セクシュアル・マイノリティに対する意識の属性による比較

セクシュアル・マイノリティに対する意識の属性による比較
―全国調査と大学生対象の先行研究を中心に―
横浜市立大学大学院
博士後期課程
吉仲
崇
教授
風間
孝
社会学部付属研究所研究員
石田
仁
中京大学
明治学院大学
広島修道大学
国立社会保障・人口問題研究所
1.はじめに
教授
人口動向研究部第二室長
河口和也
釜野さおり
析と、セクシュアル・マイノリティを対象
本報告の目的は、レズビアン、ゲイ、バ
としたものを除くとインターネットによる
イセクシュアル、トランスジェンダーをは
調査か、もしくは主に大学生や大学院生を
じめとした「セクシュアル・マイノリティ」
対象にした調査に偏っているのが特徴であ
に対する意識についての全国調査の結果を、
る。インターネットによる調査は自主的に
先行研究と比較しながら紹介することであ
登録や応募などの方法で調査にアクセスし
る。
てくる人のみが対象者になっていること、
近年日本においてセクシュアル・マイノ
また大学(院)生を対象にしている調査は
リティは、その描写をめぐり波乱を含みな
対象者の年齢層と居住地域が偏りがちとい
がらもメディア表象、報道、エンタテイン
う限界がある。そこで本報告では、無作為
メント、ポップカルチャーなどで可視性を
抽出による全国調査で得た結果を紹介しつ
高めている。さらに政治や教育の分野でも
つ、これまでの研究調査で得られているも
「性的マイノリティの人権」という形で取
のと比較していくことにする。
り上げられるなど、セクシュアル・マイノ
リティをとりまく状況は変化している。こ
2.研究の方法
のような社会・文化背景のなか、異性愛と
本報告のための調査は、「日本における
同性愛、両性愛、ジェンダー規範、性別を
クィアスタディーズの構築」(科学研究費
変えることについて人々がどのような意識
(基盤研究(B))
、課題番号 25283018、研
をもっているのかを検討することが求めら
究代表者
れる。
25〜28 年度)の研究の一環として行なわれ
日本におけるセクシュアル・マイノリテ
ィに関する量的調査は、同性愛への意識に
関するもの(山下・源氏田 [1996]、石原
[2013]等)、一般の人のセクシュアル・マイ
ノリティへの態度(和田[2010]、 桐原・坂
河口和也・広島修道大学、平成
た。調査は一般社団法人新情報センターに
委託して実施した。
調査の概要は以下の通りである。
調査名:男女のあり方と社会意識に関する
調査
西[2003]等)、セクシュアル・マイノリティ
調査地域:全国(130 地点)
の現状(石丸[2004]、電通ダイバーシティ・
調査対象:20 歳から 79 歳までの(戸籍上
ラボ「電通 LGBT 調査 2015」
)などすでに多
岐にわたっているが、その調査法は二次分
の)男女
抽出方法:住民基本台帳による層化二段無
1
作為抽出法
布を性別に示し(図1、図2)、実際の人口
調査方法:留置調査(訪問留置訪問回収法)
をどの程度代表しているかを、本調査で用
※一部郵送による返却
いた地域区分と対象年齢に 2010 年の国勢
調査実施時期:平成 27(2015)年3月
調査における年齢分布を合わせる形で集計
配布数・回収数(回収率)
:配布 2,600 票、
し、確認する。
回収 1,259 票(回収率 48.4%、
国勢調査と比較すると、本調査の回答者
郵送回収は全体の 4.8%)
の年齢分布に偏りがあるのがわかる。特徴
質問数:全 59 問、157 項目
を記述すると、まず北陸、近畿、四国地方
では特に偏りが顕著であり、全般に 20 代と
3.分析
30 代が少なく、60 代と 70 代が多い。ただ
(1)標本の代表性の検討
しこの偏りはすべての地域で一様ではなく、
まず、層化二段無作為抽出法を使用した
たとえば同じ 30 代でも北陸地方では極端
全国調査としての基本的な特徴をおさえる
に少なく東海地方では逆に多いなど、地域
ために、本調査の標本の年齢別・性別の分
によっても違いがみられた。国勢調査とも
布を、悉皆調査である国勢調査(2010 年)
っとも差があるのは北陸地方の 30 代で、国
及び本調査と同様に標本調査である JGSS
勢調査での構成割合は男性 18.7%、女性
(日本版総合的社会調査 2010 年)の標本と
17.3%であるのに対し、本調査では男性
比較する。
6.9%、女性 5.3%で、極めて低い。一方、
