C2:(W)
発光生物からみた
生物の多様性と進
化
1−C3:(S)
古生物学と生物学から
見た生物の絶滅事変の
実体
ポスター発表
1−E2:(S)
微生物共生の相互
作用と進化
18:30-20:30
1−A4:(K)
ゲノム比較から見えて
きたゲノムと生命の進
化の全貌
1−D1:(K)
システムとしての生命と進化
1−E1:(S)
発生と進化
1−D4:(K)
昆虫社会内のコンフリ
クト
1−E4:(K)
空間スケールでみる感
染と共進化
1−F2:(K)
(11:00-13:30)
Ecokogical and
molecular approaches to
Island Biology (E)
懇親会
(川内生協)
1−F4:(K)
Evolutionary biology
of behavioral
isolation (E)
8月28日(東北大学川内キャンパス)
会場
8:50-10:50
2−A1:(K)
ゲノムの多様性から
探る生物集団の構造
と歴史
11:00-13:00
2−A2:(W)
ゲノムのダイナミ
ックス・維持・進
化(1)
B
2−B1:(S)
脳と行動の多様性と
進化
2−B2:(K)
意識の進化
C
2−C1:(S)
感覚シグナルと感覚
受容系の進化1:色
素細胞
D
2−D1:(K)
人間社会と進化
E
2−E1:(K)
コンパクトな生態系
としての内部共生
F
2−F1:(S)
侵入と進化
G
15:00-18-00
国際シンポジウム
公開シンポジウム
1−A2:(S)
自己認識システムの
ゲノム進化
1−B1:(W)
言語の起源と進化
E
A
13:45-14:45
8月27日(東北大学川内キャンパス)
B
C
(E) In Englsih
8月26日(仙台国際センター)
13:50-15:50
16:00-18:00
2−A4:(W)
ゲノムのダイナミック
ス・維持・進化(2)
2−B4:(S)
行動進化の遺伝子機構
2−C2:(S)
(11:00-13:30)
感覚シグナルと感覚受容
系の進化2:オプシン
2−D2:(S)
送粉者の行動から
眺める送粉系
2−E2:(W)
生態系に対する進
化の影響
2−F2:(W)
交配形質の進化と
種分化
2−G2
(12:00-13:20)
英語口頭発表
ポスター発表
3
18:10-20:10
2−B5:(K)
(18:10-20:40)
表現型進化を巡る多角
的な視座
2−C4:(S)
(16:00-19:00)
感覚シグナルと感覚受容系の進化
3:嗅覚受容機構
2−D4:(K)(16:00-19:00)
プランクトンとベントスのカップリ
ング進化
2−E4:(K)
アーキアを中心とした微
生物の進化をたどる
2−F4:(K)
左右性の分子機構と適応
進化
2−G4: (自由集会)
2−G5: (自由集会)
実証進化学としての新今 ヤフー掲示板「新今西
西進化論
討論」
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
会場案内
26日(金)
仙台国際センター
〒980-0856 仙台市青葉区青葉山
Tel. 022-265-2211 Fax 022-265-2485
27日(土)∼29日(月)
東北大学 川内キャンパス
〒980-8576 仙台市青葉区川内
Tel. 022(717)7800
交通アクセス
JR 仙台駅前バスプール 9 番乗り場より
仙台市営バス
【路線】
・動物公園循環
・宮教大・青葉台
・宮教大
・宮教大・成田山
のいずれか
→「扇坂」下車(川内キャンパス)
→「博物館・国際センター前」下車(仙台国際センター)
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
26 日(金):仙台国際センター
5
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
27 日(土)∼29 日(月):東北大学川内キャンパス
受付・シンポジウム・ワークショップ・ポスター展示会場
27 日(土)∼29 日(月)東北大学川内キャンパス
講義B棟
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
マルチメディア教育棟
7
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
注意事項とお知らせ
(1)参加受付
8月26日
12:00開始
受付場所:仙台国際センター二階 大会議室(橘)の入り口
8月27日、28日
8:15開始
受付場所:東北大学川内キャンパス 講義B棟1階 談話室
8月29日
8:15開始
受付場所:東北大学川内キャンパス マルチメディア教育棟
事前に登録された方には受付の際に、氏名・所属が印刷された名刺と「大会プログラム・
講演要旨集」をお渡しします。
当日参加の場合の料金は以下のとおりです。
○大会参加費 一般:6,000 円 学生:5,000 円 非会員:6,000 円
○懇親会費 一般:5,000 円 学生:5,000 円 非会員:5,000 円
評議委員会は 8 月 26 日 11 時より仙台国際センター二階 控室5 で行います。
(2)プレゼンテーション機器
★発表は原則的にプロジェクターを使用します。
シンポジウム・ワークショップ・自由集会は全て原則としてプロジェクターをパソコン
につないで投影する方法を取ります。プレビュールームを設けますので、必ず事前にそこ
で試写してください。
透明シート用のオーバーヘッド・プロジェクター(OHP)は、特に希望のあった会場
には貸出しますが、送でない会場にはご用意しませんので、くれぐれもご注意下さい。企
画責任者の方は必ずご自分の企画で講演される方の使用機器を確かめて下さい。もし、
OHP が急遽必要となった場合は、会場係か大会本部にご連絡ください。
★ノートパソコンは各自でご用意ください。
大会実行委員会側で一般会場にノートパソコンをご用意することはしません。皆様が普
段お使いのノートパソコンをご持参くださることを想定しております。企画責任者の方は、
本番でどなたのパソコンを使用するかのアレンジをお願いします。ノートパソコンをお持
ちでない方もいらっしゃるので、そういう方には USB メモリー、CD-R 等で講演ファイ
ルをご持参いただき、どのパソコンを使用して講演を行うかアレンジをして下さい。
8
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
(3)ポスター発表について
ポスターは毎日張り替え制です。毎朝 8 時 15 分から貼ることができます。パネルのサ
イズは 90cm 幅×240cm 高です。ポスター用パネルの番号が、その日のポスター番号に
なります。ポスター発表の時間は3限目(13 時 50 分∼15 時 50 分)ですが、お昼休み
(13 時∼)
から発表を行うことも可能です。夕方 18 時までには、必ずポスターを回収して下さい。
(4)学会賞受賞式・受賞記念講演
木村資生博士記念学術賞・研究奨励賞・教育啓蒙賞の授賞式ならびに木村賞受賞記念講
演は 8 月 26 日(金)13 時から仙台国際センター2 階 大会議室 橘 で開催されます。
参加申込みをしていない非会員でも聴講することができます。
(5)総会
総会は国際シンポジウム終了後、18 時から講堂で開催します。出席できるのは学会員
だけです。重要な議題がありますので学会員の方は参加をお願いします。
(6)懇親会
懇親会は 8 月 26 日(土)18 時 30 分から川内キャンパスの生協食堂にて開催されます。
懇親会への当日参加を希望される方は、受付にて懇親会費をお支払い下さい。名札に参加
者シールをお貼りします。
(7)構内は原則として全面禁煙
構内は屋外を問わず、原則として全ての場所で禁煙です。ただし携帯式の灰皿を持参し
て屋外で吸う分には黙認されています。携帯灰皿で喫煙して下さい。吸い歩きは禁じられ
ています。決して吸殻を落とすことのないよう、ご注意下さい。
(8)クローク
クロークを設ける予定です。8 時 15 分∼18 時の時間帯でご利用できます。ただし、貴
重品は荷物に入れたまま預けないで下さい。貴重品を入れたままにして、万が一紛失して
も、責任は負いかねます。
(9)昼食
昼食は生協食堂が開く予定ですが、もし開かない場合は弁当を販売します。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
国際シンポジウム 8 月 26 日
"Adaptive radiation and speciation"
_ 適応放散と種分化 _
15:00-15:10
Introduction.
Organizer: Masakado Kawata (Tohoku Univeristy)
企画者:河田雅圭 (東北大学・院・生命科学)
15:10-15:50 Dynamic patterns of adaptive radiation
Sergey Gavrilets (University of Tennesse, Knoxville)
適応放散の動態パターン
ガブリレッツ博士(テネシー大学)
15:50-16:20 Adaptive radiation in island snails
Satoshi Chiba (Graduate School of Life Sciences, Tohoku University)
島嶼巻き貝の適応放散
千葉聡博士(東北大学・院・生命科学)
16:20-17:00 Out of Oceania: Adaptive radiation of spiders on islands
Rosemary G. Gillespie(University of California, Berkeley)
オセアニアから広がって:島嶼でのクモの適応放散
ギレスピー博士カリフォルニア大学
17:00-17:40 Experimental Studies of Adaptive Radiation
Michael Travisano (University of Houston, Texas)
適応放散の実験的研究
トラビサノ博士(ヒューストン大学)
17:40-18:00 Evidence for adaptive radiation in seed-beetles (Coleoptera, Bruchinae)? - new insights
from ecological and molecular data.
Gaël J. Kergoat (Institute of Biological Control, University of Kyushu, Japan.)
マメゾウムシにおける適応放散の証拠
コルゲット博士(九州大学)
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
第7回大会 シンポジウム・ワークショップ・英語口頭発表・自由集会一覧
(S):企画シンポジウム (K):公募式シンポジウム (W):ワークショップ
8 月 27 日
1−A1:(S)
環境微生物ゲノムの多様性と進化
1−A2:(S)
自己認識システムのゲノム進化
1−A4:(K)
ゲノム比較から見えてきたゲノムと生命の進化の全貌
1−B1:(W)
言語の起源と進化
1−C1:(K)
蛋白質間相互作用による細胞内シグナル伝達系の進化
1−C2:(W)
発光生物からみた生物多様性と進化
1−C3:(S)
古生物学と生物学から見た生物の絶滅事変の実体
1−D1:(K)
システムとしての生命と進化_情報・ネットワーク・相互作用
1−D4:(K)
昆虫社会内のコンフリクト—性比、ポリシング、繁殖配分
1−E1:(S)
発生と進化−発生プログラムも進化する−
1−E2:(S)
微生物共生の相互作用と進化
1−E4:(K)
空間スケールでみる感染と共進化
1−F1:(K)
Vertical space structure:On metazoic genetic constitution adapting 1-g and hygiene environment
1−F2:(K)
Ecological and molecular approaches to Island Biology
1−F4:(K)
Evolutionary biology of behavioral isolation
8月28日
2−A1:(K)
ゲノムの多様性から探る生物集団の構造と歴史
2−A2:(W)
ゲノムのダイナミックス・維持・進化(1)
2−A4:(W)
ゲノムのダイナミックス・維持・進化(2)
2−B1:(S)
脳と行動の多様性と進化
2−B2:(K)
意識の進化
2−B4:(S)
行動の進化の遺伝子機構
2−B5:(K)
表現型進化を巡る多角的な視座:遺伝進化,発生進化,生態進化の視点から
2−C1:(S)
感覚シグナルと感覚受容系の進化1:色素細胞・感覚器の機能進化
2−C2:(S)
感覚シグナルと感覚受容系の進化2:オプシン及び視細胞の多様性と視覚の進化
2−C4:(S)
感覚シグナルと感覚受容系の進化3:脊椎動物の嗅覚受容機構の進化
2−D1:(K)
人間社会と進化:数理モデル研究の可能性と実証研究との関係
2−D2:(S)
送粉者の行動から眺める送粉系
2−D4:(K)
プランクトンとベントスのカップリング進化
2−E1:(K)
コンパクトな生態系としての内部共生:進化生態学の諸問題に取り組むモデル系としての
展望
2−E2:(W)
生態系に対する進化の影響
2−E4:(K)
アーキアを中心とした微生物の進化をたどる
2−F1:(S)
進入と進化
11
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
2−F2:(W)
交配形質の進化と種分化
2−F4:(K)
左右性の分子機構と適応進化
2−G2
英語口頭発表
2−G4
自由集会 実証進化学としての新今西進化論
2−G5
自由集会 ヤフー掲示板「新今西」討論
12
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ポスター発表一覧 8月27日
【P1−1】 カンザワハダニの休眠性に関する進化的考察
伊藤 桂
北大・農・動物生態
【P1−2】 なぜ陸生甲殻類のフナムシは潮間帯から離れられないのか
堀口弘子*,弘中満太郎,針山孝彦
浜松医科大・総合人間科学(生物)
【P1−3】 分散距離の性差の進化
廣田忠雄
国際基督教大学・理学/東京農工大学・動物行動
【P1−4】 貝住型シクリッドの進化
高橋鉄美*,渡辺勝敏,堀道雄
京都大院・理学
【P1−5】 ウミホタルの造反有理
若山典央
東北大院・生命科学
【P1−6】 Phenology or phylogeny?: Test of macroevolutionary pattern in host-plant shift
津 田み ど り (1)*, 立 石 庸 一(2), Buranapanichpan, S.(3), Kergoat, G.J.(1), Niyomdham, C.(4), Chou, L.-Y. (5),
Szentesi, A., Jermy, T. (6)
(1)九大院・農 (2)琉大・教育 (3)チェンマイ大 (4)タイ森林植物園 (5)台湾農研 (6)ハンガリー科ア・植保研
【P1−7】 繰り返し起こったチャルメルソウ類における送粉様式の変化とその進化的背景
奥山雄大(1)*,Olle Pellmyr(2),加藤真(1)
(1)京都大院・人間・環境学 (2)University of Idaho, Biological Sciences
【P1−8】 送粉者の学習が花の性的二型の進化に与える影響:モデルによる予備的検討
川越哲博(1)*, 鈴木信彦(2)
(1)神戸大・理・生物
(2)佐賀大・農
【P1−9】 閉鎖花における表現型可塑性の遺伝的背景を探る
森長真一(1)(2)*, 宮崎さおり(2), 酒井聡樹(1), 長谷部光泰(2)(3)
(1)東北大院・生命科学 (2)基生研・生物進化 (3)総研大・生命科学
【P1−10】タカラガイの貝殻形態を決める表現型可塑性
入江貴博*, 巖佐庸
九大・理・生物
【P1−11】イチモンジセセリにおける温度に対する卵サイズ可塑性の適応的意義
世古智一(1)*, 中筋房夫(2)
(1)近中四農研 (2)岡山大・農
【P1−12】クルミホソガ Acrocercops transecta(鱗翅目)におけるホストレース形成と寄主適応力の遺伝的背景
大島一正
北大院 農学
【P1−13】エゴツルクビオトシブミの吊り下げ型・切り落とし型揺籃におけるそれぞれの生存率と葉の
質の関係
13
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
小林知里*, 加藤真
京大院・人環
【P1−14】マルカメムシ類と腸内細菌における共種分化と絶対的共生関係の進化
細川貴弘(1)*,菊池義智(2), 深津武馬(1)
(1)産総研・生物機能工学
(2)コネチカット大
【P1−15】シジミチョウとアリの種特異的な共生メカニズムの解明
北條賢(1)*, 和田綾子(2), 尾崎まみこ(1), 山口進(3), 山岡亮平(1)
(1)京都工繊大・応用生物
(2)京大・応用生命科学
(3)昆虫写真家
【P1−16】資源獲得競争から生じる生物-環境間フィードバック調節モデル(種まき競争デイジーワールド
モデル)
瀬戸繭美*, 赤木右
東京農工大
【P1−17】囚人のジレンマゲームにおける協調の発生と伝播
川崎廣吉,重定南奈子
同志社大 文化情報学
【P1−18】シロアリのゲノムサイズと社会性の進化
越川滋行(1)*,松本忠夫(2),三浦徹(1)
(1)北大院・地球環境
(2)放送大・自然の理解
【P1−19】近親交配がトビイロシワアリ有翅雌に繁殖形質に及ぼす影響
松原由加里(1)*.真田幸代(2)
(1)岡山大院・環境
(2)岡山大院・環境
【P1−20】スズムシの雌の求愛シグナル選好性に対する齢の影響
栗和田 隆* 粕谷 英一
九大・理
【P1−21】モンシロチョウの配偶者特定鍵刺激(雌翅の色)の進化
小原 嘉明
東京農工大 農
【P1−22】生物群集の進化の履歴と侵入生物が引き起こす絶滅の規模の関係について
吉田勝彦
国立環境研究所
【P1−23】種の豊富さのパターンの統計力学的・動力学的理論
時田恵一郎
大阪大 サイバーメディアセンター
【P1−24】好適な環境は捕食者・被食者間の軍拡競走を促進させるか
広永良*, 山村則男
京都大 生態学研究センター
【P1−25】Experts Consuming Families of Experts: 食物網構造が進化に決定される
A G. Rossberg*, H. Matsuda, T. Amemiya, K. Itoh
横浜国立大
環境情報
【P1−26】肉食者との相利関係を介して植物が植食者を扶助するための進化条件
14
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
山村 則男
京大・生態学研究センター
【P1−27】兵隊アブラムシにおける社会システムの調節と維持機構
柴尾晴信(1),沓掛磨也子(2),松山茂(3),鈴木隆久(3),深津武馬(2)
(1)東京大 総合文化
(2)産業技術総合研究所 生物機構
(3)筑波大 生命環境科学
【P1−28】アミメアリの女王型ワーカーとオスの交尾行動及び有性生殖の可能性
真田幸代
岡山大院 環境学
【P1−29】モリブデン補酵素硫化酵素をコードする og 遺伝子の遺伝的多様性からみたカイコの家畜化
行弘研司(1)*、河本夏雄(1)
、小瀬川英一(2)
、廣川昌彦(2)
、立松謙一郎(2)
(1)(独)農業生物資源研究所昆虫分子進化(2)農業生物資源研究所昆虫遺伝
【P1−30】Heterorhabditis属の昆虫病原性線虫とその共生細菌Photorhabdus属間の分子系統解析および
種特異性
鍬田龍星(1)*、吉賀豊司(1)、吉田睦浩(2)、近藤栄造(1)
(1)佐賀大 農
(2)中央農業総合研究センター 線虫害
【P1−31】遺伝子重複前後での Rh 式血液型遺伝子の進化パターンの変化
北野 誉(1)*, 梅津和夫(1), 斎藤成也(2), 大澤資樹(1)
(1)山形大・医, (2)遺伝研・集団
【P1−32】コウモリダコ Vampyroteuthis infernalis のミトコンドリアゲノムの全塩基配列に基づく分子
系統解析
横堀伸一(1)*、Dhugal Lindsay(2)、丸山正(2)、大島泰郎(1)
(1)東京薬大・生命科学 (2)海洋研究開発機構・海洋生態環境
【P1−33】葉緑体広領域データにもとづくバオバブの系統進化
西本 由利子(1,2)*, 湯浅 浩史(3), 宝来 聰(4), 長谷川 政美(1,4)
(1)統数研 (2)総研大・葉山高等研 (3)進化研 (4)総研大・生命体
【P1−34】アリ植物マカランガに共生するカイガラムシ類の分子系統学的解析
上田昇平(1)*, Swee-Peck Quek(2), 市岡孝朗(3), Penny Gullan(4), 市野隆雄(5)
(1)信州大院 総合工学系 (2)Museum of Comparative Zoology, Harvard University (3)京大院 人間・環境学 (4) Entomology,
University of California (5)信州大 理
【P1−35】汎熱帯海流散布植物の分子系統地理:アメリカハマボウ(アオイ科)の遺伝的分化
高山 浩司(1), 梶田 忠(2), 邑田 仁(1), 立石 庸一(3)
(1)東大院・理
(2)千葉大・理
(3)琉球大・教育
【P1−36】ミトコンドリアゲノム解析に基づくカワイルカの系統進化に関する研究
曹 纓(1,2) *, 二階堂 雅人(3), 王 丁(4), 岡田 典弘(3), 長谷川 政美(1,2)
(1)統数研 (2)総研大・生命体 (3)東工大 (4)中国科学院水生研
【P1−37】ミトコンドリアゲノム全塩基配列を用いたイグアナ下目の分子系統学的研究
岡島 泰久*、サヤド アメル、熊澤 慶伯
名大院・理
【P1−38】ニホントカゲ(Eumeces japonicus,トカゲ科:爬虫綱)の日本列島における地理的分化
岡本 卓*,本川順子,疋田 努
15
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
京大・理
【P1−39】ミトコンドリア DNA を用いたオナガナメクジウオ属動物(頭索動物亜門・ナメクジウオ科)
の分子系統解析
昆 健志(1)*,野原正広(2),西田 睦(1),西川輝昭(3)
(1)東京大・海洋研
(2)(株)ハイテック
(3)名古屋大 博物館
【P1−40】クロロフィルb合成酵素(CAO)の系統的不連続分布
千国友子*, 坂口美亜子, 中山剛, 橋本哲男, 井上勲
筑波大・生命環境
【P1−41】複数遺伝子に基づくCentrohelidaの分子系統解析
坂口美亜子*,橋本哲男
筑波大 生命環境科学
【P1−42】生殖隔離を引き起こすウリミバエの時計遺伝子 period の系統間配列比較
大田由衣*・宮竹貴久(1)
・松本顕・(2)
・谷村禎一(3)
・松山隆志(4)
(1)岡山大院・環境(2)九州大高等教育セ(3)九州大院・理(4)沖縄農試
【P1−43】X 染色体上の 10kb 領域の塩基配列による人類集団遺伝学的解析は古代人の遺伝子流動を示唆
する
嶋田 誠(1)*, Jody Hey(2)
(1)Rutgers University (現所属:パーレジェンサイエンス・ジャパン株式会社)(2)tgers University
【P1−44】ミトコンドリア DNA に基づくヤマトオサムシの分子系統地理:地理的分化と浸透交雑の推定
長太伸章(1)*, 久保田耕平(2), 曽田貞滋(1)
(1)京都大院・理 (2)東京大院・農
【P1−45】Local Clock モデルの樹形選択と有根化への応用
田辺 晶史
東北大院・生命科学
【P1−46】ウズラとニワトリ MHC クラス II 領域の比較解析
細道一善(1)*,椎名隆(1),半澤惠(2),猪子英俊(1)
(1)東海大・医
(2)農大・農
【P1−47】六脚類の系統関係とその起源
佐々木剛(1)*,石渡啓介(2),宮田隆(1),(2),(3),蘇智慧(1),(2)
(1)JT 生命誌研究館
(2)大阪大院 理
(3)早稲田大 理工
【P1−48】Saccharomyces 属近縁種の分子進化過程における機能的制約の変化
川原善浩(1,2)*、今西規(1)
(1)産業技術総合研究所
(2)東京都立大 理
【P1−49】パラオ諸島海水湖に隔離されているイガイ科Brachidontes sp.の特異的進化
後藤 禎補(1), 半澤 直人(2)
(1)山形大院 理工 (2)山形大 理
【P1−50】起源の場所を推定する∼トビトカゲ属の場合
疋田 努
京大院 理
【P1−51】ヨモギハムシの異なる核型個体間の生殖的隔離
16
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
北村徳一(1)*, 藤山直之(2), 青塚正志(3)
(1)都立大院 理 (2)北教大函館・生物 (3)首都大・都市教養
【P1−52】酵母の種多様性と生殖隔離
杉原千紗*, 壷井基夫, 久冨泰資
福山大・生命工学
【P1−53】第3の形質が配偶者選択による同所的種分化を促進する
山内 淳*, 山村 則男
京都大 生態学研究センター
【P1−54】隔離強化の副産物として生じる生態的形質置換
小沼順二*, 千葉聡
東北大院 生命科学
【P1−55】機能システムの進化速度に及ぼす遺伝子間相互作用と分集団構造の効果
高橋亮
理研 GSC 個体遺伝情報
【P1−56】進化によって出来る細胞モデル系のアトラクター間の関係性について
石原秀至
東大総文
【P1−57】日本メダカの性染色体の解析
近藤真理子(1,2)*、I. Nanda (2)、U. Hornung (2)、佐々木貴史(3)、清水厚志(3)、今井周一郎(3)、浅川修一(3)、M.
Schmid(2)、野中勝(1)、清水信義(3)、M. Schartl (2)
(1)東大院 理 (2)ヴュルツブルク大・バイオセンター (3)慶應大・医
【P1−58】霊長類における性染色体分化とカールマン症候群
岩瀬峰代*、颯田葉子、高畑尚之
総研大 先導科学
【P1−59】屋久島におけるサンショウソウの形態と倍数性の変異
新田 梢*,矢原 徹一
九大院 理
【P1−60】四肢・ヒレ形成の多様性と位置情報
阿部玄武* 田村宏治
東北院・生命
【P1−61】ショウジョウバエ卵殻形態の収斂進化における発生機構の多様化に関する研究
影沢達夫*,中村征史,松野健治
東京理科大・基礎工
【P1−62】脊椎動物におけるHoxクラスタの上流配列のモチーフプロファイルによる進化解析
金子佳之*, 荻島創一, 田中博
東京医科歯科大院・システム情報生物学/生命情報学
【P1−63】形態形成にみる表現型遺伝型対応の進化モデル
藤本仰一(1)(2)*,石原秀至(1),金子邦彦(1)(2)
(1)東大院総合文化
(2)ERATO 複雑系生命
【P1−64】体表模様の基本的デザインは変化しにくい?:分子系統解析によって明らかとなったテンジ
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
クダイ属魚類における体表模様の進化パターン
馬渕浩司(1)*,奥田 昇(2),西田 睦(1)
(1) 東大海洋研
(2) 京大 生態研
【P1−65】日本産カワヤツメ(Lethenteron japonicum)のHox遺伝子の単離と発現パターンの解析;脊
椎動物におけるHoxコードはいかにして進化したか
瀧尾 陽子(1), Massimo Pasqualetti(2), 工樂 樹洋(1), Fillipo Rijli(3), 倉谷 滋(1)
(1)理研CDB (2)Universita di Pasa, Italy (3)Institute of Genetics and Molecular and Cellular Biology
【P1−66】棘皮動物における幼生骨片の進化
松原未央子(1)*,赤坂甲治(2)*,小松美英子(3)*,和田洋(4)*
(1)京大院 理
(2)東大院 理 (3)富山・理
(4)筑波大院 生命環境
【P1−67】遺伝子発現制御機構の保存性から見たヒトの眼の進化
小倉淳 (1,2) *, Choy KW (3), Wang CC (3), 池尾一穂 (4), Pang CP (3), 五條堀孝 (4)
(1)東北大院・生命科学 (2) Organismic and Evolutionary Biology, Harvard University (3)Ophthalmology and Visual Sciences (4)
国立遺伝学研究所・生命情報
【P1−68】アブラムシにおける翅多型の発生制御機構
本郷紗希子(1)*,石川麻乃(2),嶋田正和(1),松本忠夫(3),三浦徹(2)
(1)東大・総合文化 (2)北大・地球環境 (3)放送大
【P1−69】DDC モデルの予測に基づく重複遺伝子の発現パターンの検討
佐藤行人(1)*, 西田睦(2)
東大・海洋研
【P1−70】哺乳類の進化の初期にゲノムから二次的に失われた発生関連遺伝子
工樂 樹洋*、薄田 亮、倉谷 滋
理研 CDB・形態進化
【P1−71】二枚貝類の蝶番の起源とhedgehogシグナルとの関係について
栫 昭太(1)* , 和田 洋(2)
(1)京都大院 理 (2)筑波大 生命環境科学
【P1−72】哺乳類ゲノム中の遺伝子クラスタの進化における遺伝子変換の役割
原雄一郎*, 小柳香奈子, 渡邉日出海
北大院・情報科学
【P1−73】遺伝子-代謝相互作用ネットワークの進化
星野 英一_
東京大院 総合文化
【P1−74】変動する選択下で遺伝子重複により遺伝子ネットワークが成長する
津田真樹*, 河田雅圭
東北大院・生命科学
【P1−75】タンパク質間相互作用ネットワークの進化のモジュラー性と階層性
荻島創一(1) *, 中川草(1), 長谷武志(1), 鈴木泰博(2), 田中博(1)
(1)東京医科歯科大院・システム情報生物学/生命情報学 (2)名古屋大院・複雑系科学
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ポスター発表一覧 8月28日
【P2−1】 アンモノイドのアロメトリー特性に由来する形質連関
生形貴男
静岡大 理
【P2−2】 エナガの亜種にみられる形態的変異
新鞍 彩子
京都大・理
【P2−3】 後期白亜紀アンモナイト類の殻体構築構造の多様性とその分類学的意義
瀬戸雅浩*, 棚部一成
東大院・理
【P2−4】 マウス亜種系統間における下顎骨形態差の遺伝的解析
細谷理樹(1)*,中野紗綾子(2),土屋公幸(2),三田旻彦(1),城石俊彦(1)
(1)遺伝研・哺乳動物遺伝
(2)東京農大・農
【P2−5】 グッピー種内における色覚多様性の分子基盤
笠木聡*・河村正二(1)、正路章子(2)、河田雅圭(3)
(1)東京大院・新領域 (2)三井情報開発 (3) 東北大院・生命科学
【P2−6】 ハエトリグモオプシンから探る節足動物の色覚の進化
小柳光正(1)*, 永田崇(1), 山下茂樹(2), 徳永史生(1)
(1)阪大院 理
(2)九大・芸術工
【P2−7】 脊椎動物における苦味受容体遺伝子ファミリーの進化
郷 康広
総研大・先導科学
【P2−8】 オプシン関連遺伝子群の発現に基づくナメクジウオ光受容器の characterization
佐藤剛毅(1)(2)*、小柳光正(3)(4)、窪川かおる(5)、岩部直之(3)、白山義久(1)、和田洋(2)
(1)京都大 フィールド科学教育研究センター
(2)筑波大院 生命環境科学
(3)京都大院 理
【P2−9】 タンガニイカ湖産シクリッド、キプリクロミニ族の生息環境の違いと光受容体の進化
長井 はるか(1)*、菅原 亨(1)、堀 道雄(2)、岡田 典弘(1, 3)
(1)東工大・生命理工 (2)京大院・理 (3) 基生研・種形成
【P2−10】シクリッドの光環境への適応と集団の形成における色覚分子の役割
寺井 洋平(1)*、Ole Seehausen(2)、佐々木 剛(4)、今井 啓雄(3)、菅原 亨(1)、佐藤 哲(1)、高橋 一彦(4)、溝
入 信治(4)、渡邊 正勝(1)、Hillary D. J. Mrosso(5)、舘田 英典(6)、七田 芳則(3)、岡田 典弘(1, 4)
(1) 東工大院・生命理工 (2)University of Bern (3)京大院・理 (4) 基生研・種形成 (5)TAFIRI (6) 九大院・理
【P2−11】Bradyrhizobiaceae 科細菌における共生アイランドとゲノムの可塑性
板倉学(1)*、佐伯和彦(2)、大森博文(2)、横山正(3)、金子貴一(4)、田畑哲之(4)、大和田琢二(5)、田島茂行(6)、内海俊
樹(7)、鮫島玲子(8)、三井久幸(1)、南澤究(1)
(1)東北大院生命 (2)大阪大理 (3)東農工大農 (4)かずさ DNA 研 (5)帯畜大生物資源 (6)香川大農 (7)鹿児島大理 (8)静岡大農
【P2−12】in silico 近縁ゲノム比較による Neisseria 属細菌のゲノム多型形成への過程の再構築
河合 幹彦(1)*, 内山 郁夫(2), 小林 一三(1)
(1) 東大院・新領域、東大・医科研
(2) 岡崎・計算科学研究センター
【P2−13】ヒトゲノム重複領域の網羅的解析
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
佐藤慶治(1)*,坂手龍一(1,2),村上勝彦(1,2),松矢明宏(3),藤井康之(1,2),伊藤剛(1,4),五條堀孝(1,5),今西規(1)
(1)産業技術総合研究所
(2)バイオ産業情報化コンソーシアム
(3)日立製作所
(4)農業生物資源研究所
(5)遺伝学研究所
【P2−14】シアノバクテリアで初めて見つかった MITE の比較ゲノム解析
成川礼 (1)*, 片山俊明 (2), 岡本忍 (3), 金久實 (3), 池内昌彦 (1)
(1) 東大院・総合文化 (2) 東大・医科研 (3) 京大・化研
【P2−15】The genome bases are arranged sophisticatedly in biphasic fractal-rule
Masaharu Takeda (1)*, Masatoshi Nakahara(2)
(1)Applied Life Science, Sojo University (2)Electronics and Computer Network Engineering, Sojo University
【P2−16】indel がゲノムサイズと遺伝子構造の進化に及ぼす影響
今井周一郎(1,2)*, 佐々木貴史(2), 清水厚志(2), 石川サビヌ和子(2), 浅川修一(2), 堀寛(1), 清水信義(2)
(1)名大院・理 (2)慶應大・医
【P2−17】ヒトとチンパンジー、マウス、ラットとの全ゲノム比較に基づく保存領域の抽出
坂手龍一(1,2)*、佐藤慶治(2)、松矢明宏(3)、藤井康之(1,2)、伊藤剛(4)、五條堀孝(2,5)、今西規(2)
(1)バイオ産業情報化コンソーシアム
(2)産業技術総合研究所
(3)日立製作所
(4)農業生物
【P2−18】リボソーマル RNA 遺伝子中にのみ転移するレトロトランスポゾン R2の分布と進化
小島健司(1)*、藤原晴彦(2)
(1) 京大・化学研究所
(2) 東大・院新領域
【P2−19】ショウジョウバエ卵殻形態進化における rhomboid エンハンサー機能とそれを制御する位置
情報に関する研究
中村征史(1)*, 影沢達夫(1), 林良樹(2), 小林悟(2),(3), 新美輝幸(4),(5), 松野健治(1)
(1)東京理科大・基礎工 (2)岡崎機構・統合バイオ (3)戦略・科技団 (4)名大院 生命農 (5)科技団・PRESTO
【P2−20】メクラウナギ類VLR遺伝子の単離・同定
笠松 純 (1)*, 鈴木 隆 (2), 笠原 正典 (1)
(1)北海道大院 医 (2)総合研究大院 先導科学
【P2−21】Vertical space structure realized through genetic network perspective
Yasuhiko Takeda
Biologyfaculty of Science Kyoushu University
【P2−22】Dlx 遺伝子クラスターにおける cis−エレメントの進化
隅山 健太 (1)*, 斎藤 成也 (1), Frank Ruddle(2)
(1) 国立遺伝研
(2) Yale Univ.
【P2−23】機能遺伝子の mRNA 安定性制御に関わる偽遺伝子 Makorin1-p1 の起源と進化
金子 聡子*(1), 津田 薫(2), 目加田 和之(2), 森脇 和郎(2), 高畑 尚之(1), 颯田 葉子(1)
(1) 総合研究大院 先導科学
(2) 理化学研究所 バイオリソースセンター
【P2−24】サワガニ (Geothelphusa dehaani) mtDNA の遺伝子間非コード領域 (IGN) の解析
鎌倉強志 (1) *,瀬川涼子 (2) ,青塚正志 (3)
(1)都立大・理 (2)首都大院 理 (3)首都大・都市教養
【P2−25】軟骨の進化に必要な新しい遺伝子の進化 ー水平感染とエクソンシャッフリング
和田 洋(1)、村井美穂(2)、米田雅彦(2)、中村敏也(3)、倉谷滋(4)、窪川かおる(5)、Zhang Shicui(6)、佐藤矩行(7)
(1)筑波大・生命環境
(2)愛知県立看護大
(3)弘前大・医
(4)理研 CDB
(5)東京大・海洋研
(6)青島海洋大
(7)京都大院 理
【P2−26】色素体形質転換タバコ個体からのマーカー遺伝子の欠失:進化過程におけるオルガネラ遺伝
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
子欠失のモデルとして
小林括平(1)*,宗村郁子(1),郭長虹(2,3),寺地徹(2)
(1)(財)岩手生物工学研究センター (2) 京都産業大・工 (3) 現,ハルピン師範大・生物
【P2−27】Mitochondrial DNA の核ゲノムへの挿入およびその後の重複の age distribution の推定
茂木高志*(1), 田村浩一郎(2), 青塚正志(2)
(1)都立大院 理
(2)首都大・都市教養
【P2−28】サンゴ礁性魚類アイゴ科における体表模様の多様性と hagoromo 遺伝子
栗岩薫(1)*,寺井洋平(2)
,岡田典弘(2)
,西田睦(1)
(1)東大・海洋研(2)東工大・生命理工
【P2−29】シロアリのカースト分化における幼若ホルモン応答と遺伝子発現
CORNETTE Richard (1)*, 松本忠夫 (2), 三浦徹 (1)
(1) 北大院・地球環境
(2) 放送大・自然の理解
【P2−30】Evolution of peptidoglycan recognition proteins in the vertebrate innate immune system
Fumi Tsujino, Adriana Maria Montaño, Naoyuki Takahata, and Yoko Satta
Biosystems Science, the Graduate Univ. for Advanced Studies (Sokendai)
【P2−31】MITE 型トランスポゾン T2-MITE ファミリーの増幅と進化
彦坂暁*, 河原明
広島大・総合科学
【P2−32】甲虫における発光能の起源に関する研究
大場裕一(1)*, 小鹿 一(1), 井上 敏(2)
(1)名大院・生命農 (2)チッソ・横浜研
【P2−33】ゲンジボタルの発光パターンと nos 遺伝子の進化
大槻朝(1)*, 近江谷克裕(2), 河田雅圭(1)
(1)東北大院・生命科学
(2)産総研・セルエンジニアリング
【P2−34】Dissecting evolution of influenza HA + Fab biding ability
渡部輝明(1)*、岸野洋久(2)、北添康弘(1)
(1)高知大 医
(2)東京大院 農学生命科学
【P2−35】Gene conversion by an adjacent pseudogene causes changes in function and expression
of human SIGLEC11
Toshiyuki Hayakawa (1, 2)*, Takashi Angata (1), Amanda L. Lewis (1), Tarjei S.Mikkelsen (3), Nissi Varki (1), Ajit
Varki (1)
(1)Medicine, Pathology, Biological Sciences and Cellular & Molecular Medicine, Univ. of California,San Diego
Center for Advanced Studies
(2) Hayama
(3) Broad Institute of MIT and Harvard
【P2−36】イトヨの糊状物質 spiggin をコードする遺伝子群の同定と解析
川原 玲香*,
西田 睦
東京大 海洋研究所
【P2−37】ヒトの精神活動の基盤となる遺伝子の進化を探る:精神遅滞をもたらす脂質蓄積障害に関連
する遺伝子の進化
金 慧琳*,高畑尚之,颯田 葉子
総合研究大院 先導科学
21
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
【P2−38】核に転移したオルガネラ遺伝子はどのようにして活性化したか
上田 実(1)(2)*, 藤本 優(2), 有村 慎一(2), 堤 伸浩(2), 門脇 光一(1)
(1)農業生物資源研究所
(2)東京大院 農学生命科学
【P2−39】アナナスショウジョウバエ亜群における反復配列の解析
野澤昌文(1)*, 熊谷真彦(2), 青塚正志(3), 田村浩一郎(3)
(1)都立大院 理
(2)都立大・理
(3)首都大・都市教養
【P2−40】Molecular evolution of mammalian Sry
Kozo Nagai (1)*
Naruya Saitou (2)
(1)Dept. Biochem, TMU (2) Div. Popul. Genet. NIG.
【P2−41】軟体動物の貝殻基質タンパク質 Dermatopontin の起源と進化
更科 功(1), 山口晴代(2),芳賀拓真(2),千葉聡(3), 遠藤一佳(1)*
(1) 筑波大院・生命環境科学 (2) 筑波大・生物
(3) 東北大院・生命科学
【P2−42】相互的音声信号の起源と進化
吉田 重人(1)*、岡ノ谷 一夫(2)
(1)千葉大・自然科学
(2)理研BSI・生物言語、千葉大・自然科学
【P2−43】ウラル語族とオーストロネシア語族の間の語頭子音対応法則の確立とウラル語族の起源
大西耕二*
新潟大・理
【P2−44】学習の生得的バイアス:野生種と家禽種の歌学習の比較
高橋美樹(1),池渕万季(2),山田裕子(3),岡ノ谷一夫(1)
(1)理化学研究所
(2)金沢工業大 人間情報研究所
(3)千葉大院 自然科学
【P2−45】属サイズランクのベキ乗則とヒトの認知傾向:進化シミュレーションによるアプローチ
小松正(1)* 織田瑞夫(2)
(1)東京家政大
(2)(株)構造計画研究所
【P2−46】系統樹から迫る非生命進化:鳥居・雑煮・デジタルカメラ
石山智明,伊藤則人,柴田裕介,土松隆志*,池上高志
東大・広域システム
【P2−47】MrBayes を用いた原核生物と酵母の遺伝子解析による酵母細胞内小器官の起源の推定
猿橋 智(1)*, 濱田 一男(2), 堀池 徳祐(3), 宮田 大輔(4), 篠沢 隆雄(1)
(1) 早大院・理工 (2) ラジエンスウエア(株) (3) 遺伝研・生命情報研究センター (4) 立正大・地球環境
【P2−48】Multi-level evolution in the models of RNA-world
竹内信人
Theoretical Biology/Bioinformatics Group, Utrecht Univ.
【P2−49】ニワトリにおける集団の大きさと遺伝的多型の起源
澤井裕美*、颯田葉子、高畑尚之
総研大・先導科学
【P2−50】モンゴル人民族集団の集団遺伝学
加藤徹(1)*,Batmunkh Munkhbat(2),東内健一(2),間野修平(3),Gue-Tae Chae(4),Huun Han(5),Guan-Jun Jia(6),徳永
勝士(7),Namid Munkhtuvshin(8),田宮元(9),猪子英俊(2)
(1)北大院・理
(2)東海大・医
(3)名古屋市大院・システム自然科学
22
(4)Institute of Hansen’s Disease, The Catholic Univ., Korea
(5)
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
Medicine, The Catholic Univ., Korea
Mongolia
(6)Harbin Red Cross Blood Center
(7)東大院・医
(8)National Institute of Medicine,
(9)徳島大院・ヘルスバイオサイエンス
【P2−51】自然淘汰がオルガネラゲノムの塩基置換に与える影響の解析
河合洋介
東京理科大院 理工学
【P2−52】植物病原細菌ファイトプラズマの2種類の主要抗原膜タンパク質における正の選択
柿澤茂行*、大島研郎、鈴木志穂、嵐田亮、鄭熙英、難波成任
東大院・農
【P2−53】海草アマモの遺伝的多様性と集団構造
加藤由実子(1)*, 颯田葉子(2), 斉藤憲治(1)
(1)水研センター・東北水研
(2)総研大・先導研
【P2−54】マイクロサテライト分析による親子特定技術を利用したブナ実生個体群の動態解析
陶山佳久(1)*, 丸山 薫(1),富田瑞樹(2),高橋 誠(3),清和研二(1)
(1)東北大院・農
(2)横浜国大院・環境情報
(3)林木育種センター
【P2−55】エナメル質の炭素・酸素同位体および微量元素分析に基づく Desmostylus と Paleoparadoxia
(束柱目) の食性と生息環境の復元
鵜野 光(1)*, 米田 穣(1), 柴田 康行(1)・樽 創(2), 甲能 直樹(3)
(1) 環境研・化学 (2) 神奈川県立生命の星・地球博物館 (3) 国立科学博物館・地学
【P2−56】チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤に対する抵抗性とオスの EAG 応答の関係
田端 純(1)*, 杉江 元(1), 野口 浩(1), 沼田智歩(2), 戒能洋一(2)
(1) 農業環境技術研究所 生物環境安全部 (2) 筑波大 農林
【P2−57】植食者が植物細胞における生殺与奪・発育増殖の権限を掌握している?
徳田 誠(1)*, 湯川淳一(2), 深津武馬(1)
(1)産総研・生物機能工学
(2)九大
【P2−58】Evolution of antigen polymorphisms of malaria parasites in isolated populations
Kazuyuki Tanabe (1)*, Naoko Sakihama (1), Hiroshi Ohmae (2), Akira kaneko (3)
(1) Lab. Biol., Osaka Inst. Technol. (2) Inst. Basic Med. Sci., Tsukuba Univ. (3) Dept. Med., Karolinska Inst. Sweden
【P2−59】ムギ類うどんこ病菌 Blumeria graminis における宿主−寄生者関係の進化学的研究
井沼 崇(1)*, A. Bolay (2), S. A. Khodaparast (3), 高松 進
(1)三重大 生物資源 (2)Conservatoire et Jardin botaniques de la Ville de Geneve, Switzerland (3) Plant Protection Coll. of Agric.,
Univ., Iran
【P2−60】ライラック類うどんこ病菌のITSタイプの生物地理学的解析
瀬古夕介(1)*, A. Bolay(2), 佐藤幸生(3), L. Kiss(4), V. Heluta(5), 丹田誠之助(6), 野村幸彦(7), A. Schmidt(8), B.
Grigaliunaite(9), M. Habrylenko(10), 高松進(1)
(1)三重大生資 (2)Nyon, Switzerland (3)富山県立大 (4)Plant Prot. Inst., Hungarian Acad. Sci., Hungary (5)Int. Solomon Univ.,
Ukraine (6)東京都世田谷区 (7)千葉県四街道市 (8)Lübeck, Germany (9)Inst. Bot., Lithuania (10)Comahue Univ., Argentina
【P2−61】Wolbachia 感染が関与するミトコンドリアの選択的 sweep:分子系統解析による日本産キチ
ョウ2型の進化学的、生物地理学的考察
成田聡子(1)*, 野村昌史(1), 加藤義臣(2), 深津武馬(3)
(1)千葉大院・自然科学
(2)国際基督教大・生物
(3)産総研・生物機能工学
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
【P2−62】内部共生細菌 Spiroplasma が引き起こすオス殺し現象に影響を与える宿主の遺伝的変異について
陰山大輔(1)(2)*, 安佛尚志(2), 嶋田正和(1), 深津武馬(2)
(1)東大院・総合文化 (2)産総研・生物機能工学
【P2−63】アリの細胞質に寄生する 2 本鎖 RNA の増殖要因
佐藤俊幸*,諸熊直,藤原一孝,廣田忠雄○,小原嘉明,森山裕充、福原敏行
東京農工大 農
○国際基督教大学生物
【P2−64】細菌エンドファイト共生水稲に対する害虫の適応進化を遅延させる方法のシミュレーション
モデルによる検討
佐藤幸恵(1)*、鈴木芳人(1)、小堀陽一(1)、山中武彦(2)
(1)中央農研 (2)農環研
【P2−65】トマト黄化えそウイルスの適応度に対する媒介虫アザミウマの感染植物選好性とそのタイミ
ングの影響
桜井民人
東北農研セ
【P2−66】宿主核ゲノムに水平転移した共生細菌 Wolbachia ゲノム断片の構造と機能
二河成男(1)*,今藤夏子(2),深津武馬(3)
(1)放送大
(2)国立環境研
(3)産総研
【P2−67】シロアリに共生するパラバサリア門原生生物が有する
Phosphoenolpyruvate carboxykinase(PCK)の分子系統学的解析
齋田佳菜子*(1)、井上徹志(1)、工藤俊章(2)(3)、大熊盛也(1)(2)
(1)JST-PRESTO
(2)理研・工藤環境分子生物
(3)横市大院
【P2−68】日本産シルビアシジミのmtDNA塩基配列とWolbachia感染との関係
平井規央(1)・矢後勝也(2)・谷川哲朗(1)・石井実(1)
(1)大阪府大院
(2)東京大院
【P2−69】シロアリ腸内の原生生物と細胞共生細菌の共進化関係の考察
野田悟子(1), 本郷裕一(2), 工藤俊章(2,3), 大熊盛也(1,2)*
(1) JST-PRESTO (2) 理研環境分子生物 (3) 横市大院
【P2−70】外生菌根菌における隠蔽種と宿主特異性について
佐藤博俊(1),湯本貴和(2),村上哲明(1)
(1)京都大院 理
(2)総合地球環境学研究所
【P2−71】オス駆動進化説:無脊椎動物への拡張
星山大介(1)*,岩部直之(2),宮田隆(3,4,5),隈啓一(1)
(1)京都大 化学研究所 (2)京都大院 理 (3)JT 生命誌研究館 (4)早稲田大 理工 (5)大阪大院 理
【P2−72】自然選択説の哲学的分析
松本俊吉(1)*, 森元良太(2)
(1)東海大学総合教育センター
(2)慶応大院・哲学
【P2−73】種脳クオリア論:クオリア・史得記憶/習得記憶マッチングとは何か
水幡正蔵
在野の研究者
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
国際シンポジウム 8月26日
"Adaptive radiation and speciation"
_ 適応放散と種分化 _
Organizer: Masakado Kawata (Tohoku Univeristy)
企画者:河田雅圭 (東北大院 生命科学)
Adaptive radiation is defined as the evolution of ecological and phenotypic diversity within a
rapidly multiplying lineage. Adaptive radiation is an important process since this creates many
new species rapidly. The process is complex and thus, several different scenarios explaining
adaptive radiation has been proposed. Proper predictions by theoretical models as well as
appropriate experimental and empirical studies would be needed to test the hypotheses on
adaptive radiation. The purpose of the symposium is to discuss the mechanisms for adaptive
radiation, by combining theoretical, empirical, and experimental approaches and to generate
predictions for future research.
Dynamic patterns of adaptive radiation
Sergey Gavrilets (University of Tennesse, Knoxville)
Adaptive radiation is defined as the evolution of ecological and phenotypic diversity within a rapidly multiplying lineage. When
it occurs, adaptive radiation typically follows the colonization of a new environment or the establishment of a "key innovation"
which opens new ecological niches and/or new paths for evolution.
Different, sometimes contradictory scenarios explaining
adaptive radiation have
been advanced. Which scenarios are more plausible and general is a highly controversial question. Because of the long time scale
involved and the lack of precise data on its initial and intermediate stages, even identifying general patterns of adaptive radiation
is very difficult. We take advantage of recent developments in speciation theory and modern computing power to build and
explore a large-scale, stochastic, spatially explicit, individual-based model of adaptive radiation driven by adaptation to
multidimensional ecological niches. Our results provide theoretical support and explanation for a number of empirical patterns
including "area effect", "overshooting effect", "least action effect'', as well as for the idea of a ''porous genome''. We show that a
great majority of speciation events are concentrated early in the phylogeny. Our results emphasize the importance of ecological
opportunity and genetic constraints in controlling the dynamics of adaptive radiation.
Adaptive radiation in island snails
Satoshi Chiba (Life Sciences, Tohoku Univ.)
Endemic land snails of oceanic islands are an excellent model system to study how speciation and adaptive divergence can occur.
The land snail genus Mandarina has undergone extensive radiation within the Ogasawara Islands in the west Pacific.
separated into many different ecotypes (e.g. arboreal, semi-arboreal, ground).
They
Shells of species with different ecotypes differ
markedly, but shells of species with the same ecotype are very similar to each other.
Shell morphologies of some
phylogenetically distantly related species with the same ecotype are indistinguishable. Habitat divergence plays a crucial role in
the speciation of Mandarina. Behavioral and genetic analyses suggest that divergence in a new ecological niche leads to
reproductive isolation.
Hybridization between genetically divergent populations promotes colonization of a novel habitat,
because combination of different traits of two hybridising populations can rapidly create a novel morphology that appears to be
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
pre-adapted to novel habitat. Examples supporting this hypothesis are found in hybrid zones between the species of Mandarina.
Extreme morphologies unique to hybrids are found along the hybrid zone.
Above findings suggest that habitat divergence and
hybridization are important as mechanisms that promote adaptive radiation.
Out of Oceania: Adaptive radiation of spiders on islands
Rosemary G. Gillespie (Univ. of California, Berkeley)
Adaptive radiation is often associated with colonization of new environments that are sufficiently isolated as to allow populations
to diversify by exploiting multiple ecological roles. Here, I focus on the Hawaiian archipelago, where diversification within some
lineages has been prolific. The known geological history of the islands provides a framework for examining adaptive radiation
over time as lineages have generally progressed down the island chain from older to younger islands. I examine different lineages
of spiders on different islands to determine how immigration and speciation interact in the formation of communities. Results
from the larger spider radiations show that (i) species assembly is not random; (ii) the same set of ecological forms has evolved
repeatedly on different island; (iii) within any one community, similar sets of ecological forms have arisen through both dispersal
and evolution. Moreover, the greatest species diversity is found on the second youngest island. Together, these results suggest
that (i) adaptive radiation is characterized by rapid, episodic, and ecologically-driven diversification of species; and (ii)
communities on remote islands may be formed through evolutionary processes in a manner reminiscent of ecological processes
involving immigration and emigration on less remote islands, suggesting that universal principles underlie community assembly.
Experimental Studies of Adaptive Radiation
Michael Travisano (Univ. of Houston, Texas)
Adaptive radiation is a major source of biological diversity, and there are many conspicuous examples of adaptive evolution
due to adaptive radiation.
The primary basis for adaptive radiation is beguilingly simple: competition for limited resources and
trade-offs in resource use result in the evolution of resource specialists and thus adaptive radiation.
However, despite the
ubiquity of adaptive radiation and the attractive simplicity of this scenario, the evolutionary outcome of an instance of adaptive
radiation cannot generally be predicted with any degree of confidence.
The inability to make such a prediction is due in part to
an inability to evaluate the relative roles of chance and necessity in promoting divergence.
Chance and necessity have opposing effects on the outcome of adaptive radiation, although both are required for it to occur.
If the appearance and fixation of adaptive variants (chance) is the dominant process, then adaptive radiation will not be
repeatable.
Different instances of radiation will yield different niche specialists and different ecological relationships among the
specialists, despite historical constraints or similarities among the selective environments.
If competition and trade-offs
(necessity) dictate the outcome, then adaptive radiation will be largely repeatable yielding similar niche specialists and ecological
relationships.
Evidence for adaptive radiation in seed-beetles (Coleoptera, Bruchinae)? - new insights from
ecological and molecular data.
Gaël J. Kergoat (Institute of Biological Control, Univ. of Kyushu)
The evolution of the species-rich superfamily Chrysomeloidea is a fascinating example of insect radiation on angiosperms. During
their diversification, they successfully used almost all flowering plant parts as larval food resources (Johnson 1981) and many
authors have introduced the concept of adaptive radiation (Simpson 1953; Schluter 2000) to explain the enhanced rate of
diversification of phytophagous Coleoptera on angiosperms (Mitter et al. 1988; Farrell 1998; Marvaldi et al. 2002; Farrell &
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
Sequeira 2004). Within the superfamily Chrysomeloidea, seed-beetles (Chrysomelidae, Bruchinae) exhibit strong host-specificity
that strengthen their usefulness in evolutionary studies. Seed sampling in the field and monitoring of adult emergences give the
opportunity to identify insect-plant associations accurately. By using molecular phylogenetics, the relation between host-plant
preferences and bruchines phylogeny have been investigated to highlight possible evolutionary patterns. In addition, working
with distinct bruchid groups that have radiated independently in different geographic areas allowed us to test hypotheses
concerning adaptive radiation in the sense of Schluter (2000) who defines it as “the evolution of ecological and phenotypic
diversity within a rapidly multiplying lineage”.
Our results highlighted a strong trend toward specialization with high taxonomic conservatism in host-plant use (Kergoat et al.,
2004, 2005a, 2005b). Interestingly, for a large tropical clade that mostly specialized on subfamily Mimosoideae, the nature of the
seed secondary compounds appears to be the major factor explaining the diversification of bruchines (Kergoat et al., 2005b; M.
Tuda pers. comm.). Our phylogenetic hypotheses and our evaluation of host-plant associations both suggest that the Old world
and New world genera have undergone parallel evolution, as they have independently colonized similar host-plants in their
respective areas of distribution. Interestingly, the suggested timing of diversification is consistent with the hypothesis of a
radiation which could have occurred contemporaneously with the diversification of their legume hosts. Although our results are
generally consistent with the hypothesis of an adaptive radiation for bruchines, the latter cannot yet be fully demonstrated
because the hypothesis of a rapid speciation was not supported by both branch length and rates of diversification estimates.
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
シンポジウム・ワークショップ・英語口頭発表・自由集会 - 要旨
(S):企画シンポジウム (K):公募式シンポジウム (W):ワークショップ
8月27日
1−A1:(S)
環境微生物ゲノムの多様性と進化
企画者:津田 雅孝(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
微生物のゲノム解析は、基礎研究材料であるモデル細菌や病原細菌が中心であったが、こ
の 1-2 年の間に環境常在性の様々な細菌株が取り上げられるようになってきた。 本シンポ
ジウムでは、多様な生態系に棲息し過酷な環境変動にも堪え忍んでいる様々な細菌株が、そ
れぞれの生態的ニッチェに応じてどのようなゲノム構 造を備えているか、また、ゲノムレ
ベルではどのような環境適応ポテンシャル をもっているかについての研究成果を紹介する。
また、このような環境細菌のゲノム多様化・進化の機構と病原細菌のそれらの共通性並びに
相違に関しても言及したい。 (使用言語:日本語)
極限環境適応能を有する Bacillus 関連細菌のゲノムから見える多様性
高見英人(海洋研究開発機構・極限環境生物)
グラム陽性で有胞子桿菌の Bacillus 属細菌は、陸上から深海底に至るまであらゆる環境に棲息し、比較的容易に分離培養することがで
きる。実際、Bacillus 属関連細菌の生育範囲は広く、生育温度は 5∼78°C、生育 pH は 2∼12、生育塩濃度は、∼30%、生育圧力範囲
は少なくとも∼300 気圧である。系統進化的に類縁性が極めて高いにもかかわらず、このように幅広い生育環境に適応して生育できる
細菌は、Bacillus 属関連細菌を除いては他にほとんど例がなく、生物の環境適応に関する多様性を探る格好の研究材料と考えられる。
そこで我々は、多様性の違いがどのようにゲノムに反映されているのか、Bacillus 属細菌ゲノムの基本構造とはどのようなものかを
明らかにすることを目的として、生育環境が異なる好アルカリ性 B. halodurans、高度耐塩性・好アルカリ性 Ocenobacillus iheyensis、
好熱性 Geobacillus kaustophilus、3 種の全ゲノム配列決定を行った。3 種のゲノム中に見出された遺伝子のオーソログ解析に基づく
環境適応機構関連遺伝子候補の絞り込みや、ゲノム中における動く遺伝子群(IS、トランスポゾン)の解析などを通して、Bacillus 属関
連細菌のゲノムの多様性に関する興味深い知見を得たので報告する。
放線菌ゲノム解析から見える環境適応
石川 淳(国立感染症研究所)
放線菌は、土壌などの環境中に生息する高 GC 含量のグラム陽性細菌群である。一口に放線菌と言っても、その中身は極めて多様であ
り、広義の放線菌(すなわちアクチノバクテリア)には、現在 100 属以上が含まれている。放線菌は、気菌糸や胞子形成などの明瞭
な形態分化を示し、真核生物のような線状染色体を持つ菌種を含むことから、生物学的に興味深いばかりでなく、現在臨床で用いられ
ている抗生物質、抗がん剤、免疫抑制剤などの7∼8割が放線菌によって生産され、また、PCB やダイオキシンの分解など、環境浄
化に利用可能な菌種をも含み、産業上最も重要な微生物のひとつである。その一方で、ヒトや動物に病原性を示す菌種も多く含まれて
おり、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)やライ菌(Mycobacterium leprae)が放線菌の一種であることはあまり知られていな
い。本講演では、ここ数年で次々と明らかにされてきた Corynebacterium、Mycobacterium、Nocardia、Streptomyces のゲノム配
列を比較することにより、それらが生息する環境と遺伝子レパートリーについて考察する。
比較ゲノム解析から見えてきたバクテリアの適応戦略
黒川 顕(奈良先端科学技術大院)
バクテリアはプロゲノートから今日に至るまで,ポイントミューテーションだけにとどまらず IS,Tn,プラスミド,ファージ等に
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
よる遺伝子伝播,または遺伝子重複,遺伝的交配などの様々な方法で進化を繰り返してきた.中でも薬剤耐性やホストの免疫機構から
の回避等の迅速な環境への適応は,ポイントミューテーションというよりはむしろ,相同組換えや遺伝子伝播等による新機能や新たな
遺伝子の急激な獲得により達成されていると考えられる.また,遺伝子伝播の媒体であるファージ,プラスミド,溶存 DNA などは自
然環境中などで多量に確認されており,これらが遺伝子プールとなることで,自然環境中,腸内などにおいて多くの遺伝子伝播の機会
をバクテリアに与えていると考えられる.本講演では,すでにゲノム全配列が決定している腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)
などのビブリオ属菌と 2005 年に全配列を決定したエロモナス菌(Aeromonas sp.)との比較ゲノム解析の結果からビブリオ,エロモ
ナス属菌の進化に関して考察する.
多重染色体をもつ環境細菌のゲノム
津田雅孝(東北大院 生命科学)
細菌ゲノムは 1 本の環状染色体から構成され、時としてプラスミドが加わるというのが「常識」であった。一方、最近のゲノム解析
により細菌ゲノムの基本構造の多様性が明らかになり、2 本以上の環状染色体を持つ細菌株が、広範に存在することが示されつつある。
現時点では、このようなゲノム基本構造の多様性と宿主の環境適応能や生息環境の多様性との関連性は定かでない。ただ、複数本の染
色体を持つ細菌は、どのような分子機構や進化的経緯を経て現在のゲノム構造を確立し、なおかつ維持しているのか、また、このよう
なゲノム構造が宿主の環境適応に対してどのような有利さを示すかを実験的に検討することに適した材料といえよう。環境常在性でbプロテオバクテリアの Burkholderia 属細菌は、環境汚染物質を含む多種多様な有機物分解・資化能をもつことがよく知られているが、
本属細菌株は、調べられた限りにおいて、2∼4 本の環状染色体からゲノムが構成され、 B. multivorans は3本の染色体を保持する。
本講演では、分子遺伝学的解析や現在進行中のゲノム解析で判明してきた B. multivorans のゲノム構造、そして、この構造の普遍性
と特殊性の双方について述べる。
1−A2:(S)
自己認識システムのゲノム進化
企画者:佐竹正延(東北大・加齢研)
連絡先 [email protected]
MHC を題材に遺伝子構造の進化を実証的・理論的に議論する(使用言語:日本語)
無顎類の免疫系に学ぶ
笠原正典(北大院・医)
ヤツメウナギ、メクラウナギによって代表される無顎類は主要組織適合遺伝子複合体(MHC)、免疫グロブリン、T 細胞レセプターを
もたない最も高等な生物であり、免疫系の進化を理解するうえで枢要な位置を占めている。さらに、脊椎動物進化の初期段階でゲノム
全体が 2 回重複したとする説によると、頭索動物が出現してから無顎類が出現するまでに1回、無顎類が出現してから有顎類の共通祖
先が出現するまでに 1 回の重複が想定されている。したがって、無顎類は脊椎動物におけるゲノム進化を理解するうえでも鍵となる動
物である。
ここでは、最近、われわれの研究室でおこなわれた無顎類(メクラウナギ目に属するヌタウナギ Eptatretus burgeri )の免疫系に関す
る研究について紹介したい。具体的には、1)リンパ球様細胞をもちいた EST 解析、2)免疫グロブリン、T 細胞レセプターの V ド
メインと近縁な V ドメインを有するペア型免疫グロブリンレセプター遺伝子群 APAR の解析、3)遺伝子再構成をおこなう抗原レセ
プター様遺伝子 VLR(variable lymphocyte receptor)の同定と解析について述べる。これらの研究は、無顎類が有顎類の免疫系とは
異なったユニークな免疫系をもっていることを強く示唆するものである。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
比較ゲノム解析による MHC 領域の進化
椎名 隆*、猪子英俊(東海大・医.分子生命科学)
MHC 領域は進化学的に保存されている遺伝子が数多く存在することや、各生物種の塩基配列情報およびマッピング情報が豊富であ
ることから、遺伝子の動態を追究するには最適な領域といえる。そこで本研究では種の分岐点に位置する生物種の MHC 領域の塩基配
列を決定し、比較解析することによりゲノム進化、形成の分子機構を解明し、MHC 領域が複雑な免疫系を獲得してきた経緯を明らか
にすることを目的としている。これまでに 15 生物種より合計 16.5 Mb の塩基配列を決定した。これらの配列をもとに比較ゲノム解析
をおこなった結果、生物種間における基本的な遺伝子構造は大まかには保存されているが、それぞれの生活環境に適応するための MHC
や MHC 関連遺伝子の birth and death により形成されてきたことが示唆された。また、現在のゲノムからその進化を遡ることが可能
であること、さらにはナメクジウオのように MHC 祖先領域の構造を保持している生物種も現存することも明らかになってきた。本講
演では、種間の比較ならびに種内の多様性に基づく MHC 領域の進化について報告する。
メダカ MHC クラス I 領域の種内多型
野中 勝*、塚本 健太郎(東大院 理)
MHC クラス I, II, III 遺伝子間の連鎖はサメからヒトに至るまで有顎脊椎動物の進化過程を通して保存されているが、硬骨魚類では例
外的にこの連鎖が崩れている。にもかかわらず、MHC クラス I 遺伝子とその抗原提示に直接関与する遺伝子群は密接に連鎖し、MHC
クラス I 領域を形成している。日本のメダカ(Oryzias latipes)は遺伝的に隔った南北両集団に分けられるが、各々から近交系 HNI(北
由来)と Hd-rR(南由来)が確立されている。両系統間で MHC クラス I 領域、約 420 kb の塩基配列を比較した結果、MHC クラス Ia
遺伝子とプロテアソームサブユニット (PSMB8, 10) 遺伝子を含む約 120 kb の領域はアラインが困難なほど異なっており、残りの領
域は約4%の塩基配列の違いを示すものの通常にアラインされる事が判明した。このことからメダカ MHC クラス I 領域には塩基置換
だけではなく挿入、欠失、重複などの遺伝子再編成により高度な多型を示す亜領域が存在することが明らかとなった。メダカ野生集団
で PSMB8 遺伝子の配列を解析した結果、全ての配列は HNI 型か Hd-rR 型かのいずれかに分類され、南北両集団共に HNI 型が低頻度
(2-15%) で存在していることが示された。以上の結果は、メダカ MHC クラス I 領域が二型を示すことを示唆しており、ここではその
進化的意義を考察したい。
自然選択による多型的 MHC 遺伝子座の制御
颯田 葉子(総合研究大院)
主要組織適合抗原(MHC)は脊椎動物での獲得性免疫機構において T 細胞受容体(Tcr)、免疫グロブリン(Ig)とともに重要な役割を担
う分子の一つである。いずれの分子も無限の抗原と結合する必要性から個体内での多様性が高い。このような高い多様性の生成には、
遺伝子重複とその後の遺伝子の機能分化が重要な役割を果たす。しかし、MHC の多様性の生成維持機構は、Tcr や Ig とは異なる。Tcr
や Ig に比べて、MHC では限られた数の遺伝子座で高度な多型を保つことにより全体の多様性を維持している。このような MHC の多
様性には、1)対立遺伝子の数が多くしかもその寿命が長い、2)ゲノム中の多型的な遺伝子座の数がほぼ一定である、といった進化学的
な特性がある。
ゲノム中の多型的な遺伝子座の数を一定に保つ必要性、つまりゲノム中の多型的な遺伝子座の数には最適値があることは、Tcr レパ
ートリの決定に MHC が関与しているためである。近年、魚を用いて多型的 MHC 遺伝子座の数には最適値が存在することが実験的に
示された。これは、ゲノムあたりの多型的 MHC 遺伝子座の数が、遺伝子重複と偽遺伝子化のバランスによって保たれているだけでは
なく、遺伝子が機能を失う過程(偽遺伝子化)にも自然選択が働く可能性があることを示唆する。本講演では、ヒトのゲノム配列を用
いて MHC の進化における遺伝子重複と偽遺伝子化の過程を推定し、他の多重遺伝子族との関連で MHC における偽遺伝子化の意義を
論ずる。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
1−A4:(K)ゲノム比較から見えてきたゲノムと生命の進化の全貌
企画者:小林一三(東大・新領域・メディカルゲノム及び医科学研究所)
連絡先 [email protected]
ゲノム解読の進展により現れた圧倒的な量のデータは、系統樹的進化思考をはるかに超え
て、生命進化の全貌を明らかにしつつある。複数のゲノムの多数の遺伝子の解析に基づく、
最先端の成果を紹介する。(使用言語:日本語)
網羅的オーソログ分類に基づく微生物ゲノム比較解析:原核生物ゲノム進化の理解に向けたアプローチ
内山郁夫(基生研)
決定された微生物ゲノム配列は 200 種を超え、なお加速度的な成長を続けている。きわめて多様な環境に生息する微生物は、それぞ
れが多様なゲノムを有しており、大規模な比較解析から「普遍的な現象としての進化」を考える上で、格好の材料を提供しつつある。
原核生物のゲノム進化においては、遺伝子の水平移動が、より普遍的な現象として重要な役割を果たしてきた。このことは、それ自体
興味深い現象ではあるが、進化解析手法としての系統樹の役割を無力化し、解析を困難にする要因ともなっている。一方、ゲノムが蓄
積してきたおかげで多数の近縁ゲノムを同時に比較することが可能になってきたが、そうした解析から、ゲノム間のダイナミックな進
化像が見えるとともに、各ゲノムに共通の「コア構造」というべきものが存在することも見えてきた。我々は、多数の微生物ゲノム間
で網羅的なオーソログ分類を行うシステム MBGD を開発してきたが、これを用いて、さらに遺伝子の並び順の保存性を手掛かりとし
て、類縁ゲノム間の「コア構造」を構築する手続きを開発した。コア構造は生存に必須な遺伝子の多くを含み、主に垂直的に伝搬して
きたと考えられるため、原核生物のゲノム進化を考える上での基盤を提供すると考えられる。
ゲノム内水平伝達遺伝子の網羅的検出
五條堀 孝(遺伝研・生命情報,独 産業技術総合研究所)
、中村 洋路(北大院・情報科学,Heinrich-Heine Universitaet
Duesseldorf)
、松田 秀雄(阪大院・情報科学)
、伊藤 剛(独 農業生物資源研究所,独 産業技術総合研究所)
ゲノムプロジェクトの進展により、様々な生物種の完全ゲノム配列の蓄積が進んできている。なかでも、バクテリアの完全ゲノム配列
は200種を超える勢いで全世界的に情報の蓄積が進んでいる。一方、ある生物種から遺伝子や遺伝子群が他の生物種へ進化的分化過
程を経ることなく移行するという水平遺伝子移行という現象が知られている。この水平遺伝子移行は、たとえばピロリ菌の病原性アイ
ランドを構成することが知られているように、バクテリアの病原性獲得の主要な要因の一つとも考えられ、この現象の普遍性が大きな
議論になっている。そこで、我々は、ゲノム配列情報から水平移行によって由来した遺伝子の推定するアルゴリズムを開発するととも
に、この手法を利用可能な全てのバクテリアのゲノム配列情報の全対解析に応用した。その結果、ゲノム当たり平均して約12%の遺
伝子が水平移行によるものである可能性が高いことが明らかになった。今回は、この生物学的意義を議論する。
参考文献:Nakamura, Y., Itoh, T., Matsuda, H. and Gojobori, T. (2004). Biased biological functions of horizontally transferred genes on 324,653 open
reading frames of 116 prokaryotic complete genomes. Nature Genetics 36, 760-6
近縁ゲノム比較によるゲノム再編機構の推定
小林一三(東大・メディカルゲノム 及び 東大・医科研)
ゲノムの可塑性と進化においては、点突然変異だけでなく、より大きな規模のゲノム再編(例えば、挿入、欠失、逆位、重複)が重要
である。これらの機構は、局所的なゲノム配列比較と分子生物学的実験によって解明されてきた。細菌全ゲノム解読が進んで、ごく近
縁の複数の全ゲノム配列が入手できるようになった。例えば、 Helicobacter pylori(ピロリ菌)では2株、 Neisseria meningitidis で
は3株、 Staphylococcus aureus (黄色ブドウ球菌)では7株の全ゲノム配列が公開されている。これら種内および属内種間での詳細
な比較によって、自然状態でゲノム再編がどのように起きているか、それがゲノムの可塑性と進化にどう関与しているかを、理解する
道が開けた。 私たちのグループは、内山博士のグループと共同で、近縁細菌ゲノム配列比較によるゲノム再編機構推定のためのツール
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
を開発し、制限酵素修飾酵素遺伝子がゲノム再編に果たす役割を明らかにしてきた。今回は、病原細菌の新しい動く遺伝子の発見、そ
れによるゲノム再編を中心に、最近の成果を紹介する。文献:Uchiyama et al. Genome Informatics 2000, 341-343. Nobusato et al. Gene 259:
99-108 (2000).
