医療機関における 児童虐待対応マニュアル (病院編)

医療機関における
児童虐待対応マニュアル
(病院編)
平成 25 年度愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業
児童虐待対応医療機関連携推進会議
児童虐待対応医療機関連絡会
平成 26 年 3 月
医療機関における児童虐待対応マニュアル(病院編) 目次
Ⅰ
Ⅱ
マニュアルの利用にあたって
1 このマニュアルの目的と対象・・・・・・・・・・・・・・・・
2 病院の役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 児童虐待対応「院内マニュアル」の意義・・・・・・・・・・・・・
児童虐待の概念と基本知識
1 児童虐待とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(1)身体的虐待
(2)ネグレクト
(3)性的虐待
(4)心理的虐待
2 病院内で児童虐待にかかわる職種とその役割・・・・・・・・・・
(1)医師の役割
(2)看護師や医療スタッフの役割
(3)医療ソーシャルワーカー等の役割
3
Ⅲ
Ⅳ
1
1
1
4
5
11
16
20
21
21
23
25
地域の関係機関の役割と連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
院内組織の構築と活動
1 院内組織を構築する意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 組織づくり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 会議の開催とその機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 地域関係機関につなぐ役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5 その他の役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
31
32
33
34
児童虐待の発見
1 どのような時に疑うか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2 診察・検査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3 重症度の把握・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 疑い・発見時の対応方法 手順・・・・・・・・・・・・・・・・・
5 入院での対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6 診察録(カルテ)・記録について・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
35
36
39
40
41
Ⅴ
通告後の医療機関の役割
1 医療ケアの提供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
2 病院での一時保護(親子分離)
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
3 一時保護による入院治療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
(1)児童相談所長の職権での一時保護による入院治療
(2)親権者の同意に基づく入院や他院からの転院(一時保護)
(3)一時保護入院した子どもの退院
(4)重度障害を残したケースへの退院後の入所先の確保
Ⅵ
周産期の子育て支援的対応
1 特定妊婦とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
2 妊娠期の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
(1)子どもを育てられない場合
(2) 関係機関との情報交換
(3)他医療機関受診紹介
3 出産時の対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
参考資料
1
2
3
4
5
医療機関から児童相談所への通告フォーマット例
妊娠届出書様式(愛知県)
医療機関における問診票(分娩申込票)の例
診療情報提供書 様式 12 の 2
診療情報提供書 様式 12 の 3
Ⅰ
マニュアルの利用にあたって
1
このマニュアルの目的と対象
このマニュアルは、愛知県内の病院が、関係機関や他医療機関と連携し、組織的に児
童虐待に対応できる体制を整備・充実し、児童虐待の発生予防、早期発見、早期対応を
推進することを目的としています。
小児の外来・入院診療に携わるすべての病院を対象として編集しています。
小児科を標榜する病院の他、救急診療や外科治療などで小児の診療を実施している病
院、妊娠や出産に関わる産婦人科の病院、精神科単独の病院も利用できるよう作成して
います。
2
病院の役割
児童虐待への対応は、対象となる子どもと家族等へのライフサイクルに応じて、地域
の関係機関が連携して実施するものです。病院は、市町村の要保護児童対策地域協議会
(子どもを守る地域ネットワーク)の構成員として、また児童相談所のケースワークの
中で、子どもと家族等の医療面における中心的な役割を担います。
地域医療において、各病院は、その規模や診療体制、診療内容によって機能を分担して
います。同じように児童虐待への対応についてもある程度の役割分担がなされます。
したがってこの冊子では、次の2点に配慮して記述しています。
(1)標準的にすべての病院で実施すべき役割
(2)地域の中核的な病院において、特に実施することが望ましい役割
本書では、各病院がそれぞれの役割を理解できるように、項目タイトルに次のような
ロゴを付記しました。
標準 標準的にすべての病院に必要な項目
救急 地域の小児救急医療の中核的な病院に必要な項目
周産期 地域の周産期医療の中核的な病院に必要な項目
産科 産科医療を担う病院に必要な項目
精神科 精神科医療を担う病院に必要な項目
3
児童虐待対応「院内マニュアル」の意義
「この子のケガは何かおかしい・・・」、「生まれた子どもは大丈夫だろうか・・・」
目の前の子どもと向き合った時に感じる不自然さが子どもを虐待から救う最初のチャ
1
ンスです。
「本当に虐待かどうかは分からない・・・」
「他の患者さんのこともあるので
関わっている時間が無い」「面倒なことには関わりたくない・・・」など少しでも思っ
たことはないでしょうか。児童虐待は、虐待を発見した医師や看護師等が一人で対応す
るにはどうしても限界があります。そのため、それぞれの病院で診療の現場を応援する
専門的な職員の体制を明確化し、その行動の普遍化のために「院内マニュアル」を作成
することが必要となります。「子どもと家族への援助」のスタートが適切に行えるよう
に、それぞれの医療機関で工夫をしてください。
★
体制を整備するとは?
・ 虐待対応担当部署の明確化
病院ごとに作られる「院内マニュアル」作成にあたっては、特に担当部署(職
員)を明確にする必要があります。院内の情報の集約、外部機関との連絡などを
担当します。
・ 児童虐待対応委員会の設置
比較的ベッド数の大きな病院においては、活動を組織的に継続するため、院内
組織として児童虐待対応委員会を設置することが望ましいといえます。
・ 児童虐待対応「院内マニュアル」の作成
児童虐待に対しては、病院の全職員が組織的に対応することが必要です。その
ためには、対応の手順を示す「院内マニュアル」を作成することが効果的です。
★
体制を整備することのメリット
・ 診療チームから児童虐待対応を切り離すことで、本来の業務である病気やケガ
の治療に専念できます。
・ 法律に規定された「虐待の通告義務による早期発見」に対して、病院の役割を
果たせます。
・ 担当部署を明確化し、児童相談所や関係機関との窓口を一本化することで、連
携がスムーズにでき、対策の検討をしながら、子どもの安全の確保と治療を続け
ることができます。
・ 職員の危機管理やリスク管理に対する意識が向上し、職員教育とともに、医療
活動に生じる安全と信頼性を高めます。
・ 組織的な対応により情報の集約ができ、診療チームの個人に過度な負荷がかか
らなくなります。また、適切な対応方針を決めることにより、クレーム対応など
のリスク管理や警察や報道機関への対応を準備することができます。
愛知県内で小児科を標榜し小児科一般診療を行っている 106 病院への調査(平成 25
年度愛知県健康福祉部児童家庭課調べ)では、回答のあった 87 病院中 33 病院(37.9%)
が児童虐待に対応する院内組織を設置しており、また児童虐待対応「院内マニュアル」
は 34 病院(院内組織あり 30 病院、なし 4 病院)で作成されていました。
2
すでに「院内マニュアル」が整備されている病院に向けては、その内容の再点検や、
より幅広い活動のための参考として、まだ「院内マニュアル」が整備されていない病院
に向けては、標準的にすべての病院で実施すべき点を参考としていただき、最終的には
すべての病院が児童虐待対応「院内マニュアル」を作成することが望まれます。
45
40
35
30
41
マニュアルあり
マニュアルなし
30
25
20
15
9
10
5
4
3
0
0
設置あり
設置予定
予定なし
図. 愛知県の病院の院内組織の有無と「院内マニュアル」の作成状況
このマニュアルの内容は、県内の病院の「院内マニュアル」の具体的な内容を基礎資
料とし、平成 25 年度の愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業として開催された、
児童虐待対応医療機関連携推進会議(地域の中核的な病院の小児科部長等で構成)及び
児童虐待対応医療機関連絡会(地域の中核的な病院の医療ソーシャルワーカー等で構成)
で検討したものです。
表. 愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業における中核的な病院
医療圏
名古屋
病院名
名古屋第一赤十字病院、独立行政法人地域医療推進機構中京病院、
名古屋第二赤十字病院、名古屋掖済会病院、大同病院
尾張東部
公立陶生病院
尾張西部
一宮市立市民病院
尾張北部
江南厚生病院
西三河南部西
刈谷豊田総合病院
西三河南部東
岡崎市民病院
西三河北部
トヨタ記念病院
東三河南部
豊橋市民病院
拠点病院:あいち小児保健医療総合センター
3
Ⅱ
児童虐待の概念と基本知識 標準・救急・周産期・産科・精神科
1 児童虐待とは
親または親にかわる保護者、または保護者以外の同居人(以下、家族等)によって、
子どもに加えられた行為が、子どもの基本的な人権を侵害し、健全な心身の成長発達を
阻害し、人格形成に重大な影響を及ぼす場合をいいます。また、反対に家族等から本来
適切に行使されるべき養育が不足していたり、全くなかったりすることで、成長発達を
阻害する場合等も含まれます。
虐待であるかどうかの判断は家族等の意図とは関係なく、子ども自身が苦痛を感じてい
るかどうかなど、子どもにとって重大な権利侵害がないかといった子どもの立場から行
います。
なお、このマニュアルにて「児童」及び「子ども」とは 18 歳未満の者をいいます。
(児童虐待の定義)
第二条 この法律において、
「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年
後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護
する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行
為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせる
こと。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保
護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その
他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭に
おける配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻
関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又
は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を
いう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年五月二十四日法律第八十二号)
最終改正:平成二四年八月二二日法律第六七号より抜粋
4
(1)身体的虐待
外力によって、身体に外傷を与えることや、生命に危険を及ぼす暴力のことをさし
ます。
・外傷としては打撲傷・あざ(内出血)・骨折・頭部外傷・刺傷・タバコによる火傷
などがあります。
・特に生命に危険を及ぼす行為には、首を絞める、頭を殴る、蹴る、長時間戸外に
閉め出す、煙草の火を押し付ける、溺れさせる、異物や毒物を飲ませる、監禁する
などがあります。
【身体的虐待を疑う必要のある問題や状況】
★ 身体問題
1 虐待を考えなければいけない身体問題
以下の状態が同時期に複数存在、あるいは反復して出現
・ 外傷(痕)・火傷(痕)・骨折・誤飲・その他の事故(溺水など)
・ 輪郭がくっきりしている、パターン化している・小円形の外傷痕、火傷
・ 多数の虫歯・口腔内熱傷・乳児の骨折・硬膜下血腫(交通事故や第三者が目
撃した転落以外)・保護者が述べる受傷理由で説明できない外傷、火傷、骨折、
事故
2 虐待も可能性として考えなければならない身体問題
・ 不潔な皮膚状況、体重増加不良、低身長、受診時に死亡状態(CPAOA)
(乳幼児
突然死症候群を疑うような状況も含む)
★ 行動面の問題
1 虐待を考えなければいけない身体問題
・ 幼児:著しい過食、異食・過剰で無差別な対人接近(誰にでもなれなれしく
身体接触してくる)、加減のない荒っぽさ、乱暴な行動(対象が一定しない、誰
彼構わず)
・ 小学生:単独での非行の反復(盗みと嘘、万引き、放火など)、動植物への残
虐な行為、加減しない攻撃的な言葉、暴力
・ 中学生、高校生:家出、徘徊の反復
2 虐待も可能性として考えなければならない身体問題
・ 幼 児:保護者からの隔離に平気、過剰な警戒心
・ 小学生:集団行動からの逸脱、反抗的言動
・ 中学性、高校生:怠学、暴力行為、性的逸脱行為
5
【部位別・損傷別にみた身体的虐待の可能性】
項
目
受傷機転の説明
虐待の可能性が高い
あいまい、矛盾、不一致
虐待の可能性が低い
一貫性がある
不自然
受傷から受診までの
遅い(悪化してからの受診)
早い(常識的な範囲)
傷の数
多発性
単発性
傷の状態
新旧混在、感染等の合併
新鮮、同時期発症の傷
時間
形態が明瞭(手形・物の形等)、二
重条痕
挫傷の発生部位
耳介、頚部、腋下、背部、
体の前方皮下に脂肪組織の少なく皮
臀部、陰部周辺、手背、
膚の直下に骨が存在する部位
足背
児の年齢(挫傷)
新生児、乳児
熱傷の状態
辺縁の明瞭な深い熱傷
辺縁の不明瞭な浅い熱傷
熱傷の部位
手背、足背等物に触れない部位、
手掌、体の露出部位
大腿・臀部の内側
