論 文 焼成法による下水汚泥焼却灰のりん酸肥料化

51
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇論 文◇
焼成法による下水汚泥焼却灰のりん酸肥料化技術
Technology to Produce Phosphate Fertilizer
from Sewage Sludge Incineration Ash
by the Calcination Method
今
井
敏
夫*, 三
IMAI, Toshio*;
要
浦
啓
一**
MIURA, Keiichi**
旨
下水汚泥焼却灰と炭酸カルシウムからなる混合物を, 異なる温度および異なる CaO 濃度で
焼成した. その焼成物の肥料特性を評価するため,く溶性りん酸,可溶性けい酸および鉱物組成
などを分析した. その結果, りん酸く溶性およびけい酸可溶性が最大となる焼成温度および
鉱物組成は, 焼却灰ごとで異なった. 低 P 2O 5 含有灰, 中P 2O 5 含有灰および高 P 2O 5 含有灰から
作製された焼成物は, それぞれ主にゲーレナイトとナーゲルシュミッタイト, ゲーレナイトと
シリコカーノタイトおよびカルシウムシリケイトとシリコカーノタイトで構成された.
CaO 濃度が 50 % となるように成分調整した原料を 1,200 から 1,450 ℃ の温度範囲内で焼成
することで, 原料に用いた焼却灰のリン酸濃度に関係なく, りん酸く溶性およびけい酸可溶性
に優れた肥料が得られた.
キーワード:下水汚泥焼却灰, 炭酸カルシウム, 焼成, りん酸肥料, りん酸く溶性,
けい酸可溶性
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
* 中央研究所 第3研究部 資源化学チーム Mineral Resources Chemistry Team, Central Research Laboratory
** 中央研究所長 General Manager, Central Research Laboratory
52
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ABSTRACT
Mixtures of sewage sludge incineration ash and calcium carbonate were fired at
different temperatures and the different CaO content. To evaluate the fired products as
phosphate fertilizer, citric solubility of P2O5, 0.5M HCl solubility of SiO2, and mineral
composition were analyzed. The results showed that the temperature and mineral
compositions to maximize the P2O5 solubility and the SiO2 solubility were different for each
ash. The fired products from low-P2O5 ash, middle-P2O5 ash and high-P2O5 ash mainly
consisted of gehlenite and nagelschmidtite, gehlenite and silicocarnotite and calcium
silicate and silicocarnotite, respectably.
Phosphate fertilizer with excellent solubility of P2O5 and SiO2 regardless of P2O5
content of raw ash was obtained by firing raw materials adjusted to 50% CaO concentration
in the temperature range 1, 200 and 1, 450C.
Keywords:Sewage sludge incineration ash, Calcium carbonate, Firing,
Phosphate fertilizer, Citric solubility of P2O5, 0.5M HCl solubility of SiO2
1.は じ め に
リンは人間の生命維持活動にとって欠くべからざ
る元素のひとつである. 世界人口の増加に伴って
りん酸肥料原料であるリン鉱石の消費量が増加し,
リン資源の枯渇が世界的に問題視されている. とり
わけ天然資源を持たないわが国は, リン鉱石を海外
からの輸入に依存しているため, 2008年のリン鉱石
の価格高騰を機に, リン資源の確保およびリサイク
ルに関する取り組みが活発に行われている. 日本国
内におけるリンのフローを整理した松八重らによれ
ば, 効率的にリンを回収することができる場所は製
鉄所, 下水処理場およびし尿処理場である1) . 筆者
らはこれらの中から, 下水処理場において発生する
下水汚泥焼却灰を研究対象とした.
下水処理場からリンを回収して肥料化する技術に
は, HAP法, MAP法, 焼却灰アルカリ抽出法および焼
却灰の部分還元溶融法などが実用化されている2)∼6).
しかしながら, リン回収, 肥料化のための設備の建
設コストが大きいこと, 維持管理コストがかさむこ
となどが障害となり, 広く普及するまでには至って
いない.
下水汚泥焼却灰(以下単に焼却灰と記す)を原料と
したりん酸肥料化に関しては秋山 の研究がある 7).
秋山は, P2O5 濃度が 25∼30 mass%の範囲の焼却灰に
炭酸カルシウムを添加して 1,200ないし 1,300℃ に
焼成(以下 Ca添加・焼成法と記す)すると, りん酸分
の溶解率が CaO/PO 4 モル比 3.5 付近で 95∼100 % に
向上することを示し, 焼却灰がりん酸肥料原料とし
て有用であることを報告した. しかしながら, 下水
処理場で発生する焼却灰の化学組成は, 下水の排除
方式, 使用される凝集剤の種類などの処理条件, 季
節などで異なるため 8), 国内で実際に発生する焼却
灰の P2O5 濃度は10∼40 mass% の範囲で大きくばらつ
いている. 本論文では, P2O5 濃度の低い焼却灰およ
びP2O5 濃度の高い焼却灰から, Ca 添加・焼成法によ
り作製したりん酸肥料の組成と肥料特性とについて
検討した結果について報告する.