Chinen et al. Gene, 259: 109-121 (2000).
メダカから学ぶヒトの進化
清水信義(慶應義塾大 医)
近年、ヒトを初めとするさまざまな生物のゲノム情報が豊富になり、進化のプロセスを DNA 塩基配列レベルで推論することが可能
になってきた。我々は脊椎動物の進化に関して、かなり初期にヒトから分岐した魚類、特にメダカに着目してヒトとの比較ゲノム解析
を進めている。本講演ではメダカ脳関連 CNR/Pcdh 遺伝子クラスター(600kb)およびメダカ染色体 LG22(21Mb)の完全解読によ
る結果とヒトゲノム情報を比較して脊椎動物の進化を考察する。
先ず、CNR/Pcdh 遺伝子クラスターは脳神経系で発現する細胞間接着分子で、脳の構築において重要な役割を果たしている。この遺
伝子のゲノム構造は免疫グロブリンのように可変領域/定常領域からなり、ヒトでは3群のクラスターを形成している。DNA シーケ
ンス解析の結果、メダカには Pcdhα、γは存在するがβは存在しない、その代わりに哺乳類にはない Pcdho、ζが存在した。また、
可変領域の遺伝子数はヒトの2倍であった。このように、メダカは進化の初期に分岐したが、CNR/Pcdh 遺伝子クラスターは哺乳類と
は違う独自の分子進化を経てきたと考えられた。
一方、22 対存在するメダカ染色体の一本 LG22 の塩基配列解読から、ヒトにオルソログがある 590 個の遺伝子を同定した。これら
の遺伝子の染色体上の位置をヒトゲノムと比較したところ、約 60%がヒトとメダカの間で隣接遺伝子の並びが1つ以上保たれていた
(シンテニーブロックと命名)
。最大で 14 遺伝子の並びが保存されているシンテニーブロックもあった。
哺乳類ゲノムの比較解析∼系統樹では表現できない進化関係の探索∼
斎藤成也(国立遺伝学研究所・集団遺伝)*,北野誉(国立遺伝学研究所・集団遺伝, 現:山形大・医)
,
江澤潔(国立遺伝学研究所・集団遺伝, 国立遺伝学研究所・Human
Genome Network Project)
私たちは,進化的に相同な塩基配列やアミノ酸配列を比較するとき,それらを多重整列したあと,遺伝子系統樹を作成することを一
般に行なっている。しかし相同な配列が系統樹であらわすことのできる関係になっているというのは暗黙の仮定にすぎない。近縁な遺
伝子を比較するときには,組換えや遺伝子変換のために,進化的な関係が系統樹では表現できない場合がある可能性を考慮する必要が
ある。これは重複遺伝子のあいだでは特にそうである。
そこで,2種類のゲノム配列データを中心に,特に遺伝子変換に焦点をあてた解析結果をご紹介したい。ひとつは,北野誉が中心と
なって行なったヒトとチンパンジーにおける Rh 式血液型遺伝子の進化である。重複遺伝子間の「遺伝子交流」がひんぱんに生じてい
るため,どれが順系相同でどれが傍系相同なのか判然としないという状況が生じている。もうひとつは,江澤潔が中心となって進めて
いるマウスとラットの重複遺伝子の解析である。種分化前に重複したと考えられるペアをゲノムデータから取り出し,それらについて
種分化後に遺伝子変換が生じていないかどうかを,いくつかの統計検定法を用いて調べた。その結果,多くの重複遺伝子間で遺伝子変
換のような遺伝子交流が生じていることがわかった。
1−B1:(W)
言語の起源と進化
企画者:岡ノ谷一夫○(理化学研究所)
:橋本敬(北陸先端科学技術大院)
連絡先 [email protected]
言語の起源の研究は長い間タブーであったが、近年ようやく、言語がどのような前適応に
より発生したのかを生物学的に検討する研究があらわれてきた。本ワークショップでは、言
語起源研究の最新動向を紹介しながら、「今何をなすべきか」を検討してゆく。
32
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【はじめに】岡ノ谷、橋本
【テーマI 言語起源研究は何を問題とするのか】
言語の起源論はどのような科学なのか
大谷卓史 (吉備国際大・政策マネジメント)
言語の起源論は、人類の言語獲得という現象そのものを再現してみることはできない。多様なルートを通じて頂上を目指す総合的研
究になるであろう。これらの作業は独立ではなく、相互に関係しあうものとなるはずだ。よって、言語の起源論はひとつの総合的科学
として構成されることになる。いかなる科学となるべきか?
科学哲学においては、単純な反証主義的科学観はすでに捨て去られている。すでに Popper そのひとが後に単純な反証主義的科学観
を捨てて、進化学に科学としての地位を与えている。Stamos は Popper の議論をもとに、反証可能性ではなく経験的にテストできる
かどうか(テスト可能性)が科学理論の特徴であると主張した。現在までに科学/非科学とを線引きする基準として、5項目の合理性
基準を満たすか(Kuhn)、前進的な問題移動・解決が可能となっているか(Lakatos、Laudan)、ベイズ確率に照らして証拠が理論を
支持するか(内井、伊勢田)などの議論が提起されている。
よって、反証可能性だけを取り上げて言語の起源論の科学性を論じることは誤りである。また、言語の起源論においては、多様なル
ートをたどって頂上が目指されるので、人類の言語獲得に関するメカニズムに関する仮説を支持する証拠と、この仮説とそれらの証拠
を補強し、インスピレーションを与える証拠とが区別される必要がある。
言語は器官か制度か
橋本敬(北陸先端科学技術大院・知識科学)
人間は言語を用いてコミュニケーションを行う.言語に関する人間の能力や知識を明らかにすることは言語研究の重要課題である.こ
れは,言語を一種の認知的・心的な「器官」とする見方である.(ここでは,チョムスキーのいう「言語器官」ほど言語特異的計算能
力に限定せず、言語に関連する認知能力を含めて「器官」としている.)一方,言語は社会で話され,ある使い方を踏襲しなくてはコ
ミュニケーションの用をなさない.この見方では,言語を一種の社会制度として捉える.この二つの言語の見方のどちらを採用するか
というのは,言語のどの面を理解したいかに依る.本講演では,言語の起源と進化の問題を考える際には,器官か制度のどちらの見方
に立つべきかということを議論したい.言語起源で問題となるのは言語を用いる能力の進化である.すなわち,器官としての見方に立
ち,言語器官がいかにして生じたかということを問う.しかし,話はこれで終わりではない.この言語器官の進化に,前言語的コミュ
ニケーションも含めた社会的な相互作用のあり方が影響を与えるのかどうか,さらに,初期言語からの言語進化にはどのような影響を
及ぼすか,という点を考えねばならない。ここでは,言語能力の進化にも社会における言語の使われ方が影響を与えうる,すなわち,
言語は器官でもあり制度でもあるという主張を,構成論的シミュレーションの結果を交えて展開する.
【テーマII 言語能力のモデルと実際】
心の理論の再帰レベル進化に関する構成論的アプローチ
有田 隆也(名大院・情報科学)
再帰性を処理する能力は人間の心を他の動物の心から区別する.文法と「心の理論」は,再帰性が本質的役割を演ずる2つの典型で
ある.両者の再帰性を処理する能力の,進化,発生における出現順序や因果関係に関しては種々の説があるが,密接な相関があること
は間違いない.本発表では心の理論における再帰レベルの進化を考える.心の理論とは他者の心の状態を推測する心の機能である.他
者の心を推測する時,他者も他個体に対する心の推測を行うとすると,心の推測の入れ子構造が発生する.社会的生物は他個体との駆
け引きの中で他個体より優位に立つことが重要である.それゆえ他者の行動を予測する能力,他者の予測を予測する能力などが適応進
化してきたと考える立場がありうる.時間や記憶量などの処理コストを0としたとき,どの再帰レベル(入れ子の段数)がもっとも適
応的であろうか? 本研究では,再帰的推測の機能を前提とした計算論的モデルを作り,シミュレーション実験により,再帰レベルの
適応性や機構に内在する進化ダイナミクスに関する知見を得ることを目的とする.物理的に接地した,社会的相互作用を象徴する最小
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
モデルとして,個体群の衝突回避行動を対象とする.実験の結果,レベル0と1の決定的な差が影響して奇数と偶数の再帰レベル間の適
応度の差を引き起こすこと,他者との関係性の強さ(集団サイズ)が再帰レベルの適応性の支配要因となることなどが示された.
言語とゲンゴの違い:再帰性、転移現象、そして内心構造
畠山 雄二(東京農工大院・共生科学技術)
自然言語の系統発生を考えるにあたり、まず、「自然言語とは何か」について考える必要がある。つまり、自然言語を自然言語たら
しめる必要条件を考える必要がある。この必要条件の中に、筆者は、再帰性と転移現象と内心構造の3つを考える。そして、これらを
可能にしているのが、他ならぬ、自然言語の文法ソフトウェアに内在する、機能範疇と統語構造のフラクタル性(ならびに一次関数性)
だと考える。ゲンゴから言語への進化には、この機能範疇の存在と統語構造のフラクタル性が大きく絡んでいると言えよう。本発表で
は、この辺りのことを中心に、言語の系統発生に関して独自の見解を述べてみたいと思う。また、岡ノ谷氏の小鳥の「歌文法」研究に
ついても触れ、同氏の研究がはたして自然言語の進化の研究と呼べるものか私見を述べてみたいと思う。
シンボルの統合からみた言語起源
川合 伸幸(名大院・情報科学)
萌芽的な言語は、動物にも観察される。ヒトにもっとも近縁なチンパンジーは、シンボル操作が可能である。音素から単語を作るよ
うに、記号素を組合わせてある対象を示すシンボルも構成できる。また、対象の属性(名称、色、数)も表現できる。さらに、「A put
B」と「B put A」のように、文のシンボルの位置に合わせて異なる行動を遂行する。しかし、記号素の要素も、対象の属性も、「文」
を構成するシンボル数も最大で3である。チンパンジーの表象の限界が3なのではない。あらゆる知的な活動の基盤である短期記憶の
容量は5∼6であり、ヒトの成人に等しい。むしろ対象の表象を統合したり階層的に組合わせる能力に限界があるのではないだろうか。
そのことは次の実験からも示唆される。画面に0∼9までの数字を複数呈示し(1-3-4-5-7-8)
、小さい順に選ばせる課題で、ヒトとチ
ンパンジーで正答率や反応時間に違いはなかった。しかし、すべての数字が異なる条件に比べて、同じ数字が含まれる場合(1-3-4-44-8)では、チンパンジーの反応は遅くなった。ヒトは、同じ数字をまとめることで(1-3-[444]-8)行動経路の計算を圧縮するのに対
し、チンパンジーでは増加した経路の計算に時間を要して遅くなったと考えられる。ヒトでは4歳児でも圧縮が可能で、シンボルを統
合する能力は言語や他の認知能力に関連しているのではないかと考えられる。
【テーマIII 言語の系統発生】
音列状況相互分節化仮説とその神経機構
岡ノ谷一夫(理化学研究所・脳科学総合研究センター)
、Bjorn Merker (Upsla Univ.)
言語の起源を前適応の観点から検討すると、文法は求愛信号の性淘汰から、意味は共同呼称の社会淘汰から進化してきたと考えられ
る。ヒトの言語は文法と意味とが融合しているが、ではどのような過程で融合が生じたのか。また、どのような脳構築がこれらの融合
を可能にしているのか。
わたしたちは先に歌が性淘汰を経て複雑化し文法に至るという説を発表した。この能力が生殖文脈以外でも使われるようになり、さ
まざまな行動文脈で異なる歌がうたわれるようになったとしよう。歌を構成する要素は有限だから、それぞれの歌の一部には同じ下位
音列が使われているであろう。同様に、2つの異なる行動文脈で共通な下位文脈がある。具体的には、食事を示す歌 A (ababcdeab)が
あり、狩りを示す歌 B(fffgggcdehiij)があるとすれば、状況の共通部分である「みんなで・・しよう」と、歌の共通部分である cde と
が相互に分節化され、cde が Let’s という意味を持ってくるのではないか。これを音列状況相互分節化仮説とよぶことにする。
神経生理学的な研究により音列の分節化は前頭前野と大脳基底核のループ構造で、状況の分節化は前頭前野と海馬のループ構造で可
能になることが示されている。前頭前野をなかだちとした2つのループ構造が音列と状況の相互分節化を可能にしていると考えられる。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
言語の進化に関わる遺伝子
大隅典子(東北大院 医学系)
ヒトが言語を操るのに必要な遺伝的プログラムはどのように進化したのだろうか? この問いは根元的かつ深遠であるが、ポストゲノ
ム時代に突入し、広範な遺伝子解析やいくつかのモデル動物の遺伝子操作が容易になった今日では、解を探しうる可能性が俄に現実味
を帯びてきた。本講演では「遺伝子の働き」についての現代的理解を基盤として、会話や言語能力の発揮に関わる遺伝子群の解明にど
のようにアプローチしていけばよいかについて展望したい。とくに、「言語の遺伝子」として取り沙汰された FOXP2 という遺伝子が
どのように会話言語の習得や言語の起源に関わりうるのかについて、2001 年以降に発表された論文を読み解くことにより生物学的観
点から議論する。【キーワード】KE 家系、優性遺伝、口腔顔面協調障害、運動制御システム、運動ニューロン、脳神経(vs 脊髄神経)、脳イメージン
グ、DNA マーカー、染色体転座、forkhead 型転写因子ファミリー、遺伝子重複、DNA 結合ドメイン、遺伝情報の発現(転写、翻訳)
、遺伝子の制御領
域とコード領域、分子進化
【総合討論 司会 橋本、岡ノ谷】
1−C1:(K) 蛋白質間相互作用による細胞内シグナル伝達系の進化
企画者:中林 潤○(九州大 理)
:森下 喜弘(九州大 理)
連絡先 [email protected]
蛋白質は様々な相互作用や修飾反応によりその機能を制御されている。細胞内で適切に機
能するために、蛋白質は複雑な相互作用のネットワークを形 成している。その代表的なも
のが細胞内の情報伝達経路である。細胞内情報 伝達の制御機構を理解することは生物学の
大きなトピックの一つであるが、細胞内シグナル伝達系を進化的な観点から考察した研究は
まだ数少ない。細胞内シグナル伝達系の制御機構をよりよく理解するために、進化的な観点
から細胞内シグナル伝達系について考察した研究を集め、シンポジウムを企画した。(使用
言語:日本語)
進化に伴ったアポトーシス実行因子の多様化と細胞死の普遍性の意義
酒巻和弘(京都大院・生命科学)
細胞死(アポトーシス)は、発生過程における形態形成・成体の恒常性維持や生体防御機構等に関与しており、生体にとって必要不可
欠な生命現象である。このアポトーシスのシグナル伝達経路にカスパーゼと称する一群のシステイン-プロテアーゼが実行因子として
関わっている。数種から成るカスパーゼがカスケードを構築し、活性化型に変換したカスパーゼが下流の分子を不可逆的に切断分解す
ることにより、アポトーシスのシグナルが亢進する。これまでに、線虫とショウジョウバエではそれぞれ4種類と7種類のカスパーゼ
が確認され、哺乳類では11種類の分子が同定されている。哺乳類では、線虫と類似したカスパーゼ・カスケードに加えて、細胞表層
レセプターを介したアポトーシスのシグナル伝達系にも特異的なカスケードが存在する。高等生物では、アポトーシス刺激の種類の多
様さに相応して、カスパーゼの種類が増加し役割分担化した可能性が考えられる。今回、脊索動物や他の脊椎動物(魚類・両生類)の
カスパーゼを解析することにより、生物の進化に伴ってカスパーゼとその制御分子が、シグナル伝達系においてどのような機能や役割
を担ってきたのか議論したい。アポトーシスは、いずれの生物でも共通した特徴を示し、普遍的である。このような普遍性を示す細胞
死に対し、カスパーゼが何故多様性を示す必要があるのか、その生物学的意義についても考察したい。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
シグナルカスケードにおけるシグナル増幅のための最適な分子集団サイズ
森下喜弘(九州大 理)
分子生物学における定量的な実験によって、細胞内における各シグナル分子の数は極めて少数であるといった事実が明らかになった。
分子の少数性は、システムを構成する各化学反応に強いランダムネスを生じるためシステムの信頼性を下げる。しかしその一方で、分
子の維持(生成、分解)や化学修飾(リン酸化)に必要なエネルギーコストの面からは、強い利点を持つ。そのため実際の分子数は、
情報処理の信頼性とエネルギーコストのバランスによって決定されていると考えられる。
本研究では、エネルギー論的観点以外に、分子が少数であることが情報処理能力の観点から有益な役割を果たすことを、シグナルカ
スケードモデルを通じて明らかにする。具体的には、過渡的なバイナリ入力に対するシステムの応答特性に注目する。その結果、カス
ケードの各ステップに対して、シグナルを増幅するための最適な分子集団数が存在することを示す。また、分子数の有限性のために生
じる吸収境界条件によって、強度の違う二種類の入力がカスケードを通じて積極的に分離されうる事を明らかにする。進化的に見た場
合、分子の少数性に起因するこうした情報処理能力の向上は、分子数を少数とするための選択圧のひとつの因子と考えることができる。
細胞内シグナル伝達系における最適な反応階層数
中林 潤(九州大院・理)
細胞は外界からの様々な刺激に対応して、その内部状態を変化させている。刺激は細胞膜上の受容体によって感知され、特異的な伝達
経路を介して核へと伝達される。核内で標的遺伝子の転写が制御されることにより、刺激への応対がなされる。細胞内には様々なシグ
ナル伝達経路が存在するが、中でもタンパク修飾反応によるシグナル制御の機構はよく研究されている。タンパク修飾を介するシグナ
ル伝達経路の中には、転写因子が細胞膜上のレセプターに直接リン酸化されるものや、複数反応が階層的なカスケードを構成している
ものが存在しており、受容体から転写因子までの反応階層数は経路によって異なっている。
今回我々は MAPK シグナル伝達経路の数理モデルを構築し解析を行った。シグナル伝達速度を最大にする最適な反応階層数について
検討したので報告する。細胞障害性のシグナルを伝達するシグナル伝達経路において、伝達速度を最大にすることは細胞の生存に取っ
て有利であると考えられる。このことからシグナルの伝達速度はシグナル制御機構の進化を考察する際に、重要な因子の一つであると
考えられる。本研究では伝達速度の面から、進化的に最適なシグナル伝達の制御機構について考察する。
1−C2:(W)
発光生物からみた生物多様性と進化
企画者:近江谷克裕(産業技術総合研究所)
連絡先 [email protected]
「生物発光」は、生物が持つ最もユニークな機能の一つであり、その生物学的な意味は求愛、
忌避、活性酸素の除去等に至るまで多岐にわたっている。つまり発光システムは生物の持つ多
様性をよく表現する生命現象の一つである。本シンポジウムでは「生物発光」と「生物の多様
性と進化」をキーワードに生物学的、生態学的、さらには生化学的に研究を進める研究者の方々
に、もっともホットな話題を提供していただきたいと考えている。
共生発光細菌の生態と進化
和田実(東大海洋・微生物)
海洋性発光細菌のうち Vibrio fischeri, Photobacterium leiognathi および P. phosphoreum は特定のイカや魚の発光器官内共生菌
として知られている。これらの細菌は海洋環境から次世代の宿主の発光器官に水平感染して定着するとともに、宿主発光器官から周囲
の海水へ定期的に排出、供給されている。宿主と外界を往復するこのようなライフサイクル(感染環)を持つ共生発光細菌の種分化や
遺伝子進化は宿主の影響を強く受けてきたと予想される。例として、イカに共生する V. fischeri 株でグリセルアルデヒド3リン酸脱水
素酵素遺伝子(gap)に基づく系統関係と各イカ宿主のミトコンドリア Cyt.b 領域に基づく系統関係がよく対応している。一方、ヒイ
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ラギ科魚類に共生する P. leiognathi 株の gap では宿主の系統を反映した分化は認められないものの、ルシフェラーゼ遺伝子(lux)では、
宿主の違いと対応した配列が得られている。これらの結果は、発光細菌の遺伝子進化が宿主の系統に依存した選択圧を受けていること
を示唆している。共生発光細菌の遺伝子およびゲノムは宿主と外部環境を巡る感染環の中で進化してきたはずである。その過程を描き
出すには、感染実験系を駆使して宿主の発光器官内外の選択圧の実体を明らかにするとともに、共生発光細菌の遺伝子系統解析、ゲノ
ム解析の蓄積が必要である。
日本沿岸に生息するウミホタルの集団構造
小江克典*,近江谷克裕(産総研・セルエンジニア)
これまでの研究からウミホタルの個体群動態、繁殖周期や殻長は、採集地によって変異を示す事が知られており、地域特異的な集団
を形成していると予想されていた。しかし、付属肢などに現れる形態的な相違を確認することはできなかった。そこで、集団形成の様
子を調査するために、最も効率よく多型を含んでいると考えられる CYTB 遺伝子領域を用いて、地域的多様性の解析を実施した。1997
年から 2004 年にかけて、青森県から沖縄県沿岸 367 地点で採集調査を行い、47 地点からウミホタルを採集した。それぞれの採集地
から数個体ずつ取り出し、合計 303 個体について、地域的多様性の解析を行った。その結果、日本沿岸に生息するウミホタルは、i)竹
富島・西表島と波照間島の集団(石西礁湖)、ii)宮古島の集団、iii)沖縄本島の集団、iv)奄美大島の集団、v)本州・四国・九州の集団か
らなる、5つの大きな遺伝子集団を形成することが明らかになった。また、本州・四国・九州の集団は、さらに東京湾・伊豆の小集団
および紀伊半島の小集団を含んでいた。これら地域特異的な集団は、お互いに混ざり合っているような遺伝的特徴を示さないことから、
このまま集団が維持され続けると仮定した場合には、種分化に達すると予想している。本発表ではこれらウミホタルの多様性について
議論を行いたい。
発光性甲虫の進化
大場裕一(名大・生命農)*,井上敏(チッソ・横浜研)
我々は、ホタルルシフェラーゼが発光活性以外の酵素活性(脂肪酸 CoA 合成酵素活性)を有することを最近発見した。また、ショ
ウジョウバエにおけるルシフェラーゼホモログ遺伝子の酵素活性を調べたところ、この遺伝子(CG6178)が脂肪酸 CoA 合成酵素で
あることがわかった。これらのことから、ホタルルシフェラーゼの起源は発光能を持たない脂肪酸 CoA 合成酵素であり、進化の過程
で発光活性が付加された可能性が示唆される。本発表では、これら最近の研究結果を総説し、ホタル上科やコメツキムシ上科の系統が
どのように発光能を進化させたのかについて議論したい。
ホタルの発光行動と系統進化
鈴木浩文(オリンパス株式会社・基礎技術部)
ホタルは発光することでよく知られた昆虫である。配偶時には,それぞれの種に特有の発光パターンによって雌雄を認識しているが,
成虫になると発光せずにフェロモンによって雌雄を認識する種類もいる。さらに,同一種であっても,地域によって発光間隔が異なる
生態型が知られる種類も少なくない。このような光を用いたホタルの配偶様式がどのように派生してきたのかという視点から,ミトコ
ンドリアDNAの塩基配列を基に日本産ホタル類の系統樹を作成し,その系統樹に配偶様式を配置させた。その結果,フェロモンによ
るものが最も原始的と推定され,次いでフェロモンを保持したまま連続光を取り入れた系統と,フェロモンによる認識機構を失い光の
応答で雌雄を認識する系統に分かれ,更にそこから雌雄特有の発光信号や同時明滅による配偶システムが派生してきたと推定された。
また同一種内において,地域によって発光間隔の異なる生態型が知られているゲンジボタルでは,雄が雌を探すときの発光間隔が中
部山岳地帯を境にして西日本側では約2秒,東日本側では約4秒と異なっている。この生態型では,4秒型が派生的であると推定され
た。
同様の現象がヘイケボタルでも,本州と北海道を挟んで観察されている。しかしながら,ゲンジボタルでみられた程の遺伝的な地域
分化は認められなかった。そのため,ヘイケボタルでみられる発光間隔の異なった生態型は寒冷地での適応と考えられた。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
Luminescent Beetle (LB) in China
Liang Xingcai(Chinese Academy of Sciences)
The present study dealt with research history of Chinese Luminescent Beetle(CLB), the fauna of CLB, the classification and
phylogeny, the life history and ecology of Luciola spp. in Xishuanbanna. The results shown that the research of LB in China is
rarely and record is uncompleted. The species recorded in China is 106 species belonging to 5 subfamilies and 13 genera. LB
mainly distributed in Southern China and most popular species belonging to Luciola, Diaphanes and Pyrocoelia. The
morphological and molecular study shown that Luciola is complicate in its species and the relationship of Diaphanes and
Pyrocoelia is unclearly. The Luciola spp. occupied largest population in Xishuanbanna. LB ccould be found around the year and
the different season with different species and genera. Rhagophthalmid beetles (Rhagophthalmidae) were found in many places
of Yunnan, this result shown that rhagophthalmid beetles may origin from this place or suit to this kind of environment.
1−C3:(S)
古生物学と生物学から見た生物の絶滅事変の実体
企画者 :海保 邦夫(東北大・理)
:鈴木 紀毅(東北大・理)
連絡先 [email protected]
生物の大半が短期間に絶滅した“大量絶滅”は、過去6億年間に数回起き ており、生物
進化の要因として重要である。 本シンポジウムでは、大量絶 滅、より小規模の絶滅事変、
現在進行中の絶滅事変、種の絶滅について、絶 滅に要した時間、範囲、原因などの観点か
ら比較する。 古生物学者と生物学 者が議論し、互いの理解を深めることを目的とする。(使
用言語:日本語)
「現代は大量絶滅の時代か?」
松田裕之(横浜国大・環情)
現代は「第6の大量絶滅の時代」とも言われる。しかし、過去の大量絶滅 のように動物あるいは植物の科の数が半分以上失われる
と言う具体的な警告 はない。化石年代から推定した過去の絶滅率と比べて、短期間のうちに多く の種が絶滅していることが、「大量
絶滅」の所以とされる。
人間が生物多様性に与える絶滅リスク因子は、! 生息地の減少(環境収容 力の減少)、" 乱獲と混獲(自然増加率の減少)、# 外
来種の導入、$ 環境 汚染(環境収容力と自然増加率の減少)が挙げられる。たしかに、開発行為 が生物多様性に与える影響は甚大で
あり、人間と自然の持続可能な関係を維 持できているとは言えない。人間の環境への負荷が、近い将来の水資源の不 足、地球規模の
食糧不足を含む生態系の破壊として、人間の生存と生活に負 の反作用を引き起こす恐れがある。
しかし、だからと言って、過去の大量絶滅に比肩する事象とは言えない。 本講演では、! 人類が環境問題に際し避けるべき事態、
" 人類自身の絶滅、 # 大量絶滅の3つを区別して議論する。現在の環境問題が憂慮している事態 とは人類の絶滅を招く事態とは限ら
ず、まして多くの科が消滅するほどの事 態とは、いまのところ言えない。しかし、生物多様性の消失は人の持続可能 な営みを大きく
阻害する恐れがある。
「大量絶滅の全容と原因」
海保邦夫 (東北大院 理)
海洋無脊椎動物の化石記録からみると過去6億年間に科レベルで約20%,属のレベルで約50%以上が同時に絶滅したことが,
6回ある。それらは,オルドビス紀/シルル紀境界(4億 4000 万年前)
,デボン紀後期のフラスニアン/ファメニアン期境界(3億 7000
万年前)
,ペルム紀後期初頭(2億 6000 万年前)
,ペルム紀末(2億 5000 万年前)
,三畳紀/ジュラ紀境界(2億年前)
,白亜紀/第
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
三紀境界(6500 万年前)で起こった。これらの大規模の絶滅事変は,大量絶滅と呼ばれている。なお,ペルム紀後期 Maokouan 期の
絶滅事変を次のペルム紀末絶滅事変と識別し独立させることにより,顕生累代の大量絶滅事変は5回ではなく6回となる。
中でも、2億 5000 万年前のペルム紀末の大量絶滅は最も大きく、9割の種が絶滅した。その後の中生代・新生代の生物群集組成は、
古生代のそれとは大きく異なる。生物の構造変革が起きた。また、6500 万年前の白亜紀末に恐竜が絶滅すると、哺乳類が進化し、陸
を支配した。これらのいずれの事例でも、生き残った少数の生物が進化して新しいタイプの生物となり、生息空間を占有することが起
きた。このような生物の大規模な入れ替えは、大量絶滅によって起こると考えられている。ではなぜ、このような大量絶滅が起きるの
か。小天体衝突や大規模火山活動がその原因として有力である。これらの証拠と議論を紹介する。
「地質学スケールで見える生物相の大変革ー 5580 万年前の原生動物の絶滅事変の原因」
武田浩太郎(東北大院 理)
古第三紀は,温暖な白亜紀型の気候システムから現在のような寒冷な気候システムへの移行期に相当するが,暁新世/始新世境界
(5500 万年前)から始まる約 10 数万年という短期間において,急激な温暖化事変の存在が知られている(Paleocene/Eocene thermal
maximum: PETM).この温暖化事変は,海生原生動物である底生有孔虫の絶滅事変を伴い,多様性に富む後期白亜紀—暁新世型底生
有孔虫フォーナの約 30-50%,多い所では 65%が絶滅した事がわかっている.一時的に空白が生じた底生有孔虫の生息空間には,絶滅
事変後より約 8 万年間,1,2 種が寡占する著しく多様度の低い異常なフォーナが支配的となる.絶滅事変後より約 12 万年後,温暖化
事変の終わりと共に多様度が回復し,始新世型の底生有孔虫フォーナが出現する.
このような一連の底生有孔虫フォーナの激変は,海洋環境の激変に応答していると考えられる.酸素・炭素同位体比の分析結果は,
温暖化事変中における中・深層水塊の激変(水温・塩分・酸素濃度)の可能性を示唆しており,暁新世/始新世境界での底生有孔虫絶
滅事変の原因について議論する.
1−D1:(K) システムとしての生命と進化―情報・ネットワーク・相互作用
企画者:下原勝憲(ATR ネットワーク情報学研究所)
:前川督雄(四日市大)
連絡先 [email protected]
システムの進化を、要素間の相互作用や情報の流れ、それらのネットワークが発生・成長・
発達・崩壊する動的かつ自己組織的なプロセスとして捉える情報学的なアプローチから、シ
ステムとしての生命やその進化を理解し、工学的な応用につなげていく試みについて紹介す
る。(使用言語:日本語)
ネットワークの自己組織化と人工化学
鈴木秀明(情報通信研究機構(NICT)/ ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
人工的な生化学反応系をコンピュータ中にデザインし、その中で細胞を進化させようという研究では、空間表現が環境を決定付ける大
事な要素となる。我々はこの問題に対し、ノードが分子/原子を、エッジが衝突や結合を表す「ネットワーク人工化学(NAC)
」の
方法を提案し研究を進めている。
NAC内処理は大きく、受動的なものと能動的なものに分けられる。受動的な処理は、NACエッジの時々刻々の繋ぎ変え規則で表わ
される。我々はこれが3次元溶液空間内の分子の動きをエミュレートするように、剛体球のランダムウォークシミュレーションを行い、
それを統計的に解析した結果によりエッジの生成/消滅の確率を定式化した。設定された繋ぎ変え規則によると、ネットワークは次第
に大きなクラスタ係数と平均経路長を持つようになることが示されている。
一方、NAC内の能動的な処理はノード演算の実行によって進められる。NAC内のノード鎖はノードがもつシンボル間のテンプレー
ト照合により、強いエッジで繋がれたクラスタに折り畳まれる。出来たクラスタは、トークンを授受しながら並列計算を行うデータフ
39
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
ローコンピュータとして動作し、ネットワーク内で様々な処理を行ないえる。講演では具体例として、レプリカーゼと呼ばれるクラス
タがノード鎖の折り畳みにより作られ、他のノード鎖を複製する様子をデモンストレーションする。
代謝ネットワークの構造形成の進化モデル
小野直亮(阪大院 工)
近年生物の代謝系をネットワークとしてとらえ、その成立過程をモデル化する試みがいくつか報告されているが、代謝系の構造の持つ
機能や、その進化的な意味を詳しく議論するためにはこれまでの統計的な指標よりも、より詳細なトポロジー構造を比較する必要があ
る。そのようなトポロジーを重視した解析手法のひとつとして Girvan-Newman が提案するコミュニティ分析のアルゴリズムに着目し、
この手法を用いてモデル生物の代謝系の反応マップを調べたところ、他のネットワークにはみられない特徴的な構造が発見された。本
研究では人工化学反応系をもとにしたネットワーク進化のモデルによって、この構造の性質を理解することを試みる。
モデルとしては化学反応を抽象化した人工化学反応系を用い、文字列の書き換えによって化学反応を表現する。既存の酵素に変異が加
わって新しい反応が導入される patchwork モデルをもとにした進化プロセスに加えて、代謝系のフローを基準にした選択圧をかける
ことで、階層的なクラスター構造を持ったネットワークが形成されることを示す。
On Evolutionary Structure and Its Logic Representation in Molecular Communication Systems
劉 健勤,下原勝憲(ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
There exist molecular switches in cells, which are special signaling pathways for cell communication. An evolvable
bioinformatics method based on automaton is proposed to quantitatively describe the dynamical communication processes
among the signaling molecules in cells. According to the automaton structure W, the state transition from the current state of a
molecular switch to the next state of a molecular switch can be controlled by the input. The configuration C0, C1, ..., Cn
constructed by molecules will be to be activated in succeeding steps. Designed in concept and in simulation, they such sequences
can be generated by controlling the related pathways. Thus, certain sequences for computation can be formulated by the
sequence {Ci} (i = 0, 1, ..., n). It is concluded that the configuration C0, C1, ..., Cn can give rise lead to a computing process of a
nondeterministic finite state automaton. According to the reversible information processing mechanism of molecular switches, a
logic form of the evolvable pathway structure is inferred based on the automaton constructed above.
進化ハードウェアと遺伝子ネットワークシミュレーション
邊見 均(ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
粒度が非常に細かく、また有限・有界ではないような大規模な問題空間については進化的手法といえども単純な適用は難しい。効率的
な空間探索のためには、数学的な均一的空間表現法ではなく、何らかの構造を持たせた表現方法が有効と考えられる。その構造は空間
に本来備わっているというよりは、むしろ探索の利用者―それが生物であるにしろ工業的ユーザであるにしろ―がその空間あるいは世
界を捉える見方を反映するべきと考えられる。使われる表現は冗長的(すなわち空間の点と 1 対1対応ではない)
、偏向的(同じよう
な点の表現の長さが違う)、時には非完備的(=不完全:表現できない点がある)であることも許容されうるが、反面高度な目的合致
性が必要とされる。
本講演では電子回路の動作を進化的に獲得させることを題材にこのことを論じる。まず従来の数学的な回路の表現方法を概観し、進化
手法の観点からその問題点を述べる。次に実際的な回路の表現方法であるハードウェア記述言語について説明し、これを使った進化ハ
ードウェアの例とその効率性を示す。さらに効率を高める新たな表現方法を提示し、進化ハードウェアへの適用法を論じる。関連する
話題として遺伝子ネットワークシミュレーションについても述べる。
40
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
進化加速系としてのプログラムされた自己解体
前川督雄(四日市大 環境情報),上野 修(国際科学振興財団(FAIS)),大橋 力(国際科学振興財団(FAIS)/ ATR
ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
著者らは先に<プログラムされた自己解体モデル>を提唱した。すなわち、地球生命では基本的に、各個体それ自体が自らを解体する
機構を遺伝子プログラムとして保有しており、寿命が尽きた場合や環境不適合がある限界を超えた場合にこのプログラムを発動し、自
己を解体して物質・空間を再利用可能な形で生態系に還元し生態系の原状回復に寄与する。この仮説を検証するために微生物実験とコ
ンピュータシミュレーションを進めている。
これまで、ノイマン型自己増殖オートマトンおよびそれに自己解体機構を付与した生命それぞれを、地球生態系と同様に有限で不均質
な環境条件をもつ二次元空間で増殖させるデジタル生態系を構築して実験を行い、自己解体型生命では、生態系が原状回復されるとと
もに、自己解体しない生命に較べて増殖頻度・変異発生数が激増して進化が加速され、個体分布でもより優位にたつことを見出した。
これに基づき今回、個体内生体分子の分析機能を強化した新しいデジタル生態系 SIVA-T を開発して進化の過程を詳細に検討し、自己
解体が進化加速系として機能するメカニズムについて新たな知見を得た。すなわち、自己解体型デジタル生命は、適合した環境条件を
もつ有限の小領域で世代交代を繰り返すなかで変異を蓄積し、相異なる環境条件をもつ新しい領域への適応放散をより効率的に実現す
る。さらに、適応放散のなかで棲みわけを現出するなど興味深い挙動を示した。
qCA Machine for an Evolving Artificial Brain
Andrzej BULLER(ATR Network Informatics Laboratories (ATR-NIS))
The qCA is a 2-dimensional cellular automaton that consists of q-cells. Each q-cell has four contact points. Each contact point is
to be defined as either input or output. Each input can be connected to a source of a constant value (0 or 1) or to a data provider.
Each output cell can be connected to a data receiver. Depending on a q-cell’s location in the array, its data provider/receiver can
be a neighbor cell or an external device. Each q-cell returns 1 at clock t if one and only one of its inputs at clock t-1 was equal to
1. A single q-cell, depending on its configuration, can serve as a wire (1-clock delay), NOT, XOR, NOR, or INHIBIT. A pair of q-cell
can serve as AND, OR, or NAND. A triple of q-cells can serve as a planar overpass. A quadruple of q-cells can serve as a 2-to1 multiplexer or 3-input majority function. Hence, any sequential circuit, including a brain-like structure, can be synthesized as
a qCA. Some qCA-style circuits have been evolved using a genetic algorithm. An FPGA-based prototype qCA Machine has been
implemented.
概念間の関係として捉えた知識の構造と進化
真栄城哲也(筑波大学 / ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
生化学および生物学の知識が,これらの分野の概念および概念間の意味関係によって構成されると捉えて,これらの分野の発展ととも
に,知識の構造がどのような特徴を持ち,そしてどのように進化しているかについて解析した.本研究は,進化によって誕生したヒト
が,知識をどのような構造で管理し,そしてどのように進化させているかについて探るものである.生化学および生物学の概念をノー
ドで表し,概念間に意味関係があればリンクで結ぶことによって得られる生化学・生物学の概念ネットワークの特性を解析した結果,
2 重の巾分布構造を持ち,多数の少ないノード数で構成される部分ネットワークと,全体としてまとまった構造を持つ部分ネットワー
クの,2 つのネットワークから構成されることが判った.また,特定の分野に限定した解析からは,概念の数の増加とともに,階層構
造の深さも増加することが判った.さらに,知識の進化によって新しく誕生する概念は,まず小さいネットワークに組み込まれ,(1) そ
の概念の重要性によってより大きなネットワークに組み込まれる,(2) 消滅,(3) 維持の計 3 通りの進化の形態の存在が推測された.
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
Learning Mutation Strategies in Genetic Programming and their Implications on Evolution, Adaptation
and Robustness of Snakebot
Ivan Tanev ( Information Systems Design, Faculty of Engineering, Doshisha Univ. / ATR Network Informatics
Laboratories (ATR-NIS))
In this work we propose an approach of incorporating learning probabilistic context-sensitive grammar (LPCSG) in genetic
programming (GP) employed for evolution and adaptation of locomotion gaits of simulated snake-like robot (Snakebot). In our
approach LPCSG evolves from the originally defined context-free grammar (which usually expresses the syntax of genetic
programs in canonical GP) by learning from the aggregated reward values of the best-of-generation Snakebots the contextdependant probabilities of applying each of particular production rules with multiple right-hand side alternatives. LPCSG is then
applied during the especially introduced steered mutation in GP, used for evolution and adaptation of Snakebot. Empirically
obtained results verify that employing LPCSG contributes to the improvement of computational effort of both (i) the evolution of
the fastest possible locomotion gaits for various fitness conditions and (ii) adaptation of these locomotion gaits to challenging
environment and degraded mechanical abilities of Snakebot. In all of the cases considered in this study, the locomotion gaits,
evolved and adapted employing GP with LPCSG feature higher velocity and are obtained faster than with canonical GP.
個体間相互作用の動的離隔を用いた異種間協力の共進化モデル
中山功一(ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
,下原勝憲(ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
生態系を,多種多様な生物からなる複雑な大規模システムとして捉えたとき,進化は,複雑な大規模システムの構造を適応的に決定し
てきたメカニズムとして捉えることができる.本稿では,要素間相互作用が複雑で予測困難な大規模システムの中でも,特に多種多様
な要素からなるシステムの進化的手法による設計に向けて,生態系における異種間協力の進化についての知見を得ることを目的とする.
進化的手法の研究では,これまで,要素間相互作用の空間依存性(局所性)が与える影響についてあまり注目されていなかった.筆者
らは,要素間相互作用の空間依存性の影響が,異種間協力の進化に,さらには多種多様な要素からなるシステムの進化的設計に重要で
あると考え,マルチエージェント・シミュレーションにより実験的に検証する.
本稿では,要素間相互作用の空間依存性を,動的離隔によりモデル化する.また,要素間相互作用モデルとして,囚人のジレンマの利
得表を拡張した「異種間ジレンマ」と呼ぶ利得表による行動選択ゲーム(対戦型モデル)を用いる.
実験結果から,動的離隔モデルでは,異種間においてもパレート最適な行動の獲得が示された.これは,「血縁選択」や「群選択」,
「ゲーム理論」といった従来の説明とは異なるメカニズムによる異種間協調行動の獲得を意味し,このメカニズムは,多種多様な要素
が互いに複雑に影響するシステムの設計において有効であると期待される.
進化・学習するマルチエージェントシステムの設計指針を目指して
_ 複数クラシファイアシステムからの展開 _
高玉 圭樹(東京工業大学 / ATR ネットワーク情報学研究所(ATR-NIS)
)
本 稿で は , 進化 と 学 習の 両 機 構を 持 つ学 習 分 類子 シ ス テム (learning classifier system)に 着 目し , そ れら を 自 律エ ー ジ ェン ト
(autonomous agent)と見立てたマルチエージェントシステム(multiagent system)の設計指針を探求する.特に,エージェントが相互
作用する複雑系においては,相互作用の仕方によってさまざまな創発現象が引き起こされるため,どのようにエージェントを設計すれ
ば望みの結果を得ることができるかは明確な解答はなく,一般的な設計論には全く到達していない.そこで,本稿ではこれらの問題に
取り組み,何らかの解を見出すことを試みる.具体的には,複数のエージェントが相互作用する系において望みの結果を得るには,(1)
どのような要素が必要であるのか,また,(2)どのようにコントロールすればよいかという問に対する解をいくつかの具体的な例を交え
ながら模索する.このような取り組みは,学問として工学的なシステムの設計論に貢献するだけでなく,一般社会においてシステムを
設計するシステムエンジニアや,複数の部下を統括する管理職のマネージメント方法にもつながるため,それらについても言及する.
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
1−D4:(K) 昆虫社会内のコンフリクト—性比、ポリシング、繁殖配分
企画者:辻 和希(琉球大 農)
連絡先 [email protected]
利他行動進化のキーコンセプトとして血縁淘汰理論が登場して以来、アリやハチなどの社
会性昆虫は社会行動の進化的理解の向上に最も貢献した研究対象の1つになって いる。そ
の過程で、それらの社会に内在する様々な利害対立が理論的にも実証的にも 次々明らかに
なってきた。本企画では、分野外からはともすれば複雑怪奇に映る、社 会内コンフリクト
に関するこれまでの理論・実証両研究の成果を整理し、現状の到達 点を概観したい。そし
て、比較を通し生物の「社会」一般の理解のための視点の提供 を試みる。(使用言語:日
本語)
膜翅目昆虫社会における 3 つのコンフリクト:オーバービュー
辻 和希(琉球大・農)
血縁淘汰理論の登場以来、アリやハチなどの昆虫の研究は、動物の社会行動の進化生物学をリードしてきた。この分野の理論的焦点は、
元来利己的なメンバーの間で、いかに対立が解消され全体的機能統合が導かれるのかにある(Maynard Smith & Szathary 1995)
。実
際、近年の社会進化の諸理論は、昆虫社会はその裏にあるメンバー間の緊張関係の中で維持されていると予測し、この考えを支持する
証拠も多数集まりつつある。本企画では、分野外からはともすれば複雑怪奇に映る、昆虫社会内のコンフリクトに関するこれまでの理
論・実証両面での研究成果を整理し、現状の到達点を概観したい。そして、比較を通し、ヒトも含めた生物の「社会」一般の理解のた
めの視点の提供を試みる。
膜翅目(ハチ目)昆虫の社会には、メンバーの間で以下の3つの意志決定に関する利害対立が生じる可能性が血縁淘汰理論から予測
されている。
(1)
性比に関する女王とワーカーの間の対立
(2)
誰が雄卵を産むかに関する女王とワーカー間、ワーカー同士の対立
(3)
コロニーの成長と繁殖の切り換えに関する女王とワーカー間の対立
この3つはこれまで独立に扱われてきたが、現実には同時に働き得るため、これらの間の相互作用に議論の焦点が移りつつある。中で
も、単独でも理論的な解析が難しい(3)とその他のコンフリクトとの相互作用こそが、下位レベルの利害対立解消と高次レベルでの
機能統合を可能にした、昆虫社会の進化の鍵である可能性を私は議論したい。
繁殖配分コンフリクトとポリシングの理論
大槻 久(九大・理)
膜翅目昆虫の一部ではワーカーは雄産卵が可能である。特に女王が一回交尾の 場合、ワーカーにとってワーカー由来の雄卵は女王由
来の雄卵より血縁度が高 くなるため、ワーカー産卵が好まれると予測できる。しかしながらこの予測に 反し、ワーカー産卵に対する
ワーカー同士の相互ポリシング行動の存在が近年 多く報告されている。本発表ではこの一見矛盾したポリシング行動の適応的・ 進化
的意義を、最適繁殖スケジューリング戦略という観点から数理モデルを用 いて説明する。
一年性社会性昆虫におけるポリシングと性比
土田浩治(岐阜大・応用生物科学)
一年性の真社会性カリバチであるフタモンアシナガバチは、女王が巣上にいてもワーカーが産卵することが知られている。ワーカーは
未受精なので、ワーカー産卵によって生まれるのはオスだけである。この現象は、ワーカーと女王間のオス卵を巡る争いと性比を巡る
争いの両方が同時に関与している可能性があり、進化生物学的に非常に興味深い現象である。現在までに我々は、遺伝マーカーを使っ
た実験と野外観察から次のようなことを明らかにしてきた。1)ワーカー産卵の頻度はコロニーが大きくなるにつれて増加すること。2)
43
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
個体群全の繁殖虫性は1:1であったが、コロニーの繁殖虫性比は、大型コロニーほどオスに偏ること。3)ワーカーの卵はその多くが
女王とワーカーによって食卵(ポリシング)されること。4)ワーカーの卵と女王の卵は何らかの化学的シグナルで識別されている可能
性が高いこと。以上のことから、本種の性比は基本的には女王のコントロール下にあるが、大型コロニーでは女王の制御が有効に働く
なくなっている可能性が考えられた。また、ワーカー同士のポリシング行 動は、遺伝的利益に基づく mutual policing ではなく selfish
policing であると考えられた。以上の結果を他の一年生カリバチの報告と比較しながら考察する予定である。
多年性昆虫社会におけるポリシングとコロニーサイズ
菊地友則*(琉球大・農)
、菊田典嗣(富山大・理)
、辻和希(琉球大・農)
ワーカー間に存在する雄卵をめぐるコンフリクトは、これまで主に血縁度の観点から議論されてきた。女王の多数回交尾や多女王性に
よって引き起こされる低血縁社会では、ワーカーからみた姉妹ワーカー由来の雄と女王由来の雄との血縁度が逆転するため、ワーカー
間で雄卵をめぐる相互抑制が進化しやすいと予測されている(ワーカーポリシングの進化条件:ワーカーからみた各雄との血縁度が、
息子>兄弟>甥)。この予測は、種内、種間比較による実証研究からこれまで支持されてきた。しかしながら、最近の研究では単女王
性、1 回交尾の高い血縁度で結ばれた社会においてもワーカーポリシングが起きることが報告されており、血縁度以外の新たな説明変
数が重要視されはじめている。
社会性昆虫におけるコロニーサイズは、他の生物の齢(age)に相当し、性比、投資比、敵対性、ワーカーサイズなどに影響を与え
ることが知られている。これまでのワーカーポリシング理論は、コロニーサイズに関係なくワーカーは常に雄生産を好むと仮定してい
る。しかしながら資源配分の意志決定に関しては、コロニーサイズが小さいときには女王、ワーカーどちらも繁殖個体の生産を控える
ことで利害が一致すると予測され(Ohtsuki and Tsuji 準備中)、実際、アリの1種を用いた我々の実証データもこの予測を支持して
いる。このことは、ワーカーの雄生産に関するモチベーションがコロニーサイズによって変化し、結果的にワーカー産卵やポリシング
頻度に影響を与える可能性を示唆している。本講演では、多年生の社会性膜翅目昆虫においてワーカー産卵の頻度が、ポリシング理論
とその要因に関する諸仮説(血縁度、ワーカー産卵のコスト、コロニーの繁殖スケジュール)でどの程度既存データが説明できている
か概観したい。
霊長類をはじめとする脊椎動物におけるコンフリクトの研究から
コメンテーター:岡本暁子(東海学園大・人文)
霊長類など、ヒトと系統的に近い動物は、世代の長さ、対象個体数や実験操作の限界などから、社会行動の進化理論と結びついた研究
がこれまであまり活発ではなかった。近年、生態的データ、行動データの蓄積が進み、それを分析する統計的手法も発展したことによ
り、理論研究と結びついた新たな展開をみせはじめている。その結果、昆虫社会との共通点や相違点が浮き彫りになりつつある。脊椎
動物、特に霊長類のコンフリクト研究の視点と成果、問題点を提示し、昆虫のコンフリクト研究と比較することから、ヒトを含めた生
物の「社会」一般を視野にいれる上で何が必要かを探ってみたい表題:霊長類をはじめとする脊椎動物におけるコンフリクトの研究か
ら
1−E1:(S)
発生と進化−発生プログラムも進化する−
企画者:田村宏治(東北大・生命科学)
:倉谷 滋(理研・発生再生)
連絡先 [email protected]
進化の軌跡は、生き物の形態に顕著に現れる。相同性・相似性などの概念も動植物の形態
についていうことが多く、生物の多様性を考える場合においてもまた形態的多様性を無視す
ることはできない。多細胞生物体が発生過程を経てその形態を獲得する限りにおいて、最終
形態の比較のみではなく、形態を生み出す発生システムそのものの進化と多様性を研究し論
44
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ずることが、進化生物学にとって重要な作業であると考えられる。「形態進化」というグロ
ーバルな命題を本シンポジウムの中心に据え、動物−植物間、脊椎動物−無脊椎動物間ある
いはそれぞれのグループ中の生物多様性を支える形態発生メカニズムの進化について議論し
たいと考えている。(使用言語:日本語)
脊索動物の進化発生学的考察
佐藤矩行(京都大院・理)
脊索動物の起源と進化は進化発生学の中で最も長くかつ活発に議論されてきた問題である。脊索動物門にはホヤなど尾索類、ナメクジ
ウオの頭索類、そして脊椎動物が含まれる。これら3群は脊索・背側神経管・鰓裂など多くの形質を共有し、約 5 億年以上昔に共通の
祖先から進化してきたものと考えられている。分子系統学的解析は頭索類と脊椎動物の近縁性を示唆しているが、これも確定的なもの
ではない。私達の研究グループは、共同研究者の協力も得て、脊索・背側神経管・鰓裂などの形成に関わる genetic cascades を明ら
かにしてきた。また、国立遺伝学研究所、アメリカ DOE・JGI との共同で尾索動物カタユウレイボヤ (Ciona intestinalis) のドラフト
ゲノムを解読し、ヒト・フグ・ショウジョウバエなどのゲノムとの比較を行った。その結果、脊椎動物の特徴としてこれまでに指摘さ
れていた染色体レベルでの遺伝子の増幅、脊椎骨および神経冠の発達などに加えて、獲得免疫系、ステロイドホルモン系、長距離の神
経伝達系などの諸生命現象に関わる遺伝子機能の獲得が脊椎動物の進化に深く関与していることを指摘した。また、現在、ナメクジウ
オ( Branchiostoma floridaei )のゲノム解読を共同で進めている。これら最近に得られた知見をもとに、脊索動物の起源と進化につ
いての進化発生学的考察を試みたい。
昆虫の形態形成メカニズムの進化
野地澄晴*,三戸太郎,大内淑代(徳島大 工)
様々な昆虫が地球に生息している。その数は 100 万種を超えるとも言われている。特に,葉や花に擬態した昆虫にはその見事さに
感動する。この様な昆虫はどのように進化してきたのであろうか?われわれは,コオロギに着目して,昆虫の形態形成のメカニズムと
その進化のメカニズムの解明を目標に研究を行なっている。それらのメカニズムの解明はまだ始まったばかりであるが,この 5 年間の
発展には眼をみはるものがある。それは,主に RNA 干渉(RNAi)の発見がきっかけになっている。われわれはショウジョウバエの長胚
型初期形態形成に関与する遺伝子群(ビコイドなどの母性遺伝子群,ギャップ遺伝子群,ペヤー・ルール遺伝子群,セグメント・ポラ
リティー遺伝子群,ホメトティック遺伝子群など)に対応するコオロギの遺伝子について RNAi 法により機能を調べてきた。その結果,
コオロギの中胚型初期発生様式は,ショウジョウバエの場合と大きく異なることがわかった。コオロギの発生様式は祖先型であるので,
ショウジョウバエの発生様式はコオロギ型から進化したと考えられる。つまり,細胞間の相互作用により頭部が初期に形成され,しだ
いに後部が伸長し胚全体が形成されるコオロギ型から,多核細胞の時期に転写因子の拡散による遺伝子調節により全体節がほぼ同時に
形成されるショウジョウバエ型に進化したと考えられる。その進化のメカニズムについての解明が今後の課題である。
カメはいかにしてカメとなり得たか
倉谷 滋(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)
カメという動物は、甲の形成に際して極めて大規模な解剖学的構築の改変を行っており、結果としていくつかの骨格、筋要素の形態学
的相同性決定が事実上不可能となっている。それは、爬虫類や羊膜類といったレベルでの変化ではなく、脊椎動物の標準的パターンを
も大きく逸脱しかねない。進化発生学的文脈においては、このようなタイプの変化は、祖先的発生拘束の解除によってのみ可能とされ、
その故にカメの甲は進化的新規形態と呼ぶことができる。むろん、そこには発生プログラムの進化的改変も予想されるが、発生が階層
的に組み上げられた因果連鎖である限りは、いかに得られた形態パターンの変化が大きかろうが、それに見合ったほどの大規模なプロ
グラムの改変が必要となるとは限らない。言い換えるなら、ごく小さな躓きであっても、それが次々と新たな変化を呼び、最終的には
大きなパターンの変化に繋がりうる。ここでは、標準的な体幹構造を持った羊膜類の一例としてニワトリを用い、これに対してカメの
45
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
一種、スッポンPelodiscus sinensisがどのような発生プログラムを持ち、何を変えることによって甲を獲得するに至ったのかを考察す
る。とりわけ、背甲の成長中心である甲稜の発生機構と機能、そこに発現するカメ類独特の遺伝子レパートリーと機能、羊膜類として
のボディプランからどのように逸脱したかを見る指標としてのHoxコードの比較を中心に考察する。
動物と植物の発生進化の違いを生み出しているもの
長谷部光泰*,村田隆(基礎生物学研究所・生物進化)、藤田知道(基礎生物学研究所・生物進化、北海道大院 理)
あたりまえのことであるが、動物と植物の発生過程は大きく異なっている。これは、両者が異なった単細胞生物から独立に多細胞化
したのだから当然である。従って、動物発生学に基づいて築かれた発生進化の概念は、多細胞生物のもう一つの大きな系統である植物
には適用できない場合が多いと予想される。一方で、多細胞体制を作り上げるために、役者である遺伝子は異なっているかも知れない
が、似たようなシステムを使っている可能性も十分にある。実際に、花形成のホメオティックセレクター遺伝子系を介した発生進化は
動物のホメオボックス遺伝子を介した発生進化に良く似ている。
植物は、細胞レベルから動物と異なっている。その大きな違いの一つに細胞が動けないことがある。従って、細胞分裂と細胞伸長方
向の決定が発生過程の進行に大きな役割を果たしている。動物の細胞分裂は中心体を起点とした細胞骨格系によって司られている。一
方、植物には中心体が無い。村田らが明らかにした植物が中心体無しで細胞骨格系を形成維持できる仕組みを題材に、その進化的意義
について考察してみる。
発生拘束とは、発生プログラムの進化に制約を生み出すような要因である。植物の発生拘束は動物に比べてずっとゆるやかなようで
ある。その結果、
発生可塑性、表現型可塑性は動物よりもずっと大きくなる。これらについて陸上植物の発生過程の比較を通じて議論したい。また、植
物の大きな特徴である、分化全能性の進化についても予備的実験結果に基づいて議論してみたい。
1−E2:(S)
微生物共生の相互作用と進化
企画者:南澤 究(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
生物共生は生態系・個体群・個体・細胞などの様々なレベルで生物進化の原動力とされ、
緊密な細胞内共生からルーズな様々な共生系がある。地球史な視点からは主に微生物が共生
者として振まってきたと言える。本シンポジウムでは、微生物が関与する共生系のうち、相
利共生の典型とされてきた根粒菌とマメ科植物の窒素固定共生系と最近着目されている微生
物バイオフィルム系をとりあげ、微生物−植物間、微生物—微生物間におけるシグナル物質
を介したコミュニケーション・相互作用とそれらの進化について考えたい。特に、今まであ
まり注目されてこなかった自然界における相互作用の場、共生者の競合、共生戦略の便宜性
などについても議論を行い、微生物共生系研究の新たな視点についても考えてみたい。(使
用言語:日本語)
植物共生遺伝子から見た細胞内共生の多様性と進化
林 誠(大阪大院 工)
根粒菌と植物の細胞内共生はマメ科植物の分化とともに発達した。これは化石的証拠あるいは根粒着生を示す植物種の分布から裏付け
られる。マメ科は被子植物の中でも比較的最近(7500∼5000 万年前)に成立したことも考慮すると、根粒菌との共生はマメ科特異的
な現象であると考えられる。根粒菌が植物細胞内で共生を成立させ、大気窒素を固定するには複雑な感染プロセスを経ることから、1
つの問題として、この感染に必要な遺伝子群はどのようにして機能を獲得したのか、という疑問が生じる。非常に限られたマメ科植物
種での遺伝学的データから、根粒形成に必要な多くの遺伝子は共生特異的であり、その変異によって共生以外の表現型に影響を及ぼさ
ない、すなわち、ある機能を保持している遺伝子が冗長的に共生に関与しているわけではないことが推測できる。ところが、根粒菌感
染に不全を示す植物変異体の中には菌根菌感染も不全になるものがいくつかある。これらの変異表現型は根粒菌が植物細胞に侵入する
以前のステップであり、近年いくつか報告された遺伝子同定の結果から、原因遺伝子は一連のシグナル伝達を担うことが判明した。菌
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
根菌は陸上植物の大部分に感染し、その共生は非常に古い起源(4億年以上前)であると考えられている。分類上も感染様式において
も根粒菌とは全く異なる菌根菌の感染メカニズムを、根粒菌はいかにして利用できたのであろうか。
マメ科植物ー根粒菌における宿主特異的共生の分子進化的解析
青木誠志郎(東大院・総合文化)
生物共生系には特異的関係性が広く見られ、マメ科植物と根粒菌の相互作用にもある宿主に対し決まった共生菌が細胞内共生し窒素
固定を行う「宿主特異性」が知られている。しかし普通考えられているように両者の関係が相利的ならば、特異性を生むことなく全宿
主に全共生菌が相互作用した方が効率が良いと思われる。マメと根粒菌の細胞内共生は一代ごとに土壌で新しく結ばれる相互作用であ
り、花と昆虫の相互作用における同種他個体への花粉伝播の様な特異性を形作るための条件もすぐには見当たらないことから、特異性
進化の原因は未だ謎とされている。そこで私はマメー根粒菌の特異的関係性を生む進化的な力の解明を目標に根粒形成に重要な遺伝子
群を用い分子進化的な解析を行っている。本発表ではまず解析の進んだ3つの根粒菌遺伝子群に焦点を当て『正の自然選択』『遺伝子
レベルでの平行進化』『遺伝子水平移行』の観測結果を示す。この結果からわかる進化的な力として『マメー根粒菌共生の適応性』『特
異的関係性を強める方向への自然選択』について考察し、さらに『宿主特異性を決定づけた分子進化の特定』の例を挙げる。次に全ゲ
ノム情報を用いた分子系統学的解析および植物遺伝子側の分子進化について報告したい。また最後に日本各地の野生植物と根粒菌の採
集により進めつつある『現在進みつつある特異性の進化現場の生態的解析』をお話し分子進化解析との整合性について議論する。
ゲノムから見た根粒菌像と相互作用因子の進化
南澤 究(東北大院 生命科学)
根粒菌は、6-9 Mb とゲノムサイズが比較的大きく、共生窒素固定に必須の遺伝子が染色体上の共生アイランドや共生プラスミドに
集中している。共生アイランドというのは、tRNA 遺伝子に GC 含量の低い共生窒素固定の遺伝子群が挿入された構造を意味し、病原
アイランドと似ている。また、ミヤコグサ根粒菌では巨大な共生アイランドの水平伝達能が観察されている。したがって、共生窒素固
定の進化を考えるには、根粒菌や個別の共生遺伝子のみではなく、共生アイランドや共生プラスミド上の共生遺伝子群の全体の挙動に
も着目する必要がある。演者らはダイズ根粒菌 Bradyrhizobium japonicum USDA110 株のアレイ解析により、(1)共生アイランドが
ゲノムバックグランドとは別の変化していること、(2)近縁の非共生土壌細菌は共生アイランド全体を欠いていることをゲノム構造の側
面から明らかにした。また、ダイズ根粒菌ゲノムは共生アイランド以外にも外来性因子を多数有しており、面白いことにその外来性領
域が根粒内(共生)で高発現していた。つまり、共生アイランドが種々の非共生土壌細菌ゲノムを渡り歩きながら、利己的な進化をし
ていると想像された。それでは根粒菌の相互作用因子はどのように獲得され進化してきたのであろうか。演者らは、宿主植物のエチレ
ン生合成を抑制し共生を促進する因子としてリゾビトキシン生合成系および ACC deaminase を見出してきたので、それらも題材とし
て根粒菌の相互作用因子の進化についても議論をしてみたい。
単細胞も群れたがる?―細胞集団の三次元時空間解析から見えてくるもの―
野村暢彦(筑波大院・生命環境)
地球上のあらゆるところで微生物はバイオフィルムとして集団生活を送っていることが明らかとなってきている。そのようなバイオ
フィルム状態の微生物に試験管培養などによる浮遊細胞で得られた知見が適用できない例が目立っている。浮遊細胞とバイオフィルム
の違いとして、バイオフィルム状態では浮遊細胞では見えてこなかった細胞の集団としての挙動があるからではなかろうか。多細胞生
物において、培養細胞を研究してもその生物の個体としての特徴を把握するのには限界があるように、細菌においても試験管などを用
いた浮遊細胞の研究からは細菌の集団としての挙動を把握するのには限界があるように思える。近年、シグナル物質を介した微生物間
コミュニケーションに関する研究が盛んに進められている。グラム陰性細菌ではアシル化ホモセリンラクトンをシグナル物質として用
いるクォーラムセンシング (QS) と呼ばれるコミュニケーションシステムが知られている。バイオフィルムにおいて細菌はより組織化
されていると思われ、微生物の集団としての挙動を把握するには微生物間コミュニケーションの理解も必須と思われる。
以上の背景を中心に、環境常在菌の一種である Pseudomonas aeruginosa をモデルに QS を中心とした微生物間コミュニケーショ
ンさらにバイオフィルム形態の三次元時空間解析などの研究を材料として、進化について議論してみたい。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
1−E4:(K) 空間スケールでみる感染と共進化
企画者:岩永亜紀子(九大・理)
:鈴木清樹(九大・理)
病原体とホストの軍拡競争は絶えず共進化の過程で見られる。しかし、病原体が新たなホ
ストを獲得して増殖していくには空間の 効果が無視できない。そこで、本シンポジウムで
空間構造を伴った感染動態や病気流行の 話題を紹介し、空間構造がもたらす役割や効果に
ついて考えてみたい。 (使用言語:日本語)
空間構造と感染様式-植物病害を例に鈴木清樹*、佐々木顕 (九州大・理)
植物は、個体レベルにおいても、細胞レベルにおいても、動物のように駆動することはせずに、常に個々が配列を成して集団を形成
している。従って、植物の病害伝播や細胞レベルでの感染防御メカニズムには、空間構造の効果が強く反映される。
そこで、植物集団に病害の流行を防ぐための感受性個体と抵抗性個体の割合や、その際に、両者をランダムに配置するか?空間的相
関を持たせるか?などの栽植様式についての考察を行う。
また、空間構造を考慮した場合、獲得抵抗性に見られるような世代内で一様ではない抵抗性の作用形式が、他の宿主個体により誘導
され得る場合(他感作用、シグナル伝達など)、病害に対して枯死率の高い遺伝形質であっても、他個体の抵抗性を誘導する利他的戦
略を採ることで集団に侵入することができる事例を紹介する。
イネ・いもち病菌の共進化制御を目指すマルチライン計画と空間構造の役割
石黒潔*(農林水産省・技術会議事務局)
複雑ネットワーク上の感染症伝播モデル
増田直紀* (理化学研究所・脳科学総合研究センター)
性感染症やコンピューター・ウイルスの伝播は、従来から用いられてきているような規則的な格子、完全混合性に相当するランダム・
グラフ上ではなく、スケールフリー・ネットワーク上で起こることが明らかになっている。他の感染症も、格子や完全混合モデルより
はスモールワールド・ネットワークでより精確に記述できる場合が多くある。たとえば、新興感染症の事例に見られるように、移動手
段の発達によって世界が急激に小さくなった。本発表では、感染症の伝播ダイナミクスについて、スモールワールド性やスケールフリ
ー性をキーワードとする、いわゆる複雑ネットワークの知見から論じる。複雑ネットワーク以前の研究と対比しつつ、スケールフリー
性による臨界感染率の消失、スモールワールド性の影響など、最新の研究成果までを紹介する。
植物の防御応答における抵抗性遺伝子とシグナル伝達系の多様性
- RPP8/HRT/RCY1 抵抗性遺伝子座における解析 高橋英樹* (東北大院・農)
植物は、病原体の感染に応答して防御機構を発動させ、自らを守る機構を備えている。なかでも、病原体の感染を受けた組織が急速に壊
死することによって病原体の植物体全身への広がりを防ぐ抵抗性反応(過敏感反応)は、抵抗性品種に広く認められる防御応答のひとつで
ある。この過敏感反応による抵抗性の発現を決定している宿主遺伝子(抵抗性遺伝子)は、現在までに約30種類が単離されており、遺伝子
産物の基本構造も明らかになっている。私たちは、シロイヌナズナのエコタイプC24におけるキュウリモザイクウイルス黄斑系統
[CMV(Y)]抵抗性の分子機構を研究する中で、CMV(Y)抵抗性遺伝子(RCY1)を単離した。RCY1は、最も多くの抵抗性遺伝子メンバーを含
むNB-LRRクラスに属していた。NB-LRRクラスはtruncated versionを含めるとシロイヌナズナのゲノム上に約200コピーが存在する。
さらに、RCY1を既報の抵抗性遺伝子と比較解析したところ、エコタイプLerのアブラナ科べと病菌抵抗性遺伝子RPP8やエコタイプDi-17
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
のTurnip crinkle virus抵抗性遺伝子(HRT)と対立遺伝子の関係にあった。ここでは、抵抗性遺伝子の進化の視点からRCY1について考察
するとともに、RPP8/HRT/RCY1遺伝子座の下流で機能している抵抗性シグナル伝達系の多様性について紹介する。
ウイルスの細胞間移行と宿主植物の最適防御戦略
岩永亜紀子*、佐々木顕(九州大・理)
植物に感染したウイルスは植物体内で増殖・拡散していく。ウイルスは宿主細胞内で移行タンパク(MP)を合成し、ウイルスゲノ
ムと結合して複合体を作る。これが細胞間の原形質連絡を押し広げることで、ウイルスの細胞間移行が可能となり、未感染細胞への新
たな感染が起こる。
一方、植物の防御反応は、宿主植物の抵抗性遺伝子と病原体の病原性遺伝子との感染関係(Gene-for-gene system)に基づいており、
植物が侵入する病原体の遺伝子に対して抵抗性遺伝子を持っているときにのみ抵抗性反応が起こる。植物はウイルス感染に伴い活性酸
素を生成し、そのシグナルが周辺細胞へ伝達される。シグナルが一定の閾値以上に達すると細胞が壊死を起こし(過敏感細胞死:HR)
、
ウイルスを局在化させ、植物体内への拡散を阻止する。
そこで、ウイルスの細胞間移行と植物の HR の動態を空間1次元の反応拡散方程式で表し、植物のウイルスに対する防御戦略について
調べたところ、過敏感細胞死を誘導するシグナルの閾値に最適値が存在することがわかった。この結果は、過敏感細胞死誘導の閾値を
決定する遺伝子 LSD1 の存在を示唆していると思われる。
1−F1:(K)
Vertical space structure :On metazoic genetic constitution adapting
1-g and hygiene environment
Planner : Yasuhiko Takeda
Contact address [email protected]
Toward mammals, via closed-blood vascular endoskeleton vertebrates from openblood vascular exoskeleton invertebrates, we investigate metazoan body constitution
through gravity gradient as one of environmental parameter of its persistence. We set
two boundary conditions and discuss the "solution", i. e. mammals' genetic constitution,
that fulfills the space in between. As 0-g boundary condition, we set obtained result of
gravity independent research on model creatures' genetic networks. As 1-g boundary
condition, we set obtained result of case-control study that takes advantage of diseases
experienced among established body constitutions. As a way of interpolation, designing
artificial organs gives some criteria to satisfy gravity resistance. (Each speech presented
in English)
Comprehensive sequence analysis of horseshoe crab cuticular proteins and their involvement in
transglutaminase-dependent cross-linking
Manabu Iijima , Shun-ichiro Kawabata(Biology, Faculty of Sciences, Kyushu Univ.)
