第1章 プロ野球選手のセカンドキャリア

生涯発達心理学の探求
(法政大学キャリアデザイン学部田澤実研究室報告集)
第3号
2010 年 3 月
第1部 3年生:レビュー論
第1章
赤城 卓
プロ野球選手のセカンドキャリア
p
3
第2章
礒野直毅
派遣の現状と支援について
p
9
第3章
河野伶佳
「婚活」ブームは何故起きたのか
p
18
第4章
佐藤圭祐
うつ病の復職支援~ニート支援プログラムとの関連から~
p
26
第5章
豊嶋洋平
教職志望の学生が抱える進路決定に関する問題
p
32
第6章
中島杏奈
貧困が子どもに与える影響
p
39
第7章
中村大地
Uターン就職について
p
49
第8章
野見詩織
女性のキャリアデザイン~働くという視点から~
p
57
第9章
山崎雄也
「学校人」か「職業人」か~ギャップ・イヤーの観点から~
p
66
第10章
山崎友紀
若年雇用問題~高年齢化するフリーター~
p
73
第11章
山田美沙
“友達親子”が子どものキャリアにもたらす影響
p
81
第2部 4年生:卒論、ゼミ論要旨
第1章
伊藤美奈子
現代青年の友人関係は希薄化しているのか
p
91
第2章
今井香織
塾に通う高校生の大学受験に関する相談希求と相談内容
p
95
第3章
岩崎里美
高卒後3年目のキャリア発達 ~就職の移行~
p
99
第4章
生沼由衣
母親は働かない・働けない息子をどう思っているのか
p 103
第5章
岸田雅弘
独立リーグのキャリア支援
p 107
第6章
田畑慎吾
二次元に恋するオタクの「友情と恋愛」
p 111
第7章
中川理沙
発達障害を持つ大学生の支援
p 114
第3部 よこはま南部ユースプラザ見学感想
p 117
資料 2009年度の活動スケジュール
p 121
法政大学キャリアデザイン学部 田澤実研究室
はじめに
田澤実研究室は 2007 年度から法政大学キャリアデザイン学部に開設された研究室である。
今年で
3 年目となる。
この 1 年間、田澤実研究室では、キャリアデザイン支援に向けて、学生の問題意識に基づき研究
してきた。
この論文集は、
田澤実研究室に所属する学生の 1 年間の研究成果をまとめたものである。
第 1 部では、3 年生のレビュー論文を報告する。各々の関心に基づきレビューを行ってきた。ゼ
ミ発表、ゼミ合宿などにより洗練させてきた。ここでのキーワードを挙げてみると、貧困、友達親
子、
「婚活」ブーム、
「学校人」か「職業人」
、U ターン就職、派遣の現状、女性のキャリアデザイン、
高年齢化するフリーター、うつ病の復職支援、セカンドキャリアなどがある。学校から社会への移
行に関連したことがあること、生涯発達心理学的なテーマがあることが分かる。最後になってスパ
ートをかけた学生もいるので、全体の構成や引用の仕方に修正が必要な者もいるが 4 年生の卒業論
文の関心テーマ選びという点では、ひとつの準備になったのではないだろうか。
第 2 部では、4 年生の卒業論文およびゼミ論文の要旨を報告する。多くの者が 3 年次に行ったレ
ビュー論文を発展させて卒業論文書いている。今年度大流行したインフルエンザの影響などで、自
分自身ならびに対象者の都合が悪くなり、卒論には届かずゼミ論として提出することになった者出
てきたことは残念であった。ただし、通年で卒論およびゼミ論のどちらかは全員が終わらせること
ができたことは良い出来事であった。
第 3 部では、若者自立支援施設であるよこはま单部ユースプラザの見学感想を掲載する。まさに
他者のキャリアデザインを支援している現場のひとつといえる。3 年次のゼミ論においてここでの
見学が関心事の深まりにつながった者もいた。ゼミ生には「片手に理論、片手に現実」を今後も発
展させてほしい。
最後になったが、研究室の学生諸君には、この 1 年間の学習、研究成果、活動をもとに、4 年生
になった時も、社会に出たときも一層の研鑽を積み、自己を発展させていくことを願っている。
20010 年 2 月
田澤 実
2
第 1 部 レビュー論文
第 1 章 プロ野球選手のセカンドキャリア
赤城 卓
はじめに
私は 2008 年 2 月から 6 月まで野球独立リーグである、四国・九州アイランドリーグの徳島イン
ディゴソックスという球団に所属していた。幼いころから野球をやっていて、プロ野球選手になる
ことが夢だった私にとって夢に一歩近づいた経験である。しかし、私は怪我などが原因で徳島イン
ディゴソックスを 5 ヶ月で退団することになった。非常につらい経験であった。実家に帰り、
「こ
れから 9 ヶ月間(大学に一年間の休学届を提出していたので 2009 年 4 月からの復学となる)何を
しようか」と考えた時に、何も思い浮かばなかった。今まで野球しかやってこなかった私にとって、
生活の軸が無くなったと同じことであった。しかし、社会人の場合は野球を辞めるという現実を受
け止めた上で、次の「職」を探さねばならない。
本論の構成
第 1 節ではセカンドキャリアを取り上げる問題背景について述べ、引退選手がどれほどいるのか
述べる。第 2 節では、プロ野球選手にとっての引退と会社員の転職の違いについて考察する。第 3
節では、現状のキャリアサポート制度と実際のセカンドキャリアの例を述べる。第 4 節はまとめで
ある。
第 1 節 問題背景
1-1 何故、
「セカンドキャリア」なのか?
毎年華々しくドラフト会議が行われ、将来有望な若い選手がたくさんプロの世界に飛び込んでく
る。しかし、それは同時にほぼ同じ数だけプロの世界から身を引く選手がいるということを意味し
ている。一球団の所属選手は 70 名と決まっており、出入りの激しいまさに競争社会である。プロ
の世界でベテランと呼ばれる選手は 30 代半ばであろう。むしろプロの世界で 10 年活動できれば良
い方で、引退する選手のほとんどが実働 10 年に満たない。言い換えると、引退する選手のほとん
どが 20 代の若者ということになる。世間一般にいう働き盛りである。その年齢で人生の軸が失わ
れるということはアイデンティティの喪失に繋がりかねないし、様々な危険因子を生んでしまうだ
ろう。元プロ野球選手で長年監督を務めた野村克也氏は次のように述べている。
「引退選手の中には現役時代と引退後の落差に戸惑い、うまく切り換えることが出来ず、競技引退後、物質的、
あるいは精神的に惨めな生き方をしなくてはならなかった人たちが数多くいる(野村・米長,1999)
」
このことは元プロ野球選手がセカンドキャリアをうまく形成出来ていないことを思わせる。人生
は長い。引退後の人生の方が選手でいられる時間よりも長いことは明らかである。これまで一生懸
命努力し自分の力を信じ、成功を収めてきた彼らが引退後、惨めな生き方をしなくてはならないの
はあまりにも寂しい。
以上のような点や、自身の体験を機にプロ野球選手のセカンドキャリアについて興味を持ったの
で調べてみたいと思った。
1-2 引退する選手はどれくらいいるのか
それでは、毎年いったいどのくらいの人数のプロ野球選手が誕生し、引退しているのか。近年の
データ(2000~2008 年)から具体的な人数を見てみよう。各球団の入団、退団数等を表 1 に示す。
3
表 1 各球団の入団、退団数等
読売
中日
阪神
広島
横浜
ヤクルト
西武
福岡
ロッテ
オリックス
日本ハム
楽天
近鉄
全体
一球団
入団人数 入団平均 退団人数 退団平均
61
8
48
6
62
8
50
6
60
8
61
8
52
7
41
5
55
7
51
6
53
7
47
6
49
6
50
6
57
7
58
7
53
7
58
7
58
7
65
8
62
8
50
6
31
8
31
10
27
7
35
7
680
95
646
88
52
7
50
7
注 1:
『こちら、プロ野球人事部』の HP 記事「入退団選手一覧」をもとにして筆者が作成
(http://home.a07.itscom.net/kazoo/pro/pro.htm)
注 2:入退団選手は 2000 年から 2008 年の 8 年間の人数を参照。数値は四捨亓入。また、退団選手は現役続行を表明しなかっ
た選手。入団選手はドラフト指名を受けた人数とする(移籍やトレード、外国人選手は含まない)。楽天と近鉄は球界再編問題が
あったため、楽天は、2004 年からの人数。2004 年は球団創設の為退団選手なし。近鉄は 2004 年までの人数。2004 年は球団
消滅の為、新入団選手無し。
具体的な人数を見てみるとやはりシビアな世界だといわざるを得ない。球界全体をみると一年間
に 88 名のプロ野球選手がその現役生活にピリオドを打っていることになる。所属選手 70 名という
枠を考えると 1 割ほどの人数が毎年入れ替わっていることになり、卖純に考えると 10 年で選手が
丸々入れ替わっていることになる。普通の会社なら考えられるだろうか。
球団の方針が変わったり、監督や経営者が変わったりすると選手の入れ替えが盛んに行われるこ
ともある。データは 8 年間分の平均なのでわからないが、一回のドラフトで 10 人以上を入団させ
る球団もあるし、4 人しか指名しない球団もある。先ほども述べたが、所属選手は 70 名と決まって
いるので、たくさん新しい選手が入団すれば、その裏で球団を離れなくてはならない選手もたくさ
ん出るということになる。チーム方針の変更やフロントの入れ替えなどに伴って、選手も入れ替え
を余儀なくされる。選手の立場は非常に弱いといえよう。
また、このようなデータもある。リクルートエージェントは、2007 年 10 月に宮崎にて開催され
たフェニックスリーグ中に、現役プロ野球選手に対して、セカンドキャリアに関する意識調査を行
なった。1 主な集計結果は下記のとおりである。
1 <引用>現役プロ野球選手へ「セカンドキャリア」に関するアンケート実施-転職支援のリクルートエージェント
http://www.r-agent.co.jp/corp/news/071218.html
4
対象
フェニックスリーグに参加した 12 球団所属選手 283 名
調査方法
無記名によるアンケート配布・記入方式
属性

平均年齢:24.1 才(18~37 才)
。 年齢分布は下記のとおり。18~22 歳=87 名。23
~26 歳=129 名。27~29 歳=51 名。30 歳~=16 名

プロ野球平均在籍年数:4.0 年(1~13 年)/経験球団数平均:1.2

2006 年度平均年俸:1195.6 万円(240~22000 万円)

独身既婚比率:71.9%・28.1%
主な結果
1. 「引退後」を意識したことのある選手は、全体の 74.5%に上る。
2. 75.8%の選手が、引退後の生活に「不安」を感じており、引退後の人生目標や生活設
計を描けずにいる。なお、
「不安」を感じる割合は加齢とともに高くなる傾向にある(選
手年俸との相関はない)
3. 「不安」の多くは、引退後の職業選択と収入面。こうした「不安」について相談する
相手がいる選手は、全体の半分に満たない。
4. 「不安」を感じながらも、現役から何かしらの備えをしている選手は、38%。備えて
いない選手のほとんどが、何かしらの備えは「必要」と考えている。
5. NPB セカンドキャリアサポートへの期待は、引退前後の進路相談や就労支援。現役時
代からのフォローに対しては、まだ具体的な要望にまで至っていない。
これらの結果から分かることは、華々しい世界の裏で、選手は常に今年で辞めさせられるのでは
ないかという不安に直面していることである。そして不安を感じているにもかかわらず、半数以上
の選手が将来に対して備えをしていないということである。
これは備えをしていないというよりも、
出来ないと言い直してもよいのではないだろうか。将来のことについて考えている暇があったら練
習しろという空気が尐なくとも存在していると思われる。現役時代からのフォローに対しては、ま
だ具体的な要望にまで至っていないという点では、まだ選手が現役のころにどんなことをしていれ
ばセカンドキャリア形成に役に立つのかうまくイメージできていない可能性があると思われる。そ
れを考えると元プロ野球選手の人たちの経験、まさにセカンドキャリアが反映されていない事を物
語っているのではないだろうか。
第 2 節 プロ野球選手の引退は何を意味するのか
2-1 会社員の転職との相違点
ここでは、プロ野球選手の引退と会社員の転職について考えてみよう。
まず、
プロ野球選手においては、
おそらく全員が一年でも長く野球をしたいと考えているだろう。
しかし突然その時は訪れる。戦力外通告だ。戦力外通告とは、主にプロスポーツにおいてチームに
所属する選手に対して、すでに自チームの戦力構想から外れていることを通告することである。解
雇や選手整理を意味する言葉であるが、NPB や J リーグでのそれを指すことが一般的である。身
体能力の低下、怪我・病気、あるいは伸び悩みなどの理由で自チームの戦力構想から外れた選手に
行われる。戦力外通告を受けた選手は次シーズンの契約を結べなくなるため路頭に迷う。プロテス
トを受け直すものもいれば、そのまま一線を退く者もいる。共通しているのは、これから先どうや
って暮らしていけばいいかいきなり考えなくてはならない点である。そのため充実した引退後の人
生のために、来るべきその日に備えてセカンドキャリアについて日ごろから考えなくてはならない
と言えよう。
5
次に、会社員の転職はというと、やはりある程度次の仕事についての知識やスキルを身につけて
から行うことが一般的であろう。セカンドキャリアについての心構えや積み重ね、時期については
ほぼ自分で決定することができる。会社員の転職は、次の職場に希望を持って行って行われること
があると思われるが、プロ野球選手は違う。野球をすることが最大の幸せであり、それが出来なく
なるとするとやはりセカンドキャリアについて希望は持ちにくいし、モチベーションも会社員と比
べると务ると思われる。やはりそういった気持ちの面で差があるとセカンドキャリアに対する意識
も違ってくると思われる。
なお、金銭面については、プロ野球選手は普通の会社員とは比べ物にならないほど多額の収入を
得ている場合がほとんどである。よって普通の人とは金銭感覚がまるで違ってくる。引退して収入
が減っても、プロ野球選手だったころの金銭感覚のままお金を使っていると大変な思いをすること
になるであろう。この点も気になるところである。
第 3 節 キャリアサポート制度とセカンドキャリアの例
3-1 キャリアサポート制度は十分なのか?
プロ野球には NPB と独立リーグがある。両者のキャリアサポート制度を見る前に、J リーグの
キャリアサポートを見てみよう。
J リーグキャリアサポートセンターでは、現役選手を対象としたプログラムを複数展開している。
サッカー界とは違う分野に再就職した選手を講師として招き、現役中からのキャリア形成、現在の
職に就くまでの体験、就業で得た知見などを披露する場を設けている。また、一定の期間、インタ
ーンとして一般企業に選手派遣を行ったり、あるいは就労体験の機会を設けるなど、選手たちが今
までとは異なる世界の存在することを直接体験できるよう、様々な工夫がなされている。このプロ
グラムの成果として、数多くの選手たちが引退後の生活を新しい分野で送っている。2
それでは NPB や独立リーグではどうだろうか。2006 年 10 月に開催されたプロ野球実行委員会
では、コミッショナー事務局内に選手の再就職を支援するセカンドキャリアサポート委員会を新設
する方針が決められた。ただし、具体的な活動はあまり行われていないのが現状といえよう。3現に
リクルートエージェントによる現役プロ野球選手へ「セカンドキャリア」に関するアンケート4では、
75.8%の選手が、引退後の生活に「不安」を感じており、引退後の人生目標や生活設計を描けずに
おり、
「不安」を感じる割合は加齢とともに高くなる傾向にある(選手年俸との相関はない)ことが
明らかになっている。プロ野球の歴史から考えると、J リーグの取り組みに比べて大きく务ってい
ると言えるだろう。
3-2 すでに行われているセカンドキャリアの例
それでは、今までプロ野球を引退していった選手たちはどのようにセカンドキャリアを形成して
いたのか。野球一筋でやってきた選手たちにとって、やはり野球と関わる仕事を希望する場合が多
いと思われる。しかし、監督やコーチといった指導者の仕事をできるのはほんの一握りであるし、
解説者などもまたしかりである。球団のフロントといってもその枠は尐なく、契約内容も終身雇用
というわけにはいかない。実際には後援会や学生時代の恩師の縁故などで斡旋された職業に就く、
あるいは家業を継ぐといったことが多い傾向にあるのが現状のようである5。それもまた、自分がや
2
『Jリーグキャリアサポートセンター』HP記事を参照。http://www.j-league.or.jp/csc/
3 キャリアサポート担当の手塚康二は、
「セカンドキャリアサポートも始まったばかりですので、現状を見ながら、できることか
らやっていきたいですね。
」と述べている。
(ATHLETE PLUS 2008 年 1 月記事 『NPB セカンドキャリアサポート開設』参照)
http://joc-athlete.jp/mt_include/1500/2008/01/npb.html
4 対象: フェニックスリーグに参加した 12 球団所属選手 283 名(n=283) 。調査時期:2007 年 10 月。方法:無記名によるア
ンケート配布・記入方式 以下の URL に詳細が記載されている。http://www.r-agent.co.jp/corp/news/071218.html
5 実証することは難しいのだが、これは筆者自身の独立リーグで見聞きしてきたことも含まれる。
6
りたい仕事かというとそれはまた別のように思う。どんな仕事でもやらなければ生活が出来ない為
である。選択肢は非常に尐ない。仕事が見つかったとしても果たしてそれが充実したセカンドキャ
リアを形成することに繋がるのかということになると、必ずしもイエスというわけにはいかないと
思う。
今後は J リーグのようにサポート制度を充実させることが急務であるといえよう。制度が充実す
ることで選手が無駄な心配をする必要もなくなるからだ。それと同時にそういった選手の受け皿で
ある社会がセカンドキャリアへの理解を深めることも重要になってくるだろう。しかし、一番大切
なのは選手自身の意識であると思われる。
セカンドキャリアの制度が充実していたとしても選手が意識を持って利用しなければただの無駄
になってしまうためである。選手は自身のセカンドキャリア形成について積極的であるべきである
と思う。これまでの引退後の人生、セカンドキャリアについての暗いイメージを、第二の人生の門
出という希望に満ちたものに変えていって欲しい。
3-3 若手選手のセカンドキャリアに向けた行動の例
最近では、埼玉西武ライオンズに入団した菊池雄星投手が東北福祉大の総合福祉学部通信教育部
に入学願書を提出していることが話題となっている。教師になって野球の指導をするという夢を持
っているようだ。6賛否両論あるだろうが、このことがプロ野球選手のセカンドキャリアを考える好
機になることは間違いないだろう。私は賛成である。確かに雄星投手は将来球界を代表する投手に
なれる素質を持っている。だが、絶対という保障はどこにもない。怪我をしてしまい野球が出来な
くなる可能性や、伸び悩み活躍できない場合もある。そうなった場合誰が責任をとるのか。大学進
学に反対した者が雄星投手に教員免許をあげるのか。大学卒業の学歴を渡すのか。そんなことは有
り得ない。すべて自己責任になるだろう。球団側からすればファンの期待も大きく、スターにしな
ければならないという重圧もあり野球に専念して欲しいという気持ちが正直なところであろう。だ
が、選手側からすれば今までのようなサポート制度では不安を感じてしまうだろう。このことは立
場の弱い選手の引退後をおろそかにしていた野球界の問題を浮き彫りにしたと思う。全員がセカン
ドキャリアに対して真剣に考え、行動していかなくてはならない時期に来ていると思う。
第 4 節 まとめに変えて
プロ野球選手という職業は特殊であるが、労働者ということに変わりはない。60 歳まで働き続け
ることを考えると、
自分のキャリアを展望したり計画を立てることは重要な意味を持つことになる。
このような意識の高い選手がもっと増えるように、今後セカンドキャリアについてメディアがどん
どん取り上げていくべきである。
プロスポーツ選手にとって引退は、遅かれ早かれ必ず訪れるものだ。そして引退したその日から
第二の人生がスタートする。だからどのプロスポーツ界にもセカンドキャリアサポート制度は不可
欠だ。プロスポーツという仕事は、自身の能力を極限まで研ぎ澄ますと同時に、お客様に夢や希望、
感動を与える仕事である。きっといつまでも誇りにできる仕事だろう。一般の人たちも選手に対し
て尊敬の念を持っているに違いない。それは引退した後も同じであると私は思う。
しかしながら、プロ野球のセカンドキャリアのサポート体制は十分とはいえない現状があり、か
つ、
制度を持つ側の選手の意識も自身のセカンドキャリア形成について積極的であるべきであろう。
選手には引退後も胸を張って言える仕事をして欲しいし、尊敬される人間であり続けて欲しい。
それはある意味選手にとっての使命なのかもしれない。セカンドキャリアへの意識を一新させると
ともに、サポート制度がさらに充実することを切に願う。
6日本野球機構が現役の若手選手を中心に実施した引退後の「セカンドキャリア」に関するアンケートによると、引退後の希望進路の
1位は「高校野球指導者」で、
「やってみたい」
「興味あり」の割合を合わせて73%だった。
(2010 年 01 月 19 日 朝日新聞朝刊「プ
ロ野球の若手、引退後不安74% NPBアンケート、
『高校野球指導者希望』7割」
)
7
引用文献
野村克也・米長邦雄 1999 『一流になる人二流で終わる人』 致知出版社.
参考文献
TBS テレビ「バースデイ」 (編) 2007 『戦力外通告―プロ野球を「クビ」になった男たち』 角
川ザテレビジョン.
TBS テレビ「バース・デイ」(編) 2008 『戦力外通告 ~諦めない男たち編~』 角川ザテレビ
ジョン.
8
第 2 章 派遣の現状と支援について
礒野直毅
はじめに
1995 年に公表された、日経連の『新時代の「日本的経営」
』により、人材のタイプを、長期蓄積
能力活用型グループ、高度専門能力活用型グループ、雇用柔軟型グループの 3 つに類型して、経営
環境変化に忚じて、最も効果的に組み合わされていくことの必要性が主張された。近年の非正規労
働者の増加は、この「雇用柔軟型グループ」を増やした結果であるとよく言われている。
2009 年の流行語大賞に「派遣切り」という言葉がトップテン入りした。その授賞式では、
「派遣
ユニオン」の書記長を務め、自らも日雇い労働者となった経験がある関根秀一郎氏が呼ばれた。関
根氏は「本来は派遣切りを流行させた日本経団連の御手洗(冨士夫)会長が受賞すべきだと思いま
すが、私が派遣切りの被害者、悲惨な思いをした人たちの思いを代表して、受賞させていただきた
いと思います」ときつい皮肉を述べた。7
現在の労働現場において、雇用形態の多様化により、パートタイム労働者、派遣社員、契約社員、
嘱託社員など、
「非正規社員」と呼ばれる労働者の割合が増加している。総務省統計局「労働力調査」
によると、2007 年、10~12 月期の役員を除く雇用者 5,156 万人のうち、正規の職員・従業員が 3418
万人となっているのに対し、非正規の職員・従業員は 1738 万人(33.7%)であるということだ。
以上のように、実際に数字上大きく非正規社員の増加が表れている。その中でも、現在、非正規社
員の中でも、社会的に大きく注目されている「派遣」について、研究していこうと思う。
第 1 節 派遣の制度と遷移
この節では、山中、丸尾(2007)
、朝日新聞(2009 年 11 月 7 日)
、門倉(2007)をもとに述べ
ていく。
1-1 派遣の定義
労働者派遣法によると、派遣とは、
「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人
の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者
を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」ものをいう。
まず、派遣の仕組みを図 1 に示す。労働者派遣では、労働者は派遣元会社に雇用され、派遣先企
業(一般企業)から指揮命令を受ける。
次に、請負業務の仕組みを図 2 に示す。請負は、受注主(一般企業)と労働者との間における指
揮命令関係がなく、派遣は、指揮命令を受ける関係があるという違いがある。
図1:派遣の仕組み
図2:請負業務のしくみ
7 2009 年 12 月 1 日 産経ニュース「新語・流行語『派遣切り』の関根さん『今年度だけで終わることを祈る』
」
http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/091201/acd0912011957007-n1.htm
9
1-2 派遣の種類
また、派遣労働事業の種類には以下の 3 種類がある。

一般(登録型)派遣
 あらかじめ派遣会社に登録して、派遣会社の取引先で、仕事が決まった段階で派遣
会社と雇用契約が結ばれる。派遣会社は、派遣先の企業が決まるまでは、登録して
いる人に給料を支払う必要なし。

特定派遣
 派遣会社が乗用車員として採用している人を派遣先に派遣。派遣先が決まっていな
くても、派遣会社から給料を貰う。雇用と所得が比較的安定。

紹介予定派遣
 企業に直接採用してもらうことを前提に働く。派遣契約は、最長 6 ヶ月間。
図 3:常用型と登録型派遣労働者の割合(厚生労働省資料より作成)
常用型と登録型派遣労働者の割合を図 3 に示す。登録型が、60%を超え、多いことがわかる。一
方、男女別に見ると、女性は登録型が 75.8%と高く占めている。一方男性のほうは、常用型が、62.3%
と、男女で差がみられる。これは、女性は、家事や育児の合間に、収入を確保するために、短期の
登録型の派遣で働く人が多いことや、男性は、生活のための仕事を、常用型の派遣一本で生活して
いる人が多いからだと思われる。
1-3 派遣はどれだけいるのか
派遣社員数の推移を図 4 に示す。厚生労働省によると、平成 20 年 3 月現在、派遣労働者数は、
約 174 万人に達している。1999 年に労働者派遣法の改正で、派遣対象業務を原則自由化されてか
ら現在に至るまで、年々派遣労働者の数は徐々に伸びてきている。このように、派遣労働者数の増
加には、労働者派遣法の規制緩和による改正による影響が大きいことが指摘されている。
10
図 4:派遣社員数の推移 (2009 年 11 月 7 日朝日新聞より、
)
1-4 労働者派遣法の改正
以下には、その労働者派遣法の改正について述べていく。
昭和 61 年(1986 年)7 月 1 日より労働者派遣法が施行された。主として臨時的・一時的な労働
力に対する経済界の需要を背景として、卖純な業務を中心として派遣が自由化された。しかし、ソ
フトウェア開発や、ファイリングなどの 13 業務(その後 26 業務)に限って、労働者派遣が自由化
されたにとどまり原則的には禁止されたままであった。
その後、日本の雇用システムが流動化する中で、労働者の意識も変化して、派遣という働き方が、
認知されるようになり、平成 11 年(1999 年)12 月 1 日施行の法改正により、労働者派遣が原則自
由化となり、さらに、平成 16 年(2004 年)3 月施行の改正では、従来の 26 業務についての派遣
受け入れ期間制限が撤廃され、同 11 年に自由化された業務についても1年から 3 年間までの延長
が可能となった。同 16 年に、製造業務も 1 年間という期限限定で解禁され、同 19 年 3 月からは、
最長 3 年間までの延長が可能になった。労働者派遣の規制が緩和されたことにより、派遣労働者の
就労の幅が広まっていった。
派遣は、労働者派遣法が改正される前までは、ソフトウェア開発・通訳などの派遣で、専門職集
団のようなものであった。そのため、優秀な人材を一時的に雇用するという意味合いが強く出てい
た。多い年齢層は、30~39 歳であり、そのうちの多くは、女性が多くを占めており、その過半数が
未婚者であった。また 40 歳以上の層も多くみられ、子育てをして労働市場に再参入するときに、
派遣という手段が用いられた。厚生労働省の発表によると、2005 年度でも、派遣労働者の性別構成
をみると、男性は 37.2%、女性は 62.8%となっている。
しかし、専門職集団であった派遣は、法の改正により規制緩和されるに従って、製造業など幅広
い業種に可能になっていき、人材派遣会社の数が、1995 年度の段階で 9519 社だった派遣会社の事
業数は、2005 年度には 31361 社まで増え、10 年間で、3.3 倍にまでなった。派遣会社の数が増加
することで、企業間の競争が激化して、派遣料金の値引きがなされて、その結果、労働者の給料が
尐なくなることや、不当な扱いを受ける事例が増えていってしまった。
以上、この節では、派遣の制度と推移について述べてきた。次節では、派遣からどういったメリッ
トやデメリットが生じるのかを述べていく。
11
第 2 節 派遣のメリット、デメリット
この節では、小林(2009)矢野(2008)をもとに述べていく。
2-1 派遣のメリット(企業側、労働者側の双方の視点より)
派遣のメリットとしては、企業側からの視点でみると、以下の点があるだろう。
 人事管理の煩わしさがない
 社員教育費の投資が必要なし
 福利厚生にお金がかからない
 社会保険や雇用保険の負担がない
 退職金のための引当金必要なし
 残業手当なし
 有給休暇なし
 必要な時に必要なだけ人材を確保できる
 契約がいつでも解除できる
まとめると、人件費の削減に貢献できることがメリットとして挙げられる。
また、労働者側からみると、社団法人日本人材派遣協会が 2008 年度に行った派遣労働者 1 万人
を対象とした調査によると、






正社員に比べて、自由に仕事や勤務地、労働時間を自分で選択できる
女性の場合では、結婚を機に、家庭と仕事を両立するため
大企業で働ける
専門的スキルを活かせる
高賃金を得られる
時間を有効に活用できる
以上のことが派遣で働いた理由としてあげていることから、このことがメリットとされる。
正社員とは違い、縛られなく、自由に働ける点がメリットであるとわかる。
2-2 派遣のデメリット(労働者側の視点より)
次に派遣社員のデメリットを述べる。
 雇用が不安定
 収入が不安定
 会社での待遇の悪さ
 仕事の内容量と給料の不一致
 福利厚生が著しく乏しい
 派遣で働くと、正社員になることは困難になる
 派遣社員は、正社員と同等な仕事をしているのにも関わらず、給料だけが正社員とは比べ
物にならないほど低い場合がある
以上、働くまでは、労働者にとってメリットは多々あるとみられるが、実際働くとなると、デメ
リットが多く見受けられ、雇用格差が生じてしまっていると考えられる。
2-3 日雇い派遣の問題点
また、正社員との雇用格差で、派遣の中でも特に、問題となっているのが、主に、携帯電話一本
で登録ができる登録型派遣である、
「日雇い派遣」がある。その問題点には次のような事があげられ
12
る。
 雇用が不安定
 間接雇用であることに加えて、雇用契約期間が短い(日雇い)
 仕事があるかどうか前日までわからない
 仕事の当日キャンセルがある
 賃金面
 「データ装備費」
「安全協力費」などの名目で不透明な天引きがある
 移動時間や待機時間の賃金が払われない
 物品購入を強制される
 遅刻等のペナルティーとして労働基準法が認める範囲以上の賃金をカットされる
 上記のようなことが行われる結果、
手取り賃金が最低賃金を割り込むケースがある
 安全衛生・教育訓練
 派遣元・派遣先による安全衛生措置が適切に行われていない結果、労災事故が起き




やすい
 派遣元による雇い入れ時教育の未実施
社会・労働保険の未加入
労働条件の明示がされない
労働者派遣法で禁止されている業務に派遣されたケースがあった
二重派遣が行われたケースがあった
日雇い派遣の特に何が問題かというと、労働者を「モノ」として扱っている点と、人材育成が全
く行われない点が、大きな問題である。
「モノ」として扱っているので、労働者側からの視点である
と、職場の务悪な待遇を受け、ましてや、人材育成をすることなどは到底不可能であり、能力が育
っていくこともなく、日々の生活費のためだけに日雇いで収入を得るだけであって、現状を変える
手段を無くし、負のスパイラルに陥り、正社員へと進む道が閉ざされ、挙句の果てには、
「ネットカ
フェ難民」と言われる、家賃が払えず、ネットカフェや、漫画喫茶などで寝泊まりを繰り返すこと
になってしまっている現状もある。
厚生労働省によると、店舗への調査から推計される 2007 年時点でのネットカフェ難民の人数は
5400 人だそうだ。ネットカフェ難民は、若者から、30~50 歳の層まで幅広く、地域別に見てみる
と、東京が一番多いが、次いで愛知県が二番目に多い。沖縄は人口比にするとネットカフェの割合
が一番多い。愛知県には、大手自動車産業の下請け企業がたくさんあり、沖縄は、失業率が高い。
以上の事から、雇用環境が厳しい地域では、ネットカフェ難民が多く、ネットカフェの店舗が多く
なっているのではないかと思われる。
以上、この節では、派遣のメリット、デメリットをあげてきた。派遣には、デメリットの面がど
うしても、メリットより、強くでていることを確認した。では、次に、そのデメリットの実例や、
問題点を詳しく挙げていく。
第 3 節 派遣の現状 問題点
この節では、高五・鴨(2009)
、増田(2008)
、斎藤・派遣ユニオン(2007)をもとに述べる。
3-1 「派遣切り」の背景
2004 年に改正された労働者派遣法では、
同じ業務に派遣社員を受け入れる期間は一年までとされ、
1 年以上雇う場合には、派遣社員に対して、
「直接雇用」の申し込みを行うことを派遣先メーカーに
義務つけている。この「直接雇用」の申し込み義務を免れるために、実際は「派遣」として労働し
ているが、名目上は、法律上、請負先(労働する企業)からの指示が出せない「請負」として雇う
13
「偽装請負」が問題とされた。その摘発を恐れ、06 年に企業は一斉に、偽装請負となる労働者を派
遣に切り替えた。07 年の法の改正で、法律上、派遣期間の上限が 3 年になったため、09 年に契約
期限が一斉に訪れることになった。引き続き、企業にとって、労働力が必要な場合、派遣労働者を
直接雇用か、請負に切り替えるかが問題になった。これが、
「2009 年問題」である。しかし、2008
年の冬に起こったリーマンショックの影響で、製造業の生産の大幅な落ち込みによって、労働力が
不要になり、その矛先に、派遣が大量に切られることになった。いわゆる「派遣切り」の実施であ
る。
3-2 派遣労働者の減尐
厚生労働省調査結果によると、非正規労働者削減人数(08 年 10 月~09 年 3 月見通し)は、15
万 7,806 人に上ると発表された。2008 年末から始まった、リーマンショックや、労働者派遣法の改
正案の動きにより、2009 年の派遣ビジネス事情は変わってきている。2009 年 11 月 5 日の日本人
材ニュースカレラ8には、現在の派遣の状況について以下のように述べている。
「日本人材派遣協会が 541 社を対象に四半期毎に実施している労働者派遣事業統計調査で、2009 年 7~9 月期
の派遣スタッフ稼動者数実績が対前年同期比で約 2 割減の 79.3%となったことが分かった。4月以後、派遣ス
タッフの減尐傾向は続いており、前四半期に続き、全地域で対前年同期割れとなっている。
」
以上のように、最近は派遣労働者の数が減尐傾向になっていることがあげられる。派遣を辞めた
労働者はアルバイトやパートに移行して、さらなる低所得になっていることが見受けられる。
ここでの最大の問題点は、
「正社員」に登用できる道が狭すぎる点であろう。実際には、第 1 節
で挙げた、
「紹介予定派遣」は、厚生労働省(2009)によると、制度を利用したことがある事業所
の割合は 5.0%と、非常に低い割合が示されている。このように派遣から直接雇用を実施している
企業は非常に尐ない。
本節では、派遣の概要、派遣の現状や、派遣の問題点について挙げてきた。派遣切りの深刻さや、
この先の派遣人数の減尐が見通すことができる。次節では、その派遣切りの支援や、派遣労働者に
対しての支援について述べていく。
第 4 節 派遣労働者、派遣切りへの支援
この節は、小林(2009)をもとに述べる。
4-1 公的職業訓練と職業支援制度
企業からリストラされた主に製造業の人たちの支援には、公的な再就職支援、とりわけ教育・訓
練・資格取得の支援が求められている。
具体的に現在行われている公的職業訓練と職業支援制度を表 1 に示す。
8 参照:2009 年 11 月 5 日 日本人材ニュースカレラ「派遣労働者が大幅に減尐 アルバイトになれば収入激減」
http://www.j-carrera.net/modules/news/storyid-766.html
14
表 1 現在行われている公的職業訓練と職業支援制度
名称
教育訓練給付制度
ジョブカフェ
ジョブカード
就業促進給付
トライアル雇用助成金
雇用支援制度助成金
若年者雇用促進特別奨励金
特定求職者雇用開発助成金
年長フリーター助成
制度の目的・対象
雇用保険の支給要件期間が3年以上
「若者自立・挑戦プラン」の非正社員の職業訓練の得る機会を提供
キャリアや職業訓練の履歴を記録し、一定の職業能力があることを証明
「再就職手当」安定した職 「就職手当」非常用の場合など
中高年齢者、若年者、母子家庭の母等を3か月雇い入れる事業主
トライアル雇用から常用雇用へ移行
25歳以上35歳未満の不安定就労の期間が長い若年者など
身体障害者、高齢者、若者などを雇い入れる雇用保険の適用事業主
同情の23~39歳を対象に検討
これらの政策が現在あるが、3 つの問題点が指摘されている。まず1つに、これらの施策の到達
目標が、
「正社員」をゴールにしてきたことである。これは、正社員になるつもりのない人、あるい
は、なりたくてもなれない人がいるので、現実的ではない。2つに、これらの施策の支給要件や給
付条件に、雇用保険の加入期間による差があることである。雇用保険にも入れない非正社員の場合
は、申請のところで門前払いになってしまう。3つに、教育、訓練機関の運営と窓口にかかわるも
のであるから、こういった窓口に行く派遣などの非正社員にとっては、行きづらいというのが現状
である。
4-2 NPO 法人等による職業支援
こういった公的な支援のほかに、より身近な存在の支援としては、2008 年の年末から年始にかけ
て日比谷公園に設立された、
「年越し派遣村」がある。ここは、派遣切りされて路頭に迷った労働者
の一時的な避難場所ではなく、その後の、自立を目指すための相談活動も行っていた。また、その
後の自立支援のために、生活保護の需給を促すことや、宿泊施設を確保し、就労や生活のための手
助けを行った。
また、派遣切り労働者が、不当な解雇に対して声をあげたいと思った場合や、相談については、
全国にある「ユニオン」がうけたまわってくれる。
「NPO 法人自立生活サポートセンター・もやい」は、住むところがない、連帯保証人がいなくて
アパートが借りられない人向けに、アパートの入居支援、生活や福祉の相談にのり、生活保護の同
行申請を行っている。
4-3 民間による生活支援
近年では、ネットカフェ業界の中には、
「郵便受け取り」
「住民登録可」などの「就職支援サービ
ス」を唱っているところもある。ネットカフェは、派遣切りされた人にとっては、なじみ深く、公
的な機関では行きづらいが、敷居が低く、気軽に足を運べるところである。30 日以上の滞在なら郵
便受け取りや、住民登録可能なネットカフェが埼玉県に登場した。住居が登録されることで、正社
員の道が開ける可能性がでてくるのである。
また、読売新聞(2008 年 8 月 25 日)によると、
「ネットカフェ難民対策として、厚生労働省が
公共職業訓練の受講者を対象に住居・生活費として月 15 万円を融資する方針を固めた。年収 150
万円以下の受講者には、融資ではなく実質的に給付となる」と述べられているように、実質的には、
公共職業訓練を促すことではあるが、こういった支援が着実と行われていっている。
この節では、派遣切りされた人の支援や、日雇い派遣の対策についてみてきた。次節では、まだ
実施されていない対策や、企業や政府が、これからやることが望ましいと思われるものを挙げてみ
る。
第 5 節 派遣の未来、改善点
この節は、山田(2009)
、門倉(2007)をもとに述べる。
15
5-1 海外の派遣制度から学べること
派遣の未来 改善点を考察するにあたり、まず海外の派遣制度をみてみよう。
アメリカは、人材派遣ビジネスが盛んであり、全米人材派遣協会によると、2005 年には、派遣労働
者の人数が、1200 万人を超えている。その理由の一つに、米国では、同一労働・同一賃金が確立さ
れており、同じ労働をしていれば、正社員と、派遣との差に賃金の違いは生じない点がある。
イギリスでも、人材派遣ビジネスが拡大していっており、1985 年にあらゆる産業で、派遣が許可
されて、規制緩和されており、2005 年度には、120 万人になっている。イギリスの特徴は、派遣会
社が人材育成に力を入れて、派遣社員のスキルアップが急速に進んでいる点である。そのため、高
度なスキルを持った人材の確保のために派遣社員を雇う企業が増え、その結果、派遣社員の賃金も
高くなっていった。
このように、海外では、人材派遣ビジネスにそれぞれ特徴があり発展しており、日本のような、
「人件費削減のため」だけに派遣を雇ってはいない。そこで、日本にも上記の2国の良い点を取り
入れて、正社員と同じ仕事をしているなら、派遣と正社員の賃金格差を尐なくしていき、派遣労働
者のモチベーションや、生活水準を向上させて、派遣会社は、労働者のスキルアップに力を入れて、
労働者に高度なスキルをつけさせる必要がある。そうすることで、派遣として、生活していくこと
ができ、
もしくは、
正社員に雇用されるべき能力を身につけていけることにつながると考えられる。
5-2 正社員への雇用があればいいのか?