タバコによる熱傷
多発性、新旧混在、通常衣服で覆
単発性、通常露出部に多い
われている部位や足底等人目につ
きにくい部位
頭蓋内損傷
硬膜下血腫、新旧混在の血腫の併
硬膜外血腫
存
頭蓋骨の骨折
多線性、解離性、両側性
線状骨折
頭頂部陥没
骨折の部位
骨幹端骨折、肋骨、棘突起、
鎖骨、長管骨々幹部
胸骨、肩甲骨
骨折の形態
らせん骨折、鉛管骨折
骨折時の年齢
2 歳未満
5 歳以上
網膜出血
乳幼児揺さぶられ症候群に特徴的
網膜出血の鑑別診断、心肺蘇生術後、
一酸化炭素中毒、重度の胸部損傷、
凝固異常等
6
【乳幼児の頭部外傷と乳幼児揺さぶられ症候群】
1
頭蓋骨骨折
・縫合を超えない単純な線上骨折は事故によるものであることが多い。
・虐待によると考えられる骨折は多発骨折、複雑骨折、陥没骨折、解離骨折などである。
2
乳幼児の頭蓋内出血
・硬膜外出血 → 偶発的事故でも起きやすく、虐待とは限らない
・硬膜下出血 → 交通外傷以外の事故での発症は少なく、虐待が圧倒的に多い
3
致死的な頭部外傷
・家庭内での一般的な生活をしていての転落等の事故では乳児に致死的な頭部外傷が起
きるのは稀であり、虐待の存在を考えるべき。
・2階以上からの転落や交通外傷では致死的な頭部外傷は稀ではない。ただし、保護者ネ
グレクト等の可能性は考えておく必要がある。
4 乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken baby syndrome
(1) SBS とは
以下 SBS)
・乳幼児を揺さぶることによる暴力的な鞭打ち状態。揺さぶりの後にぶつけられること
もある(Shaken Impact syndrome ,SIS)。ただし、いずれも揺さぶられていることが
重要であることに変わりはない。ぶつけられる場所は柔らかい枕やソファーでも揺さぶ
られる力が増幅されて大きな障害に結びつく。
・暴力的な激しい外力が加わらないと起きない。以前は「たかい、たかい」などの荒い
遊びで起きると考えられていた時代もあるが、様々な研究からそうした遊びで起きるこ
とはないと考えられるようになってきている。(ただし、荒い遊びは危険であるので慎
むべきである)
・SBS は子どもの一生で一回のこともあれば、繰り返されることもある。
(2) 好発年齢
・乳児に多いが年長の子どもにも見られるという報告がある。
・乳児で SBS が多く発生する理由。
大人が簡単に揺さぶることのできる大きさである。
大きな頭とそれを支える首の筋肉の弱さ → ゆすられる時の頭の動きを大きくす
る比較的多い脳脊髄液の存在、髄鞘化が未熟、柔らかい縫合
(3)臨床症状
・重篤な SBS ではほとんど直後からの意識障害があり、しばしば痙攣や呼吸停止を伴
う。
・しかし重篤ではないケースでは、苛立ち、ミルクが飲めない、嘔吐、無気力などの症
状があり、ウィルス感染と誤診されることもあるので注意が必要。
7
(4) 臨床所見
① 頭蓋内出血
・揺さぶられることで、頭蓋内出血が起きる。橋静脈が破綻して硬膜下血腫が起きる
ことが圧倒的に多い。
・したがって、大脳鎌に沿った出血や後頭蓋窩の出血は特徴的である。
② 網膜出血
・揺さぶられると重篤な網膜出血を伴う。一方、ぶつけられるだけでは網膜出血はほ
とんどおきない。
・SBS の網膜出血は広範囲で何層にもわたる出血であり、両側性のことも偏側性の
こともある。
・その他の暴力を受けている時には網膜はく離などの他の外傷性眼障害を伴うことが
ある。
③ 脳実質の障害
・揺さぶられることで広範で重篤な脳全体に及び障害が起きる。
・一次性脳障害として、脳挫傷、灰白質-白質せん断、びまん性外傷性軸索損傷など
が起きる。
・二次的脳障害に慢性脳浮腫が起きることが多い。脳浮腫とそれに伴う神経学的症
状は揺さぶられてから短時間で始まる。特に致死的なケースでは数時間で始まる。そ
の機序は明らかではない。
④ その他の所見(以下の所見は存在しないことも多い)
・骨折 → 子どもを強く握ったり四肢が揺られたりぶつかったりすることから肋
骨骨折、長管骨骨折、長管骨々幹端骨折を伴うことがある。
・皮膚外傷 → 揺すられてぶつけられた場所に皮膚外傷が見られたり、握られた胸
の部位に指のあとの内出血が存在したりすることもある。
⑤ 予後
・致死率は 15%、障害を残す率は 50%以上。
⑥ SBS が疑われる症状があるときには
・発症から受診までの時間を確認。
・予断を与えない形で親の説明を聞いてそれを記載。
・CT もしくは MRI で頭蓋内出血、脳浮腫、その他の頭蓋内所見を確認する。ただ
し、脳浮腫などの臨床所見は画像診断では後から出現することがあるので、臨床所見
に応じた治療を開始する。
・眼底の所見をとる。
・全身骨撮影を行う(初診時と2週間後)。できるだけ小児放射線科医にコンサルトす
る。
・その結果、SBS が疑われる所見があれば、児童相談所に通告する。
・なお、必要な検査や判断が困難な時には虐待を扱える医療機関に紹介したり、コ
ンサルトしたりすることが必要。
8
【虐待による熱傷の所見】
1 身体的虐待の外傷痕の基本的特徴
・外部から見えにくい部位(大腿内側部、腋窩部、背部、臀部、頭皮内など)に外傷が
存在すること。
・新旧混在した外傷があること。
・外傷痕から加害原因物(タバコ、ベルト、火箸、紐など)が容易に推察できることが
熱傷においても例外ではなく、この特徴を踏まえて熱傷根を観察する。
2
虐待による熱傷の特徴
・身体的虐待において、熱傷は約9%との報告が見られるが、その多くにタバコ熱傷が
存在するため、これを見逃さないようにするべき。
・タバコなど小型の熱源による熱傷部位は、臀部、大腿内側部、腋窩、腹部など露出し
ていない部位に多い。
・熱傷面が一様な重症度を呈して健常部との境界が明瞭である。
・逃げられない子どもが受傷するため、熱源が容易に推定できる。
・飛び散ったり、かぶったりの受傷(splash burn)がないか、ほとんどみられない。
・乳幼児のアクシデントによる熱傷は手掌などの上半身中心に受傷していることが多い。
・熱傷部位の特徴より、熱傷痕の特徴(境界明瞭、熱傷深度が均一)の方が、虐待の熱
傷により特異度が高い。
3
熱源別特徴
(1) タバコ・車のシガレットライター
・タバコによる熱傷は最も高頻度に経験される。
・いずれにせよ、衣類による被覆部に熱傷を負っていることが多いため、疑いが生じ
た症例では、必ず、裸にして(下着も脱いで)の全身観察をする。
(医療機関では受診
の主訴と異なっていても裸にしての全身観察が求められる。)
・中には、若干、タバコ熱傷と即断できない熱傷痕もあるが、受傷部位、新旧の混在
の外傷痕、などから総合的に診断する。
・シガレットライターによる熱傷痕もその多くはタバコ同様に熱傷痕の形状から一目
瞭然であり、熱傷源を推定出来、虐待を強く疑う。
(2) 家庭用品
・火箸、焼き網、アイロン、カールゴテなどによるケースが経験されるが、時にはク
リーニングで使用される金具性ハンガーなどによることもある。
・熱傷を受ける部位は、胸部・腹部などの躯幹の全面だけでなく、背部も多く経験さ
れ、四肢も少なくない。
・熱傷面が一様の重症度・深達度であり、境界明瞭であることから熱傷源の推定が可
9
能なことが多い。
・熱さによる本能的な子どもたちの逃避・回避行動が、熱傷面に見られるかどうかを
見極めることが、虐待による熱傷の診断に最も重要である。
(3) 加熱液体(熱湯など)
・乳幼児において、熱湯での熱傷は不慮の事故による熱傷の原因としても多いが、
63.8℃のお湯では1秒間の接触でⅡ度熱傷を起こし、10 秒間の接触でⅢ度熱傷まで起
こすことが知られている。
・不慮の事故と異なり、回避・逃避行動がないため、液体による熱傷にもかかわらず、
境界が明瞭で、熱傷の重症度が一定という特徴がある。
・不慮の事故による液体熱傷では経験されない部位、すなわち、躯幹~臀部、四肢な
ど、部位的特徴もある。
・旧式のふろなどのお湯に漬けられると、上部の湯温が高く、下部の湯音は低いため
に、熱傷の上部部位が境界明瞭・熱傷度均一、左右対称であり、下部になると熱傷度
も軽くなり、不均一になるという特徴がある。
・被虐待児が抵抗できないとはいえ、身を丸めて痛みをこらえるなどの動作にて、腹
部の皺部分は熱傷度が低いために、皺に沿って健常皮膚が残ったりすることも特徴で
ある。あるいはもがいて手足の熱傷度が軽いことも経験される。
・熱傷部の上部が境界明瞭であり、熱湯が飛び散っての熱傷痕である、splash burn
がないことも特徴である。
・臀部から熱湯に浸漬されると周囲の熱傷度が強く、中心部の熱傷度が弱いためにド
ーナツ現象を起こすことも虐待の熱傷として知られている。
・手足を熱湯に浸漬されると、手は手袋(グローブ)状に、足は靴下(ソックス)状
に一様に熱傷することも虐待に特徴的な熱傷として知られている。
・口腔内熱傷は乳幼児ではあまり起こり得ない熱傷で、口腔内熱傷(特に軟口蓋や口
蓋垂や咽頭壁などまで)の場合には強く虐待を疑うべきである。加熱液体を無理やり
飲ませた可能性が考えられえる。
(4) その他
・その他の熱傷では、あらゆる物体が熱源となりうることが知られている。
・夏場の直射日光で加熱された、アスファルト、鉄板、あるいは車体などをはじめエ
ンジンを始動しているバイクのマフラーなどによることもある。
・日常的にはあり得ない受傷機序であり、熱傷面が均一の重症度であることが虐待疑
いの第1歩である。
これらの熱傷における虐待診断においては、熱傷から受診までの時間の遅れ、あるいは
民間療法放置などによる熱傷面の感染・汚染を認める場合は強く虐待を考えるべきである。
実際に、熱傷面は感染しやすい特徴があり、感染している場合には受傷から、受診までの
時間必要以上に経過していることを重視する必要がある。
10
(2)ネグレクト
家族等が故意・過失を問わず、子どもに対して適切に管理・指導・養育等を行わな
いことにより、結果として健康の維持や生命・身体の安全を損なう行為を言います。
・子どもの健康・安全への配慮を怠っている。
家から閉め出す、登園・登校させない、病気やけがをしても子どもを受診させない、
家や車に置き去りにして外出を繰り返すなどがあります。
・食事・衣類・住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢な
ど。
例えば、適切な食事を与えない、衣類や生活の場をひどく不潔なままにするなど
があります。
・親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが
死亡したり誘拐されたりといった事件もネグレクトの結果です。
① 医療現場におけるネグレクトの診断
ネグレクトとは、児童が当然提供されるべき保護者からのケアの「欠如」です。
項目
提供されるべきケア
「欠如」の結果として起こる徴候
食物
正常な発育に必要かつ十分な食物と栄
養
体重増加不良、栄養不良、易感染性、情
緒の障害
気候条件に応じた、清潔できちんとし
た衣服
子どもにとって安全であり、食事や睡
眠がとれるゆとりがあるだけの空間と
時間
乳幼児は常に安全に関して監督される
必要がある。年長児では自分自身の安
全を守る知識習得の指導が必要
貧困のせいではない身なりのだらしな
さ、アンバランス感
朝起きが悪いなど生活リズムの変調、
家庭内での事故、極度のやせや肥満
保護者の子どもに対する注意深い思い
やりと、子どもの必要に応じた機敏な
反応
対人関係の技術や言葉の正しい使い方
などの子どもの理解力を育てる教育
他人への共感と配慮の欠如、好奇心や学
習意欲の欠如、愛情への渇望と執着、発
達遅滞
粗雑な言動、発達遅滞、学習遅滞
予防接種の実施、急性・慢性の病気へ
の注意、疾病時の医療機関への受診や
治療、服薬への協力、慢性疾患の治療
の継続等
学校に通学する権利の順守と、下校後
の課題をこなすために必要な時間と空
間の確保。家庭中心の教育が選択され
た場合には、年齢に相応した学業の提
供と同年齢の子どもたちとの適切な関
わりの保証
乳幼児健康診査の未受診、保護者の都合
による治療の中止や怠薬、受診時期の遅
延、夜間外来のみの受診
衣類
住まい
安全の
確保
養育
家庭
教育
医学的
ケア
学校
教育
11
子どもの事故、けがの反復
子どもに相応の社会性の欠如、不当な就
労(保護者の怠慢で強制されるきょうだ
いの世話、売春等)
★栄養ネグレクト・衣服ネグレクト・衛生ネグレクト(衣食住の身体的ケアを与えない)
食事を与えられないために体重増加不良、栄養失調があり夏場では脱水症にも注意、着
替えをさせてもらえないために体が臭う、オムツかぶれや湿疹がひどい等の状況から乳
幼児健診、幼稚園・保育園、学校で気づくことが多くあります。
親の生活リズムに合わせた子どもの生活リズムの変調、家庭内の繰り返される事故もネ
グレクトと考えることができます。
★愛情剥奪症候群、情緒ネグレクト(発達に必要な情緒的ケアを与えない)
発達の遅れ、低身長、低体重(やせ)となり、感情表現が出来ず、他人への共感と配慮
を欠き、コミュニケーションが取れない、人間関係が築けないことが問題となります。
好奇心や学習意欲が低下し、愛情への渇望と執着が見られることがあります。健診など
を受けていれば、母子健康手帳の発育曲線に身長・体重をプロットすることで明らかに
なります。発達には臨界期があり、早期に発見し、適切な対処がない場合、発達の遅れ
は不可逆的です。
★環境ネグレクト(子どもの安全を守るために必要な監視を怠る)
何日間も保護者が出歩いて、子どもが家に1人で放置されている、車の中に子どもを置
いてパチンコに興じる、火傷やタバコの誤飲が繰り返し起こる等の状況は、ネグレクト
状態と考えることができます。しかし、日本では、子どもが寝ているから車の中におい
て、ちょっとスーパーで買い物、子どもが寝ているので、家においてちょっと買い物な
どの行為は、
『当たり前』に行われていますが、アメリカでは直ちに通報されます。
「何
が虐待か」という社会のコンセンサスが必要です。
★医療ネグレクト(必要な医療や乳幼児健診、予防接種を受けさせない)
外来で何かおかしい、不自然というセンスを持つことが大切です。乳幼児健診の未受診
者へのアプローチは地域の母子保健の大きなテーマです。
アレルギー疾患、心不全やてんかんの薬を適切に飲まさせない、勝手に中断する、医療
機関に受診するのがいつも遅い、不必要に頻回に受診する、夜間診療しか受診しない。
このような中に「虐待」が潜んでいることがあります。
純粋に医療行為のネグレクトのケースでは、背景に宗教的な理由があることが少なくあ
りませんが、一般的なネグレクトの延長として医療ネグレクトが生じるケースもありま
す。
基礎疾患や障害のある子どもの経過が自然歴なのかネグレクトの影響を受けているの
か鑑別し、判断することは医療機関での診察のみでは不可能です。地域での社会的状況、
生活状況の情報の収集が不可欠です。
12
医療ネグレクトへの対応
1
直ちに処置(緊急の手術・輸血等)が必要で、放置すれば死に至る場合
法律的な判断で緊急避難、あるいは社会的正当行為という立場から、親権者の同意がな
いことへの違法性が阻却される可能性がある。
2 1ヵ月以内の対応が必要な場合(先天奇形の心臓手術等)
児童相談所が親権喪失宣告の申し立てと、親権者の職務停止及び職務代行者の保全処分
の申し立てをする。親権の一時停止をして職務代行者の判断で治療を行うことができる。
3
治療に時間的余裕があり親からの分離を考慮する場合
医療ネグレクトが児童福祉法 28 条による施設入所等の措置事由に該当すると解釈でき
る。家庭裁判所の審判の下で施設等に子どもを移し、施設長の判断で治療を行う場合もあ
る。
