出資権譲渡・会社清算による 中国事業再編の事例研究

0910 華鐘秋季セミナー(今後の日系企業中国戦略と事業再編のケーススタディ)
出資権譲渡・会社清算による
中国事業再編の事例研究
華鐘コンサルタントグループ
コンサルティング部長
楊 楽陽
Ⅰ.はじめに
(1)経営資源の選択と集中のための事業再編。
(2)金融危機・経済危機という逆境の今だからこそ、チャンスであるととらえる。
(3)事業の構造改革のための不採算事業からの撤退、或いは他社との統合案件の増加。
(4)スムーズな事業再編のため、中国での撤退の問題点と対策を把握する。
(5)難しく考えすぎない。合理的に考えてきっちりやればよい。
Ⅱ.中国事業撤退のケーススタディ
【対象中国現地法人(X 社)の概要】
◇設立:2002 年 1 月 1 日(経営期間 20 年)
◇企業形態:日中合弁・製造企業
◇総投資額:40,000 千円
◇資本金:20,000 千円
◇出資者:A 社(日本)8,000 千円(40%)+B 社(中国民営)12,000 千円(60%)
◇借入金:20,000 千円(全額を A 社の親子ローンで調達)
◇売上高:60,000 千円
◇累積損失:▲30,000 千円
◇税優遇:二免三減半(※)を一部享受済み(約 5,000 千円)
※要件=「外国資本が 25%以上」+「生産型企業」+「経営期間が 10 年以上」
◇従業員:50 名、平均賃金 4,000 元、平均勤続年数 6 年
(一) 会社清算による撤退
1.根拠規定
もともと外資企業清算の根拠規定であった「外商投資企業清算弁法(対外貿易経済合作部
令[1996]第 2 号)」は、2008 年 1 月 15 日の「一部行政法規の廃止に関する国務院決定(国務
院第 516 号)」の公布により廃止された。
その後、商務部は 2008 年 5 月 5 日付けで「外商投資企業の解散及び清算作業を合法的に
実施することに関する指導意見(商法字[2008]31 号)」を公布し、内資・外資に関わらず、
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企業を終了させる場合は『中華人民共和国会社法(2006 年 1 月 1 日改訂施行)』に基づく普
通清算(非破産清算)か『中華人民共和国破産法(2007 年 6 月 1 日改訂施行)』に基づく破
産清算のどちらかの手続きをとることとなり、これに加えて外資系企業は『中外合弁経営
企業法実施条例』、『外資企業法実施細則』、『中外合作企業法実施細則』等の外資関連法規
の適用も受けて手続きを行う必要がある。
「会社法」
「中外合弁企業法実施条例」
第 10 章 公司の解散及び清算
第 181 条 (解散事由)
公司は次の原因により解散する。
(1) 公司定款で定める営業期間が満了したとき
または公司定款で定めるその他の解散事由が
生じたとき。
(2) 株主会又は株主総会で解散を決議したとき
(3) 公司の合併または分割により解散する必要
があるとき。
(4) 法により営業許可証の取消、閉鎖命令を受
けまたは廃止されたとき。
(5) 人民法院が本法第 183 条の定めにより解散
させたとき。
第 5 章 董事会及び経営管理機関
第 33 条 (全員一致決議事項)
下記の事項は、董事会会議に出席した董
事の全員一致によりはじめて決議できる。
(1) 合弁企業定款の改正
(2) 合弁企業の中止、解散。
(3) 合弁企業の登録資本の増額、減額。
(4) 合弁企業の合併と分割。
その他の事項は、合弁企業定款に記載さ
れた譲事規定に基づいて決議できる。
第 182 条 (会社定款の修正による存続)
公司が本法第 181 条第(1)号の状況に該当する
ときは、公司定款を変更することにより存続する
ことができる。
前項により公司定款を改正するときは、有限責
任公司の場合は 3 分の 2 以上の議決権を有する株
主により可決し、株式有限公司の場合は株主総会
に出席した株主の持つ議決権の 3 分の 2 以上によ
り可決されなければならない。
第 14 章 期間、解散及び清算
第 89 条 (合弁期間)
合弁企業の合弁期間は、「中外合弁企業
