日本国立天文台(NAOJ)、 1 生命の起源を訪ねて ワイガヤ 平成25年5月9日 森永治彦 2 目 次 1.我々はどこから来たか? 定番のゴーギャンから 2.はじめに 生命起源に関する取り組み 3.アリストテレスの自然発生説 4.微生物の発見 5.パスツールの証明 6.オパーリンの化学進化論 7.ユーリー・ミラーの実験 8.奇跡の星 地球 9.宇宙空間における化学進化 10.地球における化学進化 11.生命の誕生 12.生命は5度の絶滅の危機を乗り越えた 13.なぜ地球の生命はすべて「左手型アミノ酸」で出来ているのか 1.我々はどこから来たか? 定番のゴーギャンから 3 「我々はどこから来たのか,我々は何者か,我々はどこへ行くのか」 • 後期印象派の代表する巨匠にして総合主義の創始者ポール・ゴーギャンの画業における集大成的な傑作 『我々はどこから来たのか、我々は何か、我々はどこへ行くのか』。1895年9月から1903年5月まで滞在した、 所謂、第2次タヒチ滞在期に制作された作品の中で最高傑作のひとつとして広く認められる本作に描かれる のは、ゴーギャンが人類最後の楽園と信じていたタヒチに住む現地民の生活やその姿で、本作にはゴーギャ ンがそれまでの画業で培ってきた絵画表現はもとより、画家自身が抱いていた人生観や死生観、独自の世 界観などが顕著に示されている。 ポール・ゴーギャン1848-1903 ボストン美術館収蔵 4 2.はじめに 生命の起源に対する取り組み 生命は、いつ、どこで、いかにして誕生したのか? ○人類は古くは神話において、それを行っていた。また、様々な宗教においても古くからそれは行われ 、現在でも行われている。(すべては混沌の中から)→付録資料に「創世記の神話」 ○古来人々は、生命というのは無生物から「わく」ようにして生じていた、と考えていた。 ○古代ギリシアにおいては、神話とは異なった哲学的な考え方が行われるようになったとされる。「ア ルケー」つまり万物の起源・根源はなにか、という(現在の西洋の科学に通じる面ももつ)考察が行わ れた。それと同様に、哲学者によって、生物の起源に関する考察も行われた。 ○アリストテレスは観察や解剖を行ったが、彼の説は動物は親の体から産まれる以外に物質からも生 じることもあるとし、その見解はその後およそ二千年間も支持されることになった。また彼は世界には 生命の胚種が広がっており、それが物質を組織して生命体を生じさせると考えていた。 ○近代でも自然哲学者らが考察を行った。さらに19世紀になり科学者という職業が誕生すると、この科 学者たちも同様の考察・研究を行い、生命の起源の仕組みを何とかして科学的に説明しようとする試 みが多く行われてきた。 ○現在、科学の領域における仮説の多くは、チャールズ・ダーウィンの進化論を適用することによって 、おそらく最初に単純で原始的な生命が生まれ、より複雑な生命へと変化することが繰り返されたのだ ろうと推察している。 5 現在、地球上の生命の起源に関しては大別すると三つの考え方が 存在する。 ①超自然現象として説明するものであり、一例を挙げると神の行為 によるもの、とする説である。 ②地球上の化学進化の結果と考える説である。 ③地球外に起源があるとする説で、パンスペルミア説と呼ばれる。 ○自然科学者の間では、オパーリンなどによる物質進化を想定した 仮説が受け入れられている。 ○生物が無生物質から発生する過程は、自然、実験の両方で、観察 、再現されていない。また理論的にも、生命の起源に関しては、決定 的な解答は得られていない。 ・1859年ダーウインは「種の起源」を著した。進化論によれば種は 他の種から進化したとすると「生命の起源」が科学の重大問題と して浮上。 ・1861年にパストゥールが自然発生説を否定する最初の論文を発 表。 チャールズ・ロバート・ダーウィン1809年 1882年はイギリスの自然科学者。卓越した 地質学者・生物学者で、種の形成理論を構 築。 全ての生物種が共通の祖先から長い 時間をかけて、彼が自然選択と呼んだプロ セスを通して進化したことを明らかにした。 6 3.アリストテレスの自然発生説 ○アリストテレスは、観察や解剖に基づいて生物の中には親の体からでなく 物質から一挙に発生するものもある、と判断した。自著で「ウナギ・エビなどは 海底の泥から生まれる」と記述した。 ○古代ギリシアにおいては、神話とは異なった考え方が行われるようになり、 哲学が行われるようになったとされる。「アルケー」つまり万物の起源・根源は なにか、という考察が行われ、哲学者によって、生物の起源に関する考察も 行われた。紀元前4世紀のアリストテレスの時代には、すでに自然の観察に よる大量の知識が集積されていた。古代ギリシアでは動物が基本的に親の 体から産まれることも、植物が基本的に種子から生まれることも、知られていた。 ○生命の起源に関する最初の学説はアリストテレスが唱えたものだとされている。紀元前4世紀ころのアリ ストテレスは、様々な動物に関して詳細な観察や解剖をした結果、「生物は親から生まれるものもあるが、 物質から一挙に生ずるものもある」と考え、自著『動物誌』や『動物発生論』において、ミツバチやホタルは 草の露から生じるなどと記述した。現代の科学史では一般にこれを「自然発生説」と呼んでいる。なお、アリ ストテレスは、世界には生命の基となる「生命の胚種」(=一種の種子)が広がっており、この生命の胚種が 物質を組織して生命を形作る、と考えた。これは「胚種説」と呼ばれる。 7 4.微生物の発見 ○発酵に関しての研究は古代から進められてきたが、細菌の発見自体は17世紀で ある。 ○1676年にアントニ・ファン・レーウェンフックによって発見され原生動物と合わせて “animalcules”(微小動物)と呼ばれた。 ○1828年、クリスチャン・ゴットフリート・エーレンベルクは、顕微鏡で観察した微生物 が細い棒状であったため、ギリシア語で小さな杖を意味するβ α κ τ ήρ ι ο ν か ら“Bacterium”と呼んだ。 ○1859年にはルイ・パスツールが、アルコール発酵は細菌(実際は菌類が主)によっ て引き起こされることを示し、さらに発酵が自然発生的な物ではないことを証明した。 ○また、ロベルト・コッホによって細菌培養法の基礎が確立され、炭疽菌、結核菌、 コレラ菌が病原性の細菌によって引き起こされることが証明された。 アントニ・ファン・レーウェン フック1632-1723 レンズ 初期レーウェンフック型の顕微鏡 8 5.パスツールの証明:1860年 紀元前4世紀のアリストテレスの自然発生説の否定 自然発生説とは、「生物が親無しで無生物(物質)から一挙に生まれることがあ る」とする、生命の起源に関する説の1つである。アリストテレスが提唱したとされ ている。