6 米国エネルギー省(DOE)

米国エネルギー省(DOE)
6
訪問先
米国エネルギー省(DOE)
住所:1000 Independence Ave., SW, Washington DC 20585., USA
訪問日時
対応者
組織の概要
調査項目
(1)
•
2007 年 11 月 1 日(木)13:30∼16:00
Phyllis Yoshida
FreedomCAR & Fuel Partnership Director, FreedomCAR & Vehicle
Technologies
John Garbak
Technology Development Manager
Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies
Nancy L. Garland, Ph.D
Technology Development Manager
Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies
Sunita Satyapal
Hydrogen Storage Team Leader
Hydrogen Fuel Cells and Infrastructure Technologies
David Howell
Manager, Energy Storage R&D,
Office of FreedomCAR & Vehicle Technologies
Rgelio Sullivan
Group Leader, Advanced Materials and Hybrid Electric Systems
Jamie Holladay
Sr. Research Engineer, Chemical & Biological Process, Development
Group, Energy & Efficiency, Pacific Northwest National Loboratory
Jonathan M. Munetz
Research Analyst I, SENTECH, Inc.
ブッシュ政権の水素燃料イニシアティブを受け、FreedomCAR プログラム、
Hydrogen Fuel Initiatives プログラムを実施し、FCV の開発を支援している。
・ FreedomCAR&Fuel プログラムの現状と今後の見通し
・ DOE の FCV フリートプログラムの現状
・ 水素製造に関するプログラムとコストの見通し
・ 今後のパワートレインに対する考え方
DOE の概要
DOE の組織は、大きく三部門に分かれている(図 6-1)。
Nuclear Security / Administrator for National Nuclear Security Administration
(軍事関連エネルギー(核戦略)関連プログラムを管轄)
Energy, Environment
(非軍事関連のエネルギー・環境関連プログラムを管轄)
Science11
(エネルギー関連の基礎研究を管轄)
11
2007 年に、従来は「Energy, Environment, Science」傘下にあった「Office of Science」を部門と
して独立させ、3 部門にした。
47
•
Energy & Environment 部門の傘下には 7 つの部局がある。
-
自動車用燃料電池プログラムは、Office of Energy Efficiency & Renewable
Energy(EERE:エネルギー効率・再生可能エネルギー局)が担当している。
-
水素関連プログラムは、EERE を中心に、Office of Fossil Energy(化石エネ
ルギー局)、Office of Nuclear Energy(原子力エネルギー局)、さらに Science
部門 Office of Science(科学局)が担当している。
Office of the Secretary
Secretary Dr. Samuel Bodman
Deputy Secretary Clay Sell
Office of the Under Secretary
For Nuclear Security /
Administrator for National
Nuclear Security
Administration
Thomas P. D Agostino, Actg
Office of the Under
Secretary for Energy and
Environment
Dennis R. Spurgeon
Office of the Under
Secretary for Science
Dr. Raymond L. Orbach
(省略)
Assistant Secretary
for Energy Efficiency
& Renewable Energy
(省略)
Assistant
Secretary for
Environmental
Civilian
Radioactive Waste
Management
Assistant
Secretary for
Fossil Energy
Civilian
Radioactive Waste
Management
Assistant
Secretary for
Nuclear Energy
Legacy
Management
図 6-1.DOE の組織
出所:DOE ホームページ< http://www.energy.gov/ >
•
EERE においては、自動車用燃料電池プログラムは Office of FreedomCAR &
Vehicle Tecvhnologies が、水素関連プログラムは Office of Hydrogen, Fuel
Cells & Infrastructure Technologies が担当している。
図 6-2.EERE の組織
出所:EERE ホームページ< http://www.eere.doe.gov/ >
48
(2) 米国のエネルギー政策
① 米国のエネルギー政策における戦略
•
米国のエネルギー政策における戦略を表 6-1 に示す。
-
脱石油は天然ガスの利用であるが、気候変動の点には貢献しない。
-
これまで米国は、あまり温室効果ガス削減に言及しなかったが、最近はより
明確に方針を打ち出すようになった。DOE としてもこれまで以上に GHG 関
連の研究を強化する。
表 6-1.米国のエネルギー政策における戦略性
エネルギー多様化
石油依存性の低減を、他の燃料の依存度の上昇で対応す
るのは間違いである。エネルギー多様化が必要。
エネルギーの効率化 エネルギー効率化によるエネルギー消費の抑制
環境保全
地球温暖化・大気質の保全
車両・燃料の
コスト効率性
組み合わせ
既存の自動車と同じレベルの利便性
エネルギー以外のベネフィットの提供
市場性
現在の大きな市場に浸透できる可能性の提示
(現在の石油消費量:900∼1000 万バレル/日)
② 2005 年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)
•
米国では、2005 年 8 月に「2005 年包括エネルギー政策法」が成立した。これ
は、包括的エネルギー政策法としては 13 年ぶりの改定になる。
-
12
この法律は 1724 ページからなり、代替エネルギー導入・省エネルギーのため
に 120 億ドルのインセンティブが盛り込まれている。特に、水素、バイオ燃
料、クリーンディーゼル、先進自動車の開発と普及が強調されている12。
2005 年エネルギー政策法の主な内容は以下のとおり。
① エネルギー高効率機器の購入支援を通じた省エネ推進
② 連邦政府の再生可能エネルギー調達義務、各種再生可能エネルギーへの支援
③ 戦略石油備蓄(SPR)の貯油能力を現 7 億バレルから 10 億バレルへ拡張
④メキシコ湾深海鉱区のロイヤルティ減免、大陸棚外延部における資源量調査の実施
⑤ LNG 受入基地の許認可権限を連邦エネルギー規制委員会(FERC)に一元化
⑥ 新規原子力発電所建設への支援
⑦ ハイブリッド車購入支援
⑧ 2020 年の実用化を目指した水素インフラ、燃料電池車研究開発の実施
⑨ 送電事業者への強制力のある供給信頼度安全基準の設定、インフラ投資促進
⑩ エタノール等のバイオ燃料の利用拡大、ガソリンへの含酸素燃料混入義務廃止
< http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2006EnergyHTML/html/i2210000.html >参照。
49
•
2005 年エネルギー政策法を受け、水素エネルギーの導入に関しては、以下の具
体的目標が定められている。
-
水素を燃料とする自動車の普及(2015 年:10 万台、2020 年:250 万台)
-
自動車普及を支えるインフラの整備
-
水素に関する省庁間タスクフォース、アドバイザリコミティの設置
-
Plug-in ハイブリッド、FFV を実用化させるための研究プログラムの実施
③ ブッシュ大統領による 2006 年度一般教書演説
•
ブッシュ大統領は 2006 年 1 月の一般教書演説において、先端エネルギーイニ
シアティブ(Advanced Energy Initiative)を発表した。
-
先端エネルギーイニシアティブでは特に自動車における対応が強調されてい
る(表 6-2)。
表 6-2.先端エネルギーイニシアティブにおける自動車における対応13
・ EV モードで 40 マイル走行可能なプラグイン・ハイブリッドを実現させる電池の開発
・ 2012 年までに、コーン由来エタノールとコスト的に競合できる、コーンセルロース由
来エタノール生産技術におけるブレークスルー
・ 2020 年までに米国市民が水素 FCV を購入できるための施策の加速的実施
④ ブッシュ大統領による 2007 年度一般教書演説
•
13
ブッシュ大統領は 2007 年 1 月の一般教書演説で、新しいイニシアティブとし
て、ガソリンの使用量を 10 年以内(2017 年まで)に 20%削減するという「20
in 10」を発表した。これは非常に意欲的な政策である。この目標の達成は、燃
費効率の向上と代替燃料の導入で実現させる。
-
20%の削減は、5%分の燃費向上(CAFE 基準の改定)と、15%の代替燃料
導入で達成する。
-
代替燃料導入では、バイオディーゼル、バイオエタノールの普及が主たる方
策となる。
詳細は< http://www.whitehouse.gov/stateoftheunion/2006/energy/index.html >参照。
50
⑤ DOE が描く将来交通のロードマップ
•
米国における石油消費は、Business-as-Usual の場合には、2050 年までに現在
よりも 60%増加して 1600 万バレル/日に達すると見られる(図 6-3)。
-
•
DOE では、省エネルギー技術と代替エネルギー技術の導入で、石油依存度を
大幅に削減する方針である。そのための技術開発を支援している。
DOE が描く将来交通のロードマップを図 6-4 に示す。
米国の石油消費量 [100 万バレル/日]
DOE の研究ポートフォリオ
・ ハイブリッド電気自動車の
導入(ガソリン燃料)
・ 車両の軽量化
・
・
・
燃費向上
による石
油消費量
の削減
代替燃料
の導入
エタノール混合燃料(内燃自動車、
ハイブリッド電気自動車)
プラグインハイブリッド自動車
水素を燃料とする FCV、ハイブリッド/電気自動車
図 6-3.石油消費量削減のための DOE の技術開発
エネルギーセキュリティ
持続可能で燃料フレキシブルな車両
のための高効率技術の展開
国内燃料
&
先端ハイブリッド
すべての車両技術に、
軽量材料・車両システムの研究
の成果を応用
先端エンジン
&
プラグインハイブリッド
先端エンジン
&
再生可能液体燃料
フレックルフューエル/
ディーゼル
エンジンハイブリッド
既存の
ガソリン/
ディーゼル自動車
現在
ゼロ石油
&
ゼロエミッション
燃料電池
その他の技術
多様な国内資
源による液体
燃料製造技術
PHEV 技術
高効率、クリ
ーン燃焼・
燃料技術
パワーエレクトロニクス、
電気モータ
エネルギー貯蔵
脱石油化
移行期
図 6-4.DOE が考える将来交通への戦略的アプローチ
51
(3) 車両関連プログラムの概要
① 車両関連プログラムの 2008 年度予算
•
車両関連プログラムの 2008 年度予算を表 6-3 に示す。
-
特に 2007 年度は議会で予算が最後まで承認されず、暫定予算のまま 2007 年
度を終了した。
-
DOE の研究予算では、DOE が本来予定していない研究で、議会が裁量権を
有する研究枠(議会指定活動)が予算審議段階で追加されることがあった。
これには批判も多く、2007 年度予算以降は議会も要求していない。
-
一般に議会は、自動車研究を増額する傾向にある。
表 6-3.EERE における車両関連プログラム予算 [千ドル]
2006 年度
(確定)
ハイブリッド用電
気システム
車両システム
ハイブリッド電動
推進システム
先進的内燃機関
エンジン R&D
材料研究
燃料技術
技術インテグレ
ーション
革新的なコンセ
プト
技術導入
ピアレビュー
技術 / プログラ
ムマネジメント
議会指定活動
合計
2007 年度
(要求額)
2008 年度
(予算継続決議)
(要求額)
2009 年度
(確定)
(要求額)
0
0
0
80,664
94,135
103,361
12,720
13,006
13,006
0
0
0
42,843
59,240
59,240
0
0
0
40,594
48,346
48,346
34,550
44,591
33,600
34,373
29,044
29,044
33,382
39,636
36,903
13,356
18,413
18,413
13,845
17,836
16,122
0
0
0
13,697
16,845
31,100
495
500
500
0
0
0
6,250
15,031
15,031
0
0
0
990
0
0
0
0
0
2,475
0
0
0
0
0
24,255
0
0
0
0
0
178,351
183,850
183,850
176,138
213,043
221,086
注:2008 年度確定額と 2009 年度要求額は、2008 年 2 月に入手した情報に基づく。
52
•
車両関連プログラムの 2008 年度予算の特徴を表 6-4 に示す。
•
2007 年予算と比べて新規の研究予算を計上している分野は以下のとおりであ
る。
-
PEHV 用の革新的な高容量バッテリ研究(1000 万ドル)
-
PHEV の初期評価と電力網に関する影響のテスト・評価の実施(400 万ドル)
-
エタノール添加燃料の燃焼効率向上の研究と、バイオ燃料の国際標準に関す
る研究(500 万ドル)
表 6-4.EERE の車両関連プログラム:2008 年度予算の特徴
・ 高容量バッテリ、パワーエレクトロニクス、プラグイン電気ハイブリッドのためのシ
ステム分析/テストに関する R&D の実施
・ 高効率・ニアゼロエミッションを達成できる可能性のある内燃エンジンの研究の
促進
・ バイオディーゼルテストの実施(National Biodiesel Board とのコストシェアプ
ログラム)
・ 廃熱の利用(次世代熱電素子)∼トラックにおける仮眠時のアイドリング停止(小
型だが、米国ではポテンシャル大きい)
・ サイクル効率・熱効率のよい、軽量・高強度の材料(車体構造材用、エンジン部
品用)の研究の加速
・ PHEV の初期評価と電力網に関する影響のテスト・評価の実施
・ エタノール添加燃料の燃焼効率向上の研究と、バイオ燃料の国際標準に関す
る研究
・ 燃料フレキシブル車両に関する R&D の加速
53
② EERE の車両関連プログラムの 2007 年度実績
•
EERE の車両技術プログラムの 2007 年度実績と成果を表 6-5 に示す。
-
Plug-in Hybrid に注力している。高エネルギーバッテリー研究にアワードを
与えたともに、パワーエレクトロニクスの研究も進めている。
-
また改造プラグイン・ハイブリッドを用いてエネルギーシステムの分析をす
ると共に、デモンストレーションを実施する。
-
軽量化材料ではマグネシウム材料の研究を行っている(カナダ、中国と共同
研究を実施)。またカーボン材料の安価な製造方法に関する研究を始めた。
-
(質問に答えて)米国におけるエタノール混合比率は5%程度。今後 10%ま
で増加させたい。一部では E85 も普及しつつあるが、全米レベルでは無理。
今後は木質系エタノールのブレークスルーに期待したい。
項目
表 6-5.EREE の車両技術プログラムの進捗状況
進捗
プラグイン・ハ ・ プラグイン・ハイブリッド電磁自動車(PHEV)用電池、モ
イブリッド
ーター、パワーエレクトロニクスの目標を設定。
・ 関係者によるフォローアップ会合を 2007 年 6 月に開催。
・ メリットの明確化と電力網に対する影響の評価研究を開始。
電 気 化 学 的 エ ・ GM が PHEV 用リチウムイオン電池の調達に関して、A123
ネルギー貯蔵
Syetms、CPI / LG Chem、Johnson Controls / Saft と契約
を締結。
・ アルゴン国立研究所が開発したナノ構造チタン酸リチウム
を、Enerdel に技術供与。
車 両 シ ス テ ム ・ 3 台の PHEV、ハイブリッド、水素 ICE に関するベースラ
分析
イン性能評価を完了。
燃料
・ 燃料技術サブプログラムとして、7 つの契約を締結(エタノ
ールエンジンの最適化など)。
・ 潤滑油に関して 1 つの契約を締結。
材料開発
・ マグネシウムの鋳造技術のプロトタイプを完成(アルミニウ
ムに比較して 35%の軽量化を達成)。
・ CF8-Plus(カーボン材料)の開発と実用化、エンジン用の低
価格・高性能・高温耐性ステンレススチールの開発と実用化
先 端 的 内 燃 機 ・ FreedomCar のエンジン効率の 2007 年目標(熱効率で 42%)
関技術
を達成
54
(4) 水素燃料イニシアティブ関連プログラムの概要
① 水素燃料イニシアティブ関連プログラム予算
•
水素燃料イニシアティブ関連プログラムの予算を表 6-6 に示す。水素燃料イニ
シアティブ(Hydrigen Fuel Inisitaitve)は、DOE 内の複数の部局で実施され
ている。EERE がプログラムの中心的な役割を担っている。また DOT も一部
水素安全にかかわる研究を行っている。
•
水素イニシアティブの予算配分を図 6-5 に示す。
表 6-6.水素燃料イニシアティブ関連プログラム予算 [千ドル]
DOE
Office of Energy
Efficiency &
Renewable Energy
(EERE)
Office of Fossil
Energy (FE)
Nulcear Energy
(NE)
Office of Science
(SC)
DOT
2006 年度
2007 年度
(確定)
(要求額)
2008 年度
(要求額)
2009 年度
(確定)
(要求額)
231,044
267,751
307,550
279,132
266,143
153,451
189,511
213,000
211,062
177,713
21,036
22,997
12,450
21,773
11,430
24,057
18,855
22,600
9,909
16,600
32,500
36,388
59,500
36,388
60,400
1,411
1,420
1,425
1,425
1,425