2.試料および実験方法
2.1 下水汚泥焼却灰
国内の3箇所の下水処理場より P2O5 濃度が異なる
焼却灰, A 灰, B 灰および C 灰を入手した. A 灰およ
び C 灰は, 東京電力福島第一原子力発電所の放射能
漏洩事故以前に関東地方の下水処理場から入手した
ものである. B 灰は事故以降に関西地方以西の処理
場より入手したものであるが, SE International社
製 RADIATION ALERT Inspector + SN#17259 により
焼却灰の放射線量を測定して, 放射線量が
0.1μSv/hr以下であることを確認した.
53
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2.2 焼成肥料化
A灰, B灰および C灰のそれぞれに炭酸カルシウム
(宇部マテリアルズ社製 325メッシュ)を添加・混合
した後, 円筒型の金型で一軸加圧して円柱状のペレ
ットを作製した. 炭酸カルシウムの添加率は, 焼成
の CaO 濃度が 20 mass% から 60 mass% の範囲となるよ
うに任意に変化させた. 成形により得たペレットを
モトヤマ社製の高速昇温電気炉を用いて, 大気雰囲
気中で最高温度が 1,100∼1,450℃, 保持時間 10 分
間の条件で焼成した. 得られた焼成物は, 600μm 全
通となるように乳鉢で粉砕し, XRD 法により生成鉱
物を同定するとともに, 原料に用いた焼却灰の分析
と同様, 肥料分析法にしたがってく溶性りん酸, 可
溶性けい酸および肥料有害成分濃度を分析した.
3.結果および考察
3.1 焼却灰の特徴
実験に用いた焼却灰の化学組成を Table 1 に示す.
主成分は SiO2, Al2O3, Fe2O3, CaOおよび P2O5 であり,
これら5成分で 80∼90mass% を占めた. 合流式(一
部分流式を含む)を採用する下水処理場で発生した
A 灰は高 SiO2, 高 Al2O3, 低 P2O5 という特徴があった.
これに対して, 分流式を採用する下水処理場で発生
した B 灰および C 灰は高 P2O5, 低 SiO2, 低 Al2O3 とい
う特徴があった. Fig.1 は A 灰, B 灰および C 灰の鉱
物組成を示す粉末 X 線回折線図である. 石英および
長石類は A 灰中に最も豊富に含まれており, リン酸
はリン酸マグネシウムカルシウムとして存在した.
リン酸アルミニウム(AlPO4)は不明瞭であった. B灰
中の石英および長石類は A 灰と比較して相対的に減
少するとともに, リン酸マグネシウムカルシウムお
よび AlPO4 のピークが明瞭となった. C灰中石英およ
び長石類のピークはさらに減少するとともに, リン
◇:quartz
●:feldspar ▼:AlPO4
○:Calcium Magnesium Phosphate
Intensity / a.u.
A 灰を入手した下水処理場の排除方式は合流式で
あり, B 灰および C 灰を入手した下水処理場は分流
式である. いずれの処理場も汚泥の凝集には高分子
凝集剤を使用しており, 焼却は流動床方式である.
化学組成は蛍光X線ファンダメンタルパラメータ
ー法(以下 XRF-FP法)により求めた. A灰, B灰および
C灰の P2O5 濃度は, それぞれ 15.6mass %, 25.5mass%
および 36.0mass%であった. 肥料特性および有害成
分含有量は肥料分析法 9) により測定した. 肥料分析
の項目のうち, く溶性りん酸(C-P2O5)は2%クエン
酸溶液に溶け出るりん酸の割合で, りん酸く溶率
( C/T-P2O5 )は全りん酸に対するく溶性りん酸の割合
で定義される. 可溶性けい酸は(S-SiO2 )は 0.5モル
塩 酸 に溶 け出 る けい 酸の 割 合で , け い 酸可 溶率
( S/T-SiO2 )は全けい酸に対する可溶性けい酸の割合
で定義される. 焼却灰の鉱物は粉末 X 線回折測定
(以下 XRD法と記す)により同定した.
▼◇
▼▼
▼
▼
(C)
◇
○
●○ ○ ○
○○
●
(B) ○○ ○
◇
○
○
(A)
10
15
20
25
2θ / degree
○
○
○
30
Cu-Kα
35
40
Fig. 1 XRD patterns of low P2O5 ash (A),
middl P2O5 ash (B) and high P2O5 ash (C)
(低 P2O5 含有灰(A),中 P2O5 含有灰(B)
および高 P2O5 含有灰(C)の XRD パターン)
Table 1
Chemical composition of sewage sludge incineration ashes
by XRF-FP method
(蛍光 X 線ファンダメンタルパラメーター法による下水汚泥
焼却灰の化学組成)
/ mass%
Sample
SiO2
Al2O3
Fe2O3
CaO
MgO
SO3
Na2O
K2O
P2O5
A
B
C
36.0
25.0
18.9
23.0
12.2
11.1
9.2
5.0
5.9
7.6
12.6
10.0
2.7
3.9
5.4
1.0
1.7
0.6
1.0
0.6
0.8
1.4
2.1
3.9
15.6
25.5
36.0
54
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
酸マグネシウムカルシウムおよび AlPO4 のピークが
より明瞭となった. A 灰など下水の排除方式が合流
式である場合, 雨水とともに石英および粘土鉱物類
などの陸上の土壌成分が流入するため, 化学組成が
高 SiO2 および高 Al2O3 になると考えられる.