合弁期間暫定規定」に基づいて定める。
第 90 条 (解散)
合弁企業は下記の状況にある場合に解散
する。
(1) 合弁期間が満了したとき。
(2) 企業に重大な損失が生じ、引き続き
経営できないとき。
(3) 合弁当事者の一方が合弁企業協議書、
契約、定款で定めた義務を履行せず、企
業が引き続き経営できなくなったとき。
第 183 条 (株主による解散請求)
公司の経営管理に深刻な支障が生じ、引続き存 (4) 自然災害、戦争等の不可抗力により
重大な損害を被り、引き続き経営できな
続すれば株主の利益が重大な損失を受け、他の方
いとき。
法では解決できない場合は、公司の全株主の議決
(5)
合弁企業がその経営目的を達成して
権の 10%以上を持つ株主は、人民法院に公司の解
おらず、また発展の見通がないとき。
散を請求することができる。
(6) 合弁企業契約、
定款で定めたその他の解
散事由が生じたとき。
第 184 条 (清算委員会)
前項の第 2、4、5、6 項の状況が起きた場
公司が本法第 181 条第(1)号、第(2)号、第
(4)号、第(5)号の定めにより解散するときは、 合、董事会が解散申請書を提出し、審査認
解散事由が生じた日から 15 日以内に清算委員会を 可機関に報告し認可を受ける。第 3 項の状
設置し、清算を始めなければならない。有限責任 況が起きた場合、契約を履行する一方が申
公司の清算委員会は株主により構成し、株式有限 請書を提出し、審査認可機関に報告し認可
公司の清算委員会は董事または株主総会が決定し を受ける。
第 3 項の状況が起きた場合、合弁企業の
た者により構成される。期限をすぎても清算委員
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会を設置して清算をしないときは、債権者は人民
法院に対して関係者を指定して清算委員会を組織
し清算させるよう申請することができる。人民法
院は、当該申請を受理し、すみやかに清算委員会
を組織し清算をさせなければならない。
協議書、契約書、定款に定めた義務を履行
しなかった一方が、合弁企業に対して与え
た損害について賠償責任を負わなければな
らない。
第 91 条 (清算)
合弁企業が解散を宣言する時には、清算を
第 185 条 (清算委員会の権限)
清算委員会は、清算期間中、次の職権を行使する。 行わなければならない。合弁企業は「外商投
(1) 公司の財産を整理し、貸借対照表及び財産 資企業清算弁法」の規定に従って清算委員会
を設け、清算委員会が清算に関する事項の責
目録をそれぞれ作成する。
任を負う。
(2) 債権者に通知、公告する。
(3) 清算に関係する公司の未了業務を処理する
(4) 未納の税及び清算過程で発生した税を清算 第 92 条 (清算委員会の構成員、清算費用
及び構成員報酬)
納付する。
清算委員会の構成員は一般に合弁企業の
(5) 債権、債務を整理する。
董事の中から選任する。董事が清算委員会
(6) 公司の債務弁済後の残余財産の処理。
(7) 公司を代表して民事訴訟活動に参加する。 の構成員に就任できないときまたは適任で
ないときは、合 弁企業は中国の登録会計
士、弁護士を招聘して担当させることがで
第186条 (債権者への催告)
清算委員会は、設置の日から 10 日以内に債権者 きる。認可機関が必要だと判断した場合は、
に通知し、60 日以内に新聞で公告しなければなら 人を派追して監督することができる。
清算費用と清算委員会構成員の報酬は合
ない。債権者は通知を受取った日から 30 日以内、
通知書を受取っていない場合は公告の日から 45 日 弁企業の残存財産のなかから優先的に支給
以内に、清算委員会にその債権を申告しなければ しなければならない。
ならない。
債権者が債権を申告するときは、債権の関係事 第 93 条 (清算委員会の任務)
清算委員会の任務は合弁企業の財産、債
項を説明し、証明書類を提出しなければならない。
清算委員会は、債権について受付をしなければな 務について全面的に調査し、貸借対照表と
財産目録を作成し、資産の評価と計算の根