Arthropod cuticles play an important role as the first barrier against invading pathogens. We extensively determined the
sequences of horseshoe crab cuticular proteins. Proteins extracted from the cuticle were purified by chitin-affinity
chromatography, and separated by two-dimensional SDS-PAGE. Proteins appearing on the gel (HMW chitin-binding proteins)
were grouped into classes based on their predominant amino acid compositions. Members of several groups contained a so-called
Rebers and Riddiford consensus found in arthropod cuticular proteins. Members of acidic DE contained a Cys-rich domain with
sequences similar to those of insect peritrophic matrix proteins and chitinases. In contrast, members of basic QH contained no
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
consensus sequences found in known chitin-binding proteins. Alternatively, LMW chitin-binding proteins were prepared, named
P1 through P15. With the exception of P9 and P15, all were found to be identical to known antimicrobial peptides. Interestingly,
we observed transglutaminase-dependent polymerization of nearly all HMW chitin-binding proteins, a finding suggests that
transglutaminase-dependent cross-linking plays an important role in host defense in the arthropod cuticle, analogous to that
observed in the epidermal cornified cell envelope in mammals.
Vertical space structure realized through genetic network perspective
Yasuhiko Takeda (Dep. Bio, Fac. of Sci, Kyushu Univ.)
Gravity adaptation and Gas-supply adaptation are both important to implement Our body constitution, supposed to realize
Invertebrate (open blood vascular, exoskeleton) <-> Vertebrate (closed blood vascular, endoskeleton) transition, as Data structure.
Simply, we prepared
Three propositions to understand mammals' body constitution consisted two parts: part gravity resistant, part gravity free, as
reaction cask and imperfect gas: and the perturbations on them.
1. As a reaction cask (Part gravity resistant :
rheumatology)
Gene cluster relevant in Bone / O2 supply remodelling is held on self-consistent condition with that
in gastrulation on
connected cusp catastrophes.
2. As an imperfect gas (Part gravity free : immunology)
Acquired immune system is bound on self-consistent and Mt. Fuji like fitness landscape in its diversity / function. Each cell
lineage corresponds to one of climbroads.
3. As the perturbations (Part affecting both : parasitology)
Innate immune system is bound on self-consistent and French Flag like control sequence in its deployment / function. Each
cell lineage corresponds to either Hi-Fi or economy in use.
Key word "Self-consistency" is essential to study the regulation of *several* cell types involved in making mammals' body constitution structurally
stable :-)
Why Human Heart beating?
Tomoyuki YAMBE (Tohoku Univ.)
Why is pulsation of the heart carried out?
A pump is required for blood circulation. Does the heart need to be a pulsation type pump?
In engineering side, the rotary pump
is excellent.
However, man's heart is a pulsation pump. Does the heart need to carry out pulsation?
Recently, interesting knowledge was
acquired to this problem.
It is clinical application of a non-pulsation blood pump. Clinical application of the non-pulsation artificial heart was carried out
even in Japan in May, 2005. A pulse may not have necessity in a human body.
The reason in which man's heart is carrying out
pulsation is only the conclusion of evolution. In order to design human beings, it is not necessary to carry out pulsation of the
heart.
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
Studies on the Rheumatoid Arthritis Disease Gene from a Viewpoint of Gene
Duplication and Accumulation of Neutral Mutation in the Duplicated Genome
Shunichi Shiozawa (Rheumatology, Kobe Univ. FHS School of Medicine and Rheumatic Diseases Division, Kobe Univ.
Hospitala)
We identified a variant of death receptor 3 (DR3) gene, a family of apoptosis-inducing Fas gene, containing 4 single nucleotide
polymorphisms (SNPs) and one locus of a 14 nucleotide deletion within exon 5 and intron 5 in patients with rheumatoid arthritis
(RA), in which g.2590 A>T mutation resulted in insertion of a portion of intron 5 into the coding sequence to generate premature
stop codon. Truncated DR3 molecule lacking death domain assembled with authentic DR3 molecule to inhibit ligand-induced
apoptosis in the lymphocytes of patients with mutation. The variant was increased in frequency in rheumatoid patients with
progressive joint destruction.
Further, a duplicated DR3 gene was found ~200kb upstream of the original DR3 gene by Fiber-FISH, sequencing of corresponding
human artificial chromosome clones, and quantitative RT-PCR amplifying normal and mutated DR3 simultaneously. Interestingly,
the DR3 gene duplication was highly prevalent in the patients with RA. These findings support the gene duplication theory of
Ohno and neutral mutation theory of Kimura in evolution.
1−F2:(K) Ecological and molecular approaches to Island Biology
企画者:Hayashi Morito(Institute of Genetics, Univ. of Nottingham)
:Lazaro M. Echenique-Diaz (Life science, Tohoku Univ.)
連絡先 [email protected]
Archipelagos and islands in general offer a suitable scenario to study models of
evolution due to practical advantages such as clear boundaries defined by geographical
and ecological discontinuities. In oceanic islands, historical isolation and complex
geological histories along with high ecological diversity have allowed the diversification
of a few taxa into a large number of species. On the other hand, continental islands that
have been historically connected to mainland show, on average, less genetic and species
diversity. These differences have prompted the assumption that evolution has occurred
at much faster rate in oceanic than in continental islands. In this symposium we focus on
studies of single-species occurring either in oceanic or continental islands. With an
approach to patterns of evolution and populations change from ecological and molecular
perspectives, we hope to bring to a common debate several aspect of the broad spectrum
of Island Biology, with the aim of stimulating young researchers and contributing to our
understanding of evolutionary processes on island realms.
Evolutionary Patterns in Hawaiian Land Snail Radiations: Comparative Biogeography of Two Major
Groups, the Succineidae and the Achatinellinae (Achatinellidae)
Brenden S. Holland (Center for Conservation Research & Training, Pacific Biosciences Research Center, Univ. of
Hawaii)
We are using a molecular approach to investigate origins and patterns of biological diversity in endemic Hawaiian land snails.
With around 750 species, Hawaiian snail fauna ranks among the most speciose on earth. We have admittedly only begun to
scratch the surface in terms of addressing fundamental questions which we hope will ultimately lead to an understanding of the
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
pace, patterns, and key evolutionary forces driving diversification of these spectacular and fragile assemblages. In this study we
seek to describe patterns of dispersal and diversification inferred from molecular markers for Pacific succineid snails, focusing on
the diverse Hawaiian assemblage, and briefly contrast results to date with molecular work recently completed on the Hawaiian
tree snails (Achatinellinae). Many Pacific islands, including the Hawaiian archipelago, arose in situ as the Pacific plate moves
over a stationary hot spot, resulting in a complex, dynamic geological history. Here we test the long-standing assumption that
local vicariant events, such as fragmentation of large “super islands” into smaller ones through formation, subsidence, and
erosion, have played critical roles in lineage isolation of Hawaiian land snails.
Geographical variation in echolocation call of a Horseshoe bat, Rhinolophus pumilus, on Okinawa
Islands
Hajime Yoshino* (Tohoku Univ. Life science), Kyle Armstrong (Kyoto Univ. Science), Masako Izawa (Ryukyu Univ.
Science), Masakado Kawata (Tohoku Univ. Life science)
Horseshoe bats emit echolocation call including a strong constant frequency (CF) component. They can recognize prey and mates,
and perceive their own relative speed against targets by the CF echolocation call. Recently, it was suggested that the large shift in
CF creates a discontinuity in the bats’ perception of available prey and recognizable mates, which might lead to the ecological
segregation and ultimately reproductive isolation. Thus, discovering large variations in CF between populations might give an
opportunity to discuss the evolutionary meaning of the CF in this family. The Okinawa least horseshoe bat, Rhinolophus pumilus,
is known as an endemic species distributed only in Okinawa Islands. In this study, the two phonic types of CF, around 110 kHz
and 117 kHz, were observed in the north and middle-south part of Okinawa-jima Island, respectively. Compared with the other
cases, the geographical variation was considerably large even in relatively smaller Island. Therefore, we also examined genetic
variations to explore the mechanism causing maintenance of the two phonic types of CF in Okinawa Islands.
So close and so different: causes and consequences of genetic structure in island populations of the bat
Hipposideros turpis
Lázaro M. Echenique-Diaz, Jun Yokoyama, Masakado Kawata (Life Sciences, Tohoku Univ.)
The recent evolutionary history of the bat Hipposideros turpis on the Yaeyama sub-archipelago, southern Japan, has been shaped
by ecological and geographical characteristics of the islands it inhabit. Separated by no more than a few thousand years, and less
than 100 km, populations of this bat show different patterns of genetic variation at different spatial scales. Factors such as
geographic distance and habitat fragmentation are among those affecting genetic structure between and within islands. However,
on Yonaguni Is., fine-scale genetic structure occurs regardless of the distance between colonies. Furthermore, female-biased
dispersal found on Yonaguni Is. contrast with male-biased dispersal found in the other islands. These contrasting differences can
be attributable to local ecological conditions on Yonaguni Is., such as the availability of suitable roost that in turns affect local
resource and local mate competition, and a small population size showing signs of a recent bottleneck. These results point toward
an important causal effect of human-related factors in generating genetic structure over a short period of time, with important
consequences to the species from evolutionary and conservation stand points.
Snake-lizard evolutionary dynamics on the Izu-Islands
Masami Hasegawa (Biology, Toho Univ.)
Terrestrial vertebrates of the Izu Islands are the subset of species indegeneous or endemic to the Japanese main islands, but their
species composition are extremely disharmonic both taxonomically and ecologically. Mammals, amphibians and freshwater
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
fishes are impoverished due to isolation, small area, reduced habitat diversity, and lack of permanent freshwater habitats.
Whereas, birds and reptiles are rather rich in endemic species or subspecies with unique ecological characteristics, and those
groups of vertebrates maintain higher population densities particularly on the islands without mammalian carnivores. Under
these circumstances, the snake Elaphe quadrivirgata shows remarkable diversification in food habits and body sizes in
accordance with inter-island difference in intensity of interspecific competition with other snake species and in availability of
main prey species, the lizard Eumeces okadae, that shows variations in life history traits, predator recognition ability, and
thermoregulatory strategy under different predation regimes. Long-term ecological studies over 20 years revealed unexpected
evolutionary (temporal) dynamics of snake color patterns probably due to lizard’s anti-snake response.
Rapid evolution of enhanced colour polymorphisms in island populations of the land snail Euhadra
peliomphala
Morito Hayashi (Institute of Genetics, Queen’s Medical Centre, Univ. of Nottingham)
Young or recently colonized islands are a useful resource for investigating how within-species variation arises. I have found that
in Euhadra peliomphala land snails from the Izu Islands (1) the diversity of shell colour in island populations is significantly
higher than mainland populations, yet (2) the molecular diversity of mitochondrial 16S rRNA is lower, and indicates that the
insular populations are all derived from single source population on the Izu Peninsula. The explanation for the discrepancy may
lie with possible two factors, drift and selection. One explanation is that selection may maintain the colour polymorphisms of the
island populations, because most populations contain both morphs. However, another plausible explanation is the island
populations are polymorphic because of morphological release, as the normal predators are rare or absent. Whatever the
explanation, both molecular data and ecological studies show that the shell colour evolution must have occurred recently.
SPECIES FORMATION IN AN ADAPTIVE RADIATION OF ISLAND SPIDERS: ROLE OF ISOLATION AND ECOLOGICAL SHIFTS
Rosemary Gillespie (Univ. of California)
Adaptive radiation is the diversification of species, each adapted to exploit different ecological roles. Here I examine the
geographical context of adaptive radiation, and in particular population divergence, ecological change, and the generation of
morphological diversity. Using spiders in the Hawaiian Islands I have found that ecologically similar sets of species occur on each
island. Results to date have shown that many species are closely related within an island, and that islands are colonized
progressively, from older to younger, with very few migrants involved in the colonization of a new island. I will address these
questions: (1) What is the role of geographical isolation in allowing populations to diverge and species to form within islands, (2)
how does ecological divergence take place, and (3) how can genetic and morphological diversity be generated following
colonization of an island by a small number of individuals?
1−F4:(K) Evolutionary biology of behavioral isolation
企画者:浅見崇比呂〇(信州大)
:小熊 譲(筑波大)
連絡先 [email protected]
行動隔離(性的隔離)とは、視・聴・嗅・味・触覚のどれかで求愛シグナルを識別し、配
偶者を選択する受精前隔離です。行動隔離は、雑種の崩壊を経ずに集団間の遺伝的交流を妨
げる点で、効率的かつ効果的な生殖的隔離の様式であるにちがいありません。行動隔離は、
複数の集団がたがいに異なる配偶者識別機構を獲得した結果(副産物)である場合と、性淘
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
汰により配偶者 識別機構が分化した結果である場合があります。 近年には、行動隔離に起
因する急速な種分化の証拠がつぎつぎと報告され、脚光をあびています。しかし、5 種もの
感覚による配偶者識別がありうるだけに、行動隔離の仕組みと進化プロセスは、対象生物の
自然史に通じていなければ手の出しようがありません。このシンポジウムでは、行動隔離の
実態を追究する研究の現在と今後を探ります。 (使用言語:英語 核となる情報・要点は日本語で重
複します。質疑は日本語と英語で行います。
)
Mate recognition by pheromone discloses hybrid vigor and breakdown in land snails
Takahiro Asami (Shinshu Univ.)
Mechanisms of reproductive isolation is little known in molluscs. For that reason, how their mate choice (premating isolation) has
evolved has been little explored successfully. We developed the first example of a simple olfactometer that allow us to detect the
presence of airborne signals for mate recognition in snails. In dichotomous branches of the olfactometer, both species moved to
a branch with conspecifics more often than the other branch with the other species or nothing. It indicates that assortative mating
between the two species can result from attractions of conspecifics by airborne pheromones. Juveniles, however, did not attract
adults or respond to them in either species. Thus, the airborne attractant is a type of sexual pheromone. F1 hybrids attracted both
species but did not respond to the airborne substance from either species or hybrids. Thus, F1 hybrids must be releasing the
sexual pheromones of both species but lack pheromone sensitivity. Our results demonstrate the first behavioral evidence of
airborne sex pheromones that function for premating isolation in gastropods. Hybrids exhibit vigor in sex-pheromone production
and suffer breakdown in sex-pheromone sensitivity.
Courtship of Drosophila quadrilineata: What is a unique courtship made of?
Masatoshi Tomaru (Kyoto Institute of Technology)
Female mate choice can shape male courtship behaviour by sexual selection. In this symposium, I will outline the courtship
behaviour of Drosophila, then describe a unique courtship element, "abdomen bending", in a (sub)tropical species, D.
quadrilineata and discuss on the behaviour in relation to mate choice.
Courtship of Drosophila consists of several elements, that is, tapping, circling, vibrating, licking and so on. Each sex sends
several signals, such as behavioural display and/or visual, chemical and sound stimuli to attract the opposite sex. In D.
melanogaster, for example, the female's sex pheromone excreted as one of cuticular hydrocarbons and the male's courtship song
emitted by wing vibration are important in mating success.
Drosophila quadrilineata is a member of the quadrilineata subgroup, the immigrans group, the subgenus Drosophila and is
distributed over the Orient and the Pacific Ocean. During courtship the male bends his abdomen right and left as a display to the
female and never uses his wings. We speculate that the male secretes volatile chemical compounds from or near the anus to
stimulate the female.
Analysis of sexual isolation by means of interspecific mosaic genome lines of the Drosophila ananassae
complex
Kyoichi Sawamura (Univ. Tsukuba), Yoshihiko Tomimura (Shiba Gakuen), Hajime Sato (Kyorin Univ), Koji Setoguchi
(Univ. Tsukuba), Hirokazu Yamada (Univ. Tsukuba), Muneo Matsuda (Kyorin Univ), Yuzuru Oguma (Univ. Tsukuba)
Strong sexual isolation exists between the closely related species Drosophila ananassae and D. pallidosa. Female sex pheromones
and male love songs are species-specific, and it is believed that female discrimination of the male’s acoustic signal is important
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
for the sexual isolation. As there is no obvious postmating isolation between the species, we can construct strains carrying various
combinations of genes from the two species. Strains exhibiting parthenogenesis have been derived from wild populations of both
species. We intercrossed such strains and established iso-female lines after the second generation of parthenogenesis. Because of
the type of parthenogenesis involved, these lines are clones, carrying homozygous chromosomes that are interspecific
recombinants. We established 266 such isogenic lines and determined their genetic constitutions by using chromosome and
molecular markers. We are currently making observations of mating behaviors between the females from the interspecific mosaic
genome lines and pure species males, with the goal of mapping the genes determining species-recognition by females. Our
preliminary results have suggested that the left arm of chromosome 2 and the right arm of chromosome 3 have strong effects.
Allochronic reproductive isolation
Takahisa Miyatake (Okayama Univ.)
Differences in mating time in a day or in reproductive season may cause allochronic reproductive isolation between intra- or
inter-specific populations. Many examples in which the difference in timing of reproduction prevents gene flow between
populations are known. These include the egg spawning time in marine organisms, the flowering time in angiosperms, and the
time of mating in insects. At first, I will briefly review potential allochronic cases in relation to reproductive isolation. Next, a
mechanism by which a clock gene pleiotropically controlling life history and behavioral traits can cause a reproductive isolation
is explained using a model species, the melon fly, Bactrocera cucurbitae. If genetic correlations between circadian rhythm and
reproductive traits exist, multifarious divergent selection for life-history traits would often accelerate the evolution of
reproductive isolation through clock genes in many organisms. Natural populations may diverge in reproduction time through a
drift, a direct natural selection for time of reproduction, or a by-product effect of genetic correlations. In any case, clock genes are
keys in allochronic reproductive isolation.
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
8月28日
2−A1:(K)ゲノムの多様性から探る生物集団の構造と歴史
企画者:高橋亮(理化学研究所ゲノム科学総合研究センター)
連絡先 [email protected]
生物集団の進化史を解き明かすには,個々の遺伝子の進化を辿る場合と異なり,全ゲノム
に渡る変異パタンを把握し,限られた領域にのみ影響を及ぼす要因からゲノム全体を左右す
る要因を峻別することが肝要である.本集会では,広範なゲノム領域から得られる多型情報
を指標とする集団史研究を実践と理論の両面から振り返り,作物の育種や遺伝多様性の保全
への応用を議論する。 (使用言語:日本語)
人類集団の歴史と遺伝的多様性
颯田 葉子(総研大・先導)
塩基配列の情報が比較的容易に得られるようになり、ヒトと他の霊長類での塩基配列比較、あるいはヒト集団内の遺伝的多型性の解
析等から「ヒトとは何か」を様々な観点から明らかにする試みが行われている。特に遺伝子の塩基配列上でヒト特異的な変化を探る研
究は盛んにおこなわれている。一方、ヒト集団の遺伝的多様性が時間と共にどのように変化してきたかを知る手がかりも蓄積しつつあ
る。
ヒトゲノム配列データとチンパンジーのゲノムの BES (Bac End Sequencing)データを用いた non-coding 領域の塩基配列の比較か
らはヒトとチンパンジーの祖先集団の遺伝的多様性が現在の 10 倍程度大きかったことが推定される。一方、現存のヒト集団の核 DNA
遺伝子座での多型性と HLA(ヒトの組織適合性抗原遺伝子群)領域での多型性との比較からヒト集団での遺伝的変異の減少(おそらく集
団の大きさの減少)がおよそ 200 万年前に起きたことが示唆されている。さらに、我々の研究室で配列決定をした 132 染色体のシア
ル酸水酸化酵素遺伝子(CMAH)塩基配列の解析結果を中心に現存入手可能な 15 遺伝子座のハプロタイプデータに基づく解析から、過
去 200 万年の間のヒト集団の動態を明らかにすることを試みた。その結果、アフリカ大陸では集団構造が維持され、この集団の一部
が脱アフリカを経て全世界へと拡散していったことが示唆された。
分断化・融合を繰り返す集団における遺伝子の進化
舘田 英典(九大院 理)
少なくとも過去70万年間、約10万年を周期として氷河期と間氷期が繰り返されている。生物種によってはこのような環境変動によ
ってレフュージア(逃避地)への移動が起こり、集団サイズの減少や分断化が起こったと考えられる。この講演では集団の分断化と融
合が周期的に起こると仮定し、淘汰に対して中立な遺伝的変異の挙動、具体的にはヘテロ接合頻度、二遺伝子座での連鎖不平衡の動態
や遺伝子系図について理論的に解析した結果を報告する。集団の分断化によりレフュージア集団間に遺伝的分化が生じ、その後集団の
融合が起こると集団内には連鎖不平衡が形成される。連鎖不平衡は融合した大集団では漸次減少する。この過程を繰り返すことによっ
て連鎖不平衡係数の分散がどのような値を取るかを、集団のサイズ、変化の時間、突然変異率、組み換え率を変化させて計算したとこ
ろ、組み換え率と連鎖不平衡係数の分散の関係が、時間的に構造が変化しない場合に較べて大きく異なる事が明らかになった。また任
意交配集団に較べると遺伝子系図の形も特徴的なものとなる。現在、多数の遺伝子座について多様性を調査することは比較的簡単に出
来るようになった。ここで得られた情報を基に過去の集団構造についてどのようなことがわかるかについても議論する。
進化遺伝学のモデルとしての栽培植物 -トウモロコシとコムギを例に松岡由浩(福井県立大)
我々が日々の生活で利用する穀類、野菜などの栽培植物は、全て過去一万年ほどの期間に、人類によって野生植物から作り出された。
栽培植物は、形態的・遺伝的変異に富む多様な品種群が存在し、かつそれらが体系的に収集・保存されていることなどから、生物進化
56
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
のメカニズムを研究する上で、ユニークな材料となり得る。特に、栽培植物の進化の出発点となった祖先野生種が、今なお生きた研究
材料として利用できるメリットは大きい。栽培種と祖先野生種にみられる遺伝的変異パターンを比較することにより、栽培植物の起原
地、栽培化の年代を推定し、さらには、選択や突然変異が栽培植物の進化の過程で果たした役割を詳細に解析できる。栽培植物の進化
の研究から得られる知見は、自然環境下で起きる生物進化のメカニズムを研究する上で、重要な示唆を与えうる。しかし、これまで、
栽培植物は、農学・育種学の分野でその特性が広く研究されてきたのに対し、進化遺伝学的視点から研究材料として取り上げられるこ
とは、シロイヌナズナやショウジョウバエやなどの「野生」モデル生物と比べて、必ずしも多くないのが現状である。そこで、本講演
では、トウモロコシとコムギを材料とした研究を通じて見えてきた、進化遺伝学のモデルとしての栽培植物の魅力を紹介し、具体的に
どのように栽培植物が生物進化の理解に役立つのかを考えてみたい。
サクラソウの遺伝的多様性とその保全
本城正憲(東大院・農学生命科学)
生物種は多くの場合、固有の進化的プロセスを経た遺伝的に区別される地域集団から構成される。これらの種内変異は、進化的遺産で
あるとともに今後の進化的基盤として重要である。近年では、個体数が減少した集団への個体の導入や、集団の復元事業が様々な植物
で行われているが、このような回復事業が地域固有の遺伝的変異の撹乱をもたらさないようにするためには、種子や株の供給源の選定
において、集団間の遺伝的な関係に注意を払い、各集団を遺伝的に独立した単位として扱うことが重要である。サクラソウは北海道か
ら九州にかけて分布する多年生草本であり、江戸時代からは日本の伝統的な園芸植物としても親しまれてきた。しかし、近年では生育
地の開発などにより絶滅の危機に瀕しており、一部の地域では復元事業も行われている。本発表ではサクラソウを対象に、種子や栄養
繁殖体による歴史的な分布拡大過程を反映する葉緑体 DNA および花粉による集団間の遺伝子交流を反映するマイクロサテライトの 2
種類の遺伝マーカーを指標として、遺伝的に区別されうる地域集団の認識の試みの結果を報告するとともに、日本のサクラソウ集団の
系統地理学的歴史や遺伝的保全単位について論じる。さらに、遺伝的変異の地理的分布を手がかりとして、系統保存株や伝統的な園芸
品種の起源を確認・推定した結果を報告する。
2−A2:(W)
ゲノムのダイナミックス・維持・進化(1)
企画者:山本和生*(東北大)
:小林一三(東京大)
連絡先 [email protected]
ゲノムを安定に維持する機構を多面的に明らかにし,進化に及ぼす パワーを考える。一番
目は,自己 DNA 非自己 DNA の認識をもとに,ゲノム再編成 を考える。二番目は塩基レベ
ル,染色体レベルでゲノムの安定性維持機構を, ゲノムの修復とその破綻によるガン細胞
の進化について総括する。
「非自己」ゲノムを破壊し「自己」ゲノムを修復するマシーンの 1 分子可視化
半田直史(Division of Microbiology, Univ. of California at Davis, California, USA;現: 東大・新領域)
DNA の「自己」と「非自己」をメチル化の有無によって識別する制限酵素・修飾酵素のように、DNA を二重鎖切断点から分解するエ
キソヌクレアーゼとその分解を抑制する DNA 配列は、DNA の「自己」と「非自己」を識別する機構になり得る。大腸菌 RecBCD 酵
素は、ファージ DNA のようなカイ配列を持たない DNA を、切断点から分解しつくす。しかし、カイ配列(5’-GCTGGTGG)に出会
うと、分解を抑制し、組換え修復にスイッチする。大腸菌染色体複製フォークで生じる二重鎖切断は、そのゲノム上に頻繁にあるカイ
配列によって修復される。それぞれの細菌グループで「自己」配列は異なり、これが遺伝子水平伝達のバリアーとなる。
蛍光色素を結合させた RecBCD 酵素1分子が DNA を分解しながら動く様子を、顕微鏡下で観察した。カイ配列がないときには、数
十 kb もの DNA を一気に分解するが、カイ配列に出会うと、そこで一時的に止まり、その後遅く進んだ。この時に RecD サブユニッ
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
トは RecBCD 酵素から外れなかった。
Spies M, Bianco PR, Dillingham MS, Handa N, Baskin RJ, Kowalczykowski SC. 2003. Cell 114: 647-654.
Handa N, Bianco PR, Baskin RJ, Kowalczykowski SC. 2005. Molecular Cell 17:745-750.
制限酵素修飾酵素遺伝子によるゲノムの攻撃と再編
小林一三(東大・新領域,東大・医科研)
制限酵素と修飾酵素の遺伝子単位(制限修飾遺伝子)は、細菌細胞が侵入 DNA から身を守る上で有利だから保持されてきたと信じら
れてきた。私たちは「制限修飾遺伝子が細胞から失われると、染色体のサイトのメチル化による防御が不完全になり、制限酵素がその
切断により細胞を殺す」事を発見し、この「分離後ホスト殺し」あるいは「遺伝的中毒」の解析から、制限修飾遺伝子が「利己的遺伝
子単位」であるという仮説を展開してきた。それらが「動く遺伝子」であり、ゲノムに挿入し、ゲノム再編を引き起こす証拠が蓄積し
ている。
超好熱古細菌 Pyrococcus abyssi と Pyrococcus horikoshii の同属異種のゲノム比較からも、複数の制限修飾遺伝子単位のゲノム再
編への関与が示唆された。バイオインフォーマティクス手法により制限酵素遺伝子と予想された ORF を、小麦胚芽無細胞タンパク質
合成系で発現し、DNA の切断を調べ、二つの制限酵素活性を発見した。そのひとつ PabI を精製し解析した。耐熱性を示し、5’GTAC
を認識し A と C の間で切断する。
制限修飾遺伝子のゲノム攻撃に伴う制御についても論じたい。
K. Ishikawa et al. Nucleic Acids Research, in press.
A. Ichige and I. Kobayashi J. Bacteriology, in press.
SOS DNA ポリメラーゼ:環境とゲノム進化を結ぶ架け橋
能美健彦(国立医薬品食品衛生研究所・変異遺伝部)
「氏か育ちか」という言葉に代表されるように、環境と遺伝の問題は古くて新しいテーマである。ゲノム科学の進歩により「遺伝」の
実体となる染色体 DNA の塩基配列については、ヒトを含む多数の生物について膨大な情報が蓄積され、網羅的な検索が可能となった。
生物は突然変異や遺伝的組換えにより多様なゲノム配列を作りだし、さまざまな「環境」からの淘汰に対抗してきたように見える。大
腸菌やネズミチフス菌では、DNA 損傷が起こると発現が誘導される遺伝子が 30 以上知られており、これらは緊急時に発現する遺伝子
という意味で SOS 遺伝子と呼ばれている。興味深いことに SOS 遺伝子の中には DNA ポリメラーゼをコードする遺伝子が含まれてお
り、これらの DNA ポリメラーゼは鋳型 DNA 鎖上の損傷を乗り越えて複製を行う、いわゆるトランスリージョン DNA 合成に係わっ
ている。トランスリージョン DNA 合成は、鋳型鎖の損傷部位の向かいに正しい塩基を挿入して進むこともあるが、誤った塩基が挿入
されることもあり、突然変異の抑制や誘発と結びついている。今回、損傷乗り越え型 DNA ポリメラーゼを系統的に破壊したネズミチ
フス菌を用い、環境因子の違いに応じて複数存在する乗り越え型 DNA ポリメラーゼが、どのように協調して働くかについて遺伝学的
解析を行った。SOS DNA ポリメラーゼが環境因子による DNA 損傷をもとに、宿主の遺伝的多様性を高めている可能性について論議
する。
DNA 紫外線損傷の修復機構と進化
安井 明(東北大・加齢医学研究所)
私は修復と進化の関係には大変興味をもって解析してきた。紫外線損傷を取り除く修復機構は大きく分けて三つあり、生物界に最も広
く分布しているヌクレオチド除去修復 (NER)、太陽光の紫外線よりも長波長の光エネルギーを損傷に吸収させて元に戻す光回復、そ
れに紫外線損傷の 5’側にニックを入れる UV Damage Endonuclease (UVDE)による除去修復であり、いずれも原核生物と真核生物に
分布している。紫外線損傷は主に、最も発生頻度の高いシクロブタン型ピリミジン二量体とその1/4ほどの発生頻度である 6-4 光産
物である。NER や UVDE はいずれの損傷も修復するが、光回復はそれぞれの損傷で CPD 型と 6-4 型の酵素遺伝子が必要である。こ
れらの遺伝子の生物界での分布から、生物が如何に太陽紫外線の影響を少なくしようとしてきたかが見て取れる。例えば光回復と UVDE
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
は損傷を素早く修復し、紫外線を浴びつつ増殖しつつある細胞では大変重要な存在である。ヒトなど有胎盤哺乳動物には NER 以外の
紫外線損傷修復機構は見つかっていない。しかし、カンガルーなどの有袋哺乳動物では光回復酵素遺伝子があり、光回復も機能してい
る。光回復酵素遺伝子をマウス個体に発現させ、それぞれの紫外線損傷の影響を明らかにした。さらに、ヒト細胞で UVDE を発現さ
せ、最も発生頻度の高い単鎖切断に対するヒト細胞応答を明らかにした。
2−A4:(W)
ゲノムのダイナミックス・維持・進化(2)
企画者:山本和生(東北大)
:小林一三(東京大)
連絡先 [email protected]
ゲノムを安定に維持する機構を多面的に明らかにし,進化に及ぼす パワーを考える。一
番目は,自己 DNA 非自己 DNA の認識をもとに,ゲノム再編成 を考える。二番目は塩基レ
ベル,染色体レベルでゲノムの安定性維持機構を, ゲノムの修復とその破綻によるガン細
胞の進化について総括する。
DNA 複製開始制御とゲノム倍数性の維持–DNA 複製ライセンス化因子 Cdt1 を中心として–
多田周右*、榎本武美(東北大院 薬)
真核細胞にはゲノム上のすべての領域を一回の細胞周期で二度以上複製させないために DNA 複製ライセンス化機構が存在する。Cdc6、
Cdt1 などの介在による MCM 複合体のクロマチン上への結合がライセンス化の実体である。ここで機能する Cdt1 は細胞周期におい
て発現が制御されており、その過剰発現は高等真核細胞ゲノムの再複製を誘導することが報告されている。本研究では、Cdt1 の活性
制御がゲノムの再複製抑止に特に重要な過程であると捉え、これについて Xenopus 卵抽出液無細胞実験系により解析した。まず、ラ
イセンス化における Cdt1 の作用機序の理解のため、Cdc6 との関係について検討した。その結果、Cdt1 の機能の発現には事前の Cdc6
のクロマチン結合が必須であることが明らかになった。この結果は MCM 複合体のクロマチン結合において Cdt1 と Cdc6 が密接に連
携し合うことを示唆する。次いで、Cdt1 とその阻害タンパク質 geminin の DNA 再複製への関与について検討した。Cdt1 を卵抽出液
に添加しても DNA 複製に著明な変化は認められなかったが、さらにチェックポイント経路を阻害する caffeine を添加した場合には顕
著に DNA 複製量が増加した。geminin を添加することによっても過剰 Cdt1 に伴う DNA 複製の顕著な増加が確認され、この増加は
caffeine の添加によりさらに増強された。以上の結果より、チェックポイント機構に加えて Cdt1-geminin の制御が DNA の再複製の
抑止に積極的に貢献していることが示唆された。
ゲノム倍数性の維持とエピジェネテイクス
山本和生*,渡邊恵里,高橋輝久,布柴達男(東北大・生命科学)
染色体の数の変化(aneuploidy)を来すような染色体不安定性(chromosomal instability; CIN)は,進化の上で重要な位置を占めて
いるほかに,がんや多くのヒト疾患と強く関係している。CIN の原因は不明であるが,近年の研究から,細胞周期 M 期の spindle
checkpoint(細胞分裂毎に染色体が正しく2分されるかどうかを監視する仕組み)の欠損によるといわれている。Spindle checkpoint
がチューブリンの張力を認識して機能し,染色体を正しく 2 分することで CIN を阻止していることから,チューブリンを攻撃するよ
うな化学物質で細胞を処理すると,倍数性の不安定が生じるのではないかと考えた。
ノコダゾールなど M 期に作用する薬剤で 2 倍体酵母を処理してスクリーニングしたところ,o-phenyl phenol(OPP)およびその誘導
物質が,染色体喪失を特異的に誘導することが明らかとなった。OPP 作用の特徴としては,1)チューブリンと相互作用し,解離反
応を阻害する,2)細胞周期の遅れ(G2/M 期)が生じる,3)細胞が巨大化する,4)染色体喪失型の CIN を導く。DNA 複製や組
み換えあるいは DNA 損傷が染色体異常に直接関わることは,従来から良く知られたことである。OPP を用いた研究では,タンパク質
の損傷がチェックポイントに影響を与え,その結果,染色体分配に異常を来たし,ゲノムの不安定が導かれると説明することができる。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
マウス生殖系での突然変異の特性
小野哲也*、李慧英、上原芳彦、池畑広伸(東北大院・医)
高等生物に於いては個体の維持と種の維持が別々の細胞(体細胞と生殖細胞)で担われているが、この2種類の細胞でのゲノム維持機
構が同一であるかどうかはまだよく分かっていない。我々は、この点を理解する1つの手がかりとして突然変異について注目し解析を
進めているのでその現状を紹介する。解析に用いているのは大腸菌の lacZ 遺伝子を組み込んだラムダファージ DNA が導入された
Muta(TM)マウスである。マウスゲノム上での lacZ の変異を大腸菌に移して分析する。
これまでに分かっていることは以下の3点である。
(1)
臓器の携帯が明確になる 14.5 日令胎仔で調べると精巣と卵巣での自然突然変異頻度は胎仔のそれよりわずかに低い。
(2)
そこでみられる突然変異の質に関して比較すると全体的に大きな差異はみられないが、欠失・挿入変異(indel)でのサイズに違い
がみられる。すなわち、胎仔では1塩基の indel が多いのに対し生殖組織では2塩基以上の indel の頻度が高い。
(3)
成獣に高線量(200Gy)の放射線を照射した時には体細胞組織と精巣とで突然変異頻度は増加し、変異の質についても両者で差は
見られない。しかし細胞が死なないような低線量の放射線(0.15Gy)をくり返し照射(78 回)した時には変異頻度は体細胞組織
と精巣の両者で増加するものの欠失型変異頻度には差が見られ、精巣では欠失型変異の生成が抑えられていた。
以上のことは、生殖細胞でのゲノム維持機構が体細胞でのそれとは異なることを示唆している。
DNA 損傷におけるクロマチンダイナミクス
井倉 毅(東北大・医学系)
ゲノム修復において損傷部位のクロマチン構造変換は重要なステップであることは言うまでもないが、細胞内で損傷を受けたクロマチ
ンがどのように変化し、修復過程に影響を及ぼすのかについては不明な点が多い。我々はクロマチンの構成蛋白の一つであるヒストン
H2AX に焦点をあて、損傷領域のクロマチンの構造変化について解析を行っている。これまでに我々は DNA 損傷部位においてヒスト
ン H2AX のダイナミクスが特異的に亢進するという事実を micro-irradiation を組み合わせた FRAP 解析により明らかにしてきた。そ
こで我々は、損傷領域のヒストン H2AX のダイナミクスの分子機構を明らかにするためにヒストン H2AX を含む機能的蛋白質複合体
を精製し、その解析を行った。その結果、ヒストン H2AX 複合体に TIP60 ヒストンアセチル化酵素が含まれることが明らかとなった。
さらに TIP60 ヒストンアセチル化酵素と損傷領域のヒストン H2AX のダイナミクスの関係について TIP60 ノックダウン細胞を用いて
検討した結果、TIP60 ノックダウン細胞ではヒストン H2AX のダイナミクスが抑制されることが明らかとなり、TIP60 ヒストンアセ
チル化酵素が損傷後のヒストン H2AX のダイナミクスを制御していることが示された。今回はヒストン H2AX 複合体の解析を通して
得られた損傷クロマチンのダイナミクスの分子機構について議論したい。
染色体核内配置からみた腫瘍細胞ゲノムのダイナミックス
田辺 秀之(総合研究大院・先導科学)
間期核における染色体は、高度に区画化された「染色体テリトリー」を持ち、その核内配置はランダムではなく、一定の規則性を持つ。
すなわち、核の中心付近から核膜周辺部にかけての放射状核内配置をみた場合、染色体のサイズや遺伝子密度と強く相関しており、例
えば、ヒトリンパ球では、遺伝子密度の低い 18 番染色体は核の周辺部に、遺伝子密度の高い 19 番染色体は核の中心付近に局在して
いる。一般に腫瘍細胞では、核形態の無秩序な変形、ヘテロクロマチンの異常凝集やラミナからの剥離、核マトリックスタンパク質の
欠失、perinucleolar compartment の出現、などの現象が観察され、核高次構造の秩序だった制御が解かれていると考えられている。
本研究では、腫瘍細胞における核高次構造の異常検出系として、染色体テリトリーの放射状核内配置を指標にし、ヒト各染色体の遺伝
子密度とサイズに基づき、種々の組み合わせの pooled chromosome paints について 3D-FISH 法により検討し、核内を I(Interior)
領域と P(Periphery)領域に 2 分することが可能なプローブの開発を行った。次にこのプローブを数種のヒト腫瘍細胞株に適用した
結果、グリオブラストーマ細胞株 T98G では、I、P 両領域プローブが高度に混合して分布する結果となり、核高次構造の異常検出系
60
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
として本法が有効である可能性が示唆された。
2−B1:(S)
脳と行動の多様性と進化
企画者:水波 誠(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
脳の進化の解明は神経生物学の最大の目標の1つである。 現在、脳進化へのアプローチ
が発生学や分子進化の観点から進められているが、 脳システムの多様性とその進化への取
り組みはまだ萌芽的段階にあり、 この分野では基盤的知見の蓄積や研究課題の探索や重要
である。 本シンポジウムでは脊椎動物(鳥類)および無脊椎動物(昆虫)の脳と行動の多
様性について幾つかの興味深いトピックをとりあげ、 その進化的理解に向けての展望につ
いて議論する。(使用言語:日本語)
聴覚の収斂進化—昆虫の聴覚器官が教えてくれること—
西野浩史(北大・電子研)
聴覚は進化した感覚といわれる。広い動物界にあって、洗練された聴覚コミュニケーションを行う動物は前口動物門の頂点に位置づ
けられる昆虫と、後口動物門の頂点に位置づけられる脊椎動物だけである。昆虫は外骨格ゆえに聴覚器官へのアクセスが容易で、これ
まで多くの神経生理学的知見が蓄積されてきた。昆虫の聴覚器官はもともとひずみに応じる機械受容器から進化してきたものと考えら
れており、その所在や形態は昆虫間でバラエティーに富む。しかし音(空気振動)を電気信号に変換する役割を持つ聴感覚ニューロン
の基本構造は良く似ている。近年の分子レベルの研究からは、昆虫の聴感覚ニューロンはユニークな構造を持ちつつも、哺乳類のそれ
と類似した機能分子を持つことが示唆されてきている。さらに、生物物理学的アプローチにより昆虫の聴受容細胞は従来知られていた
ような受動的な性質のみならず、アクティブな性質を持ち合わせていることが証明されつつある。本シンポジウムではこれら最新の知
見に、著者が行ってきた形態レベルの研究を交えながら、昆虫の聴覚神経系を進化的な観点から広く紹介したい。
昆虫における色覚系の多様性
木下充代(横浜市大院・総合理学)
色覚は多くの動物群で普遍的に見られる視覚機能である。ほ乳類、鳥類、魚類などの脊椎動物のみならず昆虫や軟体動物も鋭い色覚を
もつが、その機能の詳細は非常に種特異性が高いと考えられる。初めて色覚が証明された昆虫はミツバチである。約100年前にフリ
ッシュがミツバチでの研究を行って以来、ミツバチは昆虫における色覚研究のモデルとして扱われ、紫外線・青・緑を基盤とした三原
色系、色の恒常性、色知覚と標的サイズの関係などに関する知見がつぎつぎに蓄積されていった。その一方で、ミツバチ以外の昆虫に
ついての研究は逆に低調となり、昆虫における色覚の多様性については、議論できる状況ではなかった。最近になってようやく、とく
にチョウ類で色覚研究がすすみ、複眼の構造や色覚の基本的性質が解明されつつある。その結果として、ミツバチとの共通点と相違点、
加えてチョウ類同士での相違点も明らかになってきた。この講演では、複眼の構造を、ミツバチを含む数種の昆虫で比較した上で、と
くに波長弁別能(波長差を色の違いとして識別する能力)のスペクトルと‘原色’との関係を紹介する。たとえばミツバチ複眼には3
原色に対応する3種の色受容細胞しかないが、アゲハ複眼には6種の色受容細胞があって、色覚系はそのうちの4種が関係する四原色
系らしいことが分かった。こうした事例をもとに、色覚の多様性について論ずる。
鳥類の社会行動と扁桃核・視聴覚統合領域
池渕 万季(金沢工大・人情研)
鳥類はヒトと類似した高度な社会性を持つ。哺乳類において、この社会行動を行う上で重要な脳領域は扁桃核である。多くの脳領域
が限定された領域としか直接の神経連絡を持たないのに対し、扁桃核は海馬や嗅覚・聴覚・視覚など多くの領域と直接神経連絡がある
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
ことがマウスなどで解剖学的に示されている。鳥類の脳にも哺乳類の扁桃核と同様の機能を持つ扁桃核相当部位と考えられている
taenial amygdala(TnA)がある。また、鳥類も哺乳類も複雑な社会行動を維持するために視覚・聴覚などの感覚情報を統合し、有意
義に利用しているはずである。ここで重要と考えられる脳領域は感覚複合領域である前頭前野である。このようなヒトの社会性との類
似性とそれに関わる脳構造の相同性を持つ鳥類を対象として比較研究を行うことは、社会性の進化について大いなる示唆を与える。
発表者はキンカチョウを対象としてTnAの解剖学的研究、TnAと社会行動との関わり、社会行動と前頭前野の関わりを調べる研究を
行動 観察・免疫組織化学的手法・解剖学的手法など多様な手法を用いて行ってきた。この結果、鳥の社会行動と哺乳類のそれの類似
性を確認したのみならず、社会行動とそれを支える構造との関係や行動の多様性と構造の多様性について興味深い示唆を得たので、こ
れらのデータを紹介し、社会性の進化について考察する。
鳥の歌学習の起源と進化
岡ノ谷一夫(理化学研究所・脳科学総合研究センター)
この発表では鳥の歌学習の起源と進化について、当研究室で得られたデータを紹介しながら3つのテーマを解説する。
(1)鳥の歌とヒトの言語の相同性を検討するため、文法構造をもった歌をうたうジュウシマツを使った一連の実験を行った。歌は
大脳基底核と大脳皮質のループ構造により制御されているおり、基底核の破壊実験ではヒトにおけるパーキンソン病に類似した症状が
起こった。大脳基底核からは、行動の誤差に関連すると見られる信号を検出することができた。また、大脳の3つの歌制御神経核はそ
れぞれ、文章、単語、音韻に対応する制御を行っていることがわかった。
(2)音声学習は、3つのグループの脊椎動物で進化している。鳥類、鯨類、そしてヒトである。鳥類においてはさらに、スズメ目・
オウム目・アマツバメ目で音声学習が発現している。解剖学的な研究をまとめると、運動皮質と延髄の呼吸中枢とが直接連絡している
かどうかと、音声学習を示すかどうかとが対応している。鳥類においてはさらに、遺伝子発現を指標として調べた歌制御・歌学習・歌
処理の各部位が類似した脳部位で行われていることがわかった。
(3)なぜそもそも歌が学習される形質となったのか。発達期のストレス状態を反映しメスによる選択を促進するため、という仮説
を説明する。歌学習は文化伝達の必要から生じたのではなく発達過程の正直な信号として進化したのかもしれない。
2−B2: (K) 意識の進化
企画者:池上高志 (東京大学総合文化)
連絡先 [email protected]
現代の人の脳の研究を押し進めてもなかなか意識全貌の解明には至れない。ここでは意識
の問題を進化的な観点から議論することで、原初的意識はどんなものか、意識そのものはダ
ーウィン的進化の対象か、意識を持つための必要十分条件はなにか、人間の意識は特別か、
人工的な意識状態はつくれるのか、といったことを新しく問い直してみたい。 (使用言語:
日本語)
脳の認知プロセスにおける進化的拘束
茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)
脳のシステム論的理解が進む中で、最大の謎としていわゆる心脳問題が残されている。脳を機能主義的に理解するという視点からも、
たとえば「結びつけ問題」に典型的な感覚統合の過程において、意識と神経活動のカップリング(neural correlates of consciousness)
を考慮する必要が強く認識されるに至っている。
感情のシステムをはじめとする、脳の偶有性(contingency)処理メカニズムの性質を考える時、認知的安定性と動的適応性を両立
させる戦略としての脳のシステム論的ダイナミクスが重要になる。ここにおいて、進化的視点と心脳問題が交錯する側面が見えてくる。
とりわけ、偶有性の存在化での安定かつフレキシブルなコントロールパラーメタを、脳のメタ認知のプロセス一般に共通の性質として
62
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
どのように定義するかが、両視点において核心的な問題となる。
脳は、自己組織化の原理に基づき、いかに進化可能性(evolvability)と認知的同一性の保証機構を両立させているのだろうか? 近
年の脳科学の知見を参照しつつ、その一般原理を探る。
自己意識の起源:触媒仮説
岡ノ谷一夫・山崎由美子・入来篤史 (理化学研究所・脳科学総合研究センター)
他者に心を仮定しコミュニケーションに役立てる能力(心の理論)は適応的であり、自然淘汰を経て獲得されたものと考えられる。
しかし、自己の心の適応価は不明であり、どのような過程で獲得されたのか考えにくい。いっそのこと自己意識の発生に先だって心の
理論が獲得されたと考えてみたらどうだろう。
心の理論が自己意識の前適応であるとすれば、「他者の意識に関する仮説」が変換されて「自己の意識に関する仮説」となるような
メカニズムが必要である。そのようなメカニズムとして、ミラーシステムが考えられる。他人の行動を観察しただけで自分がその行動
をとるときと同じニューロンが発火する場合があり、これをミラーニューロンという。目的を共通とするが具体的な動きの異なるいく
つかの行動がひとつのミラーニューロンを発火させる場合があることから、ミラーシステムはより一般に客観的座標を主観的座標に変
換させる働きをもつと考えられる。
心の理論を可能にする神経モジュール全体がミラーシステムによって変換を受ければ、すなわちミラーシステムが心の理論を触媒す
れば、自己意識が生ずるのではないだろうか。この発表では、触媒仮説が自己意識について進化生態学的・神経科学的に妥当な説明を
与えるかどうかを検討し、自己意識に関する不可知論的な立場を超える試みとする。自己意識の内容そのものはパーソナルなものだが、
自己意識の成立メカニズムは研究可能であるはずだ。
二人称の時間:痛み=未来への糊代
郡司ペギオ幸夫 (神戸大 理)
主観的な時間の創出を考えるとき、ボトムアップとトップダウンの調停を考えねばならない。それは簡単な問題ではない。最初に万全
の形式を与え、その後部分と全体の関係性を与える、ことができない。無から有ではなく、常に以前の歴史が内在する。全ては途中で
あり、全てはプロセスである。これが理解目標となる。このとき理解すべきは、「とりあえず」=「留保」=「以前の歴史性」となる。
ここでは、留保の形式化を考える。部分と全体の関係に留保がつく、という構造は、部分、全体、形式化された留保の三項関係となる。
形式化された留保は、部分・全体の媒介者として機能し、両者の齟齬を作り出すと共に、これを調停し、運動を創りだす。
このようなモデルを考えるために、まず、断片の張り合わせによって全体をつくる操作を考える。それは、全体ができたとたんに、
断片が部分と位置づけられるような全体を創る操作で、層と呼ばれる。ここから、断片を張り合わせて全体を創る操作と、全体から張
り合わせる前の断片に戻す操作を定義する。断片が部分であるとは、両者が互いに逆向きで元に戻ることを意味する。別言すると、部
分に全体の情報が埋め込まれている限りそれは可能である。ここではそのような仮定を排除し、各操作に留保をつける。留保は、操作
の形骸化された構造、操作の残りかす(スケルトンと呼ぶことにする)と定義される。いまや断片を部分とし、作られた全体と、部分
を断片と解釈する全体は一致せず、両者は齟齬をきたす。齟齬は、全体を破綻させる可能性を有する。しかしスケルトンが、これを絶
えずうまく調停し、動的に運動しながらも全体として維持されるシステムを帰結する。モノに環境が伴うとき、それは必然的に修復能、
進化能を有することになる。
このモデルを通して、私の研究室では、時間の変質(例えばデジャブ)を創りだすような装置を開発しつつある。これらの実験に言
及しながら、主観的時間のダイナミズムについて論じたいと思う。
ダイナミカルなカテゴリーと意識の進化
池上高志(東京大院、広域システム科学)
コンピュータの中の人工生命体ビークル(センサーとモーターを関連させる移動体)をもちいて、環境の文節化が運動を介していかに
進化してくるかを議論する。例えば、空間にちりばめられた三角形や四角形を触りながら動き回るビークルは、その局所的な触り方を
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
通じて2つの形を結果として区別するようになる。このようなカテゴリー化をダイナミカルなカテゴリーと呼ぶ。このとき文節化され
るのは、対象の物理的性質ではなくて、その対象に対する自分の運動の仕方の多様性である。自分の運動の仕方にグラウンドすること
で、その対象の意味が獲得される。
しかしこうしたカテゴリーについてビークル自身は意識的ではない。そこでビークルが自律的に環境と相互作用できるかどうかを決
定できるようなダイナミクスを導入する。このときビークルは環境を文節化できる内部状態をもとに、環境から入力を受け付けるかど
うかを自分で決定しながら動くようになる。このような環境とのカップリングとデカップリングの切り変えのダイナミクスを意識のプ
ロセスとして考える。
現象論的にビークルのもつ環境の文節化の仕方を考えることで、生命現象に普遍的に出現しうる知性 ”natural intelligence”の進化
について議論したいと思う。
2−B4:(S)
行動の進化の遺伝子機構
企画者:山元大輔(東北大院・生命科学)
連絡先 [email protected]
行動の変化は集団間の隔離を導き、種分化の契機となりうる。では、行動の進化的転換を
引き起こした遺伝子は何であり、行動を生み出す脳神経系に与えたインパクトはどのような
ものなのか。このような問題意識のもと、無脊椎動物からヒトにいたる生物を対象に、脳の
構造と機能、行動の多様化を支える分子メカニズムに迫る。(使用言語:日本語)
ハワイ産ショウジョウバエの脳の性的二型とその進化
山元大輔(東北大 生命科学)
ハワイには 800 種以上の Drosophila が生息し、その多くはハワイ諸島で種分化を遂げた endemic species である。Hamp Carson は
染色体逆位の系統的な研究に基づいて、ハワイ固有種がただ一つの祖先種に由来するとの説を提唱している。ハワイ諸島は、北西から
南東に向かってその誕生年は若くなる。ハワイ固有種を中心とする 37 の Drosophila について脳の嗅情報処理一次中枢である触角葉
を光学的に 3 次元再構成し、すべての種でこの構造が 51 個の同定可能糸球体からなることを明らかにした。さらに一部の種で、DA1,
DL3 の二つの糸球体が雄で雌より顕著に肥大化していることを見出した。異なる系統分枝でこの現象は見られることから、これらの糸
球体は性的二型化に competent な状態にあり、進化過程で繰り返し性差が生じたと推定された。糸球体の性的二型性がもっとも顕著
な adiastola サブグループの種間比較の結果、もっとも古い種とされるカウアイ島(500 万年)に住む ornata は性的二型を示さず、マ
ウイ・モロカイ島(150 万年前後)の数種では弱い性差があり、もっとも新しいハワイ島の setosimentum は顕著な性差を有すること
がわかった。キイロショウジョウバエでの遺伝解析から、糸球体の性差は transformer 遺伝子に依存することが判明したので、脳の性
的二型の進化に、この遺伝子の関わるカスケードが関与したのではないかと推論している。
ショウジョウバエにおける寄主選択行動の遺伝的基盤 Genetic basis of host plant preference in Drosophila
松尾隆嗣(首都大・生命科学)
In spite of its morphological similarity to the other species in the melanogaster species subgroup, Drosophila sechellia has
evolved distinctive physiological and behavioral characters adapting to its host plant Morinda citrifolia, known as the Tahitian
Noni fruit. The ripe fruit of M. citriforia contains hexianoic acid and octanoic acid, the main components of the odor from the
fruit. D. sechellia is attracted to these two fatty acids, while the other species are repelled by them. Using inter-species hybrid
between D. melanogaster deficiency mutants and D. sechellia, Odorant binding protein 57e (Obp57e) was identified as the gene
responsible for this behavioral difference among the species. Obp57e forms a gene cluster with Obp57d, and these two genes are
expressed in the same cells associated with the chemosensory organ. The history of dynamic Obp57d/e-cluster evolution was
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
revealed by comparison of the genomic sequences of the Obp57d/e region obtained from 30 species phylogenetically located
between D. melanogaster and D. pseudoobscula.
多様化膜分子群の分子進化と脳機能での働き
八木 健(阪大院・生命機能)
脳神経系は莫大な数の神経細胞より構成されており、それぞれの神経細胞が多様化して機能している。また、脊椎動物の系統進化にと
もない脳の構造と機能の進化が認められる。この様な脳の進化を捉える為には、脳神経系において多様化した遺伝情報を明らかにし、
多様化したゲノム構造と機能を明らかにする必要がある。我々は、脊椎動物の染色体において遺伝子クラスターを形成している CNR/
プロトカドヘリンファミリーのゲノム構造と機能に注目して解析を行っている。
CNR/プロトカドヘリン遺伝子クラスターは、縦列に並んだ多数の可変領域エクソンと定常領域のエクソンから構成されており、免
疫系のイムノグロブリンや T 細胞受容体のゲノム構造と類似している。脊椎動物種ごとに異なる分子進化が認められ、遺伝子クラスタ
ー配列では動物種ごとに独自な配列となる協調進化が認められている。また、ヒトの CNR/プロトカドヘリンファミリーにおいても、
多くの遺伝的多型が認められている。この様に CNR/プロトカドヘリン遺伝子群は、冗長性をもち、系統進化、動物種集団において遺
伝的変異が蓄積され、動物種や個体ごとに多様化したゲノム構造を持つことが示唆されている。また、このゲノム構造の多様性は、神
経細胞における差次的発現により、単一細胞の個性をもたらしていることが示唆されている。本シンポジウムでは、CNR/プロトカド
ヘリンファミリーのゲノム構造の分子進化と機能について紹介したい。
ヒトの行動様式と遺伝的背景の関連を探る試み
太田博樹(東京大院・新領域)
ヒトの行動様式は「文化」や「生活習慣」として現れるため定量化が難しく、また生物学的データと関連づけでは、形質と遺伝子との
関係自体が解明されていない場合がほとんどなので、明白な相関関係を論じることは一般に困難である。しかし、集団遺伝学的ないし
生化学的分析が進んだ座位によっては、比較的単純な行動様式との関連を議論することも可能である。私たちはこれまでにヒト集団で、
行動様式と遺伝的背景の関連性について示す試みを、集団内多様度、集団間遺伝距離、連鎖不平衡、ハプロタイプ頻度、などにもとづ
きおこなってきた。本シンポジウムでは私たちがおこなった次の3つの例を紹介し、
(1)
タイ北部山岳民族の母系・父系部族に観察された mtDNA および Y 染色体の集団内・集団間遺伝的多様度の逆転
(2)
タイ北部狩猟採集民・ムラブリに観察された極端に小さい集団内多様度
(3)
世界38集団中で東アジア集団のみで高頻度に見つかるアルコール分解酵素(Class I ADH)遺伝子クラスターおよびアル
デヒド分解酵素2(ALDH2)遺伝子座でのハプロタイプ
これらのトピックスの中で「(1)異なる婚姻文化が生み出す遺伝子頻度の差違」「(2)生活様式の先祖返りがもたらした超近交系」
「(3)アルコール代謝に関与する2つの遺伝子群に見られる自然選択の可能性」について議論する。
2−B5:(K)表現型進化を巡る多角的な視座:遺伝進化,発生進化,生態進化の視点から
企画者:高橋亮(理研)
連絡先 [email protected]
生物進化の研究には,多様な背景を持つ研究者による多角的な取組み方が存在します.本
企画では,分野毎の多彩な研究のあり方を相互に理解することを目的に,具体的な事例とし
て発生システムの安定化(カナリゼーション)を題材に取り上げ,遺伝進化,発生進化,生
態進化,各々の視点からの表現型進化研究への取組みについて概観し,これからの総合的な
進化研究の方向性を展望します.(使用言語:日本語)
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遺伝進化の視点から
高橋亮(理化学研究所ゲノム科学総合研究センター)
発生の途上で生物個体が被るさまざまな撹乱要因の存在下でも,一定の形質状態の実現を促す頑健性が生物には備わっているとする考
えがあります.発生の経路が一つの定められた道筋(運河 canal)に沿って進むように見えることからカナリゼーションとも呼ばれる
この性質について,遺伝進化の立場から二つの側面について議論します.第一に,このような性質が発生システムに備わることにより,
潜在的に有害な効果を持つ変異が中立化され,集団中にある程度の頻度で保持されるようになること,そしてそのような条件付中立変
異が,後代の新たな適応の源となる進化可能性との関連.第二に,発生過程を安定化する性質が,そもそも自然選択によって進化する
のだろうかという進化機構上の問題.この二点に対する遺伝進化の視点からの取組みを紹介し,表現型進化研究の今後を議論します.