3種類の焼却灰そのものの肥料特性および有害成
分濃度を, それぞれ Table 2および Table 3に示す.
A 灰, B 灰および C 灰のく溶性りん酸はそれぞれ
9.15, 15.91 および 15.09%, りん酸く溶率はそれぞ
れ 66.4, 60.8 および 42.5% であった. 一方, 可溶
性けい酸はそれぞれ 5.8,1.1および 0.40 %, けい酸
可溶率は 14.8, 3.7および 1.8 %と著しく低いもので
あった. 実験に用いた3種類の焼却灰のうち, 最も
P2O5濃度が低い A 灰のりん酸く溶率およびけい酸可
溶率が高かったが, P2O5 濃度が低い焼却灰では,
AlPO4 よりも溶解性の高いリン酸マグネシウムカル
シウム中に存在するリン酸の割合が相対的に増加す
るためであると考えられる. 多くの焼却灰は, B 灰
および C灰と同様,難溶解性のAlPO4, 石英および長
石類からなる混合物であるため, そのままでは肥料
として利用価値の低いものと判断される.
日本国内において製造販売することができる肥料
の分類および規格は, 肥料取締法10)により定められ
Table 2
ている. この肥料取締法のなかに各種汚泥肥料の
分類があり, その有害成分の最大許容量が定められ
ている. そこで, 比較のために Table 3 には肥料取
締法に定められる焼成汚泥肥料の有害成分の許容
最大量を併記した.
Table 3の結果より, Cd, Hgおよび Pbの3元素に
ついて焼成汚泥肥料の有害成分の許容最大量を超過
するものがあり, A 灰, B 灰および C灰ともに焼却灰
のままでは肥料として流通させることができないも
のであった.
3.2 鉱物組成の変化と肥料特性の発現
3.2.1 鉱物組成の変化
A 灰, B 灰および C 灰から, 異なる CaO 濃度, 焼成
温 度 によ り作 製 した 焼成 物 の鉱 物組 成 の変 化を
CaO-P2O5-(SiO2+その他)系ダイヤグラム上に簡略化
して Fig.2に示した.
CaO 濃度が 20 % 以下の低 CaO 組成領域では, 焼成
しても石英およびリン酸アルミニウム(AlPO 4 )が
反応しきらずに一部未反応のまま残留した. 低 P2O5
領域ではアノーサイト(CaO・Al2O3・2SiO2 )が, 高 P2O5
領域ではリン酸マグネシウムカルシウム((Ca/Mg)3
( PO4)2)の生成が優勢であった. CaO 濃度が 30 % 以上
Phosphate and silicate solubility of sewage sludge incineration
ashes by the official methods of analysis for fertilizer
(肥料分析法による下水汚泥焼却灰のりん酸およびけい酸の溶解性)
/%
Sample
T-P2O5
C-P2O5
C/T-P2O5
T-SiO2
S-SiO2
S/T-SiO2
A
B
C
13.79
26.18
35.47
9.15
15.91
15.09
66.4
60.8
42.5
38.94
29.43
22.64
5.78
1.10
0.40
14.8
3.7
1.8
Table 3
Harmful element concentration in sewage sludge incineration ash
by the official methods of analysis for fertilizer
(肥料分析法による下水汚泥焼却灰中の有害成分濃度)
/ mg/kg
Sample
Cr
Ni
As
Cd
Hg
Pb
A
B
C
133
89
77
216
245
67
21
30
9
6.7
3.0
8.0
3.19
0.03
<0.05
81
113
22
Regulation
limit*
500
300
50
5
2
100
* regulation limit for calcined sludge fertilizer
55
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
になると,低 P2O5 領域ではアノーサイトがゲーレナ
イト( 2CaO・Al 2O 3・SiO 2 )に変化するとともにシリコ
カーノタイト( 5CaO・SiO2・P2O5 )が生成した. 高 P2O5
領域ではリン酸マグネシウムカルシウムが卓越した.
高P 2 O 5 含有の C 灰の場合, CaO 濃度が 40 % の領域で
シリコカーノタイトが生成した. A 灰, B 灰および
C 灰に共通して, りん酸く溶性の高いシリコカーノ
タイトが安定して生成する組成域は, CaO 濃度が 40
∼50%の範囲内であった. CaO濃度が 50%を超過する
と, A 灰および B 灰ではシリコカーノタイトが減少
し,ゲーレナイトおよびナーゲルシュミッタイト
(7CaO・2SiO2・P2O5 )が卓越した. 高 P2O5 含有の C 灰の
場合, ゲーレナイトおよびシリコカーノタイトが卓
越するとともにケイ酸2カルシウム(2CaO・SiO2 )の
生成が認められた. このケイ酸2カルシウム(JCPDS
No.023-1042)は, その回折パターンが同じ六方晶系
に属するナーゲルシュミッタイト(JCPDS No.0030706)に酷似すること, 高 P 2 O 5 組成でありながら
シリコカーノタイトの生成量が減少していることな
どから, リン酸の一部がケイ酸2カルシウムに固溶
して存在するものと考えられる.