らない。
債権申告期間中は、清算委員会は債権者に弁済 拠を示し、清算案を作成し、董事会会議で
採択された後にこれを執行することであ
をしてはならない。
る。
清算期間は、清算委員会が当該合弁企業
第 187 条 (清算案の制定等)
清算委員会は公司財産を整理し、貸借対照表及 を代表して、提訴及び応訴に当たる。
び財産目録を作成した後、清算案を作成し、株主
会、株主総会または人民法院に確認を求めなけれ 第 94 条 (債務弁済責任、剰余財産の分配
及び所得税の納付)
ばならない。
合弁企業はその全資産をもってその債務
公司の財産のなかから清算費用、従業員の賃金、
社会保険料及び法定補償金を支払い、未納の税を に責任を負う。合弁企業が債務を償還した
納付し、公司の債務を弁済した後の残余財産は、 後の剰余財産は合弁各当事者の出資比率に
有限責任公司の場合は株主の出資比率に応じて分 基づいて分配する。ただし、合弁企業協議
配し、株式有限公司の場合は株主の保有する株式 書、契約、定款に別に定めがある場合はこ
の限りではない。
の比率に応じて分配する。
合弁企業が解散する時、その純資産額あ
清算期間において公司は存続する。但し清算と
関係のない経営活動をおこなうことはできない。 るいは剰余財産から企業の未分配利益、各
公司の財産は、前項の定めにより弁済するまでは、 種基金、清算費用を差し引いた残高のうち、
実際に納入した資本を超える部分は、清算
株主に分配してはならない。
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第 188 条 (破産宣告の申請)
清算委員会が公司の財産を整理し、貸借対照表
及び財産目録を作成した後、公司の財産が債務完
済に足りない事が判明した時は、法により人民法
院に対して破産宣告を申請しなければならない。
公司が人民法院の破産決定と宣告を受けた後
は、清算委員会は清算事務を人民法院にひき渡さ
なければならない。
所得とみなし、法に基づき所得税を納付し
なければならない。
第 95 条 (清算終了報告及び営業許可証の
返納)
合弁企業の清算業務が完了した後、清算
委員会により清算完了報告を提出し、董事
会会議で採択された後、認可機関に報告し、
登記管理機関に登記抹消手続きをし、営業
許可証を返納する。
第 189 条 (清算の終了)
公司の清算終了後、清算委員会は清算報告書を 第 96 条 (解散後における各帳簿及び書類
作成し、株主会、株主総会または人民法院に確認 の保存)
合弁企業解散後、各帳簿と書類は元の中
を求め、公司登記機関に提出し、公司登記の抹消
を申請し、公司の終了を公告しなければならない。 国側当事者が保存する。
第190条 (清算委員会の義務)
清算委員会の構成員は職務に忠実に、法により
清算義務を履行しなければならない。
清算委員会の構成員は、職権を利用して賄賂また
はその他の不法な収入を受取ってはならず、公司の
財産を横領してはならない。
清算委員会の構成員が故意または重大な過失に
より公司または債権者に損失を生じさせたとき
は、賠償責任を負わなければならない。
第 191 条 (破産清算手続)
公司が法により破産宣告を受けたときは、企業
破産に関する法律にしたがい破産清算を実施す
る。
2.清算手続きの全体スケジュール
(1)法的には「有限責任会社」であっても、債務超過があれば最終的には出資者が不足
資金を注入しなければならない。=債務の帳消しである「特別清算」は、裁判所が認め
ることが条件。
(2)中国の外資関係法には「出資者は出資金の範囲でリスクを負う」との記載があるが、
債務が残った状態で会社の倒産、破産、清算ということは、現状でも裁判所が外資系企
業に対して実際にはあまり認めない。(但し、当社では実際に外資系企業に新『企業破
産法』適用して破産処理した実績あり)
(3)撤退は「普通清算」をベースに検討せざるを得ない。
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【全体スケジュール例】
3.会社清算手続きに伴う現地法人の損益、資産、資金の動きについて
