報告書 1 報告書 広島弁護士会シンポジウム 「自死遺族の直面する問題を考える ~弁護士やこころの専門家にできること~」 2015 年 3 月 7 日 13:30~16:00 近藤: 皆様、大変長らくお待たせ致しました。定刻になりましたので、只今より、広島 弁護士会のシンポジウム、「自死遺族の直面する問題を考える~弁護士やこころの 専門家にできること~」を開催致します。本日はお忙しいところ、たくさんの方に お集まり頂き、誠にありがとうございます。申し遅れましたが、私は、本日シンポ ジウムの司会を務めさせて頂きます、広島弁護士会の近藤剛史と申します。 西田: 同じく司会を務めさせて頂きます、広島弁護士会の西田小百合と申します。よろ しくお願い致します。 近藤: 初めに、このシンポジウムの会場となっております「広島市男女共同参画推進セ ンター」センター長であります、信政ちえ子様よりご挨拶を頂きます。信政様、よ ろしくお願い致します。 -------------------------------------------------------------------------------- ■挨拶 広島市男女共同参画推進センター センター長 皆さん、こんにちは。「広島市男女共同参画推進セン ター」は、平成 24 年度に立ち上がりまして、今、丸 3 年を迎えようとしております。本日のテーマであります 「自死遺族の直面する問題を考える」―こうした問題を、 私どもは相談電話または面接相談でやっております。そ うしたことで、ここで今日、弁護士会の皆様方に開いて 頂くことに本当に感謝申し上げます。私たちの問題でも あるという風に考えております。皆様とご一緒にこうい う問題を考え、そして多くの市民に知らせて解決ができ るような方向に持っていくことを私たちもご一緒に応援 していきたいと思っております。どうぞよろしくお願い 致します。本日はこの会館をご利用頂きまして、ありが とうございました。つたない挨拶ですが、終わりにしま す。 2 信政 ちえ子氏 報告書 -------------------------------------------------------------------------------- 近藤: 信政様、ありがとうございました。それでは開会に当たりまして、主催者を代表 し、本年度広島弁護士会 会長・舩木孝和より、ご挨拶を申し上げます。舩木会長、 よろしくお願い致します。 -------------------------------------------------------------------------------- ■開会挨拶 広島弁護士会 会長 舩木 孝和 皆様、こんにちは。本日は年度末の 3 月 の週末という何かと慌ただしい中、この弁 護士会主催のシンポジウムにご参加頂き、 誠にありがとうございました。本日のテー マは「自殺・自死遺族の直面する問題を考 える」ということで、広島弁護士会の生存 権擁護委員会というところが中心になって この問題をやるというところでございます。 1 年間に自殺というのは、本日の資料にもあったかと思いますが、3 万人という人数を超え ております。はっきり自殺と分からないような、自殺と事故死との不明の部分も含めます と 10 万人を超えてしまう。そういう大きな数字になります。交通事故の死亡者が1番多い 時で、1年間 1 万 6 千件余りぐらいで、最近の交通事故死亡者は 4 千人程度です。そうい うものと比べると、この自殺によって命を落とされる方という数が非常に大きいものだと いうことが分かります。また今日のテーマでご遺族も含めると、かなり大きな数字になっ ております。まさに社会問題として取り上げないといけないという状況になっています。 この自殺に至る原因というのはいろいろあると思います。経済的な問題として困窮として 生活に息詰まったというケースもあるでしょうし、あるいはまた追い立てられて生活なり、 生きることができなくなって自殺する場合もあるでしょう。また病によってそれが原因で 自殺になる場合もあるでしょうし、生きる希望を失って自殺するという場合もあるでしょ う。しかしいずれにしても、自殺の問題というのは様々な問題がありますけれども、それ によってこうむるご遺族の方というのは、普通に死亡した場合でもやっぱり大変な精神的 な負担をこうむるんです。ましてこの自殺という形になると、もっといろいろ悩まれるし、 大きな問題を抱えてしまいます。こういうところについて、原因がそれぞれの場合がある からなかなか対応が難しい面がありますけれども、やはりそれぞれのこういう大きな数字 3 報告書 という問題を抱えている以上、心の問題を取り残してどういう対応をすればいいのかとい う事は非常に大事なことだろうと思っております。私自身も弁護士として仕事をする中で、 自殺に関わってしまったということが何度かあります。破産管財人として関わっている事 件でも、経営者が自殺したりというケースも 3 件ありました。勿論そこで、ご遺族の方と 話しをしながら進めていったというケースも何度も経験しました。やはり非常にそれぞれ の場合が違っていて、難しい。その対応も、その心中を考えると非常に難しいというのを 感じております。本日のシンポジウムが皆様にとってより有意義であって、今後の役に立 つことを祈念して挨拶とさせて頂きます。本日は最後まで、よろしくお願い致します。あ りがとうございました。 -------------------------------------------------------------------------------- 近藤: 舩木会長、ありがとうございました。 西田: さて本日のシンポジウムは、事前にご案内させて頂いております通り、第 1 部と して基調講演、そして日本弁護士連合会からの特別報告を挟みまして、第 2 部とし てパネルディスカッションが予定されております。 近藤: それでは、第 1 部 基調講演を行います。第1部 基調講演は、 「自死遺族が直面す る法律問題について」です。講師は、大阪弁護士会の生越照幸弁護士です。生越弁 護士は、2005 年に弁護士登録し、大阪弁護士会に所属。過労死等の労働問題に取り 組み、また、自死遺族の方々に対する法的支援にも取り組んでおられます。現在は 「自死遺族支援弁護団」事務局長・自死対策全国民間ネットワーク監事を務めてお られます。それでは生越弁護士、よろしくお願い致します。 -------------------------------------------------------------------------------- 4 報告書 ■第 1 部:基調講演「自死遺族が直面する法律問題について」 大阪弁護士会 1 はじめに 生越 照幸 弁護士 ~「自死」という言葉 ご紹介にあずかりました弁護士の生越で す。1時間程度にわたりまして自死遺族が直 面する問題について、私は弁護士ですので法 律実務家の立場から少しお話しをさせて頂き たいと思います。 本日お話しをさせて頂くにあたって、この 「自死」という言葉ですね、どのようにお話 しをするかという点を、1 点だけご説明とい うか、釈明をさせて頂きます。 2 つの言葉が今、併記される場合もありますし、片一方だけ使われるということもある んですけれども、本日のパワーポイントの中では文献の引用と、判例―判例はまだ変わら ないですね―、そこの部分についてはそのまま引用しますので、その点だけはご了承下さ い。他の言い回しに関しては全て「自死」で統一したいと思います。では、始めさせて頂 きます。 のっけっから脱線なんですけど、広島の弁護士会の先生方に呼んで頂いて、私は大阪の 弁護士なんですけど、新幹線の中でちょっと考えてたんです。実は私がこの問題に取り組 み始めたのは、平成 17 年の暮れから 18 年の頭ぐらいなんですね。ちょうど 10 年くらい前 でしょうかね。その頃に私は、この問題は大変だから、絶対弁護士が取り組んでいると思 ってたんですね。誰かがやってる、やってるはずだと思ってたんです。ところが、例えば 過労の問題だったら過労の問題、貧困の問題だったら貧困の問題で取り組んでいらっしゃ る先生方がいたんですが、この自死、ないしは自死遺族という切り口で取り組んでいる先 生方がどうも探すと日本で誰もいないことに気付いたんですね。 「俺だけかよ!」という感 じで。それからほぼ 10 年経って、こうやって弁護士会に呼んで頂いてお話しができるとい うのが、時代が 10 年経ったんだなあという風に少し感じました。 2 「自死」の実情 それはさておき、中身に入らせて頂きます。パワーポイントは小さいんですが、お手元 の資料、見やすい方で見て下さい。今日はご遺族の方もいらっしゃるし、弁護士の方も、 臨床心理士の先生方もいらっしゃるので、ちょっと一般論を含めながらいきたいと思いま す。 先ずですね、自死というのはどういうものかと。難しく言うと、1番この定義が私は的 を射ているんじゃないかなと思うんですが、非常に複雑な事象であるということですね。 5 報告書 複雑事象である。いろんな多元的な因子を抱えている、いろんな問題を抱えている、1つ の状況じゃないということですよね。時間的・状況的なプロセス、複雑でかつ時間的にど んどんどんどん流れて行くような話しであって、終盤になると、最終的には精神疾患が絡 んでいる場合が多い。で、結局、その精神疾患というものでこの時間の流れが促進されて しまうと、こういう形になってるわけですよね。 我々法律実務家がこの自死の問題に取り組むにあたって、やはりいくつか視点は必要な んだと思います。私が基本的に考えているのが、この 3 つにしたらだいたい分かりやすい のではないかということですね。 1つは「プリベンション」と言われます。簡単に言うとですね、あまり問題を抱えてい ない状態ですね。それほど自死の蓋然性が高くない。具体的にはちょっと借金したかなと か、まだ精神疾患というわけじゃないけどちょっと軽い病気になってるねとか、自死の蓋 然性があまり高くない、低い状態ですね。これはいわゆる予防と言いますか、問題がそれ ほど大きくない状況ですね。 2 つ目が「インターベンション」と言われてまして、危険が高まっていく。かつそうい う問題を複数抱えてしまっているような状態ですね。ないしは精神疾患のうつ病であると か、そういう病気になってしまって、ある程度自死の蓋然性がちょっと高まった状態。 最後が「ポストベンション」と言われますけど、これはもう自死遺族の方に対する、ご 遺族に対する支援ということになります。残念ながら亡くなられた後の話しになります。 この話しをすると自死遺族支援というのはここで切れるように見えるんですね。①②は 関係なく、 ③だけという風に見えてしまうのですが、決してそうではないということです。 それはどういうことかと申しますと、自死遺族の方自体が非常に問題を抱えてしまう場合 があるということです。私の依頼者の方も、何人も未遂をされています。実際亡くなった 方も1名いらっしゃいます。ですから、それはなかなか難しいんですね。自死遺族は③の ように見えるし、①も②も目を配らなければいけないわけです。 3 自死遺族の直面する問題① ~自死が発生した時 じゃあ実際、その自死遺族の方の法律的な問題と言いますか、特殊性ですね。我々弁護 士が普通のクライアントから事件を受けるのと何が違うか?大きく分けて4つあると思い ます。 1つ目は、自死で亡くなった方自身が法律問題を抱えて亡くなっている場合があるんで すね。問題はですね、それが自死遺族、この場合は法律家なので相続人・被相続人という 言葉を使いますが、亡くなった方、要するに被相続人の法律関係というのは、相続人であ るご遺族から見て何があるか分からないことが多々あるんですね。本人はもう亡くなって いないわけですから、 「ああいうことがあった、こういうことがあった」ということを聞け ない。聞けないのに複数の問題を抱えている場合が結構あるんですね。これが先ず1個目 です。特に単身赴任をされている方とか、お子さんがもう大学に行かれててしばらく会っ 6 報告書 ていない場合のご両親の方とか、後は極端な話し、20 年くらい音信不通で相続人なんだけ どいきなり亡くなったという通知が来たというパターンもありますし、ともかく先ず①が 問題なんでしょう。 2 つ目。被相続人の法律関係もよく分からない状態で、そもそも自死遺族固有の法的問 題が別途生じるということですね。大きく分けて、先ずは相続するかどうかです。これは 非常に悩ましい問題で、実務的にも1番気を遣うところです。相続するかどうか。もう相 続しないで相続放棄を選択する場合もよくあります。後はご遺族自身に発生する権利関係 ですね、例えば労災なんかがそうですし、連帯保証は相続に基本的に左右されませんので 連帯保証、あとは生命保険とかですね。そういうご遺族自身の法律問題も発生してしまう。 ①と②がドカッと一気にご遺族の所に落ちて来るんですね、ドサドサと。法律の問題は普 通のクライアントの状態だったらいいんですが、なかなかそうはいかない。 3 つ目が体調に起因する問題ですね。非常に体調が悪い方が多いので、なかなか法的ア クセスまでいかないんですね。法律家の所まで辿り着かない方がものすごく多くいらっし ゃいます。仮に辿り着いたとしても、体調の事をいろいろ考えて、我々から見ると「なん で?絶対にこれは法律的に何とかなるよ」と思っても、 「もう、いいんです。もうそこまで 元気がないので、手続きはしません」という風におっしゃる方もいらっしゃいます。です から、体調に起因する問題がある。 最後 4 つ目は偏見の問題なんですね。法的問題を解決する意志が持てない。なかなか持 てない。例えばですね、親族間で、 「そんな身内の恥を晒すようなことをするなとかって言 われました」、という話しを非常によく聞きます。訴訟になった時に、家族の自死が知られ てしまうんじゃないかと。例えば、地方のご遺族の場合は、町が小さいものだから、 「近く の法律事務所に行くと、それだけで噂が立つんです」と。 「だから大阪の先生の所まで来た んです」みたいな方もいらっしゃるんですね。 だから大きく分けて、この 4 つの問題がありますので、順に少しお話しをしていきたい と思います。 4 自死遺族の直面する問題② ~法律関係の複雑さ 1つ目の、亡くなった方の法律関係の複雑さということですね。これは「ライフリンク」 というところのNPOが作った調査の結果です。