北陸地方の 40 代の割合は男性では 3.4%
a)
国勢調査との比較
(国勢調査 16.9%)であるが、女性では
まず、本調査の回答者の地域別の年齢分
図1
本調査の回答者の地域別年齢分布(男性 N=585)
0%
北海道(n= 27)
東 北(n= 42)
関 東(n=175)
北 陸(n= 29)
26.3%で、国勢調査の 16.3%より高い。
10%
7.4
9.5
20%
14.8
14.8
11.9
16.7
14.3
6.9
30%
13.7
6.9
40%
50%
60%
70%
18.5
25.9
23.8
15.4
80%
19.4
27.6
90%
100%
18.5
26.2
11.9
24.0
13.1
37.9
17.2
3.4
東 山(n= 32)
6.3
東 海(n= 65)
7.7
近 畿(n= 78)
7.7
12.8
中 国(n= 34)
8.8
11.8
四 国(n= 21)
18.8
9.4
18.8
24.6
28.1
21.5
18.5
25.6
14.3
14.1
20.6
20.6
23.8
18.8
15.4
23.1
16.7
20.6
28.6
12.3
17.6
19.0
9.5
4.8
2
北九州(n= 51)
11.8
南九州(n= 31)
12.9
15.7
9.7
20代
21.6
12.9
30代
11.8
16.1
40代
50代
15.7
38.7
60代
70代
23.5
9.7
図2
本調査の回答者の地域別年齢分布(女性 N=674)
0%
北海道(n= 34)
10%
20%
11.8
9.4
18.9
関 東(n=175)
10.3
17.8
15.8
東 山(n= 33)
12.1
東 海(n= 79)
11.4
近 畿(n=104)
中 国(n= 45)
6.7
四 国(n= 21)
19.0
北九州(n= 49)
18.4
南九州(n= 43)
18.6
50%
11.3
17.0
16.1
17.7
21.2
6.7
14.3
12.2
30代
14.3
40代
16.3
19.0
60代
19.0
22.4
14.0
50代
10.1
28.9
12.2
11.6
12.1
13.3
24.5
16.3
10.5
20.2
17.8
14.3
19.5
20.3
16.3
17.8
15.1
27.3
19.0
100%
8.8
26.3
18.2
21.5
90%
14.7
15.5
15.8
21.2
80%
28.3
26.3
9.1
70%
14.7
20.7
5.3
20代
60%
29.4
19.2
15.6
40%
20.6
東 北(n= 53)
北 陸(n= 38)
30%
25.6
10.2
14.0
70代
60 代以上の回答者をみると、男性でその
40 代男性(+2.0)
、南九州地方の 60 代男性
割合の高い地域が目立つ。北陸地方では 60
(+2.0)
、中国地方の 70 代女性(+2.5)で
代以上が半数を超え、40 代までの回答者が
ある。全体的に男性は、女性に比べて年齢
全体の 20%を下回っている。また東山、南
による偏りがより大きいことがわかる。
九州地方でも 60 代以上の男性が半数近く
を占めている。
以上のことから、今後本調査の結果を全
国調査にもとづくものとして報告する際に
は、こうした標本の偏りを考慮に入れる必
表1
調整済み残差値(男女いずれかで±1.96
要があるだろう。
を超えるもののみ掲載)
地域
男性
北陸
関東
東海
40代(ー2.1)
20代(+2.1)
30代(+2.4)
近畿
中国
南九州
40代(+2.0)
女性
本調査の回答者は無作為に抽出された
が、こうした抽出方法で行う質問紙での若
年層の回収率の低さ及び地域の偏りを考慮
すると、昨今さかんに行なわれているイン
ターネット調査の回答とどの程度の違いが
70代(+2.5)
60代(+2.0)
調整済み残差の値では、標準偏差の値が
±1.96 を上(下)回るのは、関東地方の 20
代男性(+2.1)、東海地方の 30 代男性
(+2.4)
、
北陸地方の 40 代男性(-2.0)、近畿地方の
見られるのかについて検討していく必要が
あろう。
b)
回答者の年齢分布-JGSS2010 年の標本
との比較
本調査の回答者の男女別にみた年齢分
布は以下の通りである。これを大阪商業大
3
学 JGSS 研究センターが実施した JGSS(2010)
1
の標本と比較した 。比較の際には JGSS