進化発生学と表現型進化:鱗翅目昆虫に見るモジュール的進化
倉谷 滋(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)
鱗翅目昆虫の翅は様々な紋様を進化させており、とりわけヤガ科鱗翅目のうちシタバ亜科の多くの種は、前翅と後翅の紋様が大きく異
なる。特に前翅を隠蔽に、後翅に眼状紋を作って威嚇に用いるものが多いが、このようなパターンはおそらく複数の系統において独立
に獲得されたものらしい。この現象を読み解くうえで、発生学的にいくつかのヒントが得られている。ひとつはHoxコードであり、シ
ョウジョウバエその他と同じコードにしたがうなら、蛾の前胸にはホメオボックス遺伝子、Scrが発現し、翅の発生を抑え、中胸にはAntp
が発現し、翅の基本型が作られると理解されている。加えて後胸には Ubxが発現し、前翅には生じない特殊な発生経路がもたらされ、
その一環として眼状紋が形成されると考えられる。ならば、後翅だけに生じたプラスαとしての眼状紋は、 Ubxの下流に生ずる遺伝子
ネットワークにかかった淘汰の結果としてみることができる。ちなみに、 Ubxは前翅に発現する遺伝子の多くを抑制するらしい。した
がって、このプラスαは基本的な翅の紋様パターンを破棄することによって成立している可能性がある。このように、分節的ボディプ
ランを持ち、分節ごとに発現を変える遺伝子ネットワークが存在することによって、昆虫の形態進化にはボディプランに見合ったモジ
ュラリティが現れると考えることができる。このような視点から、様々な昆虫の翅パターンの進化を考察する。
生態進化の視点から
千葉聡(東北大院 生命科学)
繁殖行動にかかわる性質の進化は、生態学的に最も注目されてきた課題の一つである。最近では、sexual conflict すなわち交尾の際の
オスとメスが協同ではなく利害の対立を生じることに起因する、顕著な交尾行動や交尾器の進化が注目されている。同時的雌雄同体の
動物でも、オス器官による配偶者のメス器官の操作により精子競争能力を高めるような行動が進化する可能性がある。このプロセスが
エスカレートして特に危険なレベルにまで進化した例と考えられるのが、「love dart-恋矢」である。陸生貝類有肺類の多くの種は、
石灰質の鋭い剣ないし刀のような dart をもち、交尾の際、相手の体にグサリと突き刺す。通常相手から受け取った精包は、嚢状のメ
ス器官で分解されるが、dart を刺されるとその表面に付着している粘液の効果で、メス器官は精子を分解できなくなり受精率が高まる。
興味深いことに、この dart とそれに関係した器官(粘液腺、dart sac など)のセットは、柄眼目の多くの異なる系統で何度も独立に
出現し、また何度も独立に消滅している。しかも驚くほどよく似た形や構造をもつ dart や器官が、異なる系統で全く独立に進化した
と考えられる。しかし仔細に交尾行動を見ると、刺し方や刺す dart の本数、タイミング、回数などが種やグループによって大きく異
なり、その基本構造に見られる類似性とは対照的である。このような頑健性と柔軟性の出処をカナリゼーションと適応性の視点からど
こまで説明できるか考えてみたい。
数理生物の視点から
望月敦史(基礎生物学研究所)
発生過程の安定性は、カナリゼーションとして知られているが、そのメカニズムに対する理解は十分ではない。一方で発生とは、機能
的な形を作る手段として、幾つもの際立った特徴を持った方法だと言える。たとえば:
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
・まず全体の軸性が作られ、次に部分的な性質が決まり、最後に微細な構造が出来る、といった多段階的な決定、
・外部から力が加えられるのではなく、構成要素である細胞自らが変形し、相互作用することで全体の形が出来る、自己組織的な過程、
・進化によって漸進的に作られてきたシステム、
等があげられる。これらの発生独自の形作りの方法論こそが、表現型進化の特徴の起源なのだろうと推測できる。例えば発表者は、多
段階的な運命決定を行うことによる形態形成の特徴を、数理モデルにより研究した。その結果、多段階的な決定により、大規模な表現
型の進化が起きにくくなる一方で、繰り返し構造は容易に進化することが分かった。現象を抽象化し一般化することで特徴を抽出する、
という数理生物学の方法に基づき、表現型進化について考察したい。
2−C1:(S) 感覚シグナルと感覚受容系の進化1:色素細胞・感覚器の機能進化
企画者:山本博章(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
色素細胞は、紫外線防御だけでなく、婚姻色の発現やカムフラージュを可能にし、正常な
視聴覚には必須である。メラニン色素は多くの試薬と結合し、またラジカルスカ ベンジャ
ーとしても機能する。我々哺乳動物の毛色発現に関 わる遺伝子には、エネル ギー代謝に関
わるものもあり、免疫機構への関与が 予想されている遺伝子も報告されている。これらの
機能は、当該のシステムが、生態学的なストレスの下、我々の生存 戦略に深く関わってき
たことを推察させる。本シンポジウムを、生態学的なストレスと色素や色素細胞またこの細
胞を含む感覚器の機能進化との関連を考察する端緒としたい。 (使用言語:日本語)
「色素細胞の多様な機能」
山本博章(東北大・生命科学)
我々は色素細胞の発生と機能発現機構の進化を考えようとしている。その際この色素細胞が持つ機能を知ることが大切である。ここ
ではあまり知られていない色素細胞が持つ多様な機能について紹介し、この細胞システムが生物の生存戦略に深く関わってきたことを
考察したい。
古くから愛玩動物として飼育されてきたマウスでは、130を超す独立した遺伝子座が毛色発現に関わり、それぞれ多くのアリルが記
載されている。現在においても当該の遺伝子座の数、また変異体数は増加している。可視的に容易に検出できる形質であることから、
この毛色発現システムは、多細胞生物における発生機構を探る一つのモデルシステムとして、またヒト疾患のモデル系としても利用さ
れてきた。
色素細胞の機能として良く知られているのは、紫外線防御への関わりであるが、視聴覚への深い関与、化学物質の吸着、ラジカルス
カベンジャー、婚姻色の発現、カムフラージュ等々、生態学的なストレスのもと、当該のシステムが生存戦略に大きな役割を担ってき
たことが容易に推察できる。
ここでは特に視聴覚に関わる色素細胞の機能について紹介する。我々ヒトは発生学的に二つの色素細胞系譜を持つ。一方は脳胞から
発生する網膜色素上皮、他方は脊椎動物特異的な胚組織である神経冠(堤)由来のメラノサイトである。これらの色素細胞の発生や機能
発現が正常に行われないと、我々の視聴覚は正常な機能を失うことがわかっている。
昆虫の多様な色彩世界における色素細胞の潜在的な機能を探る
中越元子(北里大・一般教育)
既知の生物多様性の過半数を占める昆虫類には、さまざまな環境の変化に適応した隠蔽色や標識色あるいは季節型や雌雄二型といっ
た体色の多様性がみられる。昆虫の体色において、種固有の色彩パターンを作り上げている基本的な色素はメラニン、オモクロームお
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よびプテリジン系色素であり、これらの色素合成はそれぞれに何らかの相互作用を持ちながら昆虫の体色に関与していると思われる。
我々はこれまでプテリジンを中心に、新翅亜綱グループの長翅目や鱗翅目昆虫の体色発現について研究してきた。昆虫におけるプテ
リジンは尿酸とともに表皮細胞すなわち色素細胞に蓄積され、昆虫の体色発現や紫外線防御に寄与している。一方、ヒトではテトラヒ
ドロビオプテリン(BH4)の芳香族アミノ酸水酸化反応やNO合成反応における補酵素活性が重要な意味を持つ。例えば、GTP-シク
ロヒドロラーゼ I (GTP-CH I)は BH4 生合成における律速段階の酵素であり、その遺伝子変異は深刻な神経精神疾患を引き起こす。
しかし、昆虫における BH4 の生理学的機能については未知の部分が多い。本講演では、昆虫の色素細胞において、メラニンやオモク
ローム合成と深く関わるプテリジンの機能を探るため、プテリジンよりもオモクローム系色素を多量に蓄積するタテハモドキやカイコ
と、プテリジン系色素と尿酸を多量に蓄積するモンシロチョウなどで展開している GTP-CH I に着目した研究を紹介したい。
鳥類の色素細胞―体色発現におけるその挙動と機能―
秋山豊子(慶應義塾大 生物)
色素細胞は眼や髪、体毛、羽毛などで体色発現を行う効果器であるが、他個体の体色は眼から入ってくる色や紋様として、同類の雄・
雌を見分ける(婚姻色など)、あるいは外敵などを判断する「視覚的なシグナル」と捉えることができる。また、周囲の環境の光や色
情報を「視覚的なシグナル」として獲得して、個体内の色素産生やその効果を変化させ、「保護色」「威嚇色」などとして機能するこ
とから「視覚シグナルと視覚受容系」の一部として捉えることができる。鳥類のなかにはクジャクやある種のインコのように見事な羽
の色や鮮やかな紋様をもつものがおり、それらは、鳥たちが生きるうえで本当に必要なのかと思われるほどカラフルで、その生態学的
な機能は非常に興味深い。しかも、鳥類の色素細胞が産生する色素は、魚類・両生類や爬虫類と異なり、黒から茶褐色のユーメラニン
と橙から茶色のフェオメラニンのメラニンのみで、鮮やかな赤や緑、青色などの色素は存在しない。メラニンにより発現する色以外の
極彩色は、羽の微細構造から現れる構造色である。同じくメラニンのみの脊椎動物がほとんど黒白のモノカラーで存在することと対比
すると、極彩色の鳥類は何らかの意味でカラフルな体色や紋様が重要な役割をするため、メラニン以外の色素は失ったものの、色を現
す方法を保持しているといえよう。このような鳥類の色素細胞の発生とその体色発現について概説し、生態系での機能を考察したい。
究極の生き残り戦略:魚にとっての体色と色素細胞
大島範子(東邦大・理)
極めて多彩な魚の色や模様は、「隠蔽色」あるいは「標識色」という相反する機能をもつ。一般に、鮮やかな色はカムフラージュに
不利と考えられがちだが、サンゴ礁の魚の色は実に鮮やかに見える。しかし、ヒトが見る世界と、魚たちが目にする水の世界は同じな
のだろうか。実際に水の中で、魚たちはお互いをどのように見ているのだろうか?魚の目にする水の世界に思いを馳せて考えてみたい。
一方、多様な色や模様の魚の皮膚には多くの種類の色素細胞が存在し、それらの多くは運動性を有するので、速やかに体色を変化さ
せることができる。細胞の運動性は一般的に、交感神経系と数種のホルモンによって制御されている。しかし近年、色素細胞にもエン
ドセリン受容体やプロラクチン受容体が存在すること、環境の光情報が色素細胞に直接受容される例などが示唆され、体色とその変化
は極めて複雑に調節されていることがわかってきた。我々が扱っているナイルティラピア赤色素胞は直接、光に応答し、しかも波長識
別能を有する。網膜の錐体の視物質と同じ光受容分子が赤色素胞に存在することが示唆された。この現象は、アフリカの湖でシクリッ
ドが多くの種に分化していることと何か関連があるのだろうか。そもそも、魚類の色素細胞には、なぜこのような複雑で緻密な制御が
求められるのだろうか。具体的な例で考えてみたい。
「眼の進化 その多様化と起原」
池尾一穂(遺伝研・生命情報)
生物において色素および色素細胞は様々な機能を果たしている。その中でも動物における光受容器官としての色素細胞はその機能、形
態ともに多様性を示す。特に、動物の眼について考えてみる時、 光受容器官としてだけでなく脳・神経系の一部としても眼は重要な
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役割を担っている。単なる光受容体としてではなく、高度に分化した情報受容器官としての眼は、単細胞生物からヒトまで広く存在し
ており、様々な動物において眼の形態はなぜ多様性を示し、光受容器官からどのようにして多様な眼が進化してきたか、その機構と進
化の道筋は進化学的にも大きな課題である。近年、Pax6 の発見と機能解析により、一見、多様に見える眼もその発生・分化における
分子機構は Pax6 をマスターコントロールとし共通性を持つことが明らかになってきた。このことは、一見、無関係に見える眼が共通
の起原を持つことを示している。我々は、多様な形態を示す眼の進化機構を明らかにすることを目的として、眼に関係する遺伝子を分
子進化学の立場から比較し、分子レベルでの研究を進めてきた。本講演では、一見多様に見える眼の進化的共通点を比較分子進化の立
場から紹介するとともに、プロトタイプの眼から多様な眼がどのようにして進化してきたのかについて、現在の知見をもとに紹介する
とともに、光受容器官と眼の関係についても触れる。
2−C2:(S) 感覚シグナルと感覚受容系の進化2:オプシン及び視細胞の多様性と視覚
の進化
企画者:河村 正二(東京大院 新領域創成科学)
連絡先 [email protected]
オプシンは「見る」という機能をその最も入り口において規定するため、オプシン及びそ
れを産生する視細胞の進化多様性は視覚に関わる様々な行動や生態 の進化を理解する上で
重要な意味をもつ。本シンポジウムでは昆虫、ナメクジ ウオ、魚類、サルといった多様な
動物群を対象に分子、細胞、個体、集団の様々なレベルを縦横に行き来しながら視覚光受容
の進化多様性と起源を追求する 研究の最前線を紹介したい。(使用言語:日本語)
オプシンと光受容細胞の進化・多様性
寺北明久(京都大院・理)
動物の光受容細胞は、オプシンが存在する膜構造に基づいて繊毛型と感桿型の2種類に分類される。繊毛型光受容細胞は、脊椎動物の
桿体と錐体視細胞に代表されるが、ホタテガイなどのいくつかの無脊椎動物にも存在する。一方、無脊椎動物の典型的な視細胞である
感桿型光受容細胞は、脊椎動物には存在しない。Arendt らは、無脊椎動物の感桿型光受容細胞と脊椎動物の網膜神経節細胞との間で
発生・分化に関わる複数の転写因子が共通している事実から、無脊椎動物感桿型光受容細胞は脊椎動物へ至る系統において光感受性神
経節細胞に進化したという仮説を提唱した。
興味深いことに、脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物である頭索動物ナメクジウオは、視覚以外の光受容を担っていると考えられてい
る感桿型光受容細胞を持っている。そこで、ナメクジウオ感桿型光受容細胞で機能している光受容蛋白質の同定を試みた。その結果、
脊椎動物網膜の光感受性神経節細胞に存在し、概日時計への光入力を担っているメラノプシンのホモログが、ナメクジウオ感桿型光受
容細胞で機能していることを見出した。そのメラノプシンは、無脊椎動物の感桿型細胞に存在するロドプシンとアミノ酸配列のみなら
ず、その分子特性も類似していた。すなわち、ナメクジウオの感桿型光受容細胞は、無脊椎動物の感桿型視細胞と脊椎動物の概日時計
のための光感受性神経節細胞とを進化的につなぐ特徴を備えていると言える。
色覚の種内変異とオプシン:新世界ザルとグッピーが教えてくれるもの
河村正二*・平松千尋・笠木聡(東京大院・新領域)
、正路章子(三井情報開発)
、河田雅圭(東北大院・生命科学)
動物種間で視物質オプシンのレパートリー及び色覚に多様性があることはよく知られている。しかしこれまで種内、それも同一社会集
団内にそういった多様性が確認された例は新世界ザルのみである。これ以外に魚類のグッピーで網膜の顕微鏡分光学的解析から中∼長
波長領域の感受性に種内変異が報告されているが、対応するはずのオプシンの種内変異は未確定であった。色覚以外の他の条件がほぼ
同一な同種の個体間での行動比較は色覚の行動学的意味を抽出するのに大変有用であると期待できる。また、色覚多型に関わるオプシ
ン遺伝子の多型性を集団遺伝学的に解析することから色覚と自然選択(平衡選択)の関連の検証が期待できる。したがって研究のステ
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ップとしては1)吸収波長の相違を含めたオプシン多型の実証、2)行動観察・実験による色覚型と様々な行動(採食、配偶、捕食者
回避など)との相関の検証、3)非コード領域も含めたオプシン遺伝子の集団内変異の解析、といった3つが考えられる。我々はこれ
までに新世界ザルに関してはコスタリカのクモザルとオマキザルの野生集団を対象にステップ1を終了し、現在2及び3が進行中であ
る。グッピーに関しては主に1の段階であり RFPL レベルでの集団解析と行動実験も進行中である。本発表では主として新世界ザルに
関する研究経過を報告し、グッピーについては1についての経過を報告し、集団解析と行動実験については次演者に詳細を委ねる。
グッピーにおける LWS オプシン遺伝子多型の集団間、集団内変異
正路章子*(三井情報開発)
・河村正二・笠木聡(東京大院・新領域)
・河田雅圭(東北大院・生命科学)
性選択のモデル生物であるグッピーの長波感受性(LWS)オプシン遺伝子において、二つの遺伝子座で多型があることが、われわれ
の研究で示された。本研究では、それら多型の観察される 2 遺伝子座(A と B)を用いて、集団内および集団間変異を調べた。調査し
た集団は、グッピーの原産地トリニダッドの 3 集団、および移入集団だと思われる静岡および沖縄 5 集団について調べた。その結果、
対象としたすべての集団で、多型的な遺伝子座 A と B それぞれについて、2-3 タイプずつの対立遺伝子が確認された。また、静岡およ
び沖縄 3 集団では、遺伝子座 A と B の間に強い連鎖不平衡が観察された。ミトコンドリア上の ND2 遺伝子を用いた系統解析の結果、
沖縄の 5 集団は、複数回異なる遺伝子型が移入している可能性が示唆された。しかし、複数回移入の可能性の少ない下田の集団と原産
地のトリニダッドの集団でも、複数の対立遺伝子が維持されていることから、多型の維持には、平衡選択など何らかの機構が働いてい
ることが示唆された。さらに、トリニダッドおよび沖縄の 3 集団では、"five-sites"に変異がある遺伝子型が観察された。このうち、
"five-sites"に変異がある遺伝子型の頻度が特に高かった集団では、他の集団と異なる環境光の組成が見られた。最後にわれわれは、遺
伝子座 A と B における遺伝子型と、色に対する反応を調べた行動実験の結果との比較を試みた。
シクリッドのオプシン遺伝子の進化
岡田典弘(東工大院・生命理工)
アフリカの三つの湖、タンガニイカ湖、マラウイ湖、ビクトリア湖には、全部で 1000 種以上にも上るシクリッド(カワスズメ魚類)
が生息する。これらのシクリッドは、生態的な多様性を持ち、顎や歯の形態が食性により多様化していて、体表模様や色の多様化によ
り性選択が行われていると信じられている。しかし、遺伝子レベルでこれらの事が証明された例は殆ど存在しない。オプシン遺伝子は、
食物の選別や性選択に重要な役割を担っていると想定される。我々は、シクリッドのロドプシンや LWS (long wave-sensitive) 遺伝子
の進化を調べ、
これらの遺伝子が様々な生態的環境に適応的に選択を受けて進化してきた事をあきらかにした。
特にビクトリア湖の LWS
は、濁度に応じてアリルの頻度が変化し、それが適応的である事が証明された。この濁度に応じた適応は、異なる種で独立に観察され
る。異なる種間における適応の程度が、濁度に影響を受ける程度(棲む深さにパラレル)に依存している所から、このような LWS の
濁度に対する適応は、極めて短期間に迅速に各種間で独立に起ったと想定される。
視細胞内色素による視細胞分光感度の調節機構
蟻川謙太郎(横浜市大院・総合理学)
複眼を構成する個眼には、それぞれ数個の視細胞が含まれる。視細胞は共同でひとつの受光部位=感桿=を形成し、光信号を吸収する。
ひとつの感桿を構成している視細胞でも分光感度は多様で、これを決めているのは、一義的にはそれぞれの視細胞に発現する視物質の
分光吸収特性である。しかし視物質以外にも、分光感度に影響を与えるさまざまな光学構造がある。そのひとつが、感桿を取り巻く色
素である。チョウの場合、感桿は上部と下部で担当する視細胞が異なっており、感桿周囲色素は、感桿外部を伝播するエバネッセント
光を吸収することで、感桿下部に対して強い色フィルターとして機能する。たとえばモンシロチョウでは、個眼下部にあって緑受容型
視物質を含む視細胞の分光感度が、赤あるいは暗赤色素の影響を受け、それぞれ赤受容細胞と暗赤受容細胞になっている。さらに、暗
赤の色素をもつ個眼では、オスにだけ感桿最上端に短波長光を吸収する色素があり、個眼上部にあって紫吸収型視物質を発現する視細
胞の分光感度を、オス特有の二峰性青受容細胞に変えている。視物質以外の色素によるこうした分光感度調節機構は、昆虫種によって
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
大きく異なっており、色覚進化と複眼構造との関連を解明するうえで無視することのできない重要な形質である。
2−C4:(S) 感覚シグナルと感覚受容系の進化3:脊椎動物の嗅覚受容機構の進化
企画者:西田 睦(東大・海洋研)
:東原 和成(東大・新領域)
連絡先 [email protected]
嗅覚は外界の化学物質の認識を担う感覚であり、動物の生存に極めて重要な役割を
はたしている。さらにフェロモン受容などによって配偶システムにも深く関わっており、
生殖的隔離機構の形成を通じて種分化のカギとなっている可能性も考えられる。したが
って以前から嗅覚への関心はもたれていたが、その遺伝子についてはじめて明らかにな
ったのは比較的最近で、1991 年のことである(Buck and Axel, 1991)。これ以来、研
究は急速に進展し、嗅覚受容体遺伝子は生物種あたり数百から千以上のコピーをもつ脊
椎動物ゲノム最大の遺伝子ファミリーであることなど、興味深い事実が明らかになって
きた。さらにそれらの遺伝子の発現様式、嗅覚受容体の機能などの解明も進んできた。
加えていくつかの脊椎動物の全ゲノムの解読に伴って、嗅覚受容体遺伝子ファミリーの
分子進化の実態も明らかになりつつある。このような背景のもと、生物の機能進化や種
分化への嗅覚の関与についての本格的研究が、現実的なものとして可能になりつつある。
このシンポジウムでは、嗅覚・フェロモンの受容機構およびその進化についての最新の
研究の成果を紹介していただき、そこから嗅覚にかかわる進化研究の今後の展開方向に
ついて議論したい。(使用言語:日本語)
嗅覚受容機構と進化:シンポジウム開催にあたって
西田 睦(東大・海洋研)
嗅覚は動物の外界認識はもとより、同類の認知にも関わる重要な感覚である。嗅覚受容体をコードする遺伝子は脊椎動物ゲノムで最大
の多重遺伝子族を形成しているが、それらは頻繁に増幅したり偽遺伝子化したりとダイナミックに変動をしていることが明らかになっ
てきた。このことは、嗅覚受容機構が近縁種間においても急速に分化していること、そして同類認知機構の分化を通じて種分化とも深
くかかわっている可能性のあることをうかがわせる。したがって、嗅覚受容機構およびその進化を理解することは、それ自体でたいへ
ん興味深いことであるのに加え、種分化やさらにマクロな進化現象の解明に大きく貢献することも期待されるのである。本シンポジウ
ムでは、まず、嗅覚受容機構研究がどこまで深まったか、そしてどのような展開が期待されるのかをおさえ、ついで、嗅覚受容体多重
遺伝子族の分子進化研究の成果を把握する。その上で、フェロモン受容システムの理解に切り込む研究、および、嗅覚受容機構を足が
かりにした種分化やマクロな進化現象へ迫ろうとする試みの紹介を受け、今後の研究の方向性や展望を議論したいと考えている。私の
イントロダクションでは、こうした本シンポジウムの意図の整理をおこなって、シンポジウム進行の礎石としたい。
脊椎動物の嗅覚受容機構研究の現状と展望
東原 和成(東大院・新領域)
匂いの受容を担う嗅覚受容体は、様々な生物において、多重遺伝子群を形成しており、Gタンパク質共役型受容体のなかで最大のサブ
ファミリーを形成している。近年、嗅覚受容体の機能解析が進み、リガンド結合部位の解析などにより、多種多様な匂い分子を識別す
るメカニズムが明らかになった。また、嗅覚受容体を発現している嗅細胞の嗅球への投射様式の解析によって、匂いの信号が一次中枢
でどのようにしてパターン化されるかが明らかになった。匂い認知に関して、受容体レベルから高次脳処理レベルまでの分子メカニズ
ムがわかりつつある。本講演では、嗅覚における匂いの受容機構に関する研究の現状を紹介し、今後の展望を議論する。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
脊椎動物における嗅覚受容体多重遺伝子族の分子進化
新村 芳人(東京医科歯科大・難治疾患研究所)
嗅覚受容体(OR)遺伝子は知られている最大の多重遺伝子族を形成しており、哺乳類は約1000個のOR遺伝子をもつ。脊椎動物のOR
多重遺伝子族の進化のダイナミクスを知るために、ヒト・マウス・ニワトリ・カエル・ゼブラフィッシュ・フグの全ゲノムドラフト配
列からOR遺伝子を同定し、分子進化解析を行った。その結果、以下のことが明らかになった。(1)魚類と四足動物の共通祖先は少なく
とも9個のOR祖先遺伝子をもっており、同定されたOR遺伝子は、各祖先遺伝子に由来する9つのグループに分類された。(2)魚類のも
つOR遺伝子は約100個であり、哺乳類よりもずっと少ないが、その多様性は哺乳類よりも大きい。魚類のOR遺伝子は8つのグループ
に属しているのに対し、哺乳類は2つのグループのOR遺伝子しかもたず、特にグループγに属する遺伝子が全体の約90%を占める。(3)
哺乳類や鳥類のもつOR遺伝子のグループは魚類には存在しないか非常にまれであり、その逆も正しい。(4)両生類のOR遺伝子族は魚類
と同程度に多様であるが、全遺伝子の約90%がグループγに属している。つまり、両生類のOR遺伝子族は哺乳類・魚類両方のOR遺伝
子族の特徴をもっている。以上の事実は、四足動物が陸上生活に適応する過程で、多数の遺伝子重複によってOR遺伝子数が増加する
とともに不要なOR遺伝子が消失したと考えることによってうまく説明できる。
魚類 V2R 型嗅覚受容体遺伝子ファミリーの進化
橋口 康之*・西田 睦(東大・海洋研)
脊椎動物の化学受容体には、進化的な起源が異なる 3 つのグループがあり、それぞれ OR, V1R および V2R と呼ばれている。哺乳類な
どでは、V1R, V2R は鋤鼻器官で発現しており、フェロモンの受容体と推測されているが、鋤鼻器官を持たない魚類では、V2R は OR と
同様に嗅上皮で発現しており、むしろアミノ酸などの「一般的な」物質の受容に関わっている可能性が示唆されている(魚類 V1R は
1 種類だけ見つかっており、これも嗅上皮で発現している)。したがって、魚類 V2R 遺伝子ファミリーは脊椎動物の中でも独自の進化
をしていると考えられる。そこで、魚類 V2R 遺伝子ファミリーの実体を明らかにし、その進化過程を推定することを目的に、ゼブラ
フィッシュのゲノム配列データを対象に V2R 遺伝子の探索を行った。その結果、ゼブラフィッシュでは 88 個の異なる V2R の配列が
見つかった。この数は、過去の予想よりもかなり多かった。それらは複数のサブファミリーから構成され、そのうちの 2 つでは遺伝子
数が顕著に多かった。またそれらの配列は、染色体上の特定の領域で遺伝子クラスターを形成していた。次に、ゼブラフィッシュと同
じコイ科のヤリタナゴと、系統的に離れたトラフグの V2R 配列を加えた系統解析を行った結果、魚類 V2R サブファミリーのいくつか
は 3 種で共通であること、また同じ 2 つのサブファミリーが共通に多様化していることなどがわかった。
脊椎動物におけるフェロモン受容体と 2 つの嗅覚系
山岸 公子(東京都医学研究機構・東京都臨床医学総合研究所)
フェロモンは種特異的に働く生理活性物質(匂い物質)で、個体間のコミュニケーション手段として利用されており、求愛、子育て、
なわばり争いなど動物が種として生存するために必要な社会的行動を引き起こす。脊椎動物には嗅上皮を介する主嗅覚系および鋤鼻器
を介する鋤鼻系という2つの独立した嗅覚系が存在する。一般的な匂い物質は主嗅覚系で受容されるが、フェロモンは主に鋤鼻器で認
識されると考えられている。げっ歯類では1型 (V1R) および2型鋤鼻受容体 (V2R)という2つの受容体群が鋤鼻器特異的に発現して
いる。最近の研究からげっ歯類 V1R は揮発性低分子のフェロモンを認識する事が示されており、V2R はまだ確定的な証拠はないもの
の不揮発性のフェロモンを受容する可能性が指摘されている。このようなげっ歯類鋤鼻受容体の発現と機能が脊椎動物に普遍的である
かどうかを調べるためにいくつかの脊椎動物種における鋤鼻受容体遺伝子群を同定しその発現を解析したところ、種によってかなり異
なる発現様式を示すことがわかってきた。本シンポジウムでは、これらの解析結果をもとに、フェロモン受容機構の進化を考察する。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
マウスの V2R 鋤鼻神経に作用する性特異的ペプチドの発見
木本 裕子*・東原 和成(東大院・新領域)
多くの脊椎動物(両生類・爬虫類・哺乳類・一部の霊長類)は、鋤鼻器官というフェロモンを受容するための器官を鼻腔の下部にもつ。
マウスの鋤鼻神経細胞には、2種類の G タンパク質共役型受容体(V1R タイプと V2R タイプ)がそれぞれ百種類程度発現しており、
これらがフェロモン受容体であると推測されている。しかし、これらの受容体が認識するリガンド(フェロモン)は、ひとつの V1R
を除いて、全く同定されていない。また、現在までに同定されたフェロモンもすべて推定上のものであり、行動しているマウスの鋤鼻
器官を刺激する証拠は得られていない。最近、我々のグループでは、c-Fos 発現誘導を神経活性化の指標とし、自由に行動するマウス
の鋤鼻神経細胞に作用するオス特異的なペプチド ESP1 を発見した。それは、ゲノムにコードされたペプチド性因子であり、ある特定
の V2R 受容体を発現する鋤鼻神経細胞のみで受容されることが分かった。また、ESP1 遺伝子のゲノム上の近傍には、多数の相同遺伝
子が存在しており、新規多重遺伝子ファミリーを形成していると思われる。ESP 遺伝子ファミリーの発見は、マウスのフェロモン受容
の詳細解明へと繋がるだけではなく、V2R 受容体をもつ両生類や爬虫類、げっ歯類などの陸棲動物における鋤鼻器官の進化について、
新たな視点を与えると思われる。
嗅覚から探るシクリッドの種分化
二階堂雅人*(東工大院・生命理工, 統数研・モデリング研究系)
、岡田典弘(東工大院・生命理工,基生研)
アフリカ大地溝帯に位置する三大湖、タンガニイカ湖・マラウィ湖・ビクトリア湖には、「シクリッド」と呼ばれるカワスズメ科魚類
が生息している。中でも成立年代が最も新しいビクトリア湖においては、500種以上にものぼると考えられている莫大な種多様性が、
わずか1万数千年という短い期間に獲得された事が知られている。そこで我々は「Darwin’s Dream Pond」とも呼ばれる、このビク
トリア湖に生息するシクリッドをモデル生物として、種分化に関する総合的理解を深める目的で研究を続けている。ある「種」が存在
する、特に同所的に種が存在する場合には、個々のシクリッドが同種を認識する能力を備えていることになる。シクリッドの同種認識
の中でも特に、メスによるオスの選択には、視覚がもっとも重要な役割を果たしているという知見に基づき、当研究室ではオプシンを
始めとする視覚受容体遺伝子に関して研究をおこない一連の成果を挙げてきた。しかし、ビクトリア湖は、マラウィ湖、タンガニィカ
湖に比べて透明度が極度に低いことから、視覚のみに頼った同種認識だけでなく、さらには嗅覚をも用いた同種認識を併用することで
現在の種多様性を獲得した可能性も十分にありうる。そこで我々は現在、シクリッドの嗅覚受容体遺伝子の中から特に V2R 遺伝子に
着目し、その遺伝子の単離と種間比較をおこない、種分化に関わる同種認識機構を遺伝子レベルで解明しようと考えている。
遺伝子退化のよる生物の進化∼海棲哺乳類嗅覚受容体遺伝子を中心に∼
郷 康広(総研大・先導科学研究科)
生物は進化の過程でその生物を取り巻く物理的・生物的環境に影響を受けた結果、多くの形態的・生理的な個別性を獲得してきた。
この個別性獲得には環境依存的なゲノムの再編成・再整理の過程が重要であったはずである。本研究は、種の個別性獲得の際に起きる
ゲノム変化は、新規機能遺伝子の獲得ではなく、その大部分が既存の遺伝子の発現量の変化であったり、ある環境下における無用な遺
伝子の偽遺伝子化であるとの仮説に立脚するものである。このことを明示するために、本発表では、海棲哺乳類の嗅覚受容体遺伝子群
に焦点をあてる。ハンドウイルカ、ミンククジラ、およびクジラ類に最近縁種であるカバから嗅覚受容体遺伝子を単離し、その進化様
式を解析したところ、カバは、その他の地上性哺乳類(マウス・ラット・イヌなど)と同程度の遺伝子レパートリーを保持していたが、
イルカ・クジラにおいて顕著な偽遺伝子化が観察された。さらに、クジラ類の進化の諸過程における嗅覚受容体遺伝子の機能的制約の
変遷を詳細に解析したところ、ハンドウイルカにおいて、ミンククジラと比較して有意に機能的制約の緩みが観察された。このことは、
単に海棲適応したことだけが、嗅覚受容体の縮退の原因でないことを示していた。では、何がその他の原因となりうるだろうか?本発
表では、そのことを嗅覚以外の感覚器官の進化と絡めて議論してみたい。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
2−D1:(K)人間社会と進化:数理モデル研究の可能性と実証研究との関係
企画者:中丸麻由子(東工大院・社会理工)
:井原泰雄(東京大院・理)
連絡先 [email protected]
人間の行動や社会は複雑であり進化生物学的な観点から研究するのは難しいと 思われる
かもしれない。しかし人間に独特の様々な要因を考慮に入れることに より可能になると思
われる。なかでも人間で顕著な社会学習の能力や、それに 裏打ちされる文化伝達、社会規
範など、そしてそれらを可能にしている言語能 力は、人間の行動や社会を複雑にしている
大きな要因だと言えるだろう。人間 がこれらの形質をどのようにして獲得したのか、また
これらの形質が人間の行 動や社会の進化にどのような影響を及ぼしてきたのかについて暗
中模索中である。今回は数理モデルやシミュレーションによる仮説検証や、実証研究との共
同研究の可能性について検討したい。(使用言語:日本語)
社会学習の進化について
若野友一郎(東京大院・理)
広い意味で他個体の行動を模倣することを、社会学習と呼ぶ。社会学習は、ヒトをはじめとする多くの動物に見られる重要な能力であ
り、その起源は古くから議論されてきた。その中に、環境変動の周期が短い場合には個体学習が、中くらいの場合には社会学習が、長
い場合には遺伝的に行動が決定している戦略(”innate”)が、それぞれ有利であるという説がある。しかし、この説を支持する論理的
根拠はこれまで曖昧であり、ゲームモデルによる解析が有用であると考えられる。本研究では、3種類のプレイヤー(個体学習者、社
会学習者、”innate”)が、変動環境下で同時に競争する場合に、どの戦略が生き残るかを数理モデルとして定式化し、解析した。その
結果、従来の説が支持されただけでなく、個体/社会学習者だけが生き残るモードと、”innate”だけが生き残るモードの2つが存在し、
環境変動の周期の長さによってモード間の不連続な遷移が起きることが明らかとなった。発表では、この相転移現象の数学的解析を行
うとともに、それが社会学習および文化伝達の研究においてどのような意味を持つかを議論したい。
パーソナル・ネットワークにおける社会意識の一致とそのメカニズムの社会心理学的検討
石黒格(弘前大 人文)
山岸(1998)による「信頼の解き放ち理論」は社会科学に大きな影響を与え、様々な議論を生んでいる。論点の中でも大きいのは、信
頼と安心を区別し、相手の協力について不確実性の高い取引関係のなかでは一般的信頼が醸成されるが、不確実性の低い関係(安心関
係)のなかではむしろ醸成されないという主張である。
山岸らは実験室研究だけでなく、社会調査によって一般的信頼の日米差などを示すことで自説を補強しているが、どのような人間関
係のなかで信頼が高まっているのかを直接に検討しているわけではない。
本発表では、ネットワーク調査のデータを用い、対人関係における一般的信頼の対応関係を検討した。信頼の解き放ち理論に基づけ
ば、コミットメント関係が弱い場で一般的信頼の高い人々が関係を築きやすい、すなわち一般的信頼のレベルが一致しやすいと考えら
れる。しかし、データを検討した結果、主として家族関係にある二者関係で、一般的信頼のレベルが一致しやすいことが明らかになっ
た。さらに、同世代よりも異世代間で、信頼が一致しやすい可能性も示唆された。一方、居住地人口が大きい場合に限っては、家族以
外の他者との間でも、信頼が一致しやすい傾向があった。林・与謝野(2005)が主張しているように、信頼の解き放ち理論が適用可能な
場は限定的である可能性がある。
当日は、ネットワーク調査の方法論までを含めた発表を行う予定である。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
出生率の低下を進化的に説明する
井原泰雄(東大院・理)
産業化する社会で見られる急激な出生率および死亡率の低下を、人口転換と呼ぶ。人口転換は 18 世紀のフランスに始まり、19 世紀に
はヨーロッパ各地で次々に起こっていった。出生率が低下しているとき、社会の成員は自らの繁殖成功度を低下させる行動をとってい
るように見える。このため、人口転換における出生率の低下は、人間行動を進化的に説明しようとする試みに対する批判の根拠とされ
てきた。一方、出生率の低下を進化的に説明する仮説が、これまでに少なくとも 3 種類提唱されている。第一に、「質と量のトレード
オフ仮説」は、ある種の環境下で、親は子の数を減らすことによって子一人当たりの繁殖率を増大させると主張する。第二に、「富の
最大化仮説」によれば、出生率の低下は、かつては適応的だった富の最大化を促す心理機構が、新奇な環境の下で非適応的な行動を誘
発した結果である。第三に、「文化進化仮説」は、影響力の強い社会的役割を占める人達が産児数を減らすような価値観を持ちやすい
とき、その価値観が集団中に広がりうると考える。本講演では、特に「文化進化仮説」の有効性について、簡単な数理モデルを使った
検討を行なう。産児数が少ない人ほど影響力の強い社会的役割を占めやすいなら、出生率の低下が起こりうることや、教育水準の高い
社会ほど子が家庭の外から価値観を獲得しやすいなら、教育水準の上昇とともに出生率の低下が予測されることなどを示す。
協力行動の進化における嘘の噂の効果について
中丸麻由子(東工大院・社会理工)*、河田雅圭(東北大院・生命科学)
この研究では「うわさ」とは、ある個体の協力・非協力に関する評判であり、個体から個体へと伝播していくものと定義する。どのよ
うな「うわさ」を流す戦略が、非協力者であるにもかかわらず「自分は協力者だ」という嘘のうわさを流す個体(嘘つき戦略)を検知
できるのか、進化ゲームによって調べた。
噂を流すステージと囚人のジレンマゲームをするステージの2ステージを持つモデルを仮定した。この構造によってうわさを伝播す
る速度を調整可能となる。現実には特定の社会的ネットワークから得た噂をもとに意志決定していると思われるが、この研究ではまず
は噂を流す相手や囚人のジレンマゲームを行う相手を集団からランダムに選ぶとする。
協力的でありかつうわさを参考に囚人のジレンマゲームの手番を選ぶ戦略のうち、「正直者戦略」(「自分は協力者」と自己宣伝す
る戦略)は嘘つき戦略に騙されてしまい進化しない。一方、非協力者を告発する戦略(警告戦略)では、うわさ伝播速度が高く囚人の
ジレンマゲームをする回数が非常に少ない場合では嘘に惑わされてしまうものの、その他の条件では進化する事が出来る。また、噂の
信頼性を考慮すると伝播速度が早くても嘘つき戦略は進化しない。
2−D2:(S)
送粉者の行動から眺める送粉系
企画者:牧野 崇司(東北大・生命科学)
:酒井 聡樹(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
植物個体間をどのように移動し、花をどのように訪れるのか、といった送粉者の行動は、
植物の花粉移動を直接左右する。植物を訪れる送粉者は、自身の利益を高めるように行動す
る。一方で植物は、自身の送粉効率を高めるため、送粉者の行動をうまく操作するような性
質を進化させたと考えられる。本シンポジウムでは、送粉者の行動についての話題をいくつ
か取り上げる。そして、送粉者の行動の適応的意義はもとより、送粉者の行動を深く知るこ
とで見えてくる、植物の持つ諸性質の役割についても議論したい。 (使用言語:日本語)
ウコンウツギにおける花色変化 ∼送粉者の行動のコントロールによる 送粉効率の向上∼
井田崇(北海道大・地球環境)
虫媒花植物の花形質は,花粉媒介者への誘引を促すよう進化してきた.開花中に花色が時間的に変化する花色変化もそうした形質の
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
ひとつであり,広い分類群でみられる.これは花色変化が系統的な制約を受けた形質でなく,訪花昆虫との共進化により形成されたこ
とを示唆する.多くの場合,変色後の花は繁殖機能を持たない.花が咲き続けるには資源が必要であり,繁殖を終えた花は枯らせた方
がよいはずである.では,なぜ咲き続けるのだろうか?
変色後の花の維持は,遠方からの色の識別が困難な昆虫を株に誘引することに有効である.また株内において送粉者に対し,花蜜や花
粉などの報酬がないことを伝え,変色前の花への訪問を促す効果がある.先行研究では花粉の受け取り「受粉」に着目された.一方,
変色後の花による花粉を他個体へ運ぶ「送粉」プロセスにおける寄与については検証例がない.
本研究はウコンウツギを用いて,株内における送粉者の行動と花色変化を含めた開花パターンを調査した.第一に,変色後の花が多い
ほど,送粉者の株内連続訪問数が減少した.第二に,株内で早い時期に開花する花ほど,花色変化するタイミングが早かった.この結
果は,変色後の花の維持が,植物が送粉者の行動をコントロールし,隣花受粉を減少させ,送粉効率を高めていること,また花色変化
のタイミングをコントロールし,各色相の花の混在状態を長くすることで,その効果を高めていることを示している.
送粉昆虫の花接近飛行3D解析に基づく花信号の機能
川窪伸光(岐阜大)
花の形態的変化に伴う花粉媒介昆虫の花接近飛行を3次元的に解析し,虫媒花の視覚信号の構造と機能の検討を試みた。材料は,訪
花によって花の形態が不可逆的に変化するアレチヌスビトハギ(爆裂花)と,その主たる花粉媒介者であるツルガハキリバチを用いた。
昆虫の花接近飛行は,異なった角度から2台のビデオカメラによって動画記録した。そして各カメラの動画を構成する1/30秒ごと
の静止画像から,昆虫の頭部と尾部の位置を読みとり,補正計算を経て3D座標を算出し,訪花昆虫の「飛行経路」「飛行速度」「飛
行高度」「飛行姿勢(上向き角)」「経路に対する体角」「花に対する体角」などを,1/30秒ごとに明らかにした。解析の結果,
ハキリバチは,花に接近飛行する数秒内に,飛行速度を著しく変化させ,また,その速度変化に一定のパターンが認識できた。浮上し
た仮説として,訪花昆虫の花接近飛行には,前花からの離脱後,1.次花の探索,2.発見,3.位置・方向確認,4.訪花価値の評
価,5.着地決断,そして6.定位(着地準備)
,7.着地の7段階が,飛行行動変化を伴って,この順番で存在すると考えられた。
また一方,花からの視覚信号として,上記の昆虫の飛行変化に対応するような,1−2.存在情報(旗弁),3.着地方向情報(竜骨
弁等)
,4−5.価値情報(爆裂の有無)
,6.着地点情報(竜骨弁および蜜標?)などが送信されていると考えられた。
ハナバチの残す匂いのマーク:採餌における意義と送粉系への示唆
横井智之(京都大)
ハナバチは植物から花粉や花蜜を採取し,餌資源として利用する.あるパッチにおいてハナバチが餌資源を効率よく利用するには,
報酬の少ない花へ訪花する回数を減らせばよい.その手段の一つとして,社会性ハナバチであるミツバチやマルハナバチでは,一度採
餌した花に匂いのマークを残すことが知られている.これにより自個体もしくは同種他個体に採餌された花への再訪花を回避できるた
め,採餌効率を上げることができる.
演者はこれまで報告されていなかったミツバチ科以外の社会性・単独性のハナバチ類を対象として,匂いのマークを利用した採餌行
動について野外調査をおこなった.その結果,3分前に採餌された花を自個体もしくは同種他個体に提示した場合,未訪花の花を提示
した場合に比べて有意に採餌された花を避けた.さらに花粉・花蜜を直接視覚により確認している可能性があるため,どちらかを除去
した花を提示してみたが,どの場合もハナバチが避ける割合は低かった.そのためいくつかのハナバチ種では採餌された花を識別する
ために,何らかのマークを利用していることが示唆された.このようなマークを用いた花の識別方法がハナバチ類では広く用いられて
いると推測された.
今回の講演では,植物に残された匂いのマークがハナバチ自身にもたらす適応的な意義を探るとともに,花粉を効率よく他花に送粉
させようとする植物側の戦略にハナバチのマークが与える影響について考察する.
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
訪花昆虫相に対応した虫媒植物の花形態の地理的変異
横山潤(東北大院・生命科学)
虫媒植物と送粉昆虫の関係は一般に種特異性が低いが、送粉シンドロームの存在などからも示唆されるように、植物と昆虫との間に
はある程度の対応関係が見られ、それに伴って双方が特徴的な形態を示すこともある。送粉昆虫はそれぞれ形態的な特徴から異なった
選択圧を花に与えることが予想され、実際に特定の方向へ形質をシフトさせる傾向があることも知られている。主な送粉昆虫のグルー
プが異なるなど、送粉昆虫相に大きな変化が生じた場合は、元の集団と異なった方向への花形態の進化が生じうる。このような状況は、
植物が広域に分布し、各地域集団間で優勢な送粉昆虫が異なる場合には生起しやすいと考えられ、実際にそのような事例も知られてい
る。地理的に離れた集団間で主な送粉昆虫に対応した形質が分化すれば、やがてこれらの形質が交配前隔離機構となって、種分化を遂
げる可能性もあり、植物の多様化を考える上で重要な現象である。
本講演では、訪花昆虫相や訪花昆虫の行動が地理的に異なり、それらと植物の花形態の地理的変異との間に対応関係が見られる例を
取り上げ、訪花昆虫が植物の花形態の進化にどのような影響を与えているのかについて考えてみたい。
マルハナバチの株訪問頻度に与えるディスプレイサイズの効果:「見た目」か「中身」か?人工花を用いた実験
牧野崇司(東北大院・生命科学)
一般にマルハナバチは、ディスプレイサイズの大きい(同時開花数の多い)植物個体により多く訪れることが知られている。しかし、
マルハナバチが、ディスプレイサイズの大きい植物の「見た目(花数の多さ)」に誘引されているのか、「中身(報酬量の多さ)
」に誘
引されているのかは不明である。例えば、花数が多く見た目がよくても、報酬が伴わなければ、ハチはその植物を避けるかもしれない。
逆に、見た目さえよければ無条件に何度も訪れるかもしれない。本研究では人工花を用い、「見た目」と「中身」の効果を明らかにす
る。
実験は、3 × 5 m の室内に、垂直花序を模した人工花を格子状に配置し、クロマルハナバチを1個体ずつ放して行った。人工花は、
自動的に液体がしみ出す仕組みとなっており、花数と報酬の有無 (ショ糖液 or 水) を自由に操作できる。この人工花を用い、花数(見
た目)と報酬を出す花の数(中身)を操作した花序タイプを組み合わせ、各花序タイプへのハチ個体の訪問を、1日約8時間ずつ記録
した。
各花序タイプへの訪問数は採餌の初期と後期で異なった。初期のハチは、見た目の大きい花序タイプを、中身の有無に関わらず訪れ
たが、次第に中身の無い花序を避けるようになった。つまり、経験の少ないハチには「見た目」が重要だが、経験を積み、位置と報酬
の関係を学習したハチにとっては「中身」が重要であることが明らかになった。
2−D4:(K)プランクトンとベントスのカップリング進化
企画者:北里 洋(独 海洋研究開発機構・地球内部変動研究センター)
連絡先 [email protected]
地球史を通じて,海洋プランクトンは進化している。それに伴い沈降するマリンスノーの
質と量が変わり,水中および海底の生物に影響を与える。本シンポジウムでは,地質時代を
通じた benthic-pelagic coupling の変遷を明らかにし,地球史における意味について議論す
る。 (使用言語:日本語)
趣旨説明:プランクトンの進化が底層生態系進化を誘引する
北里 洋(海洋研究開発機構・地球内部変動研究センター)
海洋底層生態系の進化は,海洋プランクトンの進化と同期している可能性が高い。それは,時代毎に海洋基礎生産を支えるプランク
トン群が変わることによって,底生生物の生活を支える沈降粒子の質と量が変わることが原因となって起こる。たとえば,底生有孔虫
類は,中生代白亜紀中期に大きな変化がある。Nodosaria, Lenticulina グループから,Bulimina, Uvigerina グループへの転換である。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
最近の食性解析から,前者はデトリタス食であり,後者は海洋表層から沈降した新鮮な植物プランクトン起源の有機物食である。この
ことは,ジュラ紀から白亜紀にかけて,石灰質ナノプランクトン・珪藻など,現在海洋表層の基礎生産を支えるグループが現れ,海洋
の基礎生産が転換したことと同期しているように見える。
本シンポジウムでは,プランクトンとベントスの専門家が一堂に会し,プランクトンの進化とベントスの進化が同期して起こってい
るかどうかを検証する。
先カンブリア紀の海洋生態系進化
大野照文(京大・総合博物館)
先カンブリア紀におけるプランクトンとベントスの相互作用は、カンブリア紀以降ほど活発ではなかったと考えられる。30 数億年
前、出現した頃の生命はメタン生成菌や好熱性の化学合成細菌と推定され、恐らくベントスで、仮にプランクトンが存在したとしても
大量にバイオマスを作り出すようなものではなかっただろう。
Brocks ら(1999)の研究によって 27 億年前には有光層のシアノバクテリを頂点とし、海洋底の無酸素帯のメタン生成細菌に至る生態
系の存在が推定されている。当時急激に成長した大陸からもたらされた栄養塩類によって一次生産量は急増しただろう。ただし、その
定量的な見積りや、ベントスへの影響を明らかにすることは難しい。
その後、10 数億年前以降、真核で微細なプランクトン(アクリターク)とされる化石も発見されるが著しい多様性を獲得するまで
には至らなかった。また、プランクトンがつくったバイオマスがベントスに利用されるためには、分解される前に海底に届かなければ
ならない。効率よい運搬はカンブリア紀の始まり前後に起きた多細胞生物による糞粒(fecal pellets)の発明まで待たねばならなかっ
たのかもしれない。
渦鞭毛藻の繁栄と海洋環境の変化
*
松岡数充(長崎大・環東シナ海海洋環境資源研究センター) ・岩滝光儀(長崎大・環東シナ海海洋環境資源研究
センター,長崎県産業振興財団)
近年の分子系統解析によると渦鞭毛藻はマラリア原虫や繊毛虫類とともにアルベオラータ生物群を形成し,緑色植物群とともに原生
代中期に成立したとされる.化石渦鞭毛藻は浮遊期の細胞ではなく,休眠期の細胞(シスト)が残存したもので,一般的に単純な形態
を持つことから分類上の所属を決定することが難しく,「アクリターク」に分類されている場合もある.形態的特性から渦鞭毛藻とさ
れる微化石は三畳紀に出現している.一方,渦鞭毛藻特有のダイノステランはカンブリア紀に確認されていることから,少なくとも渦
鞭毛藻と同様の化学物質を産生する原生生物がこの時期に出現していたといえる.最古のアクリターク(Sphaeromorph)は原生代初
期に出現しているが,球形もしくは楕円形でほとんど装飾物を欠いている(アクリタークグループ I)
.その後,原生代中期に多様な突
起物を備えたアクリターク(Achanthomorph)が出現する(アクリタークグループ II)
.この時期はアルベオラータ生物群の成立期と
ほぼ一致している.従って,これ以降のアクリタークには緑色植物や渦鞭毛藻類に繋がるプランクトンの休眠細胞が含まれていること
は間違いない.しかし,海洋では三畳紀以降現世まで,緑色植物系プランクトンが優占することはなく,渦鞭毛藻・ハプト藻・珪藻が
基礎生産を担っている.海洋の基礎生産者である植物プランクトンはアクリターク I からアクリターク II へ,さらに渦鞭毛藻・ハプト
藻・珪藻類へと移り変わってきた.このような変化が海洋環境といかなる関わりがあるのかを推察する.
海洋基礎生産者としての珪藻の進化が海洋生態系に及ぼした影響
*
柳沢幸夫(産総研・地質情報) 、須藤 齋(国科博・地学)
白亜紀に現れた珪藻は、新生代を通じて急速に進化し、現在の海洋では生物生産の過半を担う主要な植物プランクトンとして繁栄し
ている。新生代では約 3400 万年前に南極大陸で氷床の形成が始まり、環境が温室地球から氷室地球へと変化した。これに伴い、極域
が寒冷化して深層水の水温が低下し、表層水との温度差の増加により全体として海洋の成層状態が強化されてきた。この変化により深
層水に含まれる栄養塩が表層にもたらされにくくなり、南北両半球の高緯度域と赤道沿岸湧昇域のような特定の場所でのみ栄養塩が湧
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
昇する構造となった。このように新生代後期の寒冷化の進展に伴って、栄養塩の供給は地理的にも時間的にも局在化し、しかもその濃
度は時代とともに増大してきた。珪藻はこうした環境変化に最もよく適応し、多様性を増加させてきた。たとえば、現在湧昇域で多様
性が高く海洋全生物生産の 20-30%を占める珪藻の Chaetoceros 属は、約 3400 万年前を境に種数と産出量が爆発的に増加した。これ
はそれまで主な海洋一次生産者であった渦鞭毛藻の多様性の急減と同時であり、この時に沿岸域での主要な海洋基礎生産者が入れ替わ
ったらしい。このように、新生代を通じた珪藻の進化の伴い、沈降するマリンスノーは次第に珪藻質となり、限られた場所で一時的に
大量に供給されように変化してきた。このことは、これを利用して生きる水中および海底の生物の進化にも甚大な影響を与えたと推定
される。
底生動物群集構造の進化と海洋表層生態系の進化とのかかわり
近藤康生(高知大・理)
エディアカラ動物群以来の海洋底生動物の群集構造とその長期的変遷は,硬い殻を持たない(軟体性)ベントス(S)と,硬い殻を持つ
(有殻性)ベントス(H)の生息圏の拡大状況に基づいてあえて単純化すると,以下のように整理できる.
1.
エディアカラ段階:S(陸棚表層)
2.
カンブリア紀段階:S(陸棚沿岸域内層)+ H(リーフ)
3.
オルドビス紀段階:S(陸棚沿岸域内層・深海表層)+ H(リーフ・陸棚表層)
4.
三畳紀・ジュラ紀段階:S(陸棚沿岸域内層・深海表層)+ H(リーフ・陸棚内層)
5.
白亜紀段階:S(陸棚沿岸域内層・深海表層)+ H(リーフ・陸棚沿岸域内層)
6.
新生代段階:S(陸棚沿岸域内層・深海表層)+ H(リーフ・陸棚沿岸域内層・深海表層)
つまり,底生動物は,軟体性のものはいち早く生息域を拡大し,有殻性のものは遅れて拡大したという違いはあるが,いずれにし
ても生息域の拡大を伴って多様化してきたことが明らかである.これらの段階的変化の中で現代型の生態系を確立させたのが白亜紀に
おける変化であり,海洋表層生態系との関連が指摘できる.講演では,わが国の研究成果を分析して得られたデータを基に,海浜,外
浜,内湾,陸棚,汽水域,岩礁などの生息環境ごとにジュラ紀以後,どのように二枚貝類の分布が拡大し,また交代してきたか,概要
を述べる.
海洋表層生態系と生痕化石を作る生物の共進化
小竹信宏(千葉大 理)
複雑な三次元構造と規則的な内部構造をもつ生痕化石 Zoophycos は,顕生代を通じて全ての時代の海成層に産する.この生痕化石
は,層理面にほぼ垂直な中心軸とその周囲を螺旋状に取り囲むスプライトから構成される.スプライト内は上位の堆積物に由来する排
泄物で充填される.産状観察とスプライト充填物の起源から,形成者は定住型の内在性表層堆積物食者である.本研究では,古生代石
炭紀以降の全ての時代から産出する Zoophycos を対象とし,従来注目されなかったスプライトの巻き数の時代変化に着目した.その
結果,ジュラ紀以前では最大でも4巻き止まりだった巻き数が,白亜紀に10∼15巻きと急増し,第三紀には最大で30巻き以上に
も達することが明らかとなった.形成者の生活様式を考慮すると,この巻き数の急激な増加は,形成者の生活形態がそれまでの短期定
住型から長期あるいは終生定住型に変化したことを示唆する.生活様式の変化は,中生代後期における一次生産者の出現と急増,それ
に伴う深海底への有機物フラックスの増加がもたらす海底の富栄養化が密接に関係していると考えられる.Zoophycos 形成者はジュ
ラ紀後期から白亜紀初期の時期に,浅海から深海へと生息場を移動したことが知られている. これまで Mesozoic Marine Revolution
の観点から解釈されてきたこの現象は,上述した海洋表層生態系の変化と,それがもたらす海底の富栄養化が底生動物の生活スタイル
を変化させた一例と理解したほうがより合理的である.
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化学合成群集の進化と海洋表層生態系の進化は独立事象か?
延原尊美(静岡大・教育)
化学合成生態系は,鯨骨群集のような例をのぞけば,地下から供給されるメタンや硫化水素などの還元物質にその生存基盤をおいて
いる.この生活スタイルは,その多くが深海域で発見されている事実とあいまって,「化学合成生態系は地球表層部の変動とは独立し
た安定な生態系である」という見方を促した.しかしながら,海底表層近くにおける還元物質の挙動は,テクトニクスのみならず海水
準変動や水塊の温度変化,海洋表層における生産量にも連動して変化しうるはずである.本発表では,白亜紀中頃∼新生代にかけて起
きた化学合成化石群集の分類構成の時代変化を例にとりあげ,海洋表層の生態系の変化が海底の化学合成群集に影響を及ぼす可能性に
ついて考察する.
白亜紀は,海洋表層部のプランクトン生態系が Siliceous Ocean から Calcareous Ocean へと大きく変貌を遂げ,珪藻類の出現によ
って海洋の一次生産量が増加した時代でもある.一方,海底の化学合成生態系にとっても白亜紀中頃は重要な転換期である.すなわち,
それまで化学合成群集の主体をなしていた腕足類が二枚貝類に置換され,それ以降ツキガイモドキ類やシロウリガイ類のような化学合
成二枚貝類が放散を遂げている.演者は,両者の同期性における因果関係の有無を検討する上で,これらの二枚貝類の棲息場における
地下構造に注目し,化学合成二枚貝の深海域への進出過程についてモデルを提示してみたい.
2−E1:(K)コンパクトな生態系としての内部共生:進化生態学の諸問題に取り組むモ
デル系としての展望
企画者:深津 武馬(産総研・生物機能工学)
多くの動植物が、体内に1種もしくは複数種の共生微生物を保有している。それら共生微
生物はしばしば、宿主の生存や繁殖に必須であったり、宿主の生殖や生態に大きな影響を与
えていたりする。すなわちこういった生物は、複数の微生物との密接な複合系として存在し、
それらの間の相互作用によって全体としての個体の性質が規定されている。つまり1つ1つ
の個体を、複数の生物から成る生態系としてとらえることができる。しかもこの生態系は明
確に区画化されたコンパクトな実体であり?成要素をすべて同定することができ、要素間の
相互作用、個体群動態、物質交換、さらには系全体の性質を代表する重要なパラメーターで
ある個体の適応度までもしっかりと把握することが可能である。 本シンポジウムでは、こ
のような観点から特に昆虫類−微生物間の内部共生系に焦点をあて、その生態的側面におい
て興味深い研究を展開している演者に最新の話題を提供してもらい、進化生態学の諸問題に
取り組んでいくうえで、内部共生系がいかに優れたモデル系たりうるかについて認識を共有
したい。(使用言語:日本語)
マルカメムシのカプセル共生細菌:共進化研究のための新しいモデル系
細川貴弘(産総研・生物機能工学)
昆虫類ではいくつかの分類群において体内共生細菌との絶対的共生関係が進化しており、これらの昆虫は共生細菌なしでは成長、繁
殖できない。アブラムシをはじめとした同翅亜目の昆虫やツェツェバエなどにおける共生系はよく研究された例である。マルカメムシ
科のカメムシにおいても体内共生細菌との絶対的共生関係が進化しており、共生細菌が母系垂直伝播するなどのいくつかの特徴は他の
共生系と共通している。しかし昆虫体内での共生様式と垂直伝播機構には決定的な違いが見られ、この違いが“新しいモデル系”たら
しめる重要なポイントである。アブラムシなどの共生細菌は宿主体内の菌細胞の細胞内に共生し、メスの体内で卵(胚)へと垂直伝播
する。これに対してマルカメムシ類の共生細菌は中腸管腔内(細胞外)に共生しており、その伝播機構は、メスが産卵時に卵とともに
共生細菌を含む「カプセル」を産下し孵化幼虫がカプセル内の細菌を口吻で摂取する、という非常にユニークなものである。つまりこ
の共生系では、共生細菌の伝播が宿主の体外で起こり、かつ明確な宿主の行動として観察できるということである。この特徴を利用す
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ることで、“伝播される共生細菌のタイプや量の操作”という他の共生系では困難あるいは不可能な実験が容易に可能となる。本講演
では主に伝播される共生細菌の量を操作した実験の結果について紹介する。
アズキゾウムシにおけるボルバキア多重感染系:虫体内でくりひろげられる多様な進化生態的相互作用
今藤 夏子(国立環境研・生物多様性)
ボルバキアは、節足動物やフィラリア線虫の細胞内共生細菌である。卵を通じた垂直感染のみによって次世代の宿主に感染すること
から、宿主の性や性表現を操ることで利己的に宿主集団中に蔓延することが知られている。貯穀害虫であるアズキゾウムシは、世界中
の野外個体群において全個体がボルバキアに感染しており、その 90%以上が 2 系統のボルバキア(Con・Ori)に同時感染している。
複数の微生物系統が共生している場合、宿主はミクロな個体群が集合したコンパクトな生態系と考えることができる。従って、宿主
という空間的・資源的に限られた環境において、2 系統のボルバキアは同じニッチを争って互いに競争排除し合うことが予想されるが、
実際にはアズキゾウムシでは二重感染が高頻度でみられる。
そこで、宿主 1 個体内における Con・Ori の存在量を調べたところ、両者はまさに競争関係にあると考えられた。一方、体内局在を
調べたところ、Con は体細系器官、Ori は生殖系器官においてそれぞれ優占していること、器官別に非対称な競争関係を示すことがわ
かった。さらに、非感染宿主への人工感染実験や、感染宿主への抗生物質投与による除去実験の結果から、宿主への感染性が 2 系統で
異なることも示唆された。これらの結果より、宿主体内における各ボルバキア系統の異なる形質と相互作用が、競争排除ではなく、安
定した共感染に貢献している可能性があると考えられた。
宿主アブラムシを舞台に繰り広げられる共生細菌間相互作用及び、その宿主の生理・進化に与える影響
古賀隆一*、土田努(産総研・生物機能工学)
多くの昆虫がその体内に共生微生物を宿している。これらの共生微生物は宿主の生存繁殖に必須機能を果たしていたり、宿主の性
を操作するなどして様々な影響を宿主に与えている。しばしばこのような共生微生物が複数種の同一宿主内に存在する事がある。その
ような複合共生系では、系を構成する微生物間で相互作用が生じ、単独の場合とは異なった帰結を導きうる。現在我々はこの複合共生
系について、エンドウヒゲナガアブラムシ( Acyrthosiphon pisum)、必須一次共生細菌 Buchnera、および機能不明な二次共生細菌
の三者関係をモデルとして研究を行っている。今回は、1)二次共生細菌の存在が一次共生細菌にいかなる影響を与えうるか、またこ
の共生細菌間相互作用の変化により宿主アブラムシへの影響が如何に変わりうるか、について述べる。また、内部共生は共生微生物の
果たす新規機能を宿主が獲得する現象ともいえるが、2)二次共生細菌の感染が宿主アブラムシの寄主植物適応という重大な生態学的
特性を改変しうることを明瞭に示した例についても報告する。これらを通じて、複合共生系の生物学的意義についての考察を行う。
2−E2:(W)
生態系に対する進化の影響
企画者:水野晃子(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
生物の進化は、さまざまな生態学的予測、現象に対して影響を持つということが理論的に
調べられてきている。さらに生物の急速な進化が実際の生物の相互作用に影響を与えるとい
うことが、近年の実験的研究によって明らかになってきた。しかし、進化によって生態系が
受ける影響や、生態系という枠組みの中で進化がどのように起こるかということについての
研究はあまりなされていない。
そこで我々は、生態系と進化の関係についての理論的、実験的アプローチによる取り組み
を紹介したい。
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適応放散による食物網成長とその制約としての理想自由分布
伊藤 洋*,池上 高志,嶋田正和(東大広域システム)
多様な生物種からなる今日の複雑な生態系は,最初に出現した祖先種が分化を繰り返すことで成長してきたとされる.その成長の過程
において,各々の種がどの種とどのような相互作用をするかはその群集構造によって与えられ,逆にその相互作用による選択圧が群集
構造を共進化的に変化させてきたと考えられる.本研究は,進化的に可変な捕食被食関係による動態を表現型レベルで記述するモデル
によって,1つの祖先種からの適応放散によって,複雑な食物網が共進化的に成長することを示した.この動態において,食物網が順
調に成長する場合や,その複雑さが保たれる場合には,食物網におけるあらゆる捕食被食関係が理想自由分布に近い状態を維持する傾
向にある.ただし全くの理想自由分布は動態の停止を意味し,理想自由分布から離れる作用を持つ種分化と近付く作用を持つ種分化の
程よい関係が食物網の複雑化を促すという解釈が導かれた.
食物網構造を正確に再現する進化メカニズム
A G. Rossberg (Yokohama Nat'l Univ. Environment and Information Sciences)
It is shown that the structure of empirical predatory food webs can be reproduced to high accuracy by a random, undirected
model of evolution.
In the model, abstract traits determining the properties of species as prey and predators are inherited
between species and mutate randomly.
It is explained how this mechanism reproduces the known empirical degree distributions
of food webs and the phenomenon called "intervality".
植物プランクトンの共存条件に栄養塩形質の進化が与える影響
水野 晃子*, 河田 雅圭(東北大院・生命科学)
プランクトン群集はモデル生態系として伝統的に用いられ、その理論的、実験的研究により、生態系の機能、構造、安定性などに対
するさまざまな理解が得られてきた。また、近年の実験的研究は、プランクトン群集を用いて進化が個体群動態に影響を与えることが
示された。これらのことから、プランクトン群集は生態系と進化の研究を行う上での重要なモデル生物群であるといえる。
しかし、これまでの生態系と進化に関わる研究の多くは捕食?被食関係に着目しており、プランクトン群集の重要な相互作用の要素
である栄養塩に着目した研究は少ない。本研究では、生産者である植物プランクトン群集に着目し、栄養塩をめぐって競争する場合の
共存条件に対して栄養塩形質の進化の影響について、シミュレーションモデルを用いて調べた。
これまでの生態学的研究によると、1)互いに最も制限となる栄養塩が異なっており、2)制限となる取り込み速度が相手よりも相対的
に高く、3) 系に供給される栄養塩の比がある特定の範囲にあるとき、2 種の植物プランクトンは共存できるとされてきた。この共存
条件に対して、取り込み速度や制限状態に進化を仮定したとき、生態学的予測との間にどのような変化が生じるのかを明らかにした。
北海道産 Aphanizomenon flos-aquae の系統的多様性と機能の多様性
日野修次*(山形大・理)
,高野敬志(北海道衛生研)
Aphanizomenon flos-aquae は好冷性のラン藻であるが,北海道の湖沼に加えて西日本においても出現しており分布域が広まって
いる。それらが同一種であるかどうか,また,どの様にして分布域が広がってきたのかについては検討されていない。Apha. flos-aquae
は,環境によって形態変異を起こすことから同定が難しい種であり,形態を中心とした分類のみでは確定できないと考えられる。この
ため,すでに登録されている同種のものと遺伝子レベルでの違いを北海道塘路株と茨戸株を用いて分子系統学的に比較するとともに,
生理的な機能を代表する光合成活性とリン取り込み活性について比較を試みた。
系統学的に検討するため,比較的進化が遅いとされる 16S rRNA 遺伝子および rbcL 遺伝子の塩基配列の一部を比較して系統樹を作成
したところ,16S rRNA および rbcL 遺伝子共に,Apha. flos-aquae は 2 つ以上のグループに分けられ,塘路株と茨戸株は同一種であ
ってもそれぞれ異なったグループに含まれることが明らかになった。よって,同じ種であっても,古い時期に遺伝子に変異が起こり別
れたものと推定され,系統発生上,遠い関係にあると考えられる。また,光合成活性や栄養塩取り込みという機能についても著しい違
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
いがあること,すなわち機能の多様性の存在も考慮すると両種の形態や機能性の違い(多様化)は,湖沼の環境に適応する以前に特徴
づけられた可能性があると考えられる。
コメンテーター
松田裕之(横浜国立大)
2−E4:(K) アーキアを中心とした微生物の進化をたどる
企画者:山岸 明彦(東京薬科大 生命科学)
:河原林 裕(産総研)
連絡先:[email protected]
[email protected]
微生物も長い地球の歴史の中で進化を経験しているが、その多くは明らかとなっていない。
そこで、様々な角度から微生物、特にその中でも特殊な性質を多く持つアーキアに焦点を当
てて、進化の道筋を地理・耐熱性・代謝系・膜構造・ゲノム等様々な面から探っていきたい。
(使用言語:日本語)
生息環境、地理的分布からアーキアの進化を考える
伊藤 隆(理研バイオリソースセンター)
アーキアはこれまで嫌気的、高塩濃度、高温など特殊な環境にしか生息しないと考えられてきたが、分子生態学的手法の導入によっ
て土壌、海洋、湖沼などさまざまな環境に生息していることが明らかになってきた。しかし、アーキアの多くの系統群は生育環境因子
が進化上の制約を与えているように思われる。
一方、我々はこれまで日本の各地の温泉から好熱性アーキアの分離を試みてきた。こうした陸上温泉に生息するアーキアは容易に他
の生息地に転移することが出来ないため地理的隔離と系統進化の関係を調べるには格好の材料になるものと思われる。分離株のうち同
一種と思われた菌株間の 16S rDNA の塩基配列を比較しても多くの場合地域特異的なパターンを認めることは困難であったが唯一
Vulcanisaeta distributa と命名したアーキアは分離源ごとにクラスターを形成することが明らかとなった。また V. distributa はすべて
硫気孔近辺の土壌・温泉水から分離したものであるが、引湯した温泉水からは近縁種である V. souniana を分離することができた。こ
れらの分離株は今後好熱性アーキアにおける種分化の過程を推測するのによい研究材料になると期待できよう。本シンポジウムでは上
記のような事例を挙げてアーキアにおける生育環境や地理的隔離がその進化に及ぼす影響について考察してみたい。
ゲノムから見た微生物の進化
河原林 裕(独・産業技術総合研究所、生物機能工学)
超好熱古細菌を含む多数の微生物ゲノムの全塩基配列の決定は、遺伝子の水平伝播現象現象が見出されてくるなど、現存する微生物
を理解するのに大きな威力を発揮している。さらに、遺伝子構成や遺伝子の形等ゲノムの全情報を利用する事で、現在の 16S rDNA
領域の塩基配列比較を中心系統解析をより正確なものに出来るのではないかと考えられる。さらに現存する微生物の系統関係の比較を
積み上げる事や現在のゲノム情報の中に残されているゲノムや遺伝子構成の変化の足跡をたどる事で、その微生物の進化の道筋を遡れ
るのではないかと考えられる。そこで、ゲノムの全塩基配列が既に決定されている超好熱古細菌 Sulfolobus tokodaii を例に遺伝子構
成や RNA 遺伝子の特徴から辿ることが出来る進化の道筋について考えてみたい。また、ゲノムの全塩基配列決定で見出されてきた遺
伝子情報は、膨大な遺伝子資源の一つだと考えられる。そこで、超好熱古細菌 Sulfolobus tokodaii が有する糖鎖関連遺伝子を中心と
した多数の遺伝子を大腸菌で発現させ、その遺伝子産物が有する機能に関する詳細な特徴の解析にも取り組んでみた。この確認された
機能の詳細や遺伝子の形・構成を比較する事や、推定されていた代謝経路との関係を比較する事でも微生物の進化を理解する手助けと
なる情報が得られるのではないかと考えられる。そこで、超好熱古細菌の糖代謝関連酵素の機能や遺伝子構造を例に、進化との関係を
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
考えてみたい。
超好熱アーキアの特異的な NAD(P)生合成系と進化
櫻庭春彦*、大島敏久(徳島大・工)
超好熱菌は、90℃以上でも生育できる微生物として海底や内陸火山の熱水噴出孔などの高温環境から多数分離されている。これらは、
100℃でも安定な耐熱性タンパク質を作っており、その耐熱化機構解明の研究対象として、また産業的応用が期待できる酵素の宝庫と
して注目されている。さらに、超好熱菌は進化系統樹の源流に位置しているため、現存する最古の生物と言われ生物進化の観点からも
興味が持たれている。
超好熱菌のほとんどは、アーキア(Archaea、古細菌、始原菌とも呼ばれる)に属している。近年、ゲノムDNA解析が急速に進め
られ、この超好熱アーキアについても、既に 10 種以上のゲノムの全塩基配列が決定されている。我々は、これらの遺伝子情報に基づ
き、様々な代謝系関連酵素の機能および構造解析に取り組んでいる。
最近我々は、嫌気性超好熱アーキア P. horikoshii のゲノム情報から de novo NAD(P)生合成経路の関連酵素すべてのホモログが存
在することを見出した。それぞれの酵素遺伝子を発現させて、産物の解析を進めたところ、このうち数種の酵素は高い安定性に加えて、
他の生物由来の酵素には見られない非常にユニークな特徴を持っていることがわかってきた。これらの酵素の機能・構造解析は、超好
熱アーキアにおける NAD(P)生合成経路の解明に有効であるだけでなく、本経路の進化面の情報も提供してくれることが期待できる。
祖先型蛋白質の耐熱性と進化
山岸明彦(東京薬科大、生命科学)
地球は今から 45.5 億年前に誕生した。今から約 35 億年前の地層には生物の細胞と思われる化石が残っている。当時の化石に関
しては3つの解釈が提案されている。それらは、シアノバクテリア、非酸素発生型光合成細菌、化学合成細菌の3つである。つまり、
当時すでに生命が誕生していたであろうと言う点は確からしいが、その生物がどのような生物であったかと言う点はまだ確定していな
い。
当日の生物に関して分子進化学の立場からのアプローチも行われている。現存生物の遺伝子を元にした解析結果から、生命の進化を
たどることもできる。良く知られている小サブユニットリボソーマル RNA 配列に基づく系統樹から、全生物の共通の祖先は超好熱菌
であったという推定が N. Pace らにより行われた。しかし、この提案に対しては多くの反論も提出されている。
われわれは、幾つかのタンパク質の祖先型配列を推定することから全生物の共通の祖先に関する情報を実験的に得る試みを行っている。
現存する超好熱性古細菌あるいは高度好熱性真正細菌の酵素に全生物の共通の祖先が持っていた祖先型配列を変異として導入すると、
耐熱性が上昇した。この結果は全生物の共通の祖先が超好熱菌であったことを示している。この結果に基づき生命の初期進化過程を議
論する。
古細菌の脂質の構造的、代謝的特徴と進化
古賀 洋介*、森井 宏幸(産業医大・生体物質化学)、大安 裕美(京大・化学研)、藤 博幸(九大・生体防御医学研)
古細菌の脂質と真正細菌の脂質はグリセロリン酸骨格の立体構造によってもっとも根本的に区別される。両者は鏡像異性体の関係にあ
り、ラセミ体型の脂質膜をもつ Pre-cells から両者が segregate することによって古細菌と真正細菌の先祖が分離した、という仮説が
提出されている。古細菌リン脂質生合成経路の前半、すなわち、鏡像異性体関係にあるグリセロリン酸骨格の生成とエーテル結合の形
成は古細菌独自の構造の生成であり、その生合成も古細菌独自の酵素によって遂行される。その後、リン脂質の極性基が結合する後半
の部分に関わる酵素は特異性が低く、真正細菌の脂質にも作用し、酵素的性質の類似性が高く、タンパク質の一次構造の面でも同じフ
ァミリーに属している。それだけでなく、極性基にはセリン、グリセロール、イノシトールがあるが、これらを結合する酵素同士も大
きく見れば同じ酵素スーパーファミリーに属している。これらの酵素の系統樹と古細菌における極性基分布を考え合わせると、これら
遺伝子のより確かな annotation ができた。これらのことは、古細菌と真正細菌が分化する以前のラセミ体型の脂質膜をもつ Pre-cells
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
時代からこれらのリン脂質は共通の酵素で合成され、存在していたのではないか、と推定される。脂質が膜を形成するためには、疎水
性部分とともに、ホスホジエステル結合した極性基を持っていることが必要であることを考えればこのことは当然のことである。
2−F1:(S)
進入と進化
企画者:千葉 聡(東北大・生命科学)
連絡先 [email protected]
在来の生態系への侵入に成功しつつある外来種は、どのように新しい環境に進出していく
のか、どのような性質が侵入、定着を可能にするのか、そして新しい環境に進出しつつある
生物や定着を果たした生物の遺伝的、生理的、生態的性質に、次にどのような変化が起きる
のか。こうした問題を明らかにすることは、近年深刻化してきた外 来種問題と密接にかか
わる保全上の 重要な課題である。また同時にこのようなケースは、性質の多様化や適応放
散のメカニズムなど重要な進化機構を明らかにする上で格 好のモデルとなる。このような
観点をもとに、保全と進化の両面から生物の侵入の過程と その結果について議論を試みる。
ここでは特に侵入にかかわる「システム」の効果に注目したい。システムによる拘束からの
開放、異質なシステムの破壊、そして異質なシステムの出会いが何をもたらすかを、様々な
システム、例えばホスト-パラサイト系、共生系、社会性、そして異なる遺伝子ー繁殖システ
ムの侵入と出会いを例に考えてみたい。(使用言語:日本語)
太平洋を越えて:海産巻貝とその寄生虫の侵入
三浦収(東北大院 生命科学)
ホストとパラサイトの関係は、外来種が侵入するうえで大きな役割を果たしている可能性がある。たとえば、寄生虫からの開放が、外
来ホスト種の定着を容易にしているのかもしれない。一方、外来寄生虫が与える影響やその侵入プロセスはあまりよくわかっていない。
そこで20世紀はじめに日本からアメリカへと移入し爆発的に増加した海産巻貝であるホソウミニナ(Batillaria cumingi)を材料として、
その移入経路を遺伝的解析により推定した。そしてその寄生虫を侵入先のアメリカとソースの日本のホソウミニナ集団で比較し、遺伝
的変異の比較を行った。遺伝子型の比較から、アメリカのホソウミニナは宮城県沿岸から移入したと推定された。寄生虫はごく一部の
種が移入したのみで、ホストの侵入に際しては寄生虫からの開放が起きたと考えられる。アメリカのホソウミニナは、ソースの集団に
比べて有意に遺伝的変異の減少が認められた。ところが、アメリカのホソウミニナの寄生虫種集団はソースやそれ以外の日本各地の寄
生虫種集団と同レベルの遺伝的変異を保有しており、移入経路もホソウミニナとは異なることが示唆された。ホストと寄生虫の移入経
路は必ずしも一致せず、また鳥によって分散することが可能な拡散能力の高い寄生虫の遺伝的多様性は、移入の過程で必ずしも減少し
ないのかもしれない。
島嶼送粉共生系へのセイヨウミツバチの影響
加藤真(京都大院 人間・環境学)
海洋島の送粉共生系は,(1)真社会性のハナバチを欠き,(2)借孔営巣性のハナバチ(特にメンハナバチやツヤハナバチ)が卓越する
という特徴がある.単独性で小型のハナバチの卓越は,島嶼の植物の花の形態や性表現に大きな影響を与えてきた.海洋島で雌雄異株
の植物の比率が高い理由のひとつは,この特異なハナバチ相に起因すると考えられる.
海洋島の温暖な気候に着目して,人々は養蜂用にセイヨウミツバチと多くの蜜源植物を島に導入した.餌資源の場所をコロニーメン
バーに正確に伝え,動員することのできるセイヨウミツバチは,その高い採餌能力によって,在来のハナバチを圧倒してゆく.セイヨ
ウミツバチが導入された島嶼ではことごとく,在来ハナバチが絶滅するか,激減している.海洋島には,真社会性のハナバチばかりで
なく,真社会性のカリバチももともと生息していない.そこでセイヨウミツバチは,養蜂家の懐を出て野生化し,島の花蜜・花粉資源
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
を独占するに至る.セイヨウミツバチの定着は,在来ハナバチの絶滅・減少・習性変化をもたらすばかりでなく,在来ハナバチによっ
て送粉されていた植物の結実率の減少や交配様式の変化,ミツバチ媒の雑草的な外来蜜源植物の助長などをもたらしているようだ.セ
イヨウミツバチの導入によって島嶼送粉共生系がどのように変貌するかを,小笠原,ニューカレドニア,そして海洋島ではないがマダ
ガスカルを例に紹介する.
アリにおける侵略的移入種および融合コロニー性(unicoloniality)の研究に足りない視点は何か?
辻 和希(琉球大・農)、丸山泉(富山大・理)、中丸真由子(東工大院・社会理)、辻 宣行(国立環境研)
外来アリ種の陸上生態系へのインパクトはとりわけ大きく、近年、世界各地で放浪 種・侵略種と呼ばれる一群のアリ類の侵入によ
る生態系の撹乱が多数報告されている。これらのアリに共通する特徴として、多女王性、多巣性、分巣繁殖、撹乱依存的 であること
に加えて、種内敵対性を失い個体群全体が巨大な融合コロニーを形成する ことなどがあげられる。融合コロニー性は、種内競争のコ
ストを省くことで種間競争 力を高め競争排除を促しているのではという生態学的な質問と、その個体群構造が非 血縁者への利他行動
を招いているという進化生物学的な疑問の両方を我々に提示して いる。近年、侵入時の遺伝的ボトルネックにより集団の遺伝的多様
性が低下し、血縁 識別できなくなったことが融合コロニーの成因とする説がアルゼンチンアリの研究で 唱えられている。しかしこれ
を含め既存の学説は、侵略的外来アリ種に共通する特徴 を網羅的に説明していない。とくに撹乱依存性と他の性質を結び付ける観点
が乏しい ことに我々は不満を感じている。群集生態学的レベルでは非平衡群集観、集団生物学 レベルでは非安定個体群・齢構造とい
う観点、これらの欠如はとくに深刻と考えている。侵略的外来アリ種の問題は基礎応用両面で新規なテーマを多数孕む今日的研究課 題
である。そこでは、生活史戦略、群集理論、社会進化、集団遺伝などの分野横断的 な考察が必要である。
外来植物の進化:在来種との交雑による生態的分化
芝池 博幸(農業環境技術研究所)
雑種性タンポポは,約100年前に日本列島に持ち込まれた外来タンポポと在来タンポポが交雑した系統で,現在,種形成の途上にあ
る分類群と考えられる.これらのタンポポはいずれも,公園や住宅地,農耕地のような人為的攪乱環境に生育しているために,材料の
入手は容易である.一方,両親種は倍数性や生殖様式のほか,生活環や生育環境が異なるため,雑種個体の形成や特性に関して解決す
べき問題点が多々あり,進化生物学の研究材料として興味深い.