近代に至るまでこれを否定する者はおらず、19世紀までの二千年以上 にわたり支持された。 1668年、フランチェスコ・レディの対照実験によって自然発生説を否定する最初 の実験的証明が行なわれた。あくまでウジやハエに関する自然発生だけを否定 したのであり、レディ自身「寄生虫は自然発生する」としていた。 1861年に自然発生説を否定する論文発表 ルイ・パスツール1822-1895 ロベルト・コッホとともに、「近代細菌学の開 祖」とされる。 分子の光学異性体を発見。牛 乳、ワイン、ビールの腐敗を防ぐ低温での殺菌法 (パスチャライゼーション・低温殺菌法とも)を開発。 またワクチンの予防接種という方法を開発し、狂 犬病ワクチン、ニワトリコレラワクチンを発明している。 9 白鳥の首フラスコ実験 ルイ・パスツールがこの実験を行なった理由は、『有機物溶液の変化と微生物の増殖に因果関係があ る』ことを証明するためであった。すなわち、微生物が増殖せず、有機物溶液に変化が見られなければ、 上記の命題を証明できる。パスツールが始めに行なった実験は、 •加熱し密閉した有機物溶液に加熱した空気を綿火薬を通して送りこむと言う実験であった。この実験で は微生物の増殖は見られなかったが、これは綿火薬に微生物がトラップされたことによる。事実、綿火薬 を有機物溶液に入れると微生物の増殖が見られた。 更に、加熱せずに空気を通した上で微生物をトラップする実験を行なうために考え出されたのが有名な 『白鳥の首フラスコ実験』である。 1.フラスコ内に有機物溶液を入れる。 2.フラスコの口を加熱して長く伸ばし、下方に湾曲させた口を作る。 3.フラスコを加熱し、細い口からしばらく蒸気が噴き出すようにする。 4.この白鳥の首フラスコをしばらく放置しても微生物の増殖は見られなかった。 5.このフラスコの首を折る、あるいは無菌の有機物溶液を微生物をトラップさせた首の部分に浸し、それ をフラスコ内に戻すと微生物の増殖がみられる。 これは、非加熱の空気の交換を行なうが、微生物の増殖が見られないと言う点で、極めて説得力ある自 然発生説否定の実験である。 この実験を基にして1861年、ルイ・パスツールは『自然発生説の検討』と言う論文を著した。 10 6.オパーリンの化学進化論 ○化学進化説は、「無機物から有機物が蓄積され、有機物の反応によって生命 が誕生した」とする仮説であり、現在の自然科学ではもっとも広く受け入れられて いるものである。化学進化説を最初に唱えたのはソ連の科学者オパーリンである 。 ○パスツール以降、1922年にオパーリンが『地球上における生命の起源』と題す る本を出版するまで、生命の起源に関する考察や実験が行われたことはなかった 。この本は生命の起源に関する科学的考察のさきがけとなった。 ○彼の説は『化学進化説』と呼ばれる他、『スープ説』、『コアセルベート説』等と呼 ばれている。 オパーリンの生命の起源に関する考察は以下の要点にまとめられる。 原始地球においては,まず無機物からメタンなどの簡単な有機化合物が生成し, しだいにタンパク質など複雑な有機物となる.原始海洋中に溶けていたタンパク質 はコアセルヴェートを形成し,やがて外界と独立して,周囲から物質を取り込んで 反応したり,物質代謝を行うようになり,生命としての機能をもつようになったとい う仮説。 アレクサンドル・イヴァノ ヴィッチ・オパーリン 1894年-1980年ソ連の生化学 者。化学進化説の提唱者 11 7.ユーリー・ミラーの実験 • ユーリー-ミラーの実験の概念図 • オパーリンの唱えた『化学進化説』ではその第一段階として『窒素誘導体の 形成』が行なわれると仮説していた。それを実験的に検証したのが1953年、 シカゴ大学ハロルド・ユーリーの研究室に属していたスタンリー・ミラーの行 なった実験である。『ユーリー-ミラーの実験』として知られている。 • ユーリー-ミラーの実験の趣旨は以下の通りである。 実験当時、原始地球の大気組成と考えられていたメタン、水素、アンモニアを 完全に無菌化したガラスチューブに入れる。 それらのガスを、水を熱した水蒸 気でガラスチューブ内を循環させる。 水蒸気とガスが混合している部分で火花放電(6万ボルト)を行う(つまり、雷 が有機化の反応に関係していたと考えている)。 1週間後、ガラスチューブ内の水中にアミノ酸が生じていた。 この1週間の間に、アルデヒドや青酸などが発生し、アミノ酸の生成に寄与したと 考えられている。ユーリー・ミラーの実験で用いられた大気組成は、当時考えら れたものであり、現在考えられているものとは異なっている。 • ユーリー-ミラーの実験の概念図 ハロルド・ユーリー 1893-1981 重水素の発見でノー ベル賞 スタンリー・ロイド・ミラー 1930-2007 12 地球誕生から大気の主な組成 出所:田村元秀(国立天文台) 13 8.奇跡の星 地球 (1)生命を生み出す為には「液体の水」が存在。 バビタブルゾーン「生命居住可能領域」 出所:宇宙ワクワク大図鑑 地球の位置が今よりも数%太陽に近ければ、太陽から受け取る熱が増えて海が蒸発し、逆に今より 10%以上太陽から遠ければ海が凍りついてしまう。 もう一つ重要なのが、惑星のサイズ。 例えば火星はハビタブルゾーンの外側ぎりぎりのところにいるが、地球の10分の1の重さしかないため、 火星の重力では大気を保持できず、大気が非常に希薄。気圧が低いほど水は低温で気体に変わるので、 かつて存在したとされる火星の海は蒸発してしまった。 出所:NASA(ジャイアント・インパクト説想像図 (2)ジャイアント・インパクトによる月の誕生 14 地球と原始惑星「テイア」が地球形成後5,000万年に衝突。 テイアを形成していた鉄が地球内部に流れ込み、地球の核 と融合した。大量の鉄を取り込んだ地球の核が磁気シールド を形成。地球表面が太陽風から守られた。 更に水は水素原子と酸素原子に分離しなくなった。 月により地球の地軸の傾きを安定させている。 巨大な月をもっているせいだとされている。 月の直径は地球の直径の約4分の1もあり、 太陽系の他の惑星が持つ衛星に比べて非常に大きい。 このため、月は巨大な潮汐力を地球におよぼし、 それが地軸の傾きを安定化させていると考えられている。 太陽の表面は巨大な爆発を繰り返し、コロナを吹き出している。特に巨大な爆発は、太 陽の引力を振り切って超高速で大量の粒子を吹き出す。これが太陽風と呼ばれる。 太陽風は約100万度の高温で、電子と陽子が分離してイオン化したプラズマ粒子のガスだ。 地球付近に到達した状態では、太陽風は温度が約10万度、速度が秒速450万キロで、プ ラズマ粒子数が1センチ立方あたり5~10個となっている。 太陽には地球と同様に固有の磁場があり、吹き出す太陽風はこの磁場を引っぱり出しな がら、地球にまで届く。