2
め、年齢や社会的属性の異なる対象者が含
まれていることである。そこで、年齢や社
(2010) の標本から 80 代を除外し、本調
会的属性によってセクシュアル・マイノリ
査の対象年齢のみを集計した。
ティに対する意識にどのような差異が見ら
れるかという点を中心に、先行研究で扱わ
図3
男女別にみた回答者の年齢分布(本調査)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
れてきた以下の事項を取り上げ、比較する。
a)同性愛に対する意識、b)セクシュアル・
マイノリティに関する知識、c)同性間の性
男性
3.01
女性
0.21
6.41
5.71
8.81
2.61
0.02
8.32
0.61
1.51
0.02
的行為に対する若者の意識、d)新聞の閲覧
と同性愛に対する意識、e)職種と同性愛に
15.7
対する意識。上記 a), b), c)については性
20代
図4
30代
40代
50代
60代
70代
別による傾向の違いにも注目する。なお、
男女別にみた回答者の年齢分布(JGSS
本調査と先行研究では実際の質問文や適用
2010)
できる分析手法が必ずしも同じではないた
0%
20%
男性
9.5
1.61
女
性
10.3
7.61
40%
5.61
60%
6.81
80%
8.32
100%
5.51
め、本報告では厳密な比較をするのではな
く、先行研究の知見を確認しながら、それ
を補充していくこととする。
20代
7.91
30代
3.81
40代
50代
5.12
60代
5.31
70代
以下に示す性別や年齢別等による比較
には、クロス表に基づくカイ二乗検定(自
由度が1の場合は Fisher の直接法)
を用い
JGSS は、本調査と同様に層化二段無作為
る。検定結果は特に断りがない限り、有意
抽出法(選挙人名簿にもとづく)を用いた
確率5%未満の場合を「有意な差が認めら
全国調査である。JGSS の標本の年齢分布を
れる」とする。
本 調 査と 比較 する と、 70 代 女性 の差 の
2.2%が最大で、
2者間にあまり大きな違い
は見られない。
a)
同性愛に対する意識
まず、先行研究で用いられているセクシ
JGSS の標本も、国勢調査と比較すると
ュアル・マイノリティに対する意識の表現
20 代が少なく、60 代が多くなっているとい
をみると、研究によって「受容」
「寛容」
「好
った年齢層の偏りが認められる。JGSS の他
意的」などさまざまである。山下・源氏田
の調査年の年齢分布をみても 2010 年と大
(1996)は同性愛にポジティブな設問に対
きな違いがないことから、本調査にみられ
して「賛成」、ネガティブな設問に対して「反
る標本の年齢分布の偏りは本調査に特有で
対」を表明した場合「好意的」ととらえて
ある可能性は低いと考えられる。
いる(どちらも「やや」を含む)。和田(2010)
は質問に対して「拒否・嫌悪」または「ネ
(2)セクシュアル・マイノリティに対す
る意識:先行研究との比較
ガティブ・イメージ」の5段階尺度を得点
化し、得点が低い(=賛同しない)ものを
本調査がこれまでの調査と比較して新
「受容的」
としている。
また、石原は(2012)
しい点は、無作為抽出の全国調査であるた
は同性愛について「全く認められる(1)」
4
から「全く認められない(10)」までの 10
性どうしの手つなぎ、
(ク)の女性どうしの
段階尺度の得点が低いものを「寛容」と呼
性行為以外の項目で女性の方が男性よりも
んでいる。
「そう思わない」の割合が高く、肯定的に
これらの先行研究では「同性愛に対する
とらえていることが観察される。また、両
受容度は男性よりも女性の方が高い」
(和田
性への恋愛感情や性行為についても、女性
[2010]、山下・源氏田[1996]、石原[2012])
の方が肯定的にとらえている。一方(ク)
ことが指摘されている。
本調査で同性愛(お
の女性どうしの性行為に対しては、男性よ
よび両性愛)に対する意識をとらえている
りも女性の方が有意に否定的である
のは以下の(イ)から(ケ)の設問である
(p<.01)
。
(ウ)も女性の方が否定的である
3
が、有意差は見られなかった。
。これらのネガティブな意識を示す設問に
対し、
「どちらかといえばそう思わない」と
ジェンダーによる意識の違いをさらに
「そう思わない」の回答を併せて「そう思