実は私もこの調査に参加をしてたんです けど、大体、最後亡くなる前にどれだけ問題を抱えているか?大きく 4 つぐらい抱えてい るだろうと言われています。 この図ができたことを、実際私自身がご遺族の話しを聞いていてなるほどなあと思った のは、最後は確かにうつ病だったかもしれないし、何か分からない、病名としては分から ないこともよくあるんですね。ただ、やっぱり体調が悪くてというパターンが多いんです けど、その前に家族と別れていたり、借金があったり。例えば、事業をやっていました、 借金ができてきました、と。 夫婦の仲が悪くなって奥さんが子どもを連れて家を出られる、 7 報告書 ご主人は帰って来てほしいと思いながら金策に走り回って、だんだん体調が悪くなって亡 くなる、というパターンは実際に見てきました。だから、やっぱりこの 4 つの要因、平均 で少なくとも 4 つの要因が絡んでいるというのは非常に納得がいきました。我々法律家の 観点から見ると、こんなに絡んでるんかという感じですね。非常に法律的な相談を難しく させる1つの要因であるという風に思います。 この図はどういう図かということをご説明しますと、最後は自死で(5.0)となってい ますけれども、その自死に近い事象ですよね。それは何かと言うと、下の方になると、ど んどんどんどん自死に近い出来事だということになるわけですね。例えば、下からいきま すとうつ病とかが近くて、生活苦とか家族の不和だとか、この辺になると結構リスクが高 くなるのかなと思います。もうちょっと上の方だと例えば過労とか事業不振とか職場の環 境の変化だったら、まだ上の方なので先程話した「プリベーション」の話しで何とかなる という図になっています。 タイミングによっても抱えてしまう出来事が違うので、時系列で慎重に見なければいけ ないことがあります。弁護士の先生方にお話しする時には必ずお話しをするんですが、う ちの弁護団でも勉強会の時に必ず言いますけど、 「主訴に囚われない」というのは非常に自 死遺族の方の法律相談を聞く時に大切です。 例えば、実際にあった危機経路ですね。働き過ぎです、休みました、休んで使えないと いうので配置転換になって、配置転換というか要するに窓際に追いやられちゃって、変な 上司と人間関係が悪くなって、もうやむなく辞めてしまった。仕方がないから起業したら 起業に失敗して、負債を抱えて、奥さんが出て行って亡くなったというパターンですよね。 この時に例えば夫婦の不和で仮に相談が来たとします。市役所の法律相談でも、弁護士会、 法テラスの法律相談でも何でもいいんですけど。その人は必ずこう言うはずです。「先生、 妻がちょっと出て行って、子どもも連れて出て行って、離婚をしてくれと言われています。 どうしたらいいんですか?」と。我々は反射的に「ああ、これは離婚の話しなんだな」と いう風に思っちゃうわけですね。ただ、離婚の話しじゃなかったりするわけですね、ずっ と話しを聞いていくと。 ですから、考える法的問題で、この方が亡くなった時にこういう話しがドサッとあるよ うに、これを途中で聞いてもいろんな話しがあるわけです。遺族の観点から見ると、これ が全部ガサッと相続されて、いろんな債権・債務をご遺族が相続するかどうかという事を 決めなければいけない、ということになります。 5 自死遺族の直面する問題③ ~損害賠償 ただでさえややこしいケースが多いんですが、亡くなり方によってさらに話しはややこ しくなります。 例えば、賃貸物件の中で亡くなった場合は、大家さんから損害賠償が来ます。最近、一 時期よりは多額の請求は、私はなくなってきたと思います。常識的な請求が多くなってき 8 報告書 たかなと思います。昔は、マンションの物件の中で亡くなると、マンション全体の価値が 下がったとかと言って数千万円の請求をされることがありましたけど、最近は、まあ多く ても数百万の請求が多いんです。ただ、数百万といってもすごい負担ですから。そういう 話しがいきなりお葬式から少し経った時期に大家さんから請求するとかと言われると、ご 遺族にとっては非常に負担が重いということになります。 後は電車ですね。電車の場合もやはり請求が来ます。これは実は知っておいて頂きたい んですが、鉄道会社はご遺族の個人情報を基本的には取得することはできません。警察と 消防には行きますので、その際にご遺族と接触して亡くなった方は誰なのか、とか、相続 人が誰なのかということは、必ず情報を取ります。ところが、警察と消防は、その情報を 鉄道会社には言わないんですね。ということは、鉄道会社から請求が来てしまうというこ とは、ご遺族の方から、すいませんと言って情報開示をしてしまうパターンが殆どなんで す。ただ、ご遺族が、言わざるを得ない、心情として言わざるを得ないという話しもあり ますし、法律的には時効の問題を議論しても、加害者の名前、加害者が誰か分からない状 態では時効が進行しないことになりますから、いつまで経っても時効が来ないということ になります。ですから、そういうこともあって、個々のご遺族がうちの家族がという風に お話しをされるんですが、そうすると鉄道会社はやっぱり請求して来るんですね。最近は 非常に請求が多くなってきた感じがします。一昔前はそんな請求は来なかったんですね。 特に尼崎で脱線事故をした鉄道会社などはですね、どういう訳だかしばらくは請求なんか しなかったですね。最近はあそこもするようになって。中身は振りかえ輸送とか、何か器 具が壊れた場合ですよね。そういう金額を請求してきます。高い場合だったら 1,000 万ぐ らい請求される場合があります。ただ、内訳がよく分からないことが多いので、損害の中 身についてかなり議論をしたりはします。 後はレンタカーですね。後は第三者を巻き込んでしまった場合。典型的な例としては、 飛び込んだ時に下に人が歩いてらっしゃったとか、鉄道の話しで第三者を巻き込んだ、み たいなことになると、やっぱり第三者からの損害賠償請求を受けてしまうということにな ります。ただでさえいろんな問題を抱えた方が、本当に追い詰められて亡くなる。その手 段によって、また法律的な問題が増えてしまうという事になることが少なくないというこ とですね。 6 自死遺族の直面する問題④ ~相続 どんな法的な問題がありますか?と。答えは無いんですけれども、これは実際に私が聞 いたことがある話しですが、相談の方は 40 歳の女性で既婚で子どもが2人。4 カ月前にご 主人が亡くなったということですね。弁護士の先生はここで「うーん」と思って頂かなき ゃあいけないですね。もし支援の方もいらっしゃったら、 「ここだ」という風に思って頂き たい。後でお話しをしますが、4 カ月前に亡くなって、もうちょっと早く来てくれればな という感じですね。夫は営業マンで管理職をしていたけど、働き過ぎでうつ病になって通 9 報告書 院した。入院までしたと。ただ、お医者さんは病気じゃないと、もう治ったと言って薬も 何も要らないからと言って退院させてしまう。退院して1日も経たないうちに亡くなった。 亡くなった場所は賃貸マンションだということです。連帯保証は夫の父親がなっている。 これも曲者なんですね。奥さんから見ると、義理のお父さんがなっていると。夫の預金は 200 万ぐらいあるから、200 万プラスはあるんですねと。ただ、住宅のローンはあるが、オ ーバーローンではない、結構払っていらっしゃる。ところが財布を見ると、消費者金融の レシートが出て来て、残高が 200 万ぐらいあったと。「先生、どうしたらいいんでしょう か?」というご相談なんです。 これを見て頂いただけで、かなりいろんな問題があるなという風にお気付きになって頂 けるんじゃないかなという風に思います。簡単に説明を。もう弁護士の先生方には釈迦に 説法なんですが。ただこういうのがドンと来るんで、ちょっと「あれ?」っていう風に思 っちゃうんですよね。ですから視点を提示をさせて頂きたいと思うんです。 先ずですね、相続財産を相続するのか。先程、相続するかどうか問題があるという風な ことをお話ししましたけども、相続するかどうかというのは非常にポイントになるわけで すね。プラスの預金も不動産も債権―債権というのは働き過ぎがあるんだったら安全配慮 義務違反に基づく損害賠償請求、ないしは長時間の労働があるんだったら割増賃金の債権 を持ってますから、債権も持っている。マイナスの財産は、借金もあるし賃貸物件の中で 亡くなってますから、大家さんからの損害賠償請求もありそうだということですよね。お なじみの単純承認、限定承認、相続放棄のどれかを 3 カ月以内に選ばなければいけないわ けですけれども、選べません。大概の場合3カ月では分からないんです。 ですから、是非ともご遺族の相談を受け時には、先ずこれを考えて下さい。「伸長」で す。3 カ月以内だったら相続放棄ができます。ただ、先程の例では 4 カ月経ってるので、 もう相続放棄もできないですね。だから、 「4 カ月でうーん」という風に思って頂きたいの です。伸長ができるケースのご相談であれば、是非とも熟慮期間の伸長の手続きを取って 下さい。 実は私は今、伸長の事件だけで 5 件ぐらいやっています、伸ばしています。なんで伸ば すかと言うと、いろんな調査をするためなんですよね。借金の総額がいくらかとか、大家 さんから損害賠償を受けているならその交渉とか、換価できるか、物件を換価するための 時間を稼いだり、労災が取れそうだったら労災が出るまでずっと引っ張ったりします。 今、 1番長いので 1 年 2 カ月ぐらい引っ張っています。ずっと 3 カ月毎に延長できるんですね。 3 カ月ごとに申し立てをしなくてはいけないですけど、 3 カ月毎にずっと申し立てをしてい たら、裁判所が認めてくれれば 1 年以上この相続の選択の時期を延ばすことができます。 ですから、第 1 選択としては先ずご相談を受けた時、ないしはもしご遺族が身近にいらっ しゃって、いろいろあってどうしようと、体調も悪くてちょっと動けないという事であれ ば、先ず伸ばす手続きを取って下さい。ここを延ばせば相続関係はブッチャケた話し、し 10 報告書 ばらく放っとけるんですね、時間を稼げますから。これはこれで取り敢えず置いておこう と。一応置いておこうと。 次に、②は何があるかということですね。先程の絵では労災とか生命保険とか連帯保証 とか、勤めてたら死亡退職金とか、これらの問題は基本的には相続には左右されないので、 これはあんまり放っとくと時効の話しになりますけど、あまり 3 カ月でどうこうせえ、と いう話しにはならんわけですね。ですから大切な視点としては、この 2 つをちゃんと分け た上で、どんな問題があるかということと、3 カ月以内にどうせ決められないので熟慮機 関の伸長をしていただくということが大切かなという風に思います。 で、さっきの話しに戻りますが、この熟慮機関の伸長が、もう相続開始から 4 カ月経っ てるのでできない。しかし、ざっと見た感じですね、働き過ぎの問題もある、医療過誤も ある、借金もある、連帯保証もあるので、このケースは非常に大変なケースだということ になります。 7 自死遺族の直面する問題⑤ ~健康問題 その次に、ご遺族が直面するお体のお話しをちょっとさせて頂きたいと思います。自死 遺族が直面する健康問題ということで、これは本から引っ張っていますが、いろんな症状 がやはり出るんだろうと思うんですね。 特に、実務家として、弁護士として、辛そうだなってずっと感じてます。抑うつ、自責、 不安、怒りですよね。他罰もありますね。疑問もあります。いろんな感情が渦巻いてしま って、なかなか前に進めない。30%以上のご遺族にうつの症状が見られたという、これは 高橋祥友さんという有名なドクターのデータなんですけれども、 「30%かな?」という気が しますね。私なんかはもっと多い気がします。あとPTSDですね、遷延化が 80%に認め られたと。特にご遺族が第一発見者の場合、それが特にお子さんの場合ですね。やはりこ の問題はどうしても避けることのできない問題としてできてしまいます。こういう非常に 体調が悪い状態にいらっしゃるわけですね。 それに輪をかけ困るのが、周りがいろいろ言ってくれるわけですね。これも「ライフリ ンク」の調査から引いたものですが、 「故人の死に対し、何か周りから気になることを言わ れたことがありますか?」という質問に対して、56.4%がありましたという風にお答えに なっています。これはですね、恐らく死因を言ってない方、こっちに無かったが 33.4%な んですけれども、無かったという方はですね、どうして亡くなったか周りにお伝えされて ない方も結構含まれているのかなと思います。ただ、半分以上の人がいろいろ言われてし まうと。ご遺族の方も今日いらっしゃっているのでこの辺はあまり触れませんけど、本当 に心ない言葉がですね、親戚とか近所の人とか、はたまた自分の義理の両親からいろんな 話しをされてしまう。私の依頼者の中でも平成 19 年にご主人を亡くされた事件で、ずっと それから訴訟をやっていて、今その事件は東京高裁に継続していますけれども、その方が おっしゃってたのが、やはり義理のご両親から非常に辛辣な言葉を投げられて、その度に 11 報告書 やはり彼女自身もうつ病に苦しんでますけれども、症状がひどくなってしまって。よく私 におっしゃるのが、 「主人がどうして亡くなるのか、最近よく分かるようになった」と。彼 女の方に死にたいという気持ちが起こってしまって、ただ、お子さんが 2 人いて、自分だ け逝くわけにいかない、みたいな話しをされてですね、会う度にずっと泣きながら話しを される方がいらっしゃいます。大きなきっかけは、やはりその義理のご両親からの辛辣な 言葉だと彼女は言ってました。先程、死にたいという気持ちの事をお話ししましたけれど も、これも調査を取ってみると、直後だったら 20%ぐらいとか、8 年 10 か月経ってもやは り決してその思いは完全に消えることはない、というような調査の結果も出ています。こ れも生の声ですけど、いろんな不安の中で、一緒に逝きたいとか、楽になりたいというよ うなコメントがどうしても出てきてしまうということになります。非常にお辛い状況です。 ただ、我々実務家としては、法律的な問題があるとすれば、それは何とかしなければい けないということになります。多くの方がうつ病にかかられて、うつ症状、うつ状態、う つ病、いろんな症状が出るんですね。受任をすることによってどうなるか。