★教育ネグレクト(必要な教育を受けさせない。保育園・幼稚園、学校に行かせない)
幼稚園、保育園では親の都合や、親の生活の乱れで登園できない、無断で来ない、着衣
が不潔などの様子から疑うことができます。園の食事やおやつを「がつがつ」食べる、
お迎えが来たとき態度が変わるなど、子どもの行動にも特徴がります。
小学生にもなると、下のきょうだいの世話や家事をさせられ、登校させないこともあり
ます。
★遺棄・殺人(捨て子、親子心中、保険金殺人など)
親子心中は日本独特の文化背景があるといわれています。親子心中による死亡は、
児童虐待による死亡例の中でも多くを占めています。つい最近までわが国には尊属殺人と
いう項目があり、親子心中の失敗から子どもだけが死亡しても罪に問われない一方、いか
なる理由であれ、子どもが親を殺すと他人への殺人より重い罪を科せられていました。
最近では、母親がわが子に保険金をかけて殺害する事件も起きました。
ネグレクトへの対応には、保護者の養育能力を評価することが必要です。
経済的問題、家庭崩壊、時に宗教的カルトなどが関与していることがあります。養育者
の知的レベルが低く、援助なしには養育が不可能なこともあります。母親の精神病や精神
障害も稀ではありませんが、気づいても精神科医療につなげることは一般的に極めて困難
です。
② 身体的基礎疾患、慢性疾患や障害のある子どもへのネグレクトの診断の困難さ
基礎疾患や障害のある子どもに対しては、健常児よりさらに積極的な保護者のケアが
必要です。たとえば発達遅滞が予測される基礎疾患のある子どもにおいても、障害の程
度はネグレクトによってその自然歴以上に悪化し、時には生命予後にまで影響すること
13
があります。疾患の自然歴とネグレクトの影響を分けて診断するには、子どもの虐待の
背景要因を十分に分析することが必要です。
③「虐待の放置」もネグレクトである
虐待を察知しながら通告や介入を行わない専門職種の態度や、家庭内や地域での見過ご
しも「ネグレクト」です。
【代理によるミュンヒハウゼン症候群】
Munchausen Syndrome by Proxy, MSBP
子どもに病気を作り、かいがいしく面倒をみることにより自らの心の安定をはかるといっ
た、子どもの虐待における特殊系である。加害者は母親が多く、医師がその子どもにさまざ
まな検査や治療が必要であると誤診するような、巧妙な虚偽や症状をねつ造する。
加害者は自分が満足できる子どもが病気との診断結果が出て、医療的な処置が行われるま
で「その」状態を続けるため、必要のない検査が延々と続くことになる。加害者が医療者の
注意を十分に引き付けることができないと、子どもの症状がどんどん重篤になり、致死的な
手段を用いる場合もあり、十分な注意が必要である。しかし、医療者が疑いを持つと、急に
来院しなくなったり、別の医療機関を受診したり、これまで学習した知識を基に、さらに巧
妙な症状を作り出すこともある。一般的に加害者は医師に、熱心な母親であるという印象を
与える。「この母親が虐待などするはずがない」と思わせることが稀ではなく、「おかしい」
と疑うことが必要である。
1
MSBP のタイプ
(1) 虚偽による訴え
子どもに実際には手を出さず、存在しない症状だけを訴え続けるもの。症状を目撃、
確認している第三者はおらず、訴える保護者のみが観察している状況で発生する。子ど
もにとっての不利益としては、不必要な検査や治療、保護者への不信感の形成などが起
きる。
(2) ねつ造による訴え
① 検査所見のねつ造
体温計を操作して高体温を装う、子どもの尿に自分の血液を混ぜるなどをして血尿を
装うなど、人為的に検査所見をねつ造して訴えるもの。子どもにとっての不利益として
は、不必要な検査や治療、保護者への不信感の形成などがある。
② 身体への人為的操作による症状ねつ造
子どもに薬物等を飲ませる、窒息させるなどの行為を行い、子どもに実際の身体不調
や病的状態を作り出し、そのことを病気の症状として訴えるもの。子どもにとっての不
利益としては、身体的異常(最悪の場合、死亡)、不必要な検査や治療、保護者への不
信感の形成などがある。
14
MSBP の一般症状
無呼吸、痙攣、出血(血尿、吐血)、意識障害、下痢、嘔吐、体重増加不良、敗血症、
局所の感染を伴うことのある発熱、発疹、高血圧などきわめて多彩である。
3 臨床症状の特徴
症状の確認が困難な発作的要素を持つ症状が特徴である。医学的な知識があれば、症状
を作りやすく、かつ劇的な所見を呈する者が多い。(母親は熱心な母親を演じながら、医
師からこのような情報を聞いている。)
2
4
MSBP を疑う徴候
(1) 持続的、あるいは反復する症状(病気)
「これまでに診たことがない」というような、非常にまれな症状であることがある。そ
のために医療者はさまざまな検査を行うことになる。
(2) 子どもの全身状態は良いのにもかかわらず、養育者は危機的な症状や重篤な検査結果
を伴う病歴を訴える。
(3) 子どもの側を離れようとせず、よく面倒をみているようにみえるが、重篤な臨床状況
に直面してもあわてるそぶりが見られない。
(4) 養育者と分離をすると症状が落ち着く。
(5) 通常の診療において有効な治療が無効である。
(6) 過去にいくつもの医療機関を受診している。(その過程で、加害者は医学的な知識を
増やしている。)
★
5
原因不明のけいれん、意識障害、呼吸障害などがあり、薬物による症状を疑った時は、
血液・尿などを採取し、検査することが必須となる。また、麻薬、覚せい剤、興奮薬、
向精神薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、農薬などのスクリーニング試薬が市販されている。
より詳細な検査は、大学法医学教室や警察の科学捜査研究所などとの連携が必要ある。
MSBP の診断の手順
(1) 子どもの病歴を詳細に取る。これまでその家族と関わりを持った医療機関から情報を
得る。
(2) 医療機関だけでなく、保健所・保健センター、福祉機関(市町村ケースワーカー、保
育園など)、学校など、これまでに関わった機関から情報を得る。情報収集し、戦略を
立てるために、関係機関の間で、ネットワークミーティングを開くことが望まれる。
(3) 直接保護者(加害者と思われる)から、これまでの病歴を詳細に聴取する。(できる
限り、ビデオやテープに録音する)
(4) 入院中は出来るだけ、養育者と子どもだけにしないようにし、出来れば気づかれぬよ
うにビデオカメラでもモニターする。
(5) 子どもを養育者から分離して、少なくとも3週間は観察する。児童相談所及び弁護士
15
と協議し、一時保護委託を検討するとともに、その後の法的な対処も準備する。
6 様々な病気の作成方法
・出血:ワーファリン、フェノールフタレイン、本人以外の血液(生理血、動物など)故
意に子どもに出血させる、血液以外の物質を使う(絵具、染料、ココアなど)
・けいれん:虚言、薬物投与(フェノチアジン、炭水化物化合物、塩、イミプラミン、テ
オフィリン)、絞首による窒息頸動脈圧迫
・抑うつ状態:薬剤(向精神薬、抗けいれん薬、インスリン、アスピリン、アセトアミノ
フェンなど)
・呼吸困難:手による呼吸路の圧迫、薬物投与、虚言
・下痢:フェノールフタレインその他の下剤、塩分の投与
・血尿:生理血や動物の血液を混入させる、血液以外の物質を使う(絵具、染料、ココア
など)
・蛋白尿:粉ミルクを混入する
・嘔吐:催吐剤の投与、虚言
・発熱:虚言、こする
・発赤:薬物、ひっかく、腐食剤、絵具
(3)性的虐待
性交・性的暴行・性的行為を強要することを言います。
・ 子どもへの性交、性的暴行、性的行為を強要することに限らず、未熟で同意の得られ
ない子どもの身体を触れるなど、家族等が性的満足を得ることを目的に行ったすべての
行為を含めます。近親姦もこれにあたります。
・ 性器や性交を見せる、ポルノビデオをみせる。
・ポルノグラフィーの被写体になることを子どもに強要する。
愛知県青少年保護育成条例
青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為を防止し、もつて青少年を保護し、その
健全な育成に寄与することを目的とする同条例では、以下が明記されています。
(いん行、わいせつ行為の禁止)
第14条何人も、青少年に対して、いん行又はわいせつ行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対して、前項の行為を教え、又は見せてはならない。
第7章 罰則
第29条 第14条第1項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の
罰金に処する
2
第14条の2の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に
処する。
16
性的虐待とは、子どもにとっての性の安全が守られて健全な性の発達が保障されるとい
う権利が年長者から侵害されることです。被害はどのような子どもにもあり得ます。乳幼
児でもありますし、女児のみでなく、男児への性的虐待も決して少ないものではありませ
ん。必ずしも性器への接触があるとは限りません。たとえば、幼児の手の届くところに AV
ビデオを放置するなども子どもにとっては過度の性的刺激になり、時には加害に転じてし
まうこともあります。
① 性的虐待を疑うべき状況
ア 身体的な訴えから
(ア) 性器あるいは肛門の裂傷・出血
机の角にぶつけた、鉄棒から落ちたなどの説明が多いが、膣裂傷はこうした事故では
起こりえず、転倒などの簡単な事故で、性器や肛門だけに裂傷が起きることはほとんど
ない。思春期前の子どもでは、もし、そのような事故が起きた場合も性的虐待と考える
べきである。
(イ) その他の性器・肛門・大腿内側の外傷
内出血、熱傷(タバコが多い)などが見られることがある。本人や親の説明が妥当か
どうかの判断が必要である。
(ウ) 性器の感染症状及び掻痒感
思春期前では膣の自浄作用が少ないため、物理的刺激で一般細菌感染が起きやすい傾
向がある。虐待による刺激や虐待の結果としての自慰から症状が持続することがある。
また、微細な傷による掻痒感や、その感覚が性被害の再体験としてよみがえっている場
合もある。
(エ) 膀胱炎・尿道炎の症状
繰り返される性的虐待の結果、膀胱炎や尿道炎を繰り返すことがある。繰り返される
泌尿器感染症でも性的虐待を疑うことが必要である。
(オ) 性感染症の症状
HIV、梅毒、淋菌、クラミジア、ヘルペス、扁形コンジローマなどの性感染症は性交
によって生じるので、思春期前の性感染症では性的虐待と考えるべきである。
(カ) 妊娠
相手が不明な妊娠では性的虐待を疑う必要がある。親が付き添ってきて、子どもの言
動を監視しているようなときには特に注意が必要である。
(キ) その他の症状
性的虐待を受けた子どもは不定愁訴が多くなる傾向がある。下記に示すような行動な
どが存在したときには性的虐待も鑑別診断に入れる必要がある。
イ 行動上の問題及び精神的症状
(ア) 思春期前の自慰
幼児期に虐待以外で起きる自慰は、うつ伏せになって体を揺するとか、ソファーの角
などに性器を押し付けるなどがほとんどであるが、他人の手を自分の性器に持っていく、
17
きょうだいや人形にまたがって性器を押し付ける、自分の指を膣に入れるといった形の
自慰は性的虐待を強く疑わせる。
(イ) その他の性的言動
性的虐待を受けた子どもには、性化行動(年齢不相応な性的な言動や行動)が多く認
められる。年齢の比較的低い子どもが大人の服を脱がそうとしたり、他人の性器を触ろ
うとしたり、性に関する質問を多くするなどの性的言動の増加は強いサインである。年
齢の高い子どもでは性的逸脱が多くなるのでその場合も疑う必要がある。また、性的加
害につながることも注意点である。
(ウ) 転換症状・解離症状
手のまひや嚥下困難などの転換症状がマスターベーションの強要や口腔性交の結果
として出現することがある。意識消失や健忘などの解離症状でも性的虐待が原因である
ことを考慮する必要がある。
(エ) 不特定な症状
これまで自分がした悪いことを挙げて不安がる、自傷行為をする、ファンタジックな
話が急に多くなる、寝ることを不安がる、一人で寝たがらない、人との身体接触を不安
がる、トイレに行くことに不安になる、一度なくなっていた夜尿が出現する、などとい
った症状が出現したときには、性的虐待の可能性も考慮する必要がある。
(オ) 診察時の言動から疑われる時
a 衣服を脱ぐことへの抵抗:診察時に衣服を脱ぐことに異常な抵抗を示す思春期前の
子どもでは性的虐待を考える必要がある。
b 年齢不相応の性的ニュアンス(いわゆる「セクシーさ」)や言動:他者に近づくと
きに些細なしぐさなどに性的ニュアンスが伴いがちになる。
c 親子関係の不自然さ:診察時の親子関係から性的虐待が疑う場合もある。
② 性的虐待への診察の基本
医師の不適切な診察は、性的虐待児に大きな心理的負担を与える。子どもにとっても
性的虐待は非常に過酷な体験であり、事実を聞きとる側の言葉遣い、態度、話の運び方
等には相当の訓練が必要である。対応には司法面接的な技術が必要となる場合もあり、
十分な経験を積んだ児童精神科医や臨床心理士等の協力が必要である。
ア 身体的診察
全身の詳細な診察が必要である。他の虐待の合併も念頭に入れる。ただし、再トラウ
マになるのを避けるため、診察に関する説明をして納得してもらう、着脱時には不必要
な人がいない、ガウンやバスタオルを使うなどの配慮が必要となる。
イ 性器の診察
性器の診察はできるだけ同性の医師が行うことが望まれる。子どもの年齢に応じて理
解できるように診察手技を説明し、できるだけ短時間の観察に努める。親に抱いてもら
って、性器を観察することである程度の情報が得られる。疑問に思う所見があったとき
にはそれを記載し、
(女児の場合は)子どもの診察に手馴れている婦人科医にコンサルト
することが望ましい。所見は1~2週間で消失するので、出来るだけ早期に紹介する必
18
要がある。それが困難な時には、大きな異常がないか、性感染症がないかだけでも診察
して記載しておく必要がある。
③ 検査・治療・対応
ア 検査
性的虐待を疑った時は、妊娠の検査、性感染症の抗体検査、膣感染症では一般細菌の膣
拭い液の培養、泌尿器感染症では尿検査を行う。尿中から精子が発見され、性的虐待が
証明されたこともある。
イ 対応
(ア) 治療:身体医学的、精神医学的な症状への治療を行う。
(イ) 性被害の可能性の判断は以下を参考に行う。
a ほぼ確実:本人の開示、親の開示、性器に精液が存在
b 疑いが非常に強い:性器・肛門の裂傷や性感染症などの確実な医学的所見、低年齢で
の著明な性的行動化
c 疑いが強い:性器感染、可能性を示唆する複数の所見、高年齢での性的行動化
d 性的虐待の可能性を考慮に入れる:疑いを示唆する所見が1つあり、かつ不特定症状
を伴う
(ウ) 児童相談所への通告
a 必ず通告すべき場合:可能性の判断のaかbに該当し、現在も虐待が続いていると考え
られるときには、医療機関にいるうちに児童相談所に通告する。
b 状況によって通告すべき:可能性の判断でcからdに該当する場合は他の情報を得て
検討し、通告すべきかどうかを判断するか、虐待を多く扱っている医療機関に紹介す
る。
c 児童相談所に相談を求めるとき:以前に性的虐待があったが、現在は虐待者とは会わ
ない状態にあるときには、緊急に通告が必要とはならないが、子どもの精神的な問題
やその後の対応のため、児童相談所に相談することが必要である。
性犯罪被害者の診断検査料支給制度
この制度は、性犯罪被害者の負担を軽減しようとの考えに基づくもので、診断検査料の