掘り下げた先行研究に、男性の同性愛者と
わない」
(肯定的)、
「どちらかといえばそう
女性の同性愛者に対する意識が異なること
思う」と「そう思う」の回答を併せて「そ
を指摘しているものがある。山下・源氏田
う思う」
(否定的)とし 4、男女の違いを検
(1996)は、
「男性は女性の同性愛者に対し
討する。
ての方が、男性の同性愛者に対してよりも
好意的であるが、女性は有意差(p<.10)が
同性どうしの恋愛及び性行為等に
なく、全体では女性の同性愛者に対しての
対する意識に関する設問
方が、男性の同性愛者に対してよりも好意
(イ)街なかで男性どうしが手をつない
的だ」と述べている。この点について、本
でいるのをみたら、気持ちが悪い
調査の結果(図5)をみると、男性回答者
(ウ)街なかで女性どうしが手をつない
が女性の同性愛に関する項目のすべてにお
でいるのをみたら、気持ちが悪い
いて、並行する男性の同性愛項目より肯定
(エ)男性が男性に恋愛感情を抱くのは
的にとらえている。しかし(エ)・(オ)の
おかしい
(オ)女性が女性に恋愛感情を抱くのは
おかしい
(カ)男女両方に恋愛感情を抱くのはお
かしい
(キ)男性どうしの性行為は、気持ちが
悪い
(ク)女性どうしの性行為は、気持ちが
悪い
同性に対する恋愛感情では、差があまりみ
られない。女性回答者も 同じ結果だが、
(イ)・(ウ)の手つなぎ以外は、差が見ら
れない。全体でも、女性の同性愛項目に対
しての方が、男性の同性愛項目に対してよ
りも肯定的であり先行研究と一致している。
しかし「好意的」とはいっても図5を見る
と、女性の方が肯定的であるとはいえ、肯
定的回答が半数を超えるものは(エ)の男
(ケ)異性と性行為をすることもあれば
性の男性に対する恋愛感情、
(オ)の女性の
同性と性行為をすることもある、
女性に対する恋愛感情、
(カ)の男女両方に
というのは気持ちが悪い
対する恋愛感情のみで(すべて p<.01)、
「恋
愛感情」に限定されている((ウ)の女性ど
その結果、本調査においても、
(ウ)の女
うしの手つなぎも上回っているが、有意差
5
はない)。先行研究では「同性愛者」をみて
ているためかもしれないが 5、先行研究で指
おり、本調査では同性間の性行為や恋愛感
摘されてきたジェンダー差よりも、複雑な
情など、具体的な行為についての意識をみ
構造がある可能性が示唆される。
図5 男女別にみた、同性どうしの恋愛及び性行為などに関する否定的回答の割合
%
100
85.4
80
男性
女性
74.2
74.3
71.1
65.4
68.8
57.6
57.3
60
69.2
51.4
50.1
*
40
35.7
*
*
36.5
33.0
* *
19.3 20.0
20
0
(イ)男性どうし (ウ)女性どう (エ)男性の男 (オ)女性の女 (キ)男性どう (ク)女性どうし
手つなぎ
し手つなぎ 性に対する恋 性に対する恋 しの性行為
の性行為
愛感情
愛感情
(カ)男女両方 (ケ)異性同性
への恋愛感情 との性行為
数値の□:否定的回答が半数を超えるもの
数値の*:肯定的回答が半数を超えるもの
項目の :女性の方が否定的回答割合の高いもの
b)
セクシュアル・マイノリティに関する
知識
図6
本調査では(ア)「日本では、同性愛は
精神病とされている」と(イ)「日本では、
戸籍上の性別を変えることができる」とい
う2問を用いて、回答者の知識の度合いを
100%
80%
調べた。これらの問いの選択肢は3件法
(正しい、正しくない、わからない)であ
る。
性別、年齢別にみた(ア)
「日本では、同
性愛は精神病とされている」の正答率
(「正しくない」の選択率)
70.0
61.0
65.4
68.8
58.6
60%
55.9
56.5
54.9
61.3
39.6
40%
48.9
34.6
20%
0%
20代
30代
40代
男性
6
50代
60代
女性
70代
図7
性別、年齢別にみた(イ)
「日本では、戸
籍上の性別を変えることができる」
の正答率(
「正しい」の選択率)
少年の性行動全国調査」(日本性教育協会
[2013])によると、同性と性的行為をする
ことについての大学生の回答は、男性では
100%
「かまわない」と思う割合も思わない割合
80%
も4割台、女性では前者が5割、後者は4
60%
40%
20%
割に満たない(図8)7。本調査の 20 代の
58.0
40.0 46.6
45.8
36.5
33.0