地球がもつ独自の磁場圏は太陽の磁力線を跳ね返しているので、 太陽の磁力線の中を進む太陽風プラズマは直接には地球に侵入してこれない。 15 (3)地球を小天体から守ってくれる木星の存在 地球に後期重爆撃期をもたらしたのも、木星であると考えられている。 太陽系の誕生当初、木星は現在よりも太陽から遠い場所にあったとされている。一方、土星以遠の 惑星は数億年かけて現在の位置に移動していき、逆に木星はやや内側の軌道に移った。これを惑星 の大移動とよぶ。 木星が内側の軌道に移った結果、小惑星も内側に押されて移動する。その際に、小惑星帯にあった 多数の微惑星の軌道が乱れて、地球や月に次々と降り注いだ。これが後期重爆撃期だったと考えら れている。 木星という巨大ガス惑星が存在しなかったら、地球 には1000倍もの小惑星や彗星が衝突していたと予 想されている。木星は巨大な重力で、地球に向かう 進路をとる楕円軌道の小天体を、太陽系外に弾き 飛ばしたり、円に近い軌道を取らせたりして、地球へ の衝突を防いでいる。また時には自らが盾にもなっ てくれる。 (太陽系の惑星と組成による分類) 16 (4)巨大な海をもたらした後期重爆撃期 41億年前ごろから小天体の落下が再び激しくなった。38億年前ごろまで続いたとされる、小天体 の落下が集中したこの時期を後期重爆撃期という。この結果、一旦できた固い地表(地殻)が破 壊され、再びマグマ化する。これまでに見つかっている地球の最古の岩石は38億年前のもので、 それ以前に形成されたものが見つかっていないのは、この衝突が原因だと考えられている。 小天体には氷が多く含まれていて、この氷が最終的に雨となって地球に降り注ぎ、海(水の海) ができたと考えられている。 出所:ナショナルジオグラフィックニュース 17 9.宇宙空間における化学進化 生命の起源について多くの研究者が支持している説は、「単純な物質が化学反応によって次第に複 雑な物質へと進化していき、ついに生命になった」という化学進化説です。 その場所は原始大気圏、原始海洋、深海熱水域、高温地殻内など、化学進化を起こすためのエネル ギーも、宇宙線や紫外線、隕石の衝突エネルギー、熱水など諸説ありますが、「原始地球にあった生 命の材料からつくられた」とする点は共通しています。 ①パンスペルミア説 「地球の生命は、地球外で合成された生命の材料(有機物)が地球に運ばれてきて、それを使ってつ くられた」パンスペルミア説が注目されているのには理由があり、その一つが、地球の生命が非常に 短期間で誕生したことが分かってきたこと、もう一つが「生命が左手型のアミノ酸だけを使うのはなぜ か」という謎に、この説が答えを出してくれるかもしれないという期待があるためです。 ②隕石から宇宙起源の有機物が発見される *1969年9月オーストラリアのマーチンソン村に降り注いだ隕石(マーチンソン隕石と呼ばれる)から、 多くのアミノ酸が検出されました。これらが宇宙起源である証拠は、グリシン・セリンなど生体に多く含 まれるものに加え、α -アミノ酪酸など地球環境にほとんど存在しないものが数十種類も検出された こと、そして決め手になったのは、地球上にはほとんど存在しない「右手型」アミノ酸がほぼ等量含ま れていたことです。 18 *同年に、南極で見つかった他の炭素質コンドライト(隕石の種類 の一つで、炭素を多く含んだ黒っぽい色の隕石のこと)から抽出され たアミノ酸も、隕石固有のものと確認されました。 *2000年1月、カナダのタギッシュ湖に落下した隕石は炭素質コンド ライトであるが、アミノ酸の含有量は比較的少ない。 さらに同位体組成から、この有機物が絶対温度10-20度(約マイナ ス260℃)という極めて低温の環境で生成したことが分かりました。 太陽系ができる以前、かなりの低温環境ですでに隕石有機物のも ととなるものが生成していたことを示している。 *2011年8月、NASAなどのチームは、南極で見つかった隕石から DNAを構成する四つの分子のうち、アデニンとグアニンが見つかり、 これらが地球外でできたものであると発表しました。 アデニンとグアニンが見つかった南 極の隕石。NASAのWebSite ③隕石中の有機物はどのようにしてできるか? 19 宇宙空間はほぼ真空だが、周りより物質の密度が高い場所があり、これを星雲という。星雲には散光星 雲と暗黒星雲(分子雲)があり、暗黒星雲の一部で、重力によりさらに物質が集まると、原始太陽系星雲 になり、原始太陽や小天体(惑星や隕石)ができます。 暗黒星雲に最も多いのは水素分子で、次が一酸化炭素だが、酢酸・エタノール、13原子からなるシアノデ カペンタニンなど大きな分子も見つかっています。暗黒星雲の中心部には星の光が入らず、絶対温度10 -20度という極低温に保たれているため、分子の多くは塵のまわりに凍り付いている。これをアイスマント ルと呼ぶ。アイスマントルの主成分は水、一酸化炭素、メタノール、アンモニア、ホルムアルデヒドなど。暗 黒星雲には星の光は入らないが、エネルギーの高い宇宙線なら入っていく。宇宙線が物質に当ると紫外 線も生じる。エネルギーの高い宇宙線や紫外線がアイスマントルに当れば、さまざま化学反応を起こして 有機物が生成する可能性が高い。(↓下図。小林憲正著『アストロバイオロジー』より。) 20 火星での生命探査計画 NASAの火星探査機キュリオシティ キュリオシティが火星のゲールクレーターに降り立って、この間、火星 の周回衛星データから生命が生存できる可能性があると判断された 地域を、探査機は調査し続けてきた。 そしてキュリオシティは、この地域に長い間水が存在し、太古の川底 であったことを示す証拠を発見。最近の調査では「ジョン・クライン」と 名付けられた岩盤に穴を掘り、数十億年前のゲールクレーターの環 境を物語る粉状サンプルを採取していた。 2,013年3月19日 火星に微生物が存在した可能性:キュリオシ ティの新発見:キュリオシティの分析の結果、岩の成分の20〜 30%がスメクタイト粘土という鉱物であることが明らかになった。 スメクタイト粘土は、塩分濃度が中程度の水のある場所で生成さ れる鉱物だ。火星の岩から回収されたサンプル。灰色がかった緑 の物質は酸化がそれほど進んでおらず、内部に生命が存在した 証拠を残している可能性もある。 21 ミロス計画 日本における火星生命探査計画「ミロス計画」 MELOS計画はMars Exploration with Lander-Orbiter Synergy 周回機と着陸機からなる日本単独の無人探査計画。 2020年と2024年の打ち上げを目指している。 