橡 大学生における携帯メール利用と友人関係

大学生における携帯メール利用と友人関係
∼ 大学生アンケート調査の結果から ∼
A Preliminary Student Survey on the E-mail Uses by Mobile Phones
辻
大介 (関西大学社会学部)
三上俊治 (東洋大学社会学部)
1.研究目的と調査の概要
2.携帯メール利用の概況
3.携帯メール利用に関する意識
4.携帯メール利用と友人関係・社会心理傾向との関連
5.携帯メール利用による友人関係への影響
6.
「メル友」 ∼携帯メールを介した友人関係の形成
平成 13 年度(第 18 回)情報通信学会大会
個人研究発表配付資料
2001 年 6 月 17 日
1. 研究目的と調査の概要
携帯電話・PHSによるメールサービス(以下、
「携帯メール」と呼ぶ)が開始されたの
は 1998 年。特に若者への普及にはめざましいものがあり、駅や電車内、街頭、キャンパス
などで彼ら彼女らがメールのやり取りに勤しむ姿を頻繁にみかけるようになった。
一方、その利用行動や意識に関する実証研究は未だ多くはない。移動体電話による音声
通話、あるいはパソコンによる電子メール(以下、
「PCメール」)の利用については、い
くつかの先行研究を見いだすことができるが、携帯メールはそれらの狭間に位置するため
もあろうし、普及して日が浅いこともあり、研究の手薄な死角をなしている感がある。
そこで本発表では、東洋大学・関西大学の学生を対象に行った「大学生のコミュニケー
ション行動・意識に関するアンケート」のデータに基づきつつ、携帯メールの利用に関す
る分析結果を報告することにしたい。本調査の特色は、友人関係と通信メディア利用との
関連に焦点を絞ったことにある。学生が移動体電話やメールを利用する場合、言うまでも
なく社会人とは違って、仕事目的のやりとりは少なく私的利用が多い(三上ほか[2001])
。
なかでも友人とのやりとりが大きな位置を占めており、彼ら彼女らにとっての携帯電話や
メールは、情報を伝達するメディアというより友人関係を媒介するメディアとみなした方
がむしろ適切とも言えよう。こうした関係媒介面において、近年の新しい通信メディアは
どのように利用されているのか?その検証が本調査の目的である。
調査は 2000 年 6 月初旬に行われ、調査者の担当する講義などでアンケートを配布・回収
し、有効回収票として東洋大学 354 票・関西大学 280 票を得た。
なお、本調査は無作為抽出に基づくものではなく、社会調査法上、サンプルの信頼性は
十分とは言えないため、あくまで予備的調査として位置づけ、大学別に分析し、共通点を
とりあげて報告することにしたい。これは、異なる大学・地域で共通にみられた傾向は、
一般に妥当する知見である蓋然性が高いだろうと考えられることによる。
2. 携帯メール利用の概況
携帯電話・PHSの利用率は、東洋大 94.6%/関西大 97.1%であり、その利用者のうち
携帯メールを利用している者は 93.7%(全体の 88.7%)/90.4%(同 87.9%)と、やはりか
なりの高率に上る。一方、PC メールの利用率は、東洋大 55.4%/関西大 72.5%(いずれも
全体比)であり、これも予想されるとおり、両大学とも携帯メールの利用率の方が高い。
次に、友人との携帯メールのやりとり頻度を図1に示す(携帯メール利用者を 100%とした分布)。
大学間で頻度に差はあるが、7∼8 割が 1 日 1 回以上やりとりしており、友人との日常的な
コミュニケーション・ツールとして定着している様子がうかがえる。ちなみに、友人との
音声通話の場合、1 日 1 回以上かける携帯利用者は東洋大 38.2%/関西大 28.7%にとどまる。
-1-
日10回∼
5∼9回
3∼4回
1∼2回
それ以下
送信 7.0
20.1
28.0
17.8
26.4
16.7
30.9
受信 8.0
17.5
30.3
17.2
26.8
16.3
30.1
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0%
20%
NA
27.2
25.6
14.2
60%
80%
40%
東洋大
11.4
13.4
13.4
100%
関西大
図1 友人と携帯メールをやりとりする頻度
やりとりする内容には両大学ともよく似た傾向がみられ(図2)、「待ち合わせの連絡」
「遊びの誘い」
「特に用件のないやりとり」が上位3位にカウントされている。
70.4
待ち合わせ連絡
79.3
95.8
93.8
13.3
8.4
60.2
遊びの誘い
78.5
79.4
79.1
26.5
23.6
52.5
55.5