しかし、派遣を正社員と雇用することだけで対策は十分なのだろうか。派遣社員の全員が正社員
への移行を良いと思っているわけではない。実際に、ラーメンチェーンの「幸楽苑」では派遣切り
が相次ぐ現状に、150人の中途採用を発表。ところが面接にきたのは20~30人。派遣切りに
あったとみられる人はうち2、3割しかいなかった。そして、さいたま市が発表した臨時職員10
0人の採用計画の忚募が8人にとどまった。また、平成 20 年に厚生労働省から発表された、派遣
労働者実態調査結果によると、派遣労働者のうち、
「常用雇用型の派遣社員として、今の派遣先で働
き続けたい」、「派遣社員ではなく正社員として、今の派遣先の事業所で働き続けたい」がそれぞれ
23.3%となっている。
5-3 提言
最後に、政府や企業に対する提言をすることで本稿を終えたい。
政府は、雇用保険の適用による生活費の支援、公営住宅を活用した住まいの確保など、セーフテ
ィネットの政策を充実させることも検討すべきである。自治体、公的機関、派遣切りなどをおこな
った企業に協力を求め、派遣労働者に対して、手厚い支援をして、2008 年の年末に生じた「派遣村」
という、派遣の問題が浮き彫りになる状態を二度と作らないようにすることが求められている。
企業は、派遣労働者に、同じ様にスキルアップに力を入れ、さらに、直接雇用に切り替える手段
の門戸を広げる必要があるだけではなく、派遣労働者の雇用の待遇を良くして、雇用格差をなくし
ていくことも求められているだろう。また、紹介予定派遣事業の拡大が強く求められるのはいうま
でもない。
引用文献・参考文献
門倉貴史 2007 『派遣のリアル 300 万人の悲鳴が聞こえる』 宝島社新書.
小林良暢 2009 『なぜ雇用格差はなくならないのか』日本経済新聞出版社.
厚生労働省 2005 『平成 17 年 派遣労働者実態調査結果』
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/haken/04/index.html
厚生労働省 2009 『平成 20 年 派遣労働者実態調査結果の概要』
16
http://www.mhlw.go.jp/za/0806/d10/d10.pdf
増田明利 2008『今日、派遣をクビになった』彩図社
斎藤貴男・派遣ユニオン 2007 『日雇い派遣―グッドウィル、フルキャストで働く』旪報社.
高五昇・鴨桃代 2009 『どうする派遣切り 2009 年問題』旪報社.
山田久 2009 『雇用格差』 日本経済新聞出版社.
山中健児・丸尾拓養 2007『派遣・パート・臨時雇用・契約社員』中央経済社.
矢野栄二(編) 2008 『雇用形態多様化と労働者の健康』 労働科学研究所.
17
第 3 章 「婚活」ブームは何故起きたのか
河野伶佳
はじめに
本稿では、
「婚活」ブームに焦点を絞り、結婚を取り巻く環境の変化や未婚化・晩婚化の理由を背
景に「婚活」ブームは何故起こったのか調べていきたいと思う。
本論の構成
第 1 節では、婚活の定義や婚活が生まれた背景を概観し、未婚化・晩婚化の現状について述べる。
第 2 節では、結婚できない理由について先行研究を概観する。最後に第 3 節では、前節までに述べ
てきた結果と、結婚の理想と現実のデータを照らし合わせて婚活ブームが起きた理由について考察
を述べる。
第 1 節 婚活とは?
1-1 婚活の定義
婚活の言葉の定義は曖昧だが、どこからどこまでを呼ぶのかなどの明確な基準はない。現在のと
ころ、結婚のために行う行動全般が「婚活」と呼ばれている。たとえば就職活動を意味する「就活」
と言えば、就活の際にするエントリーや面接だけでなく、面接対策や SPI 試験の対策などの行動を
指す。婚活も同様に、結婚するために体を鍛えたり、料理教室に通ったり、エステに通うことも婚
活の一部に含まれ、結婚資金を貯めるために貯金することも婚活に含まれるだろう。
1-2 婚活が生まれた背景
『
「婚活」時代』を執筆した山田・白河(2008)による婚活が生まれた背景の説明をまとめると
以下のようになる。
未婚化・晩婚化が目立ち始めたのは、1975 年頃であった。それ以前は、就職先も結婚に関しても
親が用意してくれたため、ほぼ全員就職でき、結婚もできたのである。しかし、1975 年以降から徐々
に自由化が進められた。この自由化により規制緩和が起こる。規制緩和により、自動的に結婚でき
ない時代に突入することになったと指摘する。また、就職に関しても、男女雇用機会均等法によっ
て女性も就職戦線に加わるようになった。そして、就職氷河期が来て、もう待っていても良い就職
先は来ない。自由化が進むことでほぼ全員が就職できる状況ではなくなった。
1-3 未婚化・晩婚化はどれだけ進んでいるのか?
年代別平均初婚年齢を図1に示す。1975 年以降から初婚年齢が上昇していることが分かる。初婚
年齢が上昇しているということは、未婚化・晩婚化が進んでいるということである。
18
図1:年代別平均初婚年齢
資料:
「人口動態統計」厚生労働省大臣官房統計情報部
引用:http://www.ipss.go.jp/syoushika/seisaku/html/112a1.htm
第 2 節 結婚できない理由
ここでは、山田・白河(2008)が指摘している結婚できない理由を4つあげて、社会背景や原因
について述べていきたいと思う。
山田・白河(2008)は結婚できない理由として以下の 4 点をあげている。
①結婚に対する意識の変化
②経済環境の変化
③自己実現意識の高まり
④交際機会の拡大、魅力格差の拡大
以下には、この 4 点について補足的に資料を追加しながら概観していこう。
19
2-1 原因 1:結婚に対する意識の変化
1 結婚に対する意識の変化
依存型
→
自立型
→
親にパラサイト
生活に困らない
仕事中心
一人で生活できる
↓
経済的に余裕であるため、
結婚は生活必需品ではなく、嗜好品
図2:結婚に対する意識の変化
注:山田・白河(2008)をもとに筆者が作成
山田・白河(2008)が指摘する結婚に対する意識の変化について筆者がまとめたものを図2に示
す。結婚はもはや、生活必需品ではなく、嗜好品と化している、ということである。女性は、結婚
することでより良く自分が生まれ変わることを望んでいる。山田・白河(2008)は、ここで、依存
型と自立型に分類して指摘している。
依存型の女性たちにとっては、自分の父親よりも経済力のある男性と結婚しなければ、生活水準
が低下してしまう。生活水準が低下してしまうくらいなら、実家で両親と暮らした方が良い、とい
う考え方から親に未だにパラサイトしている可能性が高い。よって生活するのに余裕があるため、
結婚が自分の嗜好に合わない場合は結婚しない、という状況があるようだ。
自立型の女性たちも、仕事で生きていける女性たちであり、経済力もそこそこある。高学歴で、
キャリア志向で働き、社会進出を目指す女性は、結婚・出産によって仕事をやめて専業主婦になり
たいと思っても、今の自分の生活レベルを維持できる収入を稼ぎ出す男性にめぐりあう確率は尐な
くなっている。こういう女性たちにとっても結婚は嗜好品ととらえられているのだ。結婚に対して
昔のように「女性の幸せは結婚にある」や「女性は結婚しなければならない」という意識の変化が
起こり、結婚に対する圧力が弱まったと考えられる。自分でなくても、他の女性の生き方として結
婚しない人生があってもかまわない、という考えが女性の中で広まっている。結婚しなければ一人
前の女性ではないと周りから見られなくなったのだ。
女性の結婚については、近年どのように捉えられているのだろうか。
「女性の結婚」に対する男女
9
別の意識 を図 3 に示す。
9集計対象数は 2,100 人。結婚や子育ての中心となる 20~40 代の男女を対象に、ライフステージ別に7グループを設けた調査。この
ライフステージ別分類は、何らかの意識要因等が働いて、以下の移行がありうるとして分析されている。
・
「①若年独身」⇒「②継続独身」or「③若年無子家族」
・
「③若年無子家族」⇒「④継続無子家族」or「⑤若年一人っ子家族」
・
「⑤若年一人っ子家族」⇒「⑥継続一人っ子家族」又は「⑦複数子家族」
20
図3:
「女性の結婚」に対する男女別の意識(厚生労働省雇用均等・児童家庭局, 2004)
図3を見ると、男女ともに「結婚した方が良い」と答えた割合(16.0~25.3%)に比べて「結婚
することない」と答えた男女は約3倍以上の割合(54.0~72.7%)を占めていることが分かる。ま
た、結婚に対して、
「人間にとっての幸せは結婚にあるのでした方が良い」と答えた人に比べて「結
婚したい人がいなければ無理に結婚する必要はない」と答えた人がかなり多いことが分かる。
以上より、結婚することで幸せになる、結婚した方が良いと考えている男女が減尐し、結婚しな
くても良いと考えている男女が増え、周りも結婚しないことを指摘したりしないので、結婚に対す
る意識は変化したと考えられる。
2-2 原因 2:経済環境の変化
1 経済環境の変化
賃金の男女格差大
→
縮小の方向
若年男性間の格差小 →
拡大の方向
低収入男性増大
↓
女性の望む経済力がなくて結婚できない男性増大
図 4 経済環境の変化
注:山田・白河(2008)をもとに筆者が作成
21
山田・白河(2008)が指摘する経済環境の変化について筆者がまとめたものを図 4 に示す。経済
環境の変化とは、賃金格差のことを指す。
昔は、終身雇用年功序列慣行があったため、年齢による格差があったが、若年男性の収入は低い
ものの安定していて、いずれ上昇していくことが確実に保証されていた。ところが、現在、男女間
の格差が縮まる一方で、若い男性間での収入格差が拡大してきている。特に深刻なのは、非正規社
員の多さである。彼らは、低収入なので結婚したくても、経済的に結婚できない。経済的な理由で
女性たちから選ばれないといえる。しかし、経済力のない男性でも、経済力以外の魅力(たとえば
かっこいいや話が面白いなど)がある男性たちは結婚できていて、経済力がある男性も、見合いの
話などが舞い込んでくるので結婚はできている。
ここで問題視されているのは、経済力がなく、かつ、
「非社交性・消極的性格」の男性たちである。
先ほど原因 1 で述べたように、女性は結婚することでより良く生まれ変わることを望んでいる。女
性をより良く生まれ変わらせる経済力がないために結婚しにくいのだ。
また経済力がある男性と結婚すると、女性が結婚・出産で万が一仕事をやめなければならなくなっ
たとしても、生活水準の低下を最小限にくいとめることができる、という点からも、経済力がない
男性は結婚相手として選ばれにくい要因だと考えられるのではないだろうか。
それでは、年収によって配偶者の有無にはどのくらいの差が見られるのであろうか。年収・年齢
別の配偶者・子どもがいる者の割合を図 5 に示す。年収が低いほど未婚率は高いことが分かる。こ
れは経済力のない男性は結婚しにくいことを意味するのであろう。
図 5 年収・年齢別の配偶者・子どもがいる者の割合(中小企業庁, 2006)
22
2-3 原因 3:自己実現意識の高まり
2 自己実現意識の高まり
男女の役割分担が
画一的
→
多様化
家の趣味も教育方針も →
妻任せ
意見の対立
↓
↓
役割分担と趣味まで合う人に出会うむずかしさ
図 6:自己実現の高まり
注:山田・白河(2008)をもとに筆者が作成
山田・白河(2008)が指摘する自己実現の高まりについて筆者がまとめたものを図 6 に示す。1980
年代ころから、好きな仕事、自分らしいライフスタイルというものが協調されるようになった。結
婚生活というのは、卖に一緒に住めば良いということではない。
かつての男は仕事、女は家事といった画一化した生活スタイルは家庭内の調達品や子供の教育方
針、そういうものすべてが、日本中、どの家庭でも似たりよったりで、かつ妻任せで良いというこ
とであった。だが、自己実現の意識が高まって、その内容が多様化すると、それは卖なる性役割分
業での仕事や家事の分担の話にとどまらず、
趣味の分野まで含めた調整が必要になってくる。
だが、
男性が結婚相手に選ぶ際に女性に求めている条件は、自分の人生のコースを邪魔しない人である。
これはどういうことかというと、例として山田(1996)が挙げているのは、ゼミの学生とのやり取
りである。ゼミの学生に「婚約者が仕事の関係で遠くに行くことになり、ついてきてほしいと言わ
れたときにどうするか」という質問をしたところ、女子学生からは「仕事を辞めて一緒についてい
く」
「転勤を願い出る」
「遠距離恋愛をする」
「やっぱり別れる」というように、さまざまな答えが返
ってくる一方で、男子学生は、
「彼女がぼくを愛しているなら仕事をやめてこちらに来るはずだ」と
か、
「そもそも、自分の仕事の都合で一緒に来てくれと言うような生意気な女性は好きにならない」
などと答え、自分の仕事を辞めたり転勤すると答えた男子学生はいなかったと述べている。
このように、男性は、自分のやりたいことや、自分のライフコースを邪魔しない女性を好む傾向
があるのだ。だが、現代の女性に自分のライフコースを邪魔しないような聞き分けの良い女性はあ
まりいないと承知はしているが、最終的にはそのようにかわいい女性(自分のやりたいことを邪魔
しない女性)を選びたいのだ。ただそういう人と出会うことがまずむずかしいのだ。
2-4 原因 4:交際機会の拡大化
3 交際機会の拡大化
交際機会が尐ない
→
多い
↓
モテる男性への一極集中と ← 恋愛格差拡大
女性の高すぎる要求水準
↓
結婚できない男女拡大
図 7:交際機会の拡大化
山田、白河(2008)をもとに筆者が作成
23
山田・白河(2008)が指摘する交際機会の拡大化について筆者がまとめたものを図 7 に示す。交
際機会が増加するほど、結婚する人の数が尐なくなる傾向がある。なぜかというと、昔は異性と付
き合ったことがない人同士の組み合わせが多かったので、職場などで出会いがあると、すぐ結婚へ
とつながるパターンが多かったが、今はそういう状況ではない。
職場に限らずとも、大学でもサークルの増加や男子学生のみの大学も徐々になくなり、法学部や
工学部などの女子が敬遠していた学部に、女子が入ってくるようになった。趣味、レジャーの場で
も従来男性のものとされていた領域に女性の参加も相次いでいる。そして、長い高度経済成長と、
年功序列―終身雇用という雇用制度の維持、年金など社会保障制度の整備のおかげで、1970 年代半
ばには、余裕のある中年世代が形成され始めた。つまり、小金持ちの親が増大しはじめたのである。
その結果、学費や生活費の面倒を見るのは親が当たり前になったのだ。そのため、アルバイトで小
遣い稼ぎが当然となり、高校生や大学生がアルバイトをすることは普通となった。アルバイトの場
が増え、学生たちの男女の出会いの場がさらに増えたのだ。1970 年くらいまでは、男女交際にまじ
めなイメージを持つ人々が多かったため、男女交際でつきあってもいないのに、遊んだり2人でい
るところを見られたりすると誤解されがちだったが、
現代では恋愛=結婚という定義もないうえに、
男女交際の幅が広がっているのである。
また、男性間の魅力格差の問題がここで絡んでくる。男性の場合、経験値が多いほどモテるとい
う鉄則があり、また、男性の魅力は、経済力とコミュニケーション能力である。その能力にたけて
いる人ほどモテるのだ。1人がモテると、そちらに集中してしまうし、女性の理想はどんどん高く
なり、結婚できない男女が増えているのだ。昔はモテる男性はさっさと結婚したので、モテない人
でもチャンスはあったが、今ではモテる男性が結婚しないため、モテない男性にチャンスがおりて
こないのだ。
現代の人々に広まっているのが「もっといい人がいるかもしれないシンドローム」だと山田
(1996)は述べている。
「もっといい人がいるかもしれないシンドローム」とは、恋人としては良
いけど、結婚するならもっと自分に合った良い人がいるかもしれないと結婚を先延ばしにしてしま
うことである。男女交際で別れることはそれほど大きなコストやリスクや伴わないが、離婚となる
と大きなコストやリスクが伴う可能性があると結婚に対して構えてしまうからだ。たくさんの人と
付き合った経験がある人ならなおさらで、次付き合う人はもっと自分に合っているかもしれない、
前の人の方が良かった、など結婚からどんどん遠ざかってしまうのだ。
第 3 節 婚活ブームが起こった理由について
以上の理由により、結婚できない人が増加している。これらの結婚できない理由を乗り越えて結
婚するために婚活を積極的に行っていかなければいけない状態に陥っているのだ。
最初に述べたように、体を鍛える、料理教室に通う、エステに通う、結婚資金を貯めるために貯
金をすることも婚活に含むが、外見を磨くというのは、女性の理想が高くなっているという原因に
つながるし、結婚資金を貯めるというのは、経済的な原因を解消するためである。
婚活をしなければ、結婚できない時代に変化しつつある中、女性は「出産のリミット」が存在す
る。このリミットが来る前に結婚するためにも、婚活は必要とされているのだ。
最後に、結婚に対する理想と現実のデータを見て本稿を終えたい。また、社会人の9割は結婚願
望があるというデータがある。社会人の結婚願望率を図 8 に示す。
24
図 8 20 代の社会人の結婚願望率10(株式会社ネクスト, 2007)
図 8 を見ると、20 代社会人全体の中で「今すぐにでも結婚したい」と回答した人の割合は 12%
であった。
「2、3年以内に結婚したい」
「いつかは結婚したい」などの回答と合わせると、希望す
る時期に差はあっても 20 代社会人の 89%が結婚したいという意思を持っていることが分かる。ま
た、同調査では、20 代社会人女性の過半数にあたる 52%、20 代社会人男性のうち 62%が「現在付
き合っている異性はいない」と回答している。結婚に対する意識と実際の行動は必ずしも伴ってい
ない現状が見受けられる。
本稿では、社会背景や結婚に対する意識の変化、男女交際の形式の変化など、未婚率が上昇した
要因は様々あることを確認してきた。これらの要因は時代の変化と共に変化してきたものなので仕
方ないところもあると思われる。未婚率の上昇の対策として、結婚相手紹介所の増加が考えられて
いるが、結婚相手紹介所の増加で、たくさんの人を紹介できるようになり、これも交際機会の拡大
につながっていると思われる。
対策として発足した結婚相手紹介所も、婚活ブームを起こしている要因と、逆に未婚率を上昇さ
せている要因でもあるのであろう。
このように、結婚に至るまでは様々な困難があることにより、婚活ブームは起こったのではない
だろうか。
引用文献
中小企業庁 (編) 2006 『中小企業白書〈2006 年版』経済産業調査会
厚生労働省雇用均等・児童家庭局 2004 『尐子化に関する意識調査研究報告書』
株式会社ネクスト 2007 『不動産情報ポータルサイト HOME’S 調査』
http://www.next-group.jp/press/pdf/20070329.pdf
山田昌弘 1996 『結婚の社会学~未婚化・晩婚化は続くのか~』 丸善ライブラリー.
山田昌弘・白河桃子 2008 『
「婚活」時代』 ディスカヴァー・トゥエンティワン.
10調査概要は下記のとおり。
調査対象:株式会社毎日コミュニケーションズが運営する 20 代の若手ビジネスパーソン向け情報サイト『COBS ONLINE』(コブス
オンライン) (http://cobs.jp) に登録している全国の 20 代の社会人
調査手法:インターネット調査
有効回答数:1,164 人(男性 204 人、女性 960 人)
調査時期:2007 年 3 月 8 日(木)~2007 年 3 月 16 日(金)
25
第 4 章 うつ病の復職支援~ニート支援プログラムとの関連から~
佐藤圭祐
はじめに
昨今の経済不況の影響か、ニート、職場内うつ病など、労働市場を取り巻く環境での精神的な病
が増えていっている気がする。精神的な病の克服の仕方は人それぞれであって、万人共通の解決方
法は無い。そこで、それらの病にかかった人々が、後に社会復帰するまでの支援プログラムについ
て、研究していくことにした。特に本稿では、近年指摘されているニート(若年無業者)との関連
について述べていくことにする。
第 1 節 ニートとうつ病の概要
1-1 ニートとうつ病
若年無業者(15~34 歳の非労働力人口のうち家事も通学もしていない者)は,平成 21 年平均で
63 万人となり,前年に比べ1万人減尐となった(総務省統計局,2010)
。
フリーターの場合、定職には就いていないものの、非正規雇用という名目上、何かしらの「仕事」
というものをこなしている。これは労働力人口にあてはまり、就業者となる。しかし、ニートの場
合、非正規雇用にも当てはまらず、非労働力人口となる。つまり「仕事」というものをしていない
人達のことを指す。すなわち、働かない/働けないという選択肢をとっている人たちといえよう。
近年では、ニート状態の若者の中には、働かない/働けない理由として、精神的な病があげられ
る者が一定数いることが指摘されている。たとえば、社会経済生産性本部(2007)は、支援機関を
利用するニート状態の若者にアンケートを行い、精神科又は心療内科で治療を受けた経験がある者
は約 50%であったことを示している。
1-2 うつ病の定義、症状
日頃のストレスから、無気力、憂鬱な気分や不眠症、食欲低下などの症状を起こす精神疾患であ
る。職場内うつ病の場合、過労や職場の雰囲気に自分が馴染めないなどがある。几帳面、真面目で、
責任感が強い人がなりやすいとされている。
世界保健機関(WHO)の調査だと、世界人口の約3%(一億人以上)がうつ病と診断されてい
る。昔はうつ病に対する十分な理解があまり無かったため、
「怠け病」と呼ばれていた。
うつ病の主な精神症状としては以下の症状が挙げられる。
①憂鬱感
②億劫さ
③落ち込み
④意欲の低下
⑤死にたいと思う
身体的な症状としては以下の症状が起こりうる。
①睡眠障害
(不眠と過眠と両方の場合がある。不眠には、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害がある。
一般的には不眠がほとんどであるが、過眠にはひどい眠気のために 1 日中寝て過ごす事例もある。)
②食欲の低下
③便秘、下痢
26
④倦怠感
⑤頭痛・肩こり(一般の頭痛・肩こりとは微妙に異なる。)
このような事例を見ると、
「うつ病」という言葉通り、一般的な病という印象があり、同時に早期治
療を心がけることが大切である。
また、うつ病との症状が似ている病気の例として以下が挙げられる
①統合失調症
②パーソナリティー障害
③適忚障害
④物質依存(アルコールなど)
⑤不安障害(パニック障害など)
⑥身体的疾患とその治療薬による(ガン、内分泋異常、降圧薬などによる)
これらの病気は症状が似ているだけであって、治療法はうつ病のそれとは異なる。
1-3 誰がうつ病になりやすいのか
また、厚生労働省地域におけるうつ対策検討会(2004)は下記のように記している。
女性は男性の2倍程度、うつ病になりやすい。うつ病が女性に多いことは、世界的な傾向である。男女差の原
因としては、思春期における女性ホルモンの増加、妊娠・出産など女性に特有の危険因子や男女の社会的役割の
格差などが考えられている。また、うつ病は一般には若年層に高頻度にみられるが、うつ病の経験者は若年層と
中高年層の2つの年齢層に多く、中高年層にも心理的な負担がかかっている可能性がある(p3)。
個人的な見解になるが、筆者としては、うつ病は主に40歳代の男性がかかるようなイメージが
ある。理由として中年層の精神的変化があると思われる。生涯発達心理学的に、中年時期の男性は、
20歳代の青年期と同様に再び自分と向き合い、新たな自分を探し出す時期である。職場での立場
でも変化がみられるのは中年期である。ここで自分の存在意義、居場所、自分が本当に人生を通し
てやりたいこと等が見つからない場合、精神的に落ち着かなくなってうつになってしまうのではな
いのかもしれない。
1-4 ニートとうつ病の類似点
どちらとも世間から見ると「ココロの病」と見られているのかもしれない。
ニートはどちらかというと「社会が生み出した病気」
。つまり、やむを得ずニートになってしまっ
た人もいるわけで、病気と呼ぶものではないと思われる。雇用問題が激化していき、若者のとって
働きにくい社会へと変化してしまったことも要因のひとつであろう
また、職場内うつ病が原因でニートになったという人も数多く存在する。これらの人々は、社会
に出て働いてみたものの上手く社会に馴染めず、
もう働きたくないという一心からうつ病へとなり、
会社を辞めニートへとなっていった。うつ病は前述で40歳代が多いイメージと記したが、調べて
みると若者のうつ病も珍しくないのであろう。よってうつ病も「社会が生み出した病気」と分類さ
れてもおかしくないと思われる。
1-5 ニート、うつになりやすい人とは
前述のとおり、うつやニートになりやすい人というのは、大半は真面目かつ頑固な人が多い。ま
た、自分の理想、目標意識が高すぎて、自分の能力や体が付いていかないという人も、うつになり
27
やすい。
「自分はもっと頑張らなければならない」
「もっと良い職場に就きたいのに」といったよう
に、真面目に社会に貢献しようと思っている半面、
「こんなことも頑張れないなんて」
「こんな職場
にしか行けないなんて」というように、自己嫌悪になりやすい。自ら掲げた高い理想や目標に対し
ての、自分の能力の低さに絶望するからであろう。うつやニートにならないためにも、このような
息苦しい考え方をするよりは、自分の能力に見合った目標を掲げるなど、もう尐し柔軟に考えてい
くべきだと思われる。
第 2 節 支援プログラム
2-1 ニート支援プログラム
ニート支援機関で代表的なものは、地域若者サポートステーションと若者自立塾であろう。両者
の情報をまとめているのが、厚生労働省から委託を受けている若者自立支援中央センターである。
HP には以下のように書かれている。
「働く」ことに対する自信や意欲が不足している若者に対して、実際に仕事をしている職業人の体験談等を聴く
職業講話、職場や工場などの雰囲気を感じたり、実際の作業等を見学したり、体験することにより、
「働く」意
識を醸成し、向上させるためのワークショップ・職場見学会といった「気づき」
(成功体験の享受、自己に対す
る有用感の獲得、共同作業の有意性及びコミュニケーションの有効性への理解等)を促す体感事業を実施します。
また、就労経験のない若者や働く意欲が芽生え始めた若者に対して、まず「働く」体験をすることによって、気
づきや更なる意欲の向上を促すために、協力事業場等におけるごく短期間での就業体験事業や地域イベントの企
画立案・運営等を行う。短期間のトレーニングを数次に組み合わせることにより、自立支援プログラムの段階に
忚じた長期継続的なジョブトレーニングメニューとすることもあります。
ニート支援のメインとしては、相談、カウンセリング等であるようである。若者のメンタル面を
サポートし、一人一人の自立を支援する。これは大半のニートがディスコミュニケーション状態、
つまり他人とのコミュニケーション不足に起因する。家族や友達に相談できる相手がいない為に、
独りきりで自分の状況を考え、独りでふさぎ込んでしまう。ここから自己嫌悪も始まっていく。だ
からこそ上記のようなニート支援機関では、まずは相談者の話を聞いてあげるというところからニ
ート支援が始まる。相談に乗ることでその人の性格や考え方を知り、除々にメンタルケアを行って
いく。そして精神的にも安定していき、そこから更に「働く」という意識を深める為の支援プログ
ラムを各個人に適したもので遂行していく。
またNPO日本キャリアビジョン研究所11では、率先してフリーター、ニート向けの就職セミナ
ーを開催している。ニートのキャリアアップの為の支援に関してもこのような団体や機関は年々増
えていっている。このような団体では卖に「働く」ということを植えづける為のイベントだけでは
なく、食事会やスポーツ大会など、コミュニケーション能力を向上させるための一貫としてこのよ
うな場を設けている。そして若者に就業というものを身近に感じさせることで、若者自身も意識が
高くなっていく。そういった若者に対しても、今現在我々も行っている就職活動と同じくセミナー
などに足を運ぶ。また日本キャリアビジョン研究所自体もセミナーを開催して「社会人」となるま
で若者の支援を行っている。
2-2 ニート支援とキャリア自立
ニート支援の最大目標を正社員と定めた場合、個人のキャリア自立が重要となる(白五ら, 2009)
。
ここでいうキャリア自立とは、個人の一連の過去と未来をつないで人生に1つのまとまりを生み出
し、何らかの個人的および社会的な価値の実現をもたらすような遍歴を確立することをいう。フリ
11若年者のキャリア問題に取り組み、就職支援プログラム「阿佐ヶ谷塾」の開発や運営、ニートを生まない社会を実現するために、
親力の底上げと子供たちのキャリア学習・体験をお手伝いする「すぎなみ親塾」を定期開催しているボランティア機関。
28
ーターやニートの場合、正社員などの社会人に比べ、社会の要請に対する自己の適合性が社会人の
それとは異なっている。このことからニート、フリーターのキャリア自立は正社員とは違った状態
であるといえよう。
だからといってニート、
フリーターのキャリア自立が低いというわけではない。
また、ニートとは概要からして若者、青年のことを指しているが、
「大人ニート」というものも存
在する(cf 神山, 2008)
。これらの人々は下記の「職場内うつ」とは違う、云わば「失業者」であ
る。実際に就職活動を行い、就労を経験したうえで職を失いニートとなる。ちなみにニートは引き
こもりになりがちであるが、大人ニートの場合、あまり引きこもりという状態にはならない。過去
に就労をこなしてきたという余裕から、自分はニートではないと勘違いし、自分の今の状況を軽視
してニートを長期化し深刻化させているのである。
ちなみに大人ニートとは日本独自の兆候である。
このような大人ニートが現実を直視せず、淡々とニート生活していると「働かない大人」から「働
けない大人」
へと変わっていき、
最終的に仮に職場復帰してもまたすぐ失業または退職してしまい、
最終的に「職場内うつ」へと変わっていくのである。
2-3 うつ支援、復職支援
職場の同僚や上司、部下などは初期のうつ病に気づきやすい立場である。以前に比べて「ミスが
多くなった」とか「能率が悪くなった」という仕事上のことから、
「ふさぎ込みがちで言葉も尐ない」
といった普段の態度の変化に気づくこともある。特に昇進や配置転換、新しいプロジェクトの担当
になったとか、顧客とのトラブルがあった、大きなミスがあったなどの出来事のあとは要注意であ
る。
また、うつ病の方は、真面目で責任感が強いあまりに、ぎりぎりまで周囲に相談したりすること
ができず、ある日から突然、無断欠勤が続いたり、時には失踪してしまったりする例も存在する。
こうした変化に気づいた場合、
①医療機関の受診を勧める。
②職場の産業医、保健婦などに相談をする。
③仕事の質、量を調整して、本人の負担を減らす。
といった対忚が適切である。いずれにしても本人とも相談しながら、治療を進めていくことが必要
である。
2-4 うつの治療法
うつ病の認知療法を実践する場合によくとられているのが、7コラム法である。これは7段階で項
次治していこうというやり方である。
1 出来事・・・○月○日にストレスを感じたときの出来事を記入していく。
2 感情 そのときの感情の強さは、最悪を100%として何%だったかを記録する。例えば落ち込みは最悪の
ときよりも80%だった、不安は最悪よりも80%だった、焦りは60%だったなどというものです。
3 悪い方に考えたこと・・・そのときに浮かんだ考えを書く。
(例えば、このまま良くならないのではないか
など)
4 根拠・・・なぜ悪い方に考えたかの原因を書きます。
(例えば、薬を飲んでいるのに良くなっていないから)
以下は前向き的な考えを促す。
29
5 反論・・・他に前よりも良いという考え方はできないか。
(例えば、食欲は出てきたではないかなど)
6 合理的思考・・・5の反論の後に出てきた代わりの考えを書く。
(例えば、良くなった所もある)
7 結果・・・新しい感情の強さは最高を100%としたら、今何%だろうかと考える。
(例えば、落ち込みは
40%、不安は10%になった)
このような治療法が社会復帰したいうつ病患者にとっての支援プログラムの最初のステップであろ
う。
2-5 カウンセリングによるうつ病支援
うつ病は主にカウンセリングによるメンタルサポートを行う。休養期間を設け、場合によっては
服薬し、回復の兆候がみえてきたら、職場復帰へのリハビリ、再び働くということを実感させ、職
場復帰を目指す。たとえば、西日本新聞朝刊には以下のような記事が紹介されている。
「午前9時前、有明海への河口に面した不知火病院の「ストレスケアセンター・海の病棟」
。その一室にスー
ツ姿の男性が次々と姿を現した。
「おはようございます」
。あいさつを交わして入った部屋はオフィス風の造りで、ホワイトボードや机、3台の
パソコンが置かれていた。
「リ・スタート(再起動)プログラム」との呼称で昨年10月に開設された復職支援
専門デイケアのための部屋だ。
復職の見通しが立つまで回復したうつ病の人たちが対象で、期間は3カ月。仕事場に見立てたこの部屋に週2
-5日、自宅から“通勤”し、午前9時から6時間のリハビリテーションをする。
内容は、パソコンを使った表計算や読書など職種に忚じた仕事▽脳トレーニングやチームで行うスポーツなど
の作業療法▽仕事上の人間関係をイメージし、自分の病気について説明する術を練習する社会生活技能訓練-と
多岐にわたる。
参加者は「仲間やスタッフに積極的に話しかける」
「1日1時間はパソコンに向かう」といった目標を一週間
ごとに自分で立て、達成度や疲労度を自己評価する。それを月曜のミーティングで発表する。
」
「 うつ病は心の風邪と呼ばれる。だが不知火病院の徳永雄一郎院長は「実態は再発率が10年で7-8割と高
く、慢性化しがち。イメージほど社会復帰は簡卖ではない」と指摘する。
「企業側も、主治医から復職可能との
診断書が出ても『本当に大丈夫か』と疑うようになってきた」
。 継続して仕事に戻れるかどうかは、やる気や
元気ではなく、集中力など知的作業能力がどれほど回復したかが指標になる。
「うつの症状回復と復職は直結し
ない。だからこそ休養や服薬など、病気そのものの治療に加えて、社会復帰のためのプログラムが必要だ」と徳
永院長。
」
参照:2008 年 6 月 23 日西日本新聞「うつ」からの復職<下>浸透する支援プログラム
http://qnet.nishinippon.co.jp/medical/news/kyushu/post_598.shtml
うつは深刻な精神病であるがゆえに、
治療の際もうつ患者への配慮をきちんとしなければならない。
職場内で負った心の傷を癒し、再び社会復帰を試みることは難関である。また、ニートから派生し
たうつ病の場合、過去のトラウマなどと連携してカウンセリングを行わなければならないだろう。
大人ニートからうつ病へ発展するケースが多いと指摘した。一回就労を経験してからの挫折は自
己に対しても精神的ショックがとても大きい。あまり深く考えこまないことも大切であるが、あま
りに自分の状況を軽視することも「大人ニート」への発展の危険もある。考えすぎず考え無さすぎ
ず、この曖昧なラインを見定めることからも、治療の難しさを感じられる。
第3節 考察
30
ニート支援、職場内うつ支援と、同じようなプログラムで、若者や労働者を社会に導く。だが、
ひとえに支援といっても、同じやり方が何度も通用するわけでは無く、一人の若者の支援の解決に
はその人にだけのプログラムないし方法しかない。
「ココロ」という概念が不安定であるがゆえに、
全てのニート、うつ患者を一気に助けることは難しい。それでも一人でも多くの若者達を救うため
にも、このような支援プログラムの知識、支援機関の認知度を広めるべきだと自分は考える。
また、社会の雇用制度についても尐し改めるべきであると感じた。現代のような非正規雇用が増
えていくにつれ、若者の就職や中年期での転職や再就職の幅が狭まるのは事実である。実際、ニー
トになっている若者の大半は現代社会に対しマイナスイメージを持っている。若者の自立も重要な
要因であるが、その若者を受け入れる社会側としても、改善点はあるはずである。昨今の不況で正
社員確保が難しいと言われているが、正規社員枠の増加は景気回復の1つの手としても考えられる
のではないか。
引用文献・参考文献
神山新平 2008 『こどもニート、大人ニート―タイプ別脱出プログラム』 草思社.