我々法律家と 接触しようとしたらどうなるかという話しをしたいんですが、大きく分けて 2 つパターン があるんですね。 落ち込みが強い方の場合はこうなります。当たり前ですが、そもそも法律相談に来る気 にならないと。手続きに関してすごい強い罪悪感を持ちます。 「私なんかがそんなことをし ていいんですか?訴訟をしていいんですか?」と。ここまではいろんなお話しをして、た だ放っとくわけにもいかないような状態ですね。そこはちゃんと説明をして手続きをしま しょう、という所までこぎ着けました。 ただ、我々法律家は時系列でものを考えます。後は法律的な要件に当てはめて訴状とか 準備書面を書いたりするんですが、ご遺族の多くは事実関係を時系列で整理できないんで すね。記憶が飛んでしまってる部分もあるし、辛いから思い出したくないということもあ るので、そこはなかなか何回聞いても思いついたことをポツリポツリとおっしゃる場合が 多いんですね。時系列で整理すると、家族がどうやって亡くなったかということをもう 1 回文章で起こすことになるので、それが非常にお辛いんですね。我々としては事実関係を 掴まないと前に進まないので、 そこはもう非常に神経を使いながら話しを聞いたりします。 資料が整理できないとういうのは、「何か持って来て下さいね」というのがなかなか持 って来て頂けないということです。何度も同じことばかり聞いてしまう。不安からそうな るんだと思います。 後は相手の主張に対して過敏に反応する。訴訟するともう本当にケチョンケチョンに亡 くなったご家族ことを言ってくるので、それに反応して未遂をされる方というのが結構い らっしゃる。未遂ないしは体調悪化ですね。薬の量が増えるとかという話しは非常によく 聞きます。 私は個人的にはここは最初に言います。事件を受けた時に、「恐らく滅茶苦茶言ってく 12 報告書 るからどうしますか?」と。弁護士は基本的に相手から来た書面を全部依頼者の方に渡す わけですけれども、同意を取って相手方の書面を弁護士が止めるということをします。そ うしないと訴訟もやってられないからですよね。弁護士として非常にイレギュラーなので、 同意書を取らせて頂いたりはしますけど、そんなことをしたりもします。 方針、契約内容についての判断能力がなかなかない。最後に和解をするかどうかとかで すね。1 審で負けた時に控訴するかどうかというのは、 「どうしたらいいですか?」という 風に聞かれてしまうんですね。時間をかけてご説明して判断して頂くしかないということ です。 一方、落ち込む方と非常に不安焦燥というんですが不安が強い方がいらっしゃるんです ね。不安が強い方はどうなるかと言うと、当初から大量の資料をドカッと持参されて来ら れるんですね。こういう方は意識が強いのかちょっと分からないですけれども、割かし何 かいろいろ聞き取りとかされていて、もうUSBにものすごい量の音声データが入ってい て、最初の打ち合わせの時に、 「先生もこれを聞いて下さい」と。 「これを聞いてくれたら、 絶対勝てます」、と言うんです。「これはどれくらいあるんですか?」、「8 時間ぐらいあり ます」とかと言われると、 「ちょっとそれはね…」という話しになるんですね。やはりあせ っていらっしゃるので、早く受任して下さいということですね。非常に視野も狭くなられ ていて、こちらがちょっと法律的な話しをしようと思っても、なかなか受け入れてもらえ ない。 「そうじゃないですよ。実は、実務はこうなっていてね」と、私の経験でもこうです よということを言っても、自分の意見が入らないと非常に攻撃的になるパターンがありま す。 例えば、私の依頼者の方でも1人いらっしゃいますけど、朝は家で家事をするんですけ ど、午後から夜にかけてずっと裁判に充ててるという方は、思い付いたら大量のものを作 られるんですね。それを私に渡して、「全部、これを準備書面に書いて下さい」と。「それ はね…」と言うんですけど、やっぱり抑えられないんでしょうね。 「どうしても書いて下さ い」ということになります。何度説明しても同じ説明を求められるのは、抑うつが強い場 合とパターン的には同じだということになりますね。ご病気、特にご遺族でうつ病などの ご病気があると、なかなかこういう問題が出て来てしまうということになります。 ご遺族自身が非常に不安定で危ないというような時はどうするか、という話しを、是非 とも弁護士の先生方に知って頂きたい。私もそれほどそんなにたくさん経験しているわけ ではないですが、私の経験上、大体こんな感じかなという風に思います。先ず安全の確保 です。危なかったら、救急車を呼んで下さい。警察も呼んだことが私はあります。やっぱ り命が1番大切なので、とにかく電話を切らないでと。救急車が着くまでちゃんと電話を 聞いててみたいな話しで、救急車を呼んだこともありました。2 つ目、ここがやっぱり重 要かなと思います。何がご遺族を自死に傾けてしまったのかということを、ちゃんと確認 すべきだと思います。法的手続き自体が追い込んでいることもあります。その場合は一時 13 報告書 手続きを中断するか、ないしはもう止めてしまうか、選択をしなければいけないかもしれ ません。ですからそれはどうしてなのかということを、なかなか難しいですけれどもお伺 いするしかないということです。後は支えになる柱を増やすということですね。キーパー ソン、できたら身内の方とか信頼してる方とかに来て頂いて、一緒に相談を聞いてもらう とかですね。連携しているNPOとかお医者さんとかに連絡を取る。私は、通院されてる 場合は、当然ご遺族の承諾を得てですけど、主治医の先生と話しをしたりもしますね。 「大 丈夫ですか?」ということです。弁護士も1人で支えるのはしんどい場合が多いので、弁 護団を組む、複数で受任をするということをしたりします。後は支援の継続、次の約束、 自死をしない約束ですね。打ち合わせの度に死にたいとおっしゃるご遺族もいらっしゃい ますけれども、まあ笑い話ですが、 「今度死ぬと言ったら 500 円ね」とか言いながら、「ま た言った」とかと言いながら半分笑いながら、でも真剣に「言わないで」ということを言 い続けたりします。ですからこういう非常に危険性が高い場合もあるので、注意をして頂 きたいかなという風に思います。 8 自死遺族の直面する問題⑥ ~労災 次に各論をちょっと書いてきたんですけ ど、各論は、たくさん専門の先生方がいら っしゃるので、サラッといきたいと思いま す。 まず労災ですね。私の専門は労災、まあ 専門って言っちゃあダメで、重点的な取り 扱い分野ですね。ですからここは私が良く 知っているとこなんですが、労災に関して いくつか簡単にご説明したいと思います。 誤解されてる部分も多いと思いますが、労災というのは損害賠償とは違うんですね。よ くテレビとかで過労自殺で判決が出ましたといった時に、実は 2 種類あるんです。1つは こっちの青が労災。こっちの緑の方が損害賠償なんですね。労災というのは実は労基署に 行って審査官に行って、審査官でぐるっと回って、広島だったら広島地方裁判所ですね。 私も広島地方裁判所で労災を取るケースを 1 件やっていますけど、高裁、最高裁と上がっ て行くんです。 これと全く別個に、会社に対する損害賠償なんですが、それがあるということですね。 だから、労災をやったから損害賠償をやらないといけないとか、損害賠償をやったから労 災をやらないといけない、という考えは実は無いんです。労災と損害賠償は何が違うかと 言うと、相手方が違う。労災は国、民事訴訟は会社ですね。ここが決定的に違うというこ とですね。ですからそこは是非とも覚えておいて頂きたいかなという風に思います。請求 できる内容はまあ似た様なところがあるんですけれども、違うということです。 14 報告書 あと、大きく違うのは、全く同じ話しじゃないんですけれども、労災と民事を比べると 交通事故の自賠責と任意保険の関係に少しだけ似ています。と言うのは、交通事故の自賠 責というのがなぜ出来たかと申し上げますと、交通事故の加害者に資力が無いと、被害者 が請求しても、被害者の救済にならなかったんですね。ですから国が自賠法という法律を 作って、被害者の救済を図ろうとした。これと似ていまして、労災も、本当は会社に全部 請求したいところなんですが、会社に資力が無かった時に、労働者が全然保護されません よね。だから、国が法律を作って国が補償するというシステムを作った。その辺が似てる ので、位置付けの何かイメージの助けになればいいかなという風に思います。 要件だけ言っておきましょうか。要件は非常にシンプルです。1 つ目が対象疾病を発病 していること。これは、例えば、うつ病とか統合失調症とかPTSDとかが適応症だと。2 つ目が業務によって対象疾病の発病前の主に 6 カ月間に業務による強いストレスがあるこ と。3 つ目が業務以外の心理的負荷とか個体側の要因によって発病したとは認められない こと。この要件は覚えて頂かなくて結構なんですが、1点だけポイントがありまして、こ の①②③の要件は並列ではないです。実は①②が認められると、③は殆どスルーです。私 も何回も相談を受けたことがありますけど、例えば、アコムに 200 万ぐらい借金がある場 合、 「先生、労災は出ませんよね」と言われることがあります。しかし、200 万の借金ぐら いだったら、③の要件に全然響きません。③の要件で響いてくるのは、例えば自分自身が 業務に関係なく交通事故に遭って重傷になって、かつそのタイミングで離婚したとか、大 きいやつが複数あるような場合に限って③の要件に効いてくるので、借金とか離婚とか子 どもが病気になった程度では③の要件は全然影響を受けません。そこは是非とも知ってお いて頂きたいなと思います。 9 自死遺族の直面する問題⑦ ~賃貸借 26 ページにちょっと飛びまして、賃貸借のお話しをしたいと思います。これは住む所な のに結構頻繁に問題が生じるんです。賃貸借の問題は2つの視点で考えて下さい。1つは 原状回復。つまり普通に借りている所から出て行った時に、大家さんから「畳を直して下 さい、壊れているから直して下さい」と言われる話し。2 つ目は将来賃料ですね。将来賃 料というのは、部屋の中で自死されたから将来借り手がいなくなるから、将来分の損害賠 償をして下さいという話し。この2つの問題が生じるんです。 1つ目は原状回復に関する話しなんですが、ここは最近、膨らませて来る大家さんが多 くなりました。で、ここに国交省のガイドラインを書いてますが、基本的に今の国交省の 立場とか判例の立場は、原状回復、つまり賃貸物件の中で出た時に修繕しなくてはならな いものは何かと言うと、物理的瑕疵に限られていると言われています。つまり、物を壊し た、壊れた状態。大家さんがよく自死遺族に対する請求でやるのは、心理的瑕疵というや つです。具体例を挙げますと、例えば、ワンルームのマンションで入口の所で亡くなった 場合、全体が何となく心理的瑕疵に覆われてるから、フローリングとキッチンとかユニッ 15 報告書 トバスとかクーラーとかも全部変えろとなるわけです。それが例えば 300 万だみたいな請 求をして来るんですね。ですからここは今、膨らます大家さんが多いので要注意かなとい う風に思います。ただ、少なくとも国交省とか判例を見る限り、抽象的な心理的瑕疵は認 めてません。せいぜい心理的瑕疵で損害を認めてるのは、お祓い。あれにどれだけ意味が あるのか分からないですけど、お祓いの部分に関しては判例上認めている判例があるんで すけど、そういう心理的な瑕疵があるから何か変えなきゃあというような考えは、実務上 今、取られてないので、その点は是非知って頂きたいかなという風に思います。 2 つ目の将来賃料ですけど、そもそも自死した事実が心理的瑕疵なんですか、という話 しですね。これは宅建法という法律がありまして、宅建法の中で大家さんが新しい賃借人、 借り手に対して、自死の事実を告げなくてはいけない、重要事実だから告知せえという話 しになってるんです。ただ、大家さんがよく言うんですね。「告知したら、誰も借りない」 と。でも、本当にそうなのかという話しなんですね。例えば 2 分の1、3 分の 1 にしたら 借りるんじゃないのみたいな話しをしたりもします。ですから本当に大家さんが言うよう な、何年分、3 年とか 4 年とか 5 年とかいろいろ言いますけれども、そんな損害が発生す るのかという論点があります。仮に損害が発生したとしても、今 3 年 4 年 5 年と言いまし たが、そんなに長くいくんですかみたいな話しも論点として出てきます。うちの弁護団で よく議論するのは、賃貸借の物件の話しだと、基本的にまずこれはいわゆる精神無能力、 非常に混乱されて亡くなっている状態だと、法律的に責任を負わないんじゃないのかみた いな実は議論があったりもします。ここで結構押し込んでですね、大家さん側がトーンダ ウンすることもよくあります。 金額が大きくなる理由として、そのマンションの場合の他のマンションへの波及ですね。 縦・横・斜めとかですね、風呂は全部みたいな話しになると、いきなり損害額が大きくな るんですが、基本的には判例は当該部屋のみという風に考えていると思います。うちの弁 護団では当該部屋しか関係ないと。仮に心理的瑕疵が発生しても、当該部屋しか関係ない という主張をしたりします。 将来の賃料を、先程来お話ししている「将来どれだけですか?」と。最近は大家さんも おおむね 2~3 年の請求が多くなってきました、将来賃料に関しては。これは実は大家さん の内部でそういうマニュアルみたいなものが出回ってるらしいんですね。だいたい判例は 2~3 年みたいなことを言ってるので、大家さんに付いた弁護士の先生も、2~3 年で請求し てくるんですね。ただ、これは京都地裁で平成 24 年 3 月 7 日判決があるんですが、1 年と いう判決もあります。実はいろんな建物の属性と言いますか、状態によって結構裁判例は 幅があるんですね。例えば、田舎のみんな顔見知りのような所で、不動産が全然動かない ような所で亡くなるとそれはやっぱり長い。そんな所に借り手があるのかという話しもあ りますが、その場合は瑕疵が残るという風に考えますけれども、都市の、例えば京都地裁 なんかは、学生のアパートで大型であってにぎやかな所で出入りが激しくて、というよう 16 報告書 な所だと 1 年程度じゃないのという判例も出て来ています。 10 自死遺族の直面する問題⑧ ~生命保険 次は各論の 3 つ目ですが、生命保険の話しですね。 