総合研究大学院大学海外派遣事業実績報告書 基本事項 所属: 文化科学研究科国際日本研究専攻 氏名: 片岡真伊 海外派遣先国名: アメリカ合衆国 海外派遣先大学名: テキサス大学オースティン校 海外派遣先大学所属: ハリー・ランソム・センター 海外派遣期間: 2016 年 9 月 18 日 ~ 2016 年 11 月 12 日 海外派遣機関について 私が今回渡航先で研究活動の拠点としたのは、アメリカのテキサス大学オースティン校にある、ハリー・ランソム・ センター (Harry Ransom Center、画面右下写真)というアーカイブ・センターです。このセンターには、人文学分 野に関連した特別資料が数多く所蔵されており、毎年国内外から数多くの研究者が資料調査に訪れ、また、所 蔵資料を公開する企画展や人文学分野に関わる特別企画などが定期的に実施されるなど、地域の文学・芸術 活動の中心地にもなっています。特別資料の中には、ノーベル文学賞作家であるサミュエル・ベケット、イギリス のブッカー賞受賞者のカズオ・イシグロなどをはじめとする、著名な作家たちのスペシャル・コレクションなどがあり ますが、私が今回資料調査の対象としたのは、第二次世界大戦後多数の日本近代文学の英訳に携わり、川端 康成や谷崎潤一郎、三島由紀夫などの著作を紹介、川端のノーベル文学賞受賞に貢献したとされる出版社の アーカイブです。この特別資料には、作家や翻訳者、編集者たちの書簡のやりとりや、契約書・版権・売上記録 など、当時の出版現場の状況を仔細に伝える史料が数多く残されています。 このセンターでは、博士論文を執筆中の国内外の大学院生を対象とした Dissertation Fellowship を毎年 20 名 に授与しており、今回はそのフェローシップ制度と本海外派遣事業による支援を組み合わせ、約 8 週間にわたり 資料調査を実施しました。 派遣先大学:テキサス大学オースティン校 派遣先機関:ハリー・ランソム・センター 1 海外派遣前の準備 博士後期課程での研究をすすめるにあたり重要となる一次史料がハリー・ランソム・センターに所蔵されているこ とを知り、まず、2016 年 1 月中旬にセンターのフェローシップ・プログラムに応募しました。同じ頃、2016 年 10 月末にペンシルベニア州で日本文学関連の学会が開催されることを知り、資料調査と合わせて渡米したいと考 え、学会での発表に応募。フェローシップを獲得し学会発表の査読に通った後、授業との兼ね合いなどから渡米 の日程を秋頃にすることに決め、海外派遣事業に申し込みました。採用が決定してからは、航空券の購入、宿 泊先の手配、またフェローシップ・プログラムの支援を受けて行う研究活動であったため、J1 ビザが必要となりま した。大学が発行する証明書類を取り寄せる手続きに時間を要し、また大使館での面接日程が混み合う時期だ ったこともあり、このビザの取得には、思いのほか時間がかかりました。渡米前には、学会発表の準備やパネルを 組んだ他の研究者たちと連絡を取り合い、またハリー・ランソム・センター以外にも、派遣期間の後半でコロラド大 学ボルダー校の資料調査を予定していたので、アーキビストの方に連絡をとり、調査の対象となる史料の絞り込 みを行いました。渡航先での具体的な旅行経路の確認や滞在先のホテルを決める際には、google map などを 活用し、計画をたてました。 海外派遣中の勉学・研究 派遣期間中は、フェローシップ・プログラムの一環として研究活動を行っていたため、授業には登録せず、アーカ イブに所蔵されている史料を開館 ~ 閉館時間まで調査し、また閉館後はフェローたちに提供されている研究室 で、史料の分析・研究を進めるという行程を繰り返す毎日でした。派遣先のアーカイブでは、各研究者に担当者 がつき、史料の扱い方から論文に史料を掲載する場合に必要な許可を申請する方法などを教えてくれるため、 アーカイブ調査に必要なノウハウを身につけることができました。 海外派遣中に行った勉学・研究以外の活動 派遣中は、ほとんどの時間を派遣先機関で過ごしていたため、観光に時間を費やすことはできなかったのですが、 センターで定期的に催されているイベントには参加するようにしていました。例えば、ブッカー賞受賞者であるマー ロン・ジェームスの講演や、毎週水曜の午前中に開かれるコーヒーミーティングに参加し、同時期にアーカイブ・ センターで研究を行っているフェローたちや職員の人達と交流できたことは、文学やテキサス、そしてアーカイブ の魅力を知るにも良い機会となりました。 