自然界にも蓄光石はあるので しょうか

2016.05.30
ニ ッ セ ン ケ ン 分 室 「 思 い つ き ラ ボ 」 N o.65
自然界にも蓄光石はあるので
しょうか・・・
防 災 ・安 全 評 価 グループの試 験 に蓄 光 素 材 の輝 度 測 定 があるのですが
試 験 の対 象 品 としては避 難 誘 導 標 識 に使 われるフィルムや樹 脂 が主 なも
のになりますが 防 災 関 連 商 品 の他 にもファンシー商 品 として蓄 光 原 料
が使 われています。その中 で自 然 石 を模 した樹 脂 石
セラミック石
ガラス
石 なども造 られています。ふとしたことから「自 然 界 にも蓄 光 する石 はある
のですか?」という質 問 を受 けました。
蓄光石「マヤストーン」
光 る 石 の おはな し
“蓄 光 ”というのは一 般 用 語 で物 理 用 語 としては“燐 光 (りんこう)”となるのですが もともと燐 光 現 象 が見
つけられたのは自 然 石 からなのです。鉱 物 における燐 光 とは発 光 輝 度 も弱 く残 光 性 も短 いもので残 光 時
間 が 1 秒 に満 たないものでも残 光 が見 られれば燐 光 現 象 と判 断 されることになります。物 理 定 義 としては
10 ns(ナノセカンド)を超 える残 光 があれば燐 光 で 10 ns 未 満 であれば蛍 光 と扱 われます。 ns(ナノセカ
ンド)は 10 億 分 の 1 秒 ですので 1 億 分 の 1 秒 を超 えれば燐 光 現 象 となります。実 際 には人 間 の目 で
は判 断 できません。
光 る石 伝 説 は世 界 中 に多 く残 っているようですが 代 表 的 なものは放 射 性 物 質 を含 んだ隕 石 で地 球 に
落 下 した後 も数 日 間
光 続 けていたもののようです。科 学 が発 達 していない時 代 では 神 の怒 りとして捉
えられたか何 かの祟 り(たたり)と受 けとめるしか理 解 できなかったことに思 います。燐 光 現 象 を起 こす石 で
記 録 に残 っているものは 17 世 紀 初 めのイタリアのボローニャ石 と言 われています。イタリア北 部 にあるボ
ローニャ地 方 のパデルノ山 から見 つかったとあります。
ヨーロッパの 17 世 紀 という時 代 は“錬 金 術 ”が盛 んに行 われていた時 代 で亜 鉛 ( Zn)やアルミニウム(Al)
などの卑 金 属 と呼 ばれた当 時
価 値 の低 いも のを 金 (Au)銀 (Ag)銅 (Cu)などの貴 金 属 に 換 えることに
数 多 くの優 秀 な技 術 者 たちが取 り組 んで いた時 代 なのです。このボローニャの石 は太 陽 の光 を吸 収 して
いると考 えられていて 金 に換 わる最 適 な石 として錬 金 の技 を駆 使 されたようです。当 然 のことながら煮 て
も焼 いても金 に変 貌 することはあり得 ないことなのです。当 時
科 学 というものが認 められない時 代 で教 会
の教 えや聖 書 の記 述 のみが正 しいものと考 えられていました。
あのガリレオが地 動 説 を唱 えて天 動 説 を否 定 し教 会 の怒 りを買 い 終 身 刑 に処 せられたのは有 名 な話 で
す。そんな時 代 ですから元 素 という考 え方 もまだなく 何 らかの方 法 で金 や銀 は造 れるものと信 じられてい
たようです。今 なら笑 い話 ですが 筆 者 もこの時 代 に生 まれていたら きっと躍 起 になっていたと思 います。
当 時 の錬 金 術 士 がいろいろな加 工 手 法 を試 みたなかで この石 と炭 を合 わせて焼 くと冷 めた後 に暗 所 で
赤 い光 を放 つことが発 見 されたのです。これが燐 光 性 を持 つ 蓄 光 石 の最 初 の発 見 と言 われています。
のちにこのボローニャの石 は硫 化 バリウムを含 む石 であることが解 明 されていますが 当 時 はバリウムの
元 素 は知 られていませんでした。
一般財団法人ニッセンケン品質評価センター 〒111-0051 東京都台東区蔵前 2-16-11 (本部) TEL: 03-3861-2341 FAX: 03-3861-4280 WEB: www.nissenken.or.jp