これもなかなか深刻な問題なのですけれども、この 2 つの視点で見るという風に書いて いますが、実はその前にありまして、生命保険は少なくとも私が経験した、ないしはうち の弁護団が経験した範囲では、生活保護の水際作戦というのをご存じですかね、窓口まで 行くけど請求させないというやつなんですよ。諦めさせるようなことを言うと。生命保険 は今でもこれを物凄いやります。ですから、かなり諦めちゃってるんですね。 「ダメだと言 われたけど、そもそも請求できるのか?」みたいなそんな話しから入ることが多いので、 きっと多くの方が請求まで行かずにもう止めちゃって時効にかけてるのかなという風に思 います。 仮に請求しましたと。2 つの視点で見て頂きたいんですね。1つは告知義務違反です。 もう1つは自殺免責の話しなんですね。 告知義務違反というのは、例えば、うつ病で通院していたりすると、それを告知してな いと保険契約を解除されてしまうという条項が十中八九入っていますので、契約した時点 でどういううつ病の通院をしたかとかいうようなことが問題になります。 支払免責、自殺免責の話しですけれども、保険法 51 条 1 号というのがあって、法律的 には自死の場合は保険金を払わなくていいという風に規定されてるんです。何で払われる 場合があるかと言うと、それは各保険契約で約款ということでこの 51 条 1 号の要件を緩和 してるんですね。その中に、無制限に緩和するとまずいので、例えば契約-厳密に言うと 責任開始日とかと言いますけど-、それから 3 年以内とか、―昔は 1 年でしたけど、今は 3 年以内の自死に関してはその保険金を払わなくてもいいよ、というような条文の体系に なっています。ですから、これは条文をズラズラ書いていますから、弁護士の先生方は私 よりも詳しい先生方がいらっしゃると思いますけれども、後で条文を見て頂ければなと思 うんです。 一定の場合、告知義務は例外があるので告知義務違反だと言われても何とか潜り抜けら れるパターンはあります。ただ、告知義務違反は保険法 55 条で定められてるんですが、こ こに引っかかると結構大変です。私の経験では、唯一、何とかクリアーができつつある。 東京地裁でやっているんですが、この 4 項の保険会社側が告知義務違反を知ってから 1 カ 月以内に解除権、保険会社が行使しなければいけないんですね。そのタイミングが遅れた ということで、何とか告知義務違反をクリアーできそうかなという事件がありますけど、 大概この辺がガチンガチンに固められているので、保険の問題が起こった時には、通院歴 とかがあったのかということを1つの視点として持って頂きたいかなと思います。 自殺免責の例外なんですけれども、これは責任無能力とちょっと似てるところがありま して、例えば、うつ病とかで自由な意思決定で自死の選択をしたわけじゃないという風に 17 報告書 言えるような場合に関しては、その例外に当たるということで、保険金を支払う場合が多 いと思います。ここはですね、統合失調症の方は簡単に出ます。これは偏見だと思うんで すけどね。逆にうつ病の方は出ないです。うつ病の方は了解ある死因みたいな見られ方を するんですね。 「割かし最後まで冷静だっただろう」みたいなことを言われるんです。ただ、 やっぱりお亡くなりになるということは、直前、非常に精神的に死にたいという気持ちと かいろんな感情に囚われてたはずなんですけれども、その辺に関してはなかなか通りませ ん。 これは大分地裁の 17 年 9 月 8 日ですけれども、要素としては、例えば、元々の性格が どうだったかとか、言動とか、精神状態、亡くなり方、対応ですよね。他の動機とかいろ いろ考えて総合的に判断するんだみたいな話しになっています。うまく立証できる場合が 多くないです、正直申し上げて、生命保険の場合は。ただ周りの証言が得られたり、お医 者さんの協力が得られたり、直前のご様子が、例えば、ブログかツイッターとかああいう ものから出てきたり、そこで何とかなったりもします。 ですから、そういう話しがあれば、弁護士の先生方は、是非とも然るべき証拠を集めて 対応して頂ければなと思います。 11 弁護士ができること ~交通整理の重要性 残った時間であと 5 分少々ですけれども、これは絵にしてみました。これはですね、大 阪の「ぐりーふサポートハウス」という自死遺児を支援するNPOで、私が実は副代表を やってるんですが、子どもたちを支援するにはどうするんだという話しの中で、大人も支 援しなきゃあいけないねということで。 ただ、大人の方を支援すると言ってもですね、文字で我々なんかはやっちゃうんですよ ね、弁護士ですからね。すぐ文字をいっぱい書いちゃうんですけども、ある方から「先生、 難しすぎる」と。「絵にして下さい」ということで絵にしてもらいました。 これはネットで「ぐりーふサポートハウス」で検索して頂ければ、「ぐりサポコミック」 といういろんな話しの中にこの話が入っているんですけども、まあご遺族がご相談に来る 時っていうのはこんな感じなんですね。いろいろギュウギュウ詰まっていて。モデルが私 らしいんで、ちょっと実物より恰好いいじゃねえかみたいな話しもあるんですが、それは ご容赦頂いて、いろんな問題に押し潰されそうだと。精神的な混乱とか体調とか判断能力 がいろいろ低下しているという状態で来られるんですね。それは弁護士の先生方も、今日 話しましたようなことを十分に是非とも理解して頂きたい。 我々弁護士ができることは、やはりまずは交通整理だと思うんですね。いろんな問題を 先程お話しした通り、抱えていらっしゃいます。こういう絵になっていますけれども、こ の問題はこうですね、この問題はこうです、この問題はこうですね、という風に、先ず分 けて差し上げることが非常に重要だと思うんですね。ゴチャッといろんな問題を、もう何 だか大変だというところから、これはこの問題なんです、これはこの問題なんです、こう 18 報告書 いうジャンルなんですと、たくさん問題を抱えているそれを、我々の法律家としての及ば ないことは及ばないという風に分けて差し上げる必要があると思うんですよね。 その上で、やっぱり縦に並べなければはいけない。緊急性の高いものから、時間をかけ て判断していい問題まで、順番を並べるということですね。当然並べるためには手続きに どれだけ時間がかかるかという経験も必要ですけれども、それはもう例えば弁護団を組む 中で先輩の弁護士から話しを聞いたり、自分自身が少しずつ経験をしてある種の感のよう なもの、見通しみたいなものをお話しできないといけないと思うんですね。 横に並べました、縦に並べましたと。ご遺族から見ると仕訳、私は勝手にこの作業を仕 訳と言ってるんですけれども、今これですよと。 「今やらなきゃあいけないのはこれなんで す。ですから取り敢えずこれに集中して下さい」という風にお話しできることです。 これはご遺族から見るとこういうようになるんですね。最初こんな感じだったんですけ ど、話しをして、交通整理をしてこうですねと。じゃあまあ取り敢えずこの辺からやって みましょうかみたいな話しで。ものすごい時間がかかったとしても、遠くに見えてるわけ です。小さい、遠くても、でも見えてるだけで嬉しいみたいな、ずっと歩いて行けばあそ こに行けるんだみたいな話しを、ちゃんと交通整理をする。我々は必要があるんじゃない かと思いますし、ご遺族側から見ると、そういう交通整理をしてもらえないんだったら、 ちょっとそれは信頼できないよねという風に、私が遺族の立場だったら思うと思います。 これは同じ絵なんですけれども、夜、どこを歩いてるんだか分からない。そのお節介や 親切で視界を遮られるより見えてたのがいいよねということになるわけです。ご遺族自身、 ご遺族側の視点から書いてるんですけれども、先程の法律事務所に来たら後ろに袋がいっ ぱいありますけれども、家の中にもこうやってたくさんあるわけですよね。何とかしなき ゃあと思ってる方が多いということですよね。 ただ、日々のことということで、遺児を支援する基本的にはNPOなのでこういうよう になっていますけれども、お子さんを亡くされたり、お父さんもお母さんも亡くされたり とか、日々の生活で手いっぱいとか、体調不良の問題もあるということですね。その中で 何かきっかけがあって1歩踏み出だせることがやっぱり多いんですね。ですから、今日来 られている方々は、ご遺族を支援する立場の方もいらっしゃるんだろうし、ご遺族自身、 される側の方もいらっしゃるかもしれませんけれども、支援する側の方はですね、やっぱ り、これは親族が背中を押したって言ってますけど、でもそうじゃなくって、親族に限ら ず話しを聞いて下さってですね、なにか後押しというか、きっかけを作って頂きたいかな という風に思います。ワンプッシュあって、ようやく最初の1歩が踏み出せると書いてい ますけれども、そういうことです。 12 さいごに 重複なんですけれども、「ぐりーふサポートハウス」の、弁護士に聞いてみた弁護士に お願いするときのコツと、使い方です。 「お前は何様なんだ」と弁護士の先生方から言われ 19 報告書 そうですが、取り敢えず電話をかけてみましょう。電話ぐらいは別に構わないですからね。 かけてみてどんな感じかと見極めることは、3 つです。 仕分けができるか―横と縦に並べるられるかですね。後は、出来ないことは出来ないと 正直に言えるか。これは結構難しいですよ。でも私は結構言います。 「出来ません」とか「分 かりません」とかですね。分からない時は、その分かっている先生をご紹介しますという 風に私はします。セカンドオピニオンを勧められるかです。 「他の先生に聞いたらこうです よ」とご遺族の方に言ってもらうんじゃなくて、私の場合は、 「どこでも行って下さい。誰 でも聞いて下さい。聞いてもらって、最終的に依頼するかどうかを決めて下さい」という 風によく言います。決してあせらないこと、納得して依頼することです。 つい先日も東京地裁のある事件なんですが、職場の問題で亡くなられた方なんですけれ ども、1 審の尋問が終わって和解期日の時に相談がありまして。会ってその一件記録、裁 判に出た記録を見ると、原告側にお付きだった先生が恐らくこの手の事件をされたことが なかったんですね。ご遺族に話しを聞くとですね、やっぱり弁護士の先生だから判断が正 しいと思っていたと。ただ和解の時にですね、我々弁護士は負ける事件は依頼者をよく連 れて行くんですが、本当に負けの和解だったんですね。1 億ぐらい請求してて、中身は 500 万ぐらいの和解だったんですが、その時にやっぱりこれはおかしいんだと気付いて、調べ てご相談頂いたということなんです。それが、ずっと話しを聞くとですね、この辺がもう 全然できてないんですよ。やったことが無いので手続きどうするのか分からないわけです よ。やったことが無いのに、出来ないと言ったら委任関係自体が崩れるから、出来ないと 言えないですよね。セカンドオピニオンなんかを求められたら、とんでもないという話し なので。やはり弁護士との出会いは難しいんですけれども、何とかその辺を見極めて頂け ればなと思います。 ここに書きましたけれども、そういう弁護士の先生には頼まなくてもいいんだと。こう いう広島でいい会をして下さる先生にちゃんと頼んで下さいということになります。 有効な法的支援のためにということですが、弁護士だけではできないので、いろんな方 が協力してできたらなという風に思います。 弁護団の宣伝も一応書いておきました。相談は基本的に毎週水曜日の 12 時~15 時まで、 この番号でやっています。2 回目になりましたけど、ご遺族はずっと電話の前でですね、 かけるかかけないか悩まれてるんだろうなあということで、去年から 24 時間連続、今年は 3 月 28 日土曜日 12 時~3 月 29 日日曜日 12 時まで、弁護士がずっと向こうに待機して待っ ていますので、何かあったらお電話下さい。最後に、私が本を一応書いたので、もしよろ しければアマゾンなどで購入して頂ければなという風に思います。では以上です。 -------------------------------------------------------------------------------- 20 報告書 近藤: ありがとうございました。それでは続きまして、日本弁護士連合会からの特別報 告を行います。 西田: 日弁連 貧困問題対策本部事務局長 辻泰弘弁護士から、 「日弁連貧困問題対策本部 の自死問題への取り組み」について報告して頂きます。それでは辻弁護士よろしく お願い致します。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 21 報告書 ◆特別報告 「日弁連 貧困問題対策本部の自死問題への取り組み」 日弁連 貧困問題対策本部 事務局長 辻 泰弘 弁護士 只今ご紹介頂きました辻でございます。 今日はこういう自死問題、それからご遺族 の支援と、異議深いシンポジウムを開催し て頂きましてありがとうございます。それ から報告の時間を頂戴致しまして、ありが とうございます。私の地元は佐賀なんです けれども、広島にはそれなりにと言います か、かなり思い入れがありまして。大きな 事件について広島の先生方と一緒にやらして頂くなどしています。 日弁連の方は 2009 年になります。自殺基本法とか大綱ができてから遅れるんですけど、 日弁連の組織としての取り組みは 2009 年という形になります。日弁連もその後いろいろ と組織変更等がございまして、今は私たちが事務局をさせて頂いております「貧困問題対 策本部」の中に自殺問題、自死問題をとり扱いますプロジェクトチームがございまして、 日弁連では現在、 「貧困問題対策本部」の中に「自殺問題対策プロジェクトチーム」という のがあって、そこでこういう問題に付きまして取り組ませて頂いているところでございま す。あくまでも「貧困問題対策本部」の中にあるとはいえ、経済的な問題以外の様々な原 因に基づきます自死、自殺の問題について取り組みをさせて頂いているところでございま す。具体的にはお手元の資料の中に 2012 年度、日本弁護士連合会の決議、「強 い ら れ た 死のない社会をめざし、実効性のある自殺防止対策を求める決議 」というもの が 入 っ て い る か と 思 い ま す が 、 1つ大きな日弁連の取り組みとしてはこちらになりま す。日弁連の年間最大行事であります、 「人権擁護大会」。