一部を公費負担します。
・公費負担内容(請求書に記載された項目のみが対象)
① 基本検査(事件立証に必要な検査) ② 性感染症検査
③ 時間外加算
④ 緊急避妊
・対応窓口:各警察署の刑事課
・診断検査料支給制度の利用にあたっての注意点
被害者が、警察へ連絡し、警察官が付き添って受診する必要があります。
被害者が、病院を受診し、診察等が終わってから警察に連絡した場合は対象になりま
せん。
19
(4)心理的虐待
暴言や差別など心理的外傷を与える行為を言います。
・ことばによる脅かし・行き過ぎたしつけ
例えば「いうことを聞かないと、手・足を切って山に捨てる」「おまえなんか死んでしま
え」など。
・子どもを無視したり、否定的な態度を示す。
・子どものこころを傷つけるようなことを繰り返し言う。
例えば「おまえなんか産まなければよかった」
「おまえはいつも汚く、臭いやつだ」など。
・子どもの自尊心を傷つけるような言動。
例えば「お前は何をしてもだめだ」など。
・ほかのきょうだいと、著しく差別的な扱いをする。
・子どもに直接向けられた言動でなくても、子どもが見ているところで、父親が母親に暴力
を振るう行為も含まれます。
・心理的外傷により、子どもが不安・おびえ・うつ状態・凍りつくような無感動や無表情、
攻撃性(突然の乱暴)などの精神症状が現れます。
心理的虐待の発見には、虐待者の対人関係の不自然さ(裏表のある対応)や性格の分析が
重要になります。非行・不登校などから診断されることもあります。虐待者の行為と子ども
の心理的問題との因果関係の証明には、精神医学的な分析や法的手法が必要であり、一人の
医師のみでの対応は避ける必要があります。虐待者との対立関係に陥ると、援助関係が途絶
して、対応が困難になります。また、家庭内での DV の目撃が子どもに大きな心理的影響を
及ぼすことから、親の間での DV を警察などに相談した際に、警察から児童相談所に子ども
の心理的虐待として通告されることもあります。
虐待者の行為からみた心理的虐待の類型
Spurning
言葉や態度で馬鹿にする。子どもの涙や心遣いを嘲り笑う。みんなの前で恥をかかせる 。
2 Terrorizing
子どもを危険な場所や行ったこともない場所に置き去りにする。子ども自身や子どもの
1
大切な人、大好きなものに危害を加えると脅す。
3 Isolating
保護者の都合で表に出させないようにする。友達などの付き合いを止めさせる。
4 Exploiting /Corrupting
子どもを利用して金銭を稼ぐ、そそのかして悪いことをさせる(売春、性風俗産業や犯
罪に加担させる)、いつまでも親の意のままに行動させる、子どもの自立を阻む
5 Denying Emotional Responsiveness
子どもがかまってほしい時にも相手にしない。子どもへの愛情をうまく表現できない。
6 Mental Health, Medical and Educational Neglect
重大な心の病気、体の病気に対する治療や教育上の問題解決の必要性を無視する、邪魔
する、拒絶する。
20
2
病院内で児童虐待にかかわる職種とその役割
基本的には、病院に勤務するすべての職種が、その業務の中で果たすべき役割があり
ます。中でも医師、看護師他の医療スタッフ及び医療ソーシャルワーカーは重要な役割
を持ちます。
(1) 医師の役割
病院では、まず初めに医師が虐待をうけた子どもと接することも多く、受診する時
点で身体的虐待があれば、虐待の第一発見者となる確率は他職種より格段に高くなり
ます。
そのような観点から虐待を受けた可能性のある子どもの診療時における医師の役割
を列記します。
① まず虐待の可能性を評価する
虐待症例では、不自然なエピソードが多くみられます。例えば、不自然な外傷、不
自然な受診時間(受傷から受診までの乖離)、不自然な受傷理由、不自然な保護者の
態度…などです。不自然なエピソードがあった場合は鑑別診断として虐待によるもの
を考えます。
特に「C・H・I・L・D・A・B・U・S・E」の各項目は確認しておきましょ
う。
Care delay(受療行動の遅れ)
History(問診上の矛盾)
Injury of past(損傷の既往)
Lack of Nursing(ネグレクトによる事故・発育障害)
Development(発達段階との矛盾)
Attitude(家族等や子どもの態度)
Behavior(子どもの行動特性)
Unexplainable(けがの説明がない・できない)
Sibling(きょうだいが加害したとの訴え)
Environment(環境上のリスク)
② 詳細な記録をする
現病歴、身体所見などを詳細に記録します。その時点での家族等が申し出た受傷
機序(どのようにケガがおきたのか、なぜケガにいたったのか、周囲に誰がいたのか
など)なども記録します。これは後日、他の家族と口裏あわせをしてきたときに矛盾
点が明確になるからです。
また、体表に明らかにある外傷については、できる限り図表に記載するとともに写
真で残しておきます。(p.35 参照)
21
③ 他の医師や他職種と情報を共有する
虐待をうけた子どもは家族内に問題を抱えていることがほとんどであり、自己防衛
のため攻撃に転ずる保護者も少なからず存在します。医師一個人が診療しただけでは
客観性を欠くと言われかねず、大変責任が重くなります。多くの医療者が状況を確認
すると責任が分散するとともに、その医師が気づいたこと以外の問題点が表面化しま
す。他職種には別の理由を話すなど虐待の判断がより確かになることもあります。初
期診療の時点から他の医師や看護師などと現病歴や身体所見の不自然さを確認するこ
とが望ましいといえます。
④ 可能ならば入院させる
虐待が疑われる場合、その場で保護者などを追及してもよい結果が得られることは
ほとんどありません。まず、入院させ子どもの安全を確保します。入院後、虐待かど
うか鑑別し、虐待が否定されれば退院させればよいのです。
入院後は虐待対応窓口への連絡を行い、他科医師や医療ソーシャルワーカーなどと
情報交換を行います。
⑤ 診断し、診断書を作成する
医療的な診断は医師にしか行えない業務です。診断書を作成する場合には、診断と
その結果に至ったと思われる受傷機序と保護者の供述の矛盾点などを挙げ、虐待によ
る受傷の可能性が高い旨を記載します。
一般に診断所見に「虐待の疑いがある」とコメントすることは難しいものがありま
す。しかし、保護者からの問診ややり取りの中で、不自然や理屈にあわないと感じた
矛盾点を、医師の経験から記入してください。
また、そうした矛盾点の判断が判然としない場合は、医師といえども一人で抱える
のでなく、児童虐待防止医療ネットワークの中核的な病院などに紹介や相談してくだ
さい。
⑥ 院内ケース検討会への参加
児童虐待を受けた児童を発見したものは、速やかに児童相談所に通告する義務が
あることが法律に明記されています。通告の前にまず、院内でのケース検討会におい
て、医療機関としての対処を検討しますが、その際、診療に関わった医師が参加し状
況の説明、診断などを報告します。その後、院外の関係機関とのケース検討会議が開
かれますが、そこにも参加もしくは意見書や診断書を提出します。
22
診断書作成のポイント
医師はその責任感から診断書や意見書の内容について客観性を重視し、児童虐待への
記述についても傷病名の範囲内に留めようとする傾向がある。しかし、児童相談所への
通告や児童相談所からの依頼に対して診断所見を記述する際には、保護者の話した内容
と診察後感じた矛盾点などについても記述することができる。
診
【記入例】
患者氏名
住
所
傷 病 名
診断所見
断
書
○○ ○○
生年月日:○年○月○日生
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
多発骨折
○年○月○日から○か月間の入院治療を要する。
なお、上記の傷病名については、親が言うように児童が自ら転倒
しただけで、また、児童を抱いていて落としただけで発生するもの
である可能性は極めて低く、親など子どもの世話をしていた人物の
行為の結果と考えることが妥当である。
○年○月○日
○○病院
○○科
医師名
○○
○○
⑦ 親への告知
親に対して虐待の疑いがあると告げることについては、二通りの考え方があります。
第一の考え方は、医師は、医学的見地から子どもに起きた状況を虐待行為によると
診断することができるということです。親への説明は、医学的な診断に基づくため他
職種が代理することはできない業務です。医師が根拠を持ってしっかりと親に告げる
ことで、関係機関が筋の通った対応を行うことができます。ただ、通常行われている
説明と違って、そのタイミングや方法について必ず児童相談所など関係機関との入念
な検討が必要です。
第二は、親に虐待を告知するのは、児童相談所などの役割であるとの立場です。
ケース検討会で告知の必然性を検討した後、児童相談所職員の立ち会いのもと医師が
身体面、精神面での医学的な病状説明を行い、児童相談所職員が親に告知するスタイ
ルを取る場合もあります。一時保護を行う場合や親も含めた医学的治療につなげる必
要性のある場合などに行われています。
ちなみに児童相談所等に通告する際に、親に告知する必要はありません。通告は、
疑った段階での親の同意を必ずしも必要としない手続きです。
状況に応じて、できるかぎり事前に、誰が、どのように、いつ告知するのか決めて
23
おくことが望ましいといえます。ただ、例えば救急外来への受診で、次の外来受診が
不確かである場合などにおいては、救急外来で医師が親に告知したうえで、児童相談
所に通告する場合もあります。また、入院中に児童相談所と親が接触するようなケー
スでは、事前に親に対し、
「法律に基づいて連絡しなければならないので伝えました。」
児童相談所に連絡したことを伝え、児童相談所に協力することができます。
(2)看護師や医療スタッフの役割
最も子ども・家族等と直接関わる機会の多い看護師は、「子ども虐待の予防と早期発
見」及び「虐待をうけた子ども及びその家族への支援」を関連職種とチームを組んで、
協働して支援していきます。その際には、患者・家族との関係を築き、常に患者・家族
側の立場に立ってかかわります。
① 周産期からの子ども虐待の予防と早期発見
虐待ハイリスク因子は周産期から顕著化します。妊娠中の母親がきょうだいを連れ
て受診した時、また虐待を疑って子どもを入院させた時、周産期に収集した情報は重
要なアセスメント情報になります。したがって、周産期からの十分なリスクアセスメ
ントやハイリスク妊婦への介入により、虐待の予防と早期発見に大きな効果を発揮し
ます。
ア 妊娠分娩産褥・新生児・育児期を通じて、虐待ハイリスク因子の発見に努める。
イ 妊娠中の心理状態や出産後の親子の相互作用・両親の言動・気持ちを把握する。
ウ 観察と記録
・親子のかかわりの中での、
「何かがおかしい」という気づきをもつ。
・医療ネグレクトの早期発見通告を行う。
エ 親子関係の発達に向けての支援を行う。
・両親のペースにあわせた、早期接触・育児参加の奨励。
・出産体験や子どもに対する気持ちを表現できる場を作る。
・上記を把握した上で、両親の気持ちにあわせた対応をしていく。
・子どもに関する情報の提供と意思決定の支援。
・家庭保育への準備状態(心身面・環境面)の把握と育児に必要な知識・技術の教
育。
・必要な杜会資源の提供。
② 虐待をうけた子どもへの支援
子どもが入院中は、院内外における関連機関と連携をとり、日常生活の援助及び成
長発達にあわせた援助を行っていきます。
ア 子どもとの信頼関係を築き、子どもが、身体的にも情緒的にも安定して入院生活
を送れるように支援する・
24
イ 虐待による子どもの身体的・心理的反応や行動特牲を観察し、その子どもの特
性を理解する。
ウ 身体的な障害がある場合はそれに対するケアを行う。
エ 子どもの成長・発達段階に応じた目常生活の支援を行い、同時に杜会性を身につ
けられるよう支援していく。
オ 精神的な支援については、必要時心理の専門家のアドバイスを求め、それに則り
一貫した関わりをもつ。
・子どもの示す反応を、否定せずすべてを受けとめるように支持的に関わる。
・言葉かけは、ゆっくりやさしくする。
・できていることをほめる、感謝を伝えるなど、肯定的に反応を返す。
③ 親や家族への支援
ア 家庭やとりまく環境についての状況の確認。
イ 両親の言動の観察。
ウ 両親の訴えを受け止める。
エ 必要な情報はタイムリーに関連する職種へ報告・連絡・相談していく。
④ 他職種との連携
ア 虐待を疑う場合は速やかに、医師・看護師長へ報告をする。
イ 必要時、医師や医療ソーシャルワーカー等に直接報告、連絡、相談する。
ウ 関係者会議への積極的参加と情報の共有。
(3)医療ソーシャルワーカー等の役割
医療ソーシャルワーカー等は、医師や看護師など院内のスタッフや地域の関係機関
と連携・協働しながら、虐待をうけた子どもとその家族へ介入し、相談・支援を行い
ます。
① 院内の相談窓口
虐待を受けた子どもや虐待が疑われる子どもが受診、入院した際には、子どもやそ
の保護者などへの対応について相談、介入します。病状や今後の治療方針などと合わ
せて虐待をうけた子どもの安全を守るためには、どのようなサポート体制や社会資源
が必要となるかを医師や看護師等他職種と共に考え、検討します。院内児童虐待ネッ
トワーク委員会等を組織し、その事務局を明確にすることが大切です。事務局は、状
況に応じて、児童相談所への虐待の通告を含め、病院として処遇・対応を検討します。
② 親や家族等への支援
虐待の背景には、家庭環境、経済的な不安等多くの課題が絡んでいることがありま
す。虐待のケースを支援する際には、その背景と課題をつなげることが必要となりま
25
す。その上で、家族等の気持ちを受け止め、心理・社会的な支援を行います。また、
各々の課題を明らかにして、その課題に対する社会資源や地域の関係機関を紹介し、
つなげる役割を担います。病院での援助者との関係が地域の関係機関での援助者との
関係につながっていく意識をもち、地域での継続した関わりにつながるよう支援して
いきます。
③ 地域の関係機関と連携
虐待を受けた子どもや虐待が疑われる子どもの治療・精査のために受診につなげる、
受診継続中の子どもを地域でフォローしてもらえるよう相談を行うなど関係機関と
連携し、子どもや家族に必要なサポートを形成していきます。地域での生活状況を把
握し、今後の療養生活につなげていけるよう病院と児童相談所、市町村窓口、保健セ
ンターなど地域の関係機関の役割や専門性を認識した上で、ネットワークを構築し、
連携を図ります。
④ 地域や他機関への啓発活動
医療機関への受診や入院が虐待発見や気づきの契機となることがあります。繰り返
される受傷や重症化を防ぐ予防・再発の視点を持ち、その気づきや虐待をうけた子ど
もや家族等から出される SOS を見逃さないよう努め、地域の関係機関に連絡、介入
を依頼します。地域の関係機関やそのネットワークにおける子ども虐待への認識や理
解を深めていけるよう、研修会を企画・実施などの啓発活動をします。
3
地域の関係機関の役割と連携
ひとつ医療機関だけで問題を全て把握し、解決してゆくことは不可能です。複数の医
療機関を受診している場合もありますし、保育園や幼稚園、学校でも何かサインを感じ
ているかもしれません。
たいせつなのは地域の関係機関が共通した情報を持ち、子どもたちの安全を守ること
ができるような体制を作り上げていくことです。それぞれの機関が持つ役割を理解し、
適切な情報提供を行い、支援の輪を広げていきましょう。
また、関係機関の職員、特に児童相談所とは、研修会など様々な機会を利用して、ふ