3.2.2 りん酸く溶性
Fig.3 は CaO 濃度が 50 % となるように成分調整し
た A灰, B灰および C灰の焼成温度とりん酸く溶率の
関係である. いずれの焼却灰の場合も, P2O5 濃度に
関わらず, 焼成温度の上昇にともなって焼成物の
りん酸く溶率は増加した. B 灰および C 灰のりん酸
く溶率は, それぞれ 1,250 および 1,350 ℃ で 90 %
以上となったが, 低 P2O5 濃度の A 灰のりん酸く溶率
は最大 85%にとどまった.
Fig.4 は焼成物の Ca/P モル比とりん酸く溶率の
関係であるが, 同一組成の原料を異なる温度で焼成
したもののうち, りん酸く溶率が最大となったもの
をプロットした. 焼却灰の種類に関係なく, Ca/P
モル比が 3.0 を超えると, りん酸く溶率が急激に
増加し, B 灰および C 灰は Ca/P モル比 4.0 でりん酸
く溶率がほぼ 100% に達した. ところが, A 灰につい
てはCa/P モル比が 7.0 を超えてもりん酸く溶率は
86%にとどまった.
Ca/P モル比が 4.0 以上の B 灰の焼成物の主要鉱物
はナーゲルシュミッタイト, A 灰の主要鉱物はゲー
レナイトおよびナーゲルシュミッタイトであった.
本研究において, P2O5 濃度が 25 % 以上の B 灰および
C 灰に対しては秋山の結果が再現されたが, P 2 O 5
濃度が 15.6 % の A 灰に対しては当てはまらないこと
SiO2+others
10
30
(Qz,Fl,AlPO4)
20
Citric-solubilities of P2O5 / %
20
10
30
(Qz,An,CMP)
(Qz,CMP,AlPO4,St)
40
40
50
(Ge,SC)
(CMP,An,Qz)
(Ge,Ng)
(CMP,Ge,SC)
(Ge,SC)
70
(Ng)
(Qz,Cr,AlPO 4,CMP,Fl)
(CMP,Qz,St,AlPO4)
(CMP,Qz)
(CMP,SC)
70
(Ng,Ge)
80
(Ge,SC,C2S)
P2O5
CaO
100
90
80
70
ash-A
60
ash-B
50
ash-C
40
1100
1200
1300
1400
1500
Temperature / ℃
Fig. 2
Main minerals in the test product
in the ternary diagram
(焼成肥料化物の化学組成と主要生成鉱物)
Qz:quartz, Cr:cristobalite, Fl:feldspar,
AlPO4:alminium phosphate,
CMP:((CaxMg1-x)3(PO4)2), St:stanfieldite
An:anorthite, Ge:gehlenite,
SC:silicocarnotite, Ng:nagelschmidtite,
C2S:dicalcium silicate
Fig. 3
Relationship between temperature
and citric acid solubility of P2O5
All fired products were made from 50%
CaO mixture
(焼成温度とりん酸く溶率の関係)
56
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Citric solubilities of P2O5 / %
100
80
ash-A
60
ash-B
ash-C
40
0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
Ca/P
Fig. 4
Relationship between Ca/P molar ratio
and citric acid solubilities of P2O5
Each plot is the highest solubility for
product fired from the same mixture
Citric solubilities of P2O5 / %
(Ca/P モル比とりん酸く溶率の関係)
100
80
60
CaO=40%
40
CaO=45%
CaO=50%
20
CaO=55%
0
1000
1100
1200
1300
1400
1500
Temperature / ℃
Fig. 5
Relationship between temperature
and citric acid solubility of P2O5 by CaO
content (middle P2O5 ash(B))
(CaO 濃度ごとの焼成温度とりん酸く溶率の関係)
0.5M HCl solubilities of SiO2 / %
が示された. 秋山 は , Ca/P モル比が 4.0 より大きく
なるとナーゲルシュミッタイトが生成, シリコカー
ノタイトが減少するようになり, その際アパタイト
が生成するためりん酸く溶率が低下すると説明した.
しかしながら, 本研究の焼成物中にゲーレナイト
およびナーゲルシュミッタイトは同定されるが,ア
パタイトは同定されないため, A 灰のりん酸く溶率
が85% にとどまるのは, リン酸含有鉱物のナーゲル
シュミッタイトの表面がゲーレナイトで被覆される
ためではないかと考えられる.
Fig.5 は P 2 O 5 濃度が中程度の B 灰から作製した
焼成物の焼成温度とりん酸く溶率の関係を, 焼成物
の CaO濃度ごとに示したものである.
CaO 濃度 40 % の場合のりん酸く溶率の最大値は,
1,150 ℃ の焼成物の 60 % であった. CaO 濃度が 45 %
以上の焼成物は, 焼成温度の上昇とともにりん酸
く溶率も増加し ,1,250℃ 以上で 80%以上となった.