33.3
(キ)
「男性どうしの性行為は、気持ちが悪
24.2
21.7 18.2
0%
い」及び(ク)
「女性どうしの性行為は、気
12.3
9.9
20代 30代 40代 50代 60代 70代
男性
女性
持ちが悪い」に対する回答と比較すると、
先行研究の男子大学生の肯定的回答割合の
方が、本調査のものに比べ、かなり高くな
っている。
先行研究において和田(2010)は、同性
愛の知識は男性より女性の方が多いと指摘
図8
「同性と性的行為をすることがあっても
かまわない」に対する回答分布(第7
回青少年の性行動全国調査、大学生)
している。和田(2008)はそれを測るため
に本調査とは異なる質問項目を使っている
0%
ため、直接の比較はできないものの、本調
20%
査の結果でも、女性の方が男性よりも正確
男性
20.5
な知識をもっていることが確認できる(例
女性
22.5
40%
21.2
60%
12.9
28.5
80%
28.6
11.0
100%
16.7
17.1
20.7
外として戸籍上の性別変更については、70
代の男性の方が同世代の女性より正確な知
識をもつ割合がわずかに高い)。
そう思う
どちらかといえばそう思う
どちらかといえばそう思わない
そう思わない
わからない・無回答
また、(ア)の同性愛は精神病であるか否
かに比べて、
(イ)の戸籍上の性別変更の可
否の正答率が低くなっており、年齢別によ
図9 (キ)
「男性どうしの性行為は、気持ちが
悪い」に対する回答分布(20 代)8
る違いは、(ア)では 20 代から 50 代まで
0%
60%程度の水準で横ばいなのに対し、
(イ)
では右肩下がりで、年齢が高いほど正確な
知識をもつ割合が低い。戸籍上の性別変更
男性
31.3
同性間の性的行為に対する若者の意識
次に、若者が同性との性的行為に対して
80%
100%
59.6
21.3
27.5
20.0
そう思わない
どちらかといえばそう思わない
どちらかといえばそう思う
そう思う
図 10
(ク)「女性どうしの性行為は、気持ち
が悪い」に対する回答分布(20 代)
0%
c)
60%
24.6
8.8
女性
メディアで大きく取り上げられたにもかか
ているわけではないようだ。
40%
7.0
のための法律 6が施行・改正され、新聞など
わらず、一般知識としてはそれほど定着し
20%
20%
男性
29.8
女性
28.8
40%
60%
26.3
22.5
80%
22.8
30.0
100%
21.1
18.8
もつイメージについて先行研究との比較を
記述する。2011 年に実施された「第7回青
そう思わない
どちらかといえばそう思わない
どちらかといえばそう思う
そう思う
7
ちなみに青少年の性行動全国調査の同
度を示す」ことを明らかにしている。本調
設問に対する高校生の回答は、
「そう思わな
査においても、回答者の新聞の閲覧の有無
い」と「どちらかといえばそう思わない」
が把握できる 9。そこで、同性愛の恋愛感情
(否定的回答)の2つを合わせて男性
の側面に注目し、
「新聞・書籍」を読むか否
61.3%、女性 40.7%となっており、男性に
かで、意識がどのように違うかを性別と年
ついては本調査の結果とかなり似ている。
代別にみてみる。
本調査では用いた質問が異なり、さらに男
「新聞・書籍」を読む人(N=879)と、
性/女性どうしの性行為を分けてたずねて
読まない人(N=372)を比較すると、先行研
いるため単純に比較することはできないが、
究での結果と同様に、男女とも、読まない
男子大学生については高校生や 20 代男性
人の方が読む人よりも同性愛に対し、肯定
に比べ、同性間の性行為に対する回答が肯
的な回答をしている。しかし、年代別に分
定的に傾く特殊な要因がある可能性も考え
けてみると、読まない層の方が読む層より
られる。大学生にセクシュアリティのテー
も肯定的な回答をする傾向があるのは、男
マで調査をする際、この点には留意する必
性どうしの恋愛感情については男性回答者
要があるだろう。
の 60 代と 70 代及び女性回答者の 40 代、女
性どうしの恋愛感情については、男性回答
d)
新聞の閲覧と同性愛に対する意識
者の 60 代と 70 代及び女性回答者の 50 代の
同性愛に対する意識はメディアの影響
みである。その他の年代では、逆に、新聞・
を受けるという前提のもと、特に新聞に注
書籍を読む方が、肯定的回答をする割合が