だんから顔見知りになるなど、担当者間での関係を深めておくことが円滑な支援につな
がります。
(1)児童相談所(児童相談センター)
子ども虐待に関して中核的な役割を担っています。子ども虐待に関する相談、通告に
基づき調査を行い対応します。愛知県には、愛知県の児童相談所が10ヶ所、名古屋市
の児童相談所が2ヶ所あり、子どもの住所地によって管轄が決まっています。児童相談
所は調査の結果、必要があれば子どもの一時保護を行うことがあります。また、医療機
関に対してその一時保護の委託を行うことがあります。
26
【児童相談所と管轄区域(愛知県)】
(平成 25 年 4 月 1 日現在)
児童(・障害者)相談セ
住所
電話
FAX
ンター
愛知県中央児童・障 〒460-0001
害者相談センター
管轄区域
名古屋市中区三の丸 2-6-1
電話 052-961-7250
瀬戸市・尾張旭市・豊
FAX052-950-2355
明市・日進市・清須
(愛知県三の丸庁舎7階)
市・北名古屋市・長久
手市・東郷町・豊山町
愛知県一宮児童相
〒491-0917
電話 0586-45-1558
一宮市・犬山市・江南
談センター
一宮市昭和 1-11-11
FAX0586-45-1560
市・稲沢市・岩倉市・
丹羽郡
電話 0568-88-7501
愛知県春日井児童
〒480-0304
相談センター
春日井市神屋町 713 番地の 8 FAX0568-88-7502
電話 0567-25-8118
愛知県海部児童・障 〒496-8535
害者相談センター
津島市西柳原町 1-14(愛知県 FAX0567-24-2229
春日井市・小牧市
津島市・愛西市・弥富
市・あま市・海部郡
海部総合庁舎 3 階)
愛知県知多児童・障 〒475-0902
害者相談センター
半田市宮路町 1-1
電話 0569-22-3939
半田市・常滑市・東海
FAX0569-22-3949
市・大府市・知多市・
知多郡
愛知県西三河児童・
〒444-0860
電話 0564-27-2779
岡崎市・西尾市・額田
障害者相談センター
岡崎市明大寺本町 1-4
FAX0564-22-2902
郡
(愛知県西三河総合庁舎 9 階)
愛知県刈谷児童相談
〒448-0851
電話 0566-22-7111
碧南市・刈谷市・安城
センター
刈谷市神田町 1-3-4
FAX0566-22-7112
市・知立市・高浜市
愛知県豊田加茂児
〒471-0024
電話 0565-33-2211
豊田市・みよし市
童・障害者相談セン
豊田市元城町 3 丁目 17
FAX0565-33-2212
愛知県新城設楽児
〒441-1326
電話 0536-23-7366
童・障害者相談セン
新城市字中野 6-1
FAX0536-23-7367
愛知県東三河児童・
〒440-0806
電話 0532-54-6465
豊橋市・豊川市・
障害者相談センター
豊橋市八町通 5-4
FAX0532-54-6466
蒲郡市・田原市
ター
新城市・北設楽郡
ター
(愛知県東三河総合庁舎 1 階)
27
【児童相談所と管轄区域(名古屋市)】
(平成 25 年 4 月 1 日現在)
児童(・障害者)相談セ
住所
電話
管轄区域
FAX
ンター
名古屋市児童福祉
〒466-0858
電話 052-757-6111
千種区・東区・北区・中区・昭
センター
名古屋市昭和区折
FAX052-757-6115
和区・瑞穂区・守山区・緑区・
戸町 4-16
名東区・天白区
名古屋市西部児童
〒454-0875
電話 052-365-3231
西区・中村区・熱田区・中川区・
相談所
名古屋市中川区小
FAX052-365-3281
港区・南区
城町 1-1-20
http://www.pref.aichi.jp/owari-fukushi/jiso/annai/map/map_index_new.html
【一時保護委託とは】
児童相談所は子どもが虐待を受けていると考えられるときには、親権者(家族等)が同意
するときはもちろん、親権者(家族等)の同意が得られないときでも、原則 2 か月以内の期
間に一時的に子どもを保護する権限を持っています(児童福祉法 33 条)。子どもに医療行為
が必要な場合には医療機関に保護を委託することができます。
一時保護中は児童相談所と家族等が共同して子どもに対する親権を行使しますので、家族
等が勝手に子どもを退院させることはできません。また、手術などの侵襲度の高い治療を行
う場合は、一時保護中であっても家族等と児童相談所の双方に説明を行い、それぞれから同
意を得る必要があります。生命の危険が高いにもかかわらず、家族等から同意が得られない
場合は、児童相談所が家庭裁判所に対して親権停止の保全処分を申し立てることができま
す。決定された時点で、家族等からの同意を求める必要はなくなります。ただし、これらの
手続きを踏まなくても、医師が生命の危険が高く、救命の可能性があると判断した場合には、
家族等の同意がなくとも侵襲度の高い治療を実施することは法的に許容されます。
児童相談所は必要があれば家族等に対し、面会や通信の制限を行うなどの対応もできます。
(2)市町村
近隣住民や地域の関係機関からの虐待通告は、市町村の窓口にも行うことができます。
虐待を受けた児童などに対する市町村の体制強化を固めるため、市町村では関係機関
が連携を図り児童虐待等への対応を行う「要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地
域ネットワーク)」を設置しています。愛知県では、すべての市町村に設置されており、
市町村によって違いますが、児童課や福祉課、家庭児童相談室などがその窓口となって
います。
28
(3)保健機関(保健所・保健センター)
地域往民の健康の保持及び増進の為、地域保健の専門的拠点として訪問や相談業務を行
います。
愛知県内には、名古屋市(16 区それぞれに設置)と豊橋市、岡崎市、豊田市に保健所が
設置されています。また愛知県は12ヶ所の保健所を設置しており、それぞれ管内の市
町村の「保健センター」
(組織の名称は、市町村によって異なる)とともに保健活動を担
当しています。
保健機関には様々な機能がありますが、児童虐待に関しては、母子保健や地域保健、精
神保健を担当する部署がかかわりを持っています。
病院との連携として、次のような活動が行われています。
ア 特定妊婦や妊娠期からの要支援家庭へのかかわり
産科を有する病院では、妊娠届出書からかかわりが始まります。愛知県の市町村で
は、省令様式に、スクリーニング項目を追加した県内共通の妊娠届出書を利用し、特
定妊婦や妊娠期から支援が必要な家庭を把握するため、妊娠届出時(母子健康手帳交
付時)の相談の場面で活用しています。(参考資料:妊娠届出書(愛知県))
イ 周産期からの予防的な支援
保健機関では、NICU などを有する病院と連携したハイリスク児への支援について、
入院中からの保健師の訪問、親や家族への相談、家庭訪問、退院後に利用する施設の
調整などの支援が行われます。このシステムを利用して、特定妊婦や要支援家庭への
支援につなげることができます。
妊婦健診や分娩の入院中に、親や家庭等から子育てに関する相談を受ける場合、医
療機関だけで対応するよりも、保健機関の保健師等に相談をつなげることで、必要な
支援が届きます。その場合には、親や家族等に保健機関に伝えることの了解をとって
おくと、保健師等が電話連絡するのに役立ちます。診療情報提供書(参考資料)や連
絡票の活用が有効です。
【低出生体重児保健指導マニュアル】
~小さく生まれた赤ちゃんの地域支援~
平成 25 年度からの、低出生体重児の指導や養育医療が都道府県から市町村に委譲される
にあたって、市町村の保健師等が、低出生体重児への支援活動を実践するために編纂された
もの。要支援家庭への医療機関との連携についても、丁寧に記述されている。
平成 24 年度厚生労働科学研究補助金
分担研究
重症新生児のアウトカム改善に関する多施設共同研究
低出生体重児の訪問指導に関する研究(佐藤拓代)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/dl/
kenkou-0314c-01.pdf
29
【低出生体重児(未熟児)保健指導ガイドライン】
市町村への移譲に向けて作成したガイドライン。
産婦人科を持つ医療機関及び、保健機関等へ配布。
問い合わせ:児童家庭課 母子保健グループ
(電話)052-954-6283
ウ 乳児家庭全戸訪問事業(市町村事業)
乳児期早期からの状況把握として、乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事
業)が実施されています。さまざまな活動から把握され、支援の継続が必要と判断さ
れた家庭には、養育支援訪問事業で専門的な相談や家事支援が行われる場合もありま
す。
エ 乳幼児健診や家庭訪問、電話相談などの母子保健事業(市町村事業)
保健師などがこれらの事業を活用して、退院後の子どもの状況把握や親や家族等の
相談を継続することができます。
オ 長期療養児とその家族への支援(保健所事業)
小児慢性疾患を有する子どもなど長期の療養を必要とする子どもとその家族に対し
て、保健機関はさまざまな支援を実施しています。
愛知県内の保健所と保健センターの連絡先や妊娠中から乳児期の母子保健活動について
は、あいち小児保健医療総合センターのウェブに掲載されており、毎年度更新されています。
◆ 保健機関から医療機関への PR
http://www.achmc.pref.aichi.jp/Hoken/f_jisseki.html
30
Ⅲ 院内組織の構築と活動
1
院内組織を構築する意義
標準・救急・周産期・産科・精神科
虐待の発見や地域関係機関との連携、さらに通告後の対応を継続的に実施するために
は、院内で組織的に対応するための組織が有効です。院内ネットワークは複数診療科の
ある病院では、院内虐待対応委員会など病院の委員会組織のひとつとして位置づけ、シ
ステム化すると継続的な運営に役立ちます。
また、総合病院においては児童虐待だけでなく、老人虐待への対応に関する組織や脳
死下臓器提供に関する規定なども求められており、権利擁護委員会などの名称で組織さ
れる場合もあります。
2
組織づくり
(1)複数診療科がある病院の場合
救急・周産期
職員の勤務移動があっても継続的に活動を続けるため病院の委員会組織とするこ
とが有効です。
病院全体として取り組むために委員長は、副院長や救命救急センター長など病院幹
部の関与が望ましいでしょう。委員には、小児科、産婦人科、精神科、脳神経外科な
どをはじめとした診療科の代表、外来や病棟の看護部門の代表、事務部門の代表など
の他、臨床心理士や理学療法士、作業療法士などコメディカル部門が独立している場
合には、その代表などが選任されます。
事務局は、医療ソーシャルワーカーが担うのが望ましいですが、配置されていない
場合には、児童相談所など関係機関との連絡窓口となり得る職種を充てることが必要
です。実際には、小児科医、小児科・NICU や産婦人科の外来や病棟の看護師長、保
健師などが担っています。
また、救急部門などからの休日・夜間の連絡や、事務局としての迅速な意思決定の
ために、事務局メンバーとして小児科医等の医師が関与することも有効です。
(2)単科の病院などの場合
標準・産科・精神科
組織づくりには医師(院長など)が中心となって進めますが、外来の看護師長など
責任あるスタッフが中心的な役割を持つことで、外部との連絡や院内のスタッフから
の情報伝達が円滑になります。
児童虐待に対応する手順を定め(
「院内マニュアル」の作成)、どの部署(職員)が
対応窓口となるのか決めておきます。
31
3
会議の開催とその機能
救急・周産期
(1)ケース検討会議
① 緊急のケース検討会議
院内から情報が寄せられた時には、主治医や担当看護師、事務局メンバーなど直接に
関係する少人数のケース検討会議を開きます。この時点では、虐待行為が起こっている
のか、事故やその他の原因があるのかに固執せず、子どもの安全確保を最優先におき、
特に夜間や休日の場合は、次の平日時間内まで入院で経過を見ることが基本です。
② ケース検討会議
その後、上記のメンバーに加えて、関係する診療科の医師や看護師なども加えたケ
ース検討会議を開催します。事務局は、市町村の保健所・保健センターや要保護児童
地域対策協議会、児童相談所など関係機関に連絡し、地域関係機関が把握している情
報を極力収集します。会議では、家族背景についての情報共有や、誰が(どの部署が)
いつ何をするのか、どこに連絡すべきか(保健所・保健センターか、市町村窓口か、
児童相談所か)、退院をいつにすべきかなどにについて検討します。
③ 地域の関係者を交えたケース検討会議
すでに地域で要保護児童や児童虐待としてケース管理されている場合などには、ケ
ース検討会議に外部の関係者の参加を求めることもケース管理には有効です。
また、児童相談所等の依頼を受けて、地域関係機関間での事例検討会議を病院で実
施することで、より多くの院内スタッフが出席し、情報共有や意見交換、役割表明が
可能となりなります。
④ 定例の委員会の開催とケース進行管理
月に1度など定期開催する委員会では、その時点で誰がかかわっているのか、どこ
につないだなどの進行管理を行います。委員会の記録は、必ず病院の幹部会等に報告
して理解を得ることも重要です。この委員会の開催は、要保護児童地域対策協議会の
実務者会議に相当します。
また、委員交代なども起きる年度の節目では、年度ごとのケースの転機を集計し委
員会で検討します。対応の振り返りや改善点を見出すことができます。この会議は、
要保護児童地域対策協議会の代表者会議に相当します。
32
4
地域関係機関につなぐ役割
救急・周産期・産科
病院での児童虐待の早期発見と対応は、救急外来等など診療中や入院中の発見後の
対応と周産期からの予防的な対応(p.47 参照)がありますが、いずれの場合も委員会
などの院内ネットワークの事務局が関係機関との連絡調整にあたります(図)。病院内
ではケースに関わる職種や部署も多く、転科や転棟、入退院などケースの直接の担当
部署は日を追って変わっていきます。関係機関から見ると、連絡窓口が複数混在する
ことはケースの進行管理上好ましくありません。
関係機関への連絡は、法に基づいた通告をはじめ、関係機関との情報共有、ケース
検討会議などの調整、医療的ケアを必要とするケースの一時保護時の連絡調整、同意
に基づいたケース連絡など多岐にわたっています。
この意味でも医療ソーシャルワーカー等の事務局が窓口となることが有用です。
さらに、小児救急医療において地域の中核的役割を担っている病院では、院内組織
が整うことで、周囲の病院や診療所から救急患者として紹介されてくる児童虐待ケー
スへの対応が可能となります。
33
5
その他の役割
標準・救急・周産期・産科・精神科
(1)職員教育や啓発
小児医療を専門とする職員にとっても、児童虐待への対応はまだあまりなじみの深
い分野でない場合もあります。法律や福祉制度も比較的頻繁に改定され、国からの通
知等も数多く発出されます。また最近では、妊娠期からの未然の対応に注目が集まっ
ており、産婦人科や精神科の関与が求められるようになりました。
病院従事者への教育や啓発には、院内組織を中心とした職員研修が必要です。
(2)トラブルクレーム対応
それぞれの医療機関のクレーム・苦情担当窓口と相談して対応することが必要とな
ります。場合によっては、児童相談所や関係機関にも対応してもらうことも必要にな
ります。特定の個人がクレームの対象とならないような配慮が必要です。
(3)警察対応