それ以外の用件連絡
57.3
58.8
37.2
29.1
60.2
特に用件なし
66.3
28.7
31.3
60.2
60.6
29.3
電話の事前連絡
39.0
2.0
1.5
24.8
30.4
私的な相談ごと
20.7
36.4
43.3
41.3
56.4
出来事・気持ちの伝達
62.6
24.5
25.7
64.8
69.5
36.6
挨拶など
その他
(%) 0
39.4
27.6
36.0
1.3
0.3
4.6
携帯メール
携帯通話
1.2
0.4
3.4
20
40
60
80
100
0
PCメール
20
40
60
80
100
関西大
東洋大
図2 携帯メール・携帯通話・PCメールでやりとりすることの多い内容*1(複数回答)
図中には、音声通話で話す内容・PCメールでやりとりする内容を併せて記載してある
が、これらとの比較においても、両大学に共通するパターンが認められる。たとえば、
「待
*1
携帯音声の設問では選択肢に「電話するための事前連絡」
「あいさつやご機嫌うかがい」が含まれていない。
-2-
ち合わせの連絡」「遊びの誘い」「それ以外の用件連絡」については携帯メールは音声通話
に近い回答率を示しているが、一方、
「特に用件のないやりとり」「そのときあった出来事
や気持ちの伝達」という項目ではむしろPCメールに近い。つまり、携帯メールは、何か
しらの目的を伴う利用という面では音声通話に類比的で、よりコンサマトリー(即時充足
的)な利用という面ではPCメールに類比的であると考えられよう*2。
また、メディアの使い分けに関しては、表1のような目的/相手の場合にそれぞれどの
手段を用いるか、1∼5の優先順位を求める設問を行った(表中の結果は、携帯電話・携帯メー
ル・PCメールのいずれも利用する者の回答)。
「暇つぶし」の面では、携帯メールが最も高い順
位にあり、コンサマトリーな利用がなされる背景にはこのことも関係しているだろう。
表1 目的/相手別のコミュニケーション・メディアの使い分け
悩みごとの相談
暇つぶし・
時間つぶし
友だちづくり
趣味・関心事の
情報交換
優先順位
高 ↓↑ 低
東洋大
関西大
東洋大
関西大
東洋大
関西大
東洋大
関西大
直接会う
(1.62)
直接会う
(1.68)
携帯メール
(1.64)
携帯メール
(1.48)
直接会う
(2.21)
携帯メール
(2.05)
PC メール
(1.99)
携帯メール
(2.09)
携帯通話
(2.57)
携帯通話
(2.48)
携帯通話
(2.67)
携帯通話
(2.84)
携帯メール
(2.42)
直接会う
(2.58)
携帯メール
(2.49)
PC メール
(2.15)
PC メール
(3.01)
PC メール
(3.12)
PC メール
(2.89)
PC メール
(2.90)
PC メール
(2.81)
PC メール
(2.77)
携帯通話
(2.94)
携帯通話
(2.97)
携帯メール
(3.75)
携帯メール
(3.62)
直接会う
(3.42)
直接会う
(3.41)
携帯通話
(2.94)
携帯通話
(2.96)
直接会う
(3.03)
直接会う
(3.21)
手紙
(4.03)
手紙
(4.12)
手紙
(4.35)
手紙
(4.36)
手紙
(4.57)
手紙
(4.64)
手紙
(4.51)
手紙
(4.59)
親しい友だち
それほど親しくない
友だち
大学の先生など
目上の人
恋人
優先順位
高 ↓↑ 低
東洋大
関西大
東洋大
関西大
東洋大
関西大
東洋大
関西大
直接会う
(1.59)
直接会う
(1.69)
携帯メール
(1.78)
携帯メール
(1.44)
直接会う
(1.34)
直接会う
(1.43)
直接会う
(1.95)
直接会う
(2.00)
携帯通話
(2.29)
携帯通話
(2.24)
携帯通話
(2.51)
携帯通話
(2.57)
携帯通話
(2.15)
携帯通話
(2.11)
PC メール
(2.22)
PC メール
(2.07)
携帯メール
(2.74)
携帯メール
(2.50)
PC メール
(2.77)
PC メール
(2.79)
携帯メール
(2.87)
携帯メール
(2.77)
携帯通話
(3.11)
携帯通話
(3.17)
PC メール
(3.68)
PC メール
(3.87)
直接会う
(3.67)
直接会う
(3.69)
PC メール
(3.95)
PC メール
(4.06)
手紙
(3.48)
手紙
(3.86)
手紙
(4.70)
手紙
(4.69)
手紙
(4.27)
手紙
(4.50)
手紙
(4.68)
手紙
(4.63)
携帯メール
(4.22)
携帯メール
(3.91)
(括弧内の数値は平均順位)