遺伝的にも生態的にも分化を遂げた外来種と在来種が交雑した場合,育種における遠縁交雑と同様に,両親種のそれぞれが持つ適応
的に重要な形質を併せ持つ個体の創成される可能性がある.これまでに得られた知見を総合すると,雑種性タンポポの場合は,外来種
に由来する無融合種子形成と在来種に由来する種子の発芽温度特性などを併せ持つことにより急速に分布域を拡大し,両親種の利用が
困難であった生育環境への侵入を果たした可能性が示された.
外来植物の在来植物に対する影響として,競争による在来種の抑圧や交雑による在来種の純系の喪失が指摘されるが,雑種性タンポ
ポの事例は,さらに外来種の侵入後の進化,特に交雑を介した侵入性の強化についても知見を収集する必要性を示唆している.外来生
物の侵入による生物多様性や生態系への影響を適切に評価するためには,はやり進化生物学の貢献が必要であろう.
コメンテータ
矢原徹一(九州大・理)
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
2−F2:(W)
交配形質の進化と種分化
企画者:曽田貞滋(京大理)
連絡先 [email protected]
交配に関与する形質,例えば性フェロモンや交尾器形態などは,さまざまなタイプの性選
択・自然選択によって進化するだろう.交配形質の変異性・選択要因を節足動物を中心に調
べ,その進化と種分化の関係を考察する.
オオオサムシ亜属の配偶者認知と強化
久保田耕平(東大院・農学生命科学)*,河田雅圭(東北大院・生命科学)
日本特産のオオオサムシ亜属には 5 種群約 15 種が知られている。種群内および体サイズの似た種群間の種どうしは基本的に異所的
もしくは側所的に分布しており、人為的に交配を行わせると交配前隔離の機能レベルが低い。側所的に分布する種間では分布境界付近
が交雑帯となる場合もあり、交配中や交配後の隔離レベルによって様々な様相を呈している。
大阪−奈良県境の金剛山は中型種群 3 種が混棲する特殊な地域であり、特に山頂から中腹にかけてイワワキオサムシとドウキョウオ
サムシが広く混棲している。イワワキオサムシは紀伊半島南部を中心に広く分布しているが、ドウキョウオサムシは金剛山周辺に分布
が局限され、極端に巨大化した交尾器をもつことでよく知られている。この 2 種間で同種雌と異種雌の混在状態における雄の配偶者選
択実験を行ったところ、ドウキョウオサムシと同所的に存在するイワワキオサムシの雄は同種の雌を有意に選択するのに対し、異所的
に存在する雄は雌の種を区別せずに配偶行動をおこした。またドウキョウオサムシの雄は同種の雌を有意に選択した。この 2 種は遺伝
的には近縁で、妊性のある雑種を形成するが、交尾器形態の差が非常に大きくほとんど交尾は成功しない。これらの事実から同所性を
得た 2 種の交尾器形態の錠と鍵の関係によって交配前隔離が強化されたことが示唆された。
交尾器多様化による種分化:ミドリババヤスデ種複合体
田辺 力(徳島県博)*・曽田貞滋(京大院・理)
ミドリババヤスデ種複合体では四国東部から関西にかけて、しばしば生殖隔離されている 2 種が同所的に分布している。この分布パ
ターンと集団間の分子系統から、本種複合体内部において種分化が急速に何度も生じていることが示唆されている。この種分化には交
尾器多様化が直接機械的隔離をもたらすことが関係していると思われる。同所的な 2 種間の交配実験により、本種複合体とその近縁種
において、少なくとも二つの種認識システムが存在することがわかった。一つは,交尾前の接触時の配偶者認識であり、もう一つは交
尾器挿入時の雌雄交尾器の形態整合性に基づくものである(鍵と鍵穴説の復権)。接触時種認識(性フェロモンが関与する?)は調査
した2種間では不完全であり,異種間で交尾をした際に場合に,交尾器形態の整合性に基づく種認識が機能しているようである。この
結果から、集団間で交尾器形態が急速に多様化すると、交尾器形態の不整合により集団間で生殖隔離が生じ,結果的に種分化が起こる
と推定される。交尾器形態の集団間の進化的動態を系統間比較によって調べてみると、交尾器相対サイズはミドリババヤスデ種複合体
において近縁種よりも大きく変動していた。雌雄交尾器のかみ合い様式や,交尾の際に生じたと推定される交尾器の損傷等から、交尾
器形態の進化には性選択が関与すると考えられる.このように、ミドリババヤスデ種複合体では、性選択による交尾器形態の多様化に
より、交尾器形態の整合性に基づく生殖隔離を介した急速な種分化が生じているものと思われる。
雌雄交尾器の進化による種分化
佐々木顕(九大院・理)
交尾期サイズの進化による種分化を説明するミニマム集団遺伝学モデルを考える.以下の仮定を置く:- 生存力:1遺伝子座2対立遺
伝子の最も単純なスキームを仮定し,ホモ接合体の適応度を1,ヘテロ接合度の適応度を1-sとする.m個の対立遺伝子に拡張する場合
も同様に,ヘテロ接合体の適応度がsだけ低下すると仮定する.
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- 交尾器サイズxのオスと交尾器サイズyのメスがランダムに出会ったとき,交尾が行われ,受精成功する確率は|x-y|の減少関数とす
る.つまり交尾器サイズの違いが大きいほど交尾が起こりにくい.
- 交尾期サイズ自身には弱い安定化淘汰がかかる.
- 交尾期サイズを決める遺伝子座と生存力遺伝子座とは完全連鎖する.
- 集団構造として, n個の分集団が均等な移住率mでつながった島モデルや,2次元の飛び石モデルなどを仮定する.
これらの仮定のもとで,分集団ごとに異なる交尾器サイズをもつ遺伝子型が空間的に局在して,安定に維持されることが可能になる.
そのような局在化が起こるための条件や,交尾器サイズの多峰分布,形成される地理的クラインについて理論的に解明する.
ババヤスデの種分化に関して,性フェロモンと雌雄体サイズのマッチングによる交配前隔離,交尾器形態のマッチング(差が大きいと
死亡)による交尾中隔離,受精後の生存繁殖による交配後隔離の多段階の隔離機構が関与している.これらの複数隔離機構の成立を探
るモデルも検討する.
オオオサムシ亜属における交尾行動と交尾器の進化
高見泰興(京大理・動物生態)
交尾行動や交尾器形態の多様化は,集団間の交配可能性に影響するため,種分化を引き起こす重要なプロセスの一つである.交尾に
関する形質の多様化は,性選択によってもたらされると考えられる.性選択のメカニズムは多様なため,形質進化を引き起こしたメカ
ニズムの特定が重要である.
オオオサムシ亜属は日本固有の 15 種と多くの亜種からなる甲虫の一群である.雄交尾器にはキチン化した「交尾片」を持ち,その
形態は種特異的に多様化している.交尾時間,雄による交尾後ガード時間は,種間で著しく多様である.交尾時間の変異は雌の多回交
尾,すなわち精子競争の程度に影響すると考えられる.また,交尾後に他の雄が再交尾すると,最初の雄の精包がはがされ,後から交
尾した雄の精包と置換される.この精包置換には,交尾片が関与している可能性が高い.よって,交尾栓としての精包と,それを操作
する交尾片との間に,拮抗的な選択圧が生じる可能性がある.
本研究では,オオオサムシ亜属に見られる交尾器形態の多様性が,交尾行動の変異とどのように関わり合って進化してきたのかを,
系統樹を用いた種間比較解析により明らかにした.結果,交尾片サイズは,交尾時間と負に,精包サイズと正に相関して進化したこと
が明らかとなった.これは,交尾時間の短縮による精子競争リスクの上昇と,精包サイズの増大による交尾片への選択圧の増加が,交
尾片の多様化に寄与したことを示唆する.
オオオサムシ亜属の体表炭化水素の多様性と種認知における役割
左古寛知*,曽田貞滋(京都大院・理)
オオオサムシ亜属(Ohomoperus, Carabus 属)は肉食性歩行虫であり、日本に 15 種が分布し地域的に 4 種程度が共存する。オオオサム
シ亜属のいくつかの種は交雑帯を形成し、そうでない種においても過去の遺伝子浸透を伴う交雑が示されている。私たちは、オオオサ
ムシ亜属の種分化およびその後の二次的接触にともなう性フェロモンの多様化について研究を進めている。まず、性フェロモンの同定
のためにマヤサンオサムシのメス抽出物を用いてバイオアッセイを行い、体表炭化水素と微量の揮発性物質によってオスがメスを認識
していることを明らかにした。そして異種間交尾の頻度を交尾実験によって評価し、性フェロモンの成分である炭化水素を種間で比較
した。その結果、他種と共存する種は特異的な炭化水素成分を持っていた。炭化水素は性フェロモンであると同時に、一般的に体表か
らの水分蒸発を抑えて昆虫を乾燥から守る役割を果たす。繁殖期には種特異的な成分が多かったが、夏に出現する新成虫は比較的単純
な組成を示し、種特異的な成分はほとんどみられなかった。炭化水素が環境適応と配偶者認識という 2 つの機能を持つとき、これらに
起因する生理学的・生態学的なトレードオフによって種特異的な炭化水素組成が形成されるだろう。特にオサムシでは近縁種間の二次
的接触などの相互作用が、炭化水素の進化をもたらした大きな要因ではないかと考えられる。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
2−F4:(K)
左右性の分子機構と適応進化
企画者:浅見崇比呂*(信州大)
:堀 道雄(京都大)
連絡先 [email protected]
動物の内臓は普遍的に左右非対称であり、その極性は初期発生の左右軸が決めている。対
照的に、外形は、基本的に左右対称に保たれている。ところが、その外形にも、多様な機能
をもつ左右性が進化した。巻貝の螺旋や鱗食魚の口に著しい左右性はその例である。左右性
は、生物をつくるアミノ酸やタンパク質の分子構造はもとより、細菌やらん藻の螺旋体、つ
る植物や花の形にも、古くから知られる普遍的な現象である。 このシンポジウムでは、シ ロ
イヌナズナ(Alabidopsis)で解明された捩れの分子機構、初期発生の左 右性ゆえに初めて
目視できた発生拘束の存在、機能が明確な左右性 ならではの適応進化、個体群に左右二型
が共存するラセミズム(racemism)の生態遺伝機構の 4 題にスポットライトをあて、分子・
個体・集団・群集レベルでの相互の関係を考える。 (使用言語:日本語)
植物左右性の分子機構
橋本 隆(奈良先端大・バイオ)
植物にはあさがおのつるに代表されるように巻きながら伸びる組織に左右性が認められる。興味深いのはあさがおは右巻き、フジは
左巻きというように植物によって巻きの方向が決まっていることである。植物種によるらせんの左右性はどのように決められるのか?
アラビドプシス植物体は通常ねじれていないが、巻き性の変異株を選抜することが出来る。右巻き変異株では根、胚軸、葉柄、花弁な
どの伸長器官の表皮細胞が右巻きにねじれて伸長しており、左巻き変異株では表皮細胞が左巻きにねじれて伸長していた。植物細胞が
縦方向に伸長する場合、細胞の縦軸に対して直角方向に配向する表層微小管に沿ってセルロース微繊維が配向し、伸長方向を規定する
ことが知られている。右巻き変異株では表皮細胞の表層微小管の配向が左巻きになっており、左巻き変異株では逆に右巻きになってい
た。すなわち、ねじれ変異株の表皮細胞では表層微小管の配向に左右性が現れており、ねじれの方向性の決定要因となっている。ねじ
れ変異株は全て微小管そのもの、またはその機能制御に関する遺伝子の変異であった。ねじれ変異株における微小管動態の観察と原因
遺伝子の機能解析を通じて、植物細胞の伸長方向の制御機構が明らかになってゆくと期待される。
巻貝の鏡像進化に対する発生拘束のメカニズム
宇津野宏樹(信州大)
動物の左右極性は一般に固定している。ところが巻貝では、体の左右が逆転した種が複数の系統で独立に進化した。右巻と左巻の貝は
交尾器の位置も求愛行動も左右逆なので、交尾が物理的に難しい。そのため、少数派の巻型は繁殖上不利になり、集団内の巻型は左右
どちらかに固定すると考えられる。しかし、この頻度依存淘汰では放精放卵する巻貝がなぜ右巻に固定しているのかに答えられない。
モノアラガイを用いた本研究では、たとえ右巻と左巻の遺伝的背景が同じでも、左巻は右巻より孵化率が低いことを発見した。すなわ
ち、発生拘束が鏡像体の進化を抑制していることが明らかである。しかし、胚を左巻に発生させる母性因子が多面発現して左巻に発生
異常をもたらすのか、それとも、左右逆の発生それ自体がよくないのかを検証できない。そこで、オナジマイマイの変異系統を用いて
発生拘束のメカニズムを確定した。雌雄同体なので、右巻だけを産む野生型 DD と、左巻と右巻を同時に産む変異型 dd を交配すると、
DD は右巻 Dd を産み、dd は右巻 Dd と左巻 Dd を産む。すると後 2 者の間では、母性因子を共有するにも関わらず、左巻 Dd は、右
巻 Dd より、孵化率が低いことが判明した。この結果は、たとえ同一の母親から産まれ、かつ父親が同じでも、左巻は右巻より生存率
が低いことを示している。左巻を産む母親 dd は、左右逆の発生に起因する発生拘束を子供が被るがゆえに、安定化淘汰されているこ
とが明らかである。
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右巻きのヘビ:カタツムリ専食性ヘビによる右巻きカタツムリ捕食への適応
細 将貴(京大院・生物科学)
巻き貝の捕食者は,巻き貝の殻による防御を打ち破るために様々な捕食器官,捕食行動を進化させてきた。それらの中には,左巻きに
比べて圧倒的に優占する右巻きの巻き貝の捕食に適応して,左右非対称性を進化させた動物が知られている。本発表では,そのような
貝食者の新たな例として,カタツムリの専食者であるセダカヘビ類(ナミヘビ科,セダカヘビ亜科)を紹介する。セダカヘビ類は3属
15種からなり,東南アジアに広く分布している。国内では唯一イワサキセダカヘビ(Pareas iwasakii)のみが石垣島と西表島から知ら
れている。私は,イワサキセダカヘビの極めて巧みな捕食行動において,左右軸の一致が重要な要素になっている可能性に着目し,セ
ダカヘビ類が右巻きのカタツムリ捕食に適応している可能性を検証した。まず,標本の形態解析の結果,セダカヘビ類の頭部形態に,
方向性を持った著しい左右非対称性(Directional Asymmetry)が発見された。この非対称性はセダカヘビ類のほぼ全種に共通して見ら
れ,種ごとにほぼ一定していることがわかった。続いて,2パターンの行動実験の結果,セダカヘビ類が右巻きのカタツムリ捕食に適
応した捕食者であることが確かめられた。これは,脊椎動物では初めての例となる。本発表では,これらの結果を踏まえ,捕食者―被
食者間相互作用における左右非対称性の適応的意義についての議論をおこなう。
利き手の左右比を決めるメカニズム∼サワガニの場合∼
繁宮悠介(長崎総合科学大)
種内に「右利き」と「左利き」が現れる antisymmtetry 種において、右利き個体と左利き個体の間で適応度成分上の違いはあるだろ
うか、また、両者の比率を決める要因は何だろうか。この研究では、サワガニのハサミに見られる左右性の生態学的意義を調べ、左右
比が種内・種間相互作用によって決まる可能性を検証する。カニ類のハサミは、採餌をはじめ、同種他個体との闘争、メスへの求愛、
捕食者に対する防御など、様々な用途に使われる重要な器官である。ハサミの形態的・機能的な左右性は、様々な種で独立に進化し、
いずれの種においても個体の適応度に大きな影響を及ぼすと考えられる。サワガニの左右性の現れ方は、シオマネキ類と同じように、
オスのみで片側のハサミが巨大化するという様式である。このことはサワガニの左右性が性選択によって進化したことを示唆するが、
巨大化したハサミがどのような用途で使われているのかは明らかにされていない。初めの研究では、サワガニの左右のハサミが、採餌、
闘争、防御の際にどのように使われるかを実験室内で観察した。その結果、オスの大きなハサミは、採餌や防御においては有効に使わ
れる傾向は認められないが、闘争において特徴的な使われ方をすることが分かった。次に個体群間で、左右比と性比および付属肢欠失
率の比較を行い、それらの間の相関関係を明らかにした。これらの結果から、サワガニの左右性進化を総合的に理解することを目指す。
2−G2
英語口頭発表
HIV-1 Intersubtype Recombination in South America
Martins, Leonardo de Oliveira (Univ. of Tokyo), Leal, Elcio de Souza (Federal University of Sao Paulo), Kishino,
Hirohisa (Univ. of Tokyo) In South America the most prevalent forms of HIV-1 are B and F subtypes, but have been rapidly superseded by BF recombinant
forms with the two most expressive countries being Brazil and Argentina. To address the evolutionary history of HIV-1
recombination in South America we analysed pol gene sequences whose recombination pattern is not fully resolved and env
sequence segments supposedly free of recombination breakpoints.
The pol query sequences were scanned for recombination against reference parental sequences using a Bayesian method.
Sequences displaying a similar recombination pattern can be product of a single ancient recombination event or result of several
recombination events on so-called hot-spots. To distinguish between the two hypotheses we can reconstruct the phylogeny for
each nonrecombinant segment. We detected both cases, which shows that different recombination histories can lead to the same
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
mosaic structure.
The analysis of env genes detected recombination between internal nodes, and it became clear the importance of choosing
reliable parental sequences. We also detected hypervariable regions that may interfere in the phylogenetic analysis even
assuming that the region is free from recombination.
Evolutionary analysis of transcription coactivator MBF1 and TBP
Qing-Xin Liu (CIB.DDBJ, Nat. Inst. Genet.),Naomi Nakashima(Dep. Dev., Nat. Inst. Genet.),Kazuho Ikeo(CIB.DDBJ,
Nat. Inst. Genet.),Susumu Hirose(Dep. Dev., Nat. Inst. Genet.), Takashi Gojobori(CIB.DDBJ, Nat. Inst. Genet.)
Transcriptional coactivators play a crucial role in gene expression by bridging between regulatory factors and the basal
transcription machinery. How a coactivator evolves was poorly understood. Here we provide evidence for coevolution of the
coactivator MBF1 and its interacting target TATA element-binding protein TBP. Both MBF1 and TBP are evolutionarily conserved
from Archaeato human to achieve transcriptional control. The interaction between MBF1 and TBP is also conserved from
Archaeato human. Upon amino acid substitutions of MBF1, compensatory changes in TBP occur at the interaction surface. In
Archaea, MBF1 binds to TBP through Lysine or Asparagine to Glutamic acid interaction; In eukaryotes, MBF1 binds to TBP
through Asparatic acid or Glutamic acid to Glutamine interaction. The phylogenetic tree of MBF1 is very similar to that of TBP,
supporting the coevolution of MBF1 with TBP.
Estimating absolute rates of synonymous and nonsynonymous nucleotide substitution in order to
characterize natural selection and date species divergences.
Tae-Kun Seo(Professional Programme for Agricultural Bioinformatics, Univ. of Tokyo), Hirohisa Kishino(Agriculture and
Life Sciences, Univ. of Tokyo), Jeffrey L. Thorne(Bioinformatics Research Center, North Carolina State Unveristy, USA)
The rate of molecular evolution can vary among lineages. Sources of this variation have differential effects on synonymous and
nonsynonymous substitution rates. Changes in effective population size or patterns of natural selection will mainly alter
nonsynonymous substitution rates. Changes in generation length or mutation rates are likely to have an impact on both
synonymous and nonsynonymous substitution rates. By comparing changes in synonymous and nonsynonymous rates, the
relative contributions of the driving forces of evolution can be better characterized. Here, we introduce a procedure for
estimating the chronological rates of synonymous and nonsynonymous substitutions on the branches of an evolutionary tree.
Because the widely used ratio of nonsynonymous and synonymous rates is not designed to detect simultaneous increases or
simultaneous decreases in synonymous and nonsynonymous rates, the estimation of these rates rather than their ratio can
improve characterization of the evolutionary process. With our Bayesian approach, we analyzed 12 mammalian mitochondrial
protein coding genes.
Evolution of Complexity and Diversity in Simulated Song Communication
Kazutoshi Sasahara (Lab. for Biolinguistics, BSI, RIKEN) , Takashi Ikegami(General Systems Studies, Arts and Sciences,
Univ. of Tokyo)
Recently the song communication of a particular songbird called Bengalese finch, have been studied. The male Bengalese finches
sing complex courtship songs that can be represented as finite-state automata. When mating the female Bengalese finches tend
to prefer males that have more complex songs. These observations suggest that the complex song grammars may have evolved as
a result of the females' sexual selections. In order to explore the evolution of song grammars, we simulate song communication of
artificial birds; male and female birds have song communication and then leave their offspring based on their communication
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
performance. The communication is modeled as interaction between asymmetric finite-state automata, one is for song production
of males and the other is for song evaluation of females. We show self-organizing properties of song communication in our model.
In addition, 2D lattice space is introduced for studying how spatial structure affects the evolution of song communication system.
We discuss a correlation between global spatiotemporal patterns and local communications in artificial birds. In particular, we
report on a habit segregation phenomenon in this simple ecosystem.
2−G4
自由集会 実証進化学としての新今西進化論
企画者:水幡正蔵(在野の研究者)
連絡先 [email protected]
自然選択説は反証可能性がなく科学理論として危ういという批判がある。これに答えて「実
証進化学」を構想するには、「生存競争」モデルは無性生物に限定し、「種脳」を持つ動物
には「交配競演」モデルを新たに設定する必要がある。本企画は、その「交配競演」モデル
による進化実験を提案し、「実証進化学としての新今西進化論」を考える。
種脳機能モデルと二足跳躍ハツカネズミ進化実験の可能性
水幡正蔵(在野の研究者)
「適応度」は結果論であり、進化の結果が出て初めてその後付け説明ができる。それゆえ「適応度」では進化実験など構想不能であ
る。これに対してMPR(交配優先権ルール)は様々な動物「種社会」に観察できる科学法則だ。よってある種集団に実験的な環境圧
力を加えれば、それに対応したMPRが創発されると予測できる。もちろん、MPRが創発されれば「配偶者の好み」の変化として観
察できる。今回の「二足跳躍ハツカネズミ実験」でいうなら、いずれ雄たちが雌の前で跳躍力を競う「交配競演」を起こすと考えられ
る。もっともこのような進化実験の当面の焦点は、「対環境変異」を確認してそれが「累代後遺伝」することを検証することであろう。
「対環境変異」がもたらす形質とは既成用語なら「獲得形質」である。しかし<新今西説>ではワイズマン的歪曲を許さないためにも、
それを「獲得必要形質」と正確に表す。たとえば狩猟犬や牧羊犬には原種(狼)からの顕著な進化がある。彼らは付与された環境下で
「必要形質」(俊速や利口)を獲得(獲得必要形質)し、それを「ヒト種脳」による交配選択で「累代後遺伝」させてきたといえる。
つまり「獲得形質の遺伝」は否定できても、「獲得必要形質の累代後遺伝」は逆に事実として確認できる。これは「対環境変異と種社
会(種脳)選択」という実証的進化機構論を導き出す。ここに「突然変異と自然選択」なる空想的進化機構論の棄却を迫る。
2−G5
自由集会 ヤフー掲示板「新今西」討論
企画者:水幡正蔵(在野の研究者)
連絡先 [email protected]
昨年 10 月末より進化論関連の「ヤフー掲示板(匿名掲示板)」で「新今西進化論」をめぐ
る討論が連日、連夜のように白熱し、今も続いている。進化学会の会員諸氏の中にも投稿者
や読者が多数いるはずで、この機会に集会を持ちたい。「実は私が××(掲示板ニックネー
ム)です」という“感動の出会いの場”づくりをめざします。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ポスター発表要旨 8月27日
【P1−1】カンザワハダニの休眠性に関する進化的考察
伊藤 桂
北大・農・動物生態
一般に休眠性の進化を理解するためには、休眠性にどのような選択圧がかかっているかを多角的に調べることが必要である。こ
の選択圧の要素の一つに、休眠性が生活史形質(産卵数・発育日数)に及ぼす生理的な影響がある。この影響については、その重要
性が以前から指摘されてきたにも関わらず、あまり研究が進んでいない。そこで本研究ではカンザワハダニ(Tetranychus kanzawai
Kishida)を材料に、休眠性が産卵数に及ぼす影響について調べた。
(1)休眠誘導が産卵数に及ぼす影響
・休眠個体の産卵数は、休眠しない世代のものよりも著しく低かった。
・このような産卵数の減少は越冬世代限りのものであることが選抜実験により示唆された。
(2)休眠深度が産卵数に及ぼす影響
・交配実験の結果、実験に用いた個体群は休眠深度に大きな遺伝的変異が含まれていることがわかった。また休眠が深い家系は、同
時に休眠後の産卵数が低いという傾向があった。これらの結果から、野外で休眠深度が深い方向に選択圧がかかると、それに伴って
越冬世代の産卵数が減少する可能性を示唆している。
休眠性自体が生活史形質に及ぼす影響はこれまでの休眠研究において十分に検討されてこなかったものであるが、この研究で見た
ように、その生物の個体群動態への影響を知る上で重要である。
【P1−2】なぜ陸生甲殻類のフナムシは潮間帯から離れられないのか
堀口弘子*,弘中満太郎,針山孝彦
浜松医科大・総合人間科学
フナムシ(Ligia exotica)は潮間帯に生息する甲殻類等脚目の生物である。等脚目の生物には深海に生息するものから高山に生息する
ものまで様々な生息環境が知られているが、その中でもフナムシは海岸の潮間帯という限られた範囲のみに生息している。この水際
から離れて生きていくことのできないフナムシの水分摂取方法を観察したところ、7対ある脚のうち第6・7肢を揃えて吸水行動し
ていることがわかった。これらの脚を形態学的に解析すると、この2対の脚には吸水のための窪みと毛の列が観察された。またフナ
ムシがこれらの窪みと毛の列を用い、毛細管現象によって吸水していることを明らかにした。フナムシよりも内陸部に生息する等脚
目3種、ダンゴムシ(Armadillidium vulgare)、ワラジムシ(Porcellio scaber)、ヒメフナムシ(Ligidium japonicum)についても同様
に水分摂取方法を観察したところ、ダンゴムシとワラジムシではフナムシとは異なり、口からの吸水行動が観察されたが、ヒメフナ
ムシではフナムシと同様に脚を用いた吸水が見られた。また体内の塩分濃度をそれぞれの等脚目で調べたところ、フナムシのみが海
水と同程度の塩濃度(4.1%)であるのに、他の3種は約 1.5%と顕著に異なっていた。フナムシは海産のオオグソクムシの体液濃度
(4.0%)とほぼ同じであるといえる。
【P1−3】分散距離の性差の進化
廣田忠雄
国際基督教大・理/東京農工大・動物行動
一昨年の大会では、メスが分散前に必ず交尾する生物では、変動環境においてメス特異的な分散が進化することを、理論的に示した
(Hirota 2004. J. Anim. Ecol. 73(6):1115-20)。更に昨年の大会では、メスが多回交尾する場合にも、同様の現象が生じることを示
した(Hirota 2005. J. Evol. Biol. 18: in press)。これらのモデルは、格子状に配置した生息地間をどのように分散するのかシミュレ
ートしているが、本年は分散距離の進化を解析するためにモデルを改定した。連続した生息地に資源を配置し、資源を探索範囲が雌
雄でどのように分化するのか解析した。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
【P1−4】貝住型シクリッドの進化
高橋鉄美*,渡辺勝敏,堀道雄
京都大院 理
アフリカ大地溝帯のヴィクトリア湖・タンガニイカ湖・マラウィ湖にはそれぞれ数百種ものシクリッドが生息し、ほとんどが固有種
であることから各湖内で爆発的に種分化したと考えられている。ヴィクトリア湖のシクリッドは雌雄で色彩の異なるものが多く、性
選択による同所的種分化についてよく研究されている。一方タンガニイカ湖のシクリッドでは雌雄で色彩・形態に違いの見られない
種が多く、性選択以外の同所的種分化機構が関与していることが予想される。
タンガニイカ湖産シクリッドの一種 Telmatochromis temporalis は湖岸のほとんどの岩場で優占種である(岩住型)
。一方湖の所々
に見られるシェルベッドには、この種と外見が類似するが小型で貝殻をシェルターとして利用する貝住型が知られている。発表では
これらを遺伝的、形態的に調べ、同所的な ecological speciation が起きた可能性について考察する。
【P1−5】ウミホタルの造反有理
若山典央
東北大院 生命科学
ウミホタル Vargula hilgendorfii を含むミオドコーパ類は光シグナルによる情報伝達を行っている事が知られている。代表例として
はルシフェリン-ルシフェラーゼ反応による発光を用いた求愛ディスプレイが挙げられるだろう。これは一般にも良く知られており
「ウミホタル」の名の由来ともなっている。しかし、実際にはミオドコーパ類において化学発光を行う種はごくまれである。大半の
ミオドコーパは外部からの光をソースとし反射や回折といった物理現象を利用して光シグナルを発している。本研究では反射、回折
といった「パッシブな」光シグナル関連形質についても広義の発光形質ととらえ、分子系統樹上に形質を再節約配置することで発光
形質の進化経路を求めた。結果と生息状況、生態を勘案すると、ウミホタルが化学発光とひきかえに得たもの失ったものが見えてく
る。
【P1−6】Phenology or phylogeny?: Test of macroevolutionary pattern in host-plant shift
津田みどり(1)*, 立石庸一(2), Buranapanichpan, S.(3), Kergoat, G.J.(1), Niyomdham, C.(4),
Chou, L.-Y. (5), Szentesi, A., Jermy, T. (6)
(1)九大院・農 (2)琉大・教育 (3)チェンマイ大 (4)タイ森林植物園 (5)台湾農研 (6)ハンガリー科ア・植保研
植食性昆虫の新たな適応放散の誘因となりうる寄主植物転換の主因が議論の焦点となっており、寄主植物の化学的類似性、地理的至
近性、生息地タイプ同一性などが提案されてきた。本研究では、寄主植物転換の一因として植物の季節消長(種子形成期)の一致に
注目し、他の要因との比較検定を行う。
種子捕食者であるマメゾウムシ亜科の寄主はマメ科3亜科にわたり、各種の寄主範囲は特定の植物分類群に限定される(Tuda et al.
2003 など)
。亜科全体は寄主とともに、極地方を除くほぼ全世界に分布し、また寄主の種子形成期(=マメゾウムシ繁殖期)は、春
季、秋季(または乾季)
、夏∼秋季と、種によって異なる。このマメゾウムシ亜科 60 種をモデルにし、寄主植物の形質状態(系統、
種子形成期、地理、L-カナバニン)と昆虫系統樹との相関を調べた。系統樹は、昆虫側は Cytb, COI, 12S rRNA、植物側は既存の
matK の配列に基づいてベイズ推定法により再構築した。相関は Farris のねじれ係数および、形質間相関を除去した Becerra の偏ね
じれ係数によって求め、各係数の有意性は昆虫系統樹をランダマイズして検定した。結果、どの形質も昆虫系統樹と相関するが、形
質間相関を除去すると種子形成期だけが有意な相関を示した。これは、季節消長の異なる寄主への転換が新たな環境適応を伴うため、
祖先集団からの遺伝的隔離とその維持が容易なためと考えられる。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P1−7】繰り返し起こったチャルメルソウ類における送粉様式の変化とその進化的背景
奥山雄大(1)*,Olle Pellmyr(2),加藤真(1)
(1)京都大院・人間・環境学(2)Univ. of Idaho, Biological Sciences
ある系統群内で見られる花形質の多様性は、近縁種同士が異なる送粉様式を獲得した進化的背景を明らかにするのに有用である。
本研究では単系統群であるユキノシタ科チャルメルソウ類(Heucherina clade)の北米産及び東アジア産 28 種の送粉様式を網羅的に
調べ、核リボゾーム遺伝子の塩基配列から推定された分子系統樹をもとに本系統における送粉様式の移行パターンや地質年代を明ら
かにすることを試みた。
キノコバエ類による送粉様式は系統内で最も広範に観察され、最も祖先的な形質と推定された。また系統樹上で観察された 27 回の
種分化イベントのうち 9 回は何らかの送粉様式の変化を伴っていた。特にそのうち 6 回は植物がより乾燥した生息環境へ進出する
のに伴って、キノコバエ媒を喪失するという変化であり、これらは全て第三紀漸新世から始まった地球規模の寒冷化に対応した進化
である可能性が示唆された。
一方興味深いことに、シギキノコバエ属(Gnoriste)が介在する極度に特殊化したチャルメルソウ類特有の送粉様式は北米と東アジア
で計 3 回独立に進化していることが明らかになった。これは、この特殊な送粉様式へのスイッチングに共通の選択圧が働いたことを
示している。東アジアでは類似した送粉様式を持つ種がほぼ全て異所的に分布する点や、種間で部分的に雑種不稔性が存在する点等
を考慮して、このような送粉様式は同所的な近縁種との交雑を避ける適応として進化した可能性を提示する。
【P1−8】送粉者の学習が花の性的二型の進化に与える影響:モデルによる予備的検討
川越哲博(1)*, 鈴木信彦(2)
(1)神戸大 理
(2)佐賀大・農
花の性的二型は多くの植物で見られる。その進化要因を説明する仮説もいくつか考えられてきた。我々は新たに報酬の性差(送粉者
への報酬が雄花と雌花で異なること)、および報酬の性差に基づく送粉者の学習行動の影響に着目した。例えば蜜腺を持たない植物
では、雄花には花粉という報酬があるが雌花には報酬がない。このような植物では、花粉のある雄花に報酬のない雌花が擬態するこ
とで、雄花に報酬があることを学習した送粉昆虫を「だまして」訪花させることが知られている。この場合、報酬の性差が花の性的
二型の進化を抑えていると考えられる。報酬の性差と送粉者の学習による影響を検討するため、送粉者の学習行動をシミュレートし
た数理モデルを構築し、解析を行った。学習記憶を持たない送粉者は大きな花に訪花させ、報酬のある花を学習した送粉者は次も同
じサイズの花を選択させるようにした。報酬に性差がある雌雄異株集団では、送粉者の学習が花サイズの性的二型の進化を抑える効
果がみられた。雌雄同株集団では、送粉者の長期および短期記憶能力、花の性比などが性的二型の進化に影響した。また、報酬に性
差がある場合とない場合では異なる結果が得られた。このモデルでは花サイズの性差に基づいて送粉者に報酬のある花の選択をさせ
ているので、得られた結果は花の性的二型の程度そのものが自然淘汰の対象になる可能性を示している。
【P1−9】閉鎖花における表現型可塑性の遺伝的背景を探る
森長真一(1)(2)*, 宮崎さおり(2), 酒井聡樹(1), 長谷部光泰(2)(3)
(1)東北大院・生命科学 (2)基生研・生物進化 (3)総研大・生命科学
閉鎖花植物は、完全に開花せず受精する花(閉鎖花)と通常の花(開放花)を環境に応じて咲き分けるという表現型可塑性を示し、様々
な系統で適応進化してきた。では、このような表現型可塑性は、どのような遺伝子の進化により進化してきたのか? コカイタネツ
ケバナは、全ゲノム配列が明らかになっているシロイヌナズナに近縁で、アブラナ科で唯一閉鎖花をつける。本種を材料に、まず、
(1)閉鎖花形成は環境に対してどのように反応するのかを、環境制御下で解析した。さらに、(2)閉鎖花と開放花では遺伝子発現パタ
ーンにどのような違いがあるのかを、シロイヌナズナのマイクロアレイシステムを用いて解析した。 その結果、低温期間が長いほ
ど、栄養成長期間が短縮し、個体サイズが大きくならずに閉鎖花を咲かせることがわかった。さらに、閉鎖花と開放花原基を含む花
序組織を用いたマイクロアレイにより、閉鎖花と開放花で 1.5 倍以上発現量が変化する遺伝子を複数同定した。これらの結果より、
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
コカイタネツケバナにおける閉鎖花形成は、低温期間の長さに伴う個体サイズの変化に対応した適応的な資源分配戦略であり、上記
候補遺伝子の発現量変化の結果、花弁と雄しべの発生が抑制されて起こるとえられた。今後は、上記閉鎖花形成候補遺伝子の機能解
析と進化を解明し、野生生物における適応進化の遺伝的背景の理解を目指す。
【P1−10】タカラガイの貝殻形態を決める表現型可塑性
入江貴博*, 巖佐庸
九大・理
タカラガイ科(Faimily Cypraeidae)の中でも潮間帯に多く見られるハナビラダカラ Cypraea annulus は、個体群内や同緯度の個体
群間で殻形に著しい種内変異を呈する。沖縄本島での野外調査の結果、冬季には個体群密度が高い場所ほど、体成長を終えた個体の
体サイズが小さいという傾向が明らかになった。この体サイズの種内変異が(1)表現型可塑性に因るものなのか、もしそうならば(2)
その近接要因は何かという疑問を明らかにするために、稚貝を開放形の水槽で飼育する実験を行った。Irie and Iwasa (2003)による
数理モデルは高い捕食圧が早期の成熟とその結果として生じる小さな体サイズを導出することを予測したが、潜在的な捕食者と被食
個体の臭いによる処理によって体サイズに有意な差異は生じなかった。いっぽう、個体密度を上げて飼育すると、餌を十分に与えた
にも関わらず、最終的な体サイズが小さくなることが明らかになった。この実験結果は上述の野外調査の結果とよく一致する。小さ
な体サイズは餌の不足によるものではなく、同種個体間の化学物質による交信によって誘導される可能性が高い。この発表では、高
い個体密度が小さな体サイズを誘導するという反応規範がどのように適応的であるのかを説明する仮説を数理モデルを用いて紹介す
る。
【P1−11】イチモンジセセリにおける温度に対する卵サイズ可塑性の適応的意義
世古智一(1)*, 中筋房夫(2)
(1)近中四農研 (2)岡山大・農
昆虫の季節適応において日長や温度が将来の環境条件を予測するためのシグナルとして果たす役割は大きい。幼虫期または成虫期に
経験する温度の違いによって異なるサイズの卵を産む性質は多くの生物で確認されている。イチモンジセセリの卵サイズ変異は幼虫
期における日長の違いにより生じるが、温度の違いに対しても大きく変異する。しかしこのような温度に対する卵サイズ可塑性の適
応的意義は、イチモンジセセリをはじめ他の種においてもほとんど解明されていない。本研究において、野外の3つの世代に相当す
る日長と温度条件下でイチモンジセセリ幼虫を発育させると、3世代中最も葉の柔らかい寄主に産卵する‘越冬世代成虫’は小卵多
産であったのに対し、最も葉の硬い寄主に産卵する‘第2世代成虫’は大卵少産の繁殖配分パターンを示した。次に各世代の成虫か
ら産まれた孵化幼虫を2つに分けて生育段階の違いで葉の硬さが異なる2種類のイネをそれぞれ与えると、‘第1世代成虫’と‘第
2世代成虫’の子の1齢幼虫生存率は寄主間で差がなかったのに対し、‘越冬世代成虫’の子においては硬い葉を与えた方で生存率
が有意に低くなった。またこの卵サイズ可塑性は、特定の温度区間で表現型が大きく変化する閾値的反応であることが示唆された。
イチモンジセセリにおいて温度は日長とともに各世代における寄主の葉の硬さに適応したサイズの卵を産むためのシグナルであると
考えられる。
【P1−12】クルミホソガ Acrocercops transecta(鱗翅目)におけるホストレース形成と寄主適応力の遺伝的背景
大島一正
北大院 農
寄主転換に伴う種分化の可能性は古くから議論されており, 植食性昆虫ではホストレース分化に伴う種分化が注目されている. ホス
トレース分化に伴う種分化を議論する上で, 各寄主植物への適応を遺伝的背景から理解することは極めて重要である. しかしながら,
先行研究で用いられてきた植食性昆虫の多くが年 1 化性であったため, 寄主適応力の遺伝的背景は未解明な部分が多い. そこで, 演
者は年多化性の潜葉性小蛾であるクルミホソガ Acrocercops transecta をモデル生物として, 寄主適応力の遺伝的背景を調べる実験
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
系を確立した (Ohshima, 2005). 本種はクルミ科の数種とツツジ科のネジキを寄主とし, クルミ上集団とネジキ上集団はそれぞれホ
ストレースに分化していることが示唆されている (Ohshima, 未発表). そこで本研究では, 両集団を交雑させ F1 雑種の寄主利用
能力と産卵選好性を調べた. その結果, 交配の方向に関わらず, F1 世代の幼虫はクルミ上でしか成育できなかった一方, F1 世代の
雌成虫はネジキのみに産卵した. これらの結果は, 本種の寄主適応力が常染色体上の少数の遺伝子座に支配されており, 利用能力と
産卵選好性に完全優性が存在することを示唆している. さらに本結果は, 寄主適応力の遺伝基盤自体が両レース間の隔離機構となり
うることを示している.
【P1−13】エゴツルクビオトシブミの吊り下げ型・切り落とし型揺籃におけるそれぞれの生存率と葉の
質の関係
小林知里*, 加藤真
京大院・人環
エゴツルクビオトシブミは吊り下げ型と切り落とし型の 2 種類の揺籃(幼虫の食料兼シェルターである葉巻)を作製するが、その適応
的意義については明らかにされていない。演者はこれまでに、2 種類の揺籃について様々な特徴を明らかにしてきた。その中のひと
つの特徴として、吊り下げ型と切り落とし型それぞれの揺籃に用いられる葉の成熟度の違いが挙げられる。すなわち、吊り下げ型揺
籃は切り落とし型揺籃よりも、より若い葉で作製される傾向にあるのだ。
今回は、葉の成熟度が 2 種類の揺籃で異なることと、揺籃の置かれる環境が「木の上」と「木の下」とで異なることに注目し、葉
の成熟度の違いが、木の上と下という各環境での生存率に影響を与えるかどうかを調べた。まず吊り下げ型を切り落とす実験を行っ
たところ、切り落とされた吊り下げ型は本来の切り落とし型よりも揺籃ごと消失する率が有意に高かった。これは揺籃が丸ごと食害
された可能性が考えられ、若い葉で作られた揺籃は地表での食害を受けやすいことが示唆された。逆に切り落とし型を吊り下げる実
験では、本来の吊り下げ型と有意に異なる死因は検出されなかった。さらに、各揺籃の葉の固さや成分の比較から、葉の質のどのよ
うな違いが地表での生存率の違いに影響を与えているかを議論する。
【P1−14】マルカメムシ類と腸内細菌における共種分化と絶対的共生関係の進化
細川貴弘(1)*,菊池義智(2), 深津武馬(1)
(1)産総研・生物機能工学
(2)コネチカット大
植物の師管液のみをエサにして生活する昆虫は一般的に共生細菌を保持していることが知られている。たとえばアブラムシでは
体内に細菌の共生に特化した細胞(菌細胞)が見られ、その細胞内に共生細菌が存在する。これらの共生細菌はメスの体内で菌細胞
から卵に垂直伝播(経卵伝播)されるので、宿主昆虫と共生細菌の間には毎世代安定して共生関係が保たれる。その結果として宿主
−共生細菌間で共適応が進み、両者ともに単独では生存・繁殖できない絶対的共生関係が進化している。
植物吸汁性のカメムシ類では菌細胞は見られないが、中腸管腔内(細胞外)に細菌が共生していることが知られている。これらの
細菌は経卵伝播されないことから、カメムシ−細菌間の共生関係は比較的不安定で、強い相互依存性は進化していないことが予想さ
れるが、共生細菌の伝播様式や宿主昆虫に対する機能を詳細に調べた研究はほとんどなかった。本研究では日本産のマルカメムシ類
7 種とそれぞれの腸内共生細菌について調査をおこない、共生細菌の分子系統樹の形状はカメムシのものと完全に一致し、すべての
種において絶対的共生関係が進化していることを明らかにした。マルカメムシ類では孵化直後の幼虫は共生細菌を保持していないが、
母親の産んだ共生細菌を含む「カプセル」を吸うことによって共生細菌を獲得する。この特徴的な垂直伝播機構は経卵感染と同程度
に確実性の高いものであると考えられる。
【P1−15】シジミチョウとアリの種特異的な共生メカニズムの解明
北條賢(1)*, 和田綾子(2), 尾崎まみこ(1), 山口進(3), 山岡亮平(1)
(1)京都工繊大・応用生物
(2)京大・応用生命科学
(3)昆虫写真家
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
シジミチョウの幼虫の多くはアリと共生関係を持つ。シジミチョウの幼虫は背側の第 7 節に存在する、dorsal nectary organ(DNO)
と呼ばれる器官からの分泌物をアリに与える。一方アリはシジミチョウの幼虫を捕食者や寄生者から守る。多くのシジミチョウは複
数種のアリと相利共生関係を築いているが、シジミチョウの中には幼虫が特定種のアリの巣内で成長するものもいる。このようなシ
ジミチョウとアリの種特異的な関係を成立させる至近要因を明らかにするため、シジミチョウ幼虫の DNO 分泌物に着目し、成分の
分析とアリの摂食嗜好性を調べた。クロオオアリ Camponotus japonicus と種特異的な関係を持つクロシジミ Niphanda fusca 幼虫
の DNO 分泌物には糖主成分としてトレハロース、アミノ酸主成分としてグリシンが含まれていた。クロオオアリはトレハロースと
グリシンの組み合わせにより、トレハロースに対する嗜好性を増大させるが、クロシジミとは関係を持たないムネアカオオアリ
Camponotus obscuripes はグリシンによる嗜好性の増大を示さなかった。このことからクロシジミ幼虫の DNO 分泌物はクロオオ
アリが特異的に好むものであり、DNO 分泌物中のグリシンがクロシジミとクロオオアリの関係の種特異性に関与していることが示
唆された。
【P1−16】資源獲得競争から生じる生物-環境間フィードバック調節モデル(種まき競争デイジーワールド
モデル)
瀬戸繭美*, 赤木右
東京農工大
生物は様々な環境要因(温度, pH など)によってその成長を制限される一方で、環境要因もまた生物によって改変されてきた。このよ
うな生物と環境の関わりに関して、ガイア仮説は「生物は環境を制御・調節する役割を担っている」という見解を提示してきたが、
環境を調節する能力を持つ種(調節種)が自然淘汰によって選ばれるためには”先見性”や”局所性”といった特殊なケースを想定し
ないと難しいとされてきた。本研究では生物による環境要因の調節がより普遍的に起こり得ることを示すために、生物-環境要因間
フィードバックモデルのシミュレーション結果を検証した。検証に際しては Watoson & Lovelock (1983)によって提唱された”デ
イジーワールドモデル”を適用した。オリジナルの”デイジーワールドモデル”は気温に影響を及ぼす白と黒のデイジー(調節種)に
対する選択圧が変化するメカニズムを”局所性”によって説明したが、我々は”局所性”を想定せずとも 2 種のデイジーが戦略的に
裸地を巡って競争する場合に気温が調節されるケースが存在することを発見した。このモデルを”種まき競争デイジーワールドモデ
ル”(Seto&Akagi, 2005)とし、自然界で一般的に見られる生物の資源獲得競争から生物-環境要因間にフィードバック調節が生じる
可能性があることを示す。
【P1−17】囚人のジレンマゲームにおける協調の発生と伝播
川崎廣吉,重定南奈子
同志社大 文化情報
囚人のジレンマゲームは裏切りが有利な状況下で協調がどのように維持されるかのを明らかにするために多くの研究者によって研
究されてきている.本研究は2次元格子空間上の周り8近傍の相手と囚人のジレンマゲームを行ったときの協調の発生と伝播の様子
を調べたものである.
ゲームは一連のラウンドからなり,各ラウンドの対戦結果は次のラウンドの戦略に影響を与える.すなわち,各ラウンドでは,全
ての住民が一斉にそれぞれ自分の周りの8近傍の住人と一回限りの囚人のジレンマゲームを行い,得られた得点の総計を各自の得点
とする.そして次のラウンドに入る前に,それぞれの住人は自分と周りの8近傍の住人の得点を比較し,その中の最高点が,自分の
得点より高い場合には,自分の戦略として最高点を取った住人の戦略を採用し,次のラウンドのゲームに臨む.
このような2次元格子空間上の囚人のジレンマゲームにおいて,全てが全面裏切りで占める地域に少数の全面協力者が侵入してき
たとき,協調の戦略が広がる場合もあれば,そうでない場合もある.また,拡がる場合でも,初期値や利得表の値によって成り行き
は様々に変化する.本講演では初期値と利得表の値による協調の拡大の詳細な分類を報告する.
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P1−18】シロアリのゲノムサイズと社会性の進化
越川滋行(1)*,松本忠夫(2),三浦徹(1)
(1)北大院・地球環境
(2)放送大・自然の理解
高等生物のゲノムサイズ(半数体ゲノムに含まれる DNA 量)は必ずしもボディプランの複雑性に比例しないことは古くから指摘さ
れている。ゲノムサイズの進化に影響を与える要因は多いが、これまでにゲノムサイズとの相関が報告された形質は、細胞サイズ、
体サイズ、代謝速度、発生の速度、発生の複雑性などである。
本研究では社会性の獲得と進化によってゲノムサイズにどのような変化がみられるかを検証するため、シロアリ12種(昆虫綱シロ
アリ目)を材料として DAPI 染色フローサイトメトリーおよびフォイルゲン染色デンサイトメトリーによるゲノムサイズの測定を行
った。シロアリは高度な社会生活を営む真社会性昆虫であるがゴキブリと近縁であり、近年はゴキブリ類の中の一系統として位置づ
ける見解が主流になりつつある。しかし本研究での測定の結果、シロアリのゲノムサイズの範囲(n= 13, 0.5∼1.7pg)はいずれもこ
れまで知られているゴキブリのゲノムサイズの範囲(n= 6, 2.0∼3.8pg)よりも小さく、シロアリの祖先系統における社会性の獲得と
ゲノムサイズの減少に関連があることが推測された。一般に、分類群内では発生が複雑な派生的グループほどゲノムサイズが小さい
傾向があり、シロアリの場合も社会性の獲得に伴う発生の複雑化(カースト分化の獲得)が影響している可能性がある。また、シロ
アリ目内における様々な形質と社会性の様式、ゲノムサイズとの相関についても議論する。
【P1−19】近親交配がトビイロシワアリ有翅雌に繁殖形質に及ぼす影響
松原由加里(1)*.真田幸代(2)
(1)岡山大院・環境
(2)岡山大院・環境
近親交配は生物にとって一般的に有害だが、アリ類の多くの種で頻繁に観察される。この理由は、単数倍数性決定様式を持つアリ類
で、劣性致死遺伝子が単数体のオスを通して速やかに除去され、近親交配はそれほど有害ではないからである。しかし、この働きに
よって排除されるのはオスに発現する形質の遺伝子のみで、主にメスに現れる形質については長期間にわたる近親交配が有害となる
可能性がある。トビイロシワアリ有翅メスは通常、近親交配をして巣内に居残る(居残り個体)が、一部の有翅メスは結婚飛行で異
系交配し、新しい生息地でコロニーを創る(分散個体)。このため、新しい生息地では近親交配が進んでいないが、古い生息地では
進んでいると予測できる。そこで様々な地域で近親交配の程度を示す近交係数を調査した。その結果、近交係数は地域間で大きく異
なり、近親交配が繰り返されている地域(近交係数>0)とほとんど生じていない地域(近交係数=0)が観察された。これらの地
域間で、新女王の繁殖形質(コロニー創設の成功率,及び初期ワーカーの個体数・頭幅・羽化率・発育期間)を比較したところ、コ
ロニー創設の成功率、初期ワーカーの個体数・
羽化率・発育期間には地域間で差は見られなかった。それに対して初期ワーカー
の頭幅には地域間で差が見られた。これらの結果から、トビイロシワアリにおける近親交配の影響と、居残り個体と分散個体の進化
的意義について考察する。
【P1−20】スズムシの雌の求愛シグナル選好性に対する齢の影響
栗和田 隆* 粕谷 英一
九大・理
従来の性淘汰の研究では、雌の選好性は個体内で安定しており変化しないと考えられてきた。しかし一方で生活史戦略の研究では、
繁殖への投資はその個体の生涯中に常に一定量配分されるわけではなく、各齢期に適応的に配分されることが示されている。雌の選
好性も繁殖への投資の一形態であり、したがって生涯中で変化しないとは限らない。本研究では実験・定量化をおこないやすい鳴き
声を求愛シグナルとして用いているスズムシMeloimorpha japonicaを材料に、雌の選好性が齢にともない変化するのか明らかにし
た。雌の選好性を調べるために、playback実験をおこなった。まずサウンドスペクトログラムによって鳴き声の間隔が短いもの(short)
と長いもの(long)を作成した。その2種類の鳴き声を雌の左右から同時に再生し、どちらの鳴き声を雌が選ぶのかを測定した。playback
実験は同一個体の羽化後8,9日目(若齢)、14∼16日目(中齢)、24∼26日目(老齢)におこなった。雌の生存日数は平均21日だった。こ
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
の結果を個体ごとに解析することで、選好性が生涯で一定なのか(e.g. 若齢でshortを選んだ雌は老齢でもshortを選ぶ)、それとも変
化するのかを明らかにした。本発表では、その結果を用いて雌の選好性に対する齢の影響について考察する。
【P1−21】モンシロチョウの配偶者特定鍵刺激(雌翅の色)の進化
小原 嘉明
東京農工大 農
日本産モンシロチョウ亜種の雌の翅の色は,可視光色と紫外色とから成り(打ち掛け色=UD 色とする),雄はこの UD 色に基づい
て雌を特定する.これに対してイギリス産亜種の雌の翅は紫外色を欠き,可視光色のみから成る(ウェディングドレス色=WD色と
する)
.そこで本研究では,日本産亜種の UD 色に対する日長の影響の有無,およびそれが雄の雌特定に与える影響を調べると同時
に,UD 色とWD色のユーラシア大陸における分布を調べ,UD 色の進化的由来を追求した.その結果,UD 色は短日条件下では紫
外色が弱くなってWD色の方向に変化すること,UD 色のこの変化に平行して短日条件下で成長した雄の翅色の「好み」も同方向に
平行して変化することなどが明らかになった.またWD色の雌はユーラシア大陸のほぼ全域に分布するのに対して,UD 色の雌は同
大陸の東端地域にのみ分布すること,この地域では両翅色の雌が混在していること,などが明らかになった.これらのことから UD
色の雌はユーラシア大陸の東端部で進化したことが示唆された.
【P1−22】生物群集の進化の履歴と侵入生物が引き起こす絶滅の規模の関係について
吉田勝彦
国立環境研究所
生物群集はそれぞれ様々な進化の履歴を持つ。例えば陸地から遠く離れた孤島の生物群集は、外部からの生物の侵入をほとんど受け
ずに進化したと考えられているが、それに対して地理的にあまり隔離されていない場所に成立した群集は、比較的頻繁に侵入を受け
ながら進化したと考えられる。また、長期間存続し、十分に時間をかけて進化した群集もあれば、成立したばかりでほとんど進化し
ていない群集もあるだろう。また、進化の結果、様々な種類の餌を食べるジェネラリストが多く進化した群集もあれば、その逆に特
定の餌しか食べないスペシャリストが多く進化した群集もある。これらの群集に対して外部からの生物の侵入があった時、どのよう
な群集で既存種の絶滅が起こりやすいのかを明らかにするため、様々なタイプの仮想的な生物群集を構築し、その群集に対して、植
物、草食動物、肉食動物、雑食動物(肉食も草食も行う動物)、強力な雑食動物(好みの幅が非常に広く、食べた餌を効率よく利用
して成長することができる動物)などの、様々なタイプの生物を外部から侵入させるコンピュータシミュレーションを行った。その
結果、スペシャリストが多い群集では規模の大きな絶滅が起こりやすいこと、肉食動物は侵入に成功しにくいこと、強力な雑食動物
は侵入に成功しやすく、更に比較的規模の大きな既存種の絶滅を起こしやすいことなどが明らかとなった。
【P1−23】種の豊富さのパターンの統計力学的・動力学的理論
時田恵一郎
大阪大 サイバーメディアセンター
複雑な大規模生態系で普遍的に観察される「種の豊富さのパターン(SpeciesAbundance Pattern:SAP」を解析的に導く統計力学的・
動力学的理論を示す.特に,熱帯雨林や珊瑚礁などにみられるような,捕食関係,共生関係,競争関係,さらには分解過程などの多
様な種間相互作用を複数の栄養段階にわたってもつような群集モデルを考える.多種ロトカ・ボルテラ系に対する古典的解析[1]を,
より一般的なランダム相互作用レプリケーター力学系[2,3]へと拡張することにより,系の動力学的安定性・恒常性などに関わる単
一のパラメータに応じて,様々な地域や異なる種構成に対する SAP と,その経年変化のパターンが再現される.さらに,対応する
個体数分布が,生態学でよく調べられてきた、対数正規分布と、ガンマ分布(よく知られるフィッシャーの対数級数モデルやマッカ
ーサーの折れ棒モデルを特別な場合として含む)の特別な場合に対応することがわかった.レプリケーター力学系は,集団遺伝学,
ゲーム理論などでも現れる一般的な形式を持つので,細胞内蛋白質の密度分布など,他の複雑な生物ネットワークで知られる同様な
100
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
パターンに対する適用可能性についても議論する.
[1] Kerner, E. H. (1957) Bull. Math. Biophys., 21, 217-255.
[2] Chawanya, T. & Tokita, K. (2002) J. Phys. Soc. Jpn., 71, 429-431.
[3] Tokita, K. (2004) Phys. Rev. Lett., 93, 178102.
【P1−24】好適な環境は捕食者・被食者間の軍拡競走を促進させるか
広永良*, 山村則男
京都大 生態学研究センター
生命の歴史上、動物の体制を大きく変える出来事が少なくとも2度起こった。カンブリア紀の爆発的進化と、中生代に海洋で起こっ
た体制の変革である。これらの原因は一般的に、酸素濃度の上昇・栄養塩濃度の上昇・水温の上昇等、環境の改善だといわれている。
しかし、これらの主張は、コストのかかる体制を獲得することが生産性とトレード・オフの関係にあることを見落としている。つま
り、環境が改善された時に、エネルギーのかかる器官への投資することが有利なのか、生産性を高める方が有利なのか自明ではない
のである。そこで、本研究では、被食者・捕食者間の軍拡競走の激化がカンブリア大爆発と中生代の海洋変革の重要な要素であるこ
とに注目し、どのような環境の変化が軍拡競走を激化させうるのか、数理モデルをたてて調べた。モデルでは、被食者と捕食者の2
タイプの生物を考慮し、また、軍拡形質を発達させると捕食者に対する防御や被食者に対する攻撃が有効に行える一方、増加率が落
ちてしまうというトレード・オフを仮定した。このモデルをコンピューターにより数値的に計算した結果、被食者の増加率の上昇が
軍拡競走を起こす必要条件であるのに対し、被食者の環境収容力や捕食者のエネルギー転換効率の上昇は、(条件次第では)軍拡競
走をより激しいものにする、補助的な作用を持っていることが明らかになった。
【P1−25】Experts Consuming Families of Experts: 食物網構造が進化に決定される
A G. Rossberg*, H. Matsuda, T. Amemiya, K. Itoh
Yokohama Nat'l Univ. Environment and Information Sciences
The question what determines the structure of natural food webs has been listed among the nine most important unanswered
questions in ecology. It arises naturally from many problems related to ecosystem stability and resilience.
view is that population-dynamical stability is crucial for understanding the observed structures.
history) has also been suggested as the dominant mechanism.
The traditional
But phylogeny (evolutionary
Here we show that observed topological features of predatory
food webs can be reproduced to unprecedented accuracy by a mechanism taking into account only phylogeny, size constraints,
and the heredity of the trophically relevant traits of prey and predators. The analysis reveals a tendency to avoid resource
competition rather than apparent competition.
In food webs with many parasites this pattern is reversed.
【P1−26】肉食者との相利関係を介して植物が植食者を扶助するための進化条件
山村 則男
京大・生態学研究センター
最近、植物が植食ダニの家を造ることが発見された(Yano et. al 2005, Ecological Research)。肉食ダニの家については、草食ダニ
の駆除という相利関係によって説明されていた。新発見に対する説明は、植食ダニを家に住まわせることによって肉食ダニの餌を確
保し、他の植食病害ダニを攻撃させるということである。私は、餌ダニ、病害ダニ、肉食ダニの3種の動態を記述する式を作り、植
物が家を造ることが有利となる条件を求めた。その結果は、理想的な餌ダニ種は病害ダニに比べて個体あたりの栄養価が高く、繁殖
率が高いものであること、病害ダニの病害性が高く死亡率は低いこと、肉食ダニの繁殖率が低く死亡率が高いことであった。つまり、
手ごわい敵とひ弱い協力者がいるとき、効率の良い餌を与えることによって協力者を強化できるのなら、植物が植食者を扶助するこ
とが進化できる。このような関係の数理モデルによる分析は、もっと一般的な、植物・カイガラムシ(アブラムシ)・アリ・植食昆
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
虫の系にも応用できると考えられる。
【P1−27】兵隊アブラムシにおける社会システムの調節と維持機構
柴尾晴信(1),沓掛磨也子(2),松山茂(3),鈴木隆久(3),深津武馬(2)
1)東京大 総合文化
(2)産業技術総合研究所 生物機構
(3)筑波大 生命環境科学
アリ、ハチ、シロアリとともに、一部のアブラムシは高度な社会性を構築する社会性昆虫である。社会性アブラムシでは、生殖個体
の他に、捕食者からコロニーメンバーを守ったり、ゴール内の清掃を行なう利他的な不妊の兵隊階級が存在する。我々は、人工飼料
によって実験室で飼育維持が可能なハクウンボクハナフシアブラムシをモデル系として、社会性昆虫類のコロニーにおける協調と制
御の仕組みを明らかにすべく、集団から個体、行動から生理、さらには分子レベルにいたるまで、社会性システムの全体像の探究を
おこなっている。今回我々は、本種のコロニーにおける警報や防衛のシステムについて明らかにする目的で、化学生態学的手法を用
いて、メンバー間のフェロモンを使ったコミュニケーションの機構について調べた。その結果、本種の角状管から分泌される液状物
質には警報フェロモンが含まれており、GC-MS 分析および標品を用いた生物試験により、警報フェロモンの主成分として (E)-β-フ
ァルネセンが同定された。警報フェロモンはおもに老齢の外役兵隊によって分泌され、すべてのメンバーがこの物質に応答したが、
生殖個体や若い兵隊は逃避行動、老齢の兵隊は攻撃行動といった、階級や日齢によって異なる行動的反応が観察された。また、フェ
ロモンを高濃度にすると、掃除中の若い兵隊が仕事転換して攻撃行動をしめすようになることもわかった。以上の結果にもとづいて、
本種のコロニーにおける兵隊の動員システムについて考察する。
【P1−28】アミメアリの女王型ワーカーとオスの交尾行動及び有性生殖の可能性
真田幸代
岡山大院 環境学
アリ類のコロニーには、オスと交尾し繁殖する女王と、繁殖せずに労働を担うワーカーが存在し、多くの場合、両者は形態的に異な
る。しかし、アミメアリには女王が存在せず、ワーカーが雌性産生単為生殖でワーカーを産出する。したがって、オスは通常生産さ
れず、ごくまれに生産されても、発生段階のミスで生じた繁殖上意味の無い存在であると考えられてきた。しかし、本種のいくつか
の地域集団で、通常ワーカーに比べ体サイズが大きく、多くの産卵管を持つ女王型ワーカーが観察され、これらの個体には通常型に
はみられない貯精嚢があることが明らかになってきた。もし、女王型ワーカーがオスと交尾し、有性生殖を行っているならば、クロ
ーン集団であると考えられてきた本種のコロニー内及び集団内の遺伝構成に大きな影響を与える可能性がある。そこで、オスが通常
の交尾行動を行えるかどうか、女王型ワーカーの貯精嚢にオス精子があるのか検証した。その結果、オスは他種アリのオスとほとん
ど変わらない交尾行動をすることが明らかになった。しかし、女王型ワーカーの貯精嚢内容物を、遺伝マーカーを用いて解析したと
ころ、オス由来のものであることは確認できなかった。この原因として、繁殖期直前に野外で採集した個体であったため、貯精嚢内
容物が非常に少なかったことなどが考えられた。そこで、繁殖期直後に採集した女王型ワーカーから得た結果もあわせて報告する。
【P1−29】モリブデン補酵素硫化酵素をコードする og 遺伝子の遺伝的多様性からみたカイコの家畜化
行弘研司(1)*、河本夏雄(1)
、小瀬川英一(2)
、廣川昌彦(2)
、立松謙一郎(2)
(1)(独)農業生物資源研究所 昆虫分子進化(2)農業生物資源研究所 昆虫遺伝
最近のゲノム研究の進展に伴い家畜および栽培作物の起原に関する興味深い知見が集積しつつある。その一例が
domestication
は単一ではなく複数回にわたるというものである。家畜化されたおそらく唯一の昆虫であるカイコ( Bombyx mori:鱗翅目)は中
国で 5,000∼10,000 年前にクワコ(B.mandarina)から家畜化されたと信じられている.しかし、カイコでは全ゲノム塩基配列の
大部分が解読されているとはいえ、家畜化過程の分子レベルの検証は十分とはいえない現状にある。本研究では、カイコの皮下への
尿酸蓄積が阻害され、皮膚が半透明となる油蚕突然変異に関わる遺伝子の一つであるモリブデン補酵素硫化酵素遺伝子(og)にお
ける分子多型を解析し、カイコ家畜化過程を検討した。og 遺伝子の突然変異は、一方ないし両性の妊性を著しく低下させることよ
102
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
り家畜化過程の人為選択の直接の対象とは考えられない。15 系統の地域品種(在来種:伝統的に各地(日本、中国等)で飼育され
てきた品種)の og 遺伝子の全長を含む PCR 断片(∼5.0kb)の塩基配列を決定し、相互に 0.5∼1.5%の塩基変異を示す5つのハプ
ロタイプに区分されることを確認した。また、カイコ家畜化過程における雌雄の貢献度の違いを評価するためにミトコンドリア遺伝
子の多型も合わせて検討し、cox 1 遺伝子の部分配列の解析結果について報告する。
【P1−30】Heterorhabditis属の昆虫病原性線虫とその共生細菌Photorhabdus属間の分子系統解析および
種特異性
鍬田龍星(1)*、吉賀豊司(1)、吉田睦浩(2)、近藤栄造(1)
(1)佐賀大 農
(2)中央農業総合研究センター
Heterorhabditis属の昆虫病原性線虫はPhotorhabdus属細菌と相互依存的な共生関係をもつが、この2者間の種特異性や共進化につ
いては明らかにされていない。そこで、4種15分離株のHeterorhabditis属線虫と、それらから単離されたPhotorhabdus属細菌につ
いて、それぞれCO1部分領域、16S rRNA遺伝子を用いて分子系統解析を行なった。線虫の系統樹では、H. bacteriophoraとH. megidis
が近縁であることが示されたが、共生細菌の系統樹ではH. bacteriophoraとH. indicaの共生細菌が近縁であった。また、H. indica
から単離された共生細菌は2つのクレードに分けられ、そのうちの一つは臨床分離株であるP. asymbioticaであることが示唆された。
数種の細菌分離株について性状試験を行ったところ、各共生細菌の特徴に大きな違いはみられなかった。表面殺菌した
Heterorhabditis属線虫とPhotorhabdus属細菌の組み合わせを換えて二者培養を行ったところ、同種他分離株の線虫から単離された
細菌との組み合わせでは、線虫は正常に発育、増殖することができたが、別種の線虫から単離された細菌との組み合わせでは、線虫
が発育しないものがみられた。
【P1−31】遺伝子重複前後での Rh 式血液型遺伝子の進化パターンの変化
北野 誉(1)*, 梅津和夫(1), 斎藤成也(2), 大澤資樹(1)
(1)山形大・医, (2)遺伝研・集団
Rh 式血液型遺伝子は、ヒトでは RhD と RhCE という非常に相同な 2 つの遺伝子座が近接して第1番染色体の短腕に存在している。
チンパンジーやゴリラも複数の遺伝子座を持っているのに対し、他の霊長類は単一の遺伝子座であるため、この遺伝子の重複は、ヒ
ト・チンパンジー・ゴリラの共通祖先で起こったとされている。Rh 式血液型遺伝子は 10 個のエクソンから構成されており、その
うち第 7 エクソンにヒトの RhD と RhCE の抗原性の差異を決める 3 つのアミノ酸サイトがあり、他のエクソンよりも非常に高いレ
ベルのアミノ酸の差異が RhD と RhCE 間でみられている。今回我々は、この第7エクソンの多様度が遺伝子重複以前の霊長類にお
いても存在したかどうかを調査するために、テナガザル複数個体を用いて第 7 エクソン近辺の塩基配列の決定及び解析を行った。テ
ナガザルの第 7 エクソンでは2つのアミノ酸多型がみられたが、塩基多様度は他のエクソンと同等のレベルであった。一方、旧世界
ザルや新世界ザルなどの他の霊長類の Rh 式血液型遺伝子のアミノ酸配列を用いて、エクソンごとの進化速度を比
蹇・
・
咾靴燭箸海
ぢエクソンの進化速度はヒト・チンパンジー・ゴリラの共通祖先の枝から加速したということが示唆された。以上のこと
から、Rh 式血液型遺伝子は遺伝子重複前後で進化パターンが大きく異なるということが考えられる。
【P1−32】コウモリダコ Vampyroteuthis infernalis のミトコンドリアゲノムの全塩基配列に基づく分子
系統解析
横堀伸一(1)*、Dhugal Lindsay(2)、丸山正(2)、大島泰郎(1)
(1)東京薬大・生命科学 (2)海洋研究開発機構・海洋生態環境
後生動物ミトコンドリア(mt)ゲノムはコードする遺伝子の数や種類がよく保存されており、様々なレベルでの分子系統解析に用
いられている。我々は、これまで、軟体動物の中でも二鰓亜綱に分類される頭足類について、ヤリイカ Loligo bleekeri (ツツイカ
目閉眼亜目)
、スルメイカ Todarodes pacificus(ツツイカ目開眼亜目)
、ホタルイカ Watasenia scintillans(ツツイカ目開眼亜目)
、
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
コウイカ Sepia esculenta(コウイカ目)
、マダコ Octopus vulgaris 八腕目無触毛亜目)の mt ゲノムの全塩基配列を報告して来た。
これらの頭足類 mt ゲノムの遺伝子構造はすべて異なっているが、マダコ mt ゲノムの遺伝子構造が最も祖先的な遺伝子配置を保持
していると考えられる。今回、我々はコウモリダコ目の唯一のメンバーであるコウモリダコ Vampyroteuthis infernalis の mt ゲノ
ムの全塩基配列を決定した。その mt ゲノム構造はマダコの mt ゲノム構造と同一であり、二鰓亜綱に属する頭足類の中では祖先的
なゲノム構造を保持していると考えられる。また、コウモリダコの系統学的位置については、タコ類(八腕目)に近縁であるという
考えと、イカ類に近縁であるという考えがあるが、13 種の mt 蛋白質遺伝子の一次配列に基づく分子系統解析では、その二つの仮
説のいずれかを選ぶことはできなかった。
【P1−33】葉緑体広領域データにもとづくバオバブの系統進化
西本 由利子(1,2)*, 湯浅 浩史(3), 宝来 聰(4), 長谷川 政美(1,4)
(1)統数研 (2)総研大・葉山高等研 (3)進化研 (4)総研大・生命体
バオバブ(キワタ科アダンソニア属)は、サバンナなど乾燥に適応した巨樹である。記載のある8∼10種のうち、アフリカに1種、
オーストラリアに1種、マダガスカルには6∼8種が自生する。バオバブは花や果実の多様性に富み、分布の面白さなどから進化の
起源を明らかにすることは重要である。
分子データをもちいた先行研究に葉緑体 rpl16 イントロンと核 rDNA ITS の解析
(Baum 1998)
や、昨年我々は葉緑体の 4 領域(rbcL, rbcL-accD, trnK, trnL-F)の塩基配列を決めたが、推定系統樹のトポロジーはデータ不足の
ため信頼性に乏しい。本研究では、データ不足を補う目的で葉緑体広領域(39タンパク質、42イントロンおよびスペーサー、4
tRNA)をシークエンスし、最節約法を用いて解析した。短い領域では不明であったバオバブの進化について新たな知見を加え考察
する。
【P1−34】アリ植物マカランガに共生するカイガラムシ類の分子系統学的解析
上田昇平(1)*, Swee-Peck Quek(2), 市岡孝朗(3), Penny Gullan(4), 市野隆雄(5)
(1)信州大院 総合工学(2)Museum of Comparative Zoology, Harvard Univ. (3)京都大院 人間・環境学 (4) Entomology, Univ.of California
(5)信州大 理
東南アジア熱帯雨林において,アリ植物マカランガ属(Macaranga)の幹の空洞内にはシリアゲアリ属(Crematogaster)とカタカ
イガラムシ属(Coccus)が共に生活している.アリはカイガラムシが分泌する甘露と植物が分泌する栄養体に完全に依存しており,
カイガラムシの存在はアリコロニーの創設と継続に重要な役割を果たしていると考えられる.東南アジア湿潤熱帯の広域から採集さ
れたサンプルを用いて作成した,アリmtDNA系統樹,カイガラムシmtDNA系統樹,およびマカランガ系統樹(形態+核DNA)を比
較したところ,アリの植物に対する種特異性は基本的に高いが,カイガラムシの寄主植物・アリに対する種特異性は全般的に低いこ
とが判明した.また,3者の適応放散の同時性から,アリとカイガラムシの種分化は植物の種分化に同調して起こった可能性が示唆
された.一方,カイガラムシmtDNA系統樹の一部が予備的な核DNA系統樹と一致しなかったことから,特定のカイガラムシ種間で
浸透交雑が起こった可能性が示唆された.この問題をクリアするには,より高い解像度の核DNA系統樹を得る必要がある.今回,
我々は複数の核遺伝子マーカーを用いてカイガラムシの各地域集団ごとの核DNA分子系統樹を作成し,マカランガ−アリ−カイガ
ラムシ3者共生系の種多様化の歴史を明らかにする.