水素燃料イニシアティブ合計
232,455
269,171
308,975
280,557
267,568
注:2008 年度確定額と 2009 年度要求額は、2008 年 2 月に入手した情報に基づく。
DOE-EERE
1 億 8950 万ドル
・ 製造、輸送
・ 貯蔵
・ 燃料電池
・ 製造
・ 技術評価
・ 安全・基準・標準
・ 教育
・ システム分析
DOE-Office of
Fossil Energy
2300 万ドル
・ 製造
DOE-Office of
Nuclear
1890 ドル
・ 製造
DOE-Office of
Science
3540 万ドル
・ 基礎研究
DOT
142 万ドル
・ 安全・基準・
標準
図 6-5.2007 年度の水素燃料イニシアティブ関連プログラムの予算配分
55
国立研究所
35%
大学・
研究機関
20%
大規模企業 16%
企業
35%
小規模企業 9%
そ
の
他
10%
エネルギー企業 2%
自動車会社 8%
図 6-6.2007 年度水素燃料イニシアティブ関連プログラムの配分
(DOE 分、総額 2 億 6800 万ドル)
② EERE における水素燃料イニシアティブ関連プログラム予算
•
水素燃料イニシアティブ関連プログラムのうちの、EERE が管轄する予算を表
6-7 に示す。また 2008 年度予算の特徴的な項目を表 6-8 に示す。
表 6-7.EERE における水素燃料イニシアティブ関連プログラム予算[千ドル]
水素製造・輸送
水素貯蔵 R&D
燃料電池スタック・コ
ンポネント R&D
技術評価
自動車用 FC システ
ム
分散型 FC システム
燃料改質 R&D
安全・基準・標準
教育
システム分析
製造 R&D
合計
2006 年度
2007 年度
(確定)
(要求額)
2008 年度
(要求額)
2009 年度
(確定)
(要求額)
8,391
33,702
40,000
39,636
0
26,040
33,728
43,900
43,501
59,200
30,710
37,100
44,000
43,600
62,700
33,301
39,413
30,000
29,727
0*
1,050
7,324
8,000
7,927
6,600
939
7,257
7,700
7,630
10,000
637
3,952
3,000
2,973
0
4,595
13,492
16,000
15,854
0*
481
1,978
3,900
3,865
0*
4,787
9,637
11,500
11,395
7,713
0
1,928
5,000
4,954
0
153,451
189,511
213,000
211,062
146,213
注:2008 年度確定額と 2009 年度要求額は、2008 年 2 月に入手した情報に基づく。
なお 2009 年予算要求では、*項目は車両関連プログラムに移行させたとのこと
(技術評価:約 1500 万ドル、安全・基準・標準:1250 万ドル、教育:400 万ドル)。
56
表 6-8.EERE の水素燃料イニシアティブ関連プログラム:2008 年度予算の特徴
・ 再生可能エネルギーを活用した水素製造(含.バイオ燃料の改質、バイオマスガ
ス化、太陽光を利用した光化学、高温水分解、電気分解)
・ 自動車の展開と足並みをそろえて展開ができる小型の水素インフラの開発
・ コスト効率のよい水素輸送のための高効率コンプレッサ、液化技術
・ 水素貯蔵材料の研究とエンジニアリングサイエンスの強化、化学的水素貯蔵での
効率 40%の実証(ラボスケール)
・ 自動車用燃料電池システム(80kW)のコストの削減:量産を想定した場合の 70 ド
ル/kW の達成、2010 年に向かって 45 ドル/kW の達成
・ 自動車メーカー、エネルギー会社との協力による、ラーニング・デモンストレーショ
ンの継続実施(航続距離 250 マイルの達成)
・ 定置用燃料電池(5∼250 kW)の発電効率の向上:フル出力時 35%
・ 水素安全に関するベスト・プラクティス・マニュアル、オンラインリソースの作成
・ 市場移行を進めるための新規のエンドユーザー向け活動、緊急対応者・規制当
局・行政官向けのトレーニング
・ 燃料電池・水素技術の製造コストを削減し、国内のサプライチェインを構築するた
めの新規の製造研究の開始
(5) DOE/EERE における水素・燃料電池の研究開発
① 水素製造・貯蔵関連プログラム
•
水素製造コストは 2∼3 ドル/石油換算ガロン(輸送コストを除く)の目標を維
持している(図 6-7)。
ステーションでの水素価格目標: 2∼3 ドル/石油換算ガロン
短期的 水素の分散製造
(ステーションでの製造)
・ 天然ガス改質
・ バイオ燃料の改質
・ 電気分解
米国では、現状で 900 万トン/年の水素が産業製造されている。
また 700 マイル長の水素パイプラインが整備されている。
長期的 水素の集中生産
(インフラへ投資必要)
・ バイオマスの気化
・ 石炭(CCS 採用)
・ 風力・太陽エネルギー
による電気分解
・ 高温水分解
・ 光電子化学的・生物化
学的生産
図 6-7.水素製造プログラムの目標
57
•
水素の各種生産方法の現状と見込みを表 6-9 に示す。
-
短期的には天然ガス改質、長期的には再生可能エネルギーに期待している。
-
Biomass-to-Liquid(BTL)もコストが低減してきている。減所で 44 ドル/
ガロン程度。
-
水電解ではスタックレベルの効率で 67%を達成した。74%までの向上は可能
と見ている。
-
Microalgae(微細藻類)で 15%の変換率を達成した。
-
太陽熱による水分解では、有望なプロセスを 5 つ特定した。
表 6-9.水素の各種生産方法の現状と見込み
【非再生可能エネルギー由来水素】
・ 2006 年目標:3 ドル/石油換算ガロン(ユニットあたり生産量 1500kg/日、
500 ユニット/年の量産を想定)
・ 2010 年目標:2.50 ドル/石油換算ガロン
・ 2015 年目標:2.00 ドル/石油換算ガロン
分散型天然
・ 研究室レベルの生産量(100 kg/日)におけるコストは、2.75
ガス改質
∼3.50 ドル/石油換算ガロンと試算され、DOE のコスト目標
(3 ドル/石油換算ガロン)の達成が可能。
石炭ガス化
・ 2012 年に、ゼロエミッションで水素・電力の同時生産が可能
な「FutureGen」のデモンストレーションを実施(CCS 併用)
【再生可能エネルギー由来水素】
・ 2006 年現状:4.4∼10 ドル/kg
・ 2017 年目標:23.00 ドル/kg 注(ユニットあたり生産量 1500kg/日、500 ユニット/
年の量産を想定) 注:光電気化学的生産を除く
バ イ オ マ ス 由 来 ・ 液体・蒸気での改質で、触媒作用の増大と大幅なコスト削減
液体燃料
を達成(4.40 ドル/ガソリン換算ガロン)。
再生可能エネルギ ・ スタック効率 67%の達成(74%まで達成可能)。コストは
ーによる電気分解
3.00 ドル/石油換算ガロン以下の見込み。
太 陽 光 を 用 い た ・ 有望な見込みのあるサイクル 5 つを特定。
熱化学サイクル
生物学的方法
・ 微細藻類の培養で、15%の光利用率を達成。
光電子化学
・ 潜在的材料を探すために、combi 法を活用。
58
② 水素輸送プログラム
•
水素輸送の目標コストは 1 ドル/kg である(表 6-10)。
-
米国は広大な面積があるため、ひとつの輸送に決定することはできない。
-
輸送でも、圧縮技術などで技術進歩がある。
-
水素輸送に関する分析モデル「H2 Delivery Model」も開発した。
輸送目標
パスウエイ
課題
表 6-10.水素輸送プログラムの目標・課題・成果
1.00 ドル/kg 以下
・ 高圧水素輸送
・ 液体水素輸送
・ 有機ハイドライド
混合形態も検討
パイプライン技術
水素脆化、資本コスト、都市内配送
圧縮技術(輸送、充填ステーション)
信頼性、資本コスト、エネルギー効率、新技術
液化技術
資本コスト、エネルギー効率
ステーションでの貯蔵容器
資本コスト
地質学構造への水素貯蔵
最適な貯蔵場所の特定、収容能力、汚染の可能性
チューブトレーラ
1000kgの輸送能力の可能性
水素品質
PEMFCが要求するレベルの達成
有機キャリア(車載貯蔵にも影響)
二重の貯蔵、低価格、効率的な反応、
高水素貯蔵・放出量(∼100%)、選択性
DOE プログラ 圧縮技術
ムの成果
・ パイプライン用遠心ポンプの開発
(実用的なユニットのデザイン)
・ 高速回転に対応した軸受とシー
ルが課題
有機キャリア
・ 水素の車載貯蔵にも活用可能
・ 6 wt%を達成
59
③ 水素貯蔵プログラム
•
EERE では、航続距離 300 マイルの達成を目標に、3 つのセンター・オブ・エ
クセレンスを設置して、水素貯蔵の研究を実施中である(図 6-8)。
-
短期的には高圧システム(タンク)が現実的だが、長期的には低圧システム
を目指している。
-
貯蔵プログラムでは、自動車メーカーとも協力している。
-
密度目標だけではなく、応用面のニーズに合わせて、T(温度)、P(圧力)、
K(速度論)にも着目し、目標を細かく設定している(図 6-9)。
目標 安全性、コスト、性能(重量、サイズ、反応速度など)全ての必要条件を満たした
上で、300 マイル以上の走行距離が達成できる水素の車載量
短期目標
早期導入する水素利用車両は、必ずし
も航続距離要求を満たす必要はない。
・ 高圧タンク:
現在でも多くの水素車両で使用さ
れている。
・ 低温高圧タンク:
液体水素を高圧で貯蔵
水素貯蔵プログラム
Centers of Excellence
独立プロジェクト
テスト、安全分析
共通基盤
金属吸蔵
合金
基
礎
科
学
化学的貯蔵
水素吸着
(旧.カーボン材料)
車載用の新規
材料・プロセス
高圧、低温、ハ
イブリッドタンク
オフボード
貯蔵システム
40 の大学、15 の企業、10 の国立研究所が参画
長期目標 3pt
航続距離 300 マイル以上の達成
・ 低圧力貯蔵材料の広範囲な開発
・ 温度、圧力、搬送速度(貯蔵能力)
に関する材料研究
図 6-8.水素貯蔵プログラムの目標と実施体制
・
・
・
・
・
・
貯蔵能力
‒ 相続距離 300 マイル以上
‒ 乗客や荷物スペースを確保
作動温度範囲
‒ 40℃∼85℃
システムコスト・燃料コスト
水素供給速度・充填速度
‒ 0.02g /秒・kW(実効量)
‒ 5kg の充填時間 3 分以下
実効性
‒ 気体、液体燃料での搭載
‒ 水素キャリア利用
(オフボードでの再生)
‒ 閉ループ、副産物なし、エネル
ギー効率の検討
安全性、基準・標準、信頼性、ライ
フサイクル、効率
重量
体積(車載可能性)
コスト(システム、燃料)
耐久性・運用性
充填・放出特性
効率的で実用
化可能な水素
貯蔵システム
効率
燃料の純度
環境性(安全性)
図 6-9.水素貯蔵プログラムにおける目的志向の目標設定
60
•
現状では、貯蔵密度目標を達成できる材料・システムはまだ開発されていない
(図 6-10)。また目標とする温度範囲で、目標貯蔵密度を達成できる材料・シ
ステムもまだ開発されていない(図 6-11)
図 6-10.水素貯蔵材料・システムの貯蔵密度目標と現状
図 6-11.水素貯蔵材料・システムの貯蔵密度・温度目標と現状
61
•
水素貯蔵プログラムの予算を図 6-12 に示す。
予算額
2008 年度(要求額) 4390 万ドル
2007 年度(確定額) 3460 万ドル
2006 年度(確定額) 2600 万ドル
水素貯蔵プログラム:特徴
・ センター・オブ・エクセレンス、及び
独立プロジェクトを通して、材料 R
&D を加速させる。
・ 貯蔵能力とともに、温度、圧力、反
応速度にも着目した材料開発
・ 新規のセンター・オブ・エクセレン
ス:エンジニアリングサイエンス
・ 基礎科学との綿密な連携
【基礎科学予算】
2007 年度 3640 万ドル
2008 年度 5850 万ドル
注:水素貯蔵、製造、利用(例:触
媒、メンブレン)の基礎科学研究
を含む
図 6-12.水素貯蔵プログラム:2008 年度予算の特徴
④ 燃料電池プログラム
•
燃料電池プログラムでは、メンブレン、触媒、水管理、分析(モデル化)が研
究対象である(図 6-13)。
-
とくに全気候への適合性(−40∼120℃)の R&D に注力している。
主たる研究対象
メンブレン
触媒&サポート材
水管理
第一の焦点∼自動車用
・ R&D は、システムではなくコンポネン
トが中心。
目標値
・ コスト
2010 年まで: 45 ドル/kW
2015 年まで: 30 ドル/kW
・ 耐久性
2015 年まで: 5000 時間
分析(モデル化)
第二の焦点∼定置用、初期市場用
・ 初期市場の創出。
目標値
・ 分散電源(2011 年まで):
750 ドル/kW
40,000 時間(効率 40%)
・ APU(2010 年まで):
100 W/kg、100 W/L
・ ポータブル(2010 年まで):
1,000Wh/L
図 6-13.燃料電池プログラムの研究対象と目標
62
•
燃料電池プログラムにおける、主たる研究対象と、その目標達成のための戦略
を表 6-11 に示す。
表 6-11.燃料電池 R&D の戦略
メンブレン
課題
・ スタックの性能と耐久性はメンブレンの特性に依存
・ メンブレンが、主たるコスト要因
・ メンブレンにおける制約がシステムの複雑さの原因
高温メンブレンの R&D
戦略 1:相分離(ポリマーとメンブレン)の抑制
戦略 2:非水溶性の伝導体
戦略 3:親水性の添加物の採用
触媒及び
課題
サポート
・ 全スタックコストの 80%が白金コスト
・ 触媒の耐久性向上が必要
戦略的な触媒・サポート材の R&D
戦略 1:白金族の担持量の低減
戦略 2:白金合金の採用
戦略 3:斬新なサポート材の構造
戦略 4:非白金触媒
水管理
課題
・ 低温下における水の挙動の理解
・ 高出力時のフラディング抑制のための水マネジメント
・ メンブレンのドライアウトの抑制のための水マネジメント
分析
課題
・ 燃料電池内の水挙動の分析(光学的分析、中性子の利用)
・ 理論的なモデリング
・ 凍結状況の分析
・ 氷点下での起動・停止のプロトコル
63
•
水素貯蔵プログラムの予算を図 6-14 に示す。2008 年度では、スタック コンポ
ネントの R&D が増額している。
予算額
2008 年度(要求額)
6270 万ドル
2008 年度(確定額)
5710 万ドル
図 6-14.水素貯蔵プログラムの予算
⑤ 燃料電池のコスト分析
•
燃料電池の、現在技術で量産(年産 50 万台)を仮定した場合のコスト試算を 2
社に委託した(図 6-15)。
-
両社は独自に分析をしたにもかかわらず、コスト試算は DTI が 118 ドル/kW、
TIAX が 97 ドル/kW で、ほぼ同じ結果が得られた。
-
両社の主たる違いは、MEA と BoP(Balance of Plant)のコストである。ま
た DTI のコストはテストと試運転(調整)を含んでいる。
図 6-15.DTI、TIAX による燃料電池のコスト分析分析結果
64
⑥ 基準・標準活動
•
基準・標準活動の 2008 年度予算と研究テーマを図 6-16 に示す。また、これま
での成果を表 6-12 に示す。
2008 年度予算(要求額)
1380 万ドル
研究の焦点
未解決の課題
・ 一般用水素システムの認可の困難
・ 基準・標準の策定の遅れ
・ 商品化ニーズに合わせた基準・標準の策定
将来のリサーチの方向性
・ 定量リスク査定:
事故などのイベントの頻度、メンテナンスのプロトコ
ルの策定と頻度データの確保
・ 水素品質:
国際協力の継続
・ 70MPa 充填:
テストデータの収集
・ 材料の互換性:
特定材料で得られた知見の他の材料への適用拡大
・ 地元の規制当局者への技術的サポートとガイダンス
の提供
図 6-16.基準・標準活動の 2008 年度予算と研究テーマ
表 6-12.基準・標準活動の成果
材料のコンパティ ・ 水素材料のコンパティブリティに関する技術基準 Version 1.0
ブリティ
の終了( www.ca.sandia.gov/matlsTechRef )
燃料品質
水素システム設
置時の許認可の
促進
水素安全性の文
献データベース
水素事故データ
ベース
水素安全性のベ
ストプラクティスマ
ニュアル
・ International Fuel Quality Specification (ISO 14687-2)
の採択(ISO/TC197)
・ SAE J2719(fuel quality guidelines)の公開
・ ISO TS 14687-2 と SAE J2719 のハーモナイゼーション
・ 水素インフラ整備に関するワークショップの開催(IEA)
・ 規制当局向けの、水素充填ステーションの許認可にかかわる
事例書・ファクトシートの策定
・ 水素の安全性に関するデータベース(400 事例)
・ 2007 年度末までに 650 事例に拡大
・ 水素に関連する事故・アクシデントの情報の集約
・ 100 以上の事項
・ 2007 年 12 月末に完成予定
65
⑦ バッテリ R&D プログラム
•
DOE/EERE では、Plug-in ハイブリッド電気自動車(PHEV)の研究を強化し
ている(表 6-13、図 6-17)。
-
バッテリ R&D プログラムの予算を図 6-18 に示す。2006 年度から 2007 年度
にかけて、予算は倍増している。
表 6-13.Plug-in ハイブリッド電気自動車(PHEV)の研究の強化
・ 先端エネルギーイニシアティブが目指している石油消費量削減に寄与できる
可能性のある技術の特定(電気エネルギーによる石油の一部代替)
・ 米国電力研究所(EPRI)の研究:
- 80 マイル/ガロンを達成できる見通しあり
- 40 マイルの電気走行で、米国の自動車の利用の 2/3 がカバーできる。
・ Plug-in ハイブリッドの研究予算を倍増。
(次世代リチウムイオン電池、次世代電気駆動システム、車両シミュレーショ
ン、テスト、PHEV の電力網への影響の評価)
・
・
・
USABC へのサブコントラクトを通じた、バッテ
リのフルシステムの開発(企業のコスト負担割
合は最低でも 50%)
電気セルの挙動の分析(Li-ion バッテリー技術
の性能面での制約を打破するため)∼DOE 傘
下の国立研究所と共同で実施
出力密度、エネルギー密度の増大に貢献する
新規材料の開発(カソード、アノード、触媒)∼
DOE 傘下の国立研究所や大学と共同で実施
図 6-17.バッテリ R&D のスコープ
図 6-18.バッテリ R&D プログラムの予算
66
•
EERE の、HEV 用電池システムの R&D 契約先を表 6-14 に示す14。
-
リチウムイオン電池では、新たに A123 System と EnerDel と契約した。
-
ウルトラキャパシタの研究はこれまでに終了している。
表 6-14.HEV 用電池システムの開発(USABC を通じた開発)
Johnson Control – Saft 長 寿 命 ・ 低 コ ス ト ・ 量 産 に 適 し た
Nickelate カソードの開発
(JCS)
低コストで、耐虐性能を向上させたパッ
CPI-LG Chem
ケージングを有するリチウムポリマー電
リチウムイオン
池(マンガンスピネル構造)の開発
(HEV)
ナノ構造を有する オリ ビン鉄を採用し
A123Systems
(2006 年 12 月開始)
た、高耐久性システムの開発
EnerDel
(2007 年 8 月開始)
低コスト、高容量のチタン酸リチウム/マン
ガンスピネル系 ACN システムの開発.