CaO濃度 40 % の焼成物にはリン酸カルシウムマグネ
シウム((Ca/Mg) 3(PO 4) 2 ), ゲーレナイト, Mg 2P 2O 7,
シリコカーノタイトなど複数の鉱物が同定された.
CaO濃度 45%, 1,200℃ 以上での焼成物はゲーレナイ
トおよびシリコカーノタイトの2相であった. CaO
濃度 50 %, 1,200 ℃ 以上での焼成物では,ゲーレナ
イト, シリコカーノタイトおよび Ca15(PO4)2(SiO4)6
の3相が卓越した. CaO 濃度 55 % の場合, 1,300 ℃
以上でナーゲルシュミタイト, ゲーレナイトおよび
シリコカーノタイトが出現し, 焼成温度の上昇とと
もにゲーレナイトおよびシリコカーノタイトが減少
してナーゲルシュミッタイト1相となった.
上述のように, 焼却灰に炭酸カルシウムを添加し
て焼成することで得られる肥料の鉱物組成は, 炭酸
カルシウムの添加率および焼成温度で異なる. 得ら
れた肥料のりん酸く溶性およびけい酸可溶性はそれ
ぞれの鉱物の溶解性で決定されるため, できる限り
りん酸く溶率の高い肥料を得ようとする場合には,
りん酸く溶性の高いシリコカーノタイト, ナーゲル
シュミッタイトおよび Ca15(PO4)2(SiO4)6 などが安定
的に生成するように炭酸カルシウムの添加率を決定
する必要がある. 低 P2O5 灰( A 灰)に対する最適 CaO
濃度は 40∼45 %, 中 P 2 O 5 灰(B 灰)および高 P 2 O 5 灰
(C 灰)に対する最適 CaO 濃度は 45∼50% の範囲であ
った. A 灰よりも, B 灰および C 灰ではより多くの
CaOが必要であったが, 炭酸カルシウムとして加え
たCaO がシリコカーノタイトの生成よりも優先する
ゲーレナイトの生成に消費されるためであると考え
られる.
100
80
60
ash-A
ash-B
40
ash-C
20
0
1000
1100
1200
1300
1400
1500
Temperature /℃
Fig. 6
Relationship between temperature
and 0.5M-HCl solubility of SiO2
All fired products were made from
50% CaO mixture
(焼成温度とけい酸可溶率の関係)
57
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
0.5M HCl solubilities of SiO 2 / %
CaO 添加量の増加に伴い, 焼却灰中のアルミノシ
リケートはアノーサイトからゲーレナイトに, リン
酸カルシウムマグネシウムはシリコカーノタイト,
ナーゲルシュミッタイト, ケイ酸2カルシウムなど
に変化するため, りん酸く溶性のみにとどまらず
けい酸可溶性も向上したと考えられる11).
100
80
60
40
ash-A
ash-B
ash-C
20
0
0.00
2.00
4.00
6.00
8.00
Ca/P
Fig. 7
0.5M HCl solubilities of SiO2 / %
3.2.3 けい酸可溶性
次にけい酸可溶性について考察する. Fig.6 は
CaO 濃度が 50%となるように成分調整した A 灰, B 灰
および C 灰の焼成温度とけい酸可溶率の関係である.
焼却灰の種類に関らず 1,200℃ 以上の焼成物のけい
酸可溶率はほぼ 100 %となった.
Fig.7は Ca/Pモル比とけい酸可溶率の関係である
が, 同一組成の原料を異なる温度で焼成したものの
うち, けい酸可溶率が最大となったものをプロット
した. 焼却灰の種類に関係なく, Ca/P モル比が 2.0
を超えると, けい酸可溶率が急激に増加し, B 灰
および C 灰は Ca/P モル比 2.0 でけい酸可溶率が 90 %
以上となった. これに対して低 P 2 O 5 含有の A 灰の
けい酸可溶率の増加は緩やかであり, Ca/P モル比
が 5.0以上で 90%となった. A灰の場合, Ca/Pモル比
が 3.0程度までの焼成物中には, ケイ酸含有鉱物の
石英およびアノーサイトが明らかに残留した. Ca/P
モル比が 5.0 以上になると, 石英および長石が消滅
してゲーレナイトおよびシリコカーノタイトの2相
となった. A 灰から作製した焼成物のけい酸可溶性
の変化は, 鉱物組成の変化と明瞭に対応しており,
低 CaO組成領域ではけい酸可溶性に劣る石英および
アノーサイトが主であったものが, 高 CaO 組成領域
ではけい酸可溶性に優れるゲーレナイトおよびシリ
コカーノタイトに変化した.
Fig.8 は , P2O5 濃度が中程度の B 灰から作製した
焼成物の焼成温度とけい酸可溶率との関係を, 焼成
物の CaO濃 度ごとに示したものである.