*2
音声通話に比べて携帯メールにコンサマトリーな内容(おしゃべり的内容)が多いことは、東京大学社会情報研究
所の行った携帯電話・PHS利用者調査(2000 年 3 月・全国)の結果からも確認されている(中村[2001:p.293])。
-3-
「友だちづくり」の面でも携帯メールは直接対面にならぶ高順位にあり、対人関係形成
のうえで大きな位置を占めている様子がうかがえる。
「趣味・関心事の情報交換」の手段としても、携帯メールおよびPCメールは高く評価
されているが、対照的に、これらのメールメディアは「悩みごとの相談」の手段としては
評価が低い。親密性・内面性の強いコミュニケーションほど、肉声性(肉体性)の強いメ
ディアが選好されるということかもしれない。
相手別のメディア選択をみても、やはり親密度の高い相手の場合には、より肉声性の強
いメディアが選ばれる傾向にある。上下関係の軸の介在する「目上の人」を除いて比べる
と、
「親しい友だち」
「恋人」については直接対面と携帯通話が高順位にあり、一方、
「それ
ほど親しくない友だち」の場合は携帯メールが最も選好されている。また、後掲の図3に
示されるように、「メールだとあまり親しくない相手ともやりとりしやすい」という者が、
東洋大 65.9%/関西大 83.7%に達する。
関係の親密性とメディアの肉体性が関連するのは、日常的な経験からも首肯できる傾向
だが、ここではこれ以上の検討はさしひかえ、その可能性を示唆するにとどめておく。
3. 携帯メール利用に関する意識
図3は、携帯メールに対する利用者の意識を示したものである。
「文字ならではのやりと
りの楽しさがある」とする者が 8 割を超える一方で、
「文字メールより画像メールの方が魅
力を感じる」者は 1 割にすぎない。実際、別の設問で「画像をメールでやりとりすること」
84.1
88.2
文字のやりとりの楽しさ
68.8
あまり送られてこないと寂しい
79.7
65.9
親しくない相手ともやりとりしやすい
83.7
54.5
絵文字の楽しさ
69.1
48.4
53.3
気持ちを素直に表現できる
30.9
つながっている安心感
40.2
22.6
28.5
やりとりが面倒くさい
10.8
12.2
画像メールに魅力を感じる
9.9
10.6
行動が縛られているような気がする
(%)
図3
東洋大
関西大
0
20
40
携帯メールに関する意識
-4-
60
80
100
があると答えた者も、東洋大 8.0%/関西大 16.7%にとどまる。これをみる限りでは、携帯
メールのマルチメディア化が若者を惹きつける可能性は薄いと言えそうだ。
この点に関連して、過去のポケベル利用経験が携帯メールの利用に関係しているかどう
かを、重回帰分析を用いて検討してみた。従属変数は友人への携帯メール送信頻度(図1の 5
カテゴリーを 4∼0 で尺度化)、独立変数はポケベル利用経験(有を 1・無を 0)/性別(男を 1・女を 2)
/大学*3(東洋大を 1・関西大を 2)である。その結果、重相関係数 R=.34(p<.001)、標準偏回帰係
数はポケベル利用経験β=.13(p<.01)/性別β=.18(p<.001)/大学β=.23(p<.001)であり、過去に
ポケベルを利用していた場合ほど現在の携帯メールの利用頻度が高い、という正の関連が
認められた。岡田ほか[2000:p.52]の先行研究でも、携帯メール利用者にポケベル経験者が
多いことが確認されているが、性別ごとに比較した場合には有意差が認められていない。
それに対し今回の調査では、性別より係数値は低いものの、ポケベル利用経験による有意
な効果が示される結果となった。
さて、図3にある 9 項目のうち 4 項目は携帯通話との共通設問であり、それらに関する
回答を比較したものが図4である。ここで、両大学ともに大きな差がみられたのは、
「何と
なく自分の行動が縛られているような気がする」
「メールのやりとりは面倒くさい、じれっ
たい」
(携帯通話の設問文は「時と場所を選ばずにかかってくるので面倒くさい」)で、いずれも携帯メールの
方が肯定率が低い。携帯メールは音声通話より気楽なコミュニケーション・対人関係を実
現しているようだ。また、別の設問で「メールのやりとりをゲーム感覚で楽しむこと」が
あるという者は東洋大 40.4%/関西大 64.6%に上り、さらには先述のとおり、コンサマト
リーなやりとりも多い。これらを考え併せると、携帯メールを介して行われているのは、
情報伝達というよりむしろある種のことば遊び・ゲーム(Sprachspiel)なのかもしれない。
9.9
行動が縛られているような気がする
10.6
36.0
34.0
79.7
68.8