厚生労働省地域におけるうつ対策検討会 2004 『うつ対策推進方策マニュアル~都道府県・市町
村職員のために~』
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/dl/s0126-5a.doc
社会経済生産性本部 2007 『ニートの状態にある若年者の実態及び支援策に関する調査研究報告
書』
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/06/h0628-1.html
白五利明・下村英雄・川崎友嗣・若松養亮・安達智子 2009 『フリーターの心理学―大卒者のキ
ャリア自立―』 世界思想社.
総務省統計局 2010 『労働力調査(基本集計)平成 21 年平均(速報)
』
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
参考 Link
地域若者サポートステーション
http://www.jiritsu-center.jp/ys-station
NPO日本キャリアビジョン研究所
http://yutosoken.com/2009/02/npo221.html
31
第 5 章 教職志望の学生が抱える進路決定に関する問題
豊嶋洋平
要旨
本論では「教員養成課程の学生は大学生活における意欲低下や進路未決定問題を抱えやすい傾向
にある」という仮説(仮説1)を元に先行研究から考察する。結果として仮説1は誤りであり、
「教
員養成課程の学生が進路決定時に抱える問題は、その進路決定の時期によって、眼に見えやすくな
っているのではないか」という新たな仮説(仮説2)を得るまでを書く。
はじめに
私自身の学部は教員養成課程ではないが、2年次まで教員免許取得のため卒業卖位にはカウント
されない授業を履修していた。高校時代に受験する学部を選択する際にも教員免許を取得し易いこ
とを判断材料の一つとしていた。しかし、実際に大学で教育学や教員の仕事の実際を学ぶうちに自
身の適性を疑問に感じたりと、
教職に対するモチベーションが下がっていった。
その後大学での様々
な授業などを通して自分の興味が明確になり、その実現は教職以外でも出来ると解ると、教職にこ
だわる必要は無いと感じた。大学入試時よりも職業や生き方に対する視野が広がり、他の職種と比
較するうちに無理に教職を目指すのを辞めたのである。
私個人の体験や友人関係の内からの発想になるが、似たような問題を抱える者は教職を志望する
学生に尐なからず存在するようである。このことから、教員養成課程の学生は大学生活における意
欲低下や進路未決定問題を抱えやすい傾向にあるのではないだろうかと思われた。特に教員養成課
程などであれば、大学入学時点という早い段階からある程度進路の希望が定まっている者が多いだ
ろう。それにも関わらず、なぜ大学生活における意欲低下や、大学卒業後の進路未決定といった問
題を抱えうるのだろうか。
文献調査の段階では教職課程の学生が進路決定の際にどのような困難を経験するのか、それは教職
課程独特のものなのか、など先行研究を参考に理解を深めていきたいと思う。
第 1 節 進路未決に関連した用語の定義
この節では、進路決定に関連した用語の定義を概観していこう。ここでは、進路決定者と発達的
成熟を取り上げることにする。
1-1 進路未決定者とは
進路未決定者は「Indecisive 型」と「Undecided 型」の二つに分類できるとされている。Indecisive
型は決定できない者で、気質的に高い不安傾向をもつため、未決定状態が慢性的になると考えられ
る。Undecided 型は未だ決定していない者であり、主に情報が不足している者と考えられている(川
畑・今林,2003 参照)
。
広瀬(2008)によると、不安および不決断という二つの特性から「indecisive 型」をみた場合、
これらは精神医学および臨床心理学における概念で言うところの強迫との関連が深く、脅迫パーソ
ナリティの特徴である項忚性が低く、規律遵守も高い者ほど(すなわち「硬い」人ほど)進路選択
に関する取り組みが全般的に低く、規律に従う傾向が強いほど進路への取り組みに自信がないこと
が示されている。何が正しいのかという「答え」が一通りでないところからくる逡巡や、
「まだ見落
としている点があり、十分に検討しつくしていないかもしれない」といった思い(疑惑癖、完全主
義)などから、決定に慎重を期するが故に卒業というリミットに間に合わないという、本末転倒の
事態に陥ることを推測している。これは若松(2001)の Indecisive 型は拡散的に新たな進路の選択
肢を求めるという実験結果の説明であり、川畑・今林(2003)は自我同一性の観点から、自己イメ
ージの捉え方が希薄な状態と評している。
32
1-2 発達的熟達とは
進路未決定者に関して、これまでの研究では主に Indecisive 型を特別な処遇を要するとして主に
取り上げられてきたが、教員養成課程の学生の進路未決定問題を「教職の想定(進路の選択肢とし
て教職を想定しているか否か)」を要因として加味した分析を行った若松(2001,2005)は
Undecided 型も情報提供だけでは不十分であり、何らかのガイダンスが不可欠と述べている。若松
(2005)は意思決定への「適忚的熟達」
(波多野・稲垣,1983)という観点が決定・未決定の両者の
相違として有効な説明概念になるだろうと述べている。適忚的熟達とは知識の習得と共に、自己を
モニタリングすることによって達成されていない部分を調整しながら、適切な評価基準に自らを合
わせて行く事である。これは川畑,今林(2003)が自我同一性の確立に必要とした時間的展望を持
つのと同じ作業と言えるだろう。時間的展望とは様々な経験を通じて過去を振り返り、現在を見つ
め、将来を予想する心理的過程であり、
「ある与えられた時に存在する個人の心理学的未来および心
理学的過去の見解の総体」
(Lewin,1951)である。
(都筑,1999)
。
この発達的熟達の不足には、進学指導主体の進路指導や、成績に基づく進学先の決定が一つの原因
となっているのではないだろうかと私は考える。広瀬(2008)は「学校」から「学校」への移行が、
主に学力の偏差値によって希望する進路への合格率がある程度予測でき、合格するための方略は比
較的卖一的で明確なものであったのに対し、
「学校」から「社会」への移行、すなわち職業選択にお
いては、潜在的な選択肢の数およびそれぞれの選択肢にまつわる情報量が膨大であり、個人の特性
にも将来の進路の選択肢にも不確実さがつきまとい、何をどのように努力すれば、どの程度確実に
その職業に就けるのかといったことが曖昧であると述べている。このような状況に置かれて、初め
て自らの適忚的熟達の不足に気がつく学生が尐なからずいるのではないだろうか。
第 2 節 教員養成課程の進路決定とは
若松(2005)が注目した、教職の想定(進路として教職を視野に入れているという事)は、進路
決定における困難さに関する 4 つの因子(興味・方法・障害・実現)と関連し、決定者、未決定者
ともに、想定の有無で困難さが大きく変化すると結論された。しかし、進路の決定には教員課程で
あることに関係性は見られず、今回見た範囲では仮説1は誤りであると結論した(図1)
。
図1決定・未決定×教職の想定別に困難さに悩まされる程度を比較
33
それではなぜ教員過程の学生に進路選択に関する問題が目立つのだろうか。早稲田大学(2006)
の調べによると同大学の4年生の約七割が大学入学後に卒業後の進路決定をしていたという。しか
し、
教育学部では中学校卒業までに教員を目指し入学した者の割合が他の学部よりも多いという
(図
2, 3)
。
図 2 進路を考え始めたのはいつくらいからですか? <学年別>
34
図 3 進路を考え始めたのはいつくらいからですか? <所属箇所別>
また、奥田(1997)は男子大学生のアパシー(無気力)傾向と強迫との関連を検討し、確認強迫
と過剰な適忚性がアパシーを形成している可能性を示唆している。indecisive 型の学生が教師に対
する不適忚を感じた時点で、休学や留年、退学する流れを裏付けているのではないだろうか。この
ようなことから考えると、教員養成課程の教育学部の様な目的養成学部生の一部は、一般の大学生
よりも職業選択に関する問題に早くから直面する可能性が高いと言えるのではないだろうか。尐な
くとも教職を想定しない場合の進路選択の柔軟さに欠けることは確かである。
以上より、本論では、下記の仮説を提唱したい。
適忚的熟達が不十分な高校生の時点での進路決定がその後の大学生活にマイナス面での影響を与
えることは大いに考えられる。つまり、教員養成課程の学生が進路決定時に抱える問題は、その進
路決定の時期によって、眼に見えやすくなっているのではないだろうか(仮説2)
。
将来の目標を早いうちから立て、それに向かって努力することを否定するわけではない。目標設
定ともに自己理解と選択肢の幅を広げる教育も行うべきであろう。移行困難な若者の共通点として
35
工藤(2005)は以下の 5 つをあげている。
①働くことに希望が持てない
②適職探し、やりたいこと探し
③根拠の無い自信
④移行困難な若者の高齢化
⑤心のミスマッチ
田澤(2006)はこれらを大学生における進路選択問題にも適用可能とし、特に③に関しては自己
理解の深化によって、就職活動をしてから希望業種を変える者が存在することを指摘している。こ
のことを上述した適忚的熟達の観点から考察してみよう。
「根拠の無い自信」の原因が自らの問題点
を理解していない状態、つまり適忚的熟達が不十分な状態とすると、教育実習というある種の就職
活動の後に、学生の多くが自己の適正に疑問を感じたり、逆により一層教職に就くことを望んだり
と影響を受けることもあるであろう。大学4年生の約 7 割が入学後に進路決定をしていたという例
を鑑みても、学力のみでない適忚的熟達を促せるような教育が必要だろう。
第 3 節 キャリア教育
この節では、日本キャリア教育学会(2009)をもとに述べる。
適忚的な熟達を促せるような教育に類似した概念としてキャリア教育があげられるであろう。最後
にこれを概観しておこう。
現在文部科学省では、適忚的熟達を「生きる力」と称しその発達を促す取り組みを行っている。
子どもたちが「生きる力」を身に付け、社会の激しい変化に流されることなく、それぞれが直面す
るであろう様々な課題に柔軟にかつたくましく対忚し、社会人、職業人として自立していくことが
できるようにする教育の推進が強く求められているとしている。文部科学省ではこの「生きる力」
の要素として大きく・人間関係形成能力・情報活用能力・将来設計能力・意思決定能力の4つを挙
げており(図4)
、そしてそれらを育てる教育としてキャリア教育を推進している。文部科学省が平
成 16 年 1 月に公表した「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」の中で、
キャリア教育は「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形
成していくために必要な意欲・態度を育てる教育」端的には、
「児童生徒一人一人の勤労観、職業観
を育てる教育」と定義されている。
36
図表4 キャリア教育の推進
図4 キャリア教育の推進(文部科学省, 2006)
第 4 節 まとめ
現在文部科学省は、第三者評価に基づく競争原理により競争的環境をいっそう醸成し、国公私を
通じた大学間の競い合いがより活発に行われることを目的とした、グローバル COE プログラムと
いった取り組みを始めている。これは実質的に国による大学の格付けが始まったと取れる。また尐
子化の影響を受け、大学の倒産が現実的な問題として立ち上がってきており、各大学は生き残りを
賭けて特色ある大学作りに取り組んでいる。
しかし、これは見方を変えれば教育に対する偏差値以外での評価が始まったとも言える。学生にと
っても、大学で何をしたかが一層問われる時代が来たといって良いだろう。企業が即戦力を求める
37
風潮を汲んで、今後大学の中には学生確保のため、社会人養成機関としての機能を強めて行くもの
も増えてゆくと予想される。
しかし、キャリア教育の目的が職業訓練でなく「生きる力」の育成であるならば、大学四年間のみ
でその目的が達成できるものではない。いずれにせよ現在大学が持つモラトリアム期間の側面は減
尐し、より早い時期からの適忚的熟達が求められるようになる。大学全入時代を迎えようとする今
だからこそ、早期からのキャリア教育が必要となってくるのではないだろうか。
引用文献
川畑秀明・今林俊一 2003 大学生における自我同一性地位と進路決定 鹿児島大学教育学部教育
実践研究紀要, 13, 39-44.
工藤啓 2005 実践者から見た若者支援の現状と課題 労働政策研究・研修機構 若者就業支援の現
状と課題―イギリスにおける支援の展開と日本の若者の実態分析から― 労働政策研究報告書,
35, 209-223.
広瀬香織 2008 『大学生における強迫傾向(生真面目さ)と進路未決定の関連について -学生支援
の視点から-』 四天王寺大学紀要, 47, 75-88.
文部科学省 2004 『キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書~児童生徒一
人一人の勤労観,職業観を育てるために~』
文部科学省 2006 『小学校・中学校・高等学校 キャリア教育推進の手引 -児童生徒一人一人の
勤労観、職業観を育てるために-』
日本キャリア教育学会(編) 2008 『キャリア教育概論』 東洋館出版社.
奥田剛 1997 『男子大学生のアパシー傾向と適忚強迫的性格』 日本青年心理学会大会発表論文
集, 5, 27-28.
田澤実 2006 『大学生における進路未決定とキャリア形成支援の課題~職業生活への移行困難な
若者との対比から~』 大学院研究年報(文学研究科篇:中央大学), 35, 141-152 都筑学 1999
『大学生の時間的展望―構造モデルの心理学的検討』 中央大学出版部.
若松養亮 2001 『大学生の進路未決定者が抱える困難さについて : 教員養成学部の学生を対象
に』 教育心理学研究, 49(2), 209-218.
若松養亮 2005 『教員養成学部の進路未決定者が有する困難さの特質-類型化と教職志望による
差異の分析を通して-』 青年心理学研究, 17, 43-56.
参考文献
太田伸幸・甲村和三・児嶋文寿 2008 『大学適忚感の変化に関する一考察--教職課程履修生を対
象とした縦断調査より』 愛知工業大学研究報告, 43, 1-10.
参考URL
早稲田大学学生部 2006 年度 第 25 回 学生生活調査報告書
http://www.waseda.jp/student/research/2006/index.html
文部科学省―21 世紀 COE プログラム
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/coe/main6_a3.htm
文部科学省―進路指導・キャリア教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/index.htm
38
第 6 章 貧困が子どもに与える影響
中島杏奈
はじめに
近年、どれだけ一生懸命働いても豊かになれず、働いても報われない「ワーキングプア」の人々
の存在が、社会問題としてクローズアップされている。今の日本には、年収が200万円以下のワ
ーキングプアが約550万人も存在し、中には年間の所定内給与が100万円に満たない人までい
るのだ。
現在の日本におけるワーキングプアは約400万世帯。わたしたちが「貧困」から想像するのは、
住むところも着るものもなく、食べる物もないというような状態であろう。悲しいことに、世界に
は確かにそういう状態の人々もいる。しかし日本で今問題となっている貧困は、明日の命も危うい
というような貧困ではない。働きたくても仕事がない、どんなに働いても豊かになれないという「貧
困」である。
こうしてワーキングプアについて考えてゆく中で、
私が最も衝撃を受けたのは、
「ワーキングプア」
の親のもとに生まれ育った子どもの存在である。
子どもとは当然、親に依存して生きている。
「子どもの貧困」の著者である阿部彩氏は、
「大人の
世界で「格差」が存在するのであれば、大人の所得に依存している子どもの間にも、当然のことな
がら「格差」が生じる。
」と述べている。
子どもは親を選べないのに、どのような親のもとに生まれるか・育つかによって、子どもの生活
や将来が大きく左右されてしまうのだ。そのようなことがあっていいのだろうか。子どもの人生や
可能性を、親や社会のしくみによって左右してしまっていいのだろうか。弱者のもとに生まれ育っ
たことで、その子まで弱者になってしまう、そうした現在の日本に疑問を抱かずにはいられない。
本論の構成
まず、第 1 節では貧困の定義、次に、第 2 節では日本の子どもの貧困率、第 3 節では学校生活・
学力・進学の問題について述べていきたい。
第 1 節 日本の貧困
1-1 貧困の定義
まず、OECDなどで一般的に使われる子どもの貧困の定義について述べていきたい。先に述べ
たように、今日日本が直面している貧困問題とは、住むところも着るものもなく、食べる物もない
というような貧困ではない。阿部(2008)によれば、貧困に関する概念には、
「絶対的貧困」と「相
対的貧困」という二つの概念がある。
まず「絶対的貧困」とは、人々が生活するために必要なものは、食料や医療など、その社会全体
の生活レベルに関係なく決められるものであり、それが欠けている状態を示す。イギリスの貧困研
究者シーボーム・ロウントリーは、貧困を「労働能力を維持するための、最低限」の「食費」を基
とする方法で定義したため、
「衣食住」
を最低限満たす程度の生活水準以下と解釈されることが多い。
一方、
「相対的貧困」とは、人々がある社会の中で生活するためには、その社会の「通常」の生活
レベルから一定距離以内の生活レベルが必要であるという考え方に基づく。つまり、人として社会
に認められる最低限の生活水準は、その社会における「通常」から、それほど離れていないことが
必要であり、それ以下の生活を「貧困」と定義しているのである。なぜなら、人が社会の一員とし
て生きていくためには、働いたり、結婚したり、人と交流したりすることが可能でなければならず、
そのためには、たとえば、ただ卖に寒さをしのぐだけの衣服ではなく、人前にでて恥ずかしくない
程度の衣服が必要であろうし、
電話などの通信手段や職場に行くための交通費なども必要であろう。
これらの「費用」は、その社会の「通常」の生活レベルで決定されているのである。
39
OECDや欧州連合などの国際機関で先進諸国の貧困を議論するときに使われる貧困基準も、日
本の生活保護法によって決められている生活保護基準も、
「相対的貧困」の概念を用いられている。
相対的貧困の概念が今、日本の生活保護基準などにも用いられているということは、現に社会の
「通常」から、それほど離れていない生活以下の生活を送っている人々が存在するということであ
る。私たちが当然のことのように考えていること、例えば働くこと、結婚すること、他者と交流す
ること等が、当たり前のこととしてできない人々がいるということである。そしてその社会の「通
常」から離れた生活を送る人の子どもも当然、貧困状態にあるということである。
1-2 日本の子どもの貧困率
2006 年 7 月、経済協力開発機構(OECD)が、
「対日経済審査報告書」にて、日本の相対的貧
困率が、OECD諸国の中でアメリカに次いで第二位であると報告した。
OECDの報告書には以下の三点が記されていた。
①日本の子どもの貧困率が上昇しつつあり、2000 年には 14%となった
②この数値が、OECD諸国の平均に比べて高い
③母子家庭の貧困率が突出して高く、とくに母親が働いている母子世帯の貧困率が高い
国別の子どもの貧困率を図 1 に示す。日本の子どもの貧困率は、アメリカ、イギリス、カナダ、
およびイタリアに比べると低いが、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなどの北欧諸国、ド
イツ、フランスなど大陸ヨーロッパ諸国、日本以外のアジア地域の台湾などと比較すると高い水準
にある。すなわち、日本は子どもの相対的貧困が、他の先進諸国と比較してもかなり大きいほうに
位置していることがわかる。
OECD平均
アメリカ
イタリア
ニュージーランド
イギリス
アイルランド
ポルトガル
日本
カナダ
ドイツ
オーストラリア
オランダ
フランス
チェコ
フィンランド
ベルギー
スウェーデン
ノルウェー
デンマーク
0
5
10
15
図1 子どもの貧困率 (OECD, 2005)
40
20
また、厚生労働省が行っている「国民生活基礎調査」の大調査年を使って、1990 年から 2004 年
にかけての貧困率を年齢層別に示したものによると、日本社会の中で一番、貧困となる割合が大き
いのは高齢者であり、その貧困率は 20~21%と高い数値で推移している。一番、貧困となる割合が
低いのは中年層であり、11~13%となっている。20 歳未満の子どもの貧困率は、最新の 2004 年の
データでは、14.7%である。つまり、約 7 人に 1 人の子どもは貧困状態にあるということである。
まず、2004 年の「国民生活基礎調査」の世帯別貧困率を表 1 に示す。子どもの約 63%が両親と
子どものみの核家族世帯、29%が三世代世帯、約 4%が母子世帯、1%弱が父子世帯、その他の世帯
が約 3%となっている。
これらの世帯タイプ別の貧困率をみると、母子世帯の貧困率が 66%と突出して高い。三世代世帯
と両親と子どものみの核家族世帯は、11%と低い数値であり、この2つの世帯タイプと、母子世帯
との間に大きな隔たりがあるのが特徴的である。母子世帯の貧困率は、OECDやほかのデータを
用いた推計においても、60~70%の間で推移しており、母子世帯に育つ子どもの半数以上が貧困状
況にあることが分かる。
表1 世帯別貧困率
構成比(%) 貧困率(%)
両親と子のみの世帯
63.2
11
三世代世帯
28.5
11
母子世帯 *1
4.1
66
父子世帯 *1
0.6
19
高齢者世帯 *2
―
0.1
その他の世帯
3.4
29
*1 親1人と20歳未満の子のみの世帯
*2 高齢者世帯は標本数が15と少ないため。統計的に有意な貧困率の推計は不可
次に、年度別、年齢層別の貧困率を図 2 に示す。2004 年のデータでは、12~14 歳と、15~17
歳の貧困率が一番高くなっている。その1つの理由としては、子どもの年齢が高いほど親の年齢も
高く、通常所得格差は年齢とともに上昇するという事実があるからと考えられている。つまり、0
~2 歳の子を持つ親同士よりも、18~20 歳の子を持つ親同士のほうが、所得分布が偏っており、貧
困である世帯も多いということである。
もう1つ懸念されるのが、0~2 歳の子どもの貧困率が急増していることである。0~2 歳の子ど
もが社会全体からみても貧困である割合が増加しているだけではなく、同年齢のほかの子どもに比
べても、
「貧困」である割合が増加しているとうことである。
17
16
15
14
13
12
11
10
9
8
1998
2001
2004
0~2
3~5
6~8
9~11
12~14 15~17 18~20
図 2 年度別、年齢層別の貧困率
41
子どもの年齢が高くなるほど貧困率が高くなるということは納得できる。子どもが大きくなるに
したがって、こどもにかかる学費や教育費も増えるし、正規雇用の親であれば年齢が上昇するに従
ってある程度昇格もし、昇給も望めるであろうが、ワーキングプアの人たちの多くが非正規雇用と
して働いており、非正規雇用の人たちには、ほとんどの場合、昇格もなければ昇給もないのだ。だ
から、子どもが大きくなって、教育費等にかかる費用
は増えても、親の収入は増えないために貧困率が高くなるということであると思う。
しかし 0~2 歳の子どもの貧困率が上がっているとはどういうことであろうか。子どもが生まれる
前から、親が貧困状態にあるということであろうか。近年は、晩婚化・非婚化・尐子化などが叫ば
れているが、こうしてワーキングプアの親から生まれる子どもがいる一方、自分がワーキングプア
であるために、子どもを持つことをためらう、持つことを諦める人たちも多くいるのではないかと
思う。
第 2 節 子どもの貧困
2-1 子育てと所得の問題
ワーキングプアの親のもとに育つということ、貧困の中で育つということは、実際に子どもにど
ういった影響を及ぼしているのだろうか。
まず、子育てと所得の関係について阿部(2008)をもとに述べていきたい。
松本伊智朗札幌学院大学教授らが行った調査により、年収ごとの子どもの生活を表 2 に示す。
「休
日に子どもと十分に遊んでいる」と答えた親の比率は、年収 1000 万円以上の親では 38.7%、年収
200 万円以下の親では 26.8%である。
「子どものことでの相談相手が家族の中にいない」とした親
は、年収 200 万円以下では 19.7%であるのに対し、年収 700 万円以上では 4.7%、1000 万円以上
では 0%である。
「病気や事故などの際、子どもの面倒を見てくれる人がいない」とする親も、200
万円以下だと 16.7%、1000 万円以上だと 9.4%である。
このように親の年収によって、子育ての環境は大きく異なっており、低所得の世帯に子育てに困
難をかかえる親が偏っていることは疑いの余地がないのである。
表 2 年収ごとの子どもの生活
年収(円)
~200万
~300万
~400万
~500万
~600万
~700万
~1000万
1000万~
ん休
で日
いに
る子
ど
も
と
十
分
に
遊
26.8
31.7
37.0
30.3
31.3
27.6
27.6
38.7
ンこ
プの
や一
旅年
行間
に、
い家
っ族
たで
キ
ャ
59.2
63.0
73.8
75.2
83.3
88.8
88.8
90.3
と学
を校
よの
く先
話生
すと
子
ど
も
の
こ
30.1
41.5
36.0
35.6
38.2
39.6
39.6
38.7
42
手子
がど
家も
族の
のこ
中と
にで
いの
な相
い談
相
19.7
14.8
8.6
6.9
4.7
4.7
4.7
0
手子
がど
家も
族の
のこ
外と
にで
いの
な相
い談
相
19.7
15.3
11.0
8.6
16.8
16.8
16.8
6.3
人ど病
がも気
いのや
な面事
い倒故
をな
見ど
ての
く際
れ、
る子
16.7
22.6
10.3
17.5
13.0
13.0
13.0
9.4
2-2 貧困の中で育つということ(3 つの問題)
次に、阿部(2008)をもとに、貧困の中で育つことの問題について述べていきたい。
第一に、
「貧困と学力」の関係という問題がある。OECDが年ごとに、世界中の 15 歳の子ども
を対象に数学、科学、読解力の共通テストを施し、国々の教育の達成状態を調べる「学力到達度調
査」によると、父親と母親の学歴と子どもの学力の関係を見ると、その差は歴然であった。科学も、
読解力も数学も、父母の学歴が高いほどに高くなっていた。しかも、その格差は拡大傾向にあると
いう。また、父親と母親の職業上の地位を「国際標準職業分類」によって分類し、
「下」
「中の下」
「中の上」
「上」の4つの段階に分けて行うPISA調査によると、親の社会経済階層によっても、
子どもの学力の平均点は大きく異なる。特に気になるのが、
「下」の階層に属する子どもたちであっ
た。
「中の下」と「中の上」の差はさほど大きくなく、
「上」はやや突出しているものの、それと同
じくらい「中」から離れているのが「下」であった。私立中学校に通う子どもの割合は約7%であ
るので、
「下」
「中の下」
「中の上」はほぼ同じで、
「上」だけが突出しているのであれば、
「上」には、
いわゆる私立の「受験校」に通っている「エリート」が多く含まれているからとも解釈できるであ
ろう。しかし、
「下」の子どもたちと「中の下」の子どもたちは、ほぼ同じように公立の中学校に通
っていると考えられる中で、この格差が生じているのである。
第二に、
「貧困と健康」の関係の問題である。日本は、
「国民皆保険」を社会保障制度の基本的な
理念として掲げており、すべての国民が健康保険にカバーされていることを誇りとしてきた。もち
ろん、子どもも例外ではない。しかし、国民健康保険は世帯を卖位として加入するため、未加入の
世帯内に子どもがいれば、自ずと、その子どもたちも無保険状態となる。近年、国民健康保険の保
険料の滞納が増加しており、問題となっている。滞納が続くと保険証が取り上げられ、
「被保険者資
格証明書」が発行される。証明書では医療費はいったん全額負担となる。大阪社会保障推進協議会
の調査によると、
「無保険」状態の中学生以下の子どもは大阪府内で尐なくとも 1720 人、横浜市の
社会保障推進協議会は、同市内では資格証明書をもつ小中学生が 3692 人、全体の 1.3%であると報
告した。子どもが育つ家庭の経済状況によって、子どもの健康に差が出てしまう可能性は日本にお
いてもおこっている可能性が高い。実際に子どもの健康と子どもの属する家庭経済状況の関連を示
すデータは、日本では存在しないが、カナダの研究者によると、低所得層と高所得層の子どもの健
康の格差は確かに存在し、しかも格差は子どもの年齢が上がるにつれて拡大すると分析している。
第三に、
「貧困と虐待」の関係である。東京都北児童相談所児童福祉司の川松亮氏によれば、子ど
もの虐待と貧困の間には統計調査に裏付けられる相関関係がある。
2002 年度に子ども家庭総合研究
所が行った調査では、三都道府県 17 児童相談所で「児童虐待」として保護された 501 のケースに
おける家庭の状況を分析した結果、
「生活保護世帯」が 19.4%、
「市長村民税非課税」
「所得税非課
税」世帯が合わせて26%であった。合わせると半数近くになり、日本全体の有子世帯に比べると、
低所得の世帯に偏っていることがわかる。世帯タイプ別には、母子世帯が 30.5%、父子世帯が 5.8%、
母子と内縁の夫の世帯が 9.9%と、ここでもひとり親世帯の割合が多い。
「虐待種別」では、ひとり
親世帯ではネグレクトが多い傾向にあり、家計の担い手であることと育児の両立が困難であること
が想像される。湯浅(2008)が引用しているリーロイ・H・ペルトン氏によると、アメリカの児童
虐待研究の蓄積を踏まえ、
「20年以上にわたる調査や研究を経ても、児童虐待やネグレクトが強く
貧困や低収入に結びついているという真実を越える、児童虐待やネグレクトに関する真実はひとつ
もない」と断言している。 また、東京都福祉保健局(2005)によれば、ケースを扱った担当者が、
児童虐待につながったと思われる家庭の状況について複数回答で聞いたものによると、
「孤立」
や
「育
児疲れ」が、虐待の原因として着目されることが多いが、一番多い回答は「ひとり親家庭」と「経
済的困難」であり、一位に「育児疲れ」とした場合においても、
「経済的困難」が複合的な状況とし
て挙げられている。
2-3 2-2 に対する考察
上述した 3 つの問題について考察を述べる。
43
学力については、親の学歴が高いほど、親自身が子どもにも同じだけの教育を受けさせてやりた
いと考えるだろうし、学歴が高いほど、収入の高い仕事に就いている可能性が高いということが安
易に想像できる。高学歴の親は、子どもにも高い教育を受けさせ、中核的労働者とさせるべく、子
どもが小さいうちから、熱心に教育するであろう。しかし、低学歴で収入の低い仕事に就いている
親の場合、日々の暮らしに追われ、子どもに教育費をかけることができず、その結果子どもも親と
同じように、将来低収入の仕事に就く可能性が高まるのではないかと思う。
また健康に関しては、保険料滞納により医療費が自己負担となれば、たとえ具合が悪くても、病
院にいくことをためらってしまうかもしれない。健康であることが何よりも基本であるのに、ワー
キングプアの親のもとに生まれ育つことによって、健康にも大きな影響を及ぼす可能性があると言
えるであろう。
虐待に関しては、高収入な男性と結婚した専業主婦が育児ノイローゼになって行うものがときど
き報道されるが、現実には、仕事がない、遊ぶ金がないといった貧困の中で、子どもへの暴力・遺
棄が行われるケースが多いといい、貧困の中で暮らす親が、お金もない、育児について相談できる
人もいないという中で、ネグレクトなどにはしってしまうというのは悲しい現実である。
第 3 節 学校生活・学力・進学の問題
この節では、湯澤ら(2009)をもとに述べていきたい。
第 2 節では、貧困の中で育つことの問題について、
「貧困と学力」
「貧困と健康」
「貧困と虐待」
の3つにわけて述べてきたが、わたしが特に注目したいのは「貧困と学力」の問題、とりわけ貧困
家庭に育つ子どもが、学校生活・習い事・進学・就職などの際に抱える問題や困難についてである。
貧困家庭に育つことで、学校の諸経費ゆえに修学旅行その他の活動に参加できず、クラブやおけ
いこごとの月謝ゆえにスポーツや文化活動に参加できず、塾や予備校の月謝ゆえに学力形成の機会
が限定され、学力不足や授業料ゆえに高校進学の道が閉ざされ、高校卒業資格がないゆえに就職の
道が閉ざされることになる子どもたちがいる。
3-1 給食費と修学旅行費
近年、小中学校では、給食費や修学旅行等の積立金の滞る家庭が増えている。2006 年 2 月の文
部科学省の調査によると、就学援助を受けている子ども数は 1995 年度の 77 万人から、2004 年度
には、134 万人と急増している。給食費や修学旅行費・学用品費等として補助されるはずのお金が
生活費に消えてしまい、
修学旅行にいけない子もいる。
ケガをした生徒を病院に連れて行こうにも、
保険証がなかったり失効していることもある。地方行政では、食事や医療といった生存権ラインに
ついても、支払い能力がなければすぐにカットする方針が強行され始めた。
まず、給食費について見てみると、小学校1年生の給食は一食 270 円。給食を 1 年に 205 食食べ
るので、合計で 55,350 円となる。これを 10 回に分けて集金する。また、中学校 1 年生の給食は一
食 310 円。205 食で 63,550 円である。中学校も小学校と同様、10 回に分けて集金する。子どもを
持つ若年世帯にとって、月額 3000 円~5000 円の給食費はかなりの負担となる。
「食べたのに払わ
ない親」
「規範意識にかけた親」バッシングが映像で流され続ける状況は、乏しい家計から給食費の
捻出に苦しんでいる保護者だけでなく、子どもたちにも辛い思いをさせるのではないだろうか。給
食費の未納・督促通知などの、学校から保護者への「お知らせ」
「手紙」は通常、担任を経由して、
子どもたちが持ち帰る。長野県のある中学校の話では、給食を食べない子がいて調べてみると、母
子家庭で給食費を滞納していた。その子は給食費の督促通知を直接担任から渡され読んでしまい、
切なくて給食が食べられなくなってしまったのだという。
大阪府下の多くの中学校には給食がなく、
「経済的に苦しい仮定では弁当が用意できず、
昼食時間にすっと教室からいなくなる子どもがいる」
。
東京・足立区では「夏休みになると体重が減る子がいる。行事や試験等で給食がないと、コンビに
弁当や菓子パンの子もいるけれども、昼食を食べられない子がいる」という教職員組合からの驚く
べき報告がある。
44
また、就職旅行費については、小学校では、遠足や社会見学、修学旅行のための積立金が年間約
12,000 円、中学校では修学旅行や卒業関係のための積立金が年間約 36,000 円である。ある小学校
で、6 年生の女子生徒のお母さんは、正社員からパートに切り替えられてしまったために、娘の修
学旅行の 2 週間ほど前に、
「修学旅行の積立金は、毎年かなり余って後で返してくると聞いている。
家では修学旅行に持たせる小遣いや旅行かばんを買ってやることもできない状況なので、余る分を
先にもらえないか」と相談にきた。子どもが楽しみにしている修学旅行にはどうしても行かせてあ
げたいが、金銭的に余裕がないという家庭が確かにある。
毎日の給食や学校行事を、当たり前のこととしてできない家庭・子どもたちが今、日本には確か
に存在するのだ。給食費を払えないという切なさから給食を食べられない子、みんなが参加する修
学旅行に参加できない子、そんな子どもたちを放っておいていいのだろうか。子どもたちにそんな
惨めな思いをさせていいのだろうか。
3-2 クラブ活動にかかる費用
ここではクラブ活動にかかる費用について述べていきたい。
中学生になると多くの生徒がクラブに参加するようになる。しかしそのクラブ活動にも多額のお
金が必要になる。以下にクラブ活動にかかる費用の例を示す(表 3)
。
新入生の中には「お金のいらない部活」に入りたいという生徒もいれば、野球部やサッカー部で
は、ユニフォーム代を払えずにいる生徒、バレーボールシューズが買えないので辞めたいという生
徒もいる。また、
「交通費が出せないので、練習試合を自転車で行けるところでやってほしい」とい
う保護者や生徒もいるという。
中学校生活において、部活動やクラブ活動で学ぶことは実に多い。上下関係やチームワーク、そ
して努力して何かを成し遂げる経験である。しかし、貧困家庭に生まれ育ったことによって、それ
らの経験をも制限されたり、支障をきたしたりするというのである。
3-3 塾の月謝が出せない
近年、高校受験を突破すべく多くの中学生が塾に通い、大学受験を突破すべく多くの高校生が予
備校に通うようになった。特に中学生にいたっては、塾にいっていない生徒の方が珍しいといって
も過言ではない。高校進学率は 97%にも及び、大学進学率についても 50%を超え、大学全入時代
を間近に控えている。
しかしそんな中でも、貧困家庭に育つ子どもにとって、塾に通うということはとても困難なことで
ある。毎日の生活が苦しい、給食費や修学旅行費を出せない、クラブ参加費を出せないという状況
の中で、塾になど通えるはずがないのである。受験競争は相変わらず過熱する中で、塾や予備校に
は常に「カネ」が付きまとう。貧困家庭の子どもは塾に通うことができず、そのため学力が形成で
きず、受験競争に勝ち残れないという可能性もある。 貧困であるがゆえに学力形成の機会が奪わ
れ、受験にも不利な状況をつくってしまう。このことが、その後の進路や就職にも大きく影響して
いるということは疑いの余地もないのである。
45
表 3 クラブ活動にかかる費用
クラブ名
入部時の負担
バドミントン
シューズ
4000~5000 円
ラケット
4000 円~
ユニフォーム上着 5000~6000 円
サッカー
スパイク
7000~8000 円
ユニフォーム
10,000 円
バスケットボール シューズ
5000~10,000 円
ユニフォーム2枚
10,000 円
バレーボール
シューズ
5000 円~
サポーター
2000 円
卓球
ラケット
1000~10,000 円
ユニフォーム
5000~6000 円
剣道
剣道着上下
7000 円
竹刀
1400 円
垂れ
2000 円
水泳
水着
体育の授業で着用のもの
ゴーグル
3000 円
陸上競技
準硬式野球部
テニス
ブラスバンド
美術
コーラス
家庭科
7500 円~
5250 円
5000 円
30,000 円
5000 円
25,000 円
6000 円
4500 円
1500 円
7000 円
学校備品
なし
なし
800~1000 円
スパイク
ユニフォーム
ウィンドブレーカー
ユニフォーム等一式
スパイク
グローブ
ラケット
シューズ
帽子
ユニフォーム上下
楽器
実習費
その他の負担
シャトル代
1000 円
交通費
3000 円
交通費
3000 円
交通費
3000 円
交通費
3000 円
交通費
3000 円
昇段試験代
1500 円
外部プール
使用量
部費
試合参加費
交通費
8000 円
20,000 円
3000 円
15,000 円
交通費
10,000 円
交通費
参加費
ボール代
運搬費
5000 円
1000 円
1000 円
月 300 円
3-4 高校進学に立ちはだかる壁
第三節で述べたように、貧困家庭に育つ子どもは、塾に通うことが困難であるために、一般の子
どもに比べて学力形成の機会が尐ないと言える。それが貧困家庭に育つ子どもの学力不足につなが
っていると言えるだろう。
しかし、貧困家庭に育つ子どもに高校進学の際に立ちはだかる壁は、学力不足だけではない。高校
進学の壁、それは何よりももちろん「授業料」である。
中学3年生の1学期段階では、大学付属の高校やスポーツ関係の高校を目指す子ども以外の多く
の子は公立高校進学を希望している。どの子にとってもお金と「進路」は切り離すことのできない
問題になっている。
しかし、学校に通う以前に明日の生活の問題を抱えている子、塾に行きたくても行けない子、両親
は遅くまで働き夕食はひとりぼっちの子。子どもたちはお金と進路の関係をリアルに感じている。
46
中には、
「お金がない」と子どもに言い過ぎるため、早くから進学を諦めてしまう子もいる。進学か
就職かの選択条件の一番大きいのが「お金が出せるか、出せないか」である。成績の善し悪しより
も意欲の有無よりもお金の有無が、なによりも大きな問題なのである。
各都道府県における公立高校の授業料を表4に示す。
表 4 各都道府県における公立高校の授業料
公立高校授業料(2008年・円)
月額
(年額)
下記以外の府県
9,900
(118,800)
北海道
9,900
(118,800)
栃木
9,900
(118,800)
東京
10,200
(122,400)
神奈川
9,900
(118,800)
長野
9,900
(118,800)
岐阜
9,900
(118,800)
愛知
9,900
(118,800)
大阪
12,000
(144,000)
島根
9,900
(118,800)
山口
9,900
(118,800)
香川
9,900
(118,800)
九州各県・沖縄
9,800
(117,600)
年間およそ12万円。この授業料が貧困家庭を圧迫することは間違いない。どのような家庭に生
まれ育つかによって、
受けられる教育が大きく変わってきてしまうのが、
今の日本のしくみである。
3-5 閉ざされる就職への道
上述のとおり、現在、日本の高校進学率は97%にも及び、大学進学率についても 50%を超え、
大学全入時代を間近に控えている。今日、企業等における正規雇用の対象は、主に大学をはじめと
する高等教育修了者となり、高校卒業は高等教育へのステップではあるものの、それ自体が社会的
自立を大きく支えるものではなくなった。就職難・就職氷河期といわれている今、大卒者でも正規
雇用としての内定をもらうことが難しいのに、中卒・高卒ともなれば、就職にどれほどの困難を抱
えているだろうか。貧困家庭に育つ子どもは塾に通うことが出来ず、学力不足や授業料ゆえに高校
進学や大学進学の道が閉ざされる。就職に必要な免許、資格等が日々の生活のために取得でずに就
職の機会を逸し、更に生活が困窮していく悪循環を起こしている。
学歴不足や資格をもっていないことなどによって、アルバイトや派遣労働者、契約委託社員など
の非正規雇用として雇われる割合が高く、昇格や昇給の機会がないまま一生低賃金を強いられ、結
婚し子どもをもつ・・・まさに負の連鎖である。これこそが、弱者が弱者を生むしくみの実態と言
えるであろう。
まとめ
生まれてくる環境を選べない子どもたちが、おとなの都合により、健康に生きる権利や、教育を
受ける権利を脅かされている。日本にも今、まさにこの状態にある子どもたちがいるのだ。貧困で
あるがゆえに、十分な医療や教育が受けられず、親からの虐待の危険性もある。同じ国に生まれて
も、
家庭の経済環境によってここまで暮らしが違っていいものだろうか。
お金がないという理由で、
進学や夢を諦めてしまう、諦めることに慣れてしまう、子どもが夢をみることができない社会が今
47
の日本かもしれない。
しかし、貧困家庭の親や、その家庭に育つ子どもの努力が足りないとか、自己責任だと突き放し
てしまうことは間違いである。貧困家庭を支えるしくみを整えることが必要なはずである。
日本では医療費や教育費にお金がかかりすぎると言える。デンマークやベルギー、フランスなど
では教育費の家計負担は実に低く、スウェーデンにいたっては、教育費の家計負担は0となってい
る。教育は社会で支えるものであるという福祉国家観が徹底しているためである。日本でも、医療
費や教育費の家計負担をもっと軽くする努力をすべきである。
「子どもは国の宝」
という考えを持ち、
子どもが毎日明るく過ごせる社会を築くべきであろう。
また、一人親世帯の母親などは、育児の相談をする相手がおらず、疎外感や孤独感から、虐待に
走る傾向もあるという。
そうした母親の悩みや不安を解消できるコミュニティや支援機関の設置や、
教材費の保護者負担を軽くする取り組み、塾費用や受験料の貸付など、子どもたちが平等に学び、
夢をみることのできる環境を作ることが大切なのだと思う。 日本の子どもの約7人に1人が貧困
状態にある。この事実は私に大きな衝撃を与えた。この悲しい事実を1人でも多くの国民が知り、
危機感を抱くこと、
改善したいと願うことが、
この子どもの貧困問題解決への第一歩となるだろう。
引用文献
阿部彩 2008『子どもの貧困―日本の不公平を考える』岩波書店.