CaO 濃度 40 % 以上となるように成分調整した
焼成物では, 焼成物の CaO 濃度に依存せず 1,150 ℃
でけい酸可溶率が著しく増加し, 1,200 ℃ で 90 %
以 上 と な っ た . CaO 濃 度 が 40,45 お よ び 50% の ,
1,100 から1,200 ℃ の焼成物中には未反応の石英,
長石およびCaO の残留が認められたことから, ゲー
レナイトおよびシリコカーノタイトの生成の過渡期
に相当するものと考えられる.
CaO 濃度が 40 % の場合には 1,200 ℃ でリン酸マグ
ネシウムカルシウム, ゲーレナイト, Mg2P2O7 および
シリコカーノタイトの結晶化が, CaO 濃度が 45 %
および 50%の場合には 1,200 ℃ でゲーレナイトおよ
びシリコカーノタイトの結晶化が, CaO 濃度が 55%
の場合には 1,300 ℃ で, ナーゲルシュミッタイト,
ゲーレナイトおよびシリコカーノタイトの結晶化が
完了した.
Relationship between Ca/P molar ratio
and 0.5M-HCl solubility of SiO2
Each plot is the highest solubility for
product fired from the same mixture
(Ca/P モル比とけい酸可溶率の関係)
100
80
60
CaO=40%
40
CaO=45%
CaO=50%
20
CaO=55%
0
1000
1100
1200
1300
1400
1500
Temperature / ℃
Fig. 8
Relationship between temperature
and 0.5M-HCl solubility of SiO2 by
CaO content ( middle P2O5 ash(B))
(CaO 濃度ごとの焼成温度とけい酸
可溶率の関係)
58
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
3.3 肥料化のための適正組成
上述のように, りん酸く溶性およびけい酸可溶性
などの肥料特性の発現挙動は, 焼却灰の化学組成
ごとで異なることが判明した. 焼却灰の化学組成は
下水処理場ごとで異なり, また季節, 降水量, 処理
条件などでも変化する. 実際の工業生産において,
化学組成が異なる焼却灰から一定の品質の肥料を得
る場合には, 焼却灰の成分調整が重要になる.
A 灰の結果にみられるように,低 P2O5 含有(15.6 % )
の焼却灰の場合, 焼成物の CaO 濃度を 50 % まで高め
ることで, りん酸く溶率は 86 % まで, けい酸可溶率
は 100 % まで向上させることができた. このときの
主要鉱物はゲーレナイトおよびナーゲルシュミッタ
イトの2相であった. このように CaO 濃度を高める
ことでく溶率および可溶率を高めることができるが,
く溶性りん酸および可溶性けい酸は相対的に減少
することになる. したがって, りん酸く溶性および
けい酸可溶性の両方の肥料特性を具備させる場合,
CaO 濃度が 40 % ( Ca/P モル比 5.0 )となるように炭酸
カルシウムを添加して, 1,200 ℃ ないしは1,250 ℃
で焼成することで主要鉱物がゲーレナイトおよび
シリコカーノタイトの2相となるようにすることが
望ましい.
B灰のような 中 P2O5 含有(25.5 %)の焼却灰の場合,
焼成物の CaO 濃度が 50 %( Ca/P モル比 3.8)となるよ
うに成分調整し, 1,300 ℃ ないしは 1,350 ℃ で焼成
して, ゲーレナイト, シリコカーノタイトおよび
Ca15(PO4)2(SiO4)6 を生成させることで, りん酸く溶
性およびけい酸可溶性ともに優れた肥料化が達せら
れる.
C 灰などの高 P 2 O 5 含有(36.0 % )の焼却灰の場合,
B 灰と同じく焼成物の CaO濃度が 50% (Ca/P モル比
3.4)となるように成分調整して1,350 ℃ で焼成する
と, ゲーレナイト, シリコカーノタイトおよびケイ
酸2カルシウムなどが生成して, りん酸く溶性およ
びけい酸可溶性ともに優れた肥料化が達せられる.
Table 4
本研究によれば, P 2 O 5 濃度が 25.5 mass % および
36.0 mass % の B 灰および C 灰の結果は秋山 の結果と
対応したが, P 2 O 5 濃度が低い A 灰(15.6 mass % )に
対しては, Ca/Pモル比で 5.0 以上が必要であった.
このように焼却灰の成分調整においては, Ca/Pモル
比よりも CaO 濃度のほうが, より好ましい管理指標
であると考えられる. すなわち焼成物の CaO濃度が
50 % となるように炭酸カルシウムを添加すれば, 焼
却灰の化学組成に関わらずりん酸く溶率およびけい
酸可溶率の高い肥料化が達せられる. しかしながら,
CaO の添加率の増加は相対的にく溶性りん酸および
可溶性けい酸の絶対量を低下させるため, りん酸
およびけい酸の2成分の溶出特性を具備させようと
するのであれば, CaO 濃度が 45% 程度となるように
成分調整することが望ましいと考えられる.
そこで, A 灰, B 灰および C 灰に対して, CaO 濃度
が 45% となるように成分調整をおこない, それぞれ
1,250, 1,250および 1,300℃ の温度で焼成し, く溶
性りん酸および可溶性けい酸を分析した. もとの焼
却灰と区別するために, 焼成により得られた試料の
記号をそれぞれ AF, BF および CFとした. その結果
を Table 4 に示す. もとの焼却灰の化学組成が異な
る場合であっても, く溶性りん酸8% 以上, りん酸
く溶率 85% 以上, 可溶性けい酸 13% 以上, けい酸可
溶率 90% 以上の肥料化が可能であることが示された.