Maxwell
ウルトラキャパ
(2006 年 12 月に終了)
シタ( 42V、 起
NessCap
動・停止)
(2007年9月に終了)
•
ACN 系システムの開発。高容量化、低
コスト化が課題
PC 系を評価するとともに、高容量で低コ
ストな ACN 系を開発
HEV 用電池システム R&D の現状を表 6-15 に示す。
表 6-15.HEV 用電池システム R&D の現状
・ 既存の HEV 用リチウムイオン電池は、ほぼ実用化レベル。
- 段階的な NiMH 電池の代替は可能性あり。リチウムイオン電池は、低コスト・
高性能・長寿命が期待できる。
・ 主たる R&D の目標はコスト削減(現在のコストは、USABC 目標のほぼ 2 倍)。
そのほかの研究事項は以下のとおり。
- 長寿命化(これまでのデータより、10∼15 年と予想)
- 耐虐待性(これまでのデータより、10∼15 年と予想)
- 低温でのパフォーマンス(寿命化(これまでのデータより、10∼15 年と予想)
・ 革新的材料を含む、新規技術
- (陽極) LiFePO4、LiMnPO4 、多層構造(スピネル系)
- (負極) Li4TiO12 及び合金
14
2006 年 11 月の訪問時に DOE の担当者は「Johnson Control–SAFT のシステムは松下電池工業の
システムに、EnerDel のシステムは東芝のシステムに、CPI-LG Chem のシステムは NEC のシステ
ムに類似しているといえる」と説明した。
67
•
PHEV 用バッテリの性能目標を表 6-16 に示す。
表 6-16.PHEV 用バッテリの性能目標
出力/容量比率 高 容量/出力比率 高
miles
10
40
特性(寿命時)
EV 走行レンジ
出力・容量
パルス放電出力(ピーク)
2 秒 / 10 秒
パルス出力(回生、ピーク)、10 秒
利用可能エネルギー
(Charge Depleting Mode @10 kW)
電池寿命
充電枯渇寿命 / 放電スループット
HEV サイクル寿命(常時充電モー
ド)、50 Wh プロファイル
カレンダー寿命、35℃
重量・体積・コスト
最大システム重量
最大システム体積
電池コスト
•
kW
50 / 45
46 / 38
kW
30
25
kWh
3.4
11.6
Cycles
/MWh
5,000 / 17
5,000 / 58
Cycles
300,000
300,000
15
15
60
40
1,700
120
80
3,400
年
kg
Liter
$
EERE では、USABC を通じて、2007 年 4 月に 2800 万ドルの PHEV バッテリ
開発に関する公募を行い、現在 5 社と暫定的な契約段階にある(表 6-17)。5
社の契約総額は 3820 万ドルである(50:50 のコストシェア)。
表 6-17.PHEV 用バッテリの新規契約先
改良ナノ構造を有するオリビン鉄を採用したバッテリ
の開発。(同社の製品「M1HD」セルを高容量化)
Nickelate カソードを用いたバッテリの開発。
(同社が販売している高容量セルを改良)
マンガンスピネル系の高出力・高容量バッテリの開
発。(同社の高出力・高容量セルを改良)
ナノ構造を有する、チタン酸リチウム/マンガンスピネ
ル系電池の開発。高電位カソード材料の開発。
ニッケル・マンガニーズ・コバルト(NMC)カソードの
開発と小型セルでの実証
68
•
PHEV 用バッテリの現状と開発目標を表 6-18 に示す。
コスト
容量密度
出力密度
寿命
•
表 6-18.PHEV 用バッテリの現状と開発目標
現状:1000 ドル/kW 以上
目標: PHEV-10 用バッテリ:$500/kWh(2012 年)
PHEV-40 用バッテリ:$300/kWh(2015 年)
現状:80 Wh/L
目標: PHEV-10 用バッテリ:100 Wh/L(2012 年)
PHEV-40用バッテリ:150 Wh/L(2015年)
現状:40 Wh/kg
目標: PHEV-10 用バッテリ:55-60 Wh/kg(2012 年)
PHEV-40用バッテリ:100 Wh/kg (2015年)
運転モード(チャージデプリーティングモード、チャージサステイニ
ングモード)の違いによる寿命への影響は完全に解明されていな
い。
長期的な課題解決(主に材料開発)のために、探索的研究(革新技術研究)も
行っている(表 6-19)。
正極材料
負極材料
電解質
表 6-19.PHEV 用バッテリに関わる探索的研究
・ 次世代の構造(オリビン鉄、層状構造、スピネル構造)の探索
・ 新規の高容量の陽極の開発(250 mAh/g以上)
・ 新規の合金、バインダーの開発
・ ナノ構造の金属酸化物の開発
・ リチウム∼金属系システムの開発
・ 新規の電解質の開発
高電圧用(4.5∼5 V)
固体ポリマー電解質
不燃性の電解質
69
⑧ パワーエレクトロニクス・電気駆動(PEEM)関連プログラム
•
DOE/EERE におけるパワーエレクトロニクス・電気駆動(PEEM)関連プログ
ラムの予算(2007 年度)を図 6-19 に示す。
-
2007 年度は 1368 万ドルであり、そのうち 4 割がパワーレクトロニクス関連
の研究に向けられている。2008 年度は 1563 万ドルを要求している。
図 6-19.パワーエレクトロニクス・電気駆動(PEEM)関連プログラムの予算
•
パワーエレクトロニクス・電気駆動システムの現状と目標を図 6-20 に示す。
目標
コスト(ドル/kW)
比出力(kW/kg)
出力密度(kW/L)
実用化されているパラ
レルシステム
35
0.85
1.82
目標達成のために必要な向上割合
2010
2015
2020
48
66
77
23
40
63
43
92
120
図 6-20.パワーエレクトロニクス・電気駆動システムの現状と目標
70
•
DOE は、総額 1920 万ドルで、主要な PEEM 技術開発に取り組んでいる(企
業からのコストシェア分を加えると 3370 万ドル)。また DOE は、2007 年 4
月に、5 つの企業と契約をすることを発表した(表 6-20、実際の契約は 2007
年第 4 四半期に実行)。
表 6-20.PEEM 技術開発での契約先
高温(105℃)・3 相インバータ ・ Delphi Automotive Systems
・ Virginia Polytechnic Institute and State University
高速モータ
・ General Electric Global Research
インバーター内蔵モータ
・ General Motors Corporation
双方向 DC/DC コンバータ
・ U.S. Hybrid Corporation
⑨ 車両シミュレーションプログラム
•
現在 DOE では、PHEV シミュレーションプログラムを実施している(表 6-21)。
•
現在 DOE では、PHEV 走行デモンストレーションのデータ収集を行っている。
-
DOE は現在、ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)の委託で、
以下の車両(20 台の改造 PEHV)の評価を行っている。
Prius: EnergyCS15, Hymotion16, Hybrids Plus
Escape: Hymotion, Electrovaya
Civic: Hymotion
-
DOE は、傘下の AVTA(Advanced Vehicle Testing Activity)が運用してい
る改造 PHEV(EnergyCS、Hymotion PHEV Priuses、Renault Kangoo
PHEV)のデータの収集を進めている。
-
DOE はまた、カリフォルニア州南海岸地区大気質管理委員会(South Coast
Air Quality Management District:SCAQMD)が所有している改造 PHEV
についデータを収集する予定である。
表 6-21.HEV シミュレーションプログラム
モデリング
研究項目 制御戦略、エネルギー貯蔵、パワーエレクトロニク
ス・電気駆動システム、コスト予想
インテグレーション PHEV 用リチウムイオン電池
運用評価
PHEV テストプロセス(2nd Draft)を発表
改造 Prius(EnergyCS、Hymotion を搭載)をテスト中
15
16
EnergySC に関しては< http://www.energycs.com/ >参照。
Mymotion に関しては A123Systems の項(P.81)参照。
71
⑩ バイオマスプログラム
•
•
バイオマスは、ブッシュ大統領の「20 in 10」イニシアティブ17を受け、2007
年より大きなプログラムになっている。
-
現在は、バイオエタノールの大部分はコーンから合成されているが、将来は
セルロース系原料(スイッチグラスなど)に期待している(図 6-21)。
-
EERE におけるバイオマス研究の課題を表 6-22 に示す。
バイオマスのエネルギー効率はよくないとされているが、社会全体としては、
バイオマス導入分だけ石油消費が減るため、ポジティブな効果が得られる。
将来のバイオ燃料の原料
現在
ほとんどすべてのエタノールが、コー
ンから作られている。
将来
セルロース系エタノールが主たる原
料となる
(セルロール系エタノールは、ガソリン
よりも温室効果ガス排出量が 86%少
ない。また、食料との競合がない)
図 6-21.米国におけるバイオ燃料の原料(将来見込み)
・
・
・
・
・
・
・
17
18
表 6-22.バイオマスプログラムの研究課題
E85 インフラ整備は、Clean Cities プログラム18と協力して進めている
(コストシェア)。
産業界とのパートナーシップを通じた、次世代 E85 用エンジンの開発
30%までのブレンド燃料について、影響を評価
バイオディーゼルの環境評価の実施、燃料品質の策定
EERE のバイオマスプログラムとの連携(E85)
その他のバイオ燃料(合成燃料、BTL など)の技術開発のモニタリング
ライフサイクル分析(エネルギー、エミッション)
「20 in 10」イニシアティブに関しては、P.50 参照。
Clean Cities プログラムに関しては、< http://www1.eere.energy.gov/cleancities/ >参照。
72
(6) Learning Demonstoration
•
DOE では「Controlled Hydrogen Fleet and Infrastructure Demonstration and
Validation Project(通称:Learning Demonstration)」を 2004 年 10 月から
実施している。
-
海外の自動車メーカーを含む 4 チームが参画している。ステーションが 14 ヶ
所、FCV が 77 台(第一世代)導入されている(表 6-23)。
-
やがて第二世代の FCV が導入される予定である(図 6-22)。特に GM は、
42 台の Equinox(70MPa 対応)を提供することになっており、2008 年 1 月
から提供が始まる19。
表 6-23.Learning Demonstration の現状
導入車両数
77 台
水素ステーション数
14 ヶ所
燃料電池効率(LHV)
航続距離
55∼58%
103∼190 マイル
耐久性
最大 1600 時間(=48,000 マイル)
2009 年
表 6-24.Learning Demonstration における性能目標
FC スタック耐久性
車両の航続距離
水素コスト(充填時)
2000 時間
>250 マイル
$3/gge
2015 年
5000 時間
>>00 マイル
$2-3/gge
図 6-22.Learning Demonstration に導入される第二世代の FCV
19
GM は独自にニューヨークでもデモンストレーションをする予定。P.107 参照。
73
•
水素ステーションが現在 14 ヶ所である(図 6-23)。主なステーションを図 6-24
に示す。
図 6-23.Learning Demonstration における水素ステーションの設置
3 ヶ所
4 ヶ所
3 ヶ所
4 ヶ所
高圧水素の配送
天然ガスのオンサイト改質
水電気分解
液体水素の配送
Autothermal
Reformer
Chino, CA
(天然ガスのオ
ンサイト改質)
Mobile Refueler
San Francisco, CA
(高圧水素の配送)
DTE/BP Power Park Southfield, MI
(水電気分解)
Hydrogen and gasoline station
Washington, DC
(液体水素の配送)
図 6-24.Learning Demonstration 用主なステーションと水素源
74
•
Learning Demonstoration の実施地域を図 6-25 に示す。さまざまな環境下で
実証ができるように、実施地域が選ばれている。
図 6-25.Learning Demonstoration の実施地域
•
Learning Demonstoration では車両・スタックなどの詳細なデータを収集して
おり、平均値としてのデータは公開し(図 6-26)、今後の研究開発に役立てる
方針である。原則として、半年後とにデータはアップデートされる。
http://www.nrel.gov/hydrogen/cdp_topic.html
図 6-26.Learning Demonstoration における公開データ
75
(7) ディスカッション
•
米国の電源構成は、以下のとおりである20。
石炭火力 50%、原子力 20%、天然ガス火力 17%、石油火力 約 3%。
なお、夜間の電源構成では石炭火力が多い。
•
PHEV の普及が電力網に及ぼす影響に関しては、EERE だけでなく、DOE の
ほかの部署も興味を持っている。
-
DOE の Office of Electricy(電力局)は、以下のような研究を計画している。
PHEV の充電効率と充電プロファイル
車両から電力網への電力供給する場合(V2G)の影響
PHEV 普及が発電・送電・配電に及ぼす影響
国家的・地域的な影響
20
-
太陽発電や風力発電の関係者・企業も電力貯蔵装置(バッファ)としての
PHEV に興味を持っている。
-
V2G(Plug-In 車両から Grid への電力供給)は将来に可能性がある技術。特
にピークカットなどの効果についてシステム分析を始めている。
2004 年における日本、米国の電源構成は以下のとおり。
石炭
石油
天然ガス
原子力
水力その他
日本
27.5%
12.3%
22.8%
26.4%
11.0%
米国
50.4%
3.4%
17.6%
19.6%
9.0%
出所:社団法人 海外電力調査会< http://www.jepic.or.jp/overseas/data/index03.html >参照。
76
7
A123 Systems
A123 Systems
訪問先
住所:The Arsenal on the Charles, 1 Kingsbury Ave, Watertown 02472 MA, USA
訪問日時
対応者
組織の概要
調査項目
2007 年 11 月 2 日(金)13:30∼15:30
David Vieau
President and CEO
Ric Fulop
Founder
Vice President of Marketing and Business Development
MIT のスピンオフ会社で、リチウムイオン電池を開発。DOE のハイブリッド
車開発プログラムでアワードを受賞。GM と組む。
・ リチウムイオン電池開発の現状と課題
・ 国家プロジェクトへの参画状況
・ 次世代自動車に対する見方
(1) A123 Systems の概要
•
A123 Systems は、MIT 教授の Yet-Ming Chiang が 2002 年に設立した会社で、
リチウムイオン電池の分野で急成長を遂げている。
-
設立当初は 5 人であったが、現在は 852 人を抱え、北米でも最大規模のリチ
ウムイオン電池の研究会社となっている。
-
日本の松下、サンヨー、ソニー出身の研究者も抱えている。
-
設立当初、DOE から中小企業技術革新制度(Small Business Innovation
Research:SBIR)で 10 万ドルの研究資金を得て、研究をスタートした。現
在では DOE から、約 3000 万ドルの研究契約を締結している。
-
現在の資本金は 1 億 3200 万ドル。最大株主は GE であるが、他に P&G、
Motorola、MIT なども株主となっている。
•
大手電池メーカーと競合するためには、良い製品を安価に提供する必要がある。
そのため A123 Systems では、世界に研究・生産拠点を分散させている(表 7-1)。
-
韓国の拠点には、120 人のエンジニアがいる(LG、サムソン出身者)
表 7-1.A123 Systems の研究・生産拠点
中国(上海)
セル生産
インテグレーション
拠 カナダ、ハンプキントン(MA)
点 ウォータータウン(MA)
経営・パイロット生産:プロセス研究
韓国、アンナーバー(MI)
R&D
77
(2) A123 Systems の電池技術
① A123 Systems の電池技術
•
A123 Systems は、革新的なカソード材料と電解質材料を開発した。
-
リチウムイオン電池の安全性向上が課題となっているが、A123 Systems では、
カソードに LixFePO(
を用いることで一層の向上を図っている。
4 オリビン鉄)
-
電池で短絡などの不良が発生した場合の発熱の 80%は、カソード側での酸化
反応による。よって、発火・過熱を防ぐには、カソード側で酸素による酸化
反応を抑制するのがよい。
-
A123 Systems ではカソード側材料に、通常の LixCoO2 ではなく、LixFePO4
を採用した。PO4 は共有結合が非常に強く、短絡の場合でも酸化反応を起こ
さない。
-
LixCoO2 電極の場合は、Li の挿入割合が低いため(Li0.5CoO2 の場合は Co 1
あたりで 0.5)、充電後半で電圧が急激に上昇し、4.2V に接近する(その場
合、電解質が分解されてしまう可能性がある)。A123 Systems では新規の電
極材料を開発し、充電電圧 3.6V ででもフル充電することに成功した(図 7-1)。
-
デンドライドの発生も無いため、短絡が発生することも無い。
•
オーバーチャージの場合には、内部にガスが発生する可能性があるが、その場
合はリリーフバルブからガスがリリースされ、また車両システムとの電気的接
続が切断されるので、発煙・発火の恐れは無い。
-
•
電解質に不純物(真鍮など)が混入すると当初は溶解しており発見できず、
初期検査をパスしてしまう。そのため、運用が進んだ段階で凝集し、ついに
セパレータを破って短絡が起きる。初期検査段階で確認できないならば、む
しろ、短絡しても発火や過熱が生じない方法を検討すべきである。
アノード材料にはカーボンを使用しているが、既存材料に特殊な加工を施し、
その表面積を大幅に拡大している。
充填電圧
A123 の電極を採用した場合
4.2 V
3.6 V
一般の LixCoO2 電極を用いた場合
充填容量
図 7-1.A123 Systems が開発した電極の充電特性(イメージ)
78
② A123 Systems のリチウムイオン電池
•
A123 Systems のリチウムイオン電池(試作品)を表 7-2 に示す。またハイブ
リッド用電池のエネルギー密度、出力密度を表 7-3 に示す。
表 7-2.A123 Systems のリチウムイオン電池
形状
円筒形
円筒形
円筒形
平板形
(高出力型)
(高出力・高容量)
4 cm 長程度
20 cm 長程度
20×15 cm 程度
セル形式
―
AHR32113-Ultra-A
AHR 32157-M1-A
―
仕様
―
45 kW
600 W(10 Ah)
3.3V、130 kW
用途
・ パワーツール用 ・ HEV 用
・ セル生産量:
1000 万セル/年
(HEV 換算で 10
万台以上に相当)
・ 2009∼2010 年 ・ Plug-in HEV 用
モデル
(シボレーVolt)
・ Plug-in HEV 用 ・ EV 走行レンジ:
・ EV 走行レンジ:
40 マイル
10∼20 マイル
表 7-3.ハイブリッド用電池のエネルギー密度、出力密度の比較
サンヨー
200 Wh/L、100 Wh/kg
A123(平板型)
280 Wh/L、135 Wh/kg
•
製 品 と し て は 、 DEWALT Industrial
Tool の電動工具に高出力用電池(パワー
ツール用電池)を供給している。
-
すでに、売り上げで 1 億ドルを達成し
ている。
図 7-2.DEWALT Industrial Tool に
供給されている電池供給
79
(3) ハイブリッド用・プラグインハイブリッド用電池の開発
① プラグインハイブリッド電池に求められる性能
•
NiMH 電池や市販のリチウムイオン電池と比べて、A123 Systems が開発して
いるリチウムオン電池は、サイズ、寿命、安全性、価格の点で、他の電池より
優れている(図 7-3)。
図 7-3.NiMH 電池・市販のリチウムイオン電池と
A123 Systems のリチウムイオン電池の比較
② A123 Systems の電池を利用する車両
•
平板型セルは、GM のハイブリッドに搭載される予定である。
-
Saturn VUE(パラレル HEV。EV モードでの走行距離は 15 マイル。2009
年に実用化)
-
Chevrolet Volt(シリーズ HEV。EV モードは 40 マイル。その後はレンジエ
クステンダー用発電機によって 600 マイルの走行が可能)。
電動機
電池(初期タイプ
は円筒形だが、
実際には平板形
になる)
図 7-4.GM Chevrolet Volt
80
(4) その他の製品
•
トヨタプリウスを Plug-in ハイブリッドに改造するキット「Hymotion」を開発
した(図 7-5)。
-
Hymotion はカナダのメーカーで、A123 Systems が買収した。同社のモジュ
ールに、A123 Systems のリチウムイオン電池を搭載した。
-
トヨタプリウスの本来の NiMH はそのまま使用する(既存電池を取り除くの
は好ましくない)。デュアルバッテリーシステムとなる。
-
Plug-in キットは大きなビジネスになるとは考えていない。むしろ自分達の技
術のアピールとして開発している。
Hymotion L5
容量
充電電圧
充電時間
充電温度
運用温度
重量
価格
5 kWh(Usable)
120V ・ 240 V (15 Amp)
5.5 時間 ・ 4 時間
−10∼35℃
−20∼45℃
72.5 kg
9500 ドル
図 7-5.プリウス用 Plug-in 化モジュール「Hymotion」
•
トラックに車載する暖房ヒータ用の電源に使用する電池を開発している(不要
なアイドリングが不要になる)。
-
すでに Daimler が、トラック用にこの電池を搭載したハイブリッドバスの実
用化を決めている。2008 年に、NY、トロント、サンフランシスコなどでデ
モンストレーションを予定である。
•
小型車両用スターター用バッテリも開発している。仕様は以下のとおり:
12 V・2.3 Ah(4 セル): 価格 35 ドル
12 V・4.6 Ah(8 セル): 価格 60 ドル
•
米国のオートバイレース「Race Track」で、
世界記録を樹立、更新している。
-
360 kW・73kg のバッテリーパックを用い
て、0∼60 m/h(=0∼96 km/h)加速 1 秒
以下、400 m 走行 8.09 秒を達成した。
-
次回は、1 MW バッテリーパックの搭載を
考えている。
図 7-6.Race Track への参加
81
(5) ディスカッション
① 電池技術一般に関して
•
本来的に、高価な材料を使用していないので、コスト削減は可能(エンジニア
リング的に可能)。現状で、コストは 55 セント/Wh 程度である。
•
A123 Systems のリチウムイオン電池は自己放電しないので、数年間放置して
もすぐに車両を稼動させることができる。
② ハイブリッド用電池に関して
•
ハイブリッド用電池としては、NiHM 電池は 40∼60%SOC で運用するが、A123
Systems のリチウムイオン電池では 0∼100%SOC で運用可能である。
•
A123 Systems のリチウムイオン電池の寿命は 15 年だが、一般バッテリと同様
に保証は 5 年に設定している。また利用温度としては−30℃までは保証したい。
-
•
パワーツール用バッテリは低温利用に向くようにはデザインされていないが、
自動車用は低温利用が可能である(異なる材料を使用している)。
自動車用では、個別にセル管理を実施しているが、将来的には管理を簡略化し
たいと考えている。
③ 市場展開に関して
•
A123 Systems のバッテリは高性能で低コストであり、技術には自身があるが、
量産経験が無い。
•
日本市場への参入を考えていたが、現状では参入が困難であると判断している。
-
コスト、サイズ、重量、容量、パワー、安全性では引けをとらない。しかし
これまでに量産の経験はない。
-
パートナーが必要である。日本市場への参入機会やパートナーを探してきた
が、日本の自動車メーカーは特定の電池メーカーとの関係が強く、参入は難
しいと判断した。
•
市場としては、ラップトップ PC は魅力的ではない。すでに大手のメーカーが
抑えており、A123 Systems は参入が難しい。
•
基準・標準作業には協力しているが、まだその段階ではない。自動車用リチウ
ムイオン電池の基準標準化まではあと 10∼15 年くらいかかるであろう。
82
8
DuPont
DuPont
訪問先
住所:Chestnut Run Plaza, Wilmington, DE, 19880-0701, USA
訪問日時
対応者
組織の概要
調査項目
2007 年 11 月 5 日(月)9:00∼11:30
Mohamed Abdou, Ph.D.