OECD 対日経済審査報告書 2006 年版
http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/macroeconomics_pdf/20060720japansurvey.pdf
門倉貴史 2006『ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る』宝島社.
東京都福祉保健局 2005『児童虐待の実態Ⅱ―輝かせよう子どもの未来、育てよう地域のネット
ワーク』
湯浅誠 2008『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』岩波書店.
湯澤直美ら(編)2009『子どもの貧困白書』明石書店.
48
第 7 章 U ターン就職について
中村大地
はじめに
最近、テレビや雑誌で「田舎暮らし」の特集を目にすることが多くなった。田舎で農業を行って
自給自足の生活にあこがれる若者が増えた。昔では考えられない傾向である。そのように多くの人
が地方に目を向けるようになった理由について関心を持った。
その背景には、価値観が多様化し、自分が幸せだと考える道を自由に選ぶようになったという「働
く側の意識」の変化があるのではないだろうか。そして、充実の一基準として「地方」が大きくク
ローズアップされてきたと思われる。それに加えて、優秀な人材を確保したい地方の企業や、地域
活性化を図る自治体が U ターン就職を受け入れるための制度を充実させ始めたことが、その流れを
加速させている野ではないだろうか。
自分の友達には、都内の大学へ進み、地元で就職する人もいる。また、自分のように東京へ出て
きて、就職はできれば東京でしたいと考えている人もいる。同じ 3 年間であるが、就職に対する考
え方などが違う。今回は「都内の大学へ進み、地元で就職する人」をクローズアップして考えてい
きたい。
第 1 節 U ターンとは?
ここでは「U ターン」についての意味、U ターン就職の動向を述べることにする。
1-1「U ターン」とは
転職用語辞書によると U ターンについて以下のように述べている。
U ターンとは、地方で生まれ育った人が都心で一度勤務した後に、再び自分の生まれ育った故郷に戻って働くこ
とを言う。
例えば、長野県出身の人が一度は東京で働き、その後自分の生まれ育った長野に戻って再び仕事をすることが U
ターンの例になる。
自身のキャリアはもちろん、それ以上に自分の生まれ育った土地の自然や、ゆとりのあるライフスタイルや、自
身の家族を大切に考える人が U ターンをすることが多くなっている。
また、U ターンの類語として I ターンや J ターンがあります。I ターンとは生まれ育った場所以外に転居、就職
することを言い、また J ターンとは地方で生まれ育った人が一度都心で働き、その後また故郷とは違った別の地
方に移住して働くことを指します。I ターンは主に都心で育った人が地方の企業に就職する場合に使うことが多
いようです。
転職用語辞典 『U ターンとは』
http://ten-navi.com/contents/keyword/alphabet_08.php
このように、U ターンの他に I ターンや J ターンなど様々な職業形態が増えつつある。
1-2 U ターン就職の動向
日本の雇用失業情勢の動向をみると、2004(平成 16)年平均の完全失業者は 313 万人となり、
前年に比べて 37 万人の減尐と、2 年連続の減尐となっている。また、2004 年平均の完全失業率(労
働力人口に占める完全失業者の割合)は 4.7%となり、前年に比べて 0.6 ポイント低下し、2 年連続
の低下となり、厳しさは残るものの、全体的には改善傾向にある。
この中で、U ターン就職の動向であるが、厚生労働省(2005)は以下のことを指摘している。
過去 5 年間(1996(平成 8)~2001(平成 13)年)における現住地への移動者の移動理由のう
ち「職業上の理由」とした者の割合について、男性では前回の 24.0%から 18.6%に減尐しており、
49
地域間の労働移動が減尐していることがうかがえる。ただし、U ターン割合(いったん県外に出た
経験をもつ者のうち出生県に戻ってきた人の割合)は、男性で前回の 27.2%から 31.8%に上昇して
おり、40 歳代から 50 歳代の世代を中心に U ターンをした者の割合が増加している。
17 年度では、40 歳代から 50 歳代の世代を中心に U ターンをした者の割合が増加していたが、
最近は 20 代~20 代後半層の人が中心に U ターンをした者の割合が増加しているそうだ。
第 2 節 企業側の採用活動について
東京と地方で並行して採用活動を実施しているところが存在している。地方の中小企業は、日本
経済再生の担い手としてはもとより、新たな雇用機会の創出の担い手として大いに期待される。こ
のため、中小企業労働力確保法に基づき創業や異業種への進出を行うなど活力ある中小企業の人材
の確保・育成、魅力ある職場づくりの活動への支援を行うことにより、良好な雇用機会の創出及び
労働力の確保を図っているところである。
さらに、新規・成長分野における新たな雇用機会の創出とそれらの分野への円滑な労働移動を図
るため、新規・成長分野の企業等を対象として、各種セミナーや求職者との面接会の開催等を通じ
たきめ細かな情報提供を行い、活動の場を広げつつある。
また、各都道府県には「U ターンセンター」というものが設置されていて、企業の紹介やイベン
ト紹介、企業一覧廻覧など様々な情報を提供してくれるところもある。
U ターンを希望する場合、面接では通常採用の社員にはない「何か」を持った人材を求めているこ
とを忘れてはいけない。
具体的な採用活動については、①新卒採用のカギを握る学生との直接対話や②今時の学生を意識
した情報の提供を心がける必要と考えられる。いずれも学生や就職担当者へ直接情報を提供するこ
とが最大のポイントである。
①新卒採用のカギを握る学生との直接対話
ただし、情報サイト(媒体)を通じた情報発信は新卒を採用するための必要条件であって十分条件
とはなりえない。学生がサイトに掲載された企業情報から経営者の経営理念はもとより仕事の具体
的な内容ですら正確に理解することは難しいと考えられるからだ。
学生に中小企業の魅力を理解してもらい、就職に結びつけるためには、ポータルサイトを通じて自
社に興味・関心をもった学生と直接対話の機会を設けること(説明会を開催すること)が不可欠で
ある。アンケート調査によると、中小企業の自社による会社説明会の実施率は採用活動した企業の
約 1/3 と低い。中小企業にとって説明会の開催は人的にも、予算的にも負担感が重いことが背景に
あると考えられる。しかし、一方で説明会を実施した企業では、73.3%が「採用活動に役立った」
と回答しており有効性に対する評価は極めて高い。
②今時の学生を意識した情報の提供を心がける必要
また、情報提供の場を設けても、学生に語るものがなければ人材は集まらない。仕事内容はもちろ
んのこと、経営理念や中小企業の魅力(やりがい)を如何に伝えるか、経営者の手腕が問われると
ころである。その際、従来の学生という概念にとらわれず、今時の学生を意識したテーマ設定や接
し方が重要となる。学生のアンケート結果をみると、最近の学生は「勤務地」や「勤務時間・休暇」
など企業があまり意識していないことに対する関心が高い。
「やりがい」を強調するあまり、これら
就労条件を重視していない企業と誤解されては元も子もない。経営者は今時の学生を意識した情報
の提供を心がける必要がある。就職担当者の話では、最近の学生は大企業志向が強いといわれる一
方で、家族主義的な会社にあこがれる傾向も強いそうだ。
事実、
経営者が熱意を持って学生に語りかければ、
中小企業に対する不安感を払拭するだけでなく、
むしろ大企業との差別化を図ることができるとの意見も聞かれた。中小企業の弱みを強みに変える
ことができるかどうか、経営者の姿勢にかかっているといえよう。
50
第 3 節 I.J.U ターンの活動として
最近、
「自然や生き物が好き」
「田舎に住みたい」といった人とともに、
「農林水産業にビジネスチ
ャンスを感じる」
などという若者が増え、
農林水産業が職業の選択肢の一つとして認知されてきた。
また、I ターン・J ターン・U ターンして、地方の企業で働きたいという人も増えてきた。これら
の社会的ニーズに加え、今後は 2007 年以降『団塊の世代』約700万人の定年を迎えたり、国民
の食の安全や環境に対する関心の高まりから、都市から農山漁村への定住を求める田舎暮らしなど
の傾向も強まっている。
また、05 年3月に国土交通省が行ったアンケートでは、都市住民が都会での就業を続け、生活の
かなりの部分を農山漁村で過ごす「二地域居住」という新しいライフスタイルのニーズが年々増加
しているという結果も出ている。
地域に定住し就業するということは、同時に農山漁村に住み、暮らすこと。つまり地域社会の一
員となり、例えば農業に就けば、農業用水などの利用・管理にともなう共同作業をし、定住すれば
地域の伝統行事や冠婚葬祭などの習慣にも参加・協力する。隣人と触れ合い、情報交換することで
地域社会にとけ込むことが大切になってくる。
それは現代の都会人が、過去に置き忘れ、苦手な部分だろう。そのためには、なんでも相談でき
る人をその地域内に確保することが大事になるし、地元住民とも積極的に付き合うことが重要とな
る。ここ最近では、地方の団体では田舎暮らしの若者を積極的に呼び込み地域活性化を目指してい
る。窓口なども多く存在し、次序にではあるが若者の移行の数も増えてきているのが現状である。
一つ例をあげてこの「I.J.U ターン」について考えてみよう。
新潟県では、今、農業を真剣に考えている人をサポートとして色々な試みがされている。ここでは、
新潟県が実際に行っている就農(就職農家)の手項と、制度について
(http://web-iju.info/iju_turn.htm)を参照して述べていきたい。
まず手項について
(手項)
STEP1 就農相談(青年農業者等育成センター)
STEP2 情報収集・農業体験
STEP3 就農地の選定・事前準備
STEP4 就農計画作成→実務研修
STEP5 農地確保
STEP6 就
農
(利用できる資金・制度)
1.就農支援資金
資金区分
(1)就農研修資金 農業大学校等教育施設研修
金額:月額 5 万円以内
就農研修資金 先進農家等研修
金額:月額 15 万円以内
就農研修資金 普及センター等による指導研修
金額:200 万円以内
(2)就農準備資金
就農先調査、住居移転費、滞在費
金額:200 万円以内
(3)就農施設等資金 経営開始に必要な機械、施設等の費用
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青 年 金額:3,700 万円以内
2,800 万円を超える部分は事業費の 1/2 以内
中高年 金額:2,700 円以内
1,800 万円を超える部分は事業費の 1/2 以内
○青年は15歳以上40歳未満(知事特認は65歳未満)
○中高年は40歳以上55歳未満
○施設等資金は経営開始後5年間
2.新規就農者就農就業サポート事業(新潟県独自の制度)
農業を始めたい人を受け入れる農業法人等へ助成します。月額 4.2 万円以内を3ヶ月以上1
0ヶ月以内
3.新規参入者経営安定資金(新潟県独自の制度)
農業経営の安定のため必要な経営・生活資金の貸付制度です。
(無利息、360 万円限度、償還12年以内、債務保証制度有り)
4.新潟県農林水産業総合振興事業(新潟県独自の制度)
①農地を借りる場合の地代助成
②機械等をリースする場合の助成(45歳以下の認定就農者が対象)
ここで上記で述べられた、青年農業者等育成センターについて述べる。
「青年農業者等育成センター」とは
国は農業従事者の高齢化と農業を取り巻く環境の変化に伴い、青年農業者等の農業の担い手確保の
重要性から、
「青年等の就農促進のための資金貸付け等に関する特別措置法」を制定した。
新潟県ではこれを受けて、農家子弟以外も含め幅広い視野に立ち新規就農者を確保する必要から、
(社)新潟県農林公社を「青年農業者等育成センター」に指定し、下記の活動を進めている。
育成センターの活動内容として、
■就農支援資金の貸付
●就農研修資金
●就農準備資金
●就農施設等資金
■就農相談活動
●相談窓口
●県外からの新規就農者の相談
●先進農家体験等研修先の紹介
■青年及び中核的農業者等の活動支援
●県農業改良クラブ連盟
●県指導農業士会
●県(青年)農業士会
●県指導農業士農悠会
■調査、啓発活動
●現地調査
●パンフレットの作成配布
このように今回は新潟県の就農や「青年農業者等育成センター」を中心に「I.J.U ターン」につ
52
いて考えたが他の県でも同じような活動がどんどんと増えているのが現状である。
また、安心安全な食に対するニーズの高まりや農村、里山での生活でのふるさと暮らし志向の高ま
りから、農業への関心も高まっている。セミナーでも、地域の自然、環境を活かした農業に取り組
む熱心な地域が、就農セミナーを開催している。
■1 月 30 日
"田舎暮らし成功の秘訣"と"新規就農(UI ターン者)体験談" & 個別相談会
「山形暮らし」セミナー
http://www.furusatokaiki.net/event/2010/01/ui.html
■2 月 5 日
とやま暮らしセミナー~富山で農業~
就農支援制度や農業法人の方の体験談も聞けます!
http://www.furusatokaiki.net/event/2010/01/post-106.html
■2 月 6 日
大分田舎暮らしセミナーin 東京
湯布院に移住した人の体験談も聞ける
http://www.furusatokaiki.net/event/2010/01/-in-1.html
■2 月 7 日
福島県で農林業の仕事をしてみませんか
福島県移住セミナー
林業のお話を聞く機会はなかなかないので、ぜひご参加下さい。
http://www.furusatokaiki.net/event/2010/01/post-108.html
第 4 節 働く側の意識
ここでは、働く側の意識について考えていきたい。
働く側の意識は昔とは全く異なりつつある。高度経済成長期には、より良い企業(その多くは都心
に本社を置く大企業)に勤め、より高い給与、より良い待遇を得ることが、職場選びの際の唯一と
いってもいい判断基準であったこともあった。しかし、バブル崩壊後の日本では、
「どのような企業
であっても決して将来にわたって安定が約束されているわけではない」ということが広く認知され
るようになり、それなら「自分がもっとも充実して過ごせる職場を探そう」という意識が芽生えて
きた。この裏の背景にはやはり日本が裕福で自分がやりたいことしたいことをおもいっきりやれる
環境が出来上がってしまったということもあると思う。
また、街並みの美しさや愛着といった心象的な要素から、
『住みたい町』と選ぶ傾向が強い事から
もわかるように、仕事場さえあれば戻ってきたいと考えている出身者が多いのも特徴的である。
また、働く側は自分が幸せだと考える道を自由に選ぶようになり、都心部ではなく地方に職を求
めだす傾向が増え始めた。
そして、個人の価値観が多様化し、より良い企業(その多くは都心に本社を置く大企業)に勤め、
より高い給与、より良い待遇を得ることだけが会社選びの判断基準ではなくなっていること。や・
地方分権により地方自治体に付随する地方企業が活性化し、さらにその周辺企業に仕事が発生して
いること。この二つが今の働く側の最大のポイントなのではないかと思う。
「どのような企業であっても決して将来にわたって安定が約束されているわけではない」という
ことが広く認知されるようになり、個々人が自分が幸せだと考える道を自由に選ぶようになったと
いう働く側の意識の変化が背景にあるのではないだろうか?
また、最近では配偶者の国内転勤同行制度や、配偶者の海外転勤に伴う休業制度を設けるところも
53
出てきている。
家族、地域のつながり、子育てを大事にする意味で、
「転勤の有無」も重要頄目になるのではない
かと私は思う。
こうした働く側の意識の具体的な例として、厚生労働白書(平成 15 年度)にも、以下のように
述べられている。
日本労働研究機構「人事・処遇システムの変化と勤労意識に関する調査」
(1998 年)によると、横並び処遇を行
っているとする企業は 1985(昭和 60)年の 7 割から 1998(平成 10)年には 6 割程度に低下している。
このような企業の置かれている事情が変化している一方で、働く側の意識も変化している。
上記調査によると、男性でも「会社のためなら自分の生活を多尐とも犠牲にするのは当たり前と思う」と回答し
た者は 55 歳以上の層を除き全年齢で 1986 年より 1 割以上低下している。一方、
「勤務地を自分が希望する地方
に限定できれば昇進・昇格にこだわらない」とする者は 1 割以上多くなっている。
図 3-1-10-1 会社のためなら自分の生活を多尐とも犠牲にするのは当たり前だと思うか(男性)
54
図 3-1-10-2 勤務地を自分が希望する地方に限定できれば昇進・昇格等にこだわらないか(男性)
このように昇進・昇格より個人生活への志向が高まる中、長時間働いている者ほど、また 1 年前と比べて労働時
間が増えている者ほど、労働時間短縮への希望が強くなっている。また、共働きが多数派となる中で、家庭のこ
とはすべて配偶者に任せて仕事に専念するいわゆる「会社人間」的な働き方は困難になってきている。このよう
な中での長時間労働は従来以上に働く側のストレスを高める懸念が大きい。
ここで示されているように、企業と個人の関係性や求めるものが変わってしまったことが一番の問
題ではないかと思われる。
第5節 U ターン実行者の「きっかけ」と「障害」
次は、
実際に U ターン就職を実行した人にスポットをあて、
「なぜ、
U ターン就職を考えたのか?」
や、
「障害みたいものは何か?」考えていきたい。
現段階では、江崎(2007)を引用して紹介していく。この論文では「長野出身の U ターン就職
者」にスポットを当てて「キッカケ」
、
「障害」にアンケート調査をおこなっており、結果を表 1 に
示す。
このアンケートからわかることは、
「きっかけ」で最も多いのが、実行者、非実行者とも「親の面
倒をみるため」で違いない。
一方で非実行者は「豊かな自然環境の中で生活したくなかった」
「のんびりとした土地柄に魅力を感
じた」といった情緒的な頄目に多くの回答が見られるてんが特徴的である。
また U ターン就職者については「ゴミゴミとした都会を離れ自然が豊かでのんびりとしている地域
で第二の人生を始める人々」といったイメージがあるが、確かにそれもあるだろう。また昔からの
人間関係などのところで生活したいというのもある。
また「障害」としておおいのが「移住先に自分にあった職業がなかった。
」が多かった。
また、U ターンするのであれば、地方貢献への決意や、首都圏に比べて数が尐ない有力企業に希望
者が殺到することも覚悟しなくてはいけない。(東京での就職より楽ではない。)
そんなことを考えているとやはり U ターン就職を断念する人も尐なくない。
まだまだ、U ターン就職する学生の割合は低い原因もこのことがある。しかし、やはり時代の移
り変わりと同じように、働く側の意識が変わっているようである。
55
今後は、できれば自分で「U ターン就職者」に何人が会って話をして色々なデータを取りたいと
考えている。
表 1 U ターン実行者の「きっかけ」と「障害」
参照:江崎雄治 2007 『わが国における近年の人口移動の実態-第 5 回人口移動調査の結果より-(その2)
地方圏出身者のUターン移動』 人口問題研究, 63(2), 1-13.
おわりに
本稿の執筆により、働く側の意識の変化に気づき、色々なアプローチをかけている抽象企業い側
の狙いや、地域の活動についても考えるいいきかっけになったと思っている。
56
第 8 章 女性のキャリアデザイン~働くという視点から~
野見詩織
はじめに
就職活動を通し、自分が将来どのような働き方をしていきたいかについて考えるようになってき
た。地元の友人や以前通っていた女子大の友人たちから就職活動の話を聞くと、ほぼ全員が一般職
での採用であり、総合職にこだわっていた友人も一般職として働くことが決まっている。企業側の
採用の問題ももちろんあるが、精力的に働きたいが、結婚や出産・育児など将来のことを考えると
転勤など制約がある総合職に抵抗を感じて一般職として働くことを選ぶ女性も多くいるのではない
だろうか。
ただ卖に、一般職・総合職の問題だけではなく、働き、生活していくという点で様々な要因から
女性は自分の思うキャリアデザインを実行できにくい状況なのではないのだろうか。このように考
えると同時に、女性のキャリアデザインについて私は興味を持つようになった。
女性のキャリアデザインが実行できにくい環境・社会であるのではないかという問題意識を前提
に、働くという視点から女性のキャリアデザインを調べていきたいと思う。
本論の構成
第1節では働く女性の現状、第2節ではワーク・ライフ・バランス、第3節では女子大生の「働
くこと」への意識・考え方、第4節では本論のまとめを行う。
第 1 節 働く女性の現状
働くという視点から女性のキャリアデザインを考えるには、まず、実際に社会で働く女性の割合
はどれだけなのか、どのような雇用形態で女性が働いているのか、など働く女性現状を知ることが
必要であるだろう。この点から本節では、働く女性の現状について考察していく。
1-1 労働力人口の推移
総務省統計局によると、労働力人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)
は平成 20 年平均で 6650 万人となり、前年に比べ 19 万人減尐し、4年ぶりの減尐となっている。
また、男女別にみると、男性は 3888 万人と 18 万人減尐し、2年ぶりの減尐となっており、女性は
2762 万人と1万人減尐し、5年ぶりの減尐となっている。ここで平成 10 年~平成 20 年における
労働力人口の対前年増減の推移を図1に示す。
また、平成 20 年の労働力率(15 歳以上人口に占める労働力人口の割合)をみると、男性は 72.8%
と 11 年連続の低下であり、女性は 48.4%と5年ぶりの低下となっている。
図1 労働力人口の対前年増減の推移(総務省統計局, 2009)
57
1-2 年齢階級別労働力率の推移
総務省統計局の「労働力調査」を基にした厚生労働省雇用均等・児童家庭局による年齢階級別労
働力率の推移を図2に示す。この図 2 から平成 20 年の女性の労働力率を年齢階級別にみると、25
~29 歳(76.1%)と 45~49 歳(75.5%)を左右の頂点としたM字型のカーブが描かれており、M字型の
底にあたる部分は、昭和 54 年に 25~29 歳から 30~34 歳に移動して以来、30~34 歳となってい
たが、比較可能な昭和 43 年以降初めての 35~39 歳となっている。また、M字型の底にあたる部分
は前年より 0.9%上昇して 64.9%となっている。 前年と比べて労働力率が最も上昇したのは 60~
64 歳であり、
一方で 10 年前と比べて最も上昇したのは 55.8%から 65.1%と 9.3%上昇した 30~34
歳であることがわかる。
図 2 女性の年齢階級別労働力率(厚生労働省雇用均等・児童家庭局, 2009)
1-3 女性の配偶関係別労働力率の推移
総務省統計局の「労働力調査」を基にした厚生労働省雇用均等・児童家庭局による女性の配偶関
係別労働力率の推移を図 3 に示す。配偶関係別に平成 20 年の労働力率は未婚では 63.4%、有配偶
で 48.8%であり、前年と比べて未婚の労働力率に変化はなく、有配偶については 0.1%低下してい
る。
なお、
年齢階級別にみると、
未婚の労働力率は 91.5%と 25~29 歳が最も高く、
有配偶では 73.2%
と 45~49 歳が最も高い。10 年前と比べると 25~34 歳で大きな上昇がみられることがわかる。
58
図 3 女性の配偶関係、年齢階級別労働力率(厚生労働省雇用均等・児童家庭局, 2009 年)
1-4 就業者の推移
総務省統計局によると、労働力人口のうち、就業者は平成 20 年平均で 6385 万人となり、前年に
比べると 27 万人減尐しており、5年ぶりの減尐となっている。男女別にみると、男性は 3729 万人
と前年に比べて 24 万人減尐し、4年ぶりの減尐となっている。また、女性は前年に比べて 2656 万
人と3万人減尐し、6年ぶりの減尐となっている。平成 10 年~20 年における就業者の対前年増減
の推移を図 4 に示す。
図 4 就業者の対前年増減の推移(総務省統計局, 2009)
1-5 女性雇用者の割合
総務省統計局によると、
雇用者は平成20 年平均で5524 万人となり、
前年に比べて1万人増加し、
6年連続の増加となっている。なお、雇用者 5524 万人は過去最多を示している。雇用者を男女別
にみると、男性は 3212 万人と前年に比べて 14 万人減尐し、4年ぶりの減尐となっている一方で、
女性は 2312 万人と 15 万人増加し、6年連続の増加となっている。
平成 20 年の女性雇用者数を年齢階級別にみると、270 万人と 35~39 歳が最も多く、次に 261
万人と 25~29 歳が多くなっている。なお、35~39 歳の層は前年よりも9万人増加している。
59
また、平成 20 年の女性雇用者数及び構成比(女性雇用者総数に占める割合)を産業別にみると、
「卸
売・小売業」が 500 万人(21.6%)と最も多く、次に 442 万人(19.1%)で「医療・福祉」
、351 万人(15.2%)
で「サービス業(他に分類されないもの)」となっている。なお、
「医療・福祉」では 13 万人増、
「サ
ービス業(他に分類されないもの)」では7万人増とそれぞれ前年に比べて、女性雇用者数は増加し
ている。一方で、雇用者における産業別女性比率(雇用者総数に占める女性の割合)をみると、産業
別比率が5割以上の産業は 78.2%で「医療・福祉」
、60.6%で「飲食店・宿泊業」
、52.9%で「教育・
学習支援業」となっている。総務省統計局「労働力調査」を基にした厚生労働省雇用均等・児童家
庭局による産業別女性雇用者数及び女性比率を図5に示す。
図 5 産業別女性雇用者数及び女性比率(厚生労働省雇用均等・児童家庭局, 2009)
次に、
平成 20 年の女性雇用者数及び構成比(女性雇用者総数に占める割合)を職業別にみると、
754
万人(32.6%)で「事務従事者」が最も多く、項に、407 万人(17.6%)で「専門的・技術的職業従事者」
、
384 万人(16.6%)で「保安・サービス職業従事者」となっている。なお、
「事務従事者」と「専門的・
技術的職業従事者」に関しては、それぞれ 16 万人増および 10 万人増と前年と比べて、大きく増加
している。
最後に、平成 20 年の非農林業女性雇用者数を配偶関係別にみると、前年と比べて、
「有配偶」は
8万人増の 1310 万人、
「未婚」は3万人増の 727 万人、
「死別・離別」は4万人増の 245 万人とな
っており、それぞれ増加している。なお、有配偶女性雇用者数は 9 年連続で増加している。
1-6 雇用形態別雇用者数
総務省統計局「労働力調査」によると、平成 20 年の非農林業女性雇用者数を「常雇」(1年を超
える又は雇用期間を定めない契約で雇われている者)、
「臨時雇」(1カ月以上1年内の期間を定めて
雇われている者)、
「日雇」(日々又は1カ月未満の契約で雇われている者)から成る従業上の地位別で
みると、前年と比べて、
「常雇」は 29 万人増加の 1811 万人で、
「臨時雇」は 13 万人減の 424 万人、
「日雇」は増減はなく、58 万人となっている。なお、
「常雇」は6年連続で増加している。
また、役員を除く雇用者数を雇用形態別にみると、平成 20 年の女性は「正規の職員・従業員」
が 1040 万人、
「非正規の職員・従業員」が 1202 万人となっており、それぞれ1万人増および8万
人増と前年と比べて、増加している。なお、
「非正規の職員・従業員」の内訳をみると、
「パート・
アルバイト」は 904 万人、
「労働者派遣事業所の派遣社員」は 142 万人、
「契約社員・嘱託」は 142
60
万人、
「その他」は 71 万人となっている。総務省統計局「労働力調査」を基にした厚生労働省雇用
均等・児童家庭局による役員を除く雇用者の雇用形態別割合を図6に示す。
図 6 役員を除く雇用者の雇用形態別割合(厚生労働省雇用均等・児童家庭局, 2009)
このように実際に働く女性の状況を調べてみると平成 20 年度は前年と比べ、減尐しているもの
の、社会で働く女性の割合は全体のなかでも大きいことがわかる。また、平成 10 年と平成 20 年で
は、有配偶者の 25 歳~34 歳の労働力率が上昇しているなど(図3)
、ここ数年で女性の働き方に変
化がみられ、結婚や出産・育児、そして、これらを支えるための環境・制度が整えられていないこ
とが要因となって女性が自分の望む働き方が実行できていないと一概にいえない。しかし、雇用形
態をみると(図6)
、女性の正規の職員・従業員の割合は男性の割合の約半分であり、非正規のパー
ト・アルバイトとほぼ同じ割合を占めていることがわかる。やはり、男性と比べて、女性が社会で
働いていくには働き方に何かしらの制約が生まれるのではないだろうか。
また、
どのようにしたら、
女性は仕事と生活ともに自分の望むキャリアデザインが実行できるのだろうか。
そこで、第2節では、女性が社会で働くうえで有効的な「ワーク・ライフ・バランス」の考え方
について述べる。
第 2 節 ワーク・ライフ・バランス
働きながら自分の思うキャリアデザインを実行していくうえで、
「ワーク・ライフ・バランス」と
いう考えを切り離すことができないにちがいない。本節では、ワーク・ライフ・バランスの意味、
ワーク・ライフ・バランスの考え方によって目指すべき社会、また、その社会を実現するうえで必
要な役割について述べる。
2-1 ワーク・ライフ・バランスの意味
ワーク・ライフ・バランスには「仕事と生活の調和」という意味であり、定義として定まったも
のはなく、ワーク・ライフ・バランスに対する考え方や姿勢はさまざまである。 ここでは、ワー
ク・ライフ・バランスに対する考え方や姿勢について4つの例を挙げることにする。
まず、一つめに、平成19年7月の男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バ
ランス)に関する専門調査会では、ワーク・ライフ・バランスを「老若男女誰もが、仕事、家庭生
活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状
態である」としている。
61
二つめに、平成19年6月年の「子供と家族を忚援する日本」重点戦略検討会議ではワーク・ラ
イフ・バランスを「個人が仕事上の責任を果たしつつ、結婚や育児をはじめとする家族形成のほか、
介護やキャリア形成、地域活動への参加等、個人や多様なライフスタイルの家族がライフステージ
に忚じた希望を実現できるようにすることである」としている。
三つめに、平成19年4月の経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会では、ワーク・ライフ・
バランスを「多様な働き方が確保されることによって、個人のライフスタイルやライフサイクルに
合わせた働き方の選択が可能となり、性や年齢にかかわらず仕事と生活との調和を図ることができ
るようになる。男性も育児・介護・家事や地域活動、さらには自己啓発のための時間を確保できる
ようになり、女性については、仕事と結婚・出産・育児との両立が可能になる」としている。
四つめに、平成18年10月の厚生労働省・男性が育児参加できるワーク・ライフ・バランス推
進協議会ではワーク・ライフ・バランスを「働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外
の生活でやりたいことややらなければならないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現で
きる状態のことである」としている。
また、ワーク・ライフ・バランスの実現を目指し、
「ワーク・ライフ・バランス憲章」が策定され
ている。
「ワーク・ライフ・バランス憲章」ではワーク・ライフ・バランスの考え方が必要である、
理由・背景が述べられており、以下の通りである。
1.仕事と生活が両立しにくい現実
→(仕事と生活が両立しにくい社会背景)
・安定した仕事に就けず、経済的に自立することができない。
・仕事に追われ、心身の疲労から健康を害しかねない。
・仕事と子育てや老親の介護と両立に悩む。
2.働き方の二極化
3.共働き世帯の増加と変わらない働き方・役割分担意識
4.仕事と生活の相克と家族と地域・社会の変貌
5.多様な働き方の模索
6.多様な選択肢を可能とする仕事と生活の調和の必要性
7.明日への投資
この7つの理由・背景から、ワーク・ライフ・バランスの考え方が必要とされている。
2-2 ワーク・ライフ・バランスによって目指すべき社会
「ワーク・ライフ・バランス憲章」では、仕事と生活の調和が実現した社会を、
「国民一人ひとり
がやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにお
いても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に忚じて多様な生き方が選択・実現できる社会」
とし、具体的に目指すべき社会について、以下のように示している。
1.就労による経済的自立が可能な社会
経済的自立を必要とする者とりわけ若者がいきいきと働くことができ、かつ、経済的に
自立可能な働き方ができ、結婚や子育てに関する希望の実現などに向けて、暮らしの経
済的基盤が確保できる。
2.健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
働く人々の健康が保持され、家族・友人などとの充実した時間、自己啓発や地域活動へ
の参加のための時間などを持てる豊かな生活ができる。
3.多様な働き方・生き方が選択できる社会
性や年齢などにかかわらず、誰もが自らの意欲と能力を持って様々な働き方や生き方に
62
挑戦できる機会が提供されており、子育てや親の介護が必要な時期など個人の置かれた
状況に忚じて多様で柔軟な働き方が選択ができ、しかも公正な処遇が確保されている。
実際にこのような社会が実現できれば、女性も仕事と生活ともに自分が望むように実行できるだ
ろう。このような社会を実現するためにはどのようにすればいいのだろうか。
次頄で実現するために必要な役割について述べる。
2-3 実現するために必要な役割について
先に述べたような社会を実現するために、それぞれが担うべきである役割についても、
「ワーク・
ライフ・バランス憲章」では明示されている。それぞれの役割については以下の通りである。
1.企業と働く者
企業とそこで働く者は、協調して生産性の向上に努めつつ、職場の意識や職場風土の改
革とあわせ、働き方の改革に自主的に取り組む。
2.国民
国民の一人ひとりが自らの仕事と生活の調和の在り方を考え、家庭や地域の中で積極的
な役割を果たす。また、消費者として、求めようとするサービスの背後にある働き方に
配慮する。
3.国
国民全体の仕事と生活の調和の実現は、我が国社会を持続可能で確かなものとする上で
不可欠であることから、国は、国民運動を通じた気運の醸成、制度的枠組みの構築や環
境整備などの促進・支援策に取り組む。
4.地方公共団体
仕事と生活の調和の現状や必要性は地域によって異なることから、
その推進に際しては、
地方公共団体が自らの創意工夫のもとに、地域の実情に忚じた展開を図る。
このように、
「ワーク・ライフ・バランス」の考え方は女性が働くうえで非常に有効的であること
が分かる。このワーク・ライフ・バランスつまり仕事と生活の調和がとれた社会を実現するために
は、育児休業制度など企業が多様な働き方を提案・提供するのはもちろんであるが、国・地方公共
団体の支援、そして私たち一人一人の意識や考え方を変えることも必要である。
第 3 節 女子学生の「働くこと」への意識・考え方
それでは、実際に将来、現在、就職活動を行っている女子学生たちは何を基準に企業選択をして
いるのだろうか。本節では、女子学生の「働くこと」への意識・考え方をみていく。
3-1 女子学生の企業選択について
現在、就職活動を行っている女子学生たちは何を重視して企業選択をしているのだろうか。本章
では毎日コミュニケーションズが実施した2011 年卒の学生を対象にした調査をもとに述べていく。
毎日コミュニケーションズの調査では、2009 年 12 月の時点で①従業員数②売上高と利益率③人
事制度④勤務地⑤人間関係⑥働き方の6つの頄目から学生の企業選択の重視度を表している。結果
を図 7 に示す。また、前提としてこの調査に答えた学生の 95.4%が「就職先に働きがいややりがい
を求める」と答えている。この調査から、①従業員数・③人事制度・⑤人間関係に関しては男子学
生と女子学生の考え方にそれほど差がないが、④勤務地に関しては男子学生と比べて、女子学生の
ほうが地域限定の会社を望む傾向があり、また、⑥働き方に関しても女子学生は仕事を重視するよ
りも私生活を重視する傾向があることがわかる。
それぞれの頄目に対する結果は以下の通りである。
63
①従業員数
②売上高と利益率
③人事制度
④勤務地
⑤人間関係
⑥働き方
図 7 学生の企業選択の重視度
3-2 人気企業と働きやすい企業の関係について
先に述べたように、女子学生が男子学生と比べて企業選択に際して、地域限定の会社での勤務や
私生活重視の働き方を好む傾向にあることがわかったが、実際に女子学生に人気のある企業は、女
性にとって働きやすい企業であるのだろうか。
この頄では、
「みんなの就職活動日記」調査の 2011 年度新卒就職人気企業ランキングと東洋経済
新報社が実施した 2011 年卒業者を対象とした就職人気企業ランキング 100 をもとに、人気企業と
女性にとって働きやすい企業の関係性について考えることとする。まず、
「みんなの就職活動日記」
調査の 2011 年度新卒就職人気企業ランキングを男女別にみると、女子学生にとって最も人気があ
る企業は資生堂、次いでオリエンタルランド、全日本空輸(ANA)という結果になっており、同様
64
に、東洋経済新報社の就職人気企業ランキング 100 を男女別にみると、女子学生に最も人気がある
企業は資生堂、次いで JTB グループ、集英社とどちらのランキングにおいても資生堂が第一位であ
る。資生堂が人気であるある理由として、
「採用広報のイメージがよい」や「女性活用の姿勢がよい」
などが挙がっており、実際に資生堂の取り組みをみてみると、女性の管理職登用や託児所の設置、
「カンガルースタッフ制度」といった女性社員の育児休業を積極的に支援する制度をとるなど女性
が活躍し、かつ仕事と生活を両立できるような環境が整っており、また、女性の勤続年数平均で 17.5
年、既婚率 50.2%という数字からも女性にとって働きやすい企業であるとわかる。資生堂だけでな
く、ランクインしていた他の企業も積極的に女性が働きやすい制度や取り組みを行っている。
この結果からも働きがいややりがいとともに女子学生にとって人気の高い企業は女性にとって働
きやすい企業であるということができるのではないかと考える。
第 4 節 まとめ
私は最初、今の日本は女性にとって働きにくく、自分の望むキャリアデザインを実行しにくいの
ではないかと考えていた。しかし、調べていくなかで、そのように一概に言うことができないので
はないだろうかと思うようになった。なぜならば、確かにまだ完全には「ワーク・ライフ・バラン
ス」の考え方が社会に広まっているわけでもなく、女性が働きやすい環境・制度を企業が完璧に設
けているとはいえないかもしれないが、尐しずつではあるが、社会の女性が働くことに対する考え
方が変わってきており、第 1 節からもわかるように女性の働き方にも徐々に変化が生まれてきてい
ると考えるからである。今後は社会的背景、働く女性の心理などもふまえながら、さらに働くとい
う視点から女性のキャリアデザインについて調べていきたいと思う。
参考文献
武石恵美子 2009 『女性の働きかた』 ミネルヴァ書房.