【P1−35】汎熱帯海流散布植物の分子系統地理:アメリカハマボウ(アオイ科)の遺伝的分化
高山 浩司(1), 梶田 忠(2), 邑田 仁(1), 立石 庸一(3)
(1)東大院・理
(2)千葉大・理
(3)琉球大・教育
アオイ科フヨウ属 Azanza 節には複数の海流散布植物が知られている。そのうちオオハマボウは新大陸以外の熱帯域に広く分布し、
アメリカハマボウは新大陸のみに分布している。また、新大陸のカリブ海地域には内陸性で海流散布を行わないヤママフウが分布し
ている。新大陸に分布する2種は、形態の類似性からオオハマボウと近縁であると考えられており、これらは汎熱帯海流散布植物の
104
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
種分化を全世界レベルで考える上で良い材料である。本研究では、これらの植物の分化過程を明らかにすることを目的として、世界
中から採集した 1000 個体以上のサンプルについて葉緑体 DNA を用いた解析を行った。
系統解析の結果、アメリカハマボウとヤママフウはオオハマボウから分化したことが示唆された。また PCR-SSCP と PCR-SSP 解析
の結果、アメリカハマボウの集団は新大陸の東西で明瞭に分化していることが明らかとなった。アメリカハマボウの大西洋集団の多
くにはオオハマボウと共通の葉緑体 DNA ハプロタイプが存在することから、過去に大西洋を越えて両種の間で遺伝子浸透が起きた
可能性が考えられた。現在マイクロサテライトマーカーを用いた解析によって、汎熱帯域における両種の遺伝子流動のパターンと、
新大陸での遺伝子浸透の可能性について検討している。
【P1−36】ミトコンドリアゲノム解析に基づくカワイルカの系統進化に関する研究
曹 纓(1,2) *, 二階堂 雅人(3), 王 丁(4), 岡田 典弘(3), 長谷川 政美(1,2)
(1)統数研 (2)総研大・生命体 (3)東工大 (4)中国科学院水生研
本研究では、クジラ目におけるカワイルカの系統進化に注目し、貴重な揚子江カワイルカの全ミトコンドリア
DNA の塩基配列を
決定した。野生の揚子江カワイルカは中国にのみ生息するが、すでに数十頭までに減少しており、絶滅の危機に迫られている。今回
決定した揚子江カワイルカのミトコンドリアゲノムの塩基配列に、アマゾンカワイルカ、ガンジスカワイルカなどの mtDNA 配列デ
ータを加え、クジラ目に置けるカワイルカの系統的位置、および他のクジラから分岐した年代を推定した。
カワイルカの系統推定においては、最適なトポロジー探索をベイズの MCMC 法活用で、より有効で実現的なトポロジー探索法を
試みた。またコドン置換モデルを含むさまざまな塩基置換モデルや、アミノ酸置換モデルを用いて解析し、それらの解析結果を比較
した。分岐年代推定については、複数の化石証拠による calibration を取り入れ、生物種によって異なる進化速度も考慮した解析法
で行った。
【P1−37】ミトコンドリアゲノム全塩基配列を用いたイグアナ下目の分子系統学的研究
岡島 泰久*、サヤド アメル、熊澤 慶伯
名大院・理
イグアナ下目(アガマ科、カメレオン科、イグアナ科)は有鱗目トカゲ亜目の主要なグループの一つであり、1500種近くの
多様な種を含んでいる。これまで様々な形態学的、分子的研究がなされてきたが、イグアナ下目を形成する3科の単系統性や、イグ
アナ科内の主要なグループ間の系統関係については未だ決着していない。
今回我々は、イグアナ下目の主要なグループからミトコンドリアゲノムの全塩基配列を決定し、系統解析を行った。その結果、イ
グアナ科の単系統性が示され、またアノールトカゲ亜科とヨウガントカゲ亜科の近縁性を示唆する結果を得た。さらに、分岐年代の
推定を行い、南米やマダガスカルなどに分布するイグアナ類の歴史生物地理についても知見を得ようと試みている。
【P1−38】ニホントカゲ(Eumeces japonicus,トカゲ科:爬虫綱)の日本列島における地理的分化
岡本 卓*,本川順子,疋田 努
京大理・動物
ニホントカゲは,屋久島以北の日本列島の,伊豆半島・伊豆諸島を除くほぼ全域に分布する.アロザイムデータを使った先行研究で,
本種の東西の2グループへの明瞭な遺伝的分化が明らかになっている(Motokawa & Hikida, 2003, Zool. Sci, 20:97-106).演者
らは,全国約80地点から採集された約110個体の標本を用い,ミトコンドリアDNAのcytochrome bの一部の塩基配列と核DNAの
rRNAのスペーサー領域の制限酵素断片長多型をマーカーとして地理的変異を精査した.その結果,両マーカーで一貫して明瞭な分
化が認められる3地域集団(東北日本/中部・紀伊/西日本.前2者が先行研究の東日本グループに相当)が認められた.このうち,少
なくとも中部型と西日本型は同一地点からも採集され,接触域を持ちながら分化が維持されていることが示された.また,mtDNA
の変異では,東北日本集団は全域にわたって分化程度が小さいのに対し,西日本集団でさらにいくつかの地域集団への分化がみられ,
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各小集団内に東北日本全域に匹敵する塩基多様度が観察された.これは,東北日本集団は近い過去に個体数の縮小を経験しているの
に対し,西日本集団では各地で個体群が安定的に維持されていることを示唆する.中部・紀伊の集団では北部のみで塩基多様度が著
しく低く,個体数の縮小が示唆された.寒冷地に偏る本種の個体数の変動は,過去の気候変動との関連が予想される.
【P1−39】ミトコンドリア DNA を用いたオナガナメクジウオ属動物(頭索動物亜門・ナメクジウオ科)
の分子系統解析
昆 健志(1)*,野原正広(2),西田 睦(1),西川輝昭(3)
(1)東京大・海洋研
オナガナメクジウオ属
(2)(株)ハイテック
(3)名古屋大 博物館
Asymmetron は,頭索動物亜門ナメクジウオ科 (Cephalocordata: Branchiostomatidae) に含まれる分
類群で,サンゴ礁性のオナガナメクジウオ A. lucayanum と 2004 年に新種記載された比較的深い海(水深 229m)に生息するゲ
イコツナメクジウオ A. inferum の 2 種が含まれている.両者は共に尾部糸状突起(筋節を伴わない脊索の突出)という大きな形
態的特徴を備える.本研究は,これらインド−太平洋および大西洋産オナガナメクジウオと鹿児島県野間岬沖産ゲイコツナメクジウ
オの分子系統関係をミトコンドリア DNA 上の 16S rRNA および COI 遺伝子の部分塩基配列を用いて明らかにした.
その結果,はじめに深海性ゲイコツナメクジウオと浅海性オナガナメクジウオとが分化し,続いてオナガナメクジウオ内で(イン
ド−太平洋産)と(大西洋産+一部の太平洋産)との二つに分かれた.そして,最後に大西洋産と一部の太平洋産との間で分化が起
こった(COI での塩基置換率は約 6%).以上のことから,オナガナメクジウオに 3 種の隠蔽種の存在が明らかとなり,太平洋の一
部(八重山諸島黒島など)では約 1 億年前に分化したが形態的な区別の難しい 2 つの系統が同所的に分布していることが解った.
【P1−40】クロロフィルb合成酵素(CAO)の系統的不連続分布
千国友子*, 坂口美亜子, 中山剛, 橋本哲男, 井上勲
筑波大・生命環境
クロロフィル
b (Chl b)は光合成色素として、緑色植物とそれを取り込んだ二次共生生物の葉緑体に存在する。葉緑体の系統上、
Chl b の分布は一群にまとまり、この形質が進化の中でよく保存されてきたことが覗える。しかし、原核生物を考慮に入れると、わ
ずか 3 属ながら藍藻(原核緑藻と呼ばれる)にも Chl b が見出されており、Chl b を持つ生物は系統上不連続に分布している。2 属の
原核緑藻と、緑藻、陸上植物は Chl a oxygenase(CAO)を用いて Chl b を合成する。これら生物の CAO の分子系統解析から、Chl b
の不連続性は、多数回の欠失によって形成されたと考えられている。
しかし、この説ではあまりに多くの欠失が想定される上、これらの生物間には Chl b を持つという以外の共通性が見られない。Chl
b 生物の系統的不連続性を再検討するため、プラシノ藻で CAO を同定し、系統関係を調べた。プラシノ藻は、緑色植物の中で比較
的初期に分岐した生物から成る多系統群である。その中から各群を代表する種を用いて CAO mRNA の部分配列を明らかにしてい
る。新たに得られた配列を加えて CAO の分子系統解析を行ったところ、緑藻や原核緑藻といった系統群間の関係が非常に不安定に
なり、統計的信頼性は低いものの、原核緑藻が緑色植物の中に位置する系統関係が示された。この結果から、藍藻-緑色植物間の遺
伝子水平移動が CAO の系統的不連続性に関わっていた可能性が示された。
【P1−41】複数遺伝子に基づくCentrohelidaの分子系統解析
坂口美亜子*,橋本哲男
筑波大 生命環境科学
現在までの形態情報および分子情報を基に、真核生物の系統関係が明らかになりつつある。真核生物はそれぞれの生物グループの近
縁性によっていくつかのスーパーグループに分けることができるが、どのスーパーグループに所属するのか不明な生物グループが中
には存在する。有中心粒太陽虫類(Centrohelida)はそのような所属不明の生物グループのひとつであり、形態的な特徴から肉質虫
類(Sarcodina)に分類されている。このSarcodinaには分子系統解析の結果からAmoebozoaやOpisthokonta、Rhizariaそして
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
Excavataに属する生物グループが含まれていたが、Centrohelidaとそれらとの近縁性は未だ不明のままである。そこで、真核生物
におけるCentrohelidaの系統的位置を明らかにすることを目的として、alpha-、beta-tubulin、actinおよびelongation factor 2(EF2)
の遺伝子配列による連結データセットを用いた分子系統解析を行った。その結果、CentrohelidaはRhodophytaあるいはAmoebozoa
と姉妹群である可能性や、AmoebozoaとRhodophytaの分岐間に位置し、bikontaの根元から分岐している可能性が示唆された。さ
らにheat shock protein 90(HSP90)の遺伝子配列を決定し分子系統解析を行ったので、その結果についても報告する。
【P1−42】生殖隔離を引き起こすウリミバエの時計遺伝子 period の系統間配列比較
大田由衣*・宮竹貴久(1)
・松本顕・(2)
・谷村禎一(3)
・松山隆志(4)
(1)岡山大院・環境(2)九州大高等教育セ(3)九州大院・理(4)沖縄農試
ウリミバエで確立されたショート(S)系統とロング(L)系統は、歩行活動の概日リズムが S 系統は約 22 時間、L 系統は約 30 時
間である (Miyatake et al, 2002)。両系統は交尾時刻が異なり、S 系統は早い時刻に、L 系統は遅い時刻に交尾活動を行うため、有
意に交配が生じず,生殖的に隔離されるこのため、体内時計を支配する時計遺伝子が交尾時刻の違いによる異時的生殖隔離に関与す
る可能性が示唆されている。
S 系統と L 系統では時計遺伝子 period の mRNA 発現周期が異なり、それぞれの歩行活動周期に一致することが明らかになってい
る。そこで、ウリミバエの period 遺伝子の配列を決定し、系統間の比較を行った。しかし、period 遺伝子の産物であるタンパク質
PERIOD のアミノ酸配列には、概日リズムの違いを引き起こすような大きな変異はみられなかった。しかし period mRNA の 5’非
翻訳領域では、スプライシングのバリアントが検出された。ウリミバエの S 系統と L 系統では period mRNA 発現周期が異なるこ
とからも、period の転写制御に何らかの違いがあると考えられる。本発表では period 遺伝子と同じフィードバックループ上で機能
する doubletime など他の時計遺伝子の塩基配列比較結果も併せて報告する予定である。
【P1−43】X 染色体上の 10kb 領域の塩基配列による人類集団遺伝学的解析は古代人の遺伝子流動を示唆
する
嶋田 誠(1)*, Jody Hey(2)
(1)Rutgers Univ.(現:パーレジェンサイエンス・ジャパン(株))(2)tgers Univ.
世界の全大陸にわたる地域由来の 672 人の男性に用いて、X 染色体上の 10.1 kb の領域において塩基配列を決定した。本領域は2
つのマイクロサテライト(STR)領域を含んだ非コード領域であり、組み換え頻度が低いと推定されている。そのため、安定性の高い
マーカーであるハプロタイプと、進化速度が速く多型性に富んだマーカーである STR の、両者の長所を利用できる領域(HapSTR)
として、本領域は進化研究に有用であると考えられ、人類の集団遺伝学的パラメータを推定するのに、適していると考えられる。
解析の結果、ハプロタイプの空間分布および変異性は、一つのハプロタイプ(haplotype X)を除いて、従来の結果(アフリカ単一起
源)を追認するものであった。haplotype X はヨーロッパからオセアニアに至る8集団9個体で観察され、160 万年前に分岐したと
推定された。しかも、分岐年代が非常に古いにもかかわらず、クラスタリングする近縁のハプロタイプを持たず、STR 変異におい
ても、変異性が少なかった。また、分布域が広いにもかかわらず、各集団における出現頻度が一様に低かった。このような、観察結
果から、現代人の出アフリカ後の人工爆発以前にユーラシア大陸に生息していたホモ・サピエンス以外の古代人に、haplotype X は
由来し、混血を通じて、現代人の遺伝子プールに流入したのではないかと、考察している。
【P1−44】ミトコンドリア DNA に基づくヤマトオサムシの分子系統地理:地理的分化と浸透交雑の推定
長太伸章(1)*, 久保田耕平(2), 曽田貞滋(1)
(1)京都大院・理 (2)東京大院・農
オオオサムシ亜属のオサムシは後翅が退化しており飛翔できないため分散が限られる。そのため地域ごとの集団分化が大きいと考え
られ、系統地理の研究には好適な分類群である。本研究では種内における遺伝的多様性を明らかにするとともに、種内の地域間分化
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
の程度、分布域形成過程を明らかにするために、京都から長野にかけての地域に分布する小型種のヤマトオサムシ C. yamato につ
いて分子系統地理解析を行った。本種は側所的に分布するクロオサムシ C. albrechti とミトコンドリア DNA の系統を共有するとい
う報告があるため、クロオサムシと側所的に分布する他の 2 種とも比較し、ミトコンドリア DNA の系統から浸透性交雑の有無など
も推定した。
ヤマトオサムシ 37 集団 373 個体についてミトコンドリア DNA ND5 遺伝子 1020bp を解析したところ、81 ハプロタイプが検出
された。系統樹上ではこれらのハプロタイプは側所的に分布するヒメオサムシ C. japonicus やスルガオサムシ C. kimurai のハプロ
タイプとは明確に異なるクレードを形成し、これらの種とは浸透はほとんどないと考えられた。一方、ヤマトオサムシとクロオサム
シはそれぞれがまとまるが、ヤマトオサムシの一部のハプロタイプはクロオサムシのクレードに含まれ、クロオサからの浸透由来で
あると考えられた。また、ヤマトオサムシは天竜川流域および三重県西部の集団が古く、他の地域は最近の分布拡大によって成立し
たことが示唆された。
【P1−45】Local Clock モデルの樹形選択と有根化への応用
田辺 晶史
東北大院・生命科学
これまで,分子進化一定を仮定した最尤系統樹と仮定しない最尤系統樹の間で尤度比検定を行うことが系統樹上での分子進化一
定性の検証方法の一つとされてきた.これは全ての枝で分子進化速度が同じか,それとも全ての枝で分子進化速度が異なるのか,の
2 者択一であり,分子進化速度が 1 回(∼数回)だけ変化している,というような場合は考慮されていない.Yoder and Yang (2000)
の Local Clock モデルは,分子進化速度変化回数に基づいたモデル選択を行うことで分子進化速度の変化と分岐年代を推定しようと
いうものである.
現在の最尤系統推定は「分子進化モデル」と「系統仮説」(樹形)の 2 つのモデル選択からなっている.この方法は,ここにさらに
「分子進化速度変動仮説」のモデル選択を導入することで分岐年代推定を行おうとするものであるが,これまでのところ樹形選択の
後に適用されている.しかし実際には樹形選択と同時に行うことで樹形選択をも改善できるはずである.また,根の付く枝を変えつ
つモデル選択規準を比較することでどこに根が付くのかを探索する方法とすることもできるだろう.
今回,相対速度テストを用いて「分子進化速度変動仮説」をある程度絞り込む方法を併用することで,現実的な時間で樹形選択の
改善と根の付く枝の探索が実際に可能であることを示し,そのためのソフトウェアを公開する.
【P1−46】ウズラとニワトリ MHC クラス II 領域の比較解析
細道一善(1)*,椎名隆(1),半澤惠(2),猪子英俊(1)
(1)東海大・医
(2)農大・農
ウズラはニワトリと属間雑種やキメラが作出可能であることから近縁種であると考えられている。ところが、ウズラの MHC 領域は
ニワトリのそれに比べ高度な遺伝子重複を有し、遺伝子構造は大きく異なっている。本研究では 5 つのウズラ MHC ハプロタイプ(ハ
プロタイプ 1∼5)のクラス II 領域の塩基配列についてニワトリを含めて比較した。ニワトリのクラス II 領域がほぼ同一な遺伝子構
造を有しているのとは対照的にウズラは 5 つのハプロタイプでクラス II 領域に含まれるクラス IIB 遺伝子の数が異なり、遺伝子構
成に差異が認められた。ハプロタイプ 2 および 5 の遺伝子構造はニワトリのそれに類似しており、特にハプロタイプ 2 の形成には
ハプロタイプ 1 の 2 つのクラス IIB 遺伝子間の欠失が関与することが示唆された。また、この領域にはニワトリにはほとんど認めら
れない組み換えホットスポットモチーフ配列が多数認められ、これらが遺伝子構造の形成に関与していることが示唆された。これら
の知見から渡り鳥であるウズラは多様な抗原に適応するためクラス IIB 遺伝子の重複と欠落により免疫機能を進化させてきたと考え
られ、今後 MHC 領域に多数認められる遺伝子重複についてハプロタイプ間の比較を詳細に実行することで、ハプロタイプ形成の分
子機序および遺伝子数の違いが個体に及ぼす影響についての知見が得られる可能性があると考えられた。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P1−47】六脚類の系統関係とその起源
佐々木剛(1)*,石渡啓介(2),宮田隆(1),(2),(3),蘇智慧(1),(2)
(1)JT 生命誌研究館
(2)大阪大院 理
(3)早稲田大 理工
陸上昆虫類 (六脚類 Hexapoda) は、分類学的に無翅昆虫亜綱と有翅昆虫亜綱とに大別される。従来、六脚類は他の節足動物のうち
多足類(Myriapoda)と近縁であり、六脚類内部では無翅昆虫から有翅昆虫のグループが分岐し翅を獲得したと考えられてきたが、最
近の分子系統解析により、(1)六脚類は多足類ではなく甲殻類(Crustaceae)と近縁であることが明らかになった。さらに、(2)六脚類
の単系統性にも疑問がもたれ、ミトコンドリア遺伝子を用いた研究では、シミ目を含む有翅昆虫は甲殻類と近縁であり、無翅昆虫の
トビムシ目はより古い時代に分岐したという可能性も示唆されているが、まだ未解決である。われわれは(2)の問題を解決するため
に核にコードされたタンパク遺伝子を複数用いて系統解析を行っている。これまでに得られたデータから最尤法に基づく分子系統解
析を行い、六脚類の起源について考察する。
【P1−48】Saccharomyces 属近縁種の分子進化過程における機能的制約の変化
川原善浩(1,2)*、今西規(1)
(1)産業技術総合研究所 生物情報解析研究センター
(2)東京都立大 理
遺伝子重複直後や、ヒト系統の脳に代表されるように表現型レベルで劇的な進化を遂げた時期などには、遺伝子に働く機能的制約の
強さが変化することが知られている。しかし、そのような時期以外に機能的制約の強さが果たして一定であるかどうかはあまり良く
知られていない。本研究では、分子進化過程において遺伝子に働く機能的制約の強さの定常性を、全ゲノム上の遺伝子を対象に検証
することを試みた。出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae と、その近縁種 S. paradoxus、 S. mikatae、 S. bayanus の 4 種のゲノ
ムから 2,475 組のオーソログ遺伝子を抽出し、それら 4 種の系統樹上の枝間での同義置換数と非同義置換数の比率の違い、つまり、
機能的制約の強さの変化を調べた。その結果、非常に近縁な種間の比較であるにも関わらず、811 個の遺伝子の機能的制約が少なく
とも1組の枝の間において有意に変化していることが示唆された。これらの大部分は遺伝子重複や欠失、コドン使用頻度の変化によ
っては説明ができなかった。また、転写やタンパク質合成に関わる遺伝子に比べて、代謝や細胞壁の生合成、菌糸形成に関わる遺伝
子の方が機能的制約が変化しやすいことが示唆された。以上の結果から、遺伝子重複直後などの特殊な時期以外でも、個々の遺伝子
に働く機能的制約の強さが大きく変化する場合があることが示唆された。
【P1−49】パラオ諸島海水湖に隔離されているイガイ科Brachidontes sp.の特異的進化
後藤 禎補(1), 半澤 直人(2)
(1)山形大院 理工 (2)山形大 理
パラオ諸島には、完新世終期に外海から分断されて形成されたと考えられる複数の海水湖があり、海水湖内だけに生息するイガ
イ科二枚貝類がいる。本研究では、核DNAとミトコンドリア(mt)DNAを解析し、その進化的特性の解明を試みた。イガイ科貝類は
異種間でも形態が酷似し分類が混乱している。しかし、海水湖産イガイ科貝類は、湖ごとに殻体の形態的特徴が少しずつ異なるが、
18S rRNA遺伝子による分子系統解析の結果と軟体組織の特徴により、Brachidontes属に属することが示唆された。近年、二枚貝類
特にイガイ科貝類では、母性遺伝するF-type mtDNA以外に、オス親からオスの子孫だけに伝達されるM-type mtDNAの存在が次々
と報告されており、この現象はDoubly Uniparental Inheritance (DUI)と呼ばれている。本研究の解析の結果、海水湖のオスも2タ
イプのmtDNAを持つことが推定された。mt CO。 遺伝子の解析では、オスの2タイプ間の塩基配列が約20%異なることが明らかと
なり、他のイガイ科貝類で報告されているM-type、F-type mtDNA間の遺伝的距離に匹敵していた。本研究ではこの特殊なmtDNA
をマーカーとして、特異な隔離海洋環境である海水湖に生息するBrachidontes sp.集団の遺伝的多様性を解析し、その進化的特性に
ついて考察した。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
【P1−50】起源の場所を推定する∼トビトカゲ属の場合
疋田 努
京大院 理
「起源の中心仮説」が分断生物地理学によって批判されたが、生物群の起源の場所がどこかという問いは残されたままである。しか
し、分子データの蓄積により、系統地理学的な関係が明らかにされてきたので、それらのデータを地域分岐図にまとめるだけでなく、
これらの関係から分散の推定が可能になれば、起源の場所が推定することができるはずである。そこで、東南アジア地域で多様化し
ているトビトカゲ属 Draco について起源の場所の推定を試みた。このグループの系統関係は Honda et al. (1999, 2000)と McGuire
and Kiew (2001)によってほぼ明らかにされている。トビトカゲ属についての最近の分類の再検討では 35 種が認められているが、
これを8種群に分け、種群の分岐関係から地域間の分化と分散について推定を行った。分布地域はインド、インドシナ、スンダラン
ド(マレー半島、スマトラ、ジャワ、ボルネオ)
、ワラシア(スラウェシ、モルッカ諸島、小スンダ列島)
、フィリピンの5地域であ
る。これらの地域では初期の種群の分化の後、インドシナからインドへ1度、スンダランドへの2度の侵入があり、スンダランドで
分化した種群のひとつからインドシナへの再侵入がおきていることなどが推定された。
【P1−51】ヨモギハムシの異なる核型個体間の生殖的隔離
北村徳一(1)*, 藤山直之(2), 青塚正志(3)
(1)都立大院 理 (2)北教大函館・生物 (3)首都大・都市教養
ヨモギハムシ(Chrysolina aurichalcea)には、染色体数が著しく異なる核型二型が存在し、それぞれ2n=31(雄)、32(雌)と2n=41
(雄)、42(雌)と10本の違いがある。これらの核型個体からなる集団は基本的に異所的または側所的に分布している。室内交配
実験では両者の間に生殖的隔離が発達しつつあることが示されているが、自然集団における生殖的隔離の有無についての検討は行わ
れていない。本研究では、両核型集団が近接している函館市近郊で核型の詳細な分布を調べ、さらにmtDNAのND2遺伝子を用い
た解析を行い、核型と併せて自然集団における生殖的隔離について検討を行った。核型調査から、両核型集団が接している一部の地
域で両核型個体は混生していることが分かった。この混生域では、核型によって確認される交雑個体は稀であり、室内交配実験で示
された、異なる核型個体間の生殖的隔離の存在が支持された。また、ND2遺伝子配列から構築した系統樹では、少数の例外を除い
て、核型の異なる個体の持つハプロタイプが、それぞれ独立したクラスターを形成した。すなわち、mtDNA配列の解析からも、自
然集団において異なる核型間の遺伝的交流が少ないことが示唆された。
【P1−52】酵母の種多様性と生殖隔離
杉原千紗*, 壷井基夫, 久冨泰資
福山大・生命工学
生物の種多様性の発生にあたっては、種形成という過程が重要である。私たちは、酵母菌をモデルとして、種の枠組みを遺伝学
的に捉えるとともに、種の形成機構を解明するために、生殖隔離を二つの様式に分けて解析している。一つは、近縁の種間に見られ
る様式で、接合現象は進行するが、稔性のある子孫を生ずることができないような隔離のシステムであり、これを交配後隔離と呼ぶ。
もう一つは、系統的に比較的距離のある種間で見られる様式で、接合というコミュニケーションそのものが断絶されている場合であ
り、これを交配前隔離と呼ぶ。
交配後隔離の解析を通して、細胞融合・核融合による雑種形成および胞子形成の全ての過程が正常に進むような種間においても、
形成された胞子に発芽能がないために、生殖隔離が起こる場合があることを見いだした。その原因として、種間雑種細胞における染
色体の編成異常を突き止めた。つまり、種間での接合による染色体の不和合性と考えられる。これを、染色体進化の面から考察する。
交配前隔離の機構に関しては、種間での細胞のコミュニケーションの断絶に焦点を定め、性的細胞認識を支配する性分化遺伝子の
進化の解析を進めている。これまでに、交配前隔離の生じている種間において、性フェロモン遺伝子のコード領域は機能的に保存性
が高いが、発現調節領域においては種の特異性が生じていることを見いだした。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P1−53】第3の形質が配偶者選択による同所的種分化を促進する
山内 淳*, 山村 則男
京都大 生態学研究センター
配偶者選択によって同所的種分化が起きる可能性は、Higashi
et al. (1999)によって初めて理論的に示された。それは、オスの装
飾とメスの好みが共進化する Fisherian プロセスによって引き起こされる。彼らは、オスの装飾とメスの好みのそれぞれが−から+
値をとると仮定し、−の好みを持つメスは−の装飾を持つオスを好み、+の好みをもつメスは+の装飾を持つオスを好むシステムを
考えた。そのシステムについて、彼らは Individual-Based Model を用いて形質値の分布のダイナミクスを解析し、環境変動などに
よって配偶者選択の効率が急激に上昇すると、集団内のオスとメスの形質が急速に二極化して両系統間での交配がほとんど失われる
ことを示した。しかしながらこの仮説に対しては、それが実際に機能する条件は厳しいのではないかという批判が近年多くなされて
いる。
ところで実際の生物におけるオスの装飾を見てみると、大きな尾やヒレに派手な色がついていたり、色彩がいくつかの色で構成さ
れているなど、複数の形質が組み合わさることでその信号が強化されている場合が多い。またメスの好みにしても、感度の良い感覚
器や高い情報処理能力が組み合わさることで配偶者選択の効率が高められることも考えられる。本発表では、オスの装飾とメスの好
みに加えてこうした第3の形質の進化が導入されることで、同所的種分化が生じる条件が大きく緩和される可能性があることを理論
的に示す。
【P1−54】隔離強化の副産物として生じる生態的形質置換
小沼順二*, 千葉聡
東北大院 生命科学
資源競争は適応放散を導く最有力な要因であると考え続けられてきたにもかかわらず、実際に形質の分化が競争によって引き起こさ
れたことを明確に示した研究事例は非常に少ない。種間での形質の分化には競争ではない別の要因がより強く働いているのではない
だろうか。我々はその要因として異種間交配を仮定した。仮に交配に幾分でもコストが支払われるならば、交配前隔離が発達してい
ない 2 種間での交雑は適応度を下げる可能性がある。久野(1992)と吉村・Clark(1994)はそのような 2 種が資源競争を行う場合の
個体群動態を解析した。我々は彼らのモデルを拡張し、資源競争と交配相手認識両方の影響を受ける場合での形質分布の動態を解析
した。我々のモデルは、たとえ種間競争が全く働いていなくても、資源競争にかかわる形質が隔離強化の副産物として十分生じえる
ことを示す。この結果は多くの生態的形質置換の研究に定性的に当てはまる。これまで隔離強化は種分化を引き起こす種内相互作用
のプロセスとして重要視されてきた。しかし、我々のモデルは、隔離強化が種間の形質分化を引き起こすプロセスとして有力である
可能性を示す。
【P1−55】機能システムの進化速度に及ぼす遺伝子間相互作用と分集団構造の効果
高橋亮
理研 GSC 個体遺伝情報
遺伝子間の機能的な相互作用や地域集団間の移住が進化速度に及ぼす効果を,地理的,空間的に分断された生物集団における新生突
然変異の固定確率を指標に考える.二遺伝子座システムに共適応的な遺伝子の組合せが成立する確率を拡散モデル,出生−死亡モデ
ル,数値計算により算出した結果,分集団間の移住率が中間的な場合に共適応の固定確率が極大になることが示された.この傾向は,
遺伝子座間にエピスタシスが存在しない場合には認められない.地域集団間の移住は,異なる地域に生まれ落ちた変異がやがてめぐ
り逢う期待を高める一方,同一の地域で結ばれた変異同士を引き離し,共に分集団中に固定する可能性を打ち砕く拮抗的な作用を併
せ持つ.モデル解析の結果は,中間的な移住率の下で相反する二つのフォースの吊り合いが取れ,全集団で共適応が成立する確率が
最大化されるためと解釈される.以上の結果は,分集団構造が,エピスタシスを伴う機能システムの進化を促すことを示唆する.
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【P1−56】進化によって出来る細胞モデル系のアトラクター間の関係性について
石原秀至
東大総文
多細胞生物は同じ遺伝子セットを共有しながら、その状態を変えることで多くの種類の細胞へと分化する。これは細胞を力学系と
して見た時、異なるアトラクター状態が各々の細胞状態に対応すると解釈できる。では、異なる細胞状態はお互いにどれくらい「近
く」にいるのであろうか?すなわちアトラクター間の関係はどのようになっているのだろうか? 例えば発生における細胞系譜など
を考えると、細胞内ダイナミクスのアトラクター関係には組織だった関係性があるように思える。これは、例えば必須の機能を残し
ながらそれに新しい機能(細胞状態)が付け加わる形でしか進化できないなど、様々な制約/拘束のもとに出来た進化的なバイアスのた
めだと考えられる。
このことを見るために、Boolean Network を対象にその妥当性を調べる。
1. まず、この系に対して、そのアトラクター間の関係性を定義する。二つのアトラクター間で、部分空間が同じ軌道を描いている
度合いでアトラクターの近さ、あるいは階層性を定義する。
2. ランダムに生成した Boolean Network が持つアトラクター間の関係性と、いくつかの基準(淘汰圧)で進化させた結果出来る
Boolean Network が持つアトラクター間の関係性を比較する。
見えてきた結果と進化発生におけるいくつかの概念を比較/議論する。
【P1−57】日本メダカの性染色体の解析
近藤真理子(1,2)*、I. Nanda (2)、U. Hornung (2)、佐々木貴史(3)、清水厚志(3)、今井周一郎(3)、浅川修一(3)、
M. Schmid(2)、野中勝(1)、清水信義(3)、M. Schartl (2)
(1)東大院 理 (2)ヴュルツブルク大・バイオセンター (3)慶應大・医
日本メダカは XX-XY の性染色体による性決定を行うことが古くから知られている。我々は、Y 染色体に存在する雄性決定遺伝子は
dmrt1bY であり、これは常染色体の dmrt1a 遺伝子の重複によって生じた遺伝子であることをこれまでの研究で明らかにしてきた。
さらに、同属他種の解析から、この遺伝子はほ乳類の SRY に比べると若い性決定遺伝子であることを明らかにした。
性決定遺伝子を含む性決定領域のゲノムの構造を解明するために、我々は Y 染色体上の 383 kb の領域とそれに対応する X 染色体
の領域 195 kb、および常染色体の dmrt1a を含む 156 kb の塩基配列を BAC クローンから決定し、解析した。Y 染色体特異的領域
は、別の重複した二つの遺伝子の間に位置し、約 260 kb の長さであった。この領域の中にはいくつかの偽遺伝子とともに dmrt1bY
遺伝子が存在するが、この遺伝子だけが機能的であることが示唆された。周辺部の解析からは、性決定領域はヒト4番染色体上に
synteny のある領域に挿入されたものであると考えられた。解析した配列中の繰り返し配列の割合を見ると、Y 染色体に由来する領
域はその他の解析した領域に比べ、明らかに多くの繰り返し配列を含むことがわかった。これらの結果から、メダカの Y 性染色体
は dmrt1 の遺伝子重複・挿入のあと、繰り返し配列の蓄積や遺伝子が破壊されることによって特異化が進行している様相が明らか
になった。一方で性決定領域周辺の遺伝子やゲノムの配列が X、Y 染色体で保存されているため、特異化はまだ初期の段階であり、
非常に若い性染色体であると言える。
【P1−58】霊長類における性染色体分化とカールマン症候群
岩瀬峰代*、颯田葉子、高畑尚之
総研大 先導科学
性染色体は相同組み換えが領域ごとに抑制され常染色体から分化したと考えられている(Lahn et al.1999)。 私たちはヒトX染
色体短腕の約半分の塩基配列と対をなすY染色体上の配列との比較を行い、段階的に(約 0.1%、10%、20%) p-distance が変化して
いることを確認し、10%領域の中に特異的に p-distance が 1∼5%の低い値を示す領域を発見した(Iwase et al.2003)。この低い pdistance は最近まで X 染色体と Y 染色体の組み換えが起きていたことを示唆する。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
この領域には Kallmann syndrome 1 (KAL1:KALX)を含んでおり、その遺伝子の突然変異により嗅覚神経軸索の発達障害と
GnRH 生産性の神経の遊走障害による無臭症と性腺機能低下性によって特徴づけられるカールマン症候群を発症することが知られて
いる。そこで、カールマン症候群の発症と低い p-distance との関連を調べるために霊長類数種の KALX 及び KALY の配列を決定し、
進化学的解析を行った。
その結果、霊長類各々の系統で独立に何度も遺伝子変換が起きていることが明らかになった。また、今回調べた全ての種におい
て Y 染色体上のホモログ(KALY)は偽遺伝子化しており、KALY との組み換えにより KALX の偽遺伝子化が起こり、その結果として
カールマン症候群が発症する可能性が考えられた。
【P1−59】屋久島におけるサンショウソウの形態と倍数性の変異
新田 梢*,矢原 徹一
九大院 理
サンショウソウ Pellionia minima は、西日本に広く分布するイラクサ科の多年生の草本植物であり、種内倍数性が知られている。
屋久島では、島内の広い範囲に分布し、ほとんどの株が雌花しかつけず、無融合生殖型が広く分布していると考えられるが、形態的
な変異が顕著であり、葉のサイズは二型的にみえる。本研究では、この形態的変異が遺伝的変異に基づくかどうかを検討した。染色
体数を調べた結果、三倍体(2n=3x=39)と四倍体(2n=4x=52)がみられた。葉身の長さ・幅について、三倍体と四倍体で葉のサイズに
違いがあった。葉身の長さについて広義の遺伝率(h2)を推定したところ、三倍体では 0.445、四倍体では 0.664 だった。四倍体につ
いては有意差がみられた。少なくとも四倍体には、葉のサイズに関して遺伝的変異があると考えられる。
【P1−60】四肢・ヒレ形成の多様性と位置情報
阿部玄武* 田村宏治
東北院・生命
出来上がった形態の比較だけでなく、その発生過程の比較から見出される知見は、脊椎動物の最終形態の多様性について様々な新し
い考察を可能にしてきた。形態形成のモデルシステムとして古くから研究されてきた四肢発生でも、近年ニワトリやマウスなどのモ
デル動物での詳細な記述にさまざまな動物種での解析が加わって、その共通メカニズムの理解から多様性の理解へも発展しつつある。
本発表では、四肢の形成位置と形態に注目しながらその共通性と多様性について研究した。
四肢の原基である肢芽は胚の体側に前後二対の突起として形成されるが、その前後軸上の位置情報は Hox 遺伝子の組み合わせによ
って規定されていると考えられている。一方で胚操作実験から得られた知見などから、本来肢芽が形成されないわき腹領域にも肢芽
形成能があることが知られている。我々はこのような応答能をさらに、鳥類胚や哺乳類胚、爬虫類胚、魚類胚における背中正中線上
に見出した。この応答能の前側境界は Hox コードとの明確な相関は認められないが、前肢が形成される位置に相関が見られた。こ
れらのことは脊椎動物胚の背中正中線上に付属器官を形成する潜在的な能力があること、魚類の正中鰭の位置やサイズの多様性はこ
の領域の中で決まることを示唆している。さらに、同様のことが付属器官形成能力を持つもう一方の領域であるわき腹にも当てはま
るか、対鰭の形態が大きく異なるガンギエイとトラザメの胚発生を比較することで検討している。
【P1−61】ショウジョウバエ卵殻形態の収斂進化における発生機構の多様化に関する研究
影沢達夫*,中村征史,松野健治
東京理科大・基礎工
異なった系統群に属する種であるにも関わらず、類似の進化をとげた場合、それらの種は収斂進化したといわれる。収斂進化と
は、別系統の種が同じような生態的地位を占め、共通の環境に適応することで、同様の自然淘汰が働いため起こると考えられている。
しかし、収斂進化が、ゲノム情報のどのような変化にもとづいて起こるかは、ほとんど理解されていない。
ショウジョウバエの卵殻には、空気を供給する卵殻突起がある。種固有の卵殻突起数は、進化上きわめて多様である。シマショウ
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ジョウバエ亜属(キイロショウジョウバエなど)の種は2本、ショウジョウバエ亜属(クロショウジョウバエなど)の種は2本また
は4本の卵殻突起を持つ。卵殻突起は、EGFR シグナルが活性化された濾胞から形成される。
我々は、卵殻突起の本数と位置が、濾胞細胞において EGFR シグナルが活性化された領域の数と位置に対応することを明らかに
している。一方、卵殻突起数と系統関係の関連を調べたところ、祖先型の4本型から、2本型への進化が独立して複数回起こってい
ることがわかった。我々は、これが収斂進化の結果であると考えた。そこで、独立して2本型に進化した種の濾胞細胞における EGFR
シグナルの活性化パターンを比較した。その結果、独立に起こったと考えられる4本型から2本型への進化は、そのつど異なった発
生メカニズムの多様化に起因していると考えられた。
【P1−62】脊椎動物におけるHoxクラスタの上流配列のモチーフプロファイルによる進化解析
金子佳之*, 荻島創一, 田中博
東京医科歯科大院・システム情報生物学/生命情報学
後生動物の初期胚発生において前後軸を決定するHoxクラスタは、無脊椎動物では1クラスタからなるが、哺乳動物ではHoxA-D
の4クラスタに拡張しており、これは単純なゲノム重複が2回起きたためと考えられてきた。ところが、すべてのクラスタで同定さ
れているHox4, 9, 13について、そのコード領域の進化系統樹が示す系統関係には矛盾がある。すなわち、4クラスタへの拡張が単
なる2回のゲノム重複では説明できない。そこで我々は、非コード領域を用いてHoxクラスタの進化過程を解析した。具体的には、
ヒト、チンパンジー、マウス、ラット、イヌの5種の脊椎動物の、Hox4(HoxA4-D4)遺伝子の上流300bpの非コード領域の配列につ
いて、モチーフ発見プログラムMEMEにより網羅的に26個のモチーフ(平均34.4bp)を同定し、そのモチーフプロファイルを解析
した。その結果、HoxA4/D4、HoxB4/C4がクラスタを構成することを示唆するモチーフが4個発見され、これはコード領域の進化
系統樹の結果と合致した。また、HoxA、HoxBにのみ存在するモチーフが1個ずつ発見された。一方で、HoxB-Dに存在するモチー
フが2個同定された。本発表では、Hox9, Hox13をはじめとした全てのHox遺伝子の解析から得られた結果、その統計的信頼性の考
察、さらにHoxクラスタの拡張過程の考察を報告する。
【P1−63】形態形成にみる表現型遺伝型対応の進化モデル
藤本仰一(1)(2)*,石原秀至(1),金子邦彦(1)(2)
(1)東大院総合文化
(2)ERATO 複雑系生命
遺伝型と表現型の対応は進化を通じて形成され、複雑な表現型をうみだす。動物のボディプランに注目し、遺伝型(遺伝子ネットワ
ーク構造)と表現型(遺伝子発現の空間パタン)の対応の進化を理論的に考察しうる数理モデルを導入する。
パタン形成機構は大きくわけて2つある。1つめは、feed-back loop による Hopf 分岐を介した時空間振動の形成であり、脊椎動物
や短胚型昆虫の体節形成へ関与が示唆されている。
2つめは、正負の発現調節の組合せによる Feed-Forward Loop(FFL)機構である。1 つの FFL から1本のストライプ発現パタンを形
成し、多数の FFL の絡みあいは多数のストライプを形成しうる。長胚型昆虫の体節形成へ関与が示唆されている。
前者が生成するストライプは特徴的な波長を持つが数の制御が困難であり、一方、後者はストライプの数がネットワークトポロジー
に埋め込まれ、数をきっちり決められる。
遺伝型に突然変異を導入し、ある fitness の下で表現型を選択する。これを進化の一世代として繰り返す。この進化モデルに現われ
る以下の現象を報告する。
(1)発現パタンのストライプの数や突然変異率に応じて、どちらの機構が優勢になるか。
(2)ショウジョウバエ等にみられる発現パタンの空間階層性を生みだす仕掛が後者の機構に必須であること、及び、その仕掛は pairrule mutant の発現パタンを再現できること。
(3)遺伝的多様性に対する表現型の頑健性が、与えた fitness よりずっと強い拘束をともなって現れること。
(4)発生(パタン形成)過程の過渡状態でのみ現れる表現型の可塑性。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P1−64】体表模様の基本的デザインは変化しにくい?:分子系統解析によって明らかとなったテンジ
クダイ属魚類における体表模様の進化パターン
馬渕浩司(1)*,奥田 昇(2),西田 睦(1)
(1) 東大海洋研
(2) 京大生態研
テンジクダイ属魚類は、熱帯から温帯の浅海域に生息する小型の魚類である。ほとんどの種が、それぞれに特徴的な縦縞あるいは横
縞の体表模様を持っており、模様の進化を考える上で大変興味深いグループであるが、170 種以上を含む本属の種間の系統関係につ
いては、骨学的特徴に基づいて 10 の亜属が認識されているのみで、その大枠さえ未解明のままであった。そこで本研究では、本属
における体表模様の進化パターンを明らかにするため、ミトコンドリア DNA にもとづき種間の分子系統解析を行った。本属の約 70%
の種(約 120 種)は、Ostorhinchus という一つの亜属に分類されている。本研究では、この大きな亜属に分類される 32 種の他に、4
亜属 11 種を解析に含めた。12S rRNA 遺伝子から 16S rRNA 遺伝子にかけての約 1500 塩基に基づいて系統解析を行ったところ、
Ostorhinchus 以外の 4 亜属はそれぞれ単系統群を形成する一方で、Ostorhinchus は、単系統でない 3 つのクレードに分かれた。
このうちの 2 つは、それぞれ縦縞、横縞の体表模様を持つ種のみを含むクレード(それぞれ 20 種と 10 種)となり、縦縞、横縞といっ
た基本的デザインは、それぞれのクレード内で歴史的に保持されていることが判明した。一般的な分子時計を適用すると、基本的デ
ザインは 2 千万年以上にわたって保持されているという結果となった。
【P1−65】日本産カワヤツメ(Lethenteron japonicum)のHox遺伝子の単離と発現パターンの解析;脊
椎動物におけるHoxコードはいかにして進化したか
瀧尾 陽子(1), Massimo Pasqualetti(2), 工樂 樹洋(1), Fillipo Rijli(3), 倉谷 滋(1)
(1)理研CDB (2)Universita di Pasa, Italy (3)Institute of Genetics and Molecular and Cellular Biology
Hox遺伝子は前後軸に沿ったボディープランを決定するマスターコントロール遺伝子であり多くの後生動物に保存されている。この
遺伝子は1つの染色体上に数個並んで存在し、その染色体上の並び順に動物の前方から後方へ入れ子式の発現をすることにより形態
を決定する。またこの発現パターンをHoxコードと言う。特に脊椎動物の頭部では咽頭弓(PA)に対応した発現パターンが解析さ
れており、頭部形態の成立と進化の理解の礎となっている。ところでアゴを持つ脊椎動物、すなわち顎口類では最も前端の咽頭弓
(PA1)にHox遺伝子は発現せず、その領域にアゴが形成される。ではアゴをもたない脊椎動物すなわちヤツメウナギのPA1はどの
ように特異化されるのだろうか。この動物における咽頭弓のHoxコードはどのようなパターンだろうか。そこで我々は日本産カワヤ
ツメ(Lethenteron japonicum)を用いてHox遺伝子(LjHox)を12個単離し、発現パターンを調べるためin situハイブリダイゼー
ションを行った。その結果LjHox遺伝子はPA1に発現せずLjHox2, LjHox3dは顎口類に見られるのと同様の発現パターンだった。こ
れらの結果よりアゴの成立に係わらずヤツメウナギと顎口類の分岐前にPA1, 2のHoxコードは成立していたと考えられる。また他の
LjHox遺伝子の発現パターンについて解析結果を報告する。
【P1−66】棘皮動物における幼生骨片の進化
松原未央子(1)*,赤坂甲治(2)*,小松美英子(3)*,和田洋(4)*
(1)京大院 理
(2)東大院 理 (3)富山・理
(4)筑波大院 生命環境
棘皮動物の成体は共通して骨片をもつが、幼生期ではヒトデ幼生のみ骨片を形成しない。幼生が骨片を形成するウニでは、Ets と Alx
遺伝子が転写因子として幼生骨片形成に関与し、骨を形成する一次間充織細胞で発現することが報告されている。また、ウニでは幼
生と成体の骨形成では共通の骨片マトリックスタンパクがはたらいている。
本研究では、Ets と Alx がどのように幼生の骨形成に関与してきたのか、そして棘皮動物の幼生の骨がどのように進化してきたのか
を解明するために、幼生が骨を形成しないヒトデ胚と骨を形成するクモヒトデ胚において Ets と Alx の発現を調べた。Ets の発現は、
ヒトデ胚およびクモヒトデ胚のどちらにおいても間充織細胞と胞胚腔内に陥入した原腸で確認された。一方、 Alx はクモヒトデ胚に
おいて、ウニ胚と同様に間充織細胞のみで発現していたが、ヒトデ胚では原腸先端の細胞と第三体腔嚢で発現していた。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
以上の結果から、幼生骨片の有無に関わらず、棘皮動物において Ets と Alx が幼生の中胚葉性細胞の分化に関与していることが示唆
された。棘皮動物の幼生骨片は、幼生の中胚葉の分化に関与している転写因子の下流に成体の骨片マトリックスタンパクが異時的に
発現することによって獲得されたことが推測された。
【P1−67】遺伝子発現制御機構の保存性から見たヒトの眼の進化
小倉淳 (1,2) *, Choy KW (3), Wang CC (3), 池尾一穂 (4), Pang CP (3), 五條堀孝 (4)
(1)東北大院・生命科学 (2)Organismic and Evolutionary Biology, Harvard Univ. (3)Ophthalmology and Visual Sciences (4)国立遺伝学
研究所・
生命情報・DDBJ研究センター
ヒトのカメラ眼は高度に発達した器官で、その進化過程はDarwinの時代より議論の対象となってきた。近年、眼の発生に関わるマ
スターコントロール遺伝子(Pax6)とそれに続く遺伝子ネットワークが解明され、さまざまな動物の眼における遺伝子発現情報も明ら
かになってきている。次の目標は、ヒトの眼における遺伝子発現制御機構の全容とその進化過程の解明だと考えられる。そこで、わ
れわれは、ヒトの胎児の眼のEST配列を15,809本決定することによって、眼の発生に関わる遺伝子の同定を行い、それらの遺伝子発
現制御機構の進化過程を解析した。その結果、カメラ眼を持たない無脊椎動物などでの遺伝子の保存性は多くて30%であるのに対
し、カメラ眼が脊椎動物において確立した魚類で68%の遺伝子が保存されていることをわかった。また、遺伝子発現制御機構のひ
とつであるmicroRNAに注目したところ、ヒトの遺伝子全般では約20%がmicroRNAによる遺伝子制御を受けているのに対し、ヒト
の眼で発現している遺伝子では約30%がmicroRNAに制御を受けている可能性があり、これらの眼の遺伝子は魚類以降で保存性が高
いことを見出した。このことは、microRNAがカメラ眼の進化過程の初期段階から寄与していた可能性を示唆する。ポスター発表に
おいては上記解析を報告するとともに、眼の進化過程に関する考察を発表する。
【P1−68】アブラムシにおける翅多型の発生制御機構
本郷紗希子(1)*,石川麻乃(2),嶋田正和(1),松本忠夫(3),三浦徹(2)
(1)東大・総合文化 (2)北大・地球環境 (3)放送大
環境に応じて表現型を不連続に切り替える現象を表現型多型といい,昆虫類で多く知られている.アブラムシに見られる多型は,
同一の遺伝子型をもつ個体が環境条件や季節によって様々な表現型示す表現型多型の代表例であるが,詳細な発生機構については信
頼に足るデータは得られていない.一方で,アブラムシは胎生単為生殖による旺盛な増殖力を示し,遺伝的に均一な集団を容易に飼
育できるため,好適な実験材料である.
本研究では,有翅/無翅型の発現機構解明の基礎を築くため,エンドウヒゲナガアブラムシ Acyrthosiphon pisum とソラマメヒ
ゲナガアブラムシ Megoura crassicauda の2種のアブラムシにおいて翅多型の誘導系を確立し,翅型による発生過程を組織形態学
的に詳細に整理した.今回の飼育実験では,密度条件の調節や幼若ホルモン阻害剤の投与により,ある程度の翅型誘導が可能となっ
た.また,高密度による有翅型の誘導決定の時期は,2種のアブラムシ間で異なることが示された.
さらに,密度条件により誘導した個体の胸部の,走査電顕および組織切片の観察により,有翅3齢幼虫期には翅芽が明確に出現し,
翅及び飛翔筋の発生が進むが,これ以前に翅型依存の発生機構が発動することが示唆された.本研究ではこれらのデータをベースと
した分子機構解明にも着手しており,翅多型の発生機構と進化過程の解明のための手がかりとしたい.
【P1−69】DDC モデルの予測に基づく重複遺伝子の発現パターンの検討
佐藤行人(1)*, 西田睦(2)
東大・海洋研
重複直後の遺伝子が偽遺伝子化せずに維持される機構として,調節領域の相補的な欠失が重要な役割を果たすという DDC モデル
(duplication-degeneration-complementation model)が提起された.これは,重複した遺伝子が祖先遺伝子の発現パターン(発
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
現組織や発現時期など)を分割・シェアすることによって,両方とも不可欠な遺伝子として維持されるというモデルである.この考
え方に従うと,例えばある単系統の生物群が,機能は似ているが発現組織の異なる重複遺伝子(例えば酵素などの組織特異的アイソ
フォーム)を共通して持っている場合,そのなかのどの系統をみても重複遺伝子の発現パターンは相互にはっきりと異なっているは
ずであり,「はっきりしない」中間段階の様相を示す系統はないはずだと予測される.そこで我々は,硬骨魚類(条鰭類)に着目し
て「原始的」な系統から「派生的」な系統まで広くカバーしたタクソンサンプリングを行い,それらについて,魚類特異的な重複遺
伝子である PGI(グルコース 6‐リン酸異性化酵素:E.C. 5.3.1.9)の発現パターンを RT-PCR により検討している.この結果に基
づいて,上述の DDC モデルに基づく重複遺伝子の発現パターンについての予測が,支持されるか否かを報告する.
【P1−70】哺乳類の進化の初期にゲノムから二次的に失われた発生関連遺伝子
工樂 樹洋*、薄田 亮、倉谷 滋
理研 CDB
遺伝子が「ない」ことを示すのに、完全ゲノム配列は必須である。我々は、カメ類に属するニホンスッポンから、他の羊膜類におい
て報告のない新規 Wnt サブタイプ遺伝子を同定し、Wnt11b と名付けた。分子系統解析により、この遺伝子は、ゼブラフィッシュ
の wnt11(silberblick)とアフリカツメガエルの Xwnt11 のオーソログであることが示された。また、これまでに配列の報告のなかっ
たニワトリにおいても、そのオーソログがゲノム中に存在し、mRNA として発現していることを確認した。このように、Wnt11b
サブタイプの遺伝子は、硬骨魚類・両生類・鳥類・爬虫類のゲノム中には存在するのだが、ヒト・マウス・ラット・イヌなどゲノム
配列情報の豊富な哺乳類のゲノム配列中には見つからず、これらの哺乳類の共通祖先より以前の段階でゲノムから失われたと推測さ
れる。さらに、ニワトリ Wnt11b の発現パターンを解析した結果、実は、この Wnt11b 遺伝子をゲノム中に保持している生物間で
も、それらの発現パターンは大きく異なっており、もともと弱い制約下にある遺伝子であった可能性が示唆された。同様に、哺乳類
の進化のおそらく初期にゲノムから二次的に失われた遺伝子を insilico 解析によって複数同定したので、そのうち、特に発生に関連
するものに焦点を絞り報告する。
【P1−71】二枚貝類の蝶番の起源とhedgehogシグナルとの関係について
栫 昭太(1)* , 和田 洋(2)
(1)京都大院 理
(2)筑波大 生命環境科学
軟体動物は多様な殻形態が特徴的な動物群であり、殻形態多様化の背景にある発生機構の進化を明らかにすることは進化生物学上重
要な課題である。本研究では、特に二枚貝類の起源に着目している。二枚貝類はその進化過程において、単板類様の一枚の殻板を持
つ祖先から、蝶番により背側中央が左右に分割されることによって二枚の殻へと進化したと考えられている。二枚貝類への進化の背
景を明らかにする上で、蝶番形成機構の起源を明らかにすることが必要である。そこで、腹足類のベリジャー幼生における腹側中央
線が二枚貝類の蝶番の起源であるかどうか検証するため、腹足類の腹側中央線に発現しているhedgehog遺伝子の発現解析を二枚貝
類であるケガキ胚において行った。その結果、蝶番が出現する直前に蝶番の後端部分にのみ発現が見られた。その後蝶番の出現と同
時に、蝶番の前端と後端部分にのみ発現が見られた。以上の結果から、Hedgehogシグナルが蝶番形成において何らかの役割を果た
していることが示唆された。さらにHedgehogシグナルの蝶番形成における役割を理解する上で、Hedgehogシグナルの機能阻害実
験を進めている。また、腹足類の腹側中央線に類似した発現パターンが見られなかったことから、腹側中央線と蝶番との相同性につ
いては不明であるが、腹側中央線の系譜に発現するbrachyuryの発現解析により検証を行うこととする。
【P1−72】哺乳類ゲノム中の遺伝子クラスタの進化における遺伝子変換の役割
原雄一郎*, 小柳香奈子, 渡邉日出海
北大院・情報科学
脊椎動物のゲノム中には、相同遺伝子が局所的に多数重複して形成された遺伝子クラスタが数多く存在し、例えばヒトゲノム中には
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
約1,100クラスタ(約 3,300遺伝子)存在する。これらの遺伝子クラスタの多くは、様々な系統間でその構造が保存されている。そ
の一方で、このような遺伝子クラスタの構成遺伝子における分子系統解析によると、種分岐よりもはるか後に重複したように見える
ものが、構成遺伝子の大きな割合を占めている。このような、一見相矛盾するように見える進化的特徴を持つ遺伝子クラスタの進化
機構として、遺伝子変換や不等交叉による協調進化と、遺伝子重複と欠失の繰り返しによる”birth -and-death”という2つのモデル
が考えられている。だが、どちらがクラスタ構成遺伝子の進化の主要な力であるかは、未だ解明されていない。そこで、遺伝子変換
が遺伝子クラスタの進化において主要な役割を担っているかを、ヒトゲノムおよびマウスゲノムのデータを分子進化学的手法を用い
て解析し、クラスターの構成遺伝子間に起きた遺伝子変換を検出することによって調べた。その結果、系統特異的に重複した遺伝子
を持つクラスタのほとんどにおいて、遺伝子変換の明らかな証拠が見つかった。さらに、いくつかのクラスタにおいては、ヒトとマ
ウスの種分岐以前に起きた遺伝子変換も見つかった。このことから、遺伝子変換がクラスタ構成遺伝子の均一化に多大な役割を果た
し、いくつかのクラスタにおいては、構成遺伝子の均一化がヒトとマウスの種分岐以前から続けられてきたことが強く示唆される。
【P1−73】遺伝子-代謝相互作用ネットワークの進化
星野 英一_
東京大院 総合文化
【P1−74】変動する選択下で遺伝子重複により遺伝子ネットワークが成長する
津田真樹*, 河田雅圭
東北大院・生命科学
表現型の下にある遺伝子ネットワークの構造は表現型レベルにかかる選択によってどのような影響を受けるのだろうか。これは
遺伝子ネットワークの構造がどのような選択のもとで進化したのかを知る上で重要な問題である。遺伝子ネットワークの構造の進化
においては、相互作用の獲得や喪失、遺伝子重複、遺伝子欠失などが重要であるが、特に遺伝子重複は我々の持つ遺伝子の多くが重
複由来であることなどから注目を集めてきた。しかし、遺伝子ネットワークの進化において、重複遺伝子がどのような利点をその保
持者にもたらすのか、また、どのような条件下で重複遺伝子が集団中に保持されるのは明らかではない。
本研究では、表現型遺伝子の発現を制御する転写制御ネットワークを組込んだ一般的な表現型の進化モデルを用いて、集団を安定
化選択および、世代毎に適応度のピークの位置が変動するような選択下(変動選択)で進化させた。
その結果、遺伝子重複が起きない場合は、安定化選択および変動選択の間で同様にネットワークが縮小し、進化の結果生じるネッ
トワークの構造に差がみられなかった。しかし、遺伝子重複がある場合には、安定化選択では遺伝子ネットワークが縮小するが、変
動選択では重複遺伝子が集団中に保持・増加することでネットワークが成長するような進化が起きた。このことから、選択の方向が
常に変動するような環境では、複雑なネットワークを持つ個体が有利であり、そのため重複遺伝子が集団に固定したものと考えられ
る。
【P1−75】タンパク質間相互作用ネットワークの進化のモジュラー性と階層性
荻島創一(1) *, 中川草(1), 長谷武志(1), 鈴木泰博(2), 田中博(1)
(1)東京医科歯科大院・システム情報生物学/生命情報学 (2)名古屋大院・複雑系科学
我々はY2Hなどによる網羅的なタンパク質間相互作用ネットワーク(protein interaction network: PIN)の進化的な解析を進めている。
前回大会で、酵母のPINでは、構成するタンパク質の系統プロファイルから、高い次数をもつハブのタンパク質が進化的に新しいこ
と、また、複合体は進化的に同時期に出現したタンパク質で構成される顕著な傾向があることを示した。今回、我々は、多重遺伝子
族についても解析し、これらが進化的に同時期に出現したタンパク質で構成される顕著な傾向があることがわかった。また、遺伝子
発現プロファイルから、同時期に発現する遺伝子がコードするタンパク質が進化的に同時期に出現し、クラスターを構成する傾向が
あることがわかった。これらの結果は、PINが複合体や多重遺伝子族などの機能単位で、モジュラーに、階層的入れ子構造をとって
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
進化してきたことを示唆している。我々は、また、構成するタンパク質の進化速度から、これらの進化速度と結合次数は有意な相関
がないことがわかった。この進化速度とモジュラー性との関係の考察、線虫とショウジョウバエのPINについて酵母のPINと同様の
進化解析をおこなった結果も報告する。我々は、これらのタンパク質間相互作用ネットワークの進化解析を通じて、生物進化をネッ
トワーク(システム)として捉えることを目指している。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
ポスター発表要旨 8月28日
【P2−1】アンモノイドのアロメトリー特性に由来する形質連関
生形貴男
静岡大 理
Raup(1967)以来今日に至るまで,アンモノイドの形態的多様性の形態空間解析は,古生物学におけるポピュラーなテーマであり,
アンモノイドの適応や系統的制約に関する様々な議論を生み出してきた.一方,それらの研究では,等成長の表現に特化したRaup
モデルに基づくが故に,それが苦手とする個体発生変化は無視されてきた.本研究では,アンモノイドの不等成長を表す新たな理論
形態モデルに基づき,アンモノイドの成長特性からその形態空間占有パターンを再考した.本理論形態モデルでは,アンモノイドの
殻の縦断面を,螺管の周囲長の拡大率と,背面螺管が前の螺管を被覆する割合,螺管の周囲長に対する螺管断面積のアロメトリー係
数の三つの媒介変数で表す.螺管断面の縦横比は前述の三つのパラメターによって従属的に決まる.このモデルに基づいてアンモノ
イドの不等成長をシミュレートして実際の標本の計測値と比較した結果,螺管の断面積は周囲長に対して概して等成長に近く,その
ことが螺管の断面形状と巻き方との関係にある種の制約を生じさせているらしいという結論を得た.例えば,古生代のゴニアタイト
類や三畳紀のセラタイト類の一部に見られるような,螺管が太いという特徴と,巻きがきつくて臍が狭いという特徴は,いずれも共
通のアロメトリー特性,すなわち螺管周囲長の劣成長または螺管被覆部の優成長に起因する形質連関として解釈できる.
【P2−2】エナガの亜種にみられる形態的変異
新鞍 彩子
京都大・理
エナガ Aegithalos caudatus は旧北区に広く分布するスズメ目エナガ科の小鳥で、東アジアでは地域により 6 亜種に分けられてい
る。演者は亜種の実体を明らかにすることを目的にこの種内の変異を調査し、現在までに国内の 14 研究機関に所蔵されている標本
6 亜種 326 個体の形態計測を行い、形態的な地理的変異を調べた。今回の分析は、北海道、サハリン、北方四島に分布する亜種シマ
エナガ A. c. japonicus と、朝鮮半島北部、沿海州からヨーロッパまで広く分布する亜種コウライシマエナガ A. c.caudatus に焦点
を絞った。この2種は他の東アジアに生息する亜種に比べ全体的に白っぽく尾が長いことで区別され、亜種シマエナガの尾がわずか
に短いことでこの2種は識別される。6亜種について、外部計測値8箇所を用いた正準判別分析を行ったところ、亜種シマエナガの
第1軸での変異幅が非常に広かった。そこでこの亜種群の2亜種を、個体数の多い雄について地域ごとに分けて分析したところ、北
海道の札幌近郊の集団だけがこの第1軸で特に大きな変異幅を持つことが明らかとなった。これ以外の集団は第1軸の値が小さい。
コウライシマエナガの地域集団は第2軸での違いが見られたが、異なる亜種とされる韓国と北方四島の集団がほぼ重なった。このよ
うな形態変異が何を意味するかについては、今後遺伝的な変異を調べることによって明らかにしていきたい。
【P2−3】後期白亜紀アンモナイト類の殻体構築構造の多様性とその分類学的意義
瀬戸雅浩*, 棚部一成
東大院・理
アンモナイト類(軟体動物頭足類)の殻は一般的に前の螺環を覆うように付加成長し,個体発生に伴う殻体構造の変化を観察す
る上で適した材料である.その殻体は基本的に外側から内側に向かって稜柱層・真珠層・稜柱層の3層構造からなる.ある成長段階
の螺環と前の螺環との接合部の構造は,殻体の形成プロセスや殻体強度を知る上で重要であると考えられる.そこで,本研究では後
期白亜紀アンモナイトの多くの分類群について,この部分の殻体構造を SEM によって観察し,相互に比較検討した.
観 察 の 結 果 , ア ン モ ナ イ ト 亜 目 デ ス モ セ ラ ス 上 科 ( 例 え ば Damesites damesi) と フ ィ ロ セ ラ ス 亜 目 フ ィ ロ セ ラ ス 上 科
(Hypophylloceras ,Phyllopachyceras)では,外側稜柱層・真珠層が順に背側に向かって漸移的に消失していく特徴を共有している
こ と がわ か っ た . また , リ ト セ ラス 亜 目 テ ト ラゴ ニ テ ス 上科 の テ ト ラ ゴニ テ ス 科 (Tetragonites spp.) と ゴ ー ド リ セラ ス 科
(Gaudryceras spp.)の成長中期の殻は,ともに真珠層が外側に膨らみを持つ特徴があることがわかった.
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
本研究の結果,これまで研究されてきた初期殻体構築構造と同様,螺環接合部の構造も高次分類群間で大きな違いがあることが明
らかになった.