関係機関から警察に通報があった場合などには、警察職員が事情聴取のため院内で
の家族への面会や、医療スタッフへの聞き取り調査を求められることがあります。職
務権限で行われるこうした面談は、医療機関の常識である同意に基づいた面談とは違
い、主治医などにいきなり直接に電話連絡が入るなど、対応に苦慮することも起こり
ます。
連絡窓口は事務局が担当し、院内調整の後に、面談や面会の場所と時間を伝えるな
どの組織的な対処法をあらかじめ決めておくことが必要です。
(4)報道関係者対応
現在、死亡事例の検証は国や自治体によって客観的な根拠等に基づいて実施されて
おり、個々の機関や個人の責任がメディアから問われることは少なくなりましたが、
まだ児童虐待の社会認識が十分でなかった頃には、医師などの個人に対して、直接報
道関係者からの連絡が入ることもありました。
要請があった場合には可能な範囲で協力することが望ましいといえますが、医療事
故などへの対応と同様に、報道関係者への対応は、院内組織の代表者を中心に、病院
幹部などとよく協議し、けっして個人が矢面に立たない手順を決めておくことが必要
です。
(5)職員相互のセルフケア
児童虐待への対応では、介入の効果はすぐには現れず、多くの場合家族等から直接
感謝されることもありません。関係職員が心理的にバーンアウトする場合もあります。
組織的に対応し、職員が相互に支えあえるよう心がけます。
34
Ⅳ
児童虐待の発見 標準・救急・周産期・産科・精神科
1
どのような時に疑うか
基本的には、前章で記述したすべての虐待の状況が疑われる場合に、まず虐待がない
かと考えることが必要です
子どもと親の様子や言動、さらには外傷の受傷機転、受診のタイミングなどに、不自
然さが認められる場合は、まずその説明を求めましょう。その説明がさらに不自然な場
合にはすべて虐待行為が背景にないか疑う必要があります。
2
診察・検査
虐待を疑ったうえで診察や検査では次の点に注意します。
(1) 身長、体重の確認
発育曲線の作成
(2) 体表の傷(有無及び新旧混在)
写真撮影:傷の大きさがわかるように定規や比較できるものを写す。
(3) 今回の外傷が受傷理由と一致しているか、今回の受傷理由と一致しない症状はない
か。
(4) 保護者の様子
発症から受診までの所要時間は想定範囲内か、子どもや病状に対する関心の有無、
医療者に対する反応はどうか。
(5) 子どもの様子
低身長・やせが無いか、精神や運動発達の遅れが無いか、子どもの養育者に対する
態度に違和感はないか。
(6) 尿検査
(7) 血液検査
貧血の有無、内臓障害、薬物血中濃度など。
(8) 全身骨X線撮影
親の主訴に基づいての検査では、過去の骨折などの見落としにつながるため実施し
ます。
(9) 頭部CT
(10) 腹部エコー
必要に応じて、腹部胸部CT、眼科(眼底出血)、耳鼻科(鼓膜損傷)の受診。
来院時心肺停止例に対しては、児童虐待を見逃さない視点からも、可能な限り剖検を勧め
ます。警察の依頼等で、死亡後に全身 CT 検査を実施する場合もあります。
異状があると判断した場合には、医師法に従うことが必要です。
・第二十一条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたと
きは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
35
3
重症度の把握
虐待が疑われるケースの重症度を把握するために、利用できるチェックリストを次に
例示します。
子どもの状況の評価
4
3
2
□致死的な外傷 □多数の皮下出 □不潔
の存在
□内臓損傷
□数多くの身体
的外傷の跡
□性器肛門及び
その周辺の外
現症
傷
血
□栄養不良
1
□発育不全
□低身長
□指や紐の跡と □幼児
思われる挫傷
□説明にあわな
い不審な火
傷・外傷
□乳児
□長管骨の新旧
の骨折
□硬膜下出血
□頭蓋骨骨折
□眼球損傷
□網膜出血
□多発性の火傷
□頻回の家出
□知的障害
□徘徊
□ハンディキャ □虚言
□凝視(凍りつ
問題行動
いた眼差し)
その他
□著しいおびえ
ップ
□失禁、遺糞
□盗癖
□病弱
□操作的
□不器用
□子どもらしさ
の欠如
□無気力
□べたべたする
□過食
□養育者が一定 □継子
生育歴
せず
□未熟児
□連れ子
□幼児期の家庭
の混乱
36
家族をめぐる状況の評価
4
3
□介入に対し、 □両親ともに
脅す、すごむ
拒否
2
1
□一方の親が
□意欲に欠ける
強く拒否
□急に予定変更
□次回の約束が □面接の約束を
家族が育児の
出来ない
相談に拒否的
□ひと事のよう
□会うのをいつ
も嫌がる
家族が援助を
守らない
□聞き出さない □泣くか黙るか
限り自分から
で話が進まな
言わない
い
□悩む様子がみ □反論ばかりで
望んでいるか
られない
話し合いが困
難
□言うことが支 □反社会的傾向
離滅裂
□統合失調症が
疑われる
□アルコールの
乱用
家族の病理性
往
□両親のいずれ
□暴力容認する
家庭の雰囲気
かに養育能力
□薬物の乱用
□他のきょうだ □対人関係が極
いに虐待の既
□虚言が多い
度に不安定
□かんしゃくを
抑えられない
の低下(精神
障害など)
□容易に被害
的、猜疑的に
なる
□自殺の既往
□ボーっとして
何もわからな
い
□両親いずれか
に虐待の既往
□多額の借金
経済状態
□サラ金
□親がギャンブ
ル好き
□失業状態
□再婚離婚を繰 □絶え間ない
両親の関係
り返す
□DV
喧嘩
□若年結婚
37
□貧困家庭
□多人数きょう
だい
□浮気、不倫が
あった
□片親のみ
家族を支える基盤の評価
4
3
2
□密室状態
キーパー
ソン
□頻回の転居
地域との
1
□父母の両親や □親戚は近くに
□周囲との交流
きょうだいが
いるが友人が
まったくなし
近くにいない
ない
□駆け落ち
□家出
□喧嘩状態の隣 □大都会
人の存在
□大集合住宅
□多問題地域
関わり
出典:改訂 子ども虐待 その発見と初期対応
監修:東京大学医学部小児科学教室教授 柳沢正義
著者:杉山登志郎 他
企画・編集:(財)母子衛生研究会
発行:母子保健事業団
上記判断基準
4:緊急介入の絶対的対応
3:緊急介入が必要となる可能性が高い
2:他の要素との複合がある場合は緊急介入を要する場合がある
1:問題自体のみでは緊急度は高くないが、他の要素との複合により
危険因子となる
38
4
疑い・発見時の対応方法
手順
【院内の連絡体制の例示】
虐待の疑い・発見
(診察医、当直医)
時
間
外
時
間
内
緊急ではない
緊急
緊急
緊急ではない
小児科医、当直小児科医へ連絡
院内虐待対応委員会
窓口へ連絡
院内虐待対応委員長
へ連絡
翌平日に
虐待対応委員会窓口
へ連絡
院内虐待対応委員会
開催・処遇方針決定
院内虐待対応委員会
開催・処遇方針決定
児童相談所通告、関係機関連絡
虐待が疑われる外傷がある場合は警察署
へ連絡
・虐待が疑われ、病院で対処できない場合は、病院を管轄
する警察署へ通報します。
・緊急性がある場合は、110番通報してください。
39
児童相談所への通告の方法(例)
児童相談所への通告は、基本的に子どもの居住地を管轄する児童相談所に行います。
「○○病院児童虐待対策委員会です。児童虐待の防止等に関する法律 第 6 条に基づき通
告します。」など前置きして、通告するとよいでしょう。同条文には「3 刑法(明治四
十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一
項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。」とも明記さ
れています。
通告の内容としては、子どもの氏名、性別、生年月日、親の名前などの基本情報ととも
に、現在の病状、なぜ虐待を疑ったのかに関する状況などを報告します。
通告後の確認や連絡を相互に行うためにも、病院の連絡窓口や担当者名をしっかり告げ
てください。また、児童相談所の誰に、いつ伝えたかなどを記録します。
病院で通告用のフォーマットを作成することは、伝達の漏れや、誤伝達を防ぐためには
有効です。(参考資料:医療機関から児童相談所への通告フォーマット例)
5 入院での対応
(1) 帰宅させられない状況
次のような場合には、保護者に対して入院を強く勧めます。
① 入院治療を必要とする外傷、熱傷、及び重篤な身体的所見
② 治療を要する複数以上の外傷、熱傷の存在
③ 輸液等が必要な脱水、栄養障害の存在
④ 性的虐待
⑤ 保育所、幼稚園、学校等を連続5日以上欠席している場合
⑥ 保護者が『殺してしまいそう』と述べる
(2) 一次保護入院の判断基準
下記のような場合には、児童相談所とも相談のうえ一時保護での入院を検討します。
① 生命の危険性が高い
・現時点で重症な外傷がある(硬膜下血腫、脳挫傷、腹部外傷)
・著しい痩せ、るいそうの存在
・乳児の場合
・過去に原因不明の突然死した同胞が存在する場合
② 長期に反復して虐待を受けていた可能性が高い場合
・新旧の外傷や骨折の跡
・子どもの著しい怯え
・暴力的な家族
③ 家族の育児能力の著しい欠陥
40
・それを補う手段がない
・母親の統合失調症などの重度の精神障害の存在
④ すべての性的虐待
6 診察録(カルテ)・記録について
診察録(カルテ)や記録は虐待を疑った時の証拠としてとても重要となります。
(1) 診療録(カルテ)記載のポイント
① 問診の記載のポイント
・誰が話したかを明確にし、話した言葉をそのまま記載する。
・保護者の説明内容と実際の傷が一致しない場合や、説明内容がコロコロと変わる場合
も、保護者の言葉をそのまま記載する。
② 身体所見の記載のポイント
・外傷や熱傷は、部位・大きさ・形・色・数などを詳しく記載する。可能な限り、定規
など大きさの基準となるものと一緒に写真を撮影しておく。ただし、児童虐待を疑う
場合、保護者の前で写真撮影を行わない。
・現在、治療を必要とするものだけでなく、治癒過程にあるものも記載する。
③ そのほかのポイント
・症状の出現または受傷後、来院までに時間がかかっている場合は来院までの状況(何
をしていたかなど)も記載する。
・病院へ来院した家族は誰かをすべて記載する。
・違和感を覚えたことや気になる行動(携帯や時間ばかり気にしていた、入院を強く拒否
し続けたなど)があった場合も、そのまま記載する。
脳死下臓器提供に関する規定
平成22年7月17日に施行された改正臓器移植法では18歳未満の臓器提供者は
虐待が行われた疑いがある児童が死亡した場合には臓器の摘出は行わないという指針
が示されています。
41
Ⅴ
通告後の医療機関の役割
通告後は、児童相談所などの行政機関が法律に基づいた行政権限の下で、さまざまな
処遇を行います。通告で病院の役割が終了するわけではありません。通告後の処遇の中に
病院の果たすべき責務や対応可能な役割があります。
1
医療ケアの提供
標準・救急・周産期・産科・精神科
医療機関で発見されるケースは、身体面でのケアの継続が必要な場合が少なくありま
せん。また、虐待行為の結果として、後遺症や合併症を残したケースは、その後の継続
的な医療ケアが必要です。行政機関の処遇が、施設入所となる場合には、その施設のあ
る地域の医療機関に対して、十分に情報提供する必要があります。診療情報提供書を提
供するだけでなく、児童相談所が開催するケース検討会議等の場を利用して、医療機関
職員が直接に情報を伝えることが望ましいといえます。
さらにまた虐待行為が被虐待児の大きな心理的トラウマとなって、愛着の障害、社会
性や対人関係、行動の発達への影響を生み、介入後のケアが不十分であったり、子ども
にリジリエンシーが発揮されなかったりする場合には、解離性障害や極度のストレスに
よる特定不能の障害を含めた精神疾患の発症につながります。子どものこころに対する
医療的ケアは有効な手段であることを知っておく必要があります。
医療的ケアを続ける中で、さまざまな理由や家族等の都合で、離婚や再婚など家族形
態が変わったり、転居して住居地が変わったりすることも、比較的よく起こります。転
居により担当機関が変わりますので、転居(転院)などの情報が入ったら、児童相談所
へきちんと連絡することもたいせつです。
2
病院での一時保護(親子分離) 救急・周産期
病院とくに入院診療中に介入が始まるケースは、行政的な処遇の上でも高いリスクを
持つと判定されることが多く、入院中に親子分離としての一時保護が行われることがあ
ります。
(1)児童相談所長の職権による病院での一時保護
虐待の程度が生命の危険に直結するような病状があり、家族等が虐待行為を否認す
るなど児童相談所の指導に従わない場合などに行われます。
① 一時保護までの流れ
・一時保護の決定と必要性の共有
一時保護は児童相談所長の権限で行う行政措置です。院内のケース検討会議などを
通して、病院スタッフも病院での一時保護の必要性について、あらかじめよく情報共
42
有しておくことが必要です。
・手順の調整
院内で一時保護を行う場合には、子どもを児童相談所職員に渡す役割は病院スタッ
フが担うことになります。
面談室などを利用した家族に対する主治医等からの病状説明、児童相談所職員から
の虐待告知などの時間を利用して、院内から一時保護所等への搬送用に待機した児童
相談所職員に子どもの身柄を預けます。状況によってその手順はさまざまですので、
あらかじめ児童相談所と病院間でよく検討しておくことが必要です。その際には、面
談の担当者と場所、いつ児童相談所職員の面談に切り替えるか、子どもを引き渡す担
当者と場所、どのように車まで移動するかなども細かく決めておきます。
家族の状況によって、病院スタッフなどに身体的な危険が予測される場合には、警
察官の待機を求めることが望ましいといえます。
(2)退院について
一時保護ではありますが病院からは退院するわけですので、その手続きを家族に求
めます。会計清算が必要な場合には、あらかじめ一時保護の日を退院日としておき、
家族が退院手続きをした後に、一時保護の手順をすすめることも検討します。
3
一時保護による入院治療
救急・周産期・精神科
病院での一時保護時点で、一時保護所や乳児院、児童養護施設では子どもの医療的
ケアが担いきれないと判断された場合であって、親権者(家族)が不同意で保護する
場合に、保護した病院とは別の病院が一時保護を受託して治療を続けることになり、
親子分離が行われた病院からの転院となります。
(1)児童相談所長の職権での一時保護による入院治療
① 入院までの流れ
・児童相談所からの一時保護委託の照会
院内ネットワーク事務局が中心となり、まず事実の確認や情報収集を行います。
この場合、児童相談所は行政機関ですので、転院前の病状や治療などの医療的な内
容については正確には把握していません。このため、児童相談所を経由してやりとり
が行われる場合、診療情報提供書には、病状だけでなく今までの保護者とのやりとり
などの経過も含めて詳しく記載します。また、ケースワーカーが事前に面談をしてい
るのであれば、ケースワーカーの記録のまとめなども有効です。
児童相談所を介して、ある程度、情報のやりとりができた後で、児童虐待防止医療
ネットワークの連絡網などを活用して、直接に把握することも必要でしょう。
・入院の可否の判断
入院は主治医となる診療科の医師や看護部等が決定する事項です。対象となる子ど
43
もの病状に応じて、主科となる診療科の医師や看護部などと相談し入院が可能かどう
か確認します。
・ケース検討会議の開催
担当科の医師・受け入れ病棟師長・事務局・その他必要と思われるスタッフ間で実
施し、体制を整えます。
・院内関係部署へ連絡
・入院に向けての院内調整
職権による入院の場合は、通常の入院と違い院内スタッフの緊張感も高まります。