送られて(かかって)こないと寂しい
74.9
80.1
30.9
つながっている安心感
40.2
30.1
30.1
28.5
22.6
面倒くさい
携帯メール
携帯通話
46.7
42.4
(%)
0
20
40
60
80
100
0
20
東洋大
40
60
関西大
図4 携帯メール/携帯通話に関する意識の比較
*3
ここで独立変数に大学を加えたのは、大学間の差による影響を除去するための便宜的方策である。
-5-
80
100
つづいて、携帯メール/携帯通話に伴う経験を比較した結果を、図5に示す。大きな差
がみられるのは、
「メールの料金が気になった(携帯・PHSで話していて通話料が気になった)」
「メ
ールをしていて周囲の目が気になった(話していて周囲の目が気になった)」で、いずれも携帯メー
ルの方が肯定率が低い。これらは常識的にもうなづける傾向だろう。
30.6
思わぬ誤解やトラブルが生じた
28.3
78.7
返事がもらえず不安になった
85.8
74.3
83.8
60.8
返事するのを負担に感じた
69.9
64.8
71.7
30.3
料金が気になった
29.7
94.3
90.8
8.6
周囲の目が気になった
11.0
69.0
77.9
38.9
相手によって返事するか選ぶ
(%)
携帯メール
携帯通話
41.5
29.9
47.2
61.2
0
20
40
60
68.4
80
100
0
東洋大
20
40
60
80
100
関西大
図5 携帯メールの利用に伴う経験
また、
「相手によって返事をするかどうか選ぶ(通話を受けるかどうか選ぶ)」ことも携帯メール
の方が 2 割ほど少なく、音声通話の場合ほどコミュニケーションを選択的に透過するフィ
ルターとしては用いられていないことがわかる。
一方、
「返事がもらえず不安になった(相手につながらず不安になった)」
「相手に返事するのを負
担に感じた(かかってきた電話につきあうのを負担に感じた)」ことのある割合は、メール/通話でほ
とんど差はなく、また、
「相手との間で思わぬ誤解やトラブルが生じた」ことのある割合も
大きな差はみられない。電子メールは非言語的手がかり(non-verbal cue)の少なさゆえに、
いざこざ(flaming)を引き起こしやすいとする論もあるが(Kiesler et al.[1984])
、この結果
は一概にそうとも言えないことを示唆するものと言えよう。
4. 携帯メール利用と友人関係・社会心理傾向との関連
以下では、友人相手の携帯メールの利用頻度と利用者の友人関係・社会心理傾向との関
連を分析するが、その前にまず、携帯メールの利用頻度が女性において高いことをおさえ
ておきたい。友人にメールを出す頻度について、
「一日 10 回以上」∼「週 1 回未満」に 8
∼1 の得点を与えて順序尺度化すると、東洋大では男 4.68 点/女 5.67 点、関西大では男
-6-
5.72 点/女 6.27 点となり、
いずれも女性の方が有意に高い(Wilcoxon の順位和検定でそれぞれ p<.05、
p<.001)。一方で興味深いことに、携帯メール利用者における音声通話の頻度を男女で比べて
みると、同様に順序尺度化した得点で、東洋大では男 4.81 点/女 4.51 点、関西大では男
4.51 点/女 4.04 点となり、むしろ男性の方が友人によく電話をかける傾向にある(東洋大は
p=.12 で有意水準に達しないが、関西大は p<.05 の有意差)。これまでの大学生調査では、むしろ女性の
方がよくかける(辻[1999])または差がない(岡田ほか[2000])という結果が得られており、
この点は、携帯メールの普及によって変化が現れつつあるということかもしれない。
以上のような男女間の利用頻度に差があることをふまえ、友人関係に関する設問 19 項目
(それぞれ分布を考慮して 1/0 に 2 値化)に*4、男女差・大学差による変動を調整するための
を加えて独立変数とし、携帯メールを友人に送信する頻度を従属変数として(図1の
2 変数
5 カテゴ
リーを 4∼0 で尺度化)、重回帰分析を行った結果が、表2である。なお、比較のため携帯通話・
PC メールについても同様の分析を行った結果を付記しておく。
表2 携帯メール/携帯通話/PC メールの利用頻度と友人関係との関連
友人数
①友だちには何でも悩みを相談できる
②友だちとはまったく気をつかわずにつきあえる
③友だちとは悪いことは悪いと言い合える
④話をする友だちによって自分の性格が変わる
⑤仲のいい友だちでも、ずっと一緒にいると、一人になりたくなる
⑥
〃
〃
別の友だちと話したくなる
⑦どこに何をしに遊びに行くかで、いっしょに行く友だちを選ぶ
