トンボの翅のメカニズムの翼への応用

トンボの翅のメカニズムの翼への応用
11 班 安本雄貴
1.はじめに
渦が発生し、この部分で圧力が低下し、その部分に
現在、地球温暖化など様々な環境問題が発生して
おいて上向きの力が発生する。つまり、これが翅を
いる。その地球温暖化の原因の一つとして航空機に
上へと持ち上げる揚力となる。本実験ではこの凹凸
よる CO2 の排出が挙げられる。もし航空機の性能
形状による揚力向上に注目し、飛行機に応用可能で
が向上すれば、より少ない燃料で遠くへ飛ばすこと
あるかどうかを検討する。
が可能である。本実験では航空機の翼形状に着目し、
飛行性能向上を考えていく。また、翼形状を考える
3.実験モデルと実験方法
ので航空機の代わりに模型飛行機を使用して考え
平らな現行の翼と凹凸形状をするトンボの翅を
る。
応用した翼の2つのモデルを用意して風洞実験を
模型飛行機を遠くへ飛ばすためには、飛行機の性
行った。2つのモデルの表面形状のみを比較するた
能を上げる必要がある。特に翼は飛行機を飛ばすた
めに、翼の表面が紙製でその他が木製の模型飛行機
めに必要不可欠であり、揚力を発生させる部分であ
を2機準備し、図2のようにそれぞれの翼を製作し
るため飛行機の性能に大きく影響する。その揚力を
た。なお、凹凸形状の翼は、翼に使用する和紙を一
生み出しやすい翼の形状を考えたいと思う。そこで
度くしゃくしゃに丸めてから翼表面に接着した。こ
トンボの翅の形状に注目し新たな翼形状を考える
れによって翼表面はトンボの翅の形状のように凹
ことにする。
凸をもった形状となった。本研究では揚力の違いを
調べるため、模型飛行機の翼部分のみを用いて図3
2.理論
のように風洞実験を行った。すなわち力覚センサー
トンボの翅は一見は表面形状が平面であるよう
に2つの実験モデルを固定し、それぞれを模型飛行
に見えるが実際は図1のように表面に凹凸を有す
機の平均的な飛行速度である風速 3 m/s から 9 m/s
る複雑な形状をしている
1)。この特殊な形状には揚
の範囲で実験を行った。 力を発生させる作用がある。流体中で渦が発生する
とその部分の気圧がという性質がある。本来、航空
4.実験結果と考察
機などに使用されている翼の表面は平な形状をし
風洞実験の結果を表1および図4~6に示す。図
ている。この形状だと翼の表面に沿って気流は流れ
4~6は×印を通常の翼、丸印を凹凸形状の翼とし
ていく。しかしトンボの翅のような凹凸形状におい
ている。図6の揚抗比は揚力(N)を抗力(N)で割って
ては図1のように凹凸の谷の部分で気流に
計算されるものであり、揚抗比が大きい値を示すほ
ど揚力が発生しやすいので飛びやすいと言える。ま
たレイノルズ数は相対速度(m/s)に代表長さ(m)を
図 1 トンボの翅の表面を通過する気流の様子
図 2 実験モデル (上)現行の翼 (下)凹凸形状の翼
図3 風洞実験の様子
表 1 風洞実験で得られた揚力と抗力
風速
通常の翼(N)
凹凸形状の翼(N)
(m/s)
L 抗力
D 揚力
L 抗力
D 揚力
3
0.0002
-0.0591
0.0025
0.0094
4
0.001
-0.0237
0.0047
0.0544
5
0.0014
0.014
0.0075
0.0858
6
0.0017
0.0707
0.0116
0.1405
7
0.0023
0.1037
0.0157
0.1888
8
0.0044
0.1561
0.0221
0.2554
9
0.0083
0.2228
0.0283
0.32
図5 抗力—風速グラフ
図6 揚抗比—レイノルズ数グラフ
図4 揚力—風速グラフ
掛け、それを動粘性係数で割ったものである。本実
状を応用した翼を用いることで、より遠くへ飛ばす
験では相対速度とは風洞実験での風速のことを指
ために揚力を増加できることがわかった。しかし、
し、代表長さは 0.11 m とした。動粘性係数は 1.8
速い速度で飛行する旅客機や戦闘機では抗力が大
×10-5 として計算を行った。図4から揚力は全ての
きくなり、逆効果となり遠くへ飛べなくなる。
風速において凹凸形状をした翼が、通常の翼を上回
将来、技術はさらに進化していくであろう。今現
った。従って、凹凸形状を翼に取り入れればより遠
在でも高速で飛行中に翼で発生する抗力を少しで
くに飛びやすいと言える。また図5より抗力も関し
も減らすために翼の位置を変更できる可変型の翼
ても凹凸形状の翼が全ての風速で高い値を示した
をした戦闘機などがある。今後、自由自在に変形で
が、風速が増すにつれて凹凸形状の翼の方が急激に
きる形状記憶合金のような新しい金属が開発され、
大きくなっていることがわかる。つまり、低速にお
航空機の翼に使用できるようになったとしたら、本
いては凹凸形状の翼は平らな翼に比べ揚力が大き
研究で明らかとなった凹凸形状の翼は十分に応用
く発生するため、より遠くへ飛ぶが、凹凸形状の翼
可能であると考えられる。すなわち、航空機などが
は速度が上がるにつれて抗力が増していくことが
離着陸する際には翼の表面を凹凸形状にしてより
分かるため、高速においては抗力が揚力以上に大き
低速で離着陸が可能になり、巡航中には従来通りに
く作用することになる。しかし、この実験において
表面を平らな形状にすることで従来通りの飛行速
は図6のように揚抗比は常に凹凸形状の翼のほう
度での飛行が可能である。これが今回の研究を通し
が高いので、紙飛行機や模型飛行機にトンボの翅を
て得られた、航空機の理想である。
応用させると遠くに飛ばせると言える。
参考文献
5 . おわりに
1) 国立科学博物館, ミルシル, No.2, pp.16-17,
本研究では、紙飛行機や模型飛行機にトンボの形
2011