特に情報秘匿については、院内のすべての部署がしっかりと認識をする必要がありま
す。
職権による一時保護を受け入れるための院内調整(例)
〈事務局の役割〉
・病院長・事務長への報告
・カルテ ID の取得
・各部署に情報秘匿依頼の連絡→文書にて(終了も文書で連絡)
連絡先:看護部(看護部長・当直師長・各病棟)・時間外(守衛)・医事・検査・放射線・
薬剤・給食
・給食へ仮名での食事ラベル作成の依頼
・入院生活上に必要な用品の準備*
・院外機関(児童相談所・警察・他医療機関・役所等)との連絡調整*
・その他の事務手続きに関わること *
〈主治医の役割〉
・通常の医療行為を行う*
〈看護部の役割〉
・個室の準備(児童精神科病棟は除く)
・仮名の決定→ネームプレート、カルテ等の作成
・スタッフへの伝達、各病棟への伝達、各部門への伝達―個人情報の保守
・リネン類への対応、生活上に必要な用品の準備*
〈その他の各部門の役割〉
・連絡事項についてはスタッフ間で確実に伝達・共有する
*を付した項目は、同意の場合の一時保護入院でも同様に実施する。
44
(2)親権者の同意に基づく入院や他院からの転院(一時保護)
虐待によって生じたトラウマに対するこころのケアのための入院においては、児童相
談所の処遇として家族等が同意して一時保護入院を行う場合があります。
また親権者等が同意で転院する場合は、医療スタッフと親権者(家族)との関係は、
通常の入院とさほど違いはありません。入院中の子どもの生活費を児童相談所が賄う点
で家族等にとってメリットなる面もあります。
なお、一時保護の委託や解除は児童相談所の権限で決定されますので、入退院にあた
っては、児童相談所の担当者や地域の関係機関とケース検討会議でよく協議して決定す
ることが必要です。
一時保護委託を受けた病院の入院費等の扱い
児童福祉法により、医療費(保険分)と食事に関する費用が公費で負担されます。
具体的には、児童相談所が交付する「受診券」の提示により、公費番号で医療費(保険分)
と食事一部負担の両方をレセプト請求できます。
国民健康保険や社会保険加入者は、併用請求になりますし、保護者に居場所を知られたく
ない場合や健康保険を有していない場合には、全額を公費で請求できます。
愛知県の場合は、一時保護委託料の一般生活費として以下の額が病院に支払われます。
・1 歳未満の乳児 1,800 円(入院 1 日当たり)
・1 歳以上
1,560 円(入院 1 日当たり)
おむつ代や自費検査などへの補てんがないので、この費用で賄ってくださいと指導をうけ
ます。
名古屋市の場合は、上記のような日額支払いがない代わりに、現物支給もしくは実費費用
が後から支払われます。
(3)一時保護入院した子どもの退院
職権による一時保護で入院した場合には、病院で急性期の治療が終わるまでの短期間
に、親や家族の状況が改善されることは少ないといえます。多くの場合は、児童養護施
設等に一時保護が引き継がれます。ただ、子どもの病状によって医療的なケアが残る場
合などは、適当な施設が見つからずに苦慮することもあります。
退院後に家族が育児をすることが困難と訴える場合などでは、家族の同意に基づいて
一時保護や施設入所などにつながることもあります。病院としては通常診療通りに退院
手続きを行いますが、退院後の医療ケアの内容、場合によっては施設職員へのケアの伝
達、退院の時期など関係機関とのケース検討会議等で綿密に打ち合わせておきます。
45
(4)重度障害を残したケースへの退院後の入所先の確保
救急・周産期
急性期・亜急性期の医療機関において、初期診療及び集中治療・専門治療が行われた
にもかかわらず障害を残してしまう場合には、その程度に応じた退院援助が必要となり
ます。原則としては自宅退院(在宅療養)を目指しますが、場合によっては自宅外退院
を選択することになります。
① 在宅療養を選択するための条件
・一時保護を継続する必要性がないこと。
・家庭(世帯)内に、技術・時間・質ともに十分な養育・介護ができる人が存在するこ
と。
・駆けつけられる範囲内に上記介護者を支援できる人が存在すること。
これらの養育者・介護者を支援する障害福祉サービス・保健サービスの導入が図れる
ことなどがあげられます。
② 退院の調整
一時保護による入院の場合は、職権による場合だけでなく、同意による場合でも、
一時保護の解除は児童相談所の権限です。児童相談所を中心としたケース検討会議に
参加し、決定された方針に沿って行動します。
このとき、病院側の意見も参考にされるので、現在診療にあたっているチームはも
ちろん、院内対応窓口及び対応組織等においても十分に議論し、病院側の意見をまと
めておくことも必要でしょう。
③ 条件は整わないが、一時保護は解除できる場合について
一時保護(委託)が解除できる場合は、児童相談所が、退院先・療養先を決定しま
すが、同意による一時保護では家族等(親権者)の意向も十分に反映させる必要があ
るでしょう。
具体的な行先としては、引き続き専門的な医師の管理の下での生活が望ましい場合
は、病院への転院が検討されます。しかし愛知県内には、高齢者のような「介護療養
型病院」は存在しません。
厳重な医学管理は必要ないものの、ある程度の医学管理が必要で、身体障害と発達
障害や知的障害などが重複して残存している場合は、重度心身障害児施設が検討され
ます。愛知県内には4か所(平成 25 年 4 月 1 日現在)ありますが、それぞれに受け入
れ基準が異なっています。
46
Ⅵ
周産期の子育て支援的対応 周産期・産科
1
特定妊婦とは
児童虐待を予防するためには、妊娠期から、出産後の養育支援が必要な妊婦(特定妊
婦)を把握し、出産後の支援の体制を整えておく必要があります。
特定妊婦とは、出産後の養育について出産前から継続して支援を行うことが特に必要
と認められる妊婦のことをいいます。
具体的には、次のような要因を抱えていることがハイリスクな状態といえます。
(1)心身の健康問題等
精神疾患、パーソナリティ障害、アルコール依存・薬物依存、身体障害、知的障害、
その他治療を要する疾患がある。
(2)社会・経済的問題
若年妊娠(過去の若年妊娠を含む)、失業・無職・アルバイトなど経済的不安がある、
パートナーが頻繁に変わる。
(3)妊娠・出産時の問題
多産、中絶を繰り返している、望まない妊娠、妊婦健診の未受診や中断、初回妊婦
健診の時期が遅い、母子手帳未交付、飛び込み分娩、墜落産や医療者の立ち会いのな
い自宅分娩。
(4)養育の問題
・生育歴
保護者自身に被虐待歴・DV 歴がある、上の子ども・同居の子どもへの虐待歴があ
る(乳幼児健診未受診、予防接種未接種を含む)、子どものきょうだいに疾患・障害・
不審死がある。学歴(高校を卒業しているかどうか)
・子どもとの長期分離
産後間もない長期入院による母子分離(NICU への入院、母の治療入院)、子どもの
施設入所等。
・保護者の責任
出生届を出さない、保険証を作らない、乳幼児健診未受診、予防接種未接種、衣服
が不衛生、栄養の偏り、体重増加不良(体重過多)、多数の齲蝕の放置、安全配慮を
行わなかった末の事故(打撲・火傷等)。
・養育態度
子どもに対して無関心・拒否的な態度・消極的な世話、入院・入所中の面会が少な
い、育児知識・育児態度に問題がある、医療を必要とする状況ではないが子どもを
頻繁に受診させる。
(5)環境の問題
未婚、ひとり親家庭、ステップアップファミリー(連れ子のある再婚)、育児支援者
がいない、友人がいない、転居を繰り返す。
47
2
妊娠期の対応
医療機関は、地域の支援機関の中では初めて特定妊婦・ハイリスク家庭を発見し、情
報を得やすい機関になります。そのため、妊娠中から地域で利用できる妊娠・出産・育
児に関するサービスの情報を特定妊婦に伝えたり、地域の支援機関につなげたりするこ
とにより出産後の虐待予防につながっていきます。
一般的にハイリスクな状態にある特定妊婦は妊婦健診を一度受診したといっても、そ
れ以降の定期的な受診をすることは少ないと思われます。そのため、初回受診時の問診
で最低限ハイリスクな要因を抱えているかどうかを確認すること、またその要因がある
と思われる場合には個別に時間を取り、さらに相談にのれる体制づくりが必要になりま
す。
初回の健診時に妊婦健診の継続の必要性と健診費用の補助制度を説明できるように
準備をしておくことも必要です。ただ、ハイリスクな状態にある特定妊婦ほど自分の状
況を説明したがらなかったり、説明することが苦手だったり、こちらの説明が理解でき
なくても聞き直すこともできないことがあります。
そのため、パートナーや付き添いの人とは別室で説明をしながら、参考資料にある問
診票の内容をさらに確認をし、妊婦自身が被虐待歴や被DV歴があるのかなども聞けそ
うであれば確認をしておいたほうがいいでしょう。(参考資料)
また、ハイリスクな状態にある特定妊婦は自分を否定されることや指導されることを
常に警戒し、避けようとする傾向が強いことが多いです。そのため、
「~してはいけない」
や「~してはダメ」といった説明方法を使うと心を閉ざしてしまうことが多いので、
「~
したほうがいい」など肯定的な説明方法を使ったほうがよいでしょう。
その際に、地域の支援機関(保健センター、保健所等)の紹介も行うことも一つです。地
域の支援機関がどんな機関か、またどんな援助をしてくれるのかの理解がないまま紹介
してもいいか確認されても、YESと答える人は少ないと思います。妊娠に対して、育
児に対して不安があるのであれば、それぞれの機能を説明の上、妊娠期間中より相談に
乗ってもらえることを伝えてください。
本人・パートナーの承諾が得られればもちろんですが、承諾が得られない場合でも、
現状のままであれば、母体の健康や産後の育児に支障があると考えられる場合は「個人
情報保護法第 23 条第 1 項第 3 号」や「児童福祉法第 25 条の 2 及び 5」に基づき、保健
機関への情報提供を行います。その際には様式 12 の 2 や様式 12 の 3 を参考にしてくだ
さい(参考資料)
。
保健機関の役割は p.29 を参照してください。
48
医療機関における保健機関との育児支援に関する診療情報提供の運用方法
周産期の疾病、傷病を始め、継続的な医療、療育、看護指導や地域からの支援を必要とす
る患者とその家族が、地域で安心かつ健康的な生活を営むために、その子育てを支援する立
場から、医療機関と保健機関が連携を密にして、一貫した保健医療の推進を図ります。
≪対象≫
(1) 疾病、傷病等により継続的に医療、療育及び看護指導を必要とする乳幼児及び妊産婦(出
生時低出生体重児であったものなど)
(2) 子供には疾病等の問題はないものの子育てに様々な困難を有する家族
(3) 家族から連絡の希望があったもの
≪診療情報提供書の運用方法≫
(1) 医療機関から保健機関への連絡
① 対象者が退院する際または入院中であっても保健機関への連絡が必要であると主治医
が判断した場合はすみやかに、医療機関から家族に連絡の有用性などについて説明し、同
意を確認し、電子カルテに記載する。その上で「診療情報提供書」(様式12の2 また
は12の3)により、退院後の居住地を管轄する保健機関の長に退院後2週間以内までに
連絡します。
② 里帰り出産の場合には、家族の希望があれば当該地域を管轄する保健機関の長に退院
後2週間以内までに連絡しましょう。
③ 医療情報ほか様式12の2 または12の3に記入しきれない情報でかつ保健機関へ
の連絡が必要と判断した情報は、病院の様式(退院サマリー等)を用いてこれを追加しま
しょう。
④ 医療機関においては患者医療者関係を良好に保つ立場から、連絡の同意が得られるよ
う努めることが望まれます。
⑤ 家族の同意が得られない場合であって、かつ「児童虐待の防止等に関する法律」に係
る要件を満たす場合には、当該法を遵守することが先決になります。
⑥「診療情報提供書」(様式12の2 または12の3)のコピーをカルテ等に保管し、
診療情報提供料 I(250点)を算定します。
≪診療報酬の算定について≫
医療機関は保護者等の同意を得て、保健機関に対し様式12の2、または12の3)によ
る要養育支援者の情報提供を行った場合は、診療情報提供料(B009 250点)を患者1
人につき月1回に限り算定することができる。患者が入院している場合については退院の日
から2週間以内、及び診察日から2週間以内に診療情報の提供を行った場合に算定すること
ができる。
ただし、市町村が開設主体である医療機関が当該市町村等に対して情報提供を行った場合
や、児童虐待として通告した場合は算定ができない。
49
(2) 保健機関における情報管理及び訪問等の実施
① 保健機関は連絡を受けた患者等に関する記録を管理するとともに、一貫した地域母子
保健管理のため有効な活用を図ります。
② 保健指導等については、主治医及び保健機関の長の指示に従い、必要に応じた適切な
実施に努めます。
(3) 保健機関から医療機関への連絡
① 保健機関は保健指導等を実施し、初回訪問等終了後すみやかに指導内容等を医療機関
へ報告するものとし、その他必要な事項(療育機関や福祉関係部署への連絡、他保健機関
への連絡等)については当該患者等の実情に応じ、適宜連絡をとっていきます。
② 継続対応後の連絡が生じた場合には、その都度、問題点・現状など文書または電話で
連絡することが望ましいです。
(1)子どもを育てられない場合
パートナーと別れた後の妊娠発覚やレイプなど望まない妊娠、母体が若年であるなど
子どもを育てていくことが出来ない場合もあります。なかなか打ち明けることが出来な
いケースがほとんどですが、本人の思いを傾聴し、その際に子どもを育てていくのに受
けられるサービス・援助を説明し、それでも育てることが難しい場合は児童相談所に相
談することができ、施設入所や里親委託、特別養子縁組などの方法があることを伝えて
あげましょう。本人から連絡を取りづらい場合には、医療機関が児童相談所との連絡調
整や、相談の場所を医療機関で提供することによりきちんと相談がつながりやすくなり
ます。
【里親制度とは】
要保護児童(さまざまな事情により生んでくれた親のもとで生活することができないため
に、公的な保護を必要とする子ども)を自らの家庭へ迎え入れ、ある期間都道府県からの委
託を受けて養育し、子どもの成長を目指します。
(1) 養育里親
要保護児童を家庭に引き取り養育する里親。知事が認定し、養育里親名簿に登録される。
認定登録には、①養育里親研修の受講、②欠格事由に該当しない、③経済的に困窮して
いないとの認定要件を満たす必要がある。登録期間は 5 年間。5 年ごとの養育里親研修を
受講して更新の手続きを取ることが必要。
(2) 親族による養育里親
扶養義務のない親族(親や祖父、祖母、きょうだい等以外の親族)については、養育里
親を適用する。里親手当が支給できる。
50
(3) 専門里親
要保護児童のうち、被虐待児、非行児、障害児等特に支援が必要な児童を養育する里親。
認定登録には、専門里親認定研修の家庭を終了していること、委託児童の養育に専念で
きることが要件とされる。
(4) 養子縁組里親
要保護児童を家庭に引き取り、特別養子縁組又は普通養子縁組をすることにより養親と
なることを希望する里親である。
【特別養子縁組】
民法第 817 条、児童福祉法第 28 条に準拠した制度である。普通養子縁組の場合、戸籍上、
養子は実親と養親の 2 組の親を持つことになるが、特別養子縁組は養親と養子の親子関係
を重視するため、養子は戸籍上養親の子となり、実親との親子関係がなくなる点で普通養子
縁組と異なる。
実際には、児童相談所等を仲介者として出産前から十分な相談支援を行い、生後 4 週間