⑧友だちは多いにこしたことはない
⑨話の中身よりノリの合う友だちがいい
⑩ふだん友だちと行動することが多い
⑪[一人でいるより]友だちといる方が落ち着く
⑫互いに傷つくことがあっても、距離をおかない友人関係がよい
⑬何かにつけ、助け合ったり悩みを相談し合える友人関係がよい
⑭[友だちとつきあう上で重要なのは]まめに会うこと
⑮[
〃
〃
]ものの考え方が合うこと
⑯[
〃
〃
]趣味や好みが合うこと
⑰[
〃
〃
]自分の本音を話すこと
⑱[
〃
〃
]べったりしすぎないこと
性別
大学
重相関係数 R
携帯メール
.18 ***
.03
.07
-.01
.01
.01
-.12 **
.05
-.01
.01
.17 ***
.05
.00
-.03
.01
.02
-.03
.09 *
-.02
.25 ***
.15 **
.45 ***
携帯通話
.12 **
.12 *
-.04
.05
-.01
-.03
.01
.19 ***
.05
.02
.09 *
.12 **
.05
.00
.06
.06
-.02
-.02
.04
-.08
-.16 ***
.40 ***
PC メール
.09
-.03
.03
.06
-.03
-.10
.05
.01
-.03
.05
-.04
.02
-.00
-.04
-.03
-.02
.06
-.00
.12 *
.15 **
-.07
.27 *
(数値は標準偏回帰係数: *** p<.001,** p<.01,* p<.05 の有意性)
「友人数」
「ふだん友だちと行動することが多い」に有意な関連がみられるのは、予想さ
*4 表中に記載した以外に、調査票には「[友だちとつきあう上で重要なのは]ものの感じ方が合うこと」という設問があ
るが、多重共線性が比較的強くみられたため、分析からは削除した。
-7-
れるとおりであり、これらは携帯通話の場合にもやはり有意な関連が認められる。
「仲のい
い友だちでも、ずっといっしょにいると、別の友だちと話したくなる」とは負の関連が、
「自
分の本音を話すこと[が友だちづきあいで重要]」とは正の関連がみられ、密なつき合いを好
む者ほど携帯メールをよく利用する傾向がうかがえる。
一方、
「どこに何をしに遊びに行くかによって、いっしょに行く友だちを選ぶ」について
は、携帯通話との間には有意な正の関連がみられるが、携帯メールとは無関連である。こ
フリッピング
の友人関係の切り替え志向は、過去の大学生調査でも携帯通話とは一貫して正の関連が認
められているが(辻[1999a][1999b])
、携帯メールの場合は、こうした対人的コミュニケー
ション・チャネルを切り替える「リモコン」としての役割は薄いようだ。
次に、社会心理傾向 10 尺度を用いて、同様の重回帰分析を行った結果を、表3に示す。
表3 携帯メール/携帯通話/PC メールの利用頻度と社会心理傾向との関連
携帯メール
自己開示性(親しい人には何でも相談できる)
.09 *
機械親和性(人を相手にするより機械相手の方が気が楽)
-.03
非将来志向(将来のために我慢するより、今を楽しく生きることが重要) .05
非言語志向(ことばより絵や音楽の方が自分の気持ちを表せる)
-.07
コミュニケーション耐性(相手の答えが遅いといらいらする)
.06
他者同調性(自分だけ他人と違うのはいや)
-.02
孤独感(周りの人たちと興味や考え方が合わない)
-.09 *
私的自己意識 *5
.01
公的自己意識
-.00
対人不安
-.08 *
性別
.19 ***
大学
.22 ***
重相関係数 R
.36 ***
携帯通話
.12 **
-.05
.11 **
.01
.04
.06
-.06
.05
.00
-.10 *
-.16 ***
-.12 **
.30 ***
PC メール
.02
.08
-.07
.05
.00
-.13 *
-.01
.07
-.10
-.13 *
.17 ***
-.08
.31 ***
(数値は標準偏回帰係数: *** p<.001,** p<.01,* p<.05 の有意性)
有意な関連の認められた項目を挙げると、自己開示性が高く、対人不安が少ない、孤独
感が低いほど、携帯メールの利用頻度が高い傾向にある。
2001 年 5 月に犯人が逮捕された京都の「メル友殺害事件」をきっかけに、マスコミでは
携帯メールの利用と対人関係上の問題(孤独や希薄化など)を結びつけて取りあげるもの
を見かけるが、これらの結果をみる限りでは、むしろ逆に、対人的な積極性が携帯メール
の活発な利用と関係していると言えそうだ。
*5
私的自己意識/公的自己意識/対人不安については、押見[1992]を参照し、それぞれ「問題にぶつかったときは、