これが 2012 年に行われた時に、 初めて日弁連として自死・自殺問題を正面から取り上げさせて頂きました。自死・自殺の 問題を強いられた死と位置付け、そしてその死を強いられることがなく、自分の意思でき ちんと生きる権利、これを人権と捉えさせて頂きまして、この人権の確立のために弁護士 会として何ができるのかということで議論をさせて頂いた大会でございます。このシンポ ジウムを開催し、そのシンポジウムを受けましてこの決議を採択致しました。 我々は心の専門家ではございません。法律家でございます。従って心の問題を直接専門 的に取り上げることは難しいんですけれども、死に追いやられるそういう社会構造、社会 的な要因に取り組むことはできるとは思っております。また様々な精神的なストレスに付 きましては、やはり法的なトラブル紛争の解決によって軽減する部分が相当程度あると思 っております。従いまして、今後はいろいろな取り組みをさせた頂く予定にしております 22 報告書 が、具体的には年に 2 回、3 月と 9 月、 「暮らしと心の相談会」ということで、全国の弁護 士会に設置、開催を呼び掛けております。今回、広島の方も 3 月 17・18 日に―チラシが 入っているのですが―開催して下さる形になっているようです。暮らしの法律相談、それ から心の相談、この両方が相談できる、そういった体制を作るということで、この相談を 行うことによって、関係の機関、団体とのネットワークを作るきっかけにして頂きたいと ともに、2 年に 1 度は自死・自殺の問題を取り上げた全国協議会ということで、全国弁護 士会の担当者に集まって頂いて、各地の取り組みについての経験交流などをさせて頂いて、 それぞれの各地の取り組みがさらに進むようにということでお手伝いをさせて頂いている ところでございます。 今後も日弁連として、自死・自殺の問題につきまして可能な限り弁護士会員をバックア ップする形を中心にしつつ、いろいろと参画したいと思いますので、よろしくお願い致し ます。今日はありがとうございました。 -------------------------------------------------------------------------------- 西田: ありがとうございました。第 1 部は以上となります。ここで若干の休憩を取らせ て頂きますが、その前に、皆様にお願いがあります。本日、配布致しました資料の 中に、アンケート用紙が入っておりますので、休憩時間等をご利用して頂き、是非 ご記入下さい。シンポジウム終了後に、出口にてお預かり致します。それでは、約 10 分間の休憩を取らせて頂きます。第 2 部は、午後 3 時ちょうどから開始致します ので、それまでには席にお戻り下さい。よろしくお願い致します。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 23 報告書 ■第 2 部:パネルディスカッション パネリスト 生 越 照 幸 弁護士 塩 山 二 郎 臨床心理士(広島県臨床心理士会会長) 世 良 洋 子 弁護士(福岡県弁護士会 自死問題対策委員会事務局長) 祐 世 弁護士(広島弁護士会) 佃 コーディネーター 丸 亀 日 出 和 弁護士(広島弁護士会 生存権擁護委員会副委員長) ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------西田: それでは時間になりましたので、第 2 部を始めさせていただきます。席を離れて いらっしゃる方は、ご着席下さいますようお願い致します。 近藤: 第 2 部は、臨床心理士、自死遺族、弁護士によるパネルディスカッションです。 自死遺族の直面する問題への理解を深め、自死遺族への支援を模索していきたいと 思います。それではこれからのパネルディスカッションの進行につきましては、コ ーディネーターの丸亀弁護士にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------1 はじめに 丸亀: 只今ご紹介頂きました、弁護士の 丸亀と申します。ここからの司会は 私が務めさせて頂きます。よろしく お願いします。このパネルディスカ ッションでは、自死遺族の方の置か れる状況や、自死遺族の方との向き 合い方などを各専門家の方から紹介 して頂いて、心情面においても自死 遺族への適切な対応が可能となるためにはどうすべきなのかということを考えてい きたいと思います。そして、自死遺族の相談支援体制についても行政との連携など のお話しを頂いて、広島における今後の支援体制について考えていきたいと思って います。 それでは先ず、私の方から、パネラーの方々をご紹介させて頂きます。ここから パネラーの皆様を「さん」付けで呼ばせて頂きますので、失礼します。先ずこちら から、弁護士の生越さんです。先程、基調講演をして頂きましたが、引き続きよろ 24 報告書 しくお願いします。そのお隣は、臨床心理士の塩山二郎さんです。現在、広島県臨 床心理士会の会長をされておりますので、心の専門家という立場から自死遺族の 方々との向き合い方についてお話し頂きたいと思っています。一番向こうになりま すけども、福岡県弁護士会の弁護士の世良洋子さんです。自死遺族の支援について、 福岡県での弁護士会と行政との連携の現状などについてお話しを頂きたいと考えて います。そして、広島の弁護士の佃祐世さんです。ご存知かもしれませんけれども、 佃さんは、旦那さんを自死で亡くされた自死遺族でもあります。昨年『約束の向こ うに』という本を出版されておりまして、その本は本日販売されておりますので、 既にお持ちの方も多数いらっしゃると思いますが、是非ご購入頂きまして、その売 上金に関しては「つくしの会」の支援金になりますので、皆様、是非お買い求め頂 きますようによろしくお願いします。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------2 自死遺族の置かれる状況 丸亀: それでは、本題を始めさせて頂きたいと思っております。それでは先ず、佃さん から、自死遺族の置かれる状況についてお話しを頂きます。 佃 : 私は、弁護士でもあり、自死遺族で もある佃と申します。今日は、弁護士 としてではなく、自死遺族の 1 人とし て発言したいと思います。 実は、弁護士として話す方が私には 楽です。弁護士としての鎧を全部外し て、自死遺族として辛い経験を語ると いうのは本当に辛いです。辛い理由は 語る辛さだけではないんです。自死遺族であるっていうことを言えない自死遺族が たくさんいるのは、きっと私と同じように、話す辛さだけではなくて、話したこと による皆さんの反応が怖い。これが本当です。私が自死遺族で、今から話すのに涙 がこぼれるかもしれないですけども、そういう状況を見て皆さんが一体どのように お考えになるのか、これが一番不安で、私は今、弁護士としての鎧を外して遺族の 1人として語るのでとても不安でいっぱいです。でも今日は、是非皆さんに理解し て頂きたくてお話ししたいと思います。 実は先日、私の末っ子が 8 歳の誕生日を迎えました。私の末っ子は主人が亡くな ってから生まれたものですから、8 年経ったということです。でも 8 年経っても、 こういう風に遺族の顔に戻ると、またあのことを思い出さなくてはいけないだけで 本当に辛いです。私の言葉というか、私の状況を見ながらも自死遺族っていうのは 25 報告書 こういう人もいるんだなっていう風に思って頂きたいと思います。私のような自死 遺族ばかりではありませんので、あくまでも自死遺族の1人として「ああこういう 思いでいる人がいるんだな」と、そういう風に聞いて頂ければと思います。 8 年前に私の夫は残念ながら自死を致しました。夫は自死する約半年前に脳腫瘍 という病気に掛かりました。夫はその時、訟務検事という職でしたが、裁判官とい う世間で言うとても立派な仕事を持っています。実際、非常に努力家で、頭も良く て、しかも優しくて家族思いで、4 人の子を授かったのもそういう夫の理解がある からなんですけれども、本当に自慢の夫で、まさかこんなことになるなんて、これ っぽっちも考えたことはなかったです。経済的にも安定していましたし、このまま 専業主婦として 4 人の子どもを育てていくんだなと思っていました。心配事と言え ば、転勤族なのでそこがちょっと不安だねって、まあそんなものです。それが、脳 腫瘍が見つかってから徐々に夫の様子がおかしくなっていったのは感じていたん です。非常にスポーツマンの夫は、土・日に仕事をする時もあるんですけれども、 子どもと一緒にマラソンの練習に行ったりとか、仕事だけじゃなくていろんな家族 サービスなり外出なりとっても行動的な夫でした。その夫が、だんだん状況がおか しくなっていくのを私は目の当たりにします。脳腫瘍の上に手足のしびれや、食べ れなくなって激やせもします。そのために実は、体力が無くなるのでいろんな感染 症にも掛かります。それでも夫は賢明に頑張ろうとします。なんとか、自分の体を 取り戻してもう一度頑張ろうと、頑張ろうとすればするほど病が邪魔をするんです。 頑張ろうとした翌日に熱が出る。それでまたダウンして体力が落ちる。また頑張ろ うとします。ところがまた感染症が主人を襲います。そんな感じてだんだんだんだ ん病んでいきました。これがきっと、うつ病ということなんでしょうけれど、もう 脳腫瘍の手術ができない体となり、自宅での療養をすることにしました。その時も 夫は、できるだけ自分で精神科の病院にも通おうとします。しかもなんとか子ども たちとの時間を取ろうとゲームセンターにも一緒に行ってくれました。冗談も言っ てくれましたが、時々、能面のような表情にもなりました。日々刻々と変化する夫 の、いつもと違うというか、今まで見たこともない夫の表情を見ながら、それでも 私はまさか自死するなんて思っていませんでした。その時、私は 4 人目を授かって いましたし、そういう風に夫も頑張ってくれていたので、まだ頑張ってくれると私 は信じていました。それが年を明けて、気付いた時には夫は部屋で首を吊っていま した。私が発見した時にはすでに脳に酸素が行っていなかったらしくて心臓も止ま りかけていました。多分止まっていたかな?救急車を呼んだ時に電話でいろんな指 示をされるんです。人工呼吸の仕方とか心臓マッサージの仕方とかそういうのを聞 きながら、必死に必死になんとかしようと思いました。でもその後、医師からは「一 命は取り留めたけども、残り 3 カ月の命でしょう」と言われました。それでも私は 26 報告書 必死に夫を取り戻そうで頑張りました。それは夫に対する愛もありますけども、夫 を助けられなかった。夫がまさか自死するなんて思わなくて、すぐそこで、隣の部 屋で首を吊っている夫、私はそんなことをしているとは思わなくて、それが私は辛 くて…。とにかくなんとかしようという思いで必死でした。それでも夫は医師の言 う通り亡くなりました。それで私は非常に、多分自責の念が強くて、一時記憶が無 いんです。先程、生越先生のお話しにもありましたが、いろんな気持ちを抱かれる 遺族の中で、私は多分自責の念が強くておそらく記憶の一部が無くなっているか、 何かあったんだと思うんです。その後、私はたまたま夫と約束していた、司法試験 を受験してほしいという夫の思いを糧にここまで、今、弁護士をさせて頂いていま す。この私自身を見て頂いたら分かるように、もう 8 年も経つだろうと思われる方 がいるかもしれませんが、8 年経っても私はこういう状況です。それ程、自責の念 が強いのか、それは分かりませんが、まだ語ることへの不安とか悲しみとか、そう いうのはまだ抱いたままです。 今日は、自死遺族の置かれた状況について、遺族として言えることは、直後は私 のように記憶が飛んでしまったりとか、自分を責めるばかりに、自分に降り掛かっ てきている問題があっても誰かに助けを求めることすら悪いことだと自分を責め ています。だから誰かに相談しに行こうとか、自分を楽にさせてあげる方向に動こ うとか、そういった発想も起きないし、そういう気力もないのが現状だと思います。 その上に、私もですが、多くの自死遺族の方と同じように、夫が自死したとは言え なかったんです。私は子どもたちに知られたくないというのが一番にありましたか ら、極々一部の家族を除いて、友人・知人、職場の方は一部知っていたので仕方な いんですが、それ以外の人には「主人は病気で亡くなった」と言っていました。そ れだけ自死ってことを言うことは非常に大変な作業です。 先程あったように、 「自死は追い込まれた末の死」という風に皆さん口では言って 下さるんですが、本当にそこって分かって頂けるのかな、分かって頂いて自死遺族 がどういう気持ちでいるのかを皆さんが理解してくれるのかな、っていうのは自死 遺族側として非常な不安があります。なので、なかなかそこが言えないっていうの が現状です。 先程、生越先生が言われていたように、言えないばかりか、自分が自責の念やら なんやらでいろんな感情があって、自分自身が整理できないんですね。だから、誰 かに相談するにしても誰にどう相談していいのかも分からないし、そんな気力もな いし、下手に相談して何か言われて余計に傷付くのも嫌だし―これが本当に素直な 自死遺族の心情です。そこを皆さんによく理解して頂きたいなという風に思ってい ます。すみません、もう、それが素直な状況です。 3 支援者は自死遺族にどのように接すればよいのか 27 報告書 丸亀: 今、お話しにあったようになかなか相談に行きにくいというお話しでした。そう いう遺族の方の状況をより良くするためには、弁護士や周りの人々としては遺族の 方々とどのように接していけばいいのか、どういうことができるのかを考えていき たいと思います。佃先生の方で何かお考えがあれば教えて頂ければと思います。 佃 : ここからは弁護士としての鎧を付けてお話ししたいと思います。そういう風にし ないとさっきみたいな状況になるので。先ず、支援の仕方を考える上で、今日の資 料の中に1枚、自死遺族のお手紙が入っていると思いますのでお出し下さい。この 方は、私が弁護士として関わった方です。今日はご理解を頂いてお手紙を書いて頂 いた上に、お話しすることの許可も得ています。この方は、最愛の高校生である息 子さんを亡くされました。ところが原因が分からないんです。いじめとか、そうし たはっきりとした原因が分からなくて、知りたいという思いが非常に強いんです。 