火星でのメタン酸化菌の探査 ExoMars Rover計画 2016年にESA(ヨーロッパ宇宙機関)とNASAが共同で打ち上 げ、抗体を使って生体分子を検出 1965年、マリナー4号によって、火星には宇宙線や太陽光から生物を守る磁気圏が存在しないことが発見され、1990年代後半のマーズ・ グローバル・サーベイヤーによる観測で確認された[。磁気圏がないことにより、数十億年に渡って太陽風が直接火星の大気に吹き付けて いたと考えられている。 2007年、宇宙線によるデオキシリボ核酸やリボ核酸の損傷により、火星の地下7.5mまでには生物が存在しえないことが計算された[。従っ て、もし火星に生命がいるとしても、今まで研究されなかった地底にいるということが確定した[。 22 「はやぶさ」による小惑星探査 はやぶさは、2003年5月9日に宇宙科学研究所(ISAS)が打ち上げた 小惑星探査機で、[ひてん」[はるか]に続くMUSESシリーズ3番目の工 学実験機である。 イオンエンジンの実証試験を行いながら2005年夏にアポロ群の小惑 星 (25143) イトカワに到達し、その表面を詳しく観測してサンプル 採集を試みた後、2010年6月13日60億kmの旅を終え、地球に大気圏 再突入した。地球重力圏外にある天体の固体表面に着陸してのサン プルリターンは、世界初である。 これまで人類がサンプルを持ち帰った天体は月だけですが、月は変 成してしまったため、太陽系初期のころの物質について知ることが できません。小惑星は惑星が誕生するころの記録を比較的よくとど めている化石のような天体で、この小惑星からサンプルを持ち帰る 技術(サンプル・リターン)が確立されれば、「惑星を作るもとに なった材料がどんなものか」「惑星が誕生するころの太陽系星雲内 の様子はどうか」についての手がかりが得られる。 はやぶさ 23 「はやぶさ2」による小惑星探査 「はやぶさ2」は、「はやぶさ」と同様に、小惑星からの物質を地球に 持ち帰るサンプルリターン・ミッションです。ただし、対象の小惑星 が異なります。「はやぶさ」が探査したイトカワはS型と呼ばれるタイプ に分類されるもので、岩石質の小惑星でした。「はやぶさ2」が目指 すのはC型と呼ばれる小惑星です。C型も岩石質ですが、有機物 や水をより多く含んだものと考えられています。太陽系空間にある 有機物や水がどのようなものなのか、そして地球上の生命や海の 水との関係はどうなっているのか、非常に面白いテーマに挑戦しま す。また、技術的には「はやぶさ」で挑戦した技術をより確実なもの に仕上げていくとともに、新たな技術にも挑戦します。 「はやぶさ2」の目的地として現在候補となっている天体は、1999 JU3という仮符号が付けられた小惑星です。 打上は2014年を予定しています。小惑星に到着するのは2018年 半ばで、1年半ほど小惑星に滞在し、2019年末に小惑星から出発、 そして2020年末に地球帰還の予定です。 24 宇宙空間での有機物生成 アルマ望遠鏡 アルマ望遠鏡は、パラボラアンテナ66台を組み合わせる干渉計方式の巨大電 波望遠鏡です。直径12メートルのアンテナを50台組み合わせるアンテナ群と、 直径12メートルのアンテナ4台と直径7メートルアンテナ12台からなる「アタカマ コンパクトアレイ (ACA)」で構成されています。 アンテナは全て移動可能なタイプです。アンテナを動かして、それらの間隔を最 大18.5キロメートルまで広げることで、直径18.5キロメートルの電波望遠鏡に相 当する空間分解能(=視力)を得ることができ、ミリ波・サブミリ波領域では世界 最高の感度と分解能を備えた望遠鏡となります。 2002年から建設が始まり、2012年度から本格運用を開始する予定です。 略称の「アルマ(ALMA)」は、チリの公用語となっているスペイン語で「たましい」 を意味します。 宇宙空間にある塵やガスはとても冷たく(摂氏マイナス260度にも達する)、光や 近赤外線を放射しないため、その姿を光の望遠鏡で見ることはできません。し かし、冷たい塵やガスはミリ波やサブミリ波を放射するため、電波の望遠鏡で 暗黒の宇宙の姿を見ることができるのです。 今までは、技術的な困難と空気中の水蒸気の吸収により、サブミリ波での本格 的な観測は進んでいませんでしたが、アルマ望遠鏡の建設でそれが可能にな ります。 25 10.地球における化学進化 1953年のミラーの実験以来、多くのモデル実験を通じて、少しずつ化学進化過程が明らかになってきてい る。(原始大気にはアンモニアは多量に存在せず、ミラー型の化学進化は可能性が低い (1)有機分子は隕石の海洋爆撃で生成 新しいメカニズムを提唱したのが東北大学と物質・材料研究機構のグループで、原始大気および原始海洋に 隕石が衝突した際、その衝突エネルギーが窒素からアンモニアを生成し、さらにアンモニアが溶け込んでいた 原始海洋に隕石が衝突すると、アミノ酸を含む多種多様な有機物が生成されることを明らかにしました。 初期地球隕石衝突モデル図 出所:東北大学、物質・材料研究機構 出所:小林憲正「アストロバイオロジー」 26 (2)地球表面 アミノ酸が重合してポリペプチドになるのは、水を取り出して分子と分子をくっつける脱水 縮合という化学反応だが、通常の水の中では起こりにくい反応であるゆえ、乾燥と湿潤を繰り返す「干潟」 も候補地として挙げられている。 原始地球表層環境は、40億年前頃はまだオゾン層も地球磁場によるバンアレン帯(放射能が発生する地 球上空の大気圏の境界帯)も形成されていないので、宇宙線や紫外線が直接降り注ぐ環境であり、表層 で生成された生体高分子は、速やかに水や地殻の中に運ばれる方が分解されなくてよいだろう。 また、まだ地球から近い距離にあった月の潮汐が巨大な潮間帯を形成して、干上がっているときに重合 反応を進め、潮が満ちてきたら海洋に溶かし込む役割を果たしていたのかもしれない。 (3)深海熱水活動域 27 深海熱水活動域とは、40億年前の海底で起きた中央海嶺拡大軸や 沈み込み帯での、300℃近い高温熱水活動と海水との混合領域、あ るいは拡大軸よりちょっと離れた拡大軸翼部と呼ばれる、少し温度の 低い100~150℃程度の低温熱水活動とその周辺を含む。 これら熱水活動域での化学進化の研究は多く、多様な有機物が高温、 低温の熱水活動条件で生成されることが知られている。 *長岡科学技術大学のグループは、高温での熱水反応と熱水噴出 に伴う低温海水による冷却を組み合わせたフローリアクターを用いて、 アミノ酸を10個以上重合させたり、熱水によって生成された炭化水素 から作られる細胞膜状の構造物での生体高分子重合反応など、多く の成果を挙げている。 海底の熱水噴出孔 出所:海洋研究開発機構 *東北大学と物質・材料研究機構のグループは、引き続いて高温高圧条件下でアミノ酸の重合実験を行い、 タンパク質の元となるペプチドを作り出したが、より高圧で、より高濃度のアンモニアの存在が重要であること を明らかにし、これら物質の生成が原始地球の海底地下で起きていたことを示唆している。 