Technology Manager, DuPont Fuel Cells
Dr. Mark G. Roelof
Senior Research Associate,
DuPont Central Research and Development, Experimental Station
Randal L. Perry, Ph.D.
Senior Research Associates
Mark F. Teasley, Ph.D.
Research Associate, Experimental Station
Gonzalo Escobedo, Ph.D.
Division Engineer - DuPont Fuel Cells
PEFC 用メンブレンとして代表的な Nafion を製造する。
・ メンブレン開発の現状と課題
・ 燃料電池市場の見方
・ FC 耐久性とコストの見通し
(1) DuPont の概要
•
DuPont は 1802 年に創業した、世界的化学品メーカーである。
•
Nafion 技術をコアテクノロジーとして、メンブレンや MEA を供給している。
DuPont の Nafion 製品開発を表 8-1 に、開発拠点を表 8-2 に示す。
表 8-1.DuPont の Nafion 製品開発
1960 年代前半
1995 年
2001 年
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
2006∼2007 年
NASA の宇宙開発プログラムに PEM を供給
代替エネルギーの R&D を開始
製品・プロセス開発を加速
分散溶液のフィルムコーティング手法の開発
「MEA3」と「MEA5」の商業化
PEMFC 耐久性向上における最初の成果
化学的安定な製品への移行
XL 膜の開発
表 8-2.DuPont の Nafion 関連製品の開発拠点
Fayetteville(ノースカロライナ州)
Nafion の生産
Towanda(ペンシルバニア州)
キャスト膜・MEA の生産
Wilmington(デラウェア州)
5 層 MEA の生産
83
(2) メンブレンの耐久性に関する考え方
•
メンブレンの耐久性向上に係わる要因を表 8-3 に示す。
-
DuPont では、企業のメンブレンへの要望(長寿命、高性能、費用対効果)
を達成するために、メンブレンを劣化させるメカニズムの解明と、その対処
方法の開発に取り組んでいる。
・
・
・
・
・
・
•
表 8-3.メンブレンの耐久性向上に係わる要因
イオン交換膜の過酸化物に対する化学的耐久性の向上
メンブレンの伝導性低下・物理的強度低下の抑制
GDL の酸化耐性の向上
触媒担体の腐食耐性の向上
触媒の凝集・溶解・被毒による表面積低下の抑制
触媒のメンブレンへの拡散の抑制
DuPont では Nafion の劣化メカニズムを研究し、各段階で劣化要因を抑制する
ことを検討した(図 8-1)。
Nafion® Polymer
・DuPont が 1960 年代半ばに開発
・熱的、化学的安定性
・熱可塑性(スルフォニル フルオライド基)
・プロトン伝導性(スルホン基)
Nafion 劣化モード
劣化への対策
過酸化水素の
生成
過酸化水素生成の抑制
フェントン反応の発生条件の抑制
ヒドロキシルラジカルの
生成
過酸化物の分解
ポリマーの脆弱な
部分を攻撃
ポリマーの安定化
負荷変動(サイクル)
運用
メンブレンの強化
クラックの形成
メンブレンの破壊
図 8-1.Nafion の劣化メカニズム
84
•
Nafion では、特定の末端基がラジカルの攻撃に脆弱であることが知られている
(図 8-2)。
ラジカルによる末端基の攻撃メカニズム
① 酸素がメンブレンをクロスオーバーし、アノードで水素と反応して H2O2 が生成。
② H2O2 がフェントン反応によって分解し、ラジカル(•OH、•OOH)が生成。
③ ラジカルが PFSA ポリマーの末端基を攻撃し、メンブレンの破壊を引き起こす。
Rf−CF2COOH + •OH → Rf−CF2• + CO2 + H2O
(1)
Rf−CF2• + •OH → Rf−CF2OH → Rf−COF + HF
(2)
Rf−COF + H2O → Rf−COOH + HF
(3)
図 8-2.Nafion ポリマー鎖の末端基
•
PFSA に類似したポリマー(モデルコンパウンド)をフェントン反応条件にさ
らした場合(開路電圧条件)、末端基からの劣化を裏付ける結果を得た。
-
分解生成物を分析した結果、ポリマーの分解は末端から順次進行していくこ
とが判明した(図 8-3)。
図 8-3.モデルコンパウンドによるポリマーの分解反応実験
85
•
Case Western Reserve 大学では、カルボキシル基を有するモデルコンパウンド
(MC2)と Nafion のフェントン反応脆弱性を比較し、「酸性末端基(カルボ
キシル基)の存在下では、枝分かれ的な CF3 を有する側鎖(パーフルオロエー
テル基)は、直線的な側鎖よりも脆弱である。よって、枝分かれ側鎖を有して
いる Nafion は脆弱である」と結論している(図 8-4)。しかし、このようなス
タック条件ではない実験(ex situ)の結果から、単に「Nafion は本来的に科学
的に不安定」というような性急な結論をすべきではない。
•
DuPont の見解では、Case Western Reserve 大学のモデルコンパウンド(MC2)
は、Nafion の枝分かれ的性格を代表しているのではなく、むしろ「酸性の末端
基を有する枝分かれしていない側鎖」的性格を有していると考える。
枝分かれしたパー
フルオロエーテル基
図 8-4.Case Western Reserve 大学のモデルコンパウンドを用いた比較実験
•
DuPont では、より適切な比較を行うために、別のモデルコンパウンドを作成
し、そのフェントン反応による分解度を調べた(図 8-5)。
-
モデルコンパウンド 3 と 4 は、同一の末端基(カルボキシル基)を持つが、
モデルコンパウンド 3 は側鎖が直線的であるのに対し、モデルコンパウンド
4 は枝分かれした CF3 を有する。
-
モデルコンパウンド 2 は完全に分解したが、モデルコンパウンド 3 と 4 の間
に大きな差は見られなかった。よって、側鎖の枝分かれの有無は、化学的脆
弱性とは関係がないと考えられる。結果として、末端基にカルボキシル基を
有するモデルコンパウンドは化学的に不安定だが、末端基がカルボキシル基
ではないモデルコンパウンドは化学的に安定であるといえる。
-
DuPont の見解では、ラジカルに対して脆弱なのはカルボキシル基であり、
側鎖ではない。反応性の末端基を減らしていくと、フェントン反応で溶出す
るフッ素イオン量も低下する(図 8-6、初期段階よりも 1/8)。DuPont では、
さらなる安定性の実現を試みている。
86
図 8-5.モデルコンパウンドのフェントン反応による分解実験
図 8-6.末端基を減らした場合の化学的安定性
87
(3) XL 膜の開発
① XL 膜の性能
•
DuPont では、化学的安定性の高い「Nafion® XL 膜」を開発している。
-
「XL」は「Extended Life」の意である。
-
開路電圧による加速テストでも、XL 膜は通常の Nafion メンブレンよりもフ
ッ素イオンの溶出が 1/40∼1/50 に押さえられる(図 8-7)。
-
サイクルテストによる寿命テストでは、XL 膜は通常の Nafionvの 20 倍の寿
命を示した(図 8-8)。
図 8-7.XL 膜の加速テスト結果
図 8-8.XL 膜の寿命テスト(サイクルテスト)結果
88
•
XL 膜は通常の Nafion メンブレンと同等の性能(I-V カーブ)を示している(図
8-9)。
図 8-9.XL 膜と通常の Nafion メンブレンの性能(I-V カーブ)
•
XL 膜のサイクルテストの結果、15000 サイクルを達成した(装置の故障で、
15000 回でテストを終了した)(図 8-10)。
図 8-10.Nafion® XL のサイクルテスト
89
•
XL 膜21は、補強膜(Reinforced non-CS)や化学的安定化補強膜(Reinforced CS)
よりもフッ素溶出量が少なく、化学的に安定している(図 8-11)。
-
補強膜の場合、フッ素の総溶出量が 7μモル/cm2 になった時点で破壊した。
よってグラフから XL 膜の耐久性は 5000 時間程度と予想される。
(膜厚 25µ)
(膜厚 26µ)
図 8-11.補強膜、化学的安定化補強膜、XL 膜のフッ素溶出量の比較
② 高耐久性 MEA
•
DuPont では、メンブレンの高耐久化にあわせて電極の最適化も研究しており、
高耐久性の MEA を開発した(図 8-12)22。
図 8-12.耐久性の MEA の開発
21
22
注:「CS membrene」は末端基数を削減したもので、「XL」はさらに DuPont 独自の化学的安定化
技術を施したものとされる。なお本研究は、DoPont が UTC(United Technologies)ともに DOE
のプログラムの一環で行った研究の成果が基礎となっている。
< http://www.hydrogen.energy.gov/pdfs/review05/fc9_escobedo.pdf >参照。
Baseline MEA と Durable MEA は、イオノマーは同じだが、触媒担体が異なるとされる。
90
③ Nafion XL 開発のロードマップ
•
Nafion XL 開発のロードマップを表 8-4 に示す。現状の「Gen3」は、DOE の
耐久性目標値である 5000 時間を達成できる見込みがある。
•
「Gen5」は、高温・低湿度用メンブレンとして開発中であり、DOE の目標値
を達成できる可能性がある(表 8-5)。
表 8-4.Nafion XL 開発のロードマップ
Membrane
Gen 0
Gen 1
Commercialization Date
1980's
2003
Common Name
Extruded
Membrane
PEM industry
standard
Benefits
Introduced
Cast
Membrane
Gen 2
Gen 3
Gen 4
Gen 5
2005
2Q 2008
2009
2011
Converted to
CS Polymer Nafion® XLacross
100
product line
Improved
durability by
Thin, uniform
chemically
membrane
stabilizing
yielding higher
polymer to
power output
resist peroxide
attack
Durability with cycling at
operating temp<= 80°C (hrs)
250
Low RH,
Nafion® XLHigh
200
Temperature
membrane
Highest
durability to
date, coupled Improved
with enhanced conductivity
mechanical
properties
Improved
membrane
conductivity at
high T, low RH
Better
dimensional
stability and
tensile
strength
Keep
durability and
mechanical
improvement
gains
5000
Keep
durability and
mechanical
improvement
gains
5000
6000
表 8-5.DOE の高温膜の目標値
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
(2010Target に同じ)
91
④ XL 膜・高耐久性 MEA のまとめ
•
XL 膜は、高耐久性の自動車用 PEM となる可能性を秘めている。
•
XL 膜の IV 特性は、1 mil 厚(25μm 厚)の通常のキャストメンブレン
(NRE211CS)とほぼ同じである。
•
開路電圧での耐久性試験では、XL 膜のフッ素溶出量は、化学的安定化メンブレ
ン(キャスト)の 1/40 である。またドライブサイクルテストでも、フッ素溶出
量は 1/14、寿命は 3 倍となった。
•
XL 膜と高耐久性電極で構成した MEA は、非常に優れた性能を示している。燃
料電池での運用条件で、これまでの MEA より 1/10 の劣化度を示した。。
(4) ディスカッション
23
24
•
水素のクロスオーバーに関しては、特定の R&D は行っていない。
•
コストは、量産時には 50 ドル/m2 程度は可能かもしれない。物理的に強化した
メンブレンや XL 膜もほぼ同じコスト範囲になると思われる。なお、GM が主
張しているような 30 ドル/m2 のレベルの達成は非常に困難である。
•
メンブレンのリサイクルに関しては、DOE のプログラムに注目している23。
•
DuPont が開発している電極に使用しているイオノマーは、通常のものを使用
している。電極触媒の劣化は、主に凝集による表面積低下によっておこる。イ
オノマー自体の劣化は問題とはならない。
•
DMFC 用 MEA は、ドイツの Smart Fuel Cell 社に提供している(Hymer 社の
RV の APU 用)24。この RV は、米国向けではなく、フランス・イタリア向け
である。なお出力は 15∼100 W と小規模である。
•
「Gen 5」については、どのような技術を使うかは未定である。
•
XL 膜はまだスタック(ショートスタック)レベルでのテストは行っていない。
< http://www.hydrogen.energy.gov/pdfs/review06/fc_35_grot.pdf >参照。
Hymer のホームページ参照。
< http://www.hymer.com/it/index.php?storyid=253&navi=240103101101&kategorie=1152&story=1&autocontentid=47 >
Smart Fuel Celll のホームページ参照。
< http://www.smartfuelcell.de/ >
なお、SMF には、JohnsonMatthey も MEA を供給している。P.45 参照。
92
9
W.L. Gore & Associates, Inc
W.L. Gore & Associates, Inc
訪問先
住所:1901 Barksdale Road Newark , DE 19711, USA
訪問日時
対応者
2007 年 11 月 5 日(月)13:00∼16:00
Jeffrey A. Kolde
Jim Baker
Simon J. C. Cleghorn, Ph.D.