目し、その閲覧の有無と同性愛に対する意
高い。年代と性別を考慮すると、新聞・書
識の関連を分析したものがある。山下・源
籍を読むことと同性愛に対する意識との間
氏田(1996)は、
「新聞を多く読む人はあま
には、山下・源氏田(1996)で示されたも
り読まない人に比べて、統計的に有意な差
のよりも複雑な関係がある可能性が見いだ
ではないものの、同性愛者に非好意的な態
された。
図 11
新聞・書籍を読むか否か別、年代別(エ)「男性が男性に恋愛感情を抱くのはおかしい」に
「(どちらかといえば)そう思う」と回答した割合(男女別)
男性
女性
100.0
100%
100%
80.6
80%
72.2
64.3
58.1
55.2
60%
40%
20%
48.3
44.4
41.0
58.6
53.7
60%
71.4
55.2
38.0
40%
33.3
20%
6.7
30.1
22.2 23.7 21.2 25.0 27.3
20.0
16.7
9.5
0%
0%
20代
30代
40代
読む
8
75.0
80%
73.3
70.2
50代
読まない
60代
70代
男性全体
20代
30代
40代
読む
50代
60代
読まない
70代
女性全体
図 12
新聞・書籍を読むか否か別、年代別(オ)「女性が女性に恋愛感情を抱くのはおかしい」に
「(どちらかといえば)そう思う」と回答した割合(男女別)
男性
女性
100%
100%
88.9
80%
80%
73.1
68.8 67.1
60%
62.5
60%
52.4
43.6
40%
35.5
40%
6.7
20%
9.5
0%
50.0
51.4
50.0
46.9
40.2
11.1
0%
20代
30代
40代
読む
e)
47.8 48.4
28.9
26.9
24.2
20.6 22.7
21.4 18.2
16.0
20%
40.0
69.2
50代
60代
70代
女性全体
読まない
職種と同性愛に対する意識
石原(2012)は、世界価値観調査の日本
20代
30代
40代
読む
50代
60代
70代
男性全体
読まない
は、否定的な意識をもつ割合が他の職種に
比べ、管理職でもっとも高い。またどの項
データ(1981,1990,1995,2000,2005)を用
目でも同性愛に否定的な意識を示す割合は、
い、同性愛に関する寛容性の拡大の傾向及
いわゆるホワイトカラー職
(専門・技術職、
び寛容性と属性との関連を分析している。
事務・営業職、販売・サービス職、管理職)
世界価値観調査は、本報告で検討してきた
の中では、
(ウ)女性どうしの手つなぎ以外
他の先行研究とは異なり、18 歳以上の男女
管理職がもっとも高い。ただし、管理職の
が対象で、本調査と同様、居住地、学歴、
人数が少ないこともあり有意な差が見られ
職種など幅広い属性をもつ対象者を含んで
たのは(ク)のみだった。特徴的なのは性
いる。石原(2012)の分析で特に興味深い
行為に対する意識であり、男性管理職は男
のは「男性では管理職、専門職、マニュア
性どうしの性行為を気持ち悪いと感じる割
ルの職業経験がマイナスの効果をもたらし
合がもっとも高く、さらに女性どうしの性
ており、男性の同性愛への寛容性は、ノン
行為を気持ち悪いと感じる割合についても、
マニュアル経験者に比べ寛容性が低い可能
ほかの職種に比べ有意に高い。女性どうし
性がある」という指摘である。本調査でた
が手をつなぐことについては肯定的回答が
ずねた職種区分は世界価値観調査のものと
8割以上で極端に高いが、恋愛感情や性行
異なるが、職種によって同性愛に対する意
為についての意識は否定的回答が多い。ま
識がどのように違うのかを検討することが
た男性どうしについての回答はすべて「そ
できる。
う思う」
(否定的)の方が多い。
ここでは男性回答者について、職種別に
同性愛に対する意識をみると、図 13 に示す
とおり、
(イ)男性どうしの手つなぎ、
(エ)
男性の男性に対する恋愛感情(カ)男女両
方に対する恋愛感情、
(キ)男性どうしの性
行為、
(ク)女性どうしの性行為の5項目で
9
図 13 職種別にみた、同性どうしの恋愛及び性行為等に対して否定的回答をした男性の割合
0%
20%
40%
60%
80%
67.6
71.4
76.5
75.3
(イ)男性どうし手つなぎ
60.9
(ウ)女性どうし手つなぎ
100%
85.7
16.2
19.6
19.9
19.8
20.1