何をやっても息子は返って来ない。これもよく分かっていらっしゃいます。そして、 お金ではない。それもよく分かっていらっしゃいます。本当に知りたいのは、 「何で 亡くなったんですか、先生」 。それだけなんです。ところが、亡くなった理由を知ろ うとすればするほど、周りの人は口を閉ざすんです。先程言った自死に至る原因は さまざまです。もしかして、自分にその非があるんじゃないかと思うと皆さん口を 閉ざすんですね。特に、高校側とか行政とか一斉に固く口を閉ざします。そのこと で遺族は余計に傷付くんですね。こういったケースの場合、本当に知りたいという 気持ちだけなんですけど、弁護士が代理人に付いて交渉すると、すぐに相手側は、 弁護士が付いたんだから「損害賠償請求がやりたいんじゃないか」という風に思わ れる、こういう状況なんですね。そのために私は、この方については 1 度受任して 一応の成果を挙げたので、今は1度降りています。降りている理由は、弁護士が代 理人となることで今言ったような、損害賠償請求をされるんじゃないかという疑心 暗鬼を相手に抱かせないこと。もう 1 点は、代理人が付くということは、弁護士だ ったら分かるんですが、代理人を通してすべてやり取りをするようになります。こ の方はご本人が知りたいという思いで、先生に直に聞いてみたいという気持ちが時 とともに強く出てきたんですね。そういった、本人が直に交渉をしたいという思い が強い場合は、代理人が付かないでサポートに回る。例えば、弁護士であれば相談 だけのサポートも十分にできます。だから困った時に相談して下さい。そういった 形で、ご本人の要望を聞きながら関わるというのがこのケースの場合です。弁護士 としての関わり方も、普通、皆さんは訴訟とか示談交渉とか、そういったことをメ インに思われますけれども、弁護士が付くことでむしろこの人にはデメリットもあ るんじゃないかなと、いろんな想像を膨らませながら関わり方を考えて頂きたい。 そう思っています。 遺族って一口に言いましても、いろんな遺族がいて、その遺族の家族の中にも考 28 報告書 えが違うというケースもあります。そういったことも踏まえて考えて頂きたいと思 っています。この件につきましては生越先生も一言、遺族同士のこのような違いと かを、もしよろしければお話し頂きたいと思います。 生越: 今、実際に関わっている事件ですが、あまり詳しいことは言えないんですが、中 高生の息子さんを亡くされたご両親が相談に来られて、ある原因で亡くなったんで すけれども、お母さんの方は何故亡くなったのか原因を物凄く強く知りたい。お父 さんの方はいろんなことがあって金銭的なことなども考えられているんですね。弁 護士としては両方からお話しを聞くんですけれども、弁護士としては訴訟提起する のは言ってみれば簡単なんですよね。ただ、私としてはお母さんのお気持ちを優先 させたくて、できるだけ弁護士は表に出ないで何とか情報が聞き出せないものかと、 ご本人に交渉をやって頂いていたんですけれども、向こうの方のガードがだんだん 固くなってきて、止むを得ず代理人として受任して陳述致しました。だからそこの ところの、表に出るにしてもタイミングとかいろんなことを考えながら手順を踏ん でいかなきゃいけないかなという風に私は思いますけれどもね。 佃 : すみません。ありがとうございました。私も実は、先程の生越先生の事例だと 2 番目でしたかね、賃貸借の関係で代理人になった時も表に出ないで書面だけ作成し たというケースもあります。代理人として表に出るタイミングというのは、時の経 過とともに遺族の心情も変われば、遺族を取り巻く現状も変わるんです。遺族は日々 生活をしていますから、それによって周りの人たちの話しを聞いたりして考えが変 わることもあります。ですので、そういったことも踏まえて、タイミングというの は遺族の方とよく相談しながら決めて頂きたいと思います。この方もそうなんです が、臨床心理士さんにお願いして、心のケアをお願いすることもあります。そうい った観点から、是非、塩山先生から一言お願いしたいと思います。 塩山: 私は自死遺族の方との面接を幾つもお会いしてきておりますけれども、身内ある いは親しい人を亡くした家族の方の心の痛みは表現のしようがないくらい大きなも ので、それが何年経っても本当に大変な状況、それを聞くわけですけれども、なか なか立ち直れない状況があるんですね。26 年前に亡くされた自死遺族の方のお話し を聞いたことがあるのですが、本当に 2、3 日前に起きた出来事のように話しをされ ました。そういう経験があって、痛みがなかなか取れないのが現実ではないかなと いう風に思います。メモを少し書いておりますけれども「自死遺族の会の存在意義」 と書いておりますが、私はアルコール依存の人たちが作っている断酒会に、毎週土 曜日に出ておりました。こういう方々もなかなか立ち直れなくて、一家離散すると か、アルコール依存の人の自死の割合は本当に多いんですね。そういう中で、断酒 を決意するけれどもできないという人たちの話しを随分聞いてきましたけれども、 周りの人たちの支えがあればだんだん立ち直っていけるという経験をされています。 29 報告書 そういうことから、自死遺族の会が、同じ経験をされた人たちの集いとしてあるっ てことが非常に大きいんじゃないかなという風に思います。 我々、臨床心理士がやっていること、できること、それは話しを聞くことでしか ないんですね。この 1 点に尽きるんですけれども、話しをされる方の話しを我々が 聞く時に、話しをする人が主役である。あくまでもカウンセラーあるいは臨床心理 士は脇役に徹するということなんですね。そういうことを長年やっていますけれど も、なんで人は自分の話しを聞いてもらうと立ち直っていけるのか。傾聴の意義を 少し考えてみますと、主役になるというのは、主体性を獲得するということと情緒 的に安定するという、その 2 点において人と話しをする。傾聴を受けるということ で何らかの安定を得ていく。自分が主体性を獲得するというのは、生きる意欲とか 希望とかを手に入れることができるんじゃないかなという風に思うんですね。聴く こちらも辛くて何も言うことができない。2 次被害と言われるような、自死された 方の家族の中に自死を生まないということを、我々は考えて仕事をしています。自 死でなくて亡くなった方とのお別れも本当に辛いのに、ましてや自死で家族を亡く された遺族の方々というのは本当に耐えられない状況があるだろうなという風に 思います。傾聴というか、話しを聴くことしか我々はできませんけれども、なんと か立ち直っていっている方々に出会うと、私らの気持ちもちょっと安らいでいくと、 そういう状況があります。 佃 : 普通に亡くなった遺族の人と自死とでは違うということなんですが、自死遺族か らすると、先程の手紙にあったように何故死んだのか分からない、そこも非常に辛 いところです。自死というのは、私もそうでしたけれど、私が発見すれば防げたと 考えると、 「私がいけない、私が主人を殺してしまったようなものだ」という、この 自責の念。先ずそういったものが違います。更に、最初に申し上げましたように、 「自死だ」と言うと皆さんがどんな反応をされるだろう。 「自死って身勝手に命を落 とした人」「命を粗末にした人」、そういう風に言われたら、私の自慢の夫の名誉っ てどうなるんですか?私は夫を見殺しにしたようなものです。更に夫の名誉を傷付 ける。そんなことはできない。それでまた口を閉ざし、誰にも相談できない。余計、 苦しむ。これが自死遺族の特異な問題ではないかなと感じています。 4 自死遺族と向き合う際に気を付けること 丸亀: それでは、弁護士の立場として、これまで数々の自死遺族の方と向き合ってこら れた生越さんに、自死遺族の方と向き合う際に気を付けていることなどがございま したら、教えて頂きたいと思います。 生越: 私は、依頼者の方によくこんな話をするんですけれども、 「弁護士に依頼しても生 き返りませんよね」と、あえてお話しするんです。その心は、いろんなそのご遺族 から見たら亡くなられている家族の方に対する思いがあるんですよ。ただ、我々法 30 報告書 律家はそれをお金にしか変換できないんです。訴訟ですからね。人の命をお金に換 えるわけです。損害賠償だってそうですよね。その無機質さと言いますか、まあそ れが必要だったりもするわけですよね。ご遺族だって生きていかなきゃいけないし、 生活が壊れてしまうかもしれないし、そういう風にして法律的な手続きを取られる わけですよ。ただ、私がそういう風にお話しをするのは、突き放しているとかって いう趣旨ではなくて、 「いや実は、弁護士はそれしかできないんだよ」という立ち位 置が先ず大切かなという風に私は思います。その上で、ここまでしかできないと、 大切なご家族をお金にしか換えて差し上げられませんよ。そんなところからいろん なお話しをお伺いして、傍から見ると私は物凄い話しを聞く弁護士らしいんですけ れども、結構、私はいろんな話を聞いたり、時間が許せば事件に関係ない話もいろ いろ伺ったりすることがあります。ですから先ず、その立ち位置がご遺族と接する、 向き合う前提として必要かなという風に思います。 弁護士としてのスキルというか、弁護士の手腕というか、労災の分野はそれなり に私も経験を積んでいますが、それ以外の話しはここにおられる先生方の方が十分 経験を積まれていると思うんですが、ただ 1 つ心構えとして、私自身が思っている ことなんですけれども、向き合うということを考えた時に、話しが飛んで申し訳な いんですが、「医龍」という漫画があるんですがご存知ですかね。外科医の話なん ですが、主人公がこんな話しをするんです。 「ヒューマニズムで延びるんだったら、 誰でも名医だろう」と、若い研修医に向かって言うわけです。要するに、ヒューマ ニズムは大切なんですけれども、腕のない外科医は害でしかないと。それはそうで すよね。手術で切る時に、その先生は物凄く温かくて優しかったけれども、手術が 超下手だったら絶対に嫌ですよね。向き合い方としては、「弁護士として最大限の 努力をする」。そこが重要なのかなという風には思います。そういうことを日々考 えながら、ご遺族の話しを聞いているという感じでしょうかね。 5 自死遺族に対する相談体制のあり方 丸亀: 先程、相談できないというお話しがありましたけれども、何か相談したいという 方でつながる方は当然いいんですけれども、つながれない方の相談体制というもの に対して考えてみたいと思います。現在は個々の弁護士が中心になっていて、弁護 士会として組織的な相談窓口というものがあれば、行政からもつなぎやすいとは思 いますし、相談者の方からしても「会がやっているんだから」とか、そういう安心 ということもあるのかなと思います。そういう中で、実践例として、福岡県では既 に弁護士会と行政が連携して、自死遺族への相談支援体制ができているということ ですので、世良さんからこの点についてご報告頂けますか。 世良: 世良でございます。福岡県弁護士会自死問題対策委員会の事務局長を務めており ます。只今ご紹介頂きましたが、福岡県弁護士会と行政との連携ということでお話 31 報告書 しするようにと言って頂きまして、 今日お話ししますのは、自死遺族の 方への相談体制についてでございま す。これは正式に開始してから 2 年 余りとまだ経験は浅く、必ずしも十 分とは言い切れないかもしれません けれども、生越さんの自死遺族支援 弁護団ですとか、佃さんのなさって おられる支援のような有志の弁護士の方の取り組み以外で、弁護士会の単位会とし ての取り組みはやや珍しいと聞いておりますので、今日ご報告をさせて頂きます。 先ず、相談体制を組む前の段階で福岡県弁護士会がどういう経緯で自死問題に関 わるようになっていったかをお話しします。平成 22 年、福岡県弁護士会内の委員 会、まあ政府で言えば中央省庁の、具体的には厚労省とか法務省とかそういう省庁 みたいな縦割りの組織と思って頂いたらいいんですが、福岡県弁護士会の委員会の うち自死に関連する委員会の有志が集まって自死問題対策関連委員会の連絡会議 を発足させました。これは、その当時過去何年もの間、年間 3 万人を超える方が自 死をなさるという大きな社会問題について弁護士会としても取り組んでいきたい ということで、生越さんのお話しの中にも自死の危険因子という指摘がありました けれども、そういった自死の危険因子に対応した委員会が集まってできたという風 に考えて頂くと分かりやすいかと思います。危険因子の内、多重債務の問題であれ ば消費者委員会、労働者の問題であれば貧困対策本部の中の労働のワーキンググル ープ、精神障害者問題であれば精神保健委員会、中小企業経営者の問題であれば中 小企業問題委員会、犯罪被害者問題であれば犯罪被害者支援委員会、そういったと ころが関係委員会として、委員長・副委員長といったような主だったメンバー1 人、 2 人ずつが集まるような形で、20 数名で発足をいたしました。勿論、自死の危険因 子の全てを弁護士が網羅できるわけではないというのは当然のことで、先程の生越 さんのお話しでもあった「弁護士が何でもできるわけではない」ということと対応 するかもしれませんけれども、それでも自死の危険因子の内法的に介入することが 可能で、すでに弁護士会が何らかの活動を行っている委員会が集まって協議を開始 したという風に考えて頂ければいいかと思います。 私が元々重点的に取り組んでおりましたのが、犯罪被害者支援の分野でございま して、過去 7 年ほど続けておりました。犯罪被害者やそのご遺族が自死を考えられ るということはよくございますので、そういった被害者支援の観点から私は自死問 題に関わっておりました。自死問題対策関連委員会連絡会議ではその他様々な分野 に関わる有志の弁護士を中心に、自死に関する勉強会や研修を行ってきました。そ 32 報告書 うしておりますと例えば勉強会をするに当たって、自治体に声を掛けるですとか、 関連の専門職の団体に声をお掛けするといったようなことをする中で関係機関と の連携ができて参りました。平成 24 年 3 月、福岡市という福岡県内の政令指定都 市、北九州市と 2 つございますけれども、その内の 1 つの福岡市の精神保健福祉セ ンターより、福岡市主催の「こころと法律の相談会」に参加しませんかと声を掛け られたのが、行政機関との連携のきっかけでございました。 今日、準備したスライドの 11 枚目、配付資料で言いますと 2 枚目の裏側をご覧 下さい。