組織の概要
調査項目
加藤 博
執行役員、新規開発技術 電気化学担当
ジャパンゴアテックス株式会社
矢野 健一郎
ECP・ディビジョン
ジャパンゴアテックス株式会社
西村 晋一
Electro Chemical Products technology
ジャパンゴアテックス株式会社
PEFC 用メンブレンを開発。
・ MEA 開発の現状と課題
・ FC 耐久性の現状と見通し
(1) W.L. Gore の概要
•
W.L.Gore は 1958 年に設立された25。
•
W.L.Gore の業務は、繊維部門、医療部門、エレクトロニック製品部門、産業製
品部門である。燃料電池は、産業製品部門が担当している。
•
Gore における燃料電池の開発は、亜鉛空気電池用・ニッケル水素電池用の GDL
を開発したことに始まる(表 9-1)。1995 年以来 MEA も開発している。
-
燃料電池の研究は米国と日本が中心で、小規模だがドイツでも研究を行って
いる。また中国ではイオノマーを開発している。
表 9-1.Gore における燃料電池の開発の歴史
1970 年代
1980 年代
1990 年代
25
・
・
・
・
・
・
バッテリ用 GDL の開発(補聴器用 Zn-Air 電池、衛星用 NiH 電池)
コインセル(EDLC キャパシタ)用電極
PAFC 用電極
EDLC アセンブリ、セパレータ
PEMFC 用メンブレン、電極、アセンブリ GCL
FC ビジネス部門を 1995 年に設置
Gore のコアコンピタンスである PTFE(フッ素樹脂)は、1958 年に創立者である Bill Gore と Vieve
Gore が開発した。1969 年に息子の Bob Gore が加工法を開発し、Goretex として商品化された。
93
(2) Gore の燃料電池開発
① 主たるアプリケーション
•
Gore の考えでは、自動車用アプリケーションが製品スタンダードを設定すると
考えている(性能、コスト、製造量の点で最も要求度が高い)(表 9-2)。
・
・
・
・
表 9-2.自動車用 MEA の開発目標値(要翻訳)
自動車用 MEA に求められる条件
高電流(1.5A/cm2)での高電圧維持
・ −30℃からの低温始動性の確保、
車載スタックとしての長寿命(5,000 時
−40℃でのシステム性能の維持
間以上、負荷変動サイクル)
・ MEA の慣らし運転条件の確定
- メンブレンの長寿命化
・ 市場ニーズへの適合
- 電圧低下度: <5μV/時
・ DOE 目標の達成
MEA の白金担持量:0.15 mg/cm2
・ ISO/TS16949(自動車セクター規格)
燃料効率目標の達成(水素、窒素、
の適合
酸素のクロスオーバー許容値の達成)
自動車に求められる条件の達成の方策
・ 出力密度の向上 /電流密度の向上
・ 耐久性(メンブレン、電極)(機械的強
・ 高温条件 / 低湿度条件での運用
度、化学的安定性)
・ 触媒担持量の低減
・ 凍結 / 融解の確認
より高い出力密度を達成するための方策
スタックをより高い定格電流密度で稼動するようにデザインすることで、コスト低減が図
れる(セル数の削減、セルの小型化)。ただし効率面に対するトレードオフあり。
② Gore のメンブレン開発
•
一般に高温(95℃)・低湿度用
イオノマーの開発では、相対湿
度 50%で 0.10 S/cm(20 kHz)
の伝導性を目指しているが、現
状で Gore の新規イオノマーは、
これを上回る性能を示してい
る(図 9-1)。
図 9-1.Gore の高温・低湿度用イオノマーの開発
94
•
高温用 MEA では、(i) 高温・低湿度条件での作動と、(ii) 高温・低湿度条件で
の寿命確保、が課題である。
•
(i) 高温・低湿度条件での作動:
-
Gore で開発中の新メンブレンは、DuPont NRE-211 と比較し、高温・低湿
度でも高いセル電圧を確保している(図 9-2)。
-
110℃でも、高い IV 特性を示している(図 9-3)。また高電流側でも電圧の
低下が少ない。
図 9-2.新規の Gore メンブレンのセル温度・相対湿度に対する感度
図 9-3.新規の Gore メンブレンの高温(110℃)での IV 特性
95
•
(ii) 高温・低湿度条件での寿命確保:
高温用 MEA の寿命確保では、機械的強度(相対湿度のサイクルへの適応)
と、化学的安定性が重要である。機械的強度テストでは、DuPont NRE-211
が 200 サイクルで破壊したのに対し、Gore 製メンブレンは 60,000 サイクル
でも破壊は起きていない(図 9-4)。
-
Gore で開発中の新型メンブレン(Next Generation)は、化学的安定性につ
いても高い性能を示している(図 9-5)。
水素クロスオーバー量(mL/min)
-
図 9-4.Gore 製メンブレンの機械的強度テスト(相対湿度サイクルテスト)
フッ素溶出度
テストの結果
(開路電圧維持)
加速テストの結果
Next Generation
図 9-5.Gore 製メンブレン(Next Generation)の化学的安定性
96
③ Gore の MEA 開発
•
電極の開発では、性能の向上(高湿度・低湿度の両方で作動、負荷追従性)、
白金担持量の低減(0.1∼0.2 mg/cm2)とともに、耐久性の向上(電圧サイクル、
起動・停止、一定電圧での劣化、低温・凍結耐性)が重要である。
•
Gore で開発した MEA の耐久性テスト結果(相対湿度 65%のドライ条件、相対
湿度 300%のウェット条件)を図 9-6 に示す。
図 9-6.MEA の耐久性テスト結果
上:ドライ条件(相対湿度 65%)、下:ウェット条件(相対湿度 300%)
97
•
開発した MEA に対して、耐久性テストを行った(図 9-7)。
-
起動・停止サイクルテスト(100 サイクルでの電気化学的表面積減少の測定)
では、MEA の改良とともに耐性が向上した。
-
電位サイクルテストでも、MEA の改良とともに性能低下度が大幅に低下した。
起動・停止サイクルテスト(100 サイクル)
(電気化学的表面積(ECA)と電圧の低下度の測定)
電位サイクルテスト
(白金触媒の溶出・凝集の想定)
図 9-7.耐久性テスト(起動・停止サイクルテスト、電位サイクルテスト)
98
•
Gore の MEA は、負荷・相対湿度変動サイクル試験(80℃)では、9000 時間
を達成した(図 9-8)。また 9,000 時間後の水素クロスオーバー量は 0.0017
cc/min・cm2 以下であった。
テスト条件・プロトコル
フッ素イオン溶出量[g/min]
9,000 時間でテスト終了
(テスト後の MEA の状態は良好)
9,000 時間後の水素クロスオーバー量は 0.0017 cc/min・cm2 以下
(A/C)
9000 時間後において、
メンブレンの厚さはほぼ同じ
図 9-8.MEA の負荷・相対湿度変動サイクル試験
99
•
Gore の Seriese 5720 MEA は、負荷・温度変動サイクル試験で、5500 時間の
耐久性を達成した(図 9-9)。
サイクル
Hours
図 9-9.MEA の負荷・温度変動サイクル試験
④ 電極開発の今後の方向性
•
電極の耐久性向上と白金担持量低
減の間にはトレードオフがあり、
現状の達成点(Seriese 5720)か
ら、どちらの方向性を重視するか
の検討が必要である(図 9-10)。
図 9-10.耐久性向上と白金担持量低減のトレードオフ関係
100
(3) ディスカッション
•
DMFC の開発は行っていない(少なくとも米国の研究拠点では)。
-
DMFC ではメタノールのクロスオーバーが問題である。
-
DMFC への関心は、世界的にも一時期より低下しているのではないかと思わ
れる。
•
Gore では PTFE を購入しているが、自分たちで開発する能力はある。なお、
Gore ではイオノマーは自社でも生産している(中国拠点)。
•
Gore では触媒開発は行っていない(主に触媒メーカーより購入している)。
•
他社との関係:
-
DuPont とはコンペティターの関係にある。
-
JohnsonMatthey はパートナー(触媒の仕入先)であるとともに、MEA では
コンペティターである。また JohnsonMatthey の MEA に対しては、Gore の
補強膜は提供していない。
(4) Gore の燃料電池研究設備(プレゼン資料による)
•
Gore の燃料電池研究設備を図 9-11、図 9-12、図 9-13 に示す。
燃料電池テストステーション(37 台)
・ 5 gases piped to all stations
Hydrogen
Simulated Reformate
Oxygen
Air
Nitrogen
・ Other gases can be delivered to
any station by cylinder.
・ Custom gas blending capability
on several stations
・ Hydrogen is certified 99.999%
purity.
・ Air is very pure with an incoming
Dp of 90 C.
・ All necessary utility and safety
features for 24 hour / day, 7 day /
week operation
図 9-11.Gore の燃料電池研究設備(1)
101
燃料電池テストステーション(37 台)
・ Automated data collection
・ Voltage, current, or power
control
・ Automated loadfollowing flow
with selectable stoichiometry
and offset
・ Manual flow control
・ HFR current interrupt
resistance measurement
・ Programmable automation for
duty cycles, polarization
curves, etc.
・ Independent anode and
cathode humidification
・ Product water collection
・ Selectable operating pressure
to 60 PSIG
加速テスト装置
メンブレン伝導度測定装置
・ Specific
・ For (N2/N2)
membrane/electrode testing
only
・ Diagnostic
・ AC Impedance for conductivity
/resistance measurements at
various relative humidities and
temperatures up to 150 C
図 9-12.Gore の燃料電池研究設備(2)
102
メンブレン・MEA テストステーション
・ This unit has a wellcontrolled
homogeneous uniform cell
configuration.
・ Diagnostic capabilities for cyclic
voltametry, AC impedance
(N2/N2, H2/Air, H2/O2), and
polarization curves
図 9-13.Gore の燃料電池研究設備(3)
103
10
General Motors (GM)
General Motors (GM)
訪問先
住所:100-400 Renaissance Center, S side of Jefferson Ave
Just E of Woodward Ave Detroit, MI 48226-4327, USA
訪問日時
対応者
組織の概要
調査項目
2007 年 11 月 6 日(火)9:00∼11:30
Ian Sutherland
Advanced Planner, Fuel Cell Activities
General Motors Corporation, Research & Development Center
George P. Hansen
Director, Fuel Cell Communication, Asia Pacific
GM Asia Pacific (Japan)
DOE のラーニング・デモンストレーション、カリフォルニア燃料電池パート
ナーシップ、CEP、JHFC(日本)の実証実験に参画している。トヨタと組ん
でいた FCV の協力関係を 2006 年に解消した。
・ 次世代自動車(パワートレイン)に対する考え方
・ FCV デモンストレーションプロジェクトへの参画状況
・ 水素ステーションなどインフラ構築に対する考え方
(1) GM の自動車の将来に対する見方
•
2000 年では世界人口 60 億人に対して自動車普及台数は 7 億 5000 万台(自動
車保有率 12%)であったが、2030 年には世界人口 80 億人に対して自動車普及
台数は 15 億台(自動車保有率 18%)に達すると想定される(図 10-1)
-
将来のエネルギー確保をめぐる競争を引き起こすとともに、新規の自動車産
業(脱石油依存型の自動車産業)を創出する可能性も秘めている。
図 10-1.世界人口と自動車普及台数
104
(2) GM の次世代自動車戦略
•
現状の自動車産業の課題は、以下の 2 点である。
-
エネルギーセキュリティ(米国の LDV の 96%は石油に依存し、2%は天然ガ
スに依存)
-
エミッション規制(地球温暖化対応、排出規制強化)
•
究極のゴールは、交通の再生可能エネルギー利用と、車両からのエミッション
のゼロ化(Zero Vehicle Emission)である(図 10-2)。
•
そのためには、自動車の電動化(バッテリ EV、FCV)が重要である。なお、
基本的にバッテリ EV と FCV は同種のファミリーとして考えている。
-
世界的には、水素・電気とバイオ燃料、石油燃料は共存していくことになる。
また、地域ごとに導入タイミングと時間軸を設定することになる。
-
水素源には、短期的には天然ガス改質を、長期的には再生可能エネルギーか
らの製造を考えている。
-
エネルギー多様化を進めるためには、代替エネルギー(水素、電気)を推し
進め、脱石油化の方策を確立することが重要である。
図 10-2.次世代自動車技術の戦略(世界全体)
105
•
これまで GM では、コンセプトカー(AUTOnomy→Hy-Wire→Sequel)ライ
ンと実用車ライン(HydroGen3→Equinox Fuel Cell)の 2 ラインで、FCV 開
発を展開してきた(図 10-3)。
図 10-3.GM の FCV 開発の進展
•
Equinox Fuel Cell(70MPa 対応)の外観、内装を図 10-4 に示す。
-
外観はガソリン車の Equinox と基本的に同じだが、ラジエータを大型化して
おり、また後部では排気ガスが出ないことを強調したデザインとしている。
-
Equinox Fuel Cell の乗員は 4 人である(ガソリン車の Equinox は 5 人)。
-
GM のナビゲーションシステム「OnStar」システムを改良し、車両モニタリ
ングや水素ステーションへの誘導サービスを付加した。
図 10-4.Equinox Fuel Cell の外観と内装
106
•
•
Equinox Fuel Cell は今後 110 台を生産し、北米や欧州でのデモンストレーシ
ョンや GM 独自のユーザーテストに使用する(図 10-5)。
-
Equinox Fuel Cell は、2007 年 9 月以降、月間 8∼10 台の生産を行っている。
-
DOE のデモンストレーションには 42 台を提供し、NY、カリフォルニア、ワ
シントン DC で運用する。
-
GM 独自のユーザーテストでは、水素ステーション付近の希望者に、約 3 ヶ
月間貸し出し、ユーザーの意見を開発にフィードバックする予定である。す
でに希望者は 1 万人以上に達している。
-
ユーザーテストでは、利用者に課金することは考えていない(すでに利用者
は自家用車のローンを払っているので、それ以上の負担をさせることは好ま
しくない)。充填した水素は請求することも考えているが、水素ステーショ
ンの運営者もまだ明確な方針を打ち出していない。
-
現状で数台が利用者に配車されており、うち 1 台はすでに走行している。
-
Equinox Fuel Cell の欧州・アジアへの導入計画は今後発表する。中国(上海)
には導入するが、日本への導入は予定していない(高圧ガス保安協会の承認
を得るための手間を考えれば、日本市場への導入は割にあわない)。
Equinox はガソリン車自体がカナダで生産されており(GM とスズキの JV で
ある CAMI 工場)、輸入車の扱いである(FCV バージョンは少量生産・輸入の
特別措置が適用されている)。FMVSS(米国連邦自動車安全基準)もクリアし
ている。
図 10-5.Equinox Fuel Cell の展開プラン(予定)
注:図中の各地域の Equinox の台数と、実際の導入台数は一致しない。
107
•
Equinox Fuel Cell は 70 MPa 対応であるが、現状では 70 MPa 対応の水素充填
ステーションはまだ数が少ないため(図 10-6)、GM では独自に 70 MPa 対応
水素充填ステーションを設置することを考えている。
-
本来的には、水素充填ステーションの整備はエネルギー会社の役割であり、
GM のような自動車メーカーの役割ではない。GM が設置する水素充填ステ
ーションも、やがては Shell などに引き取ってもらうことが望ましい(GM は
Shell とパートナーを組んでいるが、Shell がどこまで本気なのかはまだよく
わからない)。
-
デモンストレーションやユーザーテストでは、70 MPa 充填を積極的に体験
してもらうことを考えている。ただし、70 MPa 水素充填ステーションの数
が不足しているロサンゼルス地区では、35 MPa 充填も補完的に使用するこ
とになろう。
-
70 MPa 水素充填ステーションの設置認可は、ロサンゼルス地区では比較的
容易であったが、ニューヨーク地域では許認可を得るのが困難であった。
-
水素充填インフラの設置では、水素エネルギーに対する社会受容性の向上が
必要である。いわゆる NIMBY(Not in My Backyard)の問題も関係してい
ると考えている。
70MPa
70MPa
70MPa
70MPa
35MPa
35MPa
35MPa
35MPa
70MPa
70MPa
35MPa
70MPa
35MPa
35MPa
70MPa
70MPa
70MPa
図 10-6.GM のデモンストレーションで
利用予定の水素充填ステーション
108
(3) 「E-Flex」コンセプト
•
「E-FLEX」は電気駆動を基本とし、さまざまなエネルギー源(発電機、水素
形燃料電池、次世代バッテリ、プラグイン)を車載するための共通プラットフ
ォームである(図 10-7)。
-
「E-FLEX」はハイブリッドにも適用できるが、あくまでもエネルギーの最
終形態は電気駆動なので、レンジエクステンダー型ハイブリッド(シリーズ
型ハイブリッド)となる。パラレルハイブリッドは、現在の内燃機関自動車
の延長にある技術であり、シリーズハイブリッドは将来の電気駆動自動車に
つながる技術である。
-
燃料電池とバッテリのハイブリッドでは、燃料電池 70 kW、電池 50 kW の組
み合わせを想定しているが、最終的なコンフィギュレーションは今後検討し
たい。
レンジエクステンダー
燃料電池
図 10-7.「E-FLEX」コンセプト
•
電池に関しては、「Sequel」はリチウムイオン電池を、「Equinox Fuel Cell」
では NiMH 電池を、
「E-FLEX」ではリチウムイオン電池の搭載を考えている。
-
現状では、A123 System(リチウムイオン電池)、Cobasys(NiMH 電池)、
Johnson Controls-Saft(リチウムイオン電池)とパートナーを組んでいる。
A123 System の Li イオン電池は満足できる性能を有していると考えている。
109
(4) FCV 普及のためのパスウェイ
•
GM の考える FCV 普及のためのパスウェイを図 10-8 に示す。
-
•
水素ステーションは、技術開発段階(各社 100 台程度)には 10 ヶ所程度、パ
イロット段階(各社 1,000 台程度)には 40 ヶ所程度、初期実用化段階(各社
10,000 台程度)には 250 ヶ所程度が必要である。
水素充填インフラ整備上の課題を表 10-1 に示す。
-
エネルギー会社が本気になるまでは、インフラ整備には国の支援が必要であ
る。現状では自動車メーカーがリスクを背負ってしまっている。
図 10-8.GM の考える FCV 普及のためのパスウェイ(コンセプト)
表 10-1.水素充填インフラ整備における課題
¾ 既存のガソリンスタンドと同じ形態の充填設備
・ 自動車メーカーが展開を希望する地域への設置、70 MPa 充填の採用
・ 車両の展開と同時に(あるいはそれに先んじて)ステーションも展開
¾ 利用者のステーションへのアクセスの確保(アクセスに関する取り決め、ガソリンと同
様のレベルの責任範囲の採用など)
¾ 水素ステーションの許認可プロセスの統一化(全米で統一)
¾ 充填設備設置(新設、追加設置)のための補助金、インセンティブ
・ 責任範囲の明確化(保証上限の設定、あるいは責任問題を回避するための充填
フルサービスの提供)
・ ステーションの運用コスト、充填コスト
110
•
2012 年を想定した、ロサンゼルス地域、ニューヨーク地域での水素ステーショ
ンの展開(コンセプト)を図 10-9 に示す。
図 10-9.2012 年におけるロサンゼルス地域・ニューヨーク地域
での水素ステーションの展開(コンセプト)
111
(5) 日本の FCV 政策に対するコメント
•
GM は、2001 年から 2005 年における日本のリーダーシップ(JHFC プロジェ
クトなど)を高く評価しているが、日本の現状を深く憂慮している(表 10-2)。
表 10-2.GM の日本に対する懸念
【GM のこれまでの活動】
•
日本は、2001 年∼2005 年にかけて、FCV・水素において世界をリードし
てきた。
-
よって GM は、2003 年以降、日本政府がスポンサーする「水素・燃料
電池実証プロジェクト(JHFC)」に参画してきた。
-
2003 年 ∼ 2004 年 に は 、 世 界 で 最 初 の 商 業 利 用 FCV で あ る
「HydroGen3」が、FedEx Japan によって運用された。
•
2001 年以来、スズキと FC 開発でコラボレーションを実施している。
-
FCV 開発によって、GM の技術が進展。
【日本の現状に対する意見】
•
2005 年までとは反対に、現状の日本は FCV で勢いを失っている。
-
ビジョンとリーダーシップの欠如(なぜ、どこに向かうか)。
-
FCV・水素をより戦略的に見ている米国・欧州は、日本を追い越した。
-
日本の自動車メーカーは、日本ではなく米国をターゲットにしている
(他のメーカーが何をしているかを Wait & See)。
•
小規模のデモンストレーションを実施するにあたっても、非常に大きな障
害が存在している。
-
日本の自動車メーカーは FCV を米国・欧州に持っていくことはできる
が、欧米の自動車メーカーが米国・欧州で認証済みの FCV を日本に持
っていくることは困難。
* 高圧ガス保安協会における例示基準と機能性基準の議論 ∼ 外国の自
動車メーカーが FCV デモンストレーションに参加することに関心がない)
* 「大臣認証」制度も阻害要因
•
日本としての戦略が不透明(車両、水素貯蔵などの規制面で整合性が欠
如)。
•
インフラに関する方向性が不明確。
-
700 気圧充填、プレクールなどの方針が不明確。
-
水素ステーションの数・場所と、FCV 導入台数の間に整合性がない。
112
(6) ディスカッション
26
27
•
FCV のコストは、量産できれば低減が可能である。よって GM は量産に結びつ
くような展開を考えている。
•
GM は、現状では燃料電池のスタックを独自に開発している。将来の方針はわ
からないが、正しい判断をするためにも、技術を理解する必要がある。またモ
ーターについても、GM は独自技術を有している。
•
プラグインハイブリッドでは、EV 走行で 40 マイルの走行距離の確保を目指し
ている。
-
プラグインハイブリッドはあくまでも電気駆動(EV)の車載エネルギーを補
助する機構であって、いわゆるシリーズハイブリッドである。プラグイン機
能は、E-FLEX とサターン VUE に適用する。
-
利用者に家庭のガレージで「プラグイン」することを教育することは容易で
はない。また量産台数が少なければ、プラグインハイブリッドは高コストに
なってしまうであろう。しかし、それでも一般市民が購入できるような価格
に設定したい。
-
パラレルハイブリッドやマイルドハイブリッドも重要な次世代自動車技術で
あり、GM は FCV・E-FLEX と同時並行的に技術開発を進めている。
•
ハイブリッド・FCV 用バッテリの調達では、SOC 条件などは細かく指定はして
いないが、基本的な仕様(サイクル寿命など)に関する要望はバッテリメーカ
ーに伝えてある。
•
水素充填時の車両とのコミュニケーションでは、赤外線通信(ノズルに設置)
を検討している26。接続式の通信方法は好ましくない。
•
米国の電気料金は地域によって大きく異なり、天然ガス比率の高いカリフォル
ニアは 14 セント/kWh、石炭比率の高いウエストバージニアは 6 セント/kWh
である27。
•
米国では、コミューター型 EV は考えられない(市場はニューヨークくらいし
かない)。
Daimler の主張と同様に、ノズルに赤外線通信用機能 RDI(Refueling Data Interface)を採用す
ることを考えている。
詳細な電気料金データは、米エネルギー省エネルギー情報局「Average Retail Price of Electricity to
Ultimate Customers by End-Use Sector, by State」参照。
< http://www.eia.doe.gov/cneaf/electricity/epm/table5_6_a.html >
113
11
3M
訪問先
3M
住所:201 Building, 3M Center, St. Paul, MN 55144-1000, USA
訪問日時
対応者
組織の概要
調査項目
2007 年 11 月 6 日(火)16:00∼18:00
Dr. Eric Funkenbusch
Business Director, Fuel Cell Components Program
3M Corporate Research and Development Services
Dr. Mark K. Debe
Sr. Staff Scientist, Technical Manager, Fuel Cell Components Program,
3M Corporate Research and Development Services
Annette M. Borrelli
Quality Assurance Manager, Fuel Cell Components Program
3M Corporate Research and Development Services
Philip Miller, Ph.D.
