「地域コミュニティづくりに役立つICTツールに関する研究会」 第5回研究会 1 2 日時 平成18年7月24日(月) 場所 三菱総合研究所 2階 議事録 10:00~12:00 セミナー室 3 出席者 (1) 委員(敬称略、委員長・副委員長を除き五十音順) 石井威望、米倉 誠一郎、太田 正人、河村 智洋、小池 英樹、 坂下 哲也、鈴木 聰明、境 勉、増井 俊之 (2) 事務局 総務省、財団法人地方自治情報センター、三菱総合研究所 4 議事 (1) 参考事例紹介 ・真鍋陸太郎氏:東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 都市計画研究室 助手 ・田中浩也氏:慶應義塾大学環境情報学部 専任講師 ・坂下委員 ・増井委員 ・石井座長 (2) 討議 (3) その他 ・次回日程 5 議事録 (1) 参考事例紹介など ○ 真鍋先生 <資料1-①説明> 「ガリバー地図」は、巨大な地図の上に乗り、参加者がその上に情報を 書き込んでいくもので、まちあるきの手法として用いられている。 今回ご紹介するカキコまっぷは、ガリバー地図やフィールド調査の結果 を IT 化したものである。市民の持つ都市の情報をインターネット上に 公開された地図上に蓄積・開示し、投稿された内容にコメントをするこ とで意見交換の機能を果たす。 東京都世田谷区では、子育て層のネットワークから受けた情報提供をも とに作成したカキコまっぷを、区内の子育て関連施設に配布した。 また、板橋区の志村第一小学校では、小学生のグループを複数つくり、 NPO と警察、PTA が同伴してまちあるきを行った。得られた情報をも とに模造紙で地図を作成してもらい、その後 NPO も協力してインター ネット上にカキコまっぷを作成した。 また、同様に PTA にもまちあるきをしてもらい、専門家とともに危険箇 所のチェックを行った。 児童だけでなく、PTA や地域住民にも協力してもらうことで、多主体か らの視点をマップ上に示すことができる。これにより、多層的な安全マ ップを作成することが可能になる。 カキコまっぷをツールとして捉え、カジュアルなイメージにすることで 一般層への普及がしやすいと考えている。 ○ 田中先生 <資料1-②説明> 基本的にはソフトウェア開発者だが、人間が場所や空間をどのように捕 らえているかという認知科学的な側面に関心があり、そのコミュニケー ションにソフトウェアがどのように手助けできるかを考えて開発して いる。本江正茂先生のコミットメントスパイラルモデルを借用させてい ただくが、来ている場所やその中での移動にフォーカスして、表現活動 をサポートするソフトウェアを開発している。 2002 年、デジカメで町中の写真を撮り始めた時期に、それをうまく整 理するためにということで PhotoWalker を開発した。2006 年現在か ら見ると、まだ改良の余地はあるが、写真画像に GPS 等の位置データ が全くついていなくても、写真の間の相対的な位置関係を再構成し、表 現することができるようになる。開発の契機はフォトコラージュ。フォ トコラージュでは時間軸を自由に取った表現も可能である。ワークショ ップでは、小学生が作った作品で場所から友達や食べ物を想起したよう なものもあった。 最近では、GPS と他の情報を連動させたツールを開発している。例えば、 GPS と心拍計を持って、ランニングをしている方がいるが、GPS で取 れるのは位置情報だけだが、人間の運動の情報を足すことで location と motion を合体させた情報を取っていくことができ、多様な使い方が できる。以上の視点から、場所や移動を表現するための新しい方法を開 拓することに主眼をおき、それを表現するためのソフトウェアとして GeoWalker を作成した。 Photowalker や GeoWalker は技やコツは必要だが、それを切磋琢磨す るためにワークショップなどを開催することで、コミュニティつくりに 貢献できると考えている。 ○ 坂下委員 <資料1-③説明> コミットメントスパイラルという図があった。表現をどうするかという ところは田中先生の説明によるところである。データベース振興センタ ーでは、位置情報・地図情報をどのように活用するかについて5~6年 活動を続けており、そうした取り組みについて説明する。 