Fig.9 はそれぞれの鉱物組成を示す粉末 X 線回折
線図である. AF および CF にはゲーレナイトおよび
シリコカーノタイトの2相のみが同定された. BFに
はゲーレナイト, シリコカーノタイトおよびケイ酸
2カルシウムが同定された. 元の焼却灰の P2O5 濃度
の増加に伴って, すなわち, AF,BF,CFの順にゲーレ
ナイトは減少し, シリコカーノタイトが増加した.
この鉱物組成の変化は, 肥料特性の発現と明瞭に
対応しており, シリコカーノタイトの増加に伴って
く溶性りん酸が増加し, ゲーレナイトの減少に伴っ
て可溶性けい酸が減少した.
Phosphate and silicate solubility of the fertilizers after calcination
(焼成肥料化物のりん酸およびけい酸の溶解性)
/%
Sample
T-P2O5
C-P2O5
C/T-P2O5
T-SiO2
S-SiO2
S/T-SiO2
AF
BF
CF
8.20
18.40
17.60
8.17
14.90
17.10
99.6
85.6
97.2
23.64
18.00
14.80
22.78
17.25
13.60
96.4
95.8
91.9
59
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●:gehlenite ○:silicocarnotite ◆:dicalciumsilicate
○
Intensity / a.u.
○
○○ ○○●
○○
○
○○ ○
○ ○
○○ ○
○○○ ○
(CF)
◆
●
20
Fig. 9
(BF)
●
●
●● ●
●
25
ない場合であっても, 有害成分の濃度はもとの焼却
灰の 60% 程度となる. 焼成前の焼却灰で問題となる
有害成分は Ni,Cd および Pb の3元素であった.ロー
タリーキルンを用いた実製造の焼成では,Cd および
Pb は揮発して焼成物から分離されるため,最終製品
中のこれらの濃度はさらに低減すると期待できる.
●
30
35
40
2θ / degree Cu-Kα
45
●
(AF)
50
XRD patterns of calcination fertilizer made
from low P2O5 ash (A), middle P2O5 ash (B)
and high P2O5 ash (C)
(低 P2O5 含有灰(A),中 P2O5 含有灰(B)
および高 P2O5 含有灰(C)から作製した
焼成肥料の XRD パターン)
Table 5 は焼成物の有害成分の分析結果である.
焼成汚泥肥料に含有を許される有害成分の最大量を
十分に下回わることが確認された. 本研究の焼成肥
料化技術は, 焼却灰にカルシウム源を補い焼成する
ことで, りん酸く溶性の高いシリコカーノタイトお
よびけい酸可溶性の高いゲーレナイトへの鉱物生成
反応を利用したものである. したがって, 酸化カル
シウムによる希釈により, 加熱による揮発が起こら
Table 5
3.4 肥料有害成分の環境影響評価
Table 6 は, 汚泥肥料等に含有を許される有害成
分の最大量(基準値)を設定するにあたり, 農林水産
省が根拠とした数値である. 数値および設定手順に
ついては間渕が詳しく解説しているが12), 上段数値
が自然界における通常の濃度, 下段数値が農地に
おける土壌中の重金属濃度の許容限度量(上限値)で
ある. 基準値は「汚泥肥料を100 年間連用しても
農地における土壌中の重金属濃度の上限値を超える
ことがない水準」として定められている.
本研究の結果が示すように, 焼却灰に Ca 源を添
加して 1,250℃ 以上で焼成することにより, 焼却灰
の肥料特性が大きく向上する. しかしながら, 焼却
灰から作製した肥料には自然界のバックグランド値
を上回るレベルで重金属を含んでいることも事実で
あり(Table 5 および Table 6), これらを農用地に
連続して施用した場合の環境影響を定量的に評価し
ておく必要がある.
Harmful element concentration in the fertilizer after calcination
(焼成肥料化物の有害成分濃度)
/ mg/kg
Sample
Cr
Ni
As
Cd
Pb
2.0
<1.0
1.7
Hg
<0.05
<0.05
<0.05
AF
BF
CF
148
86
47
151
107
19
13
<2
14
Regulation
limit*
500
300
50
5
2
100
39
72
30
*regulation limit for calcined sludge fertilizer
Table 6
Upper limit of heavy metal concentration for farm land
(農用地における重金属濃度の許容限度量)
/ mg/kg
Back ground
Upper limit
Cr
Ni
As
Cd
Hg
Pb
26.6
414
18.4
258
6.98
62.8
0.34
2.60
0.29
1.68
17.6
93.0
60
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Table 7
Evaluation of environmental impact by continuous application
(連続施用した場合の環境影響評価)
/ years
Sample
Cr
Ni
As
Cd
AF
BF
CF
2,134
6,690
14,546
1,294
3,326
22,254
3,500
41,450<
7,036
921
3,356<
2,346
Table 7 は, 焼却灰から作製した焼成肥料を何年
間連続して施用するとTable 6 の上限値に到達する
かを, 汚泥肥料等の基準値の設定手順と同様にして
試算した結果である. りん酸質肥料の場合の標準的
な施用量は10aあたりP 2O 5で15kgであるため, 焼成
肥料 AF,BF および CF の施用量はそれぞれ 1 84,101
および 85 kgとした. また, その他の前提条件は,
作土層厚さ 15cm,10aあたりの作土の重量を 150t と
した.