28 深海熱水活動域で特徴的なチムニー構造物や硫化 物構造物、炭酸塩構造物は、条件が揃うと極めて多 孔質な構造を形成するが、その孔こそ「原始細胞のい れもの」になったと考える説や、 その孔の中の小さな熱対流が有機物の濃縮に極めて 有効に働き、生体高分子の重合や核酸の複製におい て生命機能の肩代わりをしたという説など、他の原始 地球のいかなる研究よりも、先行している。 深海熱水活動域は、さまざまな場所でできた有機物 などが一堂に会する、まさに化学進化過程の総決算 の場所に成りうる場であり、地球生命が生まれた最も 可能性の高い場所である。 隕石衝突によるアンモニア生成および有機物生成の仮説図 出所:東北大学、物質・材料研究機構 29 しんかい6500による熱水噴出孔の探査 出所:海洋研究開発機構 生物の進化を解明する 深海という未知の世界の探査は、これまで多様で独自性に富んだ生物群や化学合成生態系の存在 を明らかにしてきました。化学合成生態系とは、太陽エネルギーにほとんど依存せず、地球内部 から湧き出す湧水に含まれる硫化水素やメタンをエネルギー源とする化学合成細菌が作る有機物 に依存する生態系です。これら深海の生態を調べることで、生物の起原や進化の過程を解明でき ると期待されています。 熱・物質循環を解明する 地球内部の動きをとらえる 30 11.生命の誕生 (1)生命の定義 1.代謝:外界から物質やエネルギーを取り込んで、化学 反応により新たな物質やエネルギーを生み出す。 2.自己複製:カエルの子はカエル。大腸菌は分裂して二 つの同じ大腸菌になる。このように、生物は同じ種の生物 を生み出す。 3.外界との境界:細胞を構成単位とする。細胞は細胞膜 に囲まれ、外界とはっきり区分されている。 4.進化(変異):自己複製と矛盾するが、重要な特性。 もし生物が全く同じ子孫を作り続けると環境の変化につい ていけない。地球生物は安定性が完全でないDNAを遺伝 物質に用いているため、さまざまな変異を起こす。 31 (2)地球の形成と生物の進化 32 (3)生命は意外に簡単に誕生した 出所:山岸明彦(東京薬科大学) (4)仮想生命:プロジェノート 33 リボゾームRNAを使って全生物の系統樹を示したカール・ウーズはプロジェノートProgenoteの概念を提案。 出所:瀧澤美奈子「アストロバイオロジーとはなにか」 34 (5)仮想生命:プロテイノイド 生命の定義の「境界」は、アミノ酸を加熱すると「プロテイノイド」ができます。水に溶かす と球状の構造(ミクロスフェア)を作る。このプロテイノイドは化学反応の触媒作用を持って いる。(細胞に似たようなものが出来たのではないか。) 出所:山岸昭彦 35 (6)仮想生命:がらくたワールド 出所:アストロバイオロジー宇宙が語る生命の起源 小林憲正 36 (7)仮想生命:パンスペルミア説 スヴァンテ・アレニウスは「生命は宇宙に広くあまねく存在しており、地球の 生命の起源は地球ではなく、他の天体で発生した微生物の芽胞が地球に 到達し、そこから地球生命の進化が始まった」という説を主張。(パン=汎、 スペルミア=生命の胚種) この説は生命が宇宙空間を旅するうちに大量の紫外線や宇宙線を浴び死 滅することを考慮していないので、指示されていない。 一方アミノ酸や核酸の有機物が宇宙からやってきたという広い意味でのパ ンスペルミア説は受け入れられている。 スヴァンテ・アレニウス1859年-1927年 スウェーデン 物理化学の創始者の1人。 1903年電解質の解離理論でノーベル化学賞。 2011年、日本の海洋研究開発機構で、大腸菌など、5種類の細菌を超遠心機にかけ、超重力下での生物 への影響を調べる実験が行われた。その結果、5種とも数千から数万Gの重力の下でも正常に増殖するこ とが確かめられ、中には40万3627Gもの重力下でも生育した種もあった。地球に落下する隕石の加速度 は最大30万Gに達すると予測されており、この実験は、パンスペルミア仮説の証明とはならないが、このよ うな環境を生き延びる可能性を示している。 (8)RNAワールドの誕生 37 生命のセントラルドグマ:生命はすべてDNAとRNAとタ ンパク質を中心に作られる。 地球上の最初の生命は、DNAとRNAとタンパク質のい ずれかの分子から始まった。(ニワトリと卵) 絶対的な概念 カール・ウーズのRNAワールドの仮説(1977年) 地球最初の生命はRNA生物。すでに存在していたアミ ノ酸をつなげるために「翻訳」という機構を発明。 更にRNA自身が「複製」の機能を持って自己複製。 より複雑なタンパク質が合成されると、遺伝子保存機能 を持つDNAがRNAからつくられた。 そうなるとRNAの複製機能は必要でなくなり、「転 写」の過程を受け持つようになった。 カール・リチャード・ウーズ 1928-2012 遺伝子による分類をは じめ古細菌の位置づけ を明確化 (9)プロテインワールド仮説 38 プロテインワールド仮説は、「タンパク質がまずはじめに存在 し、その後タンパク質の有する情報がRNAおよびDNAに伝え られた」とする仮説である。RNAワールド仮説と双璧をなす生 命の起源に関する仮説。 ○タンパク質は生命反応のあらゆる触媒をになっており、代謝系を有する生命には必須である。 ○20種類のアミノ酸から構成されており、多様性に富んでいる ○セントラルドグマのあらゆる反応に酵素の触媒は関与している ○ユーリー-ミラーの実験で生じた、4種のアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン)を重合させたペ プチドは触媒活性を有している(GADV仮説)。 ○さらにそれらのアミノ酸の対応コドンはいずれもGからはじまるものであり、アミノ酸配列からDNA、RNAに情報 が伝達された痕跡であると考えられる(GNC仮説)。 ○GADV仮説は奈良女子大の池原教授によって提唱されたプロテインワールド仮説を支持する新説である。この 説により、プロテインワールド仮説がより重みを増したと言える。しかしながらプロテインワールド仮説にも以下の反 証があげられる。 ・ペプチドには自己複製能力が存在しない ・タンパク質もRNAほどではないが、分子構造が不安定である 39 (10)生命の起源は好熱菌: 生物の系統図の基部にはたくさんの好熱菌が含まれている 40 (11)水素資化性メタン生成菌の誕生(化学エネルギー生物の出現) 最初の生命のエネルギー代謝は 発酵と推測 原始発酵反応でエネルギーを得る従 属栄養生物(ヘテロトロフ)が誕生す るも、ヘテロトロフは有機物を使い尽く して絶滅(一発屋生命) 出所:瀧澤美奈子「アストロバイオロジーとはなにか」 41 参考資料:地球に存在するメタンの供給源 1.