GPS は測位しかできない。測位しかできないものを携帯電話の機能とし てつけるのはどうだろうか、他にも使えるものなどにつけるべきではな いか、というのが先日開催された Where2.0 での議論だった。Basic g から Personal g を経て Advanced g に進むと思われる。 GoogleMaps は画期的なサービスではあるが、基本的に貼り付けるだけ で Basic g といえる。三重県で実施されたモバ観は Personal g と思わ れる。 今年度 RSS を利用して、その人にあった避難経路を携帯の 2 インチ液 晶に送る実験等を行う予定であり、Advanced g へと進めていきたい。 ただし、国がこうした実験を行う上でネックになるのは、情報処理の問 題である。デジタルデバイドなどでソフトウェアが使えないといわれて しまう。また、販売されている地図やコンテンツのズレも大混乱を引き 起こすため、品質保持をどうするかが課題である。 そこで、地図がずれても使えるような XDP という仕様を作成している。 また、PI の仕様についても ISO に持っていくつもりである。 1995 年はポータルの支配・Document の支配の時代だった。現在では コンテンツの Web 化のステージだと思うが、空間コンテンツについて はまだまだポータルの支配のステージで留まっている。 ○ 増井委員 地図や写真のサービスがはやっているので、それをいくつか紹介して自 分のものも紹介する。自分の写真を公開したり、人の写真を見たりする のは面白い。また、文字がなくても使えるので敷居が低い。 写真と地図の共有できるサービスは、flicker、フォト蔵、GoogleMaps、 はてなマップ、AlpsLab、とるぱ、時空間ポエマー等多くある。 <資料1-④説明> しかし、いずれにしても地図の上に写真を置くと、必ずごちゃごちゃと してしまう。この写真がここだという情報だけ入れておいて、 GoogleMaps に表示されている付近の写真を全部検索できるようなシ ステムにしている。そのためには、全ての写真に GPS の情報をつけな くてはいけないのだが、非常に大変な作業である。タグをつけるのはよ くやる手法であり、それほど面倒ではないだろう。写真にタグや位置情 報をつけると、それだけでも面白い情報になる。Ajax を使えば、タグ 情報の添付などは非常に簡単にできる。日本の醸造所をすべてプロット すると新潟のあたりは点だらけになってしまうだろう。私はそれが嫌な ので、地図帳.org のような手法をとっている。また、地図を 3 次元に貼 り付けるような方法もある。 ○ 石井座長 「どこでも TV for Skype」では、 「ビデオスカイプ」を利用することで、 ビデオスカイプの通信相手のパソコンで受信したテレビ映像を、ビデオ スカイプ経由で視聴できる。 また「ロケーションフリー」も、自宅などにベースステーションを設 置することで、自宅外からインターネット経由でアクセスし、リアルタ イムで放送を視聴できる。ベースステーションには外部機器の接続もで きるため、リアルタイム放送のみならず、録画映像も見ることができる。 日本のテレビ映像をリアルタイムに見られるということで、特に海外駐 在員には評判が良い。通常は日本からの録画映像が、定期的にビデオテ ープに録って送られている。 機器も手軽で、これらを利用すれば自分が今いる場所にテレビがなく とも、自宅の外、海外からでも、インターネットを介してテレビを視聴 することができるので、テレビセットメーカも影響を受けるのではない か。 テレビ放送ということでは、ワンセグもほとんど時間差なく、受信でき る。「ワンセグ」や「どこでも TV for skype」「ロケーションフリー」 などの出現により、テレビ放送はテレビ機器で見るものというシングル リアリティ的考えから、野球試合などをリアルで見ながら、あわせて「ワ ンセグ」を見るというようなパラレルリアリティ的考え(行動)に移行 しつつある。 つまり、ハードウェアに固執というよりも、コンテンツの重要性が高ま っているともいえる。新しいツールが出てきたときに、それがどのよう にコミュニティに定着していくかに着目しているが、技術的に優れたシ ステムができても、それが定着するかどうかは、やはりキラーコンテン ツの有無ではないか。 