厚生労働省雇用均等・児童家庭局 2008 『平成 20 年版 働く女性の実情』
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0326-1.html
参考 URL
総務省統計局
http://www.stat.go.jp/data/roudou/
内閣府『ワーク・ライフ・バランス憲章』
http://www8.cao.go.jp/wlb/
毎日コミュニケーションズ 『マイナビ キャリアサポート』
http://job.mynavi.jp/conts/mcs/
みんなの就職活動日記 東洋経済新報社
http://www.toyokeizai.net/life/rec_online/topics/detail/AC/4c2135ad36a5b0727dd7134afd89
e6e1/page/1/
資生堂
http://www.shiseido.co.jp/recruit/index.htm
65
第 9 章 「学校人」か「職業人」か ~ギャップ・イヤーの観点から~
山崎雄也
はじめに
私は高校を中退し、高校程度学力認定試験(大検)を取得し、いま大学に通っている。
「学校人」
でも「職業人」でもない時期、いわゆる“無職”の時期があった。しかし私にとってその無職の時
期に学校に通っていたり、働いていなかったからこそ経験できたたくさんのことが今の私を形成す
る上で非常に重要な役割を果たしている。そこで、
「学校人」と「職業人」でない時期を経験した人
がその後の人生においてその時期の影響をどのように今後に生かしているのかというものを調べて
いきたい。
第 1 節 高校中退者の現状
1-1 高校中退者の数
総務省の平成 20 年 10 月1日現在の推計人口によれば、日本の総人口は1億 2,769 万2千人と
なっており,このうち,
「青尐年育成施策大綱」
(平成 20 年 12 月策定)が対象とする青尐年(0~
29 歳)の人口は 3,806 万7千人で,総人口の 29.8%を占めている。
青尐年人口を男女別にみると,男子は 1,949 万7千人,女子は 1,857 万人で,男子が女子を 92 万
7千人上回っており,女子 100 人に対して男子 105.0 人となっている。
さらに、学校教育人口をみてみると日本における幼稚園から大学までの全学校の在学者数,いわ
ゆる学校教育人口は,平成 20 年5月1日現在 1,974 万 9 千人(男子 1,024 万6千人,女子 950 万
3千人)となっており,総人口の 15.5%を占めている。
そしてこのたびの課題の焦点となる高校中退者に関しては、平成 19 年度の国・公・私立高等学
校中途退学者は,7万 2,854 人で,在籍者数に占める割合(中途退学率)は 2.1%であった。中退
した事由についてみてみると,学校生活・学業不適忚が最も多く 38.8%,次いで進路変更が 33.2%
となっている。
また,中退した事由別の割合の年次推移をみてみると,平成 10 年度までは進路変更が最も割合
が高かったが,平成 11 年度以降,学校生活・学業不適忚の割合の方が高くなっている。高校を辞
めた理由を図 1 に示す。全体の約半数が「高校の生活があわなかったから」
(49.4%)
。次いで,
「人
間関係がうまく保てなかったから」
(23.2%)
,
「高校の勉強が嫌いだったから」
(20.8%)
。高校を中
途退学した人たちが,高校生活に違和感を感じたり,高校進学後に生じる対人関係や勉強について
の問題に対処しきれずに,退学に至っている現状がうかがわれる(図 1)
。12
12 アンケートの概要は下記のとおりである。平成 21 年2月から3月にかけて,郵送によるアンケートの方法により実施。高等学校
中途退学者については,全国の平成 16 年度中に高等学校を中途退学した人のうち 1,595 人に調査票を送付し,168 人が回答。中学
校不登校生徒については,全国の平成 16 年度中に中学校第3学年で不登校であった人のうち 480 人に調査票を送付し,109 人が回
答。
66
図1高校を辞めた理由
高校中退者の現在の状況を図2に示す。
「仕事をしている」が約半数(47.6%)と最多であり、次
いで,「仕事にはついておらず,学校にも行っていない」が約2割(20.8%)である(図2)。
図2 現在の状況(高校中退者)
なお,総務省の就業構造基本調査(平成19 年)では,高校中退者で無業者のうち,家事も通学も
していない人の割合は5.9%であった。高校中退者の現在の就学状況を図3に示す。現在,「学校に
行っている」「仕事をしながら学校に行っている」と回答した人の中では,「通信制高校」(41.9%)
が最多であった(図3)。
67
図3 どんな学校に行っているか(高校中退者)
一方,現在,「仕事をしている」「仕事をしながら,学校に行っている」「仕事をしながら,学
校以外の場で勉強している」と回答した人に,仕事の形態について尋ねたと
ころ,「パート・アルバイト」(41.2%)が最多。「派遣社員・契約社員」(12.7%)と合わせる
と,現在,仕事をしていると回答した人の半数以上が,非正規雇用である。他方,「正社員」は,
36.3%であった。なお,就業構造基本調査(平成19年)では,「正社員」として働いている割合が
55.6%で最多。次いで,「パート・アルバイト」(31.0%)
,
「派遣社員・契約社員」
(9.3%)であ
った。
1-2 上記のデータから分かること
高校中退者は中退後に約半数の人は仕事をしている「職業人」となっていた。しかし、そこでは
過半数の人が非正規雇用であり、正社員として働いているのは 3 割程度である。
そして約 1/4 の人は学校に通う「学校人」となっていた。だが、定時制や通信制の学校に通う人
が過半数を占めている。
1-3 参考文献との比較による考察
私は本研究のために 2 冊の参考文献を用意した。
『僕の高校中退マニュアル』
『僕らが働く理由、
働かない理由、働けない理由』というものであり 2 冊の文献はともに“稲泉蓮”という著者であり、
著者は高校 1 年で高校を中退し、大検取得を経て早稲田大学第二文学部に入学をした、という経歴
の持ち主である。
文献の中では筆者の体験談が多分に含まれており、筆者も前出のデータに当てはまる形で高校を
中退していた。文献の中で多く出てきたのは“いろいろなスタート、いろいろな中間地点、そして
さまざまなゴールがある”ということであった。
私も筆者と同じように高校を中退し、高校卒業程度学力認定試験(旧大検)を取得し大学に通っ
ている。高校を中退し、大学に通うまで私には 2 年間近い「学校人」でなく「職業人」でもない時
期があった。しかしそのなかでは「学校人」でなく「職業人」でなかったからこそ時間にゆとりを
持つことができたし、面倒な表面上だけの人間関係もなかったために、大学へ行くべきなのか、将
来なにをすべきなのかがゆっくりと考えることができたのではないだろうか。高校に通っていたな
らば、周りからの影響というものがどうしても大きくなってしまい、自分だけで答えを出すのは難
しくなってしまうと考えられる。
68
一度社会から切り離され、何の肩書の無い一人の“人間”として自分と向き合う、という
ことを許容してくれる社会が日本には必要なのではないかと私は感じる。
ピークであった平成 16 年の段階で日本には 15 歳から 34 歳の若者の中に 213 万人のフリーター、
146 万人の若者失業者、そして、64 万人のニートが存在した。彼らは学校に通っている「学校人」
でなく、さらに正社員として働く「職業人」でもない。そういった意味での“ゆとり”があれば高
校中退者やフリーター、ニートへの支援も尐し違った成果を上げられるのではないかと思われる
第 2 節 高校中退その後
高校を辞めてから現在までに利用した施設・機関を図 4 に示す。全体の約半数(48.2%)は,
「公
共職業安定所(ハローワーク)
,ジョブカフェ,地域若者サポートステーションなどの就労支援機関」
を利用していた。次いで,
「病院・診療所」
(23.8%)
。
「何も利用したことがない」は,約3割(35.1%)
。
であった(図 4)
。
図4 高校を辞めてから現在までに利用した施設、機関
「今後の生活設計のためにあれば良いと思うところ」の回答を図 5 に示す。全体では,
「技術や技能
の習得を手助けしてくれるところ」
(39.3%)が最多であり、次いで,
「就職に関する相談を受けら
れるところ」
(36.3%)であった(図5)
。
図5 今後の生活設計のためにあれば良いと思うところ
69
技能習得の援助や就職の相談といった支援が必要とされているが,
「高校をやめてから現在までに
利用した施設・機関」について,
「何も利用したことがない」とした人は,回答者の約3割であり、
支援を必要としている人に利用できる機関に関する情報がより確実に届くようにし,ニーズや状況
に忚じたきめ細やかな支援をどのように行っていくのかが,今後の課題であろう。そこで地域で行
われている若者支援をいくつか紹介する
事例1 高知県における事例(学校教育からの切れ目のない支援を目指す取組)
ニートやひきこもり傾向にある若者に対し自立に向けた支援を行うために,学校や市町を経由し
て対象者の個人情報を県教育委員会が一元化(
「若者はばたけネット」
)
。得た情報を基に,教育・福
祉・医療・労働の関係機関と連携して「地域若者サポートステーション」
(厚生労働省委託事業)等
を活用した学び直しや就労に向けた誘導・支援を展開している。
事例2 兵庫県における事例(不登校生徒等への体験・宿泊型施設による支援の取組)
公立として全国初の不登校等の青尐年を対象とした全寮制フリースクール「兵庫県立出学園」を
開設し,体験学習や共同生活を通じた支援を実施。また,21 の教育,保健・医療,福祉,研究機関
等からなる「ひょうごユースケアネット推進会議」の事務局として,関係機関と連携しながら,青
尐年を取り巻く様々な心の問題等に対忚する体制を整備。同会議では,青尐年問題の相談窓口の広
報強化を図るとともに,ひきこもり問題やインターネットによる被害の相談対忚充実のための事業
を展開している。
事例3 札幌市における事例(
「地域若者サポートステーション」の学校訪問支援)
市内高等学校において,
「地域若者サポートステーション」から派遣されたキャリア・カウンセラ
ーが,進路指導室において在学生を対象に進路等に関する個人面談を実施するほか,進路以外のこ
とも含めた様々な相談にも対忚する等,同ステーションのスタッフが学校現場に出向いて在学生の
就労支援等に積極的に関与し,ニートやひきこもりに移行しがちな進路未定者発生の未然防止に努
めている。
このような地域独自の若者支援を行う地域が多々ある。
第 3 節 大学入学資格検定
大学入学資格検定(以下、大検と略する)の主な受検者は、中学校卒業者、高校中退者である。
しかし、中学校卒業者、高校中退者の大多数が大検を受検するわけではない。大検出願者は、2001
年度以来、毎年、2 万 5 千人を越えている。他方、高校中退者は 1997 年度以来、年間 10 万人を越
える状況が続いている。すなわち、2004 年度の大検受検者の全員が高校中退者であると仮定しても、
高校中退者の 2 割 5 分程度しか大検を受検していない計算になる。つまり、高校中退者の過半数は
大検を受検しているわけではない。高校中退者ないしは中学校卒業者の大多数は、その後、労働市
場に参入していくのである。こうした高校中退者ないしは中学校卒業者の近年の厳しい労働事情に
ついては玄田有史・高橋陽子が実証的に明らかにしている(玄田・高橋 2004)
。また、ややデータ
が古いが、高校非進学者(中学校卒業者)
・高校中退者の実態と発生要因の詳細については、宮崎和
夫が議論している(宮崎 1996)
。
また、菅澤(2006)によると大検受検者の父親、母親の学歴は、かなり高い。実に父親の約 8 割、
母親の約 7 割引短大・大学卒である。次に、大検受検者の父親の職種は、
「専門・管理」職が占める
割合は 3 割を超えており、他方、
「労務・サービス・農林」職が占める割合は低い。こうした職業構
成を反映して、高校生世帯に比べて、大検受検者世帯では家計状況が良好な世帯が極めて多い。
上記の分析結果を見ても明らかなように、現代のわが国において、大検を受検する者の社会的背
70
景は限定されている。この点を踏まえると、現代の大検が、国家が意図した教育の「機会平等」を
あらゆる者に保障するという機能を果たしていないことに気がつく。つまり、大検の社会的機能の
理念と実態の乖離している可能性が指摘できるわけである。
第 4 節 違った意味での“ゆとり”ギャップ・イヤー
日本において、高校、大学、そして社会人という世間一般でいう“王道”では将来を展望する時
間がないと私は考える。そこでギャップ・イヤーという制度がある。ギャップ・イヤー制度とは、
大学入試合格後、
入学までに 1 年間の猶予期間が与えられるという、
イギリスにおける制度であり、
この制度を利用するものは、この間に職業体験やボランティア、海外留学などを自由に行なうことができ
る。というものである。さらに、ギャップ・イヤーを利用する若者の多くは、高校が終了する6月
から大学が始まる翌年の10月までの16か月間のうち、
まず5か月間はアルバイトで資金をつくり、
5か月間はボランティア活動をし、残りの6か月間を世界旅行をしたり会社で職業体験をしたり等
の期間にあてる。大学入学までの猶予期間をどのように使うかは若者次第であり、その選択肢のひ
とつがボランティア活動である。
ギャップ・イヤーの利用者とっては、大学で何を専攻したいかの目的が明確になる等の効果があ
るとされている。ギャップ・イヤーをとった若者は、大学を中退する割合が尐ない。イギリスでは、
大学の途中退学者は 20%程度いるが、ギャップ・イヤーを利用した若者に関しては3~4%に途中
退学者の数が減ると言われている。企業も、ギャップ・イヤーによって様々な社会体験を経た若者
を評価している。
ギャップ・イヤー中の若者を支援するエージェント団体が数多くある。エージェント団体を通す
と、出国前から帰国までの手続きを全部代行してもらえたり、適切なアドバイスをもらえたりする
ことができるため、多くの若者がこれを利用している。政府は優良なエージェント団体を 22 団体集
めて協会をつくっており、そのうちの一つにギャップ・アクティビティ・プロジェクト(GAP)
がある。というものである。
その「ギャップ・イヤー制度」を国際教養大学(秋田市)が実際に導入という記事があった。
国際教養大(秋田市)は本年度、入学資格を得た学生に社会的見聞を広げるための猶予期間を与える「ギャップ・
イヤー制度」を導入した。欧米では一般的な9月入学を前提に、新入学の学部生と大学院生の男女合わせて6人
の学生が制度適用を受け、海外でのフィールドワークやボランティア活動を各自計画し行動している。学生らに
とっては、入学前に見聞を広める貴重な機会となる。卖位認定を目指す新制度で、今後の運用と定着が注目され
る。
ギャップ・イヤー制度を導入するのは全国的にも珍しく、東北の大学では国際教養大が初めて。
同大がギャップ・イヤー制度を採用した背景には、目的意識を持った人材確保の狙いがある。中津将樹広報・入
試室長は「学生が学外での社会的活動を通して社会的視野や人間性の幅を広げ、その経験を入学後の生活の中で
生かしてもらおうという試みで、学内全体のグローバルな人材育成につなげたい」と説明する。
9月に入学する男子2人、女子3人の学部生5人と、女子大学院生1人に制度が適用されている。いずれも海外
でのボランティア活動などを計画しており、入学後の最終報告が認められれば、学部生はインターンシップ、大
学院生は共通科目としての卖位を取得する。
制度適用者は各自、事前に行動計画を提出している。インドでホームステイしながら、ノーベル平和賞受賞者マ
ザー・テレサの関連施設でボランティア活動を行ったり、国内でチャイルドケアに携わった後、オーストラリア
に短期語学留学するなど多彩だ。既に日本をたった学生もいるが、渡航費用がすべて自費のため、3月の合格発
表後にアルバイトを始め、今後の出国に備えている学生もいる
激しい“受験競争”に勝ち抜き、大学入学を果たした日本の大学生たちは、学業より遊びやアルバイト活動に精
を出し、しばしば海外の識者から、目的意識のない学生と指摘されることがある。
ギャップ・イヤー制度は、学生の向学心や向上心を前提としている。源島福己キャリア開発室長は「目的意識が
71
薄い学生たちもいる中で、帰国後に彼ら彼女らがキャンパス内で在学生たちに与える影響は尐なくない」と指摘
する。キャリアデザインの授業を受け持つ源島室長は、授業の中で、ギャップ・イヤーでの経験を学生たちに報
告させる計画だ。
(2008 年 6 月 10 日「抱け向学心、国際教養大がギャップ・イヤー制導入」
(河北新報)
さらに、日本では、早くからギャップ・イヤーを取り入れている高等教育機関として、名古屋商
科大学、光陵女子短期大学がある。イギリス風にギャップ・イヤーを行うために必要な制度はなく、
卖純に保護者、大学が「1年くらい自分を見直す期間があってもいいのでは」と社会が認めてあげ
ることである。寄り道や回り道をしたり、ちょっと立ち止まって考えたりする時間を、保護者も含
めて日本の社会は許容してはくれない。実際には、許容してくれるのかもしれないが、尐なくとも
「こんな行動は、社会から許容されないだろう」と学生達に思わせてしまっている部分が尐なから
ずあるのは事実であろう。
さらに、浜(2007)は “トライヤル実地調査”というものを提言している。概要は下記のとおり
である。
(ステップ 1)
(ステップ 2)
(ステップ 3)
田舎や農村で寄宿体験、合宿体験を通じて集団生活を体験する。
各種施設や企業での、「農業体験」、「職業体験」、「就業体験」、「インタ-ンシップ」、
セミナーの受講などの社会体験を積む。
公的インフラを活用して、スキル.アップや自己 PR などの就職活動に必要な支
援を行う。
就職活動を行う。
(ステップ 4)
↓
社会復帰・職場復帰
この“トライヤル実地調査”も学校教育から離れて、時間をかけて“学校”というものに縛られ
ずに行うものという面において違った意味でのゆとり教育であると私は考える。
私は“ゆとり教育”と題して朝、読書の時間を作ったり、授業数を減らすのではなく、ギャップ・
イヤー制度やトライヤル実施調査をとることなどを許容する社会を作ることのほうが教育を受ける
者にとって有益なものになるのではないかと考える。
引用文献
玄田有史・高橋陽子 2004 『中学卒・高校中退と労働市場』社会科学研究, 55(2), 29-49.
浜民夫 2007 ニートにさよなら 長崎大学総合環境研究, 9(2), 59-71.
株式会社日本総合研究所 2001 『文部科学省委託調査 社会奉仕活動の指導・実施方法に関する
調査研究 要約版』
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/siryou/011002/001.htm
宮崎和夫 1996 『学校不適忚の社会学的研究』 創森出版
内閣府 2009 『青尐年の現状と施策(平成 21 年版 青尐年白書)
』
http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h21honpenpdf/index_pdf.html
菅澤貴之 2006 現代大学入学資格検定受検者の出身階層に関する一考察 人間科学共生社会学, 5,
39-54.
参考文献
稲泉蓮 1988 『僕の高校を中退マニュアル』 文藝春秋.
稲泉蓮 2001 『僕らが働く理由、働かない理由、働けない理由』文藝春秋
72
第 10 章 若年雇用問題―高年齢化するフリーター―
山崎友紀
はじめに
バブル崩壊によって生まれた“非正規雇用”という言葉。フリーターや派遣社員といった雇用形
態で働く労働者のことである。あたまに“非”とつけるだけで、本来正社員に適用されるべき終身
雇用や厚生年金加入義務が、一切適用されなくなり、労使交渉をする必要もなく、ボーナスや退職
金積み立ての必要もない。特に、賃下げ、契約解除といった柔軟な雇用が可能な点は、従来の正社
員とは一線を画するものだった。
バブル後の不況に苦しむ企業は一斉にこれを活用し、彼ら非正規雇用労働者は、正社員という既
得権層を守るために生み出された非搾取階層となり、現在の日本の雇用状況は、
“非”で区切られた
ダブルスタンダート状態にあるといえる。
近年、業績悪化やコスト削減という問題に直面した企業は、非正規労働者を使って人件費を調節
する傾向から、
“非正規雇用者”つまりフリーターなど不安定就労者の増加と、それに伴う若年層の
雇用者所得の格差拡大が労働環境の変化として挙げられる。
フリーター数についてはもともと、厚生労働省が「労働経済の分析(労働白書)
」で公表していた
が、内閣府の平成 15 年国民生活白書(2003 年 5 月末発表)がフリーター数 417 万人という数字を
公表した点に大きな関心が集まったことから若年雇用問題が浮き彫りとなってきたことが始まりで
ある。2007 年頃から雇用情勢の改善とともに、フリーター数は減尐し厚生労働省の定義の基では
2008 年には 170 万人までに下がってきているという統計結果が出ているものの、実際、現在では
新たな問題として“フリーターの高年齢化”という問題も浮上している。
これらのことから、以下からは非正規雇用の中でも“フリーター”という雇用形態に着眼して論
述していく。
第 1 節 フリーターの現状
1-1 フリーターの定義
現在フリーターの定義は厚生労働省と内閣府の 2 つに分かれており、どのくらい増加しているか
は、フリーターをどう定義するかに忚じて推計結果に大きな差が出てくる。そして、それぞれの定
義は以下のとおりである。
【厚生労働省】
年齢は 15 歳から 34 歳と限定し、①現在就業している者については、勤め先における呼称が「ア
ルバイト・パート」である雇用者で、男性については継続就業年数が1~5 年未満の者、女性
については未婚で仕事を主にしている者とし、②現在無業の者については家事も通学もしてお
らず「アルバイト・パート」の仕事を希望する者。
【内閣府】
学生・主婦を除く 15~34 歳のうちパート・アルバイト等、あるいは無業者で仕事を希望する
者。
(
「パート・アルバイト・派遣・請負・契約など非正規雇用全部」+「完全失業者」+「就
職を希望する無業者」の合計)
厚生労働省と内閣府の定義を比べて大きな違いは、内閣府の場合契約社員や派遣社員なども含ま
れているということ。自分はフリーターと考えていない人までカウントされるため、2 つの推計に
は 2 倍以上もの差が出る。
これら二つの定義からフリーター数の推移とフリーターの概念に示す
(図
1、図 2)
。
73
図 1 フリーター数・ニート数の推移(本川, 2006)
1-2 フリーター数の推移
フリーターはいずれの定義によっても年齢が 15~34 歳の若年層に限定されている。15 歳は義務
教育後の生産年齢人口の下限として設定されており、上限はまあ若年層としてはこんなもんだろう
ということで設定されている(本川, 2006)
。ここでは、若年層を年齢別に2区分し、15~24 歳を
前期若年層、25~34 歳を後期若年層と一忚ここでは呼んでおくものとする。
年齢別フリーター数の推移を図 3 に示す。1982 年に 50 万人程だったフリーターの数は、2003
年に 217 万人に達して以降、2008 年現在では 170 万人と減尐傾向にあるが、フリーターの高年齢
化が進んでおり、前期若年層より後期若年層の増加の方が目立っている。1997 年までは、前期若年
層の方が後期若年層の2倍いたが、2002 年以降は双方の数が近づき、それぞれ 100 万人前後のレ
ベルとなり、2007 年には後期が前期を上回った。
フリーター数の規模が変わらないとしても、高年齢化が進んでいると言うことは、そうした状態
からの脱却がより困難になっていることを示しており、この若年雇用問題は深刻化していると言っ
てよい。
74
図 2 フリーター・ニートの概念図(本川, 2006)
図 3 年齢別フリーター数の推移
75
1-3 フリーターの種類
フリーターは大きく 3 つ、細分化すれば 7 つの類型になる。
* フリーターとなった契機と当初の意識に注目した類型化
【モラトリアム型】
1. 離学モラトリアム型
高校、専門学校、大学からの中退者、大学受験失敗・進学断念、進路未定のままの高卒者・
大卒者などが含まれる。
2. 離職モラトリアム型
高卒・短大卒・大卒後、数ヶ月から 2 年程度の正社員経験を経て離職し、フリーターとな
った者。離職理由は労働条件や人間関係。彼らの正社員経験の印象はあまりいいものでは
なく、離職時に正規雇用を志向してはいない。
* フリーターへの分岐点は随所に存在している。卒業時に進路未定者を出さない
進路指導だけでは、問題は解決されない。
【夢追求型】
3. 芸能指向型
バンドの練習、オーディション忚募、養成機関所属など、何らかの関連活動を行って
いるが、夢への接近度は様々。
4. 職人・フリーランス志向型
経験を通した技能・技術の蓄積が要求される。関連するアルバイトを行ったり、仕事
を請け負ったり、自ら作品を売り込んだりして市場への参入を図っている。
* 若者が憧れる職業には、参入ルートが不確かなものが多く、これらの職業そのものが、フ
リーターという就業形態を要求していると見ることもできる。
【やむを得ず型】
5. 正規雇用志向型
公務員など特定の職業への参入機会を待っている者、離職したが正規雇用を志向して
いる者、就職活動に失敗した者、派遣を志向した者が含まれる。企業の採用活動がも
っと積極的に行われていれば、あるいは特定の職業に関する労働市場の需給状況がも
う尐し緩んでいれば、このタイプの者はほとんどフリーターにはならなかったと考え
られる。
6. 期間限定型
進路変更による専門学校への入学時期待ち、次の入学時期までの学費稼ぎ、ワーキン
グホリデーのための費用稼ぎなどが含まれる。
7. プライベート・トラブル型
トラブルにより学校を離れた当初の将来の展望ははっきりしておらず、その意味では
①モラトリアム型と共通。
* 本人の意欲とは別の労働市場の悪化や家庭の経済事情、トラブルから「学校から就業へ」
の円滑な移行は中断されることがあり得る。
76
図 4 男女別類型分布(労働政策研究・研修機構)
フリーターの男女別類型分布を図 4 に示す。男女別の類型分布より類型別の傾向として最も多い
のは【モラトリアム型】で全体の 39.2%を占め、
【夢追求型】が 27.8%、
【やむを得ず型】が 33%
という結果になっている。
これからわかることは、
【モラトリアム型】と【夢追求型】自らの意思でフリーターになった割合
が高く、最近の若年層フリーターは“未来の自分”ではなく“現在の自分”を重視する傾向にある
のではないかと考えられる。
第 2 節 フリーター増加の背景
2-1 社会的背景
フリーターという不安定就労の働き方をする若者が急増した第一の要因は、企業の採用行動が変
わったからである。90 年代初めの景気後退以降、新規学卒者については厳選採用が続き、一方でア
ルバイト・パートをはじめとする非典型雇用での採用は活発化した。
産業界からは、すでに 1990 年代半ばに、新規学卒採用という長期雇用を前提とした採用を限定
的なものとし、正社員以外の雇用形態を拡大する方向が日本的経営の今後として示されていた。労
働力需要が非典型雇用に向かったのは、不況ゆえの選択というばかりでなく経営の基本的な考え方
の変化が現われたものでもある。
同時に、若年労働力の位置づけも変わった。フリーターになる確率を属性別にとると、年齢が若
いほど、また学歴が低いほど高く、またその傾向は新しい世代ほど強い。同じことが、失業率にも
当てはまる。
すなわち、若く、学歴の低い者ほど失業しやすい傾向が強まっている。ここからいえることは、
若年失業者の増加とフリーターの増加とは同じ背景、つまり、若くて学歴の低い者への正社員とし
ての需要の低下からおこっているということである。実際、同じ学卒労働力でも、高校生への求人
はこの間 8 分の 1 にまで減尐しているが、大学生への求人は 3 分の 2 までの減尐に留まっている。
こうした若年労働力への需要の変化は、日本だけで起こっていることではない。若く、学歴の低
い者の失業率の上昇は、1970 年代後半以降、先進諸国の多くが経験しているところである。その背
景には経済規模が国際的に拡大する中で、先進諸国ほど付加価値の高い産業にシフトし、同時に付
加価値の高い労働への需要が高まるという構造的な要因があろう。年齢が若く、また、学歴が低い
者ほど、スキルや経験が蓄積されていないために、就業機会が限られることになる。
学卒時に長期の安定雇用を得られない者は、むしろ他の先進諸国のほうが多い。だから日本のフ
リーターは問題でないかといえば、それは違うだろう。これまで、あるいは今でも一定範囲の若者
には新規学卒採用が適用され、能力や意欲の形成が進んでいる。その一方で、いったんフリーター
77
や無業になった者が、次の機会をなかなか得られないでいるのである。
2-2 若者側の意識
従来のフリーター研究は、おもにフリーターの若者の社会経済的な側面を中心に検討を行ってき
た。そのため、過度に社会経済的な要因を強調する傾向があった。結果的に、フリーターの問題に
どのようにかかわっているのかは十分に明らかにされてこなかった。
しかし、キャリア発達に関する心理学的な文献の多くは、類似の社会経済的状況、類似の環境化
にある若者であれば、
個人の意識が決定的に進路選択行動に影響を与えることを明らかにしてきた。
また、現在、不安定就労の若者に対する対策が充実すればするほど、若者の心理面が従来よりも一
段深いレベルで問題となってきている。
たとえば、ジョブカフェで働くカウンセラーからは、若者が働いていない最大の理由として「第
1 位 自信がない、第 2 位 行動力不足、第 3 位 コミュニケーション力不足」など、従来、心理
学的な研究で扱われてきた要因が多く挙げられている(ジョブカフェ・サポートセンター,2005)
。
また、日本銀行京都支店(2005)は今の若年には以下の「3つの欠如」が存在しているという事
実も看過できないと指摘している。
① なぜ働かなくてはいけないのかわからない (就業観の欠如)
20~24 歳未婚者の約 4.5 割(男性:40.9%、女性 49.6%)は親からの資金援助を受けている。こ
のため、
「生活するために働く」というインセンティブが働かない。
② 何がしたいのかわからない (動機の欠如)
教育コストの削減から、企業が求職者に自立的なキャリア形成を求めるようになったため、就
業前から自らキャリアを意識する必要が生じた。しかし、就業経験がない状態で「何がした
い?」と問われても、学生は困惑してしまう。
③ やりたいことが見つかっても就職できない(能力の欠如)
専門的な知識や能力も大切だが、自らコミュニケーションを図る能力や目標を設定する能力と
いった基礎的な力(社会人基礎力)が欠如しているケースが多い。
これらの問題は、若者を支援する体制が整えば整うほど、当の若者の意識面での課題が目につく
ようになっている。現在、フリーターの問題は心理学的な観点からより詳しく検討することが求め
られており、フリーターの問題の何が社会の側の要因かを正しく整理した上で、個人の心理的な要
因に着目した分析が必要となっているのである。
第 3 節 フリーターの高年齢化問題
近年、新たな問題として浮上してきたフリーターの高年齢化である。2008 年 2 月 29 日時事通信
社の記事にはこう書かれている。
フリーター4年連続減=高齢化一段と-07年労働力調査
総務省が29日まとめた2007年の労働力調査によると、フリーター人口は前年を6万人下回る181万人と
なり、4年連続で減尐した。雇用情勢の回復や雇用対策が奏功したようだ。ただ、就職氷河期で正社員として就
職できなかった「年長フリーター」は減っておらず、高年齢での就職が難しい実態が改めて浮かび上がった。
フリーターは15~34歳のパートタイムやアルバイト。07年の人数を年齢別に見ると、24歳以下は89万
人で6万人減ったが、25~34歳は前年と同じ92万人で、全体の高年齢化が進んだ。また、フリーターの定
義からは外れるが、35~44歳のパート・アルバイトは38万人と6万人増えており、
「元フリーター」が定
78
職に就かないまま年齢を重ねている可能性も高い。
24 歳以下というのは、学生でも充分通じる年齢であり、正規雇用者の年収も低く、言ってしまえ
ばフリーターであろうが、正規雇用者であろうが、大して変わらない年齢ともいえる。しかし差は、
その後に広がってくる。25 歳からずっとアルバイトで暮らすということは、あまり責任のある立場
に置かれず、経験や技術を積むことも難しく、年々正規雇用に採用される可能性が低くなるという
ことでもり、
その年代のフリーターが減っていないどころか、
増えているということに問題がある。
「フリーターで経験を積んで正社員に」という人はいいのだが、そうでない場合、フリーターに
はほとんど昇給という制度がない。
“ワーキングプア”
という言葉があるが、
それは働いていながら、
生活保護費より低い年収の者を言う。このワーキングプアに該当するほとんどは非正規雇用である
不安定就労者である。正社員と非正社員の賃金伸び率を図 5 に示す。
18 歳でフリーターになった者が、そのままずっとその生活を続けると、30 歳になっても、35 歳
になっても、ほとんど収入が変わらないまま、年齢だけを重ねていくということになる場合が多い
のである(図 5)。
図 5 正社員と非正社員の賃金伸び率
そして、厚生労働省の定義から外れる 35 歳以上の人たちの現実は、ますます悪くなっていく。
年齢を重ねるほど正規雇用は難しくなり、現状は厳しくなる一方なのである。従業員を雇う企業側
としては、アルバイト経験をキャリアとして考えない企業も多く、歳を重ねるごとに、条件の悪い
アルバイト先しか仕事先がなくなってくるという現実もある。
上図を見ると、55 歳くらいからは、年収が上がっているように見えるが、これは上場企業などの優
良企業を定年退職した者が非正社員として再雇用されることが大きく影響している。つまり、実質
的には正社員の年収は 30 歳~34 歳で頭打ちになり、伸びないということになる。
次に、記事の後半下線部から読み取れること、それは 25~34 歳のフリーター人口は減っておら
ず、フリーターの定義から外れた 35~44 歳のフリーターは増加しているという事実。これは高年
齢化が進むフリーター調査における欠点なのではないだろうか。雇用情勢が良くなり、新卒採用が
79
増え、若年フリーターが尐しずつ減尐傾向にあったとしても、一方で、取り残されたフリーターた
ちは年を取り、やがて定義から外れ調査の対象外となる。統計上ではフリーターの減尐が見られた
としても、実際にはこのフリーターの高年齢化から、問題は解決されたのではなく、年長フリータ
ーが統計上から“切り離された”といってもよいだろう。
第 4 節 まとめ
これらにより、
一昔前まではフリーターの増加はバブル崩壊後の長期的な経済低迷の影響により、
企業側の雇用調整の手段として新規採用抑制を行う企業が増加したことや、賃金抑制に伴う不安定
就労者の活発化など社会的背景から労働環境が変化し、フリーターの増加が問題として上がってき
た。しかし、その後は企業側の問題だけでなく、若者側の意識の変化から自らフリーターへの道を
選ぶ者や、就業意識または社会人基礎力の低下など、個人の問題も明らかになってきている。そし
て、近年、新たに浮上してきた問題が“フリーターの高年齢化”である。フリーター問題も一息つ
いて、現在は減尐傾向にあるものの、それは雇用情勢の改善や支援の充実から若年フリーターの減
尐による数値であって、年長フリーターにあたいする者たちの数値は変わらず、やがてフリーター
の定義から外れていくのである。これは問題を遠目に視ると解消の方向には向かっているが、現段
階では何の解決にもなっていないのではないだろうか。
新たな問題が浮上したこのフリーター問題の後を追っていくためには、定義の年齢の延長やフリ
ーターの定義から外れた後の新定義が必要であり、その統計が重要である。そこから、今後は若年
フリーターだけでなく、年長フリーターの支援策の提案が不可欠であろう。
引用文献
本川裕 2006 社会実用データ図録
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3450.html
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3470.html
日本労働研究機構 2000 フリーターの意識と実態 -97人へのヒアリング結果より- No136
日本銀行京都支店 2005 『若年層の雇用問題と日本経済』
http://www3.boj.or.jp/kyoto/koho/doushi/170620a.pdf
週刊ダイヤモンド 2009 年 2 月 7 日号 「ハケン VS 正社員」
参考文献
白五利明・下村英雄・川崎友嗣・若松養亮・安達智子 2009『フリーターの心理学-大卒者のキ
ャリア自立』世界思想社.