(1)清算開始時点(「清算」認可取得時)のバランス・シート
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(2)清算期間における損益について
(清算期間=「清算」認可取得時から「営業許可証」登記抹消まで)
1)清算期間に新規営業活動(契約の受注)を行うことは不可。
2)土地・建物は、地元開発区(ディベロッパー)などに引き取ってもらうか、或い
は第三者への売却を検討する場合には、資産評価やデューデリジェンスを行った
上で交渉する。
3)すでに享受した優遇税制(二免三減半)については、必要な要件(経営期間 10 年
など)まで待つ、というのも選択肢の一つであるが、地方財政部門による財政補
助の返還については、ますます運用が厳しくなっている。
(3)清算期間における資産回収と債務弁済について
1)清算期間における資産回収は「現金化」である。
<売掛金>
残額回収して現金化(または全額・一部債権放棄)していく。
<在
全在庫を売却して現金化(または無償譲渡)していく。
庫>
<固定資産>
全固定資産を売却して現金化(または無償譲渡)していく。
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(4)清算期間におけるキャッシュ・フローについて
1)清算開始時点の現金残
高(A)と資産回収による現金
収入(B)で清算費用(C)と債務
弁済(D)ができなければ「債務
超過」となり、裁判所の認可
を経た「破産」でないかぎり
は清算手続き(一般清算)を
完了できない。
⇒「増資」か「貸付+債権放
棄」が必要。しかし、増資は
清算認可取得以前に実施する
必要があり、債権放棄も安易
にできない(本社の税務)。
2)清算過程において、行
政部門からの処罰や訴訟或い
は労務紛争など簿外の特殊要
因が発生した場合は、これも
完了しないと清算手続きは完
了できない。
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【清算時の不確定要素について】
以下については、清算手続きが完了するまでずっと付き合って否かければならない不確
定事項である。
①
労働契約書の未締結に伴う給与倍額支払い
②
残業代の未払い
③
社会保険の未納付或いは納付基数の過少申告に伴う追納・遅延金・罰金
④
過去の税制優遇の取消しに伴う追納
⑤
密輸・脱税に伴う追納・遅延金・罰金或いは刑事責任の追及(意図せずとも、例
えば設備の部品や原材料・部材などを安易にハンドキャリーしていたケースなど)
⑥
債権者などの利害関係者から提訴される経済的な係争事件に伴う損害賠償
⑦
その他、現地法人の問題発生に伴って日本本社が受ける経済的なマイナス影響(特
に、労務問題などの社会問題に発展した結果マスコミに取り上げられた場合の影響は
測り知れず、昨今の食品問題でも日本本社が存続できないくらい甚大な問題となるこ
ともある)
【債務超過について】
◇法的には「有限責任会社」であっても、債務超過があれば最終的には出資者が不足資
金を注入しなければならない。=債務の帳消しである「特別清算」は、裁判所が認め
ることが条件。
◇中国の外資関係法には「出資者は出資金の範囲でリスクを負う」との記載があるが、
債務が残った状態で会社の倒産、破産、清算ということは、現状でも裁判所が外資系
企業に対して実際にはあまり認めない。(但し、当社では実際に外資系企業に新『企業
破産法』適用して破産処理した実績あり)
◇撤退は「普通清算」をベースに検討せざるを得ない。
◇増資は、清算批准が下りる以前に実施しなければならない。
◇清算損失の中国側、日本側の損金算入、税前控除について
清算に伴う損失、特に固定資産の売却損を精算前の営業利益と相殺できるかどうか
は、税務局の主観的判断が少なからず入る(一般的には難しい)。
最大の問題は、日本側親会社にとって、子会社の清算損失が日本において税務上「損
金算入」できるかどうかである。日本の税務署が損金参入を認めるためには、中国に
おいて然るべき清算手続きを行わねばならず、従って「清算業務」は知識と経験・過