「他機関主催による法律相談会」①と書いてございますけれども、この辺 りの資料を参照しながらお話しをさせて頂きます。平成 24 年から毎年 3 月と 9 月 にやっていた相談会では、「こころ」と「法律」のそれぞれの分野より 2 名の専門 家が同席をして相談を行います。福岡県弁護士会、福岡県司法書士会、福岡県精神 保健福祉士協会、福岡県臨床心理士会、福岡県社会福祉士会が関与をしています。 午前 10 時から午後 4 時まで、特に予約制をとらず、事前予約の希望があれば予約 を入れますけれども、時間制限もなしです。通常よくある弁護士会の法律相談は 30 分 5 千円に消費税を加えた額ですといったアナウンスで法律相談を実施することが 多いんですけれども、この自死問題に関しては基本 1 時間くらいのゆっくりした枠 をとりましょうということになりました。もしかすると 1 時間でも少ないかもしれ ないんですが、通常のものよりは拡大延長した形で、特には時間制限を設けないよ うにしたので、事案によっては 1 時間半くらい相談者の方のお話を伺うこともあり ました。そのような相談体制でやっておりました。丸 1 日実施するんですが、毎回 少なくとも 10 数件のご相談を受けて参りました。 他方で、福岡市においては、精神保健福祉センターが自死問題対策事業を幾つも 実施しておられます。その中で、自死遺族の方の分かち合いの会であります、「リ メンバー福岡」の事務局窓口をこの精神保健福祉センターが務めたり、それから自 死未遂者のための法律相談ということで司法書士会の方に委託事業という形で「ベ ッドサイド法律相談」事業を実施したり、「こころと借金の電話相談」という司法 書士会と連携した法律相談を実施しておられました。そんな中で、福岡市が自治体 として自死の問題全般を眺めました時に、自死遺族の方が抱えておられる法律問題 は取り分け複雑でありますし、訴額も大きくて、司法書士さんの場合は 140 万円ま でしか代理権がないといった制約もございますものですから、司法書士会以外の提 携先を法律面で探していたということを仰いまして、平成 24 年の春に福岡県弁護 士会の方にそういった趣旨の相談があったわけです。それで福岡県弁護士会では半 年間かけて制度設計を行いまして、スライドの 14 枚目になるのですが、 「自死遺族 法律相談制度」と書いてございます。このとき福岡市だけではなくて、北九州市で も同様に足並みを揃えてご参加いただき、平成 24 年 10 月から自死遺族法律相談制 33 報告書 度を開始しました。平成 25 年度からは福岡県からも委託事業を受けまして、福岡 県の精神保健福祉センターに弁護士 1 名が派遣されて相談に応じるといった制度を やっています。福岡市の場合は年間 120 万で包括業務委託だったんですが、これが なんと 1、2 カ月前に聞いたんですが、「平成 26 年度で終了させて下さい。申し訳 ない」と言われまして、「どうしたんですか?」と言ったら、「福岡市の財政難で」 といったようなことで、残念ながら業務委託は終わるんですが福岡市と共催するか たちをとりつつ福岡県弁護士会の独自の事業として引き続き継続する方向になっ ております。北九州市と福岡県の場合は 27 年度も続くということになっておりま す。 内容の方も少しご紹介します。スライド 15 をご覧下さい。毎月 1 回、行ってお ります。福岡県弁護士会の天神弁護士センターという大きな法律相談センターがあ るんですけれども、ここに午後 1 時から 5 時までの 4 時間、2 名の弁護士と、臨床 心理士会派遣と書いてますが、ここ最近は福岡市の精神保健福祉センターに常駐し ている自治体職員の臨床心理士さんが待機してくれて、専用電話回線での電話相談 および面談での相談に応じるとしています。その次、事前の面談予約があれば市の センターからも派遣される仕組みというのが、これが平成 25 年までで終わりまし た。福岡県と北九州市については、それぞれの精神保健福祉センターに弁護士 1 名 が出向くことになっております。この相談実績ですが、平成 24 年 10 月~平成 26 年 8 月までの数字を書いておりますが、大体、年間合計 20 件程度、面談は 10 数件 ぐらいというのが福岡市の実績になっております。北九州市の方は、最初は良かっ たんですが、その後少し減っているようでございます。福岡県の方は最初から割と 低調だなという感じがしています。こういったことで始めてはいるんですが、少し ずつの件数しか処理はできていないかなと思うんですが、それでもお受けする相談 は非常にさまざまなものがございまして、1 つ 1 つ大きな問題をアドバイスさせて 頂いているといった状況です。 それから、私どもの法律相談制度の柱のもう 1 つに「自死問題支援者法律相談制 度」 (スライド 17)というものもございます。これは自死遺族法律相談をしており ました中で、ご遺族だけでなく、もっと広く自死問題について関わりたいという弁 護士会の考えの下に、平成 25 年 12 月から、福岡県弁護士会独自の事業として、 「自 死問題支援者法律相談」を実施するようになったものです。この「支援者」という のは、技術的にこういう言葉にしているんですけれども、医師・看護師・臨床心理 士・精神保健福祉士、そして自死の危険の高い方のご家族も「支援者」の方に含め ています。自死の危険の高い方ご本人からのお電話受けが、どうしても福岡県弁護 士会で電話受けをする事務職員ではなかなか荷が重いということがあって、苦肉の 策でこのようにしている部分もありますし、また逆にこういう風にすることによっ 34 報告書 て、支援者の所につながっている方しか救い上げることができないのはできないん ですけれども、逆に手厚い支援ができるのではないかということも狙って考えた仕 組みであります。これは厚労省の補助金を受けております。 法律相談の流れとしては(スライド 19)、自死の危険の高い人と関わる支援者、 弁護士会、その弁護士会に登録している弁護士とがやり取りをして、基本的に 48 時間以内に電話連絡ができるような形にしています。 次に、スライド 20 をご覧下さい。久留米という地域におけるご紹介をさせて頂 きたいのですが、久留米は福岡県内では面白い特徴のある地域という風に思われて います。久留米大学医学部を中心に、病院が凄くたくさんある町なんですね。「久 留米大学病院のお医者さんが、久留米市医師会に声掛けをすれば一斉に言うことを 聞く」という言葉を使うと変かもしれないんですけれども、そういう統制の取れた お医者さんたちの動きが割と可能な地域で、これはちょっと珍しい所かなと思いま す。土地のお医者たちの結束が固いと言い換えてもいいかもしれませんけれども、 内科医と精神科医の連携が取れやすい地域となっております。かかりつけ医が自死 の危険が高い患者さんを見つけた場合、精神科医に紹介する。そして、その精神科 医と弁護士会がうまくつながって、この支援制度を利用して法律相談をできるよう にしております。これをモデルに、アレンジして福岡の方でも同様の福岡市医師会 バージョンというのも、昨年作るようになっております。こういったことを申し上 げているのは、自死のご遺族の方もそうだと思うのですが、「プリベンション」「イ ンターベンション」というお話しが生越先生のご講演の中にもありましたけれども、 体調不良のシグナルから弁護士につながることができればというような考えで、こ のように支援体制を作っているということになります。 このような行政との連携が、何故、可能となったかということについて申し上げ ますと、「顔の見える関係の構築ができた」ということかなと思っています。福岡 市の精神保健福祉センターと福岡県弁護士会とは歩いて 5 分の距離にありまして、 すぐに出向いて打ち合わせなどができるような環境がございます。しかも、福岡市 の精神保健福祉センターには、自死問題対策の実績を挙げたいという熱意と予算が ありますし、まあ私どもへの予算は来年度からはないのですが、その下に集まった 人々に非常な熱意がありました。福岡大学病院がかなり主体的にセンターに関わっ ておられて、私どもの弁護士会も関わる中で一緒に勉強会などをやりましょうと声 かけをしてくれました。しかも、福岡大学病院だけじゃなくて久留米大学病院や九 州産業医科大学といった病院であるとか、そういう精神科医同士で自死問題に是非 取り組みたいという意欲あるお医者さんがいましてですね、そういう人たちとのつ ながりが持てていて、関係者が揃って一緒にやりましょうというような意気投合を 既にしてしまっているというのが、やっぱり行政との連携が可能になった部分かな 35 報告書 という風に思っています。つまり、具体策を実施できる人たちとの連携が鍵になる のかなと思っております。ただ、今年度で終わってしまった福岡市の場合は、福岡 市という政令市が大阪市に次いで、市民 1 人当たりの市政残高が政令市中 2 位とい う、かなり良くない市の財政状況の中で、財政難からこのように削減されてしまっ た予算という風な結果に終わっているわけですけれども、今後、他の自治体におい ても自死問題の予算というのが絞り込まれてくるのかもしれないなということを、 今回のことをきっかけに私ども弁護士会としても心して行かないといけないと思 っています。そのような中で、やはり持続的な支援体制というのを早期に構築する ということが重要かなと思っております。以上です。 6 行政や支援団体との連携 丸亀: ありがとうございます。先程の講演でも紹介がありましたけれども、自死遺族支 援弁護団における相談体制に関して、行政との連携などで工夫している点とかがご ざいましたら、生越さん教えて頂けますか? 生越: 特にですね、うちの弁護団は基本的に物ぐさというか、私が物ぐさなので、あま りそういうことはやっていないのですが、一応、資料の中にこのリーフレットを入 れさせて頂いておりますけれども、知り合いになった行政の方、保健師さんとかに、 「これを置いて下さい」という風にお願いをして、置いて頂くことは行政との連携 の 1 つかなと。ゲートキーパー研修を行政でされていることが多く、東京は足立区 とかで研修の講師としてうちの弁護団の人間が、私も行きましたし、他の人間が行 ったりもしました。行政との絡みというのは、 「このビラを置いて下さい」とか、ま あうちは基本的にはその程度でしょうか。 丸亀: ありがとうございます。先程、福岡県のご紹介がありましたけれども、広島弁護 士会に関しては自死遺族の専門相談窓口というのはないんですけれども、配布した 資料の中に広島弁護士会が設置している相談窓口一覧というものと、あとは「暮ら しとこころの相談会」というものがあります。このように、無料相談は各種行って おりまして、生活保や高齢者・障害者、そういう分野ごとにはあるんですけれども、 それが一体として自死問題とか自死遺族支援とか、そういう形にはまだまだなって いないという状況にあります。日弁連からの報告の際にもご紹介がありましたけれ ども、3 月 17 日と 18 日には「暮らしとこころの相談会」というものをやっており ます。これは、ワンストップでの相談になりますので、広島駅の地下広場でやって おります。年 2 回、3 月と 9 月にこのような相談会を広島弁護士会としては行って おりますので、このような相談会を広めていくとともに、福岡県の活動のように、 行政とのつながりというものがやはり必要だと思いますので、そういうものを作っ ていけるように、こちらの方も体制を作っていかなきゃいけないし、行政の方にも お願いをして、もしここに行政の方が聞いていらっしゃれば、「ああ、こういうこ 36 報告書 とがあるんだ」とか「こういうことができるんだ」と思って頂いて、積極的に声掛 けをして頂ければ、広島弁護士会としてはやりますし、勿論こちらからもどんどん アクションを起こしていかなきゃいけないという風に思いました。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------7 まとめ 丸亀: それでは、時間も来てまいりました。まとめの時間となりましたので、最後に一 言ずつ、本日のお話などを踏まえて、今後、自死遺族の方々を支援していくために 必要なことや、広島弁護士会に対するエールでも構いませんので、一言ずつ頂けま すか。先ず、生越さんお願いします。 生越: もう何度かお話しをさせて頂いておりますけども、ご遺族からすると弁護士は依 頼する頼る相手ということになりますので、非常に法律的に難しいこととか、依頼 者の方が安定しないこともあるかもしれないですけれども、やはり我々しかできな い仕事は実にたくさんあって、「それしかできない」という言い方もしましたけれ ど、援助の手を待っていらっしゃるご遺族の方は非常にたくさんいると思いますの で、この広島弁護士会の取り組みも是非いい方向へ発展するようにお祈り申し上げ ます。 丸亀: ありがとうございます。次は、塩山さんお願いします。 塩山: 死の問題っていうは目に見えない ことが非常に大きいし、それから佃 先生がおっしゃったように口にでき ないという問題もありまして、目に 見えない心の問題、それから死とい うものに関して口にできないという、 物凄く否定的な要素を含んだ問題で す。それから、私たち、関わる方の 心の傷みたいなものも関わってきますね。ということで、本当に難しい問題だと私 は思っております。今日みたいに、行政との関係、あるいは弁護士さんたちの積極 的な取り組みは、本当にうれしいことだと思っております。そういう中で、私が強 調したいのは、心の中で誰かとのつながりがあればなんとか生きていけるんじゃな いかなと思っています。「喪失に耐える力」というのは、自分の心の中に誰かの存 在を持つことができれば、耐えていけるんじゃないかなと思います。そういう窓口 を作るとかリーフレットで広げるとか、そういうことをやりますけれども、それで も 2 万 5 千人強の方々が年間亡くなっているわけですよね。この現実を考えた場合 に、今申し上げたような、なんとも解決の糸口が見えにくい問題であるということ 37 報告書 を認識せざるを得ないなという風に私は思います。 丸亀: ありがとうございます。世良さんお願いします。 世良: 今日は、行政との取り組みという切り口でお話しをさせて頂きました。