13.0
49.5
(エ)男性の男性に対する
恋愛感情
66.7
44.2
58.0
60.6
65.2
42.3
(オ)女性の女性に対する
恋愛感情
38.2
55.4
49.4
55.5
56.5
44.5
(カ)男女両方に対する
恋愛感情
44.2
61.4
54.3
54.1
56.5
82.7
87.0
82.7
84.6
82.6
(キ)男性どうしの性行為
94.7
47.3
48.1
50.6
(ク)女性どうしの性行為
70.2
62.3
65.2
68.8
78.6
72.7
71.6
74.7
82.6
(ケ)男女両方との性行為
専門・技術系の職業
管理的職業
事務・営業系の職業
販売・サービス系の職業
技能・労務・作業系の職業
農林漁業
専門・技術系(N=113)、管理的職業(N=57)、事務・営業系(N=77)、販売・サービス系(N=84)、
技能・労務・作業系(N=180)、農林漁業(N=23)
10
4.まとめと今後の課題
本報告では、われわれの研究グループが
幅の都合で省略した性別変更、性同一性障
害・トランスジェンダーにかかわる項目や、
実施したセクシュアル・マイノリティに対
ここでは検討できなかった同性愛に関する
する意識調査で得られた結果を、先行研究
事項についてじっくりと分析し、当該テー
の結果と照らし合わせることによって、対
マの研究土台を築いていくことが重要で
象者に大学(院)生だけではないさまざま
ある。そうすることにより、セクシュアル・
な年齢・属性などを含めたとき、どのよう
マイノリティをとりまく社会的状況に一石
な類似/相違点があるのかを確認した。
を投じることがわれわれ研究グループの長
主な類似点としては、同性愛に対する肯
期的目標である。
定的な意識が男性よりも女性の方が高いと
いうこと、そして、セクシュアリティに関
する知識も男性よりも女性の方が多いこと
注)
があげられる。ただし同じ「同性愛」であ
1
属性に関する設問と、回答者の日常的な行動
っても、男性の同性愛や、性行為を想起さ
や基本的な生活意識、政治意識などに関する
せる場合、否定的な意見が多くなることは
特筆すべき点である。また、男性管理職の
JGSS は、回答者の職業や世帯構成などの基本
設問を含む全国調査である。
2
同性/両性愛に対する意識は、他の職種に比
JGSS 調査の最新は 2012 年版であるが、今回
国勢調査の最新版 2010 年版と比較するため
べ、もっとも否定的であることも共通して
に JGSS も 2010 年版を用いた。また、JGSS は
いた 10。
一部面接法を用いており、質問紙は A 票 B 票
また相違点としては、同性と性行為をす
の 2 種類が存在し、それぞれ回答割合は別々
ることに対する若者の意識が、先行研究の
に集計されているなど本調査とは異なる点も
大学生が示す肯定的イメージとは異なり、
多い。本報告では便宜上、A 票 B 票を合算・
否定的であること、男女とも、新聞・書籍
平均して年齢割合を算出した。
3
を読まない人が同性愛に対して肯定的な回
答する傾向がみられるが、細かくみるとこ
(ア)は、
「街なかで男女が手をつないでいる
のをみたら、気持ちが悪い」
。
4
ここで検討するセクシュアル・マイノリティ
の傾向は一部の年代に限定されていること
に対する意識をたずねる質問の選択肢は複数
があげられる。つまり性別と年代によって、
回答を除いて基本的に 4 件法(そう思う、や
新聞・書籍を読むか否かと同性愛に対する
やそう思う、あまりそう思わない、そう思わ
意識との関連性が異なる可能性があるとい
ない)である。以下「肯定的」
「否定的」とい
う場合は、同性愛・同性間の性行為等に対して
うことである。
の意識が肯定的あるいは否定的であることを
ここで検討したものに限らず、先行研究
とより近い条件で集計をし、可能な範囲で
意味する。
5
また先行研究では、あくまでも各尺度の総和
同様の分析手法を用いると、どのような類
値の上位群と下位群の平均の差の検定を行な
似/相違点が生じるかをみていく必要があ
っており、具体的に全回答者の否定的意識及
る。今後、定期的に同様の調査を実施して
び肯定的意識の割合は示されていない。その
人々の意識がどのように変化するかをモニ
ため、各設問においてどちらの方が過半数だ
ターし、時代/年代効果の分析を行なうこと
も不可欠である。そのためには、今回、紙
ったのかなどは不明である。
6