去事例のノウハウを有するコンサルティング会社などを起用しなければ、思わぬ大き
な追加損失を被ることがある。
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(二) 出資権譲渡による撤退
1.根拠法規
外資系企業の出資持分譲渡は、
『中華人民共和国会社法(2006 年 1 月 1 日改訂施行)』、
『中
外合弁経営企業法実施条例』、『外資企業法実施細則』、『中外合作企業法実施細則』、『外商
投資企業投資家の持分変更についての若干の規定(1997 年 5 月 28 日公布施行)』などに基づ
き実施される。
「会社法」
「中外合弁企業法実施条例」
第 72 条 (通常の持分譲渡)
有限責任公司の株主の間で、互いにその持分の全部
または一部を譲渡することができる。
株主が株主以外の人に持分を譲渡するときは、他の
株主の過半数の同意を得なければならない。株主は、
その持分譲渡事項を他の株主に書面で通知して同意
を求めなければならず、他の株主が書面通知を受取っ
た日から 30 日を過ぎても回答しないときは、譲渡に
同意したものとみなす。他の株主の半数以上が譲渡に
同意しないときは、同意しない株主は譲渡されるその
持分を買取らなければならない。買取らないときは、
譲渡に同意したものとみなす。
株主の同意を得て譲渡される持分について、同等の
条件において、他の株主は優先買取権を有する。2 人
以上の株主が優先買取権の行使を主張するときは、協
議のうえ各自の買取比率を決定する。協議しても合意
に達しないときは、譲渡時の各自の出資比率に応じて
優先買取権を行使する。
公司定款で持分譲渡について別に定めがあるとき
は、その定めによる。
第 5 章 董事会及び経営管理機関
第 33 条 (全員一致決議事項)
下記の事項は、董事会会議に出席した
董事の全員一致によりはじめて決議で
きる。
(1) 合弁企業定款の改正
(2) 合弁企業の中止、解散。
(3) 合弁企業の登録資本の増額、減
額。
(4) 合弁企業の合併と分割。
その他の事項は、合弁企業定款に記載
された譲事規定に基づいて決議できる。
第 73 条 (強制執行手続による持分譲渡)
人民法院が法律で定める強制執行手続により株主
の持分を譲渡するときは、公司及び全株主に通知しな
ければならず、他の株主は同等の条件において優先買
取権を有する。他の株主が人民法院の通知の日から
20 日を過ぎても優先買取権を行使しないときは、優
先買取権を放棄したものとみなす。
第 74 条 (定款等の修正)
本法第 72 条、第 73 条により持分を譲渡した後、公
司は前株主の出資証明書を取消し、新株主に対して出
資証明書を発行し、それに応じて公司定款及び株主名
簿の株主及びその出資額に関する記載を変更しなけ
ればならない。この場合の公司定款の当該条項につい
ての変更は株主会の採決を要しない。
第 75 条 (持分買取請求)
次の状況の一に該当するときは、株主会の当該決議
に反対票を投じた株主は、公司に対して合理的な価格
でその者の持分を買取るよう請求できる。
(1) 公司が 5 年連続して株主に利益を分配しない
が、公司がその 5 年に連続して利益をあげ、かつ
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第3章
組織形態及び登録資本
第 20 条 (持分譲渡)
合弁当事者の一方が、その出資額の全
部または一部を第三者に譲渡する場合
は、他の当事者の同意を経て、認可機関
の認可を受け、登記管理機関で登記変更
手続をとらなければならない。
合弁当事者の一方がその出資額の全
部または一部を譲渡する場合は、他の一
方の合弁当事者が優先買取権を有する。
合弁当事者の一方が第三者に出資額
を譲渡する条件は、他の一方の合弁当事
者に譲渡する条件よりも優遇してはな
らない。
上記規定に違反した場合は、その譲渡
は無効である。
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本法で定める利益分配の条件を満たしている時