小杉礼子 2003 「フリーターという生き方」勁草書房.
太郎丸博 2006 「フリーターとニートの社会学」世界思想社.
80
第 11 章 ”友達親子”が子どものキャリアにもたらす影響
山田美沙
はじめに
近年、フリーター問題をはじめとする様々な若年雇用問題が社会問題として議論されている。中
でも、労働市場の悪化により社会に出にくくなったことを背景に、若者は安定した職や目指す職に
就くまでの間、または一人で暮らしていけるだけの収入を得ることができるようになるまで、
「福祉
国家の支援に代わる代替物」として、親への依存を強めるようになったという指摘(宮本,2002)も
ある。
そこで私は、家庭環境の変化、という点から“友達親子”に着目してみた。最近では、仲のよい
母親と娘が一緒に買い物を楽しんでいる姿が取り上げられるのを目にすることも多く、友人との会
話の中で登場する母親の姿も権威的で厳格な母親としてではなく、一人の友人であるかのように語
られることが多い。このような親子の姿は一見友達のようであり、しばしば友達親子と呼ばれる。
友達親子は肯定されつつある反面、親は子どもに対して依存を許すべきではないとの批判もある。
その批判の中で指摘される「
“親への依存”=友達親子」と卖純に結び付けてしまうことに疑問を感
じたのが本レポートの動機である。
友達親子に関する研究はまだ数が尐なく、新鮮な題材であると考える。そこで今回は、これらの
問題に関連する文献を通して得た、
“共依存”
、
“共存”
、
“アダルト・チルドレン”をキーワードに、
“友達親子”が子どものキャリアにもたらす影響について考察していきたいと思う。
第 1 節 友達親子の定義
山田(2007)は、
「友達親子」という現象について「親が子どもを過剰に容認する」と指摘している。
子どもに対し親の特権を持とうとしない、まるで友達のように同じ視点で子どもと接する親子のこ
とであり、この関係の中には、父親は含まれず、
「子ども(特に娘)と母親がまるで友達のように仲
良く暮らすこと」と定義している。
しかし、友達親子とは、文字通り友達みたいな親子のことである。そこにはかつての親子の上下
関係、夫婦の主従関係は一切ない。親と子、そして夫と妻、みんな横並びの仲間・友達とする見方
である。家族の形態が様々であるように、
“友達親子”にもそれぞれの形態、感覚があり、定義する
のは非常に難しい。
そこで本レポートでは、友達親子を“母と娘”の関係に限定し、
「親が権威的にではなく、対等な
立場で子どもに接する親子関係」と定義する。
第 2 節 “友達親子”がなぜ問題視されているか
この節では、信田(1997)をもとに述べる。
友達親子を“病的な母子密着”とする卖純な病理説がある。これは一言で言えば、
「母親が娘を思
い通りに支配するのが友達親子」とするものである。自分の若いときにできなかったことを娘にや
らせる、そして過剰な期待をかけ、娘にプレッシャーをかける、結果的に、娘の人生にべったり入
り込んでしまう…。まさに、
「娘は母親の私がいないと何もできないだろう」という思い込みで成り
立っている母娘関係をイメージしているようである。つまり、母親が娘のキャリアに悪影響を与え
る、娘は友達親子から脱出しなければ人生は開けない、いかにして友達カプセルから抜け出るか、
といった考え方である。
確かに母娘が密着することの危険性はある。摂食障害をはじめとする若い女性の問題行動の背景
に、いつも指摘されるのがカプセル化した親子関係だからだ。母親に人生を支配され、自己主張や
自立性を奪われて成長した娘のことである。社会に出る年頃になっても、母親の価値観が自分の価
値観であり、就職や恋愛、結婚という人生の節目にも、自分自身のキャリアの選択・決断ができな
81
いこと、病理説もそんなところから来ているのだと思う。
しかし、母と娘がまるで友達同士のようにおしゃべりをし、仲良くすることは、明るくて幸せそ
うな関係とも見えるであろう。これがはたして病的なのだろうか。
「病理」としてだけしか把握しな
いのではなく、もっと健全な現象として捉える必要があるだろう。
これらを読み解くキーワードとして、
「共存」
、
「共依存」
、
「アダルト・チルドレン」を呈示した
い。
2-1 “共存”
“共依存”とは
信田(1997)は、友達親子は“共存”関係であり、これが“共依存”になったときに子どものキャ
リアに悪影響を与えるような問題が起きる、と述べている。では、共依存とは何か。
「共依存」とい
うコンセプトはアダルト・チルドレンと双生児のようにしてアメリカの嗜癖臨床の現場から生まれ
た。ピア・メロディ(2002)によると、共依存の中核の症状は以下の5つが挙げられる。
1. 適切な高さの自己評価を体験できないという自己愛の障害
2. 自己と他者の境界設定ができずに、他者に侵入したり、他者の侵入を許したりするという自
己保護の障害
3. 自己に関する現実を適切に認識することが困難であるという自己同一化の障害
4. 自己の欲求を適切に他者に伝えられないという自己ケアの障害
5. 自己の現実(年齢や状況)にそって振舞えないという自己表現の障害
共依存は「苦しみながらも離れられない関係」のことであり、関係の持ち方や様態をさしている
のであって、病気の症状ではない。時には「愛情という名の支配」と説明することもある。そこに
見られるのは他者に関心を集中し、世話をすることで自分を省みない姿であり、そうすることで安
定して生きるのである。
“共依存的”友達親子になってしまうのはなぜか。母親は娘に対して、その子供が自分から分離
して、自立していくことに不安を抱き、むしろ絶えず自分の支配下に置こうとする。したがって、
娘が自立する方向に向かうと攻撃的になる。ところが、娘が不安になって、母親に依存し、とくに
身体的な病気や障害をあらわすと、過剰な愛情を向け、保護し、溺愛する。この母娘関係が内在化
すると、娘は自立の方向に向かうと不安が高まり、内在化した母親像からの攻撃を体験する。この
攻撃性は自分に向き、身体化される。身体化を起こすと、母親に許され、愛される体験が起こる。
こうしたプロセスが、
“共依存的”友達親子をつくるといえる(ピア・メロディ,2002)
。
それでは、
“共依存的”友達親子になってしまうと、どのようなことが起こるのか。上述の5つの
症状を核にして、16 の症状行動(思考・態度)が派生する(表 1)。
表 1 16の症状行動
① 自らを犠牲にして他人を助けたり、世話したりする
自分が他人にとって必要になっており、ありがたがられる、などの報酬を無意識に期待している。目先の
愛情にとらわれて他人の世話をするが、大きな目で見ると他人や自分を破滅に導いていることに気がつか
ない(例・不良息子や飲んだくれ亭主に必死に働いてお金をあげたり、本人達の不始末を代わりに謝る)
② 他人の行動、感情、考え方・状況・結果を変えようとコントロールする
他人の行動の責任はとるが、自分の行動がどのような結果を招いているかは考えない。他人の文句を言っ
たり、他人がどうするべきかを考えてそうなるよう努力はするが、自分がどうすれば本当は良いかを考え
ない。
82
③ 何か身の回りに問題や危機が起こっていないと空虚になる
問題のある人や場所に惹かれやすく、不安定な生活を送りやすい。いざ安定した自分中心の生活と不安定
な他人中心の生活の選択をせまられると、
「私がいないとあの人は……」
「金銭的に無理」などといろいろ
理由を並べて熱中できる問題がたくさんたる生活を選ぶ。
④ 依存心が強く、一人でやっていけるという自信がない
自尊心・自己評価が低く、自分自身が好きではない。一人で過ごしているとひどい虚無感に襲われて、自
分を必要としてくれる人を常にもとめ、
「見捨てられる危機感」を振り切れない。
⑤ 考え方、視野がせまい。社会・地域・自然などへの関心・貢献が薄い
特定の他人の問題で頭がいっぱいで、友人からも離れ、小さく狭い世界で生活する。このため、自分と自
分の周囲の狭い範囲の人達が、どんな悲惨な状況なのか気がつかない。
⑥ 現実をしっかり見つめようとしない
他人の目や意見を気にして、あるいは自分の本当の気持ちをごまかすために、真実を隠して表面は何でも
ないように振舞う。悪い面をできるだけ小さく考えようとしてそう表現する。
⑦ 「No」と言えない。
「私」を中心に話せない
コミュニケーションの技術に欠け、
「自分の」必要なもの、欲しいものをはっきり要求することができない。
「いいえ、できません」とはっきり断わることができない。他人の問題や他人の愚痴ばかり話し、
「私は」
こう感じてこう考えるというように自分自身を主にできない。
⑧ 他人とのバウンダリー(境界)がはっきりしていない
他人の問題にお節介にも入り込んでしまったり、他人の落ち込むのを見ると、自分も滅入ってしまったり、
または人の気分を変えようと必死になったりする。自分と他人は考え方も感じ方も感情も違う個別の人間
であるという自覚が、実はない。
⑨ 自分の身体から出るメッセージに気がつかない。感情の適切な表現ができない
繊細な感情がマヒしてしまっているので、感情の適切な表現ができずに、何だか変だなと思うときに胸が
ドキドキしても、それに注目せず無視してしまい、行動を変えることなく同じ間違いを何度も繰り返した
りする。
⑩ 怒りに問題がある
自分よりも他人のために行動しているのに報われないとなると、怒りや恨みがたまってくるのは当たり前
のことだが、自分自身でその怒りを否定するために適切な怒りの表現ができない。急に爆発させたり、八
つ当たりしたり、あるいは怒りを「恐怖」にすりかえて怒りを感じないようにする。
⑪ 静かに時を待つ、ということを知らない
今すぐ良い結果が出ないと気がすまず、せかせか動き回ったり余計な心配に気をもむ。他人の行動を長い
目で見守ることができず、自分が今すぐコントロールしようとする。しなければならないことで頭がいっ
ぱいになり、様子をみるということができない。
83
⑫ 罪の意識によくおそわれる
相手に問題があるのは、自分が何か悪い事をしたかのように思い込み、自分がもう尐し努力すれば、また
自分の欠点を直せば相手が良くなるだろう、変わるだろうと必死になる。疲れて相手から離れようと考え
ると「私がいなければあの人は」
「子どもがかわいそうだ」とひどい罪の意識に囚われる。
⑬ 物事が極端。ほどほどに、ができない
黒か白かがはっきりしすぎたり、自分が正しくて他人がまったく間違っているとか、または反対に全部自
分のせいだと思い込んでしまう。いったん何かをやりだすと限度を知らず、または物事を1つも完成させ
ることができずに、途中ですべて投げ出してしまう。
⑭ 過去の間違いから学ぶことができない
相手が問題を起こすと憤慨し嘆くが、尐し調子がいいと苦しかったことを忘れて相手を「可哀想な人だか
ら」と弁護したり本当はとても良い人だと思ってすぐ許してしまう。離れたり調子が良いときは楽しいこ
とばかり思いだし、苦い経験を忘れてしまうのでふたたび同じ過ちを繰り返す。
⑮ 被害者意識にとりつかれている
相手を救おうとあがき、上手くいかないと相手を責める。それもうまくいかないと、相手のせいで自分は
こんなにみじめだと被害者意識にとりつかれる。被害者の役割を演じ、相手のせいにしていれば自分の選
択と行動の結果の責任を取らなくていいという錯覚に陥る。
⑯ 自己の確立ができていない
自分に自信がないので他人に幸せにしてもらおうと思っていたり、自分の人生の目的や自分はいったい誰
なのかがはっきりせず、自分を大切にできない。すべての共依存の問題は、ここから始まっていると思わ
れる。
このような内的な対象関係のパターンとして、母子関係によってつくり上げられるパーソナリテ
ィの持ち主が、心身症を起こしやすいと言う。つまり、こうした症状行動を起こすだけでなく、う
つ病、不安障害、パニック障害、恐怖症、強迫性障害、解離性障害、人格障害、同一性障害などに
つながってしまうこともある。つまり、母親が子どもの人生をからめとる形で子どものキャリアを
支配するのが共依存なのであり、こうなって初めて友達親子の危険性・問題点が現われるのではな
いだろうか。
2-2 アダルト・チルドレンとは
最近、よく耳にするアダルト・チルドレン(AC)という言葉も、こうした共依存の親のもとでの
苦しみ、生きづらさを表現している。共依存的母を持つ人たちは、自分の人生と母親の人生を切り
離せなくて苦しむ。母親の支配は被支配とセットになっている。共依存の友達親子の場合、親は子
どもの面倒を見ているつもりでも、実は子どもがどこかで親を支えているのである。
それでは、具体的にアダルト・チルドレンとは何か。アダルト・チルドレンについての認識はど
の程度正しく広まっているのだろうか。
言葉の表面だけからみて、
「大人になりきれていない子ども」
と認識してしまっている人が多いのではないだろうか。
本来のアダルト・チルドレンはアメリカのソーシャルワーカーたちがアルコール依存症患者
を抱えた家庭で育った人たちに共通の問題を見出し,そのような人たちを指して慣用的に呼び
ならわすようになったものである。現在は一般的に、アルコール依存症の親に育てられるなど「安
全な場所」として機能しない家族、いわゆる機能不全家庭で育ち、成人になってもそうした体験が
84
心的外傷として残っている人を指す言葉と使われていることが多い。アダルト・チルドレンの種
類を表 2 に示す。ACoA、ACoAP、ACoD、AGCDがあることが分かる。上記のこ
とは4種類の中でも、ACoDを指している。
表 2 「アダルト・チルドレン」の種類 ジャネット・G. ウォイティッツ(1997)より
A
アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリック。アルコール依存症の親の
C
元で育った人。
o
A
A
アダルト・チルドレン・オブ・アビューシブ・ペアレンツ。虐待する親の
C
元で育った人。
o
A
P
A
アダルト・チルドレン・オブ・ディスファンクショナルファミリー。機能
C
不全家族の中で育った人。
o
D
A
アダルト・グランド・チルドレン・オブ・アルコホリック。アルコール依
G
存症の孫として育った人。
C
D
ジャネット・G. ウォイティッツ(1997)よると、この「ACoD」の特徴には以下の 13 がある。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
正しいと思われることに疑いを持つ
最初から最後まで、一つの事をやりぬくことができない
本音を言えるようなときにウソをつく
情け容赦なく自分を批判する
何でも心から楽しむ事ができない
自分の事を深刻に考えすぎる
他人と親密な関係を持てない
自分が変化を支配できないと、過剰に反忚する
常に承認と称賛を求めている
自分を他人とは違っていると感じている
過剰に責任を持ったり、過剰に無責任になったりする
忠誠心に価値がないことに直面しても、過剰に忠誠心を持つ
衝動的である。行動が選べたり結果も変えられる可能性があるときでも、お決まりの行動
をする。
これら13の特徴は機能不全家族の中で育つ人によくみられる特徴である。では、機能不全家族
とはいったいどういった家族なのだろうか。機能不全家族とは、わかりやすくいえば子供の目から
みて家族が家族として機能していない家族である。それでは、機能している家族とはどういった家
族のことをいうのだろうか。機能家族とは、自分の安全な場所、愛情を注いでもらう場所、保護を
受ける場所である。
85
ジャネット・G. ウォイティッツ(1997)より、
「機能不全家族」の特徴を以下に示す。
1. よく怒りが爆発する家族
2. 冷たい愛のない家族
3. 性的・身体的・精神的な虐待のある家族
4. 他人や兄弟姉妹が比較される家族
5. あれこれ批判される家族
6. 期待が大きすぎて何をやっても期待に沿えない家族
7. お金や仕事、学歴だけが重視される家族
8. 他人の目だけを気にする表面上はしあわせそうな家族
9. 親が病気がち、留守がちな家族
10. 親と子の関係が反対になっている家族
11. 両親の仲が悪い、ケンカの絶えない家族
このような機能不全家族に挙げられる家族の中で育った人々にアダルト・チルドレンが多いと
言われているが、必ずしもこのような家庭環境の中で育つ人がアダルト・チルドレンになるという
訳ではない。このような機能不全家族の家庭環境で育つ人々は、下に挙げている 10 のいずれかの特
徴をどうしても強いられているケースが多い(ジョン・C. フリエル、リンダ・D. フリエル, 1999)
。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
身体的虐待、感情的虐待、性的虐待、無視、その他の虐待
完璧主義
融通性のない家族ルール、生活スタイル、信念スタイル
「話すな」のルールと、家族の秘密を守る事
自分の感情を見極めたり、表現したりする力のなさ
家族の他のメンバーを介してのコミュニケーション
二重メッセージ、二重拘束
遊んだり、楽しんだり、自然に振る舞う事のできなさ
不適切な行動や痛みに対する耐性がありすぎること
境界が不鮮明な網状家族
そのため、自分の本当の気持を大切に出来なくなってしまい、アダルト・チルドレンになってし
まいやすいのである。
機能不全家族なる自分の家族を守るため、自分の本当の気持ちを蔑ろにしてまで演じてきた家族
の中の役割により、自分の本当の気持ちとは違った行動をとるようにアダルト・チルドレンの人々
はなってしまっている。その典型的なものを表 3 に示す。
表 3 機能不全家族における子どもたちの役割
ヒーロー、スーパーヒーロ
ー
スケープゴート(犠牲の山
羊)
ロスト・ワン(忘れさられた
子供)
プラケーター(慰め役の子)
斎藤学(1996)
家族の関係を良好にするために、世間に評価される
家族の代表になる
家の中のダメを全部背負うような子ども
家族の中で目立たない、いなくなったことも気付か
れない忘れ去られた子ども
家族の中で上手く調整役や慰め役をこなすが、あな
たはどうしたいいか聴かれると答えられない。
86
クラン(道化役の子)
イネイブラー(支え役の子)
突然とんちんかんな事を家族の中でいって、家族の
中の緊張を和らげ問題から注意をそらす
家族の一人一人の寂しさを和らげてあげたりして、
家庭の崩壊を避けようとする
信田(2001)は、アダルト・チルドレンについて、生まれ育った家族における親の影響、親の支配、
親の拘束というものを認める言葉、と述べている。つまりアダルト・チルドレンとは、親の支配の
下にあって影響を受けながら今の自分がある、と認めることであり、自らの生きにくさの理由を自
分なりに理解しようとする人がたどりつく、
「自覚」であるということである。病名やマイナスのレ
ッテルではなく、自分がアダルト・チルドレンと思えばアダルト・チルドレン、自己認知の問題と
いうことになる。他人から与えられる言葉ではなく、主体的な言葉であると言える。
また、もう一つのポイントとして、
「自分の苦しみが親との関係に起因する」という点を挙げてい
る。たしかに成人に達した若者が、自分の生きづらさを社会の仕組みや矛盾、自分の性格でもなく、
「親との関係」に「起因」すると認めるのは非常に難しいと思う。というのは、何でも親のせいに
するのは子どもっぽい考え方で、成人してまで親について責めたり非難するのは情けない、あるい
は自立できていない、という見方が日本社会には存在しているように思えるからである。このよう
な見方を常識とするなら、アダルト・チルドレンと自覚すること=自立していないと認めること、
となってしまうだろう。しかしこの言葉はその常識を転換させるものであり、さらにこの根拠とし
て、信田(2003)は以下のように述べている。
「私たちはだれでも、生まれ育った家族の影響や支配を受けて成長します。アダルト・チルドレンの人たちはア
ルコールやギャンブル依存の親に虐待されたり、あるいはワーカホリックの家庭で愛情に縛られ、コントロール
されながら育ったのです。いずれも幼尐時より親を支えて“良い子”を演じ続け、そのような家族の中で、問題
も起こさず生き延びてきたのです。アダルト・チルドレンとしての自覚がないと“私は親のようにはなりたくな
い”と思って成長し、結局は親と同じような家族関係を作ってしまうことも多いのです。このような繰り返しを
世代連鎖といいます。アダルト・チルドレンと自覚することで、このような世代連鎖を防ぐこともできるのです。
」
以上のように、アダルト・チルドレンの人たちは、過剰に自分にこだわって、自分の生きる背景
を自分の中に形成している人であるといえる。一方で、共依存の人はそれを全て切り捨てて、人の
世話をするという方向に行った人、自分を反転して他人の人生に乗り移る人なのである。アダルト・
チルドレンと共依存は対極関係である一方、苦しくなると果てしなく他者に入り込んでいく人と、
自己にこだわっていく人というように分かれても、実は共依存とアダルト・チルドレンというのは
根は同じで、対極関係にあるのも同じフィールドに存在しているからこそであると考えられるので
はないだろうか。
第 3 節 友達親子が生まれる背景
内閣府が 2001 年に実施した国民生活選好調査より、
親と同居している人の生活満足度を図 1 に示
す。親と同居している人の生活満足度は「親と一緒に暮らしたいから」という積極型の方が生活満
足度が高く、さらに女性の方が割合が高いことがわかる。親密な関係にある親子ほど、親と同居し
ていてもうまくいくからだと考えられる。
87
図 1 親と同居している人の生活満足度
注:内閣府「国民生活選考調査」(2001)により筆者が作成
続いて、
「あなたは、親子の付き合いも友人のような関係であってもよいという考え方について、
どのように思いますか。
」という問いに対して「全くそう思う」と「どちらかといえばそう思う」と
答えた人を友達親子肯定派とするとその割合は全体の 51.2%にのぼり、「全くそう思わない」「どち
らかといえばそう思わない」と答えた友達親子否定派の 23.1%を大きく上回った。
図 2 親子の付き合いも友人のような関係であってよいか
注:内閣府「国民生活選考調査」(2001)により筆者が作成
・
「あなたは、親子の付き合いも友人のような関係であってもよいという考え方について、どのように思いますか。
あなたの考えに近いものをお答えください。」という問に対する回答者の割合
・
「友達親子肯定派」は、「まったくそう思う」、「どちらかといえばそう思う」と回答した人の割合の合計。「友達親
子否定派」は、「どちらかといえばそう思わない」、「全くそう思わない」と回答した人の割合の合計
・
「女性」は、15~79 歳の割合。「若年女性」は、20~34 歳の割合。
・
回答者は全国の 15~79 歳の女性 2023 人
これらの結果から友達親子に対する否定的考えはあるもの、徐々に友達親子が肯定されつつある
こと、若い女性ほど肯定的であることが分かる。
また、信田(1997)は、友達親子の特徴として、①一緒に出かけることが多い、②母親がスポンサ
ー、③服やアクセサリーなどの共有の3点を挙げている。
「消費」は親子の共通の行動であり、消費
社会を母と娘で享受しているというものだ。一緒に買い物して母と娘で共有すれば、共に精神面で
も金銭面でもお得だし、合理的、確かにそのとおりである。それは「消費」を媒体とした連合のよ
うな関係であり、消費社会が生み出したという言い方をすれば、
“友達親子”が生まれた背景も想像
できるだろう。
88
親と同居している人だけなのでは、と考える人がいるかもしれないが、母娘消費に関しては、同
居だけが全てではなく、親との関係が円満で、つかず離れず近くに住んでいることも多い。若い年
齢層ほど親の近くに住む割合が高いのだ。未婚・既婚にかかわらず、親の近くに住めば、援助も得
やすいし、一緒にお出かけの機会も増える。休みの日に一緒に買い物や外食に出かけて楽しいのは
「家族」だという女性が多く、結婚した後も母親と旅行するなどの「母+娘」での消費意欲は旺盛
である。娘と一緒に出かけて楽しむ母親と、家計が厳しい状況にあっても、母親との共同消費によ
って経済的負担が軽減できて一石二鳥の娘が寄り添って、お互いの消費意欲を満たしているのだろ
う。
第 4 節 友達親子のメリット
以上の事柄をふまえて、
この節では信田(1997)をもとに、
友達親子のメリットについて考察する。
幼いころはやはり母親としての役割が大きく、子どもを育て、しつけなければならない。しかし
成長とともに、勉強や一般常識、社会性などを学ぶ場面として、学校や塾、アルバイト等、家庭以
外の割合が増えてくる。教えることのなくなった母親はお金だけの関係にならないために娘と友達
に取り入ろうとするのだろうか。将来の面倒を見てもらうために今から娘のご機嫌をとっておこう
とするのだろうか。決してそうではないと思う。友達親子の母親の楽しみは、何も家庭だけではな
く、仕事に精を出したり、習い事をしたり、趣味に明け暮れたり、自分の世界を持っている。だか
ら娘にとって母親という存在が魅力的に感じられるし、尊敬することができる。逆に母親側も、若
い娘と関わることで若者の世界をより知ることができる。お互いが発見した楽しいことを、教え合
い、一緒に楽しむのである。一緒に楽しむときは上下関係などなく、対等になる。こうして同じ時
間を過ごすとき親子は友達のような関係になるのではないだろうか。そしてお互いに別の世界があ
るからこそ、
“共存”することができるのではないだろうか。
また母親にとっての娘は、大切に育てたかけがえのない存在である。母親としての役割を引退し
たからといって親子の関係を終えたくはないし、娘も同様に感じている。母親は今まで愛情をかけ
て育ててくれただけでなく、自分を絶対に裏切らない存在である自信がある。そのため娘は安心し
て母親に甘えることができるし、
本音で語り、
女同士で向き合うことができるようになるのである。
いずれは結婚し家を出るだろう。親の近くに住みたいとはいってもそれが叶うかは分からない。
母親のそばで過ごせる時間が減っていっているかもしれないのだ。
今しかない時間を大切にしたい、
そんな思いが友達親子にはこめられているのではないだろうか。近年悲しいことに、家庭内暴力、
さらには家庭内殺人といった家族間の事件の報道を目にすることが度々ある。その原因の多くは健
全なコミュニケーション不足による機能不全家族であることから考えても、こうした“本音で語り
合える関係”は友達親子の素晴らしいメリットではないだろうか。
第 5 節 まとめ
このように、
「友達親子」の関係にある母娘は、親同居のメリットを享受しており、それには“消
費社会”という社会的背景の存在が考えられることがわかる。幸せな友達親子は、決して母と娘が
病的に密着した現象ではないのである。今回熟読した文献を通して、アダルト・チルドレンという
のは、客観的な一方的判断ではなく、自己認知の言葉であるということがわかった。共依存の親の
もとで、とても苦しいと思っていたらそれはアダルト・チルドレンと表現できるが、支配する親で
あっても、娘がそれで楽しいのなら何の問題もない。友達親子の娘は、平気で親を自慢し、親と仲
良くしたいと思い、親のようになりたいと思っているが、反対に、アダルト・チルドレンの人たち
は親のようにはなりたくないと思っている。
つまり、
両者は世代連鎖に対する感覚が全く逆であり、
友達親子はアダルト・チルドレンの反対側にいる人々、ということになる。
家族を取り巻いていた従来の常識は今、尐しずつ変わろうとしているのではないだろうか。家族
こそ安全である、親の愛は絶対、親孝行はいいこと、などの言葉が疑いをもってとらえられるよう
になっている。このような常識の一つが、子どもは親を乗り越えて自立をするものという考えであ
89
る。対抗しようとはせず、もしくは乗り越えようとしない点が、女性特有の“共存”であり、母と
娘の友達親子なのだとしたら、こうした支配のない関係の中で違いを認め合うことは、親がキャリ
アモデルとなる一方で、むしろ子ども自身が自らのキャリアを切り開くサポートになるのではない
だろうか。
本論を通して、私はそのような過渡期における現象の一つとして、この友達親子をもっと肯定的
に捉えたいと思った。どんな現象にも背景と意味がある。ということは生まれるべくして生まれた
ということである。友達親子を否定的に捉えることは簡卖かもしれない。しかしそこを肯定するこ
とで、それが生まれた背景も見えるだろうし、今後の家族の変化の一端が予測できるのではないだ
ろうか。
引用文献、参考文献
ジャネット・G. ウォイティッツ著、斎藤学、白根 伊登恵翻訳 1997 『アダルト・チルドレン―ア
ルコール問題家族で育った子供たち』金剛出版.
ジョン・C. フリエル、リンダ・D. フリエル著、杉村省吾、杉村栄子翻訳 1999, 『アダルト・
チルドレンの心理―うまくいかない家庭の秘密』ミネルヴァ書房.
門脇厚司 1999 『子どもの社会力』岩波新書.
宮本みち子 2002 『若者が<社会的弱者>に転落する』洋泉社.
内閣府 2001『国民生活選好調査』
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h15/honbun/html/15322c10.html,2009.10.1
信田さよ子 1997 『一卵性母娘な関係』主婦の友社.
信田さよ子 2001 『アダルト・チルドレンという物語』 文藝春秋.
信田さよ子 2003 『愛しすぎる家族が壊れるとき』 岩波書店.
信田さよ子 2008 『母が重くてたまらない-墓守娘の嘆き-』 春秋社.
緒方明 1996 『アダルトチルドレンと共依存』 誠信書房.
ピア・メロディ著、内田恒久翻訳 2002 『児童虐待と共依存―自己喪失の病』そうろん社.
斎藤学 1996 『アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す』 学陽書房.
山田昌弘 2004 『希望格差社会』筑摩書房.
山田昌弘・伊藤守 2007 『格差社会スパイラル』 大和書房.
湯沢雍彦・宮本みち子 2008 『新版 データで読む家族問題』日本放送出版協会.