Laboratory Manager, Fuel Cell Components Program
3M Corporate Research and Development Services
Joe Frisk
Technical Supervisor, Fuel Cell Components Program
3M Corporate Research and Development Services
PEFC の電極材や MEA を開発。DOE のプログラムにも参加。
・ 電極、MEA 開発の現状と課題
・ FC 耐久性の現状と見通し
(1) 3M の概要
•
3M の主たるコア技術を図 11-1 に示す(周期表に似せてまとめている)。
図 11-1.3M の主たるコア技術
例.「Bi」は Biotech、「Fl」は Fluoro-materials(フッ素材料)。
114
•
3M の総売り上げを図 11-2 に、主たるビジネス部門と売り上げ・営業利益を表
11-1 に示す。
-
世界 60 各国で 200 以上の製品を販売している。売り上げの 61%は米国以外
の国からである。従業員は世界全体で 4 万人である。
-
3M は、ボストンコンサルティングと Business Week が調査した「最も革新
的な企業(2006 年度)」で、第 3 位である。また Fortune の「最も尊敬でき
る企業」では 14 位、「優良市民企業 100 社」では 30 位、Harris Interactive
(市場調査会社)による「評判のよい米国企業」で第 3 位である。
[billion]
図 11-2.3M の売り上げ
部門
表 11-1.3M の主たるビジネス部門の売り上げと営業利益(2006 年)
売り上げ
営業利益
Consumer and Office Business
Display and Graphics Business
Electro and Communications Business
Health Care Business
Industrial and Transportation Business
Safety, Security and Protection Services Business
合計
115
$3.2 billion
$3.8 billion
$579 million
$1.1 billion
$2.5 billion
$4.0 billion
$6.8 billion
$2.6 billion
$22.9 billion
$438 million
$1.8 billion
$1.3 billion
$575 million
$5.8 billion
(2) 3M の燃料電池関連プログラム
•
3M の燃料電池開発の歴史を図 11-3 に示す。3M では、1996 年より燃料電池の
技術開発を行っている。
図 11-3.3M の燃料電池開発の歴史
•
燃料電池に関わる 3M のコア技術の一つが表面加工技術である(図 11-4)。
図 11-4.3M の表面加工技術
3M のウィスコンシン州メノモニーのメンブ
レン製造ラインを図 11-5 に示す。
図 11-5.3M のメンブレン製造ライン
116
•
現在 3M は、DOE と二つのプロジェクトを実施している。
-
メンブレン開発(DOE からのファンド額 890 万ドル)
-
触媒開発(DOE からのファンド額 840 万ドル)
•
燃料電池に関する特許申請件数でも、3M は上位にある(図 11-6)。
図 11-6.燃料電池に関する特許申請件数(2003∼2005 年)
•
3M では、以下の 3 つの燃料電池プログラムを実施している。
-
DOE のファンドによる、革新的触媒とメンブレンの開発
-
戦略的パートナーとの MEA 開発
-
特定の市場向けの MEA の製造と販売
117
(3) メンブレン開発
① メンブレン開発の方針
•
PEMFC システムでは、水・温度管理がキーとなる(表 11-2)
-
現在、水が少なくても高い伝導度を維持できるメンブレン(高温、低湿度で
運用可能)の開発が進んでいる。
-
現在の DOE の自動車用メンブレンのターゲットは、120℃・相対温度 20∼
40%で、伝導度 100 mS/cm である。
表 11-2.PEMFC システムにおける水・温度管理のポイント
メンブレン加湿におけるトレードオフ
・ 加湿器のコストや電力消費の増加
・ 水蒸気による燃料ガス密度の希薄化
・ 高電流部分で発生するフラディング
・ システムの複雑化
高温(120∼150℃)で運用するメリット
・ CO 耐性の向上
・ システム冷却装置の簡略化
・ コージェネレーションの効率向上
•
高温・低湿度においては、伝導度が低下するとともに、以下の問題が発生する。
-
多くのメンブレンは、高温で機械的特性が低下する(引き裂き、穴、ずれ)。
-
低湿度では、メンブレンの化学的酸化が進行する(おそらく原因は、電極に
おける過酸化物生成の進行と、水の不在のための過酸化物濃度の上昇)。
•
28
3M では、以下のアプローチを採用した。
-
低 EW28で高伝導性のイオノマーの開発
-
メンブレンの強度の向上
-
メンブレンの酸化耐性の向上、化学的安定性の向上
-
性能の劣化度とイオノマー劣化度が少ない、触媒・GDL の開発
-
エッジ部分のシールとガスケットの一体化
-
MEA デザインの最適化
Equivalent Weight。スルホン酸基 1 当量当たりのポリマーの重量。
118
② 機械的強度
•
3M が開発したイオノマーは、通常の PFSA メンブレン用イオノマーよりも側
鎖が短く、また CF3 の枝分かれ構造を有していないため、同じ EW において、
高い結晶化度を示す(図 11-7)。
-
3M が開発したイオノマーは化学的安定性も高く、機械的強度も高い。同じ
EW(1000)の PFSA に比べて、高い動的弾性係数(Storage Modulus)を
示している(図 11-8)。
合成法
図 11-7.3M で開発したイオノマー
図 11-8.3M が開発したイオノマーの機械的強度(動的強度試験)
119
•
各種の機械的強度試験結果を表 11-3 に示す。また引っ張り強度測定装置を図
11-3 に示す。
表 11-3.3M が開発したイオノマーの機械的強度(相対湿度 50%で測定)
図 11-9.引っ張り強度測定装置
120
•
引っ張り強度試験では、3M のメンブレンは 75℃、および 95%まで高い係数を
示している(図 11-10)。
図 11-10.引っ張り強度試験結果
•
ダブルノッチ引き裂き試験の結果を図 11-11 示す。3M のメンブレンは 95%ま
で高い耐性を示している。
膜 、30μm 1000 EW
図 11-11.ダブルノッチ引き裂き試験(50℃)
121
③ 化学的安定性
•
一般にメンブレンは、過酸化物、あるいは過酸化物から派生したラジカルによ
って、カルボキシル基を有する末端基が攻撃されると考えられている(図
11-12)。この反応は、鉄イオンの存在化で促進される。
図 11-12.過酸化物・ラジカルによるメンブレン攻撃のメカニズム
•
3M 製メンブレンを、加熱した過酸化水素水(90℃)に 4 日間浸した。結果、
Fe イオンが存在しない場合は、劣化が見られなかった(図 11-13)。
図 11-13.3M 製メンブレンの過酸化水素に対する耐久性
(H2O2 1M+10 ppm Fe、メンブレン 0.5g/ H2O2 100 g )
122
•
この過酸化水素水での耐久性テストでは、フッ化側鎖がそのまま脱落している
のが観測された。その他の脱落基は観察されなかった(図 11-14)。
-
なお、開路電圧によるメンブレン劣化テストでも、同じ脱落が観測されてい
る(GM も同じ知見を得ている)
図 11-14.過酸化水素水での耐久性テストで脱落した側鎖
•
末端のカルボキシル基が少ないイオノマーは、耐過酸化水素水テストで高い耐
久性(低いフッ素溶出度)を示している(図 11-15)
図 11-15.3M 製メンブレンの過酸化水素への耐久性∼末端基の違いによる比
較(H2O2 1M + 10 ppm Fe、メンブレン 0.5g/ H2O2 100 g )
123
•
過酸化物を除去する添加物についても検討を行っている(図 11-16)。
図 11-16.過酸化物除去添加物の比較
•
様々な EW29(640∼980)を有するイオノマーを作成し、伝導性を測定した(図
11-17)。その結果、最も EW が低い(640)イオノマーでは、120℃・相対湿
度 61.5%条件で、30 mS/cm の伝導性を示した。
図 11-17.様々な EW のイオノマーの伝導性試験
29
EW(Equivalent Weight)=イオン交換当量。
124
•
EW 983 のイオノマーの場合、120℃における抵抗過電圧損 170 mV であるが、
3M が開発した EW 733 のイオノマーの抵抗損はその半分である。
図 11-18.様々な EW のイオノマーの抵抗損比較
•
イオノマーの EW と電導性をプロットした場合、DOE の伝導度の目標値(100
mS/cm)を達成するには、EW は 200 程度にしなければならない(外挿による
予測、図 11-19)が、低 EW ではイオノマーが水に溶解してしまう。よって、
EW の低下以外のアプローチが必要である。
図 11-19.イオノマーの EW と電導性のプロット
125
•
高湿度条件では、イオノマーの EW の差による性能の差は小さいが(図 11-20
(A))、低湿度条件では、EW が小さいほうが高い性能を示す(図 11-20 (B))。
しかし、現在の MEA は、このようなイオノマーの EW による最適化は行われ
ていない。
(A) 70℃、相対湿度 100%
(B) 90℃、相対湿度 30%(H2/Air)
図 11-20.イオノマーの EW の差による性能の差
•
加速テストの結果、EW の差(700∼1000)による寿命(開路電圧が 800 mV
以下に低下した時点)に顕著な差は見られなかった30。
図 11-21.加速テストの結果(90℃、相対湿度 30%)
30
3M は「顕著な差がみられなかった」と主張しているが、一般には差があったとも解釈できるデー
タと考えられる。
126
•
3M 製の安定化メンブレンと一般的な PFSA メンブレン(Extruded)の加速試
験(90℃、相対湿度 30%)を実施した。その結果、3M のメンブレンのフッ素
溶出量は通常のメンブレンの 1/100 程度であった(図 11-22)。
図 11-22.メンブレンの加速試験結果
•
サイクルテストでは、3M のメンブレンは 5000 時間以上の耐久性を示した(図
11-23)。
(A) 70℃、相対湿度
100%
図 11-23.サイクルテスト結果(マルチセルテスト)
(終了点:電圧が 800 m V を下回った時点)
127
•
サイクルテスト(90℃、相対湿度 44%)では、3M 製メンブレン(添加物あり)
は Nafion 112(50μm)よりも 15 倍の寿命を示した(図 11-24)。
-
3500 時間後もクロスオーバー量に増加は見られず(表 11-4)、また IR カー
ブでも顕著な落ち込みは見られなかった(図 11-25)。
-
性能の低下は、主に触媒表面積の低下か、伝導性の低下によると考えられる。
図 11-24.サイクルテスト結果(90℃、相対湿度 44%)
表 11-4.クロスオーバー量の変化
図 11-25.IR カーブテスト結果
128
•
膜厚 30μm のメンブレンを 5 つ重ねて、非常に分厚い「単セル」を作成し、開
路電圧、高温(90℃)、低湿度(30%)で運用し、メンブレンの劣化をテスト
した31(図 11-26)。メンブレンだけではなく、スタック設計も重要であると
考えている
図 11-26.メンブレン 5 層を重ねた単セルテスト
31
白金バンド説の検証のための研究と考えられる。
129
④ DOE7 における研究:ドライ・ホット条件で稼動するメンブレン
•
DOE では、ドライ条件でも作動する MEA の開発を行っている(表 11-5、表
11-6)。
プロジェクト
表 11-5.DOE のメンブレン開発プロジェクト
ドライ、ホット条件でのメンブレン・MEA の開発
サブコントラク ‒Case Western Reserve Univ.
ター
Professors T. Zawodzinski、D. Schiraldi
‒Colorado School of Mines
Professor A. Herring
‒University of Detroit Mercy
Professor S. Schlick
‒University of Tennessee
Professor S. Paddison
開発目的
高温・低湿度条件で、高耐久性・高プロトン伝導性を維持できるプ
ロトン交換膜の開発
‒低湿度下、温度範囲−20∼120℃下で作動でき、DOE/自動
車メーカーのターゲットを満足できるメンブレンの開発。
‒定置用燃料電池にも利用できる、高耐久性、高性能メンブレ
ンの開発
表 11-6.DOE732における研究
‒新ポリマー、フッ素系、非フッ素系、コンポジット(ハイブリッドシステム)の開発(高
プロトン伝導度、高化学的・機械的安定性を有するメンブレン)
‒ドライ条件での高伝導度と高耐久性を有する新メンブレンの開発
‒プロトン伝導(メンブレン、触媒界面での伝導)に関する理論研究、MEA におけ
るポリマー劣化メカニズムの研究
‒商業用にスケールアップが可能で、コスト効率のよい材料の開発
‒新メンブレンの MEA
‒性能と耐久性のテスト
セル・ショートスタックでのテスト、実際の自動車運用条件(プロトコル)
32
「DOE7」とは、3M が参加している DOE プログラムのうちで、第 7 番目のプロジェクトの意味。
図 11-3(P.116)参照。
130
•
自動車用の新規メンブレン開発のコンセプトを図 11-27 に示す。
図 11-27.自動車用の新規メンブレン開発のコンセプト
⑤ 3M のメンブレン開発のまとめ
•
3M の側鎖の短いメンブレンは、高い機械的耐久性を有している。
•
低い EW のメンブレンは、伝導度が高く、高温・低湿度条件でも高い性能を示
した。水と温度管理がキーである。
•
これまでに新メンブレンを 5000 m2 製造した。
•
カルボキシル基末端の低減と、過酸化水素の分解を行う添加物の採用によって、
高い化学的耐性を得ることができた。
•
3M のメンブレンは、長寿命(5000 時間以上の耐久性)を達成し、Nafion 112
よりも高い性能を達成した。さらなる改良(伝導度と耐久性)を進めている。
131
(4) NSTF(Nano Structure Thin Film)電極の開発
•
自動車用 PEMFC に求められる電極性能を表 11-7 に示す。
表 11-7.自動車用 PEMFC に求められる電極性能
性能(寿命時)、耐久性、コスト目標の同時達成(貴金属担持<0.25 mg/cm2)
・高い活性度(重量あたり、A/mg-Pt)=大表面積×活性度
・高電圧、高温、スタート/ストップサイクル運用、燃料不足での耐久性
・ドライ∼ウエット条件でのロバスト性
・低温始動性の確保、冷却温度での耐久度
・内部・外部からの不純物への耐性
・過酸化水素発生量の抑制
・MEA のライフサイクルにおける環境インパクト(溶媒不要プロセスの採用)
・MEA の生産量(時間当たり)、歩留まり
・白金リサイクルに適した電極のデザイン(環境インパクトを考慮)
・既存の生産設備・インフラを用いた生産(リスクの低減)
・触媒種類に依存しない生産プロセス(新世代の導入が容易)
•
3M で開発している NSTFC(Nano Structure Thin Film Catalysts)の特徴を
以下に示す。これらの特徴により NSTF は一般的な Pt/C 触媒・MEA よりも高
い性能を示している。
-
NSTF のサポートはカーボンブラックではなく有機ピグメントであり、電気
化学的にも安定である(多数のウイスカを形成)。白金触媒はウイスカにコ
ーティングで付着させてあり、分散させたものではない(図 11-28)。
-
NSTF 電極は 1μm 以下で、普通の膜の 1/10∼1/30 程度である。
-
製造はドライ・真空蒸着プロセスで、シングルステップで形成可能である。
図 11-28.NSTFC の外観(SEM 画像)
132
•
NSTFC の合成方法を図 11-29 に示す。シングルステップで合成できるのが特
徴である。
図 11-29.NSTFC の合成方法
•
様々なタイプの NSTF 触媒(NSTFC)の性能(電位と単位面積当たりの活性
度)の比較を図 11-30 に示す。NSTFC は、通常の Pt/C 触媒よりも 5∼10 倍の
活性度を示している。
法
図 11-30.様々なタイプの NSTFC の性能の比較
(回転リングディスク電極使用、50 cm2 セル)
133
•
NSTFC(PtCoMn 三元触媒)電極は、通常の Pt/C 電極・PtCo 電極よりも比活
性度で 10 倍、全活性度で 1.4 倍を示した(図 11-31)。また高い腐食耐性を示
した33。
図 11-31.NSTFC(PtCoMn 三元触媒)電極と Pt/C 電極・PtCo 電極の比較
•
現状における、NSTF を用いた MEA(白金担持量 0.25 mg/cm2)の性能を図
11-32 に示す。なお、メンブレンは 3M 製であり、非補強膜である。またすべ
て実走行テストではなく、ラボテストである。
図 11-32.NSTF を用いた MEA の性能
33
本測定方法は、DOE と GM が実施している測定方法であると思われる。
134
•
耐久性試験(1.5V 保持テスト、3 時間)の結果を図 11-33 に示す。NSTFC で
はカーボン腐食が発生しないので、高い耐久性を示している。
-
耐久性試験(1.5V 保持テスト、8 時間)でも、性能の劣化は認められない(図
11-34)。
図 11-33.耐久性試験結果(1.5V 保持テスト、3 時間)
図 11-34.耐久性試験結果(1.5V 保持テスト、8 時間)
135
•
200 時間耐久性テスト(1.2V・200 時間、DOE プロトコル使用)結果を図 11-35
に示す。
図 11-35.200 時間耐久性テスト(1.2V・200 時間、DOE プロトコル使用)
136
•
サイクルテストの結果を図 11-36、図 11-37 に示す。
-
現状で、30000 サイクルで触媒活性の 14%のロスにとどまっている(図
11-36)。
-
NSTFC は、通常の Pt/C 触媒よりも活性度の低下(電気化学的表面積の低下)
が抑制されている(図 11-37)。
図 11-36.サイクルテスト結果①
図 11-37.サイクルテスト結果②
137
•
起動・停止プロトコルによるサイクルテスト結果を図 11-38 に示す。
-
セル電圧では、通常の Pt/C 触媒の劣化は不可逆的だが、NSTFC では冷却す
ることで活性が復活した。
-
IV 特性でも、NSTFC では高い耐久性を示した。
ion(3
n(3 MEA)
赤:3M 製キャスト Na
図 11-38.起動・停止プロトコルによるサイクルテスト結果(50 cm2 セル)
日産プロトコル使用(水素・空気)、1 サイクル 20 分、80℃
138
•
120℃のストレステストによる寿命・フッ素溶出度テストでは、NSTFC を用い
た MEA は通常の Pt/C 触媒を用いた MEA よりも、寿命は 15∼20 倍、フッ素
溶出量は 1/75 程度となった(図 11-39)。
図 11-39.120℃でのストレステスト(寿命・フッ素溶出度テスト)
•
NSTF MEA(エッジ保護なし)は、通常の MEA(エッジ保護あり、なし)よ
りも高い耐久性を示した(図 11-40)
図 11-40.加速サイクルテスト
139
•
ショートスタックでのテスト結果を図 11-41 に示す。(特筆すべき結果は?)