正式名称「性同一性障害者の性別の取扱いの
11
特例に関する法律」
。2004 年に施行され、2008
年に変更に必要な要件が改正された。
7
8
2010
『平成 22 年国勢調査』
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do
この設問の選択肢は「そう思う、どちらかと
電通ダイバーシティ・ラボ 2015 『LGBT 調査
いえばそう思う、わからない、どちらかとい
2015』
えばそう思わない、そう思わない」の 5 件法
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pd
である。
f-cms/2015041-0423.pdf
図9及び図 10 の回答は、先行研究にあわせ逆
日本性教育協会(編)2013 『
「若者の性」白書-
転処理をしている。先行研究の「そう思う」
第 7 回 青少年の性行動全国調査報告-』 小学
回答が、本調査の「そう思わない」と同じ「肯
定的」回答である(逆も同じ)
。
9
総務省統計局
館
山下玲子・源氏田憲一 1996 「同性愛者に対す
設問は「次にあげるメディアや通信手段で、
る態度についての一研究-男女差、メディア接
ふだんから利用するものにすべて〇をつけて
触 量 を 中 心 と し て - 」『 一 橋 研 究 』 21(2),
ください」とたずね、選択肢の一つに「新聞・
pp.163-177
書籍」が含まれる。先行研究と異なり、ここ
和田実 2008 「同性愛に対する態度の性差-同性
では書籍も含めているが、参考までに比較を
愛についての知識、同性愛者との接触、及び
行っている。
ジェンダー・タイプとの関連-」『思春期学』
10
これについて石原(2012)は、「日本におけ
る男性管理職が、性的マイノリティに配慮す
26, pp.322-334
和田実 2010 「大学生の同性愛開示が異性愛友
る環境には置かれていない可能性があり、ダ
人の行動と同性愛に対する態度に及ぼす影響」
イバーシティ・マネジメントを推進する観点
『心理学研究』81(4), pp.356-363
からは重大な課題があることが示唆される」
と考察している。
著者プロフィール
【参考文献】
石原英樹 2012 「日本における同性愛に対する
寛容性の拡大-『世界価値観調査』から探るメ
カニズム」
『相関社会科学』22, pp.23-41
石原英樹 2013 「同性愛に対する寛容性の形成高校生の性に関する情報源の役割」
『日本女子
体育大学紀要』43, pp.1-9
崇(よしなか
たかし)
横浜市立大学大学院国際総合科学研究
科(現・都市社会文化研究科)、博士後
期課程に所属。専門は社会学、男性研究、
セクシュアリティ研究。
主な論文に「社会活動の中での『クィ
石丸径一郎 2004 「性的マイノリティにおける
自尊心維持-他者からの受容感という観点か
ら-」
『心理学研究』75(3), pp.191-198
大 阪 商 業 大 学 JGSS 研 究 セ ン タ ー
吉仲
2010
『JGSS-2012「第 9 回生活と意識についての国
ア』とは-コミュニティセンターの分析
から-」(
『AGLOS』2012, Special Edition
:1-21)。共著論文に「セクシュアルマイ
ノリティと図書館の交差点-SHIP にじい
際比較調査」』
ろキャビンの取り組みから」(『現代の図
http://jgss.daishodai.ac.jp/surveys/sur
書館』2012, 50(3): 183-191)がある。
_jgss2012.html
桐原奈津・坂西友秀 2003 「セクシャル・マイ
ノリティに対するセクシャル・マジョリティ
の態度とカミング・アウトへの反応」
『埼玉大
学 紀 要 教 育 学 部 ( 教 育 科 学 Ⅰ )』 52(1),
pp.55-80
12
釜野
さおり(かまの
さおり)
スタンフォード大学大学院社会学研究
科博士課程修了(Ph.D)。現在、国立社会
保障・人口問題研究所 人口動向研究部
第2室長。
主な著書・論文に「性愛の多様性と
家族の多様性―レズビアン家族・ゲイ
家族」(牟田和恵(編)
『家族を超える
社会学』新曜社、2009、148-171)、
「1990 年代以降の結婚・家族・ジェン
ダーに関する女性の意識の変遷―何が
変わって何が変わらないのか―」(『人
口問題研究』69(1): 3-41 (2013)など。
13