2016.05.30
亜 鉛 やアルミを金 や銀 に換 えることはできませんでしたが この時 代 の錬 金 術 の
おかげで硫 酸 や塩 酸 や硝 酸 が発 見 されていることやさまざまな加 工 手 法 が編 み
出 されて現 在 の科 学 の礎 (いしずえ)になってい るのも事 実 なのです。無 駄 なよう
なことをしているように思 えますが 結 果 からするとこれほど文 明 の進 化 に貢 献 し
た時 代 はほかには見 当 たらないかもしれません。
ボローニャの石 の不 思 議 な光 は当 時 の知 識 人 たちによって 発 光 のしくみについて議 論 が交 わされたよう
で ボローニャの石 は太 陽 の光 や火 を蓄 積 することができるというのが一 般 的 な見 解 であったとあります。
この頃 から石 が光 を蓄 えるという発 想 はあったようです。その後 も科 学 の発 達 で燐 光 性 をもつ石 や蛍 光 性
のある石 は発 見 されています。ダイヤモンドの中 にも燐 光 が見 られるものもあるそうです。しかしながら人 工
的 に造 られた蓄 光 石 ほど初 期 輝 度 が高 く 残 光 性 の長 いものは自 然 界 では今 のところ見 つかっていませ
ん。ネットで天 然 蓄 光 石 の怪 しげな情 報 もあるそうなので誤 った情 報 に注 意 することも必 要 です。
“ 光 る ” ダイ ア モ ンド
燐 光 する有 名 なダイヤモンドを紹 介 しておきますと アメリカ スミソニアン博 物 館 のひとつである国 立 自 然
史 博 物 館 に所 蔵 されている「ホープ・ダイヤモンド」と呼 ばれるブルー・ダイヤモンドです。 45.50 カラットで
クラリテ ィ VS1( ブイエス ワン) の ブルーダ イヤと しては 世 界 トッ プク ラス の大 きさを 誇 る もの です 。もともと
は もっと大 きくて 17 世 紀 には 112.18 カラットもあったと記 録 されているとのことです。「呪 われし宝 石 」とし
ても名 が通 っていて呪 いの伝 説 もいろいろとあるようです。呪 いの伝 説 に興 味 のあるかたは 自 分 で調 べ
ていただくとして このダイヤがなぜ燐 光 現 象 を起 こすかというと このダイヤの構 成 元 素 には希 土 類 元 素
(レア アース)が混 入 していると考 えられています。
ダイヤに限 らず天 然 鉱 石 はその生 成 において単 一 元 素 で構 成 されることはほとんどありません。ダイヤモ
ンドに紫 外 線 を照 射 するとほとんどのものに蛍 光 反 応 が見 られるとのことです。さらに紫 外 線 照 射 を止 め
た後 も光 りつづけるのも稀 (まれ)にあり その性 質 をもったものがいわゆる燐 光 現 象 が見 られるダイヤモン
ドということになります。希 土 類 の元 素 の特 定 までしている記 述 はありませんが 希 土 類 が含 まれているこ
とで燐 光 すると考 えられています。ダイヤモンドの蛍 光 発 色 は赤 系 のものや黄 色 系 や青 色 系 など 多 色 に
わたって確 認 されていますので希 土 類 の特 定 までしようとすればひとつひとつごとに異 なったものになると
考 えられます。
天 然 ダイヤか人 工 ダイヤかを判 別 するときにも この蛍 光 反 応 が利 用 されています。天 然 ダイヤの蛍 光
性 は紫 外 線 を使 用 することで容 易 に確 認 することができます。今 のところ人 工 合 成 ダイヤに紫 外 線 を照
射 しても蛍 光 反 応 を示 すことはありませんので ダイヤモンドの真 贋 を確 かめたい時 にはお試 しください。と
はいえ蛍 光 反 応 の弱 いものもありますので素 人 判 断 では迷 うときは鑑 定 士 さんに相 談 してみてください。
筆 者 も一 度 ダイヤモンドが本 物 か偽 者 かを確 かめてみたいのですが 肝 心 のダイヤモンドを持 ちあわせて
いないのです。(そりゃ 無 理 でしょう!!)
原 稿 担 当 :竹 中
直 (チョク)
蓄 光 石 で 造 ら れ た 神 戸 市 摩 耶 山「 き ら き ら 小 径 」
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