図 11-41.ショートスタックテスト
•
ドライブサイクルによるテスト結果を図 11-42 に示す。550 時間後でもほぼ劣
化がないことが確認された。
図 11-42.ドラブサイクルによるテスト結果(90℃)
140
•
ドラブサイクルテストでは、550 時間後の電圧低下は 10μV/h 程度であった(図
11-43)。
図 11-43.ドラブサイクルテスト(IV 特性)
(5) ディスカッション
•
NSTF の電極にはイオノマーは浸潤していない。サブミクロンオーダーでメン
ブレンと接合しており、プロトンの移動が確保されている。
141
12
まとめ
平成 19 年度の FCV 技術動向調査では、昨年度に続き、FC・FCV および水素インフラ
整備の研究開発に関する推進政策動向、欧米地域における FCV 実証試験の動向、及び
高分子膜などを含む MEA に関する研究の動向調査に重点をおいた。
調査の参加者は、昨年同様国内自動車メーカー3 社に加え、海外自動車メーカーが 1 社、
調査前半(欧州)に加わった。また MEA 研究開発の動向調査を実施するため、触媒メーカ
ーも参加した。
東京モーターショー終了後の、昨年よりも 10 日程早い日程であったが、まずまずの天候
に恵まれ、予定通りに調査日程をこなすことができた。
今回の調査対象のうち、ドイツ政府、A123 Systems、フランクフルト水素ステーションは初
めての訪問である。米国エネルギー省(DOE)へは米国の RD&D 政策のフォローアップのた
めにほぼ毎年訪問している。ドイツ政府については、2006 年 7 月に新たにドイツとして水素・
燃料電池に関するプロジェクトを立ち上げたのでその内容を把握するため、また Daimler と
GM は 4 年振りにその後の FCV への取り組み状況を把握するために各々訪問した。
また、2006 年来 BASF、JM などの MEA メーカーで M&A や開発体制整備の大きな動
きがあったため、主要な MEA メーカーを中心に動向調査を行った。その際 BASF のある工
業団地内に 2006 年秋新しく稼動開始したフランクフルト水素ステーションの見学を行った。
なお、ハイブリッド化に必須の二次電池(Li イオン電池)開発で最近注目されている A123
Systems を DOE の紹介のもと訪問した。今回は大学や国立研究所への調査訪問は行な
わなかった。
下記(1)∼(11)に各訪問先の主要な動向並びに論議の概要について要約する。そして最
後に、(12)として訪問時の印象や感想などを含め、全体の調査総括を示す。
(1) ドイツ連邦交通建設住宅省(ドイツ,ベルリン)
今年は、例年訪問している EC 政府に代わり、ドイツ政府を初めて訪問した。ドイツにおい
て、エネルギー政策、交通政策を管轄している連邦交通建設住宅省(BMVBW)を訪問した。
ドイツのエネルギー・燃料政策としては、①国家燃料政策②バイオ燃料政策③ハイブリッド
車、電気自動車に関する政策がある。
①国家燃料戦略として、右記を策定した。
142
②ドイツのバイオ燃料は、EU と同じく 2015 年までに燃料市場シェアの 8%を達成させること
を目標としており、第 2 世代バイオ燃料(BTL、セルロース系エターノール)に期待している。
③2007 年 8 月に「包括的エネルギー・気候変動プログラム」が採択され、29 のエネルギ
ー・気候変動政策によって、2020 年までに CO2 排出量を 40%削減する。具体的な政策に
関する議論が現在、行われているところであり、この中に交通の電動化(ハイブリッド化や
EV)も含まれている。
2006 年 7 月に新しく立ち上げられた水素・燃料電池技術国家技術革新プログラム
(NIP)は、ドイツで最初の省間連携プログラムで、連邦交通建設住宅省(BMVBW)を核に、
経済技術省(BMWi)、環境省(BMU)、教育省(BMBF)の4省が参画している。政府と民間
が 10 年間で 50%ずつ(5 億ユーロずつ、合計で 10 億ユーロ)を負担するもので、10 年後
の 2015 年の水素・燃料電池アプリケーションの商業化に備える。プログラムは、水素の製造、
輸送から利用、インフラ整備までのあらゆる局面を含んでおり、水素・燃料電池の技術開発
とデモンストレーションに注力する。対象の分野としては、自動車用 FC、家庭向け定置用
FC、商業向け定置用 FC、特殊市場向け FC であるが、このうち予算は自動車分野が 55%
と最も大きい。各々の分野におけるロードマップも作成された。本プログラム策定のため、日
本の水素・燃料電池政策を大いに参考にしたとのこと。この内、自動車用 FC のデモンストレ
ーションについては CEP(Clean Energy Partnership)、Hy FLEET:CUTE、Zero-Regio
が中心となる。2007 年終了予定の CEP は、Phase2、Phase3 として 2015 年まで継続され
る。現在ベルリンに 3 基目の水素ステーションが Shell により建設されている。なお、CEP 参
加の実証車両には、補助金が出ていないため、データの提供はされていない。
このようにドイツは、EU の FP7 に参画しつつ、ドイツ独自にプロジェクトを立ち上げ、長期
的な視野に立って、水素・燃料電池の技術開発に取り組み始めた。ダイムラーは,EU の取
り組み遅れに対する危機感から強力にドイツ政府に働きかけたのではないかと思われる。世
界の趨勢として電動車両が今後の重要なオプションとなると考えると,せっかくダイムラーが
技術的に先行したのに,EU全体では基礎研究という段階で具体性がない現状のままでは
実証面で遅れてしまうので,ダイムラーの得意分野のFCVを育てる必要性が高いと考え,こ
れを実行するのは,EU全体では無理でドイツ独自にやらざるを得ないということではないだ
ろうか。
予算規模を見ると、ドイツの並々ならぬ決意のほどが窺い知れる。ここにきて、燃料電池
自動車と水素自動車を対象として、ドイツ自動車メーカーの Daimler(燃料電池自動車では、
世界に先行した)を中心に VW、BMW の方向がやっと合ってきたという見方もできる。しか
し、ハイブリッド化(Plug-in-Hybrid を含む)での遅れを取り戻すべく、電動化プログラムを立
ち上げようとしているが、二次電池メーカーと水素・FC 関連会社間にフリクションが生じ、政
府は、その調整に苦慮しているようで、しきりに日本の電池関連のプロジェクトやその進め方
などに関する情報を入手したい様子であった。
143
(2) Daimler(ドイツ,シュトットガルト)
社名が DaimlerChrysler から Daimler に変わったばかりであるが、Daimler における
最近の FCV 開発の状況につき、プレゼンを受けた。開発体制としては、FCV 開発関係のト
ップが Prof. Kohler のもと、Dr. Christian Mohrdieck となった。また、下記のように、
Daimler の考える将来のドライブトレーンが、若干変わったことが、示された。
これまでは、化石燃料、再生可能エネルギーをベースとして、内燃機関の改良→ハイブリ
ッド→燃料電池であったが、効率の良い内燃機関(ハイブリッドを含む)→代替燃料→FC と
二次電池駆動の ZEV となった。すなわちメインストリームの近場にハイブイッドが入り、次い
でバイオなどの代替燃料が入り、最終の姿として、FCV だけでなく二次電池駆動の EV が入
ったことである。将来を見ると、FC だけでなく二次電池が重要な地位を占めるようになると考
え て い る 。 Daimler は 、 HyFLEET:CUTE 、 Zero-Regio 、 CEP 、 DOE 、 CaFCP 、
JHFC など世界の FCV 実証試験プロジェクトに参画し、世界で 100 台の FCV(内バス 37
台)を試験している。Daimler、Chrysler は、各々別会社となったが、FCV を Daimler から
Chrysler へ供給することになっているというのは、ZEV 法上、大変興味深い。EUCAR の
各種パワートレインの WtW の CO2 分析結果として、バイオ、風力による水素 FCV が BTL
のディーゼルより若干低いというデータも示された。なお、FCV の現状における技術課題は
日本側とほぼ同じ認識であった。
現状の 35MPa での充填時間は、しばしば 3 分を超え、完全(95%以上)に充填するのは
難しく、70MPa となると更に状況は厳しくなる。Daimler の考えとしては、充填圧を 35MPa
から 70MPa に引き上げてかつ、3 分以内で充填を完了し、水素タンク温度を 85℃以下に
するためには、プレクールを導入する必要があり、プレクール導入にあったては、圧力を精
度よくコントロールするための、水素タンクと充填システムのコミュニケーションが必須というス
タンスであった。ドイツの高速道路の長距離ドライブで、はじめてEVとの差別化が可能とな
144
るため,ドイツでは70MPa が不可欠ということ。これはコスト Up やエネルギーロスがあっても
実在の技術で実現可能というところで,ドイツの自動車メーカとして 70MPa が前提となると
いう考えであろう。
また、フランクフルトに新設された水素ステーション(35MPa、70MPa の高圧水素及び液
体水素供給)やこのステーションに初めて導入されたイオン液体のコンプレッサーについて
のプレゼンもあった。水素インフラについては、70MPa ステーションの建設、70MPa 化への
対応では、日本が1年以上、ドイツに遅れているという印象であった。
最後に Daimler の Dr. Christian Mohrdiek から、究極のパワートレインは、排気ガスを
出さないゼロエミッションの FC であること、ハイブリッドも全車種に展開すること、市内では
EV もあるが、航続距離と充電時間の課題解決のための二次電池開発は、まだまだ時間を
要すること、ロンドンでスマート EV(ZEBRA 電池搭載)100 台によるデモ走行に着手したとこ
との紹介が行われた。
(3) BASF (ドイツ,フランクフルト)
2001 年 9 月に訪問して以来、2006 年 6 月および 11 月、BASF に大きな動きがあった。
(※BASF は、Hoechst、Bayer に並ぶドイツ 3 大化学会社の一つである。)
それは、Engelhard 及び PEMEAS の買収である。PEMEAS は、電極に強い E-TEK
を 2005 年 11 月に買収していたので、BASF としては MEA を開発できる体制が整ったこと
になる。PEMEAS は、2005 年 11 月訪問したばかりであったが、BASF としての FC 開発
体制や MEA 開発に対する考え方を知るため、訪問した。Engelhard の買収目的が、FC
強化のためか、自動車用排気触媒で大きな利益を上げている Engelhard を獲得したかっ
たのかを見極めるためである。訪問した場所が、2001 年に訪問した BASF 本体ではなく、
2005 年に訪問した前の PEMEAS と同じ建物であった。そして、BASF からのプレゼンは、
新しい BASF としての取り組みは、これからということで、MEA の製品・性能などについては、
ほとんど前回の PEMEAS の域を出ない、PBI にリン酸をドープした高温膜(Celtec-P)の内
容であった。また、自動車用高温膜(Celtec-V)は、まだまだ低温性能(0℃以下)に問題があ
ること、完成には、5年以上の時間が必要ということであった。強力に MEA 開発を促進する
ために、パートナーを模索しているという感じであった。PEMEAS としては,BASF に買収さ
れたことである意味安定した環境と長期的視点で MEA 技術開発が可能となったという印象
が強い。これは逆に短期的なベンチャーから長期的なオプションとして長期の技術開発の
上で最終的な FC の実用化を目指すという認識が強まったということで,ある意味で,長期,
本格的なR&Dが保証されたという見方もできる。BASF 本体の材料技術、PEMEAS の高
温膜技術、E-TEK の電極技術、Engelhard の触媒技術を融合した強力な MEA メーカー
の誕生を期待したいと思う。
145
(4) フランクフルト水素ステーション、Infraserv Hochst(ドイツ,フランクフルト)
Zero-Regio プロジェクト用のフランクフルト水素ステーションは、BASF と同じ Industrial
Park Hochst 内にあり、2006 年の 11 月から稼動しているとのことであったので、その見学を
BASF に依頼して、実現した。本水素ステーションは、高圧水素と液体水素の両方が供給
可能で、水素充填圧も 35MPa、70MPa の 2 種類である。特徴としては、水素源がソーダ製
造時の副生水素であること、全長 1.7km のパイプライン(パイプ直径=33.7mm、内径=
18mm のステンレス製)で 90MPa の高圧水素をステーションまで配送すること、プレクール
付きで 70MPa で充填可能なガソリンステーションと併設された水素ステーションであること
である。また、水素の圧縮を従来のダイアフラムタイプのコンプレッサーではなく、Linde 考
案のイオン液体コンプレッサーを用いていることである。なお、本ステーション利用車両は、
Daimler の F-Cell(35MPa、70MPa)と BMW の水素自動車である。短い時間ではあった
が、最新の水素ステーション関連設備を見学し、日本も高圧(70MPa)充填、パイプライン、
イオン液体のコンプレッサーなどで参考にしたら良いのではないかと思った。⇒2008 年 1 月、
ステーション関係の専門家による見学が行なわれた。
(5) Johnson Matthey Fuel Cells(イギリス,スウィンドン)
FC の業界では歴史があり、MEA の製造・販売を目指している Johnson Matthey (JM)
が、最近日本の研究開発拠点をクローズし、その機能をスゥインドンに集中させていると聞い
たので、2004 年 1 月以来、約 3 年振りに JM を訪問した。スゥインドンへの訪問は、初めて
である。JM は、ウエスト・デットフォード(米国 NJ 州)と英国のソニング、スウィンドンの 3 ケ所
に研究開発・生産拠点を集中させ、規模は、維持しつつ取り組んでいる。FC 研究担当者は、
増加しているとのこと。特に自動車用 MEA については、実用化に時間がかかることがわか
ったので、生産から研究に方向を転換したとのこと。1998 年から Ballard との資本関係は、
無くなっている。JM における現在の MEA 生産量は 10 万枚/年であり、大部分が DMFC
用でドイツに輸出され、定置用電源あるいは、RV 用電源として利用されているらしいとのこ
と。JM の膜自身は、購入品であるが、MEA は、5層が主。劣化に対して、非補強膜は弱い
ので、補強膜を指向している。過酸化物を除去する添加剤を添加した方が、補強膜の耐久
性が更に向上することを把握した。現在の課題は、カーボン腐食、白金の溶解、セルの転極
である。
また、DOE の 2007 年 MEA の性能目標は、達成可能としているが、2010 年 MEA のコ
スト目標$10/kW の達成は厳しく、2015 年なら達成可能としている。
JM は、2001 年に 10 エーカーの敷地をスゥインドンに取得し、3 エーカーに設備をしたが、
思うように MEA の販売が延びず、現在は、DMFC 用の MEA を製造して、かろうじて、持っ
ているようである。そのため DMFC と PEMFC の MEA は、同じ製造ラインで対応可能なよ
146
うにしているが、JM が触媒のみの販売はせず、MEA の販売しかしない戦略をとる限り、自
動車メーカーなどエンドユーザーとの関係が難しいのではないだろうか?