90
第 2 部 卒論、ゼミ論要旨
第 1 章 現代青年の友人関係は希薄化しているのか
伊藤 美奈子
はじめに
多くの時間を一緒に過ごし、苦楽を共にする「友人」という存在は青年にとって必要不可欠であ
る。一方で、現代青年の友人関係は希薄化していると言われている。果たして本当にそうなのだろ
うか。
本研究では、現代青年の友人関係について指摘されていることをまとめ、白五(2006)の『現代青
年のコミュニケーションからみた友人関係の特徴―変容確認法の開発に関する研究(Ⅲ)―』を基に、
友人関係の希薄化について検討する。
第 1 節 青年期の友人関係
1-1.青年期とは
人間の発達過程における1つの時期であるが、
「子どもからおとなへの移行期」という表現が使わ
れるように、
安定した児童期の生活に別れを告げて、
新しい自己の生き方を模索する時代である。
(堀
ノ内 1983)
身体的成熟に伴い、自己意識が高まるとともに、他者への関心も増大し、心理的・社会的成熟に
向けて変化していく時期とされている。(廣實 2002)
研究者によって区分は異なるが、第二次性徴が始まる12歳前後から25歳前後の男女を指す。
1-2.青年期の友人関係の役割
第二次性徴を境とした急激な心身発達によって、それまで青年自身が持っていた自己像は、現実
にそぐわないものとなり、青年は自己自身に目を向けざるをえなくなる。これにより新たな自己像
が形成されていく。また、両親への無意識的な同一視が失われ、これによって不安定化した自己を
安定させるために、親密な友人関係が求められる。そしてこれがその後の青年の人格形成に大きな
役割を果たす。(岡田 1993a)
青年期になると、生活空間が広がり、児童期までの家庭を中心とした小さい人間関係から、接触
する人間関係も拡大し、より広い人間関係を構築していくことになる。とりわけ、友人は重要な位
置を占め、卖なる遊び仲間から尐数の親友関係へと移行していくとともに、これまでなかった孤独
感も経験するようになる。(落合・伊藤・齊藤 1993)
青年期は、依存的で親中心であったそれまでの時期と違い、親から独立し、自己の形成や自立性
を確立する時期である。
青年期における第2次性徴などに伴う急激な心身の変化や親からの依存は、
不安や恐れを伴い、そのためには青年は悩みや考えを語り合う同世代の友人が必要になると考えら
れる。(榎本 1999)
松五(1990a)は友人関係が青年の社会化に果たす機能を3つ挙げている。第1の機能は、安定化の
機能である。青年にとって友人は、自分が抱えた悩みを聞き、相談にのってくれる相手である。第
2の機能は、社会的スキルの学習である。青年の場合には、友人とのつきあいが、人への話し方や
欲求の示し方などの具体的な社会スキルを学習する場になっている。第3の機能は、モデル機能で
ある。青年にとって友人は、親しい相手であるだけでなく、自分にない資質をもち、尊敬し憧れる
存在でもある。
1-3.青年期における友人とのつきあい方の発達的変化(落合・佐藤 1996)
(A)浅く広くかかわるつきあい方
91
(B)浅く狭くかかわるつきあい方
(C)深く広くかかわるつきあい方
(D)深く狭くかかわるつきあい方
青年期のはじめには、
「浅く広く関わるつきあい方」が多く見られるが、年齢を増すにつれて尐な
くなっていき、反対に「深く狭くかかわるつきあい方」が、多くなっていくとしている。
第2節 現代青年が捉える友人関係(いくつかの調査結果の考察)
『第7回世界青年意識調査』(内閣府,2003)では、現代青年の多くが友人関係に満足しているこ
とがわかる。日本だけでなく韓国・アメリカ・スウェーデン・ドイツでも同様に、友人関係に満足
している割合が高い。
2-1.友人の数
年代によって友人数は変化し、落合・佐藤(1996)が指摘するように「浅く広く関わるつきあい方」
から「深く狭くかかわるつきあい方」になっていくことがわかる。環境の変化によって、青年本人
が考える友人に求めるものが変化するのではないだろうか。
2-2.友人との関係
友人は「何でも話せる」存在であるという回答が最も多く、年齢と共に割合が大きくなっている。
一方で、付き合いがめんどうだという回答も尐なくない。
財団法人日本青尐年研究所(2006)が行った『高校生の友人関係と生活意識―日本・アメリカ・中
国・韓国の4ヶ国比較』では、高校生対象だが親友がどういう存在と捉えられているかがわかる。
「何でも打ち明けられる人」という回答が日本は最も高い。しかし、ここでも「表面的に付き合う
人」
「儀礼的な付き合いをする人」といった「何でも打ち明けられる人」とは正反対の回答も尐数あ
る。
2-3.友人を得たきっかけ
長年、青年が友人を得たきっかけとなっているのが、学校である。逆に友人との友情を育むこと
が学校に通う意義ともなっている。諸外国と比較すると、特に日本はその割合が高い。学校は友人
を得て、それを育む場になっていることがわかる。
第 3 節 現代青年の友人関係の特徴
現代の青年期友人関係の多くの研究において関係の希薄化と深化回避が指摘されている(廣實
2002)。
「希薄化」とは、人との深いつながりを持とうとしなかったり、持とうとしてもそれが得ら
れにくい傾向をいう(白五 2006)。1990 年頃より従来の青年の友人関係とは異なる交友関係の研究
が行われている。
ここでは現代青年の友人関係として指摘されているものをまとめ、本研究では 1-2 で述べた青年
期の友人関係の役割にあてはまらないものを希薄化した例と考える。
3-1.岡田(1993a)
1.内省に乏しく友人関係からも退却傾向にある「ふれ合い恐怖的心性」を持つ。
2.自己の内面に関心が高く、自分の生き方などを深刻に考えるというような、従来青年期につい
て記述されてきたものと共通する特徴をもつ。
3.相手と精神的に深く関わることよりも、表面的に楽しく関わることを重視する群。現代青年の
友人関係の特徴としてしばしば指摘される「群れたがり」志向を持った群ということができ、
精神的健康よりも他者からの評価や視線に気を遣ったり、周囲に同調したりすることが自己評
価に関連していると見ることもできる。
92
3-2.岡田(1993b)
1.群れ志向群
2.対人退却群
3.やさしさ志向的群
3-3.上野・上瀬・松井・福富(1994)
1.独立群
2.個別群
3.密着群
4.表面群
3-4.岡田(1995)
1.群れ関係群
2.気遣い関係群
3.関係回避群
3-5.藤井(2001)
青年が友人との心理的距離をめぐり、
「近づきたいけれども近づきすぎたくない」
、
「離れたいけれ
ども離れすぎたくない」というように、
「適度さ」を模索して生じる葛藤を「山アラシ・ジレンマ」
と捉える。
相手との心理的距離を遠く認知している青年ほど、
「自分が傷つきたくない」
「自分が寂しい思い
をしたくない」といった対自的要因ジレンマが生じやすく、しかもこの対自的ジレンマはいずれか
の心理的対処反忚(萎縮、しがみつき、見切り)に結びつきやすい。そして心理的対処反忚は、いず
れも不安定な混乱状態を示すため、さらに相手との心理的距離についての不安定さや遠さを認知す
るという悪循環が推測された。多くの青年が複雑な山アラシ・ジレンマを抱え、青年の内面には非
常に複雑な葛藤が生じていることがうかがえる。
こういった内面の葛藤があるから親密な関係になれず、現代青年の友人関係は希薄化していると
指摘されるのではないだろうか。
第 4 節 現代青年の友人関係の希薄化の検討
第 2 節からわかるように青年自身は友人関係に満足しているが、第 3 節からわかるように現代青
年の友人関係は希薄化していると従来とは異なる友人関係のあり方が指摘されている。
白五(2006)は大学生が収集した会話を分析し、現代青年のコミュニケーションの事実とその解釈
を検討することで、現代青年の友人関係の特徴を明らかにした。この方法により、
「希薄化」という
指摘と青年本人の認識の差に関わらず、友人関係のありかたそのものを検討の対象とすることがで
きる。この研究によって、5つの特徴を明らかにした。
1.他者に要求し、その期待を受け止める友人関係があり、葛藤を経験することで自己認識が深ま
っている。
2.他者の内面に立ち入らず、違いを目立たせないようにさせる気遣いが心理的距離を一定に保つ
ように働き、それなりの自己開示とあいまって、安心感と心情的一体感をもたらすとき、親密
であると感じる。
3.自分の本心がいえないときや相手が本心を話してくれない場合は「希薄化」したと考えた。
4.共通頄があれば違いの目立つ会話が可能となるが、その場合でも心理的距離は一定に保とうと
93
される場合がある。
5.心理的距離が一定に保たれる場合には、提示される自己像も一定に保たれているかもしれない
と推測できた。
1 は 1-2 で述べたような従来から青年期の姿と考えられてきたものであり、2~5 を現代青年の特
徴と指摘している。
本研究では、学生が収集した会話と分析を基に、さらに検討を行う。
方法
大学生4人(1~4の女子学生4人、
青年心理学を専門に学んでいない学生である)に学生(白五の
生徒)が収集した会話とそれに対する学生と白五(2006)の分析を提示し、意見を求めた。
第 5 節 まとめ
親密な友人関係の特徴は、①相互理解②自分の新たな気づきがある③自己開示があるの3点が白
五と本研究の両者に共通であった。また、親密でない友人関係の特徴は①不介入②相手との違いを
尐なくして不安を低減させる③同調④自己開示がないの4点が両者に共通であった。しかし、同調
は周りと接点を持とうとしているから希薄化とは言わないのではという正反対の見方もあった。
調査を行って、白五と会話を収集した学生のどちらの立場でもない意見が出た点は良かった。白
五は自分が行った授業が方向づけたためか、現代青年の人間関係の希薄化を肯定する内容が多かっ
たと述べているが、必ずしも希薄化だという意見でまとまることはなかった。親密でない友人関係
の特徴の4点のうちの①~③を白五は希薄化の傾向である特徴と位置付けているが、現代青年から
はっきと希薄化だという意見はなかった。
現代青年の友人関係の希薄化を多くの研究者は指摘するが、今回の調査を通して改めてそれは全
て肯定できる内容ではないと思った。現代青年の間では親密でない友人関係≠友人関係の希薄化で
あった。社会の変化に伴い「友人」という存在に求めるものや、
「友人関係」のスタイルも変化して
いき、卖に昔と今の文化の違いなのではないかと思う。そのため、第2節で述べた通り現代青年自
身は現在の友人関係に満足していて、
「希薄化」に対して重大なこととは捉えていないのだろう。現
代青年は仲が良いと言うことができて会話をしたり共に行動をしたりする、その中で特に仲が良い
他者には自己開示できるという関係で満足しているのだろう。しかし、関係そのものの変化により
起こる心理的な問題は見過ごしてはならない事頄だと感じた。
94
第 2 章 塾に通う高校生の大学受験に関する相談希求と相談内容
今井 香織
はじめに
私は学習塾で講師のアルバイトをしている。
大学受験に向けて勉強をする生徒を忚援するなかで、
一つの疑問が生まれるようになった。明確な目的意識を持って大学進学を目指す高校生は尐数なの
ではないだろうか。近年の大学・短期大学への進学率は 50%を超え、
「とりあえず」という気持ち
で大学進学を志望する高校生が増加している。その結果、進学後に退学や仮面浪人、学業に対して
無気力状態に陥ってしまう学生も尐なくないだろう。大学進学後に不適忚問題を起こすことを防ぐ
ためには、高校生に対してどのような支援を提供する必要があるのだろうか。
第 1 節 教育拡大の推移
文部科学省が発表した平成 21 年度学校基本調査によると、平成 21 年の大学・短期大学進学率は
56.2%となり、大学・短期大学への進学率は年々高まっていることが示されている。ここ十数年は
18 歳人口が大きく減尐しつつあり、この尐子化によって大学に進学することができる年齢の根本的
な人口総数は減尐すると考えられる。それゆえ、
「納めることのできるキャパは大きいが、肝心の学
生がいない」といった大学が増加することも予想される。近年のこうした傾向から、大学では学生
をできるだけ多く、多角的に獲得するために入試経路を拡大する傾向にある。
第 2 節 特別選抜入試の拡大
文部科学省によると、推薦入試を実施している大学は 1999 年度から 2007 年度までに約 1.2 倍、
それに伴い入学者数も約 1.3 倍に増加している。AO 入試の実施大学数は 2000 年度から 2007 年度に
かけて約 6 倍、入学者数も約 5 倍に増加している。推薦入試・AO 入試等の特別選抜入試を行う大学
数と、それらを利用して入学する学生の数は、ほぼ比例して増加していることが明らかになった。
こうした特別選抜入試の拡大は、高校生の大学進学に対する意識にプラスの影響を与えると同時
に、マイナスの影響を与える可能性があることが問題視されている。
第 3 節 大学進学後の離学や不適応問題
日本私立学校振興・共済事業団による学校法人基礎調査(2008)によると、2007 年度の中退者数
は私立大学で 5 万 2,960 人、中退率は 2.7%である。私立大学中退の理由として、他大学への転出
などの「就職以外の進路変更」が最も多く 20.6%。
「経済的困窮」が 19.3%、
「就職による進路変更」
13.3%、
「就学意欲の低下」13.1%、
「学力不足」5.5%となっている。
「海外留学」による中退は 0.7%
と尐ない。
「経済的困窮」を除き、多くが進路選択のミスマッチによるものであることがわかる。
従来、高校における進路指導は「受験指導」であった。しかし、
「受験指導」は進学という出口の
部分に集中した教育活動であり、偏差値による輪切り指導であると批判されるようになった。そこ
で、生徒の主体性を尊重した進路指導、いわゆる「在り方生き方指導」への転換が推し進められる
ようになったが、それが逆に進学後の学生における諸問題に影響を与えているということが指摘さ
れている(望月,2008)
。
まず、生徒の「分相忚」意識の払拭を果たすという点においては、自分の可能性を広げようとい
う生徒のアスピレーションを加熱させるため、
「生き方在り方指導」のメリットとして考えることが
できる。しかし、一方で「分相忚」意識は生徒の主観的なものであるため、
「生き方在り方指導」に
よって過熱されたアスピレーションは、生徒が自分の力を客観的に判断するのを困難にさせるとい
う問題点も挙げられる。
また、耳塚(1996)によると、合格率の飛躍的な上昇の恩恵にあずかるのは、いわゆる中・下位
ランクの高校生たちである。しかし、
「在り方生き方指導」が推し進められたことにより、中・下位
95
ランクの高校生たちのアスピレーションを、こうした恩恵とは無関係にある難易度の高い大学に向
けて加熱しうることが懸念される。
さらに、望月(2007)の調査結果により、
「入学校選択」の「納得度」に関して、
「在り方生き方
指導」はマイナスの効果が示された。一方で、
「在り方生き方指導」に比べ、
「入学校選択」の「納
得度」に対して有意が示されたのは「受験指導」であるという結果も示されている。アスピレーシ
ョンの加熱により、生徒が現実を冷静に見ることができなくなったことで、結果的に納得した大学
に合格することができなかった場合、生徒自身が感じるショックが大きかったのだと考えられる。
また、進路指導という観点から見ると、いかに学力を養成する努力をさせられるか、いかに本人
に現状を吟味させられるか、そして受験指導だけでなく、
「入学校選択」時までサポートすることの
重要性も明らかになった。
第 4 節 進学後の「入学校選択」の納得度と「最も影響を与えた他者」との関係
望月(2008)は、一般入試により入学した某国立大学 1 年生を対象に質問紙調査を行った。そし
て、
「入学校の志望度が高い生徒」と「入学校の志望度が高いとは言えない生徒」に調査対象者を二
つに分け、
「入学校選択」時に最も影響を受けた他者に着目して分析を行った。
「入学校の志望度が高い生徒」の場合は「父親」
「母親」といった「家庭環境」が納得度の高い生
徒に多くみられた一方で、
「入学校の志望度が高いとはいえない生徒」の場合、
「家庭環境」の影響
力は納得度が低い生徒に多く見られることが示された。
「父親」
「母親」といった「家庭環境」は、
必ずしも高校生の納得できる選択に結びつくとは言えず、マイナスの影響力の可能性も明らかにな
った。
また、入学校の志望度に関わらず、
「その他」に該当する他者が「入学校選択」の納得度が高い生
徒に影響を与えていることが示唆された。望月(2008)が「その他」に該当する他者はいかなる者
なのか、生徒の自由記述をもとに分析を行った結果、
「入試や大学関連情報全般を豊富に所有し、当
事者に提供しうる他者(塾・予備校関係者等)
」や「特定の大学に関する情報を豊富に有する他者(進
学先大学関係者等)
」の存在が明らかになった。
第 5 節 塾に通う高校生の相談希求と相談内容
そこで、現役の高校生に注目し、
「入学校選択」に限らず、誰に何を相談したいと思っているのか
検討することを目的に調査を行った。本調査では、A 塾に通塾している高校 3 年生 53 名を対象に、
9 個の相談内容に対して「相談したいと思う相手」を各相談内容につき 1 位から 3 位まで選択方式
で求めた。
5-1. 調査結果
ほぼ全ての相談内容において、塾・予備校関係者が上位に挙げられていた。一方で、いくつかの
相談内容において「相談したいと思わない」を 1 位として回答した生徒も存在するということも看
視してはならない。特に、
「複数の大学に合格した場合、どの大学に進学するべきか」という質問に
おいてその存在が明らかになったことは問題である。
この結果は、周囲のサポートを期待する生徒と、期待しない生徒に二極化していることを示して
いる。入学先を決める際に他者のサポートを期待しない生徒は、自分の進路は自らの意思で選択し
たいという考えを持っていると推測される。多くの高校生にとって、進路を選択するという機会は
この時期が初めてであることや、努力を重ねた上の結果であることから、自分の意思を優先して入
学先を決めたいという気持ちが強いのだと考えられる。
「入学先選択・決定期」に他者へ相談しないことを批判するわけではないが、この時期の選択が
進学後の離学や学校不適忚といった諸問題に大きな影響を与えていることは、高校生自身にも認識
させるべき事実である。
「相談したいと思わない」と回答した生徒は、受験期を終えた後の自由登校
の時期や卒業後には、接触をすることが困難になると考えられる。そのため、他者の客観的な視点
96
を介さないで「入学校選択」を決定してしまうことになり兹ねない。
進学後の諸問題を防ぐために第一に必要なことは、生徒が合否状況を気軽に報告し、相談できる
ような関係を受験期までに築くことである。また、高校生が「この大学へ進学したら自分はこうな
るだろう」というビジョンを描くことができれば、進学後の諸問題を未然に防ぐことが可能になる
と考えられる。そのために、オープンキャンパスや学園祭に足を運んだり、先輩学生と交流したり
する機会を通して、実際に大学を体験することが効果的だと考えられる。事前に大学について詳し
く知っておくことで、安易な判断で入学先を選択する可能性は減り、進学後にリアリティギャップ
を感じることを防ぐことにつながるからである。高校生をサポートする他者はこうしたイベントの
情報を提供したり、高校生に積極的に勧めたりすることが求められる。
5-2. 塾・予備校にできること/できないこと
塾・予備校にできることとして、豊富な情報を持っているために客観的な指導をすることができ
るという点が挙げられる。偏差値輪切り主義の「受験指導」が行われるのが塾・予備校であり、塾・
予備校関係者が生徒の進学後の納得度を高めるということは明らかになってきた。
しかし、塾・予備校は受験指導に特化しているがゆえに、大学受験以外の進路面においては非常
に弱いことも考えられる。そもそも、塾・予備校に入会する目的は大学に進学するために必要な学
力を養成することである。だが、生徒が専門学校や就職といった大学進学以外の進路に変更しよう
とする場合、塾・予備校はそれに対忚できる情報や知識を持っていないため、その生徒を排他的存
在として扱わざるをえない。
一方で高校は、比率はどうあれ、大学や専門学校、就職などといった多岐に渡る進路を目指す生
徒が集まっている。そのため、高校の教師はたとえ生徒の進路変更があったとしてもそれを受け入
れ、新たな目標進路に向かって支援を提供する体制が整っている。つまり、高校は高校生の進路を
総合的に支え、多様な選択肢を提供することができる存在である。このような「総合的な進路指導
機能」は、塾・予備校に欠けている機能であると指摘できよう。
5-3. 「相談したいと思わない」生徒への支援
調査結果より、
「相談したいと思わない」
生徒の存在が明らかとなり、
その存在を問題視してきた。
特に、
「入学校選択・決定期」において他者に相談をしないことは、大学進学後に不適忚問題を起こ
すことに直結する可能性が高い。
もちろん、最終的な決定は生徒本人の意志に任せるべきである。しかし、
「入学校選択・決定期」
までに強い信頼関係を築くことや、生徒が大学について事前に十分に知ることで進学後の諸問題を
多尐なりとも防ぐことができるはずである。
この問題についての支援を考えてみると、塾・予備校関係者、高校の先生の両者が、それぞれの
特性を活かしてアプローチするべきではないだろうか。塾・予備校関係者は「受験指導」という面
から、より豊富で具体的な情報を提供することができる。一方、高校の先生は「総合的な進路相談
機能」という面から、
「受験指導」にとらわれない、幅広い視野からアプローチすることができる。
それぞれの得意とする分野をお互いが把握し、生徒を異なる視点から支え合っていくような体制が
望ましいであろう。
5-4. 課題
第一に、より相対的な研究を進めるために、同様の調査を高校でも行うことである。本研究では
学習塾において調査をおこなったが、高校で同様の調査を行った場合に、同じような調査結果が得
られるかどうかはわからない。そのため、高校で「塾・予備校に通っている生徒」を抽出し、本調
査結果と比較する必要がある。その際、
「塾・予備校に通っていない生徒」との相談希求の差異を指
摘することも重要であると考えられる。また、本調査は有効回答数が十分とは言えないため、塾・
予備校と高校ともにより多くの回答数を得ることも課題である。
97
第二に、他地域でも同様の調査を行うことである。本調査の対象は、高校や塾・予備校といった
ネットワークを十分に持った高校生であった。しかし、全国に目を向けたとき、塾・予備校のない
地域に住んでいる高校生がいるということは看過できない。環境的な問題によりネットワークが限
定されてしまう高校生に着目し、相談希求について調査を行うことも重要である。
以上の点について研究を深めていくことを今後の課題として提言したい。
おわりに
今回の研究は、
今後における高校生の進路指導に関する研究に対して、
課題を残すものとなった。
質問紙調査の回答数が十分に得られなかったことで、今回の結果が全て正しいとは言えない。しか
し、高校生の塾・予備校という存在への期待や信頼、そして「相談したいと思わない」生徒が明ら
かになったという点においては、有意義な結果だと考えられる。本研究で課題として挙げられたも
のを、今後より深め、調査・研究していってほしい。
98
第 3 章 高卒後3年目のキャリア発達 ~就職の移行~
岩崎 里美
はじめに
厚生労働省(2009)によると来春卒業予定の高校生の求人・求職状況は7月末の求人数で約13
万5千人の前年同期比48.8%減と、半分近くに落ち込んだ。高卒就職の求人の減尐、さらには
従来の高校から就職への進路指導の希薄化や価値観の多様化によってより一層進路決定が困難にな
っているのと考える。学校から就職へと移行した者たちが3年5割の離職率といわれる中で、どう
キャリアを形成していったか経緯や要因と供に、彼らの直面する問題およびその背景などにも着目
し研究する。とりわけ、卒業後に正規雇用で就職し、そこで踏みとどまって継続して働いている者
たちのキャリア発達に関心がある。
本研究では、初職が学校から紹介されたもので高卒後3年が経過している、普通科の高校を卒業
した者に限る。
第1節 高卒就職の現状を進路動向
ここでは、高卒就職の現状を進路動向と求人・求職状況から説明する。
1-1.高卒新卒者の進路動向
文部科学省学校基本調査による高校新卒者の進路動向を図1に示した。
平成 21 年 3 月の卒業者では大学進学率は 53.9%、就職率は 18.2%、進学も就職もしていない者(家
事手伝い、外国の大学等へ入学した者、就職でも大学等へ進学や専修学校への入学等でもなく進路
が未定であることが明らかな者)は 5.2%となった。前年比では大学進学者は 1,1 ポイント上昇の過
去最高、就職者は 0,8 ポイント減尐、進学も就職もしていない者は 0.3 ポイント上昇した。
1-2.求人・求職状況
次に高校の求人・求職状況をみてみる。
平成 21 年7月末の高校新卒者の求人・求職状況の推移を図2に示した。
求人数は13万5千人で、前年同期に比べ48.8%減尐。求職者数は19万1千人で、前年同
期に比べ5.5%減尐。求人倍率は0.71倍となり、前年同期を0.60ポイント下回る。求人
数、求人倍率ともに平成 16 年から上昇していたが今年になって急激に減尐している。昨年からの
世界的不況の影響からか、ここにきて大幅な減尐である。
求人数が大幅に増えたのは平成 16 年(前年同期比 26.1%増)と平成 17 年(前年同期比 28.4%増)
である。この高卒求人数の大幅増加は、内閣府が輸出と設備投資の増加から景気の回復基調を改め
て確認した時期と重なっている。
(特に平成 15 年後半から平成 16 年にかけてである。
)
しかし、平成 11 年に求人数が求職者数を下回り求人倍率が1を下回るようになって以来、就職を
希望する多くの高校生が活動を始めるこの時期(7月)に求人倍率が1を下回る状況は、平成 18
年3月の卒業者まで続いていた。
9月の統一選考時に一度採用内定を出さずに、状況を見ながら採用者を厳選する求人側の姿勢が
平成 12 年から強まり 16 年のピークまで求人倍率は停滞していた。翌年から昨年度までは、景気の
回復と団塊の世代の大量退職をにらんで統一選考時に一定数採用する方向が見える。
第2節 高校生の進路指導
ここでは、高校生の進路指導について、変容してきた90年代以前と以降で説明する。
2-1. 学校の重要性
99
校内で推薦された生徒を企業が採用する「推薦指定校制」に基づき、高校と企業との安定した継続
的な関係によって生徒が就職を決定している仕組みとなっていた。安定した継続的な関係というの
は、
「継続的な取引関係の中で、信頼を基礎に確実性の高い情報の交換によって雇用―採用―職業紹
介の安定化を図るネットワークであり、関係の継続性の中で一方の行動を他方が制御する規範を伴
った関係」
(苅谷 1991)ということである。これを「実績関係」という。企業と学校とが雇用―採
用―職業紹介の安定化を図る関係性にあった。
よって、高卒就職において学校は重要な役割があったといえる。
2-2. 学校の進路指導
大卒就職者に比べると高校就職のスケジュールは厳格で、高校3年生の7月に求人が公開されて
9月16日に就職試験が解禁される。原則として掛け持ちができず「一人一社制」がとられている。
推薦指定校制であったために成績の良い生徒から就職が決定できた。そこで、生徒には「良い成績」
が「良い就職」につながるように教え、
「メリトクラシー」を浸透させる。学校は校内で選抜を行い
企業が望むような生徒を送り出して、企業との「実績関係」を継続させる重要な役割を担っていた。
2-3.90年代後半からの変化
進路多様校、
とりわけ普通科の高校では進路指導が進学にも就職にも特化できず水路付け機能が弱
まり、その結果として、進路未決定なまま卒業していく生徒が増えてしまった。
また、勉強の成績だけでなく広義の成績が、良い成績が将来に結びつくというメリトクラシーの認
識を弱まらせている。
価値観の多様化や長期的不況、
親のリストラなどの社会的背景の影響がある。
それらにより、高校・中学新卒者に対する就職支援対策の一つとして「一人一社制」など就職慣行
の見直し(全都道府県で複数忚募制の導入)
、及び忚募機会の拡大がなされている。
2-4.二重の小規模化
図2で示したように求人数は減って高卒労働市場が縮小するという需要側の要因だけでなく、
就職
者数も年々減って労働力を供給する側も要因になる二重の小規模化が起こっている。これが、採用
継続性の弱まりと高校進路指導の変化を招いているのではないか。
第3節 初職の継続要因、離職要因
対象となる者を大きく分けて3つに分類することにする。学校から初職に就いて今も継続してい
るもの(①)・正規雇用で転職しているもの(②)・離職して非正規雇用で働いているもの(③)である。
②は継続的に働き続けることが可能となっているので比較的安定した移行をしているとする。
以下先行研究(2007『明日を模索する若者たち:高卒3年目の分岐』乾彰夫)より
3-1.初職を継続しているものと転職しているものの差異と要因
両者では職場環境に大きく左右されている。ずさんな労働環境で大きなストレスを負い心身とも
に傷ついてしま離職を余儀なくされることも尐なくない。だが、その問題を自らの人間関係と引き
取ってしまうケースもある。また、モデルの存在や同僚など職場の交友関係も影響している。しか
し、両者に共通していることは、交友関係の拠り所は地元のネットワークが強く精神的な安心を得
られる一方で、就労に制限をかける場合もある。
3-2.離職して非正規雇用で働いているものの背景と要因
労働条件のずさんさや就労のきつさ、廃業などによって非正規・失業・無業を行き来している。
いったんフリーターになった後、正規雇用に就けるケースは尐ない。
また、移行の不安定さの問題だけでなく、家庭の経済的困難や家族とのこじれも影響する。その
100
中で、精神的に安心できるのが地元のネットワークであり「定着の場」となっている。①や②に比
べて繋がりは深い。
第4節 インタビュー調査
先行研究の乾彰夫氏らは『明日を模索する若者たち:高卒3年目の分岐』(2007)で初職を継続して
いるものと、辞めてしまうものとの差異は職場環境に左右されると言っている。では、今も継続し
て初職に就いている者は何故継続できているのか、どういう思いで働いているのか、職場環境は良
いのか、をインタビューする。
4-1.インタビュー概要
インタビュー時期:2009 年 11 月・初職が3年7ヶ月
インタビュー対象:女性・Mさん。
地元の大型ホテルで働く。現在はフロント業務
Mさんの働く会社:㈱S社。
神奈川・東京を地盤にした冠婚葬祭業の大手。主力は葬祭・法要の式典事業で
斎場13施設、仏壇店3店舗を持つ。メンバーズシステム事業を展開し冠婚葬
祭の斡旋を行う。その他、子会社が居宅介護支援を中心とした介護事業展開す
る。
インタビュー方法:一対一。彼女が話しやすいように彼女のペースでインタビューを展開。当時の
思いや、今の仕事への思いを中心にインタビュー。
4-2.結果
Mさんが辞めなかった理由は3つある。
1つは、社内のイジメで精神的に辛かった時に相談できる相手がいたこと。その相手が同僚や後
輩ではなく、自分よりも経験豊富な頼れる先輩(上司)であったことがMさんの心に支えができた
と思う。
2つめは、社内の友好関係がとても良いこと。先輩・後輩含めてプライベートまで供にできる仕
事仲間がいることでストレス発散でき相談もしやすい。
3つめは、Mさんの性格。
「バイトという肩書きが嫌。プライドが許せない。
」という発言や仕事
への姿勢をみると勝気な性格であることがわかる。打たれ強くまた、根気強い彼女の性格がフリー
ターになるのを踏みとどまらせている。
また、
「他に良い会社が出てきたら転職したい。
」という言葉からわかるが、人間関係や仕事には
満足しているけれども会社には不満がある事がみえる。これは、高卒就職であること関らず、会社
で仕事をしている多くの人も同じ気持ちを持っているのではないだろうか。
第5節 考察
第三節をインタビューと比較してみる。
3-1.で「ずさんな労働環境で大きなストレスを負い心身ともに傷ついてしま離職を余儀なくされ
ることも尐なくない。それにより、③(離職後非正規で働いているもの)へ移行してしまう者もい
る。
」と先行研究ではあるが、この場合の条件は当てはまるがMさんは非正規へは移行しなかった。
また、地元のネットワークが「就労に制限をかける」という点でも移行しなかった。Mさんの場合、
地元の仲良し4人ともフリーターであり、仕事で精神的に辛い時「フリーターでも良いかな。
」と思
わせる環境にいながらも踏みとどまった。
このことから、必ずしも地元のネットワークや労働環境がフリーター移行への原因ではないこと
がわかる。第4節の結果でも触れたが、Mさんの場合は相談相手に恵まれた事と勝気な性格がフリ
101
ーター移行へのストッパーになったのではないか。高卒就職に限らず、大学生が初職に就いた時も
地元のネットワークや労働環境、友好関係は継続しフリーターに以降させないようにするキーポイ
ントである。
また、M さんにインタビューしてみて印象に残ったことは、初職を継続させるには職場の友好関
係が大きな鍵となっていること。相談相手や頼れる先輩がいて、さらにプライベートまで一緒にい
る「友達」が職場にいることで今のMさんを支えているように感じた。高卒だからと次々に異動さ
せられて部門によってはイジメまであるような会社では、とても良い労働環境ではない。しかし、
良い友好関係が会社への不満を軽減させているようにみえたからである。
そして、必ずしも「初職を継続している」ことが重要なのではなく「正規雇用を続けること」が
重要であり安定した生活を送れると考えるようになった。
102
第 4 章 母親は働かない・働けない息子をどう思っているのか
生沼由衣
はじめに
私の母は保育士をしている。小さい頃から遊びに行ったり、母から話を聞き、手伝いに行ってい
る中で母親が息子に対する気持ち、娘に対する気持ちがどのように違うのかということに興味を持
っていた。特に自分とは性別の違う、母親から息子に対する気持ちについて感心がある。そして近
年、若者層の失業者が増加している。これによって、ニートと呼ばれる若者の存在が世間で注目さ
れるようになった。内閣府の平成 20 年版青年白書によると、ニートの総人口は、62 万人(2006)
にものぼると発表されている。ニートの増加は日本の将来に大きく関わってくる問題であり、もし
かしたら自分自身がニートになる可能性もある。自分には関係ないと無視することのできない問題
になっているのである。そこで、ニートについて調べ、母親が働かない・働けない息子をどう思っ
ているのか調べていきたいと思う。
本研究の構成
まず第 1 節にではニートの定義や類型について、第 2 節ではニートになる原因、第 3 節では社会
的なニートに対する支援とニートの子どもを持つ母親への支援について述べる。第 4 節では支援を
行っている方にインタビュー調査を行った内容とまとめを行い、最後に第 5 節では本研究のまとめ
を述べる。
第1節 ニートの定義・類型
1-1 ニートの定義
厚生労働省
非労働力人口のうち、年齢 15 歳~34 歳、通学・家事もしていない者。学籍はあるが、実際は学
校に行っていない人 、既婚者で家事をしていない人 も含む。
内閣府
高校や大学などの学校及び予備校・専修学校などに通学しておらず、配偶者のいない独身者であ
り、ふだん収入を伴う仕事をしていない 15 歳以上 34 歳以下の個人であるとしている。なおこの
調査では、家事手伝いについてもニートに含めるとしている。
1-2 ニートの類型
内閣府では、ニートを非求職型と非希望型に分類している。
非求職型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明しながら、求職活動はして
いない個人
非希望型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明していない個人
小杉は 4 つに分類している。
① ヤンキー型
反社会的で享楽的。
「今が楽しければいい」というタイプ。中卒、高校中退が多い。親も豊かとは
言えない。
② ひきこもり型
社会との関係を築けず、こもってしまうタイプ。不登校やひきこもりを体験。人間関係の構築が
苦手。
③立ちすくみ型(自己実現追求型)
就職を前に考え込んでしまい、行き詰ってしまうタイプ。大卒に多い。就職活動で自分らしい仕
103
事を考えすぎて立ちすくむ。
④つまずき型(自信喪失型)
いったんは就職したものの早々に辞め、自信を喪失したタイプ。その後の職探しを躊躇する。
第2節 ニートになる原因
労働の問題
雇用慣行の大きな変化による安定した雇用機会の減尐。若者への要求水準の上昇、アルバイトも
困難なほどの地方における景気後退、新卒一括採用で一度乗り遅れるとやり直しが難しい。
教育(学校)の問題
高校においては就職斡旋機能の弱まり、求人の減尐(特に地方)
、社会化の失敗、朝起きられない
などがある。高等教育ではとりあえず進学の増加。大学教育と将来の仕事の関連性が見えず、就
職支援が届かない、不十分。
社会(ソーシャル・ネットワーク)の問題
狭く、閉じたソーシャル・ネットワーク。
限定型:濃く狭く、閉じた地元の友達関係。若者を支えるが行動を制約する。
孤立型:家族以外の人間関係はほとんどない。拠りどころとなる人間関係がない。
家庭の問題
中卒、高校中退、高卒者場合は経済的自立が早く、家庭は放任で子どもに無関心。子どもへの期
待水準も低い。高学歴者の場合は経済的依存の時期が長く、家庭は精神的・経済的に子どもの自己
実現思考を支える。
第3節 ニート支援
内閣官房 (再チャレンジ担当室)
ニートやフリーターに対する公務員採用枠の確保や、再チャレンジに協力的な企業に対する表彰
制度、また税制面での優遇措置などを検討している。
厚生労働省
対策として筆頭に挙げられるのが若者自立塾である。この施設は 3~6 ヶ月の期間、合宿形式での
集団生活を行い、職場体験やワークショップを行うもの。費用は一部自己負担(10-40 万円)と
なる。厚生労働省の目標は、卒業生の 7 割が、半年後までに就業することとしている。ちなみに、
2006 年 3 月 1 日時点の卒業生に占める就業者(アルバイトを含む)の割合は、約 48%である。ま
た地域若者サポートステーションというのもある。全国に 92 箇所設置されており、地方自治体や
地域の若者支援機関と連携した包括的支援の窓口として、無業の状態にある若者とその保護者に
対し、専門的な相談、各種プログラム、職場体験、地域ネットワークを活用した支援など、多様
な就労支援メニューを提供している。来所者の男女比は 7:3 である。
経済産業省
ジョブカフェ。若年者の能力向上・就職促進を目的に、職場体験や職業紹介等、雇用に関連した
サービスを提供する。若年者就業支援センターとも言われている。
104
文部科学省
ニート増加の原因が、若者の職業観・就労観の低下にあるとの判断から、キャリア教育に重点を
置き、生徒が学校を離れ 1 日〜5 日の期間、地元のスーパーマーケットや保育所などで就労体験
をする職場体験や、総合的な学習の時間を利用した予防授業などの対策を推進している。
第4節 インタビュー調査
横浜若者サポートステーションにいた経験があり、ひきこもりの若者、ひきこもりの子どもを持
つ親を支援している NPO 法人「月一の会」に参加している U さんにインタビューを行った。
対象者のインタビュー(以下、生=筆者、U=対象者)
生:月一の会に来る親はどのような悩みを持って訪れますか?
U:急に学校に行かなくなったり、仕事を辞めてしまった子どもを抱えて、自分がどうしたらいい
のかわからないという人が多いです。誰かに助けてもらいたくて来るんです。一番多いのは大
学を辞めてしまった、就活をしないという悩みです。もう一つ言うと不登校の人はやってない
んです。年齢的に高いので自然と 25 歳以降の親御さんが多いです。不登校のお子さんを持つ
人が来ることもあるんですけど、自分の子どもは他の参加者に比べて、まだ大丈夫と思うらし
いです。それから「学校」という所属があるので、それがすごく親が安心感があるらしくて、
いらっしゃらなくなります。ひきこもりってはっきり言って所属がないじゃないですか。する
と親の考えがちょっと違うんですね。
生:保護者支援の終わりとはどのような所まで行くと終わりになるんですか?
U:終わりかどうかはわからないんですがけど、成果が出ると子どもさんに心配が無くなって親御
さんが来なくなってしまうんです。それともう一つは諦めです。諦めて来なくなるんです。そ
れは本当に残念なことです。諦めると全然変わらないんです。そうなってしまうのもわかるん
ですけど、そうなると何も変わらないんです。
生:そうですか。父親及び母親の来所者はどれくらいですか?
U:父親は全然来ないですね。母親が 9 割で父親が 1 割ですね。父親が来るのは稀です。
生:今までの所、多くは母親なんですね。父親に特徴的な所っていうのはありますか?
U:父親というのは母親と違ってもっと社会的に子どもを見てます。このままでは仕事ができない
とか社会的に見ていて、子どもがどんな悩みを抱えているのか考えないで知ろうともしないん
です。母親は常に家にいるから切羽詰ってるんです。父親の場合は母親というクッションがあ
るから、そんなに切羽詰ってないんです。
生:月一の会では子どもの来所者のバランスというのはどれくらいなんですか?
U:保護者の会では子どもさんの性別は半々です。思ってる以上に女の子が多いです。
生:なるほど。9 割が母親という話ですが、母親はお子さんが息子さんの場合と娘さんの場合で違
うところというのはありますか?
U:ありますね。母親と娘は大変ですね。女同士なので細かいことがわかっちゃうんです。
生:わかっちゃう?
U:そうです。母親が息子に対する気持ちと娘に対する気持ちが違うんです。母親は娘に対しても
のすごい対抗心を持っていて気持ちがむき出しなんです。自分が女だからでしょうかね。息子
の場合はわからない部分があるので対忚が控えめなんです。だから女の子は大変だろうなって
見てて思いますね。
105
生:例えば母親は娘に対して学校に行くなり、働くことに対してどのようになるんですか?