また、今回の派遣期間中、テキサスでの資料調査を終えた後、ペンシルベニア州で開催された Association for Japanese Literary Studies という北米の日本文学関連の学会に参加し、また最後の 3 週間はコロラド州で私が 研究対象とする戦後活躍した日英翻訳者、エドワード・G・サイデンステッカーのアーカイブを訪れるなど、複数の 場所で研究活動を行なったため、メキシコ文化が入り交じるテキサス、ロッキー山脈などの雄大な自然に囲まれ たコロラドなど、異なる地域/州での生活を体験することができました。 海外派遣費用について フェローシップを獲得しての渡米でしたが、旅費の一部にも満たない額であったため、海外派遣事業による支援 が大きな助けになりました。約 8 週間のアメリカ滞在費に加え、ビザの申請費用、ペンシルベニア州で開かれた 学会へも参加したため、飛行機での移動費用がさらにかさむなど、最終的には上限額をこえ、自己負担額は多く なってしまいました。しかし、資料調査や学会への参加で得たこと、例えば関連分野の研究者とのネットワーク構 築や、研究対象分野のアーカイブ情報、そして論文に組み込むことのできる数々の新たな発見ができたことなど を考えると、出費した以上に今後の研究生活のプラスになるようなさまざまな経験を積むことができたと実感して います。アメリカの場合、ヨーロッパでの滞在に比べ(大学の宿泊施設が利用できなかったということもあり) ホテ ルの料金は割高でしたが、生活費はかなり抑えることができたと思います。 2 海外派遣先での語学状況 テキサスはメキシコとの国境に近いということもあり、滞在中普段の生活では英語の他、スペイン語をよく耳にしま したが、大学やアーカイブで主に使われている言語は英語でした。大学の学部・修士課程とイギリスに留学してい たため、特に語学面で不自由するようなことはありませんでしたが、渡米前にアメリカ英語の発音に慣れるように、 動画やラジオなどでアメリカ英語を日常的に耳にするようにしました。研究活動では、特に言葉の壁は感じること がなかったものの、日常生活では、現地のアクセントになかなか慣れることができず、最初のうちは質問を聞き返 すようなことも度々ありました。滞在期間を終えるころには、だいぶ聞き取れるようになりました。 海外派遣先で困ったこと 飛行機に危うく乗り遅れそうになったことが一度ありました。コロラド大学ボルダー校からデンバー国際空港まで車 で1時間ほどかかるため、バスが遅れることが不安だったということもあり、シャトルバスを予約していたのですが、 フライト当日の朝、予約していた時間に来るはずのバスが迎えに来ませんでした。問い合わせたところ、バス会社 には日曜で代わりの車を見つけることができないと言われ、結局滞在先のホテルの方にタクシーを呼んでもらいま したが、こうしたアクシデントに見舞われるのを前提に、不安に思った時点ですぐに問い合わせ、他にも幾つか交 通手段を前もって確認しておくべきだったと、日本国外では、早めの行動、そして事前の入念な確認が大切だと 改めて痛感しました。 海外派遣を希望する後輩へのアドバイス 海外派遣事業による支援のおかげで、自己負担では実現できなかったような充実した研究活動を行なうことが できました。もし派遣先でフェローシップの制度などがあれば、活用することをおすすめします。資金面での不安を 軽減することができるだけでなく、プログラムの一環として派遣先での研究を行なうことにより、現地での手厚いサ ポートを受けることができます。また、受入れ教員の先生にも勿論沢山情報をいただくことはできるかと思います が、人文学分野の場合は特に、史料を扱う専門家の方たちの知識が、研究をすすめるにあたり大きな助けにな るため、アーキビストたちと密に連絡をとると、より円滑に資料調査を行なうことができるかと思います。 また、私の場合、1ヶ月以上の滞在であったため、間に組み込んだ学会への参加が単に貴重な経験となっただ けでなく良い気分転換にもなり、残りの資料調査期間も緊張感が途切れることなく研究をすすめることができたと 思います。本事業での派遣期間にもし参加できるような学会が渡航先で開催されるようであれば、ぜひ日程に組 み込んでみてください。 3
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