中国でのマーケット開発が思うように進まなかったため,当初の JM の意図は,明らかに
減速し,定置用 FC の開発に失敗したのではないかと思われる。これは,MEA の OEM とし
て十分な性能を達成することが出来なかった,逆に言えば発展段階でのMEA供給に無理
があったことを示している.また,これは後に訪問した A123 Systems と日本の自動車メーカ
ーとの関係に通じるところがあると思われる。
(6) DOE(米国,ワシントン DC)
DOE の EERE へは、毎年訪問しているが、例年になく担当者の多くが交代となり、新し
い方々が出席された。
ブッシュ大統領は、2007 年 1 月の一般教書演説で、新しいイニシャティブとして、ガソリン
の使用量を 10 年以内に 20%削減する「20 in 10」を発表した。そのため、燃費効率の向上
とバイオ燃料など代替燃料の導入を推進する。
DOE における水素・燃料電池関連予算についての説明があった。Hydrogen Fuel
Initiative として、ブッシュ大統領は、2004-2008 年度の 5 年間の予算として、12 億ドルと
決めており、2008 年度は 309M ドルを要求し、その内 EERE は、Hydrogen Program と
して、213M ドルである。ここでは、水素貯蔵材料、再生可能エネルギーからの水素の製造・
配送技術、FC コンポーネント等の製造技術、耐久性向上技術、コスト低減技術、FCV 技術
実証、Li イオン電池を含む PHEV などの R&D に注力する。また、EERE の車両技術プロ
グラムとして、2008 年度は、176M ドル要求しているが、ここでは、PHEV、高エネルギー電
池、パワーエレクトロニクス研究に注力し、PHEV を早期に評価するための試験拡大を行う
などハイブリッド関連への予算が増額されている。
DOE の EERE における水素・燃料電池の研究開発における水素製造・輸送、水素貯蔵、
燃料電池プログラム、燃料電池コスト分析、基準・標準化活動などについて、説明があった。
昨年度に引き続き、FCV Demonstration Program(通称:Learning Demonstration)
の現状に関する説明があり、Program 参加車両は 4 チームで 77 台、水素ステーションを
14 基設置し、参加車両の FC 効率は 53-58%、航続距離は 103-190 マイル(2009 年の目
標は 250 マイル以上)、耐久性は最大で 1600 時間(目標は 2000 時間)が得られていると
いう報告があった。また、GM は、2008 年 1 月から 70MPa の Equinox FCV を 42 台、本
Learning Demonstration に提供する計画との話があった。なお、DOT 主導で 8 台の FC
バスによる実証試験が行われているとの紹介もあった。4 チーム、4 自動車メーカー参加によ
る本プログラムも順調にデータが取得され、参加車両も更に増加する見込みである。
147
次いで、バッテリーにつき、詳しいプレゼンがあった。2008 年度の電池 R&D 予算は、総
額 41.9M ドルで、内訳として高パワーエネルギー貯蔵 41%、PHEV 電池開発 43%である。
Li イオン電池では、A123 Systems と EnerDel の 2 社にアワードがを与えられた。
また、PHEV 用 Li イオンバッテリの目標も示された。主な目標値として
<10 マイル EV 走行> パワー(50/45kW)、エネルギー(3.4kWh@10kW)、寿命(15 年)、
システム重量(60kg)、システム容量(40L)、電池コスト($1700)
<40 マイル EV 走行> パワー(46/38kW)、エネルギー(11.6kWh@10kW)、寿命(15 年)、
システム重量(120kg)、システム容量(80L)、電池コスト($3400)
※現状のコスト(USABC)は、この約 2 倍となっている。
新規に PHEV 用バッテリーの研究を募集し、5社が選ばれた。この総額は、38.2M ドル
(50:50) で 、 内 28M ド ル は 、 USABC か ら 供 与 さ れ る 。 5 社 は 、 A123 Systems 、
JhonsonControls-SAFT、CPI/LG Chem、EnerDel、3M である。
更に PHEV 用バッテリーのチャレンジ目標が、提示された。
<10 マイル EV 走行> 2012 年目標:コスト($500/kWh)、体積密度(100Wh/L)、
重量密度(55-60Wh/kg)
<40 マイル EV 走行> 2015 年目標:コスト($300/kWh)、体積密度(150Wh/L)、
重量密度(100Wh/kg)
なお、米国の電源構成は、石炭火力 50%、原子力 20%、天然ガス火力 17%、石油火力
約 3%、水力 9%となっているとの説明があった。
注)2004 年の日本は、原子力 26.4%、天然ガス 22.8%、石炭 27.5%、水力 11%、石油 12.3%
最後に DOE の EERE として、「20 in 10」を達成するためにもバイオ燃料、特にセルロ
ース
系バイオ燃料(エタノール)につき、積極的に取り組んでいくことが、紹介された。
以上のように、今年の DOE の特徴としては、現状の水素・燃料電池に関するプログラムを
推し進めつつ、DOE 将来交通のロードマップにもあるように、水素 FCV より先行すると考え
られる PHEV の R&D 及び二次電池開発、更にはバイオ燃料導入にも力を入れていること
が示された。この動きは、日本と EV 開発の点で、若干異なるが、大部分呼応していると思わ
れた。PHEV や二次電池の目標が提示され、大変参考になった。
要約すると FCV の技術開発は2015年に向けて変化はない。他方,PHEV はきわめて
重要性を増している。それが逆に FCV の R&D を無理に加速する必要のないことを反映し
ている。バイオ燃料は米国独自の環境条件では非常に有利なのでこれにも力を入れている
ので,この点では今後の日本の方向とはかなり違うものになると思われる。
148
(7) A123 Systems(米国,ボストン)
2006 年 9 月の CARB による ZEV Symposium における A123 Systems の新 Li イオ
ン電池開発に関する発表に興味を持ち、DOE のプロジェクトとして電池開発を行っていた
ので、DOE に依頼して初めて訪問が実現した。 A123 Systems は、2002 年に MIT 教授
ら 5 人により設立された新しい会社で現在は 850 人の、Li 電池で最も注目を集めている会
社である。現在の株主は、GE、Motorola、MIT などで、開発・生産拠点はグローバルな展
開をしており、米国アナーバー、ボストン、カナダ、韓国、中国(上海)にある。
A123 Systems の Li イオン電池は、カソードに LiFePO4(オリビン鉄)を用いているのが
特徴で、既に主に工具用として 1000 万セル/年(HEV 10 万台以上に相当)を生産してい
る。この電池は、高い性能と安全性が売りであり、自然放電もほとんどなく、SOC も A123 に
よれば、ほぼ 0 ∼100%使用可能であるとのこと。カソードで酸素による酸化反応が抑制さ
れるのが、過充電に強い理由。アノードは、カーボンではあるが、特殊な加工を施し、表面
積を大幅に拡大しているとのこと。平板型で得られている性能は、エネルギー密度
135Wh/kg、280Wh/L である。本電池を搭載した 15 マイルの EV 走行が可能な PHEV
「Satrun VUE」が GM から 2009 年に実用化される見込みであり、更には、40 マイルの EV
走行が可能な「Chevolet Volt」にも搭載される予定である。DOE から膨大な予算をもらって
開発をしているが、A123 Systems の一番の課題は、量産の経験がないということ。そこで、
A123 Systems としては、日本の自動車メーカーへ売り込みを図り、共同開発ができないか
模索したが、日本のメーカーは、系列(グループ)意識が強く、今は、諦めているということで
あった。
しかし,OEMとして要求性能を十分に満足する電池が,現状実際に供給されているのか
どうかが,ポイントだと思った。
注)現状,日本の Li イオン電池の開発レベルは,A123 Systems 以上であるとのこと。
突然のラボツアの申し入れを快く受け入れてもらえたが、大学の研究室を少し大きくした
ような感じで、日本の電池メーカーに比べて、本格的な生産技術は、どうかなと思った。この
ように、A123 Systems は、強気な発言をしているが、自分の弱点もわかっている。ちょうど
FCV の心臓部である FC スタックを開発していた、かつての Daimler と組む前のベンチャ
ー、Ballard を思い起こした。
(8) DuPont(米国,ウェルミントン)
Nafion を世に送り出した DuPont を 2 年振りに訪問した。膜メーカーとして君臨して、もう
長い年月が経っているが、日本の自動車メーカーを含む調査団を快く受け入れてくれた。
膜の耐久性向上に関するプレゼンが行われ、燃料電池の寿命に対する要求を満足させる
には、大幅な耐久性向上が必要という認識であった。膜の劣化は、PFSA の末端基から順
149
次進行していくことが把握できたことを強調した。DuPont では 化学安定性の高い Nafion
XL という補強膜を開発中で、この膜は、5000 時間程度の耐久性を持つ可能性があり、通
常の Nafion 膜と比べて、IV 特性は、ほぼ同じで、フッ素溶出量は 1/40 以下、寿命は 20
倍である。これは、DOE の 2015 年目標を満足する見込みであり、2008 年の第2四半期に
商業化を予定している。コストは、量産時には、$50/m2 程度になろうが、$30/m2 は、非常
に困難。DMFC 用 MEA は、ドイツの Smart Fuel Cell 社に提供している(Hymer 社の仏
伊向け RV の APU 用)。これは、前述の JM 製 MEA と同じ会社への提供であり、二本立
てを意味する。出力は、15∼100W と小規模である。DuPont では、MEA は、ノースカロラ
イナ州、ペンシルバニア州、デラウエア州の 3 ケ所で分担して製造している。
以上、DuPont のプレゼン及び短時間のラボツアを通じて、DuPont における技術の進展
が期待したほどではなく、2 年前と大きく変わっていない感じで、膜開発への取り組み状況
が気になった。DuPont からの質問も FCV だけでなく、日本における電動車両全体への動
きについてであったことにも何か現れているようであった。
(9) W.L.Gore(米国,デラウェア)
2007 年 6 月にオープンしたビジタールームのある Gore Capability Center を訪問した。
Gore 訪 問 は 、 7 年 振 り の こ と で あ る 。 こ の 日 は 、 た ま た ま 日 本 か ら 出 張 し て き た
Goretex-Japan の方々も同席した。Gore は、1995 年以来 MEA を開発しており、PEM 用
膜「Gore-Select」、MEA「 Primea」を多くの FC スタックメーカーに提供してきた。燃料電
池の開発は、米国と日本が中心であるが、小規模ながらドイツと中国にも開発拠点がある。
Gore では、性能、コスト、生産量の点で最も要求が高い自動車用 MEA がスタンダードに
なると考え、自動車用を中心に開発を進めている。
高温(95℃)・低湿度用のイオノマー開発では、相対湿度 50%で 0.10S/cm の伝導性確保
(GM 目標でもある)を目指しているが、開発中の次世代イオノマーは、これを上回っている。
高温用 MEA では、ベンチマーク(DuPont NRE-211)に比べて、高温・低湿度で高いセル
電 圧 を 確 保 し て お り 、 110 ℃ で も 高 い IV 特 性 を 示 し て い る 。 現 状 の Gore の
MEA(Series5720)は、起動・停止サイクルや電圧サイクルテストでも高い腐食耐性を示し、
機械的強度(相対湿度のサイクルへの適応)と化学的安定性(開路電圧条件)のサイクルテ
ストにおいて、ベンチマークを遙に凌ぐ性能(寿命)を示した。電極の開発では、Pt 担持量
0.15mg/cm2 を目指しているが、担持量(性能)と耐久性はトレードオフの関係にあり、どちら
を重視するのか検討が必要と考えている。Series5720 は、温度サイクルの耐久性試験では、
5500 時間を達成し、80℃相対湿度サイクルの耐久性試験では、9000 時間を達成した。
なお、訪問したセンターには、燃料電池研究設備がないため、プレゼンにて紹介があった。
燃料電池テストステーションは、37 台とのこと(※7 年前の見学時は、34 台でほとんど同じ)
150
以上のように、Gore の MEA 開発は、順調に進んでいるようで、自社のフッ素系膜に対し
て絶対の自信を持っているようだし、確かに技術的な進歩が窺われた。プレゼンの中にしば
しば自動車メーカーの名前が飛び出し、特に GM とは、密接な関係にあることも窺い知れた。
Gore の Competiter は、 DuPont、JM であるとのことである。
(10) GM(米国,デトロイト)
GM(米国)へは、4 年振りであるが、今回は、無理なお願いをして初めてデトロイトの本社
を訪問した。GM の考える次世代自動車技術戦略(世界全体として)が、下図のように示され
た。将来は、エネルギーの多様化をベースとして、内燃機関と伝導系の改良、PHEV を含
む HEV 化、次いでバッテリ EV(E-Flex)と水素 FCEV などの電動化に向かうというイメージ
図である。この将来像は、これまでとは、PHEV やバッテリーEV を明確に入れてきたこと、
電動化という点で、FCEV とバッテリ EV を同じファミリーと考えていることが、大きく異なる。
将来、交通の再生可能エネルギーの利用と車両からのエミッションのゼロ化が究極の姿と
いうスタンスである。
次いで、2006 年 9 月に発表された Equinox FCV についての説明があった。本車両は、
110 台カナダの CAMI 工場で生産し、内 42 台を 2008 年 1 月から DOE のデモンストレー
ションに提供し、ニューヨーク、カリフォルニア、ワシントン DC で運用する計画とのこと。また、
GM として独自のユーザーテストも行うとのこと。「Equinox」は、70MPa 対応車であるが、現
状では、70MPa 対応水素充填ステーションの数が少ないため、GM 独自に 70MPa 対応の
水素ステーションをカリフォルニア地域に 6 基、NYC 地域に 4 基設置することを考えている。
勿論水素充填ステーションは、本来エネルギー会社の役割と思っている。FCV のコストは、
量産できれば低減可能という意見。
更に「E-Flex」についてのプレゼンがあった。「E-Flex」は、電気駆動を基本として、様々
151
なエネルギー源を車載するための共通なプラットフォームである。エネルギーの最終形態は、
電気駆動なので、シリーズハイブリッドとなるという考え方であり、シリーズ型ハイブリッド(二
次電池+エンジン及び二次電池+燃料電池)の組み合わせではあるが、動力源をパラに用
いることはない。PHEV における EV 走行マイルは、40 マイルを目指しているとのこと。二次
電池としては、Li イオン電池を A123 Systems 及び JohnsonControl-Saft と各々共同開
発しており、中でも A123 Systems を有望視している。
GM の考える FCV 普及に至るパスウェイの紹介があった。水素ステーションは、技術開発
段階(各社 100 台程度、4 年間)には 10 ケ所程度、パイロット段階(各社 1000 台程度、3
年間)には 40 ケ所程度、初期実用化段階(各社 1 万台、3 年間)には、250 ケ所程度が必
要との考え。2012 年を想定したロスアンゼルス地域へ 40 ケ所、NYC メトロ地域へ 40 ケ所
設置した場合の水素ステーションマップの提示があった。
以上のプレゼンと議論を通じて、GM が本気で FCV にかける意気込みが伝わってきた。
自前で 70MPa の水素ステーションを設置するというのには、正直驚いた。勿論、背景には、
カリフォアルニアの ZEV 法があるが、それにしても大変な決意だ。GM は、Daimler 同様、
水素充填圧は、70MPa と決めている感じであった。
最後に GM から日本の FCV 政策に対するきついコメントがあった。
「日本は、2001 年∼2005 年にかけて、FCV・水素において、世界をリードしてきた。だか
ら GM は JHFC に参加した。しかし、現状の日本の FCV は、勢いを失っている。ビジョンと
リーダーシップを失っている。FCV・水素をより戦略的に見ている欧米は、日本を追い越した
のではないかと思う。水素インフラに関する方向性も不明確である。」と欧米のメーカーにと
って日本の JHFC に参加する意味が薄れていることを暗に示唆したのである。
(11) 3M(米国,ミネアポリス)
MEA 開発メーカー訪問の一環として、4 年振りに、3 M を訪問した。3M は、1996 年より、
燃料電池の技術開発を行っている。MEA 開発では、1997 年以来、DOE のプログラムに積
極的に参画している。現在は、DOE とメンブレン開発及び触媒開発の二つのプロジェクトを
実施している。3M は、ウィスコンシン州にあるメノモニー工場で、これまで 50 万枚の MEA
を製造した。
FC システムでは、水・温度管理がキーとなる。DOE の自動車用メンブレンの目標である
温度 120℃、相対湿度 20∼40%で、伝導度 0.1S/cm を目指し、開発を進めている。3M 開
発のメンブレンは、特徴として側鎖が短く、高い機械的耐久性を有している。低い
EW(Equivalent Weight)で高い伝導性を有し、高温・低湿度条件でも高い性能を示す。カ
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ルボキシル基末端の低減と過酸化水素の分解を行う添加物の採用によって、高い化学的
耐性があり、5000 時間以上の耐久性があり、Nafion112 よりも高い性能を達成した。
もう一つ、3M が、DOE プロジェクトのもとで開発している NSTF (Nano Structure Thin
Film)電極の開発状況につき、説明があった。NSTF は、普通の膜の 1/10∼1/30 程度(1μ
m 以下)の薄い薄膜で、触媒は白金を分散させたものではなく、コーティング状となっている。
その担体は、電気化学的に安定な有機ピグメントであり、カーボンブラックではない。製造方
法としては、ドライ・真空蒸着プロセスによる。NSTF は、一般的な Pt/C 触媒の MEA よりも
高い性能―例えば、5∼10 倍の質量活性で、高耐久性―を示している。
以上、3M のプレゼンを聞いたが、技術の進展があまり感じられなかった。4 年前とあまり
大きな変化がないように思えた。DOE の Merit Review Meeting で聞くような力強さ(元気
さ)が伝わってこないのは、なぜであろうか?長年、開発している割りに製品が出ていかない
ことから、社内において FC 技術開発が、難しくなりつつあるのではないだろうか?何と言っ
ても強力な共同開発のパートナーが、見えてこなかったことが、一番気になるところである。
153
(12) 総括
米国、ドイツにおける水素・燃料電池に関する政府予算はいずれも増額されており、その
推進体制も拡充強化されてきている。特にドイツは、FP7 に参画しつつ、4 省連携プログラム
として、長期的な視野のもと水素・燃料電池技術国家技術革新プログラム(NIP)を立ち上げ
た。積極的に FCV 実証試験へ取り組んでいる一方ハイブリッド化、電動化に対する遅れを
取り戻すべく、これからプログラムを立ち上げるというところである。
米国における FCV 実証試験に関しては、DOE の Learning Demonstration への参加
車両が 2008 年 1 月以降大幅に増加の見込みであり、水素インフラも増設される計画である。
これは、2009 年 MY から強化される加州 ZEV 法への対応でもあり、日本メーカーも米国に
おける FCV 台数を増加させると予想される。したがって、日本における自動車メーカーの
JHFC 参加台数が、苦しくなることも予想される。
2008 年 1 月以降、GM は、110 台の「Equinox」 FCV を導入するにあたり、自前で
70MPa 水素ステーションを米国内に建設するという。GM が本気で FCV を導入しようと考え
出したと考えられる意気込みである。なお、ホンダも 2008 年秋以降台数は未定であるが、
「FCX Clarity」を米国にリース販売すると発表している。
一 方 、 欧 州 で は 、 Lighthouse Project と し て 、 HyFLEET:CUTE 、 Zero-Regio 、
HyCHAIN プロジェクトが当面 2010 年まで行われる予定である。ドイツにおける CEP プロ
ジェクトも拡大・延長される計画なので、欧米における実証試験への参加車両は 300 台を大
きく上回ることになろう。
一方、燃料電池の課題の解決に向けて、FC 関連の要素技術、水素貯蔵技術への研究
開発も継続されている。Daimler が Ballard を傘下におさめ、自らの FC スタック開発体制
を構築しつつあるように、FCV の心臓部は自動車メーカーが自社開発していく流れが一層
強まるであろう。
注)帰国後の 2007 年 11 月 7 日、Ballard は、定置用の FC を開発・製造する Ballad と
自動車用の FC を開発・製造する Automotive Fuel Cell 社(持ち株比率;Daimler:
Ford :Ballard=50.1:30:19.9)に分離された。
水素インフラについては、欧米でも再生可能エネルギー、特に自然エネルギーからの製
造の研究が進むであろう。
カリフォルニア州の ZEV 法改定は 2008 年春に予定されており、ZEV 法は、バッテリ EV
や PHEV の導入支援また二次電池技術開発の後押しなど、FCV へ与える影響が大きいと
思われる。
また、昨今の諸環境、カリフォルニア州の ZEV 法、米国における脱石油、省エネルギー、
更に京都議定書に関わる CO2 排出抑制などで、自動車メーカーにおける技術開発は、拡
大し、厳しさを増している。我が国では既に FC の自動車への適用のハードルの高さを認識
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し、基礎的研究の重要性を再認識したフェーズに移りつつあるが、自動車の技術開発には
当然、公道走行は不可欠であり、また基準・標準化にも実証試験などの経験による知見は
欠かせないので、日本における実証試験の場としてのインフラ運営を維持し、更に国内自動
車メーカを中心として走行車両を確保することが極めて重要である。そのためにも実証試験
の役割・意義を改めて明確にし、また実証試験参加のインセンティブを確立することが必要
ということを実感した。
以上、移動日を除いて 7 日間で、合計 11 ヶ所の、政策立案機関、自動車メーカー、MEA
関連メーカー、水素インフラ関連会社を訪問した。5 年ほど前に、DOE は産業界が 2015 年
までに商用化の判断ができるように R&D を進めると表明して以来、FCV の本格導入は日
米欧とも 2015 年と考えられるようになり、FCV 実用化の時期は延びたように感じられる。また
研究課題も、FC に関わる研究開発は地道に進められているものの、より基礎的・基盤的、
要素技術的な方向へシフトしているという印象である。米国では、PHEV がこの 1 年の内に
メインストリームとなり、特に DOE を中心として開発プログラムが立ち上がった。今回の DOE
プレゼンでは、電池開発プログラムが昨年と最も大きな違いであり、進展である。二次電池
の技術開発力では、米国と日本の競争であり、かつ中国、韓国との競争ともなる可能性があ
る。なお、CO2 削減に向け、各国ともバイオ燃料への取り組みを強化しているのは、共通で
あった。
欧米では、FCV 実証プロジェクトの計画が長期的に(2015 年まで)計画され、水素インフ
ラの技術開発整備にも力が入っている。特に FCV の航続距離確保のために 70MPa 化は、
必須という見方であり、そのための水素ステーション整備では、日本よりも先行している。また、
FCV 実用化のためには、大幅なコスト低減とともに、FC システムの耐久性・信頼性確保が
不可欠であり、そのためにも現状技術を抜本的に見直し、基礎的研究と技術革新を目指し
た R&D に力を注いでいるように思われた。
以上
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156
禁無断転載
平成 19 年度
欧米における燃料電池自動車の政策動向、技術動向調査
平成 20 年 3 月
財団法人
日 本 自 動 車 研 究 所
東京都港区芝大門一丁目1番30号
電 話 03−5733−7927
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