試算の結果, 最も短期間で農地における土壌中の
重金属濃度の上限値に到達したものは, 焼成肥料
AFの場合の Cdで 921 年であった. その他の重金属,
焼成肥料 BF および CF の場合は, 1,000 年を大きく
超えた. したがって,下水汚泥焼却灰から Ca 添加・
焼成法で得られる肥料は, 100 年以上連用しても
問題のない製品であるといえる.
4.結
Hg
22,663<
41,287<
49,059<
Pb
1,576
1,555
4,435
可溶率ともに最大とすることができることが判
明した.
3) 実際の工業生産を考える場合の原料の成分管理
は, Ca/P モル比よりも焼成物の CaO 濃度を指標
とするほうが簡便であり, 焼成物の CaO 濃度が
45% から 50% となるように成分調整することで,
焼却灰の化学組成に関わらずりん酸およびけい
酸の2成分の溶出性に優れた肥料化が達せられ
ることが示された.
4) りん酸く溶性の向上はシリコカーノタイトの生
成, けい酸可溶性の向上はシリコカーノタイト
およびゲーレナイトの生成により発現した.
5) 農用地に連続して施用した場合の環境影響を
定量的に評価した結果, 下水汚泥焼却灰から
Ca添加・焼成法により作製される肥料は, 100年
以上連用しても問題のない製品であることが示
された.
論
異なる下水処理場から発生した化学組成が異なる
3種類の汚泥焼却灰と炭酸カルシウムを用いて,
電気炉により焼成実験をおこない, 得られた焼成物
の肥料特性を評価した. その結果, 得られた知見を
以下に記す.
1) 下水汚泥焼却灰の P2O5 濃度は最高 36.0mass%,
最低 15.6mass %であり, 分流式(一部合流式を含
む)の下水処理場で発生する焼却灰で高く, 合流
式(一部分流式を含む)の下水処理場で発生する
焼却灰で低い傾向があった. 焼却灰の肥料分析
の結果, りん酸く溶率は 42.5∼66.4% の範囲,
けい酸可溶率は 1.8∼14.8%の範囲であった.
2) 下水汚泥焼却灰に炭酸カルシウムを添加, 焼成
して得られる焼成物の鉱物組成, 肥料特性は,
元の焼却灰の化学組成ごとで異なったが, 焼成
物中の CaO 濃度が 50 % となるように成分調整
をおこなうことで, りん酸く溶率およびけい酸
参 考 文 献
1) 松八重一代,久保裕也,大竹久夫,長坂徹也.
廃棄物からの人工リン資源回収. 社会技術研究
論文集. 2008,5,p.106-113.
2) 伊達知見. 返流水からの HAP 造粒法によるリン
除去・回収の技術開発. 下水道協会誌. 2010,
47(573),p.33-37.
3) 島村和彰,黒澤建樹,渡邊昌次郎. 下水処理分野
における晶析技術を利用したりん回収. エバラ
時報. 2010,227,p.3-8.
4) 黒澤建樹,島村和彰,築井良治. 下水からのリン
回収技術. 再生と利用. 2012,36(135),p.110117.
5) 中川 博. 岐阜市における下水汚泥焼却灰からの
リン回収事業. 水環境学会誌. 2011,34(1),
p.16-20.
61
太平洋セメント研究報告(TAIHEIYO CEMENT KENKYU HOKOKU) 第169号(2015):今井, 三浦
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
6) 岩井良博,定塚徹治,小林 剛,亀屋隆志,三宅祐一,
小松貴司,高木禎史,三品文雄. 下水汚泥焼却灰
を原料とした熔成リン酸質肥料製造における各
種成分比と溶融条件の影響. 廃棄物資源循環学
会論文誌. 2009,20(3),p.203-216.
7) 秋山 尭. 下水汚泥の肥料への利用. 季刊肥料.
2008,109,p.110-114.
8) 谷岡信昭,今井敏夫,戸田雅也. 下水処理場にお
けるリン収支の季節変動. 第34回全国都市清掃
研究・事例発表会講演論文集. 2013,p.248-250.
9) 農林水産省農業環境技術研究所編. 肥料分析法
1992年版. 日本肥料検定協会,1992.
10)肥料取締法. 昭和二十五年五月一日法律第百二
十七号.
11)秋山 尭. 鉱さいの肥料への利用. 季刊肥料.
2007,106,p.78-83.
12)間渕弘幸. 下水汚泥肥料中の重金属に係る安全
性 に つ い て の 一 考 察 . 再 生 と 利 用 . 2009,
33(125),p.32-39.