自分の心の動きに気を配る」「自分の本当の気持ちはどうかが気になる」
「自分の気持ちの変化に敏感」「自分がどんな
人間か、あれこれ考えたりしない」/「何かするときには人の目を考慮する」「どうやって自分の気持ちを相手に示そう
かと気になる」「人が自分のことをどう思っているか気になる」「人によい印象を与えようといつも気を使う」/「ひと
まえで話すときは落ち着かない」
「初対面の人とでも平気で話ができる」
「初めての場面では、うちとけるまで時間がか
かる」
「人に見られていると、うまく仕事ができなくなる」
、という設問から尺度を構成した。
-8-
5. 携帯メール利用による友人関係への影響
次に、携帯メールを利用し始めることによって、友人数や友人とのコミュニケーション
行動にどのような変化があらわれたかをみていくことにしたい。図6は、携帯メール(お
よび携帯電話)を使うようになってからの友人数の増減を比較したものである。
増
東 携帯メール
洋
携帯通話
大
11.2
関 携帯メール
西
携帯通話
大
11.4
やや増
0%
やや減
19.7
12.8
8.8
変わらない
68.8
27.2
27.6
20.6
20%
N.A.
0
59.4
0.6
61.0
0
70.2
40%
60%
0
80%
100%
図6 携帯メール/携帯電話の利用開始後における友人数の変化
両大学ともに、携帯メールの利用開始によって友人数は増加する傾向にある。ただし、
携帯通話との比較においては大学間に差がみられ、東洋大では携帯通話の方が、関西大で
は携帯メールの方が増加傾向が強い。
では、携帯メールの利用開始によって友人数が増えた者には、友人関係・社会心理傾向
の面でどのような特徴がみられるだろうか。この点を検討するために、携帯メール(およ
び携帯通話)の利用開始による友人数の変化を従属変数とし(友人数が増えたを 1/それ以外を 0)、
友人関係・社会心理傾向の諸項目と性別・大学を独立変数としてロジスティック回帰分析
を行った結果が、表4と表5である。
友人関係の面で、
「友だちは多いにこしたことはない」が最も高い係数値を示しているの
はいわば理の当然とも言える。また、「どこに何をしに遊びに行くかによって、いっしょに
行く友だちを選ぶ」とも有意な正の関連がみられる。友人関係の切り替え(使い分け)志
向が高いほど、携帯メール(および携帯通話)によって友人を増やす傾向にあるようだ。
また、「ものの考え方が合うこと[が友人とつきあう上で重要]」とも正の関連が認められる
が、これは携帯通話の場合にはない関連傾向である。
社会心理面では、他者同調性が高く、コミュニケーション耐性が低い、対人不安が少な
いほど、携帯メール利用によって友人数が増えている、という関連傾向が認められる。
いずれにせよ判別的中率はさほど高くなく、あくまで参考値にすぎないが、この結果の
示す限りにおいては、やはり、携帯メールの利用によって友人関係を拡大することに、と
りたてて問題含みの関係志向や心理傾向が結びついているわけではないと言えるだろう。
-9-
表4 携帯メール/携帯通話による友人数の増加と友人関係との関連
友人数
①友だちには何でも悩みを相談できる
②友だちとはまったく気をつかわずにつきあえる
③友だちとは悪いことは悪いと言い合える
④話をする友だちによって自分の性格が変わる
⑤仲のいい友だちでも、ずっと一緒にいると、一人になりたくなる
⑥
〃
〃
別の友だちと話したくなる
⑦どこに何をしに遊びに行くかで、いっしょに行く友だちを選ぶ
⑧友だちは多いにこしたことはない
⑨話の中身よりノリの合う友だちがいい
⑩ふだん友だちと行動することが多い
⑪[一人でいるより]友だちといる方が落ち着く
⑫互いに傷つくことがあっても、距離をおかない友人関係がよい
⑬何かにつけ、助け合ったり悩みを相談し合える友人関係がよい
⑭[友だちとつきあう上で重要なのは]まめに会うこと
⑮[
〃
〃
]ものの考え方が合うこと
⑯[
〃
〃
]趣味や好みが合うこと
⑰[
〃
〃
]自分の本音を話すこと
⑱[
〃
〃
]べったりしすぎないこと
性別
大学
判別的中率(全体:%)
携帯メール
.08
-.04
-.13
.06
.17
.02
.09
.21 *
.36 ***
.12
.03
.20
.18
.03
.15
.21 *
.07
.04
.05
.25 *
.22 *
68.8 ***
携帯通話
.29 **
.22
-.12
-.01
.09
.21 *
.33 **
.22 *
.33 **
.22 *
-.08
.24 *
.12
-.23 *
.12
.07
.03
.14
-.03
-.10
-.20 *
68.8 ***