ビデオスカイプなどの優れたソフトが出てくればそれを取り込んだハ ードウェアも当然出てくる。たとえば VAIO の Type U は、フラッシュ メモリ搭載なので振動がなく、多少軽くて速い。また、小さいので携帯 電話にパソコンがおまけでついているような感覚で使える。ワンセグに も対応しており、ビデオスカイプもプリインストールされている。今後 も、Skype を取り入れたハードウェアが開発されると思われる。 将来のコミュニティツールの使い手である子供にも着目したい。 現在の子供は、携帯電話があるのが当たり前として生まれてきている。 テレビ電話にも、当然のように反応し対話をする。山梨では、小学2年 生の女の子が、別の女児を連れ去ろうとした犯人を、とっさに携帯電話 カメラのズーム機能を使って撮影し、逮捕につながったお手柄な事例も あった。コミュニティツール使う将来のユーザは、こういうユーザだ。 ただし、マイナスの側面もあり、携帯メールによるいじめも起きている。 学校側も、携帯電話利用の可否については対処に困っているようだ。事 件を起こした子ども達が BLOG をつけていることも多く、学校としては、 BLOG があるから事件を起こすというような思考停止的困惑状態に陥っ ている。特に女児の間では、いじめの対象になってしまわないよう、メ ールが来たらすぐに返事ができるように、携帯電話を枕元において寝る こともあると聞いている。 (2) 討議 ○ 米倉副座長 お二人の発表を聞いて、他主体の視点を多層的に重ねていくとか、同じ ところを歩いても別のことを感じているということを、どうとらえて表 現するかが重要と感じた。これまでは、ロングテールというと商品のこ とばかりを見ていたが、オピニオンとかサイレントマジョリティなどに ついても当てはまるだろう。 都内でどこが渋滞するかを、タクシーやトラックの運転手から集めれば 正しい情報が得られる。サンフランシスコで、一人の少年がプログラム を書き換えたら、燃費が3割改善したという事例もある。 ロングテールのオピニオンが、何か新しいことを持っているのだ。 これまで、ネットは検索するという意識がないと使えなかった。一方、 図書館は歩いていくことでなんとなく閲覧することができるという利 点があった。しかし、絵や地図や写真を羅列することができるようにな れば、ネットがリアルを超える可能性も出てくるかもしれない。 また、お二人のツールのよいところとしては参加しないと使えないとい うことがあるだろう。コミュニティツールの原点は参加すること。面白 いとか、自分の主張ができるとか、自分の散歩した跡が残るということ がモチベーションになる。 ○ 太田委員 冒頭のガリバーマップを、一つの市で小学校の体育館全部に地図を広げ てやったことがある。それをネット上にあげたが、容量も 6GB あって、 誰にも見てもらえなかった(そうした状況は最近では変わりつつある が。) 色々なツールを使って発表しようにも、ツールは個人化していて地域コ ミュニティツールに役立つというのは何かということを疑問に感じて いる。三重県民全体に見てもらえるということを考えるが、地域によっ てはやっているツールが違って連携が取れないことも多く、徒労感を感 じている。 ○ 小池委員 お二人のツールについて、写真と地図の連携により、バーチャルな世界 に閉じていたのが、サイクリックに広がっていくというのが面白かった。 携帯の技術の進化などに伴って、一般参加がどんどん進んでいる。写真 と地図情報を使ったアプリの一つとして面白かった例として、ハンディ キャップを持った方々のために情報を提供するというのがあった。 ただし、位置情報は究極のプライバシー情報といわれていて、公開する と楽しいといえば楽しいが、全てのプライバシーを知られてしまうこと にもつながる。どこまで公開してどこからは秘匿するかの使い分けが非 常にむつかしい。位置情報を使ったセキュリティシステムの開発をして いるが、そこが難しい。 なお、私も X ビデオステーションを多用している。従来のテレビ放送は パッシブであったが、X ビデオステーションを使用するとユーザが自由 に選べるようになる。ただし、私は「自由に」選べるようになったわけ ではなく、人が面白いといったものを選んでみるだけになり、結局視聴 時間が減った。