【P2−4】マウス亜種系統間における下顎骨形態差の遺伝的解析
細谷理樹(1)*,中野紗綾子(2),土屋公幸(2),三田旻彦(1),城石俊彦(1)
(1)遺伝研・哺乳動物遺伝
(2)東京農大・農
下顎骨の形態は、種や亜種の特定・分類を行う指標として広く用いられている。しかし、その形態差を規定している遺伝情報の
差がどのようなものであるかについては、いまだに不明な点が多い。
本研究室では、これまでにアジア産野生マウス亜種より多数の近交系統を樹立してきた。日本産野生マウス由来の MSM 系統(Mus
musuculus mollosinus)を含むこれらアジア産亜種由来の近交系統とヨーロッパ産亜種由来の実験用マウス C57BL/6J 系統(B6 系
統、Mus musuculus domesticus)の下顎骨形態について、特徴点間の距離計測、および輪郭形状の楕円フーリエ解析を行った結果、
亜種間の差を数値モデル化することが出来た。
この数値モデルを指標として、下顎骨形態の差を規定している具体的な遺伝子座を特定するために、B6 系統と MSM 系統の間で
F2 世代を作成し、Quantitative Trait Loci (QTL) 解析によるマッピングを行ったので、その結果について報告する。
【P2−5】グッピー種内における色覚多様性の分子基盤
笠木聡*・河村正二(1)、正路章子(2)、河田雅圭(3)
(1)東京大院・新領域 (2)三井情報開発 (3) 東北大院・生命科学
グッピーは典型的な性的二型を示しオスの体色はカラフルで個体差が大きくメスによる配偶者選択の指標と考えられている。配偶
者選択には個体差がありその為にオスの体色個体差が維持されていると考えられている。顕微分光法による先行研究でグッピーの赤∼
緑感受性視細胞に最大吸収波長(λmax)の多型が発見された。このことからグッピーの色覚には多様性がありメスによる色覚の個体差
が選択に関与していることが推測された。これらの結果を裏付ける遺伝子の実体は未同定であったことから、我々はグッピー全視物質
遺伝子の単離・同定と解析を行った。野生オス個体から作製したゲノムライブラリーから一般の硬骨魚類に存在する 5 タイプ全ての視
物質遺伝子を同定した。その結果赤型(LWS)遺伝子が 5 座位と多く、血縁関係の判明している家系群を解析した結果 5 座位のうち 2 座
位に 5 種類の顕著な RFLP が確認された。その他の視物質遺伝子には 2 種類程度の RFLP しか観察されず、培養細胞系を用いた視物質
再構成実験においてもλmax の違いはなかった。これらのことから多型的な LWS が赤緑色覚多様性を担うものと期待されるがこれら
の遺伝子の視物質再構成は成功しておらず、また吸光度に関係することが既知のアミノ酸置換のパターンからも顕著な吸光度多型を説
明することができない。よって吸光度との関係がこれまで未知のアミノ酸置換がグッピーの LWS 遺伝子にあると考えた。
【P2−6】ハエトリグモオプシンから探る節足動物の色覚の進化
小柳光正(1)*, 永田崇(1), 山下茂樹(2), 徳永史生(1)
(1)阪大院 理
(2)九大・芸術工
脊椎動物と同様、節足動物にも色覚を持つ種が存在する。特に昆虫の色覚については分子レベルの研究も進んでおり、吸収波長域の
異なる複数の光受容蛋白質(オプシン)が色覚の中心的な役割を担っていることが明らかとなっている。しかしながら、昆虫以外の
節足動物のオプシンに関する情報が乏しいために、これら節足動物の色覚に関わるオプシン群がいつ進化したのか不明であった。今
回我々は、節足動物の系統における色覚進化のシナリオを明らかにする目的で、節足動物門内で昆虫類から最も遠いグループの一つ
であるクモ類の中で、特に優れた色覚を持つことから複数種類のオプシンの存在が予想されるハエトリグモからオプシンの単離を試
みた。その結果、ハエトリグモから4種類のオプシン遺伝子の単離に成功した。ハエトリグモのオプシンを含めて行ったオプシン遺
伝子族の分子系統解析の結果、昆虫類とクモ類の共通祖先の段階で少なくとも2種類のオプシンが存在し、昆虫類、クモ類へと分岐
した後、それぞれの系統でさらにレパートリーを増やしたことが示唆された。さらに本発表では、オプシンの吸収波長制御に関わる
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
アミノ酸残基の比較から、共通祖先が持っていた2種類のオプシンの吸収波長についても議論する。
【P2−7】脊椎動物における苦味受容体遺伝子ファミリーの進化
郷 康広
総研大・先導科学
五感(視・嗅・味・聴・触)は、生物が生存し繁殖するために必須な外部環境応答感覚である。それゆえに、それら感覚器官をどの
ように発達(退縮)させるかは、その生物が棲息している環境に強く依存し、環境が変化した場合には、まわりとの関係性に応じて
ゲノムを変化させる必要がある。苦味受容体遺伝子(以下、T2R 遺伝子)は、GPCR に属する多重遺伝子ファミリーを形成してい
る。先行研究より、機能 T2R 遺伝子はヒトゲノムにおいて 25 個、マウスゲノムでは 34 個存在するが、ニワトリゲノムにはたった
3個しか存在しない事が判明し、哺乳類の段階で急速な遺伝子ファミリーの拡大が起こったと推測された。この推測を検証するため
に、イヌ・ウシ・オポッサム・アフリカツメガエル・ゼブラフィッシュ・フグにおける T2R 遺伝子の遺伝子構成を明らかにした。
その結果、それぞれ 15 個(イヌ)
、18 個(ウシ)
、26 個(オポッサム)
、49 個(アフリカツメガエル)
、4 個(ゼブラフィッシュ)
、
3 個(フグ)の機能遺伝子を発見した。さらに、詳細な解析した結果、哺乳類の T2R 遺伝子は、両生類との分岐以降、鳥類/は虫
類との分岐以前に1度目の、そして、哺乳類の適応放散後に2度目の遺伝子ファミリーの拡大が起こった事が明らかになった。逆に、
鳥類の系統においては、1度目の拡大の後、哺乳類との分岐後に、急速な遺伝子ファミリーの退縮が起こった事が示唆された。本発
表では、その理由に関して考察したい。
【P2−8】オプシン関連遺伝子群の発現に基づくナメクジウオ光受容器の characterization
佐藤剛毅(1)(2)*、小柳光正(3)(4)、窪川かおる(5)、岩部直之(3)、白山義久(1)、和田洋(2)
(1)京都大 フィールド科学教育研究センター
(2)筑波大院 生命環境科学
(3)京都大院 理
(4)大阪大院 理
(5)東京大 海洋研究所
ナメクジウオ類(脊索動物門頭索動物亜門)の神経管には Frontal eye, Lamellar organ, Joseph cell, Hesse’s cup eye という 4
種の光受容器が存在することが知られている。ナメクジウオ類はプランクトン性の幼生から変態を経て潜孔生活を営む成体へとその
生活スタイルを変更するが、幼生の段階から光刺激に反応して水柱内を垂直移動することが知られており、各光受容器の発生及び機
能と生活環との関連は非常に興味深い。現在までのところ、ナメクジウオ(B.belcheri)では7種類のオプシン関連遺伝子群が同定さ
れている。 本発表では、In situ ハイブリダイゼーション法によるオプシン関連遺伝子群の発現解析と広く後生動物の光受容器の
発生に関わる Pax6-Six-Eya-Dach 転写調節カセットとの関連に基づいて 4 種の光受容器を主に発生学的側面から characterize した
結果を報告する。
【P2−9】タンガニイカ湖産シクリッド、キプリクロミニ族の生息環境の違いと光受容体の進化
長井 はるか(1)*、菅原 亨(1)、堀 道雄(2)、岡田 典弘(1, 3)
(1)東工大・生命理工 (2)京大院・理 (3) 基生研・種形成
水中の光環境は、濁り・明るさ・色など多様性に富んでおり、生物の視覚はその多様な光環境に合わせて適応的に進化してきたと考
えられる。東アフリカのタンガニイカ湖には、約250種の湖に固有なシクリッドが生息している。この湖のシクリッドにおいて、
光受容体蛋白質のひとつRH1蛋白質の292番目のアミノ酸残基がアラニンからセリンへ置換する(A292S)ことと、湖の深
層の光環境へ適応することとの相関が過去の研究で報告されている。本研究では、タンガニイカ湖に生息する族のなかでは、比較的
幅広い生息域を持つ、キプリクロミニ族のRH1遺伝子に注目し、その適応放散における種間の光受容体蛋白質の性質の変化と、光
環境への適応との関係を明らかにすることを目的に研究を進めた。キプリクロミニ族に属する6種、55個体のRH1遺伝子の配列
を決定し、比較解析した。その結果、この族では、湖の深層へ適応し、A292Sを持つ共通祖先から種分化が起こったと想定され
た。また、浅瀬に生息する種のなかには、異なる系統でS292Aに置換が独立に起こっている種があり、これは浅瀬への適応の結
果であると考えられた。キプリクロミニ族内のロドプシンの波長感受性シフトによる光環境への適応は、過去の研究で見られた進化
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
とは逆の道筋を経たことが予測され、異なる光環境への適応には、RH1蛋白質の292番目のアミノ酸置換が重要な役割を果たし
ていると示唆された。
【P2−10】シクリッドの光環境への適応と集団の形成における色覚分子の役割
寺井 洋平(1)*、Ole Seehausen(2)、佐々木 剛(4)、今井 啓雄(3)、菅原 亨(1)、佐藤 哲(1)、高橋 一彦(4)、
溝入 信治(4)、渡邊 正勝(1)、Hillary D. J. Mrosso(5)、舘田 英典(6)、七田 芳則(3)、岡田 典弘(1, 4)
(1) 東工大院・生命理工 (2)Univ. of Bern (3)京大院・理 (4) 基生研・種形成(5)TAFIRI (6) 九大院・理
アフリカの大地溝帯に存在するヴィクトリア湖には数百種にも及ぶ固有のカワスズメ科魚類(シクリッド)が生息している。この湖
は1万数千年前に完全に干上がったことが報告されており、現存の種は極めて短期間に爆発的な種分化を起こし生じてきたと考えら
れている。このため、現在でも新たな種もしくは集団の形成が起こっていると予想され、どのような遺伝的要因がこのような現象に
関わるかを研究するうえで最適の生物であると考えられる。本研究では異なる光環境に生息する集団を研究に用いることにより、光
環境への適応と集団の形成に関与した遺伝子を単離し、その機構を明らかにしようとしている。
シクリッドにおいて光環境への適応や性選択による生殖的隔離に視覚が深く関わっていることが報告されている。そこで本研究で
は、視物質のタンパク成分であるオプシン遺伝子の集団間での差異、その機能的な違い、さらにその違いを生み出した選択圧などの
解析などを行った。その結果、異なる光環境下の集団はオプシン遺伝子の配列が適応的に異なり、選択圧を受けて集団内に固定して
いることが明らかになった。これらの結果より、適応的に進化したオプシン遺伝子の光環境への適応や性選択における役割と、種も
しくは集団の形成への関与を報告する。
【P2−11】Bradyrhizobiaceae 科細菌における共生アイランドとゲノムの可塑性
板倉学(1)*、佐伯和彦(2)、大森博文(2)、横山正(3)、金子貴一(4)、田畑哲之(4)、大和田琢二(5)、田島茂行(6)、内海俊樹(7)、
鮫島玲子(8)、三井久幸(1)、南澤究(1)
(1)東北大院生命 (2)大阪大理 (3)東農工大農 (4)かずさ DNA 研 (5)帯畜大生物資源 (6)香川大農 (7)鹿児島大理 (8)静岡大農
Bradyrhizobium
japonicum USDA110 株はゲノムサイズが 9.1 Mb と非常に大きく、共生窒素固定に必須な遺伝子は染色体上
の tRNA 遺伝子を標的配列として挿入された 681 kb の巨大なアイランド構造をしていた。また同様の構造が染色体上に 14 ヶ所観
察され、USDA110 株は進化の過程において、多くの外来性 DNA を染色体上に取り込んできたことが考えられた。そこで本研究で
は B. japonicum 含めた Bradyrhizobiaceae 科細菌における共生アイランドの挙動とゲノムの可塑性を明らかにするために、
USDA110 株の DNA マクロアレイを用いて Bradyrhizobiaceae 科細菌のゲノム比較を行った。その結果、B. elkanii では共生アイ
ランドがゲノムバックグランドとは別の変化をしており、非根粒形成 Bradyrhizobiaceae>科細菌では共生アイランド全体を欠いて
いることが明らかとなった。以上の結果から共生アイランドはそれ自身が1つのユニットとして挙動しており、B. japonicum と B.
elkanii は分岐した後に別々に共生アイランドを獲得したことが示唆された。また USDA110 株のゲノム中において、70%は
Bradyrhizobiaceae 科細菌に共通して保存されている領域であり、30%は可塑的な領域であることが明らかとなった。
【P2−12】in silico 近縁ゲノム比較による Neisseria 属細菌のゲノム多型形成への過程の再構築
河合 幹彦(1)*, 内山 郁夫(2), 小林 一三(1)
(1) 東大院・新領域、東大・医科研
(2) 岡崎・計算科学研究センター
細菌のゲノムは流動的で、一つの解読されたゲノムはある系列のある一時点におけるスナップショットである。近縁ゲノム比較によ
って、ゲノム間での構造の変異を見つけ、それがどのように生じたかを考察することができる。我々は、BLAST, CLUSTALW など
のツールに加え、第二著者の内山が中心になって作成したゲノム比較ツール CGAT を利用して、そのようなゲノム多型解析を進め
ている。
今回、ゲノム多型形成過程の再構築を目指して、Neisseria 属細菌 4 株のゲノム配列を比較した。これら 4 株は塩基配列レベルで
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
の比較が可能な程度に近縁である Neisseria 属細菌のゲノムには、繰り返し配列が多い。種内株間で比較すると、逆位などの大規模
ゲノム多型が目立つ。
まずゲノム全体を大まかに比較して、多型の候補を絞り込み、それぞれの多型について、末端を DNA レベルで比較した。過去の
ゲノム解析・比較ゲノムの報告では発見されていなかった多型を見いだし、さらにその多型を生じる分子機構も推測することができ
た。
【P2−13】ヒトゲノム重複領域の網羅的解析
佐藤慶治(1)*,坂手龍一(1,2),村上勝彦(1,2),松矢明宏(3),藤井康之(1,2),伊藤剛(1,4),五條堀孝(1,5),今西規(1)
(1)産業技術総合研究所
(2)バイオ産業情報化コンソーシアム
(3)日立製作所
(4)農業生物資源研究所
(5)遺伝学研究所
進化の過程におけるゲノム重複の役割を解明することを目的として、ヒトゲノムの重複領域を全ゲノムレベルで網羅的に解析した。
NCBI build35 のヒトゲノム配列に対して blastz を用いた自己アライメントを作成することにより、重複領域を検出した。このとき、
正確なアライメントを作成するために、非反復配列の領域を優先的にアライメントし、それから、反復配列を含む領域にアライメン
トを伸長した。結果として、ヒトゲノム全体に占める重複領域の割合は 5.2%であり、同一染色体内での重複領域は全ゲノムの 2.1%
であった。同一染色体内での重複領域の密度が一番高かったのは Y 染色体で、次に 9 番、16 番の順であった。また、染色体内/間
での重複領域に占める反復配列の割合はそれぞれ、43.4%、38.5%であり、反復配列の含有率に染色体内/間で違いが見られた。さ
らに、染色体ごとの反復配列の含有率を比較したところ、12 番、19 番染色体では同一染色体内での重複領域に占める反復配列の含
有率が他の染色体よりも有意に低く、染色体内での重複領域の蓄積の過程が染色体ごとでも大きく異なることが示唆された。このほ
か、遺伝子マッピング結果を用いた重複領域上の遺伝子の密度や、GO による重複遺伝子の機能分類について報告する。
【P2−14】シアノバクテリアで初めて見つかった MITE の比較ゲノム解析
成川礼 (1)*, 片山俊明 (2), 岡本忍 (3), 金久實 (3), 池内昌彦 (1)
(1) 東大院・総合文化 (2) 東大・医科研 (3) 京大・化研
Anabaena sp. PCC 7120 (ana)のゲノム配列中に、シアノバクテリアで初めての MITE 型転移因子(AnMITE1)を見つけた。AnMITE1
は遺伝子間領域に 100 コピー以上存在し、全長は約 120 塩基、両端に 13 塩基の TIR (terminal inverted repeat)、中心部分に相補
的な 8 塩基のタンデムリピートを持つユニークな構造だった。シアノバクテリアでは 7∼9 塩基の頻出タンデムリピートが複数種知
られているが、AnMITE1 のタンデムリピートはこれらのうち STRR9 に相当した。今年 JGI により近縁種の Anabaena variabilis
(ava)と Nostoc punctiforme (npu)のゲノム配列が決定されたため、併せてゲノム解析を行った。その結果、AnMITE1 は ava のゲ
ノム中にも 100 コピー以上存在したが、npu では見つからなかった。ほぼ全長に渡って配列が保存されている ana の 84 個と ava
の 66 個について、シンテニー領域で挿入部位を比較したところ、共通に存在したものが 28 個、ana のみが 45 個、ava のみが 36
個だった。さらに、保存配列の系統解析から、種間で共通に存在する配列は保存度が低い傾向が見られた。これらより、AnMITE1
は Nostoc との種分岐後に Anabaena に現れ、ana と ava の種分化後もアクティブであったと考えられる。
【P2−15】The genome bases are arranged sophisticatedly in biphasic fractal-rule
Masaharu Takeda (1)*, Masatoshi Nakahara(2)
(1) Applied Life Science, Sojo Univ. (2) Electronics and Computer Network Engineering, Sojo Univ.
Here we show that the four bases in genomic DNA are organized based on the fractal rule in all organisms.
We analyzed the
appearance frequency of the bases in the entire genome by fractal analysis primarily in Saccharomyces cerevisiae, and
expressed the bases distribution in the genome as numerical formulas.
When a genome is small as in viruses, plasmids,
eubacteria and archaea, multifractality is predominantly observed because the distance between one base and the next base is
short in such genomes.
When a genome is large as inS.cerevisiae and Homo sapiens, multifractality and unifractality are
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
observed in proximal and in distal sequences, respectively.
In addition, there is a certain symmetry in the genome base
sequence although the base sequence is expressed as a single-strand, not as double-strand.
The fractal-rule in genomes is
universally observed.
【P2−16】indel がゲノムサイズと遺伝子構造の進化に及ぼす影響
今井周一郎(1,2)*, 佐々木貴史(2), 清水厚志(2), 石川サビヌ和子(2), 浅川修一(2), 堀寛(1), 清水信義(2)
(1)名大院・理 (2)慶應大・医
魚類はゲノムサイズがきわめて多様化していることが知られているが、例えばメダカのゲノムサイズはフグの2倍である。我々
は、メダカゲノム1Mb の塩基配列とそれに対応するフグゲノム 500kb の塩基配列を詳細に比較することによって、事実、メダカ
の非翻訳領域のサイズがフグの2倍になっていることを見出した。このサイズの種差は、塩基配列の挿入と欠失(indel)および散
在型反復配列の含量という2つの要因によって説明できる。
Indel は主に非翻訳領域で起こりゲノムサイズを変化させる要因として注目されてきたが、この indel がそれ以外の領域でも起こ
っているかを検討することは indel の頻度・パターンの形成を知る上で重要である。今回、我々はメダカとフグにおける indel のパ
ターンを解析し、遺伝子の open reading frame(ORF)に与える影響を検討した。その結果、indel は ORF においてもそのサイズ
を変化させ、それによってスプライシングの位置を変化させる可能性が示唆された。これらの結果に基づいて、indel がどのような
選択を受けてゲノムサイズの進化に影響を及ぼしているのかを考察する。
【P2−17】ヒトとチンパンジー、マウス、ラットとの全ゲノム比較に基づく保存領域の抽出
坂手龍一(1,2)*、佐藤慶治(2)、松矢明宏(3)、藤井康之(1,2)、伊藤剛(4)、五條堀孝(2,5)、今西規(2)
(1)バイオ産業情報化コンソーシアム
(2)産業技術総合研究所
(3)日立製作所
(4)農業生物資源研究所
(5)遺伝学研究所
ヒトへ至る哺乳類のゲノム構造の進化を探る目的で、ヒトとチンパンジー、マウス、ラット間での全ゲノム配列のアラインメント作
成をおこない、ゲノム上の進化的に保存された領域を調べた。これら4生物種のゲノムサイズは合計約 115 億塩基と膨大であり、
しかも進化の過程で複雑なゲノム再編成が起きたり、ヒトゲノムでは 52.3%もが反復配列などで占められたりしていて、アライン
メントの作成は非常に難しいものであった。しかし、我々は非反復配列領域を基にしたアラインメントを作成して保存領域を同定す
るとともに、それらをヒトゲノム上で分類・区分することを可能にした。反復配列領域を含む全ヒトゲノムの約 31 億塩基のうち、
保存領域が占める割合はチンパンジーとは 71.8%、マウスとは 29.2%、ラットとは 27.3%であった。これら4生物種で共通な保存
領域はヒトゲノムの 19.9%にすぎないが、ヒトとチンパンジーのみで保存された領域は 43.9%も占めることがわかった。これらの
結果から、霊長類特異的なゲノム領域は予想されるよりも大きい可能性があり、このことはヒトに至るゲノム進化の機構を解明する
うえで重要な手がかりを与えるものと考えられる。
【P2−18】リボソーマル RNA 遺伝子中にのみ転移するレトロトランスポゾン R2の分布と進化
小島健司(1)*、藤原晴彦(2)
(1) 京大・化学研究所・BIC
(2) 東大院 新領域
non-LTR レトロトランスポゾン(LINE)は真核生物の主要な反復配列であり、逆転写を介して転移増殖する。レトロトランスポゾン
はゲノム中の様々な位置に転移し、筋ジストロフィーなどの遺伝病の原因にもなっている。その一方で、特定の位置にしか転移しな
いレトロトランスポゾンも存在し、R2 は 28S リボソーマル RNA 遺伝子の特定の位置にのみ転移する。このような標的特異性は宿
主への害を抑える共生的生存戦略と捉えることができるが、この戦略が進化的に有効かどうかは定かではない。我々は、これまで節
足動物でしか存在が確認されていなかった R2 をゼブラフィッシュ、クサガメ、カタユウレイボヤなどの脊索動物、扁形動物のマン
ソン住血吸虫、棘皮動物のトリノアシなど多様な動物から発見した。系統解析、ドメイン構造解析の結果、N 末端のジンクフィンガ
ーの数によって R2 は4つのグループに分類でき、このグループは進化系統を反映していた。また、宿主生物の分岐年代とアミノ酸
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
配列の類似性との関係から、R2 の幅広い分布は最近の水平伝播によるものではなく、複数のパラロガスな系統が同一生物内で長期
間維持されてきたことによることが示唆された。以上から、R2 は動物進化の初期には既に 28S リボソーマル RNA 遺伝子への配列
特異性を獲得しており、以降数億年間、その中でのみ転移し続けてきたことが明らかになった。
【P2−19】ショウジョウバエ卵殻形態進化における rhomboid エンハンサー機能とそれを制御する位置
情報に関する研究
中村征史(1)*, 影沢達夫(1), 林良樹(2), 小林悟(2),(3), 新美輝幸(4),(5), 松野健治(1)
(1)東京理科大・基礎工 (2)岡崎機構・統合バイオ (3)戦略・科技団 (4)名大院 生命農 (5)科技団・PRESTO
ショウジョウバエ卵殻には、胚発生期の呼吸に必要な卵殻突起(dorsal
appendage)が存在し、この本数は、進化上多様である。
たとえば、キイロショウジョウバエ(D. melanogaster)とクロショウジョウバエ(D. virilis)の卵殻は、それぞれ、2 本と 4 本の卵殻突
起をもつ。卵殻突起の形成過程において、卵母細胞由来の Gurken (Grk) リガンドによるシグナルが、卵殻を形成することになる濾
胞細胞の EGFR 情報伝達系を活性化し、その後、濾胞細胞で EGFR シグナルのフィードバックがおこる。濾胞細胞において、EGFR
シグナルの活性化領域や、EGFR シグナルを正に活性調節する rhomboid (rho) の発現領域の数と位置は、種固有な卵殻突起の数と
位置とよく一致していた。
極細胞の異種間移植により作出した、キイロショウジョウバエ由来の卵殻と、クロショウジョウバエ由来の卵細胞からなるキメラ
卵は、キイロショウジョウバエ型の形態を示した。さらに、卵形成期の rho 発現を制御するエンハンサーについて、同種・異種にお
ける活性化パターンを比較解析した結果、これら 2 種の rho エンハンサーの機能には、多様化がほとんどみとめられなかった。以
上の結果から、卵殻形態の進化は、濾胞細胞において rho エンハンサーを制御する、Grk シグナル以外の位置情報の多様化に起因す
ることが示唆された。
【P2−20】メクラウナギ類VLR遺伝子の単離・同定
笠松 純 (1)*, 鈴木 隆 (2), 笠原 正典 (1)
(1)北海道大院 医 (2)総合研究大院 先導科学
適応免疫系で主要な働きを担うリンパ球(T細胞およびB細胞)は様々な外来抗原を認識することが出来る。これは抗原レセプターであ
るB細胞レセプター(BCR)およびT細胞レセプター(TCR)が遺伝子の再構成によって多様な抗原結合部位を形成するためである。これ
らの分子群、および再構成機構に関与するRAG分子は有顎脊椎動物でのみ確認されている。ごく最近、遺伝子の再構成を行なう
VLR(variable lymphocyte receptor)遺伝子が無顎脊椎動物であるウミヤツメから単離された。VLRは ロイシンリッチリピート(LRR)
の数とアミノ酸配列に可変性があり、その著しい多様性から抗原レセプターの候補にも上げられている。本研究ではヤツメウナギ類
と単系統群をなすとされるメクラウナギ類のヌタウナギからVLR遺伝子の単離・同定を行なった。末梢白血球由来cDNAライブラリ
ーをスクリーニングした結果、同様なタンパク質構造および可変的なLRRを有するクローンが多数検出された。また、サザンブロッ
ト解析および分子系統解析から、ヌタウナギではVLR遺伝子が2種類存在しており、両遺伝子座で再構成が起こっていた。これらの
ことから、無顎脊椎動物には非RAG依存性の再構成機構が存在していることが示された。これまでの事実から、無顎脊椎動物は有
顎脊椎動物と全く異なる適応免疫系を有している可能性が考えられる。
【P2−21】Vertical space structure realized through genetic network perspective
Yasuhiko Takeda
Biology Faculty Of Science Kyushu Univ.
Gravity adaptation and Gas-supply adaptation are both importantto implement Our body constitution, supposed to
realizeInvertebrate (open blood vascular, exoskeleton) <->Vertebrate (closed blood vascular, endoskeleton) transition,as Data
structure.
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
Simply, we preparedThree propositions to understand mammals’ body constitutionconsisted two parts: part gravity resistant,
part gravity free,as reaction cask and imperfect gas: and the perturbations.on them.
1. As a reaction cask (Part gravity resistant : rheumatology)Gene cluster relevant in Bone / O2 supply remodelling isheld on
self-consistent condition with that in gastrulationon connected cusp catastrophes.
2. As an imperfect gas (Part gravity free : immunology)Acquired immune system is bound on self-consistent and Mt. Fuji like
fitness landscape in its diversity / function.Each cell lineage corresponds to one of climbroads.
3. As the perturbations (Part affecting both : parasitology)Innate immune system is bound on self-consistent and French Flag
like control sequence in its deployment / function.Each cell lineage corresponds to either Hi-Fi or economy in use.
Key word ”Self-consistency” is essential to study the regulationof *several* cell types involved in making mammals’ body
constitution structurally stable :-)
【P2−22】Dlx 遺伝子クラスターにおける cis−エレメントの進化
隅山 健太 (1)*, 斎藤 成也 (1), Frank Ruddle(2)
(1) 国立遺伝研
(2) Yale Univ.
動物の発生制御の進化には、遺伝子発現制御の進化が重要であると考えられるが、遺伝子発現制御機構進化の理解はあまり進ん
でいない。本研究では、進化的に新しい器官の発生を制御する Dlx 遺伝子群に注目し、その発現機構の進化を知るために組織・時期
特異的エンハンサー領域を解析している。Dlx 遺伝子群は遺伝子重複を繰り返し、その結果多様な機能を獲得したと考えられており、
遺伝子進化を考える上で理想的なモデルである。ほ乳類には6個の Dlx 遺伝子があり、Dlx1-2, Dlx5-6, Dlx3-7 の3個のペア遺伝子
群としてゲノム中に存在する。ペア遺伝子クラスター構造は進化的によく保存されており、このクラスター構造が Dlx 遺伝子群の協
調的な発現制御に関係があることが示唆されている。 我々は Dlx3-7 遺伝子クラスターに注目し、これまでに進化的ゲノム配列比較
解析により遺伝子間領域に Dlx3 遺伝子の発現を制御する cis−因子の候補領域を複数推定し、PAC クローンを用いた導入遺伝子遺
伝子間進化的保存領域の破壊実験から鰓弓特異的エンハンサー領域や肢芽特異的エンハンサー領域を同定した。これらが進化上いつ
頃生じてきたのか、また生物進化に伴ってどのように変化しているのか、脊椎動物のゲノム配列の比較解析と、これまでに行った遺
伝子導入マウスでの実験データから検討する。
【P2−23】機能遺伝子の mRNA 安定性制御に関わる偽遺伝子 Makorin1-p1 の起源と進化
金子 聡子*(1), 津田 薫(2), 目加田 和之(2), 森脇 和郎(2), 高畑 尚之(1), 颯田 葉子(1)
(1) 総合研究大院 先導科学 (2) 理化学研究所 バイオリソースセンター
Makorin 遺伝子群は zinc finger モチーフを持つ ribonucleoprotein をコードし、脊椎動物のみならず無脊椎動物、植物にも存在し
ている。Makorin1 は、ubiquitin ligase としてテロメアーゼのユビキチン化に関与している。マウスでは転写活性を持つ processed
pseudogene, Makorin1-p1 が機能遺伝子 Makorin1 の mRNA の安定性に関与することが報告されている。本研究では、processed
pseudogene による mRNA 安定性制御の進化的な背景の解明を目指し、種分岐年代の異なるマウス 6 系統を用いて Makorin1
processed pseudogene の配列解析を行った。その結果、Makorin1-p1 は進化的に新しい配列であり、その変異蓄積パタンは中立
仮説に矛盾しないことが明らかとなった。また、Makorin1-p1 出現以前には、別の processed pseudogene が同様の役割を担って
いた可能性が示唆された。さらに他の哺乳類および霊長類についても調べた結果、生物種毎に比較的最近できた Makorin1 processed
pseudogene が存在していた。これらの結果に基づき、Makorin1 mRNA 安定性制御における processed pseu dogene の機能的な
関与の普遍性について議論する。
【P2−24】サワガニ (Geothelphusa dehaani) mtDNA の遺伝子間非コード領域 (IGN) の解析
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
鎌倉強志 (1) *,瀬川涼子 (2) ,青塚正志 (3)
(1)都立大 理 (2)首都大院 理 (3)首都大・都市教養
核 DNA 上の偽遺伝子、イントロンなどの非コード領域は、機能的制約をほとんど受けないため、中立な塩基置換のパターンや速度
を推定するのに用いられている。
一方、高等動物の mtDNA では、複製に関わる制御配列を含む制御領域 (CR) を除くと、遺伝子間非コード領域(IGN)はほとんど
みられない。これはゲノムの大きさを最小限に保つ制約によるものと考えられている。
これまでの研究で、私達はサワガニの mtDNA に、他の節足動物に比べ例外的に多い 12 箇所もの IGN が存在することを明らかに
した(Segawa and Aotsuka,in press)
。これらの IGN はサワガニの系統で比較的最近起こった遺伝子重複により生じたものと考え
られる。従って、これらの配列は機能的制約を受けていないと予想され、mtDNA の塩基置換パターンや進化速度を研究する上で興
味深い。今回の研究では、各地で採集したサワガニについて、mtDNA の IGN とコード領域の配列を決定、比較した。その結果、IGN
の塩基置換速度は、コード領域全体より速かったが、3rd コドンポジションとの比較では、同等、あるいはむしろ遅いことが示唆さ
れた。
【P2−25】軟骨の進化に必要な新しい遺伝子の進化 ー水平感染とエクソンシャッフリング
和田 洋(1)、村井美穂(2)、米田雅彦(2)、中村敏也(3)、倉谷滋(4)、窪川かおる(5)、Zhang Shicui(6)、佐藤矩行(7)
(1)筑波大・生命環境
(2)愛知県立看護大
(3)弘前大・医
(4)理研 CDB
(5)東京大・海洋研
(6)青島海洋大
(7)京都大院 理
脊椎動物に特徴的な軟骨では、ヒアルロン酸、アグレカン、リンクプロテインからなる高分子の複合体がその物性、力学的な特性に
深く関わっている。この複合体がどのような分子進化を経て生まれたのかを調べた。まず、ヒアルロン酸合成酵素(HAS)は、多細胞
動物では脊椎動物にのみ見られるが、脊椎動物の HAS がバクテリアなどの HAS と強い相同性を示すことから、HAS は遺伝子の水
平感染で獲得したと推測される。ところが、HAS を持たないホヤやナメクジウオにも、アグレカンやリンクプロテインがヒアルロ
ン酸と結合するためにもっているリンクモジュールと、相同性の高い配列を持つ遺伝子が存在していた。この遺伝子の構造や機能は、
脊椎動物の血球の移動に関わる CD44 と類似していた。このホヤのリンクモジュールはヒアルロン酸との親和性は示さないが、ヘ
パリンとの結合活性を示した。したがって、脊索動物の祖先のヘパリンに対して結合活性を持つモジュールが、HAS 遺伝子の水平
感染の後、ヒアルロン酸への結合特異性を獲得し、そのモジュールがエクソンシャッフリングでコンドロイチン硫酸修飾ドメインや
レクチンドメインと一つの遺伝子に組み込まれることでアグレカンが進化してきたと考えられる。このように脊椎動物の軟骨の進化
には遺伝子の水平感染やエクソンシャッフリングによる新しい遺伝子の創出というドラマティックな分子進化が関わっていたことが
わかった。
【P2−26】色素体形質転換タバコ個体からのマーカー遺伝子の欠失:進化過程におけるオルガネラ遺伝
子欠失のモデルとして
小林括平(1)*,宗村郁子(1),郭長虹(2,3),寺地徹(2)
(1)(財)岩手生物工学研究センター (2) 京都産業大・工 (3) 現,ハルピン師範大・生物
真核生物のオルガネラは,細胞内共生菌からの進化の過程で多くの遺伝子を失ってきたが,その過程の全貌は明らかでない.高等植
物の種分化に伴うオルガネラ遺伝子の欠失については,その初期段階に相同組換えが関与することは分かっているが,個体レベルで
の遺伝子の欠失についてはなんら知見がない.我々は,ヘテロプラズミックな(野生型および組換え型色素体 DNA の両者を持つ)
色素体形質転換タバコ個体で起こる導入遺伝子の欠失が,進化過程におけるオルガネラ遺伝子の欠失,特に欠失後の色素体 DNA 分
子種が欠失前の分子種を凌駕し,優先分子種となる過程を考える上でのモデル系として利用できると考え,ヘテロプラズミックな色
素体形質転換タバコ個体におけるマーカー遺伝子(薬剤耐性および蛍光蛋白質)の消長を非選択条件下で追跡した.その結果,色素
体キメラ5個体中3個体では,栄養成長過程で野生型色素体 DNA が徐々に優先分子種となり,次世代において完全なマーカー遺伝
子の欠失が認められた.また,他のキメラ個体ではキメラ性が次代に遺伝したが,ごく少数の子孫では遺伝子欠失が認められた.キ
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
メラでないヘテロプラズミック植物では,栄養成長過程および有性生殖後の遺伝子欠失やキメラ化は認められなかったが,培養によ
る芽の再分化によってキメラ個体が生じた.以上の結果をもとに,個体レベルでの色素体遺伝子欠失と植物の生活環の関係について
議論する.
【P2−27】Mitochondrial DNA の核ゲノムへの挿入およびその後の重複の age distribution の推定
茂木高志*(1), 田村浩一郎(2), 青塚正志(2)
(1)都立大院 理
(2)首都大・都市教養
核ゲノムに挿入された mitochondrial DNA (mtDNA) は nuclear mitochondrial DNA (numt) と呼ばれ、Blast を用いたホモロジ
ーサーチによって、human genome でおよそ 300 から 600 程度検出されてきた(Woischnik and Moraes 2002, Hazkani-Cobo et al.
2003, Bensasson et al. 2003) 。これらの human numt は、Platyrrhini (new world monkey)と Catarrhini (old world monkey, ape
and human) が分岐した後、old world monkey と ape, human が分岐するまでの期間に大量に生じていることが推察されている。
しかし、これらの結果は、霊長類の mitochondrial genome に numt を含めた系統樹を構築しておこなわれた系統学的解析に基づく
もので、分子時計を用いた年代の推定は行っておらず、また、挿入後の重複により生じた複数の numt を異なる挿入イベントによっ
て生じた配列として扱うなどの問題を含んでいる。そこで、我々は、numt の重複を詳細に検出し、mtDNA の不変座位のみを置換
速度に用いる方法で挿入年代と重複年代の検討を試みた。
【P2−28】サンゴ礁性魚類アイゴ科における体表模様の多様性と hagoromo 遺伝子
栗岩薫(1)*,寺井洋平(2)
,岡田典弘(2)
,西田睦(1)
(1)東大・海洋研(2)東工大・生命理工
サンゴ礁が発達する熱帯・亜熱帯地域で広く繁栄している魚類の一つであるアイゴ科は,多くの形態形質が全種に共通している
一方,その体表模様の多様性の高さは魚類の中でも突出している.多くのサンゴ礁性魚類において,体表模様に基づいて種の認識や
個体間のコミュニケーションが行われている可能性が報告されており,他個体が同種であるか異種であるかを認識する機構,ひいて
は多様性を生む原動力である種分化に,体表模様が大きく関わっていることが示唆されている.以上から,多様な体表模様形成の遺
伝的機構を明らかにすることにより,種分化機構の理解における重要な知見が得られる可能性がある.
アイゴ科 7 種を用い,体表模様のパターン制御を行っていると考えられている hagoromo 遺伝子を単離し,その分子進化を解析
した.その結果,この遺伝子は自身の構造を担う部位は非常によく保存されていたのに対し,特定のタンパク質と相互作用する機能
的な部位では進化率が 3 倍近く高いことが明らかとなった.さらに,選択的スプライシング(alternative splicing)による 7 つの
スプライシング・バリアントが検出された.岩礁域に生息する地味な体色の 1 種ではバリアント数が少ないのに対し,サンゴ礁域に
同所的に生息する派手な体色の他 6 種ではバリアント数が多く,選択的スプライシングのバリアント数の多さが,多様な体表模様形
成に深く関わっていることが示唆された.
【P2−29】シロアリのカースト分化における幼若ホルモン応答と遺伝子発現
CORNETTE Richard (1)*, 松本忠夫 (2), 三浦徹 (1)
(1) 北大院・地球環境
(2) 放送大・自然の理解
社会性昆虫では複雑な社会構造を示すコロニーの中に分業と多型性に至るカースト分化が見られる。各カーストは同じゲノム背景を
持っているにもかかわらず、後胚発生の過程で分化し、最終的には異なる表現型を示す。この現象は、表現型可塑性の1つである表
現型多型である。シロアリの兵隊カースト分化において、幼若ホルモン濃度の上昇により特異的な遺伝子発現が誘導され、形態など
の変化を引き起こす。本研究では、屋久島産のオオシロアリを用いて、兵隊分化を幼若ホルモン類似体(JHA)で誘導し、その際の
遺伝子発現をディフェレンシャルディスプレイ法(DD 法)で解析した。JHA 処理後早期に検出された特異的発現は総ての転写物の
わずか1%以下に相当するものであった。幼若ホルモンに応答して、発現が変化する特異的な候補遺伝子中、チトクロム P450の
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
1つである CYP6AM1 が同定された。P450 とは酸化酵素であり、代謝で多様な役割を果たしている。
CYP6AM1 の発現は JHA に抑制され、擬職蟻と兵隊の脂肪体に局在している。CYP6AM1 の発現抑制に伴って、脂肪体の発達が
見られる。その脂肪体の発達は脱皮と兵隊分化に深く関わっていると考えられる。したがって、CYP6AM1 もカーストにより.基本
的なエネルギー経路と卵黄形成や発生の為のエネルギー経路に切り替えるのではないかと思われる。
【P2−30】Evolution of peptidoglycan recognition proteins in the vertebrate innate immune system
Fumi Tsujino, Adriana Maria Montaño, Naoyuki Takahata, and Yoko Satta
Biosystems Science, Univ. for Advanced Studies (Sokendai)
Peptidoglycan recognition proteins (PGRPs) are pattern recognition proteins in the innate immune system. PGRPs possess three
highly conserved PGRP domains. Four human PGRPs, PGRP-L, PGRP-S, PGRP-I_, and PGRP-I_, had been reported. Here we
investigate the evolutionary history of vertebrate PGRPs.
We identified homologs of PGRPs by homology search against the genomic sequences of several vertebrates. Jawed fishes and
frogs possess PGRP-L and PGRP-S whereas PGRP-I is found only in mammals.
The prototype of vertebrate PGRPs is likely to be PGRP-S from which PGRP-L was derived. Later PGRP-I was also derived from
PGRP-S. All mammalian PGRP-Is possess two sets of PGRP domains. With this duplicated domains, the proto-PGRP-I locus was
further duplicated to generate the present-day PGRP-I_ and PGRP-I_. This appears to have occurred in the stem lineage of
Eutheria because of the presence of a single proto-PGRP-I locus in opossum. Some other locus duplications are found in
zebra-fish, frogs and rats, suggesting a general trend toward an increase of the number of PGRPs in jawed vertebrates, despite
the fact that these organisms have the acquired immune system.
【P2−31】MITE 型トランスポゾン T2-MITE ファミリーの増幅と進化
彦坂暁*, 河原明
広島大・総合科学
生物には様々なクラスの反復配列が存在し、ゲノムの重要な構成要素となっている。反復配列クラスの一つである MITE(Miniature
Inverted-repeat Transposable Element)は数百 bp ほどの小さな非自律的 DNA トランスポゾンであり、均一性の高いコピーがと
きには数万コピー以上にまで大量に増幅し、ゲノム中に散在している。この高い増幅・転移活性により MITE はゲノムの進化に大き
な影響を与えてきたと考えられる。
T2 ファミリーは TTAA という配列を転移のターゲットとし、末端逆向き反復配列(TIR)の末端に AGGRR という共通配列をもつ
MITE(T2-MITEs)のファミリーであり、アフリカツメガエルとゼブラフィッシュで大量に増幅していることが知られている。こ
のファミリーは配列の類似性によっていくつかのサブファミリーに分類されているが、その全貌は明らかではなかった。
我々はニシツメガエルゲノムにおいて T2-MITEs を網羅的に検索し、これらを末端配列の類似度を指標に階層的サブファミリーに
分類した。本種の T2-MITEs には数十から数千コピーを含むメジャーなサブファミリーが少なくとも10存在し、さらによりコピー
数の少ない幾つかのマイナーなサブファミリーも存在していた。これらの各サブファミリーが、どのような増幅、進化の歴史を辿っ
てきたのかについて報告する。
【P2−32】甲虫における発光能の起源に関する研究
大場裕一(1)*, 小鹿 一(1), 井上 敏(2)
(1)名大院・生命農 (2)チッソ・横浜研
ホタルの発光メカニズムは、ルシフェラーゼ(酵素)によるルシフェリン(基質)の酸化反応である。我々は発光性甲虫の進化を知
ることを目的として、ルシフェラーゼの起源について研究を行っている。最近、ホタルルシフェラーゼおよびショウジョウバエにお
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
けるルシフェラーゼホモローグの酵素化学的実験により、ホタルルシフェラーゼが脂肪酸 CoA 合成酵素から進化した可能性が示唆
された。ところが分子系統解析によると、この脂肪酸 CoA 合成酵素は哺乳類や酵母で知られている脂肪酸 CoA 合成酵素とは異なる
タイプであることが明らかとなった。以上の結果から、脂肪酸 CoA 合成酵素からルシフェラーゼへの発光機能獲得には複数回の遺
伝子重複と、それに伴う基質特異性の大幅な変更等の複雑な過程が関わっていたことが予想される。
【P2−33】ゲンジボタルの発光パターンと nos 遺伝子の進化
大槻朝(1)*, 近江谷克裕(2), 河田雅圭(1)
(1)東北大院・生命科学
(2)産総研・セルエンジニアリング
ゲンジボタル(Luciola cruciata)の発光周期には地理的変異があり、2 秒型(西日本型)と 4 秒型(東日本型)
、その 2 つの境界に
分布する 3 秒型(中間型)の 3 つの生態型が知られている。メスの発光パターンに対するオスの選好性は生態型によって異なるこ
とが行動実験により示されていて、発光パターンと選好性の違いは交配前隔離として働いていると考えられる。また、ホタルの発光
はルシフェリン‐ルシフェラーゼ反応によって起こり、一酸化窒素(NO)がこの反応に必要な酸素の供給を制御していることが明
らかになっている。そこで本研究では、NO を作る一酸化窒素合成酵素(NOS)の性質の違いが発光パターンの地理的変異の原因と
なっているのではないかと考え、ゲンジボタル NOS の変異を各生態型について明らかにし、nos 遺伝子の変異と発光パターンとの
関係を検証することを試みている。これまでに決定したゲンジボタル、ヘイケボタルの nos 遺伝子塩基配列およびアミノ酸配列につ
いて報告する。
【P2−34】Dissecting evolution of influenza HA + Fab biding ability
渡部輝明(1)*、岸野洋久(2)、北添康弘(1)
(1)高知大 医
(2)東京大院 農学生命科学
The influenza hemagglutinin (HA) is integral to many aspects of influenza infection. The membrane-distal domain of HA
interacts with infectivity-neutralizing antibodies and as a consequence of immune pressure, it is the virus component which is
important in antigenic drift that results in recurrent epidemics of influenza. The structure of complex of the HA with Fab
fragments of antibody have been determined (H3N2; 1QFU, 1KEN in PDB). The ability of neutralization of antibody depends
largely on the biding ability between the HA and Fab fragments. We developed an index which suggests site-specific biding
ability with using likelihood ratio between the structure of complex and the structures of two individuals. We applied this
method to composites of the Fab fragments and the HA on which 250 HA1 sequences (Smith et al. 2004) were superimposed.
As a consequence, we detected sites on the HA which affect binding ability of the HA with the Fab fragments and found
distinguisha ble terms on the evolution process of influenza HA.
【P2−35】Gene conversion by an adjacent pseudogene causes changes in function and expression
of human SIGLEC11
Toshiyuki Hayakawa (1, 2)*, Takashi Angata (1), Amanda L. Lewis (1), Tarjei S.Mikkelsen (3), Nissi Varki (1),
Ajit Varki (1)
(1) Medicine, Pathology, Biological Sciences and Cellular & Molecular Medicine, Univ. of California,San Diego (2) Hayama Center for
Advanced
Studies, Univ. for Advanced Studies (3) Broad Institute of MIT and Harvard
Siglecs (sialic acid-binding immunoglobulin superfamily lectins) are a family of cell surface receptors involved in regulating the
immune response. Of these, Siglec-11 is expressed in brain microglia, which plays an important role in brain immunity as well
as other brain functions.
Gene conversion is a mechanism for copying part of a genomic sequence into another, contributing
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
to genetic diversity. We analyzed genomic sequences of SIGLEC11 and adjacent pseudogene SIGLECP16 in several primates
and found the gene conversion of SIGLEC11 by SIGLECP16 only in the human lineage. The converted region encompasses
5’untranslated sequences and exons encoding the N-terminal region, including the domain mediating sialic acid recognition.
Therefore, the changes in function and expression of human Siglec-11 were expected. The immunohistochemical analyses
using anti-Siglec-11 antibody represent the human-specific recruitment to expression in brain microglia. On the other hand,
ELISA assays using recombinant proteins show difference in sialic acid-binding property between human and chimpanzee
Siglec-11. It is likely that the gene conversion by pseudogene caused changes in function and expression in the human lineage.
【P2−36】イトヨの糊状物質 spiggin をコードする遺伝子群の同定と解析
川原 玲香*,
西田 睦
東京大 海洋研究所
トゲウオ科魚類の一種であるイトヨは,オスが水草などを用いて巣を作り,そこにメスを招いて産卵させるという特徴的な繁殖
様式を示すことが知られている.この営巣の際,オスは腎臓で産生された大量の粘液状物質を分泌し,それを“糊”として用いて巣
に巣材を装着する.spiggin と名づけられたこの糊状物質は糖蛋白質で,これをコードする遺伝子がこれまでにひとつ同定されてい
る.しかし繁殖期にのみ大量に必要とされるこの糊状物質の遺伝子は時期特異的に大量発現するはずであり,シングルコピーである
とは考えにくい.そこで本研究では,spiggin 遺伝子が遺伝子ファミリーを構成する可能性について検討するため,イトヨを用いて
この遺伝子の網羅的なクローニングを行った.
その結果,多くの cDNA 配列が得られ,この遺伝子が多数のコピーからなること,さらに,多くのスプライシングバリアントが
存在することが明らかになり,当初の予測が正しかったことが確認された.さらに,分子系統学的解析や翻訳蛋白質の機能にかかわ
るモチーフ配列や挿入・欠失配列の比較を行った結果,これらの cDNA 配列はある程度機能的に分化した二つのグループに分かれ
ることが示唆された.
【P2−37】ヒトの精神活動の基盤となる遺伝子の進化を探る:精神遅滞をもたらす脂質蓄積障害に関連
する遺伝子の進化
金 慧琳*,高畑尚之,颯田 葉子
総合研究大院 先導科学
ヒトが進化過程で獲得した特異的な精神活動に注目して、それを支える遺伝子の進化という視点から精神遅滞と関連する遺伝病を調
べた。この中で脂質蓄積障害が頻繁に精神遅滞をもたらすことに興味を持ち、この障害と関連する遺伝子九つの解析を行った。ヒト
とチンパンジーの転写領域で非同義・同義置換の比率とヒトの非同義・同義多型(SNP)の比率を比べて、特に ASAH1 は非同義・同
義置換の比率は低い反面、ヒト種内の変異で非同義多型の比率が多いことが分かった。さらに ASAH1 領域で強い連鎖不平衡が見つ
かった。ASAH1 は神経細胞に多い膜脂質の代謝に関する酵素を転写する遺伝子で、これは近い過去で起こった自然選択を示す可能
性がある。そこでもっと詳しい情報を得るため、現在配列解析を行っているのでその結果を報告したい。
【P2−38】核に転移したオルガネラ遺伝子はどのようにして活性化したか
上田 実(1)(2)*, 藤本 優(2), 有村 慎一(2), 堤 伸浩(2), 門脇 光一(1)
(1)農業生物資源研究所
(2)東京大院 農学生命科学
核ゲノムとは独立して独自のゲノムを有するミトコンドリアや葉緑体は細胞内共生によって誕生した。ミトコンドリアや葉緑体は細
胞内共生後、自身が有する遺伝子を核ゲノムへ転移させたか、もしくは消失したものと考えられている。この遺伝子転移は生命進化
の過程の中で興味深い現象であるにも関わらず詳細は不明である。脊椎動物ミトコンドリアゲノムは、ミトコンドリアゲノムにコー
ドされる遺伝子が限られる上、種間でゲノムサイズがほぼ均一化している。つまり、遺伝子転移がほぼ完了している。一方で、高等
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
植物ミトコンドリアゲノムでは、ゲノムサイズやコードされる遺伝子数に、種間で著しい多様性が見られるため、現在もなお活発に
遺伝子転移が起きているものと考えられる。すなわち、高等植物は遺伝子転移機構を解析する上で、非常に有効な材料と考えられる。
本研究はこのような背景をもとにイネゲノムデータベースを利用して核へ転移した遺伝子を単離し、解析を行った。rpl13遺伝子で
は、移行シグナルとは無関係である遺伝子の配列が重複し、その重複した配列の読み枠がずれることにより誕生したタンパク質が葉
緑体移行シグナルとして機能した。rpl27遺伝子は、
二度に亘る染色体内、染色体間での重複を経てプロモーター配列を獲得した。
rps14
遺伝子は選択スプライシング、rps11はエクソンシャッフルで移行シグナルを獲得した。これらについて詳細に議論する。
【P2−39】アナナスショウジョウバエ亜群における反復配列の解析
野澤昌文(1)*, 熊谷真彦(2), 青塚正志(3), 田村浩一郎(3)
(1)都立大院 理
(2)都立大・理
(3)首都大・都市教養
近年、様々な生物のゲノム配列が決定され、反復配列がゲノム配列の主要な構成要素であることが明らかとなってきた。例えばヒト
ゲノムでは約 50%のゲノム配列が反復配列で構成されている。このことから、ゲノム進化を理解するには反復配列の進化を理解す
ることが重要である。反復配列はサテライト DNA と転移因子に大別される。サテライト DNA は通常異質染色質に局在しているの
に対して、転移因子は散在しており、真性染色質にも存在する。転移因子の起源や増幅過程についてはかなり解明が進んでいるもの
の、サテライト DNA の起源については不明な点が多い。
我々はアナナスショウジョウバエ( Drosophila ananassae)亜群の各種において、キイロショウジョウバエ( D. melanogaster)に
は存在しない反復配列を発見した。そこで、この反復配列の起源、増幅機構を明らかにするために研究を行っており、これまでに以
下のような結果を得た。(1)相同性検索ではこの反復配列と相同性の高い配列は検出されなかった。(2)この反復配列はアナナ
スショウジョウバエ亜群の進化過程で生じ、そのコピー数は多いもので数万にも及んでいた。(3)この反復配列は異質染色質に局
在する一方、真性染色質中にも散在していた。これらの結果をふまえ、この反復配列の起源、増幅機構について考察する。
【P2−40】Molecular evolution of mammalian Sry
Kozo Nagai (1)*
Naruya Saitou (2)
(1)Dept. Biochem, TMU (2) Div. Popul. Genet. NIG.
The Sry gene belonging to the Sox gene family exists only in marsupials and eutherians but not in birds, reptiles and other
vertebrates. However, the origin and molecular evolution of the Sry within the Sox gene family is still remained to be clarified.
We thus analyzed the synonymous-non synonymous base substitution rate with amino acid sequence based phylogenetic tree,
and followings were suggested. 1) The Sox gene family can be grouped into some six clusters. Sry gene seem to belong to one
of cluster containing Sox 1, 2, 3, 14 and 21. 2) The Sry has significantly higher base substitution-rate than Soxes through overall
sequence. 3) Higher substitution rates in nonsynonymous than synonymous ones both in whole and the HMG box of Sry were
suggested to be only within a few primate species. 4) In the outside region of the Sry HMG box of some primates but also in
several other mammals showed higher nonsynonymous substitution rates were suggested. We will discuss about these
evolutionary significance of higher nonsynonymous substitution rates in Sry.
【P2−41】軟体動物の貝殻基質タンパク質 Dermatopontin の起源と進化
更科 功(1), 山口晴代(2),芳賀拓真(2),千葉聡(3), 遠藤一佳(1)*
(1) 筑波大院・生命環境科学 (2) 筑波大・生物
(3) 東北大院・生命科学
軟体動物の貝殻に含まれる少量の有機基質(主にタンパク質)は貝殻形成の制御因子として注目されている.淡水生巻貝のヒラマキ
ガイ(有肺亜綱基眼目)の主要な殻内タンパク質である Dermatopontin のホモログは,多細胞動物に広く分布し,細胞接着や細胞
外基質の凝集に関与する細胞外基質タンパク質であることが知られる.このことから Dermatopontin はカンブリア爆発での軟体動
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物における貝殻の獲得に関与したタンパク質の一つと考えられてきた.そこでその起源を調べるため,基眼目およびそれと近縁な柄
眼目に属する合計 8 種の有肺類の外套膜から計 14 種類の dermatopontin を同定し,系統解析を行った.その結果,有肺類の
dermatopontin には 2 ないし 3 種類のパラログが存在し,それらが基眼目と柄眼目のそれぞれで遺伝子重複した可能性の高いこと
が分かった.また RT-PCR とリアルタイム PCR の結果から,各系統のパラログの内のそれぞれ一つが殻内タンパク質であることが
強く示唆された.一次構造の比較からは糖鎖の存在が殻内タンパク質としての機能に重要であることも推測された.つまり,
Dermatopontin が殻体基質タンパク質としてリクルートされたのはカンブリア紀前期ではなく,基眼目と柄眼目の系統の分岐後と
いう比較的最近であること,そしてこのような進化が基眼目と柄眼目で独立に起きたことが示唆された.
【P2−42】相互的音声信号の起源と進化
吉田 重人(1)*、岡ノ谷 一夫(2)
(1)千葉大・自然科学
(2)理研BSI・生物言語、千葉大・自然科学
双方向的な音声コミュニケーションは多くの系統で観察されており、複数回独立に進化したと考えられる。しかし、そのようなコミ
ュニケーションを行う動物は多いとはいえない。音声のような一次元信号による双方向的コミュニケーションを成功させるための前
提条件の一つとして、ターン・テイキングが挙げられる。多数の動物が相互に信号を送っている状況で、お互いを特定するための最
も重要な手がかりは応答潜時であろう。動物によるターン・テイキングは、信号発信者と受信者との関係から、コーラス、デュエッ
ト、交唱のいずれかに分類可能である。コーラスはオスどうし、デュエットはオス-メス間、交唱はその他の関係の個体間で行われ
るターン・テイキングで、それらの機能は、配偶者の誘引、個体/群れの特定、資源の防衛に分類可能である。昆虫のデュエットの
進化に関して、自然選択、性選択による淘汰圧が相互に影響し合った結果、オスによるコーラスがデュエットに進化したのではない
かという仮説がある(Bailey 2003)。著者らは収斂進化の観点から、他の系統におけるターン・テイキングの進化について考察し、
今後の研究のための指針を呈示したい。もしかしたら、ヒトを含む他系統でのターン・テイキングも、昆虫での進化経路と同じよう
な過程によって進化したのかもしれない。
【P2−43】ウラル語族とオーストロネシア語族の間の語頭子音対応法則の確立とウラル語族の起源
大西耕二*
新潟大 理, 超域研
ウラル語族(URA)の系統に関しては多くの仮説が議論されてきたが、音韻対応法則を伴う厳密論議に耐える学説はなかった。本研究
では、K. Re ロ dei (1988) の”Uralisches Etymologi-sches Wo_terbuch (Bde I-III )” と D.T.Tryon (ed.) (1955) の”Comparative
Austronesian Dictionary (Parts I - IV)” の語彙資料を用いて URA とオーストロネシア語族(AN)の語彙を比較し、約 110 項目につ
いての同祖語彙の関係を抽出した。その結果、AN のマラヨポリネシア語亜族(MP)の西 MP のスラウェシ語群(SLW)(Uma, Konjo 等)
やスンダ諸語(SND)(Balinese (Bali.)等)に酷似語彙が多く共有され、オセアニア諸語(OC)にもかなりの類似語彙が認められ、それ
らの比較に基づいて語頭子音対応法則を得た。形態的には SLW との酷似が著しい。子音対応法則は極めて厳密に成立し、印欧語族
内の対応法則と同等程度に規則的である。Finnish (Finn.)に表れる全語頭子音が AN 子音からの由来子音として対応することが示さ
れたことの意義は大きい。特徴的な事は、(1) pAN(= proto-AN)の *k- / *q- は単一の[pU (=proto-URA)] *k- で表れる。(2) pAN *p/ *b- は、[pU] *p- / *w-
として区別され、多くの Oceanic のようにその区別を失ってはいない。(3) [pAN] *h- は [Finn.] h- とし
て保たれる。
(4) [pAN] *z- は[pU] *r-で表れる。
など。
一方,Tamil 語(ドラビダ語族)は OC の Western OC の North New Guinea Cluster
の Adzera 語に近縁で、URA との直接近縁性ない。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P2−44】学習の生得的バイアス:野生種と家禽種の歌学習の比較
高橋美樹(1),池渕万季(2),山田裕子(3),岡ノ谷一夫(1)
(1)理化学研究所脳科学総合研究センター
(2)金沢工業大人間情報研究所
(3)千葉大院 自然科学
飼い鳥としてなじみのあるジュウシマツは、約250年前に中国より輸入されたコシジロキンパラが元となり家禽化された亜種であ
る。ジュウシマツは家禽化の過程で子育て上手な性質や羽色によって選択、交配された。その結果、外見のみならず両亜種のうたう
求愛歌にも大きな違いが見られるようになった。求愛歌をうたうには幼鳥期の学習が必要である。本研究では、ジュウシマツとコシ
ジロキンパラの求愛歌の違いは歌学習環境の違いだけではなく、学習可能性の差異によるとの仮説をたて、「里子実験」と「里帰り
実験」から検討を行った。
コシジロキンパラをジュウシマツと同じ生育環境で育てる(里子)と、コシジロキンパラの中に、歌い出しに時間がかかる個体と遷
移規則が不安定な個体がいた。そこで、歌が不安定なこれら2個体の里子コシジロキンパラを通常のコシジロキンパラ群に合流させ
(里帰り)
、歌の変化を追った。歌い出しに困難を伴う個体に変化は見られなかったものの、遷移規則が不安定であった個体につい
ては、合流後まもなくその不安定さが解消した。ジュウシマツとコシジロキンパラの歌学習可能な範囲に差があることが示唆された。
今後このシステムを用いた研究によって学習の差を生み出す生得的バイアスを明らかにできるであろう。(この研究は科学技術振興
機構、科研費基盤B、日本学術振興会による援助を受けた。
)
【P2−45】属サイズランクのベキ乗則とヒトの認知傾向:進化シミュレーションによるアプローチ
小松正(1)* 織田瑞夫(2)
(1)東京家政大
(2)(株)構造計画研究所
生物進化の分岐モデルを作成し、(株)構造計画研究所の開発した KK-Multi Agent Simulator に実装した。(1)100×100 の計
10,000 の格子からなる正方形の空間(スペース)をつくる。各格子は生態的ニッチに対応し、格子間の距離はニッチの類似度を表
す。(2)空間の中央に初めての種が出現する。種からは一定の確率(種形成確率)で近傍に新しい種が生じる。(3)ある種から
見て相互作用の範囲内に存在する他の種の数(近縁種数)が求まる。この近縁種数に比例した絶滅確率で種が消失する。
種形成確率 0.1、相互作用範囲 30、絶滅確率係数 0.01 のときのシミュレーション結果が、実際の生物の化石記録から得られる種
数の変動パタンと似ていた。以下、この条件で実験を行った。種数の変動パタンにマクロのスケールでも、ミクロのスケールでも、
その中間スケールでもS字曲線が現れた(種数変動のフラクタル性)。過去のある時間断面において生存している種を便宜的に祖先
種と認定し、各祖先種ごとにその子孫を1つのグループ(系統)にまとめた。祖先種認定のタイミングと、系統のサイズ(種数)と
ランクとの関係がベキ乗分布に一致する程度、との対応を調べた結果、特に種数が増加する途中のタイミングで祖先種認定を行った
場合に、ベキ乗分布への一致の程度が高くなる(R 二乗が 0.9 以上)ことがわかった。実際の生物の属サイズのデータも、多くの分
類群でベキ乗分布への高い一致を示す。このことは、ヒトがベキ乗分布に従うように生物を分類する傾向をもっていることを示唆す
る。
【P2−46】系統樹から迫る非生命進化:鳥居・雑煮・デジタルカメラ
石山智明,伊藤則人,柴田裕介,土松隆志*,池上高志
東大・広域システム
生物多様性は進化の帰結であり,生物はすべて共通の祖先が辿れるという tree of life の考え方は,進化生物学における基本的な概
念である.ここで,時間発展に伴い多様化していくプロセスは生物に限った話ではなく,非生命においても広く見られる現象である
と考えられる.そこで本研究は非生命多様化現象を進化と捉え,それぞれの現象の進化ダイナミクスの特徴を明らかにし,さらにそ
の差異が生まれる背後にある非生命固有の進化メカニズムを探ることを目的とした.非生命多様化現象として雑煮・鳥居・デジタル
カメラの3つに注目し,それぞれの系統樹を作成した.その上で,進化の中立性・系統性の「歪み」を測るために ultrametricity, additive
metricity,系統樹上の分岐ノードの「偏り」を測るために「下流の分岐ノードのべき乗則」の 2 つの指標を導入し,定量的な議論
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を試みた.また,生物の形質情報・DNA 情報から描いた系統樹と「歪み」「偏り」の比較を行った.これらの系統樹解析の結果か
ら,非生命・生命進化固有のメカニズムについての考察を行っている.
【P2−47】MrBayes を用いた原核生物と酵母の遺伝子解析による酵母細胞内小器官の起源の推定
猿橋 智(1)*, 濱田 一男(2), 堀池 徳祐(3), 宮田 大輔(4), 篠沢 隆雄(1)
(1) 早大院・理工 (2) ラジエンスウエア(株) (3) 遺伝研・生命情報研究センター (4) 立正大・地球環境
堀池等の研究(1)により、真核生物の核は古細菌(Pyrococcus)の真正細菌(Proteobacteria-γ)への共生に由来する事が示唆され
た。しかし、その共生時期(分岐年代)は、明らかになっていない。
今回の研究は、KEGG (http://www.genome.ad.jp/kegg/)より全ゲノム配列を決定された原核生物 130 種と酵母 2 種の ORF データ
と MIPS CYGD (http://mips.gsf.de/genre/proj/yeast/index.jsp)からの酵母遺伝子の機能別分類の情報を用いて、堀池等の研究結果
の検証と分岐年代の推定を行った。分岐年代の推定には、進化速度を一定とした場合、Feng 等の式(2)により相同性から進化距離を
求 め 、 進 化 速 度 を 一 定 と し な い 場 合 、 MCMC method に よ っ て 進 化 距 離 を 推 定 す る MrBayes3.1
(http://mrbayes.csit.fsu.edu/index.php)を用いた。2 つの分岐年代推定法を行うことで、酵母の細胞内小器官における遺伝子の
進化速度の違いについても考察する。
(1)
Horiike et al. J Mol Evol. 2004. 59(5):606-19.
(2)
Feng et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 1997. 94(24):13028-33.
【P2−48】Multi-level evolution in the models of RNA-world
竹内信人
Theoretical Biology/Bioinformatics Group, Utrecht Univ.
Theoretical consideration claims that the stability of replicator systems in RNA-world is confronted by two problems: (1) a large
mutation rate---error-threshold, and (2) ”parasites”. By extending the previous studies on these problem, we will illustrate the
importance of studying evolution in the framework of evolution as multi-level (in time, space, individuals) processes.
Extending previous hypercycle studies, we study the evolutionary dynamics of interacting catalytic RNA-like replicators in
space. In our model, catalytic interaction depends on the secondary structure and complimentary base pairing ; thus,
interaction topology is allowed to evolve. Our preliminary results show that (1) the replicator system becomes actually more
stable with a larger mutation rate, and that (2) the system chooses different molecular structures and network topologies
depending on the mutation rate.
【P2−49】ニワトリにおける集団の大きさと遺伝的多型の起源
澤井裕美*、颯田葉子、高畑尚之
総研大・先導科学
ニワトリ(家鶏)の家禽化の歴史は約9000年前に遡る。この間、様々な用途(闘鶏、鑑賞、食用、信仰等)に基づく人為選
択により、ニワトリは多様な形態を獲得した。家鶏の祖先と言われる野鶏には4種類(灰色野鶏、セイロン野鶏、緑襟野鶏、赤色野
鶏)存在するが、現在の家鶏は赤色野鶏を単一の起源とすることが示されている(Fumihito et al. 1996)
。野鶏とニワトリのミトコ
ンドリア D-loop 領域の系統解析では、ミトコンドリア DNA の最新祖先配列 (MRCA)は約70∼90万年前に遡る。このことは核
DNA の SNP データとも一致し、ニワトリの遺伝的多型は高度に保持されている。
本研究では、ニワトリの集団の大きさと遺伝的多様性の起源を探ることを目的として、ニワトリ・赤色野鶏・シチメンチョウ・ウ
ズラのイントロンの塩基配列を用いてキジ科の塩基置換速度を推定した。その結果、キジ科の塩基置換速度は高等霊長類の2∼3倍
の早さであることが示された。さらに、ニワトリ2品種と赤色野鶏の塩基多様度からニワトリの集団の大きさと MRCA を推定した。
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第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
その結果、ニワトリの集団の大きさは他の哺乳類と比べて大きく、ニワトリにおける核遺伝子の多型は約300万年まで遡る可能性
が示された。ニワトリの集団サイズが大きく多型が長期間に渡り保たれてきたことはニワトリが多様な形態を獲得しうる一要因であ
ったが、この大きな集団サイズは野鶏祖先集団とその後の家畜化における遺伝子流入を反映していると考えられる。
【P2−50】モンゴル人民族集団の集団遺伝学
加藤徹(1)*,Batmunkh Munkhbat(2),東内健一(2),間野修平(3),Gue-Tae Chae(4),Huun Han(5),Guan-Jun Jia(6),徳永勝士
(7),Namid Munkhtuvshin(8),田宮元(9),猪子英俊(2)
(1)北大院・理
(2)東海大・医
(3)名古屋市大院・システム自然科学
(4)Institute of Hansen’s Disease, The Catholic Univ. of Korea
(5)College of Medicine, The Catholic Univ. of Korea (6) Harbin Red Cross Blood Center
(7) 東大院・医
(8)National Institute of
Medicine, Mongolia
(9)徳島大院・ヘルスバイオサイエンス
モンゴルは中国とロシアの間に位置し、人口約 240 万人からなる国である。モンゴルには約 20 もの民族集団の存在が認められてお
り、そのうちいくつかの集団については、我々日本人を含む現在の東アジア人集団の形成過程を考える上で、重要な役割を果たした
と予想される。本研究では、モンゴルの 4 つの民族集団 (Khalkh、Uriankhai、Zakhchin、Khoton) 、および周辺の東アジア人集
団について、性染色体の SNP およびマイクロサテライトを用いた集団遺伝学的解析を行なった。その結果、Y 染色体ハプロタイプ
を用いた解析から、モンゴルの主な民族集団は、北東アジア地域の集団とよく似た遺伝的特徴を持つことが示された。ただし、モン
ゴル西部の少数民族集団 Khoton で特異的に認められた遺伝的特徴は、モンゴルと中央アジアとの関係も無視できないことを示唆す
る。また、X 染色体のマイクロサテライト連鎖不平衡の解析から、連鎖不平衡を示す染色体の範囲が民族集団により明らかに異なる
ことが確認された。
【P2−51】自然淘汰がオルガネラゲノムの塩基置換に与える影響の解析
河合洋介
東京理科大院 理工
同義置換は遺伝子の産物に影響を与えないことから、塩基置換に対する機能的制約はきわめて弱いはずである。そのため生物種や遺
伝子の種類にかかわらず一様な塩基置換のパターンを持つことが期待される。しかし同義置換部位を用いた系統解析であっても、系
統間の置換速度の違いが存在することが分かっている。これは同義置換部位における塩基組成の違いが遺伝子産物の翻訳効率に差が
生じることが原因のひとつであると考えられている。本研究では同義置換部位における塩基組成のかたよりが自然淘汰の結果である
ととらえ、突然変異と自然淘汰のパラメータを導入したモデルを用いて、葉緑体の rbcL 遺伝子の同義置換の塩基置換の解析を行っ
た。その結果、配列間の塩基変化のパターンの違いを自然淘汰の影響として説明した。これらのことから陸上植物の同義置換部位に
おける系統間の進化速度のばらつきは、突然変異率というより自然淘汰の影響の違いに起因すると結論付けた。
【P2−52】植物病原細菌ファイトプラズマの2種類の主要抗原膜タンパク質における正の選択
柿澤茂行*、大島研郎、鈴木志穂、嵐田亮、鄭熙英、難波成任
東大院・農
ファイトプラズマはMollicutes綱に属し、600種以上の植物に病害を引き起こす植物病原細菌である。また植物と媒介昆虫の両方に
感染し、両宿主の細胞質に寄生することから、その膜タンパク質は宿主との相互作用において重要な役割を担うと考えられる。
ファイトプラズマの菌体表面はほぼ単一のタンパク質によって覆われていると考えられており、そのタンパク質は主要抗原膜タンパ
ク質(IDP)と呼ばれている。ファイトプラズマの種によりIDPをコードする遺伝子は異なり、OYファイトプラズマではAmp、WXフ
ァイトプラズマではIdp、APファイトプラズマではIMPがそれぞれIDPとして報告され、これらは互いにホモログではない。我々は
OYファイトプラズマのAmpに強い正の選択圧がかかっていることをすでに報告しているが、今回、IMPにも正の選択圧がかかって
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いることを見いだした。IMPを複数種のファイトプラズマよりクローニングし、非同義/同義置換頻度の比(dN/dS)を全アミノ酸
サイトの平均で計算したところ、いくつかの組み合わせで有意に1を超える値が得られた。またIMPの配列相同性は、IMP周辺の遺
伝子と比べると顕著に低いことから、IMPは積極的に多様化していると推定された。これらの知見をふまえ、ファイトプラズマにお
けるAmpとIMPの存在意義について考察したい。
【P2−53】海草アマモの遺伝的多様性と集団構造
加藤由実子(1)*, 颯田葉子(2), 斉藤憲治(1)
(1)水研センター・東北水研
(2)総研大・先導研
海草は沿岸近くの海底に生える被子植物の総称である。中でもアマモ科は朝鮮半島から日本列島にかけて種の多様性が高く、この地
域での適応放散の可能性が示唆されている。沿岸生態系を支えているアマモ藻場は、近年の環境悪化に伴い急激な減少が報告される
ようになった。今日では各地で移植などアマモ藻場再生への取り組みが行われている。生物多様性保全を目指し、現存する野生アマ
モの種内遺伝的多様性や地域特性への配慮も具体化されつつある。
これまで私どもの研究グループでは、遺伝子マーカー<i>phyA</i>遺伝子の塩基配列に基づき、日本沿岸域のアマモは大きく 2 グ
ループに分かれる事を報告した。この 2 グループは太平洋側と日本海側で偏りが見られるものの、2 グループの起源は地理的隔離だ
けでは説明が付かない事、また遺伝的交流が広範囲で起きている可能性が示された。これらの仮説を検証するため、サンプル個体数
を増やし 3 遺伝座の塩基配列を用い比較解析を行った。遺伝的多様性からアマモの集団構造について推定する。
一般的にアマモは多年生であるが、一部の地域では一年生アマモ藻場の存在が報告されている。この表現形の違いとアマモ種内遺
伝的多様性解析について合わせて紹介し、アマモが示す遺伝学的データについて理解を深めたい。
【P2−54】マイクロサテライト分析による親子特定技術を利用したブナ実生個体群の動態解析
陶山佳久(1)*, 丸山 薫(1),富田瑞樹(2),高橋 誠(3),清和研二(1)
(1)東北大院・農
(2)横浜国大院・環境情報
(3)林木育種センター
ブナ天然林に出現したブナ当年生実生を対象とし、果皮の DNA 分析によって実生の種子親を特定し、それらの実生の 4 年間にわた
る動態を追跡調査した。さらに、子葉の DNA を分析することによって花粉親も特定し、種子・花粉の散布パターンや、各親個体の
種子親・花粉親としての貢献度の解析を行った。
宮城県栗駒山南麓のブナ天然林に 90 m×90 m の調査区を設定し、その中に 324 個の 1 m×1 m 実生調査区を設置して、2001 年
春(豊作翌春)に実生調査区内に出現したブナ当年生実生の個体群動態調査と親子解析を行った。実生調査区内に出現した 13917
個体のブナ当年生実生のうち、10710 個体の実生から非破壊的に果皮のみを採取し、実生には標識を付けてその後の生残過程の追
跡調査を行った。果皮 DNA を用いた種子親解析については、合計 2231 個体の果皮について 4 つのマイクロサテライトマーカーの
遺伝子型を調べ、287 個体の成木の中から種子親を特定した。花粉親解析については果皮と子葉から別々に DNA を抽出して7つの
マイクロサテライトマーカーの遺伝子型を調べ、400 個体の実生の両親を特定した。
これらの解析は、親個体ごとの詳細な繁殖・更新様式解明のためのアプローチとしてきわめて有効であると考えられた。
【P2−55】エナメル質の炭素・酸素同位体および微量元素分析に基づく Desmostylus と Paleoparadoxia
(束柱目) の食性と生息環境の復元
鵜野 光(1)*, 米田 穣(1), 柴田 康行(1)・樽 創(2), 甲能 直樹(3)
(1) 環境研・化学 (2) 神奈川県立生命の星・地球博物館 (3) 国立科学博物館・地学
束柱類(Desmostylia)は漸新世から中新世にかけて北太平洋沿岸に生息していた大型の有蹄類である.彼らが目レベルで絶滅した
ことや現生の哺乳類に類似の形態を持つものが見られないことから,従来の形態学的な検討では,彼らの食性や生息環境を明らかに
することができない.哺乳類体内の炭素・酸素同位体組成や微量元素組成(Ba/Ca, Sr/Ca など)は摂取した食物や水の同位体・微
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量元素組成と強い相関関係がある.束柱類の化石から,生存時の同位体組成や微量元素組成を知ることができれば,彼らの食性や生
息環境の推定が可能である.そこで,北海道阿寒町の中部中新統殿来層から産出した束柱類の Desmostylus と Paleoparadoxia にお
ける歯のエナメル質の炭素・酸素同位体比および微量元素組成を分析し,彼らの食性と生息域を推定した.酸素同位体比から両者は
共に汽水域に生息していたと考えられるが,炭素同位体比と Sr/Ca の値は有意に異なっており,食性が異なっていたと考えられる.