(数値は標準化後のロジスティック回帰係数: *** p<.001,** p<.01,* p<.05 の有意性)
表5 携帯メール/携帯通話による友人数の増加と社会心理傾向との関連
自己開示性(親しい人には何でも相談できる)
機械親和性(人を相手にするより機械相手の方が気が楽)
非将来志向(将来のために我慢するより、今を楽しく生きることが重要)
非言語志向(ことばより絵や音楽の方が自分の気持ちを表せる)
コミュニケーション耐性(相手の答えが遅いといらいらする)
他者同調性(自分だけ他人と違うのはいや)
孤独感(周りの人たちと興味や考え方が合わない)
私的自己意識
公的自己意識
対人不安
性別
大学
判別的中率(全体:%)
携帯メール
.10
.03
.15
.09
.20 *
.26 **
-.19
-.02
.07
-.15 *
.21 *
.16
65.8 **
携帯通話
.29 **
.17
.09
.04
.12
.10
-.17
.16
.14
-.30 **
-.10
-.25 **
67.4 ***
(数値は標準化後のロジスティック回帰係数: *** p<.001,** p<.01,* p<.05 の有意性)
さて次に、携帯メールを使い始めてから、親しい友人と電話で話す/会って話す回数が
どう変化したかを、図7・図8に示す。これらをみると、親しい友人に関しては、電話す
る回数は増減いずれも同程度か(東洋大)・減る傾向の方が強く(関西大)
、会って話す回
- 10 -
数は増える傾向がやや強いか(東洋大)
・増減同程度(関西大)である。両大学に共通して
いるのは、対面会話より電話する回数の方により大きな変化がみられることだ。また、携
帯通話の場合に比べると、電話・対面会話ともに変化の度合いは小さい。
増
やや増
変わらない
やや減
減
N.A.
2.2
東 携帯メール
洋
携帯通話
大
6.1
17.2
54.5
22.7
19.7
0.3
34.3
41.2
1.5
1.6
12.6
関 携帯メール
西
携帯通話
大
40.7
21.7
34.2
0%
図7
37.4
20%
7.7
41.5
40%
60%
0.7
1.5 100%
80%
携帯メール/携帯電話の利用開始後における親しい友人との電話回数の変化
増
4.8
東 携帯メール
洋
携帯通話
大
変わらない
14.0
9.0
やや減
減
N.A.
5.1
0.6
74.5
20.3
66.6
1.8
2.1
2.0
11.4
関 携帯メール
西
大
やや増
74.8
12.9
携帯通話
0%
6.3
0.4
11.4
0.4
73.9
20%
40%
60%
6.3
80%
100%
図8 携帯メール/携帯電話の利用開始後における親しい友人との対面会話回数の変化
それほど親しくない友人と電話で話す/会って話す回数の変化は、さらに小幅なものに
とどまる(図9・図 10)
。
2.9
東 携帯メール
洋
大 携帯通話
増
やや増
変わらない
7.6
6.6
やや減
減
N.A.
77.7
8.9
27.2
2.5
63.9
1.2
1.2
0
関 携帯メール
10.2
西
大
6.3
携帯通話
0%
0.4
15.9
66.7
33.1
20%
58.5
40%
60%
7.3
1.5
80%
100%
図9 携帯メール/携帯電話の利用開始後における親しくない友人との電話回数の変化
- 11 -
0.6 4.5
東 携帯メール
洋
大 携帯通話
やや増
変わらない
やや減
減
N.A.
4.8
87.9
7.8
2.4
3.0
6.5
4.9
80.9
7.7
0%
1.9
84.5
2.1
0
7.7
関 携帯メール
西 携帯通話
大
図 10
増
85.3
0.7
20%
2.6
40%
60%
80%
3.3 100%
携帯メール/携帯電話の利用開始後における親しくない友人との対面会話回数の変化
小括すれば、携帯メールの利用は(携帯電話の場合と同様)より親密な関係ほど、そこ
でのコミュニケーション行動により大きな変化をもたらす、ということになろう。
6. 「メル友」 ∼携帯メールを介した友人関係の形成
最後に、専ら携帯メールを介して形成あるいは維持される友人関係、いわゆる「メル友」
関係の状況について記述しておこう。
まず図 11 に、
「メル友」の有無(設問文では「主に携帯電話・PHSでメールをやりとりするだけで、
あまり会わない・会ったことのない友だち」という注記を加えた)を示す。両大学とも「メル友」がいる携
帯メール利用者は 1 割強であり、基本的に「メル友」保有層は少数派である。
いる
13.1
東洋大
15.4
関西大
0%
図 11
ほしい
不要
13.1
73.2
9.3
75.2
20%
40%
60%
N.A.