マグマから供給されるメタン:二酸化炭素と水素が高温の化学反応 2.フィッシャー・トロプッシュ型反応メタン:200-300℃で触媒の存在下 3.熱分解起源メタン:有機物が変性を受けてメタン発生 石油より高温でメタン 4.微生物が作るメタン:①古細菌が水素と二酸化炭素から ②古細菌が酢酸から ③古細菌がメチル化合物(メタノール等)から メタン菌によって作られるメタンは炭素同位体が軽くなる(大気のCO2における 13Cと12Cの比率が12Cが増えている) メタンハイドレート:硫酸塩の枯渇などにより硫酸還元菌の活動が終わると、メタン生成菌の活動が活発になり、 メタンと炭酸水素イオンが生成される。ここでは地層深部の圧密作用を受けメタンや炭酸水素イオンを含む水 が上層へ移動し、一定の条件下で水分子のかご構造にメタンが入り込みメタンハイドレートとして蓄積される。 メタンはメタンハイドレートの体積の20 %に過ぎず、他の80 %は水である。分子式は CH4•5.75H2O と表され、密 度は0.91 g/cm3である。火をつけると燃えるために「燃える氷」と言われることもある。 42 12.生命は5度の絶滅の危機を乗り越えた シアノバクテリアの出現→大酸化イベント(24-22億年前) それまで多くの微生物が暗反応によって栄養を獲得。(暗反応の エネルギーは硫化水素H2S) シアノバクテリアは光エネルギーを使い二酸化炭素CO2から炭水化物 CmH2nOnを合成。酸素O2を排出。 藍色細菌ともいう。かつては藍藻と呼ばれていたが、近年の研究により、細菌 類と同じ原核生物であることが明らかになった。クロロフィルa、β (ベータ)‐カロ テン、フィコビリンなどの色素を含み、光合成を行う。湿地や水たまり、あるい は水槽の縁などに発生して、緑色のねばねばした膜状になる。最古の生物の 1つで、35億年前の地層からシアノバクテリアに似た化石が発見されている。 出所:田村元秀(国立天文台) 酸素O2がメタンガスCH4を酸化して二酸化炭素CO2になり、温室効果は20分の1に低減 第一回全球凍結(スノーボールアース) 22億年前 スノーボールアース脱出 43 火山活動に由来する二酸化炭素などの温室効果ガスの蓄積を挙げている。 現在の地球に見られる液体の海は大気中の二酸化炭素を吸収するため、大気中の温暖化ガスの濃 度はある程度に抑えられ温室効果による温度上昇も抑制される。しかし、全球凍結状態では海が凍 り付いてしまうことから、二酸化炭素をほとんど吸収せず、火山から放出された二酸化炭素は海に吸 収されることなく大気中の二酸化炭素が増えていく。これが大きな温室効果を発揮して大気の温度を 上げ、氷床を溶かすに至り全球凍結状態を脱出したと考えられている。 真核生物と多細胞生物の登場 →それまでは原核生物(真正細菌と古細菌) 進化遺伝学的な研究により、光合成能力をもつシアノ バクテリアが、他の細菌と共生的に合体することによ って真核生物が生じ、シアノバクテリアは葉緑体とな ったと考えられている。 44 酸素濃度の高まりがなければ多細胞生物は生まれなかった 多細胞生物の誕生は12億年前 ○酸素に弱い生物が酸素に強い生物にくっつく事で多細胞化。糊:コラーゲンとリグニン ○多細胞生物の登場で細胞は分業を始めた→生殖細胞と体細胞 海は単細胞生物や小さな多細胞生物で濁っていたが、大型の生物の登場でそれらがエサとなり、 海が澄んできた。 →水中の酸素が増加 →海でさまざまの新種の植物が生まれた。 海が澄んできた→目の誕生 目の誕生→進化の起爆剤 カンブリア大爆発〔5億4200万年前) 45 カンブリアの生命の大爆発以降 5回の大量絶滅「ビックファイブ」 ①4億4370万年前 オルドビズ紀末に生物種の85%が絶滅 *超新星爆発による宇宙からの大量のガンマ線? その後植物の上陸、風化の促進、Mg供給増 ②3億5920万年前 デボン紀末に生物種の80%が絶滅 ③2億5100万年前 ベルム紀末に生物種の95%が絶滅 *海岸線の後退による食物連鎖バランスの崩壊 *マントルの上昇流であるスーパーブルームによる火山活動 *海洋無酸素事変(温暖化,ミネラル供給増による植物プランクトン増 加→ヘドロ化し石油となる ④1億9960万年前 三畳紀末に巨大昆虫絶滅 *巨大隕石の衝突、*大規模な火山活動、*陸上の酸素濃度 低下→肺呼吸をする爬虫類、哺乳類が登場→ ⑤6550万年前 白亜紀末に繁栄していた恐竜が絶滅 *巨大隕石の衝突、 出所:長沼 毅 46 12.なぜ地球の生命はすべて「左手型アミノ酸」で出来ているのか ホモキラリティー問題 地球生物は基本的にL型アミノ酸でタンパク質を作り上げ生命を維持している。アミノ酸以外に糖にもD 型、L型の立体異性体があり、ほぼD型の糖を使いDNAやRNAの核酸を作る。 科学者の間では生命ホモキラリティーの謎と呼ばれ、19世紀後半にルイ・パスツールが発見してから150年 以上も続く未解決の問題とされている。 ①宇宙に存在する円偏光光源(円偏光がD-アミノ酸を光分解反応で分解し、L-アミノ酸が優勢に) ②左利きアミノ酸を含む隕石の落下 ③素粒子レベルの弱い非対称力(CP対称性の破れ) ④光速で飛び出す左回転する電子、地球の自転と遠心力の結果生じるコリオリ力(北半球は見かけ上反時 計回りの運動に、南半球では時計回りの運動) ⑤生命の海での攪拌説 (かき混ぜる向きで分子の利き手を制御) ⑥全くの偶然 など諸説がある。 参考資料・文献 47 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 地球外生命 9の論点 存在可能性を最新研究から考える 立花隆/佐藤勝彦ほか 著 ㈱講談社 アストロバイオロジー 宇宙が語る〈生命の起源〉 小林憲正 著 ㈱岩波書店 図書館 宇宙・生命・ウイルスの設計者たち アントニー・アヴネル 著 中央アート出版社 図書館 人類の進化 試練と淘汰の道のり 植原和郎 著 ㈱講談社 図書館 生命は宇宙のどこで生まれたのか 福江 翼 著 祥伝社 宇宙137億年のなかの地球史 川上紳一 著 ㈱PHP研究所 図書館 地球外生命を求めて マーク・カウフマン 著 ㈱デスカヴァー・トゥエンティワン 図書館 137億年の物語(宇宙が始まってから今日までの全歴史) クリストファー・ロイド ㈱文藝春秋 ミトコンドリアが進化を決めた ニック・レーン ㈱みすず書房 図書館 ミトコンドリアはどこからきたか 生命40億年を遡る 黒岩常祥 日本放送出版協会 図書館 生命とは何だろう? 長沼 毅 ㈱集英社 地球・生命の大進化 46億年の物語 -生命は5回消えた?! 