アーカイブができるようになると、推薦システムなどを 多用して選択してみるようになるのではないか。 ○ 境委員 真鍋先生の話、総務省で地域協働を進めているが、こういう技術が使え るなと思う。ただ、リアルな行政の世界などでは単純な多数決で決まっ ているわけではないし、ネットの世界でもネットの世界でのハブになっ ている人の影響力が大きい。そうした人の影響力をどう判断するかが難 しい。投稿者を評価するかなどの機能が追加できるとよい。 田中先生の話では、GPS をドローイングするのがおもしろい。小学校で はよく卒業記念で人文字を作るが、それを地域で町を協働表現するなど するとおもしろいかもしれない。 増井先生のプレゼンに関して、採用で履歴書の代わりに BLOG を見るこ とが、新興企業などでよく聞くが、BLOG の記事全体がその人の ID に なりつつある。昔は、人の伝記を読めといわれたが、そのうちデジタル アーカイブを見ろということになるかもしれない。デジタルは伝記を読 んで理解できる感情の動きなどの表現には向かないとされてきたが、そ うではないのかもしれない。 小学生の子供がいるので分かるが、ビデオや写真をマニュアルを見ずに 操作して、写真を送ってきたりする。昔はリアルとバーチャルの区別が つかなくなるといわれていたが、むしろ、リアルの一部として捕らえて いるようだ。 ○ 石井座長 若い人については、それほど悲観的ではないが、地域が高齢化したとき にどうするかというのはやはり課題だ。やりたいと思うときのモチベー ションを助けてくれるシチュエーションをつくり、助けてあげる人がい るとよい。 ○ 鈴木委員 個人的には ICT ツールが大好きで色々やっているが、地域で活動してい ると、大都市部と地方の経済格差や人口構成の急激な変化により、IT 格 差が経済格差以上に広がりつつあるかと感じている。農業や漁業が今後 10 年程度で崩壊するのではないかといわれる中で、ICT で何とかしよ うと思っている人たちはたくさんいるが、ICT は、若くてパワフルな人 たちが一定数いないとどうにもならない。地域で一番力があるのは自治 体だが、自治体も高齢化しつつあり、ICT への理解は低い。 今日の ICT ツールの紹介を見て思うのは、知識や知恵が必要なところか ら、直感的に使えるところに降りてきていると思うが、もう一歩人間に 近づいてほしいと思う。 今日のロケーションベースの関係のツールを聞いていて、ふと思ったが、 プレステで使えるオンライン RPG がリアル空間と融合して、オンライ ンで利用できる地域へのアクセスツールになってくれると良いのでは ないかなと思った。各地域に共通した PF の中で使えるような形になれ ばよいと思う。 ○ 石井座長 最近、知的障害のある方や認知症の方のツールに対する反応についても 関心がある。知的障害のある方でも、小学校の運動会などで携帯電話の カメラ機能で写真を撮っているようだ。コミュニティツールのコミュニ ティに関連があるのではないか。 ○ 岡本氏 xBox や Skype をどこでも見られるというのはよいが、今のテレビ番組 のコンテンツでどのくらい見る価値があるのか。YouTube に載っている コンテンツの質はどうか。 ツールができればコンテンツの質が向上するということはあるのかも しれないが、コンテンツのあり方を変えるような何らかの力が働かない と、ツールだけが発達しすぎてもコンテンツとのかみあわせがわるくな るのではないかという心配をしている。 ○ 石井座長 YouTube は予想していたよりはクリーンで、アダルトなどはそう多くな い。そうした環境を維持するための努力をしていると思われる。 ○ 河村委員 何の制限もつけないと、掲示板などは 90%は荒れるといわれている。 自身、2 年間毎日自分の管理する掲示板の発言をチェックして、削除す ることをしたことがある。 ○ 石井座長 ビデオテープレコーダの初期のコンテンツも、一時期はアダルトで占め られていたが、時代が進むにつれてハリウッドの映画などが登場し、淘 汰されてきた。努力も必要だが、社会にも自浄作用もある。大学でも、 特に制限はしていないが、それほど荒れてはいない。 3.その他 次回、第6回は 10/6 金曜日の 13:30~、同会議室で開催予定。
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