以内の特別養子縁組を前提とした里親委託措置(新生児委託)などを経て結ばれる。
(5) 親族里親
要保護児童の扶養義務者及びその配偶者である親族が家庭に引き取り養育する場合に親
族里親として認定することができる。ただし、両親等児童を現に監護している者が死亡、
行方不明、拘禁、疾病による入院等により養育が不可能な場合を原則とし、実親が存在す
る場合は、実親による養育の可能性を十分検討する。
(2) 関係機関との情報交換
医療機関の産科や小児科の医師、助産師、看護師や医療ソーシャルワーカーと保健機
関の保健師がハイリスクな要因を抱える子どもや妊婦、家庭に対し、情報交換を行うこ
とで、統一した姿勢で育児支援を行うことができます。また保健師が医療機関を訪問す
る機会を作り、入院中の特定妊婦と顔合わせが出来る機会にもなります。入院中から顔
を合わせることで訪問予約を取りやすくなったり、家庭訪問時にもスムーズな関係性を
築いたりすることが出来ます。
(3)他医療機関受診紹介
自医療機関で対応ができない妊婦の健康状態や胎児の状態の場合は、分娩を引き受け
る医療機関や出産した児を入院対応する NICU のある医療機関への情報提供も重要に
なります。自分のことを相談したり、思いを伝えることが苦手なことが多い特定妊婦が
何度も同じような質問を受けることで、答える内容を変えてしまうこともあるため、本
人・パートナーの承諾が得られればもちろんですが、承諾が得られない場合でも、現状
のままであれば、母体の健康や産後の育児に支障があると考えられる場合は「個人情報
51
保護法第 23 条第 1 項第 3 号」や「児童福祉法第 25 条の 2 及び 5」に基づき、情報提供
を行います。
3
出産時の対応
出産に伴い、産婦や家族には様々な感情の変化や体調の変化を伴うことがあります。
分娩を受け入れる病棟では、妊婦健康診査時よりも変化に気づきやすい環境になるため、
産婦や家族の言動や子どもへの接し方や関心の度合い、マタニティブルーや産後うつ等
の精神症状が出ていないかなどを院内スタッフで把握することが重要になります。
産婦や家族等の子どもに対する思いを傾聴し受け入れることで、それまで出てこなか
った家族背景などの相談につながることがあります。
育児支援者がなく、育児に対する不安が募っている場合には、産婦人科だけでの指導
ではなく、小児科に協力を仰ぎ母子の教育入院を勧めることも有効な手段です。教育入
院とは、小児科に児が入院し、産婦が付き添い、24 時間のケアを学ぶものです。入院
中は、医師や看護師だけでなく、病棟保育士や医療ソーシャルワーカーがチームで関わ
ります。産科入院中の短い期間での指導ではなく、毎日の繰り返しの中での育児行動を
学んだり、子どもとの愛着形成を図ったり、他の家族からの育児支援状況や家族関係を
確認することが出来たり、教育入院期間中に出生届など社会保険関係の手続きを行った
かを確認することが出来たりする点では、有用性があります。
飛び込み分娩、医療者の立ち合いのない自宅分娩、またはこれを繰り返す産婦は、要
注意です。
飛び込み分娩や、医師や助産師の立ち合いのない自宅での出産は母子ともに生命の危
機があるにもかかわらず、それを承知の上で繰り返し出産をする産婦もいます。こうい
ったケースの場合、経済的問題だけではなく、育児知識などの問題を抱えていることが
多いため、虐待につながりやすい家庭といえます。こういった家庭は、出産後の関係機
関のフォローも拒否することが多いため、分娩時や分娩後に医療機関に来た時に、いか
に家庭環境や産婦、家族の思いなどハイリスクな状態を把握し、様々な社会資源の情報
を提供し、地域の支援機関からフォローを受けることが有益になるかを説明し、退院後
のフォローにつなげることができるかということが重要になります。把握した家庭の状
況によっては、保健センターだけではなく福祉事務所など地域の見守り機関への連絡や
児童相談センターへの通告も行うことになります。
小児科と連携し、「自宅分娩や飛び込み分娩で、妊娠経過を把握出来ないので、児の
発育・発達をしばらく外来でフォローすることが必要」と説明してもらい、外来で経過
フォローや予防接種を進めていってもらうことも有効な手段となります。
52
児童虐待防止医療ネットワーク事業実施要領
(目的)
第1
虐待や虐待の兆候を発見しやすい立場にある医療機関の虐待対応力の一層の向上を図るため、医
療機関が組織的に児童虐待に対応できる体制を整備・充実するとともに、医療機関相互に相談・連携
できるネットワークを構築し、地域ネットワークとの有機的な連携により、児童虐待の発生予防、早
期発見、早期対応を推進する。
(事業内容)
第2
県は、児童虐待対応拠点病院(以下、「拠点病院」という。)と連携して次の事業を行うものとす
る。
(1) 児童虐待専門コーディネーターの設置
拠点病院に院内及び地域の関係者との連絡調整を行う児童虐待専門コーディネーター(以下、
「コ
ーディネーター」とする。
)を配置する。
(2) 医療機関児童虐待対応体制実態調査
住民に身近な診療所の児童虐待対応に関する実態及び意識を把握するための調査を実施する。
(3) 児童虐待対応医療機関連携推進会議
医療機関における組織的な児童虐待対応体制の整備・充実及び医療機関間ネットワークの構築に
向けた検討及び児童虐待医療ネットワーク事業の評価を行う。
(4) 児童虐待対応医療機関連絡会
事例検討会及び結果のフィードバック等実務に必要な事項の検討を行う。
(5) 保健医療関係者研修会
児童虐待対応や児童虐待防止に関する研修会の開催。
(6) 院内児童虐待対応体制整備研修会
医療機関が組織的に児童虐待に対応できる体制を整備するための研修会を開催する。
(拠点病院)
第3 この事業の拠点病院は、あいち小児保健医療総合センターとし、第2の(1)、(3)~(5)までの事業
を受託するものとする。
(拠点病院の役割)
第 4 拠点病院の役割は次のとおりとする。
(1) 中核的な病院では対応困難な被虐待児(疑いも含む)の相談対応及び受入れ
(2) 中核的な病院では対応困難な事例について可能な限り一時保護委託に対応
(3) 保健医療関係者の虐待に関する知識及び対応力の向上
(4) 児童虐待防止医療ネットワーク事業の評価
(中核的な病院)
第5
この事業を推進するにあたり虐待対応について中心的な役割を担っている病院を中核的な病院と
して位置づける。
(中核的な病院の役割)
第6 中核的な病院の役割は次のとおりとする。
(1) 被虐待児(疑いも含む)が受診した場合、院内児童虐待対応組織により通告等
(2) 同一又は近隣二次医療圏内の医療機関からの被虐待児(疑いも含む)の相談対応及び受入れ
(3) 行政の求めに応じ可能な限り一時保護委託
(4) その他必要な事項
(事業運営)
第7
この事業の運営にあたっては、医師会等の関係団体、医療機関、関係行政機関等と十分な連携を
図り、その協力を得て円滑な実施に努めるものとする。
(秘密の保持)
第8 この事業に携わる者は、事業の実施により知り得た秘密を保持しなければならない。
(その他)
第9 この要領に定めるもののほか、事業の実施に関して必要な事項は別に定める。
附則
この要領は、平成26年4月1日から施行する。
平成 25 年度愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業
児童虐待対応医療機関連絡会参加施設
医療機関名
住所
担当部署
電話
FAX
名古屋第一赤十字病院
〒453-8511
医療社会事業課
名古屋市中村区道下町 3-35
名古屋医療センター
〒460-0001
相談支援センター
名古屋市中区三の丸 4-1-1
名城病院
〒460-0001
医療福祉相談部
名古屋市中区三の丸 1-3-1
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
FAX
052-482-7733
電話
052-951-1111
FAX
052-951-9011
電話
052-201-5311
FAX
052-201-5318
地域医療センター
医療
電話
052-744-2111
名古屋市昭和区鶴舞町65
ソーシャルワーカー部門
FAX
052-744-2663
〒466-8650
医療社会事業課
電話
052-832-1121
FAX
052-832-5378
電話
052-858-7423
FAX
052-858-7136
電話
052-652-7711
FAX
052-652-7783
〒467-8602
管理部医療課
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
名古屋掖済会病院
052-481-5111
〒466-8560
名古屋市昭和区妙見町 2-9
名古屋市立大学病院
電話
〒454-0854
医療相談室
名古屋市中川区松年町 4-66
〒455-8530
事務局・医事課
電話
052-652-5511
名古屋市港区港明 1-10-6
相談支援センター
FAX
052-652-5716
独立行政法人地域医療機能
〒457-8510
地域医療連携相談室
電話
052-691-7151
推進機構 中京病院
名古屋市南区三条 1-1-10
FAX
052-691-6053
大同病院
〒457-8511
電話
052-611-6261
FAX
052-611-8627
中部労災病院
医療相談室
名古屋市南区白水町9
津島市民病院
海南病院
〒496-8537
医療社会事業部
電話
0567-28-5151
津島市橘町 3-73
地域医療連携室
FAX
0567-28-6653
〒498-0017
総合相談センター
電話
0567-65-2511
FAX
0567-65-5523
電話
0561-82-5101
FAX
0561-82-6166
電話
0562-93-2920
FAX
0562-93-2927
電話
0561-61-5296
FAX
0561-63-8566
弥富市前ケ須町南本田 396
公立陶生病院
〒489-0065
医療ソーシャルワーク室
瀬戸市西追分町 160
藤田保健衛生大学病院
〒470-1192
医療連携福祉相談部
豊明市沓掛町田楽ケ窪 1-98
愛知医科大学病院
〒480-1195
医療福祉相談室
長久手市岩作雁又 1-1
一宮市立市民病院
〒491-8558
地域医療連携室
電話
0586-71-1911
一宮市文京 2-2-22
医療福祉相談室
FAX
0586-71-8540
愛知県心身障害者コロニー
〒480-0304
中央病院
春日井市神屋町 713-8
春日井市民病院
〒486-0804
指導相談部
医療連携室
春日井市鷹来町 1-1-1
小牧市民病院
〒485-8520
地域連携室
小牧市常普請 1-20
総合犬山中央病院
〒484-8511
地域医療連携室
犬山市五郎丸字二夕子塚6
江南厚生病院
〒483-8704
医療福祉相談室
江南市高屋町大松原 137
あいち小児保健医療総合セ
〒474-8701
ンター
大府市森岡町尾坂田 1-2
半田市立半田病院
〒475-8599
医療相談室
地域医療連携室
半田市東洋町 2-29
知多厚生病院
〒470-2404
医療福祉相談室
知多郡美浜町大字河和字西谷 81-6
豊田厚生病院
〒470-0396
医療社会事業室
豊田市浄水町伊保原 500-1
トヨタ記念病院
〒471-8513
医療社会福祉グループ
豊田市平和町 1-1
刈谷豊田総合病院
〒448-8505
医療福祉相談室
刈谷市住吉町 5-15
安城更生病院
八千代病院
豊橋市民病院
0568-88-0811
FAX
0568-88-0828
電話
0568-57-0057
FAX
0568-82-9345
電話
0568-76-4131
FAX
0568-75-0214
電話
0568-62-8111
FAX
0568-62-9289
電話
0587-51-3333
FAX
0587-51-3317
電話
0562-43-0500
FAX
0562-43-0504
電話
0569-22-9881
FAX
0569-24-3254
電話
0569-83-2207
FAX
0569-82-6173
電話
0565-43-5000
FAX
0565-43-5100
電話
0565-24-7169
FAX
0565-24-7178
電話
0566-25-2810
FAX
0566-25-7133
〒470-2408
地域医療部門
電話
0566-75-2111
安城市安城町東広畔 28
医療福祉相談課
FAX
0566-76-4335
〒446-8510
医療福祉相談室
電話
0566-97-8111
FAX
0566-98-3965
安城市住吉町 2-2-7
岡崎市民病院
電話
〒444-8553
地域医療連携室
電話
0564-66-7225
岡崎市高隆寺町字五所合 3-1
医療福祉相談班
FAX
0564-25-6720
〒441-8570
患者総合支援センター
電話
0532-33-6111
FAX
0532-33-6230
豊橋市青竹町字八間西 50
平成 25 年度愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業
児童虐待対応医療機関連携推進会議委員名簿
名古屋第一赤十字病院
鬼頭 修
名古屋第二赤十字病院
岩佐 充二
名古屋掖済会病院
長谷川 正幸
大同病院
田村 泉
独立行政法人地域医療推進機構 中京病院
柴田 元博
公立陶生病院
家田 訓子
一宮市立市民病院
三宅 能成
愛知県心身障害者コロニー中央病院
水野 誠司
JA 愛知厚生連江南厚生病院
西村 直子
刈谷豊田総合病院
山田 緑
岡崎市民病院
林 誠司
豊橋市民病院
小山 典久(委員長)
平成 25 年度愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業
児童虐待対応医療機関連絡会委員名簿
名古屋第一赤十字病院
豊島 幹一郎
独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター
山田 悦子
国家公務員共済組合連合会 名城病院
小林 哲朗(委員長)
名古屋大学医学部附属病院
粕田 剛資
名古屋第二赤十字病院
山田 優作
名古屋市立大学病院
島田 満
名古屋掖済会病院
林本 隆幸
独立行政法人労働者健康福祉機構 中部労災病院
竹内 里夏
大同病院
葛島 雅美
独立行政法人地域医療推進機構 中京病院
大寺 直子
津島市民病院
堀 智宏
JA 愛知厚生連 海南病院
上野 佳美
公立陶生病院
水野 充江
藤田保健衛生大学病院
浅野 正友輝
愛知医科大学病院
村居 巌
一宮市立市民病院
宇津野 靖子
愛知県心身障害者コロニー中央病院
小﨑 祐美子
春日井市民病院
本多 明美
小牧市民病院
花倉 芳香
総合犬山中央病院
柳沢 知里
JA 愛知厚生連江南厚生病院
野田 智子
半田市立半田病院
榊原 貴代
JA 愛知厚生連 知多厚生病院
榊原 慎二
JA 愛知厚生連 豊田厚生病院
小林 宏美
トヨタ記念病院
天野 博之
刈谷豊田総合病院
山内 郁夫
JA 愛知厚生連 安城更生病院
前田 美都里
社会医療法人財団新和会 八千代病院
牧野 希
岡崎市民病院
杉浦 裕子
豊橋市民病院
早川 裕子
平成 25 年度愛知県児童虐待防止医療ネットワーク事業 拠点病院
あいち小児保健医療総合センター
山崎 嘉久
山下 泰恵
福山 章世
生駒 優佳
編
集
監 修
発行日
発 行
児童虐待対応医療機関連携推進会議
児童虐待対応医療機関連絡会
愛知県健康福祉部児童家庭課
平成 26 年 3 月 31 日
あいち小児保健医療総合センター
愛知県大府市森岡町尾坂田 1 番 2