田近英一監修 ㈱新星出版社 宇宙人としての生き方-アストロバイオロジーへの招待松井孝典 ㈱岩波書店 生命はなぜ生まれたか-地球生物の起源の謎に迫る高井 研 ㈱幻冬舎 アストロバイオロジーとはなにか(宇宙に生命の起源と地球外生命体を求める)瀧澤美奈子 ソフトバンクC㈱ ミトコンドリアの新常識 太田成男編 NHK出版 なぜ地球だけに陸と海があるのか-地球進化の謎に迫る 巽 好幸 ㈱岩波書店 図書館 凍った地球-スノーボールアースと生命進化の物語 田近英一 ㈱新潮社 図書館 生物進化を考える 木村資生 ㈱岩波書店 図書館:神戸中央図書館蔵書 48 ご清聴 感謝します。 完 付録資料:「創造神話」と「創世神話」(1) 49 日本神話 ○日本神話においても、始原の神々とともに天地の創生が語られており、イザナギとイザナミという二柱の兄妹神が 結婚し、主な島々や神々たちを生みもうけたという。 ○『古事記』によれば、大八島は次のように生まれた。伊邪那岐(イザナギ)・伊邪那美(イザナミ)の二柱の神は、別天 津神(ことあまつがみ)たちに漂っていた大地を完成させるよう命じられる。別天津神たちは天沼矛(あめのぬぼこ)を二 神に与えた。伊邪那岐・伊邪那美は天浮橋(あめのうきはし)に立ち、天沼矛で渾沌とした大地をかき混ぜる。このとき、 矛から滴り落ちたものが積もって淤能碁呂島(おのごろじま)となった。 島産み ここからこの二神は、大八島を構成する島々を生み出していった。 淡道之穂之狭別島(あはぢのほのさわけのしま):淡路島 伊予之二名島(いよのふたなのしま):四国 胴体が1つで、顔が4つある。顔のそれぞれの名は以下の通り。 愛比売 (えひめ):伊予国。飯依比古(いひよりひこ):讃岐国。大宜都比売(おほげつひめ):阿波国(後に食物神としても登 場する)。建依別(たけよりわけ):土佐国 隠伎之三子島(おきのみつごのしま):隠岐島 別名は天之忍許呂別(あめのおしころわけ) 筑紫島(つくしのしま):九州 胴体が1つで、顔が4つある。顔のそれぞれの名は以下の通り。 白日別(しらひわけ):筑紫国。豊日別(とよひわけ):豊国 じひねわけ):肥国 建日別(たけひわけ):熊曽国 建日向日豊久士比泥別(たけひむかひとよ 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (2) 50 伊伎島(いきのしま):壱岐島 別名は天比登都柱(あめひとつばしら) 津島(つしま):対馬 別名は天之狭手依比売(あめのさでよりひめ) 佐度島(さどのしま):佐渡島 大倭豊秋津島(おほやまととよあきつしま):本州 別名は天御虚空豊秋津根別(あまつみそらとよあきつねわけ) 以上の八島が最初に生成されたため、日本を大八島国(おおやしまのくに)という。二神は続けて6島を産む。 吉備児島(きびのこじま):児島半島 別名は建日方別(たけひかたわけ) 小豆島(あづきじま):小豆島 別名は大野手比売(おほのでひめ) 大島(おほしま):周防大島 別名は大多麻流別(おほたまるわけ) 女島(ひめじま):姫島 別名は天一根(あめひとつね) 知訶島(ちかのしま):五島列島 別名は天之忍男(あめのおしを) 両児島(ふたごのしま):男女群島 別名は天両屋(あめふたや) 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (3) 51 中国神話 天地開闢 (中国神話) ○中国神話における天地開闢(てんちかいびゃく)は、史記にも記載がなくその初めての記述は呉の時代(3世紀)に 成立した神話集『三五歴記』にある。盤古開天闢地(ばんこかいてんびゃくち)、盤古開天(ばんこかいてん)とも。 ○天地がその姿かたちをなす前、全ては卵の中身のようにドロドロで、混沌としていた(『太上妙始経』ではこの状 態を仮に「道(タオ)」と呼称し、万物の根源(神格化したものを元始天尊)とする)。 ○その中に、天地開闢の主人公となる盤古が生まれた。 ○この盤古誕生をきっかけとして天地が分かれ始めたが、天は1日に1丈ずつ高さを増し、地も同じように厚くなっ ていった(従って、中国神話では、天の高さと地の厚さの長さは同じ)。 ○その境にいた盤古も姿を1日9度も変えながら1丈ずつ成長していった。そして1万8千年の時が過ぎ、盤古も背 丈が9万里の大巨人となり、計り知れない時が経った末に死んだ。 ○盤古が死ぬと、その死体の頭は五岳(東岳泰山を筆頭とした北岳恒山、南岳衡山、西岳華山、中岳嵩山の総 称)に、その左目は太陽に、その右目は月に、その血液は海に、その毛髪は草木に、その涙が川に、その呼気が 風に、その声が雷になった。 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (4) 52 インド神話 乳海攪拌(にゅうかいかくはん)は、ヒンドゥー教における天地創造神話。ドゥルヴァーサは厳しい修行を経て偉大 なリシ(賢者)となった。彼は非常に短気で怒りっぽく、礼を失した者にしばしば呪いをかけたが、丁寧に接する者 には親切であった。ある時、人間の王たちが彼から助言を受けるべく地上に招き、美しい花で造った首輪をかけ て手厚くもてなしたところ、ドゥルヴァーサはとても喜び、王と王国を祝福した。その後彼はこの美しい花輪を与え るべくインドラを訪ね、その首にかけて祝福した。インドラたちは彼を丁寧にもてなし滞りなく送り出した。その直 後、インドラが乗る象が花輪に興味を示したため何気なく与えたが、戻ってきたドゥルヴァーサがそれを見て激怒 し、インドラたち神々に呪いをかけて能力を奪ってしまった。この機をとらえてアスラ(阿修羅)が天へ侵攻してき たが神々はなすすべがなかった。 ○インドラはシヴァ、ブラフマーに助けを求めたが、ドゥルヴァーサの呪いは彼らにも解けない。ヴィシュヌが、不 老不死の霊薬「アムリタ」を飲めば失われた力を取り戻せると言い、それを作り出すために乳海攪拌を実行する ことにしたが、神々だけでは不可能な作業であり、アムリタを半分与えることを条件にアスラの協力も求めた。 ○アンコール・ワット第1回廊、浅浮き彫りにみられる乳海攪拌(一部)。中央にヴィシュヌ、その下に彼の化身の 亀クールマがいる。ヴァースキを引っ張っているアスラが左側に、神々が右側に描かれている。 ○ヴィシュヌ神の化身である巨大亀クールマに大マンダラ山を乗せ、大蛇ヴァースキを絡ませて、神々はヴァー スキの尾を、アスラはヴァースキの頭を持ち、互いに引っ張りあうことで山を回転させると、海がかき混ぜられた。 海に棲む生物が細かく裁断されて、やがて乳の海になった。ヴァースキが苦しんで口からハラーハラという毒を 吐くと、シヴァがその毒を飲み干したため事なきを得たが、彼の喉は毒によって青く変色した。 ○さらに1000年間攪拌が続き、乳海から白い象アイラーヴァタや、馬ウッチャイヒシュラヴァス、牛スラビー(カー マデーヌ)、宝石カウストゥバ、願いを叶える樹カルパヴリクシャ、聖樹パーリジャータ、アプサラスたち、ヴィシュ ヌの神妃である女神ラクシュミーらが次々と生まれた。