(2) 公司が合併、分割、主要財産を譲渡したとき。
(3) 公司定款で定める営業期間が満了しまたは定
款で定めるその他の解散事由が生じ、株主総会が
公司定款を変更し公司を存続する決議をした時
株主総会の決議可決の日から 60 日以内に、株主と
公司との間で持分買取りにつき合意に達することが
できない場合は、株主は株主総会の決議可決の日から
90 日以内に、人民法院に訴訟を提起する事ができる。
第 76 条 (相続)
自然人株主の死亡後、その適法な承継人は株主とし
ての資格を承継することができる。但し、公司定款で
別に定めがある場合はこの限りではない。
2.出資権譲渡手続きによる撤退の全体スケジュール
【譲渡による撤退のイメージ図】
【参考スケジュールと必要書類】
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(※) 一般に必要とされる書類リスト
①
出資権譲渡に関する申請書(様式自由)
②
出資権譲渡を決議した董事会議事録
③
譲渡希望出資者の出資権譲渡同意要請書、共同出資者の優先購入権放棄・譲渡同
意承諾書
④
出資権譲渡に関する当事者間合意書
<弊社の推薦記載項目>
(ア)譲渡する出資額、(イ)譲渡価格、(ウ)出資者の変更と権利・義務の承継
(エ)協議書の発効、(オ)合弁契約・定款の変更箇所、(カ)その他(言語、部数)
⑤
出資権譲渡に伴う合弁契約、定款改訂協議書(各出資者代表者がサインしたもの)
⑥
改訂後の新しい合弁契約、定款(申請には必ずしも必要ない)
⑦
合弁契約、定款の修正前と修正後の対照表(必要としない地方もある)
⑧
出資権譲渡前の批准証書(正本)
⑨
出資権譲渡前の営業許可証(正本)
◆クロージングについて:
どの段階で出資権が譲渡されたと見做して、譲渡金額のすべてを支払わなければなら
ないかについては当事者が良く相談して決めなければならない。新旧両出資者の金銭的
な受け渡し、並びに当事者間の紛争について中国政府批准部門は一切関知しないが、中
国の外資系企業関係の法律上は、外資系企業の出資権譲渡は「新しい出資者による営業
許可証の交付日」が譲渡の完了日であり、同時に新出資者の派遣董事による新董事会の
成立日である。
審査部門である対外経済貿易部門が発行する「新しい出資者を明記した批准証書」を
受領することも譲渡受け渡しのひとつの過程だが、この批准証書は最終的な営業許可証
を得る(登記する)ための必要要件文書であり、法的にその合弁会社が新出資者の出資会
社として登記されたわけではない。
以上から出資権譲渡のクロージングと譲渡金額の受け渡し完了は新営業許可証の取得
日を基点とすべきであろう。
◆持分譲渡に関する合意の難しさ: (中国側パートナーへの持分売却)
※出資権の譲渡は「定款の修正事項」であり、董事会の全員一致決議事項である。
※日本側から先に手を挙げて「撤退」を要求する場合には、最終的には相手が首を縦に
振ってくれる方案でないと実務上は手続きが進まない。
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【A 社(日本側)の希望条件】
(1)譲渡対価は、第三者機関による資産評価額をベースにする。
(2)親子ローンの債権者としての地位は留保し、約定通り返済を受ける。
(3)その他の営業債権なども債権者として全額回収する。
【B 社(中国側)の希望条件】
(1)譲渡対価は、資産評価額に関わらず備忘価格とする。
(2)できれば A 社の撤退を機に、親子ローンを含む A 社の債権は累損相当或いは全額
を放棄してもらい、財務体質を改善したい。
(3)その他、享受した優遇税制の返還や、リストラに伴う費用の負担を A 社撤退の要
件とする。
※上記のような要望の背景として、◆累損が多い(親子ともに)、◆資金がない(親子会
社ともに)、◆国有企業からの移籍組が多く従業員が過剰、◆享受した税優遇が大きい、
などの要因が想定できる。
3.出資権譲渡手続きに伴う現地法人の損益、資産、資金の動きについて
(1)持分譲渡に伴うバランス・シートのイメージ
出資者が変更する現地法人(X 社)としては、出資権の対価がいくらになろうと、或いは