そしてま た私自身も、自死遺族の方であるとか、自死の危険の高い方、自死未遂をされる方、 そういった方々との法律相談もお受けしたりします。そんな中で、生越先生のお話 しと重なりますけれども、弁護士にできることは一部分でしかないなと日々痛感し ております。それから、塩山先生がおっしゃいましたように、支援者自身も心のバ ランスを保ちながら、プロフェッショナルとしてお応えをしなければいけない。そ ういう矜持というものを持ちながら仕事をやっております。その時の基本とは何か というと、連携という言葉自身がそうであるように、支援者自身もつながっていよ うということでございます。福岡県弁護士会内では、各それぞれの分野で一定程度 の重点分野というものを持った弁護士たちが連携しております。また、精神科医、 臨床心理士、精神保健福祉士、行政マン、そういった人たちとの連携をしておりま す。それって結局、役割分担だなと。自分にできることは一部に過ぎないけれども、 一部しかできない人たちが手をつなぐことで、何らかご相談を受けた内容に対して プロフェッショナルとして対応していくことができるのではないかなと思っていま す。そういう意味で、弁護士有志というよりは、弁護士会としての取り組みによる 醍醐味と言いますか、誠実な法的な対応をするための素地として弁護士会があると いうのも 1 つの形なんじゃないかなと思いまして、ご提案をさせて頂きました。ま だ発展途上ですので、いろいろなご意見を伺いたいと思っているところです。どう もありがとうございました。 丸亀: ありがとうございます。最後に、佃さんお願いします。 佃 私が再三申し上げているように、遺族は相談できない状況です。その相談できな : い状況の裏には一体何があるのか、少し考えてほしいと思います。先程、生越さん の話しでありましたように、賃貸借の損害賠償請求、何故こんなことが自死遺族に 対してはあるんでしょうか?病死でマンションで亡くなった場合は、損害賠償請求 はありません。ところが自死遺族に対してはあります。病気と自死とは違うからで す。遺族からすると「病死と自死の違いって一体何なの?」と、本当に大きな声で 言いたいです。どうして自死遺族に対してだけ、心理的瑕疵などと言って損害賠償 請求をされないといけないんでしょうか?どうして自死遺族はきちんとお話しで きないのでしょうか?一体その裏には何があるんでしょうか?皆さんの中で、何ら かの偏見はないでしょうか?もう一度、皆さんの方でご検討頂きたいと思います。 今日は、実は自死遺族の方も来られておりまして、お話し頂けると言って頂いた方 がいらっしゃいます。その方にもご意見を伺いたいと思います。すみません、お願 い致します。 38 報告書 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- ◆自死遺族の方の発言 滋賀: 貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます。私は関西の滋賀県から参り ました。滋賀県の「自死遺族の会」を運営しておりまして、代表を務めております。 会員の活動を始めて 8 年ぐらいになりますが、基調講演で生越先生がおっしゃった ように 10 年前にはこういう問題に関わる弁護士の方がおられなかったという風に お話しされておりました。弁護士の方だけではなくて、社会全体の関心もほとんど 向けられていなかったというのが私の感じでして、行政も含めて、いろんな所から そういう関心はなかったと思うんです。少しずつ少しずつ 10 年ぐらい前から変わ ってきて、滋賀県の場合ですと、うちの会の場合は行政の精神保健福祉センターの 方からご支援をずっと頂いています。会場費とか広報とか問い合わせの対応とか、 すべて支援を頂いている中で活動はしてきたんですけれども、先程からお話しをお 伺いしている中にもありましたように、各個々の専門家とか法律の専門家とかいろ んな活動はされているんですけれども、その連携とかはなかなか…遺族の方に何か 問題が生じた時に「その問題はこの専門家に」という風に振り分けるとか、そうい うようなネットワークは、滋賀県でも県や市が会議で話し合いはしているようです が、なかなか仕組みがうまく整わず、まあだからこれからという問題があるのかな という風に感じています。今日は、今後の参考にさせて頂ければという思いでお伺 いさせて頂きました。ありがとうございました。 広島: 広島の自死遺族の米山と申します。今日、お配り頂いた資料の中に、 「小さな・一 歩ネットワークひろしまの紹介」というのがあったと思いますが、2 年前から自死 遺族の分かち合いと、うつ症状がある方および家族の分かち合いというものを隔月 ごとにやっております。「こころの語り場」を作っていますが、分かち合いでもな かなかお話しができない方には、直接 1 対 1 でお話しを聞く機会も設けるようにし ております。この活動が始まったのは、私の娘が亡くなって 2 年経ったところで、 よく私は、「元気だね」とか「たくましいね」とか「よく回復したね」と言われる 度にグサグサと傷付きながら、活動を続けてきました。何故こういう活動を始めた かというと、娘が亡くなってからずっと、「何で死んだのか」「どうすれば死ななか ったんだろう」「何をしなければ死ななかったんだろう」ということを頭の中でず っと考えてきた。それが、だんだんと何か形に、行動になったということです。細 かい説明はパンフレットの見て頂こうと思うんですが、今日のお話しを聞きまして 3 つほど感じたことがありましたので、僭越ながらお願いと言いますか、発言させ て頂きます。先ず 1 つは、弁護士の先生がお助け頂くことというのは、どうしても 39 報告書 「お金に換える無機質さと限界がある」という先生のお話しでしたけれども、私は 自死で亡くなった人と自死遺族、他の原因で亡くなった人と一番大きく違うところ は、無念を持った死であるということと、遺族がその無念を引き継いでいるところ だと思っています。勿論、全員がそうとは思いませんけれど、何らかの無念を持っ た人、だからこそその無念を一緒に晴らせてあげられなかった自責感がとても強い し、死んだ後も代わりに無念を晴らしてやりたい、悔しかったことを晴らしてあげ たい、不名誉を挽回してあげたい、そういう思いを傷付き泣きながらも遺族は持っ ている。そこが病死の方と比べて一番違うことだと思うんです。弁護士の先生に相 談すると、もしかしたら話がいろいろ混乱することもあるだろうし、あるいは中に は「もう本人が亡くなっているのに、そんなに頑張っても仕様がないでしょ」みた いに思われるかもしれませんけれど、遺族にとっては、亡くなった人は亡くなって いません。今も亡くなった人と共に生きているのが自死遺族です。ですから、その 気持ちをもし疑問の思われることがあられても、遺族はお金や何か形になるもので はなく、そういう形で死んだ人に残したものを晴らしてあげたい。そう思っての相 談だと思います。その気持ちをどうぞご理解頂きたい。それにもう 1 つ、遺族が一 番よく言われるし、一番傷付くのは、「もう死んだ人は生き返らないんだから仕方 がないじゃないか」とか「もうそろそろ気持ちを切り替えなさい」とか、そういう 言葉が一番傷付くと思うんです。自死遺族は死んだ人と共に今も生きています。自 死した人は遺族の中でずっと生き続けます。だから悲しみも続くけれど、思いも続 くんです。そのことをどうぞご理解頂きたいと思います。いろんなお話しをお聞き することになった時も、そういう気持ちで必死にやっているんだというお気持ちを 持って頂きたいと思います。それから、先程の心理的瑕疵の問題についてですけれ ど、先程先生が「もう死んで瑕疵は請求、あの~受理されない」というお話しでし た。私は知らなかったので驚きました。自死遺族はどうしても、閉じこもりがちに なって、社会とのつながりが薄くなります。そうすると人間関係も薄くなるんです が、情報からも遮断されてしまいます。いろいろ世の中が変わってきて、自死や自 死遺族に対する判例などが変わってきていることに気付きません。何年も前にあっ た非常にひどい被害の話など、今も生きていると思っています。非常に難しいと思 いますけれど、でも世の中が変わってきて理解が示されて、「何年も前はこんなひ どい扱いを受けたけれど、こういう風に変わってきているよ」ということを何らか の形で是非、自死遺族に知らしめて下さい。そうすると勇気が湧くと思います。自 死遺族のために、少しは世の中が良い方に変わっていくこともあるんだということ が、勇気となって、今まで言いたいことが言えなかった人も、「もしかしたら言っ たら何かいい方向になるかもしれない」「亡くなった人へのはなむけになるかもし れない」と、力が湧くと思います。是非そういった新しい情報を何らかの形で流し 40 報告書 て頂きたいと思います。 最後に、 非常につまらないことではありますが、先生方は非常に有能でいらして、 とても難しい言葉が立て続けに出て来られる方なんだなと。今日のパネルディスカ ッションでも、圧巻のようなお言葉の速さ。遺族というのは、遺族に限らず、どう いう風に言葉を発していいものか分からないまま、「見っとも無いことを言ってこ の立派な先生に馬鹿にされてはいけない」とか「軽蔑されるんじゃないか」とか「こ んなことで相談にきたんじゃないか」というように、物凄く気持ちがぎくしゃくし た状態で来て、言葉がうまく出て来ない人も多いと思うんですね。そういう方のた めに、是非、いつも先生方がお話しになっていらっしゃる倍のゆっくりしたスピー ドで話して頂きたい。そして、沈黙を待って頂きたいと思います。沈黙は何も考え ていないのではなくて、凄く考え過ぎて言葉が出ないんです、ご存知かもしれませ んが。そういうことを今日はお願いしたいと思いました。すみません、長くなりま した。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 佃 : ありがとうございました。貴重なご意見だと思います。弁護士は時間に追われて いるので、つい早口になりがちですよね。ほんと言われる通りだと思います。その 辺は身につまされる思いです。今後、気を付けます。以上です。 丸亀: 以上で、パネルディスカッションを終わらせて頂きます。長時間、ありがとうご ざいました。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------近藤: それでは、最後になりましたが、本シンポジウムの閉会に当たりまして、広島弁 護士会 生存権擁護委員会 委員長・端野真より、閉会のご挨拶をさせて頂きます。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 41 報告書 ■閉会挨拶 広島弁護士会 生存権擁護委員会 委員長 端野 真 本日は多数お集まり頂きまして、どうも ありがとうございました。また、ご登壇頂 きました方々、どうもありがとうございま した。広島弁護士会では、昨年来より、自 死遺族の問題について、会内でアンケート を行ったり、 勉強会を行ってまいりました。 それを踏まえて、今回のシンポジウムを企 画し、本日開催となりました。今日は先ず 第 1 部では、生越先生に弁護士の立場から「自死遺族が直面する法律問題について」お話 しを頂きました。さまざまな問題に直面している自死遺族にとって、問題が見えるように する必要があって、相談を受けた側としては問題を整理して仕分けすることが大切だとい うことをお話し頂きました。相談を受ける側にとって非常に大切なお話しだったと思いま す。第 2 部では、臨床心理士、弁護士、自死遺族の方にパネラーとして出て頂いて、お話 しをして頂きました。先ず、自死遺族の立場から佃先生に自身の経験を踏まえて、自死遺 族の置かれた状況についてのお話しを頂きました。それから、臨床心理士の塩山先生には、 自死遺族が自分の経験を語ることの大切さ、そしてそれを傾聴することの大切さについて お話しを頂きました。福岡県弁護士会の世良先生には、全国でも先進的である福岡県弁護 士会の行政との連携についてお話しを頂きました。また、会場からも自死遺族の方にご発 言頂きました。自死の問題というのは、予防はかなり前からいろいろ社会問題化しており まして、いろいろ対策が語られてきたと思うのですが、自死遺族の問題はそれに比較する とあまり注目されていなかった面があるのではないかと思います。しかし、今日のいろい ろなお話しの中でも明らかになったと思うのですが、自死遺族の問題というのは、自死で ない場合の遺族の問題には解消されない。独自の問題があり、それを解決する必要がある ことを私自身が認識しましたし、今日ご来場の方々も認識されたのではないかと思います。 広島弁護士会では、自死問題については、先程、日弁連からのご報告にもありました通 り、「暮らしとこころの相談会」を年 2 回実施しております。その中で、広島弁護士会で は、臨床心理士会のご協力を頂いて実施しております。先程、少しご紹介がありましたが、 「暮らしとこころの相談会」のチラシが入っております。これは自死問題に拘らず、いろ んな相談を受け付けておりますので、是非ご利用頂ければと思います。それから、いろん な相談窓口についてのチラシも入っておりますので、これも是非ご覧頂ければと思います。 広島弁護士会としては、自死問題について独自に取り組む相談体制が整っておりませんが、 42 報告書 今日のシンポジウムをきっかけとして、是非、そういった相談体制を作れるように今後、 検討していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。本日はどうもありがとうご ざいました。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 近藤: 以上をもちまして、本日は閉会とさせて頂きます。 西田: 皆様、先程もお願いさせて頂きましたが、本日の配布資料の中にアンケートが入 っておりますので、今後の活動の参考にさせて頂きたいと思います。是非、ご記入 頂くようお願い申し上げます。ご記入頂きましたアンケートは、お帰りの際に出口 で回収しておりますので、どうぞよろしくお願い致します。 近藤: 本日は、長時間ありがとうございました。 (了) 43
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