80%
100%
携帯メール利用者における「メル友」の有無
図 12 は、このメル友保有率を、携帯電話利用者/PC メール利用者における「主に携帯
電話で話す/PC メールでやりとりするだけで、あまり会わない・会ったことのない友だち」
の保有率と比較したものである。これをみると、両大学とも PC メールの場合が最も高い比
率を示しており、携帯メールは携帯通話の場合(いわば「ケー友」)よりも保有率が低い。
次に、こうした「メル友」または「ケー友」保有者における相手との面識の有無をみた
ものが、図 13 である。携帯メールの場合、N.A.(無回答・不明)が相当数に達するものの、
面識のない「メル友」がいる者は東洋大 41.4%・関西大 63.1%であり、ここから計算する
- 12 -
と、携帯メール利用者のうち、メールのみを介して友人関係を形成・維持している相手の
いる者は東洋大 5.4%・関西大 9.7%ということになる。ちなみに、携帯通話の場合も、面識
のない「ケー友」がいる比率は、携帯電話利用者の 32.8%(東洋大)
・25.0%(関西大)に
達しており、必ずしも遠距離の旧友ばかりが「ケー友」ではないことがわかる。
50
(%)
携帯メール
携帯通話
40
PCメール
43.8
34.7
30
23.5
18.2
20
15.4
13.1
10
0
東洋大
図 12
関西大
携帯メール/携帯通話/PC メール利用者における「メル友」「ケー友」保有率の比較
面識ない友のみ
携帯
通話
16.2
73.5
10.3
53.9
25.8
20.2
0%
図 13
71.9
20.3
関西大 4.7
東洋大
PC
メール 関西大
62.3
23.0
9.8
N.A.
23.7
36.8
26.3
東洋大
面識ある友のみ
36.6
14.6
26.8
東洋大
携帯
メール 関西大
面識ない友+ある友
20%
40%
60%
80%
100%
「メル友」
「ケー友」保有者における相手との面識の有無
つづいて、保有者の「メル友」に対する意識を、図 14 に示す。携帯メールによる「メル
友」保有者のサンプル数は東洋大 41 名・関西大 38 名とさほど大きくないため、これらは
あくまで参考値であるが、両大学ともに「メル友とはあまり関係に束縛されずにすむ」の
肯定率が最も高く、非束縛性が「メル友」関係の一つのポイントであるようだ。
なお、携帯メール利用者におけるメル友の有無について、友人関係・社会心理傾向との
関連をロジスティック回帰分析によって検討してみたが、モデルが有意な水準に至らず、
メル友の保有者にそれらの面で有意な傾向はみられなかったことを付記しておく。
- 13 -
70.7
あまり関係に束縛されずにすむ
92.1
56.1
関係を切りたいときに切りやすい
81.6
53.7
関係にあまり傷つかずにすむ
73.7
51.2
幅広い友人関係を保つのに便利
63.2
46.3
ゆっくり関係を深められる
東洋大
関西大
31.6
43.9
それ以上の関係を望まない
65.8
(%)
0
図 14
20
40
60
80
100
携帯メールによる「メル友」保有者の「メル友」関係に対する意識
文献
Kiesler, S., J. Siegel and T. McGuire 1984 Social psychological aspects of computermediated communications, American Psychologists, 39, pp.1123-34.
三上俊治ほか 2001 「携帯電話・PHSの利用実態 2000」
,
『東京大学社会情報研究所調
査研究紀要』15 号,pp.145-235
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,東京大学社会情報研究所編『日本人の情報行
動 2000』東京大学出版会
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,
『平成 11 年度 情報通信学会年報』
,pp.43-60
押見輝男 1992 『自分を見つめる自分』サイエンス社
辻
大介 1999a 『
「とか」
「ってゆうか」のコミュニケーションと友人関係∼関西大学生
調査報告書』
(http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~tsujidai/paper/r01/rep_9909.pdf)
辻
大介 1999b 「若者のコミュニケーションの変容と新しいメディア」
,
『子ども・青少
年とコミュニケーション』北樹出版
- 14 -