債権者(同時に出資者であることもある)がいくら債権放棄をしたとしても、資金の流入
は無い。
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(2)実際の出資権譲渡に伴う変化
【現地法人(X 社)出資権譲渡の条件】:
①譲渡対価は、第三者による資産評価価額をベースとして 3,000 万円とした。
②当初は、合弁パートナーである B 社(中国民間企業)に持分を譲渡しようとしたが、
外国出資比率が 25%未満になり過去の税優遇返還があるため、B 社グループ企業で
ある C 社(香港)への持分譲渡とした。
◆以下、持分譲渡「前・後」の各社のバランス・シート
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(3)会社清算と持分譲渡による撤退の結果
持分譲渡
X 社(現地法人)
所要期間
損益
資金
会社清算
A 社(日本本社) X 社(現地法人)
A 社(日本本社)
3 か月
9 か月以上
=「営業許可証」取得まで
=すべての問題をクリアするまで
債権放棄等が
あれば「益」
影響なし
▲5,000 万円
▲5,250 万円
=8,000−2,750
+3,000 万円
不確定
小さい
要素
(損失は大きくなる可能性あり)
+2,750 万円
大きい
但し、「持分譲渡」或いは「会社清算」による撤退は、日中ともに最大の問題はこれに伴
う損失が税務上「損金算入」できるかどうかであり、従って「中国事業撤退」は知識と経
験・過去事例のノウハウを有するコンサルティング会社などを起用しなければ、思わぬ大
きな追加損失を被る可能性がある。
また、一概には言えないが、
「会
社清算」と「持分譲渡」による撤
退をマトリックス化してみると、
完了まで何が起きるか分からな
い「会社清算」に対し、「持分譲
渡」は譲渡価格や債権放棄或いは
追加税務負担などを余儀なくす
る可能性はあるが、逆にそこまで
割り切れればお金で損失とリス
クと時間をある程度確定できる
撤退手段であるとも言えそうだ。
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0910 華鐘秋季セミナー(今後の日系企業中国戦略と事業再編のケーススタディ)
(三) 会社清算と持分譲渡による撤退の要検討課題
会社清算
持分譲渡
◆法的には「有限責任会社」だが、債
◆会社の法人格は不変であり、社名変
務超過になった場合でも、は裁判所
更、営業範囲の変更などは、持分譲渡
が外資系企業に「破産」を安易に認
実施後に二次的に発生するもの。
めないことから、最終的には出資者
が不足資金を注入しなければならな
法
務
◆既存の債権・債務は全てそのまま承継
される。
い。
(但し、当社では実際に外資系企
◆企業形態が変更する可能性があり、
業に新『企業破産法』適用して破産
「内資企業⇔合弁企業⇔独資企業⇔
処理した実績あり)
内資企業」に注意する。
◆普通清算の場合は、会社が締結した対
◆合弁会社の一方の出資権を譲渡する
外契約について、その履行が終止する
場合、譲受け者は譲受けの条件として
ので、「清算の場合は自動的に終止」
合弁契約や定款を見直そうとするが、
などの条項がなければ、場合によって
これは譲受け後、改めて成立した董事
は損害賠償義務が発生する。
会において新しい出資者間で討議さ
◆清算公告期間(45 日間)は、勝手な資
産処分が禁止されている。
れるべき問題であり、基本的には「譲
受け者は原合弁契約のすべての権利
義務を継承する」ことが原則的な考え
方となる。
◆過去の納税面の納付漏れや違反の有
◆会社の法人格は不変であり、税務登記
無が審査されるため、未納税金の追加
の変更(納税状況の精査)等は行われ
納税、罰金納付等が生ずる可能性があ
ない。
る。
税
務
◆生産型企業では、持分譲渡の結果、会
◆過去に財政や税務面の優遇を受けた
社設立より 10 年経過前に外資比率が
ことがある場合、全額返上しなければ
25%を下回る場合、過去に享受した
ならないことがある。
「二免三減半」などの優遇税制の返納