さらに,この分析結果に基づいて対応する被食対象を現生の動植物から絞り込める可能性が高い.
【P2−56】チャノコカクモンハマキの交信撹乱剤に対する抵抗性とオスの EAG 応答の関係
田端 純(1)*, 杉江 元(1), 野口 浩(1), 沼田智歩(2), 戒能洋一(2)
(1) 農業環境技術研究所(2) 筑波大 農林
性フェロモンを利用した交信撹乱剤による害虫防除は,1980 年代以降に実用化され,有機合成殺虫剤に代わる,安全性の高い防除
技術として注目されてきた.(Z)-11-tetradecenyl acetate(Z11TDA)は,茶樹を加害するハマキガ類に対する有効な製剤であったが,
1996 年頃から静岡県のチャノコカクモンハマキ Adoxophyes honmai において,感受性が低下していることが報告された.
Mochizuki ら(2002)が‘交信撹乱剤に対する抵抗性’としたこの現象は,交信撹乱剤が野外個体群に対し人為選択作用をもたらし
たことを示す最初の例である.同種雌雄間の情報伝達を阻害する交信撹乱剤に対する抵抗性の発達は,応用昆虫学的に重要な問題で
あるだけでなく,種内情報伝達の分化の新しいモデルケースとなる可能性がある.そこで,本研究では,実験室内で A. honmai を
Z11TDA 処理下で飼育・選抜し,交信撹乱剤抵抗性を再現する系統を確立した.この系統を対照系統と比較することで,交信撹乱
およびそれに対する抵抗性に関するいくつかの知見を得た.今回は,オスの性フェロモンに対する触角応答(electroantenn ogram:
EAG)にみられた結果を中心に紹介する.
【P2−57】植食者が植物細胞における生殺与奪・発育増殖の権限を掌握している?
徳田 誠(1)*, 湯川淳一(2), 深津武馬(1)
(1)産総研・生物機能工学
(2)九大
植物と植食者の関係は、生物間相互作用についての研究が最もさかんに行われている系の1つである。植食者の中には、植物組織
を様々に改変して食物資源や住み場所として利用するものがある。中でもゴール形成者は、細胞分裂中の組織に刺激を与えることに
より、植物の形態形成に異常を誘導し、ゴールという特異的な構造として利用するというきわめて高度な能力を有する。
エゴノキハイボタマバエは、4月にエゴノキの葉にゴールを形成する。このタマバエは、エゴノキの落葉が始まる秋までゴール内
で1齢幼虫として過ごし、ゴール葉を含む多くの葉が落下した9月になってようやく発育を始めた。落葉上のゴール部分の植物細胞
は、同一葉中の他の細胞が枯死した後も生存し続け、ゴール内のタマバエ幼虫が発育するのに伴って、薄い円盤状から厚い半球型の
ゴールへと成長した。成長後のゴール部分の植物組織は、細胞数・サイズとも有意に増加していた。また、タマバエの終齢幼虫が 10
月にゴールから脱出すると、ゴール部分の植物細胞は枯死した。
このことから、エゴノキハイボタマバエは、通常の植物細胞が寿命を全うした後も、ゴール部分の植物細胞を延命、再成長させ、自
身の発育が完了するまで利用しているものと推察された。この現象は、植物−植食者の系において、植食者が植物由来の細胞におけ
る生殺与奪・発育増殖の権限を一手に掌握していることを示唆する初めての事例であると考えられる。
【P2−58】Evolution of antigen polymorphisms of malaria parasites in isolated populations
Kazuyuki Tanabe (1)*, Naoko Sakihama (1), Hiroshi Ohmae (2), Akira kaneko (3)
(1) Lab. Biol., Osaka Inst. Technol. (2) Inst. Basic Med. Sci., Tsukuba Univ. (3) Dept. Med., Karolinska Inst. Sweden
Surface antigen genes of the human malaria parasite, Plasmodium falciparum, are under intense immune pressure and show
extensive polymorphism. However, little is known about frequency of the generation of novel polymorphisms. We are
interested in P. falciparum populations in Vanuatu, in the southwestern Pacific, where malaria epidemiological settings are
139
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
suitable to test whether novel antigen polymorphism evolves rapidly because mixed genotype infections are rare and parasite
populations are isolated. We analyzed SNPs and repeat-length polymorphisms in three major surface antigen genes, msp1,
msp2 and csp, in populations from 7 islands of Vanuatu in 1996 to 2002. We also sequenced simple repeat-length
polymorphism at three microsatellite. Sequences of over 1 Mb obtained showed no novel SNPs in the three antigen genes. In
contrast, repeat length polymorphism evolved rapidly. Analysis of‘linkage disequilibrium’between pairs of loci revealed a
spectrum of population genetic structure, suggesting that some of older antigen alleles, existed prevalent before the migration
of drug resistance to Vanuatu, have persisted through meiotic recombination events. We argue that SNPs in P. falciparum
antigen genes are substantially stable in isolated populations.
【P2−59】ムギ類うどんこ病菌 Blumeria graminis における宿主−寄生者関係の進化学的研究
井沼 崇(1)*, A. Bolay (2), S. A. Khodaparast (3), 高松 進
(1)三重大 生物資源 (2)Conservatoire et Jardin botaniques de la Ville de Geneve, Switzerland (3) Plant Protection Coll. of
Agric., Univ.,
Iran
自然界には共生関係や宿主−寄生者関係など異なる生物同士が密接な関係を持つ生物間相互作用が数多く存在し、生態系において重
要な役割を担っている。生物間相互作用の進化的な成り立ちは、今日の生物学における主要な興味となっている。その中で宿主−寄
生者関係の例として、うどんこ病菌と被子植物との関係がある。うどんこ病菌は菌界に属するカビで、被子植物に寄生して白い粉を
振りかけたような病徴を引き起こすが、生きた植物上でのみ生存可能で、宿主植物を枯らすことはない。このことは、うどんこ病菌
が被子植物の進化と密接に関係しながら進化してきたことを示唆している。従って、本菌の系統関係を推定することは、植物の系統
関係と対応させて生物間相互作用を進化的に研究するために有用である。今回我々は、ムギ類に寄生するうどんこ病菌 Blumeria
graminis の分子系統解析を行った。うどんこ病菌が宿主とする 9838 種の植物のうちムギ類は 634 種を占め、その寄生菌は Blumeria
graminis 1 種とされている。我々は、ムギ類 14 属に寄生する B. graminis を日本、欧州、中東、南米から収集し、核 rDN A の ITS
領域および 28S 領域の塩基配列を決定した。これまでに、B. graminis は分子系統解析により他のうどんこ病菌とは異なる独自の単
系統群になることが明らかになっているが、種内の系統関係は報告されていなかった。そこで、決定した配列をもとに系統樹を作成
して種内の系統関係を明らかにすると共に、本菌とムギ類との間における進化的関連性の有無を考察する。
【P2−60】ライラック類うどんこ病菌のITSタイプの生物地理学的解析
瀬古夕介(1)*, A. Bolay(2), 佐藤幸生(3), L. Kiss(4), V. Heluta(5), 丹田誠之助(6), 野村幸彦(7), A. Schmidt(8),
B. Grigaliunaite(9), M. Habrylenko(10), 高松進(1)
(1)三重大生資 (2)Nyon, Switzerland (3)富山県立大 (4)Plant Prot. Inst., Hungarian Acad. Sci., Hungary (5)Int. Solomon Univ., Ukraine
(6)東京都世田谷区 (7)千葉県四街道市 (8)L&uuml;beck, Germany (9)Inst. Bot., Lithuania (10)Comahue Univ., Argentina
ライラックは街路樹や庭木として親しまれる花木であり、ヨーロッパでは19世紀に北米から侵入したErysiphe syringaeが寄生する
と考えられている。本菌は、ヨーロッパにおいては有性世代が確認されることは希であったが、1998年以降に突然有性世代が観察
されるようになり、その菌は東アジア固有種E. syringae-japonicaeと同定された。そこで我々は、新大陸、ヨーロッパ、ウクライナ、
ロシア、東アジアで1977-2005年の間に採集された標本のrDNA ITS領域を解析した。解析の結果、形態では区別がつかないが、菌
体によって2つの異なるITSタイプ(SタイプとKタイプ)に分かれた。両ITSタイプの相同性は93.7%と低かった。Kタイプの菌は、東
アジアからユーラシア大陸を東から西に向かって分布を拡大し、近年ヨーロッパに侵入したことが示唆された。一方で、Sタイプの
菌はKタイプの菌がヨーロッパ方面へ分布を拡大するにつれ検出されなくなり、近年ヨーロッパから採集された標本からは検出され
なくなった。現在は、以下の2点の疑問について検討中である。(1)Kタイプの菌が近年急速に分布を拡大し、従来のSタイプの菌に取
って代わるようになった原因について。(2)Kタイプの菌の分布拡大とヨーロッパにおいて突然有性世代が確認されるようになった現
象との関連性について。
140
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
【P2−61】Wolbachia 感染が関与するミトコンドリアの選択的 sweep:分子系統解析による日本産キチ
ョウ2型の進化学的、生物地理学的考察
成田聡子(1)*, 野村昌史(1), 加藤義臣(2), 深津武馬(3)
(1)千葉大院・自然科学
(2)国際基督教大・生物
(3)産総研・生物機能工学
日本産キチョウは、形態、生態学的形質、酵素多型、生殖隔離の程度から、種レベルで分化していると考えられている明確な2型(褐
色型と黄色型)に分けられている。本研究ではこれらキチョウ2型の系統関係を明らかにするために、核 DNA とミトコンドリア DNA
(mtDNA)を用いた分子系統解析を行った。核 DNA による分子系統解析の結果は黄色型と褐色型を分けるものとなった。ところ
が驚くべきことに mtDNA が示した明確な2タイプは黄色型と褐色型に対応するものではなかった。核 DNA と mtDNA の系統図が
一致しない原因としては、系統ソーティング、遺伝子浸透、選択的 sweep などが考えられる。選択的 sweep の例として宿主の生殖
を操作する利己的な細菌 Wolbachia の関与があげられる。そこで系統解析に用いた全サンプルについて Wolbachia 感染の有無を調
べたところ、mtDNA タイプと完璧な対応関係を示した。また Wolbachia 感染個体は、黄色型も褐色型も同一 mtDNA タイプを持
つことから、過去に交雑により、褐色型由来のミトコンドリアが黄色型キチョウに Wolbachia とともに遺伝子浸透し、さらに
Wolbachia が引き起こす生殖操作によって黄色型キチョウ集団に褐色型由来のミトコンドリアが蔓延したと考えられる。また遺伝
的距離から褐色型由来のミトコンドリアと黄色型由来のミトコンドリアは約 200 万年前に分岐したと推定された。それは日本列島
の生物相を分断する重要な海峡であるトカラ海峡ができたとされる年代に一致している。以上のことを踏まえ、キチョウの生物地理
学的進化モデルを紹介する。
【P2−62】内部共生細菌 Spiroplasma が引き起こすオス殺し現象に影響を与える宿主の遺伝的変異につ
いて
陰山大輔(1)(2)*, 安佛尚志(2), 嶋田正和(1), 深津武馬(2)
(1)東大院・総合文化 (2)産総研・生物機能工学
内部共生細菌による宿主の生殖操作には様々なものがあるが、特にオス宿主のみを殺す現象(オス殺し)は、Wolbachia, Rickettsia,
Spiroplasma などの共生細菌によって引き起こされていることが多様な昆虫類において知られている。本研究ではオス殺しに対する
感受性や内部共生の安定性に関して宿主側に変異が存在するかどうか、存在するならその遺伝的基盤はどういったものかを調べるこ
とを目的とした。そこで宿主にオス殺しを起こす Spiroplasma を体液移植や戻し交配によってキイロショウジョウバエの様々な地
域系統に導入した。導入した各系統でオス殺しの強さを比較した結果、系統間に変異が見られた。交配実験の結果とそれら各系統体
内での Spiroplasma 密度の比較からオス殺しに対する宿主側の変異とその遺伝的基盤について考察する。
【P2−63】アリの細胞質に寄生する 2 本鎖 RNA の増殖要因
佐藤俊幸*,諸熊直,藤原一孝,廣田忠雄○,小原嘉明,森山裕充、福原敏行
東京農工大 農 ○国際基督教大 生物
細胞質内に寄生的に存在する利己的複製体として、2 本鎖で直鎖状の RNA が様々な昆虫で見つかっている(Miyazaki et al. 1996)。
本研究では、オオアリ属の 1 種、ヤマヨツボシオオアリ(Camponotus yamaokai)において、2 本鎖 RNA の増殖に関わる要因に
ついて明らかにするため、飼育実験を行った。予備的実験により、女王の存在が働きアリ(以下、ワーカー)での 2 本鎖 RNA の増
殖を抑えているらしいことが示唆されていた。一般に、女王の存在はワーカーの卵巣の発達を抑制することが知られているので、2
本鎖 RNA の増殖(体中の組織で増殖する)は、宿主の卵巣の発達程度と相関しているものと予想し、以下のような実験を行った。
有女王(女王 1+大型ワーカー6+小型ワーカー24)と無女王(大型ワーカー6+小型ワーカー24)のサブ・コロニーを作成し、食物
を十分に与え、1 ヵ月後、大型ワーカーを解剖し、卵巣の発達程度を観察・測定するとともに 2 本鎖 RNA の増殖の有無を確認した。
その結果、無女王群で有意により高頻度で 2 本鎖 RNA の増殖がみられ、卵巣も有意に発達していた。おそらく2本鎖 RNA 側が、
宿主のコロニーに余計な負担を与えないよう、繁殖個体でのみ増殖するメカニズムを進化させたのかもしれない。
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第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
【P2−64】細菌エンドファイト共生水稲に対する害虫の適応進化を遅延させる方法のシミュレーション
モデルによる検討
佐藤幸恵(1)*、鈴木芳人(1)、小堀陽一(1)、山中武彦(2)
(1)中央農研 (2)農環研
現在、水稲の新しい害虫防除手段として、抵抗性を誘導する細菌エンドファイトの開発が進められている。しかし殺虫剤抵抗性の発
達と同様に、細菌エンドファイトによる抵抗性水稲においても、加害できるバイオタイプが発達し、短期間のうちに利用できなくな
る危険性がある。土壌細菌Bacillus thuringiensisの殺虫性タンパク質の遺伝子が導入された抵抗性作物では、バイオタイプの発達を
遅延させる方法として、High dose / refuge strategyが推奨されている。これは、抵抗性遺伝子をホモでもつ害虫個体のみが生き残
れるような高レベルの毒素を抵抗性作物に発現させる一方、感受性品種の栽培区を設け、抵抗性と感受性個体を交配させることによ
り、害虫集団内における抵抗性ホモ個体の出現頻度を低下させる方法である。しかし、細菌エンドファイトにHigh dose効果を望む
のは難しいため、refuge strategyと他の害虫防除法との併用によるバイオタイプの発達の抑制を検討する必要がある。本研究では2
遺伝子座(エンドファイトに対する抵抗性遺伝子とその他の防除法に対する抵抗性遺伝子)で各2対立遺伝子の決定論的個体群シミ
ュレーションモデルにより、細菌エンドファイトとその他の防除手段の併用がそれぞれの抵抗性遺伝子頻度の増加速度に及ぼす影響
を調べ、抵抗性発達を遅延させる上での効果的な併用方法について検討した。
【P2−65】トマト黄化えそウイルスの適応度に対する媒介虫アザミウマの感染植物選好性とそのタイミ
ングの影響
桜井民人
東北農研セ
虫媒性植物ウイルスの適応度は、宿主植物への感染、感染後の宿主内での増殖、ベクター昆虫によるウイルス獲得、保毒虫によ
る宿主植物への媒介の 4 つの要因によって規定される。トマト黄化えそウイルス(TSWV)は、このうち前者2つの要因に関わる宿
主植物の防衛戦略を打ち破った結果、現在 1,000 種を超える宿主域を持つに至った農業生産上の重要ウイルスである。したがって、
本ウイルスがその適応度を最大化するためには、後者2つの要因、すなわちベクター昆虫との関係が極めて重要になる。両者の相互
作用については、主要媒介種ミカンキイロアザミウマ雌成虫による TSWV 感染株への選好性が知られている。このようなベクター
昆虫の行動は一見ウイルスにとって適応的であるが、その選好性があまりに強いと感染株から保毒虫が分散せず、結果的にウイルス
の適応度が低下するというジレンマが生じる。これまでの報告は 7 日程度の短期間の観察であったため、そのようなジレンマがどの
ように解消されているのか不明であった。そこで、演者は、ベクター昆虫が感染株を選好するタイミングに注目した。アザミウマに
よる TSWV の獲得は孵化直後の幼虫期に限定され、媒介は主に成虫期になされる。ウイルスにとって最も都合が良いのは、感染株
への選好性が前者の時期に強く、後者の時期に弱いことである。本研究ではこの仮説を長期間の調査によって検証し、それを支持す
る結果を得た。
【P2−66】宿主核ゲノムに水平転移した共生細菌 Wolbachia ゲノム断片の構造と機能
二河成男(1)*,今藤夏子(2),深津武馬(3)
(1)放送大
(2)国立環境研
(3)産総研
アズキゾウムシは、核ゲノムに水平転移により獲得した共生細菌 Wolbachia 由来のゲノム断片を保持しており(Kondo et al. 2002
PNAS 99 14280-)、日本各地の野外系統のアズキゾウムシを調べた結果、共生細菌 Wolbachia 由来の転移ゲノム断片がほぼすべて
のアズキゾウムシから検出された (Kondo et al. 2002 Mol. Ecol. 11 167-)。この Wolbachia ゲノム断片の水平転移の進化過程や分
子機構を明らかにするために、全長の単離、およびその構造決定を試みている。アズキゾウムシ核ゲノム由来のコスミドライブラリ
ーのスクリーニングより得られた転移ゲノム断片には複数の宿主昆虫由来のレトロトランスポゾンが挿入されていた。さらに、共生
細菌ゲノム特異的な PCR より50以上の遺伝子が、また特異的なプローブを用いたサザンブロットより共生細菌ゲノムの10%程
142
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
度が、水平転移によりアズキゾウムシの核ゲノムに移行したことが明らかになった。この結果は、非常に大きな Wolbachia ゲノム
断片が宿主昆虫ゲノム上に存在することを示唆している。
【 P 2 − 6 7 】 シ ロ ア リ に 共 生 す る パ ラ バ サ リ ア 門 原 生 生 物 が 有 す る Phosphoenolpyruvate
carboxykinase(PCK)の分子系統学的解析
齋田佳菜子*(1)、井上徹志(1)、工藤俊章(2)(3)、大熊盛也(1)(2)
(1)JST-PRESTO
(2)理研・工藤環境分子生物
(3)横市大院
パラバサリア門原生生物は真核生物の進化の初期に現れたと推定されており、真核生物の細胞の成り立ちを探るためにも興味深い題
材である。これらの原生生物はシロアリやキゴキブリの腸内にしか生息しておらず培養が難しいため研究が進んでいなかった。
本研究ではイエシロアリ共生原生生物の混合細胞から cDNA ライブラリーを作成し、EST 解析を行なった。その結果、PCK や Malate
dehydrogenase といった解糖系終段階でのリンゴ酸を介するバイパス経路を形成すると予想される代謝遺伝子が比較的多く発現し
ていることが分かった。次に、オオシロアリに共生するパラバサリア門原生生物から獲得した PCK を加え、分子系統学的解析を行
なった。その結果、真核生物の PCK は多系にわかれ、パラバサリア門原生生物の PCK は他の真核生物とは異なり、真正細菌の系統
群に含まれていた。さらに、パラバサリア門内の系統群によって、PCK にもおいても二つの系統群に分かれていたことから、それ
ぞれ異なる真正細菌と共通祖先を有することが推定された。
【P2−68】日本産シルビアシジミのmtDNA塩基配列とWolbachia感染との関係
平井規央(1)・矢後勝也(2)・谷川哲朗(1)・石井実(1)
(1)大阪府大院
(2)東京大院
日本産シルビアシジミZizina otis(シジミチョウ科)には、本州、四国、九州などに分布するZ. o. emelina(本土亜種)と、南西
諸島を中心に分布するZ. o. riukuensis(南西諸島亜種)の2亜種が知られている。また、本土亜種の大阪府豊中市個体群(豊中個体
群)では、2系統のWolbachia感染個体と非感染個体が混在し、このうち1系統は雄殺しと思われる性比異常を起こすことが明らか
になっている(2005年応動昆大会)。本研究では、日本国内のさまざまな生息地(本土亜種8か所、南西諸島亜種6か所)で採集さ
れた本種についてmtDNA・ND5遺伝子の塩基配列とWolbachia感染について調査した。その結果、ND5遺伝子の解析では、本土亜
種、南西諸島亜種ごとに大きく二つの集団が認められ、それぞれ、3および4種類のハプロタイプを含んでいたが、同一個体群中に
複数のハプロタイプが認められたのは、豊中個体群のみであった。また、Wolbachiaの感染は、10か所の生息地で確認されたが、
感染したWolbachiaの系統ごとに宿主のmtDNAのハプロタイプが同じとなる傾向が認められた。
【P2−69】シロアリ腸内の原生生物と細胞共生細菌の共進化関係の考察
野田悟子(1), 本郷裕一(2), 工藤俊章(2,3), 大熊盛也(1,2)*
(1) JST-PRESTO (2) 理研環境分子生物 (3) 横市大院
シロアリと腸内のセルロース分解性の原生生物は共生の例として良く知られているが、原生生物の細胞内・表層には多様な細菌が局
在して、腸内細菌のかなりの割合を占め、多重の共生系を構成している。原生生物を種ごとにマイクロマニピュレータを用いて単離
し、細胞共生細菌の 16S rRNA 遺伝子配列を得、細胞の局在を特異的な蛍光プローブにより in situ で検出した。多くの原生生物種
で細胞共生が見られた Treponema 属のスピロへ−タ、および、Bacteroidales 目細菌について、原生生物―細菌の細胞共生の共進
化関係を考察した。どちらのグループでも、腸内細菌群集全体から同定していた多様な系統群の中に、細胞共生細菌は独立した複数
の系統に認められた。スピロヘータの場合の多くは、原生生物1細胞に異なる複数種の細菌の共生が見られた。また、近縁の原生生
物種の細胞共生細菌からなる系統群が存在していたが、多くは宿主原生生物と細胞共生細菌の系統は一致しなかった。高密度に生息
する腸内微生物群集のなかで複数回に原生生物への細胞共生が生じたものとも考えられる。
143
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
【P2−70】外生菌根菌における隠蔽種と宿主特異性について
佐藤博俊(1),湯本貴和(2),村上哲明(1)
(1)京都大院 理
(2)総合地球環境学研究所
外生菌根菌の宿主特異性の程度は、樹木と外生菌根菌の相利共生関係を理解する上で非常に重要な要因である。現在、外生菌根菌の
多くは宿主特異性を欠くとされており、森林の樹木は共通の外生菌根菌をもつことで菌根のネットワークを形成しているとされてい
る。しかしながら、菌類は形態情報の乏しさから、その種分類が非常に遅れており、隠蔽種、つまり形態の類似のために他種と混同
されて認識されていない種が多数存在すると考えられる。このため、外生菌根菌では隠蔽種の存在によって宿主特異性は過小評価さ
れている可能性が高いと考えられる。それにも関わらず、これまでこの可能性について検証した研究は皆無に等しかった。
本研究では、宿主特異性が低いとされている日本産外生菌根菌オニイグチ属菌について、DNA レベルの分子情報を活用して隠蔽種
の網羅的認識を試み、同時に隠蔽種の存在による宿主特異性の過小評価についても検証を行った。この結果、記載種 3 種のオニイグ
チ属菌は最大 11 のグループに分けられ、さらにこれらは宿主特異性を欠くグループとアカガシ亜属に対して宿主特異性を持つと思
われるグループに分けられることがわかった。この結果は、外生菌根菌では蔽種の存在によって宿主特異性は過小評価されている可
能性を示しており、同時に宿主特異性の高い菌類の普遍性を示すものである。
【P2−71】オス駆動進化説:無脊椎動物への拡張
星山大介(1)*,岩部直之(2),宮田隆(3,4,5),隈啓一(1)
(1)京都大 化学研究所 (2)京都大院 理 (3)JT 生命誌研究館 (4)早稲田大 理工 (5)大阪大院 理
進化に寄与する突然変異が主として
DNA の複製エラーに起因するのならば、精子の分裂回数は卵の分裂回数に比べて圧倒的に大
きい(前者/後者をαとする)ことから、突然変異の大部分は精子、すなわち、オスで起きることになる。これがオス駆動進化説
(male-driven evolution theory) の理論的背景である。雌雄の配偶子間で分裂回数や突然変異率を直接比較することは難しいが、我々
は 1987 年、生殖細胞の分裂数が雌雄間で違うと (α>1)、常染色体および2種類の性染色体の間で突然変異率が異なることを明ら
かにし、分子進化学的にオス駆動進化説を検証することを可能にした (Cold Spring Harbor Symp. Quanti. Biol. vol.52, 863-867)。
XX♀/XY♂型の哺乳類、魚類は Y > A (常染色体) > X の順に、ZW♀/ZZ♂型の鳥類では Z > A > W の順に突然変異率が大
きいことが理論的に予想され、実際の観測値から理論の妥当性が示されている。
理論の背景から、無脊椎動物でもオス駆動進化説は成り立つと予想されるが、これまでにその検証は行われていない。そこで本研究
では、XX♀/XY♂型のケースとして、 Drosophila melanogaster とその近縁種のゲノム配列を用いて染色体間の突然変異率を比較
し、αの値を推定することでオス駆動進化説の検証を行った。また、脊椎動物におけるαの推定値と比較した結果も併せて報告する。
さらに、ZW♀/ZZ♂型の無脊椎動物についても解析する予定である。
【P2−72】自然選択説の哲学的分析
松本俊吉(1)*, 森元良太(2)
(1)東海大 総合教育センター
(2)慶応大院・哲学
本発表では、自然選択説をめぐる哲学的諸問題の中から二つの主要なテーマをとりあげ、松本と森元がそれぞれ考察する。松本は、
進化生物学における適応主義的方法の問題について、すなわちある説明されるべき形態的・行動的形質があったときに、それが過去
の自然選択の産物であるという仮説の下に、その由来を説明しようとする方法論のはらむ問題性―その検証可能性、もしくはその対
抗仮説の可能性など―について考える。特にウィルソンの社会生物学における人間の文化的行動の適応主義的説明をケース・スタデ
ィとしてとりあげる。森元は、現代の進化論における確率概念を哲学的に考察する。この確率概念をめぐる論争は十年程前から生物
学の哲学で活発に議論されており、その中の一つに、この確率概念が進化現象の実在性を表わしているかという、科学的実在論の議
論がある。本発表では、自然選択説を一つの事例としてとりあげ、これを道具主義的観点から扱い、科学的実在論の主張を吟味する。
そこでは、フィッシャーや木村資生の提起した自然選択モデルと情報理論が数学的手法に関して同じであることを示し、また自然選
144
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
択モデルの前提を統計力学モデルの前提と比較・分析することにより、自然選択モデルは情報理論の一部とみなしうること、そして
道具主義的に解釈できることを結論とする。
【P2−73】種脳クオリア論:クオリア・史得記憶/習得記憶マッチングとは何か
水幡正蔵
在野の研究者
「種脳クオリア」は、従来の人脳限定的な「クオリア(質感)」概念を、「種脳」(動物一般脳)の機能用語とするため生物学的再
定義を行ったものである。そもそも<新今西説>では「種脳」を、「感覚入力から個体の生存・交配有利度を高める行動解を算出す
る高度情報処理器官(生体コンピュータ)
」と規定する。このような「種脳」内部信号としての「クオリア」は、「種脳プログラム」
による環境入力(個体内部環境も含む)の翻訳過程で発生する。「種脳プログラム」は感覚系・判断系・運動系の翻訳処理に大別で
きるが、このうちクオリア(質感)の表象に関わるものは感覚系と判断系で発生する信号と考えられる。それぞれを感覚系クオリア、
判断系クオリアと呼ぶと、前者は「潜在的な気づき」(アウェアネス)の状態を、後者は「意識的な認知」を各々種脳内に表象する。
つまりたとえば天敵が視野の中にあっても漠然と見ているうちは「潜在的気づき」(感覚系クオリア)である。ところが視野の中か
らある対象を天敵とみなすと「意識的認知」(判断系クオリア)である。ここで「意識的認知」は感覚系クオリアと記憶のマッチン
グによって起こる。つまり蛇なら蛇の視覚記号として翻訳された感覚系クオリアが種脳内にある史得記憶/習得記憶とマッチングし、
判断系クオリア(ex 気持ち悪い)を発生する。それは「生存・交配有利度指標」でもあり、行動解(ex 逃げる)を算出するデータ
となる。
145
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
進化学 夏の学校
日時・場所:8月29日(月) 8:50∼16:00
東北大学川内キャンパス マルチメディア棟 M206 号室
(参加費:無料)
今年も進化学の普及啓蒙を目的として、「進化学・夏の学校」を開催します。一般の方々にも無料公開で
す。中・高等教育に関係される方のご参加を大いに歓迎いたします。 この企画は無料公開ですので、学会
員でない方も自由に受講できます
1 限目:進化学入門(九大・矢原徹一) 8:50-10:50
では、まず自然淘汰による進化について、入門的な解説を行ないます。次に、花と送粉昆虫の関係を例に、
生き物どうしが適応しあう過程について紹介します。一見助け合っているかのように見える両者の関係が、
実は異なる利害の妥協のうえに成り立っていることを説明します。最後に、送粉昆虫に対する花の適応進化
の分子機構を例に、表現型レベルの進化と分子レベルの進化の関係が解明されつつある現状を紹介します。
2限目:共進化 (東北大・河田雅圭) 11:00-13:00
生物は、同じ種の個体だけでなく、競争相手、捕食者、餌、寄生者や病原体、また、共生者と相互作用し
ながら生活をしています。たとえば、常に新しい病原菌やウイルスに私たちヒトは抵抗していかなければい
けません。一方、腸内細菌などヒトの生存に有利に働いてくれる細菌もいます。これらは、ヒトと細菌との
相互作用によってお互いが進化することによって生じてきたものです。このように、異なる種の生物同士が
お互いの影響を受け合って進化していく過程を、共進化(coevolution)といいます。 本講義では,競争関係、
餌―捕食者関係、寄生者―宿主関係などにおける共進化を紹介するとともに、お互いに利益を与え合う共生
関係の進化について、進化のメカニズムとその実例について紹介し、3限目の内部共生の進化の講義に結び
つけたいと思います。
(昼食−休憩 13:00-14:00)
3限目:内部共生と生物進化 (産総研・深津武馬) 14:00-16:00
多様かつ巧妙な生物の構造や形態や機能はすべて、「遺伝する変異」を原材料として、「自然淘汰」と「遺
伝的浮動」による取捨選択の結果として形づくられてきた、というのが現在の進化理論の基本的な考え方で
す。それでは進化の原材料である「遺伝する変異」はどこからやってくるのでしょうか?もっとも基本的な
遺伝する変異は遺伝子 DNA に生じる「突然変異」です。しかしそれだけではなく「性」、「遺伝子水平転
移」、「内部共生」などの高次のプロセスが、さらに多様かつダイナミックな遺伝する変異のレパートリー
を創出し、生物進化に大きな影響を与えています。 本講義では、生物の体内や細胞内に微生物が取り込ま
れて一体化し、あたかも不可分の1つの生物であるかのような複合系を構築する「内部共生」という現象に
ついて、その多様性、相互作用の本質、生物学的意義、進化過程など、基本的な概念から最新の知見にいた
るまでをわかりやすく解説し、そのおもしろさと重要性についての認識を共有することをめざします。
146
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
特別企画
講義:種分化理論 - A short course on speciation theory by Dr. Gavrilets (University of Tennesse)
日時:8月30日 9:00 - 16:00
場所:東北大学青葉山キャンパス、生物棟(生物・地学共通講義室)
参考書:"Fitness landscapes and the origin of species" by S. Gavrilets (Princeton University Press,
2004)
種分化に関する理論的研究の第一人者でもある Sergey Gavrilets 博士による種分化理論の講義を開催
します。対象は大学院生、研究者(生物、複雑系、数理生態、応用数学など)です。集団遺伝学の基
礎的な知識を必要とします
Date:Aug. 30. 9:00-16:00
Textbook: "Fitness landscapes and the origin of species" by S. Gavrilets
(Princeton University Press, 2004)
The course is oriented towards graduate students and researchers in life sciences, complexity
theory, mathematical biology, and applied mathematics. Solid understanding of principles of
population genetics or modeling principles is required.
9:00 - 10:00
Fitness landscape
10:00 - 11:00 Setp toward speciation on rugged fitness landscape.
11:10 - 13:10 Speciation in the Bateson-Dobzhansky-Muller (BDM) model
Lunch
14:00 - 16:00
Models of Sympatric speciation
147
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
参加者名簿
8月2日までの登録者および企画発表者
英
あ
氏名
所属
発表番号
Andrzej BULLER
ATR ネットワーク情報学研究所
1-D1
CORNETTE Richard
北海道大学大学院地球環境科学研究院
P2-29
○
Lazaro M. Echenique-Diaz
TohokuUniversity
1-F2
○
Sergey Gavrilets
University of Tennesse, Knoxville
国際
○
Rosemary Gillespie
University of California, Berkeley
国際、1-F2
○
Brenden Holland
University of Hawaii
1-F2
○
Gael Kergoat
Institute of Biological Control
国際、
○
Leonardo de Oliveira Martins
University of Tokyo
2-G2
Axel G. Rossberg
横浜国立大学 環境情報研究院
2-E2, P1-25
Ivan Tanev
Doshisha University, ATR NIS
1-D1
Michael Travisano
University of Houston, Texas
国際
Amporn Wiwegweaw
信州大学総合工学系研究科生物・食料科学専攻
青木誠志郎
東京大学大学院総合文化研究科
青木大輔
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 浅見崇比呂
信州大学理学部生物科学科
足立直樹
理化学研究所 GSC システム情報生物学研究グループ
阿部 玄武
東北大学院生命科学研究科生命機能科学専攻器官創製分野
P1-60
蟻川謙太郎
横浜市立大学 大学院国際総合科学研究科
2-C2
安西達也
東海大学医学部分子生命科学
安曽潤子
福井市自然史博物館
飯島 学
九州大学大学院理学府生物科学専攻
1-F1
井倉 毅
東北大学細胞生物学講座生物化学分野
2-A4
○
池尾一穂
国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター遺伝情報分析研究室
2-C1, P1-67
○
石川 淳
国立感染症研究所生物活性物質部
1-A1
石黒 浩
大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻
石黒 格
弘前大学人文学部
2-D1
○
石黒 潔
農水省農林水産技術会議事務局
1-E4
○
石濱史子
国立環境研究所 生物多様性プロジェクト
石原秀至
東大総合文化
P1-56, P1-63
石渡啓介
大阪大学大学院理学研究科
P1-47
井磧直行
九州大学理学府生物科学専攻数理生物学研究室
井田 崇
北大・院・環境科学
2-D2
板倉 学
東北大学大学院生命科学研究科
P2-11
市橋泰範
中部大学応用生物学研究科応用生物学専攻修士課程
市原加奈子
みすず書房編集部
伊藤 桂
北海道大学 農学研究科 動物生態学研究室
P1-1
○
伊藤 洋
東京大学 広域システム
2-E2
○
伊藤 隆
理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室
2-E4
伊藤元己
東京大学・院・総合文化・広域システム
稲田朱美
横浜市立大学大学院 環境分子生物学研究室
井沼 崇
三重大学
○
○
○
1-E2
○
○
1-F4, 2-F4
○
○
○
○
P2-59
148
懇親会
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
か
氏名
所属
発表番号
井上直樹
東京理科大学理工学部応用生物科学科
猪子英俊
東海大学医学部基礎医学系分子生命科学
1-A2,P1-46, P2-50
井原泰雄
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
2-D1
今井周一郎
名古屋大・院・理・生命理学
P1-57, P2-16
入江貴博
九大・理・生物
P1-10
○
巌佐 庸
九州大学大学院理学研究院生物科学部門
P1-10
○
岩瀬峰代
総合研究大学院大学
P1-58
○
岩滝光儀
長崎大学環東シナ海海洋環境資源研究センター
2-D4
岩永亜紀子
九州大学大学院・理学部
1-E4
岩部直之
京都大学・大学院理学研究科
P2-8, P2-71
上田昇平
信州大学大学院総合工学系研究科山岳地域環境科学専攻
P1-34
○
上田 実
東京大学大学院農学生命科学研究科
P2-38
○
内山郁夫
自然科学研究機構基礎生物学研究所
1-A4, P2-12
○
宇津野宏樹
信州大・理
2-F4
○
鵜野 光
国立環境研究所・化学
P2-55
生形貴男
静岡大学理学部生物地球環境科学科
P2-1
遠藤一佳
筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻
P2-41
遠藤真太郎
信州大学大学院工学系研究科地球生物圏科学専攻
大内和也
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科環境分子生物学研究室
大熊盛也
理研・環境分子生物、JST-PRESTO
P2-67, P2-69
○
大島一正
北大大学院 農学研究科 生物生態学体系学講座
P1-12
○
大島範子
東邦大学理学部生物分子科学科
2-C1
大舘智氏(智志)
北海道大学低温科学研究所
太田博樹
東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 先端生命科
2-B4
○
大田由衣
岡山大学大学院自然科学研究科
P1-42
○
大槻 久
九州大・理・生物科学
1-D4
大槻 朝
東北大学大学院生命科学研究科
P2-33
大西耕二
新潟大学・理学部・生物
P2-43
大場裕一
名古屋大学大学院生命農学研究科
P2-32
岡島泰久
名古屋大学 大学院 理学研究科 生命理学専攻
P1-37
岡田典弘
東京工業大学 大学院生命理工学研究科 2-C2, 2-C4, P1-36, P2-9,
P2-10, P2-28
岡田泰和
北海道大学環境科学院生態遺伝学
岡田欣也
東京大学大学院新領域創成科学研究科
岡ノ谷一夫
理化学研究所・脳科学総合研究センター・生物言語研究チーム
1-B1, 2-B1, P2-42, P2-44
岡本 卓
京都大学大学院 理学研究科 動物学教室
P1-38
岡本暁子
東海学園大学人文学部
1-D4
荻島創一
東京医科歯科大・院・システム情報生物学/生命情報学
P1-62, P1-75
荻村
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻
奥平卓司
フリー
奥山雄大
京都大学大学院人間・環境学研究科
P1-7
小倉淳
東北大・院・生命科学
P1-67
小野哲也
東北大、院、医学系研究科、ゲノム生物学分野
2-A4
小畑太郎
農業生物資源研究所
小原嘉明
東京農工大学農学部
P1-21, P2-63
海保邦夫
東北大学大学院理学研究科地学専攻
1-C3
柿澤茂行
東京大学大学院農学生命科学研究科
P2-52, P2-19
懇親会
○
○
○
149
○
○
○
○
○
○
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
氏名
所属
発表番号
影沢達夫
東京理科大・基礎工・生物工
P1-61
陰山大輔
東京大学大学院総合文化研究科
P2-62
○
栫 昭太
京都大学大学院理学研究科
P1-71
○
笠木 聡
東大・新領域・先端生命科学
2-C2, P2-5
笠原正典
北海道大学 大学院医学研究科 分子病理学分野
1-A2, P2-20
笠松 純
北海道大学大学院 医学研究科 分子病理学分野
P2-20
加藤 徹
北海道大学大学院理学研究科
P2-50
○
加藤由実子
(独)水産総合研究センター東北区水産研究所
P2-53
○
金子聡子
総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命体科学専攻
P2-23
○
金子佳之
東京医科歯科大学大学院生命情報学
P1-62
鎌倉強志
都立大・理・生物
P2-24
河合幹彦
東京大学医学系研究科・医科学研究所小林研究室
P2-12
河合洋介
東京理科大学大学院理工学研究科
P2-51
川合伸幸
名古屋大学大学院情報科学研究科
1-B1
川口利奈
筑波大学 生命環境科学研究科 生命共存科学専攻
川窪伸光
岐阜大学・応用生物科学部
2-D2
川越哲博
神戸大学理学部生物学科
P1-8
川崎廣吉
同志社大学 文化情報学部
P1-17
川崎建次郎
農業生物資源研究所
懇親会
○
○
河田雅圭
東北大学大学院生命科学研究科
国際,1-F2, 2-C2,2-E2,2-F2,
P1-74, P2-5, P2-33
川畑俊一郎
九州大学大学院理学研究院生物科学部門
1-F1
川原善浩
産総研・生物情報解析研究センター/東京都立大学・理学研究科
P1-48
川原玲香
東京大学海洋研究所 分子海洋科学分野
P2-36
○
河村正二
東京大学・大学院新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻
2-C2, P2-5
○
河原林 裕
独・産業技術総合研究所、生物機能工学研究部門
2-E4
木内 勲
横浜市立大学大学院
菊地友則
琉球大学農学部亜熱帯動物学講座
1-D4
岸野洋久
東京大学大学院農学生命科学研究科
2-G2, P2-34
北里 洋
海洋研究開発機構地球内部変動研究センター
2-D4
北野 誉
山形大学医学部法医病態診断学分野
1-A4, P1-31
○
北村徳一
東京都立大学大学院理学研究科生物科学専攻
P1-51
○
金 慧琳
総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命体科学専攻
P2-37
○
木村 恵
東北大学・院・農
木本裕子
東京大学大学院新領域・先端生命
金城その子
国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室
国見裕久
東京農工大学大学院農学教育部応用遺伝生態学研究室
久保田耕平
東京大学大学院農学生命科学研究科
2-F2, P1-44
熊澤慶伯
名古屋大学 理学研究科 物質理学専攻
P1-37
○
工樂樹洋
理研CDB・形態進化研究グループ
P1-65, P1-70
○
栗岩 薫
東京大学 海洋研究所
P2-28
○
栗山武夫
東邦大学・理・生物
栗和田 隆
九州大・理・生物・生態
P1-20
○
鍬田龍星
佐賀大学農学部線虫学教室
P1-30
○
郷 康広
総合研究大学院大学 先導科学研究科
2-C4, P2-7
○
古賀洋介
産業医科大学生体物質化学
2-E4
○
古賀隆一
産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門
2-E1
150
○
○
2-C4
○
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
さ
氏名
所属
発表番号
越川滋行
北海道大学大学院地球環境科学研究院
P1-18
小島健司
京大・化学研究所・BIC
P2-18
五條堀 孝
国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター
1-A4, P1-67, P2-13, P2-17
小竹信宏
千葉大学理学部地球科学科
2-D4
小辻孝輔
筑波大学第一学群人文学類所属
後藤禎補
山形大学大学院 理工学研究科
後藤今日子
信州大学 理学部 生物科学科 浅見崇比呂研究室
○
小沼順二
東北大学大学院 生命科学研究科 生態システム生命科学専攻 マクロ生態分野
P1-54
○
小林括平
(財)岩手生物工学研究センター 安全性評価研究部
P2-26
小林知里
京大・院・人環
P1-13
小林一三
東京大学・新領域・メディカルゲノム専攻および東京大学・医科学研究所1-A4, 2-A2, 2-A4, P2-12
小堀峻吾
中部大学応用生物学部環境生物科学科4年
小松 正
独立系研究者/東京家政大学非常勤講師
駒嶺 穆
(財)進化生物学研究所
小柳光正
大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻
P2-6, P2-8
○
昆 健志
東京大学海洋研究所分子海洋科学分野
P1-39
○
今藤夏子
(独)国立環境研究所 生物多様性
2-E1, P2-66
○
近藤真理子
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
P1-57
近藤康生
高知大学理学部自然環境科学科
2-D4
齋田佳菜子
JST-PRESTO
P2-67
齋藤 茂
岩手大学 工学部 福祉システム工学科
斎藤成也
国立遺伝学研究所集団遺伝研究部門
齋藤(田中) くれあ
信州大学理学部生物科学科 浅見研究室
酒井聡樹
東北大学大学院生命科学研究科
2-D2, P1-9
○
坂口美亜子
筑波大学生命環境科学研究科
P1-40, P1-41
○
坂手龍一
生物情報解析研究センター(JBIRC)
P2-13, P2-17
酒巻和弘
京都大学大学院生命科学研究科
1-C1
桜井民人
(独)東北農業研究センター害虫生態研究室
P2-65
櫻庭春彦
徳島大学工学部生物工学科生物反応工学講座
2-E4
提髪玲子
名古屋大学大学院生命農学研究科
左古寛知
京都大学 理学研究科 動物生態学研究室
2-F2
佐々木 剛
JT生命誌研究館
P1-47, P2-10
佐々木 顕
九大・院・理
1-E4,2-F2
笹原和俊
理化学研究所 脳科学総合研究センター 生物言語チーム
2-G2
佐竹正延
東北大学加齢医学研究所
懇親会
○
○
P1-49
○
○
P2-45
○
○
1-A4, P1-31, P2-22
○
○
○
○
颯田葉子
総研大・先導科学・生命体科学
1-A2, 2-A1,P1-58, P2-23,
P2-37, P2-49, P2-53
佐藤剛毅
筑波大学大学院生命環境科学研究科
P2-8
佐藤矩行
京都大学大学院理学研究科動物学教室
1-E1, P2-25
佐藤幸恵
中央農業総合研究センター
P2-64
佐藤慶治
産業技術総合研究所 生物情報解析センター 統合DBチーム
P2-13
佐藤俊幸
東京農工大学農学部
P2-63
○
佐藤博俊
京都大学大学院理学研究科・植物系統分類学研究室
P2-70
○
佐藤行人
東京大学海洋研究所 分子海洋科学分野
P1-69
○
真田幸代
岡山大大学院・環境・進化生態学
P1-19, P1-28
○
猿橋 智
早稲田大学大学院理工生命 篠沢研究室
P2-47
澤井裕美
総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命体科学専
P2-49
151
○
○
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
た
氏名
所属
発表番号
澤田宏之
独立行政法人農業環境技術研究所
椎名 隆
東海大学医学部基礎医学系分子生命科学
1-A2, P1-46
塩沢俊一
神戸大学医学部保健学科膠原病学講座
1-F1
繁宮悠介
長崎総合科学大学
2-F4
芝池博幸
農業環境技術研究所
2-F1
柴尾晴信
東京大学 大学院総合文化研究科 広域システム科学
P1-27
渋谷正志
名古屋大学分子生物学科
嶋田 誠
Rutgers University (現所属:パーレジェン・サイエンス・ジャパン)
○
嶋田 誠
Rutgers University (現所属:パーレジェンサイエンス・ジャパン株式会社)P1-43
○
嶋田正和
東京大学・総合文化・広域システム
2-E2,P1-68, P2-62
○
清水信義
慶應義塾大学医学部
1-A4, P1-57, P2-16
○
下原勝憲
ATRネットワーク情報学研究所
1-D1
正路章子
三井情報開発株式会社
2-C2, P2-5
庄野孝範
甲南大学・院・自然科学
○
杉 緑
信州大学理学部生物科学科
○
杉原千紗
福山大・生命工学・生物工学
鈴木 聡
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻動物系統学研究室
鈴木俊貴
東邦大学生物学科3年、地理生態学研究室所属
鈴木紀毅
東北大学理学部地圏環境科学教室
1-C3
鈴木秀明
情報通信研究機構/ATRネットワーク情報学研究所
1-D1
鈴木浩文
オリンパス株式会社
1-C2
鈴木ゆかり
筑波大学生命環境科学研究科生命共存科学専攻
須島充昭
神奈川県立生命の星・地球博物館
隅山健太
国立遺伝学研究所・集団遺伝研究部門
P2-22
○
陶山佳久
東北大学大学院農学研究科
P2-54
○
徐 泰健
東京大学農学生命科学研究科人材養成ユニット
2-G2
□川涼子
首都大学東京大学院理学研究科
瀬古夕介
三重大学大学院生物資源学研究科
P2-60
世古智一
近畿中国四国農業研究センター・虫害研究室
P1-11
瀬戸雅浩
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
P2-3
○
瀬戸繭美
東京農工大学連合大学院
P1-16
○
曹 纓
統計数理研究所
P1-36
○
曽田貞滋
京都大学大学院理学研究科動物学教室
2-F2, P1-44
○
高玉 圭樹
東京工業大学 大学院総合理工学研究科
1-D1
高橋鉄美
京都大学大学院理学研究科
P1-4
高橋美樹
RIKEN BSI 生物言語研究チーム
P2-44
高橋英樹
東北大学 大学院農学研究科 植物病理学分野
1-E4
高橋 亮
理化学研究所ゲノム科学総合研究センター
2-A1,2-B5,P1-55
○
高見泰興
京都大学理学研究科動物学教室
2-F2
○
田上陽介
静岡県農業試験場 病害虫部
高見英人
海洋研究開発機構 ゲノム解析研究グループ
1-A1
高山浩司
東京大学大学院理学系研究科附属植物園
P1-35
○
瀧尾陽子
理化学研究所CDB形態進化研究グループ
P1-65
○
竹内信人
Theoretical Biology, Utrecht University
P2-48
○
竹田真敏
鶴岡高専、物質工学科
P2-15
武田深幸
九州大学理学府生物科学専攻細胞機能学研究室
懇親会
○
○
P1-52
152
○
○
○
○
○
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
な
氏名
所属
発表番号
武田裕彦
Dep. of Bio, Fac. of Sci, Kyushu University
1-F1,P2-21
多田周右
東北大学・大学院薬学研究科
2-A4
舘田英典
九州大学大学院・理学研究院・生物科学部門
2-A1, P2-10
田辺晶史
東北大学大学院生命科学研究科
P1-45
○
田辺秀之
総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命体科学専攻
2-A4
○
田辺和裄
大阪工業大学・工学部・生物学研究室
P2-58
田辺 力
徳島県立博物館
2-F2
○
田端 純
(独)農業環境技術研究所
P2-56
○
田村浩一郎
首都大学東京 都市教養学部 生命科学コース
P2-27, P2-39
○
団 まりな
階層生物学研究ラボ
千国友子
筑波大学生命環境科学研究科
P1-40
○
千葉 聡
東北大学大学院生命科学研究科
国際、2-B5, 2-F1,P1-54,
P2-41
辻 和希
琉球大学農学部生産環境学科
1-D4
○
辻野 史
総合研究大学院大学先導科学研究科
2-F, P2-30
○
津田真樹
東北大・院・生命科学・生態システム
P1-74
津田雅孝
東北大学大学院生命科学研究科
1-A1
津田みどり
九大院・農・生防研
P1-6
土田浩治
岐阜大学応用生物科学部昆虫生態学教室
1-D4
土松隆志
東大・総合文化・広域システム
P2-46
○
土屋祐子
東邦大学生物学科3年地理生態学研究室
椿 康一
日本植物学会会員
椿 康一
日本植物学会
寺井洋平
東京工業大学 生命理工学研究科 生体システム専攻
P2-10, P2-28
○
寺北明久
京都大学大学院理学研究科生物物理学教室
2-C2
東原和成
東京大学・院新領域・先端生命
2-C4
時田恵一郎
大阪大学サイバーメディアセンター
P1-23
○
徳田 誠
産総研・生物機能工学
P2-57
○
都丸雅敏
京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センター
1-F4
○
長井はるか
東京工業大学 生命理工学部 生命科学科 生体機構コース
P2-9
○
長井光三
東京医科大学生化学教室
P2-40
○
中井静子
東北大学大学院 生命科学研究科
中川祐一
京都大学化学研究所生体触媒化学研究室
中越元子
北里大学 一般教育部 自然科学教育センター 生物学教室
中島康
早稲田大学総合理工学研究センター
永田恵里奈
近畿大学水産研究所浦神実験場
中谷将典
東京大学大学院理学系研究科
長太伸章
京都大学大学院理学研究科
中鉢 淳
理化学研究所 工藤環境分子生物学研究室
中林 潤
九州大学 大学院 理学部 生物 数理生物
1-C1
○
中丸麻由子
東京工業大学大学院社会理工学研究科
2-D1, 2-F1
○
中村征史
東京理科大学基礎工学部生物工学科松野研究室
P1-61, P2-19
中山功一
ATRネットワーク情報学研究所
1-D1
成川 礼
東京大学大学院総合文化研究科
P2-14
○
成田聡子
千葉大学 大学院 応用動物昆虫学
P2-61
○
新鞍彩子
京都大学大学院理学研究科動物系統学研究室
P2-2
○
新村芳人
東京医科歯科大学 難治疾患研究所
2-C4
○
○
○
○
2-C1
○
P1-44
153
懇親会
○
○
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
氏名
所属
二河成男
放送大学 教養学部
P2-66
東京大学 海洋研究所
2-C4, P1-39, P1-64, P1-69,
P2-28, P2-36
西田 睦
西本由利子
は
発表番号
統計数理研究所 モデリング研究系
懇親会
○
P1-33
P1-59
○
2-A2
○
東京都立大学大学院理学研究科生物科学専攻
P2-39
○
野中 勝
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
1-A2, P1-57
延原尊美
静岡大学教育学部地学教室
2-D4
○
野村暢彦
筑波大学大学院生命環境科学研究科生物機能科学専攻
1-E2
○
橋口康之
東京大学海洋研究所
2-C4
○
橋本 隆
奈良先端大・バイオ
2-F4
橋本 敬
北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科
1-B1
長谷川雅美
東邦大学理学部生物学科
1-F2,P1-36
長谷部光泰
基礎生物学研究所・生物進化研究部門
1-E1,P1-9
○
早川敏之
総合研究大学院大学葉山高等研究センター
P2-35
○
林 誠
大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻
1-E2
林 守人
The University of Nottingham
1-F2
原 雄一郎
北大・院・情報科学
P1-72
原田新一郎
浦和東高校
針山孝彦
浜松医科大学・総合人間科学(生物)
P1-2
半澤直人
山形大学理学部生物学科
P1-49
半田直史
東京大学、大学院新領域創成科学研究科、メディカルゲノム専攻
2-A2
東 正剛
北海道大学大学院地球環境科学研究院
疋田 努
京都大学大学院理学研究科動物学教室
P1-38, P1-50
彦坂 暁
広島大学・総合科学部
P2-31
久冨泰資
福山大・生命工学・生物工学
日野修次
山形大学理学部物質生命化学科
2-E2
平井規央
大阪府立大学大学院 昆虫学
P2-68
廣田忠雄
国際基督教大学 教養学部 理学科
P1-3, P2-63
広永 良
京都大学 生態学研究センター
P1-24
○
深津武馬
産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門
2-E1, P1-14, P1-27, P2-57,
P2-61, P2-62, P2-66
○
福井 眞
東大・総合文化・広域システム
○
藤井 恒
京都学園大学人間文化学部
○
藤井 亮
琉球大学大学院 理工学研究科 海洋自然科学専攻
○
藤本仰一
東大総合文化、ERATO複雑系生物
布山喜章
首都大・院理・生物
○
古田好美
東京大学海洋研究所分子海洋科学分野
○
邊見 均
ATRネットワーク情報学研究所
1-D1
北條 賢
京都工芸繊維大学工芸科学研究科機能科学専攻
P1-15
星野英一□
東京大学大学院総合文化研究科
P1-73
星野真酉
東京農工大学農学部応用遺伝生態学研究室 星山大介
京都大学化学研究所
P2-71
細 将貴
京都大学 理学研究科 動物生態学教室
2-F4
○
細川貴弘
産総研・生物機能工学
2-E1, P1-14
○
新田 梢
九州大学理学府生物科学専攻
新田みゆき
(独)農業生物資源研究所
能美健彦
国立医薬品食品衛生研究所変異遺伝部
野口順子
京都大学大学院理学研究科
野澤昌文
154
○
○
○
P1-63
○
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
ま
や
氏名
所属
発表番号
細道一善
東海大学医学部基礎医学系分子生命科学
P1-46
細谷理樹
国立遺伝学研究所 哺乳動物遺伝研究室
P2-4
堀口弘子
浜松医科大学・総合人間科学(生物)
P1-2
堀 道雄
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻
2-F4, P1-4, P2-9
○
本郷紗希子
東大・総合文化
P1-68
○
前川督雄
四日市大学環境情報学部
1-D1
○
真栄城哲也
筑波大学 図書館情報メディア研究科
1-D1
牧野 渡
東北大学 大学院生命科学研究科
牧野崇司
東北大学大学院生命科学研究科
2-D2
○
増田直紀
理化学研究所 脳科学総合研究センター
1-E4
○
松岡由浩
福井県立大学
2-A1
松尾隆嗣
首都大学東京 都市教養学部 理工学系
2-B4
松田裕之
横浜国立大学環境情報研究院
1-C3, 2-E2
松原未央子
京都大学大学院 理学研究科 生物化学専攻
P1-66
松原由加里
岡山大学大学院自然科学研究科
P1-19
○
松本俊吉
東海大学総合教育センター
P2-72
○
真野浩行
筑波大学・生命共存科学専攻
馬渕浩司
東京大学海洋研究所 分子海洋科学分野
P1-64
○
三浦 収
東北大学生命科学研究科 千葉研究室
2-F1
三浦 徹
北大・地球環境
P1-18, P1-68 , P2-29
○
水波 誠
東北大学大学院生命科学研究科
2-B1
○
水野晃子
東北大学生命科学研究科生態システム生命科学専攻
2-E2
○
水野寿朗
大阪市立大学理学部発生学研究室
水幡正蔵
在野の研究者
三中信宏
農業環境技術研究所
南澤 究
東北大学大学院生命科学研究科
宮 正樹
千葉県立中央博物館
宮竹貴久
岡山大学大学院環境学研究科
1-F4, P1-42
○
茂木高志
東京都立大学大学院理学研究科生物科学
P2-27
○
望月敦史
基礎生物学研究所・理論生物学研究部門
2-B5
森長真一
東北大学大学院生命科学研究科機能生態
P1-9
森 宙史
信州大学理学部生物科学科
森元良太
慶応義塾大学大学院文学研究科
守屋繁春
理化学研究所 工藤環境分子生物学研究室
八木 健
大阪大学大学院 生命機能研究科
2-B4
矢後勝也
東京大学大学院理学系研究科生物科学
P2-68
柳沢幸夫
産業技術総合研究所地質情報研究部門
2-D4
矢野 航
京都大学理学研究科動物学教室自然人類学研究室
矢原徹一
九州大学大学院理学研究院生物科学部門
2-F1, P1-59
○
山内 淳
京大生態研センター
P1-53
○
山岸公子
東京都臨床医学総合研究所・一分子プロジェクト
2-C4
山岸明彦
東京薬科大学 生命科学部
2-E4
○
山崎孝平
東邦大学理学部生物学科
山村則男
京都大学生態学研究センター
P1-24, P1-26,P1-53
○
山本和生
東北大学大学院生命科学研究科
2-A2, 2-A4
○
山元大輔
東北大学大学院生命科学研究科
2-B4
懇親会
○
2-G4, 2-G5, P2-73
○
1-E2, P2-11
○
○
○
○
155
P2-72
○
○
○
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
ら
わ
氏名
所属
発表番号
山本博章
東北大学大学院生命科学研究科
2-C1
山家智之
東北大学加齢医学研究所病態計測制御分野
1-F1
雪 真弘
横浜市立大学大学院国際総合科学
行弘研司
(独)農業生物資源研究所昆虫分子進化研究チーム
P1-29
○
横井智之
京都大学大学院農学研究科昆虫生態学研究室
2-D2
○
横堀伸一
東京薬科大学生命科学部分子生命科学科
P1-32
○
横山 潤
東北大学大学院生命科学研究科
1-F2,2-D2
○
吉田重人
千葉大学自然科学研究科
P2-42
吉田勝彦
国立環境研究所生物多様性研究プロジェクト
P1-22
吉野元
東北大学生命科学研究科
1-F2
劉 健勤
ATRネットワーク情報学研究所
1-D1
劉 慶信
国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室
2-G2
○
若野友一郎
東京大学理学系研究科生物科学
2-D1
○
若山典央
東北大学大学院生命科学研究科
P1-5
和田 洋
筑波大学生命環境科学研究科
P1-66, P1-71, P2-8, P2-25
渡辺 格
千葉県立薬園台高校
渡部真也
広島大学大学院生物圏科学研究科
渡部輝明
高知大学医学部医学情報センター
156
懇親会
○
○
○
P2-34
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
For foreign participants
Place
•
TOHOKU University, Kawauchi campus
Kawauchi, Aoba-ku, Sendai-City, Miyagi-Pref.
980-8576, JAPAN
•
Sendai Interational Center
Aobayama, Aoba-ku, Sendai-City, Miyagi-Pref.
980-0856, JAPAN
Tel. +81 022 265 2211
Fax +81 022 265 2485
Access
You can get to Kawauchi campus and Sendai International Center by bus.
From JR Sendai Station, Bus stop No.9
LINE
DOUBUTSU KOUEN JYUNKAN
MIYAKYOUDAI & AOBADAI
MIYAKYOUDAI
MIYAKYOUDAI & NARITA SAN
KANJI
These four lines lead to the venue.
Please, drop off the bus at "Sendai Museum & Sendai International Center" (for
International Center) or "OUGI ZAKA" (for Kawauchi campus)
157
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
Symposia
The following symposia will be held in Englsih
Aug. 26, 15:00-18:00 Sendai International Center
International Symposium (Forum of Graduate School of Life Sciences, Tohoku University).
Adaptive radiation and speciation.
Organizer: Masakado Kawata (Tohoku University)
Speakers and summary: Pages 24 and 29
1-F1 8:50-10:50 Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room F
Vertical space structure : On metazoic genetic constitution adapting 1-g and hygiene environment
Organizer : Yasuhiko Takeda (Kyusyu University)
Speakers and summary: Pages 48 - 50
Aug. 27, 11:00−13:30 Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room F
1-F2 Ecological and molecular approaches to Island Biology
Organizer: Hayashi Morito* (Institute of Genetics, The University of Nottingham) and Lazaro M.
Echenique-Diaz (Tohoku University)
Speakers and summary: Pages 50 - 52
Aug. 27, 16:00−18:00 Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room F
F4 Evolutionary biology of behavioral isolation.
Organizer Takahiro Asami* (Shinshu University) and Yuzuru Oguma (University of Tsukuba)
Speakers and summary: Pages 52 - 53
Aug. 27, 12:00−13:30 Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room G
2-G2 Oral session in Englsih.
Speakers and summary: Pages 88 -89
The following symposia include talks in English
Aug. 27, 11:00−13:30 Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room C
1-C2 Biodiversity and evolution of luminescent organisms
Aug. 27, 8:50−13:00
Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room D
1-D1 Evolution of life as system
Aug. 28, 11:00−13:00
Kawamuchi Campus, Tohoku University, Room E
2-E2 Evolutionary effects on ecosystems
158
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
Schedule & Time table
(S):Symposia (K):Workshops (W):Satellite Workshops
(E) In Englsih
August26 Fri.(Sendai internatinal center)
Room
11:00-12-30
13:15-13:45
13:45-14:45
15:00-18-00
18:00-19:00
Congress
Award
ceremony
Awaed lecture
Open symposium
International symposium (E)
General
assembly
August27 Sat.(Kawauchi campus)
Room
A
B
C
8:50-10:50
11:00-13:00
1−A:(S)
Evolution of
environemntal
microorganism
genomes
1−A2:(S)
Genome
evolution of self
recognition
system
1−B1:(W)
Origin and Evolution of language
1−C1:(K)
Evolution of signal
transmssion within
cells
1−C2:(W)
Evolution of
luminescent
organsims
13:50-15:50
1−D1:(K)
Evolution of life as system
E
1−E1:(S)
Developments and
evolution
F
1−F1:(K)
Vertical space
structure (E)
1−E2:(S)
Evoluton of
mutulalistic
microorganisms
18:30-20:30
1−A4:(K)
Evolutionary
perspective of
genome and life from
comparative
genomics
1−C3:(S)
Extinction from
paleobiology and
biology
Poster sessions
D
16:00-18:00
1−D4:(K)
Conflicts in social
insects
1−E4:(K)
Infection and
coevolution at
different spatial
scales
1−F2:(K)
(11:00-13:30)
Ecokogical and
molecular
approaches to
Island Biology (E)
1-F4:(K)
Evolutionary biology
of behavioral
isolation (E)
159
Welcoming party
(Co-op)
第 7 回日本進化学会 2005 年 8 月 26 29 日 東北大学
August28 Sun.(Kawauchi campus)
Room
8:50-10:50
11:00-13:00
A
2−A1:(K)
History and
structure of
populations from
diversity of
genome
2−A2:(W)
Genome
dynamics,
mainetance and
evoltuion (1)
B
2−B1:(S)
Diversity and
evolution of brain
and behavior
C
2−C1:(S)
Evolution of
signals and
receptors of
perception
system: 1 Pigment
cells
2−B2:(K)
Evolution of
consciousness
13:50-15:50
16:00-18:00
2−A4:(W)
Genome dynamics,
mainetance and
evoltuion (2)
2−B4:(S)
Genetic mechanisms of
behavioral evolution
2−C2:(S)
(11:00-13:30)
Evolution of signals and
receptors of perception
system: 2 Opsin
18:10-20:10
2−B5:(K)
(18:10-20:40)
Diversified
perspective of
phenotypic
evolution
2−C4:(S)
(16:00-19:00)
Evolution of signals and receptors
of perception system: 3 Olfactory
receptors
2−D4:(K)
(16:00-19:00)
Coupling evolution of planktons
and bentos
Poster sessions
D
2−D1:(K)
Evolution of
human society
2−D2:(S)
Evolution of
pollinator systems
E
2−E1:(K)
Endosymbiosis as
conpact
ecosystems
2−E2:(W)
Evolutionary effects
on ecosystems
2−E4:(K)
Evolution of microoransism
focusing on Archaea
F
2−F1:(S)
Invasion and
evolution
2−F2:(W)
Evolution of mating
characters and
speciation
2−F4:(K)
Molecluar mechanisms and
evolution of left-right
handedness
G
2−G2
(12:00-13:20)
Oral session in
English (E)
2−G4:Free meeting
160
2−
G5:Free
meeting
第 7 回日本進化学会 プログラム・講演要旨集
第 7 回日本進化学会大会 プログラム・要旨集
2005 年 8 月 26 日∼29 日 仙台国際センター、東北大学川内キャンパス
Society of Evolutionary Studies, Japan The 7th Annual Meeting in Sendai
and Abstracts
August 26 – 29, 2005
campus
Program
Sendai International Center, TOHOKU University Kawauchi
Copyright © 2005 The Society of Evolutionary Studies, Japan
All rights reserved. (不許無断転載)
出版:2005 年 8 月 26 日
発行:第 7 回日本進化学会大会実行委員会
大会委員長:河田雅圭
大会実行委員:酒井聡樹 鈴木紀毅 陶山佳久 田村宏治 千葉聡 鹿野秀一
牧雅之 牧野渡 水波誠 南澤究 山本博章 横山潤
参加受付システム管理:加藤聡史
大会ホームページ:津田真樹
要旨編集:中井静子
印刷:東北大学生協
http://meme.biology.tohoku.ac.jp/evol2005/index.html
161