U:男の子は社会的に、女の子は家にいると細かいことにイライラするんですね。例えば料理を手
伝わないとか、洗濯物を片付けないとか。ひきこもりだから男も女も同じなんですけど、
「女
だから自分はやってるのになんでできないの?」って思っちゃうんです。男の子はしなくても
母親はそんなに思わないんです。むしろ外に出てもらうことの方が男は価値があると思うみた
いです。女の子は手伝うことが当たり前という考えが強いんです。男の子が手伝うと嬉しくて、
女の子は当たり前と思われちゃう。だから女性同士は難しいですね。
生:求めているものが全然違うんですね。
U:そうです。お母さん達の口から出てくると同じだと言うんですけど、やっぱり母親が求めてる
ものが違うんですよ。だから女の子は家に居づらいんじゃないですかね。それとまた、お父さ
んの場合だと息子も娘も同じ見方ができるんです。母親は娘の思いを相容れないんです。
生:そうなると、どうやって相容れていくかが最大のテーマですね。
U:そうですね。生まれた頃の無条件に可愛がっていた頃を思い出すように言ってます。まあ、実
際目の前にすると難しいみたいですけど、皆さん努力してらっしゃいます。
まとめ
インタビューの結果から、支援を求めて訪れる人達は自分ではどうしていいのかわからなくなっ
た時、誰かの助けを求めて来所することがわかった。また親は不登校に対して「学校」という所属
があることで、安心感を持っているということもわかった。しかしここで安心感を持ってしまって
は不登校を脱出できないまま、学校という所属を卒業し、さらに状況から脱出しにくくなると感じ
た。
「他のニートの人に比べたら大丈夫」と思うのではなく、子ども自身を見て、年齢が若いうちに
不登校やひきこもりから脱出させる手助けをしていく必要があると思った。
母親は女であり、息子は男なので分からない部分が出てきてしまうことがわかった。わからない
部分があることで、娘よりも息子に対して踏み込んだ接し方ができない。また息子に対しては社会
に出て仕事に就いて欲しい。娘に対しては仕事というより家にいるなら家事を手伝って欲しい。今
では尐しずつ変わってきているが、男は仕事、女は家という社会の考えが家の中でも表れていた。
息子と娘では母親の社会に出ることへの思い入れが異なり、息子を持つ母親の方が焦りを強く感じ
ていて、息子も母親の思いを感じ取り社会進出へのプレッシャーが強いと思った。逆に言えば、母
親は娘に対して社会進出へのプレッシャーを与えない上、娘自身も家庭に入れば良いという考えを
持っているので支援への参加が消極的なのではないかと思った。性別は変えられないもので、男と
女という違いがこれからもニート状態にある子どもと母親の間で多くの悩みを与えるだろう。しか
し、そこで負けずにニートから脱出し、お互いが未来に向けて歩いて行って欲しいと思う。
106
第 5 章 独立リーグのキャリア支援
岸田雅弘
はじめに
私は幼い頃から野球をやってきた。私はプロに憧れを持ち、ずっと打ち込んで来た。しかし、自
分の能力の限界を感じ、プロへの道は諦めたが野球が好きな気持ちは変わらない。
日本におけるプロ野球とは、日本野球機構(Nippon Professional Baseball 以下、NPB)と独立
リーグを指す。しかし、独立リーグの存在は NPB に比べて、あまり知られていないと思われる。
独立リーグは、プロ野球より地域密着型の球団が多く、スポンサーはその県の会社が基本的にはつ
いているようである。スポンサーの違いもキャリア支援に影響していると思われる。
プロスポーツ選手が引退後、すぐになにかの職業に就く事は簡卖なことではない。いわゆる「セ
カンドキャリア」である。これには周りのサポートが必要になって来る。そこで、独立リーグのセ
カンドキャリアサポート体制について概観し、実際に独立リーグの選手にインタビュー調査を行っ
た。
第 1 節 各独立リーグの設立趣旨とセカンドキャリアサポート体制
1-1 BC リーグ
リーグの HP には、
「野球事業を通じた地域活性化・地域貢献」が目的に書かれている。セカ
ンドキャリア支援については、株式会社フルキャストが仲介している。
「多様な人材ニーズに、
安心・確実のコーディネートで対忚し軽作業事業では、主に軽作業(物流、倉庫内作業、引越、
製造、外食、セールスプロモーション他)分野での人材ニーズに、フレキシブルに対忚してい
る。
」と書かれている。職場を紹介する際の仕組みが、下のように紹介されている。
1-2 四国・九州アイランドリーグ
リーグの HP には、
「野球界の底辺拡大と選手の育成」
「地域の活性化と地域貢献、地域におけ
る人材育成」が設立の狙いとして書かれている。2004 年に四国アイランドリーグの運営会社を
設立し、代表取締役に就任した石毛宏典(元 NPB の西武の捕手)氏は CodeZine(コードジン)
というインタビュー記事で下記のように述べている。
クビになったうちの選手が、四国にとどまって、四国のために貢献しましょうよと。とくにこれから尐
107
子高齢化になって、さらに若者がどんどん大阪や東京に出てしまう。そういった若者の代わりに、足りな
い労働力をうちの卒業生で補っていきたいと。
(中略)実際に、今オフ、うちの選手をキャリアサポートと
いう地元の企業を通して、農業関係に受け入れてもらっています。
1-3 関西独立リーグ
関西独立リーグは、加盟4球団への分配金の支払い遅れが表面化し、運営会社が撤退するこ
とで注目を浴びた。各球団は新たなスポンサー集めやリーグ運営など新体制づくりを急いでい
るという(cf 朝日新聞 2009 年 05 月 21 日 朝刊 和歌山 『脱退→撤回、会見混乱 加盟4球
団、野球の関西独立リーグ運営会社撤退』
)
)
。まだ、混乱状態にあるようである。
1-4 3 つ独立リーグの共通点
3つのリーグは、作る際の創設者の思いが異なるものの、地域の活性化や NPB に夢を持つ
人にチャンスを与えたいと言う所は共通しているのではないだろうか。
ただし、独立リーグの場合、NPB でプレーしたいがドラフトにかからなかった人や、NPB
を解雇された人がプレーしているため、1年ごとに契約を更新する。これは、NPB とは異な
る経営状況が反映している。独立リーグでは、NPB でプレーする事を目標にやっている人達
を雇っているが、もともと資金面で大きく NPB に务るので、1年で結果を残せない選手は解
雇されてしまうのが、現状である。
以上より、NPB より独立リーグのほうがとてもシビアで、解雇される人がより多いものに
なっていると思われる。また、NPB の場合は何年かプレーし結果が出ないと解雇されるので、
自分でなんとなくだが解雇されるのではと、察しがつく。しかし、独立リーグは1年の内にそ
れが決まってしまう。わかりやすく言うならば、怪我をしたときに NPB なら1年間、治療に
当てることが出来るが独立リーグは怪我したことは事実上、解雇を意味するのである。
第 2 節 インタビュー調査
2-1 調査概要とインタビュー結果
各独立リーグから 1 名ずつ、合計 3 名の選手経験を持つ方にインタビューを行った。
A さん・・・北信越 BC リーグ。福五ミラクルエレファンツ(24歳)
B さん・・・四国・九州アイルランドリーグ。徳島インディゴソックス(25歳)
C さん・・・関西独立リーグ。神戸ナインクルーズ(25歳)
以下の 7 つの質問に回答を依頼した。
質問➀「所属しているチームのキャリア支援について、知っていますか。
」
A さん「知ってます。
」
B さん「いくつか紹介で入れる就職先があるらしい。
」
C さん「知っているが詳しくは知らないし、まだ関西は出来たばっかりだからないようなもの。
」
質問➁「キャリア支援はどういったものですか?」
A さん「選手がコーチになったり、ファンの人やスポンサーの会社に就職したり球団のフロントになったりしている。」
B さん「職業訓練とかはないけど、今年一人フロントの紹介で兵庫県のパチンコ屋に就職が決まった人がいる。」
C さん「正直、そんなに知らない。一年目でクビになるつもりもなかったから、調べてない。」
質問➂「キャリア支援を所属している全選手が知っていますか?」
A さん「知ってるよ。この前、介護の学校に行って勉強したり、老人ホームで研修してりしているからね。介護福
祉士の資格のテストを無料で受けさせてくれるし。
」
B さん「知ってると思う。
」
108
C さん「知ってると思うが、さっき言ったように無いようなものだから支援を受けてるかはわかんない。
」
質問➃「支援を受けようと思っていますか?」
A さん「資格についてはあって困らないから受けようかと思っているけど、引退後は、その時にならないとわからないと思
う。」
B さん「自分に取って良い話があれば、受けたいと思っている。」
C さん「今は、選手としてまだまだやれるからクビになった事は考えてないかな。」
質問➄「今の支援の内容は満足出来るものですか?」
A さん「色々とあるので、満足出来ると思う。
」
B さん「満足もなにも、まだ支援を受けているわけではないから、わからない。
」
C さん「ないようなものだし、出来たばっかりだからこれからしっかりとした支援が出来て来ると思う。
」
質問➅「他のリーグに比べてどうですか?」
A さん「他と比べたら、ますます満足出来るでしょ。一番、多いし選択出来るからね。」
B さん「他のリーグについて詳しく知らないから、比べようがない。」
C さん「他と比べたら、ぜんぜん良くないと思う。逆に言えば、これからまだまだ良くなる余地があると言うことだと思う。」
質問➆「所属しているチームが言っている支援と実際の支援に違いなどはありますか?」
A さん「チームが言ってる通りの事をやってるから、特には感じない。」
B さん「支援について良く知らないが、今よりこれから良くなるなら、もっと良くなることに越した事はない。」
C さん「そんなに支援についてもともと詳しく知らないから、違いがあるかはわからない。周りにファンの人を通じて就職し
た人もいるから、これからそういうつながりから就職口が出来ていけばいいと思う。」
2-2 考察
BC リーグ(A さん)
、四国・九州アイルランドリーグ(B さん)
BC リーグは、たしかに、就職先があり、コーチやフロントとして残れたり資格を取れたり、職
業体験を出来たりするとのことである(質問②③)
。しかしそれは、本当に必要なのだろうか。資格
や職業体験は、本当にそれを必要としている人はいいかも知れないが、そうでない人にはまだまだ
限られている。資格をただ取っているだけのこともあるようである(質問④)
。受けられる資格もま
だ、介護福祉士だけのようである。1人1つの資格に対して金銭的な支援をするなど、もっと選手
の立場に立った支援が必要であろう。
職業体験にしても、その職場が本当に選手の行きたい場所なら良いが、違うと仕事に対してやる
気も出ないであろう。各球団が行っている職業体験に行った先の社員の人が「一緒に働いていた人
が出るなら、試合を見に行こうとなる」となる可能性があるが、良い人間関係がなければそうはな
らない。両リーグは、支援をしているが本当に選手の気持ちになってしているかと言えば、疑問が
ある。
関西独立リーグ(C さん)
関西独立リーグは、出来たばかりで支援と呼べるようなものはまだないようだった(質問⑤)
。ま
だ出来て間もないのでやむをえない事だが、逆に言えば、今後の発展には期待が出来るし他のリー
グの良い点を学び、必要だと思う点を取り入れる必要があるだろう
3 つの独立リーグに共通して
あとは、地域だけでなく他の県や首都圏などにも何かしらのパイプが必要だと思われる。地域密
109
着を掲げているので、地元企業に対して若者離れによる労働力不足を解消させるためにも、地元企
業の就職先はあるだろうが、独立リーグに挑戦する人、全員がそのまま地方に残る事はない。自分
の地元に戻る人もいるだろう。しかし、今の支援では自分の地元に戻って就職をする場合は、自分
自身で就職先を見つけなければいけない。たしかに、独立リーグの言っている支援には、地域の企
業の人手不足解消や地域を盛り上げる事に関しては出来ている。これは独立リーグと地域のために
は良い事だが、プレーする選手にとってはどうだろうか。本当に選手の事を考えた支援をするので
あれば、他の県や首都圏の企業との関わりをもっと強くする必要があると思われる。今後、地元だ
けではなく、たくさんの職業体験が出来る場を設ける事が今後の課題にあげられるだろう
110
第 6 章 二次元に恋するオタクの「恋愛と友情」
田畑慎吾
はじめに
本研究は、二次元に恋しているが、友人は現実世界に持つ者、その中でも自分自身をいわゆる「オ
タク」であると認識している男性の「友情と恋愛」の考え方について分析していく。本研究におい
て重要なのは、友情は現実に築くことができるのに、恋愛においてはなぜ二次元の中に向かうのか
という点である。現実に恋愛をすることも社会生活の一部と捉えるならば、ここにオタクの抱える
「社会とのつながり」という問題が見えてくると私は考えている。
第 1 節 オタクの定義とその歴史
「おたく」という語は 1983 年の『漫画ブリッコ』六月号で中森明夫によって現在の意味で初めて
用いられた、といわれている。
オタクの定義についてはさまざまなものがあるが、本研究においては、唐沢氏の「社会と付き合
っていくということを欲しないまでに何かにハマっている人たち」の定義と、岡田氏の「趣味だけ
で社会や他者とコンタクトしようとしている人」という定義の二点を用いることとした。
第 2 節 友情と恋愛の違いと、恋愛がもたらす影響
ルビンの質問紙を用いた調査を分析した結果、友人に対する好意(友情)とは、
「相手を他者とし
て捉え、その人物を客観的に見つめたうえで、相手を認めることから生まれるもの」と、恋人に対
する好意(愛情)とは、
「相手を自分の中の一部として捉え、その人物が自分にとってどのような存
在なのかという主観的な感情から生まれるもの」と分類できると考えられたため、本論ではこの分
類を元に進めていくことにした。これをもとに、オタクはなぜ友情を生み出すことはでき、反対に
愛情を(現実で)生み出すことができないのかを第三節以降で分析していく。
第 3 節 オタクにとっての友情と恋愛についての仮説
本研究の対象者の条件を整理しておくと、以下の三頄目すべてに該当する者となる。
・自分自身をオタクである認識している男性
・友人は現実にいる
・二次元の中に恋をしている
本研究において重要なのは、友情は現実に築くことができるのに、恋愛においてはなぜ二次元の
中に向かうのかという点である。現実に恋愛をすることも社会生活の一部と捉えるならば、ここに
オタクの抱える「社会とのつながり」という問題が見えてくるのではないだろうか。また、二次元
に恋をするオタクには、
『①三次元に興味はなく、もともと二次元が好き』というパターンと、
『②
三次元で恋愛したいが、できないと諦めて二次元に』という2つのパターンがあるのではないだろ
うか。①の場合は本人もそれで満足しているかもしれないが、②の場合は実は本人はやるせなさや
生き辛さを抱えている可能性も高い。ここにキャリアデザイン的視点から本研究を進める目的があ
る。本研究における対象者は、①・②どちらも当てはまるのだが、①のパターンは二次元に対する
恋と現実を大きく区別しており、友情と愛情の考え方に大きなギャップが生まれ、研究対象として
ふさわしくない可能性がある。反対に②のパターンの場合、始めは現実の恋を望んでいたというこ
とから、現在もリアルな恋を夢見ていることが考えられる。この二次元と現実の境界を見ている者
にこそキャリアデザイン的視点での問題提起が可能になると考え、本研究においては対象者を②の
パターンに限定していく。
オタクの友情への考え方を分析すると、
『オタクの友人関係の場面においては、お互いの趣味への
理解が必要と考えており、
その理解が得られなかった場合や理解が得られないと判断した場合には、
111
深い友情を築くことは難しい』という仮説が立ち、オタクの恋愛への考え方を分析すると、
『自分へ
の自信の無さや過去の経験から、現実の恋愛を拒否して二次元に向かった。それによって現実の恋
愛(社会とのつながり)を欲しないまでに趣味にハマり、やがて現実の恋愛を主観的に捉えること
ができなくなった』という仮説が立った。これを元にインタビュー調査を行っていく。
第 4 節 インタビュー調査
対象者:Mさん 23 歳 社会人。高校時代からアニメやマンガにハマった。現在は女性声優にも興
味を持ち、ライブやイベントにもよく行く。過去に現実での恋愛経験はなし(片思いはある)
。友人
は男女ともにたくさんいる。
(以下インタビュー抜粋)
田:あなたは自分を「二次元に恋するオタクである」と言えますか?
M:
(笑)言えますね。まー必ずしも二次元がいいというわけではないですが、今好きなのは二次元
の中にいます。友人にかわいいなと思う子はいますが、はっきりと好きだという人はいませんね。
なんというか、好きなことは好きなのですが、実際に付き合うのは無理かなと。
田:なぜそう思うのですか?
M:いままで彼女ができたことがないし、自信がないです。
田:Mさんが仲良しだと思っている友人は、Mさんがオタクであることを知っていますか?
M:仲いい人はみんな知ってますね。むしろ親友的な人はオタク仲間が多いです。
田:なるほど。ではもしも自分の趣味を否定されたらどう思いますか?
M:傷つきます(笑)でもまぁしかたないかな。怒ったりはしないと思いますね。そのかわり否定
された人には今後一切近づきません(笑)
M:
(女性にオタク趣味を知られたくない理由は)嫌われたくないんじゃないかな、たぶん。オタク
であることを知られて、キモイとか思われたくない。
田:そう考えてしまう理由なんなんでしょう?
M:やっぱり自信がないんだと思います。女性に対しては、マイナス思考になって
嫌われたらどうしようって思ってしまうんですよね。
田:そうなんですか。ではもしオタク趣味に理解を持つ女性がいたら、付き合いたいですか?
M:もちろん!是非お願いしたいです!誰かいますか?
これらインタビュー結果と仮説を比較する。
・友情面(仮説通り)
『オタクの友人関係の場面においては、お互いの趣味への理解が必要と考えており、その理解が
得られなかった場合や理解が得られないと判断した場合には、深い友情を築くことは難しい』
・恋愛面(仮説とは一部相違点あり)
『自分への自信のなさや過去の経験から、現実の恋愛を拒否して二次元に向かった。しかし、現実
の恋愛に興味が無いわけではなく、心のどこかでは現実の恋愛を求めている。そして二次元と現実
の恋愛は別の物あると捉え、それぞれを主観的に見ることはできている。
』
第 5 節 まとめ
本研究を通しての私の見解をまとめると、
「二次元に恋するオタクは、メディアが作り出した‘オ
タクのイメージ’が生んだものであり、これによって尐なからず生き辛さを抱えている者がいる。
現実の恋愛への積極性を失わせ、趣味という自分の一部分であるはずのものが、あたかも自分のす
べてであるかのように錯覚させ、趣味を理解してくれる者だけを友人と呼ぶ。オタクが自分の趣味
112
に务等感を感じずに生活していけるならば、彼らの恋心は現実に向く可能性が増し、友情の形も今
よりも多くのものが見られるのではないだろうか」ということである。
オタク本人が望んでいるのならば、二次元に恋をするのも、趣味を理解し合える者同士で友情を
育むのも悪いことではない。が、もしもこれがメディアによって形成されたイメージにより、オタ
クがそこに「追いやられている」のだとしたら、これは大きな問題であるとともに、メディアリテ
ラシーの重要性がより高まってきたと言える。
113
第 7 章 発達障害を持つ大学生の支援
中川理沙
1.問題と目的
発達障害とは「発達過程が初期の段階で何らかの原因によって阻害され、認知、言語、社会性、
運動などの機能の獲得が障害された状況」といえる。広義の発達障害の中には重症心身障害、視聴
覚障害、脳性麻痺、知的障害、自閉症、てんかんが含まれる。これらの中で精神発達遅滞を合併し
ていない(IQ70 以上)狭義の脳の発達障害を発達障害支援法では「発達障害」と定義している。LD(学
習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、広汎性発達障害(高機能自閉症・アスペルガー症候群)など
がある。
平成 19 年から「特別支援教育」が開始され、
「発達障害」もその支援を受ける対象となった。小
中高では発達障害者支援の体制が整ってきているが、大学における支援は遅れをとっているのが現
状である。
発達障害を持つ大学生の生きづらさを尐しでも軽減させるために、支援の方法や現状を把握し、
今後の課題について考えることが本研究の目的である。
2.方法(発達障害のある大学生を支援している方へのインタビュー)
2-1 インタビュー対象者
・萩原豪人さん(学生相談室カウンセラー。臨床心理士。
)
2-2 調査日時・場所
2009 年 11 月 27 日 法政大学多摩キャンパス
2-3 目的
発達障害のある大学生を支援している方へのインタビューを通して、実際にどのような支援が行
われているのか、サポート出来るはずのことは行われているのか明らかにする。
2-4 質問項目
【1.相談をするまでについて】
・発達障害を持った学生はよく相談室に来るか?
・発達障害なのではないかと思ったときには気づかせるか?
>実際に気づかせて良かったというケースはあるか?
・自分が発達障害と気づいていなくて、知らなくて相談に行くことも出来なくて、大学に行くこ
とが出来ない学生はどうすればよいか?
【2.相談内容について】
・実際に発達障害を持った学生はどんな悩みを相談しに来るか?
【3.相談に対忚する支援について】
・大学という場所において、発達障害の学生に不都合であることは何か?
・大学だから出来る支援はどのようなものがあるか?
>事務および教授はこのようなことを頭に入れているのか?
>教授や他の学生に求めることは何か?
【4.今後の課題】
・発達障害を持つ学生の生きづらさを軽減することはどうしたらできるのか?
・これからどんな支援を実現させたいか?
114
3.結果と考察
【1.相談をするまでについて】
発達障害を理由に学生相談に訪れる人が多いというより、学生相談室に訪れる学生の中に発達障害
と思われる人が多いということがわかった。また、二次障害の症状が現れて病院へ行くことで発達
障害であることが判明するパターンも多い。つまり発達障害は目に見えづらい上に、あまり“知ら
れていない”ということが分かる。本人が発達障害であることを自覚しているのと自覚していない
のとでは心持ちに随分違いがあるのではないだろうか。
発達障害であるということを知ることで、それまで自分の性格だと思い込み責めていた部分を責め
る必要はなくなる。本来自分を責めても仕方のないことなのに、知らなければ当然うまくいかない
ことを自分のせいにしてしまう。その結果として二次障害を引き起こしてしまうことは悪循環であ
る。もちろん人によって“気づき”を必要とするかしないかは様々であるが、
“気づくこと”が救い
になる場合があるということは頭に入れて接するべきであろう。
また本人の自覚だけではなく、周りの“気づき”も重要であることが分かる。本人が消極的な場合、
自分から相談室へ出向くという行動を起こせない可能性が高いためである。一人で閉じこもって悩
み続けても解決できない問題であり、周りの協力が必要である。家族や先生、友達が気づいてあげ
ることが救いにつながるのであろう。
【2.相談内容について】
発達障害を持つ大学生の悩みは特徴はあるものの、他の学生と躓く場面は大体同じである。みんな
それぞれ抱える悩みはばらばらであるため、
“発達障害者”という括りで支援するのではなく、個々
に対忚した支援が必要とされているのだということが分かった。
発達障害の学生の悩みの一部である「大教室だと集中できない」
「レポートが書けない」
「論文が書
けない」などは、発達障害を知らない人からしたらただの神経質、勉強不足だと思われてしまいそ
うである。しかしこれらは症状の一部であり、自分ひとりで直そうとしてなかなか直るものではな
い。
発達障害の様々な症状や悩みを知った上で個々に対忚した支援を行うことが必要なのであろう。
【3.相談に対忚する支援について】
発達障害を持つ人は環境の変化を苦手とする場合が多い。したがって小中高とはシステムが大きく
異なり、突然の変化への適忚を要求される“大学”という場所は発達障害を持つ人にとって不都合
が多い場所であると言える。小中高では決まった枠組みが存在し、そのスタイルは継続される。学
年が上がるごとに自分で選択することや行動することを求められる機会は多くなるが、基本的には
先生の指示に従っていれば前に進むことが出来る。しかし大学ではすべて自分で選ばなければなら
なくて、スケジュールの自己管理もしなければならない。そういった大きな変化は発達障害を持つ
学生を戸惑わせ、
混乱させてしまう。
だからこそ大学での支援を充実させていくべきなのであろう。
大学の支援で重要なのは大学の様々な部署と連携をとるということなのであるが、大学は広く、
人数も多いので大変であることは確かである。それでも連携をとって支援していくしか方法がない
ので今後こういった意識がもっと広まることが望まれる。
支援の具体的な例として挙げられた“サポートブック”は萩原氏が実際に行って効果的だと感じら
れたものである。忙しい先生方も諦めずに目を通せるよう、そういった説明を学生本人の側から用
意できるとスムーズに支援が出来て効果的なのであろう。
発達障害を持つ学生への、
先生方の支援は必要とされていることだが引っかかる大きな問題がある。
それは、試験という場面において「公平かどうか」ということである。
一般的な筆記試験は発達障害の学生にとって不利であることが多い。しかしそれを克服させるため
に特別な条件を与えることは、他の学生からしたら不公平であると感じられることもあるだろう。
そうならないためにも“試験の本質”をはっきりさせ、試験という場面における支援の範囲を定め
る必要があると考えられる。それらがきちんと提示されれば他の学生からの「不公平」という声も
115
挙がらないのではないだろうか。
周りの学生による支援として考えられるのは、発達障害を知り理解してあげることである。学生
生活の中で友達というのは非常に重要な存在である。一人でやっていこうと思えばやっていけるの
が大学なのであるが、大人と子どもの中間地点にあたる大学生という微妙な期間に経験する人との
関わり合いは今後に大きく影響する重要なはずのものである。
冗談だとしても傷つけるような言葉を投げつけるのではなく、今後気をつける方向にアドバイスを
してあげるのが良い。発達障害の学生も生きづらさを軽減させたいのであるから、出来る範囲でア
ドバイスに忚じたいと考えるだろう。さらに、仲がよければスケジュール管理を手伝うことも友達
がやってあげられれば一番スムーズであるように思われる。
【4.今後の課題】
今後の課題はまずやはり“発達障害”をたくさんの人々に知ってもらうことであった。知らなけれ
ば周囲の理解を得ることが出来ず、生きづらさは何も変わらない。小中高の授業で取り上げるのは
なかなか難しいかもしれないが、テレビや新聞などでも一般の人の目に付きやすいところに掲げら
れる必要はあるように思われる。
そして、大学の中にサポートシステムを作ることが望まれる。
海外で行われているような支援が今後日本でも行われることが理想的だと考える。そのためには発
達障害支援の基準がはっきり示されることが必要である。
4.総合考察:サポートできるはずのことは行われているのか
大学でのサポートはなかなか難しく、まだ踏み出せていない状況なのでは、と考えていたが、サ
ポートできるとされていることは行われていた。本研究では学生相談室相談員1名にしかインタビ
ューを行わなかったので、もちろんどの大学も支援を行っているとは言えないのであるが、萩原氏
のお話によると大学での支援は定められていることなので関係者は頭に入れているとのことである。
しかしまだ実際には追いついていない部分が多いようだ。
大学の相談員の人数はそんなに多くない。特別支援教育が始まって以来、学生一人一人のニーズ
に忚える必要があるわけだが、実際全員のニーズに事細かに忚えていたら時間がいくらあっても足
りないように思える。
そこでやはり大学の中にサポートシステムが必要であると考えられる。小中高ではすでに存在して
いるものだが、大学ではまだ作られていない。アメリカなどでは障害者支援センターのようなもの
が大学の中にあり、そこが全部を見ている。やはりお金と人をつけて組織を作るべきなのだが、日
本はまだそういう状況ではないのだと萩原氏は指摘する。
今後必要な研究として考えられるのは、たくさんの人々に発達障害を知ってもらうために何が行
われているかということ、これから徐々に増えていくであろう大学での支援の方法、サポートシス
テムの設置に必要なものの整理など。それから、支援にあまり積極的でない大学があればそこに突
撃インタビューをしてみるのも、また違った角度から問題を見ることができて面白そうである。
116
第3部
よこはま单部ユースプラザの見学感想
2009 年 8 月 6 日に,よこはま单部ユースプラザを見学しました。若者支援をしている機関です。他
者のキャリアデザインを支援している現場のひとつといえるでしょう。当日は、よこはま单部ユー
スプラザの運営団体である NPO 法人コロンブスアカデミーの活動全般についての説明も頂きました。
感想掲載の許可を頂いたのでここに紹介します。
■自立には本人と支援者の相互の協力が必要
この度は見学をさせていただいて、多くの事を学びました。最も印象に残っているのが、団体と
して「地域ぐるみ」の支援を行っているというところでした。根岸駅を中心に街と、その住民をも
巻き込んで街全体、市で若者支援に取り組まれているのを感じました。本当の意味での自立、とい
うのは境界線が曖昧であり、本人だけでも支援者だけでもできない、相互の協力が必要であると感
じました。
■穏やかで安心のある場所
初めて見学させて頂いた若者支援施設は、想像していたものとは異なり、活動しているスタッフの
方はハキハキしていて明るく、生徒さんも、その空間も、とても穏やかでした。何からも強制され
る事なく、それぞれのペースで過ごしているためか、生徒さん達の表情には無理に他人やその場の
空気に合わせる様な強ばったものなどありませんでした。そんな彼らの笑顔は自然であり、とても
印象的で、安心を感じさせるものでした。私は横浜に住んでいるのですが、横浜市がこの様な活動
支援を行っている事を初めて知り、とても嬉しく思いました。教わる事、気付かされる事ばかりで、
とても貴重な体験でした。今後、この経験を必ずキャリアデザインにおいて活かしていきたいと思
います。
■若者に向けられたまっすぐな眼差し
单部ユースプラザの見学、そしてスタッフの方のお話をうかがうなかで、若者に向けられたまっす
ぐな眼差しを感じ取りました。なかでも、
「怒るときは本気で怒るし、本気でかかわる」という言葉
が強く心に残っています。人と人が真正面で向かい合うことのできる場所は、とても貴重ではない
でしょうか。若者たち自身がそのかかわり合いをどう受け止めているのかを、直接うかがってみた
いと感じました。今後、单部ユースプラザや他の横浜の支援施設が、社会的にもより広く知られて
いってほしいと思います。
■施設の存在を知ること/広めること
田中さんの「本気で向き合う」という言葉が印象的だった。何事も本気で取り組むのは実は難しい
ことだし、本気で取り組まないと人の心を動かすことは出来ないと思う。こういった情熱を持った
人がいるからこそ、よこはま单部ユースプラザのような素晴らしい施設が出来上がったのだと感じ
た。ただ、このような施設があるにも関わらず、僕自身この施設の存在を知らなかった。というこ
とはまだまだ施設を知らない人がたくさんいるのかもしれない。施設スタッフのなかにも元利用者
が一定数いることであったが、もっと社会からの理解があれば自立に向けて受入先が増えるかもし
れない。横浜市内では広報活動がかなり行われているということなので、これからはもっと広い地
域で行って欲しいと思う。それが知名度や理解を生むことに繋がってくると思う。 利用者も我々
も、これから社会を担っていく若者同士だ。相互理解が必要であると思うし、こういった施設の存
在を知っている私たちが世間に広めていく役目も果たす必要があると感じた。
117
■落ち着く場所を出る時はいつか?
今回初めて若者自立支援をしている施設を見学しました。大学の授業では、地域若者サポートステ
ーションや若者自立塾の利用者には「引きこもり」や「いじめ」などを経験している人が一定数い
ると聞いていたので、今回の施設ではどうであるか構えていましたが、実際に行ってみるとそこま
で構えなくても大丈夫かなと思いました。施設は静かで、カラーもオレンジやグリーンを使い、落
ち着く場所でした。のちの振り返りで、スタッフのなかには施設利用者もいるということを自立の
観点からどのように捉えるかという意見がゼミの先輩から出ました。
私も同様のことを思いました。
たしかに施設から提供された場で社会のことや人間関係を学んでいくのは、仲間もいるし良い場だ
と思います。しかし、そうでない場に出たら、仲間や施設のスタッフのように自分を理解してくれ
ている人たちばかりではないでしょう。受入先の理解や本人の状態はそれぞれでしょうが、
「出口」
について、この二つの違いについて考えました。実際に私の周りにこういう施設を利用している人
はいなかったので、新しい知識が得られたと思います。
■このような団体があってよかった
私はよこはま单部ユースプラザの見学に行き、グループの活動全般について説明を受けて、このよ
う団体があってよかったなぁとしみじみ思いました。質問をさせて頂いた際に、
「できない事につい
ては怒らないが、嘘をつくなど今後の人間関係をつくるときに不利になることは本気で怒る」とい
う内容の返答があったときには、あまりにも優しかったので実は半泣きしてしまいました。 実際に
行ってみるまで活動内容も雰囲気もわからなかったので、見学することが出来てよかったです。よ
こはま单部ユースプラザの存在がどれだけの人に知られているのだろうということが気になりまし
た。もし周りでこのようなことで困っている人がいたら、よこはま单部ユースプラザのことを紹介
しようと思いました。
■社会で生きていくうえで大切な経験
よこはま单部ユースプラザに行くまで、どのような雰囲気であるか、想像がつきませんでした。実
際に見学に行くと清潔感があり、全体的に穏やかな空気が流れていて、居心地も良さそうでこの雰
囲気はどこか学校の保健室に似ているなと感じました。また、ビジネスマナー講座やヨガ教室、食
事会などさまざまな取り組みがなされており、写真から楽しい雰囲気が伝わってきました。これら
の取り組みがよこはま单部ユースプラザに通う人たちの「人との交流を学ぶ場」にもなっていると
いうことを聞き、私たちが今まで当たり前だと思いながら学校などの場で経験してきたものが社会
で生きていくうえで大切な経験になっていて、自然と人との交流の仕方を学んでいたのだなと実感
しました。
■人と関わることへの慣れ
一番印象的だったのは、よこはま单部ユースプラザの利用者の方が、私たちの存在にあまり興味を
示さないように解釈できる素振りが見えたことでした。私だったら、見知らぬ人が来たら、キョロ
キョロしてしまったり、じっと見てしまったりすると思いますが、利用者の方は一瞬こちらを見た
だけで、何事もなかったかのように自分のことを続けていました。来訪者がくることに慣れている
のかもしれませんが、他の人から見れば、自分の世界にとじこもっているように見えることもある
のだろうなと思いました。また、なかには進んで挨拶をしてくださる人がいることに驚きました。
利用者の人はみな人見知りだったり、人と関わることに慣れていないのだろうという勝手なイメー
ジがあったからです。
「お好み焼ころんぶす」で食事をしましたが、団体としての活動全般の支援に
よって、働く体験ができたり、働くための準備や予行練習ができることは素晴らしいことだと感じ
ました。
■長く関わる支援
118
入り口がわかりにくさが印象だった。人目を気にする人など、支援を受ける人への配慮なのかなと
思った。K2 グループの活動には、1日中、1年中さらに卒業後もアフターがあるということで、困
っている人には本当に頼もしい施設だなと感じた。それだけでなく、運営団体でお店を持ち、そこ
で働く経験を持てるのも強みだなと感じた。ただ、現状の日本で、実際にどれだけの人が社会に入
っていけるのだろうか。スタッフのなかにも卒業生がいるというのも尐し気になった。収入や色々
な面での独り立ちが、本人の努力だけでは難しいこともあるのだろう。今回は生徒さんに話を聞け
なかったのでこのあたりはなんとも言えないが、もっと知りたい事が感想を書くうちに増えた。当
日、質問を出来なかった事を悔やんだ。支援を必要としている人、必要としてない人。そんなに雰
囲気に差を感じなかったのも本音である。何かしらを抱えた人が周りにたくさんいるという事なの
かなと思った。地域に根ざした支援はとても大事だなと思う。
■裏側で支えている職員さん、スタッフ、そして地域の人達の協力
今回、本当に自分の無知さにそしてこのような場所がある事を知らず驚きました。施設を見学して
みると、部屋も相談室もすごく明るく、そしてきれいで、通っている若者なども顔がイキイキして
いたのを見て、とても環境がいいんだなという事が現れていていました。学校の保健室の雰囲気が
すると他の人から感想がありましたが、まさにその通りだなと思いました。また、田中さんからよ
こはま单部ユースプラザの概要や K2 グループの活動を教えていただいた中で、
確かに楽しそうだな
という所もあったが、やはりその裏側には支えている職員さんやスタッフそして地域の人達の協力
があるんだなという事が感じとれました。今とても生きづらい社会の日本で、このような場所があ
る事は自分達にとってまた若者達にとって必要だと思います。これからもっと多くの場所が生まれ
るとまた日本が変われるなと今回の見学を通して感じました。
■幅広い層の人に知って貰うこと、地域の人たちが関わっていくこと
私には引きこもりの様な対人関係に問題を抱えている知人がいます。なので、利用者の方の雰囲気
はなんとなく予想をしていたのですが、思っていたよりも健康的に見えました。私たちが見学に来
たせいか、口数も尐なかったように見えましたが、会釈してくれた際に目を合わせてくれた方もい
て、様々な段階の人がいたように感じました。 施設自体に関しては、イメージしていたよりも一
日の内長い時間を過ごせる場所として作られているのだな、と感じました。また、利用者の方とも
尐し話してみたかったのですが、職員の方にも元利用者がいると聞いて、そのような職員の方とも
話をしておけばよかったとも思いました。 K2 グループや K2 家族の会の活動である 250 食堂のチケ
ットを購入することにより支援をできる仕組みは良く出来ていると思いました。このような施設を
必要としている若者や、その両親の中にも、若者への支援などに対して間違った認識を持っている
場合もあると思うのですが、
幅広い層の人に知って貰える上、
ボランティアといった方法以外でも、
地域の方たちが関わっていけるのは、施設の事を知ってもらうのにも良い方法だと思います。今回
の見学で、家庭と地域と施設の連携のとり方として、このような方法があるということが学べたの
が私にとって一番大きかったと思います。
■環境の工夫と親身な対応が踏み出す力に
よこはま单部ユースプラザを見学してほんの一部とは思いますが、若者支援の中身を知ることがで
きました。はじめ施設を訪れたとき、建物の入り口や通路が暗くて「えっ!本当にここ?」という
印象を受けましたが、部屋を覗いてみると相談室は緑色を基調として落ち着いた感じに、フリール
ームは白色とオレンジ色を基調として明るさを出すなどの環境の工夫と、スタッフ皆様の明るい笑
顔や親身な対忚など人との関わり一つ一つが生徒さんの心を癒し一歩を踏み出す力を与えていくの
だろうなと思いました。
■健常でもなく、障がいでもなく
119
今回よこはま单部ユースプラザを見学してみて、このような施設があると認識はしていても、実際
に自分の目で見るのは初めてだったので、大変貴重な経験になったと思います。 見学後に行った
感想報告会でも出ましたが、以前、大学の授業の「教育入門Ⅰ」で学んだ、
“放課後の若者たちに居
場所を提供する施設”のような雰囲気を想像していたのですが、思ったよりも建物の外観からは閉
鎖的な印象を受けました。しかし、中にいるスタッフの明るさや部屋の配色の気遣いには感心させ
られてしまいました。授業では、およそIQ 75以下が障がいに関連したサービスを利用可能と学
びましたが、この施設を利用する人は75~100のいわゆる“ボーダーライン”に位置する人も
いるのかな、と思いました。私の弟も軽度の知的障がいを持っており、現在就職に向けて活動中で
す。
“働く”というのはそういった意味でも誰もが避けては通れないものであり、こうした支援施設
の需要は高まるばかりだと思います。
■自分と合う人、合うもの、合うことにうまく出会えなかっただけ
よこはま单部ユースプラザに行ってみて、そこに通う人たちは自分と合う人、合うもの、合うこと
にうまく出会えなかっただけで、他の人となんら変わりがないと感じました。また、運営団体とし
てもさまざまな活動を行っているため、
フリースペースに通うだけではなく、
共同生活を行ったり、
就労経験を積むことができる上、コミュニケーション能力を高めることもできるので、利用者にと
って心強い場所だと感じました。このような支援施設はとても興味があったので、実際に見て、お
話を聞くことができてよかったです。
■このような若者の社会復帰を手助けする施設が増えて欲しい
施設は、外から見たら、一瞬分かりにくい場所にあるという印象を受けましたが、施設内はとても
明るく、誰でも受け入れてくれそうな気がしました。利用者の方は、暗い方が多いのかなと思って
いましたが、電話の取り方を学ぶマナー講座を受けていたのをみて、必ずしもそうではなく、前向
きな方が多いと感じました。 今後、このような若者の社会復帰を手助けする施設が増えて欲しいと
思います。
人と人との関わりの重要さなど、
社会人として必要なスキルを学べる場になっていけば、
対人面で難を抱えて働けない状態の人が減るのではないかと感じました。
120
資料:2009 年度の活動スケジュール
日時
4月 14日
21日
28日
5月 12日
19日
26日
6月 2日
9日
16日
23日
30日
7月 7日
14日
21日
8月
6日
16日
9月 17日
18日
日時
9月 29日
10月 6日
13日
20日
27日
11月 10日
15日
17日
24日
12月 1日
8日
15日
22日
1月 12日
1時限目
オリエンテーション(1)
写真を使った自己紹介(1)
面接調査演習(1)
面接調査演習(3)
面接調査演習(4)
面接調査実施のため休講
面接調査演習(5)
文献検索・資料調査(1)
面接調査演習(7)
質問紙調査演習(1)
質問紙調査演習(3)
質問紙調査演習(5)
質問紙調査演習(6)
質問紙調査演習(7)
2時限目
オリエンテーション(2)
写真を使った自己紹介(2)
面接調査演習(2)
4年:卒論計画発表(1)
4年:卒論計画発表(2)
面接調査実施のため休講
面接調査演習(6)
文献検索・資料調査(2)
面接調査演習(8)
質問紙調査演習(2)
質問紙調査演習(4)
3年:関心発表(1)
3年:関心発表(2)
ゼミ見学事前指導
ゼミ見学(南部ユースプラザ)
ゼミ合宿(千葉県 茂原)
2時限目
個人研究発表(3、4年)(1)
個人研究発表(3、4年)(2)
個人研究発表(3、4年)(3)
3年生全体論文まとめ(1)
3年生全体論文まとめ(2)
卒論中間発表(1)
【11/15 3年生 第一次ゼミ論提出】
卒論中間発表(2)
「採用する側」を経験するワーク
3年生ゼミ論発表(1)
3年生ゼミ論発表(2)
3年生:自己理解ワーク
4年生:卒論相談
【12/15 3年生ゼミ論第二次提出、4年生卒論一次提出】
3年生:自己理解ワーク
4年生:ゼミ振り返り
4年生卒論口頭試問
【1/31 3年生ゼミ論最終提出、4年生卒論まとめ提出】
【第 3 回学生研究発表会発表者(2010 年 2 月 3 日)
】
3 年生:赤城卓
プロ野球選手のセカンドキャリア
4 年生:岸田雅弘
独立リーグのキャリア支援~地域密着型のプロ野球選手のセカンドキャリア~
121
生涯発達心理学の探求(法政大学キャリアデザイン学部田澤実研究室報告集) 第 3 号
発行日
2010 年 3 月 20 日
編集・発行
法政大学キャリアデザイン学部 田澤実研究室
http://www.i.hosei.ac.jp/~mtazawa/lab/
〒102-8160 東京都千代田区富士見 2-17-1 法政大学 キャリアデザイン学部内
印刷・製本
株式会社 エイチ・ユー
122