最後にようやく天界の医神ダヌヴァンタリが妙薬アムリタ の入った壺を持って現れた。 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (5) 53 ○しかしアムリタをめぐって神々とアスラが争い、一度はアムリタを奪われかけたが、ヴィシュヌ神は機転を利かせ て美女に変身し、アスラたちを誘惑した。アスラたちは美女に心を奪われ、アムリタを手渡した。その結果、アムリタ は神々のものとなったが、神々がアムリタを飲むさいにラーフというアスラがこっそり口にした。それを太陽神スーリ ヤと月神チャンドラがヴィシュヌ神に伝えたので、ヴィシュヌは円盤(チャクラム)でラーフの首を切断した。ラーフは首 から上だけが不死となり、頭は告げ口したスーリヤとチャンドラを恨み、追いかけて食べようと飲み込むが体がない ためすぐに外に出てしまう(日食・月食)。その体ケートゥとともに凶兆を告げる星となった。 ○その後、神々とアスラの戦いはますます激しさを増したが、ヴィシュヌ神が心に日輪のごとき武器を思い描くと、 天からスダルシャナというチャクラムが現れた。それをヴィシュヌ神が投げるとアスラを群れごと焼き、あるいは切り 裂いた。 バビロニア神話 ○バビロニアにおける創造神話は、『エヌマ・エリシュ』(Enuma Elish)としても知られる『創世記』において語られる。 ○『創世記』は、紀元前2千年紀にまでさかのぼる。 詩では、神マルドゥク(または詩のアッシリア版のアッシュール) は、海の女神ティアマトによって計画された攻撃から神々を守るために作り出された。 英雄マルドゥクは、自分が彼 らの中の最高の指導者に任命され、ティアマトの脅威が過ぎ去った後も引き続きそうであるならば、神々を救うと申 し出た。 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (6) 54 ○ 神々はマルドゥクのその任期に同意した。 マルドゥクはティアマトに戦いを挑み、彼女を破壊した。 彼はそれから、 大地と天を作るために彼女の死体を2つに裂いた。そして、暦を作り出し、惑星、星、月、太陽の運行と天気を管理し た。 神々はマルドゥクに忠誠を誓った。そしてマルドゥクは、神の領域に地上で対応する場所としてバビロンを建設 した。 マルドゥクはさらに、ティアマトの夫キングーを破壊し、神々のために働ける存在としての人間を作り出すため に、彼の血を使った。 ギリシア神話 ○ギリシア神話では、天地は神によって作られるものというより、むしろ神が天地そのものであり、神々の誕生の系 譜がそのまま天地の由来とされる。このような系譜を神統記という。以下にヘシオドス『神統記』に見られる、ギリシ ア神話の創造神話(神統記)を示す。 ○天地の前には混沌(カオス)のみが存在した。 ○カオスから最初に大地(ガイア)、夜(ニュクス)、闇(エレボス)、愛(エロース)、奈落の底(タルタロス)が生まれた。(エ ロースについてはアプロディーテーの息子という説もある。) ○ニュクスとエレボスから光(アイテル)と昼(ヘメラ)が生まれた。 ○ガイアは自力で天(ウーラノス)を産んだ。 ○ガイアはウラノスとの間にティーターンたちを産んだ。 ○ティーターンには、大洋オーケアノス、農業(クロノス)、記憶(ムネーモシュネー)、レアー、ヒュペリオン、コイオス、 クレイオス、イーアペトス、テミス、テーテュース、テイアがいる。 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (7) 55 ○ウラノスは子供に地位を奪還されまいとしてティーターンたちをガイアに押し込めた。 ○怒ったガイアの命を受けたクロノスがウーラノスを去勢し、去勢された男根の泡から美(アプロディーテー)が生 まれた。 ○ヒュペリオンとテイアの間に太陽(ヘーリオス)と月(セレーネー)が産まれた。 ○クロノスはレアーとの間にゼウス、ポセイドーン、ハーデース、ヘスティア、デーメーテール、ヘーラーを産んだ。 ○クロノスは子孫に地位を奪回されると予言されていたため、子供を次々と飲み込んだ。 ○ゼウスだけがレアによって難を逃れ、キュクロープスやヘカトンケイルと共にティタノマキアでクロノス達を倒し、 タルタロスに幽閉した。 ○ゼウスが世界の支配者となり、人間がプロメーテウスの手によって作られた。 ○その後女がヘーパイストスの手によって作られパンドーラーと名づけられた。 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (8) 56 エジプト神話 ○エジプト神話とはエジプト地域で信仰されていた神話のことであるが、地域や時代によって内容の異同が激しく、 天地創造に関しても一様ではない。 ○ヘリオポリスにおける信仰(ヘリオポリス神話)では、以下のような話が語られている。 ○エジプト九柱の神々の物語において、原初の海ヌンより生まれた男神アトゥム(信仰によっては太陽神ラー)は、 自慰により生じた精液と吐息を吐き出し、テフヌト(湿気)、シュウ(空気)をそれぞれ生じた。シュウとテフヌトの間 にゲブ(大地)とヌト(天空)が生まれた。 ○ゲブとヌトはずっと抱き合っていたため、シュウがそれを引き離した。このとき、ヌトがゲブと接している面は手と 足だけとなった。また、ゲブはヌトに近づこうと山を作り出した。 ○シュウがゲブとヌトを引き離したときに、2神の子として、閏日に死の神オシリス、砂漠の神セト、生命の神イシ ス、ネフティス及びハロエリスが生まれた。オシリスとイシス、ネフティスとセトは夫婦であった。 付録資料:「創造神話」と「創世神話」 (9) 57 キリスト教 キリスト教における世界の創造は、旧約聖書の創世記第1章にて語られている。 ○初めに、神は天と地を創造した。地は混沌とし、水面は闇に覆われ、聖霊がうごめいていた。神は光を生み出し、 昼と夜とを分けた。これが世界の始まりの1日目である。 ○2日目に神は、水を上と下とに分け、天を造った。 ○3日目には大地と海とを分け、植物を創った。 ○4日目には日と月と星が創られた。 ○5日目には水に住む生き物と鳥が創られ、 ○6日目には家畜を含む地の獣・這うものが創られ、海の魚、空の鳥、地の全ての獣・這うものを治めさせるため に人間の男と女が創られた。 多くの創世神話は、広い範囲で同じテーマを持っていることが多い。一般的なモチーフとしては以下 のようなものがある。 ○原初の混沌から世界を作り出した。(デミウルゴス) ○母神と父神が分離して現れた。 ○無限で永遠の海から、地上が現れた。 など。
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