◆奨励類企業にて免税輸入設備を税関
が必要となる。
監督管理期間(輸入より 5 年間)中に
◆旧出資者が会社の純資産簿価を上回
売却する場合、未経過部分の関税・増
る価格で出資権を譲渡する場合、純資
値税を納税しなければならない。
産簿価の超過額に対して 10%の企業
◆在庫を簿価以上で売却する場合には
増値税が発生する。
所得税を中国で納税しなければなら
ない。
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0910 華鐘秋季セミナー(今後の日系企業中国戦略と事業再編のケーススタディ)
◆2008 年 12 月 31 日以前に購入した自己
使用済みの固定資産を売却する場合、
◆旧出資者が借入金を代位弁済する場
合の日本側での課税。
4%の増値税が半減適用される。
◆清算期間における損益面については、 ◆会社の法人格は不変であり、資金面、
主に営業債権、在庫、建物、設備、土
損益面での影響はない。
地などの回収や現金化が源泉であり、 ◆譲渡資金の移動は新出資者→旧出資
支払いは営業債務、借入金、労働債務、
財
税金、返納、その他清算費用などであ
務
る。
者で行われる。
◆旧出資者による借入金の代位弁済が
あった場合には、借入金が減少し、債
◆資金については、「清算開始時現金残
高+現金回収額−債務弁済−清算費
務免除益の発生により、累損が減少
(または未処分利益が増加)する。
用」となり、負数になる場合には出資
者の追加資金投入が必要となる。
◆労働契約の終止に該当する。
◆会社の法人格は不変であり、事前に人
◆未払(未納)或いは支払い不足(過小
員削減等を実施しない限り、既存の労
納付)の「残業代」や「社会保険」が
働契約関係は全てそのまま承継され
あれば、追加支払い(追納)が必要に
る。
なる。
◆妊娠、出産、授乳期間中の女子従業員
労
の対応や、医療期間中の従業員への対
務
応に留意しなければならない。
(「給与
補償」や「医療補助費」
)
◆従業員への公開タイミングの重要性。
例えば、清算方針決定後も一定期間の
生産活動(供給責任)が必要な場合、
清算申請を遅らせる或いは安定化方
案の策定等を検討する。
実
務
◆債権債務の回収や支払、資産処理、従
◆合弁企業の持分譲渡は、「中外合弁企
業員の移管が全て行われないと清算
業法実施条例」第 23 条に「合弁当事
が終了できない。
者の一方がその出資額の全部または
◆予期しない係争・訴訟ごとであって
一部を譲渡する場合は、他の一方の合
も、全て解決しなければ清算手続きも
弁当事者が優先買取権を有する。」と
終わらない。
の規定があり、持分譲渡交渉の難航の
◆清算公告を知り、債務者が故意に返済
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大きな要因となりえる。
0910 華鐘秋季セミナー(今後の日系企業中国戦略と事業再編のケーススタディ)
をしない恐れがある。
◆国有企業の出資持分譲渡については、
◆賃貸借契約の解除、事務所の原状復帰
①有資格機関による資産評価、②中国
義務がある場合の対処を検討しなけ
側上部国有資産監督管理委員会の許
ればならない。
可、③「産権交易所」での公開入札に
◆清算完了後の現金(清算配当)と、清
算完了時の監査報告書の清算配当の
よる譲渡落札など複雑な手順を経な
ければならない。
金額とに差がある場合には、そのまま
では海外送金できず、関連書類を揃え
て説明を行う必要がある。
Ⅲ.さいごに
(1)事業再編だからこそ日常経営におけるコンプライアンスと内部統制が重要。
(2)中国政府が撤退させてくれない、意地悪をする、という迷信。
(3)合弁パートナー或いは行政部門との交渉、或いはドキュメンテーション等の現場実
務経験を有するコンサルティング会社等の有効活用。
(4)再編(撤退)が目的ではない。その先にある事業拡大に経営資源を集中。
(5)変革を恐れない。現状維持が実質のマイナスになることもある。
(了)
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